【P6】 特集 次世代への技術・技能継承や高齢社員を戦略的に活用する企業が集結 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 理事長表彰優秀賞受賞企業事例から〜 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)では、厚生労働省との共催で、「高年齢者活躍企業コンテスト」を毎年開催しています。本コンテストは、高齢者が年齢にかかわりなく生涯現役で活き活き働くために、人事制度の改定や職場環境の改善などに、創意工夫をして取り組む企業を表彰するものです。 厚生労働大臣表彰受賞企業を紹介した前号に続き、今号ではコンテスト表彰式の模様とともに、当機構理事長表彰優秀賞を受賞した11社の取組みをご紹介します。 【P7】 令和6年度 「高年齢者活躍企業フォーラム」を開催 高齢者雇用先進企業28企業・団体を表彰  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構は10月4日(金)、厚生労働省との共催で、「令和6年度高年齢者活躍企業フォーラム」を開催した。  同フォーラムは、「年齢にかかわらず活き活きと働ける社会」を築いていくために、企業や個人がどのように取り組んでいけばよいのかを一緒に考える機会として開催。企業の人事・労務担当者らが来場するとともに、令和5年度に続いて今回もWebでライブ配信を行った。  同フォーラムでは、高齢者が活躍するために企業等が行った雇用管理や職場環境の改善などの創意工夫の事例を募集した「高年齢者活躍企業コンテスト」の表彰式と、コンテスト入賞企業による事例発表、前川(まえかわ)孝雄(たかお)氏(株式会社FeelWorks代表取締役、株式会社働きがい創造研究所代表取締役会長、青山学院大学兼任講師)による基調講演、受賞企業を交えたトークセッションを実施した。  はじめに、福岡(ふくおか)資麿(たかまろ)厚生労働大臣と当機構の輪島忍理事長による主催者挨拶(厚生労働大臣挨拶は代読)があり、その後に行われた表彰式では、厚生労働大臣表彰として、最優秀賞の株式会社植松(うえまつ)建設(けんせつ)をはじめ、優秀賞の株式会社久郷(くごう)一樹園(いちじゅえん)、株式会社ドリーム、特別賞の株式会社ヤオコービジネスサービス、カナタスタイル合同会社、金城(きんじょう)電気(でんき)工事(こうじ)株式会社6企業に、田中(たなか)誠二(せいじ)厚生労働審議官より賞状が授与された。最優秀賞を受賞した植松建設の植松(うえまつ)信安(のぶやす)代表取締役は、「数年前から、社員が幸せになること、そして世の中の役に立てる会社になることを目ざしてさまざまな改革に取り組んでまいりました。このような賞をいただいて、これまでの考え方に間違いがなかったと思うことができています。ありがとうございます」と受賞の喜びと感謝を述べた。  次に、当機構理事長表彰として、優秀賞の釧路(くしろ)スバル自動車(じどうしゃ)株式会社、株式会社新日東(しんにっとう)電化(でんか)をはじめとする11社に輪島理事長より賞状が授与された。また、特別賞9社、クリエイティブ賞2社の企業・団体名が紹介された。  表彰式後のコンテスト上位入賞企業による事例発表では、株式会社植松建設(総務課・井上(いのうえ)浩幸(ひろゆき)氏)、株式会社久郷一樹園(久郷(くごう)愼治(しんじ)代表取締役)、株式会社ドリーム(今釜(いまがま)伸也(しんや)代表取締役)3者が順に登壇。自社の取組み内容と制度、高齢社員の活躍の様子などが、各職場で撮影された映像と代表者の発表により紹介された。  休憩後に行われた基調講演で前川氏は、「ミドル・シニア社員を活かす経営の新常識」と題し、シニアの活躍が求められる時代背景とミドル・シニアを活かしきれていない企業の課題などを説明後、現代の企業に求められている「人を活かす経営」のポイントとして、ミドル期以降のキャリア自律の支援、シニアのモチベーション変化、リスキリングなどについて解説した。  最後に行われたトークセッションでは、コーディネーターの内田(うちだ)賢(まさる)氏(東京学芸大学名誉教授)と基調講演を行った前川氏から、高齢社員のモチベーション向上のために取り組んでいることや、高齢社員ならではの技能とその活かし方、処遇の維持・改善や社員の納得感を高めるための工夫などの質問が投じられ、事例発表を行った3社の代表者が取組みの姿勢や大事にしていることなどを、行動と実感に基づいて語った。  なお、基調講演とトークセッションの詳細は、本誌2025年1月号で掲載する予定。 写真のキャプション 挨拶を行う当機構の輪島忍理事長 【P8-11】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 65歳定年後も正社員として勤務延長が可能 世代を超えて互いに尊重しあう職場を目ざす 釧路(くしろ)スバル自動車(じどうしゃ)株式会社(北海道釧路(くしろ)市) 企業プロフィール 釧路スバル自動車 株式会社 (北海道釧路市) 創業 1963(昭和38)年5月 業種 自動車小売業 社員数 36人(2024年9月1日現在) 60歳以上 9人 (内訳) 60〜64歳 5人(13.9%) 65〜69歳 3人(8.3%) 70歳以上 1人(2.8%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員70歳まで継続雇用。以降も運用により勤務延長。最高年齢者は71歳 T 本事例のポイント  釧路スバル自動車株式会社は、1963(昭和38)年に設立された。自動車ディーラーとして、SUBARUブランドの新車・中古車販売および整備などを手がけている。  2021(令和3)年1月、65歳への定年延長とともに、希望者全員70歳まで継続雇用する制度を整備。定年以降も全員が正社員で、社員が互いに尊重しあい働くことを経営の柱として「元気なうちは働き続けたい職場」の実現に注力している。  具体的には、社員一人ひとりに対し役割や期待を明確に伝えることに加え、健康や家族優先の考えなどを遠慮なくいえる職場環境づくり、また、社員が承認しあう良好な職場環境をつくることに取り組んでいる。 POINT @2021年1月から定年を60歳から65歳に延長し、定年後は希望者全員70歳まで継続雇用する制度にあらためた。 A全員が正社員であり、処遇も現役時と同じことから、社員間に隔たりがなく、風通しのよい職場環境の実現につながっている。 B1時間単位での有給休暇の取得や柔軟な勤務を推進し、子どもの参観日や孫が参加するスポーツ大会の応援など多様な事由による有給休暇取得が増加。また、男性社員の育児休業(1カ月)の取得周知をきっかけに、家庭環境に応じた柔軟な働き方の理解が進んでいる。 Cキャリア面談シートを活用し、年3回全社員が社長と1対1の面談を実施。社員それぞれが思い描く働き方を具体化し、可能な範囲で適材適所の人財活用を行っている。 U 企業の沿革・事業内容  同社は、1963年に設立され、富士重工業株式会社(現・株式会社SUBARU)の自動車販売、整備業を開始した。高度経済成長やモータリゼーションの進展が追い風となり、スバル360やスバル1000、レオーネなどの車種を販売して業容を拡大。現在では、釧根(せんこん)地域唯一のSUBARU販売ディーラーとして、SUBARUブランドの新車・中古車販売および整備、車検などのアフターフォロー業務などを、おもな業務としている。  2023年5月に設立60周年を迎え、「親子2代、3代と長くおつき合いいただいているお客さまが多く、お客さまと社員に支えられて継続できている会社です」と話す上原(うえはら)彰人(あきひと)代表取締役社長。「従業員満足度(ES)向上なくして顧客満足度(CS)向上なし」の考え方のもと、仕事を通じ、社員のやりがいを重視した職場づくりを大切にしている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  社員36人のうち、60歳以上は9人で全体の25%を占めている。人員確保を課題にあげる企業が多いなか、働く意欲のある社員が長く働ける環境を整えて人員が定着することは、会社の強みになる。また、お客さまの人生やカーライフに長く寄り添える社員の存在も会社の強みになると考え、長く働ける環境整備を推進している。  社員の平均年齢は、50.8歳(2024年1月1日時点)。平均年齢が年々高くなっていることは認識していたが、具体的に把握することがよりよい対応策につながると考え、A3サイズの用紙を使い、横軸に年度と社員の入社年度、最新年度をゼロとしたときの社員の勤続年数、縦軸に社員の年齢を表した分布図を作成した。社員名を部署別に色分けすることで、各部署の年齢構成、勤続年数が可視化され、「この部署の人数は足りているが、高齢化しているので業務負担に課題はないか」などを一目で把握することができる。  また、「ウェルビーイング実現」に向けた老若男女問わず活躍できる会社づくりを行うことで社員満足度を高め、企業の持続的成長を目ざしており、さまざまな改革に取り組んでいる。  定年制度、継続雇用制度の見直しを図ったのは、社員の定着率が高く60歳以降も働く意欲のある社員が多く、「健康であるうちは働き続けたい」と望む社員の声を受けてのことだった。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年の延長、勤務延長制度を導入  2021年より、定年を60歳から65歳へ延長するとともに、定年後は希望者全員70歳までの継続雇用制度を整備。運用により70歳以降の勤務も可能である。65歳の定年以降も全員が正社員であり、現在の最高年齢者は71歳。  特に、整備業務など経験を活かせる業務を中心に高齢社員が活躍している。勤務延長により、引き続き会社の一員として責任を持って働けることに「感謝している」という社員の声があり、エンゲージメント向上につながっている。  役職は65歳で離れるが、プレイヤーとして勤務を継続し、処遇も現役時と同じであるため、世代は違っても社員間に隔たりがなく、風通しのよい職場環境の実現につながっている。高齢社員に対して体力を要する業務への配慮はするが、高齢社員は若手社員の育成や良好な職場環境づくりに積極的にかかわるなどして、相互の理解や尊重が得られている。  定年延長などの制度の改定は、若手社員にとっても、キャリアイメージや老後の生活設計が見通せることから、将来への不安を和らげている。 A柔軟な勤務の推進  1時間単位での有給休暇の取得、柔軟な勤務(ワークライフバランス休暇・ワークライフバランス勤務)を推進している。子どもの参観日や習いごとの発表会、孫が参加するスポーツ大会の応援など、従来は取りづらかった事由での休みの取得が増加したことや男性社員の育児休業の取得を周知したことをきっかけに、家族の介護や孫のためなどに有休を取得する高齢社員が増えて、個々の家庭環境に応じた柔軟な働き方や休暇取得に対しての社員間の理解が進んでいる。 (2)高齢社員を戦力化するための工夫 @キャリア面談シートと面談を通じたモチベーションや健康面、家族の留意点確認  全社員に対し、仕事のやりがいやチャレンジしたいこと、困っていること、将来のキャリアの方向性、定年や勤務延長に対する考え方などに答える「キャリア面談シート」を配付して記入してもらい、それをもとに4月、9月、2月の年3回、社長と1対1の面談を2022年より実施。社員の意向を確認し、個々人の思い描く働き方を具体化し、期待を伝え、可能な範囲で適材適所での人財活用を行っている。また、体力などの衰えも人によって違いがあるため、面談でコミュニケーションをとり、必要に応じた対策を行うとともに、高齢社員には若手社員に技術や経験を伝えていくことを求めている。 A「サンクスカード」  仕事のパフォーマンスだけではなく、社員同士で職場や仲間への心づかいにもスポットをあて、「承認の場やコミュニケーションの場を増やす」ことをうながす「サンクスカード」を2023年に導入した。社内掲示版に専用カードとボールペンを備えつけ、感謝したいときにメッセージを書いて掲示する。1年間で約60枚が書かれ、全員参加の朝礼での紹介や、昼休みに閲覧するなど、社員が興味を持って参画している。よい取組みの見える化により、社員同士が互いを尊重する風土が醸成されつつある。 B従業員満足度調査の実施  2021年より年2回、従業員満足度調査を実施。無記名のアンケートのため、本音を引き出しやすく、課題のあぶり出しや解決した課題に対する効果の測定・検証ができる。満足度は年代別、項目別に把握することができ、例えばシニア世代の課題の把握や解決にも役立つ。その社員の声をふまえて、2024年度から休日を年間10日増やすことにした。「連続の休みが増えると仕事による疲れが取れやすい」というシニア世代の声を反映したものである。  満足度調査の結果は、コロナ禍を経て生じたコミュニケーションの低下もあり当初は厳しいものであったが、現在は当初の2倍にまでスコアが改善されている。社員の定着率も高水準となり、継続雇用を望む社員も増加している。 (3)雇用継続のための作業環境の改善 @健康管理  会社方針として健康維持に対する考えを示すとともに業務上の配慮を行い、定期健康診断の全員受診はもちろん、2次健診の受診を推奨して重症化の未然防止に努めている。年3回の面談において、仕事のやりがい、本人の健康状態や家族の健康状態についてもヒアリング。シニア世代は親の介護などに配慮が必要となることが多く、社員に寄り添い、フィジカル・メンタル両面で、対策のタイミングが遅れることのないように配慮している。 A作業環境の改善  社員の要望にできるだけ早期に対応し、働きやすい環境の整備に努めている。例えば、カウンター業務でスペースの都合上ノートパソコンを利用していたが、画面やキーボード、マウスが小さく見づらい、打ちづらいという声を受け、外づけのモニターとワイヤレスキーボードを設置した。  また、工場では暖房効率の向上、ならびに天井が高いことによる照明の弱さを補うための可動式照明機器導入などの改善を行っている。 (4)高齢社員の声  業務課で働く上杉(うえすぎ)美智子(みちこ)さん(63歳)は、子育てが一段落して再び働くことを望み、23年前に入社。当初はパートタイム社員だったが、勤続5年ほどで正社員になった。受付業務などを経て、10年前から業務課に所属し、勤務している。  上杉さんの仕事は、受注した車の工程管理。メーカーに注文し、購入者に納車するまでの管理だが、各種書類の確認・管理、車が届いてからの部品取りつけやコーティング作業の管理など多様な工程や必須作業がある。上原社長は、「お客さまから大安に納車してほしいという希望があったり、急いでほしいという場合もあります。なるべく効率的なスケジュールを組むのですが、車は船で届くため台風で遅れたり、予期せぬことが起きたりする場合もあり、それらに対応するコントロールタワーの役割が上杉さんの仕事です」と説明する。  上杉さんは、「営業担当者とやりとりをして、最終的に『お客さまに納車された』と報告を受けたときは、安堵と達成感を感じます。毎日のようにあるのですが、そのことがやりがいになっています」と語る。最も気をつけていることは、「報告・連絡・相談」。営業担当者とのコミュニケーションも大事にしている。  また、「会社は社員の要望を聞いてくれますし、一生懸命やっていればきちんと見てくれていると感じられ、いまは毎日が充実しています。若い人の邪魔にならないように気をつけて、元気なうちは働き続けたいと思っています」と話す。 (5)今後の課題  「人財の確保」が経営課題としてより重みを増していくなか、「いかに活き活きとやりがいを持って働き続けてもらい、会社としては貴重な人的資源を活かしていくか、という視点を持って対応していくことが大事」と上原社長は語る。さまざまな取組みにより、高齢社員が活躍できる環境を実現しているが、職場風土の改善は、若手社員の採用および定着にもつながっている。  今後は、社員の仕事と介護の両立に向け、さらなる働き方の柔軟化や介護サービス事業所との連携などに取り組んでいく方針だ。今後も働く意欲を持つ社員が安心して働き続けられるよう、より柔軟な発想、前例のない大胆な取組みを含めてさまざまな検討を行っていく構えだ。 写真のキャプション 釧路スバル自動車株式会社 上原彰人代表取締役社長 サンクスカードの掲示板 業務課で工程管理を担当する上杉美智子さん(63歳) 【P12-15】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 だれもが安心して働ける持続可能な経営体質を構築 株式会社 新日東(しんにっとう)電化(でんか)(東京都大田区) 企業プロフィール 株式会社 新日東電化 (東京都大田区) 創業 1976(昭和51)年 業種 めっき加工業 社員数 97人(2024年4月1日現在) 60歳以上 28人 (内訳) 60〜64歳 12人(12.4%) 65〜69歳 15人(15.5%) 70歳以上 1人(1.0%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員70歳まで、70歳以降は運用により年齢上限なく継続雇用。最高年齢者は77歳 T 本事例のポイント  株式会社新日東電化の前身は、東京都城南地区で操業していた11社のめっき業者が1976(昭和51)年に設立した「新日東電化協業組合」である。