【P6】 特集 次世代への技術・技能継承や高齢社員を戦略的に活用する企業が集結 令和6年度 高年齢者活躍企業 コンテスト 〜厚生労働大臣表彰受賞企業事例から〜 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)では、厚生労働省との共催で、「高年齢者活躍企業コンテスト」を毎年開催しています。本コンテストは、高齢者が年齢にかかわりなく生涯現役で活き活き働くために、人事制度の改定や職場環境の改善などに、創意工夫をして取り組む企業を表彰するものです。 令和6年度は、厚生労働大臣表彰6編、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞11編、特別賞9編、クリエイティブ賞2編の受賞が決まりました。 本誌では、10月号と11月号の2回に分けて、コンテスト表彰企業の取組みを紹介します。 今号では、厚生労働大臣表彰受賞企業の取組みを紹介します。 【P7】 審査委員長からのメッセージ 生涯現役で高齢者が活き活きと働ける職場づくりに取り組む企業を表彰 東京学芸大学 名誉教授 内田(うちだ)賢(まさる)  「令和6年度高年齢者活躍企業コンテスト」の審査が終了いたしました。審査委員を代表し、応募いただきましたすべての企業・団体関係者のみなさまに厚く御礼申し上げます。今回は全国から69編の応募を受け、厳正な審査の結果、厚生労働大臣表彰は、最優秀賞1編、優秀賞2編、特別賞3編、また、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰は、優秀賞11編、特別賞9編、クリエイティブ賞2編が入賞を果たしました。  最優秀賞の株式会社植松(うえまつ)建設(けんせつ)は、経営理念に「互恵(ごけい)」を掲げ、定年制の廃止をはじめ、だれもが活躍できる職場環境の実現に注力。個々の社員の体力や健康状態に配慮した柔軟な勤務制度や健康管理体制の整備、若手への技能継承など、豊富な知識・経験と高い技術を持つ高齢社員を、事業を支える重要な戦力として尊重し、各種制度を整備していることが高く評価されました。  優秀賞を受賞した株式会社久郷一(くごういち)樹園(じゅえん)の創業は古く、江戸時代から続く歴史と伝統、そのなかでつちかわれてきた高い造園技術の継承に、全社をあげて取り組んでおり、その中心的な役割を高齢社員がになっています。年齢にかかわらず昇給可能な賃金体制なども高く評価されました。  同じく優秀賞を受賞した株式会社ドリームは、警備業を中心に、防災・防犯事業、福祉事業など幅広い分野の事業を通して地域に貢献。社名の通り、社員の“夢”を後押しするため、生涯現役で活躍可能な職場づくりに取り組み、モチベーション高く働ける環境を整えています。  特別賞を受賞した株式会社ヤオコービジネスサービスは、スーパーマーケットの店舗警備など、後方支援をになう企業として成長してきました。全社員の8割を60歳以上が占めており、継続雇用の年齢上限の廃止をはじめ、高齢社員が安心して働ける制度・環境づくりに注力しています。  同じく特別賞受賞のカナタスタイル合同会社は、2018(平成30)年に創業し、2020(令和2)年に施設を開業したばかりの新しい会社ですが、高齢者を積極的に採用し戦力化を図るとともに、年齢にかかわらず公平・公正な賃金制度を整備。ITツールの活用なども推進しています。  同じく特別賞受賞の金城(きんじょう)電気(でんき)工事(こうじ)株式会社は、「働きがいのある職場をつくること」を経営理念の一つに掲げ、創業70年超の歴史のなかでつちかってきた技術を次世代に継承していくために定年延長などに取り組み、長く安心して働ける職場づくりに邁進しています。  60歳から65歳、70歳と就業期間の延伸とともに、高齢社員のなかにも多様性が生じます。加齢とともに体力が低下するといわれていますが、その程度は人それぞれですし、仕事一筋でがんばる人もいれば、地域活動にも力を入れたい人、家族の介護がある人などさまざまです。そうしたなかで、高齢社員の活躍をうながし、会社に貢献してもらうための仕組みをつくることが必要です。会社によって置かれている状況は異なりますが、受賞企業をはじめとした、いろいろな会社のさまざまな取組みを少しずつ取り入れ、自社に合ったオーダーメイドの高齢者活用・戦力化に取り組んでいただければと思います。 【P8-11】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 定年制を廃止し、だれもが生涯現役を目ざせる職場環境を実現 株式会社 植松(うえまつ)建設(けんせつ)(佐賀県鹿島(かしま)市) 企業プロフィール 株式会社 植松建設 (佐賀県鹿島市) 創業 1933(昭和8)年 業種 建設業 社員数 40人(2024年4月1日現在) 60歳以上 10人 (内訳) 60〜64歳 6人(15.0%) 65〜69歳 2人(5.0%) 70歳以上 2人(5.0%) 定年・継続雇用制度 定年なし。最高年齢者は75歳 T 本事例のポイント  株式会社植松建設は、1933(昭和8)年に土木工事を生業とする「植松組」として創業。以来、主たる事業である土木工事を中心に事業を展開し、現在では下水道の維持・管理業や不動産業にも業域を拡大するなど、地域のインフラ整備に貢献してきた。また、地域の学校と連携し、工事現場見学やインターンシップの受入れなど、地域社会を支える人材の育成にも寄与している。  同社では、事業を支える貴重な戦力として高齢社員を尊重し、2022(令和4)年に定年制を廃止。だれもが活躍できる職場環境の実現に注力してきた。その背景には、会社にかかわるすべての人が幸せになることを目ざす「互恵(ごけい)」という経営理念がある。 POINT @だれもが働きやすい職場環境の実現に向け、定年制を廃止するとともに、個々の体力や健康状態に配慮した柔軟な勤務制度を構築した。 A経営者がつねに現場を回り、社員とのコミュニケーションを図っており、社員が自らの考えを伝えたり、提案しやすい雰囲気が醸成されている。これが組織内の改善活動を活性化し、業務の効率化や品質向上の実現につながった。 B現場で直接指導を行うOJT制度により、高齢社員が持つ技術や経験を若手社員に継承している。また、会社が費用を負担する資格取得支援制度を導入しており、社員一丸となってスキルアップに取り組んでいる。 C機器のコードレス化などにより、高齢社員の負担を軽減するとともに、作業効率と安全性が向上。また、すべての社員の健康意識の向上を図り、きめ細やかな健康管理体制の整備を推進している。 U 企業の沿革・事業内容  同社は1933年に植松組の名で創業された。1962年に有限会社化し、1992(平成4)年に株式会社植松建設を設立。創業当初は土木工事が主たる事業であったが、徐々に業容を拡大し、現在は土木・建築工事のほか、下水道の維持・管理業(下水道管テレビカメラ調査、管洗浄、補修など)や不動産業などを幅広く営んでいる。  経営理念に「互恵」を掲げ、会社にかかわるすべての人が幸せになることを目ざしながら、地域貢献を進めてきた。社内、社外を問わず教育投資に積極的で地域の人材育成も視野に入れ、さまざまな取組みを展開している。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  建設業界においては、人手不足の恒常化とともに働く人たちの高齢化が進行しており、同社でも近年は社員の高齢化が進みつつあった。そこで、新たな人材獲得のために地元のテレビでCMを展開するなど、積極的に若手の採用に取り組んできた。その結果、社員数は倍増し、10代・20代の社員が、全体の約3割を占めるまでになった。一方、従来の定年年齢は65歳であったが、定年後継続雇用で65歳以上の社員も在籍していたこともあり、実態に合わせて2022年に定年制を廃止。高齢社員を含めた社員全員が働きやすい職場環境の構築に邁進してきた。現在60歳以上の社員が全体の25%を占めており、最高年齢者は75歳である。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年制の廃止  旧制度では定年65歳、継続雇用の上限年齢を70歳としていたが、2022年に就業規則を改定し、定年制を廃止した。制度改定の中心的な役割をになった総務課長自身が、70歳という継続雇用の年齢制限を2年後に迎えるタイミングでの制度改定であったこともあり、「定年がなくなることで、気持ちに余裕ができて、今後の人生設計をしっかり考えることができる」と、職務に対し気持ちが前向きになったと話している。 A人事評価  社長との年1回の面談を実施し、高齢社員の思いや願いを直接聞いている。また、年齢にかかわりなく、評価に応じた昇給を行っている。なお、新入社員には、入社後1・3・6・12カ月の年4回の社長面談を行っている。 B柔軟な勤務制度  定年制廃止にともない、勤務形態の見直しに着手。個々の体力の低下や健康状態などを考慮し、柔軟に働ける勤務制度を構築した。短日勤務制度・短時間勤務制度を設け、本人の希望に応じて働ける仕組みとなっている。また、自身の病気や家族の介護、出産、子育てなど、本人の申し出に応じて柔軟に勤務形態を変更することが可能で、人材の定着と離職防止につながっている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @職場コミュニケーションの推進  年に1回、社員全員から社内設備の充実や機材購入の提案を募っており、この取組みにより社員も意見や提案がしやすくなり、積極的に意見を出し合う雰囲気が醸成されている。