【表紙2】 助成金のごあんない 65歳超雇用推進助成金 65歳超継続雇用促進コース  65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 ●労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引上げること ●定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。また、改正前後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること ●1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること ●高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)の実施 支給額 ●定年の引上げ等の措置の内容、60歳以上の対象被保険者数、定年等の引上げ年数に応じて10万円から160万円 受付期間  定年の引上げ等の措置の実施日が属する月の翌月から起算して4カ月以内の各月月初から5開庁日までに、必要な書類を添えて、申請窓口へ申請してください。 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(高年齢者雇用管理整備措置)を実施した事業主の皆様を助成します。 措置(注1)の内容 高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入、法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 支給対象経費(注2)の60%、ただし中小企業事業主以外は45% (注2)措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサルタントとの相談経費、措置の実施に伴い必要となる機器、システム及びソフトウェア等の導入に要した経費(経費の額に関わらず、初回の申請に限り50万円の費用を要したものとみなします。) 高年齢者無期雇用転換コース  50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)を実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6カ月分の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと 支給額 ●対象労働者1人につき48万円(中小企業事業主以外は38万円) 高年齢者雇用管理に関する措置(※1)とは(a)職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等、(b)作業施設・方法の改善、(c)健康管理、安全衛生の配慮、(d)職域の拡大、(e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、(f)賃金体系の見直し、(g)勤務時間制度の弾力化のいずれか 障害者雇用助成金 障害者雇用助成金に係る説明動画はこちら 障害者作業施設設置等助成金  障害特性による就労上の課題を克服し、作業を容易にするために配慮された施設等の設置・整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @障害者用トイレを設置すること A拡大読書器を購入すること B就業場所に手すりを設置すること 等 助成額 支給対象費用の2/3 障害者福祉施設設置等助成金  障害者の福祉の増進を図るうえで、障害特性による課題に対する配慮をした福祉施設の設置・整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @ 休憩室・食堂等の施設を設置または整備すること A @の施設に附帯するトイレ・玄関等を設置または整備すること B @、Aの付属設備を設置または整備すること 等 助成額 支給対象費用の1/3 障害者介助等助成金  障害の特性に応じた適切な雇用管理に必要な介助者の配置等の措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @職場介助者を配置または委嘱すること A職場介助者の配置または委嘱を継続すること B手話通訳・要約筆記等担当者を委嘱すること C障害者相談窓口担当者を配置すること D職場支援員を配置または委嘱すること E職場復帰支援を行うこと F障害者が行う業務の介助を重度訪問介護等サービス事業者に委託すること 助成額 @B支給対象費用の3/4 A 支給対象費用の2/3 C 1人につき月額1万円 外 D 配置:月額3万円、委嘱:1回1万円 E 1人につき月額4万5千円 外 F 1人につき月額13万3千円 外 職場適応援助者助成金  職場適応に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者による支援を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @訪問型職場適応援助者による支援を行うこと A企業在籍型職場適応援助者による支援を行うこと 助成額 @1日1万6千円 外 A月12万円 外 重度障害者等通勤対策助成金  障害の特性に応じた通勤を容易にするための措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @住宅を賃借すること A指導員を配置すること B住宅手当を支払うこと C通勤用バスを購入すること D通勤用バス運転従事者を委嘱すること E通勤援助者を委嘱すること F駐車場を賃借すること G通勤用自動車を購入すること H障害者の通勤の援助を重度訪問介護等サービス事業者に委託すること 助成額 @〜G支給対象費用の3/4 H1人につき月額7万4千円 外 重度障害者多数雇用事業所 施設設置等助成金  重度障害者を多数継続して雇用するために必要となる事業施設等の設置または整備を行う事業主について、障害者を雇用する事業所としてのモデル性が認められる場合に、その費用の一部を助成します。 ※事前相談が必要です。 助成対象となる措置 重度障害者等の雇用に適当な事業施設等(作業施設、管理施設、福祉施設、設備)を設置・整備すること 助成額 支給対象費用の2/3(特例3/4) ※お問合せや申請は、当機構の都道府県支部高齢・障害者業務課(65頁参照 東京、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします。 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.96 仕事の負荷が少ない小さな仕事≠ナ長く働き続けられる社会の実現を 株式会社リクルート リクルートワークス研究所 研究員/アナリスト 坂本貴志さん さかもと・たかし 一橋大学国際公共政策大学院公共経済専攻修了後、厚生労働省に入省。社会保障制度の企画立案業務などに従事したのち、内閣府、三菱総合研究所などでの勤務を経て、2017(平成29)年よりリクルートワークス研究所に参画。  高齢者の働き方に焦点をあてた一冊の本『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』(講談社)が、注目を集めています。同書では、さまざまなデータや聞き取り調査をもとに、高齢者の仕事の実態を明らかにするとともに、高齢者の満足度が高い働き方として、「小さな仕事」を提言しています。今回は同書の著者である坂本貴志さんにご登場いただき、小さな仕事≠ノついてお話をうかがいました。 満足度の高い「小さな仕事」が日本の経済社会で不可欠に ―著書の『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』が話題になっています。高齢者が働く現実をネガティブに報じるメディアもありますが、執筆のきっかけとは何でしょうか。 坂本 少子高齢化で日本の経済や財政状況が厳しくなるなかで、高齢者にも働くことを考えてもらわないといけない局面に入っていると思いますし、また高齢になっても働き続けることを選択せざるを得ない状況になっています。多くの人が不安を抱えていると思いますし、おっしゃる通り、メディアでもネガティブにいわれがちです。そこで、普通の人たちの実態がどうなっているのかについて、ていねいに掘り下げてみようと思ったのが執筆のきっかけです。  そこで、高齢者の就業実態について調べてみると、例えばマンションや寮の管理人、警備員やドライバー、販売スタッフ、あるいは接客業務など、直接価値を提供するようなサービス業に従事されている人が、非常に多いことがわかりました。デスクワーカーとノンデスクワーカーに分類して集計すると、事務や管理の仕事をしている人は全体の就業者の4分の1程度。残りの4分の3が、接客業務などで働いている人です。これまでそうした仕事がフォーカスされることはなかったのですが、実態をしっかりと見てほしいという思いがありました。 ―坂本さんは、そうした仕事を「小さな仕事」と名づけていますね。あらためて「小さな仕事」の定義について教えてください。 坂本 明確な定義づけをしているわけではありませんが、総じていえば、「労働時間が短く、仕事の負荷が少なく、ストレスもそんなに生じない。一方で収入はそれほど多くはない」という特徴があります。高齢就業者に話を聞いたり、データを見ると、「小さな仕事」に従事しているほとんどの人が満足して働いています。労働時間も短く、プレッシャーも少ないし、自身の生活とのバランスを取りながらポジティブに働いている方々が非常に多いのです。  一昔前は一定の年齢を過ぎた人は雇わない事業者もいましたが、募集・採用における年齢制限禁止の義務化や、労働市場の人材不足が深刻化するなか、働く高齢者が急速に増えています。小さな仕事をする人が日本の経済社会に不可欠になっており、就業者数の増加にともない、経済への貢献度も高くなっています。 ―著書のなかでは、高齢期の収入は月10万円程度で十分ということも紹介されていますね。 坂本 高齢になると家計支出額も大きく減少します。平均的な会社員だった人は教育費の負担がなくなり、住宅ローンの返済も終わり、家計支出額は定年を境に減少し、60代後半時点で月32.1万円、70代前半で29.9万円と出費は減ります。一方で収入も減り、60代前半の就業者の平均年収は357万円、中央値は280万円です。60代後半になると、平均額は256万円ですが、中央値は180万円で、これぐらいの収入でも十分に余裕のある生活ができるのです。65歳から69歳までの世帯の収入額は、公的年金や民間の保険金などの合計で月に約25万円です。家計支出額は32.1万円なので、差額はマイナス7.6万円。月に10万円稼げば十分なのです。時給1000円なら月に100時間働けば稼げます。1日5時間、20日働く、あるいは1日8時間のフルタイムでも12日なので、体力・健康を維持しながら無理なく稼ぐことができます。しかも1世帯で10万円なので、夫婦2人とも働けば楽に稼げる水準だと思います。 ―それでも現役世代からすれば、「小さな仕事で充実感が得られるのか」という疑問もあると思います。なぜ満足できるのでしょうか。 坂本 一番大きいのは仕事の負荷が少ないことです。これまで大きかった仕事の負荷が徐々に緩和され、心地よいレベルで仕事をしている人が多いのだと思います。データを見ても高いスキルを持ち、高い報酬を得ながら活躍し続けている人は本当にごくわずかです。  もう一つは、仕事への向き合い方や価値観が変わっていくことです。現役世代は「課長、部長に昇進したい」、「高い報酬を得たい」という志向を持ち、高みを目ざして仕事をすることはきわめて健全なことです。しかし年齢を重ねるうちに仕事の進め方がむずかしくなる傾向にあり、あるいは管理職として社内の調整に追われ、だれの役に立っているのかがわからなくなるなど、40〜50代で心の葛藤を抱える人が大勢います。これまでの職業人生をふり返り「右肩上がりのキャリアを続けることはむずかしい」と内省し、仕事に対する考え方を変えていくプロセスを経る人が多いと思います。  さらに役職定年でポストオフになって、中間管理職的な仕事から一プレイヤーの仕事に移行し、例えば、現場でお客さんと向き合う仕事をすることで、だれかの役に立つことにやりがいを感じるようになる人が増えていくというデータもあります。「ポストオフはけしからん」という議論もありますが、いままでと同じキャリアの継続はむずかしいことが多く、どこかのタイミングで考えざるを得ないと思います。そうして徐々に意識を変えていかないと、定年後も含め長期に働くこともできません。 プレイヤーとして長く活躍するためにもベースとなる職業能力の維持・向上を ―定年後の再雇用を含めて豊かな職業人生を長く続けていくために、定年前の人たちはどんな準備や心構えが必要でしょうか。 坂本 やはりいまの会社で上の役職や高い報酬を得ることを目ざすだけではなく、その先のポストオフなど、一プレイヤーとして活躍しなければいけないことを見すえてキャリアを考えていく必要があると思います。いくら能力が高い人であっても、ずっと管理職で居続けることは不可能です。役職に就くのは一時的な状態であり、決して上がりのポスト≠ナはありません。基本的にはなんらかの職種でパフォーマンスを発揮することがベースにあることを意識することが必要です。管理職になっても営業なら営業の仕事、経理なら経理の仕事を忘れない。ポストオフになっても、その仕事で力を発揮することを意識していれば、就業期間が長期化した現代でもうまくやっていけるのではないかと思います。 定年後の処遇は成果部分の上乗せを大きくしペイフォーパフォーマンスの徹底を ―改正高年齢者雇用安定法により、企業には65歳までの雇用確保義務と70歳までの就業機会確保の努力義務が課されています。高齢社員が豊かな職業人生を送るために、企業が取り組むべき課題とは何でしょうか。 坂本 そこには二つの議論があります。会社としては「パフォーマンスが高くない人を含めて雇い続けなくてはいけないのか」という議論があります。一方、高齢社員のなかには「自分のパフォーマンスは下がっていないのに、なぜ年齢が高いだけで給与が下がるのか」という議論もあります。つまり、企業側は「いつまで給与を払い続けなければいけないのか」、労働者側は「どうして給与が下げられるのか」という両方の視点があります。高齢期になると、どうしても仕事の能力にバラツキが出てきますが、そこをどう評価していくのかが人事管理上の大きな課題になります。  解決策として、定年後の処遇はペイフォーパフォーマンスの徹底が基本になると思います。「ペイフォーパフォーマンス」というと、「日本の労働者を全部成果給にすればよい」という議論になりがちですが、現役時代と高齢期で制度を変えてもよいのです。現役時代は子どもの教育費や住宅ローンの支払いもあり、成果給だからと給与が極端に変動するのは受け入れられないし、雇用と収入の安定が必要です。しかし高齢期であれば十分許容できると思います。現役時代は日本型の仕組みを残しながら、年齢とともに徐々に成果型に移行し、高齢期はベース給を低く設定して、その分パフォーマンスを上げている人はしっかり評価して成果部分の上乗せを大きくしていくという設計が基本になるのではないでしょうか。 ―働き方も「小さな仕事」のように柔軟な仕組みが必要でしょうか。 坂本 働き方のスタイルも変わってくると思います。年齢を重ねるうちに、より短い時間で働きたいという人が増えてきます。プレッシャーも高くなく、ストレスも少なく、無理なく働ける仕事を好むようになっていく傾向があります。公正な処遇の結果としてそうした形の運用になっていくのではないかと思います。働き方も短時間勤務や隔日勤務など、ある程度本人が選択できるようにしたほうがよいでしょう。人事管理がむずかしいとは思いますが、できるかぎり個別性を考慮した働き方ができるように設計していただくことを期待しています。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のオブジェ古瀬 稔(ふるせ・みのる) 2023 May No.522 特集 6 病気の治療を続けながら働ける会社へ 7 総論 病気の治療を続けながら働ける会社へ 一般社団法人仕事と治療の両立支援ネットーブリッジ 代表理事 服部 文 11 解説 企業で進める治療と仕事の両立支援のポイント 厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課 治療と仕事の両立支援室 15 企業事例 株式会社村田製作所(京都府長岡京市) がん治療と仕事の両立の相談の場と制度があることを従業員に周知 1 リーダーズトーク No.96 株式会社リクルート リクルートワークス研究所 研究員/アナリスト 坂本貴志さん 仕事の負荷が少ない“小さな仕事”で長く働き続けられる社会の実現を 19 日本史にみる長寿食 vol.354 古代チーズと女流作家 永山久夫 20 特別企画 「産業別高齢者雇用推進ガイドライン」のご紹介 28 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!こんなときどうする?Season2 《第2回》 役職定年制って必要? それとも廃止? 34 江戸から東京へ 第126回 平和をビンづめで世界に 長崎のお慶 作家 童門冬二 36 高齢者の職場探訪 北から、南から 第131回 香川県 徳武産業株式会社 40 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第81回 ベーカリーズキッチンオハナ 日野原実さん(67歳) 42 新連載 シニア社員のための 「ジョブ型」賃金制度のつくり方 【第1回】 賃金の基本要素と日本の賃金制度の変遷 菊谷寛之 46 知っておきたい労働法Q&A《第60回》 グループ会社における退職金規程の影響、セクシュアルハラスメントへの介入の是非 家永勲 50 活き活き働くための高齢者の健康ライフ 【最終回】転倒災害を予防しよう 坂根直樹 52 いまさら聞けない人事用語辞典 第34回 「採用」 吉岡利之 54 労務資料 第17回中高年者縦断調査 (中高年者の生活に関する継続調査)の概況 56 TOPIC 非正規雇用労働者の賃金引上げに向けた同一労働同一賃金の取組強化期間について (〜5月31日) 58 BOOKS 59 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.327 スライドカット技法で自由自在に髪を操る 理容師 武藏均さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第71回]漢字ジグソーパズル 篠原菊紀 【P6】 特集 病気の治療を続けながら働ける会社へ  70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となり、就業期間が延伸していくなかで、会社には社員が安心して長く働き続けるための職場づくりが求められています。そこで重要となることの一つに「病気の治療と仕事の両立支援」があります。2人に1人が罹患するといわれるがんをはじめ、脳卒中や心疾患など、かつては大病とされていた病気も、現在では治療法が進み、治療をしながら働き続ける人も増えています。  まだ取り組んでいない会社はもちろん、すでに取組みを展開している会社のみなさんも、本企画を参考に、「病気の治療と仕事の両立支援」の見直しや推進に努めていただければ幸いです。 【P7-10】 総論 病気の治療を続けながら働ける会社へ 一般社団法人仕事と治療の両立支援ネットーブリッジ代表理事 服部(はっとり)文(ふみ) 年齢を重ねることによる有病リスク  医療機関のなかで就労の相談窓口を担当していると、いろいろな困りごとを抱えた相談者がいらっしゃいます。この日は数日前にがんと診断されたという62歳の田中さん(仮名)が来談されました。「主治医からいくつかの治療方針を示されたけれど、仕事を続けられるかどうか不安で、会社に伝えることも治療を選択することもできず、どうすればよいのだろうか」というご相談です。  いま、こうした年齢を重ねた60〜70代の労働者からの相談が増えています。働くことは日常の一部に組み込まれていて、生計を立てるためにもまだまだこの先も働くつもりでいたけれど、思いがけず病気に見舞われ、「先の見通しが立たない」と青い顔をして駆け込んでこられるのです。なかには、定年まで勤め上げた企業で再雇用されて嘱託社員として働いているという人も多くいます。田中さんもそのお一人で、「働けないと思われてしまうと、雇用契約が更新されなくなる」という差し迫った悩みが聞かれました。  年齢を重ねると、長年使ってきた体に不調が出てきたり、病気にかかりやすくなったりします(図表1)。生物としてあたり前に起こり得るきわめて自然なことですが、現代社会に生きるうえでは、田中さんの例のように突然の困りごととして出現することとなります。経済拡大や人口増加が見込める時代であれば、正社員から年金生活へと円滑に移行するなかで、その困りごとが解消されることもあるでしょうが、少子高齢化に直面する現代社会においてはなかなか対処がむずかしいといわざるを得ません。私たちが現代社会において抱える課題が表面化しているといえるのです。 いま、治療と仕事の両立支援が必要とされる社会的背景  「治療と仕事の両立支援」については、ずいぶん社会に浸透してきたように感じます。それは患者さんの意識にも現れており、医療機関の相談窓口でも「どのように仕事が続けられるか」と仕事の継続を前提とした相談が寄せられることがほとんどです。こうした両立支援がなぜ社会的に求められるようになってきたのか、見ていきましょう。  まず、医療の飛躍的な進歩が前提としてあります。研究者のたゆまぬ努力によって、新しい治療法や薬剤が続々と実用化され、かつてはむずかしいとされていた病気にかかったとしても、治療とつき合いながら質のよい日常生活を送れることが増えてきました。例えば、「検査によって明らかとなった遺伝子変異に応じた治療法を、細やかに選択できるようになった」ということがあげられます。私の知合いの肺がんの患者さんは、診断時点からステージWでしたが、それから10年経つ現在も、何度か治療法を変えながら仕事を続けています。  図表2に示した通り、社会保障給付費は年々増加しています。高度化する医療にともなう費用も増加していますが、それによって質のよい日常を維持し、働き続けることができる患者さんがたくさん出てきているのです。せっかく医療に支えられて働くことが可能になり、かつ働く意欲も能力もあるのならば、ぜひ、その労働力を社会に還元してもらいたいものです。そのような有用な人材でありながら、病気になったタイミングで離職を余儀なくされれば、そこからの再就職の道は非常に厳しく、生活困窮に陥りかねないでしょう。