いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第44回 「フレックスタイム制」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、多様な働き方の実現に対して効果的な制度である、フレックスタイム制について取り上げます。 働く時間などを自ら自由に決定できる制度  フレックスタイム制の定義は、「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」(厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署)※1によると、「一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度」とあります。  フレックスタイム制について理解を進めるために、通常の労働時間の制度との比較で見ていきます。通常の労働時間の制度であれば、会社が業務の始業・終業時刻と休憩時間を就業規則で指定します。これにより適用労働者一律で一日に働くべき時間帯と労働時間が決定されます。一方、フレックスタイム制は、次の定められた@〜Eの条件内で労働者が出退勤時刻や働く長さを自ら自由に決定することができます。 @対象となる労働者の範囲・・・制度適用の対象者。全社・部門・個人単位のいずれも可 A清算期間・・・働くべき時間を管理・調整する期間。3カ月が上限※2 B総労働時間・・・清算期間中で定められた働くべき時間。労働基準法に定められた労働時間の上限である法定労働時間の総枠内で設定※3 C標準となる1日の労働時間・・・清算期間における総労働時間を期間中の所定労働日数(働くべきと定められた日数)で割ったもの Dコアタイム・・・必ず勤務しなければならない時間帯(設定は任意) Eフレキシブルタイム・・・いつ始業・終業してもよい時間帯(設定は任意)  なお、フレックスタイム制を導入するには、@〜Eの内容を、労使協定※4で締結し、就業規則に記載する必要があります(加えて、清算期間が1カ月を超える場合には、労使協定の所轄労働基準監督署長への届出が必要)。 フレックスタイム制の運用イメージ  この文章だけではフレックスタイム制の運用イメージがわきにくいと思いますので、図表を見ながら確認していきます。  まずは、1日の働き方ですが、(図表1)を見てください。コアタイムが10時から15時に設定されているため、この時間は必ず働いている必要があります。参加必須のミーティングなどを行う場合は、この時間中に行います。フレキシブルタイム時間内であれば、自由に業務開始・終了時刻を決められるため、少し早く業務終了したい場合は7時に業務開始して16時に終了(8時間労働)、朝と夕方に用事がある場合は10時に業務開始して15時に終了(4時間労働)というのも可能です。なお、コアタイムとフレキシブルタイムの設定は任意であるため、何時からでも自由に業務開始・終了できるスーパーフレックスタイム制度を導入している企業もあります。  次に、清算期間中の時間管理について、(図表2)を見てください。例えば、清算期間1カ月、総労働時間160時間とした場合、1日の労働時間が先述のように8時間や4時間とばらつきがあっても、1カ月単位で160時間の実労働時間を満たす必要があります。このため、1カ月の実労働時間が155時間だった場合には、5時間分を賃金から控除するか、次の清算期間の総労働時間に加算する必要があります。逆に実労働時間が185時間の場合は、25時間分の賃金を追加で支払う必要があります。フレックスタイム制の場合、法定労働時間の総枠を超えた分を時間外労働として扱います。よって、185時間働いた月の暦日が31日の場合は、185時間から総枠177.1時間を引いた7.9時間分を時間外手当(2割5分以上の割増賃金)として支払い、法定労働時間の総枠177.1時間から総労働時間160時間を引いた17.1時間分は時間に応じた賃金(割増賃金にしなくて可)を支払うことになります。 フレックスタイム制のメリットと留意点  フレックスタイム制は、働き方に関する本人の志向性や家庭の事情に応じて自由に労働時間が設定できるため、ワーク・ライフ・バランスの観点から労働者にとってのメリットは大きいといえます。また、企業側のメリットとして、通常の労働時間制であれば日によって業務の繁閑があっても、1日8時間・週40時間を超過した分は時間外労働として扱う必要がありましたが、フレックスタイム制では清算期間のなかで繁閑に応じて労働時間を調整してもらえばよいため、結果として時間外労働が削減されることがあげられます。また、柔軟な働き方をしたい労働者が増えているなか、人材採用や定着の面で有利になることもあげられます。  しかし、メリットは大きいフレックスタイム制ですが、顧客に対応する時間が固定されていて、かつ長時間にわたるなど自由に労働時間を設定するのがむずかしい職種や社員には適用できないという点に留意が必要です。  次回は、「春闘」について解説します。 ※1 https://www.mhlw.go.jp/content/001140964.pdf ※2 清算期間の上限は1カ月だったが、働き方改革促進の一環として2019(平成31)年4月施行の法改正により、上限は3カ月となった ※3 清算期間が1カ月で、暦日が28日の場合:160.0時間、29日の場合:165.7時間、30日の場合:171.4時間、31日の場合:177.1時間となる ※4 事業所ごとに労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは、労働者の過半数を代表する者と事業主との間で労働条件について定めた書面 図表1 コアタイム・フレキシブルタイムの設定の例 6:00 フレキシブルタイム いつ出社してもよい時間帯 10:00 コアタイム 必ず勤務しなければならない時間帯 12:00 休憩 13:00 コアタイム 15:00 フレキシブルタイム いつ退社してもよい時間帯 19:00 出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」 図表2 総労働時間を超過または不足した場合の賃金清算 ◆総労働時間を超過した場合 総労働時間 160時間 実労働時間 185時間 超過した時間分の賃金を追加して支払 ◆総労働時間に不足する場合 総労働時間 155時間 実労働時間 不足 @不足した時間分を賃金から控除 または A翌月の総労働時間に加算して労働させる(※) 不足 総労働時間 ※ただし、加算後の時間(総労働時間+前の清算期間における不足時間)は、法定労働時間の総枠の範囲内である必要があります。 出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」 ※吹き出しは筆者加工