【表紙2】 産業別 「ガイドライン」のラインナップが増えました 高齢者雇用推進事業のご案内  高齢者雇用を進めるためのポイントは、業種や業態によって違いがあります。  そこで当機構(JEED)では、産業別団体内に推進委員会を設置し、高齢者雇用に関する具体的な実態を把握するとともに、解決すべき課題などを検討して、高齢者雇用を推進するために必要な方策や提言を「ガイドライン」として取りまとめています。これまでに、96業種の高齢者雇用推進ガイドラインを作成しています。  2023(令和5)年度は、以下の5つのガイドラインを作成しました。  いずれも、JEEDのホームページで全文を公開中です。 産業別 高齢者 ガイドライン 検索 1 一般社団法人 組込みシステム技術協会 組込みシステム業 高齢者雇用推進の手引き 2 一般社団法人 日本倉庫協会 倉庫業 高齢者の活躍に向けたガイドライン 〜シニア人材の強みを生かす〜 3 一般社団法人 日本在宅介護協会 高齢者も働きやすい 介護事業所に向けて 〜在宅介護サービス業高齢者雇用の手引き〜 4 公益社団法人 全国民営職業紹介事業協会 職業紹介業における 高齢者雇用推進ガイドライン 5 一般社団法人 全国警備業協会 警備業 高齢者の活躍に向けたガイドライン 〜社会の安全・安心を支えるため、高齢者の活躍に向けて〜 お問合せ 高齢者雇用推進・研究部 産業別雇用推進課 TEL 043-297-9530 ※上記ガイドラインの概要を、本誌23〜29ページ「特別企画」に掲載しています 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.107 高齢販売員の持ち味をフルに活用 笑顔を生み出し愛される企業を目ざして 株式会社村瀬(むらせ)鞄行(かばんこう)代表取締役社長 林州代さん はやし・くによ 株式会社村瀬鞄行代表取締役社長。一般社団法人日本鞄協会ランドセル工業会会長。大学卒業後、中学教師4年を経て1985年、実家である株式会社村瀬鞄行に入社。2011(平成23)年に代表取締役社長に就任。日本および世界に日本製ランドセルのPRに努めている。  株式会社村瀬鞄行は、1957(昭和32)年に創業した名古屋の老舗ランドセルメーカー。社員の約半数が販売員ですが、そのほとんどが60歳以上の女性で、70歳の販売員も活躍しています。今回は、中小企業における高齢者活用の視点から、同社代表取締役社長の林州代さんに、販売員未経験の高齢者を戦力化するためのポイントや、社員が活き活きと働く秘訣についてうかがいました。 お客さまの心に寄り添いながら元教員の女性販売員たちが活躍 ―貴社ではランドセルの製造・販売を手がけられていますが、あらためて事業内容や業界の現状について教えてください。 林 当社は父が名古屋で創業し、今年で67年になります。当初はランドセル以外の一般のカバンもつくっていたのですが、さまざまな変遷があり、いまはランドセルの製造に特化しています。売上げの80%が一般のランドセル、18%が幼稚園、小学校、高校などの学校特別注文のランドセル、残りの2%が大人用のビジネスカバンです。ランドセルの製造は要所を手縫いで行い、6年間使えるように頑丈であること、背負い心地を考慮しかつ軽く感じるものに仕上げるのが当社の特徴です。  私はランドセル工業会の会長もしていますが、この工業会の会員企業は全国に33社というニッチな産業であり、なかでも名古屋市周辺に12社が集中しています。名古屋には名古屋鞄協会もあり、昔はランドセルを含むカバンメーカーが90社ほどありました。しかし、カバンづくりのノウハウを含めて中国での製造に変わってから安い商品が大量につくられるようになり、日本製は価格で負けてしまうので徐々に廃業する会社が増えました。いまでは名古屋のなかでもなんとか残っているのはランドセルのメーカーがほとんどというのが、現状です。 ―ランドセル事業ではどんな工夫をしていますか。また社員はどんな仕事と役割をになっているのでしょうか。 林 以前は、売上げの大きな割合を委託販売が占めていましたが、それをやめて直接販売に重点を置くことにしました。販売員だけではなく、職人も店頭に立ち、お客さまの生の声を参考に、商品企画から製造、販売までを行う経営モデルに切り替えました。  現在、社員は35人ですが、職人の製造部門が7人、そのほかに商品企画などを担当する営業企画や経理が14人、そして東京の渋谷店、名古屋本店、大阪の心斎橋店の直売店で働く販売員が14人います。パート社員は17人いますが、うち15人が60歳以上です。販売員のほとんどが60歳以上の女性で、うち65歳以上が9人、最高齢は70歳で2人います。  じつは、業界の職人さんは高齢者が多いのですが、当社は意外と若いのです。きっかけは80歳の一流の職人さんが「辞めたい」といい出したことです。「なんとか若手に技術を教えてほしい」と頼みこんで、一番若い当時25歳の社員が3年間弟子入りし、技術を学びました。その後、その若手社員が当社の工場で2人の先輩に教え、その先輩がさらに4人に教える形で技能を伝承しました。最初に技術を学んだ若手社員がいま33歳で工場長をしていますが、ほかの社員も30〜40代で一番年上が44歳です。 ―パートの販売員は高齢者も多いということですが、貴社の高齢者雇用制度と働く人たちの活躍ぶりについて教えてください。 林 当社の定年年齢は65歳ですが、パート社員は70歳で、70歳以降は1年ごとに有期雇用契約を更新します。パート社員の勤務時間は9時半から休憩を1時間挟んで17時半までです。週4日勤務の人もいますが、週2〜3日勤務の人がほとんどです。長く勤められている人も多く、長い人は7年、短い人でも2年です。  じつは、直接販売に切り替えたとき、販売員を募集してもなかなか人が集まりませんでした。そこで私が昔、教師をやっていたこともあり、リタイアした教員仲間に声をかけたところ手伝ってくれることになり、その後も仲間が別の元教員を誘ってくれ、いまは名古屋の販売員のほとんどが元教員です。元教員ですからランドセルを買いにくる子どもや父母との接し方は上手ですし、意欲も高く、本当に助かっています。また彼女たちも「仕事が楽しい」といってくれます。  ランドセルを買うのは、新たに始まる6年間の節目のおめでたいイベントでもあります。買ってもらう子どももうれしいですし、親御さまやおじいさま、おばあさまもみな笑顔になります。特に祖父母にとっては一生に一つの孫への大事な贈り物ですから、よいものを買ってあげたいと値段に関係なく、「このなかで一番よいものはどれでしょう」と聞いてきます。そんな祖父母の気持ちも同世代の販売員たちはよくわかりますし、寄り添って販売できるので、楽しいといって、意欲的に働いてもらっています。 年1回の全社員対象研修を通じデジタル技術や新しいスキルを習得 ―そのほか、高齢スタッフに意欲的に働いてもらうために、働く環境やスキルの向上などで工夫している点は何かありますか。 林 販売ではパソコンに触ってもらう必要があります。以前は小さなタブレット端末を使っていましたが、いまは画面の大きい端末を店頭に並べて注文を受けつけています。いまの学校の先生はパソコンの操作には長けていますが、その前の世代はワープロ専用機ですから新しくパソコンの操作方法を覚えてもらう必要があります。そのために毎年2月に東京・大阪の販売員を含めて全社員が名古屋に集まり、1日研修を実施しています。  研修は、パソコンの操作方法や新商品のランドセルの知識の習得のほか、決済方法の学習も行います。いまは現金やクレジットカード以外に、スマートフォンをかざすだけでできるなどさまざまな決済方法があります。それからSNSなどへの投稿のためのお客さまの写真の撮り方など、今年の販売戦略について営業企画が作成した販売マニュアルの習得も必要になりますし、全部覚えるのもなかなかたいへんです。 ―デジタル技術や新しいスキルの習得など、まさにリスキリング(学び直し)ですね。 林 みなさん熱心にメモを取りながら学んでいます。わからないところがあればくり返し教えていますし、「認知症予防になる」といってくれる人もいます(笑)。また、年1回の集合研修にかぎらず、電話やオンライン会議を通して学んでもらっています。やはりペーパーレス化も含めて業務を効率化していくためにも新しいことを取り入れていかないといけません。エクセルを使って集計したほうが便利ですし、高齢者にも習得してもらうようにしています。 ―しかし、年を重ねるにつれ物が見えにくくなるなど、身体的な衰えもあるかと思います。注意していることは何かありますか。 林 じつはお客さまが少ない時期はパート社員にも工房でランドセルの製作を手伝ってもらっています。完成までの工程はいくつかに分かれ、型起こしやミシンの操作などは職人でないとできませんが、肩のベルト部分だけつくるとか、糊で貼る仕事など補助的な作業をパート社員にしてもらいます。その際、例えば黒のランドセルに黒い糸を通すような作業は老眼になると見えにくくなります。そのために手元を照らす照明器具を入れようかと考えているところです。  また、本来は立ち作業が効率的なのですが、体への負担を減らすためどうしても座っての作業になります。もっと椅子を高くして作業ができるようにしたいと考えています。 職人の補助的な作業にパート社員を活用より効率的で安全な作業環境を視野に入れる ―貴社の職人さんは比較的若いですが、ランドセル業界は高齢化が進んでいるのでしょうか。 林 そうですね。経営者を含めて高齢化が進んでおり、後継者がいないといった問題もありますが、職人の高齢化も深刻です。70〜80代の職人も多く、60歳なら若いほうです。名古屋市周辺にある12社のなかには、数年先に廃業する会社も出てくるかもしれません。  一方で、少子化で子どもの数も減っていきます。当社も年間の生産量は維持したいと考えていますが、減る分については海外での販売も視野に入れています。  日本のランドセルは、子ども向け人気アニメのなかでも描かれているので、海外でもよく知られており「おしゃれだ」とか、「かっこいい」といわれ、インバウンドで買いに来るお客さまもいるほどです。そこで中国、ベトナム、アメリカをはじめ海外市場向けの展示会を開催するなどしてアプローチしています。 ―最後に、高齢社員を含めて、社員が活き活きと働くための秘訣を教えてください。 林 やはり「笑顔」でしょうか。当社の企業理念は「笑顔を生み出し愛される企業を目ざして」です。不思議な話ですが、うちに来られるお客さまはみなさん「ありがとう」といって買ってくれるのです。「こちらこそ購入していただきありがとうございます」という気持ちですが、「いろいろ説明してくれてありがとう」といって帰られます。  感謝されることで仕事のやりがいにもつながっています。人に感謝され、喜ばれる仕事であり続けたい、と私はつねに社員のみなさんに伝えています。 (インタビュー/溝上憲文、撮影/上木■矢) 【もくじ】 エルダー エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のオブジェ 古瀬 稔(ふるせ・みのる) 2024 April No.533 特集 6 心と体の「休養」を考える 7 総論 現代の働く人たちと休養≠フ関係 一般社団法人日本リカバリー協会 代表理事、一般社団法人日本未病総合研究所 公認講師、株式会社ベネクス 執行役員、一般財団法人博慈会老人病研究所 研究員、博士(医学) 片野秀樹 11 解説@ 働く高齢者の心の休養≠考える 特定非営利活動法人メンタルレスキュー協会 理事長 下園壮太 15 解説A 働く高齢者の体の休養≠考える 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部 部長 栗山健一 19 解説B フレイル・サルコペニア予防に向けて ―休養の視点を交えて― 鹿児島大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授 牧迫飛雄馬 1 リーダーズトーク No.107 株式会社村瀬鞄行 代表取締役社長 林 州代さん 高齢販売員の持ち味をフルに活用笑顔を生み出し愛される企業を目ざして 23 特別企画 「産業別高齢者雇用推進ガイドライン」のご紹介 30 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 突撃!エルダ先生が行く!ユニーク企業調査隊 《第1回》株式会社テンポスホールディングス 高齢社員は会社のお荷物ではない! 「パラダイス社員制度」で生涯現役 36 高齢者の職場探訪 北から、南から 第142回 北海道 株式会社日高トータルサービス 40 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第92回 株式会社うぇるねす 新宿支店スタッフ 田中弘さん(80歳) 42 多様な人材を活かす 心理的安全性の高い職場づくり 【最終回】 事例で見る、やりがいのある職場をつくる リーダーシップ 原田将嗣/石井遼介 46 知っておきたい労働法Q&A 《第71回》 定年後の同一労働同一賃金、能力不足を理由とする賃金減額 家永 勲 50 “生涯現役”を支えるお仕事 【第5回】 シニアの求職者と求人企業をつなぐキャリアアドバイザー&カスタマーサポート 株式会社シニアジョブ キャリアアドバイザーチーム マネージャー 松澤裕介さん カスタマーサポートチーム 鈴浦拓巳さん 52 いまさら聞けない人事用語辞典 第45回 「春闘」 吉岡利之 54 日本史にみる長寿食 vol.365 アスパラガスで若返りましょう 永山久夫 55 心に残る“あの作品”の高齢者 【第11回】 小説『故郷忘じがたく候』(著/司馬遼太郎1968年) 労働ジャーナリスト 溝上憲文 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.338 独自の「変換継ぎ手」で雨どいのトラブルを解決 建築板金工 橋本健次さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第82回] 果物イラスト問題 篠原菊紀 【P6】 特集 心と体の休養を考える  近年は、企業の経営に社員の健康の視点を取り入れることが求められています。社員一人ひとりが、活き活きと健康的に働くことは、本人のパフォーマンス、そして企業の生産性向上につながります。そのような視点をふまえると、社員の健康増進や体力向上などの取組みだけでなく、高いパフォーマンスをうながしていくうえでは「休養」も重要な要素です。  身体的な疲労だけではなく、仕事やプライベートにおける悩みや不安、ストレスは“心の疲労”としてあらわれることもあり、特に職場における立場や役割が変化する中高年期においては、心も体も疲労を抱えやすく、いかに疲労回復を図っていくかが重要となります。  そこで今回は、「心」と「体」、二つの視点から、疲労回復のための「休養」についてアプローチしていきます。 【P7-10】 総論 現代の働く人たちと“休養”の関係 一般社団法人日本リカバリー協会代表理事、一般社団法人日本未病総合研究所公認講師、株式会社ベネクス執行役員、一般財団法人博慈会老人病研究所研究員、博士(医学) 片野(かたの)秀樹(ひでき) 1 労働環境の変化  第一次農業革命と第一次産業革命において、人力でなされてきた作業を家畜や蒸気機関が取って代わることで肉体的負担の軽減がもたらされました。  その後、第二次産業革命におけるガソリンエンジンの発明、動力源の小型化により作業現場での機械駆動が実現し、重工業の現場における肉体労働の負担軽減がより進みました。さらにガソリンエンジンを用いた自動車や特殊車両、飛行機が発達し、それまでになかった運輸産業の発展により運転業務が生まれ、また、電動モーターで駆動する製品の組立てラインでは勤労者が機械のペースで働くといったくり返しの単純労働をもたらしました。工場では電灯が灯りラインが止まることなく稼働するため、長時間労働や昼夜連続操業なども始まりました。  第三次産業革命では、コンピュータの小型化・高性能化が進み、操作する知識と技術が必要となりました。多分野にコンピュータが導入され、計算・書類作成・作図などの事務作業や頭脳労働が代替され、ソフトウェアのプログラム開発など新たな頭脳労働が生じ、勤労者の精神・頭脳への負担が増えました。  そして、IT化の波を後押しした要因として、「人口動態」という社会的要因があります。企業では、生産年齢人口の低下や高齢化が進み、労働力が減少していくなかで、既存の従業員によって増加する需要を処理する必要に迫られてきました。そこで、自動化やデジタル化により生産効率を高めれば、高齢化社会の進行による労働力低下という変化を理論的には十分補うことができると考え、高齢化する従業員たちに文書化、電子メール、プレゼンテーション、ソーシャルメディアなどのデジタル化分野の作業に適応するように求めてきました。しかし、このことはデジタル機器などのIT化に対応できるという前提なくしては、生産性向上が期待できないことを意味しています。  こうしてデジタルテクノロジーを避けて通ることができない文明の発達過程で、科学技術のもたらす新たな負担を私たちは解消できずにストレス要因として受け止めてきました。第四次産業革命は現在進行中であり、より大きな社会変革が起こりつつあります。社会の変容にともなった勤労者へのストレスの増加への対策として、休養回復(リカバリー)を取り入れた働き方と休み方の好循環づくりが求められています。 2 勤務間インターバル  「勤務間インターバル制度」についてご存じの方もいると思います。この制度は、1日の勤務終了後から翌日の出勤までに一定時間以上を設けることで、労働者の生活時間や睡眠時間を確保する制度です。1993(平成5)年、EUにおいて、11時間以上の勤務間インターバルが義務化されました。例えば夜の12時まで残業した場合は、翌朝は11時以降の出社となります。  勤務間インターバル内では、夕食・朝食・入浴・団らん・余暇・睡眠などにより、活力向上の最適化モデルを自分自身で設計管理することが求められます。生活環境と生活様式が多様化した現代を生きる人々は、本来の生体リズムや自然環境の明暗リズムから逸脱した状況での生活を余儀なくされています。このような状況下で、勤務間インターバルをいかに自分自身で最適化し、最良の活力を得て、翌日の勤務へとつなげられているかが重要になります。特に高齢者においては、自身の生活に合った勤務間インターバルを優先的に確保し、そのうえで勤務時間の設計について検討することも必要になります。  神奈川県横浜市が行った調査では、健康上の課題として長時間労働と回答する比率が高かったことが報告されています※1。原則として時間外労働時間の上限は月45時間・年360時間が法律で規定されています。仮に9時〜18時勤務で1日2時間の残業を行った場合(休憩1時間を含む)でも、13時間の平日勤務間インターバルを確保できることになります。長時間労働を課題と感じている人は、自身の生活のなかで、勤務間インターバルに対する量的・時間的最適化について、まずは考える必要性がありそうです。そのうえで、まだ課題を感じるようであれば勤務時間の短縮も選択肢として検討する必要があります。  ここで、日本、韓国、ドイツの3カ国で「自由な時間ができたら何をしたいですか」というアンケート調査の結果をご紹介します(図表1)。韓国では、回答の1位が「運動・スポーツ」でした。ドイツでは、「休息・睡眠」と「友人・恋人などと過ごす」が同率1位でした。日本は、「休息・睡眠」という回答が突出して1位でした。ここから「休養=睡眠」が日本では深く浸透していることが見て取れます。他方、韓国では、運動・スポーツが身体のリフレッシュと考えられ、ドイツでは家族や友人との親睦が休養につながるリフレッシュと考えられているということになります。われわれ日本人も、勤務間インターバル内の行動をあまり睡眠にこだわらずに一人ひとりに合った最適なリフレッシュ法について考える必要があります。 3 「疲労」と「疲労感」  生体防御の三大アラームには、「痛み」、「発熱」、そして「疲労」があります。疲労は、私たちに休息の必要性を知らしめ、過剰な活動による疲弊を防御するための重要な生体警報(アラーム)です。  日本疲労学会では、疲労を「過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態である」と定義しています。つまり疲労は、心身の活動によるエネルギーや栄養素の減少、代謝にともなう老廃物の蓄積、神経・内分泌系の生体維持機能の衰弱などにより、生体恒常性が乱れ活動能力が減退した状態と考えられています。労働現場では、普段の生活に比べ負荷が大きいことから疲労をより生じてしまいます。そのうえ、再び労働が行える状態に体調が戻る前に労働を再開していることも多く、これは生体防御のアラームを無視した行動を日常的にくり返していることになります。  日本リカバリー協会による10万人の大規模調査の結果から、成人男女の約8割は、日常的に疲労感を抱えていることが明らかとなっています※2。労働現場では勤労者へのさまざまな疲労軽減の取組みがなされてきましたが、疲労感は過去25年で6割から8割へと増加しています※3。われわれは労働から生ずる疲労の軽減と合わせて、勤務間インターバル内の休養回復(リカバリー)による持続可能な好循環の維持が重要となります。  ところで「疲労」と「疲労感」の違いをご存じですか。「疲労」は心身への過負荷により生じた活動能力の低下をさし、「疲労感」は疲労が存在することを自覚する感覚をさします。「疲労」の状態においては、それを自覚する「疲労感」がつねに一緒に存在することから普段は同義にとらえられています。  そして疲労には、肉体的活動能力の低下をともなう「肉体疲労」と、精神的活動能力の低下をともなう「精神疲労」があります。肉体疲労では、身体の動きの鈍化という活動能力が低下した状態(疲労)と疲労の感覚(疲労感)が一致しやすく、自覚したときには休憩などによりこれに対処しています。  一方、精神疲労による脳・神経系の活動能力の低下した状態(疲労)は自覚しづらく、さらにアラームである疲労の感覚(疲労感)を、責任感・使命感・高揚感などにより覆い隠して活動を継続しがちになります。このとき、本来一致しているはずの「疲労」と「疲労感」の乖離(かいり)が発生します。