高齢者の職場探訪 北から、南から 第148回 福島県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 高齢社員の誠実な働きぶりや仕事を通じて成長する姿が、地域の人々の手本に 企業プロフィール 国見(くにみ)まちづくり株式会社(道の駅「国見あつかしの郷(さと)」) 創業 2015(平成27)年 業種 小売業、宿泊業 社員数 61人(うち正社員数9人) (60歳以上男女内訳) 男性(5人)、女性(15人) (年齢内訳) 60〜64歳 7人(11. 5%) 65〜69歳 8人(13.1%) 70歳以上 5人(8.2%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員を70歳まで継続雇用。嘱託社員、パート社員は年齢に関係なく1年契約で働くことが可能。現在の最高年齢者は75歳  福島県は、47都道府県のなかで北海道、岩手県に続く3番目の面積を有しています。県内は会津(あいづ)、中通り、浜通りの3地域に大別され、地域によって気候が異なり、会津は山間部を中心に豪雪の地域、浜通りは温暖で雪の少ない地域、中通りは中間的な気候の地域となっています。  JEED福島支部高齢・障害者業務課の中島(なかしま)貴史(たかし)課長は、福島県の近況を次のように話します。「東日本大震災や原発事故の影響がいまなお残り、避難を余儀なくされている方や、避難指示解除後の地域でも生活インフラなどが不十分で、帰還に迷っている方などもいる状況が、依然として続いています。  震災や原発事故で深刻な被害を受けた浜通りの産業の回復に向けて、『福島イノベーション・コースト構想』が国家プロジェクトとして進められており、2023(令和5)年4月には、創造的復興の中核拠点として、浪江町(なみえまち)に福島国際研究教育機構(F(エフ)−REI(レイ))が設立されました。  一方で、県内の中小企業では、若年者の採用が厳しく、社員の高齢化、人手不足の問題を抱える事業所が多く、相談・助言活動においては、各事業所の課題に沿って、具体的な解決方法の提案を心がけています」と話します。  同課では7人のプランナーが活躍しており、実情に即して定年制度や継続雇用制度の提案、制度改善の支援を行っています。その一人である木村(きむら)智彦(ともひこ)プランナーは、特定社会保険労務士、ファイナンシャルプランナーの資格を活かし、人事労務管理や職場改善分野を中心にていねいな支援を行い、多くの事業所の力になっています。  今回は、木村プランナーの案内で、「国見まちづくり株式会社」を訪れました。 町が100%出資した株式会社  国見まちづくり株式会社は、国見町(くにみまち)の100%出資により、2015(平成27)年3月に設立されました。福島県の最北端に位置する国見町では、「1000年のまち。これから100年のまちづくり基本計画〜里まち文化交流都市構想〜」を策定し、町の復興のシンボルとして「道の駅」の開設を計画。その運営主体として、国見まちづくり株式会社が設立されました。  同社は社是に、「『たからもの』を見つけ、育て、伝え、つなげることで、まちづくりに貢献します」を掲げ、2017年5月に道の駅「国見あつかしの郷」をオープン。国道4号線沿いの広大な敷地に波型の屋根のモダンな駅舎をつくり、特産品の桃をはじめ、採れたての新鮮な野菜、くだものが並ぶ「くにみ市場」、レストラン、カフェ、広場、宿泊施設などを併設。多彩なイベントも開催し、「ひと・もの・食・歴史・わざ、すべてが集まる『交流の場』」として年間100万人を超える人が足を運ぶ、町を代表する観光交流拠点となりました。 高齢社員の働き方の希望は「多様」  木村プランナーが同社を初めて訪問したのは2021(令和3)年9月のこと。「鈴木(すずき)亮一(りょういち)代表取締役・総支配人は、つねにお客さまや社員と接し、営業やイベント企画、人事運営・人材開発の最前線に立たれており、その実行力に感じ入りました」とふり返ります。高齢者雇用の状況などについて確認するとともに、業務改善に向けた相談を受けました。