翌年には、ほかのめっき会社10社とめっき関連会社2社とが一体となって東京都京浜島工業団地(羽田空港の北西に隣接する人工島)に集団移転して操業を開始した。1987年には第2工場、1991(平成3)年に第3工場を立ち上げるなど、着実に業容を拡大し、首都圏最大規模のめっき工場へと発展している。  業容を拡大するなかで、慢性的な人材不足が課題となっているが、高齢者はもちろん、障害者の積極的な雇用にも注力しており、働く場を求める人たちの受け皿となることで地域に貢献してきた。 POINT @社員に長く働き続けてもらうために65歳定年、希望者全員70歳までの継続雇用制度を整備。70歳以降も運用により年齢上限なく働くことができる。 A高齢社員が安心して働けるように賃金制度を改善し、65歳の定年までは60歳時点の賃金を維持して働くことができる。 B高齢社員の健康状態を考慮し、8時間のフルタイム勤務のほか、短日勤務や短時間勤務など多様な勤務体系を取り入れたことで、心身ともに負担が軽減された。 C高齢者とともに障害者も積極的に雇用しており、一般の社員と同じ製造ラインで働き、活躍の場を生み出している。 U 企業の沿革・事業内容  同社の前身は、1976年に、東京都城南地区で操業していた11社のめっき業者の出資によって設立された「新日東電化協業組合」である。1977年にほかのめっき会社10社とめっき関連会社2社とが一体となって東京都京浜島工業団地に集団移転して操業を開始。その後、資本と経営の分離、意思決定の迅速化を目的として、2010年4月に株式会社へ組織変更し、「株式会社新日東電化」が誕生した。また、2016年11月に、同社が所属する中央鍍金(めっき)工業協同組合の組合員が廃業した際には、廃業しためっき工場を賃借して同社の第4工場とし、廃業した組合員の社員(70代4人、60代2人、50代3人の計9人)を転籍させて事業承継をしている。  1カ所にあるめっき工場としては首都圏最大規模を誇り、四つの工場に量産型全自動めっきライン等を13本有している。プリンターの部品や電力量計のスマートメーター、半導体関係や自動車部品など、製品のさまざまな部品のめっき加工から素材めっき加工に至るまで、顧客の多岐にわたるニーズに対応。業容を拡大するなかで、高齢者や障害者を積極的に雇用しており、働く場の提供を通じ地域に貢献している。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  同社は製造部、営業部、QA技術室(品質保証グループ、技術グループ、検査グループ)、管理部の4部門で構成されており、社員の70%が製造部に所属している。社員比率は、50歳以上が53人(55%)、60歳以上が28人(29%)と、高齢社員の割合が高い。京浜島という工業団地では、東京ドーム22個分の広大な敷地内で約210社が操業しているが、最寄り駅のJR大森駅からはバスで約30分と、都内としては交通アクセスにやや難があること、めっき加工業は毒物や劇物を取り扱うため、いわゆる「3K業種」として敬遠されがちであることから、人材採用には苦労しており、20年ほど前より東北地方から20人以上を採用したが、そのうち現在も在籍しているのは2割ほどである。  人材不足への対応として、在籍する社員にいかに長く働いてもらうかが重要であると考え、高齢者雇用に取り組んできた。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年の引上げ  2023(令和5)年4月に定年を60歳から65歳に引き上げ、定年後は「嘱託社員」として、希望者全員70歳まで継続雇用する制度を整えた。70歳以降については、運用により、本人の申し出があれば雇用継続することとしている。また、2016年には、廃業した同業他社の事業を承継することで、50代から70代の社員を転籍させているほか、ハローワーク経由で60歳以上の人材を1人採用するなど、高齢者採用による人材確保にも取り組んでいる。 A賃金制度の改善  社員の能力・意欲および会社の評価によっては、60歳以降もマネージャーなどの上位職位への登用による賃金のアップが可能な賃金・評価制度を整備。65歳までは60歳時点の賃金が維持されるため、モチベーション向上や経済的安定につながると社員からは好評を博している。 B多様な勤務形態の実現  正社員は8時間勤務が基本であるが、加齢による体力の低下や健康状態を考慮し、週3〜4日勤務の短日勤務や、6時間勤務の短時間勤務を取り入れた。短日・短時間勤務が適用された社員は、申請をすればフルタイム勤務に戻ることもできる。現在は健康や家庭の事情などの問題がない社員が多いことから、65歳以上の社員のほとんどがフルタイム勤務で働いている。さらに、社員の要望をふまえ、2024年9月からは、1時間単位の有給休暇制度を整備して、短時間の用事などでも有給休暇を活用できるようにした。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @技術向上の推進  一般社員および各部門のラインリーダーの技能水準については、各製造ラインや各部門において必要な技能を項目立てした「力量評価表」に基づいて、年1回、5段階の評価を行っている。同社のめっき加工は、加工工程自体はすべて自動化されており、社員はめっき用治具に部品の穴を引っかける作業や、めっき完了後の部品を治具から取り外して専用箱に収納する、といった単純化された作業が多いため、高度な技術は必要としておらず、詳細な評価はなじまないと考えている。  なお、各部門で「グループ教育・訓練計画書」を作成して計画的に研修を行っているほか、製造の各ラインのリーダーや、部門のマネージャーなど、技術の習得が必要な社員には、同社が所属する中央鍍金工業協同組合主催の「めっき技術基礎講座」の受講や、東京都鍍金工業組合の高等職業訓練校への入校を勧め、知識・技術の習得を推進している。 A高齢社員の活躍の場を広げる配置転換の実施  高齢社員が無理なく長く働き続けることができるように、心身の負荷を軽減した業務を選択できるようにしている。製造部門では、13本のめっきラインを有しており、ラインによって作業の難易度、体力的な負荷などが違うことから、所属するめっきラインの配置転換や、専用箱の清掃業務や検査部門などへの転属による負担軽減ができる仕組みとしている。また、営業部所属のトラックドライバー4人については、高齢化にともない体力的・技術的に大型車両の運転が困難になることが想定されることから、大型車両の運転が困難になった場合は、本人と面談を行い、希望があればフォークリフトでの入出庫業務などの構内作業、製造部への転属ができる運用とした。高齢社員の負担を軽減し、配置転換や他部門への転属ができるようになったことで、意欲の向上が図られ離職防止にもつながっている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @安全衛生  めっき加工は毒物・劇物を取り扱うことからつねに換気を行っており、冬はジャンパーなど厚手の服装、夏は冷風機などの熱中症対策が必須であるなど、肉体的にも負荷のかかる作業で、安全衛生にも特段の注意が必要である。同社では毎月の安全衛生委員会において、ヒヤリハットの情報共有や社員からの改善提案などを受けつけているほか、朝礼や年3回の職場懇談会においてハラスメント防止も含め、注意喚起を図っている。 A健康管理の推進  同社の工場がある工業団地には、各企業が分担金を拠出し運営する診療所があり、社員は1回あたり薬代などを含み1000円で受診が可能となっている。また、定期健康診断の結果を基に、生活習慣などのアドバイスや薬の処方などを少額の負担で受けることもできる。同社では、同診療所の医師と産業医の契約を締結しており、社員がメンタルヘルスなどの健康相談を気軽に行える環境が構築されている。 B親睦会によるレクリエーション活動  会社と社員の折半で運営する親睦会があり、コロナ禍以前は、2年に一度、1泊2日の国内旅行を実施していた。また、年末にはビンゴ大会などを開催していたが、コロナ禍以降は集団感染によるリスクを回避するため、社員の冠婚葬祭時の慶弔費のみを支給している。現在は一時休止中だが、コロナ禍以前では、レクリエーション活動によって社内のコミュニケーションが活発になり、風通しのよい職場環境の実現につながっている。 (4)その他の取組み @障害者雇用  特に若手の人材不足に対応するため、10年前から障害者雇用を積極的に進めている。同社の作業工程は単純化されたものが多く、障害者もなじみやすい作業であることも障害者雇用が進んだ一つの要因となっている。現在、20代の社員15人のうち10人が障害者であり、正社員として障害者と高齢者が各製造ラインで一緒に仕事をしている。特別支援学校からの職場実習も積極的に受け入れており、今後も採用を続けていく方針だ。これらの障害者雇用の取組みは高い評価を受けており、2019年の東京都障害者雇用エクセレントカンパニー賞受賞をはじめ複数の表彰を受けている。また、 2022年には厚生労働大臣の障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度(もにす認定制度)を受けている。 A全社員を対象とした職場懇談会の開催  毎年3月、7月、12月に全社員を対象とした職場懇談会を開催している。会社の経営状態および今後の展望、作業現場における基本動作の徹底、セクハラやパワハラに関する法律の解説や社内相談体制、障害者雇用などについての研修・啓蒙活動を実施しており、安全やコンプライアンスの遵守などについて、くり返し注意喚起を行っている。また、職場懇談会の場で社員から経営に関する質問や休日の増加などの職場環境の改善要望などを聴き、経営に役立てるとともに、速やかに改善策を実行し、高齢社員を含む社員が働きやすいと感じる職場づくりに注力している。職場懇談会でくり返し研修や啓蒙を行うことで、社員の意識向上にもつながっている。 B自転車通勤者への手当、自転車保険の加入  自転車通勤者が約30人おり、バス代と同額の交通費を支給しているほか、役職員の通勤時の加害事故に備えて、任意労災保険のオプションで自転車保険に加入している。 (5)高齢社員の声  滝浪(たきなみ)章夫(あきお)さん(78歳)は、69歳のときに入社し、おもに検査・梱包作業を担当している。「ちょっとした用事の際に使える、1時間単位の有給休暇制度がとても便利ですね。会社が自分を必要としていることを感じており、体力が続くかぎり働き続けたいです」と話す。 (6)今後の課題  今後は、少子高齢化の進展により、これまで以上に人材不足が強まると予想されることから、働く意欲のある社員がより長く働き続けられるよう、定年年齢や希望者全員継続雇用の上限年齢の引上げを見すえ、検討を重ねていく方針だ。また、社員の病気の治療や家族の介護を原因とする離職防止に向け、さらに働きやすい柔軟な勤務制度の整備にも注力していくという。高齢社員はもちろん、障害者を含めだれもが活き活き働ける職場づくりを目ざしていく。 写真のキャプション 株式会社新日東電化 高い技術を発揮して活躍する高齢社員 高齢者と障害者が同じラインで作業をしている 検査、梱包作業などを担当する滝浪章夫さん(78歳) 【P16-19】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 多様な人材の育成を推進し高齢社員が活躍できる職場環境を構築 まいばすけっと 株式会社(神奈川県川崎市) 企業プロフィール まいばすけっと 株式会社 (神奈川県川崎市) 創業 2005(平成17)年 業種 食品スーパー 社員数 2万7,949人(2024年4月1日現在) 60歳以上 2,120人 (内訳)60〜64歳 1,410人(5.0%) 65〜69歳 558人(2.0%) 70歳以上 152人(0.5%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。一定条件のもと70歳まで再雇用(パート社員は75歳まで)。最高年齢者は74歳 T 本事例のポイント  まいばすけっと株式会社は、イオンリテール株式会社が2005(平成17)年に「まいばすけっと」1号店を開店したことで事業がスタートした。  以来、都市型小型食品スーパーとして業容を拡大し、食の提供を通じて地域に貢献してきた。2012年にイオンリテール株式会社より分社化し、2022(令和4)年には1000店舗達成を果たしている。  高齢者雇用が社会の課題となる以前より、「年齢に関係なく働くことができる会社にしていきたい」という考えのもと、社員のニーズ(働き続けたい)と会社側のニーズ(働き続けてもらいたい)に応えるべく、さまざまな取組みを展開している。 POINT @経験豊富な高齢社員が本社や店舗で活躍できる場を提供しており、60歳以上の高齢社員が2000人以上活躍している。 A内部登用制度によりパート社員のキャリアアップを支援、他部署業務への変更も可能となり、社員がチャレンジできる機会が拡大した。 Bセルフレジやラベルプリンタを導入し作業負担を軽減するとともに、労働災害予防動画を店舗のタブレットに配信し事故防止に努めている。 Cシフト管理アプリの導入で働きやすい時間帯の選択、弾力的な勤務日数の変更が可能になり、働く自由度が向上した。 D店舗採用前の実践研修、正社員登用後のフォロー研修など、研修サポート体制の充実が、働く意欲の向上につながっている。 U 企業の沿革・事業内容  まいばすけっと株式会社は2011年に設立された。その6年前の2005年にイオンリテール株式会社が「まいばすけっと」1号店を開店したことで事業のスタートを切った。2006年には多店舗出店を開始し、横浜市、川崎市、品川区、大田区などに出店し、2010年に100店舗を達成。2012年にはイオンリテール株式会社より分社化し、2016年に千住大橋駅北店が開店したことで東京23区すべてに出店を果たすと同時に600店舗を達成。その後、埼玉県や千葉県にもエリアを拡大し、2022年に1000店舗を達成した。店舗拡大成功の背景には、他社の退店跡への居抜き出店、マンションやオフィスビル1階への出店により、首都圏への集中出店を展開したことがある。店舗内の作業手順の見える化や働き方の柔軟性を高めることにより、高齢社員が活躍できる職場環境づくりを推進している。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  社員2万7949人のうち、60歳以上の社員が占める割合は7・6%で、2120人(うち70歳以上の割合は0・5%で152人)となっている。  同社では比較的高齢社員が少なかった時期から、諸制度の整備を進めてきた。その根底には、「年齢に関係なく働くことができる会社にしていきたい」という会社の風土があり、高齢社員だけでなく、障害のある社員や外国籍の社員も含めた組織の多様化を推進してきた。店舗の運営や労務管理を行う本部の管理部局は、諸制度を改正する際には必ず現場の意見を吸い上げる仕組みをとっている。また、新規採用の正社員は必ず店長経験を積んでからその後のキャリアを歩んでいく仕組みとなっており、店舗の実情や困りごとについても一通りの見識を有しているため、よりよい制度改善に向けた検討や協議がスムーズになされている。加えてパート社員を正社員に登用する「地域正社員内部登用制度」など、パート社員に活躍の場が与えられており、自身が得た経験や知識を組織運営に還元する好循環の流れができている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @正社員の定年制と再雇用制度  2012年にイオンリテールから分社化した時点で定年を65歳と規定。その後2022年3月に初の定年対象者が発生することをふまえ、同年2月に定年後再雇用制度を導入し、一定の要件を満たした場合、70歳まで勤務可能とした。定年後の雇用形態は、嘱託社員やパート・アルバイトに切り換えるのではなく、転居の発生しない「地域正社員」として、待遇や職務内容等を変更せずに働くことができる。 Aパート社員の定年制と再雇用制度  パート社員として採用された社員は「コミュニティ社員」として勤務し、65歳の定年後、希望すれば「シニアパートナー」として一定要件のもと再雇用となるが、2020年にその上限年齢を70歳から75歳に引き上げた。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @内部登用制度によるパート社員のキャリアアップ  2013年から正社員の採用を始めたことに合わせて、パート社員を正社員に登用する「地域正社員内部登用制度」を設けた。当時、出店数を増やしていくフェーズであったことから、人員の確保はもちろん、地域を熟知した社員の力が必要であり、そのためにもパート社員のステップアップが必要と考え制度を構築。3カ月間の実務習得と検定を経て店長に登用され、登用後半年間のフォロー研修と年1〜2回の登用後研修が実施される。その後、現場での経験を経て本部スタッフへ登用されたケースもある。 A意欲に応じた労働時間の拡大  シニアパートナーが元気に働いていることから、「月160時間未満での就労も可能としたら働きますか?」というアンケート調査を行ったところ、「健康なので働きたい、働くことが楽しいのでお店に貢献したい」との声が多くあった。そこで、2022年にシニアパートナーの契約時間を月間最大85時間以内から最大159時間以内へと拡大し、一定要件を満たせば社会保険への加入も可能とした。