多様な人材を活かす 心理的安全性の高い職場づくり  高齢者をはじめとする多様な人材の活躍をうながすうえで大切な「心理的安全性」について、株式会社ZENTechの原田将嗣さん、石井遼介さんに解説していただきます。チームに心理的安全性を浸透させるためには、適切なステップをふんで進めることが肝要です。今回は、自分のチームから始める「心理的安全性の高い職場づくりの3ステップ」を紹介します。 株式会社ZENTech(ゼンテク) シニアコンサルタント 原田(はらだ)将嗣(まさし)(著) 代表取締役 石井(いしい)遼介(りょうすけ)(監修) 第4回 心理的安全性をつくる3ステップ 1 チームの心理的安全性を高めるためのステップ  心理的安全性とは「組織やチームのなかで、だれもが率直に、思ったことを言い合える状態」をいいます。「話しやすさ」、「助け合い」、「挑戦」、「新奇歓迎」の4つの因子を高めることでチームに心理的安全性を醸成することができるのです。  組織に心理的安全性を浸透させていくために、その規模・対象に応じ【全社】、【自部門・自チーム】という2つのレイヤーで考えることが重要です。  心理的安全性をつくる対象としてはじめに【全社】について簡単に触れたうえで、【自部門・自チーム】内の心理的安全性を実際につくるための「3ステップ」についてお伝えしたいと思います。 2 全社レベルで進める心理的安全性  全社で組織の風土を変えていくために、現状の見える化をすることから始めましょう。  当社では、「SAFETY ZONE○R」(★)という、組織・チームごとに心理的安全性を計測できるサーベイ(アンケート)をもとに、風土改革のサポートをしています。人事部門や管理職の感覚と、心理的安全性の高低は一致することが多いのですが、それでも感覚で「あそこは高そうだ・低そうだ」というよりも、明確な数値でスコアが出たほうが、空中戦を避けてディスカッションをする役に立ちます。  また、全従業員を対象とした研修や、全社規模の管理職研修・役員研修などを行い、心理的安全性そのものへの認知を上げてスタートするとよいでしょう。部署やチームレベルの施策を行ううえでも、前提をそろえ誤解を修正しておくことが役に立ちます。 3 自部門・自チームの心理的安全性をつくる3ステップ  自身の職場や部門・チームで心理的安全性を育むためには、次の3ステップが推奨されます。 ●ステップ1:心理的安全性宣言と、行動の約束  まず、特に管理職やリーダーから「心理的安全性宣言」を行うことが有効です。「心理的安全性宣言」とは、心理的安全性向上に取り組む目的を明確にすることです。問いを変えるならば「心理的安全性を育むことで、ほかでもない自分たちのチーム・自分たちの業務に、どのようなメリットがあるのか」を明らかにすることです。  例えば、顧客満足度向上プロジェクトのチームであれば「今回のプロジェクトを機に、顧客満足度が大幅に向上するような、全社的にインパクトあるプロジェクトにしたい。そのためにも、プロジェクトメンバーからお客さまの状況や課題に対して、気づいたことをどんどん共有してもらいたい。そこで、まずは、このチームの心理的安全性を高め、小さな気づきを共有できる環境をつくりたい」といった話し方ができるでしょう。  一方で、この宣言は「行動の約束」とセットで実施することが重要です。行動の約束とは、そのような心理的安全性の高い組織やチームを実際につくるために、あなた自身は何をするのかという約束(コミットメント)です。例えばプロジェクトリーダーであれば、「プロジェクトの問題点やうまくいっていない報告に対し、まずは『教えてくれてありがとう』と伝え、問題の報告を歓迎し、話を最後まで聴いてからコメントをする」といった「具体的な行動の約束」をすることが、そしてその約束を守り続けることが役立つでしょう。宣言したものの実際に行動がともなわない場合は、かけ声倒れになってしまい心理的安全性の高いチームはつくることがむずかしくなってしまいます。  