【表紙2】 『65歳超雇用推進事例サイト』がリニューアルオープンしました! https://www.elder.jeed.or.jp スマートフォンからも見やすい! リニューアルオープン 82社91事例を豊富なキーワードで簡単検索 66歳以上まで働ける企業 定年が61歳以上 制度改善 or 条件を変更する イベントの案内、研究資料など「65歳超雇用推進」関連情報をまとめて見られます! jeed 65歳超 事例サイト 検索 ※カメラで読み取ったQRコードのリンク先がhttps://www.elder.jeed.or.jp であることを確認のうえアクセスしてください 雇用推進・研究部 研究開発課 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.57 定年退職者を“新入社員”採用 新たな環境で活躍する「エルダーシャイン」 株式会社パソナグループ HR・アドミ本部グループHR部長 細川明子さん ほそかわ・あきこ 1997(平成9)年、株式会社パソナ入社。社長秘書として勤務の後、人材派遣部門の営業部へ配属。2年間の内勤営業を経て、キャリアカウンセラーとして10年勤務。2011年より株式会社パソナグループ人事部にて、グループ全体を俯瞰(ふかん)した人事戦略の実践、人財のキャリア開発などに従事し、2018年9月より現職。  株式会社パソナグループは、ほかの企業を定年退職したシニア人材80人を一括採用。「エルダーシャイン(社員/Shine)」と名づけ、2019(平成31)年4月にはエルダーシャイン入社式を開催するなど、シニア人材のさらなる活用・活躍に向けた取組みをスタートさせました。今回は同社グループHR部長の細川明子さんにご登場いただき、エルダーシャインの方々の活躍状況や今後の展望などについてお話をうかがいました。 豊富なキャリアと経験を持つシニア人材が目ざす生き方・働き方を実現するステージに ―貴社では2019(平成31)年4月から、他社で定年退職した人材を新入社員として採用する「エルダーシャイン」制度を導入されました。自社の社員を定年後も引き続き再雇用する会社は多いですが、あえて外部から採用しようと思われたのはなぜでしょうか。 細川 当社は1976(昭和51)年に、ワーキングマザーなど女性の社会進出を応援しようとスタートし、その後は、年齢、性別に関係なく「誰もが自由に好きな仕事を選択し、一人ひとりの人生に合わせた働き方ができる社会を築く」ことを企業理念に掲げ、活動してきました。  現在、少子化による人手不足が問題になっていますが、その一方で高齢者が増えていくというアンバランスな状況でもあります。そうした課題の解決のために、生涯現役という観点から、豊富なキャリアと経験を持つシニア層の方々が志す生き方・働き方を実現するためのステージをつくっていきたい、というのが目的です。  採用にあたっては定年を迎えた人、これから定年を迎える人で、年齢に関係なく、いままでの経験を活かして新たなキャリアの構築を目ざしたいという人を対象に2019年の1月に募集を開始しました。その結果、1000人を超える方から問合せがあり、書類審査と面接を経て80人が入社しました。男女比は8割強が男性で女性は11人です。年齢は60〜65歳が過半数を超え、70代の人もいます。 ―エルダーシャインは、「地方創生」、「ベンチャー」、「専門エキスパート」の三つのコースに分けて採用しています。それぞれどのような仕事をになうのですか。 細川 「地方創生」は、パソナグループが以前から取り組んでいる地方創生事業の地域活性コンサルタントやサービスクルーとして、イベント企画や施設運営業務に従事してもらっています。現在、特に力を入れているのが兵庫県淡路島での「地方創生」です。従来の企業誘致ではなく、人材誘致≠ニいう形で人が集まる仕組みづくりを進めており、淡路島で活躍したい人を応援しています。  「ベンチャー」は、シニアであっても起業したいという志のある人を後押しするため、独立起業に向けたプランの策定や事業・収支計画などについて、専門コンサルタントの支援を受けながら起業を目ざします。  「専門エキスパート」は営業、財務、人事、経営企画、知財など、これまでつちかった専門スキルを武器にパソナグループで活躍してもらいます。  当初はこの三つのコースで募集したのですが、実は途中から、どの分野でもよいのでチャレンジしたい方も採用する方向に転換しました。配属先は未定のため新卒採用と同様に「総合コース」と名づけ、約20人を採用しました。 ―なぜ、あえてそのようなコースを設けたのですか。 細川 職種で募集すると、その仕事を長年経験したことがない方は書類審査を通らないことが多くあります。でも応募書類をじっくり読むと、海外の現地法人で総合的なマネジメントの経験を持つ人がいるなど、経歴と経験もすばらしく、自分の経験を新たな分野で試したいと意欲の高い人も多かったためです。現場では専門の知識と経験がある人を配属したいと志向しがちですが、さまざまな分野で活躍した人こそイノベーションを起こしていく人材ではないかと考え、総合コースを新たに加えることにしました。 シニアのための新入社員′、修「身だしなみ講座」などでマインドセット ―多種多様なシニアが入社されたのですね。新卒ではありませんが、新入社員′、修も行ったそうですね。 細川 当社は中途採用もしていますが、今回は新卒と同じように一括採用ということもあり、3日間の研修を行いました。パソナグループが展開する事業やサービス、基本理念の紹介をはじめ、新人と同じようにビジネスマナーや当社で働くことの心構えなどの基礎的な内容も含まれます。特に、年齢やこれまでの役職などにこだわることなく、新入社員として第一線で活躍していこうというマインドセットに力を入れました。ユニークなものとしては、外見も若々しくしましょうということで身だしなみの講座もあります。その際に当社代表の南部(なんぶ)(パソナグループ代表取締役グループ代表の南部靖之(やすゆき)氏)から男性にネクタイ、女性にスカーフを贈りました。 ―60歳以上の方が大半ですが、雇用形態や処遇、就業時間などの働き方について教えてください。 細川 雇用形態は契約社員ですが、雇用延長の年齢上限は設けていません。パソナグループの各社で働くことになりますが、基本的には各自裁量を持って第一線で仕事をしていただきます。働き方は本人の希望に応じて柔軟に選択できます。フルタイム勤務はもちろん、10時〜16時で週4日勤務の人もいれば、週3日勤務、週1日勤務の人もいます。また、エルダーシャインにかぎりませんが、週20時間以上働いている人を対象に、育児・介護や自身の体調などの事情に応じて仕事と両立できる「ライフサポートコース」制度もあります。  処遇は就業内容によって異なりますが、フルタイム勤務も含めて働いた時間に応じて支給する月俸制です。また、定期的に個別の面談を行っていますが、人事評価制度は、現在検討中であり、今後構築したいと考えています。 ―エルダーシャインが入社して半年が経過しました。みなさんの働きぶりはいかがでしょうか。 細川 大企業出身の方が多く、元の会社で再雇用制度の道もあったのに、「新たなチャレンジがしたい」と入社した人だけに、精力的に働いています。  例えば、当社は地方創生事業の一環として、西日本最大級の道の駅「丹後(たんご)王国」(京都府京丹後市)を運営し、クラフトビールを生産しています。そこで、元ビール会社の営業職だった方が、首都圏での販路開拓のミッションを担当し、すでに有名百貨店やスーパーなどに販売網を広げるなど実績を上げています。  あるいは元自動車販売会社の役員だった方は、現場から離れて久しいですが、気持ちをリセットし、当社の人材サービスの新規開拓営業でがんばっています。元の会社に営業に行くと、かつての部下の方にもていねいな姿勢で応対するので、一緒に行った若い社員も「自分たちもがんばらなければ」と思うなど、よい刺激を与えているようです。  エルダーシャインのみなさんを対象に、入社から半年後にアンケート調査を行ったのですが、いまの仕事に「満足している」と答えた人が9割を超えています。  業務だけではなく、職場環境の改善の面でも貢献してくれています。社内トイレの洗面スペースで、手を洗うと水が飛び散ることに対してエルダーシャインが発案し「ワイパー隊」をつくり、蛇口近くに水を拭き取る布巾をセットする活動もしています。自ら活動するなど、背中を見せて若い社員に教える姿勢に私自身も教わることが多いです。 エルダーシャインの活躍を通して同年代や若手の化学反応に期待 ―エルダーシャイン以外の60歳以降の高齢者雇用制度は、どんな仕組みですか。 細川 定年は60歳で、それ以降は再雇用という形になりますが、定年到達者の9割超の人が継続して働いています。再雇用の年齢の上限は65歳ですが、それ以降も働く希望がある人は会社と本人の個別の話合いで決めています。最年長は現役のキャリアアドバイザーとして働く人など、83歳の社員が2人います。  定年以降の仕事は本人の希望をふまえて決めますが、専門性を活かして従来の職場で継続して働く人、マネジメント職をそのまま継続する人もいます。逆にマネジメントの地位を後進に譲り、違う分野へのチャレンジを希望し、グループ会社で働いている人もいます。 ―エルダーシャインは今後も継続して募集されるのですか。今後の高齢者雇用の方向性についてお聞かせください。 細川 間もなく来年の入社に向けて第2期目の募集を開始します。今後も一人ひとりのエルダーシャインが、健康で働くことが楽しいと思える環境づくりをしていきたいと思っています。  同時に、シニアの雇用を拡大していくことは、私たちの使命だと思っています。今後はパソナグループで活躍してもらう一方で、パソナグループ以外の企業でも活躍する場所を提供していきたいですね。  まだ半年ですが、成功事例も出ています。長年同じ企業で仕事をしてきた人が違う企業で働くことによって、同年代の社員や若手との間でよい化学反応も起きます。そのことを積極的に発信し、理解ある企業と協力して、雇用の場を広げていきたいと思っています。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 2020 January ●表紙のオブジェ イラストレーター 柳田ワタル(やなぎだ・わたる) 1947年 大阪府堺市生まれ。1970年 多摩美術大学卒業。アニメーション制作会社勤務ののち、1974年よりフリーのイラストレーターとなる。1977年よりオブジェ、立体クラフトなどの制作を開始。90年代からは写真撮影も始める。 特集 6 ベテラン社員は後進育成の主役! 7 解説@ 高齢社員の手腕を“人材育成”に活かす 〜イキイキ輝くベテラン社員が組織を変える〜 株式会社ジェイフィール 取締役 コンサルタント、多摩大学大学院 客員教授 片岡裕司 11 企業事例@ 株式会社ジュピターテレコム 定年再雇用者が社内大学の学部長や講師となり熱意をもって後進を育てる好循環を実現 15 解説A 高齢社員から若手社員へ技能伝承の“ツボ” ラーンフォレスト合同会社 代表社員 林 博之 株式会社ラーンウェル 代表取締役 関根雅泰 19 企業事例A 株式会社晃新製作所 「技を盗む」のではなく「コミュニケーション」を重視 時代に合った技能継承で若手定着率アップ 1 リーダーズトーク No.57 株式会社パソナグループHR・アドミ本部グループHR 部長 細川明子さん 定年退職者を“新入社員”採用 新たな環境で活躍する「エルダーシャイン」 22 新春特別企画@ 「令和元年度 高年齢者雇用開発フォーラム」記念講演から シニア就業の自助・共助・公助 〜人生100年時代に向けて〜 諏訪康雄 27 新春特別企画A 「令和元年度 高年齢者雇用開発フォーラム」トークセッションから 高齢社員活用の最前線 〜コンテスト表彰事例から探る〜 32 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第69回 サミットストア野沢龍雲寺店 シニアパート社員 設楽万里子さん(70歳) 34 高齢者の現場 北から、南から 第92回 宮崎県 社会福祉法人つくしんぼ福祉会 38 AI・ICTで働き方が変わる ―高齢者から始まる働き方改革― 第3回 檜山 敦 42 知っておきたい労働法Q&A《第21回》 休職期間中の過ごし方、妊娠をした際の報告義務 家永 勲 46 科学の視点で読み解く 身体と心の疲労回復[第8回] 渡辺恭良 48 労務資料 令和元年6月1日現在の高年齢者の雇用状況 54 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテスト募集案内 56 日本史にみる長寿食 vol.316 美容効果も期待できる納豆の糸 永山久夫 57 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.308 人にも木にもやさしい楽しい庭を育む技と管理 造園工 佐藤 博さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第32回] 色読みゲーム 篠原菊紀 ※童門冬二氏の連載、「江戸から東京へ」は休載します 【P6】 特集 ベテラン社員は 後進育成の主役!  65歳までの雇用確保措置の義務化により、60歳以降の高齢人材の活躍の場は大きく広がりました。特に企業において高齢人材に期待される役割の一つが、後進の育成や、技術・技能の継承です。豊富な知識と経験、高い技術・技能は企業にとって替えの効かない財産であり、それを若手に継承していくことは、企業が持続的に発展していくためには欠かせないものといえるでしょう。しかし、このような期待の一方で、高齢人材による若手育成、技術・技能継承がうまくいっていないという企業も少なくありません。  本企画では、高齢人材に育成の主役をになってもらうためのマネジメントについて解説するとともに、実際に高齢人材が育成の現場で活躍している企業事例について紹介します。 【P7-11】 解説1 高齢社員の手腕をW人材育成Wに活かす 〜イキイキ輝くベテラン社員が組織を変える〜 株式会社ジェイフィール 取締役 コンサルタント 多摩大学大学院 客員教授 片岡 裕司(ゆうじ) はじめに  日本では少子高齢化に加え、雇用延長、定年延長の流れもあり、労働力人口全体の高年齢化が加速しています。また問題は高年齢化だけではありません。同時に求められる能力・スキルの変化が速く、専門性の喪失がだれにでも起こる環境となっています。  このような環境のなかで、高齢社員をどう活 用していくかは企業として重要かつ喫緊(きっきん)の課題です。この問題は生産性という問題だけではなく、若手社員のロイヤリティ(会社や組織への忠誠心)という問題にもつながります。職場の高齢社員に元気がなく、存在意義を見い出せない状態で放置されていれば、若手がイキイキ働いていける未来をイメージできないのは当然の帰結といえるでしょう。  本稿では、高齢社員の手腕を人材育成に活かしていくことで、イキイキ輝くベテラン社員を生み出し、同時に組織全体が活力を取り戻していく方法論について考えていきたいと思います。 人材育成が上手く機能しない真の課題とは  高齢社員(本稿では60〜65歳と設定)がその知識や経験を活かし、人材育成をになうことは、たいへん効果的な取組みといえます。高齢社員は尊厳や誇りが持てるようになり、若手にとっては多くの支援や学びを得られる機会となるはずです。また多忙なマネジャーも、人材育成という重要業務を高齢社員にになってもらえれば、たいへんありがたいはずです。  しかし残念ながら、多くの職場で高齢社員を人材育成者として活かす取組みは上手くいっていません。ここには大きく三つの問題が存在します。 (1)構造的な問題  職場によって異なりますが、多くの職場で中堅・若手が少数で、ベテラン・高齢社員が多数という構造になっています。あるメーカーの定年前研修で人事の責任者から、「今後は経験・ノウハウを活かし、人材育成を中心にがんばってください」とメッセージングをしたところ、受講生から、「いい加減なことをいわないでください」と不満の声が噴出しました。「うちの職場は半数以上が50代だ」、「ベテランに寄よって集(たか)ってかかわられても若手は嫌だろう」といった反応でした。高齢社員の活躍について考える際に重要なポイントは、多くの職場でベテラン社員がマイノリティ(少数派)からマジョリティ(多数派)に変わってきているという点です。人材育成にかかわれることはたいへん意味があるのですが、旧来型の育成概念ではどうしてもかぎられた人の役割になってしまうのです。 (2)環境の問題  職人的な技術が求められる職場や、特殊な製造機械を扱う職場を除き、専門性の陳腐化が加速しています。このような状況において、経験重視の育成は機能しなくなってきています。  しかし、これをもって高齢社員は育成をになえないということではありません。経験そのものを伝える形での育成が機能しなくなってきているということで、逆に経験から学んでいくプロセスや、変化に対応していくプロセスを伝えることが一層重要になっています。 (3)マインドセットの問題  旧来型の育成が機能しなくなっているなか、高齢社員の人材育成に対してのマインドセット※1転換が必要になっています。コロンビア大学のハイディ・グラント・ハルバーソンは“証明型のマインドセット”と“成長型のマインドセット”という二つのタイプを提示しています※2。  証明型のマインドセット≠ニは、自分の仕事を通じて自己の優秀性を証明したいという思いが行動の源泉になっているタイプの人です。一方、成長型のマインドセット≠ニは、自分の仕事を通じて成長したいという思いが行動の源泉になっているタイプの人です。  「自分が持っているノウハウを後輩に伝授してください」という育成の概念は、どうしても自分の優秀性を証明するという方向性に意識が引っ張られる傾向が強くなってしまいます。しかし、高齢社員を人材育成で活かすためには、そのプロセスで、「自身もまだまだ成長していこう」という成長型のマインドセットを持ち続けられるような支援が必要になっていくのです。 高齢社員の手腕が育成に活きる「共育」  高齢社員の手腕を育成に活かしていくには、旧来型の育成概念を払拭していく必要があります。「一緒に学ぶ」、「若手だけでなく、高齢社員も一緒に成長していこう」という概念を表現する言葉として「共育」という考えを提示したいと思います。  今後、高齢社員が活躍する人材育成は、何かを教える、伝えることに力点を置くものではなく、ともに仕事に伴走しながら一緒に成長していくというあり方が重要かつ効果的になっていきます。このスタイルでの高齢社員の役割は、若手の内省を支援したり、相談役になったり、また先輩社員として成長・挑戦し続ける姿を見せることです。このような高齢社員のあり方や関係性を生み出せると、お互いへのリスペクトや共感が生まれ、職場全体の好循環をつくり出すことができるのです。 高齢社員を活かすための五つの改革  高齢社員を人材育成で活かしていくには、五つの視点での改革が必要になります。具体的には図表1となります。ではそれぞれの視点について整理していきます。 (1)期待役割の改革  多くの職場で高齢社員への期待役割が曖昧(あいまい)なままというケースが散見されます。上司向けの説明会でマネジャーが人事から注意されるのは、「再雇用時点で報酬が下がるので、それまでと同じ業務アサイン※3は禁止」といった内容だけ、というケースも少なくありません。結果としてなるべく軽作業を任せているというマネジャーも少なくありません。一方、高齢社員にインタビューすると、「体力的に厳しくなっているので仕事の量は減らしたいが、質を下げたいとは思っていない」という切実な声が聞こえてきます。  高齢社員の活躍に向け、このようなミスマッチを避けるとともに、継続的な企業成長に資する観点での期待役割を設定することが、この取組みのスタートになります。特に人材育成をコアの役割として設定していく場合、一体何を、どう伝えていくのかということについて、現実を把握したうえでしっかりとした落とし込みが大切です。「共育」型を志向するのであれば、その点をしっかり落とし込むことが重要です。 (2)マネジャーの意識改革  次に必要になるのはマネジャーの意識改革です。まずは、期待役割を理解したうえで、アサインメント※4を考えていく必要があります。高齢社員と中堅、若手社員をペアリングさせることで、どんな成長が実現できるのかのイメージを持つことが大切です。一人ひとりの強みを見極め、職場全体での強みのかけ合わせや、強みと弱みの補い合いをデザインしていく必要があります。  アサインメントだけではありません。適切な関与やフィードバックも大切になります。職場によっては、高齢社員に対して面談すら行っていないというケースが散見されますが、高齢社員も成長し続けるという状態を目ざすのであれば、適切なフィードバックは不可欠です。 (3)高齢社員の意識改革と能力向上 高齢社員本人の意識改革も不可欠です。大きくは三つの視点が重要になります。  一つ目は、証明型のマインドセットから、成長型のマインドセットへの転換です。マインドセットを転換することは簡単ではありませんが、まずは証明型のマインドセットのままではいけないことを理解し、そのうえで自分の傾向を知る必要があります。図表2のようなアセスメント※5ツールなども活用し、マインドセットの現状を知る機会を設けていくことも重要です。  二つ目は、キャリアの価値観の転換です。キャリアの前期で多くのことを学び、中期では学びを活かして活躍。そして後期では、それを伝えていくというステップ論のキャリア観では証明型のマインドセットに陥りがちとなります。すでに、過去に学んだことを伝えるというスタイルでは適応できない時代になりつつあり、年齢に関係なく、学び続け、お互いを高め合う時代になっていることを理解する必要があるのです。  三つ目は強みづくりとコミュニケーション力の向上です。60歳以降の働き方に変革を起こそうとすると、その前の10年間、すなわち50代の過ごし方・学び方が重要になってきます。特に重要なのが、50歳前後で今後15年近くを支える強みをつくることにチャレンジすることと、コミュニケーション力に磨きをかけていくことです。ある会社の50歳研修で、「50歳にもなって何かを学べなんて失礼だ」と受講者から叱責を受けたことがありますが、その考え方そのものが問題です。50歳前後で今後15年の軸となる知識を求めてチャレンジをしていくことは、人生100年時代には欠かせない考え方なのです。  また世代の離れたメンバーとも一緒に仕事をすることが増えることから、コミュニケーション能力、特に多世代間でのコミュニケーションスキルは飛躍的に高めていく必要があるのです。 (4)人事制度の改革  高齢社員の積極的な活用には、人事制度の整合性も不可欠な要素です。特に多くの企業が採用している一律処遇では、高齢社員の活性化は実現できないといっても過言ではありません。  評価といった外発的な動機に頼らず、内発的な動機づけや、自社に対する恩返し期間として一律処遇にしている企業も少なくありません。しかし、高齢社員を取り巻く環境は日々変化しており、一体何歳まで働くかも見えないなか、フェアな評価制度や多様性を活かすという観点で最低限働き方の選択が可能な仕組みに変えていく必要があるといえます。 (5)組織風土の改革  最後の取組みは、組織風土改革です。「だれもが何歳になっても成長し続けることがあたり前」、「お互いをリスペクトして学び合うことがあたり前」、「お互いの強みを認め、弱みを補い合うことがあたり前」という組織風土に変わることが、この取組みの究極のゴールとなります。このような風土が構築できれば、高齢社員にかかわらず育児や介護で制約のある社員も活かせる組織に変われることにつながるのです。 おわりに  高齢社員を人材育成で活かしていける組織に進化していくためには、多面的な改革が必要になるということで、五つの視点で取り組むべきポイントを考えてきました。高齢社員のボリュームが増えるなか、高齢社員と中堅・若手がともに成長していく「共育」というスタイルが必要になってきます。  また何歳になっても成長していこうというマインドを持った、イキイキした高齢社員が増えていくことで、高齢層の活性化だけでなく、未来が見えず悩んでいる若者のキャリアのロールモデルを示すことにもつながっていきます。高齢社員の活躍・活性化の取組みは、その企業が長い職業キャリアを通じ、社員に対して何が提供できるかを示す取組みともいえ、その点では人事部門の根幹となる取組みといえます。  本稿をここまでお読みいただいたみなさんには、自社が社員に提供する長期のキャリアが本当に価値ある、魅力的なものになっているのかを再考し、この取組みを進めていただきたいと思います。 片岡 裕司(かたおか・ゆうじ)  1974年生まれ。アサヒビール株式会社、同関連会社でのコンサルティング部門で活躍後独立。株式会社ジェイフィールに設立から参画し、組織開発やミドルマネジャー向けの研修講師を中心に数多くのプロジェクトを担当。主な著書に『「ベテラン社員」がイキイキ動き出すマネジメント』(日本経済新聞出版社)など。 ※1 マインドセット……ものごとの判断や行動に移す際に基準とする考え方 ※2 ハイディ・グラント・ハルバーソン(2013)『やってのける 意志力を使わずに自分を動かす』(大和書房) ※3 アサイン……割り当てる、指定する、など ※4 アサインメント……個別に業務を割り当てること ※5 アセスメント……客観的に評価・査定すること 図表1 高齢社員を活かすための五つの改革 @期待役割 Aマネジメント B本人の意識 C人事制度 D組織風土 筆者作成 図表2 マインドセット自己チェック 全く当てはまらない 1点 とても良く当てはまる 5点 Q1:学校や職場では、人よりもよい成績を収めることが非常に重要である Q2:ときには厳しい意見を言われても、率直な意見を述べてくれる友人は大切だ Q3:つねに新しい技能や知識を得ようとしている Q4:人によい印象を与えることに強い関心がある Q5:賢さ、有能さを周囲に示すことを重視している Q6:友人や知人とはオープンかつ正直に接している Q7:学校や職場ではつねに何かを学び、自分を成長させようとしている Q8:人からどう思われているかが気になる Q9:人から好意を寄せられると、いい気分になる Q10:同僚や同級生よりも、勉強や仕事でよい成績を収めたい Q11:自分を変化させ、成長させてくれるような人間関係が好きだ Q12:学校や職場では、自分の能力を示すことにエネルギーを注いでいる *1、4、5、8、9、10、12の点数を合計し、7で割ったものが証明型スコア 1 4 5 8 9 10 12 合計 ÷7 *2、3、6、7、11の点数を合計し、5で割ったものが成長型スコア 2 3 6 7 11 合計 ÷5 出典:ハイディ・グラント・ハルバーソン『やってのける 意志力を使わずに自分を動かす』(2013年・大和書房) 【P11-14】 企業事例1 株式会社ジュピターテレコム(本社 東京都千代田区) 定年再雇用者が社内大学の学部長や講師となり熱意をもって後進を育てる好循環を実現 全社的な人財育成強化を目ざし「人財開発センター」を設置  「J:COM(ジェイコム)」のブランド名で知られる株式会社ジュピターテレコムは、1995(平成7)年に設立。