新連載 生涯現役で働きたい人のためのNPO法人活動事例  高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となるなど、生涯現役時代を迎え、就業期間の長期化が進んでいます。一方で、60歳や65歳を一区切りとし、社会貢献、あるいは自身の趣味や特技を活かした仕事に転身を考える高齢者は少なくありません。そこで本企画では、高齢者に就労の場を提供しているNPO法人を取材し、企業への雇用≠ノこだわらない高齢者の働き方を紹介します。 第1回 NPO法人イー・エルダー(東京都豊島区) 雇用創出、GDPに寄与する事業型NPOの先達となる  NPO法人イー・エルダーは、IT企業を退職したOBエンジニアが中心となって創設し、2000(平成12)年12月に認証されたNPO(特定非営利活動法人)。企業でつちかった知識・技術・経験を有効活用し、ITを中心とした非営利事業を展開して、社会に貢献する高齢者の働き方を実践している。  ひと口に「NPO」といっても、活動分野やその範囲、規模、取り組み方などの違いにより、さまざまな姿がある。イー・エルダーは、設立時から「事業型NPO」を標榜(ひょうぼう)し、社会性と事業性を両立させていることが大きな特徴である。  日本で「NPO」というと、ボランティア活動をイメージして、無償で働く場であると考えている人が多いかもしれない。しかし、イー・エルダーの鈴木政孝理事長は、次のように話す。  「米国ではNPOがGDPや雇用を生み出し、経済社会にも貢献しています。NPO法人といっても、きちんと事業計画を立て、有料・有償の事業を行い、収益をあげて報酬を分配し、そして運転資金を確保することが大切と考えます。  イー・エルダーは設立時から『事業型NPO』を掲げ、行政、企業と対等の『第3のセクター』として自立し、雇用創出、GDPに寄与する非営利組織確立の流れをつくる先頭に立ちたいとの思いを持って活動を続けています」  また、高齢者が働く場を設けることについて、「長い年月にわたってつちかってきたITの知識や技術、経験、そして意欲といった知的社会資産を持っている高齢者の力を、社会に活かさない手はありません。役立てる仕組みをつくり、事業を開拓して積極的に活用することで、定年後も社会を支える側に立つ気概で、社会に貢献することができる。そうしたことを理念に掲げています」と説明する。  2021(令和3)年4月現在のイー・エルダーの会員数は30人。平均年齢は73・4歳。最高年齢者は89歳の会員で、同法人のホームページ制作などを担当している。  鈴木理事長は、1940(昭和15)年生まれの81歳。日本IBM株式会社(以下、「IBM」)で人事、営業、広報、社会貢献などのマネージメントを歴任して2002年に退社。退社前の2000年にイー・エルダーの創設に参画し、理事長に就任し現在に至っている。  中古パソコン再生寄贈事業に取り組む  設立から20年強の実績を持つイー・エルダーのメイン事業は、中古パソコンを再生して寄贈する活動である。この事業は、鈴木理事長がIBMの社会貢献担当部長を務めていたときの経験が起点となっている。  当時、まだたいへん高価だったパソコンを寄贈してほしいという要望が多数の団体からIBMに寄せられていた。また、IT業界ではそのころ「2000年問題※」が話題となり、2000年問題に対応していないパソコンが大量に廃棄されようとしていた。このことから鈴木理事長は、廃棄されるパソコンを再生し、活かすことに着目。そこに、知恵も人脈も経験も豊富なOBの力を活かす仕組みを構築することを考えて、格好の人材が揃っているイー・エルダーで「中古パソコン再生寄贈事業」をスタートしたのである。  この事業は、IBMをはじめとした複数の企業から資金的・技術的協力を受け、廃棄処分されるパソコンを無償で提供してもらい、同時に、再生のために必要な経費を負担してもらう。当初は、再生のための作業をいくつかの障害者が働く団体や企業に委託し、イー・エルダーの会員の指導のもとで、修理や清掃、ソフトの入れ替えなどを行い、必要な経費を支払い、再生されたパソコンを、社会福祉団体や教育機関などに寄贈した。企業が負担する再生のための経費から再生する団体に支払う経費を除いたものが自分たちの活動の対価として、イー・エルダーの収入になる。  この事業によって、パソコン(資源)の有効活用と障害者の就業機会をつくることに貢献することができる。鈴木理事長は事業開始にあたり、自らがつちかってきた人脈から、「一社一社に足を運んで、この事業の意義を説明して理解を得ることに努め、共鳴していただける企業とおつき合いしてきました。そして、名だたる企業に協力していただくことができました」と20年前をふり返った。  再生したパソコンの寄贈台数は、事業を開始した2001(平成13)年は483団体に1025台を、2002年には731団体に2011台を、2003年には808団体に3050台を贈り、最盛期の2006年には738団体に3105台を寄贈した。