現在約600人のシニアパートナーが店舗で働いており、うち約70人が社会保険に加入している。 B各種表彰制度の実施  就業規則に基づき、社員の労をねぎらうと同時にほかの社員の範とすることを目的に、推薦・審査による「優秀従業員表彰」を毎年実施している。これはパート・アルバイトと正社員を対象にした表彰であり、直近の3年間では毎年2〜4人のシニアパートナーが表彰されている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業負担の軽減 ▼セルフレジ、ラベルプリンタの導入  レジ業務の負担軽減を目的として、2020年にセルフレジを導入した。つねに次に行うべき操作案内が表示されるため、デジタルが苦手な高齢社員でもお客さまに簡単に操作説明ができるようになった。また、以前まで見切り販売する商品には値引きシールを手作業で貼り、レジ会計時での商品スキャン後に画面上で30%値引きのボタンを押す仕様としていたが、バーコード付きの値引きシールを商品に貼ることが可能な機器の導入により、会計時の値引き作業が不要になるとともに、セルフレジでの値引きも可能となり、総合的なレジ業務の負担軽減につながっている。 ▼作業用具の改善  日々行う店舗の床掃除は、掃き、水拭き、乾拭きなど工程の多さが負担になっているとの声を受け、シート交換のみで作業できる床用モップを導入した。これにより、作業負担を減らすことができ、社員からも「作業が楽になった」と好評である。 A事故防止対策  店舗での業務では、商品の荷下ろしや在庫の移動など、体に負荷のかかる作業も多く、労働災害の予防と対策を重視する同社では、年に1度、労働災害予防動画を店舗のタブレットにて配信し、社員への視聴をうながしている。また、労働災害防止を目的とした店舗向けの掲示連絡を作成しているほか、作業手順書には正しい作業姿勢などを画像つきで記載しており、新人教育にも活用されている。 B健康管理  イオンのグループ会社として、健康保険組合や、共済会であるイオングッドライフクラブ(イオングループの福利厚生)の利用が可能となっている。また、2020年からは就業規則を改定し、全社員の健康促進を目的に、勤務時間中または会社の建物や敷地内、社用車での喫煙を禁止している。 (4)その他の取組み @シフト管理システム・アプリの導入  2020年にシフト管理のためのシステムを導入。店舗人員の空き状況を見える化し、アプリを通じて空いている店舗へ応募することで、「働きたい」という社員側のニーズと、「人手不足を解消したい」という店舗側のニーズの双方のマッチングを実現。社員は、自身の体力や体調面を考慮し、働きやすい時間帯と労働時間での勤務が可能となっており、60代以上の社員の8割以上が同システムに登録している。 A研修制度の充実  店舗スタッフとして採用されたパート社員が安心して業務に入れるように、研修センターと併設店舗で2日間の研修を実施している。1日目は座学とレジトレーニングを行い、身だしなみや出勤・退勤の方法、店内での立ちふるまい、勤務シフトの申請、確認方法などについて業務マニュアルとビデオ教材を使って学習する。2日目はレジトレーニングと店舗実践で、レベルアップした新しい内容を学習する。店舗実践を行う前にレジ室でくり返し練習を行い、その後店舗で実際にレジ業務を行う。 B社内報『まいばすけっと通信』の発行  毎月本部より社内報が発行され、全店舗で掲示している。毎月1名「優秀従業員」として多様な年齢の社員が紹介され、写真とともに本人と店舗責任者のコメントが掲載されている。こうした全社向けの発信が、社員のモチベーション向上や、「年齢にかかわらず活躍できる」というメッセージにもつながっている。 (5)高齢社員の声  10年以上勤務する一海(いちかい)由紀子(ゆきこ)さん(72歳)は、業務や日ごろのやりがいについて次のように語った。「現在は、月160時間の固定勤務です。重いものや高くて手の届かないところの品出しなどは、店長や周りの社員が気にかけてくれます。新人の教育も任されていますが、作業のポイントを教える前に、『あいさつをきちんとする』というような、人として基本的なことを伝えています。仕事のやりがいはいくつかありますが、お客さまとフレンドリーな関係を築き上げていく過程が一番楽しいです。61歳で入社し、気がつけば10年以上が経ちましたが、働けるうちはこれからも元気に働き続けたいです」 (6)今後の課題  よりよい職場環境構築のためにさまざまな制度を導入してきたが、引き続き働き手のニーズとともに現場である店舗のニーズにも耳を傾け、状況に応じて制度や仕組みの改革を検討していきたいと考えている。定年制については、定年年齢の延長や定年制の最終的な撤廃も視野に入れ検討を進めるとともに、仕事の内容や育児・介護にかかわらず時短勤務が可能といった働き方の面でさらなる見直しも進めていく。  一方で、IT化などへの取組みにいっそう注力するとともに、人にしかできない、お客さまに寄り添った接客の実現を目ざしていく。同社の強みの一つでもある「フレンドリーな接客」を提供していくため、人生面でも経験値の高い高齢社員による教育も、より活発化させていきたいという。  そして、今後も店舗数および組織の拡大を目ざしていくなかで、キャリアの選択肢も広がっていくことから、高齢者はもとより、女性、障害者、外国人など多様な人材のだれもが、活き活きと活躍できる職場づくりに、全社一丸となって突き進んでいく。 写真のキャプション 「まいばすけっと」白河(しらかわ)3丁目店(東京都江東区) 作業手順書で作業内容を確認する高齢社員 「優秀従業員表彰」の表彰パーティーの様子 新人の教育も担当する一海由紀子さん(72歳) 【P20-23】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 高齢社員の感覚的ノウハウを可視化 特殊な治具と機械化で作業効率もアップ 宮田(みやだ)アルマイト工業(こうぎょう)株式会社(長野県上上伊那郡(かみいなぐん)宮田村(みやだむら)) 企業プロフィール 宮田アルマイト工業 株式会社 (長野県上伊那郡宮田村) 創業 1967(昭和42)年 業種 金属製品製造業 社員数 123人(2024年9月1日現在) 60歳以上 11人 (内訳)60〜64歳 6人(4.9%) 65〜69歳 4人(3.3%) 70歳以上 1人(0.8%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。一定条件のもと70歳まで継続雇用。70歳以降は運用により一定条件のもと、年齢上限なく継続雇用。最高年齢者は75歳 T 本事例のポイント  宮田アルマイト工業株式会社は長野県上伊那郡宮田村において、1967(昭和42)年3月に、アルマイト表面処理を主業とする金属製品製造会社として設立された。現在、社員の平均年齢は48歳で、2009(平成21)年から2021(令和3)年の間に、売上高・社員数ともに約3倍に増大するなか、同社の成長に貢献してきた高齢社員が、これまでと変わらず貴重な戦力として活躍している。  同社では、業務の貢献に見合った賃金水準の見直し、機械化による業務の負担軽減、さまざまなイベントを通じての新旧世代交流の活発化の3点に留意した取組みを展開し、若手社員を含む離職率の低減を実現。高齢者雇用においては、定年後も評価を行い、昇給・賞与支給に反映するなど、評価基準を可視化し、年代を問わず社員間における公平感の醸成に努めている。 POINT @高齢者雇用制度の段階的な見直しを行い、2022年に定年65歳、希望者全員70歳までの継続雇用制度を導入。70歳以降も一定条件のもと年齢上限なく働ける制度としている。 A本人、上長、社長の三者による評価制度を通して、高齢社員がそれぞれの役割を再認識し、モチベーション高く働ける仕組みを整えている。 B高齢社員が持つアルマイト加工の感覚的ノウハウを言語数値化。暗黙知を組織知として蓄積する仕組みを構築した。 C年1回の国内社員旅行、年4回の懇親会など、全額会社負担のイベントを開催し、世代間交流の促進を図っている。 U 企業の沿革・事業内容  1967年に創業し、1973年10月に株式会社となった宮田アルマイト工業は、電気化学反応によりアルミニウム表面に人工的に酸化被膜を生成させる、アルマイト処理に特化した全国有数の企業である。創業当初はカメラなど光学機器の鏡枠類の処理を中心とした事業で順調に発展してきたが、ミラーレスカメラやスマートフォンの普及などにより売上げが減少。そこで現在の清水(しみず)光吉(みつよし)代表取締役に経営がバトンタッチされ、ヘッドライトをはじめとする、自動車関連部品の加工に主軸を移した。すると、技術の高さや納期の確かさなどが高く評価されて業績が急伸し、本社付近に第2工場を新設するなど成長を続けている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  清水社長就任時の2005年ごろは、離職者の多さも課題になっていたという。最初の仕事は「社員をどうすれば辞めさせずにすむかを考えることだった」と清水社長はふり返る。その後、業績はV字以上の回復を見せ、さらなる業績拡大を見込んで、@労働に見合った賃金水準、A負担の少ない労働、B良好な人間関係、の3点を意識して実践。すると離職率は大幅に下がり、現在は当時の社員のほとんどが会社に残り活躍している。  なお、人員の確保については、中途採用を中心に展開。現在62歳になる総務部長の吉沢(よしざわ)健(たけし)さんもその一人で、40代半ばで入社している。また、若手として採用した30代入社組も、いまは50代に達するなど、主力となって活躍してきた社員たちの定年の時期が近づいてきた。  そこで、制度を段階的に改定し、定年年齢と継続雇用年齢の引上げを実施。以前は定年60歳、希望者全員65歳までの継続雇用としていたが、2019年に定年を60歳から62歳へ、継続雇用年齢を希望者全員67歳までに延長。そして、2022年10月に定年を62歳から65歳へ、継続雇用年齢を一定条件のもと70歳まで引き上げた。現在、70歳以降は運用により一定条件のもと、年齢の上限なく継続雇用している。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年後も昇給・賞与支給を実施  同社周辺には東証プライム上場企業の関連会社などをはじめ、数百人規模の大手工場が点在している。そのため「慢性的な人材不足で、絶えず喉から手が出るほど人材が欲しい状況」(清水代表取締役)が続き、高齢社員を含め社員により長く働いてもらうため、待遇面でも改善を図ってきた。定年後の継続雇用社員の賃金は日給月給制から時間給に変わるが、定年前の水準の7割を維持。これは近隣企業に比べても高い水準にあり、給与減額によるモチベーション低下は見られないという。また、定年後も正社員同様の評価を行い、「定年退職者再雇用制度規定」では原則対象外とはしているものの、昇給・賞与支給に反映させている。  また、独自の評価表を導入しており「本人自身による自己評価」、「部門長との面談評価」、「社長との面談評価」の順で評価を行うが、各段階で評価が食い違う場合、最終的に社長が面談で本人に会社側の意向を伝える。これにより被評価者の意識変容がうながされ、ことに高齢社員が各人の役割を再認識できる点で大きな効果が望めるという。高齢社員の仕事への充実感を高めるうえで、こうした評価制度が重要と見なしている。 Aフレックスタイム制の導入  同社が生産能力を強化のため第2工場を新設。現在は受注が倍増し、日勤・夜勤だけでなく、深夜帯を含む3交代制をとっている。全社員各シフトでのフルタイム勤務が原則だが、希望者全員が利用可能なフレックスタイム制を新たに導入しており、高齢社員にかぎらず、中堅層も親の介護などで利用することができるなど、働き方がより柔軟になった。高齢社員に深夜帯勤務を望む社員はほとんどいないが、希望があった場合でも健康面を配慮し、避けるよう指導している。 (2)意欲・能力向上のための取組み @高齢社員の役割の明確化  長期間働いてもらうことを方針に掲げるとともに年齢を問わず、フォークリフト、有機溶剤作業主任者、特定化学物質作業主任者といった資格取得を推進。取得すれば手当がつき、受検費用も支援している。高齢社員の職務は基本的に定年前と同様で、力仕事はほとんどない。すでに身につけた知識や技能の活用や伝承、ベテランらしい温和な雰囲気が組織内に好影響を及ぼすことを期待している。  現在、高齢社員の業務としては、元部長職による環境経営システムの維持管理、作業手順書の作成、顧客クレーム対応、60〜70代女性社員によるラッキングや製品の外観検査、配送先を近県に限定しての2〜10t車での配送ドライバーなどが中心。ラッキングとは処理対象の部品を治具で固定する作業のことで、扱う部品が多岐にわたるため、機械化がむずかしく、ベテランの技術や経験が必要となる。最高齢のドライバーは73歳で、フォークリフトを使用し積載もするが、荷造りは若手がになっている。 A感覚的ノウハウの言語数値化  ダイカスト製品のアルマイト処理は、皮膜生成がむずかしく、一般的に生成可能な膜厚は2〜7ミクロンといわれているが、同社では17〜18ミクロンまで可能にしている。薬品の配合や最適な電圧設定などの秘訣があるが、機械をバーコード読み取り式のフルオートメーションにしても、形状や材質により処理条件が異なるため、単純な数値化がむずかしい。以前は個々の部品ごとに必要とされる皮膜生成の技術は各専従社員の暗黙知として、当該者の退社にともない失われていたが、同社ではそうしたノウハウを品質保証部門に集結させ、組織知として蓄積。この3年間で言語数値化し、後進に継承していく仕組みを整えた。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業環境の改善  できるだけ作業者の体力的負担が生じないよう、業務の自動化を推進。また、多くの社員で業務をシェアできるよう、作業の標準化をはじめ各種取組みを展開している。  業務負荷軽減の取組みにおける最大のポイントはラッキングで、どうしても人手に頼らざるを得ない業務ゆえ、高齢社員でも作業しやすいよう治具を工夫している。例えば、一般的には部品を2カ所に引っかける治具が多いが、1カ所で完結するよう改良し、高齢社員の作業円滑化に加えて、障害者の作業従事も容易になった。このオリジナル治具の製作はこれまで100種類近くに及んでいる。  また、作業環境改善にあたっては、建物内のすべての照明をLED照明化したほか、アルマイト処理の際には酸系の危険な薬品の使用が多いが、かつて人手で行っていたその配合も、現在では機械で行っている。揮発した酸への対策として、業界でも先駆的な吸引装置を導入し、将来的には薬品の投入についても人力から機械化への移行を検討している。  そのほか、同業他社に先駆け、2006年から作業標準化が可能なバーコードシステムを導入。約1000社に及ぶ取引企業の、さまざまな部品の膨大な処理仕様をバーコードシステムに読み込ませ、ラッキングされた部品をセッティングすれば、あとはその手順にしたがって機械が自動的に作業を行う。これによりトレーサビリティの確保やロス工数の削減につながるなど、業務効率に意欲的に取り組んでいる。 A高齢化にともなう安全衛生の取組み  今後の会社全体の高齢化を見すえ、総務部長の吉沢さんが先頭に立ち、以下のような衛生管理を行っている。 ▼入院・死亡時のみに適用されている共済の内容に三大疾病(がん・心筋梗塞・脳卒中)特約を追加。 ▼ 安全衛生委員会のほかに、環境安全委員会があり、月に1回パトロールを実施し、危険因子の排除に努めている。 ▼定期健康診断は実施する医療機関、伊那(いな)労働基準協会、産業医などの関係機関と連携。医師から診断コメントをもらい、本人に合わせた指導を実施している。 B全額会社負担の社員旅行と懇親会  コロナ禍は自粛していたが、例年、社員からリクエストを募り、1泊2日の社員旅行を実施。2023年6月には大阪に出かけ、おもな訪問先をテーマパークと演芸場の二手に分け、若手とベテラン双方の満足がいくよう工夫した。そのほかにも年4回、会社主催の懇親会を実施し、それらの費用は会社が全額負担している。 (4)その他の取組み ▼障害者の職場定着支援  2人の障害者を雇用し、高齢社員が相談役をになっている。1人の重度知的障害のある社員は、特別支援学校を卒業後、約5年間勤務を続けており、職場での高齢社員によるフォローが定着につながっている。 (5)高齢社員の声  ラッキングを担当する唐澤(からさわ)清子(きよこ)さんは、最高齢の75歳。30年以上勤め、65歳定年を機に一度退職し、長女の経営する飲食業を手伝ったあと、5年前に復帰した。  「募集をかけていたので、社長に相談しました。ずっと立ち仕事で腰痛ベルトは必需品ですが、やはり慣れた仕事のほうが楽です。待遇は辞める前に比べてよくなりました。じつは次女も高校卒業後、3年間ここで働いていて、一度離職しましたが3年前に復職したんです」  母娘そろって同社で働いている要因は、規模は大きくなっても変わらない「家族経営的な雰囲気」が性に合うからだという。働くことが生きがいで、「体が続くかぎりこの仕事を続けたい」と唐澤さんは語る。 (6)今後の課題  清水代表取締役は「高齢社員は若手社員と同等の成果を上げています」と話す。現在は、定年後の賃金を一定程度下げているが、今後は見直しを検討しているという。年金受給の開始年齢も社員によって異なるので、その対応を含め、賃金制度の整備が必要になるという。  