【表紙2】 高年齢者活躍企業事例サイトのご案内 ―高年齢者が活躍できる、これからの働き方― https://www.elder.jeed.go.jp 高年齢者雇用にまつわるさまざまな情報を発信しています! さまざまな条件で検索できる! 1 企業事例検索 高年齢者活躍企業コンテスト入賞事例のほか、定年年齢、継続雇用年齢、従業員規模、業種、地域、都道府県別検索やフリーワード検索ができます。 2 イベント情報 「高年齢者活躍企業フォーラム」など、高年齢者雇用に関するイベント情報を掲載します。 3 雇用力評価ツール 自社の高年齢者を活躍させる力(高齢者雇用力レベル)を診断することができます。 4 仕事生活チェックリスト 生涯現役で活躍するための仕事生活のチェックリストです。 ※ご利用は事前のお申込みが必要です 5 高齢者雇用に関する資料 高齢者雇用に関する研究報告書などが閲覧できます。 jeed elder 検索 【P1-4】 Leaders Talk No.108 進化を遂げるアシストスーツ健康で長く働き続けるために 一般社団法人アシストスーツ協会代表理事 飯田成晃さん いいだ・なるあき 医療商社での勤務を経て2016(平成28)年に株式会社ニットーに入社し、アルケリス事業部の立上げに従事。2020(令和2)年、アルケリス株式会社として分社化し取締役COOに就任。その後、2022年にアシストスーツ協会の設立と同時に代表理事へ。2023年、アシストスーツ協会の一般社団法人化を果たす。  作業時における体への負担を軽減する「アシストスーツ」。加齢とともに身体機能が低下していく高齢者にとっては、作業を補助する力強いツールであり、若手や中堅世代にとっても、腰痛などの発症を抑え、より長く働いていくための健康づくりに役立つことが期待されます。今回は、アシストスーツメーカー9社によって設立された、アシストスーツ協会代表理事の飯田成晃さんに、アシストスーツの現状や課題についてお話をうかがいました。 種類が豊富なアシストスーツ非電力外骨格タイプ、サポータータイプが主流に ―さまざまな種類のアシストスーツが、少しずつ普及してきました。貴協会の概要とともに、あらためてアシストスーツの機能について教えてください。 飯田 アシストスーツ協会は、2022(令和4)年に、元々懇意にしていた4社による任意団体として設立し、その後に加わったメーカーを含む計9社が参画して、2023年7月に一般社団法人化しました。  「アシストスーツ」と聞くと、モーターを搭載したスーツを着用し、人力を超えたパワーを生み出すもの、というイメージを持っている方が少なくないかもしれませんが、そのタイプの製品をつくっている会社は、当協会には1社もありません。現在は、外骨格で足や腰、腕を支え、身体の負荷を軽減するタイプのスーツが主流です。そのほか、素材の反発力や収縮力を活かしたサポータータイプのスーツもあり、さまざまな業界で使われています。  例えば、果樹栽培や電気工事など、上向き作業において肩や腰の負担を軽減する「上腕保持型」、重い荷物の運搬や上げ下げなどの作業での腰の負担を軽減する「腰部補助型」、検査や組立てなどの立ち仕事での足や腰の負担を軽減する「立位保持型」など、用途や姿勢に応じて、さまざまなタイプへと進化を遂げています。 ―飯田さんは、協会の代表理事を務める一方で、アルケリス株式会社の取締役COOでもあります。貴社では、どんなタイプのスーツを扱っているのでしょうか。 飯田 当社では、立位保持型のスーツ「アルケリス」を開発・販売しています。開発のきっかけはある医師からの声でした。「立ちっぱなしで長時間手術をすると、手術終了後も疲労感が残り、休みの日にはマッサージに通っている。この負担を軽減できないか」という相談があったのです。医師にとって最大の敵は、実は腰痛であり、腰痛を抱えて辞める医師も多いそうです。最近は若手の医師も減ってきており、むずかしい手術は経験豊富な50〜60代の医師に頼らざるを得ない状況となっていたことから、医療の現場を守るために、2014(平成26)年に開発プロジェクトがスタートしました。オフィス家具や自動車部品の金型製作を行っている中小企業「株式会社ニットー」が中心となり、トライアルアンドエラーを14回くり返し、2018年にようやく販売にこぎつけました※。  ただ、医療分野は未知の領域ですし、小さい会社なので大企業のように試作機を多くの人に試してもらう資金力もありません。そこで、学会や展示会に出展し、参加者に製品を試してもらいながら開発を進めることで、多くの人から意見やアイデアを募ると同時にプロモーション戦略としても展開しました。一方で、立ち仕事で疲れるのは医師だけにかぎったことではなく、工場などの製造現場で立って作業をしている人も多いですから、ターゲットを広げていくことも視野に入れて開発を進めました。 ―医師からの評判はどうでしたか。 飯田 脊椎関係の手術で高名な先生は「アルケリスがなかったら手術はしないよ」とまでいってくれていますし、多くの問合せをいただいています。ただ、医師から「助かる」という声をいただく一方で、保険適用の医療機器ではないため、医療機関が購入するハードルがものすごく高いのが現実です。しかし広い視野に立てば、医師が長く健康な状態で手術現場に立つことは、経営を助けることにもなります。専門職の医師が辞めてしまえば次の人をすぐに雇うこともむずかしいですし、そうした経営課題を認識している病院であれば導入しやすい面もあります。  最初の1年間は医療機関に特化して展開し、その後、製造現場や工事現場の警備員、農家などにも拡大していきました。大手の自動車メーカーやタイヤメーカーでは、検査工程に従事する人が利用しています。いまでは売上げのトップが製造業となっています。立ち仕事がつらいからと、いすに座れば作業効率は悪くなりますし、逆に座ることで前屈みの姿勢となり、腰痛を発症することもあります。あえていすを排除し、アルケリスを使っている工場もあります。 アシストスーツ体験会を通じてその機能や効果を実感できる場を提供 ―現在のアシストスーツの普及状況はどの程度なのでしょうか。 飯田 アシストスーツの市場規模は、民間調査機関の試算では25億円程度とされています。加盟各社の売上げはコロナ下では停滞ないし落ち込みましたが、その後、前年を上回る勢いで伸びています。  アシストスーツ協会としては、さらなる普及に向け、出張体験会の開催を中心に活動を展開しています。2023年だけで全国で40回以上実施しました。協会立ち上げ時からの方針ですが、アシストスーツの利便性は、やはり試してもらわないとわかりません。写真を見ただけでは、体のどの部分が楽になるのか、絶対にわかりませんし、着用してはじめて「腰や腕が楽になる」、「想像していたところと違うところが楽ですね」などと実感してもらえます。  また、他社の製品との比較ができないと、なかなか購入を検討してもらえません。これまでは、アシストスーツメーカーが個々に農業関係の展示会などに出展していましたが、アシストスーツ以外も展示されている広い会場のなかで、他社製品と比較するのはむずかしいのです。ユーザーに選んでもらううえでもっとも大切なことは、体験し比較してもらうこと。それが協会として果たすべき役割でもあります。 ―取組みの効果はいかがでしょうか。 飯田 家業であるぶどう栽培を継いだある方は、剪定や袋がけ、収穫など、腕を上にあげて行う立ち仕事が多く、10分ほど作業をするだけで、腕が疲れてしまい、1日中作業をしても、実質的な作業時間は半日程度になってしまっていたそうです。そこで、上腕保持型のアシストスーツと立位保持型のアシストスーツの2種類を使い始めたところ、1日中作業ができるようになり、作業効率が大きく向上したそうです。「先代が負荷の強い作業を続けて、大変な思いをしているのを見てきたので、自分は健康で長く働き続けたい」と、いまも2種類のスーツを使っています。  このように、上腕保持型、立位保持型の2種類のスーツの併用で高い効果が生まれている一方で、例えば収穫したものを持ち運ぶ場合は、腰部補助型のスーツが最適です。つまり、同じ業種でも仕事の内容によって体に負担のかかる部位が異なれば、使うアシストスーツも変わってきます。それを実感してもらうには、やはり体験することが大切なのです。協会が行っている出張体験会は、基本的に報酬をいただくことはありません。交通費をいただく場合もありますが、場所を提供してもらえれば出張して開催しますので、興味のある方はぜひお問い合わせください。 体の負荷を減らすことができれば長く健康に働くことにつながる ―アシストスーツは、働く高齢者の負担軽減という視点からも期待が集まります。高齢者による活用状況はいかがでしょうか。 飯田 アシストスーツは、中小企業を中心に、若い方から高齢者まで幅広く使ってもらっていますが、実際に「使いたい」という声は、高齢者よりも若い人が多いですね。高齢者のなかには「いままでの仕事のやり方を変えたくない」という意見もあり、アシストスーツを着けることに対する抵抗感もあるようです。  体験会でも実際に試して、購入するのは若い男性が多いです。その便利さを実感することができれば、利用者は広がっていくと思うので、いかにその便利さを伝えていくかが課題になっています。 ―「高齢者が抵抗感を感じている」というのは意外でした。高齢者のなかには足腰が弱くなったので引退したい、という人もいます。企業にとっては健康で長く働いてもらうには有効なツールだと思います。 飯田 「もし腰痛がなかったら、もっと長く働けていたかもしれない」と感じている高齢者の方は多いと思います。協会に加盟する9社のアシストスーツにはさまざまな種類がありますが、共通しているのは腰のサポートです。実際に、腰痛を抱えながら働いている人は大勢いらっしゃいます。腰痛になると作業効率も落ちますし、休みが必要になることもあるでしょう。場合によっては腰痛対策のためのコストもかかります。なにより年齢を重ねてもいつまでも元気で過ごすには、勤務中の負荷をどう減らしていくかが大切です。アシストスーツは体への負担を減らし、健康寿命の延伸や長く働き続けるために有効なツールです。導入することで働く人たちの健康を守り、それが楽しく暮らしていくことにつながると信じています。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) ※ アルケリス株式会社は、「アルケリス」の企画・開発・販売を行う会社として2020年に設立 【もくじ】 ●表紙のオブジェ KAWANO Ryuji 2024 May No.534 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 特集 6 シニアの活き活き職場づくり−安全・健康確保を進めよう− 7 解説@ 高齢者の労働災害防止対策・安全確保に向けて 独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 特任研究員 高木元也 11 解説A 高齢労働者の健康づくりに向けて 一般社団法人働く人の健康と安全を守る会 会長 高野賢一郎 15 事例@ 日産自動車九州株式会社(福岡県苅田町) エルゴノミクスの視点を加え多様な人財が活躍できる環境を目ざす 19 事例A 株式会社サッポロライオン(東京都中央区) 60歳以上対象に「健康チェック」を毎年実施 元気に長く働く身体づくりを企業がフォローアップ 23 事例B 公益財団法人福岡労働衛生研究所(福岡県福岡市) 50歳以上の職員にエイジフレンドリー測定を実施 オリジナル職場体操も習慣に 27 コラム 働く男性と更年期 花王株式会社 コンシューマーインテリジェンス室 1 リーダーズトーク No.108 一般社団法人アシストスーツ協会 代表理事 飯田成晃さん 進化を遂げるアシストスーツ健康で長く働き続けるために 28 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 突撃!エルダ先生が行く!ユニーク企業調査隊 《第2回》 株式会社サタケ 高齢従業員が、出産・育児を手助け! 「イクじい・イクばあ休暇」で自身もリフレッシュ 34 高齢者の職場探訪 北から、南から 第143回 青森県 株式会社丸英でんき 38 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第93回 株式会社マイスター60シニアビジネス事業部 丸山猛さん(67歳) 40 新連載 学び直し$謳i企業に聞く! 【第1回】 株式会社グローバルクリーン 44 知っておきたい労働法Q&A《第72回》 定年後の雇用継続、残業命令とパワハラ該当性 家永勲 48 “生涯現役”を支えるお仕事 【最終回】 研修実施件数トップ! 「プラスワン」のアドバイスで生涯現役への意欲を引き出す 70歳雇用推進プランナー 特定社会保険労務士 齋藤敬コさん 50 いまさら聞けない人事用語辞典 第46回 「ウェルビーイング」 吉岡利之 52 日本史にみる長寿食 vol.366 体の老化を防ぐモズク 永山久夫 53 心に残る“あの作品”の高齢者 【最終回】マンガ 『総務部総務課山口六平太』 (作/林律雄、画/高井研一郎) 東京学芸大学 名誉教授 内田賢 54 労務資料 第18回中高年者縦断調査 (中高年者の生活に関する継続調査)の概況 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.339 石材を扱う総合力で墓石から記念碑まで施工 石工 秋山十三男さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第83回] 漢字ストループ 篠原菊紀 【P6】 特集 シニアの活き活き職場づくり −安全・健康確保を進めよう−  70歳就業時代を迎え、高齢者がより長く働ける環境の整備が求められている一方で、考慮しなければいけないのが、加齢による身体機能の低下です。身体機能の低下は、労働災害が発生するリスクを高めるとともに、重症化・長期化のリスクも高まります。  そこで重要なのが、職場における安全対策と、高齢者自身の健康確保の取組みです。身体機能の低下を考慮した職場の環境改善、適切な運動などによる身体機能の維持・向上に取り組み、高齢者が活き活き働ける職場づくりを進めましょう。 【P7-10】 解説1 高齢者の労働災害防止対策・安全確保に向けて 独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所特任研究員 高木元也 1 はじめに  高齢者の労働災害発生率は高く、そのなかで最も多いのは転倒災害です。加齢にともないバランス感覚、敏捷性(びんしょうせい)などが低下している高齢者は、転倒しやすく、転倒すると受け身の体勢がとれず重篤な災害につながることが少なくありません。  本稿では、転倒災害の特徴、転倒災害の原因と対策、心理的・身体的要因をふまえた対策などについて紹介します。 2 転倒災害の特徴  厚生労働省では、転倒災害の分析などを基に、以下の通り、転倒災害の特徴をあげています。 特徴1 高齢者は転倒災害リスクが高い  高齢者ほど転倒災害のリスクが増加し、55歳以上では55歳未満と比較しリスクが約3倍に増加します。 特徴2 50代・60代の女性の発生率が高い  転倒災害の男女別年齢別の発生割合をみると、50代・60代の女性の発生割合が高くなっています(図表1)。 特徴3 休業1カ月以上が約6割を占める  転倒災害による休業期間は約6割が1カ月以上となっています。 特徴4 雪国で数多く発生  雪の多い地域では、降雪・凍結等に起因した転倒災害が多発しています。 3 転倒災害の原因と対策  厚生労働省は、転倒災害防止施策として、2015(平成27)年から「STOP!転倒災害プロジェクト」を推進しています。そこでは、転倒災害のおもな原因と対策のポイントを次の通り紹介しています。 (1)転倒災害のおもな原因  転倒災害のおもなタイプには、滑り、つまずき、ふみ外し(階段等)の三つがあり、それぞれのおもな発生原因は以下の通りです(厚生労働省「STOP!転倒災害プロジェクト」資料より)。 ■滑り ・床が滑りやすい素材である ・床に水や油が飛散している ・ビニールや紙など、滑りやすい異物が床に落ちている ・路面などが凍結している ■つまずき ・床に凹凸や段差がある ・床に荷物や商品などが放置されている ■ふみ外し ・大きな荷物を抱えるなど、足元が見えない状態で作業をしている (2)転倒災害防止対策のポイント  転倒災害防止対策のポイントを以下に示します。転倒災害の防止を推進すれば、安心して作業が行えるようになり作業効率の向上につながります(厚生労働省「STOP!転倒災害プロジェクト」資料より)。 ■危険源の除去 ・床面の凹凸、段差の解消 ・滑りにくい床材の採用 ■整理・整頓・清掃・清潔 ・歩行場所に物を放置しない ・床面の汚れ(水、油、粉など)を取り除く ■転倒しにくい作業方法 ・時間の余裕を持って行動 ・滑りやすい場所では小さな歩幅で歩行 ・足元が見えにくい状態で作業しない ■その他 ・移動や作業に適した靴の着用 ・職場の危険マップの作成による危険情報の共有 ・転倒危険場所にステッカーなどで注意喚起 4 心理的・身体的要因をふまえる  現在、職場の転倒防止対策は、段差や汚れの除去などハード対策が中心ですが、今後は、これに加え労働者一人ひとりの心理的・身体的要因をふまえた対策が求められます。 (1)心理的要因の対策事例(アメリカ)  労働災害につながる心理的要因には、焦り、イライラ、漫然などがあげられますが、以下に、アメリカの事例を紹介します。  Sylvestreは、2008年のヒューマンエラーに関する研究において、「人がミスをする原因は何であろうか? いろいろあるだろう。2万人に聞いたところ、1位は『焦り(rushing)』で80%を占めた。次いで『疲労(fatigue)』、『イライラ(frustration)』、『漫然(complacency)』が上位を占めた」と述べています。このうち、焦り、イライラ、漫然は心理的リスク、疲労は身体的リスクです。これら行動上の問題となる四つのリスクは、ほかにも数多くの論文で言及されています。  また、センチネル・レストラン協会の会報には、「従業員の行動上の問題は、職場の生産性と安全性に悪影響を与える。この行動上の問題には、漫然、疲労、イライラ、焦り、ストレスなどがあります。これらの問題に対処することで、生産性と安全性をより効果的に管理できる」と述べられています。ここでは、先述の四つに「ストレス」を加えています。  そのほか、ミシガン州の管理部門は、STF(Slips, Trips, and Fall:転倒・転落)防止のため、従業員の行動上の問題として、漫然、疲労、イライラ、焦りの四つのリスクを掲げ、それぞれポスターを作成しています。 (2)身体的要因の対策事例 ■体力チェック事例  身体的要因を明らかにするには、事業場で働く人一人ひとりの体力チェックを行うことが必要です。 ・中央労働災害防止協会「転倒等リスク評価セルフチェック票」  中央労働災害防止協会では「転倒等リスク評価セルフチェック票」を開発しています。これは、転倒等リスクに対する客観評価(体力チェック)と主観評価(質問票)を比べることにより、転倒等リスクの危険度を測るものです。体力が衰えているにもかかわらず、若い者には負けないと無理をする人は転倒等リスクが高くなりますが、このような人を見出し、転倒等リスクの高さに気づかせ、自覚をうながし慎重な行動に努めさせるものです。  体力チェックには、2ステップテスト(歩行能力・筋力)、座位ステッピングテスト(敏捷性)、ファンクショナルリーチ(動的バランス)、閉眼片足立ちテスト(静的バランス)、開眼片足立ちテスト(静的バランス)があります。 ■転倒予防体操事例  転倒災害は、身体のバランスの悪さ、脚筋力の低下、股関節の柔軟性の低下などが関係しますが、それらを改善するため、現在、さまざまな転倒予防体操が開発されています。ここでは、JFEスチール株式会社の「アクティブ体操○R」(★)を紹介します。  JFEスチール株式会社西日本製鉄所では、高齢になっても安全で健康に働くために必要な体力を「安全体力○R」(★)と名づけ、「安全体力」機能テスト(測定ツール)を開発しました。転倒、腰痛、ハンドリングミスの三つのリスクを七つのテストでチェックし5段階で評価。評価1、2になった「安全体力」の低い者には自覚をうながし、改善意欲を高めさせています。2014年、40歳以上の健診対象者(1703人)に転倒の有無をアンケート調査した結果、転倒経験者(159人)は、非経験者より転倒リスクのテスト3項目の評価2以下の割合が高い結果となりました。この結果を基に「安全体力」を一定の水準に維持するため、毎日実施する二つの職場体操を開発しました。 ・「アクティブ体操」PART1(筋骨格系疾患対策)※1  腰痛などの筋骨格系疾患対策用の体操(10種目)です。種目は、作業中に負担になりやすい部位を対象に構成されています。 ・「アクティブ体操」PART2(転倒予防対策)※2  高齢者に多い転倒しやすい姿勢「背中が丸く骨盤が後傾し、股関節が開かず足首が固い」の改善を目的とした運動で構成されています(10種目)。  これらの体操を継続的に実施することにより、筋骨格系疾患による休業日数が減少し、50歳以上の転倒災害発生件数も減少傾向にあることが発表されています。 ■高齢者向け安全対策製品事例  高齢者の労働災害防止をビジネスチャンスととらえ、民間企業では、新しい製品が次々と開発されています。ここでは、マイクロストーン社が開発した、歩行時の身体を計測し転倒につながる身体のゆがみを見つけ、身体トレーニングによりゆがみを是正し転倒を予防する製品「THE WALKING○R」(★)、トータルブレインケア社が開発した、仕事の合間にウェブ上で簡単なゲームを行うことにより注意力などの認知機能の低下を測り気づきをうながす製品「CogEvo○R」(★)を紹介します。 ・転倒リスク歩行健診システム「THE WALKING」(図表2)  転倒リスク歩行健診システム「THE WALKING」は、背中と腰の2カ所にモーションセンサーがついたハーネスを着用し、10mほどの歩行を分析することにより、歩き方、身体の使い方の個性(クセ)を評価し、改善策を提示する機器です。  