【表紙2】 65歳超雇用推進助成金のご案内 (平成31年4月から一部コースの見直しを行いました) 〜65歳超継続雇用促進コース〜 65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施する事業主のみなさまを助成します。 主な支給要件 ●労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、旧定年年齢※1を上回る年齢に引上げること。 ●定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。  また、改正後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること。 ●1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること。 ●高年齢者雇用推進者の選任および高年齢者雇用管理に関する措置※2を実施すること。 支給額 実施した制度 60歳以上の被保険者数※3 1〜2人 65歳への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 10 5歳 15 66歳以上への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 15 5歳以上 20 定年の廃止 20 66〜69歳の継続雇用への引上げ 引上げた年数 4歳未満 5 4歳 10 70歳以上の継続雇用への引上げ 引上げた年数 5歳未満 10 5歳以上 15 60歳以上の被保険者数※3 3〜9人 65歳への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 25 5歳 100 66歳以上への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 30 5歳以上 120 定年の廃止 120 66〜69歳の継続雇用への引上げ 引上げた年数 4歳未満 15 4歳 60 70歳以上の継続雇用への引上げ 引上げた年数 5歳未満 20 5歳以上 80 60歳以上の被保険者数※3 10人以上 65歳への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 30 5歳 150 66歳以上への定年引上げ 引上げた年数 5歳未満 35 5歳以上 160 定年の廃止 160 66〜69歳の継続雇用への引上げ 引上げた年数 4歳未満 20 4歳 80 70歳以上の継続雇用への引上げ 引上げた年数 5歳未満 25 5歳以上 100 ■1事業主あたり(企業単位)1回かぎり (単位:万円) 〜高年齢者評価制度等雇用管理改善コース〜 高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(高年齢者雇用管理整備措置)を実施した事業主のみなさまを助成します。 措置(注1)の内容 ●高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入 ●法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 支給対象経費(注2)の60%《75%》、ただし中小企業事業主以外は45%《60%》 (注2)措置の実施に必要な専門家ヘの委託費、コンサルタントとの相談経費(経費の額にかかわらず、初回の申請にかぎり30万円の費用を要したものとみなします。) 〔《 》内は生産性要件を満たす場合※4〕 〜高年齢者無期雇用転換コース〜 50歳以上かつ定年年齢未満の有期雇用労働者を無期雇用契約労働者に転換した事業主のみなさまを助成します。 申請の流れ @無期雇用転換制度を整備 A高年齢者雇用推進者の選任および高年齢者雇用管理に関する措置※2を1つ以上実施 B転換計画の作成、機構への計画申請 C転換の実施後6カ月間の賃金を支給 D機構への支給申請 支給額 ●対象労働者1人につき48万円(中小企業事業主以外は38万円) ●生産性要件を満たす場合※4には対象労働者1人につき60万円 (中小企業事業主以外は48万円) ※1 旧定年年齢とは……就業規則等で定められていた定年年齢のうち、平成28年10月19日以降、最も高い年齢 ※2 高年齢者雇用管理に関する措置とは…… (a) 職業能力の開発および向上のための教育訓練の実施等 (b) 作業施設・方法の改善 (c) 健康管理、安全衛生の配慮 (d) 職域の拡大 (e) 知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進 (f) 賃金体系の見直し (g) 勤務時間制度の弾力化 のいずれか ※3 60歳以上の被保険者とは……当該事業主に1年以上継続して雇用されている者であって、期間の定めのない労働協約を締結する労働者または定年後に継続雇用制度により引き続き雇用されている者にかぎります。 ※4 生産性要件を満たす場合とは…… 『助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること』(生産性要件の算定対象となった期間中に、事業主都合による離職者を発生させていないこと)が要件です。 (生産性=(営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課)÷雇用保険被保険者数) (企業の場合) ■お問合せや申請は、都道府県支部高齢・障害者業務課(東京、大阪は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします(65頁参照)。  そのほかに必要な条件、要件等もございますので、詳しくはホームページ(http://www.jeed.or.jp)をご覧ください。 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.52 「生涯現役」を掲げ、労使で65歳定年を実現 役職定年なし、処遇は変更せず活躍を推進 レンゴー株式会社 人事部長玉置克己さん たまき・かつみ 1985(昭和60)年レンゴー株式会社に入社。鳥栖工場総務課長、人事部勤労課長などを経て、2011(平成23)年より人事部長。2015年に理事に就任。  段ボール業界最大手のレンゴー株式会社では、今年4月に65歳定年制度を導入しました。高齢社員に戦力として活躍してもらうための処遇や退職金制度を整備するとともに、役職定年を設けないなど、すべての高齢社員に現役世代と同じように活躍してもらうことを期待した制度となっています。今回は、同社人事部長の玉置克己さんに、定年延長や働き方改革の取組みについて、お話をうかがいました。 「生涯現役」のスローガンのもと60歳以降も59歳までの処遇を維持 ―貴社では2019(平成31)年4月から65歳定年制度を導入しました。その背景と導入の目的は何でしょうか。 玉置 当社では、2001年より再雇用制度を導入し、2013年からは希望者全員を再雇用する仕組みとし、約8割が60歳以降も働いています。ただし、再雇用の一般社員の月例給与は一律18万円と、賞与を含めた年収は59歳時の6割程度まで下がります。さらに、業界の事情として、段ボールメーカーは受注産業※1であり、ユーザーの要望に応えるため、昼夜の交替勤務もあれば、残業、休日出勤もあります。60歳の定年で退職金を受け取ると、気持ちが萎えてしまうのか、交替勤務や休日出勤を嫌がる再雇用社員も少なくないのです。  こうした再雇用社員のモチベーションの低下は、同じ現場で働く現役社員にも悪影響をもたらします。そこで、2017年に「生涯現役」のスローガンを掲げ、加速する少子高齢化や人手不足に対応するために、モチベーションの維持と生産性の向上という目的を労働組合と共有し、精力的に協議を重ねてきました。社内の状況のほか、政府が推進する一億総活躍社会や他社の定年延長の動きも視野に入れながら検討を行い、2019年4月からの実施に向けて、労使共同で社員への説明を進め、2018年6月に「65歳定年」を労働組合と合意するに至りました。 ―モチベーション維持という意味では、60歳以降の処遇制度がカギを握ります。処遇制度はどのような仕組みですか。 玉置 再雇用制度と違って基本給を下げることなく、60歳以降も給与・賞与を含めて59歳以前と変わらない仕組みとしました。当社の賃金制度は職能資格給であり、社員の資格が上がれば給与も上がり、人事考課によって昇給額が決まる仕組みです。60歳以降の昇給額は多少抑制しましたが、個人のがんばり次第で昇給が可能です。  退職金については、当社はポイント制退職金制度で、勤続年数、社員資格、人事考課、利息などのポイントを毎年付与し、その累積ポイント分を退職時に支払います。定年が延びたことで、受け取るのは65歳になりますが、累積ポイントは60歳までは従来通り付与して固定し、その後は利息ポイントだけが付与されます。したがって、仮に60歳でリタイアしても退職金が減額することはありません。  もう一つ、当社では一律的な役職定年は設けませんでした。もともと60歳定年制度のもとでも役職定年はなかったのですが、定年を延長してもそれは変わりません。定年延長を機に役職定年を導入しようという議論もありましたが、「生涯現役」の実現という目的をふまえ、これまで通り、各人が持っている能力をしっかり発揮してもらいたいという判断で導入しませんでした。 ―役職定年には、若手の抜擢(ばってき)など世代交代をうながすという目的がありますが、昇進が遅れることに対する不安はありませんでしたか。 玉置 それよりも管理職のモチベーションが下がらないことを意識しました。今回の制度改定では、役職制度全体を見直しています。以前、当社には、組織の責任を持つ課長、部長などのライン長以外にも、「担当課長」、「部長待遇」などと呼ばれる待遇職の管理職が一定数いました。お客さまからは、「名刺交換をしても、だれがライン長なのかわからない」という声もあり、今回の改定では、ライン長と区別するために待遇職の管理職は「担当」を頭につける呼称で統一しました。同時に、ライン長と待遇職で同じ額だった役職手当を見直し、ライン長の手当を高く設定し、役職賞与でも明確に差を設けました。  ただし、ライン長になる人のモチベーションを上げる一方で、世代交代ももちろん必要です。65歳定年になったために、「次は私が部長になる時期だったのになれない」と思えばモチベーションも下がります。それは製造現場の「職長」も同じです。そこで60歳を超えてライン長を続ける者がいてもよいが、その役割にふさわしくない、世代交代をしたほうがベターであると判断すれば、65歳の定年前に交代させることを宣言しています。場合によっては50代での降職もありえますし、適材適所による運用を積極的に行っていくことにしています。 60歳以降も役職定年を設けず現役世代同様の活躍を期待 ―60歳以降も59歳以前の処遇体系と同じだと、社員の納得度は高いと思いますが、実際の社員の反応はいかがでしたか。 玉置 去年の5月から労働組合と一緒に社員・組合員に説明してきましたが、処遇や役職も変わらないので、制度面への不満の声はありませんでした。現場の声で最も多かったのは、「いまの仕事を65歳まで続けられるのか」という体力面の不安です。製造現場は自動化されているわけではなく、交替勤務もあれば残業もあります。暑いなかでの作業もあります。スポットクーラーを取りつけるなど、昔に比べれば改善されているものの、社員のなかには、「本当に交替勤務を続けなければいけないのか」、「あと5年やれといわれても体力が持たないし、自信がない」という声があるのも事実です。  そういう意味では、今後は働き方をどうしていくかが一番の課題だと思っています。会社としては定年が65歳になった以上、従来と同じように100%の力を発揮してほしいと考えています。これまでも健康面や体力面で問題がある人には配慮をしており、その点は変わりませんが、「がんばれる力がある人はがんばっていただきたい」というメッセージを労使双方から発信しています。 ―働く環境を改善していくには、働き方改革も重要です。2018年からは「働き方改革アクションプラン」を策定し、長時間労働対策などに積極的に取り組んでいますね。 玉置 働き方改革については、政府が働き方改革を主導する以前の2014年11月に、当社の会長兼社長の大坪(おおつぼ)が理事長を務める、全国段ボール工業組合連合会が、産業別労働組合と共同で「生産性向上委員会(TFPコミッティー)」を設置し、業界全体で取り組んでいます。段ボール業界は受注産業ですし、長時間労働があたり前の世界でした。しかも、段ボールという製品は、当社がつくったものでも、中小企業がつくったものであっても、それほど大きな違いはありません。そのため、1社だけで長時間労働対策を実施しても、ユーザーは別の会社に発注するだけなので、業界の長時間労働体質は変わらないのです。  そこで、常態化している長時間労働を是正することで人手不足への対処のみならず、若者が夢を持って働き続けられる産業にしようという問題意識を共有し、業界をあげて取り組むことを2014年に宣言しました。その後、世の中の働き方改革も追い風となり、段ボール業界の意識も徐々に変わりつつあります。 「レンゴーはつらつ健康宣言」を策定し長時間労働削減や有給休暇取得を推進 ―貴社も2017年に月平均の時間外労働が60時間以上の社員をゼロにするなど、成果を上げています。また今年1月には「レンゴーはつらつ健康宣言」を出すなど健康経営※2にも取り組んでいます。 玉置 もともとは長時間労働があたり前の会社でしたが、10年以上前から管理職や社員の意識を変えるために、あらゆる施策を実施してきました。有給休暇取得率も低かったのですが、生産性向上委員会などの取組みによって、2018年の平均取得日数は11・6日、取得率60%を達成しました。定年が65歳になったことで、長時間労働対策はより重要な課題と認識していますし、60歳以降の人だけではなく、女性や契約社員も含めて同じように、この問題を解決していきましょうと発信し続けています。  「レンゴーはつらつ健康宣言」も、65歳定年に対する社員・組合員の不安を解消するための処方箋と位置づけています。健康増進に向けた取組みなどの重点施策を打ち出し、65歳まで健康で元気に働けるよう、積極的に取り組んでいくつもりです。 ―定年延長を検討している企業に、アドバイスをいただけますか。 玉置 当社の65歳定年制度は、最初からいまの仕組みを目ざしていたわけではなく、何度も議論・検討した結果、最終的に現在の形になりました。組合員からも「コストアップになるので大丈夫か」という声があがりましたが、今後の日本の状況を考えると、どこかでやらないといけない決断だったと考えています。いまでは導入するまでの迷いや不安は消え、ある意味すっきりしたというのが正直な気持ちです。  導入した以上、今後は60歳以降の人たちの力をいかに引き出し、活躍をうながしていくかが大きな課題です。定年延長も企業によっていろいろなやり方がありますが、早く導入したほうが次の課題に速やかに取り組めるのではないでしょうか。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/安田美紀) ※1 受注産業……注文を受けて生産を行う産業 ※2 「健康経営」はNPO法人健康経営研究会の登録商標です 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 2019 August ●表紙のオブジェ イラストレーター 柳田ワタル(やなぎだ・わたる) 1947年大阪府堺市生まれ。1970年多摩美術大学卒業。アニメーション制作会社勤務ののち、1974年よりフリーのイラストレーターとなる。1977年よりオブジェ、立体クラフトなどの制作を開始。90年代からは写真撮影も始める。 特集 6 高齢社員のモチベーションの維持・向上のツボ 7 総論 60歳代前半層の人事管理の整備と労働意欲 〜意欲が低下する原因を考える〜 玉川大学 経営学部 教授 大木栄一 15 鼎談 高齢者の労働意欲の変化に人事はどのように対応すべきか 玉川大学 経営学部 教授 大木栄一 株式会社前川製作所 コーポレート本部人財部門 係長 大嶋江都子 日本クッカリー株式会社 総務人事部 部長 小西敦美 24 企業事例 積水化学工業株式会社 評価制度と第二の退職金を設けて60歳以降の活躍を後押し 1 リーダーズトーク No.52 レンゴー株式会社 人事部長 玉置克己さん 「生涯現役」を掲げ、労使で65歳定年を実現役職定年なし、処遇は変更せず活躍を推進 27 日本史にみる長寿食 vol.311 腸を元気にするコンブ 永山久夫 28 マンガで見る高齢者雇用 ダイキン工業株式会社《第1回》 34 江戸から東京へ 第83回 わしは本の医者だ 中川得楼 作家 童門冬二 36 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第64回 NPO法人カローレ(ベビーかろーれ) 保育士 薄 和代さん(69歳) 38 高齢者の現場 北から、南から 第87回 福岡県 松岡モータース株式会社 42 高齢社員の磨き方 ―生涯能力開発時代へ向けて― 第4回 溝上憲文 46 知っておきたい労働法Q&A《第16回》 人事考課、賃金からの相殺 家永 勲 50 科学の視点で読み解く 身体と心の疲労回復[第3回] 渡辺恭良 52 特別企画 同一労働同一賃金の実現に向けて《前編》 ―正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の禁止― 56 お知らせ 高年齢者雇用開発フォーラムのご案内 地域ワークショップのご案内 58 BOOKS 59 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.303 和本と洋本の技術の融合 手になじむ「粋」な本を生む 製本職人 渡邊博之さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第27回]「ワーキングメモリ」を鍛える 篠原菊紀 【P6】 特集 高齢社員のモチベーションの維持・向上のツボ  65歳までの雇用確保措置の義務化により、現在、日本にある企業の99・8%※が、希望すれば65歳まで働ける制度を導入しています。しかし、その一方で、60歳以降の賃金の低下、業務内容や役割の変化などにより、モチベーションが下がってしまい、本来の力が発揮できなくなっている高齢社員も少なくないといわれています。  そこで今回は、「60歳代前半層の人事管理」に焦点を当て、高齢社員がモチベーションを高め、活き活きと働くための方策について展望します。 ※ 厚生労働省「平成30年6月1日現在の高年齢者の雇用状況」より 【P7-14】 総論 60歳代前半層の人事管理の整備と労働意欲 〜意欲が低下する原因を考える〜 玉川大学 経営学部 教授 大木 栄一 1 はじめに―求められる高齢社員の人事管理の整備  日本では、高齢化が進展するなかで、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)が改正され、2006(平成18)年4月からは、継続雇用制度の導入などの、高年齢者雇用確保措置の導入が義務づけられた。高年齢者雇用確保措置とは@定年の引上げ、A継続雇用制度の導入、B定年の廃止の三つである。さらに、継続雇用制度としては再雇用制度と勤務延長制度の二つをあげることができるが、多くの企業で導入されているのが再雇用制度(嘱託社員などの非正規社員の雇用形態として1年ごとに契約更新を行われるケースが多い)である。その後、2013年4月からは希望者全員を65歳まで雇用確保することが企業に義務として課せられるようになった。  そうなると60歳以降の社員、特に、60歳代前半層(以下、「高齢社員」)が増えることになるので、企業にとっては、高齢社員に対して、どのような人事管理を行うかが重要な経営課題となってきている。日本企業の人事管理は60歳定年制を前提に形成されてきたため、高齢社員の働き方のニーズは「60歳未満の正社員」(以下、「現役正社員」)と異なる。しかし、今後高齢社員を対象とした人事管理(以下、「高齢社員の人事管理」)の仕組みを構築する際には、現役正社員を対象にした人事管理との継続性を図ることが必要になってくる。企業にとって、60歳以降も引き続き雇用する高齢社員と現役正社員との人事管理上のバランスをいかにとり、それに合わせて高齢社員の人事管理をどのように整備するかが大きな課題の一つとなっている。こうした人事管理の整備は高齢社員個人の納得性を高め、モチベーション(労働意欲)の向上につながり、それが職場の生産性を高めることに貢献する。  そこで、「高齢社員の人事管理の各領域において、現状でどのような点が『現役正社員』を対象とした人事管理と継続性があるのか、あるいは、継続性がないのか」を明らかにすることを目的として実施された、高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『継続雇用制度の現状と制度進化―「60歳以降の社員に関する人事管理に関するアンケート調査」結果より―』を利用して、高齢社員の人事管理の現状と課題を、定年制の状況別に、現役正社員の人事管理との継続性の観点から紹介しよう。  なおアンケート調査では、回答企業を定年制の状況別に以下の三つ(定年年齢64歳以下、かつ継続雇用制度で雇用上限年齢が65歳以下の企業〈以下、「雇用確保措置企業」〉2434社、定年年齢64歳以下、かつ継続雇用制度で上限年齢が66歳以上の企業〈以下、「継続雇用66歳以上企業」〉533社、定年制度なし、または定年年齢65歳以上の企業〈以下、「65歳以上の定年企業」〉316社)のタイプに分けている。  人事管理の整備状況を紹介する前に、本稿では人事管理の「何」を見るのか、あらかじめ着眼点を示しておこう。人事部門が設計する人事管理は、「社員(雇用)区分制度」※1と「社員格付け制度」※2からなる基盤システムとサブシステムから構成されている。サブシステムは大きく分けて以下の3分野からなっている。第一は、雇用管理である。職場や仕事に人材を供給するための管理機能をになう「採用」、「配置・異動」、「能力開発」および「雇用調整・退職」が該当する。第二は、労働条件管理である。社員の働く環境を管理する機能をになう「労働時間管理」および「安全衛生管理」が含まれる。第三は、報酬管理である。社員に給付する報酬を管理する機能をになう「賃金管理」、「昇進・昇格管理」、「福利厚生」がある。さらに、「人事評価」は基盤システムとサブシステムをつなぐ連結ピンの役割をになっている。  以下では、これらのキーワードのうち「社員格付け制度・社員(雇用)区分制度」、「配置・異動」、「労働時間管理」、「人事評価制度」、「報酬管理(昇給、賞与、一時金、昇格)」の五つのポイントに絞って、60歳代前半層の人事管理の特質を紹介する。 2 60歳代前半層の人事管理の特質 (1) 社員格付け制度・社員(雇用)区分制度の設定状況  社員格付け制度は、従業員の序列を決定する仕組みであるが、何を基準にして序列を決めるかによって制度の形態が異なる。「仕事の重要度」に基づく『職務分類制度』と、「ヒトの能力」に基づく『職能資格制度』が代表的な格付け制度である。一般的に現役正社員には、職能資格制度が適用されている。  一方、アンケート調査結果によると、高齢社員の格付け制度を「導入している」企業は定年制の状況にかかわらず、3割以下にとどまる。その内訳は「65歳以上の定年企業」では、現役正社員の社員格付け制度を「すべての高齢社員」に適用している企業が7割強を占めている。これに対して、「雇用確保措置企業」では、現役正社員の社員格付け制度を「すべての高齢社員」に適用している企業が26・8%、「一部の高齢社員」に適用している企業が6・4%にとどまり、現役正社員と異なる制度を適用している企業が65・5%に及んでいる(図表1)。  