シニア社員を活かすための面談入門 株式会社パーソル総合研究所 組織力強化事業本部 キャリア開発部 土方(ひじかた)浩之(ひろゆき)  長年の職業人生のなかでつちかってきた豊富な経験や知見を持つシニア社員。その武器を活かし、会社の戦力として活躍してもらうために重要となるのが「面談」です。仕事内容や役割、立場が変化していくなかで、シニア社員のやる気を引き出し、活き活きと働いてもらうための面談のポイントについて、人と組織に関するさまざまな調査・研究を行っているパーソル総合研究所が解説します。 第4回 再雇用、定年延長後の目標設定におけるポイントやコツ はじめに  近年、高齢化社会の進展、また労働力人口の減少にともない、企業における定年後再雇用や定年延長後のシニア層の戦力化への期待が高まっています。株式会社パーソル総合研究所と中央大学の調査では、2025年には505万人、2030年には644万人の労働力が不足するという結果が出ていますが※1、この労働力人口不足を解消するためにはシニア層の活躍が不可欠です。  一方で、日本企業のなかで高い労務構成比率を占めるシニア層の戦力化の実態はどうでしょうか。ポストオフや役割変化など、さまざまな人事施策の影響によりパフォーマンスが停滞しがちという現実があります。シニア層に再雇用、定年延長後もパフォーマンスを発揮し続けてもらうためにも目標設定のあり方は重要なテーマです。  再雇用者、定年延長者が目標設定をネガティブに受けとめるか、新たなキャリアを築く躍進への糧として受け入れるか。シニア層の戦力化に向けてこの課題に真摯に取り組むことが、企業の持続的成長の鍵です。  本章では、さまざまなトランジションを経て現在に至るシニア層が、新たなキャリア形成にポジティブに向き合うための目標設定のポイントやコツを解説します。 「いまさら目標設定?」シニア層の心理的側面を知る  まずは再雇用者、定年延長後のシニア層の心理的側面を上司は把握しておく必要があります。一般的にシニア層は「ポストオフ」や「再雇用後の年収変化」といった負のトランジションを経て定年を迎えています。ある方は、ポストオフで自分の居場所を失ったままかもしれません。あるいは定年後、収入が大幅に下がり、モチベーションを喚起する材料を持てないまま残りのキャリアをやり過ごそうとしているかもしれません。  本来、人事制度において「目標」とは、従業員の業務パフォーマンスやキャリア成長の促進のために設定されるものですが、多くの場合シニア層の心の状態と目標設定の意義との間に大きなギャップが存在しています。パーソル総合研究所の調査では、ポストオフを制度として導入している企業の比率は57%※2、さらに再雇用後に平均44%も収入がダウンするという結果が出ています※3。つまり大半のシニア層は「いまさら目標?」、「目標を達成して何かよいことがあるのか?」などと、懐疑的な思いを抱いています。  さて、評価制度の根幹は「目標設定」と「フィードバック」ですが、これらを支えていたものは「外発的動機づけ」です。つまり「昇給したい」や「昇格したい」といった目に見える動機がモチベーョンの源泉となっているのです。一方で、シニア層には外発的動機づけは働きません。動機のメインエンジンを失った状態にいるのです。ではシニア層のエンジンとなり得るものとは何でしょうか?  それは「内発的動機づけ」です。内発的動機づけをいかに喚起させるかが、上司が押さえておかなければならない重要な課題です。 再雇用、定年延長後の目標設定のポイント  内発的動機づけとは、昇給や昇格などのインセンティブではなく、個人の内面から湧き上がる興味や満足感に基づいて行動を起こすことをさします。これは、活動そのものが楽しい、興味深い、挑戦的であると感じる場合に生じます。シニア層に与えられる仕事はこれらの要素を満たすものばかりではありませんが、目標設定において最も重きを置くべきポイントは“目標の意味づけ”と“仕事の意味づけ”です。  仕事の意味づけとは、個人が自分の仕事に対して感じる意義や価値をさしますが、具体的には「自分の担当業務は何に貢献するのか」、あるいは「自分は何のニーズを満たすために存在するのか」、「ニーズを満たすために果たすべき役割は何か」という視点で形成されるものです。  空港の清掃業務に従事されている方が、「自分の仕事は世界の方々に日本の清潔さをアピールすることです」とテレビの取材でお話しになられたエピソードが有名ですが、まさしくこれが仕事の意味づけです。  「組織のこのミッションを達成するうえで〇〇さんの経験をお借りしたいのです」  「〇〇さんの△△の知見をメンバーに伝播させることが事業部の成果に直結するのです」  このように、目標設定における仕事の意味づけは従業員のモチベーションや満足度、ひいてはパフォーマンスに大きく影響します。上司や経営者は、シニア層が自分の仕事にポジティブな意味づけを感じられるような環境を整えることが重要です。  またシニア層にとっても、挑戦意欲を刺激する要素も必要です。 【目標の高さ】どのくらいの(程度・水準)を目ざすのか 【目標の方向性】どんな成果・成長を目ざすのか 【目標の目じるし】「目標」の表現の仕方  シニア層にとって自分に相応しく、達成基準が明確な目標は再び奮い立たせる起爆剤です。この三つの視点もシニア層の躍進に向けて押さえるべきポイントです。 年上部下との信頼の確保  再雇用者、定年延長者との目標設定面談は、年上の部下に対して行うケースが大半ではないでしょうか。そのため、目標のコミットメントや合意性の確保は、年下部下との面談よりも配慮が必要です。それは、上司の聞き手としての姿勢です。相手の年齢や経験を尊重し、謙虚な姿勢で接することが重要であり、意見や考えに真剣に耳を傾けることで、年上部下との信頼関係が得られます。  開かれた、開放的な対話の場をつくり、相手が自由に意見や感情を表現できるように心がけることで目標の合意性が高められます。面談において以下の三つのポイントを意識すると開放的な対話の場をつくるために有効です。 @部下の強みを伝える/部下との対話に興味を持つ A上司も完璧でなくてよい/上司もちょっとした自身の課題や悩みを話す Bまずは、受け入れる/そのままを受け入れる。判断も評価も否定もしない  以上、再雇用、定年延長後の目標設定におけるポイントやコツについて解説してきましたが、すべてに共通するキーワードは、シニア層の「自己効力感の再形成」です。シニア層の大半はこれまで会社の発展に貢献してきたという自信を持たれています。長年つちかってきた自己効力感を再び解き放つ場をつくるためにも、目標設定と面談の重要性をあらためてご理解ください。 ※1 パーソル総合研究所、中央大学「労働市場の未来推計2030」(2018年) ※2 パーソル総合研究所「大手企業における管理職の異動配置に関する実態調査」(2022年) ※3 パーソル総合研究所「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」(2021年)