【表紙2】 高年齢者活躍企業フォーラム 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム アーカイブ配信のご案内 高齢者雇用に取り組む、事業主や人事担当者のみなさまへ  2023(令和5)年10 月に東京で開催された「高年齢者活躍企業フォーラム(高年齢者活躍企業コンテスト表彰式)」、同年10 月〜 11月に開催された「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」の模様をアーカイブ配信しています。  本年度は企業において高齢者の戦力化を図るために関心の高い「職場コミュニケーション」、「ウェルビーイング」、「キャリア・リスキリング」、「評価・賃金制度」をテーマとして開催しました。  各イベントの模様を、お手元の端末(パソコン、スマートフォンなど)でいつでもご覧いただけます。  学識経験者による講演、高齢者が活躍するための先進的な制度を設けている企業の事例発表・パネルディスカッションなどにより、高齢者が活躍できる環境整備の必要性や今後の高齢者雇用について考えるヒントがふんだんに詰まった最新イベントの様子を、ぜひご覧ください。 各回のプログラムの詳細については、当機構(JEED)ホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/index.html 視聴方法 JEEDホームページ(トップページ)から 機構について→広報活動(メルマガ・啓発誌・各種資料等)→YouTube動画(JEED CHANNEL)→「高齢者雇用(イベント・啓発活動)」からご視聴ください。 または jeed チャンネル 検索 https://youtube.com/@jeedchannel2135 お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)高齢者雇用推進・研究部 普及啓発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 https://www.jeed.go.jp/ 写真のキャプション 上:高年齢者活躍企業コンテスト表彰式の様子 下:シンポジウムの様 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.105 AIの活用は雇用にプラス 高齢者の経験・知識によりAIの精度向上へ 慶應義塾大学商学部教授山本勲さん やまもと・いさむ 日本銀行勤務を経て、2007年慶應義塾大学商学部准教授、2014年同教授、2018年より経済学部経済研究所パネルデータ設計・解析センター長。専門は応用ミクロ・マクロ経済学、労働経済学、計量経済学。著書に『労働時間の経済分析:超高齢社会の働き方を展望する』(共著、日本経済新聞出版社)、『人工知能と経済』(共編著、勁草書房)など。  2014(平成26)年に英オックスフォード大学のマイケル・オズボーン氏らが公表した論文で、「約半数の仕事がAIに代替される」と発表されてから10年。AIはわれわれの仕事にどんな影響を与えているのでしょうか。今回は、AIが労働市場に与える影響について長年研究を行っている山本勲教授にご登場いただき、AIが雇用に与える影響、そして高齢者の働き方との関係についてお話をうかがいました。 AIによるタスクの変化は雇用面にプラスの影響を与える ―英オックスフォード大学のマイケル・オズボーン氏らが2014(平成26)年に発表した論文「雇用の未来」で、仕事の47%がAIに代替されると分析し、大きな衝撃を与えました。あれから10年が経過しましたが、仕事に及ぼすAIの影響はどう変化していますか。 山本 たしかにあの論文は研究者も驚きましたが、論文のおかげでAIの仕事への影響をしっかり研究しなければいけないという機運が生まれました。当初から「仕事を失う人が約半数というのは多すぎる」という見立てもあり、その後、OECD(経済協力開発機構)の研究者が同じやり方で研究した結果、異なる結果が出ています。  オズボーンたちは職業に注目し、同じ職業であればタスク、つまり業務内容も同じであると仮定していましたが、同じ職業でもタスクは異なります。それを加味して計算し直すと、大体10%前後の職業が置き換わることが示され、現在では半数という数値は高すぎるという見方が強くなっています。  私はAIが労働市場に与える影響について、10年間研究を進めてきましたが、市場に影響を与えるほど、AIは普及していないというのが実態です。AIの導入状況について、日本の労働者を対象に調査したところ、AIの導入率は6%程度で決して多くありません。しかも「職場に導入されている」と回答した人の雇用にもあまり影響はなく、10年前に世間で注目されたほどAIの影響は大きくないといえます。ただ、私が行った調査は2021(令和3)年までのデータです。2023年には、新たな技術として生成AIが注目されるようになりました。現時点では精度がそれほど高くはないこともあり、その活用方法については、まだ模索の段階にあります。使い方次第では、仕事への影響も少なからずあるのではないでしょうか。 ―AIは職業というより、タスクに影響を与えるという認識でよろしいでしょうか。 山本 同じ職業であってもいろいろなタスクがあります。例えば、定型的な業務がほとんどを占める職業はAIの影響を受けやすいといえますが、そういう職業は決して多くはありません。定型的な業務と、非定型的な業務が混在する職業がほとんどです。AIが得意とする領域は人からAIに置き換わるかもしれませんが、AIが苦手な領域は人がになう必要があるので、AIが導入されれば、働く人にとっては、AIが苦手とする領域の業務の比重が増えることになります。これを「タスクトランスフォーメーション」といいます。「タスクの高度化や変革」という意味ですが、AIに置き換え可能な業務だけをやっていた人は、そのままだと仕事を奪われてしまいますが、その業務をAIにまかせ、人にしかできない仕事に変えていくことが重要になります。おそらく多くの現場で、タスクトランスフォーメーションが起こると思います。 ―山本先生は、AIやロボティクスなどの新技術がもたらす労働市場への影響を調査する研究プロジェクト※の代表も務められました。研究で得られた知見を教えてください。 山本 このプロジェクトは、AIが雇用を奪うといったマイナスの影響ではなく、どんなプラスの効果があるのかを可視化することを目的としたプロジェクトです。ほかの先生方にも協力してもらい、いろいろなアプローチで研究を進めてきましたが、結論をいえば、AIなどの先進技術による雇用に対してのマイナスの影響はいまのところ少なく、むしろプラスの影響があることがわかっています。  先ほどお話ししたように、AIを使っている人ほどタスクトランスフォーメーションが起き、高度な仕事を多くになうようになります。その結果、創意工夫が必要なむずかしい仕事ではあるものの、賃金が高くなり、仕事に対するやりがいも高まります。また、そういった仕事ではストレスが少ないといった効果も生まれています。労働者個人の主観的生産性の指標を見ても、生産性が上がったと感じるなどポジティブな影響も出ています。  東京大学の川口(かわぐち)大司(だいじ)先生が行ったロボティクスの研究では、かつて日本で産業用ロボットが導入され普及した際には、配置転換などによって人材の有効活用が進み、むしろ雇用が増えていたことがわかっています。その背後には、タスクトランスフォーメーションがあったと考えられ、日本ではテクノロジーの進化が雇用にプラスの影響を与えうることが見えてきました。 AIを駆使することでストレスの低減や仕事のやりがいにつながる ―AIを駆使することで雇用以外にもストレスの低減や仕事のやりがいにもつながるというのは驚きです。そのことは心身の機能が低下していく高齢者の仕事や働き方にもプラスの影響を与えるのでしょうか。 山本 肉体的、身体的な衰えをサポートしてくれるAIを組み込んだ機械などが登場して、いままで以上に働きやすくなる側面はあるでしょう。ですが、むしろ私が期待しているのは、高齢者のこれまでの経験や知識を活かす仕事です。生成AIなどはいかにももっともらしい答えを出しますが、じつは間違った回答をすることも結構あります。しかしそれが本当に合っているのかどうかは、その業界や業務に精通し、知識や経験が豊富な人でなければ判断できません。高齢者は、その判断を行ううえで貴重な人材になり得ると思います。例えば、生成AIはこれまで人がやってきたことをパターン化し、答えを導き出しますが、これまでの経験に照らし合わせてどう違うのかを目利きができる人がいないと安心して使えません。こうした場面でこそ、高齢者が価値を発揮できるのではないかと思います。  間違いを正すことでAIの精度は上がっていきます。経験豊富な高齢者が「この答えはダメです」と、ダメ出しをしてあげると、AIは別の答えを出そうとくり返し学習していきます。若い人だけだと、何が正解かわからないことがあり、AIが出した答えを鵜呑(うの)みにしてしまい、よい結果につながりにくい場合もあります。高齢者がかかわることでAIの学習スピードが高まり、それが生産性の向上につながっていくのです。 ―AIを使った省力化ロボットが次々に登場すれば、身体的にも楽になりますね。 山本 ニーズ次第ですが、特に人手不足の分野では、そうしたロボットが当然増えてくると思います。医療・介護分野では、人を抱えたり持ち上げたりするための機械がすでに導入されていますが、AIを使うことで要介護者の反応を見ながら操作できるように改善されていくでしょう。直接的な体を使う仕事以外でも、AIが得意なシフトを組む作業や日誌をつけるといった関連業務が自動化されていけば、人手不足の現場にとっては省力化に貢献できると思います。また、介護や看護の仕事は資格が必要になりますが、資格を必要とする専門業務以外の部分を切り離し、その部分で高齢者に働いてもらうこともできます。専門業務とそれ以外の仕事を切り分けることで、70歳を過ぎてもいろいろな場所で働く機会が増えてくると思います。 AIを恐れずに「使う」姿勢が専門スキルの習得以上に重要となる ―その一方で、高齢者もAIやデジタルに関するリテラシーが必要になるのではないでしょうか。 山本 当然、リテラシーがあるにこしたことはありませんが、大事なことはAIに脅威を感じたり、「まったく自分には関係のないものだ」と思わないで使ってほしいということです。みなさんが日ごろから使っている、インターネットの検索機能にしても、見方を変えればAIになるわけです。どういう場面でどのように使えるのか、自分の仕事に適用できることを探っていくようなリテラシーで十分だと思います。業務の効率化、付加価値の創出という視点を持ってAIの使い方を考えることが重要です。また、ユーザーフレンドリーを高める工夫も進んでいます。今後は会話形式でAIがいろいろな答えを出してくれるなど、それほどAIの知識がなくても、使いやすく進化していくことでしょう。だからこそ、AIに苦手意識を持たずに「問題なく使える」と思うことが何より大切だと思います。 ―プログラミングなどの専門技術を学ぶ必要はないでしょうか。 山本 あまり必要ないと思います。AIがどういうところで活用されているかなどの事例を知ることがむしろ重要です。これは企業も同じです。生成AIにしても恐れることなくまず使ってみる。使ううちにどこに問題があり、どのくらいの精度があるのか、あるいはどこに使えるかがわかってきます。「むずかしそうだから」とあきらめずに、つねに新しい技術に対してアンテナを高くして使っていくことが、生産性向上につながっていくと思います。 (インタビュー/溝上憲文 撮影/中岡泰博) ※ 国立研究開発法人科学技術振興機構 RISTEX-HITE 研究プロジェクト「人と新しい技術の協働タスクモデル:労働市場へのインパクト評価」 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のイラスト 古瀬 稔(ふるせ・みのる) 2024 February No.531 特集 6 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム〜開催レポートT〜 10月12日開催「人的資本経営における職場コミュニケーション〜Z世代からポスト団塊世代まで」 10月19日開催「女性社員のウェルビーイング向上〜エイジレスなキャリアと健康支援」 10月12日開催 7 総論 シニア層の活躍を推進するためのコミュニケーション五つの課題 株式会社健康企業 代表、医師、労働衛生コンサルタント 亀田高志 8 発表@ 組織を機能させるためのコミュニケーション施策の設計―株式会社物語コーポレーションの事例から― 株式会社ビジネスリンク 代表取締役、株式会社物語コーポレーション社外取締役 西川幸孝 10 発表A 年上部下の活躍を支援する上司力○R 株式会社FeelWorks代表取締役、青山学院大学兼任講師 前川孝雄 12 発表B 働く人の多くが悩む「人間関係」 適切なコミュニケーションのポイントとは WorkWay株式会社 取締役会長、CEAP、MRI、一般社団法人国際EAP協会日本支部 理事、NPO法人メンタルレスキュー協会 理事 西川あゆみ 14 パネルディスカッション 人的資本経営における職場コミュニケーション〜Z世代からポスト団塊世代まで 10月19日開催 18 総論 女性も、そして誰もがイキイキと働ける風土へ さんぎょうい株式会社 代表取締役社長 芥川奈津子 20 発表@ 誰もが働いて輝ける職場にするために〜丸井グループのウェルビーイングの取り組み〜 株式会社丸井グループ 取締役CWO(Chief Well-being Officer)、専属産業医 小島玲子 22 発表A 個人差を考慮した働き方を設定し70歳超の人材も活躍〜株式会社東急ストアの事例から〜 株式会社OH コンシェルジュ 代表取締役、産業医 東川麻子 24 講演 組織における課題 株式会社健康企業 代表、医師、労働衛生コンサルタント 亀田高志 26 パネルディスカッション 女性社員のウェルビーイング向上〜エイジレスなキャリアと健康支援 1 リーダーズトーク No.105 慶應義塾大学 商学部教授 山本 勲さん AIの活用は雇用にプラス 高齢者の経験・知識によりAIの精度向上へ 30 高齢者の職場探訪 北から、南から 第140回 鹿児島県 株式会社渡辺組 34 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第90回 魚河岸トミーナ スタッフ 土井スズ子さん(98歳) 36 多様な人材を活かす 心理的安全性の高い職場づくり 【第4回】心理的安全性をつくる3ステップ 原田将嗣/石井遼介 40 知っておきたい労働法Q&A《第69回》 定年制の変更について、社有車の盗難による事故とその責任 家永 勲 44 “生涯現役”を支えるお仕事 【第3回】シニアのお仕事探し最前線!「生涯現役」に寄り添う就職支援アドバイザー 東京しごとセンター シニアコーナー 就職支援アドバイザー 白井 弘さん、内野貴世子さん 46 いまさら聞けない人事用語辞典 第43回 「タレントマネジメント」 吉岡利之 48 日本史にみる長寿食 vol.363 平安文化を支えた牛乳 永山久夫 49 心に残る“あの作品”の高齢者 【第9回】小説『あん』(著/ドリアン助川 2013年) 事業創造大学院大学 事業創造研究科 教授 浅野浩美 50 労務資料 令和5年6月1日現在の高年齢者の雇用状況等 厚生労働省 職業安定局 高齢者雇用対策課 56 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテストのご案内 58 BOOKS 59 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.336 奥深い着物の美を追求 若い世代に引き継ぐ 衣装着付師 鈴木由喜枝さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第80回]類義語・対義語 篠原菊紀 ※連載「江戸から東京へ」は休載します 【P6】 特集 生涯現役社会の実現に向けた シンポジウム 〜開催レポートT〜 ▼10月12日開催「人的資本経営における職場コミュニケーション 〜Z世代からポスト団塊世代まで」 ▼10月19日開催「女性社員のウェルビーイング向上〜エイジレスなキャリアと健康支援」  当機構(JEED)では、生涯現役社会の普及・啓発を目的とした「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」を毎年開催しています。2023(令和5)年度は、企業の人事担当者のみなさまにとって特に関心の高いテーマごとに全4回開催し、学識経験者による講演や、先進的な取組みを行っている企業の事例発表・パネルディスカッションなどを行いました。  今号では、2023年10月12日に開催された「人的資本経営における職場コミュニケーション〜Z世代からポスト団塊世代まで」、同10月19日に開催された「女性社員のウェルビーイング向上〜エイジレスなキャリアと健康支援」の模様をお届けします。 【P7】 10月12日開催 総論 令和5年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「人的資本経営における職場コミュニケーション〜Z世代からポスト団塊世代まで」 シニア層の活躍を推進するためのコミュニケーション五つの課題 株式会社健康企業代表、医師、労働衛生コンサルタント 亀田(かめだ)高志(たかし) さまざまな課題の解決に向けた人的資本経営と職場コミュニケーション  「人的資本経営」とは、「人材を『資本』としてとらえ、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値の向上につなげる経営のあり方」と定義づけられています。  今後の社会を展望し、これから注目される「人材=資本」として、@若手・Z世代、Aシニア層(ポスト団塊世代など)、B女性活躍、C障害者雇用、D外国人の活用が考えられます。  しかし、若手については、少子化にともなう人材不足に加え、早期離職や入社後の病気休業などが多くの職場で課題になっています。一方、シニア層では、労働災害の増加、心身の機能低下に加えて継続雇用などの場合にモチベーションが低下するといった課題が生じています。  また、さまざまな相談を受けるなかで感じていることですが、現代は孤独で孤立した人が増えており、シニアは夫婦関係や親の介護などさまざまな課題を抱えるのですが、相談する相手がいない、といった状況もみられます。  これらの課題について、本シンポジウムでは解決策やその糸口を3人の先生方にご紹介していただきます。そのカギとなるのが、職場コミュニケーションではないかと思います。 シニア層の活躍を目ざすときの職場コミュニケーションの課題  シニア層の活躍を目ざした職場コミュニケーションに関して、実際にはさまざまな課題があります。  一つめは、シニアの活用に向け、経営者やトップがどのような理解のもとに社内外に言葉を発しているか。  二つめは、社内に周知される職場コミュニケーションのあり方として、だれが、どのような意図でワーディング※を工夫しているか。  三つめは、コミュニケーションを行う組織が、権威主義的で、縦割りや上意下達が徹底される構造か。あるいは、機能的でフラットな組織か。  四つめは、中高年以降、キャリアダウンになるときに、それを可視化しているか。人事部門が従業員による対処を、どのように伝え、支援しているか。  五つめは、社会的な意義や貢献をともに目ざすためのコミュニケーションなのか。あるいは、競争による相対評価(成果主義)を推し進めるコミュニケーションなのか。  では、ここから先生方のお話に移りたいと思います。 ※ワーディング……言葉づかい、言い回しを統一すること 【P8-9】 10月12日開催 発表@ 令和5年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「人的資本経営における職場コミュニケーション〜Z世代からポスト団塊世代まで」 組織を機能させるためのコミュニケーション施策の設計 ―株式会社物語コーポレーションの事例から― 株式会社ビジネスリンク代表取締役、株式会社物語コーポレーション社外取締役 西川(にしかわ)幸孝(ゆきたか) 目的意識を持ってよいコミュニケーションを設計する  私はおもに、人事労務のコンサルティングを仕事としています。また、本日の事例としてご紹介する「株式会社物語コーポレーション」の社外取締役も務めています。  物語コーポレーションは、「焼肉きんぐ」などを中心に国内外19ブランドで、直営およびフランチャイズ方式による外食事業を展開しています。好業績かつ持続的に成長しており、店舗は国内直営で405店、連結売上高は900億円台(2023年6月時点)となっています。設立は1969(昭和44)年と歴史は古いのですが、現在も成長を続けており、従業員の平均年齢は33歳ほどの若い組織です。そして、コミュニケーションや人材の活性化について、特徴ある取組みを実践しています。  はじめに、組織集団と人間について、進化心理学的観点からみた私の考え方を説明したいと思います。人間は、狩猟採集時代と現代でも大差はなく、集団形成本能を持っています。また、人間の行動の多くは、論理的思考よりも情動・感情によって引き起こされ、それは本能のメカニズムに規定されるという原則があります。つまり、集団と人間は、影響を与え合うという側面があり、集団が成立すると、人間は基本的に集団のオペレーションやルールに従い、そのなかで自身の役割を果たそうとします。また、組織内のメンバーへの協力、有能者の模倣、未熟者への教示などの行動もみられます。  そして、集団形成とコミュニケーションは密に関連しており、コミュニケーションがうまくとれることが、その集団がうまく機能することにつながっているといえます。  コミュニケーションがうまくとれていると、孤独が緩和されます。じつは、孤独が極まっていくと人間の能力が下がっていくという研究結果があり、良好なコミュニケーションは、能力や生産性の向上に直結すると考えられます。一方で、集団形成がうまくいかないと、会社組織よりもインフォーマルな組織が優勢になり、集団内で役割を果たすことで成長するという機会も減少します。  企業活動でよい結果を出したいなら、目的意識を持ってよいコミュニケーションを設計する、という考え方が重要になってきます。 成長企業で実践されているコミュニケーション施策  物語コーポレーションでは、経営理念に「Smile&Sexy」を掲げています。これについては、明確な定義があるわけではないのですが、いろいろな推奨行動を定めています。  「Smile」の推奨行動は、個の尊厳を尊重する、他者と向き合い個と個の関係性をつくるなど、いわば社会性のある行動をしよう、ということです。「Sexy」の推奨行動は、自分の意見を表明すること。つまり、意見の相違があればしっかり議論をしていこう、という文化です。ここには自己開示や自己表現といった、自分らしさをアピールすることも推奨行動に含まれます。  そして、「『個』の尊厳を『組織』の尊厳より上位に置く」、「『個』の多様性を重視し尊重する」ことを宣言して、これらを実現するためにさまざまな取組みを行っています。そして、「人財力が成長エンジン」という認識のもと、まさに人的資本経営を実践している会社です。  人間集団である企業が価値を生むためには、組織メンバーが生命体として活力を持ち、個の力を伸び伸びと発揮することが、その要件であるという考え方です。  コミュニケーション施策の事例として、社員間については、「遠慮のない徹底した議論」を行っています。また、「トップが社員や求職者に向き合って発信する」、肩書きで呼び合わずに「さんづけで呼ぶ」ことなどを実践しています。社長に対しても「さん」づけです。  それから、「目標、なりたい自分の開示」、リアルイベントの開催、コロナ禍ではWEBや社内SNSを活用し、いろいろなレベルで交流が深まるような仕組みを模索して行いました。また、法違反などを通報するヘルプライン「物語あんしん相談室」とは別に、いろいろな相談ができる機能を備えた相談室を開設しています。  お客さまに対しては、「明るく元気に」を基本として、「カジュアルで自然体な接客」、「おせっかい」といった姿勢をモットーとしています。  また、ダイバーシティ&インクルージョン宣言を行い、そのなかでシニアの活躍推進や、パートナー(短時間社員)活躍推進についても明記しています。  このような理念を追求した結果、非常に業績がよく、コロナ禍の2020(令和2)年6月期を除くと、17年連続で増収増益となっています。また、セクシュアルマイノリティへの職場での取組みを評価する「PRIDE指標2022」※1で最高評価のゴールドを受賞し、ゴールドの受賞は4年連続となっています※2。そのほか、数年前に役員と社員の適性検査(SPI)を任意で実施したのですが、日本の大手企業などでは幹部社員はほとんどが「従順性が高い」という結果になるとのことですが、当社では逆で、従順性は低く、「批判性が高い」という傾向があることもわかっています。 理念や行動規範を定着させるにはくり返し実践すること  人は、行動や体験を通して、外部に存在する理念や行動規範を内面化していきます。組織メンバーに内面化されていない理念や行動規範は、言葉だけに終わりますので、理念や行動規範、共通認識などを定着させるには、くり返し実践することが必要であると強く思います。  そして、組織が機能するためには、メンバー間のコミュニケーションが正常に行われていないと非常にむずかしいと思います。立場を超えて、何気ない会話が自然に行われている状態が、その土台になると私は思います。  また、これは問題提起ですが、上司に求められて行う義務感からの「報・連・相」は、上司への忖度や、標準化の遅れの要因となり、自然なコミュニケーションの障害にもなることもあるので、「報・連・相」のあり方について、しっかりと議論・検討する必要があるのではないかと思います。 ※1 PRIDE 指標……職場におけるセクシュアルマイノリティへの取組みの評価指標 ※2 本シンポジウム開催時点。