高年齢者活躍企業コンテスト 新連載 受賞企業の軌跡 第1回 株式会社虎屋(とらや)本舗(ほんぽ)(広島県福山市)  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)と厚生労働省との共催で毎年開催している「高年齢者活躍企業コンテスト※」。高齢者雇用の推進に資する事例を広く募集し、優秀な事例を表彰しており、その内容は、毎年本誌で紹介しています。本連載では、かつてコンテストで厚生労働大臣表彰を受賞した企業を取材し、その後の取組みの進化・深化をレポートします。第1回は、2009(平成21)年度に特別賞を受賞した株式会社虎屋本舗を取材しました。 ダイバーシティ経営推進にともない75歳定年制を導入 1 江戸時代初期に菓子匠として創業世の中のためになる商いを継承する  広島県福山(ふくやま)市で創業400年の歴史をもつ和菓子店「株式会社虎屋本舗」(高田(たかた)海道(かいどう)代表取締役社長)は2009(平成21 )年、「平成21年度高年齢者雇用開発コンテスト」で厚生労働大臣表彰特別賞を受賞した。同社では、2008年度より定年を60歳から70歳に引き上げるとともに、高齢社員の要望をふまえた柔軟で多様な働き方を導入した。また、近代的な設備を導入することで製造工程における作業負荷を軽減したことなど、制度を改正するだけではなく、働きやすい職場環境の実現に注力し、それらが高齢社員のモチベーション向上につながったことが高く評価されての受賞であった。  同社の創業は、江戸時代初期の1620(元和(げんな)6)年。当時は「高田屋(たかたや)」という屋号の菓子匠であり、福山城築城の際に献上した和菓子が初代福山藩主の水野(みずの)勝成(かつなり)公に称賛され、同藩の御用菓子司となった。その和菓子は銘菓「とんど饅頭(まんじゅう)」として現在も継承され、福山市民に親しまれている。  1750(寛延(かんえん)3)年には、虎模様のどら焼き(現在の商品名は「虎焼(とらやき)」)をつくるようになり、屋号を「虎屋」に変更した。昭和の時代からは洋菓子製造にも取り組むようになり、和洋菓子の製造・販売事業を展開。現在、福山市を中心に直営店舗は10店舗あり、そのほか百貨店およびオンラインショップにより業績を伸ばしている。  商訓である「和魂商才(わこんしょうさい)」(同社では、「和魂」とは日本人がつちかってきたすべての知識や道徳のこと、「商才」とは、世の中のために新しいことに果敢にチャレンジしていく創造的な精神、不屈の精神のことをいう)の精神を代々受け継ぎ、伝統の技を継承しながら、時代のニーズや環境の変化をとらえて、ユニークな商品の開発やダイバーシティ経営などにも取り組んでいる。高齢社員の力を活かし、就業意欲のある人が年齢を重ねても、活き活きと働ける職場づくりを進めてきた取組みもこの精神から生まれ、育まれてきたといえるだろう。  同社のこのような取組みは、高年齢者雇用開発コンテストでの受賞をはじめ、2014年に「平成25年度ダイバーシティ経営企業100選」(経済産業省)、2018年に「第2回ジャパンSDGsアワード、SDGsパートナーシップ賞(特別賞)」(外務省)を受賞するなど各方面からも注目されている。  2025(令和7)年現在、コンテスト受賞時の2009年当時より社員数が少し増えて、役員を含め82人、60歳以上(役員3人を含む)は31人となっている。受賞時の定年年齢の70歳は、受賞から9年後の2018年に75歳に引き上げた。さらに、運用により、定年以降も働くことが可能であり、現在の最高年齢者は78歳である。ただ、60歳以上の社員が占める割合は、コンテスト受賞時の約50%に比べ、現在は約40%に低下している。その背景には、同社の事業内容や取組みに共感して応募者が増えて、ここ数年、新規学卒者が毎年入社しているからだという。現在、もっとも若い社員は19歳。10代から70代までの幅広い年代の社員がいることが同社の強みの一つになっており、業績を伸ばし成長し続けている。  高年齢者雇用開発コンテスト受賞後の同社の軌跡から、高齢者雇用の深化と社業発展の様子をみてみよう。 2 地方都市において60代は働き盛り定年を75歳に引き上げる  2008年に定年を60歳から70歳へ引き上げた背景には、60歳を間近に控えた社員から「働けるうちは働きたい」という意欲的な声や、65歳までの継続雇用制度を導入していたものの、社員の希望に配慮したといえる内容ではなかったという状況があった。  そのような課題に対して、広島県雇用開発協会(当時)の高年齢者雇用アドバイザーに相談したところ、「定年年齢を引き上げるべき」との助言を受け、制度の改定に取り組むこととなった。また、同社ではダイバーシティ経営に取り組んでおり、高齢者の知恵と技術を同社の財産であると位置づけて、高齢者雇用制度の見直しに着手。定年年齢を引き上げて、意欲と技術のある高齢者の待遇を下げることなく雇用を継続することとした。  一方で、加齢にともなう健康や安全面に配慮し、可能なところは機械化によって作業負荷を軽減するなど作業環境を改善。また、体力の衰えなどを理由にフルタイム勤務を希望しない社員もいると考え、短日・短時間勤務など社員の要望に応える働き方の導入も検討し、実現した。  これらの改善により、例えば、60歳近い職人が「定年まであと10年あるので、自分の技術を若い世代に伝えよう」と前向きになり、職場全体に活気が出たり、若手がアイデアを出し、細部の技術などはベテランが力を発揮して、「たこ焼きにしか見えないシュークリーム」など、「そっくりスイーツ」という新商品を開発して同社の人気商品が増えたりした。  このような成果をふまえて、2018年に、定年を75歳に引き上げた。同社の第17代当主として2021年より代表取締役社長を務める高田海道さんはその理由を「働いている人たちが70歳を超えても元気ですし、会社にとって必要な方々であり、まだ働いていてほしいという思いからです」と明かす。以前から高齢者の採用も行っていたが、さらに60歳以上の正社員を積極的に採用するようになり、販売や製造、出荷部門で2025年も4人を採用している。  「福山市という人口46万人ほどの地方都市においてはボリュームゾーンの年齢が上がっていて、労働力のボリュームゾーンもスライドしています。昔に比べて元気で、会社に対するコミットメントが強い方が多く、私の感覚では、60代前半は働き盛りにみえるのです。だから、働いていただく。60代から十数年働けるという選択肢として、75歳定年にしたと考えています」と高田社長は指摘する。  並行して、安全に働ける職場づくりに注力し、配達業務をになう高齢社員の安全確保のための定期的な確認や、工場内の設備を現場の声を聞いて見直し、例えば、巻き込まれ災害や転倒災害防止などについて安全設備を随時新しいものにしていく、検品は人の手によらない金属探知機を導入するなど、安全の確保や作業負荷の軽減に努めている。 3 一人ひとりにデリケートな課題があるそれぞれにどう対応するかが大事  「各地方、各業種によって人手不足はどうしても生じるとは思いますが、当社では高齢者の働きやすい職場づくりを行うことで、人材が不足しない状況ができています。地方の中小企業ならではの最適化といったものができるということを、2009年のコンテスト受賞を通して思いました」と高田社長。  また、高田社長は制度や職場環境の改善だけでなく、社員とコミュニケーションをとることを大事にしていると強調する。必要に応じて個別に面談しており、「話すことは人によってまちまちですが、売上げ目標や生産性を上げようという話はしません。社員にも家族がいるなか、年末年始の繁忙期も働いてくれています。感謝の気持ちがまずありますから、面談でもその思いを伝えます」  ときには、自分はもっと働きたいけれど体がついていかない、頭が追いつかないといった悩みを打ち明ける社員もいるという。相談を受けた後、退職した社員がいたが、しばらくして繁忙期だけ仕事を手伝ってくれるようになった。「シンプルな仕事であればできるといってきてくれました。ありがたいです。一人ひとりに異なるデリケートな課題がありますから、そこにどう対応するのがよいのかということで、葛藤することもあります」  75歳定年制を導入してから、2025年で7年になる。「生産性をそれほど追い求めないのが当社のやり方で、2人で1人分の仕事を行うという働き方にも対応しています。1人あたりの生産性は高くはないかもしれませんが、売上げは微増ながら成長しています。そういう意味では、よいかたちでここまで来ているといえるでしょうか」と高田社長。  社員と話していると、社会とつながりができる、という言葉がよく聞かれるということで、「社会との接点として、この職場で何か世の中の役に立つことができれば、という気持ちで仕事をしている人が多く、逆に私が学ぶことが多いですね。60歳以上で採用した社員も含めて、それぞれが積み重ねてきたものを提供していただいていることに、リスペクトを持って接しています」と高田社長は高齢社員との関係性を語る。 4 63歳で正社員として入社 経験を活かしつつ新たな学びも得る  同社で働く高齢社員の一人に話を聞くことができた。福田(ふくだ)時也(ときや)さん(65歳)は63歳のときに入社して2年半。洋菓子職人として、おもにケーキなどの生地を焼く作業を担当している。  「以前はパン職人でしたが定年退職しました。雇用を継続する道もあったのですが、自宅近くで働ける職場をハローワークで探して、この会社の求人を知りました。