【表紙2】 「70歳雇用事例サイト」は2023年9月27日より「高年齢者活躍企業事例サイト」に名称変更しました 高年齢者活躍企業事例サイトのご案内 ―高年齢者が活躍できる、これからの働き方― https://www.elder.jeed.go.jp 高年齢者雇用にまつわるさまざまな情報を発信しています! さまざまな条件で検索できる! @企業事例検索 高年齢者活躍企業コンテスト入賞事例のほか、定年年齢、継続雇用年齢、従業員規模、業種、地域、都道府県別検索やフリーワード検索ができます。 Aイベント情報 「高年齢者活躍企業フォーラム」など、高年齢者雇用に関するイベント情報を掲載します。 B雇用力評価ツール 自社の高年齢者を活躍させる力(高齢者雇用力レベル)を診断することができます。 貴社 ベンチマーク 5領域全体 戦略 体制・風土 評価・処遇 能力開発 仕事内容 4 3 2 1 C仕事生活チェックリスト 生涯現役で活躍するための仕事生活のチェックリストです。 ※ご利用は事前のお申込みが必要です D高齢者雇用に関する資料 高齢者雇用に関する研究報告書などが閲覧できます。 jeed elder 検索 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.106 「人を大切にする」経営を実践し活き活きと働き続けられる職場に サミット株式会社執行役員人事部マネジャー 安田大輔さん やすだ・だいすけ 1997(平成9)年、サミット株式会社入社。店舗・本部での勤務、労働組合専従、経理部マネジャーなどを経て、2020(令和2)年4月に人事部マネジャー、2023年6月より執行役員人事部マネジャーを務める。  東京都を中心に、124店舗の食品スーパーマーケットを展開しているサミット株式会社。慢性的な人手不足といわれる小売業界ですが、同社では、パートタイム社員の定年を65歳に定めるとともに、それ以降は「シニアパート社員」として75歳まで働ける環境を整え、多くの高齢者が活躍しています。65歳、70歳を超えて社員が活き活きと働ける同社の取組みについて執行役員人事部マネジャーの安田大輔さんにうかがいました。 人材確保を目的に「シニアパート社員」制度を導入定年を65歳に引き上げ、75歳まで働ける環境を整備 ―貴社では、店舗で働くパートタイム社員の定年を65歳とし、その後はシニアパート社員として75歳まで勤務可能な制度を導入しています。制度導入の目的とはなんでしょうか。 安田 一番はやはり人材の確保です。スーパーマーケット業界は、世の中の景気がよいときは人が採れず、景気が悪いときは人が採りやすいという波が必ずきますし、そのくり返しでした。そういった状況のなかでも安定的に人手を確保していかなければなりません。  また、30代で入ったパートタイム社員が、働き続けて60歳、65歳を迎えることも多く、しかもふだんから体を動かす仕事なのでみな元気なのです。かつては正社員もパートタイム社員も全員が定年は60歳で、パートタイム社員については、定年以降は昇給のないアルバイト社員扱い(当時はシルバー社員という名称)となり労働時間も短くなるという働き方でした。さらに、時給が定年前と比較し、最大10%下がります。じつは私は労働組合の専従を9年、うち執行委員長を4年ほどやっていたのですが、パートタイム社員の組合加入の説明に回り意見交換するなかで、「私たちは元気で変わらず仕事をしているのに、60歳を過ぎたらどうして急に時給が下がるのか」という声が非常に多くありました。  人手不足やパートタイム社員の平均年齢の上昇などをふまえ、2016(平成28)年にパートタイム社員の定年を65歳に延長し、65歳から75歳まで「シニアパート社員」として働くことができる制度を導入しました。 ―実際に高齢で働くパートタイム社員の方は多いのですか。 安田 正社員は約2800人、パートタイム社員は約1万1000人です(2023〈令和5〉年3月31日時点)。パートタイム社員のうち、60〜65歳が約1500人、65歳超のシニアパート社員が約2000人。60歳以上のパートタイム社員が全体の32.5%を占めており、いわゆる学生アルバイトも含めた全社員ベースでは21%で、約5分の1を占めるなど、多くのシニアが活躍しています。継続して長く勤務した後にシニアパート社員になる方も多いのですが、最近は「65歳を過ぎているのですが、働きたい」といって応募してくる方もいますし、60歳以降でパートタイム社員として入社される方もいます。また70歳を過ぎて働く人も多く、特に歴史の古い東京都世田谷区の店舗では、70歳以上の比率が高いところもあります。先日もある店長から「75歳になった人がいるが、まだまだ元気なので継続雇用したい」という相談を受けるなど、元気な高齢者が多い印象です。 ―75歳を雇用の上限年齢とする制度により、長く働くことが可能になりましたが、処遇制度はどのように変わったのですか。 安田 パートタイム社員の定年が65歳になりましたが、働き方はパートタイム社員もシニアパート社員も基本的には変わりません。週35時間未満という契約時の労働時間は共通です。処遇については、以前は60歳を過ぎると時給が最大で10%減額されましたが、定年を65歳にしたことで継続的に昇給もする条件となりました。ただやはり65歳を超えて、シニアパート社員になると、昇給がストップし、賞与が出ないという違いがあります。  ちなみに、パートタイム社員は、協調性などの行動評価と仕事の質・量の2軸を基本に、年に2回の人事考課を実施しています。総合評価をS、A、B、C、Dの5段階で示し、真ん中のB評価だと5円、Aだと10円、Sだと15円時給が上がり、C以下は昇給がないなどメリハリをつけています。シニアパート社員は経験豊富な熟練者が多いので、昇給はしませんが、積み上がった時給は維持されます。ただし賞与がなくなるので、年収ベースでは10〜15万円程度の減収になります。また、当社ではパートタイム社員は1年を経過した時点で無期雇用としています。パートタイム社員は1年ごと、シニアパート社員に関しては6カ月ごとに契約条件の確認面談をしますが、人によっては「半年経ったら体力が落ちてきました」という声もあり、気持ちの変化もありますから、ご本人の意向を面談で確認するようにしています。 「健康確認シート」を活用した面談でシニアの身体機能と健康状態をチェック ―75歳まで働けるといっても、身体的には個人差もあります。そのための対応はどうしていますか。 安田 一つは、シニアパート社員の半年ごとの面談で、働く意欲などご本人の意向を確認し、もう一つは面談時に「健康確認シート」に記入してもらい、店長と話し合いながら身体機能をチェックしています。これは、シニアパート社員制度ができた2016年に導入しました。視力・聴力・平衡(へいこう)感覚・その他の4項目になりますが、どちらかといえばコミュニケーションのきっかけに使っています。私も本部のシニアパート社員と面談をしていますが、「僕もちょっと目が見えにくくなってきたのですが、書類はよく見えますか?」と、会話をしながらチェックしていくというイメージです。 ―「視力確認」には「香辛料の裏書きが読めますか?」といった項目もあるそうですね。 安田 これは商品の裏や値づけラベルに書いてある日付のチェックに必要となる項目です。メガネをかけていても日付など細かい文字が読めなければ、商品を出すときなどに支障が出ます。また、平衡感覚の確認には「腰に手をあてて、目を開けたまま片足で30秒以上立てますか?」という項目がありますが、実際にやってもらうわけではありません。目の前でやらせるのは、個人のプライドを傷つけることになりますし、「自信はありますか」と聞いて、本人に確認するようにしています。そのうえでいまの仕事がむずかしそうであれば、例えば部門専属の作業から店内共通の清掃の仕事に変える、あるいは仕事の時間を短くするなど、お互いに歩み寄りながら身体能力に応じて仕事内容を決めていきます。もちろん店長も日ごろの仕事ぶりを見ていますが、仕事のできばえや仕事量の減少を感じる場合などでも「健康確認シート」はよいコミュニケーションツールになっています。 ―正社員の高齢者雇用制度はどうなっていますか。 安田 じつは65歳までの雇用確保が努力義務になったとき、社内で正社員も65歳まで定年延長するのか、しないのかについて議論がありました。しかし、「全員一律にしないでほしい」、「選択できるようにしてほしい」という声が多かったのです。その結果、60歳定年以降は65歳まで再雇用する制度を継続することにしました。また、正社員については1997年に勤続給の廃止や管理職への年俸制導入など、より能力主義を高めた人事制度を導入しました。また職能資格フレームに基づく下方への格付(いわゆる降格制度)も厳密に運用しており、役職定年もありません。60歳以降の嘱託社員になっても、実力がある人は継続して店長や副店長として活躍してもらっています。ただ、最近は定年を65歳に引き上げるべきではないかという議論も出始めています。65歳以降については、嘱託社員からシニアパート社員に移行できます。実際に60歳以降は正社員のほぼ100%が再雇用を希望し、65歳以降もシニアパート社員として働く人が増えています。店長だった人が鮮魚部門で魚をさばいていたり、あるいは商品出しの業務にたずさわっている人もいます。本部で商品部のマネジャー(いわゆる部長職)に就いていた人も店舗で働いていますが、役割が変わってもみな楽しそうに働いています。 社員の「生活の充実」をベースに働きがいのある職場を目ざす ―シニアを含めて、社員全員が活き活きと働くために会社として心がけていることはなんでしょうか。 安田 当社は昔から「人を大切にする経営」を掲げてきましたが、あらためて2021年に社員ビジョンとして「『みんなでつくる幸せのかたち』〜それぞれのライフ・ワークバランスNo.1〜」を掲げました。個人の視点においては「ライフ」の充実がベースとなり、そのうえで働きがいのある「ワーク」の充実を目ざすというものです。組織風土や職場環境の整備という点では「サービス残業なし」、「差別なし(学歴・性別・社員区分など)」、「7連休の取得促進」、「正月3が日休業」などを実践しています。また、仕事と関係がないことに気を遣うことがないよう、中元・歳暮、年賀状など「付け届け不要」、権威主義的な雰囲気を排除するために、社長をはじめ全員が互いに「さん」づけで呼ぶようにしています。 ―今後の課題とはなんですか。 安田 いま、正社員の再雇用を含めて全体の制度のポリシーをしっかり定めて、サミットらしい人事制度に変えようという議論を始めています。正社員の定年延長だけではなく、シニアパート社員についても「75歳を過ぎても働きたい」というニーズも出てきています。社員一人ひとりと向きあいながら、一つの型にはめるのではなく、多様性を意識した制度に変えていくのが、今後の課題です。 (インタビュー/溝上憲文、撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のイラスト 古瀬 稔(ふるせ・みのる) 2024 March No.532 特集 6 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム〜開催レポートU〜 10月27日開催 「50歳からのキャリア開発・支援、リスキリング~シニアの活躍に向けて」 11月1日開催 「エイジレスな人材活用のための評価・賃金制度」 10月27日開催 7 基調講演 「50歳からの幸せなキャリア戦略」 株式会社FeelWorks 代表取締役、青山学院大学兼任講師 前川孝雄 11 発表@ 旭化成のシニアキャリア施策について 旭化成株式会社 人事部キャリア開発室長 岡本真治 13 発表A 50歳からのキャリア開発支援〜76%のシニア社員の行動を変えたNTTコムの取り組み〜 NTTコミュニケーションズ株式会社 ヒューマンリソース部キャリアコンサルティング・ディレクター 浅井公一 15 パネルディスカッション 50歳からのキャリア開発・支援、リスキリング〜シニアの活躍に向けて 11月1日開催 21 基調講演 「エイジレスな人材活用のための評価・賃金制度」 学習院大学名誉教授 今野浩一郎 25 発表@ 70歳定年制度について 株式会社NJS 管理本部 人事総務部長 小林崇 27 発表A シニア層への取り組みについて TIS株式会社 人事本部人事部 人材戦略部 セクションチーフ 森田喜子 29 発表B 65歳定年制度の導入と今後の更なるシニア層の活躍に向けて〜安心して働き続けられる環境の整備〜 日本ガイシ株式会社 人材統括部 人事部長 杉浦由佳 31 パネルディスカッション エイジレスな人材活用のための評価・賃金制度 1 リーダーズトーク No.106 サミット株式会社 執行役員人事部マネジャー 安田大輔さん 「人を大切にする」経営を実践し活き活きと働き続けられる職場に 37 日本史にみる長寿食 vol.364 サクラエビは美味しい長寿食 永山久夫 38 高齢者の職場探訪 北から、南から 第141回 沖縄県 社会福祉法人まつみ福祉会 42 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第91回 株式会社安全薬局 薬剤師 幡本圭左さん(101歳) 44 多様な人材を活かす 心理的安全性の高い職場づくり 【第5回】 心理的安全性の高い職場づくりを後押しする心理的柔軟なリーダーシップ 原田将嗣/石井遼介 48 知っておきたい労働法Q&A《第70回》 退職金の不支給、人事評価の違法性判断基準 家永勲 52 “生涯現役”を支えるお仕事 【第4回】 再雇用でモチベーションもアップ! いきいきシニアの就業や学びを支援 公益財団法人いきいき埼玉 埼玉県シルバー人材センター連合 就業促進部就業促進課主任 岡野功さん 54 いまさら聞けない人事用語辞典 第44回 「フレックスタイム制」 吉岡利之 56 心に残る“あの作品”の高齢者 【第10回】 映画『土を喰らう十二ヵ月』(2022年) 株式会社ウイル 代表取締役、システムデザイン・マネジメント学博士 国家資格キャリアコンサルタント 奥山睦 57 BOOKS 58 ニュース ファイル 59 読者アンケート結果発表!! 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.337 「七宝」の伝統技法で透明感のある色彩を表現 七宝工 畠山弘さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第81回] オノマトペ問題 篠原菊紀 【P6】 特集 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 〜開催レポートU〜 ▼10月27日開催 「50歳からのキャリア開発・支援、リスキリング〜シニアの活躍に向けて」 ▼11月1日開催 「エイジレスな人材活用のための評価・賃金制度」  当機構(JEED)では、生涯現役社会の普及・啓発を目的とした「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」を毎年開催しています。2023(令和5)年度は、企業の人事担当者のみなさまにとって特に関心の高いテーマごとに全4回開催し、学識経験者による講演や、先進的な取組みを行っている企業の事例発表・パネルディスカッションなどを行いました。  今号では、2023年10月27日に開催された「50歳からのキャリア開発・支援、リスキリング〜シニアの活躍に向けて」、同11月1日に開催された「エイジレスな人材活用のための評価・賃金制度」の模様をお届けします。 【P7-10】 10月27日開催 基調講演 令和5年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「50歳からのキャリア開発・支援、リスキリング〜シニアの活躍に向けて」 「50歳からの幸せなキャリア戦略」 株式会社FeelWorks(フィールワークス)代表取締役、青山学院大学兼任講師 前川(まえかわ)孝雄(たかお) 大切なのは自分自身の「働きがい」を見いだしていくこと  株式会社FeelWorks代表取締役の前川孝雄と申します。就職や転職、学び、キャリア支援をテーマとする媒体の編集長を経て、40歳のときに人材育成を生涯の仕事にしたいと思い、2008(平成20)年、当社を立ち上げて現在に至ります。  人事制度や仕組みなどを整えていくことは、会社としてとても大事な取組みですが、私は、現場の上司が多様な部下を大切に育てて活かすことがとりわけ重要であると考え、「上司力○R(★)研修」というプログラムをつくり、これまで16年にわたり400社以上の現場で、上司のみなさんを通じた人材育成を支援しています。  そのなかで、特に問題意識を持って取り組んでいるのが、本日のテーマである「ミドル世代からのキャリア」についてです。40・50代は、企業において管理職になる人が多い世代ですが、部下の活躍支援を考えたとき、多くの管理職自身が、「自分のこれからの幸せなキャリアや人生について、忙しくて考える余裕がない」といった状況にあります。ではどうやってキャリアをつくっていけばよいのでしょうか。私も50代半ばを過ぎ、当事者としてこれからの人生をどうしていけば幸せになれるのかを考えた末に、会社という枠を越えて、「自分自身のなかで働くことやキャリアのルールを変えていこう」という思いに至りました。  突然ですが「伊能(いのう)忠敬(ただたか)」とは何をした人物でしょうか。多くの人は「江戸時代後期に日本地図の原型をつくった人」とお答えになります。しかし、忠敬が生きていた時代の町の人たちの答えは、違っていたと思います。なぜなら彼は、現役時代は優秀なビジネスパーソンで、酒造りなどを中心とした多様な商いをして、現在の30億から35億円相当の資産を築き上げるほど成功していた人物なのです。そして、50歳で商売を次世代に引き継ぎ、そこから自分が本当に好きな天文学を学びはじめます。それも55歳でひと区切りさせ、そこから17年間、全国を歩いて地図づくりをします。  すばらしいのは、大好きな天文学を学ぶなか、どうしても解せない現象があると、いまでいう勉強会やセミナーなどに出かけては質問をしたそうです。そのなかで唯一納得できる答えをしてくれた学者、高橋(たかはし)至時(よしとき)に弟子入りしました。忠敬は当時50歳、江戸時代の50歳は現代では70歳ぐらいの感覚だと思います。一方の高橋至時は31歳。忠敬は、自分より二回りほども若い人に弟子入りし、後世に残るキャリアを50歳からつくっていったのです。現代の私たちにも通じる、示唆に富んだ話ではないでしょうか。  大切なのは、お金や肩書き、給料の高さではなく、自分自身の「働きがい」というものを見いだしていくことだと私は思います。 可能性に気づいていないミドル社員の戸惑い  企業を訪ねると、ミドル層の方々からいろいろな声が寄せられます。また、私の著書を読まれた方から手紙をいただくこともあります。あるミドル世代の男性は、大手上場企業のグループ企業で順調に出世され、役員手前まで出世したものの、職場でアクシデントがあり、その道が一時閉ざされ、途方に暮れていたそうです。そんなとき、私の本にたどりつき「この先はお金や肩書きではなく、自分自身のやりがいのために働いていこう、これから20〜30年の『オヤジの覚悟』ができたように感じます」というようなことを手紙に書いて送ってくれました。  一方で、悩み続けている方も多くいらっしゃいます。定年を目前にしたある男性は、「来年で60歳定年を迎えるにあたり、勤務先から示される条件で再雇用を受けるか否かを決めなければいけない。新卒でこの会社に勤めて三十数年、他社のことは知らずに過ごしてきた。60歳以降をどう生きればよいのか、どう働けばよいのか、自分のなかでピンとこなくて不安だ」と悩んでいました。答えが決まらないまま、消去法的に再雇用を選んだそうですが、多くの人に当てはまるような典型的な話だと思います。 「定年=リタイア」ではない時代欠かせないのは「キャリア自律」  人材育成やキャリア支援の世界で、最近よく「キャリアプラトー」という言葉を耳にします。組織内で昇進・昇格の可能性に行きづまり、あるいは行きづまったと本人が感じて、モチベーションの低下や能力開発機会の喪失に陥ることです。ただ、会社の枠を超えて視野を広げて考えてみると、じつは人生もキャリアの可能性も広がっていることに気づけていないのであって、すごくもったいないと思うのです。  人生100年時代といわれるなか、「定年=リタイア」ではない時代がやってきました。高年齢者雇用安定法が改正され、2021(令和3)年4月から、70歳までの就業確保措置が努力義務となり、「雇用」の枠組みから、「就業」という概念で個人事業主になったり、一人社長になって会社と業務委託契約を結んで働いたり、といった選択肢も示されました。  あるアンケート調査の結果をみると、70歳を超える年齢まで働きたいと考えている人が、50代では25.1%ですが、60代になると41.4%に増加しています※1。その年齢が近づくと、まだまだ身体も動くし、もっと働きたいという気持ちになってくるようです。実際、男性は60代後半でも6割以上が働いていて、今後この数字はさらに上がっていくものと思います。  そこで、いろいろな可能性を自分から考えていく必要があり、企業はそれを支援し、戦力として活用できるように考えていくことが大切になってきています。  一つ、希望の持てるデータがあります。仕事に満足している人の割合は50歳を底に上がりはじめ、75歳になると50歳の1.7倍になります※2。ただし、ほとんどの企業では、75歳は定年も再雇用も超えています。仕事に満足して活躍し続けるには、「キャリア自律」が欠かせません。企業側からみると「自律型人材」です。「他者から管理・支配されるのではなく、自分の立てた規律や規範に則って働ける人材」と定義づけられる人材です。  しかしミドル世代には、会社の辞令に則り一生懸命働いてきた人たちが多いことから、キャリア自律は非常にむずかしいとも考えています。さまざまな例を見てきたなかで、私がうまくいっていると思う人たちは、役職定年や定年をキャリアの節目・通過点と考えること。その通過点を経て、60・70代の幸せなキャリアをどう描きたいのかをしっかり考え、現在の仕事の意味づけをしていくことが重要なのです。  50歳と75歳を比較すると、就業形態も職業も変わっていきます。50歳では比較的に正社員が多いのですが、75歳では雇用形態はさまざまで、自営業も増えてきます。職業をみると、50代前半は事務が中心で、70代になると多様です※3。業務委託契約などを結んで個人事業主になるなど、一人社長になることも一つの選択肢に入っていきます。こうした話をバリバリ働いているミドルの方々にすると、「独立はリスクがある」といった反応をされるのですが、一社依存で働いていくより、個人事業主になって、まずはこれまでお世話になった会社と業務委託契約を結び、ある程度軌道に乗ったところで2社目、3社目と仕事を広げることができれば、収入源と仕事が複数になり、ローリスクになるのではないでしょうか。自分の可能性が広がりますし、自分を中心にして仕事がいくつか広がっていく可能性があります。  そのためには、自分らしさを大切にして、本来の出世≠することが大事だと思います。出世は「世に出る」と書きます。つまり、社外でも評価され活躍できるプロフェッショナルになることだと思うのです。これを意識して、50歳から、できればもう少し早いタイミングから、自らキャリアをつくっていくことが大切なのではないでしょうか。  人を大切にする経営とは、ミドル層以降については、雇用を守ることではなく、社内外で通用するプロに育てることではないかと思います。例えば、ある中堅の工作機械メーカーでは、基本理念に「ビー・プロフェッショナル」を掲げ、プロフェッショナルを志し、会社としてそれをバックアップする仕組みを整えています。こういう取組みが広がると、新しい時代に呼応するような会社が増えていくように思います。  若い人たちの意識も変化していて、転職サービスに登録をする新入社員は、12年前から約30倍に増加しているそうです※4。すぐに転職したいということではなく、自分のキャリアなどを登録しておくとオファーがくるという仕組みなので、自分の市場価値を測るバロメーターにしたい、ということもあるのだと思います。 「お金・肩書き」から「働きがい」へパラダイムを変えていくことが大事  50歳からの幸せなキャリア戦略を考えるうえで最も重要なのは、「お金・肩書き」ではなく、「働きがい」を大切にしていくことだと考えています。ミドル世代の人、特に一つの会社で長く働いてきた人に「今後どういう条件で働いていきたいか」とたずねると、まず給料の話が出てきます。40・50代でも転職は可能といわれますが、企業は本音のところでは若手人材を採用したいと考えていますから、実態としてそう簡単なことではありません。  