“生涯現役”を支えるお仕事 第3回 シニアのお仕事探し最前線!「生涯現役」に寄り添う就職支援アドバイザー 東京しごとセンター シニアコーナー 就職支援アドバイザー 白井(しらい)弘(ひろし)さん 内野(うちの)貴世子(きよこ)さん  人生100年時代を迎え、多くの高齢者が長く働き続けることができるのは、高齢者の生涯現役を支えている人たちの活躍があるからともいえます。このコーナーでは、さまざまな分野や場面で働く高齢者、そして“生涯現役社会”を支えるお仕事をしている人々をご紹介します。  55歳以上のシニアを対象に、就業支援に関するワンストップサービスを展開する東京しごとセンターの「シニアコーナー」。再就職先を探す人、定年後のセカンドキャリアを模索する人など、毎年約8000人以上が利用し、2022(令和4)年度の就職件数は約2000件にのぼっています。今回は、同コーナーで活躍する公益財団法人東京しごと財団総合支援部しごとセンター課高齢就業支援係就職支援アドバイザーの白井弘さんと、内野貴世子さんに、生涯現役を目ざすシニアの仕事探しについてうかがいました。 定年退職後、就職支援アドバイザーに転身「先入観を持たない」がシニア支援のポイント ―「東京しごとセンター」は、東京都民の雇用や就業を支援するため、2004(平成16)年に設置されました。シニアコーナーでは、個別の就業相談やキャリアカウンセリングのほか、セミナーや就職面接会などを実施していますが、就職支援アドバイザーとしての具体的な仕事内容を教えてください。 白井 シニアコーナーの営業時間は、月曜日から金曜日は午前9時から午後8時、土曜日が午前9時から午後5時で、私たちを含め計11人の就職支援アドバイザーが所属しています。仕事のメインとなるのが相談対応。利用者の話を聞きながら、それぞれの課題を見きわめ、考えるべきポイントや課題を整理して、必要なアドバイスを、きめ細かく行っています。そのほか、模擬面接や就職対策のセミナーで講師を務めたり、面接会などのイベントに出張して就業相談をしたりすることもあります。 ―どのような経緯で、就職支援アドバイザーの仕事をするようになったのでしょうか。 白井 私は、60歳の定年まで民間の会社に勤めていました。スタッフ部門の経験が長く、企画本部で予算管理などを担当し、2014年に退職。退職後は、いままでの経験を活かして就職できないかと、2カ月ぐらいハローワークに通い、何社か応募したのですが、採用に至りませんでした。  しかし、そのハローワークで、「キャリアサポーター養成科」のパンフレットを偶然目にし、キャリアコンサルタントになるための半年間の訓練を受講することができました。その後、産業カウンセラーの資格も取得し、2016年に東京しごとセンターに採用されたという形です。 内野 私は民間の会社で、人事関連の仕事に長くたずさわっていました。産業カウンセラーの資格を取得し、社内の相談窓口などを担当していました。2011年、早期退職に応募し、再就職活動を行った際にキャリアコンサルタントの資格も取得。その後、約10年にわたって民間や自治体の事業で就職支援にたずさわり、2020年から、シニアコーナーで仕事をするようになりました。 ―シニアの就職支援ということで、特に心がけていることはありますか。 白井 シニアコーナーといっても50代後半から60代、70代、80代と利用者の年齢層は非常に幅広く、それぞれ違った環境で、違った問題を抱えています。一人ひとりの状況、年代層の特徴をある程度把握したうえで、利用者の話を聴くようにしています。また、シニア世代は介護の問題があったり、自分でも病気を抱えたりしていることもありますから、そういう事情をトータルに理解し、利用者に対応することを心がけています。 内野 自分への戒めは「先入観を持たない」ことです。いま、利用者が何を求めてここに来ているのか、先入観を持たず、よく聴くようにしています。人によって、年金は十分にあるけれど、社会とのかかわりを持つために仕事を探しているケースもありますし、「年金がぜんぜん足りないから働く」という人もいます。とにかく一定の金額を稼がなければならないのなら、少し方向性を変えて仕事を探すことなども提案し、それでうまくいくこともあります。 80代で希望の仕事にさまざまな選択肢で納得のいく就職を ―就職支援アドバイザーのお仕事で、魅力を感じるのはどんなところですか。具体的なエピソードがあれば、教えてください。 内野 シニアの場合、いままでの経験を活かして仕事をしたい希望があっても、いまの就労環境の状況では、なかなかそれが実現できないというケースは少なくありません。シニアコーナーでは、そういうシニアの求職者にも、さまざまな情報、選択肢を提供できるのが魅力です。例えば、65歳以上を対象とした「しごとチャレンジ65」は、職場体験を通じて、求職者と受入先企業をつなぐプログラムです。書類選考などは行わず、企業に求職者に直接会ってもらうことができるので、採用率が非常に高くなっています。また、就職支援講習※を提案したことで利用者が前向きになり、納得した就職をしてもらえるのが一番ですね。 白井 少し前の話ですが、希望の仕事に就くことができた80代の女性がいます。いままでの経験を活かして、調理や洗い場での仕事がしたいということだったのですが、立ち仕事ですし、大きな鍋を扱うようなこともありますから、年齢的に少し厳しいかなと思っていました。しかしその方は、ハローワークの求人票にあった小料理屋で職場体験に臨み、そこでの就職が決定。その店では高級な器を多く使用していたので、その方のていねいな洗い方が評価されたのです。とてもうれしく思いましたね。 ―シニアが生涯現役で働き続けていくため、企業に求めることはありますか。 白井 少子高齢化で、労働力人口も減ってきています。働く意欲があるシニアを、企業としても積極的に、戦力としてどんどん活用してほしいと思います。 内野 シニアの働き方は、いろいろと工夫することができるのではないでしょうか。例えば介護の現場であれば、身体の介護はむずかしくても、介護職の手伝いなどは可能です。仕事を切り出して細分化することで、少しずつでも、シニアが働く機会をつくっていただきたいですね。 (取材・沼野容子) ※ 就職支援講習……東京しごとセンターが実施する、マンション管理、介護など、シニアが活躍する業界へ職種転換するための短期講習 写真のキャプション 公益財団法人東京しごと財団 総合支援部 しごとセンター課 高齢就業支援係 就職支援アドバイザーの白井弘さん 公益財団法人東京しごと財団 総合支援部 しごとセンター課 高齢就業支援係 就職支援アドバイザーの内野貴世子さん