【表紙2】 65歳超雇用推進助成金のご案内 (平成31年4月から一部コースの見直しを行いました) 〜65歳超継続雇用促進コース〜 65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施する事業主のみなさまを助成します。 主な支給要件 ●労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、旧定年年齢※1を上回る年齢に引上げること。 ●定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。  また、改正後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること。 ●1年以上継続して雇用されている60 歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること。 ●高年齢者雇用推進者の選任および高年齢者雇用管理に関する措置※2を実施すること。 支給額 実施した制度 60歳以上の被保険者数※3 1〜2人 65歳への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 10 5歳 15 66歳以上への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 15 5歳以上 20 定年の廃止 20 66〜69歳の継続雇用への引上げ 引上げた年数 4歳未満 5 4歳 10 70歳以上の継続雇用への引上げ 引上げた年数 5歳未満 10 5歳以上 15 60歳以上の被保険者数※3 3〜9人 65歳への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 25 5歳 100 66歳以上への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 30 5歳以上 120 定年の廃止 120 66〜69歳の継続雇用への引上げ 引上げた年数 4歳未満 15 4歳 60 70歳以上の継続雇用への引上げ 引上げた年数 5歳未満 20 5歳以上 80 60歳以上の被保険者数※3 10人以上 65歳への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 30 5歳 150 66歳以上への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 35 5歳以上 160 定年の廃止 160 66〜69歳の継続雇用への引上げ 引上げた年数 4歳未満 20 4歳 80 70歳以上の継続雇用への引上げ 引上げた年数 5歳未満 25 5歳以上 100 ■1事業主あたり(企業単位)1回かぎり (単位:万円) 〜高年齢者評価制度等雇用管理改善コース〜 高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(高年齢者雇用管理整備措置)を実施した事業主のみなさまを助成します。 措置(注1)の内容 ●高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入 ●法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 支給対象経費(注2)の60%《75%》、ただし中小企業事業主以外は45%《60%》 (注2)措置の実施に必要な専門家ヘの委託費、コンサルタントとの相談経費(経費の額にかかわらず、初回の申請にかぎり30万円の費用を要したものとみなします。) 〔《 》内は生産性要件を満たす場合※4〕 〜高年齢者無期雇用転換コース〜 50歳以上かつ定年年齢未満の有期雇用労働者を無期雇用契約労働者に転換した事業主のみなさまを助成します。 申請の流れ @無期雇用転換制度を整備 A高年齢者雇用推進者の選任および高年齢者雇用管理に関する措置※2を1つ以上実施 B転換計画の作成、機構への計画申請 C転換の実施後6 カ月間の賃金を支給 D機構への支給申請 支給額 ●対象労働者1人につき48万円(中小企業事業主以外は38万円) ●生産性要件を満たす場合※4には対象労働者1人につき60万円 (中小企業事業主以外は48万円) ※1 旧定年年齢とは……就業規則等で定められていた定年年齢のうち、平成28年10月19日以降、最も高い年齢 ※2 高年齢者雇用管理に関する措置とは…… (a) 職業能力の開発および向上のための教育訓練の実施等 (b) 作業施設・方法の改善 (c) 健康管理、安全衛生の配慮 (d) 職域の拡大 (e) 知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進 (f) 賃金体系の見直し (g)勤務時間制度の弾力化 のいずれか ※3 60歳以上の被保険者とは……当該事業主に1年以上継続して雇用されている者であって、期間の定めのない労働協約を締結する労働者または定年後に継続雇用制度により引き続き雇用されている者にかぎります。 ※4 生産性要件を満たす場合とは…… 『助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること』(生産性要件の算定対象となった期間中に、事業主都合による離職者を発生させていないこと)が要件です。 (生産性= 営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課)雇用保険被保険者数 (企業の場合) ■お問合せや申請は、都道府県支部高齢・障害者業務課(東京、大阪は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします(65頁参照)。  そのほかに必要な条件、要件等もございますので、詳しくはホームページ(http://www.jeed.or.jp)をご覧ください。 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.51 「生涯現役社会」を実現するには働き方のモデルチェンジが必要 キャリアコンサルタント、株式会社ウイル 代表取締役奥山 睦さん おくやま・むつみ 大田女性ネットワーク「TES」会長、大田区異業種交流グループ連絡会会長などを務め、大田区より2004(平成16)年に区政特別功労者、2014 年に区政功労者として表彰。キャリアコンサルタント、公益財団法人日本生産性本部認定メンタルサポーターとしても活躍。2018年1月に沢渡(さわたり)あまね氏との共著『働き方の問題地図』(技術評論社)を発刊。  「生涯現役社会」が到来し、ボランティアや地域貢献など、さまざまな場所で活躍する高齢者が増えています。そうした多様な選択肢のなかで、高齢者が「働く」ことを考えたとき、社会や企業、そして高齢者本人は、どのようなことに対応していくべきでしょうか。今回は、生涯現役社会の実現に向け、多方面で活躍するキャリアコンサルタントの奥山睦さんにご登場いただき、生涯現役社会のあり方について、お話をうかがいました。 「生涯現役」の働き方は雇われる=A収入を得る≠セけではない ―奥山さんは、起業家、著述家、大学教員、中小企業支援、キャリアコンサルタントなど、多方面にわたってご活躍されています。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の博士課程にも在籍され、研究の日々を送られているそうですね。この先、お年を重ねられても、「生涯現役」の人生を歩まれるのだろうと拝察しますが、そんな奥山さんは、「生涯現役社会」といわれるいまの時代を、どうとらえていらっしゃいますか。 奥山 「生涯現役社会」とは、「高齢者がいくつになっても働き続けられる社会」のことだと理解されています。たしかにその通りですが、「働く」とは必ずしも「会社に勤め続ける」ことだけを意味しないでしょう。社会の支え手として活躍したり、人々から求められる役割を果たすことで社会に貢献するという生き方もあります。収入を得るだけでなく、収入はともなわなくても、または収入は少なくなったとしても、地域課題の解決を図ったり、コミュニティの活動を活発にするために働く人も含めて、社会にかかわっていく姿勢や意識を持ち続けることが、豊かな人生を送るうえで望ましいのではないでしょうか。  また、そうした意欲のある人を、高齢になったからといって排除せず、むしろその知識や経験、技術を大いに活かしていけるような社会であることが求められています。「生涯現役社会」とは、そのような社会と個人のあり方を目ざす言葉だと、私は思います。 ―シニア世代になっても、社会の支え手として期待される役割を果たすべく、意欲的に活動されている方は、奥山さんの周りにはたくさんいらっしゃるのでしょうね。 奥山 そうですね。最も身近な例は、私の夫です。夫は、一部上場企業のグループ会社の取締役に就任したばかりの55歳で会社を辞めました。このまま定年まで役員をやって、その後は子会社の社長になって……という未来図がはっきり見えてしまい、それに飽き足らず、もう一度夢にチャレンジしようと思ったのです。そしてベンチャー企業を起業し、10年会社を育ててきたところで事業を売却し、一昨年からは地域センター※1の非常勤職員を引き受けたほか、町会の副会長など地域の仕事をしています。町会の仕事は、現役時代から地域貢献活動をしていたつながりから引き受けたのですが、いまでは、ビジネスが3分の1、町会などの地域貢献活動が3分の2くらいの割合で活動しているようです。 ―奥山さんは中小企業支援に長くたずさわってこられましたから、数多くの中小企業で高齢者が活躍されている実態を目のあたりにされていると思います。 奥山 はい。私が活動の拠点としている東京都大田区は、中小企業の多い地域として知られていますが、従業員の高齢化に加え、経営者の高齢化と後継者難が進み、事業所数は減る一方です。  そんななかで、各社とも工夫をこらして技能継承や人材の採用・定着に取り組んでいます。その代表例の一つが、「電化皮膜(でんかひまく)工業株式会社」です。従業員の個々の事情に配慮した働き方への対応やITの導入などにより、人材の安定的な確保と生産性向上の実現に成功しています。また、後進の育成が高齢者の役割であることを明確に打ち出し、雇用延長の年齢の上限を実質的に撤廃し、若手への技能継承を推進しています。最近では、未経験者の採用も積極的に行っており、子育て中の女性やシングルマザーも採用し、育児中の社員には、子どもの成長に合わせた勤務時間の短縮や、学校行事への参加ができるような柔軟な対応を行っています。 高齢者の能力や就労ニーズを活かして会社と本人がWIN‐WINに ―大田区以外、あるいは製造業以外の事例も教えてください。 奥山 広く知られた事例ですが、岐阜県中津川(なかつがわ)市の「株式会社加藤製作所」です。100人強の従業員のうち半数が60歳以上です。製造業は改善が生命線で、常に創意工夫が求められますが、高齢者は経験の厚みを活かして、作業工具をより使いやすくする工夫を、お金をかけずにできる人が多いのです。また、土日祝日は高齢者が中心になって工場を動かす体制で365日の稼働を実現させています。若い従業員は土日祝日を休めますし、土日祝日だけ働く高齢者は年金を満額受給しながら生きがい就労※2が可能です。会社も稼働率が上がり、WIN‐WINの関係がつくられています。  製造業以外では、「株式会社麹町エンジニアリング」の事例をご紹介しましょう。代表の鍵谷(かぎたに)道生さんは、大手銀行を定年退職して、大学院で高齢者雇用を研究し、修士課程を修了しました。その研究成果を実践するため、60代後半で起業し、大企業を定年退職した人を役員に迎えて経営にあたり、ビルの省エネやコスト削減のコンサルタント業務を行っています。技術面のことはほかの役員に任せ、ご自身は現役時代につちかったファイナンスの専門知識や人脈を活かして、60代後半からの新しいキャリアにチャレンジされています。 ―「生涯現役社会」を目ざすには、「現役」の働き方も見直す必要がありそうです。 奥山 高齢者のために「現役」の働き方をシフトダウンさせるという発想ではなく、「現役」の働き方そのものを変えていくことが必要だと思います。  私は、この会社を起業する前は、スポーツ番組のディレクターを務めており、海外ロケに頻繁に出かけ、部下を何人か率い、昼夜を問わず働いていました。仕事はおもしろかったのですが、長時間労働が続き、8カ月の間1日も休みが取れないなかで、ある日、突発性難聴を発症しました。そうなってようやく、「これでは体も心ももたない」と真剣に考え、雇用されるのではない、起業の道を選択することにしたのです。  起業した後も、子どもが生まれると、家庭と仕事の両立で四苦八苦し、テレワークというスタイルを考え出しました。  そして2014(平成26)年、私は高血圧、糖尿病、脳梗塞を患い、1年間、仕事の時間を大幅にセーブせざるを得ない状況に陥りました。その時もテレワークで、徐々に働く時間を増やしていきました。かぎられた時間内で生産性を上げることに力を注いだ結果、2014年度の売上は過去3年間で最高の数値を達成することができました。  これは、顧客が当社を信頼して任せていただける状況や、スタッフおよび外注として常時仕事にあたってくれた人たちの理解と協力なくしては達成できませんでした。  いまでは体調もかなり回復しましたが、一昨年までは、介護のために充てる時間もどうしても必要でした。  私だけでなく、大変な事情を抱えながら働いている現役の方は少なくないと思います。私は自分自身の経験から、働く際に何の制約もない人を標準とするのではなく、一番弱い人に合わせて働き方を組み立て直すことの大切さを、強く発信していきたいと思っています。 フルに働けない人を標準として勤務形態や評価を考える時代へ ―健康は「生涯現役」の前提条件ですね。 奥山 女性のキャリアアップを阻む「ガラスの天井」※3という言葉があります。それに対して、アメリカの社会学者が、男性には「ガラスの地下室」がある、と指摘しています。男性は収入と引き換えに危険な職種や長時間労働などの過酷な状況に押し込められている、というのです。男女の平均寿命の差にそれが現れています。アメリカでは1920(大正9)年にはその差はわずか1歳でしたが、いまは5歳に開きました。日本も1920年は1歳の差でしたが、いまは6歳に開いています。男性は特権的な性別として優遇されているといわれてきましたが、その生き方、働き方が幸せとはいえない場合もあるのです。 ―働き方の標準が変わると、評価のあり方をどう見直すべきでしょうか。 奥山 何らかの制約でフルに働けない人は、定性的な評価と定量的な評価の二軸で考えるのがよいと思います。残業がほぼできない、出張が困難といった状況であっても、チームワークやルールの遵守、コミュニケーション能力といった数値化できないものは、会社にとって望ましい行動がとれているかどうかという観点からの定性的評価を行う。その一方で、売上金額や新規顧客の獲得数など、数値化できるものについての定量的評価も行う。この二軸で見ることによって、フルで働けないから評価が低くなり、賃金が低くなるという図式から脱することができます。年齢が上がるほど有病率も高くなる傾向があるので、こうした観点からも高齢者の公正な評価と待遇のあり方も見直すべきではないでしょうか。 (聞き手・文/労働ジャーナリスト鍋田周一 撮影/中岡泰博) ※1 地域センター……地域の人々のコミュニティ活動や文化的活動の場として、町会・自治会活動や文化・学習活動など、さまざまな団体が利用できるように設置された施設 ※2 生きがい就労……就労を通じて社会とのかかわりを持ち、生きがいを感じることにつながる働き方 ※3 ガラスの天井……資質や成果にかかわらず、性別や人種などの理由で、組織内での昇進を阻む“見えない”障壁 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 2019 July ●表紙のオブジェ イラストレーター 柳田ワタル(やなぎだ・わたる) 1947年 大阪府堺市生まれ。1970年 多摩美術大学卒業。アニメーション制作会社勤務ののち、1974年よりフリーのイラストレーターとなる。1977年よりオブジェ、立体クラフトなどの制作を開始。90年代からは写真撮影も始める。 特集 6 あなたの会社は大丈夫?トラブルから学ぶ高齢者雇用入門 7 総論 高齢者の活躍推進へ向けて ―高齢者の強み≠活かした職場づくりを― 東京学芸大学 教育学部 教授 内田 賢 12 解説 1 高齢社員のモチベーションが上がらない! 2 役職定年した高齢社員が社内の空気を乱している!? 3 遅刻・早退・急な休みをとる高齢社員が多く、業務に支障が!?  高千穂大学 経営学部 教授 田口 和雄 4 せっかく設備投資をしたのに高齢社員から不満が続出!  福岡教育大学 教育学部 准教授 樋口 善之 5 高齢者雇用を支援する助成金制度65歳超雇用推進助成金について  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 高齢者助成部  高齢者雇用促進のためのその他の助成金 編集部 1 リーダーズトーク No.51 キャリアコンサルタント、株式会社ウイル 代表取締役 奥山睦さん 「生涯現役社会」を実現するには働き方のモデルチェンジが必要 31 日本史にみる長寿食 vol.310 トマトの丸かじり 永山久夫 32 マンガで見る高齢者雇用 株式会社サウンドファン《第2回》 38 江戸から東京へ 第82回 隠居もできなかった男 大久保一翁 作家 童門冬二 40 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第63回 株式会社イエノナカカンパニー 家事代行スタッフ 渡邉英子さん(79歳) 42 高齢者の現場 北から、南から 第86回 高知県 株式会社小谷設計 46 高齢社員の磨き方 ―生涯能力開発時代へ向けて― 第3回 溝上憲文 50 知っておきたい労働法Q&A《第15回》 懲戒処分、業務請負と労働者性 家永 勲 54 科学の視点で読み解く 身体と心の疲労回復[第2回] 渡辺恭良 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.302 ギター製作とリペアに長年つちかった手腕を振るう ギター製作家 沖田正和さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第26回] ナンバープレース例題&問題 篠原菊紀 ◎本号では、「読者アンケート」を同封してお届けしています。本誌に対するご意見をアンケート用紙にご記入のうえ、当機構までお寄せください。当機構ホームページからの回答も可能となっています。より一層の充実に向け、みなさまからのご意見をお待ちしています。 【P6】 特集 あなたの会社は大丈夫? トラブルから学ぶ高齢者雇用入門  再雇用の年齢上限引上げや定年の延長、定年廃止など、高齢者雇用に取り組む企業は着実に増え、政府は70歳までの就業機会の確保に向けた検討を進めています。その一方で、高齢者が持つ知識や技術、経験などを十二分に発揮してもらうために、企業には高齢者を雇用するうえで特有なトラブルの予防に努めることが欠かせません。  今回の特集は、そんな高齢者雇用で起こりがちなトラブルと、その予防・解決策について解説する高齢者雇用入門=B高齢者雇用を推進するための予習・復習に、ぜひお役立てください。 【P7-11】 総論 高齢者の活躍推進へ向けて ―高齢者の強み≠活かした職場づくりを― 東京学芸大学 教育学部 教授 内田 賢(まさる) 高齢者雇用がなぜ必要か  日本では少子高齢化が進んでいます。これは労働力人口の減少も意味しています(図表1)。多くの産業で人手不足が報じられ、女性や外国人が労働力として期待を集めていますが、高齢者の存在も無視できません。高齢者は、長い年月を職場で働いてきた、経験豊かな即戦力です。  高齢者にとっても、高齢者雇用が進むことへの期待があります。平均寿命が延びることで老後が長くなりました。日本人の平均寿命が80歳を超えているのですから、60歳で定年となってもその後20年以上の人生があります。その間の生活を考えればそれなりの収入が必要です。年金だけでは不十分なので60歳を超えても働き続けたいという高齢者が増えており、高齢者雇用への期待が高まっているのです(図表2)。  政策としても高齢者雇用が推進されています。「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)は企業に対して@65歳までの希望者全員再雇用、A65歳以上への定年延長、B定年の廃止、のいずれかの選択を求めています。また、最近では政府の「未来投資会議」が、働きたい高齢者の70歳までの就業機会確保を企業に求めています。これからは、60歳はもちろん、65歳を超えても働くことを希望する高齢者に、企業が就業機会を与えることがますます必要となってくるのです。  さまざまな面から高齢者雇用が求められている企業ですが、現状では約8割の企業が60歳定年制を維持しながら希望者全員を年金支給開始年齢まで再雇用する仕組みを選択しています。その理由として、年功賃金がまだ主流の企業では、定年を60歳から65歳に延長すると人件費が企業の重荷になるほか、高齢者に対する一般的なイメージ(体力や能力の低下)から、労働力としての高齢者に疑問を抱いている企業もあるからです。  時代の趨勢(すうせい)からすれば、高齢者雇用は世の流れになっています。現状では高齢者雇用に消極的な会社でも、これからは避けては通れないのではないでしょうか。そうであれば、いまから方針転換して高齢者雇用の推進にかじを切ることが必要です。またすでに積極的な会社であれば、効果を生むための施策をいままで以上に進めていくべきでしょう。 高齢者を知る  高齢者雇用を進めるのであれば、まず「高齢者や高齢期に近い社員とは、どのような人たちか」を理解しなければなりません。みなさんの会社にも、さまざまなタイプの方々がいらっしゃるのではないではないでしょうか。  