さまざまな事情があるので、一概にはいえませんが、定年後は年金や企業独自の年金もあり、いまと同額の労働収入が必ずしも必要になるわけではありません。住宅ローンの返済が終わり、子育てが一段落していれば、介護の問題はあるにせよ、ライフプランのなかでお金がかかる部分が終わっている場合も多いでしょう。月10万円ほどの労働収入があれば家計は十分回るという説もあります。そう考えると、気持ちが楽になるはずです。高い給料を意識しなくなると、キャリアの選択肢はグッと広がります。  厚生労働省の調査によると、「高齢期には就業希望理由が変わる」という結果があります※5。40・50代までは経済上の理由が非常に高いのですが、60・70代になると、生きがいや社会参加という理由が高くなるのです。私自身も大企業をスピンアウトして一人で起業しましたが、それによって社会とつながり、お役に立てて、生きる喜びを得られるということをものすごく実感しています。これは、シニアになる方々も同じだといえます。  また、シニア世代が大活躍している会社では、「元気だから働くのではなく、働くから元気になるんです」という声を聞きます。まさにその通りだと思います。  米国の臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグによると、人は働くうえでは、働く環境や条件、人間関係、給料などに目が向きがちで、実際にそれらを改善すればするほど不満足は減っていきます。ですが、その延長線上に満足感はつながりにくい、というのです。では何が満足につながるかというと、仕事内容そのものや組織内でになう責任、自分の持ち味を認めてもらえる承認、がんばった結果「ありがとう」といってもらうこと、チームで難題を乗り越えたときの達成感――。そういったことが喜びになり、これらを集約すると「働きがい」になるのだと思います。  幸せな50歳以降のキャリアを考えるとき、これらを第一に考えることが重要ではないかと思います。  ミドル世代の多くの方々は、「いま、がまんして働けば、将来は豊かになる」と本意ではない仕事にも打ちこんで、年功序列で給料が上がり、家族を養えるというようなモデルを信じて働いてこられたと思います。  これからは変えていきましょう。目の前の仕事を自分の経験値を用いて創意工夫することで「働きがい」という幸せを感じられます。この延長線上に、私の造語ですが「幸せを成す」と書いて「成幸(せいこう)」があるといえるのではないでしょうか。 会社は「学びの機会」にあふれている強みを磨き、弱みを補強しよう  いま、リスキリングや学び直し、あるいは世の中の環境変化やDXなどの新しいリテラシーを学ぶことが求められています。  ミドル世代にその重要性を伝える際に大切にしたいのは、ご本人のこれまでの経験値を活かしているのかを確認したうえで、そこに何をプラスして学び、加えていくかという発想です。  先ほど「キャリア自律」について話をしましたが、まずは、キャリアビジョンをしっかり考えていくことが重要です。ところが「人生は長い」と思ってこれを先延ばしにしていると、気づいたときには定年や定年後再雇用が目前に迫り、余裕がなくなってしまいます。すると、いざキャリアの選択が求められたときに、消去法的な選択になってしまう可能性があります。  では、何から始めればよいかというと、まずは自分の市場価値を理解することが必要です。例えば、副業や兼業、ボランティア活動など社外での活動を通じて、会社の外でも通じる自分の強みを明らかにすることができます。多様なバックボーンを持つ人同士で議論しあう「学びの場」も有効です。そして、その強みをさらに磨いていく。このようなステップで進めていくことが大切です。  「学びの場」という点でいうと、いま働いている 会社も、じつは「学びの宝庫」です。例えば、他部署の仕事を学んだり、新しい仕事にチャレンジしたりする機会を得ることもあるでしょう。自分の強みを活かせる業務、弱みの克服につながる業務があれば、積極的にチャレンジしましょう。そして、強みを磨き、弱みを補強して、新たな挑戦に向けた準備に取り組み、自分の未知の領域まで人生やキャリアの可能性を広げていただきたいですし、会社はその支援をしてほしいと思います。  最後に江戸時代後期に活躍した学者・佐藤(さとう)一斎(いっさい)の言葉で終わりたいと思います。  「少にして学べば、則ち壮にして為すこと有り。壮にして学べば、則ち老いて衰えず。老いて学べば、則ち死して朽ちず」。学び、活躍するミドル・シニアのみなさんが増えていくような、そんな元気で明るい社会になることを願っています。 ★「上司力○R」は株式会社FeelWorksの登録商標です。 ※1 パーソル総合研究所「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」(2021年) ※2 リクルートワークス研究所『定年後のキャリア論―いまある仕事に価値を見出す―』「全国就業実態パネル調査」(2021年) ※3 総務省『国勢調査』 ※4 パーソルキャリア株式会社「新卒入社直後のdoda登録動向【グラフ】4月度doda会員登録者数の推移」(2023年6月14日) ※5 厚生労働省「高齢社会に関する意識調査」(2016年) 【P11-12】 10月27日開催 発表@ 令和5年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「50歳からのキャリア開発・支援、リスキリング〜シニアの活躍に向けて」 旭化成のシニアキャリア施策について 旭化成株式会社人事部キャリア開発室長 岡本(おかもと)真治(しんじ) 「挑戦・成長を促す終身成長」と「多様性を促す共創力」  旭化成株式会社はマテリアル事業、住宅事業、ヘルスケア事業などを柱に持つ、総合化学メーカーです。1922(大正11)年に創業し、2022(令和4)年度に100周年を迎えました。その年度から3年間の中期経営計画をスタートし、次の100年に向けて「Be a Trail blazer(開拓者たれ)」をスローガンに、サブタイトルに「A(Animal, Asahi)-Spirit」を掲げ、変革に向けグループ全体で取り組む四つの重要テーマを定めています。それが「グリーントランスフォーメーション」、「デジタルトランスフォーメーション」、「『人財』のトランスフォーメーション」と、この三つの領域で生み出される「無形資産の最大活用」です。特に、「『人財』のトランスフォーメーション」については、かねてより当社が大事にしている「人は財産、全ては人から」という考えのもと、「挑戦・成長を促す終身成長」と「多様性を促す共創力」を大きく打ち出しています。  この中期経営計画の方針に則り、2022年4月にキャリア開発室を発足させました。キャリア開発の方針として、これからの変化の時代では、自身のキャリアについて中長期的な視野で、主体的に自分らしく適応力を上げていく「自律的なキャリア形成」が重要となること、また、「終身成長」と「共創力」を軸に、一人ひとりと組織が仕事でつながり、両者が相乗的に活性化していく姿を目ざしてキャリア開発を推進していくことを掲げています。  キャリア開発で目ざすのは、社員一人ひとりが、「これまでの自分を見つめ、これからの自分に興味を持ち、今の自分に関与し続ける」状態です。この自己成長により中期的な能力開発を、一方で、役割に対して能力を発揮し成果を上げていく、という2軸を置いて、次の成長を描いていきます。そして、上司によるメンバーとの対話・支援、会社・組織によるさまざまなキャリア開発施策を行っていくという、運営のスタイルを示しています。 キャリアについて、自ら「考える」、「学ぶ」、「行動する」ことを支援  キャリア開発には、人事異動や役職が上がるなどの「節目のキャリア開発」と、そうした節目と節目の間にも上がっていく努力をする「日常のキャリア開発」の2種類があり、これらをうまく組み合わせながら、ダイナミックに成長し続けることが重要と考えています。この考えのもと、シニア層を対象とした施策を展開していますので、その取組みについてご紹介します。  まず、2023年4月に定年年齢を60歳から65歳に引き上げました。ポストについては、従来通り60歳でポストオフとするルールのままです。60歳で全員の職務と期待・役割を洗い直し、本人の今後の働き方、あるいは業務内容について話し合いながら60歳以降に臨んでいく、という仕組みを整備しました。  この定年延長にともない、60歳以降、あるいは50歳以降の働き方の支援として、さまざまな施策を展開しています。キャリアの充実のためには、キャリアについて「考える」こと、「学ぶ」こと、「行動する」ことが重要であるとし、三つの軸ごとに施策を展開しています。  例えば、「学ぶ」ことには「リスキル・リカレント教育」などがあります。「考える」、あるいは「行動する」ことに対しては、キャリアコンサルタントによる面談や、社内副業の公募などにより、しっかり支援をしていきたいと考えています。  また、大きな取組みの一つに「シニアの節目施策」があります。50歳と55歳の段階で節目をつくり、研修や面談を実施しています。もともと50歳・55歳時には、1日がかりの研修を行っていたのですが、いろいろ詰め込んだ結果、その場かぎりのものになってしまうという反省があり、リニューアルを行いました。研修は面談のためのガイダンスと位置づけ、社内キャリアコンサルタントによるキャリア面談や上司面談と組み合わせて、一人ひとりが、継続的に自身を見つめ、考え、行動していくことを目ざしています。 学習支援・推進システムを整備して一人ひとりの学びを支援  キャリアに関する施策の一つとして、2022年に「CLAP(Co-Learning Adventure Place)」という、「学習支援・推進システム」(ラーニング・マネジメントシステム)を整備しました。CLAPの名称には、豊富な学習コンテンツで一人ひとりの学びを支援し、また、お互いの成長の旅路を仲間とともに称賛し合う、という想いを込めています。  専門性を高める「学びの深さ」、キャリアの可能性を広げる「学びの幅」といった社内外のコンテンツをオンデマンドでいつでも受講することができ、自分自身を高めていくことができるものです。この環境を今後いろいろなところとからめて展開していくことで、リスキルといったところをさらに充実させていきたいと考えています。  そのほかの施策として、2023年10月からキャリアコンサルティングの窓口を設置しました。手をあげればだれでもキャリアコンサルタントの面談が受けられます。シニア社員も若手も、あるいは上司の悩み相談なども受けながら、できるだけ個に対応することで、個々人の「終身成長」、「キャリア自律」の支援の強化を目ざしています。  このほか、50歳以上を対象とした越境体験支援プログラムも展開しています。「ホーム」と「アウェイ」を行き来することによって、刺激を得て、自身を知り、成長ポイントを見つけることを目的とした取組みです。約1800人に呼びかけたところ200人ほどが説明会などに参加し、今年度は23人がおおむね3カ月間の越境プログラムを体験することになりました。今後も草の根的に広げ、展開していきたいと考えています。  また、20年前から展開している公募人事制度もあり、今後、リスキルを前提とした経験要件をなくした募集や、シニア層のノウハウを活かす案件の拡大などを図っていきたいと考えています。総論賛成・各論反対になりがちな施策ではあるのですが、シニア層の活躍の場を広げていくということも目ざして進めていきたいと考えています。 【P13-14】 10月27日開催 発表A 令和5年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「50歳からのキャリア開発・支援、リスキリング〜シニアの活躍に向けて」 50歳からのキャリア開発支援 〜76%のシニア社員の行動を変えたNTTコムの取り組み〜 NTTコミュニケーションズ株式会社 ヒューマンリソース部キャリアコンサルティング・ディレクター 浅井(あさい)公一(こういち) シニア社員の活躍を推進する取組みは変容をうながす研修や上司も変える面談がカギ  NTTコミュニケーションズ株式会社は、通信事業を行うNTTグループ企業の一つで、インターネットを使った法人のみなさまへのソリューション事業の提供を中心的な業務として行っています。  従業員数は、2023(令和5)年7月現在、約9300人で、50歳以上の割合が約37%です。2030年にはこの割合が63%になり、その63%のうち34%ほどが60歳以上になると予測されています。  私は2013(平成25)年に人事・人材開発部門に着任し、翌年度からおもにベテラン社員の活躍推進に取り組む役割をになっています。これまで社内外含めて、キャリア面談を約3000人に行い、キャリア指導したマネージャーも1000人を超えるほどになっています。  当社では2020年10月にキャリアデザイン室を立ち上げました。現在、私を含めて9人の担当がおり、毎年1000人以上のキャリア面談を行っています。また、私自身は兼業で社外への講演や各企業へのコンサルティング、メディア出演、著書の出版なども行っています。  シニア社員の活躍推進の施策としては、50歳の社員を対象とした研修と面談を実施しています。その目的に、シニア社員のモチベーション向上を掲げているわけではありません。面談を行うと、そもそもモチベーションは下がっておらず、多くのシニア社員は「まだまだがんばりたい」と思っているからです。しかし、成果の上げ方がわかっていないので、「どうやって成果を上げていくか」、「どうやって組織に貢献していくか」ということを教えていくというところが、ほかの企業の取組みと少し違うところかもしれません。  1日研修を行い、その1カ月から2カ月後にキャリア面談を行います。最初の1日研修には、社員がキャリアビジョンを描く、行動計画を策定する、といったメニューは入っていません。研修の短い時間のなかで、自分の10年、20年先のことを考えるのはむずかしいので、研修ではキャリアビジョンを描くための考え方や、行動計画の立て方といったことを伝えて、その後の面談までに考えてもらう、といった位置づけで実施しています。  また、キャリア面談では、ビジネスパーソンとして「どうあるべきか」ではなく、人生100年時代といわれる時代を迎え、一人の人間として「人生100年時代の幸せってなんだろう?」と考えたことがない人に、それを考える場を提供する機会であると位置づけています。そういったところが当社の取組みの特徴ではないかと思っています。  こうした取組みの成果として、シニア社員の76%に行動変容が起こっています。その肝となるのが、研修の1〜2カ月後に行っているキャリア面談です。というのも、このキャリア面談は、「変わる」きっかけをつかむまで終わりがありません。時間を決めず、「こういう行動をする」と本人の口からコミットしたときがゴールです。私は、最長10時間半の面談をしたこともあります。  面談のポイントは、一つめは、行動を起こしたことがだれの目からも確認できること。二つめは、「いつまでに」ではなく「いつから」を約束することです。  そしてもう一つ、面談終了後、面談を行った社員の上司に対して手紙を書きます。「○○さんは、キャリアについて、こんなことを考えていました」、「私に『こんな行動をしてみる』とコミットしてくれました」、「○○さんに対して、上司であるあなたは、こういうサポートをしてあげるとより効果が期待できます」といった内容の手紙です。そうすることで、上司も一緒に行動変容させることができるという面談となっています。 多くのシニア社員の行動が変わり40代社員のキャリア自律への意識も変化  このような取組みの効果として、行動変容の10年間の総合の数値ですが、「著しい変化があった」社員が5.6%、「変化があった」社員が69.8%といった行動変容があったということになります。この数値は本人に聞いた回答ではなく、上司に聞いて上司が答えてくれた数値です。  そして、研修や面談を受ける以前から自主的、能動的、積極的にキャリア自律を果たした人の割合が、2014年の1.5%から、2020年には26%まで上がっています。毎年、研修と面談を続けてきたなかで、40代の社員から、「50歳になったら浅井さんの研修と面談を受けるんですよね」という声が聞こえるようになり、いわゆる健康診断的なイベントとしてキャリア教育が定着した成果だと思います。  自律した社員に共通するのは「変わらなきゃ」という思いがあること。そのうえで「これまでも成し遂げられた」という自信が背景にあり、新しいことを始めて失敗したときのデメリットより、成功したときのメリットのほうが大きいと思えることがキャリア自律の方程式です。 リスキリングの事例と社内への影響人事の運用を変えた50代社員の挑戦  最後に、当社におけるリスキリングの事例を紹介します。51歳の女性社員がグローバル事業にたずさわることを望み、当社の海外トレーニープログラムという制度を活用して、成果を上げています。公募制で競争率が高いうえ、海外派遣についてはそれまで44歳ぐらいまでと思われていたのですが、数年前から英語学習に励みつつ、アジアの通信事業について勉強をしていたそうです。その努力を受けて会社としてチャレンジを後押しすることになり、ほかの社員と比べても抜群の成果を上げました。以来、年齢にかかわらずベテラン層の挑戦も後押ししていこうと、会社の文化まで変えた事例です。  また、社員の高齢化が進む小さな支店に勤務していた55歳の社員は、クラウドサービスの高度な商品説明ができる社員が少なかったことから、自分が指導役になることを志願。大阪で3カ月、東京で8カ月間のOJTで学び、その領域における第一人者となって支店に戻り、指導役として活躍し、成果も上がっています。  このように、リスキリング・リカレントにより、50代社員が新しいチャレンジを行い、活躍しています。 【P15-20】 10月27日開催 パネルディスカッション 令和5年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 50歳からのキャリア開発・支援、リスキリング 〜シニアの活躍に向けて コーディネーター 玉川大学 経営学部 国際経営学科 教授 大木(おおき)栄一(えいいち)氏 パネリスト 旭化成株式会社 人事部キャリア開発室長 岡本真治氏 NTTコミュニケーションズ株式会社 ヒューマンリソース部 キャリアコンサルティング・ディレクター 浅井公一氏 企業プロフィール 旭化成株式会社 (東京都千代田区) ◎創業 1922(大正11)年 ◎業種 総合化学メーカー ◎社員数 48,897人 (2023年3月末現在) ◎特徴的なシニア社員向けキャリア施策定年65歳。50歳および55歳の節目にキャリア研修、キャリアコンサルタント面談、上司キャリア面談を実施。自律的なキャリア形成を目ざす。だれもがキャリアの可能性を広げられる学習支援・推進システムには、シニア社員への推奨メニューページも作成。 NTTコミュニケーションズ株式会社 (東京都千代田区) ◎創業 1999(平成11)年 ◎業種 情報・通信業 ◎社員数 9,300人(グループ17,800人) (2023年7月現在) ◎特徴的なシニア社員向けキャリア施策 定年60歳。希望者全員65歳、基準該当者70歳まで再雇用。50歳以上の活躍推進に向けて、キャリアデザイン研修とキャリア面談を実施。研修は自分を客観視して面談に向けた準備を行い、面談は行動を変えるきっかけをつかむまで時間無制限で行う。これらの施策により、多くのシニア社員に行動変容を起こした。社員のキャリア自律率も向上。 キャリア研修やキャリア面談は自分を客観視して次へ進む機会 大木 本日は、シニアの活躍に向けて、50歳からのキャリア開発・支援、リスキリングについて議論をしていきたいと思います。パネリストのお2人には、先ほど発表をしていただきましたが、20分という短い時間でしたので、はじめに補足事項がありましたら、旭化成株式会社の岡本さんからお願いいたします。 岡本 シニア層を対象にした当社の研修について、少し補足をさせてください。自らのキャリアを考え、学び、行動することを重視し、50歳と55歳の節目に、キャリア研修、キャリア面談、上司キャリア面談を実施していることをお話ししました。50歳の研修では、自分の可能性や選択肢を広げていくこと、専門性を深めていくことをキーワードにし、まずは自己理解をしたうえで、自身の強みの部分をときほぐしたりし、未来を描くというオーソドックスな内容です。  一方で、55歳のときには、客観的な自己理解を目的として、先輩社員の事例を共有し、自分がどう感じたかということをグループでディスカッションしていくという内容です。そのなかで、その人なりの反応が出てきたところをとらえて、アクションにつなげてもらう。そういった取組みをしています。 大木 ありがとうございます。続きまして、NTTコミュニケーションズ株式会社の浅井さん、お願いいたします。 浅井 シニア社員へのキャリア面談について、少し加えてお伝えしたいと思います。シニア社員の76%に行動変容を起こした取組みのなかでは、行動を起こすことを約束してもやってくれない人がたくさんいるということを、実際に私たちは想定済みでした。  そういう人もいることから、最初の目標設定をする面談では、目標や行動計画を適当につくってもらうのです。初めて行うことはだれにも難易度がわかりませんから、修正ありきで最初は「エイヤー!」で目標を立てる。1カ月ないし2カ月はそれを試行し、その後に再び面談をして状況を聞き、修正をする。要は、修正ありきの目標計画を立てるのですが、修正には時間をかけています。そうすることで、自分にはどれぐらいの目標が適切なのか、あるいは、こういった目標が自分はわくわくするという感覚がつかめてきます。そういったことをやりながら、76%のシニア社員の変容につながっています。 キャリア支援の仕組みを導入したきっかけと経営トップの関与 大木 それでは私から質問します。はじめに、キャリア研修やその支援の仕組みを導入されたきっかけと、経営トップの関与や経営としての方針について、岡本さんからお聞かせください。 岡本 中期経営計画の見直しがスタートし、その大きな目玉として定年延長を導入したことが一つのきっかけでした。経営トップの意向を反映した取組みとなります。 大木 定年を65歳に延長したのは、どういうねらいや方針からでしょうか。 岡本 定年延長以前の65歳までの再雇用制度が、安定的に運営できていたことが背景にあります。そこから一歩ふみ出し、65歳を定年年齢としました。再雇用制度と違い、60歳以降が1年単位の契約更新ではなくなったことを機に、60歳以降も成長していく層であるととらえ、「この人たちが会社をけん引していく、そういう姿になっていくのが自然だろう」という考え方もありました。 大木 ありがとうございます。続いて浅井さん、お願いいたします。 浅井 2014(平成26)年に私が現在のシニア層への施策をはじめたきっかけは、前年に当時の人事部長から、「ベテラン層のモチベーションが落ちているから活性化したい」というミッションを与えられたことでした。年をとれば能力や行動力が落ちてくることは昔からいわれており、高齢者が増えてくることも以前からわかっていたことです。ですから、わかっていながら、それを放置した人事の罪滅ぼし施策だという位置づけで取組みをはじめました。 大木 ありがとうございます。NTTコミュニケーションズの定年は60歳ですが、キャリア面談や研修を受けているシニア社員から、60歳定年はどのように受けとめられているのでしょうか。 浅井 制度上は60歳定年、65歳まで再雇用となっています。65歳以降は、60〜65歳までの活躍度合の審査があり、活躍した人は66歳以降も継続雇用となります。60歳定年のとらえ方は、60歳以降もバリバリやりたいという人と、処遇が落ちてしまうので働き方も減らしますという人、大きく二つに分かれます。前者のほうが圧倒的多数ではありますが、後者のほうの活用は今後の課題の一つでもあります。 50代社員への研修や面談がほかの年代におよぼす影響とは 大木 続いて、50代社員に研修や面談を行うことによって、例えば、ほかの年代の人たちに、影響をおよぼしていることなどはありますか。 岡本 50歳と55歳の節目研修は、長年行っているのですが、2022(令和4)年から内容をリニューアルしました。ポスト就任者も含めて、自分のキャリアというものを、シニア層の人たちがしっかり考えていくという状態がつくれることについては、おそらく若手、中堅の層には好影響であり、あるいは、好循環をつくっていく大きなポイントになっているだろうとみています。50歳以上のモチベーションアップといいますか、こういう研修において考える姿というのが、全体のキャリア自律を上げていくキーになると考えています。 