【表紙2】 『65歳超雇用推進事例集(2019)』を作成しました 65歳以上定年企業、65歳超継続雇用延長企業の制度導入の背景、内容、高齢社員の賃金・評価などを詳しく紹介した『65歳超雇用推進事例集』を作成しました。 継続雇用延長を行った企業の事例を増やすとともに、賃金・評価制度についての記述を充実し、新たに23事例を紹介しています。 23事例を紹介 図表でもわかりやすく紹介 索引で検索 この事例集では、65歳以上定年制、雇用上限年齢が65歳超の継続雇用制度を導入している企業について ●定年、継続雇用上限年齢の引上げを行った背景 ●取組みのポイント ●制度の内容 ●高齢社員の賃金・評価  −などを詳しく紹介しています。 ★制度改定前後の状況について表で整理しました ★企業の関心が高い賃金・評価・退職金などの記載を充実しました! 事例を大幅に入れ替えた『65歳超雇用推進マニュアル(その3)』もつくったよ 事例集は、ホームページでご覧いただくことができます。 http://www.jeed.or.jp/elderly/data/manual.html 65歳超雇用推進事例集 検索 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.54 「いつも新鮮、いつも親切」でいれば年齢にかかわらず活躍できる 株式会社高倉町珈琲 代表取締役会長横川 竟さん よこかわ・きわむ 1937(昭和12)年生まれ。1962年に兄弟4人で食料品スーパー「ことぶき食品」を創業。後に事業転換を図り、1970年にすかいらーく1号店をオープン。子会社である株式会社ジョナス(ジョナサン)代表取締役社長、すかいらーく代表取締役会長兼最高経営責任者などを務める。2008年にすかいらーくを離れ、2013年に高倉町珈琲1号店をオープン。  日本の外食産業を牽引してきた「すかいらーく」。その創業者の一人、横川竟さんは現在81歳。2008(平成20)年にすかいらーくを離れましたが、2013年、75歳で新たな外食チェーン「高倉町(たかくらまち)珈琲」を創業しました。現在も経営の最前線に立ち、同社では20〜60代の従業員が年齢にかかわらず活躍しています。日本を代表する経営者であり、生涯現役を実践する横川さんに、65歳超雇用時代の経営についてお話をうかがいました。 「レストラン」とは、みんなに楽しさ、喜び、豊かさを分かち合ってもらう場所 ―「すかいらーく」の創業者として日本の外食産業を切り開いてこられた横川さんが、すかいらーくグループのトップを退かれたのが70歳。一般的には現役引退の年齢ですが、高倉町珈琲を75歳で起業されました。その思いをお聞かせください。 横川 私は、レストランはただ食事をする場所というだけでなく、お客さんに楽しさや健康、安全などのプラスアルファを提供するところだと考え、「すかいらーく」や「ジョナサン」などの店を立ち上げ、育ててきました。しかし平成の30年間に外食産業で起きたことは、安さだけを追い求める価格競争で、お店から楽しさが失われ、ただの食堂になってしまいました。もう一度原点に立ち返り、レストランとはこうあるべきだというものを世の中に示したい。70歳をとうに過ぎてはいましたが、自分が生涯をかけてやりたかったことが実を結ばないまま、引退するわけにはいかないという強い思いがありました。私と志をともにする昔の部下や周囲の人たちから「もう一度やろう」との声が寄せられたことも、大きな後押しとなりました。 ―東京都八王子市の高倉町に1号店を出店したのが2013(平成25)年。いまは関東地区を中心に、フランチャイズ店を含め全国に23店舗を展開されています。どのようなことを大切にして、経営をなさっていますか。 横川 私が若いころからずっと追い求め、いまも追い続けている経営の理念は、「世の中の役に立つ商売をする」ことです。お客さん、働く人、取引先、土地を貸してくれる人、地域の人、そして株主など、商売とかかわりのある人たちみんなに、楽しさ、喜び、豊かさを分かち合ってもらえる経営を目ざしてきました。それは「公益資本主義」という考え方に近いと思います。儲けだけを追求し、株主への配分ばかりに重きをおく「金融資本主義」の経営とは別の道です。 ―そのような経営理念を現場の社員に、特に次代の経営を背負うリーダーたちに浸透させることが会社の存続と成長には不可欠だと思いますが、どのようにお考えですか。 横川 私は「商売は、時代に合わせた変化はするが、原則は変わらない」と考えています。17歳で築地の仲卸問屋で修業を始め、半世紀以上も商売にたずさわってきたなかで、予想もできなかった大きな変化を数多く経験してきました。しかし、商品や技術などが変わっても、商いの精神、つまり経営理念は少しも変わらないし、経営者として変えてはいけないものです。  経営理念とはレールのようなもの。レールの上を走る機関車が商品です。レールの上を走るものは常に変化していき、時代に合わせて変えていかなければなりません。でも、それを導くレールが変わってしまったら、機関車は脱線します。これまで多くの会社が盛衰(せいすい)をくり返してきました。その多くは、創業者が敷いたレールを、その後を継いだ経営者が変えてしまったために、会社がダメになったのです。例えばレールの方向を変えようとか、レールの幅を広げようとか……。そんなことをしたら、たちまち機関車は脱線し、会社は傾きます。  商品やサービス、技術や方法は社会の変化に合わせて柔軟に変えていく必要がありますが、大事なのは、変えるべきでない「経営の思想や理念」を確実に受け継ぐことができるよう、後継者を育てることです。 経営理念はレールのようなもの向きや幅を変えたら機関車は脱線する ―もう次の世代にバトンを引き継げる用意はできていますか。 横川 いまの私は、気力も体力も衰えたという自覚はまだありませんが、さすがに90歳を迎えるころまで同じ状態を維持することはできないでしょう。しかし、三十数名の社員のうち、数人は1号店のときからの仲間で、私と商売の思想を共有しています。その後、外食業界の経験者や異業種からの人が、この会社の理念に共感し、特に求人活動もしていないのに訪ねてきて入社しました。彼らは見習い期間を経て、店長や調理場のチーフ、本部スタッフといった幹部になっています。  ですからいまは、20から30くらいの駅ができてレールを守る人がいて、機関車を走らせている状態です。将来はフランチャイズ店を含めて150店舗くらいまで増やす予定です。つまり、駅の数はさらに増えます。いま店長には20代から60代まで幅広い年齢層の人がいます。理念とする価値は現場で発現するものなので、現場のトップである店長を中核として、地域ごとに採用するパートタイムのクルーを育成する。マニュアルはありますが、現場で適切な判断をして柔軟に運用します。  社長、部長、店長、社員など、いろいろなポジションがありますが、それは商売をするための役割の違いにすぎません。それぞれの立場の人が、それぞれの役割を遂行するなかで、「レストランとはこうあるべきだ」という理念を共有し、追い続け、実を結ばせてい く。そういう形ができ上がりつつあります。 ―クルーを含めて500名ほどの方が働いていて、そのうち社員は三十数名とのことですが、60代以上の社員はどれくらいいらっしゃいますか。 横川 最高齢(81歳)の私を含めて十数名です。本部のスタッフが多いですが、店長やチーフとして、または工場など、現場の第一線で指揮をとっている人もいます。世間では65歳まで継続雇用などという話題に花が咲いていますが、私から見れば65歳なんて年寄りでも何でもありません。 「サラリーマンではなく商売人」働く意識のありようが問われる ―60代以上の社員に対してそのような受け止め方をされているので、「60歳を過ぎても活躍できる条件は?」という定番の質問がしづらいのですが……(笑)。 横川 私は、サラリーマンをモデルとした会社や社会の仕組みが、日本の会社や社会をダメにしてきたと思っているのです。少なくとも私が求めている仲間は、商売人であってサラリーマンではない。定年制というのはサラリーマンの典型的な仕組みですね。  サラリーマンと商売人とはどう違うか。サラリーマンはいわれたこと、決められたことを、期待された通りにやりこなすことが求められます。それに対して商売人は、すべてのことを自分で考え、行動し、その結果をすべて自分で引き受けます。サラリーマンは決められた定年が来たら退職しますが、商売人は何歳で引退するかは自分で判断して決めます。サラリーマンは、そのときやるべき仕事をやりますが、商売人は将来を見て、いま何をすべきかを考えます。  60歳を過ぎても活躍できるかどうかは、それまでの長い年月を、どのような意識で働いてきたかにかかっています。サラリーマンの意識で、いわれたことだけをやり、いまのことだけを考えて仕事をしてきただけでは、周りからお荷物としか受け止められないような存在になりかねません。若いうちから、「自分はどのように役に立つ存在になれるか」、「そのためにどのような能力を磨くべきか」と考え、努力を怠らないことです。 ―ベテランの技術や知識を若い世代に伝えていくことも、高齢者の重要な役割ですね。育ってきた時代の違いからくる世代間のコミュニケーション・ギャップに悩む高齢者もいるようです。 横川 生まれたときからインターネット環境があった世代がもう30代だと考えると、そんな悩みもあるかもしれませんが、根底にある商売の思想は変わらないので、それほど深刻な問題とは考えていません。むしろ、インターネット環境が発達したことによって、会社がなくても、工場がなくても、いい換えればサラリーマンにならなくても商売ができるような時代になり、そのような技術を使いこなす若い世代から新しい商売が始まりつつあることに期待感を持っています。 ―いまなお商売について情熱的に語られる横川さん。まさに「生涯現役」のお手本だと強い刺激を受けました。 横川 私は「いつも新鮮、いつも親切」という言葉を大切にしています。心身ともに「いつも新鮮」、つまり新しいことに興味を持ち続ける。年を取ると体は多少弱りますが、心は年を取りません。そして「いつも親切」というのは、何をすればだれかの生活をより豊かにすることができるかを、いつも考えて行動する、ほかの人の役に立つということです。どちらも「いつも」そのようであれ、というところがポイントです。健康や体力を維持するために特別なことをしているわけではありませんが、このような心構えを忘れずに生きてきたので、あまり年齢を意識せずに考え、行動できているのではないでしょうか。 (聞き手・文/労働ジャーナリスト 鍋田周一撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 2019 October ●表紙のオブジェ イラストレーター 柳田ワタル(やなぎだ・わたる) 1947年 大阪府堺市生まれ。1970年 多摩美術大学卒業。アニメーション制作会社勤務ののち、1974年よりフリーのイラストレーターとなる。1977年よりオブジェ、立体クラフトなどの制作を開始。90年代からは写真撮影も始める。 特集 6 高齢者が働く職場の創意工夫が集結! 2019年度 高年齢者雇用開発コンテストT 厚生労働大臣表彰受賞企業事例から 7 審査委員長からのメッセージ 法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 教授 藤村博之 8 最優秀賞 医療法人社団 五色会(香川県坂出市) 12 優秀賞 株式会社 建設相互測地社(福島県郡山市) 松川電氣 株式会社(静岡県浜松市) 社会福祉法人 いろどり福祉会 ケアハウス・在宅複合施設花紬(三重県津市) 24 特別賞 株式会社 ムジコ・クリエイト(青森県弘前市) 株式会社 アパレルオオタ(長崎県南島原市) 32 2019年度 高年齢者雇用開発コンテスト 入賞企業一覧 1 リーダーズトーク No.54 株式会社高倉町珈琲 代表取締役会長 横川 竟さん 「いつも新鮮、いつも親切」でいれば年齢にかかわらず活躍できる 34 江戸から東京へ 第85回 「畸人伝」になぜ入れないか ―伴蒿蹊と上田秋成― 作家 童門冬二 36 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第66回 NPO法人シニア大樂 講師 鈴木貞夫さん(73歳) 38 高齢者の現場 北から、南から 第89回 長崎県 株式会社松尾青果 42 高齢社員の磨き方 ―生涯能力開発時代へ向けて― 最終回 溝上憲文 46 知っておきたい労働法Q&A《第18回》 労働条件の統一、育児休業後の契約切り替え 家永 勲 50 科学の視点で読み解く 身体と心の疲労回復[第5回] 渡辺恭良 52 お知らせ 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウムのご案内 地域ワークショップのご案内 55 日本史にみる長寿食 vol.313 ゴマは現代人の兵糧丸 永山久夫 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.305 時代の波を乗り越えて輝き続ける美しい木造船 船大工職人 兄・佐野龍太郎さん 弟・佐野稔さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第29回]順に数字を探す 篠原菊紀 【P6-7】 特集 高齢者が働く職場の創意工夫が集結! 2019年度 高年齢者雇用開発コンテストT 厚生労働大臣表彰受賞企業事例から 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、厚生労働省との共催で、「高年齢者雇用開発コンテスト」を毎年開催しています。 これは、生涯現役社会の実現に向け、職場環境の改善や新しい職務の創出など、創意工夫を重ね、高年齢者が活き活きと働ける職場づくりを実現した事例を募集し、優れた取組みを表彰するものです。 2019年度は、厚生労働大臣表彰6編、高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞7編をはじめとする30編の表彰事例を決定しました。 本誌では、10月号と11月号の2回に分けて、コンテストの表彰事例を特集し、今月号では、厚生労働大臣表彰受賞企業事例をご紹介します。 審査委員長からのメッセージ 高齢者を主戦力としてとらえ能力が発揮できる職場環境整備の取組みを評価 法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 教授 藤村 博之  「2019年度高年齢者雇用開発コンテスト」の審査が終了しました。審査委員を代表し、応募いただきましたすべての企業・団体の関係者のみなさまに厚く御礼申し上げます。今回は全国から101編の応募を受け、厳正な審査の結果、厚生労働大臣表彰は、最優秀賞1編、優秀賞3編、特別賞2編、また、高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰は、24編が入賞を果たしました。  最優秀賞を受賞した医療法人社団五色会(ごしきかい)(香川県)は、ワーク・ライフ・バランスの実現に重点を置き、高齢者を含むすべての職員が働きやすい環境整備に努めています。70歳超の就業を可能とする体制を構築するとともに、全職員を対象とする面談を通して、制度の充実や作業環境の改善に現場の声がしっかり反映されていることも高く評価されました。  優秀賞の株式会社建設相互測地(そくち)社(福島県)は、若手育成や技術継承、品質チェック機能など高齢者の役割を明確化し、同時に高齢者が中心になって「仕事の見える化」にも取り組んでいます。柔軟な勤務形態の導入や、健康管理に先進的な検査項目を加味していることも評価のポイントです。  同じく優秀賞を受賞した松川電氣株式会社(静岡県)は、人を大切にする社風のもと、定年後は運用により上限年齢を設けず働くことが可能で、人事評価制度の導入や雇用期間の無制限化、あるいは現役のままの賃金水準など、生涯現役で働ける環境の整備によって高齢者の戦力化を実現しました。  同じく優秀賞の社会福祉法人いろどり福祉会(三重県)は、91歳の現役看護師の存在を生涯現役のシンボルとし、高齢者が元気に長く働ける職場づくりを目ざして、賃金レベルの引上げなどに取り組んできました。また、介護負担軽減のための作業環境の改善が高齢者の戦力化につながっています。  特別賞を受賞した株式会社ムジコ・クリエイト(青森県)は、生涯現役を可能にする職場づくりを目ざし、制度の改正や意識・風土の改善に積極的に取り組み、再雇用後も業績が賃金に反映される仕組みを構築。シニアスタッフの働く意欲の向上につながりました。  同じく特別賞の株式会社アパレルオオタ(長崎県)は、多能工化により高齢従業員の戦力化を実現しました。従業員が経営に参画する意識が高まり、積極的によりよい職場環境づくりを進めるなかで、生産性向上を達成したことも評価されました。  中小企業を中心に65歳超の雇用が進展をみせるなか、今回の審査では、65歳以降も、加齢による体力の低下などを補いながら、高齢者自身が持つ能力を最大限に引き出せる仕組みづくりが進んでいることを感じました。年齢にかかわりなく活躍できる環境を整えるためには、画一的な対応ではなく、一人ひとりの高齢社員と向き合い、個別に対応していくことが欠かせません。受賞企業の取組みを参考に、生涯現役職場がさらに広がっていくことに期待しています。 【P8-11】 2019年度 高年齢者雇用開発コンテスト 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 高齢者の豊かな経験を活かし心に寄り添う医療・介護・福祉サービスを実現 医療法人社団 五色会(ごしきかい)(香川県坂出市) 企業プロフィール 医療法人社団 五色会 (香川県坂出市) ◎創業 1978(昭和53)年 ◎業種 医療業 ◎職員数 454人 (内訳) 60〜64歳 39人(8.6%) 65〜69歳 13人(2.9%) 70歳以上 5人(1.1%) ◎定年・継続雇用制度 定年は65歳。制度として70歳まで再雇用。運用により一定条件のもと上限年齢なく再雇用。現在の最高年齢者は82歳 T 本事例のポイント  1978(昭和53)年、香川県坂出(さかいで)市で「五色台病院」としてスタートを切り、1996(平成8)年に「医療法人社団 五色会」に名称を変更した。開業以来、「健康と心のふれあい」をモットーに、医療・介護・福祉サービスを提供し、地域に根ざした医療機関として、地域社会に貢献している。  2000年ごろから、病院や老人介護施設、障害者福祉施設の増設が進み、人材の確保が急務となったことから、まずは若年者の定着に重点を置いた制度や環境の整備に着手。さらに常に人材不足だったことから、経験豊かな高齢者の雇用推進の取組みをスタートさせた。以来、勤労意欲の高い高齢職員がその能力を十分に発揮して、長く働くことができる職場環境づくりに一丸となって取り組んでいる。 《POINT》 (1)慢性的な人手不足のもと、豊かな業務経験を持つ高齢職員の活用が不可欠になり、定年年齢、雇用上限年齢の引上げを実施した。 (2)短時間正職員制度の導入や賃金制度の改善によって、勤労意欲が高い高齢職員が長く働き続けられる環境を整備した。 (3)全職員が所属長と行う「個別ミーティング」は、職員が職場で気になる問題点を指摘したり改善案を提案できる場となっており、職員が創意工夫をしながら仕事に取り組むようになり、モチベーション向上につながっている。 (4)腰痛対策のために機械入浴槽を導入するなど、高齢職員の身体の負担軽減を考えた業務改善を実施している。また、体力や能力に応じた配置転換も進めている。 U 企業の沿革・事業内容  1978年9月、精神科医の創業者が「五色台病院」を開業、1982年には「医療法人社団五色台病院」を設立した(2017年11月「こころの医療センター五色台」に名称変更)。1996年に「医療法人社団五色会」に法人名称を変え、同年、介護老人保健施設を開設した。1999年には、精神障害者生活訓練施設を開設、また、2001年には有料老人ホーム「やすらぎホームさぬきのくに」を開設するなど坂出市内に業容を拡大していった。その後、メンタルクリニックや精神障害者のグループホームの開設などに着手、現在は坂出市・高松市内に病院・診療施設4カ所、社会福祉施設4カ所、高齢者施設4カ所(うち1カ所は株式会社)、保育施設1カ所を運営している。  開業以来、「地域に溶け込み 笑顔で心を治療する」ことを理念に掲げ、地域精神科医療の中核的な役割をになっている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  2000年ごろより、病院、老人介護施設、障害者施設を増設するなどの業容拡大にともない、職員数が大幅に増加した。現在は454人の職員を擁(よう)するが、そのうち60歳以上の高齢職員は57人(男性28人、女性29人)で、全体の12・6%を占めている。当初は若年層の人材確保に重点を置いたが、福祉分野の需要の拡大につれ、採用難による人手不足が慢性的な状況になり、長年の業務経験を持つ高齢職員の活用が不可欠になっていた。  こうした状況のもと、勤労意欲の高い高齢職員の人材確保のために、2014年11月に、定年年齢を60歳から65歳に引き上げ、さらに70歳まで継続雇用する制度を導入した。また、高齢職員が長く働くことができる環境づくりを目標に掲げ、2016年1月に短時間正職員制度を導入、柔軟な働き方を実現し、生涯現役で働くことを可能とする道を開いた。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善・定年制度の改定  2014年11月に定年を65歳、継続雇用の上限年齢を70歳に引き上げたが、それにともなう人事管理制度や役職については、従前の制度を継続している。基本給の支給水準は、定年時の水準が雇用上限年齢まで適用されるが、昇給は行われない。  また、役職については、原則として定年前の役職が継続されるが、人事評価で役職に求められる職責が果たせなくなった場合は外れる。さらに、高齢職員が継続雇用の上限年齢に達した後も継続雇用を希望する場合、一定の条件を設けて年齢の上限のない勤務延長を実施しており、現在の最高年齢者は82歳である。 ・短時間正職員制度の導入  従来より職員の希望に応じて、個別に柔軟な働き方(短時間、短日)に対応してきたが、2016年より短時間正職員制度を導入した。制度の利用を希望する全職員を対象にしており、実施手続きとしては、本人の申請をもとに所属長と理事長が検討して決定する。なお、賃金(基本給と賞与)はフルタイム勤務を基準とした時間比率で減額されるが、同制度利用後のフルタイム勤務への復帰の道も開かれている。  同制度の導入の結果、本人に就業意欲があり、肉体的・能力的に支障がなければ、年齢の上限なく働ける環境が整備され、高齢職員のモチベーションの維持・向上につながっている。 (2)高齢職員を戦力化するための工夫・機械設備の導入  高齢職員の戦力化にあたっては、それぞれの体力や能力に応じた業務改善や配置転換が課題であった。