高齢者の特徴、それは強みも弱みもあり、しかも人によって強みや弱みの有無とそのレベルがさまざま、ということです。  まず高齢者の強みは何かを見ていきましょう。高齢者の強みとは、それまでつちかってきた知識や経験が豊富で、高いレベルの技術や技能で仕事ができるということです。製造現場の人たちならば若手にはできないレベルの正確さや精密さで部品をつくり上げるでしょうし、営業であれば豊富な人脈や知識を駆使して巧みなセールストークで商談をまとめていくでしょう。プロジェクトのリーダーであればプロジェクト管理の達人として期限内の業務遂行を図ると同時に、経験の浅い若手メンバーの育成もしっかり進めているでしょう。それだけではありません。彼らは仕事への取組み方や態度、社会常識などの点で若手のお手本にもなります。  一方で、高齢者には弱みもあります。多くの高齢者には、加齢の影響が現われます。体力が低下して重いものが持てなくなる、視力が低下して細かい字が読めなくなる、動作に俊敏さが欠けて作業スピードが落ちてくることもあります。意欲が低下して新しいものを学ぶことがむずかしくなる、仕事を前向きにとらえにくくなるといった人も出てくるでしょう。  そして、高齢者の多様性です。ここまで説明してきた高齢者の強みと弱みは一般論です。強みにしても弱みにしても、それらを持つ人も持たない人もいます。年齢とともに弱みが顕著に現われる人もいれば、まったく現れない人もいます。高齢になってもそれまでと変わらず同じペースで仕事ができる人、新しいものを積極的に学んで、いままで以上に仕事の質を高める高齢者もいます。高齢者自身が多様化していくのです。  「高齢者が多様化する」という、もう一つの意味は、人生や生活のなかでの仕事の意味合いやバランスが変わってきて、しかもそれが人によってさまざまであるということです。いままで通り仕事一筋の人もいれば、家族の介護、孫の世話、地域活動への参加などによりフルタイムでの勤務がむずかしくなる人も出てきます。体力や健康との関連では、通院のため仕事を減らす場合もあるでしょう。 高齢者の弱み≠補い強み≠活かす  高齢者雇用を進めるうえでぜひとも考えていただきたいのは、高齢者の持つ「強み」を活かすために、彼らに「弱み」が出てくればそれを補う工夫をし、一方、高齢者の多様性に対してはさまざまなメニューを用意して対応するということです。  体力が低下して重いものが持てない場合、設備を改善して重いものを持つ必要を減らすことです。視力が低下して細かい字が読めなくなった場合は表示板の文字を大きくし、デジタル表示にすることで解決できます。歩行作業が多く肉体的負担があるのなら動線を短くする、または作業者ではなく部品や製品が動く仕組みをつくるなどの方法があります。コストがかかるのですぐには改善できないならば、担当者を若手に変えることも一つの方法でしょう。  仕事と生活のバランスが変わる高齢者には一日おきの勤務、週前半や後半のみの勤務、午前や午後のみの勤務など、勤務形態を工夫することで対応できます。  仕事の中身についても同様です。多くの高齢者にとって高齢期も無理なく続けられる仕事とは長年従事してきたものでしょう。高齢者のなかには変化に対する柔軟性や新しいものを習熟するスピードが低下している人もいるのですから、長年行ってきた仕事を続けることで環境が安定し、不安が除かれます。  一方で多様化している高齢者ですから、新しく挑戦できる仕事を望む人もいるでしょう。管理職や監督職といった役割を負担に感じ、責任の重圧から逃れたい人も、責任を励みにこれからも役職を続けたい人もいるでしょう。それぞれに応じて職務や責任、役職についても多様なメニューを用意すべきではないでしょうか。 職場の高齢者を理解する  ここまで高齢者の特徴や会社や職場での工夫について説明してきましたが、あくまで一般論です。  みなさんの職場の高齢者の方々の実態を知ることから始めてください。その際、以下の点に注意してください。 ■高齢者を思い込みでイメージしない  高齢者が多様であることは説明しましたのでおわかりでしょうが、「高齢者というのは〇〇だ」と一括(ひとくく)りにして考えて一般化しないでください。その思い込みが、高齢者の実情とかけ離れることもあります。高齢者はだれもが体力低下したり、保守的になるわけではありません。同様に、高齢者雇用の担当者自身がたとえ高齢者と年齢が近くても、「自分と同じ年代だから」と自分のイメージで相手をとらえないことです。高齢者も人それぞれですので同年代であっても考え方がまったく違う場合もあります。 ■本人と周りから話を聞く  まず高齢期を迎える(迎えた)一人ひとりにしっかり話を聞くことです。相手が何を考えているのか、何ができて何ができなくなってきたのか、どのような働き方を望んでいるのかについて予断を持たずに聞いてみましょう。「こんなことを考えていたのか」といろいろな発見があるでしょう。  話を聞く相手は、高齢者だけではありません。高齢者と一緒に仕事をすることになる、職場の同僚や上司からの話も貴重な情報源です。彼らは高齢者と一緒に働くのですから、高齢者が働きやすい環境を考えるうえできっと参考になるはずです。 ■会社の思いを高齢者に伝える  会社としてみれば、高齢者の願いにすべて応えることはむずかしいものです。多様な高齢者の要望のなかには、わがままや無理難題と思えるものもあるでしょう。たとえ真摯(しんし)なものであってもコストの面で応えられないこともあるでしょう。  反対に会社の考え方を説明して、高齢者に理解を求めることもできるのではないでしょうか。高齢者に考え方や態度を変えてもらうのです。  「もうひと働きしたい」、「引退するのはまだまだ先」と思いながらも、「体力が落ちてきた」、「根気がなくなってきた」、「仕事がきつくなってきた」と感じている人もいます。「管理職を降りたらどのように仕事をすればよいのだろう」、「再雇用になったら自分はどう扱われるのだろう」と不安になっている人もいます。彼らも自身を取り巻く環境の変化を感じています。  変化への対応を円滑にするためには会社からのアプローチが必要です。高齢期の働き方として会社が期待していることを知らせ、本人の意向とすり合わせることです。会社が高齢期の彼らに何を求めるのか、そのためには何を身につけてほしいのか(例えば、若手とのコミュニケーション能力や指導法など)、コストが理由で彼らの期待に応えられることと不可能なことは何か、どんな勤務形態なら会社として受け入れられるかなど、会社と高齢者の思いをしっかりすり合わせることが、彼らのその後の働き方や意欲に影響するのです。 高齢者が活躍できる環境をつくる ■高齢期前からの研修で意識を改革する  高齢になると、固定観念や考え方を変えるのは簡単なことではありません。そこで60歳の節目を迎えるころだけではなく、40代や50代のころから高齢期を見据えた研修を実施し、彼らの意識改革をうながす仕組みをつくることが必要です。  多くの会社では、60歳以降の境遇は大きく変化します。定年後の再雇用として身分や処遇が変わったり、役職から離れたり、会社が求める役割が第一線での業務から後継者育成など後方支援的な仕事に重点が移ってくることもあります。体力や健康、家族との関係、仕事と生活のバランスが変化していくのもすでに述べた通りです。もっとも人によって変化する場合もしない場合もあるのが高齢期の多様性です。  高齢期を迎える人々には、自身が直面する可能性の高いこれらの変化を早期に感じ取ってもらい、その時点での自分として望ましいと考える立ち位置(職場での役割、仕事の仕方や働き方)を60歳到達が現実になる前に想像し、そのために何をいつからどのように始めておくべきかといった準備を意識してもらうべきです。つまり「変容転躍(へんようてんやく)」が必要なのです。 ●変(自分を取り巻く環境が変わる) ●容(身の回りの変化を受け容いれる) ●転(発想を転換し新しい環境に臨む) ●躍(新たなステージで活躍する)  「変容転躍」が実現すれば、60歳を超えて働いてもらう前にさまざまな変化を高齢者が知り、その変化を受け入れ、いままでのやり方に固執することなく発想を転換し、彼らの持つ豊富な経験や知識で会社や後輩に貢献してくれるでしょう。 ■処遇を工夫して高齢者の意欲を高める  立ち位置を変えて心機一転して活躍しようと考えている高齢者の意欲を高めるにはいくつかの工夫が必要です。高齢者のモチベーションを高めるには処遇が特に重要な要素となります。多くの企業では高齢者の賃金が定年前に受け取っていた水準からは大きく低下するため、それが高齢者の働く意欲を低下させる一因となっていることがあります。「一生懸命働いている人もそうでない人も、もらえる賃金は変わらない」というのでは意欲が低下しかねません。例えば定年後も、人事考課とそれを反映した昇給や賞与を行うことが効果を生みます。お金にかぎらず、本人の名前を冠かんした「〇〇塾」、かぎられた者のみが名乗れる肩書や呼称も効果があるようです。 ■職場の同僚が高齢者を理解する  これから高齢者を迎える職場の人々にも、高齢者に対する理解を深めてもらうようにしましょう。  職場の人々は高齢者のイメージとして「熟練した技能がある」、「仕事がていねい」など肯定的なものも持っているでしょうが、反対に「新しいことに対応できない」など否定的なイメージが職場に広まっていると、現役と高齢者の相互信頼が生まれません。それでは職場のなかに高齢者の強みを吸収する雰囲気が生まれにくくなってしまい、高齢者の持つ強みを若手や中堅に伝授する風土が育ちません。多くの調査によれば、高齢者と一緒に働く若手社員は、そうでない者よりも高齢者を尊敬しているという結果が出ています。若年者や中堅社員の身近に高齢者がいる職場環境を生み出し、強みも弱みももつ高齢者の実際の姿を知ってもらい、実感してもらうことは両者の歩み寄りをうながし、相互理解の第一歩となります。 ■管理職が高齢者と若年・中堅をつなぐ  高齢者雇用の取組みでは、職場の管理監督職の役割が重要です。高齢者から若手・中堅社員が学ぶ機会があっても、現役社員は高齢者に近づきがたいイメージを抱いて本当は聞きに行きたいのに敬遠したり、高齢者は継続雇用で役職者ではないので上司の手前、自分から教えに行っていいのかと遠慮したりします。管理監督者は、双方が自然に歩み寄れる雰囲気や風土をつくりましょう。 ■外部の情報や人材を活用する  さて、実際に高齢者雇用を効果的に進めようとしても、手がかりがないかもしれません。参考になるのは他社の事例です。そのような情報は高齢・障害・求職者雇用支援機構のホームページにある「高年齢者雇用開発コンテスト企業事例情報システム」※から検索できます。多くの企業の取組みが業種や規模、または地域別に検索可能ですのでお役立てください。当機構のさまざまな出版物もご活用ください。また全国には都道府県ごとに当機構直属の65歳超雇用推進プランナーや高年齢者雇用アドバイザーがいます。企業実務を理解して企業の高齢者雇用の取組みを指導している専門家です。ぜひご相談ください。 失敗しない高齢者雇用を目ざして  高齢者雇用を進めることは、必ずしも容易なことではありません。しかしながら積極的に施策を進める会社では、ベテランの力をうまく活用して企業としての競争力を向上させることに成功しています。高齢者に対する先入観を持たずに個々の高齢者の状況をしっかり把握し、彼らの弱点を補いながらその強みをしっかり活かせる仕組みをつくってください。常に状況を観察し、不備な点があったら改善する、それが失敗しない高齢者雇用につながります。  忘れてはならないことがあります。実は高齢者が働きやすい職場というのは老若男女だれにとっても働きやすい職場であるということです。みなさんも一歩一歩で結構ですから、高齢者の働きやすい職場づくりを進めていただきたいと思います。 ※ 高年齢者雇用開発コンテスト企業事例情報システム……高年齢者 事例情報システム 検索 図表1 日本の人口の推移 実績値(国勢調査など)1950年〜2015年 平成29年推計値(日本の将来推計人口)2020年〜2065年 2015年人口合計12,709万人 生産年齢人口(15〜64歳)割合 2015年60.7% 高齢化率(65歳以上人口割合) 2015年26.6% 合計特殊出生率 2015年1.45% 2065年 生産年齢人口割合51.4% 2065年 65歳以上人口高齢化率38.4% 2065年 合計特殊出生率1.44 2025年人口合計11,913万人 65歳以上人口 3,716万人 15〜64歳人口 6,875万人 14歳以下人口 1,321万人 2060年人口合計8,808万人 65歳以上人口 3,381万人 15〜64歳人口 4,529万人 14歳以下人口 898万人 資料:総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(平成29年推計):「出生中位・死亡中位推計」(各年10月1日現在人口)、厚生労働省政策統括官付人口動態・保健社会統計室「人口動態統計」 出典:厚生労働省『平成29 年版厚生労働白書』 図表2 あなたは、何歳頃まで収入をともなう仕事をしたいですか 65歳くらいまで13.5% 70歳くらいまで21.9% 75歳くらいまで11.4% 80歳くらいまで4.4% 働けるうちはいつまでも42.0% 70歳くらいから働けるうちの合計79.7% 仕事をしたいと思わない1.8% その他0.4% わからない2.5% 無回答2.2% 資料:内閣府「高齢者の日常生活に関する意識調査」(平成26 年) (注)調査対象は、全国60 歳以上の男女。現在仕事をしている者のみ再集計 出典:内閣府『平成29 年版高齢社会白書』 【P12-15】 解説 1 高齢社員のモチベーションが上がらない! 高千穂大学 経営学部 教授 田口 和雄 トラブルの要因  60歳から65歳に定年を延長したA社。60歳以降も正社員として雇用されているものの、処遇は再雇用時代とほとんど変わらず賃金が下がり、高齢社員のモチベーションが下がっているようです。 トラブルの要因は企業の考えと高齢社員の期待の不一致  はじめに、定年延長の実施によって正社員として長く活躍できる環境が整備されたにもかかわらず、企業が期待していた高齢社員のモチベーションが高まらずに低下してしまった原因を考えてみたいと思います。ここでポイントとなるのは、定年延長対象者となった高齢社員の人事管理に対する企業の考えと、高齢社員の「期待のズレ」です。  マンガに登場するA社に勤める、高齢社員の定年延長後の人事管理を確認してみたいと思います。定年延長の実施によって雇用区分は「正社員」であるにもかかわらず、処遇は「再雇用」と同じ―賃金水準が引き下げられたままなことに加えて、正社員に実施している昇給が行われず、賞与も支払われない―という状態です。  こうした状況から会社と高齢社員の考え(期待)を整理した図表1をみてください。企業の考えでは雇用区分を現役社員と同じ「正社員」としているものの、処遇(マンガでは「賃金」)は「再雇用」のままとしており、現役社員のそれとは「異なる」対応がとられていることです。一方、高齢社員の期待は雇用区分も処遇も現役社員と「同じ」になることです。  こうした両者の考え(期待)を比較すると、定年延長後の雇用区分は「正社員」で一致していますが、処遇は一致していません。定年延長の実施によって新しい定年年齢(以下「新定年年齢」)まで働き続けることになった高齢社員の処遇への期待は、現役社員と同じであったにもかかわらず、会社の対応は異なっていた(再雇用時代の処遇)ため、高齢社員のモチベーションが低くなったのです。 定年延長実施後の人事管理の基本方針は分離型ではなく一貫型  このような状況を解決するには、高齢社員の適正な処遇を整備することが必要になりますが、そのためにはどのように取り組めばいいのでしょうか。人事管理の基本原則である公平性の観点から考えてみたいと思います。まず高齢社員の人事管理の基本方針は、現役社員と同じ「正社員」としての雇用を新定年年齢まで行う以上、会社は定年延長を高齢者雇用特有の課題ととらえ、高齢社員の人事管理を現役社員のそれと分けて考えるのではなく、社員全体の人事管理の課題として考えることが求められます。すなわち、定年延長後の新定年年齢までの一貫した人事管理の基本方針のもとで、高齢社員の人事管理を考えることです。 処遇(賃金)の考え方〜賃金カーブの決済期間〜  次に、こうした人事管理の基本方針を受けて展開する高齢社員の処遇の整備について考えてみます。一般的には、処遇の整備には負担がともないます。とりわけ、賃金の整備への負担は大きいものです。その理由は、これまでの賃金を決める仕組みは定年延長実施前の定年年齢(以下「旧定年年齢」)をもとに整備されているからです。賃金というと、基本給、賞与、手当などの社員に支払う個別賃金を決める仕組み(以下「賃金制度」)を思い浮かべるでしょう。特に基本給には、年齢給、職能給、職務給などの多様な賃金要素があり、そのなかからどのような賃金要素の組合せで賃金制度を設計するかは企業によって異なります。  賃金を決める仕組みには、このような賃金制度の設計のほかに、毎年の賃金を長期間にわたって描いたときの賃金曲線(「賃金プロファイル」あるいは「賃金カーブ」、以下「賃金カーブ」で統一)、つまり年齢別にみた賃金カーブをどのように設定するかという課題があります。  一般に賃金は社員の会社への貢献度(以下「貢献度」)の対価であり、貢献度と賃金が同じ(貢献度=賃金)になるように賃金カーブは設定されています。なぜなら、貢献度が賃金よりも大きい場合(貢献度〉賃金)には社員の不満は高まりますし、逆に賃金が貢献度より大きい場合(賃金〉貢献度)は、貢献度以上のコストを会社は負担することになるからです(図表2)。そのため、「貢献度=賃金」となるように賃金カーブは設定され、これに基づいて賃金制度は設計されます。  さらに賃金カーブを設定する際の注意点として「貢献度=賃金」をどの程度の期間(以下「決済期間」)で想定するかということがあります。例えば、学生アルバイトを雇用する期間は正社員に比べて短いので、決済期間の短い(例えば、日単位、週単位など)賃金カーブを設定して賃金制度が設計されています。短い決済期間では貢献度と賃金の関係は常に「貢献度=賃金」となり、会社もコスト負担が増えません。  しかし、正社員の場合は事情が異なります。正社員は会社の基幹業務をになう雇用区分なので、長く勤めてもらいたいと考えます。そこで、正社員を長期雇用(入社から定年まで)と位置づけることで決済期間の長い賃金カーブが設定でき、それに基づいて賃金制度は設計されます。そのため、決済期間における、ある時点の貢献度と賃金の関係が異なっても(「貢献度〉賃金」あるいは「賃金〉貢献度」)問題はありません。  一般に「年功賃金」は、キャリア前半の若手、中堅の時期は「貢献度〉賃金」、キャリア後半のベテランは「賃金〉貢献度」として、決済期間全体で「貢献度=賃金」となるように設定された賃金カーブの特性を持っています(図表3)。 適正な評価・処遇の整備には正社員としての高齢社員に期待する役割の明確化が必要  定年延長の実施は、正社員の賃金カーブの決済期間、とりわけベテラン期の期間が長くなることを意味します。すなわち、旧定年年齢で「貢献度=賃金」が終わったにもかかわらず、ベテラン期の「貢献度〈賃金」の状態が定年延長した期間分続くので、会社のコスト負担が増えることを意味します。その解消のため、マンガに登場する会社は定年延長した期間の賃金カーブを「貢献度=賃金」になるように設定し、それに基づいて高齢社員の賃金制度(再雇用時代の賃金制度の継続)を決めていたのです。  それでは定年延長実施後の高齢社員の賃金をどのように考えればよいのでしょうか。高齢社員は「貢献度=賃金」の決済期間はすでに旧定年年齢(例えば、60歳)で終わっているため、現役社員の賃金をそのまま適用すると、「貢献度〈賃金」となり人事管理の公平性の観点から問題となります。そうなると「貢献度=賃金」となるように、新しい定年年齢までの一貫した人事管理の基本方針の下で賃金の決め方(賃金カーブと賃金制度)を見直す必要があります。  また、正社員となった高齢社員の役割や仕事内容を見直す必要もあります。すなわち、継続雇用時の、正社員を支援あるいは補助する役割や仕事ではなく、正社員として長年の勤務でつちかってきた能力や経験を活かして職場に貢献できる新たな役割や仕事をになってもらうのです。管理職として引き続き職責をになってもらうマネジメント業務もあれば、能力や経験を活かした専門業務や後輩の指導業務など多様な選択肢があります。人材活用施策の関係上、管理職だった高齢社員全員に元のマネジメント業務を適用することはむずかしい状況にあります。そこで、会社が高齢社員に正社員として期待する役割を明確にして、職場の状況と高齢社員一人ひとりの適性に応じた仕事に従事してもらうことが求められます。高齢社員の適正な処遇の整備の際は、正社員として期待する役割の明確化と一緒に進めることが求められます。  左記に、適正な処遇整備を実施している事例を紹介します。 事例 1 65歳定年制実施により継続雇用者も正社員に復帰可能に  製造業のE社は、長年つちかってきた経験と高いスキル、さまざまな専門性を持ったシニア層が60歳以降も安心して働くことができる環境の整備を図るために、2018(平成30)年6月に65歳定年制を実施しました。定年延長の対象者はこれから60歳を迎える現役社員と、現在継続雇用者として同社に勤めている60代前半(60〜64歳)の高齢社員です。ただし、定年延長対象者の継続雇用者については該当者全員ではなく、正社員への復帰を希望する者としています。  65歳定年制実施後の高齢社員の人事管理について、賃金制度は現役社員の賃金制度が適用されますが、水準は60歳到達時から一定率が削減され、昇給は実施されません。賞与と人事評価は現役社員と同じ仕組みがそれぞれ適用されます。なお、役職については同社は役職定年制を実施しており、その役職定年が60歳に引き上げられました。同社が高齢社員に求める役割は、これまで通り戦力として活躍してもらうこと、長年つちかってきた経験や能力を次世代に伝えることとしています。 