浅井 若手、中堅の場合、自分がシニアになることすら想像できていない人たちがほとんどですので、自分の手本になるような存在を見つけるとか、影響を受けるといったことは、なかなかむずかしいのかなと思っています。しかし、すばらしいシニア社員がいますから、「ああいう働き方、あるいは思考法を学びたい」といった声はちらほら聞こえてきています。影響は少しずつ出てきているようにも思っているところです。 現場の上司に対する支援とは 大木 キャリア支援には上司の役割が重要である、というお話がありましたが、上司も忙しいと思います。現場の上司に対して、どういう支援が効果的か。あるいは、どんな仕組みがあると上司がシニアとコミュニケーションをとる時間がとれるのか。そのあたりの対応についてお聞かせください。 岡本 やはり、上司支援はとても大切だと考えています。施策として、先ほどお話ししたキャリア研修、キャリアコンサルティングの面談、上司のキャリア面談を1セットにしており、この上司面談を行うにあたり、上司に向けて面談ガイダンスを行っています。部下のことを考えるためのガイダンスですが、ここに臨んでもらうと、上司自身に多くの気づきがあったり、そこから上司が自身のことも考え始めたりするという循環が起こり、上司の安心感とスキルアップ、力量アップにつながっています。そうした変化もあり、シニア支援に上司面談を入れたことは、大きなポイントになったと思っています。 浅井 上司が忙しいというのは、たしかにそうなのですが、部下育成は上司の仕事ですから、キャリア指導もじつは上司の本来業務といえます。当社の取組みでは、上司による指導と私たちキャリアデザイン室が行うものは分けていて、上司はキャリア指導、私たちはキャリアコンサルティングを行います。  例えば会社側が、「ある人を幹部候補にしてその育成をする」となった際、本人が「専門性を磨きたい」という希望を持っていたとしても、幹部になるための指導をする、それがキャリア指導です。しかし私たちは、自分の行きたい道があるなら、「幹部になるのとプロフェッショナルになるのとでは、あなたはどちらが幸せなのか」という話をします。上司の指導が合わなければ、私たちはセカンドオピニオン的な位置づけで、「本人の幸せのためにアドバイスをしていく」という立ち位置で取り組んでいます。  上司向けには、かつてある部署で、社員たちに「どの上司についていきたいか」という総選挙をやってもらいました。そのときに1位になった上司は、例えば、部下に指示をするだけでなく、週1回は現場に出向いて、打合せに加え、半日は現場のオペレーターとしてお客さまの注文を受けるわけです。すると、部下が苦労していることがわかり、どうやって解決したかといった話になる、そしてコミュニケーションがとりやすくなる。部下は、「この人についていきたい」と思うわけです。上司が、キャリア教育やこういう研修を受けなさいといわなくても、あるいはコミュニケーションを充実させるために飲み会をやらなくても、部下が率先して研鑽(けんさん)し、成果を上げてくるわけです。  上司向けに私が伝えていることは、「もし自分が部下の立場だったら、いまの自分についていきたいと思うだろうか、ということを日常的に考えてください」ということと、「もし上司総選挙が行われたら自分は何位になるか、それも考えてください」ということです。そうすると、上司たちがちょっとピリッとしてきます。 社員の自律的な成長やキャリア形成上司面談を支えるシステムについて 大木 ここで、このシンポジウムのライブ配信をご覧になっている視聴者の方から岡本さんへご質問です。発表のなかでお話のあった「CLAP」(12ページ参照)の活用度合について、教えていただけますでしょうか。 岡本 「CLAP」というのは、当社のラーニング・マネジメントシステムで、社員の自律的な成長やキャリア形成を後押しする、学びを支援することを目的としたものです。社外のコンテンツと、各職場、あるいは切り口を用いた社内コンテンツの大きく2本柱で構成しています。2022年12月に立ち上げて、これまでに全従業員の75%から80%がアクセスしており、高めに推移していると認識しています。ざっと見たところですが、シニア社員のアプローチ量は若手に引けを取らず、少し上ぐらいだと把握しています。  「CLAP」のなかに、シニアクラスへの推奨メニューというページをつくり、50歳以上の社員に閲覧を呼びかけています。「キャリアに関しての考え方」や「ITスキル」をテーマに、関連するコンテンツとして「仕事と人生の調整の仕方」、「シニアの学びと成長」などをあげています。IT系については、人によって苦手・得意の幅が大きいので、このシステムで自分に適したものを選んで活用してほしいと思いますし、第2弾、第3弾のリコメンドメニューを出していこうと考えています。 大木 もう一つ、岡本さんに視聴者の方からご質問です。シニア節目施策として、キャリアコンサルティング面談に加えて行われている上司面談では、どのようなことをしているのでしょうか。 岡本 タレントマネジメントシステムを導入しています。社員一人ひとりの履歴書的なことや、どういったキャリア展望を持っているかなどについてシステムに入力してもらい、いろいろな人が見ることができるものです。  キャリア面談で本人の考えを深掘りして、その内容についてもこのシステムに入力して、いま考えていることや、どういう流れのなかで考えが深まっていったのか、そんなことを上司と一緒に見て考えてもらい、上司からも話をしてもらいます。こういうツールを介して展開していくことで、いまはドライブがかかっていると感じています。 キャリア研修の対象年齢の考え方同年齢で立場の異なる対象者への工夫 大木 これも視聴者の方からのご質問です。こちらはお2人にご回答をお願いします。年齢基準でキャリア研修をする場合、同じ年齢で役職などの立場が異なるとむずかしい面があるように思います。役割の違いによるキャリア研修上の工夫は何かされているでしょうか。 浅井 当社の場合、キャリア研修の対象は非管理者としています。従業員満足調査で、管理職はその責任の重さからきていると思うのですが、モチベーションと活躍度合が下がっていないことが把握できていたので、管理職は研修の対象外にしました。  それから、50歳を対象としていることにも理由があります。この施策を始めた2014年は、年金の支給開始時期が60歳から65歳に上がった頃でした。つまり、65歳まで働かなくてはいけなくなったわけです。5年間延びたインパクトがどの年代に大きいのかを調べるため、当時、各年代の社員にヒアリングをしました。すると、年金支給開始年齢は段階的に上がっていくということでしたので、55歳の場合は、働く期間が1年延びただけでそれほどインパクトがなかった一方で、最もインパクトがあったのが50歳前後でした。「退職まであと10年」と思っていたところが15年になり、ガクンと気持ちが落ちたという調査結果でした。そこで、50歳を対象にしようと決めたのです。ほかの研修についても、だれを対象とすべきか、マーケティング調査をしてから設計していくと効率的にできると思います。 岡本 年齢基準の検討は、非常にむずかしいと思います。当社のキャリア研修で50歳と55歳を対象としているのは、60歳に向けて5年刻みで考える機会をつくりましょう、という発想からです。役職の立場の違いというところでは、少し工夫が必要と考えています。  当社のキャリア研修は組合員層ではなく、経営管理職という管理職層に対して施策を打っていますが、経営管理職には一般の担当職務の担当課長と、ポストに就いている課長、部長、事業部長といて、50歳のときの研修は統一して実施し、55歳の研修は課長ポスト以下と部長以上を分けて実施しています。  55歳の研修を二つに分けているのは、いわゆるポストオフがその後の大きな節目としてやってくることに対し、60歳以上の自分の姿がどう見えているのか、そのあたりの違いから、アプローチを少し変えていく必要があるだろうと考えてのことです。 50代のキャリア支援導入時のポイントとは 大木 本日は、50代のキャリア研修やキャリア支援についてお聞きしていますが、これから施策を導入しようと考えている企業の方々へ、個人的な意見でも構いませんので、アドバイスをお願いします。 岡本 キャリア研修をしたら、何かがバラ色に変わるということはなく、やはりキャリアというのは考え続けていくことであり、社員自らがいろいろな刺激を受けながら展開していくということ、これらのことが重要だと思っています。その仕掛けをどうつくっていくか、という観点が大切なのだと思います。そう考えると、50歳、55歳という年齢がポイントなのではなく、むしろ考え続ける、そのことに対してプッシュとドライブをかけていく施策を継続していくことが大事だと思っています。 浅井 私は「浅井塾」という塾を開いていて、そのなかでよく話していることから三つほどお話ししたいと思います。  一つめは、現状を把握することです。いま自分の会社で、どこに病巣があるのかといったことなどを把握する。施策を始める前に、ヒアリングをたくさんしていくということです。  二つめは、施策をはじめていく順番です。例えば、私のところによく、「行動変容を起こすための面談テクニックを教えてください」といった相談や講演の依頼があるのですが、まずは、幹部にこういうことをやります、という鈴をつけ、そしてリソースも想定し整えたうえで、テクニックを聞きに来る、その順番をきちんとすることが重要です。  三つめは、施策を展開するのは人事ですから、人事こそがキャリア自律していなければなりません。じつは私は、昨年2カ月間の休暇を取り、自分でリスキルをしました。「リスキリングをしなさい」という立場ですから、自分がやっていなければ説得力がありませんから。人事がまず手本を示さないといけない、ということをお伝えしておきたいと思います。 大木 岡本さん、浅井さん、ありがとうございます。最後に、簡単なまとめをして終わりにしたいと思います。  本日はお2人から重要なお話をうかがいました。年齢を重ねると、プライベートの部分は個々人でかなり違ってきますし、本人が将来どのように働きたいかということも異なってきます。それをまず、会社がきちんと把握し、会社はその人に何を期待していくのかを伝える機会が必要であること。ミスマッチを起こしているようであれば、調整していくこと。キャリア研修や面談をすることにより、組織と個人がお互いハッピーになるように自律を進めていくことがとても大切であることが、本日のお話をうかがって痛感したことです。ありがとうございました。 写真のキャプション 玉川大学経営学部国際経営学科教授 大木栄一氏 旭化成株式会社人事部キャリア開発室長 岡本真治氏 NTTコミュニケーションズ株式会社ヒューマンリソース部キャリアコンサルティング・ディレクター 浅井公一氏 【P21-24】 11月1日開催 基調講演 令和5年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「エイジレスな人材活用のための評価・賃金制度」 「エイジレスな人材活用のための評価・賃金制度」 学習院大学名誉教授 今野(いまの)浩一郎(こういちろう) 「評価・賃金」はシニア社員を戦力化するための道具  本日は、シニア社員の「評価・賃金」の基本的な視点や考え方についてお話しいたします。各企業では、それぞれ個性的な対応をされていますから、それらの事例を理解するうえでも、この基本的な視点や考え方が重要となりますし、自社ならではの対応を考えるときにも出発点になると思います。  シニア社員の人事管理に取り組むにあたって、まず頭に置いていただきたいのは、「60歳以上の社員は、全体の約5人に1人」だということです。これは日本企業の平均像を表した数字ですが、こんなに大きな集団になっているわけですから、シニア社員を戦力化できないと、経営上、企業は深刻な状態に陥るということになります。シニア社員が活躍するか、しないか、この違いはものすごく重要で大きな問題であると理解して取組みを進めていただきたいと思います。  したがって、企業にまず求められることは、シニア社員を戦力化する「覚悟」です。もはや、「どうしよう」なんていっている場合ではありません。  この「覚悟」は、働くシニア社員にも求められるものです。社員の5人に1人がシニア社員になっていますから、「60歳になったから、のんびり働こうか」なんていっていると、会社はたいへんな状況になってしまいます。シニア社員にも、戦力として働く覚悟が必要です。  本日のテーマである「評価・賃金」は、シニア社員を戦力化するための道具といえるものです。この道具が機能するかしないか、最初の「覚悟」にかかっているともいえるでしょう。 シニア社員の「評価・賃金」を考える際の視点  制度上の具体的な対応を考える前に、「評価・賃金」を考える際の基本的な視点についてお話しします。  一つめの視点は、あるべき「評価・賃金」は、「評価・賃金」を見ても決まらない、わからない、ということです。「評価・賃金」というのは、社員を戦力化するための道具ですから、会社が社員に何を求めるのか、どう働いてほしいのかという、いわゆる人材戦略が決まらなければ、「評価・賃金」は決まらない、ということです。「『評価・賃金』をどうにかしなくてはいけない」と考え、そのための施策ややり方をいじってみても、そこに答えはないのです。  しかも重要なことは、人材戦略は企業によって異なるということです。つまり、唯一最善の普遍的な「評価・賃金」というものはないと考えてください。このことが第一の視点になります。  第二の視点は、シニア社員ならではの特別な「評価・賃金」は存在しないということです。シニア社員の「評価と賃金」がもし存在するならば、それは、シニア社員がシニアであるからではなく、会社がシニア社員をあるタイプの社員として活用する人材戦略をとっているからなのです。  つまり、シニア社員の社員タイプを確認することが、シニア社員の「評価・賃金」を考える出発点になるということです。  第三の視点は、シニア社員の「評価・賃金」を考えるときには、シニア社員は「社員の一部」であることをつねに頭に置いておく、ということです。いい換えると、シニア社員の「評価・賃金」は、シニア社員のみをみて構築しない、ということになります。もし、シニア社員だけをみて「評価・賃金」を構築すると、人事管理全体の体系性が崩れ、ほかの社員との均衡がとれない人事管理と「評価・賃金」ができあがってしまいます。  シニア社員は社員の一部ですから、シニア社員の「評価・賃金」は全体感を持ちながらつくっていく。この視点をつねに持って臨んでほしいと思います。  以上の3点が、シニア社員の「評価・賃金」の具体的な制度や施策を考えるうえでの基本的な視点であると考えています。 シニア社員に何をしてもらうのかをきちんと考える  シニア社員の「評価・賃金」を考えるためには、シニア社員をどう活用するのかを決めることが起点となります。ここからは、シニア社員の活用の仕方に焦点をあてて話をしていきます。  シニア社員に働いてもらうということは、基本的なことですが、シニア社員を「雇用」することです。ここであらためて、雇用の意味を確認しておきたいと思います。  「雇用」とは、企業にとっては、働いてもらい、あるいは会社に貢献してもらい、お金を払うこと。労働者にとっては、働いて、あるいは会社に貢献して、稼ぐことです。  したがって雇用の内容は、会社の都合(業務上の必要性)と、労働者の働くニーズのすり合わせで決まります。このときに重要なのは、シニア社員がシニアになったときに「私はこういう仕事をしたい」といっても、それだけでは仕事の内容は決まらない、ということです。  現在の高齢者雇用の仕組みは、60歳定年プラス再雇用が一般的ということを前提に考えると、60歳定年で雇用契約は一度切れて、その後もう一度、雇用契約を再締結し、60歳以降は再雇用になる、ということになります。  つまり、定年を契機にした雇用契約の再締結です。雇用契約をもう一度結ぶことは、採用の一形態になりますので、再雇用はいわば「社内中途採用」ということなのです。  中途採用であるとすると、採用する際に、会社は応募してきた人から「何を買うのか」を考えます。一方で、応募した人は、会社に対して「何を売るのか」、あるいは会社に「どう貢献するか」ということをアピールします。  シニア社員の場合も同様です。企業は、「シニア社員から何を買うのか」。シニア社員は、「会社に何を売るのか」、あるいは、「会社にどう貢献するのか」。このことをお互いに考え、明確化して、活用の仕方が決まっていく、ということになります。  再雇用だけでなく、定年延長の場合にも同様のことがいえます。例えば60歳でも55歳でもよいのですが、多くの会社では、ある年齢で「役割転換」あるいは「キャリア転換」が行われます。会社はシニア社員に何を期待するのか(社員から何を買うのか)、シニア社員は会社にどう貢献して何を売るのかを、もう一度考え直して役割転換やキャリア転換を行うのです。つまり、再雇用にしても定年延長にしても、同じようなことが起こるとお考えください。  そうなると、企業にとっては、働いて稼いでほしい、貢献してもらいたいわけですから、業務上の人材ニーズを明確にして、それを満たす人材をシニア社員から確保し配置するという「需要サイド型(必要なので配置する)」の施策をとることが基本になります。  「需要サイド型」に対し、「供給サイド型」の施策もあります。「供給サイド型」は、シニア社員がいるから仕事をつくる。つまり、労働サービスを提供する供給側に合わせるということですが、これは「置いてやる雇用」につながってしまいます。  重要なのは、企業は、シニア社員に何をしてもらうのかをきちんと考えることです。これが、「評価・賃金」を考える出発点であると考えてください。  もう一つ確認しておきたいのは、先ほど「評価・賃金」を考える際の視点としてあげたように、「シニアだからこういう人事管理をしよう」、「シニアだからこういう『評価・賃金』にしよう」ということはないのです。「シニア社員は、人材戦略上こういうタイプの社員なので、こういう人事管理や『評価・賃金』がある」という考え方が重要となります。 シニア社員の社員タイプを確認する「短期雇用型」、「制約社員」  では、シニア社員はどういう社員タイプなのでしょうか。もちろん企業によって事情は多様ですから、平均的なケースでお話ししたいと思います。  一つは、シニア社員は「短期雇用型」人材という特性があります。一般的に、現役社員は、長期雇用前提の「長期的な観点に立って育て活用して払う」という投資対象の長期雇用型の人材です。一方でシニア社員は、60歳定年以降の5年間の再雇用という制度が典型的であるように、短期雇用前提の「いまの能力をいま活用して、いま払う」という短期雇用型の人材です。  もう一つの特性として、シニア社員になると、例えば、転勤や出張はしない、無理な残業や、休日出勤はしないなどのケースが多くなります。つまり60歳前に比べると、働く時間、働く場所が制約的になり、「無制約社員」(現役社員)から、「制約社員」(シニア社員)へ転換していく。シニア社員は、働き方が「制約的」であることも特性としてあげられます。  これらの特性をふまえて、「評価・賃金」を考えていきます。 合理的なシニア社員の賃金とは制約社員化に対応する調整などが必要  シニア社員は「短期雇用型」人材ですが、論理的に考えると、短期雇用型人材のシニア社員は、仕事ベース型の賃金が合理的です。ということは、定年以降に仕事が変われば賃金は変わる、ということになります。これを「仕事原則」と呼ぶことにします。  もう一つの特性である「制約社員」になったことへの対応は、制約化した分だけ企業にとっては業務ニーズにあわせて機動的に活用できる程度が落ちますので、その分の賃金は下げるのが合理的です。つまり「求められる制約社員化に対応する賃金調整」(制約配慮原則)が必要となります。  ちなみに、その制約化に対応して賃金が下がった部分を、私は「リスクプレミアム手当」と勝手に名称をつけています。じつはこの手当は、シニア社員に対するだけの考え方ではなく、会社のなかのほかの制約社員にも適用できる考え方であるといえます。  例えば、総合職と一般職でいうと、総合職は無制約で一般職は制約ありですから、同じ仕事をしていても賃金差があってよいのです。それは制約度が違うからということになります。  また、賃金を考えるときに、もう一つ重要な視点があります。これは60歳まで、あるいは定年まで、どういう賃金制度であったかということです。もし、いわゆる年功賃金をとっている場合、年功賃金の特性として、定年時の賃金は、仕事に基づくパフォーマンスより高めになっています(賃金>貢献度)。すると、シニア社員になったときに、この高めの賃金部分をなくし、賃金とパフォーマンスをあわせるという調整が必要になってきます。  ただ、この高めの賃金部分の存在は多くの人が納得するのですが、実際にどれくらいの調整を行えばよいのか、だれも知らないのです。そのため、この調整を行うことは、非常にむずかしいのですが、こういう視点のあることを忘れずにいてほしいと思います。  まとめると、考えられる合理的なシニア社員の賃金は、仕事原則と制度配慮原則に基づく「社員タイプに合わせた賃金制度の構築」と、「年功賃金の特性に合わせた調整」の留意点をふまえた賃金モデルということになると思います。  これらの視点を持っていれば、「同一労働同一賃金」にも対応できると思います。 定年延長と再雇用、何が違うのか定年延長を行うときに留意したいこと  最後に、定年延長と再雇用の関係について、お話ししたいと思います。  シニア社員の人事制度については、定年延長(定年制をなくす場合も含む)にするか、再雇用制度にするかによって基本となる骨格が決まります。では、定年延長と再雇用では何が違うのか。この点について、どのように考えたらよいのでしょうか。  まず、理解してほしいのは、多くの企業はいま、60歳定年プラス再雇用という制度を導入しているということです。しかし、高年齢者雇用安定法のもとでは、希望者全員が65歳まで働くことができます。このことから「60歳定年時代」はすでに終焉しており、現在は「実質65歳定年時代」にある、という感覚を持っていただきたいと思います。  定年制というのは、年齢を理由にした「雇用契約の終了機能」が基本的な機能ですが、その機能は喪失したと考えるべきでしょう。では、いまの定年制の機能は何かというと、定年をきっかけにして、「キャリア・役割の転換を促進する」が主要機能になっていると考えられます。  そうなると、定年延長と再雇用とでは、何が違うのでしょうか。定年延長、再雇用にかかわらず、シニア社員を戦力化しなくてはいけないのは同じです。また、いずれにしても、「キャリア・役割転換」が求められます。そういう意味では、定年延長も再雇用も違いはない、と考えたほうがよいと思います。  しかしそれでも、定年延長にふみ出す場合は、定年延長で何をねらうのかを明確にして制度設計にあたっていただきたいと思います。先ほどいったように、60歳定年がキャリア・役割転換を促進する装置になっているので、定年延長を行う場合は、それに代わる強力な転換装置を用意する必要があると思います。  以上、私からは、シニア社員の「評価・賃金」を構築するうえでの基本的な視点、考え方についてお話ししました。具体的な制度や施策については、このあと各企業のみなさまから発表していただきます。 【P25-26】 11月1日開催 発表@ 令和5年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「エイジレスな人材活用のための評価・賃金制度」 70歳定年制度について 株式会社NJS 管理本部人事総務部長 小林(こばやし)崇(たかし) 上下水道施設の設計に特化し水と環境のコンサルティング事業を展開  株式会社NJSは、1951(昭和26)年に日本上下水道設計株式会社という名称で設立されました。その名の通り、上下水道施設の設計を主とする会社で、水と環境のコンサルティング事業を展開しています。  具体的には、公共事業のインフラ整備の仕事がほとんどで、官公庁から発注を受けて、当社で調査や設計などを行い、報告書や図面にして提出し、それを基にして官公庁が建設工事や維持管理を発注する、という流れのなかの仕事です。  上下水道の設計を行うには、技術士という国家資格をはじめさまざまな資格が必要です。公共事業の設計、調査などが委託される際には、管理技術および照査技術などの資格が必須で、この資格者数が多いほど、企業として高い競争力を有しているということができます。 70歳定年制の導入と同時に等級制度なども刷新  当社では、2019(令和元)年度に人事制度を大幅に改定するなかで、それまでの60歳定年、65歳までの再雇用制度を改定し、70歳定年制を導入しました。  