THE WALKINGの基本技術は、リハビリテーションや人間ドックの現場で理学療法士により10年来活用されてきており、そこでつちかわれた歩行改善のノウハウ(歩く際の注意点やおすすめの体操)が歩行特徴に応じて提示されます。また、歩行特徴の転倒しやすさをAIが評価し、「転倒スコア」や「注意が必要な転倒の種類」(ふらつき、つまずき、滑り)を表示し注意がうながされます。  歩行特徴は身体機能の向上にともない改善可能であることもわかっており、歩行計測結果に応じて指定される運動に2〜4カ月間取り組むことで、歩行フォームの左右対称性などが改善することや、2ステップテストなどの中央労働災害防止協会「転倒等リスク評価セルフチェック票」にも用いられる身体機能評価の結果が向上することが同社と自治体の共同調査や、厚生労働省「令和2年度高年齢労働者安全衛生対策実証等事業」においても実証されています(実証番号2020−05)。 ・脳体力トレーナー「CogEvo(コグエボ)」(図表3)  脳体力トレーナー「CogEvo」は、慢性的な睡眠不足や高ストレスの状態が続くと脳が疲れ(認知機能の低下)、それが転倒災害などにつながるおそれがあることから、タブレットやスマートフォンなどを用いて12種のタスク(ゲーム)をすることで、仕事中など日常の過度なストレス・疲労・睡眠不足・加齢などによる認知機能の変化を「注意力」、「記憶力」、「計画力」、「空間認識力」、「見当識」の5側面でチェックします。CogEvoを実施することで、先の五つの側面について3カ月前との比較ができ、トレンドグラフなどにおいて評価することができます。  例えば、労働者の「空間認識力」と「注意力」が低下していると転倒災害につながります。CogEvoを実施することにより、労働者の認知機能の特性をとらえることができ、注意力が低値の労働者は、注意力の低下を防ぐために休憩間隔を見直すなど、年齢による作業制限をするのではなく、労働者の認知機能の特性に応じた労働災害防止に役立てることができます。 5 おわりに  高齢になると心身機能、健康状態の個人差が拡大します。事業者はこのことをふまえ、厚生労働省のエイジフレンドリーガイドラインが示す通り、高齢者一人ひとりの体力や健康状況を把握し、それに基づき的確な対応をすることが求められます。体力チェックにより、体力の低下が認められれば、そのことを十分に自覚させ慎重な行動に努めさせることが、労働災害防止には重要になります。  ただ、現状、そのような取組みを行っている事業場は少ないことが予想され、人生100年時代に向けた今後の大きな課題といえます。 ※1 https://www.youtube.com/watch?v=KPxt7vyQ6Zo ※2 https://www.youtube.com/watch?v=LEr6r1Mxgu8 ★「アクティブ体操○R」、「安全体力○R」はJFEスチール株式会社の登録商標です ★「THE WALKING○R」はマイクロストーン株式会社の登録商標です ★「CogEvo○R」は株式会社トータルブレインケアの登録商標です 図表1 転倒災害の男女別年齢別の発生割合 出典:中央労働災害防止協会『エイジアクション100』 図表2 マイクロストーン社「THE WALKING○R」 (転倒リスク歩行健診システム)の診断画面 資料提供:マイクロストーン株式会社 図表3 トータルブレインケア社「CogEvo○R」 作成:株式会社トータルブレインケア 【P11-14】 解説2 高齢労働者の健康づくりに向けて 一般社団法人働く人の健康と安全を守る会会長 高野賢一郎 1 はじめに  本邦では70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となるなど、60歳、65歳を超えて働くことがあたり前になりつつあります。世界のどの国も経験したことのないほどの少子高齢化が進み、企業においても高齢労働者の転倒や腰痛などの労働災害が増えてきています。放っておけば、これから悪化の一途をたどっていくことが予想されます。つまり、現代社会においては、どの業種・企業においても従業員の高齢化にともない増加する転倒や腰痛などの労働災害防止対策が必要なのです。ご存知のように高齢になるにつれ体力や感覚が低下しますが、多くの従業員は自身の変化に気づけず、無理な働き方をしています。しかし、彼らにはその意識は薄く、いつまでも若いときのように仕事を進めてしまうようです。労働災害防止のためには、自身の体力低下に気づいてもらうことが重要です。 2 労働衛生の3管理  一般的に労働災害防止と生産性向上のために労働衛生の3管理(健康管理、作業管理、作業環境管理)がありますが、本稿では、読者のみなさんの会社において高齢労働者が長く安全に働くことができるための健康管理(体力や感覚の低下に気づかせる従業員の運動機能のチェックおよび対策)をご紹介します。高齢労働者の特性を知り、従業員らにとって効果が高く、取り組みやすい対策から実践していきましょう。 3 高齢労働者の特性  一般的な高齢労働者の特性として、視覚や聴覚の低下、体力の低下、そして認知機能の低下があります。  視覚の低下としては、距離に応じてピントを調節する能力の低下、視野中心の左右領域を識別する能力の低下、モノを正確に識別する能力の低下、距離を把握する能力の低下、そして明暗の順応力の低下があります。これらの対策として、暗い場所をつくらない、標識には大きな活字を使用する、危険個所には目立つ標識をつけ、ブザーなど音でも示す、PCモニターの解像度を高くし、画面を大きくする、そしてコンピューター作業に適したメガネを使用するなどがあります。  聴覚も低下します。特に高音ほど聞こえないなどの悪影響があります。これらの対策として、危険個所には目立つ標識を示し大きなブザー音で知らせる、外部の騒音を遮断またはできるだけ最小限に抑えることなどがあるでしょう。  身体能力の低下としては、平衡性、敏捷性、柔軟性、持久力が低下することと、それらのことに気づきにくいということがあげられます。もちろん加齢にともない、変形性関節症、糖尿病、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)などでますます低下することもありますし、体内の水分保持の比率が下がり、熱中症になりやすいことなどもあげられます。また身体の機能が低下しても働き方を変えようとしない者が多いのも事実です。これらの対策として、現在の体力を認識してもらい、改善をうながすなどの健康管理が重要です。そして作業スケジュールに休憩や体操を組み込むことも必要でしょう。  こうした変化をふまえ、労働衛生の3管理をスムーズに成功させるには、いくつかの注意が必要です。  まず、事業所のトップから対策の実践を宣言してもらうことです。経営者や管理者は、高齢化は事業所の危機だということを認識すべきです。だれもが老いるのですからすべての事業所に通ずることです。危機感を抱いて、経営者らが「会社の安全・健康」を宣言しないと従業員はついてきません。高齢者の特性を理解し、生活習慣病予防の取組みや働きやすい環境を整備するなどの対策をするべきです。このように経営や健康管理のトップが宣言するところから改善が始まると考えています。  図表1は、年齢別・男女別の労働災害発生率を示したものです。60歳以上の労働災害発生率は、30代と比較すると男性では約2倍、女性では約4倍となっていることがわかります。  しかし多くの高齢労働者は、健康に向けて行動を変えようとしません。自身は若いときと変わりなく健康だと思っている者が多く、いつの間にか体力や感覚機能が低下していることに気づいておらず、体力向上や働き方を変えようと思っている者は少ないのです。そんな高齢労働者に自身の体力低下を気づかせることは重要です。自身の体力を正しく認識し、改善のための努力をして、できる仕事を無理のない範囲、ペースで実施していくこと、きちんと休憩や睡眠を確保することが、労働災害の予防として大切なのです。 4 体力テストと改善の方法  今回は、手軽にできる四つの体力テストと結果の見方、そして改善の方法を紹介します。 ■平衡性/閉眼片足立ちテスト(図表2)  両手を腰にあて、片脚を上げます。浮かせた足を軸足にあててはダメです。手が離れたり、軸足が動いたりしたらアウトです。はじめは、開眼で15秒間実施し、次に目をつぶって実施します。  最初に実施してほしいテストがこの平衡性のテスト(閉眼片足立ち)です。開眼のテストも実施する理由は、目に頼っていることに気づかせるためです。加齢にともない、開眼片足立ちはできるのに目を閉じたとたんにふらつきが大きくなるのです。暗い作業場では、ふらつきやすいことが想像できると思います。20代、30代、40代、50代、60代、D(Danger)と分けていますが、Dとなった方は能力改善トレーニングが必要です。平衡性、敏捷性、柔軟性、そして筋力など種々の体力がありますが、20歳を1とした場合、加齢とともにそれぞれ低下し、もっとも低下するのが平衡性で、もっとも気づきにくいようです。それまでできていたことが、いつの間にかできなくなっていることに驚く人も少なくないようです。  平衡性が不良な人は、たいてい身体の重心が後方(踵荷重)となっており、お腹に力が入っていません。平衡性の改善のために、毎日、閉眼片足立ちを実施させましょう。その際、重心をつま先寄りにして、下腹に力を入れて、延べ60秒間の閉眼片足立ちを継続していれば改善します。  平衡性を高めるためには身体の重心をコントロールすることが必要です。また体の中は液体のようなものです。液体は重心が見つけにくいので、圧力をかけて体を安定させることが必要です。圧力をかけるには腹筋ですね。腹筋には腹直筋、腹斜筋、腹横筋があります。特に腹圧を高める腹横筋が重要です。平衡性の不良な人、腰痛を訴える人の腹横筋には、ほぼ力が入っていません。下腹に軽く力を入れ続けることを励行することで腰が安定して平衡性が向上します。 ■敏捷性/座位ステッピングテスト(図表3)  肩幅ほどの線の内側に両足をそろえて床につけ、「スタート」の合図で足を開いて線の外側の床につけて戻します。20秒後の「ストップ」の合図までにできるだけ早くくり返し、できた回数をカウントします。「ストップ」の合図の際に足が動いていたらそれもカウントしましょう。この敏捷性も加齢にともない低下します。つまずいた際に足が出れば転倒しませんが、遅れると転倒の可能性が高くなります。敏捷性の改善のために、始業時体操を励行しましょう。リズミカルな体操が筋肉を刺激して敏捷性が向上します。ラジオ体操でも構いませんが転倒や腰痛予防に特化させた転倒腰痛予防「いきいき健康体操」※がおすすめです。 ■柔軟性/立位体前屈テスト(図表4)  テスト時におけるけがの防止のため、膝の屈伸やアキレス腱のストレッチをしてから実施しましょう。スポーツや仕事で筋肉を使えば、その筋肉は必ず短縮します。筋肉が短縮すれば筋力は低下しますし、硬い筋肉の繊維に挟まれた毛細血管の流れも低下します。つまり疲労物質が取り除けないのですが、多くの人はそのことに気づかず作業を実施しています。この場合は仕事の終わりや帰宅後にストレッチすることをすすめましょう。「痛くない範囲で、反動をつけない」ことがストレッチのコツです。従業員のなかには毎日ストレッチをしている人もいますが、それでも床に指が届かない人はストレッチの方法が間違っているのです。  例えば、背中の筋肉は十分伸びているのに下肢後面が短縮して指が届かなかったり、その反対に下肢後面は十分伸びているのに背中の筋肉が短縮して指が届かないケースもあります。身体が硬い原因がわからなければストレッチの恩恵にあずかれません。可能なら、下肢と背中、右と左に分けてストレッチを実施するなど、自分の身体の状況に応じたストレッチを行いましょう。 ■筋力/片脚起立テスト(図表5)  イラストのように、高さ約40cmほどのいすに浅く腰かけ、両手を胸の前でクロスさせたまま、上体を前傾させ、片脚でゆっくり立ち上がり、3秒保持します。一生涯、40cmの高さから立ち上がれる筋力を維持したいものです。もちろん肥満体となって立ち上がれないのも問題です。スクワット、ランジ、プランクなどの筋トレ(週に2回、数分間)、ウォーキングやサイクリングなどの有酸素運動(5〜10分間)がおすすめです。  ぜひ高齢労働者に実施して、けがの無い職場を目ざしましょう。 ※ https://www.youtube.com/watch?v=9jCi6oXS8IY 図表1 年齢別・男女別千人率※ ※千人率=労働災害による死傷者数/ 平均労働者数×1,000 データ出所:厚生労働省「労働者死傷病報告(令和4年)」※新型コロナウイルス感染症へのり患によるものを除く 総務省「労働力調査(2022年)」 出典:厚生労働省労働基準局「令和4年 高年齢労働者の労働災害発生状況」参考資料2 図表2 平衡性/閉眼片足立ちテスト @目を閉じて片足立ちをして、何秒間保持できるかを測定する ・手は腰にあてる ・両脚はくっつけない ・手が離れたり、足が動いたら終了 Aできた秒数を記録する 平衡性の評価 20代 120秒〜 30代 80〜119秒 40代 60〜79秒 50代 25〜59秒 60代 12〜24秒 D 〜11秒 ※首都大学東京体力標準値研究会『新・日本の体力標準値U』(不昧堂出版/2007年)を基に筆者作成 図表3 敏捷性/座位ステッピングテスト @イスに浅く座り、両手で座面を握る A両足を30cm幅ラインの内側におく B「スタート」の合図で、つま先をラインの外側の床と内側の床に順に触れる。これをできるだけ早くくり返す C20秒間で何回、内側に両足のつま先がついたかを数える D回数を記入する ※20秒時に足が開いている場合はカウントに入れる 敏捷性の評価 20代 38〜 30代 36〜37 40代 34〜35 50代 29〜33 60代 27〜28 D 26以下 ※首都大学東京体力標準値研究会『新・日本の体力標準値U』(不昧堂出版/2007年)を基に筆者作成 図表4 柔軟性/立位体前屈テスト @軽く屈伸する A両膝を伸ばし、状態を前方へ倒し床へ向かって指先を伸ばす ・膝を曲げないこと ・勢いをつけないこと B床に指先がどれだけ届くかで評価する 柔軟性の評価 20代 手の平が床にぴったりつく 30代 指の付け根が床につく 40代 親指が床につく 50代 小指が床につく 60代 中指が床につく D くるぶしに指がつかない ※首都大学東京体力標準値研究会『新・日本の体力標準値U』(不昧堂出版/2007年)を基に筆者作成 図表5 筋力/片脚起立テスト @両手を胸の前に組んで、片足でゆっくりと立ち上がる A30代までの男性、20代の女性は床からもチャレンジする B高さ、ふらつきを考慮して評価する 下肢筋力の評価 20代 床からふらつかずに立てる 30代 床からふらついてでも立てる 40代 イスからゆっくりとふらつかずに立てる 50代 イスからふらつかずに立てる 60代 イスからふらついてでも立てる D イスから立てない ※首都大学東京体力標準値研究会『新・日本の体力標準値U』(不昧堂出版/2007年)を基に筆者作成 【P15-18】 事例1 エルゴノミクスの視点を加え多様な人財が活躍できる環境を目ざす 日産自動車九州株式会社(福岡県苅田町) 日産グループの国内最大生産拠点  日産自動車九州株式会社は、北九州空港から車で15分ほどの福岡県北東部の苅田(かんだ)町に位置している。周防灘(すおうなだ)に面した工業地帯に最先端の技術を駆使した巨大な工場を構え、日産グループの国内最大生産拠点として、年間生産能力約50万台を誇る。  1975(昭和50)年に日産自動車九州工場(九州初の自動車工場)として生産を開始し、2000(平成12)年には敷地内に専用外航埠頭を開港。以来、同工場で生産されたセレナ・エクストレイルなどの人気車種を国内外へと直接送り出してきた。2011年には、日産自動車株式会社から自動車製造委託会社として分社化し、「日産自動車九州株式会社」として、新たな一歩をスタートさせた。  2024(令和6)年4月時点の同社の従業員数は約4500人。プレス、溶接、塗装、組立てなど、1台の車が完成するまでの工程には、さまざまなロボットが活躍しているが、そこに人間の力を加えて、人とロボットの共生により、高い品質を守っている。また「働く仲間の安全と健康は全てに優先する」の安全衛生方針のもと、安全かつ働きやすい職場づくりを追求し、よりよい職場環境の実現に向けて、つねに挑戦を続けている。 工程要求と個人の能力・要求・条件をマッチングさせ心身にかかる負荷を軽減  同社の定年は60歳。定年後は「シニアパートナー」として65歳までの継続雇用を行う。定年を迎える社員のほとんどが、シニアパートナーとして定年前と同じ部署でフルタイム勤務を希望し、働き続けているという。  シニアパートナー数は、2024年4月時点で、正規社員全体の約1割ほどだが、今後はこの割合が高くなっていくことが見込まれている。  人事・渉外部安全健康管理課の林田(はやしだ)一男(かずお)課長は、「少子高齢化の進展、働き方の多様化など、急激に変化していく社会に柔軟に対応し、より働きやすい職場づくりを実現していくため、現在当社では『多様な人財が活躍できるスマート工程の実現』を目ざして、プロジェクトを進めています」と、シニアパートナーをはじめとした多様な人財の活躍に向け、新たな取組みを計画的に進めていると語る。  「スマート工程の実現」とは、生産性や安全性の向上を求めるだけでなく、個人の能力や希望にマッチした働き方で、一人ひとりが働きやすい環境を実現することだという。  「当社の車づくりは、すでにある程度自動化されていますが、人の手が必要な要所が存在します。そこで、負荷の高い作業はロボットへ移行させることで、作業にともなう身体的な負担の軽減を図るとともに、短時間勤務やフレックス勤務の活用、休暇を取りやすい職場づくりなどを推進しています。  また、技術の効率的な習熟に向けた取組みや作業工程の再検討なども行っています。例えば、ある工程にAさんとBさんがいて、従来は同じ作業を同じように遂行してもらっていましたが、AさんとBさんの能力に異なる特徴があるならば、それぞれの能力がより活かせるような作業を選択できる工程設計を検討していく計画です」(林田課長)  スマート工程の実現により、女性や高齢社員をはじめ、多様な人財が活躍し、働きやすい職場にしていくことを目ざしている。 一つひとつの工程、作業負荷をエルゴノミクスなどの指標をもとに評価  スマート工程の実現に向けて同社では、まず、すべての作業工程を一つひとつ洗い出し、エルゴノミクス(人間工学)に基づく指標によって、身体にかかる負荷の調査を行った。さらに、それらの作業を、筋力のある若い男性ではなく、女性や高齢者が行う場合の身体的負荷や安全性をかけあわせた、より厳しい指標を用いて負荷の評価を実施。負荷の大きい順に「赤」、「黄」、「緑」に色分けして作業工程ごとの負荷を判定し、最終的にはすべてを「緑」にすることを目標にして、体力、感覚器(触る、見るなど)、体勢、精神面など、さまざまな視点からの負荷を、スマート工程のなかで考えながら、必要な改善点を探り、できるところから具体化して取組みを進めているという。  「なかには、車のつくり方そのものを変えないかぎり、改善はむずかしいといった工程・作業もありますが、例えば『しゃがみこむ』という動作による負担を軽減するために、いすを導入し、座った状態で作業ができるようにするなど、すでに改善を実現している工程もあります」(林田課長)  また、品質チェックなど、人の目で行っていた精神的負担が大きい仕事も、自動判定装置を導入して工程ごとに品質を判定することで、人による誤判定を防止し、精神的負担を軽減していく取組みも進めているという。  スマート工程の実現では、仕事のやりがいも重視しており、一人ひとりの特性・特徴に適した工程を考えていく。例えば、出産・子育てにより短時間勤務を行っている社員に対しては、その勤務時間のなかでできる仕事を担当してもらっていたが、スマート工程では、短時間勤務でもしっかりと働きがい・やりがいを得られる職場づくりを目ざしている。  すでにトライアルではあるものの、取組みの実践例もある。例えば、育児中で短時間勤務を利用している社員と、同じく短時間勤務を利用している高齢社員が同じ工程で、それぞれが働きやすい時間帯でローテーションを組んで働いており、短時間勤務であってもやりがいを感じられるように、メイン作業とサブ作業を組み合わせて、達成感を得ながら担当してもらう工程を用意しているそうだ。  林田課長は、次のように強調する。  「一人ひとりの能力と希望に合った働き方を実現していくために、人と工程とのマッチングを図っています。この取組み自体は、女性社員が出産後も働きやすいようにと考えて始めたものですが、現在では性別にかかわりなく、高齢社員をはじめ、治療との両立を図りながら働いている社員など、さまざまな事情を抱えている社員が、きちんとやりがいをもって働ける職場づくりを目ざしています。このような職場を実現していかないと、これからのものづくりの現場は立ち行かなくなるだろうと考えています」  現在、スマート工程の導入・実現に向けた取組みは、主要な組立て工程から進めており、今後はほかの工程・工場へと順次取組みを拡大していく方針だ。 作業環境を見直すことで身体的・精神的負担を軽減  実際の作業工程における改善状況について、製造部塗装課の鈴木(すずき)秀輔(しゅうすけ)課長にお話をうかがった。  「塗装課では、人に合った働き方・働きやすい工程を実現する『塗装版スマート工程』の方針として、働きやすさに加えて『人にやさしく、プライドを持てる職場づくり』の実現を掲げています。女性や55歳以上のベテラン社員、パートタイム従業員といった、多様な人財の活躍の拡大を目ざしています」(鈴木課長)  バンパー塗装工場では、2025年を中長期計画の目安として、エルゴノミクスなどに基づく工程ごとにかかる負荷の評価を行い、どういう改善をする必要があるのか、いつまでを目標にするのかを検討し、年度ごとの目標をロードマップにしている。なお、バンパー塗装工場の人員は208人。このうち、派遣社員などの非正規社員が50%(2023年7月時点)を占める。また、女性比率は13.5%(うち基幹は2.4%)。60歳定年後のシニアパートナーは全体の12.7%となっている。  取組みは、次の四つのポイントに分けて、計画に沿って改善を進めている。 @時間的開放…柔軟な勤務時間で働けるように、勤務時間に制約されない工程づくり A体力継続…人とロボットの協働・自動化により、エルゴノミクスに基づく評価の「赤」をゼロ、「緑」を50%以上にしていく B技能習熟…高技能から脱却して、習熟にかかる日数を減らしていく。パート採用者もすぐできる作業、カンやコツの必要がない工程づくり C精神的不安…完全自動検査装置の導入などにより安心して作業に臨める環境づくり  実際に行った具体的な改善の事例について、いくつかご紹介いただいた。  塗装後のドアミラーカバーを一つずつチェックして、箱に入れて出荷する作業では、以前は1時間に4回、ドアミラーカバーを入れる箱を前屈姿勢で持ち上げる作業があり、身体に負荷がかかっていた。そこで「からくりシューター」という自動で箱を動かす装置を設置することにより、前屈姿勢で行う作業そのものをなくすという改善を行い、高齢者や女性でも無理なく対応できる作業になったという。  梱包工程においては、作業姿勢の改善に取り組んでおり、作業者の背丈に合わせて高さを調整できる昇降機能付きの作業台を導入し、作業者の身体にかかる負荷を軽減している。  また、フルタイム従業員とパートタイム従業員とで、コミュニケーションにどんな課題があるかなどの洗い出しを行い、パートタイム従業員に長く働いてもらうための条件整備などについての検討も行っている。例えば、パートタイム従業員の場合、仕事を覚えるために責任者に質問をすることがあるが、1〜2回質問した後は、遠慮からか質問しにくくなるなどの精神的な負担があるという。そこで、仕事を覚えやすくするため、作業場所にモニターを設置し、作業手順をまとめた動画をつねに流すといった改善を講じている。  これらの改善の取組みは、61歳のパートタイム従業員の協力を得て、3カ月間のトライアルとして実施し、良好な結果が得られているという。今後は、多様な人材が働けるライン構成の検討などを、塗装課として進めていく方針だ。 つちかわれてきた経験値を重視しシニアパートナーにやりがいを  「スマート工程の実現に向けた取組みについて、シニアパートナーからは、やりにくかった作業が改善されたという声があがっていますが、取組みは始まったばかり。まだまだこれからです」と話す林田課長。  シニアパートナーに対しては、体力面の配慮だけでなく、仕事のやりがいも大事にして、スマート工程の実現を進めていきたいと考えている。  鈴木課長は、シニアパートナーにしかない「経験値」の重要性を次のように話す。  「車のつくり方は時代とともに変わってきましたが、その歴史や変化を現場で経験し、その時々に生じていた課題を改善してきたという知見もあります。それは、これからも高品質な車をつくり続けるうえで大きな力になります。できるだけ、同じ場所で長く働いてもらいたいと思っています」(鈴木課長) 健康経営に取り組み、ロコモ※度の高いシニアへの運動指導を実施  同社では、「従業員への健康投資を行うことは従業員の活力向上や生産性の向上など組織の活性化をもたらし、業績向上につながる」と考え、健康経営にも取り組んでいる。  そして、すべての従業員が心身ともに健康で安全・快適に働くことのできる職場づくりと、ハイリスク者に対するアプローチ、若年層への体質改善指導などによるヘルスリテラシー向上に戦略的に取り組んでいる。高齢者に対しては、腰痛などの有所見者やロコモ度の高い人を対象として、専門家による一人ひとりに適した運動指導や、生活習慣に関するアドバイスなどを行っている。  これらの取組みは継続することが求められるもので、成果についてはまだ少し時間をかけてみていきたいとしている。  すべての工程にかかる負荷を評価し、多角的に改善を進めてスマート工程を実現していく取組みのなかで、どのように多様な人財がそれぞれにあった働き方で仕事を継続していくのか、積極果敢な挑戦の今後が大いに注目される。 ※ ロコモ(ロコモティブシンドローム)……骨や関節の病気、筋力の低下、バランス能力の低下によって立ったり歩いたりする身体機能が低下すること 写真のキャプション 日産自動車九州株式会社の工場全景 人事・渉外部安全健康管理課の林田一男課長(左)と製造部塗装課の鈴木秀輔課長(右) 【P19-22】 事例2 60歳以上対象に「健康チェック」を毎年実施元気に長く働く身体づくりを企業がフォローアップ 株式会社サッポロライオン(東京都中央区) 2023年度「SAFEアワード」にてエイジフレンドリー部門ゴールド賞受賞  「銀座ライオン」をはじめビヤホールやビヤレストラン業態を主軸に、全国主要都市で約100店舗を展開する株式会社サッポロライオン(東京都中央区)。シニア層が元気に長く働き続けられる環境の整備を目的に、保健師による高齢社員の健康チェックとフォローアップに取り組んでおり、厚生労働省主催の2023(令和5)年度「SAFEアワード」にてエイジフレンドリー部門のゴールド賞を受賞している。  「SAFEアワード」は、労働災害防止や安全・安心な職場づくりに取り組む「従業員の幸せのためのSAFEコンソーシアム」加盟企業・団体から優良な取組みを募り、一般投票などを経て選出し表彰するもの。2023年度は139事例の応募があり、そのなかから地域別ブロック賞71事例が選出され、さらに絞られた15事例が五つの部門別にゴールド・シルバー・ブロンズ各賞を受賞した。  サッポロライオンにおいては、高齢社員はその身体特性(運動能力や視力・聴力の低下など)によって労働災害などが発生するリスクが高まる可能性があることを、企業と高齢社員の双方が自分ごととして理解したうえで、豊富な経験と高い技能を活かし、意欲的に働ける労働環境を整えていく取組みが評価された。 定年後も店舗で活動的に働くシニア層健康維持と安全性向上がキーポイント  同社の定年は60歳、希望者全員を65歳まで再雇用している。高齢社員には、後進の手本となってチームの活性化に貢献してもらうとともに、若年層へのスキルの伝達のほか、取引先および人脈の伝承をにない、高いパフォーマンスを発揮することが期待されている。  近年はキャリア人材の中途採用が増加しており、中途採用人材も含め、長期間勤務して定年後再雇用となった高齢社員には、引き続きチームを牽引してもらうケースもあるなど、以前と比較してシニア層の活躍が目立っているという。その背景について、人事総務部の蓮見(はすみ)敦史(あつし)副部長にうかがった。  「外食業界は労働集約型産業ですので、組織の拡大・発展を目ざすうえでは、多くの人材が不可欠です。少子高齢化の影響で若年層は思うように採用できませんから、現在、戦力として活躍しているベテランの方々に、安全かつ活き活きと、長く働いてもらうことが人材確保の近道です。そこで、重要になるのが職場環境の改善や健康経営です。サッポロホールディングスのグループ全体でも健康経営に取り組もうという機運があり、一丸となって推進している課題でもあります。今回、SAFEアワードで表彰された取組みをはじめとした当社独自の取組みを展開し、外食産業の習わしとして根ざしている『厳しい環境も気合いや根性で乗り切る』という風潮、また年齢を問わず体力勝負の部分の見直しを進めています」  また、人事総務部の担当リーダーである武川(むかわ)知恵(ともえ)さんは、取組みのきっかけを次のように話す。  「定期的に開催している衛生委員会では、労働組合と人事部門、産業医、保健師らが参加し、労働災害の発生状況などについて共有をするのですが、あるとき、『60歳以上の社員の労働災害が多くなってきた』ということが話題にあがりました。発生した労働災害のおよそ半分が60歳以上の高齢社員だったのです。当社における労働災害は、油を使った調理の際の火傷、包丁を使った切創がほとんどで、従来であれば入社間もない若年層に多くみられたものです。それが高齢社員で増えていたことから、産業医より『60歳以上を対象に年に一回、健康チェックを実施したらどうか』という助言があり、具体的な取組みがスタートしました」  より長く、多くの高齢社員が活躍するようになったことで、加齢による注意力の低下、筋力や敏捷性などの運動能力、視力や聴力といった感覚器官の機能低下などを要因とした労働災害の発生が目立つようになり、高齢社員の活躍を支えるための対策として、2022年度から「シニアの健康チェック」が始まった。 転倒リスクを測る動作のチェックシニア層に多い労働災害の対策  「シニアの健康チェック」は、60歳以上の再雇用者を対象としており、対象者は年間150人ほどにのぼる。社員の誕生月に健康相談室にて、保健師が対面あるいはリモートの面談を実施。勤務時間中に行うため、面談時間は15分に設定しており、ポイントを絞って簡潔なヒアリングを行う。「シニアの健康チェック」の詳細は以下の通り。 1 健康診断結果、病気の治療状況の確認  健康診断結果をもとに、再受診が必要な人に受診勧奨を行っている。面談を担当する保健師の山下(やました)眞理子(まりこ)さんは、「60歳以上の方々は治療に対する意識が高く、血圧の治療などはすでに始めている人がほとんどです。薬を飲んでいる方が多いので、服用状況なども確認します」と話す。  山下さんいわく、シニア層より40〜50代の社員の方が数値は悪い傾向にあるという。まだ健康に自信があり、生活習慣病の自覚症状もないため、肝機能が悪かったり、脂質が高い人が目立つそうだ。なお、特に疾病リスクが高い社員に対しては、当人に重大性をしっかり伝えており、再受診率は100%に至っている。 2 自覚症状や業務上困っている点をヒアリング  体調の自覚症状について聞き取りを行っている。  「腕が痛い、肩が痛い、関節が痛いと訴える方は少なくありません。受診が必要なものと判断すれば受診勧奨を行います。特に、業務に支障があるような場合、例えば、調理担当の方が『腕が上がらない』など、具体的に困っているような事象がある場合は、人事担当とも面談をしてもらい、配置換えなどの対応も行います」(山下さん) 3 開眼片足立ちテストと5回立ち上がりテスト  開眼片足立ちテストは、立って目を開けた状態で片足を前方に5センチほど上げ、何秒キープできるかを計測する。5回立ち上がりテストは、いすに座り、胸の前で両手を交差させた状態で立ち上がる動作を5回くり返し、動作にかかった時間を測る。  「転倒リスクがなく働けるかどうかがテストの目的です。動作が簡単なことに加え、リモート面談でも測定できること、狭いスペースでも動作可能ということで、この二つのテストに絞りました。テストした人のなかには、体幹のバランスが悪く、片足立ちができない人もいます。そういう人には下半身の筋肉を鍛えるスクワットをすすめたり、1日に必要な歩数の目安などのアドバイスを行います。バランスが悪いと階段の昇降の際とても不安定になり、転倒リスクが高まります。特に店舗の階段は狭く危険なので、注意が必要だと説明しています」(山下さん) 4 現場の第三者に聞き取りを行い、客観的な意見を面談に活かす  「60歳を超えてから何か変化はないか」、「動作が遅くなっていないか」など、気になるところを、人事担当者が現場の従業員から聞き取りを行い「シニアの健康チェック」につなげている。  「『いままで通り変わりはない』という声がほとんどですが、『最近腰が痛そう』、『動作が少し遅くなった気がする』という声をもらうこともあります」(武川さん)  面談のポイントについて山下さんは次のように話す。  「生活習慣の積重ねが、健康診断の数値などに表れていると思われますが、強制的な指導は行っていません。その方に合わせて『できるところから始めましょう』と話をしています」  個人に合わせた保健指導が面談者の安心につながり、健康意識の向上に導いている。 月一回のペースで現場の声を拾い環境改善と労働災害の対策を練る  蓮見副部長は取組みの成果について次のように話す。  「現在のように、細かな取組みをしてなかったころは、年間70〜80件の労働災害がありました。コロナ禍という企業として未曾有の危機において、完全に店舗の営業を休止した際、高齢社員の健康チェックから、社員教育なども含め、既存のシステムの抜本的な見直しを行いました。コロナ禍の自粛期間を経て業績は復調していますが、コロナ禍以前と比較すると労働災害の発生件数は1/3に減少しており、取組みの効果を実感しています」  労働災害の防止に向けた、現場の作業環境の改善については、各店舗の現状にあわせて、店舗ごとにルールを変えて運用を行っている。例えば、調理場の油にまみれた床から、更衣室のロッカーに向かう動線は、油でべとべとになり滑りやすくなる。そこで、その動線にマットを敷くなど、実態に合わせた運用を行っているという。  「店舗ではみんな、動きながら仕事をしており、各店舗によって労働災害が起こる場所は異なります。衛生委員会で報告のあった労働災害については、一つひとつ見直しを行います。改善点はそこからしか見出せません」(蓮見副部長)  そのほかにも、10リットルのビールの空樽を5段まで積上げ可能としていた社内ルールを見直し4段までとしたり、割れたグラスで手を切らないよう、調理用の手袋と軍手を併用するなど、けが防止のルールを策定し、徹底することを呼びかけている。 上層部から一般社員まで健康経営の認知を高める教育環境を整備  2023年からは、社員の健康意識を高めるための社員教育を積極的に行っている。年に10回実施している人事研修では、プログラムの終盤に30分ほど時間を設けて健康関連の動画を視聴するほか、活動の旗振り役として「健康アンバサダー」が発足。各拠点で任命された衛生委員会のメンバーが3カ月に1回、グループ全体の勉強会に参加して知見を深め、勉強会で得た若手から高齢社員までの健康づくりに役立つ情報を、社員に伝える役割をになっている。  また、取締役会、経営会議にて四半期ごとに健康経営について活動報告を行い、上層部に認知してもらうほか、毎年実施している全国拠点の管理職が招集される会議では、健康経営をテーマにした講義を行っている。これまで利益追求型の教育一辺倒だったが、社員の健康管理を経営的な視点でとらえ、社員の健康を保つことが、最終的には会社としての利益につながる健康経営の考え方と、その実践の重要性を上層部・管理職に対しても教育する環境が整いつつある。  今後は、リモートで実施することもあった「シニアの健康チェック」を、できるだけ対面の面談に切り替えていく方針だ。  「直接対面して話をすることで、さまざまなコミュニケーションが生まれると思いますし、健康に対しても、労働災害防止についても、社員全体のリテラシー向上のために、人事が店舗を巡回しながら面談をしていきたいと思っています」(武川さん)  労働災害防止対策については、引き続きヒアリングの数、機会を増やしていく方針だ。  「気合や根性で乗り切れる風潮があった時代のように『そんなの我慢だよ』ではなく、きちんと検証すること。これを毎月行う衛生委員会で拾い上げ、スピード感を持って行うことが、成果につながっていると考えています。まだ始まったばかりの取組みですが、継続して取り組んでいきます」(蓮見副部長)  今回の「SAFEアワード」の受賞をきっかけに、あらためて社内で取組みが認知され、高齢社員をはじめ、社員に対する期待や思いが届き始めている。社外で得た評価が、働く社員たちに認知され広まることで、よりいっそうの取組みが展開されることを期待したい。 写真のキャプション 左から山下眞理子保健師、蓮見敦史人事総務部副部長、武川知恵人事総務部担当リーダー 5回立ち上がりテスト。転倒防止リスクを測る 軍手の上に調理用の手袋を重ねて切創を予防 【P23-26】 事例3 50歳以上の職員にエイジフレンドリー測定を実施オリジナル職場体操も習慣に 公益財団法人福岡労働衛生研究所(福岡県福岡市) 「健康経営宣言」を行い多職種で連携して取組みを推進  「公益財団法人福岡労働衛生研究所」は、1961(昭和36)年に福岡県労働安全衛生協会福岡支部(現・福岡中央労働基準協会)の付属機関として設立され、労働安全衛生法に定める定期健康診断や特殊健康診断を、中小企業においても受診可能な健康診断専門機関として事業を開始した。1975年に法人化し、2012(平成24)年には内閣府認定の公益財団法人となっている。  基本理念に「私たちは労働衛生機関として、人々のこころ≠ニからだ≠フ健康を守ります」をかかげ、健康診断により労働者や住民の健康管理をサポートするほか、巡回健診、職場や地域での健康づくりを支援する健康イベントなどに取り組み、トータルヘルスケアを提供している。  福岡市に立地する労衛研健診センターをはじめ、2014年に延岡健診センター(宮崎県延岡市)、2015年に宇部センター(山口県宇部市)、2017年に天神健診センター(福岡県福岡市)を開設するなど、西日本有数の総合労働衛生機関へと成長。もっとも新しい天神健診センターは、女性にやさしい健診センターを目ざして、オール女性スタッフで運営を行うなど、全国的にも先駆的な施設となっている。  同研究所の前川(まえかわ)道驕iみちたか)代表理事会長は2021(令和3)年7月、今後も多様な人々の健康づくりに日々取り組むためには、まずは職員が「健康づくり」を行える環境づくりが必要であるとして、「健康経営宣言」を発信した。そして、「生きがいをもって元気に働き続けることができる」ことを目標として7つの重点項目を掲げ、職員の健康維持のサポートをはじめた。  健康経営R(★)に関する取組みの中核をになう総務部の佐藤(さとう)征雄(まさお)部長は、「健康経営宣言と同時に、健康経営プロジェクト体制を構築し、チームを立ち上げました。総務部と健康管理室などで構成する事務局が施策立案や調整役をになっています。具体的な対策や健康増進策は、健康経営推進責任者(専務理事)、健康経営推進チーム(各ワーキングの実行委員、安全衛生委員会など)と一体となり、産業医、健康保険組合と連携を深めながら推進しています」と話す。  このプロジェクトの一環として取り組んでいるのが、50代以上の職員の健康増進対策だ。 50代以上の職員が全体の28.0%生涯現役で働くための健康づくり  同研究所の常勤職員数(役員を含む)は304人(2024年2月現在)。女性が174人と多く、57.2%を占めている。年齢構成は、30代が最も多く28.3%、次いで40代が27.6%、50代が19.1%、20代が16.1%、60代以上が8.9%の順となっている。50代以上でくくると28.0%を占めている。  なお、同研究所の定年は60歳。定年後は、65歳までの再雇用制度があり、65歳以降も、本人の希望があり同研究所が認める場合は、最長68歳まで働くことが可能となっている。今後は、高齢職員の増加も見込まれており、現在、定年年齢や再雇用制度について年齢を引上げる方向で改定を検討している。  健康経営プロジェクト体制の立上げメンバーで、健康増進部健康増進課の酒井(さかい)三枝子(みえこ)課長(保健師)は、エイジフレンドリー対策に取り組む背景について次のように話す。  「職員に健康で長く働いてもらううえで課題となることを探り、そこであがってきた一つが、50代以上の職員が全体の28.6%(2021年8月当時)を占めていることでした。今後は、労働力人口が減少するなかで雇用期間が延長され、さらに高齢職員が増えていくことが見込まれます。その際、労働災害を未然に防ぎ、かつ、生涯現役を目ざすための健康づくりが必要となります。そこで、健康経営の七つの重点項目(@疾病予防対策、A健康増進対策、B労働時間の適正化・ワークライフバランス・生活時間の確保、Cメンタルヘルス対策、D治療と仕事の両立支援、E感染症予防対策、F健康経営の啓発活動)のうち、A健康増進対策の取組みの一貫として、エイジフレンドリー対策を盛り込み、実践しています」 健康・運動指導とセットで行うエイジフレンドリー体力測定  具体的には、生涯現役を目ざした50歳以上の職員の体力維持を図る取組みとして、「エイジフレンドリー体力測定」を、2021年から、まず事務職を対象として実施し継続している。また、体力の維持・増進対策としては、オリジナル職場体操(愛称「労衛研体操」)※を作成し、職場で毎日実施することを推進している。  エイジフレンドリー体力測定は、2020年3月に厚生労働省より公表された高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン「エイジフレンドリーガイドライン」を土台にして測定項目を決定した。 ■エイジフレンドリー体力測定の測定項目  歩行能力や筋力をみる「2ステップテスト」、敏捷性をみる「座位ステッピングテスト」、バランス力をみる「片足立ち」などの運動機能の測定のほか、太ももの筋力・転倒やつまずき予防に重要な筋力を測定する「片足筋力測定」、体を構成する水分量・脂肪量・筋肉量を把握する「体成分測定」、ロコモ度を把握するための日常生活や心身機能に関する25の問診調査を行っている。  いずれも、ロコモ度や転倒のリスクを知って早期に対策するため、また、運動習慣の定着を図り、継続するためのモチベーション維持につながりやすいと考えて項目を決定したという。 ■周知と測定の方法、対象者の反応  測定と結果説明の所要時間の目安は約40分。1週間ほどの測定期間を設け、就業時間内に受けてもらう。周知は、総務部が中心となり社内ネットワークのインフォメーションで「50歳以上の方は測定をお願いします」と呼びかけたり、当初は直接声をかけたりして普及に努めた。2021年から50歳以上の事務職を対象として実施しており、現在では対象者のほぼ全員が受けている。  測定対象者の反応は、総じて楽しんで受けている様子だという。最初は面倒そうに受けていた職員もいたが、測定後は、若いころとは筋力などが変化している自分に気づくことができたり、同僚と結果を楽しそうに比べたりする様子がみられたりと、全体的に「受けてよかった」と好意的に受けとめられている、とプロジェクトチームは感じているという。 ■結果説明と改善対策  測定当日に、各テストの測定結果と、結果に対応した一人ひとりの改善対策を健康運動指導士が中心となって説明・指導を行っている。  具体的には、「A3用紙を二つ折りにして、左半分に測定結果、右半分に測定項目に関連する運動機能の評価が示され、測定結果については経年変化が確認できるように表示しています。運動機能が上がったところ、落ちたところ、強化が必要なポイントを明らかにして、一人ひとりの運動課題とそれに応じた簡単な運動メニューを裏面に表示し、運動の仕方を写真つきで紹介しています」と健康運動指導士の児玉(こだま)有希子(ゆきこ)係長は話す。  