シニアが活躍できる 再就職支援  65歳まで働ける雇用環境が整備されるなか、セカンドキャリアとして、またはライフプランにあわせて、別の企業に再就職する選択肢も重要になってきている。本連載では、シニアの再就職支援に積極的な団体に焦点をあて、シニアがいきいき活躍できる再就職支援の実際を紹介する。 第1回 「東京しごとセンター」の取組み@ 「しごとチャレンジ65」 公益財団法人東京しごと財団 年間8000人のシニアが登録  「東京しごとセンター」は「しごとに関するワンストップサービスセンター」として、2004(平成16)年に東京都が設置した機関(事業の管理運営は公益財団法人東京しごと財団)である。ヤングコーナー、ミドルコーナー、シニアコーナー、女性しごと応援テラスがあり、各年齢層などに適したきめ細かな就業支援サービスを提供している。職業紹介ではハローワークと連携し、2016年度の新規利用者数約2万6000人のうち約1万5000人が就職している。シニアコーナーは、55歳以上を対象として、就業相談、ハローワークと連携した職業紹介のほか、就職支援のための講習や各種セミナーなど多様な支援を展開。同コーナーの昨年度の新規利用者数は約8000人で、そのうち約2000人が就職している。  今回ご紹介する「しごとチャレンジ65」は、65歳以上を対象とした就職支援事業として、2015年10月にスタートした。 職場体験の機会をつくる  「しごとチャレンジ65」の最大の特徴は、65歳以上の求職者が実際の仕事を体験して就職を目ざす、職場体験の機会を設けていること。体験を通して、求職者と企業の双方の理解を深めることで、就職へとつなげていくのがねらいだ。職場体験の期間は、おおむね1日3時間程度、最大3日間。体験の受入れ先は、専属のシニア活用開拓員が、高齢者雇用に意欲のある企業を訪問し、開拓している。  同センターの篠田高志しごとセンター課長は、この事業を開始した背景について、「シニアコーナーの新規利用者数に占める65歳以上の割合が年々大きくなり、3分の1を超えるほどです。65歳以上の方の就労意欲は非常に高まっています。しかし、65歳以上になると雇用環境はまだ厳しい状況にあります。また、年齢が高くなるほど、求人、求職のどちらにも採用・就職に対する不安が増します。そこで、職場体験の場を提供して、両者の理解を深めようと考えました」と話す。  職場体験は、求職者にとっては未経験の職種や企業の雰囲気を体験する機会となり、企業にとっては高齢者を実際に雇用することへの理解を深める機会となり、両者のミスマッチを解消するメリットがあるといえるだろう。 就業相談で能力や強みを引き出す  「しごとチャレンジ65」の利用を希望する求職者は、まずシニアコーナーに登録する。職場体験の前に、シニアコーナーでアドバイザーが求職者の就業相談に対応し、職務経験や興味のあることなどから能力や強みを引き出し、それぞれに適した職場体験先を提供している。  一方、職場体験を受け入れたい企業は、東京しごとセンターへ申し込み、まずはシニア活用開拓員の訪問・説明を受ける。  アドバイザーとシニア活用開拓員は互いの情報をすり合わせ、最適な職場体験ができるようにマッチングに努め、ハローワークと連携して職場体験を実施し、求職者の就職をサポートする。  昨年度行われた職場体験は136件。体験後、約半数が就職した。体験を受け入れた企業は、サービス業、製造業などさまざまである。就職に至らなかった求職者は、シニアコーナーで再び就業相談をしながら、新たな職場体験にチャレンジすることができる。 69歳までに第2のキャリアづくりを  「しごとチャレンジ65」において、65歳以上の求職者に手厚い就職支援を行っていることについて、篠田課長は次のように説明する。「  65歳以降70歳までにセカンドキャリアの経験をつくっておくと、その仕事を70代、80代と続ける道が見えやすくなります。『しごとチャレンジ65』は、そのきっかけになります。また、シニアが仕事を続けていくかたちの1つとして、69歳までをめどに、第2、第3のキャリアづくりを行うことを、当センターでは1つの道として示しています」  70歳を過ぎても働くことを考える場合、求人状況をふまえ、新たな職種などに挑戦して、次のキャリアを70歳前につくっていくことが望ましいということだ。  篠田課長は「しごとチャレンジ65で、60代後半から新しい職種にチャレンジしている方がたくさんいます。ぜひ、当シニアコーナーの専門家にご相談ください。