高齢社員はコミュニケーションの活性化に一役買っており、日常業務や研修において、豊かな経験を活かしてサポート・フォロー役をになっている。また、組織活性化プロジェクトを立ち上げたり、佐賀県の多文化共生さが推進課とともにチームビルディング研修などに取り組んでおり、チーム間の連携やコミュニケーション能力の向上を図っている。 AOJT制度による効果的な技能継承の取組み  後継者育成のために若手社員からの希望を聞きとり、身につけたい技術について、現場で直接指導することで技能継承を行っている。例えば、型枠大工や左官、石積みなどの分野では、若手社員が希望する技術を高齢技術者のもと、習得する仕組みを整えている。 B資格取得支援制度  高齢社員も含めた全社員を対象に「資格取得支援制度」を導入しており、資格取得に必要な講習代や教材、交通費などの費用を会社が負担している。資格取得者が増加することでサービス品質や安全性の向上、工事受注数の向上が図られている。 Cペア就労で双方向の知識共有が実現  施工管理の分野では、高齢社員と若手社員がペアを組んで工事を担当することで、高齢社員の負担軽減を図るとともに、若手社員にとっては高齢社員から仕事を学ぶ機会となっている。一方、IT機器については、若手社員が高齢社員に操作手順などを教えており、双方向の知識共有が実現している。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業環境の改善 ▼軽量機器の導入と機器のコードレス化  高齢社員のリクエストに応えた機材を選定することで効率的かつ安全に作業を行える環境が整備された。また、作業で使用する機器のコードレス化を進めており、コードがないことで機器を持って移動する際の転倒や転落のリスクが軽減され、安全性が向上しただけでなく、転倒災害の防止に配慮したコードの配線作業そのものも省略することができ、作業も効率化した。 ▼コミュニケーションツールの導入  情報共有が大きな課題であったため、パソコンやスマートフォンで利用可能な建設業向けコミュニケーションツールを導入した。これにより社内のスケジュール管理だけでなく、重機の予定管理、案件のデータ、写真・動画共有、進捗管理など、業務の共有や情報の一元化が可能になった。当初は戸惑う社員も多かったが、高齢社員も徐々に使い方に慣れてきて、生産性の向上につながっている。 A健康管理の徹底  腰痛予防や身体負荷の軽減を目的に、アシストスーツ※の導入を進めている。これにより、長時間同じ姿勢を維持する作業でも快適に行えるようになり、体力消耗が抑制され、作業効率が改善した。  また、熱中症予防対策として、当初は電動ファンつき作業服を支給したが、近年は各社員が自分に合った対策を取れるよう、熱中症対策費を6月〜9月まで毎月定額で支給している。  社員の健康状態を維持することが戦力の維持につながると考え、全国健康保険協会佐賀支部の「がばい健康企業宣言」にエントリーし、優良企業として認定されている。60歳以上の社員には骨粗しょう症検査を無料で実施しているほか、就業時間内での二次健康診断・特定保健指導の実施、血圧計の設置などに取り組んでいる。また、年に1回開催している「健康研修」には全社員が参加し、専門家による講習を受けるなど、多彩な健康管理の取組みにより、社員の健康意識が向上した。 B安全管理の推進  毎日、安全朝礼を実施しており、社長が訓示を行った後、社長自ら気になる社員に声をかけている。ラジオ体操を朝礼のスタートにすることで、朝礼の雰囲気が一新された。 (4)その他の取組み @農業法人の設立  「地元の耕作放棄地を有効活用できないか」という問題意識から、2023年に農業法人を設立。負担が決して軽くはない建設現場で業務を行う高齢社員にとって、「建設現場と農作業を行き来しながら仕事ができる」、「建設現場から徐々に農作業へ無理なく移行していける」という職場環境づくりを目ざしている。 A若手の採用  高校生の会社訪問や工事現場見学、インターンシップの受入れを積極的に実施している。実績はまだ出ていないが、高卒から建設系専門学校への進学のための奨学金制度を設けており、会社の姿勢を社内外に示している。 (5)高齢社員の声  堤(つつみ)直弘(なおひろ)さん(71歳)は58歳のときに入社。入社以降、工務課で建築の施工管理業務に従事している。  「会社という組織では多くの場合、自分の考えをいえないことも多いのですが、この会社は思っていることを言葉にして話すことができます。風通しがよい職場で、社員の資格取得にも積極的であるなど、社員に対する会社の想いを感じながら毎日働いています」  建設現場の作業員として働く田口(たぐち)恵司(けいじ)さん(62歳)は入社して10年。  「定年がなくなって、身体が動くかぎり仕事ができることになったのでよかったです。自分に合った方法で使用できる熱中症対策費は、おもにドリンクに使っています」  同じく建設現場で働く中村(なかむら)茂春(しげはる)さん(61歳)は「入社して10年になります。休みが取りやすいのでとても助かっています」と話す。 (6)今後の課題  今後、人事評価制度と賃金制度をさらに改善し、若手人材の確保・育成に向けた取組みに注力していくことを掲げるとともに、設立した農業法人の業務の拡大を目ざしていくという。農業法人事業は、将来的に高齢社員の活躍の場となることを見すえた取組みであり、超高齢社会における対応策の一環と位置づけられている。  高齢社員はもちろん、だれもが働きやすい職場環境を構築し、経営理念である「互恵」の精神の具現化を目ざして、同社の飽くなき挑戦は続く。 ※ アシストスーツ……身体に装着し、モーターや外骨格などで身体の動きをサポートし負担を軽減する器具 写真のキャプション 株式会社植松建設 現場作業で使う機器のコードレス化を推進 「がばい健康企業宣言」優良企業認定証 堤直弘さん(71歳) 田口恵司さん(62歳) 中村茂春さん(61歳) 【P12-15】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 優秀賞 高齢社員が技術指導を牽引し高度な技術の次世代継承を実現 株式会社 久郷一(くごういち)樹園(じゅえん)(富山県富山市) 企業プロフィール 株式会社 久郷一樹園 (富山県富山市) 創業 1875(明治8)年 業種 造園緑化工事・土木工事 社員数 25人(2024年4月1日現在) 60歳以上 9人 (内訳) 60〜64歳 4人(16.0%) 65〜69歳 0人(0.0%) 70歳以上 5人(20.0%) 定年・継続雇用制度 定年なし。最高年齢者は74歳 T 本事例のポイント  株式会社久郷一樹園は、1875(明治8)年創業で、2025年に創業150年を迎える。創業以前の江戸時代のころから富山城の庭園造成や剪定などを手がけており、長い歴史のなかで蓄積されてきた高い技術の継承に邁進している。現在は、県内の公共工事をはじめ、県内外の造園工事、環境緑化工事にも力を注ぎ、地域の環境整備に貢献している。  「優秀施工者国土交通大臣顕彰」を受賞した3人のベテラン社員が先頭に立って若手に技術指導を行い、社員が一丸となって技術の継承に取り組んでいる。ここ数年離職者が皆無である背景には、技術集団として互いを尊重し合う職場風土がある。そのなかで定年制を廃止し、高齢社員が活躍できる職場環境づくりを進めてきた。 POINT @定年制を廃止するとともに、高齢社員のモチベーションアップのために年齢にかかわらず昇給できる賃金体系を導入した。 A次の世代につながる技術の伝承はもちろん、業務に必要な感性の引き継ぎのために、高齢社員と若手社員の同行作業を推進している。「優秀施工者国土交通大臣顕彰」の受賞者3人が、若手への技術指導にあたりながら、高い技術力を次世代へ伝承している。 B安全に働けるように安全対策のポイントを定期ミーティングで確認し、毎年社外研修も実施。安全を最優先する風土を構築している。 C作業効率の高い機械を導入し、作業負担の軽減に努めている。従来の手作業を機械化することで、勤務シフトにも余裕が生まれ、身体的・精神的な負担の軽減につながった。 U 企業の沿革・事業内容  1875年に創業され、4代にわたって家業を連綿と引き継いできた。創業以前の江戸時代から、富山城の庭園の造成、剪定などを代々手がけるなど、富山城址にほど近い地に根を張って事業を発展させてきた。富山県の公共工事および県内外の民間造園工事に数多くかかわり、公園の緑化整備・管理をはじめ、和風庭園の造作など多岐にわたる造園工事を通じて、地域の環境整備に貢献している。また、同社は県内外の8企業・団体で構成する特定目的会社の代表企業をにない、富山県のほぼ中央に位置する常願寺川公園での、バーベキュー施設を核としたにぎわいづくりに積極的に参画するなど、地域の活性化のために全社をあげてさまざまな取組みを推進している。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  社員の約4割が60歳以上で、74歳の最高齢社員が、現在も正社員としてフルタイム勤務で働いている。  一方で、若手の採用はままならず、外国人を多く採用することで人手不足を補っている(20・30代社員8人のうち、7人が外国人、うち1人は班長として活躍)。こうした新たな人材を確保したことで、技術伝承が必要となったものの、高度な技術を伝えるには長い年月が必要となる。