2011年6月から2012年12月までの1年6カ月間は、東日本大震災で被災した非営利団体や障害者の方々などへの支援として贈った。  ここ数年は企業からの中古パソコンの調達がむずかしくなり、残念ながらこの事業は現在縮小しているが、再生パソコンの需要は根強く、規模は小さくなったものの、再生のための作業を専門企業に委託して、事業を継続している。2020年までの全実績をみると、5640団体に1万9701台を贈っている。 IT関連の講座や研修の講師として活躍  イー・エルダーで取り組んでいるもう一つの中核的な事業が、「eネット安心講座」である。  同講座は、小中高校生がインターネット被害に遭うことを防止するためのプログラムで、学校の教員、児童・生徒、保護者を対象にして、一般財団法人マルチメディア振興センター(FMMC)が『eネットキャラバン』として、全国規模で実施している出前講座。  イー・エルダーでは2009年11月から、FMMCからの依頼を受け、認定講師を派遣している。講習の時間は45〜90分。「子どもたちをインターネットの加害者にも被害者にもさせない」ことを目的として、インターネットの安心・安全な使い方、インターネットの特徴・マナー・ルール、危険回避のために実施すべきことなどを伝えていく。  認定講師となれるのはFMMCで実施する養成講座を修了した者であり、イー・エルダーには26人の認定講師がいる。認定講師として活躍している専務理事の寺島春夫さん(73歳)は、「子どもたちに接するときも、教えるとか説得するという感じではなく、一人ひとりが納得感を得られるような講座を心がけています。簡単にインターネットに接続してさまざまな情報を得たり、ゲーム機などの接続機器が多様化して子どもでもインターネットに気軽に接続することができる時代に、こうして子どもたちに大切なメッセージを伝えられることにやりがいを感じて取り組んでいます」と認定講師としての責任とこの仕事の意義を語ってくれた。  イー・エルダーがFMMCより依頼を受け、実施した「eネット安心講座」の講座回数と受講者数の実績は、2010年は48回・3500人、2011年は104回・1万4830人、2012年は311回・5万5320人と増え続けてきたが、ここ数年は減少傾向にあり、さらにコロナ禍の影響を受けて、2020年は37回・6160人にとどまった。しかし、2010年からの10年間の実績は、2261回の講座を行い、受講者数は39万4711人にのぼっている。  研修事業ではこのほか、次の養成講座とパソコン活用講座を実施している。 @シニア情報生活アドバイザー養成講座  中高年齢期の生活に密着した、情報技術(パソコンやネットワーク)の楽しい活用方法を教えることができる人を養成する講座 Aパソコン活用講座  インターネットの利用、ブログの作成、セキュリティー対策、デジタル画像処理など、高齢者向けのパソコン活用講座  イー・エルダーではこのほか、Webアクセシビリティ化支援事業にも力を入れている。Webアクセシビリティとは、障害者にも高齢者にもWebページの情報を入手しやすくなるように工夫の施されたWebページの制作を目ざす活動のこと。イー・エルダーでは2007年から3年間、Webアクセシビリティの啓発と普及の推進に努めてきて、現在はその成果をふまえて、NPO法人ウェブアクセシビリティ推進協会(JWAC)の活動に参加し、NPOをはじめ、行政や企業へのWebアクセシビリティ化の普及・啓発を推進。また、企業のウェブサイトの診断・制作・評価などの作業を在宅の障害者に委託することで、障害者の就業に結びつける就業支援を目的に活動を継続している。  ほかにも、IT知識などを活かして、企業、 団体などへの社会貢献プログラムの企画提案と 運営をになうなどの事業も展開している。 オンラインで経営会議を開催新規事業の開発にも取り組む  コロナ禍により、思うように事業を展開することができない日々だが、イー・エルダーではガバナンスを最重視して、経営委員会を毎月開催し、経営方針・施策を策定。目標を数値化して事業を推進している。また、事業リーダー、支部長、理事で構成する業務連絡会を四半期ごとに開催し、事業の立案・進展・問題・改善策の検討を行い、PDCAを確実に推進している。  2020年3月には事務所をJR池袋駅から徒歩10分ほどのシェアオフィスに移転した。事務所を借りているとはいえ、以前より会議はすべてオンラインで行っており、メンバーが一堂に集まることはなく、コロナ禍以前からテレワークに対応していたのはさすがである。  「イー・エルダーの経営委員会は役職、年齢、会員の新旧、職務に関係なく、だれもが対等です。みなさん事業に対する意識が高いので、議論しているうちに熱くなり、ときにぶつかることもありますが、最後は手をあげた人の思いを尊重して任せることにしています。会員のみなさんは人がいいというか、真面目です。『私は○○社の部長だった』などと自慢したり、偉ぶったりする人は歓迎されません」と鈴木理事長。熱い議論も楽しんでいるようで笑顔を覗かせた。  寺島専務理事は、「鈴木理事長のリーダーシップが素晴らしいので議論がまとまるのです。