他方、「社員(雇用)区分制度」については、賃金テーブルの設定状況からみると、「設定している」企業は定年制の状況にかかわらず、約4割にとどまるが、その内訳は「65歳以上の定年企業」では、現役正社員の社員区分制度を「すべての高齢社員」に適用している企業が約7割を占めている。これに対して、「雇用確保措置企業」では現役正社員の社員区分制度を「すべての高齢社員」に適用している企業が16・5%、「一部の高齢社員」に適用している企業が5・8%にとどまり、現役正社員と異なる制度を適用している企業が77・0%に及んでいる(図表2)。 (2)配置・異動  高齢社員の配置・異動について、「役職」および「仕事内容」の継続性からみてみよう。  過去3年間に、高齢社員のなかで、60歳を過ぎても「役職」に就いている者のおよその割合をみると、「65歳以上の定年企業」では、過半数以上(「ほぼ全員」+「8割程度」)を占めるとする企業は36・4%である。他方、「雇用確保措置企業」で過半数以上の企業は12・3%、少数以下(「少数」+「1人もいない」)にとどまる企業は60・9%である。  また、高齢社員のなかで、「仕事内容」が継続している者のおよその割合をみると、過半数以上(「ほぼ全員」+「8割程度」)を占めるとする企業は、「65歳以上の定年企業」では84・1%、「雇用確保措置企業」では63・7%、少数以下(「少数」+「1人もいない」)にとどまるとする企業は「65 歳以上の定年企業」では7・2%、「雇用確保措置企業」では17・5%である(図表3)。 (3)労働時間  高齢社員の労働時間は、現役正社員との比較でどのような状況にあるのか。図表4では、それを「所定内労働時間」と「所定外労働時間(残業時間)」の二つの面からみている。高齢社員について、所定内労働時間が現役正社員と同じ者が過半数以上(「ほぼ全員」+「8割程度」)を占めるとする企業は定年制の状況にかかわらず、8割強を占めている。  他方、所定外労働時間が現役正社員と同じ者が過半数以上(「ほぼ全員」+「8割程度」)を占めるとする企業は「65歳以上の定年企業」では74・4%、「雇用確保措置企業」では31・8%である一方、少数以下(「少数」+「1人もいない」)にとどまるとする企業は「65歳以上の定年企業」では14・8%、「雇用確保措置企業」では40・0%となっている。 (4)評価制度  高齢社員に評価制度を導入している企業は、「65歳以上の定年企業」では74・1%、「雇用確保措置企業」では56・9%である。導入企業のうち、現役正社員の仕組みをすべての高齢社員に適用している企業は「65歳以上の定年企業」では82・1%、「雇用確保措置企業」では43・7%、一部の高齢社員に適用している企業は8・1%と13・5%であり、現役正社員と異なる制度を適用している企業は9・4%と42・2%である(図表5)。  評価方法の一つである目標管理(業務目標を立てさせること)を高齢社員にも適用している企業は、「現役正社員と高齢社員全員」と「現役正社員と一部の高齢社員」を合わせて「65歳以上の定年企業」では51・3%、「雇用確保措置企業」では44・9%である。定年制の状況にかかわらず、約4〜5割の企業で高齢社員に業務目標を立てさせている(図表は掲載していないため、詳しい結果については、『継続雇用制度の現状と制度進化―「60歳以降の社員に関する人事管理に関するアンケート調査」結果より―』〈高齢・障害・求職者雇用支援機構・2018〉の8頁、図表10を参照)。 (5)報酬制度  最後に報酬制度についてみてみよう。報酬の基本を形成する基本給において「昇給なし」の企業は、「65 歳以上の定年企業」では36・4%、「雇用確保措置企業」では73・6%を占める。「昇給が全員にある」は44・3%と10・8%、「昇給が一部にある」は17・7%と15・0%である(図表6)。  他方、高齢社員に社員格付け制度を導入している企業に限定して昇格の有無をみると、「昇格なし」の企業は「65歳以上の定年企業」では23・3%、「雇用確保措置企業」では59・5%を占め、「昇格が全員にある」が26・7%と9・9%、「昇格が一部にある」が13・3%と17・8%である(図表7)。  高齢社員を賞与・一時金の「支給対象としている」(「全員を対象にしている」+「一部を対象にしている」)企業は「65歳以上の定年企業」では84・5%、「雇用確保措置企業」では75・3%、「対象にしていない」企業は、12・7%と23・3%である(図表6)。支給対象としている企業における賞与・一時金の決め方について、現役正社員の決め方をすべての高齢社員に適用している企業は「65歳以上の定年企業」では80・5%、「雇用確保措置企業」では22・5%、一部の高齢社員に適用している企業が5・6%と8・4%、現役正社員と異なる制度を適用している企業が13・5%と 67・9%である。 3 継続性からみた60歳代前半層の人事管理の現状と課題  高齢社員の人事管理を設計するうえで最も重要な点は、高齢社員を「どのような仕事に配置して」(「配置の管理」)、「どのような就業形態のもとで」(「労働時間の管理」)活用するのか、また、働きぶりに対応して高齢社員に対して「どのような報酬を与えるのか」(「賃金等の報酬管理」)の三つである。  この3点について、現役正社員の人事管理との継続性の観点【14頁注】から整理すると図表8のようになる。継続性の尺度は、得点が高いと人事管理の継続性が高く、得点が低いと継続性が低くなるように設計している。同表から明らかなように、「配置の管理」の面では、定年制の状況にかかわらず、役職者を除き現職継続が原則である。さらに「労働時間の管理」の面では、「65歳以上の定年企業」では現役正社員継続型が、他方、「雇用確保措置企業」では、所定内労働時間では現役正社員継続型が、残業手当がともなう所定外労働時間(残業時間)では現役正社員非継続型がとられている。このように労働給付にかかわる配置管理と労働時間管理では現役正社員と同じ、あるいはそれに近い雇用管理がとられているにもかかわらず、報酬管理では現役正社員とは異なる扱いをする傾向が強い。さらに、そのなかにあって全体的にみると、「65歳以上の定年企業」は現役正社員制度に近く(「統合型の人事管理」)、「雇用確保措置企業」は現役正社員制度から遠い(「分離型の人事管理」)存在にある。  それでは高齢社員の報酬管理は現役社員と「何」が異なるのか。基盤システムと基本給に着目して整理してみよう。最初に、報酬管理の基盤となっている「社員(雇用)区分制度」および「社員格付け制度」についてみてみよう。定年制の状況にかかわらず、高齢社員を複数にグループ分けして管理する(「社員(雇用)区分制度」を導入している)企業は少なく、特に、「雇用確保措置企業」ではグループ分けを行っている企業であっても現役正社員制度とは異なる基準でグループ分けを行っている。  同様に、「社員格付け制度」を整備して、「仕事」や「能力」などに対応して高齢社員を複数のランクに格付けるという企業は、定年制の状況にかかわらず、多くない。「社員格付け制度」を導入している企業であっても、導入されている制度は、現役正社員制度に主に導入されている「能力」(「職務遂行能力」)ではなく、「仕事」に対応して高齢社員を複数のランクに格付ける仕組みであり、現役正社員に適用されている「社員格付け制度」の設計思想(外部労働市場の動向よりも、現役正社員の能力開発を意識した等級やランクが上がることを基準に制度が設計されていること)とは異なる思想で、高齢社員の格付け制度が設計されている(詳しくは、高齢・障害・求職者雇用支援機構(2010)『人事制度と雇用慣行の現状と変化に関する調査研究―60歳代前半層の人事管理の現状と課題』を参照)。  さらに、報酬管理のうち最も重要な基本給についてみると、「社員格付け制度」が導入されていないことからも明らかなように、定年制の状況にかかわらず、報酬の基本を形成する基本給のなかに「昇給なし」の仕組みが組み込まれ、特に、「雇用確保措置企業」で顕著にみられる。  また、「65歳以上の定年企業」と「雇用確保措置企業」の違いが顕著にあらわれているのが、「昇格(昇進)なし」の賃金制度、賞与・一時金制度および退職金(慰労金)制度であり、その背景には、「雇用確保措置企業」では高齢社員の雇用形態が非正規雇用であるため、昇格(昇進)、賞与・一時金および退職金(慰労金)の支給対象者にしていないことがある。  以上にみるように、高齢社員の雇用管理(配置管理と労働時間管理)と、高齢社員の労働意欲の維持・向上をはかるための報酬管理の間には整合性が取れていない。配置管理においては役職者を除き、「現職継続」を原則とし、労働時間に関しては基本的にはフルタイム勤務が一般的であり、現役正社員と同様に、あるいはそれに近い形で活用することを基本に管理の仕組みが設計されている。しかしながら、報酬管理は報酬の基本を形成する基本給のなかに「昇給なし」の仕組みが組み込まれており、現役正社員とは異なる扱いをする、あるいは、それに近い仕組みがとられている。そのため、高齢社員のモチベーションの向上につながるような人事管理が構築されていないのが現状である。特に、その傾向は「雇用確保措置企業」で顕著にみられる。 4 おわりに―高齢社員の納得性を高める人事管理を目ざして―  高齢社員に現役正社員と異なる人事管理を採用する場合には、高齢社員の活用方針を明確にすることと、それを高齢社員と現役正社員に浸透させるための支援策を実施することが、企業に強く求められる。「雇用確保措置企業」に代表されるような分離型の人事管理の場合には、定年(60歳)を契機にして現役時代とは異なる仕組みのもとで評価され、処遇されることになる。高齢社員には新しい人事管理に適合するために、働く意識と処遇に対する期待を転換することが求められる。転換が十分でないと労働意欲が低下する。そのため、分離型の人事管理をとる企業は統合型の人事管理以上に、高齢社員に「なぜ人事管理が変化するのか」を納得してもらうための方策を強く打ち出す必要がある。  しかしながら、人事管理のすべての領域で高齢社員と現役正社員との継続性を維持することが、働き方のニーズが現役正社員とは異なる高齢社員の活用・処遇に際して、必ずしも合理的ではないとも考えられる。具体的に、どのような仕事に従事してもらうのか(例えば、現役時代に蓄積してきた専門能力等を活かして現役並に高度な仕事を担当してもらうのか、あるいは、高度な能力を必要としない定型的な業務を担当してもらうのか)、どの程度働いてもらうのか(働く時間・日数・働く場所についてどの程度の柔軟性を持たせるのか)という観点から検討する必要がある。その戦略に基づいて、高齢社員の納得性が高まる人事管理の整備を考える必要がある。 【注】現役正社員と高齢社員の「決め方」の継続性を明らかにするには、両者間の人事管理制度上の差異を数量的に測定することが必要であり、現役正社員の人事管理がどの程度高齢社員に適用されているのかという観点から、「決め方」の継続尺度を開発した。具体的には、「現役正社員と高齢社員全員が対象である」(4点)、「現役正社員と一部の高齢社員が対象である」(3点)、「現役正社員と高齢社員は異なる制度である」(2点)、「高齢社員は対象ではない(現役正社員のみ対象である)」(1点)の4ランクからなる継続尺度とした。個々の制度がこの四つのランクのうちどれにあてはまるのかによって、右記のカッコ内で示した4点から1点の得点を与え「継続度」とした。継続度の得点が高いほど、現役正社員との継続性が強い統合型の人事管理、他方、低いほど現役正社員との継続性が弱い分離型の人事管理を採用していることを示している。 〔参考資料〕 ●高齢・障害・求職者雇用支援機構(2016)『高齢社員の人事管理と展望―生涯現役に向けた人事戦略と雇用管理の研究委員会報告書(平成27年度)』 ●高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『継続雇用制度の現状と制度進化―「60歳以降の社員に関する人事管理に関するアンケート調査」結果より―』 ●高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『65歳定年時代における組織と個人のキャリアの調整と社会的支援―高齢社員の人事管理と現役社員の人材育成の調査研究委員会報告書』 ※1 社員(雇用)区分制度……人材を効率的に確保、育成、活用、処遇できるように、社員をグループに分け異なる人事管理を適用する制度。例えば、管理職と一般職、事務職と技能職といった区分のほか、非正社員におけるパートタイマー、アルバイト、契約社員などの区分がある ※2 社員格付け制度……社員の職務遂行能力や、実際に行っている業務、業務における役割など基準に、社員を格付けする制度。職能資格制度や職務等級制度、役割等級制度などがある 図表1 60歳代前半層の格付け制度と59歳以下正社員との継続性 (単位:%) 60歳代前半層社員に対する等級制度 行っていない 行っている うち、59歳以下正社員の制度適用状況 すべての社員に適用 一部に適用 すべて異なる 無回答 雇用確保措置企業 (N=2434) 76.4 23.1 (100%, N=563) 26.8 6.4 65.5 1.2 継続雇用66歳以上企業 (N=533) 77.9 22.0 (100%, N=117) 26.5 11.1 58.1 4.3 65歳以上の定年企業 (N=316) 70.9 28.5 (100%, N=90) 74.4 7.8 13.3 4.4 出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『継続雇用制度の現状と制度進化―「60歳以降の社員に関する人事管理に関するアンケート調査」結果より―』 図表2 60歳代前半層を対象にした賃金テーブルと59歳以下正社員との継続性 (単位:%) 設定していない 設定している 1つ 2つ以上 うち、59歳以下正社員の制度適用状況 すべての社員に適用 一部に適用 すべて異なる 無回答 雇用確保措置企業 (N=2434) 61.9 21.9 15.7 (100%, N=914) 16.5 5.8 77.0 0.7 継続雇用66歳以上企業 (N=533) 64.5 19.1 16.1 (100%, N=188) 22.9 9.6 66.0 1.6 65歳以上の定年企業 (N=316) 61.7 19.9 17.4 (100%, N=118) 67.8 8.5 23.7 0.0 出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『継続雇用制度の現状と制度進化―「60歳以降の社員に関する人事管理に関するアンケート調査」結果より―』 図表3 60歳代前半層の「役職の継続性」・「仕事内容の継続性」 (単位:%) ほぼ全員 8割程度 半数程度 2割程度 1割程度 少数 1人もいない 無回答 役職 雇用確保措置企業 (N=2434) 7.9 4.4 8.6 10.0 7.4 26.3 34.6 0.7 継続雇用66歳以上企業 (N=533) 9.8 4.9 10.7 9.0 6.8 34.5 23.3 1.1 65歳以上の定年企業 (N=316) 30.1 6.3 7.3 4.7 9.5 20.9 20.3 0.9 仕事内容 雇用確保措置企業 (N=2434) 44.9 18.8 12.1 3.7 2.3 12.6 4.9 0.6 継続雇用66歳以上企業 (N=533) 46.9 20.1 12.6 2.4 2.4 11.3 3.4 0.9 65歳以上の定年企業 (N=316) 77.8 6.3 3.8 2.2 2.2 6.3 0.9 0.3 出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『継続雇用制度の現状と制度進化―「60歳以降の社員に関する人事管理に関するアンケート調査」結果より―』 図表4 60歳代前半層の「所定内労働時間の継続性」・「所定外労働時間の継続性」 (単位:%) ほぼ全員 8割程度 半数程度 2割程度 1割程度 少数 1人もいない 無回答 所定内労働時間 雇用確保措置企業 (N=2434) 71.3 12.7 5.4 1.7 0.5 3.8 4.1 0.5 継続雇用66歳以上企業 (N=533) 64.4 15.9 7.5 1.5 0.6 5.8 3.8 0.6 65歳以上の定年企業 (N=316) 84.2 4.4 2.2 1.6 0.9 3.2 2.8 0.6 所定外労働時間 雇用確保措置企業 (N=2434) 22.9 8.9 14.6 8.4 4.6 22.2 17.8 0.6 継続雇用66歳以上企業 (N=533) 29.3 12.9 14.6 6.0 4.1 22.3 9.9 0.8 65歳以上の定年企業 (N=316) 67.4 7.0 5.1 2.8 1.9 8.2 6.6 0.9 出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『継続雇用制度の現状と制度進化―「60歳以降の社員に関する人事管理に関するアンケート調査」結果より―』 図表5 60歳代前半層の人事評価と59歳以下正社員との継続性 (単位:%) 対象としていない 対象としている 全員を対象としている 一部を対象としている うち、59歳以下正社員の仕組みと継続性 すべての社員が同じ 一部が同じ 異なる 無回答 雇用確保措置企業 (N=2434) 42.3 45.3 11.6 (100%, N=1385) 43.7 13.5 42.2 0.6 継続雇用66歳以上企業 (N=533) 39.8 46.5 12.9 (100%, N=317) 55.2 10.4 33.4 0.9 65歳以上の定年企業 (N=316) 25.3 65.2 8.9 (100%, N=234) 82.1 8.1 9.4 0.4 出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『継続雇用制度の現状と制度進化―「60歳以降の社員に関する人事管理に関するアンケート調査」結果より―』 図表6 60歳代前半層の「昇給の支給状況」・「賞与・一時金の支給状況」と59歳以下の正社員との継続性 (単位:%) 「昇給」・「賞与・一時金」の支給状況 全員にある 一部にある 全員にない 無回答 昇給 雇用確保措置企業 (N=2434) 10.8 15.0 73.6 0.7 継続雇用66歳以上企業 (N=533) 15.0 21.2 63.2 0.6 65歳以上の定年企業 (N=316) 44.3 17.7 36.4 1.6 「昇給」・「賞与・一時金」の支給状況 全員にある 一部にある 全員にない 無回答 うち、(賞与・一時金)について59歳以下正社員の仕組みとの継続性 すべての社員が同じ 一部が同じ 異なる 無回答 賞与・一時金 雇用確保措置企業 (N=2434) 60.4 14.9 23.3 1.5 (100%, N=1833) 22.5 8.4 67.9 1.3 継続雇用66歳以上企業 (N=533) 58.3 20.6 19.5 1.5 (100%, N=421) 30.6 10.7 56.5 2.1 65歳以上の定年企業 (N=316) 76.6 7.9 12.7 2.8 (100%, N=267) 80.5 5.6 13.5 0.4 出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『継続雇用制度の現状と制度進化―「60歳以降の社員に関する人事管理に関するアンケート調査」結果より―』および高齢・障害・求職者雇用支援機構(2019)『中高年齢社員のキャリア管理と高齢社員の人事管理の現状―企業・高齢社員を対象にした質問紙調査の分析結果から』(近刊) 図表7 60歳代前半層の昇格の状況 (単位:%) 格付け制度 なし あり 「あり」のうち、昇格の対象 全部にある 一部にある 全員にない 無回答 雇用確保措置企業 (N=2434) 76.4 23.1 (N=563, 100%) 9.9 17.8 59.5 12.8 継続雇用66歳以上企業 (N=533) 77.9 22.0 (N=117, 100%) 8.5 22.2 53.0 16.2 65歳以上の定年企業 (N=316) 70.9 28.5 (N=90,100%) 26.7 13.3 23.3 36.7 (注)高齢社員に社員格付け制度を導入している企業の回答 出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『継続雇用制度の現状と制度進化―「60歳以降の社員に関する人事管理に関するアンケート調査」結果より―』 図表8 定年制の状況別にみた高齢社員の人事管理(現役正社員の人事管理との継続度) (単位:点) 雇用確保措置企業 継続雇用66歳以上企業 65歳以上の定年企業 人事制度(基盤システム) 社員格付け制度 1.37 1.36 1.73 社員区分制度 1.52 1.55 1.93 配置・異動 役職の継続状況 1.72 1.82 2.39 仕事内容の継続性 3.23 3.33 3.65 就労条件(労働時間) 所定内労働時間 3.66 3.59 3.75 所定外労働時間 2.38 2.67 3.40 評価 人事評価 2.15 2.33 3.03 報酬制度 基本給の決め方 2.31 2.56 3.49 昇給 1.63 1.88 2.71 賞与・一時金 2.18 2.39 3.32 昇格 1.75 1.84 2.68 退職金・慰労金の決め方 1.35 1.59 3.40 (注1) 表は60歳代前半層社員に適用される人事管理が59歳以下の正社員に適用される人事管理との類似度を測定している。 (注2) 得点の計算方法については、現役正社員と高齢社員全員が同じ仕組みであれば「4点」、一部の高齢社員が同じ仕組みであれば「3点」、現役正社員と高齢社員が異なる仕組みの場合は「2点」、高齢社員が対象でない場合は「1点」としている。なお、該当する施策を現役正社員に実施していない場合は、集計から除外している。2.5点よりも大きい場合、60歳代前半層社員の人事管理が現役正社員と類似する傾向(継続性が高い)にあり、2.5点よりも小さい場合には、異なる(継続性が低い)と判断できる。 (注3) 役職の継続状況及び仕事内容の継続性の得点化については「高齢社員の8割程度〜ほぼ全員が役職継続者・仕事内容継続者」であれば「4点」、「高齢社員の半数程度が役職継続者・仕事内容継続者」であれば「3点」、「高齢社員の1割〜2割程度が役職継続者・仕事内容継続者」であれば「2点」、「高齢社員の役職継続者・仕事内容継続者は少数〜1人もいない」であれば「1点」として計算している。 (注4) 所定内労働時間及び所定外労働時間の得点化については「高齢社員の8割程度〜ほぼ全員が現役正社員と同じ所定内労働時間・所定外労働時間」であれば「4点」、「高齢社員の半数程度が現役正社員と同じ所定内労働時間・所定外労働時間」であれば「3点」、「高齢社員の1割〜2割程度が現役正社員と同じ所定内労働時間・所定外労働時間」であれば「2点」、「高齢社員と同じ所定内労働時間・所定外労働時間は少数〜1人もいない」であれば「1点」として計算している。 出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『継続雇用制度の現状と制度進化―「60歳以降の社員に関する人事管理に関するアンケート調査」結果より―』 【P15-23】 鼎談 高齢者の労働意欲の変化に人事はどのように対応すべきか  企業の人事・教育担当者を招いた鼎談をお届けする。司会・進行は、総論に引き続き、企業の人的資源管理に詳しい玉川大学経営学部国際経営学科の大木栄一教授。ご参加いただいたのは、株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門の大嶋江都子係長と、日本クッカリー株式会社総務人事部の小西敦美部長である。