改革のコンセプトとして、「働き方改革による70歳定年の実現」、「創造性と生産性の向上」、「人材育成の基盤強化」の3本柱を掲げ、現役世代も含めた「等級制度」、「報酬制度」、「定年制度」、「評価制度」を刷新しました。  定年制度については、シニア層の活躍機会の拡充をはじめ、組織の新陳代謝や就労ニーズの多様化などにも配慮しつつ、60歳超の処遇制度を整えることに取り組んで、正社員の70歳定年制度を実現しました。  等級制度は、期待される役割に対して4職群があり、総合職にあたるマネジメント、エキスパート、プロフェッショナルと、一般職にあたるアソシエイトがあります。60歳に到達して以降は、シニア等級に移行します。  シニア等級制度では、60歳到達時の年度末に全員の役職を解き、本人の意欲・能力などをふまえて会社が再格づけを行ったうえで、シニア等級に移行します。  65歳以降は、年金を受給しながら働く人がいることや、健康面・体力面で個人差がかなり大きくなることなどを考慮し、65歳到達時に会社と社員が面談を行って仕事内容を見直し、再々格づけを行います。原則として、1等級ダウンのうえ、勤務負荷を軽減することを標準運用ルールとしています。  当社の年齢構成(2022年6月現在)は、正社員における60歳以上の割合は7.6%ですが、契約社員における60歳以上の割合は42.1%とかなり高くなっています。70歳定年制度導入前から、60歳以上の契約社員は多数在籍しており、貴重な戦力になっていたということができます。  また、26.3%を占める50代社員が今後徐々にシニア職へ移行し、70歳定年後も運用により、引き続き契約社員として働くことが想定されます。 シニア職の仕事の実際とやりがい  処遇については、退職金の積み立ては60歳までとし、延長はしませんでした。60歳到達後は、金額を確定して退職金の新たな積み増しは行いません。移行期を考慮し、既存社員には60歳到達時の年度末に退職金を支給し、2019年度以降の入社者から70歳定年時に支給することとしました。  シニア社員には、賞与は支給しないことを原則としました。ただし、60歳以前と同じ評価制度を継続し、評価によって給料が変動します。また、先ほど触れましたが、65歳以降は原則として1等級ダウンするルールを設けました。  シニア職の社員が実際にどのような仕事をしているかというと、60歳以前と変わりなくプロジェクトリーダー(管理技術者)として引き続き活躍している人が比較的多くなっています。ほかには、品質監理の設計レビューという、長年つちかった知識やスキル、経験を活かして設計に間違いや不具合がないかをレビューすることで、契約不適合を防止する仕事などがあり、後輩の指導や技術伝承も担当してもらっています。  後進が育つまで、管理職を継続しているシニア職もいます。71歳で土木を専門とするKさんは、設計における不具合発生防止のためのレビューを行う品質管理業務に就いています。ISOマネジメントシステムなどの運用に関して、後任を育成する業務を担当しており、プロジェクト業務の成果品を加工して、成功事例として全社に公開するような業務もになっています。  仕事のやりがいについてKさんは、「業務内容に在社47年の経験が活かせていること。若手社員を下支えする業務に就いていること」と話しているほか、働きやすさを感じる会社の取組みとして在宅勤務・テレワークができることをあげています。 制度導入後もつねに改善の視点と取組みが必要  2019年度に制度を改定して4年が経ちますが、いくつか課題が出てきています。  一つは、フルタイム勤務以外の働き方の必要性です。健康問題、意欲の低下などフルタイム勤務がむずかしい人のための、例えば、週休3日制などのフレキシブルな制度の導入も検討が必要そうです。ほかにも、ジョブ型人事制度のシニア社員への先行導入、賃金水準全体の見直し、健康経営R(★)の取組み強化などについて考えていきたいと思っています。  最後に、シニア人材活用についてのまとめです。当社は技術系コンサルタントの社員の割合が高いため、思い切った定年延長が可能でしたが、業種や職種によって対応は異なると思いますので、各社に応じた活用方法を考えることが重要だと思っています。  また、高齢者雇用に関する取組みは人事部門だけで実現できることではない、ということも感じています。当社の場合、経営トップの固い決意が後押しになりました。  そして、社会情勢の変化などさまざまなこともふまえ、制度導入後も必要に応じて絶え間ない改善が必要だろうと考えています。 ★「健康経営○R」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。 【P27-28】 11月1日開催 発表A 令和5年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「エイジレスな人材活用のための評価・賃金制度」 シニア層への取り組みについて TIS株式会社人事本部人事部人材戦略部セクションチーフ 森田(もりた)喜子(よしこ) 意欲あるシニアが引き続き活躍できる環境整備を目ざして  TIS株式会社は、1971(昭和46)年に設立した総合ITサービス企業です。TISインテックグループの一社として、当社ではシステム開発をになっており、さまざまな社会課題の解決に向けてITサービスを提供しています。創業から50年以上が経過し、IT業界では比較的歴史が長いのですが、企業としてはそれほど長くなく、創業時の社員が定年を迎えつつあるという状況で、60歳以上の社員は全体の約4%とまだ割合としては少ない状況です。  シニア層の活躍推進施策について、まずは制度変更前に抱えていた課題から説明いたします。以前の制度は60歳定年で、55歳より職責および処遇を逓減(ていげん)する専任職制度を実施しており、働いても働かなくても処遇が低減していくため、モチベーションの低下が発生していました。  また、定年後は65歳までの再雇用制度を導入していました。処遇は一律とし、処遇に合わせた職域を創出する形で雇用を継続し、賞与はなく、低い給与での雇用を原則とし、多くは定年前の業務、または同じ部署で役割や職責を大きく低減した業務に従事し、やはりモチベーションの低下が発生していました。ハイパフォーマー向けの再雇用制度として、原則として定年前の職務を継続する再雇用も実施していましたが、報酬は減額する制度となっており、法的なリスクがあることを認識していました。  このような制度であった一方で、少子高齢化が進む日本ではIT人材が不足しており、人材確保は企業の成長のためにも不可欠と考えて、意欲やパフォーマンスが高いシニア層が引き続き活躍できる環境整備を目ざし、定年および再雇用制度の変更に取り組みました。  具体的には、専任職制度は廃止し、定年を65歳に延長するとともに、再雇用の年齢上限を70歳までとし原則として定年前の職務を継続し、処遇は同一労働同一賃金の考え方を考慮した制度としました。この変更については、年齢により職務・職責を制限するのではなく、実力主義のもと、パフォーマンスに応じて適正に処遇をする制度にしたいという思いがあります。  また、等級制度についても、再雇用時の等級は設定せず、定年前と同じ等級、職種とし、定年前と同じ評価制度を適用して処遇に反映することとし、再雇用や年齢のみを理由とした減額は発生しない仕組みです。  施策の検討にあたり、経営層からは「シニア層をコストではなく戦力としてとらえてほしい」との意向があり、シニア層の制度見直しは、利益を創出するための投資であり、こちらの制度の変更については経営層からの反対は特にありませんでした。  なお、当社では、社員一人ひとりが自らのキャリアを意識し、自己実現を目ざして働き続けるためのキャリアデザインの機会を提供し、支援を行っています。年代別にキャリア教育を実施しており、また社外へのキャリア形成として、48歳から62歳を対象としたセカンドキャリア支援制度も導入しています。 定年延長などの制度変更は徐々にていねいに実施  現在の制度は、65歳定年および70歳までの再雇用ですが、制度変更は徐々に実施しました。大きな変更のため、説明やていねいな移行対応をする必要があると考えたためです。  2018(平成30)年度までは、60歳定年、65歳までの再雇用としていました。2019(令和元)年度に定年年齢を65歳に延長し、社員のライフプランを考慮して、60歳、63歳での定年退職も可能とする選択定年制を導入しました。また同じタイミングで、55歳以降の職責を低減する専任職制度を廃止しました。  そして、次世代育成の観点から、マネジメント職定年を60歳と設定しています。マネジメント職定年後は、同等の等級および処遇のスペシャリスト職への変更となり、報酬の減額は発生しません。  定年延長を実施した翌年の2020年度に、70歳までの再雇用制度を導入しました。再雇用は1年ごとの有期雇用とし、最大70歳到達年度の年度末まで締結をします。雇用契約更新については、組織推薦や評価基準などにおいて一定条件を満たす場合に実施しています。処遇および勤務形態については、すべて正社員と同様としています。正社員と比較した場合に異なるのは、有期雇用であるという雇用形態のみという内容です。 評価・賃金制度は、年齢にかかわらず全社員に同じ基準を適用  最後に、当社の評価制度、賃金制度についてご説明します。  評価制度は、半期ごとに目標に対する達成度を評価する「個人業績評価」と、企業理念の実現に向けた行動を評価する「OPコンピテンシー評価」の2種類を実施し、評価結果を賞与、昇降格・昇降給に反映しています。  賃金制度は、等級ごとに報酬レンジを設定し、報酬レンジの範囲内で評価によって昇給または降給する範囲級方式を採用しています。各等級の報酬レンジは四つのゾーンに分かれており、ゾーンごとに異なる昇給率を設定しています。高いゾーンほど昇給率が厳しく設定されており、評価が低い場合は降給となる可能性もあります。評価に応じた昇降給を実施することで、パフォーマンスに応じた処遇となっています。  評価制度、賃金制度ともに、シニア層を含めて、全社員が同じ基準を適用していることが、当社の制度のポイントになっていると思います。  旧制度については、「高齢だから若い人と同様に働くのは厳しいのではないか」という配慮から、職責や処遇を低減していましたが、チャレンジしようとする人のやる気を削いで、チャレンジしなくても大きな処遇減にはならないという安心感からか、かえって不活性な状態となってしまっていたことが大きな課題でした。  高齢期における気力や体力は個人差が大きく、パフォーマンスに応じた適正な処遇、評価とすることで、本人のモチベーションはもちろん、周囲の納得感も得られやすいと感じており、高齢社員の増加がさらに予想をされているなかでは、実力に応じた処遇にしていくことが重要なのではないかと考えています。 【P29-30】 11月1日開催 発表B 令和5年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 「エイジレスな人材活用のための評価・賃金制度」 65歳定年制度の導入と今後の更なるシニア層の活躍に向けて 〜安心して働き続けられる環境の整備〜 日本ガイシ株式会社人材統括部人事部長 杉浦(すぎうら)由佳(ゆか) 定年と賃金を大幅に改定し65歳まで変わらぬ働きを実現  日本ガイシ株式会社は、1919(大正8)年の設立で、従業員数は約5000人です。祖業であるガイシ事業を継続しているほか、現在は自動車関係のエンバイロメント事業※が売上の半分以上を占めている状況です。  当社は、2017(平成29)年4月に65歳定年制を導入しました。本日は、65歳定年制と、現在の65歳超の再雇用制度についてお話ししたいと思います。  制度の変遷をたどると、1990年代初めに、現在の根幹となる旧人事制度がスタートしました。以降、再雇用制度の導入などを挟み、大きな制度改定を2017年に実施しました。  2017年の制度改定は、従来の年功的な処遇を見直すと同時に、年金支給年齢の繰下げや介護負担の増大などに直面する高齢者層が、安心して変わらぬ働きを実現できるようにと考え、実施したものです。以前の再雇用制度は、60歳以降、賃金が大幅に減額されていたため、それを見直すとともに、各人の成果に応じた処遇へ見直しを行い、業績評価を中心とした賞与査定、その得点を使った昇給制度も整備しました。また、働き続けられるように、各々の家庭事情や体調に応じて働ける環境、支援の提供も行う内容で、65歳定年制を導入しました。 評価・賃金制度は年齢にかかわらず全社員が同じ制度を適用  ここで、当社の資格制度についてご説明します。当社では、組合員を「一般職」、管理職を「基幹職」と呼んでいます。入社時はJ群で、そこから転換試験を経て、現場を支えるM群、さらに転換してS群という、管理職候補や高度なスペシャリストと位置づけている資格があります。そこから基幹職に登用となり、基幹職は4級から始まって1級まであります。58歳になると、役職定年でそこからは専任職1〜4級になり、60歳になると、専任職となるという資格制度です(図表)。一般職の65歳定年制は、60歳到達時点の給与水準を維持し、勤務形態はフルタイムで、60歳以降も原則として同一職場で働く、という内容です。評価・賃金制度は、60歳以降も変わらず、全社員が同じ制度で、業績評価を年2回行い、その結果が賞与の査定になります。加えて、昇格を判断するような役割評価を年1回実施しています。  賃金カーブは、従来は右肩上がりで進んで、60歳になるとガタっと落ちるというカーブでしたが、思い切って見直しを行い、若いときから高評価の人たちは高くなり、評価の低い人はそれなり、60歳以降も下がらないような制度を実現しました。これらの制度変更により、目標に掲げた65歳まで安心して変わらぬ働きができる環境を実現しました。  また、当社には充実した年金制度があり、定年延長に対応して、65歳まで年金も退職金も積み上げて、それを65歳から支給することに変更しています。  なお、賃金が変わらないことを実現したのは一般職のみで、基幹職には役職定年を維持し、58歳から専任職に変わり、そこで評価に応じた年収改定をしています。ただし、従来は一律8割の年収改定でしたが、直近4回の業績評価、賞与査定の点数に応じて、改定率を見直し、非常に成績の良い者であれば減額改定なしの100%といった、成績に応じた年収改定を実施しています。  60歳時点においても、年収改定は実施しますが、60歳時点における役割に応じて7段階の設定としています。 65歳超の再雇用、制度化を見すえてトライアルとして開始  65歳定年を早くに実施した当社ですが、70歳定年にはまだ舵は切っていません。65歳以降については、一般職・基幹職にかかわらず、会社が必要な人材を選び、選ばれた人材が働き方を選べるような再雇用制度を目ざして、まだ制度化はしていないのですが、2022年からトライアルとして実施しています。  具体的には、65歳到達者が出るなか、引き続き雇用したいという部門のニーズがあり、採用したい者の仕事の価値をカテゴリー別で分けて、そのカテゴリーと働き方に応じた報酬を設定し、部門が本人に確認して了承した場合、働き方も含めて本人が選択できる、という仕組みです。現在は、制度化を見すえたトライアル、という形で実施しています。  最後に、両立支援制度についてお話しいたします。65歳定年制の導入により、家族の介護や自身の疾病などの事情を抱える社員が、60歳定年制のときよりも増える可能性を考慮して、両立支援制度の充実を図っています。  両立支援制度は、育児、介護、疾病治療の3本柱で取り組んでいますが、本日は介護、疾病治療についてご説明します。父母・配偶者の介護認定時に介護支援一時金を支給し、介護休職の場合には毎月一定額を支給するといった制度を整備しているほか、働き方については、短時間勤務や週3日勤務などを用意しています。また、疾病治療についても同様に、短時間や週3日勤務、治療をしながらの勤務を支援する制度を導入しています。  ただ、当社は製造業ですので、実際にこういう働き方で現場を成り立たせることは非常にむずかしいところで、ケース・バイ・ケースで対応できるところには対応する、というような形で進めています。 ※ エンバイロメント事業……自動車排ガス浄化用触媒担体や、排ガスの窒素酸化物(NOx)濃度を測定するNOxセンサーなど、環境保全や省エネルギーを実現する製品を主軸とした事業 図表 日本ガイシの資格制度 〈J群:一人前を目指し、一人前として活躍する人材〉 J1 J2 スタッフ 技能 事務 (転換) 〈M群:実務・現場を牽引する人材〉 M1 M2 M3 スタッフ/技能/事務 (転換) (転換) スタッフ・係長 〈S群:基幹職候補人材/高度なスペシャリスト人材〉 S1 S2 登用 基幹職 理事 基幹職1級 基幹職2級 基幹職3級 基幹職4級 (58歳到達)役職定年 専任職1級 専任職2級 専任職3級 専任職4級 (満60歳到達) 理事 (満63歳到達) 理事常勤 専任職 出典:日本ガイシ株式会社 【P31-36】 11月1日開催 パネルディスカッション 令和5年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム エイジレスな人材活用のための評価・賃金制度 コーディネーター 学習院大学名誉教授 今野浩一郎氏 パネリスト 株式会社NJS管理本部 人事総務部長 小林崇氏 TIS株式会社 人事本部人事部 人材戦略部 セクションチーフ 森田喜子氏 日本ガイシ株式会社 人材統括部 人事部長 杉浦由佳氏 企業プロフィール 株式会社NJS (東京都港区) ◎創業 1951(昭和26)年 ◎業種 建設コンサルタント業 ◎社員数 580人(グループ1,137人) (2022年12月末現在) ◎特徴的な高齢者雇用の取組み 2019年に70歳定年制を導入。運用により、一定の条件を満たした場合、70歳以降も契約社員として再雇用。現役世代も含めたキャリアパス・等級の見直しを行ったうえ、シニア等級を設定。シニア社員も、60歳以前と同じ評価制度を継続し評価によって給料が変動。 TIS株式会社 (東京都新宿区) ◎創業 1971(昭和46)年 ◎業種 情報通信業 ◎社員数 (連結)21,946人(単体)5,695人 (2023年3月末現在) ◎特徴的な高齢者雇用の取組み 2019年に定年を65歳に延長し、2020年に70歳までの再雇用制度を導入。全社員に対し、パフォーマンスに応じた処遇を行う方針のもと、年齢にかかわらず同じ等級別定義に基づき評価および処遇を行う。65歳以降の再雇用後も同じ基準で評価および処遇する制度。 日本ガイシ株式会社 (愛知県名古屋市) ◎創業 1919(大正8)年 ◎業種 製造業、窯業 ◎社員数 (連結)20,077人 (2023年3月末現在) ◎特徴的な高齢者雇用の取組み 2017年に65歳定年制を導入。年金制度改定と賃金カーブを変更し、65歳まで60歳到達時点と同等の給与水準を維持する。組合員は、全社員に同じ評価・賃金制度を適用し、賞与、昇格に反映する。65歳超再雇用制度制定を目ざし、2022年よりトライアルとして開始した。 シニア社員の活躍を期待する一方で役職定年制があることに課題も 今野 本日のテーマである「評価と賃金」を決めるときには、まずシニア社員にどういう役割を果たしてもらうのかが前提になると思います。この役割設定について、どういう取組みをしていて、どのような課題を抱えているのか。シニア社員に期待する人材像も含めてお聞きしたいと思います。株式会社NJSの小林さんからお願いします。 小林 建設コンサルタントという仕事柄、60歳を過ぎたからといって資格が陳腐化するわけではなく、スキルや経験がなくなるわけでもありません。したがって、基本的には同じ仕事で可能なかぎり貢献をしてもらいたい、というのが当社の基本コンセプトです。ただ、60歳到達時に役職を解き、再格づけを行うのですが、実際には後進が育つのを待つということで役職を継続している場合もあり、その点が課題だと思っています。 今野 ありがとうございます。続いてTIS株式会社の森田さん、お願いします。 森田 当社も、シニアだからといって役割を変更するという制度ではありません。シニア社員は、過去のノウハウや社内の人脈、経験が豊富ですので、それらを活かし、後進の育成も含めた活躍が期待されています。役職定年については、当社もやはり人材の育成面を課題として認識しています。 今野 ありがとうございます。日本ガイシ株式会社の杉浦さん、いかがでしょうか。 杉浦 当社の場合は、定年を65歳に延長したのですが、60歳定年制のときからあった、58歳の役職定年の制度は継続しました。そのため「役職定年から65歳までの7年間をどうするのか」という状況は問題として存在しています。ただ、実際に役職定年となった方々は非常に協力的で、若い部長を支援する役割をになったり、それぞれの経験やノウハウを活かして業務に就いていたりと、役職から降りて、悩みながらも新たな役割で勤務を続けています。 今野 ありがとうございます。 年齢にかかわらず評価・処遇する制度に対し「もう年だから」と降格を望むシニアも存在 今野 60歳以降も変わらずに活躍してもらいたいと会社が期待しても、「もう年だから」、「そんなたいへんな仕事はもうしたくないよ」というシニア社員もいると思います。そのあたりについてはどのようにお考えでしょうか。森田さんからお聞かせください。 森田 当社の制度は、パフォーマンスに応じて評価と処遇を行っていく形ですので、働くのがむずかしいという場合、評価に反映して、場合によっては等級を変更することで対応していくことになります。 今野 すると例えば、「61歳になって昔のように体力がないので、ランクの低い仕事をやらせてほしい」といってランクの低い仕事に就くと、それに見あった給料に調整するということですか。 森田 その通りです。家族の介護などの事情や本人の体調面のことも含めて、そういった変更をする場合もありますが、ケースとしてはかなり少ないですね。 今野 実態としては、システム開発などの専門職の場合は、60歳ぐらいなら問題なく働けている人が多いということですね。 森田 はい。技術の移り変わりは早い業界ですが、仕事の根幹部分のやり方などには、長年の経験が活かせる職種であると考えています。 小林 当社では、65歳のときに原則として1等級下げて、仕事の役割を軽減するルールを設けていますが、そうではなく例えば「週5日の出勤が体力的に厳しいので変更したい」といった要望が出てきたケースがあります。対応としては、契約社員に移行して個別契約とし、週3日勤務で個別に賃金を決めて働いてもらうという形にしました。 今野 小林さんの会社は定年が70歳ですよね。多くの人は「70歳まで働くぞ」という状況でしょうか。 小林 70歳到達者はまだいないのですが、制度導入後、65歳を過ぎて辞めた人はいません。70歳で定年後、契約社員としてさらに継続して働くという人もかなり多いだろうと見ています。 今野 杉浦さんの会社は、定年延長をしたときに、「自分はもうそんなに働きたくないよ」といった声はありましたか。 杉浦 当社の場合は、賃金を下げないために定年延長をしたのですが、「再雇用になって、週3日勤務などを選べると思ったのに、週5日も働くのか」といった声が、65歳定年制を導入した当初はありました。ですが、7年を経たいま、そういった声は聞かれなくなりました。ただ、視力が低下し「細かいものが見えにくくなった」という声はあり、他企業さんにあるようなシニアラインなどの検討が必要ではないかという話は出ています。 今野 そういう対応をすれば、平気だということですね。 杉浦 そうですね。60歳と思っていた定年が、65歳になったということに直面し社員のなかには、「そこまで働けるかな」という不安を抱いた社員もいたと思います。でも、65歳定年が定着したいま、「少なくともそこまでは元気に働きたい」と思っている人がほとんどのように見受けられます。 評価制度を設計するときに工夫したこと、苦労したこと 今野 評価制度についてうかがいます。役割や成果に基づいて評価することを前提として評価制度を設計するときに、工夫したことや苦労したことをお聞かせください。 森田 年齢にかかわらず同じ基準の評価制度を適用しているので、シニア社員にかぎらず評価制度全般にかかわることですが、評価をする側の問題によって、評価自体に甘辛が出てしまうことがないように、というところが課題となっています。  当社の場合、パフォーマンスが高ければ、若くてもどんどん昇格して、組織長になったり、評価者になったりします。そのため年下上司と年上部下の関係が多くなるのですが、評価者が年下だったとしても、年齢にかかわらず等級定義に基づいて評価をするということが、ポイントになっていると思っています。 今野 年下上司のことは、シニア社員の問題を話すときによく話題になります。