再就職についてお悩みのある方もお越しください」とシニアの求職者にエールを送る。 チャレンジがきっかけになる  シニアコーナーで求職者の就業相談にあたる高齢就業支援担当係の石川寿ひさ代よ係長からは、「第2の人生において働く目的がどこにあるのか。また、仕事の経験、特技、希望する職場環境や働き方などをうかがい、ニーズに適した職場体験の機会を提供しています。幅広い業種を紹介していますので、経験と異なる分野にもチャレンジしていただくこともおすすめしています。ご自身の幅などを広げるきっかけにもなると思います」と、メッセージをいただいた。  また、シニア活用開拓員として年間約400件の企業を訪問している田川雅久開拓員からは「65歳以上の求職者の方のなかには、元気で働く意欲の高い人が大勢います。企業のみなさまには、まずは会っていただければと思います」と、採用を考えている企業に向けたメッセージをいただいた。次回は、「しごとチャレンジ65」の職場体験から就職につながった事例を紹介する。 第2回 「東京しごとセンター」の取組みA 「しごとチャレンジ65」 株式会社ニューマシン  第2回では、前回紹介した東京しごとセンターで実施している取組み「しごとチャレンジ65」を通して、希望に沿った再就職をしてイキイキと働いている事例を紹介する。  「しごとチャレンジ65」は、就労意欲が高く健康な65歳以上の求職者の就業相談に対応し、それぞれに適した職場体験の場を提供して、求職者と企業の双方の理解を深めることで、就職へとつなげていく取組み。  この制度を利用して、再就職した田中義郎(よしろう)さん(67歳)と、職場体験を受け入れた後に採用選考を行い、田中さんを採用した株式会社ニューマシンの人事部門をになう桜本仁(ひとし)顧問にお話をうかがった。 職場体験を受け入れた会社  株式会社ニューマシンは、東京都大田区に本社工場を構えるワンタッチ式の流体継手(つぎて)と管継手の専門メーカー。1964(昭和39)年の創業から、独自に開発した技術を活かして半導体関連産業、食品・飲料産業、航空関連産業、化学プラント産業など多様な産業から注文を受けて商品を製造し、供給している。  従業員数は、正規従業員43人、60歳以上の嘱託11人、パートタイム5人の計59人。定年は60歳、希望者全員65歳まで再雇用する高齢者雇用制度があり、60歳以上は嘱託となる。65歳以上の雇用制度はないが、本人と会社の希望により継続して働ける環境がある。  高齢者雇用について桜本顧問は、「定年後も勤務を継続する人がほとんどですし、パート従業員にも65歳を過ぎても元気に働いている人がいます。年齢ではなく、技術力や経験のある方には長く勤めていてほしい、以前からそのように考えている会社です」と話す。  「しごとチャレンジ65」を知ったのは、桜本顧問が東京しごとセンターで行われた障害者雇用に関する講演会に足を運んだ際に配布された資料がきっかけだった。東京しごとセンターのアンケートにこの制度に興味があると回答し、後日、同センターの田川雅久シニア活用開拓員が同社を訪問。「しごとチャレンジ65」の説明を受け、同社で求めていた人材について田川開拓員に相談した。  「ISOの担当者を探していることを相談しました。事情があって担当者が退職することになったためです」と桜本顧問は昨年10月ごろのことを振り返った。 職場体験に参加した田中さん  一方、「しごとチャレンジ65」を利用して株式会社ニューマシンに再就職した田中さんは、昨年10月ごろ、東京しごとセンターのシニアコーナーで再就職の相談をしていた。  田中さんは、長年勤めた大手建設機械メーカーで工場のカイゼン活動やISOの管理などをにない、60歳定年後、継続雇用で65歳まで勤めて退職。その後半年ほどは旅行などをして、再就職をした。しかし、長年経験したカイゼンやISOに関する仕事で自分の能力を発揮できる仕事に再び就きたいと考え、シニアコーナーで相談。ここで「しごとチャレンジ65」を知り、職場体験を希望して登録した。  シニアコーナーのアドバイザーに自身の仕事経験や再就職先に望むことなどを話すと数日後、アドバイザーから職場体験の場があると聞き、参加を希望。アドバイザーから、体験先企業の概要が田中さんに伝えられた。 職場体験で互いに理解を深める  ISO管理の仕事を引き継ぐことのできる人材を探していたニューマシンと、これまでの経験が活かせる仕事先を探していた田中さんの職場体験は、昨年11月上旬に実施された。  「当社に来て職場を見学してもらい、仕事の説明をしました。