出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構『65歳超雇用推進事例集2019』を一部修正 図表1 定年延長後の人事管理に対する会社の考えと定年延長対象者の期待 現役社員と比較した高齢社員の人事管理 雇用区分 処遇(賃金) 会社の考え 同じ 異なる 高齢社員の期待 同じ 同じ 両者の考え(期待)のマッチング ○ × 出典:筆者作成 図表2 会社への貢献度と賃金の関係 貢献度と賃金の関係 結果 貢献度>賃金 社員の不満が高まる 貢献度=賃金 会社・社員ともに公平 貢献度<賃金 会社のコスト負担が増加する 出典:筆者作成 図表3 年功賃金の賃金カーブにみる貢献度と賃金の関係(イメージ図) 賃金・貢献度の大きさ 年齢 入社 若年期・中年期 ベテラン期 定年 賃金 貢献度 貢献度>賃金 賃金>貢献度 出典:筆者作成 【P16-19】 解説 2 役職定年した高齢社員が社内の空気を乱している!? 高千穂大学 経営学部 教授 田口 和雄 トラブルの要因  65歳定年制を導入しているB社では、管理職は60歳で役職定年を迎えます。しかし、役職定年を迎えた管理職のなかには、役割や立場の変化に適応できず、管理職気分が抜けないまま業務にあたるため、その偉そうな態度に、不満を募らせている現役社員もいるようです。 トラブルの要因は管理職から一般社員への意識の切り替えの不十分さ  会社の中核的な役割をになってきた管理職にとって、理想的なキャリアはそれまでつちかってきた知識や経験、能力を定年まで活かし続けることです。しかしながら、人材活用施策の関係上、定年まで管理職として働き続けることがむずかしく、定年前に役職を外れる役職定年制を導入する会社が、大企業を中心に増えつつあります。図表1のように役職定年を迎えた管理職は役職を離れ、専門職、専任職、あるいは一般社員等の非管理職(以下「一般社員等」)として定年までのキャリアを歩むことが一般的です(なお、役職定年に到達しても会社の事情で引き続き役職を継続する管理職もいます)。  役職定年制導入前の管理職は、「役職という階段をあがり」、「定年と一緒に役職を離れる」という「のぼるキャリア」の意識のもとで職業人生を歩んできています。  しかしながら、役職定年制の導入は、正社員としてのキャリア形成が、定年前に役職を「くだるキャリア」に変わることを意味します。「のぼるキャリア」の意識のもとで職業人生を歩んできた役職定年を迎えた管理職は、その後、一般社員等として引き続き仕事に従事してもらう役職定年制の仕組みを頭では理解しても、その心構えと意識の切り替えの準備ができていない状況にあります。  こうした状況に対して、役職定年制を導入している会社のなかには、役職定年の直前に、役職定年を迎える管理職との個人面談などの話し合いの場を設けていますが、その内容は一般社員等としての心構えや意識の切り替えなどではなく、会社から役職定年後に求められる役割や仕事、処遇の変更等の提示・確認といった手続きを中心としているのが実情ではないでしょうか。一方、元管理職の高齢社員(以下「高齢社員」)は役職を離れたとしても、一般社員等への意識の切り替えが十分にできずに管理職の意識が残ってしまい、仕事や職責の変化、新しい役割などにうまく適応できず、マンガに登場する高齢社員のように、職場の一般社員と同じ目線に立つことができず管理職として立ちふるまってしまい、現役社員との間にトラブルを引き起こしているのではないでしょうか。 管理職のキャリア教育を段階的に実施して意識改革を進める  このような状況を見直すには、役職定年制導入にともなうキャリア形成のあり方や、働き方への意識改革などを目的としたキャリア教育を管理職に対し実施することが必要になります。  管理職を対象に会社が実施している主な研修に、「管理職研修」と「ライフプラン研修」があります(図表2)。「管理職研修」はマネジメント能力やリーダーシップなどの習得を通して管理職としての意識改革を図ることを、「ライフプラン研修」は定年後のキャリアや生活設計などを考えることをそれぞれ目的とした研修です。しかし、これらの研修は先に紹介したように「のぼるキャリア」を前提に制度設計されているため、「くだるキャリア」に対応した役職定年後の一般社員等としてのキャリアの準備に対応できていない状況にあります。そのため、「くだるキャリア」に対応した研修(キャリア教育)の整備が必要になります。  管理職のキャリア教育のポイントは大きく三つあります(図表3)。第一は、「管理職の意識改革」です。役職定年後の職場における高齢社員の立場と会社が求める役割が変わることの意味を伝えます。  これまで高齢社員は管理職として部下に仕事の指示を出す立場でしたが、役職定年後は一般社員等として上司から指示を受けながら仕事に取り組む立場に変わります。また、役職定年前の高齢社員は管理職として役員から指示を受ける立場でもありましたが、その役員の多くは自分より年上で、なかには元上司である場合もあるので、指示を受けることの抵抗感はそれほどでもないかもしれません。  しかしながら、役職定年後は仕事の指示を受ける上司が自分より年下で、しかも同じ職場で引き続き仕事に従事する場合には、その上司が元部下である可能性もあります。そうなると、指示を受けることに対し抵抗感を持つ場合もあります。さらに、一般社員等として職場の若手社員と協力し合いながら仕事に取り組むことに抵抗感を持つ場合もあります。  第二は、「管理職の能力の棚卸しと更新」です。これまでの「のぼるキャリア」のもとでは、定年まで管理職の役割をになうため、管理職として必要なマネジメント能力やリーダーシップなどの習得・向上にだけ専念していれば問題はありませんでした。しかしながら、役職定年を迎え一般社員等に切り替わると、ライン業務に従事することになります。管理職のままであれば、部下に業務の指示を出すことで問題はありませんでしたが、一般社員等に切り替わった場合、指示を受ける立場になるので、ライン業務に必要な知識や能力などを磨いておくことが求められます。また、定年後の再雇用などの継続雇用に切り替わった後でも、同様な対応が必要となります。  第三は、「キャリア教育の実施時期」です。役職定年の定年年齢は一般に50代半ばから始まります。キャリア形成のあり方が大きく変わりますので、50代になってからキャリア教育を始めるのではなく、第一線で活躍している40代から定期的に実施することが必要になります。キャリア教育を通して、役職定年後のキャリアの確認、一般社員等として仕事に取り組むことへの心構えや意識づけ、ライン業務の遂行に必要な知識や能力などの習得・更新などを行い、役職定年後も引き続き一般社員等として活躍してもらうための準備を段階的に実施しておくことが求められます。このようなキャリア教育を通して、役職定年後の一般社員等としてのキャリアだけではなく、今後のキャリアについても考えてもらうことが必要です。定年後も継続して働くことが一般的になっている現在、その先にある定年後の働き方や生活を意識してもらう機会になり、定年後の継続雇用にもスムーズにつながります。  左記に、管理職に対しキャリア教育を実施した事例を紹介します。これら事例の特徴は、もともと40代まで実施していたキャリア教育の対象範囲を50代にも拡げた点です。 図表1 役職定年制導入による管理職の定年までのキャリアの変化 役職定年制導入前 管理職 継続雇用者 役職定年制導入後 管理職 役職定年 一般社員等 定年 継続雇用者 出典:筆者作成 図表2 管理職を対象にした主な研修 種類 目的 管理職研修 マネジメント能力やリーダーシップなどの習得や管理職としての意識改革など ライフプラン研修 定年後のキャリアや生活設計などへの準備など 出典:筆者作成 図表3 管理職のキャリア教育の三つのポイント 項目 概要 意識改革 役職定年後の立場の変化と一般社員等としての役割を担う意味を伝える スキルの棚卸しと更新 役職定年後のライン業務の遂行に必要な知識、能力の習得・更新 キャリア教育の実施時期 40代から段階的に実施 出典:筆者作成 事例 2 65歳定年制実施により50代へのキャリア支援の拡大  食品製造業のF社は、入社時から社員の自律的なキャリア形成を継続的に支援しています。節目ごとの自分自身のキャリアを考えるための気づきの場として、参加メンバーによる「自己理解」、「環境理解」、「行動計画立案」の3ステップのプログラムを実施するキャリア・ワークショップを入社4年目、10年目、40代のミドルマネージャー層に実施していましたが、65歳への定年延長を機に、50代にも拡大して2回(53歳時、58歳時)実施し、シニア期のキャリアを考える機会を提供しています。 図表 F社におけるキャリア・ワークショップ体系 対象 方式 レベル キーワード 入社4年目 必須 キャリアを考える姿勢づくり わかる 自己責任 入社10年目 必須 自己のキャリアデザイン 描ける 可能性の欲求 40代 応募型 後半キャリアの自律確立 (惑わず)開ける 第一人者・プロフェッショナル 53歳時 必須 シニアへの準備 広げる 成長の再認識 58歳時 必須 周囲の期待との統合 活かす リバイタル 出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構『エルダー』2017年8月号を一部修正 事例 3 50代の管理職層のキャリア支援の強化  総合化学メーカーのG社は、人材開発の観点から30代、40代の総合職社員を対象としたキャリア研修を実施していました。最近になり、さらに50代以上の管理職層に対象を拡大。50歳時には経営管理職の希望者を対象に、外部講師によるキャリアの棚卸しと今後のキャリアプランの作成を1日かけて実施し、その後、上長による個別面談を行っています。また、55歳時には、課長と部長・事業部長(全員必須)とに分けて、50歳時と同じキャリア研修を行い、その後、人事責任者、キャリアアドバイザーとそれぞれ1回ずつ今後のキャリアに関する個別面談を実施しています。 図表 G社におけるキャリア研修の概要 対象者 方式 期間 研修後のキャリア面談 30代 主任クラス昇進者 必須 2日 希望者 40代 総合職 希望者 2日 希望者 50歳時 経営管理職 必須 1日 希望者 55歳時 課長 必須 1日 希望者 55歳時 部長・事業部長 必須 1日 全員 出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構『エルダー』2017年7月号を一部修正 【P20-23】 解説 3 遅刻・早退・急な休みをとる高齢社員が多く、業務に支障が!? 高千穂大学 経営学部 教授 田口 和雄 トラブルの要因  65歳定年制を導入しているC社では、多くの高齢社員が在籍しており、戦力として活躍しています。その一方で、本人の体調や家庭の事情などにより、遅刻や早退、急な休みをとる高齢者も少なくなく、その分の業務をカバーしなくてはいけない若手社員は負担を感じているようです。 トラブルの要因は既存型の働き方を高齢社員にも適用していること  65歳定年、70歳再雇用制度の実施など、高齢社員が長く働くことができる環境の整備に取り組む会社が増えつつあります。解説1で触れましたが、定年延長した際、その延長の期間を引き続き正社員とする場合には、公平性の観点から一貫した人事管理の基本方針のもとで処遇などの個別施策を考えることが、重要なポイントとなります(図表1)。ですので、現役社員の働き方がフルタイム勤務、そして多くの企業で一般的に導入されている始業時間、終業時間が正社員全員に適用されている労働時間制度(以下「一般的な労働時間制度」)であれば、定年延長の期間分の高齢社員の働き方についても同じようにフルタイム勤務、一般的な労働時間制度(以下「既存型の働き方」)を適用することが求められます。  しかしながら、他方で高齢社員が現役社員と同じように仕事に意欲的に取り組もうとしても、加齢にともなう身体機能の低下、介護などの家庭の事情への対応により遅刻、早退、急な休みがみられ、現役社員と同じ働き方(既存型の働き方)を続けることがむずかしい場合があります。もちろん、現役社員であっても個別の事情はあります。高齢社員の場合、現役社員以上に個別の事情が発生しやすく、既存型の働き方を続けることがむずかしくなるのです。正社員として長く働き続けることができる環境を整備したことが、かえって会社や職場に影響を与えてしまうこともあります。  マンガに登場する高齢社員が多く活躍している会社(C社)でも、既存型の働き方を高齢社員に適用したことで、遅刻、早退、急な休みが重なり職場の業務遂行に支障をきたし、職場で一緒に働いている現役社員、上司に迷惑をかけることにつながってしまうのです。 正社員の一員として高齢社員にも適用可能な多様な働き方を考える  高齢社員が正社員ではなくなり、再雇用などの継続雇用に切り替わる場合には、個別事情に合わせたフルタイム勤務のほかに、パート社員と同じ短時間勤務、あるいは短日数勤務などの多様な働き方を適用することができます。しかし、正社員と同じ雇用区分の高齢社員にもそのような働き方を適用するのは、人事管理の公平性の観点から問題です。なぜなら、現役社員のなかにも介護、育児、病気治療などの個別事情がありつつも、既存型の働き方で勤務している社員がいるからです。正社員の一員である高齢社員も、個別の事情に合わせて選択できる働き方を考えていくことが求められます。 柔軟な労働時間制度と多様な正社員制度  そうなると、高齢社員の個別事情に合わせて選択できる働き方をどのように整備すればよいのでしょうか。ここでは働き方を労働時間制度と正社員を区分する制度(以下「正社員制度」)の二つの視点から考えてみたいと思います。  図表2をみてください。まず労働時間制度の種類には先に取り上げた一般的な労働時間制度のほかに、変形労働時間制、フレックスタイム制、みなし労働時間制、裁量労働制などの「柔軟な労働時間制度」があります。この柔軟な労働時間制度には適用条件があり、全社員への適用がむずかしい制度もあります。会社の事業の特性、職場の特性に応じて労働時間制度を適用することが求められます。  次に正社員制度ですが、総合職、一般職といった将来のキャリア形成に対する会社の期待の違いで区分する制度や、事務職、技術職、技能職、営業職といった、仕事内容(職種)の違いで区分する制度が多くの企業で導入されています。これらの正社員制度は会社の事情に合わせたフルタイム勤務を前提にした制度という特性を持ちます。こうした既存の正社員制度のほかに、勤務地、職務などの勤務条件が限定された正社員制度(限定正社員制度)や勤務時間や勤務日数を短くした正社員制度(短時間正社員制度)などの新たな正社員制度を導入する会社が、近年増えつつあります。  これら新しい正社員制度はフルタイム勤務だけではなく、短時間勤務も選択可能としており、高齢社員を含めた正社員の個別事情に合わせて選択できる働き方を整備することが可能になります。既存の正社員制度に加え、新たに多様な正社員制度の活用を検討しておくことも求められます。 高齢社員の希望と会社が期待する役割に合わせた働き方の整備に向けて  こうした制度をもとに正社員の働き方を考え、それをふまえて高齢社員の働き方を検討することになりますが、その際は高齢社員の事情と高齢社員に対して会社が期待する役割のすり合わせが必要になります。というのも、高齢社員の個別事情を優先した働き方を選択した場合、その負担を現役社員が受けかねず、これにより現役社員の不満が高まることにつながりますし、他方、会社が期待する役割、すなわち会社の事情を優先した働き方を選択した場合にも、高齢社員側の事情に対応できないため、マンガのようなトラブルにつながるからです。  さらに、業務の特性の確認も必要です。例えば、高齢社員の個別事情に合わせて仕事量を減らしても業務の特性上、柔軟な労働時間制度の設定がむずかしい場合があります。その一つに工場の製造業務があります。例えば、食品の製造・加工を行う製造業の現場では社員がチームを組んで製造・加工業務を行うため、チーム全員に同一の勤務時間である労働時間制度が適用されます。その職場にフレックスタイム制などの柔軟な労働時間制度を導入した場合、チーム全員がそろって業務を行うことができず、食品の製造・加工に支障をきたします。そこで、勤務時間は現役社員と同じにするものの、勤務日数を減らすなど柔軟な労働時間制度を適用することで、業務に従事しやすくなります。このように業務の特性をベースにしつつ、高齢社員の個別事情と会社の事情をすり合わせて働き方を検討していくことが求められます。そして、多様な働き方を進めることによる現役社員の負担を軽減するための解決策(業務の内容や遂行方法の見直し)を進めることも、これらにあわせて求められます。  左記に事業の特性や業務の特性に応じて、多様な働き方を整備した事例を紹介します。 図表1 人事施策の考え方 人事管理の基本方針 個別施策 例)処遇 個別施策 例)評価 個別施策 例)教育・研修 出典:筆者作成 図表2 労働時間制度と正社員制度の概要 分野 種類 労働時間制度 ●一般的な労働時間制度 ●柔軟な労働時間制度:変形労働時間制、フレックスタイム制、みなし労働時間制、裁量労働制 正社員制度 ■会社の事情に対応した制度  ●将来のキャリア形成に対する企業の期待の違い:総合職、一般職  ●仕事内容(職種)の違い:事務職、技術職、技能職、営業職など ■社員の事情に対応した制度  ●勤務条件の限定:勤務地、職務、勤務時間、勤務日数など 出典:筆者作成 事例 4 定年制廃止により再雇用者も正社員に復帰可能に  介護関連施設20カ所を運営する社会福祉法人Hは、介護業界全体が人手不足状態のなか、60歳以降の再雇用制度のもとで働いている高齢社員が、安心して働き続けられる環境を整えることを目的に60 歳定年制を廃止。さらに、定年制廃止に合わせて、正社員の柔軟な働き方を可能にするために短時間・短日勤務が可能な限定正社員制度を導入しました。限定正社員は労働時間の上限を週32時間にするとともに、週末の勤務が免除されます。正社員は自身のライフスタイルに合わせて限定正社員に変更したり、その後正社員に再び戻ったりすることも可能にしています。60代の高齢社員の1割が、現在限定正社員を選択しています。 出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構『65歳超雇用推進事例集2019』を一部修正 事例 5 ライフスタイルに応じて労働時間を柔軟に変更できる短時間正社員制を導入  交通事業を展開するI社は、優秀な人材の安定確保、ならびに従業員のライフサイクルに応じて正社員のままで柔軟な働き方に対応することを目的に短時間正社員制度を導入しました。同制度の対象者は正社員全員で、本人の希望に応じて1日の労働時間、もしくは週の労働日数の短縮を選択することができます。短時間正社員の利用期間は本人が希望する3カ月以上の一定期間で、利用回数に制限を設けていません。60代の高齢社員の約2割が、短時間制度を利用しています。 図表 短時間正社員制の概要 対象者 @短時間正社員への転換を希望する正社員 A短時間正社員として外部より採用される者 転換理由 制限は設けない 措置の期間 本人が希望する3カ月以上の一定期間 措置の回数転換回数に制限は設けない 職種 転換に際して、職種の変更は原則として行わない 労働時間 本人の希望をふまえて、個別に決定 1日の労働時間もしくは週の労働日数を短縮 出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構『エルダー』2019年3月号、およびI社ホームページをもとに作成 【P24-27】 解説 4 せっかく設備投資をしたのに高齢社員から不満が続出! 福岡教育大学 教育学部 准教授 樋口 善之 トラブルの要因  多くの高齢社員が働いているD社では、業務効率・生産性の向上と、高齢者が働きやすい職場環境の実現に向け、最新鋭の機械を導入しました。しかし、実際に導入された機械は、高齢者の身体特性に配慮しておらず、高齢者にとっては使いにくいものでした。  高齢社員への労働対策として、設備投資は非常に重要です。作業負担の軽減や省力化などが適切に行われれば、年齢にかかわらずだれもが働きやすい職場になります。せっかく設備投資を行うのですから高齢者の特性に応じて、生産性や働きやすさ≠フ向上につながるように対応したいものです。そこで、本稿では、高齢者の身体特性や職場環境改善のための基本的事項について解説していきます。 文字の大きさやコントラストに注意〜高齢者の視覚特性〜  まず、高齢者の身体特性と作業環境改善の面から、「視覚特性」を取り上げたいと思います。高齢者は、加齢とともに遠近調節力が低下し、焦点が合わせにくく、小さな文字や目盛りの数値を読むことがむずかしくなっていきます。マンガにもありますが、説明資料のような「小さな文字」は読みづらさの原因になりますので、可能なかぎり大きなサイズにしましょう。また資料だけでなく、操作パネルや案内表示についても同様の配慮が必要です。  文字の大きさに加えて、もう一つ重要なポイントは「コントラスト」と「作業環境の明るさ」です。コントラストは、背景と文字の明暗差≠意味し、端的にいえば、文字が背景に対してくっきり、はっきり≠オているかどうかを表します。背景が白系であれば文字は黒系、背景が黒系であれば文字は白系にするとよいでしょう。中間色(だいだい色や黄緑色)などはコントラストを下げる要因になりますので、極力避けましょう。  また、コントラストだけでなく、文字面の明るさも重要です。ディスプレイ表示の読みやすさについての研究において、高齢者の視覚特性を若齢者と比較した場合、表示輝度(きど)は、2倍程度にすると最も見やすいという報告もあります。特に明るさが乏しい場合、前述のコントラストの影響を強く受けやすいようです※1。作業環境における明るさ(照度)については、労働安全衛生規則(第604条、605条)やJIS規格(Z9110)もありますので参考にしてください。 高音が聞き取りにくくなる〜高齢者の聴覚特性〜  次に「聴覚特性」についてみていきます。聴覚は、視覚と同様に加齢とともに低下していきますが、傾向としては低音よりも高音(2000Hz以上)が聞き取りにくくなります。高い音の場合は音量を大きくする必要もありますが、一方で、大きすぎるとうるさく感じやすくなりますので、環境や作業者に応じて調整する必要があります。