「若い上司もやりにくくて職場がうまくいかない」といった話も聞くのですが、いまのお話にあった年下上司が年上の部下を評価するというのは、森田さんの会社では普通のことですか。 森田 そうですね。定年延長にかかわらず、以前から年下上司による評価はよくあるケースとして行われてきました。 今野 ありがとうございます。続いて小林さん、評価制度についてお聞かせください。 小林 当社も、60歳以降も、それ以前と同じ評価制度を継続しています。ただ、パフォーマンスの差は出てきていて、2019年の人事制度改定のときにやり残した課題として、評価制度に目標管理制度や成果主義などが入っていないということがあります。現在は役割行動評価という、要は「コンサルタントの仕事がこういうプロセスになっていて、それが普段の行動でできているか」を評価するような仕組みがメインになっているので、やはり成果評価のようなことを、現役の社員も含めて入れたほうがよいのではないか、ということが最近の課題として出てきています。 今野 個人間のパフォーマンスの格差が大きくなるというのは、年齢が上がるほど大きくなる可能性が高いと思うのですが、どうでしょうか。 小林 そうですね。人によっては、65歳を過ぎてからパフォーマンスが上がらないということも出てきます。そのときに、仕事の成果できちんと評価をしていく仕組みは必要だろうと感じています。 今野 ありがとうございます。杉浦さんの会社はいかがですか。 杉浦 当社の場合は、職能資格制度で年齢にかかわらず、資格ごとに相対評価を行います。組合員は65歳まで、管理職は「58歳まで」と「58歳以降」とを分けたグループで相対評価をしています。各グループのなかで、個々人のパフォーマンスに応じて、半期ごとに評価しているという形になっています。制度としては年齢に関係なく、60歳以前も以後も同じ仕組みです。 賃金制度を設計するうえで困ったこと制度導入後に感じている課題とは 今野 続いて賃金制度についてうかがいます。制度を設計するうえで困ったことや工夫したことについて教えてください。 杉浦 組合員については、65歳までは60歳到達時点と同等の給与水準となっています。管理職は、役を降りてから58歳、60歳、63歳で年収の見直しを行っています。この管理職の年齢を基準にした見直しというところが課題になっていて、今後は年齢に関係なく、仕事の価値で判断するジョブ型に寄っていくような仕組みにして改定する準備をしています。 小林 当社の場合、シニア社員には賞与がないというところが、今後の課題になってくると思っています。制度設計をしたのは2019年ですが、当社は平均年収が割と高い業種ですので、賞与が仮にないとしても、それなりの賃金水準であると思っていました。しかし働いている側からすると、賞与の有無はモチベーションに影響します。給与水準全体を見直していく時期に来ているなか「賞与を復活したほうがよいのでは」といった意見も出てきており、制度改定が必要と思っているところです。  成果に応じた処遇というところでは、やはり賞与というのは、年次の評価を反映しやすいということがあると思っています。また、杉浦さんがお話しされたジョブ型ということも、管理職層にはそういった形がこれからの流れかなとは考えています。 森田 当社の場合、実力主義ということで、定年延長前からパフォーマンスに応じた処遇がある程度実現できたところがあり、定年延長やその後の再雇用においても、処遇と役割に大きな差がないことが実現できています。 今野 いい換えると、人事管理に年齢が入っていないということですよね。 森田 おっしゃる通りです。 今野 杉浦さんの会社のようなメーカーはおそらく、年齢と能力、役割が比例するような状況がずっと続いていて、例えば、年齢を基準にしたほうがみんなに説明力があるから、ということがあったのではないかと思います。一方で、森田さんの会社はおそらく、同じ年齢でもパフォーマンスがものすごく違う人がいたということがベースにあるのではないでしょうか。 森田 はい。同じ年代でもパフォーマンスの個人差はありますね。 今野 すると、それぞれの産業の歴史や特性といったものが、人事管理に反映されているように思います。一方で、杉浦さんの会社のようなメーカーでは、もう少し役割を重視する方向へ徐々に移っていくことも考えられているということですね。小林さんから、何かコメントはありませんか。 小林 人事管理制度の見直しをしていくうえでは、60歳定年や65歳まで再雇用など、何かきっかけになる部分があって見直しをしていくのですが、70歳定年まで年齢に関係なく、何から何までパフォーマンス次第というと、それはむずかしいような気がします。また、役職定年制がよいのかどうかという議論はあるのですが、あるところで役職を離脱してもらわないと、後進がそのポストに就くことができず、若手の抜擢もできないわけですから、そのあたりは矛盾を抱えるのではないかと感じました。 森田 世代交代の観点は重要だと思います。人材の育成も含めて、組織が活性化したり、後進が育っていったりということがあると思いますので、区切りをつけるというところはおっしゃる通りだと思います。 杉浦 当社も、65歳まで年齢は関係ないという仕組みではあります。ただ、役職については、65歳で定年になってすぐ次の人が部長になるということはできないと思いますので、少なくとも役職に就ける年齢には、一定の制限を持とうと考えています。加えて、部長以上のポジションについては、毎年後任者管理ということで、後任者を必ず考えるような施策は取っています。 再雇用制度や定年廃止ではなく定年延長をした理由とは 今野 このシンポジウムのライブ配信をご覧になっている視聴者の方から、質問をいただいています。みなさんの会社ではそれぞれ定年延長をされていますが、再雇用ではなく、なぜ定年延長をしたのでしょうか。ご回答、ご意見は3人からお聞きしたいと思います。小林さんからお願いします。 小林 再雇用や定年廃止ではなく、当社が70歳定年制を導入したのは、社員に対して、安心して働いてもらえる保証された雇用機会を70歳までにしたかった、という思いが大きかったと思います。背景には、経営トップの強い意志がありました。  70歳定年にしてから、中途採用でも新卒採用でも、そこが魅力に感じるという応募者の方もおり、人材確保の面でもメリットがあったと実感しています。 森田 当社が定年延長を実施したのは、旧制度に不活性な状態が発生し課題となっていたことが背景にありました。定年延長ありきで考えたのではなく、施策を検討した際、実力主義を掲げるなかで、65歳まで年齢による処遇の変更を行うのではなく、定年を延長して、正社員として同じ土俵で評価・処遇する、としたことが理由としては大きかったと思います。 杉浦 定年延長をしたきっかけの一つに、当時は60歳以上の社員は100人ほどでしたが、その5年後、10年後には、300人、400人となることが予測されていて、それだけ増えてきたときにいかに働いてもらうか、パフォーマンスを出してもらうかと考えたときに、再雇用ではなく、正社員として定年延長すべきだという判断に至りました。 エイジレスな評価・賃金制度とはパネリストからのメッセージ 今野 最後に「これだけはいっておきたい」ということがありましたらお願いします。 杉浦 評価というのは非常にむずかしいです。業務や役割がそれぞれ違いますので、目線を合わせるということが重要になってくるのだろうと考えています。また、個人によってパフォーマンスは違いますし、働き方がさらに多様化しているなかで、今後シニア層にかぎらず、全社員が持てる力を発揮し、それを正しく評価し、正しく報酬につなげるということが、人事の永遠の課題なのかなと感じています。制度もまだまだですし、今後もそういったことが実現できるように努力する人事部でありたいと思います。 森田 定年延長と再雇用について、職責低減をせずに同じ処遇にしていくという制度を整えましたが、まだ課題もあります。特に、再雇用制度では、全員を対象にした一定の評価であったり、組織の推薦、本人の希望などの一定条件を設けていたりする仕組みです。今後はそういった制限がかかっているところや、働き方の多様化というところも含めて、一律に正社員と同じとしてよいのかということも検討していきたいと思っています。 小林 シニア社員の処遇という前に、今野先生がお話しされた、シニア人材をその会社でどのように活用していくかということが、大前提になると思います。業種や職種によっても違ってくると思いますし、人事部門だけで進めることもできないことだと実感していますので、経営トップの意思を確認しながら、進めていくとよいのではないかと思います。  また、制度導入後は、想定していなかったことが出てきますので、臨機応変に変えていくことも大切だと思います。本日お話をうかがい、人生100年といわれるなかで、何歳まで働いてもらえるのか、そうしたことをさらに考えていく必要があると強く思いました。 今野 3人のパネリストからの最大のメッセージは、「『シニアならでは』という評価・賃金はやめよう」ということであったと思います。そのうえで、エイジレスな制度にするためにはどうすればよいかということについて、3人が共通していわれたのは、「人事管理は役割と成果をベースにつくり上げる」ということだと思います。そうすると、シニアになっても、あるいは定年延長をしても、何の問題もないということになります。  役割と成果に基づく人事管理にすると、年齢の要素が消えますが、他方で、例えば、管理職の世代交代の問題や、個々の働く人のキャリアと役割の見直しなどを考えると、ある時点で何か手を打たなくてはいけないという問題もあります。そのときに、年齢という装置でいくか、違う装置でいくのかについては、考えなくてはいけません。いずれにしても世代交代装置あるいは、キャリア・役割見直し装置みたいなものを、役割と成果に基づく人事管理に付加していかないと全体的にうまくいかない、ということがいえるのだと思います。  質問に真摯にお答えいただいた3人のパネリストに心より感謝申し上げます。 写真のキャプション 学習院大学名誉教授 今野浩一郎氏 株式会社NJS管理本部 人事総務部長 小林崇氏 TIS 株式会社 人事本部人事部 人材戦略部セクションチーフ 森田喜子氏 日本ガイシ株式会社 人材統括部 人事部長 杉浦由佳氏 【P37】 日本史にみる長寿食 FOOD 364 サクラエビは美味しい長寿食 食文化史研究家● 永山久夫 不老長寿のシンボルといえばエビ  エビが古くから長寿のシンボルとして、お祝いの献立などに用いられてきたのは、長いヒゲと腰が曲がった、その体形によります。つまり不老長寿の老人を連想させ、海の「翁(おきな)」にみたてて、「海老(えび)」になったようです。  海老に独特の旨味や甘味があるのは、グリシンやべタインといったアミノ酸が豊富に含まれているためです。タンパク質が多いわりには、カロリーが低いために、肥満の予防やダイエットにはもってこいの食材といってよいでしょう。  また、血管を丈夫にして、動脈硬化や高血圧の予防、あるいは疲労回復やイライラを防ぐなどの効果で注目されているタウリンも、イカやタコに次いで、たくさん含まれています。 春は何といってもサクラエビの季節  花見どきになると、水揚げの最盛期を迎えるのがサクラエビです。静岡県の駿河湾(するがわん)の特産で、富士山を背景にして、日干しにしますが、日光にあたると美しい淡紅色になります。水揚げ後、すぐに天日でよく干した素干しのほかに、煮干し、釜揚げなどの加工食品もつくられています。産地は、由比(ゆい)や蒲原(かんばら)などで、サクラ色の干しエビは、東京などでも年中入手できます。サクラエビの美しい色素は、アスタキサンチンという抗酸化成分から成ります。紫外線などで、体内に発生しやすい活性酸素は、ガンや動脈硬化、老化などの原因となるといわれていますが、その予防対策として、カロチノイド系の色素成分をとることが効果的です。なかでも抗酸化パワーが強いといわれているのが、このアスタキサンチン。サクラエビのほか、サケやサケの卵のスジコやイクラ、タイやキンメダイなど赤い魚の皮の部分にも含まれています。また、ニンジンなどに多く含まれるカロテン以上の抗酸化力があるといわれ、人生100年時代に心強い食品です。  素干しのサクラエビには、長生きを支える骨の原料となるカルシウムもたっぷり。100gのなかに2000mgも含まれており、理想的なカルシウム食品です。トランキライザー(精神安定剤)としても働き、長い人生をニコニコしながら楽しく暮らすためには欠かせません。また、インフルエンザなどの感染症予防に役立つミネラルの亜鉛も豊富です。亜鉛には意欲を高めてくれる効果もあるといわれ、まさにサクラエビは働く人たちの免疫力アップにも役立つ食品といってよいでしょう。 【P38-41】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第141回 沖縄県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 100人以上の高齢職員が活躍 賃金・評価制度の見直しに着手 企業プロフィール 社会福祉法人まつみ福祉会(沖縄県豊見城市(とみぐすくし)) 設立 1981(昭和56)年 業種 高齢者・障害者・児童の福祉事業 職員数 374人(うち正規職員数155人) ※グループ職員数 (60歳以上)102人 (60歳以上男女内訳)男性(36人)、女性(66人) (年齢内訳) 60〜64歳 43人(11.5%) 65〜69歳 27人(7.2%) 70歳以上 32人(8.6%) 定年・継続雇用制度 定年は60歳。希望者全員を65歳まで継続雇用。以降も年齢の上限なく継続雇用。最高年齢者は医師の82歳  沖縄県は、日本列島の南西端に位置し、沖縄本島をはじめ大小160の島々からなる離島県です。亜熱帯地域に属し、冬でも10度以下になることは珍しく、一年を通じて過ごしやすい気候です。その立地と歴史から、食や音楽、芸能など、豊かな文化が根づいています。JEEDの沖縄支部高齢・障害者業務課の大森(おおもり)悠(はるか)課長は、「沖縄県の産業の特徴は、サービス業を中心とする第三次産業の比重が極めて高いことです。そのなかでも、県経済を支えている大きな産業が観光産業です。新型コロナウイルス感染症の影響で、観光客数は2020(令和2)年以降落ち込んでいましたが、2022年は、前年度比約89%増の約570万人※1と回復傾向にあります。また、温暖な気候を利用した農業や畜産業、美しい海の恩恵を受けた漁業が盛んに行われています。産業全体に占める割合はそれほど高くありませんが、他県にはない珍しい農林水産物(サトウキビ、ゴーヤーや島らっきょうなどの野菜、パイナップルやマンゴー、パパイヤなどのフルーツなど)が流通しています」と説明します。  また、同支部における取組みについては、「沖縄県の企業の特徴として、運用により65歳を超えて継続雇用を行っている企業が多く、制度化には消極的な面が見受けられるため、労働局やハローワークなどの関係機関とも連携しながら、高齢社員の活用に関する相談・援助や制度改善提案を行っています。企業からは、高齢社員の健康管理や賃金・処遇制度に関する相談が多く寄せられています」と話します。  同支部で活躍するプランナーの水澤(みずさわ)孝一(こういち)さんは、特定社会保険労務士などの資格を持ち、とりわけ賃金制度の分野に精通しています。訪問先企業の実情に沿ったわかりやすい資料を作成して行う、ていねいかつ親身な助言は、多くの企業から信頼を得ています。  事業所向けのセミナー講師なども多く務めており、「最近では年金とハラスメント、および2024年問題をテーマにしたセミナーが増えています」と傾向を分析しています。  今回は、水澤プランナーの案内で「社会福祉法人まつみ福祉会」を訪れました。 地域福祉に貢献する高齢職員に文化継承を期待  社会福祉法人まつみ福祉会は、1981(昭和56)年2月に設立。同年4月にもみじ保育園を開設し、保育事業をスタートしました。1989(平成元)年に老人介護福祉事業、2004年に障害者福祉事業に着手し、2007年には老人介護と障害者支援、児童福祉の複合施設「共に生きる町」を開所しました。事業について、事務局長の遠藤(えんどう)貢(みつぐ)さんは「『共生ケア』の実現を理念に掲げ、お年寄り、障害のある方、子どもたちがそれぞれ持っている能力を伸ばして活かし、お互いに主体性を持って支え合うことを支援していきます」と説明します。  同法人では60歳以上の高齢職員が100人を超え、福祉の現場から現場をサポートする部門まで、さまざまな業務において地域の福祉を支えて活躍しています。  「介助を必要とする方のサポートに、年齢は関係ありません。高齢職員には、豊富な経験に基づいた技術だけでなく、沖縄の方言なども若手に教えてほしいと期待しています。利用者のお年寄りたちは方言で話したり、三線(さんしん)(沖縄三味線)の音を聴いたりすると表情が輝き、方言を話す高齢職員とは話が盛り上がります。仕事を通じた文化の伝承にも期待したいですね。  高齢職員は元気いっぱいで働いてくれていますが、その一方で、介助作業は足腰に負担がかかるので、時短勤務に切り替えたり、負担のかからない業務をお願いして長く仕事を続けてもらっています。60歳定年制についても見直しを考えています」(遠藤事務局長) ツールを活用し賃金・評価制度を考え方から見直す  水澤プランナーは、同法人からの「高齢者の賃金や評価制度の見直しについて相談したい」という要望を受け、2023年5月に訪問。JEEDの「70歳雇用推進マニュアル」※2、厚生労働省の「職業能力評価シート」※3と「キャリアマップ」※4を参考に、賃金・評価制度の考え方や進め方などについて助言を行いました。  「賃金や評価制度の改定を考えていましたので、前職で賃金制度の見直しを行った経験を活かして助言を行いました。また、県の非正規労働者処遇改善事業を活用し、賃金・評価制度の見直しを継続して行っています」(水澤プランナー)  同法人では管理者を対象に、水澤プランナーが講師を務めるセミナーを開催しています。人事評価の考え方などについて講義するほか、「扶養控除から考える就労のメリット」、「年金を受給開始するとよい年齢」など、受講者に身近なテーマを取り上げており、わかりやすい数字を例にしてかみ砕いて伝える説明は、「メモを取らずとも記憶に残る」と、参加者から好評を得ています。  今回は、だれからも頼りにされているという二人の高齢職員にお話を聞きました。 迅速かつ万全な修繕作業で現場をサポート  當眞(とうま)孝三(たかみつ)さん(72歳)は、食品加工会社を定年退職後、ドライバーとして入職しました。通所介護の送迎のほか、施設の営繕、園芸の管理を担当し、週5日フルタイムで働いています。  「親の介護を経験してから介護業界に興味を持ち、知人の紹介を受けて入社しました。送迎時はお年寄りに人生経験を聞かせてもらい、家族に話せないことを話してくれる方もいて貴重な交流の時間になっています。営繕の仕事は前職でつちかったメンテナンスの技術を活かすことができますし、園芸の仕事は初めてですが楽しいです」  前任者に教わったマンゴー栽培が楽しく、自宅でも始めるなど、いまではライフワークになっているそうです。  リハビリテーション課と通所介護事業の管理者を兼務する與座(よざ)勇人(はやと)課長は、當眞さんの働きぶりについて、次のように話します。  「當眞さんは物腰がやわらかく、職員みんなから慕われています。『テーブルが壊れた』、『蛍光灯が切れた』と設備にトラブルが起こると、だれもがまず當眞さんに助けを求めます。対応が早くて、どんなものでも手際よく上手に直してくれる救世主のような存在です。送迎では持ち前のコミュニケーション能力を発揮し、お年寄りの笑顔を引き出し、信頼関係を築いています」  この評価を受け、當眞さんは「部品は置き場所を決めておくと作業がスムーズです。故障した箇所だけでなく、全体を見直して必要な補強を行い、故障をくり返さないように気をつけています。若いスタッフには営繕の方法と物を大切にする精神を伝えたいです」と話してくれました。  昼食は職員食堂を利用しており、「管理栄養士が考えたメニューなので、美味しいだけではなく健康管理にもつながります。休憩室は畳敷きになっていてリラックスできます」と喜んでいました。  「日ごろから、健康のために、施設の階段を昇り降りして足腰を鍛えたり、ストレッチをしたりしています。休みは週末があれば十分です。規則正しい生活を送るためにも、仕事を続けることが私の人生において大切だと思います」と働く意義について語ってくれました。 世話係となり周りを活気づける「元気の源」  岸田(きしだ)光江(みつえ)さん(62歳)は、若いころは保育士として働いていましたが、40代で再就職を考え、「今後、親の介護があることを考えると、介護職がよいのでは」と同法人に入職しました。介護福祉士の資格は職場のサポートを得ながら取得。定年を超えたいまも変わらず週5日フルタイムで勤務しています。「利用者の在宅復帰を支援して目標が達成できたときや、本人や家族から感謝の言葉をかけてもらったときに、『この仕事に就いてよかった』と思います。仕事をする=自分自身が健康でいることです。そうでないと笑顔で仕事ができません」と明朗快活に話します。  「岸田さんはいつも明るく楽しく仕事をされていて『職場の元気の源』です。経験が豊富ですから、お年寄りの体調変化や困りごと、細かいことまですぐに気づき、だれよりも早く行動されています。接遇もすばらしく、まさに介護士の鏡で若手のお手本です。若い外国人スタッフが現場に加わった際は、生活面のサポートも含めて、慣れない異国での暮らしや仕事をサポートしてくれました」(與座課長)  「じっとしていられない性分でずっと動いています」と自らを語る岸田さんの息抜きは、夫婦で沖縄本島北部の山原(やんばる)へ出かけて自然に触れ、カフェ巡りをすること。休日にリフレッシュすることで、次の1週間の仕事もがんばれるそうです。  今後の抱負についてたずねると、「2〜3年のうちにサービス管理責任者の資格を取得したいと考えています。大きな目標は、70歳まで笑顔で働ける職員になることです」と、具体的なキャリアプランを示してくれました。  今回の取材を終え、水澤プランナーは、「福祉事業を長く運営されており、規模が大きく、施設として充実しています。高齢職員は自分の仕事ぶりを評価されていると感じていて、仕事に誇りを持って働いています。今後は職員各自ができること、できないことを把握し、より努力が必要なチャレンジ目標の設定や、業務において会社が求める基準の設定など、引き続き人事評価制度の整備を支援していきます」と具体的な方向性を示しました。  定年後もしっかり目標を定め、公平かつ納得性がある評価を得られれば、高齢職員のモチベーション向上に直結します。高齢職員の存在が、現場に活気を生み出し、掲げる理想の福祉ケアの実現にまた一歩近づいていくはずです。(取材・西村玲) ※1 沖縄県文化観光スポーツ部観光政策課「令和4年(暦年)沖縄県入域観光客統計概況」 ※2 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/manual.html ※3 職業能力評価シート……職業能力評価基準で職種・職務・レベル別に定められている「職務遂行のための基準」を簡略化したもの ※4 キャリアマップ……職業能力評価基準で設定されているレベル1〜4をもとに、能力開発の標準的な道筋を示したもの 水澤孝一 プランナー アドバイザー・プランナー歴:9年 [水澤プランナーから] 「民間企業の営業関係で20年、人事関係で10年の計30年間勤務し、社会保険労務士試験合格後に独立しました。現在は、年間100社以上の企業訪問や各種セミナーを行っており、各企業に必要な情報提供に努めています。最近は、年金制度などもふまえ、70歳までの雇用の必要性を企業に呼びかけています。モットーは『現状否定と改革』です」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆沖縄支部高齢・障害者業務課の大森課長は水澤プランナーについて、「JEED の相談・援助業務のみならず、沖縄県や労働局の事業においても企業への労務管理にかかわるアドバイザーやセミナー講師を務めるなど、沖縄県内企業の雇用管理の改善、人材育成に尽力しており、とても頼りになる存在です」と話します。 ◆沖縄支部高齢・障害者業務課は、県庁所在地である那覇市の「沖縄職業総合庁舎」内にあり、同庁舎にはハローワーク那覇、沖縄障害者職業センターもあります。近隣には、映画館を擁する大型ショッピングモールや免税店などがあり、観光客も多く訪れる場所です。 ◆同県では70歳雇用推進プランナー7人が活躍し、2022年度は、350件の相談・援助を実施、65件の制度改善提案を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●沖縄支部高齢・障害者業務課 住所:沖縄県那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 電話:098-941-3301 写真のキャプション 沖縄県豊見城市 小高い丘の上に建つ介護老人保健施設 桜山荘(おうざんそう) 遠藤貢事務局長 利用者の送迎に向かう當眞孝三さん 與座勇人課長 車椅子に乗る利用者を介助する岸田光江さん 【P42-43】 第91回 高齢者に聞く生涯現役で働くとは  幡本圭左さん(101歳)は70年にわたり薬剤師として働き続けてきた。100 歳を超えたいまも白衣に身を包み、週6日は店頭に立つ。2022(令和4)年には、「世界最高齢の現役薬剤師」としてギネス世界記録に認定された。激動の一世紀を生き抜いた幡本さんが生涯現役の秘訣を語る。 株式会社安全薬局 薬剤師 幡本(はたもと)圭左(けさ)さん 尊敬する父が示してくれた道  私は長野県の長野市で生まれました。両親は東京出身ですが、仕事の関係で長野へ移り住んだそうです。家業は燃料問屋で、とても賑(にぎ)やかな環境のなかで伸び伸び育ち、善光寺(ぜんこうじ)の近くにあった女学校へ進みました。私は大正の生まれですから、当時の社会の風潮としては女性が職を持つことなど考えられず、年上の従姉(いとこ)たちは女学校を出たら花嫁修業に精を出していました。父のすすめで私が薬学の専門学校に行くことを聞いた従姉たちから、「あなたは職業婦人の道を行くのね」といわれたことを覚えています。  ほんとうは、私は教師という仕事に憧れていて師範学校に進みたかったのです。ただ、父から「教師という仕事もよいけれど、薬剤師になれば生涯免状がついて回るから一生の仕事にできるし、人の役に立てる立派な仕事だと思うよ」と励まされ、薬剤師の道を選び、東京の谷中(やなか)にあった東京薬学専門学校女子部に入学しました。現在八王子市にある、東京薬科大学の前身です。私は小さいときから父を深く尊敬しており、父のいう通りにすれば正しい道を歩めると信じていました。いま、70年という長い年月を薬剤師として働き続けているのですから、やはり父には先見の明がありました。  東京都目黒区の住宅街の一角に、幡本さんが守り続けてきた「安全薬局」があり、地域の人たちは親しみをこめて「安全さん」と呼ぶ。店を訪れる人たちは長年愛用の薬を求めながら、目的は幡本さんと楽しくお話しすることだという。 戦争の世紀を生き抜いて  私が女学校を卒業するのと同じ時期に、父の仕事の都合で私たち一家も東京に戻ってきました。私は専門学校を卒業して薬剤師の免状ももらったのですが、1941(昭和16)年から始まった太平洋戦争の戦禍は激しくなる一方でした。お国のために働かなければと化学工場で塗料の分析の仕事をしましたが、いよいよ東京は危ないという判断で、私たち一家は以前住んでいた長野の家に疎開しました。長野でもやはり化学工場の研究室に勤めました。私はどうやらとても運が強いようです。東京でも、長野でも空襲に遭いましたがなんとか生き延びることができました。長野では機銃掃射に遭遇しましたが、危機一髪で助かっています。戦争の記憶はいまでも鮮明に残っており、再びあのような悲惨な戦争が起こらないよう祈るばかりです。  戦後、再び上京して、縁あって25歳で結婚、娘が2人生まれましたが、2人とも私と同じ学校に進み、私の後輩になりました。そしていま、次女夫婦と一緒に住んでいます。週6日店に出る私にとって、娘夫婦の存在はたいへんありがたいです。  父の予想通り、薬学の専門学校で学んだことで化学工場での職を得た幡本さん。その後、夫と2人で薬局経営を目ざすことになるが、岐路に立つたび強運が味方してくれた。 「安全薬局」誕生  終戦を迎えて少しずつ平穏な日々が戻っていきましたが、人生というのは本当に一寸先が見えないものです。自営業の仕事をしていた夫が知人の保証人になったことで店を失いました。友人が困り果てている夫に、奥さんが薬剤師なのだから薬局をやればいいじゃないかとアドバイスしてくれました。家に帰ってきた夫からその話を聞かされた私は、子育てというたいへんな時期だというのに、気がついたら二つ返事で賛成していました。心のどこかで父の「薬剤師は生涯やれる仕事」という言葉を思い出したのでしょう。  薬局を開業することを決めてからは、とにかくたくさんの人にお世話になりました。一番頼りになったのは薬学専門学校時代のお仲間です。  薬局を経営する友人のところで見習いをして一から教えてもらいました。いろんな方の協力で営業許可も取り、医薬品も一式そろえ、雑貨も少し置きました。商売が少し落ち着いたころ、やはり学校時代の先輩が、「これからは漢方薬の時代が来るから漢方薬の勉強をしなさい」と声をかけてくれました。漢方薬の世界は奥が深く、まずは古典から学びました。特別講座などを受講している間は家を空けることが増えましたが、友人が支えてくれました。少しずつ漢方薬の調剤ができるようになったとき、思い切って雑貨を置くのをやめ、漢方薬に特化した店舗に変えました。 ギネス世界記録の認定  「安全薬局」の変遷にかかわらず、ずっと通い続けてくださるお客さまがいなければ70年という長い歳月を経て、営業を続けることはできなかったと思います。  遠方から通ってくださる方もいます。自分の子どもに「安全薬局」をつないでくれた方もいます。ただただ感謝しかありません。  私は2022(令和4)年7月に99歳292日の時点で世界最高齢の現役薬剤師ということでギネス世界記録に認定していただきました。5人いる孫の1人が何かで調べてきて、すごいことだから申請しようということになったのです。世界記録という栄誉はそれこそ私のものではなく、皆々さまのものだと感謝しております。  歴史に「もし」はないといいますが、70年前、「もし」友人の一言がなければ「安全薬局」は存在しませんでした。 漢方で毎日明るく元気に  いろいろな方から健康の秘訣を聞かれることがありますが、思いつくのは、いま、住まいが3階なので店に出るために毎日20段の階段を昇り降りしていることぐらいです。あとは、起床後に10分ほど手足を動かし、自己流のストレッチをやっています。  とにかくお客さまに健康を売る仕事ですから、私がよたよたしていては申し訳ありません。私がいま毎日心がけていることは、お客さまがこうしてほしいと思っていらっしゃることを叶えてさしあげたい、ということです。そのために、どうしてこうなったのかしら、今後どうしたら健康を保つことができるのかしらなど根本的なことを話し合い、お互い努力をしてお客さまから「ありがとうございました。お陰さまで元気にすごしております」とおっしゃっていただいたときが私の一番の元気の源です。  そして、すばらしい天職を与えられたこと、長生きができた身体を与えられたこと、大勢の方々の御指導で現在があることに感謝し、これからもお客さまとの御縁を大切に、毎日元気で明るくすごしていきたいと思います。 【P44-47】 多様な人材を活かす 心理的安全性の高い職場づくり  高齢者をはじめとする多様な人材の活躍をうながすうえで大切な「心理的安全性」について、株式会社ZENTechの原田将嗣さん、石井遼介さんに解説していただきます。  今回は、チームをよりよくするために、大事なスキルのひとつ「リーダーシップとしての心理的柔軟性」を紹介します。 株式会社ZENTech(ゼンテク) シニアコンサルタント 原田(はらだ)将嗣(まさし)(著) 代表取締役 石井(いしい)遼介(りょうすけ)(監修) 第5回 心理的安全性の高い職場づくりを後押しする心理的柔軟なリーダーシップ 1 心理的安全性の高い職場づくりに欠かせない一人ひとりのリーダーシップ  心理的安全性とは「組織やチームのなかで、だれもが率直に、思ったことを言い合える状態」をいいます。「話しやすさ」、「助け合い」、「挑戦」、「新奇歓迎」の4つの因子を高めることでチームに心理的安全性を醸成することができるのです。  では、心理的安全性の高い職場は、だれがつくるものなのでしょうか。リーダーだけではなく、メンバーも一緒に全員協力・全員参加でつくっていくものが、心理的安全性です。  全員参加で職場づくりをするために大切なことが、一人ひとりのリーダーシップです。リーダーシップと聞くと「管理職やリーダーが備えているもので、まだリーダーではない自分には求められていない」と考える人がいるかもしれません。しかし、リーダーシップの本質は、権力や権限、ポジションではなく「組織・他者に与える影響力」です。実際みなさんの職場でも、新入社員だけれども発信力があり、影響力を持っているメンバーはいませんか。役職を持ってはいないけれども、プロジェクトリーダーを務めているメンバーはいませんか。リーダーシップとは、役職やポジションに関係なく、一人ひとりが発揮できるものなのです。  今回は、これらのリーダーシップのなかでも、心のしなやかさ「心理的柔軟性」に焦点をあてて紹介します。心理的柔軟性の高い組織メンバーが、心理的安全性の高い組織をつくり、また心理的安全性の高い組織のなかで、人やリーダーシップが育つ、いわば「よいサイクル」が心理的柔軟性と心理的安全性の関係です(図表1)。 2 心理的柔軟性というリーダーシップを磨くことが心理的安全性をつくる  心理的柔軟性は一人ひとりが持ち、鍛えることができるリーダーシップです。端的にいうと「たとえ困難な状況であっても、大切なことへ向けて役に立つ行動をとれること」です。  弊社(株式会社ZENTech)の調査では、心理的柔軟性が高いメンバーが多いチームは、チームの心理的安全性が高い、という相関があることがわかっています。言いかえると、チームの心理的安全性を高めるために個人のリーダーシップとしての心理的柔軟性を高めることが有効なのです。  心理的安全性の低い職場では、意図せずともやってくる法改正や社会情勢の変化などの「困難」にあって、チームで問題を解決するかわりに、チームで問題を増幅してしまいます。  例えば、これまでのやり方では対応できないと考え、抜本的な業務改善案を提案したら「じゃあそれ、あなたがやっておいて」と言われ、ただただ自分が忙しくなる「言ったもん負け」や、マネジャーのやるべき業務が多すぎて、メンバーへの配慮やよりよい環境づくりができなくなる「マネジャー忙殺」など、心理的安全性が低い職場では、さまざまな「自分たちでつくってしまう困難」があるでしょう。  すでに職場の心理的安全性が低く、このような困難が日常にあるとき、多くの人は「本当はやったほうがよい、こういう職場にしたい」という想いがあったとしても、ブレーキがかかって、新たな行動が生まれません。 3 心理的柔軟性3つの要素  心理的柔軟性が低い状態を、具体的な場面で見てみましょう。  1カ月前に中途で入社した私は、業務改善会議に参加しました。現在会社は「顧客満足向上」を掲げており、前職で有効だった施策が、この会社でも効果が高いと私は思っています。しかしキャリアが短いことが気になり「効果的と思われる施策のアイデアがあるが、入ったばかりの自分が言ってはいけないのではないか」という思考が働いてしまい「今日はまずは話を聞いて、また機会があったら言おう」と考え意見を言いませんでした(図表2)。  この場面では「言った方がよいだろう」と思うものの、不安が頭をよぎって行動のブレーキとなってしまい、役に立ったかもしれない発言ができませんでした。  心理的柔軟なリーダーシップは、上記のようなブレーキとなる不安や感情といった「困難」を直視したうえで、「にもかかわらず」チームが向かっていきたい先、ありたい姿に近づく行動をとることを助けます。  心理的柔軟性には次の三つの要素があります。これら3要素からなる「しなやかな行動」がとれることが、心理的柔軟性です。 @受入れ・直視…たとえ困難があったとしても現実に直面する A行動・取組み…大切なことに向かって進む B気づき・軌道修正…その状況、その文脈で気づきを得て、役に立つ行動へ切り替えること  三つの要素を自動車に例えるならば@ブレーキを外し、A行きたい方向に向かってアクセルを踏み、Bハンドルを動かして軌道修正する、といったイメージです。  心理的柔軟性の@の要素を高めるうえで大切なことは、困難を避けるのではなく、困難を直視することです。いわば「不都合な現実にオープンでいること」が求められます。そして困難とは、実際に目の前で起きていることそのものではなく、自分のなかにある感情や思考であることがほとんどです。  再雇用の高齢者の方が持っている「再雇用の自分が余計なことを言ってはいけない」という思考や、高齢者をメンバーに持つマネジャーが考える「高齢者の方にこんなに依頼をしてはいけないのではないか」という思いこみも、この心理的非柔軟な「ブレーキ」として現れます。このような思考や思いこみが現れ、避けようとすると、本当は試しに意見やお願い、そして確認してみればよいことでも、行動に移すことができなくなります。  このとき「考えこんでしまって、自分でブレーキをかけているな」と、自分自身の思考に気づき、直視することが大切です。わたしたちは「これは無理だ」、「これはむずかしい」という思考が頭の中に浮かんできたとしても「にもかかわらず」役に立ちうる行動をとることができるからです。  それはまさに「月曜日、会社に行きたくないなあ…」という思考があったとしても、「にもかかわらず」出社できたのと同じようにです。  このように、ブレーキとなる思考や感情、思いこみがあったとしても、「できる行動から実行すること」、「やってみること」を、私たちは選択できるのです。  行動を選択するために大切なことが、心理的柔軟性Aの要素です。自身や組織にとって「大切なこと」を言語化し、そこに向かって役に立つ行動をとることです。先ほどの具体例では、まだキャリアが短いメンバーが、組織をよくするためのアイデアを持っていましたが「こんなことを言ってよいのだろうか」というブレーキが現れてアイデアを言うことができませんでした。しかしながら、組織にとって「大切なこと」に向かっていくためという確信が持てれば、勇気を持って言うことができるようになります。先程の例では「このチームでは、顧客満足向上を第一にしていると聞きましたので、私も一言お伝えしたいのですが…」のように切り出すのもよいでしょう。  企業理念やミッションなど組織の「大切にしていること」が言語化されているのであれば、自分の「チーム事」として言語化をしてみましょう。そしてそれをメンバーと共有してください。そうすることで、メンバーは心理的柔軟性の要素A大切なことに向かって進むことができるのです。  心理的柔軟性三つ目の要素は、軌道修正をすることです。軌道修正をするには、自分がいま、正しい方向へ進んでいるかどうかに気づく必要があります。正しい方向とは、Aで定めた向かっていきたい使命や目標、いわば大切にしていることです。大切にしていることがはっきりしているからこそ、ブレーキの存在や役立つ行動をとれていないことに気づき、軌道修正をしていくことができます(図表3)。ここからは、リーダーとメンバー、双方から発揮できる心理的柔軟なリーダーシップについて、それぞれ見ていきたいと思います。 4 リーダーが発揮できる心理的柔軟性  リーダーのみなさんは、「チームで大切にしたいことを言語化」し、またそれを「メンバーに共有する」までを試みてください。単に会社が掲げているミッションや、本年度の重要方針をそのままチームに伝えるのではなく、会社が掲げていることをふまえて、ほかならぬあなたのチームで大切にしたいことを言語化します。  メンバーへの共有は、一度話して終わりではなく、くり返しメンバーに話してください。自分なりに大切なことを考えたあなたは忘れることはないと思いますが、メンバーは一度聞いただけでは忘れてしまいます。日ごろ目にするところに掲げておく、定例会議で毎回確認し合う、などくり返しメンバーに伝えていく機会をつくることで、大切にしていることは定着します。 5 メンバーが発揮できる心理的柔軟性  メンバーのみなさんに推奨したいのは、リーダーがどのようなことを大切にしているかを聴きに行くことです。「お客さまからの相談を誠実に聞く」であったり、「メンバー全員が、活き活きと働いている」であったり、リーダーが仕事において大切にしていることを聞いてください。その「大切にしていること」を、自分なりに具体的な仕事のシーンと紐づけたり、それを大切にすることで、自分自身や同僚・お客さまに、どのようなポジティブな影響がありうるか、思いを馳せてください。  リーダーだけではなく、チームのメンバーと一緒に取り組むときも、他部門と連携するときも同様です。相手が大事にしていること、考えていること、感じていることに思いを寄せることで、自身のとっている行動が機能しているか、役に立っているかの、気づきを得やすくなります。 6 まとめ  チームのなかで、日々大切にしていることを確認しながら、ブレーキとなる思考や感情が出てきたとしても、そのときどきで役に立つ行動をとっていく、それが心理的柔軟なリーダーシップです。そして職場やチームで役立つ行動をとるメンバーが増えることで、心理的安全性の高い職場がつくられていくのです。  そのためにも、1日をふり返るとき、こんな問いかけを自分にしてみてください。「自分は今日、役立つ行動をどれくらいとっただろうか」、「今日の判断は、大切にしていることに向かっていただろうか」、「次回、同じ問題が降りかかってきたら、次回はどう対応したらよいだろうか」。ふり返りのなかで「気づく力」が育まれます。  チームの大切にしていることを明確にし、そこに向けて行動し、気づく力を高めて軌道修正をしていきましょう。その積重ねが、心理的安全性の高い職場をつくります。 図表1 「心理的安全性」と「心理的柔軟性」の相互作用 事業成果・企業価値へ 組織・チームの組織開発 話挑助新 心理的安全性の高い組織風土・文化づくり 組織・チームが個々人へ与える影響 人材の開発・成長(人的資本増強) 心理的柔軟なリーダーシップ 個々人のリーダーシップが組織・チームへ与える影響 ※筆者作成 図表2 心理的柔軟性が低いケース 業務改善会議でのこと ブレーキがはたらく! 先月中途入社した私 入ったばかりでキャリアの短い自分が業務改善について意見してよいのだろうか言っても聞いてもらえないのではないか 会社が大事にしている「顧客満足」を上げるために、以前の職場で上手くいっていた施策はこの職場でも役立つはず!このアイデアは伝えたい ・・・ (今日は言わずに聞いておこう) ※筆者作成 図表3 心理的柔軟性が高いケース 業務改善会議でのこと 先月中途入社した私 @「大切なこと」が明確だから「役立つ」がわかる 会社が大事にしている「顧客満足」を上げるために、以前の職場で上手くいっていた施策はこの職場でも役立つはず!このアイデアは伝えたい Aブレーキがはたらく!受入れ・直視 入ったばかりでキャリアの短い自分が業務改善について意見してよいのだろうか言っても聞いてもらえないのではないか B気づき、軌道修正 と、自分は思っているなぁ。そして、いま自分は発言せずに黙っている。こうして黙っていることは役に立っているの? C役立つ行動をとる 前職で顧客満足向上した施策が参考になると思うのですが… ※筆者作成 【P48-51】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第70回 退職金の不支給、人事評価の違法性判断基準 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永勲 Q1 不祥事を起こした従業員の退職金を不支給とすることはできますか  酒気帯び運転を行った従業員に対して、懲戒解雇と退職金の減額を検討しています。自動車運転について、物流業等以外も対象にアルコール検査義務等が制定されるなど、規制も厳格になっているため、全額を支給しないという判断も可能でしょうか。 A  退職金の全額不支給については、長年の勤続の功労を抹消するほどの事情が必要であるため、全額の不支給とすることは適切とはいいがたいでしょう。ただし、自動車運転に対する責任が大きい事業であれば、許容される可能性があります。 1 退職金の減額措置について  就業規則において定められた退職金は賃金の性質があり、@賃金の後払い的な性格と、A功労報償的性格をあわせ持っていると整理されることが一般的です。  退職金について、就業規則で支給条件が定まっているのであれば、当該支給条件にしたがって、支給手続きをとることになります。就業規則で定める支給条件については、さまざまな条件が考えられ、支給の条件として、懲戒解雇の場合は、支給対象から除外する、または支給額を減額するといったことや、自己都合退職と会社都合退職の際の支給額の計算方法を異なるものとするといったことが行われています。  ただし、退職金を不支給または減額するにあたって、退職金には賃金の後払い的性格もあることから、その範囲を制限する裁判例も多く、特に全額の不支給とするためには、永年の勤続の功労を抹消させるほどの背信的行為があった場合にかぎると解釈されています。 2 酒気帯び運転による退職金全額不支給が肯定された裁判例  公立学校の教師であった公務員が、酒気帯び運転を理由に懲戒免職され、その結果、退職金が全額不支給とされた事案において、そのような処分の有効性が争われました(最高裁令和5年6月27日判決)。  当該公務員は、同僚の歓迎会でビールを中ジョッキとグラスで各1杯程度、日本酒を3合程度飲んだのち、自家用車を運転して、ほかの自動車と衝突する事故を生じさせ、事故時点の呼気検査でアルコールが検出されました。その後、略式命令で罰金35万円を命じられています。  公立学校の教師に対しては、酒気帯び運転や酒酔い運転により検挙される事案が過去に相次いでいたことから、懲戒処分について厳格に運用していくといった方針が通知されており、飲酒運転につき免職または5カ月以上の停職とする旨の基準が定められるに至っていました。  このような状況において、当該公務員は、酒気帯び運転をしたうえで事故を起こしたことから、通知されていた通りに懲戒免職されたうえ、退職金の全額を不支給とされたものです。  高裁では、「本件規定(注:退職金の減額の根拠規定)は、一般の退職手当等には勤続報償としての性格のみならず、賃金の後払いや退職後の生活保障としての性格もあることから、退職手当支給制限処分をするに当たり、長年勤続する職員の権利としての面にも慎重な配慮をすることを求めたものと解される」として、労働契約における退職金と同趣旨の考慮をして、「約30年間誠実に勤務してきたこと、本件事故による被害が物的なものにとどまり既に回復されたこと、反省の情が示されていること等を考慮すると、本件全部支給制限処分は、本件規定の趣旨を超えて被上告人に著しい不利益を与えるものであり、本件全部支給制限処分のうち、被上告人の一般の退職手当等の3割に相当する額を支給しないこととした部分は、県教委の裁量権の範囲を逸脱した違法なもの」として、7割の減額は肯定しつつも、3割の支給を命じるという結論になっていました。  他方、最高裁は、この結論を認めずに、全額不支給を有効と判断しました。ただし、退職金減額や不支給の根拠規定について、「退職者の功績の度合いや非違行為の内容及び程度等に関する諸般の事情を総合的に勘案し、給与の後払的な性格や生活保障的な性格を踏まえても、当該退職者の勤続の功を抹消し又は減殺するに足りる事情があったと評価することができる場合に、退職手当支給制限処分をすることができる旨を規定したもの」としている点は、労働契約における退職金の判断や高裁の判断と大きな相違はありません。  しかしながら、本件が公務員に対する処分として行われているという特徴をふまえて、「退職手当支給制限処分が退職手当管理機関の裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、当該処分に係る判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に違法であると判断すべき」として、退職金の不支給が認められる余地を広げる判断をしています。そして、公務員であるという事情については、「本件非違行為は、公立学校に係る公務に対する信頼やその遂行に重大な影響や支障を及ぼすものであったといえる。さらに、県教委が、本件非違行為の前年、教職員による飲酒運転が相次いでいたことを受けて、複数回にわたり服務規律の確保を求める旨の通知等を発出するなどし、飲酒運転に対する懲戒処分につきより厳格に対応するなどといった注意喚起をしていたとの事情は、非違行為の抑止を図るなどの観点からも軽視し難い」と判断されており、公務員による飲酒運転の悪影響の重大性が加味されています。 3 裁判例からわかる留意事項  公務員に対する退職金の不支給に対する判断ではあるものの、退職金の性質やそれを減額などする場合の考慮については、同様の配慮がなされており、労働契約における退職金の不支給にも通ずる部分がある最高裁判例となっています。  