高齢社員のための安全職場づくり ―エイジフレンドリーな職場をつくる― 労働安全衛生総合研究所 安全研究領域長 高木元也 生涯現役時代を迎え、60歳、65歳を超えて、より長く活躍してもらうためには、企業が職場における安心・安全を確保し、高齢社員が働きやすい職場環境を整えることが欠かせません。本連載では、高齢者の特性を考慮したエイジフレンドリー≠ネ職場の実現方法について、職場の安全管理にくわしい高木元也先生の解説を連載していきます。 第1回 なぜいま、エイジフレンドリーな職場づくりが注目されているか はじめに  現在、わが国の65歳以上の人口は、全人口の3割近くにも及び、今後も増加が見込まれ、2065年には4割近くに達すると推計されています。  高齢者の増加にともない、働く高齢者も増加し、さらに、いつまでも働きたいと意欲を持つ人も増加しており、そのことが働く高齢者の増加に拍車をかけています。  働く高齢者の増加により、高齢者の労働災害も増加しています。その特徴は、簡単な作業での労働災害が目立つこと、被災すると重傷になるケースが多いことなどがあげられます。  このため、安倍政権の時代には、『骨太の方針2019(経済財政運営と改革の基本方針)』において「サービス業で増加している高齢者の労働災害を防止するための取組を推進する」が盛り込まれるなど、高齢者が安心して安全に働ける職場環境づくりや健康づくりが重要な政策課題に位置づけられました。これを受け、厚生労働省は2020(令和2)年3月に『エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の健康と安全の確保のためのガイドライン)』※1を策定し、2021年度はこの施策の普及が推進されています。  このような状況のもと、本連載は「エイジフレンドリーな職場をつくる」をテーマに、WエイジフレンドリーなW、和訳すればW高齢者の特性に応じたW職場の安全対策、健康確保策をどのように進めていけばよいかについて解説します。  第1回目の今回は、なぜいま、エイジフレンドリーな職場づくりが必要なのかについて解説します。 データでみるエイジフレンドリーな職場が必要な理由  さまざまな統計データを基に、エイジフレンドリーな職場が、いま必要な理由をみていきます。 ■さまざまな業種で高齢者が増えている  図表1に示す通り、60歳以上の雇用者数について業種別に2008年と2018年を比較すると、保健衛生業2・6倍、商業1・6倍、建設業1・3倍、製造業1・2倍と増加しています。  さまざまな業種で、高齢者に適した職場環境づくりが求められていることがわかります。 ■高齢になっても働きたいと考える人が増えている  35〜64歳の男女を対象としたアンケート調査※2によると、60歳を過ぎても働きたいと考えている人は81・8%をも占めています。さらに、65歳を過ぎても働きたいと考えている人は50・4%と半数を占めており、このようなW次の時代の高齢者Wにおいても高齢になっても働きたいと考える人が多く、長期的にみても、高齢者が快適に働き続けることができる職場環境づくりの必要性が示されています。 ■高齢者は労働災害にあいやすい  高齢者の労働災害発生率をみると、60代後半は、労働災害発生率が最も小さい20代後半と比べ、男性で2・0倍、女性で4・9倍とかなり高くなっています(図表2)。この主たる原因には、筋力の低下、バランス感覚の低下など、加齢にともなう心身機能の低下があげられます。 ■高年齢の男性は墜落・転落災害、女性は転倒災害が多い  高齢者の労働災害を災害の種類別(事故の型別)にみると、男性は、墜落・転落災害が若年者と比べ約4倍と非常に高く、一方女性は、転倒災害が同約15倍と著しく高くなっています(図表3)。  男性の墜落・転落災害は建設業に多い一方、女性の転倒災害は、スーパーマーケットなどの小売業に多く、業種特性に応じた職場づくりが必要となります。 ■再就職したばかりの高齢者の被災が目立つ  年齢階層別の労働災害発生率を雇用1年未満と1年以上で比べてみると、いずれの年齢階層でも1年未満が高く、特に、50歳以上が高くなっています(図表4)。これは、再就職先での新たな作業に慣れていなかったり、高齢者の特性に応じた安全教育が十分に行われていなかったりすることなどが原因と考えられます。 ■高齢者は休業日数が長い重篤な災害が多い  休業見込期間について、休業日数が1カ月より長い七つの階層を合計したものは、20〜29歳は約40%にとどまる一方、70歳以上は70%近くをも占めるなど、年齢が高くなるにつれ休業見込日数は長くなり(図表5)、高齢者の労働災害は重篤化する傾向にあります。軽作業でも重篤な災害につながりやすいことなどに注意が必要です。 ■治療と仕事の両立支援が重要な課題  総務省の「労働力調査」によると、わが国の就業者数は6311万人(2013年)ですが、このうち、治療しながら仕事している人は2007万人にも及び、就業者の31・8%が疾病を抱えていることになります。  抱えている疾病は、高血圧、糖尿病、アレルギー、心疾患、メンタル疾患の順に多く、高齢になると疾病を抱える人も増加し、エイジフレンドリーな職場づくりには治療と仕事の両立支援は欠かすことができません。 ■腰痛は、業務上疾病のなかで最も多く、高齢者に多い  業務上疾病とは、仕事中にかかる病気、いわゆる「職業病」のことですが、最も多いのが腰痛です。腰が痛いと訴える人は、60代、70代がかなり多くなっています(図表6)。  職場の腰痛対策には、人が持ち上げる重量の制限、機械化・ロボット化による重い物や人を持ち上げる作業の廃止、パワーアシストスーツ着用などによる負荷軽減、正しい持ち上げ方の教育、腰痛予防体操などがあげられ、このような対策の職場への導入が必要となります。 ■熱中症災害は男性の高齢者に多い  夏場の熱中症対策は、もう何年も前から声高に叫ばれてきました。これだけ、「水分、塩分、適度な休憩が必要」といわれ続けてきても、熱中症災害は減少せず、2011年〜2017年、職場の熱中症による休業4日以上死傷者数は毎年500人前後と横ばい状態でした※4。当時、「いくら対策しても、熱中症災害は減らないのでは」と弱気な声がきかれましたが、2018年は下がらないどころか、1128人と2倍超に急増しました。翌年の2019年も800人台と留まることを知らず、熱中症災害の防止は、わが国の労働災害防止対策上、重要な課題に位置づけられています。  熱中症災害の発生率は、年齢が上がるとともに男性の発生率が高くなっています※5。事業場からは、高齢者の課題として、「のどの渇きを訴えない」、「補給する水分の量が少ない」などが指摘されています。 ■脳・心臓疾患の患者は、加齢により増加し、労災認定事案の割合も少なくない  脳・心臓疾患の患者のうち、労災認定事案は40歳以上が約9割を占めています※6。比較的責任のある立場に就くことが多い50代が最も多いですが、60代、70代でも30代よりかなり多くなっています。ここでも、高齢者の働き方を改善する取組みが求められます。 ■高齢者は、働くためには仕事の専門知識よりも健康・体力を重視する  60代の働く高齢者を対象に「65歳を過ぎても勤めるために必要なこと」をきいたところ、「健康・体力」とする回答が66・8%を占め最も多く、「仕事の専門知識・技能」47・2%、「いつまでも現役で活躍するという意欲」34・6%などと比べ、一段と高い結果となっています※7。高齢者にとっては、働くために健康・体力の確保が最も大切で、それをサポートする職場での活動が必要となります。 おわりに  以上、今回はさまざまな統計データを基に、エイジフレンドリーな職場づくりの必要性をみてきました。  次回は、2020年3月に厚生労働省が公表した『エイジフレンドリーガイドライン』の概要を紹介します。そのなかで、特に、事業者に求められる新たな視点である高齢者一人ひとりの健康と体力の状態の把握と、それに応じた対策について詳しく解説します。 ※1 エイジフレンドリーガイドライン……本誌2020年7月号50〜57頁に全文を掲載しています ※2 内閣府『高齢期に向けた「備え」に関する意識調査』(2013年) ※3 千人率……年間の労働者千人当たりの労働災害発生率のこと ※4 厚生労働省「労働者死亡傷病報告」(2018)・「死亡災害報告」(2018)および都道府県労働局からの報告による2018年中に発生した災害で休業4日以上および死亡のもの、総務省「労働力調査」(2018) ※5 厚生労働省『2019年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況』 ※6 厚生労働省「過労死等の労災補償状況」(2019年度) ※7 独立行政法人労働政策研究・研修機構「60代の雇用・生活調査」(2015年度) 図表1 60歳以上の雇用者数の変化(業種別、2008年と2018年比較) 保健衛生業 2008 51万人 2018 132万人 2.6倍 商業 2008 118万人 2018 183万人 1.6倍 建築業 2008 71万人 2018 95万人 1.3倍 製造業 2008 127万人 2018 147万人 1.2倍 出典:総務省「労働力調査」より 図表2 年齢別・男女別 千人率※3 男性2.0倍 25〜29歳 2.05 65〜69歳 4.06 75〜79歳 4.76 女性4.9倍 25〜29歳 0.82 65〜69歳 4.00 出典:厚生労働省「労働者死傷病報告」(2018年)、総務省「労働力調査」(2018年)より 図表3 年齢別・男女別 事故の型別 千人率 墜落・転落 男性 約4倍 25〜29歳 0.29 75〜79歳 1.17 転倒 女性 約15倍 25〜29歳 0.15 65〜69歳 2.33 出典:厚生労働省「労働者死傷病報告」(2018年) 図表4 年齢別・雇用期間別(1年以上と1年未満)千人率 1年未満 29歳以下 2.6 30〜39歳 3.7 40〜49歳 4.8 50〜59歳 7.7 60〜69歳 5.6 70歳以上 7.8 1年以上 29歳以下 1.5 30〜39歳 1.4 40〜49歳 1.7 50〜59歳 2.5 60〜69歳 3.8 70歳以上 4.3 出典:厚生労働省「労働者死傷病報告」(2018年)、総務省「就業構造基本調査」(2017年) 図表5 年齢別・休業見込み期間別 割合 70歳以上 60〜69歳 50〜59歳 40〜49歳 30〜39歳 20〜29歳 19歳以下 1週間未満 1週間以上 2週間以上 1カ月以上 2カ月以上 3カ月以上 6カ月以上 1年以上 3年以上 5年以上 労働者師死傷病報告(平成30年)休業4日以上 ※休業見込日数の記入のあるもの(n=126.429)のみ集計 出典:厚生労働省「労働者死傷病報告」(2018年) 図表6 腰が痛いと訴える人数 15〜19歳 58千人 20〜24歳 64千人 25〜29歳 104千人 30〜34歳 152千人 35〜39歳 236千人 40〜44歳 300千人 45〜49歳 329千人 50〜54歳 317千人 55〜59歳 383千人 60〜64歳 474千人 65〜69歳 656千人 70〜74歳 577千人 75〜79歳 554千人 80〜84歳 492千人 85歳以上 319千人 ※熊本県を除いたもの ※上記の人数には、入院者は含まない 出典:厚生労働省「国民生活基礎調査」(2016年) 第2回 エイジフレンドリーガイドライン―高齢者一人ひとりの健康や体力の状況の把握とそれに応じた対策― 1 エイジフレンドリーガイドラインのポイント  本稿では、2020(令和2)年3月、厚生労働省が発表した「エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の健康と安全確保のためのガイドライン)」の概要を紹介します。  同ガイドラインは、エイジフレンドリー(高齢者の特性に応じた)な職場をつくるため、事業者に求められる健康と安全の確保策を示すとともに、働く高齢者(労働者)にも事業者に協力することを求め、最後に、エイジフレンドリーな職場づくりのための支援制度を示しています。  本ガイドラインのポイントは、高齢者一人ひとりの健康や体力の状況を把握し、それに応じた対策を求めていることです。これは、いままでにない新たな視点です。  この背景には、高齢になるほど、心身機能の個人差が大きくなることがあげられます。  図表1は、暦年齢(実年齢)に応じた生理的年齢(個々人が持つ心身機能の程度を年齢化したもの)の幅、すなわち個人差をみたものです。例えば、実年齢65歳の人の生理的年齢の個人差は16年にも及びます。これは、実年齢65歳の人のなかには、50代の若々しい人がいる一方、心身機能の衰えが顕著で、70代のように見える人がいることを表しています。  このため、職場で働く一人ひとりの健康や体力の状況を把握することが必要になります。  本ガイドラインでは、健康や体力の状況を把握するため、@ロコチェック、Aフレイルチェックなどが示されています。 @ロコチェック  「ロコ」とはロコモティブシンドロームの略です。ロコモティブシンドロームとは、骨、関節、筋肉等、運動器の衰えが原因で、段階的に「立つ」、「歩く」といった機能(移動機能)が低下している状態のことをいいます。  ロコモティブシンドロームに該当するかどうかは、ロコチェック(図表2)を行うことを推奨します。一つでもあてはまれば、移動機能が低下しているととらえます。 Aフレイルチェック  フレイルとは「Frailty(虚弱)」の日本語訳で、健康状態と要介護状態の中間に位置し、心身機能や認知機能の低下が見られる状態のことです(図表3)。高齢者はフレイルを意識することにより、職場の安全対策、健康づくりへのかかわりが積極的になります。  フレイル状態にあるかどうか、チェックシート(図表4)で試してみてください。脚注に判定基準が示されています(「二次予防事業対象者」とは、介護予防プログラム(運動器の機能向上、栄養改善、口腔機能向上、閉じこもり予防・支援、認知症予防・支援、うつ予防・支援)対象者のこと)。 2 事業者に求められていること  本ガイドラインで事業者に求められる事項は以下の通りです。 (1)経営トップによる方針表明および体制整備を行う  事業者は、高齢者の安全と健康を確保するため、最初に、方針表明と安全衛生管理体制を構築し、担当者を決めます。 (2)事業場に潜む危険な芽を見つけ、それを摘む  安全衛生管理体制を構築したら、事業場に潜む高齢者のリスクを洗い出し、リスク低減対策を講じます。 (3)心身機能の低下を補うハード対策を行う  快適な職場環境を整備するため、心身機能の低下を補うハード対策を行います。 (4)心身機能の低下を補うソフト対策を行う  快適な作業を行うために、作業内容の見直しなどのソフト対策に力を入れます。 (5)健康や体力の状況を把握する @健康状況を把握する  事業場では次の対策が必要です。 ●心身機能の維持、健康の保持・増進のため、運動、栄養、休養に関するアドバイスを受けられる環境を整備します。 ●健康診断結果を通知し、その内容の理解促進に努めます。 ●高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病に関する知識や予防について、指導・教育を行います。 A体力の状況を把握する  一人ひとりの体力の状況を把握するため、体力チェック(図表5)などを行います(先に示したロコチェック、フレイルチェックも該当)。 (6)健康や体力の状況をふまえた対策をとる  事業者は、一人ひとりの健康や体力の状況をふまえた対策を行います。 @個々の高齢者の健康や体力の状況をふまえた措置  個々の高齢者(高齢者は個人差が大きい)の 健康や体力の状況、脳・心臓疾患などの基礎疾患をふまえ、労働時間の短縮、深夜勤務の削減、作業配置転換などを行います。この場合、産業医などの意見を聴くとともに、本人の同意を得ることが必要です。 A個々の高齢者の状況に応じた業務の提供  個々の高齢者の健康や体力の状況に応じ、以下の点を考慮し、安全と健康の両面に適合する業務をマッチングさせます。 →業種特有の労働災害、労働時間、作業内容 →業種特性をふまえた必要な心身機能(例:運輸業は運転適性) →治療と仕事の両立 →ワークシェアリングの適用 B心身両面にわたる健康保持増進措置  事業者による健康保持増進対策には、健康測定とその結果に基づく運動指導、メンタルヘルスケア、栄養指導、保健指導などがあげられます。厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」を参考にします。  また、事業者は、厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)」に基づき、@衛生委員会等における調査審議、A心の健康づくり計画、B4つのメンタルヘルスケアの推進(a.セルフケア、b.ラインによるケア、c.事業場内産業保健スタッフ等によるケア、d.事業場外資源によるケア)が求められます。 (7)高齢者の特性をふまえた安全衛生教育を行う  高齢者は、ほかの年代と比べ、十分な教育効果が得られにくいといわれています。過去の研究報告をみると、例えば、高橋らは危険要因知覚教育ツールを用いた作業者教育の効果検証において、高年齢者の教育効果が十分に見受けられないことを明らかにし※1、また、筆者の研究においても、安全講習内容の理解度の調査において、高年齢者の理解度はほかと比べ高くなく、その理由として、高年齢者の多くは、長年にわたり現場で実践してきたことや学んできたことが新たな教育により間違っていると示されても、それを受け入れることが容易ではないと推察しています※2。  このため、以下の通り、高齢者向けの特別な安全衛生教育が必要になります。 ●十分な時間をかけ、写真や図、映像などを活用します。 ●未経験業務に従事する場合、ていねいに教育訓練を行います。 ●心身機能の低下が労働災害につながることを自覚させます。 ●自らの心身機能の低下を客観的に認識させます。 ●わずかな段差など、周りの環境に常に注意を払わせるようにします。 3 働く高齢者に求められていること  本ガイドラインで、職場で高齢者みずからに求められていることは以下の通りです。 ●みずからの心身機能や健康状況を客観的に把握し、健康や体力の維持管理に努めます。 ●定期健康診断などを受診します。 ●体力チェックに積極的に参加します。 ●ストレッチ、軽いスクワット運動により基礎体力の維持に努め、生活習慣を改善します。 ●ラジオ体操、転倒予防体操などの職場体操に参加します。 ●適正体重の維持、栄養バランスのよい食事を摂るなど、食習慣や食行動を改善します。 ●ヘルスリテラシー(健康・医療情報を理解・活用するための能力)の向上に努めます。 4 おわりに  本稿ではエイジフレンドリーガイドラインの概要を紹介しました。特に、高齢者一人ひとりの健康や体力の状況を把握し、それに応じた対策を行うことがポイントです。  しかし、このような取組みを行っている企業は、現状ほとんど見受けられず、人生100年時代に向けた今後の課題といえます。 ※1 高橋明子,高木元也,三品誠,島崎敢,石田敏郎:建設作業者向け安全教材の開発と教育訓練効果の検証,人間工学,Vol.49,No.6,pp.262-270,2013. ※2 高木元也:中小建設業における安全教育の実態と課題−管工事業対象のアンケート調査の分析−,土木学会論文集F4(建設マネジメント)Vol.72,No.4,pp.I_11〜 I_22,2016 図表1 加齢による暦年齢と生理的年齢の個人差の拡大 縦軸 生理的年齢 横軸 暦年齢 4年 8年 12年 14年 16年 18年 20年 出典:斎藤一、遠藤幸男:高齢者の労働能力(労働科学叢書53)、労働科学研究所、1980から作成 図表2 七つのロコチェック □ 片脚立ちで靴下がはけない □ 家のなかでつまずいたりすべったりする □ 階段をあがるのに手すりが必要である □ 家のやや重い仕事が困難である □ 2s程度※の買い物をして持ち帰るのが困難である※1リットルの牛乳パック2個程度 □ 15分くらい続けて歩くことができない □ 横断歩道で青信号を渡りきれない 出典:日本整形外科学会ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト「ロコチェック」より作成 図表3 フレイルの概念図 縦軸 予備能力 横軸 加齢 健康⇔虚弱状態(フレイル)⇔要介護状態 死亡 出典:葛谷雅文「老年医学におけるSarcopenia&Frailtyの重要性」(日本老年医学会雑誌・2009年)より作成 図表4 フレイルチェックシート 質問項目 回答(該当するものに○をつけてください) 1 バスや電車で1人で外出していますか 2 日用品の買い物をしていますか 3 預貯金の出し入れをしていますか 4 友人の家を訪ねていますか 5 家族や友人の相談にのっていますか 6 階段を手すりや壁をつたわらずに昇っていますか 7 椅子に座った状態から何もつかまらずに立ち上がっていますか 8 15分くらい続けて歩いていますか 9 この1年間に転んだことがありますか 10 転倒に対する不安は大きいですか 11 6カ月間で2〜3kg以上の体重減少がありましたか 12 身長(    )cm、体重(    )kg  BMI(     )※ 13 半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか 14 お茶や汁物等でむせることがありますか 15 口の渇きが気になりますか 16 週に1回以上は外出していますか 17 昨年と比べて外出の回数が減っていますか 18 周りの人から「いつも同じことを聞く」などのもの忘れがあると言われますか 19 自分で電話番号を調べて、電話をかけることをしていますか 20 今日が何月何日かわからない時がありますか 21 (ここ2週間)毎日の生活に充実感がない 22 (ここ2週間)これまで楽しんでやれていたことが楽しめなくなった 23 (ここ2週間)以前は楽にできていたことが今ではおっくうに感じられる 24 (ここ2週間)自分が役に立つ人間だと思えない 25 (ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする ※ BMI=体重(s)÷身長(m)2が18.5未満の場合に該当とします 【二次予防事業対象者の基準】 @1から20までの項目のうち10項目以上あてはまる場合 A6から10までの項目のうち3項目以上あてはまる場合 B11および12の2項目すべてにあてはまる場合 C13から15までの3項目のうち2項目以上あてはまる場合 出典:厚生労働省「地域支援事業実施要綱」より作成 図表5 体力チェックの例 ■方法 (体力テストは下記の2つを行う) (1)平衡機能の測定(高所作業や足場の悪い場所での災害防止のため) <閉眼片足立ちテスト:スタート〜ストップまでの時間を測定する> 「測定方法」 ◎ストップウォッチで測定下さい。 [年代別標準時間] 年代 目安 10代 40〜90秒 20代 80〜90秒 30代 55〜90秒 40代 40〜55秒 年代 目安 50代 25〜40秒 60代 18〜25秒 65歳平均21秒 回数は2回とし長い方を記録する (軸足は変えても変えなくても結構です)。 ※転ばないように注意してください。 両目を閉じる 目を開けたらストップ 両手は腰にあてる 腰から手が離れたらストップ 軸足は動かさない 動いたらストップ 両足は触れない 足が着いたらストップ 下から5cm程度 (2)敏捷性の測定(危険遭遇時の災害防止のため) <ジャンプステップテスト(J.S):ジャンプ回数を測定する> 「測定方法」 @30cm角のマスを3×3個作る。 Aマスの中央に立ち、両足をそろえたまま10秒間に中央を基点に前後左右にジャンプした回数(着地で1回)を計る。 2回行って、良い方を記録します。 ※2回連続しないように注意してください。 30cm @ A B C D E F G ■判定 ●どちらかの結果が年齢(65歳)平均以下について特に就業制限にある高所作業や重量物取扱作業は控える。 ●ただし、夜間作業、長時間労働、単独作業については結果に関係なく控える。 1)閉眼片足立ちテスト結果  測定結果21秒未満とする。※65歳平均21秒 2)ジャンプステップテスト結果  各社60代の測定結果により65歳平均を求め、それ未満の回数とする。  ※公的データがないため 出典:住宅生産団体連合会・労働安全衛生総合研究所「平成18年 低層住宅建築工事 高年齢労働者のための安全ガイド」より 第3回 高齢者の労働災害防止対策について(ハード対策とソフト対策) 1 はじめに  前回は、2020(令和2)年3月、厚生労働省が発表した「エイジフレンドリーガイドライン(高齢者の健康と安全確保のためのガイドライン)」の概要を紹介しました。そのなかで、事業者は、事業場に潜む危険な芽を摘むため、リスクアセスメントを実施し、優先的にリスク低減対策を講じるべきものを定め、それを基に、心身機能の低下を補う設備・装置の導入(主にハード面の対策)、および高齢者の特性を考慮した作業管理(主としてソフト面の対策)が求められています。本稿ではそれらの具体例を紹介します。 2 ハード対策  心身機能の低下を補うハード対策により、職場環境を改善します。例えば、脚筋力の低下による転倒災害を防止するためには、つまずくものがないように通路を整えることが必要ですが、その通路は、若者にとってもつまずかないものとなります。このように、心身機能の低下を補うハード対策のほとんどは、高齢者だけではなく、そこで働くすべての人々にとって被災しにくい職場環境となります。  具体的なハード対策は35・36頁の通りです。 3 ソフト対策  ハード対策とともに、高齢者の特性を考慮した作業管理などのソフト対策が必要になります。ポイントは以下の通りです。 @勤務形態、勤務時間の工夫  筋力や運動能力は加齢とともに低下し、個人差が大きくなります。年齢だけでなく、個々人の特徴を把握して作業内容や作業時間などの調整を行います。短時間勤務、隔日勤務、交替制勤務などの導入も検討します。  加齢とともに、昼から夜、あるいは夜から昼といった勤務シフトの変更に体を慣らすことがむずかしくなるため、夜勤について十分な配慮を行います。図表2は、老人福祉施設における夜勤の勤務時間短縮の例です。  疲労感は、作業内容だけではなく、休憩の間隔や長さによっても大きく変わるため、適度な休憩を取れるようにします。  そのほか、加齢とともに、高血圧や高脂血症など、何らかの疾患を持つ人が増え、定期的に病院に行くことも多くなりますので、通院の時間を取りやすくします。 Aゆとりのある作業スピード  高齢者は若年者に比べ、時間に追われるような仕事には慣れにくく、またミスもしやすいことが知られています。作業者が自主的に作業負荷をコントロールできるようにします。 B無理のない作業姿勢  加齢による筋力、関節の動き、柔軟性などの低下は避けられません。身体の曲げ伸ばしやねじれ姿勢など不自然な作業姿勢を減らします。また平衡感覚も低下するのでバランス感覚も落ち、身体の安定がとりにくくなります。このため長時間の立位作業を減らします。  そのほか、加齢により関節の動く範囲が狭くなり、無理に手を伸ばしてバランスを崩すこともありますので、身体をねじる作業を減らすようにします。 