業務のなかでも、とりわけ体力の負荷がかかる入浴介助について、高齢職員の腰痛対策として「機械入浴槽」を導入した。要介護者が車椅子に座ったまま、あるいはベッドに横になった姿勢で入浴させることができるため、介護度の高い患者の入浴介助の負担が軽減し、高齢職員の負担の軽減にもつながっている。 ・業務改善  高齢職員が現役で働き続けられる環境を整備するため、高齢職員の意見を反映させた業務改善を実施し、高齢職員は体力や能力に応じた業務を担当することが可能になった。  例えば、体力が必要な外出レクリエーションの引率を軽減し、定型作業に担当を替えた。一方、リハビリやレクリエーションにおいて高齢職員のアイデアや知識を活かしてプログラムを開発するなど、高齢職員の活躍の場は広がっている。  また、写真や図を活用した作業手順の掲示、伝達ミスをなくすための紙面による仕事の指示など、作業手順の改善を推進するなか、高齢職員が働きやすい環境の整備が進み、能力や経験を活かした仕事を続けることが可能になった。 (3)意識・風土の改善・改善提案制度の導入 同法人の院長を兼務する現理事長が就任した2007年から、仕事の方法や法人内環境に関する問題点の指摘や改善案を職員が提案する「個別ミーティング」を、年4回実施している。各職員が所属長と個別に行う面談で、各職員には改善案の提出が義務づけられており、職員自ら創意工夫をして仕事をするようになるなど、モチベーションの向上につながっている。また、優れた改善案は、所属長、所属部長が参加する「院長ミーティング」で共有され、よりよい職場環境の創出につながっている。 ・職場コミュニケーションの推進  職員間のコミュニケーションを円滑にするため、法人全体の忘年会やバーベキュー大会を実施しているほか、職場単位での職場交流会に対し金銭補助を実施している。コミュニケーションが円滑になることで高齢職員が孤立する場面が減少しており、楽しく前向きに仕事ができるという声が上がっている。 (4)能力開発に関する改善・顧問制度による後継者育成  高齢職員の技術を現役職員に継承するため顧問制度を導入、顧問となった高齢職員は後任の教育・育成に努めている。具体的には、アニマルセラピーのための馬の世話や厩(うまや)の管理、リハビリ、レクリエーションのための陶芸やピザ窯(がま)づくり、ピザやパンの製造など、特殊技能を持った職員を「顧問」という肩書で配属し、持っている技術を現役職員に継承している。 ・トレーナー制度の導入  新規に採用した60歳以上の高齢者の定着を促進するためにトレーナー制度を導入した。高齢職員が教育担当を務め、採用後、日誌による指導を1カ月間、毎日実施する。この制度の導入により、新規採用の高齢職員に対して充実した教育が行われ、未経験の高齢者であっても、戦力として長く働き続けることが可能となった。 ・若手職員とのペア就労  高齢職員の体力的・精神的負担の軽減と、仕事を通じた知識・技能の継承を目的に、若手職員とのペア就労を所属長の指示のもと実施している。  例えば、寝たきり患者の褥瘡(じょくそう)(床擦(とこず)れ)防止のために行う背抜き※業務は、体力的な負担がともなう作業であると同時に、経験も必要な業務であるが、高齢職員にとっては体力的に厳しく、若手職員にとっては経験が浅いため作業を適切に行えないケースがみられる。そこでペアを組み就労させることで、高齢職員の負担が軽減される一方、若手職員は高齢職員の指導を受け経験を積むことができる。  これらの取組みにより、高齢職員は仕事に対する誇りを持てるようになり、モチベーションの維持が図れるほか、ペア就労が生み出す技術継承の実績は、人材育成にも大きな役割を果たしている。 (5)健康管理・安全衛生  健康管理の取組みとしては、永年勤続表彰の適用範囲の拡大があげられる。永年勤続表彰は勤続10年から5年ごとに実施し、対象者には副賞として海外旅行券の支給と特別休暇の付与を行っていたが、これまで65歳以上の高齢職員は適用外であった。2011年から65歳以上に適用を拡大し、その結果、高齢職員は自身の健康管理に留意して永年勤続表彰を目ざすようになり、健康に対する意識が向上した。  また、横になれる畳の休憩室を設置。休憩時間にゆっくりと休めることで、高齢職員の体力の回復が図れている。さらに、2019年から建物内を全面禁煙とすることで、受動喫煙による健康被害の防止を推進している。 (6)高齢職員の声  Aさん(71歳、男性)は、42歳から看護師として勤務、70歳まではフルタイムで働いていた。現在はセラピーガーデンの管理を担当。ホースセラピーのためのポニーの世話やピザ窯づくりの技術を、現役職員に継承している。海外暮らしが長く、帰国してから看護師資格を取得した苦労人で、看護師学校の教員の経験もある。「私は好奇心が強いので、これから先もさまざまなことに挑戦していきたい」と話す。  また、Bさん(70歳、女性)は51歳のとき、専業主婦から看護アシスタントとして勤務をスタートさせ、働きながら介護職員初任者研修を修了。現在は看護アシスタントリーダーとして病院内の環境整備や看護アシスタントへの指導を担当している。「高齢の患者さんのリハビリになればと、趣味を活かして手芸を教えることもあります。患者さんはもちろん、若い職員さんとの会話が楽しく、毎日元気に働かせてもらっています」と語る。 (7)今後の展望  「誰もが社会に参加しステップアップできる」よう、病院や施設を利用されるみなさんの心にしっかり寄り添い、医療・介護・福祉サービスのさらなる充実を目ざす同法人は、高齢職員の能力や体力の低下を補う機械設備を積極的に導入し、高齢職員が長く元気に働ける職場環境の整備を進めていきたいと考えている。新たな課題に向かって不断の努力が続く。 ※ 背抜き……要介護者の背中とベッドの間に手を入れて圧を分散し、褥瘡を防止すること キャプション こころの医療センター五色台 車椅子に座ったまま入浴できる「機械入浴槽」 セラピーガーデンの管理を担当しているAさん 【P12-15】 2019年度 高年齢者雇用開発コンテスト 厚生労働大臣表彰 優秀賞 高齢者の役割を明確にしだれもが働きがいのある職場を創出 株式会社 建設相互測地社(福島県郡山市) 企業プロフィール 株式会社 建設相互測地社 (福島県郡山市) ◎創業 1969(昭和44)年 ◎業種 専門サービス業(補償コンサルタント業) ◎従業員数 32人 (内訳) 60〜64歳 3人(9.4%) 65〜69歳 5人(15.6%) 70歳以上 2人(6.3%) ◎定年・継続雇用制度 定年65歳。就業規則などにより一定条件のもと、年齢上限なく再雇用。現在の最高年齢者は81歳 T 本事例のポイント  株式会社建設相互測地社は、1969(昭和44)年に創業した。先代社長のもと測量業の登録を行い業務を開始。1984年には補償コンサルタント業の登録をし、現在、補償コンサルタント業務全8部門を中心に、測量・建築設計業務を通して地域社会に貢献している。  業界共通の課題として若年技術者の養成が急がれるなか、高齢従業員を主戦力としてとらえ、高齢従業員の能力が十二分に発揮できる雇用環境の整備を目標に掲げ、制度の構築や技術継承システムづくりに取り組んできた。 《POINT》 (1)2011(平成23)年4月、「継続雇用者が働きやすい柔軟な雇用形態制度(短時間勤務、隔日勤務)」を導入した。 (2)高齢従業員の活躍機会の拡大を図り、若手育成、技術継承、工程管理の総括管理業務など、高齢従業員の役割の明確化を図った。 (3)各部門すべての作業手順について、高齢従業員が中心となり、作業手順書やマニュアルを作成、「仕事の見える化」に取り組んだ。 (4)ドローン技術を導入し、屋外における測量時の現場リスクの回避と作業負荷軽減に着手した。 (5)全従業員対象の人間ドック時に、頸動脈(けいどうみゃく)超音波検査を実施するほか、事務所に血圧計を設置するなど疾病の早期予防対策を強化している。 U 企業の沿革・事業内容  同社は、今年で創業50周年を迎えた。1969年に先代社長のもと測量業登録を行い、その後補償コンサルタント業、用地補償や測量調査の分野で業容を拡大してきた。  東北地方一円を営業エリアとして、東北地方でも有数の補償業務管理士の資格保有者数を誇る。補償コンサルタント業務全8部門を中心に、測量・建築設計業務などを通して、国や地方公共団体が行う公共事業に必要な土地の取得などに関する補償業務を行っている。また、水文(すいもん)観測業務として、河川管理にとって必要な基礎的データを取得するため、流量観測や採水などを実施。さらに、東日本大震災復興支援業務にも積極的にかかわり、地域に貢献できる企業を目ざしている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  従業員32人のうち60歳以上は10人で、全従業員の3割を占める。70歳以上は2人で、最高齢は81歳である。本社は4部門で構成され、総務部に60代前半が1人、測量部は60代前半が1人と60代後半が2人在籍している。補償部には60代前半が1人、営業部は60代後半が3人と70代が1人、最高年齢の81歳の高齢従業員が在籍している。  技術部門においては、若手の採用がままならず、高齢従業員が主戦力となっている。平均年齢は54・8歳で、組織維持のためには若手従業員の採用は不可欠であるが、2年前にようやく若手を採用できたというのが現状である。  一方、同社に依頼される公共事業は増加の一途にあり、人材不足から受注することができないという状況も生じていることから、課題解決のために高齢従業員は会社の大きな戦力であるという位置づけを明確にし、「生涯現役」という経営方針を打ち出した。  健康で意欲があるかぎり働き続けることができる会社づくりを目ざして、健康づくりの推進や職場環境の整備に全社をあげて取り組むことにより、勤続30年以上の勤務者が8人、40年以上の勤務者が4人という、高い定着率につながっている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善・定年制等  2013年の高年齢者雇用安定法改正時に定年年齢および継続雇用制度の見直しを行い、高年齢者雇用確保措置の経過措置の取扱いに合わせて、継続雇用年齢を段階的に引き上げていくこととした。2017年には、国や当機構の高年齢者雇用アドバイザーの働きかけなどにより、経過措置を廃止し、継続雇用年齢を希望者全員65歳に引き上げた。また、社内業務の安定的な継続のため、2018年10月に定年年齢を65歳に引き上げた。  従前は定年後の者に対し、経過措置による条件つきの継続雇用としながら実質はほぼ全員の継続雇用を行っており、職務内容および処遇をそのまま継続していたことから、定年年齢の引上げの際に大きな問題は生じなかった。 ・継続雇用制度の見直し  従前から65歳以降については、一定の条件(健康状態と本人の意思)のもと、年齢の上限なく継続雇用している。当該継続雇用者は、2011年4月に導入した「継続雇用者の働きやすい柔軟な雇用形態制度」により、短時間勤務と隔日勤務を選択することができる。現在、65歳以上の高齢従業員のうち4人が、この柔軟な雇用形態の適用を受けている。  また、適用を希望しない高齢従業員はフルタイムで働いており、定年後も定年前と同様の職務を担当できることから、ほとんどの高齢従業員が継続雇用を希望している。 ・処遇(賃金、退職金など)  定年後の継続雇用者も含めて全員を「正社員」として雇用しており、従業員の処遇の差は一部資格保持者を除き、ほぼない。定年後も役職を継続する場合には相応の役職手当が支給される。賃金は勤務時間の減少により下がるが、時給換算でみると定年前より高額になる。退職金は特定退職金共済制度(特退共)に加入しており、原則定年時に支払われるが、支払い時期は本人と相談のうえ、変更も可能である。 (2)高齢従業員を戦力化するための工夫・高齢従業員の役割の明確化  定年後の高齢従業員の業務は、専門性を活かすために従前からの業務を継続することとしている。加えて、全部署共通の高齢従業員の役割として「若手従業員への技術の継承」や「品質チェック機能、工程管理」などをになっている。これは書類などで提示しているものではないが、つね日ごろから社長が従業員に対して説明・指示をくり返しており、高齢従業員は自らの役割を自然な形で受け止めている。役割を明確化することにより、高齢従業員自身の居場所(拠(よ)り所)の確保とモチベーションの維持・向上に結びつき、発注者への提案力が各段に高まった。  若手従業員への技術継承に関しては、高齢従業員と若手従業員がペアを組んで就労するなかで進められることが多い。部門の責任者は業務内容に応じて、組合せを決め、若手従業員がさまざまな知識や技術を習得できるよう適切な組合せを行っている。 (3)意識・風土の改善・ドローン技術の導入  屋外での業務が中心で、測量などの現地調査は急な斜面を登ったり、足場が悪い現場も多い。従前は、測量用の機材を持ち、現場へ向かい、足元の不安定な場所で測量業務を行っていたが、高齢従業員にとっては体力的な負担も大きくかつ危険をともなう作業であったことから、リスク削減と作業の効率化のためにドローンを導入した。  導入によって、比較的安全な場所でドローンを操縦し、測量現場上空から撮影した映像やデータをもとに、図面の作成が可能になり、作業負荷は軽減され、労働災害のリスクも大幅に軽減された。  また、山間地のダムや河川の流量確認などについても、ドローンにより容易に行うことが可能となっている。ドローンの操縦は資格を有する若手従業員が行うが、現場での対応や得られた情報の分析については、ベテラン従業員の勘所(かんどころ)を活かした業務実施体制を敷いている。ドローンを活かした業務受注は始まったばかりであるが、新技術を活用しつつ、蓄積されたノウハウを活用して一層の業務展開を目ざしている。 (4)能力開発に関する改善・仕事の見える化  2002年から各部門の高齢従業員を中心にISO認証を取得する事業に取り組んだことがきっかけとなり、「仕事の見える化」に着手した。各部門の高齢従業員は、若年層への技術継承を目的に「作業手順書」や「マニュアル」、「業務フロー図」などを作成。工程管理、実行予算管理体制を構築し、仕事の見える化を実現した。  「作業手順書」や「マニュアル」などは、社内PC上で共有データベース化されており、従業員のだれもが閲覧できることで体系的な教育が可能となり、OJTによる研修が容易になった。形のある「作業手順書」をもとに、若手従業員と高齢従業員によるOJTの実行がコミュニケーションの強化にもつながり、役割を明確化することで高齢従業員のモチベーションは向上している。 (5)健康管理・安全衛生  健康管理の画期的な取組みとしては、全従業員を対象にした人間ドックの際に、頸動脈超音波検査を実施、動脈硬化などの早期発見に努めている。また、今年度からは40歳以上の従業員を対象に5年ごとの脳ドックを取り入れ、さらに健康意識を高めるため、休憩室に血圧計を常設し、自由に利用できるようにした。  福利厚生の取組みでは、有給休暇取得率の向上を目ざしており、昨年度は約70%と高い割合を示している。この背景には時間単位の有給休暇を取得できるようにしたことがある。  同社の社長は、「知識・技術の宝庫である高齢者は、会社にとって大きな戦力である」と考え、高齢従業員をはじめ全従業員の健康づくりに対し強く取り組む姿勢を示していることが、従業員全体の健康に対する関心度の高まりにつながっている。また、「コミュニケーションの強化が会社全体を活性化する」という考えのもと、社員旅行などのさまざまなイベントを実施している。先ごろ開催された創業50周年の記念パーティーには、従業員だけでなく家族やOBも多数参加し、人を大切にする社風が内外に示された。 (6)高齢従業員の声  測量部門のAさん(67歳、男性)は48年の勤続を誇る。現在は週3日勤務の柔軟な雇用形態をとっており、人間ドックや健康診断の結果を参考にしながら、無理のない範囲で現場と事務仕事の両方をこなし、主に若手の育成、技能伝承を担当している。  若手に対しては、大きな仕事をやり遂げたときの達成感を味わってもらいたいという気持ちを持って指導にあたっており、技術以外にも顧客への接し方や言葉遣いにも心を配っている。Aさんは「ドローンの操縦など新しい技術に関しては若い人から教えてもらうこともあり、ペア就労ではお互いに学ぶことがあります」と話す。  総務部門のBさん(63歳、女性)は当人の希望により継続雇用後も経験年数の長い定年時の職務をそのまま継続するとともに、総務課長から次長職に昇進した。Bさんは中途入社であるが、職場環境のよさもあり、27年間勤続している。Aさん同様、通常業務に加えて若手の育成も担当しており、日々楽しんで業務に取り組んでいる。「柔軟な働き方が可能で、有給休暇も非常に取りやすく風通しのよい職場であるため、高齢者にはとても魅力的な会社です」とBさんは語る。 (7)今後の展望  「生涯現役」を経営方針に掲げる同社では、高齢従業員のモチベーションアップのために制度の改善や健康管理を含めた福利厚生の充実、あるいは最新技術を導入してリスク削減と作業の効率化を図っている。今後は取組みを一層強化し、将来的には継続雇用制度の基準の廃止を考えている。また、健康推進対策室(仮称)を設置し、健康管理の見直しや、有給休暇取得促進、労働時間の短縮も視野に置いている。諸課題に向かって、飽くなき努力が続く。 キャプション 株式会社建設相互測地社の本社 技術継承のため、高齢従業員(右)と若手(左)がペアを組んで業務にあたる 図面作成業務を行うAさん 総務部門で働くBさん 【P16-19】 2019年度 高年齢者雇用開発コンテスト 厚生労働大臣表彰 優秀賞 「3つの健康」を重視した経営を推進し高齢者の人間力が発揮できる職場を構築 松川電氣 株式会社(静岡県浜松市) 企業プロフィール 松川電氣 株式会社 (静岡県浜松市) ◎創業 1967(昭和42)年 ◎業種 電気設備工事 ◎従業員数 47人 (内訳) 65〜69歳 2人(4.3%) 70歳以上 4人(8.5%) ◎定年・継続雇用制度 定年は65歳。その後は、制度はないが運用により一定条件のもと、年齢の上限なく勤務延長している。現在の最高年齢者は73歳 T 本事例のポイント  松川電氣株式会社は、1967(昭和42)年に松川電氣工事店として創業し、1973年に法人化された。創業以来、公共施設や工場などの一般電気設備や各種プラント設備などの工事を一手に引き受けている。また、高速道路の情報表示板をはじめ、太陽光発電システム、機械制御システム配線、特殊電気設備などの電気・通信工事などで高度の技術力を発揮、静岡県や浜松市から優良工事施工業者表彰を受けている。  特殊技術を誇る一方で、従業員の人間力を重視し、豊かな経験を持つ高齢者が長く働き続けることで地域社会に恩返しができると、高齢者のためによりよい職場環境づくりに取り組んでいる。 《POINT》 (1)生涯現役で働くことができる環境づくりを目ざして、65歳定年を導入。65歳以降もそれまでの仕事を引き続き担当し、役職を継続できるなど、高齢従業員の豊かな経験が活かされる場が確保された。 (2)人事評価制度を導入したことで、定年後も賃金水準を維持するとともに、希望に合わせた柔軟な勤務形態を確立した。働きに見合う評価や賃金の実現は、従業員の意欲向上につながっている。 (3)従業員に国家資格取得の支援を行い、取得者には手当を支給している。また、高齢従業員も参加する従業員育成の研修会の実施は、すべての従業員のスキルアップに大きく役立っている。 (4)従業員のみならず、その家族や協力会社まで対象を広げて健康管理を実施するとともに、そのほかの福利厚生面でも手厚くサポートしている。 (5)「身体の健康」、「経済の健康」、「心の健康」という3つの健康を目ざして人事管理施策を展開。「松川一家」という強固な結束力のもと、人を大切にする経営に注力している。 U 企業の沿革・事業内容  1967年の創業以来、高度な技術力と、協力業者との連携による現場への技術者の動員力を強みとしている。ゼネコンの下請けではなく、自主独立・顧客からの直接受注をすることにより適切な価格で事業を実施することを心がけ、事業を拡大してきた。その技術力と動員力から、大手電気設備メーカーと直接組んで事業を行うこともある。  2003(平成15)年に品質保証ISO9001、環境保全ISO14001を取得し、企業の品質保証や信頼度の向上に努めている。また、全社をあげての活発なボランティア活動などにより、2018年「浜松市企業のCSR活動表彰」ソーシャル活動部門優秀賞、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員会特別賞を受賞するなど、県内外で評価が高まっている。2019年には静岡県の「女性・シニア人材活躍推進戦略事例集」にシニア活躍企業として掲載され、その取組みが注目されている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  正規従業員は47人、65歳以上は6人で、73歳の最高齢従業員もフルタイムで就労するなど、全員が第一線で活躍している。現社長が就任する数年前に「自らの人間力をつけ、真の幸福と楽しさを追求し、夢・希望を後世に伝える」を経営理念に掲げ、「人間力(人づくり)」と「人を大切にする経営の実践」を展開してきた。  まず「人間力」を育成するため、すべての従業員は「自分づくり 十一誓」を掲げ、自ら成長するための行動指針とし、人事評価の基礎としても活用している。また「人を大切にする経営」を実践するため、従業員に対して「身体の健康」、「経済の健康」、「心の健康」という3つの健康を実現する施策を行っている。「身体の健康」は「健康管理体制の充実」であり、「経済の健康」は「事実上の定年廃止」や「賃金水準の維持」である。また、「心の健康」は、従業員自らの申し出に基づく「現場施工責任者の任命」制度やボランティア活動を通じた弱者に寄り添う心の大切さを学習することである。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ・定年の延長  2005年まで60歳定年であったが、創業時から勤めている従業員の1人が60歳を迎えた2006年に定年を65歳に延長。当該従業員は技術力が高いだけでなく、仕事への意欲や姿勢が素晴らしく、会社にとって必要とされる人材であったことから、定年制度を見直した。合わせて65歳を超えた後も運用により年齢の制限なく働けるようにした。現在、70代の従業員は4人で、うち3人が施工部の相談役として勤務し、若い従業員の尊敬を集めている。また、1人は女性で、営業総務部で経理を担当している。 ・賃金水準の維持  定年後、引き続き勤務した場合でも希望するかぎり働き続けることができ、賃金水準は現役のまま減額しない。昇給は65歳まで続き、66歳以降も高い賃金水準を維持している。  年齢に関係なく仕事内容はそれまでの仕事を引き続き担当し、役職者は役職を継続。配置転換は、本人の希望により施工部・管理部・営業総務部をまたいだ形でも可能としている。 ・人事評価制度  15年ほど前に人事評価制度を導入した。人事評価は人物評価、力量評価、資格認定状況により行われ、昇進や基本給、決算賞与に反映される。