鈴木理事長は信念をもってこの事業に取り組んでいると思います。企業や行政と対等な立場であることを大事にして、責任をもって事業型NPOを実践しています。会員として、意気に感じています」と鈴木理事長に敬意を表した。  鈴木理事長と寺島専務理事は、若いときに顔をあわせたことがあったという。その後、接点はなかったそうだが、寺島専務理事が60歳で定年退職後、福祉関係のボランティア活動などをしていたとき、たまたま受講したNPOに関する講演で講師を務めていたのが鈴木理事長で、奇跡的な再会を果たした。その講演を聴き、鈴木理事長の志やイー・エルダーの理念に賛同した寺島専務理事は、2011年にイー・エルダーの一員となり、活躍している。鈴木理事長からの信頼も厚く、本取材でご対応いただいた際も、よき仲間である様子が伝わってきた。働くということは、仕事そのものをすることの達成感だけでなく、仲間ができるとか、仕事先で出会う人に感銘や刺激を受けるといった交流があることも大きな価値なのだとあらためて実感する。  イー・エルダーの20年強の歩みをふり返って鈴木理事長は、「人が好きなので、人脈を頼って多くの人に助けていただいてきた20年です」とやわらかな表情で語る。  中古パソコンを再生して必要とされている団体などに寄贈するといった実績に加え、事業型NPO法人の先駆けとして、イー・エルダーはNPOの立ち上げを目ざす多くの人たちのモデルとしても社会に貢献している。  「現在の課題は、寄贈するための中古パソコンの調達と新規事業の開発です」と鈴木理事長。いまでは「事業型NPO」の老舗であり、これからも多くの人の手本であるイー・エルダーだが、今後の新たな展開も注目される。 ※ 2000年問題……2000年になるとコンピュータが誤作動する可能性があるとされた問題 NPO法人イー・エルダーhttp://www.e-elder.jp/public/ ■ミッション(理念)  知的社会資産(IT知識・経験・技術、意欲)を持つ高齢者が、「社会を支える側」に立つ気概で、非営利団体の活動の活性化、高齢者や障害者などの社会参加や就業支援に役立つ「ITを中心とした非営利事業」を行う ■ビジョン(目標)  日本のNPOが、欧米の第三セクター同様、企業・行政と対等、雇用創出、GDPに寄与する非営利組織確立の社会の流れを創る先達となる ■経営方針 @ガバナンスを重視。理事は理念の厳守、業務の遂行・監視、担当職務の成果に責任。理事長の実績評価 A社会性と事業性の両立する「事業型NPO」の実績を示す B非営利団体、および高齢者・障害者などを対象としてICTにかかわる営利事業を行う Cマーケティング志向とプロフェッショナル意識を重視する D独創的なサービスを顧客(企業や団体等)に企画・提案する。同時に、顧客の満足度向上とサービスの充実を図るため、全国の他組織との協働を積極的に推進し、信認の精神で実施する Eサービスは有料で提供し、会員は役務と成果に応じた報酬を得る 写真のキャプション 鈴木政孝理事長(左)と寺島春夫専務理事(右) 第2回 NPO法人カローレ(埼玉県鶴ヶ島市) 子どもたちや保護者に向けた事業を展開し地域の高齢者がにない手として活躍  「NPO法人カローレ」(埼玉県鶴ヶ島市)は、学童保育事業をはじめ、地域のニーズに応えるさまざまな子育て支援事業を手がけている。「カローレ」は、イタリア語で「ぬくもり」を意味する。  同法人の浅見(あさみ)要(かなめ)理事長は、「安全・安心の切れ目のない子育て支援を目ざして、地域の0歳から18歳未満の子どもたちとその保護者に向けた幅広い子育て支援事業を展開する事業型NPO法人です」とカローレを語る。  現在、学童保育事業(13施設)、児童館事業(3施設)、保育園事業(2施設)、つどいの広場事業、学習支援事業、送迎支援事業、子ども食堂事業、学生食堂事業、相談支援事業(障害児・障害者)などを展開している。  職員数は、2021(令和3)年4月1日現在で161人。60歳以上の職員は46人で、うち15人は70歳以上である。多くの高齢者がそれぞれの経験を活かして活躍しており、高齢者が長く安心して働くことができる雇用制度や職場づくりに取り組んでいることが評価され、「平成30年度高年齢者雇用開発コンテスト」で高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞を受賞している(本誌2018年11月号掲載)。  定年は70歳。定年後は、本人が希望し、健康・体力に問題がなく、意欲があり無断欠勤がないことを条件に年齢の上限なく再雇用している。現在の最高年齢者は78歳。できるだけ長く働けるようにライフスタイルにあわせて、勤務日数や勤務時間、職務の変更に対応するなど柔軟な働き方が実現できる職場づくりを行っている。 地域の高校に「カローレ食堂」を開店  本取材では、2020年6月に埼玉県立鶴ヶ島清風(せいふう)高等学校内に開店した「カローレ食堂」を訪ねた。同高校から声がかかり始めたもので、「もともと学食があったのですが、5年ほど前に閉鎖されて空き店舗状態でした。