2023年もゴールドを受賞し、外食産業で初となる「レインボー」の認定も獲得した 【P10-11】 10月12日開催 発表A 令和5年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「人的資本経営における職場コミュニケーション〜Z世代からポスト団塊世代まで」 年上部下の活躍を支援する上司力○R 株式会社FeelWorks(フィールワークス) 代表取締役、青山学院大学兼任講師 前川(まえかわ)孝雄(たかお) 多様な人を活かすための経営改革が求められている  株式会社FeelWorksの前川と申します。当社は、企業の人材育成をお手伝いする会社で、2008(平成20)年に「人を大切に育て活かす社会創りへの貢献」を志に掲げて創業しました。  特に重視しているのが、「上司力○R」(★)です。人材育成や活躍支援ということでは、上司の力が欠かせないと考えており、そのことを「上司力」という言葉に込めて、商標登録をして発信しています。  また、人材育成を通じて蓄積されたノウハウをまとめた本を出版するとともに、13年前から青山学院大学で教鞭をとっており、Z世代とのふれあいも毎週あります。  本日は、人的資本経営の本質から、年上部下と年下上司のコミュニケーションのギャップ、そして、求められる上司力についてお話ししたいと思います。  私は、起業以前に勤務していた株式会社リクルートでの編集長経験も含めて30年以上、現場で「求められる上司」や「求められる経営」について探究し続けてきました。そしていま、人的資本経営は、時代の必然であると感じています。  日本は、生産年齢人口が減少している一方で、就業者数は増えてきています。シニア世代がより長く働くようになってきていることと、出産・育児の時期の女性の就業者が増えてきていることが背景にあります。  しかし一方で、就業者一人あたりの労働生産性がOECD加盟38カ国中29位(2021〈令和3〉年)と低く、人を活かしきれていないという大きな問題があります。この問題と向き合う経営が求められています。  旧来型の日本企業、特に大企業は、昭和の時代に組織モデルができたので、20代から50代ぐらいまでの男性中心の労働力に頼ってモデルができあがったと思います。しかしこれからは、シニアの方々や、さまざまなライフイベントと仕事を両立される方々など、すべての方が活躍する、真に人を活かす経営改革が求められているということが、人的資本経営が求められている本質だろうと思います。 年上部下と年下上司のコミュニケーションギャップ  研修などで企業に行くと、年下上司の方々からいろいろな悩みを聞きます。例えば「30代後半で、抜擢されて管理職になり、昇進に合わせて部署を異動して、畑違いの仕事を任されるようになった。自分だけ仕事をわかっていないうえ、現場には経験豊富な4人の部下がいて、そのうち2人が年上ですごく気をつかう。その様子を見られていると思うと、若手にも気をつかう」。そんな人間関係の悩みがすごく増えてきています。  これは一過性の問題ではなく、若者が少なくシニアが多い職場が一般化しつつあるので、上司と部下の年齢逆転は、今後さらに広まっていくでしょう。  年下上司が悩みがちなこととして、自分の元先輩、元上司が部下になった場合、マネジメントがしづらいということがあります。「年上の方は、やり方にこだわりがあり、年下上司のやり方についてきてもらえない」というのです。  一方で、年上部下の方々からは、「年下の上司が気に入らないというのではなく、自分の経験に基づいて、よかれと思って仕事の提案や、やり方にこだわっている」といいます。こうした問題は、あちこちで起きているのではないでしょうか。  ある研究によると、若者とミドル・シニアとではモチベーションの源泉が異なるそうです。若いときは資源の獲得、つまり知識やスキルを吸収することがモチベーションになります。一方で、ミドル・シニアは資源損失の最小化、いわゆる守りに入る′X向が強まるわけです。こうした事情を、年下上司がしっかりと理解し、一方で、時代や環境、職場の変化をしっかり伝えて、「一緒に変わっていきましょう」というコミュニケーションをとることが大事になってきていると思います。  また、年上部下の方々が、役職定年や定年後再雇用になって給料も下がり、「仕事に対してモチベーションが下がっているのでマネジメントがむずかしい」という年下上司の悩みもよく聞きます。ただ、シニアの方々にインタビューをすると、「社内での昇進・昇給が望めなくなり、これからの人生の目標やキャリアの目標を見失っている」ということもうかがえます。  大切なのは、役職定年や定年はキャリアの節目・通過点であって、以降もシニアの方のキャリアは続いていくということです。ですからそれを「一緒に考えましょう」という視点を持ってコミュニケーションを行っていくことがとても大事になっていると思います。  そういう意味では、旧来型の組織で求められた画一的な価値観のもとで働く職場から、多様な価値観を持つ人がともに働き助け合っていく職場へ変化し、ダイバーシティマネジメントが求められています。そのなかでコミュニケーションがとても大事な時代になってきているということです。 管理職から支援職へ求められる上司の未来像  そこで求められる上司力として、「年下の上司が、年上の部下の心を動かす」ことが大切だと思います。そのカギは「働きがい」です。職位や給与はもちろん大切ですが、働く喜びを感じられる状況をいかにつくっていくか、このことが大事なのだと思います。  組織づくりでは、従来の「ポスト」と「報酬」で動機づけするピラミッド組織から、個々を尊重して動機づけをしていくこと、@違いを認め、A価値観を知り、Bあり方を定め、Cやり方を変える、というコミュニケーションの循環を意識したサークル型の組織づくりが求められていると考えています。  私の考える上司力の定義は、「部下一人ひとりの持ち味をふまえて仕事を任せ、育て活かし、共通の目的に向かう組織の力を高め、個人では達成できない結果を導き出すこと」。そのためには、誤解を生まないようなコミュニケーションが大切になります。  「管理職」という言葉を日本の企業はもう卒業し、多様な部下の活躍を支援する「支援職」に変わっていくことが、上司の未来像だろうと思います。 ★「上司力○R」は株式会社FeelWorksの登録商標です。 【P12-13】 10月12日開催 発表B 令和5年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「人的資本経営における職場コミュニケーション〜Z世代からポスト団塊世代まで」 働く人の多くが悩む「人間関係」 適切なコミュニケーションのポイントとは WorkWay株式会社取締役会長、CEAP、MRI、一般社団法人国際EAP協会日本支部理事、NPO法人メンタルレスキュー協会理事 西川(にしかわ)あゆみ 悩み相談の第1位は「人間関係」睡眠の問題も多く見られる  本日は、私の経験をもとに、人的資本経営における職場のコミュニケーションについてお話ししたいと思います。いま私の仕事に特に役立っている資格が、「国際EAPコンサルタント(CEAP)」と「メンタルレスキューインストラクター」です。「EAP」は、従業員支援プログラムという、アメリカで生まれた、労働者が働き続けるための支援や支援体制をコンサルティングする仕事です。  私は外資系の人事、内部EAPを経て、2003(平成15)年から外部のEAPとして企業の支援をしています。大きくは相談支援という仕事ですが、EAP業務では、約900社のお客さまから、予約をベースにしたカウンセリングを求める方々の支援をしています。ほかに自治体の仕事で、メンタルヘルス相談、虐待やDV、自殺予防対策の相談を受ける支援もしています。また、『クライシス・カウンセリング』という本を発行しており、非日常を経験するような職場をどのように支援するかという、特殊なノウハウの領域の仕事も行っています。  人に支援を求めるスタイルの特徴には、Z世代(現在25歳以下)とポスト団塊ジュニア世代(現在42〜48歳)の方々とでは違いが見られます。  ポスト団塊ジュニア世代は小・中学生のとき、「体調が悪いな」と思ったときなどにどうしていたかというと、保健室に行って相談をしていました。ではZ世代はどうかというと、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーという専門家が学校にいる環境で育ってきた世代で、社会人となってからはいろいろな方に相談しながら、ある意味ではアクティブに自分に合った相談の入口を探していくというスタイルのように思います。  また、ポスト団塊ジュニア世代には、「疲れてどうにもならない」というぐらいになって、はじめて人に助けを求めることが特徴的であるのに対し、Z世代は、「おかしいな」と感じた時点で、いろいろなところにリーチアウトして相談していきます。そういった世代間の違いもあると感じています。  職場や組織で働く人の相談という切り口では、相談内容の第1位は人間関係です。私が2003年に外部のEAP相談窓口として活動し始めてから、この1位は変わっていません。「ハラスメントに悩む」などというよりは、「遠慮や配慮しなくてはいけないことが多く、いいづらくて悩む」というような、さまざまな人間関係の悩みというのがあります。  働いているポスト団塊ジュニア世代とZ世代の共通項目として、なんらかの形で睡眠が関係していることが多くあります。若い方は体力もあるので、少しくらい寝ていなくても大きな変化を感じないことが多いのですが、深刻な悩みを相談に来る若者の場合は十分に寝られていないと感じることがあります。ポスト団塊ジュニア世代は、「睡眠時間を削ってでも働く」といった場合もありますが、「睡眠不足は脳の疲労」ともいわれるように、疲労が蓄積されてくると人間関係にも影響します。「人間関係の相談が一番多い」と先ほど説明しましたが、一方で、体力が回復すると、人間関係が改善することもあります。 一人の問題行動が大きな影響を及ぼすこともグループ支援、組織支援も重視  「健康優良企業」という言葉が生まれ、一人ひとりの生産性向上やハラスメントの防止、休職者を減らそうという取組みをする企業が増えています。相談を受けていると、「一人の社員の問題行動が組織に大きなインパクトを与える」というケースがあります。一人の問題行動が組織の分断につながり、それが原因となりほかの休職者が出たり、業績も上がらないことがあります。  こうしたケースをEAPで支援するケースもあるのですが、一人の問題行動が組織や職場に大きな影響を与えるケースでは、個人支援だけではなく、グループ支援、組織支援の三つの領域で支援を行い、そこで働く人たちを、どう活き活きと機能させていくか、というお手伝いをすることが多くあります。  また、EAPを導入している企業に目を向けると、事業場外の資源の相談窓口を設けている企業はあるのですが、働いている人への投資≠ニいう側面で見ると、決して多いわけではありません。一方で、私がかかわることの多い外資系の会社では、こうした部分にしっかりと投資をしており、相談窓口の利用率も高いなどの傾向があります。投資効果についてはいろいろな統計がありますが、会社の成長のステージに合った投資の仕方や働く方の支援の仕方を実施するのがよいかと思います。 疲労をコントロールして必要なコミュニケーションを  職場で重要なコミュニケーション、対話としては、まず仕事の「インプット」、次に仕事の「プロセス」、そして仕事の結果に対してどんな「アウトプット」があり、それに対してどんな「フィードバック」が組織や個人にかかっているのか、適切なサイクルの維持が大切です。「部下は期待通りの仕事ができているか、いないか」の問題は、75%がインプットにあるといわれています。「わかりやすく正確な指示が出せているか」は、上司と部下の対話で生じやすい大きな課題の一つといえます。  そのほかに、「職場環境・制度」がパフォーマンスに影響を与えることもあり、それぞれの社員が抱える「個別事情」もあります。先ほどの「インプット」、「プロセス」、「アウトプット」、「フィードバック」と合わせて、この六つの点でしっかりとコミュニケーションをとっていくことが重要です。  最後になりますが、相談に来られる方のなかには、「さまざまな準備をして、しっかり体制を整えているのにうまくいかなかった」という方もいます。そういう方のお話を聞いていると、なんらかの疲労があることが多いのです。体力の疲労はわかりやすいのですが、気持ちや感情、脳の疲労はわかりにくいですね。そういう意味では、自分のメンタルの状況を把握するとともに、しっかりと疲労をコントロールして、必要なコミュニケーションを確実に行っていくということが大事だと思います。 【P14-17】 10月12日開催 パネルディスカッション 令和5年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 人的資本経営における職場コミュニケーション〜Z世代からポスト団塊世代まで コーディネーター 株式会社健康企業 代表、医師、労働衛生コンサルタント 亀田高志氏 パネリスト 株式会社ビジネスリンク 代表取締役、株式会社物語コーポレーション 社外取締役 西川幸孝氏 株式会社FeelWorks 代表取締役、青山学院大学兼任講師 前川孝雄氏 WorkWay株式会社 取締役会長、CEAP、MRI、一般社団法人国際EAP協会 日本支部 理事、一般社団法人メンタルレスキュー協会 理事 西川あゆみ氏 職場コミュニケーションを進めるなかでシニア世代が留意したいポイント 亀田 本日は、「生涯現役社会の実現」を念頭に置きながら、職場コミュニケーションについて議論をしていきたいと思います。はじめに、職場コミュニケーションを進めるなかでシニア世代が留意したいポイントをお聞きしたいと思います。西川幸孝先生からお願いします。 西川幸孝 物語コーポレーションには議論文化が根づいていて、会社の理念についてどう思うかというような議論を、社員同士でよくしています。あるとき、議論好きな50代幹部社員が、Z世代の若手社員と議論に熱中し、ヒートアップしていったところ、ヘルプラインにハラスメントを受けたと通報され、ショックを受けたそうです。もちろん、ハラスメントの意図も実態もまったくなかったのですが、世代や置かれた立場によって温度感が違うことをひしひしと感じたそうです。そして、職場のコミュニケーションにおいては、温度感の違いなどのギャップは、上の世代から埋めていく必要があると改めて認識したそうです。これは一つの事例かなと思います。 亀田 興味深く参考になる事例です。ありがとうございます。続いて前川先生、お願いします。 前川 よくいわれることですが、キャリア自律を徹底していくことだと思います。自身がどういう人生を歩んでいきたいのか、そのなかでキャリアをどう位置づけ、そのキャリアによってどういう将来像を描いていくのか。このことをしっかり考えて、自己決定することだと思います。特に、シニアの方々の多くは、これまで会社の辞令によって仕事や評価が決まってきたと思います。それを、自分で決定するように変えていく。会社組織ですから、上司と部下の間でしっかりと相談して、上司に自身のキャリアを提案し、上司からはシニアの方が気づいていないような持ち味を活かす役割を提案するといったすり合わせの場、1on1を重要視しながら進めていくことが大事だと思います。  その際、上司も自身のキャリアビジョンを持ち夢を持って働いていくことがとても大事で、その姿勢が部下に伝わります。年上部下の方々に対しても、「自分もキャリア自律して働こうとしているから、一緒に考えませんか」、といったスタンスだとうまくいくのではないかと思います。 亀田 キャリア自律のご説明もありがとうございます。西川あゆみ先生にお聞きしますが、ミドルシニアやシニアの問題として、話を聞けない人が多いと感じます。傾聴という素養がないとか、意識もない方に対して、どのようなアプローチや施策を行うと職場コミュニケーションが活性化できると思われますか。 西川あゆみ 傾聴がむずかしいという場合、例えば葛藤を回避する会話の練習があり、そのなかで黙っていられない管理職の方が多く出てきます。なぜ黙っていられないのか、「黙って聞いているときに聞くべきところはどこなのか」ということを練習します。それが職場のメディエーション※といわれているような、一つのコミュニケーションのアプローチなのです。  「黙っていられない」という、自分の行動特徴に気づいてもらうとともに、本当はどういうところを聞かなくてはいけないのかを知るために、「ここでこういう合いの手を入れるんですよ」ということをお伝えすることで、コミュニケーションについて学んでもらう方法です。 亀田 いまお話に出てきた「メディエーション」という言葉は、一から勉強するとたぶん何年もかかってしまうと思うので、正式なかたちでなくても、日常的にシニアの方ができることがありましたら、教えていただけますか。 西川あゆみ 世代間ギャップのなかで、例えば「あのレポートはもうできていますか」といった一般的なメッセージが、「ハラスメントでした」となって衝撃を受ける場合もあります。受けとめ方が違うので仕方ない一面もあるのです。そこで、「これはハラスメントではないんだけれども、あのレポートはもうできていますか」というように、前提を言語化することも方法の一つです。 亀田 参考になります。ありがとうございます。 何気ないコミュニケーションはトップが率先して働きかけていく 亀田 次に、よい取組みができている会社にはどんな特徴があるのか。先生方からみて感じておられることをお聞きしたいと思います。 西川幸孝 コミュニケーションは組織にとって不可欠な機能ですが、それを測るバロメーターとして、上司部下などの立場を超えて「何気ない会話が成り立っている」ことが大事だと考えています。業務連絡や報告においても、言葉を発することに対して抵抗感があると支障が生じます。会話することに抵抗がない状態をつくっていくことが何より重要だと思います。 亀田 堅苦しいコミュニケーションしかできない職場が、何気ないコミュニケーションができるようになるために、どんなことを実践していけばよいでしょうか。 西川幸孝 トップや幹部クラスから行動を起こしていくことです。遠慮なくものをいっても大丈夫な職場であるという経験がくり返されて、それが組織カルチャーになっていきます。トップの決意と行動に尽きると思います。 亀田 前川先生、いかがでしょうか。 前川 私はよく「チームづくりには五つのステップがある」という話をするのですが、最初のステップは「相互理解」です。業務上のやり取りだけでなく、人としての相互理解が土壌として必要だと思います。すると、プライベートな部分をどう理解し合うか、どうしていくか。そのためにも、先ほど西川幸孝先生がお話しされていた「何気ない会話」が、私もとても大事だと思っています。それを上司が率先して行い、自己開示していく。「子どもが受験だ」とか、「親の介護をしている」とか、いろいろな事情がみなさんにあると思います。ここはそういうことを話してよい場所なんだ、ということをさし示しくり返していくと、ほかの社員もシニアの方も含めて、だんだん自己開示が進んでいく。そうすると、お互いの思いやりも循環していくのではないかと思います。 亀田 職場での施策として、自己開示を進める方法はありますか。 前川 ルールにするのはむずかしいのですが、例えば当社では、毎週月曜日の朝礼は、週末の楽しかった話をするということを徹底しています。業務上では、最近はリモートワークもあり、部下のマネジメントで業務日報や週報を確認しているケースがあると思いますが、1行でもよいので仕事に対する感想を書いてもらうと、上司は気持ちの変化に気づけると思います。そういった施策を、いろいろな角度で実践していくことではないでしょうか。 亀田 西川あゆみ先生、お願いします。 西川あゆみ やはり対話が大事にはなるのですが、『クライシス・カウンセリング』の共著者の元陸上自衛隊の下園(しもぞの)壮太(そうた)先生から教わったことに、「最近あった残念なこととよかったことを一つずつ教えて」といったことを、日常会話に織り込んでいってちょっと聞いてみる、ということがあります。ちょっとしたことであったとしても、それを共有しくり返すことで、その人を理解することにつながります。これは私自身も実践して心がけていることですし、アドバイスすることもあります。 亀田 残念だったこととよかったこと。これは日常会話でできますね。西川幸孝先生と前川先生の何気ない会話、あるいは自己開示についてもたいへん参考になるお話をいただきました。 若手とのコミュニケーションに悩むシニア世代へのアドバイス 亀田 続いて、視聴者の方からいただいた質問です。「感覚の違いからハラスメントのリスクを恐れて、若手とのコミュニケーションをとりづらいと感じているシニア世代に具体的にアドバイスをください」という内容です。西川幸孝先生から、お願いします。 西川幸孝 そもそも企業活動とは、経営者や社員の行動の総合計です。社員には企業が求める行動をとってもらう必要があります。一方で、社員という存在そのものに対しては、ハラスメントなどはもってのほかで、むしろ積極的にケアしていく必要があります。つまり、行動と存在を切り分けて考えて、存在については積極的にケアしていき、一方で行動については、職務として必要な行動を遠慮なく求めていくというのがあるべき姿勢です。私はよくそのようにアドバイスをしています。 亀田 存在を受け入れて、そして、指示は具体的、定量的にということですね。それを行ううえでの注意点はありますか。 西川幸孝 存在と行動を切り分けて考えるということを組織の共通認識にすることです。それはトップにしかできないことです。そして、上司部下の関係であれば、上司から声がけする、上司からあいさつするということです。共通認識づくりと実践の両面の努力が必要ですね。 亀田 ありがとうございます。続いて前川先生、いかがでしょうか。 前川 ハラスメントが起こりやすい職場の特徴として、上司と部下のコミュニケーションが希薄であることがあげられます。ですから、この質問はとても重要で、この状態を放置しておくと、逆にハラスメントが起こりやすい職場になってしまうというリスクがあります。そういう意味では、一歩ふみこんで、シニア世代が若い世代とコミュニケーションをしっかりとっていくことが大事だと考えています。とり方としては、若手が長けたコミュニケーションツールにシニアが合わせていくこと。私自身がやってみたところ、実際に若い世代との関係性が深まり、リアルの場でも良好になっていくことを感じました。まずは、コミュニケーションツールを若手側に合わせて実践してみることではないでしょうか。  コミュニケーションの中身は、傾聴から入ることがとても大切です。ただ、シニア世代が自分の話をしてしまうのであれば、できるだけ失敗談を語ってほしいなと思っています。過去の失敗談は、興味を持たれることが多いですし、若い人に役立つと思います。 亀田 具体的な方法をありがとうございます。西川あゆみ先生、お願いします。 西川あゆみ 一般的にシニアの方は、経験があり、言葉の幅もあって、コミュニケーション能力が高いと思っています。いろいろな方のお話を聞いていると、その一歩がふみ出せないような状態というのは、健康の問題や環境の問題などがあるのではないか、いろいろな忖度(そんたく)とかバランスをとりながら悩んで、一歩がふみ出せないのではないかと思います。そういった相談に対しては、一緒に状況を確認しながら、対応方法について考えていくようにしています。 亀田 本日は、3人の先生方から新しい視点とそのアプローチについて、専門領域のお話から具体的な方法まで幅広くご紹介いただきましたので、各職場での実践や、今後の施策に盛りこんでいただけたらと思います。  最後に一つ。生涯現役を目ざすことにより、健康長寿が保たれるといわれます。働くことは苦役だというとらえ方もありますが、本日いろいろなお話をご紹介いただいて、そういった認識とは違い、もっと長く元気でいられる職場、そういった居場所というとらえ方もあると思いました。そうしたとらえ方が、ひいては、高齢労働者の労働災害防止に役立つかもしれませんし、だれもが避けられない加齢現象にともなう心身の機能低下で生産性が下がることに対するカバレッジになるかもしれません。先生方、まことにありがとうございました。 ※ メディエーション……裁判のように勝ち負けを決めず、中立的な第三者を通じ話合いにより互いが合意することで紛争の解決を図ること 写真のキャプション 株式会社健康企業 代表、医師、労働衛生コンサルタント 亀田高志氏 株式会社ビジネスリンク 代表取締役、株式会社物語コーポレーション 社外取締役 西川幸孝氏 株式会社FeelWorks代表取締役、青山学院大学兼任講師 前川孝雄氏 WorkWay 株式会社 取締役会長、CEAP、MRI、一般社団法人国際EAP 協会 日本支部 理事、一般社団法人メンタルレスキュー協会 理事 西川あゆみ氏 【P18-19】 10月19日開催 総論 令和5年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「女性社員のウェルビーイング向上〜エイジレスなキャリアと健康支援」 女性も、そして誰もがイキイキと働ける風土へ さんぎょうい株式会社代表取締役社長 芥川(あくたがわ)奈津子(なつこ) ウェルビーイングの向上は企業に求められる取組みの一つ  さんぎょうい株式会社代表取締役社長の芥川奈津子と申します。本シンポジウムの開催にあたりまして、はじめに、今回のテーマである女性の健康とキャリアについて、総論をお話ししたいと思います。  当社は、企業へ産業医や産業保健スタッフを紹介し、産業保健体制の構築と運営支援を行っている会社です。また、2019(平成31)年より女性の健康とキャリアを軸としたダイバーシティや女性活躍関連の研修事業にも取り組んでいます。私自身、2人の小学生の母であり、企業の代表という顔を持ちながら仕事をしています。  少子高齢化を背景として、日本の人口の約3割が65歳以上となる2030年問題をはじめ、今後さらに高齢化と人材不足が深刻になることが予測されています。その結果、労働生産性が低下し、諸外国との競争力低下の懸念や、生産年齢人口の減少により、社会保障制度を維持する財源の確保がむずかしくなっていくという懸念も出てきています。  最近では物流業界における人手不足がクローズアップされていますが、今後はあらゆる産業分野で不足する人手を補うために、DX化やAI活用、外国人やシニア、女性などまだ活用しきれていない潜在的労働力を、どれだけ引き出せるかが重要となります。  日本の労働力人口における女性の割合は約44.4%と、半数近くを占めるまでになりました。