【表紙2】 産業別 高齢者雇用推進事業のご案内  高齢者雇用を進めるためのポイントは、業種や業態によって違いがあります。  そこで当機構では、産業別団体内に推進委員会を設置し、高齢者雇用に関する具体的な実態を把握するとともに、解決すべき課題などを検討して、高齢者雇用を推進するために必要な留意点や好事例を「ガイドライン」として取りまとめています。そしてこれまでに、86業種の高齢者雇用推進ガイドラインが完成しています。  2019年度には、以下の五つのガイドラインを作成しました。いずれも、当機構のホームページで全文を公開中です。 JEED 産別ガイドライン 検索 1 一般社団法人 日本工作機器工業会 工作機器製造業 高齢者の活躍に向けたガイドライン 〜次世代に伝えたい、もの創りにかける「心」と「技」〜 2 一般社団法人 日本電子デバイス産業協会 電子デバイス産業における高齢者雇用推進ガイドライン 〜シニア期の“使えるスキル”発見研修プログラム開発手順〜 3 一般社団法人 日本中小型造船工業会 中小型造船業 高齢者雇用推進ガイドライン 〜造船業界のさらなる発展のために〜 4 一般社団法人 日本添乗サービス協会 添乗サービス業 高齢者雇用推進ガイドライン 〜シニア添乗員の職域拡大を目指して〜 5 一般社団法人 日本ゴルフ場経営者協会 ゴルフ場業 高齢者活躍に向けたガイドライン 〜ヘルスケア産業としての健康な高齢者雇用を目指して〜 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.60 女性活躍は若い女性のみ? シニア活用は男性のみ? “マチュア世代”の女性を見逃していませんか? 株式会社Next Story 代表取締役 昭和女子大学現代ビジネス研究所 研究員 西村美奈子さん にしむら・みなこ 1983(昭和58)年、富士通株式会社に入社。グループ会社を含むさまざまな分野で活躍。2016(平成28)年より昭和女子大学現代ビジネス研究所の研究員を兼務し、翌年に富士通を早期退職し研究に専念。2018年、女性のセカンドキャリアを支援する株式会社Next Storyを設立。  1986(昭和61)年に「男女雇用機会均等法」が施行されてから約35年。そのころに就職した、いわゆる均等法世代≠ェ50代後半に差しかかり、今後高齢者雇用を推進するには、女性の立場から考えることが不可欠です。そこで今回は、定年後の女性のセカンドキャリア支援や研究に取り組む西村美奈子さんに、これからの高齢者雇用、そして女性のためのキャリア支援について、お話をうかがいました。 均等法施行後に就職した最初の女性たちが60歳定年を迎えようとしている ―男女雇用機会均等法(以下、「均等法」)が施行されて約35年。そのころに大学を卒業して就職した世代が、もうすぐ60歳の定年を迎えようとしています。この間、職場における女性の立場、役割は変わってきたでしょうか。 西村 私が富士通に入社したのは1983年で、均等法が制定される少し前でした。大手企業のソフトウェア開発の世界は人手不足で、女性も多く採用していましたが、一般的には、当時は職場での女性は男性の補助的な役割にとどまっており、女性を定年まで活用したり、ましてや管理職に登用しようと考えたりする企業はほとんどありませんでした。そうしたなかでも私は技術者として採用されたので、基本的には男性と同じ仕事を任せられていました。ただ、均等法ができる前の時代でしたから、女性保護の観点から、女性は残業が2時間までと制限されていました。  そんな時代と比べれば、いまは多くの企業が女性を戦力としてとらえており、管理職を任せようという企業も増えています。世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数などを見ると、日本の男女共同参画の現状はほかの国々からかなり後れをとっていますが、それでも女性の労働力率のM字カーブは解消に向かっていますし、保育園不足問題に象徴されるように、保育園を利用して働く女性も増えています。社会的にも、企業レベルでも、両立支援や女性活躍推進のための制度が整備されてきたこともあり、女性が働きやすい環境整備は進んできたと思います。 ―働く女性自身の変化はいかがでしょうか。 西村 私たちや、私たちの前の世代の女性たちが苦労して実現してきた環境を、あたり前のように享受(きょうじゅ)できるようになったことはよいことです。ただ、ごく一部ですが、「育児中だから優遇されて当然」というような、既き得とく権益(けんえき)の意識を持つ人が摩擦を生む状況もあり、気になっています。  女性は男性に比べて、多様性の幅が広いですね。例えば、男性と同じように働きたい人もいれば、かつての一般職のように補助的な仕事のままでいいという人もいます。マミートラック(出産を終えた女性が昇進できないキャリアコースに位置づけられること)に悩む人もいれば、昇進を望まない人もいる。企業に必要なのは、女性を一律に扱うのではなく、本人の希望に柔軟に対応する姿勢です。  私は、次男が1歳になったとき、海外出張を打診されました。会社が、「小さな子がいるから出張できないだろう」と決めつけるのではなく、私に選択を委ねてくれたことは、とてもありがたかったです。そのおかげで私が出張で不在の間は、家族や友人の協力を得て、支障なく子どもたちの世話を行える態勢を整えることができました。 ―西村さんは、60歳の定年を前に早期退職され、女性のセカンドキャリアを支援する会社を立ち上げられました。それが西村さんご自身のセカンドキャリアでもあるわけですが、いきさつを教えてください。 西村 それまで私は、ソフトウェア開発、海外顧客向けの研修インストラクター、海外を含めた展示会担当、お客さまのウェブサイトやeラーニングコンテンツの制作、社内の情報システム、マーケティングなど、さまざまな仕事をしてきました。とても楽しく充実した日々でしたが、40代後半あたりから、定年後について不安を感じ始めました。ずっと仕事を生活の中心においてきただけに、仕事のない日々を思うと恐怖に近い感情がありました。  何か見つかるかもしれないと、役職定年を迎えた55歳のとき、「Never too Late!」(遅すぎることはない)というマチュア世代の働く女性のコミュニティを立ち上げ、イベントなどを企画しました。「マチュア」とは「成熟した」という意味で、40代後半から60代をイメージしています。  たまたまご縁のあった坂東(ばんどう)眞理子(まりこ)先生(当時、昭和女子大学学長)に相談したら、同大学の現代ビジネス研究所(以下、「ビジ研」)へのお誘いを受け、会社に籍を置きながら、仕事以外の時間を使って、マチュア世代の働く女性のセカンドキャリアをテーマとした調査・研究を始めました。その結果、私と同じような不安を感じている女性が少なくないことがわかり、58歳になる直前に会社を早期退職し、ビジ研の研究に専念することにしました。そして、「研究した成果を社会に還元しなさい」という坂東先生のご助言を受け、2018年12月に株式会社Next Storyを設立し、働く女性のセカンドキャリアを支援する研修事業をスタートさせたのです。 定年後のキャリアについて相談したくても女性には情報源となる先輩が少ない ―定年前の女性たちはどのようなことに悩んでいるのでしょうか。 西村 以前は定年まで働き続ける女性がそもそも少なく、あるいはほんの一部の優秀な、ある意味恵まれた女性たちのみが定年まで働いていましたが、いまは定年退職が女性にとってもあたり前のことになりつつあります。  定年を前にした女性の悩みは、基本的に男性と同じで、「お金は足りるか」、「再就職できるか」、「私に何ができるか」などです。女性は男性より平均余命が長く、半分の人は90歳まで生きるといわれています。お金の心配は大きいですね。  女性の場合は、定年後のことを相談できる先輩が少なく、情報が得られにくいという問題もあります。男性は、長年の会社生活のなかで、先輩・後輩という縦のネットワークが築かれています。これから定年を迎えようとしている世代の女性には、それがありません。私の会社でやろうとしていることは、女性のネットワークづくりです。社内だけではなく、業界や職種が異なる同世代の女性たちと、研修などの機会を通じて交流を深めることで、セカンドキャリアについて、より広い視野で考えられるよう支援しています。 シニアを戦力ととらえキャリア教育とスキル教育を ―女性のセカンドキャリアを支援していくうえで、企業にはどのような制度や取組みを求めますか。 西村 これは対象が女性か男性かを問わずですが、自らのキャリアを考えるキャリア教育≠ニ、スキルのアップデートを目的としたスキル教育≠ヘ、車の両輪として絶対に必要です。2019(令和元)年のOECD(経済協力開発機構)の報告によると、「日本では、就労関係研修への高齢労働者の参加の機会が少なく、OECDの最下位に位置している」とあります。また、別の国際比較統計を見ると、高年齢になってからの給与の著しい低下は諸外国に例を見ないほどです。つまり、シニアの賃金の大幅低下と労働の質の低下は、新たなスキルを必要とせず教育も不要との認識につながり、それがモチベーション低下を生み、生産性が低下し、シニアは戦力外との位置づけから、給与も低くてよいという負のスパイラルが起きています。  厳しい経営環境のもとで、かぎられた教育予算は若者に回され、中高年者は後回しにされがちですが、これからは社内におけるシニアの比率が高くなるので、シニアを貴重な人的資源としてとらえ、キャリア教育とスキルのアップデートを目的としたスキル教育にもっと力を入れるべきです。  もちろん、戦力≠ニなるためには、シニア自身にも学び続ける姿勢が必要となります。 ―そのなかで特に、女性を対象とした取組みで求められることは何でしょうか。 西村 人的ネットワークの構築を支援することです。先ほども触れましたが、女性には縦のネットワークが少ない。また、企業内でまだまだ少数派の女性幹部社員には、横のネットワークも必要です。社内だけではネットワーク形成のための人数が十分ではないので、他社のマチュア世代の女性と交流しながら、キャリアを考える「場」を、積極的に提供してほしいですね。社内での上下関係や仕事上の利害関係などを気にすることなく、将来についてニュートラルに本音レベルで語ることができるのが、他社の人たちと交流する強みです。私たちも、そんな「場」の提供に貢献できると思います。 ―政府が「70歳までの就業機会の確保」の方針を打ち出していますが、女性の働き方という観点からご意見を聞かせてください。 西村 継続雇用と並んで、シニアの起業や転職、つまり流動化を後押しする方針は大歓迎です。これまでの雇用制度にあてはめるのではなく、シニアが柔軟に働ける「働き方改革」が必要です。これまでは「女性活躍」というと若い女性、「シニア活用」というと男性をイメージしていろいろな手が打たれてきましたが、そこには「マチュア世代の女性」が欠落しているように思えてなりません。この人たちが一定のボリュームを持って存在していることを視野に入れ、試行錯誤しながら、成功事例の共有が進むことを期待しています。 (聞き手・文/労働ジャーナリスト鍋田周一 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 2020 April ●表紙のオブジェ イラストレーター 柳田ワタル(やなぎだ・わたる) 1947年 大阪府堺市生まれ。1970年 多摩美術大学卒業。アニメーション制作会社勤務ののち、1974年よりフリーのイラストレーターとなる。1977年よりオブジェ、立体クラフトなどの制作を開始。90年代からは写真撮影も始める。 特集 6 中高年期の女性社員の仕事意識と企業の支援 7 総論 女性社員の勤続意識とエルダーキャリア 〜「中高年社員のキャリア設計と高齢期の展望に関するWEB調査」から〜 キャリアコンサルタント 産業カウンセラー 金崎幸子 13 座談会 女性の人事担当者が考える 女性が輝き続けるエルダーキャリア ―先進2社に見る 中高年期の女性活躍支援の到達点― 19 企業事例@ 女性社員の自律的な成長意欲を引き出しキャリア形成を後押しする手厚いサポート 損害保険ジャパン株式会社 22 企業事例A 女性社員があたり前に活躍できる環境を整備 近年は異動による経験の付与を強化 株式会社ポーラ 1 リーダーズトーク No.60 株式会社Next Story 代表取締役 昭和女子大学現代ビジネス研究所 研究員 西村美奈子さん 女性活躍は若い女性のみ? シニア活用は男性のみ? “マチュア世代”の女性を見逃していませんか? 25 日本史にみる長寿食 vol.319 ひじきは古代からの長寿食 永山久夫 26 マンガで見る高齢者雇用 短期連載 《第1回》社長が「希望者全員、70歳までの雇用を目ざす!」と突然いい出した! 32 江戸から東京へ 第90回 甥に塾を譲る 久保五郎左衛門 作家 童門冬二 34 高齢者に聞く生涯現役で働くとは 第72回 株式会社小出ロール鐵工所 製造部生産管理担当部長 今野信さん(68歳) 36 高齢者の職場探訪 北から、南から 第95回 北海道 央幸設備工業株式会社 40 知っておきたい労働法Q&A《第24回》 ハラスメント関連指針の改正、変形労働時間制 家永勲 44 科学の視点で読み解く 身体と心の疲労回復[最終回] 渡辺恭良 46 発刊のご案内 『45歳からのキャリア研修 ―まよったら、まずやってみよう』 48 労務資料 第14回中高年者縦断調査 (中高年者の生活に関する継続調査)の概況 52 TOPIC 新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け) 厚生労働省ホームページより一部抜粋 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.311 着る人を美しく見せるシルエットを追求 婦人・子ども服注文仕立職 小嶌美恵子さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第35回]内田クレペリン精神検査 篠原菊紀 ※檜山敦氏の連載「AI・ICTで働き方が変わる」は休載します 【P6】 特集 中高年期の女性社員の仕事意識と企業の支援  人生100年時代を迎え、働きたいと希望する女性がモチベーションを失うことなく、経験やキャリアを活かしながらイキイキと働き続けられるための就業環境を整備することが、今後の課題となっています。  本特集では、「中高年期の女性のキャリア」に焦点を当て、当機構が実施した調査結果をもとに、働く女性の勤続意識について解説するとともに、女性の人事担当者を迎え、今後の中高年期の女性社員に対するキャリア支援のあり方について、お話をうかがいました。 【P7-12】 総論 女性社員の勤続意識とエルダーキャリア 〜「中高年社員のキャリア設計と高齢期の展望に関するWEB調査」から〜 キャリアコンサルタント 産業カウンセラー 金崎(かなざき)幸子(ゆきこ) 中高年期の女性の働く意識や職業生活設計について調査  厚生労働省の「高年齢者の雇用状況」によると、2018(平成30)年6月1日〜2019(令和元)年5月31日の1年間に、従業員31人以上の60歳定年企業で定年に到達した女性社員は約11万6000人。人数的には男性の半数弱ですが、継続雇用比率は男性を若干上回ります。これまで、定年前後の高齢者雇用については、多くの場合、男性社員をイメージして論じられてきましたが、今後、いわゆる均等法世代が定年年齢に達することもあり、女性社員が高齢期にも長く活き活きと働ける環境づくりが企業にとって重要課題となりつつあります。  このような問題意識のもとに、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、これまであまりデータの蓄積がなかった中高年期の女性社員の、高齢期に向けた意識と職業生活設計に焦点を当てたWEB調査を実施しました※1。本稿では、このうち女性正社員のデータを中心に、企業への定着意識とその背景について紹介していきます。  なお、本調査結果の概要については『JEED資料シリーズ3 中高年女性のキャリア設計と高齢期の展望』に取りまとめていますので、詳しくはそちらをご参照ください※2。 中高年期の定着意識は年齢により変化するか  まず、中高年期に「現勤務先で定年まで働きたい」と考えている社員はどれくらいの割合なのかということを見てみましょう。本調査では、定年制のある企業における定年までの勤続意向は、40〜50代全体として女性では54・8%、男性では58・6%でした。年齢階級別に見ると、女性では40代で勤続意向が5割を切り、男性との差がありますが、50〜54歳で約6割、55〜59歳で約7割となり、同世代の男性との差がなくなります(図表1)。女性の場合、50歳前後に一つの壁があり、そこを乗り越えると定年までの勤続意向が高まることがうかがえます。  さらに、定年まで勤務する意向の人に、定年後も現在の勤務先で働きたいかどうかを聞いたところ、その割合は女性56・2%、男性55・2%と、冒頭で引用した「高年齢者の雇用状況」と同様にわずかに女性の方が高くなっていますが、ほとんど男女差はありません。  以下では、この「定年まで現勤務先で働きたいか」および「定年後も現勤務先で働き続けたいか」という二つの質問への回答により女性社員を3グループに分け、職場の状況や職業生活への満足度と定着意識との関係を見ていきます。  三つのグループは、@現在勤務している会社に定年まで勤務するつもりであり、さらに定年後も現勤務先で働き続けたいと考えている「定着コア層」(1034人)、A現在勤務している会社に定年まで勤務するつもりであるが、定年後も現勤務先で働き続けたいとは考えていない「現役定着層」(806人)、B現在勤務している会社に定年まで勤務するつもりはない、または、定年まで勤務するかどうかわからない、決めていないという「流動層」(1520人)です。勤務先企業への定着意識の強さから見ると、@>A>Bということになります。  企業への定着意識と、勤務先の状況や自分の職業生活などに対する認識との間にはどのような傾向が見られるでしょうか。ベテラン人材の定着・安定確保に向けた課題を探るという観点からも、定着意識の背景を考えていきたいと思います。 定着意識と職業生活満足度とのかかわり  調査では、「現在の自分の仕事や働き方」(個人の状況)と、「勤務先の人事制度や働きやすさ」(職場の状況)という二つの方向から、満足度・評価度をたずねました。これらの設問への回答から、仕事や職場に満足して働けているかということと定着意識との間には、どのような関係があるのかを見ていきます。 (1)個人の仕事や働き方への満足度との関係  現在の自分の仕事や働き方に対する満足度は、「仕事内容」、「賃金水準」など9項目と「総合評価」について、「満足」から「不満」までの5段階でたずねています。  図表2は「満足」と「おおむね満足」と回答した人の割合を定着意識別に示したものです。仕事や働き方への総合評価では、定着コア層の7割近くが肯定的評価であるのに対して、現役定着層では5割弱、流動層では3割弱となっており、グループ間に大きな差があることがわかります。項目ごとに見ても、定着コア層では、「仕事内容」や「労働時間、休暇」をはじめとする5項目と総合評価で肯定的評価の割合が5割を超えていますが、流動層では5割を超える項目はありません。このように、自分の現在の仕事や労働条件などに満足して働けているかどうかということと勤務先への定着意識とは密接に関連しています。  また、項目間で比較してみると、「仕事内容」や「労働時間」に対する満足度は相対的に高く、「研修、能力開発の機会」や「自分に対する人事評価」などに対する満足度は各グループとも低い傾向が見られます。特に、「研修、能力開発の機会」に関しては、定着コア層においても肯定的評価の割合が4割を切り、ほかの項目に比べて満足度が低いことがわかります。 (2)勤務先の人事制度や働きやすさへの評価との関係  次に、勤務先の人事制度や働きやすさへの評価と定着意識との関係を見てみましょう。これについては、「女性の登用」、「高齢者の活用」など8項目と「総合評価」について、「よい」から「よくない」までの5段階でたずねました。  図表3は「よい」と「おおむねよい」と回答した割合を定着意識別に示したものです。先に見た個人の状況への満足度ほどではないものの、すべての項目についてグループ間で差が見られます。特に、「仕事と生活の両立への配慮」、「雇用の安定性」、「コンプライアンスへの対応」など、働きやすさや安心感につながる項目において差が大きい傾向があります。  また、項目間で比較すると、「キャリア設計の相談体制」や「人材育成方針」といったキャリア支援策に対する評価がいずれのグループでも低くなっています。前述のように、個人の状況への満足度において、研修や能力開発の機会についてはほかの項目と比較して低くなっていましたが、職場の状況への評価においても、人材育成やキャリア支援に関連する人事施策について全般的に低水準にとどまっており、多くの中高年期の女性社員にとって前向きな実感が得られにくい状況にあることがうかがえます。女性活躍推進法の施行なども背景に、女性の戦力化に向けた企業の取組みが進んでいますが、多くの場合、中心となっているのは若手の育成や育児などとの両立支援策です。これらの「定番」である施策に加えて、その先の高齢期に向けた能力開発のあり方についても、働く側のニーズを認識する必要がありそうです。 先輩社員のあり方とのかかわり  次に、制度や労働条件とは別の面から、職場の人的環境とのかかわりについて見ていきましょう。ここでは、先輩女性社員の高齢期の状況と、高齢社員の働きぶりに対する認識という二つの面に注目します。 (1)先輩女性社員の道筋はトレースされるのか  先輩女性社員の働き方が後輩のロールモデルとなり、高齢期の身の振り方についても先例が暗黙の基準となっている職場は少なくありません。そこで、勤務先企業で定年後も働き続ける女性正社員がいるかどうかをたずねたところ、定着意識別グループ間で顕著な差がありました。  図表4に見るように、定着コア層では「女性の正社員はほとんどが定年後も働いている」、現役定着層では「女性の正社員は定年で辞める人が多い」、流動層では「これまで定年に到達する年齢層の女性社員がいなかった」が最も多い回答となり、それぞれのグループの定着意識が先輩の状況をトレースするかのような結果となりました。先輩の動向や実績、そしてその背景にある企業風土が、現役の意識に影響を及ぼすことが感じられます。将来に向けて現役社員の定着意識を高めていくためには、まずは現に高齢期に到達する女性社員の定着が大切であるということがいえそうです。 (2)現役が見る高齢社員の働きぶり  次に、先輩高齢社員(男女を問わず)の働きぶりについての認識を見てみましょう。現役社員が高齢期も勤務先で働き続けたいという気持ちと周りの高齢社員に対する評価とは関連があるのでしょうか。  職場の高齢社員に対し、「仕事ができる」や「経験や技術を伝えてくれる」など10項目について、くそう思う」、「時々そう思う」、「あまりそう思わない」、「そう思わない」、「わからない、高齢社員がいない」の5択で評価してもらい、「よくそう思う」、「時々そう思う」という肯定的な評価の割合を定着意識別に示したのが図表5です。定着コア層では、10項目のうち5項目で肯定的評価の割合が5割を超えていますが、現役定着層では5割を超えるのは「出勤状況が安定している」だけです。流動層では肯定的評価が5割を超える項目はありません。定着コア層と現役定着層は、定年まで働くという意識では共通していますので、さらに定年後も継続勤務するかどうかという意思決定に職場の先輩高齢社員の働きぶりが少なからず影響している可能性がうかがえます。  