高裁と最高裁で結論を分けた点は、退職金の性質以外に公務員であるという事情による影響を加味するか否かという点が大きかったように思われます。最高裁が重視したのは、公務員であるからその処分の判断基準に裁量の余地が広く認められうることと、「公務に対する信頼」という観点から飲酒運転という重大事故につながりかねない非違行為を重く見ることになったという点といえます。  当然ながら、通常の労働者においても飲酒運転やそれによる事故が許されるわけではありませんが、公務員と比較すると「公務に対する信頼」まで守る立場にはないことから、退職金の減額または不支給の程度にも差が出ることになるでしょう。  労働契約の場合には、高裁のように7割程度の減額という結論は、「公務に対する信頼」という要素を考慮しなくとも許容される可能性があると考えられますが、全額の不支給とするには、飲酒運転のみならず重大な事故も引き起こしていたり、「公務に対する信頼」に近いような要素を加味する必要がある自動車運転自体を事業とするような場合でなければならないと考えられます。 Q2 会社による人事評価の結果について違法性が問われることはありますか  人事評価により昇給に関する判断を行い、従業員に伝えたところ、人事評価に対して納得がいっていないようです。人事評価については会社が定める項目や基準に則して行っているかぎり、法的に問題はないでしょうか。 A  人事評価の内容については、会社の裁量が大きく、強行法規、就業規則および公序良俗に反しないかぎり、尊重されるべきとされており、著しく不合理でないかぎり違法とはなりません。 1 人事評価の法的な位置づけ  会社は、雇用する労働者に対する賞与の支給や昇給の際に、対象の労働者について一定の評価を行い、それを反映する形で賞与の支給額や昇給額を決定していきます。  その内容については、会社が求める人材のあり方や事業内容などに照らしてさまざまな項目や理由によって行われるものであり、さまざまな会社における共通の評価方法が確立しているわけではありません。  また、人事評価については、法律により直接規制されているものでもありません。間接的に、賃金の減額を行う場合などにはその理由や評価が適切であるか問題となることがありますが、人事評価制度自体が適切であるか否かということが問題にされることは多くありません。  しかしながら、人事評価に対して納得がいかない労働者も生じることはあり、その評価基準や評価方法が法律上問題となることがあります。 2 人事評価の違法性が争われた裁判例  東京地裁令和4年4月28日判決は、過去6期分(1年ごとに上期下期の合計3年分)にわたる人事評価について、本来A評価とされるべき項目がB評価であったことから賃金が低額となったとして、損害賠償を請求した事案です。  人事評価の仕組みは、図表にまとめた項目を含む合計21項目について、評価項目ごとにA、B、Cの評価がなされ、Aには5点、Bには3点、Cには0点が割り振られ、それらを合計することで評価点が算出されていました。  原告は、図表の@からCの項目について自らの評価に誤りがある(B評価ではなくA評価であるべき)と主張しました。なお、被告においては、上記の@からCの項目におけるA評価の割合はおおむね4分の1程度であり、多数の労働者はB評価とされていました。  人事評価の項目について、評価者が記録する「個人評価チェックシート」の記録や社員からの納得ができなかった場合の記録などに基づき、「個人評価項目着眼点・評価尺度」という書式に評価を記入して、結果をフィードバックすることになっていました。  裁判所は人事評価の内容決定については、「使用者の裁量的な判断に委ねられており、人事評価の適法性が争われた場合、使用者の裁量的な判断は尊重されるべきであり、その判断が上記の強行法規に反する場合や、就業規則などの労働契約の定めに照らして、是認される範囲を超え、著しく不合理であって濫用にわたると認められる場合でない限り、違法となることはない」として、使用者の広い裁量を認めました。  このような判断基準によれば、強行法規違反となる事情が認められることは少ないと思われるため、就業規則を遵守した評価であるかぎりは、著しく不合理な評価のみが違法になると考えられます。  このような基準に照らして判断された結果、@からCのいずれについても、使用者の人事評価の違法性は認められませんでした。  なお、原告は、被告から人事評価の理由の説明や指導がなかったことを理由に、人事評価の違法性を主張していましたが、裁判所は「どのような場面でどのような言葉かけでもって部下に対する注意指導を行うかについては、評価者である管理職に裁量があるといえるから…(中略)…、Aと評価することができない理由となる具体的事実の指摘を評価者が行わなかったからといって…(中略)…、直ちに違法となるものではない」と判断しており、人事評価の内容を詳細に説明したり、指導を継続することまでは求めていません。 3 人事評価における留意点  会社が人事評価を定めるにあたっては、事業内容や社内の課題克服に向けた方針なども影響するものであり、非常に個別性が高いといえます。そのため、人事評価の適切さに対して裁判所が過度に介入することが適切とはかぎらず、裁判例の示したような使用者に裁量の余地を広く認める判断基準にならざるを得ないでしょう。  注意が必要となるのは、就業規則に評価項目やその評価基準が定められている場合には、その範囲での裁量に限定されるという点です。また、一度定めた項目や基準を変更する場合には、就業規則の変更も必要になるでしょう。広範な裁量が認められるのは、就業規則に定められた文言から解釈できる範囲ということになるため、記載がない項目を加味したり、記載されていない事情を考慮して評価基準を拡張するようなことは許されないという点には留意する必要があります。  人事評価そのものの違法性が争われる事案は多くありませんが、実務的には裁判にまではならなくとも、どの程度までの裁量が許容されるのか判断することに悩む場面もあると思われますので、紹介した裁判例を参考に自社の人事評価をあらためて見直してみてください。 図表 当該裁判における評価項目と評価基準 項目 評価基準 @ 「応援」 業務繁忙時に必ず応援を行っている場合にはA、応援を行っている日がある場合にはB、応援を行っていない場合にはCとする A 「創意・工夫・提言」 支援の実効を上げるため、創意・工夫をして施策を立案・実施し、受持ちの実績向上に貢献した場合にはA、施策を実施したが、効果は不十分である場合にはB、施策を実施していない場合にはCとする B 「業務知識」 高度な業務知識を有している場合にはA、通常業務をこなすための業務知識を有している場合にはB、業務知識が不十分である場合にはCとする C 「苦情・賞賛」 賞賛があった場合にはA、賞賛と苦情があった、または何もなかった場合にはB、苦情があった場合にはCとする ※筆者作成 【P52-53】 “生涯現役”を支えるお仕事 第4回 再雇用でモチベーションもアップ! いきいきシニアの就業や学びを支援 公益財団法人いきいき埼玉 埼玉県シルバー人材センター連合 就業促進部就業促進課主任 岡野(おかの)功(いさお)さん  人生100年時代を迎え、多くの高齢者が長く働き続けることができるのは、高齢者の生涯現役を支えている人たちの活躍があるからともいえます。このコーナーでは、さまざまな分野や場面で働く高齢者、そして“生涯現役社会”を支えるお仕事をしている人々をご紹介します。  「人生100年時代」を見すえ、意欲に満ちたシニアに活躍の場、学びの場を提供している、「公益財団法人いきいき埼玉」。  今回は、同財団前身時代から約30年にわたり、生え抜きの職員として活躍する岡野功さんに、シニアの学び直しを応援する「埼玉未来大学」の取組みなど、生涯現役を支えるお仕事についてうかがいました。 「生きがいづくり」だけではない自立したシニアを伴走支援する大学 ―岡野さんは現在、いきいき埼玉・就業促進部就業促進課(埼玉県シルバー人材センター連合)の主任として、事業の普及啓発、運営に関する相談、就業開発などにたずさわっています。いまの仕事をするようになった経緯、おもな仕事内容などについて教えてください。 岡野 現在、埼玉県シルバー人材センター連合の拠点にもなっている「埼玉県県民活動総合センター」が全面オープンしたのが1991(平成3)年4月ですが、同センターを管理運営する新たな財団が創設された際、その財団職員の採用に応募したのがきっかけです。財団は2002年、同じ埼玉県出資法人の「財団法人埼玉県高齢者生きがい振興財団」と統合され、「財団法人いきいき埼玉」が設立されました。  前身の財団で、最初に配属されたのは視聴覚教材を作成する部署です。それから生涯学習の担当になり、県から委託されたリーダー養成講座のほか、生涯学習の趣味教養講座の企画などにもたずさわりました。私が20代から30代になるころでしたが、楽しい仕事でしたね。  その後は、施設の維持管理、NPO法人の企画相談、活動支援なども担当しました。キャリアとして一番長いのは、シルバー関連の業務です。45歳でこの業務に就いて以来ずっと、シルバーと大学関連の仕事をしてきました。 ―2020(令和2)年4月、50歳以上を対象とした学びの場「埼玉未来大学」が開校されましたが、どのような趣旨で創設されたのでしょうか。 岡野 埼玉未来大学のルーツは、1976(昭和51)年に県直営で創設された「埼玉県老人大学」にさかのぼります。同大学は、高齢者生きがい振興財団が事業を引き継ぎ、平成初頭に「彩(さい)の国いきがい大学」と名称変更されました。  彩の国いきがい大学には、一年制と二年制のカリキュラムがあり、総計4万人を超える卒業生を輩出しています。在学時の学生自治会を母体とした校友会などで、卒業後も、生涯学習や社会貢献活動などに取り組んでいます。  しかし時代も変わり、平成の終わりぐらいになってくると、シニアのニーズにマッチしない部分も出てきました。昭和50年代ごろのシニアというのは、戦後の混乱期を乗り越えて、社会を復興させてきた世代です。平均寿命はいまより短く、当時の大学設立の趣旨には、その世代の人たちが体験できなかった青春、キャンパスライフを味わってもらうという福祉的視点があったと思います。  しかし、いまでは、シニアのライフスタイルも変わり、自立して、価値観も多様化しています。大学もいつまでも、「生きがいづくり」、「仲間づくり」だけの場でよいのか、もっと現代社会とマッチしたカリキュラムを考えていくべきではないか、と見直しの機運が高まりました。  そうした背景もあって、埼玉未来大学が創設されることになったのです。見直しには、「リニューアルではなく、リボーンだ」、「生まれ変わるんだ」いう気概で取り組みました。 ―新大学の授業内容などについて、教えてください。 岡野 キーワードは「元気で自立した高齢者」です。例えば「地域創造科」では、NPOやボランティア活動など、自分が社会で役立つことをしたいという思いを持った人に集まってもらい、一人ひとりの思いを実現するための伴走支援をします。「コミュニティカフェをやりたい」、「観光ボランティアをしたい」など、具体的な目標を持っている人に向け、具体的なノウハウを学ぶことができる専門講座も開設しています。 シニアのバイタリティに刺激大切なのは「相手の立場で考える」こと ―シニアの学びや就業を支える仕事に長くたずさわってきて、やりがいや魅力を感じるのはどんなところでしょうか。 岡野 一概にシニアといっても、個人差は大きいですよね。能力の高いシニアは、非常に多いと思います。大学にも、カリスマ性にあふれ、仲間を集め、自分たちでやりたいことを立ち上げ、サークルやクラブ活動など諸活動の中心になるような人がたくさんいました。70歳、80歳を過ぎても、バイタリティのある人を見ると、大きな刺激を受けます。こんなふうな年のとり方ができれば、人生充実するのだろうなと考えますね。 ―仕事をしていくうえで、心がけていることはありますか。 岡野 どんな仕事であれ、相手の立場に立って考えることが一番大事だと思います。いま、「この人が何を望んでいるのか」を想像して、それを叶えてあげられるようにしたいと考えています。それは、顧客だけでなく、仕事仲間に対しても同じです。私は昨年4月に定年を迎えて、再雇用という形になって、いまは上司が自分に何を求めているか、わかる部分も多いので、相手の思いを汲んで、行動したいと思っています。  再雇用になると、モチベーションの維持がたいへんだと聞いていたのですが、私は逆に上がったと感じています。後輩を育てるのが楽しみの一つになっていますし、相談や研修の支援をしていて「ありがとう」、「助かりました」といってもらえることがうれしいです。役職に就いていると、褒められることはあまりないですからね。再雇用になって、たしかに給料は下がりましたが、仕事への意欲は給料だけではないのだなと、強く感じています。 ―シニアの学び、就業を支援する立場から、企業の経営者や人事担当者へのメッセージをお願いします。 岡野 シニアには、さまざまな技能を持つ人がいますし、何よりも、いまのシニアは元気です。年齢だけで線引きするのではなく、その人のできること、能力に目を向けてもらえれば、シルバーのみなさんの活躍する場所も、もっと増えるはずだと思っています。 (取材・沼野容子) 写真のキャプション 公益財団法人いきいき埼玉 埼玉県シルバー人材センター連合 就業促進部就業促進課主任の岡野功さん 【P54-55】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第44回 「フレックスタイム制」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、多様な働き方の実現に対して効果的な制度である、フレックスタイム制について取り上げます。 働く時間などを自ら自由に決定できる制度  フレックスタイム制の定義は、「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」(厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署)※1によると、「一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度」とあります。  フレックスタイム制について理解を進めるために、通常の労働時間の制度との比較で見ていきます。通常の労働時間の制度であれば、会社が業務の始業・終業時刻と休憩時間を就業規則で指定します。これにより適用労働者一律で一日に働くべき時間帯と労働時間が決定されます。一方、フレックスタイム制は、次の定められた@〜Eの条件内で労働者が出退勤時刻や働く長さを自ら自由に決定することができます。 @対象となる労働者の範囲・・・制度適用の対象者。全社・部門・個人単位のいずれも可 A清算期間・・・働くべき時間を管理・調整する期間。3カ月が上限※2 B総労働時間・・・清算期間中で定められた働くべき時間。労働基準法に定められた労働時間の上限である法定労働時間の総枠内で設定※3 C標準となる1日の労働時間・・・清算期間における総労働時間を期間中の所定労働日数(働くべきと定められた日数)で割ったもの Dコアタイム・・・必ず勤務しなければならない時間帯(設定は任意) Eフレキシブルタイム・・・いつ始業・終業してもよい時間帯(設定は任意)  なお、フレックスタイム制を導入するには、@〜Eの内容を、労使協定※4で締結し、就業規則に記載する必要があります(加えて、清算期間が1カ月を超える場合には、労使協定の所轄労働基準監督署長への届出が必要)。 フレックスタイム制の運用イメージ  この文章だけではフレックスタイム制の運用イメージがわきにくいと思いますので、図表を見ながら確認していきます。  まずは、1日の働き方ですが、(図表1)を見てください。コアタイムが10時から15時に設定されているため、この時間は必ず働いている必要があります。参加必須のミーティングなどを行う場合は、この時間中に行います。フレキシブルタイム時間内であれば、自由に業務開始・終了時刻を決められるため、少し早く業務終了したい場合は7時に業務開始して16時に終了(8時間労働)、朝と夕方に用事がある場合は10時に業務開始して15時に終了(4時間労働)というのも可能です。なお、コアタイムとフレキシブルタイムの設定は任意であるため、何時からでも自由に業務開始・終了できるスーパーフレックスタイム制度を導入している企業もあります。  次に、清算期間中の時間管理について、(図表2)を見てください。例えば、清算期間1カ月、総労働時間160時間とした場合、1日の労働時間が先述のように8時間や4時間とばらつきがあっても、1カ月単位で160時間の実労働時間を満たす必要があります。このため、1カ月の実労働時間が155時間だった場合には、5時間分を賃金から控除するか、次の清算期間の総労働時間に加算する必要があります。逆に実労働時間が185時間の場合は、25時間分の賃金を追加で支払う必要があります。フレックスタイム制の場合、法定労働時間の総枠を超えた分を時間外労働として扱います。よって、185時間働いた月の暦日が31日の場合は、185時間から総枠177.1時間を引いた7.9時間分を時間外手当(2割5分以上の割増賃金)として支払い、法定労働時間の総枠177.1時間から総労働時間160時間を引いた17.1時間分は時間に応じた賃金(割増賃金にしなくて可)を支払うことになります。 フレックスタイム制のメリットと留意点  フレックスタイム制は、働き方に関する本人の志向性や家庭の事情に応じて自由に労働時間が設定できるため、ワーク・ライフ・バランスの観点から労働者にとってのメリットは大きいといえます。また、企業側のメリットとして、通常の労働時間制であれば日によって業務の繁閑があっても、1日8時間・週40時間を超過した分は時間外労働として扱う必要がありましたが、フレックスタイム制では清算期間のなかで繁閑に応じて労働時間を調整してもらえばよいため、結果として時間外労働が削減されることがあげられます。また、柔軟な働き方をしたい労働者が増えているなか、人材採用や定着の面で有利になることもあげられます。  しかし、メリットは大きいフレックスタイム制ですが、顧客に対応する時間が固定されていて、かつ長時間にわたるなど自由に労働時間を設定するのがむずかしい職種や社員には適用できないという点に留意が必要です。  次回は、「春闘」について解説します。 ※1 https://www.mhlw.go.jp/content/001140964.pdf ※2 清算期間の上限は1カ月だったが、働き方改革促進の一環として2019(平成31)年4月施行の法改正により、上限は3カ月となった ※3 清算期間が1カ月で、暦日が28日の場合:160.0時間、29日の場合:165.7時間、30日の場合:171.4時間、31日の場合:177.1時間となる ※4 事業所ごとに労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは、労働者の過半数を代表する者と事業主との間で労働条件について定めた書面 図表1 コアタイム・フレキシブルタイムの設定の例 6:00 フレキシブルタイム いつ出社してもよい時間帯 10:00 コアタイム 必ず勤務しなければならない時間帯 12:00 休憩 13:00 コアタイム 15:00 フレキシブルタイム いつ退社してもよい時間帯 19:00 出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」 図表2 総労働時間を超過または不足した場合の賃金清算 ◆総労働時間を超過した場合 総労働時間 160時間 実労働時間 185時間 超過した時間分の賃金を追加して支払 ◆総労働時間に不足する場合 総労働時間 155時間 実労働時間 不足 @不足した時間分を賃金から控除 または A翌月の総労働時間に加算して労働させる(※) 不足 総労働時間 ※ただし、加算後の時間(総労働時間+前の清算期間における不足時間)は、法定労働時間の総枠の範囲内である必要があります。 出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」 ※吹き出しは筆者加工 【P56】 心に残る“あの作品”の高齢者  このコーナーでは、映画やドラマ、小説や演劇、音楽などに登場する高齢者に焦点をあて、高齢者雇用にかかわる方々がリレー方式で、「心に残るあの作品の高齢者」を綴ります 第10回 映画 『土を喰らう十二ヵ月』(2022年) 株式会社ウイル代表取締役、システムデザイン・マネジメント学博士 国家資格キャリアコンサルタント 奥山(おくやま)睦(むつみ)  『土を喰らう十二ヵ月』は、中江(なかえ)裕司(ゆうじ)監督が自ら脚本を書いて沢田(さわだ)研二(けんじ)を主演に映画化し、2022(令和4)年に公開されました。原案は水上(みずかみ)勉(つとむ)によるエッセイ「土を喰う日々―わが精進十二ヵ月―」(1982年、新潮文庫)です。  本作はツトム(沢田研二)の一人称の語りで描かれ、信州を舞台に一人暮らしの高齢男性の1年の暮らしぶりを追っています。作家のツトムは、畑で野菜を育てながら人里離れた信州の山荘で愛犬と暮らしています。13年前に亡くなった妻の遺骨を手元に置き、少年時代に禅寺で覚えた精進料理をもとに料理をする日々を送っています。料理の原稿を書き、時折、東京から訪ねてくる年の離れた恋人で編集者の真知子(松たか子)と一緒に料理を食べる時間が楽しみとして描かれています。  食材は、庭の畑や近くの山や川でとれた質素なものです。しかし、ていねいに時間をかけて食材が扱われ、豊かな食生活として描かれています。  前半は食べて、書いて、日々暮らしているツトムが描かれています。また真知子に結婚を申し込むという場面もあります。  そして、後半に大きな展開が訪れます。ツトムと同じく自然のなかで暮らし、妻亡き後もお世話になっていた近くに住む義母が突然逝去。葬儀後は、義妹夫婦から遺骨を押しつけられるという事態も発生します。  またツトムにも突然の病が襲い、心筋梗塞で倒れます。訪ねて来た真知子が見つけ、大事には至りませんでしたが、数日間生死の境を彷徨(さまよ)いました。  死の間際から目覚めた際の陽光の温かさ、自然の美しさ、そして食べ物の美味しさ。これが、「生きている」ことかという実感をツトムは再認識します。そして真知子が結婚の申し込みを受け入れたにもかかわらず断ります。後日、「私結婚することにした」といってツトムに別れを告げる真知子ですが、真偽のほどは明らかではありません。  精神科医のエリザベス・キューブラー・ロスは『死ぬ瞬間』(2001、中公文庫)で、死とは長い過程であって特定の瞬間ではないと説き、「死の受容」とは「長かった人生の最終段階」として、痛みも去り、闘争も終わり、感情もほとんど喪失し、患者はある種の安らぎをもって眠っている状態と説明しています。  ツトムが妻や義母の遺骨をずっと収められなかったのは、死に対してなんらかの「受け入れがたさ」があったからだと思われます。ラストでは2人の遺骨を手放し、また淡々と日々の暮らしを送る姿が描かれています。  生と死を受容してなお、これからも生きていこうとするツトムの姿は、ある種の人としての清々しささえ感じることができました。 『土を喰らう十二ヵ月』 監督・脚本:中江裕司 原案:水上勉 『土を喰う日々―わが精進十二ヵ月―』 (新潮文庫刊) 『土を喰ふ日々 わが精進十二ヵ月』(文化出版局刊) Blu-ray & DVD発売中 発売元:バップ ○C 2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会 【P57】 BOOKS 老化のしくみを知れば健康に長生きできる!健康に老いるヒントが満載 やさしくわかる!文系のための東大の先生が教える70歳の取扱説明書 飯島(いいじま)勝矢(かつや)監修/ニュートンプレス/1650円  健康に長生きするには、どうすればよいのだろうか。だれもが願う健康長寿の実現を目ざして、さまざまな分野で研究が行われている。  本書は、東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢機構長の監修により、最先端の老化研究からの科学的エビデンスをふまえながら、老化による体と心の変化のしくみや、老化との向き合い方、老化への対策を、生徒と先生の対話を通してやさしく解説する。健康的に老いるためのヒントや情報が満載である。  高齢者の労働災害や自宅での事故として増えている転倒は、筋力や身体機能の低下のみならず、自分の身体能力に対する主観と客観のズレが大きくかかわっている。