【表紙2】 「ガイドライン」のラインナップが増えました 産業別 高齢者雇用推進事業のご案内  高齢者雇用を進めるためのポイントは、業種や業態によって違いがあります。  そこで当機構では、産業別団体内に推進委員会を設置し、高齢者雇用に関する具体的な実態を把握するとともに、解決すべき課題などを検討して、高齢者雇用を推進するために必要な方策や提言を「ガイドライン」として取りまとめています。そしてこれまでに、95業種の高齢者雇用推進ガイドラインが完成しています。  2022年度は、以下の6つのガイドラインを作成しました。  いずれも、当機構のホームページで全文を公開中です。 産業別 高齢者 ガイドライン 検索 1 一般社団法人 日本鳶工業連合会 とび・土工工事業 高齢者がバトンをつなぐ未来のガイドライン 人生100年時代! 活躍の場・生きがいを求めて! 2 一般社団法人 日本機械土工協会 機械土工工事業における高齢者活用推進のためのガイドブック 高齢従業員の活躍と若手従業員の定着に向けて 3 一般社団法人 全国基礎工事業団体連合会 建設業基礎工事における高齢技能労働者の活躍ガイドライン 4 一般社団法人 日本鉄リサイクル工業会 鉄リサイクル業 その経験、活かせます! ベテランの活躍が鉄リサイクル業の未来を拓く 5 一般社団法人 日本歯車工業会 歯車製造業 高齢者の活躍に向けたガイドライン 〜シニアの技を次世代にバトンタッチ、皆が活躍できる職場作り〜 6 一般社団法人 全国食品リサイクル連合会 食品リサイクル業 高齢者の活躍に向けたガイドライン 【P1-4】 Leaders Talk No.95 60歳前と60歳後を分断しない一気通貫制度の構築を 松本大学人間健康学部スポーツ健康学科教授 上野隆幸さん うえの・たかゆき 1969(昭和44)年生まれ。学習院大学大学院経営学研究科 博士後期課程単位取得満期退学。2002(平成14)年より松本大学勤務。専門は人的資源管理。  70歳までの就業機会確保措置が企業の努力義務となり2年が経ちました。生涯現役社会に向け、高齢者雇用・高齢者活用は着実に進んでいますが、「具体的な取組みはこれから」という企業も少なくないのではないでしょうか。そこで今回は、高齢者雇用や中小企業の賃金制度に詳しい、松本大学の上野隆幸教授にご登場いただき、高齢者活用のための仕組みづくりなどについてお話をうかがいました。 60歳以前の人を「現役世代」と呼ぶ風潮働く人は年齢関係なくみんな「現役」 ―日本の高齢者雇用の現状や、課題についてお考えをお聞かせください。 上野 国の方向性や考え方を否定するわけではありませんが、長野県にある中小企業の経営者や人事担当者の話を聞いていると、正直なところ、国が行おうとしている理想と、企業の現実との間には、大きなギャップがあるように思います。ギャップを解消するには、企業と高齢社員双方の意識改革が必要です。  よく「福祉型雇用」といういい方がなされますが、定年後は一律で給料を下げて横並びで全員を雇うという方法には限界があります。高齢者雇用における大きな問題の一つが、定年前の正社員と定年後再雇用の社員で、賃金制度が分断されていることです。また、60歳以前の人を「現役世代」と呼ぶ風潮がありますが、働いている60歳以降の高齢者も「現役」なのです。こうした意識の分断も含めて解消していくためにも、60歳前と60歳以降も一気通貫の賃金制度を構築することが必要だと考えています。  一方、高齢社員からは、「定年後も再雇用で会社が面倒をみてくれるし、お客さまでいいんだ」という意識も垣間見られます。再雇用で働き続けるのに、定年時に退職金をもらって気持ちがリセットされてしまうと、会社から「いままで通りがんばってください」といわれても、働く意欲が失われる傾向もあります。  そういう意味では、「定年」という制度そのものをどう考えていくのか。企業側の意識改革も必要だと思います。 ―定年の前に「役職定年」でもモチベーションが低下するともいわれていますね。 上野 その通りです。しかし、役職定年制度がない場合、ポストが空かず、組織の新陳代謝が進まないという問題点もあります。役職定年制度を完全に否定するわけではありませんが、シニアを活用していくという観点では、これまであたり前とされてきた、「一律年齢での役職定年制度」の転換も必要でしょう。 ―一気通貫の賃金制度を構築するためには、従来の年功型賃金体系ではむずかしそうです。どのような仕組みがよいのでしょうか。 上野 これまでの一般的な定年後再雇用制度では、60歳の定年まで年功型賃金で、60歳定年後の再雇用では賃金を一律で3割下げるなどの対応が行われてきました。一気通貫の賃金制度とするためには、ジョブ型雇用・ジョブ型賃金に転換していく必要があると考えています。「職務評価」という手法を使い、職務と賃金を紐づけたジョブ型の賃金体系を導入し、60歳前と60歳以降を一本化するのです。  ただし、若手社員にジョブ型雇用・ジョブ型賃金を適用することには消極的です。若い間はいろいろな仕事を経験して、自分がやりたい仕事を見つけるための自分探しの旅も必要です。若い間は職能資格型の賃金制度で運用し、中年になってからジョブ型の賃金制度に移行していく形がよいのではないでしょうか。  私が知っているある製造業の会社では、45歳からジョブ型に移行する仕組みを導入しています。具体的には、45歳までの給与は職能資格的要素が大きなウエイトを占めており、45歳を区切りに年功要素を徐々に減らす一方、職務給のウエイトを徐々に高め、60歳になると年功要素を一切なくし、職務給1本にするという仕組みです。 ―管理職、非管理職という区別ではなく、45歳で段階的に職務給に移行するという仕組みですね。どんな効果が得られるのでしょうか。 上野 若い人は45歳までに自分のやりたい仕事に挑戦し、「やってみたが合わなかった」という経験も含めて、キャリア開発につながるメリットもあります。60歳以降は仕事の価値で給与が決まるので、当然、優れた技能・スキルを持っている人は高い報酬をもらえます。そのため、45歳以降は60歳以降を見すえて、職務スキルを磨くなど、キャリア自律の意識が醸成されていくことなども期待できます。こうした制度を構築・運用していくためにも、従来の福祉型雇用から脱却し、若手も高齢社員も仕事に対する意欲が持てる一気通貫の制度を考えていくべきでしょう。  ただ、ジョブ型雇用で欠かせない「仕事に値段をつける」というノウハウを、ほとんどの企業は持っていません。参考になる資料として、厚生労働省の「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」※があります。同一労働同一賃金の観点から作成され、必ずしも高齢者雇用を前提としたものではありませんが、職務評価の手法についても説明されていますし、役立つと思います。 一気通貫した賃金制度の構築・運用にはジョブ型雇用・ジョブ型賃金が有効 ―中小企業がジョブ型雇用・賃金を導入する場合は、どのように進めればよいでしょうか。 上野 中小企業の場合はマンパワーも足りないのでなかなかむずかしいと思いますが、業界団体などを通じた支援を受けて取り組むのも一つの方法です。また、制度の導入に熱心な社会保険労務士もいます。先ほど紹介した「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」のように、国がマニュアルを用意し、助成金による支援制度などと組み合わせながら、社会保険労務士がコンサルタント役をにない、中小企業がジョブ型雇用・賃金の導入支援を行う仕組みなどがあるとよいかもしれませんね。 ―制度導入と同時に、労働者自身のキャリア自律に向けた意識改革も必要ですね。 上野 キャリア自律のポイントの一つは、キャリア面談です。若い時期から自分の職業人生をどうしていくのかを考えてもらい、目ざす目標を明確にし、そして会社がそれを応援する姿勢を示していく。できれば上司や人事担当者との1対1の面談を節目ごとに実施し、若いときだけではなく60歳以降も継続して行うことが大事だと思います。 若手と高齢社員を区別せず同じテーブルに載せて評価・処遇を ―65歳までの雇用確保の義務に加え、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となりました。65歳超の高齢者の活用についてはどのように考えていますか。 上野 企業に聞くと、「65歳と70歳では、事情が大きく異なる」とよくいわれます。65歳までは健康な人がかなり多いのですが、70歳に近くなると健康に問題を抱える人が増え、フルタイム勤務を希望しない人も多くなる。そうなると、労働時間や健康管理も含めて、人事・賃金管理が煩雑になるのです。しかし、65歳以降も働いてもらうとなると、健康上の問題も含めて高齢社員の働き方に対するニーズも変化しますし、やはり多様な選択肢を提示することが重要だと思います。  ある会社では、60歳以降の働き方の選択肢を13パターン用意しています。フルタイム勤務以外に、短時間勤務や隔日勤務もあれば、半日勤務も可能です。例えば、「午前中は地域活動や家事をしたいので午後勤務にしたい」、「孫の塾の送迎があるから午後3時までの勤務にしたい」など、さまざまなニーズに応えることのできる仕組みとしています。その結果、高齢社員の満足度が非常に高いのです。ただし、この会社の場合は、高齢社員が働く職場を別会社にして、それまでとは異なる業務をになっているからこそ、成功した取組みといえるかもしれません。実際に制度を構築し、軌道に乗せていくには、いろいろな試行錯誤が必要になると思いますが、働き方を柔軟に選べる仕組みをつくることが大事でしょう。 ―高齢者雇用に取り組んでいる人事担当者に向けたアドバイスをお願いします。 上野 一つ意識していただきたいのは「若手と高齢社員は一緒」だということです。世間では年金などの問題から、「高齢者が優遇され、若者がそのツケを払っている」といういい方をされることがありますが、人事制度では逆であるような気がします。多くの企業が「優秀な若手を採用して活用したい」といい、若手が入社したいと思うようなさまざまな施策を講じていますが、高齢社員にも優秀な人は大勢いますし、若手ならだれもが優秀というわけでもありません。若手も高齢社員も一緒なのです。こうした観点からも、60歳前と60歳以降を分断した人事制度ではなく、若手と高齢社員を同じテーブルに載せた制度が必要なのです。 ―年齢に関係なく、能力に応じたふさわしい役割をになってもらうということですね。 上野 あるスーパーマーケットでは、営業時間が延長されたために店長の労働時間が長くなり、その解決策として65歳を過ぎた店長経験者が第二店長として夜間に働いています。勤務時間は1日6時間ですが、夜間勤務ということもあり、フルタイムの給与と変わりません。豊富な経験を活かして、やりがいを持って働いています。  もちろん会社や業態によってさまざまな事情があるとは思いますが、どの会社にも重要な役割をになえる高齢社員がいるはずです。そうした人材を柔軟に活用できる仕組みを、経営者や人事担当のみなさんには、ぜひ考えてほしいと思います。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) ※「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」https://www.mhlw.go.jp/content/001042386.pdf 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のオブジェ 名執一雄(なとり・かずお) 2023 April No.521 特集 1 6 70歳就業時代の副業を考える 7 特別インタビュー 副業を持つ働き方が企業と社員にプラスに作用するのはなぜか 法政大学大学院 政策創造研究科 教授 石山恒貴 11 解説 副業制度導入時の労務管理上の留意点 株式会社田代コンサルティング 社会保険労務士 田代英治 15 事例@ 大和ハウス工業株式会社(大阪府大阪市) 越境体験・副業の支援制度を導入し「キャリア自律」で70歳まで完走できる人財を 18 事例A ライオン株式会社(東京都台東区) 自己成長をうながす「副業制度」 社内セミナーや地方の副業サポートも 特集 2 21 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 2022年12月6日開催「70歳までの就業機会の確保に向けた“生涯キャリア形成”」 22 企業事例発表@ 70歳までの就業機会確保に向けた取り組み ポラスグループ ポラス株式会社 人事部長 石田 茂 24 企業事例発表A 生涯現役社会の実現に向けて 日鋼設計株式会社 取締役総務部長 山下法夫 26 パネルディスカッション 70歳までの就業機会の確保に向けた“生涯キャリア形成”について 1 リーダーズトーク No.95 松本大学 人間健康学部スポーツ健康学科 教授 上野 隆幸さん 60歳前と60歳後を分断しない一気通貫制度の構築を 32 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!こんなときどうする?Season2 《第1回》「高年齢者雇用安定法」ってどんな法律ですか? 38 江戸から東京へ 第125回 嫁入り衣装を売り物に−秀 ◆後編◆ 作家 童門冬二 40 高齢者の職場探訪 北から、南から 第130回 徳島県 徳島ハイウエイサービス株式会社 44 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第80回 フリー編集者 片桐良吉さん(71歳) 46 高齢社員活躍のキーマン管理職支援をはじめよう! 【最終回】年下上司からのアプローチ方法A 岡野 隆宏 50 知っておきたい労働法Q&A《第59回》 定年後再雇用と同一労働同一賃金(手当の趣旨)、配転命令違反と懲戒解雇 家永 勲 54 活き活き働くための高齢者の健康ライフ 【第5回】血圧、意識してますか? 坂根 直樹 56 いまさら聞けない人事用語辞典 第33回 「ハラスメント」 吉岡利之 58 日本史にみる長寿食 vol.353 初ガツオに辛子みそ 永山久夫 59 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.326 データ分析を積み重ね品質と効率の向上に貢献 めっき技能士 山本 豊さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第70回]脳トレ体操 篠原菊紀 ※連載「BOOKS」は休載します 【P6】 特集1 70歳就業時代の副業を考える  近年、社員の「副業」を認める会社、あるいは本業を持つ副業人材の受け入れを行う会社が増えてきました。  70歳就業時代を迎え、就業期間が長期化していくなかで、会社の戦力として活躍してもらうためには、能力向上やキャリア自律に向けた取組みが不可欠です。  自らの知識や経験を活かしながら、新しい知識や経験を獲得できる「副業」は、ミドル・シニア世代にとっても注目の働き方です。  そこで今回の特集は、「70歳就業時代の副業」をテーマにお届けします。社員のキャリアの幅を広げる「副業」について、あらためて考えてみませんか? 【P7-10】 特別インタビュー 副業を持つ働き方が企業と社員にプラスに作用するのはなぜか 法政大学大学院政策創造研究科教授 石山(いしやま)恒貴(のぶたか) 副業拡大の背景にある個人の幸福の追求 ―近年、社員の副業を認める企業が増えてきました。厚生労働省も「副業・兼業の促進に関するガイドライン」※を出すなど、このような動きを後押ししているように見えます。その背景をどう分析されますか。 石山 国の政策視点でみると、少子高齢化で労働力人口が減るなか、副業を含む多様な働き方を拡充し、少しでも労働力の確保を図りたい意図があるのでしょう。働き方の選択肢を増やすことは、シニアがより長く働ける環境づくりに資するものですし、成長分野の企業が労働力を確保するための選択肢を増やすことにもつながります。  しかし、そうしたマクロのとらえ方だけではなく、「個人の幸福追求」という視点から、副業を持つ働き方への関心が高まっていることも、重要な点として押さえておく必要があります。  人の一生で、働き盛りを過ぎて現役を引退してからのステージを「サードエイジ」と呼ぶことがありますが、人生100年時代といわれる長寿社会では、このサードエイジを単なる引退の局面と位置づけるにはあまりに長すぎます。幸せな人生を全うするために、長いサードエイジをより意義あるものとして生きたいという個人の欲求が強くなっています。  サードエイジを意義のあるものとするためには、その前のセカンドエイジの段階、つまり現役の時代から、パラレルキャリアで働くことが効果的です。「パラレルキャリア」とは、主たるキャリアのほかに、収入の有無を問わず、もう一つの活動分野での役割を持つことです。そこには、NPOや地域活動などへの参加のほか、本業以外に副業を持って働くというスタイルも含まれます。  人々がパラレルキャリアの人生に関心を寄せはじめたのと同じ時期に、働き方改革の一環として、柔軟な働き方を認め合うことの価値を重視する社会の動きが重なり、副業解禁を求める声が広がってきました。  加えて、そこにコロナ禍が起こり、毎日職場に出勤する働き方に制約が生じました。しかし、やむなく在宅でのリモートワークを取り入れてみると、案外それでも仕事が回るし、むしろ生産性が高まるなどの利点があることもわかってきました。そうすると、例えば、新しい仕事で自分のキャリアを発展させたいと思っている場合でも、いまの会社に在籍したままでリモート副業すればよいわけです。  つまり、リモート副業の可能性が一気に高まってきたのです。  有意義なサードエイジを送りたいという意識の高まりと、柔軟な働き方の選択肢を増やす働き方改革を進めようという社会の動き、そして働く時間や場所を問わない働き方の可能性を広げるITの進展。このような環境の変化が、副業への関心を高め、かつその働き方が、副業が絵空事ではなく現実的な選択肢となりつつあることの背景にあります。  副業をしたい人のニーズと、副業の形で人材を受け入れたい企業のニーズをマッチングするビジネスも出てきました。一人を100%雇用するのではなく、副業の形で50%やそれ以下であっても人材を確保したい。そういう企業が現れたために、需給のマッチングがビジネスとして成り立つ環境が生まれたのです。 副業解禁で企業に必要なのは個々の社員を尊重する働き方 ―会社は、副業解禁によって、何をねらっているのでしょうか。 石山 これまで多くの企業で、就業規則の定めとして社員の副業を禁止していました。しかし、業務上の秘密を洩らしたり、自社の利益を害するような競業に従事したり、あるいは副業をすることで社員が自社での働きを全うできない、会社の名誉が損なわれるなどがある場合を除けば、そもそも会社には社員の副業を禁止する権限はないのです。会社と社員が労働契約で決めた所定の労働日・労働時間以外のところでは、社員は何をしても自由だし、会社も規制する権利はないはずです。  こうしたことをふまえると、副業を解禁した企業のなかにも、疑問を呈したくなるようなケースが見受けられることがあります。  一つは、「副業できるのはシニアのみ、あるいはミドル・シニアのみ」とし、若手や中堅は、これまで同様に副業は禁止するというものです。こうしたケースでは、ミドル・シニアへの期待が低下していると考えざるを得ません。もう一つは、「年齢にかかわらずすべての社員を対象に副業を解禁する。ただし、副業は会社の利益になるもの、会社の業績に貢献するものにかぎる」というものです。  前者のタイプが、社員を尊重する経営とは正反対で望ましくないことはいうまでもありませんが、後者のタイプも大いに問題があります。基本的に、就業時間外は社員は何をやっても自由なのです。副業の内容も、秘密保持義務や競業避止義務に反するなどの場合を除けば、本人の選択に委ねるべき問題です。会社の業務や業績への貢献という物差しをあてるのは筋違いで、育児休業を、会社の役に立つかどうかで認めるのと同じくらい、おかしなことです。  もちろん、会社が社員に自社への貢献を求めるのは当然のことですが、社員がもともと持っている権利を、会社が与えたかのように取り違えて、その行使の仕方を会社が支配する。それは会社に悪意がないとしても、会社と社員の関係を間違えてとらえているといえます。会社が、親子関係のように社員を保護や支配の対象ととらえるパターナリズムの表れです。 ホームとアウェイを行き来して学びを得る ―企業が社員の副業を解禁するメリットとは何でしょうか。 石山 メリット・デメリットという考え方そのものに違和感があります。「育児をするメリットは何ですか」という問いと同じように、問いの立て方自体が適切ではないと思います。  それでも、強いていうなら、副業解禁を含め働き方の選択肢を増やすことで社員が幸せになれば、パフォーマンスは上がり、会社にもよい影響をもたらします。また、社員が副業の経験を通じて新しいものの見方や仕事のやり方に気づき、それが会社に持ちこまれることで自社にとっても新しい刺激となります。その刺激が会社によい変化をもたらす可能性があります。  副業の実例の一つを紹介します。ある地方自治体が、副業を認めている民間企業の社員の副業先として人材を受け入れています。地域の魅力を発信する事業のプロジェクトに、民間企業の社員を副業人材として受け入れ、新事業プランのアイデアを出してもらったところ、その社員はマーケティングで用いる手法として、ターゲットとなるユーザーの属性を絞り込む「ペルソナ」という概念を取り入れ、事業を提案しました。民間企業の社員にとって、それはあたり前の思考です。