田中さんは、ISOの仕事の経験を積んできていますので、すぐに理解していただけました」(桜本顧問)  田中さんは、「実際に職場を見学させてもらい、仕事の話もして理解を深めることができました。田川開拓員が仲人のような存在で、お見合いの場をつくっていただいたと感じています」と笑顔を見せた。  採用面接だけでなく、職場の環境を実際に確認できることが職場体験のよさであったとの感想が両者から揃って聞かれた。  体験は1日(1時間程度)で、体験終了後、その日に採用選考が行われ、田中さんは約3カ月後の2017(平成29)年2月、環境管理責任者として同社に入社した。  田中さんの通勤時間が2時間半弱であることを心配し「実力のある方に来ていただけたので、長く勤めてもらえるよう、通勤時間を考慮して、勤務は週4日、1日7時間としました。70歳を過ぎても働いていてほしいと期待しています」と桜本顧問。  田中さんは「しっかりと仕事を引き継ぎ、貢献したいと思います」と意欲を語る。 メッセージ  これから「しごとチャレンジ65」の利用を考えている求職者の方と企業へ、お二人からメッセージをいただいた。  「自分の持っている力をまだまだ発揮できるという方は多いと思います。当社のような小さい企業は、力のある方を求めています。65歳を過ぎた方は、自分のスタンスで、いろいろな働き方でよいと思うので、互いに希望を出し合い、この制度でいい人材、就職先を探してみることをおすすめします」(桜本顧問)  「この制度に出合えてラッキーでした。アドバイザーの方は、いい意味でざっくばらんに仕事に対する希望を聞き出してくれます。開拓員の方が希望に合う企業を探し、マッチングしてくださり、職場体験もでき、安心して就職できました。シニアコーナーでアドバイザーと相談しながら、具体的な希望を伝えることがポイントになると思います」(田中さん) 東京しごとセンター 東京都千代田区飯田橋3-10-3 TEL.03-5211-1571 利用時間:月〜金曜日:9時〜20時      土曜日:9時〜17時(日曜、祝日は休み) ◆シニアコーナーでは、毎週月曜14時から、専属シニア活用開拓員による職場体験候補企業の案内、説明会を実施中 ◆「しごとチャレンジ65」の職場体験受入れ企業を募集中(東京都に活動拠点があることが条件) 第3回 北九州市の取組み@ 「再就職トータルサポート事業など」 北九州市高年齢者就業支援センター/シニア・ハローワーク戸畑  JR鹿児島本線戸畑(とばた)駅から歩いて1分の複合施設「ウェルとばた」。その8階には、全国初のシニア世代のための『シニア・ハローワーク戸畑』と『北九州市高年齢者就業支援センター』、『公益社団法人北九州市シルバー人材センター』、『公益社団法人福岡県高齢者能力活用センター』の窓口が同じフロアにある。中高年者の就業相談は、フルタイムで働きたい人、派遣で働きたい人、生きがいや健康づくりのため軽易な仕事を求めている人など多様なことから、ワンストップで対応する仕組みとなっている。 北九州市高年齢者就業支援センター  北九州市は、少子高齢化が進展するなか、高齢者がその豊かな経験や能力を活かせる環境づくりの拠点として1999(平成11)年に「北九州市高年齢者就業支援センター」を設置した。  キャリアカウンセリングコーナーでの相談対応や再就職のための能力開発講座の開催、シルバー人材センターでの臨時・短期的な就業相談、福岡県高齢者能力活用センターでの人材派遣の紹介など、高齢者の多様な就労ニーズに対応した支援を行っている。また、2010年には全国の市町村で初めて国(福岡労働局)と雇用対策協定を結び、中高年者への就業支援を一体的に実施している。  関係就業機関と連携しながら相談員が一人ひとりの状況や希望に沿ったきめ細やかな就業支援を行うことが大きな特長である。 再就職トータルサポート事業  北九州市高年齢者就業支援センターでは2002年から中高年求職者を主な対象として「再就職トータルサポート事業」を実施している。キャリアカウンセリング、能力開発、民間の職業紹介機能の活用やハローワーク求人の情報案内までの各段階の支援を、総合的に行うことにより再就職活動を支援している。  北九州市産業経済局雇用政策課 舛田(ますだ)覚(さとる)シニア人材担当係長は「求職者の方が適性診断やキャリアカウンセリングを受けることは自己の長所や短所を再確認するよいきっかけとなっています。