【表紙2】 助成金のごあんない 65歳超雇用推進助成金 65歳超雇用推進助成金に係る説明動画はこちら 65歳超継続雇用促進コース  65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 ●労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引上げること ●定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。また、改正前後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること ●1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること ●高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)の実施 支給額 ●定年の引上げ等の措置の内容、60歳以上の対象被保険者数、定年等の引上げ年数に応じて10万円から160万円 受付期間  定年の引上げ等の措置の実施日が属する月の翌月から起算して4カ月以内の各月月初から5開庁日までに、必要な書類を添えて、申請窓口へ申請してください。 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(高年齢者雇用管理整備措置)を実施した事業主の皆様を助成します。 措置(注1)の内容 高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入、法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 支給対象経費(注2)の60%、ただし中小企業事業主以外は45% (注2)措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサルタントとの相談経費、措置の実施に伴い必要となる機器、システム及びソフトウェア等の導入に要した経費(経費の額に関わらず、初回の申請に限り50万円の費用を要したものとみなします。) 高年齢者無期雇用転換コース  50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※1)を実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6カ月分の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと 支給額 ●対象労働者1人につき48万円(中小企業事業主以外は38万円) 高年齢者雇用管理に関する措置(※1)とは(a) 職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等、(b) 作業施設・方法の改善、(c) 健康管理、安全衛生の配慮、(d) 職域の拡大、(e) 知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、(f) 賃金体系の見直し、(g) 勤務時間制度の弾力化のいずれか 障害者雇用助成金 障害者雇用助成金に係る説明動画はこちら 障害者作業施設設置等助成金  障害特性による就労上の課題を克服し、作業を容易にするために配慮された施設等の設置・整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @障害者用トイレを設置すること A拡大読書器を購入すること B就業場所に手すりを設置すること 等 助成額 支給対象費用の2/3 障害者福祉施設設置等助成金  障害者の福祉の増進を図るうえで、障害特性による課題に対する配慮をした福祉施設の設置・整備を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @休憩室・食堂等の施設を設置または整備すること A@の施設に附帯するトイレ・玄関等を設置または整備すること B@、Aの付属設備を設置または整備すること 等 助成額 支給対象費用の1/3 障害者介助等助成金  障害の特性に応じた適切な雇用管理に必要な介助者の配置等の措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @職場介助者を配置または委嘱すること A職場介助者の配置または委嘱を継続すること B手話通訳・要約筆記等担当者を委嘱すること C障害者相談窓口担当者を配置すること D職場支援員を配置または委嘱すること E職場復帰支援を行うこと F障害者が行う業務の介助を重度訪問介護等サービス事業者に委託すること 助成額 @B支給対象費用の3/4 A支給対象費用の2/3 C1人につき月額1万円 外 D配置:月額3万円、委嘱:1回1万円 E1人につき月額4万5千円 外 F1人につき月額13万3千円 外 職場適応援助者助成金  職場適応に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者による支援を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @訪問型職場適応援助者による支援を行うこと A企業在籍型職場適応援助者による支援を行うこと 助成額 @1日1万6千円 外 A月12万円 外 重度障害者等通勤対策助成金  障害の特性に応じた通勤を容易にするための措置を行う場合に、その費用の一部を助成します。 助成対象となる措置 @住宅を賃借すること A指導員を配置すること B住宅手当を支払うこと C通勤用バスを購入すること D通勤用バス運転従事者を委嘱すること E通勤援助者を委嘱すること F駐車場を賃借すること G通勤用自動車を購入すること H障害者の通勤の援助を重度訪問介護等サービス事業者に委託すること 助成額 @〜G支給対象費用の3/4 H1人につき月額7万4千円 外 重度障害者多数雇用事業所 施設設置等助成金  重度障害者を多数継続して雇用するために必要となる事業施設等の設置または整備を行う事業主について、障害者を雇用する事業所としてのモデル性が認められる場合に、その費用の一部を助成します。※事前相談が必要です。 助成対象となる措置 重度障害者等の雇用に適当な事業施設等(作業施設、管理施設、福祉施設、設備)を設置・整備すること助成額支給対象費用の2/3(特例3/4) ※お問合せや申請は、当機構の都道府県支部高齢・障害者業務課(65頁参照 東京、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします。 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.97 認知症とともに働き続けるため早期診断、企業と専門機関との連携を 高知大学医学部神経精神科学講座 教授 數井裕光さん かずい・ひろあき 鳥取大学医学部卒業後、兵庫県立高齢者脳機能研究センター臨床研究科老年精神科研究室室長、大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室講師などを経て、2018(平成30)年より高知大学医学部神経精神科学講座教授。『認知症疾患診療ガイドライン2017』(医学書院)、『令和3年度厚生労働省老人保健健康増進等事業 若年性認知症における治療と仕事の両立に関する手引き』の作成など、認知症を専門としたさまざまな活動に尽力している。  高齢者数の増加とともに、増加する認知症患者。65歳以上の5人に1人が認知症になるといわれ、65歳未満の若年性患者の問題も顕在化するなか、「認知症の治療と仕事の両立」がひとつの社会的課題として浮上しています。今回は、約30年にわたり、認知症の治療と研究にあたってこられた高知大学の數井裕光教授に、認知症患者が仕事を続けていくためにできること、企業に必要な取組みについて、話していただきました。 若年性認知症患者は約3万5700人 国も患者の就労支援に本腰 ―最初に、認知症患者に関するデータ、国の就労支援の施策などについてお話しいただけますか。 數井 認知症は、もともと高齢になると増える病気なので、患者も実数として増えています。推計ですが、2025年ごろに、患者数は700万人に達し、65歳以上の5人に1人が認知症になるといわれています。65歳未満の「若年性認知症」の人数に関しては、全国で推計約3万5700人とする調査結果があります※1。  国は、2019(令和元)年に閣議決定した「認知症施策推進大綱」で、若年性認知症に関する対策を打ち出し、若年性認知症患者の就労支援に本腰を入れ始めました。2022年4月の診療報酬改定では、治療と仕事の両立支援に関する診療報酬の対象疾患として、若年性認知症が新たに加えられています。 ―若年性認知症の患者が増えているということなのでしょうか。高齢の認知症と若年性とに症状の違いなどはありますか。 數井 若年性認知症の場合は、病気に対する啓発が徐々に進んできて、これまでは診断を受けず、表に出ていなかった人が受診するようになったことが大きいと思います。「18歳以上65歳未満で発症する認知症」を若年性認知症と国は定義づけていますが、高齢の発症でも、若年の発症でも、脳の中の病理変化に違いがあるわけではなく、病気としては変わるものではありません。  国がなぜ、若年性認知症を高齢の認知症と分けて対策を進めるのかというと、若年性認知症の患者は働き盛りで、家族を養っているケースも多いので、まずは経済的な支援が必要になってくるからです。また、若年性認知症を発症した人の家族は、「自分もいずれなるのではないか」という不安を抱えがちです。若年での発症には、大きな経済的損失、精神的打撃があるため、高齢者とは別建ての施策が必要になります。 ―數井先生ご自身も、これまでのご経験のなかで、若年性認知症患者の両立支援の必要性を実感されていたということですね。 數井 そうですね。高知大学の前は、大阪大学医学部附属病院で15年間働いていたのですが、大阪は都会で人口が多いこともあり、若年性認知症患者の実数も多い状況でした。患者は40代後半から50代が中心で、50代の割合が高かったと記憶しています。50代ぐらいで発症した人の場合、仕事を辞めてしまうと行き場がなくなってしまい、家族への影響、深刻さは、高齢のケースとはまた大きく異なるのです。 ―數井先生は、国の検討委員会のメンバーとして、『若年性認知症における治療と仕事の両立に関する手引き』の作成にもたずさわられています。認知症の患者が仕事を続けていくために、ポイントとなるのはどんなことでしょうか。 數井 まずは早期に診断することが大切です。認知症の場合、発症年齢にかかわらず、症状がある程度進んだ段階で初めて医師の診断を受けるという人が多く、若年性認知症では仕事を辞めてしまってから受診に来るケースがほとんどです。われわれ医師の立場からすると、本来は、「軽度認知障害」と呼ばれる認知症の前段階で医療機関に相談に来てほしい。専門の医療機関であれば、この段階で診断することが可能です。そのうえで患者が働く会社の担当者と、両立支援について相談するのが理想的な流れです。  もう一つ大事なのは、「進行性なのか」、「進行性ではないのか」の鑑別診断です。認知症には、いくつかの種類があり、もっとも患者数が多い「アルツハイマー型認知症」※2は進行性。一方で、2番目に多い「血管性認知症」は基本的に進行しません。血管性認知症は、脳梗塞などの脳血管障害が原因であるため、新たな脳梗塞や脳出血が起きないかぎり、理論的には進行しないのです。一般の方々は、認知症はすべて進行すると思いがちですが、「進行する」、「進行しない」の区別はとても重要です。 ―認知症患者に適さない仕事、認知症でも続けていける領域などについて教えてください。 數井 認知症患者は、「学ぶ」ことがとても苦手です。記憶を定着させたり、新しいことを覚えるのが困難なので、簡単な仕事でも、経験したことのない仕事は、必ずしもやりやすいとはいえません。  また、変化が多い仕事や、人に指示を出すような仕事もむずかしいでしょう。「管理職」業務などは、トラブルなどが発生した際に、状況の把握と同時にその対策を考え、部下に指示を出さなければならず、認知症患者には適していない業務といえます。  一方で、認知機能が低下しても、身体機能は保たれる認知症も多いので、「荷物を運ぶ」などの作業は問題ありません。「青のテープを貼った荷物を、青い印の場所へ運ぶ」など、認知症の人にとってわかりやすい仕組みを導入すると、より効果的でしょう。 早期診断からの両立支援がもっとも重要 「専門職」で仕事継続のケースも ―若年性認知症でも、専門職として仕事を続ける事例もあるようですね。 數井 国の手引き※3でも紹介していますが、製薬会社に研究職として勤務し、研究部門の管理業務を行っていた人が、前頭側頭型認知症※4と診断されたケースです。管理職業務はむずかしくなりましたが、かつて経験していた翻訳ができたので、別の社員が業務に必要な英語論文を選んで渡し、翻訳作業だけを行ってもらうという形で仕事を継続しました。  仕事とは直接関係ありませんが、認知症の患者のなかには、将棋が得意な人もいます。慣れ親しんだ定跡を使った能力は衰えないのです。専門職の人、もともとスキルを持っている人は、周囲の理解と協力さえあれば、仕事を続けていきやすいのかもしれません。  認知症患者の仕事の可能性を広げていくためには、「データの蓄積」も有効だと思います。会社の業種や職種ごとに、働いている人の病気、重症度などのデータをまとめ、「こんなことができました」、「こんな工夫が有効でした」といったことがわかるようになれば、非常に参考になります。両立支援における認知症患者への対応というのは、「苦手な人にもできるようにする」という工夫なので、すべての人に応用が可能です。健常者の加齢性変化にもマッチします。超高齢社会にあって、こうした取組みは重要度を増していくのではないでしょうか。 ―認知症患者ができるだけ長く仕事を続けていくために、企業に望まれるのはどんなことでしょうか。 數井 実際に認知症患者に機能低下が起こると、「自分はこの組織に貢献できているのだろうか?」、「迷惑になっていないか?」と考えるようになり、メンタル的にもつらくなりがちです。「会社を辞めてしまいたい……」と思うようになることもあります。進行するタイプの認知症であれば、なおさらです。企業の方々には、認知症患者がこのような心情になることがあることを、知ってほしいと思っています。  また、患者一人ひとり、まだできる得意なこと、苦手なことが異なるということも基本として知っていただきたいです。認知症の症状がわかる医師やコメディカル(医師を除く医療従事者の総称)などとも連携し、それぞれの障害パターンや残存機能を把握したうえで、会社の具体的な業務ともすり合わせ、その患者に託すことができる作業を見つける。そういう共同作業が望まれます。 生産年齢人口が減少するなか認知症患者が長く働くことは企業にもプラスに ―企業にも認知症患者と共生する道を探ってほしいということですね。 數井 企業は利潤を追求すべきところなので、むずかしい面はあると思います。しかし、生産年齢人口が少なくなり、働き手も減りつつある日本では、多くの人が働ける環境づくりも大切だと思います。認知症患者に対しても、「仕事ができないから辞めさせる」と考えるのではなく、私たち医療者とのコラボレーションをお願いしたいです。もちろん、すべての医師が、認知症について詳しいわけではないので、全国にある認知症疾患医療センターなどの専門医療機関や、全国に配置されている「若年性認知症支援コーディネーター」などに、相談していただければと思います。  認知症患者が、周囲の理解と協力を得ながらしっかりと働いている場面を見れば、その企業の社員は「よい会社だ」と感じ、長く勤めようと考えると思います。私たちにとっても、認知症と診断されても辞めないですめば、早期診断が進むという期待もあります。そして、早期診断が進めば、より長く働くこともできます。そういう好循環をつくっていきたいと思っています。 (聞き手・文/沼野容子 撮影/安田美紀) ※1 日本医療研究開発機構認知症研究開発事業「若年性認知症の有病率・生活実態把握と多元的データ共有システムの開発」(令和2年3月) ※2 日本医療研究開発機構認知症研究開発事業「若年性認知症の有病率・生活実態把握と多元的データ共有システムの開発」によると、若年性認知症基礎疾患内訳割合は、「アルツハイマー型認知症」52.6%、「血管性認知症」17.1% ※3 『令和3年度厚生労働省老人保健健康増進等事業 若年性認知症における治療と仕事の両立に関する手引き』https://www.mizuho-rt.co.jp/case/research/pdf/r03mhlw_kaigo2021_01.pdf ※4 前頭側頭型認知症……脳の前頭葉や側頭葉の神経細胞の変化、萎縮により症状が出現する 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、“年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のイラスト 古瀬 稔(ふるせ・みのる) 2023 June No.523 特集 6 シニアの“強み”を活かし会社の“弱点”を埋めるシニア人材採用 7 特別インタビュー シニア人材を採用するメリットと留意点 株式会社CEAFOM 代表取締役社長 郡山 史郎 11 解説 シニア人材採用のミスマッチを防ぎ激動の時代を生き残るポイントとは? 株式会社シニアジョブ 代表取締役 中島康恵 15 事例@ 株式会社大石アンドアソシエイツ(東京都渋谷区) 生産管理のノウハウを持つシニア人材を活用することによって経営課題を改善 19 事例A 静岡市誰もが活躍推進協議会(静岡県静岡市) シニアの採用意欲が高い事業分野を重点業種に設定質の高いマッチングを図り定着をねらう 1 リーダーズトーク No.97 高知大学 医学部 神経精神科学講座 教授 數井裕光さん 認知症とともに働き続けるため早期診断、企業と専門機関との連携を 23 日本史にみる長寿食 vol.355 卵かけご飯でがんばった昭和時代 永山久夫 24 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!こんなときどうする?Season2 《第3回》高齢社員の安全と健康を守る方法は? 30 江戸から東京へ 第127回 寺田屋の人びと 作家 童門冬二 32 高齢者の職場探訪 北から、南から 第132回 愛媛県 松山容器株式会社 36 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第82回 所沢市シルバー人材センター 営農グループ 阪口俊治さん(80歳) 38 シニア社員のための「ジョブ型」賃金制度のつくり方 【第2 回】日本の賃金制度と「ジョブ型」賃金制度 菊谷寛之 42 知っておきたい労働法Q&A《第61回》 企業年金制度の変更、今後の労働契約法制および労働時間法制について 家永 勲 46 新連載 スタートアップ×シニア人材奮闘記 【第1回】 シニア人材に何を求めるか? シニア人材には何が必要か? 熊谷悠哉 48 いまさら聞けない人事用語辞典 第35回 「安全配慮義務」 吉岡利之 50 労務資料 厚生労働省「第14次労働災害防止計画」を策定 55 新連載 心に残る“あの作品”の高齢者 【第1回】映画『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989年) 一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ 代表理事 金沢春康 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.328 「古美仕上げ」を駆使し額装で作品の価値を高める 額縁製作 吉田一司さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第72回]矢印をたどって進もう 篠原菊紀 【P6】 特集 シニアの強み≠活かし会社の弱点≠埋める シニア人材採用  少子高齢化による人材不足が課題となるなか、事業の継続・発展のためには、人材をいかに有効活用していくかという視点は欠かせません。  定年延長や継続雇用年齢の延長により、会社の風土を理解し業務に精通している高齢社員の活用を図っていくことはもちろん大切ですが、会社の課題を解決できる豊富な知識や経験を持つシニア人材を、外部から採用するのも一つの方法です。  そこで今回は「シニア人材採用」をテーマに、シニア人材の持つ強みや、失敗しない採用活動のポイントについて解説します。 【P7-10】 特別インタビュー シニア人材を採用するメリットと留意点 株式会社CEAFOM(シーフォーム)代表取締役社長 郡山(こおりやま)史郎(しろう) さまざまな課題があるシニアの就職支援 ―郡山さんはソニー株式会社の常務取締役、同・子会社の社長・会長を経て、2004(平成16)年に株式会社CEAFOMを設立されました。会社設立の経緯について教えてください。 郡山 私がソニーで役員定年を迎えたとき、退職後は何か世の中の役に立つことをしたいと思い、ソニーの仲間3人で会社を起こしました。その会社では、いま課題になっている大事なことで、日本がまだ効果を上げる方法を見出していない領域で貢献できるビジネスをしたいと考え、三つの事業を立ち上げました。「ベンチャーキャピタル」、「高齢者就業支援」、「エグゼクティブサーチ」の3事業です。このうち、ベンチャーキャピタルはその後のリーマンショックのあおりを受けて撤退。高齢者就業支援は、いろいろ時間をかけて検討や試行を重ねた結果、残念ながら事業としてはむずかしいという結論に達しました。いま弊社が行っているのは、企業から依頼を受けて経営幹部や管理職を紹介するエグゼクティブサーチです。クライアントが約1000社で、求人案件も常時約1000件あり、社長から課長級の管理職まで、幹部社員の人材紹介を行っています。 ―高齢者就業支援は、なぜ事業として軌道に乗らなかったのでしょうか。 郡山 会社を立ち上げてから、学識者や行政、人材関係のシンクタンクなどと連携し、数年にわたって研究を重ねました。「定年退職者新卒制度」などを考案したこともありましたが、結局たどり着いた結論は、シニアの再就職支援活動をビジネスとして展開するのは、きわめてむずかしいということでした。  なぜかというと、シニアは長期間の社会人生活を経て、経験・能力が一人ひとり異なり、新卒採用のように均質ではありません。新人研修のようなパターン化された教育プログラムも実用に向きません。つまり、人材を一くくりに集団として効率的に扱えないのです。  そして、多様なのは求職者だけではありません。企業の人材ニーズもきわめて多様です。特に中小企業はどこも口をそろえて「人がほしい」といいますが、要求の内容を一つひとつ聞くと、「うちは営業がほしい」、「管理ができる人材がほしい」、「技術のある人材がほしい」、「事業後継者がほしい」、さらには「近隣から通える人がほしい」など、さまざまなことをいいます。そして「うちではこれができなければダメだ」という具体的な要求もあります。このような個別のニーズに応えられるシニアを探し出すのは至難の業です。応えられるかどうかも、採用後、実際に働いてもらわなければわかりません。  こうした実態があり、シニアの労働市場で求人と求職のマッチングを成功させるには、一般的なシステムでは対応できず、かといって個別対応をすると、民間ベースでは手間やコストがかかりすぎて採算が取れないのです。  さらに、シニアの求人案件の数そのものがまだまだ少ない状況です。