【表紙2】 10月は「高年齢者雇用支援月間」です 「2019年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」開催 高齢者雇用に取り組む事業主のみなさまへ  毎年ご好評をいただいている「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」を、本年度も開催します。  本年度は、「高齢社員を戦力化するための工夫」および「継続雇用・定年延長制度」をテーマとして、10月〜12月にかけて全国6都市(北海道・富山・東京・大阪・香川・福岡)の会場で開催します。  内容は、学識経験者による講演をはじめ、高齢社員の戦力化に取り組んでいる企業や継続雇用・定年延長を行った企業の事例発表、学識経験者をコーディネーターとしたパネルディスカッションが中心となっています。  高齢者雇用の環境整備に向けた課題へ取り組まれる事業主や、人事担当のみなさまのご参加を、心からお待ちしています。 開催スケジュールは、以下の通りです(主な内容は、56、57ページをご覧ください)。 他会場のスケジュールは、次号でお知らせします。 なお、ご不明な点は、当機構 雇用推進・研究部 研究開発課までお問い合わせください。 参加無料 北海道 日時 2019年10月18日(金) 13:00〜16:00 場所 ホテルモントレ札幌 2階「ビクトリアルーム」 札幌市中央区北4条東1-3 詳細 56ページをご覧ください 富山 日時 2019年10月25日(金) 13:00〜16:00 場所 ANAクラウンプラザホテル富山 大宴会場 鳳(U、V) 富山県富山市大手町2-3 詳細 57ページをご覧ください 香川 日時 2019年10月29日(火) 13:30〜16:30 場所 サンポートホール高松 第2小ホール 高松市サンポート2-1 高松シンボルタワー ホール棟 詳細 57ページをご覧ください お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 研究開発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 http://www.jeed.or.jp/ 主催 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 後援 厚生労働省 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.53 「健康食」で人生100年時代を生きる! 食文化史研究家 永山久夫さん ながやま・ひさお 1932(昭和7)年生まれ。古代以来の和食を中心とした食事を研究し、長寿者の食事、ライフスタイルを取材。各時代の食事復元研究の第一人者でもある。平成30年度文化庁長官表彰受賞。テレビや講演、執筆など多方面で活躍中。著書に『日本古代食事典』、『和食の起源 刷り込まれた縄文・弥生の記憶』、『世界一の長寿食「和食」』など多数。  働き方改革が本格的にスタートし、高齢者をはじめとする多様な人材の確保、労働者の健康的な働き方が注目されています。人生100年時代ともいわれるようになった昨今、活き活きと働き、暮らすためには、どのような食生活をしていけばよいのでしょうか。今回は、本誌『日本史にみる長寿食』※を長きにわたり連載されている、食文化史研究家の永山久夫さんに、生涯現役で働くための「健康食」について、お話をうかがいました。 万葉時代から続く日本の伝統的な食事長寿の秘訣は生命力を高める$Hべ方 −−永山先生は長年にわたって食文化史、とりわけ長寿食、長寿者のライフスタイルを研究されてきました。平成30年度には、その功績によって「文化庁長官表彰」を受けられましたが、ご感想はいかがでしょうか。 永山 長年の研究が認められ、いままでにない責任感、使命感をもつようになりました。もっと深く研究し、裏づけを明らかにしていきたいという、引き締まった気持ちです。そして、ますます長寿食の研究と普及に力を入れなければ、と感じています。 −−永山先生は、改元によってにわかに注目されるようになった『万葉集』の時代の食生活にもたいへんお詳しいですね。 永山 「令和」という新しい時代が始まりま したが、これは、私が長年研究してきた「万葉(まんよう)時代」に通じるものがあります。個人的には、「第二の万葉時代」を迎えていると思っているんです。というのも、万葉時代の人々は食べ物を通じて老化を防ぎ、活き活きと働いていたとうかがえるのです。『万葉集』にたくさん残っている和歌を紐(ひも)解くと、万葉仮名という文字を通じて自分たちの感性を表現し、驚くほど生命力を豊かに書き記し、人生を謳歌(おうか)している。これは、令和という新しい時代、人生100年時代を活き活きと働き、暮らしていこうとする私たちの生き方、暮らし方、食べ方に通じるものがあると思っています。 −−具体的には、どのような食べ方、暮らし方をすると、健康で長生きができるのでしょうか。 永山 万葉時代から現代につながる食べ方としては、まず、「季節のものを食べている」ことがあげられます。万葉時代は冷蔵庫などない時代ですから、旬(しゅん)のものしか食べられない。魚や野菜、果物、木の実など、その季節に採れたものを、そのまま口にしていました。旬のものというのは、新鮮でおいしく、さらに栄養価が高いのが特長です。そういう新鮮な「よい成分のもの」を摂ることで生命を長らえ、老化を遅らせ、恋をして活き活きと暮らしてきたわけです。なかでも、生魚については、「膾(なます)」といって、魚を細かく切り刻んだり、薄く切ったりして、酢につけて食べる調理法が、日本最古の和食といわれています。『万葉集』のなかにも、  ひしおすに ひるつきかてて  鯛願う  われにな見せそ なぎのあつもの  という作品があります。これは、「ひしおす(醤酢)に、ひる(蒜=ノビル)を混ぜて鯛を食べたいと思っているのに、私に見せるな、なぎ(水葱=水アオイ)のあつもの(汁)」という意味で、現代で考えると「鯛を二杯酢とニンニクのタレで食べたいのに、水アオイの汁物のようなおいしくないものを持ってくるな」というような意味になるでしょうか。旬のものである生魚を、できるだけおいしく食べたいという料理法と食への好奇心が垣間見られる歌となっています。現代でも、「旬のものをおいしく食べる」ことが、健康食である和食の原点、といっていいでしょう。 元気に働くためにおすすめするのが「長寿食」栄養素を上手に摂って、健康・健脳(けんのう)を目ざす −−本誌で長年、「日本史にみる長寿食」(25頁)をご執筆いただいています。長寿食、健康食といいますが、高齢者がとくに気をつけて摂った方がいい栄養、食材について教えてください。 永山 まずは、日ごろ白米を食べている方なら、発芽(はつが)玄米に替えることをおすすめします。日本人はあまりにも忙しくて、脳はオーバーフローを起こしています。毎日の仕事で忙しく、イライラしたり、眠れなかったりすることもあるでしょう。発芽玄米には、いま話題のGABA(ギャバ)(ガンマ‐アミノ酪酸)という成分が多く含まれていて、脳をリラックスさせ、ストレスを軽減する効果が期待できます。血圧対策、肥満対策にもなるので、積極的に摂りたいですね。脳内のブドウ糖代謝を活性化するビタミンB1も含まれているので、長寿食としておすすめです。また、積極的に摂りたい栄養素としては、「トリプトファン」があげられます。これは、人間の体内では合成できず、食物から摂る必要のある必須アミノ酸の一つで、摂取すると体内時計に関連するセロトニンやメラトニンに代謝されます。健康に欠かせない成分であり、体内時計を整え、不眠症や時差ぼけの解消に役立つといわれています。肉、魚、豆、ナッツ、豆乳、乳製品などに広く含まれていますが、おすすめの食べ方は「かつお節」を毎日の料理に取り入れること。発芽玄米に、かつお節を振りかけたり、味噌汁に入れたり。これにトマトでも添えれば、GABA成分とトリプトファン、ビタミン類が摂れる、健康的でローカロリーな食事になります。 −−永山先生が提唱されている「健脳食」については、いかがでしょうか。 永山 発想力、記憶力を高めて脳を活性化し、元気に働きたい方は、オメガ‐3脂肪酸を注意して摂るといいでしょう。サバ、サケ、イワシ、タラ、マグロなどの魚介類には、記憶力の衰えを救うDHA(ドコサヘキサエン酸)のようなオメガ‐3脂肪酸が多く含まれています。また、ニンニクやタマネギには硫化アリルという血液サラサラ成分が含まれ、健康成分として注目されています。先ほどお話した、「膾」の料理法にならって、新鮮な魚をぶつ切りにしてニンニク、タマネギと酢、醤油で味つけし、日々の食事に取り入れるようにすれば、脳も元気、血管も元気な生活を送る手助けになるでしょう。脳という臓器は、老化して脳細胞が壊れてしまうと復元できないという特性をもっています。魚を工夫して食べ、抗酸化成分が豊富な旬の野菜や果物をたっぷり食べることで、健康な身体、健康な脳を維持することができるでしょう。 −−「旬のもの」を摂るのが和食の原点、というお話でしたが、秋にぜひ摂りたい食材はありますか。 永山 秋は、老化を防ぐ抗酸化成分を含む食べ物が多い季節です。抗酸化成分だらけ、といってもいいほどです。例えば秋のサケは、抗酸化成分であるアスタキサンチンを多く含み、脳の疲れを取ってくれる働きが期待できます。食べ方はシンプルに焼いてもいいですし、ちゃんちゃん焼きなどにして、野菜をたっぷり入れれば栄養バランスのよいおかずになるでしょう。旬のサンマには、オメガ−3脂肪酸が含まれているので、こちらも血管を元気にしてくれる働きがあります。高齢になっても、アイデアがどんどん湧き、活き活きと働くためには、こうした食材の栄養に気を配り、積極的に食べるようにしたいですね。 生涯現役でいるためには、歩くことそして好奇心をもって日々生活すること −−永山先生は、現在87歳。生涯現役を貫かれて、テレビや講演、執筆で活躍されています。先生ご自身の健康法があれば、ぜひ教えてください。 永山 私は若いときから、歩くことが大好きでした。もともと、出歩くことも好きですし、野山を駆け回っていました。現在は、テレビなどでのロケも多いほか、講演では2時間ずっと立ちっぱなしです。仕事をすることで、知らず知らずのうちに歩いていて、それが自然と健康法になっているんだと思います。最近、座りすぎの弊害が指摘されていますが、元気に働くためには、健康な足腰が大切になります。おっくうがらずに一駅歩く、エレベーターではなく階段を使う、などの工夫を生活に取り入れていったらいいと思います。  食生活では、私は毎日、発芽玄米を食べています。冷めてもおいしいですし、健康に必要な栄養素を自然に摂れることが強みです。そのほかには、餅キビ、アマランサス、キヌアも毎日いただいていますね。餅キビは、雑穀の一種で、鉄分や亜鉛、マグネシウムが豊富です。アマランサスは、10年ほど前に「驚異の穀物(スーパーグレイン)」として話題になりました。発芽玄米を炊くときに加えたり、軽く炒って、サラダやスープ、炒め物などに振りかけたりして食べています。キヌアにも、マグネシウム、リン、鉄分などのミネラルやビタミンB類が豊富に含まれているので、サラダやスープに入れるなどして、食べるようにしています。 −−若々しいお姿と生涯現役の背景には、そうした毎日の食べ物があったのですね。 永山 食文化史研究家という仕事柄、古代からの食べ物、食べ方だけではなく、現代の最新フードにも興味がありますし、知っておく必要もあります。だから、自分自身で食べて、実感したいと思っているんです。現代人の特性の一つとして、パソコンやスマホの画面といった、加工された情報を目にすることが本当に多いと思うんですね。できるだけ、好奇心をもって自分の目で見る、見に行くために歩く。そうやって自分自身を活性化することが、健康の秘訣だと感じています。 (聞き手・文/菊池麻依加 撮影/中岡泰博) ※ 今月号の「日本史にみる長寿食」は25頁に掲載しています ※ 永山久夫さんの新刊『外国人にも話したくなるビジネスエリートが知っておきたい教養としての日本食』(KADOKAWA)を今月号の「ブックス」(58 頁)で紹介しています 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 2019 September ●表紙のオブジェ イラストレーター 柳田ワタル(やなぎだ・わたる) 1947年 大阪府堺市生まれ。1970年多摩美術大学卒業。アニメーション制作会社勤務ののち、1974年よりフリーのイラストレーターとなる。1977年よりオブジェ、立体クラフトなどの制作を開始。90年代からは写真撮影も始める。 特集 6 定年後もいきいきと働きたいアナタに! 地方・地域が発信する高齢者の働き方 7 総論 地方・地域における高齢者雇用の現状と展望 ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田展弘 11 事例@ 「そうじゃ60歳からの人生設計所」を窓口に高齢者の活躍の場を創出 総社市生涯現役促進協議会 15 事例A 地域の活性化を目ざして高齢者がトマト栽培(新農法)にチャレンジ 公益社団法人犬山市シルバー人材センター 18 事例B プロフェッショナル人材と地方・地域をつなげてWin-winの関係に 静岡県プロフェッショナル人材戦略拠点 × 株式会社イノベタス 21 特別寄稿 「福岡県70歳現役応援センター」の設立にかかわって 法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 教授 藤村博之 1 リーダーズトーク No.53 食文化史研究家 永山久夫さん 「健康食」で人生100年時代を生きる! 25 日本史にみる長寿食 vol.312 「香りマツタケ、味シメジ」の秋 永山久夫 26 マンガで見る高齢者雇用 ダイキン工業株式会社《第2回》 32 江戸から東京へ 第84回 無刀に託す老達人の心 徳川家康と柳生石舟斎 作家 童門冬二 34 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第65回 一般財団法人 工業所有権協力センター 調査員 松倉正雄さん(68歳) 36 高齢者の現場 北から、南から 第88回 佐賀県 株式会社有明電設 40 高齢社員の磨き方 ―生涯能力開発時代へ向けて― 第5回 溝上憲文 44 知っておきたい労働法Q&A《第17回》 フレックスタイム制、出張と労働時間 家永 勲 48 科学の視点で読み解く 身体と心の疲労回復[第4回] 渡辺恭良 50 特別企画 同一労働同一賃金の実現に向けて《後編》 ―正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の禁止― 54 お知らせ 高年齢者雇用開発フォーラムのご案内 地域ワークショップのご案内 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウムのご案内 58 BOOKS 59 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.304 見えないところに「良心」を溶かして接ぐ、溶接の美技 溶接工 石川信幸さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第28回]体を使ったレクリエーション《すりすりトントン》 篠原菊紀 【P6-10】 特集 定年後もいきいきと働きたいアナタに! 地方・地域が発信する高齢者の働き方 人手不足によりシニア人材への注目が高まるなか、各地方・地域では、シニア人材がもっている知識や技術、経験を活かすため、さまざまな取組みが動き始めています。自身の体調や家庭の事情などに応じて柔軟に勤務できる働き方や、ボランティアなどの「生きがい就労」、地方中小企業の基幹人材としての活躍が期待される働き方もあり、60歳以降の選択肢はこれからますます広がっていく見込みです。そこで今回は、地方・地域で高齢者と職場をつなぐ、さまざまな取組み事例を紹介します。 総論 地方・地域における高齢者雇用の現状と展望 ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田展弘(のぶひろ) はじめに 〜超高齢未来と生涯現役社会  理想の未来社会を築けるかどうかに関する大事なキーワードに、「高齢者」と「地域」があります。日本は人口減少局面下にありますが、少なくとも高齢者だけは2040年まで増え続ける見通しです。その高齢者が、活き活きとした高齢期をすごすことができるのか、一人ひとりの人生にかかわる問題であると同時に、地域全体の活力や社会的コストにも影響を及ぼす極めて重要な課題です。  他方、少子高齢化にともなうさまざまな社会的課題の解決が「地域」に求められてきています。生活を支え合う基本単位の「家族」の形が変容するなか、おひとりさま(単身世帯)≠ェ増加の一途にあり、夫婦世帯の子どもの数は減少傾向にあります。家族で支えあう「家族力」が低下してきているなか、安心して生涯を送るためには、自助の強化や社会保障に頼るだけでは限界があります。子育てや福祉の問題を含めて、地域のなかで支え合う地域力≠フ強化が今日的に問われています。  筆者は「生涯現役社会」の実現なくして、未来はない!≠ニ2015(平成27)年に行われた「一億総活躍社会に関する意見交換会」のなかで述べてきましたが、改めて今日的にその社会の実現が待たれます。生涯現役社会の実現は「個人」と「地域社会」の両面に多面的な効果をもたらします。  それぞれの地域で年齢にかかわらず活躍し続けられる「生涯現役社会」を真に実現できるかどうか、その地域の未来の様相を左右する極めて重要な課題といえます。 都道府県別に見た高齢者雇用の現状  では近年における「高齢者の雇用状況」はどうなっているでしょうか。図表1は、総務省「平成29年就業構造基本調査」結果から、65―74歳の高齢者の就業状況について都道府県別にみたものになります。縦軸が「有業者」の割合です。上の方ほど働いている高齢者が多い地域であることを示しています。横軸は無業者のなかで仕事を求めている人の割合です。右の方ほど「働きたいが働くことができていない」人が多い地域であることを示しています。なお、高齢者の高齢化の影響を除くために、ここでは65―74歳の層に絞ってみています(75歳以上の後期高齢者が多い場合、有業者率が低く出てしまう可能性があるため。図表1の右表には「65歳以上」の状況も示しています)。  この図表の見方ですが、「働いている高齢者が多く、働きたくても働くことができていない高齢者が少ない」ことを理想とするならば、左上のゾーンが望ましい地域といえます。福井県、岐阜県といったところが該当します。長野県、山梨県は、働いている高齢者が多く素晴らしいですが、他方で仕事を求めている高齢者も多いという特徴がみられます。仕事の機会を提供しきれていないという見方をすれば課題ともいえますが、これだけ就労意欲が高い高齢者が多いととらえれば、地域力の強化も期待され恵まれた地域といえるかもしれません。このデータだけをもって各地の状況を評価するのは限界がありますが、少なくともこのように高齢者がより多く活躍できている地域とそうではない地域、働きたくても働けない高齢者が多い地域とそうではない地域に分かれることは確認できます。今後はできるだけ左上のゾーンに各地域が集中(シフト)していくことが期待されます。 高齢者の活躍場所の拡大に向けて 〜期待される「生涯現役促進地域連携事業」  では、そうした地域に変えていくにはどうすればよいでしょうか。現在、シルバー人材センターやハローワーク、民間の人材派遣企業などが、高齢者の活躍の場の拡大を図っているわけですが、今後現役をリタイアした高齢者が増え続けていくなかで、新たな活躍の場を求める高齢者のニーズに対応しきれるかどうか定かではありません。  そこで期待されるのが、現在進行形で進められている厚生労働省主導の「生涯現役促進地域連携事業」(以下、「連携事業」)です。大きな特徴は地方自治体が中心となって高齢者の活躍の場を拡げていくことです。ご存知の方も多いと思いますが改めてこの事業を紹介しますと、この事業は地方自治体(都道府県/市区町村)がまず所定の「地域高年齢者就業機会確保計画」を策定し、そのうえで地域の関係機関(自治体をはじめ高齢者の就業などに関係する機関)により「協議会」などを組織します。その組織が中心となって高齢者の活躍の場を拡げるためのさまざまな活動を行っていきます。  連携事業は厚生労働省からの公募(継続的に実施される)に対して、各地方自治体が手をあげて採択された場合に実施できる事業です。この事業の意味合いをもう少し伝えるために図表2を作成しましたのでご覧ください。  「高齢者の仕事の内容(性質)」と「それを開拓し斡旋する機関がカバーする範囲」を付置(ふち)しています(筆者のイメージ)。縦軸には「仕事の難易度(≒賃金の高さ)」、横軸には「企業ニーズが高い仕事と地域ニーズが高い仕事(営利・非営利的な仕事といい換えてもよいかもしれない)」を置いて、このなかに「民間の派遣・紹介企業」、「シルバー人材センター」、「ハローワーク」、そして「連携事業(協議会)」を付置しています。  この図から申し上げたいことは、連携事業の活用により、高齢者が活躍できる仕事の範囲が拡大するということ、特に福祉や子育て、あるいは観光産業の強化、地場産業のにない手不足解消といった、地域として有する課題の解決(左側)に連携事業(協議会)が中心となって、高齢者の活躍の場を拡充させていく方向にあるということです。連携事業はあくまで「地域が抱える課題の解決に、高齢者の力を活かしていく」ことを志向している事業であり、高齢者の活躍の場の拡大という重要な社会的課題に対して、地域が一体となって取り組む仕組み≠ニいえます。  2016年4月に連携事業が創設されてから3年が経過した現在(2019年8月)、全国では58の地域(道府県23、市町村35)で進められています(図表3)。取り組まれている地域を割合で表すと、都道府県では49%と約半数で取り組まれていますが、市区町村はわずか2%と非常に少ない状況です。各地域における生涯現役を促進する社会づくりを図っていくには必要な事業と思われるだけに、まだ取り組まれていない自治体は積極的に手をあげられることを期待します。 おわりに 〜未来に向けた地域活性化策として  地方・地域に視点を戻すと、多くのところが「都市化」にともなう人口流出、人口減少の課題を有していると思います。「交流人口を増やすには」、「地域活性化のためにどうすればよいか」と頭を悩ませている地域は少なくないでしょう。生涯現役促進地域連携事業はこの課題の解決にも貢献できると考えます。  リタイアした後、「どこで暮らす?」といった個人の判断は、これからはより柔軟になっていくと推測します。高齢期に「自然に恵まれたよい環境」で暮らしたいと考える人は少なくありません。