短期連載 マンガで見る高齢者雇用 エルダの70歳就業企業訪問記 第@回 株式会社 大津屋(福井県福井市)[前編] 定年延長やコンピテンシー評価で、シニアの働く意欲が向上 ※ 本連載は、厚生労働省と当機構が共催する「高年齢者雇用開発コンテスト」(33頁参照)受賞企業における取組みを、応募時点の情報に基づき、マンガとして再構成しています。そのため、登場人物がマスクをしていないなど、現時点の状況との違いがあります 解説 マンガで見る高齢者雇用 エルダの70歳就業企業訪問記 70歳就業を実現している企業事例をマンガで紹介!  「70歳就業」と聞いて、みなさんはどんなことを想像しますか? 「そんな年齢まで働けるの?」、「70歳といわず80歳、90歳まで働きたい」、「人事制度の見直しが必要になる」など、読者のみなさんの立場や環境によってさまざまな受けとめ方があるでしょう。高年齢者雇用安定法の改正により、70歳までの就業機会確保が努力義務となったいま、企業としては対応していかなくてはなりません。  そこで、本企画ではすでに70歳就業を実現している企業の取組みを、マンガで紹介していきます。初回は、令和2年度高年齢者雇用開発コンテスト(現・高年齢者活躍企業コンテスト)で厚生労働大臣表彰最優秀賞を受賞した、株式会社大津屋の取組みを紹介します。制度の内容はもちろん、高齢者の働きぶりなどを参考に、70歳就業の実現に向けた取組みに、ぜひお役立てください。同社の取組みは、次号でも引き続きご紹介します。 <企業プロフィール> 株式会社大津屋(福井県福井市) 創業1573(天正元)年 コンビニエンスストア事業(創業時は酒造業)  定年70歳。就業規則により73歳、その後は運用により上限なしで継続雇用。現在の最高年齢者は74歳。定年制度・継続雇用制度を整備し70歳就業を実現するとともに、評価・処遇制度を見直し、高齢社員が高いモチベーションで働ける環境が整っており、令和2年度高年齢者雇用開発コンテストで最優秀賞を受賞しました。人材を「宝」と位置づけ、高齢者の特性を最大限に活かせる職場づくりに取り組んでいます。 キーワード解説 ◇「高年齢者就業確保措置」  2021年4月より、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となりました。これまで企業には、「高年齢者雇用確保措置」により、従業員の65歳までの雇用が義務づけられてきましたが、「高年齢者就業確保措置」では、70歳までの定年引上げ、定年制の廃止、70歳までの継続雇用制度の導入のほか、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度や社会貢献事業に従事できる制度の導入などの選択肢が示されています。 高年齢者活躍企業コンテスト  高年齢者が長い職業人生のなかでつちかってきた知識や経験を職場などで有効に活かすため、企業などが行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行います。受賞企業の取組み内容については、毎年、本誌10月号・11月号で掲載しています。 JEED 高年齢者活躍企業コンテスト 検索 第A回 株式会社 大津屋 (福井県福井市) [後編] 多様な就労形態を構築。最新機器も活用し、シニアの負担を軽減 ※ 本連載は、厚生労働省と当機構の共催で毎年実施している「高年齢者雇用開発コンテスト」(現・高年齢者活躍企業コンテスト)受賞企業における取組みを、応募時点の情報に基づき、マンガとして再構成しています。そのため、登場人物がマスクをしていないなど、現時点の状況との違いがあります 前編はホームページでご覧になれます。 エルダー2021年 5月号 マンガ 検索 解説 マンガで見る高齢者雇用 エルダの70歳就業企業訪問記 <企業プロフィール> 株式会社大津屋(福井県福井市) 創業1573(天正元)年 コンビニエンスストア事業(創業時は酒造業)  定年70歳、就業規則により73歳、その後は運用により上限なしで継続雇用。