弊社のエグゼクティブサーチでも、求人案件のうち、30〜45歳の人材を求めるものが95%以上を占めています。最初からシニアを採用ターゲットにしている会社は、ほとんどありません。日本に企業は400万社あり、弊社のクライアントはそのうちの1000社に過ぎませんから、シニアを求める企業がゼロだとはいいません。しかし、星の数ほどもある会社のなかから、そういった会社を見つけ出して、最適なシニア人材とマッチングさせるのは、むずかしいというのが現状です。 企業がシニアを雇うメリットとは ―企業が、シニアの採用を敬遠しているという実態があるのでしょうか。 郡山 そんなことはありません。同じ仕事をしてもらえる人材で、複数の候補から選べるなら、若い人よりもシニアを採用したいと考える企業は少なくないと思います。 ―その場合、企業がシニアを採用するメリットとはどのようなことでしょうか。 郡山 強度の高い肉体労働やITなど先端技術の開発といった一部の仕事を除けば、シニアにできない仕事はありません。むしろ世の中の仕事の8割くらいは、シニアの方がうまくできるのではないかとの印象を持っています。  そのうえ、シニアはいままでの経験上、雇う立場から見て有利な特徴を備えていると考えます。まずは、「辞めない」こと。シニアは生活費のために働くことはあっても、より高いポストを求めて転職先を探すことは、まずしません。弊社の社員はほぼ全員が60歳以上ですが、勤続10年以上の人が何人もいます。そして「休まない」。働くシニアは健康管理もしっかりしています。私を含めて、周りのシニアが病気で仕事を休んだのは、3年に1、2回です。また、シニアの多くは、子どもの教育費がかからず、住宅ローンの返済もすんでいて、給与面であまり高望みをしないこともあります。 ―「8割くらいの仕事では、シニアの方が優れている」とは、どういうことでしょうか。 郡山 シニアは、長い人生経験に基づき常識を外れた言動はしませんし、業務を遂行するうえでの応用が利きます。弊社の社員も、普段は人材エージェントの業務を最前線でになっていますが、以前の会社での経験を活かし、いざというときに経理や人事などの業務の助っ人を申し出てくれる人が何人もいます。  もちろん、過去の経験といっても、第一線で活躍していた時代とは、仕事のやり方もテクノロジーも大きく変わり、過去の経験をそのまま活かせるわけではありません。経験が活きるのは、おもに人間関係などの領域ですね。  このように、シニアを雇用するメリットはたくさんありますから、シニアを多く活用して成功している企業は、いくつもあります。 人生の前半戦と後半戦でマインドセットを切り替える ―幸せに働くシニア期を実現するために、働く人自身が定年前に考えておくべきことはどのようなことでしょうか。 郡山 定年には三つあると考えています。一つは法律や就業規則などに制度として定められている「形式定年」。二つめは知力・体力が衰える「自然定年」。そして三つめが、身の振り方を自分で決める「実質定年」です。  国の施策や会社の定年延長で「形式定年」が何歳になっても、自身が働きたいなら、あるいは働く必要があるなら、年齢にかかわらず働き続けます。ただ、働く能力がピークを迎えるのは45歳前後といわれるように、「自然定年」を迎える以前と同じようには働けないという現実から逃れることはできません。そこで、自律的に「実質定年」を決めて、その前後でマインドセットを切り替えていく必要があります。  どの定年も、そこで職業人生が終わるわけではなく、新たな職業人生の始まりです。「実質定年」をはさんで職業人生を前後に分け、後半戦に臨むために頭を切り替えることが大事です。  後半戦は、環境が180度変わります。野球に例えると、前半戦はプレイヤーとしてフィールドで戦い、ライバルたちとレギュラーの座を争ったり、個人成績を競い合ったりする競争がくり広げられます。厳しい勝負の世界ですが、見返りも大きく、それはビジネスの世界も同じです。前半戦は、より高い報酬や地位を目ざして競争に明け暮れる環境で戦います。  しかし、後半戦は違います。野球選手もプレイヤーを引退し、サポートする側に回ります。サポートする仕事とは、コーチなどのほか、グラウンド整備や球場の清掃員、売店の店員などがあり、いずれも野球に貢献する立派な仕事です。そこは勝負の世界ではなく、働く人のモチベーションは、競争に勝つことや利益の最大化を求めることではなく、野球界という、自分が所属しているコミュニティや社会の役に立っているという満足感です。  ビジネスの世界では、競争や上昇志向という環境で前半戦を戦ってきた人も、後半戦に臨んで意識を切り替え、だれかをサポートするとか、社会の役に立つことに喜びを見出す境地で仕事ができれば、幸福な人生を送れるはずです。前半戦のときのように、勝ち負けや報酬にこだわったり、不安や悔しさで眠れぬ夜を過ごしたりすることはなく、いつも穏やかな気持ちで世のため人のために仕事をすることに、深い満足を覚えるようになります。私自身、前半戦に比べて、後半戦の幸福度は何倍も何十倍も高いことを実感しています。  とはいっても、前半戦のような働き方を否定するわけではありません。競争があるからこそ、社会の進歩や豊かさが生まれるわけですから、前半戦のような環境やモチベーションは大事なことです。ですから、その環境に身を置く間は、退職準備のための副業などは考えず、全力で前半戦を戦ってほしいと思います。そうでないと、社会や会社が持ちません。そして、「自然定年」を迎える45歳前後から、後半戦への頭の切り替えの準備を始めてはどうかと考えます。  切り替えのポイントは、「後半戦は前半戦の延長線上にはない」ということ。それまでの仕事や地位、報酬にこだわらず、どんな仕事でも、どんな報酬でも、やれる仕事はやってみるという姿勢が大切です。仕事を選り好みせず、役に立てること、年を重ねてもできそうなことは何かという軸で考えるとよいでしょう。 シニアの採用を成功させるうえで過去の経歴は役に立たない ―シニアの採用や活用を成功させるために、企業にはどのようなことを望みますか。 郡山 先ほどいったように、企業はシニアを雇用することでメリットがあるので、どんどん採用して、活用してほしいと思います。ただし、厳しいいい方になりますが、働いてもらう価値のない、役に立たないシニアは、絶対に雇ってはいけません。遠慮することは一つもありません。  採用する価値のある人材かどうかを判断するのに、過去の経歴は役に立ちません。「以前はどこの会社でどんな役職だったか」ということは、その人を採用して期待通りに仕事をしてもらえるかどうかを見極める決め手にはならないのです。特に大企業で役職にあった人が、かつての在職時の成果を語るとき、その成果は、その人個人の成果とはいい切れないものです。大企業の役職者は、優秀な部下に囲まれ、仕事に使うシステムなどのインフラも充実しています。そうした条件があるからこそ、役職者の率いる組織が成果をあげているのであって、そんな元・役職者が身ひとつで中小企業に来ても、期待に応えられる保証はないのです。  私は、ソニーで、創業者の井深(いぶか)大(まさる)さんや盛田(もりた)昭夫(あきお)さんと一緒に働きましたが、井深さんは、企業経営者が好んで使う「原点回帰」や「創業の精神」という言葉が大嫌いで、「あんなものを大事にするようでは、ソニーの将来はない」といっていました。過去を引きずることに意味はない≠ニいうことです。盛田さんも、「過去には何の価値もない。将来だけが価値がある。現在は将来のためにのみ使うべきだ」とよくいっていました。  過去をふり返っても将来は見えてこないということは、採用側の企業だけでなく、シニア自身にも強調しておきたいことです。後半戦の仕事探しは、まず過去を捨てることから始める必要があります。過去に何をやってきたかより、いま何ができるかが問われるのです。  人材を採用するのに履歴書はつき物ですが、私は履歴書が要るのは仕事人生の前半戦であって、後半戦に履歴書は要らないと思っています。 定年延長で、シニア人材を外部から採用する機会が広がる ―高齢者雇用を促進するのに、定年延長などで社員の雇用を延長するのと、外からシニアを採用するのとでは、どちらがよいとお考えですか。 郡山 会社が期待する人材か、きちんと仕事をしてもらえるかどうかは、実際に働いてもらわないとわかりません。その点、もともと働いていた人の雇用を延長し働き続けてもらう方が、外から採用するよりも安心できる面はあるでしょう。ただし、前半戦と後半戦では、仕事の内容や期待する役割が違うのです。定年を延長しても、ほとんどの場合、それ以前の仕事や役割をそのまま延長するわけではありません。過去にとらわれず、後半戦の新たなスタートラインに立つというマインドセットを求めるのであれば、もともと会社にいる社員の雇用延長も、外からの採用も、変わりはないと思います。  「定年」という制度は、私は必要だと思います。働く能力が低下する「自然定年」をだれもが避けられない以上、プレイヤーとして働くことに定年を設けなければ、能力の落ちた人がいつまでもフィールドに立ってプレイする事態を招きます。いわば老害≠ナす。これでは企業はとても持ちこたえられません。ですから「形式定年」は企業にとって必要なことです。  その「形式定年」を延長することは、働く側にとってはあまり意味のあることではありませんが、企業にとっては、延長することで、社外からよいシニア人材を雇える可能性が高まります。60歳定年だと65歳の人は採用しづらいですが、70歳定年なら65歳以上の人も抵抗なく採用できるわけです。このように、定年を延長しておいて、外からよいシニア人材を採用するというのも、これからの社会の望ましいあり方ではないでしょうか。 写真のキャプション 郡山史郎氏 【P11-14】 解説 シニア人材採用のミスマッチを防ぎ激動の時代を生き残るポイントとは? 株式会社シニアジョブ代表取締役 中島(なかじま)康恵(やすよし) シニアのミスマッチはなぜ起きるのか?  シニアの採用でミスマッチを懸念する企業は少なくありません。シニアは即戦力が求められ、若手のように今後の成長には期待しないためです。  そもそも雇用や人事でのミスマッチは、求めるものや期待するものと実態とのズレが原因です。選考時にこと細かなすりあわせや調査検証をして、ズレを徹底的になくすのが最良といえますが、コストなどから現実的ではありません。  また実際のズレは、線引きのむずかしい曖昧な部分で多発します。シニアにかぎらず、仕事で「本人がやりたいこと」、「本人が得意なこと・やれること」、「会社がやらせたいこと」、「やることが必須であること・やることが成果につながること」がそれぞれ少しずつ違っているだけで、大きなすれ違いとなることもあります。  まして令和の現在は、シニアの働き方も含めて変化が目まぐるしく、ちょっとした時間経過と変化でズレが生じ、ミスマッチにつながることもあるでしょう。今回はそうした時代の変化も含めて、シニア採用におけるミスマッチの防止策と、成功のポイントを解説します。 時代の変化がミスマッチを生む?  時代の変化がミスマッチを生むならば、コロナ禍、ウクライナ情勢、金利や為替といった大変動が起きているいま、これらの影響によるミスマッチも少なからずあるでしょう。また、そうした混乱とは別に、シニアを含めた日本の働き方もここ数年で大きく変化しています。法制度やルールも刻々と変化し、会社と人材双方で、それについていけずにミスマッチを生んでいることがあります。  ご存じのとおり改正高年齢者雇用安定法が2021(令和3)年に施行され、70歳までの就業機会確保の努力義務が企業に課せられました。これに先立って進められてきた希望者全員65歳までの雇用を義務づける高年齢者雇用確保措置は、99.9%の企業で実施されており※、定年廃止や定年延長、継続雇用のいずれかの雇用形態で65歳まで雇用するルールとなっています。  そのほかの法制度などでもシニアが働き続ける方向に改正が行われ、年金なども働き続ける人や年金をもらうのを遅らせた人が有利な制度へと変化しています。「雇用保険マルチジョブホルダー制度」といって、65歳以上であれば1社での勤務時間と日数が雇用保険加入の基準に満たなくても、2社以上を合算して基準を満たせば雇用保険に入れる制度も誕生しています。  こうした制度の変化はすでにシニアの実際の働き方にも影響を与えていて、2022年の敬老の日にちなんで総務省が公表した資料によれば、2021年時点の65〜69歳の就業率が50.3%と初めて5割を超えました(図表1)。私たちがシニアの就職支援を提供するなかでも、ほとんどのシニア求職者が「70歳くらいまで働きたい」、または「元気なうちはずっと働きたい」と答え、また65歳までは特に、正社員・フルタイムの仕事を求める傾向が強くあります。  シニアが年齢で差別されずに働くことができるのもダイバーシティの一面ですが、こうした多様性を認めた新しい働き方についていけず、職場になじめないシニアも残念ながらいます。ハラスメントの防止、残業の抑制、同一労働同一賃金などの格差抑制、ジェンダーや性的マイノリティに関する差別防止などの変化に取り残され、ミスマッチを感じるシニアも一部にはいるのです。  企業側でもまた、シニアにかぎらずさまざまな働き方の変化が生まれているなかで、対応に苦しむケースは少なくありません。さらに、先にもあげたコロナ禍、ウクライナ情勢、物価高騰と金利変動などの影響で苦境に陥る企業も多いなかで、何ごともなければ働き方の変革に対応できていた企業でも、その余裕がない、むしろ停滞・逆行してしまっていることもあるでしょう。  実際に私たちが提供するシニアに特化した人材紹介・人材派遣のサービス「シニアジョブエージェント」においても、コロナ禍が発生した2020年は求職者の新規登録数が前年の倍近くまで急増した一方で、企業の新規登録数は前年よりも1割程度少ないものとなりました(図表2)。こうした時代背景は、シニアの雇用や活躍についてブレーキとアクセルを同時に踏んだような不安定さを生み、それによる新たなミスマッチも発生しています。 シニアを活用できている企業の職場環境とは?  では、時代に合った会社ならばシニアを迎えるために適しているといえるのでしょうか?  時代に合ってさえいればよいわけではありませんが、実際にシニア人材を採用し、上手に活用できている会社の様子を聞くと、シニア採用にかぎらず、さまざまな面で時代に即した体制や制度、マインドに触れることができます。  例えば、私たちを介して60代の社員を採用した中古車販売店があります。この会社は決してシニアを優遇しているわけでも、シニアの比率が高いわけでもなく、20代から60代まですべての年齢層がバランスよく活躍していました。さらにその会社の社長は私たちに「60代がいるから20代を採用できる」とすらいっています。少子高齢化で人材不足が激しい業界では、「60代に経験とスキルを発揮してもらわなければ、20代を採用して育て、新しい技術に対応していくことすら不可能になる」とのことでした。特定の年代の採用を強化するのではなく、まんべんなく採用することで、それぞれの年代のよさが活かされ、全体の成長につながるそうです。  ほかの企業でも、シニアが活躍しているところはシニアだけでなく幅広い年代が活躍していることが多いです。やはり私たちが60代の人材を紹介した税理士事務所では、20歳から74歳まで幅広い年齢層が活躍しており、シニアだけでなく育児中の方なども活躍しやすい環境が整っていました。時間や場所に縛られずに働ける環境として、テレワーク環境をコロナ禍前から整備するなど、時代を先取りした企業運営が、結果的にシニアも含めた多様な社員の働きやすさにつながっているようでした。  世の中ではシニアが長く働き続けることに対して若者からの反発もあり、シニアと若者の対立構造も一部で見られますが、私たちが見てきた事例からはむしろ、全年齢層が活躍しやすい環境をつくることが、シニアや若者にとってもよい環境となっているように見られます。 シニアへの「バイアス」がミスマッチを生む  時代の変化に取り残されているとミスマッチにつながりやすいことは先にも述べた通りですが、特に従来の価値観・先入観で現実と違った見方や判断の仕方をしてしまった場合に、ミスマッチが発生します。  シニアの働き方についても、数年前の情報や価値観ではすでに古い可能性があり、「病気がち」、「無理のない時短勤務が望ましい」、「IT・インターネットに弱い」、「新しいことを学びたがらない」、「頑固」といったシニアのイメージは、実態と異なる「バイアス」であることが多くなりました。  ミスマッチにつながるシニア人材についての「バイアス」は、ネガティブなイメージだけではありません。上記でも「無理のない時短」をあげていますが、よかれと思った配慮も逆効果になる場合があります。  シニアはITに弱いという思い込みから、ほかの社員と同じデジタルツールではなく、シニア社員のみ紙の書類を認めるといった社内ルールをつくると、喜ぶ人もいる一方で、疎外感や引け目を生み出し、シニア社員を孤立させてしまう場合があります。  また、シニアは体力が低下し、無理をさせるべきではないという理由から、デスクワークへの配置転換を行ったり、60 代で再雇用となると出勤日数が減ったりする社内ルールを敷く企業も多いのですが、それを嫌って転職する人が少なからずいます。体力の低下や健康不安の拡大は実際にあるものの、個人差も大きいうえ、同じ年齢でも年々健康なシニアが増えているため、10年前の感覚で接するのは間違いだといえるでしょう。  企業の配慮が空回りするのと同様に、シニア人材側の配慮や遠慮もまたミスマッチにつながることがあります。例えば、シニアの再就職がむずかしいことや年金受給の関係などから希望年収を低く伝えたことが仇となって不採用となるシニアもいます。このように想定した年収のレンジを下回った場合も、企業は、期待するスキルや働き方と異なるのではないかと懸念して、内定を出さないケースがあります。  こうした企業とシニア人材の勘違いやすれ違いをなくすには、情報や条件のすりあわせだけでなく、言葉の意味・定義も含めた、細かいすりあわせが必要になるでしょう。もしかするとそれは「ジョブ型雇用」が今後浸透することで身近なものになるかもしれません。  実際、シニアの中途採用で高い評価を得るケースは、教育や配置転換を前提としたメンバーシップ型雇用ではなく、何らかの専門的な経験スキルを求められるものであり、すでにジョブ型雇用に近いと見ることもできます。 シニア採用でミスマッチを防ぐポイント  最後に、ミスマッチを防ぎつつ、シニア人材をスムーズに採用・活用するためのアドバイスをまとめたいと思います。 ・時代に合った経営や雇用の感覚を持つ ・シニアにかぎらずすべての社員が働きやすい環境を整える ・シニアに任せる業務を切り出す、ジョブ型雇用を進める ・古いシニアのイメージや先入観で接しない、壁をつくらない ・健康面は会社も気をつけ、シニア本人任せで無理をさせない  冒頭からお伝えしてきた通り、シニアにかぎらず働き方は大きく変わりつつあります。シニアだからといって過去の働き方のままが快適というわけではなく、やはりいまの時代に合わせた働き方に変えていかなければ、ミスマッチが生じてしまうでしょう。  また、シニアを活用することでほかの世代がないがしろになるわけではありませんし、世代間で対立が起きるわけでもありません。シニアが活躍できる環境は、ほかの世代にとっても働きやすい環境であることが多いため、シニアだけに視野を狭めるのではなく、より多様な視点が必要です。  これもシニア人材にかぎらずですが、採用前にどんな仕事を任せるのか細かく業務を選別し、その業務に合った人材を採用する、いわゆる「ジョブ型雇用」に近い考え方が、特にシニアのミスマッチを防ぐためには必要です。どうしても体力的にむずかしいこと、苦手なこともあるため、どの仕事に期待し、どの仕事は最初から依頼しないのか、採用前から業務を切り出して選考時にしっかり話しあうことでミスマッチを減らすことができます。  一方で、シニアだからと制限しすぎるのも、シニアの孤立につながります。基本的には同じツールを使って仕事をしてもらい、新しいことを覚えるのを妨げず、推奨することが望ましいです。シニアだからと特別扱いしてしまうとそれを壁に感じ、孤立してしまうでしょう。  ただし、シニアの健康面だけは本人任せは危険です。過剰にセーブしてしまうのはよくないですが、やはり体力は年々衰えるため、ある程度会社側が様子を見ておかなければ、知らず知らず無理をしてしまうシニアもいます。  いずれにせよ、若い世代もシニアも、"こういう世代"と一くくりにはできません。体力も健康も能力も個々で違うので、世代でとらえず、個々の人材に向きあうことがミスマッチを防ぐ近道となるのではないでしょうか。 ※ 厚生労働省「令和4年 高年齢者雇用状況等報告」より 図表1 高齢者の就業率の推移(2011年〜2021年) 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 60〜64歳 <57.1%> 57.7% 58.9% 60.7% 62.2% 63.6% 66.2% 68.8% 70.3% 71.0% 71.5% 65〜69歳 <36.2%> 37.1% 38.7% 40.1% 41.5% 42.8% 44.3% 46.6% 48.4% 49.6% 50.3% 65歳以上 <19.2%> 19.5% 20.1% 20.8% 21.7% 22.3% 23.0% 24.3% 24.9% 25.1% 25.1% 70歳以上 <13.1%> 13.1% 13.1% 13.4% 13.7% 13.7% 14.5% 16.2% 17.2% 17.7% 18.1% 注)2011年は、東日本大震災に伴う補完推計値 出典:総務省統計局「統計トピックスNo.132統計からみた我が国の高齢者―『敬老の日』にちなんで―」 図表2 シニアジョブに登録する求職者の数と企業数の推移 2017年 企業登録数(社) 2,458 求職者登録数(人) 3,560 2018年 企業登録数(社) 12,660 求職者登録数(人) 6,060 2019年 企業登録数(社) 14,509 求職者登録数(人) 12,102 2020年 企業登録数(社) 13,135 求職者登録数(人)新型コロナ感染拡大 22,253 2021年 企業登録数(社) 14,797 求職者登録数(人) 16,743 2022年(見込み) 企業登録数(社) 12,827 求職者登録数(人) 12,792 資料提供:株式会社シニアジョブ 【P15-18】 事例1 株式会社大石アンドアソシエイツ(東京都渋谷区) 生産管理のノウハウを持つシニア人材を活用することによって経営課題を改善 スタイリッシュな家庭用電気製品および雑貨の輸入・販売で売上げは右肩上がりに  株式会社大石アンドアソシエイツの設立は1997(平成9)年。家庭用電気製品および雑貨などの輸入・販売を行っている。「今よりもちょっとハッピーに、今よりちょっと快適になる」商品を消費者に届けている。  デザインと機能性を兼ね備え、世界各国で高い評価を得ているイギリスの代表的な調理家電ブランド「Russell Hobbs(ラッセルホブス)」の日本の総代理店として事業を展開。独自に開発した商品として電動式ミルなどのヒット商品を生み出している。また、2013年にはコーヒーを嗜好する人たちの声に応える自社ブランド「Cores(コレス)」を立ち上げた。コーヒーを抽出するためのフィルターや、日本の焼物をベースに海外展開を意識したコーヒーカップなど、美味しいコーヒーを飲むために、手軽にこだわれる小物や家電を取り扱っている。これらの商品はここ数年、右肩上がりで販売実績を伸ばしている。  社員数は2023(令和5)年4月現在で23人。若い人材が多く、60歳以上は2人。男女比は4:6でやや女性が多い。