人物評価は、毎月「個人目標達成状況報告書」を作成し、上司および社長の評価を受ける。項目としては、個人目標、目標に対する結果・反省、改善提案・作業効率向上提案などである。少人数の企業であるため、社長が全員の状況を把握できる仕組みとなっている。  資格認定は主任技術者から作業責任者まで6種類あり、従業員の資格取得状況などに応じて異なる。要件としては、主任技術者は工事の品質管理を行う者のことで、一定の経験年数を経て一級または二級電気工事施工管理技術検定に合格した者、作業責任者は各工事現場の施工に関する責任者で、第一種または第二種電気工事士資格を有し、社長に承認された者である。 (2)高齢従業員を戦力化するための工夫  同社は役職定年制を実施していないため、年齢に関係なく役職を継続することが可能である。役職は主任から統括部長までの6ランクを基本としている。65歳到達時点は、65歳以降の勤務の意思確認を行う節目と考えており、本人の健康上の問題や、親の介護などの不安を抱えて役職を継続することがむずかしくなった場合には、相談のうえで役職や勤務日数、勤務時間の見直しを行っている。例えば、弱視の従業員に対しては、帰宅時の安全を考慮して日没の20〜40分前に終業時刻を設定して、明るい時間に帰宅できるようにしている。この際、就業時間を減じた分については、もともと短かった土曜日の勤務時間を延ばして調整している。このような柔軟な勤務形態により、安心して長く働けることにつなげている。  高齢従業員が活躍する姿は、それ自体が若手従業員へのメッセージとなっている。社内のコミュニケーションが活性化することで従業員全体の満足度が上がり、その満足度が従業員の家族や取引先にも伝播(でんぱ)し、ひいては地域貢献にもつながるという好循環を生み出している。 (3)意識・風土の改善  自社のことを「松川一家」と呼び、従業員を家族とみなし、一人ひとりが経営理念の実行者であり、体現者であると位置づける社風が醸成されている。責任感と仕事へのモチベーションを高める仕組みとして、現場施工責任者の任命制度があり、各工事の現場施工責任者は自らの申し出制とし、立候補者は自分をプレゼンテーションするレポートを提出し、みんなで話し合って決めている。各現場は協力会社を合わせると50人から最大150人となり、1カ月を超える現場では、高齢従業員は豊富な経験を活かしてサポート役を担当している。  また、社会貢献活動を通じて弱者に寄り添う心の大切さを学ぼうと、ボランティア活動も活発に行っている。同社の行動指針は「困っている人がいたらまずは助けよう」であり、街頭募金活動や地域貢献活動を業務として位置づけ、すべて出勤扱いとしている。有給休暇とは別に、年7日のボランティア休暇を付与する仕組みが整備されており、毎月何かしらのボランティア活動が年間行事に組み込まれている。 (4)能力開発に関する改善  電気設備工事業務を行うには、電気工事士、電気工事施工管理技士など、多くの国家資格が必要なことから、同社では従業員に国家資格取得の支援を行い、取得者には手当を支給している。資格取得は昇進の条件にもなっているため、移動式クレーンや高所作業車の免許など、電気工事以外でも業務に結びつく資格取得には補助を行っている。なお、高卒で入社した従業員には、入社後5年以内に電気工事士などの必要な資格を取得するよう指導しており、資格を取得するころに主任へ昇進させている。  安全や技術に関する面では、5種類(リーダー研修会Aチーム、Bチーム、幸秀(こうしゅう)塾、一野(いちの)塾、社長セミナー)の研修があり、役職や立場に応じてほとんどの従業員がいずれかに所属している。なかでもBチームは新入社員から高齢者までさまざまな年代の18人が参加し、技術的な学習を継続している。レジェンドと呼ばれる高齢従業員3人もBチームに所属し、高齢になっても学び続ける姿勢が若手の手本となっている。 (5)健康管理・安全衛生  健康管理については、従業員はもちろん、従業員以外にも40歳以上の従業員(パート含む)と配偶者(独身者は母親または父親)に毎年人間ドックを受診させている。また、インフルエンザのワクチン接種費用は会社が負担するが、従業員だけではなく、下請けなどの協力業者にも対象を拡大している。その背景には、すべての働く人が元気で幸せでないと、お客さまによいサービスを提供できないという確固とした考え方がある。協力業者を社外従業員と位置づけ、福利厚生面においても手厚くサポートしている。 (6)高齢従業員の声  Aさん(70代、男性)は、1971年の入社以来、半世紀近く電気設備工事に従事してきた。現在も第一線で活躍するとともに、技術伝承者として若い世代を育てる先頭に立っている。「当社は60歳でも70歳でも体力が続くかぎり働き続けることができます。同じ仕事・同じ時間ならば基本給は変わりません。70歳を超えても会社から評価されていること、必要とされていることを実感できるのが一番の喜びです」と語る。 (7)今後の展望  今後の課題として「経営理念の実践をテコとした人材確保と、技術の若年従業員への伝承」を掲げている。人材確保の対応として、50歳以上の方を対象とした求人者の募集、インターンの受入れを行っている。インターンは同社が奨学金の寄付を行う外国人学校から希望者を受け入れているが、今後、高齢従業員がその指導にあたることもあるという。また技術の伝承について、若年者は、既成の道具などで対応できない場合の技術的な工夫や、各現場の状況に応じた動きに対応ができない傾向があるため、高齢従業員にはそういった指導も期待されている。高齢従業員の人間力が存分に発揮されることで「松川一家」の絆は一層強くなり、同社の屋台骨を支える力はさらに強靭(きょうじん)となる。「松川一家」は足並みを揃え、新たな課題に向かって果敢に挑戦していく。 キャプション 松川電氣株式会社の従業員とご家族のみなさん(写真提供:松川電氣) 従業員自らが成長するための「自分づくり 十一誓」 現在も第一線で活躍しているAさん 【P20-23】 2019年度 高年齢者雇用開発コンテスト 厚生労働大臣表彰 優秀賞 生涯現役を目標に柔軟な雇用制度と職場環境整備を推進 社会福祉法人 いろどり福祉会 ケアハウス・在宅複合施設花紬(はなつむぎ)(三重県津市) 企業プロフィール 社会福祉法人 いろどり福祉会 ケアハウス・在宅複合施設花紬 (三重県津市) ◎創業 2000(平成12)年 ◎業種 高齢者福祉事業 ◎職員数 52人 (内訳) 60〜64歳 5人(9.6%) 65〜69歳 6人(11.5%) 70歳以上 2人(3.8%) ◎定年・継続雇用制度 定年は66歳。希望者全員70歳まで継続雇用。その後は条件つきで再雇用(上限年齢なし)。現在の最高年齢者は91歳 T 本事例のポイント  社会福祉法人いろどり福祉会は、2000(平成12)年4月に三重県津市で創業し、入居型(ケアハウス)と複合型(デイサービス、ショートステイ、ホームヘルパーステーション)施設の運営や居宅介護支援事業を行っている。開所以来、「おもてなし」の心を大切に、利用者が望むきめ細やかな福祉サービスを通して地域に貢献してきた。  業界共通の慢性的な人手不足の現状を打開するため、高齢職員を主戦力として考え、「生涯現役」を合言葉に高齢者を積極的に採用している。高齢職員が長く働き続けるためのよりよい職場環境の創出を目ざし、柔軟な雇用制度や福利厚生の充実を図ってきた。 《POINT》 (1)高齢職員の知識や経験、スキルを活用するため、2017年4月に定年を66歳、継続雇用の上限年齢を70歳まで引き上げた。 (2)定年後の賃金については、職務に変更がないかぎり減額せず、優秀な職員は昇給もある。 (3)質の高い介護と生産性向上の実現に向け、製造業における品質管理の考え方を取り入れ、全社的な品質管理活動を推進している。 (4)生涯現役で働き続けられる職場の実現を目ざし、高齢職員の負担軽減のため最新機器の導入や福利厚生の充実に注力している。 U 企業の沿革・事業内容  2000年の開所以来、ケアハウスという入居型の施設をはじめ、デイサービスやショートステイなどの複合型施設を運営、訪問介護や居宅介護支援事業も展開している。  同法人の強みは、デイサービスや訪問介護など異なるサービスを利用する場合でも、部署間の連携が円滑であり、利用者の要望に迅速に対応できることがあげられる。また、同法人以外のグループ組織では、介護老人保健施設や介護つき有料老人ホーム、サービスつき高齢者向け住宅、食事の配送などの事業も幅広く運営している。つねに目標を高く掲げ、職員の福利厚生水準の向上や、ほかの業種と比べて低いとされる介護業界の賃金レベルを、製造業並みに引き上げることを視野に置いている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  職員数は52人で、職種別で見ると介護職がもっとも多く(64・2%)、看護師(11・3%)、ケアマネージャー(9・4%)の順となっている。介護業界は慢性的な人手不足の状況にあり、職員全体の平均年齢(2018年4月時点)は47歳と高い。最高年齢は91歳の看護師である。  介護サービスの質的向上を図るため、@労働生産性の向上、A職員の処遇向上を経営上の目標に掲げている。目標実現のために、職員のサービス能力や作業効率の向上など、日々の業務効率改善活動に取り組んでいるが、基幹労働力として活躍しているのが高齢職員である。高齢職員はサービス提供能力が高く、若年者の見本となることから、高齢職員が長く働ける環境を整えるために、定年延長や処遇改善、作業環境の改善を進めてきた。  その結果、職場への定着率も上昇し、現在5年以上10年未満の勤務者は全体の20%、10年以上の勤務者は40%を占めている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ・定年制度  2017年4月に定年を66歳に、継続雇用年齢の上限を70歳まで引き上げた。正職員と同様の働きを希望する場合には、定年後の職員区分は、「嘱託職員」に変わり、雇用契約の単位期間は1年となる。また、本人の希望があれば、労働時間の変更も可能であるが、短時間勤務を望む場合、職員区分は「パート職員」となり、パート職員に定年はない。 ・人事評価制度  人事評価は、年2回実施、対象は職員区分を問わず、自己評価を含めた360度評価を行う。評価項目は職種や職位によって異なり、評価結果を基に管理職と面談を実施している。  人事評価結果は、基本給の決定や賞与の支給額、資格加算手当の支給額などの決定に活用している。 ・基本給の決め方  8等級からなる等級号俸表に基づき職員の格づけを行う。基本給には昇給があり、年2回の人事評価結果(年間平均)に基づいて昇格する号俸数が変わる。継続的に処遇改善を進めており、最終評価者(理事長)が通常は1ランクアップするところを、2〜3ランクアップさせることもある。 ・賞与、退職金などの支給  賞与は年2回支給、退職金は勤続10 年以上の職員に支払う。定年到達者の退職金の精算時期は66歳時点となる。 ・パート職員の賃金および引上げ状況  パート職員の処遇改善を経営上の重要課題であると考えており、2019年7月にはパート職員に「特別精勤手当」といった、時給にプラスアルファする手当を支給した。また、パート職員にも正職員と同様に賞与や資格手当などを支給している(一部支給対象外の手当などあり)。 (2)高齢職員を戦力化するための工夫  60歳以上の職員は、5割を超えている。施設利用者と年齢が近く、気軽に話せる存在である高齢職員は、知識や技術に加え利用者の立場に立った介護や看護を行うことから高い信頼を得ており、サービスの質の向上に貢献している。また、若い職員が介護や看護について教えを請(こ)うこともあり、尊敬を集めている。  高齢職員を含めた職員が長く働ける環境を整えるために、作業負担の軽減や、安全対策、職場環境の快適化、職務範囲の見直しなどに着手してきた。  作業負担の軽減策として、エレベーター利用の推進やBOXシーツ(底の部分にゴムの入ったベッド用シーツ)を導入したことで作業時間が短縮され、腰痛軽減に効果があった。また、自動掃除機や高圧洗浄機の導入によって清掃業務の負担を軽減した。  一方、安全対策としては、送迎ドライバーの安全運転への意識を高めるために、施設所有の車すべてにドライブレコーダーを設置し、ドライバー名と「高齢者送迎・乗車中」と記載されたステッカーを車体に貼るようにした。また、もともとデイサービス事務所として使用していた部屋を多目的ルームに模様替えし、送迎職員の休憩場や待機場、利用者のサークル活動の場として職員間の交流に一役買っている。  さらに、意欲の向上という面から、職種ごとに制服を変えるなど、よりよいサービスを提供するために、さまざまな角度からのアプローチに挑戦している。 (3)意識・風土の改善  開設当初からQCサークル活動※を取り入れている。テーマは原則的に部署ごとに設定しているが、昨年度は、例外的に「生産性向上」を共通テーマに掲げた。例えば、事務部門ではデイサービスと事務が連携を欠くとサービスが滞るなど問題が生じることから、事務管理の効率化のため部署間の連携を図った。ショートステイとデイサービスの協力によって新たなサービスの提供が可能になるなど介護サービスの質が高まり、それが職員の処遇改善につながった。  また、職員間の意思疎通を重要課題ととらえ、管理職は高齢職員をはじめ全職員の体調や働きぶりを見て、日常的に意思疎通を図っている。その結果、例えば職員の体調がすぐれないようであれば、早期の帰宅をうながすなど迅速に対応できるようになった。  さらに、コミュニケーション強化にも注力し、定期的に懇親会や社員旅行を実施。法人内はもちろん、グループの垣根を越えた職員間の交流を図る好機となっている。  一方、近隣の清掃活動など地域への奉仕活動にも積極的に参加。災害時に地域住民の避難施設となるよう、施設内に食料などを備蓄する活動も推進している。 (4)能力開発に関する改善  AED講習、接遇講習、感染症予防、防災・備蓄の講習など、時宜(じぎ)を得たテーマの職員研修を月1回開催している。講習テーマや講師の選択はこれまで管理職が担当していたが、職員の意識向上のため、今年からは職員自らが講習を企画し、講習内容を決定するという方針に変更した。また、学習意欲の喚起を目ざし、グループ全体で統一テーマを定めて月一回試験を実施、学習成果の高い人には褒賞(ほうしょう)(果物や旅行券など)を授与している。  一方、高齢職員が多くをになっている送迎業務については、ドライバーを対象とした指導の機会を設けており、経験の浅いドライバーには介助の仕方、車いすの押し方などの基本知識の指導を約1カ月間実施している。また、年に一度、安全運転管理者がドライバーの運転をチェックする機会を設けている。さらに、安全運転を実施するため「ドライバー会議」を開催し、日ごろの送迎業務において気づいたことや、改善事項などに関する意見交換を行い、安全運転に対する意識向上を図っている。 (5)健康管理・安全衛生管理  すべての職員の健康増進を目的にさまざまな取組みを進めているが、なかでも、同法人が指定する病院を受診した場合、費用の3分の2を補助する医療費補助制度は、先進的な制度であると自負している。また、2時間単位で取得できる有給休暇制度を導入したことで、病院などへ立ち寄ってからの出勤も可能となり、とりわけ高齢職員から好評を得ている。さらには定期健康診断の受診時には、法定の項目にはない大腸がん検診を項目に加えていることや、全職員へのインフルエンザの予防接種、ストレスチェックとそのフォローアップの実施など、手厚い処遇は職員のモチベーションをアップさせ、高齢職員の勤労意欲を高める有効な施策となっている。 (6)高齢職員の声  最高齢のAさん(91歳、女性)は、看護師経験72年という大ベテランである。肩の負傷のため3カ月休職していたが、職場復帰に対する強い意思と日々のリハビリの成果が実り、8月から復帰している。施設利用者はもとより、若い職員からの信頼も厚く、「働けるうちはずっと働いていたい」とつねに語っている。  Bさん(70歳、女性)は、前職の工場勤務では黙々と仕事をこなしていたが、現在は施設介護職員として家事援助や身体看護を担当している。Bさんは「人のお世話をさせていただくため、自分の体調管理にも十分気をつけています。利用者からの感謝の言葉が最大のやりがいです」と語る。 (7)今後の展望  少子高齢化がさらに進めば、人手不足は一層深刻となることから、高齢者は戦力として大いに期待される。また、「一億総活躍」、「女性活躍」、「生涯現役」が時代のキーワードになっているいま、高齢者を積極的に採用し、働く意欲のある人が長く働き続けるために柔軟な雇用形態や職場環境の整備に一層力を入れていく。2019年4月にはグループ施設内に託児所をオープンし、女性活躍の場の創出に全社をあげて取り組んでおり、100歳まで働ける職場を目ざすという高い目標に、総力をあげて立ち向かっている。 ※ QCサークル活動……同じ職場内で品質管理活動を自発的に小グループで行う活動のこと キャプション ケアハウス・在宅複合施設花紬 安全運転への意識を高めるために導入したステッカー 休憩や待機、サークル活動などの際に利用される多目的ルーム 利用者からも職員からも頼りにされている91歳の現役看護師Aさん 【P24-27】 2019年度 高年齢者雇用開発コンテスト 厚生労働大臣表彰 特別賞 全従業員参加のプロジェクトを推進し生涯現役を可能にする職場を創出 株式会社 ムジコ・クリエイト(青森県弘前市) 企業プロフィール 株式会社 ムジコ・クリエイト (青森県弘前市) ◎創業 1961(昭和36)年 ◎業種 教育、学習支援業 ◎従業員数 240人 (内訳) 60〜64歳 28人(11.7%) 65〜69歳 12人(5.0%) 70歳以上 2人(0.8%) ◎定年・継続雇用制度 定年60歳。希望者全員65歳まで再雇用。その後、運用により一定条件のもと、70歳まで勤務延長。現在の最高年齢者は75歳 T 本事例のポイント  創業58年を誇る株式会社ムジコ・クリエイトは、東北最大級の自動車教習所として名を知られているほか、交通安全センターとしての役割をにない、地域に貢献している。  従業員の高齢化が進むなか、「何歳まででも働ける会社にしたい」という経営陣の思いを形にするため、生涯現役で働き続けるための制度改善や職場環境づくりに取り組んでいる。 《POINT》 (1)全従業員参加のプロジェクトを立ち上げ、継続雇用制度の整備や賃金・評価制度の導入、キャリアプラン制度の導入などに着手した。 (2)定年再雇用者を「シニアスタッフ」という名称とし、従来1年としていた定年再雇用者の雇用契約期間を5年にあらためた。 (3)再雇用後も評価結果に応じて賃金が昇給する仕組みとしたことで、シニアスタッフのモチベーション向上につながった。 (4)生活習慣病予防健診費用の全額負担や、出勤時に健康チェックを行うなど健康管理の充実により、従業員の健康意識が高まった。 (5)月一回の勉強会や、従業員間のコミュニケーションを重視したランチミーティングを不定期に開催。世代を超えた従業員同士の交流の場となっている。 U 企業の沿革・事業内容  1961(昭和36)年に「笑顔で迎え免許で送る」をキャッチフレーズに、弘前(ひろさき)中央自動車学校として創業した。創業の背景には、1960年に指定自動車教習所制度が制定されたことがある。1969年に青森モータースクールを開設の後、1971年にはマルエス自工株式会社に商号変更、1990(平成2)年には交通教育センターを設置した。さらに2008年、地域交通支援センターを開設し、ケア輸送サービスの従事者に対する国土交通省認定講習に着手した。2013年に経営理念を「私たちは安全な交通社会人の育成により、事故の無い社会づくりに貢献します」に刷新し、それを期に株式会社ムジコ・クリエイトへ商号変更した。また、自動車教習所としては日本初となる道路交通安全マネジメントシステムの国際規格ISO39001を取得、組織としてのPDCAサイクルの考え方が浸透しつつある。  また、2014年には事故のない社会づくりを実践すべく、企業をターゲットとして全国に交通安全教育を提供するための「東京営業所」を開設。2018年6月からは若手講師によるドローンスクールを開講するなど着実に業容を拡大している。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  従業員の高齢化が進み、定年年齢に達する従業員が増加傾向にある。240人の従業員のうち、60歳以上は42人で全体の2割弱を占めており、70歳以上の従業員は2人で、最高年齢者は75歳である。高齢従業員は、指導員、検定員、送迎、営業、受付、事務、あるいは幹部と、幅広く活躍している。  少子化による経営環境の悪化が進むなか、新規事業を推進する一方で、既存事業である免許取得者への教習・検定業務を担当する有資格者の確保が喫緊の課題であった。それに対応するため、「健康で能力と意欲がある限り、いつまでも働き続けることができる環境づくり」を新たな方針として掲げ、高齢者にとってよりよい職場環境の整備を目ざした。具体的には、役職者全員で新たな企業ビジョンを策定し、ビジョンの実現のために全従業員参加のプロジェクトを立ち上げた。プロジェクトでは課題ごとにチーム体制で検討を行い、制度面の改正や意識・風土面の改善を推進している。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ・継続雇用制度の整備  定年再雇用者の名称を「シニアスタッフ」とし、「シニアスタッフ就業規則」を作成した。66歳以降も健康上の問題がなければ1年更新で70歳まで雇用を継続する運用を行っている。 ・柔軟な勤務形態  業務の少ない時期は、本人の希望により早めに退社することができるように配慮したことで、シニアスタッフの疲労の軽減やリフレッシュにつながった。 ・賃金・評価制度の導入  シニアスタッフの初任給は、シニアスタッフ就業規則により、職務内容、技能、経験、職務遂行能力などを考慮のうえ決定される制度を構築した。また、シニアスタッフの格づけは、@高度専門職群(コンサルティング、講師、研究開発など、年俸制)、A専門職群(教習、講習、営業、経理、総務など、時給制または日給月給制※1)、B一般職群(送迎、営繕など、時給制)とした。 ・定年再雇用後の賃金・評価制度  シニアスタッフの賃金は、人事評価および担当する職務に基づき、毎年6月に改定される。この評価制度は2014年に試験運用を開始し、翌年から施行した。人事評価の項目としては、「業績評価」+「職務行動評価」+「基本行動評価(従業員に共通して求められる行動、管理職に共通して求められる行動を評価)」+「シニアスタッフ(パートナーシップ、フォロワーシップ)」があり、それらを総合評価する。うち、業績評価は、「全体業績+事業所業績+部門業績+個人業績」を評価し、組織と個人の両方で高いパフォーマンスが発揮された場合に、より高い評価となる仕組みとした。シニアスタッフの基本行動評価としては、「経験などを後輩に伝える」、「後輩のサポート」、「上司のサポート」などがあり、経験を活かしたサポート的役割も期待されている。 ・福利厚生  シニアスタッフの福利厚生を正規従業員と同じ処遇としたことで、満足度の向上につながった。さらに、死亡退職年金制度※2が適用となり、扶養する子どもがいるシニアスタッフに高い安心感を与えている。 (2)高齢従業員を戦力化するための工夫  シニアスタッフのモチベーションの維持・向上のための工夫として、四半期に一回の面談を設定している。面談によって会社が求める役割や責任が明確化され、仕事に対するフィードバックを行うことで人事評価や賃金に対する納得性が高まった。また、定期的な面談のみでなく、能力開発のための研修を受講する場合は、研修の前後に面談を実施。事前面談では受講目的の明確化や本人の意欲を確認し、事後面談では研修内容の口頭による復命を受けるほか、報告書を提出させている。コミュニケーションの機会が増えたことで、信頼関係が構築され、意見の吸い上げによる業務改善にも大いに効果が上がっている。 (3)意識・風土の改善  職場風土の改善や従業員の意識啓発の取組みとして、月一回の勉強会やランチミーティングを実施している。勉強会では、教習や検定など業務面に関するテーマのほか、外部講師による講演や、グループディスカッションなどを行っている。グループ分けの際は、コミュニケーションを図るため、普段は顔を合わせない部署や役職の者を混成させるよう工夫している。  また、ランチミーティングでの飲食物は各自が持参する場合が多いが、飲食店で行ったり、材料を買ってきてカレーをつくったりすることもある。親睦を図りながら、高齢従業員から若手従業員への知識や経験の伝承の場となっている。  一方、昨年初めて実施した従業員アンケートは、従業員の要望を吸い上げる格好の機会となった。例えば、「視力の衰えにより、特に冬場の夜間の路上教習では見えづらい」という意見に対し、所内教習を担当させるよう調整し、「給与の安定性を確保したい」という意見に対し、日給月給制を導入した実績がある。アンケートによる要望が各種制度の策定や雇用条件に反映されることから、従業員からも歓迎の声が上がっており、今後も実施する予定である。 (4)能力開発に関する改善  有期雇用契約従業員を除く従業員を対象に、年一回キャリアプランシートを作成。本人がやりたいことやそのために必要な研修や、資格などを明確にしたうえで、それらにかかる費用や時間的な支援を実施している。この支援は、「人の成長こそ、わが社の成長です。一人ひとりは自らの無限の可能性に挑戦し、会社はその成長に最大限の支援を行います」という人事理念を具現化したもの。もちろん、業務にかかわる研修や資格取得が優先されるが、本人のキャリア形成につながる挑戦であれば、産業カウンセラーやキャリアコンサルタント、交流分析士、交通心理士の資格取得のほか、税理士、社会保険労務士、中小企業診断士の受験なども支援の対象となる。  また、シニアスタッフのキャリアプランには健康に関する記載が多いことから、要望の高い健康対策とリンクさせる形でサポートしている。  能力開発に関する多岐にわたる支援により、高齢従業員も含めた従業員のモチベーションが維持され、生涯現役を可能とする仕組みの一つとして機能し始めている。 (5)健康管理・安全衛生  従業員の健康管理対策として、さまざまな制度を導入した。具体的には、35歳以上の従業員を対象にした生活習慣病の予防健診と、55歳以上を対象とした肺がんの喀痰(かくたん)検査や乳がん検診などの全額負担をはじめ、がん検査キットを使用した検診(2年に1回)の実施、出勤時における血圧測定や心拍測定などの健康チェックおよびアルコールチェック、さらにシニアスタッフには柔軟な勤務形態がある。いずれも高い利用率となっており、シニアスタッフを含む従業員の健康への意識は高まっている。また、安全が優先される職場であるため、出勤の際の健康チェックやアルコールチェックは、健康だけでなく、従業員のコンプライアンスに対する意識向上にもつながった。 (6)高齢従業員の声  Aさん(68歳、男性)は、定年前は教習指導員の育成を担当し、定年後は本人の希望で教習業務に従事、フルタイムで働いている。経験豊富で人柄もよいAさんは教習生の評価が高いだけでなく、若手従業員からも慕われ、よい手本となっている。Aさんは「定年を過ぎても働ける環境があり、人事評価が給与に反映されることにやりがいを感じています」と元気に語る。  Bさん(61歳、女性)は、フルタイムで受付・事務を担当している。勤続35年を誇り、入社以来、お客さまの対応からバックヤードでの事務作業までマルチにこなしてきた。豊富な知識と経験から周囲の信頼も厚い。 (7)今後の展望  検定員や指導員など専門資格が必要な職種について若手を育成し、長く働いてもらえる職場環境の構築を目ざしており、送迎など専門資格が不要な業種では、高齢者を積極的に採用することを考えている。全員参加のプロジェクトの立ち上げをはじめ、さまざまな取組みの効果が現れており、今後は、継続雇用を希望者全員70歳にする方向で検討中。定年延長についても議論を重ねていく予定である。  今年3月に「あおもり働き方改革推進企業」の認証を取得した同社は、全社をあげて一つの目標に向かっていく姿勢を貫いており、今後の新たな挑戦が期待される。 ※1 日給月給制……1 日を計算単位として給料を定め、毎月一回まとめて支払う給与体系のこと ※2 死亡退職年金制度……年金受給者が死亡した場合、遺族給付金を遺族に支払う同社独自の企業年金制度 キャプション 株式会社ムジコ・クリエイトが運営する弘前モータースクール 研修会の様子 技能教習と学科の両方を担当しているシニアスタッフのAさん 受付・事務をフルタイムで担当しているBさん 【P28-31】 2019年度 高年齢者雇用開発コンテスト 厚生労働大臣表彰 特別賞 全従業員の多能工化を進め高齢者の戦力化と生産性向上を達成 株式会社 アパレルオオタ(長崎県南島原市) 企業プロフィール 株式会社 アパレルオオタ (長崎県南島原市) ◎創業 1987(昭和62)年 ◎業種 繊維工業(縫製業) ◎従業員数 92人 (内訳) 60〜64歳 12人(13.0%) 65〜69歳 8人(8.7%) 70歳以上 7人(7.6%) ◎定年・継続雇用制度 定年なし。現在の最高年齢者は75歳 T 本事例のポイント  株式会社アパレルオオタは、1987(昭和62)年に、創業者である現会長が有限会社アパレルオオタとして設立、ベビー服縫製加工を開始した。創業以来、地域密着型経営を理念に掲げ、地元の雇用促進を通じて地域経済活性化に寄与することを目標としている。高齢化に拍車がかかる地域において、高い勤労意欲を持つ高齢従業員の戦力化が事業存続には不可欠であったため、2代目社長の就任を機に、全従業員の「多能工化」を推進してきた。積極的な取組みが功を奏し、現在、市内を代表する縫製業者として業界を牽引している。 《POINT》 (1)これまでは定年を70歳とし、それ以降は運用により勤務延長で雇用してきたが、高齢従業員の専門技術を財産ととらえ、2019年度から定年制を廃止した。 (2)急な休暇取得や短日・短時間勤務への移行に容易に対応できる勤務体制を導入、高齢従業員のワーク・ライフ・バランスをふまえた柔軟な働き方が可能になっている。 (3)全従業員の多能工化を経営方針として掲げ、高齢従業員が技術伝承役として活躍している。また、外国人技能実習生に対して家族のように接し、精神面をサポートしている。 (4)従業員の提案により、LED照明やキャスターつきの台を導入、高齢従業員が働きやすい職場環境づくりに取り組んでいる。バリアフリー化にも着手した。 (5)年齢に関係なく勤務することが可能な職場づくりを目ざし、ライン長を中心にグループ内で協議し問題解決にあたる流れを確立。  全従業員の経営参画意識向上につながっている。 (6)経営スタッフと従業員とのコミュニケーションが密であるため、職場の雰囲気がよく、従業員の定着率が高い。 U 企業の沿革・事業内容  1987年に有限会社アパレルオオタとして創業し、ベビー服の縫製加工を開始した。その後、婦人服や肌着などへ事業を拡大し、業界を代表する大手繊維商社の受注によって成長を遂げてきた。創業期において繊維業界は隆盛(りゅうせい)をきわめたことから、創業者は勤労意欲のある従業員を年齢や性別に関係なく雇用し、地元からは高齢者が働きやすい企業であると高い評価を得てきた。2代目の現社長と現工場長は創業者の理念を継承し、高齢者にとってより働きやすい職場環境の構築を目ざし、高齢従業員の戦力化を推進してきた。  また、1996(平成8)年に外国人技能実習生の受入れを開始、現在も21人のベトナム人が働きながら縫製を学んでいる。  市内を代表する縫製業者として生き残りを図るため、だれもが能力を発揮できる職場の実現に向けて、多岐にわたる取組みが行われている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  従業員92人のうち、60歳以上の従業員は27人で全体の約3割を占め、最高年齢は75歳である。一方、実習生は20代から30代と若く、知識や技術習得への意欲が旺盛であり、同社の最高年齢者が親代わりとして手厚くサポートしている。また、年齢ではなく、技能や能力を評価する制度としている。  ここ最近の傾向として、新規学卒者の応募はほぼなく、戦力として高齢者を大いに頼りにしている。また、事情によって退職した従業員の再就職を積極的に受け入れており、業務経験もあることから即戦力となるため、会社としては歓迎している。  バブル経済崩壊後は繊維工場の中国移転が相次ぎ、国内の繊維産業が厳しい競争を強いられるなか、同社も創業以来の「思いやり型経営」から「経営追求型経営」へのシフトを余儀なくされた。生き残りをかけて業務効率化を追求する必要に迫られ、高齢従業員の雇用を従来の福祉的雇用から戦力としての雇用へ方向転換し、難局を乗り切る手立てとした。  業界全体の不況の真っ只中に就任した現社長は、「全従業員の多能工化」を掲げ、実行力を発揮した。当初は若い経営者の効率化追求への反発があったものの、約10年で経営体制を刷新することに成功。これにより、業務未経験の高齢者でも戦力として活躍できるようになった。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ・定年の廃止  2代目経営陣による経営方針の刷新で、全従業員の多能工化を達成できたことにともない、年齢にかかわりなく戦力として雇用できる体制を整えたことや、慢性的に人手不足であることから、雇用上限年齢を定めておく必要はないと判断。労使協議の結果、2019年5月に就業規則を改定し、定年制を廃止した。 ・柔軟な勤務体制  従来、基本的に従業員全員がフルタイム勤務で統一してきたが、2019年度からは加齢にともなう体力低下や健康状態に配慮し、65歳以上の従業員は、本人の要望に応じて短日・短時間勤務を可能とする制度に改善した。柔軟な勤務体制は、人材確保を望む会社側と、ワーク・ライフ・バランスを重視する従業員側双方にメリットがあり、歓迎されている。このような体制が構築できた背景には全従業員の多能工化の推進があり、急な欠員時にも別ラインの担当者によって補えるため、休暇取得や出勤の調整が容易になっている。 ・賃金・評価制度  雇用形態は、年齢に関係なく全員が正社員である。賃金は時給・月給制度を採用、人事評価は行っていない。 (2)高齢従業員を戦力化するための工夫  縫製部門は、スラックス、Tシャツ、婦人インナー、婦人アウターで構成され、各ライン15人体制となっている。多能工化推進にあたっては、従来の担当とは別のラインも受け持てるようにワンランク上の作業を修得させる必要があったため、熟練技術を有する高齢者が指導役となって、話合いや実践などの試行錯誤をくり返してきた。その結果、徐々にライン構成員全員の多能工化を実現した。必然的に高齢従業員の知識・技術がほかの従業員に伝承され、高齢従業員の評価や信頼が向上するという副次的効果もあった。 ・技能を活かした配置  高齢従業員はさまざまな形で同社に貢献しており、ベテランとして各ラインの調整役、指導役をになうほか、発注元メーカーへ製品のサンプルを作成・提出する部門は全員高齢者で構成されている。サンプルは会社の顔となるものであり、作成にミスは許されないことから、熟練した高齢従業員が適役であると判断した会社の方針は、高齢従業員自身の技術向上につながっている。 ・外国人技能実習生の世話役  外国人技能実習生が従業員の2割強を占める同社では、その指導役を高齢従業員が担当している。異なる文化や価値観を持った技能実習生が職場になじめるように、仕事上の指導にとどまらず、日常生活においても細やかな愛情を注いでおり、まるで家族のように接して彼らの緊張を解きほぐしている。  一方、技能実習生は優秀な人材が多く、縫製に関する専門知識や技術習得に対する積極的な態度に刺激されて、教える側の高齢従業員のモチベーションアップにつながるほか、異文化に触れることで高齢従業員自身の世界観が広がるという相乗効果も生まれている。 (3)働きやすい職場づくり  従業員の声を反映させ、作業環境の改善に取り組んできた。現場には管理職の目が行き届き、気づいたことがあればライン部門会議などの場で相談して逐次改善する流れが構築されている。  縫製作業は一人の不便さが全員の不便さにつながる現場だが、女性の知恵が活きる場でもある。気づいた一人が提案した職場改善案が、工場全体の作業効率改善を実現している。 ・手元照明の導入  高齢者の場合、視力の衰えによってミシンの運針作業が困難・危険になるため、手元を照らすLED照明を導入した。これにより、年齢にかかわりなく運針作業を担当することが可能になった。 ・キャスターつきの作業台を導入  作業台にキャスターをつけ、商品の移し替えや持ち運びを不要にした。体力面の負担軽減になったほか、作業効率も大幅に向上した。既存の台の脚に取りつけるだけでよく、安価な投資で改善ができたこともポイントである。 ・運針針折防止ガードの取りつけ  ミシンに透明の小さな板(運針針折防止ガード)を取りつけ、針が折れた際に作業者の方へ飛んでくるのを防止している。簡単に動かせるようになっており、作業の邪魔にならないよう、位置を調整することも可能である。 (4)能力開発に関する改善  全従業員多能工化の方針であるため、採用後はさまざまな作業ができるようにていねいに指導している。工場長が各従業員の能力を見きわめ、段階をふんでできる作業を増やしていくが、柔軟な勤務体制により相互に補い合うことがあたり前の社風であるため、助け合い、研鑽(けんさん)し合える体制が構築されている。多能工化の実現により、各人の技術や知識がラインの全員に伝授・共有化されており、自然な形で高齢従業員の技能や知識が継承されている。 (5)健康管理・安全衛生  加齢にともなう健康状態は個人差が大きいことから、同社では健康管理は基本的に自己管理としており、年一回の健康診断時に問題があれば2次健診や医療機関のあっせんなどを行っている。同社では休暇取得や勤務体制の切り替えが容易であるため、体調が悪ければ休む、体力の低下を感じたら出勤を減らす、といった形での自己管理が容易となっている。  従業員の親睦を図るレクリエーションについては従業員が自ら企画し、花見や忘年会、日帰り慰安旅行などを実施しており、高齢従業員の参加率も高い。 (6)高齢従業員の声  Aさん(75歳、女性)は創業当初から勤務する大ベテランで、技術・経験を見込まれサンプル室にて縫製加工を担当。最高齢だが、元バレーボール選手で体力もあり、フルタイム勤務を元気にこなしている。外国人技能実習生の指導も担当しており、親のように実習生に接する姿は、ほかの高齢従業員の模範となっている。  Bさん(64歳、男性)も、勤続30年の大ベテラン。フルタイムで縫製オペレーターとして活躍し、温厚な性格から周囲の相談役をになっている。手先が器用で、運針針折防止ガードの設置もBさんが行った。 (7)今後の展望  縫製業界を取り巻く環境は依然厳しいが、事業存続を最優先することが、地域の雇用の場の確保につながるため、今後も、地域経済活性化に寄与することを、経営目標として掲げる。創業以来の理念に基づき、多能工化による高齢従業員の戦力化のさらなるパワーアップを目ざして、不断の努力が続く。 キャプション 株式会社アパレルオオタ本社 高齢者の視力低下を補うために導入したLED照明(ミシンの左側) キャスターつきで、製品の移動も楽な作業台 創業当時から勤務する大ベテランのAさん(75歳) 【P32-33】 2019年度 高年齢者雇用開発コンテスト 入賞企業一覧 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 香川県 医療法人社団 五色会 優秀賞 福島県 株式会社 建設相互測地社 静岡県 松川電氣 株式会社 三重県 社会福祉法人いろどり福祉会 ケアハウス・在宅複合施設花紬 特別賞 青森県 株式会社 ムジコ・クリエイト 長崎県 株式会社 アパレルオオタ 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 栃木県 社会福祉法人 洗心会 石川県 株式会社 シーピーユー 福井県 有限会社 ダイケイ 岐阜県 株式会社 TFF 滋賀県 社会福祉法人 あいの土山福祉会(エーデル土山) 鳥取県 山陰松島遊覧 株式会社 愛媛県 株式会社 元禄 特別賞 北海道 央幸設備工業 株式会社 北海道 キャリアフィット 株式会社 岩手県 有限会社 ゴジュウゴ 秋田県 株式会社 東北ビルカンリ・システムズ 山形県 医療法人社団 楽聖会 茨城県 株式会社 コモドヴィータ 栃木県 社会福祉法人 エルム福祉会 群馬県 株式会社 妙義会 石川県 株式会社 森八 大阪府 猪山(いのやま)タクシー 株式会社 和歌山県 株式会社 クリスタルタクシー 山口県 社会福祉法人 相清(あいせい)福祉会 特別養護老人ホーム梅光苑 山口県 日栄建設工業 株式会社 佐賀県 社会福祉法人 スプリングひびき 長崎県 株式会社 ウェルズライフ 熊本県 人吉タクシー 株式会社 大分県 株式会社 和田組 【P34-35】 江戸から東京へ 第85回 「畸人伝(きじんでん)」になぜ入れないか ―伴蒿蹊(ばんこうけい)と上田秋成(あきなり)― 作家 童門冬二 「奇人伝」を出したい  家業を成功させて家人に後顧(こうこ)の憂(うれ)い※1のないようにし、自分は隠居して、  「ずっと考えてきた好きなことを行う」  ということの実行者で有名なのは、伊能(いのう)忠敬(ただたか)だ。今回書く、伴蒿蹊も同じコースを辿(たど)った。伴は近江八幡(おうみはちまん)(滋賀県近江八幡市)の商人だ。それも大商人だった。代々当主は家を守ってきたが、伴も成功した口だ。かれがやりたかったのは、  「この国(日本)の奇人を探し出して、それを一冊の本にすること」だった。いってみれば「奇人伝」を編(あ)む※2ことだ。そのためにかれは早期に隠居して、日本中を旅し、奇人を探して歩いた。かれ自身も奇人だった。宿屋に泊まったときは表に「奇人買います」という貼り紙を貼ったりした。ただ、かれには奇人に一つのイメージがあった。それは大坂の作家で「雨月(うげつ)物語」などを書いて名を馳せている上田秋成である。秋成も奇人だった。  しかし、実際に出版した「近世畸人伝(きんせいきじんでん)」には、上田秋成は入っていない。上田はそのことが気になって仕方がない。  (いつ、わしをあの本に入れてくれるのだろうか? 続編はいつ出るのだろうか?)  と、ずっと思い続けていた。しかし、伴の方からはいつまで経っても何もいってこない。業を煮やした上田は、ついにある日伴のところに出かけて行った。 上田を省いた理由  「上田秋成です」  入口で名乗ると、机の前に座って作業をしていた伴は顔を上げて思わず、  「あ」  と声をあげた。身じまいを正した。伴にとって憬(あこが)れの奇人≠ェ、実際に訪ねて来たからだ。  上田は威厳を保ちつつ、しかし心のなかでは焦りながら、  「伴さん、いつわしを『畸人伝』に入れるのかね?」  と訊(き)いた。上田は、伴の対応が捗々(はかばか)しくないので、自分の方から切り出した。  「伴さんが、奇人と称する人間のモノサシ(条件)は一体どういうことかね?」  「一つ目は、貧しい仮住まいで、しかも一か所に定住せず転々と歩き回ることが条件です」  「わしは、それを満たしている」  「承知しております」  「ほかに?」  「一つの仕事に打ち込んで、ほかのことに目もくれない、いわば仕事バカが二つ目です」  「それもわしは満たしている」  「知っております」  「それならなぜ?」  「私の考えるもう一つの条件は、外見よりも心の内実を重んじ、心の問題に深い関心を持って掘り下げ、それが同じような考えを持つ人々の参考になるようなことを、世の中に告げてくださっていることです」  「憚(はばか)りながら、わしはそのモノサシにもぴったり当てはまることをしていると思うが」  そういって上田はジロリと伴を見た。明らかに、  (おまえさんは、そういう自分で立てたモノサシに、わしが当てはまらないと思っているのかね?)  という問いかけが目に現れていた。伴は守勢にまわって、ややたじたじとしたが狼狽(ろうばい)したり、ビクついたりはしなかった。あらゆるモノサシを超えて、核とした大事な条件があったからである。上田は向き直った。  「聞くところによれば、あなたの編んだ本は続編が出るそうだが、その続編にぜひわしを入れてくれんかね」  「上田先生、それは駄目です。お入れすることはできません」  「なぜかね?」  伴を凝視する上田の眼の底に、怒りの色があった。伴はいつかはくるだろうと思っていたことなので、慌てなかった。こう応じた。  「上田先生、わたしのあの本では、いま生きていらっしゃる方は省く、という方針をとっているからです」  「なに」  さすがに上田はびっくりした。呆れたように伴の顔をまじまじと見詰めた。しかし伴は、  (ここが勝負だ)  と思っていたから、じっと視線を逸(そ)らさずに上田を見返した。目と目の戦いだ。やがて上田の方が負けた。伴から視線を逸らし、  「そういうことだったのか」  と一人で呟(つぶや)いた。がっくり肩を落としていた。失望したのだ。しかし、  「『近世畸人伝』に採用する奇人は、すべて死んだ人だ」  といわれてみれば、いい返すことはできない。  「それでは、仕方がないな。わしはまだ生きている」  最後は絶望的なまで落ち込んだ声を洩(も)らして、上田秋成は静かに去って行った。 ※1 後顧の憂い……あとあとの心配 ※2 編む……多くの材料を集めて本をつくること 【P36-37】 第66回 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは  鈴木貞夫さん(73歳)は、自分の将来像を模索するなか、55歳で会社員生活に終止符を打った。シニアを対象とした講演活動を始め、現在はNPO法人シニア大だい樂がくに講師として登録し、多忙な日々を送る。定年前に人より一歩早く次のステップを目ざした鈴木さんの視線の先には「生涯現役」の4文字があった。 NPO法人 シニア大樂(だいがく) 講師 鈴木貞夫(さだお)さん 理想の会社と出会えた幸運  私は栃木県茂木町(もてぎまち)で産声を上げ、高校を卒業するまで茂木で暮らしました。