【表紙2】 65歳超雇用推進助成金のご案内 (平成31年4月から一部コースの見直しを行いました) 〜65歳超継続雇用促進コース〜 65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施する事業主のみなさまを助成します。 主な支給要件 ●労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、旧定年年齢※1を上回る年齢に引上げること。 ●定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。  また、改正後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること。 ●1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること。 ●高年齢者雇用推進者の選任および高年齢者雇用管理に関する措置※2を実施すること。 支給額 実施した制度 60歳以上の被保険者数※3 1〜2人 65歳への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 10 5歳 5 66歳以上への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 15 5歳以上 20 定年の廃止 20 66〜69歳の継続雇用への引上げ 引上げた年数 4歳未満 5 4歳 10 70歳以上の継続雇用への引上げ 引上げた年数 5歳未満 10 5歳以上 15 60歳以上の被保険者数※3 3〜9人 65歳への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 25 5歳 100 66歳以上への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 30 5歳以上 120 定年の廃止 120 66〜69歳の継続雇用への引上げ 引上げた年数 4歳未満 15 4歳 60 70歳以上の継続雇用への引上げ 引上げた年数 5歳未満 20 5歳以上 80 60歳以上の被保険者数※3 10人以上 65歳への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 30 5歳 150 66歳以上への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 35 5歳以上 160 定年の廃止 160 66〜69歳の継続雇用への引上げ 引上げた年数 4歳未満 20 4歳 80 70歳以上の継続雇用への引上げ 引上げた年数 5歳未満 25 5歳以上 100 ■1事業主あたり(企業単位)1回かぎり (単位:万円) 〜高年齢者評価制度等雇用管理改善コース〜 高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(高年齢者雇用管理整備措置)を実施した事業主のみなさまを助成します。 措置(注1)の内容 ●高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入 ●法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 支給対象経費(注2)の60%《75%》、ただし中小企業事業主以外は45%《60%》 (注2)措置の実施に必要な専門家ヘの委託費、コンサルタントとの相談経費(経費の額にかかわらず、初回の申請にかぎり30万円の費用を要したものとみなします。) 〔《 》内は生産性要件を満たす場合※4〕 〜高年齢者無期雇用転換コース〜 50歳以上かつ定年年齢未満の有期雇用労働者を無期雇用契約労働者に転換した事業主のみなさまを助成します。 申請の流れ @無期雇用転換制度を整備 A高年齢者雇用推進者の選任および高年齢者雇用管理に関する措置※2を1つ以上実施 B転換計画の作成、機構への計画申請 C転換の実施後6カ月間の賃金を支給 D機構への支給申請 支給額 ●対象労働者1人につき48万円 (中小企業事業主以外は38万円) ●生産性要件を満たす場合※4には対象労働者1人につき60万円 (中小企業事業主以外は48万円) ※1 旧定年年齢とは…… 就業規則等で定められていた定年年齢のうち、平成28年10月19日以降、最も高い年齢 ※2 高年齢者雇用管理に関する措置とは…… (a)職業能力の開発および向上のための教育訓練の実施等 (b)作業施設・方法の改善 (c)健康管理、安全衛生の配慮 (d)職域の拡大 (e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進 (f)賃金体系の見直し (g)勤務時間制度の弾力化 のいずれか ※3 60歳以上被保険者とは…… 当該事業主に1年以上継続して雇用されている者であって、期間の定めのない労働協約を締結する労働者または定年後に継続雇用制度により引き続き雇用されている者にかぎります。 ※4 生産性要件を満たす場合とは…… 『助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること』(生産性要件の算定対象となった期間中に、事業主都合による離職者を発生させていないこと)が要件です。 (生産性=営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課/雇用保険被保険者数) (企業の場合) ■お問合せや申請は、都道府県支部高齢・障害者業務課(東京、大阪は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします(65頁参照)。そのほかに必要な条件、要件等もございますので、詳しくはホームページ(http://www.jeed.or.jp)をご覧ください。 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.50 従来の働き方を変える「幸せの四因子」高齢者に幸福をもたらす多様な学び直し 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 委員長・教授 ウェルビーイングリサーチセンター長 前野隆司(たかし)さん まえの・たかし 1962(昭和37)年生まれ。キヤノン株式会社に勤務後、カリフォルニア大学研究員を経て1995(平成7)年慶應義塾大学理工学部専任講師、2006年より同学部教授を務める。2008年同大大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授に就任。2011年同科委員長および同科附属システムデザイン・マネジメント研究所長、2017年慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長を兼任。  働き方改革関連法の順次施行により、働き方改革が本格的にスタートしました。企業のあり方や労働者の働き方の変化、高齢者をはじめとする多様な人材の活用は、労働者にとっての「幸せ」の価値観を変化させていくことでしょう。そこで今回は「幸福学」を研究する慶應義塾大学大学院の前野隆司さんにご登場いただき、生涯現役時代における「幸せ」について、お話をうかがいました。 多様な研究分野を横断的に分析し幸せのメカニズムを明らかにする「幸福学」 ―前野先生の研究テーマである「幸福学」とはどのような学問ですか。 前野 システムデザイン・マネジメントとは、理系・文系など従来の専門性に特化した学問の壁を取り払い連携することで、物事を俯瞰的(ふかんてき)にとらえ、全体最適※1で解いていく分野横断型の学問です。そのためのシステムズエンジニアリング、つまり多様な研究分野の連携・協力する枠組みを提示するのが私たちの仕事です。そこから生まれた一つが「幸福学」です。  正確には「ウェルビーイング&ハッピネス」と呼ばれ、心理学や医学など個々の学問の世界で研究されています。私は心理学や哲学など個別の研究成果を体系化し、人がどういう状態のときに幸せになるのか、幸せになるためのメカニズムを明らかにしたいと考えました。そこで実践を含めた学問として「幸福学」と名づけました。 ―その成果の一つが、幸せにつながる「四つの因子」ですね。具体的にはどういうものですか。 前野 幸せには地位、お金、モノといった、他人との比較でしか満足が得られない「地位財」と、自由や自主性、愛情など、長期的な幸せにつながる心的要因がもたらす「非地位財」があります。この心的要因に関する過去の多くの研究成果を集め、1500人の日本人にアンケート調査を実施しました。その結果をコンピューターにかけ、因子分析※2という手法で分析したところ、人が幸せになるためのカギが「四つの因子」に集約されたのです。  第一因子「自己実現と成長」、第二因子「つながりと感謝」、第三因子「前向きと楽観」、第四因子「独立とマイペース」の四つです。それぞれの因子をわかりやすくいいかえると、「やってみよう!」、「ありがとう!」、「なんとかなる!」、「あなたらしく!」となります。  「やってみよう!」では、どんな小さなことでもやりがいや夢のある仕事を持ち、実現するために成長しようとしていることが幸せをもたらします。「ありがとう!」では、だれかを喜ばせたり、逆に愛情を受けたり、感謝や親切に触れることで、人は幸せを感じます。この二つでも十分に幸せを満たすように思えますが、第三の「なんとかなる!」も重要です。悲観的ではなく常に楽観的でいること、自己肯定感が高く、いつも楽しく笑顔でいられることが幸せを呼びます。第四の「あなたらしく!」も他人と比較せず、周囲を過度に気にしないで自分らしさを持っていれば、そうでない人よりも幸福なのです。 ―四つの因子は、企業組織のなかで働く労働者の幸せにも共通するように思います。労働者の幸福度を高めるために企業は何をすればよいでしょうか。 前野 活き活きワクワクしながら仕事をすること、職場の人間関係が良好であることは、働く幸せにつながります。逆にやりたい仕事ではなく、上から命じられるままに仕事をしていると、やらされ感が募り幸福度は下がります。したがって、責任のある仕事を任され、自分の裁量の範囲が広くなると幸福度は高まります。もう一つは仕事に対する視点の広さを持たせることです。例えばネジをつくる仕事でも、ただやらされているだけではつまらない仕事に思えますが、このネジが自動車に使われ世界中の物流に貢献していることを理解し、企業の理念レベルの高い視点を持つと、実は幸せになれるのです。  また、働き方改革を実現するために効率を重視するあまり、「ムダな会話や私語はやめよう」といっている企業もありますが、第二因子の「つながりと感謝」にとっては逆効果です。個人の信頼関係も薄くなりますし、むしろムダ話を推奨すべきです。午後の一時(ひととき)、お菓子でも食べながら、自分が本当にやりたいことは何か、家族にどんな人がいるのか、あるいは会社の未来について語るとか、目の前の仕事ではない大きなことを話してもよい。親の介護が不安だといえば「よし、いざとなったら私が手伝ってやろう」と助け合える関係を育むことにつながります。効率化やムダの排除一辺倒ではなく、むしろムダな時間をつくることが感謝や信頼関係につながります。実際に幸せな社員は不幸な社員より創造性が3倍、生産性が1・3倍になることがわかっています。 仕事の合間にムダな時間をつくることが社員の幸せと職場の活性化につながる ―第三因子の「前向きと楽観」、「なんとかなる!」という状態を会社がつくりだすことはできるでしょうか。 前野 「なんとかなる!」と思えるようにするには、チャレンジできる環境があることが必要です。例えば新規事業で働くことを推奨するとか、やりたいことができる時間や仕事を制度化するなどの工夫です。周りが「なんともならないぞ」という雰囲気では、自分一人だけで「なんとかなるぞ」という気持ちにはなれません。結局、幸せは雰囲気で移るのです。これは不幸せも同様で、一人だけ幸せになることはありませんし、特に管理職が辛い思いをしていると、その職場は余計に不幸せになるものです。 ―職場の高齢化も進行しています。増え続ける高齢労働者が幸せを感じながら働き続けていくにはどうすればよいでしょうか。 前野 実は幸福度の年齢別平均値は若いときから徐々に下がり、40代が底になって再び上がり、高齢になるほど高まっていきます。高齢になっても幸せに過ごすには、「やってみよう!」、「ありがとう!」、「なんとかなる!」、「あなたらしく!」という幸せ因子を意識することです。高齢になると「どうせ私なんか何もできない」と頭が固くなっていく傾向があります。そうならないためには新しいチャレンジが必要です。小さなことでもよいのです。60歳になっても本を読む、新しい学びをする、ちょっと違う仕事をしてみる、若い人と話してみる、インターネットを通じて新しい人に出会い、ネットワークを広げる、などでもいいかもしれませんね。 ―企業としても、高齢労働者に対して幸せを感じられる多様な選択肢を与えることを工夫すべきですね。 前野 企業はもちろん、社会全体で多様な選択肢を用意することです。また、個人も自身の能力をさまざまな場面に応用できる力を高めることです。例えば、「私は経理ならだれにも負けないが、社内のやり方しかわからない」という人が他社のやり方を知れば、どこでも通用するコンサルタントになれるかもしれません。楽しく学び直す機会を提供することを、企業も社会も支援していくべきだと思います。これまでは終身雇用で同じ企業に長く勤めていると「私はこれしかできません」という人が多かったのですが、いろいろな人と出会うことで仕事の幅も広がります。SNSなどのインターネットツールを駆使すれば、さまざまなことができるはずです。会社を超えた仕事のマッチングも可能になります。高齢者がお互いを幸せにしていく活動を、社会も積極的に支援していくべきだと思います。 「やってみよう!」の気持ちで常に新しい自分にアップデートを ―超高齢社会の働き方に関するいろいろなヒントをいただきました。今後はAI(人工知能)の活躍で働き方そのものも変化していきます。企業と個人はどう変わるべきでしょうか。 前野 幸福学の観点では、高齢になって個人の殻に閉じこもるのではなく、何歳になっても自分は成長できると思い、企業や地域の枠から出て、いろいろな人との出会いを楽しむオープンな姿勢を持つことが大事です。大企業もこれまでは社内だけでビジネスが完結するクローズドなやり方で成功しましたが、明らかにそういう時代は終わりました。アメーバのように自由自在に組織間の壁を超え、外に対してオープンな風土を持つ企業がこれから生き延びていくでしょう。それができない企業は新しい企業に一気に市場を奪われて、崩壊してしまうかもしれません。崩壊する前に、いろいろな人が知恵を出し合い、多様な能力を持つ人が活き活きと働く社会の基盤をつくっていくことが急務だと思います。  AIは基本的に大量のデータが蓄積されている問題について解くことができます。例えば100万枚のレントゲン画像があれば、医者よりも簡単にガンを見つけ出し、AIが診断を下すことができます。高度な会計処理や弁護士が判例を調べる作業など、だれもが同じようにやっている仕事は全部AIに奪われてしまいます。何の特技もなく、普通で地味な仕事を続けて高齢化してしまうと、それこそAIに職も奪われてしまいます。ではAI社会で生き残るにはどうすればいいでしょうか。100万個の事例がない、自分一人だけの個性・特徴をベースに、創造性や感性を活かした働き方ができれば、まだまだいまのAIには負けません。そのためには、「やってみよう!」の気持ちで新しいことにチャレンジし、常に自分をアップデートすることが大切です。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/福田栄夫) ※1 全体最適……組織やシステムなどの全体が最適化された状態 ※2 因子分析……さまざまな結果(変数)にひそんでいる要因を探る解析手法 【もくじ】 エルダー エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、“年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 2019 June No.476 ●表紙のオブジェ イラストレーター 柳田ワタル(やなぎだ・わたる) 1947年 大阪府堺市生まれ。1970年 多摩美術大学卒業。アニメーション制作会社勤務ののち、1974年よりフリーのイラストレーターとなる。1977年よりオブジェ、立体クラフトなどの制作を開始。90年代からは写真撮影も始める。 特集 6 高齢社員が働く「現場の安全」を考える 7 総論 高年齢労働者の労働災害防止 ―加齢にともなう心身機能の低下― 独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 安全研究領域長 高木 元也 12 解説@ 職場の安全衛生の基本「5S」徹底解説! 安全安心株式会社 代表取締役社長 CSP労働安全コンサルタント・CIH労働衛生コンサルタント 中川 潔 16 解説A 社員の危険感受性を高める「KYT(危険予知トレーニング)」 安全安心株式会社 代表取締役社長 CSP労働安全コンサルタント・CIH労働衛生コンサルタント 中川 潔 20 解説B 高年齢労働者の安全と健康を守る「職場巡視」 産業医科大学 産業生態科学研究所 作業関連疾患予防学 非常勤助教 岩崎 明夫 1 リーダーズトーク No.50 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 委員長・教授 ウェルビーイングリサーチセンター長 前野隆司さん 従来の働き方を変える「幸せの四因子」高齢者に幸福をもたらす多様な学び直し 24 マンガで見る高齢者雇用 株式会社サウンドファン《第1回》 30 江戸から東京へ 第81回 江戸っ子幕臣の身の処し方 榎本武楊 作家 童門冬二 32 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第62回 公文銀座書写教室 指導者 鳥羽禮子さん(82歳) 34 高齢者の現場 北から、南から 第85回 愛媛県 株式会社つるさき食品 38 高齢社員の磨き方 ―生涯能力開発時代へ向けて― 第2回 溝上憲文 42 知っておきたい労働法Q&A《第14回》 有期雇用の雇止めと期間・回数制限、死亡退職金の帰趨 家永 勲 46 新連載 科学の視点で読み解く 身体と心の疲労回復 渡辺恭良 48 日本史にみる長寿食 vol.309 キュウリの海漬け 永山久夫 49 労務資料 平成30年度 能力開発基本調査結果の概要 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.301 幅広い技能を継承し民俗衣装の着付を究める 衣装着付師 鈴木乃莉子さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第25回]さんずいの漢字を12個 篠原菊紀 【P6】 特集 高齢社員が働く「現場の安全」を考える  高齢者雇用を進めていくうえで欠かせない視点が、加齢にともなう体力や感覚機能の低下に配慮した、職場環境の整備です。高齢者が働きやすい職場づくりを進めることは、女性や障害者なども含め、全社員が働きやすい職場の実現につながります。  職場の安全衛生対策にはさまざまな方法がありますが、まずは基本を押さえておかなくては始まりません。そこで今回は、高齢者が働きやすい職場環境整備の基本として、「5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾(しつけ))」、「KYT(危険予知トレーニング)」、「職場巡視」を取り上げ、解説します。 【P7-11】 総論 高年齢労働者の労働災害防止 ―加齢にともなう心身機能の低下― 独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 安全研究領域長 高木 元也(もとや) 1 はじめに  わが国では高齢化の進展に加え、高年齢者雇用安定法に基づく高年齢者雇用確保措置の義務づけなどにより、今後も高年齢労働者の増加が一層進むものと予測されています。  一方、労働災害発生状況をみると、休業4日以上の死傷者数に占める60歳以上の労働者の割合は増加傾向にあり、2017(平成29)年においては、4人に1人が60歳以上という状況になっています。  加齢にともない心身機能が低下し、それにより労働災害が発生する。それはいったいどういうことなのでしょうか。また、どのような対策が求められるのでしょうか。  本稿では、これらをテーマに、労働災害につながりやすい心身機能の低下にはどのようなものがあるのか解説するとともに、高年齢労働者の労働災害の発生状況、高年齢労働者の安全対策の考え方などについて解説します。 2 加齢にともなう心身機能の低下とは  加齢にともない低下する心身機能には、さまざまなものがあります。図表1は、さまざまな心身機能をレーダーチャートで表したものです。20〜24歳(ないし最高期)を100として、55〜59歳では、どれだけ低下するかを示しています。  55〜59歳のラインをみると形がいびつであることがわかります。それは、大きく低下する心身機能と、それほど低下しない心身機能があるからです。最も大きく低下するのは、「夜勤後の体重回復」です。値は27%。すなわち73%も低下します。高年齢労働者は夜勤が苦手といえます。一方、それほど低下しないのは、「背筋力」、「屈腕力」、「握力」などの筋力で、25〜30%程度の低下です。  高年齢労働者の心身機能低下のなかで、現場の安全にかかわりの深い機能を以下に示します。 @バランス感覚  (心身平衡機能、姿勢のバランス保持)  バランス感覚は20代をピークにその後は急激に低下します(図表2)。 