高齢者の職場探訪 北から、南から 第142回 北海道 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 地域のインフラをになう仕事にやりがいを感じて高齢社員が活躍 企業プロフィール 株式会社日高(ひだか)トータルサービス(北海道浦河郡(うらかわぐん)浦河町(うらかわちょう)) 創業 1952(昭和27)年 業種 清掃および廃棄物処理、自動車整備、一般小売販売(CanDo浦河店) 社員数 53人(うち正社員数43人) (60歳以上男女内訳) 男性(11人)、女性(6人) (年齢内訳) 60〜64歳 7人(13.2%) 65〜69歳 9人(17.0%) 70歳以上 1人(1.9%) 定年・継続雇用制度 定年63歳。希望者全員を年齢上限なく嘱託社員として継続雇用。最高年齢者は71歳  日本の総面積のおよそ2割を占める北海道。道内総生産における産業別構成比は、第1次産業が4.0%(全国1.0%)、第2次産業が18.0%(同25.8%)、第3次産業が77.2%(同72.7%)となっています※。全国に比べ第1次産業と第3次産業の割合が高く、第2次産業の割合が低い傾向にあり、製造業における総生産の内訳をみると、食料品製造業の割合が最も高いことも特徴の一つです。  また、高齢者雇用の状況をみると、常時雇用する労働者が21人以上の企業9316社のうち、66歳以上まで働ける制度のある企業は47.6%(全国43.3%)となっています(北海道労働局「令和5年『高年齢者雇用状況等報告』の集計結果」より)。  JEED北海道支部高齢・障害者業務課では、広大な北海道を道央、道南、道北、道東の四つの地域に分け、プランナー・高年齢者雇用アドバイザーを地域ごとに配置して道内の事業主の高齢者雇用の取組みを支援しています。同課の大原(おおはら)秀洋(ひでひろ)課長(取材当時)は、「広域に所在する事業所を効率的に訪問できるよう経路なども工夫して訪問活動を行っています」と話します。冬季の雪の影響なども考慮して、訪問先や訪問時期について、年間を通じて調整を行うなどの苦労もあるようです。  同支部で活躍するプランナーの一人、岩佐(いわさ)秀明(ひであき)プランナーは、中小企業診断士の資格を持ち、職場改善、職域・職務開発、教育訓練・能力開発などを得意分野として豊富な経験や知見を活かし、事業主に寄り添った活動で信頼を得ています。今回は、岩佐プランナーの案内で、「株式会社日高トータルサービス」を訪れました。 分別ごみ回収や運送、車両整備など地域ニーズに応える事業を手がける  株式会社日高トータルサービスは、1952(昭和27)年に貨物運送業を営む株式会社日高小型運送社として創業。以来、地域ニーズに対応して、環境事業、販売サービス事業、車両整備事業に参入し、2003(平成15)年に現在の株式会社日高トータルサービスに社名を変更しました。  現在は、一般ごみ・資源ごみの分別収集や、し尿収集運搬などを手がけているほか、学校給食配送業務など、地域で必要とされる仕事をにない、地域を支えています。また、車検などの車両整備や日高管内のショッピングセンターで100円ショップなども運営しています。  佐野(さの)元健(もとのり)代表取締役社長は、「地域から必要とされる企業を目ざし、地域密着で歩んできました。ごみ回収やし尿収集などは日時が決まっているため、雨や風が強い日でも作業を行います。社員には、プロとしてきちんと仕事をすることをつねに求めていますが、使命感を持ってよく働いてくれています。今後も地域に信頼され、幅広いサービスを提供できる企業でありたいと考えています」と経営指針を語ります。  ニーズに対応し続けていくためにも、若い世代の採用を考えているそうですが、総務・人事担当の畑中(はたなか)郁子(いくこ)さんは、「欠員補充のための求人を出しても、若い人からの応募はない状況が続いています。一方で、60歳過ぎの方からの応募が増えています」と最近の状況を説明します。  採用にあたっては、「元気で、仕事に対して積極的な気持ちがあることを重視し、年齢は気にしていません」と佐野社長。