また、第2工場で勤務する社員は50人を超え、2023年7月に産業医を選任。現在、衛生管理について産業医と打合せを行っている。コロナ禍も大過なく乗り越えた同社は、今後の規模拡大にともない、衛生管理の徹底にも注力していく。 写真のキャプション 宮田アルマイト工業株式会社の第2工場 代表取締役の清水光吉さん(左)と総務部長の吉沢健さん(右) ラッキングを担当する唐澤清子さん(75歳) 【P24-27】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 働き方や職務を見直し、サポート体制を強化 多様な人材が長く働ける職場づくりを進める 社会福祉法人 名張(なばり)育成会(いくせいかい)(三重県名張(なばり)市) 企業プロフィール 社会福祉法人 名張育成会 (三重県名張市) 創業 1958(昭和33)年 業種 福祉・介護事業 (老人福祉・介護・障害者福祉・保育事業) 職員数 488人(2024年1月1日現在) 60歳以上 152人 (内訳)60〜64歳 52人(10.7%) 65〜69歳 48人(9.8%) 70歳以上 52人(10.7%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。一定条件のもと70歳まで継続雇用。70歳以降は、一定条件のもと年齢上限なく継続雇用。最高年齢者は81歳 T 本事例のポイント  社会福祉法人名張育成会は、三重県名張市と伊賀(いが)市で障害福祉サービス、介護保険サービス、児童福祉事業などを展開している。事業を通じて、サービスの利用者も職員も「誰もが自分らしく輝いて生きる」ことを目ざし、安心していつまでも働くことができる職場づくりに取り組んでいる。  慢性的に人材確保が困難といわれる介護・福祉業界にあって、定年や年齢にしばられることなく、また、子育てやひとり親家庭、介護、障害などの理由から、働く時間や場所などに制約があっても力を発揮することができる職場の実現を目ざし、短時間でも働ける職場づくりや、健康管理の取組みの強化など多様な施策を講じている。 POINT @定年65歳、一定条件のもと70歳まで継続雇用。就業規則により70歳以降も一定条件のもと、年齢の上限なく継続雇用している。 A高齢職員の希望を最優先して勤務シフトを組み、正規職員はより柔軟な勤務時間とすることを前提にして処遇差をつけ、正規職員の満足度向上と離職者防止につなげている。 B法人全体の業務分析を行い、「直接介護」と未経験や資格がなくてもできる「間接介護」に分類したうえで、高齢職員の希望や健康状態、キャリアなどを活かすことができる職務を再設計した。また、キャリア研修制度を整備した。 Cスポーツクラブの利用料を全額法人負担とするなど健康管理の取組みを強化し、2022(令和4)年以降、健康経営優良法人の認定を受けている。 U 企業の沿革・事業内容  1958(昭和33)年10月、社会福祉法人名張育成会の源となる「名張育成園児童寮」が、日本初の18歳以上の自立支援も行う児童・成人一貫施設として開園。1995(平成7)年に現在の法人名に変更し、三重県名張市と伊賀市において障害福祉サービス、介護保険サービス、児童福祉事業などに取り組み、障害児者入所・通所施設、障害児者相談支援、ホームヘルプサービスなどの障害者福祉事業等、高齢者福祉事業、認定こども園など幅広い支援事業を展開。「誰もが自分らしく輝いて生きる」を理念にかかげ、「その人らしくありのままに輝いてほしい、そしてその傍らにいる私たち職員も支援という仕事を通じて輝きたい」という思いを持って、安心していつまでも働くことができる職場づくりに注力している。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  職員数488人のうち、60歳以上は152人で全体の約31%。同法人の施設が多くある三重県名張市は、大阪へ通勤する人が少なくない地域のため、若年層の人材確保が特に困難となっており、介護・福祉業界では厳しい状況が続いている。同法人では、新卒者を含む新たな人材を迎えることができているが、今後予測されるさらなる人材難と、5年後、10年後の職員の高齢化、近年の採用状況を重ね合わせると、生涯現役で働くことができる職場環境の構築が不可欠であると、市川(いちかわ)知恵子(ちえこ)理事長を中心とした経営会議において判断。そこで、多様な人材が働ける体制づくりやキャリアを活かす仕組みづくり、健康管理の取組み強化などを推進している。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @雇用の上限年齢を事実上撤廃  就業規則では定年を65歳とし、希望者は一定条件のもと70歳まで働くことができる制度を導入している。加えて、継続雇用の年齢上限を事実上撤廃することとした。  人事課が中心となり高齢職員との面談を実施した結果、健康であるかぎり働くことを希望する職員が多いことを把握。そこで、健康で働けるかぎり雇用契約を継続することとした。65歳以上の職員は、毎年所属長と面談を行い、本人が希望する勤務の時間帯などを最大限に受け入れて働くことができる環境を整備。現在、70歳以上が全職員の約11%を構成するほどになっている。 A多様な勤務形態、短時間勤務制度を導入  高齢職員との面談では、「1週間に1日でもよいので働くことができるとよい」といった声が少なからずあった。そこで、それぞれの雇用区分の定義を再確認し、正規職員は夜勤も含めて柔軟な勤務体制に応じることができる職員であることを明確にした。パートタイマーは、正規職員のすき間時間に補足的に働くのではなく、パートタイマーの希望を優先して勤務シフトを組み、空いているシフトの勤務を正規職員がになうこととした。同時に、正規職員はより柔軟な勤務時間とすることを前提に処遇差をつけ、結果的に正規職員の満足度向上とともに、離職者の減少につながった。 (2)高齢職員を戦力化するための工夫 @「介護助手マニュアル」を作成  法人全体の業務分析を行い、各施設での仕事を「直接介護」と未経験や資格がなくてもできる「間接介護」(清掃や洗濯など)とに分類。介護職員をサポートする間接介護を「介護助手」の仕事と位置づけて役割を明確にし、「シニア職員のための介護助手マニュアル」を作成し、職務の再設計を行った。これにより、介護の業務経験がない高齢職員は、介護助手の仕事から担当できるようになった。すると、大手ホテルの管理職を定年退職した人の応募をはじめ、60歳以降のセカンドキャリアの職場として同法人に応募するシニアが増加。そうした人材の採用により、若手職員に対してマナーや職業倫理などを自然に教える風土が醸成され、労務トラブルが減少した。また、60歳以上で入職後、最初は介護助手の仕事を担当し、のちにキャリアアップを望んで介護職に就いた職員もいる。 A「キャリアブック」を作成  正規・非正規にかかわらず、全職員の可能性を引き出したいという考え方から、キャリアアップの研修制度を開発。制度内容などをまとめた「キャリアブック」を作成し、全員に配付している。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @健康管理の取組みの強化  全職員に対して定期健康診断を実施し、必要に応じて産業医が再受診をうながしたり、生活指導を行ったりする取組みを強化。また、地域内の民間スポーツクラブを職員が利用する際、利用料を全額法人が負担することとした。これらにより、職員全体の健康管理への意識が高まり、健康診断の受診後についても、自分のペースでできる生活改善などへとつなげることができるようになってきた。スポーツクラブは高齢職員の利用もあり、クラブでの職員間のオフのコミュニケーションが充実し、働きがいの一つになっているという高齢職員の声もある。 A健康経営○R(★)に取り組む  「健康経営優良法人(大規模法人部門)」の認定を受け、2022年以降連続して認定されている。健康経営の活動の一環として、職員に対し毎年「健康習慣アンケート」調査を実施。禁煙の状況や健康状態などを確認し、産業医の協力も得て、助言を行う体制を整えた。また、治療と仕事を両立するためのサポート体制なども構築した。 (4)その他の取組み ▼育児、介護、治療などにかかわる同法人の制度をまとめた「ハンドブック」を作成  安心して長く働けるように、働き方をサポートする情報提供ツールとして、妊娠や出産、育児、治療、介護と仕事の両立について、法人の考え方、各種制度の紹介、法人全体のルールをわかりやすくまとめた「ハンドブック」を作成し、全職員に配付した。  職員の視点に立ってまとめられていることから、ルールが浸透しやすくなり、職員間のコミュニケーションツールとしても有効なものとなっている。高齢職員からは、「安心して働くことができる」、「治療が必要となった際に勤務先がどういった配慮をしてくれるのかがわかる」と好評を得ている。  ハンドブックにおいて「正規職員とパートタイマーは、雇用形態が異なるだけで、パートだから、正規職員だから、という考え方ではなく、すべての職員が支え合っていく」ということを明言。こうしたメッセージや高齢職員の誠実な仕事ぶりから、若い職員は高齢職員を自然に尊敬する風土が醸成されている。また、最後のページでは「仕事との両立にあたって忘れてはならないこと」として、「困ったときはお互いさま」という主旨のメッセージを発信。トップから法人全体の方針として伝えられ、職員が支え合い、安心して働くことができる職場が実現しつつある。 (5)高齢職員の声  尾崎(おざき)清美(きよみ)さん(75歳)は、長年勤務していた公立保育園の経営が2010年に名張育成会へ移管されたことにともない、61歳のときに入職。保育士として、同法人の「みはた虹の丘こども園」に勤務し、定年を迎えてからはパートタイムで勤務を継続している。2年前までフルタイムで働いていたが、73歳から短時間勤務になり、現在は1日5時間、週5日の勤務。「短時間勤務が体力的にいまはちょうどよく、翌日も元気に職場へ行くことができています」と尾崎さん。かつてはリーダーを務めたが、現在は役割が変わり、他の保育士の支援と後進育成をにない、若い先生たちから「経験豊富な尾崎さんがいてくれることで安心感がある」との声が聞かれている。尾崎さんは園児の成長にふれられる仕事にやりがいを感じ、「生活のリズムを大切にして、仕事も趣味も楽しんでいます」と元気に話す。また、福利厚生で通えるスポーツクラブへ週2回ほど足を運び、有酸素運動をしているという。  2021年4月、知人の紹介で入職した福森(ふくもり)清三(きよぞう)さん(75歳)。知的障害のある成人の入所支援施設「成峯(せいほう)」で、週4日、1日6時間勤務で生活支援員として働いている。土・日曜日は自治会の活動にも励んでいるという。  生活支援員の仕事は、1日の勤務のうち2時間から2時間半がトイレ清掃で、ほかに居室清掃なども行い、入所者の暮らしを陰で支えている。福祉施設での仕事は初めてで、福森さんは「こうした施設があることを知らなかったものですから、体験の段階でたいへんな仕事だとわかり入職するのを迷いましたが、だれかがやらなければいけない仕事ですし、少しやってみようと思いました」と話す。それから3年になる。「できるだけ家族に世話をかけず、自分のことは自分で行える人生を長く続けたいと思っています。そのためには、働くことが心身を健やかに保つ大きな要素の一つだと見聞きします。身体が動く間は働いていたいと思います」と福森さん。「気力」が大事だと語り、たいへんな仕事にも誠実に取り組む姿は、若い職員にもよい影響を与えている。 (6)今後の課題  さまざまな取組みの効果により、若手の確保もできているが、人財開発課課長の川出(かわで)将規(まさき)さんは、「今後労働力が減少するなかで、この場所で事業を継続するためには、やはり人材の確保が肝心です。引き続き多様な人材が互いに気持ちよく、安心して長く働ける職場づくりを進めていきます」と気持ちを引き締めている。人事課課長の辻本(つじもと)博敏(ひろとし)さんも、「多様な職員が互いを受け入れ尊重し合う職場づくりを進めつつ、しっかりした制度をつくり、それを職員に伝えていくことに力を入れていきます」と、よりよい職場環境づくりに向けて今後を語った。 ★「健康経営○R」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。 写真のキャプション 社会福祉法人名張育成会が運営する「名張育成園成美」 保育士として勤務する尾崎清美さん(75歳) 生活支援員として勤務する福森清三さん(75歳) 人事課課長の辻本博敏さん(左)と人財開発課課長の川出将規さん(右) 【P28-31】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 20代から定年後まで細やかに働き方をサポート 多様な人材に寄り添う制度を構築し定着をねらう 株式会社 平田(ひらた)自工じ(じこう)(滋賀県甲賀(こうか)市) 企業プロフィール 株式会社 平田自工 (滋賀県甲賀市) 創業 1970(昭和45)年 業種 自動車販売整備業 社員数 32人(2024年9月1日時点) 60歳以上 3人 (内訳)60〜64歳 0人(0.0%) 65〜69歳 2人(6.3%) 70歳以上 1人(3.1%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。70歳まで希望者全員を継続雇用。70歳以降も運用により年齢にかかわらず継続雇用。最高年齢者は73歳 T 本事例のポイント  株式会社平田自工は1970(昭和45)年に滋賀県甲賀市で個人創業し、自動車整備・販売事業を開始した。その後、指定整備、特定自主検査工場開始を経て法人へ登録変更し、たしかな技術によって充実した整備サービスを提供している。昨今は人材確保に苦慮し、人口減少に加え、以前と比べて車に対する価値が変化し、若年層の車に対する優先順位は低くなった。加えて、自動車整備士の仕事は「3K(きつい、汚い、危険)」といわれて若手人材の確保が厳しく、事業全体に影響が及んでいた。そこで高齢者をはじめ多様な人材に目を向けて、積極的に採用を開始。多様な働き方を認める方針を立て、各人が働きやすい職場づくりを図り、高齢者については定年後も長く無理なく働き続けられる環境整備を推進している。 POINT @2023(令和5)年1月に定年を60歳から65歳に延長。また、65歳以降も希望者全員70歳まで継続雇用すると就業規則に定めた。 A2023年1月から、60歳以上の社員は本人の希望と会社が認めた場合に、勤務時間を1日あたり1時間から3時間までの範囲で短縮することができるように制度を改定した。また、高齢社員の病気療養からの復帰の際の規定を設けた。 B定年時に原則として本人の希望を確認して業務を決め、心身の負荷を軽減した業務を選択できるようにした。 Cリフトや大型設備器機は最新設備を導入し、特に高齢社員が担当する洗車作業には、自動車洗車機、高圧洗浄機を使用している。 U 企業の沿革・事業内容  株式会社平田自工は1970(昭和45)年に滋賀県甲賀市で個人創業し、自動車整備・販売事業を展開。のちに指定自動車整備事業に着手し、特定自主検査登録業者として検査事業をスタート。1980年に個人から法人へ登録変更をした。1985年に「ホンダプリモ土山(つちやま)店」を開設、1993(平成5)年プリモ土山店整備工場を新築、認証取得。2006年に「Honda Cars 土山 土山店」に屋号、拠点名を変更。2014年に水口(みずぐち)東店を開設した。たしかな技術でていねいな整備を行い、地域の人々のカーライフを支えている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  社員の平均年齢は38歳で、60歳以上は一割弱と高齢社員は多くないが、地域の労働力人口減少に加え、若年層から自動車整備は「3K(きつい・汚い・危険)」との印象を持たれるほか、営業職におけるノルマや土・日勤務が避けられる傾向があり、若手の採用が厳しい状況にあった。よって、中高齢者を積極的に採用しなければ人材確保がむずかしくなっていた。  また、高齢社員の技術や技能、あるいは顧客の円滑な継承も大きな課題となっていた。長年会社を支えてきた人材が定年を迎えるにあたり、継続雇用を行うなか、今後さらに社員の高齢化、多様化が進むことを考慮し、高齢者雇用に関する環境づくりを整備した。  多様な働き方をサポートする制度の改定と合わせて、中高齢者の新規採用を推進する方針を打ち出し、2023年12月には72歳の高齢者を採用した。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年制と継続雇用制度の見直し  2023年1月に定年年齢と継続雇用年齢を5歳引き上げ、定年65歳、希望者全員を70歳まで継続雇用とする制度を導入した。気力と体力が備わっていれば、運用により70歳以降も年齢上限なく働くことができる。  高齢社員からは「今後も継続して仕事ができれば健康や体力維持、あるいは経済的安定が図れ、仕事を通じてほかの社員や社会とのつながりができる」との声があがった。一方、中堅社員からは「定年後も家のローンが残る予定なので、70歳まで働けるようになって安心した」と好評である。 A60歳以上の社員は希望により勤務時間を短縮  2023年1月から、高齢期の体力の低下、健康状態を考慮し、60歳以上の社員には本人から希望があり会社が認めた場合には、現在の勤務時間を1日あたり1時間から3時間までの範囲で短縮することができるように制度を改定した。  