また、項目別に見ると、「仕事へのモチベーションが高い」や「若者が望まない仕事をしてくれる」については定着コア層でも肯定的に評価する人が3人に1人程度です。高齢社員の仕事への意欲に対する現役社員からの評価は、なかなか厳しいものがあることが感じられます。 モチベーションアップにつながる会社の対応  最後に、高齢期の働き方に対する考えについて見てみましょう。高齢期に働く場合にモチベーションアップにつながると考える会社の対応をたずねたところ、図表6に示したように、定着意識別グループによって、「ききめがある」会社の施策は若干異なる傾向があります。  「定年年齢の引き上げ」と「何らかの形で働ける年齢の上限引き上げ」は定着コア層の選択率がほかの2グループに比べて大幅に高くなっており、働ける年齢の引上げに関する制度改善は、もともと定年後も勤務継続しようと考えている人にとって、さらにモチベーションアップにつながる施策と考えられていることがうかがえます。  一方、定年までは勤務するが継続雇用を希望していない現役定着層は、「勤務時間や働き方の選択肢を増やす」、「健康管理への支援」、「介護と仕事の両立への支援」などの項目の選択率が3グループのなかで最も高く、個人の事情と折り合う働きやすさへの支援を重視する傾向がうかがえます。  このように、定年後の雇用に関して人事施策面で対応を図る場合、定着コア層のモチベーションをさらに高めるためには「働ける年齢の引き上げ」が、定年以降の継続雇用を選択する人材を増やすためには現役定着層が重視する「個人の働きやすさへの配慮」が、それぞれ効果的な施策となるのではないかと考えられます。  図表は割愛しますが、高齢期に働く場合に重視したい条件や働き方についても、定着意識別グループによって異なる傾向が見られました。定着コア層では、「これまでに経験のある仕事内容であること」や「慣れた職場環境であること」などを重視し、働き方としてもフルタイム希望者の割合が高いなど、現役時代との継続性を望む人が多いのに対し、現役定着層では「休みが取りやすいこと」、「都合のよい時間や曜日に働けること」など労働時間の柔軟性を重視する傾向があります。働き方に多様な選択肢を示すことができれば、より多くのベテラン人材が企業に定着し高齢期にも力を発揮する可能性が高まりそうです。 女性のエルダーキャリアの形成が重要な課題に 本調査のデータからは、職業生活への満足度や勤務先への評価が高齢期も勤続したいという意欲に強く結びついていることがうかがえました。また、中高年期の女性正社員は、企業の人事施策のうち、キャリア相談の体制や人材育成方針、能力開発機会などに対する満足度が低いことも注目されます。定年や継続雇用年齢の引上げにより働く人にとってのゴールが先に進むなか、中高年期におけるキャリア支援の重要性への認識を高める必要がありそうです。  さらに、職場の先輩女性の動向や高齢社員のあり方も現役社員の定着意識への影響が強いことがうかがえます。次に続く世代の高齢期に向けた意識を左右しかねないという観点からも、現在の高齢社員が活き活きと働ける人事管理や環境整備、さらに高齢社員から後輩へ向けたさまざまなメッセージの発信は重要だといえるでしょう。  定着意識には生活設計や価値観など個人側のさまざまな要因も関連しており、人事管理や職場環境など企業側の条件だけで変化するものではありません。また、職業人生が延びるなか、一つの企業に長く定着することのほかに、能力を発揮できる機会が充実することも望まれます。しかし今後、正社員としてのキャリアを積んで定年を迎える女性社員が増加し、継続雇用者におけるウエイトも高まっていくことが予想され、多くの企業にとって女性のエルダーキャリアの形成が重要な課題となると考えられます。女性活躍推進に向けた人事施策においても、若手の育成や中堅層の両立支援にとどまらず、高齢期までをひと続きのものとした取組みが、これからますます必要とされるのではないでしょうか。 ※1 「中高年社員のキャリア設計と高齢期の展望に関するWEB調査」:民間企業の40〜59歳の社員を対象に2018年1月に実施。正社員調査の回答数は女性4,121人、男性4,181人 ※2 JEED 資料シリーズ3 検索 図表1 定年までの就業継続意向(年齢階級別) 女性 40〜44歳 n=811 現在勤務している会社に定年まで勤務するつもり 45.1 現在勤務している会社に定年まで勤務するつもりはない 12.8 わからない、決めていない 42.0 45〜49歳 n=967 現在勤務している会社に定年まで勤務するつもり 48.9 現在勤務している会社に定年まで勤務するつもりはない 9.4 わからない、決めていない 41.7 50〜54歳 n=987 現在勤務している会社に定年まで勤務するつもり 59.1 現在勤務している会社に定年まで勤務するつもりはない 9.4 わからない、決めていない 31.5 55〜59歳 n=595 現在勤務している会社に定年まで勤務するつもり 70.3 現在勤務している会社に定年まで勤務するつもりはない 7.4 わからない、決めていない 22.4 男性 40〜44歳 n=931 現在勤務している会社に定年まで勤務するつもり 51.0 現在勤務している会社に定年まで勤務するつもりはない 12.6 わからない、決めていない 36.4 45〜49歳 n=935 現在勤務している会社に定年まで勤務するつもり 52.3 現在勤務している会社に定年まで勤務するつもりはない 10.8 わからない、決めていない 36.9 50〜54歳 n=972 現在勤務している会社に定年まで勤務するつもり 59.6 現在勤務している会社に定年まで勤務するつもりはない 11.1 わからない、決めていない 29.3 55〜59歳 n=988 現在勤務している会社に定年まで勤務するつもり 70.9 現在勤務している会社に定年まで勤務するつもりはない 8.2 わからない、決めていない 21.0 図表2 自分の現在の仕事や働き方に対する肯定的評価の割合 n=定着コア層1034、現役定着層806、流動層1520 0 10 20 30 40 50 60 70 80% 満足 おおむね満足 仕事内容 定着コア層 現役定着層 流動層 賃金水準 定着コア層 現役定着層 流動層 労働時間、休暇 定着コア層 現役定着層 流動層 研修、能力開発の機会 定着コア層 現役定着層 流動層 自分に対する人事評価 定着コア層 現役定着層 流動層 職場で期待されている役割、ポスト 定着コア層 現役定着層 流動層 福利厚生 定着コア層 現役定着層 流動層 職場の人間関係 定着コア層 現役定着層 流動層 仕事のやりがい 定着コア層 現役定着層 流動層 現在の仕事を総合してみて 定着コア層 現役定着層 流動層 図表3 勤務先の人事制度や働きやすさに対する肯定的評価の割合 n=定着コア層1034、現役定着層806、流動層1520 0 10 20 30 40 50 60% よい おおむねよい 女性の登用 定着コア層 現役定着層 流動層 高齢者の活用 定着コア層 現役定着層 流動層 能力評価、人事考課 定着コア層 現役定着層 流動層 人材育成方針 定着コア層 現役定着層 流動層 雇用の安定性 定着コア層 現役定着層 流動層 仕事と生活の両立への配慮 定着コア層 現役定着層 流動層 キャリア設計の相談体制 定着コア層 現役定着層 流動層 コンプライアンスへの対応 定着コア層 現役定着層 流動層 働きやすさを総合してみて 定着コア層 現役定着層 流動層 図表4 勤務先企業の女性の定年到達状況 ※定年65歳までの企業勤務者への設問 n=定着コア層1016、現役定着層788、流動層1465 定着コア層(定年後も継続) 女性の正社員はほとんどが定年後も働いている 31.5 女性の正社員は定年で辞める人が多い 20.3 女性の正社員は定年より前に辞める人が多い 14.6 これまで定年に到達する年齢層の女性社員がいなかった 21.6 わからない 12.1 現役定着層(定年まで勤務) 女性の正社員はほとんどが定年後も働いている 17.0 女性の正社員は定年で辞める人が多い 25.0 女性の正社員は定年より前に辞める人が多い 21.2 これまで定年に到達する年齢層の女性社員がいなかった 20.9 わからない 15.9 流動層(定年前離職、未定) 女性の正社員はほとんどが定年後も働いている 12.3 女性の正社員は定年で辞める人が多い 15.4 女性の正社員は定年より前に辞める人が多い 20.5 これまで定年に到達する年齢層の女性社員がいなかった 27.3 わからない 24.5 図表5 職場の高齢社員に対する評価 n=定着コア層1034、現役定着層806、流動層1520 0 10 20 30 40 50 60 70% よくそう思う 時々そう思う 仕事ができる 定着コア層 現役定着層 流動層 経験や技術を伝えてくれる 定着コア層 現役定着層 流動層 困った時に助けてくれる 定着コア層 現役定着層 流動層 仕事の依頼をしやすい 定着コア層 現役定着層 流動層 仕事へのモチベーションが高い 定着コア層 現役定着層 流動層 コミュニケーション能力が高い 定着コア層 現役定着層 流動層 出勤状況が安定している 定着コア層 現役定着層 流動層 若者が望まない仕事をしてくれる 定着コア層 現役定着層 流動層 人手不足の解消に役立っている 定着コア層 現役定着層 流動層 地域とのつながりを高めてくれる 定着コア層 現役定着層 流動層 図表6 高齢期に働く場合モチベーションアップにつながる会社の対応 (複数回答) 定着コア層(定年後も継続) 現役定着層(定年まで勤務) 流動層(定年前離職、未定) 計(定年あり企業勤務女性社員) 定年年齢の引き上げ 47.3 26.1 27.0 33.0 何らかの形で働ける年齢の上限引き上げ 32.8 21.6 24.5 26.3 勤務時間や働き方の選択肢を増やす 61.1 64.3 61.2 61.9 賃金の改善 64.2 63.0 59.4 61.8 作業の軽減 25.1 32.0 33.2 30.4 研修の充実 7.5 7.1 7.3 7.3 経営者や管理職の意識改革 21.6 24.6 23.8 23.3 若い社員の意識改革 21.1 20.5 19.4 20.2 生活設計に関する相談や情報提供 13.3 12.4 13.2 13.0 健康管理への支援 35.9 38.7 36.6 36.9 介護と仕事の両立への支援 34.6 38.1 34.1 35.2 n 1034 806 1520 3360 【P13-18】 座談会 女性の人事担当者が考える 女性が輝き続けるエルダーキャリア ―先進2社に見る 中高年期の女性活躍支援の到達点―  男女雇用機会均等法施行後に入社した均等法世代が中高年期を迎えつつあるなか、中高年期の女性へのキャリア支援はどう行っていくべきだろうか。  ここでは、女性活躍支援、高齢者活躍支援の双方の面で先進的な取組みをしている損害保険ジャパン株式会社と株式会社ポーラの女性人事担当者を迎え、自社の施策についてご紹介いただくとともに、人事担当者として、あるいは自らの経験もふまえて、今後に向けた展望をうかがった。司会は、企業のキャリア支援や高齢者雇用に詳しい金崎幸子氏。 文/崎原 誠 キャリアコンサルタント 産業カウンセラー 金崎(かなざき)幸子(ゆきこ)氏 損害保険ジャパン株式会社 人事部ダイバーシティ推進グループ 業務課長 吉池(よしいけ)玲子(れいこ)氏 株式会社ポーラ 経営企画部 CSR・秘書チーム チームリーダー 佐藤幸子(さちこ)氏 株式会社ポーラ 人事戦略部 ヒューマンバリューチーム チームリーダー 松場(まつば)裕子(ゆうこ)氏 「定年女子」が増加中!中高年期の女性のキャリア支援に着目 金崎 これからは、均等法世代が続々と定年を迎えます。あたり前に男女一緒に育ってきた世代が定年になり、女性の定年の問題も重要になっていくでしょう。定年に到達する女性の人数は、まだ男性の半分弱ですが、定年到達者のうち継続雇用される人の割合は、男性よりも女性のほうがわずかながら高く、高齢期に働き続けたい女性は大勢います。  そこで本日は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が実施した、「中高年社員のキャリア設計と高齢期の展望に関するWEB調査」の調査結果(7〜12頁参照)などを交えながら、高齢者雇用、そして女性活躍推進でも先進的な取組みを行っている、損害保険ジャパン株式会社(以下、「損保ジャパン」)の吉池玲子さん、株式会社ポーラの佐藤幸子さん、松場裕子さんに、これからの中高年期の女性の活躍支援などについてお話をうかがっていきたいと思います。  初めに、今回の調査結果のなかで特に興味深い点をご紹介します。  女性社員の定着意識を@定年まで働き、継続雇用もされたいという方(定着コア層)、A定年まではその会社で働きたいが、継続雇用は希望しないという方(現役定着層)、B定年までいるかどうかわからない、あるいは転職したいという方(流動層)の3グループに分けて見ると、それぞれの定着意識に、先輩社員の状況が色濃く反映される結果となりました。  @定着コア層は、勤務先に女性の正社員が定年後も働いているケースが多く、A現役定着層では、定年で辞める人が多い。B流動層では、これまで定年に達する女性社員がいなかったか、定年前に辞める人が多いという傾向が出ています。定着意識によって職場の先輩への評価も違っていて、@定着コア層は、先輩の姿を比較的ポジティブにとらえていました。  40代と50代に分けて見ると、50代の女性は、今後も勤続したいという意向に男性と差がないのに対し、40代では勤続の意向に男女でやや開きがありました。ちょうど介護などいろいろなことが起こる時期なので、50歳前後で多少、壁があるのかなと感じました。  また、近年は、企業の女性活躍支援が充実してきましたが、高齢期の女性への支援は手薄です。今回の調査では、人事制度に対する評価をたずねていますが、満足度が低かったのが、人材育成や能力開発、キャリア相談です。会社を離れるゴールの年齢が先に延びていくなか、いまの40〜50代と昔の40〜50代とは位置づけが異なりますので、今後、研修やキャリア相談の充実が課題になってくるかもしれません。 両社とも、女性の活躍に向けて充実した支援策を実施 金崎 損保ジャパンさんでは、中高年期の女性の状況や支援策はどのようになっていますか。 吉池 当社は社員が2万6000人ほどいて、6割が女性です。20 年前は男性6割、女性4割でしたが、割合が逆転しました。いまのボリュームゾーンは、男性(グローバル職員)は50代です。女性(ワイドエリア職員、エリア職員)は30代ですが、十数年もすればその人たちが50代になりますので、これからの課題の一つになるのではと認識しています。  女性活躍支援の取組みでは、2003(平成15)年に、大手金融機関で初めて女性活躍の推進部署を設けました。働きやすさを高めるだけでなく、やりがいを創出するため、キャリアアップに向けた女性専用の研修にも力を入れてきました。  中高年のキャリア支援は、女性に限定せず、@人事制度、A職務開発、B研修の3本柱で取り組んでいます。研修では、従業員一人ひとりの自立をうながすため、日常から離れてしっかりと自分と向き合う内容としています。 金崎 ポーラさんはいかがでしょうか。多くの女性が活躍されているので、長年の蓄積がありそうですね。 松場 全国には、約4万1000人のビューティーディレクター(旧ポーラレディ)がいますが、彼女たちは個人事業主ですので、本日は、当社の社員1557人についてお話しさせていただきます。当社は化粧品会社ということもあり、女性社員が約7割を占めています。20代から50代まではあまり女性比率が変わらず、女性が各世代にまんべんなくいるなか、どのように仕事に楽しさを見出しながら活躍してもらうかを課題としてとらえています。  女性活躍については、@人事制度の整備、Aその制度をきちんと使っていける環境や場を設けるバックアップ体制、Bキーになる上長の意識改革の三つの領域を大事にしています。価値観が多様化するなか、制約があってもなくても、すべての人が活躍できる環境や組織風土を築くためです。研修も、女性に特化したものではなく、みんなが活躍できることを目ざしています。昇格のタイミングで先を見たキャリアを考えたり、次世代リーダーとして内省をうながす研修など、さまざまなものがあります。 結婚や育児を理由とする女性の退職は激減 金崎 損保ジャパンさんの場合、先ほどのお話のように30代がボリュームゾーンになっているとのことです。対照的にポーラさんは、20代から50代まで女性比率が変わらないということですが、どこかの世代で離職率が高くなるような傾向はあるのでしょうか。 松場 世間と比べて離職率は低いと思いますが、男女問わず、20〜30代のハイパフォーマーの離職が比較的多くなっています。理由はさまざまですが、「やりたいことがあるから」というポジティブな退職が多い印象です。 金崎 昔、女性は制約要因(出産、育児など)で辞める人が多かったものですが、そうではないのですね。損保ジャパンさんはいかがですか。 吉池 当社も同じような理由で離職する若手が一定数はいると思います。一方で、ライフイベントを理由とする退職は圧倒的に少なくなりました。産休・育休から復帰して時短勤務をし、落ち着いたらまたフルタイムに戻るなど、制度の柔軟性が高まった結果だと思います。 金崎 両社とも、進んだ取組みをしてきた会社だからこそですね。配偶者の転勤による退職などもありますか。 佐藤 ないわけではありませんが、弊社はそれほど規模が大きい会社ではないので、できるだけ寄り添いたいと考えており、転居先に異動できるかなどを個別に検討しています。 吉池 かつては、配偶者の転勤により辞めざるを得ない時代もありましたが、いまは「キャリア・トランスファー制度※1」という新しい場所で働き続けることができる制度があります。エリア、グローバルなどの区分★の転換も、以前より柔軟にできるようにしました。 金崎 現在のように先のゴールが伸びていく時代は、コースを転換できる仕組みが必要ですね。 女性が活き活きと働く状態を日常にすることが大切 金崎 調査では、キャリア支援への満足度が予想以上に低く驚きました。働く側のニーズも多様化していますが、そうした声をすくい上げる相談窓口などの仕組みはありますか。 吉池 2018年に、人事部内に「ワーク・ライフ応援デスク」という、育児・介護・健康・復職・セカンドキャリアの問い合わせにワンストップで対応する窓口を設けました。社内イントラネットで本人がワンクリックすれば調べられる仕組みをつくり、そのうえで、相談もできるようにしています。現場で上司がサポートして解決できるものと制度が絡むものがありますので、上司と人事の両方でサポートします。 松場 仕組みとしてはありませんが、1500人超ほどの会社ですので、人事からは一人ひとりの顔が見えています。日ごろからアンテナを張り、可能なかぎり個別に対応しています。 佐藤 また、年1回、全社員の「意向調査」を行っており、それを基に上長と面談して把握するようにしています。上長によるマネジメントのあり方が重要になりますので、ここ数年は、マネジメントの意識改革に注力しています。上長との面談を通して、自然とキャリアの意向が伝わってくるようなコミュニケーションをとること―日々の関係、日常の環境を整えることを大事にしています。  先ほどご紹介いただいた調査の、「40〜50代の女性は、先輩方が継続雇用されていると継続雇用を希望する」という結果にとても納得しました。やはり、活き活き働く女性≠いかに日常的なものにしていくかが肝(きも)だと思います。 吉池 本当にその通りですね。一番大切なのは日常です。上長との日々の会話のなかなどで、自分のキャリアを考えてもらうことが大切です。当社はいま、マネジメントスタイルの転換を進めていて、昔ながらの上意下達ではなく、サーバントリーダーシップ※2により部下と対話しながら背中を押せるように、2018年に「対話支援型マネジメント研修」をスタートしました。そこでリーダーシップやコーチングのスキルを学んでもらい、日常のなかで背中を押していけるようなベースを築いています。 後輩の相談に乗ってくれる女性の先輩はいるか 金崎 損保ジャパンさんでは、上長の立場に就く人は、まだまだ女性よりも男性が多いですよね。男性の上長は、女性の部下からのキャリア相談にどのように対応されていますか。私自身の経験では、本音で聞きたいときは女性の先輩に相談していた記憶がありますが。 吉池 たしかに上長は男性が多いですが、私自身も含めて、日常的な相談は男女を意識せず行われていると思います。  また、各部署のエリアチーフにはベテランの女性が多く、そういう人が相談に乗ることも多いですね。当社では現在、組織のなかに小さなチームを設ける「チーム制」を推進しており、そのチームリーダーに女性が増えてきています。権限移譲をして若いうちにマネジメントを経験させ、課長などを目ざしてもらうねらいもあります。 金崎 継続雇用の年上の女性が40〜50代の女性の相談に乗ることは、日常的にあるのですか。 吉池 そういう方もいらっしゃいますが、まだまだ人数は少ないので、チームリーダーの女性などが相談したいときは、基本的には上長に相談します。そうはいっても女性に相談したいという場合は、身近にいる他部署の女性管理職に相談することもあります。  問題は、首都圏であればそれが可能ですが、地方では、相談できる先輩が少ないことがあります。そこで、社内で活躍している人の動画を配信する「ロールモデルチャンネル」を展開しています。先日は、そこに登場する先輩に話を聞きたい人を募集し、テレビ会議を使って対話する機会を設けました。 金崎 大企業ならではの取組みですね。ポーラさんはいかがですか。 佐藤 多くの部署に「この部署にこの人あり」という人がいます。定年後は、責任を少し軽くしつつ、基本的にはいままでしていた仕事を継続することが多いのですが、そういう人が、豊富な経験を活かして対応してくれています。俯瞰(ふか)んした視点でものごとを見ながら、「キャリアのことで悩んでいる人がいる」といった情報を伝えてくれるので、私たちにとっても貴重な存在です。 金崎 継続雇用者が増えてくると、単にそれまでの仕事を継続するだけでなく、何か役割を果たせるとよいと思っています。調査では、全体的に継続雇用者に対する現役からの評価が厳しい傾向があり、コミュニケーションの取りづらさやモチベーションの問題を感じている回答が多く見られました。それに対して、継続雇用者が現役にアピールできるような役割を果たせるのは、意味があることだと思います。 吉池 当社では、公募ポストに自ら応募する「ジョブチャレンジ制度」に、再雇用者向けのポストを追加しました。再雇用後はいままでの仕事を継続される方が多いですが、自分の意思で新たな仕事をやってもらうのもよいと思います。ご本人も活き活きと働けますし、職場のメンバーにもよい影響を与えるはずです。 働くことの意味ややりがいを認識させる 佐藤 私見ですが、男性よりも女性のほうが、「働く」という選択肢を自分で選び取っている意識が強いと思います。だから、「何のために働いているか」ということを認識できていないと、自分のキャリアや会社に対して不満を抱きやすい。女性はいくつになっても、モチベーションマネジメントがキーになると思います。 金崎 調査でも、仕事のやりがいと会社への定着意識とのつながりが深いことがわかりました。働く意味を認識してもらう施策はありますか。 佐藤 女性だけを対象としたものはありませんが、目標評価の面談などで、上長とのかかわりを増やしています。 