プランナーの提案に基づき、2021年に高齢者雇用制度を改定し、62歳だった定年を65歳に引き上げるとともに、希望者全員70歳までの継続雇用制度を整備しました。  国見まちづくりの鈴木代表は、「町が出資して立ち上げた会社なので、株式会社でありながら公共性の強い会社です。利益を追求するとともに、地域の雇用も大切です」と同社の特徴を説明します。人材については、「元気でやる気がある方であれば、年齢は問いません。道の駅にはさまざまな世代が訪れますが、比較的高齢の方が多く、世代の近いスタッフがいると質問や話がしやすいという声を聞きますので、高齢社員も若い社員も会社にとってどちらも重要です」と語ります。  社員数61人のうち60歳以上は20人。定年後は嘱託社員またはパートタイム社員となり、1年ごとに契約を更新します。契約更新時には、各職場のリーダーと面接し、翌年度の働き方を検討します。フルタイム勤務のほか、短時間・短日数勤務など、可能なかぎり社員の希望に応じた働き方を実現できるように努めています。  高齢社員は特に定着率が高く、道の駅オープンから7年が経過し、さらに社員の年齢は上がっています。加齢による身体機能の低下も懸念されることから、高齢社員が安心して働けるような取組みもスタートしました。  「高い位置に物を置かない、連絡事項の貼り紙は文字を大きくして読みやすくするところから始めました。野菜の運搬は台車を使うのですが、店内混雑時は台車が使えず、手で持って運びます。こうした作業が発生した際は、若い社員が高齢社員に代わって作業をしてくれます。高齢社員のなかには『若い社員に負担をかけているのでは』と申しわけなく思う人もいますが、ふだんからそれ以外の部分で大きな貢献をしてくれているので、高齢社員を不安にさせないよう、契約更新時の面談などを通じて、『会社はあなたを必要としている』ということを伝えることに努めています」(鈴木代表)  今回は、道の駅オープン時から働いているお2人にお話をうかがいました。 職場に来ると自然と元気になります  鈴木(すずき)けい子さん(68歳)は、勤めていた会社を定年退職後、「もう少し働きたい」と考えていたところ、「国見あつかしの郷」のオープンと求人を知り、61歳で入社。勤続7年になります。  総務部に所属し、宿泊フロント、窓口、予約受付、顧客情報入力、レジ、客室清掃チェック、パンフレットの在庫管理、観光案内など、多様な仕事を担当。入社当初から週4日、平日は4時間半、土日祝日は6時間半の勤務を続けています。  「観光案内は、入社してからほかの社員の方と一緒に会社で勉強会をしました。地元出身なのですが知らないことも多く、一つずつ覚えました。週末や休日は特に忙しい職場ですが、時間帯によって役割が決まっているので、目の前の仕事に集中して取り組むことを心がけています。観光案内でお客さまに喜んでいただけると『この仕事をしていてよかった』と思うんですよ」とにこやかに話す鈴木さん。  宿泊予約の受付など間違いが生じてはいけない業務も多いため、ミスをしないように大事なことはメモを取ること、確認することを自分に徹底しているとのこと。  鈴木代表は、「ご自身で何重にもチェックをしており、一度もミスはしていないと思います。いつも安心して仕事を任せられる存在です」と鈴木さんの頼もしさを語ります。  「腰痛など、年齢による体の不調を感じることもありますが、職場に来ると自然と元気になります」と鈴木さん。これからも「1日1日を積み重ねて、長く働き続けたい」と語ってくれました。 生産者と消費者をつなぐためにこれからも勉強  「くにみ市場」で働く渡辺(わたなべ)信子(のぶこ)さん(67歳)も、オープン時に入社して7年になります。販売の仕事経験があったため、販売部に配属され、野菜の袋詰めなどの作業や陳列、お客さま対応、レジ打ちなどを担当。入社以来、週5日、8時30分〜17時30分のフルタイム勤務を続けています。  手際よく野菜を並べている渡辺さんに、お客さまから何度も声がかかり、そのたびに穏やかな表情で応えていました。「商品の種類が豊富なうえ、季節によって変わり、新種もあるので、特徴を覚えるのはたいへんです。