65歳の定年以降、継続雇用の労働条件は、継続雇用を希望する社員との個別の継続雇用契約によるとし、社員の要望に応え高齢社員が対応しやすく、社員の生活にも配慮した勤務時間を設定することができる。 B病気療養後の復職規定を制定  疾病で休職した際は、籍を残し職場復帰を大前提とした復職規定を制定した。復職後は職務遂行能力が以前と変わらず、休職前の職務・職場に復職可能であることを前提とはするが、会社の判断で身体の状況などを考慮し、別の職務・職場に就けるようにもした。規定に基づき本人と面談を行ったうえ、柔軟な就業形態に対応できるようにし、職場復帰に関する不安を解消。できるかぎり気兼ねなく復職できる環境を整えた。 C45歳から選択定年制を採用  社員の意思を尊重し、多様な働き方を認めるという観点で、45歳から65歳までの年次に定年年齢を自由に設定(選択定年)できることとした。この制度により、定年退職し退職金を受け取った後、パートやアルバイトとして週2・週3での勤務が可能になるなど、生活設計の幅が広がると、社員から好意的な意見が多い。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @メンター制度と合わせてベテランの指導を実施  自動車整備が未経験の新人には、同世代の社員が技術指導を行うメンター制を取り入れている。しかし、若手新入社員に対する技術指導はやさしすぎても、厳しすぎても育成がうまくいかない。そこで、2017年から若手が行う技術指導とは別に、随時ではあるが、中堅・高齢社員が有資格者の技術や経験とノウハウを継承する指導を集中して行ってきた。メーカー整備指導書とOJTを組み合わせた効率的な指導を、同世代社員による親近感のある指導と組み合わせて実施することでスムーズに育成が進み、若手の定着率向上につながっている。 Aキャリア形成支援研修の実施  2020年から人材派遣会社が実施するキャリア形成支援研修会に参加している。研修では自分のキャリアに夢や希望、将来をイメージしてもらい、若手には会社が将来をサポートする姿勢を示す。高齢社員には自分のキャリアの棚卸しと、さらなる将来を見すえるための機会としてもらっている。社員からは「自分のスキル向上を意識することで、現在の仕事を見つめ直し、生産性向上へのきっかけになった」との声があった。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @営業の第一線からサポート役に業務変更  高齢社員が無理なく長く働き続けることができるように、心身の負荷を軽減した業務を選択できるようにした。原則として定年時に、本人の希望を確認して業務内容を見直す。65歳まで営業職で第一線で精力的に勤務していた社員は定年を機に、営業サポートと営繕業務などの業務を変更した。第一線の戦力を欠くのは会社には痛手であるが、本人の希望に添い心身の負担を軽減することにした。結果的に、営業経験や知識とノウハウを通じたサポートで若手社員に指導・支援ができるようになり、本人、会社双方にメリットをもたらしている。 A最新設備や機器の導入により負担軽減  近年みられる自動車整備の高度化に合わせ、整備に不可欠なリフトは大型・中型を採用し、機械関連にはタイヤチェンジャー、バランサーなど最新設備を導入しており、作業負担の軽減にもなっている。特に、最新の自動車洗車機、高圧洗浄機については、従前であれば洗車きずがついてしまう、あるいは経験がないと車の型や汚れ具合に適した洗車がむずかしいところがあったが、導入後は改善され、だれでも簡単に短時間で労力も少なく利用できるようになった。2023年12月には洗車作業を担当する70代の高齢社員を新規採用。最新の機械により、安全性が確保された状態でスムーズに洗車作業を行うことができている。 B健康管理体制の整備  定期健康診断の検査項目以外を確認するために、35歳以上の社員には、人間ドック費用を会社が全額負担し、がんをはじめとする三大疾病などを早期に発見できる環境を整えた。60歳以上の高齢社員には、検査結果をふまえ、面談のうえ、業務の内容を変更するなど対策をとれるようにした。  また、2018年から、インフルエンザの予防接種費用を会社が負担する「医療費補助制度」を導入し、接種率が向上した。  健康管理の重要性を就業規則に規定してから、中堅社員は生活習慣を見直すなど健康に対する意識が高まった。健康を維持し高齢になっても元気に働いてもらいたいという長期的視点においても期待を持っている。 C弁当支給と社員旅行  毎週日曜日は昼食の際、出勤している社員全員に弁当を支給している。土用丑の日にはウナギ、クリスマスにはケーキなど、季節感のある食事を提供し喜ばれている。  年1回実施する社員旅行は、若手社員が中心となって行き先や内容を企画している。社員からは大きな期待が寄せられ、全社的に一体感が高まる行事となっている。  こうしたレクリエーション活動は、社員にとってよい気分転換になり、意欲的に仕事に取り組む要因になる。また、ふだん業務上はかかわりのない高齢社員と若手・中堅社員のコミュニケーションの場にもなり、円滑なコミュニケーションは職場の活気となって顧客への付加価値の高いサービスを生み、「気持ちのよいサービスが受けられる店」という評価につながっている。 (4)高齢社員の声  前社長の右腕として長年店長を務めた河上(かわかみ)伸滋(しんじ)さん(66歳)。製造業や自動車販売業を経験した後、38歳のときに営業職として入社した。河上さんは顧客との関係について「車は運転するのも、触るのも好きです。車販売の営業は気楽な気持ちで始めたものの、年々お客さまが増えていくので辞めようにも裏切るようで辞められませんでした。車が媒体となっての人とのつながりですが、お客さまは人ではなく店についてもらわないといけません」と話す。担当していた顧客の大半をすでに若手に託したが、まだ河上さんに担当してもらいたいと譲らない顧客もいて、その対応も現在の仕事の一つである。  ほかには、登録業務といった管理面の事務サポート、営繕作業、若手のサポ―ト、ベトナム人技能実習生への気配りなど自ら気づいた仕事を能動的にこなす。現社長もたびたび相談に乗ってもらうといい、社内において「第三の立場」で仕事をする河上さんは現役社員にとっても経営者にとっても貴重な存在である。河上さんは、2023年に大病を患ったという。自覚症状がなく、思いがけないできごとだったが、病気療養後の復職規定に則って仕事に復帰した。 (5)今後の課題  代表取締役社長の石田(いしだ)清司(きよじ)さんは「人の定着が命題」と語り、今後も高齢者の採用を推進する方向性を示す。また、「例えば60歳で入社し、その後10年間働いてもらえると期待します。そのためにも多様な働き方ができる環境づくりに取り組んできました。たくさん休みたい、多く給料がほしい、技術を活かしたい、自分のペースで仕事がしたい、療養後復帰したい、出戻って再就職したい。会社が利益を出すために社員が定着し、かつ能動的に能力を発揮できるようにモチベーションを上げられる環境を整えていき、お客さまに評判の『いつも愛想がいい店』であり続けたいと思います」と話す。  高齢社員との面談はもちろん、日々の目配り、気配りで社員の小さな変化を見逃さず、産業医や現場の声も吸い上げて必要な仕組みを構築し、だれもが永年勤続に至る会社をめざし、今後も思案を重ねていく。 写真のキャプション 整備工場を併設する株式会社平田自工 最新機器を使用し洗車作業をする高齢社員 年1回実施する社員旅行の様子 定年後も効率的な仕事ぶりで営業をサポートをする河上伸滋さん(66歳) 【P32-35】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 雇用上限年齢の撤廃で、いつまでも働ける環境に「デジタルシニア化」の推進も 社会福祉法人 青谷(あおだに)学園(がくえん)(京都府城陽(じょうよう)市) 企業プロフィール 社会福祉法人 青谷学園 (京都府城陽市) 創業 1982(昭和57)年 業種 障害者福祉事業 職員数 107人(2024年9月6日現在) 60歳以上 22人 (内訳)60〜64歳 9人(8.4%) 65〜69歳 8人(7.5%) 70歳以上 5人(4.7%) 定年・継続雇用制度 定年選択制(60〜65歳)。定年後は希望者全員72歳まで継続雇用。72歳以降は、一定条件のもと年齢上限なく継続雇用。最高年齢者は74歳 T 本事例のポイント  社会福祉法人青谷学園は、1982(昭和57)年に設立。京都府城陽市で、障害者支援施設2施設を運営している。経営理念は「地域社会への貢献と、ご利用者様に、『生きがい』、『満足』、『感動』のある福祉サービスを提供します」。職員信条として、「知性を磨き、創意と工夫をもって、活気にあふれた行動をする」ことも掲げている。  人手不足が深刻化するなか、施設利用者の生活にとって不可欠な人材の定着を図るため、週休3日制の導入などを行い、職員が働きやすい環境を整備。中長期計画では高齢者の登用に力点を起き、ミドル・シニア層の活躍に向けた取組みを積極的に進めている。 POINT @60〜65歳の選択定年制を導入。本人の希望により、正規職員として65歳まで働くことができる。 A高齢者の登用をさらに広げるため、有期雇用職員※の年齢上限を撤廃。元気で仕事への意欲があれば、年齢に関係なく、いつまでも働けるようにしている。 Bミドル・シニア層のモチベーションを高めるため、キャッチコピーを全職員から募集。「生涯現役!知識経験を活かしアグレッシブシニアを目指そう!」を標語に、職員が一体となり、高齢職員が活躍する取組みを進めている。 C高齢職員を含め、全職員にスマートフォンを貸与。SNSなども積極的に活用し、「デジタルシニア化」を推進している。 U 企業の沿革・事業内容  社会福祉法人青谷学園は京都府京都市と奈良県奈良市のほぼ中間に位置する京都府城陽市で、1982年3月に設立された。同年4月に知的障害者入所更生施設、1992(平成4)年10月に、知的障害者入所授産施設を開所した。  2009年には、更生施設を「障害者支援施設青谷学園」に、2010年には、授産施設を「障害者支援施設DO」にそれぞれ移行。両施設では、短期入所事業を行っているほか、2013年には、青谷学園相談支援事業所も開所した。  高齢者雇用を積極的に進めると同時に、職員の仕事と家庭の両立支援、健康経営にも力を入れており、2023(令和5)年2月には、厚生労働省の国家プロジェクト「がん対策推進企業アクション」主催の「がん対策推進企業パートナー賞中小規模法人部門」を受賞。同年5月には女性活躍推進法に基づく「プラチナえるぼし」、次世代育成推進法に基づく「プラチナくるみん」の認定も受けている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  職員数は107人で、うち60〜64歳は9人、65〜69歳は8人。70歳以上の職員は5人で、最高年齢者は74歳である。  福祉の仕事では「人と人とのつながり」が特に重要で、職員の定着が不可欠。しかし深刻な人手不足で、若い世代の人材確保もむずかしくなるなか、「まだまだ働ける」という元気で意欲のあるシニアを積極登用することに舵を切った。高齢職員への配慮を深め、自身の体力や気力次第で、いつまでも働けるような職場環境の整備を進めている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @選択定年制の導入  従来は60歳定年で、定年後は希望により無期雇用非正規職員として65歳まで継続雇用する制度だったが、2023年4月、選択定年制を新たに導入。本人の希望により、60〜65歳の間で柔軟に定年を選択できるようにした。以前の60歳定年制では、継続雇用においては賞与が最大3万6000円まで減額(支給一回ごと)になったが、選択定年制では65歳まで年2.05カ月(前年度実績)の賞与が支給される。  選択定年制の導入と同時に、定年後、希望者全員を72歳まで継続雇用することとした。それまでは65歳以降も雇用を継続する場合、1年ごとの契約が必要で、老後の生活設計が立てにくい状況もあったという。72歳になったことで、継続雇用の職員も、安心感をもって働くことができるようになった。 A雇用上限年齢の撤廃  2023年11月、有期雇用職員の年齢上限を撤廃した。これまでの制度では、まだまだ元気でやる気のある職員も、70歳に達すると退職することになっていたが、年齢上限の撤廃により、自身の体力や気力次第でいつまでも働くことが可能となった。継続雇用の上限である72歳を迎えた継続雇用、無期雇用非正規職員も、これにより、雇用を継続することができるようになった。 B非正規職員への人事考課制度の導入  2022年11月、非正規職員への人事考課制度を導入した。職務行動を明確にすることで、何を目ざし、どのようなことを努力していけばよいのかを考えさせ、「年齢に関係なく成長してもらう」のがねらい。現在、評価結果は賞与に反映させているが、将来的には昇給の判断などにも活用していく計画だ。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @デジタルシニア化  2022年を「DX元年」と位置づけ、法人全体でICTやDXの推進に取り組み始めた。しかし、IT機器の操作を苦手とする職員もいて、加速するデジタル化のなかでシニアが取り残されないよう、手助けする必要もあった。そこで2023年11月、高齢職員を含め、全職員にスマートフォンを貸与。スマートフォンの活用を端緒に「デジタルシニア化」を目ざしている。  スマートフォン未経験の高齢職員は、若手職員などがサポート。仲間同士でも教えあうなどして、慣れるよう努力してもらっている。出退勤時刻の記録は、ICカードからスマートフォンアプリを使った「スマホタッチ」に切り替えた。スマートフォン、パソコンを使いこなす高齢職員は徐々に増加。スマートフォンに連動したネックスピーカーなども導入され、生活支援の現場での情報共有や意思疎通に一役買っている。「職場でのスマホデビューをきっかけに、家族ともSNSでつながることができた」という喜びの声も出ているという。 Aシニア活躍のキャッチコピーを募集  2024年2月、SNS上で「ミドル世代・シニア世代職員の活躍のためのキャッチコピー」を募集した。スマートフォンの活用を広げるとともに、「人生100年時代」に、どんなシニアを目ざしていくか、考える機会にしてもらうのがねらい。7作品を応募したという男性職員(66歳)は、「キャッチコピーをつくるため、この職場で働いていてよかったと思えるのは、どのような点かと相当考えました。自分を見つめるきっかけになりました」と話す。なお、キャッチコピーは「生涯現役!知識経験を活かしアグレッシブシニアを目指そう!」が選ばれた。 BSNS活用で職場コミュニケーションを活性化  2024年2月、ランチミーティング形式で、ミドル・シニア交流会を企画。高齢職員等(36人)を対象に、SNSのアンケートで参加者を募ったところ、13人が集まった。交流会開催後にもSNSのアンケートを実施したが、全員から定期的な開催を希望する回答があり、最高齢の参加者(73歳)からも、次回開催への要望が寄せられていた。これまでは高齢職員等の交流の機会はあまり多くなかったが、スマートフォン導入を機に、コミュニケーションの活性化が期待される。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @健診・ストレスチェックの対象拡大  有期雇用の年齢上限撤廃にともなう高齢職員の増加で、よりいっそうの健康管理が必要となることや、2024年10月には、短時間労働者に社会保険が適用される特定適用事業所となることをふまえ、定期健康診断の対象者を拡大。法人負担の定期健康診断の対象者を、従来の週30時間以上勤務の職員から週20時間以上に変更した。  ストレスチェックは2022年4月からすでに、週20時間以上の職員を対象に年2回実施。希望者全員が参加可能なメンタルヘルス研修も年1回定期的に行われている。 A自己健康管理  「一人ではなかなかできない自己健康管理を、みんなで励まし合いながら実施しよう」と2023年度に「節酒・減酒・休肝日・減間食キャンペーン」を実施。生活習慣病予防の取組みを進めた。キャンペーンではまず、職員自身の取組み目標をSNS上のグループに公表。途中経過や自身のがんばりも定期的にSNSにアップし、グループの仲間同士で「いいね」を送りあい、目標達成に結びつけた。約100人の職員のうち37人が参加。取組みが好評だったため、2024年度も別の形で同種のキャンペーンを継続している。 B作業環境改善  職員に健康で長く働いてもらうために2023年8月、高齢職員の職場環境改善・労災防止対策に関するアンケートを実施。寄せられた意見をもとに、職場改善を進めている。具体的には、「清掃や調理室での作業が暑い」という声に対し、首にかけるアイスリングを配付したり、制服を廃止して服装を自由にしたりするなど、可能なことはすぐに対処した。  このアンケート調査は現在も実施。高齢職員にとって働きやすい環境になるよう、継続的に改善に取り組んでいる。 Cヘルスリテラシーの向上  厚生労働省の「がん対策推進企業アクション」に加入し、職員のがん予防対策に力を入れている。