シニア社員を活かすための面談入門 株式会社パーソル総合研究所 組織力強化事業本部 キャリア開発部 長野(ながの)朋子(ともこ)  長年の職業人生のなかでつちかってきた豊富な経験や知見を持つシニア社員。その武器を活かし、会社の戦力として活躍してもらうために重要となるのが「面談」です。仕事内容や役割、立場が変化していくなかで、シニア社員のやる気を引き出し、活き活きと働いてもらうための面談のポイントについて、人と組織に関するさまざまな調査・研究を行っているパーソル総合研究所が解説します。 第5回 シニア社員の不安や不満を解消する行動 はじめに  本連載の第1回※1で、シニア社員との面談には定年前面談や定年後再雇用面談など、特定の時期に行われるもの、評価フィードバックやキャリア面談など、定期的に行われるものがあることはお伝えしました。  自律的なキャリア開発を推進する企業が増えてきたいま、上司と部下の間でキャリア面談や1on1でキャリアについて語る機会が増えています。第2回※2ではキャリア面談に必要なスキルについて解説しました。スキルを学んでも、さまざまな経験を積んだシニア社員との面談はイメージ通りに進まなかったり、相手の気持ちが読み取れず不安に感じたりする方もいるのではないでしょうか。  面談をする側だけでなく、シニア社員自身もキャリアについて語るのに不慣れで、自分の想いを上司や組織に理解してもらえるのか不安に感じるものです。  第5回ではこのようなシニア社員の不安や、上司や組織に理解されていないという不満をどのように解消していくかを考えます。 キャリア面談をどう思っているか  まず、シニア社員は面談についてどう思っているのでしょうか。株式会社パーソル総合研究所では、キャリア面談について「部下側からの視点」で実態を明らかにすることを目的として、2023(令和5)年に「部下のキャリア面談に関する定量調査」と題する調査を行いました。その結果、40代以降はキャリア面談をポジティブに受け取っている人は減少しており、ミドル・シニア社員の面談への苦手意識がうかがえます(図表1)。 キャリア面談の機会をポジティブに転換するには  さらに、同調査ではキャリア面談をポジティブな印象にうながす上司の行動を分析しました。その結果、「キャリアに関する助言、気づきがもらえる」、「あなたの話をしっかり聞いてくれる」という上司の行動の影響が特に大きいことがわかりました(図表2)。経験豊富なシニア社員に対して「助言や気づきを与える」のはむずかしく思えるかもしれません。ただ、相手の「話をしっかり聞く」ことは少しの努力でできるのではないでしょうか。  また、独力で支援するのではなく、適切な第三者にリファーすることは、シニア社員にとっても面談対応者にとっても有益です。調査では「参考になりそうな先輩を紹介してくれる」とありますが、「先輩」の部分は、自身の上司や、シニア社員と同じ経験をした人、シニア社員が知りたい情報の専門家など、相手のニーズによって読み替えてください。  本調査はキャリア面談について分析していますが、定年前面談や定年後再雇用面談、評価フィードバックにおいても、シニア社員自身の想い、キャリアについて話す機会はあるため、同様の効果があると考えられます。 シニア社員の不安や不満を解消する行動  最後に、調査結果をヒントに、シニア社員の面談への苦手意識を低減させ、想いを引き出す接し方や話し方について解説します。  「何を話せばよいのか」とシニア社員に不安を抱かせないよう、面談冒頭で『今日の面談の目的(テーマ)』と、面談の目的に応じて『相手に話してほしいこと』を伝えます。「自由に話してください」といわれると単なる雑談になったり、何を話してよいかわからず話しにくくなる可能性があります。  シニア社員が話し始めたら、相手の話すペースに応じてうなずきや相槌(あいづち)を入れ、「話をしっかり聞いている」姿勢を見せてください。  定年前面談や定年後再雇用面談、評価フィードバックでは相手の話を聞くだけでなく、組織として伝えなければならないこともあります。その場合も、一方的に話すだけでなく、話した内容について「どう思うのか」シニア社員の気持ちを聞きます。もし、そこでこちらの考えやシニア社員への期待がうまく伝わっていないとわかったら、「相手の理解が間違っている」と否定せず、あらためてていねいに組織からのメッセージを伝えましょう。  最も大切なことは、「組織全体で支援する姿勢を示す」ことです。組織で支援してもらえるとわかれば、シニア社員も安心して自己開示できます。 ※1 『エルダー』2024年6月号 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202406/index.html#page=51 ※2 『エルダー』2024年7月号 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202407/index.html#page=51 図表1 部下は、キャリア面談をどう思っているのか 20代、30代は、66%が役立つ機会とポジティブに受け取っているが、40代、50代と下がっていく 自分のこれからのキャリアにとって役立つ機会である 20代 強くそう思う12.1% 少しそう思う54.0% 30代 強くそう思う16.9% 少しそう思う49.2% 40代 強くそう思う14.3% 少しそう思う48.4% 50代 強くそう思う11.1% 少しそう思う37.3% 出典:株式会社パーソル総合研究所「部下のキャリア面談に関する定量調査」(2023年) 図表2 キャリア面談をポジティブ印象にうながす上司の行動 キャリア面談の目的を話してくれる +0.091* あなたの話をしっかり聞いてくれる +0.203** キャリアに関する助言、気づきがもらえる +0.282** 社内でのキャリアの選択肢を教えてくれる +0.153** 参考になりそうな先輩を紹介してくれる +0.133** 自分のこれからのキャリアにとって役立つ機会である ■重回帰分析 統制変数 従業員数・年齢・性別・未既婚・子供有無・キャリア面談回数(1回以上)・キャリア面談時間n=500 *:5%水準で有意 **:1%水準で有意 出典:株式会社パーソル総合研究所「部下のキャリア面談に関する定量調査」(2023年)