そこで、技術伝承の中心的な役割をになう高齢社員に長く働き続けてもらうための環境づくりが喫緊の課題となっていた。そのため、年齢にとらわれず60歳以降も昇給可能な賃金制度を整備するなど、高齢社員が長く働ける仕組みを構築。また、技能伝承を通じて、高齢社員と若手・外国人社員の絆が深まることで、一体感の強い職場風土が醸成され、社員全体のモチベーション向上につながっている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年制の廃止  2010(平成22)年に定年を70歳に引き上げているが、社員の高齢化が進展していることを受け、2019年に、社員がより長く働き続けることのできる環境の構築を目ざし、定年制を廃止。これにより、3人の「優秀施工者国土交通大臣顕彰」の受賞者が働き続けることが可能になり、先頭に立って若手に技術指導を行っている。若手社員の技術向上に加え、指導する高齢社員の活力もアップするという相乗効果も生まれた。 A賃金体系の改善  定年制を廃止する以前から月給額の計算は、日額(最終的に代表取締役が決定)×24日×精勤加算1.15(24日と1.15は社員一律)とし、シンプルで明確な賃金制度を導入している。昇給については、代表取締役から直接本人へフィードバックする。ベースとなる日額は、年齢にとらわれず業務の貢献度に応じて決定しているため、60歳以降も昇給が見込めるわかりやすい制度となっており、高齢社員はもとより、社員全体のモチベーションアップにつながっている。70歳以降は、本人の健康面への配慮などから減額するケースもあるが、職務内容によっては金額が維持されることもある。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @代々続く人材育成  これまで造園技術の修業の場として多くの若手を受け入れ、一時は約40人の社員が在籍していたこともある。先代の社長は、社員の独立をうながし、起業させることで、富山県の造園業者のすそ野を広げることに尽力してきた。また、現社長は富山職藝学院(大工と庭師の専門学校)の理事長を務めており、同社の人材育成マインドが連綿と継承されていることがわかる。学院の卒業生の1人は同社の現場で高齢社員とともに働き、技術を身につけている。  また、造園の仕事は植栽の剪定だけではなく、縁石の設置なども含めた土木工事など作業の幅が広いため、社員にさまざまな資格の取得をすすめており、資格取得にかかる費用は全額会社負担としている。 A高齢社員と若手社員の同行作業の推進  創業から長い歴史と伝統を持つ同社は、県内の県立高校の樹木の雪囲いなどの作業をすべてになっている。各高校には地域や学校のシンボルとなっている樹木がたくさんあり、雪囲いは大切な作業である。雪囲いでは樹木の高さに応じた高い支柱を必要とし、柱の先端から各枝へと放射状に縄を張るなど、樹木の状態に応じてさまざまな技法があり、造園業者のなかでも高い技術が必要とされているが、難度の高い作業に対応できる同社に地域の信頼は厚い。  その信頼を支えているのが、技術と誇りを体現する「優秀施工者国土交通大臣顕彰」の受賞者3人であり、この3人が外国人を含め若手社員とペアになって現場で仕事をし、技能の伝承を行っている。作業マニュアルも整備しているが、造園業においては、例えば1本の木を植えるだけでも、角度や見せ方によって景観が大きく変わるなど、芸術性などの感性を磨く必要もある。そうした書面化できない技能・技術の伝承のため、高齢社員と若手社員の同行作業を重視している。  また、高齢社員の体力的な負担を若手社員がカバーすることもでき、互いに補完し合う関係が生まれている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業環境の改善  造園業の仕事そのものが簡素化や合理化ができない繊細な作業が多いなか、芝刈りについては厚生労働省の「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」※を活用して自動芝刈機を導入。これにより作業効率が飛躍的に向上した。従来、刈り取った芝草を手作業で袋詰めして、人力でトラックに積み上げていたが、刈り取った芝は集草機に送られ、トラックの荷台への排出も軽いハンドル操作で可能となっており、長時間作業による疲労が軽減された。現場の勤務シフトにも余裕が生まれ、身体的・精神的な負担の軽減にもつながっている。また、斜面の芝刈りもラジコンで簡単に操作でき、肉体的負担が劇的に改善された。 A安全対策  平均勤続年数が24年と熟練作業員が多く在籍している同社では、長年の経験があるがゆえに生じる気のゆるみが引き起こす労働災害を防止するため、安全対策を最重要課題ととらえている。高齢社員に安全に働いてもらうために、現場での安全対策のポイントをミーティングで確認しているほか、定期的に社外研修を実施している。  また、転倒防止についても細やかな対策をとっている。本社の2階へ入室するには屋外の階段を利用するが、建物に挟まれているために日中でも暗いことから人感ライトの電灯を設置したほか、社外から休憩所への入口の段差をなくすスロープを設置するなどの対策を行っている。そのほか、社内の階段の数カ所に転倒の注意喚起を呼びかけるポスターを掲示している。さらに階段には健康促進のため消費カロリーも掲示するなど工夫を凝らしている。  高木剪定作業時の墜落防止用器具の着用についても、着用者自身の確認と同行者による不備がないかのダブルチェックを実施するなど、全社をあげて安全対策に力を注ぎ、安全意識の向上に取り組んでいる。 B健康管理  だれもが長く活き活きと働き続けられるために、社員の健康管理を重視している。定期健康診断以外に、健康状態に応じて各人のオプション検診を実施しており、50歳以上の男性は前立腺がん検診、女性は婦人科検診の受診を行っているが、費用は全額会社負担としている。  日々の社員の健康状態の把握を適切に行うことは家族的な社風を誇る同社では決して特別なことではなく、安心して働ける職場環境を維持してきた。現在、70代の社員が5人在籍しているが、いずれもフルタイム勤務で健康状態も良好であり、短時間勤務などの特段の配慮も必要としていない。また、全国健康保険協会富山支部の「とやま健康企業宣言」に参加し、労働安全衛生を含めた健康経営○R(★)に取り組んでいる。 C福利厚生  社員の親睦を深めるために、年1回、2泊3日の研修会を実施している。社員間のコミュニケーションの一環としつつ、緑化フェアなどの視察も兼ねており、自由参加としているが、毎年ほぼ全員が参加している。 (4)その他の取組み  創業以来、一貫して造園業を通した優れた景観づくりに取り組んでいる。豊かな環境を維持していくことへの思いは強く、現社長は日本ビオトープ協会の会長を務め、生物が共存・共生できる生態系の維持活動に力を注いでおり、SDGsの達成目標を掲げ、二酸化炭素排出力の削減や、緑豊かな生活環境の創造に取り組んでいる。 (5)高齢社員の声  同社で企画・設計室長を務める高橋(たかはし)宣和(のぶかず)さん(74歳)は、企画や図面作成、積算見積りのほか、若手技術者の指導などを担当している。「私たちのような高齢者と若手社員が、和気あいあいとつながり、一緒に仕事ができる雰囲気があることが、この会社の魅力です」と話す。 (6)今後の取組み  企業理念に掲げる「環境緑化の情報発信基地として来るべき造園新時代に挑戦し続ける」の精神に基づき、国連が提唱するSDGsを事業活動につなげ、持続可能な社会の実現に取り組んでいく。そのためにも、全国社会保険労務士会連合会の「社労士診断認証制度」を利用して、「職場環境改善宣言企業」、「経営労務診断実施企業」、「経営労務診断適合企業」の認定を受け、残していきたい企業、大切にしていきたい企業であることを積極的にPRしていくという。  高齢社員が働きやすい環境づくりをいっそう進めるなかで、高齢社員と若手社員が切磋琢磨することで高度な技能・技術を次世代に継承し、将来的に世代交代を図れるよう、同社は次の高みに向かって新しい一歩をふみ出した。 ※ 働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)……勤務間インターバル制度(勤務終了後、次の勤務までに一定時間以上の「休息時間」を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保し、健康保持や過重労働の防止を図るもの)の導入に取り組む中小企業を対象とした助成金 ★「健康経営○R」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。 写真のキャプション 株式会社久郷一樹園 高齢社員と若手社員の同行作業の様子 入口に段差をなくすスロープを設置 高橋宣和さん(74歳) 【P16-19】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 優秀賞 一人ひとりの能力や個性を尊重し働きがいのある会社づくりを推進 株式会社 ドリーム(静岡県浜松市) 企業プロフィール 株式会社 ドリーム (静岡県浜松市) 創業 1998(平成10)年 業種 その他の事業サービス業(警備保障業、福祉事業) 社員数 74人(2024年4月1日現在) 60歳以上 47人 (内訳) 60〜64歳 9人(12.2%) 65〜69歳 18人(24.3%) 70歳以上 20人(27.0%) 定年・継続雇用制度 定年70歳。