労務資料 令和5年度「能力開発基本調査」の結果概要 厚生労働省 人材開発統括官付参事官(人材開発政策担当)付政策企画室  厚生労働省では、企業の能力開発の方針や事業所と労働者の教育訓練の実態を明らかにし、今後の職業能力開発行政に活用することを目的として、2001(平成13)年度から毎年度「能力開発基本調査」を実施しています。  令和5年度は、常用労働者30人以上を雇用している7318企業(有効回答率56.3%)・7026事業所(同54.3%)、調査対象事業所に属している労働者1万9574人(同43.6%)を対象に実施しました。  本誌では、この発表資料をもとに、個人調査における「自己啓発」の実施状況等を中心に抜粋して紹介します(編集部) 事業所調査 (1)教育訓練の実施に関する事項について @OFF−JTの実施状況  令和5年度調査において、正社員または正社員以外に対してOFF−JTを実施したと回答した事業所は72.6%であり、その内訳をみると、「正社員と正社員以外、両方実施した」は27.1%、「正社員のみ実施した」は44.3%、「正社員以外のみ実施した」は1.2%であった。一方、「OFF−JTを実施していない」とする事業所は27.2%であった。  OFF −JTを実施した対象を職層等別にみると、正社員では「新入社員」が58.9%、「中堅社員」が56.9%、「管理職層」が48.0%となっており、「正社員以外」は28.3%となった。  正社員に対してOFF−JTを実施した事業所割合は、前回(70.4%)と同水準の71.4%となり、3年移動平均の推移でみると、直近では上昇に転じている。  正社員以外に対してOFF−JTを実施した事業所割合は前回(29.6%)と同水準の28.3%であり、正社員に比べて低い割合になっている。  (中略) 個人調査  (中略) (3)自己啓発について @自己啓発の実施状況  令和4年度に自己啓発を行った者は、「労働者全体」では34.4%であり、「正社員」で44.1%、「正社員以外」で16.7%と、正社員以外の実施率が低くなっている。  男女別にみると、「男性」は39.9%、「女性」は28.0%と、女性の実施率が低くなっている。  最終学歴別では、「中学・高等学校・中等教育学校」(21.4%)、「専修学校・短大・高専」(29.3%)、「大学(文系)」(47.9%)、「大学(理系)」(49.4%)、「大学院(文系)」(58.9%)、「大学院(理系)」(69.6%)と、特に「大学院(理系)」での実施率が高くなっている。  年齢別にみると、20歳以上では、「20〜29歳」(41.6%)、「30〜39歳」(39.5%)、「40〜49歳」(35.6%)、「50〜59歳」(29.1%)、「60歳以上」(22.1%)と、年齢階級が高くなるほど実施率が低くなっている。  産業別にみると、正社員では、「情報通信業」(67.9%)で最も高く、「複合サービス事業」(22.4%)で最も低くなっている。正社員以外では、最も高い「情報通信業」(38.2%)でも3割台であり、最も低い「生活関連サービス業、娯楽業」では11.2%となった。  企業規模別にみると、正社員では「30〜49人」(27.2%)、「50〜99人」(34.8%)、「100〜299人」(36.7%)、「300〜999人」(51.2%)、「1000人以上」(51.9%)と、規模が大きくなるに従って実施率が高くなっており、「300〜999人」、「1000人以上」では実施率が5割を超えている。一方、正社員以外では、最も高い「1000人以上」でも18.7%にとどまっている。 A自己啓発の実施方法  自己啓発の実施方法は、正社員では「eラーニング(インターネット)による学習」を挙げる者の割合が43.6%で最も高く、次いで、「ラジオ、テレビ、専門書等による自学、自習」(35.3%)、「社内の自主的な勉強会、研究会への参加」(23.7%)、「社外の勉強会、研究会への参加」(20.2%)、「通信教育の受講」(16.5%)が続いている。正社員以外においても、「eラーニング(インターネット)による学習」(41.2%)を挙げる割合が最も高く、以下、正社員と同様に、「ラジオ、テレビ、専門書等による自学、自習」(31.0%)、「社内の自主的な勉強会、研究会への参加」(16.7%)が続いている。 B自己啓発を行った者の延べ実施時間(図表1)  令和4年度に自己啓発を行った者の延べ実施時間では、労働者全体でみると、「5時間未満」が14.7%、「5時間以上10時間未満」が18.9%、「10時間以上20時間未満」が17.4%と、20時間未満の者が全体の半数を占めている。正社員と正社員以外を比較すると、「5時間未満」(正社員12.7%、正社員以外24.2%)、「5時間以上10時間未満」(正社員18.3%、正社員以外21.8%)などの割合では、正社員が正社員以外を下回っている。  