実際に適性診断の結果から希望職種だけでなく、幅広く職種を検討した結果、企業の購買調達として正規採用された高齢者の方もいます。国や市の就業支援施設のカウンセラーなどと相談しながら、就職活動を行っていくことが再就職に結びつく可能性が高いといえます」と事業の目的を説明する。2016年度は175人が同事業へ登録し141人の就職が決定した。 シニア・ハローワーク戸畑  一方、『シニア・ハローワーク戸畑』は、北九州市が提案した国家戦略特区として2016年8月、おおむね50歳以上の就職支援を重点的に行うハローワークとして福岡労働局が開設した。中高年者向けの求人情報を集約し、求職者にはきめ細やかな相談を行っている。  福岡県全体の有効求人倍率が上がり、求職者数が減少傾向にあるなか、『シニア・ハローワーク戸畑』の利用者数は開設時からほぼ変わっておらず、2017年4月から9月末日までの就職者数は、フルタイムとパートタイムの求職者あわせて173人。年齢別にみると、50〜59歳77人、60〜64歳45人、65歳以上51人となっている。  福岡労働局では、高齢者の採用に意欲的な事業所の求人を「アクティブシニア求人(60歳以上)」、「生涯現役支援求人(65歳以上)」として求人票に記載しており、2017年11月現在、アクティブシニア求人数は約1200件、生涯現役支援求人数は約700件。人手不足が顕著になってきた昨今、高齢者雇用に目を向ける事業所が増えているという。 国、県、市で共同イベントを開催  2017年9月には『福岡労働局』、『福岡県70歳現役応援センター』※、『北九州市高年齢者就業支援センター』が共同で、「高齢者のためのおしごと合同相談会」をウェルとばたで開催した。  『シニア・ハローワーク戸畑』では「ミニ面談会」を同時開催し、企業5社の参加を得て企業説明会を行い、25人の求職者が参加。16人がその場で企業と面談し、その後の2次面接などを経て7人の採用が決まった。  福岡労働局職業安定部の前田育見高齢者対策担当官は「参加企業と求職者の方の双方から好評で、企業の方からは自社をアピールすることができた、求職者の方からは書類選考だけでなく自分を直接見てもらえた、といった声が聞かれました」とミニ面談会を振り返る。『ハローワーク八幡戸畑分庁舎』の西岡美紀統括職業指導官は、「国、県、市が連携し、多様な就業支援機関が揃ったことがよかったと思います。求職者の方は就業を幅広く考える機会となり、納得して面談に臨むことができたのでは」と連携の効果を語った。 セカンドキャリア支援プロジェクト  北九州市では、地方創生を推進するため「北九州市版生涯活躍のまち」の実現に取り組んでいる。「シニア・ハローワーク」の設置を提案した理由のひとつに、新しい人の流れをつくりたいという観点もあることから、ハローワークの求人情報を北九州市東京事務所でも閲覧できるようにしている。  また、シニア・ハローワーク戸畑などと連携した取組みとして2016年末に「セカンドキャリア支援プロジェクト」がスタートした。首都圏企業の早期退職者など、北九州市へ移住を希望する求職者と市内企業の潜在的人材ニーズのマッチングを図り、首都圏などからの人材還流と市内企業の成長促進を目ざすものである。  実際に中高年者をキャリア人材として求めている市内企業もあり、2017年8月末時点で、移住希望の求職者26人、面談件数19件、就職内定者2人となっている。  舛田係長は「若者の人口が減少するなか、中高年者の人材確保や活躍はより必要となっています。質の高い求人やハローワークとの連携によるシニア応援向け求人を増やすことで、首都圏などから北九州市へU・Iターンで就職したいと考える中高年者や、地元の中高年者の転職・再就職の要望に応えていきたいと考えています。北九州市は、中高年者を応援し、いきいきと暮らしていける雇用環境や住環境を整えているところです。このような環境を整備することで、若者にも魅力を発信し、北九州市が全ての世代において、住みやすいまちになることを目ざしていきます」とこのプロジェクトへの意気込みを語る。 ※ 70歳まで働ける企業の拡大や高齢者向け求人開拓、各種セミナーの開催など「70歳現役社会」の実現に取り組む福岡県による事業 第4回 北九州市の取組みA 「再就職トータルサポート事業」など 公益社団法人 北九州市障害福祉ボランティア協会  今回は、前号で紹介した北九州市高年齢者就業支援センターが実施している「再就職トータルサポート事業」の取組みを通じ、希望に合致した再就職を実現して、いきいきと働いている方の事例を紹介する。  