高齢者の職場探訪 北から、南から 第155回 新潟県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 70歳雇用推進プランナーに相談し70歳までの継続雇用制度などを整備 企業プロフィール 株式会社ナビック(新潟県新潟市) 創業 1929(昭和4)年 業種 精密機械器具製造業、卸売業・小売業など 社員数 65人(うち正社員数51人) (60歳以上男女内訳) 男性(13人)、女性(1人) (年齢内訳) 60〜64歳7人(10.8%) 65〜69歳4人(6.2%) 70歳以上3人(4.6%) 定年・継続雇用制度 定年60歳。希望者全員を65歳まで、基準該当者を70歳まで継続雇用。運用により70歳超の勤務も可能。現在の最高年齢者は74歳  新潟県は日本海に面して細長い地形をしており、変化に富んだ海岸線や夕日スポット、海の幸に恵まれています。内陸側は山脈に沿っていることから積雪量が多く、ウィンタースポーツが楽しめる施設が多数あります。佐渡島(さどがしま)や粟島(あわしま)などの離島もあり県面積は約1万2580km2と広大で、全国第5位の広さです。産業は米などの農業を中心に、食料品や化学工業などの製造業、建設業も盛んです。  JEED新潟支部高齢・障害者業務課の須田(すだ)美佐江(みさえ)課長は、高齢者雇用に関する企業からの相談などについて、「制度を変更する場合の処遇面に関することや、同業他社の動向について知りたいといった内容が多くなっています」と近況を明かし、注力している取組みについて次のように話します。「企業にとって人材確保は近年の大きな課題であり、定年延長や継続雇用年齢の延長は対応策の一つとして有用です。一方で、就業期間の延長にともなう雇用制度、賃金制度の構築などはハードルが高く感じる項目です。当支部では現状のヒアリングをしっかり行い、雇用制度や賃金制度などの改正といった、70歳までの就業確保措置実施の課題となる項目の解決の糸口を提案することや、従業員の就業意識への働きかけを目的としたJEEDの就業意識向上研修※1の提案に力を入れています」  同支部で活動するプランナーの一人、田代(たしろ)武夫(たけお)さんは、特定社会保険労務士、中小企業診断士などの資格を有しており、専門的知見と豊富な経験を活かした提案や助言は、訪問先事業所の経営者や人事担当者らから信頼を得て、JEED新潟支部のリードオフマンとして活躍しています。  今回は、田代プランナーの案内で、「株式会社ナビック」を訪れました。 配電盤のスペシャリストとして社会に貢献  株式会社ナビックは、1929(昭和4)年に株式会社中野組として設立され、1992(平成4)年に現在の社名となりました。メーカーと商社の二つの顔を持ち、現在では「制御盤など各種配電盤の設計・製作・販売」、「ポンプ設備やゲート等施設機械の販売・施工や上下水道施設の監視制御システムの設計・施工・メンテナンス」を行う二つのエンジニアリング部門と、「施設園芸資材や農薬の販売」を行う卸売部門の大きく3部門で事業を展開。配電盤(制御盤・計装盤・監視操作盤・高低圧配電盤)のスペシャリストとしてさまざまな工場や官公庁などから依頼を受けて実績を積み重ねています。また、安全性の高い農薬の適正使用の指導・販売などにより、農業の発展にも寄与しています。経営理念にもある「共に伸び共に栄える」のもと、取引先の役に立ち、社会に貢献し、社員とその家族の幸せの実現を追求しています。  同社代表取締役社長の山ア(やまざき)篤(あつし)さんは、同社の人材育成に関する方針について、「少人数ながら先進の技術と知識を兼ね備えた人材を育成し、専門性を高めています」と話します。その一環として社員の資格取得について、かかる費用や取得時の祝金、資格手当などを会社がバックアップしており、多くの社員に活用されています。  同社では、意欲があれば年齢を重ねても続けられる業務が多く、常務執行役員・電装事業部長の後藤(ごとう)勇司(ゆうじ)さんは、「電装事業の設計をになうベテラン社員は、『この人が描いた図面なら間違いない』と周囲から信頼され、若手社員の相談にものってくれています。