しかし、女性雇用者数のうち56%は非正規雇用社員であり※1、女性のパフォーマンスが存分に発揮できている環境とは、依然としていいがたい状況にあります。  一方で、人手不足が進むと、顧客のニーズに応えられなくなり、業績不振につながる可能性があるほか、少人数の従業員に過度な負担がかかり、人材が疲弊・流出し、さらに人手不足となる負のスパイラルが起こりやすくなっていきます。  これらを回避し、だれもが活き活きと働ける風土をつくるために、企業にいま求められているのが、まさに本日のテーマであるウェルビーイングの向上であり、そのために必要な要素として、「健康・安全へのリテラシー向上」、「職場環境・風土の醸成」、「キャリア形成やリスキリング」、「人事制度や多様な働き方」の4点があると考えています。  人材を集めればよいのではなく、労働者に選ばれるために会社の価値や魅力を高める、そして、集まった人たちにフィットする人事制度や働き続けられる働き方を提供し、モチベーションを高め、一人ひとりの生産性を高めることが重要になってきています。 女性特有の健康課題と働き続けるために必要なこと  女性は、生物学的な性差(生殖機能)による健康課題の影響を受けやすいとされています。女性ホルモンの影響により、生涯を通して月経や病気のリスクが変化し、例えば、女性ホルモンの分泌が安定しているといわれる20〜30代でも、妊娠や出産によるホルモンの大きな変化を経験する方が多くいます。40代からは、更年期症状に悩まされる方が多くなります。日本人の平均閉経年齢は50.5歳といわれ、その前後5年間は、女性ホルモン減少の影響を受ける更年期と呼ばれています。また、閉経後には骨粗(こつそ)しょう症(しょう)や心血管系疾患、高脂血症など、それまで罹患するリスクが少なかった病気への注意も必要になってきます。女性のライフキャリアを考える場合は、こうした女性の体の変化についても学ぶことが必要です。  このような女性特有の健康課題に対して企業ができることとして、私は、女性自身にヘルスリテラシーの向上をうながすことが大切だと考えています。女性特有の健康知識が高い女性とそうでない人を比べると、高い女性のほうが仕事のパフォーマンスが高い、という結果が出ています※2。  働く女性が、自身に関する健康知識とその正しい対処法の知識を持つことにより、セルフマネジメントができるようになります。加えて、利用できる制度や周囲のサポートがあるなら、積極的に利用することで、健康課題によるパフォーマンス低下を予防する、あるいは、低下した状態を長引かせないようにすることが可能になります。そのためにも、女性自身が積極的に学び、アクションを起こすということが大切になってきます。  また、女性が働き続けるためには、女性特有の健康課題とともに、多くの女性が妊娠、出産、育児、介護などのライフイベントの影響を受けやすいことへの理解と支援も大事になります。女性のキャリア形成のために、企業はライフキャリアを含めたキャリアプランニングと、さまざまなキャリア支援に取り組むことが大事になっていると思います。特に、30〜40代の管理職への昇進を期待される時期と、健康課題やライフイベントが重なる可能性がとても高いので、その事実をしっかりとご理解いただきたいと思います。 女性が働きやすい職場はだれもが働きやすい環境  女性の多くが女性特有の健康課題の悩みを抱えていますが、生理痛やPMS(月経前症候群)による症状がつらくても、約5割の方が「周囲に伝えない」というアンケート調査結果があります※3。一方で、85%の働く女性が「月経症状で悩んだ経験がある」と回答し、77.6%が「上司や同僚に月経への理解を深めてほしい」と回答しています※4。  こうした女性の声に対して会社ができることは、管理職層への啓蒙・研修と考えます。特に、現状では多数を占める男性の管理職層が、女性の健康とキャリアに関する知識を身につけ、意識と行動の変化をうながすことで、職場の心理的安全性が醸成されやすくなります。女性も男性も、全社員が女性の健康とライフキャリアで起こりうることを知ることで、共通の理解と言語が醸成され、徐々に風土の変化につながります。  女性が働きやすい制度、支援、風土がある職場は、じつは、すべての社員にとって働きやすい環境といえます。まさに、全社のダイバーシティ&インクルージョンの取組みにつながるアクションだと思います。 ※1 厚生労働省「令和元年版働く女性の実情」 ※2 特定非営利活動法人日本医療政策機構「働く女性の健康増進調査2018」 ※3 株式会社ツムラ「生理・PMS の本音と理解度調査」(2022年) ※4 株式会社明治「生理の悩み実態調査」(2022年) 【P20-21】 10月19日開催 発表@ 令和5年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「女性社員のウェルビーイング向上〜エイジレスなキャリアと健康支援」 誰もが働いて輝ける職場にするために 〜丸井グループのウェルビーイングの取り組み〜 株式会社丸井グループ取締役CWO(Chief Well-being Offi cer)、専属産業医 小島(こじま)玲子(れいこ) ウェルビーイングは経営目的 活動を通して社会に幸せを拡大する  私は、丸井グループの産業医として、ウェルビーイングの取組みを担当しております。ウェルビーイングという言葉は、1947(昭和21)年に世界保健機関(WHO)憲章の健康の定義において、「健康とは病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること(Well‐being)をいう」と表記されています。そして現在では、広くとらえると、「実感としての幸せ、豊かさ」をさす言葉として、企業経営においても注目される言葉となっています。  丸井グループの正社員数は約4400人で、男女比は半々ほどです。2021(令和3)年に発表した「5か年新中期経営計画」において、「サステナビリティ」と「ウェルビーイング」を経営目的に掲げました。  そして、ウェルビーイング経営の定義を、「6ステークホルダー(お客さま、株主・投資家、地域・社会、将来世代、社員、お取引先さま)の重なり合う利益としあわせの拡大」としています。つまり「社員だけが対象ではない」ということがポイントです。一人ひとりの幸せ、一人ひとりの健康を応援する事業を行い、事業の目的自体がウェルビーイングであると位置づけています。  具体的な事業例として、クレジットカード利用に応じて付与されるポイントが、障害のあるアーティストを支援する団体に寄付される選択肢をお客さまに提供したカードがあり、高い人気となっています。また、「応援投資」といって、社会貢献と資産形成を両立する選択肢を提供する個人の小額投資の仕組みを新規に開発し、こちらも好評です。ウェルビーイングを経営戦略として実施していることが、当グループの取組みの特徴です。 全社員から公募してメンバーを選抜 Well‐beingプロジェクトの活動  一方で、社内の取組みの代表例として、2016(平成28)年に開始した「Well‐beingプロジェクト」があります。プロジェクトに参加したい人を全社員から公募することが特徴です。参加したい思いを作文にしてもらい選抜するのですが、2倍から5倍の倍率の応募があり、毎年メンバーを入れ替えて伝道師を増やすような方式で活動してきました。  このプロジェクトの女性に関する活動では、「PMS(月経前症候群)で仕事に集中できず悔しい思いをした」という社員が、「フェムテック(女性の健康を支援するテクノロジー)で負担を軽減できるなら、同様の悩みを持つ女性のためにできることを考え取り組んでいきたい」と発信したことから、共感する社員でチームが生まれ、2021年から翌年にかけて、社会のさまざまな方と連携し、いくつかの施策を実践しました。そのうちの一つは、新宿丸井本館で1カ月間開催したフェムテックイベントです。1000人以上のお客さまが来店されて、フェムテックブランドに参加してもらい、どんなテクノロジーがあるかを知ってもらうイベントで、みなさまから「もっと多くの人に知ってほしい」などと好評のお声をいただきました。 全事業所にウェルネスリーダーを置き社員が主体的に活動できる環境をつくる  社内に向けた取組みでは、2013年から全事業所にウェルネスリーダーを設置し、女性特有の健康課題のサポートに各事業所が主体的に取り組む活動を行っています。  ウェルネスリーダーは年4回会議を開催し、勉強会を行います。そして、各事業所でウェルネスリーダーが中心になって、子宮頸がんや乳がんの情報共有会ができたり、店舗に乳がん触診体験コーナーを設けるなどの啓発活動が行われたりしています。こうした取組みにより、乳がん検診・子宮頸がん検診の受診率は少しずつ高まっています。  そうしたなかで、公益社団法人女性の健康とメノポーズ協会が主催する「女性の健康検定○R」(★)を全社員の7人に1人が自発的に受験し、資格を取得するまでとなってきています。  そのほか、健保スタッフが窓口で気軽に相談を受けるといった、地道な活動を継続しています。こうしたさまざまな取組みにより、乳がん、子宮頸がん検診の受診率は少しずつ上昇してきて、日本の平均より高い水準になりました。  加えて、2023年からオンライン診療によるPMSの治療をトライアルとして導入しました。また、男性を含む全社員に対し、セミナーを充実させていく取組みを進めています。  このような支援プログラム導入の費用対効果ですが、試算によると、月経支援だけで1200万円超の労働力損失改善が見込まれ、非常に大事な取組みであると考えています。 ウェルビーイング向上のポイントは社員や職場の主体性を引き出すこと  ウェルビーイング経営では、多様性を活かす組織風土づくりも大事な取組みであり、例えば、男性育休取得率は5年連続で100%を達成することができています。さらに近年は、性別にかかわらず活躍できる企業文化に向けて、性別役割分担意識を見直すことに共感する人の割合を増やしていくための活動も推進しています。  また、シニア社員の活力アップを目的に、2023年に健康測定や転倒防止、更年期障害などをテーマにしたセミナーを開催しました。参加者に参加動機をたずねると、最も多いのが「おもしろそうだから」という回答でした。こうした企画には「おもしろそう」、「楽しそう」といった要素が大事なのだと実感したところです。  当グループでは、経営理念に「人の成長=企業の成長」を掲げています。2012年より、社員のウェルビーイング指標を測定しているのですが、「自分が職場で尊重されていると感じる」、「自分の強みを生かしてチャレンジしている」と感じている社員が、10年間で大幅に拡大しています。まだ課題はありますが、離職率も約3%と低水準で推移しています。  性別、年齢にかかわらず、だれもが輝いて働き続けられるかどうかは、企業にとっての経営課題と考えます。その主役は、経営トップと社員です。産業保健スタッフがサポートに努め、社員自身や職場の主体性を引き出すことが取組み推進のポイントだと思います。 ★「女性の健康検定○R」は公益社団法人女性の健康とメノポーズ協会の登録商標です。 【P22-23】 10月19日開催 発表A 令和5年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「女性社員のウェルビーイング向上〜エイジレスなキャリアと健康支援」 個人差を考慮した働き方を設定し70歳超の人材も活躍〜株式会社東急ストアの事例から〜 株式会社OHコンシェルジュ代表取締役、産業医 東川(ひがしかわ)麻子(あさこ) 75歳まで働ける職場へ 健康面は自己管理を重視  本日は、高齢まで元気に働ける職場の事例として、私が産業医を務めている企業の一つ、「株式会社東急ストア」の取組みをご紹介いたします。  同社は、スーパーマーケット90店舗をはじめ、駅売店やコンビニエンスストアなどを展開しています。従業員数は約1万人、そのうち正社員は約1800人で、「パートナー社員」という、いわゆるパートの女性が最も多く約5000人です。この方々が活き活きと働いて同社の業務を支えていますので、雇用をどのように継続し、また、健康管理をどう行っているのかについてお話ししたいと思います。  従業員は、4人に1人が60歳以上です。現在、75歳まで働ける仕組みがあります。約10年前は定年が65歳でしたが、現場は人手不足のうえ、退職者のなかには現役世代と同様に働ける人が多かったことから、定年を条件つきで70歳に延長しました。条件というのは、職場管理者の推薦、健康面の評価(病気の有無ではなく、適切に自己管理できているか)、それから1年ごとに働き方の見直しをするという内容です。  当初は迷いながら取り組み始めたと思いますが、体力的にも健康状態も問題なく仕事ができる方が申請されるので、65歳を超えて働かれることにだんだん慣れてしまい、ときには健康面や体力面でやや不安がある人も対象にあがってくるようになりました。その場合は、医療職が個別に面談し、適切な勤務時間や業務内容を現場管理者と相談し、その人に合った働き方へと柔軟な対応がなされました。  健康上の課題が生じた場合は、治療を優先しお休みしていただくケースもあります。現場と医療職とで、同じように考えて対応ができていると思います。  私傷病者のなかには、「もう年だから仕方がない」とあきらめるような方もいますが、治療をしてまた働いてほしいという会社の思いを伝えていくことで、「可能な間は働いていたい」と自分の健康管理に気をつかうようになり、年齢とともに元気になる方もおられます。  そして、65歳で契約更新した方々が70歳の定年を迎えはじめた約5年前、現場は相変わらず人手不足でしたし、70歳でもまだ元気で働ける方々がおられましたので、さらに定年を条件つきで75歳まで延長することになりました。  産業医として、75歳まで働く場合にどんな課題があるかを会社と一緒に慎重に考えて、定年延長の条件として、1年ごとに体力テストと認知力テストを追加し、加えて全員と面談をすることとして現在に至っています。 医療職としてサポートしていること高齢従業員の悩みと配慮のポイント  70歳以降も働ける職場になり、だんだん慣れてくると、最近では手術後や体力が落ちているような方も働き続けることを希望されるようになり、現場では「しっかりとリハビリをしたら、復帰して働くことを応援する」という姿勢が定着してきていると感じます。  一方で実際に面談をしていると高齢者特有のさまざまなケースがありますので、その一部をご紹介したいと思います。  高齢の方からよく、「若いころに比べて、作業スピードが落ちている」、「この歳で働けるのはうれしいが、職場でお荷物のように思われていないか心配」といった悩みをお聞きします。「大丈夫ですよ」とお答えするのですが、どんな場面でどのような出来事があるのか、職場管理者にもヒアリングし、日ごろの働きぶりを確認します。年相応のケースがほとんどですが、そうしたことを自分で受け入れられず、悩んでしまうケースもありますので、医療職としてサポートをしています。  働き方はいろいろな設定が可能で、契約更新の際に勤務時間などを見直して無理がないようにしています。ただ、よくよくお話を聞くと、忙しい店舗で「勤務時間を減らしたい」とはいい出せずにいて、「家に帰ったら疲れてすぐ横になっています」というような方もいるので、しっかりサポートして適切な勤務時間になるように対応しています。  また、業務指示を忘れたり、勤務日を間違えたりすることが多くなり、「認知力が低下しているのではないか」と周囲から指摘され、上司から保健スタッフに相談されるケースもあります。ご本人は、働いていることで周囲の同世代より元気であることが自慢で、認知力の低下を受け入れられない様子でしたが、私たちも慎重に伝えながら面談をくり返すなかで、忘れていることが多いことを自覚し、医療機関の受診につなげたケースもあります。  それから「主婦業に定年なし」という言葉を聞くことがありますが、勤務後に家族の食事の用意、掃除、洗濯、孫の送迎までして、慢性的な疲れがみえる方もいます。サポートする際は、プライベートの過ごし方も考慮していく必要があるかと思います。ときに、退職して家にいる夫にどのように家事を手伝ってもらうか、いっしょに考えることもあります。 働き方の基準は一人ひとり違う「高齢者」をひとくくりにしない  大事なことは、「高齢者」とひとくくりにしないことだと思います。例えば、深夜の勤務は高齢の方には負担が大きいと考えがちですが、ご家族のライフ・ワークスタイルの関係で、「昼間の早い時間の仕事のほうが、負担が大きい」という方もいます。シフトの組み方も希望はそれぞれです。働く目的も、生活のため、老化防止のため、生きがいなどさまざまですから、働き方の基準は人それぞれだと考えるようにしています。  職場で高齢の方が活き活きと働けているポイントを私なりにまとめると、制度先行ではなく、「仕事を続けてもらうにはどうしたらよいか」からスタートしたこと、働き方の選択肢が多いこと、適切な就労条件にも個人差を考慮していることなどがあげられます。  今後の課題は、管理者層や同僚の若い世代にもっと高齢者の特徴を理解してもらうこと、転倒などによるケガの予防、職場のDX化へのサポートなどです。高齢者の割合が多くなればなるほど、一人ひとりへの配慮に限界が生じる可能性があるため、対応を見直して検討する時期が訪れると考えています。 【P24-25】 10月19日開催 講演 令和5年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「女性社員のウェルビーイング向上〜エイジレスなキャリアと健康支援」 組織における課題 株式会社健康企業代表、医師、労働衛生コンサルタント 亀田高志 男性中心の社会的構造下で懸念される働く女性の健康、役割負担  私は産業医などの経験を経て、現在はよろず相談のような形で、さまざまな場で職場の健康管理を含む、個人的な問題や組織の問題に対応する仕事をしています。本日は、シンポジウムのテーマである「女性社員のエイジレスなキャリアと健康支援」について、組織における六つの課題をお話ししたいと思います。  第一の課題は、現在でも男性中心の社会的構造であることです。実際に女性の登用に不満をもらす男性幹部もいて、取組みのなかで障害になる可能性もあると感じています。  これに対して、内閣府が推進する「女性版骨太の方針2023」で、女性活躍と経済成長の好循環の実現に向けた取組みとして、「プライム市場上場企業を対象とした女性役員比率に係る数値目標の設定等」が打ち出されました。例えば2025年を目途に女性役員を1名以上選任する、2030年までにその割合を30%以上とすることなどが謳われています。  これに関連する「日経xwoman(クロスウーマン)」の記事によると、東証プライム市場上場企業1837社の時価総額ランキング上位500社で、2022(令和4)年7月時点で女性取締役は34歳から84歳までの方がおり※1、その約半数は更年期症状の表れやすい年代にあたります。取締役として重責を負ってご多忙だと思いますが、体調の問題を抱えながら苦しまれている方もいるのではないかと想像されます。しかし、経営視点で見たときに、その部分を配慮してもらえない可能性があることが懸念されます。  第二の課題は、「ライフイベントとキャリア」です。妊娠、出産、子育て、介護について、性別の役割負担の認識に違いがあり、例えば介護は女性がになうケースが多いのです。「女性版骨太の方針2023」でも、仕事と介護の両立に関する課題があることが明示されています。エイジレスに働いた場合は、50代、60代となると、親御さんの介護が必要になってくると思います。内閣府の「男女共同参画白書平成25年版」によると、女性は、配偶者の父母の世話をする人が17.2%ですが、男性はというと0.3%です。そして、「こうした介護負担は特に女性の労働供給に影響を与えている」としています。また、2022年の厚生労働省「雇用動向調査結果」によると、介護を理由とした離職は、どの年代でも男性より女性の方が多くなっています。「エイジレス」という視点でみた場合、女性の介護離職は男性以上に大きな問題ということです。 妊娠、出産、生涯にわたる健康支援労働災害の防止対策に関する課題は  第三の課題は、妊娠、出産にともなうことです。職場の健康配慮は、事業者の責任として労働安全衛生法を中心に法律的な定めがありますが、これらは妊産婦による「請求」を前提とした措置なのです。産前産後休業だけでなく、例えば、軽作業に転換する場合や、危険有害業務の就業制限、変形労働時間制の適用制限などがありますが、条文には、請求した場合に、とあり、流産の心配、職場の人間関係に不安がある場合などに、請求がスムーズにできるのかという点が懸念されます。  第四の課題は、生涯にわたる健康への支援です。「女性版骨太の方針2023」には、事業主の健康診断の充実などによる女性の就業継続の支援などが掲げられ、例えば、毎年の定期健康診断で、月経困難症、更年期症状などの女性の健康に関連する項目を追加するとともに、産業保健体制の充実を図ることがあげられています。方法論やルールが定められた後、実践できるのかという点が今後の課題です。  第五の課題は、女性の労働災害の防止です。厚生労働省の調査※2によると、休業4日以上の転倒災害の千人率は、60代以上は20代の約15倍に増加することが明らかになっています。非常に大きな問題です。高齢になるとけがが治るまでに時間がかかるようになり、休業期間が延びてしまうことも、同じ調査から明らかにされています。また、多くの業種で転倒災害に遭う高齢女性が多いこともあります。  これに対して厚生労働省は、2023年4月からの「第14次労働災害防止計画」のなかで、中高年女性を中心に、作業行動に起因する労働災害防止対策の推進として、転倒などに対して対策を行うことや、腰痛の予防対策として介護職員の身体の負担軽減のための介護技術などの導入を図ることなどをうたっています。  また、2023年7月1日から行われた全国安全週間実施要綱では、「高める意識と安全行動 築こうみんなのゼロ災職場」のスローガンのもと、対策の一つとして、中高年女性を対象とした骨粗(こつそ)しょう症(しょう)健診の受診勧奨をあげています。これは地域で受けることになっていて、いまのところ職場では義務化されていないため、注目に値することだと思います。 課題の解消には、男性の側の理解が必須新しい対策、対応が必要になっている  第六の課題は、個人の悩みごとへの対応です。私は、健康管理の枠組みを超えて企業や自治体などで、いろいろな相談を受けています。  例えば、体調の変化もあるなかで、高いパフォーマンスを要求されて、20代から60代まで持続的に応えることのむずかしさがあります。また、出産やその前の段階ではいろいろと配慮してもらえるのですが、例えば、「思春期になってお子さんに接するのがむずかしい」、「不登校で悩んでいる」ということも起こります。こういった悩みをなかなか口に出せず抱えている方は少なくありません。  ほかにも、「女性が社会的に成功していくことを夫があまり望んでない」など、不仲になってしまうケースもあり、プライベートで夫婦関係に悩むという方も少なくありません。  さらに、社内外のロールモデルとして活躍するような女性の場合、すべてを犠牲にして仕事に取り組んでいる場合もあり、孤独で悩んでいる方もいらっしゃいます。  課題の解消には、意思決定を行う経営陣や幹部、管理職の特に男性が、こういったことを知って対策の必要性を理解することが必須です。そのうえで女性の就業を支援することが、自然にできていくことが大切と考えます。  今回ご説明した課題を解決するために、これから新しい対策、対応が必要になってくると思います。 ※1 https://woman.nikkei.com/atcl/column/21/072500094/082400008 ※2 厚生労働省「令和4年高年齢労働者の労働災害発生状況」 【P26-29】 10月19日開催 パネルディスカッション 令和5年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 女性社員のウェルビーイング向上 〜エイジレスなキャリアと健康支援 コーディネーター さんぎょうい株式会社 代表取締役社長 芥川奈津子氏 パネリスト 株式会社丸井グループ 取締役CWO (Chief Well-being Officer)、専属産業医 小島玲子氏 株式会社OHコンシェルジュ 代表取締役、産業医 東川麻子氏 株式会社健康企業 代表、医師、労働衛生コンサルタント 亀田高志氏 女性の活躍や健康支援を進めるなかで見えてきたこと、新たに感じている課題とは 芥川 はじめに、本日のテーマである女性社員のウェルビーイング向上とエイジレスなキャリアと健康支援について、ここ数年で実感されている変化や影響などがございましたらお聞かせください。 亀田 まだ始まったばかりという印象ですが、女性活躍が政策として推進されるなか、性別にかかわりなくとか、多様性について、とらえ方が変わってきています。世代ごとの違いはありますが、世の中の傾向として、確実に女性活躍や女性の健康支援について理解してもらいやすい環境は整いつつあると感じています。 東川 産業医として相談を受けていて感じている変化は、男性従業員からの育児の相談が増えていることです。女性の場合は、職場の同性の先輩や身近な人に相談できていたと思うのですが、男性にはそういう先輩がいないことがほとんどで、相談できる場が求められていると思います。 芥川 女性が働きやすいようにしていくためには、それをフォローする協力者として男性の役割が重要になってきますが、その男性に対しての支援も必要になっている、という視点ですね。 小島 当社では男性社員の育休取得を促進し、取得率は10年前の18%から現在では100%になっています。それにともない、女性社員の上位職志向が30%ほど上昇するという変化がありました。女性リーダーを増やすという施策はしていないので、全体的な施策を行っていくことが大事だと思っています。ただ、最近は女性の上位職志向が鈍ってきており、そのボトルネックが性別役割分担意識なのではないかと仮説を立てて、現在取り組んでいるという状況です。 価値創造としてのウェルビーイング取組みの背景と風土の変化 芥川 丸井グループのウェルビーイングは、経営戦略であるということをご発表のなかで強調されていましたが、経営者が一人で旗ふりをしても、うまく進まないと思います。スタート当初は、どのような様子だったのでしょうか。 小島 企業で人的資本経営やウェルビーイングに取り組むというときには、「企業の価値創造のためにそれが必要なのだ」というストーリーがあることが大切だと思います。