高齢者雇用の先進企業といえる両社が、高齢社員のモチベーションの問題にどのように取り組み、今後に向けてどのような課題意識を持っているのか、ざっくばらんに語っていただいた。 玉川大学 経営学部 教授 大木 栄一氏 × 株式会社前川製作所 コーポレート本部人財部門 係長 大嶋江都子氏 × 日本クッカリー株式会社 総務人事部 部長 小西 敦美氏 大木 栄一 (おおき・えいいち) 玉川大学経営学部国際経営学科教授。経営管理論、経営戦略論を研究。労働政策研究・研修機構『日本労働研究雑誌』2016年No.667(「継続雇用者の戦力化と人事部門による支援課題」)ほか、本誌2018年12月号特別企画「経験者から見た『役職定年制』の評価・課題とキャリア・シフト・チェンジ」などを執筆。 大嶋江都子 (おおしま・えつこ) 1995年株式会社前川製作所入社。同社総務グループ、総合プロジェクト企画室のほか、株式会社前川総合研究所、財団法人深川高年齢者職業経験活用センターへの出向などを経て、2008年より同社人事採用グループ(現コーポレート本部人財部門)にて、高齢者雇用・人材育成・教育研修などを担当。2016年より本誌編集アドバイザーを務める。 小西 敦美 (こにし・あつみ) 1984年日本水産株式会社に入社。営業を経て、1993年人事部労政課に異動。以降、年功要素を排除した職務等級制度の設計をはじめとする、人事労務業務に従事。現在、子会社の日本クッカリー株式会社に出向中。本誌2011年11月号〜2012年4月号にて連載「どうする? 2013年問題継続雇用制度対応奮闘記」を執筆。2017年からNPO法人ReSDAにも参画。 高齢法の改正で「いられるのが当然」という意識が蔓延(まんえん) 大木 本日は、60代前半層、特にホワイトカラーの働く意欲、モチベーション維持の問題にスポットをあて、企業がどう対応してきたか、今後どう対応していくべきかを、人事・教育にご経験の深いお2人にうかがいたいと思います。  株式会社前川製作所は、「定年ゼロ」と呼ばれる継続雇用制度を採用し、古くから高齢者が活躍する企業として知られています。大嶋さんは、同社の人材育成に長くたずさわり、高齢社員の意欲向上にも取り組んできました。小西さんは、現在の所属企業の親会社である日本水産株式会社において、現役社員および再雇用者の人事制度設計などを担当し、世間に先駆けて導入した職務・仕事基準の人事制度の導入・定着に尽力してきました。  まずは、お2人の会社の高齢者雇用の枠組みについて、改めて簡単にご紹介いただけますか。 大嶋 前川製作所は、1976(昭和51)年に、「定年は数字としてはあるが、定年以降も働き続けるのが自然な形であり、いろいろな職場にいろいろな世代の人がいて一緒に仕事をしていくのがあたり前」という趣旨の経営者の考え方を明文化し、世の中では「定年ゼロ」といわれています。実際は定年がないわけではなく、多くの企業と同様、60歳を定年としています。  ただ、再雇用の上限年齢は定めておらず、現 在の最高齢者は今年 80 歳になる2名です。圧縮 機の改善・改良や、国内外の小集団活動の指導 者・事務局補佐として活躍してもらっています。 小西 私はいま、日本水産株式会社の子会社である日本クッカリー株式会社という会社に出向していますが、今日は、私が主にたずさわってきた日本水産の取組みについてお話しさせていただきます。日本水産の定年年齢は60歳で、その後は65歳までの再雇用制度を設けています。取組みの特徴は、現役世代に役割等級制度を導入するとともに、再雇用後の人事処遇制度も仕事基準とした点です。再雇用後の賃金は、現役時とは連動しておらず、再雇用時に担当する仕事の価値に応じて算定します。 大木 ありがとうございました。高齢者の労働意欲の問題についておうかがいする前に確認しておきたいのですが、2013(平成25)年の高年齢者雇用安定法の改正により、希望者全員を65歳まで継続雇用することになり、だれもが働けるようになったわけですが、この法改正は、会社にとってどんな意味があったのでしょうか。 大嶋 影響は大きかったと思います。60歳が節目という意識があまりなくなり、「無理してがんばらなくても定年後も会社にいられる」という感覚の人が増えた気がします。  当社では、2006年の法改正の影響もありました。それまでは定性的な再雇用の条件のもと、自然の流れで継続雇用していたのが、法律に合わせて条件を設けたことで、人事考課や出勤率など定量的な側面も含めて継続雇用について検討するようになりました。さらに、2013年の法改正により、働いている人の雰囲気が変わったように感じます。以前から、60歳以降も働き続ける風土はありましたが、継続雇用をしている人たちは自分の持ち味や得意な部分が周囲に見える形になっており、それを十分に発揮して活躍していました。法改正の後、「そんなにがんばらなくても、希望すればそのままいられるのでしょう」というように、それまでとは違ったニュアンスで「いられる感」を持った社員が出てきたように感じています。 大木 前川製作所はかなり昔から高齢者雇用に取り組んでいますが、それでも、法改正によって働く人の意欲や行動が変化したのですか。 大嶋 はい。2007年に会社を一社化した影響もあると思います。それ以前は10〜20人単位で独立法人制を採っていたので、小さいチームのなかで、自分や周りの人のやっていることが見えていたのですが、一つの会社になったことで、自分の貢献度合いをダイレクトに感じにくくなりました。 小西 当社も、やはり法改正の影響を受けました。当初は、会社側の「雇わなきゃいけない」というプレッシャーが大きかったですね。いまは、大嶋さんと同じように、本人たちの意識の面に課題を感じています。60歳以降も働き続けられるのがあたり前だと思っている人が多くいます。これは当社にかぎったことではなく、私の周囲でも、「優秀な方なので、転職先も含めて自分で探せるだろう」と思うような人が、「会社は俺に何してくれるんだろう」と受け身の姿勢でいたりします。 大木 それは、企業がこれまで、会社主導でローテーションやキャリア形成を行ってきたことが影響しています。日本では、60歳までは、会社主導で配置や能力開発などを行う一方、働く側は、「会社のいうことを聞いていれば、ひどいことにはならない」と思ってきた。最近の若い人はキャリア教育を受けているので、自分のキャリアは自分で考えなければいけないという意識がありますが、それより上の世代、特に男性は、「会社のいうことを聞いていれば大丈夫」という意識が根強くあります。その結果、60歳になって会社があまりフォローしてくれなくなると、どうしてよいのかわからなくなる。 小西 それなりのパフォーマンスを上げていた人が、60歳になって再雇用した途端に、「この仕事しかやりません」といい出すこともあります。  30代や40代は、昇進競争が行われるなか、モチベーションアップの研修や国内外の留学制度など、会社からさまざまな機会が与えられました。ところが50代となると、そうした機会もなくなり、自分の立ち位置もみえてくる。そこで、その年齢に合ったマインドに少しずつシフトしていくとか、まだまだがんばれるとか、いろいろな道を示せるとよいのですが、当社にかぎらず、多くの企業はそうなっていません。そして、再雇用をする際には、会社も明確なプランがないまま、それまでの仕事をなんとなく継続させて、給料だけが下がるのです。 大嶋 当社でも、60歳を過ぎて、それまでの仕事を継続することにモチベーションが維持できなくなって、「辞めたい」といい出す傾向が出始めたように思います。61歳くらいで辞めていく人がぽつぽついるのですが、その背景のひとつに、「自分がその仕事を担当している意味が見出せない」という思いがあるのではないかと考えています。会社としては、経験、知識が豊富な継続雇用の方が担当してくれていると安心という思いがあるのですが、当人たちは「忙しい現役メンバーの手が回らない仕事を、ただひたすらこなすだけ」でやりがいを感じられなくなっているようです。 労働意欲が低下する前の50代で気づき≠うながす研修を実施 大木 高齢者のマネジメントを考えるうえでは、@高齢者に活躍してもらうための会社の仕組み、A現場の管理職による高齢者の活用の工夫、B現場の管理職を支援する人事の仕組み―この3点を押さえる必要があります(図表)。まず、60代前半層を活用していくために、会社としてどのような仕組みを設けているのですか。 小西 当社では、60代になってから何かをするというのではなく、その前の段階で気づきをうながすことに重きを置いています。  具体的には、55歳までに「キャリアデザインセミナー」という研修を実施します。そこでは、定年後の生活なども見据えたうえで、今後どうキャリアを築いていくかを考えてもらいます。再就職支援会社の協力を得て、自身の市場価値を理解してもらい、「もう少しここを伸ばしたほうがよいですよ」などと伝えるようにしています。  その後は、58歳ごろまでに「キャリアエントリーシート」を提出し、再雇用を希望する人には、定年の半年前を目途に再雇用後の仕事を提示します。 大木 定年後にどのような仕事をしたいか希望を書くわけですね。 小西 はい。「定年で辞める」、「現職を継続したい」、「社内で別の仕事をしたい」、「再就職支援サービスを希望する」のなかから選択する形です。大半が再雇用を希望しますので、人事が社内で職探しをします。多いのは、定年前の仕事を同じ部署でそのまま引き継ぐケースです。本人の適性や経験を活かすためという面もありますが、個人的には、「積極的にかかわったり相談する場がないので、なんとなくそのままの仕事に就けてしまっているのではないか」という問題意識があります。 大木 いまの仕事を継続するのがむずかしい人、例えば管理職経験者はどうするのですか。 小西 部長経験者などは、子会社などに転籍することが多いですね。課長クラスは、以前は役職定年制を設け、定年前に役職を解いてスタッフ職の仕事になじませていました。いまは役職定年制を凍結したため、60歳まで課長をするといったケースが増えています。当社だけでなく、ホワイトカラー、特に管理職経験者の対処に悩んでいる企業は多いと思います。 大木 大嶋さんはいかがですか。 大嶋 当社も、日本水産さんのキャリアデザインセミナーのように、50歳で「場所的自己発見研修」という、自分のキャリアを棚卸しする研修を行っています。360度評価を行い、日常の行動特性から自己観察・自己認識を深めることが目的です。2006年に導入し、これまでに700人くらいが受けています。手間暇はかかりますが、9割以上が「受けてよかった」と評価してくれています。  50歳でこの研修を受けた後は、56、58、60歳時に、本人と上司に対して「ヒアリング&カウンセリング」を行っていました。実はいま、定年延長を検討している関係でこの制度は止まっているのですが、56歳から2年おきに、人事でもリーダー(管理職)でもないサポートメンバーが、本人とリーダーのところに出向き、60歳以降の希望などを確認するという仕組みです。この制度のよいところは、人事以外の、仕事で直接かかわりのないメンバー(60歳以上の役員や部長経験者ら)が話を聞くところです。 会社は、50代後半以降の社員をどのくらいかまって≠げるべきか 大木 大嶋さんは先ほど、高齢者が「現役の手が回らない仕事をただこなすだけ」と感じて、モチベーションがダウンすると指摘されましたが、このような仕組みがあるのに、どういうときにそう感じるのですか。 大嶋 制度導入当時は、サポートメンバーが「会社はこういうことを考えているんだよ」、「高齢者にこういうことを期待しているんだよ」と細やかに伝えていましたが、サポートメンバーも代替わりしましたし、先ほどお伝えしたように高齢者にとって自分の貢献度がみえにくくなった面があるのではないかと思います。  また、リーダーの対応の仕方も大きいのです。高齢者にうまく働いてもらっているリーダーもいますが、「高齢者をあなたの部署で継続雇用してもらえますか」というアンケートに、「ほかの部署のほうが活躍できるのでは」と回答するリーダーが出てきています。以前は、本人が退職を考えていても、「勤務形態を変えようか」、「サポートをつけようか」と周囲がケアし、できるだけ長く活躍してもらえるようにしていました。最近は、その粘り強さがなくなった気がします。一方で、高齢者の側には「希望すれば会社にいられる」という意識が生じ、お互いに共通の目的が見えにくくなっている感じがします。 大木 少し砕けたいい方をすると、会社は50代後半から60 歳の社員に対して、どのくらい「かまって≠げる」べきなのでしょうか。40代ごろまでは、ローテーションや教育などを会社主導で行い、社員に対して、「こう育ってほしい」、あるいは「このように活躍してほしい」というメッセージを頻繁に伝えます。しかし、50代後半になると、会社としては、「自分でやってくださいよ」という面も出てきて、そのメッセージが少なくなる。その結果、高齢者の側に「かまわれていない感」が生じ、どうしていいかわからなくて困っているのが現状だと思います。50代に対しては、活用方針の明確化を含め、メッセージや情報量が若い人や中堅層に比べてかなり少ないですが、これを増やすとなるとそれだけコストがかかります。そのあたりのバランスをどうお考えですか。 小西 本人が自分の立ち位置に気づいてきた50歳ごろのタイミングで、会社としての本音のアプローチがあるといいですね。年齢に合ったマインドにシフトしていくとか、まだがんばれるとか、いろいろな道を示せるとよいと思います。  55歳でキャリアセミナーを行うと、「研修を受けるのは10年ぶりだな」といった人も多く、本人たちは、それはそれでうれしいんです。研修の目的は、「自分で気づいて自分で行動してほしい」ということですが、初めから自分で何とかできる人はほとんどいません。多くは、「何とかしなきゃ」と思いながら何もしていないか、まだ「会社が何とかしてくれる」と思っている。ですから、こうした機会は必要です。当初は希望者のみ参加する形にしていましたが、全員参加方式に変更しています。  ただ、当社の場合、この研修を受けた後、定年直前まで、会社からの情報提供が足りていないと感じています。55歳で気づかせるだけでなく、その後、カウンセラーのような人が相談に乗り、そこでマインドをチェンジして納得感を醸成する仕組みがあるとよいと思っています。 大嶋 当社は、先ほどもお伝えした通り、56歳、58歳、60歳のヒアリング&カウンセリングをいまは行っておりません。高齢者に対する期待や、今後の方向性を共有する場だったので、なくしたことで影響が出てくることを心配しています。年1回の面談で期待することや、方向性をリーダーがうまく伝えられればよいのですが、若い社員に対して期待を伝えるときと、高齢者に期待を伝えるときでは、伝え方が違ってきます。現場まかせでは、管理職の負担が大きいと思います。  高齢者とのコミュニケーションを増やすと、たしかにコストはかかりますが、「高齢者を手厚くケアする」というより、「区別しない」ととらえるべきではないでしょうか。それこそ、定年を65歳に延長し、70歳までちゃんと働いてもらうのであれば、年齢のラインは設けないほうがよいでしょう。給料が60歳で変わるということはあっても、会社から伝えるメッセージの内容や頻度は現役と同じにし、年齢特有の状況変化については、リーダーが知識を持って対応できるよう、支援していきたいと考えています。 大木 働く意欲の問題は、会社がその人たちをどう処遇し、どう活用するかということとともに、働く側が状況が変わったことに気づき、うまく適応できているかということが大きい。高齢期になって働く意欲と給料が下がってきたときに、「それは会社だけの問題ではないですよ」と気づきをうながす必要があります。どのくらいで気づくのがよいかというのは、最終的には人それぞれかもしれませんが、会社からメッセージを発する頻度や量は、手間暇をかけてでも増やしたほうがよいですね。 「役に立っている感」があればモチベーションは回復する 大木 本人の気づきをうながすうえでは、キャリア研修やカウンセリングなどのほか、どうやって給料を決めていくかという処遇の仕方も、会社からのメッセージになります。決め方の問題と水準の問題がありますが、小西さんは、以前から、「仕事に応じて給料を払え」といっていますよね。いまは65歳までの継続雇用ですが、これが70歳までとなっても、やはり給料の決め方は仕事基準がよいですか。 小西 はい。若年層を育成する際は一定の時期までは職能資格がよいと思いますが、そこから先は、仕事基準のほうが納得感があります。 大木 多くの人が長く働くことになると、総額人件費の問題も含め、ある程度の年齢以降は、役割や仕事に応じて処遇することで、雇用を維持していくことが大切でしょう。ただ、日本の場合、本当の意味での職務給・仕事給にはなっていない企業が多いので、むずかしいですよね。人手不足だから長く働いてほしい職種がある反面、ホワイトカラーのように会社が仕事を探さないといけない職種もある。ホワイトカラーだった人に「工場の現場でやってください」というわけにもいかない。しかも、ホワイトカラーは管理職に就いていた人もいて給料が高い。このアンバランスはなかなかむずかしいですね。 小西 そうですね。仕事を切り出して付与することは可能ですが、余計な仕事をさせてもいけません。当社では、定年前のその人の給料とは完全に切り離して、再雇用後の給料は、再雇用後の職務の市場価値を反映したものとなります。  ただ、「同一価値労働同一賃金」という言葉が独り歩きしている気がしていて、その点が課題と感じています。定年前は高い給料をもらっていたのに、再雇用後は、契約社員やパートなどの外部労働市場の給料が反映されるので、多くの場合、賃金が下がります。「それが市場価値だから」とか、「世間に比べたら水準が高い」、「転勤もないし、現役のような評価は行わないので、いままでとは違います」などといっても、「仕事が変わらないのにどうして?」となり、なかなか納得感が得られません。どんな仕組みを入れても、給料が下がることへの拒否反応は強いです。 大木 給料が下がるので最初はモチベーションが落ちると思いますが、その後は、何年か働いていくうちに改善していきますか。 小西 全員とはいきませんが、よいパフォーマンスを出している人も多いですよ。重宝する人っているんですよ。実務に長たけた人とか、得意先を押さえているとか。現場から頼りにされ、自分がいないと回らないと感じると、給料が下がっても活き活きと働いています。 大木 給料の仕組みだけでなく、どれだけ自分がいないと会社が困ると思ってもらえるかが大きいのですね。大嶋さんのところはどうですか。 大嶋 給料は現役のときより下がりますが、定年延長をにらみながら少しずつ上げてきましたので、以前よりは不満が少なくなったと思っています。とはいえ、下がることは下がりますから、いったんはモチベーションもダウンします。  ただ、当社は、60歳以上はある意味現役世代以上に厳しく評価しています。以前は、再雇用後、年々給料が減っていく制度だったことがあり、「わかってはいるが、気持ちが落ちる」といわれたこともありました。いまは、よい評価を得れば昇給もします。60歳以上の社員にもちゃんと期待する内容を伝え、評価しています。  加えて、先ほどからお話に出ているように、自分の仕事が会社の役に立っている実感が大事です。当社には、純粋な「ホワイトカラー」の方はほとんどいなくて、その人たちがいないと会社が回らないような仕事をしていただいているので、自分の仕事が会社やお客さまの役に立っていることを実感するとモチベーションが上がってきます。 大木 雇い続けるために、会社が仕事をつくらなくてはいけない人はいないのですか。 大嶋 当社の場合は、高齢者が勝手に自分の仕事をつくるんです(笑)。お客さまにいわれたことや、社内で必要なことに、わりと自由にチャレンジできる文化があります。例えば、品質管理のリーダーだった高齢者は、技術者の育成が手薄であるという課題をふまえ、技術者育成の講習会を始めたり、工場のトレーニングセンターと連携して中途採用者や中堅層の育成をしています。現役がやりきれない仕事を自分で見つけ、自分で立ち位置をつくってくれるので助かっています。 大木 本人が自分で仕事を探してきて、それを「やっていいよ」と認める風土があるのは、すばらしいですね。 現場の管理職は、人事に対して弱みを見せたがらない 大木 次に、管理職による高齢者への対応についてうかがいます。高齢者にもいろいろな人たちがいますので、管理職にとっても大変な部分だと思いますが、いかがですか。 小西 管理職のマネジメント能力に頼っているところはありますね。「この仕事をまかせておけば安心」という人に対しては、まかせきりにしているケースもあれば、「再雇用になると給料も下がるし、あまり触れないでおこうか」と判断してしまう管理職もいます。  例えば、処遇に不満を持っている高齢者を抱 えている部署では、マネジメントに苦労します。そのため「やっと定年を迎えてくれたのに……」と継続雇用に不安や不満を表す人もでてきて、そんなときは、「この人が活躍できるのはこの職場です。新たに人を雇って教育するよりも、会社のことにくわしいうえに、熟練した労働者をいままでより安価な給料で雇えるのですよ」と説得して受け入れてもらいます。  もちろん、高齢者本人にも、「いままで同様にがんばってください」とお伝えしマッチングを図っています。 大木 そうした状況は、小西さんの会社にかぎったことではなく、日本社会の普通のパターンだと思います。 大嶋 当社でも、年下のリーダーが年上メンバーとのコミュニケーションに悩むときがあるという相談はありますよ。再雇用予定者のリーダーにアンケートを取るときに、「この人は別の職場で活躍してもらったほうがよいのでは」と回答してくる人は、おそらくそういう課題意識を持っていると思われます。 大木 大嶋さんのところでもですか。 大嶋 リーダーによるんです。再雇用予定者について「この人はほかで活躍したほうがいい」と回答して、「後は人事が何とかしてくれるはず」と特別なアクションを起こさない場合は、解決が長引いたりします。例えば高齢者の意識や仕事ぶりに問題がある場合は、上の階層やほかの部門などに相談して、役員から本人に話してもらうなど、やりようはあると思うのですが、そういう行動を起こさない。リーダーと高齢者の関係が変わってきたと感じます。 大木 なぜ、そうなってしまったのでしょうか。 大嶋 リーダーのローテーションの仕方が変わってきたことがあるかもしれません。以前は、その部門でずっと育ってきた人がリーダーになるケースが多かったのですが、最近は、2〜3年おきに複数の部門を異動するリーダーが出てきました。そのため、その職場に長くいる高齢者とほかからやってきたリーダーとのコミュニケーションが十分に取れていないことがあります。「この人は、昔からこうだよ」とわかっていて、それなりにかかわってきていれば、対応の仕方も違ってくると思うのですが。 大木 そうした現場の管理職に対して、人事としては、どんなサポートをして、どうつき合っていくのがよいのでしょうか。先ほど小西さんがおっしゃっていましたが、日本水産では、管理職が人事に相談できる形になっているのですね。 小西 相談窓口は、多くの会社でも設置されていると思いますが、当初は私が制度設計をしたこともあり、対応していました。現場の管理職が高齢者を説得できないときは、私が直接話しに行くこともありました。 大木 それは管理職にとっても心強いですね。制度もさることながら、結局は人事や関係者が現場の管理職とコミュニケーションを取ることが大事です。 小西 その一方で、管理職のなかには、高齢者の扱いに困っていても、人事に相談しない傾向もあります。会社に対しては、パフォーマンスを発揮してがんばっている姿をみせたいので、弱みはさらけ出さない人が多いですね。 大木 人事に弱みをみせたがらない管理職も多いなか、直接、現場の管理職と話をして情報交換をする機会もあるのですか。 小西 工場や支社などに行き、「〇〇さん、最近元気ないけどどうですか」などと話すようにしています。現状では、何か問題が起きたときなどにしか行けていませんが、本来は定期的に行くべきと考えています。 