そんな大石アンドアソシエイツに8年前、当時57歳だった五十嵐(いがらし)謙一(けんいち)さん(66歳)が入社した。現在は常務取締役として、経営の中核人材として活躍している。 大手メーカーでエンジニアとして活躍57歳で早期退職し再就職を目ざす  五十嵐さんは異業種からの再就職だった。大学卒業後、1980(昭和55)年に大手工機メーカーに就職し、5年間業務用の大型プリンタの製品開発をしていた。その後転職し、大手電機メーカーのOA機器開発チームで、おもにDVDの生産技術にたずさわった。  ここで順調にキャリアを重ねた五十嵐さんは、国内にある工場長などを経て、ベトナム・インドネシア・中国の海外工場の統括業務などをになった経歴を持つ。それぞれの工場では現地スタッフを含む従業員が働いているが、各工場における生産技術のレベルの統一、いわゆる「高位平準化」に尽力した。平準化ができていない状態は、いわゆる「ムリ・ムダ・ムラ」が生じている状態ともいえる。特定の従業員や時期に業務量が集中してしまうのを防ぐなど、五十嵐さんは均等な負担で業務を遂行できるように、生産管理の全体統括をしてきた。  50歳のときに子会社に転籍となり、そこで社長を務め、57歳で早期退職を決断。2015年に、公益財団法人東京しごと財団の「東京しごとセンターシニア中小企業サポート人材プログラム」を受講したことによって、株式会社大石アンドアソシエイツ代表の大石聖社長に出会い、入社することになった。 「シニア中小企業サポート人材プログラム」を受講して再就職に至る  「東京しごとセンターシニア中小企業サポート人材プログラム」とは、おおむね55歳以上で、大手や中堅の民間企業などにおいて、管理職として約5年以上のマネジメント経験のあるシニアを対象に、就業相談や個別のカウンセリングの実施、求職活動に役立つセミナーの受講によって、中小企業での働き方を総合的に学ぶことができるプログラム。また、シニア採用意欲のある中小企業に対しては、プログラム受講者の人材情報が提供される。  五十嵐さんは2カ月間、週3回のペースでプログラムを受講。その内容は「もっと若いころに学んでおけばよかった」と思えるほどに充実したものだったという。例えば、同じ受講者のなかには、自衛隊や広告業界で働いていた人な、それまで接したことがない異分野の面々がおり、そういった人たちとチームになって一つのテーマについて話し合うと、まったく違う視点が目の前に広がっていった。「こんな素晴らしいカリキュラムを無料で受講させてもらってよいのかな」というのが率直な感想だったそうだ。 品質管理に貢献できる人材として即戦力を期待して採用  研修を終え、プログラムが企業とのマッチングに移行し、大石アンドアソシエイツの大石社長が同プログラムから提供された情報をもとに来訪して、五十嵐さんと面談を行った。「即戦力になり、品質管理で部門実績に貢献できる人材」を探していた同社の印象について、五十嵐さんは次のように話す。  「マッチングにあたっては、いろいろな企業の方と面談をしましたが、まったくの未経験の仕事の場合、まずは教えてもらうところからスタートしなければならず、再就職のハードルが高くなります。私はメーカー時代、一貫してエンジニアとしての経験を積んできたこともあり、それが活かせる会社を私自身も探していました。大手メーカーでは品質管理が問われるのはあたり前のことです。この会社でなら、経験を活かして必ずお役に立てると思い、入社を決めました」  ただし、経験を活かせるとはいえ異業種への転職である。当初は戸惑いもあったと話す五十嵐さん。「とにかく社員が若くて女性が多い。私が元いた現場は、100人の社員のうち女性は1〜2人程度。自分の娘と同じくらいの年齢の人が多く、『どう接したらよいのだろう?』と思ったのが当時の率直な感想です」とふり返る。  同時に、若い社員のほとんどがものづくりの経験がなく、生産管理のノウハウがないという状況でもあり、五十嵐さんは「私だったらここでいくらでもお手伝いができる」と思ったという。 中小企業では通用しない大企業の流儀  大企業から中小企業への転職。五十嵐さんは入社にあたり、同じく大企業に勤務した後に中小企業に転籍した知合いにアドバイスを求め、「中小企業は大企業と全然違う。まずは自分で掃き掃除から始めないといけないよ」という意見をもらったという。  大企業では部下がいて指示を出せばあたり前に動いてくれるという認識を、中小企業では捨てたほうがよいという例えだった。五十嵐さんは実際に入社してたしかにその通りだと思い、商品を修理する際などは、自分でドライバーを持って率先して動いた。自分自身が早く現場を把握するためにも、必要だったとふり返る。  また、五十嵐さん以外にも同時期に入社したシニアが数人いたそうだが、過去の経歴を自慢するように話したり、自己主張ばかりが強い人は、周囲に受け入れられるのがむずかしく、自分から辞めていったという。「大手企業を定年退職した人材と、中小企業とのマッチングを考える場合、周囲とのコミュニケーションをいかに円滑に図っていくかは、重要な課題だと思います」と五十嵐さんは語る。  また会社視点でシニアをどう活かすかを考えた場合は、「シニアの経験を活かせる仕事を、会社がいかに与えられるかが問われるのではないでしょうか。いままで経験したことがない仕事を任せてもうまくはいきません。それを見た若い人からすれば、『あの人、何をしに来ているの?』とネガティブな感情を持たれてしまうこともあるでしょう」と話す。  シニア人材を雇用する側、雇用される側の両者の視点から、たいへん参考になる貴重な意見である。 大企業での品質管理の経験が結果として現れる  五十嵐さんの入社によって得られた成果について、五十嵐さんの入社当時から一緒に働いている社員の一人は、「事業のウイークポイントがはっきりとわかっており、改善を図った結果、商品クレームが著しく減少した」と話す。また、大石社長からは、五十嵐さんが入社3カ月目で「品質管理業務を改善することによりコスト削減が実現できる」と提案し、具体的な目標値を示したうえで実現に至ったという話をうかがった。  入社当時の状況について、五十嵐さんは次のようにふり返る。  「入社当初は、おもに修理サービスを担当していたのですが、改善点が多々ありました。商品へのクレームが多く、営業の社員もその対応に追われて疲弊していることを感じました。社員がみな若く、ものづくりにかかわってきた人がいなかったので、改善策のノウハウがなかったのです。まずはなぜそうなってしまうのか、品質会議でロジックをはっきりさせました。そして一つひとつの改善策について目標を立てて具体的・計画的に実施していきました」  五十嵐さんはものづくりの現場にいた人間として、あたり前のことをあたり前にやっていけば、クレームも自然に減少し、結果的にコストセービングに貢献することができると考えていたのである。  また、五十嵐さんは、修理サービスだけではなく、ものづくりの工程の視点から商品開発を考えないと品質は改善されないという思いから、必然的に商品開発についても提案をするようになった。そのうち商品開発担当者が退職したことから、五十嵐さんは商品開発部門も管理するようになり、現在は会社全体のマネジメントにたずさわっている。 欧米仕様を日本にあう規格に変え品質管理をしていくための工夫に尽力  海外ブランドを日本で販売することを主力としている同社だが、それを円滑にするためにはどんな工夫をしているのかをたずねてみた。  例えば「Russell Hobbs」はイギリスのブランドであり、体も大きくキッチンも大きい欧米人向けにつくられているため、日本の家庭にはあわない。そこで同社では日本にあうような規格にしてファブレスメーカー※として、中国で商品を製造し、「Russell Hobbs」のブランドライセンスを支払う方式で事業を行っている。つまり、そこから国内販売をする際には、日本人向けに同社独自の品質管理をしていく必要がある。  「そこで中国の現地社員には、日系企業でものづくりを経験し、日本人の品質基準を知っている人材を採用しました。その効果は非常に大きいですね。工場にクレームがあっても中国人の営業を通しては伝わらないのです。そこで現地社員が現場の監督者とコミュニケーションを取りながら、課題を解決していきます」と語る五十嵐さん。ここでも、前職で海外工場の統括業務をになってきた五十嵐さんの経験が活かされている。 持続可能な経営のために次世代へサポートしていくこと  最後に、五十嵐さんに今後の目標についておうかがいした。  「57歳で入社して8年が経過し、かなりの年齢になりました。当社の規定では65歳が退職年齢ですが、現在、私は役員なので適用されません。大石社長が次世代への事業承継を考えているので、持続可能な会社経営のためのサポートをしていきたいと思っています。私がいままでやってきたことは、『後は任せるよ』と社員へ渡していくステージに入ってきたのだと思います」  また会社にとってさまざまな課題を解決するためには、同社にとって最適な人材を採用することも必要だ。次期社長を支える人材の育成や採用も重要である。五十嵐さんは次のように続ける。「当社は海外と事業を行っているので、語学やコミュニケーションの面でスキルのある方が望ましいですね。そして最大の課題は品質ではなく、どうやったらより売れる商品を開発できるかだと思っています。そこに真摯に向き合って、これからもよい商品を市場に提供し、会社へ貢献していきたいと思っています」と結んだ。 ※ ファブレスメーカー……自社で工場を持たないことで、開発研究やマーケティングにリソースを集中させる企業 写真のキャプション 常務取締役開発部長を務める五十嵐謙一さん(右)と広報マネージャーの山ア香さん(左) 開発部の若手社員と打合せをする五十嵐さん(写真提供:株式会社大石アンドアソシエイツ) 五十嵐さんの話に真剣に耳を傾ける若手社員(写真提供:株式会社大石アンドアソシエイツ) 【P19-22】 事例2 静岡市誰もが活躍推進協議会(静岡県静岡市) シニアの採用意欲が高い事業分野を重点業種に設定質の高いマッチングを図り定着をねらう  静岡市誰もが活躍推進協議会が運営する「NEXTワークしずおか」は、シニアに特化した求人案内、就労相談・ボランティア案内を行う就労サポート窓口で、静岡市役所静岡庁舎に常設されている。2019(令和元)年6月のオープン以来、延べ9000人以上のシニアが利用。明るくサロンのような雰囲気のブースは庁舎2階というシニアが足を運びやすい場所にあり、利用者は壁面ディスプレイや求人ファイルに掲載された求人を閲覧できるほか、専属の就労サポートスタッフによる個別相談もできる。スタッフには定年・再就職を経験したシニアが在籍しており心強い。  NEXTワークしずおかのマネージャーである一ノ宮(いちのみや)由美(ゆみ)さんは「利用者の多くは転職経験がなく、一つの会社で30〜40年勤めた人たちです。就職活動の方法も彼らがかつて経験したものとは異なることから、Webサイトで求人を探す方法からアドバイスしています。シニアは企業が受け入れてくれるか不安感が強いので、背中を押してあげることも大切です」と、シニアの就職活動について述べる。  NEXTワークしずおかは、前身の「静岡市生涯現役促進地域連携協議会」が厚生労働省のモデル事業として受託した「生涯現役促進地域連携事業」の一環としてスタートした。2021年度に3年間のモデル事業実施期間を終えたところで、2022年度から新たに実施している「生涯現役地域づくり環境整備事業」をあらためて受託。既存の組織を改変し、静岡市生涯現役促進地域連携協議会は、地域活性化や移住支援の関係者で組織する「生涯活躍のまち静岡(CCRC)推進協議会」と一体となり、新たな事業主体となった。2023年4月からは、「静岡市誰もが活躍推進協議会」と改称した。  さらに、シニア就労を支援するため「人生後半の生きがい探しに」をキャッチフレーズにした「NEXTライフワークプロジェクト」を同市経済局と協働で進めてきた。NEXTワークしずおかが幅広くシニアの就労・社会参加ニーズに対応するのに対し、経済局は高度な能力を発揮する人材に対応し、相互に連携する枠組みを形成している。  2022年度から実施している静岡市の生涯現役地域づくり環境整備事業の特徴は、NEXTワークしずおかにおけるマッチング支援と、重点業種を絞った就労支援にある。メインの取組みであるNEXTワークしずおかの運営では、就労相談、就職説明会、面談会の実施、SNSやホームページを活用した情報発信を行っている。相談業務はNEXTワークしずおかの常設相談窓口(葵区)以外に、市内2カ所の区役所で出張相談会を実施し、2022年度の相談件数は800件を超え、目標値の700件を大きく上回った。2023年度は引き続き、ていねいなヒアリングと相談対応を行い、出張相談会は清水区で3回、駿河区で2回と、それぞれ回数を増やして開催する予定である。  事業のもう一つの特徴は、介護分野とサービス分野(警備、ビル・マンション管理、清掃)を重点業種として設定し、人材の送り出しを図っている点だ。  「前事業の3年間でシニア採用に積極的な姿勢を見せた企業が、介護と警備や清掃サービスの分野でした。どこも慢性的な人材不足で求人が豊富にあります。働きたいシニアがその分野で働ければマッチング率が高まりますが、仕事がたいへんな業界でもあり、イメージアップを図る取組みをしています」(一ノ宮マネージャー) マッチング支援重点業種 @介護分野の就労促進  同協議会では、介護の仕事の魅力を発信するため「シニア向け介護・福祉のシゴトガイドブック」を作成し、相談窓口で仕事内容について説明する際に活用している。実際に働いているシニアの仕事ぶりを写真を交えてわかりやすく解説した内容となっている。  同じく魅力を発信する試みとして介護業種に絞った「お仕事面談会」を2地域で実施。静岡市保健福祉長寿局地域包括ケア・誰もが活躍推進本部誰もが活躍推進係の木村あゆみ副主幹は次のように説明する。  「『介護施設は郊外に多いので通えない』という理由で、事業所と求職者との面談が進まない事例が多くありました。そこで地区を絞り、地域にある介護施設を運営する事業所に声をかけるとともに、地域に住む人に応募を呼びかけ、ハローワークと共催して面談会を実施し、マッチング率向上をねらいました。目標より多くの事業所とシニアに参加してもらうことができました」  また、より実践的な介護の仕事のイメージをつかめるオープンカレッジなども実施している。受講者は自分が介護を受ける心構えを養うことができ、その心構えを活かして働けるような学びができる研修内容となっており、今後は研修内容をブラッシュアップしていく。  こうした取組みが進む一方で、介護分野のマッチングが進まない実態もあり、シニア側の理由として、資格が必要な仕事と考えていたり、仕事の負荷が大きいと尻込みをしてしまう傾向があることなどがあげられる。そもそも、シニアは週に3〜4日程度、3〜4時間または4〜6時間程度働きたいという人が大半であることが、1500件以上の相談実績から判明していた。そこでシニアの能力とニーズをすりあわせ、柔軟な働き方ができるよう、業務の切り出しを事業所に提案した。  「介護業務以外の周辺業務はシニアが十分にできるものです。家事の経験が活かせる調理や洗濯のほか、介護の資格がなくてもになえる送迎業務をはじめ、音楽演奏や園芸、工作といった趣味・特技を活かした仕事など、さまざまな形で施設の利用者を支えることができます。働きたいシニアは多くても、初めから介護業で働きたいという人は少ないなかで、仕事を切り出して説明をすると、多くのシニアに関心を持ってもらえます。  また、事業所側からすると、有資格者の介護職員の業務負担が軽減するので、施設の仕事が滞りなく回るようになります。仕事の切り出しを行うことにより雇用する人数は増えますが、結果的に全体の人件費が下がったという声も聞きます」(一ノ宮マネージャー)  仕事の切り出しを提案した結果、事業所において介護周辺職種の採用意欲が高まり、2022年度は34人の採用が決まった。 マッチング支援重点業種 Aサービス分野の就労促進  介護と同様にシニアの採用意欲が高い警備や、ビル・マンション管理(メンテナンス)、清掃のサービス分野においては、ネガティブな先入観を反転させるブランド戦略のもと、リーフレットを作成し、同業種に絞った相談会を実施した。  「警備・清掃の仕事は、身近なところに豊富にあります。街のインフラに密着した社会の役に立てる仕事として、『だれでもできる=私にもできる』とネガティブイメージを反転させてイメージアップを図っています」(一ノ宮マネージャー)  相談会と同日に企業向けにセミナーを実施し、ミドル・シニアを積極的に採用することで企業にとってメリットがあることを外部の講師を招いて伝えるなどの働きかけを行い、その結果、2022年度は警備・清掃分野で4人が採用に至った。  これら二つの重点業種に加えて、三つめの重点業種に「まちづくり・地域共生」がある。ボランティア、セカンドキャリアの支援という点で、ミドル・シニアを地域活動に送り出す。2023年2月には50〜59歳を対象にしたセカンドキャリアセミナーを実施した。  「『10年後のありたい姿を明確にしよう!』というテーマを掲げ、定年退職を迎える前にセカンドキャリアを考えるきっかけを持ってもらうためのセミナーを開き、ミドル・シニアが在職中からセカンドキャリアを形成するための支援を行っています」(木村副主幹)  これらの取組みはチラシやホームページ、SNSなどで情報発信し、普及・啓発に努めている。 ミスマッチを防ぐために双方が取り組むべきこと  苦労して採用活動を行い、人材の採用に至っても早期に退職してしまうという、いわゆるミスマッチを企業は避けたいものだ。ミスマッチが起こる原因について、一ノ宮マネージャーは次のように説明する。  「高い能力を持った経験豊富な人材を希望していた企業で、シニア人材の採用に至ったことがあります。生産管理を希望していた方で、生産管理担当として採用されましたが、現場ではマネジメント業務を含む多くの仕事を任されるようになり、間もなく退職したそうです。大企業出身であったり、能力のあるシニアの方は、『年金を受け取りつつ、自分が持っている技術の部分だけ中小企業で活かして働きたい』と思っている方が多いように見受けられます。また、元気に見えても、若い世代と比べれば体力面で落ちることは否めません。60〜70代はとても真面目な気質の世代なので、一つの仕事をきちんとやり遂げますし、無理をしてがんばることもあるので、そこに甘えて想定以上の仕事をお願いしてしまうと、突然辞めてしまうということが起きてしまいます。『この人は仕事ができる』といって周りが欲張っていろいろと任せずに、シニアに配慮する姿勢があると定着につながると思います」  一方のシニア側については、50代で自分のセカンドキャリアを考えて勉強した人は、再就職先で定着しやすい傾向があるという。なぜなら、65歳まで再雇用で働いてもその後の再就職先が豊富にはないことを知っており、定年後は早めに再就職先を探し始め、堅実に求人が豊富な業種を選ぶが、だからといって自分の働き方の条件は譲らない。そうした姿勢でじっくり仕事を選んだ結果、条件にマッチした職場に就職が決まったというケースは好事例として多くのミドル・シニアの参考になるだろう。  「雇用延長の場合、多くは、給料は減っても同じ会社に5年いることができます。ただし、それによって65歳を迎えてから再就職活動をするよりも、60歳で市場に出た方が有利ですし、その後10年間働けます。そうした知識のある人たちは、再就職先を探す際に『定年がない』、あるいは『定年70歳』のような、長く働ける会社を条件にしています」(一ノ宮マネージャー)  よいシニア人材を採用したいと考えている企業は、定年年齢の見直しについて一考の余地があるといえよう。 働きたいだれもが生涯働き続けられる社会づくり  NEXTワークしずおかは、2024年度に事業が終了した後、必要性を整理して運営方法を検討していくという。  「働くことを希望するシニアが、ハローワークに行くか、シルバー人材センターに行くか、自分で選んで動かなければいけなかったところを、本事業の窓口ではそれぞれの機関が連携して道案内を行っています。この窓口業務が今後も継続して必要なのか、事業を走らせながら検討していくことになります。この先10年も経てば、いまの50代が60代になるのでだいぶ状況が変わっていくはずです。もともとは厚生労働省の高齢者雇用対策事業の受託により始めた事業ですが、シニア以外にも働きたいけれど働けない、例えば就職氷河期世代など多くの就労困難者がいます。静岡市としてはシニア就労支援で蓄積したノウハウを、各部門が連携する協議会のなかで議論することで、別の対象者や世代にも展開していきたいと考えています」(木村副主幹)  相談窓口のスタートからシニアの就労支援を現場でサポートしてきた一ノ宮マネージャーは、「自社の社員を雇用延長して70歳まで働いてもらうことも大事ですが、新しい風を入れるという点で、積極的にミドル・シニアを中途採用して門戸を開いてほしいです」と人材不足解消を課題にする企業に向けてメッセージを送った。  企業とミドル・シニアの両者が早期のセカンドキャリア形成に取り組めば、労働市場の活性化につながり、働きたい人だれもが生涯働ける社会が実現するのも遠い未来のことではなくなるかもしれない。 「NEXTワークしずおか」でマッチングしたシニアの事例 介護業務の切り出しから洗濯・清掃の職を創出し採用に至る  「介護関係の仕事に就くとは考えてもいなかった」とふり返るAさん(70歳)は、前職を定年退職した後、自宅近くでできる仕事を探していた。そんな折、NEXTワークしずおかの窓口で相談したところ、高齢の男性でもできる有料老人ホームの用務員の求人を案内してもらい、就職するに至った。  Aさんは「利用者さんと接することはほとんどなく、この仕事ならできるかなと思いました。効率的な段取りを考えたり、スタッフとアイデアを出し合ったり、仕事の工夫ができるのがやりがいにつながっています。働きやすい点は家から近い場所にあり、勤務時間の融通がきくところ。館内を動き回るので適度な運動になり、体力がつきます」と、仕事の充実ぶりを語った。 写真のキャプション 静岡市保健福祉長寿局の木村あゆみ副主幹(左)、NEXTワークしずおかの一ノ宮由美マネージャー(右) 【P23】 日本史にみる長寿食 FOOD 355 卵かけご飯でがんばった昭和時代 食文化史研究家● 永山久夫 昭和の味がする卵かけご飯  炊きたての白いご飯があると、日本人なら無性に食べたくなるのが卵かけご飯。ある年齢以上になると、昭和への郷愁を感じて、何ともせつなくなります。  貧しく乏しかった時代の象徴的な食べ物が、卵かけご飯でした。一個の生卵を家族で分けあって食べていた思い出がよみがえるのです。  大きなどんぶり鉢に一つの生卵をポトンと落とし、醤油でのばし、三人、四人もの兄弟のご飯のうえに、少しずつたらして食べていたあのころ。貧しかったが、幼い者への思いやりがあり、みんな心の底から明るく、いつも「ワッハッハ」と笑っていました。  日本人は、魚であれば、刺身を好みますが、生で食べるわけですから、焼いたり、煮たりすることによって失われる栄養成分のロスがまったくありません。したがって、生食は栄養効率も資源効率も高いのです。  ご飯に生卵をかけて食べるのも、考えてみれば卵の刺身のようなところがあります。 ゆで卵は栄養豊富な完全食  卵は昔から「精のつく食べ物」として重宝されてきました。昔は病気見舞いというと、もみ殻入りの箱に卵を詰めて持参したものです。  卵には、ビタミンC以外の栄養成分がことごとく含まれており、ほぼ完全食といってもよいでしょう。特に、卵のタンパク質は優秀で、アミノ酸スコアは100と満点です。タンパク質は、体細胞の若さを保ち、筋肉を強化するうえで欠かせません。  