現在の最高年齢者は74歳。定年制度・継続雇用制度を整備し70歳就業を実現するとともに、評価・処遇制度を見直し、高齢社員が高いモチベーションで働ける環境が整っており、令和2年度高年齢者雇用開発コンテストで最優秀賞を受賞しました。人材を「宝」と位置づけ、高齢者の特性を最大限に活かせる職場づくりに取り組んでいます。 内田教授に聞く株式会社大津屋のココがポイント! シニアスタッフの強みを「より長く」、「より多く」引き出し競争力を強化  大津屋の強みはほかのコンビニチェーンにはない「地産地消」のお惣菜ですが、開発の中心となっているのはシニアスタッフです。彼らは大津屋躍進の原動力となっています。競争力強化という経営戦略から、大津屋はシニアスタッフの強みを「より長く」、「より多く」引き出そうと工夫しています。「より長く」とは、シニアスタッフが大津屋に貢献できる期間を長くすることです。そして「より多く」とは、彼らシニアスタッフの貢献度をいっそう高めることです。  定年年齢を65歳から70歳に延長することで、「より長く」が実現しています。70歳定年と73歳までの継続雇用制度を就業規則で明文化、だれでもその年齢まで働けることを保証しています。働く高齢者のなかには「自分は何歳まで働かせてもらえるのだろうか」と不安に思っている人もいます。明文化された制度は安心感を与え、働く意欲を高めます。  また、大津屋では70歳定年以降も減額のない賃金制度に加え、処遇の納得性を高めるコンピテンシー評価を取り入れてシニアスタッフのモチベーションを高め、「より多く」の貢献を引き出しています。  高齢者にはライフスタイルの変化、体力・集中力低下や新技術への対応のむずかしさがあらわれることがあります。大津屋では、高齢者との面談で個々人の事情や希望する働き方を把握しています。また、高齢者の作業負担軽減のため最新機器や設備を導入していますが、高齢者が操作方法に習熟できるよう研修にも時間をかけています。高齢者が働きやすい環境が整うことで「より多く」の貢献が引き出せます。  高齢者の多様なニーズをつかみ、きめ細かに対応して自社の強みとしている大津屋の取組みは、失敗しない高齢者活用のヒントを提供してくれます。 《プロフィール》 内田賢(うちだ・まさる) 東京学芸大学教育学部教授。 「高年齢者雇用開発コンテスト」(現・高年齢者活躍企業コンテスト)審査委員(2012年度〜)ほか、「65歳超雇用推進研究委員会」委員長(2016年度〜)を務める。 第B回 伸和ピアノ株式会社(千葉県千葉市) 定年制を廃止! だれもが生涯現役を目ざせる職場環境を実現 ※ 本連載は、厚生労働省と当機構の共催で毎年実施している「高年齢者雇用開発コンテスト」(現・高年齢者活躍企業コンテスト)受賞企業における取組みを、応募時点の情報に基づき、マンガとして再構成しています。そのため、登場人物がマスクをしていないなど、現時点の状況との違いがあります ※ 法定労働時間の8時間を超えないよう、必要に応じて休憩時間を設定 解説 マンガで見る高齢者雇用 エルダの70歳就業企業訪問記 <企業プロフィール> 伸和ピアノ株式会社(千葉県千葉市) 創業1970(昭和45)年 中古ピアノ・管楽器の買取・修理・販売事業  2016(平成28)年に定年制を廃止。現在の最高年齢者は82歳。従業員の生活に合わせて働き続け られる時間有給休暇制度や短時間勤務制度を導入しているほか、高齢従業員にも成果に基づいた評価・処遇制度を適用していることなどが評価され、令和2年度高年齢者雇用開発コンテスト※では(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞を受賞しました。高齢従業員の積極的な採用も行っており、高齢従業員が活き活き働ける職場の創出を通して地域社会に貢献しています。 内田教授に聞く 伸和ピアノ株式会社のココがポイント! 創意工夫で高齢従業員を会社の強みに  伸和ピアノは定年制を廃止しました。人件費負担を考えれば経営に大きな影響を及ぼすことは明らかで、重大な決断です。