突然収入が途絶え、立ち行かなくなる生活を支えるために、さらに社会保障給付するという悪循環になってしまいます。それは患者さん本人にとっても、病気になったとたんに社会の一員から排除されるに等しく、望むところではないでしょう。何のためにつらい治療に向き合ってきたのかと、生きる意味を見失ってしまうことさえあるのです。  高齢者雇用については、現在、希望者全員65歳までの雇用を確保する措置が企業に義務づけられていますが、さらに70歳までの就業機会の確保が努力義務になっています。この年齢層と重なってくるのが、まさに病気に見舞われるリスクなのです。社会の側から「生涯現役」を求めるのであれば、人によって異なる「現役」の姿を実現できる社会環境を整える必要があります。大多数の「それなりに健康不安を抱えるごく普通の高齢者」にとって、いつ働けなくなるか、戦々恐々としながら日々を送る生活は過酷です。ますます貯蓄に余念がなくなり、経済的にも縮小するばかりでしょう。働くことを期待される高齢者層がますます拡大傾向にあるなか、こうした社会全体を覆う不安が増大することによる負の影響は、企業にとっても決して好ましいことではないはずです。 どんな取組みが期待されるか  田中さんのように、年齢を重ねても治療しながら働きたいと願う患者さんが、臆することなく、ともに社会のにない手として活躍できる働き方を考えていく姿勢が企業には期待されます。  具体的には、どの立場の人であっても、一定の病気休暇や休職が認められ、病気になったことを理由に契約が更新されないなどの不利益を生じさせない制度があるとよいでしょう。  図表3に示したように、医療の進歩にともない治療中の患者さんの状態が変化し、「働ける」と「働けない」のボーダーラインが曖昧かつ長期化している現状に適応できるような働き方を見出していくのが、両立支援です。予期せぬ病気になって治療が必要になったとしても、仕事に対する意欲があるならば、体調と折り合える働き方を見出し、その人の持つ能力をきちんと発揮できる社会にしていくことが望まれます。  そうした現状を後押しするために、2022(令和4)年より、健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されています。この改正により、一時的に就労不能の状態になっても、休養に徹するだけでなく、治療・休養しながら働くという選択肢が広がりました。  上手に制度を活用し、職務遂行と体調が折り合う働き方を労使で見出してください。 両立支援の取組みにおける企業メリットと生涯のキャリア形成  企業における治療と仕事の両立支援には、先ほどお示ししたような社会的なニーズがあるだけでなく、取組みによって得られるメリットもあります。  一つには、人材不足への具体的な対応策という直接的なメリットであり、もう一つは高齢社員のパフォーマンス向上という、企業が恒常的に持つ課題解決につながるメリットです。  高齢者の雇用が法整備とともに推進されるにつれ、働く現場からは、処遇の低下や職務転換を機に意欲が減退して十分にパフォーマンスを発揮しない社員が出てくることが、大きな課題としてあげられるようになりました。高齢社員が職務に対するやりがいを維持できないことから、周囲の社員からの高齢社員に対する役割期待の低さを引き起こし、相乗的にパフォーマンス低下のスパイラルに陥っているという要因が考えられます。  こうした課題を解決するためには、高齢社員が能動的に職務に取り組むモチベーションを維持することが不可欠です。そのための鍵は、職務面だけでなく生涯における生活面も含めた、長期的なライフキャリア形成にあります。  将来的な体調や働き方の不安を漠然と持っていても、現時点において健康状態を維持できている社員は、なかなか当事者意識を持ちにくいものです。働けなくなることが怖いから、その可能性を自分のなかから排除する、いわば見て見ぬふりをしている状況です。  それでも病気は人を選びません。高齢社員はいうまでもなく、若年からミドル世代の社員も含め、少なくない人が病気にかかります。その要素を「特殊な人のこと」として目をそらさず、しっかりと直視して働き方のリスクヘッジを労使で行っていくことが求められます。年代ごとに行う集合型のキャリア研修で、生涯のリスク要因を加味したマネープランをシミュレーションしたり、定期キャリア面談において、職務だけでなく生活面を含めたキャリアの視点から中長期目標を設定したりすることで、それぞれの立ち位置に応じた働き方や目的を自覚し、労使で共有することができます。そのようにして、日ごろから長期のライフキャリアの視点を持つことで、自らが高齢社員としての段階に入っていく過程で、給与や役職だけではなく、職業生活終盤における安心・安定という要素も、主要な報酬の一つとして認識されます。職務については一定のアウトプットを求められる代わりに、不測の事態で社会とのつながりを断ち切られることなく、体調に応じた働き方をともに考え選択できるという安心感は、今後ますます高齢社員が増加していく流れのなかで、大きな企業価値になっていくと考えられます。  この恒常的なライフキャリアの構築は、企業の両立支援の具体的なかかわりとしても大いに役立ちます。なぜなら、病気の治療やその副作用・後遺症は非常に個別性が高く、画一的な対応では企業は対処しきれないからです。日常的に自らのキャリアにしっかりと向き合っていることは、予期せぬ変化に際しても的確な自己理解を助けますし、労使における情報共有や適正配置にも役立ちます。 SDGs、あるいは社会的包摂(ほうせつ)としての両立支援  冒頭の田中さんは、先の見通しがない状態で勤め先に話すことで、雇い止めにされてしまうことをひどく恐れていました。相談開始時に「率直に相談できる人は社内にいませんか?」とたずねたところ、少し考えてから「率直に相談はできるけど、率直に雇い止めをいい渡されたら、取り返しがつかないんですよね」と苦笑されたことをよく覚えています。結局、田中さんは主治医と相談のうえ、第一選択の治療である手術ではなく、まとめて休む日数が少ないと見込まれる薬物療法を受けることに決め、勤め先には病気を伝えずに治療を開始しました。その入院の合間に面談を重ね、事後報告の形で人事に伝えるべき内容を話し合っていきました。後日、契約が更新されたと聞き、よかったと思う反面、もう少し違う進め方ができなかっただろうかとも考えます。いまも答えは出ていません。  「社会的包摂」という言葉があります。「社会的に全体を包み込み支え合うこと、だれもが社会に参画する機会を持つこと」を意味します。企業はその一つひとつが小さな社会であり、事情を持ち合わせる個人の集合体といってよいでしょう。働くなかで突然病気になったり、子どもの不登校に悩んだり、頼りにしていた親の介護が始まったり、配偶者に先立たれたり…。核家族化した生活のなかで、どんな事情にも無縁だという人はいないのではないでしょうか。緩やかにつながるコミュニティとしての企業の存在意義というものは、たしかに社会的な価値があるものだと思います。それぞれの事情を全体で包み込み、排除をせず、可能な役割を見出して参画をうながす、それこそがSDGsの「誰一人取り残さない」という理念なのではないでしょうか。経済活動は、社会課題の解決と対立するものではなく、両立されるべきものです。  医療の高度化によって、自分や周囲の大切な人の質のよい日常が守られるようになりました。そんな現代にふさわしい、多様なあり方を包摂する社会への変化が、企業における両立支援の取組みから広がっていくことを願っています。 図表1 年齢階級別推計患者数 (単位:千人) 20代 入院21.6 外来318.6 30代 入院35.8 外来442.3 40代 入院57.1 外来664.5 50代 入院94.5 外来780.5 60代 入院166.0 外来1,109.8 70代 入院297.6 外来1,700.9 厚生労働省「令和2年(2020)患者調査」より著者作成 図表2 社会保障給付費の推移 1980 2000 2021(予算ベース) 国内総生産(兆円)A 248.4 537.6 559.5 給付費総額(兆円)B 24.9(100.0%) 78.4(100.0%) 129.6(100.0%) (内訳)年金 10.3(41.4%) 40.5(51.7%) 58.5(45.1%) 医療 10.8(43.4%) 26.6(33.9%) 40.7(31.4%) 福祉その他 3.8(15.2%) 11.3(14.4%) 30.5(23.5%) B/A 10.00% 14.60% 23.20% 1950(昭和25) 1960(昭和35) 1970(昭和45) 1980(昭和55) 1990(平成2) 2000(平成12) 2010(平成22) 2021(予算ベース) 一人当たり社会保障給付費(右目盛) 年金 医療 福祉その他 資料:国立社会保障・人口問題研究所「平成30年度社会保障費用統計」、2020〜2021年度(予算ベース)は厚生労働省推計、2021年度の国内総生産は「令和3年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度(令和3年1月18日閣議決定)」 図表3 治療と仕事の両立支援が目ざすもの 従来の働き方 制限なく働ける 二極化 療養中(働けない) 両立支援で目ざす働き方 制限なく働ける 働き方を調整してこの層を増やす 労働 治療 療養中(働けない) 出典:服部文『産業保健ハンドブックシリーズG治療と仕事の両立支援ハンドブック−従業員を辞めさせないためにできること』(労働調査会) 【P11-14】 解説 企業で進める治療と仕事の両立支援のポイント 厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課 治療と仕事の両立支援室 はじめに  近年、治療技術の進歩などにより、「不治の病」とされていた病気も「長くつき合う病気」に変化し、治療を受けながら仕事を続けることが可能な状況になってきています。治療と仕事の両立支援の取組みは、病気を抱えながら働き続けたいと希望する方が、適切な治療を受けながら、安心・安全に仕事を続けることを支援し、企業や医療機関にもプラスになる取組みです。  両立支援を進めることで企業にとっては、業務により病気が増悪しないよう労働者の健康を確保するとともに、継続的な人材の確保、労働者の安心感やモチベーションの向上による人材の定着が図れます。また、労働者のワーク・ライフ・バランスの実現や健康経営の取組みとして生産性の向上などが期待できます。医療機関にとっては、仕事を理由とした治療の中断を防止し、治療を効果的に実施することができます。 申し出のしやすい環境整備が重要  両立支援の対象者は、入院や通院のための時間の確保などが必要になるだけでなく、症状や治療の副作用、障害などによって、一時的に健康状態が悪化したり、業務遂行能力が低下したりする場合があります。そのため、時間的制約に対する配慮だけでなく、症状や治療方法等の個人の状況に合わせた支援が必要となります。  個別の事情に応じた支援を行うためには、治療に要する期間や治療の副作用などの情報が必要になりますが、病気のことを会社に知られたくないと考える人も少なくありません。両立支援は、労働者本人から支援を求める申し出がなされたことを端緒に取り組むことが基本となるため、事業場としては、本人からの申し出が円滑に行われるよう、事業場内ルールの作成と周知、労働者や管理職などに対する研修による意識啓発、相談窓口や情報の取扱い方法の明確化など、申し出がしやすい環境を整備することが重要です。 環境整備は取り組めるところから  労働者本人から両立支援の申し出を受けた後に必要な環境を整備することも考えられますが、事前に両立支援を行うための環境整備に取り組んでおくことが重要です。環境整備の具体的な取組みには、以下の四つがあげられます。 (1)事業者による基本方針等の表明と労働者への周知 (2)研修等による両立支援に関する意識啓発 (3)相談窓口等の明確化 (4)両立支援に関する制度・体制等の整備  これらは、取り組めるものから始めるということが重要です。事業者が基本方針などを表明することや、研修などによる意識啓発により、管理職を含めた社内のすべての人が両立支援の必要性を理解することで、労働者本人が支援の申し出をしやすい職場風土が醸成され、また、相談窓口の周知や相談内容の情報の取扱いなどを明確にしておくことで、労働者本人が安心して相談・申し出を行うことができます。また、両立支援で活用できる休暇制度や短時間勤務制度、在宅勤務制度などの制度を整えておくことも必要です。  こうしてみると、たくさんのことに取り組まなければいけないように思えますが、既存の労働衛生の取組みや働き方の改善に関する社内の制度を活用することが可能です。育児・介護と仕事の両立など、すでに行っている取組みや衛生委員会などの既存の会議体などを活用することも検討すべきです。両立支援の取組みは、労働者本人の日々の疾病予防や事業者による健康管理・労務管理の延長線上にあるので、すでに行っている取組みが両立支援の取組みでもあるかもしれません。まずは、取り組めるところから始めてみましょう。 情報収集には、医療機関との連携が不可欠  労働者から両立支援の申し出があった際に、事業者が支援内容を検討するにあたって参考となる情報は、@「病状、治療の状況」、A「退院後または通院治療中の就業継続の可否に関する意見」、B「望ましい就業上の措置に関する意見」、C「その他配慮が必要な事項に関する意見」などがあります。  これらの情報を主治医から提供されることで両立支援をスムーズに行うことができるため、先に主治医に労働者本人の業務内容などの情報を提供することが望ましいといえます。このように両立支援にあたっては企業と医療機関の連携が非常に重要です。具体的な情報の流れは、図表1のとおりです。  仕事に関する情報は、労働者が自らの仕事に関する情報を整理し、主治医に提供することになりますが、この際、労働者が必要十分な情報を収集し整理できるよう、上司や人事労務担当者、産業医などの産業保健スタッフが、勤務情報の提供のための書面作成や両立支援に関する手続きの説明などの支援を行うことが望まれます。  職場での配慮事項などをまとめた意見書は、主治医によって作成され、労働者本人から事業者に提出されます。事業者は、これを基に就業継続や職場復帰の可否、就業上の措置、配慮の具体的な内容、スケジュールなど(以下、「両立支援プラン」図表2)を検討・実施します。主治医から提供された情報が十分でない場合は、労働者本人の同意に基づき、人事労務担当者や産業保健スタッフなどが、主治医からさらなる情報収集を行うことも必要です。 プランの内容は、労働者本人とよく話し合う  両立支援プランは、支援の実施者である事業者が策定しますが、業務による病気の増悪等がないよう、労働者本人や企業の関係者(上司、人事労務担当者、産業保健スタッフなど)と一緒に、どのように働き続けることができるかよく話し合い、合意形成に努める場を設けることが重要です。  また、病状や治療の経過によっては、必要な措置や配慮の内容、時期・期間が変化することもあります。両立支援プランを策定した労働者については、適時、労働者や職場の上司などから状況を把握し、プラン内容の見直しを行う必要がないか、人事労務担当者と産業保健スタッフなどが組織的にフォローアップを行う必要があります。  なお、両立支援プランの作成で悩む場合は、主治医をはじめ、主治医と連携している医療ソーシャルワーカー、看護師、両立支援コーディネーターや、地域の産業保健総合支援センターなどに相談することができます。  このように、治療と仕事の両立支援は、企業と医療機関、地域の支援機関などが円滑に情報連携を行うことで、労働者の個々人に合った、さまざまな支援が可能となります。 企業が使える支援策  企業が環境整備や労働者に対する両立支援を行う際には、「団体経由産業保健活動推進助成金」が活用できます。この助成金は、事業主団体等を通じて、中小企業等の産業保健活動(治療と仕事の両立支援を含む)の支援を行う助成金です。事業主団体等が、傘下の中小企業等に対して健康経営を含む産業保健サービスを提供するために医師等(産業保健サービス会社を含む)と契約した場合、その活動費用を助成しています。申請等詳細は所属する事業主団体等にお問い合わせいただくか、申請窓口の独立行政法人労働者健康安全機構のホームページ(https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/tabid/1251/default.aspx)をご覧ください。 各種サービスをご活用ください  企業で両立支援に取り組むにあたり、何から取り組んだらよいか、労働者本人から相談があったがどう対応したらよいのか困ったときには、全国47カ所にある産業保健総合支援センター(通称さんぽセンター)の支援サービスを利用することができます。また、厚生労働省のポータルサイト「治療と仕事の両立支援ナビ」では両立支援に関する総合的な情報を発信しています。他企業の具体的な取組み事例や役立つコンテンツが掲載されていますので、ぜひご覧ください。 図表1 両立支援プランの基本的な作成の進め方 本人 勤務情報提供書 主治医意見書 両立支援プラン 1 2 3 4 5 会社 医師 会社 1 職場の担当者と一緒に現在の業務内容などを記載します。 2 医療機関に「勤務情報提供書」を提出します。 3 職場での配慮事項をまとめた「意見書」を書いてもらいます。 4 「意見書」を企業の相談窓口などに提出します。 5 担当者と話し合いながら必要な支援プランを作成します。 出典:厚生労働省「治療と仕事の両立支援ハンドブック」 図表2 両立支援プラン/職場復帰支援プランの作成例 作成日: 年 月 日 従業員 氏名 生年月日  年 月 日 性別 男・女 所属 従業員番号 治療・投薬等の状況、今後の予定 ・入院による手術済み。 ・今後1か月間、平日5日間の通院治療が必要。 ・その後薬物療法による治療の予定。週1回の通院1か月、その後月1回の通院に移行予定。 ・治療期間を通し副作用として疲れやすさや免疫力の低下等の症状が予想される。 ※職場復帰支援プランの場合は、職場復帰日についても記載 期間 勤務時間 就業上の措置・治療への配慮等 (参考)治療等の予定 (記載例) 1か月目 10:00〜15:00 (1時間休憩) 短時間勤務 毎日の通院配慮要 残業・深夜勤務・遠隔地出張禁止 作業転換 平日毎日通院・放射線治療 (症状:疲れやすさ、免疫力の低下等) 2か月目 10:00〜17:00 (1時間休憩) 短時間勤務 通院日の時間単位の休暇取得に配慮 残業・深夜勤務・遠隔地出張禁止 作業転換 週1回通院・薬物療法 (症状:疲れやすさ、免疫力の低下等) 3か月目 9:00〜17:30 (1時間休憩) 通常勤務に復帰 残業1日当たり1時間まで可 深夜勤務・遠隔地出張禁止 作業転換 月1回通院・薬物療法 (症状:疲れやすさ、免疫力の低下等) 業務内容 ・治療期間中は負荷軽減のため作業転換を行い、製品の運搬・配達業務から部署内の●●業務に変更する。 その他 就業上の配慮事項 ・副作用により疲れやすくなることが見込まれるため、体調に応じて、適時休憩を認める。 その他 ・治療開始後は、2週間ごとに産業医・本人・総務担当で面談を行い、必要に応じてプランの見直しを行う。(面談予定日:●月●日●〜●時) ・労働者においては、通院・服薬を継続し、自己中断をしないこと。また、体調の変化に留意し、体調不良の訴えは上司に伝達のこと。 ・上司においては、本人からの訴えや労働者の体調等について気になる点があればすみやかに総務担当まで連絡のこと。 出典:厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」 事業者の方へ 事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン このガイドラインでは、事業場で行う、両立支援を行うための留意事項や環境整備・支援の進め方を記載しています。企業と主治医がやりとりを行う文書(勤務情報提供書、主治医意見書)や両立支援プランの様式例を参照されたい方は「企業・医療機関連携マニュアル」をご覧ください。企業と医療機関との連携を事例形式で紹介しています。 PDFをダウンロードいただけます https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/guideline 両立支援のための環境整備や具体的なケースについてのご相談は… 産業保健総合支援センター(さんぽセンター) 全国47の都道府県に独立行政法人労働者健康安全機構が設置している通称さんぽセンターでは、中小企業などにおける治療と仕事の両立支援の取組みに対する支援を無料で行っています。相談できる内容など、詳しくは最寄りのさんぽセンターにお問い合わせください。https://www.johas.go.jp/shisetsu/tabid/578/default.aspx ポータルサイト「治療と仕事の両立支援ナビ」 治療と仕事の両立支援イメージ キャラクター「ちりょうさ」 ポータルサイト「治療と仕事の両立支援ナビ」 https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/ 治療 両立ナビ 検索 【P15-18】 企業事例 株式会社村田製作所(京都府長岡京市) がん治療と仕事の両立の相談の場と制度があることを従業員に周知  株式会社村田製作所は、1944(昭和19)年に京都府京都市で創業し、世界的な総合電子部品メーカーに成長した。「独自性」を追求することを常に大切にして、時代の最先端を走る電子部品を開発・生産し、世界のさまざまなメーカーに提供。それらの電子部品は、スマートフォンやパソコン、テレビなど、私たちの身の周りのあらゆる電子機器に使用されており、多くの人の豊かな暮らしの実現に貢献している。  従業員数は、約7万7600人(連結)。うち、国内で働いている従業員が約3万2000人である。  同社では、2019(平成31)年4月に「ムラタ健康宣言」を発表し、この宣言をベースにした健康経営プランに基づく取組みを推進している。同年10月には、「がん治療と仕事の両立支援制度」を創設し、がんを中心とした治療と仕事の両立を図るための支援をスタートさせた。 支援が受けられることを多くの従業員に認知してもらいたい  同社が、「がん治療と仕事の両立支援制度」を創設したのは、がん患者を対象に行った2013年の調査※で、がんと診断後に約4%の人が解雇され、約30%の人が依願退職していると知ったことがきっかけだった。同社サステナビリティ推進部健康推進課の大柿(おおがき)麻有子(まゆこ)シニアマネージャーは、「がんは、通院治療を受けながら働くことが可能な病気となってきているにもかかわらず、これほど多くの人が仕事を辞めていることに衝撃を受けました」と当時の思いを明かす。  