希望者全員75歳まで継続雇用、その後運用により希望者全員を年齢上限なく勤務延長。最高年齢者は93歳 T 本事例のポイント  株式会社ドリームは1998(平成10)年に静岡県浜松市で警備会社として創業した。その後、2015年4月に緊急一時保護施設「ドリームハウス相生(あいおい)」を立ち上げ、ホームレスに宿泊施設と仕事を提供し、自立を支援するなど、福祉事業にも業容を拡大。現在の事業内容は多彩で、警備業を中心に、防災・防犯用品の販売を手がける防災・防犯事業、歩行訓練特化型デイサービスなどの運営にたずさわる社会福祉事業など、幅広く展開しており、さまざまな分野で地域に貢献している。社名のごとく夢を後押しすることを会社の使命ととらえ、だれもが生涯にわたって活躍できる仕組みづくりに邁進している。 POINT @「健康であれば生涯現役で働いてほしい」という会社の方針のもと、希望者全員の年齢上限のない勤務延長を実現した。 A高齢社員の生活環境や健康状況、個々の要望などに合わせて、勤務時間の弾力的な変更が可能である。 B 雇用形態や年齢にかかわらず、努力が確実に評価され、昇給につながる「キャリアパス制度」を導入した。 C社員の夢を叶えるための社内コンサルタントを配置。 D徹底した教育訓練と資格取得支援など、向上心を持って業務に取り組むためのサポート体制を構築している。 U 企業の沿革・事業内容  同社は1998年に警備会社としてスタートした。以来業容を拡大して現在は、@警備業(安全提供サービス事業、防犯・防災事業)、A介護事業(福祉サービス業)、第二種社会福祉事業(生活困窮者自立支援)、Bモノづくり事業(100%子会社ワイヤーハーネス製造工場)の3事業を中核としている。何歳になっても目標を持って成長し続けることができる「働きがいのある」会社を目ざすことを企業目標に掲げ、「夢をマネジメントする会社」を自らの使命としてとらえ、多彩な取組みを展開している。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  社員40人のうち60〜64歳が12.2%、65〜69歳が24.3%、70歳以上が27.0%で、60歳以上の社員が6割強を占めている。高齢社員が働きやすい職場であるため離職が少なく、その結果、社員の高齢化が進んでいる側面もある。警備業にかぎると、平均年齢は60代後半で、93歳の最高年齢者も活き活きと働いており、生涯現役を体現している。  高齢社員の配置に関しては、遠距離や夜間業務を避けるなど、管制担当者が希望を確認し、極力、負担がかからないよう努めている。「働くことで健康状態がよくなっている」と話す高齢社員も多い。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年・継続雇用制度  以前は定年60歳、希望者全員65歳までの継続雇用制度であったが、社員の高齢化が想定されていたことに加え、65歳以降も雇用契約を結び多くの人材が働いていたことから、2022(令和4)年に制度を改定し、定年70歳、希望者全員75歳まで、その後も運用により希望者全員年齢上限なく働ける継続雇用制度を導入した。 A評価制度の整備  2023年より年功序列制度を廃止し、評価制度を刷新した。「コア・バリュー体現支援シート」を使い、年4回の自己評価を実施したうえで、上司による評価とのすり合わせを行い、社長に提出。後述する「キャリアパス制度」と連動して、給与を決定する。自分の能力や成果を客観的にみられるため、自己肯定感が上がると社員から好評である。 Bキャリアパス制度  2023年より全社員を対象としたキャリアパス制度を開始。上司から高い評価を得るとステップアップし、昇給につながる。同社はリーダー育成に力を注いでおり、ステージが上がると役職が上がっていく。努力と成果が確実に評価され、給与にも反映されるため、モチベーションが上がり、一人ひとりのスキルアップにも直結している。 C賃金・各種手当  賃金制度は基準内賃金(基本給、出勤報告手当、残業手当、休日出勤手当)と基準外賃金(資格手当、能力手当、ヒヤリハット提出手当、交通費等)から構成される仕組みを、キャリア制度と連動する形で構築。雇用形態や年齢による区別はないことから、キャリアパス制度による評価が給与に反映される。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @社員の夢の実現を支援する社内コンサルタントを配置  「従業員の夢を叶えるための手伝いをしたい」という思いから、2022年にスタートした制度。個々の社員が描いた夢の実現を会社が支援するというもので、民間団体が認定する社内コンサルタントを配置。年齢や在籍年数、役職などは問わず、希望者は月に1度の個別面談とグループワークを実施し、本人の思いや希望に耳を傾け、夢の実現を会社全体でバックアップしている。 A新人教育の充実  警備業法で定める20時間の法定研修時間に加え、その内容を深掘りして10時間をプラスした計30時間の新任教育を実施している。また、入社3カ月後を目途に、経営方針や社内制度の理解を深めてもらうため、地元の寺にて2泊3日の研修を実施している。法定時間を上回る教育を実施する背景には、他社を定年退職して初めて警備業界に入る人たちの不安を払拭するというねらいがある。 B資格取得支援と資格手当の支給  同社は資格取得にかかる費用として、受講料や受験会場までの交通費、日当を全面的にバックアップしており、必要に応じてマンツーマン指導なども行う。資格取得後は資格手当も支給しモチベーションアップを図っている。 C師弟制度  警備業においては、マニュアル化しづらいような判断や柔軟性が現場で求められることがある。そこで高齢社員をはじめとするベテラン社員が長年つちかった経験や知識を伝承するため、「マスター」と呼ばれる上長と、直下の部下を「パダワン」とする師弟制度を導入し、技能の伝承を行う仕組みを構築している。「パダワン」は同社の「コア・バリュー」を意識して業務を行い、「マスター」に日々の報告を行う。 D配置転換や担当業務の変更  高齢社員の健康に配慮して、配置転換や担当業務の変更を行うことがあることを就業規則に定め、警備員が高齢になり足腰が弱くなった際には、座ったままでもできる施設警備の仕事を増やすなどの配置転換を行っている。また、警備業務をになうことがむずかしくなった社員には、できる仕事を提案。当社が運営する介護事業所の清掃やグループ会社のワイヤーハーネス工場で働いてもらうなど、就業が途切れないようサポートを行っている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @健康管理・メンタルヘルス  高齢者が多い職場であるため、産業医と連携するとともに、定期的に開催する勉強会のなかで体操を兼ねた規律動作の研修を実施しているほか、インフルエンザの予防接種に関しては費用の補助を行うなど配慮している。メンタル不調者は少ないが、日ごろから個人的な雑談をはじめ、キャリア面談などを通して、社員一人ひとりの声に耳を傾け、配置場所を調整するなど、円滑な人間関係のもと、臨機応変に対応している。 A安全対策の推進  週1回、幹部が現場を巡回し、声がけや聞き取りを行い、その都度必要な対策につなげている。熱中症には特に気をつけており、ファンつき作業着の貸与、氷水の配付、長袖シャツの着用を徹底している。夏場は氷水もすぐに溶けてしまうため、ポータブル冷蔵庫も設置している。 BIT化への対応  アルコールチェッカー使用報告をスマートフォンにて実施している。ペーパーレス化および情報を本部に一元化するため、スマートフォンの使用教育を必要に応じて行い、そのためのマニュアルをつくり、報告のために会社独自のアプリを作成した。スマートフォンは、アルコールチェッカーの使用報告以外にも業務連携で使用している。 Cアニバーサリー休暇  「警備業は低賃金」などのイメージによる結婚への懸念を払拭し、「結婚を後押ししてお祝いしたい」、「家族との有意義な時間を過ごしてほしい」という思いから、アニバーサリー休暇を新設。誕生日や結婚記念日を自己申告することで、特別休暇を取得できるもので、高齢者はもちろん、若手採用のきっかけの一つにすることもねらいとしている。また、休暇を取得する人のフォローや穴埋めを円滑にすべく、業務の標準化やスキルの向上効果もあり、「お互いさまの関係」を築く相乗効果も生まれている。 (4)その他の取組み @避難所としての役目  社屋の2階が「災害時地域避難所」として認定されている。非常用発電機および非常用ガス発電機の2種類を備えており、災害時は地域住民の受入れが可能なように備蓄品も保管している。 A防災用品の設計・販売  「警備の延長に防災あり」の考えのもと、2010年に防災事業部を立ち上げている。その1年後に東日本大震災が発生し、津波から逃れた人の話を聞き、非常用持ち出し袋「キズナックス」を設計し、これまでに1万6000個を販売している。 B社会貢献  会社外の草取りや地域清掃を実施しているほか、小学校でのあいさつ運動や防犯教室などの独自の取組みを行うなど、地域社会貢献に積極的に取り組んでいる。 (5)高齢社員の声  最高齢社員の永田(ながた)逓児(ていじ)さんは、2024年9月に93歳を迎えた。2023年には、交通誘導警備2級を取得している。きっかけは、当該資格を取得していないとできない業務があったためである。