大嶋 定期的に行っていないと、「人事が来た」、「何かトラブルか?」といううわさが社内に広がったりしますよね(笑)。 大木 現場の管理職がいつでも相談できる体制を用意しておくのと同時に、インフォーマルな形でも情報交換をすることが大事だということがよくわかりました。 仕事・成果・給料を一致させ人事が現場と協力して納得を得る 大木 管理職が受入れを渋ったことに対し、人事がお願いして受け入れてもらった場合、その高齢者について管理職から不満などが出てきたらどうしますか。 小西 仮に「パフォーマンスが悪い」、「こんな高い給料は払えない」といわれたとしたら、その人の能力が発揮できる仕事に就けさせて、その仕事に応じた等級に再格付けするようにアドバイスします。 大木 日本水産さんでは、制度的にそれができますよね。仕事と成果と給料のバランスがとれていれば、会社としてはそれでよいわけです。そして、それに本人が納得していれば、管理職としても大きな問題はない。本人が納得できないときは、人事を含めてトータルで話して説得するのですね。 小西 そうです。60歳で給料が大きく下がり、モチベーションが下がりますから、まずはそこを納得させることが大事です。事前にやっておけばすむ話であり、当社も、そのために55歳で研修をしているのですが……。 大木 そこは手間をかけるべきところですが、なかには研修を受けても、60歳以降の準備ができない人もいる。再雇用者を抱える管理職への支援も欠かせませんね。 小西 55歳の研修では、10人いたら7〜8人は気づいていない感じがします。だから、60歳になって給料が下がったときに「あれ?」となる。  余談ですが、私が立ち上げ時から参画しているNPО法人で、キャリアに関するセミナーなどを実施しています。女性は幅広い年齢層から危機感を持って参加されるのですが、男性は、60歳を過ぎて問題に気づき応募してくる人が大半を占めています。 大木 もっと早めに気づいていれば、60代前半になって悩むことはないのですが、やはり、「60歳までは、余計なことを考えずに会社のいうことを聞いていればいい」という意識の人が多いのでしょう。 社員に外部労働市場を意識させ視野を広げていく 大木 最後に、今後の高齢者雇用についてうかがいます。いまの50代前半、いわゆる「バブル世代」は人数が多く、正社員も非正規社員もいてバラツキも大きい。この世代が高齢者になったとき、どんな問題が起こると思いますか。 小西 バブル世代は日本水産でも人数が多いのですが、この人たちは、役割給で処遇にメリハリがついています。役員や部長になる人もいれば、下の等級のままの人もいますので、処遇の面でいうと、これまで通り、仕事に見合った処遇をしていけば問題ないと考えています。  ただ、いろいろな人がいますので、動機づけは重要です。上の世代のように「会社が最後まで何とかしてくれるだろう」とは思っていないはずですが、前川製作所さんのように、高齢者の活用方針を明確にし、会社からのメッセージを発信していく必要があります。 大木 日本の多くの会社は、全員のモチベー ションが高いわけでもないし、人手不足の職種もあれば、仕事をつくらなければいけない人もいる。会社全体で高齢者の活用方針を出すのもむずかしいところですが、重要ですね。  また、さまざまな人がいますので、外部労働市場の状況を知ってもらうことも有効です。新卒で入社してずっと上がってくると、自分の会社しかわからなくなります。 小西 日本水産では、再就職支援会社を利用したキャリアセミナーについて、見直しの声もありましたが、「社内外を問わずがんばってもらおう」という方針で継続しています。また、異業種の人と積極的に競い交流する「他流試合型」の研修なども推進しています。 大木 前川製作所さんはいかがですか。 大嶋 バブル世代は多いですね。40代後半はさらに多く、各年齢にいまの3倍くらいの人数がいます。当社の現在の賃金制度では、人件費が大きな課題になることが予想されます。  また、当社も、キャリアの研修は重要と考えています。50歳の研修で気づきをうながすだけでなく、中堅社員の研修の内容も見直し、いままで会社が「ああしなさい、こうしなさい」といっていたのを、今年から、「もっと自分のキャリアをちゃんと考えよう」という方向にしていく予定です。他流試合的な要素も入れ、社員の視野を広げる必要も感じています。 小西 私の周りの60歳前後の優秀な人は自分で会社を立ち上げたり、副業をしたりしています。これは、そういう能力も経験も備えた人を会社がうまく使えていないということの裏返しでもあると思います。「処遇がこれだけ下がり認められないなら、社外で違うことをしてみよう」となるわけです。不満を持っている高齢者のなかには優秀な人も多いので、社員に外部労働市場を意識させるとともに、例えば「週3日来てくれれば、あとは好きなことをしていい」といった形で再雇用契約を結ぶなど、会社としても活用の仕方を工夫すべきではないでしょうか。 大木 優秀な人を活用するというのも、これまたむずかしい話です。組織では、優秀だから活用するというより、必要な人を活用するという面もありますから。その優秀さがいまの会社にとって必要な優秀さかという問題があります。  ただ、会社に不満があるからといって、高齢者がすぐに転職するのもむずかしいので、副業や異業種交流会など、自分の能力を社外で試せる機会を設けるのはよいですね。外を経験することで、自分の強みや弱み、どこの場だと役立つのかを知ることができます。そこで「もうちょっとこういうところをつけ足すとよい」と気づけば、50代の能力開発も進むかもしれない。50代になるとなかなか自分で能力開発をしないのは、何をすれば自分にとってプラスになるかわからないからという面もあります。  お二人のお話をうかがって、多くの発見がありました。「人事制度のみではなく、現場の管理職の対応と人事による支援が重要」、「定年前からキャリア研修などによって気づきをうながす」、「仕事、成果、給料のバランスが大事であり、それに本人が納得しないときは、現場のマネジャーと人事が協力して対応する」といった点は、多くの企業の参考になると思います。本日はありがとうございました。 大嶋・小西 ありがとうございました。 図表 高齢社員をマネジメントするうえでの視点 会社・人事 管理職 高齢者 @ A B 【P24-26】 企業事例 積水化学工業株式会社(本社 東京都、大阪府) 評価制度と第二の退職金を設けて60歳以降の活躍を後押し 日用品、住宅、インフラなど幅広い分野で暮らしと社会に貢献  積水化学工業株式会社は、1947(昭和22)年に創業し、生活に身近な日用品から、パイプや雨とい、といったインフラ資材、エレクトロニクスや輸送用機器向けの高機能材料、セキスイハイムのブランドで知られる住宅などをつくり、人々の暮らしや地球環境の向上、社会基盤の構築に貢献してきた。  2001(平成13)年よりカンパニー制※がスタートし、「住宅カンパニー」、「環境・ライフラインカンパニー」、「高機能プラスチックスカンパニー」の三つのカンパニーのもと、日本初の技術や世界でトップシェアを確立する製品などを強みに、社会的価値を創造する多様な事業をグローバルに展開し、成長を続けている。  グループ会社は国内外に約160社。グループ企業全体の従業員数は2万6486人で、同社単体の従業員数は2617人(2019年3月現在)。2019年3月期連結ベースの売上高は1兆1427億円である。 自分のキャリアは自分でつくる会社は成長するための機会を提供  同社では、「従業員を育てることは社会に対する企業の責任」という考えに基づき、多様な人材が活躍し、働きがいのある職場づくりに取り組んでいる。同時に、「人を伸ばし、人を活かす」、「自分のキャリアは自分でつくる」を人材育成の基本姿勢とし、意欲のある従業員を支援する多様な機会を提供している。  その一つが、キャリアステージごとに実施する研修で、新卒入社後3年目、30歳、40歳、50歳という節目にキャリアプラン研修を実施している。50歳時の研修では「生涯現役」をテーマに、生涯現役のための自分らしい生き方・働き方を考える機会を提供するなど、定年後を見すえた取組みが始まる。55歳時には、マネープランを中心に定年後の人生をどのように送るかを考える「グッドライフセミナー」を実施。さらに、「覚悟と働きがい」をテーマとした「57歳研修」、60歳以降のキャリアについて自分の言葉で上司と話をする「59歳時面談」を実施している(同社の研修内容については本誌2016年12月号参照)。 65歳までの活躍に向けて新たな再雇用制度を整備  同社はいち早く高齢者雇用に取り組んできた先進企業だ。1993年から60歳の定年後も一定条件のもとで雇用する再雇用制度を導入しており、2007年には、希望者全員を年金受給開始年齢まで再雇用する「シニアパートナー制度」がスタート。再雇用社員の報酬に専門性と成果を反映させる仕組みを構築した。そのねらいは、成果に基づく評価と処遇を徹底し、再雇用者に求める役割への意識を高めるとともに、やりがい、働きがいを促進すること。2013年には、希望者全員を65歳まで再雇用する内容に改定し、翌年からは60歳の定年以降も、生きがいをもって働くことができるように、前述した「57歳研修」と「59歳時面談」をスタートさせている。  当初、この「シニアパートナー制度」では、再雇用者に対して期待する役割は、主に「次世代への技能継承」としていた。しかし、少子高齢化や人手不足の影響により、2028年をピークに従業員の減少が予測されており、全従業員に占める再雇用社員は年々増加傾向にある。これらを背景に、「グループの持続的成長のためには60歳以上の年代層が大きな戦力となる」ととらえて、再雇用制度の改革に取り組み、2015年10月に、60歳以降も戦力としての活躍を期待する、現在の「シニアエキスパート制度」が誕生した。 シニアエキスパート制度の月例賃金とインセンティブ報酬  シニアエキスパート制度における再雇用の要件は、本人が希望し、業務遂行可能な健康状態であること、定年退職後すみやかに業務に従事できること、としている  再雇用であっても、正社員と同様の活躍をしてもらうことを期待して、求める役割は従来の「次世代への技能継承」から、「これまでつちかってきた業務遂行能力および業務上での技術やノウハウを、立場・業務・職場に合わせて柔軟に発揮し、組織目標の達成に貢献する」、「豊富な経験を活かし、組織に新たな価値を創造する」の2点に明確化した。  勤務形態は、7・5時間・週5日の「フルタイム」と、短日数・短時間の「サムタイム」(6パターン)を設けているが、再雇用前と同様に活躍してもらいたいとして、フルタイム勤務を原則としている。雇用期間は、定年退職日の翌日から原則1年間を単位とし、満65歳に達する日の属する期末(3月、9月)までとなる。  賃金は、それまでの再雇用制度では過去の実績をほとんど考慮せずに設定していたが、現制度では、定年時点での社内資格・認定資格に応じて二つの区分を設定している。「区分T」は、定年時点で専任担当職(上級・中級)であった場合に該当する者で、フルタイム勤務は月例賃金25万円、サムタイム勤務は1時間あたり1667円。「区分U」は、定年時点で基幹職もしくは上級専門職であった者の場合で、フルタイム勤務は月例賃金29万円、サムタイム勤務は1時間あたり1934円(図表1)。ただし、区分Uであっても、年度年齢57歳以降3年間の総合評価を考慮して、評価が著しく低い場合は25万円を下限として、通常設定する賃金を下回ることがある。  諸手当に関しては、以前の再雇用制度では原則として通勤手当のみを支給していたが、シニアエキスパート制度では、基本的には正社員と変わらない内容としている。  また、以前の再雇用制度では、一定の条件に該当するフルタイム勤務者のみを対象として、定額の賞与(年間40万円)を支給していたが、現制度ではこれを廃止。新たに「半期評定を反映したインセンティブ報酬」を「第二の退職金」として積み立てる仕組みを導入した。  具体的には、SとA〜Dの5段階の評定にあわせて、諸手当を含まない計算式による金額(契約賃金の0・5カ月〜3・5カ月までを掛けた金額)を積み立てるというもの。評価Dの場合は「支給なし」となる(図表2)。  「第二の退職金」は、所得税として課税される金額を考慮し、支給は再雇用終了時点に行うことを原則としている。雇用契約時に(更新含む)「退職金前払い」を選択することができるが、この場合、@在職老齢年金への影響があること、A給与所得となり、退職所得控除の適用とはならないこと、Bそれ以降に退職金に変更することはできないこと、の3点を本人に説明している。 しっかり働き、評価されることが働きがいにつながる  シニアエキスパート制度の大きな特徴は、再雇用であっても、定年退職前と同様の活躍をしてもらうことを期待して、求める役割を明確化し、成果に基づく評価と処遇を行っていることである。そのため、現役の従業員と同様に、基準にのっとって半期ごとに評価する「絶対評価」を実施している。  評価項目は、具体的な形となってあらわれた成果を、結果とプロセスから評価する「業績評価」、保有する業務遂行能力の発揮について評価する「能力評価」で構成。また、主担当の業務以外で特記すべき組織・チームへの貢献があれば「組織貢献」として加点対象となる。  同社人事部厚生・健康支援グループの石川英樹グループ長は、シニアエキスパート制度について、「しっかり働くことが働きがいにつながる、という『覚悟』と『働きがい』を重視した制度で、戦力として活躍してもらうという意味でも、現役社員と同じ尺度で評価を行う制度としました。制度の内容と求められる役割を定年退職前の研修で説明し、59歳時の面談とあわせて、60歳以降の働き方を事前にイメージできるよう、60歳の定年を迎える前からの取組みにも注力する」という。  再雇用者の近況については、「制度に対してはおおむね好評で、個人差はあるでしょうが、ほとんどの人がやりがいを持って働いているとみています」と語った。  シニアエキスパート制度は積水化学工業単体で適用している制度のため、今後の課題は、グループ企業への展開を進めること。ただし、同社では現在、定年延長の検討も進めており、このことも含めて今後の展開について考えていきたいとしている。  再雇用者は、定年直前まで行っていた業務を同じ部署で継続していることがほとんどのため、かつての部下が上司となることも多く、年下上司のマネジメント力の強化をテーマとした研修の充実にも注力しているそうだ。 ※ カンパニー制……企業内にある事業部門の独立性を高め、複数の企業の集合体のように組織すること 図表1 シニアエキスパート制度の月例賃金 定年時点での資格 フルタイム勤務 サムタイム勤務 区分T:専任担当職(上級・中級) 250,000円/月 1,667円/時間 区分U:基幹職・上級専門職 290,000円/月 1,934円/時間 図表2 第二の退職金の評価 半期評定 計算式 S 契約賃金×3.5カ月 A 契約賃金×2.0カ月 B 契約賃金×1.2カ月 C 契約賃金×0.5カ月 D なし 人事部厚生・健康支援グループ長の石川英樹氏 【P28】 日本史にみる長寿食 FOOD 311 腸を元気にするコンブ 食文化史研究家● 永山久夫 日本人は海藻が大好き  日本人は、世界的にみても珍しいほど海藻が好きです。  縄文時代以来の習慣で、コンブをはじめ、ワカメ、ノリ、モズクなど、ふだんの食事にも海藻がひんぱんに出てきます。コンブやノリのつくだ煮、とろろコンブ、焼きノリ、モズク酢、ワカメのみそ汁をはじめ、ほかにもたくさんあります。  その結果、多くの日本人の腸に、海藻類を消化・分解する腸内細菌が棲(す)みつくようになり、日本人の長寿化との関係で、世界的に注目されています。  海藻が腸に送られてくることは、腸内細菌にとっては大歓迎といってよいでしょう。なぜなら、コンブなどの海藻には、腸内細菌の好物である水溶性の食物繊維が豊富に含まれているからです。  2010(平成22)年、フランスの研究チームが、日本人の腸内で海藻の食物繊維を消化している細菌を発見したことを発表しました。この細菌はアメリカ人の腸内にはなく、日本人の腸内ではほかの腸内細菌と共生しているそうです。 コンブで「よろこぶ」  世界で人気の高い和食の特徴の一つに、「出汁(だし)」の文化があります。カツオ節とともに、その中心になってきたのがコンブです。コンブの主なうま味成分はグルタミン酸で、カツオ節はイノシン酸。この二つを合わせて出汁をとると、そのおいしさは何倍にもなることがわかっています。  コンブでうま味を出す方法は、古くから行われ、江戸時代初期の『料理物語』という書には、コンブの用法が次のように記載されています。「汁、煮しめ、味噌漬け、だし、油揚げ、その他いろいろ」。現在とほとんど変わらない利用法です。  お正月や祝いごとの料理にコンブが必ず用いられるのは、「よろこぶ」に通じる縁起のよさがありますが、「養老昆布(ようろうこんぶ)」ともいうように、「もっともっと、長生きしてください」という願いもこめられています。  コンブのぬめりはフコイダンが主な成分で、活性酸素による酸化から細胞を守る抗酸化作用や、免疫力の強化などの働きがあり、コンブは古来からの長寿食といってよいでしょう。 【P28-32】 マンガで見る高齢者雇用 ベテラン従業員の活躍を支え、技術・ノウハウを次世代へ伝える 第1回 作業環境改善で高齢従業員の作業負荷を軽減 ダイキン工業株式会社(本社:大阪府大阪市) ※1 富士経済「グローバル家電市場総調査2017」調べ(グローバル空調メーカーの空調機器事業売り上げランキング(2015年実績)) ※2 2019年3月31日時点 ※3 ろう付け作業……部材を接合する方法の一つ。使用する部材よりも融点の低い合金(ろう)を溶かし、接着剤として用いることで、部材を溶かさずに接合することができる ※4 ここでいう「からくり」とは、電気などの動力を用いず、その物の重さなどを利用して、楽に持ち上げたり移動させたりする仕掛けのこと。「からくりコンクール」は、現場の作業者たちが考えた「からくり」について、表彰・共有する社内イベント 【P33】 解説 マンガで見る高齢者雇用 ベテラン従業員の活躍を支え、技術・ノウハウを次世代へ伝える 第1回 作業環境改善で高齢従業員の作業負荷を軽減 <企業プロフィール> ダイキン工業株式会社 (本社:大阪府大阪市)  ダイキン工業株式会社は、本社を大阪市に構える、エアコンなど空調製品の売上げが世界ナンバーワンの空調総合メーカー。日本国内は約1万2000人、全世界で約7万6000人の従業員が働いている。高齢者雇用の先進企業としても知られており、1970年代より高齢者の職場・職域開発に努め、1991(平成3)年に63歳まで、2001年に65歳まで希望者全員を雇用する再雇用制度を導入するなど、いち早く60歳以降の雇用に取り組んできた。同時に、高齢者が快適に働くための職場環境改善にも注力している。 ダイキン工業の「人を基軸におく経営」  同社では、全従業員の成長の総和がグループの発展の基盤という考えのもと、「人を基軸におく経営」を掲げ、年齢や性別、国籍、障害の有無にかかわらず、一人ひとりが強みを発揮できる環境づくり、ダイバーシティマネジメントに努めている。高齢者雇用はもちろん、女性の活躍推進に取り組む企業を認定する「えるぼし※1」最高位や、「なでしこ銘柄※2」を取得しているほか、障害者雇用、外国人雇用にも積極的に取り組んでいる。 高齢者雇用制度  同社では60歳定年後、希望者全員を65歳まで雇用する再雇用制度を2001年より導入。フルタイム勤務のほか、短時間勤務、隔日勤務など、柔軟な勤務形態に対応しており、定年者の約9割が継続雇用で働いている。また、高度な技術やノウハウ、人脈などを持つ、余人をもって代えがたい人材については、「シニアスキルスペシャリスト契約社員制度」により、65歳以降も勤務可能となっている。 従業員の負荷を軽減する「作業環境改善」  業務用エアコンなどの重く大きい製品を製造することから、特に女性や高齢者の作業負荷を軽減する取組みに注力している。同社の堺製作所では、31頁で紹介している支援機器の開発などによる作業改善のほか、従業員のアイデアで現場作業の改善を図る「からくりコンクール」など、改善グループの知恵を借りてさまざまな取組みを行っている。 ※1 えるぼし……女性活躍推進に関する取組みの実施状況などが優良な事業主を厚生労働大臣が認定する制度 ※2 なでしこ銘柄……経済産業省と東京証券取引所が共同で女性活躍推進にすぐれた上場会社を認定するもの 【P34-35】 江戸から東京へ [第83回] わしは本の医者だ 中川得楼(とくろう) 作家 童門冬二 息子の死をきっかけに  中川得楼は、旧幕時代はどこかの代官所の役人をしていたらしい。あまり過去は話さない。明治になって、一人息子が名医になった。  「医者は、病人を治すのが天から命ぜられた役割です」  といって、貧しい人々を中心に医業を行った。だから、必ずしも豊かな暮らしではなかった。そのなかで、本好きの父に対し、  「お父さんは、好きな本とつき合ってください。そのぐらいの費用は何とかしますから」  といってくれた。嬉しい申し出だ。得楼は、親孝行な息子をもったことを幸福に思っていた。そして、息子のいう通り本好きの彼は、本とだけつき合って生きていた。ところがあるとき、息子が死んでしまった。得楼は大いに悲しんだ。それは、自分が本とつき合う費用の負担者がいなくなったからではない。得楼は息子を誇りに思っていた。  (息子のような医者がいるかぎり、この国は大丈夫だ)  と信じていたからである。しばらくの間、孤独になった身を悲しみ、息子の死を嘆(なげ)いていたが、ある日突然猛然と得楼は心を固めた。  「わしは、本の医者になろう」  と思い立ったのである。名医だった息子はたしかに多くの人々の命を救い、また傷を治した。得楼は医者の資格はないし、またその方面の知識も技術も持っていない。人間相手の医者はできない。そこで、  「本を相手にする医者になろう」  と思い立ったのである。そうすれば死んだ息子も喜ぶだろうと思った。  本屋巡りがはじまった。多くの店を朝早くから歩いて回る。このころの得楼は、白い髭が長く美しい。右手には杖、左手に小さな信玄袋※を提(さ)げて、頭巾(ずきん)をかぶって尻をはしょり、白い股引(ももひ)きを見せながら歩き回った。  「また得楼先生がやって来るぞ」  東京の本屋たちはそういって、警戒心を高めた。疾風のごとく得楼は本屋巡りをする。一日に、何十軒歩くかわからない。買った本は束にして終しまいには肩に担(かつ)いで家に帰って行く。そして、これからが得楼の、  〈本に対する医者ぶり〉  が行われる。  本屋で探すだけでなく、  「これをお願いしたい」  と個人で頼みにくる人の分も快く引き受けた。 傷ついた本への愛情  かれは仕事場を持っていて、そこの机の引き出しには、庖丁(ほうちょう)・鋏(はさみ)・錐(きり)・針・糸・へら・糊(のり)・糊板(のりいた)・尺(しゃく)・定木(じょうぎ)などの道具が入っている。これがかれの本に対する治療器具だ。買ってきた本はほとんどが痛んでいた。虫が食ったものもあり、また綴糸(とじいと)が切れているのもある。仮綴(かりとじ)の本もある。また欠本部分を抱えている本もある。それを得楼は丹念に見て、手当てを施すのである。一人で、  「おまえは虫に食われたなあ、さぞかし痛かっただろう」  と呟(つぶや)く。綴糸が切れていれば、  「いま、糸を足して縫ってやるからな」  と、まるで人間の病人に対するような扱い方をした。仮綴の本には、表紙をつけた。欠本部分があれば、本屋に出かけて行って同じ品のなかから、欠けている部分を書写して戻ってくると、それを綴じ込んで完本にする。  こういう得楼の行動を見ていて、親しい人は、 「どうしてそんなに本を大事にするのだ?」  と訊いた。得楼は、  「わしの息子は医者だった。人々のために尽くす名医だった。それが死んでしまった。だから、わしは息子の心を自分の心として生きていきたい。相手は本だ。痛んだ本があれば、息子のようにすべて治してやりたい。時には、命も助けたい」  そう語った。