ロコモ度が進んでいたり、転倒リスクが高いという結果が出たりしても、適した運動により改善することができるため、「テレビをみながら『スクワット』」、「仕事の合間に『もも裏伸ばし』」、「信号待ちで『足踏み』」など、気軽にできる運動を習慣化してもらえるように、結果説明や改善指導を工夫している。 運動実施率の向上を目ざしオリジナル職場体操を実施  エイジフレンドリー体力測定の集計データから、体の反応の早さをみる「敏捷性」は、実際の動きと本人の認識との間でのずれが大きい(本人が思っているより、動きが遅い)ことが50代・60代に共通してみられた。片足立ち(バランス)についても低めの結果が出ており、転倒を未然に防ぐためには、体のバランスが取れる筋力の向上が必要であることなどが把握された。  こうした集計結果をふまえて、内臓脂肪の改善に効果的な有酸素性運動、筋肉量増加につながる筋力トレーニング、腰痛や肩こりの改善・予防につながるストレッチ体操を取り入れたオリジナル職場体操を、健康運動指導士らが考案した。職員に体験してもらい、感想や意見を聞いて、運動強度などを修正しながら完成させたという。  この体操にかかる時間は約3分間。立位と座位の体操があり、立位はおもに転倒予防を、座位はおもにデスクワーク作業による肩こり、腰痛予防を目的としている。2022年9月からは社内ネットワークで配信し、安全衛生委員を中心に習慣化を推進し、事務職の各部門で、朝や昼前など1日1回以上は実施するようになっている。  プロジェクトメンバーで総務部の岩ア(いわさき)理恵(りえ)課長代理は、「朝9時に体操の音楽が流れてきて、みんなで行っています。2年間続けてきて、肩こりが楽になりました」と職場体操の感想を話してくれた。ほかにも、「体を動かすのですっきりする」、「筋肉が目覚める感じがする」など職場体操に好意的な感想が聞かれているそうだ。 運動実施率の向上を目ざす取組み活動量を現在よりプラス10分  全職員を対象とした健康増進対策として、自分の一日の歩数を把握し、活動量を現在よりプラス10分(約1000歩)増やすことを目ざす取組みを展開している。毎日の歩数を簡単に入力・管理できるシステムを導入し、記録を習慣化して楽しくチャレンジしてもらい、参加賞の商品がもらえるといった特典もある。  年間のチャレンジ期間は9週間で、3週間を1クールとし、クールごとに結果を判定する。クールごとに専門家からのアドバイスがあり、参加者のモチベーション維持を図っている。  2021年11月〜2022年1月に実施した際は、全職員のうち34.9%が参加。参加者のうち、22.6%の職員が1000歩アップを達成した。参加者からは、「ふだんいかに歩いていなかったかを自覚した」という感想や、これを機に「以前に行っていたスポーツを再開した」、「ジムに通い始めた」、「ウォーキングを始めた」などの声があがっている。また、50代以上の職員も積極的に参加しており、エイジフレンドリー対策の効果が感じられる結果となっている。 労働衛生機関として所内の取組み成果を広めていきたい  プロジェクトチームでこれらの取組みを率いている見城(けんじょう)美智子(みちこ)課長代理(保健師)は、「50代以上の職員の体力測定や職場体操を開始して2年7カ月が経ちました。目標値まではまだ達成できていませんが、続けていくことが大事ですので、工夫を凝らしながら継続に努めます。今後は仕事で外へ出ていることが多い職員へのエイジフレンドリー対策を検討し、実施していきたいですね」と課題と今後への決意を語った。  酒井課長も「健康経営の目標である『生きがいを持って働き続けることができる』に向かって、特に50代以降の職員が元気に働き続けられるよう、取組みを進めていきたい」と話す。  また、プロジェクトチームのメンバーであり、健康増進部の上村(かみむら)景子(けいこ)部長(保健師)は、「日ごろの健康づくりのサポートとして、自社でエイジフレンドリー測定に取り組みたいという企業からの要望があれば対応していくので、ぜひ問い合わせてほしい」と、労働衛生機関として、所内での取組みを多くの事業所に普及し活かしていきたいという思いを話してくれた。  同研究所では健康経営の取組みが結実し、2023年3月、「健康経営優良法人2023(大規模法人)」の認定を受けた。  佐藤総務部長は、「健康経営の目標達成に向けて取組みを推進し、業績アップにつなげていきたい」と意気込みを語る。取組みにいっそう力を入れ、健康経営優良法人認定制度において、大規模法人部門の上位500社が認定される「健康経営ホワイト500」の冠を目ざしていくという。 ★「健康経営○R」はNPO法人健康経営研究会の登録商標です ※ http://www.rek.or.jp/members/free 写真のキャプション エイジフレンドリー対策を推進する健康経営プロジェクトメンバーのみなさん。左から、上村景子さん、酒井三枝子さん、佐藤征雄さん、岩ア理恵さん、児玉有希子さん、見城美智子さん エイジフレンドリー体力測定の結果表(裏面)に掲載している、気軽にできる運動メニューの一例。測定結果に合わせて一人ひとりに適したメニューをすすめる 【P27】 コラム 働く男性と更年期 花王株式会社コンシューマーインテリジェンス室 女性だけでなく、男性にもある更年期  「更年期」の不調は女性特有と思われがちですが、男性にもあります。原因は加齢による男性ホルモン(テストステロン)の急激な減少で、加齢以外にも過度なストレスや運動不足、大量飲酒などの影響を受けやすく、40代以降はだれにでも起こりうる可能性があります。女性は閉経前後の一定の時期が過ぎれば落ち着きますが、男性は適切な対処をしないと長引く場合もあります。男性更年期の症状は多様で「筋力の低下や痛み」、「不眠」、「疲労感」、「気力の減退」、「イライラや憂鬱な気分」など、体と心の両面にあらわれます。加齢変化と思いがちな症状も多く、自分では更年期を疑いにくいことや、受診先が泌尿器科であることも、あまり知られていません。 働く男性と更年期不調  更年期症状の自覚のある有職男性の半数は、「仕事に影響があった」と回答しています(図表)。「仕事の能率が目に見えて低下した」、「仕事を辞めることを考えた」、「仕事を続ける自信がなくなった」など、更年期不調の仕事への影響は深刻な様子がうかがえます。  男性更年期については、まだ知識や理解も人それぞれでまったく知らない人もいるうえに、男性の「人に弱みを見せたくない」意識も加わり、だれかに気軽に相談しにくい状況ともいえます。そのため、更年期不調を抱える男性は、周囲に不調への理解や協力を望むものの、相談相手は圧倒的に配偶者・パートナーに集中していました。 更年期は、人生後半への準備期間  長寿化や働き方の変化で、60歳以降の暮らし方や働き方の選択肢が増えました。人生100年時代の折り返しの時期に訪れる更年期は、体と心の変化に向き合いつつ、仕事や趣味、家族とどう過ごすかなど、この先の人生に向けて準備するよい機会です。そのためにも、まず男性自身が男性更年期について正しく知ること。そして、男女問わず更年期世代を支えられるように、社会全体の理解が進むことも必要と考えます。 図表 更年期の不調と仕事への影響 更年期症状の自覚のある有職男性359人 仕事に影響があった 50% 仕事に影響がなかった 50% 「仕事に影響があった」と回答した人のうち 仕事の能率が目に見えて低下した 40% 仕事を辞めることを考えた 32% 仕事を続ける自信がなくなった 26% 時々仕事を休むことがあった 24% 昇格をあきらめた 22% 仕事上の人間関係が悪くなった 18% 働く時間や残業量が減った 18% (更年期不調が仕事に影響があった男性179人) 更年期症状の自覚のある45〜64歳有職男性359人 出典:2021年12月 花王コンシューマーインテリジェンス室調べ 【P28-32】 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 突撃! エルダ先生が行く!ユニーク企業調査隊 第2回 高齢従業員が、出産・育児を手助け! 「イクじい・イクばあ休暇」で自身もリフレッシュ 株式会社サタケ(広島県東広島市) 図表1「イクじい・イクばあ休暇」の取得日数と合計休暇日数 取得年月 職責 取得日数 プラスした年次有給休暇 合計休暇日数 2023.09 一般職 3 3 2023.08 一般職 3 3 2023.07 一般職 2 2 2023.04 管理職 3 3 2023.02 一般職 3 3 2022.09 嘱託 2 2 2021.11 一般職 2 2 2020.08 一般職 3 6 9 2020.08 嘱託 2 2 2020.03 嘱託 3 2 5 2019.12 嘱託 3 3 2019.05 管理職 2 2 2019.05 一般職 3 3 2019.04 嘱託 3 2 5 2019.02 一般職 3 2 5 2018.11 嘱託 3 3 2018.11 嘱託 3 3 2018.02 管理職 3 2 5 2017.05 管理職 3 3 2016.12 管理職 3 4 7 資料提供:株式会社サタケ 合計休暇日数の平均 3.65日 つづく 【P33】 解説 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 突撃! エルダ先生が行く!ユニーク企業調査隊 第2回 高齢従業員が、出産・育児を手助け! 「イクじい・イクばあ休暇」で自身もリフレッシュ 企業プロフィール 株式会社サタケ(広島県東広島市) 創業1896(明治29)年 食品産業総合機械、プラント設備および食品の製造販売  1896年に日本で最初の動力式精米機を開発して以来、1世紀以上にわたって米、小麦、トウモロコシなどを中心とした穀物加工技術分野の研究・開発を重ね、世界約150カ国に製品や技術を提供する「米と食のリーディングカンパニー」。  いち早く女性の活躍推進や従業員のワーク・ライフ・バランスの充実に取り組んでおり、20年以上前から時短勤務制度や社内保育室を整えるとともに、男性の育休取得の推進など、仕事と家庭の両立支援に注力。2016(平成28)年からは、孫が生まれる従業員を対象とした「イクじい・イクばあ休暇」を導入している。 「イクじい・イクばあ休暇」  孫が生まれる従業員が、出産する家族をサポートするために生まれた休暇制度。孫の出生日から10 日以内に3日間の特別有給休暇を取得することができ、年次有給休暇と組み合わせて取得することも可能。すでに子どもがいる家庭などでは、安心して子どもの世話を任せることができ、ご家族からも喜ばれる制度となっている。 高齢者雇用制度  同社では、60歳定年、希望者全員65歳までの継続雇用制度を導入している。本人が希望し会社が認める場合は、65歳以降も働き続けることができ、有資格者を中心に70歳を超えて働いている高齢従業員も多い。 サタケカレッジ  2015年に開校した社内大学。創業120年を超える同社の歴史や、穀物加工技術をより多くの従業員に伝えるために設立されたもので、高齢従業員を中心としたベテラン従業員が講師役を務める。入社2年目以降の希望者を対象としており、基礎コースと中級コースにわかれ、穀物加工の知識や技術、プラント施設の運営、企業法務、経理などの講座が用意されている。 【P34-37】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第143回 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 熟練電気技士から若手へ技術伝承が地域の暮らしを支える 企業プロフィール 株式会社丸英(まるえい)でんき(青森県五所川原(ごしょがわら)市) 設立 1952(昭和27)年 業種 家電品小売業、電気設備工事業 社員数 55人(うち正社員数54人) (60歳以上男女内訳) 男性(13人)、女性(1人) (年齢内訳) 60〜64歳 8人(15.4%) 65〜69歳 2人(3.6%) 70歳以上 4人(7.2%) 定年・継続雇用制度 定年60歳、希望者全員65歳まで継続雇用。以降は運用により上限なく継続雇用  青森県は本州の最北端に位置し、三方が海に面しています。山地、台地、半島と湾で構成される変化に富んだ地形により、季節によって気候が大きく異なり、四季の変化がはっきりとしています。県の中央部にある奥羽山脈(おううさんみゃく)の北端・八甲田山(はっこうださん)が県内の気候を二分しており、冬は、日本海側の津軽地方では降雪量が多く、太平洋側の南部地方では乾燥して晴天が続きます。  世界自然遺産の白神山地をはじめ、十和田湖(とわだこ)と奥入瀬(おいらせ)渓流など景勝地で知られる自然公園が点在し、春は弘前(ひろさき)城の桜、夏は青森三大ねぶた祭りが催され国内外の観光客でにぎわい、また、酸ヶ湯(すかゆ)温泉や浅虫(あさむし)温泉に代表される名湯・秘湯を擁しており観光資源に恵まれています。  JEEDの青森支部高齢・障害者業務課の岩浪(いわなみ)正裕(まさひろ)課長は「青森県は東京都、千葉県、神奈川県を合わせた広さとほぼ同じ面積を持ち、青森市、弘前市、八戸市で県人口の半分を占めています。また、第一次産業の比率が他県より高く、そのなかでも農業が大部分を占めています。若年層の県外流出が著しく、人手不足が常態化しており、県内経済を維持するには、高齢者の就労がますます重要になっています。したがって、ほとんどの事業所から『人材を募集しているが応募がない』、『高齢者に辞められると困る』、『人材流出を防ぐにはどうしたらよいか』、『定年後再雇用者の賃金設定をどうしたらよいか』などの声が聞かれ、相談を受けています」と説明します。  青森県内の高齢者雇用の状況については、「70歳までの就業確保措置実施済み企業割合が、全国で4番目に高いという状況です※。年齢にかかわりなく意欲と能力に応じて働くことができる職場づくりを支援し、県内の事業所から高齢者雇用にかかわる相談などに応じており、定年延長や継続雇用などの制度改善の提案を行うとともに、各事業所の事情や要望に応じて適切な援助を提供することを心がけています」。  同支部で活躍する山崎(やまざき)博見(ひろみ)プランナーは、社会保険労務士と第1種衛生管理者の資格を所持し、五所川原市を拠点とした幅広い人脈を活かして地域の活性化に貢献してきました。ざっくばらんな会話のなかで提示する豊富な高齢者雇用の成功事例が参考になると訪問先企業から喜ばれています。  今回は、山崎プランナーの案内で「株式会社丸英でんき」を訪れました。 販売から修理まで、創業71年「街の電気屋さん」  株式会社丸英でんき(以下、「丸英でんき」)は、1952(昭和27)年に創業。家庭用電気製品の販売店としてスタートし、電気設備機器の設置・施工に着手して業域を広げ、近年はこの電気設備事業を柱として成長してきました。管理部部長の吉ア(よしざき)和行(かずゆき)さんは「お客さまを第一に考え、お客さまの求めていることにいかに応えていくかを行動指針としています。そこで、アフターメンテナンスに力を入れ、専門スタッフの人員配置を厚くしています。さまざまな要望に対応できるスペシャリストを育成するため、社員の資格取得を推進し、取得費用の一部を補助する制度を整えています。多くの高齢社員は業務に必要な資格を取得しており、若手社員の在社年数を見ながら必要な資格取得をアドバイスしています」と説明します。  丸英でんきでは高齢社員に期待する役割として、まず技術伝承をあげます。  「当社の高齢社員が持つ技術を若手に上手に伝承することは、会社のためだけでなく地域のお客さまのために必要なことです。社員のお手本ともいえる82歳になる専務は勉強家で、若手に向けた技術伝承に熱心です。朝礼の時間に勉強会を開き、日々の業務に役立つ専門的な技術を教えています。その姿からわれわれは元気をもらっています。このように高齢社員には若手のお手本として、後進の指導・育成のためにも、定年年齢の引上げを含めた就業規則の変更を検討しています」(吉ア部長) 実態に合わせた高齢者雇用制度の明文化を提案  山崎プランナーは2014(平成26)年に同社を初めて訪問しました。その後複数回訪問を重ね、2022(令和4)年には高齢者戦力化のための提案書を提出しました。  「会社の規定(就業規則)では希望者は65歳まで働ける制度となっていますが、それ以上の年齢の人も元気に働いており、会社としてもきちんとした戦力は必要だとの認識をお持ちでした。ある程度の条件は必要ですが、65歳以降も働けることを明示することによって、働く人も安心して継続雇用を受け入れることができます。現状として65歳以上、70歳以上の雇用もなされているので、基準を定めて70歳までの雇用を続けられる制度の明文化を提案しました。そのためには健康管理も重要な要素となることから、生活習慣病予防健診を定期健康診断のときに希望によって追加受診できるようアドバイスしました」。  今回は、電気の技術者として後輩を指導する二人にお話を聞きました。 危険をともなう電気工事 新人に安全第一を教示  加藤(かとう)正義(まさよし)さん(74歳)は、電気工事の経験を買われて50歳で入社しました。第一種電気工事士や小型移動式クレーンなどの資格を所持し、住宅設備工事の現場代理人を長年まかされています。「現場では運搬、取付けなど各担当者に指示を出すのが仕事。LED照明を取り付けた後、すべてのスイッチをオンにしたときの光景は爽快な気分になります。現場によっては、電気を止めずに作業をしなくてはならないこともあり、事故防止の安全対策に気を遣います」と加藤さん。近年はLED照明導入にともなう庁舎の電気工事が多いそうです。  加藤さんに現場で指導を受けている成田(なりた)聖平(しょうへい)さん(25歳)は「入社したてのころ、危ないことをするたびに『そんなことしたらダメだ!』と、すかさず加藤さんの声が飛んできました。普段はやさしく諭すような口調で教えてくれるので、わからないことは気兼ねなく聞けて解消でき、仕事に取り組みやすいです。初めて一人でまかされた仕事をやり切ったとき、褒めてもらったことが忘れられません。自信がつきましたし、これからもがんばろうと意欲がわきました」と大先輩とのエピソードを語りました。  加藤さんは「20年余りけがなく、事故なく勤められていることが何よりうれしいですね。50代のころまでは自分が70歳を超えて勤めるとは夢にも思っていませんでした。長く勤めるほど楽しくなり、働きやすい会社です」と振り返りました。 高難度の修理は若手に技術伝達する絶好の機会  工藤(くどう)茂(しげる)さん(73歳)は、第二種電気工事士、消防設備士、液化石油ガス設備士、二級ボイラー技士など20以上の資格を所持し、入社以来一貫して設備全般の修理、メンテナンスサービスを担当してきました。「そのとき必要な資格を取るというよりは、先輩のアドバイスにしたがって『あった方がよい資格』を取ってきました。40年間、あまり役に立たなかった資格が近年になって機器のメンテナンスに必須となり、役に立っています。世の中の変化を感じますね」。  資格取得を推奨する会社の方針もありますが、自分が先輩にしてもらったように後輩にアドバイスをしている工藤さん。「『せめてこれだけは取っておいた方がいいよ』などと話していますが、多くの若手は学校で基本的な技術や資格を習得済み。あとは現場についてきてもらって、実際に手を動かせば大体できます」と若手を認めたうえで、指導の肝を語ってくれました。  指導を受ける長内(おさない)宏輔(こうすけ)さん(24歳)は「工藤さんはむずかしそうな仕事があると率先して引き受け、『一緒に行くぞ』と声をかけてくれます。その現場についていき技術を学ばせてもらっています。いまは私も現場に一人で向かいますが、現場は毎回違うので都度わからないことも出てきます。まだまだ教えてもらうことがあるので、あと30年くらいはご指導いただきたいです(笑)。来年までに取っておいた方がよい資格などのアドバイスをもらっているので、達成できるよう取り組みたいです」と話していました。  加藤さんも工藤さんも、住まいに関するさまざまな業務を経験しています。電気店でありながら建具であるシャッターの修理をしたときは、「専門業者ではないが、頼りになる」とお客さまに喜ばれたそうです。  「当社はお客さまあっての会社です。感謝と喜びを共有したい思いからか、お客さまが支払いに来られると『加藤さん』、『工藤さん』と名前をあげて感謝の言葉を伝えてくれます。こうした言葉一つひとつが励みになっていると思います。今後も若い人材の採用を積極的に行い、高齢社員には彼らの成長を助けてもらい、技術を次世代に繋げていけるよう、高齢者雇用に取り組み、地域発展と社会責務を果たしていきたいです」(吉ア部長)  今回の取材を終え山崎プランナーは「あらためて会社の雰囲気のよさを感じました。私は地元の生まれということもあり、同社のことは前から知っており、そんな距離感が信頼感を生んでいると感じます。これからも事業の現況についてざっくばらんな雰囲気で傾聴し、関連する有益な情報を提供していきたいです」と語りました。  丸英でんきが大切にしてきたベテランによる技術伝承が、若手の定着と世代を超えたコミュニケーションにつながり会社を活性化させているようでした。これからも地域に不可欠なサービスを提供する会社として発展していくに違いありません。(取材・西村玲) ※ 青森労働局「令和5年『高年齢者雇用状況の集計結果』」 山崎博見 プランナー アドバイザー・プランナー歴:17年 [山崎プランナーから] 「支援活動を行うには信頼関係を醸成することが不可欠で、特に初回訪問の際には細心の注意を払います。訪問先との間に壁ができてしまうと支援自体に支障が生じてしまう可能性もあります。世間話を交えながら、高齢者雇用についての話題を盛り込み、それがアドバイスにつながることも多々あります。できるだけ和やかな雰囲気のなかで活動できるように努めています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆青森支部高齢・障害者業務課の岩浪課長は山崎プランナーについて「委嘱17年目で青森県社会保険労務士会の理事を務めています。地域に根ざした精力的な社労士活動を行い、プランナー活動においては、事業主の方々に適切なアドバイスをしています。人手不足のなか、高齢者の雇用が必要不可欠になるとして、事業主が納得して高齢者雇用に取り組めるよう、ときにユーモアを交えながら、話しやすい雰囲気のなかで、助言・提案をしています」と話します。 ◆青森支部高齢・障害者業務課は、青森県の県庁所在地である青森市の中心部に所在し、青森駅から約2.5km、東北新幹線が停車する新青森駅からは約6kmの場所に位置しています。また、2025年には支部の最寄り約300mのところに新駅が設置される予定です。 ◆同県では7人の70歳雇用推進プランナーの体制(青森エリア2人、弘前・五所川原エリア2人、八戸エリア3人)で、青森県内において年間250社ほどの事業所を訪問し、高齢者雇用に関する相談・援助業務を行っております。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●青森支部高齢・障害者業務課 住所:青森県青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 電話:017-721-2125 写真のキャプション 青森県五所川原市 マルエーデンキ一番館 吉ア和行管理部部長 朝礼では勉強会も実施 現場に向かう前に器材を確認する加藤正義さん 打ち合わせをする工藤茂さん(左)と長内宏輔さん(右) 【P38-39】 第93回 高齢者に聞く生涯現役で働くとは  丸山猛さん(67歳)は電子部品のメーカーひとすじに定年まで勤めあげた。現在は、高齢者の雇用を創出する会社で生涯現役を目ざすシニアと向きあう日々を過ごす。多岐にわたる部門で研けんさん鑽を重ねた丸山さんが、経験を力に働き続ける喜びを語る。 株式会社マイスター60 シニアビジネス事業部 丸山(まるやま)猛(たける)さん 三つの部門の経験が宝物  私は千葉県船橋(ふなばし)市で生まれました。地元の高校を卒業後、東京都内の大学の工学部電気工学科に進みました。子どものころから電気の世界に興味があったのは父が電電公社(日本電信電話公社・現「NTT」)の社員であったことが影響しています。当時は安定した職場として人気が高く、兄も父と同じ道を選びましたが、残念ながら私は入社が叶わず、電子部品のメーカーに就職しました。  入社してすぐ郡山(こおりやま)工場の立上げにかかわることになり、福島で生産管理の仕事に10年ほど従事しました。その後、技術部門に異動になり、技術スタッフとして18年勤務しました。大学で学んだことが活かせる職場はやりがいがありました。最後は管理部門に異動になり、約10年、人事・総務の仕事にたずさわりました。  生産管理、技術部門、管理部門という三つの部門の経験は、定年後の第二の人生を切り拓く力となりました。とりわけ最後の10年に人事や採用の仕事でいろいろな立場の人に出会えたことは大きな財産です。転職を考えたことは一度もなく、60歳で定年退職後、2年ほどは、知人の紹介で中途採用のプロジェクトの仕事に従事し、その後、縁あって高齢者雇用を創出する「株式会社マイスター60」で第二の人生のスタートを切りました。  新卒から定年まで一つの会社で仕事をまっとうした丸山さんは「お聞かせするような話があまりなくて」と謙遜する。笑顔で語る丸山さんの38年の日々は、転職の情報があふれているいまの時代に、かえって新鮮な感じを受けた。 人と人をつなぐ喜びに支えられ  「縁あって」とお話ししましたが、人の縁というものは本当に大切だと思います。定年後に採用の仕事に従事できたのもかつての仲間の後押しがあったからです。ただ、2年の契約でしたからすぐに次の仕事を探すことになりました。体調もよく意欲もあったので働き続けたい思いは強く、ハローワークを訪ねましたが、62歳の私には思い通りの仕事が見つかりませんでした。あきらめかけていたときに株式会社マイスター60で営業の仕事をしていたかつての同僚から、自分の職場で働いてみないかと声がかかりました。最初はどういう会社かよくわかっていなかったのですが、声をかけてもらってからいろいろ調べてみると、高齢者に雇用の場を創出することで社会に貢献する、とてもユニークな会社だと知りました。会長の著書を読み進めるなかで共感することがたくさんあり、ここでもう一度自分の力を試してみたいと思うようになりました。さっそく面接を受け、契約社員として採用されました。  入社して5年が経ちますが、いま、一番楽しい時間を過ごしているような気がします。私の仕事は当社に登録された求職者の方と連絡を取りあい、最終的には面談をして、その人のスキルを参考にしながらマッチしそうな求人があればご紹介するというものです。面談後に話が進めばお客さまとの顔あわせや現場の確認に出かけることもあります。求職者の方とお客さまがうまくマッチングできたときは本当にうれしく、人と人をつなぐ仕事に出会えたことに感謝しています。  株式会社マイスター60は、「中小企業投資育成株式会社法」設立投資第一号として1990(平成2)年に設立された。以来、「年齢は背番号 人生に定年なし」を経営の基軸として高齢者雇用に邁進してきた。 求職者の心に寄り添う  当社のシニア人材派遣は、創業以来、ビル設備管理や建築施工管理などのエンジニアが主体ですが、最近は事務系の方も登録されるようになりました。求職者の方との面談では、一方的にアドバイスするような話し方はしないように気をつけています。みなさん、それぞれスキルを身につけ、それぞれの場所で活躍してきた方が多いので、こちらからお話を聞かせていただくという謙虚な気持ちを忘れないようにしています。私も求職者と近い年齢ですから気楽に話していただけると思っています。また、前職で10年近く人事や採用の管理部門で経験したことが、いま大いに役立っています。定年後に2年間エンジニアの中途採用にたずさわったこともいまの仕事に活かされており、人生に無駄な経験はないようです。ただ一つ後悔しているのは、資格の取得に挑戦してこなかったことです。面談をしていて資格をたくさん持っている方はそれが強みになりますから、若い人たちには、現職の時代にさまざまな資格取得にチャレンジしてほしいと伝えたいと思います。  シニアが働き続けるためにはいくつかハードルがありますが、そのハードルは工夫次第で飛び越えることができます。私も年を重ねるとともに忘れっぽくなってきましたから、毎朝ToDoリストを作成してマーキングで一つひとつ消すようにしています。自分の年齢を自覚してていねいに対処していくことが長く働き続けるヒントかもしれません。 生涯現役を目ざして  面談などで得た情報はデータベースで管理しているのですが、だれが見ても理解できる情報の提供を心がけています。私は「一枚岩」という言葉が好きなのですが、情報の共有や会社のルールを徹底して守ることで一枚岩の企業風土が生まれると思います。  入社以来、一番うれしいのはマッチングが整い、採用が決まった人からお礼の報告をもらうときです。たとえうまくいかなかった場合でも、電話の向こうで「丸山さん、またお世話になります」という声を聞くと、これからも一緒にがんばっていこうと、私の方が励まされています。  せっかく出会えた職場でこれからも長く働き続けていくためにも健康には気をつけており、年に一度、人間ドックを受診しています。健康維持のために歩くことは大切だと、週末には自宅近くの川沿いのサイクリングロードを妻と散策しています。いまもフルタイムで働く私を見て妻は「本当に仕事が好きなのね」といいながら支えてくれています。しっかり働く日常があるから、非日常の楽しみがあるのだと私は思います。  趣味というのは特になく、月1回、前職の仲間たちとゴルフを楽しむぐらいでしょうか。定年でリタイアした人が多く、仲間たちは、生涯現役を目ざしている私にエールを送ってくれます。定年を迎えても働く意欲があり、体が健康ならば、人は仕事をした方がよいと思っているのかもしれません。  会社の合言葉でもある「人生に定年なし」を目標に「気の持ちよう」をモットーにして明るく前を向いて歩いていきたい。始まったばかりの生涯現役の道のゴールはまだまだ先にあるようです。 【P40-43】 学び直し$謳i企業に聞く! 新連載 第1回 株式会社グローバルクリーン  「人生100年時代」を生涯現役で生き抜くため、必要とされる学び直し=Bこのコーナーでは、社員の学びを積極的に後押しする先進企業の事例にスポットをあて、中高年世代の学び直し″ナ前線に迫る。  今回紹介する先進企業は、10年以上前から独自の研修・人材育成プログラムを導入している「株式会社グローバルクリーン(宮崎県日向市)」。学び直しによるダイバーシティ人材の戦力化、管理職の育成などを中心に、同社の取組みのねらいや効果について聞いた。 「多様な人材の戦力化」を戦略に  宮崎県日向(ひゅうが)市と宮崎市でおもにビルメンテナンス業を展開する株式会社グローバルクリーンは、税田(さいた)和久(かずひさ)社長が2000(平成12)年に創業。税田社長と非正規社員9人でスタートした同社だが、右肩上がりに業績は拡大し、現在、アルバイト・パートを含む社員数は約130人に上っている。  「ビルメンテナンス業は人が行う仕事なので、業績を上げようとするなら、人材が必要になります。いまでこそ、全業種で人手不足といわれていますが、もとから私たち清掃業界は不人気職種。人材確保が大きな課題でした」とふり返る税田社長。創業からしばらくは、求人に費用をかけても「応募者がまったくない」という状況に、悩まされ続けた。  そこで、同社が取り組んだのが、「働きやすさ」だ。まずは、働きやすいように職場環境を整え、人材確保につなげることを目ざしたという。  「すると、働きやすい職場になったことで、女性、高齢者、障害者、ひきこもりの若い人など、働きづらさを抱えている人が入社してくれるようになったんです」。  そこから同社は、多様な人材を採用して戦力化することに、力を入れるようになった。  「求人や採用に費用をかけるのではなく、まずは働きやすい環境を整える。そして来てくれた人材の育成・戦力化に費用をかける。そういう戦略で経営を行ってきました」と、税田社長は力説する。 「自発的な研修」で資格保持者が増加  人材確保と人材の戦力化を目的に、およそ15年前から社員研修の強化を始めた同社。最初の年は、外部研修に社員を強制的に派遣したそうだ。  「でも、その研修のなかで講師の先生が質問するんですよ。『どうして今日、みなさんはこの研修に参加したのですか?』と。すると大多数の人が『会社から行けといわれて来た』というのです」。  結局、行きたくない研修に行っても成果は出ない。お金と時間の無駄になる。「強制的に派遣するのは1年でやめました」(税田社長)という。  2年目からは、研修への参加についても「行きたい人は行ってください」と、社員の自発性に任せる方針に変更。すると「面白い現象」が起きたそうだ。まずは「行く社員」と「行かない社員」に二極化した。そして「行く社員」は、自ら学びたいと思って研修に参加するので、目に見えて成長する。それに対し「行かない社員」が焦りを感じ、同じように研修に赴くようになったそうだ。  結果として、15年前は1人もいなかった「建築物環境衛生管理技術者」、「防除作業監督者」といった、清掃に関連する資格の取得者が、現在はおよそ50人にまで増加した。  「社員同士、影響されるんですよ。とてもよい影響ですね」(税田社長)。  社員の自主性を尊重することで、学び≠ニ学び直し≠ヨの機運が醸成された形だ。 個々に合わせた「オーダーメイド」プログラム  当初は外部研修主体で行っていた同社の学び・学び直しだが、同社では、自社での研修開発にも取り組むようになった。その一つが、「キャリアアップ研修プログラム」。中途採用者のほか、アルバイト・パート、契約社員として働いていた人が正社員となる際も、必ず受けてもらうプログラムだ。多様な人材を採用し、戦力化していく取組みのなかで、大きな役割をになっている。  同プログラムの最大の特徴は「定型ではない」こと。各人に合わせた「オーダーメイド」の研修プログラムを人事担当者・教育担当者が中心となって策定し、その内容に基づき、約半年かけて学んでいくという仕組みになっている。  具体的には、キャリアアップ研修の前に、一人ひとり面接を行い、「研修期間中に一番何を学びたいか」、「今後キャリアアップを望んでいるか」などをくわしくヒアリングする。スキルの「棚卸し」も行い、これまでの経験のなかで十分に学べていないスキルは何か、今後どんなスキルを身につければ仕事の幅が広がるのかなどを分析。本人の希望を重視する形で、学び・学び直しのプログラムを組んでいくのだ。  ある女性社員の例では、「パソコンのスキルを上げていきたい」という希望があったため、研修期間中、パソコンスキルに関する内容を多めに取り入れた。さらに、「営業的な分野をがんばりたい」という希望に基づき、「営業に役立つ」ことに主眼を置いた研修を実施。見積もりや積算の仕方などテクニカルなスキルのほか、コミュニケーションや傾聴スキル、プレゼンテーションスキルといったヒューマンスキル面も含め、幅広く学び直しを行ってもらった。  キャリアアップ研修プログラムは、対象者の年齢やこれまでの経験値に応じて、すべて組み替えている。中途採用者でも、年代によって必要となることは異なる。  「中途で入った人たちが新人のときに勉強したことと、いまの時代に必要なスキルは変わっています。キャリアアップ研修のなかで、いまの時代にあった学び直しをしていただき、それを仕事に活かすということをしてもらっています」  同プログラムの終了後には、必要に応じて、さらに学び直しの研修を行う。「会社としては、来ていただいた人には長く働いてもらいたい。定着という意味も含めて、戦力化のため、スキルを上げてほしい」というのが、税田社長の願いだ。 中高年齢層の学び直し≠ナ経営マネジメント研修も  同社は3年前の2021(令和3)年、社内の人材育成プログラムの体系化を、社長、同社役員に加え、キャリアコンサルタントなど外部の人事戦略専門家にも参加してもらい、1年間かけて行った。同社各部門の職務に必要な能力要件を明確化し(図表)、それを明示した「人材育成計画」を策定した。  能力要件は、役員・管理職・中堅社員・若手社員・新入社員の各職務階層に応じ、「テクニカルスキル(業務遂行能力)」、「ヒューマンスキル(対人関係能力)」、「コンセプチュアルスキル(概念化能力)」の3要素で整理している。  例えば、「テクニカルスキル」の場合、新入社員に求められるのは「パソコンスキル」や「ビジネスメールや社内ドキュメントの書き方」があるが、若手社員になると「タイムマネジメント」や「業界の市場理解」、中堅社員では「プロジェクトマネジメント」や「業界の市場分析」、管理職では「人事考課」、「生産性向上」などとなる。  人材育成計画には、各職種の各階層に応じた、独自の教育訓練体系についても盛り込まれている。同社は現在、この教育訓練体系に基づき、必要な職務能力を育成するための学び・学び直しを実践。特に近年は、会社の業務が拡大し、社員・スタッフの人数も増加しているなか、マネジメント人材の育成が急務となっており、40〜50歳代の学び直しとして、管理職研修に力を入れているという。  また、同社では、部長や課長といった管理職をすべて女性が占めるなど、女性の活躍が目立っているが、「これまでのキャリアで、管理職、あるいは管理職以上に必要とされるスキルを身につける機会がなかったケースが多い」(税田社長)のが実情だ。今後、長く活躍してもらうためにも、管理職の育成が不可欠となっているそうだ。  そこで同社では、2023年度に、管理職、管理職以上に必要とされる「コンセプチュアルスキル」を学んでもらおうと、宮崎県の「ひなたMBA」に、管理職である50代の女性社員2人を派遣した。ひなたMBAは、「これからの宮崎をリードする産業人材を育成すること」を目的に、県と経済団体・金融機関などが実施する人材育成プログラム。県内企業に勤めている人が対象で、組織マネジメントや経営学などをはじめ、経営者・幹部、管理者やマネージャーとして必要なビジネススキルを学ぶことができる。2人は会社の業務と並行して研修に通った。 個人・部門の「目的・目標チャート」で主体的な学び  「ひなたMBA」に参加した2人は、受講と仕事を両立し、「期間中は、とてもたいへんだった」という感想の一方で、「ものすごく勉強になった」とも話しているという。初めて学ぶ内容も多く、2人に大きな影響をおよぼしたようだ。税田社長は、「中高年齢層の学び直しで、経営マネジメントスキルを身に着けてもらえれば、将来的には役員などの道も拓けます。さらなるキャリアアップにつなげてほしい」と願う。  ただ、この管理職育成の学び直しも、「強制的には行わない」のが同社の流儀だ。年齢と経験を積んだ社員に対しては、会社から「そろそろマネジメントの勉強もした方がいいのではないか」などと呼びかけはするものの、学び直しをするか、しないかは、本人次第。会社として策定した「人材育成計画」も、社員に強制するものではなく、「人材育成計画を動かしていき、自分のものにするのは社員本人です」と、税田社長は強調する。  同社は、社員に主体的な学びをうながすため、「目的・目標の4観点シート」と「曼荼羅(まんだら)チャート」を活用している。目的・目標の4観点シートとは、教育者の原田隆史氏が考案した目的達成のための手法「原田式メソッド」で使われるツール。「自分」と「他者」、「有形」と「無形」の四つのカテゴリーを軸に、目標を分析し、目標の意味づけをすることで、目標達成のためのモチベーションを上げるものだ。  曼荼羅チャートは、目標達成の手段を可視化するためのツールで、米大リーグ「ドジャース」の大谷翔平選手が高校時代に活用していたことでも知られている。9×9の計81マスを用意し、まず、中心のマスに大きな目標を置く。そして、その周囲8マスに目標を達成するためのアイデア八つを書き出す。さらに、その八つのアイデアに基づき、アイデアを実現するための行動をすべてのマスに記入してシートは完成。この一連の作業により、目標を達成するために必要な行動が明らかになるほか、新しいアイデアを発見できたり、目標を関係者で共有できたりする効果があるとされる。  同社では基本的に、次期の目標を立てる際、目的・目標の4観点シート、曼荼羅チャートを、部門ごと、個人ごとに作成。正社員のシートやチャートについては、同社が毎期策定している経営指針書に全員分を盛り込み、目標設定や目標達成への思いを共有しているという。「次年度に向け、自分の目標を自分で立てて、それを達成していくためにはどうするか―。それを考えることが、学びにつながっていく」との考えだ。 チェンジ・チャレンジ・チャンス  「特に中小企業の場合、研修をする暇も時間もないということで、学び直しについては『余裕があればやる』というスタンスの会社が多いと思います。しかし、そんなことをいっていると、人は来てくれないと思います」と、税田社長は企業における学びの必要性を力説する。  同社は毎期、売上げのおよそ5%におよぶ資金を研修費に投入。研修を充実させたことが、人材確保にもつながり、「『自分を成長させてくれる会社を選んだ』といってくれるスタッフもいます」ということだ。  なお、同社では「働きやすい環境整備」の一環として、早くから定年を70歳に引き上げ、70歳以降も本人の希望があれば年齢の上限なく継続雇用できる制度を導入している。約130人のスタッフのうち約30人が60歳以上で、そのうち17人が70歳以上と、シニア層が活躍している。  一方で、研修の充実なども功を奏し、20代、30代の若手社員も増えており、正社員10人中6人が20代。「働きやすい環境、そして来てくれた人材の戦力化」という戦略が、「ダイバーシティ人材の活躍」として実を結びつつあるようだ。  税田社長がよく口にするのが「チェンジ・チャレンジ・チャンス」という言葉。「変わることを恐れずに、チャレンジすると、チャンスが広がってくる」という思いを込めたものだ。年齢を重ねても恐れずに、学び直しにチャレンジすれば、チャンスは広がり、長く活躍していけるということだ。 図表 階層に応じた能力要件 テクニカルスキル ヒューマンスキル コンセプチュアルスキル 役員 事業計画策定 高度なネゴシエーション 経営戦略 リスクマネジメント 高度なプレゼンテーション 意思決定 財務分析 組織運営 組織開発 管理職 労務 コーチング 問題解決 決算書などの数字の見方 ファシリテーション マーケティング 生産性向上 傾聴 戦術立案 人事考課 チームマネジメント 中堅社員 プロジェクトマネジメント リーダーシップ クリティカルシンキング 業界の市場分析 ネゴシエーション クリエイティブシンキング 業界の市場予測 ティーチング 企画提案 業務改善 問題発見 若手社員 タイムマネジメント プレゼンテーション ラテラルシンキング 業界の市場理解 アサーティブコミュニケーション 課題発見力 分析視点を持った自社サービスの商品知識 ヒアリング力 企画力 フォロワーシップ 新入社員 就業規則 社会人としてのコミュニケーション ロジカルシンキング 社内のマニュアル チームビルディング 自社サービス 各配属予定部署の業務内容 パソコンスキル ビジネスメールや社内ドキュメントの書き方 PDCAの回し方 ※資料提供:株式会社グローバルクリーン 写真のキャプション 税田和久社長 日向市に本社を構える株式会社グローバルクリーン 【P44-47】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第72回 定年後の雇用継続、残業命令とパワハラ該当性 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永勲 Q1 定年間近の懲戒解雇が認められなかった場合、継続雇用はどうなりますか  定年が近い従業員について、在籍中の問題行動などを理由に懲戒解雇により労働契約を終了させることにしました。懲戒解雇が有効と認められなかった場合には、定年を迎えた後の雇用を継続する必要がありますか。 A  定年後再雇用時には、退職事由または解雇事由に相当する理由がなければ、定年後再雇用を拒否することはできません。これらの事由が認められない場合に雇用の継続を義務付けた裁判例もあります。 1 定年後再雇用について  高齢者については、高年齢者雇用安定法により65歳までの継続雇用が義務づけられており@定年の延長、A継続雇用、B定年制の廃止のいずれかの措置を取る必要があります。  これらのうち、継続雇用制度に関しては、心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないことなど、就業規則に定める解雇事由または退職事由(年齢に係るものを除く)に該当する場合には、継続雇用しないことができるとされています。