【表紙2】 65歳超雇用推進助成金のご案内 (平成31年4月から一部コースの見直しを行いました) 〜65歳超継続雇用促進コース〜 65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施する事業主のみなさまを助成します。 主な支給要件 ●労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、旧定年年齢※1を上回る年齢に引上げること。 ●定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。  また、改正後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること。 ●1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること。 ●高年齢者雇用推進者の選任および高年齢者雇用管理に関する措置※2を実施すること。 支給額 実施した制度 60歳以上の年数被保険者数※3 1〜2人 65歳への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 10 5歳 5 66歳以上への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 15 5歳以上 20 定年の廃止 20 66〜69歳の継続雇用への引上げ 引上げた年数 4歳未満 5 4歳 10 70歳以上の継続雇用への引上げ 引上げた年数 5歳未満 10 5歳以上 15 60歳以上の年数被保険者数※3 3〜9人 65歳への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 25 5歳 100 66歳以上への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 30 5歳以上 120 定年の廃止 120 66〜69歳の継続雇用への引上げ 引上げた年数 4歳未満 15 4歳 60 70歳以上の継続雇用への引上げ 引上げた年数 5歳未満 20 5歳以上 80 60歳以上の年数被保険者数※3 10人以上 65歳への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 30 5歳 150 66歳以上への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 35 5歳以上 160 定年の廃止 160 66〜69歳の継続雇用への引上げ 引上げた年数 4歳未満 20 4歳 80 70歳以上の継続雇用への引上げ 引上げた年数 5歳未満 25 5歳以上 100 ■1事業主あたり(企業単位)1回かぎり (単位:万円) 〜高年齢者評価制度等雇用管理改善コース〜 高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(高年齢者雇用管理整備措置)を実施した事業主のみなさまを助成します。 措置(注1)の内容 ●高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入 ●法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適応することが必要。 支給額 支給対象経費(注2)の60%《75%》、ただし中小企業事業主以外は45%《60%》 (注2)措置の実施に必要な専門家ヘの委託費、コンサルタントとの相談経費(経費の額にかかわらず、初回の申請にかぎり30万円の費用を要したものとみなします。) 〔《 》内は生産性要件を満たす場合※4〕 〜高年齢者無期雇用転換コース〜 50歳以上かつ定年年齢未満の有期雇用労働者を無期雇用契約労働者に転換した事業主のみなさまを助成します。 申請の流れ @無期雇用転換制度を整備 A高年齢者雇用推進者の選任および高年齢者雇用管理に関する措置※2を1つ以上実施 B転換計画の作成、機構への計画申請 C転換の実施後6 カ月間の賃金を支給 D機構への支給申請 支給額●対象労働者1人につき48万円 (中小企業事業主以外は38万円) ●生産性要件を満たす場合※4には対象労働者1人につき60万円 (中小企業事業主以外は48万円) ※1 旧定年年齢とは……就業規則等で定められていた定年年齢のうち、平成28年10月19日以降、最も高い年齢 ※2 高年齢者雇用管理に関する措置とは…… (a)職業能力の開発および向上のための教育訓練の実施等 (b)作業施設・方法の改善 (c)健康管理、安全衛生の配慮 (d)職域の拡大 (e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進 (f)賃金体系の見直し (g)勤務時間制度の弾力化 のいずれか ※3 60歳以上被保険者とは……当該事業主に1年以上継続して雇用されている者であって、期間の定めのない労働協約を締結する労働者または定年後に継続雇用制度により引き続き雇用されている者にかぎります。 ※4 生産性要件を満たす場合とは……『助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること』(生産性要件の算定対象となった期間中に、事業主都合による離職者を発生させていないこと)が要件です。 (生産性=営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課/雇用保険被保険者数) (企業の場合) ■お問合せや申請は、都道府県支部高齢・障害者業務課(東京、大阪は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします(65頁参照)。そのほかに必要な条件、要件等もございますので、詳しくはホームページ(http://www.jeed.or.jp)をご覧ください。 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.49 定年後再雇用の上限年齢を70歳に延長マイスター社員としての活躍に期待 ミサワホーム株式会社 常務執行役員堤内真一さん つつみうち・しんいち 1989(平成元)年トヨタ自動車株式会社に入社し、人事・経理などを担当。2017年1月にミサワホーム株式会社顧問に就任。同年4月同社執行役員、8月よりBR 働き方改革推進室長を兼任。本年4月より常務執行役員。  人手不足や長時間労働が課題といわれる建設業界。日本を代表するハウスメーカーの一つ、ミサワホーム株式会社では、これらの課題解決に向けた取組みとして、定年後再雇用の上限年齢を70歳に引き上げ、高齢社員の戦力化に向けた取組みを強化するとともに、長時間労働の是正をはじめとする「働き方改革」に注力しています。今回は、同社の常務執行役員を務める堤内真一さんに、同社の取組みについてお話をうかがいました。 高度な知識やスキルを保有するシニア社員の活躍の場が増えてきた ―貴社では2018(平成30)年4月から、定年後再雇用の上限年齢を、65歳から70歳に引き上げました。その理由をお聞かせください。 堤内 建設業では今日、設計・施工技術者を中心に人材が逼迫(ひっぱく)しています。50代のベテラン技術者を「第三新卒」と称して採用する会社も現れているほどです。技術者だけでなく営業職でも、ミドルやシニアの人材がほしいという会社が多くみられます。  当社でも、例えばお客さまの高齢化にともない、お住まいのリフォームの注文が増えてきました。家を新築されるのは若い年代のお客さまが中心ですから、当社も同年代の若い社員が担当として対応しますが、リフォームではお客さまの年齢層に合わせて、経験豊かなベテラン社員が対応するほうが、お客さまのご要望に、より的確に応えることができます。  また、法人が所有する土地や建物の有効活用をお手伝いする法人営業の分野でも、やはりこれまでの経験から得た豊富な事例や専門知識、人的ネットワークをフルに活用できる点で、ベテラン社員ならではの強みがあります。 ―定年後再雇用の上限年齢を引き上げることで、スキルの高いシニア社員を引き止めるねらいがあるのですね。 堤内 従来の制度では、60歳を迎えて再雇用した者は、「嘱託社員」と呼ばれ、給料はそれまでの半分くらいになり、人事評価もしていませんでした。さらに65歳を超えると時給制に変わりました。しかし、会社に貢献できるスキルを持った社員のキャリアを、年齢で途切れさせるのは大きな損失です。  そこで、60歳以降の「嘱託社員」という呼称を「マイスター社員」に改めました。ドイツ語である「マイスター」は、巨匠≠竍名人≠ニいう意味をもつ、ステータスの高い呼称です。そして、60歳到達前の社員も含め、人事評価の成績を反映した給与の幅を広げ、60歳を過ぎても評価が高ければ給与は下がらない仕組みとしました。  これまで60歳を過ぎてからの再雇用は、福祉的雇用という側面がありました。長く働いてくれたことへのねぎらいの気持ちを込めて、会社が就労の機会を提供するという位置づけです。だから評価もしません。しかし、これでは嘱託社員はモチベーションを保てません。ベテランの働きに大いに期待するからには、きちんと評価し、評価に応じた扱いをして、しっかりパフォーマンスを出してもらう仕組みに改める。こうした考えのもとに、今回の人事制度の見直しを行いました。 ―再雇用の上限年齢を65歳とする企業が多いなかで、70歳に引き上げたのは、どのようなねらいがあったのでしょうか。 堤内 65歳は当たり前。思い切って70歳と打ち出すことで、社員の意識を変えるのがねらいです。70歳までパフォーマンスを落とさずに働くためには、若いうちはもちろん、50歳以降も、スキルを高め続ける意識を持つ必要があります。ビジネスの環境や手法の変化のスピードが増しているなか、ベテランであっても、それまでの成功体験に安住することなく、常に知識やスキルを磨き続ける意識や姿勢がなければ、パフォーマンスを上げ続けることはできません。「お客さまや会社から求められるような働き方を70歳まで続けるには、いま何をしたらよいか」という意識を、40代・50代のうちからしっかり持ってもらいたい。そのようなメッセージを込めて、70歳としました。 ―60歳以降のマイスター社員には、どのような役割を期待していますか。 堤内 それまでの業務経験でつちかった知識やスキルが活かせる仕事ですね。例えば、特定の分野のむずかしい仕事に高度なスキルを発揮するとか、後進の育成指導、プロジェクトに参加して専門家としてチームに貢献する。そんな役割を期待しています。  そうした人材を長期的に育成するため、この4月からは現役の社員にも、組織長のポストを目ざすキャリアだけでなく、専門職(エキスパート)を目ざすキャリアコースを明示し、組織長と同等に処遇する複線型人事制度※1を導入しました。 70歳まで活躍できる状態をイメージして若いうちからスキルに磨きをかける意識を ―定年延長ではなく、再雇用で70歳までとしたのはなぜですか。 堤内 現在は、定年後の再雇用を望まず、退職してセカンドライフを選択する人が2割ほどいます。60歳で退職金を受給する前提でライフプランを立てている人も少なくありませんし、持病があって働けない人もいます。現在当社では、65歳以上の人が30人近く働いています。社員の年齢構成から単純に計算すると、3年後にはこれが約90人、5年後には170人ほどになります。こうした状況も含め、定年延長するか否かを考えるためには、もう少し様子を見る必要があると思います。 ―貴社では2017年8月に「BR働き方改革推進室」※2を設置し、堤内さんはその室長を兼任されています。また、2018年4月には「ミサワホーム健康宣言」※3を制定し、健康経営にも取り組んでいますね。 堤内 「働き方改革」というと、長時間労働対策が真っ先にあげられます。私たち建設業も、長時間労働の業界だと指摘されます。お客さまとの打合せなどのために、業務が夜間や休日におよぶ場合もあり、そうした指摘が当たっている面もあります。  しかし最近は、お客さまも夜間や休日の訪問を敬遠する傾向が強まってきました。また、夕方以降に業務が発生する場合でも、昼間は仕事が少ないこともあります。要は、業務量の多寡(たか)に合わせて、働く時間帯を柔軟にシフトすれば、より効率よく働けることになります。そこで、昨年度から試験的にフレックスタイム制を導入しました。今後、全社への展開を視野に検証を進めます。  長時間労働となる最も大きな原因は、仕事のプロセスで無駄なことをしているからです。横の連携がないために、同じ仕事を複数の部署で行っていたり、部署間のコミュニケーションが正確さや迅速さを欠いているために、手戻りや手待ちが増えてしまう。長時間労働対策は、労働基準法に違反しないことはもちろんですが、それ以上に、仕事のプロセスを見直して、より生産性の高い働き方に変えるという、本質的なところに手をつけないと意味がありません。当社の働き方改革に「BR(Business Revolution)」という接頭語をつけているのは、業務プロセスの抜本的改革を目ざしているからです。 働き方改革の本質は業務プロセス改革健康管理・増進施策も重要に ―働き方改革には、社員が抱えているさまざまな制約と両立可能な働き方を目ざす取組みも含まれていますね。これらの取組みと高齢者雇用との関係についてお聞かせください。 堤内 中高年齢世代の社員について重視しているのが、介護離職ゼロの取組みです。とくに親が遠隔地で暮らしていると、仕事と介護の両立が困難で、退職を選択せざるを得ないこともあります。介護は「いつまで」と期間を区切ることもできません。それだけに長期にわたる場合には、経済的にも精神的にも、介護者の負担が大きくなり、退職して収入が途絶えると、持ちこたえられません。そこで、本人の希望があれば、全国のミサワホームグループ(MG)の事業所に転勤できる「MGファミリー全国転勤制度」を導入しました。介護が終われば、元の職場に戻れる仕組みです。 ―そして70歳まで元気に働くには、健康管理・健康増進の取組みも重要になります。 堤内 そうですね。若いときからスキルを磨き続けるとともに、健康管理・健康増進の意識や生活習慣を身につけておくことが必要です。歳を取って健康を損なってからでは間にあわないからです。  例えば、この業界は喫煙率が高い傾向があり、禁煙対策は急務です。全社的に所定時間内は禁煙としてきましたが、その取組みをさらに進め、就業時間中は禁煙とします。つまり、残業時間中も禁煙ということです。禁煙外来の費用補助も行っています。  また、運動習慣を身につけるために、専用アプリをスマートフォンに入れて、毎日の歩数を記録し、会社でそれらのデータを収集するシステムを導入しました。今年2月には、1カ月間の一人あたり平均歩数を、社内の部署ごとに競う「ウォーキング・キャンペーン」を実施しました。任意参加としましたが、社内対抗というゲーム要素を取り入れたので、大いに盛り上がりました。各部署を担当する役員が一番燃えていたと思います。私もその一人です(笑)。  働き方改革や健康経営への取組みを通じて、シニアはもちろんですが、若手や中堅、そして女性がさらに活躍の場を広げる会社をつくっていきたいと思います。 (聞き手・文/労働ジャーナリスト鍋田周一 撮影/福田栄夫) ※1 複線型人事制度…… 単一の昇進コースしかない画一的な人事制度に対し、働き方や昇進、昇給などキャリアの選択肢が複数ある人事制度 ※2 BR働き方改革推進室……(BRはBusiness Revolutionの略)働き方改革の本格的な着手に向け2017年8月に設置された同社社長直轄の組織。働きやすい職場環境の整備を通して、従業員満足度と生産性の向上を目ざす取組みを推進している ※3 ミサワホーム健康宣言……2018年4月に制定。従業員の健康管理の徹底や生活習慣病対策、メンタルヘルス対策などに取り組んでいる 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 2019 May ●表紙のオブジェ イラストレーター 柳田ワタル(やなぎだ・わたる) 1947年大阪府堺市生まれ。1970年多摩美術大学卒業。アニメーション制作会社勤務ののち、1974年よりフリーのイラストレーターとなる。1977年よりオブジェ、立体クラフトなどの制作を開始。90年代からは写真撮影も始める。 特集 6 年下管理職のための年上部下マネジメント術 7 総論 年上部下マネジメントのポイント 一般社団法人 組織内サイレントマイノリティ 代表理事 須東朋広 14 ケーススタディ ケースで学ぶ年上部下とのコミュニケーション 株式会社ヒューマンテック 代表 濱田秀彦 20 企業事例 中間管理職の意識改革を目的に「就業意識向上研修」を実施 カガミクリスタル株式会社 24 ご案内 年下上司の育成、年上部下の戦力化へ 「就業意識向上研修」をご活用ください 1 リーダーズトーク No.49 ミサワホーム株式会社 常務執行役員 堤内真一さん 定年後再雇用の上限年齢を70歳に延長 マイスター社員としての活躍に期待 25 日本史にみる長寿食 vol.308 新ジャガイモはビタミンCの宝庫 永山久夫 26 マンガで見る高齢者雇用 トヨタ自動車株式会社《第2回》 32 江戸から東京へ 第80回 大奥での嫌がらせの二人 秀忠と大母 作家 童門冬二 34 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第61回 医療法人社団真洋会 天野歯科 事務員 静 弘治さん(90歳) 36 高齢者の現場 北から、南から 第84回 香川県 林田運送株式会社 40 新連載 高齢社員の磨き方 ―生涯能力開発時代へ向けて― 溝上憲文 44 知っておきたい労働法Q&A《第13回》 家永 勲 48 特別企画1 4月1日施行 改正労働基準法の要点 53 特別企画2 時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を実現するために 〜テレワークの普及・促進を目的に新たなパンフレットを作成〜 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.300 旋盤を回し続けて半世紀精密加工に工夫が光る 精密旋盤加工 柄澤 博さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第24回] GO/NO-GO課題 篠原菊紀 【P6】 特集 年下管理職のための 年上部下マネジメント術  高齢者雇用が進み、役職定年や定年後再雇用などによる、高齢社員の役割や立場の変化にともない、かつての上司や先輩が年上部下≠ニなるケースは少なくありません。「なんだかやりにくいなぁ」、「こちらの指示を聞いてくれるだろうか」などの悩みを抱えている年下管理職≠フ方も多いのではないでしょうか。  シニア人材の強みや魅力を引き出し、戦力として活躍してもらうためには、上司がシニア人材をいかにマネジメントしていくかがカギを握ります。そこで今号の特集では、年下管理職の目線から、年上部下をマネジメントしていくためのポイントについて解説します。 【P7-13】 総論 年上部下マネジメントのポイント 一般社団法人 組織内サイレントマイノリティ 代表理事 須東(すどう)朋広(ともひろ) 1 なぜ年上部下は増えたのか  「つくれば売れる時代」から「売れるモノをつくる時代」へと資本主義社会における利潤追求方法が変わりました。それにともない、多くの日本企業では実力本位の人事制度が導入され、年功序列システムは崩壊し、上司として自分よりも年上の部下(以下、年上部下)をマネジメントするケースが増えています。  また、リストラクチャリング※1の恒常化により、人材の流動化が進んでいます。転職があたり前になったことで、中途入社者が増え、年上部下(シニア社員)をマネジメントする管理職が多くみられるようになりました。  また、役職者が一定年齢に達すると管理職ポストを外れる役職定年制度を導入する企業が増え、いままで上司だった社員をマネジメントする逆転現象が起こっています。  さらには、2013年4月施行の改正高年齢者雇用安定法により、定年を迎えた社員のうち希望者全員を65歳まで継続雇用する制度の導入が義務づけられました。継続雇用された60歳以上の社員が部下として配属されるケースが増えています。  この結果、いままでの上司や先輩を明日から部下としてマネジメントしなければならないといったやりづらい状況が、多くの職場でみられるようになったのです。 2 年上部下・年下上司の実態と対応策 (1)年上部下、年下上司に関する調査結果  インターネットを活用した求人求職サービスなどを展開するエン・ジャパンは、35〜59歳のユーザーを対象に、「年下上司」についてアンケート調査を行いました(2016年3月調査、回答数303人)※2。  調査結果によると、66%の人が「年下上司の元で働いた経験がある」と回答しました(図表1)。特に40代後半になると78%、50代では74%の人が年下上司を経験しているという結果でした。  また、年下上司の元で働いたことがある人の58%が「仕事がしづらい」と回答しています(図表2)。年下上司の元で仕事がしづらい理由(複数回答)は、「人の使い方が下手」が65%とトップ。以下、「知識・知見が少ない」45%、「人の意見を受け入れない」43%、「人望がない」42%が、40%を超える結果となっています(図表3)。  一方、年下上司の元で「仕事がしやすい」理由(複数回答)としては、「謙虚な姿勢」48%、「人の意見を柔軟に受け入れる」41%などがあがりました(図表4)。  管理職のマネジメントに課題があるならば、改善策としては研修の実施が考えられます。リクルートマネジメントソリューションズの「人材開発実態調査2017」※3によれば、従業員1000人以上の企業では、「新任管理職≪課長クラス≫研修(着任時)」を91・4%が実施しており、今後管理職(課長クラス)向けに行う研修で重視する学習内容として、80・8%の企業が「部下を指導・育成する力」をあげています。  しかし、日本能率協会マネジメントセンターの「シニア人材に関する実態調査」(2016)※4によると、「年上部下へのマネジメント教育を実施している」と回答した企業は30%にとどまりました。  職場で顕在化(けんざいか)している年上部下問題に対し、会社としてまだまだ十分に支援ができていないといえるのではないでしょうか。 (2)押さえておきたい年上部下との接し方  組織や職場に対して不安や不満を感じている年上部下に対し、どのように接すればいいのでしょうか。  