「再就職トータルサポート事業」は、最初に性格や適性などを確認するために適性診断を行い、その後、専門のカウンセラーが再就職のためのカウンセリングや、利用者の希望をふまえた就職活動に関するアドバイスを行う。また、再就職に向けた能力開発講座(※1)の受講に導いたり、ハローワークや民営職業紹介所の求人情報の提供など求職者の就職活動をトータルにサポートしている。  これらのきめ細かな対応により、求職者の希望に適した再就職先へと導いている。 採用面接では話をする雰囲気を重視  この制度を利用して、公益社団法人北九州市障害福祉ボランティア協会に再就職した鈴木喜子(のぶこ)さん(53歳)と、鈴木さんを採用した同協会の竹田英樹事務局長にお話を聞いた。  北九州市障害福祉ボランティア協会は、障害のある人もない人もともに暮らしやすい社会になることを目ざして、ボランティア活動を推進する機関として1982(昭和57)年、市民有志により発足した民間団体である。  支援を必要とする人と支援活動を行いたい人をつなぐ事業や、障害への理解を促進するための啓発事業、交流会事業などを行っている。  大きな事業として毎年、夏には北九州市の特別支援学校の子どもたちを対象とした「サマースクール」(プールを貸し切ったり、映画館を貸し切っての上映会)を開催しており、ほかに「北九州チャンピオンズカップ 国際車椅子バスケットボール大会」(3日間)にかかわるボランティアの募集から事前研修会、当日の運営まで担当する事業などにも取り組んでいる。  事務局職員は現在6人。定年制度はない。今回のケースでは、職員の1人が市外への引越しにより退職することを受けて、ハローワークに求人申込みを行った。  竹田事務局長は鈴木さんの採用について「面接時に話をしているときの雰囲気と、前職は営業事務でいろいろな人とかかわっていたという経験を重視しました」と明かす。  現在の鈴木さんの働きぶりについて、「福祉の仕事は初めてということで、法律や制度を学んだり、イベントでは会場で対応することもあり、慣れるまで苦労もあると思いますが、よくやってくれています」と、竹田事務局長は笑顔で語った。 カウンセリングで希望を伝える  鈴木さんは、それまで勤めていたレンタル用DVDをレンタル店に卸す事業所が突然閉鎖したため、初めてハローワークを訪ねて再就職活動を始めた。  前職では営業事務に就き、20年以上、転職することなく勤務を続けていたので、再就職先を探すにあたり何からはじめたらよいかわからず、市の広報で知った「再就職トータルサポート事業」を頼り、キャリアカウンセリングを予約。まず、30分ほどの職業適性診断とカウンセリングを受けて、再就職先への希望、条件などを伝えた。  また、「再就職トータルサポート事業」の能力開発講座の受講を希望し、事務職講座などを受講して勉強にも励んだ。  その間、ハローワークにも足を運び、自分でも求人票から探したりするなか、北九州市障害福祉ボランティア協会の求人を紹介され、自分でもあっていると感じて応募を決意。  福祉の仕事は未経験だったが、10年ほど前に足の人工関節手術を受けた父親が現在つえ歩行であることや、保育士をしている姉からいろいろな子どもたちとの接し方などを聞いたりする機会もあり、自然に「やってみたい」という気持ちが起こり採用面接に臨んだ。 支援を受けてあきらめずに  鈴木さんの再就職活動は実り、2017年4月、嘱託職員として同協会に入職。週5日、9時30分から17時30分までの勤務を基本として働き始めた。  それから約8カ月。「サマースクール」や協会の会報『でんしょ鳩』、情報誌『ひこうせん未来』の制作などを担当。また、イベントでは運営者の1人として、障害のある人やボランティアの人たちの対応をしている。  「何もかもが初めてで、イベントではうまく対応できるか不安もありましたが、前の職場では約200店舗のお客さまを相手にたくさんの人とかかわってきたので、その経験が活かせたのか、初対面の方ともすぐに打ち解けることができました。いま、この仕事にやりがいを感じています。がんばっていきたいと思っています」と鈴木さん。職場の雰囲気も「とてもよく、いままででいちばん働きやすい環境です」とにこやかに話す。  「再就職トータルサポート事業」では、毎週のようにカウンセラーに相談した日々もあったという。鈴木さんは「カウンセラーの方には親身になって対応していただきました。再就職活動は、いろいろな制度や支援の取組みなどに支えてもらいながら、あきらめずに活動することが大切ではないかと思います。