Aとっさの動き(反応動作、その正確さと速さ)  危険回避にはとっさの俊敏な動きが必要です。全身敏捷(びんしょう)性は10代でピークをむかえ、その後は急激に低下していきます(図表3)。 B視力  目の働きは視力低下のほか、近くから遠く(またはその逆)へ目のピントを調整する力(遠近調整力)の低下、暗い場所での視力(低照度下視力)の著しい低下、明るい場所から急に暗い場所(またはその逆)に移ることによる視力(明暗順応)の著しい低下などがあります。 C筋力  a.握力(工具や重量物の把持(はじ)力)  握力は、20〜30歳でピークをむかえますが、手はよく使うため、比較的ゆるやかに低下していきます(図表4)。  b.背筋力(重量物の支えや運搬)  背筋力は、20代後半から30代前半でピークをむかえ、以後は急激に低下していきます。  c.脚筋力(歩行や立姿勢の維持)  脚筋力とは、両脚で踏ん張る力のことです。脚筋力は、20歳以降から急激に低下します(図表5)。 D柔軟性  現場では、狭いところなどで無理な姿勢で仕事をすることが少なくありません。柔軟性は10代後半にピークをむかえ、40歳以降はゆるやかに低下していきます(図表6)。 E聴力  耳の働きも加齢とともに低下します。特に、会話中、ほかの音が入った場合の聞き取りが非常に悪くなります(図表7)。 F疲労回復力  加齢にともない徹夜明けの体力回復力が低下します。疲れにより脳の働きも低下し、安全活動にも悪影響をもたらします。 G記憶力  年齢を重ねると記憶力が低下します。記憶力のなかでも、長い年月をかけて蓄積した記憶はあまり低下しませんが、短期の記憶は加齢にともない急激に低下します。  以上、加齢にともない低下するさまざまな心身機能を具体的にみてきましたが、そのほか、年齢を重ねるにつれ、心身機能の低下は個人差が大きくなることも知っておかなければなりません。  例えば、65歳の人は、生理的年齢(心身機能の保持力を年齢で表したもの)の個人差が16年にもおよびます(図表8)。それは、年齢を重ねればさらに拡大し、75歳の人の個人差は18年に広がります。  現在、職場では「あの人はもう60歳だから高所での作業は控えてもらおう」など、実年齢にともなう作業配置が一般的です。しかしながら、この個人差をみると、実年齢65歳の人であっても、生理的年齢は50代の若々しい人がいる一方、実年齢55歳でも、生理的年齢はすでに60歳オーバーの人もいます。この点を考慮し、高年齢労働者が持つ心身機能に応じた作業員の配置が求められます。 3 高年齢労働者の労働災害 (1)労働災害発生率  高年齢労働者の労働災害発生率はどのようになっているのでしょうか。  休業4日以上死傷災害年千人率(1年間の労働者1000人あたりに発生した休業4日以上死傷者数の割合)を年齢階層別にみてみると、「60歳以上」が3・1と最も高く、次いで「20歳未満」が2・7、そして「50〜59歳」が2・5と続き、高年齢労働者の労働災害発生率が高いことがわかります(図表9)。 (2)労働災害発生状況  高年齢労働者の労働災害発生状況について、ハウスメーカーの協力を得て集めた低層住宅建築工事における労働災害発生状況(図表10)をみてみると(ここでは心身機能の低下が顕著に認められる50歳以上を高年齢労働者とします)、全172件の労働災害のうち、50歳以上は74件で43%を占めています。この数字は、50歳以上の労働者が働く割合と同程度で、高いとはいえませんが、個別にみていくと高年齢労働者の労働災害発生率が高いものもあります。例えば、開口部からの墜落、脚立足場上作業での墜落の割合が高くなっており、理由として、高年齢労働者は開いている穴や足場の端部に気づきにくいことが考えられます。また、屋根からの墜落も発生率が高く、屋根のように足元が傾斜で安定しづらい場所は、バランス感覚の低下とともに、脚力が衰えている高年齢労働者は墜落しやすい可能性があります。  電動工具についても、研磨するため超高速で回転する反発力が極めて高いグラインダーでの災害の発生率が高くなっており、握力の低下や、危険を回避するためのとっさの動きが低下している可能性が考えられます。 (3)労働災害事例(図表11)  労働災害発生状況のなかから、高年齢労働者の労働災害事例を示します。先ほど示した心身機能のうち、主にどの機能が低下したことが原因として想定できるのかも、あわせて示します。 4 職場での高年齢労働者の安全対策の基本的な考え方  加齢にともなう心身機能の低下をふまえ、職場での高年齢労働者の安全対策をどのように考えていけばよいのでしょうか。  建設現場の例を紹介しますと、たとえ低所であっても何かの上に乗って作業をする場合には墜落防止対策を講じたり、ハシゴには手すりを設置し滑落を防止したりすることなどがあげられます。また、作業通路にはつまずくものを置かないことや、滑らず転倒しにくい安全靴を履かせることなどもあげられます。  しかし、これらは何も高年齢労働者だけにかぎった対策ではなく、すべての労働者にあてはまる安全対策、ヒューマンエラー対策であることがわかると思います。  すなわち、高年齢労働者の安全対策とは、そこで働くすべての人が快適に働くことができるような作業環境、職場環境を整備することに尽きます。しっかりとした安全設備の設置が肝心です。 5 おわりに  人生100年時代に向け、今後、高年齢労働者が快適に働くことができる職場をつくり上げることが求められます。これは、企業経営者にとって重要な経営課題の一つであるともいえます。ただ、先に示した通り、高年齢労働者の安全対策とは、特別なものではなく、そこで働くすべての人が、快適に働くことができるような作業環境、職場環境を整備することなのです。  このことを忘れずに職場の安全確保に努めてください。 図表1 20〜24歳ないし最高期を基準としてみた55〜59歳年齢者の各機能水準の相対関係(%) 分析と判断能力 77 計算能力 76 比較弁別能 63 学習能力 59 記憶力 53 夜勤後体重回復 27 抗病回復 68 傷病休業を少なく止める能力 66 平衡機能 48 皮膚振動覚 35 聴力 44 薄明順応 36 視力 63 肩関節 70 脊柱側屈 85 脊柱前屈 92 伸脚力 63 背筋力 75 屈腕力 80 握力 75 全身跳躍反応 85 タッピングテンポ 85 動作速度 85 単一反応速度 77 瞬発反応 71 運動調節能 59 字を書く速さ 57 出典:斎藤一、遠藤幸男:高齢者の労働能力(労働科学叢書53)、労働科学研究所、1980 図表2 加齢による平衡機能の変化(閉眼片足立ちテストによる) 男 女 (秒) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 10 20 30 40 50 60 70(歳) 出典:石橋富和:高齢者の心身能力と交通安全(5)(交通安全教育204.1983.8)、日本交通安全教育普及協会 図表3 加齢による全身敏捷性の変化 男 女 (回) 30 25 20 15 10 0 10 20 30 40 50 60 70(歳) 出典:石橋富和:高齢者の心身能力と交通安全(5)(交通安全教育204.1983.8)、日本交通安全教育普及協会 図表4 加齢による握力の変化 男 女 (kg) 50 40 30 20 10 0 10 20 30 40 50 60 70(歳) 出典:石橋富和:高齢者の心身能力と交通安全(4)(交通安全教育203.1983.7)、日本交通安全教育普及協会 図表5 加齢による脚筋力の変化(両足で測定) 男 女 (kg) 500 400 300 200 100 0 20 30 40 50 60(歳) 出典:石橋富和:高齢者の心身能力と交通安全(4)(交通安全教育203.1983.7)、日本交通安全教育普及協会 図表6 加齢による身体柔軟性の変化(前屈テストによる) 男 女 (cm) 20 15 10 5 0 10 20 30 40 50 60 70(歳) 出典:石橋富和:高齢者の心身能力と交通安全(5)(交通安全教育204.1983.8)、日本交通安全教育普及協会 図表7 加齢による種々な条件下での会話の聞き取り度の変化 20歳代を100としたときの比率 % 100 90 80 70 60 50 40 30 20 年齢 20〜29 30〜39 40〜49 50〜59 60〜69 70〜79 80〜89(歳) ふつうの会話 反響のある場合 会話中にほかの音が入る場合 出典:長町三生:企業と高齢化社会(生涯的職務設計のすすめ)、日本能率協会、1977 図表8 加齢による暦年齢と生理的年齢の個人差の拡大 生理的年齢 (歳) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 暦年齢 25 35 45 55 65 75 85(歳) 4年 8年 12年 14年 16年 18年 20年 出典:斎藤一、遠藤幸男:高齢者の労働能力(労働科学叢書53)、労働科学研究所、1980から作図 図表9 年齢階層別休業4日以上死傷災害年千人率(全産業:平成29年) 20歳未満 2.7 20〜29歳 1.6 30〜39歳 1.5 40〜49歳 1.8 50〜59歳 2.5 60歳以上 3.1 出典:労働力調査(総務省統計局)、労働者私傷病報告(厚生労働省)より 図表10 低層住宅建築工事における労働災害発生状況 災害の種類 小区分 件数 50歳以上 割合(%) 墜落・転落99件 外部足場上作業での墜落 18 7 38.9 脚立上作業での墜落 15 6 40.0 ハシゴからの墜落 12 4 33.3 開口部からの墜落 11 7 63.6 脚立足場上作業での墜落 6 6 100.0 屋根からの墜落 6 3 50.0 違反足場からの墜落 6 4 66.7 足場組立・解体時の墜落 5 0 0.0 外構作業時、基礎等への墜落 4 2 50.0 トラックからの墜落 3 2 66.7 階段からの墜落 3 2 66.7 梁からの墜落 3 0 0.0 その他 7 3 42.9 切れ・こすれ42件 電動丸ノコによるもの 12 4 33.3 自動釘打機によるもの 9 4 44.4 グラインダーによるもの 6 4 66.7 その他 15 3 20.0 転倒31件 基礎・土間での転倒 13 3 23.1 床での転倒 6 3 50.0 外部足場でつまずき転倒 5 5 100.0 その他 7 2 28.6 合計 172 74 43.0 出典:労働安全衛生総合研究所「平成18 年低層住宅建築工事会社9社で発生した休業4日以上死傷災害における三大災害の分析結果」 図表11 労働災害事例と主な心身機能低下要因 墜落災害事例@ 脚立足場を使い天井下地取りつけ作業中、バランスを崩し墜落 〈主な心身機能低下要因〉 ●バランス感覚の低下 ●とっさの動きの低下 ●視野の狭さ ●脚筋力の低下 墜落災害事例A 建物2階の床パネル施工中、未施工箇所から墜落 〈主な心身機能低下要因〉 ●バランス感覚の低下 ●とっさの動きの低下 ●視野の狭さ ●記憶力の低下 電動工具災害事例 外壁タイルの切削作業中、グラインダーが跳ね左手を切傷 〈主な心身機能低下要因〉 ●とっさの動きの低下 ●握力の低下 転倒災害事例 玄関に入る際、外部足場につまずき転倒 〈主な心身機能低下要因〉 ●脚筋力の低下 ●視野の狭さ ●とっさの動きの低下 【P12-15】 解説1 職場の安全衛生の基本「5S」徹底解説! 安全安心株式会社 代表取締役社長 CSP労働安全コンサルタント・CIH労働衛生コンサルタント 中川 潔(きよし) はじめに  休業4日以上死傷災害人数は年齢が上がるとともに増加しており、60歳以上が約4分の1を占めるなど、高年齢労働者の労働災害は、ほかの年代より多くなっています(図表1)。このなかで最も多い災害は転倒による災害です。転倒の起因物を見ると、「5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)」が不十分だったことが原因となった事例が多くを占めていると考えられます。  労働災害を防止し、快適に、効率よく仕事を行い、職場を活性化させるためには、「5S」はとても重要な活動です。特に、高年齢労働者にとっての働きやすい職場づくりには欠かせません(図表2・3)。 @「整理」のポイント  高年齢労働者の労働災害で最も多いのは、転倒です。転倒の原因としては、物があふれて通路が狭くなっていたり、通路に物が置いてあることがあげられます。若年者にとっては、つまずいても大きなケガにはなりませんが、高年齢労働者が転倒すると、腰や足の骨を折ってしまい、長期の休業災害につながることもあります。通路に物を置くことを制限し、通路を確保して、その通路には何も置かないようにしてください。  また、不要な物が多いと、必要な物を取り出すときに中腰になるなど、無理な体勢が生じやすくなります。 A「整頓」のポイント  高年齢労働者には視力の衰え(霞(かす)む、ぼんやりと見える)があるため、よりわかりやすくする必要があります。例えば、業務上さまざまな種類のボルトやナットなどの小物部品を使用する場合、整頓が不十分だと間違えやすく、また、必要な物を選ぶにも手間取ります。そこで部品ごとに箱に分け、必要な表示をしましょう。その表示もすべて白い紙に黒い文字で表示するのではなく、種類ごとにピンクの紙、水色の紙など色をつけたもので判断しやすくする、あるいは、写真やイラストで表示し一目でわかるようにすることが望ましいです。  ただし、例えば青い紙に黒い文字はコントラストの差が少なく、高年齢労働者には読みづらい場合があるため、高年齢労働者の意見を聞きながら、文字色や大きさなど見やすくする工夫をしてください。  また、棚に物を置く場合は、安定性を考えて、重い物を下に、軽い物を上に置くことが多いと思われますが、筋力が衰えているため、重い物はある程度高い場所(腰のあたり)に置いた方が持ち上げやすい場合もあります。 B「清掃」のポイント  通路に物が落ちているとつまずく要因になりますし、床と靴底の間にゴミや埃があると歩くときに摩擦抵抗が小さくなり、滑りやすくなります。また、掃除にホウキとチリトリを使う職場もあると思いますが、しゃがんだり立ったりのくり返しは負担が大きいので、身長にあった掃除機を使うようにしましょう。また、濡れ雑巾を使うときには、床が濡れて滑りやすくなります。特に洗剤が溶け込んだ水は滑りやすくなるため、乾くまでは立入禁止などの表示をして、転倒災害を防止しましょう。  また、脚立を使うような高い場所の掃除については、年齢・体力などを考えて、適任者が行うよう指示してください。  掃除については、だれが、いつ、どこを、掃除するのか、毎日掃除をする場所、週に一度掃除をする場所、月に一度掃除をする場所など明確にしておきましょう。 C「清潔」のポイント  不安全状態が労働災害の原因になることが多いため、整理・整頓・清掃のよい状態を維持しましょう。  ただ、「よい状態を維持しましょう」という掛け声だけで、維持することは困難です。職場の全員で整理・整頓・清掃の責任範囲を分担し、チームごとに5Sリーダーなどを定めて、監督・指導、さらにはパトロールを行うことで、維持というより目標(テーマ)を定めたレベルアップを目ざします。 D「躾」のポイント  躾の活動が最も苦手と考えている人が多いと思います。リーダーも部下も、守るべきルールやマナーを理解・実践していないことが多いのです。「法律や会社のルール、職場のルール、マナーを守りましょう」というだけでは、全員が理解することはできません。例えば、「階段の昇降では手すりを持つべきだ」と頭では理解しても、日常生活や公共の場所で全員が手すりを持ちながら階段を昇降しているわけではありません。  従業員の年齢や経験は十人十色です。作業はすべて作業手順書で明確にし、職場のルールやマナーも掲示してください。リーダーは順守状況を見て、テーマを決めて強化期間を設けたり、ミーティングの機会などに徹底しましょう。 5Sを維持・継続するためには (1)報告・連絡・相談をあたり前に行う環境づくり  職場で異常があれば上司に報告すること。例えば、通路に油がこぼれていた場合、「この程度なら問題ない」と勝手に判断してしまったり、「ふき取るのが面倒」と放置してしまうと、それが原因で労働災害につながるおそれもあります。 (2)あいさつを元気に行う環境づくり  コミュニケーションの最初は、あいさつです。あいさつができなければコミュニケーションが不十分になり、意思疎通の不足が災害の原因となることもあります。 5S推進事例の紹介 (1)「5S3定掲示板」の作成(図表4)  「3定」とは、「定置・定品・定量」のことで、物の場所・表示・数量を定めることです。項目ごとに改善計画を立て、現状と改善後の写真を掲示することで5S意識を高めることができます。 (2)「ビフォー・アフター」の写真の掲示(図表5)  パトロールで指摘した内容と、改善後の望ましい状況の写真を掲示し、よい状態と悪い状態を周知することが、5S意識を高めることにつながります。 (3)見えないところを可視化(図表6)  キャビネットの中は閉ざされていて何が入っているかわかりません。そこで、キャビネットの中の状態を写真に撮り、扉に掲示することで、キャビネットを開けなくても収納されているものがわかります。それと同時に、どのように収納すればよいかがわかるようになっています。 (4)「環境整備リセット」見本の掲示(図表7)  作業によってはどうしても物品が散乱することもあるかもしれません。しかし、作業の最後にどういう状態にすればよいかを示しておくと、作業終了後の状態を毎日同じ状態に保つことにつながります。 おわりに  高年齢労働者に優しい5S活動をするには、高年齢労働者に意見を聞くことが重要です。5Sパトロール員に高年齢労働者を加えるなどして、高年齢労働者の目線で「読みにくい」、「見にくい」、「使いにくい」、「覚えにくい」、「間違えやすい」などを見つけて改善するようにしましょう。 図表1 平成29年 年代別休業4日以上死傷災害人数 12万460人 19歳以下 20代 1万4,770人 30代 1万8,001人 40代 2万6,498人 50代 2万8,631人 60歳以上 3万27人 出典:平成29 年労働者死傷病報告(厚生労働省)より作成 図表2 「5S」の定義と改善のねらい 5S 定義 改善のねらい 整理 要るものと要らないものに区分して、要らないものを処分すること 不要物や職場のムダをなくすこと 整頓 要るものを定置(所定の場所)に所定の置き方で置き、いつでも必要なものを間違うことなくすぐに取り出せるようにすること もの探しと運搬の手間をなくすこと新人でも高年齢労働者でもどこに何があるかすぐわかるようにすること 清掃 身の周りのものや職場のなかをきれいに掃除し、点検をすること 清掃の負担を減らすこと 汚れるわずらわしさをなくすこと 清潔 整理・整頓・清掃を徹底すること、いつだれがみても、だれが使っても、いつも同じ状態を保ち、すっきりと、ムダがないよう職場を維持・改善すること 整理・整頓・清掃を継続する意識を持たせること 改善の不徹底によるムダをなくすこと 躾 職場のルールや規律を徹底し守ること ルールと規律を守らないことによって発生する損失をなくし、全員が安全意識を持って行動すること 出典:筆者作成 図表3 「5S」で現場力アップ 現場力UP 整理 整頓 清掃 清潔 躾 出典:筆者作成 図表4 「5S3定掲示板」の掲示 図表5 「ビフォー・アフター」の写真の掲示 図表6 見えないところを可視化 図表7 「環境整備リセット」見本の掲示 【P16-19】 解説2 社員の危険感受性を高める「KYT(危険予知トレーニング)」 安全安心株式会社 代表取締役社長 CSP労働安全コンサルタント・CIH労働衛生コンサルタント 中川 潔 はじめに  労働災害を防止するためには、機械設備の安全化を進め、安全に作業できる作業方法を徹底することがあげられます。しかし、それだけでは災害ゼロを維持するのは困難です。危険要因を排除し、災害ゼロおよび危険ゼロを実現するためには、労働災害の大部分を占める「不安全行動※1」と「不安全状態※2」の対策が必要となります。  その対策に有効な「KY活動」について説明します。KY≠ニは危険(キケン)予知(ヨチ)≠フ略です。職場や作業の危険(リスク)を予知(予測)することによって、危険源を把握し、事前に対策を行い災害を防止するものです。それを職場で実践することをKY活動(図表1)といい、実践するための教育をKYT(危険予知トレーニング)といいます。  リスクアセスメントも同じですが、危険を予知する力、すなわち危険感受性≠身につけることがこの活動のポイントです。職場や作業のなかには、多くの危険要因があります。日々の業務のなかでは、その危険を感じることなく、何の災害もなく作業を終えることも多いかもしれません。しかしほとんどの作業には危険要因がひそんでおり、「不安全行動」や「不安全状態」などが発生すると、大きな労働災害につながるかもしれません。労働災害防止には、職場の危険を見つけることがとても重要です。  「KYT」は住友金属工業株式会社が開発して広めたもので、多くの事業所によって発展し、「KYT基礎4ラウンド法」が一般的です。「KYT基礎4ラウンド法」の進め方は図表2の通りです。 結び・KYT基礎4ラウンド法の進め方  KYTの題材は市販のイラストや、職場の写真などを使いますが、できるだけ職場の実作業に近いものを選びましょう。  このKYT基礎4ラウンド法を効果的に進めるためには、リーダーの役割が重要です。危険を見つける力危険感受性≠育てるトレーニングですから、リーダーが危険のポイントを自分で発言すると教育効果がありません。リーダーは「この作業にはどんな不安全行動が考えられますか?」、「作業者が高年齢労働者だったらどうなりますか?」、「部品の持ち方はこれでよいですか?」、「明るさは問題ないですか?」など、質問をくり返して参加者に危険を気づかせるように進めてください。また、言葉だけでなく、作業を仮想した作業姿勢をすることによって、危険を感じることもあります。