上記(1)で取り上げたエン・ジャパンの調査では、年下上司の元で働いたことがある人の約6割が「仕事がしづらい」と感じ、その理由として、「人の使い方が下手」、「知識・知見が少ない」、「人の意見を受け入れない」、「人望がない」ということをあげていました。  私が、多くの企業に年上部下の実態を取材した際に、年上部下から多く寄せられた年下上司への意見・要望は以下のようなことでした。 @わかってくれない・聞く耳を持たない  自分が管理職として経験したことをアドバイスしても、それをわかろうとしない、実行しない。 Aもっと頼りにしてほしい  顧客とのトラブル対応ができていない。私をうまく使ってくれればいいのに。役員への根回しや、社内調整役はいってくれれば私がやるのに。 B上から目線の指導が厳しい  組織の論理として正論ではあるが、年下部下と同じように年上部下に対しても詰問してくるとやる気が失せる。  「組織をよくしたい」、「組織に貢献したい」、さらには「上司を支援したい」と思っている年上部下も少なくありません。年上部下には、独自の強みやよいところもたくさんあります。うまく接することで頼りになる存在になっていきます。  年上部下のマネジメントが上手な人と下手な人では、その対処の仕方にさまざまな違いがあります。ここでは代表的な例を紹介します。 ●年上部下のマネジメントが“上手”な年下上司が行っていること  年上部下のマネジメントに優れた年下上司が最初に行っていることは、年上部下の気持ちへの配慮です。これまでの経験やその人の性格などを考慮しながら、対話を通じて「どんな気持ちで仕事しているのだろうか」、「頻度の高いコミュニケーションを好む方なのか」、「口出しされるのを嫌だと感じる方なのか」といった心理状態・気持ちを理解しようとしています。  同時に、年上部下の「強み」や「よいところ」を見つけようとしています。知識、専門性、技能、人との接し方、人脈、人間性など、これまでの社会人経験でつちかわれた「よいところ」は必ずあるはずです。  その一方で、自分の組織をどうしていきたいのか(目ざす姿・ビジョン)を自分の考えとして整理し、部下全員に対して打ち出しています。そして、その実現のために、年上部下の強みをどのように活用していくのかを考えています。ビジョンを年上部下に直接伝える際には、単に事務的に伝えるのではなく、相談する姿勢で協力や支援を要請しています。そのことで本人のやる気を動機づけ、前向きな行動を引き出しているのです。  このプロセスを進めるうえで大事なことは、「立場や気持ちの尊重」、「年上部下の強みの理解と尊重」、「謙虚な姿勢」です。キーワードとしては「さんづけ」、「感謝」、「教えてもらう姿勢」、「敬意」、「傾聴」などがあげられます。 ●年上部下のマネジメントが“下手”な年下上司が行っていること  多くの職場でありがちなのは、年上部下に遠慮しすぎてしまい、明確なコミュニケーションが取れていないことがあげられます。  仕事を任せる際に「年上に対してお願いしにくいな……」、「あまり細かなことまで口出しするのはどうだろうか」と考え、あいまいな指示になっています。さらには、任せたつもりで放置してしまい、成果物が出た時点で勘違いに気づいて軌道修正するため、双方とも不満を抱き、それが不信感に発展します。細かなことまでは指示しなかったとしても、ゴールや留意すべきこと(最低限の手順や制約条件など)を明確に伝えて、お互い納得のうえで仕事を進める必要があるのです。  また、年上部下に対して優位に立とうとする意識の強い年下上司の場合には、「よくないところ」ばかりに着目したり、断片的な情報によってその人となりを決めつけてしまう傾向が強いのです。そのような感情は、必ず年上部下本人に伝わります。それによって年下上司への反発の感情が芽生え、その上司の「よくないところ」を粗探しします。「上司なのに……」、「こんなやり方だからダメなのだ……」とさげすんだ言動をするようになっていきます。そうなると、年下上司は「なめられたら負けだ」という感情が先走り、組織の論理を通そうと、より一層「上下の立場を強調」して「上から目線」で「一方的な通達」に終始し、挙げ句の果てには「最後まで話を聞かずに反論」するといった行動を取ってしまいます。そのことで年上部下の気持ちはますます離れ、職場全体が閉塞(へいそく)感に包まれ、組織に対する懐疑的な雰囲気が蔓延してしまうのです。 3 企業による年下上司の支援の在り方 (1)年上部下に向き合うために押さえておきたい考え方  ドラッカー※5やコッター※6など現代のマネジメントに関する研究に影響を与えた理論に「マネジメントシステム論」※7があります。この理論は1961(昭和36)年に社会学者のR・リッカートが提唱しました。リッカートは個人を組織のなかに統合するため、その個人の属する集団を連結ピン構造によって解明する方法を見つけました。  この理論において、管理者・監督者などのリーダーは「連結ピン」(経営陣と部下とをつなぎ合わせること)となって組織内の集団間をつなぎとめ、上下左右のコミュニケーションを促進する役割を果たす機能をになうべきとしています。  経営とメンバーをつなぐ「連結ピン」である管理職の役割は、図表5のように表せます。  組織内において管理職は、二つの観点からコミュニケーションを取る役割があります。一つは「数字のコミュニケーション」(左下部分)であり、もう一つは「言語のコミュニケーション」(右上部分)です。  管理職は、業績など目標の達成を目的としているため、経営陣に対しても部下に対しても、数字でコミュニケーションをとっていくことが求められます。  また同時に、管理職は、経営陣には「経営言語」、メンバーには「キャリア言語」という、それぞれに違った言語でコミュニケーションをとっていかなければなりません。経営陣のビジョン実現に向けて、どんな付加価値をもたらすべきか戦略を提言し、そして付加価値実現のために、メンバーそれぞれの強みに応じて仕事を任せて成果を出し、各々の成果をつなぎ合わせることが求められます。  管理職は、仕事を任せるときにも「Aさんは将来こういうキャリアを想定しているよね。この仕事は、こういう能力を高めるから将来のキャリアのためにやっておいたほうがいいと思う」というアプローチで、部下の自発性を引き出していきます。また、一人ひとりが自発的に取り組み、創造性を発揮し、仕事の幅を広げてキャリアを高めるための支援を行うことが求められます。また、会社としてもビジョンの実現に向けて付加価値を創出し、組織力も向上させるWin−Winの関係を築くことが重要です。  しかし、年上部下に対しては、上記のことが一筋縄ではいきません。年上部下に対しては「将来のキャリア」をテーマとした会話(キャリア言語)が有効に働かず、逆効果になることさえあるのです。例えば、役職定年となった50代半ばの部下に対して、年下上司が「将来のキャリア」について熱く語ったとしても、説得力、納得感に欠け、逆にしらけてしまいます。  年上部下を動機づけるには、「将来のキャリア」よりも、「組織のなかで期待する役割」を認識・意識させ、「組織に対する貢献」によって動機づけることが有効です。 (2)年上部下の強みを活用する  年上部下であるシニア社員をうまく活用し、「組織全体の強化を視野に入れた対応」という観点でマネジメントを考えることが重要となります。そのために「年上部下の強み」に着目すべきで、主なものとして、次の五つが考えられます。 @高い技能・専門性 A円滑な対人対応 B社内人脈(優れた社内調整) C豊富な社外人脈 D着実な計画遂行  組織全体の強化のために、これらの強みを持った年上部下に対してどのような役割を付与していけばよいかを解説します。 @高い技能・専門性  専門性の高い職人タイプの技術は、さまざまな知識やスキルを統合して個人技になっています。それらをわかりやすく分解して、後輩に伝承していくことをになってもらいます。そのときに大切なのは「どの技術を」、「いつまでに」、「どうやって伝承していくのか」、「そのためには、どういうやり方で学ばせるのか」を明確にお願いすることです。具体的なアクションに落とし込み、実行を支援していきます。 A円滑な対人対応  対人対応力が高い人は、人をよく観察し、相手との適切な距離の取り方や反発を招かない接し方などを心得ています。また、だれとだれをつなげば双方にとってWin−Winの関係になるのかも把握しており、利他の精神にあふれている人も少なくありません。したがって、顧客への提案や折衝、そしてクレーム対応といった役割をになってもらうとよいでしょう。 B社内人脈(優れた社内調整)  社内調整力が高い人は、社内に知り合いが多く、また調整をお願いしたい人にどのように依頼すればよいのか、だれに依頼することでだれがどのように動いて調整が進むのかを心得ています。ビリヤードのようにボールをどういう角度で打って違うボールに当ててポケットに落とせばよいのかをわかっていて、それが感覚的にできる人です。このような能力を活かすためには、他部署との窓口的な役割をになってもらうとよいでしょう。 C豊富な社外人脈  業務外で幅広い趣味を持って、社外のさまざまな人たちと交流するのが好きな人は少なくありません。同窓会の幹事を引き受けたり、地域活動など社外のイベントに顔を出したり、多くの人脈を持つ人です。そういう人には人脈の棚卸しをしてもらうなかで、営業ルートの新規開拓や新しいビジネスの協力先の紹介などの役割をになってもらいましょう。このことは本人のやる気を引き出すことにもつながります。 D着実な計画遂行  環境が悪くてもコンスタントに一定レベルの成果を出したり、どんな業務を任せても安定したアウトプットが出せるベテラン社員には、確実に仕事を進めるやり方を後輩に教える役割をになってもらいましょう。特に最近は、働き方改革によって生産性の高い仕事が求められています。プロジェクト活動などを通じて、後輩に仕事のPDCA※9の基本を伝え、後輩個々人の生産性のみならず、組織全体の生産性の向上を支援してもらうことも考えられます。 (3)黄昏(たそがれ)シニアへの対応  ここまでキャリア言語でのコミュニケーションや強みの活用方法について述べてきました。しかし、現実的には管理職レースから早々に脱落してまともな仕事が付与されなかった方や、「役職定年」となってやる気を失った方の話はよく聞きます。そういったいわゆる「黄昏シニア」の対応に悩みを抱えている年下上司は少なくありません。  そこで私が推奨するやり方は、「伸びしろ」に着目することです。「伸びしろ」とは「能力を出し切ってはいず、まだ成長する余地があること」(デジタル大辞泉)です。「伸びしろ」は、あるべき姿に向かって段階的に成長することではありません。自分のやってきたことに対して好きなことやワクワクすることを思い出してもらうことから始めます。最大の成果は本人の自己肯定感が引き出されることです。また自己肯定感を引き出していきながら自己効力感を高めていきます。その結果、好奇心を持って外の世界に目を向けて交流できるようになり、交流から得た学びを実践で活かしていけるよう支援していきます。伸びしろの種類は四つです。 @「スキル」の伸びしろ A「行動」の伸びしろ B「学び」の伸びしろ C「志(こころ)」の伸びしろ  この四つのステップを持って「伸びしろ」を発見し、活かす方法を見出し、支援します。 〈第1ステップ〉「スキル」の伸びしろ  過去において大事にしてきたこと、過去に後悔していること、自身の転機となる出来事などを質問して、四つの象限(図表6)のどこに当てはまるかを探っていきます。  仕事の仕方がチーム志向なのか、個人志向なのか、または頭を使った仕事が好きなのか(頭脳派)、現場で汗をかく仕事が好きなのか(肉体派)を判断し、その人の志向性を探ります。 〈第2ステップ〉「行動」の伸びしろ  四つの象限のなかで当てはまるものを見つけたら、そこから過去・現在において具体的にどういう取組みをしてきたのか。そのとき、ワクワクしたことや、やり残してきたことで、チャレンジしたいことを聞いていきます。そしてどのように行動してきたかを列挙し、そこに今後取り組みたいワクワクする出来事をあげてもらいます。 〈第3ステップ〉「学び」の伸びしろ  どうすればワクワクして仕事ができるのか、期待されている役割に当てはめ、どういった成果を出すのかをヒアリングします。そしてチャレンジするようにマインドセット※10を変えるために、ステップ目標を立ててもらい、定期的に1対1の面談を通じて支援する約束をします。そして小さな成功体験を積んでもらえば、50代後半になってもパフォーマンスが高まります。もちろん、転職もできます。「スキル」→「行動」→「学び」のステップで「伸びしろ」を見つけ、活かす手段を提示することが重要です。 〈第4ステップ〉「志(こころ)」の伸びしろ  また、非常に高いパフォーマンスを出しているエース社員や元々活躍していたが役職定年で年上部下になった人には「志(こころ)」の伸びしろに着目してカウンセリングしていきます。エース社員はやってきたこと、これからやりたいことが明確になっていることが多く、その人の「志」や「キャリアコンセプト」から聞き出すとスムーズにいき会話も弾みます。  企業がシニアに期待する役割としては、人材育成や技術伝承に関することが多いでしょう。  年上部下がつちかってきた、たくさんの経験や「相手のためを思う気持ち」、「さまざまな社員が楽しく働ける方法」といった知見は、質・量ともに若い方の持っているノウハウを上回ります。そこに気づいていただき、日ごろの言動や行動に反映してもらいます。そうすると、いままでと違った接し方や仕事の仕方に周囲も気づき、コミュニケーションが増え、職場で良好な関係が築け「組織の潤滑油」になってもらえます。  年上部下には人生100年時代に向けて「志(こころ)」→「学び」→「行動」、時には「スキル」というステップで「伸びしろ」を見つけ、活かす手段を提示します。「黄昏シニア」を蘇(よみがえ)らす方法として「伸びしろ」に着目するマネジメントは有効です。いきなり行うことはむずかしいと思われる場合は、管理職に対して教育訓練するといいでしょう。また、上司と部下の関係がギクシャクしている場合は、キャリア開発研修として年上部下の方に受講していただくことをおすすめします。 4 おわりに  今後、社会や企業の事情から、年上部下の問題は間違いなく大きくなっていきます。上手く扱えば年上部下の力を有効に活用して組織全体の活性化につなげることができます。  人は年齢を重ねると、新しいことに取り組む気力が減退し、加齢によって体力は低下し、それにともなってモチベーションも低くなるかもしれません。しかし、結晶性知能(学習[経験]の蓄積によって判断する力、問題を発見する力)は加齢とともに上昇します。豊富な経験を持った年上部下の結晶性知能を活用することこそが、イノベーションの種である新しいアイデアの創出につながるかもしれません。  年上部下を持つことで、マネジメント上の悩みは増えるかもしれませんが、このことは年下上司にとってメリットをもたらします。  今回テーマとしている「年下上司/年上部下」の問題のみならず、「異性の上司/部下」、「外国人上司/部下」など、職場の人間関係の多様性や複雑性はより大きくなっていくでしょう。さまざまなバックグラウンドや志向を持った部下に向き合うことで、「多様性・複雑性に対するマネジメント力」は間違いなく鍛えられます。  何よりも、年上部下は人生の先輩であり、数多くの経験から自分にはない知識や考え方を吸収することができれば、成長にもつながります。とはいえ、年上部下に対するマネジメントの問題は、根が深く一筋縄では解決できません。人事部としては、人員構成比上のボリュームゾーンであるバブル期入社の社員が本格的なシニア期を迎える前に、早めに対策を検討しておくことが求められます。 すどう・ともひろ 一般社団法人組織内サイレントマイノリティ 代表理事/多摩大学大学院 経営情報学研究科 客員教授 2003年に日本CHO協会の立ち上げに従事し、事務局長として8年半務める。2011年7月からインテリジェンスHITO総研リサーチ部主席研究員として中高年の雇用やキャリア、女性躍進、障害者雇用などの調査研究活動を行う。2016年7月に一般社団法人組織内サイレントマイノリティを立ち上げ、現在に至る。主な著書に『CHO〜最高人事責任者が会社を変える』(東洋経済新報社)、『キャリア・チェンジ!』(生産性出版)など多数。 ※1 リストラクチャリング…… 不採算部門の縮小・撤退や、事業所の統合・閉鎖、事業の分離・分社化など、事業の再構築、事業構造の変革を行うこと ※2 https://corp.en-japan.com/newsrelease/2016/3288.html(エン・ジャパン「ミドルの転職」ユーザーアンケート集計結果) ※3 https://www.recruit-ms.co.jp/press/pressrelease/detail/0000000180/ ※4 http://www.jmam.co.jp/topics/1225609_1893.html ※5 ピーター・ドラッカー……世界中の経営者や経営学者に多大な影響を与えた経営学者で、「マネジメントの父」と称される ※6 ジョン・P・コッター……企業におけるリーダーシップ論の権威。ハーバード大学ビジネススクール名誉教授 ※7 マネジメントシステム論……リーダーシップ行動論の一つ。組織の「業績」と構成員の「モチベーション」を理論化したもの ※8 KPI……「需要業績評価指標(key performance indicator)」のこと。目標の達成度合を計測・監視するための指標 ※9 PDCA……「Plan(計画)」、「Do(実行)」、「Check(評価)」、「Action(改善)」をくり返すことにより、業務を継続的に改善すること。「PDCA サイクル」ともいう ※10 マインドセット……ものごとの判断や行動に移す際に基準とする考え方 図表1 年下上司の元で働いた経験のある割合 総計 ある66% ない34% 30代後半 ある41% ない59% 40代前半 ある62% ない38% 40代後半 ある78% ない22% 50代 ある74% ない26% エン・ジャパン「ミドルの転職」調べ 図表2 年下上司の元で働いた感想 総計 仕事がしやすい42% 仕事がしづらい58% 30代後半 仕事がしやすい54% 仕事がしづらい46% 40代前半 仕事がしやすい40% 仕事がしづらい60% 40代後半 仕事がしやすい37% 仕事がしづらい63% 50代 仕事がしやすい43% 仕事がしづらい57% エン・ジャパン「ミドルの転職」調べ 図表3 年下上司の元で仕事がしづらいと回答した理由(複数回答可) 人の使い方が下手65% 知識・知見が少ない45% 人の意見を受け入れない43% 人望がない42% とにかく威張っている/エラそうにしている37% コミュニケーション能力が低い36% 気が利かない34% 頼りない23% 頭が悪い16% その他14% エン・ジャパン「ミドルの転職」調べ 図表4 年下上司の元で仕事がしやすいと回答した理由(複数回答可) 謙虚な姿勢48% 人の意見を柔軟に受け入れる41% コミュニケーション能力が高い37% 頭が良い30% 人の使い方が上手27% 仕事が早い20% 人望がある/人当たりがいい19% 頼りがいがある/物怖じしない17% 気が利く14% 知識・知見が多い13% その他17% エン・ジャパン「ミドルの転職」調べ 図表5 経営(役員)とメンバー(部下)をつなぐ管理職の役割 経営(役員) 数字 経営言語 マネジャー(管理職) キャリア言語 数字 評価・育成 メンバー(部下) 言語のコミュニケーション 目的:ビジョン実現 手段:戦略実現    組織力構築 数字のコミュニケーション 目的:目標達成 手段:KPI※8マネジメントチーム貢献度 ※筆者作成 図表6 スキルの「伸びしろ」マトリックス チーム志向 肉体派 頭脳派 個人志向 創作 プロジェクトリーダーもの造り・商品開発 人を見る モチベーターマネジメント タスク処理 オペレーター事務 コンセプチュアル化 クリエイター企画 【P14-19】 ケーススタディ ケースで学ぶ年上部下とのコミュニケーション 株式会社ヒューマンテック 代表 濱田(はまだ) 秀彦 ケーススタディ1 過去を引きずる傲慢(ごうまん)な年上部下  元管理職だった、あるいはプレイヤーとして過去に大きな成果を上げた経験がある年上部下。部下という立場の認識が薄く、指示に従わないこともよくある。話すときは常に上から目線で、高圧的な態度、言葉遣いが目立つ。 職場に与える悪影響―指示通りに動かず仕事に支障が―  このタイプの年上部下は年下の上司を上司として認めていないという点が問題です。  年下管理職としては「指示通りに動かないこと」が仕事の支障になります。  また、日常の会話もすべて上から目線。コミュニケーションが取りにくいことに加え、タメ口をくり返されると、管理職としての威厳が保てず、ほかの部下に対する影響力低下にもつながりかねません。  ここからは、年上部下を意図通りに動かすための「指示の出し方・指導の仕方」、「日常コミュニケーションの取り方」に分けて解説します。 指示の出し方、指導の仕方  たとえ過去に管理職経験があったとしても、大きな実績を上げたとしても、部下は部下。まずは、部下に対する指示の原則を確認しましょう。指示を出す場合の3原則は次の通りです。 1.ゴールを示す 2.やり方を示す 3.肯定的に示す  これをアレンジして対応します。  ゴールを示す際には、「何のために(目的)、何を(対象)、いつまでに(納期)、どのレベルの品質でやってほしいか(要求水準)」を示します。遠慮していると曖昧(あいまい)な指示になりやすいため、言葉遣いはていねいにしながらも、キッパリといい切ります。  最も重要になるポイントが「やり方を示す」です。実績のある年上部下は、やり方を細かく指定されることを嫌がることもあるため、譲れない点に限定して示します。  「肯定的に示す」ということは、「○○するな」という否定的な表現にせず「○○せよ」と表現することです。「するな」といわれると相手は制約と感じてしまいます。  では、具体的に会話例で見てみましょう。 上司 お願いがあります。 部下 何かな? 上司 新入社員の受入れのために、備品の発注マニュアルを、今月中につくっていただきたいのです。新人でも読めばできるようなものにしてください。作成にあたっては、図を多く使って、見てわかるものにしてください。それ以外のことは、すべてお任せします。 部下 備品発注マニュアルなんて、ほかの人に頼んでよ。 上司 新人に初めて任せる仕事になります。彼の人生の初仕事だからこそ、経験豊富な○○さん(年上部下)に作成をお願いしたいんです。 部下 しょうがないなあ。  年上部下がタメ口なのは、とりあえず置いておきましょう。