しかし、地方自治体の職員には、それまでそのような発想がありませんでした。なぜなら行政は、だれにも公平なユニバーサルサービスを提供すべきだと考えており、ターゲットを絞り込むのとは真逆のアプローチで仕事をしてきたからです。この例は、副業の受け入れ側に起きた変化ですが、副業を送り出す企業にも、同じようなよい変化が起きている事例は少なくありません。 ―では、社員が副業をすることにはどのような意義があるのでしょうか。 石山 副業だけにかぎったことではありませんが、専門分野など自分のホームグラウンドから離れた領域で学ぶことは、自分の専門性を客観視でき、「わかったつもり」から抜け出して、新しい気づきを得る機会となります。越境して外の世界を見る学びという意味で、これを「越境学習」といいます。副業も、越境学習で自分を成長させる絶好の機会です。  越境することは、ホームとアウェイを行き来することです。ホームである自社では暗黙の了解事項であったことが、副業先の会社では通用しないかもしれません。はじめはアウェイに行くと違和感を抱くのですが、次第にホームに戻ったときに違和感を抱くようになります。これは自分のなかの多元化したアイデンティティの摩擦が起きるということです。こうした摩擦を経て、新たな気づき、新しいものの見方ができるようになります。それが越境学習の最大の効用です。  越境学習で学びを得るために大事なポイントは、自分が属する組織におけるアイデンティティをいったん脇に置いて、「どうしたら越境先で貢献できるか」を本気で考えることです。自分のアイデンティティを変えないまま、越境先からスキルや情報など「目の前の利益」を取ってこようとすると、学びが小さくなります。副業をする場合にも同じことがいえます。 副業だからできる客観的なスキルの棚卸し ―シニアの働き方の選択肢に副業が加わることについては、どのようにお考えですか。 石山 シニアの働き方の選択肢は、これまでは「継続雇用」、「転職」、「起業」くらいしかありませんでした。転職や起業はハードルが高いですが、ここに「副業」という選択肢が加わると、可能性が広がります。副業の形態も多様なものがあります。複数の職場をかけ持ちし、リモートで副業をするとか、副業先のプロジェクトに期間を区切って参加するといったスタイルもあります。現在の会社に在籍したまま副業を行うだけではなく、フリーランスとなって複数の業務を請け負う、週2日だけリモートで副業のプロジェクトに参加するなど、多様な組合せで働き方をデザインできるようになります。副業という選択肢は、サードエイジにふさわしいモザイク的な働き方を広げるものです。 ―副業をするためには、自分がどのようなスキルや強みを持っているかを知る必要がありますね。 石山 スキルの棚卸しは、とても大事です。でも、それがきっちりできていないと副業ができないわけではありません。副業することがスキルの棚卸しになる面もあるからです。  自分がこれまで会社で行ってきた仕事をふり返って、次に何ができるか、違う仕事にどのように応用できるかなどと考えても、しょせん机上の棚卸しです。ところが、実際に他社で仕事をして成果を上げる経験をくり返していくと、「自分は何が得意か」、「どんなことで他者から賞賛されたか」などが、具体的に自覚できるようになります。  大企業の社員が中小企業で副業した際や、仕事のスキルや経験を活かして社会貢献するプロボノ活動を行ったときによくあることですが、「自分は普通に仕事をしただけなのに、意外とみんなが評価してくれた」、「案外ほかの人ができないことを、自分はあたり前のようにやっている」などの経験を重ねることでスキルの棚卸しはできるのです。反対に、いままでの仕事で自分が重要だと思っていた能力、例えば社内調整能力よりリモート副業の世界ではほかのスキルが重視されるなど、自らの能力についての固定観念の修正を迫られるような気づきもあります。そのようにして、実際の業務経験からスキルの客観的な棚卸しをすることが、キャリア形成では大事なことです。 ―「副業解禁」について、人事部はどう考えるべきでしょうか。 石山 これまで、本業も副業も雇用契約であることを前提に、いろいろな議論が行われてきました。労働時間管理をどう行うかなどはその典型です。しかしながら、本業は雇用で副業も雇用という例は、実は多数派ではありません。リモート副業なども、業務委託のような形で行うことが多いですし、フリーランスとして複数の企業から業務を受注する場合も、もちろん雇用ではありません。それでも、自社の社員に対して副業を認めることになれば、人事部としては就業規則の見直しも含め、ルールづくりや諸制度の整備が必要になります。  ただ、それが人事部の一番重要な役割かと問われれば、そうではないだろうと答えます。副業解禁にかぎった話ではありませんが、人事部の基本的な役割は、社員を個人として尊重し、その個人が自分の可能性を最大限に発揮できるような働き方を、自分の意思で選択できる環境を整えることです。それが結果的に会社をよくすることにつながります。その道筋を示すのが人事部の役割だと思います。  過去には、「会社が想定したモデル通りのライフプランを歩めば、社員には幸せな人生が約束される」という神話のような話が信じられていた時代がありました。その時代には、人生を会社に預けることが社員の幸せにつながるような制度を設計し、運用することが人事部の役割であったかもしれません。しかし、かつてはよいものと思われていたそのようなパターナリスティックな会社と社員との関係のあり方が、今日では不幸せの原因となっている面もあります。  例えば、「シニアは福祉的雇用の対象であり、現役社員とは別の配慮をともなう制度を用意する」。これはシニアを大切にしているようですが、本当にそういえるでしょうか。シニアの雇用を会社の恩恵と考え、シニアを特別扱いすることは、仮にそれが善意であったとしても、シニアの幸せにはつながりません。無自覚に善意を押しつけるのは余計に始末が悪いといえるでしょう。  人的資本経営や人間尊重経営を掲げるのであれば、シニアを特別扱いする福祉的雇用ではなく、シニアの成長可能性をとことん信じることです。いま、人事部にはその本気度が試されていると思います。 ※「副業・兼業の促進に関するガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf 写真のキャプション 石山恒貴教授 【P11-14】 解説 副業制度導入時の労務管理上の留意点 株式会社田代コンサルティング社会保険労務士 田代(たしろ)英治(えいじ) はじめに  厚生労働省は、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の企業向けリーフレットのなかで「労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であるとされていることから、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが適当。また、労務管理を適切に行うためには、届出制など副業の有無や内容を確認するための仕組みを設けておくことが望ましい」との基本的な考え方を示し、企業に対し、副業・兼業の制度導入について前向きな取組みを要請しています。本稿では、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」※(以下「ガイドライン」)を基に、副業制度(兼業を含む)導入時の労務管理上のポイントを解説します。 制度導入前の準備 (1)副業ルールの策定  現状において副業を原則禁止としている企業では、まず「許可制」とし、希望する労働者に、その内容などを申請させ、認めるか否かを判断することから始める例が多いと思われます。許可制のもとで、副業の諾否(だくひ)を判断するため、副業を希望する者を通して以下のような情報を収集する必要があります。 @副業先の事業内容 A副業先で労働者が従事する業務内容 B労働時間通算の対象となるか否かの確認 (2)就業規則の改定  副業に関する就業規則の規定を整備する際は、厚生労働省のモデル就業規則(令和4年11月版)(図表1)が参考になります。同モデルでは、第70条第1項で副業を認めるものの、第2項で一定の制約を付しています。これを参考に、労使で十分に検討を加え、自社に合ったものにする必要があります。なお、就業規則の改定作業を終えたら、管轄の労働基準監督署に届け出るとともに、改定後の就業規則に、副業制度の運用要領を添付し、社内に周知します。  なお、裁判例においては、就業規則において労働者が副業を行う際に許可などの手続きを求め、これへの違反を懲戒事由としている場合は、形式的に就業規則の規定に抵触したとしても、職場秩序に影響せず、使用者に対する労務提供に支障が生じない程度・態様のものは、禁止違反に当たらないとし、懲戒処分を認めていません。このため、労働者の副業が形式的に就業規則の規定に抵触する場合であっても、懲戒処分を行うか否かについては、職場秩序に影響が及んだか否かなどの実質的な要素を考慮したうえで、あくまでも慎重に判断する必要があります。 労務管理と企業の安全配慮義務  労働契約法第5条において、「使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」(安全配慮義務)と定められており、副業の場合は、副業を行う労働者を使用するすべての企業が安全配慮義務を負います。例えば、企業が労働者の全体としての業務量・時間が過重であることを把握しながら、何らの配慮をせず、労働者の健康や安全に支障が生ずるに至った場合などは、安全配慮義務を問われる恐れがあります。企業には、安全配慮義務の履行をふまえて労務管理の施策に取り組むことが求められます。 労務管理上の主な留意事項 (1)労働時間管理  労働時間管理には、以下の二つの方法が認められています。 @原則的な方法  労働基準法第38条第1項では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されています。労働基準局長通達(昭和23年5月14日付け 基発第769号)では、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含むとしています。  したがって、副業・兼業先で雇用契約を認める場合、原則として、本業・副業各々における労働時間の通算が必要となります。この場合、図表2の順序に基づき、労働者の申告などにより、それぞれの使用者が自らの事業場における労働時間と、他の使用者の事業場における労働時間を通算して管理する必要があります。 A管理モデル  実際、この方法で労働時間を通算して管理することは、本業や副業の企業、労働者にとって、煩雑であり相当な負担になります。そこで導入されたのが、簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)です(図表3)。  管理モデルとは、副業の開始前に、先に労働契約を締結していた使用者Aの事業場における「法定外労働時間」と、後から労働契約を締結した使用者Bの事業場における労働時間(所定労働時間および所定外労働時間)を合計した時間数が、単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内において、各々の使用者の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定し、各々の使用者がそれぞれその範囲内で労働させることです。  先に労働契約を締結した使用者は「自らの事業場における法定外労働時間分」を、後から労働契約締結した使用者は「自らの事業場における労働時間分」を、それぞれ自らの事業場における36協定の延長時間の範囲内とし、割増賃金を支払うこととされています(図表4)。  副業の開始後においては、それぞれあらかじめ設定した労働時間の範囲内で労働させるかぎり、ほかの使用者の事業場における実労働時間の把握を要することなく、労働基準法を遵守できるようになります。 (2)健康確保措置  労働者本人と緊密なコミュニケーションをとることで、副業による過労で健康を害したり、現在の業務に支障をきたしていないかを確認することが望まれます。副業の結果、労働時間通算の対象となる場合には、左記の事項を確認することで過労防止が可能となります。 (ア)副業・兼業先との労働契約の締結日、期間 (イ)副業・兼業先での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時刻 (ウ) 副業・兼業先での所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数 (エ)副業・兼業先における実労働時間等の報告の手続き (オ)これらの事項について確認を行う頻度  (例:36協定の切り替え時期に合わせるなど、定期的に確認する)  また、労使による協議や副業先との連携により次の措置を採ることも効果があります(図表5)。 (3)労災保険適用上の留意点  複数の会社に雇用されている労働者(以下、「複数就業者」)に、万一、労働災害が発生した場合の認定方法について理解しておくことが重要です。複数就業者が安心して働くことができるような環境を整備するため、「雇用保険法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第14号)により、一つの事業場で労災認定できない場合は、事業主が同一でない複数の事業場の業務上の負荷(労働時間やストレスなど)を総合的に評価して労災認定が行われます(図表6)。 (4)秘密保持、競業禁止、誠実の各義務履行  労働者には秘密保持、競業禁止、誠実の各義務があり、その履行のために使用者は、図表7のポイントについて、日常業務のなかで折に触れ注意喚起することが重要です。 (5)そのほか  労働基準法の労働時間規制、労働安全衛生法の安全衛生規制などを潜脱するような形態や、合理的な理由なく、労働条件などを労働者の不利益に変更するような形態で行われる副業は認められません。例えば、実態は使用者との一つの労働契約であるにもかかわらず、その一部を形式上請負契約にする形態などが考えられます。違法な偽装請負の場合や、請負であるかのような契約としているが実態は雇用契約だと認められる場合などにおいては、就労の実態に応じて、労働基準法、労働安全衛生法などにおける使用者責任が問われます。 ※https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html 図表1 厚生労働省「モデル就業規則(令和4年11月版)」 モデル就業規則 (副業・兼業) 第70条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。 2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。 @ 労務提供上の支障がある場合 A 企業秘密が漏洩する場合 B 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合 C 競業により、企業の利益を害する場合 https://www.mhlw.go.jp/content/001018385.pdf 図表2 労働時間通算の順序(@⇒A⇒B) 所定労働時間 所定外労働時間 ・@本業(先契約者)での所定労働時間 ・A副業・兼業(後契約者)での所定労働時間 ・B本業における所定外労働時間または副業・兼業での所定外労働時間(実際に行われた順) 出典:田代英治「副業・兼業導入に向けた制度設計のポイント」『人事の地図』2022年11月号、産労総合研究所 図表3 原則的な方法から「管理モデル」へ 原則的な方法 副業・兼業の日数が多い場合や自らの事業場およびほかの使用者の事業場の双方において所定外労働がある場合など →労働時間の申告等や通算管理において、労使双方に手続き上の負担がともなうことが考えられる。 管理モデル 労働時間の申告等や通算管理における労使双方の手続き上の負担を軽減し、労働基準法に定める最低労働条件が順守されやすくなる簡便な労働時間管理の方法 出典:田代英治「副業・兼業導入に向けた制度設計のポイント」『人事の地図』2022年11月号、産労総合研究所 図表4 管理モデルのイメージ Aに所定外労働がある場合(A・Bで所定外労働が発生しうる場合に、互いの影響を受けないようあらかじめ枠を設定) A所定 A所定以外 B労働時間 A割増賃金は、Aにおける現在の取扱いにあわせ、所定超or法定超に支払う 法定労働時間 OR B割増賃金 通算して適用される時間外労働の上限規制(月100時間未満、複数月平均80時間以内の要件)を遵守する必要があることから、これを超過しない範囲内で設定 Bに36協定がある場合、36協定の範囲で副業・兼業可能 出典:厚生労働省『「副業・兼業促進に関するガイドライン」パンフレット(令和4年10月3日改訂版)』https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000996750.pdf 図表5 健康確保措置の留意点 <労使の協議による> ア)労働者に対して、健康保持のため自己管理を行うよう指示します  (例:副業・兼業を開始する際に、副業・兼業に関する社内ルールを明示するなど) イ)労働者に対して、心身の不調があれば都度相談を受けることを伝えます  (例:メンタルヘルスの相談窓口や産業医との相談体制など、すでに設置している相談体制やそれらに関するルールを活用) ウ)副業の状況もふまえ、必要に応じ法律を超える健康確保措置を実施します エ)自社での労務と副業・兼業先での労務との兼ね合いのなかで、時間外・休日労働をコントロールします  (例:副業・兼業先での労働時間等について労働者からの申告などにより把握し、社内の状況もふまえて、時間外・休日労働の免除や抑制などの措置を検討) <副業・兼業先との連携> オ)使用者の指示により副業を行う場合、使用者は、原則、副業先の使用者との情報交換により、自社の労働時間と通算した労働時間に基づき、健康確保措置を実施するようにします ※筆者作成 図表6 複数就業者の労働災害認定 負荷の総合的評価の具体例 会社A 会社B (改正前) Aの負荷を評価して判断 労災不認定 Bの負荷を評価して判断 労災不認定 (改正後) A及びBの負荷を個別に評価→いずれの会社についても労災認定 できない場合は、AとBの負荷を総合的に評価して判断 労災認定される 出典:厚生労働省「複数事業労働者への労災保険給付 わかりやすい解説」 https://www.mhlw.go.jp/content/000662505.pdf 図表7 秘密保持、競業避止、誠実の各義務履行 義務 定義 注意喚起のポイント 秘密保持義務 使用者の業務上の秘密を守ること 業務上の秘密となる情報の範囲および業務上の秘密を漏洩しないこと 競業避止義務 在職中、使用者と競合する業務を行わないこと 副業を行う労働者に対して、禁止される競業行為の範囲や、自社の正当な利益を害しないことについて注意喚起すること また、他社の労働者を自社でも使用する場合には、当該労働者が当該他社に対して負う競業避止義務に違反しないよう注意喚起を行うこと 誠実義務 使用者の名誉・信用を毀損しないなど誠実に行動すること 自社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為をしないこと ※筆者作成 【P15-17】 事例1 越境体験・副業の支援制度を導入し「キャリア自律」で70歳まで完走できる人財を 大和ハウス工業株式会社(大阪府大阪市) 2013年に65歳定年制を導入会社活性化へシニアの活躍に期待  大阪市に本社を構える大和ハウス工業株式会社。住宅総合メーカーのトップランナーとして、自社の人財育成にも積極的に取り組んでいる。企業理念として掲げるのは「事業を通じて人を育てること」。社員一人ひとりが働きながら自身の成長を考え、自己研鑽(けんさん)に努めるような企業風土の醸成を目ざしている。  同社は本社、東京本社のほか、全国56カ所に事業所を展開し、2022(令和4)年4月時点の社員数は約1万6500人にのぼる。うち60歳以上は約600人。全体に占める割合は3%程度だが、同社はかなり早い時期から、シニア層の活躍に向けた環境整備を進めてきた。  2013(平成25)年に定年を60歳から65歳に延長し、60歳以降の処遇の改善を図り、2015年には65歳以降の雇用を継続する「アクティブ・エイジング制度」を導入。意欲と一定の業績が認められるシニア社員を、週4日勤務・1年契約の嘱託社員として70歳まで再雇用している。  同社がシニア層の人財確保に力を入れる背景には、慢性的な人財不足がある。なかでも、建築分野の技術者不足は深刻で、経営管理本部人事部の菊岡(きくおか)大輔(だいすけ)部長は「人財が足りないのなら『若い人をどんどん採ればいい』という発想では事業は成り立たない時代」と指摘する。だからこそ「シニアの方々に目を向けて、活躍してもらうことによって、会社を活性化していくことが必要」だという。  さらに2022年度からは、60歳一律役職定年制を廃止し、60歳以前も以降も一本化された人事体系へと大きく制度を転換した。  その最大の理由は、シニア層のモチベーションアップだ。65歳定年制の導入により60歳以降の処遇は見直されたものの、役職定年により60歳前と比べると収入は3〜4割ダウンしていた。「業務上の負荷、仕事の重さと報酬が釣り合っていない」という不満の声も出ていたという。  「60歳以降も社員としての役割に期待をかける以上、それに見合った報酬で報いないとモチベーションも上がりません。モチベーションが上がらなければ、『ほかによい条件のところがあれば…』という気持ちにも当然なりかねない。