実家は農家で、私は8人兄弟の7番目でしたが、東京都立大学(現在の首都大学東京)に進学させてもらいました。両親はもちろん、農業を継いだ兄たちが応援してくれたおかげだと、いまも感謝しています。  大学では経済学を専攻、友人たちは大企業への就職に挑戦しましたが、私は兄たちを頼って育ったせいかのんびり屋で、従業員150人ほどの精密機器メーカーに就職しました。面接のとき、社長が「明日からでもいらっしゃい」と声をかけてくれたアットホームな雰囲気は、退職するまで一貫していました。  この会社は自動車や電車の壁紙など、車両の内装をはじめ、合成皮革などあらゆる素材をコーティングする国内有数の技術を誇り、業績も安定していました。私は生産管理の現場で営業と製造現場をつなぐことが主な仕事でしたが、資材の手配から工場の工程まですべて任せてもらい、会社員時代に不愉快な思いをしたことはほとんど記憶に残っていません。  オイルショックによる不景気の影響で仕事量が激減したときも、「仕事がなくても、出社してキャッチボールでもやっていろ」と笑い飛ばす社長で、物の見方や考え方で大きな影響を受けました。まさに理想の会社でした。  会社は残業もなく、勤務時間の面でも理想的だったが、早く帰宅するとつい晩酌の量も増える。時間を有意義に使いたいと模索を始めたのが30代半ばのこと。定年以降の将来に思いを馳せた鈴木さんには先見の明があった。 話し方教室で新しい自分を発見  仕事への不満はまったくなく、充実した日々でしたが、結婚して千葉県の松戸(まつど)市に移り住み、生活も落ち着いてくるとだんだん将来について考えるようになりました。当時の定年は60歳でしたから、そこから長い人生が続くわけです。仕事というよりは趣味も含めて一生かけてやれることを探していたとき、偶然にも駅前で「話し方教室」の看板をみかけ、迷わず入会しました。教室は個人が経営しており、松戸で初めて開設されたとのこと。この教室への参加をきっかけに、さまざまな研修会やカルチャーセンターに通うようになりました。35歳の挑戦でした。  話し方はなかなか上達しませんでしたが、講師はもちろん、教室に通ってくる幅広い世代の人の話を聞くのはとても楽しく、仕事が終わると教室へと急ぎました。  私は大学では経済学を学びましたが、本当は小さいころから歴史が大好きで、歴史上の人物を自分流に研究して大学ノートに書き綴っていました。そしてその成果をいつか人に伝えたいという思いもあって、そのために人前で話せる力を身につけたいと考えていましたから、話し方教室の看板を見つけたときは自分の将来像が見えたような気がしたことをいまでも覚えています。 ステップアップを目ざして  人生の転機というものは、至る所にあるようです。話し方教室には15年ほど通いましたが、さらに実力をつけるためにほかの教室やカルチャーセンターを紹介してもらいました。大手マスコミが主催するカルチャーセンターに通っているうちに、講師から「プロの道を目ざしてはどうか」と声をかけてもらいました。その講師の弟子のようなかたちで「話し方」の講師として50歳でデビュー。それから5年ほど、仕事に支障がない範囲で講演活動を行っていましたが、会社に迷惑をかけないうちに退職することを決意し、定年の5年前に新たな人生を歩くことになりました。  下の子どもが大学に入学した年でもあり、家族には大反対されましたが、気持ちは変わりませんでした。カルチャーセンターの講師料は講義後の飲み代やタクシー代で消えていきましたから、家族にはずいぶん苦労をかけました。むしろその苦労はいまも続いており、家計を支えてくれた妻にはただ感謝しています。  50代で教えた人たちとは、いまでも交流が続いています。私から教わった面接のコツで、志望の企業に入れたと笑顔で報告してくれた人もいました。「話し方」の技術的なことではなく、それぞれの場面で必要な心の持ち方についても伝授するのが私の流儀です。  カルチャーセンターに歴史の話もできることを伝えると、話し方教室と並行して、歴史の講師としても声をかけてもらうようになりました。最近は歴史の講演が増えつつあり、ようやく夢が叶いました。  鈴木さんは、NPO法人シニア大樂※の講師紹介センターに登録、ここからも定期的に歴史講座の講師依頼がある。 「話すことと書くこと」で生涯現役の道を  「元気なシニアが社会参加を大いに楽しむ」思いを込めて、シニア大樂が設立されたことを新聞で知った私は、すぐに講師登録をしました。人生経験を活かして社会貢献したいと願う登録者は400名を超えています。  趣旨に賛同して設立の早い時期から参加したので、登録番号は174番となっています。設立された2003(平成15)年は、精密機器メーカーを退職して2年目でしたから、シニア大樂の設立は経験を活かせる場ができたという意味で心強かったです。今年の7月も6、7回講演を行いました。カルチャーセンターでは「話し方」も教えていますが、シニア大樂では歴史講座が中心です。  会社に定年までいたら、また別の道が開けていたかもしれませんが後悔はありません。私は、定年を迎えてから次のステップを模索するのではなく、むしろ若いときから、高齢になっても働き続ける自分の姿をイメージすることが大切だと考えています。  歴史といっても、戦国時代もあれば明治維新もありますが、「どの時代でもお話しできます」とアピールしている私は、73歳のいまも毎日が勉強です。年間500冊以上の本を読み、最新の情報にもアンテナを張っています。いまは月12〜13回という講演ペースで、それ以外は本を読んで下調べに没頭しています。  楽しみは、講義を終えた後の受講生たちとの飲み会でしょうか。人生経験豊かな仲間たちと歴史を学ぶ楽しさを語り合えば、時が経つのも忘れます。  私にプロにならないかとすすめてくださったカルチャーセンターの恩師は、90歳になりますがいまも現役で「話し方」を教えています。先生が日々口にしておられたのが、「話すことと書くことは一生できる」ということでした。その言葉を胸に、自分を絶えず磨き続けながら、生涯現役という道をしっかり歩いていこうと思います。 ※ シニア大樂で社会人落語家として活躍する平井幸雄さんに、本誌2014年12月号のこのコーナーにご登場いただきました 【P38-41】 高齢者の現場 北から、南から 第89回 長崎県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー※1(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 働き手不足の農家に高齢社員が出向き、作業代行をになう 企業プロフィール 株式会社松尾青果(長崎県南島原市) ▲創業 1978(昭和53)年 ▲業種 農産物の集荷販売 ▲従業員数 55人 (60歳以上男女内訳) 男性(10人)、女性(7人) (年齢内訳) 60〜64歳 5人(9.1%) 65〜69歳 7人(12.7%) 70歳以上 5人(9.1%) ▲定年・継続雇用制度 定年65歳。定年後は年齢の上限なく希望者全員を再雇用する  九州の西北部に位置し、三方を海で囲まれた長崎県は、県全体の面積の45%が平戸、壱岐(いき)、対馬(つしま)、五島(ごとう)などの島々で占められています。海岸線は長大で多くの半島、岬と湾、入江から形成され4183qにおよび、北海道に次いで全国第2位の長さです。  県南、県央、県北および離島に大別され、長崎市がある県南は、観光・造船・製造業が盛んであり、島原半島を含む、諫早(いさはや)市がある県央は農林業のほか、近年は電子部品の生産も顕著です。佐世保市がある県北地域は、米軍と自衛隊の基地が所在するほか、造船業も重要な産業です。  漁業では入江を利用したブリ、マダイなどの養殖が盛んに行われています。農業においては、ジャガイモ生産高が北海道に次いで全国2位です。  当機構の長崎支部高齢・障害者業務課の林田雄治(ゆうじ)課長は「長崎県は島嶼部(とうしょぶ)が多いため、当支部への問合せは水産加工を含む漁業事業者が目立ちます。2018(平成30)年度より、制度改善提案の取組みを県内すべての対象事業所に対して行っており、プランナーの方々に日々頑張っていただいています。企業の事情は一社一社それぞれ違うため、ていねいな対応を心がけています」と説明します。  今回は、同支部で活躍するプランナー・藤澤雄一郎さんの案内で「株式会社松尾青果」を訪れました。 地元再生から、全国展開まで  株式会社松尾青果は、青果問屋を営む松尾商店として長崎県南島原市南有馬町において1978昭和53)年に創業。2008年に業容拡大にともない株式会社松尾青果を設立しました。  もともと同社では、地元・島原半島のジャガイモを中心に集荷・販売をしていました。しかし、南島原の周辺地域は、設立当時から後継者不足や働き手の不足、にない手の高齢化により、農地管理が困難になっている農家が多く、同社も同様の悩みを抱えていました。創業者である松尾(まつお)博明(ひろあき)代表取締役社長は、自社と地域農家の人手不足解消には、高齢者の雇用とその受け皿づくりが必要だと考え模索した結果、1995年にジャガイモ、レタス、キャベツなどの作づけ・収穫の代行支援を行う農業生産法人「有限会社ぽてとの里」を設立しました。近隣の農地管理が困難な70軒の一般兼業農家で、松尾青果に所属する高齢社員が農作業を代行して農家支援を行い、それが一段落すれば、高齢社員は松尾青果での農作業や、工場内の選果、選別作業にあたってもらっています。  つまり、ぽてとの里は、雇用の創出と地域雇用の受け皿として機能するほか、季節に影響を受ける農業の、雇用の調整弁としての役割をになっているのです。  2000年代には、鹿児島県沖永良部(おきのえらぶ)島や北海道広尾郡などに関連会社を設立し、鹿児島から北海道まで日本全国で収穫した旬の青果を九州、関西、関東、北陸、北海道の各市場へ、1年を通して安定的に流通させることを可能にしました。  松尾社長は「長崎県産ジャガイモの出荷時期は年間で4〜6月にかぎられており、出荷時期限定で働いてもらうパート社員もいました。そうしたパート社員を1年を通して雇用したいと思い、全国リレー集出荷システムを考案しました」と話します。全国リレー集出荷システムにより、高齢のパート社員が年間を通して働く環境が整いました。 65歳以降は上限なく希望者全員を再雇用  松尾青果の定年年齢は、65歳です。65歳以降は、希望者全員を年齢の上限なく再雇用することを2015年3月に就業規則に明記しました。改定前は「会社が必要と認めたものについては勤務延長することがある」とされていましたが、実際は希望者全員を再雇用していたことから、明確に制度として定めることで、社員の将来への不安を取り除き、安心して働き続けられるように制度を改めました。  また、高齢者が働きやすい職場づくりとして、20年前からサマータイム制を採用し、原則8時から17時までの勤務時間を、炎天下をさけて5時から12時に変更。現場作業を涼しい時間帯に行い、社員のやる気と作業効率の向上を図っています。 高齢者雇用支援をはじめ、経営を全面支援  藤澤プランナーは、2014年4月、長崎市内から車で2時間かけて南島原市にある同社を初めて訪問しました。「『こんなところに、こんな会社があるのか!』、と感動したことを覚えています。事業内容や高齢者雇用の取組みはもちろんですが、特に『朝は希望に目覚め、昼は努力に生き、夜は感謝と反省に眠る』という経営理念と、社長が社員を前にして躊躇(ちゅうちょ)なく発する『社員は私の宝物です』という言葉に感銘を受けました」と話します。それから今日まで、全面的な経営支援を続けています。  藤澤プランナーが提案し、支援した取組みは次の通りです。@経営理念の見える化と基本方針の策定、A「MACSS(松尾農業地域支援)※3 2020戦略」の提案、B中高齢者向け意識向上自己戦略セミナーの実施、C行動基準書の策定(企画立案)、D高年齢者雇用開発コンテスト応募※4、E長崎県Nぴか認証取得支援※5  このうち、「中高齢者向け意識向上自己戦略セミナー」では、地元・長崎の大学で教鞭をとっていたこともある藤澤プランナーが自ら講師を務め、45歳以上の社員を対象に「生涯現役で生きるために」、「高齢者のパワーを生かすために」というテーマの講演をはじめ、自己点検や、グループディスカッションを行いました。  研修後に中高齢社員から「これからも希望を持って自分の力を発揮していきたい」、「仕事の仕方を見直し将来を見つめ直したい」など前向きな感想が聞かれました。セミナーは以降も継続的に実施しています。  今回は、松尾青果の生産部で青果栽培を担当するお二人に話をうかがいました。 1年を通して自然に接して働く青果づくり  太田(おおた)春男(はるお)さん(60歳)は、ジャガイモ、レタス、玉ねぎの畑づくりから収穫、選別、出荷まで行う生産部で5年前から生産部長を務めています。太田さんは青果づくり一筋。47歳で同社に入社する前も同業の会社に勤めていました。取材日の7月下旬は草刈りなど畑づくりの時期で、真夏の日差しを浴びてよく日焼けされていました。  天候に左右される青果づくりは、日々、野菜の状態に合わせて、病気や消毒などの対応が必要で、子どものように手がかかるといいます。それでも、長年取り組んできており、やりがいでもあるのでしょう、「よいレタスが収穫できたときの喜びは何にも替えられません」と笑顔で語っていました。  太田さんは大型免許を所持し、トラクターで行う草刈りや耕作なども担当します。「とにかく広い畑を耕すため、一日中トラクターに乗っていますが、なかなかたいへんですよ」と苦労を語ります。  トラクターの使い方を若い社員に教えるのも太田さんの役割のひとつです。トラクターの運転は「楽しい!」と若い社員に人気のある仕事ですが、重く大きな作業装置の着脱など、危険がともなうので慎重な指導が必要になり、神経を使うそうです。  太田さんの働きぶりについて松尾社長は「業績への貢献も高く、申し分ない部長です」と太鼓判を押します。健康維持のためにも70歳まで仕事を続けたいと語りました。  温和な表情の植木(うえき)政和(まさかず)さん(70歳)は太田さんと同じ生産部に所属し、正社員としてフルタイムで勤務しています。  植木さんは46歳で入社するまでは、縫製加工の会社で営業をしていました。南島原市は古くから縫製業が盛んな地域でしたが、近年は不景気などの影響でかつての勢いをなくしていました。そのため転職を決め、「当時ハローワークにある求人で、一番待遇が充実していた」という松尾青果に応募。営業職として就職しました。  植木さんは長年仕入れを担当。近郊の農家に出向いてジャガイモの取引きをしていました。同業他社と競合するなかで、契約が成立したときの喜びはひとしおでした。「何度も農家に顔を出して、世間話などコミュニケーションをとって、うちとけてもらいました」と、地道な営業活動が実を結んだと話します。松尾社長は「誠実で嘘をつかない人柄ですから、農家の人の信頼を得ています。定年後に異動した生産部でも植木さんを班長に抜擢し、若い人を補佐してもらっています」と揺るがない信頼を語ります。  生産部での仕事のやりがいは、「種まきから収穫するまでのすべて」といい、すっかり青果づくりに魅了されているようです。「毎日毎日、仕事があることが生きがい」とも話し、健康と生きがいのために80歳まで働きたいと抱負を語ってくれました。 事業展開の根底にある経営理念  「朝は希望に目覚め、昼は努力に生き、夜は感謝と反省に眠る」という経営理念について、松尾社長は「私たち松尾青果の社員は常に自然と接していて、自然の恵みをお客さまにお届けし、喜んでもらうことを生業(なりわい)としています」と話します。「藤澤プランナーの助言をもとに、経営理念を日々の活動のなかで具体的に実践していくために基本方針を策定しました。その一つに、『地方の農村の活性化を支援』があります。今後も高齢化が進む日本の地方農村を支援し、地域農業再生支援という社会貢献活動を通して事業を推進していきます」と今後の方針を語ってくれました。 (取材・西村玲) ※1 65歳超雇用推進プランナー……当機構では、高年齢者雇用アドバイザーのうち経験豊富な方を65歳超雇用推進プランナーとして委嘱し、事業主に対し、65歳を超えた継続雇用延長・65歳以上への定年引上げなどにかかわる具体的な制度改善提案を中心とした相談・援助を行っています ※2 披瀝……心の中を包み隠さず打ち明けること ※3 MACSS……Matsuo Agriculture Chiiki Saisei Shien ※4 201 年度高齢・障害・求職者雇用支援機構 理事長表彰 特別賞受賞 ※5 Nぴか……「長崎県誰もが働きやすい職場づくり実践企業認定制度」の略。年齢・性別に関係なく、だれもが働きやすい環境づくりに積極的に取り組む県内企業を、県が優良企業として認証する制度 藤澤雄一郎 プランナー(76歳) アドバイザー・プランナー歴:14年 [藤澤プランナーから] 「経営戦略的方策の一つとして、また働き方改革の一環として、高齢者の有効活用を経営者に働きかけています。人生100年時代と盛んにいわれているなかで、高齢者自身が人生を再設計することも必要です。76歳になるプランナーとして、自らの生き方(生涯現役・臨終定年)を披瀝(ひれき)※2して、高齢者の伝統的生き方の転換を働きかけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆同課の林田課長は、「藤澤プランナーは、社会保険労務士、中小企業診断士のほか、長崎総合科学大学経営情報学科客員教授をされていました。69歳で長崎大学大学院経済学研究科で博士号を取得されるなど精力的で、経営コンサルタントとしても活躍されています。相談・助言においては、藤澤氏独特の視点・発想による切り口から、事業者の強みや弱み、課題を的確に指摘し、改善に向けて取り組まれています」と話します。 ◆長崎支部が所在する諫早(いさはや)市は、4本の国道とJR、島原鉄道が交わる交通の要衡で、支部はJR諫早駅からバスで6分の国道沿いに設置しています。 ◆65歳超雇用推進プランナーが5名、高年齢者雇用アドバイザーが1名の計6名で高齢者雇用に関する相談・援助活動をしています。年間で400社〜450社を訪問、相談・助言に対応しています。 ◆相談・助言を無料で実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●長崎支部高齢・障害者業務課 住所:長崎県諫早市小船越町(おぶなこしまち)1113 ポリテクセンター長崎内 電話:0957(35)4721 キャプション 本社(左)と冷蔵倉庫(右) 長崎県 松尾博明代表取締役社長 トラクターを操縦し、広大な畑の草刈りを行う太田春男さん トラクターが刈り切れない雑草を処理する植木政和さん 【P42-45】 高齢社員の磨き方 ―生涯能力開発時代へ向けて―  生涯現役時代を迎え、就業期間の長期化が進むなか、60歳以降も意欲的に働いていくためには、高齢者自身のスキルアップ・能力開発が重要になるといわれています。つまり、生涯現役時代は「生涯能力開発時代」といえます。本企画では、高齢者のスキルアップ・能力開発の支援に取り組む企業の施策を、人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説します。 最終回 NTTコミュニケーションズ株式会社(東京都千代田区) 人事ジャーナリスト 溝上(みぞうえ)憲文(のりふみ) ベテラン社員のモチベーション向上へ1人で延べ1800人と面談  65歳までの雇用が一般化している今日、働く意欲が失われやすい50歳前後のベテラン社員のモチベーションの向上が大きな課題になっている。対策としてキャリア研修などによってマインドチェンジに取り組む企業も多いが、期待する効果を上げられない企業も少なくない。そのなかで、一対一の面談を軸に着実に成果を積み上げているのが「NTTコミュニケーションズ株式会社」だ。  同社の平均年齢は44・5歳(2018(平成30)年)。40歳以上が全体の7割を占め、50歳以上が37%とシニアの比重も高く、50歳到達者は毎年200〜300人に上る。2014年から非管理職の50歳全員を対象に面談をスタートしている。面談が終了した3〜4カ月後に実施している面談対象者の「行動変化」に対する上司へのアンケート調査によると、常に7〜8割の上司が前向きな行動変化があったと回答しているという。  なぜこうした成果が生み出されるのか。プログラムは、「キャリアデザイン研修」、「キャリア面談」、「面談結果の上司へのフィードバック」の三つの流れで構成される。研修はあくまで面談のための動機づけであり、中心となるのは面談だ。しかも同社ヒューマンリソース部人事・人材開発部門の浅井公一(こういち)担当課長が一人で、全員と直接面談をしているのが大きな特色だ。  なぜ一人で全員と面談をしているのか。浅井氏はそのきっかけについてこう語る。  「経営課題として中高年の活性化策を人事部が提案したとき、当時の副社長から『ベテラン社員のモチベーションが本当に下がっているのか、取組みの前に現状を調べてほしい』といわれたことがきっかけです。そこで、現状を把握するために、年齢的に節目となる50歳の非管理職全員の面談をすることになりました。その方針を副社長に報告すると、『複数人で面談をすると、一人ひとりの見る目や秤(はかり)が違うので現状の把握にならない。秤の正確さは問わないので、面談は一人が担当するように』、『全員と面談を行い、当社のベテラン社員の働き方や価値観に精通した人材がいれば、会社としても有用で心強い』といわれたのです」  そこで白羽の矢が立ったのが、長年労働組合の幹部として活躍し、中高年問題に関心を持っていた浅井氏だった。だが、スタート当初は社員の本音を引き出すべく面談に臨んでも、「机を叩いて怒る人、途中で席を立つ人など、全然うまくいかなかった」(浅井氏)という。そこで、一念発起してキャリアコンサルタントの資格を取得。面談の前には、面談対象者の上司に人となりについてヒアリングし、うちとける雰囲気を工夫するなど、経験を重ねながらノウハウをつちかっていった。スタートから6年目を迎えるが、面談した社員は延べ1800人に上るという。 面談の効果を高めるために「キャリアデザイン研修」を実施  面談を軸とする同社の仕組みは、毎年4〜5月に開催される「キャリアデザイン研修」から始まる。期間は1日で、1回の参加者は20〜30人。50歳になった全員が参加するので、対象者が300人の場合は10〜15回開催される。プログラムは、自分を客観視するためのオリジナル動画の視聴に続き、同社のヒューマンリソース部長が会社のビジョンと方向性について話し、50代社員への期待を熱く語る。その後、講師による講義とグループごとに課題を与えるワークショップへと続く。  研修のねらいは、あくまでも面談の動機づけだが、最大の効果を得るための検証を徹底している。取組み開始1年目は、7人の外部講師に依頼したうえで、同社の風土に合う・合わないなどを観察。2年目は3人に選別し、3年目以降はさらに2人に絞った。また、各講師が担当する対象社員やワークショップのクラス分けも、ランダムではなく事前に調整している。  「職場には、順調にがんばっている人もいれば、何らかの悩みを抱えている人もいます。