ケーブルテレビ事業6サービスを提供するとともに、メディア事業17チャンネルの出資および運営を行う日本最大のケーブルテレビ局統括運営会社である。インターネット、固定電話、モバイル、電力、ホームIоTサービスにも力を入れており、各サービスの総合力により、顧客の幅広いニーズに応えながら、新時代を見据えた新たなサービスの創造を目ざしている。  グループ社員は1万7000人。M&A※1をくり返し、短期間で加速度的に成長してきたことから、新卒入社より中途入社やM&Aによる合流社員が多く、価値観も経験値も異なる多様な人財が集まっている。  定年年齢は60歳で、その後は、希望者全員を65歳まで嘱託として再雇用している。60歳以上の社員は約130人。現状ではまだその割合は低いが、この先5年で400人にまで増えることが予想されている。  同社は、2014年に「人財開発センター」を設置した。それまでは、部門ごとに社員教育を行っていたが、全社の人財育成策を統括するセクションを設けることで、自社の最大の財産である人財の成長を促進することにした。  営業畑から抜擢された川村豊(ゆたか)人事本部人財開発部長が主導して、ダイバーシティ研修など新たな施策を仕掛けながら拡充を図ってきたが、なかでも大きかったのが、2016年、定年再雇用者ら10人の社内講師を任命し、全社員を対象に「企業理念研修」を開始したことだ。  「2014年に業界第2位の会社と合併するにあたり、新たな企業理念を制定しました。これを背骨として一体感を持って事業を行っていくため、当社の歴史を知る人に学ぶ体制が必要と考えました」と川村部長は語る。 主体的な学びをうながす社内大学を設立定年再雇用者を学部長や講師に起用  そのほかの階層別研修も内製化を進めながら拡充した結果、それまでは年間400回ほどだった研修の回数が、2016年には1600回にまで増加した。研修の機会が大幅に増えたことで育成の風土が生まれた一方で、研修の量と質を精査する必要が出てきた。また、一部に、学ぶことに受動的な社員も見受けられるようになったという。  あるとき川村部長は、社員に「研修会場はどこですか?」とたずねられた。何の研修かと問うと、その社員は「わかりません」と答えたそうだ。「要は、学びたいから来ているのではなく、いわれたから来ただけなのです。社員が自発的・主体的に学ばないと、会社は強くなりません」と川村部長は危機意識を持った。  そこで、2017年、自主的・主体的な学びを基本とする社内大学「J:COM UNIVERSITY」(以下、「ユニバーシティ」)を設立した(図表)。7学部のうち、総合学部は、企業理念研修や階層別研修などの必修科目。そのほかの6学部は選択制で、「学部=部門」ととらえてよい。社員は、どの学部の講座も自由に受講できる。以前は、「技術部の〇〇さんの話はいい」との評判を聞いていても、他部門に関する講師の話を聞く機会は持てなかった。選択科目を大幅に取り入れたことで、部門を越えて知識や経験をシェアできる仕組みを整えた。  各学部の学部長は、定年再雇用者を中心とするスーパースター的な人が務める。学部長は、講座の企画を考えるだけでなく、自らも登壇するので、「あの人の話を聞きたい」と社員の受講意欲が高まることが期待できる。顔が広いので、社外の専門家を講師に招くこともできる。各学部長が熱心に取り組んでおり、年間130以上の多彩な講座を運営している。  各学部には、学部長が自らの思いや経験値を伝承する「プロ人財育成塾」を設けた。ユニバーシティの通常のプログラムは単発の公開講座が中心で、1回に100人以上が聴講することもあるが、この「塾」は受講者を20〜30人に絞り、年3回以上、同じメンバーで実施する。  川村部長はこの塾について、「モデルは松下村塾(しょうかそんじゅく)です。幕末の志士たちが『日本をなんとかしなければ』という思いを持って吉田松陰(しょういん)のもとに集まり、日本の未来を語り合ったように、各学部長のイズムを学び、明日の活力に変えてもらおうと考えました」と説明する。深く熱い議論を交わし、終わった後には毎回飲み会を開く塾も多い。絆が深まり、卒業後も関係が続く。  入塾にあたって試験などは行っていない。ある学部で60人もの応募があったときも、「社員の思いを止めたくない」という学部長の意向を汲んで全員を受け入れたそうだ。  学部長だけでなく、講師にも、定年再雇用者を数多く任用している。「創業当時に陣頭指揮を執ってきた主役たちが定年を迎えつつあります。後進を育成する意識を持った方が多いので、研修や自身の経験を後輩を育てることに投資してもらえたらすばらしいと考えました。また、若手のエンゲージメント※2を高める狙いもあります。選抜研修などをして広い視野を持たせても、それだけだと、外に出ていってしまうケースが少なくありません。では、何が必要かというと、会社へのエンゲージメントです。それを経験豊富な先輩社員たちに植えつけてもらいます」と川村部長はいう。 キャリアアドバイザーを新設悩みを共有する場も設定  2019年4月には、「キャリアアドバイザー」職を新設した。部長経験者やグループ会社の社長経験者など経験豊富なベテラン13人が全国を回り、キャリアのアドバイスを行う。1年半〜2年弱で全社員と面談をする計画であり、異動から数カ月たった人や時短社員、定年が近づいてきた人などを優先しながら定期面談を進めている。また、希望者が自分から面談を申し込むこともできる。  さらに、育児、介護、今後のキャリアなどのテーマごとに、社員同士をつなぐ「つながるワークショップ」も始めた。これらのテーマは、キャリアデザイン学部の講座にもあるので、ユニバーシティで講演を聴いたり、アドバイザーと一対一の面談をしたり、ワークショップで同じ境遇の社員と意見交換したりと、多面的にサポートを受けることができる。 「後輩たちに活き活きと働いてほしい」という思いが原動力  人事本部人財開発部担当部長の岩本郁子(いくこ)さん(64歳)は、キャリアデザイン学部長として、同学部のプログラムの企画を考えたり、講師として自ら登壇するなど、多忙な日々を送っている。総合学部の戦略思考研修やキャリアパス研修の講師も務め、キャリアアドバイザーも兼務している。  新卒で株式会社ダンロップスポーツエンタープライズに入社した岩本さんは、国内外のプロゴルフトーナメントの企画・運営などにたずさわるなかで、日本にゴルフ専門チャンネルをつくりたいという思いを持った。そして41歳のとき、日本唯一のゴルフ専門テレビ局「ジュピターゴルフネットワーク」の立上げにたずさわり、当初は出向として、後に転籍して社長を7年務めた後、55歳で親会社である同社のプロモーション本部に異動。そこでも新事業の立上げを担当するなど、現場の第一線で活躍してきた。そして、定年を機に人財育成にかかわるようになった。  「定年を迎えるにあたり、『私が後輩たちの役に立てることは何だろう?』と考え、頭に浮かんだのがダイバーシティ推進でした。『後輩の女性たちが働きやすい環境をつくりたい』と定年前のキャリア面談で話したところ、人事部に配属され、川村さんと2人で延べ何千人も対象にダイバーシティ研修を行ってきました。そのうちにキャリア研修なども担当するようになり、ユニバーシティの設立にあたって学部長就任の打診を受けました」と、岩本さんは振り返る。川村部長が「岩本さんの熱量を後進に伝える仕組みができないかと考えたのが、ユニバーシティの学部を構想した始まりです」というように、女性がキャリアを築くのがむずかしい時代から活躍してきた岩本さんは、同社の女性たちの憧れの存在でもあり、まさに学部長にうってつけの人財だ。  「私はゼロから事業を立ち上げた経験が多いのですが、会社が大きくなると、いわれたことしかしない社員が増えがちです。自ら考え、学び、行動する社員が増えていかないと、絶対にいい会社にはなりません。後輩たちに活き活きと仕事を楽しんでほしいという思いでお手伝いさせていただいています」(岩本さん)  岩本さんのプロ人財育成塾「キャリアデザイン塾」には、そんな岩本さんに憧れる社員などが集まる。過去と現在を振り返って将来のキャリアを立て、10年後にどういう会社にしたいか新規事業を計画し、そのために自分が何をすべきか考えるなど、社員の視座を高めながら情熱を持って育成している。 働き方改革にもよい効果今後は社外への拡大も視野に  ユニバーシティの講座は、午後3時〜3時30分開始のものが多い。社員は仕事を早く終わらせて受講し、そのまま帰ろうという気持ちになる効果もあるそうで、以前より残業時間が減っているという。  直近の年間受講者数は、延べ9279人。複数回参加した人を1人と数えるユニーク数だと4915人である。自由参加とはいえ、多くの社員が受講している。意外なことに、管理職の参加が多いという。事務局では、「階層別研修は整備されているが、中途で入社した管理職は経験に任せているところがあり、研修に飢えていたのではないか」と分析している。上司が積極的に受講し、部下にもすすめるので、部下の受講も増えるという、よい循環が生まれている。  どのような講座があるかは、ガイドブックやイントラネットで案内している。学部長たちが講座のタイトルからこだわり、中身も練り上げているので、受講者の満足度は高いという。人事制度において、個人目標の10%は自己研鑽(じこけんさん)(上司は部下育成)に充てるようにしていることも、受講の促進につながっている。  講師として登壇した社員は100人を超え、人前で話すことで自身の学び直しになるという。ちなみに、登壇したからといって手当などが出るわけではない。地方の会場に出張することもあり、口では「定年前より忙しい」というシニアもいるそうだが、みんな、後進を育てることに大きなやりがいを感じて活き活きと働いている。その証拠に、同社では社内講師やキャリアアドバイザーが人気職になっていて、人事に「どうやったらなれますか」という問合せが増えているそうだ。50代でキャリアコンサルタントの資格を取得する人も多く、学部長や社内講師が、将来のキャリアとして認知されてきたといえる。  ユニバーシティの今後については、「いまは社内のユニバーシティですが、業界のユニバーシティにしていきたいですね。業界外にも広げ、イノベーションにつなげていけるといいですね。また、社内講師や研修コンテンツをお金を取れるレベルにまで引き上げ、社外に対しては有料化して提供することなども考えています」(川村部長)という。  川村部長は、他社の人事担当者に向けて、「最近は、若手の働きがい創出や離職防止を課題ととらえる会社が多いのですが、一方でシニアが増えていきますので、シニアの活躍と若手育成とを結びつけて、どう好循環を生み出すかが重要です。若手を育成するうえでは、同時にエンゲージメントを高めることが大切ですので、当社のように、研修の内製化を進め、経験豊富なシニア社員に育成の役割をになってもらうのは有効だと思います」とアドバイスする。  また、岩本さんは、これからシニア層になる人たちに対して、「40代でも、『もう年ですから』とか、『これまでの経験を活かして定年までいきます』などという人がいますが、いくつになっても、好奇心を持って学び続けることが大事です」とメッセージを贈る。その言葉通り、岩本さんは昨年、63歳でキャリアコンサルタントの資格を取得した。「楽しんでいるんですよ。同じことをしていると飽きてしまいますので」と笑う岩本さん。シニアの活躍を活かす会社の取組み、年齢にかかわらず学び続けながら後進を育てようとするシニアの意識、主体的に先輩から学び成長しようとする若手・中堅の三者がうまくかみ合い、よいサイクルが回っている。 ※1 M&A……企業の合併(Mergers)や買収(Acquisition)のこと ※2 エンゲージメント……社員の企業に対する愛着心、互いに信頼・貢献しあう概念 図表 各学部が展開する講座の領域 総合学部 必修科目 J:COM人財としての基礎を学ぶ 経営管理学部 選択科目(手挙げ式) ※J:COMの社員であれば、だれでも参加できる 会社の経営状況、財務、経理のしくみを学ぶ お客さま対応学部 営業、カスタマーセンターなどのナレッジを学ぶ 技術学部 CATV専門技術(幹線、宅内作業員、監視体制など)を学ぶ 情報システム学部 顧客管理システム、社内データ活用を学ぶ メディア学部 映画制作や番組制作・供給のしくみを学ぶ キャリアデザイン学部 キャリア自律や女性活躍のメソッドなどを学ぶ 出典:提供資料より作成 写真のキャプション 人事本部人財開発部の岩本郁子担当部長(キャリアデザイン学部長)と川村豊部長 【P15-18】 解説2 高齢社員から若手社員へ技能伝承のWツボW ラーンフォレスト合同会社 代表社員 林 博之 株式会社ラーンウェル 代表取締役 関根 雅泰(まさひろ) はじめに  昨今、少子高齢化が進み、社員の採用もむずかしくなっています。そんななか、高齢社員の活用が叫ばれており、それにも「期限」があります。人生100年時代といわれていますが、高齢社員が元気に働けているうちに次世代への技能伝承が行われなければ、それまでにつちかわれた技術・技能は失われてしまいます。技能伝承のスタートは待ったなしの状態だといってよいでしょう。 ・技能伝承の必要性  一般社団法人大阪中小企業診断士会が2017(平成29)年11月に全国の中小製造業者に行った「モノづくり企業の技能伝承アンケート」(総回答数100サンプル)で、技能伝承の必要性を聞いたところ、81%の企業が技能伝承の必要性を感じているとのことでした(図表1)。 ・技能伝承がうまくいっていない理由  また、技能伝承がうまくいっていない理由に、「熟練社員の指導力不足または指導意欲不足」52・6%)という教える側に問題があるとする回答と、「若手社員の能力・意欲不足」(28・1%)という教わる側に問題があるとの回答が上位に上がりました(図表2)。  このアンケートから読み取れることの一つとして、高齢社員である熟練社員と、若手社員とのコミュニケーション不足があげられます。「熟練社員の指導力不足または指導意欲不足」とありますが、「熟練社員が教えたがらない」のはどうしてなのでしょうか。また「若手社員の能力・意欲不足」とありますが、これには他責の可能性もあるかもしれません。高齢社員の方の「どうせ、教えても聞かないだろ」という思いが若手社員に伝わっている可能性も考えられるのではないでしょうか。ちょっとしたボタンのかけ違いで「世代間断絶」してしまえば元も子もありません。 若手社員から見る「指導下手」な高齢社員  高齢社員から若手社員への技術・技能の伝承といっても、ここには一つの問題点がうかがえます。それは、「そもそもどのように技術・技能を伝えればよいのか」ということです。熟練の技をいざ伝えようとしても、若手社員に聞く耳を持ってもらえなければうまく伝わりません。  このとき、「指導上手」な高齢社員と、そうでない「指導下手」な高齢社員がいることが、若手社員からの声として伝わってきます。その一番の原因はコミュニケーションの仕方にあるように思われます。高齢社員の方たちが若手社員のころは、「技は見て、盗んで覚えるもの」という、いわゆる頑固職人タイプの先輩に指導されてきた方も少なくないでしょう。ですが、それをいまの若手社員にあてはめようとしても無理があります。下手をすると、「パワハラ」、「モラハラ」ととらえられてしまう可能性すらあるのがいまのご時世です。  また、若手社員の特徴の一つとして、「自分で納得しなければ動かない」というものがあります。「俺の背中を見ろ」は残念ながら通用しない時代なのです。しっかりと適切なコミュニケーションを取ることが求められています。若手社員の声として「指導下手」な高齢社員にはいくつかの特徴があります。 ・話が長い(自慢話が多い) ・上から目線 ・聞きたい話をしてくれない  この3点が、筆者の周りの若手社員から聞こえてきます。一つずつ見ていきましょう。 (1)話が長い(自慢話が多い)  「話が長い」というのは、高齢社員にかぎらず、指導や教えることが下手な人の共通点です。話が長くなってしまう理由の一つは、知っていることをダラダラと話し続けることです。ただ自分が持っている知識や自慢を垂れ流すように話をされても、指導される側は興味を失くしたり、話をシャットダウンしかねません。それどころか話の大部分が「自慢話」だったりすると、若手社員はうんざりしてしまいます。  ちなみに、あるセミナー運営会社の方にうかがった「困った講師の話」として、セミナーの最初の30分が講師の自己紹介(ほぼ自慢話)だったというものがありました。 (2)上から目線  次になぜ「上から目線」になってしまうのか、ということですが、これは若手社員に対して敬う気持ちがないことから発生します。高齢社員が経験豊富なのは事実ですが、若手社員も当然ながら高齢社員の方が知らない技術や情報をたくさん持っています。「近ごろの若い奴らは……」、「俺が若いころには……」というのは、自分が若手社員だったころを思い出すと、あまり聞きたくない、いわれたくない言葉だったのではないでしょうか。 (3)聞きたい話をしてくれない  「聞きたい話をしてくれない」というのは、若手社員が知りたいことに対する的確な答えを返せていないということです。高齢社員にかぎったことではないのですが、指導する立場の方は自分が持っている知識をいろいろと伝えたいという思いがあり、ついついあれもこれもと話を盛り込みがちになってしまいます。ですが、聞き手である若手社員の興味がないことや的外れな話をされると、聞く気も失せてしまいます。若手社員は、「自分が聞きたい話」を高齢社員から聞けることを望んでいるのです。 若手社員は高齢社員から学びたい  多くの意欲ある若手社員は、熟達者である高齢社員の方から、さまざまなことを学びたいという気持ちを持っています。なぜそう思うのかを、とある企業の若手社員たちに聞いたところ、「知識の宝箱」、「アナログな生の情報は貴重」などという言葉を聞かせてもらいました。経験豊富な高齢社員と話していてつまらないということはなく、むしろ知的好奇心を刺激されるそうです。  また、聞き手側の若手社員も「高齢社員に気持ちよく指導をしてもらうにはどうすればよいか」ということを普段から気にかけています。  筆者が研修でかかわった若手社員の方たちに話を聞いたところ、「助けてほしいことを伝え、協力してもらう」、「人生の先輩として尊重する言葉かけを日ごろから欠かさず、声をかけやすい関係づくりをしておく」、「頼りにしていることを伝える」、「仕事以外のコミュニケーションを持つ」などのさまざまな気遣いをしていました。 高齢社員による指導のポイント  では、若手社員に響く指導の仕方、端的にいえば若手社員が腹落ちするような「教え方・伝え方」とはどういったものなのでしょうか。「人生の先輩から知識を吸収したい」と思っている若手社員に技術・技能を伝えるために、押さえておきたい指導のポイントをお伝えします。 ・若手社員が聞きたい話を把握する(自分が話したい話をしない)  高齢社員の話を聞きたがる若手社員にとって何が重要なのか、何を聞きたいと思っているのかを把握して話をする必要があります。技術・技能を伝えるにしても、若手社員が興味を持っていることから伝えていくことが肝心です。人はだれしも興味がないことを教えられてもなかなか覚えられません。「いま、何に興味がある?」などと質問をして、若手社員の現状を把握してください。  こちらが伝えたいことを聞いてもらうためには、まずは若手社員がいま何を思っているのか、何を感じているのかをしっかり「傾聴」することです。しっかりと話を聞き、そのうえで若手社員に興味があることに引きつけて、伝えるべきことを伝えていくことが効果的です。 ・「いま一番伝えるべきこと」を少しずつ分けて伝える  高齢社員にかぎった話ではないのですが、指導者の方はたくさんの知識・技術をお持ちなので、いざ指導する際に「あれもこれも」と教えようとしがちです(これは若手社員が敬遠する「話が長い」に通じるものです)。  しかし、指導される側の若手社員としては、「何をいっているのかわからないよ!」とキャパシティオーバーになってしまう可能性があります。ですから、まずは質問して現状を把握し、「いま一番伝えるべきこと」から少しずつ分けて伝えてあげてください。一つできるようになったら、二つ目、三つ目……と、一朝一夕に指導しようとせず、分けて伝えることをおすすめします。  前述の(一社)大阪中小企業診断士会「モノづくり企業の技能伝承アンケート」によれば、技能伝承を進めていてうまくいっていると回答した企業(33社)の80%が、技能伝承に必要な期間として1年超の複数年をあげており、最も多い回答(38%)は3年以上必要とするものでした(図表3)。やはり、技能伝承はある程度の時間をかけることが必要なことが示唆されています。長い目で見守る気持ちが肝要です。 ・格好つけて話をしない。  若手社員に敬遠されがちなのが「武勇伝」です。信頼関係が築けており、若手社員から「聞かせてください!」といわれたとしても、武勇伝は控えめにしたいものです。それよりも、「たいへんだった失敗談」を聞きたがる若手社員が多いと筆者は感じています。どのような失敗をし、どのような思いをしていまの自分があるのか。ありのままの話をすることで共感してもらえれば、さらに話を聞いてくれるようになります。  失敗を思い出し、若手社員に伝えることによって自分のモチベーションの再活性化にもつながりますし、「失敗しても、それをリカバリーすれば大丈夫だよ」と伝えてあげることで、若手社員も安心してくれます。 ・相手本位で接する  最後に、何よりも心がけてほしいのは、自分勝手に自分のやりたいように指導するのではなく、「相手本位」で指導するということです。「相手本位」とは、互いの立場を理解し合い、信頼関係を築き、若手社員が学びやすいように手助けをしてあげることです。「自分本位」で指導しようとすれば、若手社員は、表面上は繕(つくろ)ったとしても腹のなかでは舌を出しているかもしれません。若手社員の話をよく聞き、「相手本位」で接することが大切です。 おわりに  若手社員の話を聞けないようでは、仕事だけではなく、社会からも置いていかれてしまうかもしれません(これは筆者自身も気をつけようと自分にいい聞かせています)。そうならないよう、若手社員のよき理解者として指導にあたっていただくことで、技能伝承がうまく進むだけでなく、高齢社員の人生の質の向上にも寄与すると思います。  神戸松蔭女子学院大学人間科学部教授の楠木(くすのき)新(あらた)さんは、自著『定年後』(中公新書)において、「60歳から74歳までの15年間は『黄金の15年』である」と述べています。この「黄金の15年」は、高齢社員の方が若手社員に技術・技能を伝承できる貴重な時間になるのではないでしょうか。高齢社員が若手社員と良質なコミュニケーションを図ることによって、これからの日本企業をけん引する若手社員にとって必要な技能伝承が円滑に行われることを期待しています。 林 博之(はやし・ひろゆき)  ラーンフォレスト合同会社代表社員、株式会社ラーンウェルパートナー講師。「仕事の教え方研修」や演劇(即興劇)を通じた「非言語コミュニケーション研修」を実施している。 関根 雅泰(せきね・まさひろ)  株式会社ラーンウェル代表取締役。専門分野は「教え方」。東京大学大学院にて「現場でのOJT」について調査研究。2013年、学際情報学修士号取得。著書に『オトナ相手の教え方』(クロスメディア・パブリッシング)など多数。 図表1 技能伝承の必要性 Q.技能伝承の必要性はありますか。(若しくは熟練技能者が退職したために困ったことや、熟練した技能が必要な工程の処理能力が低いといった悩みはありますか) ない 19% ある 81% 出典:(一社)大阪中小企業診断士会「モノづくり企業の技能伝承アンケート」(2017年) 図表2 技能伝承がうまくいっていない理由 伝承のノウハウ・仕組みがない 熟練社員の指導力不足または指導意欲不足(熟練社員が教えたがらない) 若手社員が不足している 若手社員の能力・意欲不足 伝える技能内容が不明確 マニュアル(わかり易い作業手順書)がない 社内のコミュニケーションが不足している 時間がない ITなどの環境が整っていない 費用がかかるため 技能伝承は時間がかかるものだから その他 出典:(一社)大阪中小企業診断士会「モノづくり企業の技能伝承アンケート」(2017年) 図表3 技能伝承に必要な期間 Q.技能を伝承するためにどれくらいの期間を要しましたか(要しそうですか)。 6カ月未満 12% 6カ月〜1年未満 8% 1〜2年未満 21% 2〜3年未満 21% 3年以上 38% 出典:(一社)大阪中小企業診断士会「モノづくり企業の技能伝承アンケート」(2017年) 【P19-21】 企業事例2 株式会社晃新(こうしん)製作所(埼玉県川口市) 「技を盗む」のではなく「コミュニケーション」を重視時代に合った技能継承で若手定着率アップ 高い技術力とクオリティで信頼を集めるサイン・ディスプレイ製造メーカー  株式会社晃新製作所は1974(昭和49)年に創業し、機械部品や建築金物、医療施設で扱う金属製品などの製造を手がけてきた。近年は、サイン・ディスプレイ※1を中心に、ホテルや複合施設の高級建築金物、公園や美術館のモニュメント・オブジェなど、「人の目に触れる」製作物を手がけている。  設計から製作、施工、品質・納期管理まで一貫体制で行い、注文の多くは受注生産のオーダーメイドが占める。高い技術力によるクオリティとスピーディーさで実績を伸ばしている会社だ。