この例で年下管理職は、原則に従って、ていねいな言葉遣いで、きっぱりとゴールを示しています。また、やり方については、「それ以外のことはすべてお任せします」と自由度を広くしています。  そして「文字ばかりにせず」という否定的な表現ではなく、「図を多く使って」と肯定的な表現にしています。  さらに、渋る年上部下に対し、相手を立てつつ、譲らず依頼をしています。  指示を出す際は、このようにしましょう。 日常コミュニケーションを改善  年上部下が上からものをいってくるのは嫌ですが、がまんはできます。ただ、タメ口問題は、周囲への悪影響もあり、放置できません。  これを改善していくには話合いが必要です。部下であっても年上は年上。人生の先輩であることに変わりはないため、敬意を持って対処します。会話例を見てみましょう。 上司 今日は○○さん(年上部下)にお願いがあります。 部下 なんだろう? 上司 私は、人生の先輩として○○さんを尊敬しています。 部下 へえーそうなの。 上司 だから○○さんには敬語でお話ししています。 部下 うん。 上司 もし、○○さんが私を尊重してくださる気持ちを1%でも持っていただいているならば、敬語でなくてもよいので、もう少しだけていねいな言葉で話していただけないでしょうか。 部下 うーん。 上司 例えば、語尾を「です」、「ます」にしてくださるだけで十分です。 部下 わかったよ。 上司 ありがとうございます。  この会話例のポイントは、「1%でも持っていただいているならば」というところです。これを、「ない」という相手はまずいません。  たいていの場合、このような話合いをすれば改善できます。相手は威圧感がありますが、負けずにしっかりと向き合い、相手の目を見て話しましょう。 管理者としてのスキルをアピールし本質的な課題解決を  指示に従ってもらえるようになり、日常のコミュニケーションも改善すれば、状況はよくなります。ただ、このケースを根本的に解決するには、まだ足りないことがあります。  それは、「年上部下が年下管理職を下に見ていること」を改めてもらうという課題です。  この課題を解決するには管理職自身が仕事の力を示す必要があります。マネジメント力に加え、個々のタスクで力を見せることで、一目置かせます。このようにして関係を変えていくことが、根本的な解決につながります。 ケーススタディ2 遠慮しすぎて、本来の力を発揮してくれない元先輩  人柄がよく協調的だが、仕事に対して消極的な元先輩の年上部下。本来は力を持っているのに、遠慮がちで、仕事を依頼しようとしても、尻込みしてしまうことが多い。 職場に与える悪影響―モチベーションの低下が職場に波及―  このタイプの年上部下は、モチベーションが低めで、なにかにつけ「私はもうすぐ退職だから」、「大過なく働ければ」といったことをいいます。こういう発言が続くと、チーム全体のチャレンジ精神やモチベーションが削そがれてしまいます。  また、仕事を頼もうとしても、「いまさら新しいことはちょっと」、「チャンスは若い人にあげてください」という感じで避けようとします。  しかし、管理職にとって、経験のある年上部下は職場の重要な戦力。しっかり仕事をしてもらわなくてはなりません。  ここからは、「モチベーションの上げ方」、「仕事を引き受けてもらう方法」、それぞれについて解説します。 低いモチベーションを上げるには  モチベーションの向上は、年上・年下にかぎらず、むずかしいものです。年上部下の場合は、組織のなかで先が見えていることも多く、さらにむずかしくなります。むずかしい状況では原則が頼りになります。まずは、モチベーションの原則を確認しましょう。  現代のビジネスパーソンは、「アメとムチ」のような単純な方法では動機づけできません。  いまは、次の三つがモチベーションのタネになると考えられています。 1.自分の仕事には価値があるという実感 2.自分は職場で価値ある存在という実感 3.自分は成長しているという実感  この三つの実感を高めることが現代のモチベーションの原則です。  ただ、年上部下に関してはこの三つとも実感を持ちにくいこともあり、年下の部下とは違った工夫が必要になります。順に考えましょう。  「自分の仕事には価値がある」という実感を持ってもらうためには、視野を広げてもらう必要があります。  年上部下にとって、多くの仕事は慣れたもの。どうしても、狭い視野で作業としてとらえてしまいがちです。自分の仕事に価値を感じてもらうには、視野を広く持ってもらうことがポイントです。そのためには材料が必要で、その材料は職場の外にあります。  例えば、その仕事の前工程や次工程の人々の声、あるいは顧客の声などその仕事が影響をおよぼす人々の声。それらを伝えるとよいでしょう。例えば、会話は次のようにします。 上司 ○○さん(年上部下)が担当してくれたあの仕事ですが。 部下 どうかしました? 上司 最終的によい形で収まって、みなさん喜んでいたそうですよ。 部下 そうですか、それはよかった。 上司 ○○さんのおかげです。  このようなことが、「自分の仕事の価値」を実感させます。  次の「自分は職場で価値ある存在である」という実感は、職場の長である管理職のコメントがカギになります。  「○○さん(年上部下)がいてくれているおかげで、職場に落ち着きが生まれています」、「豊富な経験談は、私を含め、若いメンバーにとって貴重です」、「職場の相談役になっていただいて感謝しています」といったコメントが職場での価値を実感させます。  そして、自分は成長しているという実感のカギも管理職のコメントがポイントになっています。  「新しいシステムに職場で一番早く適応できたのは、○○さん(年上部下)でした。いまなお、スキルを上げ続ける姿には頭が下がります」といったようにコメントすることで、成長を実感できます。  このように、年上部下のモチベーションを上げるカギは、すべて管理職が握っています。 仕事を引き受けさせる会話術  遠慮がちな年上部下に仕事を引き受けてもらうには、ハードルを下げることが有効です。このタイプの部下は、重たい仕事を一人で担当することに不安を持ちがちです。そこで、その不安を軽減します。例えば、次のようにします。 上司 ○○さん(年上部下)お願いがあります。 部下 なんでしょうか。 上司 法改正にともない、業務マニュアルを変更しなくてはなりません。 部下 はい。 上司 それを○○さんにお願いできないかと思いまして。 部下 いやー 厳しいですね。 上司 もちろん、お一人でということではありません。昨年異動してきたAさんと一緒にお願いしたいのです。 部下 そうなんですか。 上司 この仕事を通じて、Aさんにこの部署の仕事を理解してもらいたいと思っています。ただ、Aさん一人に頼むのは荷が重いと思っています。 部下 そうかもしれませんね。 上司 そこで、この仕事をAさんと一緒にやってほしいのです。たいへんなところは私も手伝います。 部下 うーん。 上司 職場のみんなも、○○さんの仕事なら協力すると思います。みんな○○さんを慕っていますから。 部下 そうですか。では、私でよければ。  ここでポイントになるのは、「一緒に」、「手伝う」、「みんな」というセリフ。このタイプの年上部下の、協調的な部分に訴えるわけです。  いったん仕事を引き受けてもらえば、このタイプは真面目に取り組んでくれます。コツコツと仕事を進め、期待に応えてくれるでしょう。 活き活きと働いてもらうために  このタイプの年上部下は、遠慮がちなのですが、それは裏を返せばきめ細かい配慮ができるという強みでもあります。  そのため、細やかな配慮が必要な仕事を担当してもらうと力を発揮します。例えば顧客の相談に個々にのるような仕事では、親身になって対応してくれるでしょう。  また、職場メンバーの愚痴の聞き役、相談相手など、職場のカウンセラー的な存在にもなってくれるタイプです。  このタイプの年上部下には、一人で難題を解決するスーパーマンになることを求めるよりも、職場および職場メンバーを支援するスーパーお助けマンになってもらうほうが活き活きと働いてくれます。このタイプの年上部下にとって一番の報酬は、周囲からの「ありがとう」の言葉だからです。 ケーススタディ3 無口で何を考えているかわからない職人気質(かたぎ)の年上部下  周囲とあまりコミュニケーションをとらず、黙々と仕事をする年上部下。ミーティングでも意見をいわず黙っている。また、報告・連絡・相談をまったくしてくれないため、仕事の状況や本人の考えが把握できない。 職場に与える悪影響―職場の一体感が阻害される―  このタイプの年上部下は、他者との会話が苦手で、パソコンや工作機械などを相手に黙々と仕事をすることを好みます。  職場の会話の輪に入らず、いつも孤立している状態のため、職場の雰囲気やミーティングの場を暗く、重たくしてしまいます。そして、チームの一体感づくりの阻害要因になってしまいがちです。  また、報告・連絡・相談(以下「報・連・相」)をしないため、仕事の状況や本人の考えを把握することがむずかしく、他者と連携して行う仕事に支障をきたします。  ここでは、無口な年上部下から「どのようにして発言を引き出すか」、「報・連・相をしてもらうにはどうすればよいか」を考えます。 発言を引き出すためには  無口な年上部下に対し、いきなり雑談に混じって冗談をいうことまでを期待するのは無理があります。まずは、仕事上のコミュニケーションから始めましょう。それも、段階的に進めるのがポイントです。  第一段階は、管理職と年上部下のマンツーマンのコミュニケーションラインの構築です。そのためには、2カ月に1回程度は、個別面談をするのがおすすめです。  個々の仕事の進捗を確認し、本人が現状で問題だと思っていることを聞き出して対策を一緒に考えます。  ここで問題になるのは、質問しても答えが返ってこないことです。このタイプの年上部下は、会話に慣れていないことが多く、答えを考えるのに時間がかかります。  そこで、カギになるのが、考える時間を与えるということです。単純にいうと、「予習」をしてもらいます。例えば、「今週の金曜に、いま担当してもらっている仕事の状況について、うかがいたいので、少し整理しておいてください」と予告します。それだけでも、当日はだいぶ話しやすくなります。  そして、質問も工夫します。このタイプの年上部下は、漠然とした質問が苦手です。「いまやってもらっているA社の案件の進捗はどうですか」といった抽象的な質問だと、黙ってしまいます。そこで次のように変えていきます。 上司 いまやってもらっているA社の案件は、完成を100とすると、どのくらい進んでいる感じですか。 部下 ……70%ぐらいですかね。 上司 進んでいる部分はどの部分ですか? 部下 ……一応、手配は済んでいます。 上司 完成までに必要なことは何ですか? 部下 詳細の打合せです。 上司 それはいつごろの予定ですか。 部下 今月中にはしようと思っています。  2カ月に1回、こういう会話をしていると、そのうち聞かれることを予測して準備してくれるようになり、会話はだいぶスムーズになっていきます。  このように、マンツーマンのコミュニケーションラインができたら、第2段階はグループのコミュニケーションの場をつくることです。それは、ミーティングの場がよいでしょう。単純なテーマでアイデア出しをしてもらうような場を設けます。  例えば、「来期入ってくる新人にやってもらうとよさそうなこと」を挙げてもらいます。  このときポイントになるのは、アイデアは一人一つずつ話してもらうということです。  そうすると、口の重い年上部下にも必ず発言の機会がまわります。  そして、もう一つのポイントが「アイデアは評価しない」ということです。たとえそれが、現実的に無理そうでも、評価せずに「なるほど」と肯定的にあいづちを打ち、ホワイトボードやノートに書いていきます。  一通り意見が出たら、「おかげで発想が広がりました。参考にします」と終えます。こういう機会を重ねることで、無口な年上部下も発言するように仕向けていきます。  このように、仕事上のコミュニケーションをある程度できるようにしてから、雑談にも混ざってもらうようにチャレンジしていきましょう。  雑談を振るポイントは質問をすることです。相手の趣味に関して、「これから釣りをはじめるとしたら、何からやるとよいでしょうか」というように、教えてもらいます。教えることは、自尊心を満たすもの。乗ってくる可能性は大きいです。 報・連・相を引き出すマネジメント  前出の個別面談で進捗を確認すれば、ある程度状況が把握できるようになります。ただ、報・連・相は自主的にしてくれることが理想です。  そのためのポイントは二つあります。一つは、やらざるを得ないようにすること、もう一つは「報・連・相をしてよかった」と思ってもらうことです。やらざるを得ないようにするには、仕事を依頼する際に、中間報告をするように求めるのがよい方法です。  例えば次のようにします。設定は、週の始まり、月曜日の夕方だと思ってください。 上司 ○○さん(年上部下)金曜日までに、顧客アンケートのとりまとめをお願いできますか。 部下 ……むずかしいですね 上司 概要で構いませんので。 部下 ……それなら。 上司 お願いします。水曜日の夕方に一度、どんな状況か教えてください。 部下 わかりました。 上司 では、水曜日の夕方、お待ちしていますので、○○さんの都合のよいタイミングで声をかけてください。  こうしておけば、水曜日の夕方に中間報告をせざるを得なくなります。  そして、中間報告をしてくれたら、必ずお礼をいいましょう。あまり進んでいなくても、「進捗を知らせてくださり、ありがとうございます」というように。そのひとことで、本人は「報告をしたことはよいことだった」と認識できます。  また、ささいなことでも相談してくれたら、「打診してくださってありがとうございます」といいましょう。これらをくり返すことで、報告や相談をうながすのがよい方法です。 持っている能力を発揮してもらうために  このタイプの年上部下は、じっくりと取り組める仕事が向いています。また、仕事の精度は高い傾向があり、チェックや品質管理などの仕事に力を発揮することが多いもの。  定期的な報告の場をつくりながら、一定の期間を与え、じっくりと取り組ませることが活用のポイントです。 【P20-23】 企業事例 カガミクリスタル株式会社 (茨城県龍ケ崎市) 中間管理職の意識改革を目的に「就業意識向上研修」を実施 日本を代表するクリスタルガラス専門メーカー  茨城県龍ケ崎(りゅうがさき)市の産業拠点、つくばの里工業団地に本社と工場を構えるカガミクリスタル株式会社は、1934(昭和9)年に創業。日本の近代ガラス工芸がまだ確立していない時代に、創業者である各務(かがみ)鑛三(こうぞう)氏がドイツでクリスタルガラスの製造技術を学び、帰国後、日本初となるクリスタルガラス専門工場を設立し、国産クリスタルガラスの製造を開始した。もともとは東京都大田区蒲田で事業を営んでいたが、29年前の1990(平成2)年に当地に移転した。  同社の高い技術力がよくわかるのが、創業者によって伝えられた「グラヴィール彫刻」※1。回転軸に取りつけた銅製の円盤に研削(けんさく)材をつけて高速で回転させ、そこにグラスなどを押しつけて削っていく技法である。繊細な表情や陰影、さらには立体感まで表現することができるが、習得が非常に困難で、熟練の技を要する。  江戸時代の伝統と現代性をあわせ持った「江戸切子」も人気が高い。ダイヤモンドホイールという円盤状のカッターをモーターで回転させ、その上にガラスを当てがって幾何学的なパターンを彫り込む技法で、クリスタルガラスの美しさをより際立たせることができる。  同社の生み出すクリスタルガラスは、その美しさと格調の高さによって国内外で高く評価されており、宮内庁、迎賓館、在外公館、各国大使館、首相官邸などの正餐(せいさん)用食器としても使われている。東京・銀座にある直営ショップには、外国人観光客も数多く訪れている。 長く働き続けられるように職場環境や教育を重視  従業員数は、現在87人(男性62人、女性25人)。営業部門と直営ショップを除く60人強が、本社・工場で働いている。  平均年齢は39歳(同44歳、39歳)。近年は、新卒採用や中途採用で毎年1〜2人、若手を採用しているため、以前と比べると、だいぶ若返りが図られてきた。  従業員の多くは地元出身者だが、日本を代表するクリスタルガラスメーカーであることから、「ぜひガラスの仕事をやりたい」と、遠方から応募してくる人もいる。昨年も、四国で事務系の仕事をしていた女性が、「成形」の仕事をしたいと応募してきた。成形とは、1000度にもなる窯でガラスを溶かして水あめ状にし、吹き竿で適量を巻き取り、空気を吹き入れて型に入れ、そこからさらに空気を吹き入れてグラスなどの原型をつくる仕事。体力的に厳しい職場だが、意欲を買って採用したところ、先輩たちが感心するほどの働きぶりだという。  同社の定年年齢は60歳。その後は、原則希望者全員を1年契約で65歳まで再雇用する。65歳以降は、会社が必要とする人材を個別に雇用延長する。現在の最高齢者は、74歳のグラヴィール職人。創業者から直接指導を受けた最後の弟子であり、週3日出勤している。ほかにも、60代前半の再雇用者が3人おり、成形部門で吹き師として活躍する64歳の職人もいる。  望月英俊代表取締役社長は、「私どもは職人を大事にしており、吹き師、切子、グラヴィールのどの現場で働く職人※2にも、『気力・体力が続くかぎり働いてほしい』と伝えています。年2回開催しているアウトレットセールなどにご家族がいらしたときには、『お父さんはしばらく辞めさせませんから』と話しています」と笑う。  野尻弘康取締役総務部長は、「百円均一のグラスでも用途としては足りるわけで、5000円、1万円といった値段でお買い求めいただくからには、それだけのものをつくる必要があります。今日来て今日できる仕事ではなく、長い経験を積まないと形になりません。そういった意味でも経験を積み重ね高い技術を持つシニア人材は貴重な戦力です」と、技術力の重要性と長期雇用の必要性を強調する。  そのため、同社では、望月社長と野尻部長が先頭に立ち、労働条件や職場環境の改善に努めてきた。特に重視しているのが安全面。親会社である日本板硝子(いたがらす)株式会社の厳しい安全基準を適用し、労働災害が起きないように細心の注意を払っている。また、障害者を雇用していることもあり、ここ数年で工場のバリアフリー化を進め、すべての従業員にとっても働きやすい環境を整えた。ほかにも、食堂を3回にわたって改修して居心地のよい空間にしたり、工場のトイレをすべてシャワートイレにするなど、細やかな配慮も行っている。こうした取組みの効果もあり、従業員の定着率は極めて高いという。  人材育成にも力を入れている。65歳超雇用推進プランナーでもある齋藤・船橋労務相談事務所の齋藤敬たか徳のり所長の協力を得て、定期的に学習の機会を設けているほか、製造現場でのОJTも盛んだ。「マニュアルを読めばできる仕事ではなく、手づくりの味を活かすためにも、感覚的な面を大事にしています」(野尻部長)ということであり、職長が若手をマンツーマンで指導し、技能を伝承している。  また、望月社長が茨城県経営者協会を通じて県に働きかけたことで、同県では、2017年に伝統工芸士制度が発足した。同社の従業員は、2017年に2人、2018年に1人が伝統工芸士に認定された。望月社長は、「認定されれば本人もうれしいですし、『伝統工芸士に認定されたのだから、あなたの仕事は人を育てることだよ』と話し、後進を育てる意識を持たせています。若手・中堅にとっても、『いつかは伝統工芸士に』ということが励みになります」と語る。 働き続ける意識や高齢部下への対応を学ぶ「就業意識向上研修」  2018年1月には、中間管理職(現場では組長・職長、事務系は課長代理クラス)を対象に、「就業意識向上研修」(生涯現役職場管理者研修)を実施した。定期的に行っているものではないが、前年には、日本板硝子グループの会社と合同で中間管理職研修を行うなど、組織の要である中間管理職のマネジメント力の向上には、以前からポイントを置いている。  就業意識向上研修とは、企業における中高年齢従業員や職場の活性化を支援するために、当機構が行っている研修(詳細は24頁参照)である。職場管理者に対しては中高年齢従業員の特性、活用方法などを、中高年齢従業員に対しては自己の職業能力特性を再認識させる。高齢期の職業生活に向けて意欲を高めることなどを目的に行っており、65歳超雇用推進プランナーまたは高年齢者雇用アドバイザーが講師を担当する。  この研修は、当機構が経費の2分の1を負担するが、会社としてもコストがかかるほか、部署の中心をになう管理職12〜13人を丸1日仕事から外すので、生産力にも影響をおよぼす。しかし、齋藤プランナーからこの研修を提案されたとき、望月社長と野尻部長は、迷うことなく実施を決めた。  「私どもの仕事は人によるものです。だれがやっても同じというものではありませんので、教育が何より大事だと考えています。研修で人が抜ける影響はありますが、働く人にとってプラスになりますし、長い目で見れば会社にもプラスです。いま、世の中では、70歳くらいまで働く流れがありますので、定年後も働き続けるために自分はどうすればよいのかという意識づけをしたいと考え、研修の実施を決めました」(野尻部長)と説明する。  こうした考えから、研修では、「エンプロイアビリティー(雇用される能力)」についての解説に力点が置かれた。高齢者を取り巻く環境などを理解したうえで、定年までを漫然(まんぜん)と過ごすのではなく、会社に必要とされる人材となるためには自分が何をすべきかを考えた。  また、管理者としての基本的なマネジメントについても教わり、そのなかで、年上部下との接し方も学んだ。例えば、高齢の社員とのコミュニケーションについて自己チェックリストによって気づきをうながしたり、声かけを忘れない、要望や指示ははっきりと伝え、人生の先輩としての礼節を忘れない、といった関係づくりの基本も伝えられた。  現在、同社における中間管理職は30代後半〜40代が中心。従業員は原則として同じ部署でキャリアを積んでいくため、定年前に立場が逆転することは起こりにくいが、定年後再雇用者の場合は部下という位置づけとなり、主に後進の指導を中心に担当する。「今後は部署間の異動についても考えていきたい」(野尻部長)とのこともあり、同研修の持つ意味は大きい。 研修により、意識変革の必要性やコミュニケーションの重要性を理解  研修後のアンケートでは、受講者全員が「よく理解できた」または「理解できた」、これからの就業生活に「かなり役に立つと思う」または「役に立つと思う」と回答した。  野尻部長は、「みんな、講師の先生の話を真剣に聞いていました。