この乖離が慢性化すると、生体恒常性の乱れの慢性化へと進行してしまいます。特に日本人の勤勉さや勤労に対する根強い義務感、社会的圧力などが慢性化を冗長させる要因にもなっています。さらに、疲労に対する教育の不足から、セルフコントロールやセルフケアのためのリテラシー不足も、課題解決を困難かつ複雑にしています。 4 休養サイクルと休養モデル  先述の大規模調査によると、約8割の成人男女は、疲労解消できず負債として溜めこんでいます。@活動→A疲労→B休養というわれわれの日常サイクルのくり返しでは、疲労を解消できないということになります。そこで私は、@活動→A疲労→B休養↓C活力という四つをくり返す「休養(リジェネレーション)サイクル」を意識的に実践することを提唱しています(図表2)。活動に入る前の活力に意識を向けることで、結果的には生産性向上や欠勤・休業の防止につながるという考え方です。  そこで活動能力の増進のためには、休養から活力への経路についての検討が必要になります。この経路では、「休養モデル(杉田・片野モデル)」の七つのタイプ(方法)を用いることができます(図表3)。休養モデルは、〈1〉「生理的休養」、〈2〉「心理的休養」、〈3〉「社会的休養」の三つに分類され、その先で合わせて七つのタイプに分類されます。  まず〈1〉「生理的休養」には、[1]運動タイプ(激しい運動ではなく、疲労をともなわない軽いジョギングやウォーキング、体操などで血液循環をうながし身体の老廃物除去や細胞への酸素の輸送による回復を目的とするもの)、[2]休息タイプ(身体の動きを止め安静にすることをさします。睡眠はその代表です。一般的に私たちが抱く休養のイメージそのもの)、[3]栄養タイプ(消化器系からのアプローチで休養回復をうながします。腹八分目や断食による消化器の休息、日内リズムを意識した食事のタイミング、腸内環境や代謝酵素を意識した食事など)の三つのタイプがあります。  〈2〉「心理的休養」には、[4]娯楽タイプ(余暇に好きなことで楽しむ。ゲームや各種鑑賞など。ただし、依存しすぎないように注意が必要)、[5]親交タイプ(家族や友人など人との交流、ペットなどの動物や自然とのふれあいなど。これにより癒され安らぎが生まれる)、[6]造形・想像タイプ(日曜大工や絵を描く、料理をする、空想・瞑想するなど。これはストレスを一時的にでも忘れ、何かに没頭することで新たな活力を産み出す)の三つがあります。  そして〈3〉「社会的休養」には、[7]転換タイプ(外部環境の変化がない日常では、慣れや飽きから退屈さが生まれ徐々に活力が失われます。そのような際には転換が必要。旅行による転換は、すぐに思い浮かびますが、それ以外に、身の回りの整理整頓や部屋の模様替え、また衣替えも身近な転換)があります。  私たちの生活環境は過去と比較して大きく変化し、さらに今後もこの変化はより加速し、それにともなったストレスも増大することが容易に想像されます。いままで経験したことのないストレスに対して、これまで通りの方法では早晩対処しきれなくなります。ここでご紹介した休養モデルをヒントに、一人ひとりが勤務間インターバルの最適化モデルを検討し、パフォーマンスの向上を目ざしてみてください。 ※1 横浜市経済局「横浜市景況・経営動向調査第99回(特別調査)」(2016) ※2 一般社団法人日本リカバリー協会「休養・抗疲労白書2023」 ※3 日本疲労学会「抗疲労臨床評価ガイドライン」(2011) 図表1 プライベート時間の行動比較 日本 韓国 ドイツ 休息・睡眠 家族と過ごす 家での娯楽 運動・スポーツ 外での娯楽 副業 友人・恋人などと過ごす 勉強・スキルアップ 家事 ショッピング 日常の買い物 社会活動 出典:マクロミル・翔泳社による共同調査(2019) 図表2 休養(リジェネレーション)サイクル リセット 活力 活動能力の増進 休養 活動 活動能力の減退 疲労 ※筆者作成 図表3 休養モデル(杉田・片野モデル) 休養 生理的休養 心理的休養 社会的休養 運動タイプ 休息タイプ 栄養タイプ 娯楽タイプ 親交タイプ 造形・想像タイプ 転換タイプ ※筆者作成 【P11-14】 解説1 働く高齢者の心の休養≠考える 特定非営利活動法人メンタルレスキュー協会理事長 下園(しもぞの)壮太(そうた) 1 心だって「疲れる」  私たちはどこかで「体は疲れるけれど心は疲れるものではない」と思っていないでしょうか。  特にこれまでの人生をがむしゃらに、あるいは心地よく走り抜けてきた人の場合、エルダー世代(50代以降とします)になったいまでも「心は疲れない」、違ういい方をすると、「気持ちでなんとかなる」と考えている人が多いと思います。  私はカウンセラーとして多くの世代の方々を支援してきました。結論からいうと心も疲れるのです。また、心の疲れについてよく知らない人が多く、その対処を誤る人も少なくありません。本稿では心の疲れの本質とその対応方法を解説していきたいと思います。 ■エルダー世代になるほど心の疲れに注意  心の疲れとは「うつ状態」のことだと思ってください。心は疲れないと思っている人は、自分以外の人がうつ状態になることは知っていても、「自分はうつにはならない」と思っていることが多いのです。  「自分は嫌なことがあっても、上手に気分を切り替えて生きてきた」、あるいは、「自分は複雑で困難な問題があっても逃げることなく真正面から立ち向かい、論理的に考察し、きちんと問題を解決してきた」と思っているでしょう。  歳をとって問題解決能力はさらに向上したし、悩まない考え方も身につけた、だから自分は今後もうつっぽくならない、つまり心が疲れることはない、という考えです。  たしかに、問題解決能力や柔軟な考え方を身につければ、心は疲れにくくなるでしょう。  ところが現実には、そのような人でもエルダー世代でうつになることがあるのです。 ■心も疲れる(疲労の3段階)  心が疲れるといっても、いまの自分がどれほど疲れているかを評価しにくい部分があります。そこで私は「蓄積疲労(うつ)の3段階モデル」を紹介しています(図表1)。  疲労の第1段階は通常の疲労状態です。一晩寝れば元に戻るぐらいの疲れ感だと思ってください。  疲労の第2段階を、私は「2倍モード」と呼んでいます。同じ出来事がいつもよりも2倍しんどく、2倍ショックに感じるような状態だと思ってください。まだ日常生活はにこにこと笑いながらこなせるのですが、いつもなら喜んで行く仕事にも、職場まで移動し、人に気を遣い仕事をこなすことの「負担」の方を強く(2倍)感じるようになります。ただそれでも多くの人は責任感や使命感で仕事をがんばってこなそうとします。  疲労の第3段階は、いわゆるうつ状態です。この状態ではもう思考も回らず体調も崩れてしまうので、なかなか仕事などの日常生活が送れなくなります。  第2・3段階に移行するにつれ、心には、次のような変化が起こります。  まず、疲れ果てているので気力全般がなくなります。楽しいという感覚が薄くなり、何をするにしても非常に大きな負担(いつもより2〜3倍の負担感)を感じてしまいます。  次に、弱っている自分を守ろうとしてやたらに被害妄想的な受けとり方をしたり、将来に対して過剰に不安なイメージを持つようになります。  さらに、自分に対するダメ出しが多くなってきます。自分を責め、自信を失ってしまう状態です。こうなると人様の前に出ることが、とてもしんどく、それを避けるようになってきます。これがいわゆる「心が疲れた状態」だと思ってください。  こうした状態では、充実したエルダー世代を過ごすことができなくなってしまいます。  それを避けるには、心が疲れ切る第3段階の一歩手前、第2段階で、自分の心が疲れていることに気づき、適切な対応、つまり休養をとって、第1段階に戻すことがとても重要になってきます。 ■疲労はエネルギーの消耗と補給のバランス  近年、疲労はたいへん注目されるようになってきましたが、その実態はまだ医学的には解明しきれていません。ただ、いえるのは、疲労は「感じにくい」ということです。まさに気持ちなどで疲労を一時的に感じなくすることができてしまうのです。だからこそ第2段階になっていてもまだ日常生活を続けられることが多いのです。  そこで、疲労は消耗したエネルギーとその後補給されるエネルギーのバランスで決まると考えてみてください。消耗した分をしっかりと睡眠や食事で補給できない状態が続くと、どんどん疲労がたまってしまうのです。  そしてこれは仕方のないことですが、歳をとると、同じことをしても使用するエネルギーが大きくなり、またエネルギーの補給力(回復力)も弱くなってしまうのです。  ですからどうしても若い人と比べると、早く疲れるし、疲れが長引くようになってくるのです。先の3段階モデルでいえば、元気なときでも、第2段階の状態にいると考えてもよいでしょう。  ですから歳をとればとるほど疲労のコントロールは重要になってきます。 ■大きなトラブルより「変化」への対応で疲れる  蓄積疲労が悪化していくのには、まずは集中的な過重労働や、災害にあった場合などが考えられます。ただこれらの場合は、同時に体の方も疲れてくるので、自然に休養をとるケースが多いのです。  実際に疲労の第2・3段階に悪化している人に多いのは、むしろこれといって大きな出来事はないが、小さな環境の変化が続いてしまっている、という方です。  図表2は、ライフイベント、つまり日常的な出来事がどれぐらいエネルギーを使うかを、イメージ的に点数化した研究です。これらのライフイベントは、一つひとつがそれほど大きな出来事ではないのですが、それらが例えば一年の間に集中してしまうと、次の年に体調不良を起こすことが多くなることが知られています(ホームズらの研究、1967)。  エルダー世代になると、仕事などの過重労働からは解放されることは多いと思いますが、介護や家計問題、子どもや孫の世話、自分や家族の健康上の変化、親や友人、ペットの死などに遭遇することが多くなります。また、定年後に転職、起業、転居などがある人も多いでしょう。  一つひとつはそれほどたいへんなことではないかもしれませんが、これらの「変化」が集中し、知らない間に蓄積疲労が進んでいくのがエルダー世代の「心の疲れ」の典型だと思ってください。 2 心の休養のとり方を知ろう(第2段階を感じたら)  心の疲れをためないために、一番重要なのは、第2段階にさしかかったときに適切な休養をとることです。  第2段階では「疲れ」としてはなかなか自覚できなくても、うっすらとした不調を感じる人は多いものです。「なんとなく何をやってもおもしろくない」、「気力が低下している」、「ワクワクしない」、「嫌々やっている」。あるいは「イライラしている」、「被害妄想的に感じている」、「何事も悲観的に考えてしまう」、「自分に対する自信がなくなってきている」などです。  また、体調不良の方が前面に感じる人も少なくないようです。頭痛・関節痛などの痛みが強くなる人もいれば、不眠があらわれる人も少なくありません。病院に行ってもなかなか改善しないのがうつ状態からの体調不良の特徴です。 ■癒し系ストレス解消法  さてこのようなときに、これまでは何か楽しいことをしてこのうっすらとした不快感を一掃してきました。「スポーツをする」、「旅行をする」、「友人や恋人と楽しい時間を過ごす」などの方法です。このようなストレス解消法を私は「ハシャギ系」と呼んでいます。  ハシャギ系は、強い快感でうっすらとした不快をぬぐい去る対処法ですが、じつはその対処法自体にエネルギーを使ってしまうという欠点があります。  エルダー世代がライフイベントで知らず知らずのうちに疲労をためてしまった場合、従来からのハシャギ系ストレス解消法をやってしまうと、そのときは一瞬楽しくても、それによって消耗して、結果として蓄積疲労を深めてしまうという悪循環に陥りがちなのです。  エルダー世代の心の疲れに有効なのは、私が「癒し系」と呼んでいるストレス解消法です。  癒し系のストレス解消法とは、昔から年配の方々が好んできた盆栽、俳句、散策、体操、ゲートボールなど、激しくないスポーツ、写真、映画、絵画、料理などです。  ポイントは、それをやるのにあまりエネルギーを使わないこと。そしてある程度の快感もあり、それをやっているときだけは嫌なことを忘れることができること。また、例えばお金を使いすぎたり人間関係を悪くするなど、自信の低下や自責の念、不安をいたずらに刺激するものでないこと。この三つの条件を満たすものであれば何でもよいのです。  どれが自分にしっくりくるかはやってみなければわかりません。いろいろ試してみてください。また、エルダー世代の心身や環境はどんどん変化していくので、5年前に有効であった癒し系のアイテムが、いまも有効であるかどうかはわからないのです。つねにいまの自分に合ったものを探す必要があると考えてください。 ■気合いを入れるのではなく、まず休養  第2段階の不調を抱えたとき、ハシャギ系で気分を変えるだけでなく、自ら厳しい環境に飛び込んで自分に気合いを入れ直したり、修行や自己改革などを始める人もいます。若いときから親しんできた「克服体験、成長体験」で、自信を取り戻そうとしてしまうのです。  ところが若いときならともかく、エルダー世代が第2段階の状態で、さらに自分を追いこむのは、あまり有効な対策とはいえません。さらに自信を失うだけです。  これまで説明した通り、さまざまな不調は心の疲れであると認識してみることからスタートしてください。「疲れている」と認識できれば、あえて厳しい課題を自分に与えるなどということはせず、休む方向で対処できます。  このとき、栄養などに意識が向かうかもしれませんが、効果があらわれるまでかなりの期間がかかります。刺激に対して2倍強く反応する第2段階で一番手っ取り早く状況を改善するのは、「刺激から離れる」ことです。いま「嫌だな」、「負担だな」、「避けたいな」と感じている仕事や人間関係や環境から、しばらく距離を置いてください。それだけでも十分大きな休養効果があらわれます。  そして、できるだけ睡眠をとることを意識してみてください。第2段階になっていると睡眠の質はどうしても崩れてきているので、「ぐっすり眠る」ことをイメージしすぎると、いつまでも不十分な感じがして、上手に休養できていない気がして余計に不安になってしまいます。そこで現実的には、睡眠の質にこだわらず、とにかくいつもよりも1時間でも2時間でも長い時間の睡眠をとることを意識するとよいでしょう。  嫌な刺激や人間関係から距離をとって、睡眠を十分にとって、残りの時間は癒し系のストレス解消法をやって時間を過ごす、というのが、第2段階を感じたときの基本的対処法なのです。  若い人なら、3日で休養の効果を感じられますが、エルダー世代になると、回復まで時間がかかります。まず2週間ほどそのような休養生活をしてみてください。もしそれで回復しない場合は、いよいよ第3段階になっているか、あるいはほかの病気になっているのかもしれません。専門家に相談するタイミングだと思ってください。 図表1 蓄積疲労の3段階(1倍〜3倍モード) あるショック S S S 集中・楽しめる 緊張・対応 回避・記憶化 不眠、食欲不振など体の不調が出始める いつものことが負担に・傷つきやすい・イライラ(表面は飾れる) うつ状態・自責・不安・無力・負担 1段階疲労 (通常疲労) 1倍モード 2段階疲労 2倍モード 3段階疲労 3倍モード ※筆者作成 図表2 ライフイベントのストレス 100 配偶者の死 73 離婚 65 別居 63 懲役 63 近親者の死 53 けがや病気 50 結婚 47 失業 45 離婚調停 44 家族のけがや病気 40 妊娠 39 性的困難 39 家族の増加 39 新しい仕事 38 家計の悪化 37 友人の死 36 転職 35 夫婦喧嘩の増加 31 百万円以上の借金 30 預金等の消滅 29 仕事の責任変化 29 子どもの独立 29 親戚とトラブル 28 個人的成功 26 妻の就職・退職 26 入学・卒業 25 生活リズムの変化 24 習慣の変更 23 上司とトラブル 20 労働環境変化 20 転居 20 天候 19 趣味の変化 19 宗教の変化 18 社会活動変化 17 百万円以下の借金 16 睡眠リズムの変化 15 同居人の変化 15 食習慣の変化 13 長期休暇 12 クリスマス 11 軽微な法律違反 出典:Holmes,T.H.,Rahe,R.H.:The Social readjustment rating scale.J Psychosom.Res,11;213-218,1967 【P15-18】 解説2 働く高齢者の体の休養≠考える 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所睡眠・覚醒障害研究部部長 栗山(くりやま)健一(けんいち) 1 休養としての睡眠の重要性  睡眠は、健康を維持するうえで重要な休養行動です。われわれは毎日の生活を送るなかで、日中の目覚めている間に食事の摂取などの生命維持に必要な行動とともに、家庭・社会生活を維持するため、家事や育児、労働などさまざまな肉体的・頭脳的行動を日々とっています。これらは、疲労と呼ばれる身体組織の微小損傷をともない、ときによって疾病と呼ばれる大損傷を引き起こします。睡眠中にはこうしたさまざまなレベルの身体損傷を回復するための機能が働くことがわかっています。このため、睡眠は生命維持に不可欠で重要な休養行動なのです。十分な休養に値する睡眠がとれているかどうかは、睡眠の量(睡眠時間)と質(睡眠休養感)を目安に測ることができます。 2 睡眠時間・床上時間と健康リスクの関係 (1)睡眠時間と健康リスク  1950年代以降、睡眠時間と健康リスクの関連について、数多くの調査が行われており、高血圧、冠動脈性心疾患、脳卒中、2型糖尿病、うつ病などの疾患の発症リスクや総死亡イベント発生リスクとの関連が検討されていますが、いずれもほぼ一様に、睡眠時間は1日7時間前後より長くても短くてもこれらのリスクを上げる関係が示されています(図表1)。  これは、おおよそ7時間程度が健康を維持するうえで確保すべき睡眠時間であることを示しています。しかし、短時間睡眠が健康を害することは、必要な休養量が担保されないことから理解できますが、長時間の睡眠時間がなぜ健康を害する原因となるのかは説明がつきません。 (2)床上時間と健康リスク  自身が眠ったと感じる長さは、しばしば実際に眠っていた時間の長さとはズレが生じ、特に高齢者においては実際の睡眠時間より自覚的な睡眠時間のほうが長く評価され、このズレが大きくなること自体が将来の死亡リスクを高めることが報告されています。  われわれが近年行った研究では、中年成人(40〜64歳)は実際に寝ていた時間が短いこと(睡眠不足)が将来の死亡リスクを高めるのに対し、高齢者(65歳以上)では、実際に寝ていた時間の長短は死亡リスクと関係はなく、床上時間が長いことが死亡リスクを高めることがわかりました(図表2)。  おそらく、先に述べた長時間の睡眠が健康リスクに及ぼす影響は、正確な睡眠時間を自覚するむずかしさから、必要以上に床上で過ごすことにより睡眠の質が低下し、日中の活動時間が相対的に減少することによって生じると考えられます。  これらから、中年成人では最低6時間以上の睡眠時間を確保し睡眠不足を極力避けること、高齢者では8時間を超えて長く床の上で過ごさないことが推奨されます。 3 睡眠の質と健康リスクの関連  そもそも質という概念は、量だけでは評価しがたい、主観的な感覚に基づく評価といえます。また、睡眠時間が十分であったとしても、睡眠の質の低さを感じる経験はだれもがあると思います。  厚生労働省が毎年実施している国民健康・栄養調査では、2007(平成19)年度より、「睡眠で休養がとれていますか」という質問項目を採用し、国民の睡眠充足度を計っています。この「睡眠で休養がとれている感覚」は、さまざまな睡眠障害で低下することが知られていますが、近年、睡眠障害の有無だけではない全般的な睡眠の健康度を反映した、睡眠の質の指標であることがわかってきました。  先に紹介したわれわれの調査研究でも、「睡眠休養感」の有無を含めて解析すると、中年成人では睡眠休養感のない短時間睡眠(5.5時間未満)が死亡リスクを高め(相対危険度1.54倍)、高齢者では睡眠休養感のない長い床上時間(8時間超)が死亡リスクを高める(相対危険度1.57倍)ことがわかりました(図表3)。 4 睡眠休養感を高めるためには  睡眠休養感を高めるために、まず睡眠時間を適正化することが重要です。睡眠不足は睡眠休養感低下の要因となりますが、高齢者の場合、むしろ長く床に留まること(過剰な床上時間)の方が睡眠休養感を低下させ、健康リスクとなります。加齢にともない必要な睡眠量が減少することから、知らず知らずのうちに床上時間過剰に陥っている可能性があります。  また高齢者の多くは、体内時計の加齢性変化によって睡眠と覚醒のメリハリが低下し、夜は眠りが深まりづらく些細な刺激で目覚めやすくなる一方で、昼間に眠気を感じる時間が増えます。対処法としては、日中の活動量をできるだけ増やし、床の上で過ごす時間を8時間未満を目安に減らすこと、日中の仮眠も極力減らし、どうしても眠気が強いときのみ短時間(1日30分未満を目安)の仮眠にとどめることです。 5 睡眠休養感を低下させるそのほかの要素 (1)日中の生活習慣  日中はできるだけ活動的に過ごし、身体活動量を増加させることが重要です。運動の種類は問わず、あらゆる運動が中途覚醒を減らし、睡眠を深めるなど、睡眠の安定化につながります。運動は1日40分程度を目標とし、可能なかぎり毎日行うことが理想です。体力や健康状態に合わせて可能な頻度・強度で導入し、徐々に増やして習慣化させましょう。運動を行う際には、一人で行うより複数名で行うことで、より効果が高まるとともに習慣化の助けにもなります。運動は戸外で行うことで、日光による体内時計調整効果も得られます。  ストレスをためない生活習慣を心がけることも重要です。日中にたまったストレスは、スムーズな寝つきを妨げ、眠りを不安定にします。昼間のストレスは早めに解消するよう、特に夕方以降はリラックスできる環境を整えましょう。就寝前早めの時間帯に、ぬるめのお湯にゆったり浸かる入浴法はおすすめです。このような入浴によりリラクゼーションがうながされ、自律神経が安定します。また、体温が一時的に高まることで、入浴後の体温低下がうながされスムーズな入眠につながります。