学科試験では満点を取るなど、周囲の人たちの挑戦意欲に大きな影響を与えている。資格取得時の年齢が注目され、取材のほか、同業他社からの問合せも多い。永田さんは「資格取得者は証明書と腕章を身につけます。同じ業界の人は見てわかるので、声をかけてくれるようになりました。社長や上司からの言葉は力になります。みなさんに感謝したいです」と語った。 (6)今後の課題  高齢者雇用はもちろん、地域・社会貢献など、多彩な取組みを展開する同社では、今後の目標として、若者の自立支援学校の設立を掲げている。不登校やひきこもり、発達障害、スマートフォン依存などの若者を支援するためのアカデミー「耕せにっぽん!!浜松校」の設立に向け、現在準備を進めている。生きづらさを抱える若者たちに、さまざまな体験をしてもらうのがねらいで、同社グループでは、警備業、介護事業、製造業など、さまざまな職業を体験できることから、自分にできることを見つけ、人の役に立つ喜びや、人から感謝される喜びを知ってほしいと願いながら、若者が社会とつながるための橋渡し役となることを標榜している。安心・安全を提供するエッセンシャルワーカーグループとして、未来の社会を支えていく子どもたちや若者に、年齢に関係なく活躍している高齢社員の姿を示し、すべての人が夢に向かって進めるような世界の創造に努めていく。 写真のキャプション 株式会社ドリーム 夢を叶えた社員を紹介する掲示物 社員教育のなかで実施している救命講習会の様子 永田逓児さん(93歳) 【P20-23】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 特別賞 社会保障の充実や柔軟な勤務制度を整備 働く意欲を支援する職場づくりを実現 株式会社 ヤオコービジネスサービス(埼玉県川越(かわごえ)市) 企業プロフィール 株式会社 ヤオコービジネスサービス (埼玉県川越市) 創業 2010(平成22)年 業種 警備業、保険代理店、店舗施設管理ほか 社員数 66人(2024年4月1日現在) 60歳以上 51人 (内訳) 60〜64歳 3人(4.5%) 65〜69歳 27人(40.9%) 70歳以上 21人(31.8%) 定年・継続雇用制度 定年70歳。一定条件のもと年齢上限なく継続雇用。最高年齢者は75歳 T 本事例のポイント  株式会社ヤオコービジネスサービスは、親会社の株式会社ヤオコーが100%出資して、2010(平成22)年に創業した。以来、ヤオコーのグループ会社としてスーパーマーケット店舗における店内保安警備や店舗駐車場の警備などを担当している。  2022(令和4)年に継続雇用の年齢上限を撤廃し、高齢社員が活躍できる環境づくりを推進してきた。社員の8割近くを60歳以上が占めることから、社会保障の充実や勤務体制の整備に注力し、経験豊富な高齢社員が長く働き続けられる会社を目ざしている。  また、心身健康で働く意欲を持ち続ける高齢社員が社会に貢献できるよう、全社をあげて生涯現役で働ける職場づくりに取り組んでいる。 POINT @継続雇用の年齢上限を撤廃したことにより、生涯現役で働ける職場を実現している。 A有期雇用契約で採用を行うものの、2年目から無期雇用転換とすることにより、高齢社員の安心感の醸成と複数年かけたキャリア形成を支援している。 B警備業法で定める法定研修時間を超える研修を行うことにより、外部労働市場から未経験者の積極的な採用と定着を図っている。 C年齢にかかわらず業務評価による賃金決定を実施することで、社員のモチベーションアップを目ざしている。 D働く意欲を維持するために資格取得を費用と時間の両面から積極的に支援しており、資格取得者には資格手当として賃金に反映している。 U 企業の沿革・事業内容  株式会社ヤオコービジネスサービスは、埼玉県を中心に関東圏でスーパーマーケットを展開する株式会社ヤオコーが100%出資し、2010年に創業した。以来、ヤオコーが食生活提案型スーパーマーケットとして、より効果・効率的に業務に注力できるよう、店舗関連業務を中心に、後方支援をになう企業として成長を遂げている。  親会社である株式会社ヤオコーが展開するスーパーマーケットの店内保安警備や店舗駐車場警備を通して、お客さまの安全・安心を確保し、快適な空間の提供をになうことで食の拠点として地域に貢献してきた。現在は店舗の施設管理や社員向けの自動車保険・医療保険など、各種保険の代理店業務も行っている。60歳以上が社員の8割近くを占める会社として、高齢社員が働きやすい職場環境の構築に社員一丸となって取り組んでいる。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  従来より70歳定年制を導入していたが、70歳以降はアルバイトとなり、75歳まで1年ごとの有期雇用契約(雇用上限75歳)で継続雇用していた。しかし、採用難による人材不足が課題となっていたことから、2022年に定年70歳以降の継続雇用の年齢上限を撤廃。70歳以降はパートナー社員となり、心身が健康で優秀な高齢社員に引き続き働いてもらい、その経験やノウハウを活かして、警備業務などの内製化による店舗関連業務を中心とした後方部分の強化、維持を行うことを同社の課題にすえている。  また、年齢にかかわらず業務評価により賃金を決定することで生涯現役で働ける職場を実現している。継続雇用の年齢上限の撤廃は、社会に貢献できる実感や自覚がやりがいにつながったと社員から好評を得ているほか、外部労働市場からの採用へも好影響をもたらしており、過去3年間で70歳未満の高齢者を25人採用している。ヤオコーグループとして、警備部門の内製化を進めているが、同社における高齢者雇用に関するノウハウはここでも活かされていく見込みだ。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年年齢の見直し  2021年までは定年70歳、その後、アルバイトとして1年ごとに契約更新を行う75歳までの継続雇用制度を導入していた。しかし、昨今の人手不足のため、心身が健康で優秀な高齢社員に引き続き経験やノウハウを活かしてもらえるよう、2022年に継続雇用の年齢上限を撤廃し、生涯現役で働くことのできる職場環境を実現。同社では、採用後1年は有期雇用契約であるが、2年目以降は無期雇用に転換されることから、長期的なキャリア形成が可能となり、高齢社員の安心感につながっている。 A業務評価を昇給に反映  社員のモチベーションを高めるため、本人との話合いにより目標設定を行い、勤務体制を整備した。毎年4月に、指導員と社員の話合いで目標設定を行う。賃金は時給であるが、業務評価により毎年昇給額、ボーナス支給額を決定している。店舗の繁忙曜日は時給のアップなども行っている。 B柔軟な勤務体制  1日の所定労働時間は8時間であるが、週2〜5日まで、自分のライフプランに合った働き方を選択することができる。また、1カ月ごとのシフト制で、前月までに勤務日の希望を申請することにより、自分の予定に合わせた働き方を可能としている。一人ひとりの生活に合わせた働き方が選択できるようになり、ワーク・ライフ・バランスの調和が図られ、社員の満足度は高い。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @教育訓練の充実  警備員として勤務する社員は、採用後、法定20時間の新任教育を行う以外に、さらに2日間かけて、店舗で警備をになう心構えなどの社内教育および店舗でのOJTを行い、ハイクオリティな業務遂行を目ざしている。また、単独で業務にあたる警備員を定期的に指導員が巡回し、さらなる技能と技術の向上のための個別指導を行い、安心して働ける職場の実現および未経験者の定着率向上に努めている。 Aキャリア形成支援  意欲的な社員に対しては、年齢にかかわらず就業時間内で交通誘導2級の資格取得を費用面や技能面(2日間の技能指導)でサポートしている。資格取得者には資格手当を支給する。資格取得者が増えることで、サービスの安全向上につながっている。 B業務改善のためのボトムアップ型職場風土の形成と社内研修の実施  お客さまからの意見のほか、店舗を巡回する指導員や、社員自らの気づきなどにより業務における課題を抽出し、3カ月ごとに全社員を2回に分けて招集し、課題解決のための社内研修を実施している。研修では、抽出された課題について、パワーポイントツールを活用して話し合い、快適な買い物空間の提供ができるよう警備技術の向上を図っている。これは、日々各店舗で単独で警備する社員の、コミュニケーションの場にもなっている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @健康管理  ヤオコーグループは健康経営に取り組んでおり、以下の取組みを実施している。 ・定期健康診断において法定項目以外も受診対象とし、40歳以上の社会保険加入者は2年に一度人間ドックを活用でき、会社と健康保険組合から一部補助を実施 ・健康保険組合とのコラボヘルス※推進 A安全衛生  同社では屋外作業が中心であるため、夏はファンつき作業着や経口補水液の支給をはじめ、熱中症対策研修を行っているほか、日よけの設置や店舗の冷房のある休憩室の利用を可能とするなど無理なく働けるよう配慮している。冬場においては、使い捨てカイロの支給や店舗休憩室の利用のほか、今後に向けてヒートベストの導入を検討中である。  また、店舗で体調不安が起こった際は、店舗責任者に相談すれば、同社に連絡が入る連携体制を整備している。