星野耕一代表取締役社長は「『人びとの生活のなかで形をとどめる物をつくっている』という責任を感じながら、日々製作に取り組んでいます」とものづくりに対する姿勢を話す。  現在は、2020年に開催される東京オリンピックに向けて空港や駅で改修工事にともなう受注が相次ぎ、フル稼働で生産を進めている。  星野社長は、創業者である父から2009(平成21)年に事業を継承してからは、先代の時代から勤めているベテラン社員の力を借りる、というスタンスで事業を進めてきたが、50代を含めた高齢社員が全体の約3割を占めるようになり、高齢社員の雇用環境を整備する目的で、2016年に定年年齢を60歳から62歳に引き上げた。定年後は65歳まで希望者全員を嘱託職員として再雇用すると就業規則に明記し、66歳以降については、本人の希望に応じて年齢の上限なくパート社員として雇用している。この場合、契約は1年ごとになる。  現在の同社の社員数は62人。そのうち60歳以上は7人で、60〜64歳が2人、65歳以上が5人。最高齢者は、製造部門に所属する76歳である。  熟練工が生産性向上の一翼をになって活躍する製造部をはじめ、営業部では元取締役の営業部長が長年の顧客を変わらず担当するなど、貴重な戦力として活躍している。 地道な活動を通じて若手採用に尽力若手定着にベテランの育成力が寄与  星野社長は高齢社員の働きやすい環境づくりを進めると同時に、若手の獲得に力を入れてきた。事業を継承したころから、高校生対象の企業説明会や県内の工業高校などに出向き採用活動に注力。あるときは、採用担当者と肩を並べて生徒の声に耳を傾け、「職人として一人前に育てる」、「骨を埋める覚悟で来てほしい」と、熱い気持ちを直接伝えるなどの地道な採用活動を行ってきた。その成果が実り、埼玉県内の工業高校や高等専門学校、東京都内の工業高校からも、毎年新入社員が入社するようになった。  若手社員の定着率のよさも特徴だ。離職するケースがほぼないため、2019年度は60歳以上の割合が11・3%となり、平均年齢は35歳に。いまや、ボリュームゾーンは若手に変わりつつある。作業場は10代から20代の若手が切磋琢磨(せっさたくま)し活気にあふれており、工場見学に来た高校や社員の出身校から、さらに若手が入社する好循環が生まれている。このプラスの循環の要となっているのが、若手育成の役割をになうベテラン社員だ。  同社の技能継承の特徴は、現場の人員配置にある。製造部は製造1課から4課で構成され、各課は7〜8人で編成されているが、それぞれの課に60歳以上のベテランを1〜2人配置して技能継承をしやすい環境を構築した。日々のOJTのほか、随時、講習会のような体裁で技能の伝達が行われることもある。ベテランが若手一人ひとりの習熟度合いはもちろん、個性や性格まで把握したうえで、じっくり対話しながら指導することで、若手の意欲を引き出しながら技能の継承が行われている。  「生産性の向上を目ざし、当社ではコンピュータ化・機械化を進めていますが、それでも仕事全体の7割は人の手が必要で、人の手なくして製品はできあがりません。長年勤めているベテラン社員が持つ技能と人間力を、若手に継承していくことが必要不可欠です」と話す星野社長。導入した機械で行うのは、初期段階の工程にあたる素材の曲げや穴空け、切断などにかぎられるため、その後の工程の溶接部分の削りや塗装、研磨などはすべて技能を持つ人の手による作業になる。  あるいは、最新のコンピュータなどを活用した素材加工の自動化も進んでいるが、曲げた際にたわみを起こさせない技能であったり、たわみが出た場合の修正の方法などは、人の経験と技能でしかカバーできない。特に同社の製品はほぼオーダーメイドであるため、毎回、製品の設置場所の諸条件を反映させながら、構造、強度などを考慮した対応を行わなければならず、また、素材のよさを十分に引き出す加工は豊富な知識と確かな技術力をもってしかなされない。そうした技術を若手は高齢社員から日々学んでいる。 若手社員と話し合って能力を伸ばすいまの時代にあった技能継承が肝(きも)  製造部門4課で若手育成にあたっている田口昇(のぼる)さん(73歳)にお話をうかがった。  田口さんが所属する製造部門4課は、コインパーキング設備(満車・空車を示す電光板、約款(やっかん)などが示された看板、精算機にあるテントなど)の製造などを行っている部署である。全国に展開するコインパーキングブランドの設備を同社で一手に引き受けているため、量産型の製作が中心となるが、オーダーメイド製品を製作することもある。  勤続25年の田口さんの若手社員への技能継承のポイントは「話し合うこと」。お互いの考えを共有し、理解するために、課題になっているモノを片手に意見交換を行っている。  「昔は『技は盗むもの』といわれていて、仕事を与えられたらそれっきりでフォローも何もしてもらえませんでした。自分で製品を見て研究し、先輩のやり方を見て技を磨いたものです。『どうすればいいのか』と聞くことすらできませんでした。ですが、いまはそういった時代ではありません。少しでも早く技能を習得してもらうためには、コミュニケーションをとり、話し合うことが大切です」  その一方で、こだわりの一つとして「若手から教えを乞うまでは教えない」ことを心がけているという。手取り足取り教えるのではなく、若手社員の自主性に任せた姿勢をとっているのは、自分自身で考えさせるためだ。直面した問題について解決法を自ら考えることで、思考力を高めることが目的だ。ケガやたいへんな損失につながるような場合以外は、自由に学ばせ、考えさせる。これが若手社員を伸ばすために必要なのだ。  「たまに褒めるのもポイントです。『たまに』というのが肝。いつも褒めると天狗になってしまいますからね」と田口さんは笑う。星野社長は「ベテランたちは若手社員を自由にさせていますが、いつも様子を見ていて、たまに褒めたり、納期をかんがみて声をかけるなど、フォローを欠かしません」と説明する。  さらに、田口さんは段階的な学びこそが重要であると指摘する。  「1の次は2、その次は3、4、5と一つずつステップをふむようにしなさいとよく話します。1と2ができるようになったとしても、3と4を飛ばして5をやろうとすればうまくはいきません。きちんと段階をふんで、技術を学ぶことが、大きな壁にぶつかることなくスムーズに成長するためには必要だと思います」。  日々様子を気にかけ、指導している若手社員たちが技能を習得していく様子を見るのはかけがえのない喜びだ。「若い人に囲まれた職場で過ごすと気持ちが若くなります。それに自分では歳をとっているとは感じていないので、世代間ギャップもないですよ」と話す。 技能継承は若手社員と高齢社員がそれぞれの持ち味を活かすことが大切  高齢社員の知識・経験を活かした新しい取組みとして、安全な職場づくりを目ざし、2017年から社内に安全推進委員会を設置した。機械の操作は常にケガと隣り合わせであることから、全社員総出で安全対策に努めており、高齢社員も積極的に参加。工場内のパトロールなどを通して、整理整頓を喚起し、事故を起こさないような材料の置き方などを推進している。高齢社員はその経験をもとに注意事項を提言するなど、若手社員らの安全意識の向上に一役買っているという。  最後に星野社長は「大事なことは、年齢によって分け隔てるのではなく、若手社員も高齢社員もそれぞれが持つ特徴を活かし、活かすことだと考えます。高齢者だからといって保護するのではなく、若手社員や会社に必要とされていると自覚を持ってもらうことが、生産性向上と技能継承に持てる力を発揮してもらうことにつながるのではないでしょうか」と締めくくった。  伸びしろを持つ若手社員と知識と経験を持つベテラン社員が、お互いに持てるものを発揮することで技能の伝達と習得が今後ますます進み、さらなる飛躍を遂げることだろう。 ※1 サイン・ディスプレイ……駅名が書かれた駅標(えきしるべ)や広告枠、案内板、液晶ディスプレイなど 写真のキャプション 星野耕一代表取締役社長 若手社員育成をになっている田口昇さん 【P22-26】 新春特別企画1 「令和元年度 高年齢者雇用開発フォーラム」記念講演から シニア就業の自助・共助・公助 〜人生100年時代に向けて〜 法政大学 名誉教授 諏訪(すわ)康雄(やすお)  昨年10月3日(木)に開催された高年齢者雇用開発フォーラムより、諏訪康雄氏による記念講演の様子をお届けします。職業人生の長期化の現状と今後の高齢者の就業支援について、自助・共助・公助の観点からお話ししてくださいました。 一般的になりつつある70代の就業  本日は、シニア就業の自助・共助・公助をテーマにお話しをさせていただきます。  はじめに、自助・共助・公助について、少し説明いたします。「自助」は、働く人々が、自分なりに、あるいは家族の単位で、それぞれの社会経済生活を成り立たせていく責務・努力・工夫。「共助」は、働く人々が、親族や地域のなか、あるいは職場・企業や業界などのなかで、補い合い、助け合って、お互いの社会経済生活を成り立たせていく責務・努力・工夫。「公助」とは、国や地方自治体が、自助や共助が健全に働くよう、人々の社会経済生活の基盤となる制度を整え、円滑に運用する責務・努力・工夫、こういったものだと思います。  年金に例えると、「自助」は個人年金や資産形成など。「共助」は企業年金や職域年金などの制度。「公助」は国民年金や厚生年金制度です。これら三つがうまく機能し、補い合うことにより、私たちの老後の生活は安泰であると、このようにいわれています。本日は、こうした考え方に沿ってお話しをしてまいります。  まずは、中高年の現状からみていきましょう。厚生労働省の「高年齢者の雇用状況報告」(2018〈平成30〉年)から、60代以降の雇用確保措置(31人以上規模企業)をみると、継続雇用制度を導入した企業が約8割、定年の引上げと定年制の廃止を実施した企業が合わせて2割ほどとなっています。零細企業では、定年がないという会社もありますし、求人雑誌などをみると、80歳定年という会社もあります。  このようななか、60歳を超えると転職をしていく人が一定数出てきています。およそ7割強の人が継続雇用に応じ、残りの3割弱のなかから一部の人が転職をし、一部の人が起業をしているなどといった状況です。  また、厚生労働省の同じ報告内の「年齢別常用労働者の推移」では、60〜64歳が206万人で、60歳以上の常用労働者の約57%を占めています。65〜69歳は110万人で、約30%。70歳以上は46万人で約13%となっています。  特に70歳以上の層が近年急速に伸びており、70歳までの就業、あるいは74歳までの前期高齢期における就業は、いまや一般的なものになりつつあるということではないでしょうか。 労働力人口の半分が中高年  次に、総務省の「労働力調査」から、「年齢階級別労働力人口の推移」(図表1)について、44歳以下と45歳以上とに境界線を引いてみると、2016年には、44歳以下の労働力人口は全体の48 ・6%となっています(2018年は47・0%)。つまり、働いている人のうちの2人に1人以上が45歳以上の中高年であることが日本の現状です。  ですから、高齢者の就業について考えるとき、シニア予備軍を含めた45歳以上の層の活躍を、日本の雇用慣行のなかでどのように実現していくか、このことが大きな問題となっているのです。  では、働いている人たちはどこにいるのかをみると、高齢者の場合、1〜29人規模の企業に多く、30〜499人の中小・中堅になるとその比率が落ちて、500人以上の大企業になるとさらに減っていく。すなわち、高齢者の就業の傾向の一つとして、規模が小さいところで働いているということです。第2、第3のキャリアは、最初のキャリアより規模が小さい会社で、それまでと異なった就業環境で働いている、という傾向にあることがわかります。  国税庁「民間給与実態統計調査」(2018年)によると、民間企業の通年勤務者の平均年齢が46・4歳となっています。46歳に達したのは2年前の2016年でしたから、2年間で0・4歳上がっています。  このような状況ですので、日本で若い人たちだけを使って会社を経営していこう、あるいは社会を動かしていこうということは、極めて無理のある考え方であるか、もしくは一部の恵まれた企業以外にはむずかしい、といった実態が垣間見えます。  国税庁の上記調査の結果によると、従業員5000人以上の事業所で働いている人の平均年齢は43・5歳。事業所規模が小さくなるにしたがって、この数字はどんどん上がり、4人以下の零細事業所では55・3歳になっています。  このような状況が日本の企業における実態です。 高齢者の採用で企業が期待すること  大企業や中堅企業では、55歳で役職定年を設けている事例が多く見受けられます。では、55歳以上の人が転職をしようとする場合、企業は何を期待して採用しているのでしょうか。  労働政策研究・研修機構の調査結果(図表2)によると、例えば、管理職の人たちが転職する場合、採用する企業は「経営幹部の確保」を採用理由のトップに挙げています。2番目の理由は、「中間管理職の確保」。3番目は、「高い技能・技術・ノウハウの活用」となっています。すなわち、ホワイトカラーとして、第2、第3のキャリアで採用してもらいたいと思う場合、私には管理職としての高い技能・技術・ノウハウがありますよ、とアピールできるかどうかが大事になってくるわけです。  同様に、技術職・研究職の人の場合は、圧倒的に「高い技能・技術・ノウハウの活用」が重視されています。したがって、ずば抜けた技能・術があると説得できることが大切になってきます。営業・販売職の人では、営業としての「高い技能・技術・ノウハウの活用」が重視されますが、もう一つ、「勤務態度や仕事ぶりがまじめ」であるという点も重視されています。  技能職の人の場合は、営業職・販売職と似ていますが、高い技能やまじめさが重視される一方で、「比較的安い賃金で採用できる」という点も求められていますから、賃金が下がることに対してある程度覚悟を持つ、そのように計画を立てるなどということが、必要になってきます。事務職の人の場合も、賃金の問題を別にすると、営業職・販売職の場合と似ています。  このように、高齢者の就業、あるいは転職についてみると、職種によって採用理由に違いがあることがわかります。中年になって、将来に向けて準備をしようとするとき、実は、この表の内容はとても大事だと私は思っています。自助をするときに、こうしたものを念頭に置きながら、40代、50代を働いていくと、その後のキャリアにつながっていく可能性が高まるわけです。  ただ、この調査には、健康や謙虚であるという項目が欠けているのが気になります。中高年になって転職、あるいは就業を継続したい人の場合には、この二つはとても大切ですから、こうしたソフトスキルに対しても、中年を過ぎたら意識的に育成していく必要があります。 中高年の能力は低下しているのか  次に、中高年の労働者が多数になってきている日本の職場の活性化について考えてみたいと思います。  アメリカの世論調査会社のギャラップが行った調査に「従業員の仕事への熱意度」を国際的にみたものがあります。この結果が2017年に日経新聞に掲載されました。それによると、「熱意あふれる社員」は、アメリカでは32%ですが、日本では6%。一方で、日本には「やる気のない社員」が70%。さらに、「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」が24%となっています。この24%の人たちの原因は何でしょうか。一つの要素として、仕事上での「成長」を重要と思うか、あるいは実感しているか、といったことが考えられると思います。  パーソル総合研究所の調査結果によると、仕事上で「成長」が大事だと思っている人は、どの世代においても8割ほどとなっています。ところが、45歳以上の人の二人に一人は、「『成長』を実感できていない」という結果となっています。すると、この人たちが周囲の人たちに向かって「会社なんてね、冷たいもんだぜ。そんな熱心にやってどうするの」などといったりする可能性がある。こんなふうに周囲に不満をまき散らしている無気力な社員が24%いるとしたら、どうでしょうか。  いま、日本の生産性が国際的にみて低いといわれているのは、中高年の半分が「自らの『成長』を実感できていない」、「やる気が湧かない」、こういう感覚を持っているからではないかと思えるわけです。  それでは、中高年の能力は低下しているのでしょうか。あるいは、中高年が持つ仕事上での技術や技能、経験、人脈が、賞味期限切れになっているのでしょうか。この点について考えてみたいと思います。  OECD(経済協力開発機構)のPIAAC(ピアック)という「国際成人力調査」の結果によると、大人の学力は25〜29歳をピークにゆっくりと落ちていくのですが、日本の60〜65歳でも「読解力」はピーク時のほぼ86%、「数的思考力」は90%を維持しています。つまり、60代になっても、その1割ほどしか、知的能力は落ちていないらしいということです。  そうすると、ある年代から先が使えなくなっていくというのは、実は働かせ方、仕事の割り振り方、仕事の設計の仕方に問題があるのではないか、こうした疑問が湧いてくるわけです。 能力開発の自助・共助・公助  ここからは、人生100年時代に向けて、長いキャリアの紆余曲折(うよきょくせつ)を乗り越えていくための、自助・共助・公助についてお話ししたいと思います。  キャリアの時間軸が長期化すると、その間にリスクが増えます。会社がつぶれる、部門が廃止される、仕事が変わってしまう、転職しなくてはいけない、あるいは、思いもかけない病気になってしまった、といったようなリスクです。  同時に、実はチャンスも増えます。例えば、日本で人気のあった経営評論家のピーター・ドラッカー氏の奥さまは、80歳を超えて起業し、つくった製品が非常によく売れたという話がドラッカー氏の著書に書かれています。こうしたチャンスが生まれてくるんですね。長年の経験を新しい時代の技術や、新しい時代のコンテクスト、脈絡、流れに合わせて、私たちが新たな仕事を起こしていくチャンスです。  そして、中高年が若手とお互いに助け合う、こうしたコミュニケーション能力、あるいは協調性、正確にいうと、分業を行う「分業力」をいかに身につけていくかが大事であるということだと思います。  キャリアの展開についても、「公助」では、キャリア形成を促進し、円滑な能力開発を可能とする各種の政策を、国や自治体がつくっていく。「共助」では、企業などが中長期的に展望できるキャリア開発に配慮をしていく。そして、「自助」では、長く成長し続けられるキャリア発達。こうしたものを、私たちは考えていく必要があるということです。  職業能力開発促進法3条の3には、「労働者は、職業生活設計を行い、その職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発及び向上に努めるものとする」とあります。平たくいうと、キャリアデザインです。キャリアデザインをして、そのデザインに沿って自発的な能力開発をしなさい、ということ。まさに自助です。  これに対して事業主は、いろんな意味で支援していくことに努めなければいけない。国と都道府県は、それらに対してさまざまな制度をつくり、運営する努力をしていく。  これらはすべて努力義務ですが、みなさん、自分自身にこうした自助努力の努力義務が課されているということをご存じでしたか。やらなかったら罰則があるというわけではありません。でも、高齢期の仕事に向けて、いろんなことを配慮しておきなさいということが、個々の労働者に対する義務としても書かれているのです。  法律のなかにある、こうした自助・共助・公助を、中高年の人たちや企業が、自分のものとして考えて、キャリアを高めていけるかがますます大事になってきます。 キャリアを評価する三つの指標  キャリアの評価には、大きく分けて三つの指標があります。  一つは「経済」の指標、お金です。これは、客観的にわかります。年収300万円の仕事、年収500万円の仕事といえば、イメージが湧いてきます。これに対して、「社会」の指標が二つ目です。これは、「あの人とまた仕事したいね」、「この問題だったらあの人だよね」といった評判です。そして、三つ目は「個人」の指標。これは、自分なりの納得です。  これら三つの指標が重なった部分(図表3)で、私たちは自分のキャリアを「まあまあだったかな」とか、さまざまに評価をしているのです。  国土交通省の「国民意識調査」(2018年)から、「仕事上の重視事項」についてみると、20代から40代までは「給与・賃金」が1位です。すなわち、「経済」の指標です。ところが、50代から70代までの1位は、すべて「仕事のやりがい」となっています。  したがって、中高年にはもっと、仕事のやりがいを準備する必要があるのです。そうした職務設計、あるいは仕事配分の設計が必要な時代がやってきたということでしょう。  先ほどお話ししたピアックの調査にあるように、中高年の能力は、実は思っているほど落ちていません。重要なのは、時代の変化のなかで学習をしていくこと。とりわけ、古い考え方や発想を捨てていく「学習棄却」や「アンラーニング※」を行いながら新たなことを学んでいく、こうした姿勢が大事になっています。  リクルートワークス研究所が5万人に行った「全国就業実態パネル調査2018」の結果によると、20代から30代はじめくらいの世代には、仕事をやりながらのOJT、仕事を離れてのOFF−JTなどの訓練が行われているのですが、40代前半ではOJTは2割を切り、OFF−JTも軽視されています。そういう意味では中高年は、現状では自助努力をしなければきつい部分があることは事実ですが、もっと共助、公助の仕組みを高めていく必要があるのではないか。このように私は思っています。  私たちはいままで、人々の能力開発といえば、もっぱら若い人を念頭に置いてきました。しかし、中高年の能力開発が、これからの日本の極めて重要な課題であり、かつ遅れている問題です。国際的にみても遅れているのです。これをどうやっていくか。日本型の新たな雇用慣行をどうつくっていくか。みなさんと一緒に考えていきたいと思っています。 諏訪 康雄(すわ・やすお)  専門は労働法、雇用政策。法政大学社会学部教授、同大学大学院政策創造研究科教授、ボローニャ大学客員教授、トレント大学客員教授、厚生労働省・労働政策審議会会長、中央労働委員会会長等を歴任。著書に『雇用政策とキャリア権│キャリア法学への模索』(弘文堂、2017年)、『労働者派遣法』(三省堂、2017年〔共著〕)、『雇用と法』(放送大学教育振興会、1999年)など多数。 ※ アンラーニング……いったん学んだ知識や既存の価値観を意識的に棄て去り、新たに学び直すこと 図表1 年齢階級別労働力人口の推移 労働力人口(万人) 昭和55年(1980) 総数 5,650 15〜24歳 699 25〜34歳 1,438 35〜44歳 1,393 45〜54歳 1,208 55〜59歳 385 60〜64歳 248 65〜69歳 165 70歳以上 114 60年(1985) 総数 5,963 15〜24歳 733 25〜34歳 1,261 35〜44歳 1,597 45〜54歳 1,297 55〜59歳 488 60〜64歳 288 65〜69歳 163 70歳以上 137 平成2年(1990) 総数 6,384 15〜24歳 834 25〜34歳 1,225 35〜44歳 1,614 45〜54歳 1,418 55〜59歳 560 60〜64歳 372 65〜69歳 199 70歳以上 161 7年(1995) 総数 6,666 15〜24歳 886 25〜34歳 1,327 35〜44歳 1,378 45〜54歳 1,616 55〜59歳 593 60〜64歳 421 65〜69歳 253 70歳以上 192 12年(2000) 総数 6,766 15〜24歳 761 25〜34歳 1,508 35〜44歳 1,296 45〜54歳 1,617 55〜59歳 666 60〜64歳 426 65〜69歳 265 70歳以上 229 17年(2005) 総数 6,651 15〜24歳 635 25〜34歳 1,503 35〜44歳 1,377 45〜54歳 1,392 55〜59歳 776 60〜64歳 465 65〜69歳 257 70歳以上 247 18年(2006) 総数 6,664 15〜24歳 622 25〜34歳 1,480 35〜44歳 1,413 45〜54歳 1,361 55〜59歳 820 60〜64歳 447 65〜69歳 268 70歳以上 253 19年(2007) 総数 6,684 15〜24歳 607 25〜34歳 1,429 35〜44歳 1,456 45〜54歳 1,347 55〜59歳 812 60〜64歳 486 65〜69歳 287 70歳以上 262 20年(2008) 総数 6,674 15〜24歳 589 25〜34歳 1,394 35〜44歳 1,491 45〜54歳 1,333 55〜59歳 769 60〜64歳 533 65〜69歳 298 70歳以上 268 21年(2009) 総数 6,650 15〜24歳 565 25〜34歳 1,364 35〜44歳 1,523 45〜54歳 1,332 55〜59歳 722 60〜64歳 565 65〜69歳 313 70歳以上 266 22年(2010) 総数 6,632 15〜24歳 544 25〜34歳 1,329 35〜44歳 1,542 45〜54歳 1,343 55〜59歳 686 60〜64歳 605 65〜69歳 312 70歳以上 273 23年(2011) 総数 6,596 15〜24歳 525 25〜34歳 1,291 35〜44歳 1,569 45〜54歳 1,333 55〜59歳 655 60〜64歳 637 65〜69歳 296 70歳以上 288 24年(2012) 総数 6,565 15〜24歳 514 25〜34歳 1,261 35〜44歳 1,577 45〜54歳 1,346 55〜59歳 629 60〜64歳 627 65〜69歳 310 70歳以上 299 25年(2013) 総数 6,593 15〜24歳 518 25〜34歳 1,239 35〜44歳 1,582 45〜54歳 1,380 55〜59歳 620 60〜64歳 602 65〜69歳 345 70歳以上 307 26年(2014) 総数 6,609 15〜24歳 518 25〜34歳 1,214 35〜44歳 1,576 45〜54歳 1,406 55〜59歳 620 60〜64歳 575 65〜69歳 377 70歳以上 322 27年(2015) 総数 6,625 15〜24歳 516 25〜34歳 1,191 35〜44歳 1,558 45〜54歳 1,439 55〜59歳 617 60〜64歳 556 65〜69歳 413 70歳以上 334 28年(2016) 総数 6,673 15〜24歳 539 25〜34歳 1,180 35〜44歳 1,527 45〜54歳 1,482 55〜59歳 619 60〜64歳 541 65〜69歳 450 70歳以上 336 29年(2017) 総数 6,720 15〜24歳 545 25〜34歳 1,167 35〜44歳 1,497 45〜54歳 1,526 55〜59歳 628 60〜64歳 536 65〜69歳 454 70歳以上 367 30年(2018) 総数 6,830 15〜24歳 583 25〜34歳 1,160 35〜44歳 1,469 45〜54歳 1,567 55〜59歳 636 60〜64歳 539 65〜69歳 450 70歳以上 425 出典:総務省「労働力調査」 (注1)「労働力人口」とは、15歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせたものをいう。 (注2)平成23年は岩手県、宮城県及び福島県において調査実施が一時困難となったため、補完的に推計した値を用いている。 図表2 55歳以上の高年齢者の職種別採用状況(複数回答) (%) 経営幹部の確保 中間管理職の確保 高い技能・技術・ノウハウの活用 若い従業員への技能・ノウハウの伝達 勤務態度や仕事ぶりがまじめなため 55歳以上の労働者しか応募してこなかったから 比較的安い賃金で採用できるため その他 経営管理職 59.8 27.9 26.2 4.9 3.3 0.8 4.1 1.6 技術職・研究職 3.2 11.3 68.8 15.6 11.8 5.9 7.0 5.4 営業・販売職 4.4 7.9 35.4 10.5 28.8 14.0 14.0 4.4 技能職 0.0 2.5 35.7 7.2 27.0 19.5 22.8 6.1 事務職 1.9 11.0 32.9 8.4 26.5 7.7 12.3 5.2 その他 0.0 0.9 9.8 3.3 29.6 28.9 28.2 14.4 出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「高齢者の雇用・採用に関する調査」(平成22年) (注)「無回答」は非表示。平成19年10月〜20年8月1日の間に、55歳以上の中途採用者がいた企業(30.4%)を対象。 図表3 キャリアの評価をめぐる3指標 経済の指標←お金の問題(客観) 社会の指標←評判の問題(間主観) 個人の指標←納得の問題(主観) 出典:筆者作成 【P27-31】 新春特別企画2 「令和元年度 高年齢者雇用開発フォーラム」トークセッションから 高齢社員活用の最前線 〜コンテスト表彰事例から探る〜  高年齢者雇用開発フォーラムより、「令和元年度高年齢者雇用開発コンテスト」入賞企業3社が登壇して行われたトークセッションの模様をお届けします。コーディネーターに東京学芸大学の内田賢教授を迎え、高齢社員の持っている能力、技術、経験を活かす工夫や長く働き続けられる職場づくりなどについて、それぞれの取組みをうかがいました。 コーディネーター 内田 賢(まさる)氏 東京学芸大学教育学部教授 パネリスト 佐藤 仁(ひとし)氏 医療法人社団五色会 理事長 安孫子(あびこ)健一氏 株式会社建設相互測地社 代表取締役 小澤(おざわ)邦比呂(くにひろ)氏 松川電氣株式会社 代表取締役 企業プロフィール 松川電氣 株式会社 〈静岡県浜松市〉 ◎創業 1967(昭和42)年 ◎業種 電気・通信設備工事業〔設備工事業〕 ◎従業員数 47人 ◎特徴的な高齢者雇用の取組み  定年は65歳。その後は一定条件のもと、年齢上限なく勤務延長している。人間力を重視し、高齢者の豊かな経験が活かされる職場づくりに取り組んでいる。 株式会社 建設相互測地社 〈福島県郡山市〉 ◎創業 1969(昭和44)年 ◎業種 補償コンサルタント業(用地補償、測量調査)〔専門サービス業〕 ◎従業員数 32人 ◎特徴的な高齢者雇用の取組み  定年は65歳。就業規則などにより一定条件のもと、年齢上限なく再雇用している。技能継承のため、高齢従業員と若手従業員がペアを組んで仕事をしている。 医療法人社団 五色会 〈香川県坂出市〉 ◎創業 1978(昭和53)年 ◎業種 病院〔医療業〕 ◎職員数 454人 ◎特徴的な高齢者雇用の取組み  定年は65歳。制度として70歳まで再雇用。運用により一定条件のもと年齢上限なく再雇用。短時間正職員制などを導入し、柔軟な働き方を実現している。 3社のさらに詳しい取組み内容は、本誌2019年10月号「特集」をご覧ください エルダー2019年10月号 検索 定年や雇用上限年齢を引き上げて長く活躍してもらう環境をつくる 内田 高年齢者雇用開発コンテストの入賞企業のみなさんに、高齢社員を戦力化するための工夫や長く働き続けられる職場づくりなどについて、お話をうかがっていきたいと思います。よろしくお願いします。  はじめに、高齢者雇用推進のきっかけと、実際に行った制度改革について、「医療法人社団五色会(ごしきかい)」の佐藤さんからお願いします。 佐藤 多くの日本の企業に共通していることだと思いますが、当法人も人材不足で、資格を要する仕事でもあり、職員の採用はかなりむずかしい状況となっています。そうしたなかで、経験豊かな高齢職員が長く働ける職場にしたいと考えたことがきっかけです。もちろん、高齢者に特化した取組みだけでなく、すべての職員を意識して取り組むことを心がけて進めています。  具体的な取組みとしては、定年を60歳から65歳に引き上げ、定年後も一定条件のもと70歳まで雇用を継続し、さらにその後も条件を設けて雇用延長を実施しています。これらの制度改革がまず大きな変更点です。 内田 ありがとうございます。続きまして、「株式会社建設相互測地社」の安孫子さん、お願いします。 安孫子 弊社の業務を遂行していくうえでは、補償業務管理士などの資格を有する者が必要です。自社で育てていますが、勤続10年ぐらいにならないと一人前になれないといった状況のなか、社員の高齢化が徐々に進んできました。一方で、若手の採用が進んでいないといった状況もあり、資格を持っている現有社員にできるかぎり長く勤めてもらいたいと思ったことが、高齢者雇用推進のきっかけです。  経験豊かな高齢者が働きやすい職場環境をつくるために、定年を65歳に引き上げました。とはいえ、以前から定年年齢にとらわれない勤め方をしてもらっており、将来的には定年を廃止することも考えています。実質的には、65歳以降、70歳を超えても、健康で本人が働きたいという意欲があれば、続けて勤めてもらえるように雇用を継続しています。  年齢的に、いままでと同じ勤め方では体がきついという人もいますし、細かい図面を読むような仕事が厳しくなったという場合は、業務内容を少し変えて、また、趣味や地域貢献などをしながら勤め続けられる柔軟な勤務体制を整備しました。最近は、そういった制度を使って長年勤めている社員をみて、「いずれは自分も勤め方を変えながら勤務を続けられるんだ」という認識を持って働いている次の世代の社員もいるという状況です。 内田 ありがとうございます。続きまして、「松川電氣株式会社」の小澤さん、お願いします。 小澤 当社では、創業時から勤めている、従業員の一人が60歳を迎えた2006(平成18)年に定年を60歳から65歳に引き上げました。その従業員の優れた技術と経験、人間性を必要としていますし、仕事に対する姿勢も若い人たちの手本になります。そういう人たちに、いかに長く働いてもらえるかということが取組みのきっかけとなりました。  その従業員は現在73歳で、勤続年数は当社の歴史と同じ53年です。そうした人たちが安心し、喜んで仕事ができる環境をつくるのが会社の役目ですし、同時に若い人を導いてもらいたい、思いはそれだけです。 内田 ありがとうございます。会社が必要とするだけの能力があり、働く意欲もある。そういう高齢者のためにも、定年延長に取り組まれていることがわかりました。「この会社でずっと働きたい」という、その魅力をつくるのも社長の役割ということですね。 高齢従業員の能力、技術、経験を活かし戦力化するためのさまざまな工夫 内田 次に、高齢従業員の能力、技術、経験を活かし、引き続き戦力として働いてもらうための工夫についてお話しいただきたいと思います。「五色会」の佐藤さんからお願いします。 佐藤 医療、介護の分野もどんどん変化していますので、スタッフが前進しながら、その変化についていく必要があります。高齢になると変化に対して、うまく対応できないという人もいますが、「高齢者だから変わらなくていい」と思うのではなく、私はむしろ「一緒に変わりましょう」と積極的に声をかけます。高齢スタッフが変わっていくと、若い人の手本になり、若い人も変化についていこうとする企業風土が生まれます。  当法人は設立40周年を超えますが、創業時からのスタッフもいます。経営者や経営方針が変わっても辞めずに組織を支えてくれた、本当に頼りになるスタッフです。そういう人たちの存在があるからこそ、ほかの高齢スタッフにも働きやすいと感じられるような職場になっているように思います。  また、能力開発にも力を入れており、自分の能力開発のためであれば、社外のセミナーや研修に参加できる制度をつくりました。高齢スタッフにもどんどん参加してくださいとうながしています。 内田 ありがとうございます。自分から変わろうという職員をサポートする仕組みができているのですね。そういう仕組みを設けることが必要であろうと私も思います。では、「建設相互測地社」の安孫子さんはいかがでしょうか。 安孫子 当社では、仕事は先輩の背中を見て覚えるものだと、長年そういう育成をしてきましたが、若い人たちには受け入れられない部分が出てきて、改善するためにも、高齢者と若手とがペアを組んで仕事をし、蓄えてきた技術や能力を次世代に渡していく取組みを始めました。  年配者が若手に教えることのほうが多いのですが、ドローンなど新たな技術については、若手のほうが理解が早く、活用する術もすぐに思いつく柔軟さがあります。そうしたところでは、一方通行ではなく、双方向で影響を与え合う、そんなペアになることが大事だと思います。 内田 高齢者が教えるだけの存在ではなく、教わることもある、ペア就労により、相互作用で、両方に効果があるということですね。ただその場合、高齢者が、教わる立場でもあることを自覚することが重要ですね。 安孫子 そうですね。きちんと自覚したうえでないと、なかなかむずかしいと思います。 内田 ありがとうございます。では、「松川電氣」の小澤さん、お願いします。 小澤 いまはパソコンなどのIT機器が欠かせない時代ですが、電気設備工事業の現場では、まだまだ“人”が非常に大事な存在です。現場では「65歳以上の社員には高所作業をさせない」など、いろいろな制約を設けていますが、高齢であってもできることは多々ありますし、その人がいることによって、周りの人のモチベーションを向上させることもできるはずです。技術をもっと勉強したいという人であれば、ともに学ぶなかで、若手にさらに刺激を与えられる存在となります。  当社では、年の初めに全社員と面接を行っており、面談用シートには、自分の5年後について書いてもらうのですが、73歳の従業員にも書いてもらっています。すると、いつまでも勉強することを忘れていないんですね。言葉にするのがむずかしいのですが、“魂で仕事をする”ということを続けている。だからこそ、いろいろなメッセージを若い人に与えてくれる。そういう従業員がいることをたいへん誇りに思っています。  いま、世の中は数字だけを追う時代になってきていますが、人にはいろいろな可能性があるはずです。社員一人ひとりの成長が会社の成長につながることを考え、そうした信念を貫くことが、社員を幸せにする道ではないでしょうか。答えになっているかわかりませんが、そう考えて取り組んでいます。 内田 個人の成長と、会社の成長の両方を、短期的ではなく長期的に図る努力をされている、そのための経営者の信念が必要であるといったお話と理解しました。ありがとうございます。 長く働き続けるために必要な工夫やモチベーションの維持・向上について 内田 高齢者が長く働き続けるために、健康問題や職場環境の改善などについて、どのような工夫をされていますか。 佐藤 長く勤め続けてもらうためには、仕事にやりがいを持てることが大事なのだと思います。ただ、「やりがいを持ってください」と頼んでも持ってもらえるものではありませんので、企業側が、やりがいを持てる環境を提供する必要があります。働いていれば、だれもが自分のがんばりを認めてほしい、評価してほしいという思いがあるはずです。そこで、全職員が所属長と個別ミーティングを行い、職員ががんばったこと、あるいは考えたことを話してもらう機会をつくっています。さらに所属長と私でミーティングを行い、各職員のがんばりを伝えてもらいます。こうしたスタッフ一人ひとりのメッセージを受け取る場を設け、地道に続けることが、多くのスタッフが会社を好きになるきっかけの一つになるのではないか、そのように考えています。  当社の社風は、自立、協調、相互依存です。お互いに助け合いながら、一人ひとりが自立していくために、今後も支えていきたいと思います。 内田 職員のがんばりを知ることができると同時に、そういうコミュニケーションの場が頻繁にあるからこそ、会社からの要望も伝えられるし、職員側も素直に受け入れることができる、ということもあるんでしょうね。 佐藤 それが理想ではありますよね。 安孫子 長く働き続けるためには健康管理が大 切と考え、全従業員に人間ドックを受診させる とともに、再検査などは必ず受けるようにうな がすなど、疾病の早期予防などに努めています。  また、当社におきましても、社員は家族の一員であるといった社風があります。高校卒業後に入社し、結婚、出産、子育てをしながら勤め続けてくれている女性社員がおり、勤続30年を迎えようとしています。家庭的な雰囲気のなかで仕事ができることが大きな力になっているのだろうと思います。今後もこの雰囲気を大切にして、お互いを尊重し合うことを基本とし、ともに生きていく、そういった企業づくりをしていきたいと思っているところです。 内田 ありがとうございます。高齢になると、どうしても健康面のリスクを持つ人たちが増えてきますから、早期の予防保全が重要になってきますね。 小澤 当社では、「3つの健康」を重視しています。「身体の健康」、「経済の健康」、そして「心の健康」です。身体の健康では、従業員だけでなく、その家族にも人間ドックを受けてもらっています。経済の健康では、給料を下げず、決算賞与は28期連続で支給しています。  心の健康では、「人の役に立つこと」ということで、長年募金活動などを続けています。こうした地域貢献活動を続けることで、地域のみなさまに恩返しができ、困ったとき頼りにされる企業になることで、従業員のモチベーションの向上にもつながります。  私は企業は奉仕であると思っていますので、そうしたことを従業員とともに勉強しながら続けていきたいですね。経営者としても、まだまだやれることがあるのではないかと考えています。 高齢者雇用に取り組む企業へのメッセージ 内田 最後に、これから高齢者雇用に取り組む会社や組織に向けて、各社のご経験をふまえ、メッセージをいただきたいと思います。 佐藤 特に注意しているのは、高齢者の処遇を改善するにあたり、不平等を感じる職員がいる可能性もありますので、高齢者だけではなく、子育てや介護をしながら働いている職員など、さまざまな世代に配慮した取組みとすることが大切です。  そしてもう一つ、企業が経済的に健康であり、経済的な余裕を人員の配置に影響させて、社員のみなさまが少し余裕を持ちながら助け合える環境をつくることが大事ではないかと感じています。 安孫子 高齢者が働きやすい職場は、若手にとっても働きやすい職場です。高齢従業員には、親の介護のため介護休暇制度を利用している人もいますが、繁忙期には仕事のやりくりに本人たちは悩みます。ですが、当社では年少者を含めて、同僚が事情を理解し、業務の遂行に協力してくれています。若手と高齢者がペアで仕事をすることにより、両者のコミュニケーションが強化され、組織の活性化につながったと感じています。 小澤 高齢者だからということではなく、従業員一人ひとりの状況や環境に適した働き方を考えていくことが大切ではないでしょうか。会社と従業員というせっかくの縁ですから、できるだけ長く一緒に働きたいという思いのなかでやってきました。これからも、年齢を問わず、一人ひとりの状況に応じていきたいと思います。 内田 ありがとうございました。三社三様の大変有意義なお話をしていただきました。今日お越しいただいたみなさんの職場で、3社それぞれの取組みを参考に、実践していただければと思います。 写真のキャプション 内田 賢氏(東京学芸大学教育学部教授) 佐藤 仁氏(医療法人社団五色会 理事長) 安孫子健一氏(株式会社建設相互測地社 代表取締役) 小澤邦比呂氏(松川電氣株式会社 代表取締役) 【P32-33】 第69回 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは  設楽万里子さん(70歳)は、大手スーパーの鮮魚部門で、シニアパート社員として現在も第一線で働いている。設楽さんが包丁を入れた刺身の切り口の美しさにファンも多い。どんなときも全力で自分の仕事と向き合う設楽さんが、生涯現役で働ける喜びを笑顔で語る。 サミットストア 野沢龍雲寺(りゅううんじ)店 シニアパート社員 設楽(したら)万里子(まりこ)さん 美容師としてスタート  私は秋田県能代(のしろ)市の生まれで、5人兄弟の末っ子です。サラリーマンの家庭に育ちましたが、美容師という職業に憧れ、中学校を卒業すると秋田市内の美容専門学校に進みました。当時は中卒でも入学でき、片道2時間かけて通いました。そのころは1年制で、インターンという実習制度があり、美容院で働きながら国家試験に合格、美容師の資格を取得しました。  将来を夢見て順調に歩み始めていましたが、母が闘病生活を送ることになり、介護のために美容院を退職しました。1年ほど介護に専念しましたが、19歳のとき亡くなりました。さらにショックだったのは、父が母の後を追うかのように3カ月後に還らぬ人となったことです。成人した姿を2人に見てもらえなかったことが悔しくてなりません。しかし、いつまでも呆然としてはおられず、東京へ嫁いだ姉を頼って上京。両親のいない故郷に戻るより、東京でがんばろうと再び美容院で働くことにしました。3年間の勤務ののち結婚、しばらくは子育てに追われました。  私はいま70歳になり、亡くなった両親の歳をとっくに越えてしまいましたが、元気で働き続けてこられたのは早逝した両親への思いが支えとなっているのかもしれません。  1995(平成7)年に美容学校制度が変わり、現在はインターンへの参加は必須ではない。インターンという修業時代に片道2時間かけて通い続けたことが設楽さんを鍛えた。 新しい世界との出会い  資格があるというのはありがたいもので、子育てが一段落した30代の後半に、知人から美容院を任されました。しかし、しばらくして家主さんの事情で店を続けられなくなり、また専業主婦に戻ることに。  そのころ友人から、「近所のスーパーで、鮮魚部門のパートを募集しているから、応募してみないか」とアドバイスがありました。それが現在のサミットストア野沢龍雲寺店の前身である野沢店です。結婚以来ずっと住んでいる街で、市民の台所として期待されるスーパーであり、歩いて通えることも魅力でした。加えて魚料理が得意というか、魚を触ることが好きでしたから迷わず面接を受けました。39歳の新たな出発でした。気がつけばいつのまにか31年もの長い間お世話になっています。鮮魚部門ひとすじで、これはもしかしたら自分の天職ではないかと思うこともあります。  いまは刺身の担当ですが、もちろん入社当初から柳刃(やなぎば)包丁を持たせてもらえたわけではありません。当時の店長が、「この部門で働くのなら刺身を覚えなさい」と強くすすめてくださり、自ら包丁を握って素人の私にていねいに伝授してくれました。いまでも本当に感謝しています。  サミット広報室の植川肇さん曰く「設楽さんが切るお刺身は切り口がとても美しい」。魚の筋に対して直角に刃を入れ、きりっと角を立てる包丁さばきは名人芸の域といえる。 はさみを包丁に替えて  手先は器用な方だと思いますし、手先を使うことが好きなのです。小さいころは、お人形の髪を結い上げたりほどいたりして、一人でずっと遊んでいるような子どもでした。念願の美容師となり、一生の仕事にすることは叶いませんでしたが、美しくお刺身を仕上げることに大きな喜びを覚えるようになりました。人生にはいろいろな可能性があるものだと思っています。  この仕事を続けていて一番うれしいのは、お客さまの笑顔に会えることです。いまは地下で作業をしていますが、以前はお客さまから直接声をかけてもらって調理する「お魚キッチン」という部署にいました。  30年も鮮魚部門にいますから常連のお客さまも多く、特注の刺身の盛合せを依頼されることもあります。魚によって切り方も微妙に違うのですが、喜んでいただきたい一心で、ていねいにさばいています。  刺身の王さまともいえるマグロを大きな包丁でさばくこともあります。かつて教えてもらったことを忠実にくり返しているだけですが、刺身の世界は奥が深く、もっと美しく、もっとおいしそうに仕上げたいと、どんどん欲が出てきますから不思議なものです。  サミット株式会社は2016年にパートタイム社員の定年を60歳から65歳に引き上げ、70歳以上のシニアパート社員の定年を75歳まで引き上げた。高齢従業員の積極的な活用に注目が集まっている。 「まだ働ける」という気持ちを支えに  30年前にパートタイムとして働き始めて、70歳になったときシニアパート社員と呼称が変わりました。勤務時間はずっと変わらず原則的には8時から16時まで働いています。ただ、月曜と木曜は休ませてもらっています。休日には友達と会ったり、20年前から続けている「織りビーズ」でアクセサリーづくりを楽しんだりしています。自分の体調や都合に合った働き方ができるのも魅力です。鮮魚部門では60代が2人、あとは50代で、和気あいあいと楽しく働いています。若い人が入ってくることもありますが、臭いが気になるのか、鮮魚を取扱う部署にはなかなか人が定着しません。かつて店長に包丁の持ち方から教わったように、機会があれば私の経験と技術を次の世代に伝えていかなければといつも思っています。  最近は鮮魚部門の作業が細分化されていることから、刺身を切る作業担当の私が休むとほかの人たちに迷惑をかけることになります。体調管理はもちろん、自転車通勤の際にもケガをしないよう心がけています。責任を果たすという意志こそ、日々のモチベーションアップにつながると私は思います。  年に一度、能代中学校時代の同窓会が東京で開かれますが、自己紹介の席で私が「まだ現役で働いています」と発言すると、そこかしこから「がんばれよ」とか「応援するよ」などといった声がかかります。働く場所さえあれば、受け入れてさえもらえれば、多くの人が生涯現役で長く働き続けたいのではないでしょうか。  シニアパート社員は75歳まで働くことができます。そのためにも健康でいなければと、寝る前に少し身体を動かしています。また、日本茶をよく飲むことも健康維持の秘訣です。  私が働くことを応援してくれていた夫が亡くなって10年が経ちました。両親や夫の分まで長生きしなければと思っています。  娘にいわせれば、私は回遊し続けないと死んでしまうマグロだそうです。マグロがマグロをさばいているなんて実に愉快ですよね。 【P37-37】 高齢者の現場 北から、南から 第92回 宮崎県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー※(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 多様な経験を重ねてきた高齢者の力を貸してもらい、活かし、つないでいく 企業プロフィール 社会福祉法人つくしんぼ福祉会(宮崎県延岡(のべおか)市) ▲創業 1979(昭和54)年 ▲業種 保育所の設置経営、児童クラブの運営など ▲従業員数 67人 (60歳以上男女内訳) 男性(5人)、女性(8人) (年齢内訳) 60〜64歳 3人(4.5%) 65〜69歳 7人(10.4%) 70歳以上 3人(4.5%) ▲定年・継続雇用制度 定年60歳。定年後は65歳まで継続雇用。運用により、その後も雇用を延長する場合がある  宮崎県は日本列島の南西、九州の南東に位置し、南国情緒豊かな景観や温暖な気候が特徴で、年間平均気温は17・4℃の温かさです。当機構の宮崎支部高齢・障害者業務課の渡辺豪たけし課長は、「宮崎県のキャッチフレーズは『日本のひなた宮崎県』。平均気温・日照時間・快晴日数は全国トップクラスで、プロ野球やサッカー、ラグビーなどのキャンプ地としても有名です。産業では、きれいな空気や水などの優れた資源を活かした付加価値の高い農業、林業、水産業、工業、観光事業などを展開しています」と話します。  宮崎県では2016(平成28)年に高齢化率が30%を超え、2019(令和元)年10月1日現在では31・7%となっています。そうしたなか、66歳以上でも働ける制度のある企業の割合が増えており、2019年6月1日現在で37・5%(全国30・8%)、70歳以上でも働ける制度のある企業の割合は35・2%(同28・9%)と、いずれも全国平均より高くなっています。宮崎支部では、定年年齢の引上げや65歳を超えた雇用制度改善などについて事業所への相談・助言を行っており、渡辺課長は、「各事業所の状況に即した相談・助言、情報提供となるよう、十分な時間を取ってお話をうかがいます。お気軽にご相談ください」と県内事業所に呼びかけています。  今回は、同支部で活躍するプランナー・黒木(くろぎ)美生(よしお)さんの案内で「社会福祉法人つくしんぼ福祉会」を訪ねました。 