松場 「インナーブランディング※3」にも力を入れていて、会社がどうありたいか、それに対して自分がどうありたいかを考える機会を増やしています。「この会社で自分が何をしたいか」ということがわかると、自然と仕事のやりがいが高まるはずです。「この人がこんな思いを持っている」ということを紹介する取組みなども始めました。 佐藤 ただ与えられた仕事をするのではなく、「そもそも何のために働くのか」というところを考えて行動していける組織や個人でないと、戦っていけない時代にきていると思います。現在当社では、「S(センス)&I(イノベーション)活動」を展開しており、ワークショップや表彰、研修など、年間を通じていろいろな機会をつくっています。部内会議でも、S&Iの観点を入れて、「そもそも自分たちの仕事は」とフランクに話し合う時間を設けています。 松場 こうした活動をすると、若手だけでなく、中高年も意識が変わります。50代後半以降の定年が見えてきている方でも、新しいことに挑戦する人が出てきています。 佐藤 中高年のそういう気持ちは、私利私欲ではなく、みんなのため、後進のためなので、若手や中堅にもよい刺激になります。 金崎 そうやって若い人と中高年を組み合わせるのも大事ですね。 吉池 あらゆる機会を通じて展開されているのはすばらしいですね。当社では今年に入り、「企業文化を変える、価値基準を変える」というメッセージを経営から打ち出しました。それを受けて、行動指針などをまとめた『Spirit(スピリット)』という冊子を使い、各職場で自分たちに何ができるかを話し合ってもらったり、研修をしています。中高年も若手も関係なく、世代を超えたこうした取組みが社内に浸透するよう、地道に働きかけを行っています。 高齢者のモチベーションに悩むマネジメント層のサポートを 金崎 部課長の悩みとして、高齢の社員とのコミュニケーションの問題はありますか。 吉池 「モチベーションが下がっているベテランが自分のチームにいるが、どうしたらいいか」といった悩みがときどき聞こえてきます。ただ、特効薬はなく、コミュニケーションがベースになるのではないかと考えます。 佐藤 諦(あきら)めずにコニュニケーションを続け、役割期待を伝えていくしかないですよね。これからのマネジメント層は、多様なメンバーをまとめていかなければならないのでたいへんです。若手が、そういった状況を見てしまうと、キャリアアップに対しネガティブになってしまいますので、マネジメント層のサポートは急務です。 松場 社員の価値観も多様化しており、自分が受けてきていないマネジメントスタイルを求められることになるので、マネジメント層向けの働きかけは重要であると感じています。 吉池 先ほども話に出たように、目ざす企業文化を伝えていくこと、そして人材育成が重要ですね。マネジャーだけにマネジメントスキルを身につけさせるのではなく、メンバーが自律し、成長することも忘れてはなりません。 他社へのメッセージ/今後の展望 金崎 今回はフロントランナーの2社にお話をうかがいましたが、これから中高年期の女性の活躍推進に取り組む中小企業は、どんなことから手をつければよいでしょうか。 佐藤 小規模の企業は、機動力があってうらやましい面もあります。ただ、当社もそうですが、場当たり的な対処になりがちなので、中長期的な視点を持ったストーリーづくりを心がけることが大切だと思います。その際は、経営陣との対話が重要です。人事が出すメッセージに対して、トップがちょっとでも違うことをいうと、社員が迷ってしまいます。 松場 戦略によって整備する制度の優先度も変わってきます。戦略があると制度も考えやすいので、経営陣との対話は欠かせませんね。 吉池 そこが大切ですね。経営陣との目線合わせができたら、その先は、できるところからやっていけばよいと思います。できることはどんどん取り入れて、ダメだったらまた考えればいい。 松場 私は10年以上システム部門にいて、そこから人事部に異動してきましたが、視野は以前よりもはるかに広がりました。いろいろな経験をすると、自分のキャリアを考える視点が増えます。ジョブローテーションはキャリア形成にとても有益で、当社でも、積極的に行っています。 吉池 私はもともと営業現場にいて、地区の人材育成の仕事もしていました。その経験を活かしていきたいという思いがかない、人材育成のグループに配属されたのですが、この分野は私が想像していたよりもずっと奥が深い。これは、私が人事部に来たからこそ知ることができたことです。当初はとまどいもありましたが、自分の成長につながっていると思います。 金崎 今回の調査では、意外にも男性よりも女性のほうがゼネラリスト志向が強い結果も出ています。女性の活躍の場を広げる意味でも、ジョブローテーションを恐れないでほしいですね。 佐藤 いろいろな部署で女性が活躍できるようになるといいですね。当社は女性社員の職域拡大が進んできましたが、まだ女性社員のいるジャンルは偏っています。転勤が多い営業系は男性が多いですし、逆に、商品開発は女性社員が多い。解決のためには、会社の方向性としてダイバーシティを打ち出し、徹底していくしかないと考えています。一つの施策だけでかなうものではないので、研修やeラーニングなど、多様なコミュニケーションを活用して取り組んでいきます。 金崎 今日は、人事の立場からのお話をうかがってきましたが、そこにはご自身の経験も活きており、たいへん感銘を受けました。ぜひ読者のみなさんにも参考にしていただきたいと思います。本日はありがとうございました。 ※1 キャリア・トランスファー制度……本来転居をともなう転勤のない社員でも、配偶者の転勤や家族の介護など、やむをえない理由で転居することになった場合、一定の条件を満たせば、勤務地を変更して仕事を続けることができる制度 ★ 区分については、19頁を参照 ※2 サーバントリーダーシップ……「相手(部下)に奉仕し、相手を導く」という哲学に基づくリーダーシップ ※3 インナーブランディング……企業が企業理念や企業価値を、従業員に対して理解・浸透させること 写真のキャプション 金崎幸子氏(キャリアコンサルタント、産業カウンセラー) 吉池玲子氏(損害保険ジャパン株式会社 人事部ダイバーシティ推進グループ 業務課長) 佐藤幸子氏(株式会社ポーラ 経営企画部 CSR・秘書チーム チームリーダー) 松場裕子氏(株式会社ポーラ 人事戦略部 ヒューマンバリューチーム チームリーダー) 【P19-21】 企業事例@ 損害保険ジャパン株式会社(東京都新宿区) 女性社員の自律的な成長意欲を引き出しキャリア形成を後押しする手厚いサポート 日本を代表する大手損害保険会社 人員構成の変化とともに女性活躍も加速  損害保険ジャパン株式会社は、1888(明治21)年に創業。日本を代表する損害保険会社の一つとして地位を築いてきた。2014(平成26)年に旧損保ジャパンと日本興亜損保が合併して損保ジャパン日本興亜となり、今年4月に現社名に変更。SОMPОグループの中核会社として、価値ある商品・サービスを創造し続け、社会に貢献していくことを目ざしている。  社員数は約2万6000人。女性比率が6割を超えるが、20年前には、逆に男性が6割を占めていたという。この20年で大きく人員構成が変わり、女性社員の活躍が進んできた。  社員は、働く地域(転居転勤の有無・範囲)に応じて、グローバル職員、ワイドエリア職員、エリア職員の3区分に分かれる。グローバル職員は大半が男性であるのに対し、転勤範囲が限定されるワイドエリア職員とエリア職員はほぼ女性である。いまのボリュームゾーンは、男性(グローバル職員)は50代、女性(ワイドエリア職員、エリア職員)は30代だが、今後30〜40代の年齢が上がってくることで、中高年期の女性社員の人数・割合が増加していくことが見込まれる。  定年は60歳。その後は、1年ごとの契約更新で65歳まで再雇用されるのに加え、2018年には、再雇用満了者の一部を最長70歳まで雇用する「再雇用延長制度」を導入した。 働きやすさから働きがい、さらには全社員の働き方改革へ  同社は、2003年に大手金融機関初の女性活躍推進部署、「女性いきいき推進グループ」を設置。いち早く、女性社員の活躍支援に向けた取組みをスタートした。人事部ダイバーシティ推進グループ主査ライフデザインチームの立花一元(かずもと)氏は、「女性の活躍支援にかぎらず、当社は先進的な取組みに積極的な会社です。当時は男性社員のほうが多く、社会全体としても男性優位の傾向がありましたが、女性社員に活躍してもらわないと会社の成長はないととらえ、経営戦略としてダイバーシティの推進に取り組んできました」とふり返る。  これまでの女性活躍推進の取組みは、大きく以下の三つのフェーズで進んできた。 @働きやすさの推進(2003年〜)  そもそも仕事と家庭を両立できる制度面のサポートがないと、なんとか働くことはできても、活き活き働くことはできない。そこで、まずは両立支援制度の充実を図った。例えば、「キャリア・トランスファー制度」。エリア職員やワイドエリア職員が家庭の事情などで転居しなければならない場合、転居先にポストがあり、会社の承認が得られれば、その地域で働くことができる。育児に関しては、育児短時間勤務を導入。子どもが小学3年生になるまで、勤務時間を短縮して働くことができる。介護についても、休暇制度や短時間勤務制度を整備し、事情を抱えていても働き続けられる仕組みを整えた。  「かつては、女性の先輩たちは、結婚や出産で退職していましたが、いまはこれらのライフイベントを理由に辞める人は少なくなりました。働き続けられる制度ができ、実際に使えるようになってきたからだと思います」と、人事部ダイバーシティ推進グループ業務課長の吉池玲子氏は説明する。 A働きがいの向上(2010年ごろ〜)  働き続けられる環境を整えた後は、女性社員のキャリアアップを後押しし、管理職や役員を目ざして成長してもらう取組みを強化した。  2010年にコース別人事制度を改定。以前は、いわゆる総合職と一般職のような分け方だったが、職務範囲を一本化するとともに、昇進の上限も撤廃した。エリア職員でも役員や部長になれるようにすることで、勤務地限定で働く女性社員のチャレンジ意欲を引き出した。  こうした制度改定とあわせて、女性社員のキャリアアップを後押しする研修も整備した。女性管理職が部長や経営層を目ざす「女性経営プログラム」、マネジメント層を育てる「女性リーダー塾」という二つの選抜型プログラムと、一般的に女性がライフイベントの変化を迎えるといわれている28歳の女性社員全員を対象とするキャリア研修「みらい塾28」である。女性社員の多くは特定の地域で仕事をしてきており、男性社員と比べて経験が少なく、またライフイベントの影響も受けやすい傾向にあることから、女性社員に限定したキャリアアップを後押しする機会が必要であると判断した。また、女性社員の場合、働く環境によっては、身近にロールモデルとなる同性の先輩や一緒にキャリアアップを目ざす仲間がいないこともある。そうした人のネットワークづくりに活かしてもらうことも大きなねらいだ。  また、社内イントラネットに、社内で活躍しているさまざまな人を動画で紹介する「ロールモデルチャンネル」を開設した。  組織の面では、少人数のチーム制を導入。課支社の統合によって1人の管理職がマネジメントする組織が大きくなったこともあり、近年は部署を複数のチームに分け、チームリーダーを置くようにしている。チームリーダーの役割を女性社員にも任せ、権限移譲をしてマネジメントを経験させつつ、上司が対話を通じて成長を支援している。自ら希望のポストに応募する「ジョブ・チャレンジ制度」も導入している。 Bワークスタイルイノベーション(2015年ごろ〜)  現在は、女性社員だけでなく全社員の働き方改革を進めている。テレワークやシフト勤務により、だれもが多様で柔軟な働き方ができるようになれば、結果として、女性社員や高齢社員も活躍しやすくなる。また、トップダウンによる管理職の意識改革にも力を入れている。組織を牽引するマネジメントの意識が変わらないと、女性社員の活躍も働き方改革も進まないためだ。社長が部店長に自らの思いを直接伝える会議を開催し、経営の考え方や意識改革の必要性について共有し、徹底を図っている。また、前述の「女性リーダー塾」では、参加者の上司を集めた機会も設け、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)への気づきをうながすとともに、女性の部下に対するフォローを求めている。こうしたさまざまな背中を押す施策により、女性管理職比率は、2012年度の3・9%から、2019年度には19・0%にまで向上した。 制度や研修により中高年のキャリア自律を促進  中高年層に対しては、@人事制度、A職務開発、B研修・自己研鑽の三つの柱でキャリア支援を行っている。女性社員に限定したものではなく、性別にかかわらず、変化対応力を身につけ、強みの発揮につなげてもらう。  中高年向けの人事制度には、再雇用制度、再雇用延長制度、社外転進制度などがあるほか、再雇用者向けの短日・短時間勤務制度や、再雇用者を対象とした副業解禁を試行するなど、より柔軟性や自律性を高める方向で、制度を拡充している。また「人事制度知らずしてキャリア開発にあらず」という考えから、研修などで人事制度の内容をあらためて周知している。  職務開発の面では、会社が働く場所を提供するだけでなく、先ほど触れた「ジョブ・チャレンジ制度」に再雇用者用のポストも設けた。高齢になっても自らチャレンジしていってほしいという願いが込められている。  研修では、二つのキャリア研修を用意している。一つは「ワーク・ライフデザイン研修」。35〜60歳を対象とする希望者参加型の研修だ。参加者を年代別に三つに分けてグループワークなどを行い、2泊3日にわたり、自身のキャリアと向き合ってもらう。男性と女性ではライフの悩みの傾向が異なるので、グローバル職員とエリア職員などを分けて実施している。もう一つは、50歳のグローバル職員を対象とする「キャリア開発G50研修」。「ワーク・ライフデザイン研修」には定員があり、希望者全員が参加する機会を得られないことから、こちらは必須参加とした。今後は、エリア職員の実施も検討している。  社員の自律をうながしつつも、手厚いサポートを用意する同社の姿勢がよく表れているのが、2018年に設置した「ワーク・ライフ応援デスク」だ。育児、介護、健康、復職、セカンドキャリアといったライフイベントの相談に、専任の担当者がワンストップで対応する。ただし、「何でも聞いてください」では自律に向かわないので、イントラネット上で本人がワンクリックすれば調べられる仕組みをつくり、そこで解決しない場合に相談してもらう。上長との面談や日常のサポートに加え、こうした仕組みを設けることで、社員の自律的なキャリア形成を後押ししている。  女性社員のキャリア支援を行っていくうえで課題に感じているのは、「女性は『完璧にやりたい』とか『失敗するくらいなら、いままでの仕事を続けたい』と考える傾向がある」(吉池氏)という点。前述の「女性リーダー塾」の参加者などであれば人事担当者が背中を押せるが、そうした機会のない大多数の女性社員のなかにも、「本当は挑戦したいけど……」という気持ちが隠れているととらえている。「研修に参加した人だけでなく、女性社員のマインドを前向きにするには、現場の管理職が定期的な面談でキャリアについて相談に乗りながら、きめ細やかにサポートしていくことが有効だと考えます」と吉池氏はいう。今年度、『人材育成の教科書』を人事部が作成し、対話やコミュニケーションの重要性を管理職がふり返る機会を設けた。  エリア職員のさらなる活躍をうながす人事制度改定も検討しているという。いろいろな仕掛けをしながら、一人ひとりがキャリアを描くことを後押しする同社の取組みは、これからも進化していく。 写真のキャプション 立花一元氏と吉池玲子氏 【P22-24】 企業事例A 株式会社ポーラ(東京都品川区) 女性社員があたり前に活躍できる環境を整備近年は異動による経験の付与を強化 女性社員の社会進出を支えてきた女性活躍支援の先駆的企業  株式会社ポーラは、1929(昭和4)年創業。美と健康をテーマに働く女性を応援する化粧品メーカーである。男性セールスマンが一般的だった時代に始まった「ポーラレディ」による訪問販売は、女性の社会進出を進める独自の施策として広く知られている。近年は、人々のライフスタイルの変化に対応し、訪問販売から、エステサービスとカウンセリング、化粧品販売を融合した「ポーラ ザ ビューティー」をはじめとする店舗への誘客型販売へと軸足を移している。  長年親しまれてきた「ポーラレディ」も、現在は「ビューティーディレクター」と名称を改めた。ビューティーディレクターは、同社と密接な協力関係にある独立した個人事業主で、全国に約4万1000人いる。  一方で、同社が直接雇用する従業員は1557人(2020〈令和2〉年3月現在)。化粧品会社ということもあり、女性社員が約7割を占める。女性比率は、20代から50代まで、あまりボリュームが変わらない。女性は男性と比べると勤続年数が短いが、これは業界特性によるもの。美容部員は各社を経験しながらキャリアアップする人が多いためであり、同じ本部勤務で比較すると男女差はあまりない。  定年は60歳で、その後は再雇用としており、定年到達者の約9割が再雇用を希望。現在は66人が在籍し、男女比はほぼ半々であるが、2018(平成30)年に従来の定年後再雇用制度を改定し、年齢上限を撤廃。六つのコースを用意し、意欲と能力の高い社員が年齢に関係なく活躍できるようにしている(コースによっては年齢の上限あり)。 女性社員があたり前に働き続け成長していくことができる  同社にも、かつては、女性社員が結婚や出産で退職する傾向があったが、2000年代以降、仕事とライフイベントの両立のための支援策の整備が進み、ライフイベントを理由とする退職は大幅に減少した。「昔は育児時短制度がなく、復帰後はフルタイムで働くしか選択肢がありませんでしたが、制度を整えたことで、復帰率は100%になりました。一方、復帰後のキャリアを考え、育休期間は最長3年から2年に短縮し、早く戻ってくる人への職場復帰サポート手当も創設しました。育休に入る前と復帰前には上司も同席する面談をしたり、復帰後のキャリアを考える研修をするなど、ただ働き続けられるというのではなく、意志を持って活躍してもらいたいという思いでサポートしています」と、人事戦略部ヒューマンバリューチーム チームリーダーの松場裕子氏は説明する。  近年は、働き方改革に力を入れており、フレックスタイム制や時間単位の有給休暇制度、リモートワークなどを導入し、多くの社員が使えるようにすることで、働きやすさもさらに向上している。女性管理職は以前からいたが、社員の女性比率からすると少ない状況だった。しかし、4〜5年ほど前から増え出し、現在の女性管理職比率は約3割となっている。管理職や役員の活躍領域は確実に広がっており、今年1月には、同社の歴史で初めて女性社長が就任。役員も、9人のうち3人が女性である。  ただし、経営企画部CSR・秘書チーム チームリーダーの佐藤幸子氏によると、「意図的に女性役員・管理職を増やしたわけではなく、女性社員の活躍領域の広がりにともなう、自然発生的な変化といえるでしょう」と話す。管理職の登用にあたって、女性社員が有利になることもないし、女性社員に限定した教育もしていない。「会社によっては、女性管理職を増やすために重点的な取組みを行っているところもあるようですが、当社の場合はそういうフェーズではありません。女性社員だけに教育をすると、むしろ男性社員側から不満が生じかねません」と佐藤氏はいう。かつては、地域限定で働く女性社員を対象にしたキャリアを考えるための研修を行ったこともあるが、「女性だけに限定すべきではない」という声があがり、男女を問わない希望者参加型の研修に切り替えた。  このような性別を問わない研修の機会は多く、昇格前後やテーマ別のもの、eラーニングなど、キャリアについて考える機会はたくさんある。シルバー期に向けたライフプランセミナーも行っている。  また、2016年には行動評価、コンピテンシーを見直し、上長との定期的な面談に力を入れている。「この3年間でどのコンピテンシーを伸ばしたいか」、「そのために今期は何をするか」などと話し合いながら成長をうながしている。 ジョブローテーションを活性化し成長につながる経験を付与  同社には、全体の6〜7割を占める総合職、地域総合職のほか、専門スキルを活かして活躍するエキスパートコース、百貨店などの美容部員が所属する販売コース、お客様相談室やコールセンターのコミュニケーターコースなど多様なコースがあるが、キャリア意識の変化に応じて、コース転換にチャレンジすることができる。  また、近年力を入れているのが、ジョブローテーションだ。「いまの役員や管理職を見ても、複数のジャンルを経験している人のほうが、パフォーマンスが高い傾向があります。経験から得る学びがありますし、タコつぼ型の部署のエンゲージメントやモチベーションの問題も見られましたので、ジョブローテーションを積極的に行っていくことにしました」(佐藤氏)という。  毎年1回の意向調査をふまえながら、3年以上同じ部署にいる人を人事でリストアップし、上長に働きかける。「Aさんがいないとダメなんだ」という上長に対しては、「Aさんのためを思うなら、経験を積ませるべき」と話し、理解をうながす。ここ2〜3年で、同一部署での滞留がかなり少なくなった。ローテーションをするのは若手中心だが、ここで経験を積んでおけば、中高年になってからの活躍の幅も広がる。  経験を積ませるうえで障壁となるのは、男性上司のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)だ。同社のような会社にもアンコンシャスバイアスはあり、「プロジェクトメンバーの候補者を上長にリストアップしてもらうと、男性社員の名前ばかりがあがってきて、『女性の〇〇さんもいますよね』と話すと、『ああ、いたね』といわれることがあります。悪気はなく、本人は部下への配慮のつもりだったりもするのですが、そもそも女性部下のキャリアアップの視点が欠けているケースもあるのです」(松場氏)という。アンコンシャスバイアスをなくす研修はしていないが、人事部が持つ情報をもとに昇格候補などをリストアップし、「この人は、来年昇格試験を受けるタイミングである」、「2年後に係長試験が控えている」などとアラートを鳴らし、機会ロスを防いでいる。  一方で、女性社員自身の意識にも訴えかけていく必要もあるという。佐藤氏は、「男性社員は『課長になりたい』と自分の希望を表に出しますが、女性社員は『私なんかがなっていいのかな』とか、『子どもが小さいからいい出しづらい』と遠慮しがちで、こちらから声をかけないと手をあげようとしないところがあります。機会は平等に与えているのだから放っておけばいいという考え方もあると思いますが、私自身の経験として声をかけてくれる人がいなかったからこそ、声をかけてあげたい。上長を通じて『昇格試験を辞退します』といってくる人もいますが、辞退の理由を確認し、上長とのコミュニケーション内容や発している言葉が本心かと確認し、表面上の言葉を疑い、挑戦したい気持ちがあるなら背中を押したいと考えています」と思いを語る。  松場氏は、これに関連して、「女性は一般的に、やるからには完璧にやりたいと考え、それが遠慮につながります。そこでチャレンジさせられるかは上長次第というのが課題ですね。女性社員の場合だけでなく、上長が“部下を育成するためのマインド”を持っていれば、『2年後の昇格試験に向けてこのプロジェクトに入れておこう』と、日々の仕事のなかで成長の機会を与えます」と指摘する。  