また、警備などの現場で発生したヒヤリ・ハットは、日報などにより積極的に報告・情報共有している。 B福利厚生  年1回、全店舗休業日を利用し、ヤオコーグループでの運動会を開催。店舗の地区ごとに競い合い、社員間の交流を図っている。 (4)その他の取組み @警備員指導教育責任者の配備  警備員指導教育責任者3人がOJTや業務評価を行っている。それぞれが前職の経験や知識を活用し、警備上の技能・技術を若手の責任者に伝承している。 A社会貢献活動  経済的に困難な家庭やひとり親家庭の子どもたちへ物資などを提供する子ども支援、および生活困窮者に無料で食料を提供するフードパントリー活動に取り組んでいる。 (5)高齢社員の声  入社から約4年の道さ祖土(いど)昭彦(あきひこ)さん(64歳)は、これまで複数の店舗での勤務を経験している。「それぞれ店舗によって違いがあり、来店時にお客さまと接するなかで、顔見知りになることもあり、毎日がおもしろく充実しています。70歳を超えていても社会保険に加入することができ、疾病手当金など生活保障があることや、継続雇用も年齢上限がないことはとてもありがたく、身体が続くかぎり仕事を続けたいと思っています。現在は週5日勤務ですが、身体がきつくなってきたら週4日勤務などへ変更し、余暇を楽しみたいと考えています」と話す。  勤務歴約7年の渡邉(わたなべ)博(ひろし)さん(74歳)は、採用当初は未経験であったことや年齢を考慮し、週2日勤務のアルバイトとして店舗駐車場の警備に就いた。2022年の継続雇用制度の改定にともない、本人の意欲をふまえて週4日勤務のパートナー社員となった。「毎日意欲をもってお客さまとコミュニケーションを図り、元気に働かせてもらっています」と話した。 (6)今後の課題  同社では、高齢社員を中心とする社員がより働きやすい職場環境の実現に向け、ワークシェアリングの活用や、介護離職防止に向けた両立支援の取組み、転倒をはじめとする労働災害防止など、今後も各種取組みに注力していく方針を掲げている。 ※ コラボヘルス……保険者と事業者が積極的に連携し、明確な役割分担と良好な職場環境のもと、加入者の予防・健康づくりを効率的・効果的に実行すること 写真のキャプション 株式会社ヤオコービジネスサービスが入る株式会社ヤオコー本社ビル 社内研修の様子 社内実務研修の様子 暑さ対策のための日よけの設置(渡邉博さん〈74歳〉) 道祖土昭彦さん(64歳) 【P24-27】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 特別賞 若手社員とのペア就労で高齢社員が活躍できる職場環境を構築 カナタスタイル 合同会社(富山県富山市) 企業プロフィール カナタスタイル 合同会社 (富山県富山市) 創業 2018(平成30)年 業種 介護事業 社員数 35人(2024年4月1日現在) 60歳以上 11人 (内訳) 60〜64歳 2人(5.7%) 65〜69歳 6人(17.1%) 70歳以上 3人(8.6%) 定年・継続雇用制度 定年70歳。一定条件のもと年齢上限なく継続雇用。最高年齢者は74歳 T 本事例のポイント  カナタスタイル合同会社は、2018(平成30)年に設立された。その後、施設建設などの準備期間を経て、2020(令和2)年に高齢者向け複合施設「シニアタウン龍宮」を開業した。介護サービスつき高齢者向け住宅としての機能のほか、通所介護サービス「デイサービス百(もも)たろう」、「フィットデイ筋(きん)たろう」、訪問介護サービス「ホームヘルプサービス乙姫」が併設されている。また、「ラウンジ華(か)ぐや」という名の地域交流スペースも開設され、地域に貢献できる介護サービスを目ざしている。  「シニアタウン龍宮」は桜並木が美しいいたち川沿いにあり、「利用者はゆったりした環境で自分らしい生活を過ごすことができる」と、地域の評価も高い。高齢社員を積極的に採用しており、現場では、経験豊富な70代の社員が活き活きと働き、若手社員と協力し合って開業6年目の若い施設を支えている。 POINT @経験豊富な高齢社員を採用した際、そのメリットが大きかったことから、2021年に定年を65歳から70歳に引き上げた。70歳以降は本人が希望する働き方での継続雇用を可能とした。 A社員間の処遇の納得感を高めるために、社会保険労務士のアドバイスを受けながら役割等級制度を軸とした人事管理制度を導入した。 B高齢社員と若手社員がペアで就労することで、高齢社員のモチベーション向上と若手社員の人材育成という相乗効果が生まれている。 C音声入力で介護記録が可能となる介護ソフトを導入したことで、作業負担の軽減につながっている。文字入力が苦手だった高齢社員からも歓迎され、現在は全員がタブレットを気軽に活用できるようになった。 U 企業の沿革・事業内容  同社は2018年10月に設立された。2020年4月に地上10階建ての高齢者向け複合施設「シニアタウン龍宮」を開業し、介護サービスつき高齢者住宅とあわせて、デイサービスや訪問介護事業を展開している。これまでの車中心の郊外型の生活から、快適で利便性の高い「まちなか居住」への動きが広がるなか、中心市街地でもゆったり散策などが楽しめる川沿いに位置し、社員一同「明るく・自分らしく・夢をもって」の理念に基づき、入居者や利用者が安心して自分らしい生活を送れるようサービスを展開している。設立から6年、組織運営を続けていくなかで、社員の納得感をどのように高めていくか、それをどのような仕組みに取り入れていくか、顧問の社会保険労務士がつねに経営者に寄り添い、話し合いながらよりよい職場環境づくりを目ざしている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  2020年の「シニアタウン龍宮」開業を機に、徐々に入居者や利用者が増えてきたころから、社員が長く働き続けられる環境の構築への取組みを開始した。制度面の改善などを社会保険労務士に相談し、定年延長や社員の処遇の納得感を高めるために給与規程や人事管理規程を整備、役割等級制度と人事評価制度を導入した。  また、制度をしっかりと機能させるためには、「会社の理念を社員に浸透させることも必要」という施設入居者からのアドバイスをヒントに、「明るく・自分らしく・夢をもって」という会社の理念をつくりあげた。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年年齢の見直し  当初は65歳定年としており、人材確保のために50〜60代の人材を多く採用していた。そこで、施設利用者と世代が近く意思の疎通が図りやすい、人生経験が豊富でトラブル時の対応に安心感があるなど、高齢社員が戦力として活躍してくれたことから、2021年に70歳に定年を延長。社員から「65歳でやめなくてはいけない」という意識がなくなり気持ちに余裕が出てきただけでなく、他社を退職した新たな高齢人材の採用にもつながっている。現在、20〜30代の社員は13人(うち5人は外国人)で、各フロアでは高齢社員と若手社員が一緒に就業しており、利用者とのコミュニケーションなど、若手社員の経験が不足している部分を高齢社員が補い、その様子を見せることで人材育成にもつながっている。 A役割等級制度の整備  賃金制度については、「どのような仕事の責任をになうか」という点を処遇の基準とする役割等級制度を導入している。一般社員の1等級から管理職の4等級まで4段階で区分しており、現在は施設長のみ5等級に位置づけている。社員は、「役割貢献評価シート」に、業務スキルと組織行動の各項目についてSABCDの5段階で自己評価を行い、それを上司と管理者の2段階で評価を行う。評価は半期ごとに行い、半期の評価はそれぞれ夏季と冬季の賞与に反映される。それらを総合した年間の総合評価では、5段階の評価に応じて基本給の号俸改定と昇格を行う。上半期と下半期の評価で5段階評価の評定が異なる場合は、評価者の上司が被評価者の意見を聴取して総合評価を行うこととしている。 B柔軟な勤務形態  定年年齢を引き上げた際、高齢社員の体力の低下および健康状態を考慮し、勤務時間の希望に対応するため55歳以上の社員を対象に短時間勤務制度を内規として制定した。具体的な時間の基準を決めているものではなく、本人の希望と状態に応じて毎月のシフトに反映させる形をとっており、平均するとおおむねフルタイムの7割の労働時間となっている。  また、仕事と介護の両立で悩む社員をサポートするため、介護短時間勤務の規程を整備。そのほか、それぞれの作業負担を考慮して、肉体的負荷の高い床掃除や入浴介助などから、食事の配膳などに職務を切り替えることもあり、年齢にかかわらず社員から歓迎されている。職務が切り替わっても賃金が変わることはなく、異動後の人事評価において査定している。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @高齢社員と若手社員とのペア就労  高齢社員と若手社員がペア就労することにより、入居者との接し方、挨拶、言葉づかい、掃除の仕方などを高齢社員がさりげなくカバーし、手本を見せることで、若手の育成に大きな効果をもたらしている。  また、入居者が立ち上がる際などに、どのように補助してほしいのか、歩くスピードはどのくらいにすればよいのかを高齢者目線で指導することができるほか、食事を拒否されるケースなどでは、高齢社員が一緒にサポートし、食事が進む言葉がけのコツやコミュニケーションが実践的なお手本となっている。