さらに、アロマやスローミュージックなど、心地よいと感じる環境を整えることも入眠をうながす役に立つでしょう。 (2)寝室環境  日中の光は昼夜のメリハリを高めるために有効ですが、夜間の光は睡眠を妨害する刺激となります。このため、入床前にテレビやパソコン、スマートフォンなどの画面を見続けることは避け、夜間は寝室をできるだけ暗くする必要があります。夜中にお手洗いに行く際に、足元が暗いと心配な場合、足元のみを照らす間接照明を用い、ベッドの上はできるだけ暗くする工夫をしましょう。  寝室は一晩を通して快適な環境にすることが原則です。特に夏場はエアコンを使用し、一晩中快適な温度を保つようにしましょう。冬場は、寝具を利用し床内温度を適正化することで眠りを安定させることが可能です。その場合、一枚の掛け布団で適温を目ざすよりも、薄めの寝具を複数枚使用し、就寝中に調節可能にする方がよりよいでしょう。  寝室の騒音は眠りを妨げますので、できるかぎり静かな環境に保つことをおすすめします。テレビやラジオをつけっぱなしで寝るのは、気づかぬうちに眠りを不安定にする原因となります。 (3)嗜好品の摂り方  飲酒は寝つきを改善する効果がありますが、アルコールは体内で代謝されアセトアルデヒドという物質に変化します。この物質はアルコールと反対に覚醒作用を示すため、むしろ眠りを不安定にし、途中で目覚める原因となります。このため、飲酒は適量にとどめ、できるかぎり早めの時間に済ませる必要があります。日本人はアルコールの代謝酵素の働きが弱い人が多く、この場合、アルコール代謝により長い時間を要するため、睡眠への影響はより深刻です。寝酒習慣はかえって睡眠を悪化させ、健康への悪影響も大きいことがわかっています。  日常よく口にするお茶やコーヒーにはカフェインが含まれています。カフェインは覚醒作用があることから、夕方以降のカフェイン摂取は眠りを不安定にすることがわかっています。加齢によりカフェインの代謝能が低下してくると、これまでと同量の摂取であっても、眠りへの影響は強くなっています。カフェイン摂取量が多い場合、たとえ午前中の摂取であっても眠りに影響する場合があります。  たばこに含まれるニコチンも覚醒作用を示す物質です。ニコチンも眠りを不安定にしますが、習慣的に喫煙しているとむしろ寝る前に一服しないとよく眠れないと感じる方が多いでしょう。これは、ニコチンの離脱症状(禁断症状)により興奮が高まっているせいであり、ニコチンを補充することで一時的に離脱症状を治めることができるためです。喫煙習慣をやめることで、長期的に眠りを安定化させるのに役立ちます。 6 睡眠障害も睡眠時間・睡眠休養感の確保を妨げる  上記のような眠りを不安定化させる生活習慣、寝室環境、嗜好品の摂り方を改善してもなお、睡眠休養感が著しく低く、日中の眠気がひどい場合には、何らかの睡眠障害が隠れている場合があります。  なかでも、閉塞性睡眠時無呼吸は中年期以降、高齢者で好発する疾患であり、夜間にくり返すいびき、日中の眠気や居眠り、睡眠休養感の低下などがおもな症状としてあらわれます。閉塞性睡眠時無呼吸では、加齢による上気道の筋力低下や肥満を一因として、睡眠中に気道が狭窄することで呼吸が一時停止し、血中の酸素が不足します。酸素不足になると覚醒反応が生じて呼吸は再開しますが、再び眠りにつくとまた呼吸が停止し、これを一晩の間に何度もくり返します。慢性的な酸素不足は、高血圧や脳卒中、心筋梗塞、心不全、糖尿病などさまざまな疾患を引き起こし、健康寿命を短くする原因ともなります。  不眠症も加齢にともない発症率が高くなる睡眠障害です。不眠症では、なかなか寝つけない、夜間に何度も目覚める、朝早く目覚めるなどの症状により、日常生活に支障(倦怠感や集中力の低下、日中の眠気、仕事の効率や学業成績の低下など)を生じます。高齢者の不眠は、先に述べた、睡眠の必要性が低下するにもかかわらず床の上で過剰に眠ろうとすることに加え、不適切な生活習慣・寝室環境・嗜好品の摂り方などが重なって発症することが多いことから、病態が悪化する前に、前述の習慣を改めることが有効です。 ※ Yoshiike T, Utsumi T, Matsui K, Nagao K, Saitoh K, Otsuki R, Aritake-Okada S, Suzuki M, Kuriyama K. Mortality associated with nonrestorative short sleep or nonrestorative long time-in-bed in middle-aged and older adults. Sci Rep. 2022 Jan 7;12 (1):189. doi: 10.1038/s41598-021-03997-z. PMID: 34997027; PMCID: PMC8741976. 図表1 睡眠時間と死亡リスク 高 相対危険度 低 1.5 1.4 1.3 1.2 1.1 1 0.9 睡眠時間 2時間 3時間 4時間 5時間 6時間 7時間 8時間 9時間 10時間 11時間 ※筆者作成 図表2 睡眠時間・床上時間と死亡リスク 中年成人 (40−64歳) 死亡イベント発生率(%) 追跡期間(年) 睡眠時間で3群に分類 短時間 (約5.5時間未満) 中間(基準) (約5.5−7時間) 長時間 (約7時間超) 高齢者 (65歳以上) 追跡期間(年) 床上時間で3群に分類 長時間 (約8時間超) 中間(基準) (約6.5−8時間) 短時間 (約6.5時間未満) 出典:Yoshiikeら(2022)※より作成・転載 図表3 睡眠休養感と睡眠時間・床上時間が全死亡リスクに与える影響 中年成人 (40−64歳) 危険 安全 高 相対危険度 低 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.1 睡眠時間 短時間 (約5.5時間未満) 中間(基準) (約5.5−7時間) 長時間 (約7時間超) 高齢者 (65歳以上) 危険 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.1 床上時間 短時間 (約6.5時間未満) 中間(基準) (約6.5−8時間) 長時間 (約8時間超) 睡眠休養感なし 睡眠休養感あり 95%信頼区間 出典:Yoshiikeら(2022)※より作成・転載 【P19-22】 解説3 フレイル・サルコペニア予防に向けて ―休養の視点を交えて― 鹿児島大学医学部保健学科理学療法学専攻教授 牧迫(まきざこ)飛雄馬(ひゅうま) 1 フレイルとは  「フレイル」は、「か弱さ」や「もろさ」を意味するfrailty≠ェ語源となっており、加齢によって心身が老い衰えた状態をさします。かつては「虚弱」や「老衰」などの表現がなされていましたが、これらに代わって「フレイル」を使用することが提唱されました(日本老年医学会、2014〈平成26〉年)。「虚弱」や「老衰」という表現では、加齢によって老い衰えてしまって改善がむずかしいという印象を与えることが懸念されるため、しかるべき対策によってfrailty≠ヘ健常な状態に戻ることができるという意図が含まれています。  一方で、フレイルの状態が放置されると要介護状態を招いてしまう危険が高くなります※1。また、フレイルは足腰の衰えといった身体的な問題だけではなく、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題も含まれます(図表1)。 2 サルコペニアとは  サルコペニアとは、加齢による筋肉量の減少および筋力の低下のことを意味しており、ギリシャ語で筋肉を意味する「サルコ(sarx/sarco)」と喪失を意味する「ペニア(penia)」を合わせた造語です。サルコペニアを発症すると近い将来に介護が必要になる危険が高くなり、2016年には国際疾病分類に登録されており、疾患と位置づけられています。  サルコペニアを発症するメカニズムには、加齢にともなう神経の変性やホルモンの変化、ミトコンドリア(筋肉の活動や発達、維持においても不可欠な細胞小器官)の機能不全などのほか、不活動や疾患(臓器不全、炎症性疾患、悪性腫瘍など)、栄養状態の悪化が原因となる場合もあると考えられています。 3 フレイル・サルコペニア予防のための休養および食生活  フレイルに関連する要因として、疾患や加齢による活動の減少、筋肉量の減少、口の機能低下、低栄養などがあげられます。これらの要因が悪循環を形成するとフレイルの発生や悪化を加速させてしまいます。このことをフレイルサイクルと呼び、フレイルの予防・改善のためには、この負のサイクルを断ち切ることが重要となります(図表2)。そのためには、習慣的な運動や食生活の改善、積極的な外出による活動性の向上、適度な休養などといった生活習慣に気をつける必要があります。  フレイルの予防のために良質な睡眠は大事な生活習慣のひとつとなります。適切な睡眠時間、ぐっすりと眠れたと感じる睡眠の質、夜間の中途覚醒の抑制、日中の眠気の防止などに注意することが大切です。睡眠の時間は短くても長くても、身体的フレイルの予防のためにはよくないとされており、1日6〜8時間が適切な睡眠時間の目安とされます。「よく眠れた」と感じられる睡眠の質が悪化することもフレイルの要因にもなるとされています。睡眠時間のみに気をとられずに、睡眠の質を高めるためにも、日中の活動時間の確保など、1日の生活全体を考えて、規則正しい習慣が大切となります。日中の積極的な身体活動の促進は、これらの睡眠の状態を良好にすることにもつながります。  フレイルやサルコペニアの予防においては食生活も重要となります。食事で気をつけたいことのひとつは、バランスのよい食事を心がけることです。肉類、魚介類、卵類、大豆・大豆製品、牛乳、緑黄色野菜類、海藻類、いも類、果物、油脂類の10食品群を、できるだけ毎日摂取することが推奨されます※2、3(図表3)。また、筋肉量を維持・向上させるには、肉や魚、大豆、卵などの筋肉の生成に効果のあるタンパク質が豊富な食材がおすすめです。タンパク質の働きを助けるビタミンB6が豊富な食材(マグロ赤身・レバー・鶏ささみ・キウイ・バナナなど)や筋肉を動かすエネルギー源となる炭水化物(米・パン・麺類)などをバランスよく摂取することも大切です。過度な飲酒は筋肉がつくられるのを妨げる物質(ミオスタチン)を増加させるとされていますので、飲酒は適度にすることが必要です。 4 フレイル・サルコペニア予防に向けた健康指導  フレイルやサルコペニアは、高齢期における健康問題のひとつですが、予防のためには中年期からの対策も大切となります。例えば、40〜50代での習慣的な運動は、虚血性心疾患、高血圧、糖尿病、肥満、骨粗しょう症、結腸がんなど、多くの疾患の罹患リスクを低下させることにつながり、これらの疾患は高齢期に生じるフレイルのリスクにもなります。  フレイルの予防のために、習慣的な運動は非常に重要です。目安として、週150〜300分の有酸素運動(ウォーキングなど)、週2〜3回の筋力トレーニングを習慣化することがおすすめです。ジョギングや筋力を鍛えるトレーニングといったいわゆる激しい運動だけでなく、普段の生活における身体を動かす活動(身体活動)も重要となります。また、運動の原理の一つに可逆性があります。つまり、身体的な活動が促進されると効果が期待されますが、中止してしまうと効果は持続しないため、いかに継続できるかがポイントとなります。個人で目標を設定したり、楽しみながら取り組めるような習慣的な運動を継続するための工夫も必要となります。  サルコペニアの予防・改善のためには、筋肉量を増やすことと筋力を強化することが必要となります。そのためには、運動に加えて栄養が重要となります。運動ではある程度の負荷をかけて筋力が発揮されることが推奨されます。特に、抗重力筋と呼ばれる体幹や脚の大きな筋肉を重点的に鍛えることが必要です。  栄養に関しては、バランスのよい食事と筋肉をつくることを促進するためにはタンパク質の摂取が必要となります。筋肉量の維持には体重1.0kgあたり1日1.0gのタンパク質の摂取が必要とされ、サルコペニアの予防や改善のためには体重1.0kgあたり1日1.2〜1.5gのタンパク質の摂取が推奨されます。例えば、体重50kgであればサルコペニアの予防や改善のために筋肉量の増大を図るうえでは1日あたり60〜75gのタンパク質の摂取が望まれます。1食あたりタンパク質20gの摂取を目安として、肉や魚の場合は、重量約100gに含まれるタンパク質は約20gとなります(図表4)。ただし、腎機能障害などでタンパク質の摂取に制限が必要となる場合もありますので、かかりつけ医に相談のうえで取り組みましょう。  前述の通り、良質な睡眠はフレイルの予防には有益となりますので、リラックスした気分で寝床に入ることも重要です。副交感神経が働き、血圧や脈拍数が下がって呼吸が穏やかな状態になると眠りに入りやすくなるといわれていますので、ぬるめの湯で入浴(10分間程度)したり、読書をしたりして、ゆったり気分で寝床に入ることも有効です。休日に長めに眠りたいときは、平日との差を2時間以内にとどめて日による差を少なくすることも適切な睡眠時間を得ることにつながります。そのほか、光を浴びて適度に活動したり、しっかり睡眠をとって休息をしたりといった生活のリズムも大切となります。  また、フレイルには多面性という特徴があり、身体的な問題だけでなく、認知・心理・精神的な問題や社会的な問題も含まれます。そのため、身体を鍛えるための対策だけでなく、認知・心理・精神的な要素や社会的な要素への対策も考慮することが望ましいと考えられます。例えば、知的な刺激のある活動(読書やカードゲームなど)や社会的な活動(ボランティアや地域行事への参加など)に積極的に取り組むこともフレイル予防にとって重要とされます。  楽しめる趣味を持ったり、好奇心を持って新しいことにチャレンジしたり、こころの豊かさを意識することもフレイル対策の一つとして推奨されます。 ※1 Makizako H, Shimada H, Doi T, Tsutsumimoto K, Suzuki T. Impact of physical frailty on disability in community-dwelling older adults: a prospective cohort study. BMJ Open. 2015;5(9):e008462. ※2 熊谷修,渡辺修一郎,柴田博,天野秀紀,藤原佳典,新開省二,et al. 地域在宅高齢者における食品摂取の多様性と高次生活機能低下の関連.日本公衆衛生雑誌. 2003; 50 (12):1117-24. ※3 Kiuchi Y, Makizako H, Nakai Y, Tomioka K, Taniguchi Y, Kimura M, et al. The Association between Dietary Variety and Physical Frailty in Community-Dwelling Older Adults. Healthcare (Basel). 2021;9(1). 図表1 フレイルの相対的な位置づけと特徴 ■身体的 ・サルコペニア(筋量減少・筋力低下) ・ロコモティブシンドローム(運動器症候群) ■認知・心理・精神的 ・記憶力低下 ・不安・気分の落込み ■社会的 ・支援者の不在 ・一人暮らし ●健常と要介護(機能障害)の中間の時期 ●多面的である ●可逆性を有する 健常 プレフレイル(予備軍) フレイル 機能障害 出典:公益財団法人長寿科学振興財団『令和2年度業績集』 図表2 フレイルの悪循環 口腔機能↓ 慢性的低栄養 加齢・疾病など 対人交流・会話↓ 総エネルギー消費量↓ 骨格筋量↓(サルコペニア) 基礎代謝率↓ 閉じこもり↑ 社会交流↓ 痛み 活動量↓ 筋力↓ 知的刺激↓ うつ↑ 認知機能↓ 要介護 機能障害 歩行↓ 身体的 認知・心理・精神的 社会的 口腔(オーラル) ※筆者作成 図表3 食品摂取多様性 食品摂取頻度:それぞれ10食品群の1週間の食品摂取頻度を評価 ほぼ毎日食べる…3点 2日に1回食べる…2点 週に1・2日食べる…1点 ほとんど食べない…0点 →30点満点 フレイルリスクのカットオフ(境界)値 16点以下 @肉類 点 A魚介類 点 B卵類 点 C大豆・大豆製品 点 D牛乳 点 E緑黄色野菜類 点 F海藻類 点 Gいも類 点 H果物 点 I油脂類 点 あなたの点数は?→  点 ※筆者作成 図表4 筋肉量維持・増大に必要なタンパク質の摂取量の目安 必要なタンパク質の量(1日・体重1kgあたり) 筋肉量の維持 1g 筋肉量の増大 1.2〜1.5g 肉類 (100g前後) 16〜20g 魚介類 (100g前後) 16〜20g 豆腐1/3丁 (約100g) 6〜7g 牛乳コップ1杯 (約200ml) 6〜7g 卵1個 約7g 納豆1パック (約50g) 約8g ※筆者作成 【P23-24】 特別企画 「産業別高齢者雇用推進ガイドライン」のご紹介  高齢者雇用を進めるためのポイントは、業種や業態によって違いがあります。そこで当機構(JEED)では、産業別団体内に推進委員会を設置し、高齢者雇用に関する具体的な実態を把握するとともに、解決すべき課題などを検討して、高齢者雇用を推進するために必要な留意点や好事例を「ガイドライン」として取りまとめています。  わが国では急速な高齢化が進むなか、中長期的に労働力人口の減少が見込まれ、労働者が社会の支え手として意欲と能力のあるかぎり活躍し続ける「生涯現役社会」の実現が求められています。  2021(令和3)年4月1日から改正高年齢者雇用安定法が施行され、各企業には70歳までの就業確保措置を講ずる努力義務が設けられました。高齢者が長年つちかった能力を十分発揮しながら満足感を得て働き続けるためには、賃金・処遇、能力開発、健康・安全対策などの仕組みづくりがますます重要となります。  しかしながら、産業ごとに労働力の高齢化の状況や置かれている経営環境、職務内容、賃金制度、雇用形態などには差異があります。このため、高齢者の就業機会の確保を図るには産業ごとに必要な諸条件を検討する必要があることから、JEEDでは「産業別高齢者雇用推進事業」により産業別団体の取組みを支援しています。 「産業別高齢者雇用推進事業」とは  「産業別高齢者雇用推進事業」は、産業別団体が高齢者の雇用推進のために解決すべき課題について検討し、その結果をもとに高齢者雇用推進にあたっての方策・提言からなる「産業別高齢者雇用推進ガイドライン」(以下、「ガイドライン」)を策定し、これを用いて会員企業に普及・啓発することで、高齢者雇用をいっそう効果的に推進することを目的としたものです。  この事業では、毎年1月に高齢者雇用の推進に取り組もうとする全国規模の産業別団体を公募しており、本事業の目的に合致した産業別団体を複数選定し、JEEDと契約(2年以内の委託事業)を締結しています。現在までに建設、製造、情報通信、運輸、サービスなど、多岐にわたる産業で、96業種がこの事業に取り組んでいます。 JEED 委託 産業別団体 「ガイドライン」の策定/普及・啓発 ○○○業 高齢者雇用 推進ガイドライン 会員企業 改善 高齢者の活用・戦力化 ガイドラインの策定  ガイドライン策定への具体的な流れは、産業別団体内に大学教授などの学識経験者を座長として、団体に所属する会員企業の経営者や人事担当者などで構成される高齢者雇用推進委員会(以下、「委員会」)を設置し、各年度4回程度委員会を開催します。  初年度の委員会では、その産業における高齢者雇用の実態把握を行います。高齢者雇用における課題は何かを検討し、あげられた課題をより明確に把握するため、会員企業へのアンケート調査や先進的な企業へのヒアリング調査を実施します。2年度目は、初年度の調査結果で浮き彫りとなった課題とその解決策を整理し、ガイドラインを策定します。  なお、ガイドラインでは、以下の点をおもな課題として取り上げています。いずれを重視するかは産業ごとに異なり、各産業の実態をふまえた実践的な一冊に仕上げています。 ・制度面に関する改善 ・能力開発に関する改善 ・新職場・職務の創出 ・健康管理・安全衛生 ・作業施設等の改善 ・定年前の準備支援  ガイドラインは高齢者雇用に対する理解を深め、活用してもらえるよう会員企業に配付します。  さらに、普及・啓発活動として会員企業に対し高齢者雇用推進セミナーを開催することで、ガイドラインをより効果的に活用できるようにするとともに企業への浸透をうながしています。  実際にガイドラインを読んだ会員企業へのアンケート調査結果では、9割ほどの会員企業から「ガイドラインは役に立った」または「役に立ちそうだ」との回答があり、「業界における高齢者雇用の動向を知ることができた」、「高齢者雇用の課題や解決方法がわかった」など、好評をいただいています。 業種を超えたガイドラインの活用  JEEDホームページでは、これまでに策定したガイドラインをはじめ、高齢者を雇用するうえで実際に役立つワークシートやチェックリストなどの各種ツールを公開しています。ガイドラインは業種や時代による変化があったとしても、共通して参考となる点も多くありますので、ぜひご覧いただき高齢者雇用の取組みにお役立てください。  次ページより、2023年度に策定した五つのガイドラインを紹介します。 産業別 高齢者 ガイドライン 検索 産業別高齢者雇用推進ガイドライン一覧 (2020〜2022年度に策定したガイドライン) 建設業 とび・土工工事業 高齢者がバトンをつなぐ未来のガイドライン 〜人生100年時代!活躍の場・生きがいを求めて!〜(2022年) 機械土工工事業における高齢者活用推進のためのガイドブック 〜高齢従業員の活躍と若手従業員の定着に向けて〜(2022年) 建設業基礎工事における高齢技能労働者の活躍ガイドライン(2022年) 製造業 工業炉製造業 高齢者の活躍に向けたガイドライン 〜高齢者の活躍を企業成長に生かす〜(2020年) 鉄リサイクル業 その経験、活かせます!