腰痛など身体的負荷の可能性もわかりやすくなりますので、実施する際は全員が作業時と同じ姿勢になって行えるとより望ましいです。  KYT基礎4ラウンド法のトレーニングの人数は、リーダー、書記・記録係を含めて5〜6人ほどが適しています。少ないとすべての危険を見つけ出せないこともあります。また、多いと発言しない人が出てくることもあります。 ●第1ラウンド  〔どんな危険がひそんでいるか〕の進め方  第1ラウンドではイラストから想像(予知)できる危険を見つけ出します(図表3)。このときに、「高い場所での作業だから落ちる」のような抽象的な表現ではなく、「○○なので、××して、△△になる」など、災害の要因を具体的に表現することで、対策に結びつけやすくなります。また第1ラウンドでは高年齢労働者の体力、行動などをふまえながら、勘違い・思い違いなどのミスを考慮することも重要です。  労働災害を防止するためには、あらゆる危険をすべて抽出することが重要です。もし、抽出漏れがあると、その危険にだれも気づかず、対策もなされません。しかしそれでは、危険が現実となり労働災害が発生するかもしれません。  では、なぜ抽出漏れが発生するかというと、定められた作業をその通りに実行することを想定して考えてしまうからです。例えば高速回転する機械に触ると危険なことはだれにでもわかります。しかし、定められた手順通りに作業をしていたとしても、手元がズレて回転する機械に手を巻き込まれてしまったり、あるいは機械が止まっていると勘違いして不用意に近づいてしまうこともあるのです。さらには、通路に置いてあるものにつまずいて、思わず回転部分に手を入れてしまうこともあります。 ●第2ラウンド  〔これが危険のポイント〕の進め方  第2ラウンドでは、第1ラウンドで特定した危険の「重大性」を評価します。このラウンドでは被災の程度、可能性を鑑(かんが)みて、何が重要なのかを絞り込む判断力を伸ばす目的があります。  実施の際に気をつけなければならないことは、過去の労働災害やヒヤリハットなどのケガの程度を元に評価するのではなく、最悪の状態を想定≠オて評価することです。状況によっては、若年者であればヒヤリハットですむ内容であっても、高年齢労働者だと結果が異なる場合があります。例えば、脚立の昇降時に足を滑らせて転落した場合、若年者であれば打撲、重くても捻挫(ねんざ)程度ですむ場合であっても、高年齢労働者の場合は、落ちる瞬間の受け身が間に合わず、腰から落ちて骨折するということもありえます。また、体力差もありますので、「力の弱い人だったら」、さらには「身長が低い人だったら」など、作業者によって重大性が異なることもあります。自分中心に考えるのではなく、さまざまな年齢層、経験などを考慮して評価してください。 ●第3ラウンド  〔あなたならどうする〕の進め方  第3ラウンドは実行可能な対策方法を考えるための、問題解決能力を高めることが目的です。例えば、作業で使用する道具や材料の持ち方を変えるだけでも、安全性が高まることもあります。メンバーの発想力を引き出すように、多くのアイデアを出して、最善の方法を考えましょう(図表4)。  その際、高年齢労働者であっても作業が安全かつ簡単にできる方法を考えるのが望ましいことはいうまでもありません。また、安全性を考慮して対策を考えても、その対策が作業者の手間を増やすような場合は、ルールが守られないということに気をつけてください。例えば、瓦を500枚運ぶ作業で、台車から崩れ落ちたり、重たくて腰を痛める危険性を鑑み、その対策として「1枚ずつ手で持って運ぶ」という対策を決めたとしても、そんな面倒な作業は実行されないものです。 ●第4ラウンド〔私たちはこうする〕の進め方  第4ラウンドでは、全員が合意した作業方法を確実に行えるように、重点実施項目を定め、実際に現場で確認する指差し呼称(こしょう)項目を定めます。重点実施項目と指差し呼称項目を3回指差し唱和で確認し、安全意識を高める目的があります(図表5)。 KYT基礎4ラウンド法の展開  また、KYT基礎4ラウンド法で結論づけた作業改善は、ほかの作業に応用できないかを検討して、ここでのトレーニングだけにとどめず、職場の改善活動に結びつけましょう。さらにはリスクアセスメントにも展開して、本質安全※3対策につなげていくことは、作業の安全だけでなく、高年齢労働者にとっても働きやすい職場づくりにつながることでしょう。  危険を予知するためには、高年齢労働者や若年者、作業に不慣れな人の行動を考慮する必要があります。労働安全衛生法第62条「中高年齢者等についての配慮」では「事業者は、中高年齢者その他労働災害の防止上その就業に当たって特に配慮を必要とする者については、これらの者の心身の条件に応じて適正な配置を行なうように努めなければならない」と定めています。KY活動もこれに準じて進める必要があります。KYTではイラストを見て危険な箇所・作業を見つける練習をしますが、そのときに作業者が高年齢労働者だったらどのような危険箇所や危険な作業があるのかを考慮してリスクを抽出することが、高年齢労働者の危険に対する感受性を高めることにつながります。  例えば、通路と作業場の照明が極端に違うと、明るい作業場からドアを開けて通路に出るととても暗く感じ、通路がよく見えない場合や、暗い通路からドアを開けて明るい作業場に行くと、明るすぎて逆に見にくいと感じる場合もあります。  ベテランの作業者は長い経験から自らを過信する傾向もありますが、昔といまでは身体能力が異なるのでその対策が必要です。高年齢労働者が安全に、快適に、速くできる作業は、だれにとっても最適な作業になるはずです。 結び・KYTの目ざすもの @感受性を鋭くする/KYTは、危ないことを危ないと感じる感覚、危険に対する感受性を鋭くします。 A集中力を高める/KYTはかぎられた時間内で、イラストシートなどを使って職場や作業の危険を見つけ出したり、対策を考え出す必要があることから、その過程で集中力を養うことができます。また、危険なポイントで指差し唱和をすることで集中力を高めます。 B問題解決能力を向上させる/KYTは、気づいた危険に対して、具体的で実行可能な対策を出し合い、さらに重点実施項目の絞り込みを行うなかで、危険に対する問題解決能力を向上させます。 C実践への意欲を強める/KYTは、危険に対するホンネの話合いのなかで、ヤロウ、ヤルゾ≠ネどの実践活動への意気込みを強めます。 D職場の風土づくり/KYTは、安全を先取りし、全員が参加して明るく活き活きとした「ゼロ災」職場風土づくり、安全意識の向上、コミュニケーションの活性化につながります。 ※1 不安全行動……労働者本人および関係者の安全を阻害する可能性のある行動 ※2 不安全状態……事故が発生しうる状態や事故の発生原因がつくり出されている状態 ※3 本質安全……機械類が故障しても、人間が間違えても、危害が人間におよぶのを防ぐことに関連した安全確保の考え方 図表1 KY活動のプロセス このプロセスがKY活動 どんな危険がひそんでいるか 話合い 「ここが危ないです!」 合意 対策を決める 目標を立てる 一人ひとりが実践 業務の要所要所で 確認 出典:厚生労働省「職場の安全サイト」を参考に作成 図表2 KYT基礎4ラウンド法 ラウンド 危険予知トレーニングの段階 危険予知トレーニングの進め方 1R どんな危険がひそんでいるか イラストシートの状況のなかにひそむ危険を発見し、危険要因とその要因がひきおこす現象を想定して出し合い、チームのみんなで共有する。 2R これが危険のポイント 発見した危険のうち、これが重要だと思われる危険を把握して○印、さらにみんなの合意でしぼりこみ、◎印とアンダーラインをつけ「危険のポイント」とし、指差し唱和で確認する。 3R あなたならどうする ◎印をつけた危険のポイントを解決するにはどうしたらよいかを考え、具体的な対策案を出し合う。 4R 私たちはこうする 対策のなかからみんなの合意でしぼりこみ、※印をつけ「重点実施項目」とし、それを実践するための「チーム行動目標」を設定し、指差し唱和で確認する。 出典:筆者作成 図表3 イラストシートを参加者で確認 図表4 第3ラウンドでは参加者のアイデアを引き出す 図表5 指差し唱和で安全意識を高める 【P20-23】 解説3 高年齢労働者の安全と健康を守る「職場巡視」 産業医科大学 産業生態科学研究所 作業関連疾患予防学 非常勤助教 岩崎 明夫 職場巡視の意義と目的  職場巡視は、現場の安全衛生対策の基本です。職場巡視では、作業状況や職場環境を実際に見ることで、安全衛生上の問題点を見出し職場改善につなげていくことを目的としています。事業者は産業医に対して、職場巡視を実施する機会と情報を提供しなければなりません。産業医としても、作業の現場を実際に訪問して定期的に巡視することで、作業環境管理、作業管理、並びに健康管理を関連づけることが可能となり、適正配置の判断などに活かすことができます。  特に高年齢労働者において多発する「転倒」、「墜落・転落」、「はさまれ・巻き込まれ」などの安全面、「腰痛」、「熱中症」などの衛生面に関する労働災害の防止や高年齢労働者にとって安全で健康的な快適職場づくりは、非常に重要な観点です。  このため、産業医においては月1回(一定の要件下では2カ月に1回)、衛生管理者においては週1回の職場巡視が労働安全衛生法、および労働安全衛生規則に規定されています。また、これらの職場巡視では、安全衛生委員会や各職場巡視時に互いの情報や巡視結果を共有しておくことで、産業医・衛生管理者の双方にとっても、より充実した職場巡視となります。 職場巡視の実際  職場巡視実施の全体の流れを図表1にまとめました。職場巡視はPDCAサイクルを意識して、職場巡視の計画、実施、評価、改善という全体の流れに沿って行います。職場巡視を「実施するだけ」にせず、PDCAサイクルのなかで職場改善までつなげることが大切です。  職場巡視のPDCAには、「PLAN(計画)」として年間の職場巡視計画の立案や実際の職場巡視の準備、「DO(実施)」として職場巡視の実施や職場巡視の記録、「CHECK(評価)」として改善事項についての計画や報告の提出、「ACT(改善)」として職場の改善、安全衛生委員会への報告・審議、残存リスクへの対応計画などがあります。  実際の巡視では、製造業を例にとると、産業医や衛生管理者が職場環境や作業内容を理解しやすいように、職場の担当者が同行して作業工程や作業内容について説明をしながら、職場巡視を行います。産業医にとっては、職場巡視のときに初めて訪問する現場の場合、見回りのように巡視するだけでは、安全や健康のリスクのポイントを理解するには不十分になりがちです。そのようなときに、作業工程・作業内容に関する資料の説明を聞きながら、職場を見ることで、工程への理解や巡視のポイントが明確になります。  高年齢労働者に適合した職場環境を確保するためには、職場巡視のチェックリストを用意して、職場巡視時にそのリストをもとに巡視しながらチェックしていくと、漏れのない効率的な巡視にもつながります。ただし、作業に毎日従事する労働者や職場の管理者は、日常作業への慣れや多忙さなどから、職場のリスクや改善すべき事項に気づかなかったり放置してしまうことがあるため、現場の労働者・管理者とは異なる視点で巡視し、チェックリスト以外の内容でも必要に応じて指摘することも大切です。また、残業や出張などの情報も、職場を理解するうえで産業医にとっては有用な情報ですので、職場巡視の機会に管理者や職場同行者に確認してもよいでしょう。  職場巡視の注意点としては、特に製造現場の巡視では、「労働者が立ち入る場所は原則としてすべてを巡視対象とすること」、「巡視中は作業環境や設備面の確認とともに労働者の実際の動きや行動範囲、具体的な作業内容まで可能なかぎり観察すること」、「定められた保護具の未着用など明らかな指摘事項は職場同行者や衛生管理者と相談してその場で指摘すること」、「高年齢労働者が担当する実際の作業内容も過重性や危険性の観点から確認すること」、「労災につながりやすい非定常作業にも留意すること」などがあげられます。  巡視後には、職場巡視同行者と職場巡視のまとめの会合をすぐに行いましょう。そこでチェックリストの結果の照合や巡視時に気になった点の確認も行います。気になった点は職場同行者の説明を受けて解決することもあるでしょうし、解決すべき課題として改善の指摘につながることもあります。  改善点がある場合に、具体的にどのように改善したらよいか、どのレベルまで改善すべきか、コストバランスのよい対策はないか、といった点で判断に悩む場合があります。特に中小規模の事業場では専門スタッフがいないことやコストの問題などから、具体的な改善策が放置されることもあります。その場合には、積極的に外部の専門家と相談することが求められます。具体的な相談は、各都道府県にある産業保健総合支援センター※1と地域産業保健センターが対応しています。両センターには、各分野の専門家が相談担当として登録されており、内容に応じて関係分野の担当者が相談に応じています。改善事項をそのままにせず、必要に応じて外部の専門家にも積極的に相談しましょう。 「エイジアクション100」を職場巡視に活かす  職場巡視に活用できるチェックリストの準備として、中央労働災害防止協会が作成した「エイジアクション100※2」をもとに作成するとよいでしょう。エイジアクション100は100個の小項目から構成され、職場巡視に特化したものではありませんが、「3 高年齢労働者に多発する労働災害の防止のための対策(小項目6〜53)」、「4 高年齢労働者の作業管理(小項目54〜62)」、「5 高年齢労働者の作業環境管理(小項目63〜69)」の約60個の小項目の多くは職場巡視でも活用できます(「エイジアクション100」については、本誌2018年9月号特集※3をご参照ください)。  特に、高年齢労働者が働く職場においては、「3 高年齢労働者に多発する労働災害の防止ための対策」は重要です。例えば、「通路の出会いがしらの衝突事故(図表2)」、「作業場などの凹凸や段差」、「床材のめくれなどのつまずきによる転倒(図表3)」、「手すりのない階段における踏み外しによる転落(図表4)」、「5Sが不十分であることや床が濡れている場所での滑りによる転倒(図表5)」、「はしご・脚立の利用時における不適切な使用による転落(図表6)」などを職場巡視により対策することで、高年齢労働者に多発する労働災害防止に役立てることができます。  図表7には、「エイジアクション100」をもとにした「転倒防止のチェックリスト」の例を示します。そのほか、エイジアクション100を参考にして、職場の状況に合わせて巡視用のチェックリストとして活かしましょう。  また、高年齢労働者においては、作業開始前の準備体操、身体的負荷の高い作業の調整、作業ペースや作業量のコントロール、適切な休憩時間などの作業管理は大切であり、職場巡視時にヒアリングを行うことで確認できます。保護帽など、定められた保護具の不着用が、万が一の転落事故時に重傷につながることも多く、それらの準備とともに、日ごろからの適切な安全衛生教育の実施、着実な作業管理の実施も不可欠です。労働者の健康確保のためにも、作業管理の状況も職場巡視では確認したいものです。 おわりに  職場巡視は衛生委員会活動とともに、安全衛生の基本の活動です。定例の活動であるがゆえに、マンネリ化しやすく、職場巡視がおざなりとなっていることもあります。産業医にとっても、最初は戸惑う面もありますが、毎月くり返すことで巡視にも慣れ、職場の安全確保の意識が高まります。また、職場巡視では職場改善の指摘に注力しますが、一方で適切に対応できている部分を「Good Practice」として前向きに評価することも大切です。  よくいわれることですが、高年齢労働者が働きやすい職場は、安全で健康的に働ける快適職場であることが多く、職場巡視の活用により、その実現に近づくことができるでしょう。 ※1 https://www.johas.go.jp/shisetsu/tabid/578/Default.aspx ※2 https://www.jisha.or.jp/research/ageaction100/index.html ※3 当機構ホームページでご覧になれます。エルダー 2018年9月号検索 図表1 職場巡視とPDCA サイクル PLAN(計画) 1.職場巡視計画の策定  □年間職場巡視計画の立案  □安全衛生委員会での計画の審議  □重点巡視テーマの策定  □臨時の職場巡視の計画(作業環境測定結果、リスク低減対策の確認、新規作業開始時) 2.職場巡視前の準備  □作業工程や作業内容の確認  □有害物取扱いの確認  □作業環境測定結果、特殊健診結果、特定業務従事者健診結果の確認  □作業用の各種機械の確認  □巡視用チェックリストの準備(テーマ別巡視等) 3.巡視職場との日程や同行者の調整  □産業医の出務日と職場巡視の日程等調整  □職場側同行者の日程等調調整 DO(実施) 4.職場巡視の実施と実施後の打ち合わせ  □作業環境管理、作業管理、健康管理の視点を結びつける  □テーマ別チェックリストを用いて巡視する  □機械などは稼働時にも巡視する 5.巡視報告書の作成  □改善を要する事項を指摘する  □Good Practice(優れた取組み)について積極的に良い点として指摘する CHECK(評価) 6.改善事項についての計画や報告の提出  □職場側から改善した事項についての報告  □予算化を要する等継続検討事項についての計画 ACT(改善) 7.安全衛生委員会での報告・審議  □安全衛生委員会での報告・審議事項として記録する  □巡視報告と改善対応の検討 8.残存リスク等の管理計画の策定  □対策後にも残存リスクがある場合の管理計画の策定 出典:筆者作成 図表2 通路での衝突 図表3 段でのつまずき、転倒 図表4 手すりのない階段からの転落 図表5 濡れている床で滑って転倒 図表6 脚立の不適切な使用 図表7 現場作業における転倒防止のための職場巡視 チェックリスト例 通路に十分な幅を確保している。 通路、階段、出入口には物を放置していない。 足元の電気配線やケーブルはまとめている。 床面の水たまり、氷、油、粉などは放置せず、都度取り除いている。 階段、通路は十分な明るさ(照度)を確保している。 階段に手すりを設けている。 通路の段差がない。ある場合は表示などの注意喚起をしている。 滑りやすい場所に滑り止めを設けるなどの設備改善を行っている。 作業現場に適した耐滑性があり、つまずきにくい作業靴を着用している。 書類や携帯・スマホなどを見ながら歩く、「ながら歩き」を禁止している。 ポケットに手を入れた「ポケットハンド」での歩行を禁止している。 「廊下を走ること」を禁止している。 ヒヤリ・ハット情報を活用して、転倒しやすい箇所の危険マップなどを作成・周知している。 出典:中災防「エイジアクション100」を元に筆者作成 【P24-28】 マンガで見る高齢者雇用 アクティブシニアたちの挑戦! 第1回 シニアのアイデアと技術がスピーカーを変えた 株式会社サウンドファン (本社:東京都台東区) ※Founder…… 創立者 【P29】 解説 マンガで見る高齢者雇用 アクティブシニアたちの挑戦! 第1回 「シニアのアイデアと技術がスピーカーを変えた」 <企業プロフィール> 株式会社サウンドファン (本社:東京都台東区(たいとうく))  「音で世界の人を幸せにする!」という理念のもと、創業者である佐藤和則氏と宮原信弘氏(現代表取締役副社長)が中心となり設立。「シニアベンチャー企業」として、シニア人材が中心となり、高齢化や障害による難聴者にも音が聴こえやすい「ミライスピーカーR」の開発・製造・販売・レンタルサービスを行っている。 「シニアベンチャー企業」  「ベンチャー企業」というと、若者による起業というイメージが強いが、シニアによる起業も少なくない。「2017年版中小企業白書」(中小企業庁)によると、60歳以上の高齢者による起業は増加しており、起業家に占める60歳以上の割合は、1979(昭和54)年では男性8.4%、女性4.6%だったのに対し、2012(平成24)年では男性35.0%、女性20.3%と、それぞれ大幅に増加している。 「シニア人材の強み」  シニア人材は、それまでつちかってきた技術や知識、経験、人脈など、多くの強みを持つ。エン・ジャパン株式会社が2018年に実施した「企業の『高齢者雇用』意識調査」によると、高齢者雇用のメリットとして79%の企業が、「経験や知識の活用」をあげているほか、当機構の調査でも定年延長の効果として、約8割の企業が「高齢社員の知識・スキル・ノウハウの発揮」をあげている(『定年延長、本当のところ』2018より)。 「ミライスピーカーR」  蓄音機をヒントに開発された、曲面振動板スピーカー。一般的なスピーカーは「コーン型」と呼ばれ、ピストン運動で押し出すように空気を振動させるのに対し、ミライスピーカーは、湾曲させた振動板全体から音が飛び出す構造で、広く、遠くまで、はっきりとした音声を届けることができる。 【P30-31】 江戸から東京へ 第81回 江戸っ子幕臣の身の処し方 榎本(えのもと)武楊(たけあき) 作家 童門冬二 陸で敗けても海で勝つ  榎本武楊は幕末の幕府で、海軍の大将だった。新政府軍が江戸を総攻撃したときには、江戸湾に幕府艦隊を率いて待機していた。  「陸軍は敗けても海軍は無傷だ」  と突っ張っていた。やがて、そのまま北方に向かって脱走し、北海道箱館(はこだて)の五稜郭(ごりょうかく)に籠(こも)った。最後まで新政府軍と戦おうというのではない。嘆願書を出している。それは、  「敗北した幕臣を集めて、この新天地(北海道)で農業を営みたい。許可を乞う」  という内容だ。しかし新政府軍は、  「逆賊が何をいうか」  と一笑に付し、相手にしなかった。やがて新政府軍は五稜郭を囲んだ。参謀として実質的な指揮を執ったのが薩摩藩士黒田(くろだ)清隆(きよたか)である。黒田は榎本に使いを出した。  「あくまで戦うか、それとも降伏されるか」  榎本は、  「最後まで戦います」  と答えた。