自己啓発を行った者の平均延べ自己啓発実施時間(推計)※1をみると、「労働者全体」では42.2時間であり、「正社員」(42.3時間)、「正社員以外」(41.5時間)ともに40時間を超えている。  男女別では、「男性」は44.7時間、「女性」は38.1時間と、女性が少なくなっている。  最終学歴別にみると、「中学・高等学校・中等教育学校」(31.4時間)、「専修学校・短大・高専」(36.0時間)、「大学(文系)」(52.1時間)、「大学(理系)」(39.4時間)、「大学院(文系)」(41.1時間)、「大学院(理系)」(48.4時間)と、「大学(文系)」「大学院(文系)」「大学院(理系)」が40時間を超えており、「大学(文系)」が最多となっている。  年齢別では、「20歳未満」(78.1時間)、「20〜29歳」(46.8時間)、「30〜39歳」(45.9時間)、「40〜49歳」(40.3時間)、「50〜59歳」(38.8時間)、「60歳以上」(30.2時間)と、年齢階級が高くなるほど実施時間が少なくなっている。 C自己啓発を行った者の延べ自己負担費用の状況(図表2)  自己啓発を行った者の延べ自己負担費用を労働者全体でみると、「0円」が42.7%で最も多く、以下「1円以上1千円未満」が3.7%、「1千円以上1万円未満」が21.1%、「1万円以上2万円未満」が13.2%と、2万円未満の者が8割を超えている。一方、「10万円以上20万円未満」が2.4%、「20万円以上50万円未満」が1.5%、「50万円以上」が1.0%と、10万円以上の者は1割に満たなかった。  正社員と正社員以外を比較すると、「0円」(正社員41.5%、正社員以外48.2%)、「1円以上1千円未満」(正社員3.4%、正社員以外5.1%)などでは、正社員以外が正社員を上回っている。  自己啓発を行った者の平均延べ自己負担費用(推計)※2をみると、「労働者全体」では25.1千円であり、「正社員」(25.0千円)、「正社員以外」(25.5千円)ともに25千円以上となっている。  男女別では、「男性」では24.9千円、「女性」では25.4千円と、女性の方がやや高くなっている。  最終学歴別にみると、「中学・高等学校・中等教育学校」(13.1千円)、「大学(理系)」(20.8千円)で低く、「大学院(理系)」(38.4千円)、「大学院(文系)」(34.3千円)で高くなっている。  年齢別では、「20歳未満」(33.3千円)で最も高く、「30〜39歳」(27.9千円)、「50〜59歳」(27.6千円)、「20〜29歳」(27.0千円)と続いている。 D自己啓発にかかった費用の補助の状況  自己啓発を行った者のうち、費用の補助を受けた者は、「労働者全体」では44.4%であり、「正社員」では47.8%、「正社員以外」では28.1%となっている。  男女別にみると、「男性」で47.4%、「女性」で39.5%と、女性の方が補助を受けた割合が低くなっている。  最終学歴別では、「大学院(理系)」(52.8%)で最も高い。一方、最も低い「大学院(文系)」(30.9%)は3割となっている。  年齢別にみると、「20〜29歳」で51.2%と最も高く、年齢階級が高くなるほど費用の補助を受けた割合は低くなっている。  自己啓発費用の補助を受けた者の平均補助額(推計)※3をみると、「労働者全体」は36.8千円、「正社員」は37.6千円、「正社員以外」は29.2千円であった。  男女別にみると、「男性」(43.7千円)に比べ、「女性」(23.5千円)の方が低くなっている。  最終学歴別では、「大学院(理系)」で53.8千円と最も高く、「大学院(文系)」で15.7千円と最も低くなっている。  年齢別にみると、「60歳以上」(45.8千円)で最も高く、次いで「30〜39歳」(42.4千円)、「50〜59歳」(41.6千円)と続いている。  自己啓発費用の補助を受けた者の補助主体(最も補助額の大きいもの)別の内訳をみると、労働者全体では、「勤務先の会社」が91.5%(正社員92.8%、正社員以外81.1%)と補助主体の多くを占めている。 E自己啓発を行った理由(図表3)  自己啓発を行った者のうち、自己啓発を行った理由をみると、正社員、正社員以外ともに、「現在の仕事に必要な知識・能力を身につけるため」(正社員83.4%、正社員以外74.0%)の割合が最も高く、次いで、「将来の仕事やキャリアアップに備えて」(正社員58.0%、正社員以外44.8%)、「資格取得のため」(正社員34.5%、正社員以外27.4%)と続いている。 F自己啓発を行う上での問題点(図表4)  自己啓発を行う上で何らかの問題があるとした者は、労働者全体の「総数」では80.0%(正社員83.0%、正社員以外74.5%)であった。  男女別では、「男性」の78.4%(正社員81.4%、正社員以外67.2%)に対して、「女性」は81.9%(正社員86.3%、正社員以外77.9%)と、問題があるとする割合は女性の方がやや高くなっている。  