ただし、解雇事由に該当すると評価されるためには、客観的かつ合理的な理由と社会通念上の相当性が求められることは、通常の解雇や雇止めと同様です。  逆にいえば、解雇事由または退職事由に該当する程度の事情がないかぎりは、65歳までは継続雇用しなければならないともいえます。このことは、高年齢者雇用安定法の制度によって、雇用に対する期待が高められていることを示しています。  定年をもって、労働契約を終了したことを前提に、定年後の有期労働契約を締結していない場合に、どのような取り扱いになるのでしょうか。 2 継続雇用の拒否が認められなかった裁判例  定年が近かった従業員について、在籍中に行ったSNS上での信用棄損行為やそのほかの事情を考慮して、懲戒解雇を行った事案において、当該従業員が懲戒解雇の無効および継続雇用されるべきであると主張して争った裁判例があります(学校法人札幌国際大学事件。札幌地裁令和5年2月16日判決。以下、「本件裁判例」)。  懲戒解雇の効力と合わせて、定年後の継続雇用が問題になったのは、懲戒解雇は定年を迎える前に行われていますが、その後、その効力を争っている期間中に、定年を迎える時期も超えたことから、使用者が、懲戒解雇が有効であると主張することと合わせて、仮に、懲戒解雇が無効であったとしても定年を迎えたことにより労働契約が終了すると主張したといった事情があるからです。  これまでの裁判例では、定年後再雇用をすることなく労働契約を終了させた場合において、それが解雇事由などのない不適切な判断であった場合であっても、必ずしも定年後の継続雇用が維持されるという結論にはなっていませんでした。例えば、東京高裁平成29年9月28日判決(学校法人尚美学園〈大学専任教員B・再雇用拒否〉事件)においては、定年後の再雇用拒否に対して、労働契約が継続している旨の主張をした労働者に対して、「労契法19条は、『従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす』と規定しているのに対して、本件における従前の契約は期間の定めのない労働契約であるから、新たに成立するものとみなされる有期労働契約の労働条件の特定は不可能であるところ、この点をその後に締結される可能性のある別の契約に係る本件規程の定めを利用することで補うことは、説明がつかないというべきである」として、定年後の有期労働契約が不特定であることを理由に、その成立を否定していました。  本件裁判例においては、懲戒事由が懲戒解雇に相当するものであるとは認めなかったため、解雇が無効であった場合に迎えた定年の効力が問題となりました。使用者において、「本件就業規則10条1項本文は、大学教員は満63歳に達した日の属する年度の終わりをもって定年とする旨を定め、同項ただし書は、本人が希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない者については、本件特任就業規程により、退職日の翌日から1年ごとの雇用契約を更新することにより満65歳まで継続雇用する旨を定めている」ことをふまえて、「原告に解雇事由があるとは認められず、その他退職事由もうかがわれないから、上記再雇用の要件を満たすものと認められる」と判断しています。  そして、最高裁平成24年11月29日判決(津田電気計器事件)を引用して、「原告において、定年による雇用契約の終了後も満65歳まで雇用が継続されるものと期待することに合理的な理由があると認められ、原告の人事考課の内容等を踏まえれば、原告を再雇用しないことにつきやむを得ない特段の事情もうかがわれないから、再雇用をすることなく定年により原告の雇用が終了したものとすることは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認めることはできない」として、労働契約上の地位を認める判断をしました。  この点、学校法人尚美学園事件においては、継続しているとみなす労働契約が特定できないことを理由に、労働契約の成立を認めなかったところ、本件裁判例では、「労働条件は、本件就業規則、本件特任就業規程及び本件特任給与内規の定めに従うことになる」としたうえで、月額の賃金については、「月額24万円、25万円、26万円の3区分である(本件特任給与内規3条1項)ところ、原告は少なくとも月額24万円の限度で支払を受ける権利を有すると認められる」、賞与に相当する期末手当については、給与内規の定めに従い「6月分は給料月額の1.0か月分、12月分はその1.8か月分である(本件特任給与内規6条)から、原告は、6月に24万円、12月に43万2000円の支払を受ける権利を有する」として、継続雇用後の労働条件を特定することで、継続雇用後の労働契約存続を認めるという結論に至っています。  最高裁判例である津田電気計器事件と同様の考え方をしているため、目新しくはないともいえますが、定年後再雇用の拒否に対して、労働契約の継続を認めるという裁判例は珍しい事例です。ポイントとしては、定年後の再雇用に対する労働条件が就業規則や給与内規において、一定のパターンのみとなっており、個別具体的に決定するような内容となっていなかったことがあげられるでしょう。そのため、賃金については最も低い水準であるとはいえ、労働条件を特定することができ、労働契約の継続を認めるという結論につながったものと思われます。  解雇紛争中に定年を迎えたという特殊な事案ではあるものの、定年後再雇用を拒否したときに共通する争点に対する判断として参考になると思われます。 Q2 残業命令はパワハラに該当するのでしょうか  部長が、部下に対して、他部署の営業社員よりかなり高い営業ノルマを課し、業務量を多くこなすよう指示しています。営業成績はよい結果が出ているものの、所属の社員から「部長から頻繁に残業命令が出るので、疲労が蓄積している。ここまでくるとパワハラではないか」との相談を受けました。こうした業務命令はパワハラに当たるのでしょうか。 A  一部の特定の社員に対して不当な動機や目的をもって行われていないかぎり、部長の指示がパワハラに該当するとは考えがたいといえます。しかしながら、パワハラに該当しないとしても、過重労働は会社の損害賠償責任を生じさせるおそれがあるため、ノルマの緩和または時間外労働の抑制のいずれかを適切に行う必要があります。 1 パワーハラスメントの定義  パワーハラスメントは、「パワハラ」と省略されるように、一般的にも浸透した言葉となっています。しかしながら、パワハラという言葉については、人によってとらえ方が異なっているように思われます。  労働施策総合推進法第30条の2においては、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と定義されています。  この定義においては、業務上「必要」かつ「相当」な範囲を超えていることがパワハラに該当するためには必要とされています。個人の受け取り方によっては、業務上必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも、これが業務上必要かつ相当な範囲で行われているかぎりで、パワーハラスメントにはあたらないものと考えることができます。  ここでいう業務上の必要性とは、残業にわたる業務指示においていえば、残業して行うことの必要性であり、業務上の相当性とは、その命令の伝え方などの方法が適切に行われているか否かという点に着目するとわかりやすいでしょう。 2 パワハラの類型  パワハラの行為類型としては、@身体的な攻撃、A精神的な攻撃、B人間関係からの切り離し、C過大な要求(例えば、業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)、D過小な要求(例えば、業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事や仕事を与えないこと)、E個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)といった六つの行為類型があげられます。  質問をふまえてみた場合、かなり高い営業ノルマを課し、業務量を多くこなすよう指示していることや、頻繁に残業命令を行っているといった行為が、C過大な要求に該当する可能性があると考えられます。  しかしながら、パワーハラスメントの行為類型については、一定の区別が可能であり、@からBまでの行為類型については、原則として業務遂行上の発生しうる事象とは考えられないため、業務上の必要性が肯定されにくいと考えられます。他方で、CからEまでについては、必要な業務上の命令や指導との線引きが必ずしも容易でない場合があります。  参考になるのは、労働災害の認定に関して参照される「心理的負荷による精神障害の認定基準」において、パワーハラスメントについて「弱」、「中」、「強」の区別がなされており、これらのうち過大な要求について「強」に該当するのは、「業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求」が反復・継続するなどし、そのような過大な要求を執拗に受けた場合があげられています。  質問であげられている行為は、分類としてはC過大な要求に該当する可能性がありますが、これらの行為の結果として、部門の営業成績はよいということであれば、業務上の必要性は肯定されうるものと考えられ、命令や指示の方法が精神的攻撃として不適切な方法になっておらず、反復・継続して執拗な程度にまで至っていないかぎりは、パワーハラスメントに該当するとまではいえないと考えられます。 3 時間外労働への配慮  残業を含む業務命令が、単独ではパワーハラスメントに該当しないとしても、使用者は、労働者に対する安全配慮義務を負っており、労働者が職場環境の悪化などによって、身体または精神的な損害を生じないように配慮しなければならず、これに違反した場合は、会社としては損害賠償責任を負担するおそれがあります。安全配慮義務を尽くせていない環境においては、業務に起因する労働災害も発生しやすくなるでしょう。  パワーハラスメントも労働災害の要因としてあげられていますが、そのほかにも多種多様な要因が心理的負荷による精神障害の認定基準には掲げられています。例えば、達成困難なノルマが課されたことや、1カ月に80時間以上の時間外労働を行ったことなどが、心理的負荷を与えるものとして考慮されています。  パワーハラスメントに該当しないとしても、例えば、ノルマの内容が「達成は容易ではないものの客観的にみて努力すれば達成可能であるノルマが課され、この達成に向けた努力に向けた業務を行ったこと」は、「中」程度の心理的負荷とされており、さらに、時間外労働が月80時間を超えた場合も、「中」程度の心理的負荷があるものとされています。これら二つの心理的負荷が同時期に行われていた場合で、近接した時期に精神障害が生じた場合は、労働災害として認定される可能性があると考えられます。  したがって、たとえ、パワーハラスメントが行われていない場合であっても、達成が容易でないノルマの負荷と80時間以上の時間外労働が同時期に行われている場合には、ノルマの内容を変更するか、もしくは、時間外労働を減少させるように配慮しておくことが必要になると考えられます。 【P48-49】 “生涯現役”を支えるお仕事 最終回 研修実施件数トップ!「プラスワン」のアドバイスで生涯現役への意欲を引き出す 70歳雇用推進プランナー 特定社会保険労務士 齋藤(さいとう)敬コ(たかのり)さん  人生100年時代を迎え、多くの高齢者が長く働き続けることができるのは、高齢者の生涯現役を支えている人たちの活躍があるからともいえます。このコーナーでは、さまざまな分野や場面で働く高齢者、そして“生涯現役社会”を支えるお仕事をしている人々をご紹介します。  生涯現役社会の実現に向けて、全国で活躍する当機構の70歳雇用推進プランナー。専門的な知識、実務的な経験を活かし、高齢者が能力を発揮して働くことができるような環境整備を進める企業を支援しています。今回は、プランナーとして約20年にわたり、経営者に対する相談・助言、シニア向けの研修会実施に積極的に取り組んできた、特定社会保険労務士の齋藤敬コさんに、働くシニアの意欲を引き出すためのポイントなどについて、お話をうかがいました。 相談や研修は「ワンポイントアドバイス」で「プラスワン」の情報提供を心がける ―70歳雇用推進プランナーとして活動を始めた経緯を教えてください。 齋藤 2004(平成16)年に、勤めていた銀行を63歳で定年退職したのですが、その1年前に、当時の独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構(JEED)から高年齢者雇用アドバイザーを委嘱されました。それ以来、アドバイザー、プランナーとして活動しています。  銀行では総合企画部や情報関係の仕事が中心でしたが、最後の10年間は、銀行が新たに立ち上げたコンサルタント会社に出向し、中小企業の賃金や退職金制度の設計、経営問題のアドバイスなどにたずさわりました。高年齢者雇用アドバイザーを始めたのは、そのコンサルタント会社時代で、いまでいう「兼業」になります。上司の了承を得て活動していましたが、当時ではまだ珍しかったです。 ―現在はどのような活動をされているのでしょうか。 齋藤 プランナーの仕事は、相談・助言のための企業訪問と研修が中心です。JEEDからの依頼を受けて1カ月に3〜5日程度、1日平均3社で、年間約100社程を訪問しています。現在、社会保険労務士として、企業の経営者、総務・人事担当者と毎日接していますが、シニアの活用は大きな経営課題の一つになっていて、そのなかで得た具体的な知識・情報が、プランナーとしての仕事に生きています。 ―相談やアドバイスで心がけていることはありますか。 齋藤 企業訪問や研修で心がけているのは、「ワンポイントアドバイス」です。私の話はワンポイントにとどめ、情報・知識の押し売りはしないように気をつけています。地域内や同業界、他業界の動きを伝え、聞き手が自ら気づくように、そして質問しやすいようにと、話し方を工夫しています。  そして、もう一つが「プラスワン」です。相談や研修では、直接的なテーマだけではなく、プラスワンの内容をできるだけ提供できればと思っています。 ―全国のプランナー・アドバイザーのなかで、「就業意識向上研修」の実施件数がトップとなるなど、研修に精力的に取り組まれていますが、研修でのポイントについてお話ください。 齋藤 研修には大きく分けて「職場管理者研修」と「生涯現役ライフプラン研修」の二つがあります。ライフプラン研修は、基本的に55歳以上が対象。「定年後、どうするか」が、大きなテーマになります。  研修では、「職業寿命を何歳までにするか」を自分で決めるのが最大のポイントです。いつまで働く気があるのか、65歳か75歳か、自分で決めて書いてもらいます。最終目標が決まったら次は「逆算」です。現在55歳で、目標が70歳であれば15年あるので、いまからどんな準備が必要か、「お金」、「資格」、「生活スタイル」など、さまざまな面から考えていきます。 生涯現役の柱は「健康」と「収入」「福祉的雇用」から「戦略的雇用」への転換も課題 ―「職業寿命」に関しては、何歳と書く人が多いのですか。 齋藤 最近は「70歳」が多い印象です。その場で書くのですが、迷う人が多いですね。たぶん何もしなければ、大多数の人が60歳か65歳にすると思います。しかし、お金に関する話などを聞いてもらい、そのうえでディスカッションをすると考えが変わります。  大半の企業、特に大企業の多くは定年が60歳ですが、年金の支給開始年齢は原則65歳。「5年間どうするか」を考え、65歳から現実にもらえる年金額なども聞くと、みなさん、真剣になります。 ―「生涯現役」への意欲を引き出すためにも、「収入」は大きな要素になるということですね。 齋藤 生涯現役には、二つの柱があると思っています。一つは「健康」で、もう一つが「収入」です。お金のことは、あまりみなさん話したがりませんが、現実に、健康だけでは生活できません。仕事をすることで収入を得る、仕事をしていると健康になる、健康だから仕事ができる。これが、生涯現役の原則といえるのではないでしょうか。 ―生涯現役社会の実現に向け、特に重要だと考えていること、企業の経営者、総務・人事担当者へのメッセージがあればお願いします。 齋藤 企業の経営者には、高齢者の「福祉的雇用」から「戦略的雇用」へと、ぜひ変えていただきたいと思っています。多くの企業の60歳以降の雇用は、「制度がそうなっているから続けている」という、「福祉的雇用」の側面が大きいのが実情です。それで60歳以降の給与は一定で、上がりもしないし、下がりもしない。働く側からすれば、士気が下がりますよね。そこを戦略的雇用に切り替えることが必要だと考えます。そのなかで最も大切なのが、評価制度の導入です。多くの企業が評価制度を実施していますが、60歳以降は対象としていない企業が圧倒的に多いのですよ。簡単な評価制度でもいいので、60歳以上にも評価制度を適用し、戦略的に働いていただく。評価に報酬をリンクさせ、能力相応のものにする。それが働くシニアのモチベーションを高める一番のポイントとなります。  もともとの報酬が高い大きな企業などの場合は、むずかしい面もありますが、戦略的雇用に切り替え、60歳以上のシニアに意欲をもって働いてもらうことができれば、生産性も断然、高まってくると思います。(取材・沼野容子) 写真のキャプション 70歳雇用推進プランナー、特定社会保険労務士 齋藤敬コさん 【P50-51】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第46回 「ウェルビーイング」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回はウェルビーイングについて取り上げます。 ウェルビーイングは二つの単語の組み合わせ  ウェルビーイングという用語は、Well(よい)とbeing(状態)の組み合わせで成り立っています。WHO憲章※1に「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあることをいいます」という記載があり、ここからこの用語は広まったといわれています。厚生労働省の雇用政策研究会報告書のなかでも、「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念」と記載されています。概念≠ニあるように人や機関によって考え方や重視する指標(物事を判断・評価するための目印)がさまざまなのが実態ですが、少なくともよい状態≠フ対象が身体のみならず精神、社会と幅広くとらえられているのは共通しているところです。 ウェルビーイングに関する調査は多い  それでは、ウェルビーイングの具体的な取組みにはどのようなものがあるかについて見ていきたいと思います。ウェルビーイングの取組みを調べると最も多く取り上げられるのは調査です。数多くの調査がありますが、ここでは代表的な調査について見ていきたいと思います。 @国を横断した調査 ・よりよい暮らし指標(BLI)・・・OECD※2による調査。住宅、所得、雇用、社会的つながり、教育、環境、市民参画、健康、主観的幸福、安全、ワークライフバランスの11項目で構成されている。 ・世界幸福度ランキング・・・SDSN※3が「World Happiness Report(世界幸福度報告書)」のなかで毎年発表しているランキング。一人あたりGDP、健康寿命、社会的関係性、自己決定感、寛容性、信頼感の6項目で構成されている。 A日本国内の調査 ・満足度・生活の質に関する調査報告・・・内閣府が日本の経済社会の構造を人々の満足度の観点から多面的に把握し、政策運営に活かしていくことを目的に調査。図表に記載のある多岐にわたる項目で毎年調査している。 ・地域幸福度(Well-being)指標・・・魅力溢れる新たな地域づくり(デジタル田園都市国家構想)の実現に向けて、市民の「暮らしやすさ」と「幸福感(Well-being)」を指標で数値化・可視化したもの。一般社団法人スマートシティ・インスティテュートが公表。  ウェルビーイングの調査で重要なのは、「客観指標」と「主観指標」の組み合わせといわれています(図表)。客観指標とは、同一項目の設問であればだれが見ても同じ結果となる数値基準です。主観指標とは、同一項目の設問であっても人によって感じ方が違うものです。ウェルビーイングでは個人がどの程度のよい状態≠ニ感じているかが重要なので、主観指標がより重視されます。例えば、世界幸福度ランキングでは、客観指標は、一人あたりGDPと健康寿命の2項目に対して、残り4項目は主観指標で構成されています。内閣府の調査でも図表の通り、主観満足度が上位の階層に位置づけられています。 調査実施以外には課題が多い  ウェルビーイングが広まるもととなったWHO憲章の効力発生は1948(昭和23)年ですが、少なくとも日本ではそれほど注目されていませんでした。しかし、2015(平成27)年に国連で採択されたSDGs※4の目標3にすべての人に健康と福祉を(GOOD HEALTH AND WELL-BEING)と掲げられたことから注目度が上がります。企業の社会的責任としてSDGsへの貢献をあげる企業が多いなかで、事業活動を通じたウェルビーイングの実現を経営目標に掲げる企業や、ウェルビーイングの一環として社員の健康維持管理のために健康経営※5や労働時間の短縮・休日増加など働き方改革を推進する企業、従業員満足度調査を実施し人事施策に活かすなど、具体的な実行に移している企業は多くあります。  一方で、社会全体ではどうかというと、まずウェルビーイングの認知度の低さが課題としてあげられます。内閣府が2023(令和5)年に行った調査※6によると、新たな価値観に関する調査として、SDGsとウェルビーイングへの関心に関する年代別回答があります。「知らなかった」という回答のうち「SDGsへの関心」が7.2%〜12.2%に対して、「ウェルビーイングへの関心」が34.8%〜44.8%とSDGsと比べてウェルビーイングはまだまだ知られていない状態です。  また、世界幸福度ランキングが公表されるたびに日本の順位(2024年は143カ国中51位。前年は137カ国中47位)から日本人の幸福度の低さが報道等で指摘されています。