領域によっては要職が男性ばかりになることも、女性社員の活躍を進めるうえで課題だととらえている。 女性社員や高齢社員が自然に活き活きと活躍している日常をつくる  このように、同社もある意味で発展途上といえるが、ほかの多くの企業と比べると、女性社員の活躍は格段に進んでいる。その理由として、佐藤氏は、次のように語る。  「実際に活躍している女性社員の存在が大きいですね。役員にも部長にも課長にも女性がいる。だから、『絶対にリーダーになりたい!』という人でなくても、キャリアを築いていくなかで、自分に声がかかるのは自然だなと思えるのです。大事なのは、女性社員が活躍している日常をつくることに尽きます。そもそも当社には、約4万1000人のビューティーディレクターと約4200人のオーナー・マネジャーがいて、そのなかには、90代の女性が約290人います。昨年9月には、広島の99歳の女性が、最高齢の現役美容部員としてギネス記録に認定されました。そういう方たちが現役でがんばっている姿を見ていますので、『女性は中高年になったらお払い箱』などという感覚を持つ人はいません」  年齢や性別によって不利益を被ることなく、みんなが自然に、活き活きと働く―あたり前であるべきことをあたり前にしてきた同社の取組みからは、学ぶべき点が多い。 写真のキャプション 松場裕子氏(左)と佐藤幸子氏(右) 【P25】 日本史にみる長寿食 FOOD 319 ひじきは古代からの長寿食 食文化史研究家●永山久夫 ひじきを食べると不老長寿  ひじきはホンダワラ科の海藻で、日本では古くから「ひじきを食べると不老長寿」といわれ、日常的に食されてきました。  縄文時代の貝塚からも出土していますし、戦国時代には煮しめて兵糧(ひょうろう)とし、平和な江戸時代になると、さらに美味しくなるように工夫をこらしてお惣菜(そうざい)として人気となります。  ひじきにかぎらず、昆布やワカメなど、日本人は世界一海藻を食べるというユニークな食文化を形成してきました。このため、日本人の腸は、海藻の食物繊維を好んで食べる細菌が古くから棲みつき、それが日本人の長寿につながっているという説もあります。  現在でも、海藻や魚を日常的に食べている地方には、長生きする方が多いといわれています。まさに、「ひじきを食べると不老長寿」なのです。 商人がひじきを食べる知恵  ひじきは、煮たり蒸したりしたものを、干して保存し、使用するときに水でもどします。保存できることが、ひじきのお惣菜が各地に普及した大きな背景になっています。  ひじきのお惣菜といったら、何といっても油揚げと甘辛く煮しめた一品でしょう。  戦前、使用人の多い大阪の商家では、夕食のおかずに、ひじきと油揚げの煮ものが出されたそうです。  粗末に見えますが、この組合せこそ、日本人の知恵。商人にとって、お客さまは神さまです。安心して、気持ちよく商品を買ってもらうためには、ニコニコした笑顔のサービスは欠かせません。  そのための自然な笑顔を生み出すのが、カルシウム。「食べるトランキライザー(精神安定剤)」といわれるように、カルシウムを十分にとっていれば、気分に余裕が出て、笑顔も生まれます。  干しひじき100g中には1400mgのカルシウムが含まれ、その含有量は海藻のなかでナンバーワン。腸活に欠かせない食物繊維もたっぷり。油揚げには物忘れを防ぐレシチンも含まれています。 【P26-30】 短期連載 マンガで見る高齢者雇用 第1回 社長が「希望者全員、70歳までの雇用を目ざす!」と突然いい出した! ※この物語に登場する企業・人物は架空のものです。 ※1 65歳超雇用推進プランナー・高年齢者雇用アドバイザー……31頁をご参照ください ※2 相談・助言などのうち、高齢者雇用・活用のための人事・労務管理上の個別課題について具体的な改善策を作成し提案する「企画立案サービス」、講師を派遣して行う「就業意識向上研修」は有料となります。 詳しくはホームページをご覧ください(https://www.jeed.or.jp/elderly/employer/advisary_services.html) つづく 【P31】 解説 マンガで見る高齢者雇用 第1回 社長が「希望者全員、70歳までの雇用を目ざす!」と突然いい出した! 高齢者雇用に取り組む事業主に対し、さまざまな支援を実施! 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(以下、「JEED」)では、高齢者雇用に取り組む事業主の方へ各種支援や、イベント・セミナーの開催、調査研究に関する情報提供などを行っています。 JEEDによる支援内容 @65歳超雇用推進プランナー・高年齢者雇用アドバイザーによる制度改善提案および相談・助言など  高齢者雇用に精通した専門家が、直接事業主を訪問し、相談・助言や、将来に向けての制度改定に関する提案を行うほか、事業主の要望に応じて、個別課題等についての具体的な改善解決策を作成する、企画立案などを行います。 A65歳超雇用推進助成金の相談・申請  高齢者雇用の安定に資する措置を講じる事業主を対象に支給される「65歳超雇用推進助成金」の相談・申請を、JEED 各都道府県支部で受けつけています。 Bイベント・セミナーの開催  毎年「高年齢者雇用開発コンテスト」を開催するほか、「高年齢者雇用開発フォーラム」や「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」、「地域ワークショップ」などを開催しています。 C産業別ガイドラインの作成  各産業の特性に応じた高齢者の活躍推進に向け、産業別団体と共同で、「産業別高齢者雇用推進ガイドライン」を策定しています。現在、86業種のガイドラインをWebサイトで公開しています。 Dそのほか  高齢者雇用に関する調査研究を行っているほか、各種資料などを公開しています。 詳細は JEED 高齢者雇用の支援 検索 65歳超雇用推進プランナー・高年齢者雇用アドバイザーとは  経営コンサルタントや社会保険労務士、中小企業診断士など、人事労務管理の諸問題の解決に取り組んだ実績のある、高齢者雇用の専門家です。特に経験・実績のある方を「65歳超雇用推進プランナー」として委嘱し、65歳を超えた継続雇用延長・65歳以上への定年引上げなどにかかわる具体的な制度改善提案や、相談・助言などを行っています。 【P32-33】 江戸から東京へ 第90回 甥(おい)に塾を譲る 久保(くぼ)五郎左衛門(ごろうざえもん) 作家 童門冬二 第一次松下村塾(しょうかそんじゅく)  久保五郎左衛門は、長州藩の武士である。が、普通の藩の武士とは違って小さな塾を開いていた。萩城からかなり遠い所にある丘の上だ。敷地内に、大きな松の木があった。その松にちなんで、五郎左衛門は自分の塾の名称を、  「松下村塾(松の下にある塾)」と命名した。  松下村塾は、普通の塾と違って単に学問を教えるだけではなかった。五郎左衛門は、塾生たちを積極的に藩に推薦した。さらに、すでに藩士として仕事をしている者の身分が低ければ、一段でも上にあがり、給与もあがるように世話もした。だから、五郎左衛門の経営する松下村塾は、現在でいえば、就職や昇格・昇給などの世話≠することも多かった。そのために、貧乏藩士の家庭では、  「松下村塾に行けば、必ず藩に就職の世話をしてくれるし、またすでに藩で仕事をしている下級武士の昇格や昇給の世話もしてくれる」  と評判を立てていた。そういう実利をともなっていたから、入塾させる家庭も多かった。  ところがある日突然、五郎左衛門が塾生とその保護者に対し、  「塾の性格が変わる。松下村塾は、いままでのような就職や、昇格・昇給の世話はしなくなる。代わりに、もっと長州藩の改革や、この国の改革を主眼として教えるようになるだろう」  といった。塾生とその保護者たちは顔を見合わせた。  「一体、だれがそんなことを教えるのですか?」  と訊いた。五郎左衛門は、  「わしの甥だ。吉田寅次郎に塾を預ける」  と告げた。保護者たちは一斉に声をあげた。みんな、吉田寅次郎のことを知っていたからである。寅次郎は、最近まで藩の牢屋(ろうや)に入っていた。入れられた理由は、寅次郎がアメリカ船に頼んで、同地へ密航しようと企(くわだ)てたためだ。  そのため幕府の指示もあって、寅次郎は謹慎を命ぜられた。藩は怒って、寅次郎を牢屋に叩き込んでしまった。  しかし、牢屋のなかで寅次郎は落ち込んではいなかった。同じ牢に入れられた人々のために、それぞれの得意とする和歌・俳句・学問・武技などを活かして、互いに教えっこをさせた。そのため地獄のような牢が、まるで幸福な屋敷になって、みんなはこの牢を「福堂」と呼んだ。何よりも感心したのが牢の責任者で、寅次郎に学問の講義を頼んだ。その講義が易(やさ)しく、また為(ため)になるので囚人たちは喜んだ。牢の責任者は、  「吉田寅次郎の講義は、この牢だけで聴くのはもったいない。もっと広く藩士や、城下町の人々に聴かせたい」  と考えた。 第二次松下村塾  それには塾が必要だ。牢の責任者は寅次郎の父・杉百合之助(ゆりのすけ)に相談した。百合之助も喜んだ。そして、塾を新設はできないので、親戚の五郎左衛門のところに話を持ち込んだ。五郎左衛門は驚いた。突然の話なので、  「ちょっと考えさせてください」  といった。一晩考えた五郎左衛門は決意した。それは、  「寅次郎に塾を譲ろう」  ということだ。実益的なことを考えれば、いまの経営のままの方がいい。しかし、五郎左衛門も時勢をよく知っていた。そして寅次郎が、思想として、  「長州藩を改革したい。そして、長州藩の改革によってこの国(日本)を改革したい」  と前々から熱心に主張していることを知っていた。五郎左衛門はその主張を正しいと思っている。実益だけを追求する保護者たちは、寅次郎を危険な考えの持ち主だと思っていたから、  「久保先生、どうかそんな危ない考え方の甥御さんに塾を譲らないでください。先生がそのまま続けてください」  と頼んだ。しかし五郎左衛門は首を横に振り、  「いや、その考えは間違いだ。甥が教えることは、大きな意味でみなさんのお役にも立つ。藩のためにもなる。そして、一番大きいことはこの国のためになることだ」  と告げた。保護者のなかには落胆し、あるいは怒って、子弟が塾に通うことを辞めさせる者もいた。ところが、若者には寅次郎の考えを支持し、大いに期待する者が沢山(たくさん)いた。だから、松下村塾に通う者は、辞める者よりも逆に増えた。  五郎左衛門は、大きく安堵し、  「これからは、隠居して釣りでも楽しもう。やっと楽になれる」  と、家人に語った。  五郎左衛門の甥の吉田寅次郎は、号を松陰という。松のかげ≠ニいう意味だろう。急進的な考えを持つ松陰も、伯父・五郎左衛門に対する尊敬と恩の念は決して忘れなかったのである。 【P34-35】 第72回 高齢者に聞く生涯現役で働くとは  今野信さん(68歳)は、ものづくりの現場ひとすじに半世紀を歩き続けてきた。真面目な仕事ぶりが認められ工場長に着任。その後営業や総務畑を経験し、再び工場長に戻る。学歴が重視されがちな社会のなかで実力を発揮してきた今野さんが、生涯現役の極意を語る。 株式会社 小出(こいで)ロール鐵工所(てっこうじょ) 製造部生産管理担当部長 今野(こんの)信(まこと)さん 仕事のおもしろさに魅せられて  私は宮城県石巻(いしのまき)市の生まれです。東日本大震災では、中学校時代の同級生が4人犠牲になっています。中学校を卒業すると、家の事情もあって東京に働きに出ることになりました。当時はクラスのなかで進学と就職の割合が半々でしたから、就職することに抵抗はなく、むしろ東京で暮らすことに胸が高鳴りました。ところが、親戚の紹介で入社した会社をたった2カ月で辞めることに……。  餞別(せんべつ)をたくさんもらって賑(にぎ)やかに送り出された身としては、このまま郷里に帰ることはできません。心機一転、ほかの会社へ就職しようと覚悟を決めたとき、これはもう縁というしかないのですが、同郷の人が働いていた「小出ロール鐵工所」を紹介してもらいました。1967(昭和42)年6月に、東京工場に入社し、今年で勤続53年を迎えます。  入社当時は工場の上に寮があり、寮と工場を行き来するだけの生活でしたが、楽しい日々でした。何よりも「研磨(けんま)」という仕事がおもしろくて仕方がなかったのです。会社の仕事は何か形あるものを生み出すことではありませんが、自分が研磨したロールが使われて、自動車のボディや家電製品がつくられていきます。ものづくりの楽しさに魅了され、気がつけば半世紀が過ぎていました。  小出ロール鐵工所は1914(大正3)年に創業。国内の大手製鉄所からは、ロール製作技術への高い信頼を得ている。顧客のものづくりを支えるため、「お客さまの操業を止めない」を合言葉に、昼夜2交代制で稼働し続けている。 失敗は次のステップへの肥やしに  主力事業は圧延(あつえん)ロールのメンテナンスで、圧延ロールの研磨・加工を中心に2014(平成26)年、100年企業の仲間入りを果たしました。  「圧延」とは、熱した鋼(はがね)を回転するロールに通し、圧力を加えて所定の形状にすることです。鋼材の製造工程には必ずこの圧延があります。このロールの修理や加工の一つには研磨という作業があり、私が入社してすぐ、触れた世界です。何の知識もない15歳の若造を先輩たちが育ててくれました。いまは技能検定制度がありますが、当時は先輩たちのやり方をひたすら見て仕事を覚えたものです。幸い同郷の人がたくさん働いていたことも励みになりました。研磨は自分用の機械を与えてもらえますし、メインの機械も操作してみたいという向上心が、半世紀働き続ける原動力になったのではないかと思っています。もちろん失敗も数知れません。ただ、失敗を恐れず、肥やしにしていく気持ちが大切だと、若い人たちには話しています。  東京工場に4年いて、その後、習志野(ならしの)工場に移りました。正直にいうと、せっかく憧れの東京に来たのに千葉県に行くのかと内心がっかりしました。そのころの習志野は、周りに何もありませんでしたから。地方の人間ほど「東京」という二文字にこだわるようです。  郷里では決して恵まれた環境で育ってきたわけではないが、今野さんの話しぶりには常に他者への感謝が感じられる。入社のきっかけとなった人は現在も現場の第一線におり、「師匠と呼んでいます」と嬉しそうに語る。 異例の抜擢で工場長に  38歳まで研磨ひとすじでしたが、その後製造部や工程管理課にも配属され、2004年に習志野工場長に就任しました。高卒はもちろん大卒の従業員がたくさんいるなか、中学しか出ていない私が工場を束ねるのですから異例の抜擢です。工場の成果は会社の業績に直結しますから、身の引き締まる思いでした。ただ、これまで自分がやってきたことを続けていけばよいのだと思い直し、何よりもコミュニケーションを大切にし、風通しのよい職場づくりを目ざしました。  工場長になると大好きな研磨の機械に触れる機会がなくなり、ときどき無性にいじりたくなったときは、若い従業員に頼んで触らせてもらいました。不思議なもので、研磨の機械のそばを歩いていると、15歳から慣れ親しんだ世界ですから、音を聴いただけで機械の不具合がわかります。若い人に指摘すると、とても驚かれました。研磨というのはNC※化が一番遅れているアナログの世界です。「見る、聴く、感じる」の三つを大切にしろと先輩に教わってきました。そのことをもっと若い人に伝えなければと思っています。  工場長の後、今度は営業部長を拝命、工場しか知らない私が外の世界に出ることになりました。営業といっても技術営業で、お客さまと技術的な話をして営業担当者への道筋をつける仕事でした。実際にお客さまに出会えたのはよい経験になりましたし、営業の苦労もわかりました。営業部には2年、その後1年間、総務部へ。総務では人事労務を担当し、採用のための企業説明会にも出向きましたが、私たちのところへはだれも訪ねてこなかったということもありました。ものづくりの仕事は注目されながらもまだまだ3Kのイメージが残っていたのでしょう。 体が続くかぎり生涯現役の道を  2012年、また工場長に復帰しました。前年の東日本大震災の影響もあり、会社の業績が少し下がり始めたころで、1度目の就任とはまた違った緊張感がありました。それでも営業や総務畑をほんのわずかでも歩いたことで、他部門の苦労がわかりましたから、ものづくりは現場だけでなく多くの人たちに支えられていると思うと、厳しい局面でも乗り越える勇気が湧いてきました。  東日本大震災の後に新しくなった会社のユニフォームには日の丸がデザインされていますが、これは日本のものづくりを全社一丸となってになっていこうという強い思いを反映しています。不思議なもので、日の丸をつけただけで気持ちが引き締まります。  私は68歳になったいまも、朝8時から夕方4時45分まで正社員として働かせてもらっています。中学を出て右も左もわからなかった私を育ててくれた会社や先輩方には感謝しかありません。次の世代に私の知るかぎりのことを伝えていくことが恩返しだと思っています。  おかげさまで体は頑健にできていて、いまのところ健康面での心配はありません。趣味はゴルフで、年に40 ラウンドも回り、娘には呆れられています。先日、職場のみんなで野球をしないかという話が飛び出しました。何か新しいことをやるのは楽しいもので、いまからワクワクしています。  健康で、働き続けることができるのは幸せなことです。今日以上に明日をよい日にできるよう、生涯現役の道をまだまだ歩き続けます。 ※ NC……数値制御(Numerical Control)によるデジタル化 【P36-39】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第95回 北海道 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 働きやすく、働きがいのある職場で高齢者が主戦力として活躍中! 企業プロフィール 央幸(おうこう)設備工業株式会社(北海道札幌市) ▲創業 1968(昭和43)年 ▲業種 ビル・マンション改修・保全修理事業、空調・冷暖房・給排水・消防設備事業、バイオ事業 ▲従業員数 41人(うち正規従業員数34人) (60歳以上男女内訳) 男性(6人)、女性(0人) (年齢内訳) 60〜64歳 3人(7.3%) 65〜69歳 2人(4.8%) 70歳以上 1人(2.4%) ▲定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員を70歳まで継続雇用。70歳以降も一定の条件で制限なく雇用延長する  「北の大地」といわれる北海道は、面積が8万3450km2と広大で、国土の約5分の1を占めています。四方を太平洋、日本海、オホーツク海に囲まれ、雄大な山岳、広大な湿原、美しい景観の天然湖沼(こしょう)などにより形成されています。  北海道の産業は、広大で豊かな自然環境を活かした第一次産業が有名です。十勝(とかち)平野を中心とした畑作、石狩・上川地方を中心とした稲作、道東地方を中心とした酪農業、函館や根室、釧路、オホーツク沿岸などを中心とした漁業、道北地域の林業などが盛んです。  生産量全国1位を誇る産業は多岐にわたり、畑作物では小麦、大豆、ジャガイモ(馬鈴しょ)、テンサイ、タマネギ、カボチャ、スイートコーン、農畜産物は生乳や牛肉、羊肉、水産物はホタテガイ、スケトウダラ、サケ、サンマ、コンブがあり、日本最大の食料供給地域として重要な役割を果たしています。  第2次産業では、食料品、パルプ・紙の製造が盛んです。第3次産業では、多彩で豊富な観光資源が魅力です。札幌の時計台や函館の夜景、小樽運河、旭山動物園などの観光スポットのほか、世界遺産、国立公園になっている自然の景勝地を有しています。また、北海道は「温泉天国」とも称されており、個性のある泉質、豊富な湯量、自然の眺望が特長。人気の温泉郷が多く点在しています。  当機構の北海道支部高齢・障害者業務課の荒川賢一課長は、「若年者は北海道最大の都市である札幌に一極集中の傾向が強く、札幌圏以外は労働力が不足しており、事業の継続には高齢者の雇用が不可欠な状況です」と説明します。  同課の取組みについては、「提案内容の充実に向け、65歳超雇用推進プランナーおよび高年齢者雇用アドバイザーの連絡調整会議を活用し、情報交換をしています。グループディスカッションを実施したり、当機構本部から高年齢者雇用ゼネラルアドバイザー※1を招き研修会を開いたりして、相談・助言活動のレベルアップを図っています」と話します。  北海道は移動距離が長く、最も遠い訪問エリアの場合は往復距離が500qに達し、東京〜大阪間に匹敵するとのこと。また、冬季は積雪で移動がたいへんなため、遠方の企業は雪のない時期に訪問するよう調整しているそうです。  今回は、同支部で活躍するプランナー・前嶋靖(やすし)さんの案内で、「央幸設備工業株式会社」を訪れました。 小さくても一人ひとりの個性が強い会社  央幸設備工業株式会社は、尾北(おきた)紀靖(のりやす)代表取締役長が1968(昭和43)年に設立したビル・マンション改修・保全修理事業と、空調・衛生・水道設備事業を展開する設備会社です。官公庁などの発注者から直接仕事を請け負い、札幌市とその近郊を中心に施工実績を重ねてきました。  取引先は官公庁と民間が半々の割合で、改修工事のウエイトが高い点が特徴です。改修工事は新築より施工期間が短いため利益率が高く、同社の安定的な経営につながっています。  尾北社長は、「中小企業の特徴を活かし小回りの利いた事業展開で、大手と差別化を図ってきました。非現実的なことを目ざすのではなく、現実を確認し、経営方針でもある『小さくても強い会社』、つまり、社員一人ひとりが持つ能力を活かした、個々が強い会社を目ざしてきました」と語ります。  2004(平成16)年からは、新たに霊芝(れいし)(マンネンタケ)の培養・栽培に着手し、霊芝を使ったサプリメントの製造を開始しました。霊芝は古くから健康食材として知られているキノコですが、人工栽培が非常にむずかしく、水、光、温度などを最適に保った栽培室のなかで長期栽培をしなくてはなりません。設備工事を専門としていた央幸設備工業であれば、最適な環境設備を備えられると考え、バイオ事業に参入しました。  2011年には「株式会社北海道霊芝」を設立し、生産から流通まで自社で行うシステムを構築。2015年には美唄(びばい)市の廃校舎に最新設備を導入し、一貫生産工程を実現して、製品の大量生産を可能にしました。 「雇用力チェックリスト」を活用しよりよい制度へ  央幸設備工業は、2017年11月に定年年齢を60歳から65歳に引き上げました。あわせて、希望者全員を再雇用する継続雇用制度の年齢上限を65歳から70歳に延長し、70歳以降も本人が希望し、会社も業務上特に必要と認めたときは、年齢上限を超えても雇用可能な制度としています。  前嶋プランナーは、同社の取組みについて、「高齢者雇用に積極的に取り組んでおり、雇用制度の改善以外にも、教育訓練休暇制度、セルフ・キャリアドック※2制度、人事評価制度、能力開発施策の改善、人事労務研修などキャリア教育の充実や研修にも取り組まれています。高齢従業員が各自のライフスタイルに合わせ、活き活きと働き続ける姿は、若手従業員のよい手本となっています」と話します。そこで、前嶋プランナーは当機構の「高年齢者雇用開発コンテスト※3」の応募を提案するとともに、企業診断システムの雇用力チェックリストを活用し、水準より下回った項目についての対応策についてアドバイスを行いました。  「そのほか、同社では、地域貢献事業にも積極的に取り組まれています。これらの取組みが評価され、2019年度高年齢者雇用開発コンテストで理事長表彰特別賞を受賞しました」と前嶋プランナーは続けます。  今回は、同社で65歳を超えても役職者として会社を牽引(けんいん)するお2人に話を聞きました。 