『長く勤めるつもりではいたが、自分はどうしていきたいのかについて考えたことはなかった』という人が多く、さまざまな気づきが得られたようです。受講者は30代〜40代前半が中心ですので、定年後のことを考えたことがないのも当然といえば当然ですが、定年、さらには『70歳』という具体的な数字を示して解説していただいたことで、『この仕事を長く続けていくためには、なんとなく過ごすのではなく、何をしなければならないか』という理解が深まりました」と評価している。  参加者からは「部下を知る(人を知る)ことの重要性について理解が深まった。自分に置き換えてみると、自分を理解しようとしてくれたり、自分を意識してくれている態度はモチベーションの向上につながる。そのような行動を、自分も部下や同僚に対して行えるようになりたい」、「コミュニケーションを取るうえで大切なことを学べた。また、ハラスメントは、自分にそのつもりがなくても、受ける人の印象で変わるので、普段のコミュニケーションは非常に大切だと思った」など、今後のマネジメントの改善につながる感想も数多くあがった。  今後は、「この研修を全社員で実施できると一番よいと思っています。また、入社から3年、5年、10年などの節目に、世の中の流れや考え方、仕事を続けていくために必要なことなどを継続して学ぶ機会をつくっていければと考えています」(野尻部長)という。 垣根のないコミュニケーションが組織力を高める  前述のように、同社では、管理職が年上部下との関係に悩まされる状況にはなく、その背景として、年齢の逆転が少なく、定年再雇用者は通常業務のラインから外れているということがあるが、もう一つ、重要なポイントがある。それは、年齢にかかわらず、社員同士の仲がよいことだ。普段から若手も高齢者も垣根なく交流できているので、管理職が高齢の部下に業務の指示などをしなければならない場面が生じても、問題が起こりにくい風土ができている。  2017年には、それまで職場単位で行っていた忘年会を試験的に会社全体で開催したところ、従業員から大変好評だった。2018年も、労働組合と共催で同様の忘年会を行った。  また、2018年には、自社のグラスを納入している東京宝塚劇場を見学する研修≠燻タ施した。希望者を募り、バスをチャーターして、観劇と食事、直営ショップの見学をしたが、自分たちのつくったものがこうしたところで使われていると知ってモチベーションが高まるとともに、普段接しない他部署の人とのコミュニケーションも深まった。  こうしたイベントでは、高齢者が高齢者同士で固まるようなことはなく、世代を問わずコミュニケーションが取れている。野尻部長は、「それまで上司だった人が部下になった場合、どうしてもむずかしい面も出てくると思いますが、当社の場合、そうした状況になっても、比較的垣根なく、コミュニケーションが取れていくのだと思います」ととらえている。  経営層と従業員とのコミュニケーションもよく、望月社長は、「従業員に会社に対するフィードバックを求めるとともに、私も従業員へのフィードバックを心がけています。生産量などの結果を現場に貼り出しているほか、売上げ、利益、改善状況を3カ月に1回、全社員に説明しています。これは、私が就任した2013年からやり続けていることです。また、特に大きな取引が成立したときは、『カガミ新聞』という壁新聞をつくって貼り出しています」という。「高齢者を含め、どうやって従業員を惹きつけていくかを常に考えてきました」という望月社長の元、今後も職場環境整備や教育に取り組んでいく方針である。 ※1 本誌2016 年1 月号「技を支える」には、同社のグラヴィール職人・松浦松夫さんに登場していただいた エルダー 2016年1月号 検索 ※2 吹き竿に巻き取ったガラス内に空気を吹き込み成型する「型吹成型・宙吹成型」、ガラス表面をグラインダーで削り幾何学的な模様を彫り込む「切子加工」、ガラス表面に彫刻のように模様を彫り込んでいく「グラヴィール」など、同社では工程ごとに専門の職人が活躍している 望月英俊代表取締役社長 同社のクリスタルガラス製品 同社本社の工場に隣接したショップでは、さまざまな製品を展示販売している 【P24】 ご案内 年下上司の育成、年上部下の戦力化へ 「就業意識向上研修」をご活用ください  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、企業における中高年齢従業員・職場の活性化を支援するための「就業意識向上研修」を行っています。中高年齢の部下を持つ管理者を対象とした「職場管理者研修」、おおむね45歳以上の中高年齢従業員を対象とした「中高年齢従業員研修」に分かれており、各企業の事情や課題に応じたカリキュラムの設定が可能です。  年上部下を持つ管理者のマネジメント力向上や、年下上司の部下になる年上部下の戦力化などに向け、ぜひご活用ください。詳しくは、各都道府県支部(65頁参照)へお問い合わせください。 就業意識向上研修とは 職場管理者研修 対象:中高年齢従業員や継続雇用者などで構成する職場管理者・監督者 生涯現役職場管理者研修(基礎編) 高齢社員を職場戦力として活用するために必要とされる、基礎的な管理スキルを指導します。 生涯現役マネジメント研修(展開編) 高齢社員を職場戦力として活用するために必要なマネジメントの方法について理解を図ります。 中高年齢従業員研修 対象:概ね45歳以上の中高年齢従業員 生涯現役ライフプラン研修(基礎編) 年金等のライフプランの解説に加えて、生涯現役で働き続ける必要性を指導し、就業意識の改善を図ります。 生涯現役エキスパート研修(展開編) チェックリストやグループワークを実施し、生涯現役として企業で活躍できる仕事のエキスパートを育成します。 研修時間:4時間以上15時間以下 受講者数:5人以上20人程度 講師:65歳超雇用推進プランナー、高年齢者雇用アドバイザー 研修カリキュラム等:受講者の状況などを勘案し、アドバイザー等がご相談させていただきながら作成します ●利用方法と手続き  事業主が就業意識向上研修の利用を依頼すると、都道府県支部で依頼内容を審査のうえ、当該事業主と都道府県支部との間で、就業意識向上研修の実施に関する確認書を取り交わし、当該研修を実施するのに最も適したアドバイザー等を選任・依頼して研修を行います。 事業主 @就業意識 向上研修実施の依頼 A確認書の取り交わし D負担分 支払い 機構 C就業意識向上研修の実施 B選任・依頼 E支払い アドバイザー等 ●就業意識向上研修に係る経費  就業意識向上研修に要する費用(アドバイザー等との契約額)は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構と事業主がそれぞれ2分の1ずつの負担となります。  就業意識向上研修の時間により最高限度額と負担額が異なりますので、下表をご参照ください。 就業意識向上研修に係る経費(例) 就業意識向上研修の内容 @半日コース(4時間) 最高限度額 60,000円 事業主負担額 (2分の1)30,000円 就業意識向上研修の内容 A1日コース(8時間) 最高限度額 120,000円 事業主負担額 (2分の1)60,000円 就業意識向上研修の内容 B2日間コース(14時間) 最高限度額 210,000円 事業主負担額 (2分の1)105,000円 【P25】 日本史にみる長寿食 FOOD 308 新ジャガイモはビタミンCの宝庫 食文化史研究家● 永山久夫 ジャガイモのコロコロ煮  これから夏にかけて、店頭に出てくるのが小粒の新ジャガイモ。店頭に並ぶ野菜や果物の色どりが、季節の到来を知らせてくれます。ツバメが飛びまわる姿を見かけるのが、このころです。  この時分に小料理屋や居酒屋に入ると、小玉のジャガイモを皮つきのまま、油で炒め煮したコロコロ煮が、よく出てきます。イモはすぐに大きくなってしまいますから、ほんの短い期間限定の、まさに季節の料理といってよいでしょう。  ジャガイモは、コロッケには欠かせませんが、肉ジャガやポテトサラダ、家庭でつくるカレーライス、ポテトチップスにも不可欠です。  ナス科の多年草で、ジャガタライモ、オランダイモ、馬鈴薯(ばれいしょ)、五升(ごしょう)いも、お助けいもなどの別名もあります。  原産地は南アメリカのアンデス山系の高地で、日本には戦国時代の末期にジャガタラ(現ジャカルタ)からオランダ船によって、長崎に伝えられたといわれ、「ジャガイモ」の呼び名も、ここからきています。ジャガタライモが転じてジャガイモになりました。 リンゴより多いビタミンC  ジャガイモというと、何といっても有名なのが「男爵いも」でしょう。  1908(明治39)年、北海道で農場を経営していた川田男爵が、アメリカからアイリッシュ・コブラーという種いもを輸入して栽培したところ、これが見事に成功しました。北海道の土地に合って、よく採れるうえに味もよい。ホクホクした舌ざわりと、クセの無い味が日本人の好みに合い、人気のジャガイモに育ったのです。  北海道のある村では1個の種いもから五升もとれたので「五升いも」とも呼ばれたというエピソードがあるくらい、北海道はジャガイモの産地として有名になります。  ジャガイモで注目されるのは、加熱に強いビタミンCが100グラム中に35ミリグラムも含まれているという点。ミカンに匹敵する含有量で、リンゴよりもはるかに多く含まれています。ビタミンCは、ご存知のようにウイルスを殺す働きがあり、風邪やガンなどを防ぐ作用としても注目されています。ジャガイモは、高血圧を予防するカリウムが豊富な点も評価されています。 【P26-30】 マンガで見る高齢者雇用 60歳をすぎても“いきいき働く”ための「いきいき健康プログラム」 第2回 気づきをうながし、健康・体力を高める「高年齢者対策」のその先へ! トヨタ自動車株式会社(本社:愛知県豊田市) 〈先月号のあらすじ〉 トヨタ自動車株式会社では、社員の高年齢化を背景に、健康・体力づくりのための「いきいき健康プログラム」を策定し2015年からスタート。体力のみえる化≠竍運動指導会≠ネど、高年齢社員がいきいき働くための取組みを進めている。 ※1 ウェルポ……トヨタ自動車株式会社安全健康推進部とトヨタ自動車健康保険組合が協同運営する施設。 ※2 節目健診……生活習慣病やがんの予防・早期発見を目的に、36歳から4年ごとに実施する健康診断。当該社員の配偶者も受診でき、健診と当時に、健康に関する情報を伝えるための学習会も行っている。 ※3 いきいき健康プログラム……高年齢化による体力の低下を抑え、いきいきと働くための身体づくりを目的として、@体力みえる化(体力測定)、A運動指導会、B自助努力支援から構成される。 第1回はホームページでもご覧いただくことができます。 エルダー 2019年4月号 検索 ※28ページ〜掲載 【P31】 解説 マンガで見る高齢者雇用 60歳をすぎても“いきいき働く”ための「いきいき健康プログラム」 第2回 気づきをうながし、健康・体力を高める「高年齢者対策」のその先へ! <企業プロフィール> トヨタ自動車株式会社(本社:愛知県豊田市)  トヨタ自動車株式会社では、従業員の高年齢化などを背景に、60 歳をすぎても「いきいき」と働くための職場環境の整備に向け、体力の維持向上の観点から「いきいき健康プログラム」を策定。「体力みえる化(体力測定)」、「運動指導会」、「自助努力支援」を3本柱に、中高年齢者を中心に、従業員の健康・体力づくりを目ざす取組みを行っている。 ※「体力みえる化」の詳細は、4月号をご参照ください。 運動指導会  参加者に、身体のメンテナンスや体力維持の方法などを伝えることを目的とした指導会。所要時間は30 分〜1時間程度。安全健康推進部に所属する運動トレーナーが講師を務め、運動や食事、睡眠、節酒、禁煙などの生活習慣が、「いきいき」働くことと密接に関連していることを伝えるとともに、加齢による腰痛や首・肩こりに効果的なストレッチなどについて、実技を交えて指導を行っている。 自助努力支援  「体力みえる化」や「運動指導会」などを通して、体力維持の重要性に気づいてもらったうえで、就業時間外における日々の運動習慣を支援する取組み。歩数と中強度の運動時間を記録できる活動量計(端末)を従業員に貸与し、活動量計から得られたデータをもとに、運動トレーナーがアドバイスを行う。 いきいき健康プログラムの成果  同社がこれまで行ってきた「いきいき健康プログラム」により、下記のような成果が上がっている。 ●運動指導会の参加者の「体力みえる化(体力測定)」の数値が向上。 ●体力や健康の維持・向上の取組みに無関心だった層が減少し、日常的に運動に取り組む層が増加。 ●「いきいき健康プログラム」以降、日常的に運動に取り組んだ人の半数以上で、「首・肩こり」、「体が重い」、「腰痛」などの体の不調が改善。 【P32-33】 江戸から東京へ 第80回 大奥での嫌がらせの二人 秀忠(ひでただ)と大母(おおぼ) 作家 童門冬二 温和な二代目秀忠  初代の家康と三代目の家光に挟まれて、二代目の秀忠は徳川将軍としては何となくその存在が薄れがちだ。しかし、秀忠は慶長10(1605)年に将軍になり、元和9(1623)年に家光に職を譲るまでの、足掛け19 年間、そのポストにあった。現在の内閣総理大臣の任期である4年で考えれば5期勤めたことになる。かれの事績は、主に情による風潮の調整≠ニいっていい。  荒々しい戦国気風の残存と、父・家康の急進的な平和国家への移行は、特に大名やその家臣たちの生き方を戸惑わせた。秀忠は自分の行いでその混迷を沈めた。  かれは家康の側室西郷(さいごう)の局(つぼね)が生んだ子だが、幼少年時代は乳母の手で育てられた。秀忠はこの乳母に大母≠ニいう敬称をつけ、江戸城の大奥に一室を設けて暮らさせた。折にふれて訪ね、変わらぬ親愛ぶりを示した。  大奥は春日局(かすがのつぼね)の支配によって女性の拠点となり、将軍の側室たちの競う場所になった。大母は次第に自分の居場所を失い居辛くなった。しかし大母には頼れる身寄りがいなかった。息子が一人いたが、若いときに無頼(ぶらい)の仲間に入り、法に触れて八丈島に流されてしまった。秀忠は性格が温和で思いやりがあった。父が罰した大名や旗本をどれだけ救ったかわからない。家康が死んだ後は、特にこの救済に力を入れた。だから大母の息子についても、  (いつか機を見て赦免してやろう)  と思っていた。しかし、大母は秀忠に決して息子のことを口にしなかった。  大奥の空気はどんどん変わった。側室たちの争いがいよいよ激しくなり、嫉妬と憎しみの温床になった。大母の存在はだれも省みなくなり、かえって邪魔者視された。老齢になった大母はそういう争いのただなかにあって、孤独感と疎外感にじっと耐えた。大母自身は心のなかで息子の赦免をじっと待っていたのだ。そして、 (そのときに迎えてやる場はこの江戸城だ)  と思っていた。現在の大奥の女性たちにとって、  「二代目将軍の乳母」  という身分が、どれだけの栄光と力を持っているかわからない。フンと鼻の先で笑い飛ばされるかもしれない。しかし、大母には誇りと自信があった。秀忠には母の愛が欠けていた。普通なら大名の子は側室が生んでも、正妻の下に集められる。正妻の子として育てられる。しかし、家康の正妻は横死(おうし)※し、その後豊臣秀吉の妹と政略結婚したが、間もなく死んだ。 以後家康は妻帯しなかった。  生母の西郷局は家康の政治的ブレーンになって、女性ではあるが男に負けない存在になっている。秀忠にとって微妙な位置にある。  「母上」  といって気楽に慕い寄れる仲ではない。そうなると秀忠にとっての実質的な母は大母になる。大母以外いない。 予想もしない噂  そして秀忠自身の評判も、実をいえばその温和な性格が裏目に出る場合が多い。果断・勇猛なトップを求める大名や旗本にとって秀忠は、  「優柔不断で煮え切らない」  「不肖(父に似ない)の二代目」  と不満の声も投げられる。家光にポストを譲ってからは、家光が英邁(えいまい)なだけに余計そういう批判の声がやかましい。だから秀忠が大母を訪ねて来るのを、大奥側では、  「大御所様(秀忠)は、お淋しいのだ」  と心情を忖度(そんたく)して見る者もいる。しかし秀忠にすれば違う。  (大母には身寄りがない。わしにとっては実母同様のお人だ。孝養を尽くすのが当たり前の人の道だ)  と考えているだけだ。大母の方も  (大御所〈隠居〉になっても秀忠様はかならずしも幸せではない。風当たりが強い。ここへおいでになるときが一番ホッとなさるのだろう。そんな秀忠様をさらにお悩ませするような息子の赦免のお願いなど絶対にしない)  と心を決めていた。二人の面会は善意と善意の出会いだ。何の思惑も目論見もない。私利私欲もない。  しかし将軍(家光)の寵(ちょう)を求めて、なりふりかまわずに争う側室と、それぞれの側室を支持する層たちにはそうは見えなかった。  「二人は結託して私たちに嫌がらせをしているのだ」  と受け止めた。  だれかがいい出して、これが噂になった。そのため秀忠が大母を訪ねてくるときだけは、大奥は静かになりまともになった。やがてこのことを二人も知った。二人は笑った。  「こっちが考えてもいないのに」  「でも、そう思わせておきましょう。大奥のためにも」  二人はそう申しあわせた。いつまでたっても大母は決して息子の赦免を願わなかったし、秀忠も大母を大奥から移そうとはしなかった。春日局だけがギリギリと歯を噛んでいた。これも秀忠の風潮是正の一つかもしれない。本人にそんな気がなくても。 ※横死……事故・殺害など、思いがけない災難で死ぬこと 【P34-35】 高齢者に聞く 第61回 生涯現役で働くとは  静 弘治さん(90歳)は、37歳のときに天野歯科に事務員として採用され、半世紀を超えて第一線で働き続けてきた。年齢とともに勤務形態を変えながら、いまは週2回の勤務をこなしている。職場に向かう緊張感が嬉しいと語る静さんに、生涯現役の日々を豊かに過ごす極意をうかがった。 医療法人社団真洋会(しんようかい) 天野歯科 事務員 静(しずか) 弘治(こうじ)さん 働きながら学んだ日々が原点に  私は滋賀県蒲生郡(がもうぐん)安土村(あづち)(現・近江八幡(おうみはちまん)市安土町)で産声を上げました。家は農家で米をつくっていましたが、当時の農家は苦労が多く、父は自分の代で農家を終わらせようと、姉だけは農家に嫁いだものの、4人兄弟の誰一人も、農家を継げとはいわれませんでした。  ただ、4人の息子のうち3人が兵隊に召集され、末っ子の私は、自然と父を手伝うようになりました。しかし、これからの世の中は学問が必要になるという父の教えに従って、彦根(ひこね)工業学校(現・彦根工業高等学校)機械科の定時制に進学しました。いまでこそ大した通学距離ではありませんが、当時は汽車しかなかったので通学時間がずいぶんかかりました。加えて、汽車はいつも乗客があふれかえっており、車内に入ることができず、デッキでずっと我慢したものです。  午後2時ごろまで農作業を手伝ってから汽車に飛び乗り、授業を受けてまた汽車で戻る、その日々のくり返しでしたが、この経験で身についた根性(こんじょう)がその後の人生を支えてくれました。苦しい家計をやりくりして、私を学ばせてくれた父に感謝するばかりです。  ところが、機械の勉強をしたにもかかわらず、私には税理士になりたいという夢がありました。結局、明治大学経営学部に入学し、東京都大田区に新居を構えた次兄宅に居候(いそうろう)しながら、大学に通わせてもらいました。後から知ったことですが、父が兄に頼んでくれていたそうです。父は、「子どもには農家を継がせない」という意志を貫き通しました。  大田区はものづくりの町。朝鮮戦争の特需も加わって、静さんはさまざまなアルバイトをしながら大学に通った。戦地で使用した自動車を整備し、再び戦地へ送り返す仕事は工業学校で学んだ知識が役立った。 就職難を乗り越えて  大学は卒業したものの、戦争特需からの好景気が一転、世の中には失業者があふれ、未曽有(みぞう)の就職難の時代を迎えました。大学で学んだ知識を生かせる職場はなかなか見つからず、何とか知人を頼って運輸関係の会社に入社。結局、税理士になりたいという夢は叶いませんでした。  その後、縁あって結婚が決まり、郷里に近い大阪に戻りますが、妻が一時期働いていた東京都日本橋にある天野歯科から「事務の仕事をしてみないか」と声をかけていただき、再び上京しました。まったく経験のない職種でしたが、創業者ご夫妻の人柄に惹かれ、働かせてもらうことに。そのとき私は37歳、それから半世紀が過ぎました。  運輸関係の会社では経理も担当していましたが、天野歯科では経理というよりは、「レセプト」といわれる医療事務の知識が求められました。レセプトとは医療機関が健康保険組合などに提出する診療報酬請求明細書のことで、医療費を計算するために、検査や処置、薬に関する費用が明記されています。これらを点数化して医療費を計算し、そのなかから保険適用外費用を除外した金額を算出する仕組みです。パソコンのない時代でしたから、一枚一枚手書きで、慣れるまでには相当な時間がかかりました。当時は通信教育もなく、実際に働きながら先輩に教えてもらい、失敗をくり返しながら経験を積んでいきました。  いま歯科医院は「コンビニエンスストアよりも多い」といわれるほど競争も激化しています。私が就職した1960年代は歯科医不足で、歯科医院の全盛期でした。事務員も大勢おり、職場は活気にあふれていました。やがて私は事務長という役職に就き、多忙ながら、やりがいのある日々を過ごさせてもらいました。  天野歯科は、1951年に日に本橋室町(ほんばしむろまち)で開業した。日本橋という土地柄を意識してエントランスには和の雰囲気が漂い、リラックスできる院内環境の整備を心がけている。先代から二代目へ、常に時代に先駆ける足跡を静さんはじっと見守り続けてきた。 「生涯現役」という志を抱いて  天野歯科の定年は60歳ですが、60歳を迎えたとき、先代の奥さまが「もう少し働いてもらいたい」と声をかけてくれました。65歳になったときも同様でした。65歳以降、処遇に対する特別なお話はありません。それはいまの理事長になってからも同じで、健康であることを条件に勤務を続けています。ただ、勤務日数や時間などは年齢を重ねるとともに変わってきました。  かつては事務長という役職でしたが、いまは事務員という立場です。勤務は週2回、10時から17時までで、月末や給料日にも出勤しています。最近は医療事務ではなく、経理などの一般事務を担当しています。  私は千葉県に住んでおり、通勤に2時間近くかかりますが、定時制工業学校時代の通学を考えればなんてことはありません。後の人生に役立たない経験はないものだと実感しています。不思議なもので、週2回の出勤日はやはり朝早く目覚め、東京に出勤することでぐっとやる気が出てきます。  90歳で働いているというと驚く人もいますが、私は雇ってもらえる場所があるかぎり、働くことで社会とつながっていたいと思います。