歴史ある企業なので、知っていましたし、パンと和洋菓子は別物ですが、経験を活かせる部分もあるかもしれない、自分にない技術を学んでみたいという思いで正社員を希望して応募しました。年齢的に正社員として採用されるのはむずかしいと思っていましたが、正社員で採用していただけました。うれしかったですし、がんばっていこうという意欲がわき上がりました。週5日、朝7時から16時までのフルタイム勤務を続けています。洋菓子づくりは若い社員が多くいまは私が最高齢ですが、入社当時は75歳のベテランの方がいらして、その方が退職されるまでの約8カ月間、私にていねいに教えてくださり仕事を覚えることができました。いま、仕事が楽しいです。伝統のある会社ですし、責任と誇りを胸に、体力の続くかぎり働いていたいと思っています」と福田さんはすがすがしい表情で話してくれた。 5 芯をぶれさせず、幅広い年代の社員と一緒に地域文化のにない手になる  同社では十数年前から、福山市を中心に離島を含む瀬戸内海の地域に足を運び、子どもたちに和菓子づくりを通じて郷土の文化と日本の和菓子文化などを伝える活動を実践している。学校や地域の子ども会、最近は外国人との交流機会に呼ばれることもあり、年間1000人ほどに伝承しているそうだ。  「社内で技術を伝承するだけでなく、外に向かって技術を文化としてみせていくことも大切だと考えています。当社は福山市でもっとも古い菓子屋であり、文化を商いとしていますので、地域に根ざした事業とお菓子づくりのイベントを継続し、そのなかで新しい挑戦もして文化を創り出す会社でありたいと思っています。経済活動だけでなく、学校教育の現場など求められる役割が増えてきています。高齢社員が社会とつながる場と感じてくれることも一つの役割かもしれません。芯をぶれさせず、幅広い年代がそろう社員と一緒に、地域に愛される場として看板を掲げ続けていくことがこれからの目標です」と高田社長。地域に根づいて歩む一方で、挑戦を続ける会社に魅力を感じる人は多いだろう。今後の動向も追いかけたくなる同社である。  最後に、これから高齢者雇用を推進する会社へのメッセージをお願いすると、高田社長は次のように語った。  「60代は地方の企業にとって魅力的な世代ですから、定年年齢は早いうちに引き上げたほうがよいと私は考えています。そして、社員一人ひとりとコミュニケーションをとることが大事です。そのコミュニケーションはきっと、会社にとってよりよい影響を与えてくれると思います」 ※2020(令和2)年度までの名称は「高年齢者雇用開発コンテスト」 写真のキャプション 長い歴史を誇る名店の風格が漂う、虎屋本舗の本店(写真提供:株式会社虎屋本舗) 第17代当主を務める、高田海道代表取締役社長(写真提供:株式会社虎屋本舗) 63歳で入社した、洋菓子職人の福田時也さん 高年齢者活躍企業コンテスト 受賞企業の軌跡 第2回 株式会社東急(とうきゅう)コミュニティー(東京都世田谷区)  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)と厚生労働省との共催で毎年開催している「高年齢者活躍企業コンテスト※」。高齢者雇用の推進に資する事例を広く募集し、優秀な事例を表彰しており、その内容は、毎年本誌で紹介しています。本連載では、かつてコンテストで厚生労働大臣表彰を受賞した企業を取材し、その後の取組みの進化・深化をレポートします。第2回は、2018(平成30)年度に優秀賞を受賞した株式会社東急コミュニティーを取材しました。 70歳超でも、いきいきと働ける職場づくりに取り組む 1 大臣表彰受賞を機に、社員の高齢者雇用への理解や意識が高まる  マンションやビルの管理を中心に大規模改修工事、リフォームなど幅広い不動産管理事業を手がける株式会社東急コミュニティー(木村(きむら)昌平(しょうへい)代表取締役社長)は、「平成30年度高年齢者雇用開発コンテスト」で厚生労働大臣表彰優秀賞を受賞した。  同社の社員は、管理運営・営業や事務をになう「事務員」、管理と建物の改修・工事を担当する「技術員」、ビル・マンションの管理を担当する「管理員」に大きく分けられ、このうち管理員の人数がもっとも多い。管理員はおもに契約社員で、他社を定年退職後に入社した者も多く、年齢が高いことも特徴だ。  同社の定年は60歳だが、現場の人材確保、高い技術や能力の保持を目的に、2017(平成29)年に技術員、2018年に事務員について、60歳到達時に、@65歳まで定年延長(一定条件あり)、A契約社員として再雇用、B退職のいずれかを選択できる制度を導入した。また、契約社員の年齢上限を、一定条件のもと、事務員70歳、技術員72歳、管理員75歳まで延長。さらに、高齢者の採用時に研修をていねいに行い、特に管理員の研修、フォローアップ体制の充実に努めているなどの取組みが高い評価を得たことが大臣表彰優秀賞の受賞につながった。  「受賞当時、当社の役員が表彰式に参加した様子と受賞内容をニュースリリースなどで社内外に周知しました。当社が高齢者雇用に力を入れていることと、その取組みが公に評価されたことが社内に広まったことで、社員の高齢者雇用への理解や意識が高まり、多様な人材活用を積極的に考えるよいきっかけとなったと感じます。また、社員のモチベーション向上につながり、長期的なキャリア形成についても意識するようになったと思います」と、同社経営管理統括部グループ人材戦略部人材戦略課の臺(だい)希巳枝(きみえ)主幹は、受賞当時をふり返る。受賞をきっかけに、「高齢者もいきいきと働ける会社」として対外的な評価も高まり、採用活動において年齢やキャリアに関係なく幅広い層からの応募があるなど、多様な人材活用が広く認知されるようになったとも感じていると臺主幹は話してくれた。  受賞から7年、同社の高齢者雇用のその後の軌跡を追った。 2 70歳以上の管理員が大幅に増加長く働ける職場づくりを進める  同社は1970(昭和45)年、東急不動産ホールディングスグループをはじめとした分譲マンションの管理を行う会社として設立された。その後、事業を拡大して東急不動産ホールディングスグループ以外のマンション・ビル管理も行うようになり、全国にその領域を広げた。同時に、建物改修工事も手がけるなど事業領域も拡大。現在では、マンション管理、ビル管理、公共施設管理、リフォーム事業などで実績を積み重ねており、総合不動産管理会社に成長している。2025(令和7)年の管理規模は、マンション管理約81万5000戸、ビル管理約1600件(東急コミュニティーグループ合計〈2025年3月31日時点〉)、公営住宅管理約25万7000戸(東急コミュニティー単体〈2025年4月1日時点〉)、となっている。  東急コミュニティー単体の社員数は1万1881人(うち正社員4448人)で、60歳以上は6682人(うち正社員118人〈2025年10月31日時点〉)。  60歳以上の社員数を7年前の受賞時と比べると、60〜64歳は1290人(受賞時は1506人)、65〜69歳は2718人(同3020人)、70歳以上は2792人(同705人)で、70歳以上の社員数が大きく増えていることがわかる。このことは、管理員を希望して同社に応募する人の年齢が、かつては60代半ばが中心であったが、ここ数年は、他社を定年後に65歳の再雇用まで勤務して退職した人たちなど、60代後半や70歳超の人が増えて、管理員の年齢が以前より高くなったことによるという。「管理員を希望される方には、他社を再雇用で65歳まで勤め、これからも社会とつながっていたい、健康のためにも働きたいという方が多くいらっしゃいます」と臺主幹は指摘する。  同社の高齢者雇用制度は、2018年の受賞時と大きく変わっていない。しかし、2026年に人事制度の大きな改定を予定しており、2030年には定年を60歳から65歳に引き上げることについて検討をしているという。  現制度の「定年延長」は、技術員および事務員の正社員を対象とした制度で、60歳の定年に達した社員で一定の要件を満たす者に65歳までの定年延長を認めるという内容だ。このほかに、契約社員として再雇用を選ぶことができる。毎年、定年に到達する社員の約95%は定年延長または再雇用をしており、内訳は約55%が契約社員としての再雇用、約40%が正社員のまま定年延長をしている。再雇用者のなかには、営業や事務を担当していた正社員から、希望して管理員になる人もいるという。  契約社員の雇用上限年齢は7年前から、事務員70歳、技術員72歳、管理員75歳としているが、管理員についてのみ2025年4月に75歳から76歳に引き上げた。さらに、76歳まで勤務した管理員は、その後アルバイトとして77歳までの勤務を可能とした。この見直しは、人材確保のためと、現場で働く管理員から長く働きたいという声を受けてのことだった。加えて、現在働いている管理員が知識や経験を活かしてより長く働ける職場環境を整えることに、以前にも増して重点を置くようになったという背景がある。  さらに、管理員を含む契約社員は、以前からフルタイム勤務のほか、週3日勤務、1日5時間勤務など柔軟な働き方を選ぶことが可能である。正社員とは異なるが評価制度もあり、一定の評価以上の者には、勤続年数により昇給する仕組みがあり、健康で長く働くことを奨励している。また、年齢にかかわらず、資格取得支援と資格取得者に対する報奨金があり、モチベーションの向上につなげている。  ちなみに、現在の最高齢社員は76歳で、管理員として活躍しているという。 3 1年間で688人のシニアを採用充実した研修とフォローを行う  同社では、60歳以上の契約社員を積極的に採用しており、2024年度は688人を採用した。