Leaders Talk No.114 短縮勤務など多様な選択肢を用意 現役世代の心理的な安心も高まる 大東建託株式会社 取締役 上席執行役員 業務本部長 田中良昌さん たなか・よしまさ 1991(平成3)年、大東建託株式会社へ入社。営業統括部長、中四国建築事業部長、中国建築事業部長などを経て、2022(令和4)年4月に執行役員、2023年4月に上席執行役員業務本部長、同年6月より取締役上席執行役員業務本部長(現職)。  賃貸住宅管理戸数で業界トップを走り続けている大東建託株式会社。2000年代前半から、65歳以降の雇用を実現している高齢者雇用先進企業ですが、2024(令和6)年9月に再雇用制度の見直しを行い、短縮勤務制度やグループ会社への転籍制度を導入しました。そこで今回は、同社取締役の田中良昌さんにご登場いただき、新制度を含む同社の高齢者雇用制度についてお話をうかがいました。 再雇用制度の見直しを行い短縮勤務と転籍制度を導入 ―貴社では、2024(令和6)年9月に、定年後の再雇用制度を改定し、新たに週休3日の短縮勤務制度や、グループ会社への転籍制度を導入されました。制度見直しのねらいについてお聞かせください。 田中 当社は、65歳までの雇用の確保が義務づけられた、2004(平成16)年の高年齢者雇用安定法の改正を機に、60歳の定年後は65歳まで正社員処遇で継続する定年延長制度を導入しました。また、2013年の同法の改正を機に、仕事内容や業務量を軽減する再雇用制度を導入しました。現在、60歳以上の社員は約800人で、社員全体の約1割を占めています。そのうち9割以上が毎年契約を更新しながら働いていますが、残念ながら6%の人が更新せずに退職しているという現状があります。理由の一つは、体力を含む健康の問題です。定年延長、再雇用いずれの場合も、週5日のフルタイム勤務を原則としてきましたが、それでは働き続けるのがむずかしいという人もいます。もう一つは身内の介護といった家庭の事情です。60歳を過ぎると親の介護に直面せざるを得ない人も増えてきます。働きたくてもフルタイムでは働けない人をなんとかフォローし、元気で働けるうちは働いてほしいという思いで、制度を改定しました。今後も60歳以上の社員の比率は高まっていきますし、将来を見すえて、いま、手を打つべきだと考えました。 ―短縮勤務制度の内容について教えてください。 田中 短縮勤務は再雇用の社員が対象となります。現在60歳以上の4割の人が再雇用で働いていますが、これまでは週5日、1日7.5時間のフルタイム勤務でした。短縮勤務制度は週4日勤務とし、1日の勤務時間を6時間、6.5時間、7時間、7.5時間の4パターンから選択できるようにしています。また、短縮勤務を選択しても、例えば家族の介護が一段落すれば、フルタイム勤務に戻ることも可能で、さまざまな事情と仕事を両立しながら、活躍してほしいと思っています。 ―導入にあたっては内部の調整もたいへんだったのではないですか。 田中 たしかに部門や職種によって働き方や業務内容はまったく異なりますし、短縮勤務によって影響が出る部門もあります。特に技術部門からは難色が示されましたが、その一方で、業界全体で資格を持つ技術者が少なくなっているという状況もあります。「短時間でもよいから働いてほしい」という思いもありました。 ―もう一つの選択肢である「グループ会社への転籍制度」とはどういうものでしょうか。 田中 当社には、1999年に設立した、デイサービス施設や有料老人ホームなどを136施設、保育関連の30施設を運営する「ケアパートナー株式会社」というグループ会社があります。転籍制度は同社のデイサービス施設での勤務となります。勤務形態は週4、5日、勤務時間を6〜8時間の間で選択することができ、雇用年齢の上限は73歳です。  制度創設の背景には、当社を退職した人のなかには、介護系の資格を取って介護施設で働いている人がいるということを、よく耳にしていたからです。多くの人が親の介護に面しており、親の介護と並行して、介護の仕事を行っていきたいという人が結構多いのです。ならば、当社のグループ会社に転籍してもらうことで、グループの人材シナジーを発揮できるのではないかと考えました。働くには介護系の資格も必要になるので、希望者には60歳までに学習期間や取得費用を会社でしっかりサポートし、ケアパートナーに転籍してもらいます。この転籍制度は2025年4月から順次スタートする予定です。 定年後は「定年延長」と「再雇用」から選択 メリハリのある評価制度で公平性を担保 ―60歳以降は定年延長と再雇用の二つのコースがあるということですが、両者の仕組みについて教えてください。 田中 基本的に当社の定年は60歳です。定年を迎えたあと、定年延長か再雇用かを選択することになります。