当社の場合は、バブルが崩壊して、流行の物を置けば売れるという時代が終わったときにさかのぼると、そのころまでは上意下達の企業風土がありました。それを変革しないと会社が潰れてしまうという危機感から、自ら考え行動する自律的な企業風土をつくることが経営存続の喫緊の課題となったのです。必要な経営戦略として文化の変革に取り組み、並行して全社向けの施策を進めてきました。「なぜウェルビーイングが必要なのか」は、企業の価値創造の文脈に照らして考えていく必要があるのではないかと、実務を通じて感じています。 芥川 ありがとうございます。先ほど、推進する取組みの一つに、性別役割分担意識についてのお話もありました。どのような取組みでしょうか。 小島 力を入れてきたことは、役員、上位職者のアンコンシャス・バイアスの研修です。「『モデル』というと女性を思い浮かべる」とか、「男性が一家の大黒柱だと決めつけて見られる」といったアンコンシャス・バイアス、無意識の偏見は、いろいろな人を生きにくくしてしまいます。そういうことを、性別にかかわらず、すべての人のために共有することを大事にして取組みを進めています。 芥川 ありがとうございます。亀田先生、いかがでしょうか。 亀田 共通する感覚として、「働くことは苦役なのでなるべく早く辞めたい」ということもけっこう根強くあると思います。辞めたくなるのはおそらく、上意下達の職場で、嫌なことは飲み込んで、男性中心で女性は調子が悪くてもいえない、そんな職場を想像します。  しかし、ウェルビーイングの考え方は、「よい状態であると自覚できるか」ということです。働き続けられるかぎり働くことは好ましくないのか、とセミナーで私はよく問いかけます。その答えとして用意しているのが、長く社会とかかわったほうが、おそらく元気は保てるし、病気になってもがんばれるし、ひょっとしたら寿命も延びるかもしれません、という話です。  例えば「家事は苦役か」と考えてみると、料理は仕事とは違う頭を使ったり、食べてもらう相手が喜んだり、美味しいという様子は、人としてありがたいご褒美にもなるんですね。それらをくり返すことで、これまで男尊女卑的な家庭で非常に硬直した感じだった夫婦関係にさまざまな変化が起きうるのではないか。そんなことも思いますので、少し中長期的な視点で発信し続けることも必要ではないかと考えます。  一つの施策を進めるだけではなく、多面的なアプローチや見方を提示しながら、いわば立体的に、社内、あるいは事業を行うなかで浸透させることが大切だと思います。 芥川 たしかに多面的、立体的アプローチ、また、中長期的に考えるということが、キーワードになるように思います。ありがとうございます。 どう働きたいかを一緒に考えながらシニアの働き方、生き方をサポート 芥川 東川先生が発表された東急ストアの事例で、体力テスト、認知力テストを導入されたというお話がありました。従業員の方のモチベーションの変化などはありましたか。 東川 体力テストについては、やってみて機能が低下していることにご自身で気づいて、回復するようにがんばるというケースは多いと思います。認知力テストに関しては、「試されている」と受けとめてしまうのか、非常に不評というのが実際のところです。現在は、日ごろの働きぶりを上司がしっかり見るということに重点を置いています。  健康支援で重要なのは、「どう働きたいか」ということを、一緒に考えることだと思います。高齢になると、例えば、パートナーが突然亡くなるというような、ライフイベントが起こります。思わぬことが起きたとき、一人で考えるのはむずかしいので、シニアの働き方、生き方をどうサポートしていくか。どこまでが産業医の仕事かは悩ましいところですが、何かサポートできる体制があるとよいと思います。 芥川 ありがとうございます。長く働いていくうえでの健康支援について、あわせて配慮すべきことがありましたら教えてください。 東川 年齢が高くなると基礎疾患が増えてきますので、その管理が重要になります。病院に行くことで休日が終わってしまうような方もいるので、仕事をしながら時間が確保できるように、会社が配慮することが必要だと思います。  また、それぞれの事情や多様性を理解したうえでのメンタル面でのサポート、寄り添いというのが必要だなと感じています。 亀田 東川先生が面接指導や健康相談のなかで、いろいろな情報をキャッチされて対応されていることは、働いている方にとってとてもありがたいことだと思います。将来、仕事を離れた後の準備も、会社に手伝ってもらっているということです。雇用が終わっても人生は続きますから、これからはこういう取組みが大切になると感じました。 どういう企業でありたいかそのことが問われている時代 芥川 ウェルビーイングの考え方について、取組みを考えているみなさまへアドバイスをいただければと思います。小島先生から、お願いします。 小島 あくまで私見になるのですが、ウェルビーイングなどについて、「やらなくてはいけない」と思ってやると、うまくいかないのではないでしょうか。いまの時代、「どういう企業でありたいか」が問われています。それをしっかり考え、実践している企業には優秀な人材も集まると思います。選び、選ばれる企業となり、それによって発展していくという絵を描く。そんなストーリーを描いたうえで、ウェルビーイングも含めて各種施策に取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。それができないのであれば、無理に取り組むことではないと考えています。いずれにしても「わが社はどうありたいのか」ということを、しっかり考えなくてはいけないフェーズに入ってきたと思っています。 東川 「無理にしなくてよい」というところは私も同意見です。いろいろな会社を見ていると、「女性管理職を増やそう」という一方で、活き活きと管理職をやっている人より、無理やり管理職になって具合が悪くなってしまったという人に遭遇するケースは多いのです。  女性に管理職が務まらないということではなく、例えば、短時間勤務をしながらでも管理職ができる、あるいは、更年期の世代も無理せずとも働ける管理職のあり方、というものを考えていくことが大事だと思います。 女性社員のウェルビーイング向上の支援は社会や企業の文化を変えるきっかけになる 芥川 亀田先生から、全体をふり返ってのコメントをお願いします。 亀田 先生方のお話を聞いていて、男性中心の社会構造が企業社会ではまだ変わっていないこと、あるいは、ライフイベントに関することや女性の役割ということでも、女性の負担が多いことがわかり、まだまだこれからだとあらためて思いました。  本来、人間はコミュニティを持つ生き物として、例えば子育ては、昔であれば二世代、三世代、あるいは親族が集まるなかで行われてきました。しかし近年では、「親御さんは遠くにいて頼れない」という方がけっこういます。これはとてもたいへんなことなのです。そういう認識が社会に浸透していません。  そんななかで、女性社員に焦点をあてたダイバーシティはまだスタートしたばかりですが、じつは変化の大きなきっかけになり得ます。「性別や職位などにかかわらず対等である」、「いいたいことをいえる」という文化や風土を醸成していくことが、これからの時代には大切なのだと思います。  統計的に、日本では男性より女性のほうが長生きですし、介護を受けはじめる年齢も高いです。ということは、女性はそれだけ長く働ける可能性がある、ということがいえます。こうした状況もふまえて、女性をどのように支援していくか。真剣に取り組む時期にあると思います。 芥川 ありがとうございます。本日は、女性社員のウェルビーイング向上、エイジレスなキャリアと健康支援というテーマで、「女性」、「シニア」というキーワードでお話をしてきましたが、最終的には「だれもが働きやすい社会、文化、風土が求められている」ことが共通の視点としてあったと思います。  企業が支援できることとしては、まず個々の背景に合わせた健康支援があげられます。そして「いいたいことがいえる」、または「相談できる風土、文化」がキーワードです。それぞれ実現していくための会社の施策として、まずはトップの強い意思表示、メッセージの発信があり、変化をうながすためにリテラシーを高めていくこと。さらに、一人ひとりとの対話によって解決していくこと。こういった流れが取組みに成功している企業に共通する視点ではないかと感じます。  女性、シニアというくくりではなく、くり返しになりますが、「すべての働く人に必要な支援」の視点が求められているということも、大事なキーワードになっているとあらためて感じました。本日はありがとうございました。 写真のキャプション さんぎょうい株式会社 代表取締役社長 芥川奈津子氏 株式会社丸井グループ 取締役CWO(Chief Well-being Officer)、専属産業医 小島玲子氏 株式会社OHコンシェルジュ 代表取締役、産業医 東川麻子氏 株式会社健康企業 代表、医師、労働衛生コンサルタント 亀田高志氏 【P30-33】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第140回 鹿児島県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 70歳まで安心して働ける会社へプランナーが制度改定をサポート 企業プロフィール 株式会社渡辺組(鹿児島県鹿児島市) 創業 1951(昭和26)年 業種 総合建設業 社員数 144人(うち正社員数118人) (60歳以上男女内訳) 男性(39人)、女性(3人) (年齢内訳) 60〜64歳 25人(17.4%) 65〜69歳 12人(8.3%) 70歳以上 5人(3.5%) 定年・継続雇用制度 定年65歳、希望者全員70歳まで継続雇用。最高年齢者は76歳  鹿児島県は九州の南端に位置し、南北約600kmの広大な県域に二つの半島(薩摩(さつま)半島・大隅(おおすみ)半島)と、種子島(たねがしま)、屋久島(やくしま)、奄美大島(あまみおおしま)などの28の有人離島、1200超の無人島があります。海、山、火山の特徴ある自然を有するとともに、世界自然遺産に登録されている屋久島などの三つの世界遺産をはじめとする観光スポットや、温泉、グルメの宝庫でもあります。2011(平成23)年に九州新幹線鹿児島ルートが開通し、鹿児島中央駅と博多駅間は最速約1時間20分で結ばれています。  JEED鹿児島支部高齢・障害者業務課の中山(なかやま)雅矢(まさや)課長は、県の代表的な産業とその近況について次のように話します。  「主幹産業は農業であり、特に豚や肉用牛(黒毛和種)を中心とした畜産は、農業産出額の半数以上を占めています。温暖な気候や広大な畑地などを活かした野菜や花(か)き(観賞用植物)、茶などの生産も盛んです。また、医療関係、社会福祉法人の事業所が多く、業種にかぎらず、人手不足からなる採用難や高齢者雇用に関する職場環境整備の進め方について悩まれている事業所が多いと感じています」  医療関係、社会福祉法人の事業所が多数あるなか、高齢者が働いている職場も多いものの、その雇用制度について就業規則などに明記されていないケースも目立つため、同支部では、相談・援助業務を通して高齢者雇用の制度化を進めています。  今回は、そうした相談・援助業務などに取り組んで、離島を含む県内のさまざまな事業所の高齢者雇用を支援する同支部のプランナーの一人、岩元(いわもと)一哲(くにあき)さんの案内で、株式会社渡辺組を訪れました。 「人は宝」を信念として  1951(昭和26)年に設立された株式会社渡辺組は、鹿児島県を中心に建築、土木、湾港などさまざまな工事を手がける総合建設会社です。  創業時から掲げる社訓「豊かな人間性を養い、その人間性のもと誠心をこめた製品を社会におくり、社会から信頼される企業となる」を実践する人材育成と、堅実な施工、スピーディーな顧客対応で実績を積み、社会から信頼される企業に成長。2021(令和3)年に創業70周年を迎えました。  渡辺(わたなべ)丈(じょう)代表取締役社長は、「創業時から、人こそ宝であり、よい会社をつくればよい人材が集まる≠ニ信じて歩み続けています。時代が変わっても、技術の進歩によって仕事を取り巻く環境が変化しても、どんなときでも中心は『人』ということを忘れずに大事にしています」と信念を語ります。  人材育成では、研修や資格取得の奨励による専門技術の習得はもちろん、人として成長することや社員同士のコミュニケーション、チームワークを重視し、海外研修旅行や年2回全社員参加の懇親会、ゴルフ大会などを開催して社員間の交流を促進しています。コロナ禍となってから中止していましたが、2023年は四国への研修旅行を、40人ずつ3班に分けて実施しました。  「旅の間には、普段は話す機会のなかった人と話をします。いろいろなことを話すなかで、それまでと違う一面を知ることもできます。若手もベテランも一緒になって盛り上がりますから、自然と横のつながりができ、結束力も高まっていると思います」(渡辺社長)  誠実な仕事をするためにも、人として豊かであること、互いを尊重しチームとしての結束力を高めていくこと、そして建設の仕事には工期があり、多忙な時期もあることから、「やる時はやる、やらない時は一切やらない」という気持ちの切り替えも大事にしています。  同社の社員数は144人。若い人材も育っていますが、コロナ禍以前から少子高齢化による人手不足が続いているうえ、最近は、建設業を志す若い人が少なくなっており、新卒者の採用はさらにむずかしくなっているそうです。  「そうしたなかで現場管理者が定年を迎える年齢になり、『もう少し』と引きとめているうちに高齢社員が多くなりました。当社は現場管理の仕事が中心です。現場で学ぶことが多く、年長者の豊富な経験は会社にとって貴重な財産。その人たちの力が必要ですから、元気なうちはいつまでも働いてもらいたいと考えています」(渡辺社長) プランナーが定年制改定を支援  以前から70歳を超えても働ける慣行はありましたが、制度化していなかったため、その検討を始めたタイミングで、たまたま岩元プランナーが同社を訪問したそうです。  岩元プランナーは、「高齢社員がさらに活躍できる仕組みとして、定年年齢の引上げや70歳までの継続雇用を検討しているとお聞きし、制度改善に向けた支援を行いました。制度を設けるだけでなく、個々の高齢社員の強みを活かし、長期継続可能な人材活用をふまえての制度提案、および生産性向上を図るうえでの取組みについても助言しました」と当時をふり返ります。  検討の結果、2021年8月に65歳への定年年齢の引上げ、希望者全員70歳までの継続雇用制度を導入しました。個々の社員のライフプランなどを考慮し、制度改定時点で55歳以上60歳未満の社員は、退職と退職金支払い時期について選択できる仕組みとしました。  改定にあたっては、半年ほど前から全社員に周知し、意見や質問を受けつけたそうです。社員からは、「60歳定年と65歳定年、自分の場合は何がどう変わるのか」といった質問などがあり、それらに対して岩元プランナーが一つひとつ回答しました。渡辺組の人事労務を担当する高吉(たかよし)克児(かつじ)経営管理室長は、「どんな質問にも答えていただき、専門家から伝えてもらったことで社員の安心感も高まったと思います。とても助かりました」と岩元プランナーの支援に感謝を述べていました。  改定以降、定年を迎えた社員はほとんどが継続雇用を希望し、現在65歳以上の社員は17人。うち1人は70代で、建築の現場監督を続けています。  仕事と責任が変わらなければ、継続雇用でも賃金は定年前の水準が維持され、評価によって賃金が上がることもあります。継続雇用は1年ごとに更新し、体調などに応じて週4日勤務にするなど、働き方にも柔軟に対応しています。  渡辺社長は、「無理はさせません。高齢社員にかぎらず、若手社員でも健康上の理由でフルタイム勤務がむずかしくなるケースもあります。そうした場合でも、できることはたくさんありますから」と働き方への対応について話してくれました。  今回は、長年つちかってきた技術と経験を継承しながら若手の仕事をサポートする、ベテラン社員にお話を聞きました。 若手のサポート役としても活躍  帖佐(ちょうさ)孝生(たかお)さん(67歳)は、建築会社勤務などを経て、38歳のときに渡辺組に入社、勤続年数は29年になります。  渡辺組の技術本部建築・積算・設計部門に所属し、定年前は現場管理者として活躍。65歳の定年以降は、週5日のフルタイム勤務は変わらないものの、現場管理者の役割を一部にないつつ、並行して、現場図面チェックや施工図の作成を担当しています。「正確な施工図、わかりやすい施工図の作成を心がけています」と現在の仕事を語る帖佐さん。  1級建築施工管理技士、1級土木施工管理技士、1級造園施工管理技士などの資格を有するうえ、現場でつちかった経験を活かし、現在は建築現場で22歳の若手社員と一緒に働きながら、そのサポート役も務めています。  渡辺社長は、「技術、知識、経験が豊富にありいろいろなことに対応可能で、若い社員にとっては、一緒にいることで多くのことが学べる存在です」と帖佐さんの力を讃えます。  帖佐さんに現在の仕事の魅力をたずねると、「施主、設計者が望んでいることを理解して図面作成を行います。図面が完成したときの達成感はもちろん、図面に基づいて現場が完成することも魅力です」と返ってきました。そのため、現場担当者、各職種の職長が理解しやすい図面を作成するスキルの向上をいまでも心がけているそうです。  今後の抱負として、「入社して数年の現場管理者でも、各職種の職長に、簡潔かつ正確に指示が出せるような図面を作成したい」と語ってくれました。  帖佐さんのサポートを受けながら、建築の現場責任者を務める豊満(とよみつ)愁斗(しゅうと)さん(22歳)は、帖佐さんについて次のように話します。  「質問や相談したことに対して、つねにプラスアルファのアドバイスがいただけます。施工管理をしていると悩むことや考えることが多くあるので、帖佐さんのような経験を積まれた方がいてくださると、自分では気づけなかったことを指摘してもらうことができ、ミスを事前に防ぐこともできます。ご自身の経験をふまえてお話ししてくれるので、とてもわかりやすいです」 先輩たちのおかげでいまの仕事がある  若手の豊満さんは、職場の高齢社員の活躍について、こんなことも話してくれました。  「施工管理という仕事に情熱を持っている方が多いと感じています。先輩たちが築いてきた物件に行くと、『○○さんは元気にしている?』、『よくしてもらったからね』とお客さまから言葉をいただくことがあります。これまで数々の物件を築いてきた先輩方のおかげで、いまの私たちの仕事があることに感謝したいです」  定年が65歳に引き上げられたことについて豊満さんは、「人生100年時代ともいわれているので、高齢期の働き方の見直しは大切だと思いますし、個々人の考えで70歳まで継続する人も多いと思います。私がその年になるころには、定年が70歳、75歳になっているのではないでしょうか」と40年後、50年後を見すえて考えを聞かせてくれました。  渡辺社長は、「多様な人材が安心して長く働けるよう、これからも人材育成に力を入れ、企業理念の『幸福追求』の実現を目ざして研鑽(けんさん)してまいります」と今後を語ります。また、「仕事をすることが健康を保つ秘訣ではないかと思います。自分の健康のためにも、私たちの仕事は地域のインフラを支えていますから、社会のためにも仕事を続けてほしいです」と高齢社員へエールを贈りました。また、同社について岩元プランナーは「鹿児島県を代表する企業であり、周囲への影響力もあります。年齢、性別にかかわらず、がんばる人を応援する会社であり、率先してさまざまな取組みをしていますので、これからも支援します」と話してくれました。 (取材・増山美智子) 岩元一哲 プランナー アドバイザー・プランナー歴:24年 [岩元プランナーから] 相談・助言活動で企業訪問をする際、まず、お忙しいなか、訪問を受け入れていただいたことに対して感謝を申し上げるとともに、訪問目的をお伝えし、企業での高齢者活用に対するお考えなどを集中して聴き取ることに努めています。また、話のなかで見えてくる課題などを把握しながら、さらなる高齢人材の活用を一歩でも前へ進めていただけることを念頭に置き、訪問企業にとって役立つ情報などの提供、ならびに、その課題解決に向けた的確な助言を行うことを心がけています。 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆鹿児島支部高齢・障害者業務課の中山課長は、「岩元プランナーは、2000年から高年齢者雇用アドバイザーとして活躍し、今年で24年目のベテランです。社会保険労務士のほか、行政書士、社会福祉士、精神保健福祉士、産業カウンセラーの資格を有しており、自身の経験と豊富な知識で事業所からの信頼も厚く、鹿児島本土のみならず、奄美大島などの離島もあわせて、広く県内で活動しています」と話します。 ◆鹿児島支部高齢・障害者業務課は、鹿児島中央駅からJR線で約10分の南鹿児島駅から徒歩5分の場所にあります。路面電車の鹿児島市電も走っており、アクセスもよく、晴れた日には桜島がよく見えます。 ◆同県では、7人の70歳雇用推進プランナーが活動しており、2022年度は416件の相談・援助業務を行い、85件の事業所に制度改善提案を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●鹿児島支部高齢・障害者業務課 住所:鹿児島県鹿児島市東ひがし郡元町(こおりもとちょう)14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 電話:099-813-0132 写真のキャプション 鹿児島県鹿児島市 株式会社渡辺組本社 好きな言葉を手にして、明るい表情で取材に応じてくれた渡辺丈代表取締役社長 建築図面の作成を行う帖佐孝生さん 【P34-35】 第90回 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 魚河岸(うおがし)トミーナ スタッフ 土井(どい)スズ子さん  土井スズ子さん(98歳)は東京・豊洲(とよす)市場(しじょう)の一角にあるイタリアンレストランで厨房に立つ。国内はもちろん海外メディアからも注目されている土井さんだが、ご本人は今日も淡々と窯の前で自慢のピザの焼き上がりを待っている。生涯現役の理想のような日々を土井さんが笑顔で語ってくれた。 好奇心が人生を豊かに彩る  私は長野県の生まれです。近くには信州の名湯上山田(かみやまだ)温泉がありました。三人姉妹の末っ子ですが、家が商家であったため余裕があったのか地元の女学校に進ませてもらいました。当時は、女学校まで行ける子どもは珍しかったと思います。父は商才に長けていて、いろいろ新しいことに挑戦していました。何かおもしろいことに出会うとまず自分でやってみたくなる私の性格は父親譲りかもしれません。  姉の一人が東京で看護師として働いていたので、私も女学校を卒業すると姉を頼りに上京し、これからは何か手に職をつけた方がよいかと思い1年ほど洋裁を勉強しました。しかし、だんだん戦争が激しくなってきて、いったん田舎に疎開することに。そのため東京の空襲には遭わずにすみましたが、戦争の記憶はいまもしっかり残っています。戦後、再び上京し、上海から帰国したばかりの夫と出会い結婚しました。彼は紳士服の仕立て職人で、私も家のことをしながら頼まれれば近所のお子さんのズボンを縫うなど、仕立て屋の仕事を手伝いました。これが思いのほか評判がよく、次第に婦人服も手がけるようになりました。終戦から2年後に娘が生まれ、その娘が経営するレストランで98歳の私がピザ職人として働いているのですから、人生はおもしろいなあと思います。  土井スズ子さんの一人娘である冨山(とみやま)節子(せつこ)さんが経営する「魚河岸トミーナ」の店内には天井や壁などにモネの『睡蓮』が描かれている。「モネの絵のなかにいるような感覚でイタリアンを楽しんでほしい」と節子さんは語り、厨房のなかからもモネの世界に浸ることができる。 世界を飛び回って学んだこと  主婦業をしながら婦人服の仕立てに励む毎日でしたが、子育ても終わり娘が結婚すると、自分の時間がほしくなりました。もともと旅行好きだったので、40代後半で仕立ての仕事を引退して、頻繁に海外に出かけるようになりました。10歳年上の夫は76歳で亡くなりましたが、私と一緒に家業を引退して、それからは亡くなるまで、大好きな山登りとスキーに明け暮れました。娘にいわせれば変わった夫婦だそうです。日本人の海外旅行といえば欧米が人気なのでしょうが、私は南米や中東、アフリカが好きで何度も出かけました。もちろんイタリアをはじめヨーロッパも一通り回りました。各地の味に触れるなかで「本物の味」に開眼していったように思います。ピザもたくさん食べ回りました。当時は自分がピザを焼くようになるとは思っていませんでしたが、40代後半から世界を飛び回ったことがいまの仕事に役立っています。どんな経験も必ずいつか実を結ぶようです。  紛争前の中東にも何度も行き、イランやイラク、シリアにも足を運びました。テレビで戦争のニュースが流れるたび、胸が痛くなります。海外に目を向けるようになったのは、ブラジル人の友人がたくさんいたからかもしれません。かつて私の住むマンションと同じ建物内にブラジル大使館があったため、ご近所さんはほとんどブラジル人の方でした。頻繁に部屋を行き来しては、一緒に食事をし、おいしくて珍しい料理をたくさん教えてもらいました。60年以上も交流が続くブラジルの女性たちの味が私の料理の原点であるかもしれません。  スズ子さんは84歳のときにアフリカのマリ共和国を訪問している。また、節子さんによればブラジルのサンパウロを気に入って3カ月ほど滞在したこともあるという。自由人の真骨頂が80歳でピザを焼く道を拓かせたに違いない。 75歳で厨房に立ち80歳でピザ職人に  夫が亡くなったのと同じ時期に、娘夫婦が築地にイタリアンレストラン「築地魚河岸トミーナ」を開店しました。私はイタリア料理の学校にも通う娘夫婦を応援するために、家の仕事や孫たちの面倒などを一手に引き受けることにしました。店は築地市場のなかにあり、新鮮な食材が手に入ります。よいものだけを選んで調理するので、本物の味に魅了されたお客さまが次第に増えました。だんだん働き手も必要になり、孫にも手がかからなくなってきたので、私もお店を手伝うことになりました。75 歳でイタリアンレストランの厨房にデビューするとは思っていませんでした。