ベテランの活躍が鉄リサイクル業の未来を拓く(2022年) 歯車製造業 高齢者の活躍に向けたガイドライン 〜シニアの技を次世代にバトンタッチ、皆が活躍できる職場作り〜(2022年) 情報通信業 情報サービス業(情報子会社等)におけるシニア人材活用に関するガイドライン(2020年) 運輸業 ハイヤー・タクシー業 高齢者の活躍に向けたガイドライン 〜公共交通機関として安全・安心輸送のために〜(2020年) 不動産業 マンション管理業 高齢者活躍に向けたガイドライン(2020年) 生活関連サービス業 葬儀業における高齢者活用推進のためのガイドライン 〜高齢者の活用による業務スタイルの変化への対応〜(2020年) 医療、福祉 病院における高齢医療従事者の雇用・働き方ハンドブック(2020年) 患者等給食業 高齢者の活躍に向けたガイドライン 〜高齢者の活躍で安全・安心な食事の提供を〜(2021年) 保育サービス業 高齢者の活躍に向けたガイドライン 〜シニア人材の強みを保育施設の運営に生かす〜(2021年) サービス業(他に分類されないもの) 廃食用油リサイクル業における高齢者活躍に向けたガイドライン(2021年) 食品リサイクル業 高齢者の活躍に向けたガイドライン(2022年) ※( )内はガイドライン策定年度を表します 【P25】 産業別高齢者雇用推進ガイドライン1 組込みシステム業 高齢者雇用推進の手引き  一般社団法人組込みシステム技術協会では、2013(平成25)年ならびに2021(令和3)年の高年齢者雇用安定法改正後に、会員企業とその技術者を対象に、高齢者雇用に関するアンケートおよびヒアリング調査を実施。年齢分布や就業の現状といった基本的な設問に加え、直近の調査では、65歳までの雇用形態や、70歳就業を見すえた環境整備などの設問を新たに追加している。また、企業へのヒアリングなどを通して、70歳就業に向けた具体的な施策例などについても調査を行った。これらの調査結果とヒアリングをもとに、本ガイドラインを取りまとめ、高齢者の活躍推進に向けた参考になる内容となっている。  本ガイドラインの巻末には関連法令などの情報を網羅しており、経営者や人事担当者はもちろん、現場で働く技術者にとっても参考になる手引き書である。 「T 70歳就業時代≠めぐる環境の変化と改正高齢法の内容」では、厚生年金の支給開始年齢の引上げなど、高齢者の活躍が求められる背景について触れるとともに、改正高年齢者雇用安定法による70歳までの就業確保措置の内容を解説している。  「U 高齢者雇用の現状と高齢者雇用・就業に向けた考え方」では、2022年に実施した上述のアンケート調査の結果を図表を交えて提示し、組込みシステム業における高齢技術者の雇用の現状や、高齢者雇用・就業に向けた考え方を示している。特に、定年後のキャリアについてなど、企業と技術者の回答を比較して差異を明示した図表は、働きやすい環境づくりのヒントになるものといえる。  「V 70歳までの就業機会の確保の努力義務化と高齢技術者への対応」では、近年本格的に定年到達者が出始めていることをふまえ、高齢技術者の活躍機会を増やしていくことの重要性や、そのための人事制度見直しの進め方、高齢技術者の労働条件の決定方法などについて、会員企業の事例を交えて解説している。定年後再雇用を機に、労働条件の見直しが行われる企業が多いこともふまえ、働く際の納得性を高めるための定年前の話合いの進め方について解説した図表は体系的にとらえられて活用しやすい。  「W 年齢にかかわりなく技術者が活躍できる環境づくり(社内体制・しくみづくり)」では、技術者のキャリア形成、これからの時代に求められる賃金・処遇制度のあり方などについて、会員企業の事例を交えて整理・解説している。  巻末の「参考資料」では、2021年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法の概要をはじめ、在職老齢年金と高年齢雇用継続給付制度のしくみ、同一労働同一賃金などの関係法令について解説するとともに、継続雇用における雇用契約書(例)や、高齢者雇用に関する助成金、高齢者雇用に関連する課題解決に向けて相談ができる支援機関を紹介している。 一般社団法人 組込みシステム技術協会 連絡先 〒104―0042 東京都中央区入船1―5―11弘報ビル5F TEL 03―6372―0211 FAX 03―6372―0212 HP http://www.jasa.or.jp 【P26】 産業別高齢者雇用推進ガイドライン2 倉庫業 高齢者の活躍に向けたガイドライン 〜シニア人材の強みを生かす〜  倉庫業界においては、売り手市場による新卒社員の採用難、雇用の流動化にともなう若手人材の流出、フォークリフト技能者不足などの課題に加え、運送業界でクローズアップされている2024年問題※が、倉庫業界の人手不足に拍車をかけると予想され、高齢者の活用は会員事業者にとっても喫緊の課題となっている。  こうした状況をふまえ、高齢者がやりがいをもって活躍できる環境づくりの推進のため、日本倉庫協会では、会員企業における高齢者雇用の実態把握のためのアンケート調査およびヒアリング調査を実施。調査結果をもとに本ガイドラインを取りまとめた。  「T.倉庫業における高齢者の活躍に向けた考え方」では、倉庫業界において高齢者のいっそうの活躍が求められている背景をふまえ、次章で取り上げている「6つの指針」を効果的に実践するための考え方や姿勢を簡潔にまとめている。  「U.倉庫業における高齢者の活躍を推進するための指針」では、業界各社が高齢者の活躍を推進しながら競争力を高めるために取り組むべき課題や方向性を示す「6つの指針」を、次の通り定めている。 指針1 生きがい感や意欲の高い高齢者を活かして業績向上につなげる 指針2 高齢期の生きがい感や満足度に影響する職務と処遇 指針3 高齢者と若手中堅、高齢者と管理監督職のチームワークを強化 指針4 高齢者で特に配慮すべきは「健康」と「安全」 指針5 高齢期になっても会社に貢献できる人材の育成 指針6 高齢者雇用は会社からすべての従業員に対するメッセージ  それぞれの指針ごとに、アンケート・ヒアリング調査から抽出した「企業の意見」、「従業員の意見」、「会員企業の取り組み」、「他業種の事例」がまとめられており、取組みを推進するためのポイントが理解しやすい構成となっている。  「V.アンケート調査結果」では、高齢者雇用の現状と課題、実施したアンケート調査結果の詳細について、グラフを交えて掲載。なお、アンケート調査は、各社の取組みを多面的に把握するため、@企業A60歳以上の従業員B59歳以下の従業員の属性別で実施している。  「W.ヒアリング調査結果」では、6つの指針ごとにまとめられ、各属性による主要な意見から高齢者雇用対策のヒントを得ることができる。  「X.参考資料」では、高齢者雇用に関連した法制度の概要や、高齢者雇用における課題解決に向けて相談ができる支援機関などを掲載。取組みを推進するうえで必要な情報の収集が可能となっている。 一般社団法人 日本倉庫協会 住所 〒135―8443 東京都江東区永代1―13―3 TEL 03―3643―1221 FAX 03―3643―1252 HP https://www.nissokyo.or.jp ※2024年問題……2024(令和6)年4月からの改正改善基準告示の適用にともなう、時間外労働の上限規制(休日を除く年960時間)により、発生する諸問題(売上・利益の減少、ドライバーの収入減少や離職、運賃の上昇など)のこと 【P27】 産業別高齢者雇用推進ガイドライン3 高齢者も働きやすい介護事業所に向けて 〜在宅介護サービス業高齢者雇用の手引き〜  介護業界で働く職員数は、2019(令和元)年時点で約211万人だが、2040年には約280万人が必要と推計されており(厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」)、多様な人材の確保・育成の観点から高齢者雇用が推進されている。また、「人生100年時代」を迎え、「働けるうちは働きたい」と考える人が増加している背景をふまえ、在宅介護サービス業の発展に向けて、高齢者の働き手を積極的に受け入れていくことが重要になっている。  本手引きの作成にあたって「60歳以上の職員の雇用に関するアンケート調査」、「ヒアリング調査」を実施したところ、企業ならびに働き手である高齢者それぞれの課題が浮き彫りになった。従来の仕組みのまま高齢者の雇用を推進すると、高齢者が希望する働き方と合わない、条件面での整合性がとれない事態が発生する恐れがあり、企業は高齢者が定着して働き続け、活躍してもらうために、多様な人材が働きやすい制度や仕組みを整える必要がある。一方で、いま在職する職員も高齢になると体力面で変化が生じることに鑑み、従来以上に、企業は職員の安全や健康などを守る取組みを重要視しなくてはならない。また、近年急速に進められているICT機器の導入・活用への対応についても、高齢者雇用の推進にかかわる大きなテーマの一つと考えられている。  そこで本手引きでは、在宅介護サービス業における高齢の介護職員・ケアマネジャーを中心に雇用を推進するうえで大切なポイントをまとめ、事例、関連情報を記している。  「第T章 在宅介護サービス業において高齢者雇用を推進している背景」は、国の高齢化した状況をふまえ、在宅介護サービス業における高齢者雇用の現状と課題について解説している。  「第U章 在宅介護サービス業における高齢者雇用の推進を成功させる3つのポイント」では、調査結果から浮き彫りになった高齢職員の多様なニーズ、および不安に対応し、高齢者雇用の推進を成功させる仕組みづくりのために、次の三つにポイントを整理して解説している。「POINT @高齢の職員も働きやすい雇用管理の仕組みづくり」、「POINT A安全・健康対策」、「POINT BICT機器を職場で定着させる工夫」。各ポイントにかかわる企業事例を囲み記事として紹介し、簡潔な箇条書きの構成は、項目に目が行きやすく読みやすいものとなっている。  「第V章 高齢者雇用を推進している企業事例の紹介」では、大手事業者から中規模事業者まで、高齢者雇用において先進的に取り組む介護事業者6件の事例を紹介。それぞれ特徴ある取組みが明らかになっている。  「第W章 参考資料」では、高齢者雇用の対策に役立つ情報を掲載するウェブサイトなどをピックアップして紹介している。 一般社団法人 日本在宅介護協会 住所 〒160―0022 東京都新宿区新宿1―18―14廣田ビル3F HP https://zaitaku-kyo.gr.jp 【P28】 産業別高齢者雇用推進ガイドライン4 職業紹介業における高齢者雇用推進ガイドライン  職業紹介業は、近年、ITを活用して求人者の開拓や求職者の確保などの効率化を図っている。しかし、マッチングやレコメンド、選考においては、依然として紹介従事者の判断が重視されており、職業紹介業にとって人材は貴重な財産となっている。  一方、少子高齢化による若年労働力の減少により人手不足が深刻となっており、能力や経験を持つ高齢従業員が、継続して活躍できる環境を整えることが喫緊の課題といえる。  同ガイドラインは、職業紹介業の持続的な発展のために、業界で働く高齢従業員の活躍のみならず、職業紹介を利用して求職活動を行う高齢求職者が、就業先で活躍するための環境整備についても言及。職業紹介事業所で働く従業員が高齢期も活き活きと働き続けるためのポイントなどについてまとめるとともに、近年増加傾向にある高齢求職者が活躍できる場の拡大を目ざして、実態調査を行い、結果をふまえて検討した内容となっている。  「第1章 〔概要〕職業紹介業における高齢者活躍のポイント」では、業界における高齢従業員と高齢求職者の活躍に向けた取組みについての考え方を提示し、高齢従業員と高齢求職者、双方が活躍するための観点から、ガイドラインのポイントを簡潔に要約している。章末では、同章の内容を体系的な図にまとめてあり、取組みのポイントを俯瞰(ふかん)して把握することができる。  「第2章 職業紹介事業における高齢者活躍の課題と取組」では、2022(令和4)年度に実施した実態調査の結果をもとに、職業紹介事業で働く高齢従業員の活躍の現状と課題について図表を交えて紹介するとともに、高齢従業員のよりいっそうの活躍に向けた取組みの方向性を示している。現在は高齢従業員がいない紹介所も含め、高齢従業員の活躍を「わがこと」としてとらえるよううながし、高齢者活躍のイメージを持つことや、ITツールなどに強い若手とコミュニケーション能力のある高齢従業員が協業することの重要性などについて解説。合間には、参考情報として職業紹介業で活用できるITツールの一覧表などを掲載しており、高齢者雇用推進の一環として導入・検討する際の参考になる。  一方、高齢求職者の活躍に向けては、ITツールを利用した求職者の獲得や、事業者に高齢求職者を受け入れてもらうためのポイント、マッチングの成功例など、企業事例や関連コラムを交えながら紹介している。  巻末には、資料編として、高齢者雇用にかかわる法制度や支援に関する情報を収録しているほか、本事業における実態調査結果の詳細データなどを掲載。高齢者雇用推進にかかわる公的支援策として、助成金情報なども掲載している。 公益社団法人 全国民営職業紹介事業協会 住所 〒113―0033 東京都文京区本郷3―38―1本郷信徳ビル5F TEL 03―3818―7011 HP https://www.minshokyo.or.jp 【P29】 産業別高齢者雇用推進ガイドライン5 警備業 高齢者の活躍に向けたガイドライン 〜社会の安全・安心を支えるため、高齢者の活躍に向けて〜  一般社団法人全国警備業協会が、2010(平成22)年に高齢者雇用推進ガイドラインを策定してから十余年が経過した。その間、社会情勢は大きく変化し、高齢化がいっそう進展していることから、あらためて実態把握を行い、より現場に即した方策をガイドラインとして取りまとめた。  警備業は従来から高齢者の雇用割合が高い産業であり、約2人に1人が60歳以上(46.1%)、約5人に1人が70歳以上(19.2%)である。このため、本ガイドラインは「60歳以降も働きたい人たちが長く活躍できる職場にする」ことを目ざした内容となっている。  「T 警備業における高齢者の活躍に向けた考え方」では、同業界において、さらなる高齢者の活躍が求められる背景や考え方などを整理している。  「U 警備業における高齢者の活躍を推進するための指針」では、業界各社が高齢者の活躍を推進しながら競争力を高めるために取り組むべき課題や方向性を6つの指針にまとめて提示し、それぞれ関連するアンケート調査やヒアリング調査、他業種の取組み事例をあわせて図表で解説している。警備業界に特化したチェックポイントや方向性の提示は示唆に富む。  「指針1 高齢者ニーズの把握と企業の意向のすり合わせ」では、高齢者とのコミュニケーションの取り方、面談のポイントがわかる。  「指針2 高齢者を意識した健康管理の強化」では、職場でのコミュニケーションを通じた高齢者の健康管理のポイントを紹介している。  「指針3 高齢者が安全かつ安心して働ける環境の整備」では、業務の性質上、発生が懸念される労働災害について、データをもとに課題を抽出しながらていねいに対応策を示している。災害発生事例とその対策がひと目でわかる一覧表を掲載するほか、労働災害対応の方向性として、安全衛生教育マニュアルの活用、写真や映像を使った安全教育、ヒヤリハット情報の社内での共有・活用などについて詳しく解説。労働災害防止対策の一助となる内容となっている。  「指針4 高齢者のモチベーション向上」では、警備員のためのスキルマップ・シートの作成と活用のメリットを紹介。図表「警備員のためのスキルマップ・シート(例)」は使い方の説明つきであり、面談にそのまま活用することができる。  「指針5 高齢者の強みの周知」では、高齢者の知識・経験を若手や中堅警備員へ継承するための事例を紹介している。  「指針6 将来にわたり高齢者が活躍する職場環境の整備」では、警備業のイメージアップを含め、社内コミュニケーション(風土)の改善、職員の健康管理の重視など、警備員の働きやすさの向上を図るとともに業界の特徴と魅力をアピールする方向性を示している。  「V 参考資料」は、運用上の課題解決に向けて相談できる支援機関の紹介や高齢者雇用に関する制度などがまとめられており、取組みの策定に役立つ内容となっている。 一般社団法人 全国警備業協会 住所 〒163―0632 東京都新宿区西新宿1―25―1新宿センタービル32F TEL 03―3342―5821 FAX 03―3342―6074 HP https://www.ajssa.or.jp 【P30-34】 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 突撃! エルダ先生が行く!ユニーク企業調査隊 第1回 高齢社員は会社のお荷物ではない! 「パラダイス社員制度」で生涯現役 株式会社テンポスホールディングス(東京都大田区) 図表 雇用区分と「パラダイス社員」 呼称 勤務時間 賃金 備考 月給制社員 総合職 フルタイム 月給制 転居を伴う異動あり エリア社員 同一エリア内の異動あり(転居を伴う異動なし) パート社員 パートタイム 時給制 原則店舗限定勤務 短時間勤務・短日数勤務も可能 採用後、2カ月は有期雇用、その後は無期雇用に転換 ◎60歳以上で一定条件を満たしている社員を「パラダイス社員」として認定 呼称 勤務時間 賃金 認定の条件 パラダイス社員 フルタイム勤務または短時間・短日数勤務 月給制 ・勤続年数10年以上かつ60歳以上の正社員 ・会社が設定した最低限の結果を残せるか ・活き活きと前向きで仕事に取り組めるか ※同社提供資料より作成 ※前回の連載は、本誌2023年4〜9月号に掲載されています こちらからまとめてお読みいただけます https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/series.html#manga2023 【P35】 解説 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 突撃! エルダ先生が行く!ユニーク企業調査隊 第1回 高齢社員は会社のお荷物ではない! 「パラダイス社員制度」で生涯現役第1回 企業プロフィール 株式会社テンポスホールディングス(東京都大田区) 創業1997(平成9)年 中古厨房機器販売、飲食店経営支援、飲食店経営  1997年に中古厨房機器の販売を行う、株式会社テンポスバスターズを創業。その後、店舗数を拡大しながら、飲食店経営、飲食店経営支援にも事業を拡大し、2017年に持株会社体制に移行し、株式会社テンポスホールディングスに商号変更。2024(令和6)年4月1日現在、全国に66店舗を展開している。  創業当初から、年齢にかかわらず人材を登用する制度を掲げており、実質的に年齢上限のない雇用を行っていたが、2005年には就業規則から定年に関する記載を削除し、生涯現役で働ける仕組みを整えている。 「パラダイス社員」制度  60歳以上の正社員を対象に、本人の希望があれば正社員のまま、業務上における目標や課題を緩やかに設定し、短時間勤務や週4 日勤務も可能とする制度。“会社に長く貢献している人材に報いる”ために導入された仕組みだが、認定にあたっては「勤務年数10 年以上」といった条件のほか、「意欲を持って働いてほしい」という思いから、「活き活きと前向きで仕事に取り組めること」を掲げている。 「パラダイス研修」制度  いくつになっても能力開発を行うという同社のポリシーから生まれた研修制度で、60歳以上の社員(※パラダイス社員以外の従業員を含む)を対象としている。参加希望者を募り実施しており、ふだんは違う職場で働く同世代の仲間と交友を深めながら、全国各地にある店舗を視察し、意見交換を行いながら、それぞれが働く店舗における業務改善や、これからの働き方などについて考える場となっている。 【P36-39】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第142回 北海道 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 地域のインフラをになう仕事にやりがいを感じて高齢社員が活躍 企業プロフィール 株式会社日高(ひだか)トータルサービス(北海道浦河郡(うらかわぐん)浦河町(うらかわちょう)) 創業 1952(昭和27)年 業種 清掃および廃棄物処理、自動車整備、一般小売販売(CanDo浦河店) 社員数 53人(うち正社員数43人) (60歳以上男女内訳) 男性(11人)、女性(6人) (年齢内訳) 60〜64歳 7人(13.2%) 65〜69歳 9人(17.0%) 70歳以上 1人(1.9%) 定年・継続雇用制度 定年63歳。希望者全員を年齢上限なく嘱託社員として継続雇用。最高年齢者は71歳  日本の総面積のおよそ2割を占める北海道。道内総生産における産業別構成比は、第1次産業が4.0%(全国1.0%)、第2次産業が18.0%(同25.8%)、第3次産業が77.2%(同72.7%)となっています※。全国に比べ第1次産業と第3次産業の割合が高く、第2次産業の割合が低い傾向にあり、製造業における総生産の内訳をみると、食料品製造業の割合が最も高いことも特徴の一つです。  また、高齢者雇用の状況をみると、常時雇用する労働者が21人以上の企業9316社のうち、66歳以上まで働ける制度のある企業は47.6%(全国43.3%)となっています(北海道労働局「令和5年『高年齢者雇用状況等報告』の集計結果」より)。  JEED北海道支部高齢・障害者業務課では、広大な北海道を道央、道南、道北、道東の四つの地域に分け、プランナー・高年齢者雇用アドバイザーを地域ごとに配置して道内の事業主の高齢者雇用の取組みを支援しています。同課の大原(おおはら)秀洋(ひでひろ)課長(取材当時)は、「広域に所在する事業所を効率的に訪問できるよう経路なども工夫して訪問活動を行っています」と話します。冬季の雪の影響なども考慮して、訪問先や訪問時期について、年間を通じて調整を行うなどの苦労もあるようです。  同支部で活躍するプランナーの一人、岩佐(いわさ)秀明(ひであき)プランナーは、中小企業診断士の資格を持ち、職場改善、職域・職務開発、教育訓練・能力開発などを得意分野として豊富な経験や知見を活かし、事業主に寄り添った活動で信頼を得ています。今回は、岩佐プランナーの案内で、「株式会社日高トータルサービス」を訪れました。 