地方・地域が「自然は豊か、高齢者も活躍できる場が多い」、というメッセージを発信できれば、現在高齢の方だけでなく、次代に高齢者となる中年、若者にも魅力的に映るでしょう。多くの地域が生涯現役促進地域連携事業を起点に、人と仕事(活力)が集まる魅力的な地域になっていくことを大いに期待します。 図表1 都道府県別高齢者(65-74歳)の就業状況 有業者率 無業の求職者率 65歳以上 65歳以上 65-74 65-74 % 順位 % 順位 % 順位 % 順位 全国24.4 38.3 8.2 13.8 北海道 20.7 46 34.7 43 7.4 24 12.8 19 青森県 25.0 20 39.0 21 6.8 15 12.6 15 岩手県 25.9 10 42.3 6 7.4 25 14.6 38 宮城県 22.7 40 36.6 40 7.5 28 14.4 36 秋田県 22.4 42 38.5 26 5.6 1 12.5 12 山形県 25.2 15 42.5 5 6.7 11 14.1 32 福島県 25.1 19 40.9 12 7.2 23 13.3 26 茨城県 25.2 14 38.2 30 8.0 31 12.8 18 栃木県 27.3 6 40.6 13 8.2 35 13.9 28 群馬県 25.1 17 38.5 27 7.4 26 12.6 16 埼玉県 25.7 12 38.1 31 9.4 43 14.3 35 千葉県 24.6 25 37.6 36 9.3 42 14.0 31 東京都 27.7 4 41.9 8 10.3 47 15.9 45 神奈川県 23.5 33 37.2 38 8.8 40 13.7 27 新潟県 23.0 37 37.9 32 6.6 6 12.6 14 富山県 24.3 28 40.1 16 6.7 10 11.7 5 石川県 26.2 8 41.7 10 7.0 18 12.6 13 福井県 27.8 3 45.0 3 6.3 4 12.5 11 山梨県 30.3 2 46.6 2 9.6 44 16.9 47 長野県 30.4 1 47.0 1 8.0 32 16.3 46 岐阜県 27.3 5 43.5 4 6.8 13 11.4 3 静岡県 26.4 7 41.4 11 8.0 34 15.0 39 愛知県 25.0 21 37.5 37 7.7 29 11.5 4 三重県 24.6 26 38.8 22 7.1 20 11.7 6 滋賀県 24.2 31 37.7 35 8.0 33 13.2 23 京都府 25.9 11 39.9 17 10.3 46 15.4 41 大阪府 21.6 43 34.1 44 9.8 45 15.6 42 兵庫県 20.8 44 32.7 46 8.8 41 14.0 30 奈良県 20.8 45 31.8 47 8.3 36 13.2 21 和歌山県 24.8 23 38.4 29 8.3 37 14.5 37 鳥取県 25.1 16 40.6 14 7.1 21 13.3 24 島根県 25.0 22 42.2 7 6.0 3 12.5 10 岡山県 24.0 32 38.7 23 6.4 5 10.8 1 広島県 24.7 24 38.6 25 6.8 16 12.7 17 山口県 24.2 29 38.7 24 6.9 17 12.0 7 徳島県 22.6 41 35.9 42 6.7 9 12.3 8 香川県 24.5 27 38.4 28 5.9 2 11.3 2 愛媛県 24.2 30 37.7 34 6.8 14 12.4 9 高知県 25.1 18 39.3 18 7.1 22 13.3 25 福岡県 22.8 39 36.2 41 8.4 39 14.2 34 佐賀県 25.4 13 40.3 15 6.8 12 13.9 29 長崎県 23.5 34 39.3 19 6.7 7 12.9 20 熊本県 23.3 36 37.1 39 6.7 8 14.1 32 大分県 23.3 35 37.8 33 7.1 19 13.2 22 宮崎県 25.9 9 41.8 9 7.5 27 15.2 40 鹿児島県 22.9 38 39.1 20 7.8 30 15.8 44 沖縄県 19.7 47 33.2 45 8.4 38 15.7 43 出典:総務省「平成29 年就業構造基本調査」結果より筆者作成 図表2 生涯現役促進地域連携事業のイメージ これまで 専門性が高い仕事(高い賃金) 地域ニーズが高い仕事 企業ニーズが高い仕事 単純・軽易な仕事 (低い賃金) 未開拓(空洞化) 民間派遣・紹介 シルバー人材センター ハローワーク これから 専門性が高い仕事(高い賃金) 地域ニーズが高い仕事 企業ニーズが高い仕事 単純・軽易な仕事(低い賃金) 民間派遣・紹介 生涯現役促進地域連携事業(協議会) シルバー人材センター ハローワーク 出典:筆者作成 図表3 厚生労働省「生涯現役促進地域連携事業」展開地域(2019年8月現在) 生涯現役促進地域連携事業地域マップ (23道府県・35市区町村) 北海道 大阪府 福井県 新潟県 兵庫県 滋賀県 富山県 岡山県 京都府 石川県 群馬県 神奈川県 山梨県 愛知県 徳島県 高知県 愛媛県 大分県 福岡県 宮崎県 長崎県 鹿児島県 熊本県 大館市 横手市 酒田市 山形市 見附市 大町市 若狭町 豊中市 津山市 米子市 出雲市 総社市 福山市 松山市 中泊市 平内町 遠野市 東松島市 仙台市 栃木市 取手市 柏市 鎌倉市 小田原市 静岡市 袋井市 新城市 犬山市 各務原市 玉城町 新宮市 三郷町 浦添市 南城市 宮古島市 出典:筆者作成 【P11-14】 事例1 「そうじゃ60歳からの人生設計所」を窓口に高齢者の活躍の場を創出 総社(そうじゃ)市生涯現役促進協議会(岡山県総社市) 生涯現役社会の構築に向けた生涯現役促進地域連携事業  2016(平成28)年4月、厚生労働省は、団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向けて労働力不足が課題となることに鑑(かんがみ)、働く意欲のある高齢者が、能力や経験を活かし、生きがいを持って働くことができるW生涯現役社会Wを構築するためのモデル事業として「生涯現役促進地域連携事業」(以下、「連携事業」)を開始した。同事業では、地方自治体が中心となり、労使関係者や金融機関などと連携する「協議会」から、高齢者の雇用創出や情報提供など、高齢者雇用に寄与する事業構想を幅広く募集、初年度の第一次実施団体には7団体が採択された。  岡山県総社市生涯現役促進協議会(以下、「促進協議会」)は7団体の一つに選ばれ、2017年度から2019年度の事業について事業提案を行い、再び採択を受けた。  促進協議会が提案した事業構想「いつまでも働けるそうじゃ! 人生の匠(たくみ)が産業と観光のマンパワーを担う」に基づいた、ユニークで画期的な高齢者就労支援の取組みを紹介する。 「全国屈指の福祉文化先駆(せんく)都市」を目ざして  総社市は岡山県中南部に位置し、かつての吉備国(きびのくに)の中心地域であったことから、由緒ある史跡がいまも市内に点在している。2005年に3市村が合併し現在の人口は約7万人。65歳以上が約3割を占め、高齢化は進行しつつあるが、2018年の転入超過数※は中国地方最多で、ここ数年、総人口が継続して増加している。その背景には総社市の手厚い福祉施策がある。  連携事業の事務局を務める、総社市保健福祉部長寿介護課の林直方(なおまさ)課長は、「総社市は2016年度から10年間のまちづくり指針となる第2次市総合計画で掲げた都市像『岡山・倉敷に並ぶ新都心 総社〜全国屈指の福祉文化先駆都市〜』の実現に向け、2015年に市幹部と有識者による『全国屈指福祉会議』を設置しています。2007年10月、片岡聡一市長の就任以来、福祉政策に軸足を置き、弱い立場にある市民へきめ細やかな施策を徹底的に行ってきました。『連携事業』に提案を行う以前から、弱者支援の自治体を目ざす風土が醸成されています。『全国屈指の福祉文化先駆都市』を目ざすなかで、高齢者の方が豊かな人生経験を活かし、年齢に関係なく活き活き活躍できるまちづくりを進めるため、高齢者の就労対策へ大きく一歩ふみ出すことにしました」と話す。 ワンストップ総合相談窓口「そうじゃ60歳からの人生設計所」の新設  総社市では2016年4月、高齢者の就労などに関する意識調査を実施した。対象となった60歳から69歳の市民を抽出(1200人)、約半数が「現在働いていない」と答えたが、そのうち「働きたい」と答えた人は3割を超えた。この「働きたい意欲」にどう応えていくかが大きな課題となった。  そうしたなか、総社市では、企業誘致が積極的に進められており、大手自動車メーカーの協力会社工業団地をはじめ、食品メーカーや日本郵便株式会社なども進出している。働きたい意欲のある高齢者が存在し、労働力を必要とする市場がある。総社市が「連携事業」に手をあげたのは自然の流れであったといえるだろう。  「意識調査から2カ月後の2016年6月に『促進協議会』が設立されました。構成員は社会福祉協議会(以下、「社協」)や老人クラブ、観光協会、商工会議所、シルバー人材センター、金融機関など10団体で、会長には市長が就任し、事務局は長寿介護課が担当することになりました。まず、2016年度の厚生労働省『連携事業』へ事業構想を提案し、採択されました」  事業採択を受け、ハローワークやシルバー人材センター、社協などとの連携のもと、2016年10月に開設されたのが、ワンストップ総合相談窓口「そうじゃ60歳からの人生設計所」(以下、「人生設計所」)だ。社協の持つ障がい者雇用のノウハウを活用したもので、高齢者の就業や創業などのニーズを把握したうえで、ハローワークやシルバー人材センターなどの関係機関と連携し、マッチングを行う。  さらに、もともと福祉政策に注力していた総社市では、地域を主役に、早期発見、早期対応、専門的支援、社会資源開発、社会教育、地域づくりの六つの機能を盛り込んだ「地域包括ケアシステム」を構築している。人生設計所もこの地域包括ケアシステムのなかに配置されており、就労支援よりも生活困窮支援が必要であれば、担当センターに紹介することができ、逆に生活困窮支援を希望する高齢者に就労の見込みがあれば、人生設計所へとつなげることもできるなど、同市の福祉政策の広範な窓口としても機能している。  「初年度の相談は968件、132人が登録し、就労できた人はわずか20人でした。現在は相談件数が約6倍、登録者数も約3倍となり、200人を超える方が就労、創業しています。人生設計所は家族の介護や体調面の不安など、さまざまな事情を持つ高齢者の『地元で働きたい』というニーズに応えるため、3人の専従職員が地域の企業を回って、登録した高齢者とのマッチングを行っています。  一方で、当初は就労を希望していた高齢者が、相談を重ねるなかで、収入よりも地域とのつながりや、自身のスキルを活かしたいというニーズが顕在化し、就労ではなくボランティアを選んだ例もあります。地域包括ケアシステムによりさまざまな福祉施策と連携していますので、自身のニーズに応じた活躍の場を探すことも可能です」 スキルアップを目ざして多彩なセミナーなどを開催  2017年から2019年の事業においても「連携事業」に採択されたことから、「促進協議会」では3年間で高齢者の雇用1000人を目標とすることを掲げた。かつて総社市は5年間で1000人の障がい者雇用の実現を目ざす取組みを行っており、障がい者が笑顔で働ける職場の創出は町全体の活性化につながった。この成功事例に学び、「人生設計所」の開設は働く意欲にあふれる高齢者の掘り起こしに一定の役割を果たしたが、さらに安定した求人・求職のマッチングを実現するため、以下の通り働き手の意識改革に重きを置き、多彩なセミナーやシンポジウムなどを開催している。 @スキルアップセミナー開催  就労を希望する高齢者が、必要な知識や技術などを習得するためのセミナー。社会保険労務士による就職サポートセミナーや、観光産業の活性化と総社市の魅力を全国に発信する「おもてなしシニア隊」隊員による講演を行っている。そのほか、さまざまな分野で活躍する方を講師に招き、多岐にわたるセミナーを実施している。 Aシニア向け企業説明会  未経験の業種で働くための能力を身につけることを目的としたもの。シルバー人材センターの入会案内ブースなども設置している。また、ハローワーク総社とともに企業訪問を実施し、高齢者雇用の周知啓発を図っている。 B農業者育成研修  JA岡山、一般財団法人そうじゃ地食(ちた)べ公社と提携し、座学と実習によるセミナーを開催。農作物の栽培から収穫について基礎的知識を身につけるなかで、兼業農家の補助員として活躍している事例もある。 C女性限定就業・創業サロン  女性の目から見た観光や食をテーマに就業・創業への意識づけサロンを開催(55歳以上対象)し、これまでに6人が創業。女性の新しい働き方をデザインすると同時に、地域づくり活動を行う力を身につけることを目標とする。  「私たちの連携事業は、人生設計所と各種セミナーの開催が核となっています。セミナーは市の広報紙やホームページなどでお知らせしていますが、人生設計所を通してアナウンスされることもあります。また、セミナーで学んだ人が人生設計所の扉をたたくこともあり、いわば人生設計所とセミナーは車の両輪のような関係です。高齢者の雇用1000人という大きな目標に向かって、これからもみんなで知恵を出し合っていきたいですね」と林課長は力を込める。 組織間の連携を強化し高齢者が安心して暮らせる社会の実現を  2018年3月には、総社市と株式会社セブン−イレブン・ジャパンとの間で「高齢者雇用、並びに見守り活動に関する協定」が締結された。協定の具体的な取組みの第一弾として同年4月24日、自治体主催としては県内初の、コンビニエンスストアによる「シニア向けお仕事説明会」を開催、参加者23人のうち4人の就職が決まった。  「5月にはマスコミにも取り上げられました。ハローワーク総社と人生設計所の協力によるものですが、この協定により、多くの高齢者の就労が見込まれるだけでなく、従業員の見守り活動により地域福祉の向上も予測されます」  一方、2016年に始まり、翌年から3年続いた国の「連携事業」は2019年度で終了となる。もともと「全国屈指の福祉文化先駆都市」の実現を掲げている総社市としては、促進協議会を継続し、さらなる強化を図るため、2020年4月からは、現在社協内に設置しているワンストップ相談窓口を、シルバー人材センター内に設置予定という。  「これはシルバー人材センターの機能である『職業紹介』や『労働者派遣』の部分を強化するとともに、退職後の就労や人生設計などを相談できる窓口を開設することで、トータルでコーディネートする役割もになっていこうというものです。社協、ハローワーク、シルバー人材センターなど、それぞれに強みも、弱みもありますから、互いに連携し補い合っていく関係をもっと強くしていきたいと考えています(図表)。  高齢者の多くが、住み慣れた地域で安心して暮らし続けていきたいと願っているはずです。人生設計所は働く場所を探す人の相談にのりますが、仕事だけではなく、ときには、面接を通じて高齢者の得意なことを見つけ出し、ボランティアなど新たな方向性を提案、その人の居場所を確保することも大切な業務です。人生経験の豊富な高齢者が、年齢に関係なく仕事でもボランティアでも地域の活動でも喜びを見出してもらえるまちづくりを目ざして、長寿介護課の仲間たちと励ましあいながら前に進んでいきます」  昨年7月に岡山県を襲った豪雨は、「晴れの国」ともいわれ、温暖で災害の少ない総社市にも被害をもたらした。林課長は、「災害をきっかけに生活支援が必要になった方も増えました。制度の充実はもちろん、市民の心に寄り添っていかなければいけないと、改めて実感しました」と話す。「住み慣れた地域でいきいきと暮らせるまちづくり」への市民の願いは、過去に例を見なかった災害を機にますます強いものになった。復興計画のなかには「そうじゃ60歳からの人生設計所」による高齢者への雇用機会の提供が位置づけられている。「全国屈指の福祉文化先駆都市」という目標に向かい、懸命の努力が続く。 ※ 転入超過数…… 転入者が転出者を上回った人数 図表 2020年度からの高齢者雇用の支援体制予定 ワンストップ相談窓口 高齢者活用・現役世代雇用サポート事業 シルバー人材センター (そうじゃ60歳からの人生設計所 看板設置) 総社市生涯現役促進協議会 事務局:長寿介護課 総社市 生活に関する相談 ボランティアなどの紹介 社会福祉協議会 求人情報の提供 企業への補助制度の紹介 ハローワーク総社 情報 共有会議 (月1回) 連携 総社市生涯現役促進協議会 構成団体 総社商工会議所 総社吉備路商工会 吉備信用金庫 岡山県立大学 老人クラブ連合会 総社市観光協会 NPO法人吉備野工房 ちみち 資料提供:総社市生涯現役促進協議会 写真のキャプション 総社市生涯現役促進協議会事務局(総社市保健福祉部長寿介護課)の林直方課長 シニア向け企業説明会の様子 【P15-17】 事例2 地域の活性化を目ざして高齢者がトマト栽培(新農法)にチャレンジ 公益社団法人犬山市シルバー人材センター(愛知県犬山市) 会員数は全国に約71万4000人地域の課題解決をになう就業が増える  シルバー人材センターは、高齢者に就業の機会を提供するとともに、ボランティア活動などの社会参加を通じて、高齢者の健康増進と生きがいのある生活の実現、地域社会の活性化に貢献している。全国に1300を超えるセンターがあり、登録会員は約71万4000人に上る。会員には、ライフスタイルや体力に合わせ、無理のない範囲で働きたいと考える人が多く、全国平均で1人あたり月8〜10日の就業により、月額3〜5万円程度の収入を得ている。  会員の就業は、「臨時的かつ短期的な就業、またはその他の軽易な業務」で、具体的には施設管理、庭木などの剪定(せんてい)、家事援助、育児支援、パソコン指導など多岐にわたる。就業先の形態には、自治体や地元企業、家庭から委託された仕事を提供する「受託事業」、センターで展開する「独自事業」、企業やスーパーマーケットなどに会員を派遣する「シルバー派遣事業」の三つがある。  最近では、介護周辺業務や育児支援業務のほか、人手不足分野の仕事を支える就業が増えており、地域の課題を解決するにない手として、会員の活躍が目立っている。 高齢者が主役となるまちづくり市、大学、企業と連携して推進  愛知県犬山市の犬山市シルバー人材センター(以下、「犬山市SC」)は、1982(昭和57)年に設立され、同市の高齢者の就業支援の拠点として歩んできた。2018(平成30)年度の会員数は821人。年齢階層別割合をみると、最も多いのは70〜74歳(37・4%)、次いで、75〜79歳(31・9%)、65〜69歳(16・2%)、80歳以上(13・2%)となっている。  犬山市は、江戸時代には城下町として栄え、国宝の犬山城とともに当時の町割りが残され、観光地として人気がある。また、住宅都市としても発展しているが、農地も点在する。しかし、高齢化が進行するなか、農業従事者の高齢化も進み、にない手不足や耕作放棄地が増加するという課題が生じている。一方で、雇用型農業経営などが全国で注目されるなか、犬山市SCでは、高齢者が主役となって「農を通じたまちづくり」をテーマに、地域活性化を目ざす事業にチャレンジして全国から注目を集めている。  この事業の目的は、休耕地を活用してトマトを生産・販売し、高齢者の就業機会を確保するとともに、犬山市SCの経営基盤の強化を図ることと、取組みを通じて世代を超えた地域交流を図ること、市内幼稚園や小学校とも連携して地産地消の食育などの取組みにも寄与すること。  事業は、「地域農業活性化事業」として、犬山市SCと犬山市が連携して基本計画を取りまとめ、初期投資などに国の地方創生交付金と市の補助金を活用して展開している。栽培したトマトの販路の開拓や広報などには、市内の大学の学生をはじめ、商工会議所、市内飲食店など外部機関とも連携して取り組んでいる。  2017年から具体的な施設整備などを行い、2018年2月より、新農法(アイメックR農法)を採用したトマト栽培をスタートさせた。 高齢者にも栽培できる農法を採用今シーズンは8tの収穫を目ざす  犬山市SCの大嶋正己(まさき)会長は、「農業への挑戦には不安もありましたが、アイメックR農法に出会い、これなら高齢者にも栽培が可能と考えて採用しました。ぜひとも軌道にのせたい」と意気込みを語る。  アイメックR農法は、土を使わず、薄い特殊フィルムのうえで農作物を育てるもので、神奈川県のベンチャー企業が開発した。フィルムには微細な無数の穴が開いており、水と養分は通すものの、害虫・病原菌は通さない素材となっており、農作物の持つ力を最大限に発揮する仕組み。これにより、甘くて栄養価の高いトマトをつくることができるという。水や肥料の補給は機械で行うため、技術を習得すれば高齢者でも栽培が可能となる。  この農法は、愛知県内外の農家で採用されており、犬山市SCでは事業の中心となる3人の会員がまず技術を学び、愛知県と三重県の農家の視察などを行い、導入準備を進めた。並行して、市所有の休耕地(約1300u)にトマト栽培用のビニールハウス3棟を設置。2018年1月、定植※を実施して試験栽培を開始し、同年5月、初の収穫に成功した。  一方、販路開拓や広報の推進に向けてプロジェクトチームをつくり、販路開拓については犬山市内の名古屋経済大学経営学部の授業と連携し、犬山市SCの会員も授業に参加してトマト販売のビジネスモデルについて学んだ。また、栽培したトマトには、「おいしい花子」という商品名をつけた。命名とパッケージのデザイン、ロゴマークは、北名古屋市の名古屋芸術大学の学生とワークショップを開催し、「食べてもらいたい消費者像」を一緒に考えるなどして決定した。  試験栽培として臨んだ2018年度の生産量は2・4t、犬山市SC直営の売店などで販売し、販売総額は約140万円であった。  大嶋会長は、「台風によるアクシデントや、試行錯誤をくり返しながら、甘く、おいしいトマトが収穫できました。軌道にのるまで3、4年といわれていますが、まずまずの滑り出しといえるでしょう」と初年度を振り返った。  試験栽培を終えた後、新たな定植を行い、いよいよ本格的な栽培を開始。2018年11月から収穫を開始し、路地物のトマトが出回る今年の夏前までに8tの生産を目ざしている(2019年6月27日、取材時点)。販路は、市内外のスーパーマーケット、JA、産直センター、レストランなどにも拡げた。 センター会員は栽培、収穫、パック詰め、販売などに就業  この事業の就業には、これまでに犬山市SCの会員の40人ほどがたずさわっている。  