最初のころは皿洗いなどが中心でしたが、5年ほど経つと、みんなが楽しく料理するのを見て、私もピザを焼いてみたくなりました。子どものころからの好奇心がわいてきて、軽い気持ちで「ピザを焼いてみよう」と思っただけなのですが、それから18年、ずっとピザを焼く窯の前に立ち続けています。  私が年齢を重ねるにつれ、テレビなどの取材も増えてきました。シンガポールからわざわざ取材に来られたこともあります。みなさん、80歳からピザ職人になったきっかけや、現在も元気に働いていられる秘訣をお聞きになりますが、「好きな仕事だから」とお答えしています。  スズ子さんは、じつにかわいらしい方である。メディアの取材は、「自分ががんばっていることでだれかを励ますことになればと思い引き受けている」とはにかむ。取材中でも注文があれば厨房に戻るが、「厨房に入ると母の背筋が伸びるようです」と節子さんが温かくスズ子さんを見つめる。 生涯現役の日々を楽しく  市場の移転で「トミーナ」も築地から豊洲に移りました。豊洲に開設された飲食街は寿司を中心に和食が主流で、イタリアンが受け入れられるかどうか、様子を見ながら1年ほどお休みしていましたが、築地時代の常連のみなさんが豊洲での開店を待っていてくださいました。  ピザは注文を受けてから発酵させたピザ生地を伸ばし、トマトソースをつくり、具をのせて焼く、これが私の仕事です。ピザの生地は、空気が抜け切らないように均一に伸ばすことでふんわりと仕上がるのですが、年寄りは力が弱いですから、かえって生地にほどよく空気が残ります。うちのピザは生地が厚いのですが、厚さの割には焼き上がりがふんわりしているのが特徴です。手づくりのトマトソースは、一日で使い切るようにしています。築地時代から人気があった海鮮ピザは、市場ならではの新鮮な食材をふんだんに使うので豊洲でも注文が増えてきました。  店は朝8時にオープンしますが、娘たちと同居の私は、家のことを片づけてから11時に出勤。閉店の14時まで3時間限定のピザを焼きます。「スズ子ママのピザ」と呼んで遠方から食べに来てくれるお客さまがいること、働けることに感謝を忘れず、健康に気をつけて体力の続くかぎり厨房に立ちたいと思います。 【P36-39】 多様な人材を活かす 心理的安全性の高い職場づくり  高齢者をはじめとする多様な人材の活躍をうながすうえで大切な「心理的安全性」について、株式会社ZENTechの原田将嗣さん、石井遼介さんに解説していただきます。チームに心理的安全性を浸透させるためには、適切なステップをふんで進めることが肝要です。今回は、自分のチームから始める「心理的安全性の高い職場づくりの3ステップ」を紹介します。 株式会社ZENTech(ゼンテク) シニアコンサルタント 原田(はらだ)将嗣(まさし)(著) 代表取締役 石井(いしい)遼介(りょうすけ)(監修) 第4回 心理的安全性をつくる3ステップ 1 チームの心理的安全性を高めるためのステップ  心理的安全性とは「組織やチームのなかで、だれもが率直に、思ったことを言い合える状態」をいいます。「話しやすさ」、「助け合い」、「挑戦」、「新奇歓迎」の4つの因子を高めることでチームに心理的安全性を醸成することができるのです。  組織に心理的安全性を浸透させていくために、その規模・対象に応じ【全社】、【自部門・自チーム】という2つのレイヤーで考えることが重要です。  心理的安全性をつくる対象としてはじめに【全社】について簡単に触れたうえで、【自部門・自チーム】内の心理的安全性を実際につくるための「3ステップ」についてお伝えしたいと思います。 2 全社レベルで進める心理的安全性  全社で組織の風土を変えていくために、現状の見える化をすることから始めましょう。  当社では、「SAFETY ZONE○R」(★)という、組織・チームごとに心理的安全性を計測できるサーベイ(アンケート)をもとに、風土改革のサポートをしています。人事部門や管理職の感覚と、心理的安全性の高低は一致することが多いのですが、それでも感覚で「あそこは高そうだ・低そうだ」というよりも、明確な数値でスコアが出たほうが、空中戦を避けてディスカッションをする役に立ちます。  また、全従業員を対象とした研修や、全社規模の管理職研修・役員研修などを行い、心理的安全性そのものへの認知を上げてスタートするとよいでしょう。部署やチームレベルの施策を行ううえでも、前提をそろえ誤解を修正しておくことが役に立ちます。 3 自部門・自チームの心理的安全性をつくる3ステップ  自身の職場や部門・チームで心理的安全性を育むためには、次の3ステップが推奨されます。 ●ステップ1:心理的安全性宣言と、行動の約束  まず、特に管理職やリーダーから「心理的安全性宣言」を行うことが有効です。「心理的安全性宣言」とは、心理的安全性向上に取り組む目的を明確にすることです。問いを変えるならば「心理的安全性を育むことで、ほかでもない自分たちのチーム・自分たちの業務に、どのようなメリットがあるのか」を明らかにすることです。  例えば、顧客満足度向上プロジェクトのチームであれば「今回のプロジェクトを機に、顧客満足度が大幅に向上するような、全社的にインパクトあるプロジェクトにしたい。そのためにも、プロジェクトメンバーからお客さまの状況や課題に対して、気づいたことをどんどん共有してもらいたい。そこで、まずは、このチームの心理的安全性を高め、小さな気づきを共有できる環境をつくりたい」といった話し方ができるでしょう。  一方で、この宣言は「行動の約束」とセットで実施することが重要です。行動の約束とは、そのような心理的安全性の高い組織やチームを実際につくるために、あなた自身は何をするのかという約束(コミットメント)です。例えばプロジェクトリーダーであれば、「プロジェクトの問題点やうまくいっていない報告に対し、まずは『教えてくれてありがとう』と伝え、問題の報告を歓迎し、話を最後まで聴いてからコメントをする」といった「具体的な行動の約束」をすることが、そしてその約束を守り続けることが役立つでしょう。宣言したものの実際に行動がともなわない場合は、かけ声倒れになってしまい心理的安全性の高いチームはつくることがむずかしくなってしまいます。  実際、私たちはだれもが知る上場企業の経営トップから、省庁の事務次官に至るまで、日本中の複数の組織で、経営者からの「宣言と約束」を実践していただいています。これらは、経営陣からの後押しのメッセージとして、心理的安全性浸透の強力な武器となりました。 ●ステップ2:診断と対話による、現状認識と解決案の立案  次に現状の認識をするフェーズです。これは全社レベルで行われるサーベイがあれば、その結果を利用することがもっとも簡単な始め方でしょう。それがない場合も、部や職場内で心理的安全性に関するアンケートを作成し行うこともできます。心理的安全性の4因子「@話しやすさ、A助け合い、B挑戦、C新奇歓迎」それぞれについて、質問をしてみるとよいでしょう。  大切なことは、結果に一喜一憂することではありません。特に心理的安全性が高い場合には「私たちの部署は、心理的安全性がすでに高いので、特に問題ありません」と結論づけがちですが、心理的安全性の計測は、体温計や体重計のようなものだと思ってほしいのです。  風邪の治療で、一度高熱から平熱に戻ったら、あとは体調管理をしなくてよいわけではないように、そしてダイエットを一度やって目標を達成したら、あとは野放図にカロリーを摂取し続けてもよいわけではないように、心理的安全性とは向上させ続け、維持し続けるものです。法律の改正なども含め、さまざまに変化するビジネス環境のなかで組織の状態を良好に保ち続けることは、終わりなき取組みなのです。そして、どうしてもトラブルや不祥事が起きると、心理的安全性は悪化しがちです。  ですから、心理的安全性が高いときこそ「なぜ、わたしたちのチームは高いのか」、「わたしたち一人ひとりの、どのような行動が心理的安全性づくりに貢献しているのか」を明らかにしておくことで、状態が悪いときにもその行動を思い出したり、またほかのチームへ「組織のなかの好事例」として横展開することができます。  このような「対話」の重要性は、多くの人が耳にしたことがあるのではないかと思います。しかし落とし穴もあります。みなさんも、いきなり「さあ、組織の課題や方向性について何かしら対話をしてください」、「心理的安全性について、自由に活発な対話をお願いします」といわれても、何を話してよいのかわからず、なかなかむずかしいのではないでしょうか。  そこで活用できるのが、先述のサーベイ結果です。客観的な数値があることで、数字の方向を向いて話すことができ、結果として人を悪者にするのではなく、組織やチームと、よい距離感を保って対話をしやすくなります。  対話を元に現状の認識をそろえたうえで、その次に「対話による解決案の立案」をすることで、よりチームのなかで実態に合った立案ができるようになるのです。 ●ステップ3:「きっかけ言葉」と「おかえし言葉」による、組織の活性化  心理的安全性の計測は「体温計や体重計」と記載した通り、心理的安全性への取組みは、継続して日常的に行い続けるべき取組みです。組織やチームの人々の不断の努力によって、心理的安全性は保たれます。そこで、日常的に仕事を進めるうえで使われる「言葉」に焦点をあて、心理的安全性の維持・向上を試みます。第2回※で紹介した、「きっかけ言葉」と「おかえし言葉」を使います(図表2)。  第2回では、声かけの言葉は「きっかけ言葉」と「おかえし言葉」の大きく2種類に分類でき、「きっかけ言葉」は相手の行動をうながす言葉、そして「おかえし言葉」は起きた行動や結果を受け止めるものだとお伝えしました。よい「きっかけ言葉」は、人々の背中を押し、行動をうながします。また、よい「おかえし言葉」は、行動した人がHappyに感じる言葉を投げかけることで、行動や結果をしっかりと受け止め、「また、次回もこのような行動を取ろう!」と感じさせ、組織・チームの行動を活性化させます。  日常でなにげなく使っている言葉を、心理的安全性をつくる言葉に変えることは、すぐに取り組めます。  例えば、「おかえし言葉」の改善例を見てみましょう。  業務改善案を出し合うミーティングで、メンバーから業務改善案が出てきたとき、以下のリーダーの発言はいかがでしょうか。 メンバー:「〇〇ということをやってみたらどうかと思うんですが……」 リーダー:「いいね! じゃあやっておいてもらえる?」 メンバー:「……あ、はい。」  よく見られる光景ですが、リーダーの言った「じゃあやっておいてもらえる?」は、アイデアを出したメンバーを「言ったもん負け」にしてしまうNGおかえし言葉です。  この場面では、リーダーが「いいね! だれのサポートがあればうまくいきそう?」という「おかえし言葉」で受け止めると、アイデアを出したメンバーに対して、むしろ自分のアイデアがチームで前向きに進められることになったと嬉しい気持ちになります。さらに、この言葉はメンバー同士が協力し合って進めることをうながすため、助け合い因子が高まる効果があります(図表3)。  このように、ステップ2で現状認識と解決案の立案ができたら、ステップ3では実際に増やしたい行動を「きっかけ言葉」と「おかえし言葉」で推進していきます。望ましい行動が増えることで、チームは心理的安全性が高い職場に着実に近づいていくでしょう。 4 まとめ  今回は、心理的安全性を実現するための3つのステップ、@心理的安全性宣言と行動の約束、A診断と対話による現状認識と解決案の立案、B「きっかけ言葉」と「おかえし言葉」の活用をご紹介しました。いかがでしたでしょうか。  最後にアクションへのヒントをいくつかお伝えしたいと思います。まずは仲間を1人見つけるところから始めてください。その2人、3人の小さなチームで心理的安全性を確保し、そして3ステップへと歩みを進めてください。  もうひとつは自分自身を問題のなかに入れていただきたいのです。組織で働いていると、つい「なぜ、あちらの部署は協力的じゃないんだろう」と悩むことがあると思います。しかしそんなときこそ「私たちは、あちらの部署が進んで協力したくなるような、適切な『きっかけ言葉・おかえし言葉』を使えていただろうか」とふり返っていただきたいのです。  きっと、そのほうが仲間が増え、組織に笑顔が増え、よりよい組織づくりにつながるはずです。心理的安全性をつくるのは、組織を変えるのは、あなたです。ぜひあなたから一歩をふみ出しましょう。 ★「SAFETY ZONER」は株式会社ZENTech の登録商標です。 ※ 「エルダー」2023年12月号 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202312/index.html#page=42 図表1 心理的安全性の高い職場づくりの3ステップ 自部門・自チーム Step1 「宣言」と「行動の約束」 Step2 「診断と対話」による現状認識と解決案の立案 Step3 きっかけ・おかえし言葉で課題解決行動を活性化 全社 全社講演会・管理職研修・役員対談 心理的安全性の高い組織診断サーベイ 全社:土台があると進めやすい ※筆者作成 図表2 「きっかけ言葉」と「おかえし言葉」 きっかけ言葉 行動をうながす おかえし言葉 受け止める イラスト/やまね りょうこ 出典:『心理的安全性をつくる言葉55』(飛鳥新社) 図表3 行動変容に役立つ「きっかけ」、「行動」、「みかえり」フレームワーク 行動変容に役立つフレームワークでNGおかえし言葉とOKおかえし言葉を見る おかえし言葉 例 きっかけ 業務改善 ミーティング 行動 アイデアを出す 確率Up おかえし言葉 「いいね! だれのサポートがあればうまくいきそう?」 Happy 自分のアイデアを、みんなで進められることになったので嬉しい NGおかえし言葉 例 きっかけ 業務改善 ミーティング 行動 アイデアを出す 確率Down NGおかえし言葉 「いいね! じゃあやっておいて!」 Unhappy 一人でやらされる「言ったもん負け」になり次回、アイデアを出そうと思えない 出典:筆者作成 【P40-43】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第69回 定年制の変更について、社有車の盗難による事故とその責任 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永勲 Q1 定年廃止後に定年を改めて設定することはできますか  高齢従業員の就労確保のために、定年を廃止することも視野に入れて検討しています。ただ、状況によっては定年制を再度定め直して、継続雇用措置に切り替えることも考えておきたいのですが、問題はあるでしょうか。 A  一度廃止した定年制を設定し直すことは、就業規則の不利益変更に該当し、その効力が否定されるおそれがあります。廃止を先行させるのではなく、定年の延長などを順次行いつつ、最終的な廃止を目ざすほうがよいと考えられます。 1 高齢者の就業確保について  高年齢者雇用安定法が改正され、現在では、70歳までの就業機会の確保が努力義務として定められています(同法第10条の2)。  65歳までの高年齢者雇用確保措置と同様に、定年の引上げや継続雇用制度のほか、定年の定めの廃止も就業確保の措置となることが定められています。2022(令和4)年「高年齢者雇用状況等報告」(厚生労働省)によれば、66歳以上になっても働ける企業の割合は40.7%、70歳以上まで働ける企業の割合は39.1%となり、いずれも増加傾向にあります。  高年齢者雇用安定法における70歳までの就業機会確保の努力義務化の影響や、人材不足への対応として高齢者雇用を長期化することが課題になっていることを反映しているものと思われます。今回は、高齢者の就業確保措置の一環として定年制を廃止した場合に、これを改めて設定することができるのか検討していきたいと思います。 2 定年の引下げと就業規則の不利益変更に関する裁判例  定年制の廃止は、労働者の労働契約の終了時期に関する定めがなくなることで、労働者が退職を申し出ないかぎりは労働契約が終了しないことになることからすれば、定年制の対象となる労働者にとって不利益になることはなく、就業規則は有効に変更することができるでしょう。  問題は、一度定年制を廃止した後に改めて定年制を定め直して、継続雇用措置に変更することが可能であるかです。  大阪地裁平成25年2月15日判決(大阪経済法律学園〈定年年齢引き下げ〉事件)では、満70歳とされていた定年年齢を満67歳へ引き下げる内容に就業規則を変更したところ、これらを定めていた就業規則の変更が有効と認められるか否かが争われました。  就業規則の不利益変更が有効か否かについては、現在の労働契約法に定められている内容とほぼ同様の基準を用いており、「変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応」を考慮対象にしつつ、学校法人であったという特徴から「同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して、当該変更が合理的であるといえることが必要」という判断基準が示されました。  そして、定年引下げについては、既得権を消滅、変更するものではないとしつつも、「在職継続による賃金支払への事実上の期待への違背(いはい)、退職金の計算基礎の変更を伴うものであり、実質的な不利益は、賃金という労働者にとって重要な労働条件に関するもの」であることを理由に、労働者にそのような不利益を法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであることが必要とされました。  このような基準に照らして、変更の必要性については、学校法人という特殊性の観点から私立大学間の競争が激化していること、定年を引き下げる大学が複数あり満70歳定年制の大学はむしろ少数であること、教員年齢の偏りが生じていたことなどから、一定の必要性は肯定されつつも、財政上の理由はなく緊急性があったとまでは認められませんでした。  変更内容による不利益の程度については、平均的な定年年齢であることから内容自体は相当なものとされつつも、単に相当であればよいだけではなく、「重要な労働条件に不利益を課すものであるから、合理的であるといえるためには、……代償措置ないし経過措置である……再雇用制度が、かかる不利益に対する経過措置・代償措置として相当なものであるといえることが必要」という条件を加えました。  そして、「特別専任教員又は客員教授としての再雇用は、本件定年引き下げ以前から存在する制度であるから、これらをもって、本件定年引き下げの代償措置と評価することはできない」とされ、さらに、当該再雇用の対象とならなかった場合の割増退職金制度もないことなどから、代替措置として不十分であるとして、就業規則の不利益変更として合理性を有しているとは評価することができず、無効であると判断されました。  なお、この裁判例で触れられている再雇用制度は、希望者全員を再雇用するものではなく、一定の基準をもって再雇用対象者を選定するものであり、いわゆる高年齢者雇用安定法が定める継続雇用制度とは異なるものでした。 3 裁判例からわかる留意事項  ご紹介した裁判例が、定年の引下げという定年制度の再設定よりは不利益の程度が小さいと思われるものであっても、厳格な判断が行われています。高齢従業員の就業確保措置を実現するにあたって、定年制を廃止する方法も選択肢にありますが、一度廃止した定年制を改めて設定することは、より困難であろうと考えられます。  定年制の廃止は、70歳にとどまらず高齢者雇用を広げていくものであり、望ましい施策ではありますが、一度廃止した後に再設定することは困難であることに留意して、自社の実情に合うものであるのかについては、慎重に検討していくべきでしょう。  このような法的な課題もあることもふまえると、継続雇用制度を維持した状態で、定年を延長しつつ、自社における高齢者雇用の課題を明らかにしながら、最終的な方法として定年制の廃止を目ざすという方法がよいのではないかと思います。 Q2 盗難された社有車で事故を起こされたとき会社は責任を問われるのですか  社有車を少し離れた月極駐車場で管理していますが、ある日、1台盗難にあいました。前日に使った社員が施錠をせず、鍵を車内に置いたまま車から離れ、そのまま帰宅したことが原因のようです。そして、盗難された車で事故を起こされたのですが、当社は被害者に対する賠償責任を負担する責任はあるのでしょうか。 A  客観的に第三者の自由な立入りを禁止する構造または管理状況にあるか、内規などにより自動車の管理を適切に定めて運用も確保されている状況にあれば、盗難された社有車による事故の責任を会社が負担する可能性は低いでしょう。 1 盗難された側の会社が事故の責任を負うことがあり得るのか  社有車を会社の敷地内から少し離れた月極駐車場で管理している状況で盗難にあった場合、当該盗難車で生じた事故は、盗難した者が責任を負うべきであるというのが原則ですが、盗難した者は自動車の所有者でもないため、被害者にとってはその特定が容易ではない場合があります。  そのような場合であっても、自動車の所有者や管理者に対して責任追及できるように定めた法律があります。「自動車損害賠償保障法」(以下、「自賠法」)第三条は、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる」と定めており、「運行供用者責任」と呼ばれています。  ここにいう、運行の用に供する者(以下、「運行供用者」)に該当するか否かについては、判例上、@自動車の運行を支配(コントロール)していること(以下、「運行支配」)とA自動車の運行により何らかの利益を得ていること(以下、「運行利益」)を考慮して判断されています。  これらの運行支配や運行利益について、盗難車であれば否定されるのかというと、必ずしもそうではないと考えられています。また、管理状況に不手際があった場合にはそのことを理由に不法行為責任を負担する可能性もあると考えられています。 2 二つの最高裁判例  盗難された社有車による交通事故について、会社の責任を判断した二つの最高裁判例があります。  一つめは、最高裁昭和48年12月20日判決です。事案の概要としては、タクシー会社が所有する自動車が窃取され、2時間後に事故を起こしました。駐車されていた場所は周囲を2mの高さのブロック塀で囲われた駐車場内でしたが、エンジンキーなどの管理が十分でなかったことから窃取されたという状況でした。  最高裁は、自賠法第三条が定める運行供用者責任に関しては、「本件事故の原因となつた本件自動車の運行は、訴外B(筆者注:窃取した運転手)が支配していたものであり、被上告人(筆者注:会社)はなんらその運行を指示制御すべき立場になく、また、その運行利益も被上告人に帰属していたといえないことが明らかである」としてその責任を否定しました。また、この判例は、「客観的に第三者の自由な立入りを禁止する構造、管理状況」があったことを理由に会社の不法行為責任も否定しました。  しかしながら、社有車の駐車場が第三者の自由な出入りを許す構造となっている場合(例えば、周囲を塀で囲まれていないような場合)には、会社は、社有車が盗難された後に引き起こされた事故に対して責任を負う可能性が残される判断となっていました。  この点について判断したのが、二つめの最高裁令和2年1月21日判決です。事案の概要は、寮から社有車による通勤を許しており、当該社有車は、公道から出入りすることが可能な状態であった場所に、エンジンキーを運転席上部の日よけに挟んだ状態で駐車していたところ窃取され、その後に事故を生じさせたというものです。  先ほどの事件とは異なり、客観的に第三者の自由な立入りを禁止する構造、管理状況ではない場所に通勤に利用されていた社有車が駐車されていました。ただし、会社には、第三者の自由な立入りが予定されていない場所にエンジンキーを保管する場所を設けたうえで、従業員が自動車を駐車場に駐車する際は、ドアを施錠し、エンジンキーを当該保管場所に保管する旨の内規が定められていました。  最高裁は、駐車場所について「公道から出入りすることが可能な状態であったものの、近隣において自動車窃盗が発生していたなどの事情も認められない」としたうえで、「内規を定めることにより、窃取されることを防止するための措置を講じていたといえる」と判断して、会社の過失はないと判断し、賠償責任を否定しました。なお、最高裁昭和48年12月20日判決との関係については、駐車場が「客観的に第三者の自由な立入りを禁止する構造、管理状況」にない場合に、ただちに不法行為責任を肯定すべきとする趣旨のものではないと説明されました。ただし、この判例では、労働者が「以前にも、ドアを施錠せず、エンジンキーを運転席上部の日よけに挟んだ状態で本件自動車を本件駐車場に駐車したことが何度かあった」点について、会社がそのことを把握していたとの事情も認められないという補足をしていることからすると、内規が形骸化していることを認識している場合には結論が異なる可能性があります。  これらの判例によれば、会社の責任を否定する要素としては、「客観的に第三者の自由な立入りを禁止する構造、管理状況」を整える方法以外に、内規を整え、これを遵守させることで施錠を管理する方法によることも可能であるといえます。 3 判例から留意すべき事項  例えば、月極駐車場が、駐車場の契約者のみに貸与されるカードキーや暗証番号などにより、契約者しか入れないような構造になっていれば、「客観的に第三者の自由な立入りを禁止する構造、管理状況」であるといえるので、会社が事故に対する責任を負担することはないでしょう。  しかしながら、一般的な月極駐車場であれば、自社の社員のみならず、他の駐車場契約者も出入りが可能であることが通常と思われます。そのような場合には、鍵の保管場所や保管のルールを定めた内規を整えておくことにより、会社が責任を免れる根拠を用意することができます。定めた内規に基づく運用が形骸化していないかぎりは、会社が、盗難車による事故の責任を問われることはないでしょう。 4 社員の責任  会社に事故の責任が問われないとしても、会社の規程に違反して社有車という財産を毀損した社員に対して処分ができなくなるわけではありません。内規の違反が懲戒事由とされている場合には、当該違反を根拠として、社員に対する懲戒処分を行うことは可能でしょう。  なお、盗難後の事故により破損した自動車の修理費や買い替え費用などの責任については、たしかに鍵の管理を怠った社員をきっかけとしているとはいえますが、その結果、社有車が盗難されて事故を生じさせることは通常のできごとではなく、社員がこれを予見することはできないと考えられますので、当該社員にその責任を負担させることはできないでしょう。