日本史にみる長寿食 FOOD 370 サンマは北海の長寿食 食文化史研究家● 永山久夫 「はんじよのサンマ」うまし  日本列島の北の方に、秋風が立ちはじめると、サンマがやって来ます。  夏の間は、北太平洋やオホーツク海で過ごし、秋の気配を感じると、産卵のために、北海道沖・三陸沖へと南下を開始します。  そして、脂質がたっぷり乗った状態で、千葉の房総沖にやって来ます。江戸時代、この海域で捕れたサンマは、塩をふって山積みにし、快速船で江戸の日本橋にある魚市場へ運送されました。  波でゆっさこら、ゆっさこらと船がゆれている間に、ほどよく塩がなじみ、天下一品の美味なる“淡塩サンマ”に仕上がります。  この淡塩サンマを、江戸っ子は「はんじよのサンマ」と呼びました。「はんじよ」は半塩のことで、淡塩がほどよくなじんだ塩漬けサンマを意味し、これを焼くとたいへんにうまい。  つまり、江戸の町人たちは、脂の乗った旬のサンマを最高の味加減で食べていたのです。 長寿効果もたっぷり  昔もいまも、旬のサンマは、一尾丸ごとの塩焼きにかぎります。   まて火箸(ひばし)   わたしてサンマ   焼いて食ひ  江戸時代の川柳で「まて火箸」は「待て暫(しば)し」にかけてあり、七輪にわたした火箸にサンマを乗せて焼いています。この川柳の作者は、酒でも飲みながらサンマを食べているのでしょう。  脂の乗ったサンマは、美味なだけではなく、長寿効果の高い成分も豊富。旬のサンマは体の25%近くが脂質ですが、ただの脂質ではありません。情報化時代に欠かせない頭の回転力を高め、情報の解析能力を向上させるうえで役に立つといわれるDHA(ドコサヘキサエン酸)が豊富に含まれているのです。  さらに脚光を浴びているのがEPA(エイコサペンタエン酸)で、こちらは血液のサラサラ効果が期待されています。血行をよくすることは、人生100年時代の不老長寿実現に欠かせません。