学び直し$謳i企業に聞く! 新連載 第1回 株式会社グローバルクリーン  「人生100年時代」を生涯現役で生き抜くため、必要とされる学び直し=Bこのコーナーでは、社員の学びを積極的に後押しする先進企業の事例にスポットをあて、中高年世代の学び直し″ナ前線に迫る。  今回紹介する先進企業は、10年以上前から独自の研修・人材育成プログラムを導入している「株式会社グローバルクリーン(宮崎県日向市)」。学び直しによるダイバーシティ人材の戦力化、管理職の育成などを中心に、同社の取組みのねらいや効果について聞いた。 「多様な人材の戦力化」を戦略に  宮崎県日向(ひゅうが)市と宮崎市でおもにビルメンテナンス業を展開する株式会社グローバルクリーンは、税田(さいた)和久(かずひさ)社長が2000(平成12)年に創業。税田社長と非正規社員9人でスタートした同社だが、右肩上がりに業績は拡大し、現在、アルバイト・パートを含む社員数は約130人に上っている。  「ビルメンテナンス業は人が行う仕事なので、業績を上げようとするなら、人材が必要になります。いまでこそ、全業種で人手不足といわれていますが、もとから私たち清掃業界は不人気職種。人材確保が大きな課題でした」とふり返る税田社長。創業からしばらくは、求人に費用をかけても「応募者がまったくない」という状況に、悩まされ続けた。  そこで、同社が取り組んだのが、「働きやすさ」だ。まずは、働きやすいように職場環境を整え、人材確保につなげることを目ざしたという。  「すると、働きやすい職場になったことで、女性、高齢者、障害者、ひきこもりの若い人など、働きづらさを抱えている人が入社してくれるようになったんです」。  そこから同社は、多様な人材を採用して戦力化することに、力を入れるようになった。  「求人や採用に費用をかけるのではなく、まずは働きやすい環境を整える。そして来てくれた人材の育成・戦力化に費用をかける。そういう戦略で経営を行ってきました」と、税田社長は力説する。 「自発的な研修」で資格保持者が増加  人材確保と人材の戦力化を目的に、およそ15年前から社員研修の強化を始めた同社。最初の年は、外部研修に社員を強制的に派遣したそうだ。  「でも、その研修のなかで講師の先生が質問するんですよ。『どうして今日、みなさんはこの研修に参加したのですか?』と。すると大多数の人が『会社から行けといわれて来た』というのです」。  結局、行きたくない研修に行っても成果は出ない。お金と時間の無駄になる。「強制的に派遣するのは1年でやめました」(税田社長)という。  2年目からは、研修への参加についても「行きたい人は行ってください」と、社員の自発性に任せる方針に変更。すると「面白い現象」が起きたそうだ。まずは「行く社員」と「行かない社員」に二極化した。そして「行く社員」は、自ら学びたいと思って研修に参加するので、目に見えて成長する。それに対し「行かない社員」が焦りを感じ、同じように研修に赴くようになったそうだ。  結果として、15年前は1人もいなかった「建築物環境衛生管理技術者」、「防除作業監督者」といった、清掃に関連する資格の取得者が、現在はおよそ50人にまで増加した。  「社員同士、影響されるんですよ。とてもよい影響ですね」(税田社長)。  社員の自主性を尊重することで、学び≠ニ学び直し≠ヨの機運が醸成された形だ。 個々に合わせた「オーダーメイド」プログラム  当初は外部研修主体で行っていた同社の学び・学び直しだが、同社では、自社での研修開発にも取り組むようになった。その一つが、「キャリアアップ研修プログラム」。中途採用者のほか、アルバイト・パート、契約社員として働いていた人が正社員となる際も、必ず受けてもらうプログラムだ。多様な人材を採用し、戦力化していく取組みのなかで、大きな役割をになっている。  同プログラムの最大の特徴は「定型ではない」こと。各人に合わせた「オーダーメイド」の研修プログラムを人事担当者・教育担当者が中心となって策定し、その内容に基づき、約半年かけて学んでいくという仕組みになっている。  具体的には、キャリアアップ研修の前に、一人ひとり面接を行い、「研修期間中に一番何を学びたいか」、「今後キャリアアップを望んでいるか」などをくわしくヒアリングする。スキルの「棚卸し」も行い、これまでの経験のなかで十分に学べていないスキルは何か、今後どんなスキルを身につければ仕事の幅が広がるのかなどを分析。