いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第61回 「障害者雇用」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、「障害者※1雇用」について取り上げます。 障害者雇用の理念は「共生社会」の実現  障害者雇用に関する目的や基本理念、義務や責務などの内容は、障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)に定められています。本法律の第一条の目的には、長文なので一部抜粋となりますが※2、「(省略)雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会及び待遇の確保並びに障害者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするための措置(省略)、その職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、もつて障害者の職業の安定を図ることを目的とする。」とあります。また、基本的理念のうち第四条には、「障害者である労働者は、職業に従事する者としての自覚を持ち、自ら進んで、その能力の開発及び向上を図り、有為な職業人として自立するように努めなければならない。」とあります。  傍線を引いた部分を総合すると、法律の目ざすところは、障害者が能力を発揮し、職業生活で自立できる社会の実現にあることがわかります。そのためにも、障害の有無にかかわらず均等な雇用機会や待遇の確保、能力発揮のための訓練等が必要であるとし、実現するための雇用主や国・地方公共団体の義務や責務に基づく施策を定めています。障害者雇用というと、この施策にいかに対応するかが話題になりがちですが、視野を広げて、希望や能力に応じてだれもが職業を通じた社会参加のできる「共生社会」への協働としてとらえ直すと、これから説明する障害者雇用の施策に対する理解が深まるのではないかと思います。 障害者の法定雇用率遵守は事業主の義務  では、障害者雇用に関する施策のポイントについてみていきたいと思います。  まず、理解しておきたいのは障害者雇用率制度です。これは、従業員が一定数以上の規模の事業主に従業員の一定割合以上の障害者の雇用を義務づけるものです。ここでいう一定割合を法定雇用率と呼びますが、5年程度で労働状況等に基づき変更されることがあるため、定期的に確認していく必要があります。例えば、本稿執筆時点(2025〈令和7〉年7月)では、常時雇用する労働者のうち民間企業では2.5%、国・公共機関などは2.8%、都道府県などの教育委員会は2.7%が法定雇用率ですが、2026年7月からは、民間企業は2.7%、国・公共機関などは3.0%、都道府県などの教育委員会が2.9%と引き上げられることが決まっています※3。計算式としては「常時雇用している労働者の総数※4×法定雇用率=雇用すべき障害者数(小数点以下切り捨て)」となります。  ここで知識として大切なのは、障害者の雇用者数のカウント方法です。1人を実際に雇用したとしても、障害者区分や週の所定労働時間に応じて「何人雇用したことになるか」の数え方が異なります。障害者の区分のうち身体障害者・知的障害者は、実際に1人雇用した場合、週の所定労働時間が30時間以上の場合には、1人(重度は2人)としてカウントします。20時間以上30時間未満の場合は0.5人(重度は1人)、10時間以上20時間未満の場合は0人(重度は0.5人)となります。精神障害者は、実際に1人雇用した場合、週の所定労働時間が20時間以上であれば1人、10時間以上20時間未満は0.5人でカウントします。前提として身体障害者手帳・療養手帳・精神障害者保健福祉手帳の所有者がカウント対象となります。  法定雇用率の遵守は事業主の義務とされているため、法定雇用率を満たしていない常用雇用労働者100人超の事業主からは不足1人あたり月額5万円の納付金が徴収されます。一方で、法定雇用率を超えて雇用している事業主については、超過1人あたり原則月額2万9千円の調整金と、超過1人あたり原則月額2万1千円の報奨金(常用雇用労働者100人以下の事業主に限る)の支給があります。なお、納付金を支払っても義務を果たしたことにはなりません。未達成の場合にはハローワークより「障害者雇入れ計画書作成命令」が発せられたり、行政指導や企業名公表が行われることもあるため、注意する必要があります。 障害者雇用支援に関する情報や機関の活用  このような取組みのもと、民間企業に雇用されている障害者の数は67.7万人となり21年連続で過去最高を更新し、障害者雇用が着実に進展していることが見てとれます(2024年6月1日時点。厚生労働省「令和6年障害者雇用状況の集計結果」※5)。しかし、実雇用率(常用雇用労働者に占める、障害者である労働者の数)は2.41%、法定雇用率達成企業割合は46.0%とまだ改善の余地があります。「障害者雇用実態調査結果報告書(令和5年6月厚生労働省)※6」の障害者を雇用しない理由別事業所数の割合に関する調査を参照すると、70%の企業が理由として「障害者に適した業務がないから」と回答しています。また15〜20%程度の回答として「障害者雇用について全くイメージが湧かないから」、「障害者の雇用管理のことがよくわからないから」という内容もある一方で、「過去に障害者を雇用したが、うまく続かなかったから」の回答が3〜5%程度にとどまっており、障害者雇用自体に消極的というよりは、情報・理解不足でふみ出せないという企業も一定数あることが推察されます。  じつは、障害者雇用に関する情報提供や支援は充実しており、例えば厚生労働省が発行した令和7年4月1日現在の『障害者雇用のご案内』というパンフレット※7ではわかりやすく、障害者雇用率の説明、雇用に向けたサービス・支援策、助成金等についてまとめられています。また、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が発行している障害者雇用の月刊誌『働く広場※8』では、障害者のさまざまな働き方の実例が掲載されており、障害者雇用をはじめようとする企業のヒントにもなります。また、JEEDでは障害者雇用や能力開発の支援も行っているため、問い合わせてみることも有効な方法です。 ***  次回は、「36(サブロク)協定」について取り上げます。 ※1 障害者には、「障がい者」、「障碍者」などの異なる表記方法もあるが、本稿では法律(障害者雇用促進法)の表記に合わせ「障害者」としている ※2 傍線は筆者加工 ※3 1人以上の障害者雇用を行うべき事業主の範囲は、民間企業の場合、現時点では常用雇用者数40人以上、令和8年7月からは37.5人以上となる ※4 1週間の所定労働時間が20時間以上で、1年を超えて雇用される見込みのある、または1年を超えて雇用されている労働者(パート・アルバイト含む) ※5 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_47084.html ※6 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39062.html ※7 https://www.mhlw.go.jp/content/000767582.pdf ※8 https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/index.html