定年後も主力として会社を牽引  村上豊さん(74歳)は、工事部長として、同社が請け負う工事の進行状況を確認しながら、工事積算、現場管理、工程・原価・品質・安全管理およびビルやマンション施主との交渉・打合せなど、幅広い業務を行っています。大手設備会社勤務を経て、50歳のときに央幸設備工業に入社しました。「ものづくりが好きなことがありますし、これまでつちかった技術が活かせることが喜びです」と話します。  以前の大手設備会社では、観光ホテルや病院など新築物件の建設工事がほとんどでしたが、いまは改修工事がメインです。「改修工事のむずかしさは、居住者の生活機能を活かしながら、工事を進めなければならない点です。住民の方々に満足してもらうことと、トラブルなくスムーズに工事を行うことを心がけています」と仕事に臨む姿勢について話してくれました。尾北社長は「オーナーと話し合って調整することが求められるので、交渉力が必要な仕事です。村上部長はオーナーからの評判も高く、弊社にとって大事な戦力です」と村上さんを高く評価しています。  廃校になった小学校を活用した霊芝の一貫生産工場は、村上さんが立ち上げを任され、機械設備、配管設備の設置を一手ににないました。敷地面積4万u、建物床面積3千uと大規模な施設です。村上さんは、本社がある札幌市から60q離れた美唄市に家族と移り住み、立ち上げに従事しました。規模の大きさもさることながら、地元町内会の人々との交渉なども必要な仕事でした。村上さんが心を砕いて交渉にあたったかいがあり、無事に工事を終え、いまも町内会の人々と友好な関係を築いているそうです。  「体調管理のため残業はせず、有給休暇を上手に使って体を休ませながら働くようにしています」とのこと。「体が動く間は、80歳までは働きたい。働き方のロールモデルの一つになれたらいいですね」と、今後の抱負を語ってくれました。  中川倉四郎(そうしろう)さん(69歳)は、同社に58歳のときに転職してきました。1年ほど前から主に積算を担当しています。積算とは設計図や仕様書から材料や数量を算出して、必要な工事費を見積もる業務。予算内で改修させるために、最適な方法やアイデアが求められます。工事が受注できるかどうかを左右する、大きな責任をともなう仕事です。尾北社長は「積算以外にも社内検査や、現場管理者のフォローも担当してもらっています。中川さんのように多くの経験を積んでいると、すべての仕事がこれまでの集大成だと思います。その仕事ぶりをどんどん後進に示してほしい」と話します。  中川さんは、同社の業務について「一つとして同じ現場はありません」と話します。一つひとつ異なるニーズや状況に合わせて臨機応変に対応しなくてはならず、それがやりがいになっているのです。「規模の大きさは、実は重要ではなくて、小さくても最新の技術が凝縮された、質の高さを求められる現場もあります。やればやるほどこだわりが生まれる、奥が深い仕事です」と語りながら、ジャンパーの胸ポケットから「設備手帳」を取り出しました。建築設備施工に必要な規格、製品仕様などの情報が記載されたハンドブックで、会社から配付されているものです。出先でもすぐ確認できるよう、いつもポケットに入れて持ち歩いているそうです。  「気持ちは、いつまでも新人のまま。毎日成長したいと思いながら仕事をしています」と話す中川さん。仕事に対してとても意欲的で、「競合企業に勝って工事案件を増やしていくためにも、今後はだれもが参考にできるマニュアルづくりに着手しなくてはならない」と、使命感を持っています。そのマニュアルは、中川さんの長年のノウハウを詰め込んだものになりそうです。  尾北社長は、「働きやすい環境と働きがいを感じる職場にすることで、1年でも長く働きたいという気持ちを持ってもらいたいと考えています。そのような職場では、仕事の効率が上がり、生産性の向上につながっていると実感しています」と力強く語りました。 (取材・西村玲) ※1 高年齢者雇用ゼネラルアドバイザー……高年齢者雇用に関する専門的・技術的な知識や、相談・援助スキルをもち、全国のプランナーやアドバイザーに指導・助言等を行う ※2 セルフ・キャリアドック……企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様な研修などを組み合わせて、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取組み ※3 高年齢者雇用開発コンテスト……高年齢者に意欲と能力があるかぎり働き続けられる職場づくりに関するアイデアの普及を目的に、高齢者雇用に関する創意工夫を行った職場改善事例や、実際の働き方などの工夫の事例を募集し表彰するもの。当機構と厚生労働省が主催している 前嶋靖プランナー(57 歳) アドバイザー・プランナー歴:9年 [前嶋プランナーから] 「事業者の話をていねいに聞き、話しやすい雰囲気づくりを心がけています。社会保険労務士、中小企業診断士、キャリア・コンサルティング技能士としての資格を活かし、教育訓練・能力開発、健康・安全衛生管理、人事労務管理など幅広い相談・助言を行っています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆同課の荒川課長は、前嶋プランナーについて「2011(平成23)年から高年齢者雇用アドバイザーとして活動しています。アプローチ企業数も多く、提案件数も当支部でトップクラス。以前訪問した事業所から『再度相談にのってほしい』とのオファーも多く、事業所から絶大な信頼を得ています。また、当機構が行うイベントでは基調講演を担当してもらうなど、当支部には欠かせないプランナーの一人です」と話します。 ◆当課はJR札幌駅から2駅目のJR琴似(ことに)駅から徒歩5 分、地下鉄琴似駅から徒歩8分と好立地なポリテクセンター北海道内にあります。地域の中心に明治の屯田兵(とんでんへい)村時代から栄える琴似本通りがあり、医療機関や銀行やホテル、飲食店などが林立する札幌市内有数の繁華街に立地しています。 ◆プランナー21人、アドバイザー6人の計27人が在籍しています。2019年度は制度改善の提案を約500件、訪問を約1600件行いました。 ◆相談・助言を無料で実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●北海道支部高齢・障害者業務課 住所:北海道札幌市西区二十四軒4条1-4-1 ポリテクセンター北海道内 電話:011(622)3351 写真のキャプション 北海道札幌市 本社 尾北紀靖代表取締役社長 資料を確認する村上豊さん 積算業務を行う中川倉四郎さん 【P40-43】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第24回 ハラスメント関連指針の改正、変形労働時間制 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永勲 Q1 ハラスメント関連指針の改正内容について知りたい  労働施策総合推進法が改正されパワーハラスメントの防止が求められるようになったほか、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法なども一斉に改正され、ハラスメント関連の指針も改められたとのことです。  これまでの法律とどのような違いがあるのでしょうか。企業において準備しなければならない事項は、具体的にはどのような内容になるのでしょうか。 A  労働施策総合推進法によりパワーハラスメントの防止が法制化された点は重要な改正であり、そのほかの法律との整合性も意識されています。  新しい指針については、各種ハラスメントの防止に関する指針の内容の整合性を整理し、防止のためにあるべき姿を明確にしたことに意義があるといえるでしょう。  企業においては、ハラスメント防止のために、方針の明確化、就業規則の整備、相談窓口の設置などの対応が求められることになります。 1 労働施策総合推進法の改正について  昨年、ハラスメントの防止に関連して、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(旧「雇用対策法」、以下「労働施策総合推進法」)が改正されました。  この法律では、長時間労働の防止やワークライフバランスを図ること(同法6条1項)、求人などの人材募集においても年齢によらない均等な機会をあたえること(同法9条)など、雇用において生じるさまざまな問題に対する基本方針のようなものが定められています。  今回の改正では、パワーハラスメントの防止措置に関して、事業主の義務として明記されることになりました。  改正労働施策総合推進法30条の2第1項では、「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」とされ、当該規定に基づく対応として、「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」と「その他の雇用管理上必要な措置」を準備することが必要となります。また、同条第2項においては、「事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」とも定められており、セクシュアルハラスメントやマタニティハラスメントと同様に、不利益取扱いの禁止も定められました。  「当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」を講じることについて、同様の規定が男女雇用機会均等法11条や育児・介護休業法25条にも定められており、これで、主なハラスメントの防止措置に関する規定がそろったことになります。 2 ハラスメント防止措置違反に対する制裁について  パワーハラスメントの防止措置の整備状況に関しては、厚生労働大臣が必要な事項について報告を求めることができ(改正労働施策総合推進法36条第1項)、当該報告に応じなかった場合や、虚偽の報告をした場合には20万円以下の罰金に処するものとされています。  しかしながら、近年では、制裁としては罰金よりも、違反者に対する是正勧告に従わなかった場合に行われる企業名公表の方が重大かもしれません(同法33条第2項)。企業名公表の制度は、セクシュアルハラスメントやマタニティハラスメントに関しても採用されており(男女雇用機会均等法30条及び育児・介護休業法56 条の2)、違反者に対する行政上の制裁として確立してきています。  企業名公表は、企業が労働関連法を順守していないことを世間に知らしめることになるため、最も影響を受けるのは求人活動であると考えられます。労働関連法を順守していないことは、採用に大きな悪影響を与えることにつながるため、事業活動に支障が生じるおそれがあります。 3 ハラスメント防止指針について  各種ハラスメントの防止指針は、令和2年厚生労働省告示第5号および第6号として定められました。  細かい点は、それぞれのハラスメントの特性に応じて異なる点もありますが、事業主の責務として求められる内容は共通しています。  まず、@事業主の方針の明確化とその周知・啓発があげられています。基本的には、社内におけるハラスメントを禁止すること、違反に対して厳正に対処する旨のトップメッセージを発信し、社内報など社内での公表などの措置により周知することが考えられます。また、就業規則における服務規律や懲戒処分の規定を整備しておくこともあわせて実施する必要があります。  次に、A相談や苦情に対応する体制の整備が必要です。実際には相談窓口を設置し、窓口の利用に関して周知することになるでしょう。また、相談対応を行う人員についても研修が必要ですが、負担が大きい場合には、例えば、法律事務所などの外部窓口へ委託する方法も採用できます。  さらに、B発覚した後の迅速かつ適切な対応が必要です。なかでも、迅速さをないがしろにすると被害の拡大につながるため注意が必要です。適切な対応とは、(1)事実関係の正確な把握、(2)被害者への配慮が行われること、(3)事実確認後必要に応じて行為者に対する処分などの措置を実施すること、(4)組織内における再発防止策を実施することなどがその内容となっています。  最後に、C各措置においてプライバシーへの配慮が行き届いていることが必要です。相談者や行為者の情報はプライバシーとして保護されるべき対象と考えられています。このことは、正確な事実関係を把握するまで、加害者と指摘された労働者も、実際に加害行為を行ったのか否か不明であることを前提にしなければならないということでもあります。また、相談者の情報を開示することがハラスメントをエスカレートさせるおそれもあることから、状況によっては相談者を具体的に開示することなく対応するケースも生じることが想定されます。 4 望ましい対応について  指針には、順守すべき内容に加えて、望ましい対応もあわせて示されています。一つは、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメントやマタニティハラスメント対応の窓口を一元化することです。  ほかにも、ハラスメント予防のために、感情をコントロールする手法やコミュニケーションスキルアップの研修を行うこと、マネジメントや指導についての研修を実施することなどもあげられています。  また、雇用という関係の外にある場面についても言及されており、インターンシップなど、まだ雇用に至っていない人間関係や、業務委託関係にある個人事業主などもハラスメントが望ましくないことは前提とされています。  さらには、顧客などからの著しい迷惑行為や、取引先であるほかの事業主との関係にまで言及されており、いわゆるカスタマーハラスメントなどまで想定された内容となっています。  以上の、望ましい内容については、法令上の拘束力まで及ぼす趣旨ではないと考えられますが、労働環境の整備にあたっては重要な視点であると思われます。 Q2 変形労働時間制とはどのような制度なのか知りたい  働き方改革により労働時間の抑制やフレキシブルな労働時間制度の採用が望まれているようですが、変形労働時間制とはどのような制度なのでしょうか。導入のためには、どのような手続きが必要なのでしょうか。 A  1カ月以内の単位の変形労働時間制と、1年以内の単位の変形労働時間制があります。それぞれ、事業内容などに応じて使い分けることで、労働時間を柔軟化することが可能です。  導入には、1カ月単位の変形労働時間制の場合は就業規則または労使協定の締結、1年単位の変形労働時間制の場合は労使協定の締結が必要です。なお、締結した労使協定は労働基準監督署へ届け出ることになります。  対象期間、労働日、労働時間を特定して定めておかなければ、変形労働時間制の適用が否定されることがあるため注意が必要です。 1 変形労働時間制の種類  労働時間制度は、1日8時間以内、かつ、1週間40時間以内とすることが原則とされており、これを超えるためには、36サブロク協定の締結が必要であり(労働基準法36条)、法定の労働時間を超えた場合には時間外割増賃金を支払う義務が使用者に生じます。  しかしながら、原則通りのルールのみでは、例えば、週に1日集中して業務にあたった方が労働者にとっても効率のよい業務があったとしても、1日12時間労働したうえで、翌日は午後出社して4時間勤務をした場合(2日間で16時間労働)でも、4時間分の時間外割増賃金が発生することになります。  とすると、時間外割増賃金が発生することを回避したい使用者からすれば、8時間勤務の維持を望むことから、労働者にとっては都合のよい働き方を選択しづらくなってしまいます。  このような場合の例外的な制度として、変形労働時間制が用意されています。  例えば、前記の例示のようなケースであれば、1カ月単位の変形労働時間制を採用することで、時間外労働時間を抑制することが可能です。すなわち、一定の期間を単位として定めることで、その範囲内において、1日または1週単位における労働時間の制限が緩和されることで、時間外労働としては扱われなくなります。 2 導入の手続きについて  1カ月単位の変形労働時間制を導入する場合は、就業規則に規定を設けるか、過半数以上の労働者から選出した労働者代表(過半数以上の労働者で組成する労働組合でもかまいません。以下、「過半数代表者」)との間で締結する労使協定によることもできます。  一方で、1年単位の変形労働時間制を導入する場合は、過半数代表者との間で労使協定を締結することが必須です。なお、この場合でも、始業時間と終業時間については、就業規則に規定しておく必要があります。  いずれの場合であっても、労使協定を締結した場合には、労働基準監督署へ届け出ることになります。  変形労働時間制を導入するためには、対象労働者、対象期間と起算日、労働日と労働日ごとの労働時間、労使協定の有効期間などを定める必要があります。 3 対象とする期間や労働日、労働時間の特定について  変形労働時間制を導入するための要件のなかでも、注意が必要とされるのが、対象期間と起算日や労働日の所定労働時間の特定です。  過去にこの点が争点となった事件で、就業規則等において、「業務の都合により四週間ないし一箇月を通じ、一週平均三八時間以内の範囲内で就業させることがある」旨が定められていた事案において、「一箇月単位の変形労働時間制…(略)…は、法定労働時間の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において一週の法定労働時間を、又は特定された日において一日の法定労働時間を超えて労働させることができるというものであり、この規定が適用されるためには、単位期間内の各週、各日の所定労働時間を就業規則において特定する必要があるものと解される」として、各週、各日の所定労働時間を特定されていないことを理由に、変形労働時間制の適用が否定されました(最高裁平成14年2月28日判決〈大星ビル管理事件・上告審〉)。  対象期間と起算日、所定労働時間については、変形労働時間制の単位期間が始まる前に、シフト表やカレンダーなどで指定されて特定することが一般的に行われていますが、これらは変形労働時間制適用の前提となるものであるため、非常に重要であるということは認識しておくべきでしょう。労働日の特定については、1カ月単位の変形労働時間制の場合は、対象期間の前日までに、一方、1年単位の変形労働時間制の場合は、対象期間を1カ月以上の期間に区分して、当該区分した期間の初日から30日以上前までに、過半数代表者と同意して特定する必要があるとされています。 4 使い分けの判断について  1カ月単位の変形労働時間制は、1カ月のなかで、繁閑(はんかん)の差があるような企業においては、メリハリのある労働時間の配分のために採用する余地があります。  一方で、1年単位の変形労働時間制については、1年間を通じた、労働時間の調整も一定程度可能となります。季節ごとに繁閑差があるような企業において採用することが適切といえるでしょう。1年単位の変形労働時間制において、労働時間の調整が一定程度にとどまる理由は、1日単位の労働時間は最大10時間、1週間単位の労働時間は最大52時間とされ、3カ月を超える単位としている場合には、週の労働時間が48時間を超える週を連続させるのは3週以下、3カ月ごとの各期間において週の労働時間が48時間を超える週は3回以下といった上限規制があるため、純粋に年間の労働時間全体で調整できるわけではないからです。  なお、対象期間の特定などがむずかしい場合には、フレックスタイム制の採用を検討することになります。 【P44-45】  高齢者が毎日イキイキと働くためには、「疲労回復」の視点を持つことも重要になります。この連載では、「疲労回復」をキーワードに、“身体と心の疲労回復”のために効果的な手法を科学的な根拠にもとづき紹介します。 科学の視点で読み解く 身体と心の疲労回復 国立研究開発法人理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム プログラムディレクター 渡辺(わたなべ)恭良(やすよし) 最終回 「健康関数」と「総合的健康度ポジショニングマップ」 「健康度」の表し方  私たちが自分の健康の度合いを表現するときは「〇〇病の疑いが少ないから(健康に近い)」という意味の表現をすることが多いと思います。例えば、「血液がさらさらである」は、動脈硬化や心筋梗塞(しんきんこうそく)、脳卒中などのリスクが低いので「健康に近い」ことを意味しますし、「空腹時血糖値が高くなく、食後の血糖値の上昇が比較的短時間で下がる」は、糖尿病になる兆候が少ないので「健康に近い」という意味になるでしょう。最近話題となっている、「ロコモーティブ症候群※1」や「サルコペニア※2」の疑いが小さければ、「筋力や筋肉量が保たれている」とか、「関節の可動域に問題ない」という望ましい健康状態にあるという意味となります。  一方で、みなさんの健康は、糖尿病や動脈硬化症などの生活習慣病、がん、認知症、サルコペニア、肝臓疾患、腎臓疾患、循環器疾患などの疾病ごとに、医学の専門家が健康リスクを評価しています。つまり、疾病ごとのリスク評価は存在します。しかし、検査正常値域の範囲にある人の健康の度合いを総体として表す指標は、まだ確立されていません。こうした指標は、高齢になって無理なく働き続けるための目安にもなるでしょう。筆者は、このような指標を「総合的健康度ポジショニングマップ」(図表)と呼んでいます。  読者のなかには、定期健康診断の結果によって、働く人の健康度がわかるのではないかという人がいると思います。職場の健康診断は、主要な疾患の発症リスクを把握するための検査です。主要な疾患の早期発見や予防策としては重要ですが、ある人の総合的な健康度を示すことはできないのです。 健康度を可視化するための取組み  そこで筆者らの研究チームでは、健康度を可視化して表現する技術の開発に取り組みました。筆者オリジナルのコンセプトで、「健康関数」といいます。漠然としている健康度を、「健康」〜「未病」〜「疾病」などの切れ目のない段階によって、連続して示すことを目ざしています。  実は、健康関数は、この連載で紹介してきた、筆者らの疲労に関する研究に端を発しています。疲労が蓄積し、そのシグナルを受け取ることで私たちは身体の調子が悪いことを知るというメカニズムを、健康度の指標に活用しようと考えました。  筆者らの研究チームでは、1000人を対象に242項目にわたる健康計測を実施しました。242項目の検査データは、最終的に76項目に絞り込み、そのデータセットをもとに、X・Y軸上に健康度をプロットする「総合的健康度ポジショニングマップ」を作成しました(図表)。これらの一連のプロセスを数式化したのが、健康関数といわれるものです。 健康度を知ることの意義  それぞれの人に合った健康維持や予防対策を行うためには、まず健康度を知る必要があります。同じ年齢で同じような生活を送っている人たちのなかで、自分の健康度がどの位置にあるのか、科学的な根拠を示すための指標が必要だと考えられます。「総合的健康度ポジショニングマップ」は、そのための指標になります。  自分の健康度がマップ上でわかると、健康のために何かやるべきことがあるのかというのが次のステップになります。実際、健康関数の研究・調査を行ってきて、およそ25%の人において健康が損なわれるリスクが高いことがわかりました。病気の発症を未然に防ぐためには、医療の側面からは、こうした人たちには精密検査により、早期の医療的な介入を受けることが有効と考えられます。それ以外の人たちには定期的な運動や毎日の食事の改善、サプリメントの活用などのような行動を起こさせるために個別にアドバイスを行うことも課題になります。