実際、私たちはだれもが知る上場企業の経営トップから、省庁の事務次官に至るまで、日本中の複数の組織で、経営者からの「宣言と約束」を実践していただいています。これらは、経営陣からの後押しのメッセージとして、心理的安全性浸透の強力な武器となりました。 ●ステップ2:診断と対話による、現状認識と解決案の立案  次に現状の認識をするフェーズです。これは全社レベルで行われるサーベイがあれば、その結果を利用することがもっとも簡単な始め方でしょう。それがない場合も、部や職場内で心理的安全性に関するアンケートを作成し行うこともできます。心理的安全性の4因子「@話しやすさ、A助け合い、B挑戦、C新奇歓迎」それぞれについて、質問をしてみるとよいでしょう。  大切なことは、結果に一喜一憂することではありません。特に心理的安全性が高い場合には「私たちの部署は、心理的安全性がすでに高いので、特に問題ありません」と結論づけがちですが、心理的安全性の計測は、体温計や体重計のようなものだと思ってほしいのです。  風邪の治療で、一度高熱から平熱に戻ったら、あとは体調管理をしなくてよいわけではないように、そしてダイエットを一度やって目標を達成したら、あとは野放図にカロリーを摂取し続けてもよいわけではないように、心理的安全性とは向上させ続け、維持し続けるものです。法律の改正なども含め、さまざまに変化するビジネス環境のなかで組織の状態を良好に保ち続けることは、終わりなき取組みなのです。そして、どうしてもトラブルや不祥事が起きると、心理的安全性は悪化しがちです。  ですから、心理的安全性が高いときこそ「なぜ、わたしたちのチームは高いのか」、「わたしたち一人ひとりの、どのような行動が心理的安全性づくりに貢献しているのか」を明らかにしておくことで、状態が悪いときにもその行動を思い出したり、またほかのチームへ「組織のなかの好事例」として横展開することができます。  このような「対話」の重要性は、多くの人が耳にしたことがあるのではないかと思います。しかし落とし穴もあります。みなさんも、いきなり「さあ、組織の課題や方向性について何かしら対話をしてください」、「心理的安全性について、自由に活発な対話をお願いします」といわれても、何を話してよいのかわからず、なかなかむずかしいのではないでしょうか。  そこで活用できるのが、先述のサーベイ結果です。客観的な数値があることで、数字の方向を向いて話すことができ、結果として人を悪者にするのではなく、組織やチームと、よい距離感を保って対話をしやすくなります。  対話を元に現状の認識をそろえたうえで、その次に「対話による解決案の立案」をすることで、よりチームのなかで実態に合った立案ができるようになるのです。 ●ステップ3:「きっかけ言葉」と「おかえし言葉」による、組織の活性化  心理的安全性の計測は「体温計や体重計」と記載した通り、心理的安全性への取組みは、継続して日常的に行い続けるべき取組みです。組織やチームの人々の不断の努力によって、心理的安全性は保たれます。そこで、日常的に仕事を進めるうえで使われる「言葉」に焦点をあて、心理的安全性の維持・向上を試みます。第2回※で紹介した、「きっかけ言葉」と「おかえし言葉」を使います(図表2)。  第2回では、声かけの言葉は「きっかけ言葉」と「おかえし言葉」の大きく2種類に分類でき、「きっかけ言葉」は相手の行動をうながす言葉、そして「おかえし言葉」は起きた行動や結果を受け止めるものだとお伝えしました。よい「きっかけ言葉」は、人々の背中を押し、行動をうながします。また、よい「おかえし言葉」は、行動した人がHappyに感じる言葉を投げかけることで、行動や結果をしっかりと受け止め、「また、次回もこのような行動を取ろう!」と感じさせ、組織・チームの行動を活性化させます。  日常でなにげなく使っている言葉を、心理的安全性をつくる言葉に変えることは、すぐに取り組めます。  例えば、「おかえし言葉」の改善例を見てみましょう。  