C注意力、集中力などを必要とする作業への配慮  監視作業や製品検査など高度な集中が必要な作業は、例えば一連の作業時間が長くならないように、ローテーションによって作業を分担します。注意力や判断力の低下による災害を避けるためには、複数の作業を同時進行させないよう配慮します。また、反応動作が低下してきた高齢者には、素早い判断・行動を要する作業を少なくするよう配慮します。高齢者は若年者に比べて、仕事の量や内容の急な変更に適応しにくいため、作業の進み具合を自ら確認できるようにします。 D腰への負担軽減  高齢者の筋力の低下に応じ作業内容を変えたえり、補助具を用いたりするなどの配慮をします。見た目以上に重いものを急に持ち上げるような作業は腰痛に直結します。ソフト対策としては数値や色彩などで具体的に重さがわかるようにします。 E身体負荷の大きな作業への対応  身体負荷が大きな作業では、職場で疲労回復を図れるよう快適に休憩できる十分な広さのスペースを設けます。 4 おわりに  以上、今回は、エイジフレンドリーガイドラインに基づき、事業者に求められる心身機能の低下を補うハード対策、ソフト対策の具体例を紹介しました。次回からは、労働災害の種類別に、その実態、効果的な労働災害防止対策などについて詳しくみていきます。 ※ 前回までの内容は、ホームページでご覧になれます。 エルダー 高齢社員のための安全職場づくり 検索 ハード対策のポイント @照度の確保  暗い場所で視力が著しく低下(低照度下視力)する高齢者には、職場の照度の確保が重要です。 A階段対策など  高齢者は、バランス感覚の低下、筋力の低下、とっさにうまく動けないことなどにより、階段から転落しやすく、ちょっとした段差につまずきやすくなります。  階段には手すりをつけ、たとえバランスを崩しても、それにつかまることにより転落を防止し、わずかな段差も解消するなど、つまずくものを除去する対策が効果的です。 Bすべり防止対策 a 床材  小売業などでは、新店舗の設計で光沢があり見栄えがよい床材が採用されがちですが、そうした床材はすべりやすく、転倒災害が多発している事例が見受けられます。対策には、光沢をおさえたすべりにくい床材の採用が求められます。 b 防滑靴  すべりによる転倒災害防止には、耐滑性にすぐれた靴の着用が有効です。事業者が労働者にそのような靴を支給し、着用を徹底することが求められます。 c 床の水・油の除去  水に濡れた床、油のこぼれた床をそのままにせず、すぐにそれらをふき取ることが重要です。  また、機械清掃ではどうしてもふき残し箇所が出てきます。このため、機械清掃時にふき残しがないかチェックし、見つけたらすぐにモップなどで拭き取るようにします。 C墜落制止用器具等の着用  墜落防護措置のない高所作業では、事業者は、労働者に墜落制止用器具を使用することを指示し、労働者に使用を義務づけます。 D安全標識などの掲示  工学的対策などリスク低減効果の高い対策を講じることがむずかしい危険箇所については、安全標識、トラテープなどを貼付し注意喚起を行います。 E警報音などの対策  高音域の音が聞き取りにくい高齢者には、中低音域の警報音、パトライトの点滅などにより警告・注意喚起を行います。これは、高齢者特有の対策といえます。 F介護作業などへの対応  介助者の腰痛は非常に多く、腰痛防止にはリフト、スライディングシート、移乗支援機器などを導入します。 G重量物取扱い対策  過度に重い物を持ち上げ腰痛になることを防ぐため、重量物の取扱いを抑制します。  また、柔軟性が低下している高齢者には、腰、背中などへの負荷の少ない作業姿勢をとることや、身体をかがめる姿勢、ねじる姿勢にならないようにするため、作業台の高さや、作業対象物の配置を改善します。  重量物を持ち上げる作業での負荷軽減のため、身体機能の補助機器(パワーアシストスーツなど)の装着も推奨されます。 H熱中症対策  熱中症災害は、高齢者の発生率が高く、その対策は重要です。涼しい休憩場所を整備し、そこに十分な水分、塩分がとれるような飲み物を備えます。また、通気性のよい服装の着用も推奨されます。  熱中症の初期症状を把握するため、脈拍数、体温などが計測できるウェアラブルデバイスなどのIoT機器の利用が推奨されます。しかし、熱中症の発症を正確につかむために必要な深部体温(身体の内部の温度)は計測できませんので、あくまでも初期症状(熱中症の疑いがあるかどうか)を見つけるために活用します。 I情報機器作業への対応  パソコンやタブレットを用いた情報機器作業については、厚生労働省から「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(図表1)が示されています。ハード対策としては、ディスプレイの明るさ、情報機器・机・椅子の選定、メガネの用意などがあげられます。 図表1 「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」の枠組み 作業環境管理 情報機器作業を行う環境の整備方法について説明しています。 (例:ディスプレイの明るさ、情報機器や机・椅子の選び方) 作業管理 情報機器作業の方法について説明しています。 (例:1日の作業時間、休憩の取り方、望ましい姿勢) 健康管理 情報機器作業者の健康を守るための措置について説明しています。 (例:健康診断、職場体操) 労働衛生教育 上記の対策の目的や方法について、作業者や管理者に理解してもらうための教育について説明しています。 出典:厚生労働省「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」リーフレット 図表2 夜勤の勤務時間見直しによる業務分散の例 16:30 離床介助 夕食介助 臥床(がしょう)介助 21:30 夜間排泄介助 体位変換 離床介助 朝食介助 9:30 見直し前 日勤16:30まで 夜勤16:30から9:30まで 日勤9:30から 見直し後 日勤16:30まで 夕勤16:30から21:30 夜勤21:30から9:30まで 日勤9:30から 出典:厚生労働省「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」パンフレットより抜粋 第4回 高齢者の労働災害防止対策 ―転倒災害防止その1― 1 はじめに  これまで、第2回、第3回では、2020(令和2)年3月に厚生労働省が発表した「エイジフレンドリーガイドライン」の概要を紹介してきましたが、今回からは、職場における高齢者の労働災害の実態と効果的な対策を詳しくみていきます。  まず今回は、発生が最も多い転倒災害を取り上げ、転倒災害の発生状況、転倒災害の特徴などを紹介するとともに、軽作業での転倒災害が目立つ、小売業におけるさまざまな転倒災害の事例、転倒災害の原因と対策などを紹介します。 2 転倒災害の発生状況  全産業において、災害の種類別(災害分類上、事故の型別という)に休業4日以上死傷災害をみると、転倒災害が23・9%と最も多くを占めています(図表1)。 3 転倒災害の特徴  転倒災害には、以下に示す4つの特徴があります。 特徴1 高齢者は転倒災害リスクが高い  高齢者ほど転倒災害のリスクが増加し、55歳以上では55歳未満と比較しリスクが約3倍に増加します(厚生労働省リーフレットより)。 特徴2 50代・60代の女性の発生率が高い  転倒災害の男女別年齢別の発生割合をみると、50代・60代の女性の発生割合が高くなっています(図表2)。 特徴3 休業1カ月以上が約6割を占める  転倒災害による休業期間は約6割が1カ月以上となっています(図表3)。 特徴4 雪国で数多く発生  雪の多い地域では、雪・凍結などに起因した転倒災害が多発しています。 4 小売業の転倒災害 ■転倒災害発生状況  高齢の女性の転倒災害が数多く見受けられますが、その代表的な職場の一つに小売業があげられます。  小売業の労働災害発生状況を災害の種類別(事故の型別)にみると、全産業同様、転倒災害が34・4%と最も多く占めています(図表4) ■高齢女性の転倒災害事例  小売業にはさまざまな業態がありますが、なかでも、総合スーパーマーケット、食品スーパーマーケットにおける高齢の女性パートタイマーの転倒災害が目立ちます。  そこで、発生しているさまざまな転倒災害事例を次頁で紹介します。 5 転倒災害の原因と対策  さまざまな転倒災害の事例をみてきましたが、厚生労働省は、転倒災害防止施策として、2017(平成29)年から「STOP! 転倒災害プロジェクト」を推進しています。  その施策に基づき、転倒災害の原因と対策を紹介します。 ■転倒災害の主な原因  転倒災害の主なタイプには、「滑り」、「つまずき」、「ふみ外し(階段など)」の3つがあり、それぞれの発生原因を分析し対策を図ることが重要です。 ■転倒災害防止対策のポイント  転倒災害防止対策のポイントを以下に示します。転倒災害を防止することにより、安心して作業が行えるようになり作業効率の向上につながります。 (1)危険源の除去 ・床面の凹凸、段差の解消 ・滑りにくい床材の採用 (2)整理・整頓・清掃・清潔 ・歩行場所に物を放置しない ・床面の汚れ(水、油、粉など)を取り除く (3)転倒しにくい作業方法 ・時間に余裕を持って行動 ・滑りやすい場所では小さな歩幅で歩行 ・足元が見えにくい状態で作業しない (4)その他 ・移動や作業に適した靴の着用 ・職場の危険マップの作成による危険情報の共有 ・転倒危険場所にステッカーなどで注意喚起 ■転倒災害防止のためのチェックシート  転倒災害の防止には、図表5のようなチェックシートを活用し、職場の転倒の危険などを見つけることが必要です。 ■転倒危険箇所の見える化  職場の転倒の危険をみつけたら、その場所に、ステッカーなど(図表6)※を掲示し、転倒の危険の見える化を図ることも有効です。 ※ 前回までの内容は、ホームページでご覧になれます。 エルダー 高齢社員のための安全職場づくり 検索 ※ 厚生労働省ウェブサイト「STOP! 転倒災害」(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/information/tentou1501.html)より「転倒危険場所の見える化ステッカー」がダウンロードできます 図表1 休業4日以上労働災害の発生状況 125,611人 転倒 23.9% 墜落・転落 17.0% 動作の反動・無理な動作 14.1% はさまれ・巻き込まれ 11.6% 切れ・こすれ 6.4% 交通事故(道路) 5.9% 激突 5.2% 飛来・落下 4.8% その他 11.1% 出典:厚生労働省「労働者死傷病報告」(2019年) 図表2 転倒災害の男女別年齢別の発生割合(2016年) 縦軸% 横軸年齢 男性 女性 出典:中央労働災害防止協会『エイジアクション100』 図表3 転倒災害による休業期間の割合 休業1カ月未満(約4割) 休業1カ月以上(約6割) 出典:厚生労働省ウェブサイト「STOP! 転倒災害」 図表4 小売業の死傷災害発生状況(事故の型別) 転倒 34.6% 動作の反動・無理な動作 14.3% 墜落・転落 11.8% 切れ・こすれ 7.3% はさまれ・巻き込まれ 6.1% 激突 4.3% その他 21.6% 出典:厚生労働省「労働者死傷病報告」(2019年) 高齢女性の転倒災害事例 事例1 段差につまずいた  事業所内にて清掃作業中、洗濯機の近くにあるマンホールの縁につまずき転倒。左足を骨折した(休業6カ月、72歳女性)。 事例2 床に置かれた荷物につまずいた  冷蔵庫から、大葉の入った箱(約25cm×35cm、重さ約200g)を持ち店内に戻る途中、床に置いてあった段ボール箱に気づかず、足を引っかけて転倒し、左手首を骨折した(休業1カ月、62歳女性)。 事例3 濡れた床で滑った  厨房内で、総菜を製造調理しているときに、厨房内を移動して、床にあった水たまりで足を滑らせ転倒し手をつき、右手首を骨折した(休業4カ月、62歳女性)。 事例4 コードにひっかかった  出勤し、2階裏入口から店内に入ろうとしたとき、電気コードに足を引っかけて転倒し、左腕と左膝を骨折した(休業3カ月、68歳女性)。 事例5 ぶつかった反動で転倒  店舗のバックヤードの通路をモップで清掃していたときに、モップが棚の角にぶつかりその反動で前向きに転倒した。その際、左肘と右膝を床で打って骨折した(休業3カ月、67歳女性)。 事例6 重い荷物でよろけた  ゴミ捨て場でゴミ出しをしているときに、台車からゴミ袋をおろした拍子によろけて転倒し、腰部と右足を負傷した(休業5カ月、69歳女性)。 事例7 足がもつれて転倒  店舗の売り場で、商品棚から商品(箱入りケーキ)1個を取り出し、カウンターで包装をしようとした。その際、自分の左足に右足が引っかかって転倒し、左足を骨折した(休業3カ月、63歳女性)。 事例8 自転車ごと倒れた  自転車置き場に自転車を止めようとしたとき、バランスを崩して左側へ転倒し、左膝を地面に激しく打ち、倒れた自転車が左足の上に乗りかかる状態になり、左膝を骨折した(休業1カ月、60歳女性)。 事例9 階段をふみ外した  出勤時、制服に着替えるため地下2階のロッカー室に向かう途中、通路の途中にある階段(数段)をふみ外し転倒。足首をねんざした(休業1カ月、60歳女性)。 図表5 転倒災害防止のためのチェックシート チェック項目 1 通路、階段、出口に物を放置していませんか □ 2 床の水たまりや氷、油、粉類などは放置せず、その都度取り除いていますか □ 3 通路や階段を安全に移動できるように十分な明るさ(照度)が確保されていますか □ 4 靴は、すべりにくくちょうど良いサイズのものを選んでいますか □ 5 転倒しやすい場所の危険マップを作成し、周知していますか 6 段差のある箇所や滑りやすい場所などに、注意を促す標識をつけていますか □ 7 ポケットに手を入れたまま歩くことを禁止していますか □ 8 ストレッチや転倒予防のための運動を取り入れていますか □ 9 転倒を予防するための教育を行っていますか □ 出典:厚生労働省ウェブサイト「STOP! 転倒災害」 図表6 転倒危険場所の見える化ステッカー 出典:厚生労働省ウェブサイト「STOP! 転倒災害」 第5回 高齢者の労働災害防止対策 ―転倒災害防止その2― 1 はじめに  前回は、高齢者の労働災害として小売業の転倒災害を取り上げ、さまざまな災害事例と災害防止対策を紹介しました。今回は、第3次産業において小売業と並び転倒災害が多発している社会福祉施設を取り上げ、転倒災害事例をみていきます。 2 社会福祉施設の労働災害発生状況  社会福祉施設には、老人福祉施設、障害者支援施設、保育園などがあります。2008(平成20)年から2019(平成31・令和元)年まで、わが国の社会福祉施設の休業4日以上死傷災害発生件数の推移をみると、2019年は1万45人と2008年の4829人と比べ、108・0%増と大幅に増加しています(図表1)。この間、従事者数が2019年(常勤換算従事者数116万6919人)は2008年(同78万2681人)と比べ49・1%増になっていることも加え、労働災害が大幅増になっています。  社会福祉施設の労働災害を災害の種類別(事故の型別)にみると、転倒災害が最も多く、30%超を占めています(図表2)。  社会福祉施設のなかで多くを占める老人福祉施設では、要介護者の転倒を防止するため、要介護者の移動スペースは段差をなくすなどバリアフリー化が施され、また、床が濡れれば即座に拭き取りが行われています。それにもかかわらず、職場で転倒災害が多発しています。  老人福祉施設の従業員を対象としたアンケート調査では、社会福祉施設で転倒災害が多発していることを知らないとの回答(「あまりよく知らない」、「まったく知らない」の合計)が60%も占めています(図表3)。このことから、職場で転倒災害が多い一因として従業員の転倒災害防止意識が低いことがあげられ、それを向上させることが大きな課題といえます。  社会福祉施設の転倒災害を年齢階層別にみると、60歳以上が37%、50〜59歳が35%と、この二つを合わせて72%を占め、高齢者で多発しています(図表4)。また、休業見込期間別でみると、1月以上3月未満が50%、3月以上が12%と、この二つで60%を超えています(図表5)。このことから、転倒すると重篤な災害につながりやすいことがわかります。 3 転倒災害事例  社会福祉施設では、つまずき転倒、滑って転倒、足がもつれて転倒など、さまざまな原因で転倒災害が発生しています。それぞれの転倒災害事例をみていきましょう。 (1)つまずき転倒  つまずく物には、建物などに設置された物、床などに置いた物、段差などがあります。 ◆設置された物 【事例】3階フロアで洗濯物を干して浴室に戻る際、ベランダ前にあったホワイトボードの脚につまずき転倒した。 ◆床に置いた物 【事例】デイサービスの厨房内で、炊飯釜を持ち歩いていたところ、床にあった発泡スチロールケースにつまずき転倒した。 ◆段差 【事例】出勤時、車から降りて職場の玄関の段差につまずき、前方へ転倒した。 (2)滑って転倒  滑りによる転倒災害は、濡れた床、介助中の浴室、清掃中の浴室、駐車場などの凍結した路面などがあります。 ◆濡れた床 【事例】ホールの床が濡れていることに気づかず、トイレから出て利用者の衣類を取りに行こうとして、滑って転倒した。 ◆介助中の浴室 【事例】浴室で利用者を浴槽から引き上げるために利用者を抱え引き上げた際に左足が滑り、左半身を床に打ちつけた後、頭を打った。 ◆清掃中の浴室 【事例】浴室を清掃中、洗面台付近の床をバケツで水を流していたところ、足を滑らせて転倒した。 (3)引っかかり転倒  コード、ネットなどに引っかかって転倒しています。 ◆コード 【事例】サービスつき高齢者向け住宅で、利用者の居室の清掃中、利用者が歯みがきのため立ち上がったので、それを介助しようとしたところ、ナースコールのコードに足が引っかかり転倒した。 ◆ネット 【事例】ゴミ集積場所で、階段を上りきったところにゴミ袋を置き、ネットをかけて階段を下りようとふり向いたとき、左足がネットにひっかかり後ろに転倒。左手をコンクリートについて、手首を骨折した。 (4)階段で転倒  階段での転倒災害の事例をみると、下りるときも上がるときも発生しています。その多くはあわてています。 ◆下りるとき 【事例】夜勤明けのゴミ捨てのとき、たくさんのゴミを持ちながら、あわてて階段を下りてしまい、つまずき転倒した。 ◆上がるとき 【事例】複数のスタッフからの依頼を急いでこなそうとし、入居者の部屋へ訪室しようと、2階から3階へ階段を駆け上がっていた際、階段に足を引っかけ転倒し、踊り場の壁に右手を強打し骨折した。 (5)自転車に乗り転倒  自転車に乗っていたときの転倒災害は、歩行者をよけようとして転倒、自転車が段差に乗り上げ転倒、雨で濡れた路面に自転車が滑って転倒したものなどが見受けられます。 ◆歩行者をよけようとして 【事例】訪問介護先に自転車で移動中に歩行者をよけようとしたところ、ガソリンスタンドと歩道の間の側溝にタイヤがはまり、右側に転倒して、右大腿骨頚部を骨折した。 ◆自転車が段差に乗り上げ 【事例】訪問看護業務で移動中、自転車で車道から歩道へ上がる際、歩道の段差に乗り上げ、転倒し負傷した。 ◆自転車が濡れた路面で滑り 【事例】信号が青になり、ペダルを2〜3回漕いだところ大雨のためタイヤが滑り、左の方に倒れたため左足をついたが、支えきれず倒れ骨折した。 (6)介助中の転倒  介助時の転倒は、介助者を支えようとして転倒したり、介助者に押されて転倒したりするものが見受けられます。 ◆支えようとして 【事例】玄関で利用者を誘導中に、利用者が倒れそうになった。支えようとしたが、一緒に床に倒れた。その際、右足を痛めた。 ◆押されて 【事例】施設の玄関前で、帰りの送迎車に利用者を誘導している際に、利用者に後ろから背中を押されて、2段程の段差から転倒した。 (7)送迎車内で転倒  送迎車の中でも転倒災害が数多く起こっています。多くは、車内にある車椅子ストッパー、操作レバーなどの突起物につまずき転倒しています。 ◆車椅子ストッパー 【事例】デイサービス利用者用送迎車の到着後、車椅子昇降作業中、昇降機の後退防止用ストッパーにつまずき転倒。その際、左手を地面につき、手首にひびが入り負傷した。 ◆操作レバー 【事例】荷物を持ってリフトから降りるとき、右足がレバーに引っかかり転倒。右膝を地面につき、次に両手、特に左手を強くついた。 (8)その他  そのほかには、小走りして転倒するもの、足がもつれて転倒するものなどが数多く見受けられます。これらは、転倒の原因となる物理的な要因(段差、濡れなど)がなくても発生しています。対策は本人の転倒災害防止意識を高め、行動を変えていくことが求められます。 ◆小走りして 【事例】通所リハビリテーションフロアで、事務処理作業中、数メートル離れたところにある内線電話が鳴り、急いで電話に出ようと小走りしたところ、バランスを崩し転倒し、左足甲部をひねった。 ◆足がもつれて 【事例】食堂にて朝食介助が終わり、食器類の片づけ中、洗面所にいた利用者に手拭きペーパーを渡し、片づけのため別テーブルに向かおうと方向転換したときに、足がもつれ転倒。とっさに手をつくことができず、左肩、左背中を強打した。 ◇  ◇  ◇  次回は、転倒しやすい高齢者に対し、それを自覚させるための転倒災害防止対策を紹介します。 ※ 前回までの内容は、ホームページでご覧になれます。 エルダー 高齢社員のための安全職場づくり 検索 図表1 社会福祉施設の休業4日以上死傷災害発生状況 2008年 4829人 2009年 5065人 2010年 5533人 2011年 6054人 2012年 6480人 2013年 6831人 2014年 7224人 2015年 7597人 2016年 8281人 2017年 8738人 2018年 9545人 2019年 10045人 出典:労働者死傷病報告を基に筆者作成 図表2 社会福祉施設の事故の型別休業4日以上死傷災害(2019年) 転倒 31.0% 腰痛 17.2% 介助等で無理な動作・体勢等により被災(腰痛を除く) 10.2% 交通事故(道路) 6.7% 墜落・転落 6.7% 激突 5.5% 激突され 3.8% 切れ、こすれ 2.6% はさまれ、巻き込まれ 2.5% その他 13.7% (注)事故の型「動作の反動・無理な動作」は発生状況をふまえ、「転倒」「腰痛」「介助等で無理な動作・体勢等により被災(腰痛を除く)」「その他」に振りわけた。 出典:厚生労働省・労働安全衛生総合研究所『小売業、飲食店、社会福祉施設の労働災害を防止しよう!労働災害を減少させた好事例の紹介』 図表3 社会福祉施設では転倒災害が多発していることを知っていましたか? n=10 よく知っている 1 ある程度知っている 2 どちらともいえない 1 あまりよく知らない 5 まったく知らない 1 出典:厚生労働省・労働安全衛生総合研究所『小売業、飲食店、社会福祉施設の労働災害を防止しよう!労働災害を減少させた好事例の紹介』 図表4 年齢別転倒災害発生状況(平成27年上半期「社会福祉施設」) 〜29歳 6% 30〜39歳 9% 40〜49歳 16% 50〜59歳 35% 60歳〜 37% 出典:厚生労働省「社会福祉・介護事業における労働災害の発生状況」 図表5 休業見込期間別転倒災害発生状況(平成27年上半期「社会福祉施設」) 2週未満 15% 2週以上1月未満 23% 1月以上3月未満 50% 3月以上 12% 出典:厚生労働省「社会福祉・介護事業における労働災害の発生状況」 第6回 高齢者の労働災害防止対策 −転倒災害防止その3− 1 転倒災害防止対策  転倒しやすい高齢者とは、どのような人のことをいうのでしょうか。例えば、足腰の衰えが顕著にもかかわらず、「転倒は自分には関係のないもの」という気持ちを持っている人があげられます。若いころと同じように行動して、転倒を引き起こしてしまいます。  そのような人には、転倒する危険が小さくないことを自覚させることが必要です。このため、中央労働災害防止協会では、高齢者の転倒しやすさを測る「転倒等リスク評価セルフチェック票」を作成しています。  これは、身体機能の計測により、転倒につながる足腰の衰えを客観的に評価し、一方で、転倒にかかわる質問をし、その回答をみて、自分が転倒しやすいことを自覚しているか主観的な評価を行い、これら客観的評価と主観的評価を比べることにより、転倒しやすいかを判定するものです。  つまり、身体機能が高く、かつ転倒を意識し慎重な行動に努める人は、転倒災害にあう可能性は低いととらえ、逆に、身体機能が低いにもかかわらず、転倒を意識せず無茶な行動をする人は、転倒災害にあう可能性は高いと判定します。 ■転倒等リスク評価セルフチェック  転倒等リスク評価セルフチェックの手順は次の通りです。 (1)身体機能の計測(客観評価)  客観評価として、転倒にかかわる身体機能を計測します。具体的には、図表1の通り、@2ステップテスト(評価項目:歩行能力・筋力)、A座位ステッピングテスト(同:敏捷(びんしょう)性)、Bファンクショナルリーチ(同:動的バランス)、C閉眼片足立ちテスト(同:静的バランス)、D開眼片足立ちテスト(同:静的バランス)を計測します。 (2)質問票の回答(身体的特徴:主観評価)  主観評価として、図表2の通り、身体的特徴に関する1〜9の質問を行い、それぞれ5段階で回答し、その回答結果から、評価を行います。評価項目は、身体機能の計測と同様、@歩行能力・筋力、A敏捷性、B動的バランス、C静的バランス(閉眼片足立ち)、D静的バランス(開眼片足立ち)の五つです。 (3)レーダーチャートに評価結果を記入  図表3のレーダーチャートに、図表1の身体機能計測結果(客観評価)と、図表2の質問票回答結果(主観評価)を記入し、線でつなぎます。 (4)判定  一つのレーダーチャートに記入した五つの身体機能計測結果を結んだ線の形と質問票回答結果を結んだ線の形を比べます。図表4には、レーダーチャートの典型的なパターンを二つ示しましたが、パターン2のように質問票回答結果が大きく、身体機能計測結果が小さいケースが、最も転倒が起こりやすいケースです。体力の衰えによる転倒する危険を自覚させることが求められます。 2 おわりに  今回は、転倒しやすい高齢者に対し、それを自覚させるため、高齢者の転倒しやすさを測る中央労働災害防止協会「転倒等リスク評価セルフチェック票」を紹介しました。  転倒災害防止には、段差解消、滑る危険性のあるものの除去などハード対策とともに、身体機能の個人差が大きい高齢者に対し、このような高齢者が持つ身体機能、防止意識などを計測することにより、転倒しやすい人を見つけ、防止意識を向上させる対策を打つようなソフト対策も求められます。 ※ 前回までの内容は、ホームページでご覧になれます。 