当法人と同じ鶴ヶ島市にある高校ですし、生徒に温かい昼食を提供したいという思いから、地域・社会貢献として開店しました。同校生徒への食事の提供に加え、埼玉県教育委員会の許可を得て、子ども食堂の事業と連携し、子ども食堂の食事づくりもできることになりました」(浅見理事長)。  コロナ禍のため、子ども食堂は現在月1回テイクアウトのみで実施しており、そのお弁当をカローレ食堂でつくっている。カローレ食堂だけの運営では採算的に厳しいため、こうして二つの事業を組み合わせることで継続可能な事業形態を考えたのである。  これまでにカローレでは、コミュニティ・レストラン(現在休止中)や子ども食堂を展開しており、カローレ食堂にはこれらを経験している職員と栄養士の資格を持つ職員らが集結。スタッフは9人で全員女性、60代と70代である。  カローレ食堂の営業は、月曜〜金曜日(学校休業日を除く)の11時30分〜13時30分。スタッフは、9時から16時まで勤務し、食材の仕入れから調理、提供、片づけまで、1日3〜4人で担当する。9人で交替しながら、1人週4日ほどの勤務となっている。 「おいしい」のひと言がやりがいに  カローレ食堂を訪ねると、まずメニューの多さに驚いた。カレーライス、焼きそばといった定番に加え、季節感や栄養バランスを考えた日替わりのカローレ定食、カローレ丼、さらに、ラーメン店の協力を得てつくり方を学んだ「家系ラーメン」まである。唐揚げ、あげパン、フライドポテトなどのサイドメニューも充実している。  カローレの浅見喜代子事務局長は、「育ち盛りの生徒たちに、おいしくて温かい栄養のある食事をお腹いっぱい食べてほしい、そんな心意気をスタッフから感じています」と9人を誇る。  その中心である川上和江さん(73歳)は、受付業務をしていた病院を定年まで勤めた後、好きだった料理の腕に磨きをかけ、公民館などで料理教室の講師として活躍。そうしたなかでカローレと出会い、現在、カローレ食堂と子ども食堂の運営を担当。テキパキと何品も調理したり、カウンターで素早く提供したりしている。  「『おいしい』といっていただけることが何よりもやりがいになっています。ここで働いているみんなが同じ気持ちだと思います。料理をすることが好きなので、こうした場所でそれが活かせてうれしいですし、70歳を過ぎて働けることに感謝しています」と満面の笑みで話す。地域では民生委員も務めており、「私より年上の方が、私を頼りにしてくださいます。ですから、まず自分自身が元気でいよう、そんな気持ちで毎日を過ごしています」と話してくれた。  カローレ食堂は、生徒や教職員から「とてもおいしい」とまたたく間に人気食堂になった。同校の生徒と一緒にメニューづくりをしたり、カローレの栄養士が授業に協力したりという交流も生まれている。  浅見理事長は、「カローレにとっては地域貢献となり、スタッフはやりがいを感じて働いていますし、よい事業になっています。今後も学校と協力して食育活動や、NPOだからできる地域と連携した活動も行えるよう事業を広げていきたい」と語った。カローレの事業にたずさわり、経験や得意分野を活かして地域で活躍する高齢者はさらに増えていくだろう。 写真のキャプション NPO法人カローレの浅見要理事長(左)、浅見喜代子事務局長 カローレ食堂のリーダーとして活躍する川上和江さん 第3回 NPO法人シニア大樂(だいがく) (東京都千代田区) シニアの講演デビュー≠後押し  NPO法人シニア大樂は、2003(平成15)年4月、シニアの社会参加を支援することを目的に、現理事長である藤井敬三さんら10人のシニアライフアドバイザーで発足した。シニアライフアドバイザーは、財団法人シニアルネサンス財団が認定し、中高年齢者の生活全般にわたる支援をするための資格だ。シニア大樂の発足当時、藤井理事長は40年近く勤めた大手広告代理店を退職した直後で、シニアライフアドバイザー養成講座の同期仲間と一念発起して立ち上げた。  シニア大樂ではさまざまな活動を行っているが、その中心となっているのが「講師紹介センター」である。主にシニアを講師として登録し、それぞれが現役時代に蓄えた豊かな知識や経験、あるいは趣味を活かし、講演活動が行えるよう、自治体や企業などが主催する講演会やセミナーに紹介し、派遣する事業だ。  登録されている講師の人数は、現在350人。平均年齢は71.2歳。対応する講演テーマは、「高齢社会・くらし」、「心とからだ」、「生き方、わが人生」、「教育、家庭、衣食住、資格」といった身近な話題から、人生を彩る「趣味、芸術、文化、生涯学習」、「レジャー、スポーツ、旅行」、「エンターテインメント、演芸、司会」、さらには、「ビジネス、研修」と幅広い。講師陣には多彩な経験や才能の持ち主が揃っており、国際線のパイロットや新聞記者、ホテルマン、落語家、アナウンサーなど、そのジャンルは十人十色。現役時代の体験や長年の経験に基づいた講演を行い、主催者や聴講者から好評を得ている。  シニア大樂は2021(令和3)年で発足18年目を迎えているが、これまでの講師紹介実績は約2900回。