新連載 生涯現役を支えるお仕事 第1回 「働くから元気になる」高齢者のお仕事を支えるシニア営業マン 株式会社高齢社 営業部 営業第二グループ部長 高木(たかぎ)章(あきら)さん  人生100年時代を迎え、多くの高齢者が長く働き続けることができるのは、高齢者の生涯現役を支えている人たちの活躍があるからともいえます。このコーナーでは、さまざまな分野や場面で働く高齢者、そして“生涯現役社会”を支えるお仕事をしている人々をご紹介します。  シニアに特化した人材派遣会社として、注目を集める「株式会社高齢社」。「元気な高齢者がたくさん働く高齢社会の実現」を企業テーマに掲げ、定年を迎えても、気力・体力・知力に満ちたシニアに「働く場所」と「やりがい」を提供しています。今回は、同社営業部営業第二グループで、顧客開拓営業や人材の発掘に取り組む高木章部長に、働くシニアを支える仕事のやりがい、「働いて元気になる」極意などをうかがいました。 派遣社員の平均年齢は71.8歳。高齢者による高齢者のための会社 ―株式会社高齢社は、東京ガス株式会社の理事などを歴任した故・上田(うえだ)研二(けんじ)氏が、2000(平成12)年に設立。2023(令和5)年10月現在の派遣登録者数は約1150人で、平均年齢は71.8歳。高齢社の本社スタッフの平均年齢も67.1歳と、まさに社名通り、高齢者による高齢者のための会社として活動の幅を広げています。高木さんが所属する営業部営業第二グループのおもな業務内容について、教えてください。 高木 当社はもともと東京ガスの退職者を対象とした会社で、設立当初は派遣先も、すべてが東京ガス関連の事業でした。それが約10年前、テレビ番組で紹介されたのをきっかけに、一般の人からの登録申込みが急増。現在の派遣先は東京ガス関連の業務が約65%、東京ガス関連以外が約35%です。営業部営業第二グループでは、東京ガス関連以外の派遣先を担当しています。  私たちの仕事の一つめは、派遣先の開拓。以前は、一般の人の登録申込みが増えても、十分な派遣先がなく、営業担当が苦労していた時期があったと聞きます。しかし、この10年で新規開拓が進み、多くの企業から派遣のオファーをいただくようになりました。いま一番多いのは、レンタカーの受付業務の仕事です。  二つめは、派遣社員の発掘。人材派遣のオファーに適した人を探す仕事です。私も東京ガス出身で、在職中はOB会事務局の業務に6年ほどたずさわっていました。当時OB会に所属していた約6500人のうち、半数ぐらいと面識があり、その人脈が、大きなプラスになっています。  三つめは、派遣社員および派遣先のフォローです。派遣先に対しては、いまの仕事を継続してもらえるよう、また、さらに新しいオファーがいただけるよう、折衝(せっしょう)も行っています。 ―65歳で東京ガスを退職後、高齢社に入社されたということですが、入社のきっかけを教えてください。 高木 以前から「65歳になったら仕事はしない」と決めていました。しかし、退職後3カ月も経たないうちに、妻が「もう働かないの?」と。わが家は、娘夫妻、孫3人の大家族なので、できれば私には、外に出かけてほしいという気持ちがあったのだと思います。  高齢社には、東京ガスの先輩が2人いて、「退職したら来ない?」と在職中から声をかけられていましたが、ずっと固辞していました。しかし退職後に「お酒でもどう?」と誘われ、本社に赴くと、2人にのせられて履歴書を書き、入社に至った次第です。いまでは、入社してよかったとつくづく感じています。 ―毎日のお仕事について、お聞かせください。高木さん自身、70歳を超えていますが、たいへんだと感じる業務などはありますか。 高木 私の出社は火・水・金曜日の週3日です。私の担当に21人の派遣社員を配置している会社があり、そのスケジュールづくりが、一番たいへんな仕事ですね。平均70歳を超える人たちですから、体調がすぐれず「今日はお休みします」という連絡が、早朝から入ってくることも少なくありません。私の携帯電話への連絡は「24時間OK」にしていますので、1日何十本もの電話を受けることもあります。 元気で意欲ある高齢者の働きが新たな高齢者の仕事を生み出す ―高齢社の仕事で、特に印象的だったこと、やりがいを感じたことはありますか。 高木 今年2月、茨城県内のLNG(液化天然ガス)サテライトから、「全点検業務をやってもらえないか」という話がまい込んできました。LNGサテライトは、都市ガスの供給エリア外で、LNGを利用するために建設される施設。そこにある配管の点検をし、ガス漏れをチェックするという、これまでにない大きな仕事です。「いい話だ」と思いました。  この仕事はだれでもできるものではなく、レーザーメタン検知器という機器を使ったガス漏れ検査の経験があり、図面に沿って漏洩判断ができる人が必要でした。