内訳は、管理員579人、事務員68人、建築技術員2人、設備技術員39人。  高齢社員を対象とした研修制度は、7年前から充実させており、現在も入社時、基礎知識の習得を目的とした導入研修を継続して実施している。現在は、社員の年次や階級・役職に合わせて段階的にスキルアップを目ざす企業内大学「東急コミュニティービジネスカレッジ」があるので、カレッジの枠組みのなかで、マンション管理業の研修として管理員のための5日間の研修を実施している。これは入社後、研修センターでマンション管理員としての基礎を習得するもので、未経験者でも安心して勤務できるように経験豊富なスタッフや有資格者らが講師となり、ていねいに指導する。内容は、接遇マナー、マンション管理の基礎知識や窓口対応業務、清掃の実習、建物点検や設備などについて学ぶということだ。  また、初めての仕事に就くときは、管理員の基本業務に関する指導や教育、人材育成を担当するインストラクターがつき添い、その後は月1回程度インストラクターが訪問し、業務上の疑問や悩みに対してアドバイスやサポートを行ってフォローしている。  入社半年後の管理員には、フォローアップ研修を行い、より高度な知識習得のため、清掃・植栽管理の研修や「認知症サポーター講習」などを実施している。入社2年目以降は1年ごとに、さらなるスキルアップおよびクレーム対応力の強化を目的として、事例をもとにディスカッション形式の研修を実施。仕事のやりがいなどを見つめ直すきっかけにもなる内容だという。さらに、安全教育も随時実施。このように充実した研修を行うことで、長く継続して働く管理員が育っている。  70歳前後に入社する人も多い管理員研修では、受講した社員の手元に残る資料を作成して手渡し、学んだ内容をいつでも何度でも見返すことができるようにしている。また、管理員は基本的に現場では1人で勤務するが、同時期に入社した者同士で一緒に研修を受けてもらい、仲間がいることを感じてもらうようにしている。長く勤めている管理員は、「居住者さまからいただいた感謝の手紙や絵を大切に保管している方や、お住まいのお子さまたちの成長を見守るのが楽しみだとおっしゃる方がいらっしゃいます。また、業務で身体を動かすことにより、健康になったという報告や、洋服がサイズダウンしたと喜んでいる方もいらっしゃいます。みなさんそれぞれに、ご自身が楽しく働けるポイントを見つけて勤務されています」(臺主幹)という。  正社員向けの研修では2024年、東急コミュニティービジネスカレッジで、ミドル世代に向けて、「ライフキャリア形成セミナー」を始めた。以前から取り組んでいたセミナーの仕事に関する内容を充実させたもので、50代社員のキャリアの再考と新たなビジョンを考える機会の提供を目的としている。「過去の棚卸し」、「自己認識を深める」、「理想の60代を迎えるにあたって」などの内容で、受講者から「自分をふり返り、将来を考える機会となってありがたい」といった声が聞かれ、好評を得ている。 4 業界初の健康管理システムを導入 転倒リスクなどの軽減を目ざす  入社する人の年齢が上がり、長く勤めることを望む管理員が増えるなか、現在の管理員がより長く安全に活躍できる職場づくりに重点を置くようになった。そのためには、社員が自分自身の健康や体力に留意することも大切と考え、2025年2月、マンション管理業界では初となる健康管理システムを導入した。健康促進と業務中の転倒リスクなどを軽減し、安全に向けた注意喚起にも活用することで、マンション管理員がこれまで以上に働きやすい職場環境を整備することをねらいとしている。  導入したのは、身体機能の状態を把握する測定アプリで、タブレットのカメラ機能を活用して「足腰筋力・バランス力・柔軟性」など複数項目の測定ができる。測定結果は保存することができ、部署ごとの特徴や一人ひとりの経年変化を確認し、結果に応じた個別サポートを今後行っていくことが可能だ。  2025年9月末時点で、測定実施数2140人(実施率37%)。うち、ハイリスク率は5%。導入したばかりで目に見える効果はまだないものの、管理員の労働災害は減少傾向にあるそうだ。 5 多様な人材が長く活躍できる職場へ人事制度の改定に着手  「当社は、マンションや施設管理など多様な事業にたずさわるなかで、さまざまな人材が活躍できる環境づくりが企業成長やサービス品質の向上に不可欠であると認識しています。また、社会的なダイバーシティ推進への要請や、働き手の価値観の多様化、少子高齢化による人手不足への対応も背景となり、すべての従業員が安心して働ける職場づくりを強化する必要性を感じています」と臺主幹。  このような認識のもと、2025年に企業理念、コーポレートスローガンを刷新し、「誰もが自分らしく、いきいきと輝ける職場づくりに取り組み、すべての従業員が心身ともに健康で満たされた状態をめざします」とする人材マネジメント方針を策定した。  臺主幹は、「この方針をもとに、2026年5月を目途に人事制度の改定を予定しています。だれもが長く安心して働ける環境をつくりたいという思いが根本にあり、短時間や週2、3回なら働けると望む声もありますから、働き方の選択肢をこれまで以上に増やすなど、いろいろな意見を聞きながら検討を進めているところです。年齢、性別に関係なく、多様な社員がいきいきと働ける職場の実現に向けて、そうしたことを支える制度になるように尽力します」と力を込めて語った。どのような制度になるのか、これからもその動きに注目していきたい企業である。 ※ 2020(令和2)年度までの名称は「高年齢者雇用開発コンテスト」 写真のキャプション 経営管理統括部グループ人材戦略部人材戦略課の臺希巳枝主幹 株式会社東急コミュニティーの本社(写真提供:株式会社東急コミュニティー) 管理員のために実施している研修の一コマ(写真提供:株式会社東急コミュニティ 高年齢者活躍企業コンテスト 受賞企業の軌跡 第3回 株式会社すかいらーくホールディングス(東京都武蔵野(むさしの)市)  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)と厚生労働省との共催で毎年開催している「高年齢者活躍企業コンテスト※」。高齢者雇用の推進に資する事例を広く募集し、優秀な事例を表彰しており、その内容は、毎年本誌で紹介しています。本連載では、かつてコンテストで厚生労働大臣表彰を受賞した企業を取材し、その後の取組みの進化・深化をレポートします。第3回は、2018(平成30)年度に優秀賞を受賞した株式会社すかいらーくホールディングスを取材しました。 健康で意欲と能力があるかぎり働き続けられる職場へ進化 1 大臣表彰優秀賞受賞をきっかけに求人へのシニア世代の応募者が増加  ファミリーレストランの草分けとして名高い株式会社すかいらーくホールディングス(谷(たに)真(まこと)代表取締役会長CEO)は、2018(平成30)年、「平成30年度高年齢者雇用開発コンテスト」で厚生労働大臣表彰優秀賞を受賞した。  同社の店舗や工場では、パートタイマーやアルバイト(以下、「クルー」)の採用が非常に多いなか、2015年に70歳までの継続雇用制度を確立して、高齢従業員が働きやすい環境整備を実現した。また、中高年のクルーが正社員に登用される道が開かれ、従業員のモチベーションが高まったことが、業績の向上につながったとして評価された。  「コンテストで受賞したことにより、当社の高齢者雇用の取組みや職場環境について、メディアにとりあげていただく機会が増えました。そうしたことにより、当社がシニア世代の方々にも安心して働ける職場環境であることが広まり、求人に対する応募者数が増えるという変化がありました」と受賞当時をふり返るのは、同社の人事総務本部人事採用グループの中西(なかにし)匠(たくみ)ディレクター。  厚生労働大臣表彰優秀賞の栄誉に輝いてから7年、この間にはコロナ禍という、レストランなどの飲食店を営む同社にとって非常に厳しい時期があった。しかし、受賞時の2018年と現在とを比較すると、従業員数は増加して、高齢従業員数も大幅に増えている。また、2024(令和6)年度の同社の売上高は過去最高水準を記録し、2025年度も好調が続いている。同社の高齢者雇用のこの7年間を追った。 2 受賞後の7年間で、60歳以上の従業員数が2.5倍、70歳以上は150倍に  同社の歩みは、1962(昭和37)年にさかのぼる。この年に同社の前身である「ことぶき食品有限会社」を設立。1970年には、東京都府中(ふちゅう)市にファミリーレストラン「すかいらーく」1号店(国立(くにたち)店)を出店。1974年には商号を株式会社すかいらーくに変更した。その後は「すかいらーく」をはじめ、「ガスト」、「ジョナサン」、「バーミヤン」など、利用者の嗜好(しこう)に応える、多数のブランドのファミリーレストランを中心に事業を全国展開。現在では20を超えるブランドを有し、日本国内および海外(台湾・マレーシア・米国)に約3100店舗を展開し、年間来店者数は約3・5億人にのぼる世界最大規模の直営レストランチェーンに発展した。そして、2018年7月には「株式会社すかいらーくホールディングス」と社名を変更した。  レストラン以外にも、店舗で提供する食材を一次加工する工場(セントラルキッチン)を全国10カ所で運営するほか、宅配サービス事業にも力を入れている。  同社の従業員数は、正社員が6761人、クルーなどの非正規従業員が11万2220人(2025年12月31日現在)である。  