「がんと診断されてすぐ『治療と仕事の両立は無理だ』と最初からあきらめてしまう人がいるのではないか」、「早まって退職を決意しないでほしい」、そんな一心から、制度づくりが動き出したという。  一方で、がんにかぎらず、病気などで療養する際の仕事との両立支援は、以前から個別対応で行っていることから、「あえて制度化しなくてもよいのでは」という考え方も社内にはあったという。  しかし、両立支援について相談できる「健康管理室」という場が社内にあることをだれもが認知していればよいが、大半の従業員にとって当時の健康管理室は「健康診断で世話になるところ」といった程度の認識であった。  「がん治療と仕事の両立支援を制度化することで、社内ポータルサイトなどを通じて、『当社にはがん治療について相談できる場があること』を多くの従業員に伝えることができます。それにより、退職をふみとどまる従業員もいるだろうと考え、制度化の取組みがスタートしました」  そして、労使の議論を経て、2019(令和元)年10月、「がん治療と仕事の両立支援制度」が始動した。 目的を明確にして内容を検討し既存制度でカバーできない仕組みを新設  「ムラタ健康宣言」をベースにした同社の健康経営プランは、「地に足のついた健康経営」、「安全・安心な職場で従業員一人ひとりが、自分自身が健康だと実感しながら働ける環境を目ざす」ことを大事にして、健康安全活動を推進している。がん治療と仕事の両立支援制度も、この考え方がベースとなっている。  制度の内容は、厚生労働省の「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」(14ページ参照)を参考にしつつ、自社にフィットする制度とするため、「現場を見て、だれのための制度で、どういう支援をすることが望ましいのか、目的を明確にすることから話し合いました。当社の場合、がん治療をする従業員が、早まって退職しない状態にしていくことが目的です」と大柿さんは話す。  目的を実現するために必要な具体的支援を考えるとともに、従来から運用されている療養のために使える休暇制度や健康保険の傷病手当金などでカバーできること、できないことを整理し、既存制度でカバーできていない部分を新たにつくる形で制度全体を構築していった。 治療と仕事の両立支援の仕組みとがんに特化した支援制度の概要  同社の治療と仕事の両立支援は、「早期発見・早期対応」、「療養・休職」、「復職・治療継続」の3段階で取り組まれており、各段階で必要な支援を、健康管理室(産業保健職)・人事部門・健康保険組合・所属部門が連携して行っている(図表1・2)。  「早期発見・早期対応」、「療養・休職」については、がん検診を含む健康診断や最大30カ月可能な休職制度など、もともとあった手厚い支援制度を活用しているほか、従来の制度になかった取組みとして、抗がん剤の投与を受ける場合など、がん治療にともなって生じる時間的制約に対する配慮をはじめ、次の内容を新たに制度に組み込んだ。 「がん治療と仕事の両立支援制度」概要 ◆対象者  がん治療にともない、通院する従業員(がん治療にともなって生じる時間的制約に対する配慮措置) ◆制度概要  対象者からの申し出により、治療計画に合わせて1年間を限度として、以下いずれかの適用を認める。 @短時間勤務…2時間/日を限度に所定就業時間を短縮 A特別無給休暇…1日/週を限度に特別無給休暇を付与 ※がんの再発により再び通院治療が必要になった場合は、再度1年を限度として適用を認める。 ◆出勤率取扱い  昇給計算、昇格選考受験資格、有給休暇付与での出勤率は、出勤扱いにする。 ◆両立支援プランの作成と継続フォロー  今後のことや仕事のことについて考え始める前に、まず自身の状況を正しく把握することを重視し、信頼のおける機関にアクセスし、各自に合った両立支援プランを作成する。復職後も定期フォローを実施。2次障害(メンタル不調)が起こりうることを前提に、メンタル面でのサポートも行う。 制度創設の効果は相談者が増えたこと一方で見えてきた課題も  治療と仕事の両立支援は、本人または上司が健康管理室に相談することから始まる。制度を創設した効果として大柿さんは、健康管理室への事前(休職前)相談・問合せが増えたことをあげる。2年間の実績で、相談件数は約40件、制度の適用は19件にのぼる。  また、復職後の不調を想定し、「継続フォロー」を制度に取り入れたことにより、治療後も本人に伴走することができており、その効果も感じているという。  復職にあたっては、主治医と連携し、本人に合った復職プランを作成する。そのため主治医には、本人の通勤や職務内容などの的確な情報提供に努め、医学的知見による配慮事項などをできるかぎり具体的に得るようにしている。復職プランは、主治医の意見と本人の希望、職場の実態を見て、総合的に産業医が判断する。ただ、ケースは一人ひとり異なり、その都度最善のプランを考え、作成するのはむずかしく、状況に応じて、産業保健スタッフで事例検討会議を行っている。  一方で、生じた課題の一つとして、本人が復職を強く望んだり、復職を焦ったりする場合での対応がある。健康管理室では、本人の気持ちに寄り添いながらも、会社としては従業員に対して十分な安全配慮を行う義務があり、本人の希望に沿えないこともある。最善を求めて、手探りの対応が続いているという。  「それぞれのケースに対応し検討するなかで、見えてくることもあるので、今後は、運用面での改善を図っていくことも考えています」と柔軟な姿勢で取り組んでいる。  治療と仕事の両立支援について、これから取組みを進める企業へのメッセージを求めると、大柿さんは次のように答えてくれた。  「個別の働きかけや何らかの取組みなど、すでに行われている支援はあると思います。あるいは制度化しなくてもよい会社もあるかもしれません。制度づくりに取り組んだ当社で大切にしたのは、あれもこれもではなく、足元をしっかり見て、だれのために何をするのか、目的を明確にし、既存制度や取組みを整理し、足りないことをつくっていく、ということでした」 定年引上げにともない、加齢による健康変化に対応していく新たな取組みを検討  健康面での従業員へのサポートについては、今後も予防に力を入れていくという。しかし、健康リスクが高く、フォローが必要な人ほど、健康管理室とあまりかかわりを持とうとしない傾向が見られるという。  「そうした人がたまたま来室した際に、なるべく多くの情報提供をしようとして、結局敬遠されるという悪循環に陥ることもあります」  そこで、産業保健職側の対応力を上げるため、マーケティングを用いた手法に着目し、相手の心のつかみ方なども勉強しているそうだ。  また、同社では2024年4月より、定年を現行の60歳から65歳に引き上げることが決まっている。60歳以降も、59歳以前の賃金体系を継続しながら、貢献度などに応じた処遇を行い、さらなる活躍推進を図るとともに、従業員のやりがい向上を目ざすという。  健康管理室では、65歳定年にともなう対応として、加齢による健康変化に着目し、@就業に直結すること、Aリカレント・リスキリングの実現にかかわることの二つの観点から、会社として対応すべき健康変化を絞り込み、必要な対応策を実施していく方針とのこと。同時に高齢従業員の健康意識の向上を図るという。具体的な取組み内容は今後、現場の声を聴きながら検討していくとのことだ。  従業員が生涯現役で働ける同社の取組みに、今後も注目していきたい。 ※出典:「2013がん体験者の悩みや負担等に関する実態調査報告書」,「がんの社会学」に関する研究グループ 図表1 仕事と治療の両立支援 全体図 早期発見・早期対応 療養・休職 復職・治療継続 ・意識しない受検の仕組み  *必須項目  :特定健診の項目  :大腸がん・胃がん・肺がん→受検辞退は可  *子宮頸がん・乳がんは選択式で受検 ・面談・フォローの充実  産業医・保健スタッフが事後措置面談実施  受診勧奨された従業員は、結果を産業保健職に提出 ・療養期間の確保  最大で30カ月の傷病による休職が可能(傷病の種類・勤続年数により期間は異なる) ・療養に使える休暇制度  多目的積立休暇制度を治療に利用できる ・金銭面でのフォロー  傷病手当金・付加給付を健保組合より支給(月収の76.7%) 延長傷病手当金付加金(12カ月)あり、最長で計30カ月の支給 GLTD制度を導入 ・がん治療と仕事の両立支援制度  ※本文を参照 ・両立支援プランの作成と継続フォロー  産業保健職による対個人へのプラン作成、復職後も定期フォローを実施 ・フレキシブルな有休制度  年次有給休暇のうち16時間分を30分単位で、20回分を半日単位で取得可 資料提供:株式会社村田製作所 図表2 がんと診断されてからのフロー がんと診断される 本人または上司から健康管理室へ相談・報告 (希望により)健康管理室から情報提供 治療 復帰の見込みまたは両立支援制度の利用希 健康管理室へ連絡 両立支援制度利用時必要書類(しおり)を受け取る 主治医意見書を会社に提出 両立支援プラン作成(産業保健スタッフ等) 産業医復職判定または支援方法検討面談(上司、(人事)同席) 復職または両立支援制度利用開始 産業医定期面談継続フォロー 資料提供:株式会社村田製作所 写真のキャプション サステナビリティ推進部健康推進課 大柿麻有子シニアマネージャー 【P19】 日本史にみる長寿食 FOOD 354 古代チーズと女流作家 食文化史研究家●永山久夫 意外に進んでいた王朝の牛乳文化  バターやチーズというと、ヨーロッパやアメリカというイメージが強いですが、実は日本にも、独自の「牛乳文化」が大いに栄えた時代がありました。  『源氏物語』の紫式部や『枕草子』の清少納言、それに歌人の小野小町などの美しくて才能豊かな女房たちが活躍した平安時代です。  『源氏物語絵巻』に描かれている女性たちの顔立ちは、みんなふっくらとしていて、円満な表情をしています。身の丈以上に長いつやつやの髪の毛も特徴的です。  髪は良質のタンパク質を中心に、ミネラルやビタミンなどの豊富な食物を日常的にとらなければ、長くて丈夫にはなりません。  しかも、宮仕えの宮女(きゅうじょ)たちは、毎日、何枚もの重ね着が必要で重たい着物で行動しているのです。体力がなければ、務まりません。  そのような時代に、王朝社会の貴族たちの食膳にのぼっていたのが古代チーズといわれる「蘇(そ)」だったのです。 幸せホルモンを増やす  蘇の加工は、平安時代以前から行われていましたが、飛鳥時代の末ごろには国家的事業の貢蘇(こうそ)の制度がつくられ、日本各地の生産量も増えていきました。  貴族たちに支えられた古代日本の牛乳の加工食品は、甘味があっておいしく、しかも、栄養効果の高い食品として、特に高貴な女性たちの間で人気がありました。  当時の記録によれば、「牛乳一斗を煮詰めて、蘇を一升得る」とありますから、牛乳を弱火で根気よく煮詰めると、10 分の1の固形物ができ、それが蘇ということになります。私もテレビ局の依頼でつくったことがありますが、甘味の強いチーズという感じで、実に美味です。  絵巻物などに出てくる平安貴族たちの表情は、ふくよかでおだやか。栄養状態のよさを示し、優雅なふるまいを感じさせます。  乳製品には必須アミノ酸のトリプトファンが多く、脳内の幸せホルモンと呼ばれるセロトニンを増やします。レシチンも含まれており、創作能力を高めるうえでも役に立ちます。  ミネラルも多く、免疫力を高める亜鉛も含まれていますから、病気を防ぎ、不老長寿の人生を送るうえでも、蘇は役に立っていたはずです。 【P20-21】 特別企画 「産業別高齢者雇用推進ガイドライン」のご紹介  高齢者雇用を進めるためのポイントは、業種や業態によって違いがあります。そこで当機構では、産業別団体内に推進委員会を設置し、高齢者雇用に関する具体的な実態を把握するとともに、解決すべき課題などを検討して、高齢者雇用を推進するために必要な留意点や好事例を「ガイドライン」として取りまとめています。  わが国では急速な高齢化が進むなか、中長期的に労働力人口の減少が見込まれ、労働者が社会の支え手として意欲と能力のあるかぎり活躍し続ける「生涯現役社会」の実現が求められています。  2021(令和3)年4月1日より改正高年齢者雇用安定法が施行され、各企業には70歳までの就業確保措置を講ずる努力義務が設けられました。高齢者が長年つちかった能力を十分発揮しながら満足感を得て働き続けるためには、賃金・処遇、能力開発、健康・安全対策などの仕組みづくりがますます重要となります。  しかしながら、産業ごとに労働力の高齢化の状況や置かれている経営環境、職務内容、賃金制度、雇用形態などには差異があります。このため、高齢者の就業機会の確保を図るには産業ごとに必要な諸条件を検討する必要があることから、当機構では「産業別高齢者雇用推進事業」により産業別団体の取組みを支援しています。 「産業別高齢者雇用推進事業」とは  「産業別高齢者雇用推進事業」は、産業別団体が高齢者の雇用推進のために解決すべき課題について検討し、その結果をもとに高齢者雇用推進にあたっての方策・提言からなる「産業別高齢者雇用推進ガイドライン」(以下、「ガイドライン」)を策定し、これを用いて会員企業に普及・啓発することで、高齢者雇用をいっそう効果的に推進することを目的としたものです。  この事業では、毎年1月に高齢者雇用の推進に取り組もうとする全国規模の産業別団体を公募しており、本事業の目的に合致した産業別団体を複数選定し、当機構と契約(2年以内の委託事業)を締結しています。現在までに建設、製造、情報通信、運輸、サービスなど、多岐にわたる産業で、95業種がこの事業に取り組んでいます。 当機構委託 産業別団体 「ガイドライン」の策定/普及・啓発 ○○○業高齢者雇用ガイドライン 会員企業 改善 高齢者の活用・戦力化 ガイドラインの策定  ガイドライン策定への具体的な流れは、産業別団体内に大学教授などの学識経験者を座長として、団体に所属する会員企業の経営者や人事担当者などで構成される高齢者雇用推進委員会(以下、「委員会」)を設置し、各年度4回程度委員会を開催します。  初年度の委員会では、その産業における高齢者雇用の実態把握を行います。高齢者雇用における課題は何かを検討し、あげられた課題をより明確に把握するため、会員企業へのアンケート調査や先進的な企業へのヒアリング調査を実施します。2年度目は、初年度の調査結果で浮き彫りとなった課題とその解決策を整理し、ガイドラインを策定します。  なお、ガイドラインでは、以下の点を主な課題として取り上げています。いずれを重視するかは産業ごとに異なり、各産業の実態をふまえた実践的な一冊に仕上げています。 ・制度面に関する改善 ・能力開発に関する改善 ・新職場・職務の創出 ・健康管理・安全衛生 ・作業施設等の改善 ・定年前の準備支援  ガイドラインは高齢者雇用に対する理解を深め、活用してもらえるよう会員企業に配付します。  さらに、普及・啓発活動として会員企業に対し高齢者雇用推進セミナーを開催することで、ガイドラインをより効果的に活用できるようにするとともに企業への浸透をうながしています。  実際にガイドラインを読んだ会員企業へのアンケート調査結果では、9割ほどの会員企業より「ガイドラインは役に立った」または「役に立ちそうだ」との回答があり、「業界における高齢者雇用の動向を知ることができた」、「高齢者雇用の課題や解決方法がわかった」など、好評をいただいています。 業種を超えたガイドラインの活用  当機構ホームページでは、これまでに策定したガイドラインをはじめ、高齢者を雇用するうえで実際に役立つワークシートやチェックリストなどの各種ツールを公開しています。ガイドラインは業種や時代による変化があったとしても、共通して参考となる点も多くありますので、ぜひご覧いただき高齢者雇用の取組みにお役立てください。  次ページより、2022年度に策定した六つのガイドラインを紹介します。 産業別 高齢者 ガイドライン 検索 産業別高齢者雇用推進ガイドライン一覧 (2019〜2021年度に策定したガイドライン) 製造業 工作機器製造業 高齢者の活躍に向けたガイドライン 〜次世代に伝えたい、もの創りにかける「心」と「技」〜(2019年) 電子デバイス産業における高齢者雇用推進ガイドライン −シニア期の“使えるスキル”発見研修プログラム開発手順− (2019年) 中小型造船業 高齢者雇用推進ガイドライン 〜造船業界のさらなる発展のために〜(2019年) 工業炉製造業 高齢者の活躍に向けたガイドライン 〜高齢者の活躍を企業成長に生かす〜(2020年) 情報通信業 情報サービス業(情報子会社等)における シニア人材活用に関するガイドライン(2020年) 運輸業 添乗サービス業 高齢者雇用推進ガイドライン 〜シニア添乗員の職域拡大を目指して〜(2019年) ハイヤー・タクシー業 高齢者の活躍に向けたガイドライン 〜公共交通機関として安全・安心輸送のために〜(2020年) 不動産業 マンション管理業 高齢者活躍に向けたガイドライン(2020年) 生活関連サービス業、娯楽業 ゴルフ場業 高齢者活躍に向けたガイドライン  ヘルスケア産業としての健康な高齢者雇用を目指して (2019年) 葬儀業における高齢者活用推進のためのガイドライン 〜高齢者の活用による業務スタイルの変化への対応〜(2020年) 医療、福祉 病院における高齢医療従事者の雇用・働き方ハンドブック (2020年) 患者等給食業 高齢者の活躍に向けたガイドライン 〜高齢者の活躍で安全・安心な食事の提供を〜(2021年) 保育サービス業 高齢者の活躍に向けたガイドライン シニア人材の強みを保育施設の運営に活かす(2021年) サービス業 (他に分類されないもの) 廃食用油リサイクル業における高齢者活躍に向けたガイドライン (2021年) ※(  )内はガイドライン策定年度 【P22】 産業別高齢者雇用推進ガイドライン1 とび・土工工事業 高齢者がバトンをつなぐ未来のガイドライン 〜人生100年時代! 活躍の場・生きがいを求めて!〜  とび・土工工事は危険をともない、安全が第一とされるなかで高齢者にとっては厳しい就労環境にある。一方で、長年にわたり研鑽(けんさん)を積み、高い技術と技能を身につけた高齢職人たちの知識と経験を次世代に引き継ぐことは、技術大国日本の復活には不可欠である。  一般社団法人日本鳶工業連合会では、2011(平成23)年に「とび・土工工事業高齢者雇用推進の手引き」を作成し、会員企業に配付。高齢者雇用推進の指針として活用してきたが、2021(令和3)年の改正高年齢者雇用安定法の施行をふまえ、同業界における高齢者雇用に対する現状と問題点、そして課題について検証し、時代に即した高齢者雇用推進方策を当ガイドラインに取りまとめた。  本書の構成は次の通り。  「T とび・土工工事業における高齢職人の活躍に向けた考え方」では、とび・土工工事業において高齢職人のさらなる活躍が求められる背景とともに、同業で働く高齢職人の活躍に向けた考え方を整理している。  「U とび・土工工事業における高齢職人の活躍に向けた9つのポイント」では、とび・土工工事業高齢者雇用推進委員会での検討結果をもとに、人手不足下において高齢職人の活躍を推進しながら企業の発展を進めていくために取り組むべき以下の九つのポイントをまとめている。 ・職人一人ひとりの能力や適性にふさわしい仕事に就いてもらう ・短日・短時間勤務で働いてもらったり、職人同士で仕事を分かち合う ・高齢職人の職務内容や会社への貢献度合いに応じた賃金・処遇制度とする ・安心・安全に働いてもらうためのさらなる安全対策の徹底 ・健康であることが職人として長く働くための前提条件 ・高齢になっても働き続けるために求められる能力開発の推進 ・職人同士の支え合いを促す人間関係を構築する ・長く働くことができる会社であるための制度づくり ・年齢による入場制限への対応  「V とび・土工工事業における高齢者雇用の現状と課題」では、2021年度に実施したアンケート調査の結果を紹介。企業向けのアンケート調査と同時に、働く職人を対象としたアンケート調査も行っており、同業界の高齢者雇用の現状と課題、各社の取組みについて多面的にとらえることができる。  巻末の「参考資料」では、高年齢者雇用安定法の概要、年金制度改正、在職老齢年金と高年齢雇用継続給付の仕組みなどについて説明。また、高齢者雇用に関する情報一覧を示し、運用上の課題解決に向けて相談ができる支援機関を紹介している。 一般社団法人 日本鳶工業連合会 住所 〒105―0011 東京都港区芝公園3―5―20 日鳶連会館 TEL 03―3434―8805 FAX 03―5472―5747 HP https://nittobiren.or.jp 【P23】 産業別高齢者雇用推進ガイドライン2 機械土工工事業における高齢者活用推進のためのガイドブック 〜高齢従業員の活躍と若手従業員の定着に向けて〜  さまざまな建設機械を扱う機械土工工事業は、従業員が高齢になっても活躍し続けることができるといわれる業界である。2015(平成27)年度に「高年齢従業員活用のためのガイドブック」を作成し、高齢者の活躍推進に向けた取組みが進む一方で、2021(令和3)年の改正高年齢者雇用安定法の施行をはじめ、高齢者の就業を取り巻く環境には大きな変化が生じている。そこで、あらためて「産業別高齢者雇用推進事業」に取り組み、各会員事業所および従業員を対象にアンケート調査、ヒアリング調査を実施。その結果をふまえて検討を行い、高齢者活用の推進方策を取りまとめた。  今回のガイドラインでは、高齢従業員と若手従業員のコミュニケーションに着目。コミュニケーションのコツや、互いの得意・不得意を補完し合って協業している事例などを多く紹介しており、高齢従業員の活躍と若手従業員の定着を図り、建設業界・各企業の今後の発展に役立つきっかけとして活用できる一冊となっている。本書の構成は以下の通り。  「T章 本業界の課題」では、機械土工工事業界における高齢従業員の活躍と若手従業員の定着にかかわる五つの課題(「1 経営上の課題のトップ3≠ヘ人材問題」、「2『働き方改革』への対応」、「3 ICT化への対応」、「4 パワハラ防止措置義務化」、「5 改正高齢法への対応」)を掲げ、各課題に関連する豊富なデータをもとに、図表を用いてわかりやすく解説している。  「U章 取組の方向性(ポイント)」では、機械土工工事業界における高齢従業員の活躍と若手従業員の定着に向けた取組みの方向性(ポイント)として、「1 高齢従業員にもできるだけ長く活躍してもらうことで、人手不足を緩和する」、「2 高齢従業員に、多忙な中堅層の役割の一部を担ってもらう」、「3 高齢従業員と若手従業員の協業を図る」、「4 高齢従業員と若手従業員のコミュニケーションを良くする」の4点を掲げ解説。箇条書きでまとめた好事例を豊富に紹介しており参考になる。  資料編の「1 実態調査結果」では、2021年末に日本機械土工協会の会員企業に対して実施したアンケート調査結果を掲載。「2 高齢者雇用に関わる法制度・支援に関する情報」では、改正高年齢者雇用安定法の概要、在職老齢年金と高年齢雇用継続給付、高齢者雇用に関する各種助成金の概要や各種支援などの情報を掲載しており、各企業の状況に応じて確認ができる。