黒田は、  「武器は十分におありか? なければお送りする」  榎本はびっくりした。いまどき、こんな武士らしい人物が居たのかと驚いたのである。そこで、  「武器は十分にあります。私はかつてオランダに留学したので、国際海律(海の国際法)を手に入れたのでこれを差し上げます。おそらく今後、あなたのお役に立つでしょう」  黒田は感心した。そこで、酒樽数個とつまみを添えて五稜郭に贈った。榎本は考えた。  「新政府にはこういう人物がいる。抵抗しても、いたずらに部下を死なせるだけだ。降伏しよう」  と決意した。榎本は江戸の牢に送られたが、黒田が必死になって助命嘆願した。  「榎本という人物は、新政府の役にも十分立つ」  と告げた。榎本は助命され、やがて黒田のために北海道開発の仕事に注力し、さらに対ロシア交渉にも活躍した。だが、批判する者もいた。  「かつて幕府の高官でありながら、その幕府を滅ぼした新政府に尻尾を振っている」  福沢諭吉(ゆきち)も批判者の一人だった。しかし榎本は気にしなかった。というのは、かれには一つの目的があったからだ。それは、かつての主人、将軍徳川慶喜(よしのぶ)の扱いに苦慮していたからである。慶喜はいま、逆賊の身で蟄居(ちっきょ)している。何とかして、その恥をすすぎ天皇に忠節(ちゅうせつ)を尽くせるような立場に置きたいと願ったのである。  かれの黒田とのやり取りも、また落ちぶれたかつての主人の身を心配するのも、すべて江戸っ子の気性だ。つまり、  「困った立場にいる人をそのまま見捨ててはおけない」  という江戸っ子の特性である弱い立場の者に同情する≠ニいう性格であった。 慶喜の名誉回復  これには、勝海舟(かいしゅう)も協力した。勝も、福沢に批判された人物だ。旧幕府の高官でありながら、いまはその幕府を売り、自分の安泰を図っていると批判されていた。しかし勝は、  「行いは俺のもの、批判は他人のもの、俺の知ったこっちゃねえ」  と嘯(うそぶ)いていた。  かれらの努力に感心した新政府の首脳部は、慶喜の復権を認め、ついに明治天皇の勅(ちょく)によって慶喜は逆賊の名を解かれ、侯爵として遇(ぐう)されることになった。  榎本が先頭に立って、慶喜復権の祝賀会が開かれた。このとき、だれかが、  「慶喜公を中心に写真を撮ろう」  といい出し、実行された。ところができ上がった写真を見てみると榎本の姿がない。写真を撮った者が榎本を訪ね、  「なぜ、あなたは写真のなかに加わらなかったのですか」  と訊いた。榎本は、  「仮にも慶喜公は俺の主人だ。主人と一緒に写真など撮れない。そんな失礼なことはできない」  といった。写真を撮った者は榎本の言葉に呆れたが、しかしすぐ感動した。  「榎本さんは、最後まで徳川将軍の忠臣だ」  とあちこちでその話をした。  榎本を偲(しの)ぶ集いは、現在でも吉祥寺(東京都)で行われる。いろいろなグループの子孫(例えば新選組の関係者)などが集まり、多彩な催しになっている。実をいえば、私もその参加者の一人だ。 【P32-33】 第62回 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは  かつて美術や演劇の世界にもかかわってきた鳥羽禮子さん(82歳)は、書写教室の指導者として、いまも多忙な日々を送る。これまでの豊かな人生経験を活かし、ペン習字を指導することで社会貢献を目ざす鳥羽さんが、生涯現役で働き続ける喜びを語った。 公文(くもん)銀座書写教室 指導者 鳥羽(とば)禮子(れいこ)さん いまに生きる礼儀作法の教え  私は東京都台東区浅草の生まれです。小学校に上がる前に父方の親戚を頼って長野県埴科郡(はにしなぐん)坂城(さかき)町に疎開し、終戦後東京に戻ると、浅草の家は跡形もなく焼失していました。荒涼(こうりょう)とした風景を子ども心に覚えています。間借り生活を転々とくり返しながら、父が奔走したおかげで、また浅草で暮らせるようになりました。当時の大人たちはたいへん苦労したと思いますが、私にとって浅草は夢のような町でした。祖父に連れられて、大衆芸能の聖地である浅草六区(ろっく)に通ったことを懐かしく思い出します。芝居好きが高じて、中学校を卒業すると、一世を風靡(ふうび)した松竹歌劇団(SKD)の試験を受け、難関を勝ち抜きましたが、厳格な両親の反対で諦めました。入団していたら、どんな人生が待っていたでしょうか。  結局、高等学校に進学し、卒業するとしつけ教室で礼儀作法を学び、その後結婚という、当時の多くの女性がたどる道を私も歩くことになりました。夫の母は厳しい人でしたが、母に鍛えられたことが、いま人を教えるという現場で大いに役立っています。しつけ教室で学んだことも多く、経験には何ひとつ無駄がないと、あらためて思います。そして2人の息子に恵まれ、しばらくは専業主婦の時代が続きました。  若くして結婚、夫の両親と同居し、良妻賢母の鳥羽さんに転機が訪れる。子どもに手がかからなくなり、「仕事をしたい」と周囲を1カ月粘って説得。35歳にして初めて働くことになり、生涯現役の道がスタートした。 働くことの喜びに支えられ  縁あって、ドイツ人の社長が経営するアクセサリー販売店でアルバイトとして働くことになりました。初めての仕事は楽しく充実した日々でした。そのうち正社員になるよう求められましたが、フルタイム勤務は困難なため退職しました。その後、五つの新劇劇団が合同で設立した俳優養成所の事務職員として採用されました。かつてSKDに憧れた私には、未来の俳優を目ざす人たちはとてもまぶしく思えたものです。事務職員として採用された私は経理を任されましたが、芸術家の集団は金銭面が大らかでした。経理の経験は、その後の仕事にも役立ちました。  その後、著名な切り絵作家・宮田(みやた)雅之(まさゆき)先生をプロモートする会社に入社。そのころにはフルタイムで働ける家庭環境にあり、社長秘書の仕事に就きました。宮田先生の奥様が社長として宮田先生をプロモートされており、社長に徹底的に鍛えられました。  宮田画伯は文豪・谷崎潤一郎の挿絵画家としてスタートした人物。その独特の画風は国内外で人気が高く、海外で開催される個展には、社長秘書の鳥羽さんも何度か同行、華やかな時代が続いた。 公文(くもん)の生涯学習との出会い  宮田先生のもとで、一介の主婦には経験できないような世界に触れさせてもらいました。よき理解者であった夫は、長期海外出張をした際も応援してくれましたが、私が48歳のとき心臓の病気で急逝(きゅうせい)しました。今後の人生を考えたとき、何か自分自身がもっと研鑽(さん)を積める仕事をしてみたいと思うようになりました。いろいろ模索するなかで「株式会社公文(くもん)エルアイエル」が展開するペン習字教室講師募集の新聞広告を見つけました。「公文式の個人別指導の考えを基本として、生涯学習を支援するために幅広く学びの場を提供し社会に貢献する」という方針に強くひかれ、教室の曜日や時間帯を自分で決められることも魅力で、迷わず採用試験を受けました。人に教える資格が自分にあるのかという葛藤もありましたが、主婦時代に習字を習っていましたし、教えるなかで自分も学んで成長していけばよいと考え、採用されると友人のつてで東京都墨田区(すみだく)曳舟(ひきふね)に「公文曳舟書写教室」を開設しました。55歳の出発でした。 書写教室を人間形成の場に  友人や公文エルアイエルの支援もあり、この曳舟教室には、多くの方が通ってくれるようになりました。お稽古事は同世代で学ぶことが多いですが、公文の書写教室は親子一緒に学ぶことができます。ともに机を並べることで家でも会話が弾むようになったという嬉しい報告もあり、親子三代で通ってくれた人もいました。  しかし、高齢になると通勤が辛くなり、25年間続けた教室を80歳のとき思い切って閉めることにしました。ただ、いまもコーラスを習いに月に1回曳舟に出かけていますし、交流はずっと続いています。  1997(平成9)年、曳舟と並行して銀座にも教室を開設しました。しかし、昨年再開発の対象になり困っていたところ、公文の社員の方がいまの教室を探してくれました。  曳舟教室も銀座教室も開設にあたっては本当に多くの方にお世話になってきたことを、あらためて実感しています。  書写教室は、文字を学ぶ場であると同時に人間形成の場にもしたいという思いで懸命に歩いてきましたから、体力の続くかぎりこの仕事を続けていきたいと思います。  鳥羽さんの教室がある「アントレサロン」を運営するのは、シニア世代の起業家を支援する銀座セカンドライフ株式会社。同社の片桐実央(みお)社長は2017年5月号から6回、シニアのための起業入門を本誌に連載している。 生涯現役、生涯勉強  現在、火曜日と水曜日の夕方から教室を開いています。学習中の方は80名で、銀座という土地柄か、仕事帰りに立ち寄るOLの方が多く、教室は時として異業種交流の場になり、笑顔があふれます。  ペン習字を指導しつつ、日々お話しするのは、挨拶をきちんとすることや他者に対する思いやりというきわめて基本的なことです。また、読書の大切さを折りにつけ語っています。私の父が本の虫で、家は本であふれ、私は父の本を片っ端から読むような少女でした。「自分の世界を広げるために本を読みなさい」と教えてくれたのは宮田先生でした。  おかげさまで健康ですので、80代になっても自分を必要としてくれる場に元気に通うことができます。公文の教材は奥が深く、指導者の私も一緒に教室で育てられています。働き続けること、学び続けることに軸足を置いて、感謝の心で、早逝(そうせい)した夫の分まで日々を重ねていきたい。明日からまた新しい自分との出会いが始まります。 【P34-37】 高齢者の現場 北から、南から 第85回 愛媛県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー※(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 風通しのよい社風で、年齢に関係なく全員参加で品質向上を目ざす 企業プロフィール 株式会社つるさき食品(愛媛県伊予郡) ▲創業 1978(昭和53)年 ▲業種 海産珍味類の製造・加工・販売 ▲従業員数 38 人 (60歳以上男女内訳) 男性(5人)、女性(16人) (年齢内訳) 60〜64歳 5人(13.2%) 65〜69歳 3人(7.9%) 70歳以上 13人(34.2%) ▲定年・継続雇用制度 定年65歳。定年後は70歳まで希望者全員を再雇用。最高齢は80 歳の課長職 本社。敷地内で従業員が野菜を栽培している  愛媛県は、四国の北西部に位置し、東は香川県と徳島県、南は高知県に隣接しています。北は瀬戸内海をはさみ広島県と、西は宇和海(うわかい)を隔てて大分県と向かい合っています。  みかんをはじめ、柑橘(かんきつ)類の生産が盛んですが、漁業でもマダイの養殖や、真珠の生産が全国1位です。昨今は「今治(いまばり)タオル」が高い評価を受け、海外市場にも進出しています。  また、俳人の正岡(まさおか)子規(しき)や、ノーベル賞作家の大江健三郎を輩出したほか、夏目漱石の代表作「坊っちゃん」の舞台となるなど、文学と所縁(ゆかり)があり、豊かな文化が息づいています。  一方で、野球をはじめスポーツが盛んな土地柄で、近年では県全域で自転車道の整備などを行う「愛媛マルゴト自転車道」を推進し、自転車による新文化の定着を図っています。  愛媛県は県東部を「東予(とうよ)」、県中央部を「中予(ちゅうよ)」、県南部を「南予(なんよ)」といい、三つの地域に分けられています。当機構の愛媛支部高齢・障害者業務課の芦澤(あしざわ)真(まこと)課長は、「愛媛県の産業を地域別にみると、東予は製紙関係と化学工業、今治市の造船とタオルといった製造業が中心です。中予は、県都・松山市を有する地域で、政治・経済、商業活動の中心として第三次産業が主力ですが、臨海部には化学工業も発達しています。南予は、柑橘類や養殖漁業を中心に第一次産業が盛んです。当支部ではそれぞれの地域の特色をふまえ、管轄のハローワークと協力して各事業所の状況に即した相談・助言を実施しています」と話します。  今回は、同支部で活躍するプランナー・江戸幸男(ゆきお)さんの案内で「株式会社つるさき食品」を訪れました。 「珍味屋」が地場産業の街で創業  つるさき食品は1978(昭和53)年に、鶴崎(つるさき)宗正(むねまさ)代表取締役社長が両親と社員2名で立ち上げた海産物加工の食品メーカーです。愛媛県伊予郡松まさき前町で創業しました。松前町はかつて、魚や煮干、珍味などを木製の桶やザルに入れて頭に乗せて松山市近辺を中心に行商していた「おたたさん」という女性たちの拠点として知られた地域です。いまも地場産業として小魚珍味の加工が盛んで、地元で「珍味屋」と呼ばれる製造業者が20軒あまり操業しています。  つるさき食品では創業時からいりこなどの定番珍味を製造するかたわら、品質向上や新製品の開発を重ねてきました。そのかいあって、現在も主力商品になっている「ししゃもの浜焼き」、「はたはたの浜焼き」を開発。この「浜焼きシリーズ」は、おやつやおつまみとして手軽に食べられると評判を呼び、売上げは順調に推移。1982年7月には株式会社として新たなスタートを切りました。  つるさき食品は創業時から、従業員のざっくばらんな意見や声を大切にし「『何でも聞けて何でも話せる』社内の雰囲気づくり」を心がけており、風通しのよい社風があります。  2015(平成27)年に初めて同社を訪問した江戸プランナーは、「私が訪問することを事務所の社員全員が知っていて、気持ちのよい挨拶で迎えてくれました。社長を中心に、商品の品質向上に真摯(しんし)に取り組んでおり、高齢者雇用についても制度向上のため積極的かつ一歩進んだ取組みを行っています。他社の参考になる会社だと思います」と話します。 高齢者雇用のさまざまな取組み  同社は1985年時点で、すでに定年を65歳に制定しています。世の中に先駆けて行った定年延長について、宮本敬子専務取締役は「1980年代から若年者が製造業を敬遠する傾向があり、当時から若い人の採用は多くはありませんでした。将来、従業員の高齢化が進むことは必至で、会社の維持発展と、従業員が長く安心して勤められるようにするためにも、定年制度の改定は必要でした」と説明します。  2013年度の高年齢者雇用安定法改正の際には、顧問社会保険労務士からのすすめもあり、希望者全員を70歳まで継続雇用とする制度に改定しました。制度改定以前から実態としては定年後も継続雇用しており、移行はスムーズでした。さらに、70歳以降も本人の希望があり、健康上の問題がなければ、99歳まで継続雇用としています。また、個人の状況に応じて、本人との話合いのもと、パートタイムに切り替えることもできます。  賃金については、定年時の金額を維持しています。昇給はありませんが、従業員の納得感を得るために、退職時の金額を維持し、パートタイムに切り替えた従業員は退職時の給与を時給換算しています。賞与は収益次第で支給しています。勤務時間は、個々の従業員の都合に合わせた柔軟な勤務が可能となっています。  江戸プランナーは「企業診断として雇用力評価診断を実施したところ、非常によい結果でした。そのなかで、『評価・処遇』、『意識啓発・能力開発』により力を入れた方がよいと提案しました」と話します。  同社で、会社のまとめ役や指導役として活躍する、高齢従業員3人にお話を聞きました。 若い技能実習生の大切な指導役  石本節子さん(78歳)は51歳で入社し、つるさき食品で27年間働いています。包装課に所属し、完成してパッケージされた商品を出荷用の箱に詰める仕事をしています。機械を操作して商品ごとにラベルを発行して貼りつけ、所定の数を箱に詰めます。同じ課に配属された海外からの技能実習生の指導役も任され、「言葉はうまく通じないけれど教えることは楽しい」とうれしそうに話します。仕事のやりがいは、「若い後輩に指導すること」だそうです。宮本専務も「温厚で、優しく指導してくれています」と評価しており、石本さんに教わっている若い技能実習生もおだやかな表情で業務についていました。  つるさき食品に勤めるようになって、毎朝決まった時間に起床し、出勤するなど、生活にリズムができたといいます。いまもフルタイムの8時から17時まで勤務しています。  「何年か前に股関節を痛めてしばらく会社を休みましたが、休業と復帰を認めてくれたこの会社だから、長く勤めることができていると思います」と話していました。 事務的業務を熟知し、役員の相談相手にも  事務所のまとめ役として、はつらつと働く上西(うえにし)八重子(やえこ)さん(67歳)は、経理の仕事を中心に、注文書のチェック、商品のラベルの作製、商品にラベルを貼る仕事などを行っています。  つるさき食品では、事務職員であっても若年者に限定せず募集していたため、上西さんは45歳で同社に入社しました。同社に入社する前は、地元の銀行やメーカーで経理を担当し、珠算2級、簿記2級の資格を持っています。  「入社当初から事務の仕事をしていましたが、社長から『経理を任せる』といわれたころから、会社の一員としての自覚をさらに強く持つようになりました。つるさき食品はそれぞれの自主性を尊重し任せてくれる会社だと思います。勤められて幸せです」と感謝の気持ちを語ります。上西さんは定年後も変わらずフルタイムの勤務を続けています。  宮本専務は「事務的業務のことを何でも知っていて、私も含めて従業員の相談にのってくれる頼もしい存在です。まわりからの信頼も厚く、会社に欠かせない存在です」と評していました。 会社全体を見渡し、サポートする役割  社内全体の業務をフォローし、社長の相談相手として頼りにされている土居道雄さん(70歳)は、44歳で入社し、今年で勤続26年目になります。以前は紳士靴問屋の営業、物流業務を担当しており、同社でも長年営業マンとして会社を支えてきましたが、2年ほど前、奥さんが体調を崩したことをきっかけにパートタイマーに転向しました。それ以来、特定の部署には所属せず、各部署の指導のほか、魚などの原料の整理、浄化槽の清掃、冷蔵庫の入出庫、焙煎作業、人手が足りない部署のサポートなど、社内全体のフォローを行っています。  「営業から現場のことまで熟知していて、社長も頼りにしています。手先も器用なので土居さんにしかできないことも多いんです」(宮本専務)。例えば焙煎機を使う焙煎作業はコツがあり、社内で焙煎ができるのは土居さんともう1人だけとのこと。そのため、焙煎作業があるときは、優先的にその業務に就いているそうです。  土居さんは現在の仕事の魅力について、「納期に合わせて各部門がスムーズに製品づくりを行えるように、下準備や段取りをフォローできる点です」と語りました。  創業から会社を支えてきた鶴崎社長の両親は80歳ころまで元気に働いていたといい、その姿を見てきた鶴崎社長は「元気な高齢者に、みんなと楽しく働ける職場を提供するのが時代のニーズ」という考えに至ったといいます。この考えが定年延長や、高齢者雇用の取組みのベースになりました。  立場や年齢に関係なく、みんなが会社の一員として品質向上に貢献しているつるさき食品。一方で宮本専務は「退職時期の見極め」に悩んでいるそうです。「元気なうちはいつまでも働いてもらいたいですが、高齢になると家庭の事情や体調の問題も出てきます。長く会社に貢献してくれた高齢社員が気持ちよく引退できるよう、しっかりコミュニケーションを取っていきたいと思います」と話してくれました。 (取材・文 西村玲) ※65歳超雇用推進プランナー……当機構では、高年齢者雇用アドバイザーのうち経験豊富な方を65歳超雇用推進プランナーとして委嘱し、事業主に対し、65 歳を超えた継続雇用延長・65歳以上への定年引上げなどにかかわる具体的な制度改善提案を中心とした相談・援助を行っています 江戸幸男 プランナー(76歳) アドバイザー・プランナー歴:15年 [江戸プランナーから] 「企業に寄り添い、企業本位をモットーに活動しています。私自身も生涯現役を目ざして、社会の変化に対応すべく日々新たな挑戦に取り組み、スキルアップに努めています。『訪問先において十分に話を聴く→課題を見つける→提案→フォロー→生産性アップ→適正利益確保』というフローでプランニングを行い、特にフォローに重点を置くようにして、企業の存続・発展の力添えをしています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆同課の芦澤課長は、「江戸プランナーは15年目のベテランプランナーです。県内企業に顔が広く、おだやかな口調ながらも伝えるべきことははっきり進言するため、企業からの信頼も厚い方です。自身の豊富な経験と、退職後65歳で挑戦し取得した、ファイナンシャルプランナー2級の知識を活かし、的確な相談・援助活動を展開します。趣味のゴルフも楽しみ、生涯現役を体現した人生を送っています」と話します。 ◆愛媛支部は松山市中心部から車で約20分、松山空港の南側に位置します。近隣は工業地帯と住宅地が広がっています。 ◆愛媛支部高齢・障害者業務課では、6名の65歳超雇用推進プランナーなどを地域ごとに配置し、それぞれの専門性を活かした相談・助言活動を行っています。年間で約430件の相談・助言活動を展開し、平成30年度は企画立案を3件、就業意識向上研修を2件実施しました。相談・助言を無料で実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●愛媛支部高齢・障害者業務課 住所:愛媛県松山市西垣生町2184 ポリテクセンター愛媛内 電話:089(905)6780 愛媛県 宮本敬子専務取締役 一日の仕事を終え、充実した表情を見せる石本節子さん 商品に貼るラベル作製をする上西八重子さん 先んじて下準備を行い現場をサポートする土居道雄さん 【P38-41】 高齢社員の磨き方 ―生涯能力開発時代へ向けて―  生涯現役時代を迎え、就業期間の長期化が進むなか、60歳以降も意欲的に働いていくためには、高齢者自身のスキルアップ・能力開発が重要になるといわれています。つまり、生涯現役時代は「生涯能力開発時代」といえます。