世間には、読書家というのがいる。また蔵書家もいる。しかし、得楼のような場合には何といえばいいのだろう。世間は得楼を、  「愛書家」  と呼んだ。ただ、世間でいう愛書家は、本の修理などしない。得楼はむしろ、本の傷や患部に手当てを施し、完全なものにすることに力を注いでいた。だから、愛書家とはいっても、心の底からとことん本を愛している人物なのである。だれもが得楼と医者だった息子の親子関係の美しさを知っていた。したがって、得楼が本に対して手当てをする様子をからかう者はだれもいなかった。しかし、変わっているとは思われていた。  得楼は、1915(大正4)年5月に死ぬ。83歳だった。臨終の床には、多くの人々が見舞いに来た。  「得楼先生は、いろいろな知識を持っていたが、ご自分ではほとんど本を書かなかった」  と語り合った。それを聞きながら得楼は死の床でニコリと笑った。  得楼の本名は徳基(とくもと)だ。そういえば得楼の生涯はまさしく、  「徳を振りまくことを貫いてきた。特に本に対して愛を注いでいた」  ということをだれもが知っていたからである。 ※ 信玄袋……布製平底の手さげ袋で、口ひもを締めるようにしたもの 【P36-37】 第64回 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは  薄和代さん(69歳)は若いころから保育士を夢見ていた。その夢は、65歳になったときに、ようやく実現した。現在は小規模保育室で小さな子どもたちと元気に園庭を駆け回る。視線の先に生涯現役で働く自身の姿を描く薄さんが、あき らめないことの大切さを語る。 NPO法人カローレ (ベビーかろーれ) 保育士 薄(うすき) 和代(かずよ)さん 保育士の資格を取得  私は、福島県いわき市の山深い町で生まれました。高校に入学後は、通学がたいへんだろうと親戚の家に下宿させてもらいました。本当は大学へ進んで、保育士の仕事がしたかったのですが、長女の私は実家の事情を考えて就職の道を選び、東京都にある製紙会社の事務員として社会人のスタートを切りました。  最初に配属されたのは受注課で、電話の応対が主な仕事でした。福島の訛(なま)りがなかなか抜けず、お客さまが困ったのではないかと、いまふり返るとおかしくなります。  会社の寮生活は、同世代の人も多く充実していましたが、保育士への夢は断ち切れず、入社して1年後に夜間の保育専門学校に入学しました。17時に仕事が終わってから、急いで学校へ駆けつける生活が3年間続き、念願の保育士の資格を取得できました。夢に一歩近づいたという喜びを胸に、転職を考えました。しかし、部署が経理に変わり、少しずつ仕事を任されるようになってきていたため、会社には転職のことはついにいい出せませんでした。  その後、結婚して子どもが生まれるまで働き続けましたが、当時は仕事と子育てとの両立は考えられず、28歳で退職しました。気がつけば10年という歳月が経っていました。  薄さんの言葉には、わずかに福島の訛りがいまも残る。その飾り気のない話しぶりに、苦労して資格を取りながらも、簡単に会社を辞められなかった人柄を垣間(かいま)見る。 回り道して出会った新たな世界  専業主婦として子育てに専念し、3人目の子どもが離乳すると、もう一度働きたい、社会に出たいという気持ちが湧いてきました。そこで、北海道から義母に上京してもらい、子育ての協力を得て、材木関係の会社に就職、経理部に配属されました。この時点で保育士として就職する可能性もありましたが、私には新たな一歩をふみ出す勇気がなかったのだと思います。  その後、都内から千葉、埼玉へと転居が続き、埼玉では半導体の基盤などを製作する会社で経理を担当しました。54歳のときに夫が57歳の若さで亡くなったこともあり、ここで定年まで働かせてもらいました。  いつのまにか60歳という年齢に達し、保育という憧れの世界からは遠のいてしまいました。しかし、人生とは面白いもので、回り道をしながらも、保育士という仕事に近づいていたのです。ただ、そのことに気づくまでには、もう少し時間がかかりました。  次の仕事を探していたとき、友人の紹介で「NPO法人カローレ」の存在を知り、60歳を過ぎてからでも働かせてもらえる職場があることを知り感動しました。最初は、カローレが運営するコミュニティレストラン「ここほっと」で働くことになりました。そのうちにカローレが運営する学童保育でおやつを配ったり、片づけを手伝ったりするようになりました。思いがけず子どもたちに接する機会ができてとても嬉しかったです。実は、面接のときには保育士の資格があることを話しませんでした。その後、履歴書を提出したときに、資格があるなら保育士として働きませんかと声をかけてもらいました。ちょうど0歳から2歳児までを一時預かりしていた「ベビーかろーれ」が認可保育園になる時期と重なり、人手が必要になったので、私にも保育士として働ける道が開かれました。  NPO法人カローレは学童保育から出発し、現在では小規模保育やコミュニティレストランなど総合的な福祉サービスを展開している。地域に貢献する多彩な活動は、平成30年度の高年齢者雇用開発コンテスト※1で優秀賞を受賞し、その取組みは本誌でも紹介した※2。 待ちに待った保育士デビュー  65歳になってから、保育士の資格を活かせるとは夢にも思っていませんでした。嬉しさ半分、保育の経験がない新人がちゃんと任務を果たせるだろうかという不安が半分で、着任する前夜は、なかなか眠れなかったことを覚えています。  夢中で歩き続けて3年、現在は2人体制の早番と遅番を担当しています。早番は7時半から子どもたちがお昼寝する12時半まで。歩いて10分ほどの自宅で休憩してから、16時に保育園に戻り、18時半までが遅番の勤務となります。カローレで働いているスタッフは、事業所内保育所にお子さんを預けていますので、私のように自由に時間を使える人間が、早番や遅番を引き受けることで、少しはお役に立てているかもしれません。かつて私も自分が働くために、義母に一緒に住んでもらって力を借りたことを思い出します。仕事と育児が可能な環境はずいぶん進歩しましたが、それでも課題は多いようです。現代のお母さんたちは日々のストレスでへとへとになっていますから、おばあちゃん世代の私が「いってらっしゃい」、「おかえりなさい」と声をかけることでほっとされる方もいると聞いて、本当に嬉しかったです。すべてのお母さんたちが安心して働けるように、高齢者がしっかりお手伝いしていこうと気を引き締めています。「カローレ」はイタリア語で「ぬくもり」を意味しますが、子どもたちはもちろん、働く高齢者にも「ぬくもり」のある職場です。現在の最高齢の方は、学童保育の仕事にたずさわる79歳の方だそうです。 子どもたちとともに生涯現役の道を  カローレでは、ライフスタイルに合わせて勤務形態が選択できます。勤務時間は日々同じですが、趣味のフォークダンスの練習がある木曜日の遅番と金曜日は休ませてもらっています。フォークダンス歴は20年ぐらいになりますが、楽しいだけではなく、しっかり体を動かすので健康にもよいようです。もっとも気をつけているのは、かぜをひかないようにすること。子どもたちにうつさないことはもちろん、保育の仕事に穴をあけてはいけませんから、自己流の体操で身体を鍛えています。毎日緊張感を保つことと、自分が必要にされていると感じることこそ、モチベーションアップにつながると私は思います。  民家を改築した「ベビーかろーれ」は、子どもたちにとって親戚の家にいるようで、安心感があるようです。やさしい親戚のおばあちゃんとして、子どもたちの笑顔に寄り添い続けたいと思っています。広い園庭からは電車がとても大きく見えるので、電車が通れば泣いていた子どももピタリと泣きやみます。一日をケガなく元気に過ごした子どもたちは、ママたちがお迎えにくるととびきりの笑顔を見せてくれます。この笑顔を力に、体力と気力の続くかぎり、生涯現役の道をしっかり歩いていこうと思っています。 ※1 高年齢者雇用開発コンテスト……企業が行った、高齢者がいきいき働くことのできる職場づくりの事例を募集・収集し、優秀事例について表彰を行っている。厚生労働省と当機構が主催 ※2 エルダー 2018年11月号 検索 【P38-41】 高齢者の現場 北から、南から 第87回 福岡県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー※(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 定年後も、得意先との信頼関係を保つ役割を期待 企業プロフィール 松岡モータース株式会社(福岡県福岡市) ▲創業 1947(昭和22)年 ▲業種 カーリースメンテナンス、車検・法定点検、板金塗装、ロードサービス、保険代理店、レンタカー ▲従業員数 101人 (60歳以上男女内訳) 男性(19人)、女性(1人) (年齢内訳) 60〜64歳 13人(12.9%) 65〜69歳 5人(5.0%) 70歳以上 2人(2.0%) ▲定年・継続雇用制度 定年60歳。定年後は65歳まで希望者全員再雇用。65歳以降は、役職経験者などの一部の従業員を継続雇用 博多駅、福岡空港もほど近い本社工場  九州の北に位置する福岡県は、本州と九州を結ぶ交通の要衝(ようしょう)を占めています。朝鮮半島や中国大陸に極めて近い位置にあり、「九州の玄関口」、「アジアの玄関口」といわれています。  福岡市、北九州市の二つの政令指定都市を持つ同県の人口は、509万9604人(2018〈平成30〉年4月1日現在、福岡県の人口と世帯[推計])にのぼり、29市、29町、2村を有しています。  地理的、歴史的、経済的特性などから、工業集積、技術集積が九州では最も高く、県内を発祥地とする大手有力企業も多く、全国規模で展開する企業の支社や支店が集中しています。  同県は大きく四つの地域にわけられます。鉄鋼、化学などの基礎素材型産業に加えて、自動車、先端半導体、ロボットなどの加工組立型産業が発展している「北九州地域」。西日本のリーディングゾーンとして九州の管理中枢機能や第三次産業が進展し、都心でありながら自然に恵まれた居住環境のよさにも定評がある「福岡地域」。農林水産業や地場産業、商工業などの多様な産業と文化が息づく久留米市を中心とした「筑後(ちくご)地域」。そして、石炭産業からの転換による、新たな産業創出の拠点づくりを目ざして、ベンチャー企業や研究機関の集積を図り、産業基盤や生活環境の整備が進められている「筑豊(ちくほう)地域」です。  福岡支部の活動状況について角(かく)博司(ひろし)統括は、「当支部の高齢・障害者業務課では、相談・援助業務で企業訪問する際、事前に各企業の置かれている経営状態などを十分情報収集したうえで、『事業主の立場に立った活動』をするよう心がけています。65歳を超えた継続雇用延長、65歳以上への定年年齢引上げに向けた具体的な制度改善についても、企業に前向きに取り組んでもらえるよう、よりふみ込んだ効果的な働きかけを行っています。  また、労働局、ハローワーク、県、福岡県70歳現役応援センター※などと密な情報交換を行い、県内の団体が一体となって、生涯現役社会の実現に向け、取り組んでいます」と話します。  今回は、同支部で活躍するプランナー・福井雅之さんの案内で、高齢社員が活躍する「松岡モータース株式会社」を訪れました。 一般点検修理から、法人リースメンテナンスへ  松岡モータースは、法人向けのカーリースメンテナンスを事業の柱に、「車のトータルサービスカンパニー」として、軽四輪から大型車、保冷車、冷凍車など幅広い車種を取扱い、本社工場のほか、市内中心部に三つの営業所を構えています。  同社は1947(昭和22)年に福岡市中央区赤坂で創業。1965年に博多区に移転しました。創業当初は、一般向けの車検や整備、修理を行っていましたが、1973年ごろから法人向けのカーリースメンテナンスを手がけるようになり急成長。リース開始時に年間100台ほどだった取扱い台数は、いまでは年間1万台にのぼります。  数年前から既存事業の延長で、一般向けのレンタカー事業をスタート。総務部の松岡英丈(ひでたけ)さんは「自社でメンテナンスが可能なことから手がけた新事業ですが、おかげさまで好調です」と説明します。 高齢社員が働きやすい職場づくりに注力  同社の高齢者雇用制度は、60歳定年制で、希望者全員を65歳まで再雇用。65歳以降は、役職経験者などの一部の従業員にかぎり継続雇用しています。定年後は、原則的に正社員はパート社員に切り替わり、時給制に移行。業務は定年前とは異なります。契約は半年更新とし、就労条件などの要望を確認し、それぞれの事情に応じた勤務形態で働きます。  高齢社員が働きやすい職場環境整備として、駐車場のスロープに手すりを取りつけています。以前、このスロープで高齢社員がすべって転倒したことがあり、安全を確保するために設置したものです。  ほかにも、段差のない自動ドアの設置など、社屋の改善を徐々に進めており、高齢者を含む、だれもが働きやすい職場づくりに努めています。  福井プランナーは、2018年6月に初めて松岡モータースを訪問。その翌月に、継続雇用年齢の引上げを提案しました。「高齢者雇用の実態が進んでいるにもかかわらず、規程の整備が追いついていない印象でした。まずは会社の求める人材像を明確にし、その条件に当てはまる従業員を、一部に限定せずに70歳まで継続雇用する制度を導入したらどうかとすすめました」。さらに、高齢社員のモチベーションの維持・向上という観点から、高齢社員の意欲を高めるための簡易な評価面談システムや第二退職金制度の導入、処遇改善などについても提案を行っているとのこと。「高齢社員の活躍のためにも、会社に負担がかからない範囲でできるよう提案中です」と話します。  今回は、70歳を超えても同社で活躍するお二人にお話を聞きました。 営業経験を活かす「お客さまサービス係」  加藤裕(ゆたか)さん(71歳)は、専門学校卒業後に松岡モータースに入社して勤続52年になります。整備士2級の免許を取得しており、整備士として入社しました。しばらくして営業職に転身。そこでメキメキと頭角をあらわし、定年のときには工場長を務めました。かつて会社が一般メンテナンス事業から法人向けカーリースメンテナンス事業に舵を切った経緯についても記憶が鮮明で、「一般の大型トラックのメンテナンスは時間もかかるため、残業せざるを得ない状況でした。その解決策を探っていたときに、カーリースメンテナンスの話が出てきたのです。カーリースメンテナンス業務の導入は社員の負担軽減だけでなく、定期的な売上げも見込めるという、一挙両得(いっきょりょうとく)の妙案でした」  現在は、工場長の職を退き、お客さまサービス係のアドバイザーとして、営業を担当。お客さまに電話をかけ、次回の車検の案内やタイヤ販売などを行っています。「立ち合い車検1件あたりの所要時間は1時間ほどで、回転率がいいですね。タイヤは月間平均で240本ほど売れています」と、その営業感覚は衰えを知りません。  加藤さんは原則週2〜3日の平日に出勤していますが、古くからつき合いのあるお客さまの対応もあり、土日に出勤することもあるそうです。「昔からのお得意さまにも高齢者が増えてきて、廃車の相談をされることもあります。そうした相談に対応するのも大切で、今後、お子さんやお孫さんの世代までおつき合いをつなげていきたいと思っています」と語ります。  加藤さんは運動神経抜群で、50歳で陸上を始め、70歳になった昨年まで100m競技でマスターズに出場していました。今年からスポーツはゴルフにしぼり、シングルスコアを目標にしているそうです。 お客さまの声に応え定年退職から半年後に職場復帰  松本勇(いさむ)さん(71歳)は、実兄が経営していた自動車販売会社を15年ほど手伝った後、34歳で松岡モータースに入社しました。所長として定年を迎えるまで、福岡市内の赤坂営業所に勤務してきました。定年後は退職をして会社を離れましたが、お得意さまから「松本さんにお願いしたい」と携帯電話に連絡がくることが多く、求めてくれる声に応えたい気持ちから、半年後に職場復帰しました。  現在は加藤さんと同様お客さまサービス係のアドバイザーとして、平日2〜3日、8時から17時30分まで働いています。午前中は外回りをし、午後は請求書のチェックなどの事務作業を行っています。  松本さんが長年担当してきたお得意さまの一つに魚市場があります。魚市場では特殊な車両を扱い、早朝の時間帯に営業しているため、午前2時、3時に鳴る緊急の電話に長年対応してきました。こうしてつちかったお得意さまからの信頼が、松本さんのやりがいになっています。「いまも昔と変わらず一生懸命仕事をしています。これからも精一杯がんばっていきたい」と語る松本さん。73歳まで仕事を続けたいと考え、健康づくりのために週3回ゲートボールに参加し、自転車で坂道を登るなど足腰を鍛えています。  総務部の松岡さんは、「近年は高齢の人ほど、所有する車を長く大事に乗り続けたいと考える人が多く、こうした高齢のお客さまに対し、ベテランのお二人がつちかってきた知識、対応力が役立っています。無理せず、できる範囲でいままでのお客さまを大事にしてもらいたいと思っています」とお二人への期待を話します。 60歳以上の高年齢者を新規で採用  同社は60歳以上の人が13人、65歳以上の人が7人働いており、お客さまサービス係だけではなく、整備の現場などで長年活躍している高齢社員もいます。  「『先輩』の立ち位置で若年層の指導役になっています。安全第一で、集中力があり、仕事に対する真摯な姿勢はみんなのお手本です」(松岡さん)  一方で、別会社を定年後、60歳以降に同社に再就職した人が10人在籍しています。そのほぼ全員がお客さまの自動車を引取り・納車をする「納引(のうび)き係」を担当。ベテランらしい慎重な運転が、納車という最後の重要な仕事に活かされています。  今後は、高齢社員のための、負担の少ない新たな職域として、福岡市内を拠点に巡回サービスカーに乗り、車検日や定期点検日の案内、整備、調整といったバックアップを行う巡回サービスなどの充実に取り組んでいくとのこと。同社の取組みと、高齢社員のさらなる活躍に期待が高まります。 (取材・文 西村玲) ※65歳超雇用推進プランナー……当機構では、高年齢者雇用アドバイザーのうち経験豊富な方を65歳超雇用推進プランナーとして委嘱し、事業主に対し、65歳を超えた継続雇用延長・65歳以上への定年引上げなどにかかわる具体的な制度改善提案を中心とした相談・援助を行っています ※ 福岡県70歳現役応援センター……福岡県が2012年4月に全国初の高齢者の総合支援拠点として開設。70歳現役社会づくりに取り組んでいるhttp://www.70-f.net/ 福井雅之 プランナー (50歳) アドバイザー・プランナー歴:5年 [福井プランナーから] 「それぞれの企業にとって望ましいあるべき姿を提示し、現状とのギャップを明らかにし、そのギャップを解消することが会社の課題や困りごとの解決に寄与すると考えています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆福岡支部の角統括は、福井プランナーについて「人事総務から販売まで幅広い企業勤務経験に基づく視点から、具体的かつ的確な提案や経営者の方々の立場に立った相談・助言を行っており、企業担当者から絶大なる信頼を置かれています。労務管理、人事・賃金制度に関する分野で特に専門的な知識を持っています。当支部からの突発的な企業訪問要請にも、積極的かつ、真摯に対応する姿勢は、企業訪問後の記録票にもあらわれており、当支部が最も信頼するプランナーの一人です」と太鼓判を押します。 ◆当支部の高齢・障害者業務課は、福岡市地下鉄空港線赤坂駅から徒歩1分、明治通りと大正通りの交差点に位置する「しんくみ赤坂ビル」6階にあります。赤坂周辺は多数のオフィスビルが建ち並び、ハローワーク福岡中央、福岡法務合同庁舎、交通局、中央区役所など多くの公的施設があります。都心のオアシスとして親しまれている舞鶴公園や、マラソンコースとしても人気の大濠(おおほり)公園にも隣接しています。 ◆県内には65歳超雇用推進プランナーが16名、高年齢者雇用アドバイザーが5名います。2018年度は、約1400件の県内事業所を訪問し、相談・援助、制度改善提案活動を行いました。 ◆相談・助言を無料で実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●福岡支部高齢・障害者業務課 住所:福岡県福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 電話:092(718)1310 総務部の松岡英丈さん 素材がむき出しだったスロープに敷物を敷き、手すりを設置して転倒防止を図る お客さまに電話で車検の案内をする加藤裕さん 電卓を叩いて請求書をていねいにチェックする松本勇さん 【P42-45】 高齢社員の磨き方 ―生涯能力開発時代へ向けて―  生涯現役時代を迎え、就業期間の長期化が進むなか、60歳以降も意欲的に働いていくためには、高齢者自身のスキルアップ・能力開発が重要になるといわれています。つまり、生涯現役時代は「生涯能力開発時代」といえます。本企画では、高齢者のスキルアップ・能力開発の支援に取り組む企業の施策を、人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説します。 第4回 大正(たいしょう)建設株式会社(宮城県石巻(いしのまき)市) 人事ジャーナリスト 溝上(みぞうえ)憲文(のりふみ) 震災後の社員の生活を守るため定年を65歳に延長  人手不足や社員の高齢化が進行するなかで、いかに生産性を向上させるかが大きな課題となっている。その一つの方法が、新技術導入による省力化や業務の効率化の推進である。だが、新技術や機械の導入による省力化は従業員が長年つちかってきた知識・経験やスキルを活かすことがむずかしくなるだけではなく、新たなスキルも習得しなければならない。  ソフトランディングするには高齢社員の新技術に対する理解と意欲の喚起(かんき)がきわめて重要になる。建設業界でいち早く新技術を導入し、生産性向上に果敢に挑戦しているのが宮城県石巻市にある大正建設株式会社だ。同社は建築・土木などの総合建設業と一般貨物運送事業を営む社員40人の会社。うち60歳以上が14人と35%を占め、65歳以上の社員も8人いる。  同社は2013(平成25)年1月に定年年齢を65歳に引き上げ、66歳以上の社員は継続雇用とする制度を導入した。大槻(おおつき)正治(まさじ)社長はその理由についてこう語る。  「一つめは、少子高齢化のもとでの人材確保です。特に石巻市は毎年人口が流出しており、東日本大震災による津波浸水地域として、被害者の数も多く、にない手不足が深刻です。二つめは、団塊の世代が定年時期に入り、中堅・若手社員への技術の継承が思うように進まないという事情があります。三つめは、被災により家を失った若い社員がたくさんおり、家を建て直す必要がありました。住宅ローンを組むなど生活再建のためには収入確保が必要なため、継続雇用で70歳ぐらいまで働くことができればローンの支払いが終わります。こうしたさまざまな事情をふまえて、定年を65歳に引き上げました」  定年を65歳に延長しても給与は毎年昇給する。一方、66歳以降は本人の希望により上限年齢を設けない継続雇用とし、原則として昇給はしないが65歳時の給与を保証している。退職金は定年時に支給するのではなく、定年後も継続して積立てを行い、退職時に支給する。手厚い処遇の背景には、「体力の続くかぎりは現役としてがんばってほしい」(大槻社長)という期待がある。 生産性向上と職場環境改善を目ざし最新のICT建機の導入を決断  社員の仕事はパワーショベルやブルドーザーなどの建設機械のオペレーター、ダンプトラックの運転などに分かれるが、実際は、一人ひとりに、建築・土木作業などあらゆる仕事をこなせる多能工的役割が期待されている。それだけに高齢者の負荷も少なくない。  現役として長く活躍してもらうには、職場環境の改善が必要との認識から、これまでさまざまな取組みを実施してきた。