そこで今回、一律役職定年の廃止にふみ切りました」と菊岡部長は説明する。 活躍のカギは「キャリア自律」副業で社員の成長・自己実現をサポート  同社では、60歳一律役職定年廃止とともに、2022年度より「越境キャリア支援制度」を導入した。本業と異なる分野での副業など、社内外での「越境体験」にチャレンジする社員を支援する制度だ。越境体験を通じて知見を広げ、自身のキャリア形成について考えてもらうことで、社員の「キャリア自律」につなげていくのが目的だという。  「70歳まで働く時代。会社から与えられるものを待っているだけではその長い時代は完走できないと思います。生涯にわたって活躍していくためには、個人それぞれが自身のキャリアをどうデザインして描いていくかが重要です」と、菊岡部長は、「キャリア自律」の必要性を強調する。  同社では、営業・管理系の職種、技術系の職種それぞれでスペシャリスト志向が強く、一人の社員が複数の職種や事業を経験するケースは少ない。社員自身が自律的にキャリアについて考えるきっかけが、あまり多くはないという課題があったという。「社員の成長や自律をうながす場や機会を、会社として十分に提供できているとはいえない状況でした」と、菊岡部長はふり返る。  越境キャリア支援制度では、現状の課題意識をふまえ、@社員の自律や成長につながる挑戦機会(越境体験)の提供、A新しいスキルの習得や人脈の形成など個人のキャリアの幅を広げる機会の提供、B多様な価値観を尊重し、活かすことができる組織開発の推進、この三つに主眼を置いた取組みを進めている。支援制度の対象となるのは、若手からシニア層を含めた全社員だ。  具体的には、「社外の業務にたずさわる副業」、「現所属のまま他部署の業務やプロジェクトなどにたずさわる社内副業」、「異業種への出向」のほか、異業種との協働プロジェクトにたずさわる「共育&共創活動参画」などが行われている。今後はさらに、「スタートアップ派遣」、「社内起業家育成・支援」といった実務系メニュー、「サバティカル休暇」、「キャリア自律教育」などの研修系支援メニューの充実も予定しているという。 副業によって「ひとづくり」にたずさわることで自分自身も成長する  現在、越境キャリア支援制度で実施している社外の副業には、「申請型」と「公募型」の二つのメニューが設けられている。  「申請型」は、個人が見つけた副業先での副業を申請により認めるもの。制度が始まったばかりだが、すでに10人を超える社員から申請があり、インテリアデザイン、製図指導の補助、スマートシティプロジェクトへの参画、都市計画審議会委員としての活動、不動産活用のコンサルティング、社会保険労務士法人の開設などの副業実績がある。地方創生や地域貢献にかかわる分野が多いのが特徴だという。  「公募型」では、会社が斡旋する副業先で副業を行う。実際に行われたケースでは、会社と技術系専門学校の提携により、40代の社員2人が副業として非常勤講師を務めた。1人は技術系社員で、建築にかかる工事費の見積もり額を算出する積算の業務が本業。もう1人は現場の施工管理業務をになっている。  会社としては、教育という「ひとづくり」に社員が副業としてかかわることで、社員自身の成長にもつながればとの思いがあるという。また、今回副業を経験した2人が、将来的にマネジメント職に就く際などにも、講師として学んだことが活きるのではないかと期待している。  「社内副業」では、現在の所属のまま、所定労働時間の一部を使い、他部署の業務やプロジェクトにたずさわることができる。実際に行われた社内副業の中心になっているのは「リブネスタウン事業」。大和ハウス工業が昭和40〜50年代に開発した郊外型住宅団地(ネオポリス)を、持続可能な街として再構築していこうという事業で、同社としても力を入れている分野だ。  同事業にたずさわりたいと希望する社員を募集し、社内副業として6人の社員が参画。うち1人は、支社の集合住宅事業を統括している50代の事業部長だ。本業では、何十人もの部下を抱え、新しい集合住宅建築を地域の顧客に提案する業務を統括している。その事業部長が自ら手をあげて、古くなった団地をめぐる問題、住人の高齢化にともない発生する社会的課題の解決や街の再生に向け、アイデアの創出に取り組んでいる。  そのほか、本社のコンプライアンス推進部でも社内副業を実施しており、主に現場での業務に従事している社員9人が集まり、各エリアでのコンプライアンス推進組織の立ち上げなどを行っている。同社にとって、「現場でいかにコンプライアンスを徹底するか」は、大きな課題。副業を経験した社員には、そこで学んだことなどを現場に持ち帰り、現場の改善につなげてもらいたい考えだ。 60歳以降も「変わり続ける覚悟を」個別最適化した学びのサポートを実現  同社は2023年度以降も、越境キャリア支援制度のメニューをさらに充実させ、社員のチャレンジを積極的に支援していく方針だ。「越境体験をルール化するということはありませんが、社外副業でも社内ローテーションでもよいので、マネージャーになるまでに、だれもが複線的なキャリアを積んでいる状態になってほしいと思っています」と、菊岡部長は語る。  菊岡部長によれば、越境キャリア支援制度は社員の学びをサポートする取組みの一環で、「まだまだ学びの環境は十分ではない」との認識だ。個人がそれぞれのキャリアをしっかりと描けるようにするためには、個人の経験や学びの履歴を管理し、見える化する仕組みの構築が必要との考えで、ラーニングマネジメントシステム(LMS)など、個別最適化した学びを社員に提供する仕組みの導入を計画している。  「将来的には、『あなたが思い描く夢を実現するためには、こういう経験が必要です』とか、『あなたにはこういうスキルをプラスで学ぶ必要があります』とか、会社からヒントを与えられるような仕組みも構築していきたいです」と話す。  社員の学びを積極的に進めていく方針は、シニア層についても同様だ。2022年度から人事制度が大きく変わったことにともない、60歳を迎える社員に向けて実施している「ライフデザイン研修」の内容も大幅に変更したが、ここでもさらなる活躍に向けた「学び」をうながしている。  「研修は20年ほど前から実施しており、もともとは老後のお金や健康をテーマにしたものでしたが、今回からは『60歳以降も変わり続けなければいけません』、『変わり続ける、学び続ける覚悟はありますか』と呼びかける内容に見直しました」と、菊岡部長。研修では、越境キャリア支援制度の活用もすすめているという。  同社は2023年度から、アクティブ・エイジング制度について、現場の第一線で働く技術者に対しては、70 歳の上限も撤廃する方針だ。本人の希望があれば、週5日勤務も可能にする。文字通り「生涯現役」で働くことができる環境が整いつつあるなかで、シニアになっても学びが必要となってきている。  学び続け、変わり続けることで、70歳を超えても「完走する力」をつけてほしい。これが社員に抱く、同社の強い思いだ。 写真のキャプション 経営管理本部人事部の菊岡大輔部長 【P18-20】 事例2 自己成長をうながす「副業制度」社内セミナーや地方の副業サポートも ライオン株式会社(東京都台東区) 2020(令和2)年に「副業制度」を導入副業は人材開発=個を伸ばすこと  大手生活用品メーカーのライオン株式会社は、2019年7月より自社社員のキャリア自律や成長のための「働きがい改革」に取り組み、その一環として2020年より原則禁止としていた副業を、申告制にして認める副業制度を導入した。社員一人ひとりが主体的に自分のキャリアを切り開いていく一つの手段として活用できるように、社内の人材開発センターが中心となって副業を支援している。  2021年には、既存のルールに一部項目を追加して明文化し、「副業規程」を新設した。規程に追加された内容は、就業時間や休日の取得など、社員の健康上の管理と法律の遵守、機密情報の保持など。2020年9月に厚生労働省が提示した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の内容に則った形となる。  人材開発センター人材開発グループの青木(あおき)陽奈(あきな)さんは、副業制度の運用について次のように説明する。  「労働時間については、ライオンと副業先での法定時間外労働時間を通算で月80時間以内になるよう自己管理することにしています。例えば、副業先で月30時間勤務する予定にすると、弊社での時間外労働は50時間になるので、この50時間を超えないように自社の時間外労働を管理するという運用となります。毎月弊社の勤務管理システムにて月の副業予定時間を入力し、会社での時間外労働と副業の通算時間が上限を超えないようにシステム上でも管理しています。就業時間外に行うというルールに関しては、当社は多くの部門でフルフレックス※1勤務が可能になっているので、平日の日中に勤務から外れて1時間ほど副業先のミーティングに出席することも可能です。当社で貸与しているパソコンなどの機器は、副業では使用しないことなども定めています」  副業制度の導入にあたっては、事前に全社員向け説明会を実施し、「働きがい改革」以外の施策の説明とあわせて制度の趣旨説明を行った。社内イントラネットの特設サイトを使い、継続的に情報提供を行っており、副業に関する社内セミナー・ワークショップなども実施している。最近では、労働組合と連携して副業経験者が体験談を語るイベントを開催している。 副業初心者に向けて地方における副業をサポート  同社は副業制度を整えるだけでなく、内閣府が実施している「プロフェッショナル人材事業」※2の「大企業連携」に参画し、社員に対し副業先の紹介なども行っている。「副業を自分の成長に変える」をコンセプトに、より多くの社員が副業にふみ出せるようにという狙いがある。  「副業を自分で探して申告する社員が大半ですが、興味はあるけどどう探したらよいかわからないという人も多く、そういった副業初心者の人には『プロフェッショナル人材事業』の地方企業の副業を案内しています。地方といってもテレワークが主で、手厚いサポートを受けながら安心して仕事を決められるため、副業初心者に好評です」(青木さん)  2023年3月時点で、プロフェッショナル人材事業への希望登録人材は30人超。同事業を通じた副業成約の実績は16件(2021年6月〜2023年2月)となっている。  プロフェッショナル人材事業を活用したものも含め、同社の副業経験者の年齢層は20代〜60代。職種はスタッフ(事務職)、研究職、営業職、生産技術職と幅広いが、比較的時間の融通が利きやすい研究職、スタッフがやや目立つという。副業先の仕事は、自身が仕事でつちかってきたスキルを活かせる分野のほか、趣味などを活用した分野で活躍している人もいる。働き方としては、9割が業務委託でリモートワークが中心で、副業での勤務時間は月20時間程度。報酬より自己成長をメリットと考えている人がほとんどだという。「自分の実力が客観的にどれくらい通用するものなのか、腕試しをしたい」、「経営者のみなさんと直接話をして、多様な考え方を理解する機会を得たい」、「社外の経験を通じて自己成長したい」という動機で副業を始めている。副業申告者は160人超(延べ申告件数・2023年2月時点)で、副業を経験した社員は9割以上が副業を継続しており、自分自身の成長を実感している人が多いそうだ。副業経験者からは、「副業未経験者に副業をすすめたい」という意見が多数聞かれるという。  「副業経験者からは、『いままでやってきたことが社外でも通用することがわかって自信になった』という声を聞きます。当社は離職率が低く、他社での就業経験がない方も多いですが、ミドル・シニア世代が副業をすることは、これまで『あたり前』だと思っていた自身の経験やスキルが他社にも貢献できる『強み』であると再発見するよい機会にもなると思います」(青木さん) 将来のキャリアデザインに役立つ「自分の強み」を副業で再発見する  人材開発センター人材開発グループにも副業経験者は多い。青木さんもその一人で、キャリアコンサルタントの資格を活かし、「コンサルタントとしてより経験値を増やしたい」と、副業解禁を機に個人向けキャリアコンサルティングサービスを展開する会社の採用試験に応募し、現在はキャリア支援者を育成するプログラムの開発にたずさわっている。  「副業で行っている仕事は、自分がやりたいと思っていた職務そのもので、とても貴重な経験をさせてもらっています。副業と本業に相乗効果が生まれ、相談者の対応、情報提供、アドバイスに活かされています」  青木さんは、副業を月18時間と決めており、平日に1時間ほど本業を離れて定例ミーティングに出席しているほか、土曜・日曜日を利用して分担された作業などを行っている。歴史と伝統を持つライオンに対し、副業先はスタートアップ企業。企業文化だけではなく、仕事の進め方も異なり、参考になることも刺激になることも多いそうだ。「本業でつちかった経験やノウハウを副業先で活かし、副業先での経験を本業にも還元するよい循環が生まれています」と充実ぶりを語り、現在の副業を今後も継続していきたいと考えている。  「50・60代は、自分の価値観や強みを活かして、視野を広げ続けていくことが大事。そういう意味では、副業というのはよい材料だと思います」と話す人材開発グループの稲原(いなはら)隆二(たかじ)さんは、副業がキャリアデザインに本当に役立つのか、実験的な心づもりで副業に挑戦したという。「プロフェッショナル人材事業」に登録し、2021年10〜12月、比較的小規模の建設会社で副業を行った。会社のビジョンやミッションの策定のほか、人材育成を通して会社を活性化するにはどうしたらよいかなど、社長の考えを言語化し、整理すること3カ月。コロナ禍もあり週1回、1時間の定例ミーティングはすべてオンラインであったが、自分の経験に基づいて形としてアウトプットでき、副業先の社員を巻き込んでプロジェクトを展開したことは、副業先の人材育成にもつながったのではないかと手応えを感じている。  「副業は自分自身の経験を反芻(はんすう)し、勉強し直すよい機会になりました。一番体感できたのは自己効力感です。副業を通して、社外でも『私にもできる』、『役に立てる』ことに気づけました。自分がたずさわってきたビジネスの範囲外の分野に挑戦する副業は自分を変えるよい機会になります。副業経験を通して『自分には何かができる』という気持ちを持ち、本業以外のスキルが開発できれば、将来的にいろいろなビジネスをつくるチャンスにつながるのではないでしょうか」(稲原さん)  人材開発グループのマネージャーとして、副業制度を取りまとめた大道寺(だいどうじ)義久(よしひさ)さんは、これまで3社で副業を経験した。「副業制度の認知度を広げるためにも、先陣を切れればと思い、副業に取り組んできました。社員には、副業制度を使い外部の会社とどんどんつながってほしい」と話す。鳥取県の農業法人での人事総務部門のサポートなど2社の経験を経て、現在は、鳥取県の建設コンサルティング会社の人事総務部門のサポートを行っている。  「私の場合、副業は大きな報酬を求めて行うわけではないので、副業先も副業人材も、お互いに気楽に話せる点がメリットになっていると思います。もちろん仕事なので責任はありますが、ざっくばらんに、率直な意見交換が可能です。1日1〜2時間の短時間ではありますが、本業と副業で頭を切り替えて仕事をしていると、気分転換にもなります。業務委託契約が終了しても副業先とのネットワークは残りますから」と大道寺さん。仕事上であっても気負いなく関係性が築けてネットワークを広げられるという点も、副業の魅力のようだ。  副業をする目的やかかわり方はそれぞれだが、同社で副業を経験した社員は自己の強みを再確認できたと感じ、未来のキャリア形成に役立つ自信やヒントを得ている。同時にキャリア形成の土台となるネットワークづくりにもつながっている。生涯現役時代のキャリア形成を考えるうえで、副業は大きな財産になりそうだ。 ※1 フルフレックス……7時〜21時内の任意の時間に所定時間の勤務を行う制度 ※2 プロフェッショナル人材事業……45道府県に「プロフェッショナル人材拠点」を設置し、地域企業の「攻めの経営(事業革新や新商品開発などへの積極的な挑戦)」を実践・サポートするプロフェッショナル人材のマッチング支援等を行う事業 写真のキャプション 左から、人材開発センター人材開発グループの大道寺義久さん、稲原隆二さん、青木陽奈さん 【P21】 特集2 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 〈2022年12月6日開催〉 「70歳までの就業機会の確保に向けた“生涯キャリア形成”」  当機構では、生涯現役社会の普及・啓発を目的とした「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」を毎年開催しています。2022(令和4)年度は、学識経験者による講演や、先進的な取組みを行っている企業の事例発表・パネルディスカッションなどを、全4回行いました。  今回は、2022年12月6日にオンラインで開催された「70歳までの就業機会の確保に向けた“生涯キャリア形成”」の模様をお届けします。 【P22-23】 企業事例発表@ 令和4年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム「70歳までの就業機会の確保に向けた生涯キャリア形成=v 70歳までの就業機会確保に向けた取り組み ポラスグループポラス株式会社人事部長 石田(いしだ)茂(しげる) 《特徴的な取組み》 ●2016(平成28)年度より、正社員・準社員の区分をなくし、すべての社員を対象とする「コース別人事制度」を導入。役割や働き方を明確にして六つのコースを設けた ●定年60歳。60歳以降は、定年後再雇用のE(エクスペリエンス)コースで65歳まで、条件を満たせば70歳まで再雇用する制度を整備 ●企業内大学「ポラスアカデミー」を2019(令和元)年に開校。リスキリングを推進し、ミドル・シニア層には特に適応力の向上を期待している  当社は、1969(昭和44)年に創業しました。創業から半世紀を超え、今後も成長し、100年を超えてもなお続く企業を目ざしています。ポラスグループは26社で構成され、新築住宅の供給事業をはじめ、リフォーム、賃貸・管理、インテリア、プレカット(建材加工)など、住まいにかかわる事業に幅広く取り組んでいます。  社員数は、グループ全体で4383人。平均年齢は35.3歳と比較的若く、ベテラン層は、50代が700人、60代が305人、70代が1人となっています(2022年11月時点)。総合職で60歳定年以降、再雇用で働いている社員は現在約70人ですが、今後5年間で新たに90人近くが定年を迎える予定です。 正社員・準社員といった区別をなくし役割や働き方で六つのコースに分ける  改正労働契約法やパートタイム・有期雇用労働法の成立を機に、2016年度に人事制度を改定し、コース別人事制度を整備しました。それまでは、正社員・準社員という区分を設け就業規則で定めていましたが、そうした格差をなくし、だれもが重要なパートナーであると定義しました。また、採用の強化や仕事の充実感を高めて、定着化と戦力化をうながそうと考え、正社員・準社員のくくりをなくし、役割や働き方の違いに基づく六つのコースで分けていく制度を導入しました。同時に、処遇・待遇面で生じていた格差を緩和していくことも進めました。  六つのコースのうち、「M(マネジメント)コース」、「P(プロフェッショナル)コース」は、総合職です。また、年齢を問わず、病気を患うなど事情のある社員が少しずつ増えてきていたことから、本人の希望に合わせて多様な働き方を選択することができる「D(ダイバーシティ)コース」を設けました。「E(エクスペリエンス)コース」は、長年の職務経験を後継者や若年者に継承しつつ、自らも間接的な組織マネジメントや実務遂行を担当する者で、60歳定年後の再雇用者はこのコースです。一般的に契約社員といわれる働き方は「B(ビジネス)コース」、時給で働くパート・アルバイトの働き方は「U(ユニティ)コース」となります。  コース別に、雇用期間や就業時間、職務内容、異動・出向や転勤の有無などを明確にしています。また、当社では企業年金として企業型DCを導入しており、Bコース、Uコースで無期雇用転換された社員にも適用することとしています。 定年後再雇用は最長70歳まで賃金アップの仕組みも新たに導入  定年後再雇用(Eコース)の希望者は、58歳時に事業責任者と面談を実施、面談シートの作成を通じて入社以来の業務の棚卸しを行い、次世代へ継承したいスキル、定年までの課題などを洗い出します。59歳を迎えた時点で、再雇用希望の最終確認を行い、健康状態確認のための産業医との面談を経て、60歳以降の目標を設定し、人事部より処遇についての説明を行います。そして、60歳定年の翌日から、再雇用に切り替わります。  なお、定年前は60歳まで昇給することが可能であり、役職定年制度もありません。  再雇用後は、原則として65歳を迎える年度末までですが、条件を満たせば最長70歳まで延長が可能です。定年後の再雇用では、A・B・Cの3段階評価を半期ごとに行い、賞与に反映させています。この65歳のときの評価でB以上、かつAが1つ入る評価になることが、70歳までの再雇用の条件となっています。少し厳しいかもしれませんが、クリアすれば70歳までの雇用が保障されるという仕組みです。  契約更新時の賃金については、以前は昇給の仕組みはなかったのですが、制度を改正し、現在はA評価であれば2%まで昇給が可能です。賃金カーブは、60歳定年時にいったん下がりますが、そこからまた上げていくことができる仕組みとしました。  