高齢者の職場探訪 北から、南から 第143回 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 熟練電気技士から若手へ技術伝承が地域の暮らしを支える 企業プロフィール 株式会社丸英(まるえい)でんき(青森県五所川原(ごしょがわら)市) 設立 1952(昭和27)年 業種 家電品小売業、電気設備工事業 社員数 55人(うち正社員数54人) (60歳以上男女内訳) 男性(13人)、女性(1人) (年齢内訳) 60〜64歳 8人(15.4%) 65〜69歳 2人(3.6%) 70歳以上 4人(7.2%) 定年・継続雇用制度 定年60歳、希望者全員65歳まで継続雇用。以降は運用により上限なく継続雇用  青森県は本州の最北端に位置し、三方が海に面しています。山地、台地、半島と湾で構成される変化に富んだ地形により、季節によって気候が大きく異なり、四季の変化がはっきりとしています。県の中央部にある奥羽山脈(おううさんみゃく)の北端・八甲田山(はっこうださん)が県内の気候を二分しており、冬は、日本海側の津軽地方では降雪量が多く、太平洋側の南部地方では乾燥して晴天が続きます。  世界自然遺産の白神山地をはじめ、十和田湖(とわだこ)と奥入瀬(おいらせ)渓流など景勝地で知られる自然公園が点在し、春は弘前(ひろさき)城の桜、夏は青森三大ねぶた祭りが催され国内外の観光客でにぎわい、また、酸ヶ湯(すかゆ)温泉や浅虫(あさむし)温泉に代表される名湯・秘湯を擁しており観光資源に恵まれています。  JEEDの青森支部高齢・障害者業務課の岩浪(いわなみ)正裕(まさひろ)課長は「青森県は東京都、千葉県、神奈川県を合わせた広さとほぼ同じ面積を持ち、青森市、弘前市、八戸市で県人口の半分を占めています。また、第一次産業の比率が他県より高く、そのなかでも農業が大部分を占めています。若年層の県外流出が著しく、人手不足が常態化しており、県内経済を維持するには、高齢者の就労がますます重要になっています。したがって、ほとんどの事業所から『人材を募集しているが応募がない』、『高齢者に辞められると困る』、『人材流出を防ぐにはどうしたらよいか』、『定年後再雇用者の賃金設定をどうしたらよいか』などの声が聞かれ、相談を受けています」と説明します。  青森県内の高齢者雇用の状況については、「70歳までの就業確保措置実施済み企業割合が、全国で4番目に高いという状況です※。年齢にかかわりなく意欲と能力に応じて働くことができる職場づくりを支援し、県内の事業所から高齢者雇用にかかわる相談などに応じており、定年延長や継続雇用などの制度改善の提案を行うとともに、各事業所の事情や要望に応じて適切な援助を提供することを心がけています」。  同支部で活躍する山崎(やまざき)博見(ひろみ)プランナーは、社会保険労務士と第1種衛生管理者の資格を所持し、五所川原市を拠点とした幅広い人脈を活かして地域の活性化に貢献してきました。ざっくばらんな会話のなかで提示する豊富な高齢者雇用の成功事例が参考になると訪問先企業から喜ばれています。  今回は、山崎プランナーの案内で「株式会社丸英でんき」を訪れました。 販売から修理まで、創業71年「街の電気屋さん」  株式会社丸英でんき(以下、「丸英でんき」)は、1952(昭和27)年に創業。家庭用電気製品の販売店としてスタートし、電気設備機器の設置・施工に着手して業域を広げ、近年はこの電気設備事業を柱として成長してきました。管理部部長の吉ア(よしざき)和行(かずゆき)さんは「お客さまを第一に考え、お客さまの求めていることにいかに応えていくかを行動指針としています。そこで、アフターメンテナンスに力を入れ、専門スタッフの人員配置を厚くしています。さまざまな要望に対応できるスペシャリストを育成するため、社員の資格取得を推進し、取得費用の一部を補助する制度を整えています。多くの高齢社員は業務に必要な資格を取得しており、若手社員の在社年数を見ながら必要な資格取得をアドバイスしています」と説明します。  丸英でんきでは高齢社員に期待する役割として、まず技術伝承をあげます。  