現在の就業者数は、栽培業務5人(1日4時間・交替就業で2人ずつ)、収穫・パック詰め業務十数人(週4日・1日3時間・同3、4人ずつ)、納品業務3人(週2回程度)、販売業務十数人(犬山市SC直売店など)となっている。  栽培業務をになう小川正ま さ博ひろさん(69歳)は、市役所を定年退職後、3年前に会員となりこの仕事に就いた。「栽培もアイメックR農法も初めての経験です。ハウスの湿度管理や作業しやすいように道具を工夫するなどの苦労がありましたが、甘いトマトを生産することができ、『おいしい』と、いっていただきました。今度、地元の小学生と一緒に収穫作業をするので、それも楽しみです」とにこやかに話す。  小川さんに誘われてこの仕事を始めたという高木義秋(よしあき)さん(69歳)も、「以前は食品会社に勤務していました。農業は初めてで、管理業務には気を遣いますが、みなさんと収穫の喜びが味わえること、家族からおいしいといってもらえることがやりがいになっています。週2回の就業なので、自分の時間を持ちながらこのような仕事ができるところが、シルバー人材センターのよさだと思います」と話す。  また、収穫したトマトのパック詰めをしている女性会員たちからは、「立ったままの作業で足がだるくなることもありますが、終わった後、みんなでお弁当を食べてお茶を飲みながらおしゃべりできるのが楽しい」、「トマト栽培がセンターの事業として続いていくように力になりたい」、「『おいしい』といっていただけることが力になっています」、「スーパーで売られているのを見るとうれしくなる」などの声が聞かれた。 高齢者の持つ力を地域を支える就業に活かす  犬山市SCでは、「おいしい花子」が犬山市の地場野菜となり、親しんでもらうことを目ざしている。大嶋会長は、「品質向上に努め、生産量を伸ばして事業を成功させたい。センター一丸となって、地域のみなさんに喜んでいただけるトマトづくりに挑み続けます」と力強く語った。  今後は、規格外のトマトを加工してスムージーにして売り出せるよう、名古屋経済大学管理栄養部の学生と研究開発中だという。  犬山市SCの山口正巳(まさみ)事務局次長は、「おいしいトマトができたことが会員の自信になり、新聞にも掲載され、みんなが誇りに思える事業に成長しつつあります。今後も、働くことで社会参加し、生きがいや仲間が得られる場であるよう、また、地域に役立つセンターを目ざします」と意欲的に話した。  犬山市SCではほかにも、シルバーショップ「ワン丸」や、地域住民や観光客が集う「シルバー城下町プラザ」を運営し、新鮮野菜や会員の手作り製品の販売、高齢者対象サロン、小学生対象カルチャークラブなどを開催している。また、要介護認定を受け、生活ゴミを出すことが困難な人を手伝う支援サービスを独自事業で展開し、多くの会員がたずさわっている。  今後も、こうした就業の機会と会員の拡大を推進し、高齢者の持つ力を地域貢献につながる就業に活かしていきたいと考えている。 ※ 定植……苗床で育てた苗を田や畑に移して、本式に植えること 写真のキャプション 「おいしい花子」を持つ、犬山市シルバー人材センターの大嶋正己会長 栽培業務を担当する小川正博さん(手前)と高木義秋さん(奥) 【P18-20】 事例3 プロフェッショナル人材と地方・地域をつなげてWin−winの関係に 静岡県プロフェッショナル人材戦略拠点 × 株式会社イノベタス(静岡県富士市) 地域企業とプロフェッショナル人材のマッチングで地方創生を目ざす  「プロフェッショナル人材事業」とは、2016(平成28)年から本格稼働した、内閣府の地方創生事業。各地方・地域において、潜在的な力を持つ企業の成長をうながすことで、地方・地域経済に新たな付加価値・人の流れを生み出すことを目的としている。東京都と沖縄県を除く全国45道府県に、プロフェッショナル人材戦略拠点を設置し、企業経営や新規事業の立ち上げなどを経験している、いわゆる「プロフェッショナル人材」と地域中小企業のマッチングを行っている。  ただし、プロフェッショナル人材戦略拠点は職業紹介業者ではないため、求職者の情報を持っておらず、人材を直接斡旋(あっせん)することはない。各戦略拠点では、マネージャーが中心となり、会社の中核となり得る人材を求める地域企業の経営者および人事担当者からヒアリングを重ね、地域企業が必要としている人材ニーズを、民間の人材ビジネス事業者や都市部の大企業などと、結びつける役割をになっている。  静岡県プロフェッショナル人材戦略拠点(以下、「戦略拠点」)のサブマネージャー・望月康史(こうじ)氏は、「東京、大阪など大都市を拠点にしている人材ビジネス事業者は、地方にどのような企業があり、どのような人材を求めているかがわかりません。そこでわれわれ戦略拠点スタッフが、地域の管轄企業を回ってヒアリングしたニーズ(求人情報)や、企業と密接に結びついている地元の金融機関などとの連携により得た情報を、各県の登録人材事業者(以下、「人材事業者」)に提供しています。人材事業者は各県の戦略拠点ごとに登録する必要があり、静岡県は全国的にも多い50の事業者が登録しています」と説明する。 生産性アップと、工場を総体的に把握しマネジメントできる人材を求める  今回紹介するのは、同事業を通してプロフェッショナル人材の獲得に成功した「株式会社イノベタス」。2014年に静岡県富士市で設立した農業ベンチャー企業で、植物工場にてレタスを屋内栽培し、主に首都圏に出荷している。従業員は80人。60歳以上の従業員が20人おり、地元企業を定年退職した人も多く活躍している。  同社は、親会社である大手古紙パルプ会社の工場の老朽化を契機に設立された。工場および敷地の活用を親会社で検討したところ、豊富な水資源と、首都圏に近く物流のアクセスも便利という立地を活かせる事業で、なおかつ、農業従事者の高齢化や後継者不足など、日本の農業が直面する課題のなかに潜在需要を見出し、古紙パルプ工場から植物工場へと転換。新会社としてイノベタスを設立した。ちなみに「イノベタス」とはラテン語で「革新」の意味である。  社員に農業大学出身者やIT経験者など、植物工場に関連する分野の若手社員を迎えて、2015年に初出荷。その後も試行錯誤を重ね、高品質の野菜を市場に安定供給するまでに成長を遂げた。しかし、さらに収益を上げるためには、野菜をより大きく生育させ、短期間での収穫を実現させなくてはならない。そのためにも、生産面だけでなく、設備や作業効率も含めて工場を総体的に把握し、マネジメントができる人材が必要な段階に来ていたという。  そこで同社では、メインバンクである地元銀行に相談を持ちかけた。同社の取締役兼企画・管理部長の和田仁(ひとし)氏は、「私がもともと銀行出身ということもあり、銀行であれば、当社が必要としている人材などの情報を持っているのではないかと考えたのです。総合的なマネジメント能力に長けており、工場長が任せられる人材が富士市近隣にいないか。例えば、定年後第二の人生を新しい職場で始めたい人はいないかと相談したところ、プロフェッショナル人材事業を紹介されました」と話す。  以前から地元銀行と連携していた望月サブマネージャーは、銀行の担当者からイノベタスの相談を受けた際、プロフェッショナル人材事業とパートナーシップを結ぶ大手総合化学メーカーの存在が頭に浮かんだという。「当事業では都市部大企業と連携した人材交流を行っており、メーカー、商社、銀行など、日本を代表する大企業35社とパートナーシップを締結しています。そのなかで、大手総合化学メーカーの人事担当者とも情報交換をしており、イノベタスの求人ニーズを伝えました」とマッチングの経緯を説明する。 将来性のある新しい産業と若手の育成に魅力を感じて入社を決意  こうしてマッチングされた人材が、現在、イノベタスで取締役兼工場長を務める平澤(ひらさわ)一範(かずのり)氏だ。先の大手総合化学メーカーで生産技術の開発にたずさわった後、関連会社で代表取締役を務めた人物で、技術面のみならず、従業員のマネジメントの実績もある。  和田部長は「経歴は申し分ありませんでしたが、当社は創業間もないベンチャー企業。入社してくれるとは思えず、断られることも覚悟のうえでした」と当時の心境を振り返る。  一方の平澤氏は、60歳の定年退職を目前に控え、定年後は他社で働くことを検討しており、在籍していた大手総合化学メーカーの人事部へ相談を行っていた。平澤氏は、当時から静岡県に住み、神奈川県川崎市の職場まで新幹線で遠距離通勤をしており、勤務場所にこだわりはなかったが、自宅に近ければなおよいと伝えたところ、静岡県プロフェッショナル人材戦略拠点からの求人情報を紹介された。  「人事部を通して、当社(イノベタス)を含む戦略拠点の求人情報を複数紹介してもらいました。入社の決め手となったのは、植物工場という、これからのニーズが見込まれる産業で、会社の将来性を感じたから。『野菜栽培』という視点で見ると、私にとっては未知の分野ですが、『生産性向上』や『品質管理』の視点で考えれば、私がこれまでやってきたことと考え方は同じです。何より、若い社員が多く、私のこれまでの経験を活かし、彼らの力になれるのではないかと思いました」(平澤氏)。 大企業でつちかった論理的思考をベースに組織の整備をすすめる  初めての顔合わせからおよそ半年後の2017年1月1日、平澤氏はイノベタスに入社し、同時に工場長に就任した。  和田部長は、「立上げから無我夢中で野菜栽培に取り組んできましたが、作業マニュアルはなく、組織づくりもほぼ未着手。ソフト面、ハード面ともに整っていなかった状況を、平澤工場長にどんどん整備してもらっています」と、2年半の平澤工場長の功績をあげる。  平澤工場長の仕事の基本は、「とにかく論理的に考えること」。「今日収穫したレタスはなんとなく小さい」ではなく、定量化して、データをとり、見える化を図った。設備面では電気の使い過ぎによる負荷を分散するなどの対策を講じ、また、機器の定期的な保全チェックを行うようにした。  さらに、工場の生産体制についても、足りていなかったパート社員を増員し、社員とパート社員の仕事内容を整理し、再度組み立て直した。  戦略拠点の望月サブマネージャーは、「中小企業は自社の経営課題に対する認識が不十分なところが多い一方、業務内容は把握しているので、外部の優秀な人材を招くことで、課題の見える化と解決を図ることができるのです」と、プロフェッショナル人材の強みを述べる。 定年後の地方中小企業への就職が社会貢献につながる  事業立上げから4年目を迎えた工場は、経年劣化が進んでおり、設備のメンテナンスが喫緊の課題となっている。コストダウンや生産技術の向上も重要となるなか、若手社員が希望を持って仕事ができる環境をつくることが一番のやりがいと話す平澤工場長。「大企業のような教育の仕組みがなく、若手社員は日々の業務に追われています。大事なのは論理的な思考力です。実験のデータを取り、レポートにして提出すること、それもきちんと要点が伝わる内容になっているかどうか。そうしたことを一つひとつ若い社員たちに教えていくことが、事業の成長のためにも一番大切です」  今回のマッチングの成功を受けて、イノベタスでは、新たなプロフェッショナル人材の採用を進めている。和田部長は「高齢でも精力的に働きたいという方は、潜在的にたくさんいると思います。持っている知識や経験を活かし、ぜひ、中小企業への再就職に挑戦していただきたいですね」と話す。  また、平澤工場長も「大企業で働いてきた人のなかには、中小企業に就職しても何もできない、と考えている人もいるかもしれませんが、実際に入社したら、貢献できることがたくさんあることに気づくはずです」と、定年後の中小企業への再就職を後押しする。  定年後の第二の人生を、スキルと経験を請われて地方の中小企業でスタートさせることは、地方創生に貢献するという意味でも価値のある再就職といえそうだ。 写真のキャプション 左から、イノベタスの和田部長、平澤工場長、静岡県プロフェッショナル人材戦略拠点の望月サブマネージャー 工場内でレタスの生産を行っている 【P21-24】 特別寄稿 「福岡県70歳現役応援センター」の設立にかかわって  福岡県では、全国に先駆けて高齢者の活躍の場の拡大に向けた取組みを行ってきた。その中核をになっているのが、「福岡県70歳現役応援センター」。高齢者雇用の推進に向けた企業への働きかけや、専門相談員による高齢者への就業支援、NPO・ボランティアなどの社会参加支援に取り組んでおり、その取組みは他地域へも広がりをみせている。本稿では、同センターの設立にかかわった藤村博之先生に、同センターによる地方・地域発の高齢者の活躍推進に向けた取組みについて、ご紹介いただく。 法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 教授 藤村博之 知事の決断から始まった  福岡県は、2012(平成24)年に「70歳現役応援センター」(以下、「センター」)を開設し、高齢者への職業紹介を始めました。全国で初めての試みです。筆者は、2010年に設置された「福岡県70歳現役社会づくり研究会」の委員長を務め、「センター」の設立に関わる機会を得ました。そのときの議論をふり返りながら、「センター」の意義を考えてみたいと思います。  この事業は、当時の麻生渡(わたる)知事の強い思いが結実したものだといえます。4期目の終わりにさしかかっていた麻生氏は、高齢化が急速に進む日本社会にとって、元気なうちは働き続けて社会を支える側に居続ける高齢者が増えることが大切だと考えていました。また、働き続けることは健康によいという考え方にも共感し、「八掛けくらいでちょうどいい」ともいっていました。これは、暦年齢の8割くらいで自分の年齢を認識すればいいのではないかという意味です。すなわち、暦年齢60歳は48歳、70歳は56歳、80歳でようやく64歳ということになります。私たち日本人には、まだまだ活躍できるのに、年齢で自分をしばってしまう傾向があります。麻生氏はそういった意識を払拭(ふっしょく)したいという思いも持っていました。  また、当時のハローワークでは、若年層や中堅層への対応が中心となり、高齢の求職者への対応はむずかしい状況にありました。  他方、企業側の事情として、必要な人材が確保できないという問題が発生していました。人材募集をしても応募者がゼロという状況が、中小企業を中心に常態化しつつありました。企業としては、能力、意欲、体力があるのなら年齢にはこだわらないといいつつも高齢者にはむずかしいだろうという意識が強く、働きたいと思っている高齢者とのマッチングがしにくいという状況がありました。麻生氏は、「地方自治体としてできることは何か」と考え、「センター」開設のための準備を始めました。 多方面の協力を取りつける  福岡県庁内にこのテーマを扱うプロジェクトチームを設け、準備に入りました。この事業は、県庁だけでできることではありません。福岡県経営者協会や福岡県商工会議所連合会などの経営者団体、日本労働組合総連合会福岡県連合会(労働組合)、福岡県シルバー人材センター連合会や福岡県社会福祉協議会などの高齢者団体、岡などのNPO団体、大学教員などの学識経験者、総計19名で研究会を立ち上げ、検討が始まりました。  麻生氏は、「こういう事業に福岡県が取り組んでいることを中央政界の人たちにも知ってもらうことが重要だ」と考え、2010年11月に「東京会議」を開催し、政党関係者などを含め、約120人の参加者を集めました。この会議によって、「70歳現役応援センター」の取組みが広く知られるようになりました。  麻生氏は、2011年4月に福岡県知事を退任しましたが、後任の小川洋(ひろし)知事もこの取組みの重要性を強く意識し、県政の中心政策に位置づけました。その結果、2012年4月に「70歳現役応援センター」が正式に発足することになりました。この流れはその後も途切れることなく、3期目に入った小川県政でも重要政策の一つになっています。 高齢期の活躍の仕方は多様  福岡県の取組みは、高齢期になって雇用され続けることだけを目的としているのではありません。図表にあるように、ソーシャルビジネス※1やコミュニティビジネス※2、ボランティア活動など、広い意味での社会参加を支援しようとしています。起業も一つの社会参加の方法です。  人間は、社会的な動物だといわれています。他人との関係のなかで、自分の存在を確認することができ、生きていることを実感できるといわれます。自分の持っている力をだれかのために使い、「ありがとう」といってもらえたとき、生きていてよかったと思い、生きるハリにつながります。これが、健康にもよい影響を与えるのです。医師たちが「元気だから働いているのではないのです。働いているから元気でいられるのです」と異口同音にいうのは、このことと関係していると思います。  雇われて働くことも、一つの社会参加の方法です。人を探している企業があり、働きたいという人がいて、両者の要求が一致したとき雇用が生まれます。企業のなかには、ある種の有資格者を必要としている場合があります。例えば、建設会社が官庁の入札に参加しようとする際、一定数の一級建築士を擁(よう)していることが求められます。大手の建設会社を65歳で退職した人がセンターを介して中小の建設会社に雇用され、第一線で活躍している例もあります。  働いていると、毎日決まった時間に起きて身支度を整え、出社します。会社に行くと仲間がいて、いろいろな話題が出ます。同僚から何か頼まれて仕事をすると、「ありがとう」といってもらえます。一日の仕事を終えて、帰りがけに「ちょっと一杯」というのもあるでしょう。こういったことが生きがいにつながり、健康維持に役立っているのです。  研究者のなかには、「仕事しか知らない、日本人の社会生活の貧困さである」と批判的にいう人がいますが、筆者は卑下(ひげ)する必要はまったくないと思います。前述のように働きたいという人がいて、雇いたいという企業があって初めて雇用は成立します。自分の力を企業が認めてくれ、価値のある仕事ができているなら、これほど素晴らしいことはないと思います。 意識改革が必要だ!  図表のなかに、「社会における意識改革」という表現があります。高齢者自身はもとより、企業も県民も高齢者が社会のなかで活躍することを当たり前のこととしてとらえ、もっと応援することが必要と説いています。私たちは深く考えることなく、この仕事は高齢者には無理だろうと思い込んでしまうことがあります。これまでもそうだったから、これからもそうだと無意識に思ってしまいます。これでは、高齢者の活躍の場は広がりません。  意識改革の結果として生まれた一つの例が、コンビニエンスストア(以下、「コンビニ」)の店員として高齢者が活躍していることです。コンビニは、どちらかといえば若者向けのお店であり、高齢者が働く場所としてはふさわしくないと考えられていました。しかし、コンビニという業態ができてから約50年が経過し、高齢者にとってもコンビニは、日常的に買い物をする場所になっています。事実、利用客の年齢構成をみると、50歳以上が約4割というデータもあります。特に、独り暮らしの高齢者にとって、コンビニはなくてはならない存在です。  2013年11月、福岡県とセブン−イレブンは包括提携協定を締結し、高齢者を積極的に雇用することになりました。これは、全国初の連携であり、高齢者の活用に向けて画期的な一歩をふみ出しました。セブン‐イレブンがねらったのは、店舗における高齢者目線での接客サービスや高齢者世帯への宅配でした。若者にとっては何でもないことが、高齢者からすると「使いにくい」と感じることがあります。商品の配置や表示など、高齢者だからこそ気づける部分がたくさんあります。  また、重いものを自宅まで持ち帰ることがむずかしくなっている高齢者に宅配サービスを提供することで、もっと利用しやすい店舗になることができます。高齢者から選ばれるお店になるには、店員のなかに高齢者がいることが不可欠であり、セブン−イレブンはその点を重視したと考えられます。  現在のコンビニは、単に商品を販売するだけでなく、さまざまなサービスを提供する拠点になっています。24時間営業が一般的であり、多くのコンビニは、店員の確保に頭を痛めています。店舗のオーナーは「センター」に求人を出し、「センター」はコンビニで求められている能力を保有している人材を紹介します。  コンビニが提供するサービスが多様化するにつれて、店員にはいろいろな業務処理が求められています。宅配便の受付や引渡し、公共料金など各種料金の支払い、プリントアウトサービスなど、かぎられた店舗のなかにありとあらゆるサービスが詰め込まれています。店員は、それらへの対応を求められるため、覚えなければならないことが多く、高齢者には無理ではないかと思われていました。しかし、実際に高齢者に店員として働いてもらうと、ほぼ問題なく対応できることがわかってきました。なかには、70歳を超えた人も活躍しており、地元福岡のニュース番組でくり返し取り上げられるようになっています。  「コンビニの店員は若者の仕事」という既成概念を打ち砕き、雇用する側とされる側の双方が意識改革をした結果として、高齢者の活躍の場が広がったといえます。私たちの周りには、「間違った思い込み」を解き放つことで、高齢者が活躍できる場がもっとたくさんあるのではないかと思います。 「センター」スタッフの地道な対応  JR博多駅の近くに開設された「センター」は、その後、北九州、久留米(くるめ)、筑豊(ちくほう)にも広がり、現在、福岡県内で四つの拠点が企業と求職者の仲介を行っています。「センター」の活動を見ていて、とても大切だと感じるのはスタッフのきめ細かな対応です。  まず、求人開拓です。県内の企業をまわって、高齢者の労働力としての可能性を説明し、「高齢者を雇ってもいいよ」という会社を掘り起こしています。雇う側には、先に述べたような「思い込み」があります。「この仕事は体力を必要とするので高齢者には無理だろう」とか「わが社の仕事では、新しいことをたくさん覚えてもらわなければならないので高齢者には向いていない」と決めつけてしまっている企業は少なくありません。  「一人で対応するのがむずかしいなら、二人で分担して対応することを考えてはどうでしょうか」、「高齢者のなかにも柔軟に多くのことを学んでいる人はたくさんいて、現実にこのような事例がありますよ」といった話をして、企業側の凝り固まった思い込みを解きほぐしていきます。すると、「では、試しに雇ってみましょう」ということになり、結果として、高齢者を雇用してよかったという企業が増えています。  もう一つの大切な活動は、求職者との対話です。「センター」に登録した人の希望をじっくり聴くことから始まります。働くことに何を求めているのか、どれくらいの収入を得たいのか、勤務地はどこがよいのか、仕事内容は、健康状態はなど、仕事を求めてきた人のホンネを引き出していきます。  楽な仕事で給料をもらいたいと思う人もいます。でも、そのような仕事は、まずありません。仕事をしてお金をもらうことには、ある種の厳しさがともないます。しかし、仕事をしていると仲間ができ、ほかの人から頼りにされ、「ありがとう」といってもらえます。