また、65歳を超えて勤務を希望する者に対し、労働災害の発生を防止するため、自身の体力の衰えや健康状態を再確認し、体力向上に努めてもらうことを目的とした体力テストを毎年実施しています。  テストを受けた者からは「もっとできると思っていたのに、こんなものだったか」、「血圧を気にするようになった」などの声が聞かれています。テスト当日には、保健師による問診や血圧測定も行うので、「問診や血圧測定があるなら体調を整えておこう」、「テストまでに体力をつけておこう」といった副次的効果も見えてきています。 企業内大学でリスキリングを後押し職務領域や専門性の拡大を目ざす  最後に、全社員を対象にした企業内大学「ポラスアカデミー」を紹介します。創業50周年を迎えた2019年に開校しました。背景には、働き方改革の影響もあり、現場のOJTが停滞してしまったことなどがあります。そこで、企業内大学をつくり、いまでいう「リスキリング」をしようと考えたのです。ねらいは、イノベーションの源泉である「知識の探索」と「知識の深化」の促進です。学ぶことで、イノベーティブなアイデア・発想・思考を生み出すとともに、職務領域や専門性の拡大を目ざしています。ミドル・シニア世代には、適応力の向上もねらいとしています。「自分はこれしかできないと思っていたけれど、ほかにもあるのかもしれない」という発見につなげていくものです。  本大学の特徴は、就業時間内に受講することと、すべてリアルタイムで講義をすることです。リスキリングは、会社の責任で教育をしていくものと考えています。講師は社外からも招いており、どんどん講座数を拡充し、現在は必修科目・選択科目を合わせて全150講座となっています。人事制度と連動した単位制で、3年間で修了を目ざしています。 【P24-25】 企業事例発表A 令和4年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム「70歳までの就業機会の確保に向けた生涯キャリア形成=v 生涯現役社会の実現に向けて 日鋼設計(にっこうせっけい)株式会社取締役総務部長 山下(やました)法夫(のりお) 《特徴的な取組み》 ●定年60歳。希望者全員を嘱託社員として65歳まで再雇用。65歳以降は、基準該当者を原則として70歳まで継続雇用する制度がある ●「人材こそ大切な財産」と位置づけ、育成に注力。高齢社員には、いまの技術にたどり着くまでの経験とその結果を結びつけ、将来につなげていく技術伝承の役割を期待している ●2020(令和2)年、「生産性向上支援訓練」※1(ミドルシニアコース)を延べ87人が受講。「継承すべき具体的項目とポイントが明確になった」などの成果を得た  当社は、広島県広島市に所在するプラスチックの総合メーカーである株式会社日本製鋼所の関連会社として1979(昭和54)年に設立され、同社の製品の出荷設計を行ってきました。  日本製鋼所の主力製品である造粒機(ぞうりゅうき)や押出機(おしだしき)などの操作性や品質の向上などを通して、お客さまの役に立つことが当社の主な仕事です。そのためにも、技術とノウハウをしっかりと蓄積していくことが非常に重要となっています。  組織は五つの部門で構成されており、総務を除く4部門はすべて設計です。設計部は樹脂機械、産業機械、射出機、電装の4分野に分かれています。社員数は190人(男性139人、女性51人)。平均年齢は、38.9歳(2022年4月時点)の若い会社です。  2020(令和2)年には「職業能力開発関係厚生労働大臣表彰」において、技能検定関係事業所の厚生労働大臣表彰を受賞したほか、2021年には厚生労働省のユースエール認定制度※2の認定を受けています。 最長70歳までの継続雇用制度を整備退職者の年齢は大半が65歳以上  社員は2022年12月現在30代がもっとも多く、次いで40代、20代、50代の順となっています。60代以上の再雇用社員は11%です。  当社の定年は60歳で、引き続き勤務を希望する者に対し、65歳まで嘱託社員として再雇用する制度を導入しています。65歳以降については、基準該当者を原則として70歳まで継続雇用しています。  この制度を導入した2016(平成25)年以降、定年あるいはその後の再雇用を経て退職した社員は23人で、65歳以上での退職者が19人となっています。ベテラン社員ががんばってくれていることにより、当社の事業が拡大・成長しており、これからも、高齢者雇用について積極的に対応していきたいと考えています。 高齢社員に期待する役割は経験と結果を結びつけた技術伝承  「人を育て、技術を育て、事業を育て、豊かな社会の実現に貢献する」。これが当社の経営理念です。設計会社における実力や成長、発展は、社員のレベルアップによるところが非常に大きく、人材がとても重要で大切な財産であるととらえています。  人材確保については、若手人材の継続的な確保、そして社員の継続的・計画的な教育・育成に重点を置いています。若い芽は豊かな土壌で光・水・栄養を吸収して、大きく成長します。会社についても、恵まれた職場環境、安定したプライベート、計画的・継続的な教育の提供によって、「社員にやさしい、家族にやさしい、女性にやさしい」という当社のアピールポイントを表現して、幅広く伝え、入社したい会社、入社してよかったと思える会社になることを目ざしています。  新入社員は入社後、それぞれの部門に配属され、技術や製品に関する専門的な教育を行っています。また、考える力やコミュニケーション力、行動力といった、部門に関係なく身につけてもらうスキルについては部門の垣根を超えて教育を行っており、両方の教育でバランスよく、より広く、深く、人材を育成していく取組みを実施しています。  新入社員や新人の教育が実を結ぶのは、5年後、10年後になりますので、直近の人材確保、維持・継続という意味では、ベテラン社員ががんばってくれることが、大きな意味を持っています。  ベテラン社員は入社以来、技術や経験を身につけて努力を重ねてきており、それらは継承していくべき非常に大事なものとなっています。実際に、図面や資料の標準化、技術計算の自動化、工事の実績データベース化などによって蓄積されています。  しかしそこには、技術の根拠であるとか、ノウハウの確立の経緯といったエビデンスは含まれていません。結果のみが蓄積されている、というのが現実です。  実際には、いまの技術にたどり着くまでに費やした長い年月のなかで、数かぎりない大小の失敗をくり返しており、そういった経験が大事になってきます。経験と実際の結果を結びつけて将来につなげていくことに意味があると考えており、高齢社員には、若手と一緒に仕事をするなかで、この技術を伝承していく役割を強く期待しています。 生産性向上支援訓練(ミドルシニアコース)を受講して  2020年、新型コロナウイルスの影響によって受注が減少するなかで、社員の雇用を守るため、雇用調整助成金の対象である「技能、技術の習得や向上を目的とした教育訓練」を実施しました。そのなかで利用したのが、「生産性向上支援訓練」です。データ活用、組織マネジメント、生涯キャリア形成(ミドルシニアコース)の各訓練を受講しました。受講の決め手となったのは、企業の課題やニーズにあわせてオーダーメイドでコースがつくれること、企業が求める内容での受講ができることです。  高齢社員による技術伝承の課題に取り組むために受講したのが、ミドルシニアコースです。訓練実施時期は、2020年10月から12月までで、延べ87人が受講しました。内容は「職業能力の整理とノウハウの継承」、「後輩指導力の向上と中堅・ベテラン従業員の役割」、「職業能力の体系化と人材育成の進め方」です。これにより、@社内の部門間で技術伝承についての情報共有、A仕事や組織力の見える化と継承すべき具体的な項目の整理、B後輩への接し方と相互理解の3点が促進され、社内の活性化という成果につながりました。 ※1 生産性向上支援訓練……企業が生産性を向上させるために必要な知識などを習得する職業訓練。当機構の全国にある職業能力開発促進センター(通称:ポリテクセンター)等に設置した生産性向上人材育成支援センターが、専門的知見を有する民間機関等と連携して、企業が抱える課題や人材育成ニーズに対応した訓練を実施。「ミドルシニアコース」は、70歳までの就業機会の確保に向け、中高年齢層の従業員を対象に生涯キャリア形成を支援する訓練 ※2 ユースエール認定制度……若者の採用・育成に積極的で、若者の雇用管理の状況などが優良な中小企業を厚生労働大臣が認定する制度 【P26-31】 パネルディスカッション 令和4年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム「70歳までの就業機会の確保に向けた生涯キャリア形成=v 70歳までの就業機会の確保に向けた生涯キャリア形成≠ノついて コーディネーター 東京学芸大学 教育学部教授 内田(うちだ)賢(まさる)氏 パネリスト ポラスグループ ポラス株式会社 人事部長 石田(いしだ)茂(しげる)氏 日鋼設計株式会社 取締役総務部長 山下(やました)法夫(のりお)氏 中央労働災害防止協会 健康快適推進部 審議役・衛生管理士 三觜(みつはし)明(あきら)氏 登壇者・登場企業プロフィール ポラスグループ (埼玉県越谷市) ◎創業 1969年 ◎業種 建設業 ◎従業員数 4,383人(2022年11月時点) ◎特徴的な高齢者雇用の取組み 定年60歳、希望者全員65歳・基準該当者70歳まで再雇用。定年後再雇用者にも業務内容や成果に応じた評価を行い、賞与や賃金に反映される。また、充実した企業内大学があり、就業時間内にリスキリングに取り組める環境が整っている 日鋼設計株式会社 (広島県広島市) ◎設立 1979年 ◎業種 製造業 ◎従業員数 190人(2022年4月時点) ◎特徴的な高齢者雇用の取組み 定年60歳、希望者全員65歳・基準該当者70歳まで再雇用。高齢社員には、技術伝承の役割を期待しており、2020年に当機構の「生産性向上支援訓練」(ミドルシニアコース)を延べ87人が受講。技術伝承に関する情報共有や継承すべき具体的項目の整理などの成果があった 三觜明氏 中央労働災害防止協会 健康快適推進部 審議役・衛生管理士 1981(昭和56)年、中央労働災害防止協会に入職。健康確保推進部次長、健康快適推進部研修支援センター所長、健康快適推進部審議役などを経て2019年より現職。著書に『ストレスチェックを活かす 元気な職場づくり−集団分析から始める職場環境改善−』(中央労働災害防止協会編共著)、『職場の健康づくりを支援する 働く人の心とからだの健康づくりテキスト』(中央労働災害防止協会編共著)など 加齢とともに増える労働災害高齢者の安全と健康確保の取組みを 内田 企業が高齢者雇用を推進するうえでは、労働災害防止対策も非常に重要な課題の一つです。はじめに、中央労働災害防止協会の三觜(みつはし)さんより、高齢社員の労働災害防止対策についてお話しいただきたいと思います。よろしくお願いします。 三觜 中央労働災害防止協会(以下、「中災防」)は、厚生労働省の所管する特別民間法人として、働く人の安全、健康、そして快適な職場といったことについて技術的なサービスや、図書・雑誌などの販売を行っている団体です。本日は少しお時間をいただき、「加齢に伴う身体的機能と健康状態に関わる労働災害防止対策」についてお話します。  まず、2021(令和3)年の労働災害発生状況について、年齢ごとの労働災害発生率(千人率)をみると※1、30代がもっとも低く、65歳から74歳がもっとも高くなっています。30代と比較すると、男性では約2倍、女性では約3倍も発生率が高いという状況です。また、休業4日以上の死傷者数を年齢別にみると、50歳以上が半数を占めています。やはり、高齢になると労働災害が増えてくるという現状があります。  労働災害のなかで多く発生している事故は、「転倒」が圧倒的に多く、次いで、「墜落・転落」、3番目が「動作の反動・無理な動作」です。年齢別にみると、「転倒」については、全年齢のうち、50歳以上が約7割となっています。「墜落・転落」は、約5割という状況です。これらの要因としては、加齢による心身機能の変化ということがあげられます。  加齢による心身機能の変化について、20〜24歳の能力を100%としたときに、55〜59歳ではどれくらいかというと、機能により差はありますが、「約2割低下する」という結果が示されています※2。もっとも落ち込んでいる項目は、「夜勤後の体重回復」で、7割近く低下するという状況です。つまり、いろいろな意味での回復力というものが、年を重ねるにしたがって落ちていくということが表れています。また、「平衡機能」、「皮膚振動覚※3」、「聴力」、「薄明順応」などのいわゆる感覚機能も、かなり低下することが示されています。感覚機能は自覚が生じにくく、聴力に関しては、高い音が聞こえにくくなってくるのですが、気づきにくいといわれています。こういった点が、労働災害につながってきます。  先ほどもお話しした通り、加齢にともないリスクが高まる労働災害として、「転倒」、「墜落・転落」があげられます。若い人でも転ぶのですが、高齢になると、転びやすいだけでなく、バランスを崩してそれを支える力が低下し、また、骨の強度が弱くなっているため、結果的に骨折するなど重篤化のリスクが高まります。滑って後頭部を打ちつけるといったことになれば、死亡災害にもつながりかねません。  高齢労働者の安全と健康確保のためのガイドラインとして、国は指針として「エイジフレンドリーガイドライン」を策定しています。そのなかで、エイジフレンドリーな職場のポイントとして、次の4点をあげています。 @高年齢労働者を重要な戦力としてとらえ、その知識・経験を活かしている A高年齢労働者に配慮した、職場環境改善を進めている B高年齢労働者自身が、体力や健康状態と労働災害リスクの関連を理解し、安全行動に努めている C管理監督者や周囲の者が、高年齢労働者の特性を理解し、ともに快適に働けるよう努めている  また、高齢労働者の安全と健康確保のための100の取組みを盛り込んだ「エイジアクション100」※4というチェックリストがあります。職場の課題を洗い出し、改善に向けた取組みを進めるための職場改善ツールです。「転倒等リスク評価セルフチェック票」※5というツールもあります。「自分の体力に対して過信をしているのではないか」と思われる社員の方などにも有効なツールですので、ぜひ活用していただきたいと思います。  そのほか、10項目の「健康チェック」ツールもあります。健康状況については、職場のなかで確認したり、問いかけたりすることがとても大切であり、調子が悪そうであれば、しっかり対応していくことが必要です。日ごろからの健康状況の把握もとても大事なことです。 高齢社員に期待するもの 内田 それでは続いて、ポラスグループの石田さん、日鋼設計株式会社の山下さんにもお話をうかがっていきたいと思います。企業事例発表では、内外の資源を活用して自社の高齢者活用に資する教育訓練などを行っているというお話がありました。そのあたりを深掘りし、三觜さんからも適宜アドバイスをいただきながら、進めていきたいと思います。  最初に、2社で活躍されている高齢社員に期待することについて、あらためてお聞かせください。まずは日鋼設計の山下さんからお願いします。 山下 当社における高齢社員への期待と役割は、会社の将来をになう次の世代へバトンをつなぐ、ということになると思います。具体的には、長年つちかった技術、ノウハウを明文化して、定着を図っていくこと。また、第一線で仕事をしながら、後継者を育成・指導するということがあげられます。それから、若手に対しての学習の機会や経験の場をつくってもらい、成長に向けた働きかけやモチベーションを高める助言などにも期待しています。 内田 いろいろなことがあるのですね。次にポラスグループの石田さん、お願いします。 石田 部門によって期待するものが少し異なってくるのですが、建築分野では、やはり専門性の高い知識や経験の見える化・可視化・体系化を行い、伝承をしていくこと。そして専門キャリアを引き継いでもらいたいということです。不動産分野では、知識や経験の豊富な高齢社員だからこそ顧客から引き出せる情報といったものがありますが、ある意味で仕事が属人的になってしまっている部分もあり、やはり見える化・仕組み化していくことかなと思います。  それともう一つ、若手社員や中堅社員に対してのよき教師であってほしいと考えています。社外活動や趣味なども含めて、なんらかの形で若手・中堅にがんばっている姿を示してほしいということも期待しています。 高齢社員を戦力化するために力を入れていること 内田 続いて、会社に貢献してもらうために、特に力を入れていることなどがあれば教えてください。 山下 第一に、高齢社員が働きやすく、長く勤め続けることができる制度づくりと環境整備です。介護休業制度や時間外労働の制限のほか、短時間勤務など、高齢社員に対して負担のない勤務体系の構築などに取り組んでいます。  また、技術伝承のために、キャリアのふり返りの機会をつくることも、大切な取組みだと考えています。一方で、技術やノウハウの見える化を行うだけではなく、その技術やノウハウを伝える技術や手法も必要となりますが、そうした訓練や経験をしていないという部分もありますので、これから身につけてもらいたいと考えています。 内田 なかなかむずかしいことかもしれませんが、高齢社員から若手に近づいていくということも大切ですね。 山下 そうですね。世代を問わず社員同士が話をする環境にはあると思いますが、「技術を伝える」という点においても、今後はよりコミュニケーションを促進していきたいところです。 内田 ポラスグループの石田さんはいかがでしょうか。 石田 会社に貢献するという意味では、専門的な高いスキルを持つ人はよいのですが、マネジメント職だった場合は苦労しているように感じます。当社では、公的資格を重要視して、取得を推進し、人事制度にも連動しています。特に、許認可系の重要な資格を持っている人は引く手あまたですし、企業内大学の講師を務めてもらったりもしています。 期待と高齢社員の間にギャップはあるかそれを埋めるための工夫は? 内田 取組みを進めるうえで、なかなかうまくいかないこともあると思いますが、例えば、会社の期待と高齢社員の間にギャップがあるとすれば、それはどういったことでしょうか。そして、それを埋めるための方法や工夫についてお聞かせください。 山下 定年や役職定年にあたり、多くの異動も発生するなかで、モチベーションを保ちながら働き続けることがむずかしくなることが見受けられます。会社としては、周囲から頼りにされていることをまず理解してもらい、さらに、仕事に関して大切にしてきたことや若手社員に伝えたいこと、会社に残したいことなどを聞きながら、本人の知識や経験、強みをふまえて、理想の組織づくりに向けた若手社員とのかかわりをアサインしていく。そういったことに努めていきたいと考えています。 石田 やはり、若手社員の教師として、技術継承や指導に貢献してほしいという期待があるので、最終的な成果に対して、常にコミットメントを求めていくことが大事だと考えています。現在は目標管理制度を運用しており、定年後再雇用においても、上司との1on1を通して目標の設定とそれに対するフィードバックを行い、自己認知を高めてもらうよう努めています。以前の人事制度では、定年後はがんばっても評価で処遇が変化することがない状況でしたが、モチベーションの維持・向上のためにもメリハリが必要ではないかと考え、制度を改正しました。現在はがんばれば評価が上がり、そうでなければ下がります。そういった「がんばろう」と思える環境や仕組みづくりをすることが、会社としては必要なのかなと思っています。 人材育成のために外部資源を活用するメリットは? 内田 ポラスグループでも日鋼設計でも、人材育成に外部の教育資源を活用されていますね。外部資源を活用するメリットについて、お聞かせください。 山下 第一に、専門知識・経験を持つ講師に幅広く深い講義をしていただけること。第二に、必要な知識や技術の理解・習得のために工夫された演習があるなど、高い教育技術によって習得効率が上がるのではないかと考えました。また、社内の人材に負担が少ないこともメリットです。 石田 新しいことに取り組むときに、経験や成功体験が障壁になることがあり、それを打破するには身内からのアプローチだけではなかなかむずかしいことがあります。そういう意味で、外部の研修を取り入れることが重要と考え、企業内大学では、社員の講師だけでなく、約3割の部分を大学教授をはじめとする外部機関にお願いしています。  事例発表では紹介できなかったのですが、2019年から(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構のプログラムも活用しています。約1300人の社員が受講しており、シニア向けでは、「生産性向上支援訓練(ミドルシニアコース)」を約100人が受講しています。こういう機会があると、自分自身の得手・不得手などの理解が促進されますし、シニア向けでは、SNSやクラウドといった新しい知識も学ぶことができ、それまで避けていた分野であっても「ちょっとやってみようかな」といった動きも見えることがあります。身内だけでやると甘えが出てしまうこともありますから、外部の機関を活用した学ぶ機会は重要だと思います。 内田 よいきっかけになったということですね。ありがとうございます。 高齢社員を対象にした労働災害防止対策 内田 最後に、労働災害防止対策について、特に、高齢社員を対象にした取組みや、どういう観点で取り組んでいるのかについてお聞かせください。 山下 作業を管理するという観点で、時間外労働の制限、所定労働時間の短縮といった制度を設けています。労働時間を短縮するための工夫として、高齢社員には技能を伝える側に回ってもらい、できるだけ若手に作業をしてもらうようにしています。