自分にあった再就職をすることができ、感謝しています」と笑顔を見せた。 (※1)北九州市「再就職トータルサポート事業」再就職に向けた能力開発講座の内容 ◆就活基礎講座 面接マナー/就職事情最前線 ◆事務職講座 給与計算/年末調整 ◆パソコン講座 基礎講座/実務講座 ◆技能養成講座 フォークリフト運転技能講習/クレーン運転業務の特別教育/玉掛け技能講習 北九州市高年齢者就業支援センター 受付時間:9時〜16時30分(土・日・祝日休み) TEL:093-882-5400 ハローワーク八幡戸畑分庁舎 (シニア・ハローワーク戸畑) 窓口取扱時間:8時30分〜17時15分(土・日・祝日休み) TEL:093-871-1331 所在地はともに、福岡県北九州市戸畑区汐井町1番6号 ウェルとばた8階 北九州市障害福祉ボランティア協会マスコットキャラクター“ボラちゃん” 車いすの介助について指導のポイントを学ぶ鈴木喜子さん 第5回 「埼玉県シルバー人材センター連合」の取組み@ 「シルバー・ワークステーション」(シルバー派遣事業) 公益財団法人いきいき埼玉  埼玉県は東京都などとともに人口の増加が続き、平均年齢が低く「若い県」と呼ばれてきた。しかし人口は今後減少に転じ、生産年齢人口(15〜64歳)も減少して、ピークだった2000(平成12)年の501万人に比べて2025年には435万人に減少すると見込まれている。  生産年齢人口の減少により地域の活力の低下が懸念されるが、働くことを望む元気なシニアが増えている現状から、埼玉県はいくつになっても本人の意欲や希望に応じて働くことができる社会の構築を目ざして、「働くシニア応援プロジェクト」を展開している。  このプロジェクトの一環として、公益財団法人いきいき埼玉(※)が運営している埼玉県シルバー人材センター連合(以下「連合」)内に2017年4月、「シルバー・ワークステーション」が開設された。  会員の「働く場」を拡大するため、事務系や人手不足分野の派遣先企業の開拓、人材発掘(会員募集)、開拓企業と人材のマッチングに取り組んでいる。 シルバー・ワークステーションの取組み  シルバー人材センターは、シニアのライフスタイルにあわせた「臨時的かつ短期的、又は軽易(臨・短・軽)」な仕事を提供するとともに、ボランティア活動などさまざまな社会参加を通じて、会員の生きがいのある生活の実現と地域の活性化に取り組んでいる。県内には市町村ごとなど59組織がある。  これまで提供する仕事は請負業務が中心だったが、2006年から「シルバー派遣事業」も実施。請負業務と違い、派遣では派遣先の企業などで指揮・命令を受けて働くことができる。派遣、請負の両事業に取り組むことによりシルバー人材センターで提供する仕事が多様になり、会員の仕事の選択肢が増えている。  とはいえ、多くの会員が希望する事務系の仕事が少ないことが課題となっていた。そこでシルバー・ワークステーションでは会員と企業のニーズに応えるために次の取組みを進めている。 @派遣先企業の開拓  県内の企業訪問を行い、シルバー派遣の派遣先企業を開拓(主な開拓業務は、事務系業務と人手が不足している介護施設、保育所、スーパーにおける業務など) A人材を発掘(会員募集)  企業訪問による退職予定者への働きかけやセミナーの開催により、新たな会員を募集 B開拓企業と人材のマッチング  県内シルバー人材センターと連携し、開拓企業と会員のマッチングを促進 1729人がシルバー派遣で就業  派遣先の開拓はシルバー・ワークステーションの担当職員が埼玉県に事業所のある企業などを訪問して開拓するとともに、各シルバー人材センターにおいても地元企業などを訪問して開拓に励んでいる。  シルバー・ワークステーションでは開設から2017年12月末までに、事務系業務の派遣就業先は83件。  県内のシルバー派遣事業は、基準により「月10日程度以内、又は週20時間を超えないもの」となっているため、一つの仕事を2人〜10人ほどでシェアすることもあり、83件の派遣先で働いている会員は、433人となっている。  連合事務局の岡野功(いさお)高齢者就業促進部長は「約40年間企業に勤めて定年退職した方や元銀行員の方などが自分の住む地域のシルバー人材センターの会員になり、派遣先で長年の経験を活かして事務の仕事をされている例もあります」とシルバー派遣で働いている会員について語る。  また、介護施設、保育所、スーパーなどにおける業務のシルバー派遣をあわせると、開設以来2017年12月末現在、派遣先は721件、1729人の実績をあげている。 