打合せのため、早朝出発して茨城県まで出かけたり、戻ってきて、人材を探したり。たいへんでしたが、楽しさもあり、最後には大きな達成感が得られました。  営業の仕事では、派遣社員から「仕事を紹介してもらってよかった」、「ありがとう」といわれるのが、一番うれしいことです。一方、今回のように大きな仕事が得られるのは、派遣社員が一生懸命仕事をしてきたことの賜物でもあります。「社員を大切にしなければ」と、あらためて思います。 ―働く高齢者を支える仕事をするにあたり、大切にしていることはどのようなことでしょうか。 高木 当社の経営理念は「働く人を大切にする」こと。「顧客よりもさらに大事なのが社員だ」との考えのもと、仕事をしています。また、人は「元気だから働く」のではなく、「働くから元気になる」という意識も大切です。多くはなくても、働いて給料をもらえれば、お孫さんにお小遣いをあげて、喜ぶ顔を見ることができる。ゴルフでも、ダンスでも、趣味に使って楽しめる―。働いて楽しむことで、世の中も少し明るくなるのかなと思いますね。 ―高齢者が生涯現役で、活き活きとして仕事を続けていくために、どんな課題があると考えていますか。 高木 働き方改革が進んでいますが、われわれにとってはまだ、厳しい面があると考えています。例えば、年金受給者の場合、働いて収入が一定以上に増えれば、在職老齢年金の仕組みで年金額が削られてしまいます。働き手として必要とされ、せっかく働いたのに、働いた分が減るという制度には矛盾を感じるのです。  これから間違いなく、働き手不足の時代が到来し、派遣業でも70歳、75歳まで働くことがあたり前。そんな時代になっていくでしょう。だからこそ、そういった矛盾がなくなってくれるといいな、と思っています。(取材・沼野容子) 写真のキャプション 営業部営業第二グループ部長の高木章さん 第2回 「生涯現役」実現へ、企業の健康経営の取組みをサポート ウェルネスドア合同会社 代表 狩野(かりの)学(まなぶ)さん 看護師・ヨガトレーナー 水野(みずの)英美(えみ)さん  人生100年時代を迎え、多くの高齢者が長く働き続けることができるのは、高齢者の生涯現役を支えている人たちの活躍があるからともいえます。このコーナーでは、さまざまな分野や場面で働く高齢者、そして“生涯現役社会”を支えるお仕事をしている人々をご紹介します。  少子高齢化で働き手の不足が深刻化するなか、企業が経営的視点から従業員の健康管理を進める、「健康経営○R」※に注目が集まっています。今回は、健康経営に関するコンサルティング事業を展開するウェルネスドア合同会社代表の狩野学さん、同社専門スタッフとして活動する看護師でヨガトレーナーの水野英美さんに、健康増進や健康意識向上など、「生涯現役の実現」のカギとなる企業の取組みについて、お話をうかがいました。 健康教育は早い段階から企業の課題に応じたカリキュラムを作成 ―ウェルネスドア合同会社は、2019(令和元)年に法人化されていますが、狩野さんが起業された経緯、現在のおもな事業内容について教えてください。 狩野 当社創業の経緯としては、約15年前、私自身が20歳のときに、パーソナルトレーナーとして、一般の方やアスリートの健康管理、健康増進のための指導を始めたのが最初になります。その後、健康経営を推進する大企業、中小企業を認定する経済産業省の「健康経営優良法人認定制度」がスタート。企業での健康管理研修などのニーズが高まったことから、企業向けのサービスを開始し、法人化しました。  いまは、企業の健康管理室や健康保険組合とタッグを組み、健康増進に関するさまざまな研修や運動実技の企画、サービス制作をオンラインを含めて展開しています。 ―お仕事はどのような形で進めていらっしゃいますか。 狩野 私は、お客さまのオファーを受け、企画を作成して提案する作業を一日中しています。それぞれの企業の従業員の年齢や性別構成、健康診断の結果などに応じて、「うちの従業員には、こういう施策が必要」といったリクエストがあるので、その課題に応じたカリキュラムを作成し、必要な人材をキャスティングしています。 ―ウェルネスドア合同会社では、スポーツインストラクター、医師など健康分野の専門家計100人以上が専門スタッフとして登録。水野さんもその1人として活動されていますが、仕事内容を教えてください。 水野 私はずっと看護師ひとすじで働いてきましたが、いまはヨガインストラクターとパーソナルトレーナーを軸に仕事をしています。当社では、オンラインフィットネスなどを担当しています。肩こりや腰痛、膝の痛みや加齢によって出てくる症状などは、体の使い方によって予防・改善ができますので、そういったこともお伝えしたいと思っています。  そのほか、看護師としての知識を活かし、禁煙や禁酒、更年期障害についてなど、健康系のセミナーにもたずさわっています。 ―企業からのリクエストは、どのような内容が多いですか。 