自分の可能性を試すだけでなく、働き続けることでだれかの役に立ちたいという願いに支えられ半世紀が過ぎました。  おかげさまで丈夫に生まれ、大病をしたことがありません。それでも健康でなければ働き続けることはできないと考え、職場へ来るときは総武線の新日本橋駅から15分ほど歩くようにしています。  また、日ごろから体を動かすことが大切だと思い、せっせと庭いじりをしています。郊外に住んでいるため庭が広く、草むしりだけでもしっかり汗をかきます。剪定(せんてい)などは「プロに頼んだら」と妻はいうのですが、つい自分でやってしまい呆れられています。  昔は趣味がたくさんありましたが、いまでも続いているのは水彩画ぐらいでしょうか。先代の奥さまとは水彩画のことで話が合いました。絵画鑑賞も好きなので、昼休みには近くのデパートのなかにある画廊を訪れるのも楽しみの一つです。  また、若いスタッフとおしゃべりする時間も楽しく、「生涯現役でいたい」というモチベーションを高めるパワーをもらっています。昔は、スケッチ旅行によく出かけたものです。実は5月に、次兄と旅行を計画しています。大学時代に居候させてもらった兄との二人旅です。97歳と90歳の珍道中にいまからわくわくしています。もう少しがんばって働き続けたい。私の生涯現役の旅は、まだ道半ばなのです。 【P36-39】 高齢者の現場 北から、南から 第84回 香川県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー※(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 香川県 体力などに適した仕事を任せて安全走行・安全作業を徹底 企業プロフィール 林田運送株式会社(香川県坂出市) ▲創業 1957(昭和32)年 ▲業種 一般貨物運送、クレーンリース業 ▲従業員数 46 人 (60歳以上男女内訳) 男性(10人)、女性(0人) (年齢内訳) 60〜64歳 6人(13.0%) 65〜69歳 2人(4.3%) 70歳以上 2人(4.3%) ▲定年・継続雇用制度 定年60歳。希望者全員65歳まで再雇用。65歳以降も条件が合えば継続して雇用する 車庫に並んだ林田運送の車両。トラック・トレーラーは36台、移動式クレーンは11台を所有している  香川県は、四国の東北部に位置し、日本で初めて国立公園に指定された瀬戸内海国立公園のほぼ中心にあります。面積が全国で一番小さい県ですが、コシのある讃岐(さぬき)うどんをはじめ、小豆島(しょうどしま)のオリーブ、観光名所では「こんぴらさん」の愛称で親しまれる金刀比羅宮(ことひらぐう)や四国八十八箇所の一つで空海の生誕地とされる善通寺(ぜんつうじ)などがよく知られています。  産業は、高松市を中心とする高松地域では情報通信業や卸売・小売業、サービス業などの第三次産業、丸亀市と坂出(さかいで)市を中心とする中ちゅう讃さん地域では、瀬戸内工業地域の一翼として造船業やクレーン製造業などの第二次産業が発展。また、革製手袋製造業は国内生産の約7割を占めています。  当機構の香川支部高齢・障害者業務課では、県内の事業所の高齢者雇用に関する相談・援助、高齢者雇用に関する助成金の受付などを実施しており、同支部の篠塚隆太課長は、「事業主の声を聞くことを大切にしています。そこから事業所の抱える問題を正確に把握し、専門知識や最新情報などをもとに的確な助言や提案を行っています。また、制度提案後も再訪問し、進捗状況を確認するとともに課題解決のための支援にも努めています」と取組みを話します。  今回は、同支部で活躍するプランナー・常谷(つねたに)薫(かおる)さんの案内で、「林田運送株式会社」を訪れました。 重量物、長尺物の運送を手がける  林田運送は、林田運送有限会社として1957(昭和32)年、坂出市に設立。運送業者として着実に成長し、1993(平成5)年に株式会社に組織変更して現在に至っています。  主に、鋼材やコンクリート製品などの重量物や、長さ15mを超える電柱などの長尺物(ちょうじゃくもの)の運送を得意とし、総重量25t、荷台の長さ12mもの大型トラックとトレーラーで運んでいます。坂出市を拠点として、四国全域と本州の京都、大阪、神戸までを主な営業エリアとしています。また、クレーンつきトラックも所有し、建設現場でのクレーン作業なども手がけるなど、実績と取引先からの信頼を積み重ねてきました。  代表取締役社長の野角(のがく)豊弘(とよひろ)さんは、「創業以来、一貫して大事にしていることは、お客さまから託された荷物を、確実に、安全に、運ぶこと。当社の仕事では、トラックの運転に加えて、荷物の積み下ろし作業もたいへん重要です。全社一丸となって、安全走行、安全作業の徹底に努めて、お客さまのニーズに応えています」と話します。 今後の高齢化を見据えて  同社の大型トラックの運送先は、建設現場が多く、荷物をどのように積み、下ろすか、その経験が大切だといいます。道幅の狭い住宅街での作業など、工事が進行する現場で最適な方法で作業をする判断を迫られるなど、いろいろな状況への対応が求められるだけに、「経験を積んでいるドライバーは、大事な存在です」と野角社長。  また、経験豊富なベテランドライバーは、大型トラックにも移動式クレーンにも乗車できるオールラウンドプレーヤーが多く、後進のお手本になっているといいます。技術の継承については、新任ドライバーはベテランと組んで配車することにより、一緒に現場に行ったり車庫で荷積み作業などを行う際、先輩から後輩に自然に荷積みのコツなどを教えるよう指示しています。  従業員数は46人(4人の役員を含む)。そのうち、トラックとトレーラー、移動式クレーンのドライバーが36人と大半を占めています。最高年齢は81歳の元ドライバーで、運転免許は3年ほど前に返納し、現在は倉庫管理を担当しています。  野角社長は、「この5、6年で団塊の世代のドライバーが次々に引退し、その後に入社した従業員が10人ほどいます。ドライバー経験があれば60代の人でも採用し、みなさん働き続けていますので、人数は揃っているのですが、20〜30代の入社が少ないので、先々を考えると厳しい状況です」と人材確保のむずかしさについて語ります。  常谷プランナーは、同社の状況に対応して、「道路貨物運送業はドライバー不足であることと、同社では今後ドライバーの高齢化が進むことから、高齢ドライバーのさらなる活用に取り組む観点からアドバイスをしています」と話します。また、そのなかで、当機構の「企業診断システム(健康管理)」※を実施し、同社の現状の確認や検討したい課題の整理などを行いました。  従業員の健康への配慮について、同社では健康診断にオプション項目をつけているほか、長期出張などハードな仕事を一人の従業員に集中させないこと、朝礼で毎日顔を見ることなどを実施。また、車両に最新の安全設備を搭載するなどの安全対策の強化にも努めています。 55歳ころから仕事を変えていく  大型トラックのドライバーは、2m以上の高さがある荷台を上り下りして荷積み、荷縛り、荷下ろしの作業を行うため、身体が機敏に動くことと体力が必要となります。また、長距離運転をする場合、集中力も大切といいます。  そのため、「長距離運転の仕事をしているドライバーには、55歳を目安に本人と話し合いながら、近距離の仕事や夜間走行のない仕事に変える、さらに年齢を重ねてからは、クレーンの仕事に変更するなどして、無理なく継続して働けるようにしています。クレーン作業は、大型トラックほど体力が要りませんので、個人差はありますが、75歳まで働いた人もいます」と野角社長。  同社の仕事は基本的には一人で担当し、業務量で賃金が決まる日給月給制で、定年後も同じ制度です。  定年は60歳。65歳まで希望者全員を再雇用し、65歳以降は条件が合えば継続して雇用します。定年前と同じ仕事であれば、再雇用後の勤務時間、賃金に変化はありません。ただ、定年などを機に本人から「近距離の仕事に変わりたい」と申し出があったり、話し合ってクレーン作業に変わると、その仕事に応じた賃金に変わります。このような変化については、安全第一の仕事なので、従業員も納得しているといいます。  今回は、同社で働いている60代のお二人からお話をうかがいました。 前職の経験を活かして  同社の倉庫でフォークリフトを操作し、荷物の搬入・搬出、管理を行っている岡田(おかだ)常郎(つねお)さん(63歳)は、食品の卸会社を定年後、62歳で入社。フルタイムで勤務してまもなく1年です。  「どのようにすればトラックに積みやすいか、あるいは、運んできた荷物を下ろしやすいかを考えて荷物を配置し、管理します。前職の食品卸会社とは、取り扱う荷物の大きさも重さもまったく異なるのですが、倉庫管理の経験があるので、それが活かせてよかったです」とおだやかな表情で話す岡田さん。  野角社長は、「岡田さんのおかげで、倉庫内のどこに何があるのか、わかりやすくなりました」とその仕事ぶりを讃えます。  岡田さんは、「安全第一を心がけて、ドライバーのみなさんが少しでも仕事がしやすくなるよう、貢献できればという思いで取り組んでいます」と仕事に対する気持ちを話し、「まだ1年目ですが、働けるうちは仕事を続けたい。できれば、70歳くらいまでがんばりたい」と目標を聞かせてくれました。 仕事のために身体を大事にする  山下博ひろ文ふみさん(68歳)は、勤続27年。大型自動車第一種運転免許、小型移動式クレーンなどの資格を有し、大型トラックのドライバーとして勤務しています。以前は一般貨物の運送を担当していましたが、8年ほど前から電柱を四国全域へ日帰りで運ぶ仕事をしています。野角社長は「山下さんは後輩のお手本となっているベテランドライバーの一人です」と語ります。  「私は、40歳で入社して、先輩にイチから教わって大型トラックに乗り始めました。同じ年代の人には負けないぞという思いで一生懸命やってきました。お客さまからときどき、『うまいですね』なんて運転をほめてもらえると、うれしくてね」と満面の笑顔で話す山下さん。  仕事をするうえで最も大事にしていることをたずねると、「身体です」と即答。これからも仕事を続けるために、「健康年齢を上げたいと思い、無理のない範囲で毎日運動をしています」と話してくださいました。 「働き方改革」に取り組みながら  従業員の方と会話する様子などから、野角社長が一人ひとりに目を配って意思の疎通を図り、信頼関係を築いていることが伝わってきました。  ドライバー業務について、上限年齢は定めていませんが、従業員自身が退職時期を決めるケースがほとんどだといいます。ある60代のベテランドライバーの方は、「足が荷台に上がるうちは大丈夫と思って、それを基準にして自分で判断し、無理だというときがきたら辞めます」と話していました。「会社に迷惑をかけてはいけない」という思いで判断するようです。  「常谷プランナーから、65歳以上の従業員の雇用についてアドバイスを受けています。また、安心して働ける環境の構築に向けて、定年延長の提案をしていただきました。当社は40人ほどの規模ですから、従業員の年齢構成などと照らし合わせて考えていきたいと思います。引き続きアドバイスをいただけたらありがたいです」と野角社長。そして、次のように語りました。  「運送業界の人手不足は当分続くと思います。一方で、働き方改革により、当業界と取引先の業界の双方の努力により、少しずつ労働環境が変わろうとしています。そこに期待をしながら、当社においても、従業員が長く働き続けられる環境をつくっていきたいと考えています」 (取材・増山美智子) ※65歳超雇用推進プランナー……当機構では、高年齢者雇用アドバイザーのうち経験豊富な方を65歳超雇用推進プランナーとして委嘱し、事業主に対し、65歳を超えた継続雇用延長・65歳以上への定年引上げなどにかかわる具体的な制度改善提案を中心とした相談・援助を行っています ※企業診断システム……高齢労働力の活用に向け企業内で取り組むべき課題と方向性を整理するために開発されたシステム。「職場改善」、「健康管理」、「教育訓練」、「仕事能力把握ツール」、「雇用力評価ツール」で構成される 常谷 薫 プランナー(70歳) アドバイザー・プランナー歴:12年 [常谷プランナーから] 「少子高齢化が進み、労働力不足が激しさを増すなかで、高齢者雇用に対する社会の要請が強まっています。他社に先駆けて高齢者雇用を積極的に進めることで、自社の競争力を高めることも可能です。そこで、プランナー活動では、高齢者を戦力として活用するうえでの取組みのポイントを伝えたいと思っています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆香川支部の篠塚課長は、常谷プランナーについて次のように話します。「就業規則や賃金・退職金制度に精通した、人事労務管理の専門家です。温和な人柄で、相談・助言活動はもとより制度改善提案にも意欲的に取り組み、豊富な知識と経験による的確な助言をすることから、事業所からの信頼も厚く、支部やほかのプランナー、アドバイザーからも頼りとされている存在です」 ◆香川支部高齢・障害者業務課には、65歳超雇用推進プランナーと高年齢者雇用アドバイザーが計6人在籍し(2018年度)、県内事業所などを訪問して相談・助言活動に取り組んでいます。2018年度2月末時点では、391 件の相談・助言などを行い、そのうえで65歳以上への定年引上げや65 歳を超えた継続雇用延長などの制度改定に関して107件の具体的な提案を実施しています。 ◆香川支部は、琴平(ことひら)電鉄琴平線「栗林(りつりん)公園駅」下車、徒歩5分。近隣には景勝地「栗林公園」と「ハローワーク高松」があります。 ◆各事業所の状況に即した相談・助言を無料で実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●香川支部高齢・障害者業務課 住所:香川県高松市花ノ宮町2-4-3 ポリテクセンター香川内 電話:087(814)3791 野角豊弘代表取締役社長 フォークリフトで倉庫の荷物を管理する岡田常郎さん 「毎日運動している」と話すベテランドライバーの山下博文さん 【P40-43】 新連載 高齢社員の磨き方 ―生涯能力開発時代へ向けて―  生涯現役時代を迎え、就業期間の長期化が進むなか、60歳以降も意欲的に働いていくためには、高齢者自身のスキルアップ・能力開発が重要になるといわれています。つまり、生涯現役時代は「生涯能力開発時代」。  本企画では、高齢者のスキルアップ・能力開発の支援に取り組む企業の施策を、人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説します。 第1回 株式会社忠武建基(ちゅうぶけんき)(東京都杉並区) 人事ジャーナリスト 溝上(みぞうえ)憲文(のりふみ) 生涯現役時代における高齢者雇用課題は高齢者のスキル習得  生産年齢人口が総人口の6割を切るなかで、高齢者の活用と戦力化が急務の課題になっている。実際に高齢者の就労意欲も高い。総務省の調査(2018〈平成30〉年9月16日発表)によると、2017年の60〜64歳の男性の就業率は79・1%、65〜69歳は54・8%となっている。65歳以上の人口に占める就業率は男性が31・8%、女性は16・3%と、いずれも6年連続で上昇し、就業者数も807万人と過去最多になった。  人生100年時代が叫ばれるなかで、長期就労は結構なことではあるが、企業にとって戦力化の最大の課題は「仕事に対するモチベーションの向上」と「必要なスキルの習得」の二つである。働く意欲が希薄でビジネスに必要なスキルを持ち合わせていなければ生産性の向上に結びつかない。  だが、現状では高齢社員のモチベーションの低下に頭を悩ませている企業も少なくない。定年後再雇用され、報酬は現役時代の半額程度という一律の処遇に加えて、仕事も現役社員の補助的作業という働き方がその背景にある。モチベーションを向上させるには基本給水準の引き上げや仕事の成果の処遇への反映、本人へのフィードバックによるメリハリのある人事評価制度の構築なども必要だ。また、スキルを習得するにはモチベーションを有していることが前提となるが、どんなスキルが必要となるのか本人はもちろん会社も予測できない。  ICT(情報通信技術)の進化やデジタル化の進展によって時間と距離が短縮され、市場の拡大と消費者ニーズの多様化を生みだし、ビジネスモデルが激しく変化する時代に直面している。少なくとも50代のシニアの段階からビジネスの動きを見据えて、新しいことを学ぶ習慣を身につけることにより、本人自身が技能を磨きつつ、ときおり軌道修正しながらスキル習得に向けて能動的に行動することが必要になる。  中・長期的に目ざすべきビジネスの方向性やビジョンを示しつつ、あくまでも自主性、能動性を尊重しながら、シニア層を含む高齢社員に対しては学ぶ機会や場の提供を含めて能力開発の支援を積極的に行い、スキル習得意欲の醸成を図ることが企業には求められる。  その結果、自ら身につけたスキルは企業の生産性向上への貢献にとどまらず、高齢社員にとって揺るぎない自信となり、さらなるスキルアップへ挑戦意欲を持つなど、職場で活き活き働くことにつながるだろう。  本連載では豊富な経験と知識を持つ高齢社員に学ぶ場の提供や、新たなスキル習得に向けた支援を行い、生産性向上や職場の活性化につなげた取組みを紹介したい。 業務の中核をになう高齢社員年齢上限を定めず希望者を雇用  1995年創業の株式会社忠武建基は、深礎(しんそ)工法を得意とする土木工事会社である。深礎工法とは、橋を支える橋脚や鉄塔の基礎部分を人力で掘削(くっさく)して土留めを行い、そこに鉄筋を入れてコンクリートを打設する工法で、ときには数十メートル下まで掘ってコンクリートで固めることもあり、独自のノウハウと長年の実績を持つ専門企業として、業界で知られている。  役職者を含めて30人の会社であるが、70歳の2人を含む8人が60 歳以上と高齢社員が大きな比重を占める。そのほとんどが「現場代理人」と呼ぶ工事の管理者を務める。協力会社の作業員に工程を指示し、生コンクリートや資材の手配、発注者との交渉を行うほか、自ら重機の運転をすることもある。工事現場は福島県や愛知県などの遠方も多く、東京都杉並区にある本社にはめったに来ることはなく直行直帰の勤務だ。  建設業界は人材不足だが同社も例外ではない。重責をになう高齢社員のさらなる活躍を期待し、同社では2016年に画期的な制度を構築した。4月に、従来の「60歳定年、65歳までの定年後再雇用制度」を見直し、「65歳定年、定年後は一定条件で年齢上限を定めず継続雇用」する制度に変えた。さらに8月には建設業で一般化している「日給月給制」を「完全月給制」に変更。収入の安定と人材の確保・定着が最大の目的である。  65歳以降の継続雇用についてはすでに70歳の社員もいるが、会社の戦力となる人材であり、本人に働く意欲があれば年齢の上限は設けていない。加えて現役時代と同じ給与(賞与など)が保障される。同社総務部の大沼正典氏は「定年後は1年契約の嘱託となり給与が下がる会社が多いですが、当社は同じ仕事をしていれば定年前と給与は変わりません。やはり報酬が同じであることはやりがいにつながりますし、能力を発揮できる働きやすい環境をつくることが大事だと思っています」と語る。  働きやすさへの配慮は報酬だけではない。いくら元気だといっても現場作業は危険がともなう。高齢社員の安全確保と身につけた知識や経験を活かし、いかに長く働いてもらうかが建設業界の大きな課題になっている。同社が取り組む安全確保策の一つが作業時に装着する保護具の軽量化だ。保護帽や防塵・防毒マスクなど法的に義務づけられている装備品のなかで、体に装着するフルハーネスと呼ぶ墜落制止用器具が最も重い。  「今年の2月から高所での作業はフルハーネスの着用が義務づけられましたが、できるだけ軽量で性能も優れた最新型の保護具を支給する取組みをしています」(大沼氏)  それでも年齢を重ねるごとに肉体的負担は増していく。高齢社員の次のステージとして用意しているのが関連会社の株式会社ディッグだ。安全・昇降設備や関連資機材のリース・販売を行う会社だが、つちかった経験と知識を活かして製品開発業務に従事してもらうことを想定している。まだ転籍した高齢社員はいないが、忠武建基の70歳の社員が提案したアイデアから開発された製品が、実用化されている。大沼氏も「関連会社が高齢社員の受け皿となり、そこで独自の資材や機材が開発・製品化されることは当社のバリューを高めることにつながります」と期待する。 スキルの習得と業務の効率化のため高齢社員のための「IT講習会」を開催  高齢社員の働きやすさの追求と長期的就労を可能とした安心感の提供は、働く意欲の向上につながる。さらなる業務の効率化と生産性を高めるために取り組んでいるのが、高齢社員のITスキルの向上だ。前述したように、社員の日々の就業場所は建設現場であり、本社に戻ることはない。業務をスムーズに遂行するためには、現場との密な連絡や情報共有が欠かせない。従来は紙媒体による報・連・相が主流であったが、電子日報のシステムを導入したことを契機に2015年から「IT講習会」をスタートさせた。  同社は現場の担当者1人が毎週月曜日に集まる「定例会議」と、2カ月に1回全員が集まる代理人・職長研修会」を開催しているが、代理人・職長研修会(午後開催)が行われる日の午前中にパソコンとスマートフォン操作を学ぶIT講習会を開催している。講師は大沼氏が務める。  「本社への提出書類として工事日報以外に毎週作成する週間工程表があります。以前は本社では、各現場の工程表をまとめたものと定例会議の議事録をFAXで現場に送っていました。また、それ以外にも資格証が必要なときは郵送でやりとりしていました。しかし、パソコンやスマートフォンが使えると、工程表を最初から作成しなくてもコピー&ペーストにより必要な部分を入力するだけでよいので時間も短縮されます。本社も手書きした書類を入力する必要がなくなり全現場の工程表をメールで送信できます。さらに定例会議の議事録には、各現場で発生したヒヤリ・ハットなどの安全や品質に関する情報などを追加し、全員で共有することができます」  現場の写真や資格証を送る場合もデジタルカメラではなくスマートフォンで撮影すれば瞬時に送付できる。さらにSNSの活用によって会社の伝達事項の共有だけでなく、社員間の情報交換も可能になる。高齢社員にとっては、「若手に教える」立場から、逆に教わる立場になることで、立場や年齢を超えて、コミュニケーションも円滑になった。  ただし、パソコンの習得は奨励しているが講習会への参加は強制ではなく、あくまで希望者に限定して開催している。さらにノートパソコン、スマートフォン、タブレットも希望者に支給している。