侍ジャパンで活躍した大谷翔平さんも、ゆで卵を一日に何個も食べているそうです。  卵の黄身に多いレシチンは、物忘れを防いで記憶力をよくし、学習能力や創造力を高める成分として注目されています。レシチンが、脳のなかでそのパワーを十分に発揮するためには、ビタミンB12が欠かせませんが、このビタミンも卵の黄身にはたっぷり。  卵は長生き時代、情報化時代には、理想的な食材といってよいでしょう。昭和の思い出の味、卵かけご飯をどうぞ。 【P24-29】 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!こんなときどうする? Season2 第3回 高齢社員の安全と健康を守る方法は? ★ このマンガに登場する人物、会社等はすべて架空のものです 図表1 20〜24歳ないし最高期を基準とした場合の55〜59歳の者の各機能水準(%) 55歳〜59歳 20歳〜24歳 (ないし最高期) 分析と判断能力 77 計算能力 76 比較弁別能 63 学習能力 59 記憶力 53 夜勤後体重回復 27 抗病回復力 68 傷病休業を少なく止める能力 65 平衝機能 48 皮膚振動覚 35 聴力 44 薄明順応 36 視力 63 肩関節 70 脊柱側屈 85 脊柱前屈 92 伸脚力 63 背筋力 75 屈腕力 80 握力 75 全身跳躍反応 85 タッピングテンポ 85 動作速度 85 単一反応速度 77 瞬発反応 71 運動調節能 59 字を書く速さ 出典:斎藤一・ 遠藤幸男「高齢者の労働能力」、『労働科学叢書53』1980年(労働科学研究所) 図表2 加齢による反応時間の変化 (見てから操作で応える速さ) 複雑選択反応時間 選択反応時間 単純反応時間 出典:鉄道労働科学研究所労働生理研究室 図表3 加齢による平衡機能の変化 (閉眼片足立ちテストによる) 男 女 出典:石橋富和「高齢者の心身能力と交通安全(5)」『交通安全教育』No.204.1983.8(日本交通安全教育普及協会) 図表4 加齢による身体柔軟性の変化 (前屈テストによる) 男 女 出典:石橋富和「高齢者の心身能力と交通安全(5)」『交通安全教育』No.204.1983.8(日本交通安全教育普及協会) ※ 厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000815416.pdf ※ 厚生労働省「『労働者死傷病報告』による死傷災害発生状況(令和3年確定値)」 ※ 厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン」(別添資料)https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000609494.pdf 解説 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生!こんなときどうする? Season2 第3回 高齢社員の安全と健康を守る方法は?  加齢にともない身体機能も低下していく高齢者は、若者に比べて労働災害の発生率が高いだけでなく、けがなどによる休業も長期化しやすい傾向にあります。生涯現役時代を迎え、働く高齢者が増えていくなかで、企業が職場環境の改善や健康管理に取り組むことの重要性について、東京学芸大学の内田賢教授に解説していただきました。 内田教授に聞く 高齢者雇用のポイント 高齢社員の労働災害防止と健康管理の取組みはすべての社員の安心・安全につながる  高齢者が働く職場で特に注意すべきは労働災害です。高齢者の労働災害発生率はほかの年齢層に比べて高くなっています。20歳未満の若者の労働災害発生率も高いのですが、その原因は仕事の知識や経験が浅いためと考えられます。一方、高齢者の場合、長年の経験を持ち、仕事も熟知しているため労働災害は起きにくいように思われますが、年齢とともに反応速度やバランス感覚が低下するなどの要因で「頭ではわかっていても体が以前のように動かない」ことから事故が起こってしまうようです。  企業や職場では、高齢者に生じやすい体力や五感の低下をふまえ、それらが原因で起こりやすくなるヒヤリハットや事故を想定し、防止する工夫が必要となります。体力低下への対応として、重量物運搬の際は転倒や腰痛の恐れがあるため、機械化により高齢社員が荷物を持たずにすませるか、ロボットスーツの着用などが考えられます。職場内で移動をともなう場合は動線を短縮化したり、複数の階を行き来しなくてすむよう同じ階に仕事をまとめたりして疲労軽減を図ります。疲労回復のために休憩室を見直し、横になってゆったりできる畳敷きに改装する会社もあります。  「まだまだ自分は大丈夫」と考える高齢社員がいままでと同じペースで仕事をしてしまい、知らず知らずに疲労が重なって事故につながる恐れもあります。上司や同僚は高齢社員の仕事ぶりを見ながら、ときには抑え役になることも考えてください。  職場の安全とともに、健康管理も欠かせません。高齢社員が定期健康診断を受ける際、高齢社員向けにメニューを追加している会社があります。また、再検査が必要と判断された場合は本人任せにせず会社が必ず受診させることも必要です。  ここでは高齢社員の労働災害防止と健康管理について述べてきましたが、会社が真剣に取り組めば高齢社員はもちろんのこと、若手や中堅社員にとっても安心・安全な職場となります。 プロフィール 内田教授に聞く 内田 賢(うちだ・まさる) 東京学芸大学教育学部教授。 「高年齢者活躍企業コンテスト」審査委員(2012年度〜)のほか、「70歳までの就業機会確保に係るマニュアル作成・事例収集委員会」委員長(2020年度〜)を務める。 【P30-31】 江戸から東京へ 第127回 寺田屋の人びと 作家 童門冬二 屋号を戸籍名に  京都の伏見に寺田屋≠ニいう宿がある。幕末には薩摩藩の定宿(じょうやど)だったが、別の事件で有名になった。坂本龍馬が刺客におそわれたことだ。  知人が、 「京都を案内してくれ」  といえば、必ず寺田屋と新選組の屯所跡をコースに入れる私は、寺田屋の主人とは馴染みだった。  客が入ると、主人は自分が吹きこんだテープレコーダーのスイッチを入れる。龍馬の事件を自分の声で語るのだ。あるとき、知人を連れて訪れると主人は馴れでレコーダーのスイッチを入れた。 「おれはいいよ」  というと、私を見て気づき、 「ハハハ、気づきませんでした」  と笑ってスイッチを切った。そして話しかけてきた。 「家庭裁判所の許可がおりましたよ」 「何の?」 「名前ですよ。姓は寺田屋、名は伊助(いすけ)」  気取ってミエを切った。私は、ほほえんだ。  主人が寺田屋伊助≠ニ丸ごと改姓改名をしたくて、その筋に要望書を出していたことは、この宿を頻繁に訪れる者ならだれもが知っていた。 「よかったね、念願がかなって」  私は素直に祝った。名前を変える例は多いが姓まで変える心意気(それも屋号(やごう)を姓に組みこむ主人の気の入れ様)は、龍馬へのものなのだ。薩摩藩の定宿の域(いき)を超えて、坂本龍馬の個人宿≠ノなっている。 捨て身のお龍  龍馬の事件にはお龍(りょう)という娘がからむ。お登勢(とせ)という女性もからむ。お登勢は、伊助の妻だ。ある日、やくざにからまれて難渋していたお龍を龍馬が救った。寺田屋に連れてきて住みこみの女中にした。娘はお龍と改名した。もちろん龍馬にあやかってだ。  襲撃された日、お龍はしまい(最後の)風呂に入っていた。庭からくる刺客の気配を感じた。落ちついた娘で慌てずに湯櫓(ゆぶね)から出て階段を上った。龍馬は階段上の角部屋にいる。 「先生」  手まねで刺客の襲来を告げた。着物を着る時間も惜しんだので、生まれたままのスッポンポンだ。龍馬は笑った。 「ありがとう。しかしその格好は何だ?」  とからかった。お龍ははじめて自分の姿に気づき、まあ、と恥じて手でからだをおおった。龍馬はピストル(高杉晋作からもらった物)をかまえながら、屋根伝いに薩摩藩邸に逃れた。  事件直後、お龍は龍馬の妻になる。新婚旅行に日向(ひゅうが)(宮崎県)の山を選ぶ。天孫降臨(てんそんこうりん)の峰≠訪ねるのだが、西郷隆盛(吉之助(きちのすけ))からの依頼もあった。 「おはん(龍馬)の指揮する土佐海援隊(かいえんたい)の名で、エゲレス(イギリス)から、軍艦と大砲を買ってほしい。薩摩は幕府からニラまれているので」  と頼まれていたからだ。  日向の天孫降臨の峰には記念碑が立てられていた。龍馬はこれを引きぬいて逆さにした。お龍は手を拍うってよろこんだ。二人にとって幸福な時期だった。  鹿児島の西郷の家では、西郷の妻が西郷のふんどしを龍馬にくれた。龍馬は笑って受け取ったがお龍が怒った。新しい物に買い替えた。西郷の妻に悪気はなかった。 「きれいに洗って干したのに、もったいない」  と逆にお龍のふるまいに不満を持った。お龍は、 「もう用事はすんだでしょ。こんな所は早々に引きあげましょう」とうながした。  一連の行動をみていると、このころの人びとの行動原理は、普通人の普通の生き方ではなく、 「短い時間にすべてを賭ける(生命を投入する)」という、一点集中主義≠ェ感じられる。  お龍はその典型だろう。彼女にとって龍馬は、生きるすべてだ。 「龍馬さんのためなら」  というなら≠ェ常にある。それは、 「龍馬さんのためなら、死んでもいい」  と、自分の生命を投げ出す域にまで達している。それによって何かが得られる、という損得の計算は一切ない。それがわかるから龍馬のほうも、一切を投げ出して国事に奔走できたのだ。まさに、 「生命が火花となって散った時代」  なのである。  それを感じとって幕府にニラまれていることを知りながら、龍馬とその仲間を泊まらせ続けた寺田屋伊助とその妻お登勢のふるまいも、常人のものとは思えない。  しかもその精神は、 「数年かかっても、屋号ぐるみの名を戸籍名にする」  と、家庭裁判所に通い続けた店主に引き継がれた。明治維新実現のエネルギーの一端は、意外とこういう人たちにあったのかもしれない。 【P32-35】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第132回 愛媛県 このコーナーでは、都道府県ごとに、JEEDの70歳雇用推進プランナー※(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 だれもが安心して働き続けられるよう多様な働き方ができる職場づくりに着手 企業プロフィール 松山容器株式会社(愛媛県松山市) 創業 1955(昭和30)年 業種 産業廃棄物処理業 従業員数 83人(うち正規従業員数75人) (60歳以上男女内訳)男性(12人)、女性(3人) (年齢内訳) 60〜64歳 10人(12.0%) 65〜69歳 1人(1.2%) 70歳以上 4人(4.8%) 定年・継続雇用制度 定年60歳、希望者全員65歳まで継続雇用。65歳以降も運用により雇用を継続。現在の最高年齢者は76歳  愛媛県は、四国の北西に位置し、瀬戸内海に面する一方で、西日本最高峰の石鎚山(いしづちさん)や日本三大カルストの四国カルストがあり、海・山の自然環境に恵まれています。  JEEDの愛媛支部高齢・障害者業務課の久保(くぼ)和夫(かずお)課長は、県の産業について次のように説明します。  「県内は、大きく三つの地域に分けることができ、東部を東予(とうよ)、中央部を中予(ちゅうよ)、南部を南予(なんよ)と呼んでいます。東予は、製紙関係と化学工業、今治(いまばり)市の造船とタオルといった製造業が中心となっています。中予は、県都・松山市を有する地域で、政治・経済、商業活動の中心として第三次産業が主力ですが、臨海部には化学工業も発達しています。南予は、柑橘類や養殖漁業を中心に第一次産業が盛んです」  同支部では、ハローワークと連携を取り、協力して県内事業所の高齢者雇用の相談・助言活動に取り組んでいます。最近の相談内容や問合せは、改正高年齢者雇用安定法への対応や人材不足への対応、役職定年などにより、かつての上司が部下になるといった、立場が変化したときの人間関係に関する対応など、多岐にわたっています。これらに対し、高齢者雇用に精通したプランナーが企業の実情に即して相談・助言を行うほか、状況に応じて、企画立案や就業意識向上研修の実施などを提案しています。  今回は、プランナーの一人である山本(やまもと)敏夫(としお)さんの案内で、2018(平成30)年10月に、年上の部下を持つことになったリーダーに向けた就業意識向上研修を同プランナーが実施し、好評を得た「松山容器株式会社」を訪れました。 環境負荷を軽減する廃棄物処理を行う  松山容器株式会社は、1955(昭和30)年に創業し、1972年に法人として設立された廃棄物処理を行う会社です。1965年に松山市の一般廃棄物処理の民間委託先第1号に選ばれ、市内の同業者の先駆けとして地域のニーズに応え、ていねい、かつ信頼される廃棄物処理業者を目ざして実績を重ね、地域に貢献しています。現在は、容器包装プラスチック圧縮梱包プラント、焼却施設などを敷地内に整備し、環境にかかる負荷を最大限に軽減しながら、家庭や企業から排出された廃棄物を効率よく処理しています。また、「廃棄物の再資源化」をモットーに、金属類、電池・蛍光灯、発泡スチロールなどの再資源化を追求し、循環型社会の構築にも積極的に取り組んでいます。  山本プランナーが同社を初めて訪問したのは、2017年のことでした。「当時は、組織の若返りを図り、若手を所属長に任命したばかりでした。年上の部下もいるという状況のもと、所属長が『どうリーダーシップをとればよいか』などに悩んでいらっしゃると聞き、JEEDの就業意識向上研修の実施を提案しました」と、山本プランナーは当時をふり返ります。松山容器では、この提案をすぐに受け入れ、2018年10月に就業意識向上研修を実施。新たに所属長に任命されたリーダーとベテラン従業員が受講しました。  山本プランナー自身が講師を務め、「20代から70代まで幅広い年齢層の従業員が働く同社で、みんなが一つの方向に向かうには、納得して就業することが大事になる」と考え、自分の意見を述べる「話し合う場」に重点を置いた研修を企画。同社と協議のうえ、「部署をまとめるリーダーシップのあり方」をテーマに、リーダーシップの機能や年上部下との関係づくりなどの講義、グループ討議などを実施しました。  終了後の受講者のアンケート結果は好評で、同社の天野(あまの)隆章(たかあき)専務取締役は、「年上の部下、年下の上司にどう対応していくかといった内容で、所属長を若手にしていく取組みを始めた当社にとって、本当によいタイミングで研修をしていただきました」とふり返り、現在では若い所属長がリーダーシップを発揮して各部署をまとめ、まわりがそれを認めて「高齢従業員が若手を支える雰囲気ができてきている」と笑顔で語ります。3年半ほど前の就業意識向上研修が、新たな体制を一歩前へ押す力の一つになったといえるでしょう。 多様な働き方が可能な労働環境を模索  同社の83人の従業員のうち、37人が家庭から出されたごみなどを収集する廃棄物収集・運搬作業を担当し、25人が場内で収集物の選別作業を行っています。  60歳定年後、希望者全員65歳まで継続雇用する制度があり、65歳以降も運用により働き続けることが可能で、現在の最高年齢者は76歳です。定年廃止や定年延長の検討もしていますが、天野専務取締役は、現在の考えや取組みについて次のように語ります。  「収集・運搬作業は特に体力が要りますし、腰痛やけがのリスクがあることなどを考慮して、柔軟な働き方ができる職場づくりを模索しています。『フルタイムで働くのは体力的にきつくなってきたので短時間勤務に変えたい』など、高齢従業員にかぎらず、育児・介護と仕事の両立といったことも含めて、だれもが安全に長く働くことができるよう、多様な働き方ができる環境の整備を追求し、固定概念にとらわれず、勤務時間や賃金などについて柔軟に検討していきたいと考え、動き出しました」  その背景には、人材の確保が年々むずかしくなってきていることに加え、「経験豊富な従業員に長く勤めていてほしい」という考えがあります。  今回は、自分に適した働き方で勤務を続けている、従業員お二人にお話を聞きました。 定年後も会社にとって欠かせない存在に  野田幸子(ゆきこ)さん(76歳)は、松山容器が力を入れている「廃棄物の再資源化」に貢献し、天野専務取締役が「金属類を選別するたしかな目と技術を持つ、なくてはならない存在です」と敬意を表するベテランの一人です。  野田さんは、同社に入社して46年。家庭から出された鍋やフライパン、食器、日用品などの資源ごみのうち、リサイクル可能な銅や真ちゅう、ステンレスなどの素材の物を選別する作業を担当して約30年になります。表面だけ金属のように処理された物もあり、選別は簡単ではありません。「だんだん見分けられるようになりました。見た目、持った感触、重さ、叩いたときの音、錆びなどを見ます」と野田さん。目の前に積まれた物を手に取り、次々に分類していきます。選り分けた金属類は、専門のリサイクル業者へ送り、再資源化されるそうです。  野田さんは現在、平日は8時30分から17時まで、土曜日は半日勤務を続けています。「気がついたら、この歳でも仕事をしていました」と笑顔で話す野田さん。その原動力は、「毎日違う物が目の前に積まれ、飽きることがない」という仕事のやりがいと、「働きやすく、自宅近くまで送迎してくれるなどいろいろ気づかってもらい、ありがたいです」との思いが大きいようです。松山容器では、車を運転できない従業員や障害のある従業員が安全に通勤できるよう、専任ドライバーを雇用して送迎しています。  野田さんは、「仕事で立ったり座ったり、ちょこまか動いているのが健康にいいようです」と話し、作業に戻りました。今日も元気に仕事に集中している姿が目に浮かびます。  松山容器に入社して20年になる中矢(なかや)具応(ともたか)さん(66歳)は、以前は収集車に乗って家庭ごみなどの収集作業を担当していました。60歳を過ぎてから腰を痛めてしまい、「手術もしたので仕事への復帰はむずかしいかなと不安になったとき、会社から『焦らずに治してからまた出社してください』といってもらい、1年間休ませてもらいました。復帰して、会社と相談のうえ別の仕事を担当させてもらい、いまは無理せずに働くことができています。本当にありがたいです」と明るい表情で話す中矢さん。  現在は、破砕機(はさいき)によるOA廃棄物処理や厳重なセキュリティのもとで行う機密書類のシュレッダーによる廃棄処理、蛍光灯を破砕して密閉ドラムに詰め、リサイクル業者へ引き渡す作業、古紙を再生するために異物を取り除く作業など、日によっていろいろな作業を担当しています。  「この会社で働けることに感謝しているので、新しい仕事を覚えることも苦労とは思いませんでした。勤務時間も8時30分から15時までの短時間勤務にしてもらい、負担感もなく働けています。以前の回収作業も現在の作業も、世の中の役に立つ仕事なのでやりがいがあります。身体が続くうちは続けたいと思っています」(中矢さん)  天野専務取締役は、そんな中矢さんを頼もしく感じていて、「場内のさまざまな作業を担当してもらい、とても助かっています。いつも楽しそうに働いていて、周りも明るくなります」と話しました。 人を大事にするアットホームな会社  野田さん、中矢さんの二人が揃って「働きやすい」と同社を語ったことについて、天野専務取締役は「アットホームな会社であることが、よいのかもしれません。時代遅れといわれるかもしれませんが、その点はこれからも大事にしていきたいと思います」と返すとともに、会社の将来について次のように語りました。  「今後も地域の役に立つ事業を続けていくとともに、安全で気持ちよく働ける環境づくりに努めていきます。廃棄物の減量や再資源化など、この業界はどんどん進化していますが、人が行う作業がなくなるとは考えていません。今後も人を大事にし、『この会社で働いてよかった』といってもらえる職場になるよう努めていきます」  山本プランナーは、「『良樹細根(りょうじゅさいこん)』という言葉があります。『細かく根が張っている木は、枝葉もよく茂る立派な木になる』という意味です。細かい根を従業員、枝葉を会社経営と例えると、仕事を通して人が成長していく職場づくりを続けることで、『松山容器で働いてよかった』と思われる会社になるのではないでしょうか。要請に応じて、今後もプランナーとしてサポートをしていきたいと思います」と話してくれました。(取材・増山美智子) ※「65歳超雇用推進プランナー」の名称が、2023年4月から「70歳雇用推進プランナー」に変わりました 山本敏夫 プランナー アドバイザー・プランナー歴:31年 [山本プランナーから] 「尊敬する人に二宮(にのみや)尊徳翁(そんとくおう)がいます。至誠、勤労、分度、推譲を柱として江戸時代後期に活躍した経世家であり、農政家、思想家です。企業訪問の際は、推譲の精神で、『お役に立てることはないか』を心構えとして話をお聞きします。人口減少社会にあり、特に生産年齢人口が減少するなかで、企業存続のため高齢者の戦力化が重要であり、そのための提案を工夫し今後も精進していきたいと考えています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆愛媛支部高齢・障害者業務課の久保課長は山本プランナーについて、「1993年4月に高年齢者雇用アドバイザーに委嘱されて以来、自身の豊富な人生経験と中小企業診断士としての知識を活かし、31年にわたりアドバイザー・プランナー活動にたずさわる大ベテランです。明るい人柄でコミュニケーション能力が抜群にすぐれており、企業の懐に入っての的確な相談・援助活動を展開しています」と話します。 ◆愛媛支部高齢・障害者業務課は、松山市中心部から車で約20分。松山空港の南側に位置する愛媛職業能力開発促進センター内にあります。 ◆愛媛県内では2023年4月現在、6人の70歳雇用推進プランナー等が活動し、昨年度は年間で約380件の相談・助言活動を展開、71件の事業所に定年の引上げなど、制度改善に向けた提案を実施しました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●愛媛支部高齢・障害者業務課 住所:愛媛県松山市西垣生町(にしはぶまち)2184 愛媛職業能力開発促進センター内 電話:089-905-6780 写真のキャプション 愛媛県松山市 本社外観 天野隆章専務取締役 経験を重ねてつちかった「目利き」で、再資源化可能な金属類を素早く選り分ける野田幸子さん さまざまな業務を担当し、会社に貢献する中矢具応さん 【P36-37】 第82回 高齢者に聞く生涯現役で働くとは 所沢市 シルバー人材センター 営農グループ 阪口(さかぐち)俊治(しゅんじ)さん  阪口俊治さん(80歳)は、技術商社勤務の後、所沢市シルバー人材センターに入会。現在は営農事業推進の先頭に立っている。高齢化率が約3割を占める日本の現状をみながら、「高齢者こそ社会を支える存在になるべきだ」と力説する阪口さんが、ロマンあふれる生涯現役の未来を語る。 高齢者よ、いまこそ社会の先頭に立とう  2022(令和4)年9月時点での、日本の高齢化率は29.1%※となりました。65歳以上が全人口の約3割を占める時代だからこそ、生涯現役で働き続けることはもちろん、そこからさらに一歩先を目ざして、高齢者が社会を支える先頭に立つべきだと私は思います。そのためにも、一人ひとりが生きがいを持って活動できる環境が整備されるよう願っています。私自身のことを語る前に、いま一番伝えたいことから話を始めさせてもらいました。  私は大阪府高石市(たかいしし)の生まれです。父は戦死し、母は残された2人の息子と父の両親のため懸命に働いていたので、早く手に職をつけたいと府立の工業高校に進みました。