その喜びは、何物にも代えがたい価値があります。「センター」のスタッフは、仕事をすることの素晴らしさを語り、企業側の求めに合わせて、自分の希望を調整することをうながします。この地道な努力が、企業と求職者のマッチング件数を高めているといえます。 全国への広がり  福岡県で始まった「70歳現役社会」づくりの取組みは、ほかの九州5県と沖縄県、山口県へと広がりをみせています。九州・山口各県および経済団体などで構成する「九州・山口70歳現役社会推進協議会」において、九州・山口一帯での施策や各県の実情をふまえた「70歳現役社会の実現」に向けた活動が展開されています。  福岡県の取組みは、国も注目しており、平成25年版『高齢社会白書』に高齢者雇用の新たな試みとして取り上げられました。地方の意欲的な取組みが全国に広がっていく好事例として、これからも「センター」の活動に注目していきたいと思います。 ※1 ソーシャルビジネス…… 自然環境、貧困、高齢化社会、子育て支援など、さまざまな社会的課題を市場としてとらえ、持続可能な経済活動を通して問題解決に取り組む事業 ※2 コミュニティビジネス……市民が主体となって、地域がかかえる課題をビジネスの手法により解決する事業 図表 「70歳現役社会」づくりの概要 「70歳現役社会」の実現 年齢にかかわりなく、それぞれの意思と能力に応じて、働いたり、NPO・ボランティア活動等に参加し、活躍し続けることができる選択肢の多い社会 施策の2つの柱 いきいきと働くことができる仕組みづくり ■継続雇用支援 ■転職・再就職支援 ■多様な就労への支援 ■起業等支援 ■高齢者を活用したビジネスモデルの普及・拡大 共助社会づくりへの参加促進 ■NPO・ボランティア活動や地域活動への参加支援 ■ソーシャルビジネス、コミュニティビジネスへの参加支援 個人による取組み 健康づくりへの支援、職業能力開発支援 等 社会における意識改革 高齢者自身、企業、県民の意識改革 社会における環境整備 高齢者が働きやすい法制度の整備、交通環境の整備 等 施策の推進体制 経済団体、労働者団体、高齢者関係団体、NPO・ボランティア団体、行政などで組織 福岡県70歳現役社会推進協議会 高齢者のための総合支援拠点 福岡県70歳現役応援センター 【P25】 日本史にみる長寿食 FOOD 312 「香りマツタケ、味シメジ」の秋 食文化史研究家● 永山久夫 縄文人もキノコ好き  日本の里山はキノコの宝庫です。  山と里との境界線には、日当たりのよいなだらかな斜面が広がり、ナラやクヌギ、あるいは栗の木などの雑木林があります。  山の木々が色づくころになると、栗やドングリ、クルミ、山イモ、アケビ、山ブドウなどがたくさん採れます。  里山から、さらに奥に入って行くと、大木、巨木が立ちふさがっていて薄暗くなり、天狗さまや悪いキツネなどが棲(す)んでいそうな、ちょっと恐ろしい本格的な山になります。  また、秋になると、雑木林や松林の根元は大にぎわい。とんがり帽子や丸い笠のような帽子など、思い思いの帽子をかぶったキノコたちが、落ち葉を押しのけて、いっせいに顔を出します。  いまから4千年ほど前の縄文遺跡から、キノコの形をした粘土製の遺物がたくさん発見されており、縄文人も味のよいキノコが大好物だったようです。 シメジはうま味成分の宝庫  キノコの一番人気は、昔もいまもマツタケ。  『万葉集』に次の作品があります。  高松の この峰も狭(せ)に 笠立てて  みち盛(さか)りたる 秋の香(か)のよさ  「高松の、この山も狭くなるほど笠を立てて、満ちあふれているマツタケの香りの何とよいことよ」という意味で、「秋の香」とは、マツタケのこと。  一方、香りのマツタケに対して、味でアピールしているのがシメジ。ほら、いうじゃありませんか、「香りマツタケ、味シメジ」。  たしかに、シメジの天然物の場合、うま味成分のグルタミン酸やグアニル酸、アスパラギン酸などが豊富ですから、キノコのなかではトップクラスの「味」といってよいでしょう。  スーパーなどに並んでいる人工栽培のシメジでも、肉質、食感、歯ごたえ、それにうま味成分も、天然物とほとんど変わらない品質になっています。  クセのない味で、どんな料理にもよく合うところから広く用いられていますが、特に炊き込みご飯が絶品。  低カロリーでがん予防効果が期待されることも、注目されています。 ※ 今月号の「リーダーズトーク」(1頁)では、永山氏へのインタビュー記事を掲載しています。ぜひ、ご覧ください 【P26-30】 マンガで見る高齢者雇用 ベテラン従業員の活躍を支え、技術・ノウハウを次世代へ伝える 第2回 IoTの活用で、匠の技を伝承 ダイキン工業株式会社(本社:大阪府大阪市) 〈先月号のあらすじ〉 グローバルに展開する空調総合メーカーのダイキン工業株式会社は、早くから高齢者雇用に熱心に取り組んできた。 体力や筋力が少なくても作業をしやすい「重筋レス改善」を進めており、だれもが働きやすい職場を目ざしている。 ※1 「ろう付け」とは、接合する部材(母材)より融点の低い合金など(ろう材)を溶かし、接着剤として用いて母材を溶融させずに接合する方法。「板金加工」は、金属製の板材を切ったり、曲げたり、溶接したりして加工する方法。「アーク溶接」は、空気(気体)中の放電現象(アーク放電)を利用して、同じ金属同士をつなぎ合わせる溶接方法 ※2 卓越技能伝承制度……時代の変化に応じた「戦略技能職種」の選定と、マイスターやトレーナーなどの技能者の育成を行う制度 第1回はホームページでもご覧いただくことができます。エルダー 2019年8月号 検索 ※28頁〜掲載 【P31】 解説 マンガで見る高齢者雇用 ベテラン従業員の活躍を支え、技術・ノウハウを次世代へ伝える 第2回 IoTの活用で、匠の技を伝承 <企業プロフィール> ダイキン工業株式会社 (本社:大阪府大阪市)  エアコンなど空調製品の売上げが世界ナンバーワン※1の空調総合メーカー、ダイキン工業株式会社。「人を基軸におく経営」を掲げ、高齢者雇用の先進企業としても知られており、高齢者の職場・職域開発や職場環境改善に注力している。また、ベテラン社員が持つ技能伝承も重視しており、卓越した技能者を「マイスター」に認定する「卓越技能伝承制度」や、IoT を活用した「技能の見える化」などにも取り組んでいる。 卓越技能伝承制度  同社では、「卓越技能伝承制度」を設け、モノづくりの基本となる技能を継承する人材の育成に取り組んでいる。この制度は技能に応じて、「技能者」、「習熟者」、「熟練技能者」、「高度熟練技能者」、「卓越技能者」、「マイスター」※2を認定するもので、マイスターは国内外の拠点で、その卓越した技能を伝承し、技能者・指導者の育成にあたっている。 技能のデジタル化  熟練技術者の技能の伝承を目ざし、株式会社日立製作所と共同で、最新のIoT機器を活用し、ろう付け作業における「技能のデジタル化」に取り組んでいる。複数のカメラやセンサーなどを用いて、熟練技術者の手の動きや器具の角度、対象物の温度変化などを時系列で収集・デジタル化し、標準動作モデルを構築。訓練者の動きも同様にデジタル化することで、熟練者と訓練者の動きを詳細に比較することができ、短期間での技能習得が可能となる。 ダイキン技能オリンピック  2年に1回、世界中のダイキン技術者が集まり、ろう付けをはじめ、普通旋盤(せんばん)やアーク溶接など、日々の製造現場でつちかった技能を競い合う競技会。2003(平成15)年から開催されており、2019年2月に開催された第8回大会では、世界12カ国28拠点から137人が参加した。主役はもちろん、競技に参加する技術者だが、ベテランのマイスターたちが、運営のサポートをになっている。 ※1 富士経済「グローバル家電市場総調査2017」調べ(グローバル空調メーカーの空調機器事業売り上げランキング(2015年実績)) ※2 空調部門での呼称は「マイスター」。化学部門では「エキスパート」と呼称している 【P32-33】 江戸から東京へ [第84回] 無刀に託す老達人の心 徳川家康と柳生(やぎゅう)石舟斎(せきしゅうさい) 作家 童門冬二 無刀流を学ぶ家康  徳川家康は、豊臣秀吉の大陸侵攻(明や朝鮮)に反対だった。そのため、肥前(ひぜん)(佐賀県)の名護屋(なごや)に設けた本陣に出仕(しゅっし)はしたが、家臣はほとんどいまでいう後期高齢者ばかりだった。数も少ない。ほかの大名たちはこれを見て、  「徳川殿は、この戦に反対らしい。連れて来た軍勢も数が少なく、しかも老人ばかりだ。あれでは役に立たない」  と囁(ささや)き合った。秀吉もそのことに気がついた。そこで家康にいった。  「隠居したわしは、京都に別に城を造りたい。伏見がいいと思う。徳川殿にはすまぬが、その築城の指揮を執ってくれ」  やる気のない家康を基地から追っぱらってしまおうという腹だ。家康は承知した。家康は、子どものころから学問に造詣(ぞうけい)が深い。しかし、体を鍛えるために武術にもいろいろと励んだ。剣術・槍(そう)術・馬術・水泳などは、それぞれ専門家について年をとっても修練し続けた。京都に戻った家康は、剣術で無刀≠ノ関心を持っていた。伊賀(三重県)の柳生の里に、柳生石舟斎と名乗る老練の剣術家がいることを聞いた。家康は石舟斎を招き、訊いた。  「石舟斎殿の剣術に寄せる志(こころざし)とは?」 石舟斎は答えた。  「それがしの剣術は、人を殺すためではなく人を生かすためのものと心得ております」  たちまち、家康は気に入った。  「石舟斎殿は、無刀取りの達人とうかがったが、ひとつそれを見せてはくれぬか」  「かしこまりました」  石舟斎はこのとき、息子の宗矩(むねのり)を連れていた。宗矩は、家康に憧れの目を向けてしきりに自分に関心を向けさせようとしていた。石舟斎は宗矩に真剣を持たせて、無刀で立ち向った。しかし、宗矩がいくら打ち込んでも石舟斎はヒラリヒラリと身をかわす。そして最後には、宗矩を抑え込んで、その手から刀を取り上げた。家康は思わず、  「お見事!」  と拍手した。石舟斎が恐縮して家康に礼をすると家康は、  「石舟斎殿、今日からお主の門人として無刀取りを習いたいが」  と持ちかけた。石舟斎は首を横に振った。  「私はすでに、現世における修練を終えて、柳生の里に隠居の身でございます。徳川さまのお世話など到底不可能でございます」  謙虚な言い分だ。しかも、その気持ちは固い。家康は、  (石舟斎はとてもわしの師匠にはならぬな)と悟った。このとき、宗矩が目を輝かせてこういった。  「徳川さまのお稽古は、わたくしが務めとうございます」  「なに」  家康が驚くよりも、石舟斎が目を見張った。そして、  (とんでもない出過ぎ者だ)  と胸のなかで舌打ちした。 若者の衒気(げんき)※を戒める老人二人  父子の様子を見た家康はこういった。  「いや、石舟斎殿。ご子息に、わしの教えを頼もう」  驚く石舟斎は家康を見返し、鋭い目で、  「本気でいらっしゃいますか?」  と訊いた。家康も目で頷(うなず)いた。しかし、老人たちのその眼と眼の交流は宙で激突し、互いの考えをそれぞれ理解した。石舟斎の方は、  (出しゃばり者の息子のいうことなど、どうぞ本気でお取り上げにならないで戴(いただ)きたい)と告げていた。それに応じて家康は、  (石舟斎殿のお気持ちはよくわかる。しかし、ご子息のこの道に励みたい気持ちもよくわかる。若者のやる気を潰してはならぬ)。  二人は、目と目で宙で話し合った。やがて家康がこういった。  (形のうえでわしの師はご子息だ。しかし、無刀取りの技はご子息からは学ばぬ。石舟斎殿、稽古だけはわしにつけてほしい)  (……)  石舟斎はじっと家康の顔を凝視した。やがて家康の気持ちを理解した。家康がいうのは、  (宗矩の申出は形のうえでは受ける。しかし実際に家康は宗矩の門人にはならない。なぜなら、宗矩はまだ精神面で未熟者だ。師にはできぬ。  だから、名目上は石舟斎の顔を立てて、宗矩の申出を受けるが、実際の稽古は父の石舟斎から学びたい)  ということである。家康も石舟斎と同じに、出しゃばりの宗矩の覇気(はき)を知って、胸のなかでは舌打ちをした。  (この出過ぎ者め!)  と嫌悪感を覚えたのである。だから、  (おまえを名目上の師にはするが、実際には技を学ばぬ。技はおまえの父から学ぶ)  と、暗に宗矩の「師」という立場が、単に名目のものであって、実質的には何もともなわぬということを、この場で教えたのだ。  しかし、若気に逸(はや)る宗矩にはそれがわからなかった。かれは、家康が自分を師にしてくれたので有頂天になっていた。二人の老人は、人生の達人でもあった。合意して、若い宗矩を戒(いまし)めたのだ。 ※ 衒気……自分の才能、学識などを見せびらかし、自慢したがる気持ち 【P34-35】 第65回 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは  松倉正雄さん(68歳)が自らの技術や経験を活かせる職場で第二の人生を歩き始めて16年が過ぎた。高度な専門知識を有する技術者たちと切磋琢磨(せっさたくま)しあう日々は気概にあふれている。充実のときを送る松倉さんが生涯現役の明日を語る。 一般財団法人 工業所有権協力センター 調査員 松倉(まつくら)正雄(まさお)さん 研究に没頭した青春時代  私は東京都練馬区の出身です。大学まで石神井(しゃくじい)公園のそばで過ごしました。1974(昭和49)年に大学を卒業すると、「三公社五現業(さんこうしゃごげんぎょう)」※1の一つ、日本専売公社に就職しました。その後、公社のたばこ事業は日本たばこ産業株式会社に引き継がれ、さらにJTと呼ばれるようになりました。  大学で理工学部応用化学科を専攻していましたので、入社してからすぐに公社の中央研究所に配属されました。応用化学を専攻したのは、受験勉強をするなかで、化学の不思議さに魅了されていたからだと思います。  当時、国内ではさまざまな公害問題がクローズアップされ始めていました。公社の研究所でも自社工場における排水処理や排気処理の研究・開発を重点的に行っていました。私もそこに加わったのですが、実際に研究を進めるうちに、どうしても必要な資格があり、まず二つの資格取得に挑戦しました。  一つは「公害防止管理者」です。この資格は大気汚染や水質汚濁、騒音・振動などの公害を防止するために必要なもので、私はそのなかでも水質汚濁に関する「水質一種」の資格を目ざしました。もう一つは工場から出される排水や煤煙(ばいえん)などを測定し計量管理する「環境計量士」という資格です。  難易度の高い資格でしたが、何より体力がありましたから、日々の業務をこなしながら二つの資格を取得することができました。このとき猛勉強したことや現場での実践が定年後の新しい職場で大いに活かされました。若いときのさまざまな経験が人生を豊かにすると、いまあらためて思います。  松倉さんの挑戦はさらに続く。仕事に必要な資格取得が一段落すると、今度は臭いの研究に着手し、論文を完成させて農学博士の学位を手にする。働きながらの快挙であった。 IPCCとの出会い  公害問題が落ち着いてくると、今度は分煙設備を担当することになりました。建物だけでなく、電車や飛行機の分煙システムにも取り組みました。短期間でしたが、某鉄道路線の特急列車で、気流をコントロールして分煙を試みた経験もあります。いま思えば、退職するまで研究と開発に没頭させてもらえたのは幸せでした。最後の3年間は工場長を拝命しますが、自分が開発した排気脱臭設備が実際に工場で役立っているのを目の当たりにして感激したことをいまも覚えています。  当時の管理職の規定で、52歳になったとき、IPCC(Industrial Property Cooperation Center一般財団法人 工業所有権協力センター)への出向を命じられます。その後、4年で出向が解かれると、今度は正式にIPCCに採用されました。IPCCは、「工業所有権に関する手続等の特例に関する法律」に基づく登録調査機関として特許庁からの受注のほか、民間企業や大学、特許事務所などからも依頼を受け、特許審査の関連業務を主として行っています。高度な技術的知識と経験が求められるため、技術分野で活躍した高齢の専門技術者の雇用に力を入れており、運よく、私もここで、新しい一歩をふみ出すことができました。出向時代も入れるといつの間にか16年も経ちましたが、いまもなお日々学ぶことが多く、若いころの向学心を思い出し、自分を奮い立たせています。  柔軟な働き方を実現して、シニア世代を積極的に登用するIPCCの取組みは高く評価されており、平成30年度「高年齢者雇用開発コンテスト」※2で優秀賞を受賞している。 知的財産の保護にかかわる喜び  私は現在、「分類付与業務」と「検索業務」に従事しています。業務内容は出向のころとあまり変わりません。業務を簡単に説明すると、分類付与業務とは日本に出願された特許について、ある一定のルールに基づいて、どういう技術かわかるように分類の記号をつけていくという作業です。これらは未公開案件なので、取扱いには緊張感がともないます。また、検索業務とは、出願人から出された審査請求に基づいて、過去に似たような特許がないかどうかデータベースを検索する作業です。特許庁に出向き審査官と対面しながら検索の結果を報告することもあります。  知的財産保護という任務には、日々気を引き締めて取り組んでいます。日本の審査精度は世界有数の高さを誇るといいます。ですから、私も精度向上のために少しでも貢献できたらと研鑽(けんさん)を重ねています。とにかく特許出願に盛り込まれた最先端技術を理解できるかどうかが鍵です。私の場合、応用化学の分野ではこれまでの経験が役立っています。また、経験していないことでも、かつて資格を取るために勉強したことが力になっていますし、たとえわからない分野であっても先輩がたくさんいますから、一つずつ教わりながら、特許という広い世界を夢中で歩いてきました。  入職後すぐに2カ月にわたって「調査業務実施者育成研修」があり、修了後もOJTで学ぶ機会が常にあったことは幸いでした。 緊張と緩和で明日も元気に  IPCCでは67歳までの技術者を「主席部員」と呼び、68歳以降は「調査員」と名称が変わります。私もこの4月から調査員になりました。調査員は業務量が選択でき、ライフスタイルに合わせて無理なく仕事を調整できます。毎月の勤務日数も3種類から選べますが、私は常勤を選択しました。生活にリズムが生まれると思ったからです。フレックスタイム制なので、ラッシュの時間を避けて通勤することができます。  集中力が問われる仕事ですので、日々の生活でオンとオフの切り替えを心がけています。緊張と緩和を節目ごとにうまくくり返してきたことが長く勤めてこられた秘訣でしょうか。遊ぶときはしっかり遊ぶことです。嬉しいことに、IPCCはクラブ活動が盛んで、私もスキークラブとテニス同好会に入っています。スキークラブは5年ほど部長を担当、現在は副部長で、いまでも年間20日は滑っています。テニス同好会は部員が80名を超える大所帯で、年2回の合宿は常務にも参加していただき、実に楽しい時間です。  ソフトボールも好きで、地域の町内対抗戦では捕手を担当。投手と自分の年齢を足すと140歳になるそうで地元でも評判のチームです。大病をしたことがありますので、身体を丹念に動かすことを大切にしています。  私の採用以降、JTからIPCCに採用される高齢技術者が少しずつ増えているそうです。これからは、生涯現役の道を楽しみながら切り開くことが、私の新たなミッションとなるようです。 ※1 三公社五現業……国が事業の経営に関わっていた、日本国有鉄道・日本専売公社・日本電信電話公社の三公社と、郵政・造幣・印刷・国有林野・アルコール専売の五事業の総称 ※2 高年齢者雇用開発コンテスト……企業が行った、高齢者がいきいき働くことのできる職場づくりの事例を募集・収集し、優秀事例について表彰を行っている。厚生労働省と当機構が主催 【P36-39】 高齢者の現場 北から、南から 第88回 佐賀県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー※1(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 健康であるかぎり、働きたいと望む年齢まで働ける会社を目ざして 企業プロフィール 株式会社有明(ありあけ)電設(佐賀県佐賀市) ▲創業 1970(昭和45)年 ▲業種 電気設備工事業(配線工事、空調管設備工事、情報通信設備工事など) ▲従業員数 134 人 (60歳以上男女内訳) 男性(16人)、女性(1人) (年齢内訳) 60〜64歳 9人(6.8%) 65〜69歳 6人(4.5%) 70歳以上 2人(1.5%) ▲定年・継続雇用制度 定年60歳。定年後は、就業規則により、希望者全員を65歳まで再雇用する。その後、一定条件のもと、70歳まで再雇用する  佐賀県は、九州の北西部に位置し、東は福岡県、西は長崎県に接し、北は玄界灘(げんかいなだ)、南は広大な干潟(ひがた)の広がる有明海に面しています。朝鮮半島に近く、古来、大陸文化との交流が深く、歴史的、文化的に重要な役割を果たしてきました。  佐賀県といえば、伊万里(いまり)、有田、唐津(からつ)の陶磁器や吉野ヶ里(よしのがり)遺跡、産業では稲作やみかんなどの農業、有明海の海苔の養殖が有名です。工業では、製品出荷額の多いものとして、輸送用機械器具、化学工業、食料品などがあげられます。  当機構の佐賀支部高齢・障害者業務課の峯恭彦(やすひこ)課長は、「佐賀県は、江戸時代の武士道論書『葉隠(はがくれ)』※2の精神を受け継ぎ、焼き物などに代表されるモノづくりへのこだわりを持つなど優秀な人材が多い。また、自然災害が少なく、アジアにも近く、九州の交通の要衝として良好な地理的環境であるなど、企業が立地するうえでの強みや魅力にあふれています。2018(平成30)年には、佐賀の偉業や偉人を振り返る『肥前(ひぜん)さが幕末維新博覧会』が開催され、日本の近代化を支えた技と、幕末から明治にかけて学問・医学・政治・外交などの幅広い分野において活躍した人材があらためて注目されました」と佐賀県を誇ります。  また、「当課では昨年、佐賀県開催の『九州・山口70歳現役社会推進大会佐賀県大会』に協力し、前述の博覧会ともコラボレーションしました。佐賀の人・技を生み出した志を活かし、未来につないでいくためにも、今後も関係機関と連携を図るとともに、事業所への相談・助言活動に注力していきます」と峯課長。佐賀支部では、事業所からの要望などに対応し、65歳を超えた継続雇用延長や定年引上げにかかる制度改善の提案、相談活動を実施しています。  今回は、同支部で活躍する65歳超雇用推進プランナー・木貞(きさだ)哲夫さんの案内で、「株式会社有明電設」を訪ねました。 地域の暮らしを支える仕事  有明電設は1970(昭和45)年に創業し、公共施設や道路照明灯などの電気工事業を基盤に仕事を重ね、地域の信頼を得て規模を拡大してきました。