狩野 「生涯現役」というキーワードでのリクエストは非常に多いですね。生涯現役で働くためには、40代、50代ぐらいから健康教育を積極的に取り入れることが必要です。高齢になっても健康を維持できるよう、早い段階から取組みを進めようとするのが、企業や健康保険組合の基本姿勢です。会社によっては、毎年35歳の従業員に対し、健康管理研修などを行っているケースもあります。  やはりヘルスリテラシーが高い人と低い人とでは、生活習慣も日常の食品の選び方も、睡眠に対する意識も違います。従業員の健康習慣を変革し、高いパフォーマンスを保って、生涯現役で働いてもらおうとする意識が高まっているようです。 就業時間内で運動を!企業の取組みが日本の健康レベルを上げる ―高齢者が長く働いていくためには、「健康」がカギになるということですね。 狩野 高齢者の再雇用について見ると、パートタイムの肉体労働が多いという印象があります。関連会社やグループ会社がある大手であれば、高齢者に適した仕事を用意できるかもしれません。しかし地方の中小企業などでは、新しい労働力を集めるのがむずかしく、65歳以上の人でも、若手と同じ労働現場で働き続けることを期待されるケースも多くなります。  そういう状況のなか、自分の健康状態をいかに維持していくことができるか。それが生涯現役で働き続けるための重要なテーマになりますね。企業側、労働者側双方に健康に対する共通認識を持ってもらうため、橋渡しをするのが私たちの仕事で、そこに意義を感じています。 ―健康状態を維持していくため、オンラインフィットネスなどの効果について教えてください。 水野 スポット的ではなく定期的に、例えば週1回といった形で、オンラインフィットネスを行う場合だと、参加者の変化がとてもよくわかります。はじめのうちは、画面に自分を映さないようにしていた人が、積極的に手をふってくれたり、明らかに元気になって、表情が豊かになってきたり。運動することによって、表情や体の可動域、そして日常生活自体も変わっていくことに、喜びを感じます。ぜひ、もっとやってほしいという感覚があります。 ―企業の健康経営が、生涯現役社会の実現に果たす役割について、考えをお聞かせください。 狩野 自分がパーソナルトレーナーをしていたとき、お客さまとして来るのは基本的に健康意識の高い人たちで、本来一番かかわらなければならない「健康に無関心な人たち」へサービスが届かないことに、問題意識を感じていました。ヘルスリテラシーを高め、日本全体の健康レベルを高めていくためには、多くの人が所属する「企業」というコミュニティに情報発信することが必須だと強く感じています。  健康、運動に対する優先度の低い人は、自分ではなかなか取り組まないので、就業時間内に短い時間でも、健康体操などを導入し、文化として根づかせることが必要です。企業の経営者や担当者には、生涯現役の人を増やすための大事なコミュニティを運営されているという意識を持って、健康増進の施策を取り入れていただきたいですね。(取材・沼野容子) ※「健康経営○R」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。 写真のキャプション ウェルネスドア合同会社代表の狩野学さん(写真提供:ウェルネスドア合同会社) 看護師・ヨガトレーナーの水野英美さん(写真提供:ウェルネスドア合同会社) 第3回 シニアのお仕事探し最前線!「生涯現役」に寄り添う就職支援アドバイザー 東京しごとセンター シニアコーナー 就職支援アドバイザー 白井(しらい)弘(ひろし)さん 内野(うちの)貴世子(きよこ)さん  人生100年時代を迎え、多くの高齢者が長く働き続けることができるのは、高齢者の生涯現役を支えている人たちの活躍があるからともいえます。このコーナーでは、さまざまな分野や場面で働く高齢者、そして“生涯現役社会”を支えるお仕事をしている人々をご紹介します。  55歳以上のシニアを対象に、就業支援に関するワンストップサービスを展開する東京しごとセンターの「シニアコーナー」。再就職先を探す人、定年後のセカンドキャリアを模索する人など、毎年約8000人以上が利用し、2022(令和4)年度の就職件数は約2000件にのぼっています。今回は、同コーナーで活躍する公益財団法人東京しごと財団総合支援部しごとセンター課高齢就業支援係就職支援アドバイザーの白井弘さんと、内野貴世子さんに、生涯現役を目ざすシニアの仕事探しについてうかがいました。 定年退職後、就職支援アドバイザーに転身「先入観を持たない」がシニア支援のポイント ―「東京しごとセンター」は、東京都民の雇用や就業を支援するため、2004(平成16)年に設置されました。シニアコーナーでは、個別の就業相談やキャリアカウンセリングのほか、セミナーや就職面接会などを実施していますが、就職支援アドバイザーとしての具体的な仕事内容を教えてください。 