高齢従業員数について、現在と大臣賞受賞当時(2018年4月現在)を比較すると、60〜64歳は4642人(受賞時は2411人)、65〜69歳は2710人(同1110人)、70歳以上は1502人(同10人)で、すべての年齢階層で大幅に増加している。  現在の60歳以上の従業員数は8854人(同3531人)。受賞後の5年間で、60歳以上の従業員数は2.5倍増、70歳以上にかぎっては150倍増となっている。  高齢従業員のほとんどは、レストランの店舗や食品工場で働いている。 3 パート・アルバイトの再雇用上限年齢を70歳から75歳に引上げ  2018年当時の定年・継続雇用制度は、「定年65歳。就業規則等により希望者全員を70歳まで再雇用」であった。定年後の雇用区分は、パート・アルバイトになる。また、65歳から70歳までのパート・アルバイトのクルーには「ベテランズクルー制度」があり、制度の対象者は週の労働時間を20時間未満とし、1年ごとに契約を更新する。クルーの健康面に配慮して整えた制度である。  定年年齢は現在も65歳で変わりはないが、2019年に再雇用の上限年齢を75歳に引き上げた。現在の最高齢従業員は75歳で、店舗で活躍しているという。  再雇用の上限年齢を75歳に引き上げた動機を、中西ディレクターは次のように説明する。  「少子高齢化が進んでいくなかで働く人を増やしていくことに加えて、65歳から70歳までのベテランズクルーとして活躍する従業員のなかには、『まだまだ働いていたい』という意向を持つ人が多く、そうした声を現場で聞いている店長からの要望もあり、健康で意欲と能力があるかぎり働き続けることができる職場環境づくりを目ざして、制度をあらためました」  ここ数年は、求人への70歳超の人からの応募も多くあり、実際、採用もしている。制度改定から6年が経過するなか、70歳以上の従業員数は約1500人となり、これまでにつちかった経験や知識を活かして活躍している。  「昨今、人手不足といわれているなかでも、シニアの方々にしっかりと活躍していただくことで、当社では店舗の営業がスムーズに行われています。シニアの方々は特に定着率がよいのですが、長く安定して働かれていることによって店舗の安定感も増し、お客さまの安心感にもつながっていると感じています」(中西ディレクター)  パート・アルバイトの再雇用上限年齢を75歳に引き上げた後、同社は一般向けの採用ホームページとは別に、シニア向けの採用ホームページを新設した。この採用サイトでは、「全国のすかいらーくのお店で50代以上の方が多数活躍しています!」と呼びかけ、「ライフステージやライフスタイルに合わせ、自分のペースで勤務可能です」、「未経験でも安心!仕事を覚えるまで、分かりやすく、繰り返し教えます」と働き方などを説明。さらに、実際に働いているシニアの声と写真を掲載。また、同グループ全店で使える食事の割引券が福利厚生の一環で従業員に提供されることや、有給休暇制度や社会保険も完備していることなどもわかりやすく伝えている。そして、働きたい場所や同社のレストランのブランドから、求人情報を検索できるようになっている。  このサイトを通して、仕事内容や職場の様子をある程度理解してから応募する人が増えてきており、採用後すぐに辞めてしまうなどのミスマッチが少なくなったという。 4 パート・アルバイトの評価制度を拡充モチベーションと定着率の向上をうながす  同社では、パート・アルバイト従業員の個々の業務スキルや店舗運営への貢献度を、客観的な基準に基づいて評価し、時給に反映させる評価制度を以前から導入している。2025年には内容をあらためて充実を図った。  それまでは「1〜16号」としていたスキルの等級を「1〜25号」に拡充し、どんなことができれば等級が上がっていくのかを明確にした。入社時は「ビギナークルー(1号)」からスタートし、最短、満1カ月で次の等級の「レギュラークルー(2〜5号)」に昇格することができ、それに応じて昇給もする。「明確なキャリアパスと評価制度によって一人ひとりの成長意欲をうながし、すべてのクルーのモチベーションと定着率の向上を目ざしています」と中西ディレクター。等級が上がれば昇給につながるので、70歳を過ぎて昇給するクルーもいるそうだ。  一方、シニアも安心して働くことができる職場環境づくりとして、ベテランズクルー制度では従来通り週の労働時間は20時間未満と定めるほか、企業に求められる安全配慮義務の観点から、70歳以上の従業員については、勤務時間中に1人のみで店舗または事業場にいないこととしている。 5 DXの活用を進めて、シニアも働きやすい職場づくりに取り組む  大臣表彰受賞後に始めた取組み、あるいは拡充した取組みはほかにもある。シニアにかぎらず、外国籍、障害者などあらゆる人たちが働きやすい職場の実現に向けた取組みだ。 (1)DXの活用  接客や店舗内清掃、レジ操作などの業務については、以前から動画マニュアルを活用しているが、それらを個々の従業員のキャリアに応じて段階的に学べるように内容を拡充した。  また、かつてのレストランでは従業員が端末を手にしてテーブルで注文を聞き入力していたが、現在はデジタルメニューブックを導入した。これによりテーブルの客が好きなタイミングで随時オーダーすることができ、従業員は端末操作の必要がなくなった。さらに、配膳作業ロボットの導入を進めており、例えば、重い鉄板皿の料理などはロボットに運んでもらうことで従業員の負担が軽減された。ほかにも、教育ツールの多言語化、セルフレジの導入拡大などに取り組んでいる。  シニア世代は、DXに苦手意識を持つ人も多いのではないかと気になるが、だれもが扱いやすい使い勝手のよいものを導入することで、苦手意識を持つ人も難なく使うことができる、そうしたDX化を推進しているという。 (2)AIを使った体力測定を導入  転倒災害の防止とシニア従業員の健康管理に配慮した環境づくりの取組みの一環として、食品工場で働く60歳以上の全従業員を対象にして、AIを使った体力測定システムを2025年度に導入した。バランス力や柔軟性などをチェックして、自身の体力年齢やリスクを客観的に知ることができ、一人ずつ簡単な操作で行えるため、今後活用を広めて転倒災害の防止を図っていく。  健康と安全については、「従業員の心身の健康なくして、企業の成長なし」という考えのもと、人事総務本部に「健康・労務チーム」を配置し、従業員の安全衛生管理、労務管理をにない、相談対応も行っている。 6 シニアの就業体験イベントに出展参加シニアが年々増えている  大臣表彰優秀賞の受賞以前からの取組みで、勤続30年、40年の従業員を表彰する制度がある。2025年は、クルー87人が、都内のホテルで開催された「勤続記念 感謝パーティー2025」で表彰された。「60代、70代の方が多く、若いスタッフの教育をはじめ、店舗のある地域との交流など重要な役割をになっているクルーです。大切な人材ですので、感謝を伝える会を毎年実施するのですが、『元気なかぎり、がんばって仕事を続けたい』とみなさんうれしそうに話されます」と中西ディレクター。  このほか、従業員が友人をクルー仲間として紹介できる制度も好評だという。紹介した友人が入社すると、紹介した従業員・された従業員それぞれが食事券(グループ全店で利用できる)をもらえる。クルーの5人に1人がこの制度を通じて採用されているという。紹介で採用された従業員は、長く働く人が多いそうだ。  また、週末や繁忙期の勤務実績に応じて付与している福利厚生のポイント制度も、従業員に人気があるそうだ。貯まったポイントは、同社グループの店舗での食事などに利用可能である。  同社は、コロナ禍のあとの2024年から2025年にかけて、「店舗中心経営」への転換を強力に推し進めている。グループ全体の戦略で、「人財に投資することで、従業員満足度が向上し、定着率が高まり、その結果としてサービスの質が向上し、お客さまにご満足いただけることで企業収益も増加し、持続的な賃上げも実現可能となる好循環が生まれる、という考えに基づくものです。現在すべての従業員に対してさまざまな改革を進めていますが、こうした戦略の転換もシニアの方々の雇用増につながっていると考えています。2018年の受賞時と現在の当社をあらためて比べてみると、シニアの方々の活躍が確実に拡大しています。そこで積まれた実績と現場の声に後押しされ、制度の改定がなされ、働きやすい環境整備が進んできたと思います。さらに向上を目ざします」(中西ディレクター)  2025年10月、同社は東京都が主催する「シニアしごとEXPO2025」に出展した。3年連続で就業体験ブースを出展しており、参加者は年々増えているそうだ。新宿と八王子(はちおうじ)の2日間の開催で、2025年は200人超(前年は120人)のシニアが参加し、和食ファミリーレストランの就業体験を行った(写真)。  体験では、「私には無理そう」としり込みしていたシニアが、やってみると関心を持って就業を検討したり、その場で面接をして採用につながった人もいたという。同社で活躍するシニアはさらに増えていく勢いだ。 ※2020(令和2)年度までの名称は「高年齢者雇用開発コンテスト」 写真のキャプション 人事総務本部人事採用グループの中西匠ディレクター 株式会社すかいらーくホールディングス本社(写真提供:株式会社すかいらーくホールディングス) 東京都主催「シニアしごとEXPO2025」に出展し、来場者の好評を博した(写真提供:株式会社すかいらーくホールディングス) 高年齢者活躍企業コンテスト 受賞企業の軌跡 第4回 菱木(ひしき)運送株式会社(千葉県八街市(やちまたし))  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)と厚生労働省との共催で毎年開催している「高年齢者活躍企業コンテスト※1」。