「3 求人方法に関する参考情報」は、ハローワークのシステムを活用した求人のポイントをまとめている。  なお、本ガイドラインでは「検索ガイド」を設けており、各企業が置かれた状況や抱える悩み別に、関連するページを参照することができる。 一般社団法人 日本機械土工協会 住所 〒110―0015 東京都台東区東上野5―1―8 上野富士ビル TEL 03―3845―2727 HP http://www.jemca.jp 【P24】 産業別高齢者雇用推進ガイドライン3 建設業基礎工事における高齢技能労働者の活躍ガイドライン  基礎工事業界は慢性的な技能労働者不足に陥っており、技能労働者の補充・雇用対策として、高齢社員の継続雇用に多くの組合員企業が取り組んでいる。しかし、2025年には65歳定年を迎える社員が増加し、その後も年々増える見通しであり、技能労働者不足が危ぶまれる状況である。同ガイドラインは2021(令和3)年に実施した「高齢者雇用推進事業企業向けアンケート」の結果と、専門家の知見と所見をまとめたものである。  序章は、行政による雇用改善に関する諸施策とともに、アンケート調査から判明した組合企業における高齢者雇用の現状について、グラフや図を交えて紹介している。  「第1章 高齢者雇用の現状と対策・高齢者雇用のポイント」では、日本の少子高齢化の現状をふまえたうえで、これまでの基礎工事業における高齢者雇用の取組みをふり返り、高齢技能労働者が継続して働いていくために、企業や業界が向き合うべき課題とポイントをまとめている。  「第2章 高齢技能者の雇用推進のための職場改善のあり方」では、「第1節組合員企業を対象としたアンケート調査から理解すべきこと」において、高齢技能者の活用に向けたむずかしさやメリット、期待する役割や活躍してもらうための配慮について、関連するアンケート結果を紹介し、高齢技能者に活躍してもらうための要点をまとめている。「第2節 職場改善の意義と基本的な方策」では、労働環境と労働条件の改善に関係する法規に触れつつ、法定以上に自発的に環境改善に取り組むことの重要性や、職場の働きやすさと働きにくさを決定づける要因(労働条件)について解説している。「第3節 高齢技能者のための職場改善」では、高齢技能者を取り巻く職場の特性を整理し、どのように「職場魅力」を開発し提供していくかのヒントを示している。  「第3章 雇用・人事制度のあり方」では、能力開発や技能伝承、健康管理など、高齢者雇用を推進するうえで必要な取組みなどについて解説。また、高年齢者就業確保措置を講じるための基礎的要件についても、わかりやすく記載している。  「第4章 高齢技能者の職場と給与水準・人事評価について」では、高齢技能者の職場や賃金等に関するアンケート結果を紹介。「第5章 技能労働者のキャリアプランの意義と導入基盤」では、キャリアややりがいなどの観点から行ったアンケート調査の結果に触れながら、取り組むべき課題を示している。  巻末には、職種転換や新規採用などで高齢社員が活躍する事例を紹介する「高齢者雇用の好事例集」のほか、高齢者雇用に関する法律や助成金などを紹介する「参考資料集」を掲載している。 一般社団法人 全国基礎工事業団体連合会 住所 〒132―0035 東京都江戸川区平井5―10―12 アイケイビル4F TEL 03―3612―6611 FAX 03―3612―6202 HP http://www.kt.rim.or.jp/?zenkiren 【P25】 産業別高齢者雇用推進ガイドライン4 その経験、活かせます! ベテランの活躍が鉄リサイクル業の未来を拓く鉄リサイクル業  鉄リサイクル業においては、多くの高齢者が第一線で活躍しているが、生涯現役社会の実現に向け、高齢者が働きやすい環境の整備がますます重要な課題となってきている。また、多くの事業所が若年者の採用を望みがちであるが、高齢者を大切にする職場は若年者にとっても働きやすいことを理解することも必要である。  本ガイドラインでは、鉄リサイクル業が高齢者雇用を推進していくうえでの三つのポイントや、現在の課題を解決するためのヒントを紹介。各ポイントの解説では、「こんなときどうしたら…?」の見出しで、事業所が直面しうる状況を想定し、解決方法を示している。あわせて、製造業や塗装業など比較的業容が近い業界の具体的な取組み事例があり参考になる。  「1 高齢者の体力・健康面への配慮」の章では、加齢にともない身体能力が低下し、持病を抱えることが多くなることはやむを得ないとしたうえで、「夏の暑熱、冬の寒さは身体的な負担が重い」、「お酒やたばこを控えさせたい」をテーマに高齢社員向けの対応策を紹介している。  「2 技能を伝承するための取組と工夫」では、同業界での技能伝承が「日々の業務を通じた伝承・継承」を基本としており、円滑に行われていないことを指摘。問題点として「技能が属人化し、説明がしにくい」、「教えたり接するのが苦手」を掲げており、それぞれの対応策を提示している。  「3 高齢者のモチベーションの維持」では、役職からの降任、賃金の低下、仕事内容の変更などにより、仕事へのモチベーションが低下してしまう高齢社員も見受けられ、その背景には、社員が定年後のキャリアについて考える場を提供していないことや、企業が高齢社員に何を求めているかしっかり伝えていない例が少なくないことを指摘。その解決策として「定年後を見据えた従業員との面談のタイミング」を示している。また、面談の際に人事担当者や管理職が面談時にそのまま利用可能な「定年後を見据えたベテラン従業員との面談チェックシート」をダウンロードできるURLを掲載している。  巻末には、「活用できる公的助成策・情報源」と題し、改正高年齢者雇用安定法の概要や70歳までの雇用推進に向けて必要な施策、人事制度改定の手順や具体的な高齢者雇用などの事例を掲載した、当機構発行の「70歳雇用推進マニュアル」、「70歳雇用推進事例集2022」を紹介して活用をうながしている。  なお、同業高齢者雇用推進委員会では、本ガイドラインで取り上げた三つのポイントについて解説した、約20分間の動画コンテンツを作成。ガイドライン内にある二次元コードを読み取ったWebサイトで視聴することができる。再現ドラマを交えた情報番組のような解説と、高齢者雇用に取り組む事業所のインタビューで構成され、高齢者雇用のポイントがわかりやすくなっている。 一般社団法人 日本鉄リサイクル工業会 住所 〒103―0025 東京都中央区日本橋茅場町3―2―10 鉄鋼会館内 TEL 03―5695―1541 FAX 03―5695―1548 HP https://www.jisri.or.jp 【P26】 産業別高齢者雇用推進ガイドライン5 歯車製造業 高齢者の活躍に向けたガイドライン 〜シニアの技を次世代にバトンタッチ、皆が活躍できる職場作り〜  歯車製造業は、巨大な物から微細な物まで、 さまざまな歯車の製造を通して社会に貢献し、 着実に成長を遂げている業界である。今後も継 続的な発展・成長を続けていくためには、同業 界で長く働いてきた高齢者の戦略的活用が不可 欠だ。そこで、これからの歯車製造業にふさわ しい高齢者雇用像を提案すべく、歯車製造業高 齢者雇用推進委員会では業界の現状把握のため に企業と従業員の双方を対象としたアンケート 調査およびヒアリング調査を実施。業界特有の 課題を抽出するとともに、調査結果データをも とに、委員の問題意識も交えて活発に討論し、 高齢者雇用のあり方を追求してきた。  本ガイドラインでは、歯車製造業全体の現状 をふまえ、事業所が自社の状況と比較しながら、 同業界の高齢社員にこれからも活躍してもらう ために、企業が取り組むべき六つの指針を紹介。 会社の制度や施策を見直すきっかけとし、高齢 社員はもちろん、ともに働く若手社員や中堅社 員も活き活きと働ける職場をつくるために活用 できる一冊である。  「T 歯車製造業における高齢者の活躍に向けた考え方」では、同業界において、さらなる高齢者の活躍が求められる背景や考え方などを整理している。  「U 歯車製造業における高齢者の活躍推進のための指針」では企業が取り組むべき六つの指針を紹介。「指針1 高齢者の高い満足度を業績につなげる仕組みづくり」、「指針2 貢献度に応じた処遇」、「指針3 高齢者の特性に応じた職務開発と配置」、「指針4 あらゆる機会を捉えて高齢者に意識改革と発想転換を促す」、「指針5 高齢期になっても会社に貢献できる人材の育成」、「指針6 高齢者雇用は会社からすべての従業員に対するメッセージ」となっており、内容をより深く理解できるよう、関連するアンケート調査やヒアリング調査の結果を「企業の意見」、「従業員の意見」として提示するほか、他業種での好事例をあわせて掲載しており参考になる。  「V アンケート調査結果」では、歯車製造業における高齢者雇用の現状と課題、各社の取組みを多面的に把握するために、2021(令和3)年度に実施したアンケート調査結果を表やグラフを用いて報告している。  「W ヒアリング調査結果」では、2021年度および2022年度に行ったヒアリング調査結果の主要な意見を、六つの指針に沿って整理し紹介している。  「X 参考資料」では、高齢者雇用に関する情報一覧を示し、運用上の課題解決に向けて相談ができる支援機関の紹介や、高齢者雇用を巡る今後の政府方針や在職老齢年金と高年齢雇用継続給付制度の仕組みについて、詳しく解説している。 一般社団法人 日本歯車工業会 住所 〒105―0011 東京都港区芝公園3―5―8 機械振興会館208号室 TEL 03―3431 ― 1871 FAX 03―3431 ― 1872 HP https://www.jgma.org 【P27】 産業別高齢者雇用推進ガイドライン6 食品リサイクル業 高齢者の活躍に向けたガイドライン  食品リサイクル業界は比較的新しい業界であるため、生え抜きの社員がまだ定年を迎えていない会社も少なくない。しかし、人手不足の影響で社員の高齢化が進んでいるほか、他業種で定年を迎えた後に雇用されている人も多く、そのため、定年の年齢の考え方は60歳ではなく、65歳か70歳がすでに標準的になっている。  同業界の仕事は、「収集・運搬」と「選別・分別」というまったく異なる二つの職種に分けられ、高齢者雇用上の課題も異なる部分が多い。特に安全面の配慮において、前者は高齢ドライバーの適性の問題、後者は他業種からの高齢転職による技術・経験の不足の問題などがあげられる。そのため本ガイドラインでは、これらの特徴を考慮した取組みのポイントを紹介。個人の意向の積極的な把握と組織の方向性の適切な伝達をはじめ、健康管理、モチベーションの維持・向上、スキルマップの活用などを円滑に行う手段として、参考になる他業種の事例や、基本的な取組みのチェック項目を掲載するなど、現場の取組みを推進するための手引きとして使用できる工夫を施している。本書の構成は以下の通り。  「T 食品リサイクル業における高齢者の活躍に向けた考え方」では、同業界において、さらなる高齢社員の活躍が求められる背景や考え方などを整理している。  「U 食品リサイクル業における高齢者の活躍推進のための指針」では、食品リサイクル業高齢者雇用推進委員会での検討結果をもとに、業界各社が高齢社員の活躍を推進するために取り組むべき四つの指針を紹介。「指針1 組織と個人の目指す方向感の一致」、「指針2 仕組みを通じた高齢者のモチベーションの維持・向上」、「指針3 高齢者の安全性確保の徹底(リスク管理の徹底)」、「指針4 70歳までの就業を目指した組織としての基盤整備」となっており、内容をより深く理解しやすくするために、関連するアンケート調査やヒアリング調査結果、他業種での取組み事例などをあわせて紹介している。また、指針2の項目では、高齢社員それぞれが持つ技術や能力をわかりやすく整理できる「スキルマップ・シート(例)」を掲載するなど、実践的で活用しやすい内容となっている。  「V アンケート調査結果」では、食品リサイクル業における高齢者雇用の現状と課題、各社の取組みを多面的に把握するために、2021(令和3)年度に実施したアンケート調査結果を紹介している。  巻末の「W 参考資料」では、高齢者雇用に関するさまざまな情報を掲載。改正高年齢者雇用安定法の概要や、厚生年金や同一労働同一賃金など、高齢者雇用と関係の深い制度の概要をはじめ、高齢者雇用に関する支援機関や助成金などについても紹介している。 一般社団法人 全国食品リサイクル連合会 住所 〒338 ―0836 埼玉県さいたま市桜区町谷2―1―11―302号 TEL 048―767―8099 FAX 048―767―8151 HP https://syokuri.jp 【P28-32】 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生! こんなときどうする? Season2 第2回 役職定年制って必要? それとも廃止? ★ このマンガに登場する人物、会社等はすべて架空のものです 図表 役職を降りた後の主な仕事・役割※ (単位:%) 調査数 後進への技術・技能の伝承 現場の管理・監督 周囲からのよき相談相手 周辺業務のサポート 通常業務の遂行 その他 部長クラスあるいは課長クラスは対象でない 無回答 部長クラス 全体 944 47.2 6.9 2.2 5.3 24.8 1.1 5.0 7.5 規模別 100人以下 77 41.6 5.2 2.6 5.2 31.2 1.3 1.3 11.7 101〜300人 616 46.4 7.0 2.1 5.0 25.3 0.6 5.4 8.1 301人以上 246 50.8 7.3 2.4 5.7 21.5 2.0 5.3 4.9 課長クラス 全体 944 44.5 5.0 1.9 7.1 33.3 0.7 2.0 5.5 規模別 100人以下 77 36.4 6.5 2.6 7.8 35.1 0.0 1.3 10.4 101〜300人 616 44.2 4.9 2.1 6.5 33.9 0.5 2.1 5.8 301人以上 246 48.0 4.9 1.2 7.7 31.7 1.6 2.0 2.8 ※役職定年制度を導入している企業の回答 ※1 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構『資料シリーズ1 調整型キャリア形成の現状と課題 ―「高齢化時代における企業の45歳以降正社員のキャリア形成と支援に関するアンケート調査」結果―』 https://www.jeed.go.jp/elderly/research/report/document/series1.html ※2 70歳雇用事例サイト jeed elder 検索 https://www.elder.jeed.go.jp 【P33】 解説 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生! こんなときどうする? Season2 第2回 役職定年制って必要? それとも廃止?  高齢者雇用を考えるうえで欠かせない「役職定年制」。マンガに登場した“株式会社さつき産業”のように、役職定年後のモチベーションダウンなどに課題を感じている人も少なくないのではないでしょうか。就業期間の延伸が進むなかで、役職定年後の就業期間も伸びているからこそ、役職定年者の活躍に向けた取組みは欠かせません。そこで、役職定年者の戦力化に向けたポイントについて、東京学芸大学の内田賢教授に解説していただきました。 内田教授に聞く 高齢者雇用のポイント 70歳就業時代を迎え、役職定年後の在籍期間は10〜15年に高齢社員の活力維持に向けて真剣な取組みを  一定年齢に達した者が役職を後進に譲る「役職定年制」では、若手社員や中堅社員がいままでより高い地位と大きな責任をになうことで経験を積み、実力が磨かれます。長期的観点から人材育成に努める企業では、役職定年制も有効な選択肢の一つです。一方、問題となるのは役職離脱者のその後の意欲低下です。その背景には、@役職離脱後の役割や任務があいまいで何をやればよいのかわからない、A管理職手当がなくなって収入が大きくダウン、B肩書きがなくなりプライドを喪失、などが考えられます。  役職離脱者の意欲低下は、本人の能力発揮を低下させるだけではありません。やる気をなくしたベテランの振舞いは職場の同僚である若手社員や中堅社員、ひいては部門や会社の業績に悪影響を与えます。70歳雇用も視野に入った現在、役職定年後も10年、15年在籍する高齢社員の活力維持に、企業は真剣に取り組まねばなりません。  役職定年後の高齢社員が活き活きと働いている企業では、@新人育成のためのテキスト作成や部門の規定・マニュアル作成などテーマを特定して具体的な役割や任務を与える、A与えられた役割や任務の達成度や成果を評価(人事考課)して賃金や賞与に反映する、Bマイスターやフェロー、塾頭など管理職とは違う称号や肩書きを与える、などの工夫をしています。  ある会社では配置転換を重ねて若手を多能工(ゼネラリスト)化、早ければ20代からプレーイングマネージャーとして管理職に就いて全社的視点を体得、知識や技術が陳腐化する前の、50歳前後に役職を離れ、匠(スペシャリスト)として第一線に戻ります。役職定年制の効果的活用の一例です。  大手機械メーカーの元総務部長さんは、「役職定年後、自分のところに相談に来る者が多くなった」とうれしそうに話していました。「上司にはいいにくいが、あの人にだったら相談したい」と慕われるベテランの積極的活用を考えたいものです。 プロフィール 内田賢(うちだ・まさる) 東京学芸大学教育学部教授。 「高年齢者活躍企業コンテスト」審査委員(2012年度〜)のほか、「70歳までの就業機会確保に係るマニュアル作成・事例収集委員会」委員長(2020年度〜)を務める。 【P34-35】 江戸から東京へ [第126回] 平和をビンづめで世界に 長崎のお慶 作家 童門冬二 長崎の貿易娘  お慶(けい)の家は長崎の何代も続いた大店(おおだな)の油屋だった。しかしお慶は満足できなかった。日本(徳川幕府)は鎖国をしていたが、オランダ・中国・朝鮮とは交流していた。そのため幕末には国内の世論は二つに分かれ、 「思いきって世界中の国々と交易すべきだ」  と主張する開国派と、 「日本国の純粋性を貫くために、外国とは交流を断つべきだ」  という攘夷派が対立した。  お慶の店にはその両派が出入りした。お慶は情報を得るために、両派ともうまくつき合った。開国派の代表は土佐(高知県)人の坂本龍馬だった。「海援隊」という船隊をつくり、大名家(藩)が必要とする物資の調達と搬送を行っていた。明るくいつも冗談をいってはまわりを笑わせた。そのなかには大ボラもあったので、 「坂本さんは大ボラ吹きだ」  といわれた。  お慶は独身の娘だったが、男を品性の人≠ニ品行の人≠ニに分けていた。 「たとえ品行はよくても品性のわるい人はキライ」 「品行はわるくても品性のよい人は好き」  という具合にである。  この基準をあてはめると、坂本龍馬は後者であり、熊本藩士の遠山一也やイギリス人のオールトは前者だった。  安政3(1856)年、アメリカ総領事のハリスによって日本の鎖国はコジあけられ、世界の有力国は日本と交易条約を結んだ。お慶は遠山一也たちの情報によって、 「イギリスは日本のお茶をほしがっている」  ことを知って、イギリスから申し込まれる前に茶の生産地から大量の茶を集めた。坂本龍馬が、 「イギリスとは同じ島国で、海でつながってはいるが、あまり大きな取引はしないほうがいい。大損をするぞ」  と警告した。そして、 「小さな舟に平和≠ニ書いた旗を立てて、ロンドンのテムズ川に送りこんだほうがいい」  といった。龍馬らしくないマジメな表情だった。 龍馬の夢をしのぶ  お慶は坂本龍馬のこの案にどこか魅(ひ)かれるものを感じたが、 「また坂本さんの大ボラが始まった」  と笑い、 「そんな子どもじみたことは、海援隊でやればいいじゃない」  と本気にしなかった。お慶にはそのころイギリスから十万斤(きん)の茶の申込みがあり、さらに遠山を介して大量のタバコの輸出の保証人になっていたからだ。坂本の大ボラにくらべ、遠山の品行はマジメだ。お慶は遠山の品行も品性も信じた。  ところが遠山は何か事情があったのだろう、イギリスの商人から代金を受け取っていながら、タバコの現品を渡していなかった。責任が保証人のお慶にまわってきた。 「違約金と弁償金」  ということで、お慶が六千両支払うことになった。お慶は、 「男の見かけの品行のよさやオイシイ言葉はアテにならない」  と身にしみて悟ったが、彼女も日本の女性だ。 「ダマした男より、ダマされた私がオバカだった」  と、いさぎよくあきらめた。  事件の真相は、集めたタバコの量がイギリスが求めた量に達していなかったことにあったようだ。 「わたしが何とかする」  と駆けずりまわったのはお慶だ。彼女も引き渡しのときにまだ要求量に達していないことは知っていた。が、 「不足量はすぐ何とかする」  と考え、また、 「何とかできる」  と、日本人特有の大ざっぱな任侠精神が働いたこともたしかだ。しかし現実はきびしく、ソロバン勘定にきびしいイギリス商人相手では、そんなアイマイな取引きは成立しなかった。  この経験で、お慶はつくづくと自分がつくった男への評価の基準である、 「品行と品性の関係」  が、結局はあまりアテにならないことを知った。弁償金の支払いで、先に得た茶の利益をすべて失った。気の毒に思ったイギリス領事は、長崎県令に、 「お慶さんは、日英の茶貿易の橋を架けた功労者です。表彰してあげてください」  と申し入れた。県令はこれを実行した。お慶は苦笑した。  苦笑の陰で、お慶は一つの光景を頭のなかに思い浮かべた。それは船上に平和≠フ旗を掲げて、 「地球上から争いを追い払おう」  と、世界中の港を説いてまわる坂本龍馬と海援隊の船の姿である。その龍馬は国内戦争による討幕を嫌ったために、討幕側からも親幕側からも狙われ、維新直前に暗殺されてしまった。  お慶が思い浮かべたのは、ビンに詰めた日本のお茶と、そのビンに括(くく)りつけた小さな旗の案だ。旗には平和 日本国お慶≠ニ書かれ、海援隊の行く所にはどこでも従ついていった。 【P36-39】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第131回 香川県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の70歳雇用推進プランナー※1(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 介護など家庭優先の働き方を尊重し定年後も活躍する技術者育成をめざす 企業プロフィール 徳武(とくたけ)産業株式会社(香川県さぬき市) 創業 1957(昭和32)年 業種 介護シューズ企画・製造・販売 社員数 84人(うち正社員数67人) (60歳以上男女内訳) 男性(6人)、女性(10人) (年齢内訳)60〜64歳 6人(7.1%) 65〜69歳 7人(8.3%) 70歳以上 3人(3.6%) 定年・継続雇用制度 定年60歳、希望者全員65歳、その後も年齢上限なく再雇用。