「当社の高齢社員が持つ技術を若手に上手に伝承することは、会社のためだけでなく地域のお客さまのために必要なことです。社員のお手本ともいえる82歳になる専務は勉強家で、若手に向けた技術伝承に熱心です。朝礼の時間に勉強会を開き、日々の業務に役立つ専門的な技術を教えています。その姿からわれわれは元気をもらっています。このように高齢社員には若手のお手本として、後進の指導・育成のためにも、定年年齢の引上げを含めた就業規則の変更を検討しています」(吉ア部長) 実態に合わせた高齢者雇用制度の明文化を提案  山崎プランナーは2014(平成26)年に同社を初めて訪問しました。その後複数回訪問を重ね、2022(令和4)年には高齢者戦力化のための提案書を提出しました。  「会社の規定(就業規則)では希望者は65歳まで働ける制度となっていますが、それ以上の年齢の人も元気に働いており、会社としてもきちんとした戦力は必要だとの認識をお持ちでした。ある程度の条件は必要ですが、65歳以降も働けることを明示することによって、働く人も安心して継続雇用を受け入れることができます。現状として65歳以上、70歳以上の雇用もなされているので、基準を定めて70歳までの雇用を続けられる制度の明文化を提案しました。そのためには健康管理も重要な要素となることから、生活習慣病予防健診を定期健康診断のときに希望によって追加受診できるようアドバイスしました」。  今回は、電気の技術者として後輩を指導する二人にお話を聞きました。 危険をともなう電気工事 新人に安全第一を教示  加藤(かとう)正義(まさよし)さん(74歳)は、電気工事の経験を買われて50歳で入社しました。第一種電気工事士や小型移動式クレーンなどの資格を所持し、住宅設備工事の現場代理人を長年まかされています。「現場では運搬、取付けなど各担当者に指示を出すのが仕事。LED照明を取り付けた後、すべてのスイッチをオンにしたときの光景は爽快な気分になります。現場によっては、電気を止めずに作業をしなくてはならないこともあり、事故防止の安全対策に気を遣います」と加藤さん。近年はLED照明導入にともなう庁舎の電気工事が多いそうです。  加藤さんに現場で指導を受けている成田(なりた)聖平(しょうへい)さん(25歳)は「入社したてのころ、危ないことをするたびに『そんなことしたらダメだ!』と、すかさず加藤さんの声が飛んできました。普段はやさしく諭すような口調で教えてくれるので、わからないことは気兼ねなく聞けて解消でき、仕事に取り組みやすいです。初めて一人でまかされた仕事をやり切ったとき、褒めてもらったことが忘れられません。自信がつきましたし、これからもがんばろうと意欲がわきました」と大先輩とのエピソードを語りました。  加藤さんは「20年余りけがなく、事故なく勤められていることが何よりうれしいですね。50代のころまでは自分が70歳を超えて勤めるとは夢にも思っていませんでした。長く勤めるほど楽しくなり、働きやすい会社です」と振り返りました。 高難度の修理は若手に技術伝達する絶好の機会  工藤(くどう)茂(しげる)さん(73歳)は、第二種電気工事士、消防設備士、液化石油ガス設備士、二級ボイラー技士など20以上の資格を所持し、入社以来一貫して設備全般の修理、メンテナンスサービスを担当してきました。「そのとき必要な資格を取るというよりは、先輩のアドバイスにしたがって『あった方がよい資格』を取ってきました。40年間、あまり役に立たなかった資格が近年になって機器のメンテナンスに必須となり、役に立っています。世の中の変化を感じますね」。  資格取得を推奨する会社の方針もありますが、自分が先輩にしてもらったように後輩にアドバイスをしている工藤さん。「『せめてこれだけは取っておいた方がいいよ』などと話していますが、多くの若手は学校で基本的な技術や資格を習得済み。あとは現場についてきてもらって、実際に手を動かせば大体できます」と若手を認めたうえで、指導の肝を語ってくれました。  指導を受ける長内(おさない)宏輔(こうすけ)さん(24歳)は「工藤さんはむずかしそうな仕事があると率先して引き受け、『一緒に行くぞ』と声をかけてくれます。