本企画では、高齢者のスキルアップ・能力開発の支援に取り組む企業の施策を、人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説します。 第2回 ソニー株式会社(東京都港区) 人事ジャーナリスト 溝上(みぞうえ)憲文(のりふみ) ベテラン社員のキャリア形成をサポートするCareer Canvas Program  シニア層を含む高齢社員の長期就労を見据えた能力開発をうながすには、あくまでも自主性や能動性を尊重した自律的なキャリア形成が前提となる。ソニーはもともと「自分のキャリアは自分で築く」という文化があり、自律的なキャリア形成を積極的に支援してきた。  それをベースに、新たに50歳以降のベテラン社員のキャリア形成をサポートする「Career Canvas Program」を2017(平成29)年5月にスタートさせた。その背景について、人事センターEC人事部の大塚康統括部長はこう語る。  「ソニーの社員の平均年齢は約43歳ですが、年々上昇しています。バブル期入社組も50代に突入し、ベテラン社員の比率が増えていく流れは避けられません。これまで20年、30年と経験を長く積んだ社員に戦力としてどのように活躍してもらうのか、人事上の重要な課題の一つとして、50歳を超えたベテラン社員自らが、今後のキャリアを築くための施策について2015年から検討を始めました」  プログラムは大きく分けて、新たなスキル習得を含む経験や知見の広がりを支援する制度と、それらを下支えする研修などの意識改革の二つから構成されている。下支えの部分が、50歳以降のキャリアを自ら考えるワークショップ型研修とメンタリング※1だ。ワークショップ型キャリア研修は50〜53歳と57歳時点の2回実施されるが、同社の最大の特徴は、研修後一人ひとりにメンター※1をつけて定期的に面談などでフォローアップを行っている点だ。  「せっかく研修で将来のキャリアを考える気づきを得ても、職場に帰ると日常に戻ってしまう人もいます。そうならないようにマネジメント経験者がメンターとなって研修後も定期的にフォローアップします。メンターにはキャリアカウンセリングの国家資格を取得してもらい、メンティ※1が先々のキャリアを主体的に考えることができるようにフォローしています」  50歳時点の研修受講者は約1000人。メンターは約30人。本業との兼任で全受講者にメンターがつくが、同じ部署の社員がつくことはなく、相談内容について人事部は一切関知していない。人事や上司以外の軸で本気でキャリアに向き合う機会が提供されている。  そのうえで将来のキャリアを考え、新たな経験や知見を獲得する制度として兼務案件を公募する「キャリアプラス」と、新たなスキル取得を金銭的に支援する「Re−Creationファンド」がある。 社内兼業「キャリアプラス」で本業のパフォーマンス向上にも期待  ソニーは社内求人募集に応募して部署間を異動する「公募制度」を1966(昭和41)年に導入しているが、キャリアプラスに応募して採用されると、現部署の仕事を継続しつつ、業務の1〜2割程度をほかの部署のプロジェクトなどの業務と兼務する。現部署の上司の許可を得て応募し、兼務の際は各部署と調整し、週1〜2回といった一定の曜日や1日の労働時間など、働き方を決める。制度の目的について、大塚統括部長は「経験や知見を広げ、能力向上につながる兼業・副業の社内版」と位置づける。  「従来の公募制度は完全異動ですが、ベテラン社員にとっては重要な選択ですし、慎重になる人もいます。そこで1〜2割を新しい仕事に割くのであればやってみようという人が増えるのではないかと考えました。同じ部署にずっといると、自分にどの程度の能力があるのかが見えにくいのですが、違う仕事を経験することで自分の市場価値に気づくこともできます。そこで頼りにされると、キャリアに対する意識も芽生え、本業にも活かそうとするかもしれないし、新しいチャレンジをしてみようという動機づけにもなり、仕事のパフォーマンスにもよい影響を与えることを期待しスタートしました」  制度がスタートして約2年が経過した。1件の募集に複数名採用されることもあり、利用者は累積で約100人に達する。仕事の内容は大きく分けると、@仕事以外の趣味・特技を活かした業務、A新規ビジネスのサポート、B全社プロジェクトの三つに分類されるという。@の例として、ソニーの商品にアニメーションの要素を採り入れたらマーケットニーズがあるのではという発想でメンバーを募集したところ、若手やベテランが多数集まり、プランニングした商品が実際に発売された。  「その職場の人がアニメを勉強するより、アニメが好きな人が参加したほうが、より良い企画や商品につながる可能性が高いですし、本人も趣味を仕事に活かすことができるのでモチベーションの向上につながる面もあると思います」(大塚統括部長)  比較的小さい新規ビジネスにおいては予算の関係から人を固定的に雇うのはむずかしい。しかもユニークなアイデアや発想を事業として軌道に乗せるには経験者の能力も必要だ。キャリアプラスを活用することで「若い人のアイデアを製品化して期日までにリリースできるベテランの力を借りたいという案件がけっこうある」(大塚統括部長)という。また、全社プロジェクトは参加する社員が所属する組織のアウトプットとは異なる目的で行われることが多く、モチベーションの維持がむずかしいときもあるが、キャリアプラスで募集すると、本当にやりたい人だけが集められるという効果もある。  先に紹介したフォローアップを担当するメンターもキャリアプラスで募集した。シニアソフトエンジニアの岡島寛明(ひろあき)氏もメンターの一人だ。岡島氏は職場を活性化するために何かできないかと思い、キャリアコンサルタントの養成講座を受講した。  「自分が学んだことを会社のなかで活かしてみたいと思ったのです。いざやるとなると、本業と兼務の仕事を主体的に自分自身で調整する能力が必要になってきます。もともと技術屋ですが、実際に違う業務に取り組んだことで、以前に比べて仕事に対する考え方がおおらかになりましたし、仕事のメリハリがつくようになりました」(岡島氏)  大塚統括部長も「兼務先でも活躍する人は、いまの仕事もしっかりとやりながら新しい仕事に挑戦する。ということは効率よく仕事をこなし、その分生産性も上がっているのではないか」と評価する。 「Re−Creationファンド」で多様なスキルの習得を支援  キャリアプラスが現在の仕事の幅や能力を広げる場であるとすれば、将来のキャリアを見据えてスキル習得を後押しするのが「Re−Creationファンド」だ。キャリアプラスは若手も応募できるが、こちらは50歳以上に限定しており、保有スキルの向上や新たなスキルの獲得のための学びに自己投資をした場合、10万円を上限に補助する。しかも、いまの業務に関連するものだけではなく、新しいスキルやまったく異なる分野のスキルも対象とするなど幅広い。  実際に社員のファンド申請例(図表)を見ても多様なスキルや資格の取得を認めている。  「将来目ざしたいキャリアを広くとらえて、いまの仕事以外でのスキルアップを目的としてもよいことにしています。ベテラン社員も今後の長い職業人生での活躍を自ら考え、過去の仕事や実績にとらわれず勉強してほしいというメッセージです」(大塚統括部長)  例えば、「歴史遺産検定」もその一つ。海外駐在経験のある社員が「定年後に自宅を改装して民泊を経営し、訪日外国人観光客のためのインバウンドビジネスを展開したいので、日本の歴史を学びたい」との趣旨で申請し、認められた。  「歴史が好きだから勉強したいということではなく、この資格を自分のキャリアのなかで活かしたいというように、何のためにその勉強をしたいのか、理由が明確であれば認めている」(大塚統括部長)  もちろん仕事と関係するスキルアップのために制度を利用する人も多い。EC人事部キャリアサポート課の山下弘晃キャリアサポートマネジャーはこう語る。  「中国語会話を勉強している社員は、自分がたずさわっているビジネスの範囲を国内から海外に拡大していきたいという思いがあり、中国語で流暢(りゅうちょう)に話せなくても挨拶や日常会話ぐらいは勉強したいということで申請しています。また『MSオフィススキル』を学んでいる人のなかには、日々使っているワードやエクセルのさらに深い技術を学ぶことによって自分の業務の効率化に役立てたいという人もいれば、他社に再就職する場合にも資格があれば有利になるという目的で受講している人もいます」  制度の利用者は累積で100人を超えている。いまの仕事に直結するスキル研修は上司が許可すれば受講できるが「ベテラン社員のなかには、スキルアップ・習得は若い人を優先させようとし、自分のためにお金を使ってくださいとは言いづらい雰囲気があるが、ファンドは50歳以上に限定しているので使いやすい」(大塚統括部長)という魅力もある。 重層的で多様な選択肢を整えベテラン社員の「キャリア自律」を後押し  前述したように、現在の仕事に直結するスキルアップだけではなく、定年後も見据えた生涯キャリアに役立てることも意識している。プログラムの検討にあたっては、会社にいる間の仕事の充実に役立つものに限定してはどうかという意見もあったという。しかし、せっかくソニーに入社し、今後も長い職業人生を送る可能性があるなかで、「よりよい人生を送るにはどうするか」という観点から制度を設計したという。  また、同じようにキャリア支援策全体も60歳からの再雇用後の活躍だけを期待しているわけではない。  「あくまでベテラン社員の『キャリア自律』がキーワードです。60歳以降もソニーに残ってがんばる人がいてもよいし、あるいは身につけたスキルを活かして別の会社で仕事をしてもよい。自分自身でさまざまなキャリアを選択し、それに向けてチャレンジしてほしいという思いがあります。逆に全員が65歳まで残って働きますというのは、ソニーは多様性を強みにしている会社ですので個人的にはあまりおもしろい会社ではないかなと思っています。いろんなキャリアのバリエーションを持った人が出現してほしいと考えています」(大塚統括部長)  実は、キャリアについてベテラン社員同士で考えるサークル活動も生まれている。ソニーではもともとオフタイムを使って本業以外のことに自主的に取り組む活動が盛んで、2017年の制度のスタートと同時にベテラン社員同士で自主的に活動する「社内分科会」もスタートさせた。人事部門はホームページでの紹介や場所の提供を行うが、内容や運営には一切タッチしない。現在、異業種交流会や働く女性の会など12の分科会が活動している。前出のメンターを務める岡島氏は、分科会第1号の「愉快になるライフキャリアの会」をつくった。  「キャリア面談を通じて50代の社員が職場のなかで多種多様な課題や悩みなどを抱えていることを知り、なんとかしたいなと思ったのがきっかけです。職場の上司や同僚にはなかなか話せない悩みや相談をみんなで語り合う場として、いまでは30数人の登録者がいます」(岡島氏)  こうしたボトムアップ活動がキャリア意識の醸成やスキル習得に向けたインキュベータ※2的役割を果たしている。  ソニーの「Career Canvas Program」の最大の特徴は「キャリア自律」を基本に、それを後押しする重層的かつ多様な選択肢が用意されている点だ。長い職業生活でつちかった経験や知見は個々に異なり、今後のキャリアに対する考え方も多様である。そのうえでどのようなキャリアを目ざすのか、そのためにどういうスキルアップが必要なのかを自ら考えて行動できる仕組みが整備されている。  シニア社員の活性化につながる自発的なスキル習得に向けた取組みとしては参考になる施策といえるだろう。 ※1 メンタリング……人材育成手法の一つ。経験豊かな年長者(メンター)が、組織内の若手や未熟練者(メンティ)に対し、対話や助言により、自発的な成長を支援するもの ※2 インキュベータ……新規事業や起業を支援するための制度や仕組み 図表 多様なキャリアの実現に向けたRe-Creationファンド申請例 現在 新しいことへのチャレンジ いまと同じ仕事 ●ISO国際標準化人材育成 ●中国語会話 ●ホームページ/Webデザイン講座 ●キャリア支援 ファシリテーター養成講座 ●ITパスポート 保有スキルのメンテナンス いまと同じ仕事 ●ソフト(アプリ)技術習得 ●3D CAD講座 ●電気回路技術講座 ●組織・人材プロフェッショナル養成講座 新しいことへのチャレンジ これまでと違う仕事 ●「家具の学校」授業料 ●国家資格「全国通訳案内士」 ●歴史遺産検定 ●登録販売者合格指導講座 保有スキルのメンテナンス これまでと違う仕事 ●MSオフィススキル向上(MOS取得) ●英会話 ●キャリアカウンセラー ●セミナー講師養成研修 左から山下弘晃キャリアサポートマネジャー、大塚康統括部長、岡島寛明氏 【P42-45】 知っておきたい 労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第14回 有期雇用の雇止めと期間・回数制限、死亡退職金の帰趨(きすう) 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 有期雇用に期間の上限や、更新の回数制限を設けることはできるのか  有期雇用について、更新の手続きを適切に行うことなく、更新の基準があいまいな場合、契約期間が満了したことを理由に契約を終了させることができなくなると聞きました。  そのため、更新手続きを厳格に行うようにしたうえで、有期雇用の上限期間として3年と定めるようにしています。このように上限期間を定めておくことで、有期雇用は期間満了を理由に終了させることがかなうでしょうか。  また、65歳以降は更新しないことも定めているのですが、こちらは有効となるのでしょうか。 A  有期雇用の期間満了時に契約を終了させる場合に、@無期雇用と同一視される状態であるか、A更新することに合理的な期待が認められる場合、解雇権の行使と同様に、客観的かつ合理的な理由および社会通念上の相当性が必要とされます。  更新回数の上限を定めておくことは、更新への期待を打ち消す事情となるでしょう。また65歳を限度と定めることは、体力の低下と業務内容、事業規模による個別判断の困難性などをふまえ、有効な規定と判断される可能性が高いでしょう。 1 有期雇用の雇止めについて  労働契約法第19条は、有期労働契約に関して、@過去に反復更新したことがあるものであって、期間満了時に終了させることが、無期労働契約の労働者に解雇の意思表示をすることと社会通念上同視できる場合(以下「実質的無期契約型」)、または、A更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる場合(以下「合理的期待型」)のいずれかに該当する場合には、客観的かつ合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、同一の労働条件で更新したものとみなされる旨を定め、有期雇用労働者を保護しています。  この規定は、有期雇用労働者に対する雇止めの効力を制限して、有期雇用労働者を保護しようとするものです。  とはいえ、業務の状況をふまえた雇用の調整としての機能や、専門的な領域における能力を図るために比較的長期の雇用を行う場合など、有期雇用であるからこそ雇用するという場面があります。このような場合に、契約期間満了を実現するために、さまざまな工夫をしている使用者がいます。 2 更新手続きの実施方法について  有期雇用の更新方法については、法律上その方法について明確には定められていません。そのため、自動更新に近いような形で更新することも可能です。  しかしながら、前述の通り、実質的無期契約型となった場合には、無期労働契約と同様に有期労働契約を満了する際に、当該労働者に対する雇止めの効力が規制されることになります。  有期労働契約としての効力を維持するためには、更新時の手続きを形式的なものにせず、厳格化する必要があります。  具体的には、有期労働契約の更新時において、きちんと書面を交わしなおすこと、更新の際に説明を尽くして有期労働契約の更新基準を労働者に理解させることが重要です。更新基準については、実質的な基準として機能させなければならず、過去に更新基準に即した雇止めの事例が存在するか否かということも重視される傾向にあります。 3 更新回数や更新期間の上限設定について  無期転換ルールが定められたことも一因と思われますが、有期労働契約において、更新回数の上限や更新期間の上限を定める例が増えているように見受けられます。これらの上限を設けることが、有期労働契約を満了させることに役立つのでしょうか。  高知地裁平成30年3月6日判決(高知県立大学後援会事件)は、就業規則において「契約職員の雇用期間は、1会計年度内とする。ただし、3年を超えない範囲において更新することができる。」と定めていた事例について、「就業規則において、契約職員の通算雇用期間の上限を3年と明確に定めていたこと」、「有期雇用契約を更新する場合も、管理職による意向確認や契約期間を明記した労働条件通知書の交付といった手続をとっていたこと」、「原告の契約の更新回数は2回にすぎず、通算雇用期間も3年にとどまっていたこと」、「原告の給与計算を主とする業務は、(中略)、ルールに従って一定の処理を行うもので、(中略)、代替性が高いもの」などを考慮のうえ、労働契約法第19条2号の合理的な理由のある期待があったと認めることは困難としました。  最高裁平成28年12月1日判決においても、「3年を限度に契約を更新することがある。」と定められている事案について、契約期間の更新限度が3年であることが明確に定められており、このことを労働者も十分に認識していたうえで労働契約を締結したものであることから、「更新限度期間の満了時に当然に無期労働契約となることを内容とするものであったと解することはできない」とされています。ただし、この事案については、契約期間が試用期間としての機能も同様に果たしていたことや大学の講師としての業務であったという特徴もあったため、その点にも留意すべきとの補足意見も付されています。  更新手続きが厳格に行われていたことも重要な要素とはされていますが、更新期間の上限を定めておくことで、合理的期待を生じさせにくくする要素として機能することがあること自体は広く肯定されています。 4 高年齢者と更新制限について  さらに、最高裁平成30年9月14日判決においては、満65歳に達した日以後は有期労働契約を更新しない旨を定める就業規則の有効性について判断されました。更新回数が多数回にわたるような有期労働契約も含めて当該規定の適用を受ける可能性があるという点に特徴があります。  同判決においては、「期間雇用社員が屋外業務等に従事しており、高齢の期間雇用社員について契約更新を重ねた場合に事故等が懸念されること等を考慮して定められたものであるところ、高齢の期間雇用社員について、屋外業務等に対する適性が加齢により逓減(ていげん)し得ることを前提に、その雇用管理の方法を定めることが不合理であるということはできず、被上告人の事業規模等に照らしても、加齢による影響の有無や程度を労働者ごとに検討して有期労働契約の更新の可否を個別に判断するのではなく、一定の年齢に達した場合には契約を更新しない旨をあらかじめ就業規則に定めておくことには相応の合理性がある。」として、上限年齢を定めること自体の有効性を肯定しました。  当該上限規制が有効であることを理由に、実質的無期契約型と認めず、更新手続きも65歳以上の更新がない旨の説明書面が交付されていたことなどを考慮して合理的期待型とも認めず、有期労働契約が終了していると認めました。  最高裁判決の事案においては、有期労働契約に上限年齢を定めることの合理性については、体力の低下と業務内容のほか、事業規模による個別判断の困難性をあげているため、すべての使用者にとって同一の判断がされるとはかぎりませんが、定年制自体の合理性が否定されないかぎりは、有期労働契約の上限年齢の効力も肯定されやすいとは考えられます。 Q2 従業員の死亡退職金の支給を相続人が受け取らないと申し出てきた  当社では、従業員の死亡時に退職金を支給する旨を定めています。このたび、亡くなった従業員の相続人が、「相続放棄を行うので退職金を受け取ることができません」と申告してきました。事情をうかがうと、消費者金融から多数の借入れをしていたようであり、到底返すことができないので、相続放棄をするほかないというのです。  当社は、退職金を支給する必要はないと考えてよいのでしょうか。 A  退職金規程の定め方次第で、結論が大きく異なりますので、しっかりと確認してください。  支給対象者が、「配偶者」など個別に定められている場合には、相続財産には該当しないため、支給しても相続放棄には影響しない場合もあります。なお、支給対象者が「相続人」などになっている場合には、相続放棄をした方の次順位の相続人を調査して支払う必要があります。 1 相続と相続放棄について  「相続」という言葉は一般的にも理解されているかと思いますが、その制度に関する全体像を把握されているわけではないでしょう。配偶者が2分の1を相続し、子どもが残りの2分の1を分け合うということは、よく知られているでしょう。  しかしながら、すべての人が相続財産を引き継ぎたいと思っているわけではありません。相続の対象となるのは財産ばかりではなく、債務、典型的には借金なども承継することになるからです。例えば、質問にあるように、消費者金融の借入金がたくさんある場合には、相続をすることでむしろ残された遺族の財産までも借金の返済に充てなければならなくなってしまいます。  このような場合に用意されている制度として、相続財産の範囲で債務を弁済して残余財産が生じる場合にのみ相続をする「限定承認」という制度や、相続財産と債務のすべてを一切相続しないことを選択する「相続放棄」という制度があります。  これら以外のいわゆる一般的な財産も債務も承継する相続を行うことを「単純承認」といいます。民法は、一定の場合には、自動的に単純承認したと認めることにしています。