【表紙】 令和7年8月1日発行(毎月1回1日発行)第47巻第8号通巻549号 Monthly Elder 2025 8 高齢者雇用の総合誌エルダー 特集 高齢者雇用と賃金の基礎知識 リーダーズトーク 定年を68歳、雇用上限を78歳に延長 元気で安心して長く働ける環境を提供 トラスコ中山株式会社 経営管理本部 人事部 部長 大谷正人 読者アンケートにご協力をお願いします! 【表紙2】 助成金のご案内 65歳超雇用推進助成金のご案内 高齢者助成金の説明動画はこちら 65歳超継続雇用促進コース 65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上への継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引上げること A定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。また、改正前後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること B1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること C高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※)の実施 支給額 ●定年の引上げ等の措置の内容、60歳以上の対象被保険者数、定年の引上げ年数に応じて160万円まで支給。 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース 高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(賃金制度、健康管理制度等)を実施した事業主の皆様を助成します。 支給対象となる主な措置(注1)の内容 @高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入 A法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 ●支給対象経費(注2)の60%(中小企業事業主以外は45%) (注2)措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサルタントとの相談経費、措置の実施に伴い必要となる機器、システム及びソフトウェア等の導入に要した経費(経費の額に関わらず、初回の申請に限り50万円の費用を要したものとみなします。) 高年齢者無期雇用転換コース 50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※)を1つ以上実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6 カ月分(勤務した日数が11日未満の場合は除く)の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと 支給額 ●対象労働者1人につき30万円(中小企業事業主以外は23万円) 高年齢者雇用管理に関する措置(※)とは、55歳以上の高齢者を対象とした、次のいずれかに該当するもの (a)職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等、(b)作業施設・方法の改善、(c)健康管理、安全衛生の配慮、(d)職域の拡大、(e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、(f)賃金体系の見直し、(g)勤務時間制度の弾力化 障害者雇用納付金関係助成金 障害者雇用納付金関係助成金の説明動画はこちら 障害者作業施設設置等助成金 雇入れ、雇用の継続に必要な障害特性による就労上の課題(加齢に伴う課題を含む)を克服し、作業を容易にするために配慮された施設等の設置・整備を行う場合に支給します。 助成対象となる措置 @障害者用トイレや手すりを設置または整備 A拡大読書器を購入 等 助成額 支給対象費用の2/3 障害者雇用相談援助助成金 対象障害者の雇入れ及び雇用継続を図るための一連の雇用管理に関する援助の事業(障害者雇用相談援助事業)を実施する事業者(※)に支給します。※事前に労働局の認定が必要です。 助成対象となる措置 @利用事業主に障害者雇用相談援助事業を行った場合 A@を行った後に利用事業主が対象障害者を雇い入れ、かつ6か月以上の雇用継続をした場合 助成額 @60万円 ほかA1人7万5千円 ほか 障害者介助等助成金 適切な雇用管理のために必要な介助等の措置や、加齢に伴う課題の解消のために必要な介助等の各種措置を行う場合に支給します。 助成対象となる措置 @職場復帰支援 A中途障害者等や中高年齢等障害者の技能習得支援 B職場介助者の配置または委嘱(継続措置および中高年齢等措置あり) C手話通訳・要約筆記等担当者の配置または委嘱(継続措置および中高年齢等措置あり) D職場支援員の配置または委嘱(中高年齢等措置あり) E健康相談医の委嘱 F職業生活相談支援専門員の配置または委嘱 G職業能力開発向上支援専門員の配置または委嘱 H介助者等の資質向上措置 I重度障害者の業務遂行のために必要な支援を重度訪問介護等サービス事業者に委託 助成額 @月4万5千円 ほか ABCEFGH支給対象費用の3/4 ほか D月3万円 ほか I支給対象費用の4/5 ほか 重度障害者等通勤対策助成金 障害の特性に応じた通勤を容易にするための措置を行う場合に支給します。 助成対象となる措置 @住宅の賃借 A住宅手当の支払い B駐車場の賃借 C通勤用自動車の購入 D重度障害者の通勤援助のために必要な支援を重度訪問介護等サービス事業者に委託 (ほかにも対象となる措置がありますのでHPでご確認ください) 助成額 @〜C支給対象費用の3/4 D支給対象費用の4/5 ほか 職場適応援助者助成金 職場への適応を容易にするために職場適応援助者による支援を行う場合に支給します。 助成対象となる措置 @訪問型職場適応援助者による支援 A企業在籍型職場適応援助者による支援 (@Aとも中高年齢等措置あり) 助成額 @1日3万6千円まで ほか A月9万円 ほか ほかにも助成金がありますので、ホームページでご確認ください e-Gov電子申請を利用して申請できるようになりました 24時間365日いつでも手続きできます! ※お問合せや申請は、当機構(JEED)の都道府県支部高齢・障害者業務課(65ページ、東京・大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします。 【P1-4】 Leaders Talk No.123 定年を68歳、雇用上限を78歳に延長 元気で安心して長く働ける環境を提供 トラスコ中山株式会社 経営管理本部 人事部 部長 大谷正人さん おおたに・まさと 1991(平成3)年に同社に入社。千葉支店支店長、人事課課長兼ヘルスケア課課長、ファクトリー営業部近畿圏部長、物流部中部・近畿部長などを経て、2022(令和4)年物流部東日本部長、2024年より現職。  2015(平成27)年に65歳定年制、雇用形態を変えながら最長75歳まで働ける継続雇用制度を導入するなど、高齢者雇用先進企業として知られるトラスコ中山株式会社。同社では、2025(令和7)年4月より、高齢者雇用制度を改定し、最長78歳まで勤務可能となりました。今回は、同社人事部部長の大谷正人さんに制度改定のねらいなどとともに、同社における高齢者雇用の取組みについて、お話をうかがいました。 “気づいたら定年まで勤めていた”と社員が思える会社を目ざして ―貴社では、2015(平成27)年に定年を65歳に延長し、定年後も最長で75歳まで働ける制度を導入するなど、高齢者雇用に積極的に取り組まれています。その背景や高齢社員に期待するものとは何でしょうか。 大谷 当社は生産現場で必要とされる作業工具、測定工具、切削工具をはじめとする工場用副資材を扱う機械工具の専門商社です。仕入れ先のメーカーは3663社を数え、国内外96カ所の拠点から機械工具商などのお客さまを通じて、自動車メーカーさまなどの大手製造業をはじめとした多くのユーザーさまに商品を供給しています。企業メッセージとして「がんばれ!!日本のモノづくり」を掲げ、「人や社会のお役に立ててこそ事業であり、企業である」をモットーにしています。部署は経営管理本部以外に営業本部、デジタル戦略本部のほか、全国28カ所の物流拠点から、自前の配送網で商品をお届けする物流本部などがあり、パートタイマーを含めて3000人超の従業員が働いています。  高齢者雇用については、2012年に定年を60歳から63歳に延長し、2015年に65歳定年制と70歳までの雇用延長制度、70歳以降は75歳までパートタイム社員として働ける「トラスコライフ延長制度」を導入しました。当社に長く勤務し、業界に精通した社員が継続して働いてくれることは、会社にとってもプラスですし、長く安心して働いてほしいという思いがあります。“気づいたら定年まで勤めていた”、“居心地がよかった”と思えるような会社でありたいと考えています。  経験豊富な高齢社員には、若手社員の指導・育成や、お客さまとの良好な関係の継続といった面での活躍を期待しています。また、間接的な効果として、意欲的に働く高齢社員がいることで若手社員が「この会社で長く働き続けられる」という安心感や将来像が描けるようになれば、という思いもあります。 ―2025(令和7)年4月からは、定年年齢を68歳、雇用延長制度の上限を72歳、トラスコライフ延長制度の上限を78歳に引き上げました。定年年齢の68歳や雇用上限の78歳というのはほかに類を見ません。 大谷 まず大前提として、人手不足や採用難だからという理由で延長をしたわけではありません。いま働いている社員が安心して長く働けるためにはどうすればよいのか、という考え方がベースにあります。2012年に定年を63歳に延長したときは年金支給年齢も考慮し、また60歳を超えても子育て中の社員もいるから、という事情もありました。その時点で65歳まで延長しようという話も出ていましたし、社長の中山(なかやま)哲也(てつや)の「もっと長く働ける仕組みをつくったほうが社員も安心する」という思いもあり、2015年に65歳定年制を導入しました。今回の68歳への定年延長や雇用延長、トラスコライフ延長制度の上限を78歳としたのも、「働く意欲があればいつまでも働く場所を用意しよう」という発想からです。 ―定年延長をすれば、それにともなって人件費がどれだけ増えるのかを気にする会社も少なくありません。 大谷 おつきあいのある会社が一番驚かれるのは、当社の場合、68歳まで処遇がほとんど変わらないことです。ただし管理職は62歳が役職定年となり、手当はなくなります。じつは、あまり費用の計算ありきでは考えていません。もちろん昇給や賞与支給の際には計算しますが、今回も社長から68歳への定年延長の指示があり、仕組みを提案したときも費用の話は出ませんでした。だれもがよいと思うことをやるのだから、何かあったらみんなで乗り越えたらいいじゃないかという考え方です。 ―雇用上限が78歳というのはほぼエイジレスに近いですね。 大谷 いずれ定年も68歳から70歳まで延びるのではと予想しています。もちろん「体が動かなくなってきたのでそろそろ引退します」という人も出てくると思いますし、本人自ら引退する時期を決めることになります。現行の制度では73歳で雇用延長満了を迎える前に、年齢に応じてお祝い金を支給しています。68歳で退職する場合は50万円、以後10万円ずつ加算し、73歳満了時には100万円を支給します。 定年後の継続雇用・パートタイム社員も含めすべての社員に年2回の人事考課を実施 ―雇用延長する場合の基準はあるのでしょうか。 大谷 雇用延長制度は1年更新の契約社員になります。基本ルールとして健康であることが絶対条件になります。といっても持病があったとしても、仕事ができる健康状態を維持していれば問題はありません。また、当社は年2回の人事考課を実施し、考課結果はA・B・Cをそれぞれ3段階に分けた9段階で示されますが、直近2回の結果が標準のBを下回る「B−(マイナス)」以下でないことが条件です。B−(マイナス)以下になると部門長と人事のチェックが入りますが、期待する仕事ができていない、周りから支持されていないという人については契約を更新しないケースもあり、だれでも無条件に雇用延長できるというわけではありません。 ―メリハリの利いた仕組みですね。評価・処遇制度はどうなっていますか。 大谷 正社員、雇用延長者、パートタイマー、いずれも年2回の人事考課で処遇を決めています。評価項目は業績、姿勢、能力、目標達成度の四つがあり、それぞれのウエイトは違いますが、先ほどお話ししたように半期に1回、9段階で評価し、その結果が昇給・賞与に反映されます。ただし雇用延長者については、標準考課の「B」が基準給となり、半期ごとの考課結果によって月例給が変動します。具体的には、例えば基準給が30万円(100%)の場合、最高のA+(プラス)は148%に増額され、最低のC−(マイナス)になると68%に減額されます。減額されても半年間だけですので、再びBに戻れば30万円になります。それ以外に賞与は年2回支給し、それぞれ月例給の1カ月分を支給しています。もちろん通勤手当、昼食補助手当、残業手当などの各種手当は正社員と同様に支給しています。 70歳を超えて働くうえでは社員の「健康」が何よりも重要に ―定年後の継続雇用では、仕事の内容や働き方は変わるのでしょうか。 大谷 勤務場所は基本的に定年前と同じ部署になります。定年前は主力の一員として働いていますが、雇用延長後は後輩の育成やスキルの継承を中心に仕事をしてもらいます。働き方についてはもともと週5日のフルタイム勤務でしたが、週4日で働きたい、短時間で働きたいといったニーズをふまえ、徐々に選択肢を増やしてきました。いまでは本人の希望に応じて、@フルタイム週5日勤務(9時〜17時30分)、Aフルタイム週4日勤務(9時〜19時)、B短日数勤務週4日勤務(9時〜17時30分)、C短時間勤務週5日勤務(9時〜16時または10時30分〜17時30分)――の四つから選択できます。短日数・短時間で働く場合は、基準給も下がることになります。 ―トラスコライフ延長制度のパートタマーの働き方はどうなっているのでしょうか。 大谷 トラスコライフ延長制度は、73歳に到達した社員が健康などの一定基準を満たした場合に78歳まで継続雇用する制度です。時給制となりますが、業務内容が大きく変わることはありません。雇用延長後の人だけではなく、実際にパートタイマーとして物流センターや各支店で働いている人は1400人以上いますし、働き方はその人の事情に応じて柔軟に対応しています。 ―高齢社員が増えると健康管理や労働災害対策も重要になります。どのような取組みをされていますか。 大谷 人事部のなかにヘルスケア課があり、保健師が2人います。健康診断の定期健診受診率は100%ですが、2次検査受診率が83.8%です。これを100%に高めていくとともに、健康状態を理由に退職せざるを得ない人をなくしていきたいと思っています。  労働災害は物流センターで発生することが比較的多いのですが、2年前に物流本部に物流安全推進課を設置し、毎月の安全ミーティングや注意事項をまとめた事例集を作成し、センターごとに安全教育も実施しています。具体的には脚立からの転落事故防止のために「脚立の上から2段目より下で作業する」ことを徹底していますが、できれば脚立を使わないような工夫もしていきたいと考えています。 ―これまでの高齢者雇用の経験を通じてのアドバイスをお願いします。 大谷 やはり健康が一番です。いまの70歳は以前に比べて元気な人がとても多く、十分に働けます。当社としても、社員が70歳になっても健康で元気に働けるよう、社員一人ひとりが自身の健康について自覚し、健康に関するリテラシーを高められるようにうながしています。自覚した社員ほど元気で働いていますし、会社としても長く活躍してもらう場を提供していきたいと考えています。 (インタビュー/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙の写真:PEANUTS MINERALS/アフロ 2025 August No.549 特集 6 高齢者雇用と賃金の基礎知識 7 総論 高齢者雇用における適切な賃金・評価制度の重要性 ―戦力としてのシニア活用に向けた人事戦略― 千葉経済大学 経済学部 教授 藤波美帆 11 解説1 各種調査から見る高齢社員の賃金の実態 社会保険労務士川嶋事務所 所長 社会保険労務士 川嶋英明 14 解説2 賃金の法的位置づけと同一労働同一賃金 社会保険労務士川嶋事務所 所長 社会保険労務士 川嶋英明 18 解説3 等級制度の基礎知識 株式会社パーソネル・ブレイン 代表取締役 社会保険労務士 二宮孝 22 解説4 代表的な評価制度 株式会社パーソネル・ブレイン 代表取締役 社会保険労務士 二宮孝 26 解説5 在職老齢年金・高年齢雇用継続給付と賃金の調整 社会保険労務士法人かわごえ事務所 代表社員 川越雄一 28 解説6 退職金の基礎知識 社会保険労務士法人かわごえ事務所 代表社員 川越雄一 1 リーダーズトーク No.123 トラスコ中山株式会社 経営管理本部 人事部 部長 大谷正人さん 定年を68歳、雇用上限を78歳に延長元気で安心して長く働ける環境を提供 30 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生! Season3 65歳超雇用推進助成金活用のススメ 【第2回】 65歳超継続雇用促進コースを活用しよう! 36 偉人たちのセカンドキャリア 第9回 室町幕府最後の将軍のセカンドキャリア 足利義昭 歴史作家 河合敦 38 高齢者の職場探訪 北から、南から 第156回 石川県 ののいちバス株式会社 42 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第107回 NPO法人安全技術ネットワーク 理事長 浮田義明さん(74歳) 44 がんと就労 −治療と仕事の両立支援制度のポイント− 【第2回】 職場で求められる両立支援とは 永田昌子 48 知っておきたい労働法Q&A《第86回》 長期にわたる有期雇用労働者と退職金支給、録音禁止の業務命令の有効性 家永勲/木勝瑛 52 “学び直し”を科学する 【第3回】 「やる気」を維持する学び方 加藤俊徳 54 いまさら聞けない人事用語辞典 第60回 「リーダーシップ」 吉岡利之 56 ニュース ファイル 57 お知らせ 高年齢者活躍企業フォーラムのご案内 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウムのご案内 地域ワークショップのご案内 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.354 40年以上つちかった技術が結実したヒット商品 精密板金加工 利根通さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第98回] ぴったり天秤 篠原菊紀 ※連載「日本史にみる長寿食」、「Books」は休載します 【P6】 特集 高齢者雇用と賃金の基礎知識  高齢者雇用に取り組むうえで、検討が欠かせないテーマである「賃金」。在職老齢年金や高年齢雇用継続給付との関係はもちろん、適切な評価制度の有無は、高齢社員のモチベーションに大きな影響を及ぼす可能性があり、定年後再雇用社員における同一労働同一賃金の適切な運用なども求められます。  そこで今回は、高齢者雇用にまつわる「賃金」について、さまざまな角度から解説します。ぜひお役立てください。 【P7-10】 総論 高齢者雇用における適切な賃金・評価制度の重要性 ―戦力としてのシニア活用に向けた人事戦略― 千葉経済大学 経済学部 教授 藤波(ふじなみ)美帆(みほ) 1 はじめに―高齢社員を活かす人事制度設計とは  少子高齢化と生産年齢人口の減少が進行するなか、高齢社員の活用は企業にとって、人事戦略上の重要課題となっています。特に、再雇用時の処遇面、とりわけ賃金の引下げや、評価のあり方への配慮不足が、高齢社員の働きがいやモチベーションの低下を招き、結果として組織全体の生産性にも悪影響を及ぼす懸念が指摘されています。  こうした課題の背景には、多くの日本企業で採用されている「一国二制度型」と呼ばれる制度構造があります。これは60歳を境に正社員としての雇用契約が終了し、新たな枠組みで再雇用する仕組みです。年功賃金の累積を一度リセットすることで人件費の抑制を図りつつ、雇用を継続できる点で一定の合理性を持っていますが、この仕組みを全社員に一律に適用した場合、現場では制度と職務実態の間に乖離が生じやすくなります。例えば、定年前とほぼ同じ職務を継続してになっているにもかかわらず、大幅に処遇が下がる、あるいは期待役割や評価基準が曖昧なまま配置され、報酬も決まり、納得感が得られないといったケースです。制度と職務実態との間にこうした乖離が生じる現状は、人事管理のなかで、高齢社員の位置づけそのものを、あらためて問い直す契機となっています。  このような現状をふまえると、現在多くの日本企業が直面している高齢社員の戦力化や雇用の継続には、評価や処遇といった人事要素を個別に見直すだけでは不十分であり、採用(再雇用)、配置、教育、評価、報酬、そして退職といった人事管理全体のサイクルのなかに、高齢社員を戦略的に組み込む視点が必要になります(7ページ図表1)。高齢社員の多様性を活かすことを前提とした人材マネジメントと、組織の持続的成長を両立させる制度の再構築が、これからの人的資源管理において欠かせません。 2 高齢社員をどう活かすか―制度の設計思想とマネジメントタイプの整合  高齢社員の活用を考えるうえで、まず注目すべきは、人事制度の根幹をなす「設計思想」です。多くの企業が「一国二制度型」を採用している現在、高齢社員をどのように位置づけ活用するのかは、もはや制度設計における枝葉の問題ではなく、企業の人材戦略の中核に位置づけられるべき重要な課題となっています。  こうした課題に対応するには、人事制度全体に通底する設計思想、すなわち「だれを、どこで、どのタイミングで、どの程度活用するか」という視点を明確にすることが求められます。高齢社員の人事制度の設計思想では、「どこで」は「引き続き自社内で」、「どのタイミングで」は「定年(60歳)以降に」という点が前提として共有されているため、@対象者の範囲「選抜型か/全員型か」、A活用度合い「正社員と同様か/限定的か」という2軸で整理でき(図表2)、四つの制度類型─選抜型・本格活用(A型)、選抜型・限定活用(B型)、全員型・本格活用(C型)、全員型・限定活用(D型)─に分類されます。  高年齢者雇用安定法の改正により「高年齢者雇用確保措置」が講じられる2000年代以前には、定年(60歳)以降も雇用されるのはかぎられた社員のみであり、選抜型・本格活用(A型)が主流でした。その後、希望者全員の雇用確保が段階的に義務化されるにつれ、多くの企業は法対応と人件費管理の両立を図るため、制度上の要件を満たしやすい全員型・限定活用(D型)を選択しました。  しかし、D型は雇用確保には効果がある一方で、活用面における限界が顕在化し、60歳以降の社員数の増加にともない、より実質的な活用を目ざして全員型・本格活用(C型)へ移行する企業も増えつつあります。  ただし、人事制度の設計思想と実際の運用実態は必ずしも一致するとはかぎりません。