その現場についていき技術を学ばせてもらっています。いまは私も現場に一人で向かいますが、現場は毎回違うので都度わからないことも出てきます。まだまだ教えてもらうことがあるので、あと30年くらいはご指導いただきたいです(笑)。来年までに取っておいた方がよい資格などのアドバイスをもらっているので、達成できるよう取り組みたいです」と話していました。  加藤さんも工藤さんも、住まいに関するさまざまな業務を経験しています。電気店でありながら建具であるシャッターの修理をしたときは、「専門業者ではないが、頼りになる」とお客さまに喜ばれたそうです。  「当社はお客さまあっての会社です。感謝と喜びを共有したい思いからか、お客さまが支払いに来られると『加藤さん』、『工藤さん』と名前をあげて感謝の言葉を伝えてくれます。こうした言葉一つひとつが励みになっていると思います。今後も若い人材の採用を積極的に行い、高齢社員には彼らの成長を助けてもらい、技術を次世代に繋げていけるよう、高齢者雇用に取り組み、地域発展と社会責務を果たしていきたいです」(吉ア部長)  今回の取材を終え山崎プランナーは「あらためて会社の雰囲気のよさを感じました。私は地元の生まれということもあり、同社のことは前から知っており、そんな距離感が信頼感を生んでいると感じます。これからも事業の現況についてざっくばらんな雰囲気で傾聴し、関連する有益な情報を提供していきたいです」と語りました。  丸英でんきが大切にしてきたベテランによる技術伝承が、若手の定着と世代を超えたコミュニケーションにつながり会社を活性化させているようでした。これからも地域に不可欠なサービスを提供する会社として発展していくに違いありません。(取材・西村玲) ※ 青森労働局「令和5年『高年齢者雇用状況の集計結果』」 山崎博見 プランナー アドバイザー・プランナー歴:17年 [山崎プランナーから] 「支援活動を行うには信頼関係を醸成することが不可欠で、特に初回訪問の際には細心の注意を払います。訪問先との間に壁ができてしまうと支援自体に支障が生じてしまう可能性もあります。世間話を交えながら、高齢者雇用についての話題を盛り込み、それがアドバイスにつながることも多々あります。できるだけ和やかな雰囲気のなかで活動できるように努めています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆青森支部高齢・障害者業務課の岩浪課長は山崎プランナーについて「委嘱17年目で青森県社会保険労務士会の理事を務めています。地域に根ざした精力的な社労士活動を行い、プランナー活動においては、事業主の方々に適切なアドバイスをしています。人手不足のなか、高齢者の雇用が必要不可欠になるとして、事業主が納得して高齢者雇用に取り組めるよう、ときにユーモアを交えながら、話しやすい雰囲気のなかで、助言・提案をしています」と話します。 ◆青森支部高齢・障害者業務課は、青森県の県庁所在地である青森市の中心部に所在し、青森駅から約2.5km、東北新幹線が停車する新青森駅からは約6kmの場所に位置しています。また、2025年には支部の最寄り約300mのところに新駅が設置される予定です。 ◆同県では7人の70歳雇用推進プランナーの体制(青森エリア2人、弘前・五所川原エリア2人、八戸エリア3人)で、青森県内において年間250社ほどの事業所を訪問し、高齢者雇用に関する相談・援助業務を行っております。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●青森支部高齢・障害者業務課 住所:青森県青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 電話:017-721-2125 写真のキャプション 青森県五所川原市 マルエーデンキ一番館 吉ア和行管理部部長 朝礼では勉強会も実施 現場に向かう前に器材を確認する加藤正義さん 打ち合わせをする工藤茂さん(左)と長内宏輔さん(右)