白井 シニアコーナーの営業時間は、月曜日から金曜日は午前9時から午後8時、土曜日が午前9時から午後5時で、私たちを含め計11人の就職支援アドバイザーが所属しています。仕事のメインとなるのが相談対応。利用者の話を聞きながら、それぞれの課題を見きわめ、考えるべきポイントや課題を整理して、必要なアドバイスを、きめ細かく行っています。そのほか、模擬面接や就職対策のセミナーで講師を務めたり、面接会などのイベントに出張して就業相談をしたりすることもあります。 ―どのような経緯で、就職支援アドバイザーの仕事をするようになったのでしょうか。 白井 私は、60歳の定年まで民間の会社に勤めていました。スタッフ部門の経験が長く、企画本部で予算管理などを担当し、2014年に退職。退職後は、いままでの経験を活かして就職できないかと、2カ月ぐらいハローワークに通い、何社か応募したのですが、採用に至りませんでした。  しかし、そのハローワークで、「キャリアサポーター養成科」のパンフレットを偶然目にし、キャリアコンサルタントになるための半年間の訓練を受講することができました。その後、産業カウンセラーの資格も取得し、2016年に東京しごとセンターに採用されたという形です。 内野 私は民間の会社で、人事関連の仕事に長くたずさわっていました。産業カウンセラーの資格を取得し、社内の相談窓口などを担当していました。2011年、早期退職に応募し、再就職活動を行った際にキャリアコンサルタントの資格も取得。その後、約10年にわたって民間や自治体の事業で就職支援にたずさわり、2020年から、シニアコーナーで仕事をするようになりました。 ―シニアの就職支援ということで、特に心がけていることはありますか。 白井 シニアコーナーといっても50代後半から60代、70代、80代と利用者の年齢層は非常に幅広く、それぞれ違った環境で、違った問題を抱えています。一人ひとりの状況、年代層の特徴をある程度把握したうえで、利用者の話を聴くようにしています。また、シニア世代は介護の問題があったり、自分でも病気を抱えたりしていることもありますから、そういう事情をトータルに理解し、利用者に対応することを心がけています。 内野 自分への戒めは「先入観を持たない」ことです。いま、利用者が何を求めてここに来ているのか、先入観を持たず、よく聴くようにしています。人によって、年金は十分にあるけれど、社会とのかかわりを持つために仕事を探しているケースもありますし、「年金がぜんぜん足りないから働く」という人もいます。とにかく一定の金額を稼がなければならないのなら、少し方向性を変えて仕事を探すことなども提案し、それでうまくいくこともあります。 80代で希望の仕事にさまざまな選択肢で納得のいく就職を ―就職支援アドバイザーのお仕事で、魅力を感じるのはどんなところですか。具体的なエピソードがあれば、教えてください。 内野 シニアの場合、いままでの経験を活かして仕事をしたい希望があっても、いまの就労環境の状況では、なかなかそれが実現できないというケースは少なくありません。シニアコーナーでは、そういうシニアの求職者にも、さまざまな情報、選択肢を提供できるのが魅力です。例えば、65歳以上を対象とした「しごとチャレンジ65」は、職場体験を通じて、求職者と受入先企業をつなぐプログラムです。書類選考などは行わず、企業に求職者に直接会ってもらうことができるので、採用率が非常に高くなっています。また、就職支援講習※を提案したことで利用者が前向きになり、納得した就職をしてもらえるのが一番ですね。 白井 少し前の話ですが、希望の仕事に就くことができた80代の女性がいます。いままでの経験を活かして、調理や洗い場での仕事がしたいということだったのですが、立ち仕事ですし、大きな鍋を扱うようなこともありますから、年齢的に少し厳しいかなと思っていました。しかしその方は、ハローワークの求人票にあった小料理屋で職場体験に臨み、そこでの就職が決定。その店では高級な器を多く使用していたので、その方のていねいな洗い方が評価されたのです。とてもうれしく思いましたね。 ―シニアが生涯現役で働き続けていくため、企業に求めることはありますか。 白井 少子高齢化で、労働力人口も減ってきています。働く意欲があるシニアを、企業としても積極的に、戦力としてどんどん活用してほしいと思います。 内野 シニアの働き方は、いろいろと工夫することができるのではないでしょうか。例えば介護の現場であれば、身体の介護はむずかしくても、介護職の手伝いなどは可能です。仕事を切り出して細分化することで、少しずつでも、シニアが働く機会をつくっていただきたいですね。 (取材・沼野容子) ※ 就職支援講習……東京しごとセンターが実施する、マンション管理、介護など、シニアが活躍する業界へ職種転換するための短期講習 写真のキャプション 公益財団法人東京しごと財団 総合支援部 しごとセンター課 高齢就業支援係 就職支援アドバイザーの白井弘さん 公益財団法人東京しごと財団 総合支援部 しごとセンター課 高齢就業支援係 就職支援アドバイザーの内野貴世子さん 第4回 再雇用でモチベーションもアップ! いきいきシニアの就業や学びを支援 公益財団法人いきいき埼玉 埼玉県シルバー人材センター連合 就業促進部就業促進課主任 岡野(おかの)功(いさお)さん  人生100年時代を迎え、多くの高齢者が長く働き続けることができるのは、高齢者の生涯現役を支えている人たちの活躍があるからともいえます。このコーナーでは、さまざまな分野や場面で働く高齢者、そして“生涯現役社会”を支えるお仕事をしている人々をご紹介します。  「人生100年時代」を見すえ、意欲に満ちたシニアに活躍の場、学びの場を提供している、「公益財団法人いきいき埼玉」。  今回は、同財団前身時代から約30年にわたり、生え抜きの職員として活躍する岡野功さんに、シニアの学び直しを応援する「埼玉未来大学」の取組みなど、生涯現役を支えるお仕事についてうかがいました。 「生きがいづくり」だけではない自立したシニアを伴走支援する大学 ―岡野さんは現在、いきいき埼玉・就業促進部就業促進課(埼玉県シルバー人材センター連合)の主任として、事業の普及啓発、運営に関する相談、就業開発などにたずさわっています。いまの仕事をするようになった経緯、おもな仕事内容などについて教えてください。 岡野 現在、埼玉県シルバー人材センター連合の拠点にもなっている「埼玉県県民活動総合センター」が全面オープンしたのが1991(平成3)年4月ですが、同センターを管理運営する新たな財団が創設された際、その財団職員の採用に応募したのがきっかけです。財団は2002年、同じ埼玉県出資法人の「財団法人埼玉県高齢者生きがい振興財団」と統合され、「財団法人いきいき埼玉」が設立されました。  前身の財団で、最初に配属されたのは視聴覚教材を作成する部署です。それから生涯学習の担当になり、県から委託されたリーダー養成講座のほか、生涯学習の趣味教養講座の企画などにもたずさわりました。私が20代から30代になるころでしたが、楽しい仕事でしたね。  その後は、施設の維持管理、NPO法人の企画相談、活動支援なども担当しました。キャリアとして一番長いのは、シルバー関連の業務です。45歳でこの業務に就いて以来ずっと、シルバーと大学関連の仕事をしてきました。 ―2020(令和2)年4月、50歳以上を対象とした学びの場「埼玉未来大学」が開校されましたが、どのような趣旨で創設されたのでしょうか。 岡野 埼玉未来大学のルーツは、1976(昭和51)年に県直営で創設された「埼玉県老人大学」にさかのぼります。同大学は、高齢者生きがい振興財団が事業を引き継ぎ、平成初頭に「彩(さい)の国いきがい大学」と名称変更されました。  彩の国いきがい大学には、一年制と二年制のカリキュラムがあり、総計4万人を超える卒業生を輩出しています。在学時の学生自治会を母体とした校友会などで、卒業後も、生涯学習や社会貢献活動などに取り組んでいます。  しかし時代も変わり、平成の終わりぐらいになってくると、シニアのニーズにマッチしない部分も出てきました。昭和50年代ごろのシニアというのは、戦後の混乱期を乗り越えて、社会を復興させてきた世代です。平均寿命はいまより短く、当時の大学設立の趣旨には、その世代の人たちが体験できなかった青春、キャンパスライフを味わってもらうという福祉的視点があったと思います。  しかし、いまでは、シニアのライフスタイルも変わり、自立して、価値観も多様化しています。大学もいつまでも、「生きがいづくり」、「仲間づくり」だけの場でよいのか、もっと現代社会とマッチしたカリキュラムを考えていくべきではないか、と見直しの機運が高まりました。  そうした背景もあって、埼玉未来大学が創設されることになったのです。見直しには、「リニューアルではなく、リボーンだ」、「生まれ変わるんだ」いう気概で取り組みました。 ―新大学の授業内容などについて、教えてください。 岡野 キーワードは「元気で自立した高齢者」です。例えば「地域創造科」では、NPOやボランティア活動など、自分が社会で役立つことをしたいという思いを持った人に集まってもらい、一人ひとりの思いを実現するための伴走支援をします。「コミュニティカフェをやりたい」、「観光ボランティアをしたい」など、具体的な目標を持っている人に向け、具体的なノウハウを学ぶことができる専門講座も開設しています。 シニアのバイタリティに刺激大切なのは「相手の立場で考える」こと ―シニアの学びや就業を支える仕事に長くたずさわってきて、やりがいや魅力を感じるのはどんなところでしょうか。 岡野 一概にシニアといっても、個人差は大きいですよね。