エルダー 高齢社員のための安全職場づくり 検索 図表1 転倒等リスク評価セルフチェック票:身体機能の計測(客観評価) @2ステップテスト(歩行能力・筋力) 最大2歩幅を計測し身長で割ります あなたの結果は cm/cm(身長)= 評価表 1 2 3 4 5 結果/身長 〜1.24 1.25〜1.38 1.39〜1.46 1.47〜1.65 1.66〜 左の評価表に当てはめると⇒評価 A座位ステッピングテスト(敏捷性) 20秒間で何回開閉できますか あなたの結果は 回/20秒 評価表 1 2 3 4 5 (回) 〜24 25〜28 29〜43 44〜47 48〜 左の評価表に当てはめると⇒評価 Bファンクショナルリーチ(動的バランス) 水平にどのくらい腕を伸ばせますか あなたの結果は cm 評価表 1 2 3 4 5 (cm) 〜19 20〜29 30〜35 36〜39 40〜 左の評価表に当てはめると⇒評価 C閉眼片足立ち(静的バランス) 目を閉じて片足でどのくらい立てますか あなたの結果は 秒 評価表 1 2 3 4 5 (秒) 〜7 7.1〜17 17.1〜55 55.1〜90 90.1〜 左の評価表に当てはめると⇒評価 D開眼片足立ち(静的バランス) 目を開いて片足でどのくらい立てますか あなたの結果は 秒 評価表 1 2 3 4 5 (秒) 〜15 15.1〜30 30.1〜84 84.1〜120 120.1〜 左の評価表に当てはめると⇒評価 出典:中央労働災害防止協会「転倒等リスク評価セルフチェック票」 図表2 転倒等リスク評価セルフチェック票:質問票の回答(主観評価) 質問内容 あなたの回答No.は 合算 評価 評価 1.人ごみの中、正面から来る人にぶつからず、よけて歩けますか 点 下記の評価表であなたの評価は @歩行能力・筋力 2.同年代に比べて体力に自信はありますか 3.突発的な事態に対する体の反応は素早い方だと思いますか 点 A敏捷性 4.歩行中、小さい段差に足を引っかけたとき、すぐに次の足が出ると思いますか 5.片足で立ったまま靴下を履くことができると思いますか 点 B動的バランス 6.一直線に引いたラインの上を、継ぎ足歩行で簡単に歩くことができると思いますか 7.眼を閉じて片足でどのくらい立つ自信がありますか C静的バランス  (閉眼片足立ち) 8.電車に乗って、つり革につかまらずどのくらい立っていられると思いますか 点 下記の評価表であなたの評価は D静的バランス  (開眼片足立ち) 9.眼を開けて片足でどのくらい立つ自信がありますか 合計点数 評価表 2〜3 1 4〜5 2 6〜7 3 8〜9 4 10 5 質問内容回答 No. 1.人ごみの中、正面から来る人にぶつからず、よけて歩けますか @自信がない Aあまり自信がない B人並み程度 C少し自信がある D自信がある 2.同年代に比べて体力に自信はありますか @自信がない Aあまり自信がない B人並み程度 Cやや自信がある D自信がある 3.突発的な事態に対する体の反応は素早い方だと思いますか @素早くないと思う Aあまり素早くない方と思う B普通 Cやや素早い方と思う D素早い方と思う 4.歩行中、小さい段差に足を引っかけたとき、すぐに次の足が出ると思いますか @自信がない Aあまり自信がない B少し自信がある Cかなり自信がある Dとても自信がある 5.片足で立ったまま靴下を履くことができると思いますか @できないと思う A最近やってないができないと思う B最近やってないが何回かに1回はできると思う C最近やってないができると思う Dできると思う 6.一直線に引いたラインの上を、継ぎ足歩行(後ろ足のかかとを前脚のつま先に付けるように歩く)で簡単に歩くことができると思いますか @継ぎ足歩行ができない A継ぎ足歩行はできるがラインからずれる Bゆっくりであればできる C普通にできる D簡単にできる 7.眼を閉じて片足でどのくらい立つ自信がありますか @10秒以内 A20秒程度 B40秒程度 C1分程度 Dそれ以上 8.電車に乗って、つり革につかまらずどのくらい立っていられると思いますか @10秒以内 A30秒程度 B1分程度 C2分程度 D3分以上 9.眼を開けて片足でどのくらい立つ自信がありますか @15秒以内 A30秒程度 B1分程度 C1分30秒程度 D2分以上 出典:中央労働災害防止協会「転倒等リスク評価セルフチェック票」 図表3 転倒等リスク評価セルフチェック票:レーダーチャートへ記入 図表1・図表2の評価結果を転記し線で結びます (図表1の身体機能計測結果を黒字、図表2の質問票(身体的特性)は赤字で記入) @歩行能力・筋力 A敏捷性 B動的バランス C静的バランス(閉眼) D静的バランス(開眼) 5 4 3 2 1 チェック項目 1身体機能計測(黒枠)の大きさをチェック  身体機能計測結果を示しています。黒枠の大きさが大きい方が、転倒などの災害リスクが低いといえます。黒枠が小さい、特に2以下の数値がある場合は、その項目での転倒などのリスクが高く注意が必要といえます。2身体機能に対する意識(赤枠)の大きさをチェック  身体機能に対する自己認識を示しています。実際の身体機能(黒枠)と意識(赤枠)が近いほど、自らの身体能力を的確に把握しているといえます。 3黒枠と赤枠の大きさをチェック (1)「黒枠≧赤枠」の場合  それぞれの枠の大きさを比較し、黒枠が大きいもしくは同じ大きさの場合は、身体機能レベルを自分で把握しており、とっさの行動を起こした際に、身体が思いどおりに反応すると考えられます。 (2)「黒枠<赤枠」の場合  それぞれの枠の大きさを比較し、赤枠が大きい場合は、身体機能が自分で考えている以上に衰えている状態です。とっさの行動を起こした際など、身体が思いどおりに反応しない場合があります。枠の大きさの差が大きいほど、実際の身体機能と意識の差が大きいことになり、より注意が必要といえます。 出典:中央労働災害防止協会「転倒等リスク評価セルフチェック票」 図表4 転倒等リスク評価セルフチェック票:判定(モデル例) パターン1 身体機能計測結果>質問票回答結果  あなたの身体機能(太線)は、自己認識(点線)よりも高い状態にあります。このことから、比較的自分の体力について慎重に評価する傾向にあるといえます。生活習慣や加齢により急激に能力が下がる項目もありますので、今後も過信することなく、体力の維持向上に努めましょう。  一方、太線が点線より大きくても全体的に枠が小さい場合(特に2以下)は、すでに身体機能面で転倒等のリスクが高いといえます。筋力やバランス能力の向上、整理整頓や転倒・転落しやすい箇所の削減に努めてください。  また、職場の整理整頓がなされていない場合などには転倒等リスクが高まることがありますので注意しましょう。 パターン2 身体機能計測結果<質問票回答結果  あなたの身体機能(太線)は、自己認識(点線)よりも低い状態にあります。このことから、実際よりも自分の体力を高く評価している傾向にあり、自分で考えている以上にからだが反応していない場合があります。  体力の維持向上を図り、自己認識まで体力を向上させる一方、体力等の衰えによる転倒等のリスクがあることを認識してください。日頃から、急な動作を避け、足元や周辺の安全を確認しながら行動するようにしましょう。  また、枠の大きさが異なるほど、身体機能と自己認識の差が大きいことを示しており、さらに、太線が小さい場合(特に2以下)はすでに身体機能面で転倒等のリスクが高いことが考えられます。筋力やバランス能力等の向上に努めてください。 出典:中央労働災害防止協会「転倒等リスク評価セルフチェック票」 第7回 職場の熱中症災害 1 職場の熱中症災害発生状況  夏を迎えるにあたり、高齢者の労働災害防止対策として、今回は職場の熱中症災害を取り上げます。  夏の熱中症対策は、もう何年も前から声高に叫ばれてきました。これだけ、「水分、塩分、適度な休憩が必要」といわれ続けてきても熱中症災害は減少していません。それどころか、2018(平成30)年は、7月下旬に埼玉県熊谷市でわが国の最高気温41.1℃を記録する未曾有(みぞう)の暑さなどにより、職場の熱中症による休業4日以上死傷者数は1178人と前年比2倍超に急増しました(図表1)。その後も、2019(令和元)年は829人、2020年は959人と高止まりを続けています。  熱中症災害を男女別・年齢階層別にみると、男性の千人率(労働者1000人当たり休業4日以上死傷災害発生割合)は、20代後半の約0.02に対し60代後半は約0.05と約2.5倍となるなど、高齢の男性の発生率が高くなっています(図表2)。 2 熱中症発症メカニズム (1)熱中症とは  熱中症とは、体内の水分不足(脱水)により、@身体にたまった余分な熱を放出できずに体温が上昇することによる主要臓器の機能障害(W低温やけどWのような状態になる)、A血流が悪くなり、身体中に栄養、酸素が供給されないことによる主要臓器の機能障害など、とされています。 (2)熱を放出する身体のメカニズム  熱を放出する身体のメカニズムは、どのようになっているのでしょうか。  W炎天下にいるWW筋肉を使うWことなどにより、体内に熱が生み出され、それにより体温が上昇します。体温が上昇すると、体温調節機能が働き、たまった熱を放出して体温を下げようとします。血液は熱を吸収し、それを皮膚近くの毛細血管まで運び、そこで放出します。効果的に熱を放出するためには汗をかくことです。汗の蒸発により身体から熱を奪います(「気化熱」という)。 (3)熱中症が発症するとき  熱中症が発症するのは、たまった熱をうまく出せなくなるからです。  