そのズレを修正するためにも、日ごろから運動や外出をして、自分の身体能力を実感することが大事だという。  また、高齢者が精神的にも肉体的にも健康を保ち、生産的な活動によって社会に貢献することを意味する「プロダクティブ・エイジング」の実践のすすめやそのメリットにも触れている。  若い時期から健康について配慮したいことなどの情報もあり、幅広い世代にとって、また、高齢者とかかわることの多い職種や立場の人にとっても一読の価値があるだろう。 いつまで、どのように働くのか。自分らしく生きる定年後を迎えるために 1日1分読むだけで身につく定年前後の働き方大全100 佐佐木(ささき)由美子(ゆみこ)著/自由国民社/1760円  平均寿命が伸びて、人生が長期化している現代、定年はキャリアの通過点ともいわれるようになり、一つの道で生涯現役を目ざす人もいれば、定年退職を機に新たな仕事に挑戦する人、フリーランスに転じる人、仕事でつちかったスキルや経験を活かしてプロボノ活動をする人など、定年後の選択肢も多様になってきている。  本書は、定年前後の仕事とお金のこと、仕事と生活のこと、定年後の仕事の見つけ方、働き方と社会保険のしくみ、年金、公的な制度の活用法など、定年前から知っておきたい100項目を厳選して見開きでまとめ、イラストや図も使ってコンパクトに解説。いつまで、どのように働くのか。老後はいくら必要か。自分らしい定年後を考えるための情報やヒントが詰まった一冊となっている。気になる項目から拾い読みしても、知りたい情報を得ることができる。  著者は、開業して18年超の社会保険労務士であり、労働・社会保険や働き方の専門家。企業を通じて、従業員の入社から退職までさまざまな相談を受けてきた経験やノウハウを活かし、時代に即した情報をわかりやすく説いている。  定年後のことや、キャリアチェンジを意識し始めたミドル世代におすすめの良書である。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58】 ニュース ファイル NEWS FILE 厚生労働省 「第12回健康寿命をのばそう!アワード」  厚生労働省およびスポーツ庁は、第12回目となる「健康寿命をのばそう!アワード」において、生活習慣病予防分野で20企業・団体・自治体、介護予防・高齢者生活支援分野で16企業・団体・自治体の受賞を決定し発表した。同アワードは、右記の分野に関して優れた取組みを行っている企業などを表彰する制度。各分野の内容と今回の受賞企業・取組みタイトルなどは次の通り。 ●生活習慣病予防分野  従業員や職員、住民に対して、生活習慣病予防の啓発、健康増進のための優れた取組みをしている企業などから85件の応募があり、厚生労働大臣最優秀賞(山形県山形市「山形から全国モデルへ!進化を続けるSUKSK(スクスク)プロジェクト」)などを表彰した。 ●介護予防・高齢者生活支援分野  地域包括ケアシステムの構築に向け、地域の実情に応じた優れた取組みなどを行っている企業などから43件の応募があり、厚生労働大臣最優秀賞(熊本県高森町(たかもりまち)「健康寿命の延伸に向けた『通いの場』活性化支援」)などを表彰した。  受賞した企業などの取組みは、厚生労働省ホームページからダウンロードできる。 〈生活習慣病予防分野〉 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001174919.pdf 〈介護予防・高齢者生活支援分野〉 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001172474.pdf 厚生労働省 令和4年「派遣労働者実態調査」結果  厚生労働省は、令和4年「派遣労働者実態調査」の結果を公表した。調査は、規模5人以上の事業所約1万7000カ所とそこで働く派遣労働者約1万1000人を対象に2022年10月1日現在の状況について実施している。事業所調査の結果から、派遣労働者が就業している事業所の割合をみると12.3%となっており、前回調査(2017年12.7%)より0.4ポイント低下した。  派遣労働者が就業している事業所について、過去1年間に派遣労働者に対する教育訓練・能力開発を行った事業所は69.7%となっており、前回調査(同59.0%)より10.7ポイント上昇した。  派遣労働者調査の結果から、派遣労働者の年齢階級をみると、「45〜49歳」と「50〜54歳」が15.8%と最も高く、次いで「35〜39歳」14.0%となっている。60歳以上では、「60〜64歳」5.1%、「65歳以上」6.1%となっている。また、派遣労働者の平均年齢は44.3歳となっており、前回調査(同42.0歳)より2・3歳上昇した。  次に、賃金についてみると(時間給換算・階級別)、「1250円〜1500円未満」が27.8%と最も高く、次いで「1000円〜1250円未満」が27.1%。平均賃金額は1510円(前回調査1366円)となっている。今後の働き方に対する希望では、「派遣労働者以外の就業形態で働きたい」37.0%(同49.1%)、「派遣労働者として働きたい」34.2%(同26.7%)となっている。 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/haken/22/index.html 厚生労働省 令和5年度「安全優良職長厚生労働大臣顕彰」受賞者  厚生労働省は、2023(令和5)年度の「安全優良職長」として108人を決定し、2024年1月に開催した安全優良職長厚生労働大臣顕彰式典において顕彰した。  「安全優良職長厚生労働大臣顕彰」制度は、優れた技能と経験を有し、担当する現場または部署において優良な安全成績をあげた職長(事業場で部下の作業員を直接指揮監督し、作業の安全確保・遂行に責任を持ち、第一線において「安全」を実現する監督者。班長、作業長などとも呼ばれ、「安全のキーパーソン」といわれる)などを顕彰し、顕彰された職長などがより広く活躍できるよう支援を行い、事業場における安全活動の活性化を図ることなどを目的としている。  顕彰は、原則として次に掲げるすべての事項に該当することが条件となる。 1 職長等としての実務経験が10年以上であり、現在もその職務に就いていること。 2 職長等として担当した現場または部署において、顕彰年度の9月30日からさかのぼって過去5年以上、休業4日以上の災害が発生していない。 3 職務に必要な資格(免許、技能講習および特別教育)を有するとともに、能力向上教育等の各種安全衛生教育を十分に受講し、安全管理、作業指揮等の能力が優秀であると認められていること。 4 安全管理に関する部下の指導教育または安全管理に関する知識・技能の普及や継承について積極的に活動していること。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36691.html 【P59】 読者アンケート結果発表!! ご協力いただき、ありがとうございました  日ごろより『エルダー』をご愛読いただき、ありがとうございます。今年度実施した「読者アンケート」には、みなさまから多数のご意見・ご要望をいただきました。心よりお礼申し上げます。今号では、読者アンケートの結果の一部をご紹介いたします。今後の企画・編集の貴重な資料として活用させていただき、よりよい誌面づくりに努めてまいりますので、引き続きご愛読をよろしくお願いいたします。 (アンケート調査実施期間:通年、集計期間:2022年10月1日〜2023年9月30日) 参考になったコーナーとその理由 特集 ・つねに新しい取組みを紹介してくれるため。 ・他社事例を知ることができ、いつも勉強になる。 など 知っておきたい労働法Q&A ・難解な事象を、法に基づきわかりやすく解説している。 ・身近な問題を取り上げているので参考にしている。 など マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生! ・マンガで読みやすく事例を紹介していて参考になる。 ・実際に起こりうる(起こっている)テーマなので役に立つ。 など いまさら聞けない人事用語辞典 ・内容がタイムリーで正確。 ・基本用語の確認と人事関係者への説明資料として便利。 など リーダーズトーク ・シニア世代が考える方向性や未来が詳しく語られている。 など 高齢者の生き方・働き方 江戸から東京へ ・毎回機知に富んだ内容で楽しみ。目の前の現実の問題にどのように対処すべきか、普遍的な考え方を学んでいる。 など 高齢者の職場探訪 北から、南から ・さまざまな業種、大企業から中小企業まで各現場での多様な就労状況が紹介されているため。 など ご回答者の立場 (所属先を「民間企業」と答えた方のみ) 人事総務部門責任者・担当者 61.6% 経営者・取締役 (役員含) 25.8% その他 (一般社員など) 6.1% その他の管理監督者 (工場長、支店長、管理職など) 5.6% 無回答 1.0% 本誌に対する評価 非常に参考になる 32.0% 参考になる 59.3% あまり参考にならない 5.5% 参考にならない 1.6% 無回答 1.6% さらに充実を図ってほしいコーナーとその理由 ・〈知っておきたい労働法Q&A〉近年増加している、より身近なトラブル事例や問題を取り上げてほしい。 ・〈マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!〉とてもわかりやすいので、さらに時宜に叶った内容を希望。など 今後取り上げてほしい内容、ご意見、ご要望 ・60歳からの将来設計や50代半ばからの準備などについて。 ・高齢者のモチベーション向上に関する事例や、処遇改善事例。 ・会社規模に応じた具体的な取組み事例が知りたい。 ・中堅層や若年層への指導や伝承に関する具体的な取組み事例や、女性目線での記事。 など 興味・関心のあるテーマについては、JEED ホームページに掲載しているバックナンバーもご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/backnumber.html エルダー バックナンバー 検索 【P60】 次号予告 4月号 特集 心と体の「休養」を考える リーダーズトーク 林州代さん(株式会社村瀬鞄行 代表取締役社長) JEEDメールマガジン 好評配信中! 詳しくは JEED メルマガ 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み 株式会社労働調査会までご連絡ください。 電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方 雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方 Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人 100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 田村泰朗……太陽生命保険株式会社取締役専務執行役員 丸山美幸……社会保険労務士 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会理事長 六本良多……日本放送協会 メディア総局 第1制作センター(福祉)チーフ・プロデューサ 編集後記 ●今号の特集では、前号に続き、昨年開催された「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」の開催レポートをお届けしました。今回のテーマは「50歳からのキャリア開発・支援、リスキリング〜シニアの活躍に向けて(10月27日開催)」、「エイジレスな人材活用のための評価・賃金制度(11月1日開催)」です。60歳を超えた社員に、戦力として活躍し続けてもらうためにも、社員がモチベーション高く仕事に臨めるような制度を整えるとともに、50代のころから社員一人ひとりのキャリアを支援していくことの重要性がわかるお話が満載です。2月号でレポートした10月12日、19日開催分も含め、シンポジウムの動画のアーカイブ配信を行っておりますので、そちらもぜひご覧いただき、高齢者雇用の推進に役立てていただければ幸いです。 ●59ページでは読者アンケートにてお寄せいただいたご意見の一部をご紹介しています。ご協力いただきありがとうございました。引き続き、みなさまからのご意見・ご要望をお待ちしております。 読者アンケートにご協力をお願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 月刊エルダー3月号No.532 ●発行日−−令和6年3月1日(第46巻 第3号 通巻532号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 境伸栄 編集人−−企画部次長 中上英二 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL043(213)6216 FAX 043(213)6556 (企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.go.jp メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-985-9 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 童門冬二氏の「江戸から東京へ」連載終了のお知らせ 本誌2012年9月号からスタートし11年以上にわたり連載してきた、作家・童門冬二氏の「江戸から東京へ」を終了することとなりました。時代に生きた歴史の人物の生き様を、ユーモアとやさしさを交えながら伝えてくれた本連載。現代に生きる私たちを叱咤激励するエピソードとメッセージに溢れていました。編集部はもちろんのこと読者から人気のコーナーでもあり、好評の声を多くいただいておりました。童門先生、長きにわたり素敵な原稿を、本当にどうもありがとうございました。(編集部) 【P61-63】 技を支える vol.337 「七宝(しっぽう)」の伝統技法で透明感のある色彩を表現 七宝工(しっぽうこう) 畠山(はたけやま)弘(ひろし)さん(70歳) 「心がけているのは、白をきれいに出すこと。白は汚れが目立ちやすいため特にむずかしいのです。白がきれいに出せると、ほかの色を引き立てます」 美しい色を出すために釉薬(ゆうやく)の盛りと焼成をくり返す  金属製の土台にガラス質の絵の具である釉薬※を盛りつけて焼き上げることで、光沢のある色合いを施す伝統工芸「七宝(しっぽう)」。東京都は国内に数カ所ある七宝の産地の一つで、「東京七宝」の名称で東京都の伝統工芸品に指定されている。江戸時代、徳川幕府のお抱え七宝師として刀の装飾品などを手がけた平田(ひらた)彦四郎(ひこしろう)を源流とし、明治になり叙勲(じょくん)の勲章製作へと転換した。昭和期には校章・社章やメーカーのエンブレムなどが七宝で製作され、最盛期には60軒以上の工房があったが、その後、合成樹脂製品が普及したことで需要が減少。現在はわずか数軒となっている。  その一つが、東京都荒川区南千住(せんじゅ)にある畠山七宝製作所だ。二代目の畠山弘さんは、七宝製作の一連の技術に加えて、後述する「透胎(とうたい)七宝(しっぽう)」という高度な技術を有し、令和5年度「卓越した技能者(現代の名工)」に表彰された。  東京七宝の製作は、現在もほとんど手作業で行われている。まず、プレスされた金属の土台を空焼きして油を落とし、酸化膜を酸で洗いとる。また、釉薬を均一に盛るために、すりつぶして粒子を揃える。そして、土台の凹みに釉薬を盛りつけ、乾燥させた後に焼成し、酸で洗う工程を1色ずつくり返す。東京七宝は土台の凹みが0.4mmと浅く、異なる色の釉薬を一度に盛りつけると、色が混ざってしまうためだ。さらに畠山さんの工房では、気泡ができるのを防ぐため、一つの色を一度に盛って焼かず2回に分け、倍の手間をかけている。したがって、4色の製品であれば8回、8色の製品であれば16回焼成を行うことになる。美しい色を出すために手間を惜しまない姿勢がうかがえる。  「溝が浅いのが、東京七宝の特徴といえます。そのため最もむずかしいのが、最後の工程である研磨です。研ぐのは0.05mmで、それ以上研ぐと変色してしまいます。経験を重ねると、手の感覚で研ぎ加減をつかめるようになります」 透き通った色を表現する「透胎七宝」を独自に実現  畠山七宝製作所は、畠山さんの父が七宝焼きの修業を経て1951(昭和26)年に設立した。子どものころから父の手伝いを通して、「きれいでおもしろい」と七宝に魅力を感じていた畠山さんは、大学卒業後、父のもとで本格的に修業を始める。  「当時は仕事がたくさんあり、毎日夜11時ごろまで仕事をし、休みは日曜日だけという状況でした」  そのころは、依頼された記念品や記章などに指定された色を入れるのがおもな仕事だった。その後、そうした仕事が減少していくなかで、畠山さんはオリジナルデザインのアクセサリーづくりを始める。その過程で身につけたのが「透胎(とうたい)七宝(しっぽう)」(プリカジュール)という技法だ。一般的な七宝は土台の上に釉薬を盛りつけるが、透胎七宝は土台の穴の空いた部分に釉薬を盛ることで、ステンドグラスのように透き通った色を表現する。透胎七宝を量産できる職人は畠山さんだけといわれている。  「アクセサリー業者さんから依頼され、試行錯誤しながら独自の方法を編み出しました。治具を使わずに表面張力を利用し、焼き加減を調整しながら盛りと焼きを何度かくり返すことで実現しました」  飽きっぽい性格だが、成功するまで粘るのは好きだという畠山さん。製品を手にした人から「すごくきれい」といわれるのが一番うれしいそうだ。 技術を継承するとともに新たな作品への意欲も  一通りの技術を習得するには7~8年かかるという七宝。畠山さんは、伝統工芸技術の継承者育成を支援する荒川区の「匠育成事業」を利用し、後進の育成にも取り組んでいる。すでに一人の育成を終え、現在は娘さんが修業中で、さらに新たな弟子をとろうと考えている。  「最近は注文の仕事で忙しいので、もう少し自分の作品をつくりたいですね。手にした人が、楽しい気持ちになれるようなものがつくれたらと思います」 畠山七宝製作所 TEL:03(3801)4844 https://www.tokyo-shippou.com (撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) ※釉薬……ガラス質の膜をさし、別名「うわぐすり」とも呼ぶ 写真のキャプション 釉薬を盛った土台を800℃前後の炉で焼く。同じ色を2回、さらに異なる色ごとに釉薬を盛って焼き、酸洗いをくり返すことで、美しい色を生み出す 荒川区南千住にある畠山七宝製作所。父の代から70年以上の歴史を持つ 「これまで最も時間がかかった」という、葛飾北斎の浮世絵を模したエンブレム 工程のなかで最もむずかしいとされる研磨。このときは木枠にのせて研いでいたが、指輪などは直接手で持って研磨する 研磨する厚さはわずか0.05mm。手先の感覚を頼りに研いでいく 釉薬を盛りつけるやり方は、七宝が始まって以来変わらない。「ホセ」という竹製のヘラを使い、深さ0.4mmのわずかな凹みに釉薬を均一にのせていく アクセサリーの製作が多い畠山さんの工房では、約200色の釉薬を扱う 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  なかなかやる気が出ないときは、大脳基底核(だいのうきていかく)にあるやる気の中枢をなす線せん条じょう体たいや体を動かすことに関連する脳部位が活性化していません。そんなとき、「オノマトペ」を使うとこれらが活性化し、やる気が出ます。オノマトペを使ってみましょう。 第81回 目標3分 オノマトペ問題 自分の中でピタッとはまるオノマトペを考えてみましょう。次の文の「   」にオノマトペを入れてください。 ●「オノマトペ」とは擬声語、擬音語、擬態語を意味するフランス語で、自然界の音や声、物事の状態や動きなどを音おんで象徴的に表した言葉です。 例)自信をもって「スラスラ」話す @木の葉が「    」舞い落ちる Aご飯を「    」食べる B「    」な綿わた飴あめ C感動で「    」した D友達の話に「    」耳を傾ける E一日中、新宿を「    」していた Fテレビを観ながら「    」する G髪を切って「    」した H旅行の前夜は「    」して眠れなかった I親の言葉が「    」と胸に刺さる J「   」立ち上がる K「   」歩く L「   」起き上がる やる気を上げるコツ  例えば、「ウォーキングに行かないとなぁ」と思っているけれど、腰が浮かないときの脳を調べてみたとき、言げん語野(ごや)は活動しています。「行かないとなぁ」というフレーズがリフレインしているのでしょう。しかし、肝心の体を動かすのに関係する脳部位や、やる気の中核部位はほとんど活動していません。そのため、腰が浮かないのです。  このようなとき、「グッと立ち上がって」、「サッサと玄関に行き」、「ドカッと座って靴をはき」、「ガンガン歩く」、などと自分の行動をビデオのようにイメージしながら、「グッと」、「サッサと」などのオノマトペ(声や音、動作などを音声化した言葉)を使うと、体を動かすことに関連する脳の部位や、やる気に関連する脳の部位が活性化します。  そして、ウォーキング中や後に、「気持ちいいなぁ」、「あー楽しかった」、「よくがんばった」など声に出しておくと、やる気に関係する脳部位がだまされ、次回が始めやすくなります。ぜひお試しください。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【解答例】 ※解答例は一例になります @ひらひらAガツガツBふわふわ CウルウルDジーッとEウロウロ FゴロゴロGさっぱりHワクワク IチクリJすっくとKサッサか Lガバッと 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2024年3月1日現在 ホームページはこちら 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価503円(本体458円+税) 高年齢者活躍企業フォーラム 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム アーカイブ配信のご案内 高齢者雇用に取り組む、事業主や人事担当者のみなさまへ  2023(令和5)年10月に東京で開催された「高年齢者活躍企業フォーラム(高年齢者活躍企業コンテスト表彰式)」、同年10月〜11月に開催された「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」の模様をアーカイブ配信しています。  本年度は企業において高齢者の戦力化を図るために関心の高い「職場コミュニケーション」、「ウェルビーイング」、「キャリア・リスキリング」、「評価・賃金制度」をテーマとして開催しました。  各イベントの模様を、お手元の端末(パソコン、スマートフォンなど)でいつでもご覧いただけます。  学識経験者による講演、高齢者が活躍するための先進的な制度を設けている企業の事例発表・パネルディスカッションなどにより、高齢者が活躍できる環境整備の必要性や今後の高齢者雇用について考えるヒントがふんだんに詰まった最新イベントの様子を、ぜひご覧ください。 各回のプログラムの詳細については、当機構(JEED)ホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/index.html 視聴方法 当機構ホームページ(トップページ)から 機構について→広報活動(メルマガ・啓発誌・各種資料等)→YouTube動画(JEED CHANNEL)→「高齢者雇用(イベント・啓発活動)」からご視聴ください。 または jeed チャンネル 検索 https://youtube.com/@jeedchannel2135 お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)高齢者雇用推進・研究部 普及啓発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 https://www.jeed.go.jp/ 写真のキャプション 上:高年齢者活躍企業コンテスト表彰式の様子 下:シンポジウムの様子 2024 3 令和6年3月1日発行(毎月1回1日発行) 第46巻第3号通巻532号 〈発行〉独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 〈発売元〉労働調査会