漠然とエンジニアの仕事に憧れ、情報機器分野のパイオニアといわれた大阪市内の技術商社に就職が叶いました。以来、証券会社や銀行などの会計機を保守する仕事に従事、その後、東京支店に異動、埼玉県所沢市に移り住みました。60歳の定年まで勤めあげ、それから3年間は系列会社に勤務しました。  1980年代後半ころから日本の企業にも週休2日制が導入され、「せっかくの休日を有意義に過ごしたい」と思うようになりました。50歳のとき、自宅の向かいの空地の畑を借りて作物づくりに挑戦、土に触れる喜びを知るきっかけとなりました。  その後、所沢市シルバー人材センターの広報委員募集に応募し、同センターの広報活動にたずさわります。折しもセンター創立30周年の記念誌を作成することになり、編集委員として参加しました。現役を終えても人の役に立てることが励みになり、センターとの縁が深まっていきました。  定年後の生き方を見越して50代から地域に軸足を移す準備をしてきた阪口さん。民生委員も12年にわたり引き受けてきた。広い角度からの生涯現役のモデルといえる。 土に学び、土に生きる  所沢市の三富新田(さんとめしんでん)は江戸時代に開拓された農村地帯ですが、農家の高齢化もあり、休耕地が増えてきました。所沢市シルバー人材センターには、家庭菜園の経験が豊富で農業に関心がある会員が多く、「自分たちで休耕地を活用したい」という声があがりはじめました。もともと営農事業はシルバー人材センターの定款にはありませんが、当時の事務局長がかつて市の農政課長でいたことから、知り合いの農家に協力を呼びかけてくださり、2013(平成25)年5月、所沢市の支援のもと、西狭山ケ丘にシルバー農園を創設しました。当時70歳の私も発起人に名を連ね、営農グループを発足。同年10月には近隣に第2農園もでき、旬の野菜を減農薬で栽培し、収穫物は直売所や市のイベントなどで販売するように整備をしました。  自然相手ですから苦労もありますが、青空のもと土を耕し、旬の野菜を育てるために体を動かせる喜びが営農グループの醍醐味です。また、営農グループは循環型農業にも取り組んでいます。シルバー人材センターでは家庭などの植木の剪定も請け負っており、その際に出る大量の枝葉を細かく砕いてチップにするためのチップ工場を2014年に開設しました。  現在、営農グループに登録しているのは約20人、そのうちの10人ほどが交替で畑を守っています。私は、水・土・日曜日をのぞき、朝8時から12時まで営農事業に従事し、販売にも参加しています。畑に出る日は5時30分に起床、まず自分の畑を見回ってからシルバー農園へ行き、帰りに自分の畑をもう一度見回って家に帰ります。高齢者ほど自分のルーティンを持つことが大事だと私は思います。  開口一番、日本の高齢化を憂えた阪口さんは、常に頭の中で高齢者の未来図を描いている。だから言葉に説得力がある。 地域貢献を目ざして  所沢市が位置する武蔵野台地は、昔から良質の小麦産地でした。また、所沢市はうどんづくりが盛んなこともあり、私たちは「小麦栽培から製麺、販売まで一貫してできないか」と考えました。そこで、2017年に新たに休耕地1600坪を借り、小麦の種をまきました。麦踏みには近くの小学校の児童が協力してくれました。収穫した小麦は、当センターの西新井支所にある「麺工房」で製粉機にかけます。いくつかの工程を経て誕生したのが「地産地消型のシルバーブランド・所沢うどん」です。いまでは市内のさまざまなイベントに出品し、「のど越しがよく、とてもおいしい」など嬉しい声をいただいています。  一方、私は地域貢献の一環として「小手指(こてさし)メンズクラブ」という会に参加しています。公民館のメンズカレッジ卒業生が「会社人間から地域人間へ」を合言葉に、2002年に結成しました。現在では男性ばかり50人ほどの会員がスポーツ交流や文化も含めた幅広い視点で親睦を深めています。今年で22回目を迎える「アートでせまるオヤジ達展」と題したアート展は、すっかりおなじみになりました。私たちは地域貢献を大切にし、ボランティア活動として国道463号線のバイパスに花壇を作り、清掃作業もしています。毎月最終土曜日のメンズクラブロードサポートには私も毎回参加、清掃の後の懇談はとても楽しく、さまざまな世界でがんばってきた仲間たちとの交流は学ぶことが多いです。冒頭の話に戻りますが人口の3割を占める高齢者は自らの人生の充実を目ざすとともに、自分たちが地域貢献を通じて社会を牽引していくという気概を持とうではないですか。 生涯現役を実現するために  「生涯現役」とは仕事だけではありません。農業の世界でも技術が進歩し、高齢者もIT社会に対応していかなければなりません。新しい情報をつかむアンテナを広げておくためにも生涯学習の継続が必要だと、55歳で入学した放送大学でいまも学び続けています。  一生続けられる農業は高齢者に合っている仕事ではないかと私は考えます。自然相手の農業はていねいに几帳面に向かい合う仕事です。情報機器分野で働いていた私などはどうしても物事をスピーディーに進めがちで、営農の仲間から教わることも多いです。もちろん実際の農家では高齢化が進み、後継者不足という切実な問題がありますが、農家の方々から指導をあおぎ、農地のことでも協力をいただいて営農事業を展開していきたいと思います。農業のことをよく知らない高齢者にもその魅力を伝えて、一緒に生涯現役を目ざしたいものです。市内の11地区すべてのセンターに営農事業を発足させ、高齢者が社会を支える場としたいという思いを胸に、今日も畑にでかけ、大地の声に耳を澄ましています。 ※ 総務省統計局「人口推計(2022年9月15日)」 【P38-41】 シニア社員のための「ジョブ型」賃金制度のつくり方 株式会社プライムコンサルタント 代表 菊谷(きくや)寛之(ひろゆき)  従来型のヒト基準の日本的人事制度が制度疲労を起こし、年齢や性別を問わず人材が活躍できるシンプルな雇用・人事・賃金制度に対するニーズが高まっています。今回は、メンバーシップ型と呼ばれる日本企業の雇用・賃金システムの特徴をふり返り、諸外国のジョブ型雇用・賃金との際立った違いを解説します。 第2回 日本の賃金制度と「ジョブ型」賃金制度 1 日本企業の典型的な賃金・人事・雇用慣行  図表1は、戦後の昭和から平成にかけて基本形ができあがり、現在も多くの企業で行われている新卒採用、人材の内部育成・登用、年功賃金、60歳定年制などを特徴とする、「メンバーシップ型」の長期雇用慣行に基づく典型的な日本的賃金人事制度のイメージを年齢軸に描いたものです。以下、その実務的なポイントを説明しましょう。 (1)初任給  賃金の起点は、高校卒・短大卒・大学卒など学歴別の新卒初任給です。図表1の総合職・現業職・一般職のような「コース別管理」による違いを除いて、仕事内容による初任給の差はほとんどありません。この点が、採用する職種や職務(ジョブ)のグレードによって個別に賃金を決める職務給とは大きな違いです。近年、新卒採用の競争激化を背景に初任給を大幅に引き上げる企業が続出し、年功賃金のバランスが大きく揺らぎはじめています。 (2)年功賃金(定期昇給、昇格昇給)  入社後、図表1でメンバーシップ型雇用(M)の正社員は、毎年の定期昇給や随時行われる昇格昇給によって賃金が年功的に増えていきます※1。  ただし全員一律の年功賃金はさすがに少なくなり、幹部候補としての成長が期待できるポテンシャル人材(総合職)、現場の熟練や専門性を期待する技能人材(現業職)、それ以外の定型業務担当者(一般職)などの「キャリアコース」で正社員を分けたり、年功・職能や職務・役割などで「等級」に分ける人事制度をつくり、そのキャリアコースや等級、評価の枠内で昇給・昇格の上限を決める手法が主流となっています。 (3)管理職の待遇  時間外手当が支給されない管理職には、その代替として役職手当や管理職手当を支給したり、一般社員よりも一段高い賃金を支給するのが通例です。管理職は定期昇給の対象外とし、年俸制や役職別・等級別の「シングルレート」と呼ばれる定額賃金に切り替えたり、評価によって金額が上下する「洗い替え型」や役割給/職務給に切り替える例も見られます。  若手人材の早期登用と組織の活性化を図るため、管理職のポストに55歳前後の「役職定年制」を設け、役職離脱後は部下のいない専門職や専任職として待遇する会社も少なくありません。 (4)賞与  夏・冬あるいは決算時に、賞与・一時金を会社業績や労使交渉に基づいて支給します※1。属人給としての継続性や、生活給としての安定性を重視する毎月の賃金と異なり、会社業績や個人の評価査定によって、支給の都度金額を弾力的にリセットできる点が賞与の大きな特徴です。ただ、長年の慣行が重なり、業績にかかわらず賞与の支給月数からほぼ固定的に支給している企業も少なくありません。 (5)退職金・年金  長期勤続を奨励し、老後の生活費を補填する最終給与としての退職金・年金は、所得税法上、退職所得控除の税制優遇措置が講じられ、長期勤続者に有利な取扱いがなされています。しかし途中退職する従業員や中途採用者にはその仕組みが不利に働くため、企業間の労働移動が阻害されている面も否めません。 (6)定年制と継続雇用  厚生労働省の調査※2(31人以上企業)では、定年制の廃止および65歳以上の定年制を合わせた企業は約4分の1と少数派で、残り約4分の3のほとんどは60歳定年制です。定年後の継続雇用を希望する者は、65歳まで勤務延長または再雇用のかたちで勤務できますが、定年前の仕事のまま正社員の労働条件を継続する勤務延長は一部の管理職や専門職にかぎられるのが一般的です。大多数の企業は、定年前の賃金待遇を8割〜6割程度に切り下げる有期契約の定年後再雇用によって高齢者の雇用確保義務に対処しているのが実情です。 (7)パートタイマー等の非正規雇用  定年後再雇用社員の賃金待遇を見直すうえで、同じ非正規雇用の取り扱いは見逃せないポイントです。これまで多くの企業では、パートタイマーなどの非正規社員は職務を限定したジョブ型有期雇用による低賃金を適用し、正社員の昇給制度や家族手当・住宅手当などの生活補助手当、賞与、退職金などは対象外とされてきました。ただし2021(令和3)年4月からパートタイム・有期労働法が全面施行され、同一労働同一賃金の取組みが進むなか、最低賃金の大幅な引上げや人手不足を背景に、近年パートタイマーなどの賃金待遇を見直す企業が少しずつ増えており、高齢社員の賃金待遇にも影響が及びはじめました。 2 メンバーシップ型雇用の特徴  日本企業の人事・賃金制度は、市場価値に基づき、組織・職務基準で人材を調達する諸外国のジョブ型とは際立った違いがあります。  日本企業の場合、あらかじめ会社が確保したストック人材がいて(内部労働市場)、その能力・意欲・適性を見ながら会社がやらせたい仕事を割り振るという「人的資源管理論」に基づくメンバーシップ型の雇用・人事慣行が主流となっています(図表2の左)。  最大の特徴は、組織の正規構成員である「正社員」の身分として採用し、定年までの長期継続雇用を保障するかわり、個々の従業員に任せる職務(ジョブ)の内容は会社の裁量権の範囲内で無限定に決められる点にあります※3。  そのメリットは、新卒一括採用の多様な職務配置からはじまって、外部環境や組織の内部事情の変化に対して柔軟な人事異動が任意に行え、企業内で低コストかつ計画的に人材を育成・登用できることです。途中退職者や長期欠勤者が出ても、当面社内で人材をやりくりできます。  ただし配置・異動の都度賃金待遇が変わったのでは、人事の不公平が問題になったり、雇用関係も不安定になります。会社としては正社員の採用や人事配置を一元管理し、職務内容が多少変化しても安定した賃金待遇を行う必要がありました。こうして職能資格制度のような年功・能力基準の人事処遇制度を軸に、ヒトの身分・資格・ポテンシャルに値段をつける職能給など日本独特の「属人給」が生まれたのです。  しかしヒト基準の人事賃金制度には、無視できない欠陥もありました。一つは、「資格と役職の分離」というロジックが独り歩きし、人件費の肥大化を招いたことです。一度管理職になった従業員はそのポストを外れても職能資格は下がらず、実際の職務内容や業績とは無関係に各人の賃金が既得権になってしまいました。  二つめは、年功的な賃金待遇の副作用として仕事の評価基準があいまいになり、個人としても組織としても、成果や生産性に対する感度が低下したことです。なかには、評価制度もなく、事業経営に不可欠な経営計画や目標管理さえもない不思議な企業があったりします。  三つめは、給料が保障されるとはいえ、会社の一方的な人事権で配置と職務が決まる状況では、従業員はどうしても受け身になります。会社への依頼心が助長され、よほど意思がしっかりしないと自身のキャリア形成に主導権を持つことができません。自律的な学習意欲や向上心がなければ、定年後の生活設計も絵に描いた餅になってしまいます。  さらに、正社員を対象とするメンバーシップ型の人事管理は、無限定でフルタイムの働きを期待する男性・総合職中心の人材活用に偏りがちで、技術革新のスピードが早まり、人口減少社会において働き方改革が求められるなか、高度専門職や多様な働き方を求める女性・高齢者・外国人・障害者などの能力をうまく引き出し、活用することがむずかしいです。 3 ジョブ型雇用人事の特徴と設計・導入手順  これに対し、ジョブ型雇用は、経営計画と業績見通しに基づいて事業主体で組織を編成し、ジョブの塊であるポストの職務要件に対し賃金を決め、社内外から最適な人材を発掘・配置します。  多くの日本企業では職務内容の違いよりも、年功・能力など社内労働市場の人事序列に基づいて個々の給与が決まりますが、ジョブ型は、社員が従事する職務の内容や成果・責任を「職務記述書」としてオープンにします。そのポストについて、会社と従業員がその都度外部労働市場を参照し、対等な立場で賃金待遇を話し合い、雇用契約を交わします。ジョブに対するベスト人材を確保したい会社としては、内部登用とともに外部採用も視野に入れるので、人材の適正価格を常に意識して賃金を決めようとします。  このように経営がデザインした組織編制に基づく個々のポストやジョブに対し、期待される業績と必要な賃金水準を対比させつつ、事業として総額人件費管理を行いながら最適人材を戦略的に調達・配置していきます。そこでは、生産性の高い組織をつくっていく資本主義的な人材管理が、いわばあたり前に行われます。  これを働く人から見ると、ポストの定員・職務内容・報酬が決まっており、業績に基づくボーナスは別として、個人の能力や業績が多少アップしても仕事が変わらないかぎり大幅な昇給はありません。ポストがなければ昇進もないので、個人にとって決してやさしい環境ではなく、自助努力でスキルを磨き、キャリアアップを図るほかありません。このままでは限界があると判断した場合は、自分でキャリアを築くため、外部に機会を求めて転職することになります。  結果、社内・社外を問わず、採用する側と働く側との間で絶えず職務と人のマッチングが進むため、社会全体として低収益部門から高収益部門に人材が移動し、高い潜在成長力が維持されることが期待されます。  日本企業が生え抜き人材の採用・育成にこだわり、閉鎖的な同質性・モノカルチャー・囲い込み型の日本型コミュニティに走りがちな傾向があるのに対して、外部労働市場に対して常にオープンなジョブ型雇用人事のほうが、企業にとっては戦略的な鋭い経営感覚が、社員にとってはキャリア志向を持ちやすいという点がご理解いただけるのではないでしょうか。  ジョブ型雇用人事の設計・導入手順はある程度定式化されています。 1 組織設計…事業戦略に基づき最適な組織の区分と責任階層・職種別の職務ポジションを編制する 2 職務と成果責任の定義…職務内容および行動基準のディクショナリーに基づいて職務記述書(Job Description)を作成する 3 職務評価…職務の難易度や責任の重さを定量化する職務評価を行って職務等級(Job Grade)に格づける 4 報酬設計…賃金の世間相場や会社の賃金ポリシーに基づき職務ごとに支給する職務給/成果給の上限・標準・下限の金額を決める。また企業・部門業績と個人の貢献度に連動した短期業績賞与の配分基準を決める。 5 個別報酬管理…採用・配置する職務内容、業績期待値、人材の採用・リテンション、世間相場の配慮に基づき個別の基本給を決め、物価・賃金動向に基づき賃金改定を行う。 6 人材マネジメント…組織責任者を中心に事業目標に基づく組織課題の分析から個人の目標設定、実績のふり返り、業績評価/行動評価、フィードバックを行い、人材の動機づけとキャリア支援、賞与と賃金改定の評定などを行う。 7 キャリア支援…現在の職務の必要スキル、将来の有望な職務の選択肢、将来就きたい職務の必要スキル等の情報提供を行い、社員のスキルアップを支援する。  ただし、ジョブ型雇用人事をそのまま日本企業に持ち込もうとすると、柔軟な配置・異動がやりにくくなったり、人件費が一時的に膨張するなどのデメリットに直面します。  次回はこの点も考慮に入れ、これまでのヒト基準の人事賃金制度を組織側から仕事基準に修正する「役割給」の考え方を紹介しながら、内実のある高齢者の人材活用を実現する道筋について解説します。 ※1 図表1の年功賃金の傾斜が示す昇給カーブや賞与、退職金の支給水準は企業の規模や収益性により大きな差があり、特に中堅層以上の役職者になると、企業による年収や生涯賃金の格差も大きく広がります ※2 厚生労働省「令和4年6月1日現在の高年齢者の雇用状況等」 ※3 「日本における雇用の本質は職務(job)ジョブではなく、会員/成員(membership)であると規定」(濱口桂一郎『ジョブ型雇用社会とは何かー正社員体制の矛盾と転機』25ページ、2021.9、岩波書店) 図表1 日本企業の典型的な賃金・人事・雇用慣行(昭和〜平成) M:メンバーシップ型雇用 J:ジョブ型雇用 学校 就職 結婚(家族形成) 60歳定年制 65歳 学卒 初任給 年功賃金 定期昇給 昇格昇給 賞与・一時金 退職金 管理職・M 役職定年制 総合職・M 現業職・M コース別管理 一般職・準M パートタイマー・J 定年後再雇用・M 同・準M 同・J 公的年金 c 株式会社プライムコンサルタント 禁無断転載 図表2 メンバーシップ型とジョブ型の違い 日本のメンバーシップ型雇用 ヒトに仕事をつけ、ヒトの能力・年功に人事考課で値段をつける職能給 職能資格制度 資格型 役職型 職能型 理事 部長格 M-9 参与 次長格 M-8 参事 課長格 M-7 副参事 課長補佐格 S-6 主事 係長格 S-5 主事補 主任格 S-4 書記 職員3 J-3 主務 職員2 J-2 係員 職員1 J-1 M…Manager S…Senior J…Junior 資格と役職が分離 内部労働市場 部長 課長 課長 課長 リーダー リーダー 主任 主任 係員 係員 ・正社員の人材ストックの中から組織運営・業務遂行の適任者に都度仕事を割り振る ・組織・職務とは切り離し、社内の年功・能力基準による属人給で人材を安定的に処遇する 諸外国のジョブ型雇用 仕事(ポジション)にヒトをつけ、市場価値に基づく職務評価で値段をつける職務給 外部労働市場 事業戦略と組織編制 職務記述書 事業部長 部長 課長 リーダー 一般スタッフ ・事業部長の裁量で人材を外部調達・登用 ・総額人件費管理に基づく生産性の高い組織づくりを行う ・個人の自己学習・自己決定・キャリア自立を促す c 株式会社プライムコンサルタント 禁無断転載 【P42-45】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第61回 企業年金制度の変更、今後の労働契約法制および労働時間法制について 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永勲 Q1 企業年金制度の変更を検討しているのですが、留意事項について教えてください  これまで採用してきた企業年金制度について、減額変更を検討しています。退職者で受給中の人や、まだ受給していないがこれまで加入して積み立ててきた労働者もいます。企業年金の運用主体などによっても、変更方法は変わるのでしょうか。 A  企業年金制度の仕組みに応じて、検討すべきポイントが異なるため、自社で採用している年金制度の状況を把握することから始める必要があります。自社が実施主体になっているような場合、労働条件に該当するものとして不利益変更には合理的な理由が必要です。 1 企業年金制度の分類  企業年金制度の減額変更にあたっては、基本的には、@退職前の労働者か退職者か、A内枠方式か外枠方式か、B実施主体が事業主か外部の基金かというポイントを把握してから、今後の対応を考える必要があります。  まず、@退職前の労働者であれば、例えば、労働条件として位置づけられる場合であれば、労働契約法第10条に基づき就業規則の変更による対応を考えることになりますが、退職者の受給条件は、すでに労働者ではなく就業規則の適用も受けないため、労働契約法第10条に基づく一斉変更はできないというのが原則になります。  次に、Aについて、退職金制度の枠組みのなかで給付の一部について、企業年金を支払うことを予定していた場合(「内枠方式」と呼ばれます)、企業年金の減額分を、退職金としての支給額に反映させることで総額を変更しないことが可能であり、そうすることで、不利益変更の問題を生じさせないことも可能です(ただし、退職金としての支給額に反映させない場合は、不利益変更の問題は生じます)。他方、退職金制度と企業年金制度は別個の制度にしており、企業年金制度の変更を退職金制度に反映させることができない場合(「外枠方式」と呼ばれます)には、企業年金の変更による不利益変更の問題は避けがたいということになります。  最後に実施主体の問題があり、事業主が実施主体となっている場合には、企業年金制度自体が労働契約に関する労働条件の一部となる一方で、各種基金が実施主体となっている場合、労働条件とはならず、当該基金が定める約款や改廃条項の定めの解釈などを検討する必要があります。なお、退職者の年金に関する減額も改廃条項の定めなどに基づいて判断されることが一般的とされています。 2 改廃のポイント  就業規則の不利益変更という方法によるか(労働者に適用される外枠方式の事業主主体の企業年金の制度変更)、年金の支給に関する約款や規程が定める改廃条項(退職者に対する制度変更や外部の基金が主体となっている企業年金の制度変更)のいずれにおいても、ある程度考慮される内容は類似しています。ただし、後者の方が改廃条項の個別性(考慮すべき事情は明示された内容も重要となる)に左右されやすいため、その点には注意が必要です。  不利益に変更するにあたっては、何らかの事情があると思われますが、減額・廃止の必要性は重要なポイントになります。例えば、運用実績が予定利回りを下回っていること、過去に定めた給付水準を現在の経済情勢では維持しがたいこと、母体となっている企業の経営を圧迫していることなどが事情として考慮されます。特に、母体企業の経営を圧迫することで、現在の在籍労働者の労働条件が悪化することにつながっていたり、経営への影響が続けば破綻に向かう恐れがあるような場合には、そもそも年金を受給する権利自体が絵に描いた餅になってしまうこともあるため、経営改善策の一環として、企業年金制度の変更の必要性が肯定される場合があります。  次に、変更内容の相当性も考慮されます。上記のような必要性があるとしても、それに対応するバランスのよい変更内容とする必要があり、均衡を欠く場合には変更が有効とはなりません。この相当性については、変更内容自体が適正であることや、段階的な変更、経過措置の導入、代償措置の適用などによって、不利益性を緩和するような方法も考慮されます。  さらに、手続きの相当性が考慮されることになります。