例えば、人事制度上は本格活用を前提とするC型を採用していても、現場では補助的な役割しかになわせていない場合や、D型のもとで正社員時代と同じ働き方や成果を暗黙的に期待されている例も見受けられます。こうした乖離を可視化し、是正していくためには、制度類型とは別に「マネジメントタイプ」に着目することも必要です。代表的なタイプは以下の四つがあります。 @消極活用型:雇用継続そのものを目的とし、成果や責任を求めない Aサポート活用型:周辺的な業務や役割を期待し、若手支援や限定的な業務をになわせる B積極活用型:正社員に準じた責任や成果を期待し、評価や処遇を行う C統合活用型:年齢にかかわらず期待役割を設定し、同一の人事制度を適用する(一国一制度型)  人事制度の設計思想(A〜D型)とマネジメントタイプ(@〜C)は必ずしも一致しません。例えば、D型の人事制度であっても、現場で「正社員時代と同じ」期待を求められていれば、両者のギャップがフラストレーションの要因となります。こうしたギャップを防ぐには、企業が自社の人材活用戦略に整合する人事制度を選択し、設計思想と運用方針を一体として構築・運用することが求められます。また、これらが部門や上司によって、考え方や運用がバラバラにならないことも大切です。  人事管理の目的はビジネスの成功と組織の持続的な成長です。人事制度はあくまでも手段であり、目的ではありません。場あたり的な制度整備では、これからの高齢社員の多様性と戦力化の可能性に十分には対応できません。 3 賃金制度と評価制度の再設計―役割・成果に応じた処遇の構築 (1)高齢社員の活用を支える賃金制度  高齢社員を戦力として活用するには、処遇と実際の職務との整合性を確保することが不可欠であるという認識は、多くの企業に広がっています。それにもかかわらず、定年を境に賃金が一律に引き下げられる一方で、職務や責任の内容が大きくは変わらないといった状況が依然として見受けられます。  こうした制度と運用実態の乖離が生じる背景には、報酬設計の前提となる考え方が曖昧であること、昇降給のルールが明確に定められていないこと、評価と連動した再格付けの仕組みが整備されていないことなどがあげられます。  定年を境に雇用契約が一度終了し、その後再契約を結ぶという制度設計上の前提に立てば、賃金水準も見直すのが自然な流れです。高齢社員に対しては、過去の地位や功績ではなく、現在の役割や成果に基づいて処遇を設計することが合理的です。「貢献が正当に評価され、処遇に反映される」という制度的な信頼が確保されていることは、本人のモチベーション維持に資するだけでなく、組織文化の形成にも寄与します。こうした考え方は、本来、高齢社員にかぎらずすべての社員に共通のものです。  また、役割や成果に応じて賃金が変動する(昇降給)仕組みをあらかじめ制度内に組み込むことは、公平性や透明性を高めるうえでも重要です。例えば、定年前と同様の職務をになっているにもかかわらず、定型的に賃金を下げる運用では、その合理性が問われる場面も増えています。特に「同一労働同一賃金」の観点からも、実質的な仕事内容や責任の程度と報酬との整合性が求められます。  さらに、高齢社員がスキルや知識を深めたり、職域を広げたりして貢献度を高めた場合には、その努力と成果が評価され、処遇に反映される仕組みも必要です。多くの企業では、高齢社員の賃金が固定的であることが、挑戦や学び直しへの意欲を妨げる一因となっていることから、定期昇給のような年功的運用ではなく、役割や成果、貢献度の変化に応じて柔軟に見直せる報酬設計が求められます。例えば、半年ごとの面談と連動した報酬改定、新たな職責による見直し、後進指導への手当支給など、貢献と処遇をつなぐ仕組みの導入が有効です。あわせて、貢献が限定的になった場合などに備え「降給」や「再格付け」の仕組みも整えておくことで、制度運用の安定性と組織全体の公平性が高まります。 (2)評価制度の設計と運用  高齢社員の処遇を役割や成果に応じて設計するには、「何をどう評価するか」という視点が欠かせません。しかし実際には、期待される役割が十分に明示されないまま評価が行われたり、フィードバックが不十分であるといった課題もみられます。評価制度を機能させるには、業務目標の明確化と、達成状況を定期的に確認する仕組みが必要です。評価項目には、成果に加え、業務遂行上の姿勢やチームへの貢献といった行動面も含めた多面的な評価を導入することで、公平性と実効性を高めるだけでなく、モチベーション向上にもつながります。  高齢社員の場合、現場対応力や後進育成、組織への安定的な貢献といった定量化しにくい要素も適切にとらえる必要があります。これらは数値化がむずかしいものの、定性的な評価基準や面談を活用し、期待される役割を本人に明確に伝えることが重要です。評価の観点を制度として明示しておくことで、自分に何が期待されているのかが理解しやすくなり、納得感も高まります。特に定性的な評価は、基準や手順が曖昧だと形骸化しやすいため、顧客対応や後進指導、周囲への働きかけなどの期待される行動を事前に明文化しておくことで、評価精度が高まります。こうした定性項目は、定期面談と組み合わせたフィードバックにより、成長意欲とも結びつけることが可能です。評価は処遇の根拠であると同時に、配置やキャリア支援を通じて、組織全体の人材活用戦略を実現する起点となります。  さらに、評価制度は単なる処遇決定の手段にとどまらず、上司と部下の間で期待役割や目標を擦り合わせる対話の枠組みとしても位置づけられ、高齢社員が安心して働き続けるための土台にもなります。 4 おわりに  高齢社員の活用に向けた制度設計では、評価・処遇・支援といった人事制度を一体的にとらえ、再構築する視点が欠かせません。特に支援のあり方については、役割の見直しや働き方の選択肢を拡充し継続的な活躍を後押しする仕組みの整備が求められます。評価結果に基づいて次の役割を提示し、働き方や貢献度に応じた選択肢を整えることで、高齢社員の納得感と組織の安定性も高まります。  こうした仕組みは、現在の高齢社員だけでなく、いずれ高齢社員となる中堅層にも適用できるよう、制度設計の構想に含めておくことが重要です。制度は「雇用維持のための対策」ではなく、多様な人材が活躍できる組織づくりを支える基盤として設計・運用する視点が求められます。例えば、50代以降の社員に対し、中長期的なキャリアや希望する役割を話し合う仕組みを導入すれば、本人の主体的な準備がうながされるとともに、組織の戦略的人材配置にもつながります。こうした積み重ねが、60歳以降の多様な貢献スタイルに対応できる制度的基盤を形成します。さらに、柔軟な働き方や健康支援、知識やスキルの継承などの取組みも含め、キャリア支援は組織の人的資源管理における中核施策と位置づけるべき段階にきています。  また、報酬や評価制度の再構築にあたっては、企業が自社の人材活用戦略に即して制度の設計思想・方針を明確にし、評価・処遇・支援の各制度を統合的に構築・運用する必要があります。既存制度との整合性をふまえながら段階的に導入し、組織内にていねいに浸透させていくことが重要です。特に処遇面では、実際の貢献に応じた公正で納得感のある運用が不可欠です。  制度を通じて高齢社員の経験や能力を戦略的に活かし、年齢にかかわらずだれもが力を発揮できる職場環境を整えることは、人的資源を持続的に活用するための基盤となります。こうした制度整備を通じて、多様な人材が世代を超えて活躍する組織づくりへとつなげていく視点が、いま企業に強く求められています。 図表1 人事管理のサイクル 学生など求職活動中の人 (就職活動) 採用 仕事に配属 仕事に必要な教育実施 働く条件の整備 働きぶりの評価 報酬・昇進決定 退職 定年後も働くシニア (再雇用) 出典:塗茂克也,仁平晶文,藤波美帆,他(2025)『初めての経営学 社会人にも役立つマネジメントの基本』ビジネス実用社,第6章「人材マネジメント」 図表2 高齢社員の人事制度の設計思想 高齢社員の活用範囲 選抜型(選抜基準がある) 全員型(選抜基準がない/希望者全員) 高齢社員の活用の程度 正社員と同様の活用(本格活用)を求める ○A 選抜型/本格活用 ○C 全員型/本格活用 正社員とは異なる活用(限定活用)を求める ○B 選抜型/限定活用 ○D 全員型/限定活用 出典:藤波美帆(2024)「高齢社員の戦略的活用を促す人事」日本経済団体連合会『月刊経団連』、著者が一部改変 【P11-13】 解説1 各種調査から見る高齢社員の賃金の実態 社会保険労務士川嶋事務所 所長 社会保険労務士 川嶋(かわしま)英明(ひであき) 1 はじめに  会社が社員の賃金を決める際、ほかの会社がどうしているのか、というのは気になる部分です。特に高齢社員の賃金は、法令の改正などによりその働き方を見直す会社も増えていることから、気になる会社は多いことでしょう。そこで、本稿では、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」や国税庁「民間給与実態統計調査」などをもとに、60歳以上の高齢社員を中心にその賃金の推移や現状について見ていきます。 2 賃金構造基本統計調査から見る高齢社員の賃金  まず、全体との比較で高年齢労働者の賃金を見ていくと、2024(令和6)年の「賃金構造基本統計調査」では、全体の賃金の増減率は3.8%(賃金の平均は33.04万円)となっており、前年の2.1%(平均賃金31.83万円)や、マイナス1.0%から1.5%で推移していた2000年代以降と比較しても非常に高い上がり幅となっています。  では、こうした上がり幅と比較して、高年齢労働者の賃金はどうかというと、2024年の60〜64歳の増減率は前年から3.9%増(平均賃金は31.77万円)と、全体の増減率とほとんど変わりません。しかし、過去10年の60〜64歳の平均賃金と上がり幅の推移を見ると、基本的に、60〜64歳の賃金の上がり幅は全体の上がり幅より大きくなっており、全体の賃金の上昇よりも早いペースで賃金が上がってきたのがわかります。一方、65〜69歳については、増減の振れ幅が大きく、傾向をつかむことがむずかしいですが、トータルで見ると、徐々に上がっているのは間違いありません(12ページ図表1)。  さて、60歳以上の労働者、特に60歳到達まで正社員として働いていた労働者に関しては、60歳で定年後再雇用され、その際に、賃金が大きく引き下げられるのが一般的です。そのため、60歳到達前と60歳以降の賃金の比較についても見ていくと、まず2024年にかぎっていえば、55〜59歳の賃金の増減率は4.1%と60〜64歳よりも上がっています。ただ、過去10年で見た場合、55〜59歳の賃金の増減率は、全体の増減率を下回ることが多く、結果、この10年で55〜59歳の賃金と60〜64歳の賃金の差は縮小してきました。  次に、高年齢労働者の男女の賃金差について見ていくと、全体の男女の賃金差自体は年々縮小傾向にあるものの、いまでも、女性の賃金は男性の75%前後に留まります。これは2024年の統計でも同様で、全体の平均賃金が男性は36.31万円、女性が27.53万円で、割合にすると女性は男性の約75.8%となります。  また、男女の賃金差は各年代によっても開きがあり(13ページ図表2)、20代までは男女でそれほど差がない一方、30代以降はどんどん差が拡大し、その差がもっとも拡大するのが55〜59歳のときで、このとき、女性の賃金は男性の66.2%にまで落ち込みます。ただ、60歳以降になると、両者の格差は大幅に縮小し、その割合は75.4%となりますが、これは前述した、定年後再雇用によって賃金が大きく下がる人が男性に多いからでしょう。  定年後再雇用の影響は 60 歳以降の非正規労働 者の賃金にも影響を与えています。というのも、 男女ともに 55 〜 59 歳の非正規労働者の賃金より も、 60 〜 64 歳の非正規労働者の賃金の方が高い どころか、男女ともに非正規全体で見ても賃金 のピークとなっているからです。このことから、 もともと非正規で働いていた労働者よりも、定 年後再雇用で非正規になった労働者の賃金の方 が高いことがうかがえます。  企業規模別の賃金の傾向についても見ていくと、大企業ほど賃金が高いことはみなさんも想像がつくところだと思いますが、一方で、60歳到達前に対する60歳以降の賃金の割合は、企業の規模が大きくなるほど広がり、2024年の結果では、小企業で91.5%、中企業では82.3%のところ、大企業では73.5%という結果になっています。  これは大企業ほど、60歳で定年後再雇用し、その際に賃金を大きく引き下げる雇用慣行を行う一方、中小企業では定年延長や定年後再雇用をともなわない継続雇用などにより、60歳以降も60歳到達前の賃金のまま働くケースが多いためと見られます。 3 民間給与実態統計調査から見る高齢社員の賃金  最後に、国税庁「民間給与実態統計調査」をもとに、産業別の賃金を見ると、60歳到達前(55〜59歳)と60歳以降(60〜64歳)で賃金に大きく差が出る産業とそうでない産業があるのがわかります(13ページ図表3)。  60歳以降で賃金が大きく下がる典型的な産業は、電気・ガス・熱供給・水道業で、60歳到達前の53.6%、郵便局や協同組合などが含まれる複合サービス事業も下がり幅が大きく51.4%となっています。これらの業種は行っている業務がインフラかそれに近いこともあって、安定的に業務があったり、もともとの賃金額も大きかったりすることから、定年を機に賃金を大きく下げたいという会社側の思惑が反映されていると見ることができるでしょう。これらほどではありませんが、金融業・保険業や情報通信業もそれぞれ68.0%、74.7%と下がり幅の大きい業種となっています。  一方で、学術研究や医療福祉などはそれぞれ90.1%と92.0%と、その差は比較的緩やかとなっています。こうした業種は業務が属人的であったり、代替が利かなかったりすることから、賃金を下げにくいという事情があるのかもしれません。また、建設業や農林水産・鉱業も60歳到達前と60歳以降の差が小さい産業となっており、こちらについては人手不足などにより下げたくても下げられないという事情がありそうです。 図表1 過去5年間の高年齢労働者等の賃金の推移 令和2年 令和3年 令和4年 令和5年 令和6年 全年代(平均賃金) 全年代(前年比) 55〜59歳(平均賃金) 55〜59歳(前年比) 60〜64歳(平均賃金) 60〜64歳(前年比) 65〜69歳(平均賃金) 65〜69歳(前年比) ※厚生労働省「賃金構造基本統計調査」をもとに筆者作成 図表2 雇用形態、性、年齢階級別賃金 男 55〜59歳 正社員・正職員 459.1千円 60〜64歳 正社員・正職員以外 298.7千円 女 55〜59歳 正社員・正職員 327.2千円 60〜64歳 正社員・正職員以外 217.0千円 出典:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 概況」 図表3 業種別および年齢階層別の給与額(年収) 55〜59歳 60〜64歳 割合 建設業 657万3000円 598万2000円 91.0% 製造業 640万3000円 511万3000円 79.9% 卸売業・小売業 433万1000円 363万8000円 84.0% 宿泊業・飲食サービス業 340万円 282万3000円 83.0% 金融業・保険業 772万6000円 525万4000円 68.0% 不動産業・物品賃貸業 588万3000円 507万4000円 86.2% 運輸業・郵便業 523万2000円 429万2000円 82.0% 電気・ガス・熱供給・水道業 993万3000円 532万8000円 53.6% 情報通信業 838万円 625万6000円 74.7% 学術研究、専門・技術サービス業、教育、学習支援業 651万9000円 587万1000円 90.1% 医療、福祉 456万2000円 419万6000円 92.0% 複合サービス事業 701万3000円 360万8000円 51.4% サービス業 421万2000円 361万3000円 85.8% 農林水産・鉱業 340万9000円 318万9000円 93.5% 出典:国税庁「民間給与実態統計調査」(令和5年分調査) 【P14-17】 解説2 賃金の法的位置づけと同一労働同一賃金 社会保険労務士川嶋事務所 所長 社会保険労務士 川嶋英明 1 労働基準法における賃金  労働基準法における賃金とは「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何(いかん)を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」と定義されています。つまり、賃金の名称が何であれ、それが労働の対償として支払われるかぎり、労働基準法においてそれは賃金となるわけです。  では、賃金の支払方法や決定方法はどうかというと、支払方法に関しては、労働基準法では「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と定められている一方で、決定方法については特に定めはありません。もちろん、支払う賃金額は最低賃金を下回ってはいけませんし、時間外労働や深夜労働などがあった場合には、法定の金額以上の手当を支払う必要はありますが、最終的に支払う金額がそれらを下回らないかぎり、賃金の決定方法は基本的に会社と労働者の取決め次第となるわけです。  とはいえ、それは会社の都合によって労働者の賃金を自由に変更することができることを意味しません。賃金をはじめとする労働条件は、会社と労働者の合意によって決まるものですし、両者の合意によって決定した労働条件を、会社が労働者にとって不利益な形で変更(労働条件の不利益変更)する場合、原則として、個々の労働者の合意が必要となるからです。実際、過去の裁判例を見ても、会社の都合で賃金を引き下げたり、手当を削減したりといった対応には、厳しい判断が散見されます。  つまり、賃金には下方硬直性があり、簡単には下げられないわけですが、日本の雇用慣行では、まだまだ年功序列的な賃金形態であることが多く、賃金は年齢とともに徐々に上がっていき、役職定年などを除けば、下がることはないのが一般的です。一方、定年後再雇用では、従来の賃金体系を見直し、新たな雇用条件を設定する契機となることが多く、また、その際、賃金水準が現役時代よりも低くなるケースが少なからず見られ定年後再雇用社員のモチベーションの低下といった課題が生じています。 2 定年後再雇用と同一労働同一賃金  労働者が定年退職を迎え、その後再雇用される場合、いままでの労働契約は終了し、新たな労働契約を結び直すことになりますが、あくまで新しい労働契約であるため、定年前の契約よりも賃金が下がったとしても(労働者側が新たな労働契約内容に十分に納得したうえで同意していることが前提)、それ自体が労働条件の不利益変更にあたるというわけではありません。  一方で、定年後再雇用者については、再雇用時の契約が有期雇用であったり、定年前よりも労働時間が短縮されたりするなど、非正規労働者となるケースは少なくありません。有期雇用労働者や短時間労働者などの非正規労働者は同一労働同一賃金の対象であり、もともと正社員で、定年後再雇用を機に有期雇用労働者や短時間労働者となった者も例外ではありません。そのため、定年前の労働条件や待遇と、定年後再雇用となった際の労働条件や待遇との間に、不合理と認められるような格差がある場合、それは「正規と非正規の格差是正」の対象であり、いわゆる「同一労働同一賃金」のための適切な対応が必要となります。 3 同一労働同一賃金の概要  日本の同一労働同一賃金では、正規と非正規の格差を是正することを目的としていますが、正規と非正規との間に基本給や手当などに待遇差を設けることを禁止しているわけではありません。そもそも正規と非正規では所定労働時間や所定労働日数のほか、職務内容や職責などの就労条件等の相違があることが一般的で、またそうした違いに応じて待遇に差を設けることはある意味当然といえるからです。そのため、正規と非正規の働き方の違いなどに応じて、待遇に差を設けること自体に問題はありません。  同一労働同一賃金において重要なのは、労働条件等の相違とその待遇差が「釣り合って」いることです。この釣り合いを考えるうえで重要となるのが「均等待遇」と「均衡待遇」です。  均等待遇とは、正規と非正規の前提条件が同一の場合、同一の取扱いをすることをいいます。例えば、「役職に就く」ことを前提に役職手当を支払うなら、役職に就いている者に対しては、正規・非正規の雇用形態に関係なく役職手当を支払う必要があります。役職に就くことが前提条件となっているわけですから、その前提条件と関係のない、正規・非正規といった雇用形態などを理由に差を設けることはできません。  一方、均衡待遇とは、正規と非正規で前提条件に異なる部分がある場合、その違いに応じた取扱いをすることをいいます。例えば、基本給について、正規と非正規で職務内容や職責、人材活用の仕組みといった、基本給を決定するうえで前提となり得る部分に相違があるのが普通ですが、そうした相違に応じて待遇差を設けることは問題ないわけです。また、所定労働時間や所定労働日数に相違がある場合に、所定労働時間に比例して手当の額を比例させたり、所定労働日数に応じて通勤手当の支払方法を実費とするか定期代支給とするかを変えたりといった対応も、均衡待遇に含まれます。  以上のように、均等待遇が必要か、均衡待遇が必要かは「前提条件」が同じかどうかで変わってきます。ここでいう前提条件とは、賃金項目や手当ごとの「支給目的」と、職務内容や人材活用の仕組みなどの「就労条件等の相違」がこれにあたります。 4 同一労働同一賃金に基づく賃金の見直し  この二つのうち、特に注意が必要なのは支給目的の方です。というのも、日本の雇用慣行では、手当の支給目的を深く考えず、正規だから支給する、非正規だから支給しない、という扱いをしている会社が少なくないからです。しかし、諸手当の支給目的を明確に定義してみると、正規と非正規で差を設けるに足る理由がないことがあります。つまり、同一労働同一賃金において、不合理な格差が生じてしまっている会社も少なからずあるということです。  一方、就労条件等の相違については、そもそも同一労働同一賃金における「就労条件等」とは何かを見る必要があるでしょう。こちらはパートタイム・有期雇用労働法第8条にて、「@職務内容(業務内容・責任の程度)」、「A職務内容・配置の変更範囲(いわゆる「人材活用の仕組み」)」、「Bその他の事情」の三つがあげられています。  つまり、正規と非正規の間に賃金などの待遇差があったとしても、上記の三つの項目にあてはまる何らかの就労条件等の相違があり、かつその待遇差が相違に応じた範囲であれば、それは均衡の取れた待遇となるわけです。逆に、そうした相違がない場合は、均等待遇の考えから待遇差を設けることはできません。そのため、仮に正規と非正規の間に相応の相違がないにもかかわらず待遇差だけがあるという場合、その待遇差は不合理と判断される可能性が高くなります。  なお、三つの項目のうちBその他の事情、については、正規と非正規の待遇差を決定するうえでの労使間での交渉や、非正規から正規への登用制度があるかどうかなどが、過去の裁判例で、その判断要素としてあげられています。また、高齢者、特に定年後に再雇用された者に関しては、定年という制度の特性や現役時代とのライフスタイルの違いなどの観点から、定年後再雇用者であること自体が、「Bその他の事情」になると裁判で判断されたケースもあります。 