これらの損害は、盗難した者を特定して追究する必要があるでしょう。 【P44-45】 “生涯現役”を支えるお仕事 第3回 シニアのお仕事探し最前線!「生涯現役」に寄り添う就職支援アドバイザー 東京しごとセンター シニアコーナー 就職支援アドバイザー 白井(しらい)弘(ひろし)さん 内野(うちの)貴世子(きよこ)さん  人生100年時代を迎え、多くの高齢者が長く働き続けることができるのは、高齢者の生涯現役を支えている人たちの活躍があるからともいえます。このコーナーでは、さまざまな分野や場面で働く高齢者、そして“生涯現役社会”を支えるお仕事をしている人々をご紹介します。  55歳以上のシニアを対象に、就業支援に関するワンストップサービスを展開する東京しごとセンターの「シニアコーナー」。再就職先を探す人、定年後のセカンドキャリアを模索する人など、毎年約8000人以上が利用し、2022(令和4)年度の就職件数は約2000件にのぼっています。今回は、同コーナーで活躍する公益財団法人東京しごと財団総合支援部しごとセンター課高齢就業支援係就職支援アドバイザーの白井弘さんと、内野貴世子さんに、生涯現役を目ざすシニアの仕事探しについてうかがいました。 定年退職後、就職支援アドバイザーに転身「先入観を持たない」がシニア支援のポイント ―「東京しごとセンター」は、東京都民の雇用や就業を支援するため、2004(平成16)年に設置されました。シニアコーナーでは、個別の就業相談やキャリアカウンセリングのほか、セミナーや就職面接会などを実施していますが、就職支援アドバイザーとしての具体的な仕事内容を教えてください。 白井 シニアコーナーの営業時間は、月曜日から金曜日は午前9時から午後8時、土曜日が午前9時から午後5時で、私たちを含め計11人の就職支援アドバイザーが所属しています。仕事のメインとなるのが相談対応。利用者の話を聞きながら、それぞれの課題を見きわめ、考えるべきポイントや課題を整理して、必要なアドバイスを、きめ細かく行っています。そのほか、模擬面接や就職対策のセミナーで講師を務めたり、面接会などのイベントに出張して就業相談をしたりすることもあります。 ―どのような経緯で、就職支援アドバイザーの仕事をするようになったのでしょうか。 白井 私は、60歳の定年まで民間の会社に勤めていました。スタッフ部門の経験が長く、企画本部で予算管理などを担当し、2014年に退職。退職後は、いままでの経験を活かして就職できないかと、2カ月ぐらいハローワークに通い、何社か応募したのですが、採用に至りませんでした。  しかし、そのハローワークで、「キャリアサポーター養成科」のパンフレットを偶然目にし、キャリアコンサルタントになるための半年間の訓練を受講することができました。その後、産業カウンセラーの資格も取得し、2016年に東京しごとセンターに採用されたという形です。 内野 私は民間の会社で、人事関連の仕事に長くたずさわっていました。産業カウンセラーの資格を取得し、社内の相談窓口などを担当していました。2011年、早期退職に応募し、再就職活動を行った際にキャリアコンサルタントの資格も取得。その後、約10年にわたって民間や自治体の事業で就職支援にたずさわり、2020年から、シニアコーナーで仕事をするようになりました。 ―シニアの就職支援ということで、特に心がけていることはありますか。 白井 シニアコーナーといっても50代後半から60代、70代、80代と利用者の年齢層は非常に幅広く、それぞれ違った環境で、違った問題を抱えています。一人ひとりの状況、年代層の特徴をある程度把握したうえで、利用者の話を聴くようにしています。また、シニア世代は介護の問題があったり、自分でも病気を抱えたりしていることもありますから、そういう事情をトータルに理解し、利用者に対応することを心がけています。 内野 自分への戒めは「先入観を持たない」ことです。いま、利用者が何を求めてここに来ているのか、先入観を持たず、よく聴くようにしています。人によって、年金は十分にあるけれど、社会とのかかわりを持つために仕事を探しているケースもありますし、「年金がぜんぜん足りないから働く」という人もいます。とにかく一定の金額を稼がなければならないのなら、少し方向性を変えて仕事を探すことなども提案し、それでうまくいくこともあります。 80代で希望の仕事にさまざまな選択肢で納得のいく就職を ―就職支援アドバイザーのお仕事で、魅力を感じるのはどんなところですか。具体的なエピソードがあれば、教えてください。 内野 シニアの場合、いままでの経験を活かして仕事をしたい希望があっても、いまの就労環境の状況では、なかなかそれが実現できないというケースは少なくありません。シニアコーナーでは、そういうシニアの求職者にも、さまざまな情報、選択肢を提供できるのが魅力です。例えば、65歳以上を対象とした「しごとチャレンジ65」は、職場体験を通じて、求職者と受入先企業をつなぐプログラムです。書類選考などは行わず、企業に求職者に直接会ってもらうことができるので、採用率が非常に高くなっています。また、就職支援講習※を提案したことで利用者が前向きになり、納得した就職をしてもらえるのが一番ですね。 白井 少し前の話ですが、希望の仕事に就くことができた80代の女性がいます。いままでの経験を活かして、調理や洗い場での仕事がしたいということだったのですが、立ち仕事ですし、大きな鍋を扱うようなこともありますから、年齢的に少し厳しいかなと思っていました。しかしその方は、ハローワークの求人票にあった小料理屋で職場体験に臨み、そこでの就職が決定。その店では高級な器を多く使用していたので、その方のていねいな洗い方が評価されたのです。とてもうれしく思いましたね。 ―シニアが生涯現役で働き続けていくため、企業に求めることはありますか。 白井 少子高齢化で、労働力人口も減ってきています。働く意欲があるシニアを、企業としても積極的に、戦力としてどんどん活用してほしいと思います。 内野 シニアの働き方は、いろいろと工夫することができるのではないでしょうか。例えば介護の現場であれば、身体の介護はむずかしくても、介護職の手伝いなどは可能です。仕事を切り出して細分化することで、少しずつでも、シニアが働く機会をつくっていただきたいですね。 (取材・沼野容子) ※ 就職支援講習……東京しごとセンターが実施する、マンション管理、介護など、シニアが活躍する業界へ職種転換するための短期講習 写真のキャプション 公益財団法人東京しごと財団 総合支援部 しごとセンター課 高齢就業支援係 就職支援アドバイザーの白井弘さん 公益財団法人東京しごと財団 総合支援部 しごとセンター課 高齢就業支援係 就職支援アドバイザーの内野貴世子さん 【P46-47】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第43回 「タレントマネジメント」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、タレントマネジメントについて取り上げます。人事にかかわる人にはすでに浸透していますが、それ以外の人にはなじみが薄い用語かもしれません。 タレントとは才能≠意味する  タレントマネジメントの定義は一定ではないといわれていますが、例えば厚生労働省が公表した『平成30年版労働経済の分析』では、一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会の「人材の採用、選抜、適材適所、リーダーの育成・開発、評価、報酬、後継者養成などの人材マネジメントのプロセスを支援するシステム」という定義を引用しています。なんとなくタレント≠ニ聞くと、メディアへの露出度が高い芸能人や有名人などを想像しがちですが、本来は「才能・才能のある人」を意味しており、さまざまなタレントマネジメントの定義においても「個人の才能を把握・育成・活用する」という点においては共通しています。  この用語の歴史は長く、1990年代に当時激化していた優秀人材の獲得競争を背景に、アメリカのマッキンゼー・アンド・カンパニーというコンサルティング会社がThe War for Talent(人材獲得・育成競争)≠ニいう概念を提示したことが始まりといわれています。この考え方にのっとり、早期に具体的な仕組みやシステムづくりに着手する企業がある一方で、考え方は理解するが具体化はせずにきたという企業も多く、取組みに対する温度差が大きかったというのがここ最近までの流れといえます。しかしながら、近年はタレントマネジメントの必要性が年々高くなり、再び注目されています。 タレントマネジメントの必要性は近年高まっている  その必要性とは、この連載でも何度も出てくる少子高齢化による人材不足≠ニグローバル化や情報技術の進化などの環境変化≠フ加速化にあります。タレントマネジメントの考えが提示された1990年代後半あたりは、日本では人材獲得の競争どころかバブル経済の崩壊により、人員余剰の状態が恒常的に続きました。また、高度経済成長期からバブル経済期までの企業の成功体験をもとに社員の採用は新卒採用中心の長期雇用、教育はジョブローテーションによりさまざまな仕事を経験させ社内の幅広い仕事ができる会社人材≠育てることに重点が置かれていました。環境変化が緩やかであれば過去の成功法を次世代に継承し、人員余剰であれば足りない人材のみを外部から調達すればこと足りたのですが、近年ではその考えがもはや通用しないことは多くの企業が認識していることです。これまでの成功体験が通用しない、思うように人も集まらない状況下で企業が生き残っていくためには、どのような事業や会社運営に今後重点を置くべきかを戦略的に考え、それを遂行するために必要なスキル・能力・志向性など(以下、「スキル等」)を持った人材を効果的に確保することの重要度が高くなります。実現するためには、事業を遂行するために求められるスキル等を具体的に設定し、該当するスキル等を有する人材を採用し、並行して社員の能力開発を進めていく必要があります。これらを仕組み化して継続して進めていくことがタレントマネジメントの基本となるため、人材不足と環境変化が加速化するほど注目が高まるのは必然ともいえます。 大事なのは目的に応じた実施  タレントマネジメント推進の前提となるのは、事業上必要な業務や会社運営上の役割(以下、「業務や役割」)ごとのスキル等の具体的な設定と、社員がスキル等をどの程度有しているかの個別の情報データベース化です。情報に基づかないと人事部門や経営者の勘と経験に頼らざるを得ず、次のような施策を具体的に展開できなくなるからです。 ・採用…業務や役割ごとに必要なスキル等と在籍する社員の実態を把握し、不足する、またはより伸ばしていくべきスキル等を有する人材を採用する。新卒だけでなく、即戦力としての中途採用も対象とする。 ・人材配置…業務や役割を遂行するのに必要なスキル等を有する人材を適材適所で配置する。このことで業務遂行や組織運営の効果を高め、生産性を上げる。 ・能力開発…事業に必要なスキル等のトレーニングを行う。研修などの場で行うことと並行して、社員の将来的なキャリアを見すえた(当該業務に従事することによりどのようなスキルが習得できるか)ジョブローテーションも行う。 ・後継者育成…次世代の人材がいないという状況にならないように、組織長や経営層に求められるスキル等を洗い出し、該当する社員を候補としてプールする。そのうえで、より次世代に相応しい人材にするための教育や選抜を行っていく。 ・リテンション(人材流出の防止)…業務や役割に従事するにあたり必要なスキル等を明示し、対応可能な人材が自ら異動希望を出せるようにすることで、やりたいことができないことによる離職を防ぐ。  代表的なものを取り上げましたが、施策の範囲が幅広い点がポイントです。インターネットで「タレントマネジメント」と検索するとすぐにITシステムの広告が表示されますが、これらのシステムはデータベースの構築・抽出・推進するための手段の一つにすぎません。ここにばかり注力して肝心の施策にまで展開できないというケースを聞くことがあります。しかし、重要なのは施策への展開です。社員の情報を何にどのように活用するか目的を明確にし、あらかじめ全体像を描いたうえで取り組むのがよいでしょう。  また、もう一つのポイントは、すでにやっている・やりたいと思っていることを仕組み化して行うという点です。タレントマネジメントとあらためていわれなくても、社員のスキルを伸ばしたい、適材適所で人を配置したい、後継者がほしいということを希望する企業や、試行錯誤で取り組んできた企業は多いはずです。ここで従来欠けていたのは、業務などの目的・範囲やスキルの可視化と情報収集という施策の根拠になる部分です。何から手をつけたらよいかわからないという企業であっても、これらを起点に施策を推進していけば前進していくことができると思われます。  次回は、「フレックスタイム制」について解説します。 【P48】 日本史にみる長寿食 FOOD 363 平安文化を支えた牛乳 食文化史研究家● 永山久夫 牛乳にはタンパク質がたっぷり  牛乳は、完全な栄養食品ともいわれるように、良質のタンパク質をはじめ、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルなどがまんべんなく含まれています。ビタミンでは、A のほかにB1、B2、E、K、葉酸を含み、ミネラルではカルシウムにカリウム、鉄、マグネシウム、亜鉛などが豊富です。  このため、成長期の子どもや病人、高齢者には欠かせない栄養食品で、一般の人たちの栄養補給にも理想的な食品として、すっかり定着しています。長寿民族の日本人に不足しがちなカルシウムの供給源としても欠かせません。牛乳のカルシウムは、タンパク質と結合された形になっており、吸収率が高いという特徴があるからです。  代表的な乳製品であるバターやチーズというと、ヨーロッパやアメリカというイメージが強いですが、じつは、日本にも「牛乳文化」が栄えた時代がありました。才能豊かな女性たちが頼もしい活躍をした平安時代になります。 平安女性たちは豊満美人  牛乳の加工食品は、奈良時代にもありましたが、本格的につくられるようになったのは平安時代。『源氏物語』で有名な紫式部(むらさきしきぶ)や『枕草子』の清少納言(せいしょうなごん)、世界三大美人の一人といわれる小野小町(おののこまち)などが活躍した王朝文化の時代です。  平安文化の主役である貴族たちの食膳には、牛乳を時間をかけて煮詰めた「蘇(そ)」がひんぱんにのっていたのです。紫式部たちも食べていたのではないでしょうか。当時の記録で「蘇」のつくり方をみると、次のようになります。「乳大一斗、煎得蘇大一升」。つまり、一斗の牛乳を煮詰めると、一升の蘇ができるという意味です。  『源氏物語絵巻』の女性たちの表情は、みんなふっくらとしていて、円満な顔立ちをしています。髪も黒く、つやつやとしていて長い。健康そのものであることを示しています。顔の豊かさは男性も同じで、栄養状態のよさを示しており、その背景にあるのは平安貴族たちが育てた「牛乳文化」といってよいでしょう。 【P49】 心に残る“あの作品”の高齢者  このコーナーでは、映画やドラマ、小説や演劇、音楽などに登場する高齢者に焦点をあて、高齢者雇用にかかわる方々がリレー方式で、「心に残るあの作品の高齢者」を綴ります 第9回 小説『あん』 (著/ドリアン助川(すけがわ)2013年) 事業創造大学院大学事業創造研究科教授 浅野浩美  何歳であっても、人が外で働くことには意味があるのだ、と思います。  小説の題名の「あん」というのは、どら焼きなどに入っている、餡子(あんこ)の「あん」のことです。  話は、冴えないどら焼き屋に、76歳の徳江(とくえ)が「アルバイトとして雇ってほしい」とやってくるところから始まります。どら焼き屋の店長は、中年のいわゆる「ダメンズ」(ダメな男子)。雇われ店長で、借金を返すために、やりたくもない仕事をしています。  店長は「雇ってほしい」という申し出を断りますが、徳江はまたやって来て手づくりのあんを置いていくのです。そのあんが、あまりにも美味しかったことから、店長は、徳江を雇うことにします。  徳江のあんづくりはていねいです。昼の11時の開店に向け、朝6時過ぎから仕込みをはじめます。一晩浸した小豆を差し水をくり返しながら煮、煮汁を捨てて、渋を切り、さらに、煮あがった小豆をシロップと練り合わせていきます。顔を近づけて小豆の様子を見、小豆の声を聞きながら、一つひとつの作業をていねいに行っていきます。徳江がつくるあんが美味しいと評判になり、店は繁盛しますが、順調な日は長くは続きません。徳江がハンセン病患者だという噂が流れ、あるときから、売上げは急減してしまいます。  徳江の指はねじ曲がっていましたが、それは、ハンセン病の後遺症だったのです。ハンセン病は、かつては「らい病」といって恐れられていた病気で、1996(平成8)年に「らい予防法」が廃止されるまでは、「らい病」と診断されれば、生涯にわたって施設に隔離されました。外で働くことなど考えられないまま、徳江は、施設内で五十年お菓子づくりをしてきたのです。  小説では、厳しい人生を送ってきた徳江が、店長や店にやってくる女子中学生に、生きる意味を伝えます。『あん』は、ハンセン病患者への差別・偏見という大きなテーマを扱っていますが、別の見方をすれば、事情があって外で働けなかった人が、70代半ばを過ぎてから、初めて外で働くことにチャレンジする、という話でもあります。徳江がどら焼き屋で働いたのは、生活のためではなく、何かになるためでもありません。働くことができたこと自体を、「本当に幸運だった」といい、それ自体を大切だと思っているのです。  徳江は、人が生まれてきたのは、「この世を観るため、聞くため」であり、「何にもなれなくても、生まれてきた意味はある」といいます。そして、外で働いたこと自体に大きな意味を感じています。  「あん」は、2015年に映画化され、樹木(きき)希林(きりん)さんが徳江役を演じました。まさに、老女といった趣で演じていますが、それだけに、何にもなれなくても、生まれてきた意味はある、何歳であっても、外で働く意味がある、と思わせるものがあります。 ドリアン助川『あん』 (ポプラ社 刊) 【P50-55】 労務資料 令和5年6月1日現在の高年齢者の雇用状況等 厚生労働省 職業安定局 高齢者雇用対策課  高年齢者雇用安定法では、高年齢者が年齢にかかわりなく働き続けることができる生涯現役社会の実現を目的に、企業に65歳までの高年齢者雇用確保措置を義務づけています。また、70歳までの就業機会の確保を目的として、「定年制の廃止」や「定年の引上げ」、「継続雇用制度の導入」という雇用による措置や、「業務委託契約を締結する制度の導入」、「社会貢献事業に従事できる制度の導入」という雇用以外の措置のいずれかの措置(高年齢者就業確保措置)を講じるように努めることを企業に義務付けています。  厚生労働省より、こうした高年齢者の雇用等に関する措置の実施状況(2023年6月1日現在)が公表されましたので、その結果をご紹介します。集計対象は、常時雇用する労働者が21人以上の企業23万7006社です(編集部)。 集計結果の主なポイント T 65歳までの高年齢者雇用確保措置の実施状況  65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施済みの企業は99.9% ・高年齢者雇用確保措置の措置内容の内訳は、「継続雇用制度の導入」により実施している企業が69.2%、「定年の引上げ」により実施している企業は26.9% U 70歳までの高年齢者就業確保措置の実施状況  70歳までの高年齢者就業確保措置を実施済みの企業は29.7% ・中小企業では30.3%、大企業では22.8% V 企業における定年制の状況  65歳以上定年企業(定年制の廃止企業を含む)は30.8% W 66歳以上まで働ける制度のある企業の状況 @66歳以上まで働ける制度のある企業の状況66歳以上まで働ける制度のある企業は43.3% A70歳以上まで働ける制度のある企業の状況70歳以上まで働ける制度のある企業は41.6% 1 高年齢者雇用確保措置の実施状況 (1)高年齢者雇用確保措置の状況  高年齢者雇用確保措置(以下「雇用確保措置」※1という。)を実施済みの企業(23万6815社)は、報告した企業全体の99.9%で、中小企業では99.9%、大企業では99.9%※2であった(図表1・2)。 (2)雇用確保措置を実施済みの企業の内訳  雇用確保措置を実施済みと報告した企業(23万6815社)について、雇用確保措置の措置内容別に見ると、定年制の廃止(9275社)は3.9%、定年の引上げ(6万3772社)は26.9%、継続雇用制度の導入(16万3768社)は69.2%であった(図表3)。 (3)継続雇用制度の導入により雇用確保措置を講じている企業の状況  「継続雇用制度の導入」を行うことで雇用確保措置を講じている企業(16万3768社)を対象に、継続雇用制度の内容を見ると、希望者全員を対象とする制度を導入している企業は84.6%で、中小企業では86.1%、大企業では68.1%であった。  一方、経過措置に基づき、対象者を限定する基準がある継続雇用制度を導入している企業(経過措置適用企業)の割合は、企業規模計では15.4%であったが、大企業に限ると31.9%であった(図表4)。 (参考)経過措置適用企業における基準適用年齢到達者の状況  上記1(1)の※1に記載する経過措置に基づく対象者を限定する基準がある企業において、過去1年間(令和4年6月1日から令和5年5月31日)に、基準を適用できる年齢(64歳)に到達した者(5万1962人)のうち、基準に該当し引き続き継続雇用された者は92.8%、継続雇用の更新を希望しなかった者は6.2%、継続雇用を希望したが基準に該当せずに継続雇用が終了した者は1.0%であった。 2 70歳までの高年齢者就業確保措置の実施状況 (1)70歳までの高年齢者就業確保措置の実施状況  高年齢者就業確保措置(以下「就業確保措置」※3という。)を実施済みの企業(7万443社)は報告した企業全体の29.7%で中小企業では30.3%、大企業では22.8%であった。 (2)就業確保措置※3を実施済みの企業の内訳  就業確保措置を実施済みと報告した企業(7万443社)について措置内容別に見ると、定年制の廃止(9275社)は3.9%、定年の引上げ(5361社)は2.3%、継続雇用制度の導入(5万5694社)は23.5%、創業支援等措置※4の導入(113社)は0.1%であった(図表5)。 3 企業における定年制の状況  報告した企業における定年制の状況について、定年年齢別に見ると次のとおりであった(図表6)。 ・定年制を廃止している企業(9275社)は3.9% ・定年を60歳とする企業(15万7457社)は66.4% ・定年を61〜64歳とする企業(6502社)は2.7% ・定年を65歳とする企業(5万5712社)は23.5% ・定年を66〜69歳とする企業(2699社)は1.1% ・定年を70歳以上とする企業(5361社)は2.3% (参考)60歳定年企業における定年到達者の動向  60歳定年企業において、過去1年間(令和4年6月1日から令和5年5月31日)に定年に到達した者(40万4967人)のうち、継続雇用された者は87.4%(うち子会社等・関連会社等での継続雇用者は3.3%)、継続雇用を希望しない定年退職者は12.5%、継続雇用を希望したが継続雇用されなかった者は0.1%であった。 4 66歳以上まで働ける制度のある企業の状況 (1)66歳以上まで働ける制度のある企業の状況  66歳以上まで働ける制度のある企業とは、左記の@からDの制度等を就業規則等に定めている企業をいう。 @定年制度がない A定年年齢が66歳以上 B希望する者全員を66歳以上まで継続雇用 C対象者に係る基準に該当する者を66歳以上まで継続雇用 D創業支援等措置や、その他企業の実情に応じて何らかの仕組みで66歳以上まで働くことができる  報告した企業において、66歳以上まで働ける制度のある企業(10万2617社)は43.3%であった(図表7・8)。 (2)70歳以上まで働ける制度のある企業の状況  70歳以上まで働ける制度のある企業とは、左記の@からDの制度等を就業規則等に定めている企業をいう。 @定年制度がない A定年年齢が70歳以上 B希望する者全員を70歳以上まで継続雇用 C対象者に係る基準に該当する者を70歳以上まで継続雇用 D創業支援等措置や、その他企業の実情に応じて何らかの仕組みで70歳以上まで働くことができる  報告した企業において、70歳以上まで働ける制度のある企業(9万8484社)は41.6%であった(図表9・10)。 5 高年齢常用労働者の状況 (1)年齢階級別の常用労働者数について  報告した全企業における常用労働者数(約3525万人)のうち、60歳以上の常用労働者数は約486万人で13.8%を占めている。年齢階級別に見ると、60〜64歳が約262万人、65〜69歳が約130万人、70歳以上が約93万人であった(図表11)。 (2)高年齢労働者の推移  31人以上規模企業における60歳以上の常用労働者数は約457万人で、平成26年と比較すると、約170万人(59.0%)増加している。また、21人以上企業規模における60歳以上の常用労働者数は約486万人で、令和3年と比較すると、約39万人(8.6%)増加している(図表12)。 ★ この集計では従業員21〜300人規模を「中小企業」、301人以上規模を「大企業」としています ※1 雇用確保措置  高年齢者雇用安定法第9条第1項に基づき、定年を65歳未満に定めている事業主は、雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、以下のいずれかの措置を講じなければならない。@定年制の廃止、A定年の引上げ、B継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)の導入※ ※継続雇用制度とは、現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。平成24年度の法改正により、平成25年度以降、制度の適用者は原則として「希望者全員」となった。平成24年度までに労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた場合、令和7年3月31日までは基準を適用可能(経過措置)。