また、健康情報の取扱いには十分留意する必要がありますが、将来的には企業の人事労務担当者にも働く人の健康度を共有していただき、従業員の健康の保持増進に活用していただくことができるかもしれません。  健康度ポジショニングマップ作成時の課題としては、当初は242項目を計測したため1人4時間程度の検査時間を要しました。頻繁(ひんぱん)に健康度を知って、行動変容につなげていくためには、より簡単に計測できるようにして、検査コストも抑えていく必要があります。そこで、項目を絞り込んで、現在では、1時間程度で検査できるようになりました。  この研究には、成果を研究レベルにとどめることなく、多くの人の健康の保持増進につなげてもらうために、新たなヘルスケアサービスを開発しようとする、数多くの企業にも参画してもらいました。研究プログラムは2020年3月で終了しましたが、ヘルスケア産業にかかわる多くの企業が、筆者らが提唱する健康関数を活用して新たなサービス開発に取り組んでいくことを期待したいと思います。 わたなべ・やすよし 京都大学大学院医学研究科博士課程修了、大阪医科大学医学部・講師、大阪バイオサイエンス研究所・研究部長、大阪市立大学大学院医学研究科・教授、理化学研究所分子イメージング科学研究センター・センター長、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター・センター長、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター所長等を歴任し、現在は、理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム・プログラムディレクター、理化学研究所生命機能科学研究センター・チームリーダー、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター・顧問を兼任。日本疲労学会・理事長。 ※1 ロコモーティブ症候群……身体活動をになう筋・骨格・神経系などの運動器の障害により要介護になるリスクの高い状態になること ※2 サルコペニア……筋肉量が減少して筋力低下や身体機能低下をきたした状態 図表 総合的健康度ポジショニングマップ(一例) 一点一点が各個人の位置を表します。左下の位置の人がより健康度が高く、右上の位置に属する人が健康を損なうリスクが高く、このデータでは、3種類のリスク群があることがわかります。 若年-壮年 メンタルヘルス 疾患リスク群 中年-老年 生活習慣病リスク群 老年 糖尿病リスク群 健康関数 Y= 0.53×[指標I] ★ +0.40×[指標J] ★ +0.34×[指標K] ★ +0.33×[指標L] ★ +0.25×[指標M] ★ +0.21×[指標N] ★ +0.20×[指標O] ★ +0.20×[血液成分D] +0.20×[血液成分C] +0.18×[血液成分K] +0.13×[血液成分G] +0.11×[血液成分@] +0.08×[血液成分L] +0.04×[血液成分M] +0.07×[血液成分N] +0.12×[指標P] ★ +0.15×[指標Q] ★ +0.16×[指標R] ★ +0.18×[指標S] ★ +0.22×[指標21] ★ +0.31×[指標22] ★ +…… ★血液検査以外の項目 健康関数X= 0.53×[指標@] ★ 0.40×[指標A] ★ + 0.34×[指標B] ★ + 0.33×[指標C] ★ + 0.25×[指標D] ★ + 0.21×[血液成分@] + 0.20×[血液成分A] + 0.20×[血液成分B] + 0.18×[血液成分C] + 0.13×[血液成分D] + 0.12×[血液成分E] + 0.08×[血液成分F] + 0.04×[血液成分G] + 0.07×[血液成分H] + 0.12×[指標E] ★ + 0.15×[血液成分I] + 0.16×[指標F] ★ + 0.18×[指標G] ★ + 0.22×[指標H] ★ + 0.31×[血液成分J] + …… + 作成:筆者 【P46-47】 発刊のご案内 60歳以降も戦力として活躍してもらうために 『45歳からのキャリア研修―まよったら、まずやってみよう』 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 アンケート調査をもとに中高年のキャリア研修について分析  就業者の5人に1人が60歳以上の高齢者となる時代を迎え、高齢社員が企業全体に与える影響は、今後ますます大きくなることが予想されます。  高齢になると、自身の健康状態や家族の介護の問題などもあり、働き方に対するニーズが現役世代以上に多様化してきます。このようななかで、高齢社員を戦力化し、その活躍をうながしていくためには、高齢社員が働きやすい制度・職場環境を整えていくことはもちろんのこと、「キャリア研修」を通して、働き手である一人ひとりが、60歳以降を含む自らのキャリアについて考えていくことが必要です。  そこで、当機構では、中高年齢者を対象としたキャリア研修の効果などを解説した冊子、『45歳からのキャリア研修―まよったら、まずやってみよう』を作成・公開しました。  同冊子は、キャリア研修を受講したことのある50〜64歳の労働者1977人を対象に行った、キャリア研修に関するアンケート調査結果をまとめ、分析したものです。図表を豊富に掲載し、キャリア研修の実施方法や効果などについて分析するとともに、「定年制度、継続雇用制度と研修効果」、「大企業VS中小企業」などのテーマを設け、キャリア研修の効果についてさまざまな視点から解説しています。  今回は、その一部をご紹介します。 ◆40代後半で受講すると効果大  キャリア研修の受講年齢と研修効果について分析すると、50代よりも40代後半で受講した人の方が、キャリア意識や成長意欲などが高まる傾向にあることがわかりました。その一方で、40代後半の場合、定年が60歳だとしても10年以上の時間があることから、50代での受講と比べると60歳以降のことまでは考えられないという傾向もみられます。また、受講年齢にかかわらず、3割強の人が「もっと早く受講したかった」と回答しています。  これらのことから、キャリア研修の実施時期の決定にあたっては、40代後半以降、複数回実施することでさらなる効果が期待できること、40代以前を含む階層別研修などにおいて、キャリアについて考える要素を含めることなどを検討するとよいことがうかがえます。 ◆定年年齢が上がるほど研修効果が高まる  65歳までの雇用確保措置が義務づけられているとはいえ、定年廃止や定年延長、定年後再雇用制度など、その制度はさまざまです。そこで、キャリア研修と制度の関係について分析すると、定年年齢が高いほど研修効果が高いことがわかりました。また、継続雇用制度で働ける上限年齢と研修効果についてみてみると、65歳までより、上限年齢が66歳以上の方が研修効果が高くなっています。  もちろん、定年60歳、継続雇用制度の上限年齢65歳であっても、キャリア研修の効果はみられますので、すぐに雇用の上限年齢を延長できないという場合でも、キャリア研修を実施する意味は十分にあります。 ◆研修効果を高める上司とのディスカッション 研修の効果別に回答者を四つのグループ(「高効果」、「効果あり」、「低効果」、「効果なし」)に分けて分析したところ、高効果グループでは、5割の人が、研修後に上司と研修内容について話し合っていることがわかりました。  一方で、研修効果が低いグループほど、上司とのディスカッションがなかったと回答しており、研修受講後にキャリアについて上司とディスカッションすることで、効果が高まることが期待されます。 研修担当者に伝えたい「まよったら、まずやってみよう」  本冊子では、上記のように研修の効果についてさまざまな視点から分析しているほか、実施方法や研修時間、研修後のフォローアップなどについても調査しており、研修制度を設計するうえでも参考になる情報を多数掲載しています。また、今回の調査では、研修時間が長いほどよい、というわけではなく、キャリアについて考えることを主目的とした研修でなくとも、効果があることなどもわかりました。研修を実施するとなると、たいへんなこともあると思いますが、「まよったら、まずやってみよう」の姿勢で臨んでみてはいかがでしょうか。  『45歳からのキャリア研修―まよったら、まずやってみよう』は、当機構のホームページから無料でダウンロードできます。  ぜひご覧ください。 https://www.jeed.or.jp/elderly/data/pamphlet_company70/q2k4vk000002qbi0-att/q2k4vk000002rip6.pdf JEED 45歳からのキャリア研修 検索 写真のキャプション ▲図表を豊富に用いて、キャリア研修の効果などについてわかりやすく解説 【P48-51】 労務資料 第14回中高年者縦断調査 (中高年者の生活に関する継続調査)の概況 厚生労働省 政策統括官付参事官付世帯統計室  厚生労働省は、2005(平成17)年度から、団塊の世代を含む、全国の中高年者世代の男女を追跡して、その健康・就業・社会活動について、意識面・事実面の変化の過程を継続的に調査しています。このほど、第14回(2018年)の結果がまとまりましたので、「就業の状況」を中心にその結果を紹介します。  この第14回調査の対象者の年齢は63〜72歳(2005年10月末現在で50〜59歳の全国の男女)、調査の期日は2018年11月7日、調査対象は2万1587人、回収数は2万677人、回収率は95・8%でした。 (編集部) 就業の状況 (1)就業状況の変化  この13年間で、「正規の職員・従業員」の割合は減少、「パート・アルバイト」の割合はほぼ横ばい  2005年度の第1回調査から13年間の就業状況の変化をみると、「正規の職員・従業員」は、第1回38・4%から第14回4・5%と減少している。一方、「パート・アルバイト」は、第1回16・7%から第14回17・3%と、ほぼ横ばいの状況である(図表1)。  また、第1回で「仕事をしている」者について、性別に第14回の就業状況をみると、男の「(第1回)正規の職員・従業員」では「仕事をしていない」の45・7%が最も高く、次いで「パート・アルバイト」の17・1%、「労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託」の16・0%となっている。女の「(第1回)パート・アルバイト」では「仕事をしていない」の54・0%が最も高く、次いで「パート・アルバイト」の37・8%となっている(図表2)。 (2)65歳以上の就業状況  第1回調査時に「65歳以降仕事をしたい」と答えた者で、第14回で「仕事をしている」のは、男の「65〜69歳」で6割以上、「70〜72歳」で5割以上、女の「65〜69歳」で5割以上、「70〜72歳」で4割以上となっており、男では「自営業主、家族従業者」が、女では「パート・アルバイト」が最も高い  65歳以上の者のうち、第1回調査時(52〜59歳)に「65歳以降仕事をしたい」と答えた者について、性、年齢階級別に第14回で「仕事をしている」者の割合をみると、男の「65〜69歳」で66・2%、「70〜72歳」で54・5%、女の「65〜69歳」で54・1%、「70〜72歳」で44・8%となっており、いずれも女より男の方が高くなっている(図表3)。  また、第1回調査時に「65歳以降仕事をしたい」と答えた者で、第14回で「仕事をしている」者を、就業状況別にみると、「65〜69歳」「70〜72歳」とも、男は「自営業主、家族従業者」が、女は「パート・アルバイト」が最も高くなっている(図表4)。 余暇・社会参加活動の状況 (1)活動状況の変化とこころの状態  この13年間、「趣味・教養」「スポーツ・健康」または「地域行事」の活動を続けている者は、「第1回から活動していない」者と比べて、過去1カ月間に「神経過敏に感じた」ことなどが「まったくない」と答えた割合が高い  第1回調査から13年間の余暇・社会参加活動状況の変化をみると、「第1回から活動している」のは、「趣味・教養」が22・1%と最も高く、次いで「スポーツ・健康」15・8%、「地域行事」6・8%となっている(図表5)。  これら余暇・社会参加活動の六つのうち、活動の多い「趣味・教養」「スポーツ・健康」「地域行事」について、第14回のこころの状態(平成30年10月の1カ月間)別に、第1回からの活動状況の変化をみると、いずれのこころの状態でも「第1回から活動している」者の方が「第1回から活動していない」者より、「まったくない」と答えた割合が高くなっている。 (2)活動の有無と情報通信機器の使用状況  第14回調査で、携帯電話等の情報通信機器を「使用している」者は、余暇・社会参加活動の有無でみると「趣味・教養」「スポーツ・健康」などすべての項目で、「活動していない」者より「活動している」者の割合が高い  第14回調査の情報通信機器の使用状況をみると、「使用している」90・7%、「使用していない」8・3%であり、使用している機器は、「携帯電話」53・7%、「スマートフォン」39・1%、「パソコン」28・9%となっている。  また、情報通信機器を「使用している」と答えた者について、第14 回の余暇・社会参加活動の種類別に活動の有無でみると、「趣味・教養」「スポーツ・健康」「地域行事」「子育て支援・教育・文化」「高齢者支援」「その他の社会参加活動」のすべてで、「活動していない」者より「活動している」者の方が割合が高くなっている。 図表1 第1回調査から第14回調査までの就業状況の変化 第1回 自営業主、家族従業者 15.5% 会社・団体等の役員 4.7% 正規の職員・従業員 38.4% パート・アルバイト 16.7% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 3.8% 家庭での内職など、その他 仕事のかたち不詳 0.2% 仕事をしていない 18.5% 不詳 0.0% 第2回 自営業主、家族従業者 15.2% 会社・団体等の役員 4.9% 正規の職員・従業員 35.7% パート・アルバイト 17.4% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 4.3% 家庭での内職など、その他 仕事のかたち不詳 0.3% 仕事をしていない 19.7% 不詳 0.0% 第3回 自営業主、家族従業者 15.2% 会社・団体等の役員 4.7% 正規の職員・従業員 32.6% パート・アルバイト 17.3% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 5.8% 家庭での内職など、その他 仕事のかたち不詳 0.4% 仕事をしていない 21.5% 不詳 0.0% 第4回 自営業主、家族従業者 15.3% 会社・団体等の役員 4.5% 正規の職員・従業員 29.4% パート・アルバイト 17.5% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 6.9% 家庭での内職など、その他 仕事のかたち不詳 0.3% 仕事をしていない 23.6% 不詳 0.0% 第5回 自営業主、家族従業者 15.3% 会社・団体等の役員 4.2% 正規の職員・従業員 25.7% パート・アルバイト 16.9% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 7.8% 家庭での内職など、その他 仕事のかたち不詳 0.3% 仕事をしていない 27.4% 不詳 0.0% 第6回 自営業主、家族従業者 15.0% 会社・団体等の役員 4.3% 正規の職員・従業員 22.3% パート・アルバイト 17.4% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 8.3% 家庭での内職など、その他 仕事のかたち不詳 0.1% 仕事をしていない 30.3% 不詳 0.1% 第7回 自営業主、家族従業者 15.1% 会社・団体等の役員 4.0% 正規の職員・従業員 18.5% パート・アルバイト 17.1% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 9.2% 家庭での内職など、その他 仕事のかたち不詳 0.1% 仕事をしていない 33.3% 不詳 0.1% 第8回 自営業主、家族従業者 14.8% 会社・団体等の役員 4.0% 正規の職員・従業員 15.7% パート・アルバイト 17.1% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 9.2% 家庭での内職など、その他 仕事のかたち不詳 0.0% 仕事をしていない 36.2% 不詳 0.4% 第9回 自営業主、家族従業者 14.6% 会社・団体等の役員 3.8% 正規の職員・従業員 12.8% パート・アルバイト 17.5% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 9.1% 家庭での内職など、その他 仕事のかたち不詳 0.1% 仕事をしていない 39.2% 不詳 0.1% 第10回 自営業主、家族従業者 14.6% 会社・団体等の役員 3.9% 正規の職員・従業員 10.3% パート・アルバイト 17.5% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 9.4% 家庭での内職など、その他 仕事のかたち不詳 0.1% 仕事をしていない 41.5% 不詳 0.2% 第11回 自営業主、家族従業者 14.3% 会社・団体等の役員 3.7% 正規の職員・従業員 7.9% パート・アルバイト 17.7% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 9.1% 家庭での内職など、その他 仕事のかたち不詳 0.1% 仕事をしていない 44.3% 不詳 0.2% 第12回 自営業主、家族従業者 14.1% 会社・団体等の役員 3.6% 正規の職員・従業員 6.5% パート・アルバイト 17.8% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 8.7% 家庭での内職など、その他 仕事のかたち不詳 0.1% 仕事をしていない 46.6% 不詳 0.2% 第13回 自営業主、家族従業者 13.8% 会社・団体等の役員 3.5% 正規の職員・従業員 5.5% パート・アルバイト 17.5% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 7.8% 家庭での内職など、その他 仕事のかたち不詳 0.1% 仕事をしていない 49.2% 不詳 0.2% 第14回 自営業主、家族従業者 13.4% 会社・団体等の役員 3.1% 正規の職員・従業員 4.5% パート・アルバイト 17.3% 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 7.1% 家庭での内職など、その他 仕事のかたち不詳 0.1% 仕事をしていない 51.5% 不詳 0.3% 図表2 性、第1回調査の就業状況別にみた第14回調査の就業状況 (単位%) 第14回の仕事の有無・仕事のかたち 総数 仕事をしている 自営業主、家族従業者 会社・団体等の役員 正規の職員・従業員 パート・アルバイト 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 家庭での内職など、その他 仕事をしていない 性・第1回の仕事の有無・仕事のかたち 総数 (100.0)100.0 48.2 13.4 3.1 4.5 17.3 7.1 2.6 51.5 仕事をしている (81.5)100.0 56.3 15.9 3.8 5.4 19.6 8.6 2.9 43.5 仕事をしていない (18.5)100.0 12.5 2.5 0.3 0.6 6.9 0.6 1.5 87.0 男 (100.0)100.0 59.2 18.1 5.3 7.0 13.9 12.1 2.7 40.7 仕事をしている (95.1)100.0 61.2 18.8 5.5 7.3 14.2 12.5 2.7 38.7 自営業主、家族従業者 (18.7)100.0 82.1 67.0 3.3 2.2 4.7 2.4 2.3 17.8 会社・団体等の役員 (8.0)100.0 71.6 12.4 35.4 5.6 8.7 7.1 2.3 28.4 正規の職員・従業員 (61.1)100.0 54.2 6.2 2.8 9.4 17.1 16.0 2.4 45.7 パート・アルバイト (2.1)100.0 49.1 7.0 0.6 2.9 24.6 8.8 4.7 50.3 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 (3.8)100.0 56.0 7.9 0.3 5.4 18.0 20.9 3.5 44.0 家庭での内職など、その他 (1.3)100.0 57.4 11.1 0.9 3.7 15.7 9.3 16.7 42.6 仕事をしていない (4.9)100.0 21.2 4.2 0.7 2.5 8.6 2.7 2.5 78.1 女 (100.0)100.0 39.0 9.5 1.4 2.4 20.1 3.0 2.6 60.6 仕事をしている (70.1)100.0 50.9 12.6 1.8 3.3 25.8 4.1 3.2 48.9 自営業主、家族従業者 (12.9)100.0 70.8 55.8 2.4 0.9 8.1 1.0 2.6 28.9 会社・団体等の役員 (1.9)100.0 65.6 12.0 36.5 5.7 7.8 1.0 2.6 33.3 正規の職員・従業員 (19.4)100.0 45.2 2.7 1.0 8.4 22.8 7.4 2.9 54.6 パート・アルバイト (28.9)100.0 45.8 2.1 0.2 1.2 37.8 2.3 2.1 54.0 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 (3.8)100.0 51.5 2.1 0.8 2.1 29.0 15.0 2.4 48.5 家庭での内職など、その他 (3.0)100.0 41.5 6.0 - 1.0 14.6 2.0 17.6 57.5 仕事をしていない (29.9)100.0 11.3 2.2 0.3 0.3 6.7 0.3 1.4 88.2 注:総数には第1回及び第14回の仕事の有無・仕事のかたちの不詳を含む 図表3 性、年齢階級別にみた第1回調査時に「65歳以降仕事をしたい」と答えた者の第14回調査の仕事の有無 【男】 65〜69歳 不詳 0.1% 仕事をしていない 33.7% 仕事をしている 66.2% 70〜72歳 不詳 0.2% 仕事をしていない 45.3% 仕事をしている 54.5% 【女】 65〜69歳 仕事をしている 54.1% 仕事をしていない 45.7% 不詳 0.2% 70〜72歳 仕事をしている 44.8% 仕事をしていない 54.8% 不詳 0.5% 注:第14回で65歳以上の者を集計 図表4 性、年齢階級、第1回調査時の65歳以降の就業意欲別にみた第14回調査の65歳以上の者の就業状況 (単位%) 第14回の仕事の有無・仕事のかたち 総数 仕事をしている 