例えば、対象者となる従業員や退職者に納得してもらうための説明資料の作成、その説明を行うための会合や労働組合との協議の場を設ける、反対者の意見がどの程度現れていたかなどが考慮されます。年金の改廃条項などにおいては、受給者の3分の2以上の同意など明示的に割合が示されているケースもあるため、その場合は手続きの相当性だけではなく、同意を得た割合がこれを超えるかどうかという問題も生じます。 3 裁判例の紹介  企業年金制度の変更に関する裁判例を紹介しておきます。まず、自社が事業主体となっている年金制度の変更に関しては、大阪高裁平成18年11月28日判決があります。当該裁判例では、年金について定めた規程について、「福祉年金契約については、年金規程が福祉年金制度の規律としての合理性を有している限り、被控訴人の各退職者において、年金規程の具体的内容を知っていたか否かにかかわらず、年金規程によらない旨の特段の合意をしない限り、福祉年金規程に従うとの意思で年金契約を締結したものと推定するのが相当であり、その契約内容は、年金規程に拘束されると解すべき」として、退職者も含めて拘束される事実たる慣習になっているとして拘束力を認めました。また、改廃条項においては、「経済情勢もしくは社会保障制度に大幅な変動があった」場合に労使協議を経て変更することができるとされていたところ、経済情勢には当該企業自身の状況を含むものと解釈しつつも、その必要性に対して変更の内容が最低限度のものであるという相当性が求められるとされました。結論として、給付利率を一律2%引き下げる必要性があり、相当な手続きを取っていたことも考慮して、変更の相当性も肯定されました。  そのほか、年金制度の廃止を行った事例として、類似の改廃条項に基づき、会社分割などにともない、年金制度を廃止した事例(東京高裁平成21年10月28日判決)においては、年金としての支給ではなく、一時金としての支給という形に切り替えたことについて、企業年金の廃止についてはその効力を否定する裁判例が多いなか、企業年金制度の改正による負担増が生じたことや、実際の運用利回りと予定運用利回り(4%)が大きく乖離していたことから差額の追加負担を会社がせざるを得ず、不足金7億円を補填するなどしていた状況を加味して、その変更の必要性を肯定し、従業員に対して一時金(1.5%の利回りによる割り戻し)による支給制度へ移行することを説明していたうえ、1人を除き全員の同意が得られていたことなどから、変更の有効性が肯定された例があります。 Q2 労働関連法令の改正予定について知りたい  今後予定されている労働関連法令の改正やその対応について教えてください。 A  無期転換ルールの周知徹底、労働条件明示事項の追加、裁量労働制の改正などが予定されています。 1 労働契約法制および労働時間法制の改正  2024(令和6)年4月1日を施行時期として、労働契約法制および労働時間法制に関する省令改正が予定されています。主な項目としては、無期転換ルールに関する事項を含めた労働条件明示事項の追加、裁量労働制に関する改正で、幅広い事業者にとって関係する省令改正となります。 2 労働条件明示事項の追加  労働基準法第15条には、労働条件として明示が義務づけられている事項が列挙されています。今回の改正では、これに、@通算契約期間または有期労働契約の更新回数の上限、A就業の場所および従事すべき業務の変更の範囲が追加されます。  さらに、無期転換ルールの周知徹底との関連で、@を定めようとする場合には、あらかじめその理由を有期雇用労働者に説明することが求められることになるほか、無期転換申込権が発生する有期労働契約を締結(通算して5年間を超える有期雇用契約を締結)するときには、無期転換申し込みに関する事項および無期転換後の労働条件について書面を交付する方法で明示しなければならなくなります。  労働条件は、労働条件通知書または雇用契約書などで明示されているのが通常と思われますが、雇用形態にかかわらず、A就業場所および従事すべき業務の変更の範囲を明記することが必要となります。これまでは、就業場所および従事すべき業務のみが記載事項でしたが、今後は、これらの変更の範囲を明記することが必要となります。従来の記載事項では、あくまでも当初の就業場所や従事すべき業務の範囲を示すだけであったことから、この記載から職場限定や職種限定の合意があったとは解釈されないことが通常でしたが、変更の範囲を明示することにより、職場限定や職種限定に関する合意として成立することが多くなりそうです。  また、これらの記載事項は、同一労働同一賃金における考慮事項とも合致していますので、正社員と短時間または有期雇用労働者との間の労働条件の相違にも影響があると考えられます。記載が同一の正社員と短時間または有期雇用労働者の間では、労働条件の相違(主に社宅手当や地域手当など異動の有無による相違が説明されていた部分)については、合理性が説明できなくなると考えられます。  単なる記載事項の追加ととらえるのではなく、これまでの働き方改革とつながりのある改正であることを意識しておくことが重要でしょう。 3 裁量労働制について  裁量労働制には、企画業務型裁量労働制、専門業務型裁量労働制があり、これ以外にも高度プロフェッショナル制度という形で労働時間法制の柔軟化が図られています。  しかしながら、これらの制度は、その導入要件などが相違しており、また、専門業務型裁量労働制については、適切な運用がなされていたとも言いがたい状況も散見されたことから、労働者の同意を得ることおよび同意の撤回に関する手続きをあらかじめ定めることを前提とした制度に変更となります。高度プロフェッショナル制度や企画業務型裁量労働制においては、事前の同意が必要とされていたことや、高度プロフェッショナル制度において同意の撤回手続きを設けることとされていた点が専門業務型裁量労働制にも及ぶようになります。  また、裁量労働制が適用される結果、時間外労働の割増賃金が得られないにもかかわらず、通常の労働時間制である労働者と賃金がほとんど変わらないとなれば、裁量労働を行うにふさわしい職務であるのか、それに対する賃金として適正かという点についても疑義が生じます。そこで、裁量労働制の対象労働者に適用される評価制度およびこれに対応する賃金制度を変更する場合は、事前に説明を行うことが適当であることなども設けられます。みなし労働時間の設定についても、業務の内容、適用される評価制度、賃金制度を考慮して適切な水準とし、相応の処遇を確保する必要があるともされており、職務内容と処遇のバランスに対する意識を高めていくことが求められているといえます。  そのほか、健康確保の観点から、「労働時間の状況」について、労働安全衛生法により把握が求められているものと同一であることを明らかにするものとされており、管理監督者の「労働時間の状況」を把握するのと同様に、過重労働(目安として、月80時間の時間外労働を超える労働)が抑制されるように留意することも必要となります。また、健康・福祉確保措置を充実させることも求められており、労働時間の上限措置を決めておくことや勤務間インターバルの採用、深夜業の回数制限、年次有給休暇の取得促進などの措置を取っておくことが求められています。  また、苦情処理制度も設けることになっており、この苦情処理制度については、制度の適用を受ける同意を得るにあたって明示することに留意するよう求められてもいるため、裁量労働制が定額働かせ放題≠ニならないように、対象労働者側からの運用に対する苦情を受けて、改善を求められることも増えると考えられます。  運用にあたっては、同意の取得と適用時の処遇に関する説明を明確に行っておかなければ、同意が撤回されて裁量労働制の適用が解かれたときの労働条件の変更(不利益な内容をともなうことが想定される)において、労使間で紛争が生じる恐れもあると考えられますので、留意が必要でしょう。 【P46-47】 新連載 スタートアップ×シニア人材奮闘記 株式会社Photosynth(フォトシンス)取締役 熊谷(くまがい)悠哉(ゆうや)  起業したばかりのスタートアップ企業においては、はじめてのことばかりで経営や事業にはうまくいかないことや課題にぶつかることが数多くあります。そこで、「スタートアップ企業にこそ、経験豊富で実務のノウハウを持ったシニア人材が必要」という声もあり、実際に、その経験を活かしてスタートアップ企業で働く高齢者も増加しています。  このコーナーでは、スタートアップ企業に必要なシニア人材をどう見出し、活用し、活躍に結びつけていくかについて、実際にスタートアップ時にシニア人材を採用し、現在も活躍中である、株式会社Photosynthの熊谷悠哉取締役に当時をふり返りながら、シニア人材活用のポイントについて語っていただきます。 第1回 シニア人材に何を求めるか? シニア人材には何が必要か? 「鍵あるある」から仲間と起業しかし課題も見えていた  当社は2014(平成26)年に代表取締役社長である河瀬(かわせ)航大(こうだい)や私など、当時20代のメンバー6人で創業したベンチャー企業です。主力製品は既存のドアに後づけが可能な、「Akerun(アケルン)」というクラウド型入退室管理システム。普通のドアだけでなく、電気制御の鍵や自動ドアにも対応できること、大がかりな取付工事が不要でIoTを活用した入室権限・入退室記録の管理が簡単に実現できること、そして低コストで導入できることなどから、現在までに累計7000社を超えるユーザーに導入していただいています。  起業のきっかけは創業メンバーやその友人との飲み会で、「物理的な『鍵』ってイケてないよね」という話が出たことが始まりです。当時のメンバーは、メーカーやIT企業に勤務しており、それぞれがプログラム開発に興味を持っていました。「鍵がなくて部屋に入れなかった」とか、「鍵の受け渡しのためにガスメーターに隠すのはリスクが高い」といった、「鍵あるある」で盛りあがっているうちに、「パソコンで指定した人にだけ権限を付与することはあたり前にできるのに、なんで物理的な鍵はこんなに面倒なんだろう」という話になったのです。そこで「だったらIT技術を駆使して自分たちで新しい鍵システムを開発してみよう!」と、最初はあくまで趣味としてスタートしたのです。  そのときのメンバーが中心となって開発を行い、プロトタイプ(試作品)ができあがったころ、代表の河瀬が当時勤めていた株式会社ガイアックスさんなどから出資していただいた資金をもとに株式会社Photosynthが立ち上がりました。そのとき、出資だけでなくガイアックスさんの物件だったアパートもお借りすることができ、そこが最初の拠点となりました。  そして、そのアパートでの面接で採用したのが、後に当社でなくてはならない存在となるシニア人材の深谷(ふかや)弘一(ひろかず)さんでした。 自分たちに足りない技術や知識はプロフェッショナルに学ぶ  当時は、自分たちの得意な技術をそれぞれに持ち寄って開発を行っていました。しかし、みなそれぞれの会社で技術を磨いてきたという自負はあるものの、自分たちだけでハードウェア製品を量産していくことが本当にできるのか、と自問すると、やはり限界があることもわかっていました。そこで創業してからすぐに、「自分たちに足りない技術や知識を持ったプロフェッショナルに学ぼう」と求人を行ったのです。  求人の方法は、企業OBのシニア人材と若手の企業をマッチングするサイトで、「技術顧問的な立場として、量産用の設計経験がある方や、量産立ち上げをする際に製造に関する課題を解決された経験がある方がいいな」といった程度の期待感で求人を公開しました。公開後まもなく深谷さんから応募があり、そのキャリアを見てすぐに面接をお願いしました。  深谷さんの実績は幅広く、長らく勤務されたNEC(日本電気株式会社)では集積回路の回路設計のほか、その関連業務としての特許出願・技術契約や、顧客への技術サポート、販売部門への市場開拓支援など、さまざまな業務にかかわってきた方です。NEC退社後も別の企業で技術顧問をされたり、マレーシアのトレーニングセンターで講師をされたりと、「すごく専門性が高い方に出会えた」という印象でした。  20代の若者が数人集まって起業したばかりの当社に深谷さんは面接に訪れてくださり、そのたった一回の面接で社長も私も「この方に来ていただこう」と採用を即決しました。 シニア人材には、仕事の実績だけでなく情報感度とフットワークも必要  当社にとって運がよかったと思うのは、実は募集を行ったシニア人材とのマッチングサイトはそれほど認知度が高いものではなく、応募人数がほとんど見込めないなかで、早い時期に深谷さんから連絡をいただいたということです。つまり、深谷さん自身が情報のアンテナを張り巡らせて、「次は何をやろうか」とあれこれ調べるなかにそのサイトもあり、そこにポンと当社の募集が上がってきたので、すぐ気づいて応募していただいたのではないかと思うのです。  もし、当社がシニア人材の採用を躊躇し、創業後2〜3カ月が過ぎてから「やっぱり募集しよう」となっても、すでに深谷さんは別の会社に採用されていたでしょう。やはり問題点に気づいたら即座に手を打つというのがスタートアップ企業にとっては鉄則だと思います。  一方で、当時73歳だった深谷さんが、創業直後の当社を見つけ、すぐに応募するというのはなかなかできないことだと思います。シニア人材の方が活躍の場を見つけるためには、高い情報感度と軽いフットワークが必要なのではないでしょうか。 技術顧問から会社の重要な戦力に10年間伴走し続ける  技術顧問的な立場で契約をした深谷さんには、量産品製造におけるQCD(品質・コスト・納期)の最適化について教えてもらいました。  具体的には、信頼性が高く、何年も使い続けることができる品質の商品を量産するためのノウハウです。実際に当時設計したものを、10年目のいまでも使い続けているユーザーもおり、求めている製品をつくりあげることに深谷さんの知見は大きく活かされました。  採用契約後は、週1回程度出社してもらっていたのですが、その後もさまざまな課題が解決されるにしたがって、少しずつ深谷さんの役割は変化し、10年後の現在も重要な戦力として伴走していただくことになっていくのです。 つづく 写真のキャプション 創業間もないころの深谷さん(左)と熊谷取締役(右)(写真提供:株式会社Photosynth) 【P48-49】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第35回 「安全配慮義務」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は安全配慮義務について取り上げます。安全配慮義務とは、労働者が安全に働けるように使用者(事業主や事業の経営担当者など)が配慮し必要な措置を実施すべきことをさします。 安全配慮義務を使用者が負うべき理由  まずは、なぜ使用者に安全配慮義務が課されているかについてみていきます。  安全配慮義務は、労働契約法第5条に、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定められています。現在では企業が労働者の安全配慮を行うのはあたり前のように思えますが、実は同法第5条が施行されたのは2008(平成20)年3月1日。それまでは、判例を通して安全配慮が使用者の義務であることが示されてきました。  例えば、「陸上自衛隊事件」※1と「川義(かわぎ)事件」※2の判決のなかで、労働者は、使用者が指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具などを用いて労働に従事するものであることから、労働契約の内容として具体的に定めずとも、労働契約にともない信義則※3上当然に、使用者は労働者に対して安全配慮義務を負うとされました。このことは、民法などでは規定がなかったため、労働契約法第5条で明文化されたという経緯があります。労働契約法上で明文化される前から、信義則上当然に≠ニあるように、労働契約を結んだ時点で、労働契約上特段の定めがなくとも、使用者は誠実に労働者の安全の確保や危険を回避するために必要な措置をとるべきとされていたのです。 安全に配慮するための措置はさまざま  次に、どのような措置が必要になるかについてみていきます。法令上にはとるべき措置の具体的な定めといったようなものはありません。ただし、厚生労働省労働基準局長の通達である「労働契約法の施行について」(基発0810第2号)には、 ・第5条の「生命、身体等の安全」には心身の健康も含まれる。 ・第5条の「必要な配慮」とは、一律に定まるものではなく、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて必要な配慮をすること。 と記載されています。また、対象者(労働者)については、直接雇用している従業員のほか、自社で働く派遣労働者や下請け企業の従業員なども含まれるとされています。必要な措置は各々の企業などが独自で考え対応すべきとありますが、一般的な措置として、次のようなものがあげられます。 @労働時間管理…時間外労働・休日労働の抑制、特に過労死ラインとよばれる80時間超(2〜6カ月平均)〜100時間超(1カ月)の時間外・休日労働の撲滅、勤務間インターバル制度(勤務終了後に一定時間〈8〜12時間程度〉の休憩時間を設ける努力義務)の導入、客観的な労働時間の把握・記録、管理監督者などへの教育 A健康管理…定期的な健康診断の実施と受診率の向上、ストレスチェックやカウンセリングなどによるメンタルヘルス不調の防止、産業医などによる健康指導の充実 B職場環境の管理…職場内いじめ・嫌がらせ・ハラスメント対策の強化、安全衛生管理体制の構築、安全・衛生設備の導入や安全衛生教育の実施による事故・疾病の撲滅、新型コロナウイルスなど感染症対策の実施  また、60歳以上の高年齢労働者に対する安全配慮の取組みについては、「令和3年『労働安全衛生調査(実態調査)』の概況」の高年齢労働者に対する労働災害防止対策の状況が参考になります。図表(一部抜粋)を参照してください。 安全配慮義務違反はリスクが高い  労働契約法第5条には特別な罰則規定がないため、措置をとらないこと自体について企業などがペナルティを科されることはありません。しかし、安全配慮を怠ることで、最悪のケースでは労働災害(仕事や通勤を理由として傷病や死亡すること)につながり、労働者から安全配慮義務違反として訴えられ、損害賠償を請求されることがあります。  また、安全配慮を怠ることで労働基準法などの法令に抵触することになれば、当該法令に基づく罰則の適用や行政機関からの是正勧告を受けることになります。さらには、これらにより企業名が世間に周知され、企業イメージのダウンにつながるリスクもあります。実施すべき措置が法令上で具体的に定められていないため、取組みに対する企業などの温度差が発生しがちな部分ではありますが、怠ったときのリスクが容易に想定できるため、他社の事例などを参考にしながら、しっかりと対応するのが望ましいでしょう。 * * * *  次回は、「2025年問題」について解説します。 ※1 陸上自衛隊事件(最高裁昭和50年2月25日第三小法廷判決)…陸上自衛隊員が、自衛隊内の車両整備工場で車両整備中、後退してきたトラックにひかれて死亡した事例で、国の公務員に対する安全配慮義務を認定した事件 ※2 川義事件(最高裁昭和59年4月10日第三小法廷判決)…宿直勤務中の従業員が強盗に殺害された事例で、会社に安全配慮義務の違背に基づく損害賠償責任があるとされた事件 ※3 権利の行使や義務の履行にあたり、信義に従い誠実に行わなければならないとする原則 図表 60歳以上の高年齢労働者に対する労働災害防止対策の取組の有無及び取組内容別事業所割合(単位:%) 区分 60歳以上の高年齢労働者が従事している事業所計1)2) 高年齢労働者に対する労働災害防止対策に取り組んでいる 労働災害防止対策の取組内容(複数回答) 手すり、滑り止め、照明、標識等の設置、段差の解消等を実施 作業スピード、作業姿勢、作業方法等の変更 作業前に体調不良等の異常がないかを確認 健康診断の結果を踏まえて就業上の措置を行っている 令和3年 [75.6] 100.0 78.0 20.2 18.3 36.1 30.6 令和2年 [74.6] 100.0 81.4 20.7 16.9 38.7 34.8 区分 労働災害防止対策の取組内容(複数回答) 医師等による面接指導等の健康管理を重点的に行っている 健康診断実施後に基礎疾患に関する相談・指導を行っている 定期的に体力測定を実施し、本人自身の転倒、墜落・転落等の労働災害リスクを判定し、加齢に伴う身体的変化を本人に認識させている 高年齢労働者の身体機能の低下の防止のための活動を実施している 加齢に伴い身体機能・精神機能の変化と災害リスク、機能低下の予防の必要性について教育を行っている 本人の身体機能、体力等に応じ、従事する業務、就業場所等を変更 高所等の危険場所での作業や他の労働者に危険を及ぼすおそれのある作業(機械の運転業務等)に従事させないようにしている 令和3年 6.4 16.5 4.0 4.7 6.2 41.4 16.2 令和2年 7.4 19.4 3.8 4.6 6.2 45.7 16.3 区分 労働災害防止対策の取組内容(複数回答) 体調異変に備えて、できるだけ単独作業にならないようにしている 時間外労働の制限、所定労働時間の短縮等 深夜業の回数の減少又は昼間勤務への変更 その他 高年齢労働者に対する労働災害防止対策に取り組んでいない 令和3年 16.2 27.7 9.8 1.9 19.9 令和2年 18.3 32.9 10.9 1.5 16.8 注:1)[ ]は、全事業所のうち、60歳以上の高年齢労働者が従事している事業所の割合である。 2)「60 歳以上の高年齢労働者が従事している事業所計」には、「高年齢労働者に対する労働災害防止対策の取組の有無不明」を含む。 出典:厚生労働省「令和3年『労働安全衛生調査(実態調査)』の概況」(令和4年7月5日) 【P50-54】 労務資料 厚生労働省「第14次労働災害防止計画」を策定  厚生労働省では、労働災害や職業性疾病の防止に向け、「労働災害防止計画」を策定しています。1958(昭和33)年の第1次計画の策定以来、社会経済の情勢や技術革新、働き方改革などに対応しながら、これまで13次にわたり策定されてきました。  このたび、2023年度を初年度として、5年間にわたり国、事業者、労働者等の関係者が目ざす目標や重点的に取り組むべき事項を定めた「第14次労働災害防止計画」が策定されましたので、高齢者雇用と関係する内容を中心に抜粋して紹介します(編集部)。 1 計画のねらい (1)計画が目指す社会  誰もが安全で健康に働くためには、労働者の安全衛生対策の責務を負う事業者や注文者のほか、労働者等の関係者が、安全衛生対策について自身の責任を認識し、真摯に取り組むことが重要である。また、消費者・サービス利用者においても、事業者が行う安全衛生対策の必要性や、事業者から提供されるサービスの料金に安全衛生対策に要する経費が含まれることへの理解が求められる。  これらの安全衛生対策は、ウィズ・コロナ、ポスト・コロナ社会も見据え、また、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展も踏まえ、労働者の理解・協力を得ながら、プライバシー等の配慮やその有用性を評価しつつ、ウェアラブル端末、VR(バーチャル・リアリティ)やAI等の活用を図る等、就業形態の変化はもとより、価値観の多様化に対応するものでなければならない。  また、労働者の安全衛生対策は事業者の責務であることが前提であるが、さらに「費用としての人件費から、資産としての人的投資」への変革の促進が掲げられ、事業者の経営戦略の観点からもその重要性が増してきており、労働者の安全衛生対策が人材確保の観点からもプラスになることが知られ始めている。