能力の高いシニアは、非常に多いと思います。大学にも、カリスマ性にあふれ、仲間を集め、自分たちでやりたいことを立ち上げ、サークルやクラブ活動など諸活動の中心になるような人がたくさんいました。70歳、80歳を過ぎても、バイタリティのある人を見ると、大きな刺激を受けます。こんなふうな年のとり方ができれば、人生充実するのだろうなと考えますね。 ―仕事をしていくうえで、心がけていることはありますか。 岡野 どんな仕事であれ、相手の立場に立って考えることが一番大事だと思います。いま、「この人が何を望んでいるのか」を想像して、それを叶えてあげられるようにしたいと考えています。それは、顧客だけでなく、仕事仲間に対しても同じです。私は昨年4月に定年を迎えて、再雇用という形になって、いまは上司が自分に何を求めているか、わかる部分も多いので、相手の思いを汲んで、行動したいと思っています。  再雇用になると、モチベーションの維持がたいへんだと聞いていたのですが、私は逆に上がったと感じています。後輩を育てるのが楽しみの一つになっていますし、相談や研修の支援をしていて「ありがとう」、「助かりました」といってもらえることがうれしいです。役職に就いていると、褒められることはあまりないですからね。再雇用になって、たしかに給料は下がりましたが、仕事への意欲は給料だけではないのだなと、強く感じています。 ―シニアの学び、就業を支援する立場から、企業の経営者や人事担当者へのメッセージをお願いします。 岡野 シニアには、さまざまな技能を持つ人がいますし、何よりも、いまのシニアは元気です。年齢だけで線引きするのではなく、その人のできること、能力に目を向けてもらえれば、シルバーのみなさんの活躍する場所も、もっと増えるはずだと思っています。 (取材・沼野容子) 写真のキャプション 公益財団法人いきいき埼玉 埼玉県シルバー人材センター連合 就業促進部就業促進課主任の岡野功さん 第5回 シニアの求職者と求人企業をつなぐキャリアアドバイザー&カスタマーサポート 株式会社シニアジョブ キャリアアドバイザーチーム マネージャー 松澤(まつざわ)裕介(ゆうすけ)さん カスタマーサポートチーム 鈴浦(すずうら)拓巳(たくみ)さん  人生100年時代を迎え、多くの高齢者が長く働き続けることができるのは、高齢者の生涯現役を支えている人たちの活躍があるからともいえます。このコーナーでは、さまざまな分野や場面で働く高齢者、そして“生涯現役社会”を支えるお仕事をしている人々をご紹介します。  シニアが「働きたいとき」に働ける社会を目ざし、50歳以上に特化した就業支援を展開する株式会社シニアジョブ。「シニアが選ぶ人材会社No.1」として、年間500人を超える転職支援実績があります。今回は、同社のキャリアアドバイザーチームでマネージャーを務める松澤裕介さんと、新卒入社2年目でカスタマーサポートチームを牽引する鈴浦拓巳さんに、シニアの求職者と求人企業をつなぐ仕事の醍醐味を語っていただきました。 転職はシニアにとって「人生の一大事」 ターニングポイントを支援する仕事のやりがい ―シニアジョブでは、50歳以上の方を対象とした有料職業紹介と人材派遣に加え、求人メディアなども展開されているとうかがっています。シニアの求職者と求人企業をつなぐなかで、キャリアアドバイザーチームが果たす役割、具体的な仕事内容について、教えてください。 松澤 一般的な人材業だと、リクルーティングアドバイザー(RA)と呼ばれる法人営業が求人を獲得し、キャリアアドバイザー(CA)がそれを求職者に紹介するといった構造になっている会社が多いのですが、当社のキャリアアドバイザーチームでは、それを「両面型」で行っています。ふだんの業務の根幹として、一番ウエイトが大きいのは、求職者との面談。面談のなかで、職歴や本人の希望を詳細に聞いて、「じゃあ、こういう条件で仕事を探しましょう」と、方向性を明確にするのが最も大切なプロセスです。希望条件などがまとまったら、今度は対企業で、「こういう条件で仕事を探している人がいらっしゃるのですが、どうですか?」と売りこむかたちになります。 ―求人があって、それに合った求職者を探すという形ではないのですね。 松澤 そうですね。どうしてもシニア世代の就職活動でありがちなのが、「履歴書が読まれない」という問題です。求人に応募しても「名前から年齢を見ただけで弾かれてしまい、通らない」ということが少なくありません。ですから、先に企業側に「こういう人材です」ということをお伝えし、そのうえで「どうですか?」と話をまとめていく流れをとっています。 ―カスタマーサポートチームでは、どのような仕事をされているのでしょうか。仕事をするうえで心がけていることなどはありますか。 鈴浦 カスタマーサポートの仕事は、求職者や企業からの入電対応など、いわゆる営業事務が中心になります。