“生涯現役”を支えるお仕事 最終回 研修実施件数トップ!「プラスワン」のアドバイスで生涯現役への意欲を引き出す 70歳雇用推進プランナー 特定社会保険労務士 齋藤(さいとう)敬コ(たかのり)さん  人生100年時代を迎え、多くの高齢者が長く働き続けることができるのは、高齢者の生涯現役を支えている人たちの活躍があるからともいえます。このコーナーでは、さまざまな分野や場面で働く高齢者、そして“生涯現役社会”を支えるお仕事をしている人々をご紹介します。  生涯現役社会の実現に向けて、全国で活躍する当機構の70歳雇用推進プランナー。専門的な知識、実務的な経験を活かし、高齢者が能力を発揮して働くことができるような環境整備を進める企業を支援しています。今回は、プランナーとして約20年にわたり、経営者に対する相談・助言、シニア向けの研修会実施に積極的に取り組んできた、特定社会保険労務士の齋藤敬コさんに、働くシニアの意欲を引き出すためのポイントなどについて、お話をうかがいました。 相談や研修は「ワンポイントアドバイス」で「プラスワン」の情報提供を心がける ―70歳雇用推進プランナーとして活動を始めた経緯を教えてください。 齋藤 2004(平成16)年に、勤めていた銀行を63歳で定年退職したのですが、その1年前に、当時の独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構(JEED)から高年齢者雇用アドバイザーを委嘱されました。それ以来、アドバイザー、プランナーとして活動しています。  銀行では総合企画部や情報関係の仕事が中心でしたが、最後の10年間は、銀行が新たに立ち上げたコンサルタント会社に出向し、中小企業の賃金や退職金制度の設計、経営問題のアドバイスなどにたずさわりました。高年齢者雇用アドバイザーを始めたのは、そのコンサルタント会社時代で、いまでいう「兼業」になります。上司の了承を得て活動していましたが、当時ではまだ珍しかったです。 ―現在はどのような活動をされているのでしょうか。 齋藤 プランナーの仕事は、相談・助言のための企業訪問と研修が中心です。JEEDからの依頼を受けて1カ月に3〜5日程度、1日平均3社で、年間約100社程を訪問しています。現在、社会保険労務士として、企業の経営者、総務・人事担当者と毎日接していますが、シニアの活用は大きな経営課題の一つになっていて、そのなかで得た具体的な知識・情報が、プランナーとしての仕事に生きています。 ―相談やアドバイスで心がけていることはありますか。 齋藤 企業訪問や研修で心がけているのは、「ワンポイントアドバイス」です。私の話はワンポイントにとどめ、情報・知識の押し売りはしないように気をつけています。地域内や同業界、他業界の動きを伝え、聞き手が自ら気づくように、そして質問しやすいようにと、話し方を工夫しています。  そして、もう一つが「プラスワン」です。相談や研修では、直接的なテーマだけではなく、プラスワンの内容をできるだけ提供できればと思っています。 ―全国のプランナー・アドバイザーのなかで、「就業意識向上研修」の実施件数がトップとなるなど、研修に精力的に取り組まれていますが、研修でのポイントについてお話ください。 齋藤 研修には大きく分けて「職場管理者研修」と「生涯現役ライフプラン研修」の二つがあります。ライフプラン研修は、基本的に55歳以上が対象。「定年後、どうするか」が、大きなテーマになります。  研修では、「職業寿命を何歳までにするか」を自分で決めるのが最大のポイントです。いつまで働く気があるのか、65歳か75歳か、自分で決めて書いてもらいます。最終目標が決まったら次は「逆算」です。現在55歳で、目標が70歳であれば15年あるので、いまからどんな準備が必要か、「お金」、「資格」、「生活スタイル」など、さまざまな面から考えていきます。 生涯現役の柱は「健康」と「収入」「福祉的雇用」から「戦略的雇用」への転換も課題 ―「職業寿命」に関しては、何歳と書く人が多いのですか。 齋藤 最近は「70歳」が多い印象です。その場で書くのですが、迷う人が多いですね。たぶん何もしなければ、大多数の人が60歳か65歳にすると思います。しかし、お金に関する話などを聞いてもらい、そのうえでディスカッションをすると考えが変わります。  大半の企業、特に大企業の多くは定年が60歳ですが、年金の支給開始年齢は原則65歳。「5年間どうするか」を考え、65歳から現実にもらえる年金額なども聞くと、みなさん、真剣になります。 ―「生涯現役」への意欲を引き出すためにも、「収入」は大きな要素になるということですね。 齋藤 生涯現役には、二つの柱があると思っています。一つは「健康」で、もう一つが「収入」です。お金のことは、あまりみなさん話したがりませんが、現実に、健康だけでは生活できません。仕事をすることで収入を得る、仕事をしていると健康になる、健康だから仕事ができる。これが、生涯現役の原則といえるのではないでしょうか。 ―生涯現役社会の実現に向け、特に重要だと考えていること、企業の経営者、総務・人事担当者へのメッセージがあればお願いします。 齋藤 企業の経営者には、高齢者の「福祉的雇用」から「戦略的雇用」へと、ぜひ変えていただきたいと思っています。多くの企業の60歳以降の雇用は、「制度がそうなっているから続けている」という、「福祉的雇用」の側面が大きいのが実情です。それで60歳以降の給与は一定で、上がりもしないし、下がりもしない。働く側からすれば、士気が下がりますよね。そこを戦略的雇用に切り替えることが必要だと考えます。そのなかで最も大切なのが、評価制度の導入です。多くの企業が評価制度を実施していますが、60歳以降は対象としていない企業が圧倒的に多いのですよ。簡単な評価制度でもいいので、60歳以上にも評価制度を適用し、戦略的に働いていただく。評価に報酬をリンクさせ、能力相応のものにする。それが働くシニアのモチベーションを高める一番のポイントとなります。  もともとの報酬が高い大きな企業などの場合は、むずかしい面もありますが、戦略的雇用に切り替え、60歳以上のシニアに意欲をもって働いてもらうことができれば、生産性も断然、高まってくると思います。(取材・沼野容子) 写真のキャプション 70歳雇用推進プランナー、特定社会保険労務士 齋藤敬コさん