また背景騒音がある場合や会話などのスピードが速すぎる場合も、聞き取りづらさにつながります(26頁図表1)。  高齢者の聴覚特性に配慮した職場環境管理としては、「高音をさける」、「静かな環境を保つ」、「ゆっくり話す」、「補聴器を活用する」などがあげられます。また、音や音声の指示だけでなく、前述した視覚特性に配慮した視覚情報を組み合わせる(例えば、ボタンを押す必要がある場合はボタンが点滅するように機械を設定する、口頭説明に加えて紙資料を用いる)、などの方法も有効です。 高齢者の体力特性と省力化筋骨格系障害の予防・安全対策  体力特性について、筋力に着目すると上肢(腕力や握力)に比べて、体幹・下肢(腹筋や太ももの筋力)の方が低下しやすいことが知られています。体幹や下肢の筋力低下は、姿勢の保持や立ち上がり動作、歩行などに影響します。また、筋力の低下とあいまって、俊敏性や平衡機能についても加齢による機能低下が生じてきます。健康増進の観点からすれば、適切な運動習慣を持つことにより、体力水準の保持や衰退の進行を遅らせることができますので、70歳現役を目ざすのであれば、50代・60代からでなく、長期的な視点で20代・30代からの運動習慣形成が重要です。  省力化の観点から見た場合、重筋作業※2を代替するような設備投資は、高齢労働対策に適合した取組みといえるでしょう。例えば重量物の運搬作業を電動リフトなどにより省力化したり、最近開発が進んでいるアシスト・スーツ(動作・動力補助の機能が付いた着衣型の装置)を導入することが考えられます。しかしながら、一方的な設備機械の導入はかえって現場の混乱をもたらす可能性もあります。  その理由の一つは操作性の問題です。マンガでは、作業姿勢について触れられています。現場の作業者の体格に合っていなかったり、操作が複雑で、段取り作業に過度な手間がかかるようでは、働きやすさや生産性の向上につながりません。事前に導入についてのヒアリングやシミュレーションを行いましょう。  筋骨格系障害の予防の観点からみると、屈み姿勢や中腰姿勢、捻(ひね)り姿勢などは腰痛リスクを高めます。設備と作業者のマッチングに配慮し、作業面の高さや作業スペースについても気を配りましょう。作業面が高すぎたり、低すぎたりすると、肩こりや首痛にもつながります。また、作業スペースが十分でない場合、不自然な作業姿勢になることが多く、腰痛に代表される筋骨格系障害のリスクは極めて高まるといえますので十分注意してください。  また近年では、同一姿勢の保持が腰痛リスクを高めることがわかってきました※3。この同一姿勢には、捻りや中腰姿勢をともなわない、立位や座位も含まれます。「座ってできる作業なので大丈夫」と決めつけず、同一姿勢を極力継続しないよう配慮することは、高齢労働者のみならず、職場全体で気をつけるべき重要ポイントです。  次に安全面の観点から機械設備の導入を含めた職場環境改善についてみていきたいと思います。第一に考えたいことは転倒・転落の防止です。職場環境としては、「つまずき」、「踏み外し」、「滑り」の観点から職場を点検していきます。機械設備を導入することによって「つまずき」、「踏み外し」、「滑り」につながらないか確認しましょう。例えば、出入口や通路脇に物を置いているとつまずきの原因となり、水たまりや油汚れなどが床面にあると滑りの原因になります。また明るさが不十分だったり、機械設備によって影ができると、段差や突起を見落として、転倒・転落災害につながる場合があります。段差や突起などは極力解消することが望まれますが、諸事情によりむずかしい場合は、転倒・転落に対する注意喚起の表示を行いましょう。また滑りやすさに対しては靴底材や床材を工夫することにより耐滑(たいかつ)性を向上させることができます。安全靴を使用する場合はFマークがある(JIS T8101〈安全靴〉に適合している)耐滑性靴を採用することを検討しましょう。  次に、挟まれ・巻き込まれ防止対策について考えていきます。挟まれ・巻き込まれ災害は、労働災害全体の約1割を占め、機械の回転部分に挟まれたり、巻き込まれたりして、身体の一部の切断などの重大な災害につながる恐れがあります。基本的な考え方として、回転部や開閉部などの挟まれ・巻き込まれ災害につながる設備機械がある場合は、ガード(接触の防止)や安全装置(自動停止等)の設置、標識・表示などによる注意喚起、機械の保守点検を行い、また作業者側も服装や携帯物について挟まれたり、巻き込まれたりする恐れがないか″業開始前に確認するようにしましょう。加齢の観点からみると、@視認性の低下、A身体的空間位置関係の認識力の低下、B敏捷(びんしょう)性の低下などが災害リスクを上げることになります。視認性・認識力についてはトラテープ(黒・黄の危険表示テープ)をうまく活用し、また万一の場合でも機械設備側の安全装置が働くよう二重・三重の構えで対策を行ってください。敏捷性については、一朝一夕で向上するものではありませんが、準備体操や危険予知訓練などによりある程度補うことができると思います。 高齢労働者に対する研修機会の重要性  最後に高齢労働者に対する「研修」の重要性について触れたいと思います。マンガでは機械の使い方を説明していますが、個々人の職務適応能力を向上させるために、研修の機会を設けることは、高齢期におけるワーク・アビリティ(職務適応能力)≠フ維持・向上にとって重要な要因となります※4。職務上のスキルを向上させたり、新しい設備投資に合わせた研修の機会を提供することは、作業者のコンピテンス(能力)並びに働く意欲の向上につながります。  その際に気をつけたいことは、作業者に応じた研修になっているか、ということになります。研修の内容が高度過ぎたり、初歩的過ぎる場合には、その効果は望めません。説明や題材の工夫により、研修を受けた人の納得感や満足感を高めることができます。  設備投資の機会をうまく活かし、その設備によってどのような効果が見込まれ、今後の企業活動において作業現場に期待される役割はどのようなものなのかなど、トップダウン型だけでなく、職場からの改善提案や安全上の配慮、作業負担の低減化の実現など、ボトムアップによる設備機械導入も、検討してはいかがでしょうか。 ※1 窪田悟ほか(1999)「高齢者の視覚特性に適合した液晶ディスプレイの文字表示条件」,映像情報メディア学会誌,53(9)pp.1335-1342. ※2 重筋作業……身体全体の大きな筋肉を使い、仕事でエネルギーを消費するもの ※3 厚生労働省(2013)「職場における腰痛予防指針」https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/youtsuushishin.html ※4 K.Tuomi et al.「Promotion of work ability, the quality of work and retirement」,Occup. Med., 51(5) pp.318-324. 図表1 加齢による種々な条件下での会話の聞き取り度の変化 20歳代を100としたときの比率 % 20 30 40 50 60 70 80 90 100 年齢 20〜29 30〜39 40〜49 50〜59 60〜69 70〜79 80〜89(歳) ふつうの会話 反響のある場合 会話中にほかの音が入る場合 出典:長町三生『企業と高齢化社会(生涯的職務設計のすすめ)』日本能率協会、1977 図表2 高齢者が働きやすい職場づくりに向けた五つの要素 設備機械の導入に際して高齢社員の特性に考慮しましょう! 視覚特性 文字は大きく、はっきりしたコントラストで 聴覚特性 高音や背景騒音を避け、聞き取りやすく 作業姿勢 捻り姿勢・屈み姿勢をなくし、同一姿勢の継続にも注意 安全対策 つまずき・踏み外し・滑りのチェック、安全装置の整備と注意喚起の徹底 研修実施設 備機械の導入を作業者の作業意欲・職場満足感を向上させる機会に! 出典:筆者作成 【P28-29】 解説 5 高齢者雇用を支援する助成金制度 65歳超雇用推進助成金について 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 高齢者助成部 「65歳超雇用推進助成金」とは?  この助成金は、次の三つのコースで成り立っている制度です。  @65歳超継続雇用促進コース  A高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  B高年齢者無期雇用転換コース  いずれのコースも共通して、以下の要件を満たすことが必要です。 ・雇用保険の適用事業所の事業主であること ・「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の第8条、第9条第1項の規定と異なる定めをしていないこと  以下で@〜Bのコースの特徴を、ご説明します。 「65歳超継続雇用促進コース」とは?  この助成金は就業規則等による、「65歳以上への定年引上げ」、「定年の定めの廃止」、「希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入」を行う事業主に対して助成し、「生涯現役社会」の構築に向けて、高齢者の就労機会の確保および雇用の安定を図ることを目的としています。 (1)主な支給要件 ・就業規則等で定めている定年年齢等を、旧定年年齢(就業規則等で定められていた定年年齢のうち、平成28年10月19日以降、最も高い年齢)を上回る年齢に引き上げていること ・定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること ・改正後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ていること ・1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること ・高年齢者雇用推進者の選任および高年齢者雇用管理に関する措置※1を一つ以上実施している事業主であること (2)支給額  実施内容により、図表の額を支給します。 「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」とは?  この助成金は、高年齢者の雇用の推進を図るための措置(高年齢者雇用管理の整備措置※2)を実施した事業主に対して助成し、高年齢者の雇用の機会の増大を図ることを目的としています(平成31年4月1日新設)。 (1)高年齢者雇用管理整備措置の内容  @高年齢者の能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しまたは導入  A法定の健康診断以上の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (2)支給額  支給対象経費※3の60%《75%》、ただし、中小企業事業主以外は45%《60%》となります。 〔《 》内は生産性要件を満たす場合〕 「高年齢者無期雇用転換コース」とは?  この助成金は、高齢者が意欲と能力があるかぎり年齢にかかわりなくいきいきと働ける社会を構築していくために、50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換させた事業主に対して助成し、高齢者の雇用の安定を図ることを目的としています。 (1)申請する前に  「高年齢者無期雇用転換コース」への申請を考えている場合は、次の@、Aの要件を満たす必要があります。  @有期契約労働者を無期雇用労働者に転換する制度※4を労働協約、就業規則、その他これに準じるものに規定していること  A高年齢者雇用推進者の選任および高年齢者雇用管理に関する措置を一つ以上実施している事業主であること  これらの要件を満たしたうえで、無期雇用転換計画書の提出が必要となります。 (2)支給額 ・対象労働者1人につき48万円(中小企業事業主以外は38万円) ・生産性要件を満たす場合には対象労働者1人につき60万円(中小企業事業主以外は48万円) 「生産性」、「生産性要件」とは?  今後、労働力人口の減少が見込まれるなかで経済成長を図っていくためには、個々の労働者が生み出す付加価値(生産性)を高めていくことが不可欠である、との考えから、生産性を向上させた企業に対して助成額または助成率を割増して助成金が支給されることになりました。「生産性」は次の計算式によって計算します。 生産性=(営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課)÷雇用保険被保険者数 (ただし、企業会計基準を用いることができない事業所については、個別にお問い合わせください)  また、生産性要件とは次の@、Aの要件を満たしていることをさします。  @助成金の支給申請を行う年度の直近の会計年度における「生産性」がその3年度前に比べて6%以上伸びていること  A生産性の算定対象となる事業所において、生産性の伸び率を算定する期間に事業主都合による離職者を発生させていないこと助成金の詳細について  65歳超雇用推進助成金の詳細は、当機構ホームページ(JEED 検索)をご確認ください(ホームページを閲覧される場合は「当機構トップページ」→「高齢者雇用の支援」→「助成金」とお進みください)。  また、各助成金に関するお問合せや申請は都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課 65頁参照)までお願いします。 ※1 本誌表紙裏に掲載されている「65歳超雇用推進助成金のご案内」の※2をご参照ください ※2 55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要です ※3 措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサルタントとの相談に要した経費を支給対象経費とします。経費の額に関わらず、初回の申請に限り30万円の費用を要したものとみなします。2回目以降の申請は30万円を上限とする経費を支給対象経費とします ※4 実施期間が明示され、かつ有期契約労働者として平成25年4月1日以降に締結された契約に係る期間が通算5年以内の者を無期雇用労働者に転換するものに限ります 図表 「65歳超継続雇用促進コース」支給額 65歳への定年引上げ 66歳以上への定年引上げ 定年の廃止 66〜69歳の継続雇用への引上げ 70歳以上の継続雇用への引上げ @ 5歳未満 5歳 5歳未満 5歳以上 4歳未満 4歳 5歳未満 5歳以上 A 1〜2人 10 15 15 20 20 5 10 10 15 3〜9人 25 100 30 120 120 15 60 20 80 10人以上 30 150 35 160 160 20 80 25 100 (単位:万円) ★1事業主あたり(企業単位)1回限りとします ★定年引上げと継続雇用制度の導入をあわせて実施した場合でも支給額はいずれか高い額のみとなります ⇒@措置年数 ⇒A対象被保険者  (対象被保険者は、当該事業主に1年以上継続して雇用されている者であって、期間の定めのない労働契約を締結する労働者または定年後に継続雇用制度もしくは会社選別継続雇用制度により引き続き雇用されている者に限ります) 【P30】 高齢者雇用促進のためのその他の助成金 編集部  当機構の「65歳超雇用推進助成金」のほかにも、高齢者を雇用した場合の助成金として、「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース・生涯現役コース)」、40歳以上の中高齢者等が起業する場合に、事業運営に必要な従業員(中高齢者)の雇入れを行う際の採用・募集等の費用の一部を助成する「中途採用等支援助成金(生涯現役起業支援コース)」があります。いずれもハローワークや都道府県労働局が窓口となります。 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)  高齢者や障害者などの就職困難者をハローワークなどの紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に支給されます。この助成金の対象となる高齢者は60歳以上65歳未満の方です。  高齢者を雇い入れた場合の助成対象期間は1年間で、支給対象期(6カ月間)ごとに支給されます。支給額は「短時間労働者以外」(1週間の所定労働時間が30時間以上)と「短時間労働者」(1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の者)で異なり、中小企業が短時間労働者以外を雇用する場合、60万円を2期にわけ30万円ずつ(中小企業以外は50万円を2期にわけ25万円ずつ)支給されます。  中小企業が短時間労働者を雇用する場合は、40万円を2期にわけ20万円ずつ(中小企業以外は30万円を2期にわけて15万円ずつ)支給されます。 特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)  65歳以上の離職者をハローワークなどの紹介により、1年以上継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に支給されます。助成対象期間は1年間で、支給対象期(6カ月間)ごとに支給されます。短時間労働者以外を中小企業が雇用する場合、70万円を2期にわけ35万円ずつ(中小企業以外は、60万円を2期にわけて30万円ずつ)支給されます。  中小企業が短時間労働者を雇用する場合は、50万円を2期にわけて25万円ずつ(中小企業以外は40万円を2期にわけて20万円ずつ)支給されます。 中途採用等支援助成金(生涯現役起業支援コース)  40歳以上の方が起業する際の雇用創出措置(民間有料職業紹介事業の利用、募集パンフレットの作成などの募集・採用や教育訓練に関するもの)に要する費用について、その一部が助成されます。この助成金の主な支給要件として、起業基準日から起算して11カ月以内に「雇用創出措置に係る計画書」を提出するとともに、計画期間内(12カ月以内)に、60歳以上の労働者の場合1人以上、40歳以上60歳未満の労働者の場合2人以上、40歳未満の労働者の場合3人以上(40歳以上の労働者1人と40歳未満の労働者2人でも可)を、雇用保険の被保険者として雇い入れることが必要です。  助成額は、計画書の計画期間内に雇用創出措置に要した費用に助成率をかけた額です。助成率・支給上限額は起業者の起業時年齢によって異なり、60歳以上の場合、助成率は3分の2(支給上限額は200万円)、40〜59歳の場合、助成率は2分の1(支給上限額は150万円)です。また、一定期間経過後に生産性向上が認められた場合、右記助成額の4分の1の額が別途支給されます。 【P31】 日本史にみる長寿食 FOOD 310 トマトの丸かじり 食文化史研究家● 永山久夫 トマトは太陽からのプレゼント  トマトは、夏の太陽が「がんばるんだぞーっ」といって、プレゼントしてくれた赤い長寿食。カンカン照りの太陽のエネルギーを取り込みながら、はち切れそうに完熟したトマトは、日向(ひなた)くさい野生の味があり、ビタミンCやカロテン、抗酸化成分などが豊富に含まれています。  完熟したトマトに、ちょっと塩をつけて思いっきり丸かじりすると、果汁がぶちゅっと飛んだりしますが、まさに太陽が育てた生命力のほとばしりという感じがして、体中に健康であるとの自信がみなぎります。  トマトの原産地はペルーなどの南米。ナス科の植物で、ヨーロッパには16世紀の初めにもたらされ、18世紀になるとその栄養効果が知られ本格的に栽培されるようになります。  日本には江戸初期には伝わっていましたが、食用として栽培が盛んになるのは明治になってからです。 赤い色素成分で長寿力がパワーアップ  ヨーロッパでは、「トマトが赤くなると、ドクターが青くなる」ということわざがあるそうです。そのわけは、トマトが赤く熟するころになると、人々は栄養効果の高いトマトをたくさん食べるので、病人が減り、医師の出番が少なくなってしまう、ということ。それほどトマトは栄養豊富であることを表現しています。  現在と違って医療や薬が発達していなかった時代には、食物を上手に摂ることによって、病気を防ぐ習慣が何よりも大切だったのです。  トマト特有のさわやかな酸味は、クエン酸やリンゴ酸などで、食欲増進や健胃作用、さらには疲労回復にも有効といわれています。  完熟トマトは、わずかな酸味に混じって、甘味も増えています。太陽エネルギーによって、うま味成分であるグルタミン酸や果糖が多くなるためです。  ビタミンCやE、カロテンも多く、いずれも強い抗酸化作用、つまり老化防止作用があります。注目されるのは赤い色素成分のリコピンで、抗酸化作用に加えて、血液サラサラ作用も期待され、高血圧などを予防するうえでもパワーを発揮してくれます。 【P32-36】 マンガで見る高齢者雇用 アクティブシニアたちの挑戦! 第2回 広がる活用、集う仲間! 音で世界を幸せにするためのチャレンジは続く 株式会社サウンドファン (本社:東京都台東区) 〈先月号のあらすじ〉 世界初の特許技術で注目を集める、曲面振動板スピーカー「ミライスピーカーR」は、高齢者や難聴者にも聴き取りやすいという驚きの特性を持つ。開発したのは、その道のプロたちが興したシニアベンチャー企業=A「サウンドファン」。アイデアと技術を活かしたシニアたちの挑戦が始まった。 第1回はホームページでもご覧いただくことができます。エルダー 2019年6月号 検索 ※24ページ〜掲載 ※Founder……創立者 ※一般社団法人日本補聴器工業会Japan Trak 2018調査報告に基づく。 おわり 【P37】 解説 マンガで見る高齢者雇用 アクティブシニアたちの挑戦! 第2回 「広がる活用、集う仲間! 音で世界を幸せにするためのチャレンジは続く」 <企業プロフィール> 株式会社サウンドファン (本社:東京都台東区(たいとうく))  高齢者や障害者などの難聴者でも音が聴こえやすい「ミライスピーカーR」の開発・製造・販売・個人向けレンタルサービスを行っている株式会社サウンドファン。