それでも定年制廃止を決めたのは、それが従業員の生活を安定させ、生きがいや働きがいを高め、彼らの持てる力をもっと引き出せると考えたからです。定年制廃止は従業員への思いや願いを込めた経営者の力強いメッセージです。伸和ピアノはこれを機に、さらに会社の競争力を高めようとさまざまな取組みを行っています。  多様な高齢従業員に対応した工夫が随所に見られます。熟練技能を持つ高齢者にはピアノ修理を任せる一方、中高年になって入社した経験の浅い従業員でもできる仕事も用意されています。それぞれ異なる家庭事情を持つ高齢従業員には、「選択できる始業終業時間」や「30分単位で取得できる有給休暇」を用意していますが、これらは子育て中の従業員にもありがたいものです。また、高齢者にありがちな体力や五感の低下にはLED照明で視力低下を補い、個人用ブース設置により作業中の移動を少なくして体力消耗を防いでいます。労災発生率も一般的に高齢者では高くなりがちですが、同社は研修を充実させてその防止に努めています。  賃金制度も際立っています。同一労働同一賃金を前提に職務特性を反映させた部分や個々人の貢献度が反映される部分を設けたほか、賞与や退職金制度も見直し、高齢期もそれまでと変わらずがんばれる仕組みです。  高齢従業員が長年にわたってつちかわれてきた熟練の技でピアノは立派に生まれ変わり、その豊富な人生経験は若手や障害のある従業員の自立をも助けています。高齢者の強みが活かされているのです。  経営者のリーダーシップのもと、ハンディと見られがちな高齢者雇用を全社的な強みに変える発想と工夫が、伸和ピアノには溢れています。 《プロフィール》 内田 賢(うちだ・まさる) 東京学芸大学教育学部教授。 「高年齢者雇用開発コンテスト」(※現・高年齢者活躍企業コンテスト)審査委員(2012年度〜)のほか、「65歳超雇用推進研究委員会」委員長(2016年度〜)を務める。 第C回 株式会社建設相互測地社(福島県郡山市) 高齢従業員の役割を明確化!だれもが働きがいのある職場を創出 ※ 本連載は、厚生労働省と当機構の共催で毎年実施している「高年齢者雇用開発コンテスト」(現・高年齢者活躍企業コンテスト)受賞企業における取組みを、応募時点の情報に基づき、マンガとして再構成しています。そのため、登場人物がマスクをしていないなど、現時点の状況との違いがあります ※ 健康事業所宣言……協会けんぽ等保険者と連携し、従業員の健康保持・増進を推進するため、事業所が健康づくりに関する目標を設けて実践すること 解説 マンガで見る高齢者雇用 エルダの70歳就業企業訪問記 <企業プロフィール> 株式会社建設相互測地社(福島県郡山市) 創業1969(昭和44)年 補償コンサルタント業・用地補償・測量調査  2018(平成30)年に定年年齢を65歳に引き上げました。65歳以降は、一定の条件(健康状態と本人の意思)のもと、年齢の上限なく継続雇用しており、現在の最高年齢者は81歳となっています。短時間勤務・短日勤務といった柔軟な勤務制度のほか、高齢社員の役割の明確化、高齢社員が中心となった「作業手順書」の作成などにも取り組み、令和元年度高年齢者雇用開発コンテスト※では、厚生労働大臣表彰優秀賞を受賞しました。 内田教授に聞く 株式会社建設相互測地社のココがポイント! 会社が抱える課題解決のため経験豊かな高齢社員を活用  建設相互測地社が取り組むべき課題ははっきりしていました。同社の中核となる人材の確保、技術継承を通した人材育成です。一方、これからは顧客へ提供するサービスの品質向上が欠かせず、それを証明する国際規格であるISOの認証取得が急がれました。建設相互測地社の社長はこれらの難題解決に、自社の経験豊かな高齢者を起用することを迷わず選択しました。  高齢者が安心し、意欲を持って働き続けるには、会社が方針と制度をしっかり打ち出すことが必要です。建設相互測地社は65歳へ定年を延長し、定年後も健康で働く意欲があれば年齢の上限なく継続雇用することとしました。加えて柔軟な雇用制度で、短時間勤務や短日勤務も選択可能です。これにより高齢者の意欲が高まりました。  