若手だけではなく、外国人社員とのペア就労も実践的な教育の場となっており、双方の働く意欲の向上につながっている。 A高齢社員の教育訓練計画  教育訓練の面においても給与面と同様に、高齢社員だから行わない、もしくは別メニューということは一切なく、担当する仕事に応じ、若手・中堅社員と同じように受講する機会がある。各人のスキルの習得状況などから、年度初めに教育訓練計画を立てており、高齢社員のうち、介護福祉士、正・准看護師などの有資格者は実務的な内容を、経験の少ない高齢社員は初任者向け研修を受講することができる。また、よりよいサービスを提供するため、社員の接遇研修に力を入れており、社内セミナーのほか、コンサルタントによる個別指導を全社員が受けることができる。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業負担の軽減 ▼介護ソフトの音声入力  これまで手書きで行っていた介護記録を、タブレットを用いた音声入力によって行えるよう、介護ソフトを導入した。元々、社内の情報共有については、利用者の多いSNSと連動しているサービスを利用しており、使用方法に親和性があると考え、介護記録を音声入力による作成方式にあらためた。最初は戸惑う社員もいたが、使用方法が複雑ではないため、いまでは利用が浸透している。 ▼移乗サポートロボットの導入  高齢社員は、一人で立ち上がることがむずかしい入居者の、ベッドから車いすへの移乗や、着替えなどの際の立位保持を人力で行う介護技術をマスターしているものの、体力を使う仕事であり、くり返すことで腰痛などを発症するおそれがある。そこで、2023年10月に移乗サポートロボットを導入し、研修を実施して高齢社員に操作方法をマスターしてもらい、実務で使用。介護業務の身体的負担の減少につなげている。高齢社員からは、「力を使うことが少なくなったので、楽になった」と好評であり、腰痛などの労働災害防止につながっている。 A健康管理  高齢社員の生活習慣病予防のため、就業規則を2023年に改定し、55歳以上の社員について「胃がん検診」、「肺がん検診」、「大腸がん検診」のうち一つ以上、費用は会社負担で受けられるようにしている。 (4)その他の取組み @希望休制度  勤務シフトの作成にあたっては、月ごとの業務の繁閑に合わせ業務効率を優先して組むのが基本であるが、社員の働きやすさを優先し、希望休制度を取り入れている。各社員が翌月に休日として休みたい日を所定のカレンダーに記入し、副施設長がこれをもとに勤務シフトを作成する。対象は全社員であるが、高齢社員からも「余暇の計画が立てやすい」、「通院などの時間が確保できる」と好評である。あらかじめ休日希望日をチーム内で共有することで、助け合い意識の醸成につながっている。 A高齢社員のアイデアの活用  定期的に行う全体ミーティングにおいて、高齢社員から意見やアイデアを募っている。「デイサービス利用者の座席表やラベル、レクリエーションで使うホワイトボードの文字が小さく、利用者に見えにくいはずなので、もっと大きくすべきである」との意見が出たことから、全員が文字の大きさに気を遣うようになった。 (5)高齢社員の声  松井(まつい)優美子(ゆみこ)さん(73歳)は入社して4年目を迎えた。週5日、食堂の配膳を担当している。「とてもよい職場だと思っています。いつまでも働けるかぎりは働き続けたいです」と話す。  塚田(つかだ)知英子(ちえこ)さん(74歳)は最高齢ながら、いまもフルタイムで勤務している。73歳で介護福祉士の資格を取得した努力の人で、「利用者のみなさんの気持ちに寄り添って仕事ができる素敵な職場です」と話す。  濱谷(はまたに)勢子(せいこ)さん(73歳)は2023年に入社。週3日の勤務で、デイサービスで看護師を務める。「この会社では、自分自身の年齢を意識することがほとんどありません。会社の方針がみんなに浸透していて、同じ方向を見て一緒に仕事ができることがうれしいです」と力強く語る。 (6)今後の課題  高齢者を雇用することに多くのメリットを感じている同社。年齢にかかわらず、全世代を通じて同じ基準で、公平な処遇を実現することが、高齢社員のモチベーションの点から重要だと考えている。一方、年齢による身体能力などの低下は避けられない面があり、高齢社員の持つ能力を最大限に発揮してもらうためにも、安全、健康、疲労などへの配慮は欠かせない。高齢社員をさらに戦力化していくため、今後も、高齢者世代の積極的な採用や公平・公正な処遇制度の運用・ブラッシュアップをしていくという。 写真のキャプション カナタスタイル合同会社が運営する「シニアタウン龍宮」 負担を軽減する移乗サポートロボットを導入 松井優美子さん(73歳) 塚田知英子さん(74歳) 濱谷勢子さん(73歳) 【P28-31】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 特別賞 高齢社員が長く安心して働ける職場環境を整備 長くつちかった高度な技術・技能を若手社員へ継承 金城(きんじょう)電気(でんき)工事(こうじ) 株式会社(沖縄県那覇(なは)市) 企業プロフィール 金城電気工事 株式会社 (沖縄県那覇市) 創業 1953(昭和28)年 業種 電気・設備工事業 社員数 38人(2024年4月1日現在) 60歳以上 9人(23.7%) (内訳) 60〜64歳 4人(10.5%) 65〜69歳 3人(7.9%) 70歳以上 2人(5.3%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員70歳まで継続雇用、70歳以降は運用により一定条件のもと、年齢上限なく継続雇用。最高年齢者は74歳 T 本事例のポイント  金城電気工事株式会社は1953(昭和28)年4月に沖縄県那覇(なは)市において創業し、2023(令和5)年に創業70周年を迎えた。経営理念の一つ「働きがいのある職場をつくること」に基づき、雇用の安定と技術継承の両立を目ざし、定年延長や職場環境改善に取り組むとともに、生産性と信頼性を高めるためのシステム化を推進。また、高齢・中堅・若年層の連携がより働くグループ編成を意識しペア就労を導入するなど、技術の継承をうながしてきた。 POINT @2019年に高齢者雇用制度を改定し、65歳定年および希望者全員70歳までの継続雇用を就業規則に明記。70歳以降も運用により年齢上限なく働ける仕組みとしており、70歳超の社員2人が、現場から内勤に転換し活躍している。 A定年延長により、60歳以降も昇給や賞与があり、60歳未満の年齢の社員のモチベーションアップにもつながっている。 B「高齢社員やベテラン社員」と「若手社員」とのペア就労では、それぞれのスキルレベルを考慮しながら、現場ごとに組合せを決定し、技術や交渉力の継承に結びつけている。若手社員は先輩社員から長年の経験に基づく図面の読解力、施工手法や安全管理の知識を継承する一方、高齢社員は若手からデジタル機器の使い方を学ぶなど、双方向でWin−Winの効果をもたらしている。 C社員が一丸となって業務遂行できるよう、定期的に研修会や交流会(親睦会、観月会、野球大会など)を開催している。 U 企業の沿革・事業内容  1953年に創業した電気工事請負業および電材販売業の金城電気商会を前身とし、工事部門が独立して1973年に設立された。県内で事業活動を展開し、設計から施工、修理・メンテナンスに至るまで、すべて一社で賄える「ワンストップ工事」を強みに、県内の公共・民間電気設備工事を行っている。  第一牧志(だいいちまきし)公設市場(こうせついちば)や、焼失した首里城(しゅりじょう)復旧のための木材倉庫といった、重要な公共電気設備工事を手がける一方、ホテルやマンションといった民間施設などでも電気設備工事一式を請け負っている。2021年からは新たに電気保安管理業務を開始し、文字通り、ワンストップサービスを具現化。また、電気工事士や電気工事施工管理技士といった、社員の難関国家資格取得に向けたバックアップ体制も確立している。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  社員38人のうち、60歳以上は9人と全体の約24%を占めている。旧制度では、定年60歳、希望者全員65歳までの継続雇用制度を導入していたが、事業遂行には高齢社員の能力・知識・技術が必須であり、慣例的に60歳の定年を超えても働いてもらっていた。だが、今後の安定した若手社員の育成や人材確保の観点から、定年延長は必要不可欠と判断し、2019年7月に定年を65歳に延長、定年後の継続雇用を希望者全員70歳までとすることを就業規則へ明記。役職定年も65歳まで延長となった。  また、定年延長にあたっては、定年延長者の昇給・賞与の原資確保が課題ではあったが、旧制度では60歳定年後、昇給・賞与なしのためモチベーションの低下が生じており、定年延長者への賞与の導入にもふみ切った。これにより、中堅以下の社員の将来への不安も解消され、全社的な士気も上がり、生産性向上に結びついている。さらには高齢社員が指導者として技術やノウハウの継承をにない、若手人材を育てる時間を安定して確保することもできるようになった。  また、定年後継続雇用の高齢社員だけではなく、同業他社を退職した経験豊富な高齢技術者を安全・教育担当として迎え入れるなど、高齢社員を通して、技術の向上に取り組んでいる。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年後の勤務形態等  定年後は勤務内容・形態を変えずに働き続けることが可能である。