創業者である佐藤和則氏を中心に設立されたシニアベンチャー企業で、「音で世界の人を幸せにする!」という理念のもと、これまでつちかってきた技術や経験を活かして、多くのシニア人材が活躍している。 「シニア人材の活躍とミライスピーカーRの可能性の拡大」  だれにでも聴こえやすい、「音のバリアフリー」環境を実現するミライスピーカーRは、各方面から注目を集め、さまざまな要望に応える形で、改良・開発が進められている。小型化をはじめ、メガホン型やディスプレイ機能を備えた大型製品の開発が進み、用途も個人での利用だけではなく、駅や病院といった公共施設のほか、大規模イベントや、災害時の避難場所など、さまざまな場面での活用も期待できる。こうした新製品の改良や開発、協力体制の構築にも、シニア人材の持つ技術や経験、人脈が、最大限に活かされている。 「多世代の融合」  シニア人材が中心となり創業された同社だが、創業以降、新たなシニア人材はもちろん、若手や中堅世代の人材も加わり、事業の強化に努めている。若手からシニアまで、年齢や役職にとらわれず、自由に意見をいい合える社風があり、世代を問わず、従業員が活き活きと活躍している。 「柔軟な働き方」  シニア人材の場合、体調や家族の問題などから、フルタイムの出勤がむずかしくなるケースも少なくない。同社では、従業員一人ひとりの事情に合わせ、柔軟な勤務形態が取れるよう配慮に努めている。 【P38-39】 江戸から東京へ 第82回 隠居もできなかった男 大久保一翁 作家 童門冬二 直言(ちょくげん)で要職を何度もクビに  大久保一翁は名を忠寛(ただひろ)といって、家は三河以来の徳川家の臣だった。それも忠臣だ。代々、頑固一徹で正論を唱え、これに拘(かかずら)った。また、直言※1癖があって、そのためにしばしば役を免ぜられ冷や飯を食った。一翁もその先祖以来の習性を忠実に守っていた。だから、幕府では常に要職に就いたが、すぐ上役と喧嘩して免職された。そのたびにかれは、  「やってられない。隠居する」 といって、隠居した。ところがすぐ幕府から呼び出しがくる。幕末の幕府は、内外共に多端(たたん)を窮(きわ)め、一日として落ちつくことができなかった。かつて経験したことのない難題が次々と来る。その難題が訪れるたびに、首脳部は、  「この対応は大久保にやらせろ」  ということになる。大久保はそれほど有能だった。  文久(ぶんきゅう)年間になると京都朝廷の勢いが強まり、公家(くげ)の一部がしきりに攘夷(じょうい)論※2を唱えた。長州藩をはじめ、これに同ずる大名家もいくつかあった。そのころ大久保は「禁裏付(きんりづ)き(朝廷付き)」という、幕府と朝廷の連絡役をやっていた。だから、過激な公家の意見がどんどん耳に入る。大久保はこのとき上司の一橋(ひとつばし)慶喜(よしのぶ)や将軍家茂(いえもち)(十四代)に、  「攘夷などとてもできません。できないことをやれというのなら、いっている本人にやらせた方がよろしい。この際、大政(たいせい)を奉還して徳川家は一大名となり、朝廷や長州藩などに攘夷を実行してもらおうではありませんか」  といって慶喜や家茂を困らせた。しかしこのときのかれの苦言は、幕府が倒れた後に実行される。すなわち、慶応三年の慶喜による大政奉還と、それに続く王政復古によって、徳川幕府は消滅してしまったからである。  新政府は、徳川家に対して駿河・遠江(とおとうみ)(いずれも静岡県)・三河(愛知県東部)で、家の存続を認め七十万石を与えた。まさに、大久保が文久年間に主張していた通りになったのだ。大久保は、新設の静岡藩徳川家の家老になった。  「徳川家が存続した」  という噂を聞き、失業した旧幕臣がどっと静岡に押し掛けて来た。そして、再雇用を願った。しかし、四百万石か六百万石もあった収入が七十万石に減ったのだから、失業幕臣を全部抱えるわけにはいかない。  大久保は弱った。 渋沢栄一に失業幕臣の救済を委任  このとき、パリの万国博覧会に出席していた慶喜の旧臣渋沢栄一が帰国してきた。慶喜が旧主人なので静岡へ挨拶に来た。栄一は、パリでナショナル銀行の頭取と仲良くなり、株式や資本主義の基本を学んできた。そして、日本にも最初の銀行をつくって、日本の財政を近代化しようと意気込んでいた。しかし、旧主人の慶喜は朝敵(ちょうてき)の汚名を着せられ、静岡の一寺院に謹慎していた。渋沢は慶喜のところに挨拶に行った。慶喜は渋沢の志を聞き賛同したが  「その前に、頼みがある」  といった。渋沢が頼みを聞くと、慶喜は、  「手段は分からぬが、とにかく静岡に溢れている旧幕臣の生活を救ってやってくれ」  といった。渋沢は、すぐ江戸(東京)に行って、銀行を開くつもりでいたから、これには賛同できなかった。複雑な思いで戻って来ると、待っていた大久保が渋沢を呼び出した。渋沢にとって大久保は旧上司になる。大久保はいった。  「おまえの気持ちはよくわかる。しかし、いま旧幕臣の困窮をそのままにしてお前が東京に行けば、慶喜公が誤解を受ける。つまり、渋沢栄一というフランス帰りの人間を使って、慶喜は基金をつくろうとしている。その基金は、新政府に謀反を起こすものだ。そういう誤解を受けたら、慶喜公の立場がない。頼む。静岡に留まって、旧幕臣の失業者を全部救ってやってくれ。そのうえで、東京に出て思い通りの仕事をしてくれないか」  渋沢も人情深い。大久保の言葉はよく理解できた。いつも、  「決して、日本人の精神は忘れまい。特に、学んだ『論語』の精神を重んずる」  という信念を持っていた。渋沢は、大久保の言葉にしたがった。このとき渋沢は、  「フランスで学んだ株式の制度を、この静岡で実験してみよう」  と思い立った。そして、失業武士のためにお茶の生産という事業を考えた。資金は徳川家の新領土で富裕な商人や農民から借りる。ただ借りるのではなく、茶の事業で利益を得たら、その一部を出資額に応じて配分するという方法だった。そのために静岡商法会所という組織をつくった。この事業は当たる。というのは、茶は開国した日本の売れ筋であり、輸出品の目玉だったからだ。生糸(きいと)と共に爆発的な人気を呼んでいた。静岡に群れていた失業者たちはたちまち救われた。この成功に大久保も満足した。  (これでやっと隠居ができる)  と思った。が、できなかった。東京府知事に任命されたからである。 【P40-41】 第63回 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは  渡邉英子さん(79歳)の履歴書は1ページに収まりそうもない。栄養士としてのキャリアも長く、経理事務にも精通している。これまでの経験を活かして、現在は家事代行という仕事に生きがいを見出している渡邉さん。どのようなときも前を向いて働き続けてきた渡邉さんが生涯現役の醍醐味(だいごみ)を語る。 株式会社 イエノナカカンパニー 家事代行スタッフ 渡邉(わたなべ)英子(えいこ)さん 夫とともに欧州へ武者修行  私は福井県大野(おおの)町(現・大野市)で産声を上げました。大野町は400年以上続く城下町で、先祖をたどっていくと武家につながる家柄だそうです。このため、とにかく厳しく育てられ、正直に生きることを幼いころから叩き込まれました。父が転勤族だったので中学までは県内を転々とし、高校に入ってから福井市内に落ち着きました。本当は大学に進みたかったのですが、弟や妹もいたので長女の私は銀行に就職しました。  現在とは異なり当時の銀行は、女性の行員が長く働きにくい風潮がありました。このため27歳のときに思い切って上京し、栄養専門学校に入学しました。これからの時代は免許があれば食べていくのに困らないだろうと考えて、調理師、栄養士、衛生管理者の免許・資格を次々に取得しました。  専門学校卒業後に病院の調理場に就職し、専門学校で知り合った男性と結婚しました。その後、夫がドイツに修業に行くことになり、夫婦そろってベルリンで働くうちに、長女を授かりました。一時、イギリスに渡りますが、すぐにドイツに戻り、今度はドイツの大学の付属病院の調理場に採用されました。そのとき私は34歳、その後の波乱万丈な人生を予感したことを憶えています。  ドイツで「ザワークラウトをつくれ」といわれた渡邉さん。それがどういう食べ物かよく知らないまま、まちがって大量の「酢の物」をつくってしまったところ、「女性の上司に真っ赤な顔で怒られました」とにっこり。度胸のよさが渡邉さんの真骨頂(しんこっちょう)なのだ。 人生の楽しみはチャレンジすること  大学の付属病院の調理場で3年勤め、やっと慣れたころに夫が「アメリカに行きたい」といい出しました。向上心旺盛な夫に感化されたのか、私も転職は苦ではありません。知人の紹介で、ほどなくニューヨークの日本企業のキーパンチャー※として採用されました。畑違いのようですが、実は密かにあこがれていた世界で、関連の教本を持ってきていましたので、中古のタイプライターを購入し1週間でマスターしました。あこがれのキーパンチャーを続けてこのままニューヨークで暮らしていくはずでしたが、「そろそろ帰国してはどうか」という声が日本から聞こえてきましたので、42歳のときに夫と帰国しました。  日本に帰国してからは、弁当専門店や大手のパンメーカー、大企業の社員食堂などで働きました。パンメーカーでは正社員として働きました。その後、50代の終わりになって、夫から資金繰りに苦しむ建設業の知人に力を貸してほしいと頼まれ、経理を手伝うことになりました。ここで銀行員の経験が活きるのですから、人生は不思議です。会計ソフトを導入して、パソコンも一から勉強し、会社が安定するまでの11年間勤め上げました。  渡邉さんは、建設会社で経理の仕事をしながら、建設業経理事務士3級や給水装置工事主任技術者などの資格を取得して、会社に貢献する。「夫に振り回された人生です」といいながら、挑戦者であることをやめない。 「みなと*しごと55」で新たな一歩を  高校を卒業して銀行に勤めてから働き詰めの日々で、出産のとき以外は働いていたように思います。経理を担当していた建設会社を退職したのが60代の終わり。それでも、まだ自分にできることが何かあるのではないかと自問自答していました。結局、私は働くことが好きなのだと思います。  東京都港区に在住している私は、ある日「みなと*しごと55」という無料職業紹介所のチラシを目にしました。「みなと*しごと55」は、おおむね、55歳以上の方の就業機会の創出を図ることを目的とした就業支援窓口で、2009(平成21)年に開設されました。さっそく相談に出向き、合同説明会などにも参加し、いまお世話になっている「イエノナカカンパニー」の前身の会社を紹介され、2010年に登録しました。その会社は家事代行業を手がけており、これなら70歳を超えた自分でも働けると確信しました。  家事代行と一口にいってもその内容は多岐にわたります。登録後、初めてうかがったお宅では朝食づくりが専門でした。奥さまとお嬢さまが犬の散歩に行かれている間に、下のお子さまを見守りながら食事をつくるという仕事もありました。また、「布団を干す」こともあり、正直これは大仕事でした。ただ、食事づくりはお手の物で、栄養士として働いてきた経験が存分に活かせました。失敗も数知れずあります。ガスコンロをピカピカにしようとつい力を入れ過ぎてしまい、コンロを傷つけて青ざめたこともありました。  渡邉さんが登録した会社は、いまは「イエノナカカンパニー」として単身者向けの家事サービスやシェアハウスの共用部分の清掃など、時代に対応したサービスを提供、オーダーメイドの家事代行を視野に置いている。 家事代行の仕事に生きがいを見出す  会社組織が変わることがあり、「仕事がなくなるのでは」と心配したこともありましたが、「何があっても渡邉さんにお願いしたい」というお客さまの言葉に励まされました。  現在は月曜日のみ朝8時半から12時半まで朝食づくりや掃除、アイロンかけなどを行っています。下の女の子が生まれたときからのおつき合いで、8年が経ちました。まんなかの男の子がなついてくれず悩んだこともありましたが、挨拶がきちんとできる礼儀正しい子に成長し、とても嬉しく思っています。  お客さまがご不在のときは、しっかり留守を預かるという意味で緊張しますが、この緊張感が大切なのだと思います。高齢者には「キョウヨウ」と「キョウイク」が大切だといわれます。つまり、「今日(きょう)、用(よう)があること」「今日(きょう)、行いくところがあること」。用があり、行くところがある私は幸せです。80歳になろうとする私を必要としてくれる方がいらっしゃるのです。  高齢者にとって社会とつながることは、生きがいを持って日々を過ごすために不可欠な要素だと思います。私は地域の消防団でも30年近く活動しており、消防団活動のなかからハンドベル演奏という楽しみを教えてもらいました。30年以上続けている書道と合わせて、私の日々にいろどりを添えてくれます。  夫は、いまも元気です。思い立ったら行動するところは昔から変わりませんが、おかげさまで面白い体験をさせてもらいました。真面目一辺倒の家に育った私には刺激的な日々の連続であり、生涯現役を目ざせる原動力はここにあります。 ※ キーパンチャー……コンピュータで処理するためのデータを入力する職業 【P42-45】 高齢者の現場 北から、南から 第86回 高知県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー※(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 働き続けられる職場と風土を育み従業員の意欲と安心感がアップ 企業プロフィール 株式会社小谷(おだに)設計(高知県高知市) ▲創業 1980(昭和55)年 ▲業種 介護サービス事業(有料老人ホーム、デイサービス、訪問介護) ▲従業員数 177人 (60歳以上男女内訳)男性(1人)、女性(58人) (年齢内訳)60〜64歳 25人(14.1%) 65〜69歳 22人(12.4%) 70歳以上 12人(6.8%) ▲定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員67歳まで継続雇用。以降も条件が合えば再雇用する 有料老人ホーム2カ所を経営。写真は、有料老人ホーム野いちご みつばち(南国市)  四国の南側に位置し、東西に細長い扇のような形をしている高知県。面積は約7104km2で、四国四県で一番広い県です。森林が9割近くを占めている森林県であることが特徴ですが、黒潮に育まれる水産資源にも恵まれ、自然の美しさや豊かな海の幸、山の幸が大きな魅力です。土佐和紙、土佐打刃物(うちはもの)、土佐サンゴなどの伝統産業も有名です。  当機構の高知支部高齢・障害者業務課の中野亮(りょう)課長は「第一次産業では、しょうが、みょうが、ゆずなどの日本一の生産地です。工業では農機具やセメント、紙の製造をはじめ、最近では電子部品などの出荷額が伸びています。大規模な工業地帯はほとんどない県ですが、ニッチな分野における優良企業があります」と高知県の産業の特徴を語ります。  同支部では、プランナーによる企業訪問や各種セミナーなどにより、県内企業の高齢者雇用の支援を続けています。  今回は、同支部で活躍する65歳超雇用推進プランナー・濱田(はまだ)剛正(たかまさ)さんの案内で、株式会社小谷設計(高知市)の運営する有料老人ホームを訪ねました。 先進事例に学び、取り入れる  小谷設計は、1980(昭和55)年に設計事務所として設立され、2004(平成16)年から介護サービス事業を手がけ、現在では南国市内に、「有料老人ホーム野いちご 南国」、「有料老人ホーム野いちご みつばち」(ともに、デイサービスセンター・訪問介護ステーションを併設)を有し、介護サービス事業をメインに展開しています。  これらの施設運営は、「利用者第一・法令遵守・職員の和」をモットーに業務に励み、安心かつリーズナブルな価格で利用できることが評判を呼んで遠方からも利用者が集まり、少しずつ事業を拡大してきました。  濱田プランナーは、「経営の主体となっている有料老人ホームには2017年に訪問しました。人材が豊富で、配置人数に余裕があることなどから、有給休暇の取得率も高く、また、高齢者の忍耐強さ、利用者と年齢が近く話が合うなどの特徴に加え、自分の親の介護経験を有する高齢従業員の特性を考慮して、業務を割り振っていました。建物も新しく、バリアフリー化も進んでおり、先進企業としてすでにすぐれた取組みをしていました。そのため、私のアドバイスは必要ないほどの充実した環境でした」と同社の取組みに最初から感心したと語ります。  そこで、当機構の「平成30年度高年齢者雇用開発コンテスト」への応募をすすめ、同コンテストで特別賞を受賞しました。  同社の有料老人ホームの管理者を務める木悠(ゆう)取締役副社長は、「いろいろな勉強会に参加して、ほかの地域の先進事例を学び、参考にして取り入れてきました。高年齢者雇用開発コンテストは、受賞はもちろん、まず推薦していただけたことが嬉しかったですし、当施設のこれまでの歩みを見直す機会となりました」と笑顔で振り返ります。 働き続けられる職場をつくる  二つの有料老人ホームで勤務する従業員数は現在177人。介護職129人、看護師や機能訓練士23人、介護なしの業務スタッフ25人です。  高齢者雇用には、最初から力を入れていたのではなく、もともと高齢従業員が多く、年齢を重ねてもさらに働き続けられる職場でありたいと、定年年齢の引上げや柔軟な働き方への対応に取り組んできたといいます。  具体的には、2016年に定年年齢を60歳から65歳へ引き上げ、希望者全員を67歳まで継続して雇用する制度を整えました。  さらに、次の内容にも取り組んできました。 ◎柔軟な働き方への対応/面接時に働く際に必要な配慮を聞くほか、従業員へのこまめな声かけを行い、体調を崩した従業員や、家族の介護を要する従業員に対し、業務の見直しや勤務時間の相談に応じ、無理なく続けられるよう一人ひとりに合わせた働き方となるよう対応している。 ◎正社員雇用転換制度を整備/6カ月以上の業務経験を有し、正社員への転換の希望があり、その所属長より推薦を受けた従業員は正社員に転換することができる。同制度により、5年前は正社員数22人だったが、現在は従業員177人のうち、100人が正社員。 ◎研修受講費用の負担/実務者研修の受講費用を全額負担。受講を促進し、研修を修了した従業員には正社員への転換をうながす。60歳を過ぎた従業員も受講し、正社員へ転換している。 ◎有給休暇取得率の向上/「働き続けるためには休むことも重要」と考え、「休みやすい職場づくり」を推進。「お互いさま」の風土を育み、有給休暇の取得率はほぼ100%になっている。 ◎介護なし業務スタッフ/業務のあらい出しを行い、資格が必要な介助作業と、資格なしでも行うことのできる清掃、食事の配膳などの仕事に分けて、介護未経験でも就きやすく、体力的に負荷の少ない業務のみを行うスタッフ制度を構築。これにより、従来から多様な人材を採用することができている。また、介護職は専門業務に専念できるメリットもある。 ◎夜勤専従スタッフの配置/夜勤専従の正社員、夜勤のみのアルバイト従業員を雇用している。  これらの取組みにより、定年後も身体が続くかぎり働けることや、何か事情があっても業務や勤務時間を見直して働き続けられるということが従業員に浸透し、結果として、従業員の意欲と安心感が増しているといいます。同時に、事業拡大とともに従業員数が増え、一人ひとりに合わせた柔軟な働き方への対応が行いやすくなっています。  今回は、65歳で入社して介護の仕事に初めて就いた女性従業員と、体力に合わせて業務内容と勤務時間を変更して仕事を続けている男性従業員にお話をうかがいました。 「勇気や元気がいただける仕事です」  公文(くもん)三枝子さん(67歳)は、公務員を50歳で早期退職した後、ホテルに勤務しながらお母さまの看病をしていましたが、「母を看取った後、元気をなくしてしまって」と振り返ります。そんなある日、娘さんから訪問介護員養成研修(当時)の受講をすすめられ、3カ月間学んで修了。打ち込めることを見つけたことで、少しずつ元気を取り戻していったといいます。  その後、小谷設計に入社し、「有料老人ホーム野いちご みつばち」で働いています。  「娘がここで働いているのですが、まさか65歳の私が雇ってもらえるとは思っていませんでした」と公文さん。ヘルパーの勉強はしたものの、仕事として行うのは初めてだったので慣れるまではたいへんだったようですが、ホームの利用者の方の生活を支える掃除や洗濯、おむつ交換、お茶出し、食事介助などを担当して活躍。以前はフルイム勤務でしたが、足や腰の痛みがあることから、いまは体力に合わせて午前8時から午後1時までの半日勤務をしています。  木副社長は「短時間勤務に変わりましたが、いつも一生懸命働いています。無理のないよう続けてほしい」と公文さんのことを語ります。  公文さんは、「足が弱くなって痛みもあるのですが、仕事をしている間は不思議と痛みを感じません。半日勤務だから続けていられると思います。感謝しています」と話します。また、「利用者の方からのちょっとした言葉に、勇気や元気をいただいています。力になってあげたいという気持ちになります」と仕事を語りました。 配置転換により勤務を継続  小笠原(おがさわら)一仁(かずひと)さん(58歳)は、家具製造会社などを経て52歳で小谷設計に入社しました。数カ月前までは、「有料老人ホーム野いちご みつばち」のデイサービスセンターでフルタイム勤務をしていましたが、体調を崩して入院し、体力が低下しているため、現在は、同施設で午前8時30分から午後4時までの短時間勤務をしています。  仕事は主に、ホームの利用者の生活のサポートで、居室・各棟のごみ収集、清掃、排泄介助、洗濯、移乗、配茶、食事介助など。デイサービスに比べると、ある程度自分のペースで作業ができる部門だといいます。  木副社長は、「小笠原さんは、入社後に実務者研修を修了し、デイサービスで長い間バリバリ働いていました。体調を崩した際、小笠原さんから辞職の相談があったのですが、『勤め続けられる働き方を考えよう』と配置換えを提案し、受け入れてもらいました」と話します。小笠原さんはこの対応に、「ありがたいことです」と、喜びをかみしめるように語りました。いまの仕事で小笠原さんが心がけているのは、「何ごともていねいに、早く行うこと。