2023年に発表された成長戦略実行計画でも、新たな日常に向けた成長戦略の一環として、「国民がWell-being を実感できる社会の実現」が掲げられていますが、どのように対応してウェルビーイングの意識を上げていくかの対応は明確になっていない状況です。調査結果を活かした具体策の策定も今後の重要な課題といえます。 * * * *  次回は「出向・転籍」について解説します。 ※1 WHO憲章……すべての人々の健康を増進し保護するため互いにほかの国々と協力する目的で設立された機関(WHO〈世界保健機関(World Health Organization)〉)の基本的な原則・目的を記したもの ※2 OECD……経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development)は、よりよい暮らしのためのよりよい政策の構築に取り組む国際機関 ※3 SDSN……国際的な研究組織である持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(Sustainable Development Solutions Network) ※4 SDGs……持続可能な開発目標。「誰一人取り残さない」という理念のもと、「持続可能な世界を実現する」ことを目ざした、2030年を達成期限とする17のゴール、169のターゲット、および、その進展を評価するための指針を持つ包括的な目標 ※5 本連載第13回(2021年6月号)「健康経営」をご参照ください。https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202106/html5.html#page=55 ※6 「第6回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」2023年4月19日公表 図表 満足度・生活の質を表す指標群 〈第1層〉 全体的な生活満足度(総合主観満足度) 〈第2層〉分野別主観満足度 家計と資産 雇用と賃金 住宅 仕事と生活(ワークライフバランス) 健康状態 〈第3層〉客観指標群 可処分所得金額 金融資産残高 生産賃金 正規雇用数・不本意非正規雇用数 完全失業率・有効求人倍率 所得内給与額・最低賃金 延床面積 家賃地代 住宅保有率 実労働時間 長時間労働者割合(週49時間以上) 年次有給休暇取得率 平均寿命・健康寿命 糖尿病が強く疑われる者の割合・生活習慣病による死亡者数 運動習慣がある者の割合 ※このほかの分野別主観満足度の項目として、「あなた自身の教育水準・教育環境」、「交友関係やコミュニティなど社会とのつながり」、「生活を取り巻く空気や水などの自然環境」、「身の回りの安全」、「子育てのしやすさ」、「介護のしやすさ・されやすさ」がある。 出典:内閣府「満足度・生活の質に関する調査報告書2023年〜我が国のWell-being の動向」(2023年7月) 【P52】 日本史にみる長寿食 FOOD 366 体の老化を防ぐモズク 食文化史研究家● 永山久夫 平安貴族も好んだモズク  まわりを海に囲まれた日本は、海藻の宝庫であり、古くから世界でもまれなほど、海藻食文化が栄えてきました。  コンブ、ワカメ、ノリなど、その種類は多く、縄文時代から食用にされ、最近では、健康長寿食として人気を呼んでいます。  その一つがモズク(水雲)。古代では「毛都久」、 「毛豆久」などと表記され、平安時代には、若狭湾(京都府・福井県)のモズクが京へ貢納されています。貴族たちの食膳にはよく出ていたようで、紫式部や清少納言たちも食べていたのは、間違いないでしょう。  ほかの海藻に付着して生息するところから「藻につく」という意味で、「モズク」と呼ばれるようになったようです。  食物繊維が豊富で、整腸効果が高く、お通じをよくし、ダイエットにもぴったり。座ったままの生活が多い平安時代の貴族たちが好んでいたのも、お腹の調子をよくするためだったのです。 酒の肴としても人気  モズクは糸状で細かく枝分かれしており、全長が40cm位で、黒褐色をしていて春から夏にかけて育ちます。舌ざわりが滑らかで、手ですくい上げようとすると、指の間からぬらりと逃げ落ちてしまいます。  煮え上がった汁のなかに入れ、さっと美しく緑色に変わったところで火を止めて食用にすると、塩味がかすかに伝わり、とっても美味しいです。  モズクの酢の物は高級品で、上戸は目を細めて塩辛のように珍重します。もちろん、ご飯の友としても人気があるのはいうまでもありません。  江戸時代初期の『料理物語』という料理本の「磯草の部」にモズクがあり、レシピとして「冷汁(吸い物の一種)、さしみ」とあります。「さしみ」は酢の物のことで、武士の食膳によく出されています。  モズクには、カロテンが多く、体細胞や血管などの酸化、つまり老化を防ぐ働きをして、健康を守っています。 【P53】 心に残る“あの作品”の高齢者  このコーナーでは、映画やドラマ、小説や演劇、音楽などに登場する高齢者に焦点をあて、高齢者雇用にかかわる方々がリレー方式で、「心に残るあの作品の高齢者」を綴ります 最終回 マンガ『総務部総務課山口六平太』 (作/林律雄、画/高井研一郎) 東京学芸大学名誉教授 内田賢  「総務部総務課山口六平太」は1986(昭和61)年に雑誌『ビッグコミック』に登場後、高井氏の急逝まで30年以上連載されたマンガです。単行本は全81巻に上ります。主人公の山口六平太が勤務するのは中堅自動車メーカーの大日自動車、会社のイメージは堅実ですが地味でダサく、トミタやニッタン、ホンネなど大手にはるかに及びません。しかし田川社長は「いまに見とれ! ベンツ何するものぞ!」の気概で会社を引っ張っています。一見するとジャガイモのような六平太は、何でも屋の総務部総務課で会社や社員、地域が抱える問題をていねいに解決していきます。  若手と高齢者がチームを組んで「夢の車」(その名はロシナンテ)をつくろうと奮闘するストーリーがたびたび描かれています(第29〜33巻)。飲み屋で若手が六平太に「会社も会社のつくってる車も決して悪くはないんだけど、いまひとつときめきがないんです」とこぼします。六平太はそんな若手にさりげなくヒントを与えて考えさせます。一方、元工場長の現相談役やベテラン設計技術者、自動車整備工場の老経営者に話を持ちかけます。昔は夢を抱き挑戦者だった高齢者が若手とともに新しい夢を追いかけます。  とはいえ、高齢者と若手の意識にズレもあります。元工場長の横山相談役は情熱のあまり自分が先頭に立って行動しようとします。そのとき、「相談役は何をなさりたいのですか?」、「幾つになってもお山の大将が似合うと思ったら大間違いですよ」と六平太が直言します。一瞬立腹した横山ですが我に返ります。その後、若手を相手に「必要なのは、みんなを引きずり回すお山の大将じゃなく仲間なんだってな」としみじみと反省します。  高齢者には若手にはできない役回りがあります。横山は取締役会で夢の車プロジェクトの意義を社長以下の役員に熱弁、予算を獲得します。知識や経験が乏しく現実離れしたアイデアになりがちな若手のデザインにベテラン技術者が適切なアドバイスで助け船を出します。新開発エンジンや車両試験装置の使用を巡って会社が一番力を入れている新車(キーウィ)開発チームと衝突します。今度は若手が情熱で問題を解決します。  高齢者の知恵を授ければ若手や中堅は大きく成長します。一方、ジェネレーションギャップの存在も無視できません。将来の大きな収穫が期待できるのにチームワークが崩れては組織にとって大きな損失です。両者の間に入り、それぞれのよさを引き出す触媒となる人物も欠かせません。このマンガに登場する高齢者はみんな、輝きを取り戻します。山口六平太がその触媒となっているのです。 ○C林律雄・高井研一郎/小学館 【P54-55】 労務資料 第18回中高年者縦断調査 (中高年者の生活に関する継続調査)の概況 厚生労働省政策統括官付参事官付世帯統計室  厚生労働省は、2005(平成17)年度から、団塊の世代を含む全国の中高年世代の男女を追跡し、その健康・就業・社会活動について意識面・事実面の変化の過程を継続的に調査しています。このほど、第18回(2022〈令和4〉年)の結果がまとまりましたので、「就業の状況」を中心にその結果を抜粋してご紹介します。  調査は、2005年10月末時点で50〜59歳だった全国の男女を対象としており、第18回調査における対象年齢は67〜76歳、調査の期日は2022年11月2日(水)、調査対象は1万9241人、回収数は1万8469人、回収率は96.0%でした(編集部)。 世帯の状況  この17年間で、「夫婦のみの世帯」の割合は増加、「三世代世帯」、「親なし子ありの世帯」の割合は減少  第1回調査(平成17年)から17年間の世帯構成の変化をみると、「夫婦のみの世帯」は、第1回21.4%から第18回47.3%と増加している。一方、「三世代世帯」は、第1回22.4%から第18回10.2%、「親なし子ありの世帯」は、第1回39.5%から第18回23.8%と減少している。また、第1回の世帯構成別に第18回の世帯構成をみると、「夫婦のみの世帯」に変化した割合は、「親なし子ありの世帯」が46.7%、「親あり子なしの世帯」が42.8%と高くなっている。 就業の状況  この17年間で、「正規の職員・従業員」の割合は減少、「自営業主、家族従業者」、「パート・アルバイト」の割合は減少傾向  第1回調査から17年間の就業状況の変化をみると、「正規の職員・従業員」は、第1回38.6%から第18回2.6%と減少している。また、「自営業主、家族従業者」は第1回15.3%から第18回11.9%、「パート・アルバイト」は、第1回17.0%から第18回14.1%と減少傾向である(図表1)。  また、第1回で「仕事をしている」者について、性別に第18回の就業状況をみると、男の「(第1回)正規の職員・従業員」では41.7%が第18回も仕事をしており、「(第18回)パート・アルバイト」の15.8%、「(第18回)労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託」の9.3%の割合が高い。女の「(第1回)パート・アルバイト」では33.3%が第18回も仕事をしており、「(第18回)パート・アルバイト」27.5%の割合が高い。 これからの生活設計  第18回調査時の仕事の有無が「仕事あり」の者のうち、68〜69歳になっても仕事をしたい者は80.3%、70〜74歳になっても仕事をしたい者は59.1%、75歳以降でも仕事をしたい者は27.2%  第18回調査時に「仕事あり」の者の第18回調査時のこれからの仕事の希望をみると、「仕事をしたい」は「68〜69歳になったときの仕事の希望」では80.3%、「70〜74歳になったときの仕事の希望」では59.1%、「75歳以降になったときの仕事の希望」では27.2%となっている。  また、「仕事をしたい」者が希望している仕事のかたちは、「68〜69歳になったときの仕事の希望」、「70〜74歳になったときの仕事の希望」では、「雇われて働く(パートタイム)」が35.7%、23.9%、「75歳以降になったときの仕事の希望」では「自営業主」が8・9%と最も多くなっている(図表2)。 図表1 第1回調査から第18回調査までの就業状況の変化 仕事をしている 自営業主、家族従業者 会社・団体等の役員 正規の職員・従業員 パート・アルバイト 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 家庭での内職など、その他 仕事のかたち不詳 仕事をしていない 不詳 % 第1回 15.3 4.7 38.6 17.0 3.8 2.2 0.2 18.2 0.0 第2回 15.1 4.9 36.0 17.7 4.2 2.5 0.3 19.4 0.0 第3回 15.0 4.7 33.1 17.4 5.8 2.3 0.4 21.2 0.0 第4回 15.1 4.6 29.8 17.8 6.9 2.3 0.3 23.2 0.0 第5回 15.2 4.2 26.1 17.1 7.8 2.4 0.2 27.0 0.0 第6回 14.8 4.3 22.7 17.6 8.4 2.3 0.1 29.9 0.1 第7回 15.0 4.1 19.0 17.2 9.3 2.4 0.1 32.8 0.1 第8回 14.6 4.0 16.1 17.2 9.4 2.6 0.0 35.7 0.3 第9回 14.5 3.8 13.1 17.7 9.3 2.8 0.1 38.6 0.1 第10回 14.5 3.9 10.6 17.7 9.7 2.5 0.1 41.0 0.2 第11回 14.3 3.8 8.1 17.9 9.4 2.5 0.1 43.8 0.2 第12回 14.0 3.6 6.7 18.1 8.9 2.5 0.1 45.9 0.1 第13回 13.8 3.6 5.6 17.8 8.0 2.6 0.0 48.5 0.1 第14回 13.4 3.2 4.7 17.8 7.3 2.6 0.1 50.6 0.2 第15回 13.1 3.2 4.2 17.3 6.3 2.5 0.1 53.1 0.2 第16回 12.9 3.0 3.5 15.9 5.4 2.3 0.0 56.6 0.3 第17回 12.6 2.7 3.0 14.8 4.8 2.5 0.1 59.2 0.4 第18回 11.9 2.6 2.6 14.1 4.3 2.3 0.1 61.8 0.3 図表2 第18回の仕事の有無別にみた第18回のこれからの仕事の希望 総数 仕事をしたい 自営業主 家業の手伝い 家庭での内職など 雇われて働く フルタイム パートタイム 近所の人や会社に頼まれて任意に行う仕事 有償型の社会参加活動 その他 仕事はしたくない まだ考えていない、不詳 68〜69歳になったときの仕事の希望 (100.0)100.0 48.1 8.6 2.9 1.2 7.9 21.4 2.0 1.5 2.5 32.1 19.7 第18回調査時に仕事あり (51.1)100.0 80.3 16.3 5.3 0.7 15.2 35.7 2.2 1.0 3.8 3.7 16.0 第18回調査時に仕事なし (48.7) 100.0 14.5 0.6 0.3 1.7 0.4 6.5 1.8 2.0 1.2 62.0 23.5 70〜74歳になったときの仕事の希望 (100.0)100.0 31.5 7.5 2.8 1.2 2.5 12.3 2.1 1.5 1.7 36.0 32.5 第18回調査時に仕事あり (42.4)100.0 59.1 16.7 5.3 0.8 5.8 23.9 2.6 1.2 2.9 6.3 34.6 第18回調査時に仕事なし (57.4)100.0 11.2 0.8 0.9 1.4 0.1 3.8 1.7 1.6 0.9 58.0 30.8 75歳以降になったときの仕事の希望 (100.0)100.0 13.4 3.6 1.3 0.6 0.6 4.2 1.1 0.9 1.1 28.3 58.3 第18回調査時に仕事あり (37.9)100.0 27.2 8.9 3.0 0.5 1.4 8.8 1.6 1.0 1.9 9.0 63.8 第18回調査時に仕事なし (61.8)100.0 5.0 0.3 0.3 0.7 0.1 1.3 0.8 0.8 0.7 40.3 54.8 注:「68〜69歳になったときの仕事の希望」は第18回で「67〜68歳」の者、「70〜74歳になったときの仕事の希望」は第18回で「67〜73歳」の者、「75歳以降になったときの仕事の希望」は第18回で「67〜76歳」の者について、それぞれ第18回調査の仕事の有無別に集計。 【P56-57】 BOOKS 自社にマッチした「やるべきこと」が見えてくる 図解 人的資本経営 50の問いに答えるだけで「理想の組織」が実現できる 岡田(おかだ)幸士(こうじ)著/ディスカヴァー・トゥエンティワン/2640円  人材を資本としてとらえ、その価値を最大限に引き出すことで企業価値の向上につなげる経営のあり方をさす「人的資本経営」。2023(令和5)年3月期決算以降、上場企業に対して情報開示が義務化されたこともあり、さらに関心が高まっている。  本書は、人的資本経営について、「何をすればいいのか」、「自分の会社は、どこまでできているのか」、「人的資本の開示とは?」など、経営者、人事部門担当者、現場マネージャーが知っておきたい知識をわかりやすく解説する。  著者は、人的資本経営においてやるべきことは、「人・組織としてありたい姿を決めること」、「それを実現するための取り組みを決めて行うこと」の2点に集約されるとし、2点について、それぞれの会社にマッチした内容を明らかにしていくために、「50の問い」を提示。各問いには、「答えの出し方(考え方・フレーム)」を示したうえで事例を紹介しており、この「問い」、「考え方」、「事例」のセットを活用することで、「自社なりの答え」が見えてくるという。  組織に関する課題の解決や、ミドル・シニア層の社員を活かす組織づくりを考えるうえでも、ヒントが得られる良書である。 労働災害が発生した際の手続きの手引書 3訂版元厚生労働事務官が解説する 労災保険実務講座 高橋(たかはし)健(たけし)著/日本法令/2420円  労働災害については、各企業でつねに発生防止のための取組みが積極的に展開されているところだが、業務上や通勤途上などで災害が発生してしまった場合には、労務担当者が迅速かつ適正な労災保険給付の請求手続きを行うことが重要となる。しかし、日常的に取り扱うという事務ではないことから、請求方法などについて熟知している担当者はそう多くはないだろう。  本書は、このような想定をもとにして、会社の労務担当者として、知っておきたい労災保険の知識と実務対応について解説。難解な認定基準の詳解は省き、初心者にもわかりやすいよう、請求書記載例を交えながら、仕組みや実務上のポイントを示している。災害発生の際の担当者の手引書として、また、社内各部署からの問い合わせなどに対応していくための手引書として、大いに役立つ一冊となっている。  本書は、会社で行われる社員研修を想定して書かれており、読者は研修を受講している感覚で読み進めるうちに理解し、学ぶことができる。  著者は、元厚生労働事務官として労災保険の認定事務にたずさわっていた経験を持ち、労災保険給付請求書を受けつけた労働基準監督署における給付決定事務の実際なども解説している。 上機嫌に毎日を過ごすためのヒントが満載 【新装版】 人生は70歳からが一番面白い 弘兼(ひろかね)憲史(けんし) 著/SBクリエイティブ/1430円  『島耕作』シリーズなどで知られる漫画家・弘兼憲史氏による、70歳からの人生がより楽しくなる生き方の指南書。2018(平成30)年1月に刊行された『人生は70歳からが一番面白い』(SB新書)を再編集した一冊である。  弘兼氏は、1947(昭和22)年生まれ。大手企業勤務を経て漫画家としてデビューした。その作品は、人間や社会について深い洞察力を持って描かれていることが高く評価されている。  本書には、「できることなら高齢者になってから周囲に嫌な思いをさせたくないし、家族や社会のお荷物にはなりたくない」と思っている人たちへ向けて、「最期まで上機嫌に人生を歩む」ためのヒントが綴られている。老化現象をプラスにとらえ、上機嫌な人づきあい、上機嫌な「死に方」などについて、弘兼氏の考え方を披露。定年退職後の過ごし方についても、地域のコミュニティに溶け込むためには「過去の肩書や栄光は邪魔になるだけ」、「年齢を重ねてこそ年下に敬語を使う」といった作法を提案する。  また、「頼まれごとで周りの役に立つ」ことをすすめるが、「疲れることはやめよう」というシンプルな判断基準を持つことも提案。心も足取りも自然と軽やかになるような指南書である。 自らの経験知をセカンドキャリアに活かす方法を四つのステップで示す 55歳からのリアルな働き方 田原(たはら)祐子(ゆうこ) 著/かんき出版/1650円  定年を意識しはじめると、再雇用で働き続けるか、それともほかの会社や仕事を探してみようかと考えたり、どちらにしても、この先の自分がどれほどの仕事をできるだろうかと漠然とした不安にかられたりする人は多いだろう。  本書は、人材開発コンサルタントとしてこれまで13万人以上の人材開発を手がけてきたという著者が、より自分を活かすことができるセカンドキャリアの選び方を伝授する。  著者が重視するのは、長年多くの経験を積んだ人が、無意識のうちに使っている「経験知(仕事の実践を通じて蓄積したノウハウ、知識・知恵)」である。本書では、一人ひとりに潜在するさまざまな「経験知」を見える化し、キャリアを切り開いて報酬を得ていく方法を、四つのステップで解説。55歳からの収入プラン、仕事プラン、人生設計の具体化をサポートする。また、同業種でキャリアアップした人、同業種・異職種へキャリアシフトした人、異業種・同職種でキャリアチェンジした人、異業種・異職種へキャリアチャレンジした人など、50代半ばからの転身に成功している実例も多数紹介している。  経験知をどう役立てていくか、自らの未来を自らで考え、切り拓いていく勇気がわいてくる。 シニアがになう小さな仕事や活動に着目するなど四つの解決策を提案 「働き手不足1100万人」の衝撃 2040年の日本が直面する危機と希望 古屋(ふるや)星斗(しょうと) 著、リクルートワークス研究所 著/プレジデント社/1760円  「2040年には働き手が1100万人足りなくなる」…、2023(令和5)年3月にリクルートワークス研究所が発表した未来予測シミュレーション。この内容が、大きな反響を呼んだ。これほどの「人手不足」は、もはや企業の雇用問題にとどまらず、ゴミの処理、災害からの復旧、道路の除雪、保育サービス、介護サービスなど、これまで享受してきたあらゆる「生活維持サービス」の水準が低下し、消滅する危機に直面する問題であると同研究所は危惧する。  本書は、このシミュレーションをもとに、今後日本が直面する「労働供給制約」という不可避の社会課題を明らかにしていく。そして、これから直面する働き手不足の問題を解消するための四つの打開策を提案し、希望を見出す。  打開策の一つとしてあげているのが、「シニアの小さな活動」だ。決まった金銭報酬や決まった日時に実施するわけではないが、例えば、小学生の登下校の見守りなど、シニアがになうことによって現役世代を助けている活動である。