ただし、本人からの希望があれば、短日勤務などにも柔軟に対応。若手への技術継承やバックアップに注力できるよう、業務の見直しや負担軽減の調整も行っている。  現在、70歳以上の社員は2人在籍しているが、2人とも希望に合わせ現場から事務所での内勤(施工図作成、図面・工程確認などの事務的作業)へ転換し、つちかったスキルを最大限に発揮。直接作業はしないながらも、ときどき現場へ赴き、若手へ工程管理や仕事の進め方のアドバイスもしている。鋭くかつやさしく伝えてくれるため、若手の育成において重要な役割をになっている。 A年1回の定期的な面談の実施  年齢によらず、同社では年1回、社員との面談・意見交換を行う機会を設けており、体力面やメンタル面で問題がないか、社員の意見を聞いている。また面談の際に本人から希望があれば、勤務状況や体調などを考慮したうえで、本人の意見を尊重した配置転換や勤務日数調整、業務内容変更を行っている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @役割の明確化  「重量物の運搬や高所などでの危険作業は若手社員が担当する」、などと役割を明確にしたことで、高齢社員が負い目を感じることなく働けるようになった。また、高齢になると介護や健康面など生活上のさまざまな事情が発生することも多くなるが、柔軟な勤務時間で働く社員がすでにおり、相談しやすい環境であることから安心して働くことができている。 A若手社員への技術継承  同社の事業遂行には幅広い分野の知識が必要であり、多くの資格取得や協力会社との折衝力が求められるなど、高齢社員の存在感は大きい。マニュアル化できない技術の継承は喫緊の課題だったため、高齢社員と若手社員を同じ現場に配置するペア就労、技術・技能伝承を企図したOJTを実施してきた。工期終了後には反省会を行い、次回以降につなげている。  なお、ペア就労を行う際は、あえてペアを固定せず、毎回、個々のスキルレベルに合わせた組合せを考え、配置している。高齢社員が長年の経験をもとにした図面の読解力・施工管理の手法や安全管理の知識などについて指導する一方で、若手社員からはデジタル機器の使い方を学ぶなど、双方にとってよい効果をもたらしている。 B定期的な研修会・交流会の実施  社員が同じ方向を向いて仕事ができるよう、定期的に経営方針発表会や安全衛生大会を実施している。また社員が一丸となって業務遂行できるよう、定期的に交流会(親睦会、観月会、野球大会など)を開催。屋上で観月会(バーベキュー)ができる新社屋を建てるなど、社員同士の交流・コミュニケーションに力を入れている。 C業務に関する改善提案制度と相談窓口の設置  社長との距離が近いのも同社の強みであり、職務や社歴は関係なく、だれでもコスト削減や職場のモチベーション、会社のイメージアップなどに関して、社長に改善提案を行うことができる。業務における相談があった場合、各部門のリーダーに相談できるほか、総務部課長も相談窓口となっており、健康面での相談だけでなく、労働条件や職場内の規律、定年制度や再雇用制度についても相談できる体制となっている。 D資格取得の奨励、各種表彰、祝い金の支給  施工管理の仕事に従事するためには、国家資格である電気工事士、電気工事施工管理技士をはじめ、多くの資格が必須となる。同社では社員の資格取得に力を入れており、社内勉強会の開催、受講先の斡旋や申込みなどのサポートを行ったうえで、受講費用の一部を会社が負担している。また、社員のモチベーションを上げるための各種表彰や祝い金制度も充実させ、社員の努力指標にもなっている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @勤怠システム導入による各種届出の簡素化  従前は紙ベースで勤怠管理をしており、紙で提出された届出を集計して給与システムに入力する方法で管理していたが、個人のパソコンやスマートフォンから勤務状況の届出ができるよう改修した。 A図面管理システム導入によるデータの蓄積  図面管理システムとは、CADで作成した図面、完成図書、設計資料といった図面の一括管理・蓄積を可能にするものであり、設計ミスや非効率的な業務を避けるために活用している。システム導入により、複数の社員間でのデータ共有に時間がかかる、紛失や誤廃棄のリスクといった、紙で管理していたときのデメリットが克服されただけでなく、システムのルールに則り管理する必要があるため、属人的になりがちだった図面の管理方法が画一化され、技術継承が容易になるなどメリットも大きかった。  また、高齢になるとITへの対応がむずかしい部分があるため、直感的に操作ができるものを導入することにしている。IT化についてはミスや事務負担が減るといった直接的なメリットがあり、高齢社員も好感触であったため、今後もフォローを行いつつ進めていく予定である。 B朝のラジオ体操で健康チェック  毎朝のラジオ体操時に管理者が個々の表情や顔色などを見ながら声がけすることで、社員の体調を把握している。社員も自身の健康管理に留意するようになり、体調管理に万全を期して勤務するようになった。 C高齢社員が働き続けるための業務上の配慮  たずさわる業務に応じて十分な休憩時間を設け、疲労やだるさを感じた場合、いつでも休憩を取りやすい環境づくりに取り組んでいる。さらには高所作業や重労働など、高齢社員にとってリスクの高い作業は行わないようにし、心理的ストレスを与えないように業務を計画している。 D高齢社員が働き続けるための作業負担の軽減  加齢にともなう体力の低下を考慮し、安全かつ身体的負担の少ない作業を主とするなど、負担軽減を行っている。また、図面作成・工程管理など事務的な業務を切り出して配置することで、技術継承に集中できるようにしている。 (4)その他の取組み社外活動応援制度  同社独自の取組みとして、社員と家族(同居する2親等まで)が参加するスポーツや文化・芸能などの社外活動において、地域の代表として派遣が決まった場合には支援を行う(給付金支給)制度を設けている。実際に社員がバレーボールの選手となった際や社員の家族が野球の代表選手となった際に活用し、会社をあげて社外活動への参画を応援している。  沖縄県においても、「令和4年度沖縄県人材育成企業」に認証されている。孫世代育成の観点から、沖縄こども未来プロジェクトのほか、さまざまな団体に寄付を行っており、誇りを持って勤務できる環境に結びつけている。 (5)高齢社員の声  入社33年の大ベテラン、末吉(すえよし)栄剛(えいこう)さん(65歳)は、店舗やテナント、個人宅の小口工事を担当しており、若手社員とペアを組んで現場調査や施工管理などを担当している。「若手社員が成長していく姿を見るのはうれしいですね。若手社員が積極的な姿勢で仕事に臨んでいると、教えがいがあります」と話す。 (6)今後の課題  若手社員以上にモチベーションが高く、活き活きと働いている高齢社員が多いが、本人も気づかない健康面の問題が発生することがあるため、今後は健康面のサポートをいっそう充実させる方針だ。生産性の向上には高齢社員の高い技術を継承していくことが不可欠なので、若手・中堅社員とのコミュニケーションを深め、いつまでも一緒に活き活きと働ける職場環境を目ざしていく。 写真のキャプション 金城電気工事株式会社 ペア就労の様子 末吉栄剛さん(65歳) 【P32-33】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 入賞企業一覧 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 佐賀県 株式会社 植松(うえまつ)建設(けんせつ) 優秀賞 富山県 株式会社 久郷一樹園(くごういちじゅえん) 静岡県 株式会社 ドリーム 特別賞 埼玉県 株式会社 ヤオコービジネスサービス 富山県 カナタスタイル 合同会社 沖縄県 金城電気工事(きんじょうでんきこうじ) 株式会社 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 北海道 釧路(くしろ)スバル自動車(じどうしゃ) 株式会社 東京都 株式会社 新日東電化(しんにっとうでんか) 神奈川県 まいばすけっと 株式会社 長野県 宮田(みやだ)アルマイト工業(こうぎょう) 株式会社 三重県 社会福祉法人 名張育成会(なばりいくせいかい) 滋賀県 株式会社 平田自工(ひらたじこう) 京都府 社会福祉法人 青谷学園(あおだにがくえん) 広島県 リライアンス・セキュリティー 株式会社 長崎県 社会福祉法人 恭敬会(きょうけいかい) 特別養護老人ホーム黎明館(れいめいかん) 熊本県 株式会社 ケイ・エフ・ケイ小川(おがわ) 熊本県 医療法人 祐基会(ゆうきかい) 特別賞 北海道 ケイセイマサキ建設(けんせつ) 株式会社 秋田県 株式会社 リチャードソンイトウ 栃木県 株式会社 猪股建設(いのまたけんせつ) 山梨県 ジット 株式会社 滋賀県 特定非営利活動法人 のどかの家(いえ)高木(たかぎ) 香川県 末澤緑地(すえざわりょくち) 株式会社 高知県 紀和工業(きわこうぎょう) 株式会社 宮崎県 株式会社 アキタ製作所(せいさくしょ) 宮崎県 株式会社 難波江商店(なばえしょうてん) クリエイティブ賞 大阪府 双葉電気通信(ふたばでんきつうしん) 株式会社 鹿児島県 内村建設(うちむらけんせつ) 株式会社