その力を財産として、維持し続けることが現在の課題の一つです」とベテラン社員の力を語ります。  同社は2023(令和5)年8月、それまでの60歳定年、希望者全員65歳までの継続雇用制度を見直し、新たに基準該当者を70歳まで雇用する継続雇用制度を導入。また、制度化はしていませんが、70歳を超えても働ける仕組みづくりも始めています。これらの見直しや取組みは、田代プランナーに相談しながら進めていったといいます。 70歳までの継続雇用制度を導入  田代プランナーは、2023年に同社を訪問し、社員構成、継続雇用社員の活用状況、賃金水準などをヒアリングしました。  「訪問当時は、60歳以上の社員が全体の約14%、50歳以上の社員が約38%を占めていました。継続雇用者は今後増加が予想されたので、高齢社員がその豊富な経験と知識を活かして活き活きと働ける仕組みを助言し、65歳までの定年延長および希望者全員70歳までの継続雇用を提案しました」(田代プランナー)  同社常務取締役・管理本部長の川端(かわばた)一裕(かずひろ)さんは、「田代プランナーは、まず当社の状況をよく聞いたうえで助言と提案をしてくださいました。そこから検討を重ねて、定年はそのままですが、基準該当者を70 歳まで継続雇用する制度にあらためました。継続雇用後は嘱託社員となり基本的に役職は外れ、一プレイヤーとなりますが、後進の指導役としても期待しています」と制度改定の経緯と内容などを話します。  「実際には70歳を過ぎて戦力として活躍している社員もおり、そのうちの1人から家庭の事情のため退職の申し出があったことを機に、2024年に短時間勤務などの柔軟な働き方について、あらためて田代プランナーに相談し、アドバイスをいただきました」(川端管理本部長)  そこから70歳超の社員の働き方についても検討を重ね、2024年10月、同社で初めてフレックスタイム制度を導入(在宅勤務も可能)しました。今回は、この制度を活用して勤務を続けている新保(しんぼ)康文(やすふみ)さん(74歳)と、遠藤(えんどう)幸一(こういち)さん(62歳)、お2人の上司である三山(みやま)正人(まさと)さんにお話を聞きました。 在宅勤務で仕事の継続が可能に  新保康文さんは勤続51年。手描きで図面を作成していた時代から配電盤や制御盤の設計を担当し、管理職も務めました。長年の経験を活かして、現在も電装事業部設計開発グループで設計業務と後進の育成をになっています。  フルタイム勤務を続けてきましたが、2024年10月からはフレックスタイム制度を活用し、設計業務は在宅で行い、ミーティングがある水曜日のみ出勤しています。「家庭の事情もあり70歳を過ぎたころから退職を意識していましたが、フレックスタイム制度と在宅勤務の活用を会社から提案してもらい、仕事を続けることにしました。水曜日は出勤ですが、みんなに会えることがよいモチベーションになっています」と新保さんは笑顔をみせます。  設計開発グループ部長兼品質管理グループ部長の三山(みやま)正人(まさと)さんは、「当社には新保さんの力が必要ですので、新保さんから話を聞いて、在宅勤務がよいのではないかと会社に提案して、それがかないました」と満面の笑みで話します。  新保さんは、周囲からの「続けてほしい」という言葉と仕事への情熱が原動力となっており、「設計の仕事は一つひとつ異なるので、その都度新鮮な気持ちで向き合えます。安全なものをつくること、クレームのない仕事をすることを心がけて、大好きな仕事を今後も続けられるよう、健康に気をつけたいと思います」と話してくれました。 柔軟性と能力向上のため資格取得に挑戦  遠藤幸一さんも電装事業部設計開発グループに所属して、配電盤や制御盤の設計と後進の育成をになっています。勤続44年、この道一筋の職業人生です。入社してから1級電気製図技能士、2級電気工事施工管理技士、アナログ第3種工事担任者などの資格を取得。設計開発グループ部長を務め定年を迎えたあと、嘱託社員としてフルタイムで勤務をしています。  「定年前と比べて管理の仕事はなくなりましたが、設計業務に関しては以前と変わりはありません。