それにふさわしい講師と内容を毎回検討しています。また、ワークショップでは、キャリアを選択するための軸となる価値観である『キャリアアンカー』が近い人同士を事前にグループ分けします。昇進することに価値観を置いている人、ワークスタイルを重視している人、キャリア自律に関心がある人など、同じ価値観を持つ人同士なのでワークショップも活性化します。私自身も後ろのほうで研修風景を観察し、参加者が特徴的な発言をした場合はメモを取って、面談の参考にしています。研修終了後は講師と反省会を行い、時間配分やテキストの中身について見直すなど、課題を深く掘り下げながら、意見交換をしています」(浅井氏)  企業によっては、研修の最初と最後の部分だけ人事担当者が立ち会うケースもあるが、面談の材料とするため、最初から最後まで見守り、研修中の一人ひとりの言動を浅井氏自身が観察している。研修の最後には参加者全員に「キャリアビジョン」を書いてもらう。ただし「1年後や10年後のことなど、どのように書くかは本人の自由に任せ、漠然とこうしたいと思うことを書いてもらいます。面談までの間にじっくり考えてもらうのが目的です」という。 前向きに働けるようになるなら目標が「毎朝挨拶をする」でもよい  全員対象の個人面談は、研修が終わった1〜2カ月後の6月ごろから始まる。面談時間は30分〜1時間程度。面談では、自分が「こうなりたい」というビジョンを聞き、実現するための短期的目標などを設定する。面談を通じて組織・業績に貢献することが最終的な目標であるが、何よりも目標に向けて本人が自律的に行動するようにうながすことを主眼としている。  本人が書いたビジョンシートに基づいて話し合うが、面談での最初の質問は「この前の研修はどうでしたか」に決めているという。  「経験則でいうと、『楽しかったです』という人は職場でもがんばっている人が多く、逆に『辛かったです』という人は活躍できていない人が多い。その答えでどういう人なのかがわかりますし、昇進の状況や評価などの人事データと照らし合わせながら、コミュニケーションの内容を決めます」(浅井氏)  面談の進め方としては、例えば財務系の社員の場合、「後輩の役に立つようになりたい」という目標だけでは具体性に欠ける。そこで「後輩に対して毎月第三水曜日に財務勉強会を開きます」と、客観的に実行しているかどうかがわかるように具体的な目標にまで落とし込んでいく。ただし、目ざす目標やレベル感は人によって異なり、まさに百人百様。浅井氏が常に意識しているのは、本人の置かれた状況や能力を見極めたうえでアドバイスすることだ。  「本人のレベルに合わせて個別に対応するようにしています。極端な例ですが、朝の出社時に挨拶をしない人が、『おはよう』というだけでも、『チームの雰囲気が変わった』と上司から感謝されることもある。前向きに仕事をするためなら、『毎朝、おはようと挨拶をする』という目標設定もあり≠ネのです」(浅井氏)  あるいは肥満気味の社員に「英語を勉強するよりもウォーキングをしなさい。時間が余ったら英語の勉強をしては」とアドバイスしたこともある。同社では英語力の習得を奨励しているが、「本当に英語をやりたいのか疑問でした。アドバイスを受けて本人は熱心にジョギングをやり、半年後には『体重が8s減り、身も軽くなり腰痛もなくなりました。おかげで仕事も充実しています』と報告を受けました。50歳にとってはやはり健康も重要。その人にとって何が幸せなのかという視点は大切です」と語る。  面談では本人の悩みの解決も重視しているが、悩みの7割がプライベートに起因するものだという。老親の介護、腰痛による通勤の辛さ、再雇用後の住宅ローンの返済など多岐にわたる。それぞれの悩みをどうやって乗り切っていくのかを考えさせ、解決に導いていくのも浅井氏の役割だ。また仕事の面で「高い評価を得て、昇進したい」という人もいる。それがむずかしいと思われる人には、あえて目標を修正するようアドバイスすることもある。  「出世したいというのはサラリーマンとしては健全だと思いますが、客観的に見てその可能性が低いと思われる場合は、私の判断で別の可能性を提案することもあります。例えば『昇進するにはマネジメントスキルが必要になりますが、それに向けて努力するよりもITリテラシーをもっと磨いたほうが業務を進めるうえで役に立つし、会社からも評価されますよ』と話す。本人にとって何が一番幸せにつながるのか、自分にふさわしい生き方をどのように見つけていくのか、キャリア指導というよりも、考え方、思考法をアドバイスするのが私の役割だと思っています」(浅井氏) 社員自身が現状と向き合い新たな目標を設定できるようサポート  同社のボイス&ビデオコミュニケーションサービス部の森川裕子(ゆうこ)氏も浅井氏のアドバイスによって当初の目標を修正し、新たな目標を発見した一人だ。  「ずっと働き続けたいと思っていますが、会社で何が活かせるのかわからなくて、『英語は仕事のためにも必要かも』と勉強はしていましたが、なかなか身につかない状態でした。面談のときに浅井さんから『かも≠ノは投資しないで。50歳ですよ』といわれたのです。たしかに、周りには流ちょうに英語を話すことができる人はたくさんいるし、そのような人たちにいまから追いつくことはできないことに気づきました。同じ時間を使うなら、別の『勝てるもの』に投資を、と指摘され、では何をやろうかと考えていったのです」  話し合ううちに森川氏の頭に浮かんだのは大学時代に経験した家庭教師の思い出だった。  「成績がよくない子を一対一で教え、成績を大きく伸ばすことが得意だったことを思い出しました。人の成長にかかわれること、それを支えることが自分にとってはうれしいし、頭の隅で『いつかカウンセラーのような仕事をやってみたい』と思っていました。また、50歳まで長年企業で働いた経験も何か活かせるのではないかと考えました。浅井さんもカウンセラーはいいねといってくださり、キャリアコンサルタントの仕事の話を聞いて、チャレンジしたいという思いが強くなりました」  浅井氏からも「AIの時代に代わることができない仕事として、これからも必要になるし、60歳以降も活躍できる可能性がある」とアドバイスされた。面談を契機に森川氏はキャリアコンサルタントの資格取得を目ざして勉強をスタートし、今年の8月に見事に合格している。 ベテラン社員の活躍に必要なのは人事担当者の熱意と経営ポリシー  面談は一回で終わりではない。「1時間経過してもまだ考え込んでいる人は、一皮剥(む)けそうだなというところまで何度も実施し、計10時間やった人もいます。その人なりに何かの感触を掴(つか)むまで逃がさないようにしています」(浅井氏)。一方、社員からももう一度面談をしてほしいと依頼されることも多いという。  面談終了後、対象者の上司に浅井氏が書いた「面談所感」をフィードバックしている。対象者の人となり、どんな価値観を持っているのか、あるいは「どんな仕事に向いているのか、本人への接し方を含めて、『こうすれば力を発揮すると思います』というアドバイスも入れます。また、上司も含め、前向きに仕事に取り組む環境を整えるため本人の了承を得て、『上司にこういう不満を持っています』など、あらゆるメッセージを書き込んでいます」(浅井氏)。  また、面談で設定した目標を実行しているかどうかについて、メールや電話で定期的に確認している。実行日にまだやっていなければ「ダメじゃないか、やらないと」と発破をかけることもある。  面談を軸とするプログラムは、冒頭に述べた上司調査でも7〜8割が「行動に変化があった」と答えるなど成果を上げている。それでも浅井氏は「裏を返せば2〜3割は変えることができていない」と自らを戒める。  同社の最大の特徴は、一対一の面談を軸にキャリア開発の仕組みを構築していること、また浅井氏のようにこの業務に全力を傾けられる専任のスタッフが存在すること、そして何より会社がベテランの活躍に期待し、経営トップを含めて全面的にこの仕組みをバックアップしていることだ。  単に制度を構築するだけではモチベーションは向上しない。それに命を吹き込む担当者のエネルギーと、それを信じて行動を起こす社員を支える経営ポリシーがいかに大事であるか、改めて教えてくれる。 キャプション ヒューマンリソース部人事・人材開発部門の浅井公一担当課長 ボイス&ビデオコミュニケーションサービス部の森川裕子氏 【P46-49】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第18回 労働条件の統一、育児休業後の契約切り替え 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 企業合併時の労働条件の統一について知りたい  このたび、企業買収を実行することになり、買収対象となる会社を合併して、会社の法人格を統一することになりました。当社と対象会社の業務内容に関連性はあるものの、本店も別々であり、事業場も異なります。さらに、始業時間や終業時間、賃金体系、退職金の有無などさまざまな点が異なっています。  これらの労働条件を統一するにあたってどのような点に注意すべきでしょうか。 A  合併の際の労働条件の変更方法としては、労働組合が存続する場合は当該組合との労働協約の締結があるほか、一般的には就業規則の変更によって実施することになります。  ただし、就業規則の不利益変更は、合理的な内容でなければならず、賃金の減額をともなう場合には、十分な説明と自由な意思による同意が得られなければ、有効に労働条件を変更できない場合があります。 1 合併と労働条件について  会社の合併によって、二つ以上の会社が一つの会社に統一されることがあります。質問にもあるように、通常二つの会社における労働条件がまったく同一であることはありません。  合併により、吸収する存続会社の労働条件にすべて自動的に統一されるような法制度も存在していないため、労働条件の統一については、労働基準法、労働契約法などの規定にしたがって、順次進めていかなければなりません。  労働条件は、労働契約、就業規則、労働協約、その他労使慣行となっている内容などがあるところ、これらにより定められた内容を変更するにあたっては、不利益変更となるか否かなどをふまえた変更方法を検討していく必要があります。 2 労働条件統一の方法について  多数の労働者の労働条件を一斉に変更しなければならないことから、労働協約または就業規則を変更することをもって、統一する方法が考えられます。  そのほか、労働者から個別の同意を得ることをもって、労働条件を変更するということも考えられます。  労働協約によって設定されている労働条件がある場合には、労働組合との事前協議を経て、最終的な労働条件を定めた労働協約を締結することが理想です。しかしながら、合併により存続する会社の労働組合と、消滅する会社の労働組合が併存するのか、それとも合流するのか、もしくは一方は解散(消滅)するのかなど状況に応じて、労働協約を締結すべき労働組合は変わってきます。したがって、労働協約が存在する場合には、合併後に存続する労働組合との間で、合併後に適用すべき労働協約について協議して、締結することになると考えられます。 3 労働条件統一にあたっての留意点  労働組合が存在しない場合には、労働協約ではなく、就業規則の変更によって労働条件の統一を目ざすことになります。  しかしながら、就業規則の変更は、完全に自由に行えるわけではなく、不利益な変更については、労働契約法による制限があります。  労働契約法第9条は、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない」と定め、同法第10条は、不利益変更の合理性に関して、「就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」にかぎって、その就業規則の変更が有効であることを許容しています。  合併後の労働条件の統一にあたっては、すべての労働条件について、いずれか有利な条件を採用して、労働者にとってもっとも有利な条件で統一する場合でないかぎり、存続会社または消滅会社のいずれかにとっては不利益となる項目が多数出てくることが通常です。また、仮に有利な条件で整えようと試みた場合であっても、手当の額など金額の比較のみで決定できる場合とは異なり、始業時間は早い方が有利なのか、それとも遅い方が有利なのかについては、一概に決定することはできませんし、手当についても支給条件が異なる場合には、いずれに統一する方が有利なのか判断することは、実際の場面では困難がともないます。  したがって、不利益変更をともなうことを避けることはできないといっても過言ではないでしょう。 4 合併時の労働条件の統一と不利益変更に関する判例  合併時の就業規則変更による労働条件の統一に関する最高裁判例として、大曲(おおまがり)市農協事件(最高裁昭和63年2月16日判決)があります。当該判決においては、就業規則の不利益変更の合理性を判断するにあたって、「当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される」と判断しました。なかでも、「賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである」としており、賃金の減額に関しては明示的に厳格な基準を設定することを打ち出しています。  したがって、賃金の減額に関しては、就業規則の変更のみではなく、労働者の同意を得て行うべきですが、同意の取得方法に関しても、最高裁平成28年2月19日判決において、具体的な変更に先立つ「労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当である」として、単なる形式的な同意を主張しているだけでは足りないとされています。  そのため、合併時の労働条件統一にあたっては、就業規則の変更のみではなく、事前の説明会の開催、特に賃金の減額をともなう場合には、十分な説明を行って同意を取得するほか、減額の程度が大きい場合などには、調整給の支給などの方法による緩和措置を十分に設定するなど、さまざまな配慮が必要になるでしょう。 Q2 育児休業後の契約切り替えについて知りたい  当社の正社員が育児休業を利用した後、復職する予定です。復職時には短時間勤務を希望しているようなのですが、当社の制度上、短時間の勤務とする場合にはパートタイマーとして、期間の定めのある契約を締結することとなっています。そこで、本人の同意を得て、当該の労働者と有期雇用の労働契約をあらためて締結しようと思うのですが、問題ないでしょうか。 A  非正規雇用への切り替えは、育児休業などの利用に対して行われることが禁止されている不利益取扱いに例示されています。  合意により行う場合は、必ずしも全面的に禁止されているわけではありませんが、客観的かつ合理的な理由があると認められる自由な意思による同意を得られなければ、契約内容の変更が無効となると考えられます。 1 出産・育児に関する制度  育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、「育児休業法」)においては、育児に必要な諸制度が定められ、使用者となる企業は、これを遵守しなければなりません。また、労働基準法にも産前産後の休業に関して規定されています。  使用者は、産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)、産後8週間については、就業させてはならないとされ(労働基準法第65条)、出産後については、育児休業制度として、原則として子が1歳になるまでの間(保育所などに入ることができないなどの事情がある場合には最長子が2歳になるまでの間)について、育児休業を取得させなければなりません(育児休業法第5条、第9条など)。  このほか、子が3歳に満たない場合に、労働者が労働時間の短縮措置を求めた場合は、原則として6時間に短縮する措置をとることが求められ(同法第23条)、小学校に入るまでの子を養育している場合、年間5日の範囲で看護休暇を取得することができます(同法第16条の2)。  これらの制度の利用を確保するために、これらの制度の利用に対して、不利益な取扱いをしてはならない旨定めています(育児休業法第10条及び第16条の4)。 2 不利益取扱いの種類  厚生労働省が定めるガイドラインにおいては、不利益な取扱いの種類として、解雇、契約の更新回数の制限、退職の強要、自宅待機命令、意に反する労働時間短縮措置、降格、減給、人事考課上の不利益な評価、不利益な配置変更などがあげられています。また、正規雇用労働者を非正規雇用労働者に変更するよう強要することも不利益取扱いとして例示されています。  したがって、質問のようなかたちで、有期雇用のパートタイマーといった非正規雇用へ契約内容を変更するよう強要することは、育児休業法により禁止されており、仮に変更したとしても無効とされてしまうと考えられます。  しかしながら、「強要」という表現がされている通り、強要によらない契約内容の変更まで完全に否定されているわけではありません。 3 非正規雇用への変更にあたっての同意について  非正規雇用の契約に変更するにあたって、本人の同意を得るために留意すべき事項について、検討しておきたいと思います。  使用者と労働者の関係性から、使用者が求める契約内容を断ってしまうと、不利益な取扱いを受けるのでないかといった懸念を労働者が持つことは想像に難くありません。そのため、同意によるものかについて、裁判所も慎重に判断する傾向があります。  例えば、東京地裁平成30年7月5日判決においては、労働時間の短縮措置を求めた労働者を、合意によってパート社員へ切り替えたことに関して、「労働者と事業主との合意に基づき労働条件を不利益に変更したような場合には、事業主単独の一方的な措置により労働者を不利益に取り扱ったものではないから、直ちに違法、無効であるとはいえない」としつつも、「労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、当該合意は、もともと所定労働時間の短縮申出という使用者の利益とは必ずしも一致しない場面においてされる労働者と使用者の合意であり、かつ、労働者は自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、当該合意の成立及び有効性についての判断は慎重にされるべきである」と整理しています。  さらに、合意の成立を認めるためには、「当該合意により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者が当該合意をするに至った経緯及びその態様、当該合意に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等を総合考慮し、当該合意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要であるというべき」という基準を設けました。  この裁判例においては、短時間勤務となるためにはパート社員になるしかないといった説明を受けて行った労働契約の変更に対する合意については、自由な意思により行われたものではないため、有効なものとは認められませんでした。 4 自由な意思による同意について  裁判例が用いた「自由な意思」という言葉や、「合理的な理由が客観的に存在することが必要」といった内容については、賃金の減額をともなう労働条件の不利益変更を行う場合と同等程度の基準をもって判断することを意味しており、育児休業に対する合意による不利益取扱いについて、労働条件においてもっとも根幹をなしている賃金の変更と同程度に重要な労働条件として保護されるべきということを意味しているといえるでしょう。  したがって、労働時間の短縮措置に対して、契約内容を不利に変更することを実現するためには、変更の必要性が高いのみならず、十分な説明内容や不利益の緩和措置があることなどから、一般的な労働者であれば応じることが合理的であると説明可能なものとしなければ、およそ有効にはなりえないものになると考えられます。  非正規雇用といった内容に変更せずに、現行の契約内容のまま短縮措置を講ずることができるように、業務内容や社内の体制を整備するほか、短時間措置の適用に備えた就業規則の内容とするなど、育児中の労働者への支援が可能となるように留意する必要があります。 【P50-51】 科学の視点で読み解く 身体と心の疲労回復  高齢者が毎日イキイキと働くためには、「疲労回復」の視点を持つことも重要になります。この連載では、「疲労回復」をキーワードに、“身体と心の疲労回復”のために効果的な手法を科学的な根拠にもとづき紹介します。 国立研究開発法人理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム プログラムディレクター 渡辺(わたなべ)恭良(やすよし) 第5回 疲労からの回復と睡眠の質  睡眠は、身体の疲労のみならず、脳の疲労回復にとっても極めて重要な生理現象です。このため、ヒトは1日約7時間、人生の約3分の1に近い時間を、一見すると非生産的に見える睡眠という行為のために割(さ)いているのです。そして、睡眠は、適切な時間(量)に加え、その深さなどの質についても、疲労回復のために重要な要素となっているのです。そこで、今回は疲労回復に重要な役割を果たす、睡眠について紹介します。 睡眠不足と脳機能の低下  脳は膨大なエネルギーを消費する器官です。脳の重さは体重のおよそ2%ですが、エネルギーとしては、身体全体の約2割を消費しています。また、脳の活動のエネルギーのほとんどはブドウ糖に依存しており、全身のブドウ糖の必要量の約25%を脳が使っています。  これほど大きなエネルギーを使う脳は、眠らないこと(断眠)によって、エネルギーとしてのブドウ糖を上手に活用できなくなります。ラットを使った実験の結果によると、1日の断眠によって脳のブドウ糖の利用能力は断眠前と比較して約6割に低下し、さらに5日の断眠を続けると、約4割に低下しました。一方、5日間の断眠による低下は、1日の睡眠によってかなり回復することがわかっています。このように、脳の疲労を回復させる能力が睡眠の本質のひとつともいえそうです。 睡眠障害と疲労  筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)※1の患者さんの多くに、睡眠の質の低下が認められています。これはどういうことかというと、健常者では睡眠時に上昇するはずの「副交感神経」が、ME/CFSの患者さんでは上昇しない傾向にあることがわかっています(図表)。つまり、副交感神経が生体のリズムにしたがって正常に活動していない場合は、たとえ睡眠時間を十分に確保できたとしても、質のよい睡眠が得られたとはいえないのです。いわゆる目覚めのよい睡眠≠ェ取れません。ますます疲労を助長する負のスパイラル≠ノ入るともいえます。  このような自律神経系のバランスの乱れはME/CFSの患者さんの多くに認められています。自律神経系のバランスの乱れによって、疲労の回復が阻害されるだけではなく、注意力や集中力、思考力の低下にも関係すると考えられています。