例えば、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときや、相続人が、限定承認または相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部もしくは一部を隠匿(いんとく)し、私的にこれを消費し、または悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったときなどがこれに該当します。  つまり、相続放棄や限定承認の制度を利用するためには、相続財産に該当するものを受け取って使用してしまうと、相続放棄ができなくなってしまうことがあるのです。そのため、遺族としては、退職金を受け取って何かに使用してしまった場合に相続放棄ができなくなるのではないかと考えて、受領自体を拒否されるようなことにつながります。 2 死亡退職金制度について  そもそも、労働者の死亡退職金は相続財産となるのでしょうか。  原則としては、労働者がこれまで働いてきた賃金の後払いとしての性格と功労報償としての性質を併せ持つ退職金は、労働者に生じる退職金請求権であり、相続財産に含まれるという考え方が採用されます。しかしながら、死亡退職金に関しては、そもそも、支給対象となる労働者自身が死亡により存在しなくなってから支給されることが想定されていることから、就業規則などにおいて、支給対象者が別途定められていることがあります。また、当該支給対象者の順位について、必ずしも相続と同様ではなく、生計を同一にしている者などを優先的に支給することにしている例もあります。  判例においては、就業規則や退職金規程などにおいて、相続と異なる順位が定められている場合や、受給者が明確に定められている場合などには、遺族の生活保障を目的としていることなどを理由に、遺族固有の財産であり、相続財産とはならないと判断されています。このような判断は、生命保険金の受給者に対する裁判例の傾向とも合致しています。  とはいえ、退職金の受給者として「生計を同一にしている配偶者」などと指定して記載するのではなく、「相続人」などと包括(ほうかつ)して記載している場合には、相続人が確定しないかぎりは支給できないことになるうえ、相続財産とは異なる固有の財産として位置付けているとは評価されないため、相続財産に該当することになります。  したがって、就業規則や退職金規程などに「生計を同一にしている配偶者」などの具体的な受給者が明記されている場合には、遺族固有の権利として、退職金を受給することができます。 3 相続人への弁済時の留意点  就業規則や退職金規程などに受給権者が定められていない場合には、労働者の相続財産となるため、相続放棄を希望している遺族には支給することができません。  しかし、だれにも支給しなくてもよいわけではなく、その場合、次順位の相続人を調査して支給対象者を探さなければなりません。子が全員相続放棄した場合には、直系尊属(典型的にはご両親)が相続人となり、直系尊属がいない場合または全員相続放棄したときは、兄弟姉妹が相続人となります。  また、相続人に退職金を支給する際には、真実の相続人であるか否かを確認したうえで支給しなければ、使用者としては、二重払いを強いられるおそれがあります(虚偽の相続人には返還を求めることはできますが、すでに費消してしまって回収できないこともあります)。そのため、相続人であることを確認するために、支給を求める相続人からは戸籍の提出を受けたうえで、相続関係にあることを明確にしておくべきでしょう。  一方で、相続人調査のために必要な戸籍は、ご本人に提出していただかなければ入手できません。相続人との連絡もとれず、支給ができないままにしたくない場合には、弁護士などに依頼し戸籍調査をすることも可能です。 【P46-47】 新連載 科学の視点で読み解く 身体と心の疲労回復  高齢者が毎日イキイキと働くためには、「疲労回復」の視点を持つことも重要になります。この連載では、「疲労回復」をキーワードに、“身体と心の疲労回復”のために効果的な手法を科学的な根拠にもとづき紹介します。 国立研究開発法人理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム プログラムディレクター 渡辺(わたなべ)恭良(やすよし) 第1回 なぜ「疲労の研究」を始めたか 疲労研究の歩み  筆者は、医学部出身で医師でもありますが、ほとんどの時間を基礎研究と臨床研究、双方の医学研究に費やしてきました。私たち人間の病気を対象に、原因・メカニズム研究、そしてその根本的研究を通じた診断法・治療法の開発などの研究を行っていくと、やはり「病気にならないこと」の重要性がよくわかります。「健康〜未病(みびょう)〜病気」の間にはくっきりとした区分線はなく、切れ目なくつながっています(図表)。ただ、健康が少し損なわれて未病の範囲に入ってくる過程で、ヒトは心身の変調を感知できるようになっています。それが、「痛み、疲れ・だるさ、熱っぽさ、不安感、抑うつ感、予期せぬ動悸(どうき)・不整脈、食欲不振・胃腸症状、便通・排尿異常」などに表れます。  みなさんもご存じのように、このうち「痛み」に関してはかなり研究も進み、痛みをやわらげる医療技術は進んできました。みなさんが医療機関にかかる主訴(しゅそ)(主な訴え)の一位は痛みですが、次は僅差(きんさ)で疲労・倦怠(けんたい)感です。しかしながら、疲労・倦怠に関する研究は30年ぐらい前まではそれほどきちんと行われていませんでした。「活動すれば疲労するのはあたり前」、「疲労しないのは頑張っていない証拠」などと考え、漠然とした「疲労」というものにあまりメスを入れようとしていませんでした。そこで、いまから約30年前に私たちの疲労科学・医学研究はスタートしました。 慢性疲労症候群の発見  長年の共同研究者の倉恒(くらつね)弘彦(ひろひこ)先生・木谷(きたに)照夫(てるお)先生らにより、1990(平成2)年に日本で初めての「慢性疲労症候群」(Chronic Fatigue Syndrome、以下、「CFS」)の患者が大阪大学医学部微生物病研究所附属病院で発見され、診断を受けました。CFSは、現在では「筋痛性脳脊髄炎(きんつうせいのうせきずいえん)/慢性疲労症候群」(ME/CFS)と名称が変更されています。健康に生活していた人が、ある日突然、原因不明の強い全身倦怠感におそわれ、通常の生活を送ることが困難になる病気です。重度の疲労感とともに微熱・頭痛・咽頭痛(いんとうつう)・脱力感・思考力の低下・抑うつなどが長く続きます。ストレスや遺伝的要因による神経・内分泌・免疫系の変調に基づく疾患というところがクローズアップされていますが、いまだ原因は十分には解明されていません。  そのため、1992年から筆者らは、CFS患者たちの脳内異常の原因を調べるために、当時、スウェーデンと国際共同研究を進めることに決定していたポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)※2研究の枠組みのなかで疲労の脳科学研究を開始しました。ここからの研究経過の詳細はいずれ紹介しますが、CFSのような厳しい病的疲労の研究を懸命に進めていったところ、私たち人間の疲労のメカニズムに関しても、当時は何もわかっていないことに気づいたのです。 日本の疲労研究の現状  そこでCFSの研究に並行して、疲労の研究、とくに、疲労の脳科学、神経―免疫―内分泌相関研究に歩みを進め、1999年から6年間の文部科学省科学技術振興調整費による生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究」(平成11―16年度)、日本学術振興会21世紀COEプログラム「疲労克服研究教育拠点の形成」(平成16―20年度)、科学技術振興機構・社会技術研究『脳科学と教育』公募研究「非侵襲的脳機能計測を用いた意欲の脳内機序と学習効率に関するコホート研究」(平成16―21年度)において、筆者を研究代表者として、脳機能・形態・分子イメージング・バイオマーカー・コホート研究※3より疲労倦怠・意欲低下の分子・脳病態解明につながる多くの研究成果をあげてきました。  これらの研究では、国内外の30にもおよぶ大学・研究機関との共同研究を推進し、3回にわたる国際疲労学会を主催、2005年には日本疲労学会を設立しました。学会を契機に、@多角的な研究を進めて疲労が起こるメカニズムを解明してきたこと、Aさまざまな要因による疲労度合を計る「尺度」を発見し、自身の疲労感も含めて疲労度合の計測を進めてきたこと、B慢性疲労症候群、人工透析患者などの疲労倦怠の臨床研究を進める疲労クリニカルセンターや疲労計測ラボを設けて疲労による病気の診断・治療に努めてきたこと、Cこれらの環境を最大限に利用し、抗疲労・癒し製品・サービス開発プロジェクトを立ち上げ推進してきたこと、D子どもの慢性疲労と学習意欲の研究により、学習意欲低下児の生活改善・教育向上の糸口を見いだしたこと、が大きな成果として、国内外で高い評価を得ています。  国は高齢者雇用を推進し、生涯現役社会の実現を目ざしています。高齢者雇用を進めるうえでも、「疲労とは何なのか?」、「疲労により生じる症状は何か?」など、疲労の原因とメカニズム、疲労と意欲、疲労回復の方法、過労のメカニズム、過労の予防方法などを知ることは重要です。この連載では、こうした観点から、私たちの取組みを中心に疲労をめぐる問題を解説していきます。 わたなべ・やすよし 京都大学大学院医学研究科博士課程修了、大阪医科大学医学部・講師、大阪バイオサイエンス研究所・研究部長、大阪市立大学大学院医学研究科・教授、理化学研究所分子イメージング科学研究センター・センター長、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター・センター長、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター所長等を歴任し、現在は、理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム・プログラムディレクター、理化学研究所生命機能科学研究センター・チームリーダー、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター・顧問を兼任。日本疲労学会・理事長。 ※1 バイオマーカー……特定の病状や生命体の状態の指標 ※2 ポジトロンエミッショントモグラフィー……体内の物質の分布を測定し、各種の疾病の診断に用いる手法 ※3 コホート研究……特定の要因に曝露した集団としていない集団を一定期間追跡し、疾病の発生率を比較する手法 図表 健康と疾病の連続性 健康科学 先制医療 生活習慣病 (糖尿病等) バイオマーカー※1 (臨床検査) バイオマーカー (イメージング活用) バイオマーカー (正常値、正常域) 「病気にならない医学」を進めることが必須の課題 未病の人達が集まる仕組みや社会基盤の構築 先制医療・健康科学の着手と効果的・科学的な展開 認知症 疾病 患者さんは病院に! 未病 慢性疲労・倦怠感 慢性不定愁訴 病院へあまり行かない or 行きたくない 患者数の数倍対象が存在 健康 健康増進 うつ がん 生体防御システム(復元力) ※筆者作成 【P48】 日本史にみる長寿食 FOOD 309 キュウリの海漬け 食文化史研究家● 永山久夫 「かっぱ巻き」と「もろきゅう」  「かっぱ巻き」といえば、キュウリを芯にした海苔(のり)巻きのこと。キュウリは河童(かっぱ)が好むことから「かっぱ」とも呼ばれています。若返り効果のビタミンEやカロテンの豊富な海苔といっしょに食べる、お手軽な長寿食といってよいでしょう。  「もろきゅう」は、若取りのキュウリに諸味(もろみ)か味噌をつけて食べる酒肴(しゅこう)の一品。暑い日にほおばると、体が涼しくなります。  キュウリの原産地はインドのヒマラヤ山麓周辺とみられ、シルクロードを経て、西や東へと伝わっていきました。漢字の胡瓜は、西域の瓜という意味です。平安時代には、すでに「胡瓜」の文字が使われ、「きゅうり」と読ませていますから、かなり古くに渡来していたことがわかります。  キュウリは完熟すると黄色の瓜、つまり黄瓜になるところから、「きゅうり」になったと古い書物にあります。現在は黄色のキュウリは見かけませんが、私の子どものころ(戦前)は、たくさん出回り、生食よりも味噌汁の具や漬物などにして、よく食べていました。 “海漬け”の夏が来る  キュウリの需要が伸び始めたのは明治になり、西洋料理の普及でキャベツなどとともにサラダを食べるようになってからです。戦後になるとサラダにキュウリは欠かせなくなり、品種改良も進んだこともあって人気となり、身近な野菜となりました。  キュウリの95%は水分ですが、あざやかなグリーンと、さわやかな噛みごたえが魅力です。主な栄養成分は、カロテン、ビタミンC、ビタミンE、葉酸などですが、量的にはそれほど多くありません。  子どものころ、夏休みに、キュウリを5本くらい手拭いで包んでぶら下げ、よく海水浴に行ったものです。波打ち際へ小さな穴を掘ってキュウリを埋め、流されないように石をのせて置きます。  30分も泳いでいると、とても疲れます。なにしろ海では、しっかり力を入れて泳がないと沖に運ばれてしまいます。陸に上がって、キュウリを掘りおこすと、うっすらと塩味がついて、いやあ、うまかったなぁ。これを“海漬け”と呼んでいました。 【P49-55】 労務資料 平成30年度 能力開発基本調査結果の概要 厚生労働省 人材開発統括官付参事官(人材開発政策担当)付政策企画室  厚生労働省では、企業の能力開発の方針や事業所と労働者の教育訓練の実態を正社員・非正社員別に明らかにし、今後の職業能力開発行政に活用することを目的として、2001(平成13)年度から毎年度「能力開発基本調査」を実施しています。  本誌では、この発表資料をもとに、調査結果の概要を紹介します。 (編集部) 1.調査の対象 (1)企業調査  30人以上の常用労働者を雇用する民営企業から抽出した7345企業とした。 (2)事業所調査  30人以上の常用労働者を雇用する民営事業所から抽出した7176事業所とした。 (3)個人調査  (2)の事業所に属している労働者のうちから、一定の方法により抽出した2万3016人とした。 2.調査の時期  企業調査と事業所調査は、平成30年10月1日〜12月12日に実施した。  個人調査は、平成30年10月15日〜12月26日に実施した。 調査結果の概要 1.企業調査 (1)OFF−JT及び自己啓発支援に支出した費用について @OFF−JTまたは自己啓発支援への費用支出状況  平成29年度の企業の教育訓練への支出状況を見ると、OFF−JTまたは自己啓発支援に支出した企業は56・1%である。OFF−JTと自己啓発支援の両方に支出した企業は23・1%、OFF−JTにのみ費用を支出した企業は28・6%、自己啓発支援にのみ支出した企業は4・4%である。一方、どちらにも支出していない企業は41・9%である。  OFF−JTに費用を支出した企業は、52・9%と平成29年度調査(以下「前回」という。)時と変わらず、3年移動平均※と併せて推移を見ると、近年、同程度の水準で推移していることがうかがえる。一方、自己啓発支援に費用を支出した企業割合は、27・8%となり、前回と比べてやや増加しているものの、3年移動平均の推移を見ると、大きな変動はうかがえない。 AOFF−JT及び自己啓発支援に支出した費用  OFF−JTに支出した費用の労働者一人当たり平均額(費用を支出している企業の平均額。以下同じ。)を見ると、1・4万円と前回(1・7万円)に比べ減少している。3年移動平均を見ると、近年、増加傾向にあったが、今回、やや減少に転じている。  一方、自己啓発支援に支出した費用の労働者一人当たり平均額を見ると、0・3万円と前回(0・4万円)に比べて減少しており、3年移動平均で推移を見ても、やや減少してきている傾向がうかがえる。 (2)能力開発の実績・見込みについて  正社員に対する過去3年間(平成27年度〜平成29年度)のOFF−JTに支出した費用の実績では、「増加した」(25・1%)が「減少した」(5・7%)を19・4ポイント上回っている。一方で、「実績なし」は42・2%である。正社員に対するOFF −JT費用の今後3年間の支出見込みでは、「増加予定」(36・6%)が「減少予定」(1・6%)を35・0ポイント上回っている。一方で、「実施しない予定」が32・7%である。  正社員に対する自己啓発支援に支出した費用の実績では、「増加した」(12・1%)が「減少した」(3・6%)を8・5ポイント上回っているものの、OFF−JT費用実績に比べて「増加した」の割合は低く、また、「実績なし」が62・5%と多い(図1)。  正社員以外に対する過去3年間のOFF−JTに支出した費用の実績では、「増加した」(9・7%)が「減少した」(2・9%)を6・8ポイント上回っているものの、「実績なし」が68・0%と多い。正社員以外に対するOFF−JT費用の今後3年間の見込みでは、「増加予定」(19・3%)が「減少予定」(0・9%)を18・4ポイント上回っているものの、「実施しない予定」が59・4%と多い。  正社員以外に対する自己啓発支援に支出した費用の実績では、「増加した」(4・3%)が「減少した」(1・4%)を2・9ポイントとわずかに上回っているものの、「実績なし」が76・8%と多くを占める。正社員以外に対する自己啓発支援費用の今後3年間の支出見込みでは、「増加予定」(13・8%)が「減少予定」(0・3%)を13・5ポイント上回っているものの、「実施しない予定」が71・2%と多くを占める。 (3)能力開発の考え方について @「企業主体」か「労働者個人主体」か  正社員に対する能力開発の責任主体については、「企業主体で決定」(25・1%)又はそれに近い(52・3%)とする企業は77・4%と多くを占める。一方、「労働者個人主体で決定」(4・2%)又はそれに近い(17・1%)とする企業は21・3%である。  正社員以外に対する能力開発の責任主体については、「企業主体で決定」する(26・1%)又はそれに近い(39・9%)とする企業は66・0%であり、正社員に比べると10ポイント以上低い。一方、「労働者個人主体で決定」(10・4%)又はそれに近い(20・8%)とする企業は31・2%である(図2)。 A「処遇に関連づける」か「処遇に関連づけない」か  正社員に対する職業能力評価の処遇への関連づけについては、「処遇に関連づける」(21・0%)又はそれに近い(58・4%)とする企業は79・4%と多くを占める。一方、「処遇に関連づけない」(5・5%)又はそれに近い(13・6%)とする企業は19・1%である。  正社員以外に対する職業能力評価の処遇への関連づけについては、「処遇に関連づける」(16・0%)又はそれに近い(50・6%)とする企業は66・6%であり、正社員に比べると10ポイント以上低い。「処遇に関連づけない」(11・9%)又はそれに近い(18・7%)とする企業は30・6%である。 B「全体重視」か「選抜重視」か  正社員に対して重視する教育訓練対象者の範囲については、「労働者全体を重視する」(19・6%)又はそれに近い(39・0%)とする企業は58・6%であり、「選抜した労働者を重視する」(7・1%)又はそれに近い(32・8%)とする企業は39・9%である。  正社員以外に対して重視する教育訓練対象者の範囲については、「労働者全体を重視する」(18・0%)又はそれに近い(35・3%)とする企業は53・3%であり、「選抜した労働者を重視する」(11・8%)又はそれに近い(31・7%)とする企業は43・5%である(図3)。 C「OJT」か「OFF−JT」か  正社員に対して重視する教育訓練については、「OJTを重視する」(20・5%)又はそれに近い(53・1%)とする企業は73・6%と多くを占める。一方、「OFF−JTを重視する」(4・2%)又はそれに近い(20・3%)とする企業は24・5%となっている。  正社員以外に対して重視する教育訓練については、「OJTを重視する」(28・7%)又はそれに近い(48・1%)とする企業が76・8%であり、「OFF−JTを重視する」(5・0%)又はそれに近い(15・0%)とする企業は20・0%である(図4)。 D 略 (4)、(5) 略 2.事業所調査 (1)教育訓練の実施に関する事項について @OFF−JTの実施状況  正社員または正社員以外に対して平成29年度にOFF −JTを実施した事業所は77・2%であり、その内訳を見ると、正社員と正社員以外の両方に対してOFF−JTを実施した事業所は35・4%、正社員のみに対してOFF−JTを実施した事業所は40・2%、正社員以外に対してのみOFF−JTを実施した事業所は1・6%であった。一方、OFF−JTを実施していない事業所は22・5%であった。  OFF−JTの実施状況を対象とする職層等別に見ると、実施事業所の割合は、正社員では新入社員が64・3%、中堅社員が64・6%、管理職層が53・1%となっており、正社員以外では40・4%である。  正社員に対してOFF−JTを実施した事業所は75・7%と、前回(75・4%)と比べてやや増加しており、3年移動平均の推移で見ても近年なだらかな増加傾向にあることがうかがえる。  正社員以外に対してOFF−JTを実施した事業所は40・4%と、正社員に対する割合に比べ低いが、一方、前回(38・6%)に比べて増加しており、3年移動平均の推移で見ても、なだらかな増加傾向がうかがえる。  産業別に見ると、正社員に対しては、「電気・ガス・熱供給・水道業」(97・2%)、「金融業,保険業」(94・8%)、「複合サービス事業」(94・4%)で高く、「生活関連サービス業,娯楽業」(57・1%)、「宿泊業,飲食サービス業」(69・4%)で低くなっている。