高齢者雇用の推進に資する事例を広く募集し、優秀な事例を表彰しており、その内容は、毎年本誌で紹介しています。本連載では、かつてコンテストで厚生労働大臣表彰を受賞した企業を取材し、その後の取組みの進化・深化をレポートします。第4回は、2011(平成23)年度に優秀賞を受賞した菱木運送株式会社を取材しました。 「安心安全」を第一に掲げてドライバーの負担軽減に尽力 1 大臣表彰の栄誉とたしかな仕事の実績がX字回復の力になる  千葉県八街市に本社を構える菱木運送株式会社(菱木(ひしき)博一(ひろかず)代表取締役社長)は、「平成23年度高年齢者雇用開発コンテスト」で厚生労働大臣表彰優秀賞を受賞した。2008(平成20)年に65歳定年制を導入したことや、ドライバーの安全を確保するためには、トラック・バス・タクシー運転者の長時間労働の是正や健康確保、交通安全を目的に厚生労働省が制定した告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(以下、「改善基準告示」)※2の遵守が欠かせないと考え、そのためのツールを独自に開発しトラックに搭載して、適正な運転時間と休憩時間を実現したことなどが受賞につながった。  菱木社長は、「表彰式には当社の会長を務める私の母と私、当時まだ小学生だった息子の3世代で出席しました。その息子は、他社勤務を経て現在は当社でさらに経験を積んでいます。運送業界では、よく後継者不足といわれますが、とてもうれしいことです。受賞後は多くのメディアに取り上げていただいたり、セミナーなどで当社の取組みを発表する機会をいただいたりするなど、さまざまな経験をさせてもらいました」と大臣表彰がもたらした栄誉をふり返る。  それから15年。同社の歩みは決して順調ではなかった。受賞当時、65歳を超えても働く意欲を持った従業員の職務を創出するために、本業の運送業務に加えて、ペットフードの検査や箱詰め、梱包作業、リサイクル事業にも取り組んだが、コロナ禍を境に、これらの事業から撤退を余儀なくされた。運送業務にもその撤退が影響して受注が減少、売上げが激減した。  「そのときに支えになったのが、どんなときでも法令を守って取り組んできた仕事の実績と、厚生労働大臣表彰を受けた栄誉です。そうした状況にあるなか、トラックドライバーの時間外労働に年間960時間の上限規制が適用されるという、いわゆる『2024年問題』が注目されるようになりました。当社では、独自開発したアプリを活用して法令遵守を実現しており、2024(令和6)年からの規制にも早くから対応ができていましたから、そのことを理解してくださったお客さまなどからの紹介などで仕事が増えていき、立ち直ることができたのです。つらい経験もしましたが、きちんと仕事を続けていれば、それをみてくださるお客さまはいるのだという自信にもなりました」(菱木社長)  近年の運送業界は、労働時間の上限規制などへの対応とともに、ドライバーの担い手不足が重なるなど課題が山積みといわれる。そうしたなか同社では、大臣表彰を受賞する3年ほど前から、ドライバーをサポートする独自の労働時間管理システムを開発・導入し、ドライバーが運転に集中できる労働環境の整備に努めて事故の減少と法令遵守を実現した。このシステムは、大臣表彰の受賞後、新たな機能が追加されたり、より使いやすくなるように改良が重ねられたりして「乗務員時計」という、スマートフォンのアプリに進化した。高齢のドライバーからも「ストレスなく運転に集中できる」、「仕事の疲れが残らなくなった」などと好評だ。  大臣表彰から15年、同社の軌跡を追った。 2 運転の安全を確保するために法令遵守を心に誓い、労働時間管理ツールを開発  菱木運送は、1971(昭和46)年に現社長の父が創業し、2026年に設立55周年を迎えた。おもにペットフードや建築資材を東北方面、関東圏、関西方面などへ運送している。  現社長が2代目として同社を引き継いだのは、大臣表彰を受賞した年より11年前の2000年のこと。先代が急な病に倒れ、長男の博一さんが社長に、次男が専務に、母親が会長になった。  菱木社長は、規模の拡大を追求するのではなく、従業員と一体で歩むことを念頭に事業運営に取り組み、とりわけ安全第一の観点から労働環境の改善に取り組んできた。  「当時、トラックドライバーの仕事は、どれだけ走るかをドライバーの裁量に任せている会社が多数を占め、法令遵守を前面に掲げている運送会社はあまりなかったように思います。しかし、私は安全な運転を実現するためには、『改善基準告示』を守ることが欠かせないと考え、労務管理を確実に実行することが肝要だと思いました。ドライバーが運転しながら『改善基準告示』を守るためには、それをサポートする仕組みやシステムが必要です。そこで、デジタルタコグラフ※3と連携した労働時間管理ツールを開発するために、メーカーに提案して取り組んだのが最初の一歩でした。社員は『先代のためにも2代目に協力しよう』と受けとめてくれたようでした。私がみなさんから信頼を得るためにも、この挑戦を貫き、どんなときでも当社は法令違反をせず、ドライバーがより安全に安心して働ける環境をつくっていこうと覚悟を決めて取組みを進めました」(菱木社長)  ドライバーとしての経験もある菱木社長のアイデアを具体化して、デジタルタコグラフのメーカーとやりとりを重ねてできあがった労働時間管理ツールは、ツールの指示にしたがって休息や仮眠を取りながら運転を続ければ、結果として法令の基準を守ることができるというもの。従来のデジタルタコグラフは、1日の運行の記録を運行管理者が確認して、守れていない個所があればドライバーを指導するためのツールだった。しかし、新ツールは、ドライバーが運転しやすいように休憩時間を示すなどのサポートが目的。菱木社長は、「基準を守らせるためではなく、ドライバーが運転しやすいようにサポートすることが目的です」と強調する。  現場で使用上の課題などが出てくるとそのたびにメーカーと相談して改善を重ね、開発に着手してから現在まで約18年が経過した。このツールは社用のスマートフォンにインストールされるアプリに進化し、腕時計のようなものだと思ってもらえるように「乗務員時計」と名づけられた。  例えば、2024年4月の改善基準告示の改正により、トラックドライバーは「連続運転4時間ごとに最低30分(10分以上の分割可)の休憩」が義務化されたことに対応し、乗務員時計は、4時間走行すると休憩を取るようにと音声でドライバーに教えてくれる。また、トラックドライバーの長時間労働の要因として、荷待ち・荷受けの待機時間の削減が急務となっているが、菱木社長は待機時間の自動集計にも取り組み、待機時間を「見える化」した。「当初はドライバーが待機しはじめたときにアプリを操作する必要があったのですが、操作できない状況のときもあるため、これを改善し、待機の経過時間をリアルタイムで管理・把握できるようにして、そのデータとともに荷主へ改善を提案することができるようになりました。改善の提案や当日の連絡は、ドライバーではなく、待機時間を把握できている会社から行い、ドライバーの負担の軽減にもつなげました」(菱木社長) 3 乗務員時計により「楽になった」、「安心して仕事ができる」と従業員から好評  現在、同社の従業員数は32人。60歳以上の従業員は6人で、全員がドライバーである。最高齢者は71歳。同社は2008年に定年を65歳に引き上げ、定年後は、社長の判断によって70歳までの雇用が可能としていたが、70歳を超える従業員がいる実態をふまえて、2026年2月に、「70歳を超えても会社が必要と認めた場合は1年ごとの契約により働くことが可能」とする制度にあらためた。  同社で働いているドライバーは、乗務員時計や同社の労働環境についてどのように感じているのだろうか。ベテランドライバーお二人からお話をうかがうことができた。  小笠原(おがさわら)暢(みつる)さん(60歳)は、29歳のときに菱木運送に入社して勤続30年を超えた。大型車で千葉県から茨城県へ、おもに飼料になる原料などを運ぶ仕事を担当している。  「乗務員時計は、社長が開発に苦労しながら完成させた過程も知っていますので、本当に画期的ですばらしいツールができたと感心しています。このツールがなかったときは、自分で休憩時間を考え、メモしたりしていました。いまは休憩時間を音声で教えてくれるのでとても楽になりました。ドライバーとして安全第一で仕事に専念できていると感じています。操作についても負担に感じたことはありません。  また、アプリは退勤時に翌日の出勤時間を教えてくれます。勤務間インターバルの基準によりそれより早く出勤をすることができないので、仕事のことを気にせず家で休むことができ、十分な睡眠や自分の時間が取れるようになりました。疲れが残らなくなったのも、このアプリのおかげだと思っています。今後も安全運転を心がけ、健康に気をつけてドライバーとしてなるべく長く働いていたいと思います」  平山(ひらやま)信宏(のぶひろ)さん(62歳)は、ドライバー歴42年。野菜の運搬や宅配などの仕事を経て、以前から働いてみたいと思っていた菱木運送に入社して18年になる。現在は、建築資材などを日帰りで運搬する仕事を担当している。  「60歳までは、車中泊のある長距離を担当していましたが、病気をしたことや年齢も上がってきたこともあり、会社の配慮で日帰りでできる近距離の仕事を担当するようになり、体力的にかなり楽になりました。もっとも大事にしているのは事故を起こさないこと。