つまり、就寝中の副交感神経の機能の低下が、疲労の問題の要因となっている可能性が考えられています。 睡眠時無呼吸症候群  中高年の人のなかには、睡眠時無呼吸症候群の悩みを抱える人も少なくないと思います。睡眠が深くなったときに舌の緊張がゆるんでしまうことで息の通り道が狭くなり、いびきが起こって十分な呼吸ができなくなり、また完全に息の通り道が閉塞して息が止まってしまうのが、閉塞性の睡眠時無呼吸症候群といわれるものです。  睡眠時無呼吸症候群の症状が重い場合には、夜間の睡眠が妨げられるため、日中の覚醒度が低下し、ミスや事故を起こしやすくなるといわれています。また、高血圧症や糖尿病のリスクを高め、動脈硬化による脳梗塞や心筋梗塞による死亡率が高まることが明らかになっているので、疲労からの回復につながる質のよい睡眠を確保するためにも、睡眠時無呼吸症候群の治療を行うことは、高齢社員の健康確保のためにも重要です。産業医と相談して、スクリーニング※2の実施について検討してみてください。 不眠と寝酒  ヒトは、50歳以上になると自らの健康状態などを背景として、不眠を訴える人が多くなるといわれています。みなさんの事業所で働いている高齢従業員のなかにも、「最近、夜眠れないので寝酒をしている」という人がいるかもしれません。  アルコールは睡眠導入には効果がありますが、睡眠を浅くし利尿作用もあることから、睡眠途中で目覚めることが増加します。アルコールを飲むと、このように睡眠の質が低下するため、熟睡するには逆効果であるといっても過言ではありません。  また、「お酒を飲んだ夜にはいびきがひどくなる」という現象に思いあたる人が多いと思います。この現象は、お酒(アルコール)が筋肉の緊張をゆるめることによって、一時的に、睡眠時無呼吸症候群と同じような状態が起こっていると考えられています。  高齢社員が寝酒に頼っている場合には、寝酒はただちにやめさせたうえで、産業医と相談のうえ、睡眠薬の使用を検討してみてください。最近の睡眠薬は以前に比べて安全性が高いものが主流になっていますので、適切に使用すれば安全ですし、効果的な疲労回復にもつながるでしょう。 わたなべ・やすよし 京都大学大学院医学研究科博士課程修了、大阪医科大学医学部・講師、大阪バイオサイエンス研究所・研究部長、大阪市立大学大学院医学研究科・教授、理化学研究所分子イメージング科学研究センター・センター長、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター・センター長、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター所長等を歴任し、現在は、理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム・プログラムディレクター、理化学研究所生命機能科学研究センター・チームリーダー、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター・顧問を兼任。日本疲労学会・理事長。 ※1 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群……健康に生活していた人が、社会的・物理的・化学的・生物学的ストレスがきっかけとなり、原因不明の激しい全身倦怠感に襲われ、それ以降、日常生活に支障をきたす強度の疲労感とともに、身体を動かした後の微熱、頭痛、脱力感、筋肉痛、思考力の低下、抑うつ状態などの症状が長期にわたって続き、健全な社会生活が送れなくなる疾患。日本には約30万人の患者がいると推計されている ※2 スクリーニング……病気のある人を早期発見し、早期の治療や病気のコントロールにつなげるための検査 図表 健常者とCFS 患者の自律神経系の日内変動(概念図) (覚醒) 朝 昼 夜 (入眠) 活動期 回復期 交感神経:健常者 副交感神経:健常者 ME/CFS患者 ME/CFS患者 副交感神経が低下傾向 出典:筆者作成 【P52-53】 10月は「高年齢者雇用支援月間」 参加無料 2019年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 高齢者雇用に取り組む事業主のみなさまへ  「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」を、下記の日程で本年度も開催します。  本年度は、「高齢社員を戦力化するための工夫」、「継続雇用・定年延長制度」をテーマに、全国6都市(北海道・富山・東京・大阪・香川・福岡)の会場で開催。今号では、3会場のご案内をします(他会場のスケジュールは前号をご参照ください)。  政府においても、令和元年6月に閣議決定した「成長戦略実行計画」において、70歳までの就業機会の確保について定年延長や継続雇用など、企業において高齢者の活躍を促進する環境整備の必要性が示されています。  このシンポジウムでは、高齢者雇用の促進に向け、具体的な定年延長等の進め方、高齢者の活躍の促進(戦力化)について、みなさまとともに考えていきます。なお参加費は全会場、無料となっています(事前申込みが必要)。  高齢者雇用の環境整備に向けた課題へ取り組まれる事業主や、人事担当のみなさまのご参加を、心からお待ちしています。 東京 2019年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 〜人生100年時代 高齢社員戦力化へのアプローチ〜 日時 2019年11月13日(水) 13:00〜16:00 場所 イイノホール 千代田区内幸町2-1-1 飯野ビルディング (日比谷線・千代田線「霞ヶ関駅」C4 出口直結) 定員 450人(先着順) 《プログラム》 講演 「高齢社員の人事戦略と人事管理―戦力化に向けた仕事・賃金・キャリア―」 千葉経済大学 経済学部 経営学科 准教授 藤波 美帆 氏 企業事例 損害保険ジャパン日本興亜株式会社/株式会社ポーラ パネルディスカッション 「高齢社員を戦力化するための工夫」 損害保険ジャパン日本興亜株式会社 日本クッカリー株式会社 株式会社ポーラ 申込み方法 シンポジウムのお申込みは、以下の専用URLからお願いします。 参加申込期間は10月1日(火)13時から11月11日(月)の予定です。 https://krs.bz/jeed/m/tokyo-191113 ※申込みの際に取得した個人情報は適切に管理され、当機構が主催・共催・後援するシンポジウム・セミナー、刊行物の案内等にのみ利用します。利用目的の範囲内で適切に取り扱うものとし、法令で定められた場合を除き、第三者に提供しません。 福岡 2019年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 〜人生100年時代 高齢社員戦力化へのアプローチ〜 〈高年齢者雇用管理セミナー同時開催〉 日時 2019年11月28日(木) 13:00〜16:30 場所 JR九州ホール 福岡市博多区博多駅中央街1-1 JR博多シティ9階(JR「博多駅」直結) 定員 250人(先着順) 《プログラム》 講演 「高齢社員の人事管理 60歳代以降を考える」 学習院大学名誉教授 学習院さくらアカデミー長 今野 浩一郎 氏 企業事例 イオン九州株式会社/株式会社ケアリング パネルディスカッション 「高齢社員を戦力化するための工夫」 申込み方法 「参加申込書」を当機構福岡支部ホームページからダウンロードいただき、福岡支部高齢・障害者業務課あてにお申し込みください。 福岡支部ホームページ http://www.jeed.or.jp/location/shibu/fukuoka/elderlyseminar.html 大阪 2019年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム 〜人生100年時代 高齢社員戦力化へのアプローチ〜 日時 2019年12月3日(火) 13:00〜16:15 場所 ドーンセンター(大阪府立男女共同参画・青少年センター)7階ホール 大阪市中央区大手前1-3-49(京阪電車「天満駅」、大阪メトロ谷町線「天満駅」350m) 定員 300人(先着順) 《プログラム》 講演 「高齢社員の戦力化と人事管理の整備―『知る』仕組みと『知らせる』仕組みの整備―」 玉川大学経営学部国際経営学科教授 大木 栄一 氏 企業事例 株式会社島屋/レンゴー株式会社 パネルディスカッション 「高齢社員を戦力化するための工夫」 申込み方法 シンポジウムの参加お申込みは、以下の専用URLからお願いします。 参加申込期間は10月15日(火)13時から11月27日(水)の予定です。 https://krs.bz/jeed/m/osaka-191203 ※シンポジウムの参加申込みによりいただいた個人情報については適切に保管し、当機構が主催する本シンポジウムの実施のためにのみ利用します。利用目的の範囲内で適切に扱うものとし、法令で定められた場合を除き、第三者に提供しません。 お問合せ先 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 研究開発課 TEL:043?297?9527 FAX:043?297?9550 http://www.jeed.or.jp/ 主催 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 後援 厚生労働省 【P54】 10月は「高年齢者雇用支援月間」 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 地域ワークショップのご案内  高年齢者雇用にご関心のある事業主や人事担当者のみなさま! 令和元年度の未来投資会議で、盛んに議論されている高年齢者雇用にご興味をお持ちの方も多いのではないでしょうか。  当機構では各府県支部が中心となり、生涯現役社会の実現に向けた「地域ワークショップ」を開催します。事業主や企業の人事担当者などの方々に、高年齢者に戦力となってもらい、いきいき働いていただくための情報を提供します。  各地域の実情をふまえた具体的で実践的な内容ですので、ぜひご参加ください。 概要 日時/場所 高年齢者雇用支援月間の10月を中心に各地域で開催 カリキュラム (以下の項目などを組み合わせ、2〜3時間となります) ●専門家による講演【高年齢者雇用の現状や各種施策など】 ●事例発表【先進的に取り組む企業の事例紹介】 ●ディスカッション ●質疑応答 参加費 無料(事前の申込みが必要となります) 開催スケジュール 下記の表をご参照ください(令和元年9月19日現在確定分) ■開催スケジュール 都道府県 開催日 場所 青森 10月17日(木) 八戸地域職業訓練センター 岩手 10月28日(月) いわて県民情報交流センター 宮城 11月8日(金) 宮城職業能力開発促進センター 秋田 10月24日(木) 秋田テルサ 山形 10月16日(水) 山形国際交流プラザ 福島 10月24日(木) 福島職業能力開発促進センター 茨城 10月24日(木) ホテルレイクビュー水戸 栃木 10月23日(水) 栃木県立宇都宮産業展示館 群馬 11月14日(木) 群馬職業能力開発促進センター 埼玉 10月28日(月) 埼玉教育会館 千葉 10月24日(木) ホテルポートプラザちば 神奈川 10月17日(木) 関内ホール 新潟 10月29日(火) 新潟ユニゾンプラザ 石川 10月24日(木) 石川職業能力開発促進センター 福井 10月16日(水) 福井市研修センター 山梨 10月31日(木) 山梨職業能力開発促進センター 長野 10月16日(水) ホクト文化ホール 小ホール 岐阜 10月28日(月) じゅうろくプラザ 静岡 10月16日(水) 静岡職業能力開発促進センター 愛知 10月7日(月) 名古屋市青少年文化センター 三重 10月28日(月) ホテルグリーンパーク鈴鹿 滋賀 10月25日(金) 滋賀職業能力開発促進センター 京都 10月8日(火) 京都労働局 6 階会議室 兵庫 10月10日(木) 神戸市産業振興センター 奈良 10月24日(木) ホテルリガーレ春日野 和歌山 10月11日(金) 県民交流プラザ 和歌山ビッグ愛 鳥取 11月8日(金) 米子コンベンションセンター 島根 10月23日(水) 松江合同庁舎 岡山 10月15日(火) ピュアリティまきび 広島 10月11日(金) 広島職業能力開発促進センター 山口 10月24日(木) 山口職業能力開発促進センター 徳島 10月4日(金) 徳島県JA会館 愛媛 10月17日(木) 愛媛職業能力開発促進センター 高知 10月29日(火) 高知職業能力開発促進センター 佐賀 10月17日(木) アバンセ第1研修室 長崎 11月1日(金) 長崎ブリックホール国際会議場 熊本 10月16日(水) ホテル熊本テルサ 大分 11月1日(金) トキハ会館 宮崎 10月18日(金) 宮崎市民文化ホール 鹿児島 10月29日(火) 鹿児島県民交流センター 沖縄 11月25日(月) 那覇第2地方合同庁舎 各地域のワークショップの内容は、各支部高齢・障害者業務課(65頁参照)までお問い合わせください。 上記日程は予定であり、変更する可能性があります。 jeed 生涯現役ワークショップ 検索 【P55】 日本史にみる長寿食 FOOD 313 ゴマは現代人の兵糧丸 食文化史研究家● 永山久夫 強運を呼ぶゴマ入り兵糧丸(ひょうろうがん)  運勢を気にする人は、少なくありません。  占いで「大吉」が出たりすると、思わずバンザーイ! をしたくなります。それだけ、現代は不安な時代なのです。  戦国時代の武士にとって、自分の運勢は、現代人以上に強い関心ごとでした。いったん合戦がはじまれば、あとは運次第のようなところがあるからです。運よく勝利すればよいが、運が悪ければ、敗走どころか、自分の命だってあぶない。そのため、武士たちは、強運を呼ぶために、さまざまな縁起をかつぎました。  守り神を身につけるのはあたり前。武士によっては、兵糧丸や梅干しでつくった丸薬などを持参しました。  なかでも注目されたのが、疲労回復、記憶力強化、無病息災、百戦百勝の効果があるとしてつくられた「兵糧丸」。素材は、武将によっていろいろあるのですが、いずれの場合でも中心となるのが「ゴマ」なのです。黒ゴマをメインに、そば粉、玄米粉、かつお節の粉、くるみの粉、ニンニクなどが入ります。 若返り成分がたっぷり  体はほうっておくと、どんどんさびついてしまいます。つまり、酸化力の強い活性酸素による酸化が起こるのです。戦国武士であろうと、現代のビジネスマンであろうと、酸素を吸って生きている以上、だれも避けることはできません。  さびを防ぐのが抗酸化成分で、なかでも注目されているのがゴマに多いセサミン。抗酸化力がきわめて強く、体細胞や血管の老化を防ぎ、心臓病の予防にも役立つ作用があるといわれています。  美容や長寿効果で知られているビタミンEや骨を丈夫にするビタミンKも豊富。武士にとって欠かせない、疲労回復に効果的とされるビタミンB1も多い。そのうえ、ゴマには認知症の予防作用で脚光を浴びている、ビタミンB群の一種である葉酸もたっぷり。  カルシウムも多く、100g中に1200mgも含まれ、骨の若さを保ったり、イライラを防ぐ効果もあります。  ゴマは、現代人の兵糧丸にぴったりのパワフルフードといってよいでしょう。 【P56-57】 BOOKS 企業に求められる対応を明快に整理 最新整理 働き方改革関連法と省令・ガイドラインの解説 岩出誠 編集代表 ロア・ユナイテッド 法律事務所 編著/ 日本加除出版/ 3000円+税  働き方改革推進のために、多くの企業でさまざまな取組みが進んでいると思われる。今回の法改正は、時間外労働の上限規制が盛り込まれた労働基準法の改正をはじめ、労働安全衛生法、労働時間等設定改善法、労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法など多岐にわたるため、その全貌を把握して適切に対処するために、企業の人事労務担当者には相応の努力が求められるのではないだろうか。  本書は、このような人事労務担当者を念頭に企画されたもの。改正された法律ごとに改正内容が整理され、また解説は、改正前後の相違点や施行時期、経過措置に留意しつつ、「企業が何をどう準備すればよいのか」という視点に基づき、実務対応において留意すべき点を明快に示しているところに特徴がある。労働問題を専門とする法律事務所が手がけているだけあって、指針やガイドライン、行政通達の内容にも目を配り、人事労務担当者にとって必要な情報が過不足なく盛り込まれている。  企業にとって、コンプライアンス遵守の重要性が増すなか、働き方改革を進めるために企業に求められる取組みを、本書を手に取りながらいま一度確認してみてはいかがだろうか。 人事制度の見直しに必要な情報と実務上の留意点を詳解 ガイドライン・判例から読み解く 同一労働同一賃金Q&A 高仲(たかなか)幸雄(ゆきお)著/ 経団連出版/ 2000円+税  働き方改革の目玉の一つとされる「同一労働同一賃金」。非正規社員の均衡(きんこう)待遇・均等(きんとう)待遇の実現には「同一労働同一賃金ガイドライン」を正確に理解したうえでの対応が求められる。そのために役立つ解説書が刊行された。  労働問題を専門に手がける弁護士が執筆にあたり、全体は「Q&A編」と「参考資料編」の2部から構成されている。Q&A編は、「総論」、「均衡待遇・均等待遇の規制」、「待遇ごとの検討」、「待遇差の説明義務」、「派遣労働者の待遇」、「その他」にわかれているので、この問題の全体像を把握したい人はもとより、すでに全体像を把握している人が、各論の詳細を知るためにも便利な構成だといえるだろう。また、Q&A編の解説には、豊富な図表と資料を抜粋した「関連知識」が盛り込まれており、読者の理解を手助けしてくれる。  一方、参考資料編には、主要な法律の改正部分がわかる新旧対照表や省令、指針、さらに「均衡待遇・均等待遇をめぐる判例・裁判例の概要」が収録されている。  同一労働同一賃金をめぐる課題に一定の答えが必要な人事労務担当者の要望に応える内容であり、必携の書といえるだろう。 新任担当者も理解しやすく、必要な知識が得られる入門書 事業リスク解消! 労働安全衛生法のしくみ デイリー法学選書 編修委員会 編/ 三省堂/ 1600円+税  「働き方改革関連法」といえば、労働基準法改正にともなう、長時間労働の是正を目的とした労働時間管理の強化が思い浮かぶだろう。その一方で、労働安全衛生法の改正によって、「産業医・産業保健機能」が強化され、長時間労働やメンタルヘルス不調などにより健康リスクが高い状況にある労働者を見逃すことがないように、産業医による面接指導や健康指導などが確実に実施されることとなった。  このように企業の人事労務担当者としても、改正後の労働安全衛生法令の正確な理解が求められるが、同法は多種多様な労働者の安全と健康に関する事項を総合的に規制しているため「複雑でわかりにくい」ともいわれている。そこで本書は、第1章「労働安全衛生法の基本」、第2章「工事現場の安全管理」、第3章「健康管理・メンタルヘルス」という簡潔な構成を取り、労働安全衛生法の基本的事項や実務上で最低限必要となる法令の知識が平易な言葉で解説されている。さらに働き方改革関連法にともなう、労働安全衛生法の改正内容も反映されている。新任の人事労務担当者も理解しやすく、必要な知識を得ることができる入門書であり、一読をおすすめしたい。 働く人の健康にかかわる事例をあげて、その対策をわかりやすく解説 産業医が診みる働き方改革 産業医科大学 編/ 西日本新聞社/ 800円+税  高齢者、女性、外国人など多様な人材の活躍が期待されるなか、高齢者については、70歳までの雇用が検討され始めている。職業人生が長くなり、また、年齢にかかわらずいろいろな事情を抱えた人が働く職場が増えて、働く人の心身の健康管理や職場環境の整備がますます重要になってきている。一方で、AI(人工知能)などの技術革新により、産業構造や働き方にさまざまな変化が生じている今日でもあり、従来の枠組みや考え方だけでは対応しきれない職場の課題が増えつつある。  本書は、産業保健専門職の養成にたずさわっている産業医科大学の教授陣が、多くの職場で健康面の課題とされている事例を取り上げ、対策を解説したもの。「ストレスの正体」、「腰痛」といったよく見聞きする話題や最近注目されている「健康経営」、「睡眠負債」、「労働寿命」といった話題もある。2019年4月施行の働き方改革関連法で産業医の権限が強化されたことや、産業医・保健師の役割などにも触れている。  西日本新聞に連載された記事をベースとしているので、わかりやすい表現でまとめられており、人事労務担当者をはじめ、働く人の健康問題に関心を持つ多くの人に役立つだろう。 世界最高齢アプリ開発者に教わる、いくつになっても楽しく生きるためのコツ 独学のススメ 頑張らない!「定年後」の学び方10か条 若宮(わかみや)正子(まさこ) 著/ 中央公論新社/ 820円+税  本書の著者・若宮正子さんは、60歳からパソコンを独自に習得し、銀行を退職後は同居する母親の介護をしながら「パソコン通信」で世界を拡げ、友だちも増やした。その後、シニア世代向けサイトの創設に参画し、84歳の現在も副会長を務める。また、NPO法人の理事として、シニアへのデジタル機器普及にも注力している。  向学心旺盛な若宮さんは、80歳過ぎからプログラミングを学び、お雛(ひな)さまをテーマにしたゲームアプリを開発。すると、世界最高齢のアプリ開発者として一躍有名になり、国際的な会議に招かれたり、政府の「人生100年時代構想会議」の最年長有識者メンバーに選ばれたりして、「人生が激変した」という。貴重な経験は、本誌2018年8月号「特集」でもご紹介した。  本書は、興味があることや憧れていたことを、定年後から「頑張らない独学」で始めた著者の体験や実感、やりたいことの見つけ方などを軽やかな文章で綴ったもの。独学のコツは、「楽しいことから始める」、「ノルマを課さない」など。さらに、変化の激しいこの時代をはつらつと生きていく学びとして、「理科と現代社会の学び直し」を提案する。中高年社員にも役立つ、ポジティブな生き方のヒントが詰まっている。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「本体価格」(消費税を含まない価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「過労死等の労災補償状況」を公表  厚生労働省は、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患、仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害の労災補償状況についてまとめた、2018(平成30)年度「過労死等の労災補償状況」を公表した。  それによると、脳・心臓疾患の労災請求件数は877件で、前年度(840件)と比べ37件(4・4%)増加した。