最高年齢者は施設・設備保全、環境整備担当の79歳  香川県は、四国の東北部にある全国で最も面積が小さな県です。北は瀬戸内海をはさんで瀬戸大橋で岡山県とつながり、東と南は徳島県、西は愛媛県に接しています。平地と山地はおよそ半々の割合で、瀬戸内海には多数の島が点在しています。一年を通して温暖少雨の穏やかで明るい気候に恵まれています。  当機構の香川支部高齢・障害者業務課の酒井(さかい)祐介(ゆうすけ)課長は、県の特色について、「全国的に有名なうどんだけではなく、『瀬戸内国際芸術祭』が開催されるなど、アートな側面も持ち合わせています。また産業として、手袋やうちわ、冷凍食品、しょうゆなどの調味料の製造が盛んです」と説明します。  最近の事業者からの高齢者雇用に関する相談・問合せの傾向として、「高齢者の急増による組織の活性化についての相談、新たに高齢者を雇用する際の教育についての相談が多い」と話す酒井課長。同支部の取組みについては、「労働力不足や社員の高齢化など、事業主が抱えている課題に対して、高齢社員の力を活用することでその解決の糸口とすべく、各プランナーが専門知識と経験を活かし、相談・助言業務に取り組んでいます。制度改善の提案をした事業所のフォローアップ時には、生産性向上人材育成支援センター※2の職員と同行し、高齢社員の戦力化のための研修をすすめています」と話します。  同支部で活躍するプランナーの一人、塩田(しおた)節子(せつこ)さんは、今年で20年目を迎えるベテランプランナー。社会保険労務士の資格を持ち、人事労務の専門家として総合的な見地から助言を行っています。  「改正高年齢者雇用安定法への対応については、追われるように整備するより、先手を打って制度を整備すること。社員が能力を発揮し、会社に貢献できるような体制を早めに整えていくことが、会社のためにも、高齢社員のためにもなります。今後の社会の動向を見すえて、あらかじめ対応していくことが大切です」(塩田プランナー)  今回は、塩田プランナーの案内で徳武産業株式会社を訪れました。 シェア55%、介護シューズの草分け企業  徳武産業株式会社は、1957(昭和32)年に綿手袋縫製工場として創業し、縫製業を66年営んできた歴史があるメーカーです。1984年に本格的にルームシューズの製造・販売を開始し、1995(平成7)年には高齢者用ケアシューズ「あゆみ」を発売。介護靴において国内シェア55%を占める草分け的企業です。足や歩行の悩みに寄り添い、歩きやすさ、履きやすさ、転倒のしにくさを追求するとともに、靴業界の常識を打ち破り、左右サイズ違いや片方のみの販売も行うなど、独自の事業を展開しています。  コ武(とくたけ)聖子(せいこ)代表取締役社長は、「高齢者の転倒の7割は室内で起きています。筋力が衰えることで高齢者は転倒するといわれますが、履き物を変えることで多くの転倒災害を防ぐことができます。つまずく原因は自分の足より大きいサイズを履くからであって、転倒防止対策を考えるときは、まずは履き物を見直してほしいです」と話します。 個々のライフスタイルに寄り添った選択定年制の実現に向けて  同社は社員の7割が女性で、多くの女性社員が子育てや介護をしながら働いています。  「私自身、家庭での女性の役割負担の重さを実感しています。だからこそ、だれもが働きやすい職場環境づくりを推進することは、企業の務めだと思っています」(コ武社長)  同社の定年年齢は60歳で、希望者全員を65歳まで再雇用しており、65歳以降も年齢上限なく働き続けることができます。「高齢社員には豊富な経験があり、若手社員やお客さまに安心感を与えることができます。困ったときや、だれに聞いたらよいのかわからないときなども、頼りになる存在です」と話します。大きな信頼を寄せるベテラン社員が安心して働けるよう、今後は選択定年制の導入も検討していく予定とのこと。  「一律で65歳に定年年齢を上げるという考え方もあるとは思いますが、社員は一人ひとりライフスタイルが違うので、60歳を一つの節目とし、定年の年齢についての希望を聞くようにしようと考えています」(コ武社長)  また、同社は高齢社員のために新しい職域として、「アシスト制度」を導入しています。これは、定年を迎えた社員が、各部署の業務の状況に応じて、職域を越えてフォローを行うための制度。現在、アシスト制度が適用されている2人の高齢社員は、いずれも総務経理部出身で、事務職のエキスパートです。忙しいときや困ったとき、外部に発注する時間もなく、部署内で対応すると残業になるようなちょっとした業務のサポートなどに対応しています。「ベテランは作業が早く、依頼する側も人となりがわかっているので、頼みやすいようです。ベテラン側もいままでの仕事にこだわらず、経験を最大限に活かして仕事ができますし、さまざまな部署から感謝されてやりがいを感じているようです」と、双方にメリットがある機能的な体制として社内に浸透しつつあります。  塩田プランナーは2021(令和3)年4月に初めて同社を訪問しました。「定年後も高齢社員が知識・経験・能力を活かして働いている実態があり、人材活用の会社方針や協調的な職場風土を高齢者雇用制度に反映してもらいたいという観点からアドバイスを行いました。具体的には定年後の働き方(労働時間、職務内容など)は個人によって異なるので、多様な働き方とそれぞれが活躍できる職務や役割を設定することなどを提案しました」(塩田プランナー)  今回は、会社から経験値を活かした仕事を期待され、役割をまっとうする2人のベテラン社員にお話を聞きました。 積み重ねた経験を活かす仕事で働きやすい会社に貢献  十河(そごう)和福(かずとみ)さん(67歳)は、定年の数年前から65歳まで、中国・四国地区の地域営業担当者として、月の半分は出張の日々だったとのこと。「お客さまサポートセンター」の立ち上げにあたり、「営業経験を活かしてほしい」と期待されて配置転換となりました。現在は、同社の商品を取り扱う事業者や病院売店、スーパー、ホームセンターなどからの問合せに対応しています。「靴の選定や症状への対応など、悩みをしっかりと聞き取り、アドバイスを行っています。お客さまに寄り添うことが何より大切です」と語る十河さん。福祉用具専門相談員、足と靴と健康協議会基本講座資格を持っており、2022年からは直販課の業務も兼務しています。「職場には、自分の子どもより下の年代もいます。若い人たちに見られる立場ですから、自分自身が元気で働くことが一番と思っています。お客さまに対しては受け身ではなく積極的に問いかけをして、より足の状態に合う商品を提案していくよう若手に示しています。『こんなお客さまにはこういう対応をしたよ』と考え方なども伝えるようにしています」と話します。若手社員へのメッセージとして「判断に迷ったときは、できるかぎり安心・安全に基づく対応を選択してほしいと思います」とお客さまに寄り添うようアドバイスを送り、「これからも会社の役に立っていきたい」と決意を語りました。  勤続30年の野崎(のざき)佐代子(さよこ)さん(69歳)は、入社以来、生産管理部国内生産課で縫製を担当しています。「パーツオーダー」というセミオーダー商品の、靴の甲部分の縫製が野崎さんの主な担当業務。「縫製の仕事は数を縫わないと上達しません。先輩たちの手の動きを見て学んできました」と技術を習得するために行った工夫を教えてくれました。  一つの靴を分業で完成させる縫製の仕事は、上達度合いが目で見てもわかりづらいこともあり、1年ほどで辞めてしまう人も少なくないのが悩みの種だとか。「最低でも5年は続けないと一人前になれません。若い方たちがこれから早く上達できるように、手伝っていきたいです」と話します。  国内生産課の課長を務める岡本(おかもと)真裕子(まゆこ)さんは、野崎さんの仕事ぶりについて「ていねいかつ確実な作業が行え、むずかしい作業も進んで引き受けてくれ、あきらめずにやり遂げてくれます。まだまだ成長途中で力量が不足している若手社員の分を補ってくれる存在です」と話します。実は野崎さんは岡本課長の母親です。岡本課長の子育てが落ち着いたころ、野崎さんの縁で内職から入社に至ったのだそう。岡本課長は、母親の働く姿を見てきたからこそ、同社に就職を決めたそうです。「子育てや介護などもあり、やはり家庭のことが一番大切です。会社はこうした考え方を尊重してくれますから、この先もずっと働き続けられると思います」と話し、定年後の勤務継続を視野に入れていました。  一方、野崎さんも職場の働きやすさについて、「以前、在宅介護をしていたときは、会社の朝礼や会議への出席を免除してもらい、とても助かりました。定年後も働き続けることができ、同じ仕事を続けられることには感謝しかありません」と話します。  塩田プランナーは今回の取材を終えて、「働く意欲がある高齢社員に対しては、可能なかぎり個別の事情に配慮した勤務形態を用意することは望ましいことです」と評価していました。  またコ武社長は「製造業は経験に基づく技術が特に重要ですから、高齢技術者の力をうまく活用している製造業者の取組み事例などがあればもっと知りたいです」と、塩田プランナーにリクエストしていました。  徳武産業は本社周辺に増えつつある遊休農地を借り受けるなどし、新規事業として地産地消の農業ビジネスも計画中とのこと。今後は、高齢の地主にノウハウを請いつつ、過疎化が進む地域の活性化にも取り組んでいくそうです。(取材・西村玲) ※1 「65歳超雇用推進プランナー」の名称が、2023年4月から「70歳雇用推進プランナー」に変わりました ※2 生産性向上人材育成支援センター……当機構が運営する全国の職業能力開発促進センターなどに設置し、企業の人材育成に関する相談支援から職業訓練の実施まで、企業の人材育成をサポートしています 塩田節子 プランナー(67歳) アドバイザー・プランナー歴:20年 [塩田プランナーから] 「訪問先の企業それぞれの実情・実態を知ることが、高齢者雇用についてアドバイスするうえで重要になります。まず初めにしっかりヒアリングをして実情・実態を理解し、訪問先企業に共感を持って相談・助言活動を行っています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆香川支部高齢・障害者業務課の酒井課長は塩田プランナーについて、「人事労務管理の専門家であり、日々関連分野の知識習得や情報収集に努めています。その専門性を活かし、訪問先の事業所では人事・賃金制度、人材活用のための教育訓練、健康管理などトータルな助言を行い、多くの事業所から信頼を得ています」と話します。 ◆香川支部高齢・障害者業務課は、ことでん「栗林(りつりん)公園」駅から徒歩約7分のところにあります。周辺には、「お庭の国宝」と称される栗林公園があり、市街地にありながら、豊かな自然を感じることができます。 ◆同県では、プランナー5人が活動しています。2021年度の相談・助言件数は327件、提案件数は107件、2022年度は相談・助言件数は325件、提案件数は105件となっています。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●香川支部高齢・障害者業務課 住所:香川県高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 電話:087-814-3791 写真のキャプション 香川県さぬき市 本社社屋 コ武聖子代表取締役社長 お客さまからの問合せに対応する十河和福さん 親子で勤務する、縫製一筋の野崎佐代子さん(左)と国内生産課課長の岡本真裕子さん(右) 【P40-41】 第81回 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは  日野原実さん(67歳)は、警察畑一筋に歩いてきた。定年後、思いがけない縁の糸が紡がれて、ベーカリーに就職。入社した当初はカレーパンを揚げ続け、いまでは二次加工も担当する。180 度違う世界に飛び込み活き活き働く日野原さんが、生涯現役の喜びを語る。 ベーカリーズキッチン オハナ 道の駅はなぞの店 従業員 日野原(ひのはら)実(みのる)さん 警察という未知の世界へ  私は埼玉県の秩父盆地の西側に位置する小鹿野町(おがのまち)で生まれました。地元の高校を卒業後、大宮市にあった埼玉県警察学校に進みました。家族や親戚に警察関係者は一人もいませんでしたし、警察官という職業に強い憧れがあったわけでもありません。ただ、刺激を求めて家を出たいという思いがあり、気がつけば警察という世界に足をふみ入れていたように思います。本当は大学進学の準備も進めていましたが、家の経済状況を考えてあきらめたという背景もありました。人生はなかなか自分の思う通りにはいきません。  警察学校のカリキュラムは法令関係を学ぶ座学や、柔道、剣道、逮捕術などの実技があり、とても厳しく鍛えられました。辛くなって寮から逃げ出す人もいたほどです。私自身、警察学校を出て警官になってから何度辞めようと思ったかわかりません。警察は階級が重んじられる世界です。尊敬していた先輩が、階級が上がっていくにともなって人間性まで変わってしまったこともあり、警察社会は想像できないくらい理解に苦しむ職場でした。それでもなんとか定年まで働き続けることができたのは、交番勤務時代に地域の方たちと触れ合えたことが原点にあるからだといまは思います。  警察学校で1年学んだ後、狭山(さやま)警察署に配属され、巡査として交番勤務が1年半続きました。自分としては大したことはしていないと思っていたのに、地域のみなさんがとても感謝してくださったことは忘れられません。  焼きたてのパンの香りが漂よう風貌からは以前の姿は想像しがたいが、時折のぞく真剣な表情に、警察官の面影がある。 何ができるのか、自らに問いながら  交番勤務の次に埼玉県警の機動隊員を拝命しましたが、そのころ、成田空港の開港をめぐって反対闘争が激化していました。1978(昭和53)年3月26日に開港反対派によって管制塔が占拠されたときもすぐ近くにいました。4年ほどの機動隊勤務でしたが、激務のため顔つきが変わるほど体重が激減し、実家に帰ったときの両親の驚いた様子を覚えています。  25歳で結婚し、以降は県内の警察署を転々としましたが、県内の異動のため単身赴任もなく、東松山警察署で定年を迎えました。定年後は5年間交番相談員として県内の駅前交番で勤務し、半世紀近くを警察という世界で生きてきました。1年ほどハローワークに通いながら次の仕事を探す日々を過ごしましたが、そろそろ新しいスタートを切らなければと、思い切って妻が勤める会社で働けないか上司に相談してもらいました。上司からは私の英語力や資格についてたずねられたそうですが、英語は話せないし、資格も水の事故が多発する地域で働いていたころに取得した小型船舶の免許ぐらいです。自分の力のなさに暗い気分に陥りましたが、そのことが逆に、何か新しい仕事に挑戦してみようと、自らを鼓舞させるきっかけとなりました。  日野原さんが警察官から180度転換してパンの製造にかかわるようになったのは、直営店やフランチャイズ店を展開しているベーカリーズキッチン「オハナ」の久保田(くぼた)浩司(こうじ)オーナーとの劇的な出会いであった。 縁の糸が紡がれて  「オハナ」で働くようになって、1年が過ぎようとしています。ー私も妻もパンが好きで、パンの情報にはアンテナを広げていましたが、あるとき、塩パンのおいしい店が開店したと聞き、オフの日に妻と二人で出かけました。2014(平成26)年のことで、私はまだ現役の警察官でした。おいしそうなパンに圧倒されながら、心に響いてきたのは「オハナ」という店のネーミングでした。  私は48歳のときに心筋梗塞で倒れて以来、考え方が大きく変わり、「せっかく授かった命を大切にして、人生を楽しもう」とその年から夫婦で毎年ハワイに出かけています。だから、すぐに「オハナ」にはハワイ語で「家族」という意味があることがわかりました。血縁だけでなく、友だちや仲間も包み込む深い言葉であり、「素敵な名前ですね」と私は思わず店員さんに声をかけました。その人は笑顔で店の奥に入っていくと一人の男性を連れてきました。それがオーナーとの最初の出会いです。そのときは挨拶を交わしただけですが、私の第二の人生に大きくかかわる出会いになろうとは、人生は本当におもしろいなあと思います。 生涯現役でパンづくりを  「道の駅はなぞの店」は「オハナ」2号店として2017年5月にオープンしました。私の自宅から近かったこともあり、すぐに出かけていきました。2号店ということで指導に来ていたのか、店の奥にオーナーの姿を見つけました。店が混んでいたこともあり目顔で挨拶、これが2回目の出会いであり、これで終わっていたらいまの私はありません。  3回目の出会いはハワイのカラカウア通りでした。思いがけない再会にお互いに驚き、不思議な縁を感じ、どちらからともなく連絡先を交換して別れました。  退職を迎える数カ月前に冗談半分で「退職したらお店で働かせてください」とメールを送ると、「その際はご連絡お待ちしています」と返信がきました。  交番相談員を終え次のステップを模索していたとき、ふと頭に浮かんだのが退職前のそのメールのやりとりです。思い切って連絡をすると、面接をしてくださるとのこと。そのとき初めて私の経歴をお話ししました。しかしオーナーはすでに、私の素性を知らないまま採用を決めてくれていました。そして2022(令和4)年4月に、パート従業員として入社になったのです。  初日からオハナの人気商品であるカレーパンを揚げる作業の指導を受け、いまでは完全に任されています。そのほかにはお菓子の生地にクマのデコレーションをしてお客さまにお出ししていますが「かわいい」と喜んでくださったり、常連のご高齢のお客さまとの会話も私の働く喜びとなっています。  私は材料を準備するポジションにいるので包丁を使うことも多いのですが、わが家は共働きで私も家事をこなし、包丁の扱いに慣れていたため即戦力となることができました。  週3日、8時から14時までの勤務が基本で、若い人たちと楽しく働かせてもらっています。コミュニケーションが豊かな職場が、だれもが活き活き働ける環境をつくり出すと思います。縁の糸を紡ぎながら、ひいきにしていた大好きな店で、生涯現役の日々を大切に重ねていこうと思います。 【P42-45】 新連載 シニア社員のための「ジョブ型」賃金制度のつくり方 株式会社プライムコンサルタント 代表 菊谷(きくや)寛之(ひろゆき)  従来型のヒト基準の日本的人事制度が制度疲労を起こし、年齢や性別などを問わず人材が活躍できるシンプルな雇用・人事・賃金制度に対するニーズが高まっています。  本連載では、正社員・非正社員を等しくカバーする役割・職務基準の人事制度を軸に、いま話題のジョブ型賃金の活用を含めた高齢者の賃金待遇のあり方を探っていきます。 第1回 賃金の基本要素と日本の賃金制度の変遷 1 賃金決定の基本要素と賃金制度  賃金には毎月の給与、夏冬等の賞与、退職時の退職金・企業年金などがありますが、なんといっても、毎月の給与が労働の直接の対価として最重要です。そのなかでも一番金額の大きい「基本給」部分の組み立て方こそ、賃金制度の最大のテーマです。  少し原理的な話になりますが、使用者が人を雇い賃金を払うのは、使用者の手元に次のような「仕事」があるからです。 1 第三者に任せられる、「目的」の明確な「仕事」がある。 2 人を雇ってその仕事をさせれば、使用者の利益となる「成果」が得られる。 3 使用者は一定の賃金でその仕事を引き受ける労働者を見つけることができる。 4 その成果がもたらす「価値」は、使用者が支払う賃金の額よりも大きい。 5 外部に費用を払って業務を委託したり、代わりの製品・サービスを購入するよりも、また自分で処理するよりも、人を雇うほうが費用対効果は大きい。  人を雇うという行為は、このように明確な経済的利益が見込まれる仕事があるときに、一定の賃金を払って人の「仕事をする能力」を一定の時間量あるいは作業量で買い取り、実際に仕事をさせて使用者の期待する「仕事の成果」を実現するところに本質があります。賃金は、使用者が労働力の使用権を買い取り、使用者の指揮命令のもとで仕事をさせ、使用者に成果をもたらす、社会経済的な媒介の働きをする特別な貨幣なのです。  ここから、賃金の直接的な決定要素は図表1の六つに集約されます。  図表1のうち@ABは、企業内で「人が・仕事をして・成果を上げる」という普遍的な価値創出の構成要素そのものです。Cの支払い形態※1に加え、@AB要素の何を重視して労働者一人ひとりの賃金を配分するかによって、賃金制度の基本的な性格が決まります(後述)。  例えば、だれでもほぼ成果が上がる難易度の低い仕事であれば、人の要素よりも「簡単な仕事」というAの要素で賃金の大半が決まるでしょう。ただし簡単な仕事であっても、経験の度合いによってB成果(貢献度)に有意差があるのであれば、@人材の年功的な能力評価を加味して賃金を決めるかもしれません。  一方、高い専門知識や熟練技能が必要な仕事で、大きな責任がともない、人材の採用や育成に時間がかかる職種の場合は、A仕事の専門性や責任の度合い、@人材のポテンシャルなどをより重視することになります。  専門性よりも、むしろ働く人の態度や努力が成果を大きく左右する仕事の場合は、@人材の行動姿勢を評価したり、仕事のB成果を評価して賃金を決めようとするでしょう。 2 賃金水準はどのように決まるか  @〜Cは企業内の事情ですが、Dの費用は、世間相場に照らしてどれだけ賃金コストがかかるかという「外部基準」を参照する必要性を示します。  経営者は、企業外部の競争環境とともに支払える賃金費用の限界やそのE効果性・経済性をシビアに判断し、なるべく安価に労働力を調達する方法を探りつつ、どの金額まで払えるか、払うべきかを決めていきます。  市場経済のもとでは、賃金水準は人材・労働力という商品の「機能・品質」に対する市場価格と企業間の需給関係によって決まります。  近代経済学の限界効用理論によれば、完全競争市場のもとで利潤を最大化しようとする企業は、次のような単純な理由から雇用や賃金を調整します。  (+)賃金コストを追加して労働者を増やすほうが、より大きな追加収入を得られると判断したとき、企業は人を増やして利益最大化をねらいます。労働市場がタイトになれば、人の採用や離職防止のため賃金を上げます。この動きは企業や経済が成長するときの常態であり、これ以上賃金を上げ、雇用を増やしても企業として追加利益が見込めない限界、または人材不足のため採用できないという限界まで進みます。  賃金の上限は高収益の企業ほど余裕があり、世間相場よりも高い賃金を提示し、よい人材を集めることができます。逆に低収益の企業はその余裕がないため、一定以上の賃金は提示できません。結果として企業の収益性により、賃金格差が生じます。  (−)逆に労働者を減らして賃金コストを減らすほうが、収入の減少以上にメリットが大きいときは、解雇規制などの制限がないかぎり、あえて人を減らします。賃金も上げません。