シニア社員を活かすための面談入門 株式会社パーソル総合研究所 組織力強化事業本部 キャリア開発部 河野(こうの)朝子(あさこ)  長年の職業人生のなかでつちかってきた豊富な経験や知見を持つシニア社員。その武器を活かし、会社の戦力として活躍してもらうために重要となるのが「面談」です。仕事内容や役割、立場が変化していくなかで、シニア社員のやる気を引き出し、活き活きと働いてもらうための面談のポイントについて、人と組織に関するさまざまな調査・研究を行っているパーソル総合研究所が解説。今回が最終回となります。 最終回 シニアの活躍支援のために、知っておきたい「躍進行動」 本連載第1回から第5回の要旨をふり返って  第1回では、面談の目的・効果について取り上げました。シニア社員との面談は、定年前後の変化に際し、会社の期待と本人の希望をすり合わせ、さらなる成長を支援する場として重要です。期待や取組みが明確になることでシニア社員のモチベーションが高まり、仕事成果や組織全体の活性化にもつながります。多くの企業がシニア人材のモチベーションやパフォーマンスの低さを課題に感じていますが、面談は、まさにこれらの解決に有効な機会の一つです。  第2回のテーマは面談スキルでした。基本は、面談の目的を伝えること、相手を理解するための「傾聴」と「問いかけ」、こちらの理解と共感を示す「伝え返し」や「受けとめ」、期待やフィードバックは「提案」の形で問いかけることなどでした。そして、年長者への敬意を交えた上司自身の課題や悩みの「自己開示」の有効性にも触れました。いずれも、事柄だけでなく気持ちも含めた意思疎通を支えるスキルです。  第3回では、面談以前の留意点として、「シニアは面談不要」、「どうせ変われない」など上司側のバイアスと、「いまさら出しゃばるまい」といったシニア側の遠慮や思いこみが、相互理解を阻害しシニアを孤立させるリスクを問題提起しました。人間は、居場所を実感できる「社会的欲求」や「承認欲求」が満たされてはじめて高次の「成長欲求」を抱くものです。上司は、このような溝を埋めるためにも、相手をよく知り受け入れることから始めるとよいでしょう。  第4回では、再雇用・定年延長後の目標設定時の「内発的動機づけ」を扱いました。シニア社員がポストオフや年収変化など負の転機を乗り越えようとするとき、従来の“昇進・昇給”での外発的動機づけは働きません。それに替わる本人の興味や価値観と関連づけた仕事の「意味づけ」が不可欠です。開放的な対話の場づくりや挑戦意欲を引き出すことも意識したいポイントです。  第5回では、シニア社員の不安や不満を解消する行動を紹介しました。シニアのなかにはキャリアを語ることへの苦手意識や不安、年下上司の対応への不満を感じている人もいます。そのような印象をポジティブに転換し、面談を安心な場にすることが上司には求められています。特に重要な行動は、「話をしっかり聞く」、「キャリアに関する助言、気づきを与える」でした。「助言」は年下上司にとってむずかしいものですが、自身の上司やシニア社員と同じ経験をした人、知りたい情報の専門家に「つなぐ」ことも立派な支援です。組織全体での支援に目を向けていきましょう。  本連載の最終回では、活躍しているシニア社員の行動特性を紹介し、それをふまえて上司にできる支援について考えます。 活躍するシニアが行っている「躍進行動」とは?  株式会社パーソル総合研究所では、ミドル・シニア層(40〜69歳)の実態調査で、仕事上の成果をあげている人に共通する五つの行動特性を明らかにし、「躍進行動(PEDALモデル)」と名づけました(図表)。これは、この世代特有の停滞期や大きな転機のなかでも前向きに“自走”することを支える行動特性です。  だれしも、新しい役割や働き方を確立しようとするときに、何から手をつけてよいのかわからないことがあります。そんなとき、このような行動特性をヒントに、自分が得意なこと・できることから始めてみるのは、取り組みやすい方法です。また、ある種の「壁」を感じるとき、これらに照らして行動を点検し現状を打開するヒントとしてもよいでしょう。 「躍進行動」をふまえた上司の支援  上司が「躍進行動」を理解していると、シニア社員との面談でテーマとなるさまざまな支援に活かすことができます。まずは、本人の強みと感じる点を具体的に称賛しましょう。自分の強みに気づいていない人も多いので、それに気づかせさらなる実践をうながすことは、取り組みやすい支援です。他者からほめられることは、いくつになってもうれしいもので、モチベーションを直接高める効果も期待できます。参考までに、五つの躍進行動それぞれに関する支援例をあげておきます。 【まずやってみる】  シニア社員は、経験豊富であるがゆえに物事の苦労を想像しやすく、失敗を恥じて新たなことへのチャレンジを躊躇しがちです。相談しやすい環境を整え、小さな一歩から安心して挑戦できる仕事の機会を提供しましょう。 【仕事を意味づける】  自分にとっての仕事の意味を考える機会は意外と少なく、語る相手がいてこそ引き出されるものです。傾聴や問いかけで、本人がそれに気づけるようにかかわることは重要な支援です。 【年下とうまくやる/居場所をつくる】  多様なメンバーとの協業、本人の得意領域での若手相談役のアサインなどは、シニア社員が職場にとけこむ支援につながります。 【学びを活かす】  その人ならではの経験を傾聴し、称賛しながら強みを棚卸し、それらを異なる場面にも応用できるよう一緒に考えましょう。そのような対話は、老若男女問わず、相手の前向きな挑戦を引き出す根本的な支援といえます。 連載のまとめ  全6回にわたり、シニア社員に会社の戦力として活躍してもらうための「面談」のポイントを解説してきました。シニア社員一人ひとりを“成長し続ける個人”として信頼し、本人らしさを活かせる影響力発揮への期待を伝え、躍進に向けて支援するための貴重な機会として、ぜひ面談を活用しましょう。 ★本連載の第1回から最終回まで、当機構(JEED)ホームページでお読みいただけます。  https:www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/series.html 図表 五つの躍進行動(PEDALモデル) 躍進行動 〈まずやってみる〉 P:Proactive ・失敗をいとわず、試行錯誤しながら挑戦する ・新しい仕事や業務にも、先入観を持たずにやってみる ・過去の経験や自分のこだわりにとらわれない 〈仕事を意味づける〉 E:Explore ・自分にとっての意義や価値を報酬や肩書き以外の価値でとらえる ・全社最適、俯瞰した視点で自分の役割を理解している ・自らが価値貢献できることは何かを考える 〈年下とうまくやる〉 D:Diversity ・年下の上司とも、良好な関係を築く ・仕事を進めるうえで、相手の年齢にはこだわらない ・年下や後輩に教わることをいとわず、謙虚に学ぶ 〈居場所をつくる〉 A:Associate ・他部門や社外の人と積極的にコミュニケーションする ・多様な人と新たな関係をスムーズに構築する ・積極的に異なる意見や主張を周りから引き出す 〈学びを活かす〉 L:Learn ・経験したことを分析している ・応用が利くように仕事のコツを見つけている ・自分なりのノウハウに落とし込んでいる 出典:パーソル総合研究所・法政大学大学院 石山研究室「ミドル・シニアの躍進実態調査」(2017年)