2020年には、創業50周年を迎えます。同社では今後も、「技術力と人間力との総合力」を重視した経営姿勢で、電気・空調管工事をはじめ、情報通信設備、エコ・環境関連事業などを手がけ、暮らしの基盤を支える仕事で地域に貢献していきたいとしています。  同社の従業員数は134人、うち男性が124人と多数を占めています。また、全従業員の約6割が現場の仕事に就き、電気工事士や電気施工管理技士といった有資格者が多いことも特徴です。  定年は60歳。その後は、一定条件のもと継続して雇用する環境が以前からありましたが、資格を有するベテランが60歳に到達するようになり、定年後も技術と経験を活かして継続して働き、その技術などを若手に継承してほしいという期待と、60歳以降の生活に安心感を与えたいと考え、2013年の高年齢者雇用安定法改正に合わせて就業規則を改定。このとき、「定年60歳。希望者全員65歳、その後、基準を設けて70歳まで雇用」することと定めました。 継続雇用後の勤務は2コースから選択  定年以降は嘱託社員とし、働き方については二つのコースを設けています。フルタイム勤務の「通常出勤コース」と「月16日出勤コース」です。従業員は定年を迎える前の58歳時点で部門長と面談し、60歳以降の働き方の希望などを伝えます。  継続雇用は1年更新とし、更新の2カ月前に部門長と面談し、更新1カ月前までに次の1年の働き方を決定します。  会社が求める継続雇用者の役割について、同社の峰守(みねもり)浩二(こうじ)総務部長は、「自分のペースで働きたいといった希望がある場合、軽作業などを担当してもらうこともありますが、基本的には戦力として定年前の仕事を継続してもらいます。また、現場では若い班長を補佐して成長を見守る、後進の育成役を期待しています」と話します。  こうした期待を高齢従業員に伝えるとともに、2017年には従業員が定年後をイメージし、長く働きたいと思うきっかけづくりとして、50歳以上を対象に当機構の就業意識向上研修を実施しました。60歳以降の働き方や収入・支出を把握する機会となり、研修の参加者から「60歳以降の生活を考えるよい機会となった」などの感想が聞かれ、大変好評だったとのこと。今後も定期的な実施を考えているといいます。  さらに、従業員が元気に長く働けるように「健康診断」は法定基準にプラスした内容とし、必要に応じて保健師による生活習慣病予防のための指導を実施しています。また、有給休暇を取得しやすい職場づくりに努め、高齢従業員には率先して取得するようにうながし、効果が上がっています。  木貞プランナーは同社の取組みについて、「課題をとらえて、しっかりと対応されています」と高く評価し、「一人ひとりをよく見て、個々に適した対応をされています。従業員を大切にしている会社であると思います」と話します。  60歳以上の従業員は現在17人で、最高齢者は72歳。70歳以降の雇用は運用で対応し、72歳の方は専任技術者(担当業種の技術的総括責任者)として活躍しています。また、就業規則を改定して、60歳以降の働き方を明確にしたうえで、高齢者の採用も積極的に行っており、「施工管理技士の資格を持ち、現場経験が豊富な人材を採用できています」と峰守総務部長。60歳以上の17人のうち、5人がここ数年のうちに採用した人材です。  今回は、継続雇用で働いているお二人にお話をうかがいました。 周囲から頼りにされる存在  陣内(じんのうち)洋子(ようこ)さん(64歳)は45歳で入社し、最初の10年間は営業部に在籍し、家庭にオール電化などを普及する仕事を担当していました。以降は、総務部で事務や接客などさまざまな業務を担当。現在も同部にフルタイムで勤めています。  「仕事が好きなので、定年後も迷うことなく働くことを選びました」と笑顔で話す陣内さん。昨年、それまで担当していた仕事の大半を後進に引き継ぎ、最近は一週間のうち1、2日は鳥栖(とす)営業所で事務部門のサポートをしています。仕事で心がけているのは、「確認を怠らないこと。また、接遇も大切にしています。以前は自己流でしたが、昨年、会社で接遇研修があり、とても勉強になりました」と話します。  接遇研修の後、さらに自分で勉強をして、このほど秘書技能検定2級に合格し、「次の準1級合格を目ざして、勉強を続けています」と陣内さん。  ていねいな仕事ぶりに加え、取引先について熟知していることから、ほかの従業員から「頼りになる存在」と、親しまれています。「健康であるかぎり、できるだけ長くこの会社で働いていたい」と話してくれました。 経験と資格を活かして活躍し続ける  鷲ア(わしざき)喜英(よしひで)さん(69歳)は鉄鋼や土木建設の仕事を経験した後、59歳で入社し、有明電設に勤めて11年になります。「過去の経験を活かして、電気設備工事を学びたくなった」ことが入社動機だとのこと。  物をつくり上げる仕事に魅力を感じ、1級施工管理技士、2級建築士など多数の資格を持ちます。現在は「月16日出勤コース」を選択し、武雄(たけお)営業所の空調管技術部で、建物の空調・換気設備の設計・施工などを担当しています。座右の銘は「一隅(いちぐう)を照らす人間であれ」。いまいる場所で精いっぱい努力することをさす言葉で、「目の前の仕事を確実に成し遂げることに努めています」と、仕事に対する姿勢を話します。  また、「この年齢まで自分を必要としてくださる会社に感謝しています。仕事をしているということは、社会に少しは役に立っていると思えることです。最後の1日まで気を抜かず、いまの仕事をやり遂げたいと思います」という抱負とともに、健康のために「手づくりの食事をきちんととることを心がけています」と話してくれました。 若い従業員の安心感を醸成(じょうせい)  峰守総務部長は同社の高齢従業員について、「技術、経験に加えて、取引先の方々や同業他社のことをよく知っていて、急な仕事の調整など、いざというときに対応できる力も持っていますので、心強い存在です。電気関係の仕事は、資格を取り、実績を積むことで70歳になっても続けることができます。若い人たちにもそういう話をしますし、実際に活躍している先輩が近くにいて指導をしてもらえることから、若い従業員の目標にもなっています。将来の安心感につながっているように思います」と話してくれました。  また、「市場規模が縮小しつつあるこれからは、従来のような経済的成長を毎年続けることはむずかしいと考えます。今後は、現状を維持しながら、当社で働く従業員のワークライフバランスを考えていくことも重要です。必要な資格を取得することを支援して仕事の質を高めつつ、意欲を持って仕事に取り組み、健康であるかぎり、働きたいと望む年齢まで働ける会社を目ざすことが大事ではないでしょうか」と、同社の今後と従業員の働き方について語ります。  現在、継続雇用者も含む賃金体系の見直しをしているという同社。峰守総務部長は「年金受給開始年齢などをふまえ、継続雇用後の生活に不安がないようにしていきたい」と見直しの目的を話します。また、65歳への定年延長も視野に入れており、「引き続き木貞プランナーに協力をいただきながら取り組んでいきたい」と、さらなる制度の充実に向けた意気込みを話してくれました。 (取材 増山美智子) ※1 65歳超雇用推進プランナー……当機構では、高年齢者雇用アドバイザーのうち経験豊富な方を65歳超雇用推進プランナーとして委嘱し、事業主に対し、65歳を超えた継続雇用延長・65歳以上への定年引上げなどにかかわる具体的な制度改善提案を中心とした相談・援助を行っています ※2 葉隠……江戸中期の武士道論書。佐賀藩士山本常朝が口述し、田代陣基が筆録 木貞哲夫 プランナー (42 歳) アドバイザー・プランナー歴:5年 [木貞プランナーから] 「会社は、社員∴齔lひとりの人生の時間をいただきながら、経営活動を通じて理念を実現しようとしている組織体です。その組織体に属す社員にとって、自分の提供した時間の対価がお金だけではなく、成長の実感であったり、働きがいであったり、仲間と一緒に過ごす楽しい時間であってほしい、そう思いながら、65歳超雇用推進プランナーの仕事をしています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆佐賀支部の峯課長は、木貞プランナーについて、「社会保険労務士としての専門的知識と圧倒的なクイックレスポンスにより、相談・助言件数はトップの実績を上げ、制度改善に向けた提案の提出率も高い、当支部期待の逸材≠ナす。事業所から、『何を相談しても受け止めてくれる、安心感がある』、『悩みに共感して行動してくれる』などの声をよく耳にします。今年度委嘱した高年齢者雇用アドバイザーの頼れる先輩≠ニしても期待しています」と紹介します。 ◆佐賀支部高齢・障害者業務課には、6人の65歳超雇用推進プランナー・高年齢者雇用アドバイザーが在籍し、県内事業所などを訪問して相談・助言活動を実施しています。2018年度は延べ350社を訪問し、65歳を超えた継続雇用延長などの制度改善の提案に注力しました。 ◆佐賀支部は、JR佐賀駅から福岡方面へ一つめのJR伊賀屋駅から徒歩1分「ポリテクセンター佐賀」内にあります。車椅子でも入りやすいスロープを設置した玄関があります。お気軽にお越しください。各事業所の状況に即した相談・助言を無料で実施しています。 ●佐賀支部高齢・障害者業務課 住所:佐賀県佐賀市兵庫町若宮1042-2 ポリテクセンター佐賀内 電話:0952(37)9117 写真のキャプション 2020年には創業50周年を迎える有明電設本社 佐賀県 峰守浩二総務部長 総務部で集中して仕事に取組む、陣内洋子さん 施工管理技士として、施工図の作成や工程管理を行う鷲ア喜英さん 【P40-43】 高齢社員の磨き方 ―生涯能力開発時代へ向けて―  生涯現役時代を迎え、就業期間の長期化が進むなか、60歳以降も意欲的に働いていくためには、高齢者自身のスキルアップ・能力開発が重要になるといわれています。つまり、生涯現役時代は「生涯能力開発時代」といえます。本企画では、高齢者のスキルアップや能力開発などの取組み事例を、人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説します。 第5回 立教セカンドステージ大学(東京都) 人事ジャーナリスト 溝上(みぞうえ)憲文(のりふみ) 生涯現役時代だからこそ重要な「学び直し」とは  人生100年時代のなかで、長い職業生活や地域での生活を充実させるための「人生の再設計」の契機となる「学び直し」が注目されている。具体的な学び直しの機会として、大学や専門学校に通う、通信教育やオンライン講座の受講、各種セミナーへの参加、独学など、さまざまな方法がある。そのなかでリベラルアーツ(教養教育)を基礎に「学び直し」、「再チャレンジ」、「異世代共学」を目的としてシニア世代を対象に開学したのが、立教セカンドステージ大学だ。  創設は2008(平成20)年。満50歳以上を入学要件とし、本科(1年)と本科修了後の専攻科(1年)にわかれ、本科で約100人、専攻科で約50人が学んでいる。本科入学者は50歳から上は80歳すぎまでと幅広く、平均年齢は62〜63歳。就業している人が約30%、残りは定年を迎えた人や主婦などである。男女比は約半々の構成だ。創設以来、今年で12期目を迎え、修了生も約1000人を数える。入学の目的は「教養・生涯教育」、「これからの生き方探し」、「人との出会い・ネットワークづくり」などさまざまだ。  立教セカンドステージ大学の特徴と学び直しの意義について、同大学の野澤正充(まさみち)副学長(立教大学副総長)はこう語る。  「生涯学習講座はさまざまなところで開催されていますが、ほとんどが一過性の学びで終わります。本学では1年間を通じて体系的に学び、市民としての教養を高めてセカンドステージに向けた考え方≠身につけることを目的にしています。大学を出て就職すると、二度と大学に戻ってこないまま引退するのが一般的ですが、いまでは就業環境も変わり、終身雇用も崩れつつあります。リカレント教育※1の意義は二つあり、一つは大学を出た後のある段階でもう一度大学で学び直すことで職業のスキルアップを図ること。もう一つは人生100年時代になり、60歳、65歳の節目で今後どのように生きていくかという自分の基軸を見つけるための学び直しです。本学では後者に重点を置いています。さらにファーストステージでつちかった経験やノウハウを、どのようにして社会に還元していくか、社会貢献に結びつけていくかということも、本学の大きな目標の一つです」 多彩なカリキュラムと異世代共学で受講生の価値観を広げる  創立の趣旨にも「受講生が〈自由な市民〉としての生き方を自らデザインできるようにサポートする」と謳(うた)う。ではどのようにしたら生き方を自らデザインできるようになるのか。同大の教育システムを見てみたい。  一つは多彩なカリキュラムである。「エイジング社会の教養科目群」、「コミュニティデザインとビジネス科目群」、「セカンドステージ設計科目群」の三つ(各15科目)があり、自由に選択できる。教養科目群には「古典として読む旧約聖書」、「東洋思想からの問い」など古今東西の知的財産に加え、「壮年期・老熟期の生涯発達心理学」など、シニア層を意識した独自の科目もある。コミュニティデザインとビジネス科目群は、ソーシャル・ビジネス、NPO活動、各種のボランティア活動について実践的に学ぶ。「シニアが輝くライフスタイル」や「修了生が語るアクティブシニアの生き方」などユニークな科目もある。  セカンドステージ設計科目群は、食・健康・住まいなど自分の将来を見据え、活き活きと生活するシニアの「人生設計」の立案を支援する。「食と健康の科学」、「セカンドステージの住まいづくり」、「健康長寿とアンチエイジング」、「高齢者の生活と介護保険」など実用的な科目が用意されている。こうした専門科目以外に必修科目として各教員が毎回違うテーマで講義するオムニバス講義※2「学問の世界」がある。野澤副学長も「現代社会と民法」の科目を担当している。講義の特徴についてこう語る。  「講義は問題を一緒に考えていくスタイルでやっています。これまで法科大学院で教えていましたが、法科大学院では法律家になるための知識の伝授が中心です。本学では知識の詰め込みよりも、むしろ考え方を身につけてほしいと思い、じっくりと考える素材を与えて議論するようにしています。こちらから絶えず質問し、考えて答えてもらうのですが、社会経験が豊富なみなさんですので本当にいろいろな考え方や意見が活発に出てきます。教える側にとってもおもしろいし、よい刺激になっています」  講義は4時限(15時20分〜16時50分)と5時限(17時10分〜18時40分)の時間帯に実施される。春学期と秋学期のほか、8〜9月には夏期集中講義が行われる。さらに上記の科目以外に立教大学の全学部学生を対象に開講している授業(全学共通科目)も一定の範囲内で受講できる。これを同大では「異世代共学」と呼んでいる。これこそ親子、孫と子ほど世代も違う学生がともに学ぶことで異なる価値観や考え方などを知る多様性を受容する場となっている。 受講生の「気づき」と「発見」をうながすためのゼミナール  2番目の特徴は、すべての受講生のゼミナール参加と修了論文の作成だ。受講生は八つのゼミナールのいずれかに所属し、担当教員の指導を受け、1年をかけて修了論文の作成を目ざす。一つのゼミナールの定員は10人前後。教員が出席する本ゼミと受講生だけで運営する自主ゼミが交互に開催され、あくまで受講生の自主的・主体的活動が基本であり、担当教員は論文テーマの選定や、そのための学習・フィールドワークの方法から論文作成の指導について徹底してサポートする。  野澤副学長は「ゼミナールの仲間と議論すると、いろいろな考え方の人がいることがよくわかります。自分の考えを主張しても必ずしも受け入れられるわけではありません。異なる意見や考え方を知ることで新たな気づきと発見があり、受講生相互の絆が深まります。シニアになって長い論文を書くことは大変ですが、『論文を書く』という行為は、クリエイティブな活動ですし、『自分とは何か』という自らの内面に迫るものでもあります」と、その意義を語る。  実際にゼミナール参加と修了論文の作成は受講生にとっても得がたい経験となっているようだ。同大に2017年に入学した佐藤勇一(ゆういち)氏(69歳)はゼミナール活動についてこう語る。  「修了論文のテーマを何にするのかを決めるのですが、ゼミのメンバーがそれぞれ中間発表し、みんなで批評しながら固めていきます。私は国内旅行をするなかで古い町並みがどのように保存されているのかに興味をもったのですが、その話を先生にすると、それをまとめてみればどうかと示唆されました。テーマが決まると執筆に入りますが、その内容や文章の書き方ついての指導は非常に厳しく、文章を書くのが苦手な人にとっては1年間苦しんで書き上げることになります。それでもいままで漠然と興味があっただけの段階から、先生の指導やアドバイスを通じて、きちんとまとめ上げるきっかけをつくっていただいたことに感謝しています」  佐藤さんは本科の論文完成後、専攻科でも論文作成に重点を置き、「日本の近代化遺産」というテーマで論文を書き上げた。「本を読むだけではなく、教室の外でも各地を訪ね歩いて話を聞くフィールドワークを通じて学ぶというステージをつくってもらった」と語る。 社会貢献活動サポートセンターが学習活動の継続を支援  3番目の特徴は、受講生・修了生による自発的な社会貢献・研究活動である。その一つの母体となっているのが「社会貢献活動サポートセンター」だ。受講生や修了生が社会との交流や社会貢献活動を促進するために設置され、登録された団体の活動を担当の教員や顧問がサポートする。現在13の登録団体があるが、団体の発足から運営まですべてをメンバーが自主的に行う。例えば1期生から在学生までの音楽好きが参加する「ウクレレ合唱団」は演奏と合唱の練習だけではなく、高齢・障害者施設での公演も行っている。そのほかに「かがやきライフ研究会」、「日本に住む外国人を考える会」、「ソーシャルビジネス研究会」など多様な活動を展開している。  驚くのは修了生の学習活動の継続性とネットワークの広がりである。受講して終わりという一般的な生涯学習講座とは異なり、大学での学びを契機に日常的な学習意欲を絶やすことなく継続し、その活動を大学時代に築いたネットワークで互いに支え合う仕組みを構築している。野澤副学長は「千人いる修了生のうち約400人が何らかの研究会に所属し、定期的に活動している。サポートセンターは修了生を社会につなげていくために設置したが、その広がりは予想以上の成果を上げている」と評価する。  また、講義以外に2泊3日の清里(きよさと)合同ゼミ合宿、クリスマスパーティー、修了パーティーなどのイベントがあるが、こうした課外活動は受講生たちが委員会を組織し、運営を行っている。セカンドステージ大学の情報発信の機関誌も受講生で組織する「ニューズレター編集委員会」が取材・執筆依頼・レイアウトまでこなしている。 シニア世代の「学び直し」は企業の人材育成のヒントになる  このように大きく三つの特徴を持つ同大の教育システムは修了生にどのような影響を与えているのか、佐藤さんに話を聞いた。一級建築士の資格を持つ佐藤さんは勤務先の建築設計事務所の代表を65歳で退き、66歳で同大に入学した。入学の動機は「これまでの仕事中心の人生を切り替えようと、仕事のウエイトを抑えつつ学び直そうと思ったのです。もう一つは地元の自治会活動を積極的にやりたいと考えていたので、この大学で社会貢献や地域貢献活動について学べると思いました」という。  大学の講義はどれもおもしろく、市民活動について語る教員の熱意にも圧倒された。そして前述したように本科の修了後、専攻科に進み、2本の修了論文を書き上げた。この2年間に得られたものは何か。佐藤さんはこう語る。  「これまで仕事ばかりやってきた人生に比べ、本当に豊かな時間を過ごすことができましたし、何より学ぶ姿勢を身につけたことが大きな成果です。いまも自身で見つけたテーマについていろいろな本を読むなどして追いかけています。もう一つ自分にとって大きかったのはゼミの仲間と出会えたことです。本科のゼミ員は10人ですが、専攻科が終わったいまでも自主的な研究会を続けています。昨年の研究会のテーマは『色』ですが、仲間がそれぞれ色に関する研究結果を発表し、みんなで議論します。こんな研究ができる仲間はなかなか見つけられるものではありませんし、私にとっては人生の宝です。もちろん研究会後の懇親会も楽しいですが、この仲間と巡り会い、いまも交流が続いており、本当によかったと思っています」  ゼミの仲間には、専攻科を修了後に大学院に進んだ人、別の大学の通信課程で勉強している人、通訳案内士の資格を取得し、美術館で働いている人、NPO法人の立上げに奔走している人など多様だ。佐藤氏も仕事を継続しつつ、土・日は自治会活動に参加、その一方、個人では「マンションの老朽化」をテーマに研究活動を続けている。  立教セカンドステージ大学の学び直しの取組みは、少なくとも二つの大きな効果を発揮しているように思う。一つめは教育学者の天野郁夫(いくお)東京大学名誉教授が「学ぶことにおいて最も身につくのは自ら教えることだ」といっているが、講義を聴く、本を読む以上に自分の意見や研究した成果を発表する機会が随所に設けられていることだ。ゼミ活動における研究テーマの発表などにおいて、考え方の違う他者の理解と共感を得るには、あらゆる検証に耐えうる、人一倍の準備作業と理論の体系化など、テーマの深掘りが求められる。さらに第三者の示唆を受けることで知への欲求をかきたてられ、知性が研ぎ澄まされていくのだと思う。  二つめは、いま企業が社員に求めている「変化対応行動」※3を養ううえで最適な環境を提供している点だ。「知的好奇心」、「チャレンジ力」、「学習習慣」の三つの要素は、変化対応行動に有効であるという研究結果がある(エルダー2019年4月号8頁参照)。そしてこの三つの能力は同質的価値観を共有する社内より、社外の異なる価値観の人と積極的に交流することで磨かれることも明らかになっている。まさに同大の取組みにより、過去の経歴や職歴・社内での役割が異なる人たちがともに学び合うことで知的好奇心や学習習慣が高まることが実証されている。同大の取組みは企業のキャリア教育においても重要な示唆を与えるものとなっている。 ※1 リカレント教育……義務教育の終了後、生涯にわたって教育とほかの諸活動を交互に行う教育システム ※2 オムニバス講義……毎回教えるテーマが変わる形式の講義 ※3 変化対応行動……社会の変化に適切に対応していくこと。