年齢が上がるにつれて気を引き締めています。  乗務員時計は、最初は時間に拘束されているような気がしてプレッシャーに感じましたが、いまは反対にきちんと休憩できるようになり助かっていると感じます。安心して仕事ができる環境になったと思います。荷卸しに長時間待たされると会社から荷卸し先に連絡してもらえますので、ドライバーが気をもむことがなくなりました。時間に追われないような仕事内容であればこの先も続けられると思いますが、安全第一ですので、まずは定年の65歳を目途に気を引き締めてしっかり仕事に臨みたいと思っています」 4 「定年65歳」は、運転業務について自分で技術や体力を確認する機会  菱木社長は、「単に運送ではなく、運送サービスという観点でお客さまに選ばれる仕事をすること、ドライバーが安全運転できる運行管理を行うこと、その環境を整えるのが会社の仕事です。当社はそこにツールを導入しました。結果的に、事故件数の減少とともに、健康診断の結果について同業他社に比べて当社の社員は良好との評価をもらうようになりました」と取組みの成果をあげる。  労働環境の改善は、ツールの導入だけでない。同社にはいま、人力で荷物を積み下ろしする仕事はない。ドライバーの負担を軽減する目的で、取引先に提案して実現したそうだ。  定年65歳を大臣表彰時から変えていないのは、65歳の節目を運転業務を確認する機会として残しておきたいと考えているからだという。「技術や体力はドライバーが判断しますので、それを尊重します。そして、ドライバーを続ける場合も乗務員時計は役立ちます。日ごろのデータからそれぞれの仕事の個性が読みとれますので、得意なことが活かせる仕事に就いてもらえるように話すことができます」と話す菱木社長。  同社において高齢社員の存在は、「会社のすべてを知ったうえで働いてくれている、信頼できる大きな存在です」と菱木社長は評価し、「社会に必要とされる会社でありたい。この思いを大切にして、人材に合わせた会社づくりを継続します」と力強く語った。  アイデアマンの菱木社長には、新たなアイデアがある。高速道路のサービスエリアや一般道の「道の駅」などに、「24時間利用できる自動点呼機器を設置する」ことだ。「体調不良時に血圧などの健康チェックができると、健康に起因する事故の抑止になります。高齢ドライバーにとって、こうした設備があることが安心につながると思います」。ドライバーの安全への菱木社長の思いはどこまでも深く、よりよい施策へと進化し続けている。 ※1 2020(令和2)年度までの名称は「高年齢者雇用開発コンテスト」 ※2 詳しくは厚生労働省ホームページをご参照ください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/roudoujouken05/index.html ※3 デジタルタコグラフ……トラックの速度の変化や走行距離、時間などをデジタルデータとして記録できる運行記録計 ★ 本誌2025年11月号の「高齢者に聞く生涯現役で働くとは」で、同社社員の方を紹介しています。ぜひご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202511/index.html#page=60 写真のキャプション 菱木博一代表取締役社長(手にしているのは高年齢者雇用開発コンテストの表彰状) 菱木運送株式会社本社 勤続30年超のトラックドライバーの小笠原暢さん トラックドライバー歴40年超の平山信宏さん 高年齢者活躍企業コンテスト 受賞企業の軌跡 第5回 大和(だいわ)ライフネクスト株式会社(東京都港区)  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)と厚生労働省との共催で毎年開催している「高年齢者活躍企業コンテスト※」。高齢者雇用の推進に資する事例を広く募集し、優秀な事例を表彰しており、その内容は、毎年本誌で紹介しています。本連載では、かつてコンテストで厚生労働大臣表彰を受賞した企業を取材し、その後の取組みの進化・深化をレポートします。第5回は、2013(平成25)年度に最優秀賞を受賞した大和ライフネクスト株式会社を取材しました。 高齢者を積極的に採用して活躍を促進 健康寿命を延ばすための取組みもスタート 1 70歳を過ぎても働くことができる雇用制度を早くから構築  マンションや事業用建物などの不動産管理事業を展開する大和ライフネクスト株式会社(齋藤(さいとう)栄司(えいじ)代表取締役社長)は、「平成25年度高年齢者雇用開発コンテスト」で厚生労働大臣表彰最優秀賞を受賞した。  同社では、マンション管理員として、当時から多くの高齢者が活躍していた。その背景には、定年年齢の65歳を超えても70歳まで嘱託社員として継続雇用可能な制度と、70歳以降でも働くことができる制度により、働く意志と体力があるかぎり、生涯現役で働くことを可能にする仕組みがあった。  大臣表彰受賞時の本誌掲載記事によると、当時のマンション管理員1804人中、60歳以上は正社員、嘱託社員を合わせて1586人で87.9%を占めていた。マンション管理員を中心とする70歳以上の従業員は、300人であった。  マンション管理員として採用される高齢者は未経験者が多いため、新規に採用された管理員が質の高いサービスを提供できるように、着任前後に充実した教育研修を重ねていることや、マンション管理現場における業務改善提案などを表彰する制度を設けていることが管理員のモチベーションと会社への帰属意識を高めていることなども高く評価されて、大臣表彰最優秀賞の受賞につながった。  2013(平成25)年度の受賞から13年、マンション管理員として働く人たちを中心に、同社の高齢者雇用のその後の軌跡を追った。 2 80歳まで働ける制度を整えて70歳以上も2571人が活躍中  同社は、1976(昭和51)年に創業し、マンション、ビル・商業施設、ホテルなどの建物管理サービスを手がけてきた。2015年には、同社と同様に、不動産管理業務を展開する株式会社ダイワサービスと経営統合して、新生「大和ライフネクスト株式会社」として現在に至る。同社の管理する分譲マンション数は、4465棟(28万5173戸)となっている(2025〈令和7〉年3月31日現在)。  マンション管理員以外の正社員、嘱託社員を含む同社の従業員数は、8760人(2026年1月1日現在)。うち60歳以上は4914人で、全体の56.1%を占めている。60〜64歳が807人、65〜69歳が1536人、70歳以上が2571人である。  60歳以上の従業員のうち、マンション管理員は3567人(60歳以上の72.6%)となっている。65歳以上は、ほとんどがマンション管理員であり、13年前の大臣表彰受賞時に比べ、70歳以上の従業員が大幅に増えていることが大きな変化として見てとれる。  定年年齢65歳は大臣表彰受賞時から変わりはないが、マンション管理員の定年後の継続雇用制度は、2019年に「65歳定年後、嘱託社員として75 歳まで雇用を延長する」と改定された。その先も働くことを希望する者は、会社との合意を経たうえで、80歳まで働くことが可能とした(ただし、労働時間は週に20時間未満とする)。  雇用の上限年齢を80歳としたことについて、同社コーポレート本部人事部の土屋(つちや)浩史(ひろふみ)部長は、次のように説明する。  「少子高齢化が進展するなか、シニア層の方々の仕事の選択肢が増えて、採用競争が激しくなってきたことが一つ。また、健康寿命が延びたことによってリタイアする年齢にも変化が生じ、当社で働いているシニアとお客さまの双方から、まだリタイアせず管理員を続けてほしい、といった声が聞かれるようになったという背景がありました。一方で、70歳を超えると、健康面で個人差が大きくなってきますので、75歳を過ぎてからは週の労働時間を20時間未満とし、継続して働きたいという意欲がある方は会社と面談のうえ、双方のニーズが合えば80歳まで継続して働くことが可能な制度としました」  この制度のもと、75歳超になっても働く管理員が増えたことが、70歳以上の従業員数の増加につながっているといえるだろう。同社の現在の最高年齢者は80歳である。 3 充実した研修制度、スマホを活用した情報発信で一人ひとりの活躍を支援  同社ではマンション管理員として、高齢者を積極的に採用している。65歳までの応募者は正社員として採用していることから、好条件の同社を選んで応募する人も少なくないそうだ。ただ、定年退職後の仕事として応募する人が多いため、ここ数年、その年齢が上がってきている。また、一年間に500人ほどのマンション管理員が入社するが、その多くが未経験者であり、65歳、70歳過ぎの未経験者も採用している。  同社では大臣表彰受賞の以前から、マンション管理員を「フロントマネージャー」と呼んでいる。マンション管理の現場は、一人で勤務する場合が多く、自らの判断と責任でサービスを提供するスピード感が求められるため、管理サービスの最前線で、現場の責任者として業務にあたってほしいという意図が込められているという。そのため年齢にかかわらず、よりよいサービスを提供したいという思いを持つ人材を採用し、教育研修やモチベーションの向上に注力していることも、大臣表彰受賞時の同社の取組みの特筆すべき点であった。  それらはいまも続けられ、現在では専任の教育研修部門を設けて、着任前研修から、現地研修、フォロー研修など、最新の事業を反映した研修プログラムを作成し、現場に精通した講師が研修を実施。