分別ごみ回収や運送、車両整備など地域ニーズに応える事業を手がける  株式会社日高トータルサービスは、1952(昭和27)年に貨物運送業を営む株式会社日高小型運送社として創業。以来、地域ニーズに対応して、環境事業、販売サービス事業、車両整備事業に参入し、2003(平成15)年に現在の株式会社日高トータルサービスに社名を変更しました。  現在は、一般ごみ・資源ごみの分別収集や、し尿収集運搬などを手がけているほか、学校給食配送業務など、地域で必要とされる仕事をにない、地域を支えています。また、車検などの車両整備や日高管内のショッピングセンターで100円ショップなども運営しています。  佐野(さの)元健(もとのり)代表取締役社長は、「地域から必要とされる企業を目ざし、地域密着で歩んできました。ごみ回収やし尿収集などは日時が決まっているため、雨や風が強い日でも作業を行います。社員には、プロとしてきちんと仕事をすることをつねに求めていますが、使命感を持ってよく働いてくれています。今後も地域に信頼され、幅広いサービスを提供できる企業でありたいと考えています」と経営指針を語ります。  ニーズに対応し続けていくためにも、若い世代の採用を考えているそうですが、総務・人事担当の畑中(はたなか)郁子(いくこ)さんは、「欠員補充のための求人を出しても、若い人からの応募はない状況が続いています。一方で、60歳過ぎの方からの応募が増えています」と最近の状況を説明します。  採用にあたっては、「元気で、仕事に対して積極的な気持ちがあることを重視し、年齢は気にしていません」と佐野社長。社員に対しても、「年齢にかかわらず、仕事ができるうちは勤務を続けてほしい」と望んでいます。 年齢上限なく継続雇用する制度を導入 安全のためにも話しやすい職場環境に  同社は2006年に定年を60歳から63歳に引き上げました。同時に、以前から定年後も勤務を継続する人が多かったことから、年齢上限のない継続雇用制度を導入しました。これまで定年を迎えた社員のほとんどが継続雇用を希望し、定年前と変わらない仕事内容と働き方を続けています。  なお、運転業務のみ、70歳以降の働き方については個別対応としており、健康状況などに随時配慮し、場合によっては運転以外の業務に就いてもらうことを考えます。  同社が最も大切にしているのは、「安全」に仕事を行うこと。佐野社長はそのために日ごろから、「社員が話をしやすいように、社内に壁をつくらない雰囲気づくり」を心がけ、社長から気さくに社員に話しかけています。こうした日々の積み重ねにより、安全衛生会議の雰囲気も変わり、「社員が率先してヒヤリハットの報告や発言をするようになりました。小さなトラブルが大事故につながることもありますから、つねに情報共有に努めています。そのためには、やはり話しやすい雰囲気が大切です」と佐野社長。畑中さんは、「こうした話しやすい雰囲気があることも、継続雇用を希望する社員が多いことにつながっているのかもしれません」と話します。  今回は、浦河町のごみ回収業務をにない、元気に活躍しているお2人にお話を聞きました。 60代から始めた仕事にやりがいを感じて  古川(ふるかわ)久恭(ひさやす)さん(69歳)は、浦河町内のごみステーションからごみを回収して作業車に積み込み、浦河町のごみ処理場へ持ち込んで荷下ろしをする作業を担当しています。  同社に入社する前は、クリーニング業に30年ほど従事していました。現在の仕事はまったくの未経験だったそうです。同社が担当する浦河町のごみ回収は、可燃ごみと資源ごみなどに分かれており、古川さんは資源ごみの回収を担当しています。ドライバーと作業員2人の合わせて3人で専用車両に乗車し、ごみステーションから空き缶やペットボトルなどを回収します。入社してからマンツーマンで車両の扱い方や作業のコツなどを教わり、慣れるまで3年ほどかかったそうです。  「ていねいに教えてもらい、ありがたかったです。いま、仕事を通じて町の役に立てていることがやりがいになっています。町の人から感謝の言葉をいただくこともあります」(古川さん)  荷下ろし作業や、次のごみステーションまで短い距離なら車両に乗らず歩くなどするうちに、自然と体が鍛えられているそうです。「入社したころは70歳くらいまで勤務できればと思ったのですが、動けるうちは働いていたいです。会社や仲間に迷惑をかけないように、健康に気をつけて働き続けていきたいです」と意気込みを話してくれました。  古川さんの話を聞いて、岩佐プランナーは次のように語りました。  「仕事をしながら体が鍛えられたという言葉が印象的です。自分に適した仕事をされることで、より健康的な日々を送っていらっしゃると感じました。また、古川さんは未経験で入社されて一から仕事を覚えたということで、ご本人の努力とともに、職場の方がていねいに仕事を教えられたのだろうと思います。高齢社員が力を発揮して長く勤めるためには大事なことではないでしょうか」  古川さんの上司で入社時に指導役も務めた熊野(くまの)佳宏(よしひろ)作業長に、古川さんに教えるにあたって工夫したことをたずねると、「全部まとめてではなく、作業の流れとおおまかな手順から覚えてもらい、細かい部分はその都度伝えるようにしました。よく気がついて自分から動いてくれますし、今後もけがに気をつけて、長く働き続けてもらいたいと思っています」と話してくれました。  勤続5年目の永田(ながた)義和(よしかず)さん(71歳)は、同社の最高齢社員です。古川さんと同じくごみ回収を担当しており、回収車の運転業務をフルタイムでになっています。かつては長距離トラックのドライバーでしたが、職場の移転にともない退職し、日高トータルサービスに入社。長距離ではなく、町内を走る現在の仕事に出会いました。  「ごみステーションの場所や仕事内容を覚えるまでたいへんではありましたが、自分で選んだ道なので迷惑をかけてはいけないという気持ちで取り組み、現在まで続いています」と話す永田さん。つねに安全運転と健康的な生活を心がけているそうです。「自分が納得できる仕事をしていることが、健康によい影響を与えているように思います。もし働いていなかったら、もっと老けこんでいたかもしれません。現在の仕事は、毎日同じことをしているようで、じつは違います。本や新聞紙、雑誌などきちんと積み込まないと積みきれなくなることもあり、つねに頭の体操です」とほがらかに話します。  運転業務に就いていることから、体調の変化に特に注意しているものの、自分では気づかない場合を考え、「『仕事に何らかの影響がみられると判断したら、いつでもいってください』と社長に伝えています。自分でも不調を感じたら、すぐに相談しようと思っています」と心がまえを話します。佐野社長は、永田さんの仕事ぶりに敬意を表すとともに、運転業務については健康状態を確認して対応しているとのこと。社長や上司、仲間と信頼関係が築けていることも、永田さんが安心して仕事の能力を発揮できる重要な職場環境の一つとなっています。  地域や暮らしに密着した仕事を手がける同社には、現在の事業に関連する新たな仕事の依頼も多く、佐野社長は「ニーズに応えたいという思いはつねにありますが、新しいことを始められるほどの体制が整っているわけではありません」と人材確保の悩みを語ります。岩佐プランナーは、「新規の仕事を考えるには、現在の人材が活かせる仕事内容から考えていくのも一つの方法です」とアドバイスをしていました。  地域のインフラをになう同社の仕事は、今後、その重要性をさらに増していくことでしょう。佐野社長は、「現在の仕事を安全にきちんと続けることと、今後も地域から必要とされる会社であり続けるよう、そして高齢社員の力をよりよく活かせるように、現行制度の充実を図っていきたい」と抱負を語ってくれました。(取材・増山美智子) ※ 北海道「令和2年度道民経済計算年報」 岩佐秀明 プランナー アドバイザー・プランナー歴:18年 [岩佐プランナーから] 「事業所訪問では、事前に訪問目的や提供する資料の例などをご案内し、相談・助言活動に関心を持ってもらえるように努めています。高齢者が活躍できる環境は、全社員にとっても活躍できる環境であり、事業者利益にもつながると信じて、事業者にとっても高齢者にとってもメリットのある提案を心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆北海道支部高齢・障害者業務課の大原課長は岩佐プランナーについて、「2006 年度から18 年間にわたり当支部で活躍しています。やさしい人柄ときめ細やかでていねいな対応から、訪問先の事業主から『有益な情報や十分な意見交換ができて有意義でした』などの声が多数寄せられています。地域ワークショップや就業意識向上研修の講師としても実績があり、当支部にとって欠かせないプランナーです」と話します。 ◆北海道支部高齢・障害者業務課は、JR琴似(ことに)駅(JR札幌駅より2駅目)から徒歩5分、地下鉄琴似駅から徒歩8分と好立地に位置する、北海道職業能力開発促進センター(ポリテクセンター北海道)内にあります。 ◆北海道では、26人のプランナー等(2024〈令和6〉年4月現在)が活躍しています。日々の精力的な取組みの結果、2023年度は、約1200件の相談・助言を実施し、380件の制度改善提案を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●北海道支部高齢・障害者業務課 住所:北海道札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 電話:011-622-3351 写真のキャプション 北海道浦河郡 株式会社日高トータルサービスの本社事務所 佐野元健代表取締役社長 総務・人事担当の畑中郁子さん 資源ごみ回収車の安全装置などについて説明してくれた古川久恭さん 長距離トラックドライバーを経て、現在は町のごみ回収車を運転する永田義和さん 【P40-41】 第92回 高齢者に聞く生涯現役で働くとは  田中弘さん(80歳)は60歳の定年退職後、マンション管理員としてのキャリアを重ねてきた。かつては旅行会社で添乗員(てんじょういん)として世界を駆け巡り、旅行業界を目ざす若者のために教壇に立った経験も持つ。そしていまは、マンションのベテラン代務員として充実の日々を送る田中さんが生涯現役で働く喜びを語る。 株式会社うぇるねす 新宿支店スタッフ 田中(たなか)弘(ひろし)さん 視野を広げた添乗員の日々  私は東京郊外の武蔵野(むさしの)市で産声をあげました。千代田区九段上(くだんうえ)に生家がありましたが、空襲が激しくなって家族で武蔵野市へ移りました。終戦後は九段上に戻りましたが、空襲で家屋は焼失したため、新しく家を建てて再出発しました。  高校卒業後は、中央大学に進学し、日本交通公社(現・株式会社JTB)に就職しました。旅行業界というよりは、東京生まれで田舎のない私は、地方へ旅する憧れが強かったのだと思います。当時の旅行業界は現在のように競合会社がないことに加え、修学旅行や社員旅行も増えてきて、思えば華やかな時代を過ごさせてもらいました。入社してすぐは店頭業務でしたが、しばらくすると添乗の職務に就くことになり、国内をはじめ海外旅行も数多く添乗しました。  また、1972(昭和47)年に日本と中国の国交が正常化すると、中国旅行を担当するようになりました。そのころの中国はいまと違い道路状況や、宿泊施設も不備が多かったのですが、事情を承知している旅行者も多く大きなトラブルはありませんでした。旅行者に旅を楽しむ心の余裕があったようにも思います。添乗員の仕事は楽しく、定年まで勤めるつもりでしたが、先輩から旅行の専門学校の講師をやってみないかと声をかけられ、新たな世界に挑戦しようと、定年を待たずに55歳で転職しました。  田中さんと話しているとこれまでの職業によってつちかわれてきた品格を感じさせられる。滑舌がよい話しぶりは添乗員という世界で鍛えられたに違いない。専門学校の講師に誘った先輩は先見の明があった。 管理員という新しい仕事に挑戦  旅行の専門学校では店頭業務や添乗員の仕事紹介、世界各国の事情など、多岐にわたる話をしましたが、若い人たちとの出会いも新鮮で、60歳で定年を迎えるまでの5年間、楽しい時間を過ごすことができました。  さて、60歳になってこれからどうしようかと思っていた矢先、ある不動産会社が管理員を募集していることを知り、すぐに応募しました。旅行業界関連で働く道もありましたが、最後には専門学校の講師までさせてもらったので、旅行の世界はやり切ったという思いが強く、まったく違う仕事をしてみようと思ったのです。健康であれば高齢者でも常勤できる職場であったため、定年を迎えるまで12年間勤めあげました。  72歳で二度目の定年を迎えたものの健康に問題はないし働く意欲も旺盛で次の仕事を探し始めました。「さすがに簡単には見つからないだろう」と思っていたところ、勤めていた不動産会社の支店長が「株式会社うぇるねす」を紹介してくれました。  株式会社うぇるねすでは、日本各地のマンション管理員として多くのシニア人材が活躍している。「居住者の目を見て笑顔でご挨拶」を合言葉に、快適で信頼できるサービスの提供を目ざしている。  生涯現役の職場が田中さんを待っていた。 毎日働く場所が変わる緊張感とともに  おもな業務はマンションの管理と清掃ですが、12年間マンション管理員の経験があったので仕事に対する不安はまったくありませんでした。ただ、それまでと大きく違ったのは、担当するマンションが毎日違うという点でした。代務員※という名称が職務の内容をよく表していると思います。働く場所が毎日違うのは緊張しますが、この緊張感が仕事の張り合いと認知症予防につながっています。  私の場合は、週に2日から3日、仕事に行くマンションによって働く時間は異なりますが、翌月のシフトが早くわかるので、自分の都合に合わせた働き方が可能です。元気に働き続けていられるのは、働き方を選べるという点が大きいと思います。また、仕事の依頼や勤務場所への経路の確認、業務連絡などはすべてスマートフォンのアプリで行わなければならず、高齢者にとってはよい刺激となっています。 仲間との交流が活力につながる  仕事を続けていくうえで私が大切にしていることは何ごとも前向きにやっていくことと、仲間との交流です。マンション管理の仕事は基本的に一人で行うので孤独な作業です。だからこそ、仲間との交流が心の支えになります。  社内では研修イベント「うぇるねすシップ」が定期的に開催されます。首都圏では1200人ほどの代務員が一堂に会して、清掃業務のスキルアップや現場の課題解決などを学びます。また、居住地域でエリア会を開き、現在は16人ほどの仲間と定期的に情報交流や意見交換をしていますが、このような交流の場があることが代務員のモチベーション向上につながっています。  ほかの研修制度も充実しており、入社前の研修のほか、スマートフォンの勉強会もあります。入社後には「親ガモ」と呼ばれるコーチ役の働くマンションで実地研修を行います。「親ガモ」に採点をしてもらい、合格点が出て初めて現場での仕事をスタートできるのです。私もいまは「親ガモ」として新人研修にあたっていますが、人に教えることや評価するという点では旅行専門学校での講師の経験がおおいに役立っています。人生には無駄な経験というものは一つもないようです。 居住者との心のふれあいを支えに  私は添乗員時代から人に接することが大好きでした。新しい人に出会うことが多いいまの仕事は自分に合っていると思います。マンションには小さなお子さんから高齢者までさまざまな方が暮らしています。心をこめて業務をこなし、住んでいる方に快適な日々を送っていただくためのお手伝いをしたいと思っています。  72歳で働き始めて8年が過ぎました。90代でも働いている方がいるのでまだまだがんばれそうです。健康づくりのためにも毎日1万2000歩を歩くことが目標です。マンションの清掃時は階段を何度も昇り降りしますし、日々の勤務先の移動でもよく歩いている方だと思います。あとは快食、快便、快眠と快トレの四つを大切に身体をケアし、毎朝体温と血圧を測定していますが、これはアプリに入っているので気楽に続けられています。  趣味はバラづくりです。若いころからの趣味でしたが、最初の定年を迎えたとき、職業訓練校の園芸科で少し学んでから一層力が入るようになりました。ほかには大相撲観戦で、好きな力士の勝ち負けに一喜一憂しています。  会社のモットーである「目を見て笑顔でご挨拶」を胸に秘めて、明日もまた新しい現場に向かいます。 ※ 代務員……管理会社の常勤管理員の休暇、退職などにともない単発・長期で当該マンションの管理員として派遣される代行管理員 【P42-45】 多様な人材を活かす 心理的安全性の高い職場づくり  高齢者をはじめとする多様な人材の活躍をうながすうえで大切な「心理的安全性」について、株式会社ZENTechの原田将嗣さん、石井遼介さんに解説していただきます。  最終回となる今回は、株式会社ポーラで2021(令和3)年に定年を迎え、その後再雇用として「ワクワクセカンドキャリアづくり」を実践している“ワクワクまーくん”こと佐野真功さんの事例を紹介するとともに、心理的安全性の高い職場と、一人ひとりのやりがいの関係性についてお伝えします。 株式会社ZENTech(ゼンテク) シニアコンサルタント 原田(はらだ)将嗣(まさし)(著) 代表取締役 石井(いしい)遼介(りょうすけ)(監修) 最終回 事例で見る、やりがいのある職場をつくるリーダーシップ 1 営業マネジャーからシニアのワクワクをつくる仕事へ  今回は、「再雇用で楽しく活き活きと働いている高齢社員がいる」という情報をもとに、直接お話を聞く機会をいただきました。お話を聞くなかで、「シニアも含めた多様な人々が輝く、これからの職場づくり」のヒントがありました。特に「シニアとしての働き方」と、「会社・職場のシニアとのかかわり方」の二つの点で実践的な知見をいただきました。  株式会社ポーラの佐野(さの)真功(まさのり)さんは、2021(令和3)年に60歳で定年を迎えるまで25年以上、営業マネジャーとしてキャリアを積んできました。定年前は関越エリアゼネラルマネジャー(部門長)として、群馬・長野・新潟の3地区を担当し、化粧品販売でトップクラスの業績を残してきました。定年後は役職を離れ、また営業も離れ、現在は人事戦略部ヒューマンバリューチームで、後述の「ミドルシニアワクワク支援」―ポーラのなかで従業員のキャリアデザインを支援する仕事―を「自分自身の使命」と考え、精力的に取り組んでいらっしゃいます。役職定年や役割の大きな変化、ときに過去の部下や後輩が組織図上は上司となるなど、一般的には「落ちこんでしまう」ことも多い再雇用で、佐野さんはどのようにキャリアを考え、またポーラはそれをどのようにフォローしてきたのでしょうか。まずは、佐野さんがセカンドキャリアについて考えを深め始めたきっかけをうかがいました。 2 喪失感からキャリアデザインへ  営業の第一線で働いていた佐野さんが、セカンドキャリアについて考え始めたのは50代半ばを過ぎたころでした。それまで営業マネジャーとして業績を上げることで感じていた、大きな達成感ややりがいが感じられなくなってきたといいます。そのように感じていたタイミングの2020年、コロナ禍が押し寄せ、対人接客を主とする佐野さんの仕事にも大きな影響がありました。もともと人と会うことが好きで、営業の仕事をしていた佐野さんにとって、リアルで会える時間がとれないことの喪失感は決して少なくありませんでした。  そんな折に、佐野さんは自分から一歩前に進んでトライしてみました。転機になったのは二つ。一つは、ポーラが社内で開催したキャリア研修に参加したことでした。あらためて「自分とは何か」、「自分にできることは何か」を考えたといいます。役職定年後、マネジメントの任を解かれたとき、いちプレイヤーとして自分に何ができるのかを考え始めたのだそうです。そしてもう一つ、新規事業提案制度に手をあげて参加したことでした。自分より10歳も20歳も年の離れたメンバーとともにプロジェクトを進めるなかで、「若手から学べることがある」、また「自分の得意なことを教えることもできる」と体感し、年代に関係なく学び合うことの大切さを感じました。新規事業として提案した「セカンドキャリア制度」について、そのときは残念ながらプロジェクト化にはなりませんでしたが、この提案が定年後、人事部の仕事を会社から提案されるきっかけになったのでした。 3 自分が一番のペルソナと考えて学び、考え、体感したものを広げる  自らを「ワクワクまーくん」と呼ぶ佐野さんは、インタビューの冒頭から柔らかい表情と穏やかな口調で、話しやすい場をつくってくださいました。  営業マネジャーとして第一線で働いていた佐野さんが、定年を迎えるにあたって直面した疑問がありました。それは、定年を迎えて本部に戻った際、「いちプレイヤーとして何ができるのか?」、「自らの居場所をどうしたらよいのか?」という問いです。これまで営業マネジャーとして結果責任を負い、リーダーやメンバーの育成をにない、判断や決裁をしてきました。当時、60歳を過ぎて再雇用となった先輩方が元気がなくなっていく姿に「なぜだろう?」と思っていましたが、いざ自分がその立場になったとき、「役割が変わる不安」、「収入減による経済的不安」、「家族との関係性が変わることへの不安(佐野さんの場合は、15年の単身赴任から自宅生活に戻る)」など、さまざまな不安が生まれ、自分自身にあらためて向き合う必要があったのです。  会社が実施したキャリア研修を受講してから、社外のキャリアに関するセミナーやカウンセリング、コーチングを受けたり、ファイナンシャルプランナーの資格を取ったり、自ら積極的に学びを進めるなかで、ある考え方が生まれました。  それは、「再雇用で仮に70歳まで働くとしたら、生活のためだけに働くのはつらい」ということでした。多くの企業では再雇用のシニアに、役職も収入も大きく下がる代わりに、任せる仕事や責任も軽いものに調整することが多いでしょう。しかし、じつはシニアは、少なくとも佐野さんのような意志あるシニアは、責任やタスクを単に減らされたいのではなく、期待されたり、なにか自分から仕掛けていきたいのです。  実際、佐野さんは「10年あったら何か新しいことができるのではないか」と、考えたそうです。未来について好きなことや得意なこと、新しいことを考えたとき、少しずつワクワクした気持ちになってきたのです。