その柱が「安全衛生会議の活性化」、「新技術の導入」、「休日の確保」の三つである。  建設従事者の安全性の確保は不可欠の条件だ。労働安全衛生法に基づく安全衛生責任者や職長の講習は1回受講すれば終わりではなく、定期的な受講が義務づけられており、高齢者も受講する。同社では安全衛生会議が定期的に開催されているが、安全意識を徹底するための会議の活性化策も工夫している。例えば、会議では必ず司会と書記を設けるが、高齢社員と中堅・若手社員の二人一組で担当し、年齢に関係なく意見をいい合える雰囲気づくりに努めている。  2番目の新技術の導入とは、最新の「ICT(情報通信技術)機器」※を搭載した建設機械のことだ。建設業界では「情報化施工」と呼ぶ。通常の建設作業は、現場の調査・設計・測量の後、施工を経て検査が行われる。情報化施工は簡単にいえば、設計や測量データなどバラバラになっている情報を同じ規格でまとめて現場施工に利用するものだ。具体的にはどのように施工するかという調査・設計データを機械にインプットすれば半自動的に施工が可能になる。  同社には全部で40台の建設機械があるが、うち20台がICT建機だ。駐車場には十数台の建機が並んでおり、実際にパワーショベルの運転席に座らせてもらった。外観や内部はまったく普通の建機と同じである。座席の前にレバーがあり、通常はこのレバーを手で操作し、先端部分の土砂をすくい上げるバケットを動かして掘削(くっさく)、整地、地固めなどの作業を行う。だがこの機械には左側にモニターが二つついている。一つは入力したデータを表示するもの、もう一つは機械の周囲360度を映し出す。  機械の操作は半自動だが、実際は人がレバーを動かす。大槻昌克(まさかつ)副社長は機械の機能について次のように説明する。  「モニターからデータを出し入れして調整します。人の操作は必要ですが、例えば間違って深く掘ろうとしたら、設定したデータの数値以上に掘らないように制御され、設計図通りの高さで掘ることができます。バケットの傾きや位置を設計図面に合わせてくれるので効率よく作業ができます。通常の機械操作はレバーを縦横に動かしながら機械を旋回したり掘削したりするなど操作が複雑なので、ベテランになるには5〜10年の経験が必要です。しかしICT建機は間違った動きを制御し、機械に従って動かすことができるので、1年程度で習得できますし、高齢者や女性でも操作が可能です」  建機の四方には小型カメラが設置され、360度監視によって人が近づくと油圧モーターやエンジンが停止するなど、セキュリティ機能は万全だ。同社がICT建機を最初に導入したのは2014年。東北地域では最も早かったという。だが、作業効率や安全性に優れているといっても価格は通常の建機の2倍以上だ。なぜ導入したのか。  「団塊世代の社員が退職したことで技能の継承がむずかしくなったためです。建機のスキルは頭で覚えられるものではなく、五体を使って覚えるのでどうしても時間がかかります。技能の継承が追いつかない場合は生産性や収益性も低下します。さらに高齢者や経験不足の社員が増えることで現場での事故など災害リスクも高まります。ICT機械はたしかに高額ですが、にない手がいないという現実をカバーするために導入することにしたのです」(大槻社長)  また、高い技能を持つ高齢者でも、事故を起こさないように気を張りつめて作業をするので精神的、肉体的負担も軽くはない。退職した高齢社員から「社長、若い人たちについていけなくなった。そろそろ卒業させてもらいたい」といわれたことも大槻社長の記憶にあった。 長年の知識・技術・経験があるからこそ高齢社員のスキル習得は若手より早い  にない手不足と技能の継承、高齢社員の負担の軽減という課題を解決するためとはいえ、巨額の投資に違いない。また、機械の性能がよくても動かすのは人である。ICT建機の技能習得も必要になる。当初は1台購入し、その後建機の数を増やしていったが、新しい建機を購入するごとに機能がバージョンアップする。機械が変わるたびに必要な技能を学ばなければならない。  最初のICT建機を購入した2014年10月には、翌年の稼働に向けて勉強会をスタートした。メーカーの担当者が講師となり、同社の2階の会議室で社員を集めて学んだ。  「参加者は、現場のオペレーターや技術管理者など12人。そのときは元請け企業の担当者も呼んで、一緒に勉強しました。当時元請け企業でICT建機を持つところはなく、発注する側も機械の機能を知る必要があったのです。座学だけではなく、元請けの現場を提供してもらい、機械を使った実践学習も行いました」  だが、最初からすんなりと運んだわけではない。当初はベテランの高齢社員は面倒くさいといって学ぶことを嫌がったという。  「なぜなら、高齢社員にとっては、これまでつちかった自分の技能が否定されるようで、嫌なのです。自分のスキルが機械に負けてしまうというショックもあったのでしょう。彼らに対して私は、『あなたが機械を使わなくても構わない。でも、何十年の経験を持つあなたが前に進むことなく逃げてしまったら、若い人は決してついてこないよ』と話して納得してもらいました」  こういえるのは、大槻社長自身が創業時からあらゆる建機を使いこなしてきた第一人者だったからでもある。だが、長年つちかったスキルを否定されることほど辛(つら)いものはない。建設業界にかぎらず、どの産業でも起こり得ることだ。その精神的な壁≠乗り越えるために、大槻社長は発破をかけ続けた。ベテラン社員の背中を押し、みんながやる気になると逆に成長も早かった。  「やる気になれば、覚えるのにそれほど時間はかからないのです。なぜならベテラン社員は機械操作の長年の経験があるため、基礎力は80〜90%持っているのです。90%の知識と経験があればプラス10%の知識を学ぶだけでよい。逆に若い人は基礎力が10%しかなければ、残りの90%を学ばないといけません。ベテラン社員がいったん操作を覚え、ICT建機を使うと、だれもが快適で楽だと話しています」(大槻社長) ICT建機の導入で生産性が向上し従業員の休日確保に貢献  2016年4月には、本社を会場に、外部の人を集めて100人規模のICT建機のセミナーを開催した。宮城県の職員をはじめ元請け業者や同業者が集まり、ICT建機の機能と操作の学習会を経て、同社の社員による機械の実演を披露した。宮城県内ではICT建機がまだどういうものか知らない人も多く、参加者は一様に驚きを隠せなかったという。  もちろん機械操作は一度マスターすれば終わりというものではない。前述したように新たな機械を購入するたびに進化していく。大槻副社長は「最初に購入した機械も使えないわけではありませんが、機械の機能は毎年のように増えていきます。機械を動かす基本操作は変わりませんが、モニターを見ながらデータを呼び出し、操作をするので、モニター操作が理解できなければ、せっかくのICTがただの機械になってしまいます。その都度、操作をマスターしていく必要があるのです」と語る。  2018年には3月から11月にかけて5台を導入しているが、その都度研修会を開催している。現在でも1カ月に1回は研修会を開催し、いまでは高齢社員を含む社員全員がICT建機を操作できるようになっている。  また、高齢社員にかぎらず、だれもが覚えやすいように工夫もしている。  「重視しているのは見える化≠フ徹底です。必要な操作については必ず、写真を撮って丸印をつけ、『このボタンを押せばこうなる』といった説明を機械に貼りつけています。文字だけではわかりにくいので、イラストで説明するのもポイントです」(大槻副社長)  ICT建機では、前述したように最初のデータ処理も重要になる。データ処理も含めて研修の指導役となっているのが40代の管理者たちだ。先ほどの覚えるための見える化≠煌ワめて、若手への指導や高齢社員への機械の説明などを行う。「ごく自然体でやっているので、教えてもらう高齢社員も自然体で学んでいますよ」(大槻社長)  従来はスキルの高いベテラン社員が後輩に教えるのが一般的だったが、ICT建機導入後、ベテランを含めてみんなで学び教え合う風土が醸成(じょうせい)されている。もちろん効果はそれだけではない。若い世代も含めて技術を習得するスピードも早まり、現場作業の効率化が図れることで生産性も向上した。大槻社長は「例えば5カ月かかる工事が1カ月短縮できるなど生産性は確実に向上しています。もちろん機械ですべて対応できる工事だけではありませんし、道路に側溝を入れる細かい工事では、いまもベテランの熟練スキルが必要です」と語る。  ICT建機の導入により同社の生産効率は高まり、建設業で一般的となっている「4週4休」からの改善が進み、現在では全社員が「4週8休」をほぼ達成しているという。  ICTと高齢者の就業は一見、結びつかないように見えるが、最新のテクノロジーを駆使することによって職場環境の改善につながり、高齢者の働く意欲を向上させる。同社の取組みは、今後の高齢者就業のあり方を考えるうえで、大きなヒントを与えてくれる。 ※ ICT(情報通信技術)機器……ネットワーク通信による情報・知識の共有が可能な機器 大槻昌克副社長 大槻正治社長 ICT建機のための勉強会の様子 【P46-49】 知っておきたい 労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第16回 人事考課、賃金からの相殺 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 人事考課の査定結果への不服申し出は法律的にはどうなっているのか知りたい  従業員から、年に一度の人事考課による査定結果について、不服があるという申し出がありました。  前年度の成果からすれば、ほかの従業員と同程度の昇給にとどまるのはおかしく、この査定結果は賞与の支給額にも関係するので、査定結果を見直すよう求められています。  人事考課における査定に対して、従業員が不服を申し出ることはできるのでしょうか。 A  法的には、人事考課における不当な取扱いがあった場合に、損害賠償請求を行う余地はあります。しかしながら、昇給や賞与の支給に関する場合には、使用者に広い裁量が認められるため、違法となることはほとんどないといえるでしょう。  ただし、就業規則などで定めた評価項目・評価対象期間を遵守することや、法令に違反するような不当な差別的な取扱いを行うことは許されません。 1 昇給・賞与に関する人事考課について  過去に降格および降職に関して解説しましたが(2019年1月号掲載)、今回は、昇格・昇給や賞与に関する人事考課に関する相談です。  日本の企業の多くは、職能資格制度を採用している場合が多く、「職能資格」については、一度身についた能力を前提に等級が定められており、これを引き下げるためには、厳格な判断がなされる傾向にあります。  それでは、職能資格の引上げが納得いかない場合に、労働者からの再査定などの要求にこたえなければならないのでしょうか。また、これが賞与の査定に影響する場合はどのように考えられているのでしょうか。 2 昇給における査定結果について  多くの企業では、年に一度の人事考課を行い、その査定については、管理監督者からの一方的な評価による場合や、労働者自らが立てた目標の達成度をふまえた評価制度を採用するなど、さまざまな方法による査定が実施されています。  労働関連法規においては、特定の評価方法を採用することが定められているわけではなく、人事考課における査定方法については、使用者の裁量により決定することが可能であり、その裁量の範囲も広いものと考えられています。また、いかなる査定方法を採用するかに加えて、当該査定における各労働者の評価方法についても、基本的には使用者の裁量により決定されることに委(ゆだ)ねられています。  例えば、昇給の査定に関して、裁判例において、「昇給査定は、これまでの労働の対価を決定するものではなく、これからの労働に対する支払額を決定するものであること、給与を増額する方向での査定でありそれ自体において従業員に不利益を生じさせるものではないこと」をふまえて、賃金規程においては、人物・技能・勤務成績および社内の均衡などを考慮し、昇給資格および昇給額などの細目については、その都度定めると規定されていたことから、「従業員の給与を昇給させるか否かあるいはどの程度昇給させるかは使用者の自由裁量に属する事柄というべきである」と判断された事例があります(広島高裁平成13年5月23日判決、マナック事件控訴審)。  昇給時における人事考課の査定について、争いになる事件はそれほど多くありませんが、この裁判例において示された傾向は、人事考課および査定を法的にどのように位置づけるのかについて基本的な考え方を示しているといえるでしょう。  なお、賞与の査定についても、同事件では、「一般的に賞与が功労報償的意味を有していることからすると、賞与を支給するか否かあるいはどの程度の賞与を支給するか否かにつき使用者は裁量権を有するというべき」と判断されており、使用者が広い裁量を有するという点は共通しています。 3 違法となる基準について  使用者に広い裁量を認めたからといって、まったく違法となる余地がないわけではありません。実際、前述したマナック事件においては、昇給の査定および賞与の査定に関して、裁量の範囲を逸脱して違法であると判断した部分もあります。  まず、評価対象とする期間が定められている場合は、対象とする期間外の出来事を考慮することは、裁量権を逸脱したものと評価されることにつながります。マナック事件においては、評価対象期間外の出来事を考慮していたと判断された結果、裁量権の逸脱があると認定されました。  次に、評価項目を定めている場合に、当該評価項目以外の事項を基準に評価を下げたりすることも、裁量の範囲を逸脱することがあります。例えば、直属の上司の評価を大幅に下げる評価を行った行為が、評価対象の労働者の態度に好感を持てていなかったことが原因であるとされ、裁量権の逸脱を認定された事例があります(東京高裁平成23年12月27日判決)。評価項目の設定は、可能なかぎり客観的かつ公平な評価を目的として設定されているはずですので、これを主観によって恣意(しい)的に運用する場合には、本来の人事考課の目的とは異なる不当な動機や目的をもって査定を実施したものとして、違法と評価されることがあるということです。  これら以外には、法律が不当な差別的取扱いを禁止している場合に、違法と評価されることがあります。例えば、同一の成果や人事考課を受けている労働者について、男女の差異を理由として、昇給額に差を設けることは禁止されています(男女雇用機会均等法第6条第1号参照)。 4 本件における対応について  不服を申し出ている労働者が、査定結果に対していかなる理由や根拠に基づいて査定のやり直しを求めているのかを把握する必要があります。  一方で、評価を行った直属の上司などに対しても、評価の根拠を確認したうえで、会社が定めた評価方法に則して実施されているかを確認しておくべきでしょう。  評価の前提となる事実関係に誤りがある場合や、上司が恣意的に過小評価している場合には、違法となるおそれがありますので、査定結果を是正すべき場合もあります。  上司が評価を恣意的に行っているか否かを把握するためには、不服を申し出た労働者以外の労働者、特に同程度の成果と見受けられる労働者との比較を行い、合理的に評価の相違点を説明できるかを検証する方法が考えられます。 Q2 従業員の退職後、通勤手当の過払い分を賃金から相殺することはできるか  当社は、6カ月分の定期券相当額を通勤手当として支給しているのですが、退職する際に、過払いの通勤手当が生じることがあります。  退職後に過払い分を返還してもらおうとしても、連絡が取りづらくなったり、支払意思がなくなってしまったりするため、最終の賃金計算の際に控除しようと思っていますが、何か問題はあるのでしょうか。  また、労働者の不注意による事故によって、会社に損害が生じたため、損害を賠償してもらう予定なのですが、これを賃金から控除してもよいのでしょうか。 A  賃金については、「全額払いの原則」が定められており、賃金からの控除についてはこれに違反するおそれがあります。  ただし、一定の範囲で調整的な理由で行われる場合には許容される場合もあります。  損害賠償相当額を賃金から控除することは基本的には許容されませんが、労働者の自由な意思に基づく合意にしたがう場合には、許される場合があります。 1 賃金全額払いの原則  労働基準法第24条は、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定め、ただし、「法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる」と定めています。  この規定は、賃金支払い方法に関する原則を定めており、本件では、「賃金全額払いの原則」からして、賃金からの控除が許容されるかが問題となります。  「賃金全額払いの原則」は、労働者に確実に賃金を受領させ、その経済生活をおびやかすことのないように保護することを目的としており、使用者による労働者の搾取を防止するために非常に重要な原則として位置づけられています。  本件においては、ただし書きが定めるような労使協定などではなく、個別の労働者との対応が問題となるため、ただし書き以外の例外が許されるのかが問題となります。 2 調整的相殺について  通勤手当の過払い分を回収することについては、通勤手当を1カ月分ずつ払っている場合であっても、退職日を通勤手当の期間とうまく調整しないかぎりは、少なからず発生することになります。  最高裁昭和31年11月2日判決(関西精機事件)は、賃金全額払いの原則に照らして、「賃金債権に対しては損害賠償債権をもつて相殺することも許されない」と判断しており、原則として、使用者の一方的な意思によって相殺を行うことは許されません。  とはいえ、いかなる場合においても賃金からの控除が許容されないとなると、実務上、賃金計算を誤って行って少額の過払いが生じたとしても控除できず、退職時に調整することもできないなど、不便な場面が多く想定されます。そこで、「調整的相殺」については、許容するという考え方があります。  最高裁昭和44年12月18日判決(福島県教組事件)において「適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺は、同項但書によつて除外される場合にあたらなくても、その行使の時期、方法、金額等からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば、同項の禁止するところではないと解するのが相当である」と判断し、@合理的に接着した時期に行われ、Aあらかじめ労働者にそのことが予告される、または、その額が多額にわたらないなどの事情があれば、許容されるものと判断されました。  したがって、通勤手当といった賃金の過払いと関連するような場合には、計算可能となった時期と接着した時期に実施するようにしたうえで、対象となる労働者に対してあらかじめ通知しておくことで、実施することが許容されると考えられます。ただし、返還を受けるべき額が高額にわたる場合には、労働者の経済生活の安定を脅かすおそれもありますので、通知しておくだけではなく、労働者の同意を得ておくなど、慎重な対応を行うべきでしょう。  なお、類似の問題として、1カ月の賃金支払額の端数について、1000円未満の端数が生じた場合には、翌月の賃金支払日にくり越して支払うことが、全額払いの原則の例外として、行政解釈上許容されています。なお、この場合も、翌月という接着した時期にかぎり許容されている点は留意する必要があります。 3 損害賠償と賃金の相殺について  調整的相殺において、許容されているのは、あくまでも賃金の過払いやその計算相違などによる齟齬(そご)を調整することであるため、使用者が、労働者に対して、不法行為や債務不履行により損害賠償請求権を有する場面を想定したものではありません。  上記の判例においても、不法行為や債務不履行による損害賠償請求権との相殺を禁止した福島県教組事件判決と矛盾しない範囲で調整的相殺を許容したにすぎません。  したがって、労働者の不注意で生じた事故のような不法行為に基づく損害賠償請求権との相殺は、いかに時期が接着していたとしても、許容されるわけではありません。  このような場面において一方的な相殺は許容されないとしても、合意による相殺まで許容されないのかという点について、判断した判例があります。  最高裁平成2年11月26日判決(日新製鋼事件)では、「労働者がその自由な意思に基づき右相殺に同意した場合においては、右同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、右同意を得てした相殺は右規定に違反するものとはいえないものと解するのが相当である」と判断されており、合意による相殺は許容される余地があります。  ただし、留意すべき点として、「労働者の自由な意思」に基づいていることが強調されており、通常の合意の成立とは異なる表現があえて用いられています。実際の事案においては、会社からの借入金の返済について退職金からの控除を実施できるかといった点が問題となっており、会社がさまざまな配慮を労働者にしたうえで、労働者も自発的に協力していたことを根拠に、「労働者の自由な意思」があったものと判断しており、相当に慎重に検討された結果でした。  労働者による賃金の放棄と同様の基準が想定された判決となっており、労働者が自らの賃金を放棄してもよい、または相殺されてもよいと判断するような合理的な背景や理由があったことを使用者が立証できなければ、容易には「労働者の自由な意思」があったとは認められがたいといえます。労働者との間で相殺の合意書を作成するにあたっては、合意に至った理由や背景もふまえた記載を心がけるなど、その効力が無効とされないように留意する必要があります。 【P50-51】 科学の視点で読み解く  高齢者が毎日イキイキと働くためには、「疲労回復」の視点を持つことも重要になります。この連載では、「疲労回復」をキーワードに、“身体と心の疲労回復”のために効果的な手法を科学的な根拠にもとづき紹介します。 身体と心の疲労回復 国立研究開発法人理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム プログラムディレクター 渡辺(わたなべ)恭良(やすよし) 第3回 疲労のメカニズムと現代の疲労の特徴と課題 疲労のメカニズム  運動性の疲労であれ、精神性の疲労であれ、疲労には根本的に「活性酸素」(酸素ラジカル)がかかわっています。ほとんどの生命体は、酸素を使ってエネルギーをつくっていて、その過程で活性酸素が副産物として発生するからです。通常、活性酸素は細胞のなかにある、抗酸化物質によって消去され、細胞は健康を保っています。ところが、オーバーワークをすると活性酸素の発生量が多くなり、かぎりある抗酸化物質が減少すると、細胞のなかにある重要な部品である「タンパク質」などが活性酸素によって酸化、つまりサビついてしまいます。  このときに身体が若く、エネルギーを十分に生み出すことができれば、そのエネルギーを使ってサビついた部品を修理したり、新しい部品に置き換えることができます。しかし、加齢にともなう身体の変化やオーバーワークが連続すると、サビついた部品を修復するエネルギーが不足することになります。すると、サビついた部品が蓄積されて細胞の調子が悪くなります。これが「細胞傷害」というもので、全身を巡る免疫細胞がこの細胞傷害を見つけ出し、脳にその場所と程度を知らせます。このようにして、ヒトは疲労を感じているのです。これが疲労のおおまかなメカニズムです。 疲労を検知する機能の破綻(はたん)  ヒトが働きすぎて疲労を感じた場合、意欲や情動にかかわっている脳の部位が活発に働き始めて「休みなさい」という警告を発していると考えられています。このような疲労を検知する機能によって、普通は睡眠をとったり、休息をとったりすることになります。