派遣先は、自治体の生涯学習や市民講座、団体や企業の研修などである。 講演料がシニア講師の収入に  シニアが講師として登録するには、所定の登録申込書(主な職歴、所属団体、取得資格、登録希望の講演タイトルなどを記載)と400字以内の小論文を講師紹介センターに送る。小論文の課題は、「私の自己PR」または「私が話したいこと」から一つを選ぶ。これらの内容を、講師紹介センター事務局で確認のうえ、登録を承認する。申込みをしてくるのは「講演活動をしたい」という意思のある人たちなので、小論文の内容も水準に達しており、ほとんどの申込みに対し、登録を承認している。  講師登録は2年ごとに更新し、登録された講師は、更新時に基本登録料2000円(2年分)を事務局に納める。登録された講師は、事務局が2年ごとに作成する「講師リスト」に掲載され、このリストは首都圏を中心とした自治体や公民館、企業、団体など、講師派遣の依頼が予測されるところに配布されるほか、シニア大樂のホームページでも公開される。  また、講師紹介センターでは、自治体の市民講座などの担当者へのプレゼンテーションとして、「成功する市民講座・企画立案と講師の選び方」講座を開催し、人気講師十数人によるショート講演を行うなどして、受注開拓に注力している。  講師派遣を依頼する場合は、まず講師紹介センターに相談する。その内容を同センターが登録講師へ連絡。講師が決定すると、以降の詳しい打合わせは依頼者と講師とで直接行い、講演料も講師が依頼者から直接受け取る。講師紹介料は無料だが、講師は講師料を受領後、その10%を紹介事務費としてシニア大樂に納める。 仲間と高め合うことも楽しみに  シニア大樂の講師が依頼者や受講者から人気を得ているのは、講演内容の質の高さにある。  「依頼者からよく、『話のおもしろい講師を』といわれます。そこで、講師のための話し方講習会を毎月開催し、スキルアップを図っています」と藤井理事長。自身も講師として登録しており、この講習会で学んでいる。  講師のための講習会は、専門講師による話し方指導と人気講師による20分間の講演で学んだ後、受講者が3分間スピーチを行いスキルを磨く内容だ。コロナ禍により毎月の開催が困難となっているが、この講習会はすでに200回を超えている。何度も参加する講師が多く、その理由について、講師であり副理事長の長嶋秀治(ひではる)さんは、「勉強しながら、ほかの講師の面白い話を聞くことができ、懇親会で仲間が増える楽しみもあるからです」と明かしてくれた。また、同じく講師で副理事長の平井幸雄(たかお)さんは、「全国各地から呼んでもらって話をし、みなさんに楽しんでいただけることにやりがいを感じています。いろいろな出会いがあることもうれしいことです」と講師として活動する喜びを笑顔で話す。  藤井理事長は、「講師として話をするためには、得意分野であってもしっかり勉強し直すことが大切です。それを1人ではなく仲間と一緒に行い、刺激し合い、高め合うことも楽しいのです」と講師としての活動の魅力を語る。  シニア大樂の活動はほかにも、「シニアにもっと笑いを」をテーマに、ユーモアスピーチの会、ユーモアシニア川柳サロン、脳トレ・発明サロン、小ばなし・落語入門サロン、全国シニア社会人落語会などを開催している。  現在、同法人の本部は30人。「本部の活動は報酬ゼロですが、好きな分野で活躍して楽しんでいます」(藤井理事長)。それぞれが得意な分野で役に立つことで、運営が継続されている。  ただいま、「60代、70代の登録講師を大募集中」とのこと。今後は、講師デビューを応援する講座の開催数を増やしていく考えだ。また、シニアの地域活動を応援する場へ講師を派遣していく取組みにも力を入れていく。 写真のキャプション NPO法人シニア大樂の藤井敬三理事長(中央)、平井幸雄副理事長(左)、長嶋秀治副理事長(右) 第4回 特定非営利活動法人100万人のふるさと回帰・循環運動推進・支援センター(東京都千代田区) 地方への移住希望者を手厚く支援  特定非営利活動法人100万人のふるさと回帰・循環運動推進・支援センター(略称:認定NPO法人ふるさと回帰支援センター)は、地方暮らしやI・J・Uターン希望者を支援するために、北海道から沖縄までの移住相談をはじめ、移住に関する情報の発信やセミナー、イベントの開催などを行っている。東京と大阪に「ふるさと回帰支援センター」を開設しており、同2都府を除く45道府県の自治体と連携して各地の情報を提供し、移住相談員が来訪者(現在はコロナ禍のため予約制)の移住相談に対応。希望に応じて、仕事や住まい探しを支援する仕組みも用意している。活動を通して、地方再生や地域活性化にも貢献しているNPO法人である。  「当法人は、いわゆる団塊の世代の定年後を応援する運動として始まりました。この世代の地方出身者の多くは、集団就職というかたちで都会に出てきています。そうした方々を対象に、連合(日本労働組合総連合会)でアンケート調査をしたところ、定年後は故郷に帰って暮らしたいと答えた方が4割近くに上っていました。