こうした中で、労働者の安全衛生対策に積極的に取り組む事業者が社会的に評価される環境を醸成し、安全と健康の確保の更なる促進を図ることが望まれる。  さらに、とりわけ中小事業者等も含め、事業場の規模、雇用形態や年齢等によらず、どのような働き方においても、労働者の安全と健康が確保されることを前提として、多様な形態で働く一人一人が潜在力を十分に発揮できる社会を実現しなければならない。 (2)計画期間  2023年度から2027年度までの5か年を計画期間とする。 (3)計画の目標  国、事業者、労働者等の関係者が一体となって、一人の被災者も出さないという基本理念の実現に向け、以下の各指標を定め、計画期間内に達成することを目指す。 ア アウトプット指標  本計画においては、次の事項をアウトプット指標として定める。事業者は、後述する計画の重点事項の取組の成果として、労働者の協力の下、これらの指標の達成を目指す。国は、その達成を目指し、当該指標を用いて本計画の進捗状況の把握を行う。 (ア)労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進 ・転倒災害対策(ハード・ソフト両面からの対策)に取り組む事業場の割合を2027年までに50%以上とする。 ・卸売業・小売業及び医療・福祉の事業場における正社員以外の労働者への安全衛生教育の実施率を2027年までに80%以上とする。 ・介護・看護作業において、ノーリフトケアを導入している事業場の割合を2023年と比較して2027年までに増加させる。 (イ)高年齢労働者の労働災害防止対策の推進 ・「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(令和2年3月16日付け基安発0316第1号。以下「エイジフレンドリーガイドライン」という。)に基づく高年齢労働者の安全衛生確保の取組(安全衛生管理体制の確立、職場環境の改善等)を実施する事業場の割合を2027年までに50%以上とする。 (ウ)多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策の推進 ・母国語に翻訳された教材や視聴覚教材を用いる等外国人労働者に分かりやすい方法で労働災害防止の教育を行っている事業場の割合を2027年までに50%以上とする。 (エ)業種別の労働災害防止対策の推進 ・「陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン」(平成25年3月25日付け基発0325第1号。以下「荷役作業における安全ガイドライン」という。)に基づく措置を実施する陸上貨物運送事業等の事業場(荷主となる事業場を含む。)の割合を2027年までに45%以上とする。 ・墜落・転落災害の防止に関するリスクアセスメントに取り組む建設業の事業場の割合を2027年までに85%以上とする。 ・機械による「はさまれ・巻き込まれ」防止対策に取り組む製造業の事業場の割合を2027年までに60%以上とする。 ・「チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン」(平成27年12月7日付け基発1207第3号。以下「伐木等作業の安全ガイドライン」という。)に基づく措置を実施する林業の事業場の割合を2027年までに50%以上とする。 (オ)労働者の健康確保対策の推進 ・年次有給休暇の取得率を2025年までに70%以上とする。 ・勤務間インターバル制度を導入している企業の割合を2025年までに15%以上とする。 ・メンタルヘルス対策に取り組む事業場の割合を2027年までに80%以上とする。 ・使用する労働者数50人未満の小規模事業場におけるストレスチェック実施の割合を2027年までに50%以上とする。 ・各事業場において必要な産業保健サービスを提供している事業場の割合を2027年までに80%以上とする。 (中略) イ アウトカム指標  事業者がアウトプット指標を達成した結果として期待される事項をアウトカム指標として定め、本計画に定める実施事項の効果検証を行うための指標として取り扱う。  なお、アウトカム指標に掲げる数値は、本計画策定時において一定の仮定、推定又は期待の下、試算により算出した目安であり、計画期間中は、従来のように単にその数値比較をして、その達成状況のみを評価するのではなく、当該仮定、推定又は期待が正しいかどうかも含め、アウトプット指標として掲げる事業者の取組がアウトカムにつながっているかどうかを検証する。 (ア)労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進 ・増加が見込まれる転倒の年齢層別死傷年千人率を2027年までに男女ともその増加に歯止めをかける。 ・転倒による平均休業見込日数を2027年までに40日以下とする。 ・増加が見込まれる社会福祉施設における腰痛の死傷年千人率を2022年と比較して2027年までに減少させる。 (イ)高年齢労働者の労働災害防止対策の推進 ・増加が見込まれる60歳代以上の死傷年千人率を2027年までに男女ともその増加に歯止めをかける。 (ウ)多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策の推進 ・外国人労働者の死傷年千人率を2027年までに労働者全体の平均以下とする。 (エ)業種別の労働災害防止対策の推進 ・陸上貨物運送事業における死傷者数を2022年と比較して2027年までに5%以上減少させる。 ・建設業における死亡者数を2022年と比較して2027年までに15%以上減少させる。 ・製造業における機械による「はさまれ・巻き込まれ」の死傷者数を2022年と比較して2027年までに5%以上減少させる。 ・林業における死亡者数を、伐木作業の災害防止を重点としつつ、労働災害の大幅な削減に向けて取り組み、2022年と比較して2027年までに15%以上減少させる。 (オ)労働者の健康確保対策の推進 ・週労働時間40時間以上である雇用者のうち、週労働時間60時間以上の雇用者の割合を2025年までに5%以下とする。 ・自分の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み又はストレスがあるとする労働者の割合を2027年までに50%未満とする。 (中略)  上記のアウトカム指標の達成を目指した場合、労働災害全体としては、少なくとも以下のとおりの結果が期待される。 ・死亡災害については、2022年と比較して、2027年までに5%以上減少する。 ・死傷災害については、2021年までの増加傾向に歯止めをかけ、死傷者数については、2022年と比較して2027年までに減少に転ずる。 (4)計画の評価と見直し  本計画に基づく取組が着実に実施されるよう、毎年、計画の実施状況の確認及び評価を行い、労働政策審議会安全衛生分科会に報告する。また、必要に応じ、計画を見直す。  計画の実施状況の評価に当たっては、それぞれのアウトプット指標について、計画に基づく実施事項がどの程度アウトプット指標の達成に寄与しているのか、また、アウトプット指標として定める事業者の取組がどの程度アウトカム指標の達成に寄与しているか等の評価も行うこととする。 (中略) 3 計画の重点事項  労働安全衛生を取り巻く現状と施策の方向性を踏まえ、以下の項目を重点事項とし、重点事項ごとに具体的な取組を推進する。 (1)自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓発 (2)労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進 (3)高年齢労働者の労働災害防止対策の推進 (4)多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策の推進 (5)個人事業者等に対する安全衛生対策の推進 (6)業種別の労働災害防止対策の推進 (7)労働者の健康確保対策の推進 (8)化学物質等による健康障害防止対策の推進 4 重点事項ごとの具体的取組 (中略) (2)労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進 ア 労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと ・転倒災害は、加齢による骨密度の低下が顕著な中高年齢の女性をはじめとして極めて高い発生率となっており、対策を講ずべきリスクであることを認識し、その取組を進める。 ・筋力等を維持し転倒を予防するため、運動プログラムの導入及び労働者のスポーツの習慣化を推進する。 ・非正規雇用労働者も含めた全ての労働者への雇入れ時等における安全衛生教育の実施を徹底する。 ・「職場における腰痛予防対策指針」(平成25年6月18日付け基発0618第1号)を参考に、作業態様に応じた腰痛予防対策に取り組む。 イ アの達成に向けて国等が取り組むこと ・事業者が安全衛生対策に取り組まないことにより生じ得る損失等のほか、事業者の自発的な取組を引き出すための行動経済学的アプローチ(ナッジ等)等について研究を進め、その成果を広く周知する。 ・「健康経営優良法人認定制度」等の関連施策と連携し、転倒・腰痛防止対策の具体的メニューの提示と実践に向けた事業場への支援等を図る。 ・転倒等災害防止に資する装備や設備等の普及のための補助、開発促進を図る。 ・介護職員の身体の負担軽減のための介護技術(ノーリフトケア)や介護機器等の導入等既に一定程度の効果が得られている腰痛の予防対策の普及を図る。 ・理学療法士等を活用した事業場における労働者の身体機能の維持改善の取組を支援するとともに、筋力等を維持し転倒を予防するため、「Sport in Lifeプロジェクト」(スポーツ庁)と連携してスポーツの推進を図る。 ・骨密度、「ロコモ度」、視力等の転倒災害の発生リスクの見える化の手法を提示・周知する。 ・中高年齢の女性労働者に多い転倒災害の発生状況の周知や、第三次産業の業界の実態に即した基本的労働災害防止対策の啓発ツール等の作成・周知を行うとともに、アプリ、動画等を活用した効率的・効果的な安全衛生教育ツールの開発・普及促進を行う。 ・労働安全衛生総合研究所や研究者との連携の下、労働者死傷病報告データの分析や転倒・腰痛災害防止のための調査・研究体制を確保し、多角的に研究を推進する。 ・このほか、「転倒防止・腰痛予防対策の在り方に関する検討会」における検討を踏まえた取組を進める。 (3)高年齢労働者の労働災害防止対策の推進 ア 労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと ・「エイジフレンドリーガイドライン」に基づき、高年齢労働者の就労状況等を踏まえた安全衛生管理体制の確立、職場環境の改善等の取組を進める。 ・転倒災害が、対策を講ずべきリスクであることを認識し、その取組を進める。(再掲) ・健康診断情報の電磁的な保存・管理や保険者へのデータ提供を行い、プライバシー等に配慮しつつ、保険者と連携して、年齢を問わず、労働者の疾病予防、健康づくり等のコラボヘルスに取り組む。(再掲) イ アの達成に向けて国等が取り組むこと ・「エイジフレンドリーガイドライン」のエッセンス版の作成・周知啓発を行う。 ・「転倒防止・腰痛予防対策の在り方に関する検討会」における検討を踏まえ、必要な転倒防止対策の取組を進める。(再掲) ・法に基づいて事業者が実施する健康診断の情報を活用した労働者の健康保持増進の取組を推進するため、そうした取組が必ずしも進んでいない事業場に対し、健康診断情報の電磁的な方法での保存・管理やデータ提供を含めたコラボヘルスを推進するための費用を支援する。(再掲) (4)多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策の推進 ア 労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと ・コロナ禍におけるテレワークの拡大等を受けて、自宅等でテレワークを行う際のメンタルヘルス対策や作業環境整備の留意点等を示した「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(令和3年3月改定。以下「テレワークガイドライン」という。)や労働者の健康確保に必要な措置等を示した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和4年7月改定。以下「副業・兼業ガイドライン」という。)に基づき、労働者の安全と健康の確保に取り組む。 ・外国人労働者に対し、安全衛生教育マニュアルを活用する等により安全衛生教育の実施や健康管理に取り組む。 イ アの達成に向けて国等が取り組むこと ・テレワークや副業・兼業を行う労働者の健康確保のため、「テレワークガイドライン」や「副業・兼業ガイドライン」を引き続き周知する。 ・副業・兼業を行う労働者が、自身の健康管理を適切に行えるツール(労働時間、健康診断結果、ストレスチェック結果を管理するアプリ)の活用促進を図る。 ・労働災害等で脊髄に損傷を負った労働者に対する最新の治療の研究等を推進するとともに、障害を有する労働者の職場復帰等の支援に向けた研究を推進する。また、障害のある労働者に対する就業上の配慮の必要性について引き続き周知する。 ・技能実習生をはじめとした外国人労働者への効率的・効果的な安全衛生教育に有効な手法の提示や、危険の見える化のため、外国人労働者も含めた全ての労働者向けのピクトグラム安全表示の開発を促進する。 (5)個人事業者等に対する安全衛生対策の推進 ア 労働者の協力を得て、事業者が取り組むこと ・労働者ではない個人事業者等に対する安全衛生対策については、「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」における議論等を通じて、個人事業者等に関する業務上の災害の実態の把握に関すること、個人事業者自らによる安全衛生確保措置に関すること、注文者等による保護措置のあり方等に関して、事業者が取り組むべき必要な対応について検討する。 イ アの達成に向けて国等が取り組むこと ・有害物質による健康障害の防止措置を事業者に義務付ける法第22条の規定に関連する省令の規定について、請負人や同じ場所で作業を行う労働者以外に対しても、労働者と同等の保護措置を講ずることを事業者に義務付ける改正がなされ、令和4年4月に公布、令和5年4月に施行されることから、当該省令の内容についての周知等を行う。 ・労働者ではない個人事業者等に対する安全衛生対策については、「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」における議論等を通じて、個人事業者等に関する業務上の災害の実態の把握に関すること、個人事業者自らによる安全衛生確保措置に関すること、注文者等による保護措置のあり方等について検討する。 (以下略) (参考) SDGs(持続可能な開発目標)8.8 Protect labour rights and promote safe and secureworking environments for all workers, including migrant workers, in particular womenmigrants, and those in precarious employment.(移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、すべての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。) 【P55】 新連載 心に残るあの作品≠フ高齢者  このコーナーでは、映画やドラマ、小説や演劇、音楽などに登場する高齢者に焦点を当て、高齢者雇用にかかわる方々がリレー方式で、「心に残るあの作品の高齢者」を綴ります 第1回 映画『ニュー・シネマ・パラダイス』 (1989年) 一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 金沢(かなざわ)春康(はるやす)  映画『ニュー・シネマ・パラダイス』に登場する老人アルフレードは、映写技師。彼は10歳から仕事に就き、小学校も卒業していません。読み書き算数は苦手ですが、自分が上映した映画のストーリーや登場人物のセリフから学び、確固たる人生観を持っています。  少年トトは映写技師の仕事に憧れ、アルフレードへの師事を求めますが、彼は強く反対します。  「夏は灼熱、冬は極寒の環境」、「クリスマスも働き、独りぼっちの孤独な仕事だ」  トトはたずね返します。  「じゃあ、この仕事が嫌いなの?」  「いやあ、お客が楽しんでいると自分も楽しい。みんなが笑うと、自分が笑わせている気がする。人々の悩みや苦労を忘れさせる。それが大好きだ」  アルフレードとトトは、年齢差を越えて対等につき合い、トトは立派な青年映写技師に育ちます。  しかしあるとき、アルフレードはトトに村から出るようすすめます。  「決して帰ってくるな。私たちを忘れろ。ノスタルジーを捨てろ」  アルフレードには、映写技師という仕事や、村に留まることの人生の行き詰まりがわかっていました。  小さな駅からの出立が今生の別れとなります。アルフレードはその後、二度とトトに会うことなく、天に召されます――。  アルフレードとトトの関係が素敵なのは、家族でも親戚でもない大人と子どもが、上下関係ではなく、互いの個性や強みを尊重し、支えあう間柄であったことです。  社会のなかでの大人と子どもの関係が希薄になった現代では、すっかり忘れ去られた光景といってもよいでしょう。  少子高齢化時代は、現役世代が騎馬戦型で高齢者を支える時代ですが、視点を変えると、子ども一人を支える大人の数が、社会全体で圧倒的に増えることになります。  現役世代が年金や社会保険で高齢者を支えるのであれば、高齢者は未来をつくる子どもたちを支える側にまわる、という発想も大いにあると思います。  私事ですが、NPO法人HUG for ALL(ハグ フォー オール)※の活動で、児童養護施設の子どもたちと一緒に学び、遊び、時間をともにしています。5年前に初めて出会った小学校3年生のS君が間もなく高校進学を迎えます。アルフレードのように温かく、そしてときには厳しく、彼の人生を見守り続けたいと思っています。 ジュゼッペ・トルナトーレ監督.ニュー・シネマ・パラダイス.フィリップ・ノワレ,サルヴァトーレ・カシオ出演.ヘラルド・エース.1989. ※ https://hugforall.org/ 【P56-57】 BOOKS 「組織不適合」の切り口で日本の組織マネジメントに示唆する一冊 個人と組織不適合のダイナミクス 適合と不適合が牽引する外部環境適応 山ア京子 著/白桃書房/3400円  新卒一括採用や終身雇用を特徴としてきた日本企業の伝統的な人的資源管理では、同質な人々をマネジメントするスタイルが主流であり、個人と組織が適合していることがよしとされてきた。しかし、勤務する会社に対する違和感や不満、葛藤は、濃淡はあれどだれもが抱くものだろう。グローバル化や少子高齢化、技術革新といった外部環境の変化が、組織にも多様性と不確実性をもたらすことになった現在。むしろ違いを活かし、市場や技術の変化に対応していくことが求められるようになってきている。  本書は、@採用や教育を経て組織に適合していたはずの個人は、どのように不適合を自覚するのか、A不適合になると個人はどのような適応行動を取るのか、Bその行動は組織にどのようなダイナミクスをもたらすのか、という動きをインタビューなどを通じて探求していく。  個人と組織の志向性が異なるとき、何が起きるのか。不適合があるからこそ、生まれてくる力があるのではないか。本書は、本誌編集アドバイザーを務める山ア京子氏がその可能性に着目。学術書ではあるが、不適合の人材のマネジメントに思案する管理職などにも向けて書かれたもので、多くの示唆を与えてくれる。 人事担当者にとって参考になる規程例などを具体的に解説 選択型人事制度の設計と社内規程 荻原(おぎはら)勝(まさる) 著/産労総合研究所 出版部経営書院/3080円  テレワークの普及や週休3日制が注目されるなど、働き方の多様化がさらに進んでいる昨今、画一的な人事制度を見直し、社員が選択できる人事制度を模索する動きが高まっている。  本書は、選択型の人事制度を紹介し、規程例などを具体的に解説している。本編は、「勤務時間・休日制度」、「育児・介護の支援」など、人事制度の内容に応じて9章で構成。人事管理を正確かつ効率的に行うためには、会社への届出書、申請書などの様式の整備が必要であることから、社内ですぐに使える様式を多数掲載しているなど実務的なことも本書の特徴である。  第8章では、「高齢者の継続雇用と退職」をテーマに、定年退職者再雇用制度をはじめ、高齢者が希望すれば年齢に関係なくいつまでも働くことができる「再雇用者のフリー勤務制度」、再雇用後の高齢者の「勤務時間選択制度」、役職定年制の定めによって役職を離脱した者に対していくつかの進路を用意し、各人に選択させるという「役職離脱者進路選択制度」などを取り上げ、制度設計やモデル規程を提示している。  人事制度の見直しや新しい制度を検討している企業の経営者や人事担当者が、気軽に手に取ることができ、参考になる一冊である。 「行動」に焦点をあてた科学的なマネジメント手法を使って、「学び続けるコツ」を伝授 もう一度、学ぶ技術 石田淳(じゅん) 著/日経BP日本経済新聞出版/880円  新しいことを学び始めたり、学び直しをしたりする大人が増えている。仕事のため、資格試験のため、教養を身につけるため、人生を輝かせるためなど、その目的は百人百様だろう。  大人になってからの学びには、「コツがいる」そうだ。「三日坊主」になるのは、そのコツを知らないだけで、「やる気も根気も性格も関係ない」と著者はいう。本書は、著者が専門とする「行動科学マネジメント」の手法を使い、大人の学びを成功させるコツを教えてくれる。行動科学とは、「いつ、誰が、誰に対して、どこでやっても」同じような効果が出る、高い再現性が認められる科学的手法で、国内では1200社超の企業で導入しているとのこと。個人の勉強も、重要なのは「どの行動を取ればよいのか」であって、望ましい行動を取れば結果につながり、資格試験やリスキリングなど、あらゆる挑戦に共通して使える手法であるという。その手法を、四つのステップと九つの事例でわかりやすく説明していく。  最後の章では、生涯学び続けるための15の心得を提示。「多様な価値観を認める。それも『勉強』(新しい生き方、働き方を学ぶ場)」など、読んでいるとさっそく学びたくなる心得だ。 ベストセラーシリーズ第8弾!「人を幸せにする経営」を実践する5社を紹介 日本でいちばん大切にしたい会社8 坂本光司 著/あさ出版/1540円  将来予測が困難といわれる社会情勢のもと、企業経営のこれからについて見直しを図るなど、思いをめぐらしている経営者は多いだろう。  本書は、元法政大学大学院政策創造研究科教授で、「人を大切にする経営学会」会長の坂本光司氏が、「人を幸せにする経営」を大切にしている企業を全国から選び、経営者や社員をていねいに取材して紹介するシリーズの最新刊。  本書に登場する「人を幸せにする経営」とは、@従業員とその家族、A外注先・仕入先、B顧客、C地域社会、D株主の5者を大切にしている会社だ。