バックヤードに確認に行くこともあります」と渡辺さん。それでも、「地元の農家の方と知り合い、いろいろ教えていただけるのが楽しいです。お客さまから、『買った野菜がおいしかった』といっていただけることもあります。これからも商品の品質を保ち、農家のみなさんが栽培されたものを、自信を持っておすすめできるよう、勉強を続けます」とほがらかに話します。  体力を要する仕事のため、入社当初は「65歳くらいまでかな」と思っていたそうですが、「気づいたら65歳を超えており、周りに迷惑をかけていないか不安になります。みんなにフォローしてもらってなんとかやっているので、今後は短時間勤務なども考えながら、少しでも長く働いていきたいですね」と話してくれました。  鈴木代表は、「過去の経験を活かすだけではなく、日々新しいことを勉強し続ける姿勢に感服しています。お客さまへのていねいな対応も、何年経っても変わりません」と渡辺さんを評価。続けて、「2人(鈴木さん、渡辺さん)には、この先10年は働いてほしい」と期待を語りました。 高齢社員の仕事ぶりが地域の手本に  道の駅「国見あつかしの郷」には、遠方からの観光客も訪れますが、平日は地域の人たちのコミュニティの場にもなっており、広場では地域のイベントなども行われます。  鈴木代表は「当社は地域コミュニティの場でもありますから、地域の高齢者が役割をになって活き活きと働いている姿は、社内だけではなく、町のみなさんの手本や目標になっていくと思います。高齢社員の誠実な働きぶり、いくつになっても仕事を通じて成長している姿を見習いたい、と思うのは私だけではないでしょう。オープンから7年が経ち、多くのお客さまに来ていただける道の駅になりました。地域の雇用も増えましたが、今後も人が集い育つ場として、多様な世代が希望に合った働き方ができる職場にしていくことが目標です」とこれからの展望を語ってくれました。  木村プランナーは「私自身も国見あつかしの郷のみなさんとともに学びながら、つねに新しい情報を取り入れて、今後もサポートしていきたいと思います」と話していました。 (取材・増山美智子) 木村智彦 プランナー アドバイザー・プランナー歴:4年 [木村プランナーから] 「『一期一会』の精神を持って人と接することを心がけています。出会いを大切に考え、つねに感謝の気持ちを持って企業訪問をしています。企業経営にとって必要かつ有益で、アップデートされた情報を、少しでも多くお届けしたいと思っています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆福島支部高齢・障害者業務課の中島課長は木村プランナーについて、「金融機関勤務を経て特定社会保険労務士として独立し、当支部では2020年から活躍しています。現在、郡山(こおりやま)市と県北地区を担当し、特に、人事労務管理や職場改善分野で力を発揮しています。課題解決にあたっては、企業の視点で真摯に向き合うことで、訪問事業所から信頼を得ており、当支部としても全幅の信頼を置いています」と話します。 ◆福島支部高齢・障害者業務課は、JR 福島駅から徒歩約8分の福島職業能力開発促進センター内にあり、福島障害者職業センターも同一敷地内にあります。北には信夫山(しのぶやま)、西には吾妻小富士(あづまこふじ)などの山々を望むことができます。 ◆同県では、7人の70歳雇用推進プランナーが活動し、2023年度は427件の相談・助言を実施し、158件の制度改善提案を行っています。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●福島支部高齢・障害者業務課 住所:福島県福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 電話:024-526-1510 写真のキャプション 福島県伊達郡 道の駅 国見 あつかしの郷 国見まちづくり株式会社(道の駅「国見あつかしの郷」)鈴木亮一代表取締役・総支配人 宿泊施設のフロントでにこやかに対応する鈴木けい子さん 多彩な野菜やくだものが揃う「くにみ市場」で手際よく商品を並べる渡辺信子さん