利用者に対してやさしく接すること」など。身体の様子をみながら、「定年の65歳まで働いていたい」と、希望を話してくれました。 キャリアアップを図っていきたい  今後も施設の利用者が、快適に過ごすことができるよう、木副社長は同社の従業員が安心して働き続けられる職場づくりにいっそう力を入れていきたいと考えています。  「ここまで、制度づくりのために取り組んできて、課題も見えてきています。一つは、介護なし業務スタッフのキャリアアップの道筋をどうつくるか。仕組みづくりができるとよいのですが、働きやすさも大事にしたいので、柔軟な部分と仕組みづくりをどう両立したらよいか。また、介護に従事する従業員の専門性を高めることやキャリアアップについて、従業員の意識をさらに高めていきたいという思いもあります」と木副社長。  この日、さっそく濱田プランナーと介護人材のキャリアパスなどについて話をし、「今後もサポートしていただければ」と木副社長。「これから介護職も変わっていくと思いますので、従業員には自分で考えながら意欲的にこの仕事に臨んでほしいと考えています。年齢にかかわりなく、キャリアアップをしてほしいですし、高齢従業員には若い人にはない人生経験のよさを活かして、身体が続くかぎり勤め続けてほしいです」と今後を語るなかで、高齢従業員の活躍に今後もさらに、期待を寄せています。 (取材・増山美智子) 濱田剛正 プランナー(54歳) アドバイザー・プランナー歴:4年 [濱田プランナーから] 「高知県の高齢化率は高く、多くの企業は65歳以上の高齢者を雇用しなければ経営がむずかしいという実状である反面、その世代を雇用するための制度化の遅れが多く見受けられるため、事業所を訪問する際は、高齢者雇用の必要性に関し、独自の資料を用いてていねいに説明することを心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆高知支部の中野課長は、濱田プランナーについて、「ざっくばらんな人柄で、企業の担当者からも『本音で相談ができる』といわれている、頼りになる存在です。高知県の社会保険労務士会でも理事を務め、社会奉仕団体にも所属するなど、多岐にわたって活躍しています」と、太鼓判を押します。 ◆高知支部高齢・障害者業務課には、5人の65 歳超雇用推進プランナーが在籍し、県内事業所などを訪問して相談・助言活動に取り組んでいます。1年間に約200 社の企業にアプローチをしています。 ◆高知支部は、JR高知駅から路面電車で約20分の「桟橋(さんばし)通四丁目」下車すぐ。高知職業能力開発促進センター内にあります。高知市中心部や有名な「はりまや橋」へも路面電車で行くことができる、アクセスのよい場所です。 ◆各事業所の状況に即した相談・助言を無料で実施しています。  お気軽にお問い合わせください。 ●高知支部高齢・障害者業務課 住所:高知県高知市桟橋通四丁目15-68 高知職業能力開発促進センター内 電話:088(837)1160 ※65歳超雇用推進プランナー……当機構では、高年齢者雇用アドバイザーのうち経験豊富な方を65歳超雇用推進プランナーとして委嘱し、事業主に対し、65歳を超えた継続雇用延長・65歳以上への定年引上げなどにかかわる具体的な制度改善提案を中心とした相談・援助を行っています 木悠取締役副社長 テキパキとした動作で洗濯をする、公文三枝子さん。有料老人ホームの利用者の生活を支えている 有料老人ホームの利用者の方が使用する湯たんぽを用意する小笠原一仁さん 【P46-49】 高齢社員の磨き方 ―生涯能力開発時代へ向けて―  生涯現役時代を迎え、就業期間の長期化が進むなか、60歳以降も意欲的に働いていくためには、高齢者自身のスキルアップ・能力開発が重要になるといわれています。つまり、生涯現役時代は「生涯能力開発時代」といえます。本企画では、高齢者のスキルアップ・能力開発の支援に取り組む企業の施策を、人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説します。 第3回 株式会社TMJ(東京都新宿区) 人事ジャーナリスト 溝上みぞうえ)憲文(のりふみ) 研究に基づき採用・育成プログラムを構築高齢人材「エルダー」の採用を本格化  高齢人材の活用において、加齢による認知機能の低下など、心身の変化に応じた能力・スキル開発が重要な課題になりつつある。そうした高齢者の特性を考慮した独自の育成・研修プログラムを開発し、高齢人材の戦力化に取り組んでいるのが「株式会社TMJ」である。  同社はコールセンターや事務処理センターの受託・運営を行うアウトソーシング事業を展開している。全国13拠点に約7000人のスタッフが従事しているが、もともとスタッフは若年層が主体となっていた。しかし、地域によっては人手不足が顕在(けんざい)化し、高齢人材の活用を決断。  子育てが一段落した50代から70代の主婦層や、定年退職後のセカンドキャリアとして仕事をしたいシニア層など、就労に意欲的な人材を積極的に採用していくこととし、特に採用状況が厳しい北海道・札幌地区において、2017(平成29)年1月から、「エルダー」と呼ぶ50歳以上の人材の採用を本格化した。  現在、エルダーのスタッフは約1800人。以前から50歳以上も採用していたが、2017年の本格採用以降は、毎年スタッフが前年の2倍以上になるなど倍増している。エルダーの採用と定着を支えているのが同社の採用・育成プログラムだ。実はプログラムの開発にあたっては、2011年から東京大学の産学ネットワーク「ジェロントロジー(老年学)」に参画し、コールセンターにおける高齢者対応に関する研究が大きく寄与している。  人材本部の木下(きのした)哲(さとし)本部長は、産学ネットワーク参画の経緯についてこう語る。  「当初はコールセンターに電話をかけてくる高齢者にいかに対応するか≠ニいう観点から、高齢者の特性を学ぶためにスタートしたものでした。その後、高齢者が的確な仕事ができるようにするにはどうするか≠ニいう就労に関する課題について研究するとともに、実際に当社で働いている70代など高齢者の就労の実態を調査してきました。そこで得られた知見やデータを集約し、採用の基準や研修のプログラムに活かす取組みを重ねてきました。そうした5〜6年の取組みの蓄積を体系化し、2017年1月から高齢人材の採用・育成の本格的スタートにふみ切ったのです」 「くり返し」の学びで理解度を深める通常採用の人材とは異なる研修プログラム  通常の採用活動では、早期離職の防止やパフォーマンスの発揮などの採用基準に基づいた採用検査システムで判断するが、エルダーは許容範囲を広げて柔軟に採用している。人材本部人事戦略部TMJユニバーシティの川添(かわぞえ)千寿子(ちずこ)氏は、採用の判断についてこう語る。  「コールセンターの仕事なので、聞き取りが困難な人はむずかしいのですが、基本的にはコミュニケーション能力を重視します。また、早期離職の要因となる持病や家族の介護を抱えている人は確認しながら判断します。業務に不可欠なパソコンスキルについてはタイピングテストを実施していますが、通常の採用よりも基準を下げて柔軟に判断しています」  そうして採用した人材を一人前に育成するには、研修や職場での教育が大事になるため注力しているのが入社後の研修だ。コールセンターのオペレーターの仕事は、顧客からの問合せに対応する「受信業務」と、営業などの電話をかける「発信業務」の二つに分かれる。研修は「プレ研修」と、配属後の「業務研修」が行われるが、通常のプレ研修が3時間半なのに対し、エルダーに対しては3日間かけて行っている。また、1回の研修参加者数は通常は約50人だが、エルダーは約10人と少人数にしている。  エルダーの研修を長時間かつ少人数としているのは、トライアルのテストケースをふまえてのもの。木下本部長は、「テストケースでは、通常と同じ研修で『やはり無理です。私は覚えきれません』といって離脱した方もいました。試行錯誤を重ねながらプログラム化を進めました」と話す。研修は同じ内容をくり返し学び、理解度に応じて進めることを基本にしている。  「プログラムはほかの年代層と同じレベル感で、業務研修に参加できることを目標に設計しています。基本的には同じ内容をくり返し練習することで上達しますし、そのために長めの時間を設定しています。また、疲れないように60分ごとに10分の休憩を設け、休憩中には、記憶を活性化させるために、手を使った体操なども実施しています」(川添氏)  3日間のプログラムは図表の通りだ。初日は丸1日、2日目と3日目は半日研修で構成されている。初日に行われる会社の理念や概要の説明に続いて目を引くのが「マインドセット」だ。コールセンターの役割を理解し、業務に対してやりがいを感じてもらうのが目的。また、エルダーは、保有する知識や経験が一人ひとり異なっているケースが多い。  「これまで組織のなかで働いたことがない主婦の方もいれば、管理職の経験が長い人もいます。一方で、指導役の管理者は若手が多い。コールセンターでの仕事は、年齢や経験を問わずチームとして成果を出していく仕事であり、管理者と目標を共有し、チームの一員として協力して仕事をすることの重要性を理解してもらうように努めています」(川添氏)  次の「脳の活性化トレーニング&タイピング」も、高齢者仕様のメニューの一つ。いわゆる脳トレとタイピングのトレーニングを組み合わせて、記憶力やパソコンの処理速度の向上を目ざしている。  「年齢を重ねると、筋肉と同じで記憶力などの機能が衰えていくこともあります。パソコンを使ったトレーニングによって脳の活性化を図り、同時にマウス操作もスムーズにできるようにします。プレ研修後の業務研修では覚えることも多いので、このトレーニングを通じて脳を活性化してもらいます」(人材本部人事戦略部TMJユニバーシティ・山田敬三(けいぞう)氏)  電話応対の基本である、顧客との話し方や聞き方などのコミュニケーションの方法については、エルダーでもわかるようにロールプレイングを交えながら理解してもらう。高齢者のなかには、口の開き方がうまくできずに滑舌(かつぜつ)がよくない人もいるので、声の出し方や抑揚のつけ方など、発声練習をくり返して行う。電話応対の基本は業務の根幹であり、2日目も同じ時間を割いて学ぶ。また、すべてのメニューにおいて振返りの復習を行うことで、業務研修への不安感を払拭(ふっしょく)することに主眼が置かれている。 講師を務める現場責任者向けの研修でエルダーを育成するためのスキル≠習得  業務研修は、受入先の各センターで実施される。発信業務の研修は1〜2日程度だが、受信業務を学ぶ研修は1〜3カ月間の長期におよぶ。発信は定められた内容を顧客に対し案内することがメインだが、受信はカスタマーサポートなど、顧客の質問に対応するために学習する専門的知識も多いからだ。研修は実践をともなうOJTとOFF−JTを組み合わせて行われ、1週間に1回、進捗状況を確認するための個別面談も開催される。  業務研修でも、高齢者の特性に応じたさまざまな工夫がなされている。一つは研修テキストの読みやすさの工夫だ。通常のスタッフよりも字を大きく表示し、さらに図やイラストをできるだけ多用し、理解しやすくしている。また、黄色や青・緑など一定の色が識別しにくいという高齢者の特徴を考慮し、見えにくい色を使わないようにしている。  さらに業務研修や指導を行う現場の責任者に対し、エルダー対応の事前研修も実施している。これも東京大学の産学ネットワークの研究から生まれたものだ。  近年では若者の多くがパソコンやスマートフォンを活用するため、コールセンターに電話をかけてくる比率は高齢者が必然的に高くなる。そこで産学ネットワークを通じて、高齢の顧客に対し、どうすればわかりやすく説明し、納得してもらえるかの研究を行っていたという。その研究をベースに、エルダーが気持ちよく学び、仕事をしてもらうために、マネジメントをする側≠ェエルダー特性を理解するための、マネジメント研修がスタートした。  研修の対象はエルダーを受け入れる札幌地区のセンターのマネージャーとリーダーの96人。採用が本格化する前年の2016年から始まった。エルダーには親子ほど年齢が違う人もいれば、つちかってきたキャリアに対する自負心が強い人もいる。相手の話を「そうですね」としっかりと受け止めつつ、わからないところは素直に聞いてもらえるような関係性をつくり上げることを重視している。  また、前述したテキストを読みやすくする以外にも、「プロバイダー」、「HTML」といった専門用語のカタカナ言葉をわかりやすく言い換えて伝えるようにしている。  実際に同社の研修・育成プログラムはエルダーにも好評だ。川添氏は「プレ研修については『こんなにていねいに教えてもらった経験がないので非常にありがたい』という声もいただいています。また、学ぶことに前向きな人が多く『研修資料を家に持ち帰って勉強したい』という人もいます。社外秘なので持ち出せないというと、早めに出社して勉強したいという熱心な人もいるんです」と語る。  プレ研修の成果だけではなく、エルダー自身の仕事に対する意欲の高さに改めて驚かされたという。  「センターの報告では、受信・発信業務ともに1カ月目のスキル修得状況は若い人よりも若干落ちますが、2カ月目以降はほかの世代と比べても遜色(そんしょく)なく伸びていきます。特に発信業務は若い人よりもスキルの上達が早い人が多いのです。やはり人生経験が豊富なので、コミュニケーション能力に優れているのでしょう。トップレベルの成績を出している人も多くいます」(川添氏)  若年層のスタッフと変わらないパフォーマンスに加えて、定着率も若年層に比べて3倍程度高いという効果も生まれているそうだ。 定着率の高いエルダーの活用で安定したコールセンター運営の構築をめざす  同社としては札幌地区を皮切りに、エルダーの採用を全国の拠点で展開していく予定だ。だが、そのための課題もある。一つは管理者の年上のスタッフに対する抵抗感だ。もちろんクライアントが嫌がるという事情もあるが、年上のスタッフを採用し、指導することに躊躇(ちゅうちょ)する管理者も少なくない。川添氏は今後の取組みとしてマネジメント教育の充実をあげる。  「現在の研修は、高齢者の特性を知り、その気持ちに配慮した対応をメインに行っていますが、実際に受け入れてからどのように業務を進めていくのか、具体的な事例を通じて学んでもらうようにしたい。例えば、エルダー層を受け入れるための業務の切り分けなど、活用策を工夫する方法も提示していきたいと考えています」  一方、少子高齢化が進むなか、今後の高齢者の活用策について、木下本部長はこう語る。  「エルダーが増えてくると、エルダーのなかで、後期高齢者を前期高齢者が支える、ということも可能になるのではないかと思います。そこまで行くにはまだ道半ばですが、その準備はできつつあります。まずは高齢のオペレーターが経験を積んで管理者になるためにどうしていくのかという方法論を検討していきたい。人手不足のなかで、定着率の高いエルダーの比率を上げることで、安定したセンター運営を構築していきたいと考えています」  同社は競合他社に先駆けて、コールセンター業務での高齢者の雇用にふみ切った。最大のポイントは、科学的分析により高齢者の特性を把握し、その対応方法や人材育成の手法を過去のデータを参考に時間をかけて構築したことである。そして高齢者の意欲をベースにしたスキル開発で高齢者を戦力化することによって、若年層主体のコールセンター業務でも成果を出すことに成功している。  同社の取組みは、高齢者ではむずかしいとされる業務でも、方法次第で生産性向上をともなう働き方が可能となる好事例といえるだろう。 図表 プレ研修カリキュラム 初日 9:00-17:00(実働7H無給休憩60分) 8:30〜9:30 入社手続き 60分 9:30 オリエンテーション 20分 10:00 TMJについて 40分 11:00〜12:00 マインドセット(コンタクトセンターの仕事とは?) 65分 12:00〜13:00 昼休憩 13:00〜14:00 脳の活性化トレーニング&タイピング 50分 14:00〜15:30 電話応対の基本 110分 15:30〜16:30 振返り 40分 2日目 9:00-13:00(実働4H無給休憩0分) 9:00 1日目の振返り 30分 9:30〜11:00 電話応対の基本 100分 11:30 アウトバウンド業務とは 30分 12:00 わかりやすい説明の仕方とは 20分 12:30 演習 40分 3日目 9:00-13:00(実働4H無給休憩0分) 9:00 2日目の振返り 30分 9:30〜12:30 総合演習(ロールプレイング) 180分 12:30 3日目の振返り 40分 左から人材本部人事戦略部の山田敬三氏、川添千寿子氏、木下哲本部長 【P50-53】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第15回 懲戒処分、業務請負と労働者性 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 懲戒処分を行ううえでの留意事項について知りたい  社内において従業員の重大な非違(ひい)行為※が発覚し、懲戒処分を実施しなければならないと考えています。これまで、懲戒処分を実施したことがほとんどないため、懲戒処分を行うにあたって留意すべき事項を教えてください。 A  懲戒処分を行うためには、就業規則上に懲戒の種類と懲戒の根拠となる懲戒事由の規定が必要です。  また、懲戒権の濫用(らんよう)に該当する場合は無効となるため、合理的な理由および相当性が必要とされています。これらの要素の判断にあたっては、不遡及(ふそきゅう)の原則、二重処分の禁止、平等原則などの要素が考慮されています。  そのほか、懲戒処分の手続きに関して、弁明の機会を与えておくことや、懲戒理由を後日追加しないことなどについても留意が必要です。 1 懲戒処分について  労働契約法第15条は、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」と定めていますが、懲戒処分の根拠や種類については触れられていません。  また、労働基準法においても、減給処分の限界などは定められているものの、それ以外の懲戒処分の種類などは明示されておらず、ただ、同法第89条において「表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項」を就業規則において定めることができると触れられているにとどまります。  現行法の下では、就業規則上に制裁の根拠を定めることにより、使用者が懲戒権を行使することが可能となると考えられており、@懲戒事由(懲戒処分の対象となる行為や禁止事項)およびA懲戒の種類(戒告、譴責(けんせき)、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇など)を定めておくことが必要と考えられています。 2 懲戒事由の限界  就業規則に懲戒事由を定めておくことで懲戒処分の対象とすることができるといえども、いかなる行為であっても対象とできるわけではありません。  就業規則は、あくまでも労働契約を補完するものであるため、根本的には労働契約と関連性がある範囲、すなわち、職務上の行為を対象として定めることが原則です。  したがって、私生活上の非行、例えば、犯罪行為(自動車運転過失致死傷罪や窃盗罪など)が行われたことを理由として懲戒処分を行うことは、原則として、許されません。とはいえ、私生活上の非行が使用者の事業にまったく影響しないともかぎらないため、事業活動に直接の影響があるような私生活上の行為(労働者の犯罪行為が使用者の営業停止等の処分につながるケースなど)や、私生活上の行為が結果として企業の信用を毀損(きそん)するような行為については、懲戒処分が許容される場合もあります。  近年、問題となっているのは、SNSなどのプライベートにおける発信が、使用者の信用へ影響するようなケースですが、このような場合に対応するためには、「使用者の名誉信用を毀損するような行為」を懲戒事由として規定しておくことが必要でしょう。 3 懲戒権濫用の中身  客観的な合理性および社会通念上の相当性がなければ、懲戒権は無効となりますが、いかなる要素が考慮されるのでしょうか。  懲戒事由が客観的に存在していること自体は必要ですが、それ以外にどのような要素が考慮されるのかについては、主要な考慮要素として、「不遡及の原則」、「二重処分の禁止」、「平等性の原則」などに整理されています。  「不遡及の原則」とは、非違行為が行われた当時の就業規則に基づかなければ懲戒処分を行うことはできず、非違行為の後に就業規則を改定して懲戒処分の対象とすることはできないという意味です。そのため、懲戒事由については、自社にとって禁止すべき行為が網羅されているか、現在の社会的な情勢をふまえているかなど、定期的に見直すことで、十分な内容が定められているか否か確認しておくことが望ましいでしょう。  「二重処分の禁止」とは、一度、懲戒処分を行った場合には、後日、その処分を重くしたり、複数回にわたって懲戒処分を行ったりすることはできないという意味です。例えば、懲戒事由の調査や処分の程度を検討することを目的に、一度、出勤停止の懲戒処分を科したのち、調査結果をふまえて懲戒解雇を行うようなことは許されないと考えられています。この場合、出勤停止については懲戒処分としてではなく、自宅待機命令といった業務命令の一環で行う必要があり、その場合、労働者の責に帰すべき事由がないかぎりは、少なくとも休業手当として6割の賃金を支払う必要があると考えられます。  「平等性の原則」は、懲戒処分を行うにあたってもっとも留意する必要がある原則の一つです。社内において同等の非違行為に対しては、同程度の処分をもって臨むべきであるという考え方です。非違行為については、さまざまな行為が想定され、同じ行為は一つとして存在しないと考えられますが、非違行為による損害の程度、反復継続性、処分歴などをふまえて、平等性を欠くことがないように留意する必要があります。また、初めての懲戒処分であっても、平等性の原則は無関係ではなく、今後の懲戒処分にあたって先例として評価されることをふまえて、懲戒処分の程度を検討し、将来にわたって規律を維持することを意識する必要があるでしょう。  