“生涯現役”を支えるお仕事 第4回 再雇用でモチベーションもアップ! いきいきシニアの就業や学びを支援 公益財団法人いきいき埼玉 埼玉県シルバー人材センター連合 就業促進部就業促進課主任 岡野(おかの)功(いさお)さん  人生100年時代を迎え、多くの高齢者が長く働き続けることができるのは、高齢者の生涯現役を支えている人たちの活躍があるからともいえます。このコーナーでは、さまざまな分野や場面で働く高齢者、そして“生涯現役社会”を支えるお仕事をしている人々をご紹介します。  「人生100年時代」を見すえ、意欲に満ちたシニアに活躍の場、学びの場を提供している、「公益財団法人いきいき埼玉」。  今回は、同財団前身時代から約30年にわたり、生え抜きの職員として活躍する岡野功さんに、シニアの学び直しを応援する「埼玉未来大学」の取組みなど、生涯現役を支えるお仕事についてうかがいました。 「生きがいづくり」だけではない自立したシニアを伴走支援する大学 ―岡野さんは現在、いきいき埼玉・就業促進部就業促進課(埼玉県シルバー人材センター連合)の主任として、事業の普及啓発、運営に関する相談、就業開発などにたずさわっています。いまの仕事をするようになった経緯、おもな仕事内容などについて教えてください。 岡野 現在、埼玉県シルバー人材センター連合の拠点にもなっている「埼玉県県民活動総合センター」が全面オープンしたのが1991(平成3)年4月ですが、同センターを管理運営する新たな財団が創設された際、その財団職員の採用に応募したのがきっかけです。財団は2002年、同じ埼玉県出資法人の「財団法人埼玉県高齢者生きがい振興財団」と統合され、「財団法人いきいき埼玉」が設立されました。  前身の財団で、最初に配属されたのは視聴覚教材を作成する部署です。それから生涯学習の担当になり、県から委託されたリーダー養成講座のほか、生涯学習の趣味教養講座の企画などにもたずさわりました。私が20代から30代になるころでしたが、楽しい仕事でしたね。  その後は、施設の維持管理、NPO法人の企画相談、活動支援なども担当しました。キャリアとして一番長いのは、シルバー関連の業務です。45歳でこの業務に就いて以来ずっと、シルバーと大学関連の仕事をしてきました。 ―2020(令和2)年4月、50歳以上を対象とした学びの場「埼玉未来大学」が開校されましたが、どのような趣旨で創設されたのでしょうか。 岡野 埼玉未来大学のルーツは、1976(昭和51)年に県直営で創設された「埼玉県老人大学」にさかのぼります。同大学は、高齢者生きがい振興財団が事業を引き継ぎ、平成初頭に「彩(さい)の国いきがい大学」と名称変更されました。  彩の国いきがい大学には、一年制と二年制のカリキュラムがあり、総計4万人を超える卒業生を輩出しています。在学時の学生自治会を母体とした校友会などで、卒業後も、生涯学習や社会貢献活動などに取り組んでいます。  しかし時代も変わり、平成の終わりぐらいになってくると、シニアのニーズにマッチしない部分も出てきました。昭和50年代ごろのシニアというのは、戦後の混乱期を乗り越えて、社会を復興させてきた世代です。平均寿命はいまより短く、当時の大学設立の趣旨には、その世代の人たちが体験できなかった青春、キャンパスライフを味わってもらうという福祉的視点があったと思います。  しかし、いまでは、シニアのライフスタイルも変わり、自立して、価値観も多様化しています。大学もいつまでも、「生きがいづくり」、「仲間づくり」だけの場でよいのか、もっと現代社会とマッチしたカリキュラムを考えていくべきではないか、と見直しの機運が高まりました。  そうした背景もあって、埼玉未来大学が創設されることになったのです。見直しには、「リニューアルではなく、リボーンだ」、「生まれ変わるんだ」いう気概で取り組みました。 ―新大学の授業内容などについて、教えてください。 岡野 キーワードは「元気で自立した高齢者」です。例えば「地域創造科」では、NPOやボランティア活動など、自分が社会で役立つことをしたいという思いを持った人に集まってもらい、一人ひとりの思いを実現するための伴走支援をします。「コミュニティカフェをやりたい」、「観光ボランティアをしたい」など、具体的な目標を持っている人に向け、具体的なノウハウを学ぶことができる専門講座も開設しています。 シニアのバイタリティに刺激大切なのは「相手の立場で考える」こと ―シニアの学びや就業を支える仕事に長くたずさわってきて、やりがいや魅力を感じるのはどんなところでしょうか。 岡野 一概にシニアといっても、個人差は大きいですよね。能力の高いシニアは、非常に多いと思います。大学にも、カリスマ性にあふれ、仲間を集め、自分たちでやりたいことを立ち上げ、サークルやクラブ活動など諸活動の中心になるような人がたくさんいました。70歳、80歳を過ぎても、バイタリティのある人を見ると、大きな刺激を受けます。こんなふうな年のとり方ができれば、人生充実するのだろうなと考えますね。 ―仕事をしていくうえで、心がけていることはありますか。 岡野 どんな仕事であれ、相手の立場に立って考えることが一番大事だと思います。いま、「この人が何を望んでいるのか」を想像して、それを叶えてあげられるようにしたいと考えています。それは、顧客だけでなく、仕事仲間に対しても同じです。私は昨年4月に定年を迎えて、再雇用という形になって、いまは上司が自分に何を求めているか、わかる部分も多いので、相手の思いを汲んで、行動したいと思っています。  再雇用になると、モチベーションの維持がたいへんだと聞いていたのですが、私は逆に上がったと感じています。後輩を育てるのが楽しみの一つになっていますし、相談や研修の支援をしていて「ありがとう」、「助かりました」といってもらえることがうれしいです。役職に就いていると、褒められることはあまりないですからね。再雇用になって、たしかに給料は下がりましたが、仕事への意欲は給料だけではないのだなと、強く感じています。 ―シニアの学び、就業を支援する立場から、企業の経営者や人事担当者へのメッセージをお願いします。 岡野 シニアには、さまざまな技能を持つ人がいますし、何よりも、いまのシニアは元気です。年齢だけで線引きするのではなく、その人のできること、能力に目を向けてもらえれば、シルバーのみなさんの活躍する場所も、もっと増えるはずだと思っています。 (取材・沼野容子) 写真のキャプション 公益財団法人いきいき埼玉 埼玉県シルバー人材センター連合 就業促進部就業促進課主任の岡野功さん