求職者の登録情報を確認し、不足していることがあれば、こちらで聞きとるなどしながら、キャリアアドバイザーチームでの面談日程を組むのも、カスタマーサポートの仕事です。  求職者のなかには、まだ在職中で「迷っている」という人、転職に「不安を感じている」という人もいるので、当社は希望条件などをしっかり聞いたうえで、力になることができるということを伝え、ていねいに対応するよう心がけています。 ―シニアジョブで仕事をするようになったきっかけを教えてください。 鈴浦 もともと営業の仕事をしたいと考えていたのですが、就職活動で出会ったキャリアアドバイザーに親身になってもらい、こういう仕事をしたらおもしろいかなと思ったのがきっかけです。大学主催の就活イベントに参加したとき、当時の人事部長に声をかけられたのですが、興味を持っていた人材業界だったことに加え、私が祖父母と一緒に暮らしていたので、祖父母世代の人たちの転職を支援できることに魅力を感じました。 松澤 私も転職活動をしていたときに、転職エージェントの人と話をしていて、「この人、すごい!」と思ったのが、人材業界に入るきっかけになっています。実家が高齢者施設の多い地域にあったので、高齢者とのかかわりは子どものころからとても多く、小学生のときは、道端で高齢の女性を手助けして、表彰されたこともありました。  シニアにとっての転職は、若い世代以上に、「人生の一大事」になります。30年、40年と積んできたキャリアを変えて転職することは、人生の大きなターニングポイント。そこを支援できるのが、私たちの仕事の醍醐味であり、勉強にもなるところですね。 シニア求職者と「ぜひ一度、会ってみて」「採用しないのは、もったいない」 ―これまでの転職支援で、印象に残っている事例などはありますか。 松澤 私が担当した最初の成功事例で、60代前半の男性のケースです。医療事務の管理職での転職でしたが、本人が希望する年収では、一般的な相場から見て、むずかしい状況でした。しかし、面接をしたいという医療法人が一つあり、案内したところ、面接を受けた男性からは「楽しかった」という報告があったのです。じつは、男性と病院の院長の母校が同じで、話に花が咲いたそうです。それで「すぐに来てほしい」という話になり、年収も希望額の約1.5倍で内定が出ました。男性の経歴がマッチしたということでもありますが、こういうことが起こり得るのだと、この仕事はおもしろいなと、その後のやりがいにもつながりました。 ―シニアの転職支援を通じ、「生涯現役」を支える立場から、企業の経営者や人事担当者にメッセージをお願いします。 松澤 企業の人事担当者に伝えたいのは、「ぜひ一度、会ってみてください」ということです。年齢がすべてではありません。紙一枚の履歴書でわかることには、限度があると思います。 鈴浦 シニアを受け入れるということに、不安を感じる人もいるかもしれませんが、不安定要素があるのは、私たちのような若い世代も同じです。シニアの人たちのなかには、新しい環境に慣れるため、たいへんな努力をしている人、熱意にあふれる人も多いので、採用しなければもったいないと感じます。私も、シニアの求職者に対する固定概念を打破できるような仕事をしていきたいと思っています。 (取材・沼野容子) 写真のキャプション 株式会社シニアジョブ キャリアアドバイザーチーム マネージャー 松澤裕介さん(左)カスタマーサポートチーム 鈴浦拓巳さん(右) 最終回 研修実施件数トップ!「プラスワン」のアドバイスで生涯現役への意欲を引き出す 70歳雇用推進プランナー 特定社会保険労務士 齋藤(さいとう)敬コ(たかのり)さん  人生100年時代を迎え、多くの高齢者が長く働き続けることができるのは、高齢者の生涯現役を支えている人たちの活躍があるからともいえます。このコーナーでは、さまざまな分野や場面で働く高齢者、そして“生涯現役社会”を支えるお仕事をしている人々をご紹介します。  生涯現役社会の実現に向けて、全国で活躍する当機構の70歳雇用推進プランナー。専門的な知識、実務的な経験を活かし、高齢者が能力を発揮して働くことができるような環境整備を進める企業を支援しています。今回は、プランナーとして約20年にわたり、経営者に対する相談・助言、シニア向けの研修会実施に積極的に取り組んできた、特定社会保険労務士の齋藤敬コさんに、働くシニアの意欲を引き出すためのポイントなどについて、お話をうかがいました。 相談や研修は「ワンポイントアドバイス」で「プラスワン」の情報提供を心がける ―70歳雇用推進プランナーとして活動を始めた経緯を教えてください。 齋藤 2004(平成16)年に、勤めていた銀行を63歳で定年退職したのですが、その1年前に、当時の独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構(JEED)から高年齢者雇用アドバイザーを委嘱されました。