これにより、作業のペースや仕事量を自分でコントロールすることができます。  もう一点、加齢により低下する身体能力を補うための取組みとして、バリアフリー化、職場環境の改善などにも取り組んでいます。また、5S※6活動や、ペーパーレス化により紙ファイルの保存運搬の負担をなくすということにも取り組んでいます。 石田 高齢社員を対象とした取組みとしては、事例発表でも紹介した体力測定に取り組んでいます。また、高齢社員にかぎらないのですが、定期健康診断後のアプローチを厳しく徹底して行っています。 内田 三觜さんにもお聞きしたいのですが、企業から寄せられる相談にはどういった内容のものがあるのでしょうか。また、高齢社員が働く職場について、特に気をつけてほしい点について教えてください。 三觜 外的な環境としては、やはり職場の環境を整えることがまず重要です。もちろん、内部的な環境、あるいは要因といいますか、高齢者特有の問題や健康問題への対応も重要となります。そういった対策も行っているうえで労働災害がどうしても起こってしまう、という相談を受けることもあります。  また、リスクテイキングという部分なのですが、いわゆるベテランであるがゆえに、「このくらいなら大丈夫だろう」、「ちょっと省略してしまおう」というような行動をしてしまう。いわゆる「不安全行動」ですが、そういったことの対策が見逃されていることもあるようです。  こうした不安全行動や油断に対して、どんな対策がとれるのか。中災防などで行っているものに、「危険予知トレーニング(KYT)」というものがあります。一度、本音で語り合い、「こういう省略はやっぱりよくないよね」といったことを、事例を出しながら話し合いをしてもらう。そういった取組みも必要ではないかと思います。 内田 ベテランであるからこそ、我流に近い形で仕事をするようになってしまい、中堅や若手の人たちが「そのやり方は間違っているのではないか」と思ってもいえないことがあるかもしれません。しかし、事故が起きては困りますから、何らかの対応が必要でしょう。そういったことも含めて、重要なのは、会社のトップのリーダーシップであろうかと思います。例えば、「シニアの人たちに活き活きと働いてもらいたい、がんばってもらいたい」、だからこそ「いうべきことはいう」。そして、がんばってもらったら、ちゃんとそれを認める。こうした流れが、実績として示されることが重要なのではないのかと、いろいろなお話をうかがいながら感じたところです。 本日はありがとうございました。 ※1 労働者死傷病報告(令和3年)、労働力調査(基本集計・年次・2021年) ※2 斉藤一、遠藤幸雄「高齢者の労働能力」『労働科学叢書53』労働科学研究所(1980年) ※3 皮膚振動覚……皮膚への刺激により生じる感覚。痛覚、圧覚、温覚など ※4 「エイジアクション100」https://www.jisha.or.jp/research/pdf/202103_01.pdf ※5 「転倒等リスク評価セルフチェック票」https://jsite.mhlw.go.jp/yamanashi-roudoukyoku/content/contents/000668561.pdf ※6 5S……整理、整頓、清掃、清潔、躾の頭文字(S)に由来する、職場環境の維持・改善活動 写真のキャプション 東京学芸大学教育学部教授の内田賢氏 中央労働災害防止協会健康快適推進部審議役・衛生管理士の三觜明氏 日鋼設計株式会社取締役総務部長の山下法夫氏 ポラスグループ ポラス株式会社人事部長の石田茂氏 【P32-37】 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!こんなときどうする? Season 2 第1回 「高年齢者雇用安定法」ってどんな法律ですか? ★ このマンガに登場する人物、会社等はすべて架空のものです ※ 前回の連載は、本誌2022年7〜12月号に掲載されています こちらからまとめてお読みいただけます→https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/series.html ※ 平成25年3月31日までに労使協定により制度適用対象者の基準を定めていた場合は、その基準を適用できる年齢を令和7年3月31日までに段階的に引き上げなければならない(平成24年改正法の経過措置) 解説 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!こんなときどうする? Season 2 第1回 「高年齢者雇用安定法」ってどんな法律ですか?  2021(令和3)年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行されてから2年が経ちました。ここでは、高年齢者雇用安定法の概要とともに、高齢者雇用を推進するうえで押さえておきたい現行法のポイントについて紹介します。 ■高年齢者雇用安定法の歴史  高年齢者雇用安定法は、1986(昭和61)年に制定(「中高年齢者雇用促進特別措置法」から改称)され、60歳以上の定年が企業の努力義務となりました。その後、60歳定年の義務化、65歳までの高年齢者雇用確保措置の導入などを経て、2020年の改正(2021年4月施行)で70歳までの就業確保措置が努力義務化されています。 図表 高年齢者雇用安定法の歴史 1986年(1986年10月1日施行) 「中高年齢者雇用促進特別措置法」を「高年齢者雇用安定法」に改称。60歳以上定年の努力義務化 1990年改正(1990年10月1日施行) 65歳までの再雇用制度の努力義務化 1994年改正(1998年4月1日施行) 60歳以上定年の義務化 2000年改正(2000年10月1日施行) 高年齢者雇用確保措置(定年廃止、65歳までの定年延長、65歳までの継続雇用制度)の努力義務化 2004年改正(2006年4月1日施行) 高年齢者雇用確保措置の義務化(労使協定により対象者の限定が可能) 2012年改正(2013年4月1日施行) 高年齢者雇用確保措置における労使協定による対象者の限定の廃止 ※2025年3月31日までの経過措置あり 2020年改正(2021年4月1日施行) 70歳までの就業確保措置の努力義務化 ■現行法(2020年改正〈2021年4月施行〉)のポイント ・就業確保措置(70歳までの就業機会の確保)  65歳までの雇用を義務づける高年齢者雇用確保措置(@65歳までの定年の引上げ、A65歳までの継続雇用制度の導入、B定年制の廃止)に加え、70歳までの就業確保措置が企業の努力義務となりました。 【P38-39】 江戸から東京へ [第125回] 嫁入り衣装を売り物に−秀 ◆後編◆ 作家 童門冬二 米屋から古着屋に  京都の古着屋角田(つのだ)で行商をしていた鉄次郎は、近おう江み (滋賀県)高島(たかしま)出身の飯田(いいだ)儀兵衛(ぎへい)の娘・秀(ひで)のムコになった。家業は米屋だった。  しかし鉄次郎が、  「将来は、どうしても古着屋をやりたい」  といい、秀も賛成していた。鉄次郎はムコになると同時に新七(しんしち)と名を改め、米屋の店名も「高島屋」と変えていた。  そういうムコの心づかいに、儀兵衛は胸をうたれ、こういった。  「わしも老齢(とし)だ。まもなく隠居する。わしが隠居したら、新七よ、おまえは古着屋になれ」  「はい、ありがとうございます」  その日がきた。儀兵衛は隠居した。もっとも秀がせがんだせいもある。  「お父さん。早く隠居しなさいよ。新七さんがおじいさんになっちゃうじゃないの」  「うるさいな、亭主のことばかり心配して、おやじのことは心配しない。おまえはそんな親不孝な娘だったのか?」  「むずかしいところね。親を大事にすれば亭主は立たず、亭主を大事にすれば親は立たず」  「平(たいらの)重盛(しげもり)みたいなことをいうな。よしよし、隠居しよう」  娘可愛さに儀兵衛はついに隠居し、米屋の店もたたんだ。ちょうど近くに売屋が出た。それを買って新七と秀に贈った。  「その家で古着屋をやれ」  「ありがとうございます」  しかし、売る商品がなかった。新七はタメ息をつくばかりだった。見ていた秀がいった。  「新七さん。品物はあるわよ」  「どこに?」  「そのタンスのなか」  「だって、これはおまえの嫁入り衣装だぞ。大切な品だ。売り物にはできない」 秀の古着哲学  「いいえ、売り物にできるわ」  秀はいいきった。目は輝いている。  「わたしはこう思っているの。わたしの嫁入り衣装を店に並べて、買ってくれた人がいたらわたしはこういおうと思っているの」  「何ていうんだ?」  「古着のなかにも、いい形や色合いがひそんでいる。それを見つけたあなたとはお客さんではなくお友だちよ。これからそういうおつきあいをしましょう」  「フフフフ」  新七は笑った。  「あいかわらずお嬢さんだ」  「でも嫁入り衣装だからってタンスの底にしまい込んでおくだけじゃ、着物が可哀想だわ。もっともっと役に立てなければ。買った人が違う人に売るかも、そうなれば古着のなかに新しいものを見つけるお友だちが少しずつ増えていく」  「・・・・・」  新七は黙った。もともと新七が古着に執着したのも、実をいえば秀の考えと同じだったからだ。  「新しい流行品だけが着物じゃない。古い物のなかにも、いまの世の中で大事にされるものがある。いや大事にしなければいけないものがあるのだ」  というのが、新七の古着哲学≠セった。秀と考えはピッタリ一致していた。  新七はうれしかった。  「秀よ、ありがとう。この着物を店に出そう」  出した着物はすぐ売れた。  「新しい流行品? ステキね」  「わたしの嫁入り衣装です。古着です。でもこの着物のよさをわかってくださる方に、どんどん着ていただきたいンです」  「賛成よ、流行品だけが着物じゃないわ。あたしもそういってすぐ売るかも」  「ありがとうございます。ステキなお客さまです」  「着物だけでなくヨイショも上手ね。でもエラいわ、大事な着物を売りに出すなンて」  「この着物のよさをたくさんの女性に知ってほしいンです。着てくださった方とはみんなお友だちです」  「この着物を着た人とはみんなお友だち? お客でなく、いい考えね。あたしが最初のお友だちね?」  誇りを持って自分の大事な着物を売りに出した秀の考えは、口コミで評判になった。新七の行商にもはずみがついた。  新七が勤めていた角田はつぶれたが、主人は、  「おまえさんが大事にしていたお得意さまは、みんなゆずるよ」  といってくれた。  新七と秀の唱える、  「流行品だけが着物じゃない。古い物のなかにも磨けば光る宝石がある」  という主張は多くの人の共感を得た。流行品が買えず、古着にしか手が出せない貧しい人々がたくさんいたからだ。二人はそういう人々の救い主でもあった。二人の店は現代(いま)に続く有名店になった。 【P40-43】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第130回 徳島県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の70歳雇用推進プランナー※(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 24時間365日、安心して働くための良好な職場環境づくりに注力 企業プロフィール 徳島ハイウエイサービス株式会社(徳島県徳島市) 創業 1984(昭和59)年 業種 サービス業 従業員数 74人(うち正規従業員数16人) (60歳以上男女内訳)男性(29人)、女性(11人) (年齢内訳)60〜64歳 10人(13.5%) 65〜69歳 9人(12.2%) 70歳以上 21人(28.4%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員67歳まで継続雇用する制度がある。67歳以降は運用により継続雇用。最高年齢者は84歳  徳島県は、四国の東部に位置し、およそ8割を山地が占めています。標高1000mを超える険しい山々で構成される四国山地を擁し、北は讃岐山脈が連なります。水量の豊富な那賀川、吉野川が流れ、山と川に囲まれた自然豊かな県です。鳴門海峡の渦潮や阿波踊りも有名です。  「産業では、農業と畜産業が盛んで、特にさつまいも、にんじん、すだちの生産量は全国上位です。工業では、100社以上のメーカーが集積する『LED先進地域』です。また、帝国データバンクがまとめた2022(令和4)年の『全国「女性社長」分析調査』では、女性が社長を務める企業数が全国1位。女性管理職の比率も、高い数値を誇っています」と当機構の徳島支部高齢・障害者業務課の中川(なかがわ)尚久(なおひさ)課長は話します。  高齢者雇用については、「意欲に個人差があり、一律での制度導入はリスクが大きい」という声が県内事業所からよく聞かれ、こうした課題や事業所からの相談・問合せに対し、プランナーによる的確な相談・援助などの活動をはじめ、各関係団体と提携して助成金の説明会や各種セミナーなどを行って対応しています。  同支部で活躍するプランナーの一人、田中(たなか)康之(やすゆき)さんは、社会保険労務士として、労働保険事務組合徳島労働保険事務センターで労働保険・社会保険の加入指導なども行っており、多彩な実績と知識、経験を活かしてプランナー活動に取り組んでいます。2022年3月には、10 年間にわたり徳島紛争調整委員会委員を務めた功績により、厚生労働大臣より感謝状が贈呈されました。  今回は、田中プランナーの案内で、「徳島ハイウエイサービス株式会社」を訪れました。 高速道路の安心・安全をサポート  徳島ハイウエイサービス株式会社は、徳島県内で高速道路の料金収受や道路の維持・管理、パーキングエリアなどの清掃・駐車場整理などの業務を行っています。創業は1984(昭和59)年。徳島県鳴門市と兵庫県の淡路島を結ぶ全長1629mの「大おお鳴門橋(なるときょう)」開通の前年です。当時、大鳴門橋の開通により離職を余儀なくされた港湾運送業務に就いていた人々を雇用する会社として発足し、事業がスタートしました。  それから39年。現在は、徳島県の海の玄関口にあたる高速道路の鳴門北料金所および鳴門料金所での料金収受業務や道路維持業務、パーキングエリア・観光施設の清掃業務など、高速道路を利用する人と車の安心と安全をサポートすることで、観光施設などで快適な空間を届ける仕事に励んでいます。  従業員数は、アルバイトも含めて74人。平均年齢は年々上がっており、59.3歳です。そうしたなかで、2017(平成29)年に定年を60歳から65歳へ延長しました。65歳以降は、希望者全員67歳までの継続雇用制度があり、67歳以降はアルバイトとして勤務することも可能です。  メイン業務の高速道路料金の収受は、「昼夜勤」と呼ばれる働き方で、朝8時から翌朝8時までの24時間勤務で、途中、休憩と仮眠を合わせて8時間とります。退勤した日と翌日は休み、その翌日の朝8時に出社するというローテーションで、フルに働くと月10日程度の出勤となります。  この業務に多くの高齢従業員が就いており、今回は、鳴門北料金所で活躍中の60代のお2人にお話をうかがいました。 長年勤めた会社を退職後、自分の好きな道へ  市原(いちはら)伸二(しんじ)さん(67歳)は、58歳のときに徳島ハイウエイサービスに入社、嘱託社員として月10回程度勤務。67歳になってアルバイト勤務になり、現在は月8日程度の勤務となっています。「2日減った分、だいぶ楽に感じます」と笑顔で話します。  前職では、注文住宅の営業を担当し、工務店の全国ネットワークが主催する営業職のコンテストで全国第4位になるほどの実績の持ち主で、「やりきった」という気持ちで退職したそうです。「もともと車とバイクが大好きで、高速道路を利用するたびに料金収受の仕事が気になっていた」という思いが転職につながり、「いまは楽しんで仕事をしています」とうれしそうに語ります。  24時間勤務では、車の型や大きさを瞬時に判断し、専用の装置を操作してお客さまから料金を収受する仕事のほかに、別の建物内で行うETCレーンの監視や、トラブル時の対応の仕事があり、2時間ごとに担当を交代します。1人前になるまでに2〜3年は要するそうで、入社後の研修に始まり、その後は先輩について仕事を覚えてきました。  市原さんは、「笑顔で接することと、収受ミスや操作ミスをしないこと、お客さまも自分自身も安全第一で対応すること」を大切にして仕事をしていると話してくれました。  上司の坂野(さかの)修司(しゅうじ)事務長は市原さんについて、「真面目なうえ、いつも笑顔で職場を明るくしてくれるなくてはならない存在です」と語ります。 毎日同じ業務だからこそ日々の確認が大事  結城(ゆうき)正明(まさあき)さん(66歳)は、IT関係の会社に定年近くまで勤めて退職後、60歳で徳島ハイウエイサービスに入社。高速道路料金の収受業務に就いて6年になります。入社のきっかけは、たまたま見ていた新聞の求人欄。市原さんと同じく未経験分野からの転職です。結城さんは、仕事を覚えるまで、「人に聞くこと、メモを取ることをくり返しました」とふり返ります。  料金収受は、接客というほどではないものの、お客さまと接する仕事のため、「早く通過したい人、他県から来て何か話したいことがある人など、いろいろな方がいらっしゃいます。長くやっているとわかってくるのですが、お客さまの立場に立った対応を心がけています」と結城さん。仕事の内容は毎日ほぼ同じですが、「だからこそ、何ごとも確認することが大切です」と語ります。  高速道路の料金所は24時間365日稼働しており、だれかが休むとほかの人が代行して出勤します。「それでお世話になったことがあるし、その逆もあります。この年齢で会社が自分を必要としてくれているのは非常にありがたいことです。働けるうちは、続けていきたいです」と話しました。  坂野事務長は、結城さんの働きぶりを、「とても真面目な方です。また、トラブルでお客さまが怒ってしまわれたときなどに、穏やかに対応している姿も印象的でした」と紹介します。 現場の声に耳を傾ける  市原さんと結城さんは、徳島ハイウエイサービスについて、口を揃えて「働きやすい会社」と表現します。同社が常に職場環境の改善に努めていることや、有給休暇がしっかりとれることなどが大きな理由のようです。  同社では、良好な職場環境づくりは、従業員が安全に働くための基本と考えており、そのためには現場の声を聞くことが重要となることから、正木(まさき)昇(のぼる)代表取締役や長谷(はせ)哲雄(てつお)常務取締役が、機会を見つけては現場を訪れ、従業員の顔を見ながらコミュニケーションを図り、そこで聞いた声を取組みに反映しています。例えば、毎月の勤務シフトを組む前に希望の休暇日があれば聞き、その希望を優先してシフトを調整する柔軟な対応を実現しています。シフトは現場の上司が作成しており、従業員と上司の信頼関係ができていることも、「働きやすさ」につながっているようです。そのほか、必要な資格取得支援や夏場の道路維持従事者へのファンつき作業服の支給、料金所モニター監視席のイスの改善なども行っています。 10年、20年先を見すえて  田中プランナーが初めて同社を訪問したのは、2022年6月のこと。同社では、67歳の継続雇用年齢を上回る高齢従業員が多数就業していることと、今後10年間に定年を迎える従業員が複数人いる状況であることから、「労使で信頼感と納得感を醸成していくためには、高齢従業員の戦力化とさらなる活性化が必要と感じた」とふり返ります。  課題や方向性を整理するために、当機構の「企業診断システム(雇用力評価ツール)」を使って分析したところ、同社の強みとして「ほかの事業所に比べ、離職率が低いことがわかりました」と田中プランナー。働きやすさ、処遇、福利厚生の手厚さなどが背景にあるといいます。正木代表取締役は、「診断をしてもらったことで、客観的に自社をみることができました」と診断結果を受けとめていました。  この結果をふまえて田中プランナーは、同社の高齢者雇用について、人材流出防止策と高齢従業員の処遇の明確化、そして社内全体のモチベーションアップにつなげていくための希望者全員70歳・基準該当者75歳までの継続雇用制度の導入、健康状態などが気になる年代に対する柔軟な働き方の制度の明文化などを提案しました。  同社ではこれらの提案を今後の課題としていくとのこと。さらに、正木代表取締役は、今後について「現在いただいている仕事を継続し、雇用を守り、働きやすい職場環境を引き続きつくっていくことに務めます。会社の将来を見すえて、若い世代の採用に力を入れていくこともたいへん重要だと考えています」と語りました。  同社では、21歳の従業員も在籍していますが、ここ数年、若い世代の採用がむずかしくなっているため、高齢従業員の活躍推進も大事な取組みとしつつ、会社存続のためには若手の採用が重要課題となっているとのこと。  そこで田中プランナーは、「10年、20年先を見すえた採用計画を立てて1年1年採用に努め、同時に、現場でいま活躍されている高齢従業員のような人材を育てていくことも大切です」とアドバイスし、今後もサポートを続けていくことを伝えました。(取材・増山美智子) ※「65歳超雇用推進プランナー」の名称が、2023年4月から「70歳雇用推進プランナー」に変わりました 田中康之 プランナー(56歳) アドバイザー・プランナー歴:15年 [田中プランナーから] 「プランナー活動では、訪問先企業が課題・問題として認識されているポイント以外に、隠れた課題・問題も抽出できるよう、企業内での中・高年齢者のニーズなどを多く出していただいて、潜在ニーズにたどり着けるように心がけています。