シニア社員を活かすための面談入門 株式会社パーソル総合研究所 組織力強化事業本部 キャリア開発部 高橋(たかはし)稔明(としあき)  長年の職業人生のなかでつちかってきた豊富な経験や知見を持つシニア社員。その武器を活かし、会社の戦力として活躍してもらうために重要となるのが「面談」です。仕事内容や役割、立場が変化していくなかで、シニア社員のやる気を引き出し、活き活きと働いてもらうための面談のポイントについて、人と組織に関するさまざまな調査・研究を行っているパーソル総合研究所が解説します。 第2回 面談に必要なスキルとは? はじめに  独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査結果※1によれば、社員の能力開発・キャリア管理のための施策に注力する企業の58.5%が、「管理職によるキャリアに関する部下との個別面談」を実施しています。また、株式会社パーソル総合研究所が2021(令和3)年に実施したアンケート調査※2では、企業に勤める60代の社員が何歳まで働きたいかという設問に、54.1%が「69歳まで」、41.4%が「70歳」あるいは「それ以上生涯働けるまで」と回答しています。  働きたいと思うシニア社員の方々が、職場で活き活きと働き、組織に貢献し続けるうえで、キャリアに関する面談の重要性は今後さらに高まると考えられます。「シニア社員を活かすための面談入門」第2回では、上司と部下とのキャリア面談を中心に、必要なスキルの一部をご紹介します。 キャリア面談とは  キャリア面談は、社員一人ひとりの自律的なキャリア形成と、中長期的な社員の活躍を実現するための面談です。その人が過去から築いてきたその人らしさ、蓄積してきた知識やスキル、いまの仕事のとらえ方、感じているやりがい、さらに、その人にとってよりよい未来に向かううえでどのような目標を立て、行動に移せればよいか、といったことを話し合います。一定期間における面談相手のパフォーマンスに焦点をあてる評価面談と異なり、面談相手である「人」に焦点をあて、過去・現在・将来にわたる会話をします。面談相手を主役とし、その人とその話に関心を寄せながら、その人のキャリア形成を支援する「支援者」としての姿勢が上司には求められます。 キャリア面談に必要なスキル  面談を始めるときには「伝える」スキルを使います。例えば「今日はお時間をいただきありがとうございます。〇〇さんが毎月の事務処理を間違いなく進めてくださるので、たいへん感謝しています」といったように、シニア社員の方に対する敬意や、日ごろの貢献に対する感謝の言葉を具体的に伝えます。「自分の仕事は認めてもらえている」と感じられたら、社員の方の気持ちもほぐれ、話し合いやすくなります。また、「今日は○○さんのキャリアについて一緒に考えていくためにお時間をいただきました」といったように、面談の目的を伝え、キャリアについて会話する心の準備をお互いに整えます。もし2回目以降の面談であれば、前回の会話の内容をふり返ったうえで、「今日の面談では○○さんの今後の希望についてうかがいたいと思います」といったように、今日の面談の目的を伝えます。  面談中、特に重要なスキルは「傾聴」と「問いかけ」のスキルです。「傾聴」には、話し手が話を続けることを励ます効果があるといわれています。相手の話に聞き入りながら、相槌を打ったり、「…ということがあったのですね」と相手の言葉をくり返したり、「たいへんなご苦労があったのですね」と相手の話を受けとめたりします。  パーソル総合研究所の調査結果によれば、部下の話を傾聴できている・しようとしているという上司の認識は、部下より約1.5倍高い傾向にあるそうです(図表)。上司の方はよりていねいな傾聴を心がける必要があるかもしれません。  「問いかけ」の代表的なスキルには、「オープン・クエスチョン」と「クローズド・クエスチョン」があります。例えば、相手の話を広げたり、深掘したりするときには、「もう少し詳しく教えていただけますか?」といったように、相手が自由に話せるオープン・クエスチョンを使います。相手の話を要約して整理したいときには「いまのお話はつまり、…ということで合っていますか?」といったように「はい」か「いいえ」で答えられるクローズド・クエスチョンを使います。  上司としての期待やフィードバックを伝えたいときは、上から目線にならないように、例えば「いまの仕事は、○○さんなら充分期待に応えていただけると思うし、○○さんのこれからにとってもプラスにもなると私は思っているのですが、○○さんはどのようにお考えですか?」といったように、「私」を主語にして肯定的なニュアンスを含めて問いかけます。もし気持ちや考えにギャップがあっても、すぐに埋めようとせず、「わかりました。では、〇〇さんのお気持ちやお考えをあらためて聞かせていただけますか?」と問いかけ、次回の面談の約束を得るなど、結論を急がないようにします。  面談を終えるときには、今日の会話をふり返り、会話を通じて立てた目標や、次の面談で話し合う内容、今後の進め方などを整理して伝えます。 シニア社員との会話で留意すること  シニア社員は、健康状態については特に留意する必要があります。過去から長時間働くことを美徳とされ、無理を重ねてきた方も多いのではないでしょうか。また、役割の変更によって、仕事の量や質、職場の人間関係がこれまでと変わっている場合もあります。このようなことが強いストレスとなり、心身に不調をきたした場合、仕事ぶりに表われるまでは気づきにくいものです。ある管理職の方は、シニア社員と会話する際に、「最近パソコンの文字が見えづらくなりました。〇〇さんはいかがですか」と笑顔で先に自己開示することで、「じつは私も…」という自己開示を引き出しているそうです。このような年長者に対する敬意を交えた会話の工夫や、普段の様子から面談前に聞きたいことを整理しておくといった事前準備、いつもと異なる様子が見られたときのタイムリーな声がけといった日常からのかかわりも、相互理解や信頼関係を築くための重要なスキルといえそうです。 ※1 独立行政法人労働政策研究・研修機構『労働政策研究報告書 No.196』「日本企業における人材育成・能力開発・キャリア管理」(2017年) ※2 株式会社パーソル総合研究所「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」(2021年) 図表 傾聴行動についての上司と部下の認識ギャップ 上司 n=635 部下 n=2327 あてはまる計(%) 上司側に約1.5倍の過剰認識 部下の話を【最後まで丁寧に聞く】 部下認識56.0% 上司認識84.7% 部下の思いや意見を【いったん受け入れようとしている】 部下認識 57.6% 上司認識 86.3% 出典:パーソル総合研究所「職場のハラスメントについての定量調査」(2022年)