新規に採用された管理員が着任直後から高品質のサービスを提供できるように、具体的には、入社後は7日間をかけて、派遣前研修・ガイダンス(座学)、先輩マンション管理員との研修(実務研修)、配属先マンションで専属講師からマンツーマンでの現場研修(実務研修)を実施。入社から2〜3カ月後には、実務研修の専門講師によるフォロー研修を行う。  さらに、近隣エリアの担当社員と管理員とで月一回程度会議を開催し、情報共有や必要に応じたサポートを行う。また、何かあれば電話で相談を受けるなどの体制を整えている。  マンション管理員には、マンションごとに会社から業務用のスマートフォンを配備している。出退勤管理を行うことを目的として始めたものだが、2021年度からスマートフォン向けアプリを活用して、社内報の発信を開始。業務情報をはじめ、健康や安全に関する情報も随時発信し、情報の共有や業務知識のアップデートを促進している。当初は、管理員にスマートフォンの使い方をマンツーマンで教える取組みも行ったそうだが、いまではほとんどの管理員がスマートフォンの使い方を熟知し活用している。労働災害防止に向けた事例を動画で伝える発信も行っていて、転倒事例などの動画がよく見られているそうだ。  また、マンション管理員のモチベーション向上について、土屋部長は次のように話す。  「管理員が一人で勤務するマンションが多く、管理員同士の横のつながりがつくりにくい側面がありますが、当社では、同じエリアで働く管理員の方々で集う機会を設けています(45ページ写真)。また、それぞれが工夫した業務改善や住民の方々に喜ばれた取組み、ちょっといい話などを管理員から募集し、『KAGAYAKI1グランプリ』として表彰する制度があります。これが結構注目されていて、グランプリを目標にしている方もおり、業務へのモチベーションを高めることにつながっていると思います。こうした取組みや、横のつながりが持てるようにすることはつねに大事にしています」  高齢期に未経験から管理員という仕事を選んだ動機は、収入のためや、人と接する仕事がしたいなどさまざまだが、「よく聞くのは、社会とつながりを持っていたい、社会に貢献できる自分でありたい、という方が多く、その姿勢もモチベーションアップになっていると思います。シニア層の管理員の方々と話をすると、社会とつながり続けたい、働き続けたいという意欲が高い方が多く、そういう思いで働かれ、いろいろな工夫をされたりして、感心することが多くありました」と土屋部長。また、「管理員をしていると、マンションに住まわれている方々と交流があり、『ありがとう』という言葉をいただけたり、お子さんたちとあいさつを交わしたりする瞬間があります。『管理人さん』ではなく、『〇〇さん』と名前で呼ばれるなど、『あいさつしてくれてうれしかった』という話をよく聞きます。マンション管理員は、お客さまの暮らしを守る大事な仕事ですから、社会的な価値をさらに高め、広めていきたいと考えています」と力を込めて語った。 4 大学と連携した健康寿命延伸を目的とする運動プログラム  同社では、「大和ライフネクスト健康宣言」を制定して健康経営の取組みに注力し、2020年から、日本健康会議が認定する「健康経営優良法人(大規模法人部門)」に選定され、「健康経営優良法人2022」では、大規模法人部門の上位500社に付与される「ホワイト500」に認定されている。  マンション管理員は60歳以上の高齢者が多いが、健康維持のためにこの仕事を選んだという人がいるなど、もともと健康に対する意識の高い人が多いという。同社ではこれまで、マンション管理員をはじめとする高齢従業員に対して、健康の維持に注力した取組みを行ってきた。健康診断を通じた取組みを重視し、産業医・保健師と連携して健康管理体制を構築して、健診結果に基づいて産業医や保健師が積極的に介入し、二次検査の受診勧奨、治療状況の確認など個別の事後フォローを徹底して、病気の早期発見、治療につなげている。また、マンション管理員については、現場での安全衛生対策と、無理をさせない働き方の徹底にも重点を置いている。  マンション管理員のおもな仕事は、マンション共用部分の清掃、館内巡回、受付、事務管理などで、例えば清掃をするときにわずかな段差につまずいて転倒する、ふり向いたときに何かにぶつかるといった労働災害が生じている。こうした労働災害を抑止するため、事故発生時は案件ごとに問題点の発見、再発防止策および対策後のリスク評価などを行っている。さらに2026年4月から、新たな取組みを開始する計画があることを土屋部長が話してくれた。  「いきいきと仕事をすることができているシニア層の方々により長く活躍してほしいと願い、健康寿命を延ばす取組みを健康経営の一環としてスタートする予定です。筑波大学スマートウエルネスシティ政策開発研究センターと『マンション管理業を行う高齢社員の健康維持・管理に資する体力向上プログラムの開発』をテーマとした共同研究を行い、当社のシニアマンション管理員の方々の健康に関する優れた部分と課題、また、当社のマンション管理の業務特性をふまえて、体づくりのプログラムの検討・開発を進めてきました。気軽にできるトレーニングプログラムで、業務に支障のない時間や自宅での隙間時間などに、強制ではないのですがまずはマンション管理員に周知して実施を呼びかけていきます」  この取組みは、加齢による運動機能低下をフォローするもので、転倒等による労働災害発生件数の削減につなげ、2030年までに60歳以上のマンションをはじめとする建物勤務者のけが(労働災害を含む)による延べ欠勤日数の削減を、2023年度比マイナス10%を視野に取り組む考えだ。  「働きながら健康寿命を延ばすことは、マンション管理員だけでなく、当社のお客さま、また、社会にとって価値のある取組みになると思いますので、今後、ほかの仕事をする従業員や、社内全体、あるいはグループ会社にも広められるよう、力を入れて進めていきたいと考えています」と土屋部長。今後の展開が気になる取組みである。 ※ 2020(令和2)年度までの名称は「高年齢者雇用開発コンテスト」 写真のキャプション 大和ライフネクスト株式会社本社(写真提供:大和ライフネクスト株式会社) コーポレート本部人事部の土屋浩史部長(写真提供:大和ライフネクスト株式会社) 同じエリアで働くマンション管理員の交流が横のつながりをつくっている(写真提供:大和ライフネクスト株式会社) 高年齢者活躍企業コンテスト 受賞企業の軌跡 最終回 株式会社きむら(香川県高松市)  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)と厚生労働省との共催で毎年開催している「高年齢者活躍企業コンテスト※」。高齢者雇用の推進に資する事例を広く募集し、優秀な事例を表彰しており、その内容は、毎年本誌で紹介しています。本連載では、かつてコンテストで厚生労働大臣表彰を受賞した企業を取材し、その後の取組みの進化・深化をレポートします。第6回は、2017(平成29)年度に最優秀賞を受賞した株式会社きむらを取材しました。 80代も活躍中!65歳定年後、三つの雇用区分を用意 1 大臣表彰受賞後、求人の応募者が増加 栄誉が人材獲得と成長の推進力となる  香川県高松市(たかまつし)に本部と本店を置く株式会社きむら(以下、「きむら」)(木村(きむら)宏雄(ひろお)代表取締役)は、2017(平成29)年に「平成29年度高年齢者雇用開発コンテスト」で厚生労働大臣表彰最優秀賞を受賞した。同社は、生鮮食品を中心とする地域密着型のスーパーマーケット(以下、「スーパー」)を展開する老舗企業。人材獲得競争が激化するなかで、経験や技術を持った高齢者を即戦力と位置づけ、定年60歳(当時)以降の再雇用制度について、雇用の上限年齢を廃止した。また、賃金制度の見直しも行い、本人が60歳時と同じ就業を希望し、支障がなければ再雇用後も役職・給与を継続することとした。これらの取組みなどが高く評価され、厚生労働大臣表彰最優秀賞の栄誉に輝いた。  総務・人事部の藤田(ふじた)誉(ほまれ)部長は、「この賞をいただいてから、当社の求人に対してシニアの方々の応募が増えました。当社の店舗で高齢従業員が活躍していることや、健康で就業意欲があれば長く働き続けられる職場であることがハローワークなどから広まったのだと思います。また、高齢者のための就職面接会といったイベントや、パネルディスカッションのパネリストとして呼んでいただくなど、当社の取組みを多くの方に知っていただく機会が増え、人材獲得に加えて、企業として成長していく推進力になりました」と大臣表彰がもたらした効果をふり返る。受賞と同年の12月には、経済産業省が選定する「地域未来牽引企業」に選ばれるという栄誉にも浴した。翌2018年には、香川県が進める「かがわ働き方改革推進宣言」を行い、長時間労働の是正に取り組んで目標を達成するなど、全従業員の働き方改革も前に進めた。  大臣表彰から9年。この間、コロナ禍があったことは記憶に新しい。全国のスーパーは人々の暮らしを守る大切な役割をになって営業していた。同社でも感染防止対策を徹底して店を開け、従業員は使命感を持って働いていたという。また、流通業界では昨今、全国展開する大手スーパーが地方のスーパーを買収するなどの再編が進んだり、多彩な品揃えのドラッグストアが進出してきたりして、地方のスーパーが生き残るには地域に支持され続ける店舗づくりが以前にも増して求められるようになった。そのような状況下に同社の高齢者雇用はどのように深化したのか。そして、社業にどのような影響を与えているか、同社の軌跡を追った。 