また、業務上認定とされたのは238件(当該年度内に業務上認定とされた件数で、当該年度以前に請求があったものを含む。以下同じ)で、前年度(253件)と比べ15件(5・9%)減少している。請求件数は4年連続の増加、業務上認定件数は2年連続の減少となった。年齢別にみると、請求件数は「50〜59歳」297件、「60歳以上」267件、「40〜49歳」246件の順で多く、業務上認定とされた件数は「50〜59歳」88件、「40〜49歳」85件、「60歳以上」41件の順に多い。  次に、精神障害についてみると、労災請求件数は1820件で、前年度(1732件)と比べ88件(5・1%)増加した。また、業務上認定されたのは465件で、前年度(506件)と比べ41件(8・1%)減少している。請求件数は6年連続の増加、業務上認定件数は3年ぶりの減少となった。なお、精神障害にかかわる労災請求事案の場合、精神障害の結果、自殺(未遂を含む)に至った事案があるが、2018年度は1820件中200件(うち業務上認定76件)となっている。 厚生労働省 「セルフ・キャリアドック」導入支援の拠点を全国5カ所に開設  厚生労働省は、2018年度から企業の「セルフ・キャリアドック」の導入を無料で支援する拠点を設置し、支援を行っている。2019年度は、札幌、東京、名古屋、大阪、福岡の5カ所に拠点を開設した(前年度は東京と大阪の2カ所)。  「セルフ・キャリアドック」とは、企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施することを通して、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取組みのこと。従業員の仕事に対するモチベーションアップや、定着率の向上などにより、企業の生産性向上にも寄与することが期待されている。  開設した5カ所の拠点では、企業内の人材育成・キャリア形成に精通した専門の「導入キャリアコンサルタント」を配置し、セルフ・キャリアドックの導入を検討する企業の状況や要望に応じてアドバイスを行う。また、企業内でキャリアコンサルティングの機会を得ることがむずかしい人からの、仕事や将来のキャリアに関する相談にも専門のキャリアコンサルタントが応じる。  受付時間は、月曜から金曜の午前9時〜午後5時まで(年末年始、祝日を除く)。 【申込み・問合せ先】?電話?札幌03(3230)2445、東京03(5577)4710、名古屋03(3230)3326、大阪03(6261)7174、福岡03(6261)7524 ※全拠点がIP電話のため、電話番号は03から始まる 厚生労働省 障害者雇用実態調査の結果を公表  厚生労働省はこのほど、2018年6月に実施した「2018(平成30)年度障害者雇用実態調査」結果を公表した。同調査は、民営事業所における障害者の雇用の実態を把握し、今後の障害者の雇用施策の検討や立案に役立てることを目的に、5年ごとに実施している。今回初めて、発達障害者についても調査を行った。  従業員規模5人以上の事業所に雇用されている障害者数は82万1000人。内訳は、身体障害者42万3000人、知的障害者18万9000人、精神障害者20万人、発達障害者3万9000人。  障害者を雇用する際の課題としては、身体障害者、知的障害者、精神障害者、発達障害者ともに、「会社内に適当な仕事があるか」が最も多くなっている(身体障害者71・3%、知的障害者74・4%、精神障害者70・2%、発達障害者75・3%)。雇用している障害者への事業主の配慮事項としては、身体障害者については「通院・服薬管理等雇用管理上の配慮」が最多(51・9%)で、知的障害者、精神障害者および発達障害者については「短時間勤務等勤務時間の配慮」が最多(知的障害者57・6%、精神障害者70・8%、発達障害者76・8%)。  障害者雇用を促進するために必要な施策としては、身体障害者については「雇入れの際の助成制度の充実」が最も多く(58・3%)、知的障害者、精神障害者および発達障害者については「外部の支援機関の助言・援助などの支援」が最も多くなっている(知的障害者62・3%、精神障害者64・2%、発達障害者65・8%)。 調査・研究 日本生産性本部/日本経済青年協議会 新入社員「働くことの意識」調査結果  公益財団法人日本生産性本部と一般社団法人日本経済青年協議会はこのほど、2019年度の新入社員1792人を対象にした「働くことの意識」調査結果を公表した。同調査は、1969年度から毎年実施し、今回で51回目を数える。  調査結果によると、「働く目的」では、2年連続で減少してはいるものの「楽しい生活をしたい」(2018年度41・1%→2019年度39・6%)が最も高く、次いで「経済的に豊かな生活を送りたい」(同30・4%→同28・2%)。一方、前年度に過去最低を更新した「自分の能力をためす」は微増(同10・0%→同10・5%)となった。  「人並み以上に働きたいか」については、「人並みで十分」が過去最高を更新(同61・6%→同63・5%)し、過去最低となった「人並み以上に働きたい」(同31・3%→29・0%)の2倍以上の回答割合となり、その差(同30・3ポイント→同34・5ポイント)も過去最高を更新した。  就労意識について4段階で問う質問で、「職場の上司、同僚が残業していても、自分の仕事が終わったら帰る」という項目に「そう思う」、「ややそう思う」と回答した人の割合は合計49・4%で、5年前との比較では14・3ポイント増加した。一方、「あまり収入がよくなくても、やり甲斐のある仕事がしたい」という項目で、「そう思う」、「ややそう思う」と回答した人の割合は合計48・0%で、5年前との比較では14・9ポイント減少した。 イベント ダイヤ高齢社会研究財団 セミナー「ストップ介護離職3―人材喪失リスクに備える―」  ダイヤ高齢社会研究財団とMY介護の広場(明治安田システム・テクノロジー(株))は、介護離職防止をテーマとしたセミナーを都内で開催する。 日時:2019年11月12日(火)18時〜20時 会場:丸の内MY PLAZAホール(東京都千代田区) 参加費:無料 主なプログラム(講演順) ◎「介護クライシス 人材戦略としての両立支援の必要性」西久保浩二氏(山梨大学 生命環境学部教授) ◎「仕事と介護の両立に向けた取り組み」南澤美紀氏(三菱ケミカル(株)人事部 ダイバーシティ推進グループ マネジャー) ◎「仕事と介護の両立をサポート〜困ったらまず相談!」蔵本孝治氏(MY介護の広場 相談サービス業務グループ) ◎「高齢者向け入居施設選びのポイント」脇俊介氏((株)パセリ メディケア事業部 マネジャー) ◎「企業の健康経営を応援する新しい保険商品・サービスについて」森省二氏(明治安田生命保険相互会社 法人営業企画部 法人営業サポート開発室 室長) お申込み・お問合せ ダイヤ財団HP(http://dia.or.jp)を参照。 (公財)ダイヤ高齢社会研究財団 セミナー事務局  TEL:03-5919-1631(代表)  メール:sympo@dia.or.jp 発行物 JILPT 高齢者の活躍を支援する地方自治体などの取組み事例集を刊行  独立行政法人労働政策研究・研修機構(JIL PT)はこのほど、『JILPT資料シリーズbQ12 高齢者の多様な活躍に関する取組U―地方自治体等の事例―』を刊行した。昨年3月に刊行された同タイトルの事例集(JILPT資料シリーズbP98)の第2弾。  健康で働く意欲のある高齢者が、年齢にかかわらず活躍し続けることができる生涯現役社会の構築に向けて、今後は、65歳以上の高齢者について、多様なかたちで雇用・就業機会を確保していくことが課題とされている。  地域におけるこれらの機会の確保のための施策は、臨時的・短期的または軽易な就業機会を提供するシルバー人材センターの取組みが中心的な役割をになってきたが、近年はこれに加え、地方自治体が地域の関係者と連携して高齢者の就業機会を確保する施策も増えてきている。  本事例集は、このような先進的な好事例を収集。厚生労働省から生涯現役促進地域連携事業を受託している七つの自治体など(3市4県)にJILPTの研究員がヒアリングを行った、山形市(山形県)、袋井市(静岡県)、米子市(鳥取県)などの取組み事例が掲載されている。  左記のURLよりダウンロードが可能で、購入する際の本体価格は1100円(税別)。 https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2019/documents/212.pdf 【P60】 次号予告 11月号 特集 高齢者が働く職場の創意工夫が集結! 高年齢者雇用開発コンテストU 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰受賞企業事例から リーダーズトーク 佐藤喜一さん(株式会社オカムラ 執行役員 人事部長) 〈高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQR コードのリンク先がhttp://www.jeed.or.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには−− 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。URL http://www.fujisan.co.jp/m-elder A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢春康……サトーホールディングス株式会社人財開発部 人事企画グループ人事企画担当部長 菊谷寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 清家武彦……一般社団法人日本経済団体連合会 労働政策本部 上席主幹 深尾凱子……ジャーナリスト、元読売新聞編集委員 藤村博之……法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 真下陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア京子……アテナHROD代表、学習院大学特別客員教授 編集後記 ●10月は「高年齢者雇用支援月間」。これにさきがけ、9月12日に、「2019年度高年齢者雇用開発コンテスト」の受賞企業が発表されました。そこで本誌では、今月号で「厚生労働大臣表彰」受賞企業、11月号で「高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰」受賞企業の取組みをご紹介します。  今月号では、厚生労働大臣表彰 最優秀賞をはじめとする6社の取組みを掲載しています。希望者全員65歳雇用の義務化により、特に中小企業では65歳定年や65歳超の雇用は珍しいものではなくなりました。そのようななか、今回の審査では、高齢社員一人ひとりと向き合い、高齢社員が活躍できる環境、活躍できる勤務形態を構築している会社が高く評価されました。  政府の「成長戦略実行計画」が閣議決定され、今後は70歳までの就業機会確保≠ノ向けた取組みがはじまります。今回の受賞企業の取組みを参考にしていただき、70歳、そして生涯現役で働ける職場づくりに取り組んでいただければと思います。 ●10〜11月にかけて、高齢者雇用の実践的な手法が学べる「地域ワークショップ」が全国で開催されます。また、10月18日の北海道会場を皮切りに、「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」が全国6カ所で開催予定です。有識者による講演や企業事例発表など、高齢者雇用にまつわるヒントが満載の内容となっています。詳細は52〜54ページをご覧ください。みなさまのご参加をお待ちしています。 ●「高齢社員の磨き方―生涯能力開発時代へ向けて―」は今月号で最終回となります。高齢社員のより一層の活躍のためには、高齢者自身が前向きにスキル習得・スキルアップすることも大切です。企業にはそのための環境を整えることも求められる時代といえるでしょう。同連載がその参考になれば幸いです。 月刊エルダー10月号 No.480 ●発行日−−令和元年10月1日(第41巻 第10号 通巻480号) ●発 行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 発行人−−企画部長 片淵仁文 編集人−−企画部次長 中村雅子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2  TEL 043(213)6216(企画部情報公開広報課) ホームページURL http://www.jeed.or.jp  メールアドレス elder@jeed.or.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5  TEL 03(3915)6401  FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-728-2 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験などを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.305 時代の波を乗り越えて輝き続ける美しい木造船 船大工職人 兄・佐野龍太郎さん(67歳) 弟・佐野稔さん(66歳) 「乗り手に合わせてつくります。ありふれた量産品はつくりません。だれが見ても美しいね、という船を目ざしています」 受け継いできた伝統技術を現代のお客さまが望むスタイルで  東京湾岸、江東区潮見(しおみ)。  豊洲から夢の島公園へと抜けていく運河に面して、有限会社佐野造船所のドックと桟橋(さんばし)がある。  「向こう岸は五輪会場。地方からのお客さんは、東京は意外に海や川があるんですねと驚きます。私たちは毎日見ていますが」、と笑う社長の佐野龍太郎さん(写真左)。弟の稔さん(写真右)と二人で一緒に9代目を受け継ぎ、いまも現役の船大工職人として、木造船をつくり続けている。  二人は、8代目※1の父親から、こういわれたという。  「船の種類は変わっていくけれど、時代の波に乗っていけ」  江戸時代中期から約200年。佐野造船所は時代とともにあった。  戦後も漁師の声を直接聞き、江戸前海苔の漁に合わせた、漕ぎやすく取り回しやすい漁船や、木場で使う、木材いかだの曳(ひ)き船をつくってきた。  代々受け継がれてきた高い技術と、乗り手を思う設計や仕様の工夫で、一人ひとりのお客さまの要望に応えてきた歴史がある。  8代目からは洋船も勉強して手がけ、9代目の龍太郎さんと稔さんは、自然を楽しめるヨットや、快適なプレジャーボートを、一から次々とつくりあげていった。  和船にも洋船にも詳しいため、新しいことにも挑戦できる。  「埼玉県草加市の観光船では、丸太から製材してつくった昔ながらの和船に、最新のエンジンを載せました。内装だけが和風のプラスチック船ではなく、本物の『和船』です。川岸からも、この船に乗りたい、と声をかけられました」乗りたい、また乗りたい≠ニいわれる船がよい、と二人はいう。  あまり宣伝はしていないが、実は佐野造船所の桟橋から、貸切りで東京湾などを自由に巡るオーダーメイドクルーズもある。  「海から見る東京は、非日常の景色です。乗り心地もよく、特に50代の女性から人気なんです」  乗ると、すぐにわかった。船長の稔さんは操船も超一流だ。 だれが見ても美しい船をつくるだから曲線は「木」で描く  龍太郎さんと稔さん、どちらがつくっても、佐野造船所でつくられた船に共通することがある。  それは、船の美しさ。  「だれが見ても美しい」  「あの船の形(なり)がいい」  古くからの船宿の旦那たちだけではなく、海外の人や初めて見た人も感じる美しさの秘密は、曲線だ。  しかし、船の図面はたった3枚。製図用のCAD※2も使わない。  「コンピューターで引いた曲線は、短い直線の集まりなんです」  製図だけではない。骨組みも、実際に木の棒をあて、鉛筆で線を引く。たしかな手作業の積み重ねに、人間の美意識やセンスが込められる。だから、船にそれぞれの曲線が生まれる。  「兄弟でも違います。でも、並べて見ると、佐野さんの船だっていわれます」と、二人は笑う。  そこにこれから、10代目の龍也(たつや)さんの描く曲線も加わる。  龍也さんが現在製作中の船は、初めて乗った父親のボートの格好よさが原点にある。だが、9代目が教えていることは、ただ一つ。  「親の真似はするな」  自分の理想を追求した新しい船を、仕事を手伝う合間に一から設計し、完成させて初めて、お客さまの注文を受けられるという。そういうしきたりなのだ。 代々、幼少期から船に親しみ感覚が育つことも大切にしてきた  小学生のころから、遊びで釘を打ったり、のこぎりで木を切ったりしていたという龍也さん。  龍太郎さんたちも同じだった。  「雑念がない子どものうちから船や仕事を見ている。それが純粋に自分の感覚になるんです」  まず自然な環境で感覚を覚え、後になって意味に気づき、そこから自ら磨きをかける。これこそが匠が育つ家の秘密だろう。 有限会社佐野造船所 http://www.sano-shipyard.co.jp/ オーダーメイドクルージング http://dover-japan.com/ (撮影・福田栄夫/取材・朝倉まつり) ※1 8代目の佐野一郎さんは個人として江東区の無形文化財指定を受けていたが、9代目からは佐野造船所として無形文化財指定を受けている ※2 CAD……コンピューターによる設計支援ツールのこと キャプション フィッシングボートの骨組み。ラワン材を曲げてつくる龍太郎さん(左)。建造後12年経った船の復元修理。カンナをかける稔さん(右) 造船所の遠景。龍太郎さんが製作した30年以上現役のヨットやボートが並ぶ ドック内。左は完成が楽しみな10代目龍也さんの船。右は稔さんが復元修理中の船。木の船は長持ちする 61ページの船Dover(ドーバー)の操舵席。内装は高級チーク材 図面は10分の1サイズ。直線を引く黒い墨つぼは7代目から贈られたもの 船内の扉や家具、収納なども木を加工して自作する。エンジンやクッション以外、内装も外装もオール手づくり ほかと同じことをしたくないんです、と語る若い10代目に、9代目は「私たちはどんな船でもつくります」と誇り高く笑う 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  集中しているとき、脳では前頭眼野という眼球の制御にかかわる脳部位が活動を高めます。集中するとは「しっかり見ること」にほかならないのです。 第29回 順に数字を探す 目標3分 1から50までの数字が、ランダムに散らばっています。 1から順に数字を探していってください。 制限時間は3分です。くり返しチャレンジしてみましょう。 混乱しそうになっても、しっかり根気よく探すのがポイントです。 「眼」の機能を鍛える  視覚情報の入力を行う器官である「眼」は、脳活動と密接にかかわっています。例えば、眼球運動は、脳の前頭眼野が制御にかかわっていて、どこかに視点を定めると活動が高まります。さらに、中心溝の近くにある補足眼野は、離れた位置にあるものを素早く追いかける急速眼球運動(サッケード)の制御にかかわっています。  つまり、「眼」の機能を鍛えることが脳活動を高め、ひいては集中力や判断力、情報処理能力など、さまざまな能力を高めることにつながるといえるのです。  そこで、今回の脳トレでは、対象の数字を順に探すことで、眼球を素早く動かして正確に対象を見わける力や、広い視野で物を見る力などが鍛えられます。これらの能力がアップすると、周りの状況を広くとらえながら、瞬時に必要な情報だけを取り込むことができるようになり、仕事や家事などの効率も上がっていきます。  制限時間を意識して、くり返し挑戦してみてください。 豆知識 脳科学の世界では「見ることは好きになること」といわれます。「しっかり見る」ことは集中力アップだけでなく、対象を好きになることにもつながります。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRS を使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2019年10月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒780-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価(本体458円+税) 10月は「高年齢者雇用支援月間」です 「2019年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」開催 高齢者雇用に取り組む事業主のみなさまへ  毎年ご好評をいただいている「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」を、本年度も開催します。  本年度は、「高齢社員を戦力化するための工夫」および「継続雇用・定年延長制度」をテーマとして、10月〜12月にかけて全国6都市(北海道・富山・東京・大阪・香川・福岡)の会場で開催します。  内容は、学識経験者による講演をはじめ、高齢社員の戦力化に取り組んでいる企業や継続雇用・定年延長を行った企業の事例発表、学識経験者をコーディネーターとしたパネルディスカッションが中心となっています。  高齢者雇用の環境整備に向けた課題へ取り組まれる事業主や、人事担当のみなさまのご参加を、心からお待ちしています。 開催スケジュールは、以下の通りです(主な内容は、52、53ページをご覧ください)。なお、ご不明な点は、当機構 雇用推進・研究部 研究開発課までお問い合わせください。 参加無料 東京 日時 2019年11月13日(水) 13:00〜16:00 場所 イイノホール 千代田区内 幸町2-1-1 飯野ビルディング 詳細 52ページをご覧ください 福岡 日時 2019年11月28日(木) 13:00〜16:30 場所 JR九州ホール 福岡市博多区博多駅中央街1-1 JR博多シティ9階 詳細 53ページをご覧ください 大阪 日時 2019年12月3日(火) 13:00〜16:15 場所 ドーンセンター(大阪府立男女共同参画・青少年センター)7階ホール 大阪市中央区大手前1-3-49 詳細 53ページをご覧ください お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 研究開発課 TEL:043?297?9527 FAX:043?297?9550 http://www.jeed.or.jp/ 主催 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構  後援 厚生労働省 2019 10 令和元年 10月1日発行(毎月1回1日発行) 第41巻第10号通巻480号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会