これらの原則以外にも懲戒の種類は総合的に考慮されることになるため、不遡及の原則に類似する考え方として、非違行為当時の懲戒事由に基づくものではあるものの、非違行為が行われてから長期間経過したケースにおいて、懲戒権の濫用と判断されたものもあります。 4 懲戒処分の手続きについて  懲戒処分を行うにあたって、非違行為が存在することを客観的に明らかにすることが必要ですが、労働者の動機などもふまえて処分を決定する必要があります。  そのような点を明らかにするために、懲戒処分を行う前に、非違行為者に対して「弁明の機会」を付与することが手続き的な正当性を維持するために重視されています。  使用者によっては、就業規則や懲戒規程などにおいて、懲戒処分の手続きや審査方法として、懲戒委員会を組織し、同委員会において弁明の機会を与えたうえで、最終的な懲戒処分を決するものとしている場合があります。このように就業規則において懲戒手続きを定めた場合、使用者もこの手続きを遵守しなければならず、これに違反する場合、懲戒権の濫用に該当するものとして、懲戒処分が無効となる可能性が高くなります。  また、懲戒処分の際に懲戒事由としていなかった理由を、後日、懲戒処分の有効性を維持するために追加することは、弁明の機会を与えることなく懲戒処分を行うことにつながるため、原則として許されないと考えられています。 ※ 非違行為……違法行為のこと Q2 社内に常駐する業務委託者は、労働者と違うのでしょうか  当社には、当社の業務を受託した個人が常駐しながら、業務を行っています。職場内では、座席も与えられており、ともに業務を遂行することもあるのですが、直接雇用されている労働者との違いはあるのでしょうか。  日常業務において接するにあたって、留意すべき事項はあるのでしょうか。 A  労働者であるのか、業務委託であるのかについては、実態に即して判断されることになります。業務委託の形を整えただけであれば、実質的には労働者である場合、労働基準法や労働者派遣法などの規制が適用されることになり、法令違反を引き起こす恐れがあります。  使用従属性の判断基準をふまえて、労働者と判断されないように留意する必要があります。 1 業務委託と労働者性について  労働基準法第9条において、「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と定められ、労働契約法第2条においても、「この法律において『労働者』とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう」とされており、その定義は複雑ではありません。  要素としては、「使用者に使用されて、賃金を支払われる者」という整理になりますが、業務委託を受注する個人についても形式的にはこれに該当しそうです。とはいえ、労働契約と業務委託契約では、その求める内容や契約当事者の意識も異なるはずです。したがって、これらの区別については、形式のみではなく実態をふまえて判断することとされています。  この場合の「実態」を判断するための基準とされているのが、使用者に「使用」されていること、つまり、「使用従属性」があると評価ができるか否かということになります。 2 労働者と判断されることのリスク  たとえ、業務を受託している個人が、労働者であると判断されたとしても、法的なリスクがないのであれば、気にする必要はありません。  しかしながら、かつては、請負という名の労働者派遣について、「偽装請負」と評され話題になったときと同様の問題が生じることになります。  受託者が個人ではなく企業であり、当該企業の労働者が業務遂行のために常駐する場合において、これが業務委託に基づくものではなく、労働者自体を供給するものである場合、職業安定法が禁止する労働者供給事業に該当するおそれがあるほか、労働者派遣法が禁止する無許可派遣業に該当するおそれがあります。これらの違反については、罰則が定められており、受注者側の企業にとっても大きなリスクとなる可能性があります。  また、委託であることを前提に、時間外割増賃金を支給していなかったり、休日の確保が十分でなかったりすると、実態が労働者であると判断された場合には、労働基準法違反も生じることになります。 3 使用従属性について  「使用従属性」という考え方が示されたのは、昭和60年12月19日付「労働基準法の『労働者』の判断基準について」と題する労働省(当時)の報告です。  判断基準の要素について、@仕事の諾否(だくひ)の自由の有無、A指揮命令の有無、B時間や場所の拘束性の有無、C代替性の有無、D報酬の労務対償性の有無(労働時間の対価であるか否か)、E事業者性の有無(用具の負担関係、報酬の額)、F専属性の有無、Gそのほか(採用選考過程の雇用類似性の有無、福利厚生の適用関係、就業規則の適用の有無)などをあげています。  このほか、派遣労働者との区別として、「労働者派遣事業と請負により行われる事業の区分に関する基準」(通称「37号告示」)も存在しており、こちらもよく参照されます。判断の要素は類似していますが、こちらについては、受託者の独立性のほか、単に肉体的な労働力を提供するものではないこと、逆にいえば、専門性のある業務を任されていることが考慮要素に加わっていることが特徴といえます。  当職は、この判断基準については、判断要素が多すぎるがゆえに、実態判断を困難にしているという印象を抱いていますが、裁判例においては、これらの要素をふまえて総合考慮の結果として、直接雇用の労働者との比較なども参照しながら、事業主と評価できるか、労働者性を帯びているかを判断しています。 4 判断するにあたってのイメージについて  判断基準に照らしても、なかなか個別の判断を行うことは困難ですが、イメージとしては、労働者とは異なり、個人が経費や損害発生時のリスクを負担している一方、拘束の程度が労働者と同等にまでおよんでいないことが必要という認識を持っていただくべきと考えています。  常駐型の業務委託の場合、場所的な拘束は避けがたい状況であるところ、場所的な拘束が避けがたい理由として、例えば、作業対象のシステムが社内に存在しており、そこ以外での作業は不可能であることなどを明確にしておくべきと考えられます。また、それ以外の拘束の要素についての拘束力を弱めるために、時間的な拘束を緩和したり、直接の指揮命令を行ったりしないよう留意しておかなければ、労働者性を肯定される恐れがあります。  報酬の定め方についても、時給に近いような定め方を採用することは、労務対償性が肯定されてしまう要素にもなるため、業務成果に対して支払いが行われるような内容にしておくことも重要であり、業務委託であることを維持するのであれば、源泉徴収や社会保険の加入などを行うべきではありません。  そのほか、単純な肉体労働ではなく、専門性を有した代替性が低い業務であるかといった点も確認しておかれる方がよいと考えられます。 【P54-55】 科学の視点で読み解く  高齢者が毎日イキイキと働くためには、「疲労回復」の視点を持つことも重要になります。この連載では、「疲労回復」をキーワードに、“身体と心の疲労回復”のために効果的な手法を科学的な根拠にもとづき紹介します。 身体と心の疲労回復 国立研究開発法人理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム プログラムディレクター 渡辺(わたなべ)恭良(やすよし) 第2回 疲労とは「生体アラーム装置」 疲労とは生体アラーム  疲労は、私たちに休息の必要性を伝え、過剰活動による疲弊(ひへい)を防御するための重要な「生体警報(アラーム)」の一つです。筆者は、「痛み」、「発熱」、「疲労」を『三大生体アラーム機構(図表)』と位置づけていますが、「痛み」、「発熱」の原因物質や神経活動の問題(分子神経メカニズム)は解明が進んでいるのに対し、疲労の分子神経メカニズムに関しては、筆者らが本格的な研究に取り組む1992(平成4)年以前は、ほとんど断片的な研究しかありませんでした。  すなわち、1980年代から日本体力医学会と連携して活躍していた「疲労研究会」は、登山やスポーツのトレーニングに関する事象を中心に扱い、また、日本産業衛生学会に属する「産業疲労研究会」は、主に産業疲労に関する労働環境や労働衛生といった観点で研究をしていましたが、人体の内部の機能、特に脳機能、免疫機能、内分泌代謝機能、生体調節機能などに直接迫る研究はほとんどありませんでした。  一方、ストレス、睡眠、未病、抗加齢、介護・健康づくりなどは、それぞれ研究が進んできましたが、「疲労」に関わる研究は、そのなかでは決して中心テーマではありませんでした。「疲労・倦怠」は、医学・医療にとって重要な研究対象であったのですが、「一生懸命活動すれば疲れるのはあたり前」、「病気になれば疲労・倦怠感が生じるのはあたり前」という観念や諦念によって、疲労は「医学・医療の忘れ物」になっていたのです。 「疲労」の定義とは  2005年に設立した一般社団法人日本疲労学会(http://www.hirougakkai.com/)では、「疲労とは過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態である。疲労は『疲労』と『疲労感』とに区別して用いられることがあり、『疲労』は心身への過負荷により生じた活動能力の低下を言い、『疲労感』は疲労が存在することを自覚する感覚で、多くの場合は不快感と活動意欲の低下が認められる。様々な疾病の際にみられる全身倦怠感、だるさ、脱力感は『疲労感』とほぼ同義に用いられている」としています(2010年日本疲労学会「疲労」定義委員会)。  研究のうえでは、「過度の肉体的および精神的活動によって生じる作業能率や作業効率が統計的有意に低下した状態」を疲労と定義しています。このように定義すれば、疲労が客観的に計測できることになるからです。よく問われるのは、「疲労とストレスはどう違うのか」ですが、疲労はストレスが重積して起こる作業能率低下状態であり、原因と結果の関係にあると考えられます。  また、医療の世界では、疲労は未病の最たるものと考えられ、回復しない疲労は、さまざまな疾病へと移行する原因(予知因子)ととらえています。その一方、多数の病気による全身倦怠感は、症候学(しょうこうがく)(さまざまな訴えや診察所見を統合し医学的な意味づけを行う)では大きな要素であり、一般病院などのプライマリーケア※を来訪する患者の2番目に多い主しゅ訴そ であり、1番多い主訴の「痛み」とも僅差であることから、疲労を医学的に解明し何らかの医療的措置を施すことは非常に重要なことです。 「疲労」研究の最前線  みなさんもよくおわかりになると思いますが、疲労は精神的・肉体的に複合した要因で起こります。このため疲労のメカニズムの解明には、さまざまな原因によって起こる疲労を、運動性疲労、精神活動性疲労、感染免疫アレルギー性疲労などの要因別にわけて研究していくことが重要です。私たちは、さまざまな要因別の「疲労」という状態に共通した分子機構や神経系・免疫系・内分泌系にわたる問題をクローズアップするという戦略で研究を進めてきました。  筆者が理事長を務めている一般社団法人日本疲労学会では、疲労や慢性疲労に関する日本オリジナルの研究を進めています。この連載ではこれから、こうした研究によって得られた成果をもとに、みなさんの関心が高いと思われる「高齢者の疲労」にも触れていきます。  高齢者の疲労といえば、自律神経の機能のうち、疲労の指標となる副交感神経の活動が「65歳群」、「70歳群」、「75歳群」と年齢が上がるにつれて明らかに低下することがわかりました。また、指先の単純な運動課題や数字を昇順に探す課題でも、加齢にともなって反応時間が遅れることが明らかになっています。「人生100年時代」といわれるなか、高齢労働者に活き活きと働いてもらうためには、疲労とその回復が重要な課題となることがわかります。次号からは、「疲労のものさし」、「疲労を低減するための対策」、「過労を予防するための食事・環境・運動・行動」などを紹介していきたいと思います。 わたなべ・やすよし 京都大学大学院医学研究科博士課程修了、大阪医科大学医学部・講師、大阪バイオサイエンス研究所・研究部長、大阪市立大学大学院医学研究科・教授、理化学研究所分子イメージング科学研究センター・センター長、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター・センター長、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター所長等を歴任し、現在は、理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム・プログラムディレクター、理化学研究所生命機能科学研究センター・チームリーダー、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター・顧問を兼任。日本疲労学会・理事長。 ※ プライマリーケア……身近にあり幅広く診療する総合的な医療 図表 三大生体アラーム機構 痛み さまざまな部位に感じる「痛み」、身体が発する危険信号 発熱 ウイルスや細菌などの侵入に対する警告 疲労 【作業能率の低下状態】 「疲労」を感じていても、「痛み」や「発熱」ほど危機感を持たない人が多い →「疲労」は「痛み」ほど脅威を感じない →体温計のように疲労を客観的に評価する物差しがない 疲労は「休め」を命じる生体アラーム 【P56-57】 BOOKS 日常の労務管理のために、だれもが身につけておきたい技術を紹介 改訂 チームビルディングの技術 みんなを本気にさせるマネジメントの基本18 関島(せきじま)康雄(やすお) 著/ 経団連出版/ 1500円+税  著者の関島氏は本誌2017(平成29)年5月号の「リーダーズトーク」に登場していただき、「組織内一人親方(ひとりおやかた)」という考え方、自らが自律的にキャリア戦略を考えることの重要性を語っていただいた。1966(昭和41)年に株式会社日立製作所に入社、現在は独立して企業向けに人事労務管理や人材開発の支援を手がけており、本書では、著者の経験をもとに「チームビルディングの技術」が紹介されている。  本書でいう「チーム」とは、典型的には、一定の目的で形成されるプロジェクトチームを指すが、広く「職場」ととらえることも可能だろう。そのチームが仕事を遂行し成果を上げるためには、リーダーシップ理論やキャリア論、組織論、マーケティング理論などに基づいたチームビルディングの技術が必要で、それがビジネスパーソンにとっての「不可欠の技術」ととらえている点が本書の特徴だ。具体的には「なぜ本格的なチームが必要となるのか」、「どうすれば本格的なチームがつくれるか」、「どうすれば人を育てるチームになるのか」という三つの切り口から整理・解説されている。定年後の継続雇用者を含め、多様な人材が活躍している職場のマネジャー層におすすめしたい一冊である。 新任の人事労務担当者が手元に置きたい、最新の労働法入門書 有斐閣ストゥディア 労働法 第3版 小畑(おばた)史子(ふみこ)、緒方(おがた)桂子(けいこ)、竹内(たけうち)(奥野(おくの))寿(ひさし) 著/ 有斐閣(ゆうひかく)/ 1900円+税  知識の習得に加えて「考える力を養うこと」を目的に掲げた初学者向けシリーズの一冊として2013(平成25)年に刊行されて以来、各方面で好評を博した入門書の第3版。「働き方改革関連法」などの法改正に対応し、さらに最新の裁判例を盛り込んで刊行された。  「法律書に求められる正確さを欠くことなく、読者にとって理解しやすい基本書を目ざす」というコンセプトに沿って、「労働法の概観」から「労働条件の決定」、「労働契約の成立」、「労働契約の終了」(定年制を含む)、そして「団体行動」まで、バランスよく割りふられた15章を、労働法に精通した3人の研究者が分担し、労働法の基本的な考え方や制度の成り立ちをていねいに解説している。労働法と日常生活との関わりを意識して読み進められるように、説明に事例を活用しているのが本書の特徴であり、法的な問題が生じる場面を題材に、自分で考えるきっかけを提供している。  また、随所に掲載されている「コラム」は労働法を学ぶ意義や楽しさも実感でき、「事項索引」や「判例索引」も充実。初学者のために配慮が行き届いた本書は、労働法を学びたい人事労務担当者にとって最適な一冊となるだろう。 活躍できる労働現場の実現に向けて進む、物流業界の最前線を紹介 「物流危機」の正体とその未来 時代の変化を勝ち抜く処方箋(しょほうせん) 湯浅和夫 編著/ 内田明美子(はるこ)、芝田稔子(としこ) 著/ 生産性出版/ 1800円+税  AI(人工知能)やビッグデータ、ロボットを活用してさまざまな効率化を図り、従来の常識では考えられなかった目からウロコの取組みや施設が、物流業界に次々と生まれている。「運びたいのに運べない」という物流危機、宅配危機を克服するための最先端の取組みである。  本書は、これらの状況を、荷主、物流業者、行政における最前線の動きとともに紹介し、物流業界の将来を描き出す。物流危機の正体、物流危機に立ち向かう行政・経済界の動き、「運べない危機」の克服に乗り出した荷主企業、変革を迫られる物流業界、「AI」、「IoT」、「ロボット」が物流を変える、無人化を目ざす「次世代型物流センター」などを取り上げている。  物流危機をもたらしているのは人手不足であり、新たな取組みは「無人化」が柱の一つとなっている。しかし同時に、長時間労働の改善、女性や高齢者を含む多様な人材が活躍できる労働環境の実現といった施策も進められている。  「物流を制する者が市場を制す」という言葉を聞くが、この業界でいまどのような労働環境の整備が進められているのか。あるいは、将来どのような職場環境が実現されていくのか。興味深い一冊である。 だれもが働き続けることをあきらめなくてもよい職場を実現 幸せな着ぐるみ工場 あたたかいキャラクターを生み続ける女子力の現場 かのうひろみ 著/ 日本経済新聞出版社/ 1400円+税  著者のかのうひろみさんは、宮崎市にある小さな着ぐるみ制作会社「キグルミビズ」の代表取締役。同社の従業員はすべて女性で、育児や介護などの事情を抱えている人もいる。数年前までは残業や休日出勤があたり前で、これでは続けられないと辞めていく人が多くいた。  悩んだ著者は、「人生の時々で、働ける時間は違って当然。働き続けることをあきらめなくてもよい職場でありたい」と一念発起。まずは週1回のノー残業デーからはじめ、勤務時間の見直し、休みづらい雰囲気をなくすための有休カレンダー導入など、小さな工夫を積み重ね、ワーク・ライフ・バランスを実現した。本書は、著者と同社の歩みを綴った一冊である。  2018年「新・ダイバーシティ経営企業100選」で経産大臣表彰を受けるなど、同社はいま、働き方改革のモデル企業として注目されている。著者は、みやざき女性の活躍推進会議共同代表を務めるなど、経営者としての自らの経験を女性が働きやすい企業づくりの取組みにも活かしている。「何かをごまかしたり、面倒なことから逃げたりすることは、けっきょく進化のスピードを落とすことになる」などの本書の言葉も、働き方改革の手がかりになる。 職場全体として取り組むべき課題としてアプローチ 「はたらく」を支える! 職場×依存症・アディクション 樋口 進、廣(ひろ) 尚典(ひさのり) 編/ 南山堂(なんざんどう)/ 2200円+税  「アディクション」とは、不健康な習慣へのめり込む状態を指す。アルコール依存症をはじめとした依存症・アディクションは、個人の問題にとどまらず、勤怠不良(きんたいふりょう)などのかたちで職場に悪影響をおよぼすこともある。産業保健の現場のみならず、職場全体で取り組むべき課題といえるだろう。本書は、産業医や産業保健スタッフ、人事労務担当者向けに、依存症・アディクションに関する知識と対策を網羅した解説書として刊行された。  第1章では、総論として依存症・アディクションの概念や職場における課題などを明解に整理。第2章は職場におけるアルコール問題、第3章は職場における喫煙問題、そして第4章はさまざまな依存症として、インターネット(スマートフォン)依存やギャンブル依存、薬物依存を取り上げている。巻末の資料には、依存症・アディクションへの対応が可能な医療機関リストと回復施設リストが掲載されており、万一の場合に役立つ情報が整理されている。  本書は「『はたらく』を支える!」シリーズの第4弾。専門家と職場の間の橋渡しを目的とした好企画なので、高齢労働者の健康問題も取り上げられることを期待する。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「本体価格」(消費税を含まない価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 生涯現役促進地域連携事業実施団体候補として14団体を決定  厚生労働省は、「生涯現役促進地域連携事業(2019(平成31)年度開始分)」の実施団体候補として、14団体を決定した。  同事業は、地方自治体が中心となって労使関係者や金融機関などと連携する「協議会」などが提案するもの。高齢者に対する雇用創出や情報提供などといった高齢者の雇用に寄与する事業構想のなかから、地域の特性などをふまえて創意工夫されたものを選定し、当該事業を提案した協議会などに委託して行う。  委託費は1年度あたり、都道府県は4000万円、政令指定都市と特別区は3000万円、その他市町村は2000万円となっており、事業実施箇所数(2019年度開始分)は、30カ所程度。事業期間は最大3年。  採択された14団体は次の通り。  @中泊(なかどまり)町生涯現役いきいき活躍プロジェクト協議会、Aひらない生涯現役促進協議会、B仙台市生涯現役促進協議会、C福井県生涯現役促進地域連携協議会、D大町市生涯現役促進地域連携協議会、E各務原(かかみがはら)市生涯現役促進協議会、F静岡市生涯現役促進地域連携協議会、G犬山市生涯現役促進地域連携協議会、H新城(しんしろ)市生涯現役促進地域連携協議会、I滋賀県生涯現役促進地域連携協議会、J新宮(しんぐう)市生涯現役促進地域連携協議会、K出雲(いずも)市生涯現役促進協議会、L浦添(うらそえ)市グッジョブ連携協議会、M南城(なんじょう)市生涯現役促進協議会 厚生労働省 平成30年障害者雇用状況  厚生労働省は、民間企業における2018(平成30)年の障害者雇用状況をまとめた。