会員募集とマッチング  シルバー・ワークステーションでは派遣先の開拓と同時に、会員拡大にも取り組む。企業訪問による退職予定者への働きかけやセミナーの開催などにより会員を募集している。セミナーは2017年度に3回実施。元アナウンサーや弁護士による講演とファイナンシャルプランナーによる年金などの話、シルバー・ワークステーションの説明などセカンドライフに役立つ情報提供を行うプログラムで開催した。いずれも好評を博し、定員を超える参加希望者があった。  埼玉県内のシルバー人材センターの会員数は、2016年度末現在で4万7265人。前年度に比べて47人増加したが、このところ横ばいの状況が続いているという。  岡野部長は「人生100年時代となり、従来の70年、80年時代のライフプランではあわなくなってきています。65歳からをどう生きるのか、新たな自己実現の場の一つとしてシルバー人材センターに注目してください。仕事にかぎらず、ボランティア活動、地域活動などいろいろな活動ができます」と元気なシニアにメッセージを送る。  また事業所に向けては、「派遣先企業から『いろいろな仕事を安心して任せることができる』といった声をいただいています。シルバー人材センターには多様な技能、技術を身につけている会員がたくさんいます。働き方は臨・短・軽の範囲内で、主にルーチン業務や雑務をにない、社員や職員のみなさまが本来の業務に集中できるようにお手伝いをします。マッチングは、主に地域のシルバー人材センターが窓口となり進めます。ぜひシニアの力を活かして、地域社会をより元気にしていただければと思います」と呼びかけている。  シルバー・ワークステーション事業は、2018年度に拡充する方向だという。企業ニーズにあわせた人材を育成するための実践的な研修の実施や派遣の受入れを検討している企業で短期間の派遣を実施し、その後の就労につなげる事業を検討している。 (※)公益財団法人いきいき埼玉 ◆埼玉県民のNPO・ボランティア活動や生涯学習活動、高齢者の地域参加の応援、高齢者の就業促進などに取り組んでいる。 ◆シルバー人材センター連合は、県内各市町村に設置されている「シルバー人材センター」と「高齢者事業団」によってつくられた組織。いきいき埼玉は、その本部として「連合」を運営している。 ◆シルバー人材センターの会員になるには、年会費(各市町村シルバー人材センターにより異なる)が必要。会員になれば就業機会の提供、派遣先企業への紹介は無料。 公益財団法人いきいき埼玉 埼玉県伊奈町内宿台6-26 埼玉県県民活動総合センター内 TEL.048-728-7841 お問合せ:月〜金曜日の8時30分〜17時15分(祝日および施設点検日を除く) 最終回 「埼玉県シルバー人材センター連合」の取組みA 「シルバー・ワークステーション」(シルバー派遣事業) 公益社団法人戸田市シルバー人材センター  今回は、シルバー派遣事業を推進する公益財団法人いきいき埼玉が運営する「埼玉県シルバー人材センター連合(以下「連合」)」が、前号で紹介した「シルバー・ワークステーション」(※1)に取り組むなかで、シルバー人材センター会員が労働者派遣契約をした派遣先企業で就業している事例を紹介する。  シルバー派遣は、派遣元事業主である連合が県内のシルバー人材センターと連携して会員に提供している就業形態の一つ。原則として、「臨時的・短期的な就業」、「その他の軽易な業務にかかる就業」の労働者派遣とされ、就業はおおむね月10日程度以内または週20時間を超えない範囲とされている。  このため派遣先事業所が、例えば週5日フルタイム勤務を要望する場合は、同じ業務に複数の会員で交代しながら就くことになるが、人手不足に悩む事業所などからの依頼が増えている。 経験を活かせる無理のない働き方を希望  シルバー派遣会員として昨年7月から戸田市にある東和自動車工業株式会社で働いている山下真市(しんいち)さん(67歳)と同社専務取締役・工場長の武田秀治さん、山下さんが所属する公益社団法人戸田市シルバー人材センターの白井義則主任にお話を聞いた。  山下さんは、都市銀行に長年勤務して外交や融資代理、内部事務(課長)などを経験。53歳から関連会社に出向し、ビルメンテナンス事業会社の東京本社総務副部長としてマネジメント業務をにない、同社規定の60歳定年後も雇用延長で勤務を続けて2016(平成28)年12月に65歳で退職した。  