同社は、高齢者に期待することをはっきり示しています。「若手社員への技術の継承」と「品質チェック機能、工程管理」です。高齢者は若手への技術継承が自分の役割であることを深く認識して実践するだけではなく、業務の品質管理や工程管理に欠かせない「作業手順書」を高齢者主導で作成し、仕事を「見える化」しました。  また、同社ではドローンなど最新技術を積極的に取り入れ、若手と高齢者がペアで作業しています。ドローンを操作するのは新しいことをすぐ覚える若手、ドローンが撮影した画像を分析するのは知識と経験豊かな高齢者です。それぞれの強みを出せれば両者の間に信頼感と尊敬が生まれ、コミュニケーションも深まります。  「生涯現役」の実現に向け、高齢者に求めるものを会社がはっきりと示し、高齢者が現役であり続けるために必要な制度や仕組みづくりを積極的に進めた建設相互測地社の取組みは、おおいに参考になるでしょう。 《プロフィール》 内田 賢(うちだ・まさる) 東京学芸大学教育学部教授。 「高年齢者雇用開発コンテスト」(※現・高年齢者活躍企業コンテスト)審査委員(2012年度〜)のほか、「65歳超雇用推進研究委員会」委員長(2016年度〜)を務める。 第D回 株式会社きむら(香川県高松市) 継続雇用の上限年齢をなくし、高齢従業員の経験と技術を積極活用! ※ 本連載は、厚生労働省と当機構の共催で毎年実施している「高年齢者雇用開発コンテスト」(現・高年齢者活躍企業コンテスト)受賞企業における取組みを、応募時点の情報に基づき、マンガとして再構成しています。そのため、登場人物がマスクをしていないなど、現時点の状況との違いがあります 解説 マンガで見る高齢者雇用 エルダの70歳就業企業訪問記 <企業プロフィール> 株式会社きむら(香川県高松市) 創業1907(明治40)年 生鮮食品中心のスーパーマーケット  株式会社きむらの定年は60歳。60歳以降は正社員・パートタイマーを問わず、本人に働く意欲があるかぎり年齢上限なく継続雇用しています。60歳定年以降も役職を継続できるほか、定年時の賃金水準の維持、継続雇用中の昇給制度などもあり、高齢従業員がモチベーション高く働ける各種制度が整備されています。こうした取組みが評価され、平成29年度高年齢者雇用開発コンテスト※で、厚生労働大臣表彰最優秀賞を受賞しました。 内田教授に聞く 株式会社きむらのココがポイント! 現場の最前線から人材育成まで、高齢従業員の活用が経営戦略のカギに  スーパーマーケットを展開する株式会社きむらの強みは、同業他社の追随を許さない生鮮品売場の充実です。この売場を支えるのが経験豊かな高齢従業員です。生鮮品は新鮮さが勝負、市場で活きのいい魚や採れたての野菜を見極める「目利き」でなければ担当は務まりません。そのため、経験がものをいうこの世界で生きてきたベテランが重宝されます。  一方、会社は急成長し、人材育成が追いつかなくなっていました。ここでも即戦力として頼りにされたのが高齢従業員でした。会社は高齢従業員のいっそうの活用のため、継続雇用の上限年齢を撤廃しました。定年後の起用に加えて外部からの高齢者採用も増え、高齢従業員が会社の中核人材、成長エンジンになっています。  きむらで働く高齢従業員は最前線に立つだけではなく、次代をになう若手従業員の指導役としても活躍しています。会社の強みである生鮮品の目利き人材の育成が欠かせないからです。きむらでは高齢従業員と若手が一緒に市場で買いつけを行っていますが、このスタイルは技能伝承に効果のある「ペア就労」の実践です。  がんばっている高齢従業員が、モチベーション高く働き続けることができる仕組みも重要です。きむらでは継続雇用時の賃金が定年前と変わらず、人事考課による昇給も可能となっています。また、高齢従業員に体力負担をかけないために魚の調理現場ではオートメーション化が進んでいます。  さらに注目したいのは、事業多角化と高齢従業員の働く場の開拓を結びつけていることです。川下産業であるスーパーが、川上にある魚市場経営に多角化することで、本業を強化できるだけではなく、高齢従業員が活躍できる場を生み出しています。