障害者雇用促進法では、事業主に対し、常時雇用する従業員の一定割合以上の障害者を雇うことを義務づけている。同法に基づき、毎年6月1日現在の身体障害者、知的障害者、精神障害者の雇用状況について、障害者の雇用義務のある事業主などに報告を求め、それを集計した。法定雇用率は2018年4月1日に改定されて、民間企業の場合は2・0%→2・2%に引き上げられ、対象企業は従業員数50人以上→45・5人以上となっている。  集計結果によると、実雇用率は2.05%(前年1.97%)となっており、7年連続で過去最高を更新。また、法定雇用率を達成している企業の割合は45.9%(前年50.0%)となっている。  企業規模別にみた障害者の実雇用率は、45・5〜50人未満規模企業で1.69%、50〜100人未満で1.68%(前年は1.60%)、100〜300人未満で1.91%(同1.81%)、300〜500人未満で1.90%(同1.82%)、500〜1000人未満で2.05%(同1.97%)、1000人以上で2.25%(同2.16%)となった。また、法定雇用率を達成している企業の割合は、45.5人〜50人未満規模企業で34.0%、50〜100人未満で45.4%(前年は46.5%)、100〜300人未満で50.1%(同54.1%)、300〜500人未満で40.1%(同45.8%)、500〜1000人未満で40.1%(同48.6%)、1000人以上で47.8%(同62.0%)。 総務省 人口推計(2018年10月1日現在)  総務省は、2018(平成30)年10月1日現在の人口推計を公表した。それによると、総人口は1億2644万3000人。前年(1億2670万6000人)と比べ26万3000人(0.21%)減で、減少は8年連続。  総人口に占める年齢別人口の割合をみると、15歳未満は12.2%、15〜64歳は59.7%、65歳以上は28.1%、75歳以上は14.2%。前年に比べると、15歳未満、15〜64歳はそれぞれ0.1ポイント、0.3ポイント低下し、65歳以上、75歳以上はそれぞれ0.4ポイント上昇している。  総人口に占める年齢別人口の割合の推移をみると、15歳未満は、1975年(24.3%)以降一貫して低下を続け、2018年(12.2%)は過去最低。15〜64歳は、1982年(67.5%)以降上昇していたが、1992年(69.8%)にピークとなり、その後は低下を続け、2018年は1950年と同率の59.7%と過去最低となっている。一方、65歳以上は、1950年(4.9%)以降一貫して上昇が続いており、2018年(28.1%)は過去最高。70歳以上も1950年(2.8%)以降上昇を続け、2018年(20.7%)は初めて2割を超えた。75歳以上も1950年(1.3%)以降上昇を続け、2018年(14.2%)は過去最高となっている。  人口増減率を都道府県別にみると、増加は7都県で、東京都が0.72%と最も高く、次いで沖縄県0.31%、埼玉県0.28%、神奈川県0.20%などとなっている。 調査・研究 中央労働委員会 平成30年賃金事情等総合調査(確報)  中央労働委員会は、平成30年賃金事情等総合調査(確報)結果をまとめた。調査は、介護老人福祉施設以外は資本金5億円以上、労働者1000人以上、介護老人福祉施設は運営主体が社会福祉法人で労働者100人以上の企業計380社(独自に選定し固定している)を対象としている。  調査結果のなかから、隔年で実施している「労働時間、休日・休暇調査」(平成30年の回答企業数は267社)についてみると、時間外・休日労働協定で定められている延長時間数(限度)は、1日の限度では「7時間超」が最も多く79社(集計151社の52.3%)、「4時間」21社(同13.9%)、「5時間」14社(同9.3%)と続いている。1カ月の限度では「45時間」が最も多く128社(集計163社の78.5%)、「40時間以上45時間未満」23社(同14.1%)、「30時間以上40時間未満」10社(同6.1%)と続いている。  また、介護休業の最長(限度)期間をみると、「1年」が最多で114社(集計188社の60.6%)、「1年超」39社(同20.7%)、「通算して93日まで」23社(同12.2%)と続いている。  長時間労働の削減についての対策の実施状況では(複数回答)、「労使で話し合いの場を設けている」が159社(集計190社の83.7%)で最も多く、次いで、「年次有給休暇の計画的取得の取組み」147社(同77.4%)、「ノー残業デーを設定」146社(同76.8%)と続いている。 全国中小企業団体 中央会 長時間労働への対応の状況  全国中小企業団体中央会と都道府県中小企業団体中央会が公表した『平成30年度中小企業労働事情実態調査』の調査結果から、各企業における長時間労働への対応の内容(今後実施していこうとするものも含む)を調査した結果をみると、「人員の増員・配置見直し」(33.2%)が最も多く、「時間外労働の是正・削減」(30.6%)、「業務内容見直し・業務分担見直し」(30.1%)と続いた。  規模別にみると、規模の大きい事業所ほど、「人員の増員・配置見直し」、「時間外労働の是正・削減」といった回答が多く、反対に、規模の小さい事業所ほど、「長時間労働はない」、「特に考えていない」という回答が多くなっている。  業種別にみると、製造業・非製造業の各業種とも、「人員の増員・配置見直し」、「時間外労働の是正・削減」、「業務内容見直し・業務分担見直し」の回答が多くなっているが、非製造業と比べ、製造業に多い回答として、「新しい機械装置等の導入による生産性向上・業務効率化」(製造業25.0%、非製造業10.1%)、製造業と比べ、非製造業に多い回答として、「取引先等外部の理解」(製造業5.3%、非製造業9.0%)が主にあげられる。  経営状況別にみると、経営状況が「良い」と回答した事業所では、「人員の増員・配置見直し」(47.9%)、「時間外労働の是正・削減」(37.1%)、「業務内容見直し・業務分担見直し」(35.9%)が多く、経営状態が「悪い」と回答した事業所では、「長時間労働はない」(24.8%)、「特に考えていない」(10.1%)が多くなっている。 発行物 JILPT 企業の福利厚生施策の実態調査報告書を刊行 独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)は『JILPT資料シリーズbQ10 企業における福利厚生施策の実態に関する調査―ヒアリング結果―』を刊行した。  企業における法定外福利厚生施策は、従来からの慶弔(けいちょう)給付や食事・住宅の補助などから、仕事と生活の両立支援、自己啓発、労働時間や休暇制度の見直しなどといった「働き方改革」にかかわる施策などへと多様化が進んでいる。こうした現状をふまえ、企業で実際にどのような法定外福利厚生施策が行われているかを把握するため、厚生労働省からの要請を受けたJILPTではヒアリング調査を実施した。今回の調査は、法定外福利厚生施策全般の実施状況を把握するとともに、企業の規模や業種による特徴を把握することを主な目的としており、特に小規模企業の事例把握に努めている。あわせて、企業と従業員のニーズ、アウトソーシングなどの導入状況、非正規従業員に対する適用なども調査しており、合計20カ所を対象としたヒアリング調査を行っている。報告書は、高齢者雇用推進の一環として福利厚生施策の見直しを検討する際の参考資料として活用されることも期待される。  報告書は左記のURLからダウンロードが可能で、購入する際の価格は600円(税別)。 https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2019/documents/210.pdf 【P60】 次号予告 8月号 特集 高齢社員のモチベーションの維持・向上のツボ リーダーズトーク 玉置克己さん(レンゴー株式会社 人事部長) 「エルダー」読者アンケートにご協力ください。 本号に同封した「読者アンケート」用紙にご記入のうえ、当機構までFAXにてお寄せください。当機構ホームページからの回答も可能です。 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://krs.bz/jeed/m/elder_enqueteであることをご確認のうえ、アクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには−− 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み  @定期購読を希望される方   雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。   URL http://www.fujisan.co.jp/m-elder  A1冊からのご購入を希望される方   Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢 春康……サトーホールディングス株式会社人財開発部 人事企画グループ人事企画担当部長 菊谷 寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本 節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 清家 武彦……一般社団法人日本経済団体連合会 労働政策本部 上席主幹 深尾 凱子……ジャーナリスト、元読売新聞編集委員 藤村 博之……法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 真下 陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア 京子……アテナHROD代表、学習院大学特別客員教授 編集後記 ●厚生労働省の調査によると、現在、法定の65歳までの雇用確保措置を定めている企業は99.8%で、ほぼすべての企業において希望者は65歳まで働ける環境が整備されています。また、65歳定年を導入している企業は16.1%、定年を廃止している企業は2.6%で、少しずつではありますが増加傾向にあり、再雇用などで70歳以降も働ける制度のある企業は25.8%となっています。  政府による70歳までの就業機会の確保に向けた検討が進み、今後は、より一層高齢者の雇用が進むことが見込まれます。その一方で、注意しなければならないのが、高齢社員のモチベーションの低下や、加齢にともなう身体機能の低下などを要因とするトラブルです。こうしたトラブルは、本人だけの問題にとどまらず、周囲への影響も予想され、高齢者雇用を進めるうえで、避けては通れない課題といえます。  そこで本号の特集では、「高齢者雇用入門」と題し、高齢者雇用を進めるうえで起こりやすいトラブルをマンガで紹介するとともに、その要因や解決策について解説しています。これから本格的に高齢者雇用に取り組むことを考えている経営者の方や、人事部に異動してきたばかりの方は、高齢者雇用についての理解を深めるための参考としていただければと思います。また、すでに高齢者雇用に取り組んでいる企業の読者の方も、自社の取組みを見直す復習用に、ぜひご活用ください。 ●本号では、「読者アンケート」を同封してお届けしています。本誌に対するご意見・ご感想をアンケート用紙にご記入のうえ、当機構までお寄せください。また、アンケートは当機構ホームページからの回答も可能となっています。より一層の誌面の充実に向け、みなさまからの忌憚のないご意見・ご感想をお待ちしています。 月刊エルダー7月号 No.477 ●発行日−−令和元年7月1日(第41巻 第7号 通巻477号) ●発 行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 発行人−−企画部長 片淵仁文 編集人−−企画部次長 中村雅子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2  TEL 043(213)6216(企画部情報公開広報課) ホームページURL http://www.jeed.or.jp  メールアドレス elder@jeed.or.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5  TEL 03(3915)6401  FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-725-1 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験などを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.302 ギター製作とリペアに長年つちかった手腕を振るう ギター製作家 沖田正和(まさかず)さん(69歳) 「お客さまの要求にとことん応え、満足してもらえるよう修理。自分の実現したいことを最大限行って、製作しています」 昔気質(かたぎ)の職人の世界で修業修理の技術は独学で修得  オリジナルギターの製作と、壊れたギターのリペア(修理)を、41年にわたって手がけてきた「沖田ギター工房」。特に、ギターの修理では先駆け的な存在として知られている。本店を千葉市に構え、2015(平成27)年、東京に渋谷店もオープンした。会長の沖田正和さんは、千葉大学を卒業後、ギターの製作工房で修業し、1978(昭和53)年に自身で工房を立ち上げた。  「大学の友人が就職活動で忙しくしているとき、私は、人生についてあれこれ考え、『ネクタイは締めない! 手に職を持とう!』と決めたのがこの道に入るきっかけです」と沖田さん。ギターを弾いていたこともあり、ギター製作工房を訪ね歩き、数軒目で「じゃあ、来てみたら」といわれて入房した。製作家(職人)として入ったものの研修などはいっさいなし。「昔気質の職人の世界ですから、最初から技術なんて教えてもらえませんし、肝心なことは、なおさらやらせてもらえませんでした。下働きをしながら、見よう見まねで覚えていきました」  ところが、入って3年くらいで工房が閉鎖されてしまった。  「そこで、『よし! 自分でやろう』ということになったのです」  自分の工房を立ち上げてから、楽器店回りの営業も行うことに。「これはえらい世界に入っちゃったな」と思ったこともあったというが、支援者も現れ、次第に修理の仕事が増えていった。  「修理技術は独学です。ただ、製作という基盤があるので、こうしたらよいのではないかというアイデアが出てきます。そして、試行錯誤のなかで、これが最もよいという方法を見つけていきました」 「沖田式」修理方法で強度と美観の両方をかなえる  ギターの破損原因は、大きく分けて二つある。一つは経年劣化。もう一つは事故。  「長く使っていると、何もしなくても、割(わ)れ、剥(は)がれ、反(そ)りなどが出てきます。ネック折れは、ギターを倒すなどの事故によるものです」  ネック折れなどの修理は、木材を薄くスライスした板を何層にも張り合わせる「沖田式」と呼ぶ方法で行う。  「強度と美観を両方ともかなえるのに最も合理的な方法を、いろいろ模索して編み出しました。精密な木工技術と高い塗装技術が前提です。使用できても、以前と雰囲気が違ってしまってはだめ。修理を意識させない仕上がりにこだわっています」 名器を修理してきた経験を沖田ギターの製作に活かす  修理には、ピッチが狂う、和音がしっくり合わないといったときの調整も含まれる。有名な楽器でも、演奏の道具としてよりよく使いたい場合、調整が必要だという。  「プロの演奏家でも、細かいところを気にしながらそのまま使っている人もいるし、何とかしたいという人もいます。楽器に何を求めるかで調整方法は変わります。演奏家が気に入らないところを調整するのはとてもむずかしいのですが、どこまで要求に応えられるかが、腕の見せどころ。きちんと調整すると、道具としてぐんと格が上がる。目覚めるときがあるのです」  沖田さんは近年、念願のオリジナルギターの製作に力を注いでいる。製作には、名器を修理してきた経験が役立っている。  「修理の際は、憧れの製作家の名器を、一定期間預かります。詳しく見られるので、すごく勉強になりました。お師匠さんが何十人もいるという感じです」  沖田ギターの最新作は「ドム」(DOM=ドレッドノート沖田正和の略)。大きくて厚みがあるボディー形状「ドレッドノート」の沖田バージョンである。  「演奏家が『すげえなあ』と思ってくれるものを、体が動くかぎりつくり続けたいですね」 沖田ギター工房 http://okita-g.com 本店:043(241)4855 渋谷店:03(6805)1877 (撮影・福田栄夫/取材・細井武) オリジナルの沖田ギターを製作中。塗装して仕上げる前に弦の両端の支点になるナットやサドルというパーツを調整、弦を張り、音を出して様子をみる 沖田ギターのロゴは沖田さんが保護した黒猫がモチーフ 製品が演奏家の良い相棒になれるようパーツも念入りにチェック 工場生産の名品を超えられるよう細心の注意を払って製作 工房内の様子。割れ、剥がれ、反りの修理や塗装などを、それぞれの担当スタッフが綿密に進めている カンナ、ノミ、ヤスリなどのお気に入りの道具 沖田正和さんとスタッフのみなさん 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回はナンプレ(ナンバープレース)です。脳のワーキングメモリを鍛えるには最適といってもいい問題です。初めての人は例題で解き方を理解し、チャレンジしてください。 第26回 ナンバープレース例題&問題 目標 10分 《ルール》 ●縦9列、横9列のどの列にも1〜9の数字が1つずつ入る。 ●白色とピンク色で分かれている3×3の9マスのどのブロック内にも1〜9の数字が1つずつ入る。 【例題】 4 6 92 1 24 85 3 5 17 8 8 9 982 7 6 13 7 48 9 5 14 8 9 【例題の答え】 7 8 4 5 6 3 1 9 2 1 6 2 4 9 8 5 7 3 5 9 3 1 7 2 4 8 6 4 2 8 3 5 7 9 6 1 3 1 9 8 2 6 7 4 5 6 7 5 9 4 1 3 2 8 2 5 7 6 1 4 8 3 9 9 3 6 7 8 5 2 1 4 8 4 1 2 3 9 6 5 7 【本題】 96 17 7 3 58 6 8 51 6 9 34 92 21 9 6 5 9 8 8 5 6 74 数字とワーキングメモリの関係性  9列9段のマス目を埋めていく「ナンバープレース(ナンプレ、数独などともいいます)」など、数字を使った脳トレ問題は、脳のワーキングメモリを鍛えるのにぴったりです。  今回の問題では、例えば縦に注目し、使っていない数字を頭や紙にメモし、当てはまりうる数字を決めていきます。このとき、脳のワーキングメモリが盛んに使われます。  ワーキングメモリは年齢とともに低下しやすいのですが、トレーニングすれば伸びることも知られていますから、しっかりと鍛えましょう。  また、計算問題を処理する能力は50歳ころがピークですが、その後もトレーニングによって能力の低下を抑えることができます。数字を使いこなす能力は、買い物をするときや家計のやりくりなど、日常生活でも必要とされます。  数字が苦手な人もいるかもしれませんが、コツをつかめば、楽しいものですので、あきらめずに挑戦してみてください。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【本題の答え】 9 6 3 5 1 7 4 2 8 1 4 2 6 8 9 7 5 3 7 5 8 4 2 3 1 6 9 3 8 4 9 7 2 5 1 6 6 2 9 1 5 8 3 4 7 5 7 1 3 4 6 8 9 2 2 1 7 8 9 4 6 3 5 4 9 6 7 3 5 2 8 1 8 3 5 2 6 1 9 7 4 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2019年7月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒780-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価(本体458円+税) 『65歳超雇用推進事例集(2019)』を作成しました 65歳以上定年企業、65歳超継続雇用延長企業の制度導入の背景、内容、高齢社員の賃金・評価などを詳しく紹介した『65歳超雇用推進事例集』を作成しました。 継続雇用延長を行った企業の事例を増やすとともに、賃金・評価制度についての記述を充実し、新たに23事例を紹介しています。 23事例を紹介 図表でもわかりやすく紹介 索引で検索 この事例集では、65歳以上定年制、雇用上限年齢が65歳超の継続雇用制度を導入している企業について ●定年、継続雇用上限年齢の引上げを行った背景 ●取組みのポイント ●制度の内容 ●高齢社員の賃金・評価  −などを詳しく紹介しています。 ★制度改定前後の状況について表で整理しました ★企業の関心が高い賃金・評価・退職金などの記載を充実しました! 事例集は、ホームページでご覧いただくことができます。 http://www.jeed.or.jp/elderly/data/manual.html 65歳超雇用推進事例集 検索 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 事例を大幅に入れ替えた『65歳超雇用推進マニュアル(その3)』もつくったよ 2019 7 令和元年7月1日発行(毎月1回1日発行) 第41巻第7号通巻477号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会