そして翌年4月、住まいの近くにある戸田市シルバー人材センター(※2)に入会。それからシルバー派遣会員として働くようになるまでのことを、山下さんは次のように振り返る。  「1969年に銀行員になってから65歳まで仕事一筋で走り続けてきたので、退職後は少しゆっくりしたいと思いました。ところが、『毎日が日曜日』になると何か物足りなさを感じるようになり、とはいえ現役時代のような働き方ではなく、無理のない範囲でキャリアが活かせるような仕事があれば働いてみたいと考えるようになりました。そんな折、たまたま知人がシルバー人材センターの会員として適度に仕事をしていると聞いたことが会員になったきっかけでした。入会して希望した仕事は、事務です。いくつか紹介を受けるなか、東和自動車工業さんの仕事は希望に叶うもので、また、通勤も自宅から近くて便利なことからここでの派遣就労を希望し、決まりました」  マッチングは、戸田市シルバー人材センターが窓口となり、山下さん、東和自動車工業の三者面談の機会を設けてすすめた。 幅広い仕事に対応できる人材  東和自動車工業での山下さんの仕事は、事務全般のサポート。週3回、午前9時から正午までの時間で働いている。同社では以前は事務の仕事を2人で行っていたが、1人が退職したため新たな人材を募っていた。  同社の武田専務は、山下さんの働きぶりについて、「来ていただいてとても助かっています。山下さんは仕事経験が豊富で、当社の場合、伝票や車検記録など、紙で行う事務仕事が多いのですが、幅広く対応してしっかりやってくださいますし、物腰が柔らかく、社内に溶け込んでいただいています」と語り、とても満足している様子。  また、シルバー派遣について「シルバー派遣は友人から聞いて知り、この世代の方々は経験が豊富ですから特に不安を感じることなくお願いしました。戸田市にお住まいの方に来ていただけるのも安心感があり、よいと思います」と武田専務は明るい声で話した。 適度な緊張感と役割があることが幸せ  シルバー派遣の仕事に就いて約半年になる山下さんは、「仕事があると、適度に緊張感があり、規則正しい生活を送ることができます。仕事場には自分の役割があり、結果として労働の対価がいただける。いくつになっても給料日はいいものだなと思います。また、職場の方から『助かっている』といっていただけることがうれしいです」と感想を語った。  毎月、戸田市シルバー人材センターに勤務実績を報告しに行き、賃金は雇用主である連合(いきいき埼玉)から支払われる。  シルバー派遣で働くようになってから、山下さんはピアノ教室に通いはじめたという。それまで仕事一辺倒の人生だったので楽器も習い事も初挑戦だが、「楽しんでいます」と笑顔を見せる。また、現在の生活にだんだん慣れてきたので、「何かもう一つくらいやってみたい」とも考えていて、そんな山下さんを戸田市シルバー人材センターの白井主任は、同センターのサークル活動などに誘っていた。  「シルバー人材センターは仕事や社会奉仕活動などを通じて、生きがいのある生活を送り、地域社会に貢献することを目的としているところです。仕事だけでなく、趣味、ボランティア活動の機会もありますので、いろいろなことをやってみたい方、ぜひ入会説明会にいらしてください。サークルもいくつかあり、仲間づくりもできます」と白井主任はシルバー人材センターをアピールする。  山下さんのように派遣会員として働くか、あるいは請負業務に就くか、希望に沿った働き方ができるだけではなく、仕事以外の多彩な活動もできる。各シルバー人材センターによって取組みは異なるが、戸田市シルバー人材センターでは「防犯パトロール活動」、「英語に親しむ会」(勉強会)、「シルバー歌おう会」などを行っている。 (※1) 「シルバー・ワークステーション」 埼玉県内のシルバー人材センターの会員に向けて事務系職種や人手不足分野の仕事先の開拓、人材の発掘( 会員募集)、企業と会員のマッチングなど、シルバー会員の「働く場」を拡大する取組み。 (※2)公益社団法人戸田市シルバー人材センター ◆ 会員の対象は、戸田市在住のおおむね60歳以上で、健康で働く意欲のある方。「入会説明会」を毎月2回開催している。会員の会費(年間2000円)。 所在地:埼玉県戸田市大字新曽933-2 電 話:048(434)0411 会員数:603人(2017年3月末日) ホームページ毎日更新中 http://webc.sjc.ne.jp/toda/index 「シルバー派遣の働き方が、いまの自分にあっている」と話す山下真市さん