本人の希望を重視する形で、学び・学び直しのプログラムを組んでいくのだ。  ある女性社員の例では、「パソコンのスキルを上げていきたい」という希望があったため、研修期間中、パソコンスキルに関する内容を多めに取り入れた。さらに、「営業的な分野をがんばりたい」という希望に基づき、「営業に役立つ」ことに主眼を置いた研修を実施。見積もりや積算の仕方などテクニカルなスキルのほか、コミュニケーションや傾聴スキル、プレゼンテーションスキルといったヒューマンスキル面も含め、幅広く学び直しを行ってもらった。  キャリアアップ研修プログラムは、対象者の年齢やこれまでの経験値に応じて、すべて組み替えている。中途採用者でも、年代によって必要となることは異なる。  「中途で入った人たちが新人のときに勉強したことと、いまの時代に必要なスキルは変わっています。キャリアアップ研修のなかで、いまの時代にあった学び直しをしていただき、それを仕事に活かすということをしてもらっています」  同プログラムの終了後には、必要に応じて、さらに学び直しの研修を行う。「会社としては、来ていただいた人には長く働いてもらいたい。定着という意味も含めて、戦力化のため、スキルを上げてほしい」というのが、税田社長の願いだ。 中高年齢層の学び直し≠ナ経営マネジメント研修も  同社は3年前の2021(令和3)年、社内の人材育成プログラムの体系化を、社長、同社役員に加え、キャリアコンサルタントなど外部の人事戦略専門家にも参加してもらい、1年間かけて行った。同社各部門の職務に必要な能力要件を明確化し(図表)、それを明示した「人材育成計画」を策定した。  能力要件は、役員・管理職・中堅社員・若手社員・新入社員の各職務階層に応じ、「テクニカルスキル(業務遂行能力)」、「ヒューマンスキル(対人関係能力)」、「コンセプチュアルスキル(概念化能力)」の3要素で整理している。  例えば、「テクニカルスキル」の場合、新入社員に求められるのは「パソコンスキル」や「ビジネスメールや社内ドキュメントの書き方」があるが、若手社員になると「タイムマネジメント」や「業界の市場理解」、中堅社員では「プロジェクトマネジメント」や「業界の市場分析」、管理職では「人事考課」、「生産性向上」などとなる。  人材育成計画には、各職種の各階層に応じた、独自の教育訓練体系についても盛り込まれている。同社は現在、この教育訓練体系に基づき、必要な職務能力を育成するための学び・学び直しを実践。特に近年は、会社の業務が拡大し、社員・スタッフの人数も増加しているなか、マネジメント人材の育成が急務となっており、40〜50歳代の学び直しとして、管理職研修に力を入れているという。  また、同社では、部長や課長といった管理職をすべて女性が占めるなど、女性の活躍が目立っているが、「これまでのキャリアで、管理職、あるいは管理職以上に必要とされるスキルを身につける機会がなかったケースが多い」(税田社長)のが実情だ。今後、長く活躍してもらうためにも、管理職の育成が不可欠となっているそうだ。  そこで同社では、2023年度に、管理職、管理職以上に必要とされる「コンセプチュアルスキル」を学んでもらおうと、宮崎県の「ひなたMBA」に、管理職である50代の女性社員2人を派遣した。ひなたMBAは、「これからの宮崎をリードする産業人材を育成すること」を目的に、県と経済団体・金融機関などが実施する人材育成プログラム。県内企業に勤めている人が対象で、組織マネジメントや経営学などをはじめ、経営者・幹部、管理者やマネージャーとして必要なビジネススキルを学ぶことができる。2人は会社の業務と並行して研修に通った。 個人・部門の「目的・目標チャート」で主体的な学び  「ひなたMBA」に参加した2人は、受講と仕事を両立し、「期間中は、とてもたいへんだった」という感想の一方で、「ものすごく勉強になった」とも話しているという。初めて学ぶ内容も多く、2人に大きな影響をおよぼしたようだ。税田社長は、「中高年齢層の学び直しで、経営マネジメントスキルを身に着けてもらえれば、将来的には役員などの道も拓けます。さらなるキャリアアップにつなげてほしい」と願う。  ただ、この管理職育成の学び直しも、「強制的には行わない」のが同社の流儀だ。年齢と経験を積んだ社員に対しては、会社から「そろそろマネジメントの勉強もした方がいいのではないか」などと呼びかけはするものの、学び直しをするか、しないかは、本人次第。