「知的好奇心」、「チャレンジ力」、「学習能力」の三つが重要となる(本誌2019年4月号特集「佐藤博樹教授特別インタビュー」参照) 写真のキャプション 野澤正充副学長 佐藤勇一さん 【P44-47】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第17回 フレックスタイム制、出張と労働時間 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q 1 フレックスタイム制を導入するうえでの注意点について知りたい  従業員の働き方の柔軟化のためにフレックスタイム制を導入しようと思っていますが、働く時間を従業員に任せるのであれば、労働時間を具体的に把握する必要もなく、残業代などは発生しないのでしょうか。  休日も自由に取ってもらえればよいと思っていますが、問題ないでしょうか。 A  フレックスタイム制は、労働時間の柔軟化に役に立ちますが、時間外割増賃金や休日労働や深夜労働の割増賃金などが発生することもあります。  また、休日は定めておく必要があるうえ、法定休日に働いた場合には休日労働の割増賃金の支給も必要です。 1 フレックスタイム制について  労働基準法が定めるフレックスタイム制は、規定自体の内容が難解で、その利用が促進されているとはいいがたい面もあります。  今回は、働き方改革の一環で改正されたフレックスタイム制について、導入方法と基本的な制度について説明したいと思います。  フレックスタイム制には、1カ月以内の期間を基準に労働時間を清算する制度と、1カ月を超えて3カ月以内の期間で労働時間を清算する制度があり、後者が労働法の改正によって新たに設けられたフレックスタイム制です。 2 コアタイムとフレキシブルタイム  フレックスタイム制は、「一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業及び終業時刻や労働時間数を自ら決めることができる制度」とされています。  フレックスタイム制のメリットは、1日や週単位の法定労働時間に拘束されることなく働くことが可能になる点です。よくある勘違いとしては、労働者に働く時間を委ねることから、労働時間の把握自体が不要になる(できなくなる)と考えられていることがありますが、フレックスタイム制でも労働時間の把握は必要です。また、深夜労働や休日労働については、通常と同様に割増賃金の支払いが必要です。  まず、始業と終業時刻の双方を労働者の裁量に委ねることが必須とされています。ただし、必ず出社してもらうことを義務とする「コアタイム」を設定することもできます。逆に出退社が自由となる時間帯を「フレキシブルタイム」といいます。  注意点としては、「コアタイム」が所定労働時間とほぼ同一である、または、「フレキシブルタイム」が極端に短いため、出退社の時間が労働者に委ねられたといえない場合には、フレックスタイム制の導入要件を満たさないおそれがあります。 3 労働時間の把握方法  次に、フレックスタイム制では、「総労働時間」の設定が前提になっています。例えば1カ月単位で総労働時間を設定する場合は、毎月の労働時間の起算日を定めることで、「総労働時間」の計算期間が定まります。この計算期間を「清算期間」と呼びます。  これらを基準に、「清算期間」中の実際の労働時間が、「総労働時間」を超えたか否かという観点で、労働時間管理を行うことになります。そのためには、清算期間中の実際の労働時間を把握するためにタイムカードなどによる時間管理が必要です。  ただし、時間管理にあたり、1日ごとに遅刻や早退を気にする必要はなくなります。なお、コアタイムに対して遅刻が頻発する場合は、最低限の規律の維持のために懲戒処分の対象とすることや、人事考課などにおいて遅刻回数を考慮するような制度設計を行うことは可能です。  一方、休憩について、フレックスタイム制の場合は、休憩時間も自由に取らせたいというニーズがあります。そのような場合には、一斉付与の対象から除外するために労使協定を締結しておく必要があります。 4 フレックスタイム制における時間外労働と休日の設定  フレックスタイム制の場合、時間外労働の計算方法が通常とは異なります。  原則として、フレックスタイム制における時間外労働は、1日または週単位ではなく、清算期間内の「法定労働時間の総枠」を超えた時間を基準として計算されます。  「法定労働時間の総枠」の計算方法は、「40時間(週の法定労働時間)×歴日数÷7日」とされていますが、よく利用される法定労働時間の総枠は図表1のとおりです。  フレックスタイム制を導入する際に、休日についても労働者の自由に委ねたいかもしれませんが、フレックスタイム制においても法定休日の設定は必要です。また、所定休日も定めておかなければ、総労働時間が法定労働時間の総枠を確実に超えることになるため、時間外労働を抑制するためには所定休日も設定しておくべきでしょう。なお、完全週休二日制を導入している場合には、法定労働時間の総枠の計算方法について、労使協定の締結により「8時間×所定労働日数」とすることが可能となるため、計算を簡便化することが可能です。  1カ月を超える清算期間を設定するフレックスタイム制においては、本来なら清算期間のすべてを終えてから時間外労働を清算すればよいはずですが、過重労働防止の観点から、図表2に記載した1カ月ごとに週50時間以上を超えた部分については、時間外割増賃金を支給する必要があります。  また、休日については、法定休日の労働は「休日労働」として計算し、所定休日の労働は通常の労働時間としてカウントして、法定労働時間の総枠を超過した場合には時間外割増賃金を支払うことになります。  なお、これらの時間外労働や休日労働に関しては、通常の労働者と同様に36協定の締結も必要になります。 5 フレックスタイム制の導入方法  フレックスタイム制の導入には、「就業規則への記載」と「労使協定の締結」が必要です。いずれか一方のみでは足りません。また、1カ月を超える期間で労働時間を清算する場合には、労使協定を労働基準監督署に届け出る必要があり、届出がない場合は、罰則として30万円以下の罰金が科されることがあります。  就業規則についてですが、以下の事項を定める必要があります。 @対象とする労働者の範囲 A労働時間を清算する期間と起算日 B標準となる労働時間 C始業終業時刻とコアタイム又はフレキシブルタイム  次に、労使協定には以下の事項を定める必要があります。 @対象とする労働者の範囲(就業規則と重複することもありますが記載が必要です) A労働時間を清算する期間と起算日 B清算期間における総労働時間(計算方法を記載する方法でも可能) C1日の標準労働時間(欠勤や有給休暇時の時間計算の基準となります) D始業終業時刻とコアタイム又はフレキシブルタイム  就業規則の記載例および労使協定の記載例については、厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」※1においても示されていますので、参考になると思います。  フレックスタイム制の運用にあたっては、就業規則の記載とフレックスタイム制の労使協定締結に加えて、休憩の一斉付与の例外に関する労使協定および時間外労働が発生することに備えてフレックスタイム制の対象労働者用の36協定を締結しておくことが実務上は必要でしょう。 図表1 法定労働時間の総枠 歴日数 1カ月の法定労働時間の総枠 歴日数 2カ月の法定労働時間の総枠 歴日数 3カ月の法定労働時間の総枠 31日 177.1時間 62日 354.2時間 92日 525.7時間 30日 171.4時間 61日 348.5時間 91日 520.0時間 29日 165.7時間 60日 342.8時間 90日 514.2時間 28日 160.0時間 59日 337.1時間 89日 508.5時間 図表2 週平均50時間以上となる月間労働時間数 歴日数 31日 221.4時間 30日 214.2時間 29日 207.1時間 28日 200.0時間 Q 2 出張にともなう移動は労働時間に含まれるのか  従業員から、労働時間中に遠方への出張がともなったため、残業代を支給するように求められています。出張時間中には、業務をしていたのか否かは不明であり、特段、出張の移動中に行うべき業務を指示したわけでもありません。出張中の移動時間については、どのように労働時間を計算すればよいのでしょうか。 A  移動時間は、原則として労働時間には該当しないが、具体的な業務や指揮命令がおよんでいる場合には、労働時間となることがあります。  就業規則には事業場外労働の規定を設けておくことや、出張日当に固定時間外手当としての性質も及ぼしておくことも検討しておくべきです。 1 出張中の移動時間と労働時間の関係について  出張における移動時間については、労働基準法などにおいてもその取扱いが明確にされているわけではありません。  いわゆる、労働時間か否かの判断基準である「指揮命令下」にあったか否かによって判断されるということはできますが、ケースバイケースの判断になるというだけでは日々の対応に困ることになるでしょう。  そこで、出張に関して、どのように処理していくことが適切か整理しておきたいと思います。  出張ということは、事業場の外に出ていることになるでしょう。したがって、事業場外労働のみなし労働時間制を採用している場合には、これが適用されるか検討すべきでしょう。事業場外みなし労働時間制※2については、就業規則の規定を定めておくことで適用することが可能です。  しかしながら、通常所定労働時間を超えて労働することが必要な場合には、当該必要な時間を労働時間として算定しなければなりません。  とすると、通常必要となる時間のうちに、出張による移動時間が含まれるのか否かによっても計算方法が変わることになりそうです。  したがって、結局のところ、出張中の移動などについて、基本的にどのように考えるべきかについて整理しておかなければ、労働時間の管理が十分に行えないことにつながります。 2 出張に関する基本的な考え方  一般的に、出張に関しては、通勤や直行直帰などと類似する移動時間と評価され、例えば、横浜地裁川崎支部昭和49年1月26日決定(日本工業検査事件)においては、「出張の際に往復に要する時間は、労働者が日常の出勤に費す時間と同一性質であると考えられるから、右所要時間は労働時間に算入されず、したがってまた時間外労働の問題は起り得ないと解するのが相当」と判断されています。基本的な考え方としては、これにしたがった解釈は可能と考えられますが、ただし、指揮命令下に置いていない場合という留保がつくと考えるべきでしょう。  例えば、昭和23年3月17日基発461号、昭和33年2月13日基発90号においては、「出張中の休日は、その日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差し支えない」としており、休日中の具体的な業務命令が行われていないかぎりは、出張中の休日は労働時間として扱う必要がないことを示しています。  このような解釈を前提にすると、出張中の移動時間や休日については、使用者からの指揮命令がないかぎりは、労働時間としては扱う必要はないという整理になると考えられます。  指揮命令下につき具体的に判断している裁判例として、東京地裁平成24年7月27日(ロア・アドバタイジング事件)があります。当該事例は、17回にわたる出張につき、各出張の状況をふまえて、個別に労働時間の該当性を判断しており、移動手段などが指定され、行動の制約があったのみでは、たとえ、上司の同行があったとしても別段の用務を命じられていないかぎりは、出張を労働時間とは認めていない一方で、納品物の運搬それ自体を目的としており、無事に支障なく目的地まで運び込むことが目的となっていた場合や、ツアー参加者の引率業務に従事していた時間については移動時間も業務遂行中の時間であるとして指揮命令下におかれたものと評価しています。しかしながら、結論においては、事業場外労働に該当することを認め、ほとんどの出張について、通常必要な時間を超えたとは認めることなく、所定労働時間働いたものとみなすという結論になっています。 3 出張日当の支給について  基本的な考え方に則した場合、出張自体は労働時間に該当しないことも多く、時間外労働の割増賃金の支給対象とはなりません。しかしながら、労働時間ではないとはいえ、長時間の拘束になることは否定しがたいため、多くの会社では、出張日当などを支給することで、労働者に対するケアを行っています。  出張時間については、状況によっては労働時間になることをふまえると、出張日当などについても、時間外割増賃金の前払い(固定時間外手当)として支給しておくことも検討に値するのではないかと考えられます。 ※1 https://www.mhlw.go.jp/content/000476042.pdf ※2 事業場外みなし労働時間制……労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。(労働基準法第38条の2) 【P48-49】 科学の視点で読み解く  高齢者が毎日イキイキと働くためには、「疲労回復」の視点を持つことも重要になります。この連載では、「疲労回復」をキーワードに、“身体と心の疲労回復”のために効果的な手法を科学的な根拠にもとづき紹介します。 身体と心の疲労回復 国立研究開発法人理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム プログラムディレクター 渡辺(わたなべ)恭良(やすよし) 第4回 疲労の度合いの計り方  前回は疲労のメカニズム、そして現代の疲労の特徴と課題をご紹介しました。こうした疲労に対して、より望ましい疲労回復法や過労の予防法を開発していくためには、疲労の度合いを数値化して把握することが重要になります。そこで今回は、自分自身で感じる「主観的疲労度」と、他のヒトの疲労度と比較することができる「客観的疲労度」を計測し、数値化する方法を紹介します。疲労度を計るためには、疲労の主観的指標と客観的指標を合わせた総合的な評価が重要だとされています。多数の健康なヒト※1で、この両方の計測を行うと、主観的疲労の度合いと客観的疲労の度合いにはかなりの相関がある(一致性が高い)ことがわかりました。裏返して話すと、「健康」ということは、自分の心身で起こっていることがきちんと感知できているということだろうと推測できます。 疲労の客観的指標  疲労の客観的な指標に関しては、バイオマー カー(人の身体の状態を客観的に測定し評価する ための指標)に関する研究が行われてきました。 疲労の指標としてのバイオマーカーを大別する と、「生理学的バイオマーカー」と「生化学・免 疫学的バイオマーカー」にわけることができます。  生理学的バイオマーカーは、「@脳機能」、「A循環動態・自律神経機能」、「B行動量・睡眠態様」の三つにわけることができます。「@脳機能」は、疲労にともなって注意力や集中力の低下が起こり、エラーが増加することに着目した指標です。コンピュータ上で行う5分から10分の作業における反応時間の遅れやエラー回数の増加を測定することで疲労度を把握します。「A循環動態・自律神経機能」は、疲労によって、リラックスや癒しをもたらす副交感神経の機能が低下し、緊張や活動をうながす交感神経が優位になることに着目したものです。心電図を用いた心拍変動解析によって疲労度を把握します。現在、最も信頼性が高いとされているのがこの指標です。「B行動量・睡眠態様」は、腕時計型の活動量計によって数日から週単位の終日の活動量を記録して、覚醒時の活動量や睡眠時間、睡眠パターン、中途覚醒状況などを把握することで疲労度を計ります。慢性疲労時には、覚醒時の活動量が低下するといわれています。  一方、生化学・免疫学的バイオマーカーは、血液や唾液、尿などを採取し、疲労によるパフォーマンスの低下と連動すると思われる物質の変動を検知して疲労度を計ります。 疲労の主観的指標  疲労の主観的な指標に関しては、英国で開発されたスケール(物差し)が国際的によく使われています。このスケールは14項目の質問からなり、それぞれの質問に「0〜3点」をつけます。点数が高いほうが疲労の度合いが高いとしています。  ただし、このスケールは、質問票を書いてもらっている時点での疲労度というよりは、最近2週間から1カ月間程度の疲労を総体的に記入するものなので、記入時点での疲労感を把握することには向いていません。さらに、このスケールによって精神的疲労と身体的疲労の程度を把握することはできますが、疲労と関連している愁訴(症状)として知られている、抑うつ症状なども把握することはできません。  こうした点をふまえて、大阪市立大学医学部附属病院疲労クリニカルセンターでは、質問項目を64項目に増やして、疲労関連症状や背景となる日常生活習慣などの情報を十分に評価できる新たなスケールを開発しました。その疲労スケールでは、まず疲労を以下の八つの症状に分類して、各質問について「1〜5点」で点数化します。 1.疲労  (例:横になりたいぐらい疲れることがある、疲れた感じ/ちょっとした運動や作業でもすごく疲れる) 2.うつと不安  (例:ゆううつな気分になる/不安で落ち着かない気分になる) 3.注意力・記銘力の低下  (例:集中力が低下している/ちょっとしたことが思い出せない) 4.痛み  (例:関節が痛む/このごろ足がだるい) 5.過労  (例:ゆっくり休む時間がない/仕事量が多くてたいへんである) 6.自律神経症状  (例:まぶしくて目がくらむことがある/冷や汗が出ることがある) 7.睡眠  (例:どうしても寝過ぎてしまう/居眠りが多い) 8.感染  (例:リンパ節が腫れている/のどの痛みがある)  そして、総合的評価として、各症状の程度から疲労度※2を1〜4段階で評価することができ、結果をレーダーチャート(図)で示すことで、回答者が疲労の特性を視覚的に認識することができます。  また、簡易的な疲労度の指標としては、痛みなどでも行うVisual Analogue Scale(VAS)があります。これは10pの線に自分の現在の疲労度を記してもらうものです。VASに関しては、日本疲労学会のホームページ上に検査方法が紹介されています※3。  高齢労働者の疲労度が気になる場合は、産業医などの専門家と相談のうえ、これまで紹介したような方法を使って疲労度を計ってみてはいかがでしょうか。その結果、疲労度が著しく高い場合は、対策を立てる必要があるかもしれません。 わたなべ・やすよし 京都大学大学院医学研究科博士課程修了、大阪医科大学医学部・講師、大阪バイオサイエンス研究所・研究部長、大阪市立大学大学院医学研究科・教授、理化学研究所分子イメージング科学研究センター・センター長、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター・センター長、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター所長等を歴任し、現在は、理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム・プログラムディレクター、理化学研究所生命機能科学研究センター・チームリーダー、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター・顧問を兼任。日本疲労学会・理事長。 ※1 健康なヒト……WHO憲章では「健康」を「肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」と定義しているが、本稿では「病気の診断がついていない人、および診断は未定でも本人や周囲の人が明らかな病気の症状を認めていない人」を健康なヒトとした ※2 疲労度……大阪市立大学附属病院疲労クリニカルセンターでは、主観的または客観的指導によって疲労の度合いを数値化したものを疲労度と定義している ※3 http://www.hirougakkai.com/VAS.pdf 図 疲労スケールによるレーダーチャートの例(疲労度が1段階の場合) 1.疲労 2.うつと不安 3.注意力・記銘力の低下 4.痛み 5.過労 6.自律神経症状 7.睡眠 8.感染 【P50-53】 特別企画 同一労働同一賃金の実現に向けて《後編》 ―正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の禁止―  2020年4月1日より、同一企業内の正規雇用労働者と非正規雇用労働者との不合理な待遇差の解消を目的に、「同一労働同一賃金」について定めた、パートタイム・有期雇用労働法、労働者派遣法が施行される。先月号のパートタイム・有期雇用労働法の改正についての解説に続き、今月号では労働者派遣法改正の要点について解説する。 厚生労働省 職業安定局 需給調整事業課  2018(平成30)年6月に成立した「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(働き方改革関連法)により、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を実現するため、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム労働法)、「労働契約法」および「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(労働者派遣法)について改正が行われ、2020(令和2)年4月1日(中小企業への「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」〈パートタイム・有期雇用労働法〉の適用は2021年4月1日)から施行される。  前編では、パートタイム・有期雇用労働法について解説をしたが、本稿では、このうち労働者派遣法の主な改正内容などについて解説する。 1 同一企業内における不合理な待遇差を解消するための規定の整備  派遣労働者については、派遣労働者を雇用する事業主と、派遣労働者を指揮命令する事業主が異なることに加え、派遣先の一時的な人材ニーズに対応するために活用するケースが多いことから、待遇改善やキャリア形成が疎(おろそ)かにされがちである。しかし、派遣労働者を適正に活用していくためには、派遣労働者であるという理由のみによって、通常の労働者との間に不合理な待遇差があってはならないものである。派遣労働者の待遇改善を図り、派遣労働者が納得感と意欲を持って働くことのできる環境を整備することは派遣元および派遣先の双方にとっての利益につながるものと考えられる。  このため、派遣労働者については、現行では均衡待遇規定・均等待遇規定は存在せず、同種の業務に従事する派遣先の労働者との間での待遇に関する配慮義務規定などがあるのみ(労働者派遣法第30条の3)であったが、働き方改革関連法による改正後の労働者派遣法(改正労働者派遣法)では、不合理な待遇差を解消するための規定が整備された。  具体的には、 @派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇(派遣先均等・均衡方式) A一定の要件を満たす労使協定による待遇(労使協定方式)  のいずれか※1を確保することを義務化している。 @派遣先均等・均衡方式 ア 均衡待遇規定・均等待遇規定  パートタイム労働者・有期雇用者と同様の考え方で、派遣元事業主に対し、その雇用する派遣労働者について、派遣先の通常の労働者との間で均等・均衡待遇を確保することを新たに義務づけた(改正労働者派遣法第30条の3)。具体的には、職務の内容(業務の内容+責任の程度)、職務の内容・配置の変更の範囲が同じ場合には、差別的取扱いを禁止する「均等待遇」(同条第2項)か、職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲、その他の事情の相違を考慮し不合理な待遇差を禁止する「均衡待遇」(同条第1項)を図る必要がある。 イ 派遣先の措置の規定の強化  派遣先についても、派遣元事業主からの求めに応じ業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練の実施や、業務の円滑な遂行に資する福利厚生施設(休憩室、給食施設、更衣室)の派遣労働者に対する利用の機会の付与等の規定を強化した(改正労働者派遣法第40条の2第2項〜5項)。 ウ 派遣先による情報提供  派遣元事業主が前記アの規定による義務を履行できるよう、派遣労働者が従事する業務ごとに、比較対象労働者(図表1)※2の待遇に関する情報を派遣元事業主に提供することを派遣先の義務とし(改正労働者派遣法第26条第7項)、派遣元事業主は情報提供がない場合に労働者派遣契約を締結してはならないこととした(同条第9項)。 A労使協定方式  過半数労働組合または過半数代表者と派遣元事業主との間で賃金の決定方法等の一定の事項を定めた労使協定を書面で締結したときは、一部の待遇(@イの教育訓練と福利厚生施設)を除き、この労使協定に基づき待遇が決定される。具体的には、派遣労働者の賃金の決定方法について、派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金額と比較し、同等以上の賃金額であることなどを記載する必要がある(図表2)。  ただし、労使協定で定めた事項を遵守していない場合にはこの方式は適用されず、派遣先均等・均衡方式となることとしている(改正労働者派遣法第30条の4第1項)。  さらに、派遣元事業主に対し、当該協定を労働者に周知することを義務づける(同条第2項)とともに、労使協定を締結した事業主は毎年提出する事業報告書に労使協定を添付すること(改正労働者派遣法施行規則第17条第3項)および労使協定の対象となる派遣労働者の職種ごとの人数、職種ごとの賃金額の平均額を行政に報告しなければならないこととした(改正労働者派遣法施行規則様式第11号)。 B派遣料金の配慮義務  派遣元事業主が@、Aの規定の履行に際し、派遣労働者の待遇改善を行うための原資を確保することが必要になることから、派遣先に対し、派遣料金に関する配慮義務を課すこととした(改正労働者派遣法第26条の11)。 2 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化  現行では、派遣元事業主は派遣労働者として雇用しようとするときに待遇に関する事項を、派遣労働者から求めがあったときに待遇決定に際し考慮した事項を説明しなければならないこととされている(労働者派遣法第31条の2)。  今回の改正では、派遣労働者についても、雇入れ時の昇給の有無等の明示義務および待遇の内容に関する説明義務(改正労働者派遣法第31条の2第2項)、派遣労働者から求めがあった場合の待遇差の内容やその理由等についての説明義務(同条第4項)、派遣労働者が説明を求めたことによる不利益取扱いの禁止(同条第5項)を新たに規定した。  さらに、派遣労働者については、派遣先の変更により待遇が変わりうるため、雇入れ時だけでなく派遣時にも労働条件の明示義務および待遇の内容等の説明義務を課すこととした(同条第3項)。  また、待遇の内容・理由についての説明の詳細は、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」において以下のとおりとした。 @派遣労働者(協定対象派遣労働者を除く。以下この@・Aにおいて同じ)に対する説明の内容 ア 派遣元事業主は、派遣先から提供を受けた待遇等に関する情報に基づき、派遣労働者と比較対象労働者との間の待遇の相違の内容・理由について説明すること。 イ 派遣元事業主は、派遣労働者と比較対象労働者との間の待遇の相違の内容として、(@)労働者と比較対象労働者の待遇のそれぞれを決定するに当たり考慮した事項の相違の有無、(A)派遣労働者と比較対象労働者の待遇の個別具体的な内容又は待遇に関する基準を説明すること。 ウ 派遣元事業主は、派遣労働者と比較対象労働者の(@)職務内容、(A)職務内容・配置の変更範囲、(B)その他の事情のうち、待遇の性質および待遇を行う目的に照らして適切と認められるものに基づき、待遇の相違の理由を説明すること。 A協定対象派遣労働者に対する説明の内容 ア 派遣元事業主は、協定対象派遣労働者の賃金が(@)派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上であるものとして労使協定で定めたもの、(A)労使協定に定めた公正な評価に基づき決定されていることについて説明すること。 イ 派遣元事業主は、協定対象派遣労働者の待遇(賃金、1@イの教育訓練と福利厚生施設を除く。)が派遣元事業主に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く。)との間で不合理な相違がなく決定されていること等について、派遣労働者に対する説明の内容に準じて説明すること。 B派遣労働者に対する説明の方法  説明にあたっては、資料を活用し、口頭により説明することを基本としつつ、説明すべき事項をすべて記載した派遣労働者が容易に理解できる内容の資料を交付するなどの方法でも差し支えないこととした。 3 裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備  労働者派遣法の均等待遇規定・均衡待遇規定は民事的効力を有するものと解されているが、派遣労働者にとって訴訟を提起することは重い負担となる。このため、派遣労働者がより救済を求めやすくなるよう、「均等・均衡待遇」、「労使協定に基づく待遇」、「待遇差の内容・理由に関する説明」等について、裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定を整備した(改正労働者派遣法第47条の5から第47条の9)。具体的には、「都道府県労働局長による紛争解決の援助」および「派遣労働者待遇調停会議による調停」があり、都道府県労働局長または調停委員が公平な第三者として紛争の当事者の間に立ち、当事者の納得が得られるよう解決策を提示し、紛争の解決を図ることを目ざすものである。 4 改正労働者派遣法の円滑な施行に向けた取組み  企業が改正労働者派遣法に円滑に対応することができるよう、厚生労働省では以下のような取組みを行っている。 (1)「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(ガイドライン)  正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で待遇差が存在する場合に、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差が不合理なものでないのか等の原則となる考え方と具体例について、基本給、賞与、手当等の個々の待遇ごとに示したもの。(https://www.mhlw.go.jp/content/000465454.pdf) (2)各種マニュアル等の策定・厚生労働省ホームページでの公開 ア パンフレット  派遣労働者の同一労働同一賃金の概要(平成30年労働者派遣法改正の概要)を説明している。(https://www.mhlw.go.jp/content/000469167.pdf) イ 不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(労働者派遣業界編)  具体例を付しながら、各種手当、福利厚生、教育訓練、賞与、基本給について、点検・検討の手順を詳細に解説している。(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03984.html) ウ 労使協定方式における「同種の業務に従事する一般の労働者の賃金水準」  労使協定方式の要件である「同種の業務に従事する一般の労働者の賃金水準」(令和2年度適用)を示している。(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html) (3)働き方改革推進支援センターにおける相談援助  働き方改革に全般に関する相談・支援のためのワンストップサービス拠点として、民間団体等に委託し、47都道府県に設置している※3。  雇用形態に関わらない公正な待遇の確保に向けた非正規雇用労働者の待遇改善に関することだけでなく、時間外労働の上限規制への対応に向けた弾力的な労働時間制度の構築や、生産性向上による賃金の引き上げ、さらには、雇用管理改善による人手不足への対応や、助成金の活用など、労務管理に関する課題について、社会保険労務士等の専門家が無料で相談支援する体制を構築している。  電話・メール・来所による相談やセミナーの開催だけでなく、働き方改革推進支援センターの専門家が企業・団体を訪問し、就業規則の見直し、労働時間短縮、賃金引き上げに向けた生産性向上などに関するコンサルティングを通じて、個々の事業主の状況に応じた改善計画案の提案も行っている。 (4)都道府県労働局における相談援助  制度内容に関する問合せ等について相談することができる。 ※1 派遣労働者については、実際の就業場所が派遣先であり、待遇に関する派遣労働者の納得感の観点から、派遣先の労働者との均等・均衡が重要である。一方で、派遣先の労働者との均等・均衡を図ることで、派遣先が変わるごとに賃金水準が変わり、派遣労働者の所得が不安定となることが考えられることなどをふまえたもの ※2 派遣先に雇用される労働者のうち、派遣労働者と待遇を比較すべき労働者であり、派遣先において選定される。具体的には、省令で、派遣先は書面の交付、ファクシミリ、電子メール等の方法により、比較対象労働者の選定理由やその待遇の内容などについての情報を提供することとした。ただし、労働者派遣契約で、派遣労働者の待遇決定方式を労使協定方式に限定する場合には、イの教育訓練と福利厚生施設に関する情報のみ ※3 各都道府県の働き方改革推進支援センターについては右記URL をご参照ください。https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000505432.pdf 図表1 比較対象労働者とは ※派遣先は、@〜Eの優先順位により「比較対象労働者」を選定する。 @「職務の内容」と「職務の内容・配置の変更の範囲」が同じ通常の労働者 A「職務の内容」が同じ通常の労働者 B「業務の内容」または「責任の程度」が同じ通常の労働者 C「職務の内容・配置の変更の範囲」が同じ通常の労働者 D@〜Cに相当する短時間・有期雇用労働者※  ※パートタイム・有期雇用労働法等に基づき、派遣先の通常の労働者との間で均衡待遇が確保されている者にかぎります。 E派遣労働者と同一の職務に従事させるために新たに通常の労働者を雇い入れたと仮定した場合における当該労働者※ ※当該労働者の待遇内容について、就業規則に定められており、かつ派遣先の通常の労働者との間で適切な待遇が確保されている者にかぎります。 図表2 労使協定に定める事項 @労使協定の対象となる派遣労働者の範囲 客観的な基準により範囲を定めることが必要です。 「賃金水準が高い企業に派遣する労働者」とすることは適当ではありません。 A賃金の決定方法(次のア及びイに該当するものに限る。)  ア 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上の賃金額となるもの 派遣先の事業所その他派遣就業の場所の所在地を含む地域において派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者であって、当該派遣労働者と同程度の能力及び経験を有する者の平均的な賃金の額 【職種ごとの賃金、能力・経験、地域別の賃金差をもとに決定】 (※)職種ごとの賃金等については、毎年6〜7月に通知で示す予定です。  イ 派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等の向上があった場合に賃金が改善されるもの  ※イについては、職務の内容に密接に関連して支払われる賃金以外の賃金(例えば、通勤手当、家族手当、住宅手当、別居手当、子女教育手当)を除く。 B派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等を公正に評価して賃金を決定すること C「労使協定の対象とならない待遇(法第40条第2項の教育訓練及び法第40条第3項の福利厚生施設)及び賃金」を除く待遇の決定方法(派遣元事業主に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く。)との間で不合理な相違がないものに限る。) D派遣労働者に対して段階的・計画的な教育訓練を実施すること Eその他の事項  ・有効期間(2年以内が望ましい)  ・労使協定の対象となる派遣労働者の範囲を派遣労働者の一部に限定する場合は、その理由  ・特段の事情がない限り、一の労働契約の期間中に派遣先の変更を理由として、協定の対象となる派遣労働者であるか否かを変えようとしないこと 【P54-55】 10月は「高年齢者雇用支援月間」 高年齢者雇用開発フォーラムのご案内 (高年齢者雇用開発コンテスト表彰式)  厚生労働省との共催により、高年齢者が働きやすい職場環境にするために企業などが行った創意工夫の事例を募集した「高年齢者雇用開発コンテスト」の表彰式および記念講演を行います。また、コンテスト入賞企業などによる事例発表や、学識経験者を交えたトークセッションを実施し、企業における高年齢者雇用の実態に迫ります。「人生100年時代」のなかで、「年齢にかかわらずいきいきと働ける社会」を築いていくために、企業や個人がどのように取り組んでいけばよいかを一緒に考える機会にしたいと思います。 日時 令和元年10月3日(木)11:00〜16:10 受付開始10:00〜 場所 イイノホール(東京都千代田区内幸町2-1-1 飯野ビル) 東京メトロ日比谷線・千代田線「霞ヶ関」駅 C4 出口直結 東京メトロ丸ノ内線「霞ヶ関」駅 B2 出口徒歩5分 定員 400名(先着順・入場無料) 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 プログラム 11:00〜12:00 高年齢者雇用開発コンテスト表彰式 12:00〜13:00 (休憩) 13:00〜14:00 記念講演 「シニア就業の自助・共助・公助〜人生100年時代に向けて〜」 諏訪 康雄 氏(法政大学名誉教授) 14:00〜15:00 事例発表 コンテスト入賞企業等3社程度 15:00〜15:10 (小休憩) 15:10〜16:10 トークセッション: 「高齢社員活用の最前線 〜コンテスト表彰事例から探る〜」 パネリスト:コンテスト入賞企業等3社程度 コーディネーター:内田 賢 氏(東京学芸大学教育学部教授) ◆雇用相談コーナー……12:00〜16:30  ◆資料配布、ポスター展示……11:00〜16:30 ●参加申込方法 フォーラムのお申込みは、以下の専用URLからお願いします。 https://krs.bz/jeed/m/forum-191003 上記専用フォームからのお申込みがむずかしい場合、下記のお問合せ先にご連絡ください。 ※フォーラムの参加申込みにより、いただいた個人情報は適切に管理され、当機構が主催・共催・後援するシンポジウム・セミナー、刊行物の案内等にのみ利用します。利用目的の範囲内で適切に取り扱うものとし、法令で定められた場合を除き、第三者には提供いたしません。 参加申込締切 令和元年10月1日(火) ●お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 研究開発課 TEL:043?297?9527 FAX:043?297?9550 Mail:con2019@jeed.or.jp 写真のキャプション 諏訪康雄氏 C福田栄夫 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 地域ワークショップのご案内  高年齢者雇用にご関心のある事業主や人事担当者のみなさま! 令和元年度の未来投資会議で、盛んに議論されている高年齢者雇用にご興味をお持ちの方も多いのではないでしょうか。  当機構では各府県支部が中心となり、生涯現役社会の実現に向けた「地域ワークショップ」を開催します。事業主や企業の人事担当者などの方々に、高年齢者に戦力となってもらい、いきいき働いていただくための情報を提供します。  各地域の実情をふまえた具体的で実践的な内容ですので、ぜひご参加ください。 概要 日時/場所 高年齢者雇用支援月間の10月を中心に各地域で開催 カリキュラム (以下の項目などを組み合わせ、2〜3時間となります) ●専門家による講演【高年齢者雇用の現状や各種施策など】 ●事例発表【先進的に取り組む企業の事例紹介】 ●ディスカッション ●質疑応答 参加費 無料(事前の申込みが必要となります) 開催スケジュール 下記の表をご参照ください(令和元年8月22日現在確定分) ■開催スケジュール 都道府県 開催日 場所 青森 10月17日(木) 八戸地域職業訓練センター 岩手 10月28日(月) いわて県民情報交流センター 宮城 11月8日(金) 宮城職業能力開発促進センター 秋田 10月24日(木) 秋田テルサ 山形 10月16日(水) 山形国際交流プラザ 福島 10月24日(木) 福島職業能力開発促進センター 茨城 10月24日(木) ホテルレイクビュー水戸 栃木 10月23日(水) 栃木県立宇都宮産業展示館 群馬 11月14日(木) 群馬職業能力開発促進センター 埼玉 10月28日(月) 埼玉教育会館 千葉 10月24日(木) ホテルポートプラザちば 神奈川 10月17日(木) 関内ホール 新潟 10月29日(火) 新潟ユニゾンプラザ 石川 10月24日(木) 石川職業能力開発促進センター 福井 10月16日(水) 福井市研修センター 山梨 10月31日(木) 山梨職業能力開発促進センター 長野 10月16日(水)ホクト文化ホール小ホール 岐阜 10月28日(月) じゅうろくプラザ 静岡 10月16日(水) 静岡職業能力開発促進センター 愛知 10月7日(月) 名古屋市青少年文化センター 都道府県 開催日 場所 三重 10月28日(月) ホテルグリーンパーク鈴鹿 滋賀 10月25日(金) 滋賀職業能力開発促進センター 京都 10月8日(火) 京都労働局 6階会議室 兵庫 10月10日(木) 神戸市産業振興センター 奈良 10月24日(木) ホテルリガーレ春日野 和歌山 10月11日(金) 県民交流プラザ和歌山ビッグ愛 鳥取 11月8日(金) 米子コンベンションセンター 島根 10月23日(水) 松江合同庁舎 岡山 10月15日(火) ピュアリティまきび 広島 10月11日(金) 広島職業能力開発促進センター 山口 10月24日(木) 山口職業能力開発促進センター 徳島 10月4日(金) 徳島県JA会館 愛媛 10月17日(木) 愛媛職業能力開発促進センター 高知 10月29日(火) 高知職業能力開発促進センター 佐賀 10月17日(木) アバンセ第1研修室 長崎 11月1日(金) 長崎ブリックホール国際会議場 熊本 10月16日(水) ホテル熊本テルサ 大分 11月1日(金) トキハ会館 宮崎 10月18日(金) 宮崎市民文化ホール 鹿児島 10月29日(火) 鹿児島県民交流センター 沖縄 11月25日(月) 那覇第2地方合同庁舎 各地域のワークショップの内容は、各支部高齢・障害者業務課(65 頁参照)までお問い合わせください。 上記日程は予定であり、変更する可能性があります。 変更または調整中の府県は決定次第ホームページでお知らせします。 jeed 生涯現役ワークショップ 検索 【P57-58】 10月は「高年齢者雇用支援月間」 参加 無料 2019年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 高齢者雇用に取り組む事業主のみなさまへ  「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」を、下記の日程で本年度も開催します。  本年度は、「高齢社員を戦力化するための工夫」、「継続雇用・定年延長制度」をテーマに、全国6都市(北海道・富山・東京・大阪・香川・福岡)の会場で開催。今号では、3会場のご案内をします(他会場のスケジュールは次号でお知らせします)。  「未来投資会議」において、70歳までの就業機会の確保について提言がなされ、そのなかには制度的なもののほか、高齢者の活躍を促進する環境整備の必要性が示されています。このシンポジウムでは、高齢者雇用の促進に向け、具体的な定年延長等の進め方、高齢者の活躍の促進(戦力化)について、みなさまとともに考えていきます。なお参加費は全会場、無料となっています(事前申し込みが必要)。  高齢者雇用の環境整備に向けた課題へ取り組まれる事業主や、人事担当のみなさまのご参加を、心からお待ちしています 北海道 2019年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 〜人生100年時代 高齢社員戦力化へのアプローチ〜 日時 2019年10月18日(金) 13:00〜16:00 場所 ホテルモントレ札幌 2階「ビクトリアルーム」 札幌市中央区北4条東1-3 定員 130人(先着順) 《プログラム》 講演 「高齢社員の人事管理 60歳代以降を考える」 学習院大学名誉教授 学習院さくらアカデミー長 今野 浩一郎 氏 企業事例 北海道日産自動車株式会社/損害保険ジャパン日本興亜株式会社 パネルディスカッション 「高齢社員を戦力化するための工夫」 申込み方法 「参加申込書」を当機構北海道支部ホームページからダウンロードいただき、北海道支部高齢・障害者業務課あてにお申込みください。 