その思いを応援しようということで、2002(平成14)年に設立しました」と高橋公(ひろし)理事長は設立の経緯を語る。  ふるさと回帰支援センターに寄せられる相談件数は、2008年には約2500件だったが、年々増加して2019(令和元)年は5万件近くに。2020年は、コロナ禍によってセンターが臨時休館するなどして約4万件と減少したが、リモートワークの普及などにともない、以前にも増して真剣な移住相談が増えているという。  相談者の年齢層にも変化があり、設立当初はシニア世代が中心だったが、2008年のリーマンショック以降、地方に活躍の場を見出すことを考える若い世代が増加。最近も、コロナ禍を通しての価値観の転換や、持続可能な地域づくりへの関心の高まりなどから、地方への移住を本気で考える若者からの相談が増えている。 社会貢献につながる職場  同法人の職員数は80人。一般および嘱託職員の定年は60歳で、定年後は希望者全員65歳まで再雇用され勤務が可能。65歳超は、嘱託社員として継続雇用が可能で、上限年齢は定めていない。また、移住相談などに対応する専属職員の定年は65歳で、65歳超は嘱託職員として契約する。現在、60歳以上の職員は10人で、主に専属職員として相談業務で活躍している。  職員の採用について高橋理事長は、「それまでに経験されてきたことや話を聞く力などをみて、適性を判断して決めています」と明かす。  専属職員の経歴は、編集者やテレビ番組の制作、キャビンアテンダント、福祉職員など多様だ。また、「資金が潤沢にある法人ではありませんので、この活動を通して社会に貢献したい、そんな思いを抱いて入職する人が多いと思います」と高橋理事長。さまざまな経験を持つシニアの活躍に、今後も期待しているとも話す。 「人と地域」、「人と人」をつなぐ仕事  福井県専属移住相談員の神林(かんばやし)孝一(こういち)さん(67歳)は、3年前、64歳でふるさと回帰支援センターに入職した。相談員として基本的に週5日、JR有楽町駅前の東京交通会館8階にある「ふるさと回帰支援センター」に勤務。福井県へ移住を考えている人の相談や、自治体・関係団体との連絡調整、情報交換などに対応している。  「私の役割は、人と地域、人と人とをつなぐこと。主に福井県での暮らし全般の相談にのっていますが、相談される方も内容もさまざまで、対応する期間もお一人ずつ異なります。ときにはたいへんなこともありますが、まず、相談される方と私自身がつながり、移住をされてからは地元の方々とつながり、安心して暮らしていらっしゃる様子に触れたとき、私も嬉しくなり、やりがいを感じます。いまここで、この仕事ができることが私にとって喜びです」と神林さんはにこやかに現在の仕事を語る。  神林さんは総合出版社を57歳で早期退職した後、新潟県の移住相談員として転職し、同県のアンテナショップに勤務した(ふるさと回帰支援センターとは別組織)。長年勤めた出版社では、企画部門で地方自治の振興に寄与する業務にたずさわり、全国各地へ出張するなか、一つの地域にじっくりかかわるような仕事がしたいと考えるようになった。新潟県の移住相談員になったのは、そんな気持ちからだった。新潟県の仕事をするなかで、「ふるさと回帰支援センター」をよく知るようになり、前職の任期満了後、現在の職場の求人に応募して採用された。  いまの仕事は、神林さんのキャリアが活かせる内容のうえ、入職後も研修や勉強会、他府県の相談員との交流などでスキルを磨く機会があり、自信を持って臨むことができているという。  定年は65歳だが、継続して働くことを希望する場合、書面で仕事ぶりを自己評価し、センターの上長らとキャリア面談したうえで継続雇用が決まるという。  「移住は、人生にとって一大事です。そのことにかかわる責任の大きさを常に感じる仕事ですが、体力が続くかぎりたずさわっていきたい」と神林さん。誠実に仕事に向き合い、そのなかで出会う人や多様な出来事が、神林さんの人生を一段と豊かにしている。 写真のキャプション 特定非営利活動法人100万人のふるさと回帰・循環運動推進・支援センターの高橋公理事長 福井県専属移住相談員の神林孝一さん。「ふるさと回帰支援センター」には、各都道府県専用のブースがあるほか、移住に関するパンフレットなどが常設されている 第5回 認定特定非営利活動法人経営支援NPOクラブ(東京都千代田区) ボランティア精神で中小企業の力になる  認定特定非営利活動法人経営支援NPOクラブは、2002(平成14)年6月、初代理事長の大貫義昭さんが20人の仲間とともに中小企業支援を目ざして発足した。  企業を定年退職した人などが会員となり、豊富な知識・経験やボランティア精神を活かして社会に貢献すると同時に、会員の生きがい創出と自己鍛錬(たんれん)につなげていくことも目的だ。  設立当初は中小企業への支援方法について模索から始まったというが、現在は経済産業省関東経済産業局をはじめ、地方自治体や公的支援機関などから中小企業支援のための調査案件や販路開拓支援を委託されるようになった。支援実績を積み重ねながら、活動する地域は関東から全国へと拡大。