5 同一労働同一賃金をふまえた高齢労働者の賃金の見直し  では、定年後再雇用者の賃金決定の実務においては、これらをどう考えていけばよいのでしょうか。  まず、すでに述べたように、高齢労働者のうち定年後再雇用される者については、再雇用を機に、無期雇用から有期雇用に転換したうえで、賃金を下げる方向で見直されることが少なくありません。そして、この賃金の引下げにおいては、定年前に支払われていた諸手当の多くを不支給としたうえで、業務内容やその他の就労条件等をあまり考慮せず賃金を定年前の一定の割合、多くの場合は6割前後とするケースが多く見られます。  しかしながら、こうした従来の一律的な賃金の引下げは、同一労働同一賃金の観点から見ると、放置すれば違法となる場合もあるため、見直しが必要です。  これを具体的に見るため、ここではとある架空の会社「A社」を例に見ていきます。  このA社では、定年前の労働者には基本給、通勤手当、役職手当、精皆勤手当、家族手当が支給されていた一方、定年後再雇用では、基本給については一律に減額、諸手当については、通勤手当以外は不支給とする取扱いをしています。  見直しにあたって、まずふまえておく必要があるのが、同一労働同一賃金に違反しているかどうかをどう見ていけばいいのかという点ですが、これは賃金項目ごとに見ていきます。つまり、正規と非正規の基本給を比較して同一労働同一賃金に違反していないか、あるいは正規と非正規の諸手当の一つひとつが同一労働同一賃金に違反していないかどうかを確認していくわけです。 6 定年後再雇用と諸手当  特に、諸手当については、同一労働同一賃金の解説でも見たように、その支給目的によっては正規か非正規かどうかが、その支給不支給に直接かかわってこないものが少なくありません。そのため、基本給と比較しても同一労働同一賃金に違反しやすい項目となっています。  まず役職手当については、定年前か後かにかかわらず、その支給目的から、条件を満たすかぎり支給が必要な手当となります。つまり、役職に就くかぎりは支給が必要と考えられるわけですが、逆にいうと、定年後再雇用や役職定年制度などにより役職から外れたことを理由に不支給とすることには相応の妥当性があるといえます。  次に、精皆勤手当ですが、こちらは過去の最高裁判所の判例(長澤運輸事件・最高裁平成30年6月1日判決)にて、定年前と後で、出勤をうながすという支給目的やその必要性が変わらないかぎり、基本的には支給が必要な手当との判断が出ています。そのため、定年後再雇用を理由に不支給としている会社があるとすれば、見直しを急ぐべき手当となります。  最後に家族手当についてですが、こちらは最高裁判所における判決にて、現役世代を対象とする事案と定年後再雇用者を対象とする事案で異なる考えが示されている手当となっています。  現役世代の判断となった判例(日本郵便事件・最高裁令和2年10月15日判決)から見ていくと、こちらでは正規か非正規かといった雇用形態にかかわらず、契約社員であっても「相応に継続的な勤務が見込まれる」のであれば、扶養手当を支払う必要があるとしました。  一方、定年後再雇用者に関する判例(長澤運輸事件)においては、老齢厚生年金がもらえることや、現役世代と高齢者のライフスタイルの違いなどを理由に、不支給とすることを不合理とは認めないとする判断が出ています。つまり、高齢労働者に関しては「その他の事情」として、高齢労働者特有の事情が考慮され、不支給でも不合理ではないという判断につながったわけです。理由の一つである老齢厚生年金については、最高裁の判断が出た当時よりも支給開始年齢が遅くなっているなど、当時とは状況が変化しており、そのほかの条件によっても判断が異なる可能性はありますが、少なくとも、定年後再雇用者だからと、短絡的に支給不支給を決定するのではなく、個々の会社の家族手当の支給目的に立ち戻って支給不支給の検討をする必要があるでしょう。 7 定年後再雇用と基本給  では、基本給についてはどうでしょうか。  現役世代と高齢者、特に定年前と定年後の基本給に関しては、定年制度が持つ性格から、両者に支払われる基本給は、同じ名称であったとしてもその性質や支給目的が変わってくるとされています(名古屋自動車学校事件・最高裁令和5年7月20日判決)。そのため、定年前と後で職務内容等に相違がない場合であっても、基本給に差があること自体はある程度許容されると考えられますが、とはいえ、基本給の性質や支給目的と待遇差に関して、どういった違いがあればどこまで差を設けてよいか、という点に明確な基準は現状ありません。  なお、定年後再雇用を機に、職務内容や職責などの見直しにより、これまでよりも軽易な業務に変わったり、職責が軽くなったりする場合は、その変更に応じた範囲で賃金を見直すことは、同一労働同一賃金に沿った変更であると考えられます。  以上のことから、定年後再雇用社員の基本給については、職務内容や職責などの変更についての検討とあわせて、賃金を含む労働条件の見直しを行っていく必要があるといえるでしょう。賞与や昇給に関しても、基本的な考え方は基本給と同じです。 8 おわりに  先に述べた通り、定年後再雇用社員の賃金の引下げは、当該労働者のモチベーションを低下させ、それは仕事のパフォーマンスにも影響します。人手不足など会社が置かれている状況にもよりますが、場合によっては、同一労働同一賃金に基づいた賃金の見直しではなく、定年後再雇用による賃金引下げの雇用慣行自体の廃止も検討すべきでしょう。  いずれにしてもここまで見たように、賃金項目の支給目的や高齢者の業務内容を精査していくことが、法的にも、労働者側の納得性という意味でも重要といえます。 【P18-21】 解説3 等級制度の基礎知識 株式会社パーソネル・ブレイン 代表取締役 社会保険労務士 二宮(にのみや)孝(たかし) 1 等級制度とは何か  「等級制度」とは、従業員の職務遂行能力や職務の大きさ、役割などに応じて序列化のうえで格付けし、それに応じた処遇(賃金や昇格など)を決定する枠組みです。  日本企業では長く終身的雇用を前提とした一社固有の「職能資格制度」が主流でした。しかしながら、年功的、勤続功労的な運用に流されていたというところが否めなかった部分があります。特に中小企業では体系的な制度として整備されていなかったり、形骸化して属人的な運用になっていたりすることも見受けられます。  現在、急速な少子高齢化や経営環境の変化により、成果や役割に応じた公平な処遇への転換が求められてきています。  等級制度は、単に「賃金のランク区分」に留まるものではなく、個々の従業員の成長や活用していくための基盤として、組織力の強化にも結びつく重要な制度です。あわせて、近年は人材としての投資や競合他社との競争力強化、さらには若年層の定着化と賃金水準アップなどへの対応が求められ、等級制度の戦略的な見直しが急務となっています。 2 「職能資格制度」、「職務等級制度」、「役割等級制度」の違い  等級制度には大きく以下のタイプがあげられます。 (1)職能資格制度  従業員が現在持っている「能力(スキル)」に基づいて該当する等級に格付ける制度であり、これまで日本の企業で最も一般的に用いられてきたものです。能力開発を基盤においた長期育成型ともいえますが、反面、昇格や昇進は年功や経験と結びつきやすく、実際の担当職務や成果との連動が曖昧になりがちで、職能とはいいながら、能力主義とは乖離した年功的処遇の温床になりやすいという問題を含んでいたといえます。 (2)職務等級制度  欧米型企業に多く見られる制度で、いわゆるジョブ型人事として注目されてきており、従業員個人の年齢や勤続年数ではなく、職務の内容に沿って担当と責任の範囲を明確にし、その付加価値に基づいて等級を設定するものです。  組織の透明性は高まり、これから目ざすべき職務基準型の人事制度として注目されています。導入にあたっては、職務分析を行い、業務ごとの職務記述書(ジョブディスクリプション)を策定することが求められます。特徴としては以下の通りです。 ・業務責任を明確にし、従業員の役割意識を向上させることが期待できる。 ・賃金決定の基準の明確化のもとに公開されるものであり、従業員にとって公平性、納得性が期待できる。 ・職務に沿った人材の配置や採用を可能にさせる。  一方で注意すべき点もあります。 ・これまでの日本の人事制度で重視されてきた「計画的異動配置( ジョブローテーション)」や、長期間をかけての「多能化」にはそぐわないところがある。 ・職務記述書の定期的な見直しが求められ、運用がむずかしく煩雑になる。 ■職務記述書の策定  先述のように、職務等級制度では職務記述書の策定が前提となります。具体的には、職務ごとに、その成果は何か、具体的にどのような業務を行っていくのか、さらに必要なスキルや資格要件などを明確にしていくものです(図表1)。 (3)役割等級制度  近年日本企業で広まってきている制度です。職務内容そのものというよりも「になっている役割の大きさと期待度」に応じて該当する等級を定めるものであり、職務等級制度と比較してあいまいな余地は残るものの、変化の激しい現場に柔軟に対応できるのがメリットであるともいえます。職能資格制度と理念に陥りがちな職務等級制度との中間に位置し、日本の多くの企業でなじみやすい制度といえます。 3 「職能給」、「職務給」、「役割給」、「業績給」の違いとは  では等級制度に関連づけられる賃金をどうとらえるのか、要素ごとに見てみましょう。  図表2を見てわかるように、能力の高さ、および伸びた長さ(伸長度)を反映した「職能給」、担当する仕事の大きさ・職責など職務価値を反映した「職務給・役割給」、個々の責任に応じて反映される「業績給」(いわゆる成果給としての考え方)とに分けてとらえることができます。  等級に連動する賃金制度も三つのタイプに分かれます。 (1)職能給  職能資格制度に基づき、従業員のスキルや知識、能力水準に応じて賃金を設定するものです。年功・勤続功労的に陥りやすく、担当職務の大きさや職責と乖離する可能性を含んでいます。そういう意味では、若年層を中心に処遇の納得感を得にくいともいえます。いい換えると、新卒を中心とした一括採用を念頭に、結果というよりも成長プロセスを重視する日本ならではの企業風土になじんできたともいえます。  特に最初の段階は右肩上がりでアップしていくことになりますが、中堅の指導・監督職クラスになれば能力主義のもと、格差が拡大していきます。ただし職能給の設計と運用には年功的な要素を含んだ穏やかなものから、かなりメリハリをつけた実力強化型まで非常に幅広く、企業の実態に応じて独自のものとなります。  なお、図表2の左に位置する年功給(「本人給」などともいわれている)などの属人給(個々の従業員の属性に対して支給する賃金)は、以前は基本給に正式に組み込んでいた企業もありましたが、最近ではあまり見なくなってきました。これは、職能給のなかには、もともと年功的な要素も含まれているため、年齢給と職能給をダブルの年功で設定する必要がないとの考え方から見直した企業が多かったためと思われます。 (2)職務給  職務等級制度と連動し、従業員が担当する職務の付加価値に応じて賃金を決定する制度です。グローバル企業や外資系企業に多く、公的資格の裏づけがあるなどかぎられた専門職や定型職務が多い業態では有効ですが、職務評価をはじめとして運用がむずかしい面があります。  また、職務給は仕事の価値が上がればその時点から昇給、ダウンすればその時点から降給、変わらなければ維持というきわめて合理的で明瞭な賃金であるといえます。ただし、降給の場合には不利益変更の問題が出てくるので注意が必要です。 (3)役割給  役割給は職務給と同じ範疇に位置づけることができますが、異なる点としては、役割等級制度に対応し、職位など従業員に期待される役割責任の度合いや期待される成果に対応して賃金を決定するものです。大企業をはじめとして、日本の多くの企業が移行してきている方式で、設計、導入にあたっては職務給以上に柔軟性があり、経営環境に応じて変動しやすい人件費管理を含む人事マネジメントが運用しやすいのが特徴です。  また、職務給ほど精緻なものではなく、役職位に連動することも特徴としてあげられることから、管理職や専門職にも多く採り入れられています。ただし、配置や異動は会社が発令するものであることから、従業員への納得性とモラール維持の面での配慮が欠かせません。 (4)業績給  業績給は、全社もしくは対象となるグループ組織の業績(結果としての成果)について分析評価し、その業績のなかから対象者に支給すべき原資を決定し、貢献度(寄与度)に応じた一定の配分ルールのもとに分配される賃金です。このことからメリハリがつきやすく、また会社としては実際にあげた業績の一部を従業員に還元するという合理的な賃金であり、都度キャンセルされる(毎期毎期が不連続)ということが特徴です。役割給は担当する役割(仕事の価値)を評価して決定されるのに対し、業績給はその結果(アウトプット)を評価して決定されます。業績給は、年俸制を採る場合や賞与制度で採り入れられています。 4 「ジョブ型」と「メンバーシップ型」の考え方  現在、人事制度の再構築において注目されているのが、「ジョブ型雇用」と「メンバーシップ型雇用」です。  ジョブ型雇用は、個々の職務内容を明確に定めるとともに、職位ごとに必要な人材を配置・採用・評価する方式です。欧米をはじめとして、グローバル企業では一般的であり、成果主義のもと職務重視の文化に適しているといえます。これに対し、メンバーシップ型雇用は、日本の従来型雇用慣行であり、「人:ヒト」に対して雇用契約を締結し、配置転換や育成を前提とする柔軟な制度です。OJT(On the Job Trai-ning)重視の社内専門職育成、中長期的な雇用安定、企業文化を醸成していくもので、ジョブ型と比較して、職務と賃金との連動性については薄いといえます。  現在、「ジョブ型」への関心は高まってきていますが、日本型雇用との乖離や法規上、実務上の課題を受けて、「役割型」など、折衷型の人事を模索する企業が多いといえます。 5 高齢従業員にも対応可能な等級制度  超高齢社会の進展にともない、定年延長や再雇用者の戦力化が大きな課題となっています。等級制度の運用においても、高齢従業員に対して「役割の明確化」と「処遇の納得性」を両立させる必要が出てきています。  特に再雇用者に関しては、次のような視点が重要となります。 @年功的賃金のリセット  職能資格制度をそのまま適用すると、再雇用後も「過去の評価」の延長での処遇に陥りがちなため、あらためて職務・役割基準で再格付けを行うことが求められます。 A多様な選択肢の用意  高齢従業員が自身の健康・生活状況に応じて、短時間勤務や限定業務などの選択可能な勤務制度に対応した、柔軟な制度設計が求められてきています。 B評価制度とリンクしたうえでの密なコミュニケーション  再雇用者などへの等級・処遇変更にあたっては、具体的な職務基準および評価基準を明示するとともに、納得がいくようなていねいな説明が不可欠であるといえます。 6 まとめ  等級制度の見直しは、人事制度改革の中核となり、従業員の成長、納得感、組織の生産性向上に直結するものです。特に中小企業では、経営層による方針の明確化のもとに、「できるところから段階的に進めていく」ことを念頭に、足元をしっかりと見すえた導入しやすい制度の設計が不可欠であるといえます。 図表1 職務記述書の項目例 項目 内容 職務 営業部長、製造課長、経理係長、技術主任など 所属部署 部門名・部署名(営業部、経理課、開発部など) 職位・等級 組織上の職位、職務等級、グループリーダークラスなど 職務の役割使命 職務の目的や意義 主な職務内容 職務の中心業務について、重要度や頻度など 副次および補助業務 必要なサポート業務など 権限と職責の範囲 意思決定や予算・人事管理などの範囲と基準 上司および部下 上司の役職位、部下の人数や構成など 社内外の関係者との連携 関係部署・顧客・仕入先など 業績指標 担当職務の成果を測定するにあたっての基準 職務で求められる知識・技能・資格・経験など 業務遂行に必要な学歴・知識・公的資格・業務経験など 職務上の行動特性 職務上求められる能力、特性(問題解決力、対人折衝力など) 労働条件の特記事項 勤務地、勤務時間、時間外、休日、出張(国内外)、危険業務の有無など 更新履歴・作成日・作成者 作成、更新日、作成の部署・責任者など ※筆者作成 図表2 賃金の要素 賃金から見ると… 川上から川下へのシフト 年功給 (年齢給・勤続給) 〈属人的要因〉 年齢や勤続が高く、長くなったことに対して支払う 職能給 職務給・役割給 業績給 〈仕事をする人〉→〈仕事の過程〉→〈仕事の結果〉 能力が高くなったことに対して支払う 担当する仕事の価値に対して支払う 期間ごとの成果に対して支払う ※筆者作成 コラム 職能と職務の違いは何か  職能資格制度でいう“職能(職務遂行能力)”と職務等級制度でいう“職務”の違いとはいったい何なのでしょうか?スーパーの鮮魚コーナーを例に考えてみましょう。  図表を見てもわかるように、突き詰めると、両者の違いは必ずしも明確なものではないともいえます。“職務”の運用にあたっては、例えば、見習い段階として補助的業務に就いている場合や、人手不足のために担当させざるを得ない場合はどうとらえるべきかなどの問題がでてきます。すなわち、純粋に“職務”だけを見ても不十分であり、「〜のような支援が求められる」など、“職能”を含めて実態をとらえることが必要になってくるといえるでしょう。  これらのことから、職能基準ではあまり問題にならなかったことが、職務基準については、動機づけの面からも納得できるように客観的で合理的な基準(職務記述書)の策定が求められるといえるのです。 図表 職能と職務の違い (スーパーの鮮魚コーナーの例) 切り口 職能 職務 基本基準 魚を3枚におろすことができる 魚を3枚におろす業務を現在になっている 着眼点 どのくらいできるレベルにあるのか(抽象的であいまいになりがち) どのくらいの職務価値があるのか(個別具体的で比較可能なように客観性まで求められる) 基本賃金 職能給 職務給 課題 職務の実態から外れることもあって、年功(勤続功労)に流される傾向にある 「〜ができるのに、現在担当させていない(いわば宝のもちぐされ現象)」ことや「〜がまだ十分できないのに担当させる」こともある ※筆者作成 【P22-25】 解説4 代表的な評価制度 株式会社パーソネル・ブレイン 代表取締役 社会保険労務士 二宮孝 1 これからの人事評価制度  日本の企業における評価制度は、長年にわたり年功序列型の集団管理的な人事制度を基盤においたものでした。  しかしながら、ここにきて「働き方の多様化」にも対応した職務基準に則った客観性と組織貢献度を重視する評価への移行が進みつつあるといえます。  また、高齢者の積極的な雇用を進めていくにあたり、トータル人事制度のなかでも評価制度がこれまで以上に重要になってきています。あわせてこれからの評価は、人材の定着化を推し進め、個々の従業員にとっては自らの成長が実感できる評価が求められてきているともいえます。 2 評価制度の設計 (1)設計の基本  評価制度の設計にあたっては、経営の見える化のもとに、人材ビジョンを明確にすることから始める必要があります。次に評価の枠組みを、例えば成績と職務行動および能力の切り口から区分したうえで設計します。成績は担当職務からみて期待される成果そのものをとらえるものです。  これに対して職務行動はプロセスの評価であり、成果に至るまでの途中の経過を、期待される人材からの行動特性などから追ってとらえます。また、成績と職務行動は一定の評価期間からとらえるのに対し、能力はその時点での能力の開発レベルを評価するもの、すなわち定点観測といってよいでしょう。 (2)評価要素の構成  評価制度でいう評価要素については、以下に分かれます。 @成績・業績  “成績”は、評価期間中の担当職務の遂行度を評価するものです。シンプルにみれば、量的な見地×質的な見地でとらえるという方法が考えられます。また、成績のなかでも直接成果として付加価値の大きさまでとらえたのが“業績”となります。  なお、管理職など上位職については、成績のウエイトを高く設定しています。 A職務行動−業務プロセス  成績を補足的にとらえる項目で、業務の進展の度合いをみるものですが、職掌(渉外営業や技術開発など、職種を大括(おおぐく)りにした人事管理上の区分)ごとに整理したうえで具体的にとらえます。  B職務行動−勤務態度(姿勢)  文字通り、仕事に取り組む態度、姿勢を評価するものです。日常的な職務行動を観察したうえで評価を行います。  例えば、組織内であらかじめ定められたルールを守ったかどうかの「規律性」がありますが、昨今では「コンプライアンス」の観点から重視されるなど、職務の変化とあわせてその時代に何が求められているかによっても変化してきています。ほかにも、リスキリングが重視される時代において、マンネリに陥らずつねに高い目標課題に取り組む「向上心(改善意欲)」や、これまで経験した業務の習熟のみに限定されることなく、自らスキルアップに励む「自己啓発意欲」などが注目されています。また、高齢社員に対しては、唯我独尊に陥らず、組織運営が円滑に行われるための「チームワーク」がいっそう期待されてきています。 (3)能力  ほかの評価要素が比較的短期でとらえるのに対して、中長期的な広い視野に立って、本質的な実力がどの程度のレベルかを測るのが能力評価です。管理職や専門職などの上位職については、適性をとらえ、昇格・昇進への活用を中心に運用されています。一方で、社会人経験が浅い従業員については、能力開発と動機づけの面から実施されています。いずれにしても、職掌・等級別の期待基準からの絶対評価が求められるところです。 3 業績評価と目標管理  “目標管理”(management by objective;MBO)は、P・F・ドラッカーが著書『現代の経営』のなかで提唱したのが始まりといわれています。従業員が自己の担当する職務について具体的な目標を設定し、その成果を評価するもので、従業員の自己評価が重要とされ、達成に向けて動機づけを図る制度とされています。  目標管理における“目標”とは、従業員自らも目標設定の段階から参画し、理解し納得したうえで設定した科学的な手法で導かれた目標値でなくてはなりません。  一方で、従来の目標管理は、「数値目標中心」、「一方的な上意下達」、「評価のためだけの制度」に陥りがちになってきていることも否めないところがあります。これらのことをふまえ、これからの目標管理制度は、次の観点からの見直しが求められています。 @組織貢献度について注目すること  個々の業務目標は、部門や全社の方針と整合し、相互に補完するものでなければなりません。 A定性的成果も採り入れること  単に数値目標に終始するだけではなく、より広く定性的な成果としてもとらえます。 Bコミュニケーションを重視すること  面接制度のもと、期末時点の評価だけでなく、目標設定面接→中間進捗状況面接→達成度評価面接などの段階を設け、上司や部下との対話をより重視していく必要があります。  なお、特に高齢社員に対しては、個々の業績に留まることなく、メンター的役割や若手の支援、育成など、チーム貢献を重視した目標設定が望まれているといえます(24ページ図表1、図表2)。 4 職務行動評価とコンピテンシー (1)職務行動評価  職務行動評価のための基準策定にあたっては、「コンピテンシー(行動特性)」が中心になってきました。これはアメリカにおける行動心理学から発生したもので、成果に導くための「行動」そのものに焦点をあてた評価手法です。