自営業主、家族従業者 会社・団体等の役員 正規の職員・従業員 パート・アルバイト 労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託 家庭での内職など、その他 仕事をしていない 性・年齢階級・第1回の65歳以降の就業意欲 総数 (100.0)100.0 45.0 13.6 2.9 3.3 16.5 5.7 2.7 54.8 仕事をしたい (64.8)100.0 56.7 18.3 3.7 4.4 20.0 7.0 3.2 43.0 仕事をしたくない (32.1)100.0 22.1 4.3 1.5 1.3 10.0 3.3 1.7 77.6 男 (100.0)100.0 55.3 18.4 4.8 5.0 14.3 9.8 2.8 44.6 65〜69歳 (61.7)100.0 60.7 19.0 5.0 6.2 15.5 12.2 2.6 39.2 仕事をしたい (48.7)100.0 66.2 21.8 5.6 7.0 16.4 12.7 2.6 33.7 可能な限り仕事をしたい (30.9)100.0 68.2 25.5 5.6 7.3 15.1 11.9 2.8 31.7 一定の年齢まで仕事をしたい (17.8)100.0 62.8 15.3 5.8 6.5 18.5 14.1 2.4 37.2 仕事はしたくない (11.5)100.0 37.8 7.6 2.8 3.1 12.1 10.5 1.7 62.0 70〜72歳 (38.3)100.0 46.6 17.3 4.4 3.2 12.4 5.9 3.2 53.2 仕事をしたい (27.5)100.0 54.5 21.7 5.3 4.0 13.6 6.2 3.5 45.3 可能な限り仕事をしたい (17.3)100.0 58.0 25.6 4.4 3.8 14.2 6.0 3.8 41.9 一定の年齢まで仕事をしたい (10.2)100.0 48.6 15.0 6.8 4.4 12.6 6.5 3.1 51.0 仕事はしたくない (9.6)100.0 24.3 5.0 2.1 1.0 9.0 4.9 2.2 75.4 女 (100.0)100.0 36.2 9.5 1.3 1.9 18.4 2.3 2.7 63.4 65〜69歳 (61.3)100.0 40.2 9.5 1.4 2.4 21.3 3.0 2.7 59.6 仕事をしたい (34.6)100.0 54.1 13.6 1.6 3.1 28.2 3.9 3.5 45.7 可能な限り仕事をしたい (26.4)100.0 54.7 14.7 1.4 3.1 28.1 3.8 3.7 45.1 一定の年齢まで仕事をしたい (8.2)100.0 51.9 10.2 2.5 3.4 28.5 4.3 3.1 47.6 仕事はしたくない (24.7)100.0 21.5 3.6 1.1 1.3 12.2 1.8 1.5 78.4 70〜72歳 (38.7)100.0 29.9 9.6 1.3 1.1 13.9 1.2 2.6 69.5 仕事をしたい (20.5)100.0 44.8 15.2 1.7 1.8 20.5 1.9 3.4 54.8 可能な限り仕事をしたい (13.9)100.0 46.4 16.2 1.6 1.7 20.5 2.2 4.0 53.1 一定の年齢まで仕事をしたい (6.7)100.0 41.5 13.0 2.0 2.0 20.7 1.3 2.2 58.2 仕事はしたくない (16.6)100.0 12.6 3.1 1.0 0.4 5.9 0.4 1.7 86.9 注:1)第14回で65歳以上の者を集計   2)総数には第1回の65歳以降の就業意欲及び第14回の仕事の有無・仕事のかたちの不詳を含む 図表5 第1回調査から第14回調査までの余暇・社会参加活動状況の変化 趣味・教養 第1回から活動している 22.1% 第1回から活動していない 3.1% スポーツ・健康 第1回から活動している 15.8% 第1回から活動していない 8.4% 地域行事 第1回から活動している 6.8% 第1回から活動していない 14.9% 子育て支援・教育・文化 第1回から活動している 0.2% 第1回から活動していない 53.0% 高齢者支援 第1回から活動している 0.1% 第1回から活動していない 47.4% その他の社会参加活動 第1回から活動している 0.9% 第1回から活動していない 33.2% 注:第14回の総数を100とした時の割合である 【P52-55】 TOPIC 新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け) 厚生労働省ホームページより一部抜粋  新型コロナウイルス感染症をめぐり、企業においてもさまざまな状況に対応していくことが求められています。ここでは、厚生労働省がホームページ上に掲載している企業向けのQ&Aの一部を紹介します。(編集部) ※掲載している情報は3月11日時点のものです。最新の情報につきましては、厚生労働省ホームページ等をご確認ください。 労働者を休ませる場合の措置 1.休業させる場合の留意点 Q 新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。  新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、欠勤中の賃金の取り扱いについては、労使で十分に話し合っていただき、労使が協力して、労働者が安心して休暇を取得できる体制を整えていただくようお願いします。  なお、賃金の支払いの必要性の有無などについては、個別事案ごとに諸事情を総合的に勘案するべきですが、労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。 ※不可抗力による休業の場合は、使用者の責に帰すべき事由に当たらず、使用者に休業手当の支払義務はありません。ここでいう不可抗力とは、@その原因が事業の外部より発生した事故であること、A事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。例えば、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当する場合があり、休業手当の支払いが必要となることがあります。 2.感染した方を休業させる場合 Q 労働者が新型コロナウイルスに感染したため休業させる場合、休業手当はどのようにすべきですか  新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません。  なお、被用者保険に加入されている方であれば、要件を満たせば、各保険者から傷病手当金が支給されます。  具体的には、療養のために労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から、直近12カ月の平均の標準報酬日額の3分の2について、傷病手当金により補償されます。  具体的な申請手続き等の詳細については、加入する保険者に確認ください。 3.発熱などがある方の自主休業 Q 労働者が発熱などの症状があるため自主的に休んでいます。休業手当の支払いは必要ですか。  会社を休んでいただくよう呼びかけをさせていただいているところですが、新型コロナウイルスかどうか分からない時点で、発熱などの症状があるため労働者が自主的に休まれる場合は、通常の病欠と同様に取り扱っていただき、病気休暇制度を活用することなどが考えられます。  一方、例えば発熱などの症状があることのみをもって一律に労働者に休んでいただく措置をとる場合のように、使用者の自主的な判断で休業させる場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。 4.事業の休止に伴う休業 Q 新型コロナウイルス感染症によって、事業の休止などを余儀なくされ、やむを得ず休業とする場合等にどのようなことに心がければよいのでしょうか。  今回の新型コロナウイルス感染症により、事業の休止などを余儀なくされた場合において、労働者を休業させるときには、労使がよく話し合って労働者の不利益を回避するように努力することが大切です。  また、労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。休業手当の支払いについて、不可抗力による休業の場合は、使用者に休業手当の支払義務はありません。  具体的には、例えば、海外の取引先が新型コロナウイルス感染症を受け事業を休止したことに伴う事業の休止である場合には、当該取引先への依存の程度、他の代替手段の可能性、事業休止からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要があると考えられます。 5.年次有給休暇と病気休暇の取り扱い Q 新型コロナウイルスに感染している疑いのある労働者について、一律に年次有給休暇を取得したこととする取り扱いは、労働基準法上問題はありませんか。病気休暇を取得したこととする場合はどのようになりますか。  年次有給休暇は、原則として労働者の請求する時季に与えなければならないものなので、使用者が一方的に取得させることはできません。事業場で任意に設けられた病気休暇により対応する場合は、事業場の就業規則などの規定に照らし適切に取り扱ってください。  なお、使用者は、労働者が年次有給休暇を取得したことを理由として、賃金の減額その他不利益な取り扱いをしないようにしなければならないことにご留意ください。 6.パートタイム労働者等への適用について Q パートタイム労働者、派遣労働者、有期契約労働者などの方についても、休業手当の支払いや年次有給休暇の付与は必要でしょうか。  労働基準法上の労働者であれば、パートタイム労働者、派遣労働者、有期契約労働者など、多様な働き方で働く方も含めて、休業手当の支払いや年次有給休暇付与が必要となっております。  労使で十分に話し合い、労働者が安心して休暇を取得できる体制を整えていただくようお願いします。 7.外国人の労働者に対する労働基準法の適用 Q 労働者を休ませる場合の措置(休業手当、年次有給休暇など)は、外国人を雇用している場合でも適用されますか。  労働基準法の適用があるか否かに、外国人であるかは関係ありません。外国人の方であっても、労働基準法の労働者に当たる場合は、一定の要件を満たす場合には、労働基準法における休業手当の支払いを行っていただくとともに、労働者が年次有給休暇を請求した場合においては、原則として、労働者が請求する時季に与えなければならないものです。  なお、使用者においては、労働者が年次有給休暇を取得したことを理由として、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならないことにご留意ください。 労働時間 1.変形労働時間制の導入や変更 Q 新型コロナウイルス感染症の対策のため、イベントの中止や学校の休業、事業活動の閉鎖や縮小などの影響を受けて、労働時間が減少してしまうことや、休む従業員が増えたときに残りの従業員が多く働かないとならない事態が考えられます。その人達について、労働基準法の労働時間の上限を超えないようにするため、変形労働時間制を導入したり、変更したりするには どうしたらよいでしょうか。  労働基準法第32条の4においては、労使協定において、1年以内の変形期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えない範囲内で、1週に1回の休日が確保される等の条件を満たした上で、労働日及び労働時間を具体的に特定した場合、特定の週及び日に1日8時間・1週40時間の法定労働時間を超えて労働させることができるとされています。  今般の新型コロナウイルス感染症に関連して、人手不足のために労働時間が長くなる場合や、事業活動を縮小したために労働時間が短くなる場合については、1年単位の変形労働時間制を導入することが考えられます。  また、今回の新型コロナウイルス感染症対策により、1年単位の変形労働時間制を既に採用している事業場において、当初の予定どおりに1年単位の変形労働時間制を実施することが困難となる場合も想定されます。  1年単位の変形労働時間制は、対象期間中の業務の繁閑に計画的に対応するために対象期間を単位として適用されるものであるので、労使の合意によって対象期間の途中でその適用を中止することはできないと解されています。  しかしながら、今回の新型コロナウイルス感染症への対策による影響にかんがみれば、当初の予定どおりに1年単位の変形労働時間制を実施することが企業の経営上著しく不適当と認められる場合には、特例的に労使でよく話し合った上で、1年単位の変形労働時間制の労使協定について、労使で合意解約をしたり、あるいは協定中の破棄条項に従って解約し、改めて協定し直すことも可能と考えられます。  ただし、この場合であっても、解約までの期間を平均し、1週40時間を超えて労働させた時間について割増賃金を支払うなど協定の解約が労働者にとって不利になることのないよう留意が必要です。  1年単位の変形労働時間制の詳細については、こちらをご覧ください。 https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/040324-6a.pdf 2.36協定の特別条項 Q 36協定においては、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)には、限度時間(月45時間・年360時間)を超えることができるとされていますが、新型コロナウイルス感染症関連で、休む従業員が増えたときに残りの従業員が多く働くこととなった場合には、特別条項の対象となるのでしょうか。  告示においては、特別条項の運用について、「当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合をできる限り具体的に定めなければならず、『業務の都合上必要な場合』、『業務上やむを得ない場合』など恒常的な長時間労働を招くおそれがあるものを定めることは認められないことに留意しなければならない。」としているところです。  一方で、今般のコロナウイルス感染症の状況については、36協定の締結当時には想定し得ないものであると考えられるため、例えば、36協定の「臨時的に限度時間を超えて労働させることができる場合」に、繁忙の理由がコロナウイルス感染症とするものであることが、明記されていなくとも、一般的には、特別条項の理由として認められるものです。  なお、現在、特別条項を締結していない事業場においても、法定の手続を踏まえて労使の合意を行うことにより、特別条項付きの36協定を締結することが可能です。  36協定の締結の方法等については、こちらをご覧ください。  https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf  また、36協定等作成支援ツールを使えば、労働基準監督署に届出が可能な書面を作成することができます。 https://www.startup-roudou.mhlw.go.jp/support.html 3.労働基準法第33条の適用 Q 新型コロナウイルスの感染の防止や感染者の看護等のために労働者が働く場合、労働基準法第33条第1項の「災害その他避けることができない事由によって、臨時の必要がある場合」に該当するでしょうか。  ご質問については、新型コロナウイルスに関連した感染症への対策状況、当該労働の緊急性・必要性などを勘案して個別具体的に判断することになりますが、今回の新型コロナウイルスが指定感染症に定められており、一般に急病への対応は、人命・公益の保護の観点から急務と考えられるので、労働基準法第33条第1項の要件に該当し得るものと考えられます。  また、例えば、新型コロナウイルスの感染・蔓延を防ぐために必要なマスクや消毒液等を緊急に増産する業務についても、原則として同項の要件に該当するものと考えられます。  ただし、労働基準法第33条第1項に基づく時間外・休日労働はあくまで必要な限度の範囲内に限り認められるものですので、過重労働による健康障害を防止するため、実際の時間外労働時間を月45時間以内にするなどしていただくことが重要です。また、やむを得ず月に80時間を超える時間外・休日労働を行わせたことにより疲労の蓄積の認められる労働者に対しては、医師による面接指導などを実施し、適切な事後措置を講じる必要があります。 4.就業禁止の措置 Q 労働安全衛生法第68条に基づく病者の就業禁止の措置を講ずる必要はありますか。  2月1日づけで、新型コロナウイルス感染症が指定感染症として定められたことにより、労働者が新型コロナウイルスに感染していることが確認された場合は、感染症法に基づき、都道府県知事が該当する労働者に対して就業制限や入院の勧告等を行うことができることとなります。  使用者におかれましても、感染症法に基づき都道府県知事より入院の勧告を受けた労働者については、入院により就業できないことをご理解いただくとともに、都道府県知事により就業制限がかけられた労働者については、会社に就業させないようにしてください。  また、発熱等の風邪症状がみられる労働者については休みやすい環境の整備にご協力をお願いします。  なお、感染症法により就業制限を行う場合は、感染症法によることとして、労働安全衛生法第68条に基づく病者の就業禁止の措置の対象とはしません。 【P56-57】 BOOKS 高齢期になっても働き続ける女性の事例が満載 定年女子 60を過ぎて働くということ 岸本裕紀子(ゆきこ) 著/ 集英社(集英社文庫)/ 500円+税  本書は、2015年に刊行され、NHK(BSプレミアム)でドラマ化もされた『定年女子〜これからの仕事、生活、やりたいこと』の第2弾。前著から5年が経過し、著者自身も再雇用を終える年齢となったことから、定年後も働き続ける女性たちに新たにスポットを当て、働くことによって社会とかかわり続けている女性の生き方・働き方がまとめられている。  本書で取り上げられている女性は、非常に多様だ。「同じ組織で働き続ける人」もいれば、「新しいことに挑戦する人」、「専業主婦から就職を目ざす人」もいる。登場する女性の話を丹念に読めば、生涯現役で働き続けるためには、働くことに対する本人の強い意志が大切であることがわかるだろう。  一般読者向けに企画された書籍なので、本誌の読者にとって、高齢者雇用の現状や課題に言及している部分に目新しい情報は少ないかもしれない。しかし、地道な取材を積み重ねて収録した、高齢期まで働き続ける数多くの女性の声は、高齢女性の就労マインドを知りたい人事労務担当者にとって役に立つことだろう。本誌の連載「生涯現役で働くとは」を楽しみにしている読者にもおすすめしたい。 緊急時に適切な対応をするために、人事労務担当者の手元に置きたい一冊 自然災害時の労務管理の実務 労務行政研究所 編/ 労務行政/ 2800円+税  日本では近年、毎年のように地震や台風、集中豪雨などの自然災害が発生している。また、今年1月には、新型コロナウイルス感染症に対し、WHO(世界保健機関)が「緊急事態」を宣言するという世界規模の非常事態が生じた。  本書は、こうした事態への対応について、人事労務面から考えられる危機管理対策をはじめ、自然災害発生時の労務管理、災害に備えた社内体制・事業継続体制の整備、被災労働者の労働保険・社会保険の特例措置など、混乱時における実務対応の要点を、人事労務の視点から解説。想定される危機的事象の見直しから、危機管理対策文書のつくり方、社内外との適切なリスク・コミュニケーションの進め方などを具体的に説き、必要な準備を明らかにしている。  また、「災害時対応をめぐる実務Q&A」として、帰宅・通勤が困難な状況下における費用負担や休業手当などに関する留意点、緊急時対応をめぐる労働時間や賃金、そして災害によって負傷した場合の対応など、起こり得る21のケースに対する弁護士の解答を掲載している。  緊急時においても冷静に適切な対応ができるよう、人事労務担当者がいま、あらためて押さえておきたい知識や情報が詰まっている。 高齢期まで健康を保持・増進するために学んで理解し、実践したいこと スポーツでのばす健康寿命 科学で解き明かす運動と栄養の効果 深代(ふかしろ)千之(せんし)、安部(あべ)孝(たかし) 編/ 東京大学出版会/ 2800円+税  「平成30年簡易生命表」(厚生労働省)によると、日本人の平均寿命は、男性が81・25歳、女性が87・32歳となり、男女ともに過去最長を更新した。一方、『令和元年版高齢社会白書』によると、日常生活に制限のない期間(健康寿命)は、2016(平成28)年時点で男性が72・14年、女性が74・79年となり、2010年と比べて男女ともに延びている。しかし、要介護・要支援の認定者数は毎年増えており、健康寿命をいかに延ばすかが超高齢社会を生きるための大きな関心事であり、課題となっている。  本書は、健康を維持するために必要な運動と栄養の知識をまとめた一冊。しかし、一般的な健康書とは趣を異にしており、運動効果などを科学的根拠に基づいて説明しているので、「理屈を理解したうえで運動をしたい」という人向けであるところが特徴だ。例えば、身体の形態や機能の現状を把握するためのチェック方法や加齢による変化などを解説したうえで、実践としてのウォーキング、水中運動、筋力トレーニングなどの重要性や効果、具体例を紹介。また、肥満や高血圧、糖尿病などの予防と改善、食事と栄養についても解説している。健康を維持するために必要な知識が得られる良書である。 経験の浅い担当者でも理解が進む講義形式の入門書。働き方改革関連法にも対応 口述(こうじゅつ) 労働法入門 第3版 小西義よし博ひろ) 著/ 公益財団法人日本生産性本部 生産性労働情報センター/ 2000円+税  順次施行されつつある「働き方改革関連法」には、今年3月に中小企業に対する適用の猶予が終わる改正事項もある。このため、多くの企業で改正法への対応が進められていると推察されるが、この機会に、いま一度、自社の法改正対応状況を確認してみてはいかがだろうか。  法改正の対応状況を確認するには労働法の基本的な知識が必要になるが、通勤や仕事の合間、さらには就寝前の30分程度の時間に、気軽に手に取ってもらえるように「読む講義」として企画された本書は、比較的経験の浅い担当者向けの入門書として最適だと思われる。  タイトルに「口述」とあるのは、内容面でハードルが高くなりがちな法律の解説書を念頭に、口述調、つまり講義の再現を目ざしたことを表している。とはいえ、構成と内容には工夫が凝らされており、例えば、解説は平易な表現で統一され、法律の条文はできるだけ原文をそのまま引用。解説の理解を手助けする代表的な判例の要旨も紹介されている。ミニコラムは、本書を読み通す際の息抜きになるだろう。  大手企業で人事労務担当者を長年務め、現在は特定社会保険労務士として活躍している著者の経験と知識が活かされた好著である。 だれもが労働市場に参加しやすい環境づくりにつながる働き方を考える ちょっと気になる「働き方」の話 権丈(けんじょう)英子(えいこ) 著/ 勁草(けいそう)書房/ 2500円+税  生産年齢人口が大幅に減少し、労働力の希少性が増す「労働力希少社会」を迎えつつある日本。著者は、日本が「希少性が高まりゆく労働力をいかに有効に活用するかという方向性を模索する大きな動きの中にある」と認識する。