基準を適用できる年齢について、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上となるよう、段階的に引き上げており、令和4年4月1日から令和7年3月31日における基準を適用できる年齢は64歳である。 ※2本集計に係る留意点  本集計は原則小数点第2位以下を四捨五入しているが、それにより0%または100%となる数値については、小数点第2位以下を切り上げもしくは切り捨てとしている数値がある。 ※3就業確保措置  高年齢者雇用安定法第10条の2に基づき、定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主または65歳までの継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く。)を導入している事業主は、その雇用する高年齢者について、次に掲げるいずれかの措置を講ずることにより、65歳から70歳までの就業を確保するよう努めなければならない。 @定年制の廃止、A定年の引上げ、B継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入、C業務委託契約を締結する制度の導入、D社会貢献事業に従事できる制度の導入(事業主が自ら実施する社会貢献事業または事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業) ※4創業支援等措置  ※3の就業確保に係る措置のうち、C業務委託契約を締結する制度の導入及びD社会貢献事業に従事できる制度の導入という雇用以外の措置を創業支援等措置という。 図表1 雇用確保措置の内訳 全企業 定年制の廃止 3.9% 定年の引上げ 26.9% 継続雇用制度の導入 69.2% 301人以上 定年制の廃止 0.7% 定年の引上げ 17.4% 継続雇用制度の導入 81.9% 21〜300人 定年制の廃止 4.2% 定年の引上げ 27.7% 継続雇用制度の導入 68.2% 図表2 雇用確保措置の実施状況 (社、%) @実施済み A未実施 合計(@+A) 21人以上総計 236,815 (235,620) 191 (255) 237,006 (235,875) 99.9% (99.9%) 0.1% (0.1%) 100.0% (100.0%) 31人以上総計 176,239 (175,452) 90 (89) 176,329 (175,541) 99.9% (99.9%) 0.1% (0.1%) 100.0% (100.0%) 21〜300人 219,798 (218,532) 189 (253) 219,987 (218,785) 99.9% (99.9%) 0.1% (0.1%) 100.0% (100.0%) 21〜30人 60,576 (60,168) 101 (166) 60,677 (60,334) 99.8% (99.7%) 0.2% (0.3%) 100.0% (100.0%) 31〜300人 159,222 (158,364) 88 (87) 159,310 (158,451) 99.9% (99.9%) 0.1% (0.1%) 100.0% (100.0%) 301人以上 17,017 (17,088) 2 (2) 17,019 (17,090) 99.9% (99.9%) 0.1% (0.1%) 100.0% (100.0%) ※( )内は、令和4年6月1日現在の数値 ※本集計は、原則小数点第2位以下を四捨五入しているが、本表の「301人以上」の@については、小数点第2位以下を切り捨て、Aについては、小数点第2位以下を切り上げとしている 図表3 雇用確保措置実施企業における措置内容の内訳 (社、%) @定年制の廃止 A定年の引上げ B継続雇用制度の導入 合計(@+A+B) 21人以上総計 9,275 (9,248) 63,772 (60,037) 163,768 (166,335) 236,815 (235,620) 3.9% (3.9%) 26.9% (25.5%) 69.2% (70.6%) 100.0% (100.0%) 31人以上総計 5,406 (5,381) 44,984 (42,308) 125,849 (127,763) 176,239 (175,452) 3.1% (3.1%) 25.5% (24.1%) 71.4% (72.8%) 100.0% (100.0%) 21〜300人 9,158 (9,138) 60,806 (57,288) 149,834 (152,106) 219,798 (218,532) 4.2% (4.2%) 27.7% (26.2%) 68.2% (69.6%) 100.0% (100.0%) 21〜30人 3,869 (3,867) 18,788 (17,729) 37,919 (38,572) 60,576 (60,168) 6.4% (6.4%) 31.0% (29.5%) 62.6% (64.1%) 100.0% (100.0%) 31〜300人 5,289 (5,271) 42,018 (39,559) 111,915 (113,534) 159,222 (158,364) 3.3% (3.3%) 26.4% (25.0%) 70.3% (71.7%) 100.0% (100.0%) 301人以上 117 (110) 2,966 (2,749) 13,934 (14,229) 17,017 (17,088) 0.7% (0.6%) 17.4% (16.1%) 81.9% (83.3%) 100.0% (100.0%) ※( )内は、令和4年6月1日現在の数値 ※「合計」は、図表2の「@実施済み」に対応している ※「A定年の引上げ」は、65歳以上の定年の年齢を設けている企業を、「B継続雇用制度の導入」は、定年年齢は65歳未満だが継続雇用制度の上限年齢を65歳以上としている企業を、それぞれ計上している 図表4 継続雇用制度の内訳 全企業 希望者全員を対象とする継続雇用制度 84.6% 経過措置に基づく基準対象者とする継続雇用制度 15.4% 301人以上 希望者全員を対象とする継続雇用制度 68.1% 経過措置に基づく基準対象者とする継続雇用制度 31.9% 21〜300人 希望者全員を対象とする継続雇用制度 86.1% 経過措置に基づく基準対象者とする継続雇用制度 13.9% 図表5 就業確保措置の内訳 全企業 (29.7%) 定年制の廃止 3.9% 定年の引上げ 2.3% 継続雇用制度の導入 23.5% 創業支援等措置の導入 0.1% 301人以上 (22.8%) 定年制の廃止 0.7% 定年の引上げ 0.6% 継続雇用制度の導入 21.3% 創業支援等措置の導入 0.2% 21〜300人 (30.3%) 定年制の廃止 4.2% 定年の引上げ 2.4% 継続雇用制度の導入 23.7% 創業支援等措置の導入 0.1% 図表6 企業における定年制の状況 全企業 定年制の廃止 3.9% 60歳定年 66.4% 61〜64歳定年 2.7% 65歳定年 23.5% 66〜69歳定年 1.1% 70歳以上定年 2.3% 301人以上 定年制の廃止 0.7% 60歳定年 77.2% 61〜64歳定年 4.7% 65歳定年 16.5% 66〜69歳定年 0.3% 70歳以上定年 0.6% 21〜300人 定年制の廃止 4.2% 60歳定年 65.6% 61〜64歳定年 2.6% 65歳定年 24.0% 66〜69歳定年 1.2% 70歳以上定年 2.4% 図表7 66歳以上まで働ける制度のある企業の状況 全企業 (43.3%) 定年制の廃止 3.9% 66歳以上定年 3.4% 希望者全員66歳以上の継続雇用制度 11.2% 基準該当者66歳以上の継続雇用制度 12.9% その他66歳以上まで働ける制度 11.9% 301人以上 (40.2%) 定年制の廃止 0.7% 66歳以上定年 0.9% 希望者全員66歳以上の継続雇用制度 5.6% 基準該当者66歳以上の継続雇用制度 17.2% その他66歳以上まで働ける制度 15.8% 21〜300人 (43.5%) 定年制の廃止 4.2% 66歳以上定年 3.6% 希望者全員66歳以上の継続雇用制度 11.7% 基準該当者66歳以上の継続雇用制度 12.5% その他66歳以上まで働ける制度 11.6% ※本項目では、66歳以上定年制度と66歳以上の継続雇用制度の両方の制度を持つ企業は、「66歳以上定年」のみに計上している 図表8 66歳以上まで働ける制度のある企業の状況 (社、%) @定年制の廃止 A66歳以上定年 B希望者全員66歳以上継続雇用 C基準該当者66歳以上継続雇用 Dその他66歳以上まで働ける制度 合計@(@〜B) 合計A(@〜C) 合計B(@〜D) 報告した全ての企業 21人以上総計 9,275 (9,248) 8,060 (7,619) 26,632 (24,988) 30,485 (27,785) 28,165 (26,354) 43,967 (41,855) 74,452 (69,640) 102,617 (95,994) 237,006 (235,875) 3.9% (3.9%) 3.4% (3.2%) 11.2% (10.6%) 12.9% (11.8%) 11.9% (11.2%) 18.6% (17.7%) 31.4%(29.5%) 43.3%(40.7%) 100.0% (100.0%) 31人以上総計 5,406 (5,381) 5,362 (5,065) 18,813 (17,484) 24,004 (21,898) 21,688 (20,193) 29,581 (27,930) 53,585 (49,828) 75,273 (70,021) 176,329 (175,541) 3.1% (3.1%) 3.0% (2.9%) 10.7% (10.0%) 13.6% (12.5%) 12.3% (11.5%) 16.8% (15.9%) 30.4%(28.4%) 42.7%(39.9%) 100.0% (100.0%) 21〜300人 9,158 (9,138) 7,908 (7,481) 25,682 (24,120) 27,557 (25,176) 25,468 (23,731) 42,748 (40,739) 70,305 (65,915) 95,773 (89,646) 219,987 (218,785) 4.2% (4.2%) 3.6% (3.4%) 11.7% (11.0%) 12.5% (11.5%) 11.6% (10.8%) 19.4% (18.6%) 32.0% (30.1%) 43.5% (41.0%) 100.0% (100.0%) 21〜30人 3,869 (3,867) 2,698 (2,554) 7,819 (7,504) 6,481 (5,887) 6,477 (6,161) 14,386 (13,925) 20,867 (19,812) 27,344 (25,973) 60,677 (60,334) 6.4% (6.4%) 4.4% (4.2%) 12.9% (12.4%) 10.7% (9.8%) 10.7% (10.2%) 23.7% (23.1%) 34.4%(32.8%) 45.1%(43.0%) 100.0% (100.0%) 31〜300人 5,289 (5,271) 5,210 (4,927) 17,863 (16,616) 21,076 (19,289) 18,991 (17,570) 28,362 (26,814) 49,438 (46,103) 68,429 (63,673) 159,310 (158,451) 3.3% (3.3%) 3.3% (3.1%) 11.2% (10.5%) 13.2% (12.2%) 11.9% (11.1%) 17.8% (16.9%) 31.0% (29.1%) 43.0%(40.2%) 100.0% (100.0%) 301人以上 117 (110) 152 (138) 950 (868) 2,928 (2,609) 2,697 (2,623) 1,219 (1,116) 4,147 (3,725) 6,844 (6,348) 17,019 (17,090) 0.7% (0.6%) 0.9% (0.8%) 5.6% (5.1%) 17.2% (15.3%) 15.8% (15.3%) 7.2% (6.5%) 24.4% (21.8%) 40.2% (37.1%) 100.0% (100.0%) ※( )内は、令和4年6月1日現在の数値 ※66歳以上定年制度と66歳以上の継続雇用制度の両方の制度を持つ企業は、「A66歳以上定年」のみに計上している ※「Dその他66歳以上まで働ける制度」とは、業務委託等その他企業の実情に応じて何らかの仕組みで66歳以上まで働くことができる制度を導入している場合を指す ※「報告した全ての企業」は、図表2の「合計」に対応している 図表10 70歳以上まで働ける制度のある企業の状況 (社、%) @定年制の廃止 A70歳以上定年 B希望者全員70歳以上継続雇用 C基準該当者70歳以上継続雇用 Dその他70歳以上まで働ける制度 合計@(@〜B) 合計A(@〜C) 合計B(@〜D) 報告した全ての企業 21人以上総計 9,275 (9,248) 5,361 (4,995) 25,794 (24,201) 29,900 (27,225) 28,154 (26,449) 40,430 (38,444) 70,330 (65,669) 98,484 (92,118) 237,006 (235,875) 3.9% (3.9%) 2.3% (2.1%) 10.9% (10.3%) 12.6% (11.5%) 11.9% (11.2%) 17.1%(16.3%) 29.7%(27.8%) 41.6%(39.1%) 100.0% (100.0%) 31人以上総計 5,406 (5,381) 3,507 (3,264) 18,099 (16,796) 23,465 (21,389) 21,603 (20,203) 27,012 (25,441) 50,477 (46,830) 72,080 (67,033) 176,329 (175,541) 3.1% (3.1%) 2.0% (1.9%) 10.3% (9.6%) 13.3% (12.2%) 12.3% (11.5%) 15.3%(14.5%) 28.6%(26.7%) 40.9%(38.2%) 100.0% (100.0%) 21〜300人 9,158 (9,138) 5,255 (4,897) 24,936 (23,404) 27,125 (24,772) 25,533 (23,911) 39,349 (37,439) 66,474 (62,211) 92,007 (86,122) 219,987 (218,785) 4.2% (4.2%) 2.4% (2.2%) 11.3% (10.7%) 12.3% (11.3%) 11.6% (10.9%) 17.9%(17.1%) 30.2%(28.4%) 41.8%(39.4%) 100.0% (100.0%) 21〜30人 3,869 (3,867) 1,854 (1,731) 7,695 (7,405) 6,435 (5,836) 6,551 (6,246) 13,418 (13,003) 19,853 (18,839) 26,404 (25,085) 60,677 (60,334) 6.4% (6.4%) 3.1% (2.9%) 12.7% (12.3%) 10.6% (9.7%) 10.8% (10.4%) 22.1% (21.6%) 32.7% (31.2%) 43.5% (41.6%) 100.0% (100.0%) 31〜300人 5,289 (5,271) 3,401 (3,166) 17,241 (15,999) 20,690 (18,936) 18,982 (17,665) 25,931 (24,436) 46,621 (43,372) 65,603 (61,037) 159,310 (158,451) 3.3% (3.3%) 2.1% (2.0%) 10.8% (10.1%) 13.0% (12.0%) 11.9% (11.1%) 16.3%(15.4%) 29.3%(27.4%) 41.2%(38.5%) 100.0% (100.0%) 301人以上 117 (110) 106 (98) 858 (797) 2,775 (2,453) 2,621 (2,538) 1,081 (1,005) 3,856 (3,458) 6,477 (5,996) 17,019 (17,090) 0.7% (0.6%) 0.6% (0.6%) 5.0% (4.7%) 16.3% (14.4%) 15.4% (14.9%) 6.4% (5.9%) 22.7% (20.2%) 38.1% (35.1%) 100.0% (100.0%) ※( )内は、令和4年6月1日現在の数値 ※70歳以上定年制度と70歳以上の継続雇用制度の両方の制度を持つ企業は、「A70歳以上定年」のみに計上している ※「Dその他70歳以上まで働ける制度」とは、業務委託等その他企業の実情に応じて何らかの仕組みで70歳以上まで働くことができる制度を導入している場合を指す ※「報告した全ての企業」は、図表2の「合計」に対応している 図表9 70歳以上まで働ける制度のある企業の状況 全企業 (41.6%) 定年制の廃止 3.9% 70歳以上定年 2.3% 希望者全員70歳以上の継続雇用制度 10.9% 基準該当者70歳以上の継続雇用制度 12.6% その他70歳以上まで働ける制度 11.9% 301人以上 (38.1%) 定年制の廃止 0.7% 70歳以上定年 0.6% 希望者全員70歳以上の継続雇用制度 5.0% 基準該当者70歳以上の継続雇用制度 16.3% その他70歳以上まで働ける制度 15.4% 21〜300人 (41.8%) 定年制の廃止 4.2% 70歳以上定年 2.4% 希望者全員70歳以上の継続雇用制度 11.3% 基準該当者70歳以上の継続雇用制度 12.3% その他70歳以上まで働ける制度 11.6% 図表11 年齢別常用労働者数 (人) 年齢計 60歳以上合計 60〜64歳 65歳以上 うち70歳以上 31人以上規模企業 平成26年 28,774,183人 (100.0) 2,872,243人 (100.0) 1,953,169人 (100.0) 919,074人 (100.0) 211,450人 (100.0) 平成27年 29,537,468人 (102.7) 3,047,422人 (106.1) 1,979,923人 (101.4) 1,067,499人 (116.1) 242,005人 (114.5) 平成28年 30,491,567人 (106.0) 3,245,355人 (113.0) 2,021,657人 (103.5) 1,223,698人 (133.1) 271,786人 (128.5) 平成29年 30,804,295人 (107.1) 3,474,482人 (121.0) 2,043,334人 (104.6) 1,431,148人 (155.7) 375,122人 (177.4) 平成30年 30,982,684人 (107.7) 3,625,887人 (126.2) 2,063,531人 (105.7) 1,562,356人 (170.0) 459,469人 (217.3) 令和元年 31,654,879人 (110.0) 3,864,572人 (134.5) 2,147,609人 (110.0) 1,716,963人 (186.8) 574,705人 (271.8) 令和2年 32,338,594人 (112.4) 4,093,225人 (142.5) 2,243,481人 (114.9) 1,849,744人 (201.3) 675,336人 (319.4) 令和3年 32,334,496人 (112.4) 4,209,527人 (146.6) 2,271,226人 (116.3) 1,938,301人 (210.9) 756,536人 (357.8) 令和4年 33,272,499人 (115.6) 4,416,892人 (153.8) 2,407,615人 (123.3) 2,009,277人 (218.6) 811,170人 (383.6) 令和5年 33,717,215人 (117.2) 4,567,368人 (159.0) 2,494,280人 (127.7) 2,073,088人 (225.6) 857,138人 (405.4) 21人以上規模企業 令和3年 33,799,709人 (100.0) 4,473,440人 (100.0) 2,391,478人 (100.0) 2,081,962人 (100.0) 819,669人 (100.0) 令和4年 34,799,558人 (103.0) 4,700,205人 (105.1) 2,535,088人 (106.0) 2,165,117人 (104.0) 882,791人 (107.7) 令和5年 35,252,522人 (104.3) 4,858,780人 (108.6) 2,624,114人 (109.7) 2,234,666人 (107.3) 933,387人 (113.9) ※「31人以上規模企業」の( )は、平成26年を100とした場合の比率 ※「21人以上規模企業」の( )は、令和3年を100とした場合の比率 図表12 60歳以上の常用労働者の推移 (万人) 31人以上規模企業 平成26年 287.2 27年 304.7 28年 324.5 29年 347.4 30年 362.6 令和元年 386.5 2年 409.3 3年 421.0 4年 441.7 5年 456.7 21人以上規模企業 令和3年 447.3 4年 470.0 5年 485.9 【P56-57】 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト  高年齢者活躍企業コンテストでは、高年齢者が長い職業人生の中でつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業等が行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行っています。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業等における雇用・就業機会の確保等の環境整備を図り、生涯現役社会の実現に向けた気運を醸成することを目的としています。  高年齢者がいきいきと働くことができる創意工夫の事例について多数のご応募をお待ちしています。 T 応募内容 募集する創意工夫の事例の具体的な例示として、以下の取組内容を参考にしてください 取組内容 内容(例示) 高年齢者の活躍のための制度面の改善 @定年制の廃止、定年年齢の延長、65歳を超える継続雇用制度(特殊関係事業主に加え、他の事業主によるものを含む)の導入 A創業支援等措置(70歳以上までの業務委託・社会貢献)の導入(※1) B賃金制度の見直し C人事評価制度の導入や見直し D多様な勤務形態、短時間勤務制度の導入 等 高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 @高年齢者のモチベーション向上に向けた取組や高年齢者の役割等の明確化 (役割・仕事・責任の明確化) A高年齢者が活躍できる職場風土の改善、従業員の意識改革、職場コミュニケーションの推進 B高年齢者による技術・技能継承の仕組み (技術指導者の選任、マイスター制度、技術・技能のマニュアル化、若手社員や外国人技能実習生、障害者等とのペア就労や高年齢者によるメンター制度等、高年齢者の効果的な活用等) C中高年齢者を対象とした教育訓練、キャリア形成支援(高年齢者の前段階からのキャリア形成支援を含む)の実施(キャリアアップセミナーの開催) D高年齢者が働きやすい支援の仕組み (職場のIT化へのフォロー、力仕事・危険業務からの業務転換) E新職場の創設・職務の開発 等 高年齢者が働き続けられるための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 @作業環境の改善 (高年齢者向け設備の改善、作業姿勢の改善、配置・配属の配慮、創業支援等措置対象者への作業機器の貸出) A従業員の高齢化に伴う健康管理・メンタルヘルス対策の強化 (健康管理体制の整備、健康管理上の工夫・配慮) B従業員の高齢化に伴う安全衛生の取組(体力づくり、安全衛生教育、事故防止対策) C福利厚生の充実(休憩室の設置、レクリエーション活動、生涯生活設計の相談体制) 等 ※1「創業支援等措置」とは、以下の@・Aを指します。 @70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 A70歳まで継続的に、「a.事業主が自ら実施する社会貢献事業」または「b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業」に従事できる制度の導入 U 応募方法 1.応募書類等 イ.指定の応募様式に記入していただき、写真・図・イラスト等、改善等の内容を具体的に示す参考資料を添付してください。また、定年制度、継続雇用制度及び創業支援等措置並びに退職事由及び解雇事由について定めている就業規則等の該当箇所の写しを添付してください(該当箇所に、引用されている他の条文がある場合は、その条文の写しも併せて添付してください)。なお、必要に応じて当機構から追加書類の提出依頼を行うことがあります。 ロ.応募様式は、当機構の各都道府県支部高齢・障害者業務課(※2)にて、紙媒体または電子媒体により配付します。また、当機構のホームページ(※3)からも入手できます。 ハ.応募書類等は返却いたしません。 ニ.提出された応募書類の内容に係る著作権及び使用権は、厚生労働省及び当機構に帰属することとします。 2.応募締切日 令和6年2月29日(木)当日消印有効 3.応募先 各都道府県支部高齢・障害者業務課(※2)へ郵送(当日消印有効)または連絡のうえ電子データにて提出してください。 ※2 応募先は本誌65ページをご参照ください。 ※3 URL:https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/activity02.html ホームページはこちら V 応募資格 1.