要望をヒアリングするだけではなく、企業や担当者自身も言語化できない、無意識に抱えている悩みや問題を発見できるように努めています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆徳島支部高齢・障害者業務課の中川課長は田中プランナーについて、「社会保険労務士として幅広い分野に精通しているうえ、さまざまな活動で得た知識・経験・人脈を活かし、企業からのニーズに応えるかたちで、職務給や年俸制の導入指導、職務能力評価制度の整備などについて具体的な改善指導も行っています」と話します。 ◆徳島支部高齢・障害者業務課は、JR徳島駅から徒歩約10分のハローワーク徳島5階にあります。近隣には、小学校や総合体育館、文化会館などがあります。 ◆同県では、2023年4月現在、6人の70歳雇用推進プランナー等が活動し、2021年度は73社の事業所で相談対応を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●徳島支部高齢・障害者業務課 住所:徳島県徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 電話:088-611-2388 写真のキャプション 徳島県徳島市 同社従業員が働く鳴門北料金所 正木昇代表取締役(左)と長谷哲雄常務取締役 「仕事が楽しい」と話す市原伸二さん 「必要とされていることにやりがいを感じる」と話す結城正明さん 高速道路の料金収受業務の風景(写真提供:徳島ハイウエイサービス株式会社) 【P44-45】 第80回 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは  片桐良吉さん(71歳)は、労働関係の機関で書籍などの編集にたずさわってきた経験を活かし、現在はフリーランサーとして月刊誌の校閲や校正の仕事を手がけている。図書館業務にもたずさわり、間口の広い活動を続けてきた片桐さんが、生涯現役の日々を豊かに生き抜くヒントを語る。 フリー編集者 片桐(かたぎり)良吉(りょうきち)さん 根気を育んだ農作業の経験  私は山形県山形市の郊外、長谷堂(はせどう)という農村で生まれ、実家も農家でした。高校までを地元で過ごし、大学進学にともない上京しました。  都会に憧れて郷里を離れたものの、私が通っていた一橋大学の校舎は東京都下にあり、1・2年は小平(こだいら)市、3・4年は国立(くにたち)市という大学生活で、近くにはまだ、桑畑や栗林がありました。一橋大学は社会科学系の大学ですが、私は社会学部で精神分析学を専攻しました。兄2人が教職の道に進んだ影響を受けたせいか、漠然と社会科の教師を目ざしていましたが、教職の門戸は狭く、早々と断念しました。  忘れられないのは、社会心理学者として名を馳せていた故・南(みなみ)博(ひろし)教授との出会いです。米国帰りの洒落た雰囲気を身にまとい、細身の体からは香水の香りがして、私たちゼミ生たちの憧れの的でした。先生の生き方というか、そのダンディズムに都会の生活の最先端を感じさせてもらい、恵まれた学生生活であったと思います。  私は兄2人、姉1人の末っ子ですが、狭い農地を耕しながら子どもたちを大学に通わせてくれた両親には感謝しています。農家はだれも継ぎませんでしたが、農作業の手伝いは小さいころからの日課でした。粘り強いことを身上とする私の性格は、農作業の体験によってつちかわれたような気がしています。  同窓の仲間たちが銀行や商社へ進むなか、地道な道をコツコツ行くのが自分に合っていると、半官半民の特殊法人に就職。後から思えばまさに天職との出会いであった。 あらゆる部門で鍛えられた日々  労働に関する総合的な調査研究事業を行う機関に入社したのは、第一次オイルショックの翌年でした。最初に配属された部署では、教育講座の企画と運営を担当。3年後には新設された国際関係の調査部門に移り、日系の海外進出企業に進出先の労働情報を提供する仕事にたずさわりました。国際協力機構(JICA)から受託した技術協力事業では、海外の人と接する機会も増えてやりがいもありましたが、英会話が得意でないこともあり、しばらくして出版事業を行う部署に異動となりました。  まったく未知の世界であった出版物の編集技術を基礎から学ぶために、編集や著作権の専門機関へ通わせてもらえたことには、いまも感謝しています。そのほか自己啓発として文章教室や校正講座などさまざまな講座や研修を受講しました。現在、校正や校閲の仕事をしていますが、この時代に学んだことがいまの仕事につながっています。  働きながら編集のノウハウを学び、さまざまな本をつくりました。その後いくつか部門を移りましたが、どの部門にも編集という仕事は少なからず存在するため、若いときに出版の世界を経験したことが自信となり、前向きに仕事に取り組むことができました。  とりわけ、農作業で鍛えられた粘り強さが持ち味の私にとって、校閲や校正のような根気のいる仕事は、天職であったといまでは思っています。かつて農業はすべて手作業でしたから、コツコツ気長にやることが求められました。原稿とじっくり向き合う校正の仕事にも共通するものがあり、自分の性格に合っているのか、70歳を過ぎたいまも苦痛を感じることはありません。  書籍だけではなく、研究者向けの雑誌の編集にもたずさわり、その後は総務部門やデータベース開発部門など、さまざまな部署で働き、ふり返ってみれば組織のほとんどの部署で働かせてもらったことになります。  52歳からは最後の部署となる図書館で館長を務め、60歳で定年を迎えました。労働に特化した専門図書館は、現在も関係者から広く利用していただいています。  定年後は5年間の継続雇用となり、調査研究報告書の校閲、教育講座の受付や試験の監督などに従事する。図書館の業務も引き続き担当して後進の育成にも力を注いだ。「コツコツ」という言葉は片桐さんのためにある。 生涯現役こそ人生の喜び  もし、高年齢者雇用安定法の改正がもっと早くに行われていれば、65歳以降も同じ職場で働かせてもらえていたかもしれません。しかし、現実問題としては65歳で退職し、「さてどうしようか」と思案に暮れました。もちろん、老後の生活を楽しむ道を選ぶこともできましたが、働きたいという気持ちは一向に衰えることがなかったのです。  ただ、家庭の事情で親しい人を看病する必要に迫られ、1年間はそのことにたずさわりました。その人の容体が次第によくなってきたのを見計らい、シルバー人材センターに登録して、保育園に通う子どもたちの見守りの仕事を2年ほど続けました。子どもたちは可愛いですし、だれかの役に立っているという喜びは大きいのですが、やはりこれまでの技術を活かした仕事に就きたいという願いは捨て切れませんでした。  そんなジレンマに悶々としていたときに、前の職場の後輩から月刊誌の校閲・校正の仕事を紹介されました。幸いその月刊誌の性格上、校閲では私の経験を活かせると思い、二つ返事で引き受けました。  現在は、月刊誌の最初の段階(初校)の校閲や色校正を担当しています。校正の仕事は、さまざまな文章に触れるなかで多くのことを学べますし、視野も広がります。70歳を過ぎて大好きな仕事を続けていられることに感謝しかありません。  自分はどうして生涯現役で働くことを強く望むのかをあらためて考えてみると、一つには経済的理由があります。私たちの世代は比較的年金は恵まれていますが、昨今の物価高を考えると、安定した生活を送るためには年金以外に収入を得る道の確保が必要かと思います。  しかし、経済的理由以上に大きいのは、やはり自らの経験やスキルを後進に伝えたいという思いです。だれかに伝えることが社会貢献につながると信じています。  早々にリタイアした同世代の仲間たちには、「せっかくの経験やスキルを眠らせないで」といい続けたいと思います。  最後に若い人たちへ、私からのメッセージです。不安な時代だからこそ「今日できることは今日やっておくこと」を提唱します。また、職場で研修などの機会があれば、好機ととらえ積極的に参加しましょう。さらに一つの専門にこだわらず、自分の間口を広げてください。すべての経験は必ず後の自分の力になり、そのずっと先に生涯現役の道が待っています。 【P46-49】 高齢社員活躍のキーマン 管理職支援をはじめよう! 株式会社新経営サービス 人材開発部 シニアコンサルタント 岡野 隆宏  役職定年や定年後再雇用により、かつての上司だった高齢社員が部下となるケースなど、逆転する人間関係に戸惑いながら業務にあたっている管理職は少なくありません。しかし、豊富な知識や経験を持つ高齢社員にその能力を発揮してもらい、戦力として活躍してもらうためには、管理職の役割が重要なのはいうまでもありません。高齢者雇用を推進するうえで重要なキーマンである管理職の支援のあり方について解説する当連載も、今回が最終回です。 最終回 年下上司からのアプローチ方法A 1 はじめに  前回は高齢社員の活性化に向けた育成アプローチに関して、年下上司が保有すべき観点をご紹介しました。その内容に続き、今回は1on1ミーティング(以下、「1on1」)を中心としたコミュニケーションの場面で活用できる具体的手法をお伝えします。 2 傾聴(1)〜アクティブ・リスニング  対話をするときには、伝え手として相手に伝わりやすい、相手が理解できる話し方が求められます。しかし、同様に話の聴き方も重要な要素といえます。  みなさんは、話をしている際に「相手はきちんと自分の話を聴いてくれているのかなあ…」と不安になったご経験はありませんか?例えば、話をしているときに相手が ・スマートフォンを操作している… ・よそ見をしている… ・腕組みしながらしかめっ面をしている… ・話を最後まで聴かないうちに口をはさんでくる…  このような態度で自分の話を聴かれても、 「しっかりとコミュニケーションを図れた」という心境には至らないでしょう。こうして考えてみると、話の聴き方も対話の際には重要な要素であることがわかります。  話の聴き方においては、「アクティブ・リスニング(積極的傾聴法)」という効果的なコミュニケーション技法があります。これは、アメリカの臨床心理学者であったカール・ロジャーズが提唱したコミュニケーション技法の一つとして知られています。  具体的には、以下のようなことを念頭に置き、コミュニケーションの促進を図ります。 @共感……相手を尊重する気持ちで、相手が話したい内容をそのまま聴き、それが自分にきちんと伝わっていることを相手に伝えながら聞く A受容……相手や話の内容を否定せず、ありのままを受け入れる B内面・外面の一致……見せかけの姿勢で聴くのではなく、誠実に、気持ちと態度が一致している状態で聴く  これらを意識しながら、 ・身体を相手の方に向ける ・相手の目を見る ・うなずく ・あいづちを打つ などを心がけ、しっかり聴こうとしている態度を示します。  また、もう一歩ふみ込み、 ・聴いた内容をいい返す(オウム返し) ・質問して確認する(「いまの話は、○○ということでよいのでしょうか?」) ・同意する(「たしかに、その通りですね」) ・整理する(「ここまでの内容は、Aということと、Bということが必要だという話ですね」) といった返しを行い、相手の話がしっかり理解できていることを伝えます。  アクティブ・リスニングを行うことによって、相手が感情的になったり、自己防衛的な態度を取ることが減り、心を開いて対話するように変化していきます。  「1on1」では言葉通り1対1で対話をするので、アクティブ・リスニングが効果的です。これをくり返すなかで高齢社員には「年下上司は自分のことを受け入れてくれている」という安心感が生まれます。小さなことのように思えるかもしれませんが、この傾聴姿勢を示すことが年上部下との信頼構築に大きな影響を与えます。 3 傾聴(2)〜ノンバーバル・コミュニケーション  コミュニケーションといえば、多くの人たちが「言葉による意思疎通」を連想されるのではないでしょうか。たしかに私たちは、言葉を使って意思疎通を図ります。  しかし、みなさんは ・自分の話を聴いている相手の表情が気になった ・相手が身振り手振りをつけて話していたため、感情がよく伝わってきた ・相手から声のトーンに強弱のある話し方をされたことで、聴きやすく感じた といった経験はありませんか。これらは言葉そのものではなく、言葉以外の要素に意識が向いたことを表しています。  コミュニケーションは、「言葉」によるものと、「言葉以外」によるものの2種類があるといわれます。「言葉」によるコミュニケーションは「バーバル(言語)・コミュニケーション」、「言葉以外」のコミュニケーションは「ノンバーバル(非言語)・コミュニケーション」と呼ばれます。  「ノンバーバル・コミュニケーション」は、「視覚情報(目で確認するコミュニケーション)」と「聴覚情報(耳で確認するコミュニケーション)」の二つに分類されます。 ●「ノンバーバル・コミュニケーション」の例 ・視覚情報…服装、風貌、表情、視線、身振り手振り、など ・聴覚情報…声の抑揚、アクセント、リズム、明暗、話すスピード、など  私たちは意識的に、ときには無意識的にこれら2種類のコミュニケーションを使いながら、考えや感情のやり取りをしています。先述のような、身振り手振りを交える、話し方に抑揚をつけて意図や想いをより正確に伝えようとする、などが該当します。  もし「1on1ミーティング」において、年下上司が目を合わせない(もしくはうなずかない)ならば、たとえ年上でも部下の立場になれば安心して話せない、表情で意向を忖度して自分の意見・本音をいわなくなり、場合によってはネガティブな心理状態に陥る、といったことが考えられます。  コミュニケーションは、単に言葉を使って会話することだけではなく、話し手と聴き手の双方がさまざまな手段を使って意思疎通を図る行為です。「バーバル・コミュニケーション」と同時に「ノンバーバル・コミュニケーション」にも気を配り、良好な関係構築につなげたいものです。 4 フィードバック  フィードバックとは「相手の言動に関して、自分が感じた印象や感想を本人に伝えること」をさします。年上部下が自分の現状や周囲への影響度合いを把握し、長所伸展・短所改善に向き合うためのサポートがフィードバックの目的です。よって、ここに年下上司の私心が入ることは好ましくありません。あくまでも高齢社員のためであり、真に成長を願う動機からの行為といえます。  また「フィードバック」という言葉を耳にすると、多くの方々が改善に向けたマイナスのフィードバックを連想されます。もちろん状況に応じてこれは必要です。しかしそれだけではなく、長所や善行にも着目し、プラスのフィードバックも心がけるべきでしょう。  フィードバックを行う際の具体的なポイントとしては、以下のような点があげられます。 ■三つの観点をおさえる〜「場面」、「行為(言動)」、「影響」  フィードバックは、シンプルに三つの項目を伝えることで成立します。まずは「どのような『場面』でのことか?」、二つ目は「どのような『行為』のことか?」、最後は「どのような『影響』を与えたか?」という3点です。  例えば、次のようなフィードバックを行ったとします。 ・あなたが会議中に ← 会議という「場面」 ・参加者の発言内容を板書してくれましたね ← 板書という「行為」 ・それによってみんなの理解が促進され、会議がスムーズに進みました ← スムーズに進んだという「影響」  この場合、三つの観点をおさえることで、プラスのフィードバックが成立しています。 ■「Iメッセージ」を活用する  「Youメッセージ」という相手を主体にした表現がありますが、ときに自分を主体にした「Iメッセージ」を活用することで、年下上司の言葉にインパクトを与えることができます。 <例> ・Youメッセージ → 「○○さん、がんばりましたねぇ…」 ・Iメッセージ → 「○○さんが努力されたことで、私もうれしく思います」  フィードバックされる側にすると、「Iメッセージ」で伝えられる方が自分の言動などが相手の心に響いた感じが強く、部下もうれしさや反省の感情が増すという作用が働きます。 ■言葉の定義を一致させる  お互いの言葉の定義(何をさしているのか)が一致していない状態もあり、ときにフィードバックしても話がかみ合わないことがあります。「相手が受けとめた内容が、コミュニケーションの結果である」といわれます。コミュニケーションを図る際にどう伝えるか≠ヘ重要です。しかしときにはどう伝わっているか≠ニいうことにより意識を置き、自分の意図が正しく理解されているかを確認することも必要です。 ■フォローを忘れない  年下上司はフィードバックをした後、その内容を時間の経過とともに忘れてしまっている、ということが意外に多くあります。しかし、フィードバックされた年上部下はその内容を念頭に置き、伸展や改善に向けた活動を行います。  上司がそれを意識せず、取組みのフォローをしなければ指導としては不十分でしょう。そしてこのような状況になると、上司・部下間の信頼関係が損なわれ、高齢社員のモチベーションダウンも懸念されます。  人の成長にはさまざまな「気づき」が必要です。しかしその「気づき」は、プラス・マイナスにかかわらず、他者から伝えられることで得られる「気づき」が大半です。だからこそ、フィードバックが重要となります。  以前、私は次のような言葉を教わりました。「フィードバックしないことは罪である。フィードバックしない上司は悪である」。この言葉にフィードバックの重要性が集約されていると痛感させられました。「1on1」で事の大小を問わず、感じたことを部下の方々にフィードバックし、成長へとリードしてあげましょう。 5 マインドセット  「マインドセット」という言葉があります。人はさまざまな経験から、自分の価値観や信念、また思考習慣や思い込みなどが固定化される、という意味の言葉です。これらを基に、人は自分なりの基準で物事を考える傾向が強化されます。これがプラスに作用する場合はよいのですが、マイナスに働いてしまう場合があり、それが人の成長を阻害してしまうケースがあります。このマイナスを回避するためには、現状のマインドセットに新たな視点を加え、マイナスの思考やそれにともなう行動をプラスに好転させる必要があります。  ただ、人は自力で思考習慣を変えたり、思い込みや固定観念を排除することは非常にむずかしいといわれます。そのため、多くの場合は先述した他者からのフィードバックやアドバイスなど、客観的な立場からのサポートを必要とします。  いいかえれば、これが「1on1」における気づきの促進であり、年下上司が高齢社員に行うことのねらいといえます。  「1on1」に関しては、ときに部下の方々から ・単にコーチングスキルで詰め寄られるだけで、憂鬱になる… ・雑談だけで意味がない、時間の無駄でしかない… ・部下のための時間といいつつ、年下上司の話をひたすら聴く時間にすぎない… といった不満の声を耳にします。  しかし、これらは当然ながら「1on1」のねらいではありません。高齢社員を理解し、日々の言動のなかから課題をつかみ、よりよい方向へと導く考え方や行動を伝える取組みです。  人と人は、信頼関係のうえに成り立っていると思います。「1on1」を通じてマインドセットに好影響を与えることで、高齢社員は、年下上司に信頼を寄せるようになってきます。結果、高齢社員の活性化が図られ、成果創出に導けるのではないでしょうか。 ◆  ◆  ◆  3回にわたり、高齢社員の活躍をテーマに管理職の支援方法について触れてきました。微力ながら、このメッセージが読者のみなさんのお役に立てることを願っています。 ★本連載の第1回から最終回までを、当機構ホームページでまとめてお読みいただけます https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/series.html 写真のキャプション アクティブ・リスニングを意識した面談を 面談時には、ノンバーバル・コミュニケーションにも気を配りたい 【P50-53】 知っておきたい 労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第59回 定年後再雇用と同一労働同一賃金(手当の趣旨)、配転命令違反と懲戒解雇 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 定年後再雇用者には、定年前と業務内容や責任の程度が大きく変われば、各種手当を支給しなくてもよいのでしょうか  定年後再雇用者について、嘱託社員として基本給の減額、賞与の不支給、各種手当の不支給などを想定しています。  業務の内容や責任の程度を大きく変更することで、これらの条件で雇用を継続することはできるでしょうか。 A  基本給の減額や賞与の不支給に関しては、業務内容や責任の程度のみではなく、人材活用の仕組み自体の相違点を明らかにしておく必要があります。また、手当については、業務内容や責任の程度が相違したとしても同趣旨の事情があてはまるかぎりは、同一賃金を維持することが適切です。 1 同一労働同一賃金に関する法令と裁判例  同一労働同一賃金に関して、現在は、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」の第8条において「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない」と定められています(いわゆる「均衡待遇」の規定)。  また、職務内容が通常の労働者と同一の場合については、同法第9条が「事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第11条第1項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない」と定めています(いわゆる「均等待遇」の規定)。  前者と後者の相違は、不合理な相違がないかという観点からバランス(均衡)を保つことが求められるか、それとも差別的な取扱いを一律禁止して均等な待遇を求められるかという点であり、適用される要件の相違は、「通常の労働者との同一性」にあります。  