そして、多くの定年を迎える人も同じように不安を抱いているなら、自分と同じようにワクワクした気持ちでセカンドキャリアを始めてもらいたい、との想いが大きくなったといいます。そこから、いま取り組んでいる「ミドルシニアワクワク支援」が誕生しました。  いまは、自らをミドルシニアのペルソナ※として、ポーラ社内にある「幸せ研究所」でミドルシニアの幸せについて研究・実践をくり返しながら、立ち上げた社内コミュニティ「ライフシフトカフェ」の月1回の企画運営を通して、シニアと職場がWin−Winになる関係づくりに挑戦しています。 4 これからのシニアがやっていく「二つの言語化」 @自分の経験を社外で通じるスキルへ言語化する  これまでの経験のなかでつちかってきたことのうち、社外・市場でも価値を発揮するものは、どのようなものがあるか、棚卸しし、言語化してみてください。例えば「プレゼンテーションが上手い」のであれば「わかりやすく話す」というスキルがあります。自分のやってきたことを「論点を整理する」や「まとめる」、「文書にする」、「ファシリテーションする」、「教える」など、社外に発信してもわかりやすいスキルにいいかえてみましょう。 A自分の好きなこと、ワクワクすることを言語化する  あらためて、「自分の好きなことってなんだろう?」、「楽しいと感じるときはどんなときだろう?」、「だれの笑顔を見るとうれしく感じるだろう?」、「これから『こうなったらいいなぁ』と思う理想の未来像ってどんな未来だろう?」、「幸せに感じることってなんだろう?」などを言語化してみましょう。仕事人生をふり返り、最も自身が輝いていた瞬間を思い出してみてもよいでしょう。もちろん、仕事とまったく関係のないことでもよいと思います。「ワクワクの言語化」がセカンドキャリアの原動力になります。 5 これからの職場・リーダーは「期待の対話」をしよう  佐野さんは「再雇用の方には、補助的な仕事を設定しがちです。そこには『いままでのように責任ある仕事を任せてはいけないのでは』という思いこみがあるように感じます。でも、補助的な仕事で定年後10年間、モチベーションを保って働くことはできるでしょうか。本人のワクワクを大事にし、やりたいことにチャレンジできる環境をつくることが大事だと思います」といいます。  ぜひ、会社や管理職、人事として、シニア本人が、どのような責任を果たしたいのか、どのようなチャレンジがしたいのか、どのように期待してもらいたいのか、そんなテーマで未来志向の対話をしてみるのはいかがでしょうか。  もちろん、やりたいことはどんなことでもチャレンジしないといけないのか、というと決してそのようなことはありません。大切なことは、自分のやりたい〈利己〉と、仕事仲間・チーム・会社のため、顧客・社会のためという〈利他〉の両方を同時に満たしている接点を見出していくための対話です。  佐野さんは、「自分のためだけだと『自分勝手』となって共感を得られませんし、相手のためだけでは『自己犠牲』となり継続が困難になります。シニアが主体的に取り組むためにこそ、じつは〈利他〉だけではなく〈利己〉も大切なのです。そのような考えをリーダー・メンバーが共有し、信頼関係ができている職場が『心理的安全性が高い職場』といえると思います。私の職場は◎です! 感謝しています」と笑顔で話してくださいました。  佐野さんのいう「『いままでのように責任ある仕事を任せてはいけないのでは』という思いこみ」を、お互いに外して、敬意は持てども遠慮はせず、ぜひ心理的安全な対話をしてみましょう。 6 シニアの働きがいと職場の心理的安全性  心理的安全性とは「組織やチームのなかで、だれもが率直に、思ったことをいい合える状態」をいいます。「話しやすさ」、「助け合い」、「挑戦」、「新奇歓迎」の4つの因子を高めることでチームに心理的安全性を醸成することができます。  佐野さんに、いまのチームで高いと思う心理的安全性の因子を聞いたところ、「話しやすさ」、「助け合い」が高いとおっしゃっていました。シニアはチームにおいて「必要とされているかどうかに不安を感じていることが多い」ので、リーダーやメンバーから声をかけてもらうと居場所を実感できて、心理的安全性を感じられます。いきなり「対話」はむずかしいと感じる方も、まずは挨拶や「いつも◯◯してくださって、ありがとうございます」とお礼を伝えるところから、コミュニケーションを始めてみてはいかがでしょうか。  最後に佐野さんから、多様な年代のチームで心理的安全性の高いチームをつくる秘訣をうかがいました。「心理的安全性は、リーダー・メンバーとの信頼関係を実感できるかどうかが重要と考えます。その信頼関係はコミュニケーション濃度(互いに相手を知る)と、一人ひとりの失敗許容度に影響されるかもしれません。シニアと若手、年代の異なるメンバーがそれぞれの得意なことでお互いに協力・フォローし合えるチームは、心理的安全性が高いチームなのだと思います。思いやりですね」(佐野さん)  実際、弊社ZENTechの調査でも、心理的安全性は、信頼関係やエンゲージメント(働く人のやりがい)が、ポジティブに関連することが分かっています。その一歩目は、じつは遠慮して「責任ある仕事を任せない、補助的な仕事のみを任せる」ことではなく、むしろ遠慮なくお互いにリクエストする、困っていたら助けを求める、新しいアイデアや情報を共有することなのです。  世代を超えて、心理的安全性の高い組織・チームをつくるため、あなたから「ぜひ、◯◯さんに、これをお願いしたいのですが…」と、リクエストしてみるところからスタートしてみてはいかがでしょうか。〈おわり〉 ★本連載の第1回から最終回まで、当機構(JEED)ホームページでまとめてお読みいただけます https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/series.html ※ ペルソナ……モデルとなる人物像のこと 写真のキャプション 佐野真功さん(写真提供:株式会社ポーラ) ライフシフトカフェで「ミドルシニアワクワク支援」に取り組む佐野さん(写真提供:株式会社ポーラ) 佐野さんと上司(部長)の岸本裕さん(右)(写真提供:株式会社ポーラ) 【P46-49】 知っておきたい 労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第71回 定年後の同一労働同一賃金、能力不足を理由とする賃金減額 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 正社員に付与している休暇について、定年後再雇用者に付与しないことに問題はありますか  定年後の再雇用者について、正社員であったころと業務内容は大きく変わらないのですが、正社員には夏季休暇、年末年始休暇を与えている一方で、定年後再雇用者については、夏季休暇、年末年始休暇を設定していません。定年後再雇用者が、休みを求めてきた場合には、有給休暇を使ってもらっていますが、問題あるでしょうか。 A  同一労働同一賃金には、休日や休暇などに関する労働条件も含まれています。夏季休暇、年末年始休暇を与えないことに合理的な理由が説明できない場合には、たとえ有給休暇を与えている場合でも、違法なものとして賠償責任を負うことがあります。 1 同一労働同一賃金について  同一労働同一賃金に関して、かつては労働契約法第20条(現在は削除)に定められていましたが、現在は、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下、「パート有期労働法」)の第8条に定められています。その内容は、「短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれ」を対象として、通常の労働者との比較において、@業務の内容および責任の程度(以下、「職務の内容」)、A職務の内容および配置の変更の範囲、Bその他の事情(待遇の性質や目的に照らして適切と認められるもの)を考慮して、「不合理と認められる相違」を設けてはならないとされています(いわゆる「均衡待遇」の規定)。  他方で、「職務の内容が通常の労働者と同一の場合」については、同法第9条が「雇用関係が終了するまでの全期間」において、@職務の内容および配置、A職務の内容および配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれる者については、「短時間・有期雇用労働者であること」を理由として、「基本給、賞与その他の待遇のそれぞれ」について、差別的取扱いをしてはならないとされています(いわゆる「均等待遇」の規定)。  法文の記載が若干異なりますので、整理すると図表1の通りになります。 図表1 「均衡待遇」と「均等待遇」 対象となる待遇 前提条件 考慮要素 許容されない差異 均衡待遇 基本給、賞与その他の待遇のそれぞれ 短時間・有期雇用労働者であること @職務の内容 A職務の内容および配置の変更の範囲 Bその他の事情 不合理と認められる相違 均等待遇 基本給、賞与その他の待遇のそれぞれ 短時間・有期雇用労働者であることを理由としていること @職務の内容 A職務の内容および配置の変更の範囲 差別的取扱い ※筆者作成 2 定年後再雇用について判断した裁判例  定年後再雇用の嘱託社員が、@賞与に相当する期末・勤勉手当の支給がないこと、A夏季および年末年始休暇がないこと(有給休暇として扱われたこと)、B扶養手当の支給がないことは不合理であるとして事業者を訴えた裁判例(社会福祉法人紫雲会(しうんかい)事件。宇都宮地裁令和5年2月8日判決、東京高裁令和5年10月11日判決)があります。  この判決の意義としては、支給されていなかった時期が労働契約法旧第20条適用時期とその後のパート有期労働法が改正および施行された時期にまたがっていたことから、一つの事件において、労働契約法旧第20条に基づく均衡待遇に関する判断だけではなく、パート有期労働法第8条に基づく均衡待遇や第9条に基づく均等待遇に関する判断もなされている点です。適用時期との関係で、パート有期労働法に基づく判断は、まだ多いとはいえず、同法第9条に基づく均等待遇の適用要件について判断した事例はほとんどありません。  まず、均等待遇の適用に関しては、パート有期労働法第9条には「短時間・有期雇用労働者であることを理由として」との要件が明記されている点をとらえて、「処遇の相違が期間の定めに関連して生じたものであるというだけでは足りず、処遇の相違が有期労働契約であることを理由としたものであることを要するものというべき」と判断しています。処遇の相違が期間の定めに関連していれば、均衡待遇に関する規定が適用されるという判断は最高裁の判例でも確立していますが、均等待遇に関して要件が加重されることを明確にしています。そして、この裁判例においては、処遇の相違が、単に有期雇用労働者であることを理由としたものではなく、退職金の支給を受けたなど、定年後再雇用の事情が考慮されていることをふまえて、嘱託社員とその他の有期雇用労働者(臨時職員)においても異なる処遇になることから、均等待遇の規定は適用されないと判断されました。  労働契約法旧第20条およびパート有期労働法第8条に基づく均衡待遇の規定については、適用があることを前提として、@職務の内容、A職務の内容および配置の変更の範囲、Bその他の事情を考慮して判断されました。  手当ごとの判断をまとめると図表2の通りです。  なお、基本給部分は、正社員の約80%程度(期末・勤勉手当が支給されないことによる年収を比較しても約62%程度)であり、退職金として2100万円程度を受給し、嘱託社員は労働組合との団体交渉を経て、賞与の支給がないことを明記した内容の嘱託社員労働契約書が締結されていたといった事情もありました。  夏期および年末年始休暇の趣旨について判断を示した点も特徴であり、「所定休日や年次有給休暇とは別に、労働から離れる機会を与えることにより、労働者が心身の回復を図る目的」や「年越し行事や祖先を祀るお盆の行事等に合わせて帰省するなどの国民的な習慣や意識などを背景に、多くの労働者が休日として過ごす時期であることを考慮して付与されるもの」という整理がされています。  そして、このことをふまえたとき、この要請は嘱託社員にも等しくあてはまることを理由に、不合理な差異で違法であり、出勤日数に応じた賃金相当額の損害賠償の支払いを命じるという結論につながりました。  本判決によって、定年後再雇用者と通常の有期雇用労働者の処遇について、相違なく同様の取扱いをしている場合には、均等待遇の規定が適用される可能性があることが明確にされたと考えられますので、留意が必要です。 図表2 当該裁判における均衝待遇に関する判断 労働条件の種類 不合理か否か 主な理由 期末・勤勉手当(賞与) 不合理ではない 定年後再雇用は長期雇用を前提としていない 夏季・年末年始休暇 不合理で、違法となる 心身を回復する目的や国民的な習慣や意識により付与されるもの 扶養手当 不合理ではない 扶養手当は継続的雇用を確保する目的である ※筆者作成 Q2 業務を遂行するうえでの能力が不足している社員の賃金は減額してもよいのでしょうか  採用するときに期待していただけの能力を有しておらず、能力不足と感じている社員がいます。ほかの社員としても、同等の賃金を得ていることに不服を感じているようなので、実際の労務提供の成果をふまえて賃金を減額したいのですが、可能でしょうか。 A  就業規則に、減額の事由、その方法および程度などについて具体的かつ明確な基準が定められていることが必要とされることもあるため、自社の就業規則の規定を確認したうえで、慎重に行う必要があります。根拠規定がない場合は、本人を説得のうえ、自由な意思による同意を得る必要があります。 1 賃金の減額について  労働基準法第11条には「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」と定め、「賃金」に該当する場合には、通貨払いの原則、直接払いの原則、全額払いの原則などによるさまざまな保護を受けることになり、労働者にとって賃金を受領することは重要な権利と位置づけられます。  そして、賃金は、労働条件のなかでも特に重要なものとして位置づけられており、その減額を合意により行う場合には、自由な意思による合意が必要と考えられています(山梨県民信用組合事件、最高裁平成28年2月19日判決)。  なお、合意以外の方法での減額が一切許容されていないわけではありません。例えば、就業規則の不利益変更により、個別の従業員ではなく全体の賃金を下げるような場合については、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合に、その変更の効力が生ずると考えられています(大曲市農業協同組合事件、最高裁昭和63年2月16日判決)。  このように、賃金に関する不利益変更については、労働契約法で労働条件の変更として許容されている合意や就業規則の変更による場合でも、かなり慎重な判断がなされています。それでは、労働契約法に根拠がない、使用者による一方的な減額は可能なのでしょうか。 2 一方的な賃金減額方法に関する裁判例  ご紹介する裁判例は、業務成果などの不良を理由として賃金の減額を一方的に行ったところ、その有効性が争いになった事件です(システムディほか事件。東京地裁平成30年7月10日判決)。  使用者からは、「就業規則である賃金規程中には、基準給は本人の経験、年齢、技能、職務遂行能力等を考慮して各人別に決定する(10条1号)、裁量労働手当は裁量労働時間制で勤務する者に対し従事する職務の種類及び担当する業務の質及び量の負荷等を勘案して基準給の25%を基準として各人別に月額で決定支給する(12条)、技能手当は従業員の技能に対応して決定、支給する(13条)との定めがある」ことを理由として、期待する十分な業務成果を上げることができず技能が著しく不足していたことから、賃金を減額することを決定したと主張されています。  一見すると、能力に応じて賃金を決定することができることから、減額の根拠もあると解釈することも可能であるように思われます。  しかしながら、裁判所は、「特に賃金は労働契約の中で最も重要な労働条件であるから、使用者が労働者に対してその業務成果の不良等を理由として労働者の承諾なく賃金を減額する場合、その法的根拠が就業規則にあるというためには、就業規則においてあらかじめ減額の事由、その方法及び程度等につき具体的かつ明確な基準が定められていることが必要と解するのが相当である」という基準を示しました。そして、使用者が定める規定について、「各賃金が減額される要件(従前支給されていた手当が支給されなくなる場合を含む)や、減じられる金額の算定基準、減額の判断をする時期及び方法等、減額に係る具体的な基準等はすべて不明であって、被告会社の賃金規程において、賃金の減額につき具体的かつ明確な基準が定められているものとはいえない」うえ、「昇給に係る規定はあるが、降給については何らの規定もないことが認められ、被告会社の賃金規程は、そもそも降給、すなわち労働者の賃金をその承諾なく減額することを予定していない」とも指摘され、このことは「原告の配置や業務が変更されたことによっても左右されない」として、賃金の減額が一切認められませんでした。 3 賃金減額における留意事項  賃金については、能力に応じて支給される職能給と職務に応じて支給する職務給という考え方があり、後者の場合であれば、配置や業務が変更された場合には賃金が変更されるという考え方と親和性があります。  しかしながら、賃金の性質については、職能給であるのか職務給であるのか、それともこれらがミックスされたものであるのか、一部の手当については職務給的要素が強いのかなど、さまざまなバリエーションが存在しており、その決定方法については、基本的に自社の就業規則および賃金規程の内容によって定まることになります。裁判例が降給(労働者の承諾なく賃金を減額すること)を予定していないと指摘している点もその表れであり、降給の規定がないことから、職能給的性質が強いと評価されるということにつながります。  賃金の性質決定については、近年では同一労働同一賃金の差異に、正社員と定年後再雇用者においてその性質に差異があるのかといった点にも影響しているところであり(名古屋自動車学校事件。最高裁令和5年7月20日判決においても、基本給の性質や目的を十分にふまえて行うことが求められています)、自社の賃金の性質が説明可能となるように、就業規則および賃金規程の整備を進めることが必要といえるでしょう。 【P50-51】 “生涯現役”を支えるお仕事 第5回 シニアの求職者と求人企業をつなぐキャリアアドバイザー&カスタマーサポート 株式会社シニアジョブ キャリアアドバイザーチーム マネージャー 松澤(まつざわ)裕介(ゆうすけ)さん カスタマーサポートチーム 鈴浦(すずうら)拓巳(たくみ)さん  人生100年時代を迎え、多くの高齢者が長く働き続けることができるのは、高齢者の生涯現役を支えている人たちの活躍があるからともいえます。このコーナーでは、さまざまな分野や場面で働く高齢者、そして“生涯現役社会”を支えるお仕事をしている人々をご紹介します。  シニアが「働きたいとき」に働ける社会を目ざし、50歳以上に特化した就業支援を展開する株式会社シニアジョブ。「シニアが選ぶ人材会社No.1」として、年間500人を超える転職支援実績があります。今回は、同社のキャリアアドバイザーチームでマネージャーを務める松澤裕介さんと、新卒入社2年目でカスタマーサポートチームを牽引する鈴浦拓巳さんに、シニアの求職者と求人企業をつなぐ仕事の醍醐味を語っていただきました。 転職はシニアにとって「人生の一大事」 ターニングポイントを支援する仕事のやりがい ―シニアジョブでは、50歳以上の方を対象とした有料職業紹介と人材派遣に加え、求人メディアなども展開されているとうかがっています。シニアの求職者と求人企業をつなぐなかで、キャリアアドバイザーチームが果たす役割、具体的な仕事内容について、教えてください。 松澤 一般的な人材業だと、リクルーティングアドバイザー(RA)と呼ばれる法人営業が求人を獲得し、キャリアアドバイザー(CA)がそれを求職者に紹介するといった構造になっている会社が多いのですが、当社のキャリアアドバイザーチームでは、それを「両面型」で行っています。ふだんの業務の根幹として、一番ウエイトが大きいのは、求職者との面談。面談のなかで、職歴や本人の希望を詳細に聞いて、「じゃあ、こういう条件で仕事を探しましょう」と、方向性を明確にするのが最も大切なプロセスです。希望条件などがまとまったら、今度は対企業で、「こういう条件で仕事を探している人がいらっしゃるのですが、どうですか?」と売りこむかたちになります。 ―求人があって、それに合った求職者を探すという形ではないのですね。 松澤 そうですね。どうしてもシニア世代の就職活動でありがちなのが、「履歴書が読まれない」という問題です。求人に応募しても「名前から年齢を見ただけで弾かれてしまい、通らない」ということが少なくありません。ですから、先に企業側に「こういう人材です」ということをお伝えし、そのうえで「どうですか?」と話をまとめていく流れをとっています。 ―カスタマーサポートチームでは、どのような仕事をされているのでしょうか。仕事をするうえで心がけていることなどはありますか。 鈴浦 カスタマーサポートの仕事は、求職者や企業からの入電対応など、いわゆる営業事務が中心になります。求職者の登録情報を確認し、不足していることがあれば、こちらで聞きとるなどしながら、キャリアアドバイザーチームでの面談日程を組むのも、カスタマーサポートの仕事です。  求職者のなかには、まだ在職中で「迷っている」という人、転職に「不安を感じている」という人もいるので、当社は希望条件などをしっかり聞いたうえで、力になることができるということを伝え、ていねいに対応するよう心がけています。 ―シニアジョブで仕事をするようになったきっかけを教えてください。 鈴浦 もともと営業の仕事をしたいと考えていたのですが、就職活動で出会ったキャリアアドバイザーに親身になってもらい、こういう仕事をしたらおもしろいかなと思ったのがきっかけです。大学主催の就活イベントに参加したとき、当時の人事部長に声をかけられたのですが、興味を持っていた人材業界だったことに加え、私が祖父母と一緒に暮らしていたので、祖父母世代の人たちの転職を支援できることに魅力を感じました。 