職員を大切にする保育園として  つくしんぼ福祉会は1979年(昭和54)年2月に法人認可を受けて、同年4月、延岡市につくしんぼ保育園を開園しました。1998年には学童保育事業を始めるなど、徐々に事業を拡大し、現在ではつくしんぼ保育園、ととろ保育園、つくしんぼ児童クラブを運営。また、指定管理者として2019年4月より、門川町(かどがわちょう)子育て人づくりセンターひだまりハウスの運営を行っています。  近年、保育士不足が社会問題となっていますが、つくしんぼ福祉会の塩満(しおみつ)克也(かつや)理事長は、「15年ほど前から人手不足感がありました」と状況を話します。2012年4月に「子ども・子育て支援法」が施行されて以降は、提出書類などの事務量が増え、人手不足のうえ多忙を極めている保育園が増えているそうです。  こうした厳しい状況のなかでも、同法人では「子ども、保護者、地域等に愛され、必要とされる保育園を常に目ざし、それを支える職員を大切にする」という目標を掲げており、塩満理事長は、「当法人の資産は『人』。職員がやりがいを実感できる職場環境をつくることに努めています」と話します。具体的には、給与・待遇の向上を図り、職員がやりがいを持って研鑽(けんさん)を積むことができるように、研修や計画的な人財育成に注力。保育の仕事をライフワークとして続けられるよう、子育てや親の介護が必要になったとしても勤務を続けられる多様な勤務制度を導入しました。さらに、継続雇用制度は65歳までですが、以降も、話合いにより勤務延長が可能です。 経験を積み重ねた高齢者の力を貸してもらう=@黒木プランナーは、2016年に同法人を初めて訪問しました。保育士不足の問題をふまえて、在職中の高齢ベテラン職員が、「後進への指導、業界の魅力発信、利用者への安心提供」など、広い範囲で能力を発揮できる職場環境の実現に向けて、65歳までの継続雇用制度の見直しなどをアドバイスし、実現しました。  「塩満理事長の高齢者雇用への理解は深く、さまざまな検討をされ、斬新な取組みを実践されています」と黒木プランナー。  塩満理事長は、人手不足だから高齢者を雇用するのではなく、「経験を積み重ねた人の、その力を貸していただく」という考え方から、12年ほど前より、「何時間でもよいので、掃除やちょっとしたことに手を貸してください」と、近隣の高齢の方々を対象に、短時間でできることを時給制で行ってもらう「サポーター」を募集。現在8人のサポーターがいて、清掃や駐車場の送迎時間の交通整理などを担当しています。  また、他社を定年退職した人の採用活動も行っています。「『この仕事をしてください』と募集するのではなく、本人の仕事の経験などをお聞きし、『それならこういう仕事をお願いしたいのですが』と話をして、お互いに納得できたら働いていただいています」と塩満理事長。高齢者の雇用条件は一律ではなく、一人ひとりと話し合い、仕事内容や待遇、働き方を決めています。  同法人で、前職などで積んだ経験を活かして、総合的なサポートや子どもたちの先生として活躍する、50代、60代の職員にお話を聞きました。 役に立てる喜びを感じて  甲斐隆治(りゅうじ)さん(67歳)は、2012年3月に延岡市役所を定年退職後、金融機関での勤務などを経て、65歳になった2017年に同法人に入職しました。金融機関に勤めていたときから塩満理事長とたびたび話す機会があり、塩満理事長は「いずれ、力を貸していただきたいと思っていた」と話します。甲斐さんも、「65歳を過ぎたら無理のない働き方をしたいと考えていたところ、『毎日でなくてもよいので手伝ってほしい』と塩満理事長にお声がけいただきました」と話します。  現在は、かつての仕事経験を活かして、人権にかかわる教育や相談、社会福祉協議会との連絡調整、また、同法人の職員の相談にのっている。「いろいろなサポートをお願いしています。勤務時間は定めず、必要に応じて働いてもらっています」(塩満理事長)。  甲斐さんは、「週30時間以上は勤務していますが、無理なく続けられています。塩満理事長は尊敬できる存在です。そういう職場で、経験が活かせる仕事ができることに喜びとやりがいを感じています。これからも役に立ちたいです」と朗らかに話してくれました。 スポーツ指導者から放課後児童支援員に  「若い職員に負けない体力がある、ハツラツとした人財です」と塩満理事長が紹介する石黒スミ子さん(69歳)は、エアロビクスの講師歴35年。スポーツクラブに定年まで勤めた後、2014年に同法人に入職しました。現在、つくしんぼ児童クラブで週5日、13時から18時まで、放課後児童支援員として働いています。  「小学1〜4年生が放課後にやってくる施設で、子どもたちが安心して過ごせる場を提供することが主な仕事です。騒いだり、いたずらをするのが子どもですから、うまく対応しながら、自然にあいさつができる子になるように接することを心がけています。子どもたちが大人になったとき、この児童クラブに来ていてよかったな、と思い出してもらえたらうれしいですね」と石黒さん。  定年退職後、シルバー人材センターが開催した保育補助の研修会に参加したことと、以前にスポーツクラブで塩満理事長に運動を指導していたという縁が重なり、喜んで入職したといいます。また、同法人の福利厚生として、職員や保護者の希望者を対象に、週1回エアロビクスを指導していて、10人ほどが受講しています。「おかげさまで、楽しく健康的な毎日です。これからもがんばります」と笑顔で話してくれました。 熱意に心を動かされて  佐藤えり子さん(59歳)は、保育士であり、同法人が2019年4月から指定管理者となっている門川町子育て人づくりセンターひだまりハウスに週5日、9時から18時まで勤務し、同センター長として運営に注力しています。  佐藤さんは昨年まで門川町職員で、同センターの立ち上げからたずさわり、2012年2月の開所以降も、同センターの仕事を担当していました。塩満理事長は「当法人が指定管理者になると決まった際、今後も同じ先生にいらしていただくことが、センターの利用者にとって心強いことと考え、甲斐さんから話をしてもらいました」と振り返ります。佐藤さんは熟慮の末、門川町を定年より1年早く退職し、つくしんぼ福祉会に入職しました。  「子育て支援に対する塩満理事長の熱意と、理事長を尊敬されている甲斐さんの熱心な働きかけに心を動かされました」と佐藤さん。  同センターでは現在、9人の職員のうち5人が60歳以上で、「みなさん、保育士としての経験とスキル、思いを持って仕事に取り組んでいます。子育て支援の拠点となるセンターなので、役割を果たしつつ、保護者の方々もホッとできる場所であることを目ざします」と話しました。 多世代がかかわる保育園に  黒木プランナーは、同法人の高齢者雇用を、「積み上げてきた経験を、本人と法人の双方にとって最善のかたちで活かしています。塩満理事長にはベテランの方々の力を引き出す力があると感心しました」と評しています。  塩満理事長は、「さまざまな年代や地域の方々にかかわってもらい、この保育園にかかわることで幸せを感じられる、そういう場所にしていきたい」とこれからの抱負を語りました。 (取材・増山美智子) ※65歳超雇用推進プランナー……当機構では、高年齢者雇用アドバイザーのうち経験豊富な方を65歳超雇用推進プランナーとして委嘱し、事業主に対し、65歳を超えた継続雇用延長・65歳以上への定年引上げなどにかかわる具体的な制度改善提案を中心とした相談・援助を行っています 黒木美生 プランナー(59歳) アドバイザー・プランナー歴:7年目 [黒木プランナーから] 「プランナー活動では、常に訪問先企業の立場になり、信頼関係を構築することを心がけています。そのために話しやすい雰囲気づくりを大事にして、それぞれの困りごとや心配ごとを傾聴し、寄り添う姿勢で相談・援助に臨んでいます」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆宮崎支部の渡辺課長は、黒木プランナーについて、「延岡などの県北地域を中心に活躍されている7年目のプランナーです。高齢者雇用に欠かせない賃金や年金などの知識を活かした相談・助言に力を注ぐとともに、各事業所の現状や問題、課題などを穏やか、かつていねいにうかがうことで、課題の解決に向けた具体的な制度改善提案や情報提供に取り組んでいます」と話します。 ◆宮崎支部高齢・障害者業務課には、6人の65歳超雇用推進プランナーが在籍し、長年の経験と豊富な知識を活かして相談・助言活動を行っています。2018年度は約250社の県内事業所を訪問し、定年年齢の引上げや65歳を超えた継続雇用延長などの制度改善の提案などに取り組みました。 ◆宮崎支部は、JR南宮崎駅から徒歩約7分、宮崎市内外の交通の拠点である「宮交シティバスセンター」からは徒歩約3分に位置する「宮崎職業能力開発促進センター(ポリテクセンター宮崎)」内にあります。 ◆相談・助言を無料で実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●宮崎支部高齢・障害者業務課 住所:宮崎県宮崎市大字恒久4241 番地 宮崎職業能力開発促進センター内 電話:0985(51)1556 写真のキャプション 宮崎県 つくしんぼ保育園外観。内部は宮崎県産の木材を用いた木のぬくもりあふれる空間となっている つくしんぼ福祉会の塩満克也理事長 つくしんぼ保育園で職員の相談にのる甲斐隆治さん いつも元気に子どもたちと接している石黒スミ子さん 門川町子育て人づくりセンターで子どもたちに紙芝居を見せる、佐藤えり子さん 【P38-41】 AI・ICTで働き方が変わる ―高齢者から始まる働き方改革― 東京大学 先端科学技術研究センター 講師 檜山(ひやま) 敦(あつし)  生涯現役時代を迎え、就業を希望する高齢者は、今後ますます増えていくことが予想されます。そんな高齢者の就業を支援するうえで期待が集まるのが「AI・ICT」※1。AI・ICTの活用で、高齢者が持つ知識や技術、経験を効果的に活用できる働き方が実現すれば、現役世代の負担軽減につながります。それが、W高齢者から始まる働き方改革Wの姿です。 第3回 高齢者を対象としたシェアリングエコノミーの展開 場所や物、能力を共有するシェアリングエコノミー  「シェアリングエコノミー」とは、個人や団体が所有している場所や物、そして能力を、インターネットを通じて、それを求めている人とマッチングを行い一時的に提供するサービスです。シェアリングエコノミーという言葉自体はあまり馴染みがないかもしれませんが、タクシーの配車や相乗りサービスを提供する「Uber(ウーバー)」や、空いている部屋を観光客などに宿として提供する「Airbnb(エアビーアンドビー)」というサービスは、ニュースなどで耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか?  日本では「Uber」は白タクにあたり、「Airbnb」は民泊となるため、サービスをそのまま提供するには法律上の問題がありました。法改正するにあたってもそれぞれタクシー業界、ホテル業界を脅かすという世論が強く、限定された利用にとどまっています。  「Uber」については、シンガポールでも既存のタクシー業界を脅かすという批判がありましたが、日本とは対照的に「Uber」を利用可能にしてもタクシードライバーは「Uber」のドライバーになるだろうから職を失うのではなく、逆に「Uber」から提供されるマッチング機能に決済機能や評価機能のインフラ※2を利用できるようになることで、利便性はドライバーにとっても旅行者にとっても高まる方向に変わるという判断がなされ、積極的に受け入れられました。  「Airbnb」の方は、日本では2018(平成30)年に住宅宿泊事業法が制定されたことで、正しく届け出がなされた施設のみが掲載されるようになり、安心して利用できるようになってきています。インバウンド※3観光客の増加による宿泊施設の枯渇と空き家問題も重なって地方創生を助ける手段としても期待されています。  日本において多くのシェアリングエコノミー企業が成長しているのは、能力のシェアリングの領域になります。特に、「ランサーズ※4」、「クラウドワークス※5」や「ココナラ」と呼ばれるサービスが有名です。これらはシェアリングエコノミーという言葉が広がる以前から、インターネット上でつながることができるたくさんの働き手(群衆=クラウド)に、仕事をアウトソーシングする「クラウドソーシング」として広がっていったものです。むしろシェアリングエコノミーは能力のシェアリングであるクラウドソーシングから始まり、その仕組みがさまざまな分野に展開していったことで生まれた言葉ともいえます。前回紹介したGBER※6はこの能力のシェアリングにあたるサービスですが、上記のクラウドソーシングサービスとは異なる点として、インターネット上のオンラインの仕事ではなく、もっぱら地域の現場に出るオンサイトでの仕事を扱っているところが特徴になります。  物のシェアリングに関するところでは、「メルカリ」のように使わなくなった物を販売するオンラインのフリーマーケットが有名です。お金を物の一種と考えると、インターネットを通じてたくさんの人から少しずつ目標とするプロジェクトを実現するための資金を集めるクラウドファンディングというサービスもあります。 可能性を秘めている高齢者とシェアリングエコノミー  ほとんどのシェアリングエコノミーサービスは、特に高齢者をサービスのにない手として、あるいはサービスの受け手として特別意識したものではありません。高齢者をサービスの受け手とするものには、介護離職ゼロを目ざして、生活に手助けが必要な高齢者世帯の支援サービスを提供している「クラウドケア」があります。まさに介護領域へのシェアリングエコノミーの進出が始まった段階にあります。サービスのにない手としてシニア層をメインターゲットに据えているものはほとんど見られず、GBERだけかもしれません。  しかし、シニア層が比較的活躍しやすいシェアリングエコノミーサービスはいろいろあります。短時間でビジネス上の相談に乗るスポットコンサルティングサービスの「ビザスク」は、ほかのクラウドソーシングサービスと比べて経験を積んだ年齢層の登録が多くなっていきます。また、「タスカジ」を始めとする家事支援のクラウドソーシングは、子育てを終えた中高年層が活躍しやすいサービスでしょう。冒頭であげた「Airbnb」も地方の空き家問題とリンクさせていくことで、持ち家のあるシニア層がサービスのにない手として活躍しやすい条件を持っているといえるでしょう。クラウドファンディングについても、社会的価値の高い若者のプロジェクトに寄付をしたり、逆に定年退職後の夢を応援してもらったりすることに活用できるものです。  多くのシェアリングエコノミーサービスが高齢者を特別意識していないということは、高齢者もサービスの提供者として参加することを妨げている訳ではないということでもあります。シェアリングエコノミーに参加するにはまず、サービスとして一人ひとりの日常で役立てられそうなものにどのようなものがあるのか情報を得られることが必要です。そして、インターネットやスマートフォンのアプリをインストールしたり、クレジットカード決済の登録を行ったり、サービスの利用画面や使われている言葉が若者向けのデザインでわかりにくかったりするハードルさえ乗り越えれば、だれもがサービスの提供者として参加することができます。 高齢者ならではの知識・経験をオンラインサービスに出品  シェアリングエコノミーが、どのような概念で、利用するにはどのようにすればよいのか、実際にサービスに触れて学べる機会があればよいのですが、そのような機会が乏しいのが現状の課題です。東京大学の柏キャンパスで、地域のシニアを集めてシェアリングエコノミーサービスの一つである「ココナラ」の体験ワークショップを開いたことがあります。  ココナラは、インターネット上に自分の得意なことをサービスとして出品し、出品されたサービスを求める利用者からの依頼に応じてインターネット上で売買を行うサイトです。イラストを描いたり、相談に乗ったり、コピーライトを考えたり、というような、それぞれの人が得意なことが出品されています。  ワークショップの冒頭では、ココナラ代表取締役の南章行(あきゆき)さんからココナラとはどういうサービスか解説していただきました。それから、4人ほどのグループに分かれて一緒に得意なこを出品する作業に取り組んでいただきました。  参加者の方々はグループワークを始めてすぐのうちは、「私には出品できるような得意なことはないですよ」と口々にいっていました。しかし、グループワークのなかで、それぞれのこれまでの人生経験を語っていただいて、それを聴いたほかのグループメンバーがお互いの出品できそうな経験を提案し合う形で、どんどん得意なことが出てくるようになりました。「仕事を辞めずに介護をする方法」や「行政に提出する文書の添削」、さらには「日中合弁会社の人事の相談」まで、参加してくださった世代の方々特有の、それぞれの人生経験に基づくスキルの出品案が集まりました。  写真1はワークショップ参加者のなかで、インターネット上の「ココナラ」に得意なことを出品した第1号となった方のその瞬間の様子です。出品に必要なことを入力し終わって、出品ボタンをクリックすると全世界に公開されてしまうことにしばらくためらいながらも、思い切ってクリックしてしまった、というその瞬間の興奮冷めやらぬ表情です。身近にこのようなワークショップがシニア向けに開催されるようになっていくことで、シェアリングエコノミーへのシニア層の参加が大きく前進することになるでしょう。 地域のシニアとシェアリングエコノミーを結ぶための仕組みづくり  私はGBERの研究開発の一環として、シニア層とシェアリングエコノミーサービスとの接点をつくる仕組みづくりにも取り組んでいます。GBERの地域での普及促進を考えると、まずGBERの存在を知ってもらわなければなりませんし、使い方を学ぶ機会を提供できなくてはなりません。毎回大学から研究開発スタッフが地域に出向いて講習会を開催するのは持続可能な形ではありません。  そこで、地域に数多(あまた)あるシニア向けIT教室と連携した仕組みづくりを始めています。一般財団法人ニューメディア開発協会は「シニア情報生活アドバイザー」という、全国のシニア向けIT教室で講師として活躍できる資格認定制度と、そのための教材やカリキュラムの作成を行っています。現在、熊本県でのGBERの社会実装においては、熊本県におけるシニア向けIT教室のネットワークである熊本シニアネットとの連携を皮切りに、ニューメディア開発協会との共同事業でGBERの全国展開を見すえて教材とカリキュラムの制作と講習会の開催を進めています。熊本県でのモデルができあがることで、今後、他地域においてGBERを活用したシニアの社会参加の活性化の依頼があったときに、ニューメディア開発協会を通じて当該地域のシニア向けIT教室に教材とカリキュラムを提供し、その地域のシニア情報生活アドバイザーが講習会を展開できるようになります。そして、この仕組み自体もITを得意とするシニアが、講習会の講師として就労する機会を拡大するものになります。  写真2は熊本シニアネットの講師によるGBER講習会の様子です。熊本シニアネットの講師陣はシニアにとってわかりやすい説明の仕方や、シニアがつまずきやすいポイントを熟知していて、本当に頼もしい存在です。GBERにかぎらず、世の中のさまざまなシェアリングエコノミーを紹介して、利用者として日常生活にどのように役立てられるか、そしてサービス提供者としてどのように活躍できるか、という視点で、各地のシニア向けIT教室のカリキュラムに取り入れていただけたらと思っています。 シェアリングエコノミーで地域課題の解消と持続的な発展を  新しい働き方や資産の効率的な活用法であるシェアリングエコノミーは、2010年以降急速に世界的に広がり始めました。経済産業省の調査によると、2017年の日本での市場規模は716・6億円と推計されたことに対して、お隣の中国では2017年の市場取引額が81・7兆円を超え、爆発的に盛り上がってきていることが報告されています。車の相乗りや民泊だけでなく、自転車や傘、バッテリーなどのさまざまなシェアサービスが誕生しているそうです。日本では、既存サービスのインフラが整っていることと、法制度の対応に時間がかかる側面から新しいサービスの参入障壁が大きいのかもしれません。  これから人口減少が始まるなかでますます高齢化が加速していきます。特に地方では生活インフラのにない手として、これまでのように企業や自治体の力だけでは、公共交通機関を維持できなくなったり、福祉サービスを行き渡らせることができなくなったりと、限界を迎えようとしています。さらに、地域経済を活性化する観光客のニーズが高まっていても、対応できる宿泊施設や飲食店、そして働き手の不足が現実問題として起こっているのです。これからの日本では、都会における便利なツールとしてのシェアリングエコノミーから、地域の課題と利用者の地域での暮らしに合わせて持続可能な社会を構築していくようなシェアリングエコノミーの展開が求められるでしょう。  そのためには、地域においても新たに登場したサービスを利用するだけではなく、地域課題や住民のニーズを発信することも必要です。地域のニーズを受けることで新たなサービスが立ち上がることにつながります。そして、国や自治体にはそれらのサービスを安心して利用できるような法制度の整備へ向けた動きが求められるのです。 ※1 AI・ICT……AI(Artificial Intelligence)は人工知能、ICT(Information and Communication Technology)は情報や通信に関連する科学技術の総称 ※2 インフラ……インフラストラクチャの略。「基盤」や「下部構造」の意味を持つ言葉で、道路や水道などの公共・公益的施設・設備をさすほか、IT分野ではシステムを運用するための機材やソフトウェア、通信環境などの総体をさす ※3 インバウンド……外国人が旅行などで訪れること ※4 ランサーズ……ランサーズ株式会社が運営するクラウドソーシングサービスの一つ ※5 クラウドワークス……株式会社クラウドワークスが運営するクラウドソーシングサービスの一つ ※6 GBER……就労を希望する高齢者のモザイク型就労を支援するジョブマッチングシステム。詳細は本誌2019年12月号38頁〜参照 写真のキャプション 写真1 ココナラワークショップでの出品の様子 写真2 熊本シニアネットの講師陣によるGBER講習会 【P42-45】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第21回 休職期間中の過ごし方、妊娠をした際の報告義務 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 休職期間中の過ごし方に制約があるのか知りたい  休職中の従業員が、復職不可との診断をうけ、傷病手当金を受給しています。そのような状況にありながらも、転職活動をしていることが発覚しました。療養期間中には、直接の面談ではありませんが、1カ月に少なくとも1回は回復の状況を確認するために連絡を取り合っており、そのときにも回復していない旨の報告を受けていました。このような場合に懲戒処分を行うことは可能でしょうか。 A  休職期間中の従業員は、基本的には療養に専念する義務があるといえます。ただし、療養に専念するといえども、医師の治療方針などをふまえて、日常生活などの通常の範囲の活動まで許容されないわけではありません。  とはいえ、転職活動を行っていることから、復職意思があるのか否かについては、確認する必要があるでしょう。 1 休職制度について  休職制度は、労働基準法などの法律によって用意された制度ではありません。しかしながら、多くの企業においては、勤続中に罹患する疾病により入院による治療が必要となる場合に、ただちに解雇するのではなく、当該疾病に必要な治療のために、休職期間を定めて、休職を制度化しています。  制度の成り立ちからすると、想定されていた場面は、入院などによって治療に専念せざるを得ないような場面が想定されていたため、ご相談のように治療しながらもほかの活動ができるという場面は例外的であったといえそうです。  最近、このような休職利用中の活動が問題にされているのは、ストレスの負荷などによって、精神疾患に罹患したことが原因で休職することが出てきているという背景は無視できないでしょう。  精神疾患による休職の場合、入院治療によることは少なく、かかりつけ医に通院し、薬の処方を受けつつ、状態の安定を目ざしていくことになるでしょう。そのため、療養に専念しながらも、ほかの活動を行える範囲が広くなっており、ご相談のように転職活動に至るようなケースも出てきてしまいます。 2 休職制度の利用と復職について  休職制度は、従業員のみに都合のよい制度であるかというと、そうではありません。休職制度は、各企業が就業規則において、ある程度自由な制度設計が可能となっていますが、多くの企業が採用しているのは、休職期間を設定する代わりに、休職期間中に復職可能な程度まで治癒しきれなかった場合には、当然に退職または解雇措置をとるという制度設計です。この場合、休職制度は、解雇の猶予措置として機能することになります。  休職制度の解雇の猶予措置としての位置づけの重要性は最高裁判例にも表れており、日本ヒューレット・パッカード事件においては、「診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり、このような対応を採ることなく、被上告人の出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い」と判断しており、休職措置を取らずに実施した諭旨(ゆし)解雇の効力を否定しています(最高裁平成24年4月27日第二小法廷判決)。  なお、業務上の災害による休業に対しては、休業期間中および復職後30日間は解雇することは制限され(労働基準法19条)、例外的に平均賃金の1200日分の打切り補償が支給された場合にのみ解雇が可能となるなど、私傷病による休職とは取扱いが大きく異なるため、混同しないように注意が必要です。 