すなわち、平均者よりも実際に高い成果をあげている優秀者の行動をものさしとすることで、人というよりも、成果からみた代表的な行動に注目し、これにともない、「〜する・〜している」という具体的な行動基準レベルで目に見える形でとらえるとともに、階層や職種ごとに必要な特性を選択のうえ限定化したものです。  コンピテンシー評価の導入・再設計にあたっては、以下の視点が重要となります。 @階層別・職種別に定義された行動モデルの明確化  例えば管理職などには「意思決定力」や「部下育成力」、一般職には「顧客対応力」や「協働姿勢」といったように、求められる行動を職責に応じて明らかにします。 A評価の精度向上  役割に応じた行動の実現度合いを公平、公正に評価し、評価者による主観のばらつきを抑えるためには、評価者研修と、一次評価者より上位の二次、三次評価など複数評価者による相互のチェックが欠かせません。  なお、行動評価は、成績評価とあわせて運用することで、双方の関係からとらえることにより納得性が高まるとされています(図表3)。 5 360度評価 (1)360度評価とは  360度評価は、上司、同僚、部下、顧客など複数の視点からの多面的評価を行うもので、従来の偏りがちな評価を補完し、スキルや行動傾向を広く把握することが目的です。また、従業員自身と他者の認識のギャップを明らかにし、PDCAサイクルからの自己成長を促進することが期待でき、リーダーシップやマネジメント能力を評価することにより、人材育成計画や後継者選抜にも活用することができます。  実際に360度評価に関心をもつ企業は多いですが、一方で、導入において配慮すべき点も少なからずあります。 @バイアス発生のリスク  個人的な好き嫌い、なれ合いからの相互の高い評価など、正当でないバイアスが発生することを前提におく必要があります。 A負担と運営コストのリスク  説明会から実施、集計、フィードバックなど人事部門と当事者の負担が大きくなります。 B心理的ストレスのリスク  批判的な意見が匿名で発せられることになり、不安と疑念が生じやすくなります。 C実態と乖離のリスク  評価者が対象者と接触の少ない場合や、評価者の評価能力や偏りなどもあらかじめ考慮する必要があります。 (2)360度評価導入の留意点  リスクが大きいために以下に留意する必要があります。 @目的と対象の明確化  何のために360度評価を行うのかを明らかにし、目的に応じた項目を設定することが求められます。 A評価者の選定  評価者による偏った評価を避けるための選定および説明会の実施とあわせて匿名性の担保を確保することが求められます。 B運用設計の工夫  回答者選定の基準設定を始め、集計・分析のシステム化が求められます。 Cフィードバックとフォロー  結果報告を受けて、適正な解釈のもとに面談を通じての支援や行動計画の策定から、実効性をもたせるものです。  一方で、昇給や賞与などへ直接反映すること(賃金査定)は、導入当初の段階では避けることが肝要です。また、再雇用者を含む高齢社員にも適用する際には、後輩からの評価が中心になることもあり、双方の理解が得られ、円滑に進めていくために評価範囲やフィードバックにあたってさらなる工夫が求められるところです。 6 まとめ  評価制度は、導入して終わりでは決してなく、「運用」を重ねたうえでの柔軟な「見直し」が重視されます。このために、以下の点に留意する必要があります。 @組織文化と整合させること  制度だけが先行すると形骸化します。現場の管理職や従業員が制度の趣旨を理解、納得し、日々の職務行動に活かす仕組みと、このためのマニュアルなどの整備が欠かせません。 A評価者研修の定期的実施  評価者には、行動を逐次観察する能力をはじめ、部下とのコミュニケーションスキル、フィードバック技術などが広く求められてきます。定期的な研修やケーススタディを通じて評価能力を高めていくことが重要です。 B高齢社員を含む多様な人材への対応  役割・等級の明確化に加え、多様な働き方(短時間勤務、副業・兼務、在宅勤務など)にも配慮した評価基準の策定が求められます。 C評価のPDCAサイクル  制度導入後も必要な見直しをいとわず、制度の運用状況や社員の納得度、業績との関連性におけるフォローが欠かせません。「戦略的な人事」を進めるためには、評価制度の見直しを継続し、評価制度の効果を高める姿勢が重要となります。  以上、人事評価制度は企業の持続的な成長と働く人々の活躍を支える戦略そのものであるという認識をもつ必要があります。これからは、多様な人材がそれぞれの能力を最大限に発揮し、組織に貢献できるような効果的な評価制度となるよう目ざすとともに、これを的確に運用していくことが、これからの人事制度のキーファクタ―になってくるといえるでしょう。 図表1 目標設定例 目標 達成すべき水準 達成方法など 営業部門 担当売上高の達成 受注額/△千万円 ○○;△△千万円 ○○;△△千万円 ○○;△△千万円 省略 新規訪問件数の達成 訪問件数/50件 うち見積もり提出まで15件とする キャンペーンの達成 ○○/200件 ○○/150件、その他/△△件 間接部門 ○○業務におけるミスを発生させないこと 通常、一般的に起こりうる軽微な業務ミスを◇%削減するとともに、重大なミスを発生させないこと ○○業務における期限を順守すること 期限の半月の余裕をもってすべて完了させること ○○調査に関する分析、報告 ○月中旬までプロジェクト委員会に諮り、了解を得ること ※筆者作成 図表2 目標管理を形骸化させない取組み例 (リーダークラス以上への通知から) ※以下について「必須課題」とし、必ず目標のなかに1題以上設定してください。 @業績に直結するもの(特に営業職)。 A新技術の開発や新規開拓に関するもの。 B改良、改善、業務の効率化に関するもの。  …技法・手続き・実行手順を見直したうえで、新たなとらえ方で業務を進める場合。 C顧客満足度の向上に結びつくもの  …管理部門や間接部門では、社内の各部門を顧客としてとらえてみてください。 ※筆者作成 図表3 コンピテンシー評価例(指導、助言) レベル 視点 行動例 レベル1 チームの一員としての助言 新人やアルバイトなどに対して、自ら得た知識と経験から日常定型業務の一部について助言を行っている〜 レベル2 チームの先輩格としての助言 後進に対し、必要に応じた助言、指導を行っている〜 レベル3 グループのリーダーとしての助言、指導 指導職として日常的な業務指導を行っている〜 レベル4 マネジメント的視点からの指導、育成 これまでの豊富な経験を広く活かせる指導役として後進の指導、育成にあたっている〜 レベル5 部門横断的視点からの包括的、専門的な指導、育成 部下の業務指導はもとより、スキルアップやキャリア形成の任にあたっている〜 ※筆者作成 【P26-27】 解説5 在職老齢年金・高年齢雇用継続給付と賃金の調整 社会保険労務士法人かわごえ事務所 代表社員 川越(かわごえ)雄一(ゆういち) 1 はじめに  60歳以上の高齢社員の継続雇用を考えた場合、まず思い浮かぶのが公的給付としての「在職老齢年金」と「高年齢雇用継続給付」制度です。この二つの制度は受ける賃金額や制度間での支給調整が行われます。  本稿では二つの制度についての仕組み、受給のための手続きなどについて解説します。 2 在職老齢年金  在職老齢年金は、勤務先で厚生年金保険に加入しながら(在職中)、老齢厚生(退職共済)年金を受給している方について、賃金(報酬)と年金の合計額が一定額を超えると、年金の一部または全部が支給停止される制度です。 ●賃金と年金額で調整される(図表1)  賃金と年金額の合計額が51万円(2025〈令和7〉年度)を超えると、超えた額の2分の1の年金が支給停止されます。51万円以下であれば年金は全額支給されます。ここでいう賃金とは、毎月の賃金(標準報酬月額)に、その月以前1年間に受けた賞与(標準賞与額)を12で割った額を足した額で、「総報酬月額相当額」といいます。  また、年金額とは、老齢厚生年金(年額)を12で割った額(加給年金は除く)で、「基本月額」といいます。年金支給停止額を計算式にすると「(総報酬月額相当額+基本月額−51万円)×2分の1」になります。例えば、「総報酬月額相当額」が45万円、「基本月額」が8万円であれば、1カ月あたり1万円の年金が支給停止になります※。 ●在職老齢年金額の変更  在職老齢年金における支給停止額は「総報酬月額相当額」と「基本月額」により決まりますから、これら二つが変わると支給停止額が変更になります。  「総報酬月額相当額」のうち、毎月の賃金をもとにした標準報酬月額は毎年4・5・6月に受けた賃金額の平均、および昇給などがあった月以降3カ月間に受けた賃金額の平均により改定されます。  また、65歳以後も在職中の場合、年に一度9月1日を基準日として、直近1年間の被保険者期間を反映して年金額が再計算され、毎年10月分から改定されます。これを「在職定時改定」といいます。なお、在職中に70歳に達して厚生年金保険に加入しなくなった場合は、9月1日を待たずに年金額が改定されます。 ●在職老齢年金の対象者  老齢厚生年金を受給しながら厚生年金保険に加入している人が対象です。老齢厚生年金の支給開始年齢は段階的に引き上げられており、男性は1961(昭和36)年4月2日以降、女性は1966年4月2日以降に生まれた人は原則として65歳からの支給になります。そのため、今後は原則として65歳以上の人が対象になります。また、2007年4月1日以降は、厚生年金保険の加入要件を満たしながら働く70歳以上の人も、年金には加入しませんが、在職老齢年金の仕組みが適用になっています。 3 高年齢雇用継続給付  高年齢雇用継続給付は、賃金が60歳到達時等に比べて一定以上低下した雇用保険被保険者に対して支給される給付金です。自社で定年後に再雇用された人向けが「高年齢雇用継続基本給付金」、失業給付等を受給後に再就職した人向けが「高年齢再就職給付金」です。 ●制度の仕組み(図表2)  高年齢雇用継続給付は、雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者に対して支払われる賃金額が、60歳到達時等の75%未満となった場合に支給されます。支給額は、60歳以降に受けた賃金額の最高10%に相当する額です。ただし、2025年3月31日までに高年齢雇用継続給付の受給資格要件を満たす人の支給率は最高15%です。  60歳到達時等の賃金月額とは、原則として、60歳に到達する前6カ月間の総支給額(賞与は除く)を180で割った賃金日額の30日分の額です。ただし、上限額、下限額があります。  60歳以降の賃金とは、支給対象月に支払われた賃金(賞与を除く)です。支給対象月は、原則として60歳から65歳までの期間内にある各暦月(初日から末日まで被保険者であることが必要)です。 ●受給対象と受給手続き  受給対象は次の要件をすべて満たす場合です。@60歳以上65歳未満の一般被保険者であること、A被保険者であった期間が5年以上あること、B原則として60歳到達時等と比較して、60歳以降の賃金が60歳到達時等の75%未満となっていること、です。高年齢再就職給付金については、加えて、再就職の前日における基本手当の支給残日数が100日以上あることなどです。  受給手続きは、原則として事業主が2カ月に一度、管轄のハローワークから指定された月に支給申請書を提出します。 ●在職老齢年金と高年齢雇用継続給付の調整  65歳未満で在職老齢年金の支給を受けながら、同時に高年齢雇用継続給付の支給を受けている期間については、高年齢雇用継続給付の給付額に応じ年金の一部が支給停止される場合があります。停止率は、「標準報酬月額÷60歳到達時等の賃金月額」の低下率が64%以下の場合に標準報酬月額の最高4%(2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の受給資格要件を満たす人は6%)です。そして、低下率が大きくなるにつれ停止率は徐々に少なくなり、75%以上になると支給停止はなくなります。 ※ここで取り上げている調整額は2025年度のものです。法改正により、2026年4月よりこの調整額は引き上げられる予定です 図表1 在職老齢年金の年金支給停止の仕組み 超過額の1/2停止 年金支給停止額 51万円 総報酬月額相当額 老齢厚生年金 (基本月額) 支給停止対象外 加給年金(*) 老齢基礎年金 対象となる賃金・年金の範囲 *老齢厚生年金が支給(一部支給)される場合、加給年金額は全額支給されるが、全額支給停止される場合、全額支給停止となる。 ※筆者作成 図表2 高年齢雇用継続給付金の基本的な支給イメージ 60歳 65歳 60歳到達時等の賃金月額 75%未満に低下 60歳以降に支払われる賃金 給付金=賃金低下率に応じた支給率を掛けた額 ※筆者作成 【P28-29】 解説6 退職金の基礎知識 社会保険労務士法人かわごえ事務所 代表社員 川越雄一 1 はじめに  退職金制度は高齢者等の退職者を対象にしますが、若年者にとってもいずれは訪れることであり他人事ではありません。ですから、退職金制度を整備しておくことは、若年者にも安心感を与え、そのことが定着率を高めることにもつながります。  本稿では、高齢者雇用を見すえた退職金制度見直しのポイント、退職金制度の種類と用語などについて解説します。 2 退職金制度見直しの考え方  退職金制度は法律上の義務ではありませんが多くの企業で導入されています。おもに退職一時金と退職年金ですが、一般には前者が多いと思います。 ●退職金(退職給付)制度の現状  厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」によると、退職給付(一時金・年金)制度のある企業割合は74.9%となっています。企業規模別にみると、「1000人以上」が90.1%、「300〜999人」が88.8%、「100〜299人」が84.7%、「30〜99人」が70.1%となっています。また、退職給付制度がある企業について、制度の形態別の企業割合をみると「退職一時金制度のみ」が69.0%、「退職年金制度のみ」が9・6%、「両制度併用」が21.4%となっています。 ●70歳まで働く時代の退職金制度  多くの企業の退職金規程は60歳定年を想定したものになっているのではないでしょうか。しかし、いまは高年齢者雇用安定法において65歳までの雇用機会の確保(義務)、70歳までの就業機会の確保(努力義務)が課されていることもあり65歳くらいまでは普通に働いている時代です。人手のない中小企業では70歳超のバリバリ働く従業員もめずらしくありません。そのような人たちに、「やればやっただけのことはある」と感じていただく工夫も必要です。 ●高齢者雇用を見すえた退職金制度見直し  退職金制度は定年年齢と連動させておくことが重要です。定年年齢は引き上げられているのに、退職金制度では引き上げられた期間の部分が曖昧だったりするとトラブルになりかねません。定年年齢は従来のままでも、いまのように70歳までなんらかの形で継続雇用となる時代はなおさらです。  具体的には、退職金支給は定年時なのか、それとも継続雇用を経て実際の退職時なのか、定年後の継続雇用期間は退職金に反映させるか、というようなことが明確でない場合は見直しが必要になります。仮に、見直し前より条件が悪化する場合は、見直し時点での既得権保証、経過措置期間などを設け、基本的には各人ごとに同意を得て行います。 3 退職金制度の種類、制度間の違い、活用の仕方  退職金制度は、支給の仕組みに加え、その支給原資・形態をどうするかが重要です。確定給付や確定拠出など、ニュースではよく見聞きしますが、実際にはどういうものなのか、それぞれの違いなどを簡単に解説します。 ●退職一時金と企業年金の違い  退職一時金とは、従業員が退職する際に一時金の形で支給される一般的な退職金制度です。多くの場合は勤続年数ごとに基本給等の何倍というように支給率を定めたり、金額そのものを定める方式があります。  一方、企業年金(3階部分)とは、企業が従業員の退職後の生活のために設ける年金制度のことをいいます。公的年金制度である国民年金(1階部分)・厚生年金保険(2階部分)に上乗せして実施します(図表)。 ●企業年金等はおもに3種類  法律で定められている企業年金等には、おもに@確定給付企業年金、A確定拠出年金、B中小企業退職金共済があります。また、確定給付企業年金の一種として厚生年金基金がありますが、2014(平成26)年4月以後、基金の新設は行われませんからここでは解説を省略します。  @確定給付企業年金(DB)は、厚生労働省が管轄する企業年金制度で、あらかじめ受け取る給付額が約束されているということから、確定給付と呼ばれています。なお、実施形態から大きくは「規約型」と「基金型」の二つがあります。  A確定拠出年金(DC)は、拠出された掛金とその運用益との合計額をもとに、将来の給付額が決定する年金制度です。事業主が掛金を拠出する「企業型」と、個人で加入し掛金を拠出する「個人型(iDeCo)」の二つがあります。  B中小企業退職金共済(中退共)は、中小企業のために設けられた退職金制度(給付は原則一時金)です。厚生労働省が所管する「独立行政法人勤労者退職金共済機構 中小企業退職金共済事業本部」が運営を行っています。 ●中小企業退職金共済制度の活用  中小企業退職金共済制度は、いわゆる確定拠出型の退職金制度です。企業型確定拠出年金制度に比べて管理が簡単、国が掛金の一部を助成、ほかの企業年金と違い給付に年齢制限がないなどメリットも多く、中小企業の退職金制度として導入率も高くなっています。  反面、企業が導入をためらう理由として、退職金が従業員に直接支払われる、掛金納付が11カ月以下だと退職金が支給されず掛金も返戻(へんれい)されない、掛金減額のハードルが高い、といった制約もあります。しかし、このような制約があればこそ、公正な退職金制度が維持できるのだと思いますし、そのようなことが従業員の会社に対する信頼を高めることになります。 図表 おもな企業年金制度 3階部分 企業年金(私的年金)等 タイプ 確定給付型 確定拠出型 仕組み 受け取る給付額が確定 拠出額(掛金)が確定 年金の種類 確定給付企業年金(DB) 確定拠出年金(DC) 中小企業退職金共済 規約型 基金型 企業型 個人型(iDeCo) 加入対象 会社のルール(厚生年金の被保険者) 基金のルール(厚生年金の被保険者) 70歳未満の厚生年金保険被保険者 70歳未満の国民年金被保険者 原則として全従業員(公的年金の加入要件なし) 掛金負担 会社のルール 基金のルール 原則事業主 加入者本人 事業主 給付金の受け取り 原則60歳以降 原則60歳以降 原則60歳以降 原則60歳以降 年齢関係なし 2階部分 公的年金 厚生年金保険 1階部分 国民年金(基礎年金) ※筆者作成 【P30-35】 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 教えてエルダ先生! Season3 第2回 65歳超雇用推進助成金活用のススメ 〈前回のあらすじ〉 株式会社ジード製作所は製造業を営む中小企業。このたび、高齢者雇用を推進するためエルダのもとを訪れ、65歳超雇用推進助成金の利用をすすめられた。 図表1 定年廃止・引上げと継続雇用制度の違い(典型例) 定年廃止・定年引上げ 継続雇用 雇用形態 正社員 嘱託社員など 雇用期間 期間の定めなし 1年更新 労働時間 フルタイム勤務 フルタイム勤務、またはパートタイム勤務 人事評価 定年まで同様の制度 定年を機に変更 ※『エルダー』2023(令和5)年8月号 三島寛之「『定年延長』か『再雇用』か、意思決定するために」より一部改変 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202308/#page=13 図表2 65歳超継続雇用促進コースの支給額 実施した制度 定年引上げまたは定年の廃止 継続雇用制度の導入 引上げた年齢 対象被保険者数 65歳 66〜69歳 5歳未満 5歳以上 70歳以上※1 定年の定めの廃止※1 66〜69歳 70歳以上※2 1〜3人 15万円 20万円 30万円 30万円 40万円 15万円 30万円 4〜6人 20万円 25万円 50万円 50万円 80万円 25万円 50万円 7〜9人 25万円 30万円 85万円 85万円 120万円 40万円 80万円 10人以上 30万円 35万円 105万円 105万円 160万円 60万円 100万円 ※1 旧定年年齢が70歳未満のものにかぎります ※2 旧定年年齢および継続雇用年齢が70歳未満のものにかぎります そのほか、「他社による継続雇用制度の導入」の場合も、申請内容に応じて支給されます(上限15万円)。詳しくはJEEDホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/elderly/subsidy/index.html −支給対象とならない場合の例− ●定年年齢が職種等区分により異なっており、もっとも低い定年年齢が引き上げられていない。 ●職種区分により、定年年齢が引き下げられている職種がある。 ●定年は引き上げられているが、定年後の継続雇用の上限年齢が引き下がっている。 ●定年引上げ実施後は継続雇用制度を定めておらず、定年年齢が旧継続雇用年齢を下回っている。 など ■支給申請期間 制度実施月の翌月から起算して4カ月以内の各月月初から15日まで★、JEEDの各都道府県支部へ持参、郵送、またはe-Govで電子申請。 ★15日が土日祝日にあたる場合は翌開庁日 [例] 4月1日に制度を実施した場合、5〜8月の各月1〜15日が申請期間となる ★このマンガに登場する人物、会社等はすべて架空のものです ※1 本連載の第1回は、JEEDホームページからもご覧になれます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202507/index.html#page=32 ※2 JEED各都道府県支部については、65ページをご覧ください。東京・大阪支部は、高齢・障害者窓口サービス課が窓口となります 次号につづく 【P35】 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 解説 教えてエルダ先生! Season3 65歳超雇用推進助成金活用のススメ 第2回 65歳超継続雇用促進コースを活用しよう!  高齢者雇用を推進していくうえでは、就業規則の見直しおよび賃金制度や労働条件の見直し、安全・健康管理をはじめとした職場環境の改善等の検討は欠かせません。  特に就業規則の改正には、企業の実情に合わせた制度設計やコンプライアンスの観点から社会保険労務士などの専門的な支援が欠かせませんが、そのための経費も発生します。決して小さくはないその負担を軽減できるのが、「65歳超雇用推進助成金」です。今回は、そのなかの「65歳超継続雇用促進コース」についてご紹介します。 Check1 65歳超継続雇用促進コース  65歳以上への定年引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66 歳以上への継続雇用制度の導入などを行った事業主に対して、導入する措置や対象人数に応じて、160万円まで支給されます。 