すでにこのような活動がさまざまな場やかたちで実践されており、本書の中ではシニアが活動をする理由や活動内容、高齢期の生活と両立する小さな仕事・活動のポイントを掘り下げている。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 令和6年「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」を実施  厚生労働省は、職場における熱中症予防対策を徹底するため、労働災害防止団体などと連携し、5月から9月までを実施期間とした「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施する。  すべての職場において、熱中症予防対策を講ずるよう広く呼びかけるとともに、期間中、事業者は@WBGT値(暑さ指数)の把握とその値に応じた熱中症予防対策を実施すること、A作業を管理する者および労働者に対してあらかじめ労働衛生教育を行うこと、B糖尿病、高血圧症など熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病を有する者に対して医師等の意見を踏まえた配慮を行うことなど、重点的な対策の徹底を図る。また、熱中症に関する資料やオンライン講習動画等を掲載しているポータルサイト(※)を運営する。  同省がまとめた2023(令和5)年の職場における熱中症による死傷者数は1045人、うち死亡者数は28人となっている。死傷者数を業種別にみると、建設業202件、製造業220件となっており、全体の約4割が建設業と製造業で発生している。死亡災害については、建設業が11件で最も多く発生しており、製造業、警備業および農業がいずれも4件と続いている。また、2019年以降の年齢別の熱中症の死傷者数をみると、全体の約5割が50歳以上となっている。(いずれも2024年1月11日時点の速報値) ※https://neccyusho.mhlw.go.jp/ 厚生労働省 「家事使用人の雇用ガイドライン」を策定  厚生労働省は、「家事使用人の雇用ガイドライン」を策定し、公表した。  一般の家庭内で職業として行われる家事労働は、個人がそれぞれの事情に合わせて柔軟に働くことができる働き方として、社会的な関心が大きくなっている。一方で、家事一般に従事する家事使用人は、労働契約法の適用は受けるが、労働基準法の適用を受けないことや、業務内容や就業時間などの基本的な内容が不明確であるために契約をめぐるトラブルが発生するケースがみられること、また、就業中のけがに対する補償が十分ではないことなどの問題が指摘されている。  こうした状況をふまえ、厚生労働省の委託事業において、鎌田耕一東洋大学名誉教授をはじめとする有識者が参画して議論を行い、このガイドラインが策定された。  ガイドラインには、家事使用人の就業環境の改善に向けて、雇用主である家庭が、家事使用人と労働契約を結ぶ際や就業中に留意すべき事項、また、家政婦(夫)紹介所が家庭と家事使用人を仲介することが多いことから、家政婦(夫)紹介所が果たすべき役割などを示している。また、「労働契約書の記載例」、「家事使用人を雇い入れる際のチェックリスト」なども掲載している。  厚生労働省は、家事使用人を雇う家庭、家事使用人本人および家政婦(夫)紹介所など関係者全員にガイドラインの周知を図っていくとしている。 ◆「家事使用人の雇用ガイドライン」 https://www.mhlw.go.jp/content/001206477.pdf 厚生労働省 「専門実践教育訓練」の令和6年4月1日付の指定講座  厚生労働省は、教育訓練給付金の対象となる「専門実践教育訓練」の2024(令和6)年4月1日付指定講座を決定し、公表した。  新規に指定されたのは、デジタル技術の進展をふまえた人材育成を行う第四次産業革命スキル習得講座や、専門職学位を取得する課程、看護師などの資格取得を目標とする養成課程など209講座。類型別の内訳をみると、業務独占資格又は名称独占資格の取得を目標とする養成課程(介護福祉士、看護師、美容師、社会福祉士、保育士、歯科衛生士など)が68講座、専門学校の職業実践専門課程及びキャリア形成促進プログラム(商業実務、衛生関係、工学関係など)が44講座、専門職学位課程(ビジネス・MOT、法科大学院、教職大学院など)が24講座、大学等の職業実践力育成プログラム(特別の課程(保健)、正規課程(保健)、(社会科学・社会)など)が27講座、第四次産業革命スキル習得講座(AI、データサイエンス、セキュリティなど)が46講座となっている。今回の指定により、すでに指定済みのものをあわせると、令和6年4月1日時点の給付対象講座数は2972講座になる。  「専門実践教育訓練給付」は、厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講し修了した場合に、教育訓練施設に支払った教育訓練経費の50 %(上限年間40万円)が6カ月ごとに支給される。また、訓練の受講を修了した後、あらかじめ定められた資格等を取得し、受講修了日の翌日から1年以内に雇用保険の被保険者として就職した場合は、教育訓練経費の20%(上限年間16万円)が追加支給される。 厚生労働省 職場のエンゲージメント向上に向けた取組み支援のためのリーフレットを作成  厚生労働省は、職場のエンゲージメント向上に向けた取組み支援のためのリーフレットを作成し、働き方・休み方改善ポータルサイト内に公表した。  「エンゲージメント」には、代表的なものとして「ワークエンゲージメント」と「従業員エンゲージメント」の2種類がある。ワークエンゲージメントは、仕事にやりがい(誇り)を感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得ている状態をさし、個人と仕事との関係に着目している。一方で、従業員エンゲージメントは、企業などの所属組織への貢献意欲をさし、個人と組織との関係に着目している。  エンゲージメント向上によって、おもに次の三つの効果が期待できるとされている。 @組織に対する従業員からの信頼が高まる A従業員の能力が最大限に発揮される B従業員が健康に・活き活きと働き続けられる  これにより、従業員の定着や、生産性の向上などが期待できる。  リーフレットでは、エンゲージメントの概念や、企業がエンゲージメント向上に取り組む意義、具体的な4社の取組み事例を紹介している。 ◆働き方・休み方改善ポータルサイト「ワークエンゲージメント」のページ https://work-holiday.mhlw.go.jp/workengagement/ ◆リーフレット「働きがいのある職場づくりのために」 https://work-holiday.mhlw.go.jp/workengagement/pdf/01.pdf 調査・研究 プロティアン・キャリア協会 ミドルシニアのキャリア開発の実態調査  一般社団法人プロティアン・キャリア協会は、ミドルシニア世代のキャリア開発に興味関心のある人事部門・キャリア支援者・経営陣ほか334人を対象として、ミドルシニアのキャリア開発の実態調査を実施した。  調査結果から「ミドルシニアになったとき、身に着けたいスキル」についてみると、「専門スキル」が31%で最も多く、「コミュニケーション力」22%、「DXスキル」17%となっている。年代別にみると、20〜35歳は「リーダーシップスキル」、36〜50歳は「マネジメントスキル」と「リーダーシップスキル」、51〜64歳は「専門スキル」、「DXスキル」、「コミュニケーション力」を重視。65歳以上はまんべんなく求めている、という結果になっている。  次に、「何歳まで働きたいか」という問いについてみると、「60〜70歳まで働きたい」が40%で最も多く、次いで「健康でいる間いつまでも」が30%、「70〜80歳まで働きたい」が22%となっている。一方で、「60歳より前に早期リタイアしたい」は6%にとどまっている。これを年代別にみてみると、65歳以上は「健康でいる間いつまでも」が43%で最も多く、次いで「70〜80歳まで働いていたい」が38%、「60〜70歳まで働いていたい」が10%となっている。51〜64歳は、「60〜70歳まで働きたい」が49%で最も多く、「70〜80歳まで働いていたい」が25%、「健康でいる間いつまでも」が22%となっている。 発行物 生命保険文化センター 『ライフプラン情報ブック』改訂  公益財団法人生命保険文化センターは、『ライフプラン情報ブック―データで考える生活設計―』(B5判、カラー60頁)を改訂した。  この冊子は、結婚、出産・育児、教育、住宅取得など、人生の局面ごとに、経済的準備にかかわるデータや情報をコンパクトかつ豊富に掲載するとともに、「万一の場合」や「老後」に関する自助努力で準備すべき金額の目安を具体的に計算して活用できるなど、高齢者の生活設計を考えるうえで参考となる情報を掲載している。  今回の改訂では、特集「データでみる物価の上昇」、「データでみる賃金の上昇」を新規に掲載している。また、「遺言書に何を書く?」、「海外留学と奨学金」、「リフォーム費用はいくらくらい?」の各データも新規に掲載。加えて、「公的な老齢年金の仕組みは?」などの情報を最新化している。  一冊200円(税込・送料別)。申込みは、左記ホームページより。 https://www.jili.or.jp/ 【P60】 次号予告 6月号 特集 即戦力となるシニア人材の確保へ リーダーズトーク 大塚康さん(ソニーピープルソリューションズ株式会社 執行役員) JEEDメールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メルマガ 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み 株式会社労働調査会までご連絡ください。 電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 牛田正史……日本放送協会解説委員室解説委員 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人 100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 丸山美幸……社会保険労務士 森田喜子……TIS株式会社人事本部人事部 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科 特任教授、日本人材マネジメント協会理事長 編集後記 ●今号の特集は、「シニアの活き活き職場づくり―安全・健康確保を進めよう―」と題し、高齢労働者が活き活きと安心して働くための職場環境改善や健康・体力づくりのポイントなどについてお届けしました。厚生労働省が公表した「令和4年高年齢労働者の労働災害発生状況」によると、労働災害における休業4日以上の死傷者数に占める60歳以上の高齢者の割合はおよそ3割にのぼります。また、高齢であるほど、労働災害で負傷した際の休業期間が長くなることもわかっています。高齢労働者が安全に働ける職場は、高齢者だけではなく、女性や若手など、だれもが働きやすい職場です。ぜひ高齢者の安全・健康の確保に努め、高齢者が活き活きと安心して働ける職場づくりに取り組んでいただければ幸いです。 ●リーダーズトークでは、アシストスーツ協会代表理事の飯田成晃氏にご登場いただきました。身体的負荷を軽減するアシストスーツは、より長く健康に働いていくための大きな可能性を秘めています。ぜひご一読ください。 読者アンケートにご協力をお願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 月刊エルダー5月号No.534 ●発行日−−令和6年5月1日(第46巻 第5号 通巻534号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 境 伸栄 編集人−−企画部次長綱川香代子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216 (企画部情報公開広報課) FAX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86788-036-4 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 【P61-63】 技を支える vol.339 石材を扱う総合力で墓石から記念碑まで施工 石工 秋山(あきやま)十三男(とみお)さん(77歳) 「この仕事のやりがいは、自分たちの手がけたものが末永く残ることです。それだけに、いい加減な仕事はできません」 揮毫(きごう)・彫刻技術を有する希少な存在  令和5年度「現代の名工」には、石材業界から二人が選ばれた。その一人、神奈川県厚木市の「秋山石材有限会社」会長、秋山十三男さんは、二つの特徴的な技を持っている。  一つは、石材に彫刻する文字を自ら揮毫し、手彫りする技術。墓石などに彫刻される文字は、現在はコンピューターの書体を用い、彫刻はサンドブラスト※で行うのが一般的だ。そのようななかで秋山さんは、文字を筆と墨で紙に書き、それを石材に転写してノミで手彫りすることができる、希少な存在だ。  「手書きで手彫りした文字には、機械にはない手作業ならではの味があります。いまだに納得のいく字はなかなか書けませんが、それでは仕事が進まないので、石材に写した文字をカットする際に修正を施します」  現在は、手彫りの仕事はほとんどないが、以前はその評判を聞きつけて、県外から依頼が来ることもあったそうだ。 全国各地でモニュメントの施工も手がける  そして、もう一つはモニュメントの施工である。彫刻家などから依頼を受け、全国各地で石材を使った造形品の製作を手がけてきた。  「作家が構想した立体造形を、その手足となって実現させるのが私の仕事です」  秋山さんは全国の石材の産地を熟知しており、作家が求める石材の調達・加工をになう。また、依頼時点で使用する素材や寸法などは決まっているものの、実際の構造などは施工業者に託される。耐震性など安全性を考慮した施工を行うのも秋山さんの役割だ。  そうした技術の基盤となったのが、墓石の耐震施工である。秋山さんは、強い地震でも倒れない施工法を70年代から追求してきた。  「従来は墓石をセメントで接着する工法が一般的でしたが、硬いもの同士だと上の石が踊り出して落ちてしまいます。そこで、ビルの免震にも用いられるゴムに着目しました。ただ、普通のゴムでは重さに耐えられないため、滑りにくいゴムを開発して挟むようにしたところ、震度6強程度まで耐えられるようになりました」  業界では分業が進むなか、石材の手配から加工、揮毫・彫刻、そして施工まで、総合力で対応できるのが秋山さんの強みといえる。 持ち前の探究心で技術や芸術への造詣を深める  秋山さんは、神奈川県伊勢原市の石材店で6人兄弟の末子として生まれた。父親が早くに脳卒中で倒れ、16歳で家業を手伝い始める。  「当時は磨き、石張り、字彫りなど、各分野で腕のいい職人さんたちがいて、その仕事ぶりに触れながら育ちました。まだ手作業が主力だったころに仕事を覚えられたことは、いま思えばよかったです」  若いころは仕事のかたわら、アマチュアの自動車レースにも熱中。24歳のときにレースから手を引き、石工の仕事に専念するようになる。1975(昭和50)年、26歳のときに独立して隣の厚木市に移り、石材店を開業した。  「独立すると、いろいろなことに挑戦しなければなりません。その過程で寺院の住職や彫刻家などさまざまな人と出会い、育ててもらってここまで来ました」  秋山さんの探究心の強さがうかがえる。レース以外にも、陶芸にはまり窯までつくったり、仏教美術に対する造詣を深めようと、玄奘(げんじょう)三蔵(さんぞう)がたどった長安からガンダーラまでの道のりをバスで3週間かけてたどったことも。これらが、秋山さんにしか持ち得ない「総合力」につながっているのだろう。  昨年、社長の座を長男に譲り、 会長に退いた。2代目には「秋山石材のカラーをうまく継承してもらえればありがたい」と期待する。  「石に彫った字は、ずっと残るので怖いんです。中国に行くと、2000年前くらいの碑が平気で残っていますからね。いまも時間さえあれば、何か字を書いています。これからも、一生懸命努力を重ねていくしかないですね」  喜寿を迎えますます意気軒昂(けんこう)だ。 秋山石材有限会社 TEL:046(241)6670 https://atg-akiyamasekizai.jimdofree.com (撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) 写真のキャプション 研磨機で磨いた黒御影石(くろみかげいし)は、鏡面のような美しさ。面が平らになっているかどうかを定規を当てて確認する。黒御影石をきれいに磨けたら一流だという 1975年設立の秋山石材。秋山さんが製作したモニュメントが目印 ノミを使い手彫りで原石から製作した「棗(なつめ)型つくばい」(高さ約70p) 竹の筆で揮毫した「祈」。このような字は手作業でなければ彫れない(写真提供:秋山十三男氏) 揮毫した字を墓石に写し、サンドブラストで彫る部分のゴムをカットしながら、文字の形を調整する。ここまでは人に任せられないという 施工した東京・御成門緑地のモニュメント(設計監修:眞板(まいた)雅文(まさふみ)氏) 便器と扉を除き石で試作したトイレ。壁の石板の象ぞう嵌がんもきれいに仕上がっている いまも時間があれば、書の研究や練習に充てている。写真は愛用の竹筆と、見本にしている竹筆で書かれた書。独特のカスレ具合が特徴だ 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回は、ストループテストの問題です。もともと心理学の分野から生まれた問題になりますが、背外側前頭前野、内側前頭前野、前部帯状回など、脳トレのなかでも特に使う前頭前野が活動することがわかっています。そのため、前頭前野機能テストとしてよく使われるようになった課題になります。スムーズに速く答えていけるまでくり返しチャレンジすることで前頭前野が鍛えられます。 第83回 目標できるだけ速く、スムーズに 漢字ストループ 「色」の行は、文字の色を読みます。 「読み方」の行は、文字を読みます。 声に出して読んでみましょう。 例)緑…アオ 例)緑…ミドリ 1 色 緑 黒 青 赤 黄 黒 2 読み方 青 赤 黄 青 赤 緑 3 色 緑 赤 青 黄 青 緑 4 読み方 赤 緑 赤 青 黄 黒 5 色 緑 青 黄 黄 緑 赤 6 読み方 黒 緑 黄 赤 青 赤 7 色 黒 黄 赤 黒 緑 青 8 読み方 黒 赤 黄 緑 赤 青 9 色 緑 赤 黄 黒 緑 青 10 読み方 黄 緑 黒 青 緑 黄 ストループ課題と声に出して読む効果  今回の脳トレ問題のような、矛盾した情報を処理していく課題を「ストループ課題」といいます。心理学者のジョン・ストループ氏が心理課題として開発したものですが、この課題を行うときに、注意力や判断力にかかわる「背外側前頭前野」や、自分を観察したり、気持ちと行動の矛盾を調整したりすることにかかわる「内側前頭前野」が活性化することが知られています。  また、声に出して読みながら解くことで、脳の三つの言語中枢をそれぞれ活性化させ、より効果的に脳を鍛えることができます。  「運動性言語中枢」、「感覚性言語中枢」、「視覚性言語中枢」という三つの部位があり、それぞれ別の場所に位置しています。運動性言語中枢はおもに話すことをになっており、「前頭葉」に位置しています。感覚性言語中枢は「側頭葉」にあり、おもに言語を理解することをにない、視覚性言語中枢は「後頭葉」にあり、文字や絵を見て話すことをになっています。  スムーズに読めるようになるまでくり返しましょう。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK 出版)など著書多数。 【問題の答え】 できるだけ速く答えましょう。つい読んでしまうことを抑えて、切り替えることでワーキングメモリが鍛えられます。抑制力、切り替え力、我慢力も鍛えられます。 @アオ・ミドリ・アカ・キ・クロ・キ Aアオ・アカ・キ・アオ・アカ・ミドリ Bアオ・クロ・アカ・ミドリ・クロ・アカ Cアカ・ミドリ・アカ・アオ・キ・クロ Dキ・ミドリ・アカ・クロ・アオ・キ Eクロ・ミドリ・キ・アカ・アオ・アカ Fアカ・ミドリ・アカ・ミドリ・クロ・キ Gクロ・アカ・キ・ミドリ・アカ・アオ Hキ・キ・アカ・クロ・アオ・ミドリ Iキ・ミドリ・クロ・アオ・ミドリ・キ 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。2024年5月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価503円(本体458円+税) 『70歳雇用推進事例集2024』のご案内  2021(令和3)年4月1日から、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業を確保する措置を講ずることが事業主の努力義務となりました。  当機構(JEED)では、昨年作成した「70歳雇用推進事例集2023」に引き続き、『70歳雇用推進事例集2024』を発行しました。  本事例集では、70歳までの就業確保措置を講じた20事例を紹介しています。 興味のある事例を探しやすくするため「事例一覧」を置きキーワードで整理 各事例の冒頭で、制度改定の契機と効果、ポイント、プロフィール、従業員の状況を表により整理 70歳までの就業確保措置を講じるにあたって苦労した点、工夫した点などを掲載 『70歳雇用推進事例集2024』はJEEDホームページから無料でダウンロードできます https://www.jeed.go.jp/elderly/data/manual.html 70歳雇用推進事例集 検索 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 高齢者雇用推進・研究部 2024 5 令和6年5月1日発行(毎月1回1日発行) 第46巻第5号通巻534号 〈発行〉独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 〈発売元〉労働調査会