坂本氏は例えば、生産性向上についていまの時代に求められているのは、従来の「経済効率を求めるような生産性向上」、「顕在化した経営資源をターゲットにした生産性向上」ではなく、「人を幸せにする・人が幸せを実感する生産性」、「人の潜在能力を高め、発揮するための生産性」であると説く。本書で取り上げている5社の取組みに、その答えがあるという。  掲載企業の松川電氣株式会社(静岡県浜松市)では、社員と家族の「経済の健康」を促進するため、実質定年がなく、65歳を過ぎても60歳時の給与を維持しているなど、高齢者雇用についても多くのヒントが得られる内容だ。 危機を危機と認識し悩むことが大事。それらに対処するヒントを伝授 50歳の壁誰にも言えない本音 河合 薫 著/エムディエヌコーポレーション/1100円  青春時代の「思春期」に対し、人生の季節として秋を感じ始めることから「思秋期」と呼ばれる40〜50代。自分の存在意義に不安を覚えたり、体力や気力の低下を実感したり、精神状態が不安定になったりすることもある。  本書は、「人にはそんな人生の危機を、なんとかやり過ごし、人生後半戦を有意義に過ごすことができる不思議な力がある」として、「SOC(Sense of Coherence)」(ストレス対処力)に着目。SOCは、危機を危機と認識し、悩むことでスイッチが押される機能であり、まず、きちんと悩むことが大事だという。そして、900人超のインタビューで語られた40歳以上のビジネスパーソンの「誰にも言えない本音」を紹介し、「私は会社のお荷物≠ナすか?」、「転職はするも地獄、しないも地獄」、「『友だち』と呼べる人がいません」などの複雑な心境に対し、有効と思われる対処法を解説する。  SOCを高めることで、人はいくつになっても進化することができるそうだ。50歳からその実現に向けて欠かせないのは、内的な力の強化で、「半径3メートル世界を充実させる」、「愛をケチらない」ことも大切とのこと。ミドル世代の視界を開いてくれる好著といえるだろう。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「働き方・休み方改革取組事例集」公表  厚生労働省は、「働き方・休み方改革取組事例集(令和4年度)」を公表した。  「時間外労働の上限規制」、「年5日の年次有給休暇の確実な取得」を内容とする改正労働基準法が、2019(平成31)年4月に施行されてから約4年が経過し、さまざまな企業で働き方・休み方改革の取組みが進められている。この間、新型コロナウイルス感染症の流行が多くの人々の働き方に変化をもたらし、テレワークが急速に拡大した。また、育児、介護、治療と仕事の両立など、働く人のワーク・ライフ・バランスを促進する施策として、最近は「選択的週休3日制」などの新たな働き方にも関心が高まっている。  「働き方・休み方改革取組事例集(令和4年度)」は、企業が働き方・休み方改革を推進する目的を三つのタイプに分け、各目的タイプに関連する取組みについて、企業事例を通じて紹介。テレワークの拡充や選択的週休3日制を推進している事例も掲載している。  厚生労働省が公開している、「働き方・休み方改善ポータルサイト」(※)では、この取組事例集を掲載しているほか、働き方・休み方に関する自社の現状把握や取組み状況がチェックできる「働き方・休み方改善指標」など、企業が働き方・休み方の見直しや改善に取り組む際に役立つ多彩な情報を掲載している。 ※https://work-holiday.mhlw.go.jp 厚生労働省 令和5年「STOP! 熱中症 クールワークキャンペーン」実施  厚生労働省は、職場における熱中症予防対策を徹底するため、労働災害防止団体などと連携し、5月から9月までを実施期間とした「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施する。  同省がまとめた2022(令和4)年の職場における熱中症による死傷者数は805人、うち死亡者数は28人となっている(いずれも2023年1月13日時点の速報値)。死傷者数を業種別にみると、建設業172件、製造業144件となっており、全体の約4割が建設業と製造業で発生している。死亡者数は、建設業、警備業の順に多く、WBGT値(暑さ指数)を把握せず、熱中症予防のための労働衛生教育を行っていなかった事例や、「休ませて様子を見ていたところ容態が急変した」など、熱中症発症時・緊急時の措置が適切になされていなかった事例が含まれている。  このため、同キャンペーンでは労働災害防止団体などと連携し、事業場への熱中症予防に関する周知・啓発を行い、@WBGT値(暑さ指数)の把握とその値に応じた熱中症予防対策を適切に実施すること、A作業を管理する者および労働者に対してあらかじめ労働衛生教育を行うこと、B衛生管理者などを中心に事業場としての管理体制を整え、発症時・緊急時の措置を確認し、周知すること、について重点的な対策の徹底を図る。また、熱中症に関する資料やオンライン講習動画などを掲載するポータルサイト「学ぼう!備えよう!職場の仲間を守ろう!職場における熱中症予防情報」(※)を運営する。 ※https://neccyusho.mhlw.go.jp 厚生労働省 「副業・兼業に取り組む企業の事例について」公表  厚生労働省は、副業・兼業の解禁を考えている事業主に向けて、「副業・兼業に取り組む企業の事例について」を公表した。  同省では、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、副業・兼業の解禁にあたり必要な準備や、労働時間や健康管理の方法などを明確化するなどの取組みを進めている。この事例集は、その一環として、2022(令和4)年8月から10月にかけて、副業・兼業に取り組む企業11社にヒアリングを行い、その結果をまとめたもの。  事例集には、副業・兼業を段階的に解禁したいと考えている、副業・兼業の解禁に不安を持っている、副業・兼業のことがよくわからないという企業に向けて、先進的な取組み事例を紹介するとともに、「非雇用に限り副業を解禁している事例」、「副業・兼業を許可制としている事例」なども掲載している。副業・兼業に関する制度については、ヒアリングを実施したすべての企業で、本業に支障のある副業・兼業、競業や利益相反にあたる副業・兼業などを原則禁止と定めており、副業・兼業の実施にあたっては、申請書または誓約書の提出を求め、人事部などで審査、承認などを行っている。  事例集のほかにも、労働時間通算の原則的な方法、簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)について、各種様式例など資料が満載。  これらの資料は、左記の厚生労働省ウェブサイトに掲載されている。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html 経済産業省 介護を「個人の課題」から「みんなの話題」へ「OPEN CARE PROJECT」発足  経済産業省は、介護を「個人の課題」から「みんなの話題」へ転換することを目ざすプロジェクト「OPEN CARE PROJECT」を発足させた。介護当事者や介護業務従事者、メディア、クリエイター、企業など、多様な主体を横断して、介護に関する話題を議論し、課題解決に向けたアクションを推進していくこととしている。  プロジェクト立ち上げの背景には、2025年に「団塊の世代」の約800万人が後期高齢者になり、日本は世界に類をみない超高齢社会を迎えること、また、少子高齢化・共働き世帯の増加が進むなか、従業員の介護発生にともなう労働生産性低下によるインパクトは大きく、働く家族介護者(ビジネスケアラー)の課題に向き合っていくことが急務となっていることなどがある。そこで、介護を「個人の課題」から「みんなの話題」へ転換することを目的として発足した。  具体的には、同プロジェクトの趣旨に賛同する団体・個人などが主体となる取組みについて、ロゴマークの提供などを通じて後押しするとともに、介護当事者やクリエイターといった業種横断での対話・マッチングの場を設けることでコミュニティ拡充や、業務横断での連携にかかわる社会機運の醸成を図っていく。ロゴマークは、すでに開発されていて、使用規約に同意のうえ、申請をすればだれでも活用することができる。  詳細は、左記ホームページより。 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/opencareproject/index.html 調査・研究 東京商工会議所・日本商工会議所 「最低賃金および中小企業の賃金・雇用に関する調査」集計結果  東京商工会議所と日本商工会議所は、「最低賃金および中小企業の賃金・雇用に関する調査」(※)を実施し、その集計結果を発表した。  この調査は、物価、エネルギー価格などが高騰するなか、賃上げの状況、最低賃金の影響や改定への考えなどについて、中小企業の実態を把握するため、2023(令和5)年2月に実施された。人手不足や人材育成・研修の状況などについても調査している。回答企業数は、3308社(回答率55.0%)。  「人手不足」と回答した企業の割合は64.3%で、前年同時期から3.6ポイント増加した。業種別では、建設業(78.2%)が最も高く、情報通信・情報サービス業、運輸業、介護・看護業、宿泊・飲食業でそれぞれ7割を超えている。  2023年度に「賃上げを実施予定」と回答した企業の割合は58.2%で、前年同時期から12.4ポイント増加した。そのうち、「業績の改善がみられないが賃上げを実施予定(防衛的な賃上げ)」と回答した企業の割合は62.2%で、前年同時期から7.2ポイント減少した。  賃上げ率については、近年の中小企業賃上げ率(2%弱)を上回る「2%以上」とする企業の割合は58.6%、足元の消費者物価上昇率をおおむねカバーする「4%以上」とする企業の割合は18.7%。人材育成・研修を今後「強化・拡充する」企業の割合は、約半数(50.2%)となっている。 ※https://www.jcci.or.jp/20230328_survey_release.pdf 発行物 公益財団法人生命保険文化センター 『ライフプラン情報ブック』改訂  公益財団法人生命保険文化センターは、小冊子『ライフプラン情報ブック―データで考える生活設計―』(B5判、カラー60頁)を改訂した。  この冊子は、結婚、出産・育児、教育、住宅取得など、人生の局面ごとに、経済的準備にかかわるデータや情報をコンパクトかつ豊富に掲載するとともに、「万一の場合」や「老後」に関する自助努力で準備すべき金額の目安を具体的に計算して活用できるなど、高齢者の生活設計を考えるうえで参考となる情報を掲載している。  今回の改訂では、新たに二つの「特集」が掲載された。一つは、「多様な働き方の一つとしての副業」をテーマに、副業のメリットや留意点をまとめ、副業についての人々の意識(副業希望者数、副業をしている理由)に関するデータを掲載。また、複数の事業所で勤務する人に関わる近年の社会保険制度のおもな改正について解説している。もう一つは、「空き家の実態と活用方法」をテーマに、空き家数の推移や取得方法に関するデータ、空き家の活用方法などを掲載している。  また、「『人生100年時代』を健康に生きるためには?」、「少子高齢社会における日本の社会保障」のデータを新規に掲載したほか、掲載データの最新化が図られた。  一冊200円(税込・送料別)。申込みは、左記ホームページより。 https://www.jili.or.jp/ 【P60】 次号7月号予告 特集 新任人事担当者のための高齢者雇用入門 リーダーズトーク 内山二郎さん(公益財団法人長野県長寿社会開発センター 理事長) (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415  FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人 100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 田村泰朗……太陽生命保険株式会社取締役専務執行役員 丸山美幸……社会保険労務士 三宅有子……日本放送協会 メディア総局 第1制作センター(福祉)チーフ・リード 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会副理事長 編集後記 ●今号の特集は「シニア人材採用」をテーマにお届けしました。会社の事業に精通し、風土を理解している社員を、定年延長や継続雇用により戦力として活用していくことも高齢者雇用における一つの戦略ですが、自社にはない強みや特徴を持った経験豊富なシニア人材を外部から採用し、生じている課題解決を図るなどの取組みも、シニア人材を有効活用する方法の一つです。 ●新連載「スタートアップ×シニア人材奮闘記」では、創業間もない企業が、自社に足りない能力を持ったシニア人材を採用し、その人材がいかに活躍してきたかを紹介しています。特集とあわせて、外部からのシニア人材採用を検討する際の参考としていただければ幸いです。 ●労務資料では、3月に公表された「第14次労働災害防止計画」を抜粋して紹介しました。高齢者雇用を推進するうえで、労働災害防止の取組みは必要不可欠。同計画や「エイジフレンドリーガイドライン」などを参考に、高齢社員を含む全社員の労働災害防止の取組み推進をお願いいたします。 読者アンケートにご協力お願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 公式ツイッターはこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 月刊エルダー6月号 No.523 ●発行日−−令和5年6月1日(第45巻 第6号 通巻523号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 飯田 剛 編集人−−企画部次長 中上英二 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216 FAX 043(213)6556 (企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス elder@jeed.go.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-976-7 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 【P61-63】 技を支える vol.328 「古美仕上げ」を駆使し額装で作品の価値を高める 額縁製作 吉田(よしだ)一司(ひとし)さん(66歳) 「額縁のデザインは、作品に焦点をあてるか、作品の広がりを出すか、額の存在を消すか、その三つぐらいのなかから方向性を考えていきます」 製作工程を熟知した額縁製作の「纏まとめ」役  壁一面にかけられた多様な額縁の数々。なかにはディスプレイを縁取った作品もある。ここは、東京都の伝統工芸品である「東京額縁」の製作を手がける株式会社富士製額(東京都荒川区)の工房だ。同社は、顧客の注文に応じて、絵画などの作品に合わせて木製の額縁を製作している。そのため、これだけの多様な額縁が生み出される。  「当社では、自然の素材を活かした、職人による手づくりを大切にしています」と話すのは、富士製額の創業者である父の跡を継ぎ、代表を務める吉田一司さん。東京額縁には、素材である木材の木目を活かした額縁と、木目を隠して箔や塗料などによって金属や陶器などのように仕上げた額縁の二種類がある。  額縁製作はおもに「木工」、「塗り」、「纏(まと)め」の三工程に分かれるが、吉田さんがになうのは纏めの工程だ。纏めは、最初に額縁の製作方針を立て、最後に額装して客先に届けて飾りつけをする、いわば監督のような役割をになう。吉田さんの場合、顧客から注文を受け、どのような額縁にするか、デザインや設計も行う。木材の木目の見極めから始まり、額縁の幅や、どのような仕上げを施すかまで、顧客の意向や飾る場所をふまえつつ、作品を引き立てる額縁を考案する。  「私は父と違って、もともと器用な方ではなく、はなから職人は向いていないと思っていました。ただ、デザインやサンプルづくり、額装は向いていると思い、ずっとこの仕事を続けてきました」 時代にかなった技法が後々「伝統」になっていく  額縁ならではの技法に「古美(ふるび)仕上げ」がある。額装する絵画などに合わせて、経年変化の美しさを表現する技法だ。例えば、箔(はく)を一度全面にきれいに貼ったうえで、こすり取ったり汚れを施したりすることでアンティーク調に見せる。職人の感性が求められる技といえる。  吉田さんは木工や塗りの現場に立つことはないが、こうした技術を熟知している。その知識の裏づけがあって、初めて材料の選別やデザインが可能になる。  「父は木工と塗りの職人でしたが、私が纏めとして入ることによって、時流に乗り遅れずにすみ、会社が生き残ることができたといえるかもしれません」  吉田さんによれば、東京額縁は、もともと国産の材木を使うことが前提で、木目を隠す塗りでは必ず漆を使い※、本金箔や本銀箔など質の高い箔を使って仕上げるものだった。しかし、それではコストがかかりすぎるため、現在は輸入材も使い、ある程度合理的に仕事ができるような工夫をしている。  「伝統技法ばかりにこだわってもよいものはできません。私は、時代にかなった技法が、後々伝統になっていくと考えています」  手づくりの額縁の需要が減少傾向にあるなかで、吉田さんは額縁製作の技術を活かした新たな価値の創出にも取り組んでいる。取材に訪れた日には、ベッドのヘッドボードを製作していた。 使命感を持って若い人材の育成に臨む  「先代の時代、当社には幸いなことによい職人が集まってくれました。それには父の人徳もあったと思います。ただ、年を経るごとにみなさん引退されていきますので、新しい人材を育てることには使命を感じています」  吉田さんは、伝統工芸の後継者育成を支援する荒川区の「匠育成事業」を活用し、若い世代の職人育成に取り組んでいる。その一人、栗原(くりはら)大地(だいち)さんは同社で塗りの技術を修得し、今では立体物専用の額縁や名刺入れといった新製品を開発するなど、同社を支える職人として活躍している。  「絵画を販売するお客様から『額を変えたら、それまで見向きもされなかった絵が売れ出した』と聞いたことがあります。理由を聞くと『額のつくりがいいから』だと。このように作品の価値を高めることのできる額縁を、これからもつくり続けていきたいと思います」 株式会社富士製額 TEL:03(3892)8682 https://www.fujiseigaku.com (撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) ※ 漆の代用としてカシューも用いられる 写真のキャプション 顧客の注文を受け、作品にふさわしい額縁をデザインし、仕上がりを監督する「纏め」が吉田さんの役割。額縁製作の深い知識に裏打ちされた仕事だ 東京都荒川区にある株式会社富士製額。表には多数の木材が立て掛けられている 全国額縁組合連合会のフレーマー額装コンクールへの出品作品。額縁製作は彫金作家に依頼 額縁に錫箔を貼っているのは、塗り(仕上げ)を担当する職人の栗原大地さん(右)。吉田さんが期待を寄せる若手の一人 木工の最終工程で、額縁の枠を圧着させているところ。丸1日置いて、塗りの工程に進む 新製品として試作中の手鏡。奥の三つはアンティーク調に仕上げたもの。手前は額に下地塗りした段階のもの 彫金作家の作品に額装したもの。箔を貼ったうえでこすり取る古美仕上げが施されている 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  わたしたちの脳には「保続性(ほぞくせい)」があります。例えば、「赤いランプがついたらボタンを押してください」という課題で、赤が点灯するなか、いきなり青がついても、ついボタンを押してしまう、というものです。この「保続性」を抑える力が、がまん力や切り替え力につながり、認知のエラーを減らすことにつながります。 第72回 矢印をたどって進もう 目標 90秒 STARTからGOALまで、矢印をたどって進んでください。 緑の矢印→は矢印の向きの通りに、 赤い矢印→は矢印の向きと反対方向に進みます。 *例 緑色の矢印→は、右方向    赤色の矢印→は、左方向 STARTから右→と下↓の2パターンで進んでください。 日々の脳トレで、運転能力の衰え防止  超高齢社会の現在、75歳以上の3人に1人が運転免許を保有しているとされていますが、逆走など高齢ドライバーのショッキングな交通事故の報道により、「高齢ドライバーは危険だ」というイメージが定着してしまっています。  2017(平成29)年3月に改正された道路交通法では、75歳以上の高齢者は、免許更新時以外でも、一定の違反があった際には認知機能検査を受けることが義務づけられました。しかし一方で、毎日元気に運転をしている高齢ドライバーの方もたくさんいます。  たしかに認知機能の低下は交通事故に影響を与えていると考えられ、認知機能低下のリスクを下げるためにも、日ごろから食事や運動、脳トレなどで認知症リスクを抑え、同時に運転能力を鍛えることが大切になってきます。  今回の脳トレでは、習慣的につい行ってしまう行動や操作を、実行する前に抑える能力を鍛え、注意力や判断力にかかわる前頭前野背外側部などを活性化させます。  いつまでも安全に運転するためにも、脳を鍛えて、認知機能低下のリスクを軽減しましょう。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRS を使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 アドバイス ゴールするまでに目標時間以上かかった人は、目標時間内にゴールできるように再チャレンジしましょう。 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2023年6月1日現在 ホームページはこちら 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価 503円(本体458円+税) 『70歳雇用推進事例集2023』のご案内  2021(令和3)年4月1日より、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業を確保する措置を講ずることが事業主の努力義務となりました。  当機構では、昨年作成した「70歳雇用推進事例集2022」に引き続き、『70歳雇用推進事例集2023』を発行しました。  本事例集では、70歳までの就業確保措置を講じた21事例を紹介しています。 興味のある事例を探しやすくするため「事例一覧」を置きキーワードで整理 各事例の冒頭で、ポイント、プロフィール、従業員の状況を表により整理 70歳までの就業機会を確保する措置を講じるにあたって苦労した点、工夫した点などを掲載 『70歳雇用推進事例集2023』はホームページより無料でダウンロードできます https://www.jeed.go.jp/elderly/data/manual.html 70歳雇用推進事例集 検索 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 高齢者雇用推進・研究部 2023 6 令和5年6月1日発行(毎月1回1日発行) 第45巻第6号通巻523号 〈発行〉独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会