参加者は毎回6〜7人。とくに決まったプログラムがあるわけではなく、個人の習熟度に合わせて教えている。  「集まる人によってスキルが違います。スマートフォンの操作を覚えたい人もいれば、エクセルを使って図面を作成したい人もいますので、堅苦しい講義形式ではなく、個別の質問に答える形で教えるようにしています。すでに我流でパソコンを使っていても、新しい方法を教えることで飛躍的にスキルが向上する人もいます」(大沼氏)  ITスキルは年輩者ほど苦手意識が強い。目標を設定して習得するのではなく、本人の意欲や事情に応じて徐々に覚えてもらうスタイルだ。  「いきなり『パソコンを覚えましょう』といってもむずかしいので、当初はスマートフォンから始めました。それでも入力方法を教えたときは渋い顔をする人もいました。いまでは使えると便利なことがわかっているので、最近はスマートフォンだけではなく、タブレットを持つ高齢社員もいます。画面が大きく字も大きく見えるので好評です。それが手放せなくなったら大成功です。そうなると意欲が湧いて『パソコンをやろうかな』という気になります」(大沼氏)  現在は個々のスキルレベルは異なるが、全社員のスマートフォン利用率は8〜9割、週間工程表の7〜8割はパソコンで入力して送ってくるという。それにともない業務の効率化も進んでいる。一方、フィーチャーフォンを使っている人も数人、パソコンを使っていない人もいる。当面の目標は全員のスマートフォン利用だ。  「まずは全員がスマートフォンを使いこなすことですが、ストレスなく徐々に学んでもらいたいと思っています。スマートフォンを使っている人はストレスなく移行できていますが、フィーチャーフォンを使う人にもいろいろな事情があります。逆にフィーチャーフォンを持つ人でもパソコンを使っている人もいます。全員がスマートフォンを利用すれば、SNSを使って一気に情報が送れるようになります。最終的に全員がパソコンを使えるようになればペーパーレス化も可能になります。  また、高齢社員も事務的な作業の負担が軽減され、時間も短縮されますし、その分、工事に集中できます。そのためにもねばり強く講習を続けていきたいと思います」(大沼氏) 高齢者活用のヒントに富んだ忠武建基の取組み 同社の高齢者雇用の取組みには、働く意欲とスキル習得に向けた多くのヒントがある。一つは、働く意欲の基盤となる、処遇を含めた働きやすさをとことん追求していることだ。肉体的負担をともなう建設業界にあって、省力化する取組みに加え、現場引退後の知識と経験を活かすための職場の用意も、長期就労への意欲を向上させる仕組みである。  また一方で、ITスキルの向上は会社の業務の効率化にとどまらず、スキルを学ぶことによって本人の作業負担も軽減する。さらにそのスキルによってほかの現場の情報を共有することで、直面する課題の解決など自らの技能を磨く効果も期待できる。  スキル習得過程においても大沼氏がいうように、強制することなく、あくまで本人の自主性を尊重し、個々の進捗状況をふまえつつ学んでもらうという姿勢が貫かれている。時間はかかっても本人が自覚して進化する成長意欲が、結果的に会社の生産性向上につながっているといえる。 ※ 株式会社忠武建基は平成29年度高年齢者雇用開発コンテストで高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞を受賞しました。詳しくは本誌2017年11月号をご覧ください エルダー 2017年11月号 検索 総務部 大沼正典氏 2カ月に1回開催する代理人・職長研修会の様子。高齢社員を含む全社員が一堂に会する 建物の重量を地中の支持層に伝達する杭を、地中深くに施工する大口径深礎工法 【P44-47】 知っておきたい 労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第13回 社員や退職者によるインターネット・SNS によるトラブル予防 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 労働者のSNS利用に制限を設けることはできるか  近ごろ、さまざまなSNSの利用が広がっており、これを利用する労働者も増えているように感じています。一方で、悪質な動画や写真をアップすることによって、会社が謝罪するような事態に至るなど、社内での活用に対して消極的にならざるを得ないと考えています。労働者のSNSの利用に対して、会社としてはどのような対応ができるのでしょうか。 A  SNSの利用については、基本的には私的な活動の一種であるため、これを全面的に制限することはできないと考えられますが、事業活動に関連する範囲においては、その利用方法などを制限することは許されると考えられます。  事後的な損害賠償請求によっては十分な被害回復とならないことが多いため、予防のための準備や従業員教育が重要となります。 1 SNSについて FacebookやTwitter、InstagramなどはSNSとして著名となっており、利用者は多数におよんでいます。  これらのSNSに関して、企業の公式アカウントを開設して、広報活動に活用している企業もあり、利用の仕方によっては非常に有用なツールとなりえます。  労働者によるSNSの利用については、不適切な情報を拡散することにより企業の信用を毀損(きそん)するおそれもあり、注意が必要です。しかしながら、企業の公式アカウントのような場合でないかぎり、SNSの利用は原則として、労働者の私的な活動として行われることになります。そのため、会社としてもどこまで制限してよいのか、就業規則に禁止規定を定めたとしても、どのような場面においてどの程度の処分が可能となるのかなど、判断がむずかしいところです。 2 私的な活動に対する制限について  会社が、労働契約に基づいて労働者を拘束できる範囲は、基本的には会社の業務と関連する行為にかぎられることになります。  例えば、業務外の行為によって逮捕・起訴された事件に対して、懲戒解雇処分を行った事案で、「従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。」(日本鋼管事件、最判昭和49年3月15日)と判断されており、犯罪行為であった場合でさえも、私的な行為に対する労働契約上の制限や制裁を行うことは非常に限定的に解釈されています。  そのため、SNSの利用のうち、原則として、業務と関連する行為と判断できるか否かを基準として、労働契約または就業規則において、SNSの利用を制限した場合に有効となる範囲が画されることになるといえるでしょう。  規制対象を限定するにあたってのポイントとしては、@業務時間中であるか否か、A業務において得た情報を開示または漏洩(ろうえい)したものであるか否かを前提としつつ、例外的に、私的行為のうちでも、B会社の社会的評価を著しく毀損するなど、悪影響が重大であると客観的に評価される場合を対象として規制することを検討するべきでしょう。 3 トラブルを予防する方法について  SNSによる情報拡散をきっかけとしたトラブルが生じないようにするためにも、会社としても予防策を行っておく必要があります。  まず、就業規則において、SNSの利用を制限する規定を定めておく方法が考えられます。とはいえ、私的行為全般にまで規制をおよぼすことはできないため、禁止する範囲としては、「当社の従業員としての自覚をもって利用すること」などの抽象的な規定にならざるを得ません。より具体的に禁止しておくべき内容としては、私的行為のなかでも信用毀損にともなう会社に対する損害を生じさせる行為です。前述の判例も述べているとおり、私的行為に対して制限をおよぼすためには会社の社会的評価に対する悪影響が重大である場合に限定されているため、就業規則に定める禁止行為もこれに準じた内容を定めておくべきです。  就業規則の禁止行為として定め、懲戒事由として整備しておけば、違反があった場合には懲戒処分の対象とすることが可能です。懲戒処分の程度については、ケースバイケースで判断せざるを得ないですが、世論を大きく騒がせたうえで会社に重大な損害が生じたような事例でないかぎりは、懲戒解雇を行うことはむずかしく、おそらく、戒告や減給といった比較的軽微な処分から実施することにならざるを得ないでしょう。  懲戒処分を実施する段階に至った場合、会社に生じる悪影響に対する予防が叶わなかったことを意味しますので、就業規則の規定のみで十分とはいえません。  予防するためにより重要なのは、会社としてのSNS利用に対するポリシーやガイドラインなどを公表し、会社がSNSの利用に対してどのような意識を持っているのかということを明確にすることです。さらに、SNSの利用に関する教育を実施したうえで、ポリシーやガイドラインを社内に浸透させることが非常に重要です。  SNSに関して、その情報の拡散範囲や想像以上のスピードで拡散されることを意識せずに利用されていることが、炎上の原因にもなっていますし、また、古い情報であってもデータは蓄積され、情報としては保存され続けていることから、忘れたころに話題になることがあることも意識づけておかなければならないでしょう。 4 炎上する投稿と損害賠償について  SNSへの投稿内容が、広く拡散されたうえ、大量の批判にさらされた結果、会社の社会的評価を低下させるようなことがくり返されています。  このような行為に対して、労働者に対する損害賠償請求などしかるべく法的措置をとることを表明している企業もあり、このようなSNSを通じた炎上により企業に対する信用を毀損した結果として生じた損害については、労働者に対して損害賠償請求を行うことが可能と考えられます。  とはいえ、会社の信用を毀損した結果生じた損害が、金銭的な評価としてどの程度であるかを特定すること自体がむずかしい問題でもあることから、損害賠償請求により会社に生じた損害を回復しようとしても十分な損害賠償請求ができるとはかぎりません。  さらに、会社の労働者に対する損害賠償請求については、会社が労働者の労務提供を通じた事業活動により利益を得ている以上、そのリスクも甘受すべき範囲があるとの考えから、損害の全額の賠償を認める裁判例は少なく、せいぜい、4分の1から2分の1までの範囲に制限されることが多くなっています。  損害が金銭賠償により一部回復されたとしても、失われた信用まで回復するとはかぎらないことも含めて考えると、SNSの利用に対する制限などによって、現代の会社にとって、炎上を予防することの意味は非常に大きくなっているといえるでしょう。 Q2 退職者のものと思われるインターネット上の書き込みに迷惑している  当社の社内における人事の事情や給与体系などが、インターネット上に書き込まれており、採用活動に支障が出ています。おそらく退職者によるものと思われますが、記載された内容には、事実と異なる内容も含まれているため、非常に迷惑しています。このような記載を削除させることはできないのでしょうか。 A  インターネット上の書き込みについては、プロバイダを特定したうえで、削除請求することが可能です。事実と異なる内容によって、会社の信用を毀損していることが前提となるため、事実関係をしっかりと調査することが重要です。 1 インターネット上の書き込みについて  労働者が会社を退職した後に、会社の評判を下げるような書き込みを行ったり、SNSを利用して発信することがあります。労働基準法違反に至っていなくても、他社との比較において相違する点があれば、安易に「ブラック企業」などの表現を用いて、批判がくり広げられることもあります。  インターネットに記載された口コミや評判はだれの目にも触れることになるうえ、特に採用活動においては、各企業の評判などを検索したうえで、就職先を探すことも多いため、その影響を甘く見ることはできません。  このように会社にとって無視することができない影響をおよぼすインターネット上の口コミや書き込みに対して、会社はいかなる措置をとることができるのでしょうか。 2 プロバイダに対する削除請求2  会社の信用を毀損するような内容のインターネット上の書き込みや発信については、プロバイダ責任制限法に基づきインターネットプロバイダを介して、削除請求することができます。インターネットプロバイダとは、書き込みなどが可能となっているサイトにおいては、一般的には運営会社などが該当することになります。  書き込みを行った者に表現の自由がある以上、本人以外が当該表現を削除することは控えるべきと考えられていますが、会社の信用を毀損するような表現を放置することは、被害の拡大に寄与することにつながるため、プロバイダが本人に対する意見照会を行ったうえで、特段異論がない場合などには、本人に代わって削除をすることが認められています。  プロバイダ責任制限法に基づき、削除を請求するにあたっては、どのような記載によって会社の信用が毀損されたのかを特定したうえで、当該記載が事実と異なるのか否かを含めて説明することが必要となります。  任意で削除請求をする場合には、プロバイダ責任制限法に基づく定型書式がインターネット上に公開されており、それに基づき削除請求を行うことで、必要な記載内容などは充足することができます。  また、最近のWebサイトでは、削除のた めの問合せフォームなどを用意しており、当該フォームを通じて削除を請求することで対応を求めることも可能です。ただし、この削除フォームを用意するか否かはサイト運営者の方針次第であるため、プロバイダ責任制限法に基づく請求方法も活用せざるを得ない場合も多いでしょう。  5ちゃんねる(かつての2ちゃんねる)など、任意での削除に応じない方針を採用しているプロバイダもあるため、その場合は、裁判所に仮処分を申し立てたうえで、裁判所による決定を取得し、削除させるといった手続きをとる必要があります。  さらに、サーバーやプロバイダが海外に所在していることもあるため、海外の運営者に対する請求が必要となる場合もあります。海外の企業に対しては、原則として、日本のプロバイダ責任制限法がおよばないため、任意の削除フォームなどを利用しながら削除を求めていくことになります。  プロバイダごとに対応が異なるうえ、サイト上に運営会社を明記していないサイトもあるため、運営しているプロバイダの特定が容易ではない場合もあります。プロバイダを特定しきれない場合には、削除請求に対応している弁護士などの専門家に相談したうえで、対応を検討していくべきでしょう。 3 労働者本人に対する対応について  プロバイダ責任制限法に基づき請求できるのは、削除および、発信者情報の開示です。すなわち、書き込まれた内容のみでは情報を発信した当事者を特定できない場合に、発信者を特定するために必要な情報の開示を受けたうえで、本人に対して、削除や損害賠償請求を行う措置をとることも可能です。ただし、プロバイダは発信者の氏名や住所などの情報を有しているとはかぎらないため、最終的な発信者情報を取得するために複数の経由プロバイダなどへ数段階にわたって、発信者情報の開示請求が必要となる場合もあります。  Twitterでの発信は、アカウントから発信者の特定ができているのであれば、プロバイダではなく本人に対して直接削除請求や損害賠償請求を行ったほうが早期の解決が得られる場合もあります。  在籍中の労働者による発信であった場合には、就業規則に「会社の信用を毀損した場合」などを懲戒事由としている場合には、懲戒処分の対象とすることが可能と考えられます。まずは、懲戒事由が定められていることを確認したうえで、本人から投稿の意図などのヒアリングを実施し、厳重に注意するとともに、発信内容を削除するよううながすべきでしょう。  退職者による発信であった場合には、懲戒処分の対象とすることはできませんが、事実と相違する内容を発信して、会社の信用を毀損したのであれば、削除および損害賠償を請求していくことを検討しましょう。なお、このような場合に備えて、退職時には、会社の信用を毀損するような言動を行わない旨を定めた誓約書を取得しておくなど、あらかじめこのような対応が必要となる事態を予防しておくことも重要です。 【P48-52】 特別企画1 4月1日施行 改正労働基準法の要点 厚生労働省労働基準局労働条件政策課  4月1日より、改正労働基準法をはじめとする働き方改革関連法が施行された。時間外労働の罰則つき上限規制や、有給休暇取得の義務化など、事業者には法律に基づいた対応が求められることになる。今回は、改正労働基準法の要点について、厚生労働省労働基準局労働条件政策課に解説していただいた。 1 時間外労働の上限規制  (新労基法第36条および第139条から第142条まで、新労基則第16条等並びに指針関係) (1)改正の概要  長時間労働を防止するため、改正法では、現行の時間外労働規制の仕組みを改め、@時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間としたうえで、臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできないこととし、A臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、年720時間以内、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)、単月100時間未満(休日労働を含む)を超えることはできないこととする。さらに、原則である月45時間を超えることができるのは、年間6カ月までとする。(図表1)  これらに違反した場合には、罰則の対象となるものである。 (2)新労基法第36条第1項の協定の届出  (新労基法第36条第1項並びに新労基則第16条および第70条関係)  新労基法第36条第1項の協定(以下「時間外・休日労働協定」)の届出様式を改めた(新労基則様式第9号〜第9号の7)。記載例や様式については厚生労働省HPに掲載しているパンフレット「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」10〜14頁※1を参照ください。 (3)健康・福祉確保措置の実施および当該措置の実施状況(1(2)における協定事項)に関する記録の保存  (新労基則第17条第2項関係)  使用者は、健康福祉確保措置の実施状況に関する記録を当該時間外・休日労働協定の有効期間中および当該有効期間の満了後3年間保存しなければならない。 (4)限度時間  (新労基法第36条第3項および第4項関係)  時間外・休日労働協定において新労基法第36条第2項第4号の労働時間を延長して労働させる時間を定めるにあたっては、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において、限度時間を超えない時間に限るものとした。  また、限度時間は、1カ月について45時間および1年について360時間(対象期間が3カ月を超える1年単位の変形労働時間制により労働させる場合は、1カ月について42時間および1年について320時間)である。 (5)特別条項を設ける場合の延長時間等  (新労基法第36条第5項関係)  時間外・休日労働協定においては、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等にともない臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、1カ月について労働時間を延長して労働させ、および休日において労働させることができる時間並びに1年について労働時間を延長して労働させることができる時間を定めることができることとした。  この場合において、1カ月について労働時間を延長して労働させ、および休日において労働させることができる時間については、前記1(2)に関して協定した時間を含め100時間未満の範囲内としなければならず、1年について労働時間を延長して労働させることができる時間については、前記1(2)に関して協定した時間を含め720時間を超えない範囲内としなければならない。  さらに、対象期間において労働時間を延長して労働させることができる時間が1カ月について45時間(対象期間が3カ月を超える1年単位の変形労働時間制により労働させる場合は42時間)を超えることができる月数を1年について6カ月以内の範囲で定めなければならない。 (6)時間外・休日労働協定で定めるところにより労働させる場合の実労働時間数の上限  (新労基法第36条第6項および新労基則第18条関係)  使用者は、時間外・休日労働協定で定めるところにより時間外・休日労働を行わせる場合であっても、以下の@からBまでの要件を満たすものとしなければならない。また、以下のAおよびBの要件を満たしている場合であっても、連続する月の月末・月初に集中して時間外労働を行わせるなど、短期間に長時間の時間外労働を行わせることは望ましくないことに留意する必要がある。 @坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務について、1日における時間外労働時間数が2時間を超えないこと(新労基法第36条第6項第1号および新労基則第18条関係)。働き方改革関連法による改正前の労働基準法第36条第1項ただし書と同様の内容である。 A1カ月における時間外・休日労働時間数が100時間未満であること(新労基法第36条第6項第2号関係)。 B対象期間の初日から1カ月ごとに区分した各期間の直前の1カ月、2カ月、3カ月、4カ月および5カ月の期間を加えたそれぞれの期間における時間外・休日労働時間数が1カ月当たりの平均で80時間を超えないこと(新労基法第36条第6項第3号関係)。 (7)厚生労働大臣が定める指針  (新労基法第36条第7項から第10項まで関係)  厚生労働大臣は、時間外・休日労働協定で定める労働時間の延長および休日の労働について留意すべき事項、当該労働時間の延長に係る割増賃金の率その他の必要な事項について、労働者の健康、福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して指針を定めることができる。  労使当事者は、当該時間外・休日労働協定の内容が指針に適合したものとなるようにしなければならない。  また、行政官庁は、指針に関し、労使当事者に必要な助言および指導を行うことができるものとし、当該助言および指導を行うにあたっては、労働者の健康が確保されるよう特に配慮しなければならない。  指針の詳細については、厚生労働省HPに掲載しているパンフレット「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」8〜9頁※1を参照ください。 (8)適用除外  (新労基法第36条第11項関係)  新たな技術、商品または役務の研究開発に係る業務については、専門的、科学的な知識、技術を有する者が従事する新たな技術、商品または役務の研究開発に係る業務の特殊性が存在する。このため、限度時間(新労基法第36条第3項および第4項)、時間外・休日労働協定に特別条項を設ける場合の要件(新労基法第36条第5項)、1カ月について労働時間を延長して労働させ、および休日において労働させた時間の上限(新労基法第36条第6項第2号および第3号)についての規定は、当該業務については適用しない。 (9)適用猶予  (新労基法第139条から第142条まで並びに新労基則第69条および第71条関係)  以下の@からCまでに掲げる事業または業務については、その性格からただちに時間外労働の上限規制を適用することになじまないため、猶予措置を設けた。 @工作物の建設等の事業(新労基法第139条および新労基則第69条第1項関係) A自動車の運転の業務(新労基法第140条および新労基則第69条第2項関係) B医業に従事する医師(新労基法第141条関係) C鹿児島県および沖縄県における砂糖を製造する事業(新労基法第142条および新労基則第71条関係) 罰則(新労基法第119条第1号関係)  新労基法第36条第6項の規定に違反し、@1カ月について100時間以上の時間外・休日労働を行わせた場合またはA対象期間の初日から1カ月ごとに区分した各期間の直前の1カ月、2カ月、3カ月、4カ月および5カ月の期間を加えたそれぞれの期間における時間外・休日労働時間数が1カ月あたりの平均で80時間を超えた場合、使用者に対しては、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金の罰則適用がある。 施行期日  以上に述べた改正は、2019年4月1日から施行される。  ただし、中小事業主に対しては2020年4月1日から施行される。 2 年次有給休暇  (新労基法第39条および新労基則第24条の5等関係) (1)趣旨  年次有給休暇の取得率が低迷しており、いわゆる正社員の約16%が年次有給休暇を1日も取得しておらず、また、年次有給休暇をほとんど取得していない労働者については長時間労働者の比率が高い実態にあることをふまえ、年5日以上の年次有給休暇の取得が確実に進む仕組みを導入することとした※2。 (2)年5日以上の年次有給休暇の確実な取得  (新労基法第39条第7項および第8項並びに新労基則第24条の5関係) @使用者による時季指定  (新労基法第39条第7項および第8項関係)  使用者は、労働基準法第39条第1項から第3項までの規定により使用者が与えなければならない年次有給休暇(以下「年次有給休暇」)の日数が10労働日以上である労働者に係る年次有給休暇の日数のうち、5日については、基準日(継続勤務した期間を同条第2項に規定する6カ月経過日から1年ごとに区分した各期間〈最後に1年未満の期間を生じたときは、当該期間〉の初日をいう。以下同じ)から1年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない(図表2)。  この場合の使用者による時季指定の方法としては、例えば、年度当初に労働者の意見を聴いた上で年次有給休暇取得計画表を作成し、これに基づき年次有給休暇を付与すること等が考えられる。  ただし、労働基準法第39条第5項または第6項の規定により年次有給休暇を与えた場合においては、当該与えた年次有給休暇の日数(当該日数が5日を超える場合には、5日とする)分については、時季を定めることにより与えることを要しない。すなわち、労働者が自ら時季指定して5日以上の年次有給休暇を取得した場合や、労働基準法第39条第6項に基づく計画的付与により5日以上の年次有給休暇を取得した場合には、使用者による時季指定は不要である。 A労働者からの意見聴取  (新労基則第24条の6関係)  使用者は、新労基法第39条第7項の規定により、労働者に年次有給休暇を時季を定めることにより与えるにあたっては、あらかじめ、当該年次有給休暇を与えることを当該労働者に明らかにしたうえで、その時季について当該労働者の意見を聴かなければならない。  また、使用者は、年次有給休暇の時季を定めるにあたっては、できる限り労働者の希望に沿った時季指定となるよう、聴取した意見を尊重するよう努めなければならない。 B年次有給休暇管理簿  (新労基則第24条の7および第55条の2関係)  使用者は、新労基法第39条第5項から第7項までの規定により年次有給休暇を与えたときは、時季、日数及び基準日(第一基準日及び第二基準日を含む)を労働者ごとに明らかにした書類(以下「年次有給休暇管理簿」)を作成し、当該年次有給休暇を与えた期間中および当該期間の満了後3年間保存しなければならない。  また、年次有給休暇管理簿については、労働者名簿または賃金台帳とあわせて調製することができる。  なお、年次有給休暇管理簿については、労働基準法第109条に規定する重要な書類には該当しない。 罰則(新労基法第120条第1号関係)  労働基準法第39条第1項から第3項までの規定により使用者が与えなければならない年次有給休暇の日数が10労働日以上である労働者に係る年次有給休暇の日数のうち5日について、基準日から1年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなかった場合、使用者に対しては、30万円以下の罰金の罰則適用がある。 施行期日  2019年4月1日から施行される。  よくあるQ&A等については、厚生労働省ホームページに掲載しているパンフレット「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」を参照ください※3。 ※1 https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf ※2 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法の施行について(平成30年9月7日基発0907第1号) ※3 https://www.mhlw.go.jp/content/000463186.pdf 図表1 時間外労働の上限規制 (改正前) 1年間=12カ月 大臣告示による上限(行政指導) 月45時間 年360時間 上限なし (年6カ月まで) (改正後) 法定労働時間 1日8時間 週40時間 法律による上限(原則) 月45時間 年360時間 法律による上限 (特別条項/年6カ月まで) 年720時間 複数月平均80時間* 月100時間未満* *休日労働を含む 図表2  使用者による年次有給休暇の時季指定 ◆年次有給休暇の時季指定義務  年5日の年次有給休暇を取得させることを企業に義務づけ 年次有給休暇が年10日以上付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、そのうちの年5日について使用者が時季を指定して取得させることを義務づけ。 労働者の申出による取得(原則) 労働者 「○月×日に休みます」 労働者が使用者に取得時季を申出 使用者 労働者 そもそも、@の希望申出がしにくいという状況がありました。 我が国の年休取得率:49.4% (平成29年就労条件総合調査) 使用者の時季指定による取得(新設) 使用者 「○月×日に休んでください」 使用者が労働者に取得時季の意見を聴取 労働者の意見を尊重し使用者が取得時季を指定 労働者 (例) 4/1入社の場合 4/1入社 10日付与(基準日) 10/1 4/1 9/30 10/1〜翌9/30までの1年間に5日取得時季を指定しなければならない。 図表3 働き方改革関連法の主な施行日 2019年4月1日〜 2020年4月1日〜 2021年4月1日〜 時間外労働の上限規制 大企業 中小企業 年次有給休暇の確実な取得 同一労働 同一賃金 大企業 中小企業 【P53-55】 特別企画2 時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を実現するために 〜テレワークの普及・促進を目的に新たなパンフレットを作成〜 ―厚生労働省 雇用環境・均等局 在宅労働課  最近のICT(情報通信技術)の進展にともない、「テレワーク」に対する関心が高まりつつある。周知の通り、テレワークは、育児・介護との両立の手段になるとともに、ワーク・ライフ・バランスを実現するための多様な働き方を可能にするなど、「働き方改革」を推進するための有効な手段とされている。企業にとっては「生産性の向上」、「人材の確保」、「コスト削減」、「企業イメージ」の向上などが期待される。一方、働く人にとっては、「ワーク・ライフ・バランスの向上」、「生産性の向上」、「自律・自己管理的な働き方などの実現」に資するものとされている。  加えて、テレワークの導入によって、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方が可能になることで、自宅から事業所までの通勤の際の負荷を軽減することにつながり、生涯現役で働き続けたいと考える高齢労働者にとっても魅力的な働き方となる。本誌でも2017年12月号※の特集「テレワークが創る多様な働き方」において、学識者によるテレワーク導入にあたっての留意点の解説や、実際に制度を導入している企業事例などを紹介した。  その一方で、テレワークを行ううえでの問題や課題として、企業側からは「労働時間の管理がむずかしい」といった声が、労働者側からは「仕事と仕事以外の切分けがむずかしい」、「長時間労働になりやすい」などの声があげられているのも事実である。テレワークにおける適切な労務管理の実施は、テレワークの普及の前提となる重要な要素となると考えられることから、厚生労働省は、2018(平成30)年2月22日に「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(以下、「ガイドライン」)を策定した。  ガイドラインの策定からおよそ1年が経過した2019年1月、厚生労働省はガイドラインを周知するためのパンフレット「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」(A4判/28ページ)を作成した。本稿では、パンフレットの作成にあたった厚生労働省雇用環境・均等局在宅労働課への取材をもとに、パンフレットのあらましを紹介する。 パンフレットの構成と内容  厚生労働省では、ガイドライン策定の翌月(2018年3月)、「簡易版パンフレット」を作成した。  しかし、かぎられた時間で作成したこともあり、活字による説明が中心で、事業所にテレワーク導入のメリットや手順を理解してもらうためのツールとしては、やや固い印象を与えるものとなっていた。そのため、今回作成したパンフレットは、そうしたイメージを一掃するものとなっている。フルカラー印刷でイラストやチャート図も豊富に取り入れ、わかりやすくなっている(図表1)。  パンフレットの構成と内容は、基本的にガイドラインの内容を踏襲したものとなっている。 〈パンフレットの構成〉 ●テレワークについて ●労働基準関係法令の適用及び留意点等 1.労働基準関係法令の適用 2.労働基準法の適用に関する留意点(労働条件の明示/労働時間制度の適用と留意点/休憩時間の取扱いについて/時間外・休日労働の労働時間管理について) 3.長時間労働対策について 4.労働安全衛生法の適用及び留意点(安全衛生関係法令の適用/自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備の留意) 5.労働災害の補償に関する留意点 ●その他テレワークの制度を適切に導入及び実施するに当たっての注意点 ●テレワークを行う労働者の自律 ●テレワークの導入・実施に関する資料集  各項目を簡単に紹介すると、冒頭の「テレワークについて」では、「テレワークの分類、形態ごとの特徴」、「テレワークのメリット(労働者・使用者)」を紹介。さらに、「テレワークの問題や課題」として、労働政策研究・研修機構が実施した調査結果をもとに、「テレワークのデメリット(労働者調査)」と「テレワーク実施の問題・課題(企業調査)」が示されている。  続く、「労働基準関係法令の適用及び留意点等」では、「通常の労働時間制度における留意点」として、「労働時間の適正な把握」、「テレワークに際して生じやすい事象」、「フレックスタイム制」の3点が取り上げられている。「労働時間の適正な把握」では、ガイドラインの中でも触れられている「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」について、主要なポイントが抜粋されており、参考になる。また、「テレワークに際して生じやすい事象」では、いわゆる「中抜け時間」の取扱いをピックアップ。テレワークを実施している際に起こりがちな中抜けの取扱例をチャート図によって具体的に示すとともに(図表2)、「Q&A いわゆる中抜け時間について」を盛り込み、事業所の担当者の疑問点に応えることができるように配慮されている。  また、「事業場外みなし労働時間制」では、使用者の具体的な指揮監督がおよばず、労働時間を算定することが困難であるというための2つの要件がわかりやすく紹介されているので、ぜひ参照していただきたい。 事業所の実務に直結した情報を掲載  働き方改革の成果の目玉ともいえる「長時間労働対策」に関しては、テレワーク実施時においても留意することが必要である。このためパンフレットでは、ガイドラインの内容を紹介することに加えて、「テレワーク勤務時の時間外労働等に係る規定例」を収録。新たにテレワークを導入しようと考えている事業所の担当者には、就業規則を見直す際の参考資料として活用することができるだろう。  このほかにも、コラムとして「テレワーク勤務時の休憩について」と「11月は『テレワーク月間』です」が収録されている。  最後に掲載されている「テレワークの導入・実施に関する資料集」は、ガイドラインにはない内容で、テレワークの導入・実施に役立つ情報として盛り込まれた。以下に示した関係機関の情報や事業内容、助成金制度の概要と問合せ先、URLなどが掲載されている。各事業所の実情に応じて、問合せしたり、ネット上での検索などを行うことで必要な情報が手に入れられるようになっている。 〈「資料集」に掲載されている情報〉 ●テレワーク相談センター ●東京テレワーク推進センター ●厚生労働省ホームページ テレワーク普及促進関連事業 ●時間外労働等改善助成金(テレワークコース) ●テレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞) ●テレワーク宣言応援事業 ●総務省 テレワークセキュリティガイドライン(第4版)  以上の通り、今回、厚生労働省が作成したパンフレットは、ガイドラインの内容に加えて、事業所の担当者にとって必要な情報も追加されている。パンフレットは、厚生労働省のホームページからダウンロードすることができる(https://www.mhlw.go.jp/content/000466673.pdf)ので、テレワーク導入に向けた社内研修などを行う際には、積極的に活用することをおすすめしたい。 ※ 当機構ホームページでご覧になれます。エルダー 2017年12月号検索 ▲パンフレットの表紙 図表1 イラストが豊富な誌面 図表2 中抜け時間の取扱い 【P56-57】 BOOKS 職業人生を安定して送りたい人が手にしたい資格とは? 会社に頼れない時代の「資格」の教科書 『THE21』編集部 編/PHP研究所(PHPビジネス新書)/850円+税  近い将来、人工知能(AI)やロボットが世の中のさまざまな仕事をになうようになる、との話をあちこちで聞く。自分の仕事はどうなるのかといった不安を、働く人の多くが抱いているのではないだろうか。本書は、そんな時代に自分で自分のキャリアを切り開くために役立つ、自分に合った資格を見つけたい人を応援するガイドブックである。  本文には、資格の達人に聞く「今、取るべき資格とは?」から、キャリアのプロに聞く「人生100年時代の『資格の活かし方』」や「キャリアに活かせる資格とは?」、「最短で『合格』を勝ち取る勉強法」まで情報満載である。  発刊のきっかけは、月刊ビジネス誌『THE21』のオンラインサイト「THE21オンライン」に掲載された記事「40代からでも取っておきたい『資格』」が、ネット上で大きな反響を呼んだことを受けて、同誌でも特集を組んだところ、これまた好評を博したからとのこと。そして、本書をまとめるにあたって追加取材を行い、大幅に内容を充実させたという。  できるだけ長く、安定した職業人生を送るためには、新たな資格を取得するのも一つの方法。いまからでも遅くはないことが実感できる。 80歳を超えてからもフルマラソンを完走する高齢者の生き方・考え方 八十歳から拡(ひろ)がる世界 島 健二 著/論ろん創そう社しゃ/1800円+税  著者は1934(昭和9)年生まれの現在85歳。大阪大学医学部卒業後、徳島大学医学部教授などを歴任し、定年退官後は医師の勤めと併行して、大学や大学院で考古学や英米文学などの研究に従事した。63歳でフルマラソンに挑み、80歳以降もフルマラソンを完走するなど、簡単にはまねできそうもないスーパー高齢者である。  そんな著者が、80歳以降に人間の心身機能は急激に低下するという通説を検証するために取り組んだ実験的試みの一端をまとめたものが本書である。第1章「八十歳の身体」では、自身のマラソン歴と80歳から始めた新たな練習法、そして80歳以降の身体の変調として「こむら返り」や「夜間頻尿(ひんにょう)」などの分析と解決策が紹介されている。第2章「八十歳の頭」では、孫を相手にした家庭教師の経験が脳トレにもなった経験が描かれている。第3章「八十歳の心と精神」と第4章「八十歳からの生き方」にも高齢者が自律的に生活を送ることの大切さが述べられており、科学的な視点に加えて、高齢者ならではのユーモアも感じさせる好著である。  生涯現役で働くための方策や課題が随所に感じられるので、企業の人事労務担当者や安全衛生担当者にとっても一読の価値があるだろう。 人を大切にしながら、先進的な働き方を実践している職場を紹介 あの会社のスゴい働き方 日経産業新聞 編/日本経済新聞出版社(日経ビジネス人文庫)/700円+税  働き方改革の一環として、多くの企業が生産性の向上に取り組んでいる。残業時間削減の目標が掲げられる一方で、以前より短時間で効率的に仕事をしなければならなくなり、「仕事中に休憩を取りにくくなった」といった声も聞こえてくる。そのような職場で、生産性を向上させることができるのだろうか。  本書は、雇用と労働をめぐって大きな転換点を迎えている現代の日本で、人を大切にしながら、先進的な働き方を実践している職場の実例を紹介する、日経産業新聞に連載された長期企画「働き方探検隊」を文庫化した一冊だ。  各企業では、働きやすい職場をつくるための多様な改革が行われている。「好きな日に出社し、好きな時間だけ働くことができる職場」、「残業ほぼゼロでも12年間増収を続ける会社」、「ゲレンデや温泉の近くにオフィス」、「約70人が副業を持つ会社」など、その創意工夫は十社十色(といろ)。「プチ勤務」、「社員の治療を支える制度」など、高齢者雇用の参考になる事例もある。とはいえ、そうした枠にとらわれず、経営層、一般社員、ベテラン、若者、日本人、外国人、男性、女性などさまざまな立場の人の胸に響く、働き方・働かせ方のヒントが満載である。 新しい仕事にチャレンジするのは楽しい 事業を起こす人になるための本 ―ふわっと考えていることをカタチにする5STEP 岩田 徹(とおる) 著/生産性出版/1800円+税  目まぐるしく変化するさまざまな環境に対応しようと、多くの企業が新規事業の開発を目ざしている。また、シニアや女性、企業から独立した人などが新たなビジネスを始める機会も増えた。遠目には楽しそうだが、企業の新規事業開発チームの一員になったりすると、「何から手をつけたらいいのかわからない」、「自信がない」と悩み、苦しむ状況も少なくないという。  本書は、新規事業開発のコンサルタントとして、企業の新規事業開発の支援などを手がける著者が、新規事業を立ち上げるときに必要な知識や手順、知っておきたい対処法などを具体的に解説。フェーズ1「新規事業の『考え方』と『陥りやすい罠』」から、事業を起こすまでの順を追って、「アイデア出しの原則」、「ふわっとしたアイデアを事業コンセプトにする」、「事業計画を仕上げる」などのポイントを説いている。  さらに、「事業を起こす」という経験が与えてくれる個人の成長について綴っているエピローグも読みごたえがある。  社内で新規事業に取り組むことになった人や定年後を見据えて起業を考えている人など、多くの人におすすめしたい一冊である。 経営理念を共有し、イノベーションへつなげる 人を活かし組織を変える インターナル・コミュニケーション経営 ―経営と広報の新潮流 清水正道(まさみち) 編著/経団連出版/2000円+税  グローバル化や情報通信技術の革新が進み、異なる文化や習慣を持つ人材が多く働く企業では「インターナル・コミュニケーション経営」(IC経営)という考え方が徐々に広がりを見せている。IC経営とは「経営トップが組織的なコミュニケーション活動を経営の中核的企業行動のひとつととらえ、経営戦略を効果的に実行していく」もの。組織内で経営理念を共有し、イノベーションへつなげる取組みとされており、従来からの社内広報活動の概念を広げ、現代の経営環境に合わせた深化が意図されている。  それではIC経営にはどのような取組みが求められるのか。読者に向けた回答として、本書には、グローバル展開を進める大企業から社員30人の小規模企業まで日本企業12社、そして米国企業9社の事例が紹介されている。各事例に目を通すことで、IC経営の多様な側面を理解することができるだろう。第5章には、企業事例に登場するIC経営のツールが紹介されているので、ここから読み進めることも可能だ。また、高齢労働者の活躍によってもたらされる成果を社内共有する必要性が、実感できるだろう。本書を手がかりにIC経営の第一歩をふみ出すことをおすすめしたい。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「本体価格」(消費税を含まない価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「STOP! 熱中症 クールワークキャンペーン」実施  厚生労働省は、職場における熱中症予防対策の一層の推進を図るため、労働災害防止団体などと連携し、「STOP! 