3 療養専念義務について  休職制度自体が、就業規則で創設される制度であることから、休職期間中の従業員がどのような義務を負担するかについても、法律などで明確に定まっているわけではありません。  一般的な考え方としては、従業員が休職制度の適用を受ける状態になれば、休職期間の満了に至るまでに復職できなければ解雇されるおそれがある状況に置かれることになります。また、企業としては、療養するための期間として休職を認め、当該期間の就労不能を不利益に取り扱わないように配慮している状況でもあります。  これらの関係性から、従業員は、できるかぎり早く復職して、正常に労務提供ができるような状態に戻ることが求められており、職務に従事することに代えて、療養に専念する義務(以下、「療養専念義務」)があると考えられています。  一例として、マガジンハウス事件においては、うつ病や不安障害といった病気に罹患していた従業員について、「主治医が会社に関与する行動をとることは禁忌である」とされていたことを前提としつつ、会社に対する抗議活動およびブログの執筆をくり返し行っていた行為に対して、療養を支援する趣旨に反する行為であり服務規律違反を問われることはやむを得ないと評価されました(東京地裁平成20年3月10日判決)。一方で、同判決は、療養の専念との関連において、オートバイでの外出、ゲームセンターや場外馬券売り場に出かけていたこと、飲酒していたことなどについては、日常生活を送ることは病気の療養と矛盾するものではないとして、問題視することはできないとしました。  当該判決からいえることとしては、私傷病の種類に応じて、その治療方針と矛盾した行動をとることについては、療養専念義務違反として懲戒処分の対象とすることは可能と考えられますが、治療方針と必ずしも矛盾しない行動については、その責任を問うことはむずかしいと考えられます。特に、骨折などの外傷であり安静にすべきことが明瞭であるにもかかわらず外出しているようなケースであれば、比較的判断は容易ですが、精神的な疾患については、日常生活を送ることと治療が両立しうるため、その判断は医師の治療方針を確認しながら慎重に行うほかありません。 4 報告義務の設定について  医師の治療方針との矛盾がないかぎりは、転職活動を行うための外出などを行っていたとしても、ただちに、療養専念義務に違反するということはできないと考えられます。しかしながら、休職制度の利用を認めているのは、治療後に復職してもらうことを希望しているからであり、その間の従業員の補充などを控えるような対応を実施する場合もあります。  そこで、療養専念の状況を把握するために、定期的な報告を受けるようにしながら、当該報告の場面において、転職活動に関する情報が報告されないのであれば、面談の機会などを設定しつつ、転職活動が真実であるのか確認するとともに、復職可能か否かについてコミュニケーションをはかりつつ、場合によっては、復職の可否について会社指定医の診断を受けるようにうながすなどの方法で、休職制度の利用の継続について確認していくことをおすすめします。  従業員から療養の状況に関する報告が行われない場合には、当該報告義務の違反があることになりますので、その際には、懲戒処分を検討することもできると考えられます。 Q2 妊娠をした場合、会社へ妊娠したことの報告を義務づけることは可能か  これまで、産前休暇の直前まで報告がされない場合があったり、妊娠の兆候がみえても本人からの報告がなければ、聞くこと自体に臆することもあり、業務に支障が出ていました。  妊娠した際には、人員の補充や引継ぎなどの準備も必要となるため、報告のタイミングについて就業規則で規定しようと考えていますが、有効でしょうか。 A  就業規則で、報告時期について規定することは可能と考えられますが、妊娠の報告に関しては、発覚が遅れることや流産のリスクなどがあることなどから報告を遅らせることもあるため、懲戒などの不利益処分を課すことは困難でしょう。 1 妊娠中の女性労働者に関する規定について  妊娠中の女性労働者については、各種の法律が使用者に対する義務を設定するなど、さまざまな規制がなされています。主要な法律としては、「労働基準法」、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下、『均等法』)」があります。  労働基準法では、6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性に産前休業を求める権利を認めています(同法65条1項)。  次に、均等法は、事業主に対して、妊娠中の女性労働者が母子保健法の規定による保健指導または健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるように、勤務時間の変更、勤務の軽減など、必要な措置を講ずる義務を負担させています(同法12条および13条)。さらに、同法は、妊娠を理由とした不利益取扱いも禁止しています(同法9条3項)。  これらの規定は、使用者への義務づけまたは妊娠した女性労働者に権利を与えています。また、これらの制度は、女性労働者の請求に基づき、使用者が配慮を求められることになります。そのため、妊娠中であることを理由とした権利の行使について、妊娠した女性労働者の判断に委ねられています。  したがって、法律上の規定からは事業主への報告を義務づけているとはいえません。 2 報告義務の設定について  前述したような法律では、妊娠した女性労働者に対する報告義務を課すことについて直接禁止した規定は見あたりません。むしろ、均等法施行規則は、事業主に、妊娠中の女性労働者に対して、妊娠週数に応じた保健指導または健康診査を受けるために必要な時間を確保する義務を負担させていますが(同則2条の3)、これは使用者が、労働者の妊娠を把握していなければ実施することは困難です。  労働基準法は、妊娠中の女性労働者に関して、坑内業務の禁止(同法64条の2)、危険有害業務の禁止(同法64条の3)のほか、妊娠中の労働者が請求した場合の時間外労働、休日労働、深夜業の禁止(同法66条各項)、軽易作業への転換義務(同法65条3項)などを使用者の義務として定めています。そして、これらの義務について使用者が違反した場合には、罰則の定めまであります(同法118条1項、119条1項)。  労働基準法および均等法が、事業主に対して上記のような各種の義務を負担させていることからすれば、使用者が当該義務を適切に履行するためには、女性労働者に対して、妊娠した事実の報告を求めること自体は、労働基準法および均等法の趣旨に反するものではないと考えられます。  したがって、就業規則に妊娠の報告義務およびその時期を定めることが無効とはされないと考えられます。そのため、当該規定に基づき、使用者において、安定期(妊娠後5カ月から6カ月目まで)に入った時期に妊娠の報告をするよう義務づけることは可能と考えられます。  しかしながら、妊娠の報告を義務づけることができたとしても、報告を怠った場合に不利益処分を行えるか否かについては、均等法が定める不利益取扱いの禁止に違反しないか否かの検討が必要となります。 3 不利益処分の可否について  均等法9条3項の定める不利益取扱いの禁止に関して、最高裁の重要な判断として広島中央保健生活協同組合(A病院)事件(最高裁一小 平成26年10月23日判決)があります。  当該事案は、妊娠中に軽易業務への転換を求めたところ、近接した時期に降格処分を受けたため、その降格処分の無効を訴えたというものでしたが、最高裁は、「女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として同項(筆者注:均等法9条3項)の禁止する取扱いに当たる」と判断し、妊娠中業務への転換を「契機」とした処分は、原則無効であるという判断を下しました。  この判決を受けて、厚生労働省は通達を改正し、妊娠したことを「契機」とした不利益処分は、原則として、妊娠したことを「理由」とした不利益処分となると解される旨の解釈を示しています。そして、契機としたか否かの判断については、妊娠と不利益処分が時間的に近接しているか否か、具体的には1年以内であるか否か、人事考課における不利益な評価や降格については最初のタイミングまでの間に行われたものか否かで判断されます。  これらの不利益取扱いの例外として認められるためには、業務上の必要性から当該不利益取扱いを行わざるを得ない場合で、かつ、均等法の趣旨に反しないと認められるか、労働者の自由な意思による同意が得られるような場合にかぎられています。なお、労働者の「自由な意思」と認められるためには、一般的な労働者であれば同意するような客観的かつ合理的な理由が必要と考えられています。  したがって、妊娠中であることの報告を怠った場合であっても、妊娠と近接した時期に行う不利益処分は、その性質上、同意を得て行うようなものではないため、処分を行うことが避けがたいほどの業務上の必要性が認められるとも考えにくいため、同法に違反するものとして無効とされる可能性が高く、不利益処分は無効となるうえ、均等法に基づく指導、勧告などの対象となり得ますので注意が必要です。 【P46-47】 科学の視点で読み解く  高齢者が毎日イキイキと働くためには、「疲労回復」の視点を持つことも重要になります。この連載では、「疲労回復」をキーワードに、“身体と心の疲労回復”のために効果的な手法を科学的な根拠にもとづき紹介します。 身体と心の疲労回復 国立研究開発法人理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム プログラムディレクター 渡辺(わたなべ)恭良(やすよし) 第8回 疲労回復に効果的な環境の整備  第6回、7回では、疲労と「食」との関係性に注目して、疲労回復に効果があると考えられる食事と栄養を紹介しました。職業生活や日常生活において疲労を抱える人に、食事と同じく目を向けていただきたいのが、仕事や生活をする際の環境です。人に癒いやしをもたらす「環境(空間)」は、さまざまな面で疲労回復にもよい影響をもたらします。そこで今回は、疲労回復に効果があると考えられる職場や住宅の環境の整備について取り上げます。 ストレスを解消し、リラックスできる環境  各住宅メーカーでは、環境に配慮し、安全で安心な住まいづくりに取り組んでいます。最近では、耐震性や断熱性といった住宅の基本性能に力を入れるばかりではなく、ユニバーサルデザインの採用や睡眠環境の改善などにも力を入れている住宅メーカーが増えてきています。こうしたなかで、大手住宅メーカーの積水ハウス株式会社は、現代の日本のようなストレス社会では、「住まいでリラックスすることによって疲労回復することも重要である」という考えのもと、伝統的に日本人が住み続けてきた古民家や寺院を調査し、現代の住宅においても自然や四季を楽しめるように、大きな開口や軒先、縁側を設けたリビング空間を住まいづくりに取り入れています。同社では、これを「スローリビング」と呼んでいます。  同社と大阪市立大学は、共同でスローリビングに関する研究に取り組み、スローリビングと一般的なデザインのリビング(=自然を感じないリビング)について、疲労回復効果を比較検証しました。スローリビングのほうが一般的なリビングよりも、有意に疲労回復効果が高いことが明らかになりました(「疲労回復の住まい研究」より)。スローリビングは、日本の木造建築の特徴(木目調の壁など)を有しながら、自然と人造物の中間域(濡れ縁※など)を持つことでストレス解消や疲労回復に役立ち、さらにこのことによって副交感神経系の活力が上がることで、住む人の「五感を癒やす」と考えられています。  つまり、リビングの大きな窓を通して、室内から庭へと自然なつながりを感じることができる開放的な空間は、そうではない空間に比べて疲労回復効果が高く、パソコン作業で精神的に疲れた状態からの疲労回復過程において、自覚的なリラックス感や癒やしを感じる度合いが高くなるのです。これは、自律神経機能と認知機能が改善され、疲労感が緩和されるからです。  「スローリビング」はあくまでも一例ではありますが、こうした考え方で住環境を改善することによって、住む人の疲労回復につながることがわかるでしょう。職場における取組みとしては、事務室を改装する際に窓を大きく取ることで屋外の自然とつながりを持たせたり、休憩スペースなどを新たに設ける際に「スローリビング」の考え方を設計に取り入れることも有効でしょう。 癒やし効果がある照明の採用  室内の照明は、法令に基づいた十分な照度を確保することが第一ですが、そればかりではありません。光は音や温熱などとともに、快適性向上のための重要な要素であり、照明によって癒やしや快適性がもたらされることがあります。こうした点に着目し、大手家電メーカーのシャープ株式会社は、休息時によりよい休息が取れたり、デスクワークなどの作業時に負担感を軽減させたりすることを目的に、照明の色によって室内環境の快適性を向上させる、新たなLED照明の開発に取り組んできました。その結果として開発されたのが「さくら色LED照明」です。  桃色系統の色は、穏やかさや安らぎを引き出す色調であることが知られています。とくに「八重桜色」は夕焼けの色を想起させる色調であり、色彩心理学の観点からは、昼の交感神経系の優位な状態から、夜の副交感神経系優位な状態へ移行させる色ともいわれています。このような色調の心理面への影響から、これらの照明色による照明環境下での癒やしが期待できるのです。  同社が行った研究結果によると、「さくら色LED照明」は、主観的な評価において、疲労感の軽減や快適感の向上が確認されました。さらに、従来のLED照明に比べて、休息に適した副交感神経系優位な方向に自律神経活動を調整することが明らかになりました。このほかにも、さくら色LED照明の効果はありますが、照明の色を工夫することによって、癒やしや疲労回復につながる効果が期待できるといえそうです。 快適な睡眠環境の整備  加齢とともに疲れやすくなるといわれる高齢者にとって、良質な睡眠をとることは、疲労から回復して健康を維持するために欠かすことができません。このため、毎日の睡眠の量や質をコントロールするための製品(システム)も開発されています。  大阪市立大学医学部疲労医学講座が開発したのが「快眠健康ナビ」といわれるシステムです。これは、自然な入眠と熟睡、そして心地よい目覚めを提供するシステムで、自然界に暮らす動物のように、夜は自然に入眠し、朝は「起こされたのではなく、自然に目覚めた感覚で心地よく目覚める」システムです。  快眠健康ナビは、就寝時には照明が電球色から夕焼け照明に徐々に照度を落としながら変化し、内蔵した睡眠センサーが入眠したと判断すると自動的に消灯します。また、睡眠中に無呼吸状態になると、枕をゆっくり動かして呼吸をうながします。さらに、起床する時には、さくら色の照明が点(つ)いて、徐々に照度を上げるなどして、さわやかで心地よい目覚めを迎えることができます。 ◆◆◆  以上のように、疲労回復をよりうながすためには、環境の整備も重要です。大きな設備を、自宅や職場へ一朝一夕に導入することはむずかしいかもしれませんが、職場の休憩室の照明を、白色LEDからさくら色LED照明に交換するような取組みからはじめることはできるのではないでしょうか。住環境や職場環境の整備も、疲労回復に結びつくということを、ぜひ覚えておいてください。 わたなべ・やすよし 京都大学大学院医学研究科博士課程修了、大阪医科大学医学部・講師、大阪バイオサイエンス研究所・研究部長、大阪市立大学大学院医学研究科・教授、理化学研究所分子イメージング科学研究センター・センター長、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター・センター長、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター所長等を歴任し、現在は、理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム・プログラムディレクター、理化学研究所生命機能科学研究センター・チームリーダー、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター・顧問を兼任。日本疲労学会・理事長。 ※ 濡れ縁……雨戸の敷居の外側に設けられた雨ざらしの縁側 【P48-53】 労務資料 令和元年6月1日現在の高年齢者の雇用状況 厚生労働省 職業安定局 高齢者雇用対策課  高年齢者雇用安定法では、65歳までの安定した雇用を確保するため、企業に「定年の廃止」や「定年の引上げ」、「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置を講じるよう義務づけるとともに、毎年6月1日現在の高齢者の雇用状況を提出することを求めています。  厚生労働省より、2019(令和元)年6月1日現在の高齢者の雇用状況が公表されましたので、その結果をご紹介します。  集計対象は、全国の常時雇用する労働者が31人以上の企業16万1378社。このうち中小企業(31〜300人規模)は14万4571社(31〜50人規模5万5404社、51〜300人規模8万9167社)、大企業(301人以上規模)1万6807社でした。(編集部) 集計結果の主なポイント T 65歳までの高年齢者雇用確保措置のある企業の状況 @高年齢者雇用確保措置の実施状況  65歳までの雇用確保措置のある企業は計16万1117社、99・8%(変動なし) A65歳定年企業の状況  65歳定年企業は2万7713社(前年比2496社増加)、17・2%(同1・1ポイント増加)  ・中小企業では2万5938社(同2253社増加)、17・9%(同1・1ポイント増加)  ・大企業では1775社(同243社増加)、10・6%(1・2ポイント増加) U 66歳以上働ける企業の状況 @66歳以上働ける制度のある企業の状況  66歳以上働ける制度のある企業は4万9638社、割合は30・8%  ・中小企業では4万5392社、31・4%、  ・大企業では4246社、25・3% A70歳以上働ける制度のある企業の状況  70歳以上働ける制度のある企業は4万6658社(同6143社増加)、割合は28・9%(同3・1ポイント増加)  ・中小企業では4万2745社(同5513社増加)、29・6%(同3・1ポイント増加)  ・大企業では3913社(同630社増加)、23・3%(同3・2ポイント増加) B定年制廃止企業の状況  定年制の廃止企業は4297社(同184社増加)、割合は2・7%(同0・1ポイント増加)  ・中小企業では4209社(同177社増加)、2・9%(変動なし)  ・大企業では88社(同7社増加)、0・5%(変動なし) 1 高年齢者雇用確保措置の実施状況 (1)全体の状況  高年齢者雇用確保措置(以下「雇用確保措置」)の実施済企業は16万1117社、99・8%(変動なし)、51人以上規模の企業で10万5886社、99・9%(変動なし)となっている。  雇用確保措置が未実施である企業は261社、0・2%(変動なし)、51人以上規模企業で88社、0・1%(変動なし)となっている(図表1)。 (2)企業規模別の状況  雇用確保措置の実施済企業の割合を企業規模別に見ると、大企業では1万6803社、99・9%(変動なし)、中小企業では14万4314社、99・8%(同0・1ポイント増加)となっている。 (3)雇用確保措置の内訳  雇用確保措置の実施済企業のうち、 @「定年制の廃止」により雇用確保措置を講じている企業は4297社、2・7%(同0・1ポイント増加) A「定年の引上げ」により雇用確保措置を講じている企業は3万1319社、19・4%(同1・3ポイント増加)、 B「継続雇用制度の導入」により雇用確保措置を講じている企業は12万5501社、77・9%(同1・4ポイント減少) となっており、定年制度(@、A)により雇用確保措置を講じるよりも、継続雇用制度(B)により雇用確保措置を講じる企業の比率が高い(図表2)。 (4)継続雇用確保措置のある企業の状況  「継続雇用制度の導入」により雇用確保措置を講じている企業(12万5501社)のうち、 @希望者全員を対象とする65歳以上の継続雇用制度を導入している企業は9万1597社、73・0%(同2・0ポイント増加)、 A高年齢者雇用安定法一部改正法の経過措置に基づく継続雇用制度の対象者を限定する基準がある継続雇用制度を導入している企業(経過措置適用企業)は3万3904社、27・0%(同2・0ポイント減少)となっている(図表3)。 2 60歳定年到達者の動向 (1)60歳定年企業における定年到達者の動向  過去1年間(平成30年6月1日から令和元年5月31日)の60歳定年企業における定年到達者(36万2232人)のうち、継続雇用された者は30万6949人(84・7%)(うち子会社・関連会社等での継続雇用者は1万3953人)、継続雇用を希望しない定年退職者は5万4714人(15・1%)、継続雇用を希望したが継続雇用されなかった者は569人(0・2%)となっている(図表4)。 (2)経過措置に基づく継続雇用制度の対象者を限定する基準の適用状況  平成30年6月1日から令和元年5月31日までの間に、経過措置に基づく対象者を限定する基準がある企業において、基準を適用できる年齢(平成31年4月1日以降は63歳)に到達した者(8万301人)のうち、基準に該当し引き続き継続雇用された者は7万3855人(92・0%)、継続雇用の更新を希望しなかった者は5227人(6・5%)、継続雇用を希望したが基準に該当せずに継続雇用が終了した者は1219人(1・5%)となっている(図表5)。 3 65歳定年企業の状況  定年を65歳とする企業は2万7713社(同2496社増加)、報告したすべての企業に占める割合は17・2%(同1・1ポイント増加)となっている。  企業規模別に見ると、 @中小企業では2万5938社(同2253社増加)、17・9%(同1・1ポイント増加)、 A大企業では1775社(同243社増加)、10・6%(同1・2ポイント増加)となっている(図表6)。 4 66歳以上働ける制度のある企業の状況 (1)66歳以上働ける制度のある企業の状況  66歳以上働ける制度のある企業は、4万9638社(同6379社増加)、報告したすべての企業に占める割合は30・8%(同3・2ポイント増加)となっている。  企業規模別に見ると、 @中小企業では4万5392社(同5693社増加)、31・4%(同3・2ポイント増加)、 A大企業では4246社(同686社増加)、25・3%(同3・5ポイント増加)となっている(図表7)。 (2)70歳以上働ける制度のある企業の状況  70歳以上働ける制度のある企業は、4万6658社(同6143社増加)、報告したすべての企業に占める割合は28・9%(同3・1ポイント増加)となっている。  企業規模別に見ると、 @中小企業では4万2745社(同5513社増加)、29・6%(同3・1ポイント増加)、 A大企業では3913社(同630社増加)、23・3%(同3・2ポイント増加)となっている(図表8)。 5 希望者全員が66歳以上働ける企業の状況 (1)希望者全員が66歳以上働ける企業の状況  希望者全員が66歳以上まで働ける企業は1万8921社(同2261社増加)、報告した全ての企業に占める割合は11・7%(同1・1ポイント増加)となっている。  企業規模別に見ると、 @中小企業では1万8223社(同2143社増加)、12・6%(同1・2ポイント増加)、 A大企業では698社(同118社増加)、4・2%(0・7ポイント増加)  となっている(図表7)。 (2)定年制廃止および66歳以上定年企業の状況 @定年制を廃止している企業は、4297社(同184社増加)、報告したすべての企業に占める割合は2・7%(同0・1ポイント増加)となっている。  企業規模別に見ると、  ア 中小企業では4209社(同177社増加)、2・9%(変動なし)  イ 大企業では88社(同7社増加)、0・5%(変動なし)  となっている。 A定年を66〜69歳とする企業は、1442社(同210社増加)、報告したすべての企業に占める割合は0・9%(同0・1ポイント増加)となっている。  企業規模別に見ると、  ア 中小企業では1410社(同203社増加)、1・0%(同0・1ポイント増加)  イ 大企業では32社(同7社増加)、0・2%(変動なし)  となっている。 B定年を70歳以上とする企業は、2164社(同254社増加)、報告したすべての企業に占める割合は1・3%(同0・1ポイント増加)となっている。  企業規模別に見ると、  ア 中小企業では2103社(同240社増加)、1・5%(同0・2ポイント増加)  イ 大企業では61社(同14社増加)、0・4%(同0・1ポイント増加)  となっている(図表6)。 6 高年齢労働者の状況 (1)年齢階級別の常用労働者数について  31人以上規模企業における常用労働者数(約3165万人)のうち、60歳以上の常用労働者数は約387万人で12・2%を占めている。年齢階級別に見ると、60〜64歳が約215万人、65〜69歳が約114万人、70歳以上が約58万人となっている。 (2)雇用確保措置の義務化後の高年齢労働者の推移  51人以上規模企業における60歳以上の常用労働者数は約349万人であり、雇用確保措置の義務化前(平成17年)と比較すると、約244万人増加している。31人以上規模企業における60歳以上の常用労働者数は約387万人であり、平成21年と比較すると、約170万人増加している(図表9)。 図表1 雇用確保措置の実施状況 (社、%) @実施済み A未実施 合計(@+A) 31〜300人 144,314 (140,249) 257 (379) 144,571 (140,628) 99.8% (99.7%) 0.2% (0.3%) 100.0% (100.0%) 31〜50人 55,231 (53,836) 173 (252) 55,404 (54,088) 99.7% (99.5%) 0.3% (0.5%) 100.0% (100.0%) 51〜300人 89,083 (86,413) 84 (127) 89,167 (86,540) 99.9% (99.9%) 0.1% (0.1%) 100.0% (100.0%) 301人以上 16,803 (16,358) 4 (3) 16,807 (16,361) 99.9% (99.9%) 0.1% (0.1%) 100.0% (100.0%) 31人以上総計 161,117 (156,607) 261 (382) 161,378 (156,989) 99.8% (99.8%) 0.2% (0.2%) 100.0% (100.0%) 51人以上総計 105,886 (102,771) 88 (130) 105,974 (102,901) 99.9% (99.9%) 0.1% (0.1%) 100.0% (100.0%) ※( )内は、平成30年6月1日現在の数値。 ※本集計は原則小数点第2位以下を四捨五入しているが、本票の「301人以上」の@については、小数点第2位以下を切り捨て、Aについては、小数点第2位以下を切り上げとしている。 図表2 雇用確保措置の内訳 全企業 継続雇用制度の導入 77.9% 定年の引上げ 19.4% 定年制の廃止 2.7% 301人以上 継続雇用制度の導入 88.4% 定年の引上げ 11.1% 定年制の廃止 0.5% 31〜300人 継続雇用制度の導入 76.7% 定年の引上げ 20.4% 定年制の廃止 2.9% 図表3 継続雇用確保措置のある企業の状況 全企業 希望者全員65歳以上の継続雇用制度 73.0% 基準該当者65歳以上の継続雇用制度(経過措置適用企業) 27.0% 301人以上 希望者全員65歳以上の継続雇用制度 53.9% 基準該当者65歳以上の継続雇用制度(経過措置適用企業) 46.1% 31〜300人 希望者全員65歳以上の継続雇用制度 75.5% 基準該当者65歳以上の継続雇用制度(経過措置適用企業) 24.5% 図表4 60歳定年企業における定年到達者等の状況 企業数(社) 定年到達者総数(人) 継続雇用者数 うち子会社等・関連会社等での継続雇用者数 定年退職者数(継続雇用を希望しない者) 定年退職者数(継続雇用を希望したが継続雇用されなかった者) 継続雇用の終了による離職者数(人) 60歳定年企業で定年到達者がいる企業等 74,028 362,232 306,949 84.7% (84.4%) 13,953 3.9% (3.5%) 54,714 15.1% (15.4%) 569 0.2% (0.2%) 65,611 うち女性 36,243 116,407 101,217 87.0% (86.2%) 1,387 1.2% (1.2%) 15,034 12.9% (13.6%) 156 0.1% (0.1%) 12,065 ※( )内は、平成30年6月1日現在の数値。 ※過去1年間(平成30年6月1日から令和元年5月31日)に60歳定年企業において定年年齢に到達した者について集計している。 ※「継続雇用の終了による離職者数」は継続雇用制度における上限年齢に到達したことによる離職者の数。 図表5 経過措置企業に基づく継続雇用制度の対象者を限定する基準の適用状況 企業数(社) 基準を適用できる年齢に到達した者の総数(人) 継続雇用者数(基準に該当し引き続き継続雇用された者) 継続雇用終了者数(継続雇用の更新を希望しない者) 継続雇用終了者数(基準に該当しない者) 経過措置適用企業で基準適用年齢到達者(63歳)がいる企業 14,893 80,301 73,855 92.0% (91.9%) 5,227 6.5% (6.5%) 1,219 1.5% (1.6%) うち女性 6,299 20,049 18,595 92.7% (93.2%) 1,272 6.3% (5.6%) 182 0.9% (1.2%) ※( )内は、平成30年6月1日現在の数値。 ※平成30年6月1日から令和元年5月31日に経過措置適用企業(60歳、61歳、62歳、63歳定年企業)において基準適用年齢に到達した者について集計している。 図表6 定年制の廃止および65歳以上定年企業の状況 (社、%) @定年制の廃止 A65歳以上定年 65歳 66〜69歳 70歳以上 合計(@+A) 報告した全ての企業 31〜300人 4,209 (4,032) 25,938 (23,685) 1,410 (1,207) 2,103 (1,863) 33,660 (30,787) 144,571 (140,628) 2.9% (2.9%) 17.9% (16.8%) 1.0% (0.9%) 1.5% (1.3%) 23.3% (21.9%) 100.0% (100.0%) 31〜50人 2,367 (2,328) 11,401 (10,664) 711 (614) 1,103 (990) 15,582 (14,596) 55,404 (54,088) 4.3% (4.3%) 20.6% (19.7%) 1.3% (1.1%) 2.0% (1.8%) 28.1% (27.0%) 100.0% (100.0%) 51〜300人 1,842 (1,704) 14,537 (13,021) 699 (593) 1,000 (873) 18,078 (16,191) 89,167 (86,540) 2.1% (2.0%) 16.3% (15.0%) 0.8% (0.7%) 1.1% (1.0%) 20.3% (18.7%) 100.0% (100.0%) 301人以上 88 (81) 1,775 (1,532) 32 (25) 61 (47) 1,956 (1,685) 16,807 (16,361) 0.5% (0.5%) 10.6% (9.4%) 0.2% (0.2%) 0.4% (0.3%) 11.6% (10.3%) 100.0% (100.0%) 31人以上総計 4,297 (4,113) 27,713 (25,217) 1,442 (1,232) 2,164 (1,910) 35,616 (32,472) 161,378 (156,989) 2.7% (2.6%) 17.2% (16.1%) 0.9% (0.8%) 1.3% (1.2%) 22.1% (20.7%) 100.0% (100.0%) 51人以上総計 1,930 (1,785) 16,312 (14,553) 731 (618) 1,061 (920) 20,034 (17,876) 105,974 (102,901) 1.8% (1.7%) 15.4% (14.1%) 0.7% (0.6%) 1.0% (0.9%) 18.9% (17.4%) 100.0% (100.0%) ※( )内は、平成30年6月1日現在の数値。 ※「報告した全ての企業」は図表1の「合計」に対応している。 図表7 66歳以上働ける制度のある企業の状況(社、%) @定年制の廃止 A66歳以上定年 B希望者全員66歳以上 C基準該当者66歳以上 Dその他の制度で66歳以上まで雇用 合計@(@〜B) 合計A(@〜C) 合計B(@〜D) 報告した全ての企業 31〜300人 4,209 (4,032) 3,513 (3,070) 10,501 (8,978) 14,934 (13,867) 12,235 (9,752) 18,223 (16,080) 33,157 (29,947) 45,392 (39,699) 144,571 (140,628) 2.9% (2.9%) 2.4% (2.2%) 7.3% (6.4%) 10.3% (9.9%) 8.5% (6.9%) 12.6% (11.4%) 22.9% (21.3%) 31.4% (28.2%) 100.0% (100.0%) 31〜50人 2,367 (2,328) 1,814 (1,604) 4,715 (4,125) 5,537 (5,235) 4,217 (3,401) 8,896 (8,057) 14,433 (13,292) 18,650 (16,693) 55,404 (54,088) 4.3% (4.3%) 3.3% (3.0%) 8.5% (7.6%) 10.0% (9.7%) 7.6% (6.3%) 16.1% (14.9%) 26.1% (24.6%) 33.7% (30.9%) 100.0% (100.0%) 51〜300人 1,842 (1,704) 1,699 (1,466) 5,786 (4,853) 9,397 (8,632) 8,018 (6,351) 9,327 (8,023) 18,724 (16,655) 26,742 (23,006) 89,167 (86,540) 2.1% (2.0%) 1.9% (1.7%) 6.5% (5.6%) 10.5% (10.0%) 9.0% (7.3%) 10.5% (9.3%) 21.0% (19.2%) 30.0% (26.6%) 100.0% (100.0%) 301人以上 88 (81) 93 (72) 517 (427) 1,636 (1,463) 1,912 (1,517) 698 (580) 2,334 (2,043) 4,246 (3,560) 16,807 (16,361) 0.5% (0.5%) 0.6% (0.4%) 3.1% (2.6%) 9.7% (8.9%) 11.4% (9.3%) 4.2% (3.5%) 13.9% (12.5%) 25.3% (21.8%) 100.0% (100.0%) 31人以上総計 4,297 (4,113) 3,606 (3,142) 11,018 (9,405) 16,570 (15,330) 14,147 (11,269) 18,921 (16,660) 35,491 (31,990) 49,638 (43,259) 161,378 (156,989) 2.7% (2.6%) 2.2% (2.0%) 6.8% (6.0%) 10.3% (9.8%) 8.8% (7.2%) 11.7% (10.6%) 22.0% (20.4%) 30.8% (27.6%) 100.0% (100.0%) 51人以上総計 1,930 (1,785) 1,792 (1,538) 6,303 (5,280) 11,033 (10,095) 9,930 (7,868) 10,025 (8,603) 21,058 (18,698) 30,988 (26,566) 105,974 (102,901) 1.8% (1.7%) 1.7% (1.5%) 5.9% (5.1%) 10.4% (9.8%) 9.4% (7.6%) 9.5% (8.4%) 19.9% (18.2%) 29.2% (25.8%) 100.0% (100.0%) ※( )内は、平成30年6月1日現在の数値。 ※66歳以上定年制度と66歳以上の継続雇用制度の両方の制度を持つ企業は、「A66歳以上定年」のみに計上している。 ※「Dその他の制度で66歳以上まで雇用」とは、希望者全員や基準該当者を66歳以上まで継続雇用する制度は導入していないが、企業の実情に応じて何らかの仕組みで66歳以上まで働くことができる制度を導入している場合を指す。 ※「報告した全ての企業」は図表1の「合計」に対応している。 図表8 70歳以上働ける制度のある企業の状況 (社、%) @定年制の廃止 A70歳以上定年 B希望者全員70歳以上 C基準該当者70歳以上 Dその他の制度で70歳以上まで雇用 合計@(@〜B) 合計A(@〜C) 合計B(@〜D) 報告した全ての企業 31〜300人 4,209 (4,032) 2,103 (1,863) 9,980 (8,408) 14,443 (13,337) 12,010 (9,592) 16,292 (14,303) 30,735 (27,640) 42,745 (37,232) 144,571 (140,628) 2.9% (2.9%) 1.5% (1.3%) 6.9% (6.0%) 10.0% (9.5%) 8.3% (6.8%) 11.3% (10.2%) 21.3% (19.7%) 29.6% (26.5%) 100.0% (100.0%) 31〜50人 2,367 (2,328) 1,103 (990) 4,563 (3,911) 5,400 (5,090) 4,174 (3,358) 8,033 (7,229) 13,433 (12,319) 17,607 (15,677) 55,404 (54,088) 4.3% (4.3%) 2.0% (1.8%) 8.2% (7.2%) 9.7% (9.4%) 7.5% (6.2%) 14.5% (13.4%) 24.2% (22.8%) 31.8% (29.0%) 100.0% (100.0%) 51〜300人 1,842 (1,704) 1,000 (873) 5,417 (4,497) 9,043 (8,247) 7,836 (6,234) 8,259 (7,074) 17,302 (15,321) 25,138 (21,555) 89,167 (86,540) 2.1% (2.0%) 1.1% (1.0%) 6.1% (5.2%) 10.1% (9.5%) 8.8% (7.2%) 9.3% (8.2%) 19.4% (17.7%) 28.2% (24.9%) 100.0% (100.0%) 301人以上 88 (81) 61 (47) 460 (385) 1,487 (1,328) 1,817 (1,442) 609 (513) 2,096 (1,841) 3,913 (3,283) 16,807 (16,361) 0.5% (0.5%) 0.4% (0.3%) 2.7% (2.4%) 8.8% (8.1%) 10.8% (8.8%) 3.6% (3.1%) 12.5% (11.3%) 23.3% (20.1%) 100.0% (100.0%) 31人以上総計 4,297 (4,113) 2,164 (1,910) 10,440 (8,793) 15,930 (14,665) 13,827 (11,034) 16,901 (14,816) 32,831 (29,481) 46,658 (40,515) 161,378 (156,989) 2.7% (2.6%) 1.3% (1.2%) 6.5% (5.6%) 9.9% (9.3%) 8.6% (7.0%) 10.5% (9.4%) 20.3% (18.8%) 28.9% (25.8%) 100.0% (100.0%) 51人以上総計 1,930 (1,785) 1,061 (920) 5,877 (4,882) 10,530 (9,575) 9,653 (7,676) 8,868 (7,587) 19,398 (17,162) 29,051 (24,838) 105,974 (102,901) 1.8% (1.7%) 1.0% (0.9%) 5.5% (4.7%) 9.9% (9.3%) 9.1% (7.5%) 8.4% (7.4%) 18.3% (16.7%) 27.4% (24.1%) 100.0% (100.0%) ※( )内は、平成30年6月1日現在の数値。 ※70歳以上定年制度と70歳以上の継続雇用制度の両方の制度を持つ企業は、「A70歳以上定年」のみに計上している。 ※「Dその他の制度で70歳以上まで雇用」とは、希望者全員や基準該当者を70歳以上まで継続雇用する制度は導入していないが、企業の実情に応じて何らかの仕組みで70歳以上まで働くことができる制度を導入している場合を指す。 ※「報告した全ての企業」は図表1の「合計」に対応している。 図表9 60歳以上の常用労働者の推移 (万人) 平成22年 31人以上規模企業 242.8 51人以上規模企業 221.6 23年 31人以上規模企業 253.6 51人以上規模企業 230.8 24年 31人以上規模企業 264.2 51人以上規模企業 240.4 25年 31人以上規模企業 272.0 51人以上規模企業 246.5 26年 31人以上規模企業 287.2 51人以上規模企業 260.2 27年 31人以上規模企業 304.7 51人以上規模企業 276.2 28年 31人以上規模企業 324.5 51人以上規模企業 294.0 29年 31人以上規模企業 347.4 51人以上規模企業 314.9 30年 31人以上規模企業 362.6 51人以上規模企業 327.4 令和元年 31人以上規模企業 386.5 51人以上規模企業 348.9 【P54-55】 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテスト 〜生涯現役社会の実現に向けて〜 高年齢者がいきいきと働くことのできる職場づくりの事例を募集します 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構  当コンテストは、高年齢者が長い職業人生のなかでつちかってきた知識や経験を職場で有効に活かすため、企業などが行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行っています。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業などにおける雇用環境整備への具体的な取組みの普及・促進を図り、生涯現役社会の実現を目ざしていきます。  多数のご応募をお待ちしています。 T 取組内容 働くことを希望する高年齢者が、年齢にかかわりなく生涯現役でいきいきと働くことができるようにするため、各企業などが行った雇用管理や職場環境の改善に関する創意工夫の事例を募集します。なお、創意工夫の具体的な例示として、以下の取組内容を参考にしてください。 取組内容 内 容(例示) 高年齢者の活躍のための制度面の改善 @定年制の廃止、定年年齢の延長、65歳を超える継続雇用制度の導入 A賃金制度、人事評価制度の見直し B多様な勤務形態、短時間勤務制度の導入 C各制度の導入までのプロセス・運用面の工夫(制度改善の推進体制の整備、運用状況を踏まえた見直し) 等 高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組み @高齢従業員のモチベーション向上に向けた取組みや高齢従業員の役割等の明確化 A高齢従業員による技術・技能継承の仕組み B高齢従業員が活躍できるような支援の仕組み(IT化へのフォロー、危険業務等からの業務転換) C高齢従業員が活躍できる職場風土の改善、従業員の意識改革、職場コミュニケーションの推進 D新職場の創設・職務の開発 E中高齢従業員を対象とした教育訓練、キャリア形成支援の実施 等 高年齢者の雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業環境の改善(高齢者向け設備の改善、作業姿勢の改善、配置・配属の配慮) A従業員の高齢化に伴う健康管理・メンタルヘルス対策の強化 B従業員の高齢化に伴う安全衛生の取組み(体力づくり、安全衛生教育、事故防止対策) C福利厚生の充実(休憩室の設置、レクリエーション活動、生涯生活設計の相談体制) 等 U 応募方法 1.応募書類など イ.指定の応募様式に記入していただき、写真・図・イラストなど、改善等の内容を具体的に示す参考資料を添付してください。 ロ.応募様式は、各都道府県支部高齢・障害者業務課にて、紙媒体または電子媒体により配布します。また、当機構のホームページ(http://www.jeed.or.jp/elderly/activity/r2_koyo_boshu.html)からも入手できます。 ハ.応募書類などは返却いたしません。 2.応募締切日  令和2年3月31日(火)当日消印有効 3.応募先  各都道府県支部高齢・障害者業務課へ提出してください。 V 応募資格 1.原則として、企業からの応募とします。 2.応募時点において、次の労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 (1)平成29年4月1日〜令和元年9月30日の間に、労働基準関係法令違反の疑いで送検され、公表されていないこと。 (2)「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県局長等による指導の実施及び企業名の公表について」(平成29年1月20日付け基発0120第1号)に基づき公表されていないこと。 (3)平成31年4月以降、職業安定法、労働者派遣法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法に基づく勧告又は改善命令等の行政処分等を受けていないこと。 (4)令和元年度の障害者雇用状況報告書において、法定雇用率を達成していること。 (5)平成31年4月以降、労働保険料の未納がないこと。 3.希望者全員が65歳まで働ける制度を導入(※)し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる職場環境となる創意工夫がなされていることとします。 ※高年齢者雇用安定法の経過措置として継続雇用制度の対象者の基準を設けている場合は、希望者全員が65歳まで働ける制度には該当しないことから、当コンテストの趣旨に鑑み、対象外とさせていただきます。 4.応募時点前の各応募企業における事業年度において、平均した1月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 W 各賞 【厚生労働大臣表彰】 最優秀賞 1編 優秀賞  2編 特別賞  3編 【独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰】 優秀賞  若干編 特別賞  若干編 ※上記は予定であり、次の「X 審査」を経て入賞の有無・入賞編数等が決定されます。 X 審査 学識経験者などから構成される審査委員会を設置し、審査します。 Y 審査結果発表など 令和2年9月中旬をめどに、厚生労働省および当機構において各報道機関などへ発表するとともに、入賞企業等には、各表彰区分に応じ、厚生労働省または当機構より直接通知します。 また、入賞企業の取組み事例は、厚生労働省および当機構の啓発活動を通じて広く紹介させていただくほか、本誌およびホームページなどに掲載します。 Z 著作権など 提出された応募書類の内容にかかわる著作権および使用権は、厚生労働省および当機構に帰属することとします。 [ お問合せ先 ●独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 研究開発課  〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3丁目1番3号  TEL:043-297-9527  E-Mail:tkjyoke@jeed.or.jp ●独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 連絡先は65頁をご参照ください。 みなさまからのご応募をお待ちしています 過去の入賞企業事例を公開中!ぜひご覧ください!  当機構の「65歳超雇用推進事例サイト」では、「65歳超雇用推進事例集」の掲載事例、「コンテスト上位入賞企業の事例」を検索・閲覧できます。「jeed 65歳超 事例サイト」で検索いただくか、URL:https://www.elder.jeed.or.jp/をご指定ください。  このほか、「過去の入賞事例のパンフレット」をホームページに掲載しています(平成23年〜29年度分)。  「jeed 表彰事例 資料」で検索いただくか、URL:http://www.jeed.or.jp/elderly/data/pamphlet_company70/index.html をご指定ください。 jeed 65歳超 事例サイト 検索 【P56】 日本史にみる長寿食 FOOD 316 美容効果も期待できる納豆の糸 食文化史研究家● 永山久夫 納豆の糸は面白い  世界で人気の高い和食ですが、外国人の目には奇異に映るものもあります。そのなかの一つが、「ネバネバ」と糸を引く粘着力の強い食べもの。  そのチャンピオンは、何といっても納豆です。スーパーの食品売り場に山積みにされているのを見ても、日本人にとっていかに必要で不可欠な発酵食品であるかがよくわかります。  納豆党となると、朝からネバネバと糸を上手に引き出し、ご飯にかけてツルツルと堪能しながらニコニコしています。  ユーモラスな作風で有名な俳人の小林一茶(いっさ)(1763−1828)も納豆が大好きで、次のような面白い作品を残しています。  「納豆の 糸引張て 遊びけり」  たしかに、かき混ぜると、納豆の糸は面白いほど伸びて変化し、指先で遊びたくなります。  酒は百薬の長、納豆は百肴(ひゃくこう)の王  ネバネバの正体はムチンという粘性物質で、胃壁を保護する役目があるほか、食後の血糖値の上昇を防いだり、動脈硬化や肥満にならないように働く作用が期待されています。  注目のナットウキナーゼは、大豆が発酵する過程で生み出される納豆特有の酵素で、血液のサラサラ循環をうながす働きがあり、生活習慣病の予防に力を発揮するそうです。ただ、ナットウキナーゼは酵素ですから熱に弱く、熱々のご飯にかけて食べると、その効果は弱まってしまいます。ごはんは人肌くらいの温度がよいでしょう。  「納豆食うひと色白美人」  これは昔から東北地方でいわれてきたことわざで、納豆を食べ続けると女性のお肌が自然に美しくなるというもの。  納豆に含まれているイソフラボンは、女性ホルモンのエストロゲンと似た働きをすることから、老化を防ぐなど若返りの効果が強く、納豆を食べることで、いつのまにかお肌の色つやがよくなっているということではないでしょうか。  「酒は百薬の長、納豆は百肴の王」も、古くからいわれている名言。納豆にはアミノ酸化したタンパク質が多く、味がよいだけでなく悪酔い予防にも役立ちます。冬の酒席では、納豆を一品加えたいものです。 【P57】 BOOKS 高齢者雇用の質的充実を目ざす企業にとっても参考になる好著 日本の優れたサービス2 ―6つの壁を乗り越える変革力― 松井(まつい)拓己(たくみ) 著/ 生産性出版/ 1800円+税  本書は、日本国内でこれまでにない独創的なサービスや、人々に感動を呼ぶような優れたサービスなどを実現した企業を表彰する制度として、2015年度にスタートした「日本サービス大賞」(2年おきに開催)の受賞企業の取組みに着目。サービスの内容ばかりでなく、その実現に至るまでのストーリーに迫り、優れたサービスを実現することができたポイントや、課題を乗り越える変革の力を解説している。  