第97回 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは  河野泰士さん(71歳)は長年、経理畑、財務畑でキャリアを積み重ねてきた。60歳以降も経理の第一線で活躍しつつ、シニアの人材発掘の分野でも手腕を発揮。シニアの働きやすい環境づくりを目ざす河野さんが、生涯現役で働くことの醍醐味を語る。 タイキ株式会社 総務部長兼経理部長 河野(かわの)泰士(やすし)さん 「英文会計」が拓いてくれた未来  私は九州の宮崎県宮崎市に生まれました。風光明媚な日南(にちなん)海岸の近くです。高校まで地元で過ごし、長崎の大学で経済学を学んだあと、大阪の商社に就職しました。最初は営業部に配属され、その後は経理部で勤務しました。4年間の在籍でしたが、経理の基本を学ばせてもらいました。28歳のとき、設立されて間もない外資系のメーカーに転職しました。新しい会社では経理担当者が私一人だけだったため、必要に応じてカルチャーセンターなどで英文会計を学びました。社内ではアメリカ人上司の指導を受けながらアメリカの本社に関する月次報告や日本法人の社長に対しての経理報告を担当しました。  入社して2年後に本社が東京に移転することにともない、私も上京しました。  36歳のとき、ヘッドハンティングで外資系の生命保険会社に経理課長として入社しました。経理の経験はあったものの保険会計は一から学ぶことが多く、苦労もしましたがやりがいもありました。ここで18年近く経理と財務業務に従事しました。  その後、縁あってスイスが本社の損害保険会社の日本支店に財務部長として招かれ、7年間勤務しました。大学卒業後、一貫して経理全般に従事し、生命保険や損害保険の会計・税務の経験を重ねられたことは宝物だと思っています。  英文会計とは、アメリカの会計制度に準じて、英語による会計・簿記を行うこと。「ヘッドハンティングはたまたま英文会計ができたからです」と河野さんは謙遜するが、資格取得の過程では不断の努力があったに違いない。 タイミングと「ご縁」を糧にして  若いころから英語が好きで、英会話も少しできましたが、やはり上司がすべて外国人という職場は、いま思えば鍛錬の場だったと思います。社会人になってからも、英会話学校などで英語を学びました。英語力を磨き、英文会計を習得したことで新しい世界がどんどん拓かれ、転職によってステップアップできたことは恵まれていたと思います。  私にとって4社目の損害保険の会社は65歳が定年で、60歳を迎えたとき、会社に残る道はありました。ただ、節目の年を迎えていろいろ思うことがあり、これからの生き方も考えるようになっていました。そんな折に、2社目の外資系メーカーのOB会があり、かつての上司からタイキ株式会社を紹介されました。上司は公認会計士で、現在の顧問先である会社の経理担当者が退職してたいへん困っているから力を貸してくれないかということでした。  人生とはタイミングだと私は思います。いろいろ考え始めたころにOB会があり、そこでかつての上司に声をかけられたのもご縁かなと思い、いわば第二の人生を歩むことを決めました。入社して10年ほどが経ちますが、現在は総務部長兼経理部長として多忙な日々を送っています。  タイキ株式会社は、自動車のランプに内装されているゴムスポンジの加工をメインの事業としている。技術の継承の意味からもシニア雇用に力を入れており、人材育成の経験も豊富な河野さんなればこそ、会社とマッチングが成功した。 シニア雇用に注力  タイキ株式会社は7年ほど前から、東京都が設置した「東京しごとセンター」の「東京キャリア・トライアル65」を利用して、積極的にシニアを雇用しています。私が入社した時期と東京都のシニア雇用の取組みが偶然に重なり、結果としては私の入社がシニア雇用のきっかけとなったようです。現在8人のシニアが働いていますが、ISOや品質管理、営業全体のマネジメントの分野で優秀な経験者を採用できました。私は経理で入社しましたが、総務部長でもあるため、採用も担当しており、雑誌などのシニア雇用に関する取材を一手に引き受けています。  当社の埼玉工場で工場長を務める人は「東京キャリア・トライアル65」を利用して昨年入社しました。自動車製造会社で工場の責任者を長年務めてきたキャリアを活かして、生産管理から納期管理、品質管理をにない、工場を動かす即戦力となっています。シニアの勤務日数は希望を優先することができ、週に3日か4日、健康状態に合わせて働いている人が多いです。  シニアの強みは、長い経験に裏づけられた仕事の質だと思います。私自身も60歳からスタートした職場で、経理から総務全般を任されていますが、これまでの自分の経験が活かされる場面は多いです。 生涯現役であることのよろこび  大学を出てからずっと走り続けてきました。60歳になったときに4カ月ほどのんびり過ごしましたが、幸いなことにそのときいまのタイキ株式会社と出会いました。正直、会社については名前も知リませんでした。ただ、信頼する上司の推薦もあり、私の仕事は職種が違ってもするべきことは同じですから不安はなかったです。  いまの働き方としては勤務日数が調整できますが、一人で総務や経理をになっていることもあり、週5日、フルタイムで働いています。私にとってはフルタイム勤務が合っているようです。具体的な仕事は、経理部門では決算関係、支払いや売掛金の回収、税金関係など多岐にわたります。給与計算は外部に依頼していますが、データはすべて私がまとめています。総務部門の重要な仕事は採用で、そのほか総務全般の仕事があり、つねに忙しいですが、楽しくこなしています。  英文会計の経験が活かされることは少ないですが、やはり英語には少しでも触れていたくて、新聞の英語のクロスワードを解くことをずっと楽しんでいます。また、活字に触れることが昔から好きで、電子版の新聞を三紙読んでいます。郷里の「宮崎日日新聞」にも目を通していて、だれかに伝えたい記事があるとメールで郷里の友人たちに教えています。早くに故郷を飛び出したのでどこかでつながっていたい部分があるのかもしれません。  日ごろは、晩酌もほどほどでなるべく歩くようにしているほかはこれといった健康法もなく、おもしろみがないと思われるかもしれませんが、やはり私のよろこびは健康で働き続けることだと思っています。幸い社屋にはエレベーターがないので、毎日せっせと階段を昇っていますが、その瞬間にも現役であることの誇りがあると思っています。だから、明日も私は私の仕事に会いに、ここへやってきます。