会社として策定した「人材育成計画」も、社員に強制するものではなく、「人材育成計画を動かしていき、自分のものにするのは社員本人です」と、税田社長は強調する。  同社は、社員に主体的な学びをうながすため、「目的・目標の4観点シート」と「曼荼羅(まんだら)チャート」を活用している。目的・目標の4観点シートとは、教育者の原田隆史氏が考案した目的達成のための手法「原田式メソッド」で使われるツール。「自分」と「他者」、「有形」と「無形」の四つのカテゴリーを軸に、目標を分析し、目標の意味づけをすることで、目標達成のためのモチベーションを上げるものだ。  曼荼羅チャートは、目標達成の手段を可視化するためのツールで、米大リーグ「ドジャース」の大谷翔平選手が高校時代に活用していたことでも知られている。9×9の計81マスを用意し、まず、中心のマスに大きな目標を置く。そして、その周囲8マスに目標を達成するためのアイデア八つを書き出す。さらに、その八つのアイデアに基づき、アイデアを実現するための行動をすべてのマスに記入してシートは完成。この一連の作業により、目標を達成するために必要な行動が明らかになるほか、新しいアイデアを発見できたり、目標を関係者で共有できたりする効果があるとされる。  同社では基本的に、次期の目標を立てる際、目的・目標の4観点シート、曼荼羅チャートを、部門ごと、個人ごとに作成。正社員のシートやチャートについては、同社が毎期策定している経営指針書に全員分を盛り込み、目標設定や目標達成への思いを共有しているという。「次年度に向け、自分の目標を自分で立てて、それを達成していくためにはどうするか―。それを考えることが、学びにつながっていく」との考えだ。 チェンジ・チャレンジ・チャンス  「特に中小企業の場合、研修をする暇も時間もないということで、学び直しについては『余裕があればやる』というスタンスの会社が多いと思います。しかし、そんなことをいっていると、人は来てくれないと思います」と、税田社長は企業における学びの必要性を力説する。  同社は毎期、売上げのおよそ5%におよぶ資金を研修費に投入。研修を充実させたことが、人材確保にもつながり、「『自分を成長させてくれる会社を選んだ』といってくれるスタッフもいます」ということだ。  なお、同社では「働きやすい環境整備」の一環として、早くから定年を70歳に引き上げ、70歳以降も本人の希望があれば年齢の上限なく継続雇用できる制度を導入している。約130人のスタッフのうち約30人が60歳以上で、そのうち17人が70歳以上と、シニア層が活躍している。  一方で、研修の充実なども功を奏し、20代、30代の若手社員も増えており、正社員10人中6人が20代。「働きやすい環境、そして来てくれた人材の戦力化」という戦略が、「ダイバーシティ人材の活躍」として実を結びつつあるようだ。  税田社長がよく口にするのが「チェンジ・チャレンジ・チャンス」という言葉。「変わることを恐れずに、チャレンジすると、チャンスが広がってくる」という思いを込めたものだ。年齢を重ねても恐れずに、学び直しにチャレンジすれば、チャンスは広がり、長く活躍していけるということだ。 図表 階層に応じた能力要件 テクニカルスキル ヒューマンスキル コンセプチュアルスキル 役員 事業計画策定 高度なネゴシエーション 経営戦略 リスクマネジメント 高度なプレゼンテーション 意思決定 財務分析 組織運営 組織開発 管理職 労務 コーチング 問題解決 決算書などの数字の見方 ファシリテーション マーケティング 生産性向上 傾聴 戦術立案 人事考課 チームマネジメント 中堅社員 プロジェクトマネジメント リーダーシップ クリティカルシンキング 業界の市場分析 ネゴシエーション クリエイティブシンキング 業界の市場予測 ティーチング 企画提案 業務改善 問題発見 若手社員 タイムマネジメント プレゼンテーション ラテラルシンキング 業界の市場理解 アサーティブコミュニケーション 課題発見力 分析視点を持った自社サービスの商品知識 ヒアリング力 企画力 フォロワーシップ 新入社員 就業規則 社会人としてのコミュニケーション ロジカルシンキング 社内のマニュアル チームビルディング 自社サービス 各配属予定部署の業務内容 パソコンスキル ビジネスメールや社内ドキュメントの書き方 PDCAの回し方 ※資料提供:株式会社グローバルクリーン 写真のキャプション 税田和久社長 日向市に本社を構える株式会社グローバルクリーン