ただし、60歳定年前にこれまでの業績などについて評価を行い、定年延長できるのかを会社として判断し、そのうえでの選択となります。実際にはほとんどの人が定年延長を選択し、再雇用を選択する人はあまりいません。また、定年延長後は毎年パフォーマンスを評価し、平均点を取っていれば引き続き定年延長となりますし、残念ながら下回った場合は再雇用になります。普通の成績であれば、毎年延長し65歳まで働くことができます。  定年延長の場合、報酬は60歳前と変わりません。60歳前と同じ評価制度で評価され、処遇に反映されます。役職定年もありませんし、評価が高ければ65歳までマネジメント職を継続することができ、実際に65歳の管理職もいます。  再雇用の場合は、独自の賃金バンド(区分)を設け、60歳前に比べて基本給は下がりますが、その人のがんばり次第で評価にメリハリをつけるなど、公平性を担保できる仕組みにしています。 ―定年延長の人も現役世代の処遇を継続するということですが、賃金・評価制度は具体的にどのような仕組みでしょうか。 田中 基本的には資格等級制度で、資格給に加えて評価に基づいて増減する業績加算給がありますが、職種によって大きく異なります。営業職は成果のウエイトが高くなりますが、非営業の技術職と管理部門でも多少異なります。技術職は資格給のウエイトが高く、手当も厚くしています。評価によって給与差も発生し、いずれにしても年功序列ではありませんし、昇進・昇格も年齢に関係なく厳格に評価しており、もちろん降格もあります。管理職でもパフォーマンスが低いと退いてもらいます。役職定年はありませんが、評価制度をしっかり運用することで新陳代謝もうながすことができます。 60歳以降の多様な選択肢の整備が現役世代の心理的な安心感をも高める ―65歳以降の雇用制度はどうなっていますか。 田中 再雇用の人はそのまま70歳まで再雇用を継続し、定年延長の人は再雇用に移行します。ただし基準があり、健康面以外に評価が平均点を超えていること、営業職の場合は最低実績を設定しています。実際はほとんどの人が基準をクリアし、継続して働いています。営業以外の上限年齢は70歳ですが、営業職には年齢上限がなく、70歳を超えて働いている人もいます。 ―再雇用制度の改定に対する社員の反応はいかがでしょうか。 田中 再雇用の選択肢を広げたことで、シニア層にとっては、その能力を発揮しながら安心して働いてもらえることを期待しています。一方で、この制度改定の背景には、シニア層だけではなく、若年層や中堅層にとっても、当社では、長く実力を発揮できるフィールドがあることに対する心理的な安心感を与えるような環境を築きたいという思いもありました。実際に働き方改革とも相まって定着率は10年前に比べると向上しており、営業職を入れると離職率は12%程度ですが、非営業は3%程度で、上場企業のトップクラスの定着率となっています。さらに、社員のエンゲージメントスコアも以前は50スコア程度でしたが、現在は過去最高の64スコアに達しましたし、私たちの取組みの効果も反映されていると思っています。  また、長く働いていくうえでは、健康管理の徹底が重要になると考えています。当社には約8400人の社員がいますが、毎年実施している定期健康診断と、その後の有所見者の再検査は、長く100%の受診率を維持しています。シニア層については、例えば血圧が高ければ、産業医が面談し、逐一確認するようにしていますし、心身ともに健康な状態を維持してもらうように努めています。また、安全面では営業や工事の現場では車を使うことが多いのですが、65歳以上の人については自動車教習所で実施されている運転適性検査を受けてもらい、それをクリアしなければ業務上の運転を禁止する措置を今後導入する予定です。 ―貴社では早くから高齢者雇用に取り組まれてきました。これから高齢者雇用に取り組む企業へのアドバイスをお願いします。 田中 高齢化が進行し、健康寿命が延びるなかで、シニアの働き方を積極的に考えていかないと、現役社員の心理的な安心も損なわれると感じています。いまは「大転職時代」といえるような状況ですから、将来に不安を抱え、モチベーションが下がると社員はすぐに転職してしまいます。社員の離職を防ぐためには早くから60歳を超えても活躍できるフィールドをつくることが大切だと思います。それが安心感につながり、社員も意欲を持って仕事にチャレンジすることができます。また、会社と社員の思いが一致してはじめて制度が回り始めます。制度スタート当初の社員の思いと会社の思いが一致したからこそいまがあると思っています。もちろんその間に問題もいろいろ発生しますが、一つひとつ解決し、継続していくことで効果が出てくるものです。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/福田栄夫)