熱中症 クールワークキャンペーン」を実施する。このキャンペーンは、2019月5月1日から9月30日まで行われる。  今年で3回目となる同キャンペーンの期間中、労働災害防止団体などと連携した事業場への周知・啓発や、熱中症予防対策に関するセミナーの開催、教育ツールの提供などを行うことにより、熱中症予防対策の徹底を図り、重篤な熱中症災害を防止することを目ざすとしている。  なお、同省がまとめた2018(平成30)年の職場における熱中症による死傷者数は1128人、死亡者数は29人となっており(いずれも2019年1月15日時点の速報値)、2017年の発生状況(確定値)と比べ死傷者数、死亡者数ともに2倍を上回る結果となっている。  また、死亡災害の発生状況をみると、WBGT値(暑さ指数)計を事業場で準備していないために作業環境の把握や作業計画の変更ができていない例や、熱中症になった労働者の発見や救急搬送が遅れた例、事業場における健康管理を適切に実施していない例などがみられた。このことから本キャンペーンでは、事業場におけるWBGT値の把握や緊急時の連絡体制の整備などを重点的に実施し、改めて職場における熱中症予防対策の徹底を図ることを目的としている。 厚生労働省 「専門実践教育訓練」の2019年4月1日付の指定講座を決定  厚生労働省は、教育訓練給付金の対象となる「専門実践教育訓練」の2019(平成31)年4月1日付指定講座を決定し、公表した。  この専門実践教育訓練は、非正規雇用の若者などをはじめとする労働者の中長期的なキャリア形成のため、就職できる可能性が高い仕事で必要とされる能力や、キャリアにおいて長く活かせる能力の習得を目的としている。  今回、新規に指定したものは、介護福祉士の資格取得を訓練目標とする養成課程など、計325講座。この325講座の訓練内容の内訳をみると、業務独占資格または名称独占資格の取得を訓練目標とする養成課程が223講座、専修学校の職業実践専門課程およびキャリア形成促進プログラムが68講座、専門職学位課程が8講座、大学等の職業実践力育成プログラムが11講座、第四次産業革命スキル習得講座が15講座となっている。今回の指定により、すでに指定済みのものを合わせると、指定講座は累計2407講座になる。  専門実践教育訓練給付金は、厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講し修了した場合に、教育訓練施設に支払った教育訓練経費の50%(1年間の上限40万円)が支給される。また、訓練の受講を修了後、あらかじめ定められた資格などを取得し、受講修了日の翌日から1年以内に雇用保険の被保険者として就職した場合は、教育訓練経費の20%が追加支給される(合計の支給限度額は訓練期間が3年の場合は168万円、同2年の場合は112万円、同1年の場合は56万円)。 総務省など 「テレワーク・デイズ」実施方針  テレワーク関係府省連絡会議(総務省、厚生労働省、経済産業省および国土交通省の副大臣等から構成)はこのほど、2019年の「テレワーク・デイズ」の実施方針を決定し、公表した。  総務省と経済産業省では、関係府省・団体と連携し、東京オリンピックの開会式が予定されている7月24日を「テレワーク・デイ」と位置づけて、企業などによる全国一斉のテレワークの活用に取り組んでいる。初めて実施した2017年には約950団体、6万3000人が参加し、2回目となった昨年には、日数・規模を拡大して実施した結果、1682団体、延べ30万人以上が参加した。  今回発表された2019年の実施方針では、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会1年前を意識し、7月22日(月)から9月6日(金)の約1カ月半を「テレワーク・デイズ2019」の実施期間として設定。期間中5日以上の実施を呼びかける。テレワーク一斉実施の効果測定を行うため、7月24日をコア日として、初参加の企業などについては、7月24日の1日だけでも参加可能とする。また、さまざまなテレワーク(モバイル、サテライトオフィス、地域でのテレワークなど)の実施、時差出勤、フレックスタイムを組み合わせた実施などを奨励する。  今回は、全国で3000団体、延べ60万人の参加を目標として、東京都心の大企業、競技会場周辺の企業をはじめ、首都圏以外・中小規模の団体、官公庁などを含め、さまざまな業種、規模、地域の団体に参加を働きかけていく。 経済産業省 健康経営優良法人2019  経済産業省が事務局を務める、次世代ヘルスケア産業協議会健康投資ワーキンググループ(日本健康会議健康経営500社ワーキンググループおよび中小1万社健康宣言ワーキンググループも合同開催)では、健康経営に取り組む優良な法人の「見える化」として、「健康経営優良法人認定制度」を推進している。このほど、3回目の認定となる「健康経営優良法人2019」を発表し、大規模法人部門で821法人、中小規模法人部門で2503法人を認定した。  健康経営優良法人認定制度は、地域の健康課題に即した取組みや、日本健康会議(国民一人ひとりの健康寿命延伸と適正な医療について、民間組織が連携し行政の支援のもと実効的な活動を行うために組織された活動体)が進める健康増進の取組みをもとに、特に優良な健康経営を実践している法人を認定して「見える化」することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的評価を受けることができる環境の整備を目的としている。  本制度には、大規模法人部門と中小規模法人部門の二つの部門があり、評価項目や認定基準は、次世代ヘルスケア産業協議会健康投資ワーキンググループで定めた。評価項目は、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「健康経営銘柄」で用いている評価の枠組をもとに設定している。「健康経営優良法人2019」の認定有効期間は、認定のあった日から2020年3月31日まで。 中小企業庁 「長時間労働に繋がる商慣行」実態調査  中小企業庁はこのほど、「長時間労働に繋がる商慣行に関するWEB調査」の結果を公表した。この調査は、長時間労働につながる商慣行として、「繁忙期対応」と「短納期対応」が挙げられていることから、その背景にある実態を把握することを目的として実施された。  調査対象は、中小企業7642社。このうち2537社から回答を得た(回答率33・2%)。  調査結果によると、繁忙期は約7割の企業で発生し、特に建設業、食料品製造業、紙・紙加工品産業、印刷産業、トラック運送業・倉庫業では8割超の企業で発生している。  短納期受注は6割の企業で発生(直近1年間)し、特に紙・紙加工品産業、印刷産業、半導体・半導体製造装置産業、電気・情報通信機器産業では8割超の企業で発生している。  繁忙期の発生理由は、約5割の企業が「季節的な要因」と回答。短納期受注については、約8割の企業が「取引先からの要望」と回答している。  繁忙期/短納期受注の発生要因について、取引上の問題としての課題を整理すると、「年末・年度末集中」や「納期のしわ寄せ」、「多頻度配送・在庫負担・即日納入」といった問題のある受発注方法と、そうした「問題のある受発注方法が常態化」していることが、取引上の課題として挙げられている。  残業時間への影響は、繁忙期対応によって8割、短納期受注によって6割の企業が、従業員の平均残業時間が「増加する」と回答している。 発行物 生命保険文化センター 『定年Go!』を改訂  公益財団法人生命保険文化センターは、『40代・50代で考えるセカンドライフ 定年Go!』(B5判、カラー60頁)を改訂した。  この冊子は、40代以降の会社員や公務員が、定年後に向けて資金計画を立てたり、公的年金・医療保険・介護保険といった社会保障制度や税金の仕組み、生命保険の活用方法などを理解したりするために役立つもので、実際に計算しながら、定年後の資金計画を具体的に考えることができる。  構成は、Step1「セカンドライフの自助努力目標額」から、「セカンドライフの税金と資産運用」、「セカンドライフの健康保険と介護保険」、「セカンドライフの生命保険活用法」の大きく四つのStepとなっている。図表を豊富に用いた、わかりやすい解説も特徴だ。  今回の改訂では、約40年ぶりに大きな見直しがなされた民法(相続法)の改正点・施行時期を掲載。また、公的年金の加給年金と振替加算についてより詳しく解説しているほか、生命保険商品の解説・掲載データを最新化した。  一冊360円(税・送料込)。申込みは、左記のHPより。(https://www.jili.or.jp/) 【P60】 次号予告 6月号 特集 高齢社員が働く現場の安全を考える リーダーズトーク 前野隆司さん(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授) 〈高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQR コードのリンク先がhttp://www.jeed.or.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには−− 本誌の定期購読は株式会社労働調査会にお申し込みください。 1冊ずつの購入もこちらで受けつけます。 ★定期購読についてのお申し込み・お問合せ先:株式会社労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ★雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご注文いただくこともできます。URL http://www.fujisan.co.jp/m-elder 編集アドバイザー(五十音順) 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢 春康……サトーホールディングス株式会社人財開発部 人事企画グループ人事企画担当部長 菊谷 寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本 節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 清家 武彦……一般社団法人日本経済団体連合会 労働政策本部 上席主幹 深尾 凱子……ジャーナリスト、元読売新聞編集委員 藤村 博之……法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 真下 陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア 京子……アテナHROD代表、学習院大学特別客員教授 編集後記 ●高齢者雇用を推進するうえでは、高齢者がモチベーションを高く保ち、活き活きと働いていくための職場環境の整備が求められます。それらの対策の多くが、高齢者自身を支援する取組みであるといえますが、その一方で、高齢者を部下に持つ「管理職」に対する支援も、欠かすことのできない重要な要素です。  そこで今号の特集では「年下管理職」に焦点を当て、年上部下である高齢人材をマネジメントしていくためのポイントについて紹介しました。  人事異動や役職定年、定年後再雇用などにより、役割や立場が入れ替わり、かつての先輩や上司を部下としてマネジメントしないといけない年下管理職≠ヘ少なくありません。年齢差やかつての人間関係から、年下管理職と年上部下の関係にやりづらさを感じている人も多いことでしょう。しかし、働き方改革が進み総労働時間が減少していくなか、生産性の向上を図るためにも、シニア人材が持っている能力をしっかり発揮してもらうためのマネジメントが求められます。  こうした事情をふまえ、本特集では、年上部下のマネジメントのポイントを解説した「総論」、年上部下のタイプに応じたコミュニケーションのポイントを解説した「ケーススタディ」、「企業事例」、当機構が実施している研修「就業意識向上研修」の紹介の構成としました。高齢者はもちろん、管理職を含むすべての人材が活き活きと働ける職場の実現に向け、ご参考にしてください。 ●今号から、新連載「高齢社員の磨き方 ―生涯能力開発時代へ向けて―」がスタートしました。高齢社員の新たなスキルの修得や能力向上に取り組む企業を紹介していく予定です。みなさまからのご意見・ご感想をお待ちしています。 月刊エルダー5月号 No.475 ●発行日−−令和元年5月1日(第41巻 第5号 通巻475号) ●発 行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 発行人−−企画部長 片淵仁文 編集人−−企画部次長 中村雅子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2  TEL 043(213)6216(企画部情報公開広報課) ホームページURL http://www.jeed.or.jp  メールアドレス elder@jeed.or.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5  TEL 03(3915)6401  FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-723-7 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験などを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.300 旋盤を回し続けて半世紀精密加工に工夫が光る 精密旋盤加工 柄澤(からさわ) 博(ひろし)さん(78歳) 「金属は膨張すると変形するため寸法通りの切削に苦労します。経験を重ねても納得のいく仕事ができない奥深い世界です」 旋盤はものづくりの原点体で覚えた切削技術  東京都大田区で旋盤工場を営む柄澤博さんは、平成24年度「大田区ものづくり優秀技能者(大田の工匠100人)表彰」を受賞した。汎用旋盤・フライス盤による単品・小物加工で、微細なねじ切り、ミリ単位の直径の穴あけ、ステンレスなど加工しにくい難削材(なんさくざい)の微細加工の腕が高く評価された。  目の前を多摩川が流れる現在の地に旋盤工場を創業して40年ほどになる。かつては近隣に同業者も多く、柄澤さんは旋盤がうなる音を聞きながら半世紀を超える日々を過ごしてきた。  「中学を卒業してから旋盤工場に丁稚奉公(でっちぼうこう)しました。その後はいくつかの現場を渡り歩きながら、多くの先輩から技術を学んできました。汎用旋盤・フライス盤を使って行う作業は、素材にあてる刃物の角度をハンドル操作で微調整していく手仕事です。加工前の素材は肉眼では同じに見えても、切削(せっさく)加工中の摩擦などで目に見えないブレが生じるため、加工の段階で微調整を加えなければなりません。1o以下の世界を覗きながら夢中で歩いてきました」 汎用旋盤とフライス盤を駆使して微細加工の限界に挑む  汎用旋盤とフライス盤の違いを優しく教えていただいた。汎用旋盤は加工したい素材を回転しながら切削するのに対して、フライス盤は刃物の方が回転する。柄澤さんはフライス盤で使うドリルの種類を変えながら、回転を微調整する作業を実演してくれた。穴開けに使用するドリルの直径は1o以下から4pのものまであり、1o以下のドリルを測定器で測ってみると「0・58」という数字を示した。  1oのドリルで開けた穴と、0・6oのドリルで開けた穴の差は肉眼では区別がつかない。しかし、製品としてはまったく違うものができあがる。気の遠くなるような誤差と向き合いながら、部品として完成させていく。それは製品というより作品という呼び名がふさわしい。  「小径1・4oのボルトをつくる際は、自作した工具のホルダーを何度もつくり直して加工しました。そのボルトに0・3oのネジ山を加工するためには、汎用旋盤に顕微鏡を設置しなければ加工することができなかったので、製品として完成させるまでに時間がかかりました。顕微鏡を設置することでその後の加工工程がスムーズになり、1・4oのボルトでも強度テストができるようになりました。マイクロスコープを覗いてみてください。ネジの山と山の間が均等に0・3oずつ切り込まれているのがわかりますよ。円筒状にしか見えない部品でも、高精度の切削や穴あけのためには貴重な材料の一部であり、多岐にわたる分野で活躍しています」と語る柄澤さんの表情が緩んだ。 旋盤の刃物もすべてオリジナル旋盤工場はアイデアの宝庫  工場には汎用旋盤が3台、フライス盤が1台あり、そのなかの1台に顕微鏡が設置されていた。切削のための刃物の先端にピントを合わせられるように柄澤さんが考案した顕微鏡である。旋盤用の刃物(バイト)も、すべて手づくりである。さらに、試行錯誤のなかから、部品検査時にマイクロスコープを活用することを思いついた。カメラ機能があり、SDカードによるデータ集積や写真の印刷も可能となった。  悩みの種は、年季の入った機械の修理を頼める会社が減りつつあること。また、金属は温度によって膨張と収縮をくり返すため、この温度差の克服が今後の課題だという。  「現在は、コンピュータでプログラムされた通りに素材を加工する数値制御(NC)方式が増えてきましたが、職人の経験と勘で微調整していく汎用旋盤はまだまだ必要とされています。長年磨き続けてきた技術を若い人たちに伝えていくことも私の役割だと思っています。匠(たくみ)に息吹(いぶき)を伝えたい−−。これが私のモットーです」 有限会社柄澤精密 TEL:03(3750)2419 (撮影・福田栄夫/取材・永田佳) フライス盤は、上下する主軸に取り付けた切削刃物を回転させて任意の形に削っていく。長年の経験と職人の勘が試される 道具へのこだわりから、材料を削り出す刃物(バイト)はすべて手づくり 苦楽をともにしてきた妻・栄子さん(左)は旋盤の経験がある 最小表示0.01mmの測定器で0.6mmのドリルを測定 マイクロスコープが小さなねじの山と谷をくっきりと映し出す 汎用旋盤に顕微鏡を設置、切削のための刃物の先端にピントを合わせる 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回は「がまん」にかかわる課題です。GO/NO-GO課題と呼ばれる抑制力を調べるのによく使われるものです。「高齢者はかっとなりやすい」などといわれる根拠の一つが、GO/NO-GO課題の成績が、加齢とともに低下することです。がんばってチャレンジしてください。 第24回 GO/NO-GO課題 目標 スムーズにできるまでくり返しましょう ルールにしたがって、1、2、3……と数えながら手をたたいてください。 赤旗=手を 1回たたく 白旗=手を たたかない 1赤旗 2赤旗 3白旗 4赤旗 5赤旗 6白旗 7赤旗 8白旗 9赤旗 10白旗 次は、「赤旗」と「白旗」の指示を逆にします。新たなルールにしたがって、同様に行ってください。 赤旗=手を たたかない 白旗=手を 1回たたく 1白旗 2赤旗 3赤旗 4白旗 5赤旗 6白旗 7赤旗 8赤旗 9赤旗 10白旗 次は、「赤旗」と「白旗」の指示を、3つ数えたら逆にしてみましょう。 1〜3、7〜9 赤旗=手を 1回たたく 白旗=手を たたかない 4〜6、10 赤旗=手を たたかない 白旗=手を 1回たたく 1赤旗 2白旗 3赤旗 4赤旗 5白旗 6白旗 7白旗 8赤旗 9白旗 10赤旗 抑制力  今回、みなさんに挑戦してもらったGO/NO-GO課題は、「GO(する)」と「NO-GO(しない)」を瞬時に判断し反応することが必要になります。実際にやってみると、くり返し行っていた行動を止めること、つまり「しない」という合図に反応することが、いかにむずかしいかがわかります。  そもそも人には行動の保続性があり、くり返し行っていることを“止める”ときには、多くのエネルギーを必要とします。このときに働く力を「抑制力」といい、脳のなかでは、右のこめかみのあたりにある「下前頭回(かぜんとうかい)」という領域が主にかかわっています。  抑制力は、幼少期の体験や学習によって自然とつちかわれ、成長とともに発達していく力なのですが、大人になって使われなくなると低下してしまう力でもあります。  日ごろから抑制力を鍛えて、自身の行動を適切にコントロールできるようになると、周囲からの信頼を得られ、人間関係や仕事の幅などがいままで以上に広がっていくはずです。 今回のポイント 赤旗と白旗の数や順番(位置)を変えて、家族や友人と一緒に挑戦してみましょう。 スムーズにできるようになると素晴らしいです。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRS を使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2019年5月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒780-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価(本体458円+税) 『65歳超雇用推進事例集(2019)』を作成しました 65歳以上定年企業、65歳超継続雇用延長企業の制度導入の背景、内容、高齢社員の賃金・評価などを詳しく紹介した『65歳超雇用推進事例集』を作成しました。 継続雇用延長を行った企業の事例を増やすとともに、賃金・評価制度についての記述を充実し、新たに23事例を紹介しています。 23事例を紹介 図表でもわかりやすく紹介 索引で検索 この事例集では、65歳以上定年制、雇用上限年齢が65歳超の継続雇用制度を導入している企業について ●定年、継続雇用上限年齢の引上げを行った背景 ●取組みのポイント ●制度の内容 ●高齢社員の賃金・評価  −などを詳しく紹介しています。 ★制度改定前後の状況について表で整理しました ★企業の関心が高い賃金・評価・退職金などの記載を充実しました! 事例を大幅に入れ替えた『65歳超雇用推進マニュアル(その3)』もつくったよ 事例集は、ホームページでご覧いただくことができます。 http://www.jeed.or.jp/elderly/data/manual.html 65歳超雇用推進事例集 検索 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 2019 5 令和元年5月1日発行(毎月1回1日発行) 第41巻第5号通巻475号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会