社員に対しても、「年齢にかかわらず、仕事ができるうちは勤務を続けてほしい」と望んでいます。 年齢上限なく継続雇用する制度を導入 安全のためにも話しやすい職場環境に  同社は2006年に定年を60歳から63歳に引き上げました。同時に、以前から定年後も勤務を継続する人が多かったことから、年齢上限のない継続雇用制度を導入しました。これまで定年を迎えた社員のほとんどが継続雇用を希望し、定年前と変わらない仕事内容と働き方を続けています。  なお、運転業務のみ、70歳以降の働き方については個別対応としており、健康状況などに随時配慮し、場合によっては運転以外の業務に就いてもらうことを考えます。  同社が最も大切にしているのは、「安全」に仕事を行うこと。佐野社長はそのために日ごろから、「社員が話をしやすいように、社内に壁をつくらない雰囲気づくり」を心がけ、社長から気さくに社員に話しかけています。こうした日々の積み重ねにより、安全衛生会議の雰囲気も変わり、「社員が率先してヒヤリハットの報告や発言をするようになりました。小さなトラブルが大事故につながることもありますから、つねに情報共有に努めています。そのためには、やはり話しやすい雰囲気が大切です」と佐野社長。畑中さんは、「こうした話しやすい雰囲気があることも、継続雇用を希望する社員が多いことにつながっているのかもしれません」と話します。  今回は、浦河町のごみ回収業務をにない、元気に活躍しているお2人にお話を聞きました。 60代から始めた仕事にやりがいを感じて  古川(ふるかわ)久恭(ひさやす)さん(69歳)は、浦河町内のごみステーションからごみを回収して作業車に積み込み、浦河町のごみ処理場へ持ち込んで荷下ろしをする作業を担当しています。  同社に入社する前は、クリーニング業に30年ほど従事していました。現在の仕事はまったくの未経験だったそうです。同社が担当する浦河町のごみ回収は、可燃ごみと資源ごみなどに分かれており、古川さんは資源ごみの回収を担当しています。ドライバーと作業員2人の合わせて3人で専用車両に乗車し、ごみステーションから空き缶やペットボトルなどを回収します。入社してからマンツーマンで車両の扱い方や作業のコツなどを教わり、慣れるまで3年ほどかかったそうです。  「ていねいに教えてもらい、ありがたかったです。いま、仕事を通じて町の役に立てていることがやりがいになっています。町の人から感謝の言葉をいただくこともあります」(古川さん)  荷下ろし作業や、次のごみステーションまで短い距離なら車両に乗らず歩くなどするうちに、自然と体が鍛えられているそうです。「入社したころは70歳くらいまで勤務できればと思ったのですが、動けるうちは働いていたいです。会社や仲間に迷惑をかけないように、健康に気をつけて働き続けていきたいです」と意気込みを話してくれました。  古川さんの話を聞いて、岩佐プランナーは次のように語りました。  「仕事をしながら体が鍛えられたという言葉が印象的です。自分に適した仕事をされることで、より健康的な日々を送っていらっしゃると感じました。また、古川さんは未経験で入社されて一から仕事を覚えたということで、ご本人の努力とともに、職場の方がていねいに仕事を教えられたのだろうと思います。高齢社員が力を発揮して長く勤めるためには大事なことではないでしょうか」  古川さんの上司で入社時に指導役も務めた熊野(くまの)佳宏(よしひろ)作業長に、古川さんに教えるにあたって工夫したことをたずねると、「全部まとめてではなく、作業の流れとおおまかな手順から覚えてもらい、細かい部分はその都度伝えるようにしました。よく気がついて自分から動いてくれますし、今後もけがに気をつけて、長く働き続けてもらいたいと思っています」と話してくれました。  勤続5年目の永田(ながた)義和(よしかず)さん(71歳)は、同社の最高齢社員です。古川さんと同じくごみ回収を担当しており、回収車の運転業務をフルタイムでになっています。かつては長距離トラックのドライバーでしたが、職場の移転にともない退職し、日高トータルサービスに入社。長距離ではなく、町内を走る現在の仕事に出会いました。  