業務改善案を出し合うミーティングで、メンバーから業務改善案が出てきたとき、以下のリーダーの発言はいかがでしょうか。 メンバー:「〇〇ということをやってみたらどうかと思うんですが……」 リーダー:「いいね! じゃあやっておいてもらえる?」 メンバー:「……あ、はい。」  よく見られる光景ですが、リーダーの言った「じゃあやっておいてもらえる?」は、アイデアを出したメンバーを「言ったもん負け」にしてしまうNGおかえし言葉です。  この場面では、リーダーが「いいね! だれのサポートがあればうまくいきそう?」という「おかえし言葉」で受け止めると、アイデアを出したメンバーに対して、むしろ自分のアイデアがチームで前向きに進められることになったと嬉しい気持ちになります。さらに、この言葉はメンバー同士が協力し合って進めることをうながすため、助け合い因子が高まる効果があります(図表3)。  このように、ステップ2で現状認識と解決案の立案ができたら、ステップ3では実際に増やしたい行動を「きっかけ言葉」と「おかえし言葉」で推進していきます。望ましい行動が増えることで、チームは心理的安全性が高い職場に着実に近づいていくでしょう。 4 まとめ  今回は、心理的安全性を実現するための3つのステップ、@心理的安全性宣言と行動の約束、A診断と対話による現状認識と解決案の立案、B「きっかけ言葉」と「おかえし言葉」の活用をご紹介しました。いかがでしたでしょうか。  最後にアクションへのヒントをいくつかお伝えしたいと思います。まずは仲間を1人見つけるところから始めてください。その2人、3人の小さなチームで心理的安全性を確保し、そして3ステップへと歩みを進めてください。  もうひとつは自分自身を問題のなかに入れていただきたいのです。組織で働いていると、つい「なぜ、あちらの部署は協力的じゃないんだろう」と悩むことがあると思います。しかしそんなときこそ「私たちは、あちらの部署が進んで協力したくなるような、適切な『きっかけ言葉・おかえし言葉』を使えていただろうか」とふり返っていただきたいのです。  きっと、そのほうが仲間が増え、組織に笑顔が増え、よりよい組織づくりにつながるはずです。心理的安全性をつくるのは、組織を変えるのは、あなたです。ぜひあなたから一歩をふみ出しましょう。 ★「SAFETY ZONER」は株式会社ZENTech の登録商標です。 ※ 「エルダー」2023年12月号 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202312/index.html#page=42 図表1 心理的安全性の高い職場づくりの3ステップ 自部門・自チーム Step1 「宣言」と「行動の約束」 Step2 「診断と対話」による現状認識と解決案の立案 Step3 きっかけ・おかえし言葉で課題解決行動を活性化 全社 全社講演会・管理職研修・役員対談 心理的安全性の高い組織診断サーベイ 全社:土台があると進めやすい ※筆者作成 図表2 「きっかけ言葉」と「おかえし言葉」 きっかけ言葉 行動をうながす おかえし言葉 受け止める イラスト/やまね りょうこ 出典:『心理的安全性をつくる言葉55』(飛鳥新社) 図表3 行動変容に役立つ「きっかけ」、「行動」、「みかえり」フレームワーク 行動変容に役立つフレームワークでNGおかえし言葉とOKおかえし言葉を見る おかえし言葉 例 きっかけ 業務改善 ミーティング 行動 アイデアを出す 確率Up おかえし言葉 「いいね! だれのサポートがあればうまくいきそう?」 Happy 自分のアイデアを、みんなで進められることになったので嬉しい NGおかえし言葉 例 きっかけ 業務改善 ミーティング 行動 アイデアを出す 確率Down NGおかえし言葉 「いいね! じゃあやっておいて!」 Unhappy 一人でやらされる「言ったもん負け」になり次回、アイデアを出そうと思えない 出典:筆者作成