この動きは、景気後退の局面や、企業が高成長から低成長に移行するときなどに起きやすく、これ以上労働者が減ると損失が出るという限界の手前まで進みます。  (±)雇用の増減にかかわらず、賃金を下げても質のよい人材が採用できるのであれば、企業は経済性を考えて、これ以下の賃金では採用しにくいという限界まで賃金を低く据え置きます。厳しい経済環境のもとでは、労働者の最低限の生活維持に必要な賃金水準まで割り込んでしまうこともあるため、最低賃金の法規制を設けることが重要な社会政策となります。 3 事業の成長と人材の評価・選別のメカニズム  企業が労働者を雇うのは、一般家庭で家政婦やベビーシッターを雇ったりする場合の「消費的労働」とは根本的な違いがあります。  企業の場合は、労働の成果が企業内で消費されずに、後工程に次々とリレーされ、最終的には会社の商品・サービスとなって顧客に効用と満足を提供し、その代価として会社の売上げ、そして人件費や利益の源泉となる「付加価値」を実現します。  付加価値とは、簡単にいうと、会社の売上げから、原材料の仕入れや外注にかかった費用(直接原価)を引いた残り、「売上総利益」あるいは「粗利」のことです。  このなかから、会社が支払う賃金・賞与・退職金費用・社会保険料などの人件費、役員報酬、設備に対する償却費などの内部経費や、借入金利息・賃借料などの外部経費がまかなわれ、最後に税前利益が残ります。税金や株主配当を引いた残りが、最終的な「純利益」として会社に蓄積されていきます。多くの会社は、これらの経費を成長の原資として人材や設備、資金に再投資し続け、さらなる事業の成長拡大を目ざします。  会社のいろいろな仕事は、付加価値の拡大再生産という共通の事業目的を効率的に達成するために、高度な分業制によって組織的に編制された「人と仕事の構造体」であり、その付加価値を原資とする配分・再投資・成長のメカニズムこそが企業経営の核心です。  ただし、経済が成熟化して競争が激化し、賃金が高くなればなるほど、人を増やせば収益が増えるという成長機会はかぎられます。複雑な分業制や情報ネットワークからなる高度経済社会において、企業が求める労働力は単なる「人手」ではなく、知的に訓練されさまざまな業務に有能さを発揮できる「高度人材」であり、採用する側もされる側も、互いに厳しい競争にさらされます。  同様の競争・選別は必然的に企業内部でも行われ、評価制度の運用や個別の賃金決定に大きな影響を与えます。例えば新卒が同じ初任給で入社しても、早く仕事を覚え、成長する人材は評価も高く、早く昇給するでしょう。仕事が簡易で人の代替がきく職種よりも、仕事がむずかしく育成に時間やコストがかかる専門的な職種や、責任が重く代替の利かない仕事のほうが、社内の賃金待遇は高くなります。  このように考えると、賃金は、単に人を雇い生活を支える必要コストではなく、さまざまな経営課題に積極的にチャレンジし、成果を上げる人材を確保・育成するための「人的資本投資」として再定義されねばなりません。  会社の賃金制度も、そのような人の目的意識的な働きをうながし、活躍にふさわしい賃金待遇を実現する戦略的な仕組みとしてリニューアルされる必要があるわけです。 4 賃金制度は人基準から仕事基準へ  賃金制度については、@人材、A仕事、B成果のうち、どの要素を重視するかによって、およそ4通りの考え方(やり方)があります(図表2)。  図表3で、これまで日本の賃金制度がたどってきた沿革をふり返ると、  (1)終戦直後の混乱期から経済復興期は、猛烈なインフレに対する生活防衛の戦いがなんといっても最優先され、労使紛争も多発して、大幅賃上げによる生活給の確保が労使の大問題となっていました。  (2)モノづくりによる貿易立国に成功した高度成長期に入ると、労使紛争を避ける春闘方式の枠組みのなかで毎年の賃上げと生活水準の向上が定着します。この時期に新卒採用・年功賃金・終身雇用という日本的経営の基本ができ上がりました。 (3)第一次オイルショックで高度成長期が終わった後も日本経済は順調に安定成長を続け、経済大国化を果たします。日本企業は能力主義的な人的資源管理を武器に「日本の一人勝ち」ともいえる歴史的な大成功をおさめ、この時期、「職能給」と呼ばれる年功的なヒト基準の賃金制度が分厚いサラリーマン・中間層の形成に大きな役割を果たしました。  (4)ところがバブル景気が崩壊し、経済のグローバル化によるデフレが進むなかで、年功的な賃金上昇に急ブレーキがかかります。新自由主義を背景とする自己責任論やリストラ、労働の規制緩和による雇用の多様化が進むなかで、年俸制に代表される成果主義ブームが起きたりしました。  成果主義はその後やや沈静化しますが、この時期を境に、賃金制度の中心は属人的な職能給から仕事基準の役割給に移行し始め、現在に至っています。  (5)現状では、少子高齢化と長期のデフレ経済に苦しむ国内企業とは対照的に、世界ではデジタル経済化で大成功をおさめたGAFAM※2などの巨大新興企業が市場を席捲しています。地政学的な危機も重なり、VUCA※3と呼ばれる急速で不確実な社会変動・流動性がグローバル経済を覆い、日本は明らかに劣勢に立たされるようになりました。最近の円安もいわば国力の低下のあらわれです。  どうも日本企業は経営戦略に基づく人材の確保・活用が弱いのではないか。このような反省から、従来型の日本的なメンバーシップ型の雇用人事の限界を感じられている経営者や人事担当者の間で、これからはグローバルなジョブ型雇用人事に見習い、より目的意識的に価値創造のための人的投資を強化する必要があるのではないか、という声が高まっています。  次回は高齢者の賃金実態にも目を向け、日本企業のヒト基準の雇用人事とジョブ型雇用人事の比較を通して、これからの賃金制度の方向性を検討します。 ※1 Cの支払い形態は勤務日数や労働時間に応じた給与計算や、出来高に基づく歩合給の計算処理などの部分をいいます ※2 GAFAM……Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft の頭文字を取った呼び名 ※3 VUCA……Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉。不確実性が高く将来の予想が困難であることを示す言葉 図表1 賃金決定の基本要素と賃金制度 内部基準 @人材……能力・意欲…………………どんな人が働くのか A仕事……手順・ロジック・道具……どんな仕事をするのか B成果……貢献度………………………どれだけの成果をもたらすのか C時間……作業量………………………どのように支払うのか 外部基準 D費用……世間相場・需給関係………いくらで人を雇えるか E効果……費用対効果・生産性………費用対効果はどれくらいか (賃金制度) (生活)生計費 @人材能力 →A仕事難易度・責任 →B成果貢献度 →(顧客の評価)事業収益 (C時間・作業量) 個別賃金 ↑ 賃金水準 (D費用、E効果) 世間相場・市場価値 付加価値生産性 c 株式会社プライムコンサルタント 禁無断転載 図表2 4つの賃金制度 人材に注目し能力・年功で賃金を決める属人給→職能給 仕事に注目し職務評価で賃金を決める仕事給〈1〉→職務給 役割に注目し役割・貢献度で賃金を決める仕事給〈2〉→役割給 成果に注目し出来高で賃金を決める出来高給→歩合給 c 株式会社プライムコンサルタント 禁無断転載 図表3 日本の賃金制度の沿革とその背景 時代相 経済・社会の動き 雇用・人事のトレンド 賃金制度の動き 経済復興期1945〜54年 経済復興と朝鮮特需猛烈なインフレ 生活防衛・労使紛争 (1)生活給の確保(大幅賃上げ) 高度成長期1955〜73年 モノづくりによる高度成長、貿易立国 生活水準の向上、新卒採用・年功賃金・終身雇用 春闘方式(2)年功給+能力給へ 安定成長期〜バブル景気1974〜1990年 経済大国化バブル景気 能力主義的人的資源管理(日本の一人勝ち) 能力主義(3)職能給が主流 バブル崩壊〜リーマン危機1991〜2010年 長期デフレ、グローバル経済、中国パワー 賃金抑制、自己責任論とリストラ、雇用の多様化 成果主義・年俸制(4)職能給から役割給へ 少子高齢化〜コロナ危機2011〜2023年 デジタル経済化、GAFAM、VUCA 経営戦略に基づく人材確保価値創造への人的投資 メンバーシップ型の限界(5)ジョブ型・職務給の活用 c 株式会社プライムコンサルタント 禁無断転載 【P46-49】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第60回 グループ会社における退職金規程の影響、セクシュアルハラスメントへの介入の是非 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 グループ会社の退職金規程は、自社にも適用されるのですか  自社には退職金規程がないので、退職金を支給しなかったところ、グループ会社の退職金規程を根拠に退職金の支給を請求されました。グループ会社とはいえ、他社であるため、退職金の支給は不要と考えていますが、問題はあるでしょうか。 A  グループ会社間の就業規則の不整合や過去の取扱い例などから、退職金の支給を認めた事案があるため、自社の過去の対応や就業規則の記載を確認する必要があります。 1 退職金制度について  退職金については、これまでにも何度か触れてきましたが、会社が定めないかぎりは、その支給義務はなく、また、その支給条件についても、会社が定める内容に従うことになります。  例えば、懲戒事由が存在する場合には、退職金の金額を減額するような規定についても、就業規則や退職金規程にあらかじめ定めていたのであれば、懲戒事由の重大性などを比較して合理的な範囲であればその減額が許容されることもあります。  そのため、会社に退職金に関する就業規則や規程がなく、労働契約においても退職金の支給約束などをしていないかぎりは、会社が労働者に対して、退職金の支給義務を負担するということはほとんどありません。  ただし、例外的に、自社以外の退職金規程が適用されて、退職金支給義務を負担することがあります。一つは法人格が否認される場合で、もう一つは労使慣行に準ずる形で関連会社の退職金規程が適用されるようなケースです。 2 法人格否認に関する裁判例  法人格の否認については、「法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合においては、法人格を認めることは、法人格なるものの本来の目的に照らして許すべからざるものというべきであり、法人格を否認すべきことが要請される」とする最高裁判例(最高裁昭和44年2月27日第一小法廷判決)が存在することから、当該判例を根拠として、別法人に対して退職金やそのほかの賃金の支払いが請求されることがあります。  東京地裁平成14年10月29日判決は、法人格否認を理由とした退職金請求がなされた事案です。  事案の概要は、グループ会社内において、グループ会社全体の人事・総務・経理などの間接部門を行う会社があるほか、人員の多くがグループ会社からの出向者や転籍者で占められて、順次交代されていたなどの事情がある会社において、退職金の支給がない会社へ転籍した従業員が、転籍前に勤務していたグループ会社の退職金規程に基づき退職金を請求したという事案です。  裁判所は、グループ会社について、「A社とB社は、資本、人事、業務面などにおいて極めて密接な関係があり、グループの会社としてB 社がA 社を支配する関係にあった」としつつも、「A社は、B社とは別個独立の人的、物的組織を有し、業務内容を異にしており、両者の間で、その組織、業務内容、会社財産について混同があった事実を認める余地はない」と判断しました。その理由としては、事業の効率的運営、独立採算性の確保、経営責任の明確化などの観点から法人を設立することは不合理ではないこと、昇給の実施、賞与の支給などは別個独立して行われ、役員や幹部従業員などの重要な人材をスカウトし高額の報酬を支給していたといった事情が加味されています。  他方、人事および財務を一括管理し、役員の選任、給与の決定を代表取締役が掌握し、業務執行においても権限が大幅に制約され、営業利益をグループ会社間で操作されていたことなどを理由に異なる結論となった裁判例(東京地裁平成13年7月25日判決)もあるため、グループ会社運営においては、各社の独立性を確保しておくことは重要な要素となります。 3 関連会社の就業規則が適用された裁判例  法人格の否認とは異なる観点から退職金の支払いが命じられた裁判例(東京地裁平成20年8月20日判決)があります。事案の概要としては、X社から分離独立したY社に勤務する従業員が、X社の退職金規程が適用されることを前提に、退職金の支払いを求めたという事案です。  Y社は、「X社のグループとして一体として経営されていたと思われ、X社の就業規則等をY社においても利用されていたことは十分考えられる」としたうえで、過去にY社において作成されたとみられる退職金一覧表にY社の従業員として原告を含むY社の従業員らについて、X社の「従業員就業規則」、「賃金規程、退職金規程別表」によって算出された退職金額から既払額を控除した金額で記載されていたことがあったことや、その記載された金額を解決金として和解が成立したほかの従業員が存在していたことなどから、Y社において、X社の従業員就業規則等によって、退職金額を算出していたとされました。結果として、Y社は、X社の就業規則等に基づき、退職金を支払うことを命じられることになりました。  グループ会社において、就業規則に統一感を持たせるために、就業規則を同じ内容で届け出ることなどがあります。その場合に、退職金規程について、子会社では退職金を支給しないにもかかわらず、親会社の就業規則のまま「退職金については、退職金規程に定める」といった記載を維持してしまうようなケースも見受けられます。たとえ、子会社における退職金規程を設けていなかったとしても、前述の裁判例のように親会社の就業規則や退職金規程を根拠として、退職金の支払いが命じられることがあり得ます。  そのため、たとえ、退職金規程を将来作成する予定があるとしても、現時点では支給しないのであれば、退職金を支給しないことを明確に記載しておくことが適切でしょう。  ただし、グループ会社間で出向する際に労働条件を不利益に変更することは、原則として本人の同意なく行うことはできませんので、子会社が退職金を支給しない状態であれば、親会社からの退職金支給を維持するなど、不利益を緩和する措置をあわせて用意しておくことも必要になります。 Q2 当事者間で示談が成立したセクハラ事案に会社は介入するべきですか  ある管理職から職場の社員間でセクシュアルハラスメントがあったとの話を聞きました。事実関係を調査する過程で、当事者双方が「示談で済ませたいので、会社には介入してほしくない」という意向を示してきました。仮に、こうした当事者間で示談が成立した場合、会社は関与しない方がよいのでしょうか。 A  職場で生じた場合には、会社としても使用者責任を負担する可能性がある以上、自らの責任範囲を把握する必要があります。また、職場におけるセクシュアルハラスメントに対する懲戒処分の内容を検討するにあたって事実関係を把握する必要性もありますので、関与する必要はあります。ただし、当事者間では解決した問題であるため、懲戒処分の公表などは控えておくことが適切でしょう。 1 ハラスメント防止措置について  2020(令和2)年に労働施策総合推進法および男女雇用機会均等法の改正が行われ、職場で行われる各種ハラスメントに関して、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じることが事業主に義務づけられました。  この改正にともない、事業主としてはハラスメント防止措置をとることが義務づけられており、具体的な措置に関するガイドラインが厚生労働省において定められました。事業主が行うべきとされている措置の典型例は、相談窓口の設置や従業員に対する教育・研修などです。そして、ハラスメント発生時の対応としては、事案にかかわる事実関係を迅速かつ正確に確認することが求められており、さらに、発生後の再発防止策を講じることも求められています。  男女雇用機会均等法およびガイドラインにおいては、「職場」におけるハラスメントの発生が問題となっているため、当事者間で生じたハラスメントが「職場」で行われたものでなければ、当事者間の解決に委ねてもよいことが多いでしょう。ただし、ここでいう「職場」とは、通常就業する場所のみを意味するのではなく、業務を遂行する場所であればこれに含まれますし、その延長線上にある時間帯も含むとされています。基本的には、指揮命令下にあるような労働時間に該当する場合には、業務を遂行している状況にあると考えられるため、例えば、終業時間後の懇親会などであっても、事実上参加が強制されているような場合には、労働時間と評価されるように、終業時間後などであっても、「職場」に該当すると考えられます。  また、ここでいう「職場」の概念は、会社が損害賠償責任を負う根拠となる民法第715条に基づく使用者責任を負担する要件である「事業の執行」の判断と重なる部分が多く、労働時間中のハラスメント被害に対して、会社は損害賠償責任を負担するおそれがあります。 2 セクシュアルハラスメントと会社の責任  社内におけるセクハラ発生時には、だれとだれの間でいかなる責任が生じるのかを整理しておきましょう。  まず、加害者と被害者の間では、不法行為に基づく損害賠償責任が加害者に発生します(民法第709条)。したがって、加害者が、被害者との間で被害に応じた賠償額を合意して、示談による解決を行うことは、原則として、当事者の自由です。  一方で、会社としては、加害者が自社に在籍している労働者である場合で、職場において生じたセクハラについて、使用者として、加害者と連帯して、被害者に対する損害賠償責任を負担することになります(民法第715条)。連帯して責任を負担するということは、加害者と被害者の示談による影響を会社も受ける可能性があるということです。  示談書においては、加害者と被害者の間で、一定額の支払い合意に加えて、当該支払い債務を除いて債権債務が存在しないことや当事者間における事実の認識およびそれに対する謝罪や被害者からの宥恕(ゆうじょ)の意思などが記載されることがあります。たしかに当事者間での解決にはつながるのですが、会社としては、加害者と同額の使用者責任を連帯して負担する立場として、いかなる条件で支払いに合意したのか関心は生じます。また、不合理に高額な示談を成立させた場合に、加害者が示談書に反して支払いを怠ったときに会社に対して同額を支払うことを迫られても会社としてはこれに応じるわけにはいかないでしょう。とはいえ、当事者からの聞き取り調査も行っていなければ、示談の内容が不合理な金額であるか判断する材料がなく、いかなるセクハラが行われたのか不明なまま支払うべき額を検討することもできなくなってしまいます。  したがって、職場におけるセクハラにより生じた損害賠償責任を会社が連帯して負担する可能性がある以上、当事者のみで解決すればよいというものではなく、会社も関与すべき状況にあるといえます。 3 再発防止策について  損害賠償責任に関与する以外にも、会社としてハラスメント防止に必要な再発防止策を検討する必要もあります。再発防止策検討の出発点として、ハラスメントに関する事実関係を把握しておくことは会社の関心事であるといえます。  再発防止策の典型的な方法としては、加害者に対する懲戒処分や厳重注意などにより、同一人物による同様のハラスメント行為を防止することがあげられます。ところが、当事者間で示談したのみでは、そもそも、懲戒処分が必要なほどの加害行為が行われていたのか、いかなる懲戒処分や厳重注意が相当であるのかなどを判断することができず、会社として適切な再発防止策を実施することができなくなります。  セクハラに関する処分の必要性の検討にあたっては、会社としても事実関係の調査を慎重に行う必要があることから、当事者以外から把握した事実のみをもって行うこともむずかしく、やはり当事者からのヒアリングなどを行う必要性は高いと考えられます。当事者が会社への報告を拒むような場合には、当事者からのヒアリング内容については社内において守秘することを前提に、当事者のみで解決するのではなく、会社を交えて事実関係の整理に協力するよう求めることが適切と考えます。  ただし、セクハラについては被害者のプライバシーに対する配慮も必要であるため、懲戒処分を行う場合であっても、事案の内容をみだりに公表することは控える必要があると考えられます。したがって、懲戒処分の公表という形での再発防止策を講じることがむずかしくなると考えられますので、全体的な研修や教育を再度実施するなかで、あらためて注意喚起を行うといった工夫が必要になるでしょう。 【P50-51】 活き活き働くための高齢者の健康ライフ Healthy Life for the elderly  70歳までの就業が企業の努力義務となり、時代はまさに「生涯現役時代」を迎えようとしています。高齢者に元気に働き続けてもらうためには、何より「健康」が欠かせません。  働く高齢者の「健康」について坂根直樹先生が解説する本連載も、今回が最終回です。 坂根 直樹 最終回 転倒災害を予防しよう 増加傾向にある転倒災害  転倒は、通路・床などのほぼ同一平面上で滑ったり、段差・突起物などでつまずいたりすることで起こります。また、梯子(はしご)や階段から落ちるのは「転落・墜落」といって、転倒とは区別されています。「転倒災害」とは、交通事故・感電などを除いた「転倒による労働災害」のことで、もっとも多い労働災害のひとつです。そのため、厚生労働省では2015(平成27)年から「STOP! 転倒災害プロジェクト」を展開し、転倒災害の防止を呼びかけています。しかし、2021(令和3)年度の労働者死傷病報告(休業4日以上)によれば、もっとも多い労働災害が転倒災害で、2017年に比べて18.9%も増加しています。特に、小売業、社会福祉施設および飲食店では労働災害の3割を占めており、陸上貨物運送事業でも著明に増加しています。転倒しにくい環境をつくるだけでなく、転倒しにくい身体づくりが必要なようです。 転倒しやすいのはどんな人?  それでは、「転倒しやすい人」とはどんな人でしょうか。子どもの運動会でリレーなどに出場して、転ぶお父さんがいます。昔はスポーツマンだったかもしれませんが、いまは運動不足で足がついていかず、もつれて転倒してしまったということが考えられます。また、屋外だけでなく、屋内の何もないところでつまずいてしまう人もいます。これはつま先を上げる筋肉である前脛骨筋が弱っていることが考えられます。つま先を上げる運動をやってみましょう(図表1)。 ロコモと転倒  英語で「移動すること」を「ロコモーション(locomotion)」といいますが、骨・関節・筋肉などの運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態を「ロコモティブシンドローム」(略して、「ロコモ」)といいます。