したがって、現在の法律に照らすと、職務の内容と配置が同一である場合には、均等待遇の規定が適用されることから差異を設けることができなくなるため、定年後再雇用者と正社員の間では職務内容の差異があるか否かが重要となります。  なお、均衡待遇の規定が適用される場合については、これまでの判例において、「職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはなら」ず、「有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件に相違があり得ることを前提に、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情(以下、「職務の内容等」)を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならない」と解釈されており、賃金項目ごとの相違については、「両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当」という基準が確立しています(最高裁平成30年6月1日判決等)。  そのため、賃金総額でのバランスのみならず、賃金項目ごとの相違点の説明が合理的に行えるか否かが重要と考えられています。 2 手当における相違が違法とされた裁判例  定年後再雇用における同一労働同一賃金に関する裁判例において、基本給および賞与については相違の合理性を認めつつ、家族手当や住宅手当については相違の合理性を否定した裁判例を紹介します(神戸地裁姫路支部令和3年3月22日判決)。  事案の概要としては、正社員には、一般コースと呼ばれる人事考課による昇給を前提とした職能資格等級制度による長期雇用が想定されていた一方で、定年後再雇用者については、嘱託社員として再雇用されるものの、人事考課による昇給などは想定されていませんでしたが、担当役員の推薦を前提に、高卒中途採用レベルの能力診断のための試験などに合格するなど、一定の要件を充足したときには年俸社員に登用される制度が用意されており、年俸社員は嘱託社員と比較して賃金の総額は高く設定されていました。なお、業務内容は同一の業務に従事することはあったものの、責任の程度は一般コースの正社員の方が強く求められる状況でしたが、いずれの社員も転勤などが行われることは想定されていませんでした。  このような企業において、基本給および賞与に関しては、人材活用の仕組みの相違を主な理由として、その差異は不合理ではないと判断されました。人材活用の仕組みの主な内容は、人事考課を前提とした職能資格等級制度の適用があるか否かですが、それに加えて嘱託社員に年俸社員への登用の機会を与えていたことも考慮されています。  一方で、家族手当と住宅手当については、扶養者がいることによる負担の増加はいずれの社員にとっても変わらないこと、転居をともなう異動の予定がないことも相違ないことから、不合理な差異であり、差額の支払いが命じられています。  なお、使用者は、一般コースの正社員への支給により有為な人材の確保や長期定着を図る趣旨があるとの主張をしていましたが、この主張は排斥されています。このような理由は、どのような手当にもあてはめることができ、これだけの理由をもって手当の支給の有無の差異を説明しきることはできないと考えておくべきでしょう。 Q2 配置転換に応じない社員を懲戒解雇することはできますか  拠点の閉鎖にともない、配置転換を要する人員がいるのですが、いかに説明をしても納得してもらえず、配転命令をするほかなくなりました。命令後もこれに応じないことから、懲戒解雇を行おうと思うのですが、どのような点に留意する必要がありますか? A  配転命令の有効性が維持できるかを検討したうえで、有効と考えられる場合には、懲戒処分の手続をふまえて、解雇を実施する必要があります。解雇権濫用とならないように、慎重に行うことが求められます。 1 配置転換命令  企業は、労働者に対する人事権を有しており、事業所や部門の配置に関して、配置転換を命じることが可能と考えられています。  就業規則において配置転換の根拠規定があることが望ましいですが、労働契約において特段の限定がなされておらず、実際に広く配置転換等が行われている場合には、労働契約に黙示的に合意されていると評価される場合もあります。  配置転換には、業務内容の変更(部署の変更)と勤務場所の変更の2種類があり、これらが複合的に行われることもあります(業務内容と勤務場所の両方が変更される)。  一般的には、勤務場所の変更により転居をともなう場合は転勤と呼ばれ、事業所内での部署の変更は配置転換と呼ばれることが多いといわれます。  いずれにせよ、労働者にとっては、従前の労働環境からの変化をともなうことから、使用者による配置転換の人事権行使を完全に自由にすることはできません。 2 配置転換命令の制限  配置転換命令の制限については、合意による制限と判例により制限されている限界があります。  まず、合意による制限は2種類に分類することが可能であり、業務の内容の変更を制限する職種限定合意と、勤務場所の変更を制限する勤務地の限定合意です。これらについては、労働条件通知書や雇用契約書に勤務場所や業務内容が明記されているだけでは足りず、これらの記載以外に特段の合意が明示されていることが必要と考えられます。これらの書面に明記される勤務場所や業務内容は、労働基準法において明記することを求められているから記載するほかないものであり、使用者と労働者の間の特別な合意としては位置づけられないと考えられます。例外的に、職種限定の合意が認められるとすれば、特殊な資格を有する者である場合(例えば、検査技師や看護師など)や専門性が高い業務(例えば、大学教授など)に該当する場合とされています。  これらの合意がある場合には、人事権の行使による一方的な配置転換を行うことはできず、本人の同意を得て行うことが必要となります。  次に、判例による配置転換命令の限界としては、最高裁昭和61年7月14日判決において、「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき@業務上の必要性が存しない場合又はA業務上の必要性が存する場合であつても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもつてなされたものであるとき若しくはB労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべき」と判断されています(文中の数字は筆者による追加)。  したがって、@業務上の必要性がない場合は無効となるほか、業務上の必要性があるとしても、A不当な動機・目的(典型的には、配置転換ではなく退職への追い込みを主目的としている場合や内部通報者に対する配置転換などが想定されます)をもってなされたものであるときや、B通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときは無効となるとされています。なお、育児介護休業法に基づく子や家族への配慮のほか、労働契約法第3条3項が仕事と生活の調和を求めていることは、労働者に生じる不利益の程度を検討するにあたって考慮されるべき事情と考えられています。  このような要件に照らして、配置転換の命令が有効になされているかどうかを確認し、有効な命令に対する違反に対しては、懲戒解雇をもって臨むことも検討することができます。 3 配置転換命令違反に対する解雇が有効とされた裁判例  最近の裁判例において、配置転換命令への拒絶を理由として、企業秩序を乱すまたはそのおそれがあることを理由とした懲戒解雇が有効と判断された事例を紹介します(大阪地裁令和3年11月29日判決)。  事案の概要としては、企業が事業所の閉鎖にともない希望退職者を募る一環として転職支援等を行う面談をしていたところ、退職を希望しない労働者には配置転換を行う旨の説明を行い、配置転換の必要性を伝えていたところ、労働者から@息子が自家中毒であり、頻繁に迎えに行く必要があるほか、転居が症状に悪影響を与えるおそれがあるとの医師の診断があること、A母親の体調も不調であり、介護を要する状況にあることなどを理由に、配置転換を拒絶しましたが、使用者は、これらの事情をふまえてもなお、配置転換の必要があるとして命じたところ、これに応じなかったため、最終的には懲戒解雇に至ったという事案です。  この事案における配置転換命令に至るまでの経緯の特殊性としては、希望退職者を募ってもいたことから、その説明内容が、労働者からは退職勧奨の面談と受け取られており、退職勧奨を拒否することをくり返していたことから、使用者が配置転換の説明に明確に移行したにもかかわらず、その後も説明を受けることを拒絶し続け、労働者からも@息子の自家中毒やA母親の体調にかかわる事情を説明していなかったという点があげられます。  判決では、労働者からの情報提供がなかったことについて、使用者が「配転に応じることができない理由を聴取する機会を設けようとしたにもかかわらず、原告が自ら説明の機会を放棄したことによるものというほかない」として、「本件配転命令を発出した時点において認識していた事情を基に、本件配転命令の有効性を判断することが相当というべき」と判断しています。その結果、原告が複数の医師から診断書を得ており、「生活環境の変化が患児にとって心的ストレスになりうるため、症状増悪につながる可能性は否定できず、可能であるなら避けることがのぞましい」などと記載されていた事情も裁判所は考慮することなく、配置転換命令は有効と判断されました。  使用者としては、通常甘受すべき不利益を著しく超える事情がないかを正確に把握する努力を尽くす必要がある一方で、これに対する労働者からの情報提供がない場合には、使用者が得ることができている情報のみに依拠して配置転換命令を発することも可能と考えられます。  なお、当該裁判例では、配置転換命令が有効である以上、懲戒委員会などでの議論をふまえた懲戒解雇が有効と判断されています。 【P54-55】 活き活き働くための高齢者の健康ライフ Healthy Life for the elderly  70歳までの就業が企業の努力義務となり、時代はまさに「生涯現役時代」を迎えようとしています。高齢者に元気に働き続けてもらうためには、何より「健康」が欠かせません。  働く高齢者の「健康」について、坂根直樹先生が解説します。 坂根 直樹 第5回 血圧、意識してますか? 血圧を水圧に換算すると  高血圧は、健康寿命と深く関係しています。自覚症状がないからと、高血圧を放置していると動脈硬化が進み、脳卒中や心疾患、さらには慢性腎臓病などを起こす危険性が高まります。現在、日本の高血圧人口は約4300万人と推定されています。ところが、降圧薬を飲んで血圧管理が上手にできているのは約1200万人に過ぎず、残りの約3100万人が管理不良で、そのうち約1250万人は降圧薬を飲んでいるのに血圧が140/90mmHg未満にコントロールできていません(図表1)。一方、約450万人は高血圧を自覚しているにもかかわらず未治療のままで、約1400万人は高血圧であることを自覚していません※1。  血圧には最高血圧(収縮期血圧)と最低血圧(拡張期血圧)があります。心臓が収縮したときに血管にかかる血圧が最高血圧で、心臓が拡張したときにかかる血圧が最低血圧です(図表2)。血圧の単位は「mmHg(水銀柱ミリメートル)」で表されます。水銀の密度は水の密度の13.6倍ですから、140mmHgの血圧を水圧に換算すると約1.9mの高さまで水が吹き上がる強さに相当します(図表3)。かなりの水圧が血管にダメージを与えていることが想像できますね。  高血圧予防教室では腕に巻くマンシェットを140mmHg に設定して参加者に触ってもらい、高血圧の状態を体験してもらうことがあります。そうすると、「自転車のタイヤがパンパンになったみたい!」と感想をもらす人がいます。このように血圧が血管に及ぼす影響がイメージできれば、血圧を管理しなければという気持ちが高まるかと思います。 白衣高血圧と仮面高血圧  血圧にもいろいろな程度があります。「最高血圧(収縮期血圧)が120mmHgかつ最低血圧(拡張期血圧)が80mmHg」となるのが正常血圧です(図表4)。なかには、「家庭で測る血圧(家庭血圧)は正常だが、診療時の緊張などにより病院で測ると血圧が高く出る」という人がいます。これを「白衣高血圧」といいます。その逆に、病院では血圧140/90mmHg未満であるにもかかわらず、家庭血圧が135/85mmHg以上になることもあります。これは「仮面高血圧」といい、心血管リスクが高い状態です。特に、起床後1〜2時間以内の血圧が高くなる早朝高血圧は要注意です。そのため、朝と晩に血圧を測定しておくことをすすめています。 高血圧予防、五つのポイント  血圧をコントロールするポイントは、減塩、カリウム摂取、減量、節酒、そして運動です。高血圧予防のための減塩目標は1日6g以下になります。しかし、この目標は少しわかりにくいので、「1食2g」と覚えておくと便利です。ぜひ、食品の栄養成分表示の食塩相当量の欄を確認してみてください。  積極的なカリウム摂取はナトリウムの排泄に役立ちます。カリウム制限がない人なら、野菜350g(1日に5皿)と果物200g(握りこぶし1個分)が摂取量の目標になります。例えば、最高血圧は5g弱の減塩で約4mmHg減、野菜・果物を積極的に摂る健康的な食事で約5mmHg減、体重を4s減量すれば約4mmHg減、30〜60分の有酸素運動で約4mmHg減、8割弱の節酒で約3mmHg減の効果が期待されます※1。  また、有酸素運動だけでなく、スクワット・腹筋・腕立て伏せなどの筋トレも降圧効果があります。ただし、息をこらえながら行うと血圧が上昇する可能性があるので「1、2、3…」と声を出して行いましょう。  さらに、降圧にはアイソメトリックトレーニング(等尺性運動)の一つであるハンドグリップ法がおすすめです。やり方は最大握力の3割のパワーで「2分ハンドグリップを握り、その後1分休む」を左右交互に2回ずつ行います※2。このハンドグリップ法を行うことで全身に一酸化窒素(NO)がまわり、血管を拡張させ、血圧が低下します。最近では、この変法として最大握力のパワーの6割を30秒で8回行う方法も試されています※3。  「運動する時間がなかなかとれない」という人は、100円均一ショップなどで、10kg(最大握力が30kgの人なら)のハンドグリップを購入して試してみるのもよいかもしれません。 ※1 高血圧治療ガイドライン2019 https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_noprint.pdf ※2 Pagonas N, Vlatsas S, Bauer F, Seibert FS, Zidek W, Babel N, Schlattmann P, Westhoff TH. Aerobic versus isometric handgrip exercise in hypertension: a randomized controlled trial. J Hypertens. 2017 Nov;35(11):2199-2206. doi: 10.1097/HJH.0000000000001445. PMID:28622156. ※3 Almeida JPAS, Bessa M, Lopes LTP, Goncalves A, Roever L, Zanetti HR. Isometric handgrip exercise training reduces resting systolic blood pressure but does not interfere with diastolic blood pressure and heart rate variability in hypertensive subjects: a systematic review and meta-analysis of randomized clinical trials. Hypertens Res. 2021 Sep;44(9):1205-1212. doi: 10.1038/s41440-021-00681-7. Epub 2021 Jun 17. PMID: 34140663. 図表1 日本の高血圧人口 日本の総人口:約12,690万人 高血圧者 約4,300万人 未治療、または高血圧を自覚していない人 約1,850万人 降圧薬を飲んでいるが、血圧をコントロールできていない人 約1,250万人 降圧薬など適切な血圧管理ができている人 約1,200万人 ※『高血圧治療ガイドライン2019』(日本高血圧学会)をもとに筆者作成 図表2 最高血圧と最低血圧 最高血圧 (収縮期血圧) 最低血圧 (拡張期血圧) 図表3 血圧を水圧に換算すると 最高血圧 140mmHg 水圧 1.9m 1.9m 図表4 成人における血圧値の分類(mmHg) 分類 診察室血圧 家庭血圧 収縮期血圧 血圧 拡張期 血圧 収縮期血圧 血圧 拡張期 血圧 正常血圧 <120 かつ <80 <115 かつ <75 正常高値血圧 120〜129 かつ <80 115〜124 かつ <75 高値血圧 130〜139 かつ / または 80〜89 125〜134 かつ / または 75〜84 T度高血圧 140〜159 かつ / または 90〜99 135〜144 かつ / または 85〜89 U度高血圧 160〜179 かつ / または 100〜109 145〜159 かつ / または 90〜99 V度高血圧 ≧180 かつ / または ≧110 ≧160 かつ / または ≧100 (孤立性) 収縮期高血圧 ≧140 かつ <90 ≧135 かつ <85 出典:『高血圧治療ガイドライン2019』(日本高血圧学会) 【P56-57】 いまさら聞けない 人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第33回 「ハラスメント」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回はハラスメントについて取り上げます。ハラスメントとは、相手が嫌がり、精神的苦痛を感じる言動をすることで、個人としての尊厳や人格を不当に傷つける行為をさします。 職場における代表的なハラスメント  日常的にさまざまなハラスメントの問題が報道で取り上げられるなど、広く一般化した用語ではありますが、本稿では職場における代表的なハラスメントについて取り上げます。 ・パワーハラスメント(パワハラ)…職場において行われる「優越的な関係を背景にした言動」であり、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」により、「労働者の就業環境が害されるもの」の三つのすべての要素を満たすものをさします。該当する言動には@身体的な攻撃、A精神的な攻撃、B人間関係からの切り離し、C過大な要求、D過小な要求、E個の侵害といったものがあります。上司からの必要以上の執拗(しつよう)な叱責により部下の業務遂行に支障をきたすといったものが一般的な例になりますが、上司よりも豊富な知識や経験を有する同僚・部下から上司に対する同様の行為もパワハラに該当します。 ・セクシュアルハラスメント(セクハラ)…職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることをさします。性的関係の強要や必要なく身体に触れること、性的な内容の発言をすることなどが例としてあげられますが、異性に対するものだけでなく、同性に対する言動も対象となります。また、性的指向(恋愛・性愛がいずれの性別を対象とするか)や性自認(性別に対する自己認識)に関する言動もセクハラに該当することを見落とさないようにしたいところです。 ・妊娠・出産・育児休業等ハラスメント…妊娠・出産した女性労働者や育児休業などを申し出・取得した男女労働者の就業環境が害されることで、マタニティハラスメント(マタハラ)と呼ばれることもあります。妊娠・出産、育児休業などを理由として、解雇、不利益な異動、減給、降格など不利益な取扱いを行うことは、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法などで禁止されています。また、これらの行為以外でも、休業制度や育児時短の利用の拒否や嫌がらせの言動などもハラスメントに該当します。近年は男性社員からの当該制度の活用の申し出も増えていますが、拒否や嫌がらせはパタニティハラスメント(パタハラ)と呼ばれている点も押さえておきたいところです。  ここでの定義や記載は厚生労働省のハラスメント対策総合情報サイト「あかるい職場応援団※」を主に参考にしています。職場でのハラスメントを理解するための動画や裁判例、他社の取組み事例、Q&Aなどがわかりやすく網羅されているため、より深い理解のために参照をおすすめします。 ハラスメント対策は事業主の責務  ハラスメントの放置により、最悪なケースでは自殺に至る事案が実際に何度も起こり、ハラスメントは会社で必ず対応していくべき重要課題として位置づけられるようになりました。そこで、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法が改正、2020(令和2)年6月に施行され、ハラスメント防止措置が事業主の責務となり、2022年4月にはパワーハラスメントの防止が中小企業を含めて全企業に義務化されました。  