日本史にみる長寿食 FOOD 367 「日の丸弁当」の梅干しパワー 食文化史研究家●永山久夫 梅干しの不思議な力  戦中・戦後の食糧不足の時代に、「梅干し」の活躍は見事でした。  「日の丸弁当」の登場です。  アルミ製のでっかい弁当箱に、ご飯をぎっしりと詰め、真ん中にたった一個の赤い梅干し。炭水化物のほかに、おかずは酸っぱい梅干し一個。梅干しが四角い弁当箱の真ん中にあるさまは、日の丸に見えました。まさに「日の丸弁当」です。しかし、その梅干し一個の弁当を平らげると、腹の底からパワーが湧き、少々働き過ぎても、疲れを感じませんでした。  日本人にとって、おかずが梅干しだけの弁当は、不思議なパワーを生み出す弁当でした。戦後の混乱の時代を梅干しを舐めながらがんばり、見事に乗り切って、奇跡の復興を成し遂げたのです。  世界からも賞賛され、豊かになった日本人は、いまや世界でもトップクラスの長寿民族です。 戦国武士に欠かせない梅干し  梅干しは、日本人のソウルフード(魂の食べ物)と呼んでもよいでしょう。  色も鮮やかな赤色で、日本人好み。酸味もよい。日本人の大好きなお米のご飯のほどよい甘さとも、じつによく合います。  食欲も出ます。銀シャリの本当のうまさを知るには、梅干しが一番です。  それにしても、けたたましい、あの酸っぱさはどうでしょう。舐めただけで口はすぼみ、顔中の筋肉がぎゅっと縮んで、顔が一気にシワだらけとなります。  酸味のもとは、クエン酸やリンゴ酸の有機酸で、昔から梅干しの酸味を口にすると、疲労回復や食中毒の予防に役立つことが知られています。  梅干しの機能を知り尽くして、実戦に活用していたのが戦国の武士たち。当時の兵法書によく「息合(いきあい)の最上は梅なり」と出てきます。「息合」とは、息を整えることで、合戦のあとの息切れを癒し、疲労を回復させるためにも欠かせませんでした。まさに、ピンチを乗り切るために梅干しを活用していたのです。