2 香川県発祥の地場スーパーとして地元の新鮮な食材を提供  同社は1907(明治40)年に食品を小売りする個人商店として香川県で創業し、有限会社、株式会社への組織変更を経て、現在に至る。1982(昭和57)年には県内2番目となるコンビニエンスストアスタイルの小型スーパーを開設し、店舗に書店を併設したことが注目を集めた。その後、生鮮食品を中心とした事業を展開し、屋号を「新鮮(しんせん)市場(いちば)きむら」とする。2001年からは本格的なチェーン化を目ざし、現在は香川県に11店舗、岡山県に4店舗を展開している。  屋号に「市場」とつけたのは、取り扱う商品の7割を生鮮品が占め、活気に満ちた市場の雰囲気をそのまま店に持ち込んでいるからだという。地域のニーズに合わせた品揃えとするため、店舗ごとに仕入れを行うことも同社の特徴だ。また、事業の継続が困難になった魚市場を買い取ってその運営も手がけており、鮮魚コーナーは、この直営市場のほか、漁船からの直接の買いつけと、直営以外の卸売市場で競り落とすという三つの仕入れルートを持ち、獲れたての魚を箱に入れたままずらりと並べて販売することでも有名になった。魚を目当てに、開店と同時ににぎわう日が多いという。精肉、青果、総菜にもこだわりがあり、最近ではピザチェーン店とのコラボレーション商品が人気となり、総菜部門の売上げを伸ばした。また、お客さま向けのアプリを開発するなど、さまざまな工夫を凝らし、唯一無二の地場スーパーとして地域の人々から親しまれ、人口減少が続くなかでも売上げを維持している。  9年前と現在の同社の取組みの違いとして、SNSや動画配信を使った広報が大幅に増えたことがあげられる。公式のほか店舗ごとの配信もあり、動画は若い従業員が中心になって制作しているそうだが、ミドル・シニア世代の従業員が参加しているものもある。多世代の多様な人材がそれぞれの持ち味とつちかってきた技術や経験を活かして働いているからこそ、同社の店舗が活気と工夫にあふれているといえそうだ。 3 定年を65歳に引き上げ、再雇用の雇用区分を整備。従業員から好評を得る  2026(令和8)年2月1日現在、同社の従業員数は887人。60歳以上の従業員は269人で、全体の30.3%を占めている。内訳は、60〜64歳が83人、65〜69歳が62人、70代が118人、80代が6人で、最高齢者は総菜部門の85歳。  大臣表彰受賞時の『エルダー』誌面によると2017年は、60歳以上は290人で、60〜64歳が126人、65〜69歳が132人、70歳以上が32人。比較すると、現在は70代、80代が大きく増えている。「パートで入って10年以上勤務する方が多いので、おそらく9年前から働いている方々の多くが年齢を重ねて、いまも元気に働いている、ということだと思います」と藤田部長は分析する。  豊富な経験や技術を持つ高齢従業員を即戦力として位置づけ、就業意思があれば年齢の上限なく再雇用する制度をはじめ、再雇用後も人事評価を行い結果によって昇給の可能性があることや、次世代の教育指導役として高齢従業員が活躍していること、作業環境はつねに改善を目ざし積極的な機械化を推進していること、60歳を超えてからの採用も積極的に行っていることなど、9年前から実施している高齢者雇用の取組みはいまも続いている。  ただ一つ、以前は「定年60歳。定年後は、希望者全員を65歳まで再雇用。さらに、運用で本人の就業意思があれば、年齢の上限なく再雇用」としていた定年制度を2024年にあらため、「定年65歳。定年後は、運用で本人の就業意思があれば、年齢の上限なく再雇用」とした。そして、定年後の雇用区分として、大きく次の3区分を整えた。@嘱託社員(定年前と同じ役職・給与を維持する働き方。本人の希望と会社の意向を調整して決まる)、A契約社員(1日8時間のフルタイム勤務で残業なしの働き方)、Bパート契約社員(勤務時間・日数は希望に応じて会社と相談して決まる。多様な働き方が可能)。  定年を65歳に改定したことについて藤田部長は、「以前は60歳定年後、ほとんどの人が60歳時と同じ働き方を希望して再雇用で勤務を継続していました。ただ、65歳前後くらいから、体調や家庭の事情などにより、ゆるやかな働き方を望む人も出てきます。そこで、自分に適した働き方でより長く勤務できるよう、定年を65歳にして、ここで面談をしてその後の働き方をしっかりと相談し、以降も1年ごとに面談を行うことにしました」と改定の理由を語る。従業員からは、「働き方を相談できるタイミングができてよかった」、「無理なく長く働けるようになってありがたい」といった好意的な声が聞かれているという。面談のタイミングで退職を決める人もいて、「面談の機会が決まっていてよかった」という声も聞かれたそうだ。  定年を65歳にしてから、次のようなこともあった。大手企業に勤務していた男性から求人へ応募があり、動機をたずねると、その男性の会社は60歳定年のため、65歳まで正社員として働くことができ、その先も年齢上限なく再雇用の道があるきむらに転職したいとのこと。その結果、経験豊富な50代を採用できたという。また、他社を60歳で定年退職後、きむらで正社員として働きたいと入社した人もいる。求人への応募者は9年前より年齢が上がっていて、経験と意欲があれば70歳超も採用している。人材獲得競争は年々激しさを増しているが、70代、80代も活躍できる雇用制度や職場づくりが同社にとって大きな力になっていることは間違いなさそうだ。最近は外国人材の採用にも取り組んでいる。  同社は、地場スーパーとして、地場の漁師や農家の生産者が生き残っていくことも意識して、生鮮食品に特化した事業にこだわっている。従業員には、そうした思いを強く持って仕事に臨んでいる人も多いという。「香川県発祥のスーパーはかつて多数あったのですが、大手による買収や事業譲渡が相次ぎ、当社を含めて数社となりました。そうした状況は社長から従業員に伝えており、従業員は地場のスーパーとして誇りを持ち、さらにがんばっていこうという思いを持って仕事をしています」(藤田部長) 4 経験豊富なベテランが、若い人材を育て安心して成長できる職場環境に貢献  同社で働いている高齢従業員の方々は、高齢者雇用制度や自身の働き方についてどのように感じているのだろうか。70代と60代のお二人からお話をうかがうことができた。  茶納(ちゃのう)英明(ひであき)さん(71歳)は、以前に勤務していたスーパーが閉店し、50代半ばできむらに入社して約15年。「当時、再就職は困難かと思いましたが、木村社長に救われました」とふり返る。店長の経験を経て、定年後は嘱託社員として太田本店に勤務しているが、昨年12月から急きょ同店の店長代理となり、次の店長を育てる役割もになっている。藤田部長は、「店長の欠員ができて経験者の茶納さんに代理をお願いしました。朗らかにみんなを引っ張ってくれる頼もしい存在です」と茶納さんを紹介する。茶納さんは、「店長経験があり、『店長代理』にと声がかかったことはうれしかったのですが、10年のブランクがあり、仕事の流れなども変化していますから、かなり重圧を感じました。それでも代理をやろうと決意したのは、社長の考え方や仕事に対する熱意が好きですし、何よりスーパーの仕事が好きですから、会社の役に立てるなら、という気持ちが勝りました。店長代理を務めながら、後進の育成もしています。店長代理として、たくさんの地域の方々に愛される店づくりを、そして、従業員が明るく元気に仕事ができる職場づくりを目ざしてがんばります。この仕事は天職と思っていますので、体調管理に気をつけて、あと10年は続けていきたいです」と笑顔で話してくれた。  上田(うえだ)耕司(こうじ)さん(62歳)は、家族が経営していたスーパーに長年勤務した後、13年前に入社した。スーパー勤務の経験は40年、そのうち37年は青果を担当し、きむらの青果部門でもチーフを務めた。藤田部長は「現在はチーフの役を若手に引き継いで、チーフをサポートする役をになっています。青果の知識も経験もたいへん豊富なので、いろいろなことを教えていると思います」と上田さんを語る。上田さんは、「チーフはすでにだいたいのことができるようになりましたので教えることはあまりなく、野菜に関する知識や情報を伝えたり、イレギュラーなことが起こったときに支えたりするくらいです。いまは仕入れの担当ではないのですが、担当していたときと同じような感覚で仕事に臨み、お客さまにどのように提供するかを考え、工夫することがやりがいになっています。  これからも活気があるスーパーであり続けるよう、補佐役としてしっかり仕事をしていきたいと思います。そのなかで、小さなことにもドキドキワクワクできるような、そんな働き方を続けていけたらいいなと思っています」とおだやかな表情で語った。  お二人の話から、経験豊富なベテランの存在が若い人材をしっかり育てていること、若手従業員が安心して育つ環境づくりに高齢従業員が貢献している様子が伝わってきた。  藤田部長は、今後に向けて次のように語った。「地元の新鮮な魚、肉、野菜などを地元のお客さまにおいしく食べていただけるよう、また、香川県発祥のローカルスーパーとして誇りを持って一生懸命仕事をする人材を採用し、育成することを続けることが大事な課題です。新卒者の採用に注力していますが、高齢者の方々の力も必要です。今後も働きたいと思っていただけるスーパーであるよう、よりよい職場づくりに取り組んでいきます」 ※2020(令和2)年度までの名称は「高年齢者雇用開発コンテスト」 写真のキャプション 総務・人事部の藤田誉部長 「新鮮市場きむら」の太田本店 太田本店の店長代理を務める茶納英明さん 青果部門のチーフをサポートする上田耕司さん