「ごみステーションの場所や仕事内容を覚えるまでたいへんではありましたが、自分で選んだ道なので迷惑をかけてはいけないという気持ちで取り組み、現在まで続いています」と話す永田さん。つねに安全運転と健康的な生活を心がけているそうです。「自分が納得できる仕事をしていることが、健康によい影響を与えているように思います。もし働いていなかったら、もっと老けこんでいたかもしれません。現在の仕事は、毎日同じことをしているようで、じつは違います。本や新聞紙、雑誌などきちんと積み込まないと積みきれなくなることもあり、つねに頭の体操です」とほがらかに話します。  運転業務に就いていることから、体調の変化に特に注意しているものの、自分では気づかない場合を考え、「『仕事に何らかの影響がみられると判断したら、いつでもいってください』と社長に伝えています。自分でも不調を感じたら、すぐに相談しようと思っています」と心がまえを話します。佐野社長は、永田さんの仕事ぶりに敬意を表すとともに、運転業務については健康状態を確認して対応しているとのこと。社長や上司、仲間と信頼関係が築けていることも、永田さんが安心して仕事の能力を発揮できる重要な職場環境の一つとなっています。  地域や暮らしに密着した仕事を手がける同社には、現在の事業に関連する新たな仕事の依頼も多く、佐野社長は「ニーズに応えたいという思いはつねにありますが、新しいことを始められるほどの体制が整っているわけではありません」と人材確保の悩みを語ります。岩佐プランナーは、「新規の仕事を考えるには、現在の人材が活かせる仕事内容から考えていくのも一つの方法です」とアドバイスをしていました。  地域のインフラをになう同社の仕事は、今後、その重要性をさらに増していくことでしょう。佐野社長は、「現在の仕事を安全にきちんと続けることと、今後も地域から必要とされる会社であり続けるよう、そして高齢社員の力をよりよく活かせるように、現行制度の充実を図っていきたい」と抱負を語ってくれました。(取材・増山美智子) ※ 北海道「令和2年度道民経済計算年報」 岩佐秀明 プランナー アドバイザー・プランナー歴:18年 [岩佐プランナーから] 「事業所訪問では、事前に訪問目的や提供する資料の例などをご案内し、相談・助言活動に関心を持ってもらえるように努めています。高齢者が活躍できる環境は、全社員にとっても活躍できる環境であり、事業者利益にもつながると信じて、事業者にとっても高齢者にとってもメリットのある提案を心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆北海道支部高齢・障害者業務課の大原課長は岩佐プランナーについて、「2006 年度から18 年間にわたり当支部で活躍しています。やさしい人柄ときめ細やかでていねいな対応から、訪問先の事業主から『有益な情報や十分な意見交換ができて有意義でした』などの声が多数寄せられています。地域ワークショップや就業意識向上研修の講師としても実績があり、当支部にとって欠かせないプランナーです」と話します。 ◆北海道支部高齢・障害者業務課は、JR琴似(ことに)駅(JR札幌駅より2駅目)から徒歩5分、地下鉄琴似駅から徒歩8分と好立地に位置する、北海道職業能力開発促進センター(ポリテクセンター北海道)内にあります。 ◆北海道では、26人のプランナー等(2024〈令和6〉年4月現在)が活躍しています。日々の精力的な取組みの結果、2023年度は、約1200件の相談・助言を実施し、380件の制度改善提案を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●北海道支部高齢・障害者業務課 住所:北海道札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 電話:011-622-3351 写真のキャプション 北海道浦河郡 株式会社日高トータルサービスの本社事務所 佐野元健代表取締役社長 総務・人事担当の畑中郁子さん 資源ごみ回収車の安全装置などについて説明してくれた古川久恭さん 長距離トラックドライバーを経て、現在は町のごみ回収車を運転する永田義和さん