がんは、高齢になるほど発症リスクが高くなるため、高齢職員のヘルスリテラシーの向上を目ざし、がん検診に関する小冊子の配付、またその小冊子の朗読なども行っている。 (4)高齢職員の声  男性最年長者の大口(おおぐち)孝雄(たかお)さん(74歳)は現在、生活支援員として活躍。ちょうど72歳になったころ、有期雇用上限年齢が撤廃されるという話を聞いたという。「もう辞めようかとも思ったのですが、職員の方に強く要望されて、74歳までということで続けました」。そして実際にその74歳になってみると、「まだまだいける」という感覚があるという。現在は「75歳まで」が目標になっている。  女性最年長者の奥(おく)由美子(ゆみこ)さん(74歳)は、約35年間勤めた前職を定年退職したあと、青谷学園で調理補助の仕事に就いた。「ずっと働いていたし、75歳まで勤め上げようと決めていたのですが、元気なので、もうちょっと働けるかなと思っています」。じつは奥さんは、デジタル機器が大の苦手。スマートフォンの操作も「最低限のレベル」と嘆くが、職場での研鑽の結果、仕事に必要な操作はこなせるようになり、若い職員からも「十分にできている」と太鼓判を押されていた。  50代から長く勤務し、生活支援員として働いている窪田(くぼた)浩子(ひろこ)さん(63歳)。「年金のことなどがあるので。65歳まではがんばらせてもらおうかなと思っています」と話す。まだ60代前半だが、今後ずっと働くことができる制度になったことで、「安心感がありますね」と強調していた。  芳賀(はが)雄二(ゆうじ)さん(62歳)は、60歳を定年とし、現在は継続雇用で週4日32時間の働き方を選んでいる。増えた自由時間を活用して、生活支援員の仕事をより深めようと勉強を始め、介護福祉士の資格を取得。そのほか認知症に関する資格試験にも合格するなど、意欲的だ。  「年齢制限の撤廃で一番ありがたかったのは、『身体が続くかぎりはずっとここにいるよ』と利用者さんにいえること」と話すのは、生活支援員の秋元(あきもと)道弘(みちひろ)さん(66歳)。スマートフォンやネックスピーカーなどを積極的に仕事に取り入れ、音楽による支援で効果を実感。大きなやりがいを感じているそうだ。 (5)今後の課題  同法人では有期雇用職員の年齢上限撤廃により、70代、80代の求人応募者も増えているという。健康で元気であれば採用し、活躍の場を提供していく考えだが、そのためには加齢による体力の衰えなどを考慮した働き方と、それに見合う処遇の整備が必要となる。高齢職員の労働災害の防止対策や、業務の標準化によるフォロー体制の強化を課題とし、今後さらなる業務改善に取り組んでいくとしている。 ※ 定年後継続雇用職員、無期雇用非正規職員を含む 写真のキャプション 社会福祉法人青谷学園(写真提供:社会福祉法人青谷学園) スマートフォンで退勤時刻を記録する様子 ミドル・シニア交流会の様子(写真提供:社会福祉法人青谷学園) (前列左から)奥由美子さん(74歳)、窪田浩子さん(63歳)、(後列左から)秋元道弘さん(66歳)、大口孝雄さん(74歳)、芳賀雄二さん(62歳) 【P36-39】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 業務の遂行に必要な健康管理に注力し高齢社員が働き続けられる職場づくりを推進 リライアンス・セキュリティー 株式会社(広島県広島市) 企業プロフィール リライアンス・セキュリティー 株式会社 (広島県広島市) 創業 2000(平成12)年 業種 警備保障業 社員数 232人(2024年4月1日現在) 60歳以上 105人 (内訳)60〜64歳 36人(15.5%) 65〜69歳 34人(14.7%) 70歳以上 35人(15.1%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員70歳まで継続雇用。70歳以降は一定条件のもと年齢上限なく継続雇用。最高年齢者は83歳 T 本事例のポイント  2000(平成12)年に創業、商業施設の駐車場などの交通誘導警備や出入管理、巡回などの施設警備を手がけているリライアンス・セキュリティー株式会社。創業以来、一貫して社員教育に注力し、「お客さま満足」、「お客さま感動」を追求することで、景気に左右されることなく安定成長を遂げてきた。  10代の若手社員から83歳の最高齢社員まで、幅広い年齢層の仲間たちが、それぞれの強みを活かして元気に働いている。警備という体力が求められる業務であることから、一人ひとりの健康状況を把握することに注力し、高齢社員が経験を活かして長く働き続けることができるよう、全社一丸となって先進的な取組みを推進している。 POINT @2024(令和6)年2月より定年を60歳から65歳に延長。希望者全員70歳まで、70歳以降も一定条件のもと年齢上限のない継続雇用制度を導入した。 A高齢社員の新規採用にも積極的に取り組み、多くの70歳超の人材を採用しており、人材不足の解消につながっている。 Bフルタイム勤務、短日勤務、短時間勤務など、個別の事情に対応した柔軟な勤務制度を整え、働きやすい環境を実現している。 C「月間MVP」や「年間MVP」などの社員の表彰制度を設け、社員のモチベーション向上を図っており、多くの高齢社員が表彰されている。 D資格取得費用を会社が負担し、高齢社員を含め、全社員が資格取得に積極的にチャレンジする機会を提供。資格へのチャレンジが業務への理解を深めることにつながっている。 E就業中の健康リスクを徹底的に排除するため、パート社員も含めた全社員に「健康状況申告書」を提出してもらい、一人ひとりの健康状況の把握に努めている。また、社員の健康と安全を守るため、夏場の熱中症対策、冬場の防寒対策に注力している。 U 企業の沿革・事業内容  同社は2000年に創業し、2年後の2002年に株式会社化、本格的に事業をスタートさせた。以来、西日本エリアに続々と事務所を開設し、施設常駐警備などの各種警備業務を中心に、リスクマネジメントやコンサルティング、防犯防災システムの販売などへと業容を拡大してきた。「お客さまに丁寧に対応し、この場を楽しんでもらうこと」を第一に、「警備業界のテーマパーク」、「西日本の警備会社の中で最も入社して働きたい会社づくり」を目ざし、若手や女性、高齢者、障害者などの採用を積極的に続け、地域の安全を守るとともに人材育成を通じて地域貢献を目ざしている。 高齢化の状況、 V 職場改善等の背景と進め方  社員の年齢構成は60歳以上が全体の40%を超え、70歳以上の社員も約15%を占めている。最高年齢者は83歳で、交通誘導警備や雑踏警備を元気に担当している。業務上体力が求められ、また労働災害のリスクも小さくないことから、2008年までは60歳以上の高齢者の採用には消極的だったが、慢性的な人材不足を背景に2009年より60歳以上の人材の採用をスタート。以来、働くことに「やりがい」を見いだした高齢社員や、働くことで生活リズムが整い健康的な暮らしができるようになった高齢社員の実例を見て、会社の方針として高齢者の積極的な雇用を推進している。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年年齢の見直し  以前は60歳定年、継続雇用制度の年齢上限を65歳としていたが、実態として本人が希望すれば70歳以降も雇用を継続していたことから、実態に即した制度とするため、2024年2月に就業規則を改定し、65歳定年、希望者全員70歳まで、70歳以降も一定条件のもと、年齢制限なく働ける雇用制度を導入した。これにより社員の「65歳で辞めなくてはいけない」という考えがなくなり、将来への不安が軽減されて気持ちに余裕が出てきただけでなく、他社を退職した人材の採用にもつながっている。 A柔軟な勤務形態  勤務シフトは厳密にパターンを設定しているわけではなく、社員ごとに、大まかな勤務パターン(平日5日勤務、土日含む週5日勤務など)を決めたうえで、現場に応じて個別にシフト編成を行っている。施設警備に比べ交通誘導警備は前日依頼などの緊急対応も多く、柔軟性が求められるという背景もある。高齢社員に関しては、自宅に近い現場への配置などの配慮を行っているが、社員によっては遠方の警備を希望する場合もあり、個々の社員の希望に沿った対応を原則としている。フルタイム勤務のほか、週1〜4日勤務の短日勤務や半日などの短時間勤務に対応した柔軟な勤務シフト調整で、働きやすい職場環境を創出している。 B職務の負担軽減  事務職や営業職などの間接部門は15人規模と小さいため、警備の業務からほかの職務へ切り替えることはほとんどない。交通誘導警備と比較すると、施設常駐警備では1日10km歩くこともあるなど肉体的負担も大きく、また、出入管理や緊急対応など、業務内容が多岐にわたり、施設ごとの経験も必要な業務であることから、簡単に配置換えや職務の転換ができないという事情もある。このため、高齢社員の負担軽減にあたっては、勤務シフトを減らし、ほかの警備員がカバーすることにより対応している。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @社内表彰制度  2007年より、アルバイトやパート社員も含めた全社員(役職者を除く)を対象とした表彰制度の運用を開始。「月間優秀警備員(月間MVP)」、「特別賞」、「年間最優秀警備員(年間MVP)」、「最優秀新人賞」の表彰を行い、社員のやる気を引き出している。  運用開始当初は功績重視の表彰を行っていたが、スーパーの駐車場や店舗などでお客さまから感謝の声をいただく場面が増えてきたことから、お客さまの「声」を重視して表彰する選出方法に変更した。その結果、入社1年目の若手社員や、60歳以上のシニア層も表彰を受ける機会が増えており、70代、80代の高齢社員が表彰されたこともある。お客さまの「声」は社員にとっても会社にとっても大きな励みになっており、「求められている」という実感が、高齢社員のモチベーションを高めている。 A広島県警備業協会の表彰制度の活用  一般社団法人広島県警備業協会が主催する「優良警備員表彰」に、2006年より同社社員の推薦を積極的に行っているほか、2012年からは「永年勤続(10年・20年)表彰」の推薦も積極的に行っている。ほかの警備会社よりも積極的に表彰推薦を行うことで、公的機関からの表彰の機会を大幅に増やす取組みを継続している。「優良警備員表彰」では、60歳以上の社員も積極的に推薦しており、「永年勤続表彰」では勤続年数の長い社員が表彰を受ける機会が増加していることで、60歳以上の受賞者の割合が高く、高齢社員のモチベーションアップと成長意欲につながっている。 B現場の巡察による社員とのコミュニケーション向上  現場の生の状況を把握するため、三現主義「現場で、現物を、現実に」を掲げ、社長や幹部社員の現場巡察を月1回以上実施している。勤務状況をチェックし、社員に緊張感をもって業務にあたってもらうだけでなく、社員への声かけ、社員とのコミュニケーションを通じて業務改善のヒントを得る場にもなっている。 C教育の重視  同社では社員教育に力を入れており、新任教育は30時間、現任教育は16時間と、法定時間を上回る教育訓練を実施している。高齢社員も20代の社員と同じカリキュラムで、警備技術と人間性を磨く質の高い教育訓練に向きあっている。高齢社員からは「この年になってこのような質の高い教育を受けられることに感謝したい」という声も寄せられている。 Dキャリア形成支援の取組み  会社設立以来、警備の国家資格(検定資格)取得の費用を会社が負担するなど、高齢社員も含め、積極的に資格取得にチャレンジできる機会を与えている。交通誘導警備の検定資格取得者については、有資格者でなければ勤務できない仕事もあるため、検定手当を支給している。資格にチャレンジすることで、警備の知識および警備技術の向上につながり、特に高齢の資格取得者は、年齢にかかわらず成長意欲が高く、契約先からの高評価を生み出している。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @事故防止のための情報共有  現場では労働災害未満ともいえる“ヒヤリハット事案”が起こることがあり、発生した際は、勤怠管理システムを利用して報告し共有する仕組みとしている。社員はスマートフォンに勤怠管理システムのアプリを入れて起動すれば、自身の勤怠報告と会社の連絡事項を共有することができる。また、事故などの発生時は、「報告10分ルール」として、現場判断をすることなく即座に管理職を通じて社長に報告する仕組みを徹底しており、事故やクレーム事案について、現任教育で事例発表をしている。 A健康管理の推進  10年ほど前、建設業における社会保険への未加入が問題視されていた際に、警備業でもいち早く対応するため、社員一人ひとりと面談し、労働時間がフルタイムに近い勤務ができる非正規社員に対して社会保険加入のメリットを説明し、正社員に切り替えていった。一週間あたりの労働時間数が通常の労働者の4分の3未満のパート社員には定期健康診断の実施義務はないが、警備業務は総じて肉体的な負荷が大きいため、「健康状況申告書」により、全員の健康状態を把握するようにしている。また、健康経営にも注力し、その取組みが評価され、経済産業省が主催する健康経営優良法人ブライト500(中小法人部門)に3年連続で認定されている。 B熱中症対策と防寒対策  夏季は、熱中症予防のために、業務用冷凍庫にペットボトルを用意し、自由に現場に持っていけるようにしており、遮熱ヘルメット、ファンつきベスト、冷感シャツなどを配付し、ミストファンも備えている。また、防寒対策も進化させ、交通誘導警備従事者全員に電熱ベストと防寒防水手袋を配付している。 (4)その他の取組み @「ダイバーシティ経営」と「西日本の警備会社の中で最も入社して働きたい会社づくり」  「多様な人材が活躍できる環境づくり」、「西日本の警備会社の中で最も入社して働きたい会社づくり」を目ざし、働き方改革、働きがいの向上、労働環境の整備、待遇・福利厚生の改善、各種認定登録の推進を行っている。高齢者、女性、外国籍人材、障害者の活躍などの取組みの結果、相乗効果をもたらし、多様な人材が急増している。 A高齢社員の新規採用  2019年より、65歳以上の高齢社員の採用を強化。ハローワークの65歳以上専用の求人やインターネット求人で「シニア活躍」をアピールし、70歳以上の面接を積極的に実施している。その結果、70歳以上の採用が大幅増となり、人材不足解消に大きく貢献している。 (5)高齢社員の声  森岡(もりおか)正美(まさみ)さん(78歳)は、2024年2月に入社したばかりで、同社史上、最高齢での入社となる。建築現場などの交通誘導警備に従事しており、「78歳の私にもたくさんの仕事があり、安心して働くことができます。会社からは『お客さま感動を追求してほしい』といわれており、それがやりがいになっています」と話す。 (6)今後の課題  今後は、ハローワークとの連携を強化し、雇用の上限年齢を設けていないことをPRしながら、65歳以上の高齢者の応募を3割増やすことを目ざすなど、高齢者の採用を強化していくとともに、高齢社員の増加にともない、家族の介護を行っている社員も増えていることから、介護離職の防止に向けた取組みについて検討していく方針だ。 写真のキャプション リライアンス・セキュリティー株式会社 最高齢は81歳で月間MVPを受賞(86歳まで現役) 最高齢入社の森岡正美さん(78歳) 【P40-43】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 定年後の賃金カット撤廃と補助器具の活用が世代間の介護負担ギャップを解消しサービス向上 社会福祉法人 恭敬会(きょうけいかい) 特別養護老人ホーム黎明館(れいめいかん)) (長崎県佐世保市) 企業プロフィール 社会福祉法人 恭敬会 特別養護老人ホーム黎明館 (長崎県佐世保市) 創業 1985(昭和60)年 業種 社会福祉・介護事業 職員数 37人(2024年9月1日時点) 60歳以上 10人 (内訳)60〜64歳 6人(16.2%) 65〜69歳 4人(10.8%) 70歳以上 0人(0.0%) 定年・継続雇用制度 定年60歳。70歳まで希望者全員を継続雇用。最高年齢者は67歳 T 本事例のポイント  社会福祉法人恭敬会は、介護保険制度において要介護(3〜5)、および若年性認知症の人を対象とした指定介護福祉施設「黎明館(れいめいかん)」を運営。看取り期の介護を主軸に、利用者が最期まで家族とともに過ごせる環境を提供している。  看護職員を多く配置しているが、寝たきりや車いすを必要とする介護度が高い利用者が多いため、職員の介護負担は大きい。高齢職員はみな能動的に仕事に取り組んでいるが、定年後の給料を減額したにもかかわらず以前と同じ仕事を任せることに現場の遠慮が生じ、一方の高齢職員は体力の低下から若手に介護負担をかけている点に引け目を感じていた。そこで、同一労働同一賃金の観点からも定年後も同じ給与水準を維持し、さらに介護補助器具の導入、IT化を進め介護負担の軽減に努めたところ、現場で遠慮なく仕事を任せられるようになり、高齢職員は身体的な負担だけでなく心理的負担が軽減し、伸び伸びと仕事に打ち込めるようになり、利用者へのサービス向上につながった。 POINT @定年後、8割程度に減額していた基本給、手当・賞与および退職金を定年前と同じ職務を継続する者については従前のまま維持するよう賃金制度を見直した。 A職能基準と行動基準を整備し、キャリアパスの等級ごとに期待基準を明示。