【実施する措置と支給額】 ●65歳以上への定年の引上げ/定年の定めの廃止 60歳以上被保険者数 65歳 66〜69歳 〈5歳未満の引上げ〉 〈5歳以上の引上げ〉 70歳以上 定年の定めの廃止 1〜3人 15万円 20万円 30万円 30万円 40万円 4〜6人 20万円 25万円 50万円 50万円 80万円 7〜9人 25万円 30万円 85万円 85万円 120万円 10人以上 30万円 35万円 105万円 105万円 160万円 ●希望者全員を対象とする66歳以上への継続雇用制度の導入 60歳以上被保険者数 66〜69歳 70歳以上 1〜3人 15万円 30万円 4〜6人 25万円 50万円 7〜9人 40万円 80万円 10人以上 60万円 100万円 ●他社による継続雇用制度の導入 66〜69歳 70歳以上 支給上限額 10万円 15万円 ※上記表の支給額を上限に、申請事業主が他社の就業規則等の改正に要した経費の2 分の1の額を助成 (注)60歳以上被保険者数とは、支給申請日の前日において1年以上継続して雇用されている60 歳以上の雇用保険被保険者の数となります。 Check2 支給は1回かぎり  65歳超継続雇用促進コースの支給は、1事業主(企業単位)につき1回かぎりとなります。65歳以上への定年引上げ、定年の定めの廃止、66歳以上への継続雇用制度の導入など就業規則を改正する際は、専門家等へご相談ください。 お問合せ JEED各都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課) ※各支部の問合せ先は65ページをご参照ください。 【P36-37】 偉人たちのセカンドキャリア 歴史作家 河合(かわい)敦(あつし) 第9回 室町幕府最後の将軍のセカンドキャリア 足利(あしかが)義昭(よしあき) 室町幕府滅亡後の義昭の行方  日本史の教科書には、15代将軍足利義昭が織田信長によって京都から追放された1573(元亀(げんき)4)年をもって、室町幕府は滅亡したと書かれています。  ですが義昭は、その後も将軍として活動し、大きな力を持ち続けていたのです。今回はそんな最後の将軍・足利義昭のセカンドキャリアについて紹介していこうと思います。  13代将軍足利義輝(よしてる)が畿内を制する三好(みよし)氏によって暗殺されたとき、弟の義昭も命を狙われますが、どうにか京都から脱して転々と居所を変え、やがて尾張の織田氏を頼ります。1568(永禄11)年、義昭は信長に奉じられて上洛し、15代将軍となることができました。しかし、後に信長と対立するようになり、多くの大名や宗教勢力と結んで信長包囲網をつくりました。信長はそうした敵を次々と押さえ込み、1573年7月、大軍を派遣して義昭の居城・槇島(まきしま)城を攻め立てたのです。かなわないと考えた義昭は、息子を人質に出して降伏し、河内国若江(かわちのくにわかえ)城(じょう)(東大阪市)へ退去しました。これをもって室町幕府は滅亡したといわれます。義昭37歳のときのことでした。  けれど、これで義昭が屈したわけではありませんでした。若江城から紀伊国(きいのくに)由良(ゆら)の興国寺(こうこくじ)へ入ったのです。この地域は反信長勢力の強固な地盤で、紀伊国内には雑賀(さいが)一揆(いっき)、高野山(こうやさん)、根来衆(ねごろしゅう)、粉河寺(こかわでら)、熊野三山(くまのさんざん)など、強力な仏教勢力が存在し、石山本願寺と結んで信長と敵対していたからです。さらに義昭は、越後の上杉謙信や甲斐の武田(たけだ)勝頼(かつより)、近江の六角(ろっかく)承禎(しょうてい)、本願寺顕如(けんにょ)と連絡をとり、信長の打倒を目ざします。結果、いったん信長と講和した石山本願寺の顕如は、再び戦う決意をかためました。 打倒信長に傾注したセカンドキャリア  1576(天正4)年、義昭は居所を備後国(びんごのくに)鞆(とも)の浦(うら)に遷します。ここは毛利氏の領内。つまり当主の毛利輝元(てるもと)は信長との敵対を決意したのです。義昭が強く毛利氏に働きかけた結果でした。義昭は輝元を副将軍に任じ、多くの大名や宗教勢力を結集し、再び信長包囲網をつくり上げたのです。京都を追い払われた義昭ですが、抜群の交渉能力により、室町将軍としての権威を保ち続けていたのです。  同年7月、毛利輝元が八百艘の船団を送って木津川口で織田水軍を撃破し、石山本願寺に兵糧を入れることに成功します。さらに越後の上杉謙信も翌1577年9月、織田方の七尾城(ななおじょう)を落とし、手取(てどり)川の戦いで柴田勝家率いる織田軍を大敗させました。信長の重臣・荒木村重(むらしげ)が織田を裏切ったのも、義昭の工作だったといわれています。  三重大学の藤田(ふじた)達生(たつお)教授によれば、本能寺の変の黒幕も義昭だといいます。変から11日後、義昭が乃美(のみ)宗勝(むねかつ)(毛利水軍のリーダー)に送った御内書がありますが、文面には「信長討果上者、入洛之儀急度可馳走由、対輝元・隆景申遣条、此節弥可抽忠功事肝要…」とあります。藤田氏は、冒頭部分は「信長を打ち果たした上は」と読めるので、義昭が旧臣の光秀を動かして信長を討ち果たしたと解釈しています。  いずれにせよ、本能寺の変の黒幕が義昭ならば、きっと当人は信長の死後は京都に戻って室町幕府を再興し、自分が天下人として君臨しようと考えていたことでしょう。  ところが、大番狂わせが起こります。本能寺の変からわずか11日後、中国地方から京都へ馳せ戻った羽柴秀吉が、山崎の合戦で光秀を倒してしまったのです。  すると義昭は、光秀を倒した秀吉に連絡を取り、自分の帰洛を要求しました。いったん了解した秀吉ですが、まもなく前言を反故にしています。宣教師のルイス・フロイスによれば、義昭は「信長が死んだので、自分を天下人にしてほしいと頼んだ」といいます。  秀吉は自分が信長の後継者になろうと考えていたので、その頼みは聞くことができません。  すると義昭は、今度は秀吉と対立する織田家一の重臣・柴田勝家に接近していきます。また、吉川(きっかわ)元春(もとはる)(毛利輝元の叔父)を通じて毛利・柴田連合を画策し、1583年、秀吉を挟撃すべく盛んに輝元に出兵をうながしたのです。しかし、小早川(こばやかわ)隆景(たかかげ)(輝元の叔父で元春の弟)は、秀吉に将来性を見出し強く反対したので、輝元は傍観を決めました。かくして義昭のもくろみは崩れ、柴田勝家は賤ヶ岳(しずがたけ)の戦いで秀吉に敗れ、北庄(きたのしょう)城を囲まれて妻のお市と自刃しました。  1584年2月、秀吉は義昭の帰洛を認めました。約10年ぶりの京都です。すでに義昭を庇護する毛利氏は秀吉に屈しており、京都に戻っても政権をにぎれる(幕府を再興できる)可能性はなく、形ばかりの将軍でした。しかも秀吉は「自分を猶子にしてほしい」といってきたのです。おそらく幕府(武士政権)を開こうとしたのでしょう。将軍になるには清和源氏の一族でなくてはなりません。秀吉は庶民階層の出身だったので、義昭の猶子になろうとしたのだと思います。  もし義昭が了解していたら、秀吉を将軍として大坂(豊臣)幕府が開かれていたはずです。ですが、義昭は己の血統を秀吉に渡しませんでした。秀吉の依頼をきっぱりと拒否したのです。おちぶれたとはいえ、義昭は将軍としての矜持を見せたのです。仕方なく秀吉は、朝廷の権威を利用し、太政大臣や関白となり、天皇から新たに豊臣姓をもらい、豊臣政権を樹立しました。 政治能力を活かし晩年は秀吉を補佐  その後も義昭は将軍の地位を保ち、秀吉を補佐するかたちで外交力を振るいました。たとえば1587年には、薩摩の島津氏と豊臣氏の講和を斡旋しています。しかし翌1588年正月、すでに秀吉が天下人として政治を動かしているなかで、将軍であり続けることはできないと考え、朝廷に将軍職を返上しました。ここにおいて室町幕府は完全に消滅したのです。  こうした功績が評価され、義昭は1588年に朝廷から三后(さんごう)に准ぜられ、秀吉からも一万石を与えられました。御伽衆として秀吉の良き話し相手になりました。  1592(文禄元)年に朝鮮出兵が始まると、秀吉に従って肥前名護屋へ赴いています。そのおり、義昭はりりしく武装し、3500人の兵を引き連れていたといいます。しかし、これが最後の晴れ姿となりました。1597(慶長2)年8月28日、体にできた腫れ物が悪化し、義昭は大坂において61歳の生涯を閉じました。  いずれにせよ、足利義昭は京都から追い出された後も、幕府再興のために根気強く信長と戦い続け、その死後も将軍として積極的に政治活動を行ったのです。まさに執念のセカンドキャリアだといえるでしょう。 【P38-41】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第156回 石川県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 「バス一筋」のベテランが集結生きがいを育む地域密着型バス会社 企業プロフィール 滋賀交通グループ ののいちバス株式会社(石川県野々市(ののいち)市) ▲創業 2003(平成15)年 ▲事業概要 一般旅客自動車運送事業 (コミュニティバス・スクールバスの運行)、一般貸切バス ▲社員数 37人(うち正社員15人) (60歳以上男女内訳) 男性(29人)、女性(0人) (年齢内訳) 60〜64歳 3人(8.1%) 65〜69歳 8人(21.6%) 70歳以上 18人(48.6%) ▲定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員70歳まで継続雇用。70歳以降は年齢制限なく1年ごとに再雇用  石川県は日本列島のほぼ中央、日本海に面し、能登半島と加賀平野から成り立つ自然豊かな地形が特徴です。県内には、輪島塗(わじまぬり)、山中漆器(やまなかしっき)、加賀友禅(かがゆうぜん)、九谷焼(くたにやき)など36品目の伝統的工芸品があり、古くから伝わる伝統工芸の技を活かし、最近では新しいライフスタイルに合ったモノづくりに力を入れています。  おもな産業としては、機械・繊維・食料品製造が盛んで、全体の約8割を占めています。ブルドーザーなどの建設機械をはじめ、液晶、電子計算機部品、菓子や清酒などのほか、漆器や金箔、陶磁器など、全国的にも有名な産業がたくさんあります。また、製造業においては、経験豊富で高い技術を持つ高齢の職人が多く活躍しています。  JEED石川支部高齢・障害者業務課の芦澤(あしざわ)真(まこと)課長は同支部の取組みについて、「当支部は、労働局や県庁などが近隣に所在していることもあり、各関係機関と連携を図りながら高齢者雇用支援業務を行っています」と話します。  同支部で活動する西川(にしかわ)達也(たつや)プランナーは、食品メーカーでの営業職を経て社会保険労務士に転身。2012(平成24)年からJEEDの相談・助言活動に携わっており、企業の課題に寄り添い、具体策の提案や実現支援を行っています。健康・体力・安全の相関関係を重視し、「エイジアクション100※」や事例集などを用いて改善提案に取り組んでいます。今回は西川プランナーの案内で「ののいちバス株式会社」を訪問しました。 無理なく働き続けられる高齢者にやさしい職場環境  ののいちバス株式会社は、2003年に設立。同年に野々市市のコミュニティバス「のっティ」の運行を開始するとともに、シャトルバス「のんキー」や小学校のスクールバスの運行を通じて、地域に根ざした公共交通をになっています。  従業員数37人のうち、60歳以上の高齢社員が29人を占めており(2025〈令和7〉年7月1日現在)、平均年齢は67歳と、高齢社員が屋台骨を支えている会社です。特にスクールバス運行においては70代のドライバーが、事業の主力として活躍しています。  同社取締役支配人の的場(まとば)哲之(てつゆき)さんは、「小学校のスクールバスの運行は、朝と夕方の通学時間に合わせて行われ、6時〜6時30分ころに出勤し、8時前には学校に到着、子どもたちを降ろして一度退社します。午後から下校対応のために再び出勤し、遅くとも16時〜16時30分ころには業務を終え退社します」と説明します。  これを受けて西川プランナーは、「この勤務形態は、高齢者の『朝に強い』という特性に合致しています。身体的な負担が少ないことも高齢者が活躍している大きな特徴だと思います」と納得していました。  同社の定年は65歳となっており、希望者全員を70歳まで継続雇用する制度を、2023年に導入しました。  「それ以前より、健康であれば年齢に関係なく働き続けている実態があり、定年後も元気に働く高齢社員が活躍していたため、より安心して働けるよう制度化しました。70歳以降は、1年ごとの更新となりますが、よほどのことがないかぎり会社から退職を求めることはありません」(的場支配人)  世間一般では、ドライバーの離職率が高い傾向にあるといわれるなかで、同社の離職率は非常に低いそうです。その要因について的場支配人は、「高齢社員の退職理由は、年齢による体調不良が多い傾向にあります。当社では長距離運転や夜間勤務がほぼなく、スクールバスや地域密着型のコミュニティバスがメイン業務ですので、高齢のドライバーでも無理なく働くことが可能です」と語ります。  さらに、業務の内容自体が人とのつながりを生み出し、それが働きがいにもつながっているといいます。同社では、担当車両や運行コースを固定しているため、運転手は子どもたちの名前を自然と覚え、小学校6年間にわたって成長を見守り、中学校の部活動送迎で再会することもあるそうです。コミュニティバスでは常連客も多く、ドライバーと地域住民の間には温かな関係が育まれています。  このような地域に根ざした仕事は、高齢社員にとっての「生きがい」にもなっており、子どもたちの元気な顔を見ることが働くモチベーションにつながっています。  ちなみに、同社の新たな人材の採用は、現役ドライバーからの紹介が約9割を占めているそうです。他社で定年を迎えたベテランドライバーも多く、以前の会社の同僚として紹介されると、会社側も安心して採用することができ、また社員が「居心地のよい会社」と感じているからこそ、知人を安心して紹介できる好循環が生まれています。  今回はバス業界で長く働き、豊富な経験を持つ3人にお話をうかがいました。 ベテランドライバーのプロ意識と会社愛  柿ア(かきざき)勝義(かつよし)さん(82歳)は、同社の最高齢社員。74歳で入社し、今年からは運行管理補佐として勤務しています。週に3〜4日、6時から13時30分までのパートタイム勤務です。  かつては他社で観光バスの運転を経験し、同社入社後は、スクールバスの運転手として活躍していました。走行中に座っていられない児童たちの安全確認や忘れ物に特に気を配っていたといいます。  「子どもははしゃぐし、家の鍵や水筒など、座席に忘れ物をすることも多いので、乗車・降車の確認や忘れ物のチェックを徹底していました」と、柿アさん。  子どもたちが降車する際には、必ず「ありがとうございました」と伝えてきたそうで、お客さまへの感謝の気持ちを大切にしてきた柿アさんの仕事への姿勢がうかがえます。  現在は、車両点検やタイヤ交換、車検のための車両運搬などを担当し、「自分から仕事を探し、車庫内の掃除や整理整頓を心がけること」を大切にして、少しでもドライバーの負担が減るよう心を配っています。  森下(もりした)幸二(こうじ)さん(74歳)は、ほかのバス会社を定年退職後、同社に68歳で入社し、週5日、スクールバスや貸切バスを運転する現役ドライバーです。国鉄バスで働いていた父親の影響から、バスへの憧れを持ってこの道に進みました。「子どものころからの憧れをかなえたことが何よりもやりがいになっています。私はバス一筋でやってきました」と誇りを持って語ります。森下さんはドライバーだけではなく、管理部門の輸送課や営業課、営業所長など多様な業務経験があります。運行管理や運転手への指導を行い、公共交通で社会的に大きな事故が起きた際には、所属する会社の風評被害やトラブル防止に努めました。その知識と経験をいまの職場で活かして働いています。  森下さんは、「安全運転と防衛運転を最重要視しています。事故を起こさない・起こさせない・巻き込まれない。安全運転を徹底し、会社が必要とするかぎり働きたいです」と語ってくれました。  川原(かわはら)一男(かずお)さん(70歳)は、森下さんの紹介で68歳のときに入社し、いまも週5日フルタイムで勤務する現役ドライバーです。20年以上無事故を続け、以前の職場では表彰も受けました。にこやかで明るい笑顔が印象的な川原さんですが、その安全運転へのこだわりは徹底しており、「いま事故を起こさないことが、1秒先、2秒先の安全にもつながります」と強い信念を持って話します。  「20代のころに経験した大きな事故が、この強い安全運転への意識につながっています。あのとき事故を経験しなかったら、いまの自分はありません」と過去と現在をかみしめるようにして語りました。現在、小学校低学年のスクールバスを担当し、車内で動き回る子どもたちへの注意を怠らず、「運転手兼子守り」のような役割も果たしています。「会社に必要とされ、活かしてもらえることがやりがいです」と笑顔で締めくくりました。  同社の女性ドライバーの一人、粟村(あわむら)英美(えみ)さんは、「健康とやる気があれば年齢に関係なく働き続けられる会社だと、みなさんを見ていて実感しています。同じようにこの先長く働きたいので、最近は健康に気を使うようになりました」と話し、3人の働く姿に刺激を受けて将来に向けた取組みを行っているそうです。 よい現状を守り、次につなげる  今後の方針について、的場支配人は「現状を維持し、従業員の雇用を守って、“地域の足”としての役割をになっていくことを最重要課題として考えています。市との連携を密にし、地域からの要望に応えつつ、無理なく持続可能なサービスを提供していく方針です」と、いまのよい流れと社内外の関係性に誇りをにじませていました。  西川プランナーは、「ののいちバスには大きな課題もなく、理想的な経営状況です。特に社員と経営陣の強い信頼関係が印象的でした。ベテラン社員は他社でつちかった経験を活かし、会社愛を持って働いています。各々が経験を共有し、会社をよくしようとする意識が感じられました」と評価。今後は、同じ業務をこなせる高齢社員を複数配置することで、急な欠勤にも対応できる“弾力性”を高めることが危機管理強化にもつながると提案していました。  同社では「健康であるかぎり、働き続けることができる」という考えと風土が定着しています。高齢社員が安心して活躍できる風土が、ののいちバスの持続力と地域貢献を支えています。 (取材・西村玲) ※エイジアクション100……高年齢労働者の安全と健康確保のための100の取組み(エイジアクション)を盛り込んだチェックリストを活用して、職場の課題を洗い出し、改善に向けての取組みを進めるための「職場改善ツール」。中央労働災害防止協会が開発した 西川達也 プランナー アドバイザー・プランナー歴:13年 [西川プランナーから] 「企業訪問では、率直に困りごとを聞いています。具体的な問題がないようでも、事業所が自覚していない潜在的な課題を引き出すよう努め、浮き彫りになった課題は他社の事例やJEEDの資料を活用して具体的な解決策を提示しています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆石川支部高齢・障害者業務課の芦澤課長は、西川プランナーについて、「特定社会保険労務士として専門的な知識を有しており、特に賃金・退職金管理や健康・安全衛生管理を得意分野とし、13年間にわたり当支部で活躍しています。明るく親しみやすい人柄とフットワークの軽い行動力で精力的に業務に取り組んでおり、とても頼りになる存在です」と話します。 ◆石川支部高齢・障害者業務課は、金沢駅から日本海側に向かって約5kmのところにある石川職業能力開発促進センター内にあります。同支部から3km圏内にある金沢港にはクルーズターミナルがあり、日本のみならず、さまざまな国のクルーズ船が寄港し、高い利便性を誇っています。 ◆同県では、6人のプランナーが活動しており、多様な専門性や豊富な経験を活かし、県内事業所のニーズに応じた相談・助言活動を展開しています。2024年度は352件の相談・助言活動を行い、78件の制度改善提案を実施しました。 ◆相談・助言を実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●石川支部高齢・障害者業務課 住所:石川県金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 電話:076-267-6001 写真のキャプション 石川県野々市市 ののいちバス株式会社本社 的場哲之取締役支配人 左から柿ア勝義さん、粟村英美さん、森下幸二さん、川原一男さん 【P42-43】 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第107回  浮田義明さん(74歳)は、大手ゼネコンを定年退職後、労働安全コンサルタントとして建設業における労働災害を防止するための活動に力を注ぎ続けてきた。労働安全衛生にかかる教育や研修、環境調査の第一線に立つ浮田さんが、安全に心を配りながら生涯現役で働くことの醍醐味(だいごみ)を語る。 NPO法人 安全技術ネットワーク 理事長 浮田(うきた)義明(よしあき)さん モノづくりへの憧れから土木の道へ  私は宮城県仙台市(せんだいし)の生まれで、大学まで仙台で過ごしました。大学では土木工学を専攻し、卒業後に大手ゼネコンとして知られていた株式会社フジタに入社しました。団塊(だんかい)の世代の一つ下になる私たちですが、時代は高度成長期を迎え活気にあふれていました。土木建築関係の同期入社は約400人を数えます。大学で土木工学を学んだのは、モノづくりに興味があったからです。モノづくりのなかでも、大きなプロジェクトにかかわりたいという気持ちが強かったので、大手ゼネコンに入社できたことは幸いでした。  入社と同時に九州支店に配属され、当時、日本最大の建設現場といわれた長崎空港の建設にたずさわりました。長崎空港は、世界初の海上空港として知られています。それまで想像したこともない大きなスケールの現場に立ったときの高揚感をいまも覚えています。新人だった私は現場を走り回り、現場管理を身体で覚えていきました。  長崎空港の現場で2年ほど過ごしたあとは、岐阜県可児市(かにし)で大規模な住宅団地の現場に入りました。そのころは若い世代が自分の家を持つことを追い求め、日本のいたるところで宅地の造成が始まりました。当時の上司が、「社会インフラ整備の後は必ずレジャーの時代がやってくる」と語ったことが頭にこびりついています。  浮田さんの上司が予想した通り、社会インフラの整備後にはゴルフ場が次々に造成され、その周辺には大型リゾートホテルが林立するようになった。淡々と語られる話の向こう側に、当時の日本の勢いが垣間(かいま)見られる。長崎空港は1975(昭和50)年に完成した。 「労働安全」の世界へ足をふみ出して  住宅団地の現場のあと、郷里の仙台支店に異動になり、ダムの建設工事にたずさわりました。その後、20代後半から50代までの30年近くを仙台で過ごしました。40代半ばまで現場一筋でしたが、47歳のときに支店全体の安全管理の仕事を任されるようになったことが、いまの労働安全コンサルタントの仕事につながっています。55歳で本社からお呼びがかかり、安全品質環境本部に配属されました。60歳で副本部長として定年を迎えるまでの5年間は刺激的な日々でした。中央官庁の幹部に会う機会も増え、人脈ができてきたのもこの時期です。組織ですから当然上の意向には従わなければなりませんが、建設現場の安全管理という大きな仕事を自由にやらせてもらいました。同期の多くは60歳の定年後も雇用継続を希望しましたが、私は60歳で第二の人生を歩む道を選びました。