また、管理業務がなくなった分、後輩たちの相談にのりながらサポートを行っています」と遠藤さんは話します。  上司の三山さんは「遠藤さんはかつては私の上司でした。いまも支えてくれますし、若手にとっては聞きやすく何でも答えてくれる存在です」と社内で頼りにされている遠藤さんについて語ります。  遠藤さんは仕事への思いについて、「当社の製品は地味ながらも重要な役目をになうものですし、設置された装置は数十年にわたって稼働し続けることがやりがいになっています」と明かします。また、「年を取ると頭が固くなるので、少しでもやわらかくするため、資格取得に挑戦しています」と最近もデジタル工事担任者の試験を受けて合格発表を待っているところだと教えてくれました。 ともに歩んでいきたい  最後に今後の目標について、社長の山アさんにうかがうと、「現在、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)※2や生成AIの活用で業務効率化、自動化、省力化に取り組んでいますが、高齢社員の高度な知識と技能は欠かせません。元気に活躍いただけるかぎり、その力を弊社の仕事に活かして、ともに歩んでいきたい。会社と社員、その家族が幸せになることを目ざしてこれからも邁進します」と話してくれました。  田代プランナーは、定年後も後進の育成に努めながら設計の仕事に打ち込んでいる新保さん、遠藤さんの働きぶりと、同社が70歳を超えて働ける環境づくりに取り組んでいることを高く評価し、「継続雇用や70歳超の働き方について課題があれば今後もサポートしていきます」と語りました。 (取材・増山美智子) ※1 「就業意識向上研修」の詳細は、JEEDホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/elderly/employer/startwork_services.html ※2 RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)……パソコンなどで行っている事務作業を自動化できる技術 田代武夫 プランナー アドバイザー・プランナー歴:26年 [田代プランナーから] 「企業の持続可能な成長を支援するために、課題解決のコンサルタントの役割を果たしたいと思っています。シニア社員がその能力を活かして働けるような環境の整備の提案とともに、最近の労務管理に関する法令の改正情報の提供も心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆新潟支部高齢・障害者業務課の須田課長は田代プランナーについて、「1999年より当支部の高年齢者雇用アドバイザー、プランナーとして活動し、26年目を迎えた大ベテランです。80歳を超えてなお精力的に事業所を訪問し、これまでの経験を活かした的確な助言を行っています。事業主への提案のみならず就業意識向上研修など従業員向けの活動も実施し、受講満足度も高い結果となっています」と話します。 ◆新潟支部高齢・障害者業務課は、JR新潟駅からバスで10分ほどの距離にあります。事務所が入居しているのは江戸時代の奉行所跡に建つビルで、新潟市内でも形が特徴的な建物です。 ◆同県では、10人のプランナーが、面積が広い県のため担当地域ごとに活動しています。2024(令和6)年度は475件の相談・助言を実施し、そのうち215件の制度改善提案を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●新潟支部高齢・障害者業務課 住所:新潟県新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 電話:025-226-6011 写真のキャプション 新潟県新潟市 株式会社ナビック 東港工場 山ア篤代表取締役社長(中央)、後藤勇司常務執行役員・電装事業部長(左)、川端一裕常務取締役・管理本部長(右) 出勤日の水曜日、社内で設計業務を行う新保康文さん 三山正人設計開発グループ部長兼品質管理グループ部長 設計業務にあたる遠藤幸一さん。いまも仕事のための資格取得に挑戦している