企業規模別に見ると、「30〜49人」で57・6%、「50〜99人」で71・1%、「100〜299人」で78・0%、「300〜999人」で83・4%、「1,000人以上」で87・0%と規模が大きくなるほど実施率は高くなっている。  正社員以外に対しては、産業別に見ると、「複合サービス事業」(84・3%)、「金融業,保険業」(74・0%)で高く、「不動産業,物品賃貸業」(31・1%)、「製造業」(31・7%)、「建設業」(33・1%)、「宿泊業,飲食サービス業」(33・8%)、「情報通信業」(34・1%)などで低くなっている。企業規模別に見ると、300人以上の企業規模で実施率は高くなる傾向があり、「1,000人以上」で56・1%となっている。実施したOFF−JTの教育訓練機関の種類は、正社員、正社員以外ともに「自社」が最も高く、正社員では76・2%、正社員以外では83・2%となっている。次いで「民間教育訓練機関(民間教育研修会社、民間企業主催のセミナー等)」となるが、正社員(48・5%)と正社員以外(20・4%)では大きな差がある。正社員以外では、「自社」「民間教育訓練機関(民間教育研修会社、民間企業主催のセミナー等)」以外は全て20%以下である。  実施したOFF−JTの内容は、「新規採用者など初任層を対象とする研修」が76・8%と最も高く、「マネジメント(管理・監督能力を高める内容など)」(49・1%)、「新たに中堅社員となった者を対象とする研修」(48・1%)と続いている。 A計画的なOJTの実施状況  正社員または正社員以外に対して平成29年度に計画的なOJTを実施した事業所は65・3%であり、その内訳を見ると、正社員と正社員以外の両方に対して計画的なOJTを実施した事業所は23・4%、正社員のみに対して計画的なOJTを実施した事業所は39・4%、正社員以外のみに対して計画的OJTを実施した事業所は2・5%であり、正社員のみに対して計画的なOJTを実施する企業が多い。一方、計画的なOJTを実施していない事業所は33・5%であった。  計画的なOJTの実施状況を対象とする職層等別に見ると、実施企業の割合は、正社員では新入社員が55・7%、中堅社員が39・1%、管理職層が21・8%となり、正社員以外では28・3%である。  正社員に対して計画的なOJTを実施した事業所は62・9%と、前回(63・3%)と比べて減少しているが、3年移動平均の推移で見ると近年、ほぼ同水準で推移していることがうかがえる。  正社員以外に対して計画的なOJTを実施した事業所は28・3%と、前回(30・1%)に比べ減少しているが、3年移動平均の推移で見ると、正社員に対する場合と同様に、近年、ほぼ同水準で推移していることがうかがえる。また、長期的に、正社員に対する割合に比べて2分の1に満たない水準で推移している。  産業別に見ると、正社員では、「金融業,保険業」(97・1%)、「複合サービス事業」(88・1%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(87・6%)で実施率が高く、「生活関連サービス業,娯楽業」(45・8%)、「教育,学習支援業」(50・3%)などで低くなっている。企業規模別に見ると、「30〜49人」で45・3%、「50〜99人」で55・6%、「100〜299人」で63・3%、「300〜999人」で70・6%、「1,000人以上」で77・6%と規模が大きくなるほど実施率は高くなる傾向が見られる。  正社員以外では、産業別に見ると、「複合サービス事業」が70・2%と最も実施率が高く、「金融業,保険業」(54・7%)がこれに次いで高くなり、「情報通信業」(17・7%)、「不動産業,物品賃貸業」(17・7%)、「建設業」(19・1%)が20%以下と低くなっている。企業規模別に見ると、「30〜49人」で19・0%、「50〜99人」で21・2%、「100〜299人」で24・3%、「300〜999人」で28・6%、「1,000人以上」で42・3%となり、正社員同様規模が大きくなるほど実施率は高くなる傾向が見られる。 (2)、(3)、(4)、(5) 略 (6)技能の継承について @技能継承の問題点  技能継承に問題があるとする事業所は78・2%であり、産業別に見ると、「製造業」(86・5%)が最も多く、以下、「医療,福祉」(83・1%)、「宿泊業,飲食サービス業」(82・6%)、「学術研究,専門・技術サービス業」(81・8%)、「サービス業(他に分類されないもの)」(80・3%)では、8割以上の事業所が技能継承に問題があるとしている。一方、「金融業,保険業」(50・9%)、「不動産業,物品賃貸業」(66・8%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(69・6%)では、他と比較して問題があるとする事業所の割合が低い。  企業規模別に見ると、規模に関わらず、問題があるとする事業所の割合が高いが、「1,000人以上」(72・8%)では他と比較して、問題があるとする事業所の割合が低い。  技能継承の問題点の内訳を見ると、「意欲のある若者・中堅層の確保が難しい」(53・1%)が最も多く、次いで「技術・ノウハウ等の伝承に時間がかかり円滑に進まない」(31・5%)、「継承者(技能・ノウハウを受け継いだ者)が習得後離職(転職)してしまう」(24・4%)となっている。そのうち、製造業では、「意欲のある若者・中堅層の確保が難しい」(56・8%)、「技術・ノウハウ等の伝承に時間がかかり円滑に進まない」(43・3%)を問題とする事業所の割合がより高い。 A技能継承の取組状況  技能継承の取組を行っている事業所の割合は84・8%と高く、産業別に見ると、「電気・ガス・熱供給・水道業」(97・6%)、「製造業」(92・7%)、「建設業」(91・4%)では9割を超えている。  企業規模別に見ると、企業規模が大きくなるに従い取り組んでいる事業所割合は高まり、企業規模が小さくても、「30〜49人」が79・0%、「50〜99人」が82・8%と取組の割合は高い。  技能継承の取組の内容の内訳を見ると、「中途採用を増やしている」(47・8%)が最も多く、「退職者の中から必要な者を選抜して雇用延長、嘱託による再雇用を行い、指導者として活用している」(40・7%)、「新規学卒者の採用を増やしている」(30・7%)と続いている。  そのうち、製造業では、「退職者の中から必要な者を選抜して雇用延長、嘱託による再雇用を行い、指導者として活用している」(56・6%)が最も多く、「中途採用を増やしている」(47・4%)、「新規学卒者の採用を増やしている」(35・2%)が続いている(図5)。 3.個人調査 (1)会社を通して受講した教育訓練について @OFF−JTの受講状況  平成29年度にOFF−JTを受講した常用労働者の割合は35・2%であり、正社員では45・1%、正社員以外では18・1%と正社員以外の受講率は正社員を大きく下回っている。  男女別に受講率を見ると、男性(43・6%)に対し、女性(25・6%)の受講率が低い。最終学歴別に受講率を見ると、「中学・高等学校・中等教育学校」(26・4%)、「専修学校・短大・高専」(30・4%)、「大学(文系)」(45・4%)、「大学(理系)」(52・8%)、「大学院(文系)」(38・6%)、「大学院(理系)」(61・8%)と、大学卒以上の最終学歴の者の受講率が高く、大学卒以上では理系の受講率が高い。  年齢別に受講率を見ると、20歳以上では、「20〜29歳」(44・1%)、「30〜39歳」(37・7%)、「40〜49歳」(34・7%)、「50〜59歳」(33・3%)、「60歳以上」(19・4%)と、年齢が高くなるほど受講率が低くなっている。  産業別に受講率を見ると、正社員では、「学術研究,専門・技術サービス業」(57・7%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(53・4%)、「金融業,保険業」(50・4%)、「情報通信業」(50・3%)が50%台と高く、一方、「教育,学習支援業」(28・0%)、「宿泊業,飲食サービス業」(29・3%)が低くなっている。正社員以外では、受講率の最も高い「医療,福祉」でも30・4%であり、それ以外の産業では、すべて30%未満である。「宿泊業,飲食サービス業」(7・2%)、「複合サービス事業」(9・1%)といった産業ではさらに受講率が低く10%未満となっている。  企業規模別に受講率を見ると、正社員では、30〜49人」(28・6%)、「50〜99人」(36・4%)、「100〜299人」(41・3%)、「300〜999人」(48・4%)、「1,000人以上」(51・4%)と、規模が大きくなるほど高くなる。正社員以外では、「30〜49人」が11・2%に対して「1,000人以上」が18・8%と、企業規模による大きな差は見られない。 A、B、C、D 略 (2)自己啓発について @自己啓発の実施状況  平成29年度に自己啓発を行った者は、労働者全体では35・1%であり、正社員で44・6%、正社員以外で18・9%と、正社員以外の実施率が低い。  男女別に見ると、男性(42・9%)に対し、女性(26・4%)の実施率が低い。  最終学歴別に見ると、「中学・高等学校・中等教育学校」(24・2%)、「専修学校・短大・高専」(31・1%)、「大学(文系)」(47・2%)、「大学(理系)」(51・6%)、「大学院(文系)」(60・2%)、「大学院(理系)」(71・4%)と、大学卒以上での実施率が高く、大学卒以上では大学院卒がより高く、文系よりも理系の方が高い。  年齢別に見ると、20歳以上では、「20〜29歳」(42・5%)、「30〜39歳」(39・5%)、「40〜49歳」(35・6%)、「50〜59歳」(29・4%)、「60歳以上」(23・4%)と、年齢階級が高くなるほど受講率が低くなっている。  産業別に見ると、正社員では、「学術研究,専門・技術サービス業」(62・7%)、「金融業,保険業」(61・8%)が60%以上と高く、「複合サービス事業」(24・6%)、「運輸業、郵便業」(31・7%)、「宿泊業,飲食サービス業」(32・3%)で30%程度と低い。  正社員以外では、「教育,学習支援業」(31・8%)、「学術研究,専門・技術サービス業」(30・2%)、「建設業」(29・9%)、「情報通信業」(29・9%)で比較的高いが、30%程度であり、「複合サービス事業」(13・9%)、「宿泊業,飲食サービス業」(14・4%)など多くの産業では20%未満となっている。  企業規模別に自己啓発の実施率を見ると、正社員では「30〜49人」(28・5%)、「50〜99人」(38・0%)、「100〜299人」(37・2%)、「300〜999人」(46・0%)、「1,000人以上」(52・5%)と、規模が大きくなるに従って実施率が高くなる傾向がうかがえる。一方、正社員以外では、「30〜49人」(13・3%)、「50〜99人」(21・9%)、「100〜299人」(18・6%)、「300〜999人」(23・8%)、「1,000人以上」(16・7%)と、規模が大きくなるに従って実施率が高まる傾向はうかがえない。 A、B、C、D、E 略 (3) 略 ※ 3年移動平均……3年毎の平均値 図1 OFF−JT及び自己啓発支援費用の実績等 過去・今後3年間(正社員) OFF-JT 過去3年間 増加25.1% 増減なし25.1% 減少5.7% 実施なし/実施しない42.2% 不明1.9% 今後3年間 増加36.6% 増減なし27.7% 減少1.6% 実施なし/実施しない32.7% 不明1.4% 自己啓発支援 過去3年間 増加12.1% 増減なし14.9% 減少3.6% 実施なし/実施しない62.5% 不明6.8% 今後3年間 増加27.9% 増減なし17.0% 減少0.8% 実施なし/実施しない51.7% 不明2.5% 図2 能力開発の責任主体(正社員、正社員以外) 正社員 労働者の能力開発方針は企業主体で決定する25.1% 労働者の能力開発方針は企業主体で決定に近い52.3% 労働者の能力開発方針は労働者個人主体で決定に近い17.1% 労働者の能力開発方針は労働者個人主体で決定する4.2% 労働者の能力開発方針は不明1.3% 正社員以外 労働者の能力開発方針は企業主体で決定する26.1% 労働者の能力開発方針は企業主体で決定に近い39.9% 労働者の能力開発方針は労働者個人主体で決定に近い20.8% 労働者の能力開発方針は労働者個人主体で決定する10.4% 労働者の能力開発方針は不明2.7% 図3 重視する教育訓練対象者の範囲(正社員、正社員以外) 正社員 どの範囲の労働者の能力を高める教育訓練を重視するか19.6% どの範囲の労働者の能力を高める教育訓練を重視するか労働者全体を重視する労働者全体を重視するに近い39.0% どの範囲の労働者の能力を高める教育訓練を重視するか選抜した労働者を重視するに近い32.8% どの範囲の労働者の能力を高める教育訓練を重視するか選抜した労働者を重視する7.1% どの範囲の労働者の能力を高める教育訓練を重視するか不明1.4% 正社員以外 どの範囲の労働者の能力を高める教育訓練を重視するか18.0% どの範囲の労働者の能力を高める教育訓練を重視するか労働者全体を重視する労働者全体を重視するに近い35.3% どの範囲の労働者の能力を高める教育訓練を重視するか選抜した労働者を重視するに近い31.7% どの範囲の労働者の能力を高める教育訓練を重視するか選抜した労働者を重視する11.8% どの範囲の労働者の能力を高める教育訓練を重視するか不明3.3% 図4 重視する教育訓練(正社員、正社員以外) 正社員 重視する教育訓練はOJTを重視する20.5% 重視する教育訓練はOJTを重視するに近い53.1% 重視する教育訓練はOFF-JTを重視するに近い20.3% 重視する教育訓練はOFF-JTを重視する4.2% 重視する教育訓練は不明1.8% 正社員以外 重視する教育訓練はOJTを重視する28.7% 重視する教育訓練はOJTを重視するに近い48.1% 重視する教育訓練はOFF-JTを重視するに近い15.0% 重視する教育訓練はOFF-JTを重視する5.0% 重視する教育訓練は不明3.2% 図5 技能継承の取組の内容(複数回答) 中途採用を増やしている 産業計47.8% 製造業47.4% 退職者の中から必要な者を選抜して雇用延長、嘱託による再雇用を行い、指導者として活用している 産業計40.7% 製造業56.6% 新規学卒者の採用を増やしている 産業計30.7% 製造業35.2% 不足している技能を補うために契約社員、派遣社員を活用している 産業計20.2% 製造業19.3% 退職予定者の伝承すべき技能・ノウハウ等を文書化、データベース化、マニュアル化している 産業計18.9% 製造業22.1% 技能継承のための特別な教育訓練により、若年・中堅層に対する技能・ノウハウ等伝承している 産業計16.1% 製造業14.7% 伝承すべき技能・ノウハウ等を絞り込んで伝承している 産業計14.2% 製造業16.5% 事業所外への外注を活用している 産業計13.5% 製造業14.9% 高度な技能・ノウハウ等が不要なように仕事のやり方、設計等を変更している 産業計12.4% 製造業15.8% その他 産業計8.7% 製造業4.7% 【P55-56】 BOOKS 「高齢者雇用にどう対応すべきか」を多角的な視点から解説 65歳定年に向けた人事処遇制度の見直し実務 労務行政研究所 編/ 労務行政(労政時報選書)/ 4600円+税  少子高齢化の進展にともなう人手不足の深刻化、そして2025年度からの年金支給開始年齢の引上げなどを見すえて、65歳定年制への移行が加速化している。本誌でも、「リーダーズトーク」に、65歳定年制を実現した企業の担当者に登場していただき、65歳定年制の実現に向けた取組みを紹介してきたので、こうした状況はご理解いただけるだろう。このような状況に対応すべく、本書は65歳定年制への移行を本気で検討している人事労務担当者向けにまとめられた。  65歳定年制の実現のためには、企業には新たな対応が求められる。そこで本書は、どのようなステップで各種制度を整備し、また改定すべきかに焦点を当て、専門家が多角的な視点から解説している。第1章「高年齢者雇用の現状と最近の高年齢者雇用をめぐる動き」から、第8章「65歳定年制導入企業の事例」まで、いずれの章の解説も企業の実務に直結した内容が取り上げられている。なかでも、第4章「65歳定年制への移行実務」と、東洋インキグループなど3社の65歳定年制導入企業の事例を収録した第8章は、企業の人事労務担当者にとって示唆に富む内容であり、ぜひご一読いただきたい。 戦後の日本経済を支えた人たちの証言集 団塊(だんかい)の世代の仕事とキャリア ―日本の大企業における大卒エリートのオーラル・ヒストリー 清水克洋(かつひろ)、谷口明丈(あきたけ)、関口定一(ていいち) 編/ 中央大学出版部(中央大学企業研究所研究叢書(そうしょ)40)/ 4000円+税  1947(昭和22)年から1949年にかけて生まれた「団塊の世代」は、約800万人という数の多さとともに、戦後の日本経済を支えた世代として知られている。その団塊の世代全員が70代を迎えようとしており、人生の新たなステージにふみ出し始めている。こうした時期をとらえ、中央大学企業研究所では、団塊の世代のオーラル・ヒストリー※をまとめるプロジェクトに取り組んだ。本書はその成果物として出版された書籍である。  本書は、団塊の世代に属する5人のオーラル・ヒストリーととともに、その内容を受けた3人の研究者による「団塊の世代の仕事とキャリア論」、そしてその内容に対するディスカッションを主な内容としている。同じ大学を卒業し、総合電機メーカー、総合化学メーカー、総合商社、長期信用銀行、自動車メーカーに勤めた5人によるオーラル・ヒストリーからは、日本的雇用慣行の下、厳しい競争を勝ち抜きながら、組織内キャリアを自ら形成していった実態が語られている。  人事労務担当者向けの実用書とはスタンスが異なるが、生涯現役で働くためのキャリア形成を考える機会となる好著である。 ※ オーラル・ヒストリー……口述歴史。歴史研究のため、関係者から直接話を聞き、まとめた記録 働き方改革関連法に対応、知っておきたい労務管理の急所をわかりやすく解説 管理者のための職場の労働法 第5版 慶谷(けいや) 淑夫(よしお)・慶谷(けいや) 典之(のりゆき) 著/ 経団連出版/ 1500円+税  職業人生の長期化やダイバーシティの浸透により、職場ではさまざまな人々が働き、その働き方や意識はますます多様化している。それにともない、労務管理上の課題やトラブルも多様化、複雑化する傾向がみられる。  会社が終わってからアルバイトをしている者にどのように対処すべきか、裁量労働制適用者の労働時間管理はどうすべきか、年次有給休暇を請求された日に休まれると会社に都合の悪いときにはどのような措置をとったらよいのか……。日々発生する課題に対し、職場の管理・監督者はその取扱いに悩むことが少なくない。  本書は、職場の管理・監督者が、トラブルを未然に防ぐ、あるいは解決にあたり考慮すべき労働法上の諸問題について考察し、これだけは知っておきたいという労務管理のポイントをわかりやすく説いている。第5版は「働き方改革関連法」に対応した内容で、「年休の確実な取得」、「高度プロフェッショナル制度」、「勤務間インターバル」、「不合理な待遇差を解消するための規定の整備」などの解説もある。  管理・監督者や実務担当者はもとより、労働法の基礎知識習得のための社内研修用テキストにも適している。 生き方や働き方について、立ち止まって考えたくなる一冊 神様がくれたピンクの靴 佐藤和夫 著/ あさ出版/ 1400円+税  童話のようなタイトルが印象的な本書は、2012(平成24)年に「第2回日本でいちばん大切にしたい会社大賞・審査委員会特別賞」を受賞した「徳武(とくたけ)産業株式会社」の奮闘と、同社の経営姿勢、職場の様子などを紹介している。  同社は、高齢者や障害者向けのケアシューズを製造・販売する香川県さぬき市の靴メーカー。従業員71人、売上24億2800万円(2017年7月期)である。1957(昭和32)年の創業時は手袋を製造し、後にスリッパ製造も手がけて売上げを伸ばしたが、紆余曲折(うよきょくせつ)を経て、「雇っている従業員やその家族のために、自社ブランドを持って独立型の経営をめざそう」と方向転換を決意。苦心の末に開発したケアシューズは、やがてその分野のトップブランド商品となる。経営者は、常に困っている人の立場に立ち、日本の靴業界で初めて片足販売を実施した会社としても知られる。従業員への対応についても、実にこまやかな配慮をしている。  巻末には、「日本でいちばん大切にしたい会社」シリーズの著者・坂本光司(こうじ)さんが「『どう生きる・どう働く』を、日夜考えて生きている誠実な人々に、さらなる夢と希望を与えてくれる好著」と本書を紹介している。 3人の隠居(いんきょ)の記録から江戸時代の高齢者の生活を読み解く 江戸人の老い 氏家(うじいえ)幹人(みきと) 著/ 草思社(そうししゃ)(草思社文庫)/ 850円+税  本書は、江戸時代に生涯を送った3人の男性の「老いの風景」を紹介している。隠居後の生活を記録した史料を歴史学者の視点から丹念に読み込むことで、普遍的な老いの風景を浮かび上がらせているところに特徴がある。童門冬二氏と永山久夫氏の連載を楽しみにしている本誌読者にとっては、異なる視点から見た「江戸人の老い」の問題を目のあたりにすることができるだろう。  本書に登場する、3人の江戸人のうちの1人は、江戸幕府の歴代将軍のなかでも知名度が高い、八代将軍・徳川吉宗(よしむね)。「暴れん坊将軍」として時代劇ドラマに登場していたので、江戸幕府中興(ちゅうこう)の祖(そ)として活躍したことがよく知られている。そんな吉宗にも容赦のない老後が待ち受ける。脳卒中(のうそっちゅう)によって身体が不自由になり、そこから脱却すべくリハビリに取り組む様子が記録されているのだ。ほかにもさまざまなエピソードが紹介されており、高齢者をめぐる問題は古くて新しいことが実感できるだろう。  