2016年には、税制上の優遇措置を受けることができる認定特定非営利活動法人に認定された。  同クラブで活動を行う会員は設立当初から増え、2021(令和3)年4月末現在で227人。出身企業は130社におよび、ほぼ全業種をカバーしている。多様な部署・専門分野(人事・財務・企画・営業・購買・設計・開発・生産)の出身者が揃っていることから、多岐にわたった支援ができる組織に発展している。 「実業界の人財図書館」として若者支援も  活動は現在、中小企業支援にとどまらず、次世代育成支援、復興支援を加えた3本柱となっている。中小企業支援では、多くが公的支援機関や金融機関などから経営支援の案件を受託し、販路開拓やビジネスマッチング、展示会出展、職場改善、経営相談、海外展開など幅広い支援を行っている。2019年度の支援実績は2750件、支援企業数は1066社に上る。2020年からはコロナ禍で活動が縮小しているが、オンラインによる支援も継続している。  助川(すけがわ)英治(えいじ)理事長は、「私たちが行っている活動は、例えば販路開拓支援では、依頼先企業を訪問して課題や方針などをお聞きし、現場や工場を見学します。それをもとに、複数の会員で多角的にマッチング先などを検討し、会員の人脈、知識、経験を活用して選定していきます。さらに、マッチングに際してのプレゼンテーションなどの助言、マッチングの設定、立会いを行い、あとは要望に応じてフォローアップをします。企業支援といっても、人と人とをつなぐことが大切な役目になるので、地味で泥臭い活動を続けています」と支援活動の様子を語る。  また、「1件ごとに、多様な経験を持つメンバーで担当チームを構成し、チームワークによる複眼の視点を活かした支援活動を行います」と同クラブによる中小企業支援の特徴をあげる。  次世代育成支援は、学校や教育機関、企業、自治体、地域へ会員を講師として派遣し、講演や研修会などを通じて次世代をになう若者の育成支援を行うものだ。例えば、文部科学省が支援する「土曜学習応援団」活動、科学技術振興機構主催の「サイエンスアゴラ」での活動、小・中学生を対象にした職業の話、高校でのキャリア教育の相談・支援などを行っている。社会人には経営や職場の安全などをテーマにした講演、モチベーション研修といった事業を展開している。  多様な人材が揃い、企業や学校が必要なときに、必要に応じて支援ができるNPOとして、同クラブでは自らを「実業界の人財図書館」と名づけて、こうした支援活動にも力を入れている。  復興支援は、東日本大震災の年から主に福島県を中心に中小企業支援などを続けている。 やりがい、刺激、学び、社会貢献が魅力  同クラブの理事で事務局長の酒井(さかい)基次(もとつぐ)さんは、JA全農(全国農業協同組合連合会)のグループ会社を定年退職後、職場の先輩に誘われて会員になり6年目。食に関する知見や中小企業診断士、販売士1級などの資格を活かして、主に加工食品や農産物を扱う中小企業の販路開拓支援などを担当している。  「支援の結果に対して依頼先から喜ばれることや、いろいろな仕事の現場を訪問できることにやりがいを感じています。会員には、現役時代の取引先や競合他社にいた人もいるのですが、いまは仲間で一緒に支援活動に取り組んでいます。勉強会もあり、そうした仲間から新たな刺激を受けることもあり、それがまた楽しいんです」と酒井さんは活動の魅力を笑顔で話す。  タイムリーな支援活動を行うため、会員間で各種研究会を立ち上げ、最新の技術や情報、市場動向などを学んでおり、現在、ヘルスケア研究会(4月からグループに発展)、新素材研究会、エネルギー産業研究会、農産物・食品輸出研究会、デジタル・イノベーション支援チームなどが研究活動中だ。コロナ禍のいまはオンライン活動がほとんどだが、再び集まれるようになったら、酒井さんは若い会員を勉強会後の食事などに誘い、活動の魅力をさらに伝えていきたいという。  助川理事長は、設立20周年を迎える来年に向けて「現在、関西グループは大活躍中です。支援活動の全国展開を目ざし、会員を増やしていきたいです」と目標を語る。  入会は常時歓迎しており年齢制限はなく、支援活動は有償で、規程により活動ごとに報酬が支払われる。ただし、「小遣い程度」であることをあらかじめ伝えている。  会員がこれほど増えた理由について、「活動していると、つい夢中になってしまうんです。ほかにも仕事を持っている会員も多くいますが、定年まで勤めて、これからは社会に貢献したい、そういう気持ちの人が多いからでしょうか」と助川理事長はにこやかに話してくれた。 写真のキャプション 助川英治理事長(右)と酒井基次事務局長(左) 最終回 特定非営利活動法人 日本NPOセンター(東京都千代田区) 再雇用制度でNPOへ出向  特定非営利活動法人日本NPOセンターは、民間非営利セクターにかかわる基盤的組織として、情報交流、人材育成、調査研究、政策提言などを通じて、日本各地のNPOの基盤強化を図るとともに、企業や行政とNPOの連携・協働を促進する活動を行っている。