それ以来、アドバイザー、プランナーとして活動しています。  銀行では総合企画部や情報関係の仕事が中心でしたが、最後の10年間は、銀行が新たに立ち上げたコンサルタント会社に出向し、中小企業の賃金や退職金制度の設計、経営問題のアドバイスなどにたずさわりました。高年齢者雇用アドバイザーを始めたのは、そのコンサルタント会社時代で、いまでいう「兼業」になります。上司の了承を得て活動していましたが、当時ではまだ珍しかったです。 ―現在はどのような活動をされているのでしょうか。 齋藤 プランナーの仕事は、相談・助言のための企業訪問と研修が中心です。JEEDからの依頼を受けて1カ月に3〜5日程度、1日平均3社で、年間約100社程を訪問しています。現在、社会保険労務士として、企業の経営者、総務・人事担当者と毎日接していますが、シニアの活用は大きな経営課題の一つになっていて、そのなかで得た具体的な知識・情報が、プランナーとしての仕事に生きています。 ―相談やアドバイスで心がけていることはありますか。 齋藤 企業訪問や研修で心がけているのは、「ワンポイントアドバイス」です。私の話はワンポイントにとどめ、情報・知識の押し売りはしないように気をつけています。地域内や同業界、他業界の動きを伝え、聞き手が自ら気づくように、そして質問しやすいようにと、話し方を工夫しています。  そして、もう一つが「プラスワン」です。相談や研修では、直接的なテーマだけではなく、プラスワンの内容をできるだけ提供できればと思っています。 ―全国のプランナー・アドバイザーのなかで、「就業意識向上研修」の実施件数がトップとなるなど、研修に精力的に取り組まれていますが、研修でのポイントについてお話ください。 齋藤 研修には大きく分けて「職場管理者研修」と「生涯現役ライフプラン研修」の二つがあります。ライフプラン研修は、基本的に55歳以上が対象。「定年後、どうするか」が、大きなテーマになります。  研修では、「職業寿命を何歳までにするか」を自分で決めるのが最大のポイントです。いつまで働く気があるのか、65歳か75歳か、自分で決めて書いてもらいます。最終目標が決まったら次は「逆算」です。現在55歳で、目標が70歳であれば15年あるので、いまからどんな準備が必要か、「お金」、「資格」、「生活スタイル」など、さまざまな面から考えていきます。 生涯現役の柱は「健康」と「収入」「福祉的雇用」から「戦略的雇用」への転換も課題 ―「職業寿命」に関しては、何歳と書く人が多いのですか。 齋藤 最近は「70歳」が多い印象です。その場で書くのですが、迷う人が多いですね。たぶん何もしなければ、大多数の人が60歳か65歳にすると思います。しかし、お金に関する話などを聞いてもらい、そのうえでディスカッションをすると考えが変わります。  大半の企業、特に大企業の多くは定年が60歳ですが、年金の支給開始年齢は原則65歳。「5年間どうするか」を考え、65歳から現実にもらえる年金額なども聞くと、みなさん、真剣になります。 ―「生涯現役」への意欲を引き出すためにも、「収入」は大きな要素になるということですね。 齋藤 生涯現役には、二つの柱があると思っています。一つは「健康」で、もう一つが「収入」です。お金のことは、あまりみなさん話したがりませんが、現実に、健康だけでは生活できません。仕事をすることで収入を得る、仕事をしていると健康になる、健康だから仕事ができる。これが、生涯現役の原則といえるのではないでしょうか。 ―生涯現役社会の実現に向け、特に重要だと考えていること、企業の経営者、総務・人事担当者へのメッセージがあればお願いします。 齋藤 企業の経営者には、高齢者の「福祉的雇用」から「戦略的雇用」へと、ぜひ変えていただきたいと思っています。多くの企業の60歳以降の雇用は、「制度がそうなっているから続けている」という、「福祉的雇用」の側面が大きいのが実情です。それで60歳以降の給与は一定で、上がりもしないし、下がりもしない。働く側からすれば、士気が下がりますよね。そこを戦略的雇用に切り替えることが必要だと考えます。そのなかで最も大切なのが、評価制度の導入です。多くの企業が評価制度を実施していますが、60歳以降は対象としていない企業が圧倒的に多いのですよ。簡単な評価制度でもいいので、60歳以上にも評価制度を適用し、戦略的に働いていただく。評価に報酬をリンクさせ、能力相応のものにする。それが働くシニアのモチベーションを高める一番のポイントとなります。  もともとの報酬が高い大きな企業などの場合は、むずかしい面もありますが、戦略的雇用に切り替え、60歳以上のシニアに意欲をもって働いてもらうことができれば、生産性も断然、高まってくると思います。(取材・沼野容子) 写真のキャプション 70歳雇用推進プランナー、特定社会保険労務士 齋藤敬コさん