松澤 私も転職活動をしていたときに、転職エージェントの人と話をしていて、「この人、すごい!」と思ったのが、人材業界に入るきっかけになっています。実家が高齢者施設の多い地域にあったので、高齢者とのかかわりは子どものころからとても多く、小学生のときは、道端で高齢の女性を手助けして、表彰されたこともありました。  シニアにとっての転職は、若い世代以上に、「人生の一大事」になります。30年、40年と積んできたキャリアを変えて転職することは、人生の大きなターニングポイント。そこを支援できるのが、私たちの仕事の醍醐味であり、勉強にもなるところですね。 シニア求職者と「ぜひ一度、会ってみて」「採用しないのは、もったいない」 ―これまでの転職支援で、印象に残っている事例などはありますか。 松澤 私が担当した最初の成功事例で、60代前半の男性のケースです。医療事務の管理職での転職でしたが、本人が希望する年収では、一般的な相場から見て、むずかしい状況でした。しかし、面接をしたいという医療法人が一つあり、案内したところ、面接を受けた男性からは「楽しかった」という報告があったのです。じつは、男性と病院の院長の母校が同じで、話に花が咲いたそうです。それで「すぐに来てほしい」という話になり、年収も希望額の約1.5倍で内定が出ました。男性の経歴がマッチしたということでもありますが、こういうことが起こり得るのだと、この仕事はおもしろいなと、その後のやりがいにもつながりました。 ―シニアの転職支援を通じ、「生涯現役」を支える立場から、企業の経営者や人事担当者にメッセージをお願いします。 松澤 企業の人事担当者に伝えたいのは、「ぜひ一度、会ってみてください」ということです。年齢がすべてではありません。紙一枚の履歴書でわかることには、限度があると思います。 鈴浦 シニアを受け入れるということに、不安を感じる人もいるかもしれませんが、不安定要素があるのは、私たちのような若い世代も同じです。シニアの人たちのなかには、新しい環境に慣れるため、たいへんな努力をしている人、熱意にあふれる人も多いので、採用しなければもったいないと感じます。私も、シニアの求職者に対する固定概念を打破できるような仕事をしていきたいと思っています。 (取材・沼野容子) 写真のキャプション 株式会社シニアジョブ キャリアアドバイザーチーム マネージャー 松澤裕介さん(左)カスタマーサポートチーム 鈴浦拓巳さん(右) 【P52-53】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第45回 「春闘」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は春闘(しゅんとう)について取り上げます。毎年、春になると報道などで聞く機会が増え、労働者・経営者にとっても関心の高い事柄ではないでしょうか。 春の交渉で年間の処遇が決定される  春闘とは何かについては、労働組合(労組)※1の全国中央組織(ナショナル・センター)である連合(日本労働組合総連合会)の説明が分かりやすいので引用すると「労働組合が労働条件について要求し、使用者(経営者)と交渉し決定することをいいます。大手企業を中心に、労働組合(略称:労組)が企業に要求を提出するのが2月、企業からの回答が3月頃であることから、『春闘』と呼ばれているのです」とあります。要は賃上げや福利厚生などの労働条件に関する話合いと決定を春にまとめて行う行為ですが、時期が春なのは、3月末決算・4月新事業年度開始というタイミングに合わせ、賃上げ※2や、人事関連の制度運用開始などを4月に実施する企業が多いことに起因しています。日本以外の企業は決算期が12月の会社が多く、4月を起点に労働条件の見直しを図ることが一般的ではないことから、春闘は日本独自の慣行ともいわれています。秋にも同様の労使交渉がある場合は秋闘(しゅうとう)と呼んだりしますが、多くの企業は春に1年間の処遇を決定する傾向にあります。 スケジュールは横並び  春闘の流れをもう少し詳しく見ていきます。連合の場合、前年の8月ごろから検討開始、12月上旬に春闘の全体方針を発表、その方針に基づき1月下旬から2月中旬にかけて産業別組合(産別)が具体的な要求を決定します。一方、経営者側は、1月中旬に経団連(日本経済団体連合会)が交渉指針を出し、1月下旬には、連合と経団連が賃上げなどお互いの方針を説明する労使フォーラムが開かれ、事実上春闘が開始となります。この後、企業ごとの組合(単組)は産別の要求に基づき要求書をまとめ、2月中旬をめどに企業へ提出します。企業側は経営層や人事・総務部門が中心となり、要求に対する会社の考え方と、どの程度要求に応じるのかを検討し、労組側に3月中旬をめどに回答します。要求と回答にギャップがある場合には、経営側・組合側の代表者を中心に労使交渉を重ね、おおよそ3月末までに妥結していきます。  なお、これらの要求・交渉・妥結は、主要大手企業の場合は横並びのスケジュールで実施されます。横並びで実施するのは、労組側は単独で交渉するより有利な回答を引き出すため組合同士で連携する、経営者側は他社の交渉動向を参考にしながら回答するという双方の事情に基づいています。特に、大手企業の回答が出揃う日を集中回答日と呼んでいます(2024〈令和6〉年は3月13日)が、この回答内容をふまえ、大手企業は妥結に向けて動き、中小企業は交渉を本格化させます。労組がない企業でも、特に賃上げについては大手企業の回答を参考にして検討するケースが多く、春闘のおよぼす影響は大きいといえます。毎年の賃上げ率や額が産業別・企業規模別にある程度一定水準なのは、この春闘の進め方が大きく影響しているともいえます。 春闘のあり方は時代とともに変化する  春闘の前提は、労働者側と経営者側の立場や意見が異なる点にあります。労働者側(連合)は春闘の正式名称を「春季生活闘争」としていますが、経営者側(経団連)は「春季労使交渉」と呼んでいる違いにも表れていると思います。労働者側の呼び方は、労働条件を力で勝ちとるニュアンスが比較的強く出ていますが、春闘の始まりはまさにこのような状況でした。  春闘は、1955(昭和30)年に私鉄総連(日本私鉄労働組合総連合会)や合化労連(合成化学産業労働組合連合)・電機労連(全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会)などの8つの産業別組合(8単産)※3が、解雇反対や低賃金打破などを目ざし共闘したことが始まりといわれています。朝鮮戦争休戦による不況で人員整理が実施されたことに対し、企業別の組合だけでは解雇に反対しても成功することが少なく限界があるため、共闘して企業や社会に対する影響力を大きくする必要があったことが背景にあります。  この後、日本経済は高度経済成長・オイル ショック・バブル経済と崩壊・リーマンショックと好況・不況をくり返してきましたが、いずれの時期も春闘の主要なテーマは賃上げで、労組側の要求の大きさに対して経営側の回答は小さく、お互いが同意・妥協できるラインで妥結するというのが基本パターンでした。春闘は労働三権のうち、労働者が使用者と交渉する権利である団体交渉権の行使にあたるため企業としては交渉に応じなければならないのですが、主張をぶつけ合うなかで紛糾し、会社側からの交渉打ち切りや、それに対抗するために労働者が要求実現のために団体で行動する権利である団体行動権を行使し、ストライキにまで発展するといったケースも見られました。  しかし、近年では闘争よりも話合いのニュアンスが強くなっているように変化しています。2008(平成20)年のリーマンショック後の景気低迷を背景に、多くの企業ではベースアップ未実施、定期昇給も低水準が続き、労使ともにそれを打破する大きな動きはありませんでした。しかし、2014年に政府が景気浮揚・成長戦略の一環としてベースアップを中心とした賃上げを企業に要請していきます。政府が春闘に介入することを官製春闘と呼んだりしますが、毎年春闘前になると賃上げを政府から企業に要請し、一定の大手企業が応じていくことが恒例化していきます。特に、2023年は、近年例を見ない物価上昇や、人手不足による人材獲得競争、日本企業の国際競争力の低下などの課題感とこれらに対応するために賃上げの重要性が労使で共有され、労組の要求通りに受け入れる満額回答やそれを上回る回答、これまで賃上げに慎重だった企業も一気に賃金を引き上げるなど、これまでに見られなかった展開を見せました。2024年もこの流れは継続しており、経団連・連合の会長同士の会談でも例年以上の賃上げが必要との見解で一致し、労使協調の傾向が強まっています。  次回は、「ウェルビーイング」について取り上げます。 ※1 本連載第28回(2022年9月号)「労働組合」をご参照ください。https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202209/#page=50 → ※2 賃上げ……賃金を引き上げること。賃金表にのっとって個人別に毎年賃金を引き上げる定期昇給や、賃金表と対象者を一律に引き上げるベースアップなどが含まれる ※3 8単産…… 合成化学産業労働組合連合、日本炭鉱労働同組合、日本私鉄労働組合総連合会、日本電気産業労働組合、日本紙パルプ紙加工産業労働組合連合会、全国金属労働組合、全国化学一般労働組合同盟、全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会の8つの単産をさす 【P54】 日本史にみる長寿食 FOOD 365 アスパラガスで若返りましょう 食文化史研究家● 永山久夫 江戸時代は「アスペラケー」  アスパラガスは歴史の古い野菜で、すでに古代エジプトでは栽培されていたようです。日本には、江戸時代の後期にオランダ人によって長崎に伝えられています。  当時は、オランダ語の発音からなまって「アスペラケー」と呼ばれていました。といっても、当初は食用にはほど遠く、もっぱら観賞用だったようです。株を庭先などに植え「おぉ! アスペラケー!!」といって、その成長の速さを楽しんでいたようです。  食用種は、明治のはじめに北海道開拓使によって輸入されてから栽培が始まり、呼び名も「アスパラガス」になりました。  アスパラガスの収穫は5月から6月に集中し、産地は北海道のほか、佐賀県や熊本県、福岡県、長崎県などが中心になっています。  アスパラガスには、太陽光を浴びて育つグリーンアスパラガスと、土をかけ軟白させて育てるホワイトアスパラガスがありますが、最近では緑黄色野菜としての緑色の方が人気が定着しています。  健康増進に役立つ、さまざまなビタミンがバランスよく含まれており、なかでもB-カロテンやビタミンCは、病気に対する免疫力を高め、風邪などから体を守る効果や老化を防ぐ作用などが期待できます。  また、骨を丈夫にするビタミンKや肌の若々しさを保つビタミンEも豊富に含まれています。 ルチンが丈夫な血管に  アスパラガスに含まれていることが、名前の由来となった「アスパラギン酸」を多く含んでいるのが特徴で、疲労回復やスタミナ強化、さらには体の老化防止の効果があることがわかっています。  さらにアスパラガスの穂先には、ビタミンPと同じような働きをするルチンという特殊成分も含まれています。ルチンには血管をしなやかに、丈夫にする力があり、高血圧などの予防には最強の野菜といってよいでしょう。また、ビタミンB群の仲間の葉酸も含まれています。葉酸は、脳や血管の若さを保つ働きで注目されており、生涯現役で働き続けるうえでも役に立ちます。 【P55】 心に残る“あの作品”の高齢者  このコーナーでは、映画やドラマ、小説や演劇、音楽などに登場する高齢者に焦点をあて、高齢者雇用にかかわる方々がリレー方式で、「心に残るあの作品の高齢者」を綴ります 第11回 小説『故郷忘(ぼう)じがたく候(そうろう)』 (著/司馬(しば)遼太郎(りょうたろう)1968年) 労働ジャーナリスト 溝上(みぞうえ)憲文(のりふみ)  祖父から息子、そして孫へと受け継がれる家業は世の中に多いですが、実際は家族であるがゆえの技能伝承や、継がせたい親と子どもの心の葛藤など、幾多のむずかしさも抱えています。  司馬遼太郎の『故郷忘じがたく候』は、豊臣秀吉が朝鮮に出兵した16世紀末、朝鮮半島から薩摩へ連れてこられた朝鮮陶工の末裔である14代の沈壽官(ちんじゅかん)氏と沈家の物語ですが、家業に対する先代との対話も描かれています。  代々の沈氏は薩摩焼を全国に知らしめ、幕末のパリ万国博覧会、明治初年のオーストリア万国博覧会にも出品し、世界的にも高く評価されました。  初代から受け継がれた茶碗などの薩摩焼の作陶の技術を守ることを家風としてきましたが、父の13代は京都帝国大学(現在の京都大学)、14代は早稲田大学を卒業しています。14代が美術学校に進学したいといったとき、父は「どうせ村に帰ってくれば一生茶碗屋をやらねばならぬ者が、せめて若いころだけでも茶碗と縁のないことをやって息を抜いておかねば、せっかくこの世にうまれてきたわが身が可哀そうすぎる」といったそうです。  13代が75歳で他界する少し前、すでに子持ちで一人前となっていた14代が継承だけでは充足できない思いもあり、ほかの陶芸家のように流行の展覧会作品をつくりたいと願い出ました。父は「芸術家になりたいか。自分も若いころはそのような場所で個人の名を華やかにしたいと思ったことがある。しかし何ほどのことがあるだろう。わしからみればこの十数代は山脈のようなものであり、先祖のものを伝承しているだけのようにみえて一人ひとりの遺作をみると、みな個性があり、一人ひとりは山脈を起伏させている峰々のようなものだ」といいます。  それでも諦めきれずに「いったい自分は何を目標に生きてゆけばよいのか聞かせてほしい」と懇願すると、父は「息子を茶碗屋にせえや、わしの役目はそれだけしかなかったし、お前の役目もそれだけしかない」といいます。高齢の父と息子の対話には、家業を継ぐことの悲哀と喜びを共有した親と子、また師に対する尊敬と、弟子への愛情に貫かれた深い結びつきが滲み出ています。  小説では親子の対話はここで終わりですが、14代の沈氏は先代の厳命を守り、陶芸作家として日展や日本工芸会に所属せず、400年以上続いた家業を守り抜き、15代目の息子に託して2019(令和元)年に92歳でこの世を去ります。  あるとき14代が「どうすれば一人前になれると思うか」と息子に問うと、「働いて給料を取り、家族を食べさせ、守り抜く」と答えます。しかし14代は「それはだれでもやることだ。ひとりでいたって寂しくない、自分の信念をひとりぼっちになっても貫き通す。それが一人前ということだ」と諭したそうです。この言葉には13代が残した「山脈の峰々」に通じる孤高≠守ることの重要性が受け継がれているように思われます。 司馬遼太郎 『故郷忘じがたく候』 (文春文庫) 【P56-57】 BOOKS 新たな法改正に対応、把握しておきたいポイントを弁護士がわかりやすく解説 第4版「労働時間管理」の基本と実務対応 中井(なかい)智子(ともこ)著/労務行政/3740円  おもに人事労務担当者に向けて、複雑化する法律の解釈と実務上のポイントをわかりやすく解説する一冊。2009(平成21)年3月に発行されて以来、好評を得て、法改正などに対応して版を重ねている実務書の第4版である。  最新刊の本書は、第3版を発行した2019(令和元)年6月以降、新たに改正された法律、規則、指針、通達などをふまえて、2024年4月1日施行の裁量労働制の見直しのほか、2022年・2023年施行の改正育児・介護休業法などに対応。また、コロナ禍により、多くの企業で急速に普及したテレワークや、副業・兼業についての説明も追加している。  本書は、「労働時間制度の全体像」から、「変形労働時間制、フレックスタイム制」、「みなし労働時間制等」、「時間外労働・休日労働」、「割増賃金」、「年次有給休暇」、「母性保護、育児・介護休業、罰則その他」までの7章で構成。  弁護士である著者が人事労務担当者の実務に役立つようにと、読みやすい文章に図表を交えて、労働時間制度の基本と実務対応を説いている。実務でよくあるQ&Aと、「法令遵守チェックシート」が章ごとについており、自社の現状を確認しながら、理解を深めることができる。 バブル世代のためのセカンドキャリアの指南書 まだまだ仕事を引退できない人のための50代からのキャリア戦略 バブル入社組≠フリアルな声から導き出した3つの答え 元永(もとなが)知宏(ともひろ)著・野田(のだ)稔(みのる)監修/翔泳社/1760円  日本のバブル期は、1986(昭和61)年12月に始まり、1991年2月に終わったとされる。この時期に入社した世代が、現在50歳前後となっており、定年退職年齢が近づいてきている。  バブルに乗って、引く手あまただった就活から30数年、「バブル入社組」はこれからどのように働き、生きるのか。会社から離れても、肩書きがなくなっても、明るく楽しく生きるために、いまから備えておくべきこととは何か。本書は、バブル世代の著者が、同じ「バブル入社組」に発信する、セカンドキャリアの指南書である。  時代をふり返りつつ、取材を通じて得た50代会社員の転職の現状や、早めに会社を退職して大学院で学び直し行政書士として独立した人、留学して語学力を磨き外資系企業などを転々として活躍している人など5人の体験談を、生き方を変えた決断やその後の苦労も含めて紹介。それらをふまえ、会社員が人生を変えるために必要な方法として、「学び直す」、「働く場所(働き方)を変える」などの三つの方法をあげて、50代からのキャリア戦略を解説する。  時代が変わっても、働くことを通じて、自らの変化や成長を楽しみながら生きていこう、そんな勇気と元気が湧いてくるような内容である。 76歳で起業。経験を糧とし、知見とスキルを積み重ねていく姿に学ぶ 大器晩成型キャリアのすゝめ 76歳で上場を果たした遅咲き社長 広瀬(ひろせ)克利(かつとし)著/幻冬舎/1650円  幼いころから科学者になりたかった著者は、大学院を卒業後、化学会社の研究部に就職した。希望を叶えたものの、3年後に異動を命じられ、生産や人事の仕事を担当し、その後は営業開発課長になるなど、やりたくない仕事や向いていないと思う仕事をする日々に。それでも全力を注いでいると、そうした仕事もだんだんおもしろいと感じられるようになっていった。  やがて転機が訪れ、43歳で研究開発会社を起業。会社員時代の多様な経験が活きて、外回り営業や経理、事務を自分で行うことができた。会社が成長するなかで、研究への思いがよみがえり、55歳で大学院を受験し、入学。ここでも多様な経験をして、農学博士号を取得した。  76歳のとき、起業した会社は東証マザーズ上場を成し遂げた。本書を出版する時点で、著者は81歳。すでに第一線を退き、「すばらしい人生を過ごせたと感じている」と晴々とした気持ちを綴っている。道のりは決して平たんではなかったが、すべての経験を糧とし、さまざまな知見とスキルを自身に積み重ねていった。著者の仕事観は、現在の役職などに不満を抱えていたり、キャリアに悩んだりしているビジネスパーソンに有用なヒントを与えてくれるだろう。 ジョブ型人事の実態と、日本企業の導入事例をその後の状況もふまえて紹介 ジョブ型・マーケット型人事と賃金決定 人的資本経営・賃上げ・リスキリングを実現するマネジメント 須田(すだ)敏子(としこ)著/中央経済グループパブリッシング/3190円  働き方に対するとらえ方の多様化などから、欧米で主流とされるジョブ型人事への関心が日本でも高まり、日本で主流とされる「メンバーシップ型」と呼ばれる雇用方法から、ジョブ型へ切り替える企業が増えてきているという。  さらに本書の序章で著者は、政府が2023(令和5)年6月、「新しい資本主義」の柱として、「リスキリング(学び直し)」、「転職しやすい労働市場改革」、「職務給の導入」(=ジョブ型人事)を一体的に進めることを掲げたことについて、これらは互いに補完性を有するものであるため、「一体に進めることの方針は正しいものであろう」として、「日本でもジョブ型人事へ本格的に転換する機運が出てきているようだ」と説明。本書は、豊富なデータをもとにジョブ型人事の実態を紹介し、ジョブ型が普及するとどのような変化が起こるのかを概観。  ジョブ型人事になると、マーケット型人事となり、これらは一体となるという。そしてジョブ型・マーケット型人事への転換は、人的資本経営の実現や賃上げ、リスキリングなど、現在の日本の課題を解決するものになると提唱する。  加えて、日本企業5社のジョブ型人事の導入事例を紹介。実践内容と変化に触れている。 生涯現役で働いて人生を輝かせるシニアの生き方、考え方に学ぶ 人生は80歳からがおもしろい 吉川(よしかわ)幸枝(さちえ)著/アスコム/1540円  著者は、レストラン経営などを手がける会社の現役社長で、本書発行時の年齢は88歳。テレビ番組などにも出演して人気者になり、全国にファンがいるという。幼少時に苦労をしながらも、料理上手な母に学び、生き方のヒントをもらい、飲食業を始めて成功している。  本書は、経営者として、人として、さまざまなことを学び経験してきた著者が、80歳を超えても成長し、人生を輝かせる知恵を伝授する。  考え方やお金、健康など多様なテーマを取り上げているなかで、特に興味深いのは、「『80歳はもう働けない』という固定概念を外したほうがよい」として、時代の変化をとらえて自らの考え方を変え、「ずっと働くこと」を読者にすすめていること。歳をとって働き続けることは「大変」としながらも、「生きがい」を見つけることは「それ以上に大変」だという。「しかし働くことで、だれかに必要とされていることを感じられることは、生きる力になる」と働くことの意義を語る。また、「雇ってくれるところがない」と嘆くのではなく、自分のペースでいいから、少しでも歩いて行動しようと呼びかける。  著者が目の前で話しているような文章には、生涯現役で働くためのヒントとエールが満載だ。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 令和5年「毎月勤労統計調査特別調査」の結果  厚生労働省は、2023(令和5)年「毎月勤労統計調査特別調査」の結果を公表した。この調査は、全国の主要産業の小規模事業所(常用労働者1〜4人規模)における賃金、労働時間などを明らかにすることを目的として実施しているもの。