要支援、要介護になる最大の原因は転倒による骨折や、関節の病気など運動器の障害です。ロコモ度が進行すると、将来介護が必要になるリスクが高くなります。  そのロコモ度を簡単に調べるチェック法として七つのロコチェックがあります(図表2)。65歳以上の高齢者154人(男性35人、女性119人:平均年齢77.3歳)に七つのロコチェックを行い、12カ月間追跡したところ、ロコチェックの数が多い人ほど、よく転倒していました。ロコチェックの数が一つ増えるごとに転倒へのオッズ比が1.32倍高くなり、ロコチェックの数が四つ以上となると転倒の高リスクとなりました(オッズ比9.26倍)※1。  読者のみなさんは片脚立ちが何秒くらいできるでしょうか。開眼で片脚立ちが15秒以上できない人を「運動器不安定症」といい、転倒リスクが高い状態です。骨と筋肉を鍛えて転倒を予防するには、「ダイナミックフラミンゴ療法」が有効です※2。フラミンゴのように片脚で立ちます。ふらついて倒れないように椅子やテーブルで身体を支えて、左右1分ずつ1日3回(朝昼晩など)からスタートしてみましょう。 エイジングと運動  転倒だけでなく、人生につまずかないためにはどんなことに配慮したらよいのでしょうか。エイジング(老化)をポジティブにとらえている人はネガティブにとらえている人に比べて、健康で長生きするといわれています※3。そのような人は運動習慣があり、睡眠の質が高い傾向があります。また、仲間が多く、楽観的で何らかの目的意識を持っていたようです。運動の変化ステージは無関心期から維持期の五つのステージに分かれます。ステージごとに作戦は異なりますが、運動習慣をつけるためには運動したくなる刺激をたくさんつくっておくことが大切です(図表3) ★本連載の第1回から最終回までを、当機構ホームページでまとめてお読みいただけます https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/series.html ※1 Shigematsu H, et al. Can the loco-check be used as a self-check tool for evaluating fall risk among older subjects? A prospective study. J Orthop Sci. 2021;26(5):891-895. ※2 Sakamoto K, et al. Why not use your own body weight to prevent falls? A randomized, controlled trial of balance therapy to prevent falls and fractures for elderly people who can stand on one leg for < 15 s. J Orthop Sci. 2013;18(1):110-20. ※3 Nakamura JS, et al. Associations Between Satisfaction With Aging and Health and Well-being Outcomes Among Older US Adults. JAMA Netw Open. 2022;5(2):e2147797. 図表1 前脛骨筋を鍛える運動 ※ 筆者作成 図表2 七つのロコチェック 1.片脚立ちで靴下がはけない 2.家の中でつまずいたり滑ったりする 3.階段を昇るのに手すりが必要である 4.横断歩道を青信号で渡り切れない 5.15分くらい続けて歩けない 6.2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である 7.家のやや重い仕事が困難である 出典:Shigematsu H, et al. Can the loco-check be used as a self-check tool for evaluating fall risk among older subjects? A prospective study. J Orthop Sci. 2021;26(5):891-895. 図表3 運動したくなる刺激をつくる 維持期 実行期 傷害予防 準備期 スキル伝授・効果の確認 関心期 行動目標設定・賞賛・障害対策 無関心期 刺激統制法・認知再構成法・自己監視法 病態の把握と情報交換・体力テスト・サポート・環境調整 (過去の運動歴、現在の歩数、階段使用、犬の散歩など) 刺激→行動→結果 刺激統制法の例 ・体操を紹介しているテレビ番組を見る ・運動したくなるポスター ・運動したことを記録(カレンダー、アプリ) ・玄関にウォーキングシューズ ・運動グッズを出す ※筆者作成 【P52-53】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第34回 「採用」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は採用について取り上げます。人事のうえでの採用とは「企業などに必要な人材を確保するために雇い入れること」をさします。 採用にはいろいろな種類がある  採用に関する基本的な種類から押さえておきたいと思います。まずは、対象者の違いでみていきます。 ・新卒採用…一定の時期に学校を卒業する見込みのある学生(新卒)を採用することです。大学卒や高校卒、専門学校卒など学歴別に定員を定めて採用するケースがほとんどです。基本的には就業経験のない学生を採用することになるため、入社後の育成を前提に潜在的な能力を期待した採用(ポテンシャル採用)となります。 ・中途採用…新卒と異なり、すでに就業経験のある人材を採用することです。多くの場合は、社員の離職や事業の拡大などにより不足した労働力の確保を目的として行うため、他社での経験やスキルを活かし即戦力となることを期待した採用(キャリア採用)が主となります。なお、学校を卒業後に3年間程度の就業経験のある者を第二新卒と区分し、一定の就業経験と潜在的な能力の両面を期待し、採用することもあります。  次に、採用時期の違いについてみていきます。 ・一括採用…特定の期間に採用活動を行い、定められた日にちにまとめて入社させることです。主に新卒採用が対象で、卒業後の4月1日に入社させることが多いため新卒一括採用とも呼ばれます。広報活動・採用選考などの採用活動の時期については、現在は政府が、学生の学業への影響を配慮して、広報活動開始日・採用選考活動開始日・正式な内定(企業が雇用する意思を本人に伝える状態)日に分けて要請を出しています。 ・通年採用…期間を特定せずに年間を通して採用活動をし、入社をさせることです。必要な労働力を確保したい時期に採用を行う中途採用が主な対象となります。  次に、採用時の職務限定の有無についてみていきます。 ・職務の限定なし…入社後の職務について特には限定せずに、ジョブローテーションによってさまざまな職務を経験させることを前提とした採用で、総合職採用ともいいます。従事する職務ありきでなく、企業の一員として人を雇用するという意味からメンバーシップ型雇用と呼ばれることもあります。 ・職務の限定あり…入社後の職務内容を明確化した採用です。職務内容はジョブディスクリプション(職務記述書)などで定義され、この定義に限定して働くことが想定されています。特定職務の必要性に応じて人を雇用するという意味からジョブ型雇用と呼ばれることもあります。 採用の傾向は変化の過程にある  日本の採用の特徴的な傾向として、「新卒一括採用」、「職務の限定なし」と従来からいわれていますが、現在この傾向は変化の過程にあります。経済産業省が2020(令和2)年に公表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書」において、「メンバーシップ型雇用は、事業環境が急速に変化し、個人の価値観・ニーズも多様化するなかでは、変化に対応した人材の育成・獲得や従業員の専門性の観点から課題が顕在化してきている」、との指摘があるように従来型の採用では限界があるという認識が広まっています。具体的な変化の一つとしては、就業経験のない新卒採用ではジョブ型の採用は向かないというのが従来の一般的な認識でしたが、現在では学生時代で専門スキルを習得可能なIT分野を中心に、新卒のジョブ型雇用も広がりをみせています。  また、政府が現在要請している採用活動の時期については、例えば2023年度卒業・修了予定者は採用選考活動開始を卒業・修了年度の6月1日以降としていますが、2026年春卒業・修了予定者より、専門性の高い学生を中心により柔軟な方向に見直すよう検討を進めるとしています。現状でもすでに幅広い人材の確保を目的に、新卒採用でも通年採用を行う企業や、新卒・既卒の別を設けない採用を行う企業も増えてきています。  これらの変化は政府が主導する前に各社が独自で進めている点も多分にあります。専門性のある人材を中心に、人材の確保は各社の重要課題となっており、横並びの採用活動では立ち行かなくなりつつあることが背景にあります。 採用は売り手℃s場  それではなぜ、人材の確保が重要課題になっているのでしょうか。それは、会社が労働力を求める求人と働くことを申し入れる応募の需給バランスが崩れていることに起因しています。求人数が応募者数を上回る状況を売り手市場(応募者が有利)、求人数が応募者数を下回る状況を買い手市場(企業が有利)と呼びますが、現在は売り手市場といえる状況にあるからです。例えば、一人の求職者に対してどれだけの求人があるのかを表す有効求人倍率は2022年12月時点では1.35倍、2022年平均で1.28倍となっています(「一般職業紹介状況(令和4年12月分及び令和4年分)について」厚生労働省)。ただし、こちらは新規学卒者を除きパートタイムを含むものであるため、リクルートワークス研究所の「第39回ワークス大卒求人倍率調査(2023年卒)」で大学・大学院卒で求人倍率をみると、2023年3月卒業予定1.58倍という状況にあります。業界別にみると金融業は0.22倍という狭き門に対して、流通業7.77倍、建設業7.70倍というように求人倍率に格差が明確に存在する状況です。このような学生の取り合いともいえる状況下、優秀人材の確保を目的に、2022年度大学卒初任給平均21万2129円(「2022年度決定初任給の最終結果」一般財団法人労務行政研究所)に対して、25万円〜30万円をターゲットに初任給の大幅引き上げを2023年3月時点で公表している企業が複数出てきています。今後は企業が選ばれる側≠ヨ採用政策を切り替える流れが進んでいきそうです。 * * * *   次回は、「安全配慮義務」について解説します。 【P54-55】 労務資料 第17回中高年者縦断調査 (中高年者の生活に関する継続調査)の概況 厚生労働省政策統括官付参事官付世帯統計室  厚生労働省は、2005(平成17)年度から、団塊の世代を含む全国の中高年世代の男女を追跡し、その健康・就業・社会活動について意識面・事実面の変化の過程を継続的に調査しています。このほど、第17回(2021〈令和3〉年)の結果がまとまりましたので、「就業の状況」を中心にその結果を抜粋してご紹介します。  調査は、2005年10月末時点で50〜59歳だった全国の男女を対象としており、第17回調査における対象年齢は66〜75歳、調査の期日は2021年11月3日(水)、調査対象は1万9765人、回収数は1万8999人、回収率は96.1%でした(編集部)。 世帯の状況  この16年間で、「夫婦のみの世帯」の割合は増加、「三世代世帯」、「親なし子ありの世帯」の割合は減少  第1回調査(平成17年)から16年間の世帯構成の変化をみると、「夫婦のみの世帯」は、第1回21.5%から第17回46.9%と増加している。一方、「三世代世帯」は、第1回22.2%から第17回10.8%、「親なし子ありの世帯」は、第1回39.5%から第17回23.7%と減少している。また、第1回の世帯構成別に第17回の世帯構成をみると、「夫婦のみの世帯」に変化した割合は、「親なし子ありの世帯」が46.0%、「親あり子なしの世帯」が42.2%と高くなっている。 就業の状況 (1)就業状況の変化  この16年間で、「正規の職員・従業員」の割合は減少、「パート・アルバイト」の割合は徐々に減少傾向  第1回調査から16年間の就業状況の変化をみると、「正規の職員・従業員」は、第1回38.6%から第17回3.0%と減少している。また、「パート・アルバイト」は、第1回16.9%から第17回14.6%と、減少傾向である(図表1)。  また、第1回で「仕事をしている」者について、性別に第17回の就業状況をみると、男の「(第1回)正規の職員・従業員」では「仕事をしていない」の55.8%が最も高く、次いで「パート・アルバイト」の15.6%、「労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託」の10.3%となっている。女の「(第1回)パート・アルバイト」では「仕事をしていない」の64.0%が最も高く、次いで「パート・アルバイト」の29.1%となっている。 (2)第1回調査時に「65歳以降仕事をしたい」と答えた者の現在の就業状況  第1回調査時に「65歳以降仕事をしたい」と答えた者で、第17回に「仕事をしている」のは、男の「66〜69歳」で6割以上、「70〜74歳」で5割以上、「75歳」で4割以上、女の「66〜69歳」で5割以上、「70〜74歳」で約4割、「75歳」で3割以上  第1回調査時(50〜59歳)に「65歳以降仕事をしたい」と答えた者について、性・年齢階級別に第17回で「仕事をしている」者の割合をみると、男の「66〜69歳」で66.6%、「70〜74歳」で51.7%、「75歳」で43.9%、女の「66〜69歳」で53.8%、「70〜74歳」で39.6%、「75歳」で34.0%となっており、いずれも女より男の方が高くなっている(図表2)。 図表1 第1回調査から第17回調査までの就業状況の変化 第1回 仕事をしている 自営業主、家族従業者15.4% 会社・団体等の役員4.7% 正規の職員・従業員38.6% パート・アルバイト16.9% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託3.8% 家庭での内職など、その他2.2% 仕事のかたち不詳0.2% 仕事をしていない18.2% 不詳0.0% 第2回 仕事をしている 自営業主、家族従業者15.1% 会社・団体等の役員4.9% 正規の職員・従業員35.9% パート・アルバイト17.6% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託4.2% 家庭での内職など、その他2.5% 仕事のかたち不詳0.3% 仕事をしていない19.5% 不詳0.0% 第3回 仕事をしている 自営業主、家族従業者15.1% 会社・団体等の役員4.7% 正規の職員・従業員33.0% パート・アルバイト17.4% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託5.8% 家庭での内職など、その他2.4% 仕事のかたち不詳0.4% 仕事をしていない21.3% 不詳0.0% 第4回 仕事をしている 自営業主、家族従業者15.2% 会社・団体等の役員4.5% 正規の職員・従業員29.7% パート・アルバイト17.7% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託7.0% 家庭での内職など、その他2.3% 仕事のかたち不詳0.3% 仕事をしていない23.3% 不詳0.0% 第5回 仕事をしている 自営業主、家族従業者15.2% 会社・団体等の役員4.2% 正規の職員・従業員26.0% パート・アルバイト17.1% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託7.9% 家庭での内職など、その他2.3% 仕事のかたち不詳0.2% 仕事をしていない27.0% 不詳0.0% 第6回 仕事をしている 自営業主、家族従業者14.9% 会社・団体等の役員4.3% 正規の職員・従業員22.6% パート・アルバイト17.5% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託8.4% 家庭での内職など、その他2.2% 仕事のかたち不詳0.1% 仕事をしていない29.9% 不詳0.1% 第7回 仕事をしている 自営業主、家族従業者15.0% 会社・団体等の役員4.1% 正規の職員・従業員18.9% パート・アルバイト17.2% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託9.3% 家庭での内職など、その他2.4% 仕事のかたち不詳0.1% 仕事をしていない32.9% 不詳0.1% 第8回 仕事をしている 自営業主、家族従業者14.7% 会社・団体等の役員4.0% 正規の職員・従業員16.0% パート・アルバイト17.2% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託9.3% 家庭での内職など、その他2.6% 仕事のかたち不詳0.0% 仕事をしていない35.8% 不詳0.3% 第9回 仕事をしている 自営業主、家族従業者14.6% 会社・団体等の役員3.8% 正規の職員・従業員13.1% パート・アルバイト17.7% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託9.2% 家庭での内職など、その他2.8% 仕事のかたち不詳0.1% 仕事をしていない38.7% 不詳0.1% 第10回 仕事をしている 自営業主、家族従業者14.6% 会社・団体等の役員3.9% 正規の職員・従業員10.5% パート・アルバイト17.6% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託9.6% 家庭での内職など、その他2.4% 仕事のかたち不詳0.1% 仕事をしていない41.1% 不詳0.2% 第11回 仕事をしている 自営業主、家族従業者14.3% 会社・団体等の役員3.7% 正規の職員・従業員8.0% パート・アルバイト17.9% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託9.3% 家庭での内職など、その他2.5% 仕事のかたち不詳0.1% 仕事をしていない43.9% 不詳0.2% 第12回 仕事をしている 自営業主、家族従業者14.1% 会社・団体等の役員3.6% 正規の職員・従業員6.6% パート・アルバイト18.0% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託8.9% 家庭での内職など、その他2.5% 仕事のかたち不詳0.1% 仕事をしていない46.1% 不詳0.1% 第13回 仕事をしている 自営業主、家族従業者13.8% 会社・団体等の役員3.5% 正規の職員・従業員5.5% パート・アルバイト17.8% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託8.0% 家庭での内職など、その他2.6% 仕事のかたち不詳0.0% 仕事をしていない48.6% 不詳0.1% 第14回 仕事をしている 自営業主、家族従業者13.5% 会社・団体等の役員3.2% 正規の職員・従業員4.6% パート・アルバイト17.7% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託7.3% 家庭での内職など、その他2.6% 仕事のかたち不詳0.1% 仕事をしていない50.8% 不詳0.2% 第15回 仕事をしている 自営業主、家族従業者13.1% 会社・団体等の役員3.2% 正規の職員・従業員4.2% パート・アルバイト17.2% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託6.3% 家庭での内職など、その他2.6% 仕事のかたち不詳0.1% 仕事をしていない53.2% 不詳0.2% 第16回 仕事をしている 自営業主、家族従業者12.9% 会社・団体等の役員3.0% 正規の職員・従業員3.5% パート・アルバイト15.7% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託5.4% 家庭での内職など、その他2.3% 仕事のかたち不詳0.0% 仕事をしていない56.8% 不詳0.3% 第17回 仕事をしている 自営業主、家族従業者12.6% 会社・団体等の役員2.7% 正規の職員・従業員3.0% パート・アルバイト14.6% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託4.7% 家庭での内職など、その他2.5% 仕事のかたち不詳0.1% 仕事をしていない59.4% 不詳0.4% 図表2 性、年齢階級別にみた第1回調査時に「65歳以降仕事をしたい」と答えた者の第17回調査の仕事の有無 【男】 66歳〜69歳 仕事をしている66.6% 不詳仕事をしていない33.2% 不詳0.2% 70歳〜74歳 仕事をしている51.7% 不詳仕事をしていない48.0% 不詳0.3% 75歳 仕事をしている43.9% 不詳仕事をしていない55.8% 不詳0.2% 【女】 66歳〜69歳 仕事をしている53.8% 不詳仕事をしていない46.0% 不詳0.2% 70歳〜74歳 仕事をしている39.6% 不詳仕事をしていない60.0% 不詳0.4% 75歳 仕事をしている34.0% 不詳仕事をしていない64.0% 不詳2.0% 注:第1回調査時に「65歳以降仕事をしたい」と答えた者の性・年齢階級ごとの総数を100としたときの割合である。 【P56-57】 TOPIC 〜5月31日 非正規雇用労働者の賃金引上げに向けた同一労働同一賃金の取組強化期間について  厚生労働省では、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の均衡のとれた待遇を確保していくため、不合理な待遇差の是正に向けて、同一労働同一賃金の遵守の徹底に取り組んでおり、2023年3月15日から5月31日までを「非正規雇用労働者の賃金引上げに向けた同一労働同一賃金の取組み強化期間」として、賃金引上げの流れを中小企業・小規模事業者の労働者および非正規雇用労働者にも確実に波及させるための取組みを、経済団体・業界団体・自治体等に呼びかけています。  同一労働同一賃金の問題は、定年後再雇用の高齢社員をはじめ、派遣社員なども密接にかかわってくる問題です。