ところが、この警告を無視して、無理して働き続けると、意欲や情動にかかわる脳の部位が「疲れのSOS信号」を押さえ込んでしまいます。と同時に、交感神経が刺激され、癒やしをつかさどる副交感神経の働きが落ちて過緊張状態が継続するので、疲労していても休息をとれない状態、ときには不眠状態にさえ陥るおそれもあるのです。  ヒトは往々にして働きすぎてしまうことがあります。特に職場の管理監督者の方々には、働きすぎによってせっかくの疲労の検知機能が破綻してしまうと、慢性疲労や過労死につながる可能性があることを理解していただく必要があると思います。  働き方改革の実現が求められる昨今、疲労のメカニズムを理解することによって、働きすぎがもたらす危険性をよりよく知っておく必要があるといえるでしょう。 現代における疲労の特徴と課題  現代人の生活は、「忙しい」、「やることが山積みでエンドレスだ」、「気の休まるときがない」という状況にあります。仕事を優先するあまり、休憩、息抜き、癒やし、娯楽、そして睡眠というものをないがしろにしている読者も少なくないのではないでしょうか。特に働く人にとっては、このような「切迫感」が大きな課題となっているといえるでしょう。切迫感があるということは、自分のペースで働くことはできないということになるので、たとえ疲労を感じたとしても、タイミングよく休息を取ることができないのです。  特に近年では、スマートフォンの普及によって間断なく情報を入手したり、リラックスするべき時間にも、ついゲームに熱中してしまったり、何かにつけて瞬時に対応するための集中力を維持し続けてしまっている状況が見受けられます。  このように現代の生活における疲労の特徴を考えると、例えば、仕事中における休憩のとり方ひとつにしても、それぞれの立場で工夫を凝らして望ましい休憩の取り方の方向性を考え、それを実現していく必要があるでしょう。最近、社員の創造性を重視している企業のなかには、仕事中に休憩の時間をとったりスポーツを楽しむなど遊びの要素を上手に取り入れているところも増えてきています。また、疲労回復のために必要な睡眠時間を十分に確保するために、「時差出勤」や「テレワーク」を導入している企業も増えてきています。 自力でのコントロールが重要  仕事の場面でも、学びの場面でも、自身で主体的に計画して主体的にコントロールできる取組みに関しては、疲れを感じるケースは少ないといえます。これは、休憩をうまくはさんだり、気分転換をしたり、余裕あるスケジュールを構築することができるからだと思われます。疲労の効果的な対策としては、この点が最も重要なのかもしれません。  ですから他人が決めた仕事のスケジュールであっても、いったんは自分が立てたスケジュールとして受け止めて、十分に咀嚼(そしゃく)しておけば、先々に起きる場面を想定しながら動くことができます。「疲れにくさ」のキーワードは、このような「事前シミュレーション」や「リスク管理」といえそうです。  その一方で、疲労からの回復にはやはり睡眠が重要であり、自身の日内(にちない)リズム※とうまく合わせて睡眠時間を取ることが最も大切です。加えて、睡眠にかかわる環境や寝具、そして「睡眠時無呼吸症候群対策」も重要になります。  疲労への適切な対策を取るためには、疲労の度合いを知ることも大切です。そこで次回は、「疲労度の計測方法」をご紹介します。 わたなべ・やすよし 京都大学大学院医学研究科博士課程修了、大阪医科大学医学部・講師、大阪バイオサイエンス研究所・研究部長、大阪市立大学大学院医学研究科・教授、理化学研究所分子イメージング科学研究センター・センター長、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター・センター長、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター所長等を歴任し、現在は、理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム・プログラムディレクター、理化学研究所生命機能科学研究センター・チームリーダー、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター・顧問を兼任。日本疲労学会・理事長。 ※ 日内リズム……約24時間を周期として変化する肉体的・精神的な変化 【P52-55】 特別企画 同一労働同一賃金の実現に向けて 《前編》 ―正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の禁止―  2020年4月1日より、同一企業内の正規雇用労働者と非正規雇用労働者との不合理な待遇差の解消を目的に、「同一労働同一賃金」について定めた、パートタイム・有期雇用労働法、労働者派遣法が施行される。そこで本企画では、前後編の2回に分けて、同一労働同一賃金に関する法改正の要点について解説する。 厚生労働省 雇用環境・均等局 有期・短時間労働課 はじめに  現在、いわゆる非正規雇用労働者(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)は、雇用者全体の約4割を占めており、その待遇は、正規雇用労働者の待遇と比較して大きな差があるといわれている。そのようななかで、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差を解消し、どのような雇用形態を選択しても待遇に納得して働き続けられ、多様な働き方を自由に選択できるようにすることが重要となっている。  2018(平成30)年6月に成立した「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」により、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を実現するため、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム労働法)※、「労働契約法」および「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(労働者派遣法)について改正が行われ、2020年4月1日(中小企業へのパートタイム・有期雇用労働法の適用は2021年4月1日)から施行される。  本稿では、パートタイム労働法、労働契約法の主な改正内容や個々の待遇について、どのような待遇差が不合理と認められるか等の原則となる考え方と具体例を示した指針(ガイドライン)等について解説する。なお、労働者派遣法の改正については、次回解説する。 1 同一企業内における不合理な待遇差を解消するための規定の整備  現行では、正規雇用労働者とパートタイム労働者・有期雇用労働者との間の待遇差について、@業務の内容・業務にともなう責任の程度(職務内容)、A職務内容・配置の変更の範囲(人材活用の仕組み)、Bその他の事情、の3要素を考慮して、不合理と認められるものであってはならないとする、いわゆる均衡待遇規定がある(パートタイム労働法第8条・労働契約法第20条)。  しかし、現行の規定においては、正規雇用労働者とパートタイム労働者・有期雇用労働者との間における個々の待遇の違いと、3要素との関係性が必ずしも明確ではなく、どのような待遇差が不合理と認められるかについて解釈の幅が大きいものとなっている。今回の改正で、待遇差が不合理と認められるか否かの判断は、個々の待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して行われるべき旨を明確化した(パートタイム・有期雇用労働法第8条)。  また、現行ではパートタイム労働者についてのみ設けられている、職務内容と人材活用の仕組みが正規雇用労働者と同一である場合に差別的取扱いを禁止する、いわゆる「均等待遇規定」について、有期雇用労働者も対象に追加した(パートタイム・有期雇用労働法第9条)。  なお、異なる企業・団体間での正規雇用労働者とパートタイム労働者・有期雇用労働者との間の待遇差については、対象としていない。 ■ガイドラインの策定  パートタイム・有期雇用労働法及び労働者派遣法に基づき、2018年12月に「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(ガイドライン)が策定された。ガイドラインは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で待遇差が存在する場合に、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差が不合理なものでないのかなどの原則となる考え方と具体例について、基本給、賞与、手当などの個々の待遇ごとに示したものである(図表)。  正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、そもそも待遇の決定基準・ルールが異なる場合(例:正規雇用労働者には経験や能力に応じた基本給を支給する一方、非正規雇用労働者には職務に応じた基本給を支給)には、その違いは、単に「将来の役割期待が異なるため」といった主観的・抽象的な説明では足りず、前述の@職務内容、A人材活用の仕組み、Bその他の事情、の3要素のうち、その待遇の性質・目的に照らして適切と認められるものの客観的・具体的な実態に照らして、不合理と認められるものであってはならないこととしている。  また、以下の内容を基本的な考え方として述べている。 ・ガイドラインに示されていない退職手当、住宅手当、家族手当等や、具体例に該当しない場合についても、不合理な待遇差の解消等が求められる ・各企業において、労使による個別具体の事情に応じた話合いが望まれる ・正規雇用労働者に複数の雇用管理区分(総合職、地域限定正社員等)がある場合、正規雇用労働者のすべての雇用管理区分と非正規雇用労働者との不合理な待遇差の解消が求められ、低い待遇の雇用管理区分を新設したとしても、不合理な待遇差の解消等は回避できない ・正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で職務内容等を分離したとしても、不合理な待遇差の解消が求められる ・基本的に労使で合意することなく正規雇用労働者の待遇を引き下げることは、望ましい対応とはいえない  さらに、定年後に継続雇用されたパートタイム労働者・有期雇用労働者についても、パートタイム・有期雇用労働法の対象となる。ガイドラインでは、2018年6月に出された長澤運輸事件最高裁判決をふまえ、以下のとおりとしている。 ・有期雇用労働者が定年に達した後に継続雇用された者であることは、正規雇用労働者と有期雇用労働者との間の待遇差が不合理であると認められるか否かを判断するに当たり、@職務内容、A人材活用の仕組み、Bその他の事情、の3要素のうちの「Bその他の事情」として考慮される事情に当たりうる ・定年に達した後に有期雇用労働者として継続雇用する場合の待遇について、さまざまな事情が総合的に考慮されて、正規雇用労働者との間の待遇差が不合理と認められるか否かが判断される。そのため、有期雇用労働者が定年に達した後に継続雇用された者であることのみをもって、直ちに正規雇用労働者との間の待遇差が不合理ではないとされるものではない 2 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化 パートタイム労働者・有期雇用労働者の、自らの待遇についての納得性を向上させるとともに、事業主しか知り得ない情報があるために労使の話し合いに支障が生じたり、労働者が訴えを起こすことができなかったりすることがないようにするため、正規雇用労働者とパートタイム労働者・有期雇用労働者との間の待遇差の内容・理由等に関する説明を義務化した。  具体的には、パートタイム労働者・有期雇用労働者から求めがあった場合に説明しなければならない事項として、正規雇用労働者との間の待遇差の内容・理由等を追加した(パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項)。さらに、事業主は、パートタイム労働者・有期雇用労働者が説明を求めたことを理由として、不利益な取扱いをしてはならないこととした(同条第3項)。  説明の詳細については、「事業主が講ずべき短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等に関する指針(パートタイム・有期雇用労働指針)」において、以下のとおりとしている。 (1)比較の対象となる通常の労働者について  待遇差に関する説明において、比較の対象となる通常の労働者は、職務内容、人材活用の仕組み等が、パートタイム労働者・有期雇用労働者の職務内容、人材活用の仕組み等に最も近いと事業主が判断する通常の労働者とすること。 (2)待遇差の内容について  事業主は、待遇差の内容として、(@)通常の労働者とパートタイム労働者・有期雇用労働者との間の待遇に関する基準の相違の有無、(A)通常の労働者とパートタイム労働者・有期雇用労働者の待遇の個別具体的な内容または待遇に関する基準を説明すること。 (3)待遇差の理由  事業主は、通常の労働者とパートタイム労働者・有期雇用労働者の@職務内容、A人材活用の仕組み、Bその他の事情のうち、待遇の性質や待遇を行う目的に照らして適切と認められるものに基づき、待遇差の理由を説明すること。 (4)説明の方法  説明にあたっては資料を活用し、口頭により説明することを基本とすること。ただし、説明すべき事項をすべて記載した、パートタイム労働者・有期雇用労働者が容易に理解できる内容の資料を用いる場合には、その資料を交付する等の方法でも差し支えないこと。  このほか、現行法では、事業主はパートタイム労働者を雇い入れたときには、昇給・賞与・退職手当の有無、苦情の処理に関する窓口について文書等により明示しなければならないこととしている(パートタイム労働法第6条)。また、事業主はパートタイム労働者を雇い入れたときには雇用管理の改善措置の内容を、その雇用するパートタイム労働者から求めがあったときには、待遇の決定に当たって考慮した事項を説明しなければならないこととしている(パートタイム労働法第14条)。今回の改正では、これらの規定の対象に有期雇用労働者が追加された。 3 行政による事業主への助言・指導や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備  パートタイム・有期雇用労働法の均等待遇規定・均衡待遇規定は民事的効力を有するものと解されているが、パートタイム労働者・有期雇用労働者にとって訴訟を提起することは重い負担となる。このため、パートタイム労働者・有期雇用労働者がより救済を求めやすくなるよう、行政による事業主への助言・指導といった履行確保措置や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定を、パートタイム労働者・有期雇用労働者について統一的に整備した(パートタイム・有期雇用労働法第18条、23条〜27条等)。 4 パートタイム・有期雇用労働法の円滑な施行に向けた取組み  企業・団体がパートタイム・有期雇用労働法に円滑に対応することができるよう、厚生労働省では以下のような取組みを行っている。 (1)各種マニュアル等の策定・厚生労働省ホームページでの公開 ア 取組手順書   自社の状況が法律の内容に沿ったものなのかどうか、社内制度の点検の手順を示している。(https://www.mhlw.go.jp/content/000468444.pdf) イ 業界別マニュアル   具体例を付しながら、各種手当、福利厚生、教育訓練、賞与、基本給について、点検・検討の手順を詳細に解説したもの。   スーパーマーケット業、食品製造業、印刷業、自動車部品製造業、生活衛生業、福祉業、労働者派遣業については、業界版のマニュアルも作成している。(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03984.html) ウ 職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル   基本給に関する均等・均衡待遇の状況を確認し、等級制度や賃金制度を設計する1つの手法として、職務評価について解説している。   セミナーやコンサルティングにより、職務分析・職務評価の普及や導入支援も実施している。(https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/estimation/) (2)働き方改革推進支援センターにおける相談援助  働き方改革全般に関する相談・支援のためのワンストップサービス拠点として、民間団体等に委託し、47都道府県に設置している。  雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保に向けた非正規雇用労働者の待遇改善に関することだけでなく、時間外労働の上限規制への対応に向けた弾力的な労働時間制度の構築や、生産性向上による賃金の引上げ、さらには、雇用管理改善による人手不足への対応や、助成金の活用など、労務管理に関する課題について、社会保険労務士等の専門家が無料で相談・支援する体制を構築している。  電話・メール・来所による相談やセミナーの開催だけでなく、働き方改革推進支援センターの専門家が企業・団体を訪問し、就業規則の見直し、労働時間短縮、賃金引上げに向けた生産性向上などに関するコンサルティングを通じて、個々の事業主の状況に応じた改善計画案の提案も行っている。 (3)キャリアアップ助成金による支援  パートタイム・有期雇用労働者の賃金規程等の増額改定や、正規雇用労働者との賃金規程・諸手当制度の共通化等を行う事業主に対して、キャリアアップ助成金を支給している。  厚生労働省のホームページや「パート・有期労働ポータルサイト」でも、パートタイム・有期雇用労働法の解説動画など、参考となる資料を更新・掲載しているので、参考にしていただくとともに、具体的にどのように取り組んでいったらよいかお悩みの点があれば、働き方改革推進支援センターまたは都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に相談いただきたい。 ◆厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html ◆「パート・有期労働ポータルサイト」  https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/ ※ 今回の改正で、パートタイム労働法の各規定の対象に有期雇用労働者を加え、法律の題名も「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム・有期雇用労働法)に改めた 図表 「同一労働同一賃金ガイドライン」の概要 基本給  「@能力又は経験に応じて」、「A業績又は成果に応じて」、「B勤続年数に応じて」支給する場合は、@、A、Bに応じた部分について、同一であれば同一の支給を求め、一定の違いがあった場合には、その相違に応じた支給を求めている。  正社員とパートタイム労働者・有期雇用労働者の賃金の決定基準・ルールに違いがあるときは、「将来の役割期待が異なるため」という主観的・抽象的説明では足りず、賃金の決定基準・ルールの違いについて、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情の客観的・具体的な実態に照らして不合理なものであってはならない。 基本給 円 役職手当 円 通勤手当 円 賞与 円 時間外手当 円 深夜出勤手当 円 休日出勤手当 円 家族手当 円 住宅手当 円 役職手当等  役職の内容に対して支給するものについては、正社員と同一の役職に就くパートタイム労働者・有期雇用労働者には、同一の支給をしなければならない。また、役職の内容に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない。 ※同様の手当…特殊作業手当(同一の危険度又は作業環境の場合)        特殊勤務手当(同一の勤務形態の場合)        精皆勤手当(同一の業務内容の場合) 等 通勤手当等  パートタイム労働者・有期雇用労働者には正社員と同一の支給をしなければならない。 ※同様の手当…単身赴任手当(同一の支給要件を満たす場合)等 賞与  会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについては、正社員と同一の貢献であるパートタイム労働者・有期雇用労働者には、貢献に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。また、貢献に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない。 時間外手当等  正社員と同一の時間外、休日、深夜労働を行ったパートタイム労働者・有期雇用労働者には、同一の割増率等で支給をしなければならない。 家族手当・住宅手当等  家族手当、住宅手当等はガイドラインには示されていないが、均衡・均等待遇の対象となっており、各社の労使で個別具体の事情に応じて議論していくことが望まれる。 ※待遇差が不合理か否かは、最終的に司法において判断されることにご留意ください。 【P56-57】 10月は「高年齢者雇用支援月間」です 高年齢者雇用開発フォーラムのご案内 (高年齢者雇用開発コンテスト表彰式)  厚生労働省との共催により、高年齢者が働きやすい職場環境にするために企業などが行った創意工夫の事例を募集した「高年齢者雇用開発コンテスト」の表彰式および記念講演を行います。また、コンテスト入賞企業などによる事例発表や、学識経験者を交えたトークセッションを実施し、企業における高年齢者雇用の実態に迫ります。「人生100年時代」のなかで、「年齢にかかわらずいきいきと働ける社会」を築いていくために、企業や個人がどのように取り組んでいけばよいかを一緒に考える機会にしたいと思います。 日時 令和元年10月3日(木)11:00〜16:10 受付開始10:00〜 場所 イイノホール(東京都千代田区内幸町2-1-1 飯野ビル) 東京メトロ日比谷線・千代田線「霞ヶ関」駅 C4出口直結 東京メトロ丸ノ内線「霞ヶ関」駅 B2出口徒歩5分 定員 400名(先着順・入場無料) 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 プログラム 11:00〜12:00 高年齢者雇用開発コンテスト表彰式 12:00〜13:00 (休憩) 13:00〜14:00 記念講演 「シニア就業の自助・共助・公助〜人生100年時代に向けて〜」 諏訪 康雄 氏(法政大学名誉教授) 14:00〜15:00 事例発表 コンテスト入賞企業等3社程度 15:00〜15:10 (小休憩) 15:10〜16:10 トークセッション: 「高齢社員活用の最前線 〜コンテスト表彰事例から探る〜」 パネリスト:コンテスト入賞企業等3社程度 コーディネーター:内田 賢 氏(東京学芸大学教育学部教授) ◆雇用相談コーナー……12:00〜16:30  ◆資料配布、ポスター展示……11:00〜16:30 C福田栄夫 ●参加申込方法 受付開始時期は、8月中旬を予定しております。 申込み方法は、当機構ホームページ(下記URL)およびエルダー9月号にてお知らせいたします。 http://www.jeed.or.jp/elderly/activity/forum.html ●お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 研究開発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 Mail:con2019@jeed.or.jp 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 地域ワークショップのご案内  高年齢者雇用にご関心のある事業主や人事担当者のみなさま! 