たとえば、本誌でも取り上げたことがある、「株式会社JR東日本テクノハートTESSEI(てっせい)」は、JR東日本の新幹線車両の清掃を行っている。駅や車両を自らが演じるステージに見立て、最短7分間で最大17車両の清掃を行う高い技術力とチームワークを発揮し、快適な車内空間を提供している。同社は従業員のモチベーション向上とサービス価値の向上の好循環を実現したことが評価され、本賞の第2回で国土交通大臣賞を受賞した。本書は、優れたサービスはどのようにして生まれ、いかにして組織全体へと波及していったのかを明かしていく。同社のスタッフには60歳以上の高齢者が少なくない。高齢者雇用の質的充実に取り組みたい企業にも参考になるだろう。 人生を後押ししてくれる歴史との向き合い方を提示 なぜ一流ほど歴史を学ぶのか 童門(どうもん)冬二(ふゆじ) 著/ 青春出版社(青春文庫)/ 750円+税  著者は、本誌連載「江戸から東京へ」でもおなじみの童門冬二氏。東京都庁にて広報室長や企画調整局長、政策室長などを歴任し、1979年に退職。以降は執筆に専念し、歴史を題材にした数々の話題作を手がけてきた。90歳を超えた現在も、第一線で活躍を続けている。  本書では、上杉鷹山(ようざん)や武田信玄(しんげん)、新井白石(はくせき)などさまざまな人物の言動や自身の体験も交じえて、歴史との向き合い方を提示する。著者によれば、一流といわれるビジネスマンや経営者ほど「歴史」を「情報」としてとらえ、自分の生き方に役立てているという。読み進むうちに、歴史を多面的に眺めて自分の生き方とリンクさせ、利用することが、歴史を学ぶことの本当の価値なのかもしれないと気づかされる。  本書全体は6章からなり、章ごとに「歴史は『複眼』で見る〜人間関係の『本質』を学ぶ」、「歴史がつながる*ハ白さ〜人生で何を捨て、何を残すか」、「歴史が血肉となる瞬間〜歴史から学んだ最大のこと」などのテーマを掲げている。巻末には立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口(でぐち)治明(はるあき)氏との特別対談「歴史と私」も収録。歴史を通して人間関係の本質を追究してきた著者らしい好著である。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「本体価格」(消費税を含まない価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 2020.1 行政・関係団体 厚生労働省 「グッドキャリア企業アワード2019」受賞企業決定  厚生労働省はこのほど、「グッドキャリア企業アワード2019」の受賞企業10社を決定した。  「グッドキャリア企業アワード」は、従業員の自律的なキャリア形成支援について、ほかの模範となる取組みを行っている企業を表彰し、その理念や取組み内容などを広く発信することで、キャリア形成支援の重要性を普及・定着させることを目的としている。  今回は、54社から応募があり、審査の結果、「大賞」に5社、「イノベーション賞」に5社が選ばれた。受賞企業は以下の通り。 ◆大賞(厚生労働大臣表彰)  ・伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(東京都千代田区)  ・SCSK株式会社(東京都江東区)  ・日鉄工材株式会社(新潟県上越市)  ・日本生命保険相互会社(大阪府大阪市)  ・株式会社ミツイ(宮城県仙台市) ◆イノベーション賞(厚生労働省人材開発統括官表彰)  ・コニカミノルタウイズユー株式会社(東京都八王子市)  ・日本電産株式会社(京都府京都市)  ・服部農園有限会社(愛知県丹羽郡)  ・三井住友海上火災保険株式会社(東京都千代田区)  ・三菱ケミカル株式会社(東京都千代田区) 厚生労働省 「働き方改革関連法」を解説する動画の配信を開始  厚生労働省は、「働き方改革関連法」を解説する動画の第一弾として、「進めよう! 働き方改革Part1 意義」を、「働き方改革特設サイト」上で公開した。  この動画は、2019(平成31)年4月から順次施行されている「働き方改革関連法」について、事業主や労働者に内容を理解してもらうことや、働き方改革の機運をさらに高めることを目的として、働き方改革の必要性や意義をわかりやすく解説したもの。厚生労働大臣、日本経済団体連合会、日本労働組合総連合会、日本商工会議所、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会から事業主や労働者へ向けたメッセージも収録している。  今後は、「時間外労働の上限規制」や「同一労働同一賃金」などについて、解説動画を順次配信していくこととしている。  解説動画は、厚生労働省の特設サイト「働き方改革特設サイト」※にて視聴できる。この特設サイトは、主に中小企業・小規模事業者向けの内容となっており、今回配信した動画のほかに、働き方改革関連法の主要なポイントである「時間外労働の上限規制」、「年次有給休暇の時季指定」、「同一労働同一賃金」に関する法改正のポイントなどを解説しているコーナーもある。また、助成金の案内や、働き方改革の取組みを支援するツールや役立つ情報を提供する「関連資料」をダウンロードすることもできる。 ※「働き方改革特設サイト」  https://www.mhlw.go.jp/hatarakikata/ スポーツ庁 「体力・運動能力調査」の結果  スポーツ庁は、2018(平成30)年度の「体力・運動能力調査」の結果をまとめた。調査は、同年5月から10月に実施し、「6〜79歳」の男女6万4020人(回収率86・3%)から回答を得た。  今年度は、文部科学省が国民の体位の変化などをふまえた新体力テストを導入してから21回目の調査で、推移をみると、高齢者における握力、上体起こし、長座体前屈、開眼片足立ち、10m障害物歩行、6分間歩行と新体力テストの合計点は、ほとんどの項目と合計点で向上傾向が続き、新体力テストの合計点は「65〜69歳」の女性が過去最高を記録した。また、「70〜74歳」の女性は、握力、開眼片足立ち、6分間歩行で過去最高となっている。一方、「35〜39歳」の女性は、新体力テストの合計点の低下傾向が続いている。  ADL(日常生活活動テスト)では、「65〜79歳」で、テスト項目により実施が不可能な×と判定された高齢者はほとんどみられなかった。すべてのテスト項目が実施可能な〇の判定であった高齢者の割合は、男性では「65〜69歳」で97・8%、「70〜74歳」で95・6%、「75〜79歳」で91・2%であるのに対して、女性では「65〜69歳」で94・7%、「70〜74歳」で88・8%、さらに「75〜79歳」で82・0%と大幅な減少を示した。  また、平成元年度から30年度調査までの運動習慣の状況に関する推移をみると、高齢者は「週1日以上の運動・スポーツを実施」している者の割合がゆるやかに上昇し、「(1日も)しない」と回答した者の割合がゆるやかに減少している。 当機構から 「生涯現役社会の実現に向けた地域ワークショップ」を開催  当機構では、10月の「高年齢者雇用支援月間」に、各府県の支部が中心となって「地域ワークショップ」を開催した(一部は11月に開催)。地域ワークショップは、生涯現役社会の実現に向けて、企業が高齢者雇用への理解を深めることを目的とし、高齢者雇用に関する基調講演、高齢者を戦力化し活き活き働いてもらうための情報提供、高齢者雇用に先進的な企業の事例発表などで構成される。今号では、10月24日(木)に当機構千葉支部が主催した地域ワークショップ「高年齢者がいきいきと働くことができる職場づくりの事例発表会」の模様をレポートする。  同ワークショップでは、開会のあいさつに引き続き、人的資源管理論を専門とし、高齢社員の人事管理に精通した、田口和雄氏(高千穂大学経営学部教授)による基調講演が行われた。講演のテーマは「65歳超の高年齢者雇用を考える―定年延長推進企業の取り組み事例から」。田口教授は、まず高齢者雇用を取り巻く雇用環境の現状を整理し、少子高齢化がさらに進展することや労働力人口に占める高齢労働者の割合が高まる見込みであることを指摘した。そして、昭和から平成にかけての定年制の変遷に触れながら、「65歳超の高齢者雇用は、将来的には65歳定年制に会社独自の65歳超の高齢者雇用を加味した制度に移行していくと思われる」と述べた。さらに田口教授は「65歳に向けての定年延長には、処遇(賃金)とキャリア、働き方に課題がある」と言及。当機構が、企業で実際に行われている定年延長の取組みを収集した『65歳超雇用推進事例集2019』の内容を紹介した。最後に田口教授は、「65歳定年延長推進企業の60代前半層の人事管理は過渡期にあり、多様である。65歳定年制を整備するためには、65歳までの一貫した人事管理の構築がもとめられるのではないか」と指摘し、基調講演を締めくくった。  引き続き行われた「事例発表」では、千葉支部に所属する65歳超雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の新井將平氏がサンエス警備保障株式会社の取組みを、同じくプランナーの田村芳夫氏が株式会社K.U.Sロジスティクス・サポートの取組みを紹介した。両社とも70歳定年制の導入に加えて、その後の継続雇用の年齢に上限を設けないなど、高齢者を重要な戦力として位置づけている企業。さらに高齢者の健康・体力やワーク・ライフ・バランスに配慮した柔軟な勤務体制を取り入れることで高齢者雇用の質的な充実を図り、実績を挙げていることなどが紹介された。  休憩をはさんで行われた「パネルディスカッション」(写真)には、陸運業の関東マルエス株式会社代表取締役社長の福本路昭(みちあき)氏、タクシー事業の有限会社武藤自動車代表取締役の武藤(むとう)厚氏、生産用機械器具製造業の株式会社小出(こいで)ロール鐡工(てっこう)所業務部部長の中野秀樹氏、千葉労働局職業対策課で高齢者対策担当官を務める鈴木ひろ子氏、そしてプランナーの岩野邦久(くにひさ)氏と菅野(すがの)陽子氏が登壇した。司会進行は岩野氏が務め、定年制など制度面の現状や高齢労働者を戦力化するための工夫、社内コミュニケーションの改善など、テーマごとに各社の担当者に質問を投げかけ、各企業の担当者からは、高齢労働者が活き活きと働くことができる職場づくりのポイントなどについて、三社三様の取組みが披露された。また、鈴木氏からは高年齢者雇用状況調査結果などをもとに、千葉県内における高齢者雇用の動向などが、菅野プランナーからは、県内企業が高齢者雇用についてどのような方針で取組みを進めているかなどが報告され、岩野プランナーによる的確な進行のもと、活発な討議が交わされた。  会場では、基調講演の内容や高齢者雇用に実績を挙げている企業の担当者による報告に耳を傾け、熱心にメモを取る参加者の姿が目立ち、また会場内に設けられた「65歳超雇用推進助成金」の相談窓口に足を運ぶ参加者もいるなど、充実したプログラムによって構成された3時間にわたる地域ワークショップは盛況のうちに幕を閉じた。 【P60】 次号予告 2月号 特集 会社を牽引するベテランプレイヤー リーダーズトーク 有賀公哉さん(株式会社共同 代表取締役) 〈高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQRコードのリンク先がhttp://www.jeed.or.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには− 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み  @定期購読を希望される方   雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。URL http://www.fujisan.co.jp/m-elder  A1冊からのご購入を希望される方   Amazon.co.jpでご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢 春康……サトーホールディングス株式会社人財開発部 人事企画グループ人事企画担当部長 菊谷 寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本 節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 清家 武彦……一般社団法人日本経済団体連合会 労働政策本部 上席主幹 深尾 凱子……ジャーナリスト、元読売新聞編集委員 藤村 博之……法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 真下 陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア 京子……アテナHROD代表、学習院大学特別客員教授 編集後記 ●新年明けましておめでとうございます。昨年は本誌をご愛読いただき、ありがとうございました。読者のみなさまにご協力いただいた読者アンケートの結果などを参考に、今後もさらなる誌面の充実に努めてまいります。引き続き本年もご愛顧を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。 ●今月号の特集は「ベテラン社員は後進育成の主役!」。希望者全員を対象とした65歳までの雇用確保措置の義務化により、60歳以降の高齢人材の活躍の場が広がっていますが、豊富な経験と高い技能は各企業にとっての財産であり、そのスムーズな継承はたいへん重要となります。そこで本特集では、ベテラン社員が人材育成の主役をにない、経験を活かしたユニークな取組みを行っている企業事例について紹介しました。経験を持つ高齢人材と、これからの会社をになう若手がともに活躍する職場環境をどう実現していくかは、各企業にとっても重要な経営課題となりつつあります。 ●「新春特別企画」として、昨年10月3日(木)に開催された「高年齢者雇用開発フォーラム」より、職業人生の長期化の現状と今後の高齢者就業支援について、自助・共助・公助の視点からお話しいただいた法政大学名誉教授の諏訪康雄先生による記念講演をご紹介しました。また、同特別企画の二つ目として「高年齢者雇用開発コンテスト」で受賞した企業3社に、高齢化時代の人的資源管理に造詣が深い東京学芸大学教授の内田賢先生をコーディネーターに迎え、高齢社員活用の最前線についてお話しいただいた模様をお届けしました。高齢者雇用を推進する際の参考としてお読みいただければ幸いです。 ●令和2年度「高年齢者雇用開発コンテスト」の応募締切は3月31日です。高年齢者が活躍できる職場環境づくりに取り組んでいる、みなさまからのご応募をお待ちしております。 読者の声募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験などを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 月刊エルダー1月号 No.483 ●発行日−−令和2年1月1日(第42巻 第1号 通巻483号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 発行−−企画部長 片淵仁文 編集人−−企画部次長 中村雅子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2  TEL 043(213)6216(企画部情報公開広報課) ホームページURL http://www.jeed.or.jp  メールアドレス elder@jeed.or.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5  TEL 03(3915)6401  FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-731-2 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 【P61-63】 技を支える vol.308 人にも木にもやさしい楽しい庭を育む技と管理 造園工 佐藤(さとう)博(ひろし)さん(69歳) 風が吹いたらなびくようにやわらかく、手で三葉透(みっぱす)かしをします。手入れをしているかどうかで、台風や強風のときに違いが出ます 住む人が、リラックスできる楽しめる庭とのかかわり  「ほっとする庭は、いいですよ。この庭は、少しでも都会の喧噪(けんそう)から離れて、別の世界にいると感じられるようにつくりました」  ここは東京都大田区雪个谷で造園業を営む、佐藤博さんのお気に入りの自作の庭。  中央の石畳には、テーブルとイスが置かれ居心地がよい。まるで屋外のリビングのようだ。それを見守るようにモチノキやハナモモなどの木々が囲んでいる。  東京都優秀技能者(東京マイスター)などの表彰を受けた名工である佐藤さんは、1978(昭和53)年に父親である先代から仕事を引き継いだ。  人にも木にもやさしい庭をつくる佐藤さんだが、若いころは日本庭園が好きで、立派な松や、大きな石や池などがある庭を手がけ、多くの経験と実績を積んできた。  それが近年は、「四季の移ろいや花や実など、楽しさを感じられる庭がいい」と佐藤さんは笑う。 父親には一度もほめられたことがなかった  佐藤造園の先代である父親が、花や緑を大事にしているのを子どものころから見てきた佐藤さんは、20歳で本格的に造園の道に進む。  だが「技は見て覚えろ」と何も教えてくれない父親に対し、複雑な想いもあった。  「父親が他界するまでの8年間、一緒に仕事をして一度もほめられなかったんです。ほかの造園業の親方には、『あいつもだいぶ覚えてきた』といっていたようですが」こんな出来事もあった。  ある日、雨で庭の仕事が休みになり、佐藤さんが家で障子の格子を垣根に見立ててシュロ縄※を結ぶ練習をしていると、父親が来て、せっかく結んだ縄を次々にハサミで切ってしまった。佐藤さんとしてはおもしろくない。だが、切られたのは、結び方がゆるいものや結び目がきれいでないものばかり。無言の教えだった。  佐藤さんのそうした努力もあって、手仕事の一つひとつに、妥協を許さない姿勢と、自分なりの品質の基準ができていった。  「基準は自分なりのものですから、声高にいうことはありません。お客さまにはわからないレベルのこともあります。お客さまにいわれたことだけをマニュアル的に作業するのではなく、プロの目で見きれいにします」  「庭は、できたときに完成ではなく、管理を続けて理想に近づけていきます」  一戸建てだけでなく、最近はマンションの植栽を管理する仕事も多いという佐藤さん。美観だけでなく、安全面からも樹木の手入れは大事だと話す。  「古い葉っぱをつまんで取る、W三葉透かしWにより、あらかじめ落ちる葉を取っておくことで、掃除や管理が楽になるのです。台風などの強い風でも、風が枝の間を抜ければ、枝は折れません」  全国各地で、こうした伝統的な江戸の剪定技を伝えることも多い佐藤さん。行った先で、その土地の技を知ることも楽しみだという。 学び続け、知識を豊かにそれを継続できるのが匠  もっと先代に教わりたかったという佐藤さんは、息子の龍介さんを園芸を学べる高校に通わせた。いまでは職歴20年の植木職人だ。  佐藤さんも若い人に教える機会を大切にしており、東京都立園芸高校の技術指導講師として教えている。  「若い人たちと一緒にいると、物の考え方が違うから、参考になります。ガーデニングのコンクール作品などを見て一緒に話しても感じ方が違う。基本は同じなのでそこは崩しませんが、その感じ方をアレンジに入れると独創性が生まれます」  同じ基礎や土台があるからこそ、それぞれの個性が現れる。  各地域の特徴を知ったり、別世代とのコミュニケーションの機会が、よい刺激になるという。  頭と体の両方を動かして学び続け、さらに知識を豊かにしていく匠の生き方に定年はない。 佐藤造園 http://www.s-zoen.net/ TEL:03(3728)2881 (撮影・福田栄夫/取材・朝倉まつり) ※ シュロ縄……シュロやパームなどの植物繊維を原料とした縄。水に強く、腐りにくい 写真のキャプション 手指の感覚が大事という佐藤さん。「体が資本なので、野菜を多く摂るようにしている」、「朝は早起き。外でお酒を飲んで遅くなることはない」と話す 2年目の宮田さん(左)、佐藤博さんと龍介さん(中央)、職人歴20年の小西さん(右) それぞれに個性がある、自作の「マイ手ぼうき」剪定しつつの細かな掃除も大事な仕事 一般的な「四つ目垣」の結び目。シュロ縄を使いギュッと固く結ぶ 美しく無駄のない動きは長年の経験から。多様な結び方を使い分ける バードバス(鳥の水浴び場)のある庭。メジロ、スズメなどが寄る 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  素早さと正確さはトレードオフの関係にあります。速く反応しようとすれば不正確になり、正確さを優先すれば反応速度が遅くなります。まずは正確に、それから速度を上げていきましょう。くり返しトライしてください。 第32回 色読みゲーム 並んだ四角の色を、指示に従いながら声に出していってください。 その際、いい間違えた回数を数えてください。 目標 1分30秒 @左から、四角の色を声に出していってください。 A左から、ジグザグに四角の色を声に出していってください。 B左から、できるかぎり速く、四角の色を声に出していってください。 いい間違えた回数 回 安全運転のためにも、脳を鍛える  現在、日本は4人に1人が65歳以上のお年寄りという超高齢社会です。運転免許を保有している高齢者の割合も高く、75歳以上の3人に1人が免許保有者とのこと。毎日元気に運転している現役シニアドライバーの方も数多くいます。  しかし、高齢ドライバーによる悲惨な交通事故が後を絶たない昨今、「高齢ドライバー=危険」というイメージが定着してしまいました。たしかに認知機能の低下は交通事故に影響を与えていると考えられます。  一方で、事故を起こしたこともなく、運転にも自信があり、どうしても日常生活や仕事などに車の運転が必要な方もいます。そういう方には、認知機能の低下のリスクを下げるためにも、日ごろから食事や運動、脳トレなどで認知症リスクを抑え、同時に運転能力を鍛えることをおすすめします。  今回の脳トレでは、習慣的につい行ってしまう行動や操作を、実行する前に抑える能力を鍛えます。安全運転のためにも、脳を鍛えて認知症リスクを低減させましょう。 要チェック!! 目標時間の1分30秒以上かかった人、5回以上いい間違えた人は 要注意です。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2020年1月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒780-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価(本体458 円+税) 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテスト 〜生涯現役社会の実現に向けて〜 ご応募お待ちしています。 高年齢者がいきいきと働くことのできる職場づくりの事例を募集します 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 当コンテストは、高年齢者が長い職業人生のなかでつちかってきた知識や経験を職場で有効に活かすため、企業などが行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行います。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業などにおける雇用環境整備への具体的な取組みの普及・促進を図り、生涯現役社会の実現を目ざしていきます。多数のご応募をお待ちしています。 取組内容  働くことを希望する高年齢者が、年齢にかかわりなく生涯現役でいきいきと働くことができるようにするため、各企業などが行った雇用管理や職場環境の改善に関する創意工夫の事例を募集します。なお、創意工夫の具体的な例示として、以下の取組内容を参考にしてください。 1.高年齢者の活躍のための制度面の改善 2.高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 3.高年齢者の雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 主な応募資格 1.原則として、企業からの応募とします。 2.応募時点において、労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 3.希望者全員が65歳まで働ける制度を導入し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる職場環境となる創意工夫がなされていることとします。 4.応募時点前の各応募企業における事業年度において、平均した1カ月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 ※応募資格の詳細は、本誌54〜55頁をご覧ください。 各賞 【厚生労働大臣表彰】 最優秀賞 1編 優秀賞  2編 特別賞  3編 【独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰】  優秀賞  若干編  特別賞  若干編 ※上記は予定であり、各審査を経て入賞の有無・入賞編数などが決定されます。 詳しい募集内容、応募方法等につきましては、本誌54〜55頁をご覧ください。 応募締切日 令和2年3月31日(火) お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 ※連絡先は65 頁をご覧ください。 2020 1 令和2年1月1日発行(毎月1回1日発行) 第42巻第1号通巻483号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会