きむらでは企業の成長に向けた経営戦略に、高齢従業員を含めた人材確保・高度化を明確に組み込んでいます。 《プロフィール》 内田 賢(うちだ・まさる) 東京学芸大学教育学部教授。 「高年齢者雇用開発コンテスト」(※現・高年齢者活躍企業コンテスト)審査委員(2012年度〜)のほか、「65歳超雇用推進研究委員会」委員長(2016年度〜)を務める。 最終回 社会福祉法人いろどり福祉会 ケアハウス・在宅複合施設花紬(はなつむぎ) (三重県津市) 「生涯現役」を目標に、処遇改善と環境整備を推進! ※ 本連載は、厚生労働省と当機構の共催で毎年実施している「高年齢者雇用開発コンテスト」(現・高年齢者活躍企業コンテスト)受賞企業における取組みを、応募時点の情報に基づき、マンガとして再構成しています。そのため、登場人物がマスクをしていないなど、現時点の状況との違いがあります ※ Quality Controlの略。企業のサービスや製品の品質向上に関する取組みのこと おわり 解説 マンガで見る高齢者雇用 エルダの70歳就業企業訪問記 <企業プロフィール> 社会福祉法人いろどり福祉会 ケアハウス・在宅複合施設花紬(三重県津市) 創業2000(平成12)年 高齢者福祉事業  社会福祉法人いろどり福祉会では、定年66歳、希望者全員70歳まで、70歳以降は条件つきで年齢上限のない継続雇用制度を導入しています。定年後を含む職員全体の処遇改善に努めているほか、質の高い介護と生産性の向上を実現するため、製造業における品質管理の考え方を取り入れ、高齢職員を含む「全社的な品質管理活動」を進めているのも特徴です。これらの取組みが評価され、令和元年度高年齢者雇用開発コンテスト※で、厚生労働大臣表彰優秀賞を受賞しました。 内田教授に聞く 社会福祉法人いろどり福祉会 ケアハウス・在宅複合施設花紬の ココがポイント! 最新機器の導入で負担を軽減するとともに、高齢者だからできるていねいな仕事で職場に貢献  今年の「敬老の日」に総務省統計局が発表したわが国の65歳以上の高齢者の最新状況によれば、高齢者人口は3640万人と過去最多、総人口に占める割合は29.1%と過去最高、高齢者人口の割合は世界最高です。高齢者福祉の充実がますます求められています。そして、高齢者福祉のにない手として適役なのが高齢者です。福祉サービス利用者となる高齢者と働く高齢者は同じ時代に生きた共通意識があり、また、高齢者は長年の人生経験の深さから利用者の相談に親身になれるからです。同様の事例はファミリーレストランです。最近は高齢の顧客が多くなり、接客側にも高齢者を配置することで顧客からの評判が高まっています。現在の主要顧客が高齢者である場合、または、これから高齢者を対象にビジネスを展開する場合、経験豊かな高齢者の起用をおおいに考えるべきでしょう。  いろどり福祉会では、@定年延長と希望者全員70歳までの継続雇用により安心して働ける職場を実現し、A360度評価による処遇制度で定年後の昇給を可能にして高齢者の意欲を高め、B高齢者の研修講師への起用やQCサークル活動参加を通して若年者に高齢者の経験を伝えるなど、ユニークな取組みが見られます。  いろどり福祉会の取組みのなかで特に注目したいのは機械化です。機械化によって無理な姿勢での作業や力仕事から解放された高齢者は集中力が持続し、余裕を持って仕事ができるようになります。マンガのなかで消毒作業が紹介されています。いまでは新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため手の抜けない仕事ですが、細かいところまでの消毒は機械にはできません。注意が行き届き、ていねいな仕事をする高齢者だからこそできる仕事の一例です。 《プロフィール》 内田 賢(うちだ・まさる) 東京学芸大学教育学部教授。 「高年齢者雇用開発コンテスト」(※現・高年齢者活躍企業コンテスト)審査委員(2012年度〜)のほか、「65歳超雇用推進研究委員会」委員長(2016年度〜)を務める。