そこで本書では、高齢者を含めた多様な人材が、無理なく労働市場に参加できる社会を実現するための環境づくりにつながる働き方について、近年の働き方改革やこれにともなう社会保障の動きなどを手がかりに詳細に検討している。  全体は大きく2部で構成されており、前半は、働き方改革の中心的な議論を、政策的な背景を含めて、わかりやすく解き明かしている。一方後半は、高齢者、女性、パートタイマーの雇用をめぐる現状と課題を整理するとともに、柔軟な働き方を活用して経済を回復に導いたオランダの雇用政策を概観している。  入門書らしく、いずれの章も平易な表現が心がけられており、最新のトピックスなどを取り上げた「知識補給」は各章の理解を手助けしてくれるだろう。充実した各種の索引は、人事労務担当者が必要に応じて本書を参照する際に役に立つ。これからの人事施策を検討する際に、ぜひ手に取ってほしい一冊だ。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「本体価格」(消費税を含まない価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「人生100年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議」報告書  厚生労働省は、「人生100年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議」(座長:城内(じょうない)博(ひろし)・日本大学理工学部特任教授)の報告書を公表した。  60歳以上の雇用が今後一層進むと予測されるなか、労働災害による休業4日以上の死傷者のうち、60歳以上の労働者の占める割合は26%(2018年)と増加傾向にある。こうした状況をふまえ、同有識者会議では、高齢者の身体機能についての長期的な推移や壮年者との比較からわかる特性を整理するとともに、年齢、性別、経験期間が労働災害の発生率に与える影響について分析するほか、高齢者の安全衛生対策に積極的に取り組んでいる企業などの担当者らへのヒアリングを実施。報告書では、高齢者が安全で健康に働ける職場の実現に向けて、事業者、労働者に求められる事項や、国や関係団体等による支援などについて取りまとめている。また、参考資料として企業の取組み事例もまとめている。  厚生労働省はこの報告書をふまえ、高年齢労働者の安全と健康の確保に関するガイドラインを策定して普及促進を図り、2020年度から、ガイドラインに沿って高齢者の安全・健康の確保に取り組む中小企業への助成(競争的補助金)を実施することを予定している。  報告書は左記のURLからダウンロードできる。  https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08912.html 厚生労働省 「パワーハラスメント防止指針」等  厚生労働省は、パワーハラスメント防止指針(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令和2年厚生労働省告示第5号)を公表した。  また、「改正セクシャルハラスメント防止指針」(「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針の一部改正」令和2年厚生労働省告示第6号)も公表した。  職場におけるパワーハラスメントとは、「職場において行われる@優越的な関係を背景とした言動であって、A業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、B労働者の就業環境が害されるものであり、@からBまでの要素を全て満たすもの」と定義されている。  パワーハラスメント防止指針は、職場におけるパワーハラスメント対策が大企業は2020(令和2)年6月から、中小企業は2022年4月から義務化されることから、「雇用管理上講ずべき措置等」について、事業主が適切、かつ有効な実施を図るために必要な事項について定めたものである。事業主が講ずべき措置として、「職場におけるパワーハラスメントに関する方針の明確化と、労働者に対するその方針の周知・啓発」、「労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じて適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備」、「パワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応」などを示している。 厚生労働省 平成30年「若年者雇用実態調査」  厚生労働省は、2018(平成30)年「若年者雇用実態調査」の結果をまとめた。  この調査は、5人以上の常用労働者を雇用する事業所約1万7000ヵ所と、そこで働く若年労働者(15〜34歳の労働者)約3万人を対象として2018年10月1日現在の状況について実施したもの(前回調査は2013年に実施)。有効回答率は事業所調査で55・%、個人調査で66・%。  事業所調査の結果によると、全労働者に占める若年労働者の割合は27・%(前回調査28・%)で、内訳は若年正社員17・%、正社員以外の若年労働者10・%。「若年労働者の定着のための対策を行っている」事業所の割合は、若年正社員72・%(前回調査70・%)、正社員以外の若年労働者57・%(同54・%)となっている。  個人調査の結果から、若年正社員の転職希望について見ると、若年正社員が現在の会社から定年前に「転職したいと思っている」割合は27・%(前回調査25・%)、「転職したいと思っていない」割合は33・%(同32 ・%)となっている。これを年齢階級別に見ると、定年前に「転職したいと思っている」は「20〜24歳」層が32・%とほかの年齢階級と比べて高くなっている。また、現在の会社から定年前に転職したいと思っている若年正社員について、転職しようと思う理由(複数回答)を見ると、「賃金の条件がよい会社にかわりたい」が56・%と最も高く、次いで、「労働時間・休日・休暇の条件がよい会社にかわりたい」が46・%となっている。 富士通株式会社 従業員7万人を対象としたがん教育を実施  富士通株式会社は、国内のグループ従業員約7万人を対象とした大規模ながん教育を実施した(実施期間:2020年1月〜3月)。  同社は、1971年に企業内健康診断に胃がん検診を取り入れるなど、早くからがん検診の受診率向上によるがんの早期発見、早期治療の実現を図ってきた。しかし近年、従業員のがん発症者が増加傾向にあることから、従来の取組みに加え、がんの予防や発症後の治療と仕事の両立につながる取組みを重視し、実施した。従業員のがんに対する正しい知識の習得をうながし、予防につながる生活習慣の改善や、早期発見・早期治療のためのがん検診受診率向上を図ることを目ざしている。  教育は、「がん予防と、治療と仕事の両立支援」をテーマに、がん専門医による講義と、eラーニングを組み合わせて実施。おもな内容は、@がんの基礎知識、Aがん予防につながる生活習慣、B早期発見・早期治療のためのがん検診の重要性、C仕事とがん治療の両立支援など。  今回の教育に使用した教材について同社では、厚生労働省の委託事業である「がん対策推進企業アクション」※を通じて公開する予定。 ※企業・団体とともに、がん検診受診率の引上げと、がんになっても働き続けられる社会の構築を目ざす国家プロジェクト。2009年度にスタートした。推進パートナー企業・団体数は、2020年3月現在で約3300社。 「がん対策推進企業アクション」ホームページ  https://www.gankenshin50.mhlw.go.jp/index.html 調査・研究 日本労働組合総連合会 高齢者雇用に関する調査  日本労働組合総連合会(連合)は、「高齢者雇用に関する調査」を2019年12月18日〜20日の3日間、インターネットリサーチにより実施。全国の45歳〜69 歳の有職者1000人の有効サンプルを集計した。  調査結果から、60 歳以上の人(400人)に聞いた現在の仕事の満足度についてみると、「満足している」と回答した人の割合は、【働き方】では70・%、【仕事内容】では71・%と高い割合だが、【賃金】では44・%にとどまっている。  また、60歳以降も働きたいと思っている人(936人)にその理由をたずねると、「生活の糧を得るため」(77・%)が最も高く、次いで、「健康を維持するため」(46・2%)となっている。  今後、65歳以降も働きたいと考えている人(780人)に、65歳以降の希望する(または希望していた)働き方を聞いたところ、「現役時代と同じ会社(グループ含む)で正規以外の雇用形態で働く」(42・%)が最も高く、次いで、「現役時代と同じ会社(グループ含む)で正社員として働く」(33・%)、「現役時代と異なる会社で正規以外の雇用形態で働く」(21・%)となっている。  全回答者に、65歳以降も働く場合、どのような心配があるか聞いたところ、「自身の体力が持つか」(65・%)が最も高く、次いで、「自身の健康を維持できるか」(57・%)、「十分な所得が得られるか」(48・%)の順となっている。 株式会社マイスター60 再雇用制度で働く会社員の意識調査  株式会社マイスター60は、定年退職後に再雇用制度を使って働いている60〜65歳の全国の男性500人を対象に、インターネットリサーチによりアンケート調査を実施した。調査期間は、2019年11月7日〜11日の5日間。  調査結果によると、現在の雇用体系は、「嘱託/契約社員」(64・%)が最も多く、「正社員/正職員」(32・%)が続いた。  勤務先で定年を迎え、再雇用制度を使って働いている人に、定年後の賃金の変化についてたずねたところ、「5割以上減」が最も多く39・%、次いで「3〜4割程減」が39・%と、ほぼ同じ割合となっている。一方で、「同程度」は7・%、「増加した」は0・%となっている。  勤務先の会社の満足度は、「仕事内容」については、「とても満足」(9・%)、「ある程度満足」(61・%)で、あわせて70・%。一方で、「給与」に関しては、「とても満足」(1・%)、「ある程度満足」(24・%)で、あわせて25・%。  また、自己研鑽について、「積極的に取り組んでいる」(5・%)、「どちらかというと取り組んでいる」(25・%)である一方、「まったく取り組んでいない」(28・%)、「どちらかというと取り組んでいない」(40・%)であり、あわせると7割近くが取り組んでいない実態が明らかになった。  定年退職前にもっとしておけばよかったと後悔していることは、多い順に「資産運用」(38・%)、「健康/体力維持改善」(31・%)、「趣味づくり」(23・%)となっている。 【P60】 次号予告 5月号 特集 定年退職後の多様なキャリアを考える リーダーズトーク 住谷猛さん(株式会社USEN-NEXT HOLDINGS 執行役員 コーポレート統括部長) 〈高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQR コードのリンク先がhttp://www.jeed.or.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み  @定期購読を希望される方   雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。   URL http://www.fujisan.co.jp/m-elder  A1冊からのご購入を希望される方   Amazon.co.jpでご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢春康……サトーホールディングス株式会社人財開発部 人事企画グループ人事企画担当部長 菊谷寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長・労働政策部長 藤村博之……法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 真下陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア京子……アテナHROD代表、学習院大学特別客員教授 編集後記 ●少子高齢化により生産年齢人口が減少していくなか、多様な人材の活用と生産性を高める働き方改革がますます重要になってきています。特に女性社員が高齢期にも長く活き活きと働ける環境づくりは、男女雇用機会均等法施行後に入社した世代が今後定年年齢に達することもあり、企業にとって重要な課題になりつつあります。そこで今号の特集は「中高年期の女性社員の仕事意識と企業の支援」と題し、女性活躍支援、高齢者活躍支援の双方の面で先進的な取組みを進めている、損害保険ジャパン株式会社と株式会社ポーラの2社から女性の人事担当者をお迎えし、座談会形式で自社の施策についてご紹介いただくとともに、今後に向けた展望をうかがいました。また、前掲2社に実際の支援状況を取材することにより、企業での具体的な取組み事例を、あわせてご紹介しています。  キャリアコンサルタントの金崎幸子氏には、座談会の司会をお願いするとともに、当機構が行ったWEB調査の結果をもとに、総論もご執筆いただきました。これまであまりデータの蓄積がなかった、中高年期の女性社員の高齢期に向けた意識と職業生活設計に焦点を当てた調査ですので、参考にしていただければ幸いです。 ●今月号から、短期連載「マンガで見る高齢者雇用」が始まりました。70歳雇用を目ざす架空の企業、「株式会社エルダー」を舞台に、当機構が行っている高齢者雇用にかかわるさまざまな支援の内容について、マンガでわかりやすく説明していきます(全5回掲載予定)。読者のみなさまにおかれましては、本連載をお読みになって利用してみたい支援内容や、もっと詳しく知りたい具体的な改善策などがございましたら、お近くの当機構各都道府県支部(65頁参照)までぜひお気軽にご相談ください。 月刊エルダー4月号 No.486 ●発行日−−令和2年4月1日(第42巻 第4号 通巻486号) ●発 行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 片淵仁文 編集人−−企画部次長 早坂博志 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2  TEL 043(213)6216(企画部情報公開広報課) ホームページURL http://www.jeed.or.jp  メールアドレス elder@jeed.or.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5  TEL 03(3915)6401  FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-734-3 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験などを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.311 着る人を美しく見せるシルエットを追求 婦人・子ども服注文仕立職 小嶌(こじま)美恵子さん(76歳) 1960年代の洋装店勤務で一通りの仕立技術を習得 技能には手加減や勘など、説明できない部分が多いものです。経験を積み重ねながら、自分なりのコツをつかむしかありません  「好きな布地とデザインで、自分の体に合った洋服をつくれることがオーダーメイドのよさです」と話すのは、50年以上にわたり婦人・子ども服注文仕立職として活躍する小嶌美恵子さん。熟練技能者日本一を競う「技能グランプリ」で2000(平成12)年に最高峰の内閣総理大臣賞を受賞するなど、その技能は高く評価されており、2019年(令和元)には厚生労働省の「卓越した技能者(現代の名工)」に選出された。  いまでこそ服といえば既製品があたり前だが、日本で既製の服が普及したのは1960年代のこと。それ以前は、洋服は家庭で手づくりするか、仕立屋に注文してつくってもらうのが普通だった。  「母がとても器用な人で、洋服を縫ったり編み物を編んだりして、子どもの洋服も全部つくってくれました。そんな母の姿を見て育ったため、自分も自然に洋裁の仕事に就こうと思うようになりました」  1961(昭和36)年に高校を卒業し、地元の洋装店に就職した。  「よい服はオーダーメイドしかない時代でしたから、とても忙しく、休日も満足に取れないような日々が7〜8年続きました。でも、そのころに洋裁の技術を一通り仕込まれました」  その後、生まれ育った滋賀県から結婚して上京した小嶌さんは、家事や子育てをするかたわら自宅で仕立ての仕事を続ける。やがて、ドレスデザイナーの教室で約15年間、ドレスの縫製を担当。現在は埼玉県越こし谷がや市にアトリエを構え、オーダーメイドに応じるかたわら、知り合いの要望に応えて洋裁教室を開き、後進の指導も行っている。 美しいシルエットの実現に欠かせない「くせ取り」  注文服は、さまざまな工程を経てできあがる。まずは顧客の要望を聞き、使用する生地とデザインを決定したうえで、採寸、型紙起こし、裁断、仮縫い、本縫い、仕上げと続く。仕立職人は、こうした多岐にわたる技能のすべてをになう。  「洋装店に勤めていたころは、本当にさまざまな種類の洋服をつくりました。数だけならだれにも負けないと思います。このころの経験が私の財産になっています」  洋服を仕立てるうえで小嶌さんが心がけているのは「着やすく、着た人がきれいに見えること」。美しいシルエットを実現するために大事なこととして、アイロン操作による「くせ取り」をあげる。  「洋裁は、一枚の布を、どう立体的に見せるかがポイントです。縫い目を増やせば立体的にはなりますが、それほど縫い目をつけるわけにはいきません。そこで、アイロンを使って生地にくせをつけながら、体型に合わせて立体的な形にしていくことが重要になります」  ただし、体型に合わせすぎると、その人の欠点がそのまま表れてしまうこともあるため、W加減するWことも大事だという。  「スタイルブックに載っているモデルさんの着ている姿と、お客さまが実際に着た姿とでは、印象は異なります。違和感なく仕上げるために、仮縫いの段階で形を補正したり、できあがってから調整を加えることもあります」  洋裁の技能は経験や勘に頼る部分が多く、教室では、小嶌さんの技術を教えつつ、自分なりに工夫してコツをつかむように指導しているそうだ。 洋裁にたずさわる若い世代を増やしたい  小嶌さんは現在、全日本洋裁技能協会の専務理事、東京都洋裁技能士会の会長を務めており、技能競技大会の委員や講習会の講師なども担当している。  「人前に出るのは苦手なのですが(笑)、洋裁技能の維持・継承のために一生懸命がんばっています。最近は注文服の存在すら知らない若い世代が増えていますが、自分に合った洋服を着たり、つくったりすることの楽しさを、ぜひ知ってほしい。そして、一人でも多くの若い人たちに洋裁の世界にたずさわってもらえたらうれしいです」 アトリエミエコ・小嶌洋裁教室 TEL:048(976)0888 (撮影・福田栄夫/取材・増田忠英) 写真のキャプション 「何よりも洋裁が好き」という小嶌さんは、自身の服もすべて自ら仕立てる。「人に見られても恥ずかしくないように、自分の服といえども気が抜けません」 生地のブドウ柄を活かすために、シンプルなデザインで製作したコート 「2018全日本洋装技能コンクール」に出品した作品。昨年のコンクールでは委員長を務めた 令和元年度「卓越した技能者(現代の名工)」の楯 注文服の設計図となる型紙(パターン)。着る人の体型に合わせて作成する 展示用に製作した2分の1サイズの見本作品。中央は結婚披露宴のお色直しのドレス アイロンによる「くせ取り」で美しいシルエットを表現する 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回は、作業効率を調べる課題を使って脳を鍛えると同時に、表情とパフォーマンスの関係を学びます。単純作業で必要な雰囲気と、創造力が必要な仕事をこなすときの表情について学んでください。 第35回 内田クレペリン精神検査 左から隣り合う二つの数字を合計し、答えの一の位だけを□に記入してください。それぞれ、解いた時間も計測してください。 【例】 6□8□7 4 5 6+8=14 8+7=15 課題1 意識的に口元を引き締めて眉間にしわを寄せるなど、真剣な表情で解きます。課題を終えるまでの時間を計ってください。 5 □ 8 □ 4 □ 5 □ 7 □ 6 □ 9 □ 8 □ 3 □ 7 □ 6 8 □ 3 □ 4 □ 9 □ 7 □ 2 □ 8 □ 5 □ 7 □ 9 □ 4 4 □6 □ 2 □ 7 □ 9 □ 5 □ 7 □ 4 □ 8 □ 6 □ 3 課題2 イラストのように、箸などを口にくわえて口角を上げた状態で課題に挑戦します。課題を終えるまでの時間を計ってください。 4 □ 8 □ 4 □ 3 □ 7 □ 1 □ 9 □ 7 □ 3 □ 8 □ 6 1 □ 3 □ 4 □ 5 □ 7 □ 9 □ 8 □ 5 □ 7 □ 8 □ 4 2 □ 6 □ 4 □ 7 □ 8 □ 9 □ 7 □ 4 □ 8 □ 6 □ 2 「表情」と「集中力、やる気」の関連性  今回の課題は「内田クレペリン精神検査」と呼ばれるテストで、表情と集中力、やる気の関連を体験的に知ることができます。  今回のような単純作業の課題の場合、一般的に、口元が引き締まり、眉間にしわが寄った鬼気迫る表情のほうが成績はよくなります。脳の覚醒水準を上げるノルアドレナリンなどの分泌が増し、単純作業の効率を上げると考えられるからです。  一方で、箸を横にくわえると、口角が上がり、笑顔に近い状態になり、「楽しい」、「気分がいい」、「またやってもいい」という感情が出ます。笑顔に近い表情の場合、クリエイティブな作業での成績もよくなることが知られています。ドーパミンの分泌が増し、やる気に変わる線条体が活性化して、創造的な作業にかかわる前頭葉が活動しやすくなるのです。  私たちは、表情によって集中力を高めることも、創造性を高めることも可能なのです。 今回のポイント 課題2(口角を上げたほう)が早く解けた場合は、課題そのものを楽しむ意識が強かったと考えられます。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2020年4月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒780-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価(本体458円+税) 『65歳超雇用推進事例集2020』を作成しました 65歳以上の定年制度、65歳を超える継続雇用制度の導入企業事例を紹介した「65歳超雇用推進事例集」の3冊目となる「2020」を作成しました。 25事例を紹介 図表でわかりやすく紹介 索引で検索 「制度の内容」「制度導入の背景」「賃金・評価制度」などを詳しく紹介 70歳以上の雇用事例も充実! 事例集は、ホームページでご覧いただくことができます。 http://www.jeed.or.jp/elderly/data/manual.html 65歳超雇用推進事例集 検索 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 令和2年4月1日発行(毎月1回1日発行) 第42巻第4号通巻486号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会