令和元年度の未来投資会議で、盛んに議論されている高年齢者雇用にご興味をお持ちの方も多いのではないでしょうか。  当機構では各府県支部が中心となり、生涯現役社会の実現に向けた「地域ワークショップ」を開催します。事業主や企業の人事担当者などの方々に、高年齢者に戦力となってもらい、いきいき働いていただくための情報を提供します。  各地域の実情をふまえた具体的で実践的な内容ですので、ぜひご参加ください。 概要 日時/場所 高年齢者雇用支援月間の10月を中心に各地域で開催 カリキュラム (以下の項目などを組み合わせ、2〜3時間となります。) ●専門家による講演【高年齢者雇用の現状や各種施策など】 ●事例発表【先進的に取り組む企業の事例紹介】 ●ディスカッション ●質疑応答 参加費 無料(事前の申込みが必要となります) 開催スケジュール 下記の表を参照(令和元年7月23日現在確定分) ■開催スケジュール 都道府県 開催日 場所 青森 10月17日(木) 調整中 岩手 10月28日(月) いわて県民情報交流センター 宮城 11月8日(金) 宮城職業能力開発促進センター 秋田 10月24日(木) 秋田テルサ 山形 10月16日(水) 山形国際交流プラザ 福島 10月24日(木) 福島職業能力開発促進センター 茨城 10月24日(木) ホテルレイクビュー水戸 栃木 10月23日(水) 栃木県宇都宮産業展示館 群馬 11月14日(木) 群馬職業能力開発促進センター 埼玉 10月28日(月) 埼玉教育会館 千葉 10月24日(木) ホテルポートプラザちば 神奈川 10月17日(木) 関内ホール 新潟 10月29日(火) 新潟ユニゾンプラザ 石川 10月24日(木) 石川職業能力開発促進センター 福井 10月16日(水) 福井市研修センター 山梨 10月31日(木) 山梨職業能力開発促進センター 長野 10月16日(水) ホクト文化ホール 小ホール 岐阜 10月28日(月) じゅうろくプラザ 静岡 10月16日(水) 静岡職業能力開発促進センター 愛知 10月7日(月) 名古屋市青少年文化センター 三重 10月28日(月) ホテルグリーンパーク鈴鹿 滋賀 10月25日(金) 滋賀職業能力開発促進センター 京都 10月8日(火) 京都労働局 兵庫 10月10日(木) 神戸市産業振興センター 奈良 10月24日(木) ホテルリガーレ春日野 和歌山 10月11日(金) 県民交流プラザ 和歌山ビッグ愛 鳥取 11月8日(金) 米子コンベンションセンター 島根 10月23日(水) 調整中 岡山 10月15日(火) ピュアリティまきび 広島 10月11日(金) 広島職業能力開発促進センター 山口 10月24日(木) 山口職業能力開発促進センター 徳島 10月4日(金) 徳島県JA会館 愛媛 10月17日(木) 愛媛職業能力開発促進センター 高知 10月29日(火) 高知職業能力開発促進センター 佐賀 10月17日(木) アバンセ第1研修室 長崎 11月1日(金) 長崎ブリックホール国際会議場 熊本 10月16日(水) ホテル熊本テルサ 大分 11月1日(金) トキハ会館 宮崎 10月18日(金) 宮崎市民文化ホール 鹿児島 10月29日(火) 鹿児島県民交流センター 沖縄 11月25日(月) 那覇第2地方合同庁舎 各地域のワークショップの内容は、各支部高齢・障害者業務課までお問い合わせください。 上記日程は予定であり、変更する可能性があります。 変更または調整中の府県は決定次第ホームページでお知らせします。 jeed 生涯現役ワークショップ 検索 【P58】 BOOKS 労働法の全体像を把握したい人のための「最初の一冊」 プレップ労働法 第6版 森戸(もりと) 英幸(ひでゆき) 著/ 弘文堂(こうぶんどう)/ 2000円+税  「働き方改革関連法」が順次施行され、定評のある労働法の解説書も改訂版が出そろってきた。本書もそのうちの一つで、2006(平成18)年に初版を刊行してから順調に版を重ね、このほど今回の法改正と注目すべき最高裁判例を反映した最新版が刊行された。  本書は、法学部の学生が法律の専門教育を受けるまでの「橋渡し」の役割を果たすシリーズとして刊行され、わかりやすさに工夫が凝らされている。随所に職場で実際に交わされているような会話(セリフ)が挿入されていて、「実際にどのような場面で、何が問題となるのか」をストレートに理解することができる。人事異動などによって、新たに人事労務担当者となった人にとってもハードルが低く、労働法の全体像を短時間で把握する際の「最初の一冊」として最適だろう。加えて、「事項索引」と「判例索引」が充実しているので、経験のある担当者が直面している課題の解決策を検討する際にも、十分役に立つと思われる。  300頁を超える分量がありながら、重量感を感じさせないのは、使用した用紙に工夫があるからだという。内容面に加えて、体裁面での工夫も光るおすすめの一冊だ。 等身大の事例を通じて、これからの時代の働き方を紹介 日本でいちばん女性がいきいきする会社 坂本光司(こうじ)、藤井正隆、坂本洋介 著/ 潮(うしお)出版社/ 1500円+税  働く場における女性の活躍を推進することが、いま、なぜ求められているのか。よくいわれるように、労働力人口の減少の問題が理由の一つとしてあげられる。本書の著者は、このことのみならず、従来の工業化社会、ハード優先型社会、成長優先社会においては女性の活躍の場がかぎられていたが、これからさらに進んでいくソフト・サービス化社会、人間最優先社会においては女性が活躍することが新たな前提になっていくこと、また、企業経営の面からみても、生活者の感性や感覚がより求められるようになり、女性の視点がさらに重要となって活躍できる場面が増えていくという見解を示し、女性の活躍推進の重要性を説いている。  そして、女性が実際に活躍している10社の事例と、女性の働きやすさ指標(50項目)などを通じて、女性がいきいきと働くための取組みを紹介。また、女性活躍推進に求められる八つの要素をあげて解説している。  事例は、多様な業種の中小企業のもので、取組みを独自に工夫したり、失敗を教訓にしたりして歩みを進めてきた等身大の内容だ。これからの時代のワーク・ライフ・バランスを考えるうえでも、いろいろなヒントを与えてくれる。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「本体価格」(消費税を含まない価格)を表示します 【P59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 労働災害発生状況を公表 厚生労働省  厚生労働省がまとめた2018(平成30)年の労働災害発生状況によると、昨年1年間の労働災害による死亡者数は909人となっており、前年(978人)と比べ69人(7・1%)減少し、過去最少となった。  死亡者数を業種別にみると、最も多いのは建設業の309人(全体の34・0%)、次いで、第三次産業の243人(同26・7%)、製造業の183人(同20・1%)、陸上貨物運送事業の102人(同11・2%)の順となっている。  次に、死傷災害(死亡災害及び休業4日以上の災害)についてみると、死傷者数は12万7329人となっており、前年(12万460人)と比べ6869人(5・7%)増加した。  死傷災害を業種別にみると、最も多いのは第三次産業の6万53人(全体の47・2%)、次いで、製造業の2万7842人(同21・9%)、陸上貨物運送事業の1万5818人(同12・4%)、建設業の1万5374人(同12・1%)の順となっている。  なお、死亡災害は2年ぶりの減少、死傷災害は3年連続の増加となった。  また、参考資料『平成30年労働災害発生状況の分析等』の「業種、被災者年齢別死傷災害発生状況」から、年齢別の死傷者数をみると、最も多いのは60歳以上の3万3246人(全体の26・1%)で前年(3万27人)と比べ3219人(10・7%)増加した。次いで、50〜59歳の3万385人(同23・9%)で前年(2万8631人)と比べ1754人(6・1%)増、40〜49歳の2万7489人(同21・6%)で前年(2万6498人)と比べ991人(3・7%)増の順となっている。  60歳以上の死傷災害を業種別にみると、最も多いのは第三次産業の1万8115人(全体の14・2%)で前年(1万6033人)と比べ2082人(13・0%)増加した。次いで、製造業の6096人(同4・8%)で前年(5591人)と比べ505人(9・0%)増、建設業の3992人(同3・1%)で前年(3866人)と比べ126人(3・3%)増、陸上貨物運送事業の2469人(同1・9%)で前年(2096人)と比べ373人(17・8%)増の順となっている。 【P60】 次号予告 9月号 特集 地方・地域における高齢者雇用の実態と展望 リーダーズトーク 永山久夫さん(食文化史研究家) 〈高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQR コードのリンク先がhttp://www.jeed.or.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには− 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み  @定期購読を希望される方   雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。   URL http://www.fujisan.co.jp/m-elder  A1冊からのご購入を希望される方   Amazon.co.jpでご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢 春康……サトーホールディングス株式会社人財開発部 人事企画グループ人事企画担当部長 菊谷 寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本 節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 清家 武彦……一般社団法人日本経済団体連合会 労働政策本部 上席主幹 深尾 凱子……ジャーナリスト、元読売新聞編集委員 藤村 博之……法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 真下 陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア 京子……アテナHROD代表、学習院大学特別客員教授 編集後記 ●定年延長や再雇用制度により、従業員が60歳以降も働ける制度を整えたものの、高齢従業員のモチベーションの低下を課題と考える読者の方も多いのではないでしょうか。その要因としては、処遇の低下や仕事内容・役割の変化など、さまざまな事情が考えられます。  そこで今号は、60〜65歳の60代前半層のモチベーションを維持・向上させるための人事管理に焦点をあてた特集企画をお届けしました。  総論では、玉川大学の大木栄一先生に、60歳以降の人事管理制度の現状と課題について解説していただきました。続く鼎談では、大木先生を座長に、株式会社前川製作所の大嶋江都子氏、日本クッカリー株式会社の小西敦美氏にご登場いただき、それぞれの会社における高齢者雇用制度の実態や課題などについて、本音で語り合っていただきました。また、60歳以降の従業員のモチベーションを向上させている企業事例として、積水化学工業株式会社の取組みをご紹介しています。  60歳以降の高齢社員に活き活き働いてもらうためには、現役世代と同様、いかにしてモチベーションを高め、維持していくかが重要です。本特集を、ぜひ、60歳以降の人事管理の見直しのきっかけにしていただければ幸いです。 ●10月は「高年齢者雇用支援月間」です。2019年度高年齢者雇用開発コンテスト表彰式や表彰企業による発表などが行われる「高年齢者雇用開発フォーラム」が10月3日に行われるほか、全国41カ所で「地域ワークショップ」が開催されます。みなさまのご参加をお待ちしております。  また、11月からは全国6カ所で「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」を開催予定です。詳細は次号でお知らせしますので、こちらもご期待ください。 月刊エルダー8月号 No.478 ●発行日−令和元年8月1日(第41巻 第8号 通巻478号) ●発 行−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 発行人−企画部長 片淵仁文 編集人−企画部次長 中村雅子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2  TEL 043(213)6216(企画部情報公開広報課) ホームページURL http://www.jeed.or.jp  メールアドレス elder@jeed.or.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5  TEL 03(3915)6401  FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-726-8 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験などを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.303 和本と洋本の技術の融合手になじむ「粋」な本を生む 製本職人 渡邊(わたなべ)博之(ひろゆき)さん(63歳) 「開きがよい、持った感じがよいなどの感覚は、気づくしかない。だから『この本は、粋いきだね』などと、若い人に話しかけます」 行列のできる製本会社を目ざして、仕かけた2代目  東京都新宿区西五軒町(にしごけんちょう)。丁目(ちょうめ)の表示を持たず、古くからの町名を残しているこの地域には、印刷や製本の工場や会社が多い。  その一角に、上製本(じょうせいほん)・並製本(なみせいほん)などの洋本と、日本古来の伝統的な和本、両方の高い製本技術を持ち、日々、新たな仕事への挑戦を続けている会社がある。  特殊製本 博勝堂。  同社の屋台骨を支えてきたのは会長の渡邊博之さんだ。  渡邊さんは根っからの職人肌。2014(平成26)年に都知事から表彰された、製本技能者初の東京マイスター※1でもある。  同社は1956(昭和31)年に創業。当時から学校の卒業アルバムを毎年何百校と手がけてきた。  「昔の卒業アルバムは大和綴(やまとと)じといって、紐で綴じていたのです。表紙を布でくるみ、綿入れ加工もしていました」  しかし、特殊な作業が多いので一点一点手間がかかり、ビジネスとしては利益をあげにくい。採算が合わず、こうした和本を手がける会社は全国的にも減っていった。  さらに、バブル崩壊後の不況で同社も赤字が続いた。  当時、社長として指揮を執っていた渡邊さんは改革を決意する。  「こちらから営業に出向くのではなく、お客さまが並んででも注文したくなる会社にしよう、と考えました」  応接室を減らし、代わりにこれまで製本した見本を壁一面の棚にぎっしりと並べた。数種類の見本を営業が持って何度もうかがうより、ここで手に取って開いてもらうほうが、検討も決断も話が早い。  現代のビジネスではスピードが大きな価値を持つ。しかし、無理に縮めた納期ではたしかな製本はできない。そこで、営業努力として心がけているのが見積もりの早さだ。印刷会社からのむずかしい依頼に即日で見積書を出すと驚かれ、さらにその先にいるお客さまにも喜ばれる。  そうして、お客さまのクチコミや紹介で顧客が増えたのである。 手になじむ、開きやすさ品質に加え、数をこなせるのも大事  見ためや仕上げの美しさのほか、開きやすさ、扱いやすさといった細かな相談にも耳を傾ける。  「和本の手仕事の技術と、洋本の機械化の技術。その両方があるから、融合させて特殊な製本の仕事ができるのです。だからうちは、特殊製本 博勝堂なのです」  61ページに紺色の表紙の和装本がある。常磐津(ときわず)※2の譜面本だ。  外見からはわからないが、静かな環境で紙をめくっても音を立てないよう、やわらかい和紙を使い、開きやすく工夫されている。  デザイナーの要望に応えるために、特殊な加工が必要ならば、作業の工程すらも組み替える。  「できないことはないとがんばっていたら、できることが増えていきました。博勝堂さんなら、前例がなくても何か答えを出してくれると期待されるようになりました」  しかし、さまざまな依頼を受けるのは並大抵のことではない。多様な機械を用途に合わせて使い分ける必要がある。  「例えば、本の背の側を固めていく『背がため』の工程ですと、上製本には三枚貼り機を使い、並製本には無線綴じ機を使います。接着剤で綴じるものもあります。すべての機械を全社員が使いこなせるよう社内で試験も行い、合格した社員にはわずかな額ですが給料にも反映しています」 技と志を受け継ぐ者がいるだからさらにチャレンジする  若い職人さんが、スッ、スッとリズムよく、正確に流れるような手さばきで表紙を織布でくるむ。その動き自体が、粋だった。  製本の技で知られる同社で働きたいという若い人や女性も増えた。  現在の社長は、長男の剛ごうさんだ。  「息子には、私ができない仕事を持ってこいといいます。その仕事のやり方を考えるのが、私の役目です」  家業だからこそ妥協はしない。今日も渡邊さんの声が現場に響く。 株式会社 博勝堂 TEL:03(3269)5248(代表) FAX:03(3269)4578 http://www.hakushowdou.com/ (撮影・福田栄夫/取材・朝倉まつり) ※1 マイスターとはドイツ語で名人、親方、師匠などの意味。東京都は極めて優れた技能を持ち、ほかの技能者の模範と認められる各技術分野の第一人者を、東京都優秀技能者「東京マイスター」として表彰している ※2 常磐津三味線に乗せて語られる「語り物」。浄瑠璃から生まれ、江戸歌舞伎とともに発展した 写真集の製本。ページ順にまとめられた紙の束に糸を通していく糸かがり機を使うが、できる製本所は少なくなっている。左は三男で製造係長の悠(ゆう)さん 厚生労働大臣検定の国家資格「製本技能士」(一級2名、二級5名) 会長の渡邊さん(左)は、社長の剛さん(右)にいう。「私ができない仕事を持ってこい」 糊(のり)、にかわ、水用など「はけ」のいろいろ。馬のたてがみ製は高価 糊づけを見守る。ひと塗り、ふた塗り、目的や意識が細かく異なる刷毛づかい 伝統から継承した技術が、新たな技術を生む。職場のみなさん 織布や木など、デザイン性の高い自然素材の扱いにも長けている 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回は高度な脳機能の中核、「ワーキングメモリ」の力を鍛えます。  ワーキングメモリは、作業(ワーキング)を行うための短期記憶(ショートメモリ)のこと。脳にちょっと記憶しながら操作する、これが脳トレの基本です。 第27回 「ワーキングメモリ」を鍛える 目標 1問につき2分 課題1 次の文字を50音順で、それぞれ一つ前にずらしてください。意味のある単語になります。メモを使わず、頭のなかだけでやりましょう。 例)みつ → まち @ さなる → A ひけう → B やげり → 課題2 次は50音順で、それぞれ二つ前にずらしてください。 メモを使わず、頭のなかだけでやりましょう。 @ うるえごむ → A きしどくえ → 「ワーキングメモリ」の大切さ  仕事や家事などにおいて複数の並行作業を効率よく処理するカギは、個々の内容を把握して優先順位をつけ、実際に合わせて修正しながら実行していくことです。  ある作業をしている間、必要な情報を一時的に記憶しておく力のことを「ワーキングメモリ」といいます。いわば、脳のメモ帳を多重に使っているようなイメージです。  ワーキングメモリにかかわる領域は、脳の前頭前野にあります。ここの働きが低下すると、物事の整理がうまくつけられず、同じことをくり返したり、やるべきことを忘れたりするなど、効率も生産性も悪くなってしまいます。  決して見過ごすことのできない大切な力ですが、加齢などの影響を受けやすく、認知機能の低下ともかかわってくる脳の機能でもあります。  今回のような課題をくり返すことで鍛え直すことができます。忙しいときに行うと、より脳の力が高まるので、がんばってチャレンジしましょう。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRS を使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK 出版)など著書多数。 【課題の答え】 課題1 @ことり Aはくい Bもぐら 課題2 @あらいぐま Aおこづかい 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2019年8月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒780-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価(本体458円+税) 10月は「高年齢者雇用支援月間」です 高年齢者雇用開発フォーラムのご案内 (高年齢者雇用開発コンテスト表彰式)  厚生労働省との共催により、高年齢者が働きやすい職場環境にするために企業などが行った創意工夫の事例を募集した「高年齢者雇用開発コンテスト」の表彰式および記念講演を行います。また、コンテスト入賞企業などによる事例発表や、学識経験者を交えたトークセッションを実施し、企業における高年齢者雇用の実態に迫ります。「人生100 年時代」のなかで、「年齢にかかわらずいきいきと働ける社会」を築いていくために、企業や個人がどのように取り組んでいけばよいかを一緒に考える機会にしたいと思います。 日時 令和元年10月3日(木)11:00〜16:10 受付開始10:00〜 場所 イイノホール(東京都千代田区内幸町2-1-1 飯野ビル) 東京メトロ日比谷線・千代田線「霞ヶ関」駅 C4出口直結 東京メトロ丸ノ内線「霞ヶ関」駅 B2出口徒歩5分 定員 400名(先着順・入場無料) 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 地域ワークショップのご案内  高年齢者雇用にご関心のある事業主や人事担当者のみなさま! 令和元年度の未来投資会議で、盛んに議論されている高年齢者雇用にご興味をお持ちの方も多いのではないでしょうか。当機構では各府県支部が中心となり、生涯現役社会の実現に向けた「地域ワークショップ」を開催します。事業主や企業の人事担当者などの方々に、高年齢者に戦力となってもらい、いきいき働いていただくための情報を提供します。各地域の実情をふまえた具体的で実践的な内 容ですので、ぜひご参加ください。 概要 日時/場所 高年齢者雇用支援月間の10月を中心に各地域で開催 カリキュラム (以下の項目などを組み合わせ、2〜3時間で実施します) ●専門家による講演【高年齢者雇用に係る現状や各種施策など】 ●事例発表【先進的に取り組む企業の事例紹介】 ●ディスカッション ●質疑応答 参加費 無料(事前の申込みが必要となります) 開催内 容の詳細およびお申込みについては、本誌56〜57頁をご参照ください。 2019 8 令和元年8月1日発行(毎月1回1日発行) 第41巻第8号通巻478号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会