じつは退職する半年前から労働安全コンサルタントとして活動するためにNPO法人設立の準備を始めていました。そのころ東日本大震災が発生、東北の復興を考えて仙台を拠点にしようと思いました。ほかのゼネコンで働いていた仙台の仲間たちからの協力も得て、2012(平成24)年に「NPO法人安全技術ネットワーク」を設立、理事長に就任しました。  NPO法人設立と同じ時期に、建設業労働災害防止協会(建災防)から声がかかり、東北復興事業に1年ほどかかわりました。「施工計画等に活用できる災害事例研究マニュアル検討委員会」の委員を務めるなど学ぶことも多かったですが、NPO活動に力を注ぎたいと思い退職しました。  建災防を1年で辞めたときには「建災防を辞めるなんてもったいない」と周囲から呆れられたという浮田さん。退職の理由は「自分のやりたいことがあるから」。やりたいことがあって楽しく働ける、これこそが生涯現役のヒントなのかもしれない。 働く人の役に立つ仕事を目ざして  私が労働安全コンサルタントを志したのは、建設業で働く多くの職人さんたちの役に立ちたいというひとすじの思いからです。仙台の拠点はいまも機能していますが、地方ではできることにもかぎりがあって、東京にも拠点をつくりました。このため次第に企業からの相談が増えたこともあり、2020(令和2)年に企業からの相談業務に対応するための株式会社を設立、代表取締役になりました。NPO法人と株式会社が支え合って活動するなど双方にとってよい面がたくさんあります。また、会社の経営には息子をはじめ家族が運営に協力してくれており、感謝しています。  NPO法人には18人が所属しており、半数が労働安全コンサルタントの資格を持っています。安全管理の知識が豊富なことはもちろん、話したり書いたりする能力も求められ、自分も含めて自らの研鑽(けんさん)がとても大切です。法律も頻繁に改正されますから、毎日が勉強です。  建設業は時代とともに発展を遂げていますが、時代遅れの部分は私が入社したころとあまり変わっていないような気がします。「建設女子」などという言葉もありますが、現場のパトロールを行う女性の職人にはピンクの保護帽を使用している企業もあって、これこそが女性差別ではないかと私は見ています。  私が60歳で定年を迎えたときには、後継者に女性を指名できるよういろいろ奔走しましたが、願いはかないませんでした。女性が管理職になり、中央省庁の幹部と対等に渡り合えるようになれば、建設業に対する見方も少しは変わるのではないかといまも信じています。 生涯現役に挑戦を  建設業界では「安全第一」を掲げる企業が多いですが、私は「安全」をお題目のように唱えることは好きではありません。むしろ、極力危険を排除することが重要であり、「安全に働けること」が必要だと私は思います。  いま、月に1回マレーシアのデベロッパー(土地や街を開発する事業者)が設立した現地法人で日本における建設業の安全衛生管理の実務を指導しています。そこで働く日本人の技術者たちは熱心に話を聞いてくれます。私からは、「まず現場をしっかり観察しなさい」ということをくり返し伝えています。「次々と現場に現れるリスクにどう対処するか」という気持ちに耳を傾けることが私たちにできることだと思います。月に一度の出張もだんだん身体にこたえるようになってきましたが、目を輝かせて聞いてくれる人たちの顔を思い出すと、もう少し続けようかという気持ちになるから不思議です。  現在、NPO法人の活動は順調で、やりがいを感じられる毎日です。健康に気をつけて少しずつ前に進み、NPOを立ち上げたときの初心を忘れず、働く人に寄り添える労働安全コンサルタントを目ざして、生涯現役の日々を楽しんでいこうと思っています。 【P44-47】 がんと就労 −治療と仕事の両立支援制度のポイント− 産業医科大学 医学部 両立支援科学 准教授 永田(ながた)昌子(まさこ)  二人に一人が罹患するといわれる病気「がん」。医療技術の進歩や治療方法の多様化により、がんに罹患したあとも働きながら治療を続けている人は増えています。その一方で、企業には、がんなどの病気に罹患した社員が、治療をしながら働き続けることのできる環境や制度を整えていくことが求められています。本企画では、特に「がん」に焦点をあて、その治療と仕事の両立支援に向け、企業が取り組むべきポイントを整理して解説します。 第2回 職場で求められる両立支援とは 1 はじめに  第1回※1では、がんの罹患率が高まるのは高齢者であること、がん治療の進歩により、治療を継続しながら就労可能な人が増えていることなど、特に医療の視点からご紹介しました。  第2回となる今回は、職場を含む社会全体で治療と仕事の両立がしやすい環境になってきているのか、治療と仕事の両立のしやすさのために企業には何が求められているのか、という視点でご紹介したいと思います。 2 がん治療と仕事の両立のしやすさの現状 (1)がんと診断されてから仕事を辞める人  国立がん研究センターが実施している患者体験調査※2によれば、がん診断時に収入のある仕事をしていた人のうち19.4%(2023年)が、がん治療のため、退職・廃業をしていました。さらに、退職・廃業をした人のうち、58.3%が、治療を開始する前に退職・廃業をしていました(45ページ図表1)。  病気をきっかけに仕事との向き合い方を見直し仕事を辞める方もいますが、病気の受け入れが不十分な状態で、「周囲に迷惑をかけたくない」と、治療と仕事の両立の困難を想像して性急に仕事を辞める人も一定数いると考えられています。辞めたあと、治療が一段落した際に辞めたことを後悔する方もいらっしゃいますので、医療機関でも診断時に「急いで辞めないように」との声かけの重要性が指摘されています。  しかし、高齢者の場合、体力的な不安やキャリア終盤期において「もう十分に働いた」という思いを口にされることもあり、医療機関のスタッフも就労継続について積極的な助言を控える傾向もあり得ます。そのため、職場の担当者の方にお願いです。病気が判明してすぐに退職を申し出てこられた従業員の方がいらっしゃいましたら、退職を保留し、まずは休業することを勧奨いただくと、本人にとってよい選択に結びつくことがあります。  なお、75歳以上は、後期高齢者となり、傷病手当金(私傷病で4日以上欠勤すると、請求できる)は支給されませんので、ご注意ください。 (2)がんと診断されたことを職場に伝えるか  両立支援を受けるためには、病気であることを申し出るところから始まりますが、病気であることを開示することにより、必要以上に心配されたり、就業機会を奪われたりするなど本人が希望していない職場の反応も想定されるため、がん患者の就労が受け入れられていないと感じる状況であれば、病気であることの申し出をためらったり、嫌がったりする人も多いかもしれません。  現状、情報を開示している人の割合をみていきましょう。職場や仕事関係者にがんであることを伝えた人は89.0%と、2018(平成30)年度の81.0%から増加し、職場での情報開示が進んでいることがわかります。ここでさらに注目すべきは、治療と仕事の両立に配慮があったと感じた人が74.5%と、2018年度の65.0%から増えている点です(図表1)。これは、職場全体の意識改革が進んでいることを示しているといえるかもしれません。 (3)社会全体からみる「治療と仕事の両立のしやすさ」  第1回の記事でご紹介したように、がん治療は外来で行われることが多くなってきているため、治療と仕事の両立のためには、「通院のために休みをとりやすい」もしくは「柔軟な働き方ができる」ことが重要となります。  内閣府が行っている「がん対策に関する世論調査」※3では、「がんの治療や検査のために2週間に一度程度病院に通う必要がある場合、現在の日本の社会は、働き続けられる環境だと思いますか?」という問いに対し、「そう思う」、「どちらかといえばそう思う」と答えた人は合わせて45.4%(2023年)でした。2016年の27.9%、2019年の37.1%から増えており、社会全体でも、治療しながら働くことへの理解が進んでいるといえます(46ページ図表2)。  一方、依然として約半数は、働き続けられる環境でないと回答していることも注目すべき事実です。抗がん剤投与以外にも各種検査や治療のための通院も合わせると、年次有給休暇がなくなってしまい、通院以外の理由で休むことができない状況となり、働き続けることに不安を感じる患者さんも多くいます。年次有給休暇以外の制度として、病気欠勤などの制度があると、ルールに則り欠勤(通院)し、治療と仕事の両立を図ることができる事例もあります。  このように治療と仕事の両立のしやすさは、会社が持っているルールに依存する事例があるため、会社が事前に環境整備として、ルールをつくっておいていただけると治療と仕事の両立が進みます。 3 会社が事前に行っておく環境整備  がん治療と仕事の両立のしやすさに必要な環境整備を考えていきましょう。事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドラインに沿って確認していきます(47ページ図表3)。 (1)基本方針の表明と意識啓発の重要性  治療と仕事の両立支援を実施する際、当事者をサポートするために、上司や同僚等に負荷がかかることがあります。過度の負担とならないように配慮する必要があるとともに、一定の負担を理解し協力してもらうために、関係者の理解は欠かせません。関係者の理解を得るために、事業者の方針の表明や、両立支援の必要性や意義についての意識啓発が進むと、いざ事例が出た際も安心して、受け入れることができます。  企業の先進的な取組みとして、「社内ピアサポート」という取組みをご紹介します。がんを経験した社員が、同じくがんに直面している(または治療中・治療後の)社員を支える仕組みや活動のことです。ここでいう「ピア(peer)」は「同じ立場の人」、「仲間」という意味で使われており、患者同士の支え合い(ピアサポート)の企業内版です。大企業であれば、がんを経験した社員は複数います。社内ピアサポートの取組みが進むと、そのほかの社員の方に対しても、がんに罹患しても就労できることの安心感、両立支援の必要性や意義の意識啓発につながると考えます。 (2)相談窓口などの明確化  当事者の相談窓口や、申し出があった際の関係者間の役割を整理しておくと、相談がたらい回しにならず、情報が過不足なく伝えられると考えられます。相談窓口は、産業保健スタッフもしくは人事労務スタッフが担当することが多いです。社内ルール(休業期間や休業願いなどの必要な文書について)、社会保険料や復職の手順や必要な文書などについて説明するなかで、両立支援の申し出の有無について確認するとよいでしょう。  両立支援の申し出において、症状や治療の状況などの病気に関する情報が必要となりますが、これらの情報は機微な個人情報であり、取り扱う者の範囲を決める、情報を同僚などに開示する場合は本人の同意を得るプロセスが必要です。特に、性別に特有のがん(子宮がん、卵巣がん、精巣がん、前立腺がん)の病名の開示を嫌がる労働者の心情もあることと、職場に必要な情報は、配慮の根拠となる症状や治療の内容の情報であり、必ずしも病名は必要ありません。これらの情報の取扱いも、健康診断の情報などの取扱いと含めてルール化しておくことが必要です。 (3)休暇制度や勤務制度  休暇制度や勤務制度において、どのような場合に利用するのか、もしくは両立しやすくなるのかを考えていただくために、図表4のような利用想定を示します。一つの制度で、働きにくい障壁のすべてを解決することはないと考えられますので、複数の制度をつくっていただくと、両立しやすくなります。また制度があっても利用しにくい場合もあるようです。利用しやすい環境かどうか、すべての職場で利用しやすいことが理想的です。  第1回でご紹介したように、がん治療をしながら働く人の支援は、治療法も多様であり、症状の個人差も大きいため、個別対応が必要です。次回は、具体的に事例が発生した場合に、どのように対応するとよいのかをご紹介します。 ※1 本連載の第1回は、当機構(JEED)ホームページでお読みいただけます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder_202507/index.html#page=46 → ※2 国立がん研究センター「患者体験調査」 https://www.ncc.go.jp/jp/icc/policy-evaluation/project/010/2023/index.html ※3 内閣府「がん対策に関する世論調査」 https://survey.gov-online.go.jp/r05/r05-gantaisaku/ 図表1 がんと診断された人の両立支援の状況 2018年度 2023年度 がん診断時に収入のある仕事をしていた人 44.2% 44.1% 診断時に働いていた職場や仕事上の関係者にがんと診断されたことを話した人(がん診断時に収入のある仕事をしていた人のみ) 81.0% 89.0% 職場や仕事上の関係者から治療と仕事を両方続けられるような勤務上の配慮があったと思う人(がん診断時に収入のある仕事をしていた人のみ) 65.0% 74.5% 治療開始前に就労の継続について医療スタッフから話があった人(がん診断時に収入のある仕事をしていた人のみ) 39.5% 44.0% がん治療のため、休職・休業した人(がん診断時に収入のある仕事をしていた人のみ) 54.2% 53.4% がん治療のため、退職・廃業した人(がん診断時に収入のある仕事をしていた人のみ) 19.8% 19.4% がん治療開始前に退職した人(がん診断時に収入のある仕事をしていた人、かつ、退職・廃業した人のみ) 56.8% 58.3% 出典:国立がん研究センター「平成30年度、令和5年度患者体験調査」 図表2 仕事と治療等の両立について Q.現在の日本の社会では、がんの治療や検査のために2週間に一度程度病院に通う必要がある場合、働き続けられる環境だと思いますか。この中から1つだけお答えください。 2016年 1.そう思う 9.8% 2.どちらかといえばそう思う 18.1% 3.どちらかといえばそう思わない 35.2% そう思わない 29.3% 無回答 7.7% 2023年 1.そう思う 8.6% 2.どちらかといえばそう思う 36.8% 3.どちらかといえばそう思わない 39.1% そう思わない 14.5% 無回答 1.1% 出典:内閣府世論調査「がん対策に関する世論調査」(2016、2023) 図表3 事業場における治療と仕事の両立支援ガイドライン 「4.両立支援を行うための環境整備(実施前の準備事項)」 1)事業者による基本方針等の表明と労働者への周知 2)研修等による両立支援に関する意識啓発 3)相談窓口等の明確化 4)両立支援に関する制度・体制等の整備 (ア)休暇制度、勤務制度の準備 (イ)労働者から支援を求める申出があった場合の対応手順、関係者の役割の整理 (ウ)関係者間の円滑な情報共有のための仕組みづくり (エ)両立支援に関する制度や体制の実効性の確保 (オ)労使等の協力 出典:厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」 図表4 両立支援制度の具体例 制度 利用想定(具体例) 時間単位の年次有給休暇 短時間の通院等があっても、年次有給休暇を無駄なく利用できる。治療だけでなく、検査の受検や検査の結果の説明など、医療機関に通院する頻度が増える場合あり 傷病休暇・病気休暇制度 通院や抗がん剤の副作用等があるなど症状の変動に合わせて、休業することが可能となり、症状が落ち着いている状態であれば就労できる 短時間勤務制度 (復職直後など)徐々に仕事の負荷を上げていくことができる放射線治療など、毎日通院治療が続いても、就労が可能となる場合がある 時差出勤制度 満員電車等、通勤の負担を減らすことができる。通勤の負担として、薬物療法等による下痢等の副作用や時間的、身体的負担も軽減される 在宅勤務制度 通勤の負担なく、就労することができる感染症に罹患しやすいことを懸念している場合、安心して就労可能である ※筆者作成 【P48-51】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第86回 長期にわたる有期雇用労働者と退職金支給、録音禁止の業務命令の有効性 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永勲/弁護士 木勝瑛 Q1 長期間働いている有期雇用労働者には、正社員と同じように退職金を支払わないといけないのでしょうか  当社では、退職金について、一時金と退職年金の2種を用意しています。いずれも正社員を対象とした制度として想定しています。ところが、当社で長期間継続雇用している契約社員から、同一労働同一賃金の観点から退職金の支給を認めるよう要求されています。これに応じなければならないのでしょうか。 A  業務の内容と責任の程度、それらの変更範囲その他の事情をふまえて合理的な範囲であれば、差異が生じていることは許容され得ますが、退職金規程の定め方によっては、支給を認めなければならない場合もあります。 1 同一労働同一賃金について  同一労働同一賃金については、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」の第8条が定めています。比較されるのは、期間の定めがない労働者と期間の定めがある労働者の間で「基本給、賞与その他の待遇のそれぞれ」を対象としており、退職金も待遇の一種として対象に入ります。  そして、@業務の内容および責任の程度(以下、「職務の内容」)、A職務および配置の変更の範囲、Bその他の事情(待遇の性質や目的に照らして適切と認められるもの)を考慮して、「不合理と認められる相違」を設けてはならないとされています(いわゆる「均衡待遇」の規定)。  他方で、「職務内容が通常の労働者と同一の場合」については、同法第9条が「雇用関係が終了するまでの全期間」において、@職務の内容および配置、A職務および配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれる者については、「短時間・有期雇用労働者であること」を理由として、「基本給、賞与その他の待遇のそれぞれ」について、差別的取扱いをしてはならないとされています(いわゆる「均等待遇」の規定)(図表)。  基本的には、業務の内容と責任の程度、それらの変更範囲に相違があるかぎりは、これらの要素およびその他の事情をふまえて、不合理でなければ許容されますので、退職金についても同様の判断に従うことになります。  他方で、雇用中の全期間について業務の内容と責任の程度、それらの変更範囲が期間の定めのない労働者と同一の場合は、差別的取扱いが禁止され、均等待遇が必要となります。  過去に退職金支給差異に関する最高裁判例として、メトロコマース事件(最高裁令和2年10月13日判決)があります。下級審の判決では、退職金が賃金の後払的性格と長年の勤務に対する功労報償の性格を合わせて有していることをふまえて、功労報償に相当する部分にかかる退職金の不支給が不合理と判断されていました。  ところが最高裁では、「退職金の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべき」ことを前提として、「正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたもの」として、職務の内容および変更の範囲に一定の相違があったこと、退職金支給対象となる正社員への登用制度が用意されていたことなどをふまえて、「10年前後の勤続期間を有していることをしんしゃくしても、両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価することができるものとはいえない」と判断しています。  したがって、長期間勤続しているとしても、退職金の支給の相違が不合理と認められる可能性は低いものと考えられています。 2 裁判例の紹介  近年、契約社員(期間の定めのある労働者)と正社員(期間の定めのない労働者)との間で、退職一時金の支給、退職年金の支給について、それぞれ契約社員にも支給されるべきとして紛争となった事案があります(日本サーファクタント工業事件(東京高裁令和6年2月28日、東京地裁令和6年1月12日判決))。  退職一時金の支給に関しては、メトロコマース事件と同様の基準をふまえつつ、「様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたもの」、「業務内容に違いはないものの、…雇用契約書において業務内容が定められ、配置転換、出向の有無や昇格、昇給、専任職の制度の適用がないなどの点で異なる」、専任職である契約社員について「定年退職時まで相応の年俸制による給与が支払われる」として、「正社員と同様の見地からの配慮は要しないものとして、…退職一時金を支給しないものとすることが必ずしも不合理であるとまではいえない」と判断されています。  退職年金も退職一時金と同趣旨の支給理由であるとすれば、同じ結論に至りそうですが、そうはならず、退職年金については契約社員である原告を支給対象にすべきと判断されました。その理由は、同一労働同一賃金の観点からの判断ではなく、「退職年金規定の文言上、契約社員がその支給対象に含まれ得る」として、契約社員に対して退職年金を支給することがこれまでの実態と異なるものであるとしても、退職年金の支給対象と解釈することが相当であると判断されました。  就業規則において、「従業員」の定義に契約社員が含まれている一方で、退職年金規定の適用除外となる従業員として、日雇い労働者や臨時に期間を決めて雇い入れられる者などが明記されているにとどまっていました。問題となった契約社員は臨時の雇い入れといえるような短期間が想定されていたものではなかったことから、適用除外対象と認められませんでした。  したがって、就業規則や退職金規程における対象となる従業員・労働者の定義について確認をしておくことは重要です。 図表 均衡待遇と均等待遇 対象となる待遇 前提条件 考慮要素 許容されない差異 均衡待遇 基本給、賞与その他の待遇のそれぞれ 短時間・有期雇用労働者であること 職務の内容 職務および配置の変更の範囲 その他の事情 不合理と認められる相違 均等待遇 基本給、賞与その他の待遇のそれぞれ 短時間・有期雇用労働者であることを理由としていること 職務の内容 職務および配置の変更の範囲 差別的取扱い ※筆者作成 Q2  社内における会話を録音している従業員に、録音の禁止を命じることは可能でしょうか  当社では、社内の会議や業務時間中の上司からの指示・指導や従業員間の会話などを録音する従業員がいます。これによって社内の自由な発言が妨げられており、社内のコミュニケーションや業務に支障が生じています。秘密情報の漏洩の心配もあります。社内での録音を禁止することは可能なのでしょうか。 A  会社は、従業員に対して、労働契約上の指揮命令権・施設管理権に基づき、職場での録音を禁止することができると考えられています。社内での無断録音の禁止について、就業規則に規定しておくことがよいでしょう。 1 甲社事件(東京地裁平成30年3月28日判決) (1) 事案の概要  原告は、2014(平成26)年3月24日、被告に期間の定めなく正社員として雇用されたものの、業務時間中の居眠り、業務スキル不足、復職に関する手続きの不履践、録音禁止の業務命令違反等を理由に、2016年6月27日付で、被告から普通解雇されました。  