シニア社員を活かすための面談入門 株式会社パーソル総合研究所 組織力強化事業本部 キャリア開発部 赤座(あかざ)佳子(よしこ)  長年の職業人生のなかでつちかってきた豊富な経験や知見を持つシニア社員。その武器を活かし、会社の戦力として活躍してもらうために重要となるのが「面談」です。仕事内容や役割、立場が変化していくなかで、シニア社員のやる気を引き出し、活き活きと働いてもらうための面談のポイントについて、人と組織に関するさまざまな調査・研究を行っているパーソル総合研究所が解説します。 第3回 こんな面談はNG!シニア面談はどう行うべきなのか? はじめに  総務省の調査によれば、2023(令和5)年の全労働力人口は約6925万人で、このうち約930万人は65歳以上のシニア労働者です※1。このシニア労働者は、2000(平成12)年には、労働力全体の7.3%でしたが、2040年には19.0%にまでなるそうです※2。一方で、株式会社パーソル総合研究所と中央大学が行った労働市場の未来推計によると、2030年には約644万人の人手不足に到達する見込みです※3。このような労働力不足を背景に、企業ではますますシニア人材への期待が高まっています。 シニア人材を取り巻く課題  株式会社パーソル総合研究所「企業のシニア人材マネジメントの実態調査」(2020年)によると約9割の企業が「シニア人材に既に課題感を感じている」、「10年以内に課題になる」と回答しています。シニア人材を取り巻く課題として多くあげられているのは(シニア社員の)「はたらくモチベーションの低さ」、「パフォーマンスの低さ」、「シニア社員に対する現場マネジメントの困難さ」といったものでした。そのため、約60%の企業が何らかのシニア人材施策をすでに実施しているとのことです。 シニア人材課題を解決するカギは?  シニア課題への施策として多くの組織では制度変更やスキルアップ研修に取り組んでいます。しかし、それらの機会の提供だけでは、課題解決にはなりません。働く人のパフォーマンスはモチベーションと連動しています。このモチベーション向上には本人の意識だけでなく、上司を含む周囲がどのようにかかわり、支援を行うかが大きく影響をします。本連載の第1回「シニアとの面談とは?シニア面談の目的・効果について」※4でもご紹介したように、上司は自分よりも年上の部下に対し、遠慮をしたり、できるかぎりコミュニケーションを避ける気持ちが生まれやすくなるものです。  一方で、定年を迎える本人は、「まあ、悪いようにはされないだろう。なんとかなるだろう」と漠然と根拠のない期待を持ち、働き続ける人、「仕事内容も職場もこれまでと同じなのだから、周囲との関係も変わらない」とこれまでの延長線上にシニアの働き方をイメージされている方も多くいらっしゃるようです。ただ、実際にシニア人材として働き始めると、自分にとって想定外の現実にショックを受け、モチベーション低下が起こりやすい状況となります。このギャップの調整役をになうのが、上司の役割の一つでもあるのです。 こんな面談はNG!  パーソル総合研究所の調査において「年上上司」と「年下上司」について調査を行ったところ、マネジメント行動についての感じ方に大きなギャップがあることがわかっています(図表1)。  このギャップは、じつは面談の前からスタートしている可能性があります。例えば、シニア社員に対し「長年のやり方で凝り固まって、変わろうとしない」、「年金受給までのつなぎだろう」などのバイアスを持っている方もいるようです。それに対し、シニア本人は「いまさら出しゃばらず、責任ある仕事は避けよう」、「厄介者扱いされて、いつの間にか孤立している」などと考えます。このシニアの考えや行動がさらに上司・周囲から「モチベーションが低い」と見られることにつながるという悪循環が生まれるのです。「こんな面談はNG!」よりも前に「シニアは面談の必要がないだろう」と考える上司もいるかもしれません。マネジメントに求められていることは、部下が年上でも年下でも、同じなのではないでしょうか。一人の部下として日ごろの働きを観察し、バイアス前提で面談を行うのではなく、一人ひとりの価値や経験に敬意を示し、課題があれば指摘をする。部下のモチベーションやパフォーマンス向上に向けてともに考え、支援する姿勢が、どのような「面談」においても必要なのです。 組織活性につながるシニア面談とは  アメリカの心理学者アブラハム・マズローの欲求5段階説にて、人間の欲求は、低階層の欲求が満たされるとより高次の欲求を欲するといわれています。第3の欲求「社会的欲求」は、帰属欲求とも呼ばれ、集団に属したり、仲間がほしくなる欲求です。生存や安全が確保されると一人では寂しくなるわけです。そして第4、第5の欲求に至り、内的に満たされたいという欲求が生まれます(図表2)。  新しい働き方や変化が求められるとき、だれもが「社会的欲求」、「承認欲求」が脅かされ、不安や孤独を抱きます。新しい働き方を求められるシニア人材との面談においては、特に最初の「信頼関係構築」をていねいに行うことが大切です。「相手をよく知ること」、「(面談者自らも)構えないこと」、「相手のそのままをいったん受け入れること」などです。信頼関係構築によってシニア自身が変化を受け入れるきっかけになるはずです。「シニアだから」というバイアスをいったん取り外し、信頼関係構築の面談に挑戦してみてください。 ※1 総務省統計局「労働力調査」(2023年) ※2 総務省統計局「労働力調査」および独立行政法人労働政策研究・研修機構「労働力需給の推計ー労働力需給モデル(2018年度版)による将来推計」(2019年) ※3 パーソル総合研究所、中央大学「労働市場の未来推計2030」(2018年) ※4 本連載第1回は、本誌2024年6月号をご覧ください。https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202406/index.html#page=50 図表1 上司のマネジメント行動 年上上司 年下上司 上司は、仕事の目標を考える機会を与えてくれる 39.0% 27.0% 上司は、今後のキャリア形成についての課題を指摘してくれる 28.6% 16.7% 上司は、中長期のキャリアについてともに考え、支援してくれる 32.0% 20.4% 上司は、自分にない新たな視点を与えてくれる 35.8% 24.4% 上司は、私の課題を明確に指摘してくれる 34.5% 23.5% 上司は、仕事の成果を労ってくれる 44.3% 33.3% 上司は、些細なことでも声をかけてくれる 35.4% 24.6% 上司は、チャレンジを高く評価してくれる 38.8% 28.4% 上司は、あなたの業務に対して専門的な指導をしてくれる 28.6% 18.2% 上司とは定期的に会話をする機会がある 52.7% 42.5% 上司は、責任のある仕事を任せてくれる 51.0% 40.9% 上司は、私の強み・弱みをよく理解してくれている 37.7% 27.7% 上司は、敬意を持って接してくれる 45.8% 47.5% 【差分】年上−年下 12.0 11.9 11.6 11.4 11.0 11.0 10.8 10.4 10.4 10.2 10.1 10.0 -1.7 年上上司−年下上司のGAPが大きい 出典:石山恒貴・パーソル総合研究所「ミドル・シニアの躍進実態調査」(2017年) 図表2 マズローの欲求5段階説 精神的欲求 物理的欲求 成長欲求 欠乏欲求 自己実現欲求 承認欲求 社会的欲求 安全欲求 生理的欲求