これにより事業主は、「事業主の方針などの明確化およびその周知・啓発(職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針化、行為者に対する対処内容の就業規則等文書への記載など)」、「相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備(相談窓口の設置、対応の体制など)」、「職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応(事実関係の確認、被害者に対する配慮、行為者に対する措置、再発防止措置など)」、「あわせて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取扱いの禁止など)」を必ず行わなければならないとされました。  それでは、これらの措置を通してハラスメントの実態はどのように変化したのでしょうか。2020年6月の関係法律の施行1年後に実施した「職場のハラスメント防止に関するアンケート結果(2021年12月14日)」(日本経済団体連合会)を参照するとその様子が垣間みえます。5年前と比較した相談件数について、増えたか減ったかの比較でみていくと、パワハラ44.0%/16.3%(増えた/減った。以下同)、セクハラ11.5%/28.8%、妊娠・出産に対するハラスメント3.0%/6.8%、育児休業・介護休業などに関するハラスメントは4.0%/5.5%と、パワハラ以外は「増えた」より「減った」が多い結果になっています。ただし、パワハラをはじめとして相談件数が増えたのは事案の純増だけでなく、法施行や相談窓口の設置、啓蒙活動などにより以前より相談しやすくなったという側面もあるようです。  最後に、今後必要となるハラスメント防止・対応の課題についてみていきます。同アンケートで課題の上位三つとして「コミュニケーション不足」、「世代間ギャップ・価値観の違い」、「ハラスメントの理解不足」があげられています。同アンケートにおいてハラスメントに関する研修を行っていると回答した企業は6〜7割に上っており、基本的なハラスメントに対する理解促進は引き続き進んでいくことが期待できます。しかし、今後は世代間ギャップ・価値観の違いにより、注意を向けていく必要があると考えます。近年、ハラスメントや性別、働き方に関する価値観が急速に変化しており、昔は許されていたと思われていた言動が、近年では問題視されることが増えています。これは政治家などの公人の言動でも、しばしば社会問題として取り上げられていることからもわかります。自らの意識だけで価値観を一気に変えるのはむずかしいため、常に世間の動向や他社のケースなどに目を向け、定期的に情報提供や研修、多様なメンバーでのコミュニケーション活性化策を実施するなど、企業としての継続的な取組みが重要と考えます。 * * * *   次回は、「採用」について解説します。 ※「あかるい職場応援団」……https://www.no-harassment.mhlw.go.jp 【P58】 日本史にみる長寿食 FOOD 353 初ガツオに辛子みそ 食文化史研究家● 永山久夫 初ガツオに熱狂した江戸っ子  江戸っ子は、初物に熱狂したといわれています。その代表といえるのが、春の終わりから初夏にかけて、江戸の町に姿をあらわす初ガツオ。  目には青葉 山ホトトギス 初ガツオ  山口(やまぐち)素堂(そどう)(1642〜1716)の有名な俳句で、江戸の町の初夏の風景が目に浮かんでくるような傑作です。  たしかに、江戸っ子を熱狂させた、この藍縞(あいじま)の魚(カツオのこと)は、季節の到来を告げる味が爽快で、無理をしてでも食べる価値があり、それも他人に先がけて口にしなければ、自慢できません。  お金持ちの食通になると、帰港する漁船から大金をはたいて買い上げ、生きたままのカツオをたずさえて、いち早く江戸まで早船を突っ走らせたというほどです。  とにかく初ガツオは高価を極め、天保の時代(1830 〜 1844)で、1本が2両以上もしたと、当時の記録にあり、現在に換算すると、ざっと15万円くらいになるから驚きです。 「カツオのたたき」の知恵  次のような川柳もあります。  上になき 下も涙の 辛子みそ  空ではホトトギスが鳴いています。その下の長屋では、男が分厚く切ったカツオの刺身に、辛子みそをたっぷりつけて食べています。ところが、そのあまりの辛さに、涙が出て止まりません。長屋の住人が食べるような安価なカツオは、生臭さが強くて、たれをたっぷりつけないと、食べられなかったのです。お金持ちは、辛子みそではなく、わさび醤油をつけて食べていました。  カツオをより美味にして食べる調理法に「カツオのたたき」があります。塩をふったカツオをさっと焼き、薬味を合わせて食べる高知県の郷土料理。身に独特のくせのあるカツオを味よく食べる方法として、全国に広がりました。火で皮に軽いこげめをつけ、醤油などの調味料をかけてたたき、味をなじませてから、ニンニクや青じそ、玉ねぎ、ワケギなどを添えて豪快に食べます。  カツオには、アンチエイジング成分がたっぷり。老化を防ぎ若さを保つアミノ酸バランスのよいタンパク質に、免疫力強化に役立つミネラルの亜鉛、それにビタミンD。若々しい表情の維持に役立つビタミンEなどです。  秋になると脂肪ののった「戻りガツオ」となり、初夏の爽快な味とはちがい、濃厚な味わいとなります。 【P59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「グッドキャリア企業アワード2022」受賞企業  厚生労働省は、「グッドキャリア企業アワード2022」の受賞企業16社を決定した。  「グッドキャリア企業アワード」は、従業員の自律的なキャリア形成支援について、ほかの模範となる取組みを行っている企業を表彰し、その理念や取組み内容などを広く発信することで、キャリア形成支援の重要性を普及・定着させることを目的としている。2012(平成24)年度から2015年度までは「キャリア支援企業表彰」として実施し、2016年度に「グッドキャリア企業アワード」に呼称を変更し、2021(令和3)年度までに87社を表彰している。  今回は、全国89社から応募があり、「大賞」(厚生労働大臣表彰)に5社、「イノベーション賞」(厚生労働省人材開発統括官表彰)に11社が選ばれた。 ◆大賞に選ばれた企業は以下の通り。 ・株式会社イデックスビジネスサービス 福岡県福岡市、その他の小売業(従業員数249人) ・えびの電子工業株式会社 宮崎県えびの市、電子部品・デバイス・電子回路製造業(同690人) ・トラスコ中山株式会社 東京都港区、機械器具卸売業(同2996人) ・株式会社ナンゴー 京都府宇治市、はん用機械器具製造業(同15人) ・雪印メグミルク株式会社 東京都新宿区、食料品製造業(同4221人) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_30058.html 厚生労働省 2022年度「安全優良職長厚生労働大臣顕彰」受賞者決定  厚生労働省は、2022(令和4)年度の「安全優良職長」として114人を、厚生労働大臣から顕彰することを決定した。「職長」とは、事業場で部下の作業員を直接指揮監督し、作業の安全確保・遂行に責任を持ち、第一線において「安全」を実現する監督者のこと。班長、作業長などとも呼ばれ、「安全のキーパーソン」といわれる。  この制度は、労働災害による休業4日以上の被災者数が約14万人を超えるなか、高い安全意識を持って適切な安全指導を実践してきた優秀な職長を顕彰することにより、その職長を中心とした事業場や地域における安全活動の活性化を図ることを目的に実施している。  顕彰基準は、原則として次に掲げるすべての事項に該当することとしている。 1.職長などとしての実務経験が10年以上であり、現在も当該職務に就いていること。 2.職長などとして担当した現場または部署において、顕彰年度の9月30日からさかのぼって過去5年以上、休業4日以上の災害が発生していないこと。 3.職務に必要な資格(免許、技能講習及び特別教育)を有するとともに、能力向上教育などの各種安全衛生教育を十分に受講し、安全管理、作業指揮などの能力が優秀であると認められていること。 4.安全管理に関する部下の指導教育または安全管理に関する知識・技能の普及や継承について積極的に活動していること。 総務省 2022年度「テレワーク先駆者百選総務大臣賞」  総務省は、2022年度「テレワーク先駆者」および「テレワーク先駆者百選」の対象者と、「テレワーク先駆者百選総務大臣賞」の受賞者を決定し、表彰した。  同省では、2015年度からテレワークの普及促進を目的として、テレワークの導入・活用を進めている企業・団体を「テレワーク先駆者」、十分な実績を持つ団体などを「テレワーク先駆者百選」として公表している。また、2016年度からは、テレワーク先駆者百選として公表した団体などのなかから、他団体が模範とすべき優れた取組みを行っている団体などに対し、総務大臣賞を授与している。  審査は、外部有識者などによる審査会を行い、その結果をふまえ、2022年度は新たに4団体を「テレワーク先駆者」、37団体を「テレワーク先駆者百選」と決定し、合計で「テレワーク先駆者」68団体、「テレワーク先駆者百選」381団体が認定となった。  また、「テレワーク先駆者百選総務大臣賞」として、次の6団体を決定した。 ・アルー株式会社 東京都、サービス業(従業員数156人) ・株式会社イマクリエ 東京都、サービス業(同38人) ・株式会社ジェニオ 兵庫県、情報通信業(同24人) ・ソフトバンク株式会社 東京都、情報通信業(同2万2137人) ・株式会社PHONE APPLI 東京都、情報通信業(同253人) ・株式会社リコー 東京都、製造業(同8780人) 【P60】 次号予告 5月号 特集 病気の治療を続けながら働ける会社へ リーダーズトーク 坂本貴志さん(リクルートワークス研究所 研究員/アナリスト) (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み 株式会社労働調査会までご連絡ください。 電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人 100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 田村泰朗……太陽生命保険株式会社取締役専務執行役員 丸山美幸……社会保険労務士 三宅有子……日本放送協会 メディア総局 第1制作センター(福祉)チーフ・リード 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●今号の第1特集は、「70歳就業時代の副業を考える」と題し、就業期間が長期化していくなかでの副業のあり方、生涯現役を見すえたキャリア形成のあり方などについて、企業事例を交えてお届けしました。  「副業」=「収入を増やす目的ですること」と考える人も多いと思いますが、今回の事例でご紹介した2社のように、異なる組織で仕事をすることは、仕事の幅を広げるだけではなく、それまでの職業人生のなかで自身がつちかってきた知識や技術、経験を整理し、自身の強みを理解することにもつながり、そしてそれは本業である自社で活躍するうえでも大きな武器となります。60歳を超えて、65歳、70歳と生涯現役で活躍していくためにも、シニア世代はもちろん、中堅・若手を含む全世代の副業を推進し、社員の豊かなキャリアの形成に努めていただければ幸いです。 ●第2特集では、昨年12月6日に開催された「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」の模様をお届けしました。70歳まで働ける職場・制度づくりにお役立てください。 『エルダー』読者のみなさまへ  2023年5月号は、大型連休の関係から、お手元への到着が通常よりも数日遅れることが見込まれます。ご不便をおかけしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。ご不明な点は編集部(企画部情報公開広報課、電話:043-213-6216)までおたずねください。 読者アンケートにご協力ください 回答はこちらから 公式ツイッター @JEED_elder 月刊エルダー4月号No.521 ●発行日−令和5年4月1日(第45巻 第4号 通巻521号) ●発行−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−企画部長 飯田 剛 編集人−企画部次長中上英二 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216 FAX 043(213)6556 (企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-929-3 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.326 データ分析を積み重ね品質と効率の向上に貢献 めっき技能士 山本(やまもと)豊(ゆたか)さん(60歳) 「不良品が出たら、現物を観察してその原因を探り、解決策を見つける。その積み重ねが、良品の継続的な生産につながります」 バンドマンを経て30歳を過ぎてめっき業界に  金属や樹脂などの表面を薄い金属膜で覆う技術である「めっき」は、対象となる部品に装飾性、防錆(ぼうせい)性、導電性など、さまざまな機能を持たせることができる。  東京都調布市に本社工場を構える京王電化工業株式会社は、電子機器のコネクターや自動車部品などに用いられる各種めっきを手がけている。同社の山本豊さんは、電気めっき工として2022(令和4)年度「卓越した技能者(現代の名工)」を受賞した。  山本さんは、バンド活動を経て、30歳を過ぎた1996(平成8)年に入社した。ものづくりが好きで、めっきのことはよくわからなかったものの、興味があったという。  「入社後に諸先輩から、一つひとつの作業に理屈があることをていねいに教えてもらいました。そのおかげで、計算することによってでき上がりを想定できることがわかりました。仕事を通じてめっきへの興味がより高まり、関連する書籍を探して知識の幅を広げるなど、いま思えば刺激的な日々でした」  以来、現場での経験を積み重ね、現在は製造部長として各ラインの生産管理をになう。  「薬品メーカーが定めためっき処理の基準はあるものの、量産に適したプロセスは自分たちで創意工夫しなければなりません。同じ品質を継続して効率よくできるようにプロセスを考えることが、私の主な役割になります」 最適なめっき工程を追求し世界初の技術開発にも貢献  同社の強みは、市場のニーズをつかみ、新たな機能を持っためっき技術をいち早く開発することだ。山本さんがたずさわったマグネシウム合金へのめっき技術もその一つ。マグネシウムは酸化しやすく、部品が入荷された時点ですでに表面に酸化膜(さび)ができている。めっき皮膜の安定した生成のためには、前工程として、酸化膜をめっきの厚みでカバーできる数ミクロン※1レベルで均一に除去する必要がある。そのために使用する薬品の濃度やpH※2などを調整し、量産化を実現させた。  また、山本さんは世界初の技術開発にも貢献している。それが三価クロムのバレルめっきだ。バレルめっきとは、対象物をバレルと呼ばれる網状の樽のような装置に入れ、めっき液のなかで回転させながらめっき処理する方法だ。もう一つの方法として、治具(ラック)に引っかけて行うラックめっきがあるが、バレルめっきの方が低コストで大量生産ができる。クロムへのめっきは従来、小さな部品を一つひとつ治具に固定するラック式で行われてきたが、山本さんたちはバレルの形状や電極の材質・形状・配置などを工夫することにより、約1年半をかけてバレル式の工法を編み出した。 データを分析し最適解を導き出す面白さ  新技術を開発できた一要因として、山本さんのデータ分析技術があげられる。例えば、三価クロムのバレルめっきでは、5種類の薬品の組合せ比率ごとに、めっきの生成スピードや外観の色などがどう変化するかを調べて比較し、最適な比率をみつけ出した。  こうした山本さんの技術は、通常の生産管理にも発揮される。同じめっき作業でも、受注数によって最適な生産条件は異なる。その条件を導き出す計算方法を考え、あらかじめパソコンに設定することで、受注数を入力すれば最適な生産条件を自動的に算出できるようにし、効率化に貢献している。  「いまの自分があるのは、どうしても出てしまう不良品に興味を持つことができたからです。なぜ不良品ができたのか、現物を観察し、どの工程に原因があったのかを探り、解決策を見つけることが面白く、やりがいにもなります。その積み重ねが、継続して良品を生産することにつながっています」  自身が先輩から学んできたように、山本さんも将来のめっき業界を背負っていく後輩たちに、自分の知識・経験を引き継いでもらえるよう、指導に力を注いでいる。 京王電化工業株式会社 TEL:042(483)1900 https://www.keio-denka.co.jp/ (撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) ※1 ミクロン:マイクロメートル(μm)。1ミクロン=1000分の1mm ※2 pH:水素イオン濃度指数。液体の性質(酸性・アルカリ性の度合い)を判断するための尺度 写真のキャプション 膜厚計で皮膜の厚さを測定する。めっきによる皮膜の厚さは品質の重要な指標の一つ。このほか、外観の色合いなども調べ、めっきの品質を確認する 1968(昭和43)年創業の京王電化工業株式会社。ベトナムにも工場を持つ 全自動のめっき装置を操作する。現在も半日は現場でめっき作業を行っている 製品の品質を検査する検査室。常にわかりやすい説明を心がけている 手動でのめっき作業。部品を引っかけたラックをめっき液に浸す 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回は身体を使った脳トレです。イラストでは簡単にみえますが、やってみると案外むずかしい。できなくてもスムーズにできるまでくり返しましょう。筋肉を動かす順序とタイミングを脳が獲得します。 第70回 脳トレ体操 今回は二つの脳トレ体操にチャレンジしましょう。 親指小指体操 @ 左右の手を握ります。 A 右手は小指を立て、左手は親指を立てます。 B 立てている指を同時に入れ替えます。右手は親指、左手は小指を立てます。 C AとBを交互にくり返します。リズミカルに、30秒ほど続けましょう。 グーパー体操 @ 右手をパーにして前に伸ばし、左手をグーにして胸元に引き寄せます。 A 左手をパーにして前に伸ばし、右手をグーにして胸元に引き寄せます。 B @とAをリズミカルに、くり返しましょう。 ※慣れてきたら4回目〜6回目は前の手をグーに、引き寄せる手をパーにしましょう。7回目〜9回目は前の手をパーに、引き寄せる手をグーにします。これを交互にくり返してみましょう。 チャレンジこそ脳への刺激になる  親指小指体操では、左右の手で異なる動きをすることで、目標を立てて遂行する能力にかかわる「前頭連合野」と、位置関係の把握にかかわる「頭頂連合野」が活性化します。指の動きは脳の広い部分に刺激を与え、脳全体の活性化につながります。はじめは上手にできないかもしれませんが、一つひとつの動作をていねいに行うことを意識して進めていきましょう。  グーパー体操では、手前に引き寄せる手が視界から消え、脳が手の動きを管理しにくくなります。このとき、空間的な位置関係を想像する「頭頂連合野」や記憶にかかわる「前頭葉」が刺激されます。また、手は左右で同じ動きをするような性質がありますが、それをあえて崩すことで、脳に刺激が与えられて、血液量がアップし、脳の活性化にもつながります。  上手にできなくても大丈夫、チャレンジしてみましょう。脳は脳トレが上手にできているときよりも、がんばっているときの方が活性化します。 篠原菊紀 (しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2023年4月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価503円(本体458円+税) 『70歳雇用推進事例集2023』のご案内  2021(令和3)年4月1日より、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業を確保する措置を講ずることが事業主の努力義務となりました。  当機構では、昨年作成した「70歳雇用推進事例集2022」に引き続き、『70歳雇用推進事例集2023』を発行しました。  本事例集では、70歳までの就業確保措置を講じた21事例を紹介しています。 興味のある事例を探しやすくするため「事例一覧」を置きキーワードで整理 各事例の冒頭で、ポイント、プロフィール、従業員の状況を表により整理 70歳までの就業機会を確保する措置を講じるにあたって苦労した点、工夫した点などを掲載 『70歳雇用推進事例集2023』はホームページより無料でダウンロードできます https://www.jeed.go.jp/elderly/data/manual.html 70歳雇用推進事例集 検索 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 高齢者雇用推進・研究部 2023 4 令和5年4月1日発行(毎月1回1日発行) 第45巻第4号通巻521号 〈発行〉独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会