上位等級への昇格の可否を評価することとし、キャリアパス手当を新設し、等級ごとに金額を設定した。 BIT機器を導入して介護記録の負担を軽減した。タブレットを使い音声入力や血圧、体温、酸素飽和度の測定結果を自動入力できるようにした。 Cノーリフティング対応による負担軽減。入浴リフトの導入、スライディングボード・シートの活用により利用者を抱えず移乗できるようにして負荷を軽減した。 U 企業の沿革・事業内容  社会福祉法人恭敬会は、1985(昭和60)年に特別養護老人ホーム、老人短期入所業務を開始。現在は、認知症介護実践リーダー7名を擁し、看取り介護・認知症介護に重点を置いている。2016(平成28)年から社会福祉協議会、および佐世保市生活福祉課と連携し、経済的生活困難者に対する食糧支援や、住宅費用、ライフラインの支援をするレスキュー事業に取り組み、老人介護事業の枠を超えて地域に根ざした福祉サービスの提供を行っている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  若年層の採用が年々むずかしくなるなか、職員の高齢化は進んでいた。しかし、高齢職員は60歳を超えても元気でこれまでと遜色ない仕事ができることから、働く意欲があれば年齢にかかわりなく、できるだけ長く自らの能力を発揮して働いてもらえるよう、職員の負担軽減に取り組み、より働きやすい職場環境を整えることに着手。高齢職員に対しても主体的な能力開発をうながす機会・支援を整備し、各職員の能力の維持・向上に向けて、具体的な期待基準を明示し、支援する体制の整備に取り組んだ。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @定年制と継続雇用制度の見直し  高齢職員にできるだけ長く安心して活躍してもらえるように、2014年9月に希望者全員を70歳まで継続雇用する制度を導入した。  60歳を超えると体力面で個人差が顕著になり、定年当初はこの先長く働く気力があったとしても、2、3年経過すると体力の低下を理由に退職したり、短時間勤務に切り替える希望が出されたりするケースが目立った。そこで60歳の定年年齢は引き上げず、職員の希望に対して柔軟に対応できるよう、希望者全員を継続雇用する上限年齢を70歳まで延長する措置を講じた。65歳を超えても勤務ができる制度の導入は、健康でいるかぎり長く勤務したいと願う高齢職員の安心感につながっている。 A賃金制度の見直し  定年後の賃金を8割程度に減額していたが、同一労働同一賃金の観点で見直し、2021(令和3)年度から定年前と同じ職務を継続する者については定年時の基本給・手当・賞与および退職金を維持するようにした。賞与についてはパート勤務者に対しても、従前の寸志程度の支給から、正職員と同様の算定方法(所定労働時間は勘案する)に変更した。  定年前の賃金・手当・賞与の維持は、同じ仕事を継続したいと考える意欲ある職員の不満と、仕事を任せる側の遠慮を解消し、モチベーションの維持につながった。 B短日・短時間勤務の導入  60歳に達した職員については、本人の希望により短日・短時間勤務を認めており、職員の体力や趣味の充実など、個人の都合に合わせた勤務が可能になった。段階的なリタイアメントにも活用でき、高齢職員の満足度と安心感が高まった。 (2)高齢職員を戦力化するための工夫 @キャリアパスの導入  従来取り入れていたキャリアパスは、4等級に区分(初級者、現任者、監督職、管理職)しており、上位等級への昇格は経験年数と資格・研修受講歴および役職により判断されており、必ずしもキャリアパスの等級に見合った能力を反映するものではなかった。職員の能力開発意欲を刺激するため区分を見直し、新たに6等級に区分(初級係員、一般係員、上級係員、リーダークラス、主任クラス、施設長クラス)し、厚生労働省の「職業能力評価基準」のモデル評価シートをもとに、「職能基準」と「行動基準」を整備。キャリアパスの等級ごとの期待基準を明確にした。  さらに、2024年から等級ごとの職責(役割)と上位等級への昇格要件を規定した「キャリアパス基準」を整備し、給与に等級を反映している。効果の検証はこれからになるが、さらに賞与および退職金の積立てに反映させていくことを検討中である。 A期待基準の明確化  従前は「やってもやらなくても同じ」、「定年後は正規職員ではないから」などの雰囲気が散見された。そこで、定年後も定年前と同様に期待していることを示すため、定年後継続雇用者を含めた全職員について「職能基準」・「行動基準」に基づき、自己評価・法人評価を行い、キャリアパスの等級を勘案して、個別面談により個人ごとの期待基準を明確にした。  個人ごとに「期待基準」が明確に理解できるようになり、「何をすれば評価されるのかがわかったので、がんばりがいがある」、「定年後も法人から期待されていることがわかった」など、職員のモチベーションの向上につながっている。  評価は年に1回実施し、職員と主任がチェックを行っているが、将来的には各人が能動的に自らの目標を立てられるレベルに達してもらえるよう、働きかけを検討していく。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @IT機器導入による記録の負担軽減  タブレットにアプリケーションを入れて活用し、音声入力や血圧・体温・酸素飽和度の測定結果が自動入力できるようIT化を進めた。導入後は各部屋で測定後、個人ファイルへの入力をはじめ、いくつかの帳簿へ重複して記入することがなくなり仕事の負担軽減が実現した。  IT化は新型コロナウイルス蔓延(まんえん)時に加速した。病院や保健所への連絡をタブレットで入力して共有する対応を開始したことで、毎回、防護服に着替え直して訪問することなく連絡ができるようになった。  現時点では限定的であるが、インカムを導入している。利用はいまのところ役職者となり、外部からの電話対応も場所を選ばないだけに容易になり、各部屋の検温を記録するにもインカムであれば情報共有がしやすくなった。また、センサーベッドの導入は利用者それぞれの状況に合わせた居室対応ができるようになった。例えば睡眠中に起こして検温しなくても、目が覚めて体が起き上がったときにセンサーが鳴るため、その人その人によって対応ができるようになった。また、何度も見回る必要がなくなり介護負担の軽減につながっている。 Aノーリフティング対応による負担軽減  入浴リフト導入前は、職員が2人がかりで移乗、移動を行う必要があった。職員の身体的な負担が大きく、また、職員、利用者の両者が転倒やけがをするリスクがあった。さらに、手動の移乗では利用者のプライバシー確保がむずかしい面もあった。  しかし、入浴リフト導入後は、電動のコントローラー一つで介助が可能になり、力が弱い高齢職員も十分対応できるようになった。また利用者のプライバシーの保護が強化され、より快適に入浴してもらえるようになった。  スライディングボード・スライディングシートの利用は、抱える、かがむといった腰に負担がかかる体勢を取らずにすみ、力をさほど費やす必要がなくなったことで、負担が大きく軽減された。  介護補助の機械や器具の活用により、特に高齢職員は定年前の職員と同様に入浴支援を行うことができるようになり、ノーリフティングの取組みによって、年代を問わず腰痛の訴えがほぼなくなった。 B休憩室の充実  職員専用食堂や更衣室に、休憩用のベッド、テーブル、いすを設置した。快適な備品の整備のほかに畳の部屋を準備するなど、「快適に過ごせて、疲れがとれる」と特に高齢職員には大好評である。 (4)高齢職員の声  松尾(まつお)一重(かずえ)さん(62歳)は准看護師で常勤勤務。2年前交通事故に遭い2カ月間入院し、その後も背骨を痛めたためしばらく休んだ。いまは体調も回復し、日常生活の介助と自立支援を担当している。「介護記録には毎回、時間がかかりましたが、タブレットを使って入力するようになり簡単になりました。時間ができて、入居者とかかわる時間が増え、気づきが増えました」  中村(なかむら)スミ子(こ)さん(66歳)は准看護師で常勤勤務。育児のため自宅近くで転職先を探していたのがきっかけで34歳のとき入職。「若い職員と一緒に働いていると元気になります。利用者に声かけをして笑顔が返ってくるとうれしいです。元気な身体が一番の資本、これからもがんばりたいです」  高瀬(たかせ)博子(ひろこ)さん(67歳)は介護福祉士で非常勤勤務。44歳で家具店勤務から転身し、同施設で働きながら介護資格を取得した。65歳のとき、親の介護のため退職を考えたが、「少しでも働いてもらえないか」と引き止められ、週3日、各3時間の勤務に変更。「親の介護がきちんとできたうえで仕事ができていて、いまのペースがちょうどよいと感じています」  三木(みき)美枝子(みえこ)さん(62歳)は准看護師兼機能訓練員で常勤勤務。移乗は力が出せずいつも軽い足側に回っていて心苦しかったが、スライディングマットを利用するようになって軽く押せばできるようになった。「一生懸命に介護しても意思疎通がうまくいかないこともあって、そこに課題があります。あと7年は働きます」  看護主任を務める看護師の桃田(ももた)桐子(きりこ)さんは、「60歳を超えた職員は宝」と称賛する。「年齢を忘れるほどみなさん元気で、仕事に対して本当に真剣に取り組んでいます。准看護師の資格を持ち経験年数が長く、さまざまな症例をみていますので、状態の変化をみて、病院に搬送するかの判断などでアドバイスをもらっています。  若手は体力面をにない、ベテランは知識や経験、判断をになう。それぞれのよさを持ちあって職場環境が整うのが理想です。若手には高齢になっても働くことがあたり前の世の中を理解し、自分もいずれ高齢になるという想像力を持って高齢職員の体力や特徴を受け入れてほしいです。各年代が協力しあえる土壌を醸成していきたいです」 (5)今後の課題  今後の取組みとしては、床走行用リフトを導入してベッドから車いすへのノーリフティングケアを実現してさらなる負担軽減を図るとともに、70歳定年制の導入を視野に入れている。また、60歳の定年後においても定年前と同様に能力(職能基準)と意欲(行動基準)および職責に応じた処遇になるように、段階的でもメリハリのある賃金制度の整備を進めていく。  一方で、年齢に関係なく元気にいつまでも働いてもらえるのが一番という思いがある。介護の負担軽減のために新しいテクノロジーを入れながらも、まずは人と人とのコミュニケーションが円滑にとれることを大前提に、温かい雰囲気のなか利用者の笑顔あふれる施設づくりを目ざしていく。 写真のキャプション 施設全景・特別養護老人ホーム黎明館(写真提供:社会福祉法人恭敬会) 入浴介助機器のシャワーリフト(写真提供:社会福祉法人恭敬会) (左から)三木美枝子さん(62歳)、高瀬博子さん(67歳)、中村スミ子さん(66歳)、松尾一重さん(62歳) 【P44-47】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 独自の職場コミュニケーションを全社員が実践 地域に寄りそった長く働ける職場を提供 株式会社 ケイ・エフ・ケイ小川(おがわ)(熊本県宇城(うき)市) 企業プロフィール 株式会社 ケイ・エフ・ケイ小川 (熊本県宇城市) 創業 1991(平成3)年 業種 輸送用機械器具製造業(自動二輪・四輪ミッションギヤ製造、減速機部品製造等) 社員数 93人(2024年4月1日現在) 60歳以上 14人 (内訳)60〜64歳 7人(7.5%) 65〜69歳 5人(5.4%) 70歳以上 2人(2.2%) 定年・継続雇用制度 定年60歳。希望者全員70歳まで継続雇用。70歳以降は一定条件のもと年齢上限なく継続雇用。最高年齢者は76歳 T 本事例のポイント  株式会社ケイ・エフ・ケイ小川は、1991(平成3)年に株式会社ケイ・エフ・ケイの小川工場として操業を開始した。以来、旋盤機、マシニングセンターを使用した、金属部品・セラミック部品を切削加工する量産工場として発展。1997年に工場の分社化により株式会社ケイ・エフ・ケイ小川を設立。2018年に第2工場、2023(令和5)年に第3工場が完成するなど、着実に事業を拡大している。  同社では、「若年者への技術の継承」と「つちかったスキルの活用」を目的に高齢者雇用を推進。勤務時間の弾力化や作業負荷の軽減に取り組むとともに、60歳以降の適正な評価制度の導入により、貢献度や評価結果に応じた処遇を実現。60歳超の人材の採用も積極的に行っている。 POINT @「若年者への技術継承」、「つちかったスキルの活用」を目的に、2023年に希望者全員70歳までの継続雇用制度を導入。70歳以降も一定条件のもと年齢上限なく働ける環境を整えている。 A60歳定年後も、年齢にかかわりなく人事考課を行い、昇給・賞与に反映。やりがいを持って働ける環境づくりに努め、定着率向上を図っている。 B60歳以上の社員については、「所定労働時間の短縮」、「所定労働日の削減」を可能とするなど、個々の事情に応じた勤務時間の弾力化を図っている。 C社員全員を対象とする「報連相ふりかえり」、「改善報告書」、社内ルールに関する「シットクテスト」を毎月実施。これらの取組みは、職場環境改善や社員の能力向上、コミュニケーションの円滑化などにつながっている。 U 企業の沿革・事業内容  同社は1991年に、株式会社ケイ・エフ・ケイの小川工場として操業を開始し、1997年に小川工場の分社化により、株式会社ケイ・エフ・ケイ小川を設立した。「謙虚・機会平等・感謝」を経営理念とし、治工具・金型・自動車部品の製造、工作機械・切削工具・生産機器類の販売を行うケイ・エフ・ケイグループのなかで、自動二輪・四輪ミッションギヤ製造、減速機部品製造、半導体製造装置部品製造などをになっている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  60歳定年後の継続雇用者数は14人で、社員全体の約2割を占めている。70代が男女1人ずつおり、最高年齢者は76歳で、機械加工や製品検査を担当している。60歳以上では、当機構(JEED)の熊本職業能力開発促進センター(ポリテクセンター熊本)の受講生を2024年5月に1人採用しており、経験豊富な高齢者は若手へ技術を継承する役割もにない、即戦力として日々活躍している。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @継続雇用の延長  2018年に「定年退職者再雇用規程」を策定し、定年60歳、希望者全員65歳までの継続雇用制度を定めており、65歳以降は基準を設定し基準該当者を運用により継続雇用していた。  2023年に「若年者への技術承継(跡取り育成)」と「つちかったスキルを活かしてほしい」との思いから、継続雇用制度を希望者全員70歳までに改定した。これにより70歳までのライフプランが描きやすくなり、多くの社員が安心して働き続けられるようになった。 A賃金制度と人事評価制度  つちかったスキルを定年後も活かせるよう、定年前の業務を継続して担当してもらっている。契約更新の1カ月前に役員による面談を行っている。内容は健康状態の把握や職務形態の希望の確認だが、人事考課も兼ねており、その結果は賞与に反映している。継続雇用者に昇給はないが、職務内容が変わらないかぎり、再雇用時の給与の減額は行わない。  なお、継続雇用者については、規程上は賞与を設けていないが、社長の気持ちとして、賞与を支給することにしている。 B勤務時間の弾力化の推進  60歳以上の社員が勤務時間の弾力化を希望する場合、「所定労働時間の短縮」、「所定労働日の削減」が適用される。例えば、昼間は家業である農作業を行い、夜勤のみで働くといった対応も可能としており、現在3人が夜勤専属で勤務している。  また、有給休暇の取得推進に取り組んでおり、取得が少ない人については上長から取得をうながすなど、それぞれの事情に合わせた柔軟な働き方を導入することで、高齢社員が働き続けられる職場環境を実現している。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @社員の意識改革  グループ全体で以下の取組みを毎月実施し、社員の意欲や能力向上を目ざしている。 ▼社内のルールや規定を周知するため、毎月1回「シットクテスト」(「知って得する」の意)を実施している。基本的には調べれば正解が得られるようにつくられており、経営理念や就業規則、生産現場の知識なども問われる。過去の得点も含めて回答者全員の得点が公開され、その結果を賞与に反映させている。 ▼「報連相」に関連した15のチェック項目に加え、年度初めに各自設定した「部門目標」と「自己能力」のそれぞれについて自由記述式で回答する。回答は管理職以上の社員が全社員分の回答を読み、適宜コメントを残してフィードバックを行っている。この取組みは創業間もないころから行われている。 ▼毎月20日締めで社員全員から「改善提案」を受けつけ、業務の改善や職場環境の整備につなげる仕組みを整えている。多岐にわたる提案を受けつけており、提案者のなかから、特にすぐれた取組みを提案した5人を最優秀者として毎月選出している。 Aキャリア形成支援  会社主導のキャリア開発ではなく、社員の主体的なキャリア開発に向けて、会社が支援するセルフ・キャリアドックを導入。入社2カ月、1〜2年、5年、10年、20年、定年2〜3カ月前といったライフイベントごとに実施している。キャリアコンサルティングを受ける費用は会社が全額負担するなど、キャリアアップを全面的に支援している。 