これに対して原告は、解雇は無効であると 主張し、原告が労働契約上の権利を有する地 位にあることの確認を求める訴訟を提起しま した。 (2) 判旨 ア 原告の言動について  裁判所は、原告の言動について、「原告は、……原告が常にボイスレコーダーを所持しているなどの報告や苦情に基づき、繰り返し、ボイスレコーダー所持の有無を確認されたり、録音禁止の指示を受けたりしたものの、答える必要はない、自分の身を守るために録音を止めることはできないなどという主張を繰り返していた。そして、原告に対して懲戒手続が取られることとなり、2度にわたり弁明の機会が設けられた際も、原告は、自分の身を守るために録音は自分のタイミングで行うと主張し続け、譴責の懲戒処分を受けて始末書の提出を命じられたにもかかわらず、何ら反省の意思を示すことなく、それが不当な処分であるとして、『会社から自分の身を守るために録音機を使います』などと明記したその趣旨に沿わない始末書……を提出している」と認定しました。 イ 録音禁止の業務命令権の有無  会社が録音禁止の業務命令権を有するかという点について、裁判所は、「雇用者であり、かつ、本社及び東京工場の管理運営者である被告は、労働契約上の指揮命令権及び施設管理権に基づき、被用者である原告に対し、職場の施設内での録音を禁止する権限があるというべきである。このことは、就業規則にこれに関する明文があるか否かによって左右されるものではない」として、@被告が雇用者であること、A被告が施設の管理運営者であることの2点を理由に、労働契約上の指揮命令権および施設管理権を根拠として、録音禁止の業務命令権を肯定しています。 ウ 録音禁止命令の正当性  録音禁止命令の趣旨については、「被用者が無断で職場での録音を行っているような状況であれば、他の従業員がそれを嫌忌して自由な発言ができなくなって職場環境が悪化したり、営業上の秘密が漏洩する危険が大きくなったりするのであって、職場での無断録音が実害を有することは明らかであるから、原告に対する録音禁止の指示は、十分に必要性の認められる正当なものであったというべきである」として、@職場で自由な発言ができなくなることによる職場環境の悪化の危険、A営業上の秘密の漏洩の危険の2点をあげています。  なお、A営業上の秘密の漏洩の危険という点については、「被告が秘密情報の持ち出しを放任しておらず、その漏洩を禁じていたことは明らかであり……原告が主張するような一般的な措置を取っているか否かは、情報漏洩等を防ぐために個別に録音の禁止を命じることの妨げになるものではないし、そもそも録音禁止の業務命令は、……秘密漏洩の防止のみならず、職場環境の悪化を防ぎ職場の秩序を維持するためにも必要であったと認められる……」として、厳格な秘密管理措置がなされていないことをもって録音禁止命令の有効性が否定されるものではないとしています。 エ 原告の録音禁止命令違反等への評価  裁判所は、「原告は、被告の労働契約上の指揮命令権及び施設管理権に基づき、上司らから録音禁止の正当な命令が繰り返されたのに、これに従うことなく、懲戒手続が取られるまでに至ったにもかかわらず、懲戒手続においても自らの主張に固執し、譴責(けんせき)の懲戒処分を受けても何ら反省の意思を示さないばかりか、処分対象となった行為を以後も行う旨明言したものであって、会社の正当な指示を受け入れない姿勢が顕著で、将来の改善も見込めなかったといわざるを得ない。このことは、原告が本人尋問において、仮に復職が認められても、原告から見て身の危険があれば、録音機の使用を行うと表明していること……からも顕著である」として、原告の録音禁止命令違反およびその後の反抗的な態度について厳しい評価をしています。 オ 結論  裁判所は、このほか、従前から存在していた居眠りや業務スキルの不足、復職手続きの不履践なども認定したうえで、「もともと正当性のない居眠りの頻発や業務スキル不足などが指摘され、日常の業務においても、従業員としてなすべき基本的な義務を怠り、適切な労務提供を期待できず、私傷病休職からの復職手続においても、目標管理シート等の提出においても、録音禁止命令への違反においても、自己の主張に固執し、これを一方的に述べ続けるのみで、会社の規則に従わず、会社の指示も注意・指導も受け入れない姿勢が顕著で、他の従業員との関係も悪く、将来の改善も見込めない状態であったというべきである」として、解雇を有効と判断し、原告の請求を棄却しました。 2 本裁判例をふまえて  本裁判例では、@被告が雇用者であること、A被告が施設の管理運営者であることの2点を理由に、労働契約上の指揮命令権および施設管理権を根拠として、録音禁止の業務命令権を肯定しています。一般的に、会社は上記@Aを満たしている場合がほとんどと思われますので、本裁判例の論理によれば、ほとんどの場合、会社の録音禁止命令権は認められることになるでしょう。  なお、本裁判例では、録音禁止命令に就業規則の規定は必ずしも必要ないとされていますが、無断で録音されてしまっては、録音禁止命令を行うタイミングがありません。また、従業員の納得感からしても、実務上の対応としては、社内での無断録音の禁止について、就業規則に規定しておくことがよいでしょう。 【P52-53】 “学び直し”を科学する  ミドル・シニア世代の“学び直し”について、科学的な見地から解説する連載の3回目。今回のテーマは「やる気」です。「自分でやりたいと望むことなのに行動に移せない」、「モチベーションが続かない」と悩む50・60代に向け、実行力を上げる方法や「脳の基礎体力」の養い方など、やる気を維持して学びを継続させるためのポイントを、1万人の脳を診断した脳内科医・医学博士の加藤俊徳先生にお話しいただきました。 第3回 「やる気」を維持する学び方 株式会社脳の学校 代表/加藤プラチナクリニック 院長 加藤(かとう)俊徳(としのり) 「やる気」が出ないのは「脳」に原因も  40代、50代、60代と年齢を重ねてくると、「何かを始めようとしても行動に移せない」、「目標やゴールを決めて勉強を始めても三日坊主になってしまう」という人が増えていきます。こうした実行力の衰えを、体力や気力のせいだと言い訳をする人も少なくないですが、じつは、行動するように指令しているのは「脳」なのです。  脳は、初めてのことに挑戦するとき、大量のエネルギーを消費するので、脳のコンディションが整っていないと、最初の一歩をふみ出すのがむずかしくなります。やる気が出ない、やる気が続かないというのは、脳の状態に原因があることがほとんどなのです。運動の前に準備体操をするように、脳を働かせる前には脳の準備運動が必要です。脳科学的な準備運動で、脳の基礎体力を底上げすることを心がけましょう。 「40代の行動範囲」を維持することが大事  社会人になると多くの人が同じような日々をくり返すことになり、脳の中では仕事に関連する部分ばかりが使われることになります。そこで、脳の基礎体力を底上げするためにも、脳の各部分の働きについての理解を深め、ふだんあまり動かしていない部分を意識的に動かすことが大切です。  また、50・60代の人は気づかない間に、運動の行動範囲も狭くなりやすく、さらに「自分は年を取ったんだ」という気持ちによって、脳が無意識に悪い方に向きがちになります。しかし私は、脳的に45歳から75歳ぐらいまでは、同じカテゴリーになるべきだと思っています。40代は社会の中枢で重責をになうようになる年代ですが、その40代の脳を30年間維持することは可能だからです。  40代の脳を75歳まで維持できないと、人生100年時代を生き抜くための認知能力と体力、すなわち「脳貯金」が足りなくなります。40代の行動半径を落とさないことが、50・60代の「やる気」にとっても非常に重要です。 「夜型から朝型」、「自分へのご褒美」でやる気を維持  脳は、新しいチャレンジ、抜本的なチャレンジを続けていないと、「億劫」な状態になってしまいます。私がすすめたいのは、30分でも睡眠時間を延ばすチャレンジで、それによって継続的に生活パターンを変えていくことです。一番よいのは、夜型を朝型に変えることです。夜30分早く寝て、朝の30分を増やす、あるいは夜30分早く寝て、朝起きる時間を変えなければ睡眠時間を30分増やすことができます。  やる気というのは、意識覚醒に非常に関係しています。だから朝起きて、できれば午前9時ぐらいまでに、やる気が出るような生活がよいのです。私の場合は、毎日8時間半以上寝て、太陽の光を浴びるためにも朝1時間ぐらい散歩してから、仕事をします。そこに朝の体操を取り入れ、体の動かし方も自分で考えます。  日々前向きに過ごすことも大切です。だれかに褒められることを期待するのではなく、自分で自分を褒めてみたり、または美味しいものを食べたりして、自分へのご褒美が、やる気を上げます。「何をご褒美にしたら自分のやる気が出るのか」を知り、日常にそれを取り入れることが必要なのです。 「座っている時間」を減らす  がんばっているのに、やる気が落ちているときは、座りすぎや運動不足を疑ってみましょう。世界保健機関(WHO)の「身体活動および座位行動に関するガイドライン」にも、座りすぎは不健康になると記載されています。座りすぎによって、やる気は失せるのです。  同ガイドラインには、「身体活動を増やし、座位行動を減らすことにより、すべての人が健康効果を得られる」と明記されています。動けば動くほど、学習能力や思考力が高まります。“立って動く”ということは、その都度、脳の動きをチェンジさせることにつながり、運動は脳全体を活性化させるトリガーになります。  なお、週1回のジム通いなどだけだと、なかなか運動不足は解消できません。日ごろから小まめに立ち上がり歩くなどして活動量を増やすようにしましょう。日々の生活で、座っている時間を減らすほうが効果的です。座りっぱなしでいると、お尻や太ももなどの大きな筋肉の動きが減って血液循環も悪くなるので、机に向かってまさに学習中であっても、20分に1回は立ち上がるなどの工夫をしましょう。 「生きる価値」、「持続可能な目標」を持つ  脳も栄養不足になれば、やる気がなくなります。脳にとっての栄養不足とは、睡眠不足に運動不足、そして「好奇心の不足」です。好奇心が不足すると、慢性的な「マンネリ脳」になり、やる気が落ちるのですが、そこに多くの人たちが気づいていません。  好奇心に関連していえば、50・60代だからこそできることの一つが、「いろいろな見方を楽しむこと」でしょう。私は、若い人たちの意見や行動を、おもしろいと思って見ています。自分の世代ではない人たちを観察するのはとても楽しいことです。そしてまた、いろいろな見方を受け入れることで、自分の見方や考え方を客観化することも重要だと思います。  もう一つ、やる気を持続する方法として実践しているのが、「生きる価値」について絶えず自分にいい聞かせることです。私の場合は、自分を大切にしてくれた祖父母のことを考えます。彼らが生きた証をいまの世に示せるのは自分だけだと思うと、とてもやる気が出るのです。  人には、最低限どんな状態になっても、失われない気力が必要で、それが生きる価値だと考えています。そしてさらに、生きていくうえで、持続可能な目標を持つことも大切です。人間の細胞は老化しますが、目標は老いません。老いないものを持つことが、やる気の維持にもつながっていくのです。 (取材・文 沼野容子) 【P54-55】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第60回 「リーダーシップ」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、「リーダーシップ」について取り上げます。前回取り上げた「組織※1」と同様に、日常的に使っている言葉ですが、あらためていわれると何か説明しにくい用語かと思います。 リーダーシップの定義は一定ではない  リーダーシップの定義は、『日本大百科全書』(小学館)で調べると「分有された目標・目的に向けて、フォーマルに組織化されたり、インフォーマルに結集した人々の集合的努力を動員する地位を獲得し、その役割を積極的に遂行する行動・過程をいう」とあります。具体的な定義ではありますが、少々わかりにくいので、『日本国語大辞典』(小学館)を見ると、リーダーは「先頭に立ってみんなを引っぱっていく人」であり、リーダーシップは「リーダーの地位・職責。力量・統率力」とあります。最近、話題のAI※2に試しに聞いてみると、「リーダーシップの定義はさまざまですが、一般的には組織やチームを目標に導く能力とされています。」と答えが返ってきました。  複数の定義を並べてみましたが、ここでご理解いただきたいのは、リーダーシップの定義は決して一定ではないということです。先ほど定義の線を引きましたが、この部分だけでも、能力(力量・統率力)、プロセス(行動・過程)、責任(地位・職責)と、リーダーシップに必要な要素にいくつもの見方があることがわかります。この点はリーダーシップの議論でじつに議題にのぼる部分で、代表的なものとしては、リーダーシップは生まれながらに有している資質とする特性理論や、優れたリーダーシップを発揮する人の行動パターンで判断される行動理論、リーダーシップは状況や条件に影響を受けるとする状況適用理論などがあります。これらの理論は提唱された時系列で並べていますが、当初は資質なので後天的に習得するのはむずかしいとされていたものが、時代を経て、習得でき場合によって変化するものととらえられている点は変遷として押さえておくとよいと思います。  なお、リーダーシップの反対語はフォロワーシップといい、主体的にリーダーを支え、組織に貢献することをさしている点も押さえておくとよいでしょう。 理想的なリーダーシップとは何か  ところで、しばしば「上司に求められるリーダーシップとは」といったような“あるべきリーダーシップ論”が取り上げられることがありますが、じつは何が理想的なリーダーシップかも絶対的な解はありません。特性理論のなかでは、中国の孔子は『論語』※3のなかで資質として“人徳”が重要と述べている一方で、イタリアのマキャベリは『君主論』※3で“冷徹で、目的のためには手段を選ばない姿勢”が重要と、異なることを述べています。  行動理論でみていくと、代表的なものにPM(ピーエム)理論※4というものがあります。これはリーダーシップに必要な行動を「P:目標達成」(目標を掲げ計画を立て達成に導く)と「M:集団維持」(組織の人間関係を良好にし、チームワークを強化する)の二つの軸で分け、PとMのうち、強く行動として発揮できている状態を大文字、弱い方を小文字で表現(PM型・Pm型・pM型・pm型)で類型化します。二つの軸が強く発揮できている状態をPM型とし、理想的なリーダーシップとしました。一方、状況適用理論の代表的なものにSL(エスエル:Situational Leadership)理論※5があります。ここでは、リーダーシップのスタイルを具体的な指示命令を与える「指示型」、相手の理解をうながし納得させる「説得(コーチ)型」、相手を支援し協力しながら意思決定する「参加型」、相手に権限委譲し主体的に行動させる「委任型」に分かれるとしています。これはどれが正しいというわけではなく、相手や組織の状況に応じてスタイルを変えるのが望ましいとしています。  いままで述べたのは、どちらかというと上司から部下へどのようなリーダーシップを取っていくかの視点に立っていますが、異なる視点のものにサーバントリーダーシップ理論※6というものがあります。ここでは、リーダーはサーバント(奉仕者)としての役割を果たすことで、相手を導くことができるとするものです。ここではリーダーが指示をしたり強い姿勢で相手を導くよりも、相手の話を傾聴・共感し信頼関係を築いたうえで、リーダーは相手にとって必要なサポートを行い、主体的な行動と成長をうながすのが望ましいとしています。この理論自体は新しいものではありませんが、個人が自律的に行動する組織のほうが昨今の激しい環境変化に対応しやすいため、近年再注目されています。 シニア社員こそリーダーシップの発揮を  企業に属していると、役職定年や定年退職により、一定年齢でマネジメントの役割から解かれることが多くみられ、それを機にシニア社員は人を導く立場から退き、後方支援へと意識が変わりがちです。一般社団法人日本経済団体連合会の「高齢社員のさらなる活躍推進に向けて」調査(2024年)によると、企業が高齢者雇用において課題と感じている項目(複数回答)の上位1・2位は「高齢社員のエンゲージメントやパフォーマンス(87.9%)」、「技能伝承と貢献者育成(77.2%)」といった状況で、リーダーシップの発揮には至っていなさそうです。しかし、マネジメントとリーダーシップはしばしば混同されますが、マネジメントは組織の目標達成のために人に指示し、経営資源を管理・運営する“役割”をさすため、個人の“資質”や“能力”、“行動”などに依拠するリーダーシップとは本質的に異なるものです。マネジメントの役割を終えても、例えば、現場での若手社員の育成支援、人脈と経験を活かした組織の調整役、自身の得意分野での業務推進、困難な案件支援などさまざまな場面でリーダーシップの発揮の場があり、年齢に関係なく発揮できます。「後進に譲る」という考え方よりも、「後進が成長するようにリーダーシップを発揮する」という視点を持つことで、シニア社員のモチベーションは大きく変わります。企業がシニア社員のリーダーシップ発揮を積極的にうながすことは、組織の活性化や持続的成長にもつながる重要な取組みといえるでしょう。 ***  次回は、「障害者雇用」について取り上げます。 ※1 本連載第59 回(2025 年7 月号)「組織」をご参照ください。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202507/index.html#page=56 → ※2 ここではMicrosoft 社のCopilot を使用。コンサルティングでも調査や資料作成で使用する機会が増えてきた ※3 『論語』は紀元前5世紀ごろ、『君主論』は16 世紀に書かれているといわれている ※4 日本の社会心理学者である三隅(みすみ)二不二(じゅうじ)により1960年代に提唱 ※5 アメリカの行動科学者ポール・ハーシーと組織心理学者のケネス・ブランチャードによって1970年代に提唱 ※6 アメリカのロバート・K・グリーンリーフによって1970年代に提唱 【P56】 NEWS FILE 行政・関係団体 内閣府 令和7年版「高齢社会白書」を公表  内閣府は、令和7年版「高齢社会白書」を公表した。1996(平成8)年から毎年政府が国会に提出している年次報告書である。  令和7年版は、「令和6年度 高齢化の状況及び高齢社会対策の実施状況」、「令和7年度 高齢社会対策」の2部から構成されている。  第1章の高齢化の状況をみると、2024(令和6)年10月1日現在、総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は29.3%となっている。  次に、「高齢期の暮らしの動向」から、高齢者世帯(65歳以上の者のみで構成されるか、またはこれに18歳未満の未婚の者が加わった世帯)の平均所得金額(2022年の1年間の所得)についてみると304.9万円(2021年比13.4万円減)で、全世帯から高齢者世帯と母子世帯を除いたその他の世帯656.0万円(同13.5万円減)の約5割となっている。また、高齢者世帯の所得階層別分布をみると、150〜200万円(2021年は200〜250万円)が最も多くなっている。  65歳以上の就業者数および就業率は上昇しており、特に65歳以上の就業者数をみると21年連続で前年を上回っている。就業率については10年前の2014年と比較して65〜69歳で13.5ポイント、70〜74歳で11.1ポイント、75歳以上で3.9ポイントそれぞれ伸びている。 https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/index-w.html 厚生労働省 令和6年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」を公表  厚生労働省は、2024(令和6)年の「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)を公表した。  2024年における職場での熱中症による死傷者数(死亡・休業4日以上)は1257人(前年比151人増・約14%増)となり、統計を取り始めた2005年以降最多となっている。業種別にみた死傷者数で最も多いのは製造業の235人(全体の18.7%)、次いで、建設業228人(同18.1%)、運送業186人(同14.8%)など。  また、死亡者数は31人(前年と同数)。業種別では、多い順に建設業10人(全体の32.3%)、製造業5人(同16.1%)、運送業3人(同9.7%)などとなっている。  死傷者数1257人について、年齢別の発生状況をみると、死傷者数については、50歳代以上で全体の56.2%を占め、死亡者数については全体の67.7%を占めている。2020年以降の5年間に発生した熱中症の死傷者数についてみると、2024年と同様の傾向がみられ、死傷者数については、50歳代以上で全体の約52%を占め、死亡者数については、全体の約61%を占めている。  2025年6月1日から、労働安全衛生規則改正により、職場における熱中症対策が強化され、WBGT(暑さ指数)28度以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間を超えて作業する職場での「体制整備」、「手順作成」、「関係者への周知」が事業者に義務づけられている。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_58389.html 中央労働委員会 令和6年「賃金事情等総合調査」(賃金事情調査・労働時間、休日・休暇調査)の結果を公表  中央労働委員会は、2024(令和6)年「賃金事情等総合調査」(「賃金事情調査」と「労働時間、休日・休暇調査」)の結果を公表した。  「賃金事情調査」の結果概要から、2024年6月分の平均所定内賃金についてみると、40万3900円で、前年(38万1300円)に比べ2万2600円増加している。平均所定外賃金は6万8100円で、前年(6万5300円)に比べ2800円増加している。  次に、「労働時間、休日・休暇調査」の結果概要から、時間外労働について、主たる事業所における労使協定で定められている、延長することができる時間数(限度)をみると、1日の限度では「7時間超」が最多で76社(集計126社の60.3%)、次いで「4時間」が15社(同11.9%)。1カ月の限度では「45時間」が最多で121社(集計150社の80.7%)、次いで「40時間以上45時間未満」が18社(同12.0%)となっている。  介護休業の最長(限度)期間についてみると、「1年」が最多で87社(集計159社の54.7%)、次いで「1年超」が37社(同23.3%)、「通算して93日まで」が23社(同14.5%)。また、介護休暇(対象家族が1人の場合)の最長(限度)日数は、「1年に5日まで」が最多で118社(集計160社の73.8%)、次いで「1年に10日以上」が34社(同21.3%)となっている。  休暇期間の賃金の取扱いをみると、全額支給期間の平均は6.8日となっている。 