原則として、企業からの応募とします。グループ企業単位での応募は不可とします。 2.応募時点において、次の労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 (1)令和3年4月1日〜令和5年9月30日の間に、労働基準関係法令違反の疑いで送検され、公表されていないこと。 (2)「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」(平成29年1月20日付け基発0120第1号)及び「裁量労働制の不適正な運用が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長による指導の実施及び企業名の公表について」(平成31年1月25日付け基発0125第1号)に基づき公表されていないこと。 (3)令和5年4月以降、職業安定法、労働者派遣法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、パートタイム・有期雇用労働法に基づく勧告又は改善命令等の行政処分等を受けていないこと。 (4)令和5年度の障害者雇用状況報告書において、法定雇用率を達成していること。 (5)令和5年4月以降、労働保険料の未納がないこと。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度等を導入(※4)し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる職場環境となる創意工夫がなされていることとします。 ※4平成24年改正の高年齢者雇用安定法の経過措置として継続雇用制度の対象者の基準を設けている場合は、当コンテストの趣旨に鑑み、対象外とさせていただきます。 4.応募時点前の各応募企業等における事業年度において、平均した1月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 W 審査  学識経験者等から構成される審査委員会を設置し、審査します。  なお、応募を行った企業等または取組等の内容について、労働関係法令上または社会通念上、事例の普及及び表彰にふさわしくないと判断される問題(厚生労働大臣が定める「高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針」等に照らして事例の普及及び表彰にふさわしくないと判断される内容等)が確認された場合は、この点を考慮した審査を行うものとします。 X 賞(※5) 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 1編 優秀賞 2編 特別賞 3編 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 クリエイティブ賞 若干編 ※5上記は予定であり、各審査を経て入賞の有無・入賞編数等が決定されます。 Y 審査結果発表等  令和6年9月中旬をめどに、厚生労働省及び当機構において各報道機関等へ発表するとともに、入賞企業等には、各表彰区分に応じ、厚生労働省または当機構より直接通知します。  また、入賞企業の取組事例は、厚生労働省及び当機構の啓発活動を通じて広く紹介させていただくほか、新聞(全国紙)の全面広告、本誌及びホームページなどに掲載します。 みなさまからのご応募をお待ちしています 過去の入賞企業事例を公開中!ぜひご覧ください! 「高年齢者活躍企業事例サイト」 当機構が収集した高年齢者の雇用事例をインターネット上で簡単に検索できるWebサイトです。「高年齢者活躍企業コンテスト表彰事例(『エルダー』掲載記事)」、「雇用事例集」などで紹介された271事例を検索できます。今後も、当機構が提供する最新の企業事例情報を随時公開します。 高年齢者活躍企業事例サイト 検索 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 当機構では厚生労働省と連携のうえ、企業における「年齢にかかわりなく生涯現役でいきいきと働くことのできる」雇用事例を普及啓発し、高年齢者雇用を支援することで、生涯現役社会の実現に向けた取組みを推進していきます。 【P58】 BOOKS 従業員の自発的行動により仕事のやりがいを高める方法を探求 ジョブ・クラフティングのマネジメント 森永(もりなが)雄太(ゆうた) 著/千倉書房/3080円  働く人や働き方が多様化している現代、注目されているマネジメントの手法の一つが、「ジョブ・クラフティング」である。  ジョブ・クラフティングとは、従業員が自らの仕事を主体的にとらえ直し、創意工夫によってよりよく変化させること。それによって、その仕事のやりがいを従業員自ら高めることができる、という考え方である。  本書は、ジョブ・クラフティングのマネジメントを探求した学術書である。第T部では、「従業員のやりがいを引き出すために、どのように職務設計を行うとよいのか」について検討していく。第U部では、「自発的行動であるジョブ・クラフティングを組織がどのように促すことができるか」という問いに対して、研究結果などを通じて、「組織による人事施策の設計と管理者によるリーダーシップの発揮によって間接的に促すことができる」ことを明らかにしていく。  研究者を対象として書かれた内容だが、本書で示されている知見は実務的な示唆を含むことから、経営者や人事・労務担当者、部下の自発性を引き出したい管理職、また、産業保健の専門職にとっても、ジョブ・クラフティングを実践するうえでの手がかりが得られるだろう。 高齢者雇用の実務ポイントをわかりやすく解説 人手不足を解消しよう! 60代採用のススメと人事・賃金制度ガイド 三村(みむら)正夫(まさお) 著/アニモ出版/1980円  日本商工会議所が2023(令和5)年夏に実施した人手不足に関するアンケート調査によると、規模が小さい企業ほど状況が深刻化しており、従業員5人以下では約76%が「非常に深刻」、「深刻」と回答している。  本書は、人手不足を解消するためにも、これからはますます高齢者雇用が重要になるとして、その考え方や現在の日本の高齢者を取り巻く状況、そして、特に中小企業の高齢者雇用の取組みをサポートする実務ポイントをわかりやすい言葉と表現で説明する。  定年後の再雇用と新規の高齢者採用の違いや、60歳以降の賃金を三つのタイプに分類して、労働条件や健康保険料、雇用保険料などとあわせて具体的な賃金シミュレーションを提示して説明。また、「80歳選択定年制度」、「加入月額方式退職金制度」などを提案して実践的に解説している。さらに、労働災害、テレワークなどの在宅勤務、健康管理など高齢者雇用にかかわる内容を幅広く取り上げるとともに、高齢者雇用を積極的に推進する会社の取組み事例も紹介。  会社の経営者や人事・労務担当者はもちろんのこと、高齢者が生涯現役で生きていくための手引きとして活用することもできる。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 令和5年度「現代の名工」を決定  厚生労働省は、その道の第一人者と目され、卓越した技能を有する現役の技能者150人を「現代の名工」として決定し、2023(令和5)年11月13日、東京都内で表彰式を行った。  「現代の名工」の表彰制度は、きわめてすぐれた技能を有し、技能を通じて労働者の福祉の増進と産業の発展に寄与し、ほかの技能者の模範と認められる現役の技能者に対して、厚生労働大臣が表彰を行うもの。1967(昭和42)年度に第1回の表彰が行われて以来、今年度が57回目となり、今回受賞の150人を含めて、これまで7096人が表彰を受けている。  今年度から、障害のある技能者を対象とした部門が創設された。この部門では今年度、デジタルデータを音声で読み上げるソフトウェアを開発するとともに、視覚障害者のパソコン利用のサポートなどにも尽力している視覚障害の齋藤(さいとう)正夫(まさお)さん(75歳)ら3人が受賞者に選ばれた。  そのほかの部門の今年度のおもな受賞者は、65年以上にわたり機械・溶接加工・組立の全般にたずさわり幅広い知識を有し、それらの経験と技術を若手、中堅技術者へと積極的に伝授している小泉(こいずみ)英雄(ひでお)さん(82歳)、高度な婦人服製造技能を有し、その高い技能を活かして中央職業能力開発協会の検定委員を含め、ものづくり匠の技など後進の育成・指導に貢献している須藤(すどう)陽子(ようこ)さん(73歳)ら。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36120.html 厚生労働省 令和5年度「職業能力開発関係厚生労働大臣表彰」等の受賞者が決定  厚生労働省は、11月の「人材開発促進月間」にあわせて2023(令和5)年度「職業能力開発関係厚生労働大臣表彰」の受賞者(27事業所、19団体、113人)と「職業能力開発論文コンクール」の受賞作品(5論文)を決定し表彰した。  「職業能力開発関係厚生労働大臣表彰」は、認定職業訓練や技能検定の実施、技能振興の推進に関して、長年にわたって多大な貢献があり、ほかの模範となる事業所・団体や、顕著な功績があった功労者に対して行われる。今年度の受賞者は、認定職業訓練関係が事業所1社、団体2団体、功労者21人、技能検定関係が事業所19社、団体16団体、功労者92人、技能振興関係が事業所7社、団体1団体となっている。  また、「職業能力開発論文コンクール」は、職業能力開発にたずさわっている人を対象に、1973年度から実施(第2回の1974年度以降は隔年実施)され、今回で32回目となる。  今年度は、厚生労働大臣賞(特選)に、久保田久和さん、星野実さん、丸田陽さんの「VR技術を活用した射出成形技術の習得と安全作業に関する訓練実践」(テーマ:新たな技能・技術領域の職業能力開発に必要な専門知識・技能・技術及び指導方法に関する調査・研究)が選ばれた。  このほか、厚生労働大臣賞(入選)1論文、特別賞(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長賞)2論文、特別賞(中央職業能力開発協会会長賞)1論文が選ばれた。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36499.html スポーツ庁 「体力・運動能力調査」結果  スポーツ庁は、2022(令和4)年度の「体力・運動能力調査」の結果を公表した。調査は、同年5月から10月に実施し、「6〜79歳」の男女5万6365人(回収率76.0%)から回答を得た。  調査結果のうち、高齢者(65〜79歳)におけるADL(日常生活活動テスト)、握力、上体起こし、長座体前屈、開眼片足立ち、10m障害物歩行、6分間歩行の合計点について、最近10年間の推移をみると、男女ともに横ばいである。  調査結果の分析では、70歳代(70〜79歳)の体力合計点、健康状態、生活充実度(頻度・時間別)の分析結果について、「運動・スポーツの頻度が高く時間が長い者ほど体力が高く、『大いに健康』と感じている割合と『毎日の生活が充実』している割合も高い」と概観している。また、70歳代の平均体力合計点(男子:38.15点、女子:39.04点)を上回ったのは、男子で週1〜2日程度の運動・スポーツを行っている者と週3日以上かつ30分以上の者であり、女子は週1日以上かつ30分以上の者となっている。健康状態は、男女ともに、週3日以上かつ1時間以上の運動・スポーツを行っている者は、「大いに健康」と回答した割合(男子:27.1%、女子18.7%)が最も高くなっている。一方で、週1日未満かつ30分未満の者は、「あまり健康でない」と回答した割合(男子:12.4%、女子:9.3%)が最も高くなっている。 https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/toukei/chousa04/tairyoku/kekka/k_detail/1421920_00010.htm 【P60】 次号予告 3月号 特集 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム〜開催レポートU〜 リーダーズトーク 安田大輔さん(株式会社サミット 執行役員 人事部マネジャー) JEEDメールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メルマガ 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415  FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jpでご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 田村泰朗……太陽生命保険株式会社取締役専務執行役員 丸山美幸……社会保険労務士 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会理事長 六本良多……日本放送協会 メディア総局第1制作センター(福祉)チーフ・プロデューサー 編集後記 ●本年1月1日に発生しました、令和6年能登半島地震におきまして被災されたみなさまに心よりお見舞申し上げます。 ●今号の特集では、昨年10月12日、19日にJEEDが開催した「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」の開催レポートをお届けしました。本年度のシンポジウムは、それぞれ異なるテーマで全4回開催し、今回はそのうち「職場コミュニケーション」、「ウェルビーイング」をご紹介しています。高齢者活用の視点に、コミュニケーションや、ウェルビーイングの視点が加わり、人事担当者のみなさまにとって、興味深い話題が満載となっています。ぜひご一読ください。また、同シンポジウムの動画のアーカイブ配信も行っておりますので、そちらもぜひご覧ください。次号では、「キャリア・リスキリング」、「評価・賃金制度」をテーマに行ったシンポジウムの模様をレポートします。 ●高年齢者が活き活きと働くことのできる創意工夫に取り組む企業を表彰する、「令和6年度高年齢者活躍企業コンテスト」の応募締め切りは2月29日です。ご応募をお待ちしております。 読者アンケートにご協力をお願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 月刊エルダー2月号No.531 ●発行日−−令和6年2月1日(第46巻 第2号 通巻531号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 境伸栄 編集人−−企画部次長 中上英二 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216 (企画部情報公開広報課) FAX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-984-2 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.336 奥深い着物の美を追求 若い世代に引き継ぐ 衣装着付師 鈴木(すずき)由喜枝(ゆきえ)さん(78歳) 「これまで積み重ねてきた勉強や経験を活かして、生徒さんには“この角度”がだめなら“別の角度”から教えるようにしています」 美容室経営、後進の育成指導、帯結びの考案など幅広く活躍  「おばあちゃんやひいおばあちゃんの代から続けて通ってくださるお客さまもいます」と笑顔で話すのは、東京都板橋区南町(みなみちょう)で「チェリー美容室」を営む鈴木由喜枝さん。同美容室は1974(昭和49)年に開業、今年50周年を迎える。  着付は40歳を過ぎてから本格的に始め、2014(平成24)年、業界最難関ともいわれる日本着付学術会の「日本十傑(にほんじっけつ)名人(めいじん)」位を取得。美容室経営のかたわら、各地の講習会などで講師を務めたり、コンクールに出場する若手技術者の指導、新しい帯結びの創作など、幅広く活躍。また、車いす利用者の着付方法も考案した。成人式の前には、着付会場で何十人もの新成人の着付陣頭指揮を執る。着付の優れた技術や後進の育成などが評価され、2021(令和3)年に「東京マイスター」、2023年には「卓越した技能者(現代の名工)」に選出された。 美に憧れを抱き一貫して技術向上に努める  物心ついたころから「おしゃれが大好きで、美というものに憧れていました」という鈴木さん。叔母の影響で4歳から日本舞踊を約10年間習い、和装も好きになったという。高校卒業後は山野(やまの)高等美容学校(現・山野美容専門学校)に進学。卒業後もメイクや和装などの技術を習得するために学校に通い、約6年のインターンを経てチェリー美容室開業に至る。  「美容の技術は奥深く、かぎりない」と考える鈴木さんは、開業後も一貫して技術の向上に取り組んできた。着付もその一つだった。  「当時師事していた美容師の先生から、『あなた、ヘアはもう十分わかっているはずだから、次は着付を勉強しなさい』といわれ、3カ月間着付の講習を受けた後、着付のコンクールに初挑戦しました。まだ補正も上手にできないような状態でしたが、それでも11位に入賞できました。そのとき、『私はまだまだこんなものじゃない』と、着付を追究しようという気持ちに火がついたんです」  それからの約20年間は、コンクールに出場し続け、花嫁衣装を手がけることを目標に腕を磨き続けた。コンクールでは、どの角度から見ても美しく、着る人が苦しくなく、しかも崩れにくい着付を短時間でできることが求められる。  「普段着から始めて徐々に技術を習得していきました。好きなことだから楽しい反面、悔しくて泣いたこともありました。例えば、腰紐一本締めるのも、親指を上手に使い、しわをつくらないように締める。あるいは、長襦袢(ながじゅばん)の振りと着物の振りがぴたりと合うように胸紐を締める、といったことがむずかしく、最初はできるまで半日かかりました。それらを数秒でできるまで上達するのがたいへんでした。先生と同じようにやりたいのに、どうしても手がうまく動かず、形が崩れてしまう。『なぜだろう』と自問自答しながらひたすら練習を重ねました」  後進を指導するいまでも、地方での同業者同士の勉強会に足を運び、技術の研鑽(けんさん)に余念がない。  「和装の伝統を大切に受け継ぎながらも、時代に遅れてしまわないように、現代の色合いを取り入れていくことも大事だと思います。ですから、いまもつねに勉強して、アンテナを立てておくように努めています」 先輩方との出会いが宝物 得たものを若い世代に引き継ぐ  「技術が身についたのは、これまですばらしい先生方と巡り会えたおかげ。それが私にとって一番の宝物です」  そう話す鈴木さん自身、着付の高度な技術を習得したいという若手の着付師のために指導を惜しまず、これまでコンクール上位入賞者を輩出してきた。  「指導のコツは怒らないこと(笑)。自分が積み重ねてきた勉強・経験の引き出しのなかから、その人に合った教え方を心がけています。これからも、着物という日本の伝統文化を、若い世代に引き継いでいきたいと思います」 有限会社アプリーレチェリー チェリー美容室 TEL:03(3955)2543 (撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) 写真のキャプション 美しく、崩れにくく、着た人が苦しくない着付を短時間で行うには、上手な人の指導を受けながら、くり返し練習することが欠かせないという 東京都板橋区にあるチェリー美容室。今年4月1日で50周年を迎える 長年にわたる美容業界への貢献が認められ、「令和5年度卓越した技能者(現代の名工)」の表彰を受けた 「お客さまとお話ししながら働けるのが楽しい」と話す鈴木さん。店内は25年ほど前に、高齢者や障害のあるお客さまも来店しやすいように改装された 襦袢(じゅばん)、帯枕(おびまくら)、腰紐、クリップなど、着付に用いる道具の数々 「日本十傑選考会」を目前に控えた若手着付師を指導する鈴木さん 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回は「類義語」、「対義語」について考える問題です。考えるだけではなく、漢字をしっかり書きましょう。自分で書く習慣がなくなると、わかっているようでも、書いてみると書けない字が出てきます。漢字を書くことは、一種の技の記憶になるので忘れにくいのですが、やはり長い間書いていないと、書けなくなってしまいます。ときには筆記具を使ってしっかりと書いてみましょう。 第80回 類義語・対義語 目標10分 熟語の類義語(意味が似ている言葉)、対義語(逆の意味の言葉)を考えましょう。 右側の空欄を埋めてください。 類義語 例) 規定≒規則 @ 技量≒手□ A 快活≒活□ B 内訳≒□細 C 綿密≒□心 D 方法≒□段 E 冷酷≒□道 F 思慮≒□別 G 由緒≒来□ H 権威≒□家 I 理解≒会□ 対義語 例) 上昇⇔下降 @ 天然⇔人□ A 悲観⇔□観 B 華美⇔□素 C 模倣⇔□造 D 薄暮⇔黎□ E 理論⇔実□ F 寛大⇔□量 G 検挙⇔□放 H 集結⇔□開 I 優勝⇔□敗 脳を動かす漢字の力  現代では、パソコンやスマ―トフォンなどで文章を書くことが多くなりました。脳に刺激を与えるなら、手書きに勝るものはありません。なかでも、漢字を書くことには大きな効果があります。  漢字には、字形、書き順、意味など多彩な要素があり、書くことで後頭葉、頭頂葉、側頭葉などが活性化します。おもに後頭葉は、漢字を視覚的に処理します。また、頭頂葉は書き順などの動きにかかわり、側頭葉では、意味の理解にかかわります。  最近、大学院生を対象に、「漢字を書く能力」と「言語的な知識」と「文章作成能力」の関連を調べた興味深い調査結果が報告されました。そこでわかってきたのは、「漢字を書く能力」が高いと「言語的な知識」が豊富になるということ、また「言語的な知識」を介して「意味密度」が高まるということです。  「意味密度が高い」とは、文章のなかに多くの意味がある単語と単語の結合が使われていることをさし、文章作成能力の高さを示します。つまり、多くの漢字を書くことが言語力や文章力を高め、脳を活性化させるということを表しています。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【問題の答え】 類義語 @ 技量≒手腕 A 快活≒活発 B 内訳≒明細 C 綿密≒細心 D 方法≒手段 E 冷酷≒非道 F 思慮≒分別 G 由緒≒来歴 H 権威≒大家 I 理解≒会得 対義語 @ 天然⇔人工 A 悲観⇔楽観 B 華美⇔質素 C 模倣⇔創造 D 薄暮⇔黎明 E 理論⇔実践 F 寛大⇔狭量 G 検挙⇔釈放 H 集結⇔散開 I 優勝⇔劣敗 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2024年2月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価 503円(本体458円+税) 令和6年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜生涯現役社会の実現に向けて〜 ご応募お待ちしています 高年齢者がいきいきと働くことのできる創意工夫の事例を募集します 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)  高年齢者活躍企業コンテストでは、高年齢者が長い職業人生の中でつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業等が行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行っています。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業等における雇用・就業機会の確保等の環境整備を図り、生涯現役社会の実現に向けた気運を醸成することを目的としています。  高年齢者がいきいきと働くことができる創意工夫の事例について多数のご応募をお待ちしています。 取組内容 募集する創意工夫の事例の具体的な例示として、以下の取組内 容を参考にしてください。 1.高年齢者の活躍のための制度面の改善 2.高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 3.高年齢者が働きつづけられるための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 主な応募資格 1.原則として、企業単位の応募とします。また、グループ企業単位での応募は不可とします。 2.応募時点において、労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度等を導入し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる職場環境となる創意工夫がなされていることとします。 4.応募時点前の各応募企業等における事業年度において、平均した1カ月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 各賞 【厚生労働大臣表彰】 最優秀賞 1編 優秀賞 2編 特別賞 3編 【独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰】 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 クリエイティブ賞 若干編 ※上記は予定であり、各審査を経て入賞の有無・入賞編数などが決定されます。 詳しい募集内容、応募方法などにつきましては、本誌56〜57ページをご覧ください。 応募締切日 令和6年2月29日(木) お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部 高齢・障害者業務課 ※連絡先は65ページをご覧ください 2024 2 令和6年2月1日発行(毎月1回1日発行) 第46巻第2号通巻531号 〈発行〉独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 〈発売元〉労働調査会