B技術承継  新規採用者は未経験者が6割を占めていることから、その指導役を高齢社員が務めている。メンターとなった高齢社員は、メンティーである新規採用者に対し、技術の伝承だけでなく、会社風土なども伝え、職場への定着を手助けしている。  資格取得や自己成長を支援する制度を整備し、講習受講・技能検定受講を奨励しており、社外講習やセミナーへの社員の派遣、法的資格(フォークリフトやクレーンなど)の資格取得などの受講費用は、会社が全額負担で実施している。資格取得を制度上奨励することで学ぶことに真摯に向き合う企業風土が醸成されている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業環境の整備  工場内で加工する製品は、「加工前」、「加工後」の2種類の高さに統一した台車で移動する。加工前のものは台車の低い位置で加工機器まで運ばれ、部品の入ったトレイを水平に移動して加工を行う。加工後の製品は加工前のものよりも高い位置に置かれ、高さを維持したまま台車にスライドし運搬できる仕組みになっている。この仕組みにより、重量のある部品や製品を上げ下げする工程が不要となり、高齢社員のみならず、工場で働くすべての社員の肉体的負担を軽減している。特に重量のある部品の加工に関しては、上げ下げを補助する「チェーンブロック」と呼ばれる機器を導入して対応しているほか、ロボット機器を導入し、重量のある部品をカメラによって自動で認識し、持ち上げ、加工機器へセットするといった一連の動作を自動で行っており、負担の軽減のほか、労働災害の防止に役立っている。  工場内は、加工用の工具から資材運搬のカートなど、すべてが整理整頓され、フロアにはそれら以外のものは置かれておらず、動線も広く確保されている。段差も皆無であり、移動の際につまずく恐れも少ない。また、清掃が徹底され、工場の床は、天井の照明が映り込むほどの清潔さが保たれている。さらに、改善提案書の仕組みによって、「通路に鏡を取りつけて、より進行方向を見えやすくする」といった提案がなされるなど、より安全な職場環境の整備につながっている。 A福利厚生の充実  全社員を対象として、毎朝礼時にその日が誕生日の社員を紹介し、社長が「誕生祝い金」を手渡ししている。  また、社内のサークル活動をはじめ、夏祭り、家族感謝のつどい、周年記念パーティーなど、全社員が参加可能な交流イベントを開催し、コミュニケーション向上を図っている。 (4)その他の取組み @地域貢献  工場敷地内の天然芝グラウンドを地域住民に無料で開放している。グランドゴルフや、サッカー、ドクターヘリの発着など、用途は多彩である。  工場緑化の継続推進により「2021年度緑化優良工場等経済産業大臣賞」を受賞している。また、宇城市有形文化財「塔(とう)の瀬石橋(せいしばし)」の維持管理活動(清掃、草取りなど)のほか、砂川下流域のシジミ生息状況調査(敷地内クヌギの落葉による腐葉土成分の河川プランクトンへの影響調査)に協力している。同社では地域貢献活動が、地域で暮らす社員への福利厚生につながると考えている。 A障害者雇用の推進  交通事故による中途障害の社員と、知的障害のある社員がペアを組んで一部製品の出荷作業を行っている。 (5)高齢社員の声  最高齢の内田(うちだ)親治(ちかはる)さん(76歳)は、今年で入社24年目を迎えた。「前職はスーパー勤務です。毎月の『シットクテスト』、『報連相』のふり返りはとても刺激になります。また、前職に比べ実績、数値に追われることなく仕事ができるのもありがたいですね。何か悪い点があれば報告して改善するという仕組みができており、安心して働けます。最高齢ですが、周囲にあまり気を遣われるとかえって困ります。こうして仕事を続けてこられたことは本当に幸せなことです」と話す。 (6)今後の課題  職場環境のさらなる改善に向け、エイジフレンドリー補助金※などを活用し、高齢社員を含むすべての社員にとって働きやすい環境の整備および充実化に向けて、今後も取り組む方針だ。同社の取組みは社外からも評価されており、熊本県が社員が活き活きと安心して働き続けることができる会社を認定する「ブライト企業」として認定されている。これからも、より上位の基準を満たす「プラチナブライト企業」の認定取得を目ざし、取り組んでいくという。 ※ エイジフレンドリー補助金……高齢者を含む労働者が安心して安全に働くことができるよう、中小企業事業者による高年齢労働者の労働災害防止対策、労働者の転倒や腰痛を予防するための専門家による運動指導等、コラボヘルス等の労働者の健康保持増進のための取組みに対して補助を行うもの 写真のキャプション 株式会社ケイ・エフ・ケイ小川 整理整頓された工場内の様子 改善前と改善後をわかりやすく示す改善提案書 最高年齢者で勤続24年目の内田親治さん(76歳) 【P48-51】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 定年を70歳へ引き上げ高齢職員を戦力化 短時間勤務制度でワークライフバランス向上も図る 医療法人 祐基会(ゆうきかい)(熊本県熊本市) 企業プロフィール 医療法人 祐基会 (熊本県熊本市) 創業 1996(平成8)年 業種 医療・介護サービス業 職員数 128人(2024年4月1日現在) 60歳以上 28人 (内訳)60〜64歳 14人(10.9%) 65〜69歳 10人(7.8%) 70歳以上 4人(3.1%) 定年・継続雇用制度 定年70歳。定年後は一定条件のもと75歳まで継続雇用。最高年齢者は79歳 T 本事例のポイント  職員128人中、60歳以上が28人と約2割を占めているほか、60歳を超えた人材の採用も行うなど、高齢職員の戦力化に努めている。病院と連携しながら、有料老人ホーム、グループホーム、訪問介護ステーション、居宅介護事業所など介護分野事業に注力していることから、経験豊富な職員も必要としており、他法人からの転職による新規雇用も実現させている。これには2022(令和4)年に定年を60歳から70歳へ引き上げたことが大きく作用しており、定年後も人事評価を行い、業務への貢献度で昇給を実施するなど、職員がやりがいを持って働ける制度づくりに取り組んでいる。また、高齢職員を対象とした短時間勤務制度の導入で、ワーク・ライフ・バランスの向上にもつながっている。 POINT @ボリュームゾーンである40代・50代の職員がより長く働き続けられるよう、2022年に就業規則を改定し、定年年齢を60歳から70歳に引き上げた。 A年齢にかかわりなく貢献度で評価して昇給。これによって、自らの役割を把握し、職場でどう貢献できるかを理解し、やりがいを持って働く職員が高齢層を中心に増えている。 B健康経営に注力しており、職員が心身ともに明るくやりがいをもって働ける職場づくりに取り組んでいる。 C高齢者雇用を「福祉」ととらえず、「戦力」として重視しながら、短時間勤務制度を導入したことで、ワーク・ライフ・バランスの満足度向上につながっている。 U 企業の沿革・事業内容  同法人の始まりは1963(昭和38)年、創業者である田代(たしろ)祐基(ゆうき)氏が田代医院(眼科・内科)を開設したところからスタートした。1976年に病院の増改築にあわせて帯山(おびやま)中央病院に改名、1996(平成8)年に医療法人祐基会を設立し、2000年にはデイケア施設を開設するなど、介護事業に業容を拡大。「地域に開かれた病院」をモットーに、外来では定期的な検査や診療を通じて、生活習慣病の予防や改善に力を注ぐ一方、訪問介護ステーションやグループホームなどの関連施設と一体となって、地域住民の心身の健康と幸せのサポートに邁進している。また、認知症の症状を改善するために開発された臨床美術(★)の活動でも知られている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  職員の年齢層に大きな偏りはないが、「ボリュームゾーンとなっている40〜50代の職員が長く働き続けられるようにしたい」という思いから、2022年に就業規則を改定し、定年年齢を60歳から70歳に引き上げた。  経営理念に「しあわせのおもてなし」を掲げ、患者や要介護者はもちろん、法人内で働く職員に対しても同様の姿勢を貫いている。病院経営のみでなく、付設する介護関連施設の業務に最近は特に力を注いでおり、現場では高齢職員が戦力になっている。そのため、高齢職員をはじめとする全職員が働きやすい職場環境の実現を目ざし制度改善などに努めており、この職員ファーストの姿勢が評価され、経済産業省と日本健康会議が共同で選定する、「健康経営優良法人(大規模法人部門)」に5年連続で認定されている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 @70歳定年制と継続雇用制度  定年を60歳から70歳へ引き上げた結果として、長期間働く職員が増加し、他法人からの転職による新規の高齢者の採用も実現。70歳定年後、法人が認めた場合は、75歳まで継続して働くことが可能であり、70歳以上の職員が現在4人働いている(すべて新規採用)。50代の職員からは「これまでは『60歳まで』と思っていたが、人生設計の幅が広がったと感じている」という声があがっている。 A短時間勤務制度の導入  55歳以上の職員については、申し出により健康状態を考慮し、「高齢者短時間勤務制度」の適用を受けることができるなど、多様な働き方が可能となっている。  同法人は、医療専門職がほとんどの職場であり、勤務形態は採用時に本人と話し合って、時間帯、勤務日数を決め、その後は本人の申し出によってあらためて話合いを行いながら勤務形態を決めている。特定のシフトのパターンを適用しているわけではなく、高齢職員の短時間勤務制度についても、特定の勤務時間数や時間帯を設けてはおらず、本人との話合いにより、勤務形態を決定している。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み @人事・評価制度  定年後も年齢にかかわりなく人事評価を行い、業務への貢献度で昇給を実施。やりがいを持って働く職員の増加につながっている。なお、賃金には月給制と時給制があるが、ある年齢で一律に切り替わるわけではなく、採用時の面談や本人の申し出により勤務形態とあわせて決めており、月給から時給、時給から月給への切替えを、年齢とはかかわりなく行っている。本人の働きたい意思を第一に尊重する方針のため、職員にとって働きやすい職場を実現する要因の一つといえる。 A技術・技能承継の仕組み  中途採用の高齢職員に対しては、若手職員と積極的なペアリングと相互メンター制度を実施。中途採用職員のなかには、看護・介護職から長い間離れていた人も多く、若手職員は最新の看護や介護方法、機器の操作などを、高齢職員は経験と知恵、場合によっては子育てのヒントなどを双互に教えあうなど、公私にわたるメンターとなって業務を実施することで技能継承を図っている。 B資格取得支援  資格手当の支給や、後述する福利厚生プログラム“ふれあう共済”に加入し、資格取得の受検料を補助している。長く看護・介護職を行っている高齢職員ほど、新たな資格取得に熱心だという。その結果、むずかしい資格を自主的に取る、勉強熱心な職場風土が実現している。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @健康管理・メンタルヘルス対策  すべての患者・入居者・利用者に心のこもった良質な医療・介護・福祉を提供するには、職員自身が健康であることが不可欠であることから、健康経営に注力。自社のウェブサイトにて、健康経営に関するおもな取組みや健康診断結果の平均データなども示しており、職員が心身ともに明るくやりがいをもって働ける職場環境づくりに励んでいる。  同法人の取組みは、健康保険協会熊本支部が認定する「ヘルスター健康宣言」企業として認定を受けている。 A労働災害防止対策  特に腰痛対策を重視し、形式的な体操やストレッチではなく、病理的・解剖学的な知見から、「腰痛予防/対策マニュアル」の冊子を作成し、いつでも確認できるよう各部署に設置。部署ごとで腰痛の発生起因が異なることから、マニュアルでは説明・実技を細かく記し、定期的な全体研修を実施するなど、効果的な腰痛予防に努めている。  また、入院患者の入浴時における介助作業の負担軽減のための機械浴を取り入れるなど、設備面からの対策にも取り組んでいる。 B女性特有の健康課題への対応  女性が多い職場であることから、女性特有の健康課題に配慮しており「生理休暇についても躊躇なく上司に申し出を」と職場で呼びかけ、積極的な取得につながっている。そのほか、更年期障害の悩みをもつ職員が、漢方専門医でもある理事長のアドバイスを受けるなど、職場における女性特有の健康課題について相談しやすい職場環境が醸成されている。 C生産性低下防止への配慮  睡眠障害を起因とする業務中の眠気に対し、呼吸器内科専門医への相談やSAS(睡眠時無呼吸症候群)検査を実施しているほか、眼精疲労に配慮したディスプレイなどの機器を整備している。 D定期健康診断以外の職員の健康管理  月1回の経営会議で各部から職員の心身の健康状態を報告してもらい、職員一人ひとりの状態をきちんと把握しつつマネジメントしている。状態によって勤務医への相談や専門医の紹介、外部カウンセラーとの面談を推奨しており、ときには適切な治療や生活指導、予防接種など、各人の健康管理を積極的に行っている。 E家族の介護や自身の健康ケアと仕事の両立  職員の家族の介護状況などについて、必要時にアンケートで確認に努めているほか、持病など、自身の病気の治療と仕事の両立に向けた定期的な面談を実施。特に病気と仕事の両立支援については、休職期間中や復帰後における相談窓口の設置や支援体制の構築(復帰を円滑にするための試行的・段階的な勤務制度の整備)、復帰する部門の上司に対する両立支援への理解をうながす教育・定期面談の実施など、綿密な計画のもと、取り組んでいる。 F休憩スペースの設置と活用  休憩スペースは職員の休憩や食事、スタッフ同士のコミュニケーションの場として機能しているほか、同スペースに小規模販売所を設置。病院で働く看護師などの専門職は、感染管理などの観点から制服での外出を禁止しており、以前は軽食や昼食を購入するために外出する際は私服に着替える必要があったが、設置後は院内で気軽に購入できるようになり、着替えのわずらわしさがなくなったと好評である。 G熊本市が設立した福利厚生制度「ふれあう共済」への加入  各種慶弔費の給付金から施設利用料の補助、旅行やテーマパークの割引きなど、さまざまな福利厚生サービスが提供されているため、人材定着や採用力の向上につながっている。 Hその他健康の保持・増進のための諸策  管理栄養士による栄養指導・相談窓口の設置や、健康アドバイスアプリの利用を推奨し、食事や運動、睡眠を自己管理できるよう周知しているほか、個別の状況やニーズに適した運動指導、健康イベントなどに取り組んでいる。 (4)その他の取組み @地域貢献への関与  医療機関として地域住民の健康を守るため、無床クリニックや介護施設で緊急に入院を要する際、即座に連携対応できる旨を定期的に周知している。また、地域イベントに参加して健康相談窓口を開設しており、骨密度測定、血圧測定などの健康チェックを行っている。  また、絵やオブジェなどを、手先を動かしつつ楽しみながらつくることによって脳を活性化させ、認知症の症状を改善するために開発された「臨床美術(クリニカルアート)」を積極的に取り入れており、病院内で展示しているほか、熊本市の中心部でも展示を行い、高齢者の認知症改善の一つの手段として、地域で広報を展開している。 A退職者向けアンケートの実施  退職者にはアンケートを実施し、雇用継続のために望ましい取組みについて調査している。 (5)高齢職員の声  相藤(あいとう)由美子(ゆみこ)さん(66歳)は、2010年に入職し勤続14年。ケアマネージャーとして、利用者やその家族に真摯に向き合いながら、現場の介護業務も兼務している。「利用者からの笑顔や『ありがとう』の一言がやりがいになっています。若手職員と高齢職員が互いの長所を活かしながら働いており、とてもよい職場です」と話す。  徳永(とくなが)博美(ひろみ)さん(72歳)は2023年に同法人に入職し、看護および介護業務を担当している。「人と接する仕事が好きですし、患者さんを少しでも手助けできたらよいなと思いながら働いています。上司や同僚のみなさんに相談もしやすく、働きやすい風土があります」と話す。 (6)今後の課題  70歳定年制の導入の背景には、理事長が「元気な人は年齢にかかわらずいつまでも働いてほしい」と考えていたことがあげられる。最近の高齢者は総じて元気で、定年退職したあと、すぐに次の仕事を探す人も多く、年齢で能力をくくることはできない。今後も風通しのよい組織を維持し、職員が活き活きと、末永く働いてほしいという思いがある。  また、「退職者アンケート」によると、福利厚生の向上を望む回答が多かったことから、休みやすい環境づくりに取り組んだうえでの有給休暇の取得の促進など、福利厚生制度のさらなる拡充に取り組むことを検討している。 ★「臨床美術」および「臨床美術士」は、日本における株式会社芸術造形研究所の登録商標です。 写真のキャプション 医療法人祐基会 職員の負担を軽減するため機械浴を導入 ケアマネージャーと介護業務を担当する相藤由美子さん(66歳) 看護・介護業務を担当する徳永博美さん(72歳)