賃金の引上げや社員の待遇改善に向け、さまざまな公的支援がありますので、これを機に自社の均等・均衡待遇の実現に取り組んでみてはいかがでしょうか。 パートタイム・有期雇用労働法で正社員と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差は禁止されています  「パートタイム・有期雇用労働法」では、正社員(無期雇用のフルタイム労働者)と非正規雇用労働者(パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)との間での不合理な待遇差の禁止を定めており、大企業では2020年4月、中小企業では2021年4月より適用されています。 正社員と同じ仕事をしているのに… 正社員と同じように手当はもらえないの? その待遇の違い、説明できますか? ・「パートだから」、「契約社員だから」という理由では、説明として認められません。 ・待遇ごとの性質・目的に照らして、職務内容や転勤・異動の範囲の違いなどから、具体的に理由を説明できることが必要です 何をどう見直せばいいの? 見直しのポイントは次ページへ 不合理な待遇差の見直しのポイント 厚生労働省『「同一労働同一賃金ガイドライン」の概要』より抜粋 1 基本給 ・能力や経験に応じて支払うもの、業績や成果に応じて支払うもの、勤続年数に応じて支払うもの、などその趣旨・性格がさまざまである現実を認めたうえで、それぞれの趣旨・性格に照らして、実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。 2 賞与 ・会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについては、同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。 3 各種手当 ・同一の内容の役職には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。 4 福利厚生・教育訓練 ・食堂、休憩室、更衣室といった福利厚生施設の利用、転勤の有無等の要件が同一の場合の転勤者用社宅、慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有給保障については、同一の利用・付与を行わなければならない。 ・教育訓練であって、現在の職務に必要な技能・知識を習得するために実施するものについては、同一の職務内容であれば同一の、違いがあれば違いに応じた実施を行わなければならない。 詳しくは 同一労働同一賃金 検索 働き方改革推進支援センターを利用してみませんか?  同一労働同一賃金に向けた非正規雇用労働者の待遇改善など、中小企業・小規模事業者の方々が抱えるさまざまな課題に対応するため、ワンストップ相談窓口として、「働き方改革推進支援センター」を47都道府県に開設しています。 以下の4つの取組みをワンストップで支援します! 不合理な待遇差の見直しのポイント @長時間労働の是正 A同一労働同一賃金等非正規雇用労働者の待遇改善 B生産性向上による賃金引上げ C人手不足の解消に向けた雇用管理改善 詳しくは 働き方改革推進支援センター 検索 厚生労働省 「賃金引き上げ特設ページ」を開設 https://pc.saiteichingin.info/chingin/  賃金引上げを実施した企業の取組み事例や、各地域における平均的な賃金額がわかる検索機能など、賃金引上げのために参考となる情報を掲載しています。賃金引上げを検討される際に、ぜひご利用ください。 賃金引き上げ特設ページのメニュー MENU1 賃金引上げに向けた取組み事例の紹介 賃金引上げの事例を収集し、賃金引上げに向けた取組み内容、そのポイントや従業員の声などを写真とともに掲載しています。 MENU2 地域・業種・職種ごとの平均的な賃金検索機能 賃金引上げの参考となる平均的な賃金額を検索できるページです。都道府県別に、年代別や業種・職種別の平均的な賃金額を検索できます。 MENU3 賃金引上げに向けた政府の支援策の紹介 賃金引上げの参考となる賃金引上げに向けた各種支援策をとりまとめたページです。賃金引上げ、生産性向上や業務効率化のための各種助成金等に関する情報を掲載しています。 【P58】 BOOKS これからの時代を見すえた、労務管理の入門書 図解と事例これ一冊! 労務管理の基本がぜんぶわかる本 三谷文夫 著/ワン・パブリッシング/1540円  コロナ禍でのテレワークの急速な拡大や健康経営への関心の高まり、国による副業の推進など、ここ数年、企業を取り巻く労働環境は大きく変化している。  本書は、そうした変化をとらえて、テレワーク中の部下の管理や在宅勤務の増加による通勤手当廃止、副業の容認、ハラスメント対策など、いま知りたい労務管理の課題を例にあげ、その考え方やポイントを解説する。  第1章の「採用」から、「賃金」、「労働時間」、「安全衛生」、「就業規則」、「テレワーク」、「ハラスメント」、「退職」までの8章で構成されており、労務管理の全体像も理解できる。  著者は、社会保険労務士であり、非常勤講師として大学で労働法の講義も行っている。本書の解説が平易な言葉と図解やイラストの活用によってわかりやすくまとめられているのは、そうした経験からくるものでもあろう。  経営者や労務担当者を対象とした労務管理の入門書だが、「労務分野でもDXは必要」、「業務の見える化で労務トラブルの予防」など、これからの時代の労務管理のあり方にも触れている。あらためて学びたい担当者にとっても、多くのヒントが得られる一冊といえるだろう。 50歳女性の平均余命は約40年。そこからの働き方などを明快にアドバイス 女性の覚悟 坂東眞理子 著/主婦の友社/1350円  著者の坂東(ばんどう)眞理子(まりこ)氏は、総理府(当時)、埼玉県副知事などを経て、昭和女子大学の総長を務めている。300万部を超えるベストセラー『女性の品格』をはじめ、女性を応援する著書を多数執筆していることでも知られる。  70代半ばとなった坂東氏が本書に綴ったのは、人生半ばを迎えた女性たちへのエールだ。第一部では、この40年間の日本女性の考え方やキャリア形成の変遷を、坂東氏の実体験もふまえて考察する。第二部では、人生後半期をどう生きるのかを問い、「自立して生きるという覚悟」を提案。高齢期は「のんびり暮らしたい」というのは人生70年時代の考え方であり、50歳の女性の平均余命が38.78年(2020年)と長くなった現代やこれからは、「働き続ける覚悟」を持つことが求められると迫る。  ただ、若いときのような働き方ではなく、「自分で納得できる意義を見出せる仕事に就くことが大事」と説く。また、定年を迎えた女性へのキャリアアドバイスや、「再就職においても自分は何を求めているのか、優先順位をつけて考えること」の大切さ、歳を重ねた新人として新しい職場に入る際の「再就職の心得」などをアドバイス。男性が読んでも身になる内容である。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「見える」安全活動コンクールの優良事例(転倒災害の防止事例など)  厚生労働省は、2022(令和4)年度「『見える』安全活動コンクール」の優良事例を公表した。  このコンクールは、企業・事業場における安全活動の活性化を図るため、労働災害防止に向けた事業場・企業の取組み事例を募集、公開し、国民からの投票などによって優良事例を選ぶもの。今回で12回目となる。前回より、新たにナッジ(※)を活用した「見える化」≠フ事例を追加し、9類型でコンクールを実施している。  今回は、応募数1042事例から特に企業等の創意工夫が認められた安全衛生に関する80事例が優良事例に選ばれた。80事例の類型は、次の通りである。  @転倒災害および腰痛を防ぐための「見える化」(14事例)、A高年齢労働者の特性などに配慮した労働災害防止の「見える化」(5事例)、Bナッジを活用した「見える化」(13事例)、C外国人労働者、非正規雇用労働者の労働災害を防止するための「見える化」(6事例)、D熱中症を予防するための「見える化」(7事例)、Eメンタルヘルス不調を予防するための「見える化」(3事例)、F化学物質による危険有害性の「見える化」(3事例)、G通勤、仕事中の健康づくりや運動の「見える化」(5事例)、Hその他の危険有害性情報の「見える化」(24事例)。 ※行動科学の知見に基づく工夫や仕組みによって、より望ましい行動を選択するよう手助けする手法 厚生労働省など 「男性育休推進企業実態調査」結果  2023(令和3)年4月1日から、大企業を対象に、男性労働者の育児休業などの取得状況を年1回公表することが義務づけられた。  これに先がけて厚生労働省イクメンプロジェクト(※)は、株式会社ワーク・ライフバランスとNPO法人フローレンスの協力を得て、「男性育休推進企業実態調査」を実施し、3月15日に結果を公表した。回答期間は、2022年12月9日〜2023年1月31日、回答数142社・団体。  調査結果によると、回答企業の2022年度の男性育休取得率は76.9%(見込みを含む)で、2年前の2020年度(52.0%)より24.9ポイント増加した。しかし、平均取得日数は40日前後で推移しており、この3年間に大きな変化はみられず、取得率が高いからといって取得日数が長いわけではなく、企業の状況に応じて取得状況はさまざまであることがうかがえた。  育休取得が進んでいる企業などの取組みをみると、平均取得日数が14日以上の企業では、「男性育休対象者の個別周知と意向確認について、推進担当部署と対象者本人の上司が情報共有できる」、「当事者以外の社員も男性育休の重要性や制度・方針について学べる仕組みがある」、「社内外に向けて、取得者の事例を発信している」などを実施。 ※厚生労働省イクメンプロジェクトは、社会全体で、男性がもっと積極的に育児に関わることができる一大ムーブメントを巻き起こすべく、2010(平成22)年6月に発足。さまざまな活動を展開している。 https://ikumen-project.mhlw.go.jp/ 調査・研究 帝国データバンク 「人手不足に対する企業の動向調査(2023年1月)」結果  帝国データバンクが2023(令和5)年2月に発表した「人手不足に対する企業の動向調査」結果によると、2023(令和5)年1月時点で「正社員」が不足と感じている企業の割合は5割超、「非正社員」は3割超で、それぞれ5カ月連続で高水準となった。特に、「旅館・ホテル」、「情報サービス」、「飲食店」で高水準となっている。  「正社員」について不足と感じている企業は51.7%(前年同月比3.9ポイント増)で、1月としては2019年(53.0%)に次いで2番目の高さとなっている。規模別にみると、特に、大企業では62.1%と、全体(51.7%)を大きく上回る結果となっている。業種別にみると、インバウンド需要の高まりによって景況感の回復がみられる「旅館・ホテル」が77.8%で最も高く、「情報サービス」が73.1%、「メンテナンス・警備・検査」が68.7%と続いている。  「非正社員」について不足と感じている企業は31.0%で、1月としては2019年以来4年ぶりの3割超となった。企業規模別では、大企業では33.4%、中小企業では30.6%、小規模企業では29.2%となり、各規模でそれぞれ3割前後の人手不足となっている。業種別にみると、「旅館・ホテル」が81.1%でもっとも高く、「正社員」と同様にトップとなっている。次いで「飲食店」が80.4%となっており、この2業種が群を抜く人手不足状態に陥っていることがわかった。 【P60】 次号予告 6月号 特集 シニアの“強み”を活かし、会社の“弱点”を埋めるシニア人材採用 リーダーズトーク 數井裕光さん(高知大学医学部神経精神科学教室 教授) (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415  FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人 100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 田村泰朗……太陽生命保険株式会社取締役専務執行役員 丸山美幸……社会保険労務士 三宅有子……日本放送協会 メディア総局 第1制作センター(福祉)チーフ・リード 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●今号の特集は「病気の治療を続けながら働ける会社へ」と題し、両立支援の取組みをご紹介しました。生涯現役時代を迎え、高齢社員を含む一人ひとりの社員がより長い期間、安心して働き続けるためには、病気を患っても治療をしながら働ける職場づくりが欠かせません。総論のなかでも触れられていますが、病気になっても、治療を続けながら働き、キャリアを継続できるということは、将来に対する不安を払しょくし、社員の働きがいやモチベーションを高めることにつながります。そして、働きやすい会社であることは、企業価値を高めることにもつながります。当特集を参考にしていただき、社員が安心してキャリアを継続できる職場づくりに努めていただければ幸いです。 ●特別企画では「産業別高齢者雇用推進ガイドライン」を掲載しました。今回ご紹介した6業種をはじめ、当機構ホームページでは、全95業種のガイドラインを公開しています。業種ごとの課題や対応のポイントがまとまっており、これから高齢者雇用に取り組むうえで参考になる情報が満載ですので、ぜひご活用ください。 読者アンケートにご協力お願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 公式ツイッターはこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 月刊エルダー5月号No.522 ●発行日−令和5年5月1日(第45巻 第5号 通巻522号) ●発行−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−企画部長 飯田 剛 編集人−企画部次長中上英二 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216 FAX 043(213)6556 (企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-975-0 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 【P61-63】 技を支える vol.327 スライドカット技法で自由自在に髪を操る 理容師 武藏(むさし)均(ひとし)さん(61歳) 「理容師は人の心に触れる、人にしかできない仕事。だからこそお客さまから最後に感謝の言葉をいただける。私にとっては天職です」  高い技能と後進の指導が評価され「現代の名工」に「有馬記念」などの開催で有名な千葉県船橋市にある中山競馬場。その北側に店を構える「Hair MUSASHI」は、1933(昭和8)年創業、今年90周年を迎える。3代目として約40年にわたり家業を支えてきた武藏均さんは、理容界では「スライドカットの第一人者」として知られる存在だ。  スライドカットとは、髪の表面から見えない部分を、はさみをスライドさせながら毛先に向けて少しずつカットすることで、毛束をつくりやすくする技法のこと。短い毛が長い毛を押す性質を利用することで毛束がまとまりやすくなり、髪にボリューム感を出したり、毛先を流したい方向に流しやすくする効果がある。  「お客さまがサロンを出たときに、髪型が決まっているのはあたり前です。当店では、スライドカットなどの技術を駆使して、お客さまが翌日以降も、ご自身で簡単に同じようにセットできるような施術を目ざしています」  また武藏さんは、理容店オーナーの業界団体である全国理容生活衛生同業組合連合会(全理連)の中央講師に任命され、全国各地に赴き後進の育成にも努めてきた。これらの功績が認められ、「令和4年度 卓越した技能者(現代の名工)」に選出された。  「『自分でいいのか』という思いはありますが、理容師や講師として、これまで大切にしてきた人との出会いの積み重ねが、今回の受章につながったと考えています」 若いころの苦労をバネに全国トップ3にのぼりつめる  子どものころは「プロ野球選手か理容師で日本一」という夢を作文に書いていた武藏さん。高校3年生のとき、知人の誘いで外資系企業への就職を目ざしたが、ある日、理容師の父の寂しそうな背中を目にし、理容学校に進学することを決意。そして理容学校を首席で卒業した。師と仰ぐ人の店で修業を始めて2年9カ月が経ったとき、父が倒れてしまう。当時は一人前になるまで最低でも5年が必要といわれていた時代。まだ十分な技術も身につかないまま、後を継がざるを得なくなった。  「すると、父の代の常連客がどんどん減っていき、自分の技術のなさに打ちのめされました。当時は『なぜこんな境遇に遭わなければいけないのか』と思ったものです」  しかし、「このままではいけない」と一念発起し、近所のコンビニエンスストアの若いスタッフに声をかけ無料で髪を切らせてもらったり、さまざまな勉強会に参加するなどして練習を重ね、懸命に腕を磨いた。また全理連の理容競技大会にも参加し、5年で千葉県の代表になり、さらに5年かけて全国大会で賞を獲るに至る。夢だった日本一にこそ届かなかったものの、2位、3位を計4回獲得し、全国に名が知れ渡るようになった。  「ふり返ってみれば、逆境に置かれたことで人の温かみがわかるようになり、自分自身が成長できたと思います」 2人の息子とともに店を100年以上続けたい  そして、44歳からは講師業にも力を注ぎ、全理連の名誉講師となった現在も、地元・千葉県内で全国競技大会出場を目ざす選手の総合コーチとして、自身の技術を実際に見せながら指導を行っている。自らの経験から、「若いころの苦労は買ってでもしてほしい」と、若い世代を鼓舞し続けている。  「私が若かったころは、技術を磨く過程で多くの失敗も重ねてきました。その経験を日誌に書きとめてきたことが、若い世代を指導するうえで大いに役立っています。全国大会の競技は約35分。その時間で競ったら若い世代には敵いませんが、10分だけの勝負なら、まだまだ負けません(笑)」  2人の息子も理容師になり、いまはそれぞれ別のサロンで店長を務める。近い将来、3人で一緒に店に立つことを楽しみにしている。  「これからも人との出会いを大切にしながら、この店を100年以上続けることが目標です」 Hair MUSASHI TEL&FAX:047(339)2040 (撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) 写真のキャプション 顧客の要望に沿った髪型に仕上げるために、コミュニケーションを欠かさない。常連客からは、技術はもちろんのこと、その人柄が高く評価されている 祖父の代から90年続く「Hair MUSASHI」。女性客も多く約3割を占める 東京パラリンピック選手村で理容師ボランティアを務め、選手たちから喜ばれた 理容師で妻の厚子さん(右奥)、撮影のモデルを務めた姪の歩望(あゆみ)さん(手前)と 普段使っている道具の一部。はさみは特定メーカーの製品を愛用している 髪の見えない部分を、はさみを滑らせながら短くする「スライドカット」技法 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回は漢字を使った空間認知力のトレーニングです。漢字のピースを頭の中で動かし、正しい漢字を導き出しましょう。頭の中で図形を動かす課題はメンタルローテーション課題といって認知科学ではよく使われます。 第71回 漢字ジグソーパズル ジグソーパズルのように、バラバラに分割された一文字の漢字を頭の中で組み立てて、その漢字が何かを答えてください。書き出したりせずに、できるだけ頭の中でジグソーパズルを組み立てるように解いてみてください。 目標 5分 @ A B C D E F G H I J K 前頭前野や頭頂連合野を活性化させよう  ボストン大学のShrey Grover氏らによって、興味深い研究が報告されました。おでこのあたりの脳の前頭前野や、頭のやや後ろ側の脳の頭頂連合野への電気刺激で、記憶力がアップし、その効果が1カ月持続したというのです。  実はパズルを行っているときの脳活動を調べると、よく活性化するのが、この前頭前野であり、頭頂連合野です。前頭前野は何かを少し長く記憶しながら作業を行うことに強くかかわります。頭頂連合野は空間的な位置関係の把握や、その操作にかかわります。いずれもパズルを解くには必須な頭の働かせ方ですから、パズルでこの二つの脳部位がよく活性化します。  脳が活性化するということは、脳のその場所で電気的なやりとりは盛んに行われているということでもありますから、パズルの問題を解くことが記憶系の能力のアップや能力の低下予防に役立つ可能性も十分考えられるわけです。ぜひがんばってチャレンジしてください。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【問題の答え】 @ 私 A 台 B 守 C 功 D 次 E 若 F 切 G 風 H 青 I 店 J 布 K 辺 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2023年5月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価 503円(本体458円+税) 『70歳雇用推進事例集2023』のご案内  2021(令和3)年4月1日より、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業を確保する措置を講ずることが事業主の努力義務となりました。  当機構では、昨年作成した「70歳雇用推進事例集2022」に引き続き、『70歳雇用推進事例集2023』を発行しました。  本事例集では、70歳までの就業確保措置を講じた21事例を紹介しています。 興味のある事例を探しやすくするため「事例一覧」を置きキーワードで整理 各事例の冒頭で、ポイント、プロフィール、従業員の状況を表により整理 70歳までの就業機会を確保する措置を講じるにあたって苦労した点、工夫した点などを掲載 『70歳雇用推進事例集2023』はホームページより無料でダウンロードできます https://www.jeed.go.jp/elderly/data/manual.html 70歳雇用推進事例集 検索 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 高齢者雇用推進・研究部 令和5年5月1日発行(毎月1回1日発行) 第45巻第5号通巻522号 〈発行〉独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会