平たくいうと、社会課題と向き合い、解決を図るため、さまざまなNPOを支援するためのNPOである。1996(平成8)年に設立され、2021(令和3)年11月に25周年を迎える。  事務所は東京都千代田区大手町にあり、事務局スタッフは常勤・非常勤を合わせて19人。今回は、定年後の再雇用制度で企業から同センターへ出向し、その活動に企業でつちかった知識や経験を活かしている本田恭助さん(64歳)を紹介する。企業とNPOの連携の充実に貢献し、さらに、新たなことを学びながらフルタイムで勤務している。  本田さんは2017年に花王株式会社で60歳の定年を迎え、同社の再雇用制度を使ってこの日本NPOセンターに出向している。  花王では人材を「人財」と表現し、60歳定年後のシニア人財の強みを活かすための再雇用制度のなかで、社内だけでなく、NPOなどの社外組織へ出向して活躍する道を選択肢の一つとして提示している。花王が人財を出向させることでNPOなどの活動を支援するもので、本田さんの人件費は花王が負担している。  「定年2年前の再雇用希望者向けの社内説明会で、当時在籍していた部署を含む社内・社外の再雇用組織の紹介がありました。そのなかの社会貢献領域として日本NPOセンターへの出向があり、『よし、これだ!』と思ったのです。公募制ですのですぐに申請したところ私が選ばれ、日本NPOセンターによる面接を経て働くことが決まりました。花王シニア人財のNPO法人への出向第1号です」(本田さん)  多くの同僚が、社内での再雇用を希望していたなか、本田さんがNPOへの出向を望んだのは、持ち前のチャレンジ精神に加え、50代の数年間に故郷の父母の介護を通じて地域の多くの人に支えてもらい、定年後は地域社会に貢献したいとの思いがあったこと、さらに、保健師として自治体の地域保健で活躍する姉や福祉ボランティアをしている妹の姿を通してその思いを強くし、「思い切って飛びこみました」と当時をふり返る。 違いに戸惑いながらも力を発揮  本田さんは1980(昭和55)年に花王(当時・花王石鹸)に入社し、主に商品開発、広告メディア・ブランドコミュニケーション、国際事業の仕事にたずさわった。この経験と知見を活かそうと、はりきって日本NPOセンターに出向したが、実際に働き始めると、価値観や仕事のやり方などさまざまな面で企業との違いを実感し、戸惑ったという。「最初の2年は勉強期間のようなものでした。3年目からようやく事業推進メンバーの一員になれた気がします」と本田さん。自分に何ができるのかと、葛藤する日々が続いた。  そうしたなか、日本NPOセンターでは、アメリカに本部がある世界的組織「テックスープ」の日本事務局の運営を行っており、テックスープ事業(NPOなどの非営利法人がITを活用することで、活動をより効果的・効率的に進めるための環境づくりを支援する事業)の過去10年間の事業分析と利用者登録業務のサポートを本田さんが担当することに。さらに、業務分析・改善提案など、日本でのテックスープ事業の推進に貢献している。  また、同NPOの事業管理業務に月次管理の導入を提案し、花王の管理会計の専門家からレクチャーを受ける機会をつくり、体制の整備に貢献した。ほかにも、アニュアルレポートの導入を提案し、2018年度から編集・制作を担当するなど、同NPOの手がける事業や組織の基盤強化の面で、本田さんは花王での経験を活かして活躍している。 企業とNPOをつなぐ架け橋に  本田さんは、花王と同NPOをつなぐ初のシニア人財として、同じ志を持つ後輩のために、定年後のNPO出向者に向けたカリキュラムを作成するなど、出向で得た経験や課題を花王へフィードバックし、企業とNPOの連携の充実にも取り組んでいる。こうした貢献もあり、本田さんに続いて、2018年と2020年に一人ずつ、ほかのNPOに出向して活躍している。  花王の再雇用制度は65歳までのため、本田さんは2022年10月末で再雇用契約が終了する。しかしその先も、「社会課題の領域にかかわり、住みやすい社会の実現に貢献したい」と話す。その実践のため、個人の活動としてNPO法人荒川クリーンエイド・フォーラムに所属してボランティアで荒川の清掃をしたり、一般社団法人シニア社会学会の会員になりこれからの超高齢時代に望ましい社会の枠組みなどについて学術的に学んでいる。また、荒川の清掃をして気づいたことを、環境問題の解決に取り組んでいる花王にフィードバックするなど、出向を終えた後も社会にどう貢献できるかなどを考えているそうだ。  「会社人間だった私が、異分野のNPOに入り、四苦八苦はいまも続いていますが、新しい世界でこれまで触れることのなかった価値観を学び、恥ずかしながら60歳を過ぎて自分が成長していることを感じます」(本田さん)  高齢法が改正され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となった。その機会の一つにNPOでの就業機会も示されており、日本NPOセンターには問合せが増えているという。本田さんはいま、そうした声に応えていく仕組みづくりも進めているそうだ。 写真のキャプション 本田恭助さん