北海道支部ホームページ http://www.jeed.or.jp/location/shibu/hokkaido/index.html 富山 2019年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 〜人生100年時代 高齢社員戦力化へのアプローチ〜 日時 2019年10月25日(金) 13:00〜16:00 場所 ANAクラウンプラザホテル富山 大宴会場 鳳(U、V) 富山県富山市大手町2-3 定員 150人(先着順) 《プログラム》 講演 「高齢社員の人事管理 60歳代以降を考える」 学習院大学名誉教授 学習院さくらアカデミー長 今野 浩一郎 氏 企業事例 株式会社インテック/損害保険ジャパン日本興亜株式会社/株式会社パースジャパン パネルディスカッション 「高齢社員を戦力化するための工夫」 申込み方法 「参加申込書」を当機構富山支部ホームページからダウンロードいただき、富山支部高齢・障害者業務課あてにお申込みください。 富山支部ホームページ http://www.jeed.or.jp/location/shibu/toyama/index.html 香川 2019年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 〜人生100年時代 高齢社員戦力化へのアプローチ〜 日時 2019年10月29日(火) 13:30〜16:30 場所 サンポートホール高松 第2小ホール 高松市サンポート2-1 高松シンボルタワー ホール棟 定員 130人(先着順) 《プログラム》 講演 「60歳代前半層の戦力化と人事管理の整備 ―「知る」仕組みと「知らせる」仕組みの整備―」 玉川大学経営学部国際経営学科教授 大木 栄一 氏 企業事例 株式会社穴吹ハウジングサービス/株式会社マルナカ パネルディスカッション 「高齢社員を戦力化するための工夫」 申込み方法 @参加者のお名前(ふりがな)、A会社名、B役職、C連絡先電話番号(A、Bについては、企業関係者の方のみご記入ください)をメール本文にご記入いただき、メールのタイトルを「シンポジウム申込み」として、 kagawa-kosyo@jeed.or.jp あてにメールをお送りください。香川支部ホームページ http://www.jeed.or.jp/location/shibu/kagawa/37_ks.html お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 研究開発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 http://www.jeed.or.jp/ 主催 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 後援 厚生労働省 【P58】 BOOKS 日本食の知識・教養が身につく「和食の国」の常識百科 外国人にも話したくなる ビジネスエリートが知っておきたい教養としての日本食 永山久夫 監修/ KADOKAWA/ 1400円+税  ユネスコの無形文化遺産に登録され、国際社会でも注目を集めている「日本食」。近年では、外国人とのコミュニケーションにおいて、「なぜ、日本人は蕎麦をすするのか」、「清潔好きなのに、日本人はなぜ寿司を手でつまむのか」などの質問をされることも多くなっている。本書は、そんな日本食にまつわる知識を「仕事の武器になる知的教養」の観点からまとめた日本食の常識百科。本誌「日本史にみる長寿食」の連載でおなじみの食文化史研究家・永山久夫氏が監修し、ビジネスエリートが知っておきたい日本食の知識、歴史、しきたり、マナーがわかりやすくまとめられている。  「いただきます」、「おかわり」といった、ふだん何気なく使っている言葉の意味や、「割箸」に込められた日本人の衛生観念、「懐石料理」の由来などは、ビジネスパーソンが外国人と会食する際に紹介したくなる豆知識になるはず。もちろん、長寿食を長年にわたり研究してきた永山氏ならではの、日本食の知見も満載。「納豆」、「佃煮」、「わさび」などに含まれる栄養や日本人の知恵、歴史的由来などが、楽しく読める構成となっている。知的教養が身につき仕事の武器にもなる好著である。 新しい一歩をふみ出そうとする大人に捧げる、応援の書 もう一度花咲かせよう 「定年後」を楽しく生きるために 残間(ざんま) 里江子 著/ 中央公論新社/ 820円+税  著者はアナウンサー、雑誌記者、編集者を経て、企画制作会社を設立し、山口百恵(ももえ) 著『蒼(あお)い時』の出版を手がけたことでも知られる。映像やイベントのプロデューサーとして、また、テレビやラジオのパーソナリティーとしても有名だ。2007年に静岡県で開催された「ユニバーサル技能五輪国際大会」の総合プロデューサーを務めたことを憶えている読者もいるだろう。  時代の先端で活躍を続けながら、団塊の世代の一人として年齢を重ねてきた著者は、2009(平成21)年に新しい大人の文化創造を掲げて、「クラブ・ウィルビー」という組織を立ち上げた。「旧来の高齢者のイメージを覆し、社会と積極的にかかわっていこうという趣旨で創設した」と、このクラブのことを本書で紹介している。「学ぶ」、「働く」などのテーマで意欲ある大人たちを応援しているほか、シニアの本音をリサーチする活動も開始した。  本書には、著者自身の経験や友人、仕事仲間らのさまざまな姿や日常の出来事を通して、定年後をポジティブに生きていくヒントが綴られている。これからどんな花を咲かせるかを考える手助けになり、「新しい一歩をふみ出して人生を彩りたい」という気力が湧いてくる。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「本体価格」(消費税を含まない価格)を表示します 【P59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「過重労働解消キャンペーン」の実施結果  厚生労働省は、2018(平成30)年11月に実施した「過重労働解消キャンペーン」における重点監督の実施結果をまとめた。  それによると、監督を行った事業場のうち、67・3%に労働基準関係法令違反が認められた。  今回の重点監督は、長時間の過重労働による過労死などに関する労災請求のあった事業場や、若者の「使い捨て」が疑われる事業場などを含め、労働基準関係法令の違反が疑われる事業場を対象に行ったもの。  監督を行った8494事業場のうち、5714事業場(67・3%)に労働基準関係法令違反が認められた。  主な違反内容をみると、違法な時間外・休日労働があったものが2802事業場(全体の33・0%)、賃金不払残業があったものが463事業場(同5・5%)、過重労働による健康障害防止措置が未実施のものが948事業場(同11・2%)となっている。  違法な時間外・休日労働があったもののうち、時間外・休日労働の実績が最も長い労働者の時間数が「月80時間を超えるもの」が1427事業場(2802事業場の50・9%)、「月100時間を超えるもの」が868事業場(同31・0%)、「月150時間を超えるもの」が176事業場(同6・3%)、「月200時間を超えるもの」が34事業場(同1・2%)となっている。  主な業種の違反率をみると、製造業71・9%、建設業64・7%、運輸交通業78・9%、商業64・8%、接客娯楽業67・8%となっている。  一方、事業場規模別の監督指導実施事業場数をみると、最も多かったのは「10〜29人」の2931事業場(全体の34・5%)、次いで、「1〜9人」の2235事業場(同26・3%)、「30〜49人」の1282事業場(同15・1%)、「50〜99人」の975事業場(同11・5%)、「100〜299人」の800事業場(同9・4%)、「300人以上」の271事業場(同3・2%)となっている。  厚生労働省は、違反が認められた事業場に対しては、是正に向けた指導を行ったところであり、今後も、長時間労働の是正に向けた取組みを積極的に行っていくとしている。 【P60】 次号予告 10月号 特集 高齢者が働く職場の創意工夫が集結! 高年齢者雇用開発コンテストT 厚生労働大臣表彰受賞企業事例から リーダーズトーク 横川 竟さん(株式会社高倉町珈琲 代表取締役会長) 〈高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQR コードのリンク先がhttp://www.jeed.or.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには− 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。  URL http://www.fujisan.co.jp/m-elder A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢 春康……サトーホールディングス株式会社人財開発部 人事企画グループ人事企画担当部長 菊谷 寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本 節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 清家 武彦……一般社団法人日本経済団体連合会 労働政策本部 上席主幹 深尾 凱子……ジャーナリスト、元読売新聞編集委員 藤村 博之……法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 真下 陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア 京子……アテナHROD代表、学習院大学特別客員教授 編集後記 ●現役世代の雇用は都市部を中心に構成され、異動や転勤による転居などの可能性をともなうことに対し、高齢者の活躍の場は、本人の体調や、家族の介護などとの兼ね合いから、高齢者自身の居住地を中心とした地域に求められる傾向にあるといわれています。その一方で、少子高齢化により労働力人口の減少が進む地方・地域では、そのにない手として、高齢者への期待も高まっており、健康寿命が延び、就労を希望する高齢者が増加傾向にあることなどを背景に、地方・地域における高齢者の就業を支援する取組みが始まっています。  そこで今回の特集では、地方・地域における高齢者の就業支援を行っている、さまざまな取組み事例を取り上げました。生涯現役社会の実現に向け、高齢者の事情に合わせた柔軟な働き方から、企業の基幹人材として知識や経験を活かしフルタイムで働く事例もあり、就労を希望する「高齢者」にも、多様性があることが見てとれます。今回紹介した取組み事例が、高齢者活用のヒントになれば幸いです。 ●特別企画では、前号に引き続き、2020年4月からの改正法の施行が予定されている、「同一労働同一賃金」をテーマにお届けしました。厚生労働省Webサイトの各種マニュアルや、47都道府県への相談窓口なども活用し、施行に備えていただきますよう、よろしくお願いいたします。 ●4月号からお届けしてきた、「マンガで見る高齢者雇用」の連載は、今号でいったん終了となります。マンガでの事例紹介はいかがでしたでしょうか。みなさまからのご意見・ご感想をお待ちしております。取材にご協力いただいた、トヨタ自動車株式会社、株式会社サウンドファン、ダイキン工業株式会社のみなさまにも、あらためてお礼申し上げます。 月刊エルダー9月号 No.479 ●発行日−−令和元年9月1日(第41巻 第9号 通巻479号) ●発 行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 発行人−−企画部長 片淵仁文 編集人−−企画部次長 中村雅子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2  TEL 043(213)6216(企画部情報公開広報課) ホームページURL http://www.jeed.or.jp  メールアドレス elder@jeed.or.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5  TEL 03(3915)6401  FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-727-5 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験などを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.304 見えないところに「良心」を溶かして接ぐ、溶接の美技 溶接工 石川信幸(のぶゆき)さん(62歳) 「大事なことは、まず『確実さ』。そして『ビード(溶接痕)』がきれいかどうか。ビードを見れば、溶接の良し悪しがわかります」 鉄道車両の整備に欠かせない多くの溶接資格をマスター  JR東日本の社員が約600人、関連会社を含め約1200人が働く、広大な東京総合車両センター。  ここには新系列車両検修西棟、東棟、車修場※1があり、通勤電車の主力E233系※2など、新系列と呼ばれる車両が次々と運ばれてくる。  鉄道車両も車検のように計画的に検査や修繕を実施している。そのため大勢の技術者がいるなか、だれもが一目置く溶接の第一人者がいる。石川信幸さんだ。  18歳で、当時の国鉄に入職し、人気の「ガス溶接」を志した。  溶接の世界には未経験で飛び込み、経験を重ねた。電流をかけて電極間の放電で高温にする「アーク溶接」や、溶接するための金属ワイヤーを自動で送り出すトーチを使う「半自動アーク溶接」、さらに、アルミ溶接、ステンレス溶接といった、車両の修繕に必要な多くの溶接資格を習得した。  そして、2018(平成30)年に東京都優秀技能者(東京マイスター)知事賞※3を受賞。超一流の溶接工である。 奥が深い、溶接の世界両利きがなぜ多い?  溶接の技術は奥が深い。意外だが溶接工には結構な割合で両利(りょうき)きがいるという。  「私は右利きですが、左でも感覚的に同じことができるようにしました。溶接に使うトーチを、左右で同じように使えれば、安全かつ確実に素早い作業が可能です。溶接ではよくあることです」  手作業であり、溶接の向きや姿勢で難易度は変わる。素材や方法も多彩だ。それでも安定した作業品質が必須であり、資格取得者だけに溶接の仕事が許可される。  取材中に台車のブレーキテコ受に補強板を溶接していた若い社員も、石川さんから指導を受けて努力を重ね、資格を得た一人だ。溶接に向いているのは、意外にも不器用な人だと石川さんはいう。  「溶接は一生懸命練習して徐々にうまくなります。女性もていねいさをプラスにできます。ただ、技術を全部覚えるには結構な年数が必要。最低で3〜4年、しっかり覚えるには10年かかります」  つまり、容易には人材が養成できない。これからも安全に鉄道の車両を走らせていくには、将来の人材も育てなければならない。  石川さんは「まだ若い者には負けません」と、気力も充実しているが、アドバイザーとしての使命も意気に感じている。  鉄製からステンレス製へと車体の素材は進化した。ガス溶接から半自動アーク溶接へと手段も変わった。しかし、溶接は、あくまで素材に応じた方法を使いわけるのが鉄則だ。たとえば、鋳物(いもの)の場合には半自動アーク溶接より、ガス溶接のほうが適している。だが、ガス溶接の技術はむずかしく、いまも石川さんのところに依頼が来る。 工夫してつくる良心で溶接する  国鉄からJR東日本になっても、現場では脈々と受け継がれている二つのことがあるという。一つは「ないものは、工夫してつくる」という自主性。会議室のスチール製のロッカーには枠づきの台車がついている。「こういうのがないか」と、前例などなくても頼まれる。それに応える。必要なものは何でもつくる。そうでなくては現場が円滑に回っていかない。  もう一つは「良心で溶接する」という先輩からの教えである。  「溶接が2層3層と重なると後から見てもわかりません。だから、溶接には良心が必要です」  そう話す石川さんには、さらに強みがある。これまで溶接の競技会に何度も出場し、優勝経験もあるので、いまでも競技会場に顔なじみが多く、「あの溶接棒の素材、使ってみてどうだった?」などと社外の方と業種の垣根を越えて話すという。向上心は年の差も越え、若い社員も石川さんから技術の指導を受ける。技術者の志と志との交わり。そこに火花が走れば、異なる素材も接つげるだろう。 東日本旅客鉄道株式会社 東京支社 東京総合車両センター 東京都品川区広町2丁目1番19号 (撮影・福田栄夫/取材・朝倉まつり) ※1 車修場……車両工場のこと ※2 JR東日本が開発・保有する車両系統 ※3 石川さんは、「電気溶接・ガス溶接をはじめとする鉄道車両組立・修理に関する技能に優れ、車両の新造に加え、修繕や改造も担当するとともに、多くの改善活動を行い車両メンテナンス効率の向上、安全安定輸送の確保に寄与している。JIS溶接検定の指導員として、毎年約50名を合格に導き、後進技能者の育成に貢献している」として表彰された 写真のキャプション 横向き溶接の練習を見守る石川さん(左)。電流と電圧のバランスに留意し、手持ちのトーチから出てくる溶接棒(ワイヤー)をあてなければならない作業だ 首都圏の通勤電車「新系列車両」が運ばれていく構内 鉄製の台車。鉄道の車両は車体と台車から構成される 半自動アーク溶接のトーチ先端。溶接棒のワイヤー このトーチをどう当てていくか。ねらい、角度、そしてスピード。見てわかるよう、具体的に図を描いて教えている石川さん 石川さんに溶接を教わった若手とともに、これからの鉄道を支えていく 車修場での修繕風景。台車を傾け、補強用パーツを溶接していた 【P64】 イキイキ働くための 脳力アップトレーニング!  今回は体を使った脳トレです。左右で違う動きをするのをコントロールすることで、脳の前頭前野が鍛えられます。今回紹介するのはみんなで行う方法ですが、一人で行うときは同じ動作を10回くり返したら切り替えます。 第28回 体を使ったレクリエーション 《すりすりトントン》 @ 参加者のなかでリーダーを一人決めます。 参加者はリーダーの方を向き、まず左手でお腹をさすり、右手で頭を軽くたたく動作をします。 A リーダーが「せーの!」と合図を出したら、今度は左手で頭を軽くたたき、右手でお腹をさする動きに切り替えてください。 次の合図で、また左右の手の動作を切り替えます。これをくり返し、1分程度行います。 ※リーダーが「もっと速く!」とスピードアップをうながすと、よりむずかしくなります。 ※慣れてきたら、「もしもしカメよカメさんよ♪」などの童謡を歌いながら行うと盛り上がります。 レクリエーションは脳によい  脳の働きを高めるには、人とのかかわりやコミュニケーションを増やすことも大事だと考えられています。  仲間と一緒に楽しめるレクリエーションは、まさにそのためのトレーニングとして最適です。みんなで楽しみながら行うことで、前頭前野が活性化するのはもちろん、他人の気持ちを読み取ったり、相手の動作や視線からタイミングを計ったりする機能にかかわる「側頭頭頂接合部」の活動が高まります。  レクリエーションを楽しんだ人ほど、線条体が刺激されて、脳が活性化します。子どもに返ったつもりで、ワイワイにぎやかに遊ぶことが、脳トレ効果を高めるコツです。  今回の脳トレでは、おもに頭頂連合野と前頭連合野が活性化します。頭頂連合野は位置関係を把握する部分で、ここを鍛えると車の車庫入れや収納が上手になります。前頭連合野(特に内側)とそこに接している前部帯状回の活動低下は「物忘れ」や「ど忘れ」の原因と考えられるので、ここを鍛えて物忘れなどの予防につなげましょう。 今回のポイント 合図に合わせて、左右の手の動きを切り替えるゲームです。うまくいかなかったら一休みしてチャレンジしましょう。 睡眠を挟むと上達が早まります。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2019年9月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒780-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価(本体458円+税) 10月は「高年齢者雇用支援月間」です 高年齢者雇用開発フォーラムのご案内 (高年齢者雇用開発コンテスト表彰式)  厚生労働省との共催により、高年齢者が働きやすい職場環境にするために企業などが行った創意工夫の事例を募集した「高年齢者雇用開発コンテスト」の表彰式および記念講演を行います。また、コンテスト入賞企業などによる事例発表や、学識経験者を交えたトークセッションを実施し、企業における高年齢者雇用の実態に迫ります。「人生100年時代」のなかで、「年齢にかかわらずいきいきと働ける社会」を築いていくために、企業や個人がどのように取り組んでいけばよいかを一緒に考える機会にしたいと思います。 日時 令和元年10月3日(木)11:00〜16:10 受付開始10:00〜 場所 イイノホール(東京都千代田区内幸町2-1-1 飯野ビル) 東京メトロ日比谷線・千代田線「霞ヶ関」駅 C4 出口直結 東京メトロ丸ノ内線「霞ヶ関」駅 B2 出口徒歩5分 定員 400名(先着順・入場無料) 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 地域ワークショップのご案内  高年齢者雇用にご関心のある事業主や人事担当者のみなさま! 令和元年度の未来投資会議で、盛んに議論されている高年齢者雇用にご興味をお持ちの方も多いのではないでしょうか。当機構では各府県支部が中心となり、生涯現役社会の実現に向けた「地域ワークショップ」を開催します。事業主や企業の人事担当者などの方々に、高年齢者に戦力となってもらい、いきいき働いていただくための情報を提供します。各地域の実情をふまえた具体的で実践的な内 容ですので、ぜひご参加ください。 概要 日時/場所 高年齢者雇用支援月間の10月を中心に各地域で開催 カリキュラム (以下の項目などを組み合わせ、2〜3時間で実施します) ●専門家による講演【高年齢者雇用に係る現状や各種施策など】 ●事例発表【先進的に取り組む企業の事例紹介】 ●ディスカッション ●質疑応答 参加費 無料(事前の申込みが必要となります) 開催内容の詳細およびお申込みについては、本誌54〜55頁をご参照ください。 2019 9 令和元年9月1日発行(毎月1回1日発行) 第41巻第9号通巻479号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会