“生涯現役”を支えるお仕事 第2回 「生涯現役」実現へ、企業の健康経営の取組みをサポート ウェルネスドア合同会社 代表 狩野(かりの)学(まなぶ)さん 看護師・ヨガトレーナー 水野(みずの)英美(えみ)さん  人生100年時代を迎え、多くの高齢者が長く働き続けることができるのは、高齢者の生涯現役を支えている人たちの活躍があるからともいえます。このコーナーでは、さまざまな分野や場面で働く高齢者、そして“生涯現役社会”を支えるお仕事をしている人々をご紹介します。  少子高齢化で働き手の不足が深刻化するなか、企業が経営的視点から従業員の健康管理を進める、「健康経営○R」※に注目が集まっています。今回は、健康経営に関するコンサルティング事業を展開するウェルネスドア合同会社代表の狩野学さん、同社専門スタッフとして活動する看護師でヨガトレーナーの水野英美さんに、健康増進や健康意識向上など、「生涯現役の実現」のカギとなる企業の取組みについて、お話をうかがいました。 健康教育は早い段階から企業の課題に応じたカリキュラムを作成 ―ウェルネスドア合同会社は、2019(令和元)年に法人化されていますが、狩野さんが起業された経緯、現在のおもな事業内容について教えてください。 狩野 当社創業の経緯としては、約15年前、私自身が20歳のときに、パーソナルトレーナーとして、一般の方やアスリートの健康管理、健康増進のための指導を始めたのが最初になります。その後、健康経営を推進する大企業、中小企業を認定する経済産業省の「健康経営優良法人認定制度」がスタート。企業での健康管理研修などのニーズが高まったことから、企業向けのサービスを開始し、法人化しました。  いまは、企業の健康管理室や健康保険組合とタッグを組み、健康増進に関するさまざまな研修や運動実技の企画、サービス制作をオンラインを含めて展開しています。 ―お仕事はどのような形で進めていらっしゃいますか。 狩野 私は、お客さまのオファーを受け、企画を作成して提案する作業を一日中しています。それぞれの企業の従業員の年齢や性別構成、健康診断の結果などに応じて、「うちの従業員には、こういう施策が必要」といったリクエストがあるので、その課題に応じたカリキュラムを作成し、必要な人材をキャスティングしています。 ―ウェルネスドア合同会社では、スポーツインストラクター、医師など健康分野の専門家計100人以上が専門スタッフとして登録。水野さんもその1人として活動されていますが、仕事内容を教えてください。 水野 私はずっと看護師ひとすじで働いてきましたが、いまはヨガインストラクターとパーソナルトレーナーを軸に仕事をしています。当社では、オンラインフィットネスなどを担当しています。肩こりや腰痛、膝の痛みや加齢によって出てくる症状などは、体の使い方によって予防・改善ができますので、そういったこともお伝えしたいと思っています。  そのほか、看護師としての知識を活かし、禁煙や禁酒、更年期障害についてなど、健康系のセミナーにもたずさわっています。 ―企業からのリクエストは、どのような内容が多いですか。 狩野 「生涯現役」というキーワードでのリクエストは非常に多いですね。生涯現役で働くためには、40代、50代ぐらいから健康教育を積極的に取り入れることが必要です。高齢になっても健康を維持できるよう、早い段階から取組みを進めようとするのが、企業や健康保険組合の基本姿勢です。会社によっては、毎年35歳の従業員に対し、健康管理研修などを行っているケースもあります。  やはりヘルスリテラシーが高い人と低い人とでは、生活習慣も日常の食品の選び方も、睡眠に対する意識も違います。従業員の健康習慣を変革し、高いパフォーマンスを保って、生涯現役で働いてもらおうとする意識が高まっているようです。 就業時間内で運動を!企業の取組みが日本の健康レベルを上げる ―高齢者が長く働いていくためには、「健康」がカギになるということですね。 狩野 高齢者の再雇用について見ると、パートタイムの肉体労働が多いという印象があります。関連会社やグループ会社がある大手であれば、高齢者に適した仕事を用意できるかもしれません。しかし地方の中小企業などでは、新しい労働力を集めるのがむずかしく、65歳以上の人でも、若手と同じ労働現場で働き続けることを期待されるケースも多くなります。  そういう状況のなか、自分の健康状態をいかに維持していくことができるか。それが生涯現役で働き続けるための重要なテーマになりますね。企業側、労働者側双方に健康に対する共通認識を持ってもらうため、橋渡しをするのが私たちの仕事で、そこに意義を感じています。 ―健康状態を維持していくため、オンラインフィットネスなどの効果について教えてください。 水野 スポット的ではなく定期的に、例えば週1回といった形で、オンラインフィットネスを行う場合だと、参加者の変化がとてもよくわかります。はじめのうちは、画面に自分を映さないようにしていた人が、積極的に手をふってくれたり、明らかに元気になって、表情が豊かになってきたり。運動することによって、表情や体の可動域、そして日常生活自体も変わっていくことに、喜びを感じます。ぜひ、もっとやってほしいという感覚があります。 ―企業の健康経営が、生涯現役社会の実現に果たす役割について、考えをお聞かせください。 狩野 自分がパーソナルトレーナーをしていたとき、お客さまとして来るのは基本的に健康意識の高い人たちで、本来一番かかわらなければならない「健康に無関心な人たち」へサービスが届かないことに、問題意識を感じていました。ヘルスリテラシーを高め、日本全体の健康レベルを高めていくためには、多くの人が所属する「企業」というコミュニティに情報発信することが必須だと強く感じています。  健康、運動に対する優先度の低い人は、自分ではなかなか取り組まないので、就業時間内に短い時間でも、健康体操などを導入し、文化として根づかせることが必要です。企業の経営者や担当者には、生涯現役の人を増やすための大事なコミュニティを運営されているという意識を持って、健康増進の施策を取り入れていただきたいですね。(取材・沼野容子) ※「健康経営○R」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。 写真のキャプション ウェルネスドア合同会社代表の狩野学さん(写真提供:ウェルネスドア合同会社) 看護師・ヨガトレーナーの水野英美さん(写真提供:ウェルネスドア合同会社)