https://www.mhlw.go.jp/churoi/chingin/index.html 【P57-59】 高年齢者活躍企業フォーラムのご案内 (高年齢者活躍企業コンテスト表彰式)  高年齢者が働きやすい就業環境にするために、企業等が行った創意工夫の事例を募集した「高年齢者活躍企業コンテスト」の表彰式をはじめ、コンテスト入賞企業等による事例発表、学識経験者を交えたトークセッションを実施し、企業における高年齢者の雇用の実態に迫ります。「年齢にかかわらずいきいきと働ける社会」を築いていくために、企業や個人がどのように取り組んでいけばよいのかを一緒に考える機会にしたいと考えます。 日時 令和7年10月3日(金)13:00〜16:20 受付開始12:00〜 場所 ベルサール神田(イベントホール) (東京都千代田区神田美土代町7 住友不動産神田ビル2F) ●JR山手線・京浜東北線など「神田」駅北口から徒歩9分 ●都営新宿線「小川町」駅、東京メトロ丸の内線「淡路町」駅・千代田線「新御茶ノ水」駅B6出口から徒歩2分 定員 100名(事前申込制・先着順)ライブ配信同時開催 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) プログラム 13:00〜13:10 主催者挨拶 13:10〜13:40 高年齢者活躍企業コンテスト表彰式 厚生労働大臣表彰および独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 13:40〜14:25 高年齢者活躍企業コンテスト上位入賞企業による事例発表 14:25〜14:35 (休憩) 14:35〜15:20 基調講演「シニアのキャリア意識の現状と課題」 小島明子氏 株式会社日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト 15:20〜16:20 トークセッション コーディネーター……内田賢氏 東京学芸大学 名誉教授 パネリスト……………・事例発表企業3社 ・小島明子氏 参加申込方法 https://www.elder.jeed.go.jp/moushikomi.html フォーラムのお申込みは、以下の専用URLからお願いします(会場・ライブ配信)。 参加申込締切 〈会場参加〉 令和7年10月1日(水)14:00 〈ライブ視聴〉 令和7年10月3日(金)15:00 お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 高齢者雇用推進・研究部 普及啓発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 10月は「高年齢者就業支援月間」 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム  改正高年齢者雇用安定法により、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務とされるなか、高年齢者の戦力化が企業において喫緊の課題となっています。  生涯現役社会の実現に向けたシンポジウムでは、各企業の人事担当者をはじめとする関係者のみなさまの関心が高いテーマごとに、講演や事例発表、パネルディスカッションを通じて、ミドル・シニア層の戦力化に向けた実践的な取組みや課題、今後の展望について、みなさまとともに考えます。 参加方法 ライブ視聴(※事前申込制・各回先着500名) 参加費 無料 申込方法 以下のURLへアクセスし、専用フォームからお申し込みください。 https://www.elder.jeed.go.jp/moushikomi.html ○10月16日(木)14:00〜16:45 自律的キャリアはなぜ難しい? ―ミドル・シニアの学ぶ意思をどう引き出すか 【出演者】 小林祐児氏 株式会社パーソル総合研究所 主席研究員 執行役員シンクタンク本部長 松岡義幸氏 トヨタ自動車九州株式会社 人財開発部キャリア自律推進グループ グループ長 神谷昌宏氏 西川コミュニケーションズ株式会社 人事広報部長 昇高慶氏 株式会社三菱UFJ 銀行 人事部企画グループ 次長 ○10月24日(金)14:00〜16:45 組織の活性化に貢献!―シニア社員を活かす持続可能な人材マネジメントの仕組み 【出演者】 山ア京子氏 立教大学大学院ビジネスデザイン研究科 特任教授/日本人材マネジメント協会理事長 岸田泰則氏 釧路公立大学准教授 中村剛雄氏 三菱UFJ信託銀行株式会社 執行役員人事部長 青木陽奈氏 ライオン株式会社 人材開発センター キャリア開発グループ 主催:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 後援:厚生労働省、一般社団法人日本経済団体連合会、公益財団法人産業雇用安定センター、一般財団法人ACCN、特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 地域ワークショップ  高年齢者雇用にご関心のある事業主や人事担当者のみなさま!改正高年齢者雇用安定法により、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務とされ、高年齢者の活躍促進に向けた対応を検討中の方々も多いのではないでしょうか。  JEEDでは各都道府県支部が中心となり、生涯現役社会の実現に向けた「地域ワークショップ」を開催します。事業主や企業の人事担当者などの方々に、高年齢者に戦力となってもらい、いきいき働いていただくための情報をご提供します。  各地域の実情をふまえた具体的で実践的な内容ですので、ぜひご参加ください。 概要 日時/場所 高年齢者就業支援月間の10月〜11月に各地域で開催 カリキュラム(以下の項目などを組み合わせ、2〜3時間で実施します) ▲専門家による講演【70歳までの就業機会の確保に向けた具体的な取組みなど】 ▲事例発表【先進的に取り組む企業の事例紹介】 ▲ディスカッション など 参加費 無料(事前のお申込みが必要となります) 開催スケジュール 下記の表をご参照ください(令和7年7月10日現在) ■開催スケジュール ※  で記載されている北海道、青森、茨城、栃木、埼玉、千葉、東京、神奈川、福井、静岡、愛知、大阪、兵庫、奈良、和歌山、岡山、山口、福岡、長崎、鹿児島、沖縄については、ライブ配信やアーカイブ配信等の動画配信を予定しています。 ※開催日時などに変更が生じる場合があります。詳細は、各都道府県支部のホームページをご覧ください。 都道府県 開催日 場所 北海道 10月23日(木) 北海道職業能力開発促進センター 青森 10月16日(木) YSアリーナ八戸 岩手 10月24日(金) いわて県民情報交流センター(アイーナ) 宮城 11月18日(火) 宮城職業能力開発促進センター 秋田 10月21日(火) 秋田県生涯学習センター 山形 10月16日(木) 山形国際交流プラザ(山形ビッグウイング) 福島 10月15日(水) ウィル福島 アクティおろしまち 茨城 10月17日(金) ホテルレイクビュー水戸(予定) 栃木 10月23日(木) とちぎ福祉プラザ 群馬 10月30日(木) 群馬職業能力開発促進センター 埼玉 10月10日(金) さいたま共済会館 千葉 10月9日(木) ホテル ポートプラザちば 東京 10月21日(火) 日本橋社会教育会館 神奈川 10月27日(月) かながわ労働プラザ 新潟 10月9日(木) 朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター 富山 10月20日(月) 富山県民会館 石川 10月24日(金) 石川県地場産業振興センター 福井 10月8日(水) 福井県中小企業産業大学校 山梨 11月18日(火) 山梨職業能力開発促進センター 長野 10月22日(水) ホテル信濃路 岐阜 10月15日(水) みんなの森 ぎふメディアコスモス みんなのホール 静岡 10月17日(金) グランシップ 愛知 10月23日(木) 岡谷鋼機名古屋公会堂 三重 10月16日(木) 津公共職業安定所 都道府県 開催日 場所 滋賀 10月9日(木) 滋賀職業能力開発促進センター 京都 10月10日(金) 京都経済センター 大阪 10月23日(木) 大阪府社会保険労務士会館 兵庫 10月16日(木) 兵庫県中央労働センター 奈良 10月16日(木) かしはら万葉ホール 和歌山 10月24日(金) 和歌山職業能力開発促進センター 鳥取 10月29日(水) エースパック未来中心 島根 10月24日(金) 松江合同庁舎 岡山 10月24日(金) 岡山職業能力開発促進センター 広島 10月17日(金) 広島職業能力開発促進センター 山口 10月17日(金) 山口職業能力開発促進センター 徳島 10月22日(水) 徳島職業能力開発促進センター 香川 10月16日(木) 香川産業頭脳化センタービル 愛媛 10月24日(金) 愛媛職業能力開発促進センター 高知 10月27日(月) 高知職業能力開発促進センター 福岡 11月11日(火) JR博多シティ 佐賀 10月24日(金) アバンセ 長崎 10月23日(木) 長崎県庁 熊本 10月22日(水) 熊本県庁 大分 10月7日(火) トキハ会館 宮崎 10月15日(水) 宮崎県立芸術劇場 鹿児島 10月24日(金) 鹿児島県市町村自治会館 沖縄 10月24日(金) 那覇第2地方合同庁舎 各地域のワークショップの内容は、各都道府県支部高齢・障害者業務課(65ページ参照)までお問い合わせください。 上記日程は予定であり、変更する可能性があります。 変更があった場合は各都道府県支部のホームページでお知らせします。 jeed 生涯現役ワークショップ 検索 【P60】 次号予告 9月号 特集 多様で柔軟な勤務制度を整備し、生涯現役で働ける職場づくり リーダーズトーク 安田啓一さん(本田技研工業株式会社 人事統括部長) JEEDメールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メルマガ 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 編集アドバイザー(五十音順) 池田誠一……日本放送協会解説委員室解説委員 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人 100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 丸山美幸……社会保険労務士 森田喜子……TIS株式会社人事本部人事部 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会理事長 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 読者アンケートにご協力をお願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 編集後記 ●今号の特集は、「高齢者雇用と賃金の基礎知識」をお届けしました。  定年・継続雇用制度や、病気の治療や介護などと仕事の両立のための柔軟な勤務制度、安心・安全な職場環境整備など、高齢者雇用を推進するうえで検討すべきテーマはたくさんありますが、労働者にとって「賃金」は、生活を支えるだけではなく、働き方を考えるうえでも重要な要素です。それだけに、会社の賃金制度の整備にあたっては、しっかりと検討をしていく必要があります。  本稿では、高齢者雇用と賃金について、法的な視点、賃金と連動する評価制度、年金や高年齢雇用継続給付との関係など、さまざまな角度から解説を行っています。本誌7月号特集の「高齢者雇用入門」とあわせて、高齢者雇用の推進に、ぜひお役立てください。 ●10月は「高年齢者就業支援月間」です。JEEDでは、10月3日に高年齢者活躍企業フォーラムを開催するほか、10〜11月にかけて、生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム・地域ワークショップを開催します(詳しい開催情報は57〜59ページをご参照ください)。有識者による講演や企業事例の発表などもりだくさんでお届けします。みなさまのご参加をお待ちしています。 ●読者アンケートへのご協力をお願いします。 月刊エルダー8月号 No.549 ●発行日−−令和7年8月1日(第47巻 第8号 通巻549号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 鈴井秀彦 編集人−−企画部次長 綱川香代子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6200 (企画部情報公開広報課) FAX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp メールアドレス elder@jeed.go.jp ●編集委託 株式会社労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.354 40年以上つちかった技術が結実したヒット商品 精密板金加工 利根(とね)通(とおる)さん(63歳) 「どんなに機械が進化しても、最終的には『人の手と目』が大事。品質管理を重視し、お客さまに満足いただけるものづくりを心がけています」 町工場の社長が開発したアイデア商品が話題に  生卵をかき混ぜても、白身と黄身を完全に混ぜ合わせることはむずかしい。それを解決するのが「ときここち」という商品(写真)。町工場から生まれたアイデア商品として話題になり、発売から6年で販売累計約4万7000本のヒット商品となっている。  この商品を開発したのが、株式会社トネ製作所(東京都荒川区)代表取締役社長の利根通さんだ。同社は、利根さんの父が1961(昭和36)年に創業。精密板金加工を専門とし、駅のホームドア、銀行のATM、新幹線や建物の自動ドアなどの精密部品を製造している。同社の強みは、最新のNC加工機と昔ながらのプレス加工機を使い分け、多様なニーズに応えられる柔軟性にある。利根さんが特に重視しているのが品質管理だ。  「金型の状態が悪ければバリ(余分な部分)が出ます。それを見て金型の減りに気づけるのは人です。どんなに機械が進化しても、最終的には人の手と目が大事です」  品質を保つことで築いた顧客からの信頼は同社の財産でもある。自動ドアの部品を納める顧客とは、50年近く取引きが続いている。 1本1本手作業で仕上げ安全で触り心地のよい商品に  利根さんが社長に就任したのは2002(平成14)年、40歳のとき。その後、ある製品の部品の特需で売上げが急拡大したものの、数年で終わり、従業員を解雇するという苦い経験をした。受注依存のリスクを痛感し、その後安定した収益が得られる自社製品の開発に着手。  「そんななか、妻が白身が大の苦手だということをヒントに、卵を混ぜる専用器具(ときここち)を開発することにしたのです」  端材から始めて試作を重ね、0.1mm単位の調整をくり返し、約1年半かけて完成させた。先端の3本の0.7mm幅の線で、白身を細かく砕く。1枚の板でできているため、壊れにくいのも特長だ。  「ときここち」はさまざまなメディアに取り上げられ大ヒット。現在も注文に生産が追いつかない状況にある。その理由は、すべての製品を利根さんが1本1本手作業で仕上げているためだ。特殊ステンレス板をレーザー加工機でカットして形を抜くが、切り始めの部分に小さなバリが残る。また、端面は尖っているため、丸く削る必要がある。そのバリ取りや端面削りを、すべて利根さんが手がけている。部分によって力加減を変えながら削る工程は、機械にはできない熟練ならではの技だ。ほかの社員でもできないことはないが、効率の面で及ばないという。  また、使いやすいように少し曲げが加えられているが、この加工法も試行錯誤のうえに編み出されたもので、企業秘密になっている。  こうしてできた「ときここち」は、利根さんが40年以上にわたりつちかった技術の結晶といえる。それが評価され、2024(令和6)年度の「荒川マイスター」に認定された。 40年以上の経験でつちかった技術を次世代へつなぐ  「プレス機の音を子守歌代わりに育った」という利根さんは、子どものころから物の仕組みを知りたがる性格で、いろいろな物を分解するのが好きだったという。  家業に就いたのは1980年、18歳のとき。それまでの大量生産から少量多品種生産に対応するため、先代社長が当時最先端のNC(数値制御)加工機を導入。担当として、高校でプログラミングを習った利根さんに白羽の矢が立った。  「『見て覚えろ』タイプの父から直接教わることはなく、ほとんどのことは自分で手を動かしながら覚えました。私が持っている技術は社員に出し惜しみせず教え、小規模でもさまざまなニーズに対応できる多能工化を進めています」  現在は「ときここち」の新たな商品展開にも取り組んでいる。すでにプロ用の大型サイズを製品化ずみだが、家庭のキッチンで使う中間サイズの開発を検討中だ。技術を後進に着実に引き継ぎながら、新たな挑戦を続けている。 株式会社トネ製作所 TEL:03(3895)7791 https://tone-ss.co.jp (撮影・羽渕みどり/取材・増田忠英) 写真のキャプション 「ときここち」は、触り心地のよさを目ざし、利根さんが1本1本手作業で製造している。写真は、尖った端面を丸く滑らかに仕上げる「削り」の工程 「ときここち」の開発では、金属の端材から始まり、“ユーザー代表”である利根さんの妻の率直な意見を聞きながら、さまざまな試作を重ねて完成形にたどり着いた 「ときここち」は特殊ステンレス板を加工してつくられる。写真はレーザー加工機で「ときここち」の形に抜いた状態の板 特殊ステンレス板を「ときここち」の形に抜く工程で使用されるレーザー加工機。0.1mm単位の高精度加工が可能 トネ製作所の工場には、プレス加工機、レーザー加工機、曲げ加工をするNCベンダーなど、金属を加工するためのさまざまな設備がそろう 令和6年度「荒川マイスター」を受賞。「ときここち」が「精密板金の匠が繰り出す卓越した技術のフルコース」と評価された レーザーで切り抜いたままでは無機質な金属の板(下)が、利根さんの手による加工を経ることで、温もりの感じられる道具(上)へと変化する 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβ(ベータ)やタウタンパク質などは、睡眠中に排出されることが指摘されています。睡眠時間を十分に取るとともに、原因物質の排出を促進するといわれている、首まわりのストレッチや顔体操を行ったあとに、脳トレに挑戦してみましょう。 第98回 ぴったり天秤 目標 3分 片側に傾いた天秤があります。 右に置かれた重りを「すべて使って」釣り合うようにしてください。 ※すでに天秤に置かれた重りは動かせません @ 40  30 50 30 20 15 15 A 20  10 50 40 25 12 15 5 計算力を鍛えることによる恩恵  今回の脳トレ問題は計算力の向上を目的としています。計算力が向上すると、脳の多様な領域に好影響を与えます。計算は単なる数学的処理にとどまらず、注意力、ワーキングメモリ(作業記憶)、論理的思考力などを総合的に活性化させます。特に前頭前野は、複雑な思考や意思決定、注意の制御をつかさどる部位であり、計算練習をすることで、この領域の血流が増加し、活性化されます。  また、計算練習は脳の可塑性(かそせい)(変化し適応する力)を高めるとされており、継続的なトレーニングにより認知機能の維持・向上に寄与します。これは子どもだけでなく高齢者にも有効であり、認知症予防や脳の老化抑制の一助としても注目されています。  さらに、簡単な計算をくり返すことでも、脳が「集中モード」に切り替わるスイッチとして働き、勉強や仕事などへの導入としても効果的です。  したがって、計算力を鍛えることは、単に数学が得意になるだけでなく、脳全体の機能を活性化し、日常生活のさまざまな場面でのパフォーマンス向上につながるのです。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。人システム研究所所長、公立諏訪東京理科大学特任教授。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【問題の答え】 @ 左:(40)、30、15、15 右:(30)、50、20 A 左:(20)、50、15、5 右:(10)、40、25、15 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2025年8月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 10月は「高年齢者就業支援月間」です 高齢者雇用に取り組む事業主や人事担当者のみなさまへ秋のイベントをご案内します。 高年齢者活躍企業フォーラムのご案内 (高年齢者活躍企業コンテスト表彰式)  高年齢者が働きやすい就業環境にするために企業等が行った創意工夫の事例を募集した「高年齢者活躍企業コンテスト」の表彰式をはじめ、コンテスト入賞企業等による事例発表、学識経験者を交えたトークセッションを実施し、企業における高年齢者雇用の実態に迫ります。「年齢にかかわらずいきいきと働ける社会」を築いていくために、企業や個人がどのように取り組んでいけばよいのかを一緒に考える機会にしたいと考えます。 日時 令和7年10月3日(金)13:00〜16:20 受付開始12:00〜 場所 ベルサール神田 (東京都千代田区神田美土代町7 住友不動産神田ビル2F) ●JR山手線・中央線「神田」駅北口から徒歩9分 ●都営新宿線「小川町」駅、東京メトロ丸の内線「淡路町」駅・千代田線「新御茶ノ水」駅B6出口から徒歩2分 定員 100名(事前申込制・先着順)会場・ライブ配信同時開催 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) お申込みはコチラ https://www.elder.jeed.go.jp/moushikomi.html 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 地域ワークショップ  JEEDでは各都道府県支部が中心となり、生涯現役社会の実現に向けた「地域ワークショップ」を開催します。事業主や企業の人事担当者などの方々に、高年齢者に戦力となってもらい、いきいきと働いていただくための情報をご提供します。各地域の実情をふまえた具体的で実践的な内容ですので、ぜひご参加ください。 概要 日時/場所 高年齢者就業支援月間の10月〜11月に各地域で開催 カリキュラム(以下の項目などを組み合わせ、2〜3時間で実施します) ▲専門家による講演【70歳までの就業機会の確保に向けた具体的な取組など】 ▲事例発表【先進的に取り組む企業の事例紹介】 ▲ディスカッション など 参加費 無料(事前の申込みが必要となります) ※各地域のワークショップの内容は、各都道府県支部高齢・障害者業務課(65ページ参照)までお問い合わせください。また、日程等は今号59ページで紹介しています。 ※開催日時などに変更が生じる場合は、JEEDホームページで随時お知らせしますので、ご確認ください。 jeed 高年齢者就業支援月間 検索 2025 8 令和7年8月1日発行(毎月1回1日発行)第47巻第8号通巻549号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 〈編集委託〉株式会社労働調査会