なお、本書は2001年に刊行された書籍を文庫化したもの。人生100年時代の生き方が取りざたされるようになったいま、一読する価値がより高まったと思われる。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「本体価格」(消費税を含まない価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 労働経済動向調査の概況  厚生労働省はこのほど、労働経済動向調査(2019年2月)結果をまとめた。  労働経済動向調査は、労働経済の変化や問題点を把握することを目的に四半期ごとに実施。今回は、2019年2月1日現在の状況について、主要産業の規模30人以上の民営事業所から5835事業所を抽出して調査を行い、このうち2741事業所から回答を得た(有効回答率45・8%)。  調査結果によると、労働者の過不足状況は、正社員等労働者を「不足」とする事業所割合が47%、一方、「過剰」とする事業所割合が2%となっている。この結果、正社員等労働者過不足判断指数(「不足」と回答した事業所の割合から「過剰」と回答した事業所の割合を差し引いた値)はプラス45ポイントとなり、2011年8月期から31期連続の不足超過となった。これを産業別にみると、すべての業種で不足超過となっており、「建設業」(プラス65ポイント)、「運輸業、郵便業」(同58ポイント)、「情報通信業」(同58ポイント)、「学術研究、専門・技術サービス業」(同57ポイント)での不足超過幅が特に大きい。  次に、雇用調整を実施した事業所の割合(2018年10月〜12月期実績)は、前期と同水準の30%となっている。産業別では、「不動産業、物品賃貸業」が41%と最も高く、次いで、「学術研究、専門・技術サービス業」38%、「情報通信業」35%の順となっている。 総務省 「女性活躍の推進に関する政策評価」実地調査結果の中間公表  総務省は3月8日、地方中堅企業を対象とした「女性活躍の推進に関する政策評価」に関する実地調査の中間結果を公表した。  同省では、「女性活躍の推進に関する政策評価」の一環として、各事業者における取組み実施状況を把握するため、従業員300人前後の地方中堅企業約270事業者を対象として、ヒアリングによる実地調査を実施(2018年4月〜8月)。女性活躍の推進に向けた取組み内容やそのきっかけ、取組みにあたって工夫または苦慮した点、取組みの効果や課題などを把握し、それらを「事例集」(164事業者)として整理し、公表した。  それによると、事業者による主な声では、女性の人材確保や登用は、多様な感性が活かせるとともに、企業イメージのアップにもつながることから、企業戦略の一環として、経営上のメリットがあると認識されていた。また、いかに女性人材を確保し、働きやすい環境を整備して女性の継続就業につなげるかといった観点から、仕事と家庭の両立支援にかかわる取組みとして、半日・時間単位で取得可能な休暇制度や、残業時間の削減に向けた取組みを実施している事業者が多くみられた。  一方で、テレワークやフレックス制を導入している事業者はまだ少数であることがわかった。  調査結果から考えられる女性活躍の推進に向けた企業の取組みとして、女性の働きやすさ、企業風土の変革、やりがいやモチベーションの向上、就業継続意欲、女性が持つ特性や長所を活かした新たな商品開発などが期待されるとしている。 中央職業能力開発協会 「地域発!いいもの」を選定  厚生労働省から委託を受けた中央職業能力開発協会はこのほど、2018年度の「地域発!いいもの」として、九つの取組みを選定した。  この事業は、各地域で行われている「技能振興」や「技能者育成(人材育成)」などに役立つ特色ある取組みを選定し、広く周知することで地域の技能振興や技能尊重の気運を高め、地域の活性化を図ることを目的として実施している。  2018年度選定された取組みは次の通り。( )内は実施団体。  @「漆工(しっこう)技術後継者育成事業」(八幡平市(はちまんたいし)安代(あしろ)漆工技術研究センター) A「Made in やまがた! 高校生が作る3Dプリンター『次代を担う子どもたちに3Dプリンターを贈ろう!』教育用3Dプリンター導入プロジェクト」(やまがたメイカーズネットワーク) B「やちパンプロジェクト」(八千代商工会議所) C「『大田の工匠 技術・技能継承』表彰事業」(公益財団法人大田区産業振興協会) D「事業所内技能訓練校による人材育成と技能伝承」(株式会社イスルギ) E「郷土の偉人 豊田佐吉翁『報恩・創造』思想の継承」(湖西少年少女発明クラブ) F「超小型モビリティを用いたプロジェクト型学習による自動車産業教育」(愛知県立愛知総合工科高等学校専攻科) G「地域とともに育てる未来の担い手プロジェクト」(愛媛県立西条農業高等学校) H「沖縄県産イグサ(ビーグ)を使用した『へり無し畳(琉球畳)』の加工手順法の継承及び後進技能者の育成活動」(沖縄県畳工業組合) 表彰 人を大切にする経営学会など 「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞  「人を大切にする経営学会」と法政大学大学院中小企業研究所、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞実行委員会が主催する第9回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の受賞者が決定し、厚生労働大臣賞に「株式会社共同」(静岡県浜松市)が選出された。  本賞は、企業が本当に大切にすべき「人」たちを、従業員とその家族、外注先・仕入先、顧客、地域社会、株主の5者とし、彼らに対する使命と責任を果たし、人を大切にする経営に取り組んでいる企業や団体のなかから、特に優秀な企業などを表彰し、他の模範とすることを目的として、2010(平成22)年度から実施されている。  応募資格は、過去5年以上にわたって、次の六つの条件にすべて該当していること。@希望退職者の募集など人員整理(リストラ)をしていない、A仕入先や協力企業に対し一方的なコストダウン等をしていない、B重大な労働災害等を発生させていない、C障害者雇用は法定雇用率以上である、D営業利益・経常利益ともに黒字(NPO法人・社会福祉法人等は除く)である、E下請代金支払い遅延防止法など法令違反をしていない。  厚生労働大臣賞は、障害者・高齢者・女性などの活躍推進や総合的な雇用管理に取り組んでいると認められる企業に贈られる。「株式会社共同」は、定年制を廃止し、高齢者が活躍できる場の提供をするなど従業員が働きやすい環境を整えている。 発行物 ダイヤ高齢社会研究財団 『高齢化先進国の日本! みんなが主役となって創る地域社会とは』  公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団は、標記の記録集を、国際長寿センターと共同で発行した。これは、2018年11月16日に同財団と国際長寿センターが共催した国際シンポジウムをまとめたものである。  本記録集は、高齢者が個々に置かれた状況に応じて他者のために力を発揮する「プロダクティブ・エイジング」を実現する国内外の最新事例の講演と、当該事例が示す「みんなが主役となって創る地域社会とは」をテーマとした講演者全員参加でのパネルディスカッションという構成になっている。  本記録集は無料配布しており、入手についての問合せ先は次の通り。 ◆公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団  住  所:東京都新宿区新宿1―34―5  電  話:03―5919―1631  メール:info@dia.or.jp  財団HP:http://www.dia.or.jp/ 生命保険文化センター 『ライフプラン情報ブック』を改訂  公益財団法人生命保険文化センターは、小冊子『ライフプラン情報ブック―データで考える生活設計―』(B5判、カラー60頁)を、2月に改訂した。同冊子は、結婚、出産・育児、教育、住宅取得など、さまざまな人生の局面ごとに、経済的準備にかかわるデータや情報をコンパクトかつ豊富に掲載するとともに、「万一の場合」や「老後」に関しては自助努力で準備すべき金額の目安を具体的に計算できるようケーススタディで紹介している。生活設計や生活保障を考える際の参考資料となる。  今回の改訂では、所得税、住民税の負担が軽減される医療費控除とセルフメディケーション税制を解説し、どちらを利用したらよいかを考える際に参考となるフローチャートを掲載した。また、年齢別、男女別の健康に関するデータを掲載し、健康をテーマとした生命保険について解説。ほかにも、生命保険商品の解説、掲載データを最新化するなどして充実を図っている。  一冊360円(税・送料込)。申込みは、左記のHPより。https://www.jili.or.jp/ 【P60】 次号 予告 7月号 特集 あなたの会社は大丈夫? トラブルから学ぶ高齢者雇用入門 リーダーズトーク 奥山睦さん(株式会社ウイル代表取締役、キャリアコンサルタント) 〈高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQR コードのリンク先がhttp://www.jeed.or.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには− 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。  URL http://www.fujisan.co.jp/m-elder A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢 春康……サトーホールディングス株式会社人財開発部 人事企画グループ人事企画担当部長 菊谷 寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本 節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 清家 武彦……一般社団法人日本経済団体連合会 労働政策本部 上席主幹 深尾 凱子……ジャーナリスト、元読売新聞編集委員 藤村 博之……法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 真下 陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア 京子……アテナHROD代表、学習院大学特別客員教授 編集後記 ●厚生労働省が公表した、「平成29年死亡災害報告」、「平成29年労働者死傷病報告」によると、2017(平成29)年に発生した労働災害で死亡した60歳以上の高齢者は328人で全体の33・5%、休業4日以上の60歳以上の高齢者の死傷者数は3万27人で全体の24・9%となっています。ほかの年代と比較し、もっとも労働災害にあっているのが60歳以上の高齢者世代というのが現状です。  労働災害を防止するための基本は、「5S」や「KYT」、「職場巡視」などの、日常的な安全衛生活動です。そこで今号の特集では、これらの安全衛生活動の基本を取り上げ、高齢者への配慮の視点を交えて、解説しています。  仕事も職場の安全衛生管理も「基本」抜きには成り立ちません。6月は全国安全週間準備期間、そして7月の全国安全週間へと続きます。本特集を参考に、高齢社員はもちろん、すべての社員の労働災害ゼロに向け、取り組んでいただければと思います。 ●短期連載「マンガで見る高齢者雇用」では、シニアベンチャー企業の株式会社サウンドファンの前編を掲載しています。シニアベンチャー企業として、知識と経験を持つ多くのシニアが活躍しており、「難聴者向けスピーカー」という事業は多方面から注目を集めています。まさに、シニア人材の強みや魅力が詰まった事例といえるでしょう。次号の後編もぜひお楽しみにしてください。 ●2019年度高年齢者雇用開発コンテストに多くの企業・団体からご応募をいただきました。ありがとうございました。本誌10・11月号にて、審査結果の発表、および受賞企業の取組みを紹介する予定です。 月刊エルダー6月号 No.476 ●発行日−令和元年6月1日(第41巻 第6号 通巻476号) ●発 行−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 発行人−企画部長 片淵仁文 編集人−企画部次長 中村雅子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2  TEL 043(213)6216(企画部情報公開広報課) ホームページURL http://www.jeed.or.jp  メールアドレス elder@jeed.or.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5  TEL 03(3915)6401  FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-724-4 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験などを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.301 幅広い技能を継承し民俗衣装の着付を究める 衣装着付師 鈴木乃莉子(のりこ)さん(80歳) 「子どものときの着付で、『着物はきれいだし、着るのも楽ちん』と覚えてもらえると、着物が好きになります」 20歳で美容室を開業お客さまの満足が最大の幸せ  山野高等美容学校(現・山野美容専門学校)を卒業後、インターンを経て、1958(昭和33)年に20歳という若さで東京都葛飾区(かつしかく)亀有(かめあり)に「トミー美容室」を開業。以来、ヘアメイクや着付など総合的なワザを磨き、全日本美容講師会着付最高師範をはじめ数々の役職を務めてきた鈴木乃莉子さん。  1977年に全日本美容講師会の着付師範会設立に参画して着付に本腰を入れ、明治座や国立劇場で着物の着付を担当。現在も町田美容専門学校で若い人たちの着付指導にたずさわり、4年前から着付のボランティアも始めた。  「児童養護施設で暮らす子どもたちの七五三のお支度に行かせていただいています。みんな本当に喜んでくれます。お祝いをした思い出や写真も残るので、一生懸命やらせていただいております」  幅広い技能や業界の発展、人材育成などの功績により、2017(平成29)年、鈴木さんは厚生労働省が選定する「卓越した技能者(現代の名工)」に選ばれた。  「感激しました。みんなも『おめでとう。名工ってすごいね』と褒めてくれました」と鈴木さん。その後も仕事に取り組む姿勢に変わりはないという。  「名工であろうとなかろうと、お客さまが気に入って満足してくれなければだめです。お客さまが『ありがとう!』と笑顔を見せてくれると本当に幸せです」 華文庫、胡蝶(こちょう)文庫など新しい帯結びを考案  鈴木さんは、技能の習得には「まねをする」姿勢が大切だという。  「いまの時代と私が学んだ時代とは違いますが、昔は先生のそばで、先生の仕事を見て自分で覚えろという教え方でした。先生がこっちへ手を動かしたら、自分もそういうふうに手を動かしてみる。まず目で見て頭で理解して、まねをすることが重要です。そうすると技能は身についていきます」  若くして開業したので、当初は技術的な疑問や迷いもあった。  「『これでいいのかしら』という感じだったので、開業してからもさらに勉強でした。本当に寝る間も惜しんで勉強しました」  お店を開けてからお客さまがいなくなるまでが、営業時間だったこともあった。  「朝7時に起きると、お店の前でお客さまが待っています。終わるのは夜の10時、11時。好きでなければできない仕事です」  鈴木さんは着物を着る本人が苦しくなく、着崩れもしない着付方法も考案している。  「帯の結び方は、お太鼓結び、文庫結び、立て矢結びの3つが基本型です。創作帯は、それをアレンジしていくのです。華文庫、胡蝶文庫など、何十、何百という新しい結び方ができます」 伝統を絶やさぬよう生涯現役を貫く  現代の名工に選ばれるまでは「自分の年齢を忘れていた」というほど、鈴木さんは背筋がピンと伸びて、かくしゃくとしている。動作はしなやかで、職業柄、お客さまに触れることがあるので、手のお手入れも行き届いている。  「着物を着ているせいかどうかわかりませんが、姿勢がよいのでみんなから褒められます。体が柔らかいのは、ご先祖さまから受け継ぎました」と鈴木さん。  また、健康で現役を長く続けられる秘訣は、食生活だという。  「一番大切なのは食べ物。何でもバランスよく食べます。唯一食べられないのはシイタケだけ。母が手づくりした昔ながらの日本食を食べさせてもらっていたのが、元気のもとだと思っています。いまは見よう見まねで、母と同じように手づくりしています」  さらに、毎日朝晩やっているのが「ゴキブリ体操」。仰向けになって手足をぶらぶらさせ、それが終わったら、リンパ液を流すマッサージも行う。「仕事は、ずっと続けます。着物は日本の文化であり、W民俗衣装Wです。絶対に絶やしてはいけませんね」と鈴木さんは生涯現役を誓う。 トミー美容室 TEL:03(3690)4952 FAX:03(3602)5805 (撮影・福田栄夫/取材・細井武) 必要に応じて補正用具などを使用することもある。着物を着る本人が苦しくなく、着崩れもしないように工夫しながら美しく着付ける トミー美容室の入口に掲示されている「上級着付師之店」のプレート お太鼓、文庫、立て矢を基本にアレンジする 帯の長さは昔より長くなり、いろいろな結び方ができるようになった 帯揚げ、帯板、クリップ、腰ひもなど、着物の着付に必要な小物類 バラ、カトレア、ツバキなどを美しくかたどる 丸と角を基本としたカラフルな帯締めをたくさん用意 【P64】 イキイキ働くための 脳力アップトレーニング!  「最初に『か』のつく言葉をできるだけあげてください」、「『動物』の名前をできるだけあげてください」といった問題を「語の流暢性(りゅうちょうせい)課題」といいます。今回の問題もそのタイプです。語の流暢性課題では特に高齢者で男女差があり、男性が苦手であることが多いので、男性の方は、こころしてチャレンジしてください。 第25回 さんずいの漢字を12個 目標 5分 さんずいの漢字は100 字以上あります。 5分間で12個を目ざして書き出しましょう。 制限時間を超えても12個全部、埋めてください。 記憶力を高めるには  記憶力を高めるには、覚え方や思い出し方のコツをつかむことが大事になってきます。今回のような、覚えていたものを思い出すクイズはもちろん、新たに何かを覚えることがトレーニングとなります。  漢字の部首クイズはつくりやすいので、家族や友人に出題してみましょう。特に使われている部首が多い漢字であれば、子どもといっしょに楽しめます。  また、過去の記憶を思い出すことも記憶力を高めるのに有効です。脳に眠っている長期記憶を引っ張り出して、脳を働かせてみましょう。  大人の場合は、特に10 歳ころから思春期のことを思い出すことがおすすめです。当時好きだったドラマ、よく歌っていた歌、初めて映画館で見た映画のタイトル、小学校から高校までの担任の先生の名前、好きだった人のこと、家族旅行のエピソード……etc. 家族や友人と昔話に花を咲かせる、というのは脳にもよい刺激になるのです。 【解答例】 海 活 汽 池 泳 温 漢 決 湖 港 消 深 注 湯 波 油 洋 流 酒 泣 漁 治 清 浅 法 満 浴 液 演 潔 源 混 測 河 沿 激 済 洗 潮 派 など ※さんずいの漢字が正しく書けていれば正解 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2019年6月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〃 〃 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〃 〃 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒780-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価(本体458円+税) 『65歳超雇用推進事例集(2019)』を作成しました 65歳以上定年企業、65歳超継続雇用延長企業の制度導入の背景、内容、高齢社員の賃金・評価などを詳しく紹介した『65歳超雇用推進事例集』を作成しました。 継続雇用延長を行った企業の事例を増やすとともに、賃金・評価制度についての記述を充実し、新たに23事例を紹介しています。 23事例を紹介 図表でもわかりやすく紹介 索引で検索 この事例集では、65歳以上定年制、雇用上限年齢が65歳超の継続雇用制度を導入している企業について ●定年、継続雇用上限年齢の引上げを行った背景 ●取組みのポイント ●制度の内容 ●高齢社員の賃金・評価  −などを詳しく紹介しています。 ★制度改定前後の状況について表で整理しました ★企業の関心が高い賃金・評価・退職金などの記載を充実しました! 事例集は、ホームページでご覧いただくことができます。 http://www.jeed.or.jp/elderly/data/manual.html 65歳超雇用推進事例集 検索 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 事例を大幅に入れ替えた『65歳超雇用推進マニュアル(その3)』もつくったよ 2019 6 令和元年6月1日発行(毎月1回1日発行) 第41巻第6号通巻476号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会