今回は、2023年7月の状況などについて、2万3742事業所を対象として調査し、2万46事業所から有効回答を得た(有効回答率84.4%)。  2023年7月における1カ月間に決まって支給する現金給与額は20万3956円で、前年と比べ0.4%増となった。男女別にみると、男性が27万6094円(前年比2.2%増)、女性が15万2474円(同0.3%減)となっている。産業別では、建設業27万4365円(前年比2.0%増)、製造業21万6905円(同0.1%増)、卸売業・小売業20万9466円(同2.4%増)、宿泊業・飲食サービス業11万1801円(同3.4%減)となっている。年齢階級別では、調査産業計で男女計は25〜29歳まで上昇しているが、以降55〜59歳まではほぼ横ばいとなり、60〜64歳以降低下している。  次に、雇用についてみると、常用労働者に占める女性労働者の割合は、調査産業計が58.4%で、前年より1.1%上昇している。1日の実労働時間が6時間以下の短時間労働者の割合は、調査産業計が31.7%で、前年より0.4%上昇している。 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/tokubetu/23/r05maitoku.html 厚生労働省 「アンコンシャス・バイアスセミナー」の動画公開  厚生労働省は、2023(令和5)年度委託事業「個々の女性労働者のキャリア形成支援事業」のなかで、企業に勤める人々に向けて、「アンコンシャス・バイアスセミナー―心に潜む無意識の思い込み≠ノ気付く―」の動画を作成し、公開した。動画は約12分で、厚生労働省YouTubeチャンネルより無料で視聴することができる。  アンコンシャス・バイアスとは、「自分自身が気づかずに持っている、ものごとのとらえ方の偏りや思いこみ」のこと。無意識のバイアスや無意識の偏見ともいわれ、近年特に注目が高まっている。  アンコンシャス・バイアスは、これまで過ごしてきた社会環境や過去の経験によってつくられるもので、性別や年齢、働き方に関するものなど職場に関して多くの人がさまざまなかたちで思いこみを持ち、気づかぬうちにその思いこみに基づく判断や行動をしている可能性があるという。そのことが、職場では多様な人々の活躍を阻害したり、自分自身のキャリアなどの可能性を狭めてしまったりする可能性もあるとされている。  動画は、「自分のアンコンシャス・バイアスを知る」、「職場におけるアンコンシャス・バイアスの弊害」などの内容。付属資料を活用して動画の理解状況を自己チェックすることもできる。 ◆アンコンシャス・バイアスセミナー動画 https://www.youtube.com/watch?v=WsuPpbkLRsY ◆付属資料 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001190882.pdf 厚生労働省 令和4年「介護サービス施設・事業所調査」概況  厚生労働省は、2022(令和4)年「介護サービス施設・事業所調査」の結果を公表した。同調査は、毎年10月1日現在の状況について調査を実施しているもの。2022年は、全国の介護保険施設や居宅サービス事業所などのうち、延べ25万1500施設・事業所を対象として調査し、活動中の延べ21万3632施設・事業所について集計を行った。  介護保険施設の施設数は、介護老人福祉施設が8494施設(前年比80増)、介護老人保健施設が4273施設(同6減)、介護医療院が730施設(同113増)、介護療養型医療施設が300施設(同121減)となっている。  居住サービスの事業所数は、訪問介護が3万6420事業所(前年比808増)、訪問看護ステーションが1万4829事業所(同1275増)、通所介護が2万4569事業所(同141増)などとなっている。  介護職員(訪問介護員)の従事者数は、訪問介護は50万9441人で、前年(51万2890人)に比べ3449人減となっている。通所介護は22万3462人で、前年(22万3488人)に比べ26人減となっている。  介護保険施設では、介護老人福祉施設の介護職員は29万8906人で、前年(29万5957人)に比べ2949人増。介護老人保健施設の介護職員は12万6256人で、前年(12万7611人)に比べ1355人減となっている。 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/service22/index.html 開設中小企業基盤整備機構 「人手不足相談窓口」  独立行政法人中小企業基盤整備機構は、2024(令和6)年1月から、人材不足の課題を抱える中小企業への相談体制を強化するため、全国9カ所の地域本部およびオンラインで、新たに「人手不足相談窓口」を開設した。  また、IT化について悩みを持つ中小企業・小規模事業者や、中小企業等のIT化を支援する支援機関をサポートするための、IT分野の相談に特化したオンライン無料相談窓口「IT経営サポートセンター」を、2024年4月から全地域本部に拡充することを公表した。加えて、同機構が2023年11月に実施した緊急アンケート調査「人手不足に関する中小企業・小規模事業者の意識調査」の結果をあわせて公表し、その調査結果から、回答者の3割強が人手不足の状況を深刻と捉え、6割強が重要または将来的な課題と認識。  特に、建設業やその他サービス業、飲食・宿泊業で深刻度が高い傾向にある。人材確保対策への取組みは、シニアの活用は進んでいるものの、副業人材・外国人・障害者の活用は進んでいないなどの実態がみえてきた。 ◆地域本部の人手不足相談窓口 https://www.smrj.go.jp/sme/consulting/tel/index.html ◆人手不足オンライン相談窓口 https://www.smrj.go.jp/institute/bkmqel000000bdeg.html ◆IT経営サポートセンター https://it-sodan.smrj.go.jp 産業雇用安定センター 「60代シニア層の就業ニーズに関するアンケート調査」結果概要  公益財団法人産業雇用安定センターは求職活動中の60代男女を対象とした、「シニア層の就業ニーズに関するアンケート調査」の結果を公表した。  調査結果から、60代シニア層が仕事探しで重視するものについてみると、「仕事内容や職場の働きやすさ」(40.1%)、「就業場所・通勤時間」(34.9%)などが多く、「給料」(25.1%)、「体力・体調に合っている」(22.7%)はやや少ない。  希望する就労日数は、男性60〜64歳の約半数が「週5日」以上を希望する一方で、女性と男性65〜69歳では7割〜8割超が「週4日」以下を希望。就労時間は、男性60〜64歳の7割が「一日6〜8時間」を希望し、女性と男性65〜69歳では5割超〜7割が「一日4〜5時間」までを希望している。  人手不足分野の運輸、警備、介護福祉の仕事はシニア層にも希望者は少ないが、「他に仕事がなければ希望したい」とする者は一定数みられた。また、業務内容が限定または分割されることによって希望度が高まるものがあり、例えば「福祉施設の清掃・食器洗浄などの間接業務」は、「介助業務」より10ポイント近く希望度が高かった。  調査結果について、産業雇用安定センターでは「人手不足の厳しい業種や中小企においては、シニア層の就業ニーズを理解し、シニア層が働きやすいよう、例えば業務内容の分割など仕事のあり方を見直してシニア層の活躍を促すことで、人手不足の緩和につながることが期待される」としている。 https://www.sangyokoyo.or.jp/topics/2023/p1ii5q0000007e9p-att/shinia_60ank.pdf 調査・研究 日本経済団体連合会 2023年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果  一般社団法人日本経済団体連合会(以下、経団連)は、「2023年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」を公表した。  この調査は、1969(昭和44)年から毎年実施しているもの。今回は、経団連会員企業(計1540社)の労務担当役員等を対象として、2023(令和5)年9〜11月に実施した(集計可能回答社数339社)。  調査結果から、高齢者雇用の70歳までの就業確保措置についてみると、「対応済(決定済を含む)」の企業は28.1%、「対応を検討中」は17.5%、「検討する予定」は35.5%、「検討していない(検討予定なしを含む)」は18.9%となっている。  70歳までの就業確保措置の具体的な内容は、「70歳までの継続雇用制度の導入(自社・グループ)」が93.4%と圧倒的多数となっており、70歳までの継続雇用制度(自社・グループ)を導入している企業において、「70歳までの定年引上げ」、「定年廃止」の導入予定をたずねると、「導入予定なし」との回答がともに9割を超えている。  次に、高齢者雇用において、特に課題と感じているもの(あてはまるもの二つまで回答)についてみると、「高齢社員のエンゲージメントやパフォーマンス」が62.0%で最も多く、次いで、「技能伝承と後継者育成」が46.9%、「自社内における人材の新陳代謝」が25.0%、「高齢社員の能力開発・スキルアップ」が14.8%と続いている。 https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/006.pdf 【P60】 次号予告 5月号 特集 シニアの活き活き職場づくり −安全・健康確保を進めよう− リーダーズトーク 飯田成晃さん(一般社団法人アシストスーツ協会 代表理事) JEEDメールマガジン 好評配信中! 詳しくは JEED メルマガ 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 お知らせ ◆お電話、FAXでのお申込み 株式会社労働調査会までご連絡ください。 電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方 雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方 Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 丸山美幸……社会保険労務士 森田喜子……TIS株式会社人事本部人事部 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会理事長 編集後記 ●今月号の特集は「心と体の『休養』を考える」と題し、心と体をリフレッシュするポイントなどについて解説しました。仕事で高パフォーマンスを発揮するうえでは、心と体をリフレッシュして臨むことが欠かせません。勤務時間外の過ごし方を事業者が制約することはできませんが、心身の健康増進という観点から、本企画を参考に情報提供に努めていただければ幸いです。 ●特別企画では、2023(令和5)年度に策定された「産業別高齢者雇用推進ガイドライン」より、組込みシステム業、倉庫業、在宅介護サービス業、職業紹介業、警備業の概要をご紹介しています。JEEDホームページでは、これら5業種を含め、これまでに策定された全96業種のガイドラインを公表しておりますので、ぜひご活用ください。 ●新年度がスタートしました。人事異動などにより、新たに人事担当となった読者の方もいるのではないでしょうか。高齢者が活き活きと働ける職場づくりに向け、ぜひ本誌をご活用いただければ幸いです。ご意見・ご要望もお待ちしております。 『エルダー』読者のみなさまへ  2024年5月号は、大型連休の関係から、お手元への到着が通常よりも数日遅れることが見込まれます。ご不便をおかけしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。ご不明な点は編集部(企画部情報公開広報課、電話:043-213-6216)までおたずねください。 読者アンケートにご協力ください 回答はこちらから 公式X(旧Twitter) @JEED_elder 月刊エルダー4月号No.533 ●発行日−令和6年4月1日(第46巻 第4号 通巻533号) ●発行−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−企画部長 境伸栄 編集人−企画部次長 綱川香代子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 (企画部情報公開広報課) TEL 043(213)6216 FAX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-986-6 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.338 独自の「変換継ぎ手」で雨どいのトラブルを解決 建築板金工(けんちくばんきんこう) 橋本(はしもと)健次(けんじ)さん(61歳) 「普段から職業訓練校で教えていると、やり方が頭に入っているので、部材の設計・製作も半日程度の短時間ですませることができます」 壊れた部材が廃番品でも技術力を活かして安価に改修  「建物内に雨が漏れないようにする『雨仕舞(あまじま)い』が、建築板金工の仕事です」と話すのは、令和5年度「現代の名工」を受賞した橋本健次さん。代表取締役を務める埼玉県三み郷さと市の「有限会社橋本板金工業所」で、住宅・店舗・ビルなどの屋根・外壁・雨どいの改修工事をおもに手がけている。上の写真で、ステンレスの板をタイル状に施した破風板(はふいた)は、橋本さんの手によるものだ。  「当社が引き受ける仕事は、価格よりも、仕事をきちんとやってくれることを重視するお客さまからのリピートが多いのが特徴です」  橋本さんが特に得意とするのが、古くなって壊れた雨どいの修理。壊れた部材がすでに廃番品で、ほかの業者に頼むと全取替えとなり高額になってしまうような場合に、橋本さんは新たに設計したり既製品を改造して「変換継ぎ手」をつくり、壊れた部材と交換することで、コストを数分の一に抑えることができる。  「つくる手間はかかりますが、お客さまからお金に代えられない信用を得られ、その後の仕事のリピートにつながっています」 自分で責任を持って仕事をし顧客の信頼を獲得  橋本板金工業所は1969(昭和44)年に橋本さんの父親が設立した。橋本さんは工業高校を卒業後、同社にすぐ入社せず、東京の自動車部品メーカーに就職した。  「一度東京でスーツを着て働いてみたい、というのが動機でした(笑)。ただ、いまではその会社で生産技術や品質管理、会社の組織などを勉強できて、よかったと思います。4年後に父から『戻れ』といわれ、父のもとで働き始めました」  当初は板金のことを何も知らなかったため、職業訓練校に通って技術を一から学んだ。  「父は自分でもやればできるのに、仕事を受けたらほかの職人に外注するのが基本でした。そのため、私はそういう職人さんたちの仕事を見よう見まねで自然に覚えていった感じです。もともと模型飛行機づくりが好きで、自動車部品の会社にも勤めていたので、技術の習得には苦労しませんでした」  バブルが弾けた後は仕事が減少し、一時は月に1〜2件しかない時期もあった。そんな時期に父親から経営を引き継いだ。「手先は器用だが、営業が下手」という橋本さんは、塗装業や防水業などの仕事仲間の紹介で頼まれた仕事を堅実にこなすことで信用を築き、その信用によって仕事を徐々に増やして苦境を乗り越えた。  「自分で責任を持って仕事をしてきたから、いまがある」と話す橋本さん。現在は、既存顧客への対応だけで忙しい状況だという。 技術の研鑽(けんさん)と後進の指導が部材の設計・製作に役立つ  橋本さんの技術力は折り紙つきだ。埼玉県技能競技大会では1位の知事賞を3度獲得した。その後、さらなる技術向上を目ざし、東京都銅板加工技術研究会に入会。平らな銅板を叩いて丸く加工する「絞り」や、銅板溶接などの技術を磨いた。銅板を自由自在に加工する技術は、雨どいの変換継ぎ手の製作にも活かされている。  また、埼玉県建築板金技能士会で国家試験の準備講習会の講師を約10年務め、2011(平成23)年からは蕨戸田(わらびとだ)建設高等職業訓練校の指導員(現在は副校長)として、後進の育成にも努めている。  「雨どいの継ぎ手のようなものが半日程度でつくれるのも、日ごろから職業訓練校で展開図の作成や板金での製作を教えているからだと思います。国家試験の前に勉強しただけでは、いざやろうとしてもなかなかできないでしょう」  また、職業訓練校で教えてきたことで生徒たちから信頼を得られ、業界内での輪が広がったという。社員の田村隆幸さんも教え子の一人。橋本さんの技術や教え方に魅力を感じ、「なかば拝み倒して入社しました(笑)」と話す。そんな田村さんに橋本さんは「仕事を覚えて、どこででも通用する職人になってほしい」と期待を込める。 有限会社橋本板金工業所 TEL:048(955)5416 (撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) 写真のキャプション 折り台に板を載せ、拍子木(ひょうしぎ)で叩いて折り曲げる、板金の基本作業。社員の田村(たむら)隆幸(たかゆき)さん(右)は「一から十までだけでなくプラスαまで教えてくれます」と話す 埼玉県三郷市で、父親の代から50年以上にわたり営業している橋本板金工業所 雨どいの変換継ぎ手を銅板で製作。取り替えコストの削減に貢献した 工場の壁にきれいに整頓された工具類。几帳面な性格は母親譲りとのこと。さまざまな工具を使いこなす建築板金は「やろうと思えばいろいろなことができる、つぶしの利く仕事」と話す 銅板を叩いて丸く加工する「絞り」。均等に叩かないと厚みにムラが出てしまう。右は銅板で製作した洋風鬼瓦 2011年から蕨戸田建設高等職業訓練校の指導員として、後進の育成に努めている。生徒に合わせたわかりやすい教え方に定評がある(写真提供:有限会社橋本板金工業所) 「絞り」の技術を磨くために製作した一輪挿しとやかん。それぞれ銅板溶接を施しているが、その部分をさらに絞ることによって、溶接の跡はほとんどわからなくなっている 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回は、果物イラスト問題です。たくさんの果物のなかからイチゴだけを探したり、サクランボだけを数えたりするというような、特定の種類だけを探したり、数えるのは、なかなか根気がいります。このとき、眼球のコントロールにかかわる前頭眼野や頭頂間溝(とうちょうかんこう)のほか、がまんにかかわる右の前頭葉の下側も活性化しています。集中力アップだけでなく、粘り強いがまん力も鍛えられます。 第82回 果物イラスト問題 @〜Cの質問に答えてください。 …バナナ …イチゴ …サクランボ 目標 5分 @イチゴは何個ありますか? □個 Aイチゴとバナナではどちらが何個多いですか? が□個多い Bサクランボはすべて1房に2個ついています。 全部で何個ありますか? □個 Cすべてのバナナを3 等分して食べます。 全部で何切れになりますか? □切れ 見ることが集中のはじまり  私たちの脳は、一つのことに集中し始めると、前頭葉の一部から強い信号が送られ、前頭葉から頭頂葉が活性化します。このとき眼球運動が制御されます。  集中できないとき、余計なことに集中してしまうときは、今回の脳トレのような眼球を動かす問題にチャレンジしてみるとよいでしょう。眼球運動をすることで、集中できない状態に眼球が制御されてしまったのを、一旦解除することができます。  しっかり見ること、眼球を動かすことが、集中力を高める第一歩になります。どうしても視線が泳いでしまう人は、シールを貼ったりマークをつけたりして目印をつけましょう。  また、手を動かしたり嗅覚を刺激したりすることでも集中力は高まります。勉強や仕事などで蛍光ペンを使う、アンダーラインを引くなども大事な集中力アップ方法です。  パソコンを使用している場合は、パソコンの四隅(よすみ)を目で追っていくだけでも切り替えることができ、集中できるでしょう。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRS を使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【問題の答え】 @21 Aイチゴ・9 B38 C36 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2024年4月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価503円(本体458円+税) 『70歳雇用推進事例集2024』のご案内  2021(令和3)年4月1日から、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業を確保する措置を講ずることが事業主の努力義務となりました。  当機構(JEED)では、昨年作成した「70歳雇用推進事例集2023」に引き続き、『70歳雇用推進事例集2024』を発行しました。  本事例集では、70歳までの就業確保措置を講じた20事例を紹介しています。 興味のある事例を探しやすくするため「事例一覧」を置きキーワードで整理 各事例の冒頭で、制度改定の契機と効果、ポイント、プロフィール、従業員の状況を表により整理 70歳までの就業確保措置を講じるにあたって苦労した点、工夫した点などを掲載 『70歳雇用推進事例集2024』はJEEDホームページから無料でダウンロードできます https://www.jeed.go.jp/elderly/data/manual.html 70歳雇用推進事例集 検索 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 高齢者雇用推進・研究部 2024 4 令和6年4月1日発行(毎月1回1日発行) 第46巻第4号通巻533号 〈発行〉独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 〈発売元〉労働調査会