自己啓発における問題点の内訳をみると、正社員、正社員以外ともに「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」(正社員60.0%、正社員以外37.1%)、「家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない」(正社員28.2%、正社員以外32.2%)、「費用がかかりすぎる」(正社員27.8%、正社員以外28.5%)の順に高くなっている。  さらに、正社員の自己啓発における問題点の内訳を男女別でみると、男性では「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」(64.3%)、「費用がかかりすぎる」(26.8%)、「どのようなコースが自分の目指すキャリアに適切なのかわからない」(22.8%)の順に高く、女性では「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」(52.2%)、「家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない」(39.0%)、「費用がかかりすぎる」(29.5%)と続いている。 ※1 自己啓発の延べ実施時間の回答欄が時間階級別になっていることから、各階級の中間値を当該回答の受講時間とし、自己啓発実施時間の最高階級「200時間以上」は225時間として平均延べ自己啓発実施時間を算出した ※2 自己啓発を行った者の延べ自己負担費用の回答欄が金額階級別になっていることから、各階級の中間値を当該回答、最高階級「50万円以上」は65万円として、平均延べ自己負担費用を算出した ※3 自己負担費用の補助を受けた者の補助額の回答欄が金額階級別になっていることから、各階級の中間値を当該補助額、最高階級「50万円以上」は65万円を補助額として平均補助額を算出した 図表1 自己啓発を行った者の平均延べ実施時間(推計) (雇用形態、性、最終学歴、年齢階級別) (時間) 労働者全体 42.2 雇用形態別 正社員 42.3 正社員以外 41.5 性別 男性 44.7 女性 38.1 最終学歴別 中学・高等学校・中等教育学校 31.4 専修学校・短大・高専 36.0 大学(文系) 52.1 大学(理系) 39.4 大学院(文系) 41.1 大学院(理系) 48.4 年齢階級別 20歳未満 78.1 20〜29歳 46.8 30〜39歳 45.9 40〜49歳 40.3 50〜59歳 38.8 60歳以上 30.2 図表2 自己啓発を行った者の平均延べ自己負担費用(推計) (雇用形態、性、最終学歴、年齢階級別) (千円) 労働者全体 25.1 雇用形態別 正社員 25.0 正社員以外 25.5 性別 男性 24.9 女性 25.4 最終学歴別 中学・高等学校・中等教育学校 13.1 専修学校・短大・高専 21.5 大学(文系) 33.3 大学(理系) 20.8 大学院(文系) 34.3 大学院(理系) 38.4 年齢階級別 20歳未満 33.3 20〜29歳 27.0 30〜39歳 27.9 40〜49歳 21.5 50〜59歳 27.6 60歳以上 17.2 図表3 自己啓発を行った理由(複数回答) (%) 正社員 正社員以外 現在の仕事に必要な知識・能力を身につけるため 83.4 74.0 将来の仕事やキャリアアップに備えて 58.0 44.8 資格取得のため 34.5 27.4 昇進・昇格に備えて 20.0 6.5 転職や独立のため 8.0 13.2 退職後に備えるため 7.4 10.4 配置転換・出向に備えて 5.2 5.2 海外勤務に備えて 1.9 0.4 その他 5.9 12.8 図表4 自己啓発を行う上での問題点の内訳 (正社員・正社員以外)(複数回答) (%) 正社員 正社員以外 仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない 60.0 37.1 家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない 28.2 32.2 費用がかかりすぎる 27.8 28.5 どのようなコースが自分の目指すキャリアに適切なのかわからない 25.1 26.6 自分の目指すべきキャリアがわからない 21.1 23.8 自己啓発の結果が社内で評価されない 18.1 10.7 適当な教育訓練機関が見つからない 15.0 18.0 コース等の情報が得にくい 12.5 16.0 コース受講や資格取得の効果が定かでない 12.5 11.7 休暇取得・定時退社・早退・短時間勤務の選択等が会社の都合でできない 9.6 8.5 その他の問題 4.2 9.2