日本史にみる長寿食 FOOD 366 体の老化を防ぐモズク 食文化史研究家● 永山久夫 平安貴族も好んだモズク  まわりを海に囲まれた日本は、海藻の宝庫であり、古くから世界でもまれなほど、海藻食文化が栄えてきました。  コンブ、ワカメ、ノリなど、その種類は多く、縄文時代から食用にされ、最近では、健康長寿食として人気を呼んでいます。  その一つがモズク(水雲)。古代では「毛都久」、 「毛豆久」などと表記され、平安時代には、若狭湾(京都府・福井県)のモズクが京へ貢納されています。貴族たちの食膳にはよく出ていたようで、紫式部や清少納言たちも食べていたのは、間違いないでしょう。  ほかの海藻に付着して生息するところから「藻につく」という意味で、「モズク」と呼ばれるようになったようです。  食物繊維が豊富で、整腸効果が高く、お通じをよくし、ダイエットにもぴったり。座ったままの生活が多い平安時代の貴族たちが好んでいたのも、お腹の調子をよくするためだったのです。 酒の肴としても人気  モズクは糸状で細かく枝分かれしており、全長が40cm位で、黒褐色をしていて春から夏にかけて育ちます。舌ざわりが滑らかで、手ですくい上げようとすると、指の間からぬらりと逃げ落ちてしまいます。  煮え上がった汁のなかに入れ、さっと美しく緑色に変わったところで火を止めて食用にすると、塩味がかすかに伝わり、とっても美味しいです。  モズクの酢の物は高級品で、上戸は目を細めて塩辛のように珍重します。もちろん、ご飯の友としても人気があるのはいうまでもありません。  江戸時代初期の『料理物語』という料理本の「磯草の部」にモズクがあり、レシピとして「冷汁(吸い物の一種)、さしみ」とあります。「さしみ」は酢の物のことで、武士の食膳によく出されています。  モズクには、カロテンが多く、体細胞や血管などの酸化、つまり老化を防ぐ働きをして、健康を守っています。