例えば、炎天下での重労働は、体内に非常に多くの熱が生まれるため、効率よく熱を放出しなければなりません。このため、皮膚近くの毛細血管は拡張し、そこに多くの血液が流れ込むようになります。そうなると、熱を運ぶ血液の量が減少します。一方、大量に汗をかけば、体内の水分量が減少し、血液量の減少につながります。血液はドロドロになり血流スピードも落ち、効率よく熱を放出できなくなります。  このような状態は、体温調節機能の低下につながり、体内に発生する熱の量より放出する熱の量が少なくなると、体温上昇が抑えられなくなり、主要臓器が低温やけどのような状態になってしまいます。これが熱中症です。 3 熱中症災害防止対策 (1)過去の熱中症災害を学ぶ  熱中症災害を防止するためには、単に「水分、塩分、適度な休憩をとる」に留まらず、過去に学ぶことが重要です。  参考になるのは、厚生労働省「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(2015年)です。そこには、2015年、職場の熱中症で亡くなった全29人のデータ分析結果が示されています。一つひとつ見ていきます。 ■WBGT値28℃超で厳戒態勢  WBGT(暑さ指数)とは、熱中症のなりやすさの目安を示したものです。体内への熱の出し入れに与える影響の大きい@気温、A湿度、B日射・輻射(ふくしゃ)熱(照り返し)を取り入れた指標です。気温1に対し、湿度7、日射・輻射熱2の割合で指標化します。湿度の割合が高いのは、湿度が高いと汗が蒸発しにくく、熱の放出能力が減少し、熱中症になりやすくなるからです。  2015年、職場において熱中症で亡くなった29人のうち28人の職場では、WBGT値は未計測でしたが、その周辺ではWBGT値が28℃を超えていました。環境省データではWBGT値が28℃を超えると熱中症が急増し(図表3)、厳戒態勢をとらなければなりません。  WBGT値の測定器は、インターネットなどで手軽に購入できます。それを使って、始業前、職場のWBGT値を測定し、熱中症災害の危険度を確認することが求められます。 ■暑熱順化が必要  亡くなった29人のうち26人の職場は、計画的な熱への順化(暑熱順化)期間が設けられていませんでした。  暑い環境下で作業を始め3〜4日が経過すると、汗をかくのに必要な自律神経の反応が早くなり、体温上昇を抑えることがうまくなります。さらに、3〜4週間経過すると、汗をかく際、無駄な塩分を出さないようになります。しかし、急に暑くなると、これらがうまく働かないため、暑さに徐々に慣らしていく必要があります。  事業者は、週間天気予報などを基に、今後の職場の気温上昇を予測し、作業者を熱に順化させるため、作業時間を短縮する、休憩回数を増やす、休憩場所を充実させるなどの対策を行います。盆休みなどの長期休暇や冷夏の期間が続くと、暑熱順化した身体は元に戻ってしまうことも忘れてはいけません。 ■定期的に水分、塩分をとる  亡くなった29人のうち17人は、定期的に水分、塩分をとっていませんでした。  のどの渇きを訴えにくい高齢者は、のどが渇いていなくてもこまめな水分、塩分補給は必須です。厚生労働省は、非常に過酷な暑さのときは、20〜30分ごとに、カップ1〜2杯程度の水分摂取を推奨しています。これを1日単位にすると、8時間労働で30分ごとにカップ1杯(200cc)として、1日16回、3l超の大量な水分摂取が必要になります。昼食時に食事で約1lの水分が摂取できるといわれていますが、それを除いても、2lもの大量の水分を摂取しなければなりません。 ■健康診断結果により基礎疾患の確認  亡くなった29人のうち半数近くの13人は、糖尿病、心疾患など、熱中症発症に影響を与えるおそれのある基礎疾患を有していました(図表4)が、事業者はそのことを把握していませんでした。  事業者は、作業者の健康診断結果を参考に(本人同意の下)、熱中症災害防止に努める必要があります。 ■休憩させる場合、回復状況を確認  亡くなった29人のうち8人は、いったん、職場で休憩するも容態が急変し、あわてて救急搬送されましたが手遅れでした。これは体温調節力の低下により、熱を放出するメカニズムが働かなくなり、休憩するも効果がなく容態が悪化したものです。  事業者は、熱中症の疑いのある作業者を休憩させる場合、休憩後しばらくして、症状がよくなったか確認しなければなりません。環境省の熱中症応急処置フロー(図表5)の「チェック4」にあるように、症状がよくなったか、必ず確認します。 (2)ファン付き作業服、ウェアラブルデバイスの使用  夏場の作業では、通気性のよい服装の着用が推奨されます。着用すれば、快適に作業でき、作業性の向上にもつながります。図6のようなファン付き作業服も市販されています。  熱中症の初期症状を把握するため、脈拍数、体温などが計測できるウェアラブルデバイス(図7)などのIoT機器の利用が推奨されています。ただ、熱中症の発症を正確につかむためには、深部体温(身体の内部の温度)の計測が必要となるため、現状のIoT機器は、あくまでも初期症状(熱中症の疑いがあるかどうか)を見つけるために活用しましょう。 ※ 前回までの内容は、当機構ホームページでご覧になれます。 エルダー 高齢社員のための安全職場づくり 検索 図表1 職場における熱中症による死傷者数の推移 2011年 死亡者数 18人 死傷者数 422人 2012年 死亡者数 21人 死傷者数 440人 2013年 死亡者数 30人 死傷者数 530人 2014年 死亡者数 12人 死傷者数 423人 2015年 死亡者数 29人 死傷者数 464人 2016年 死亡者数 12人 死傷者数 462人 2017年 死亡者数 14人 死傷者数 544人 2018年 死亡者数 28人 死傷者数 1178人 2019年 死亡者数 25人 死傷者数 829人 2020年 死亡者数 22人 死傷者数 959人 出典:厚生労働省「令和2年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況」 図表2 職場における熱中症の年齢別・男女別 千人率(平成30年) 出典:労働者死傷病報告、死亡災害報告及び都道府県労働局からの報告による平成30年中に発生した災害で、休業4日以上及び死亡のもの、総務省統計局「労働力調査」(2018年)を基に筆者作成 図表3 暑さ指数と熱中症患者発生率との関係 熱中症患者発生率(/日/100万人) 東京23区 横浜 名古屋 大阪 福岡 日最高暑さ指数(WBGT) WBGTが28℃を超えると熱中症患者発生率が急増 出典:環境省「熱中症予防情報サイト」 図表4 熱中症発症に影響のある基礎疾患 @糖尿病 A高血圧症 B心疾患 C腎不全 D精神・神経関係の疾患 E広範囲の皮膚疾患など ※筆者作成 図表5 熱中症の対処方法 チェック1 熱中症を疑う症状がありますか? (めまい・失神・筋肉痛・筋肉の硬直・大量の発汗・頭痛・不快感・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感・意識障害・けいれん・手足の運動障害・高体温) はい チェック2 呼びかけに応えますか? いいえ 救急車を呼ぶ 涼しい場所へ避難し、服をゆるめ体を冷やす はい 涼しい場所へ避難し、服をゆるめ体を冷やす チェック3 水分を自力で摂取できますか? いいえ はい 水分・塩分を補給する チェック4 症状がよくなりましたか? いいえ 医療機関へ はい そのまま安静にして十分に休息をとり、回復したら帰宅しましょう 出典:環境省『熱中症環境保健マニュアル2018』 図6 小型ファンで外気を取り入れることができる作業服 図7 スマートフォンで体調管理ができるウェアラブルデバイス 第8回 腰痛災害の防止@ 1 はじめに  高齢者に多い職場の労働災害として、これまで、転倒災害、熱中症災害を紹介してきましたが、今回は「腰痛災害」を取り上げます。高齢者は、筋力の低下により重量物を持ち上げるときの負担が大きく、また、柔軟性の低下により無理な体勢を取りやすく、腰痛リスクが高まります。本稿では、腰痛災害の実態、腰痛の原因などを紹介し、どうすれば腰痛を防ぐことができるのかを2回にわけて解説します。 2 腰痛とは  腰痛には、ぎっくり腰、椎間板ヘルニアなどがあり、腰の痛みだけに留まらず、臀部(でんぶ)から大腿後面・外側面、膝関節を越え、下腿の内側・外側から足背部・足底部にわたり、痛み、しびれが広がるものもあります。 3 業務上疾病の6割近くは腰痛  職場で働いているときにかかる疾病、いわゆる業務上疾病(2018年疾病者数8684人)のうち、災害性腰痛(同疾病者数5132人)は6割近くを占めています(図表1)。 4 業種別の腰痛発生状況  業種別に腰痛の発生状況をみると、保健衛生業(社会福祉施設、医療保健業等)が30・5%と最も多く、次いで、商業・金融・広告業の17・3%、製造業の14・8%の順になっています(図表2)。また近年、社会福祉施設での腰痛の増加が顕著です(図表3)。 5 年齢階層別にみた腰痛発生状況  平成28年の国民生活基礎調査によれば、「腰が痛い」と訴える人は年齢を重ねるにつれ多くなり、65〜69歳でピークを迎えます(図表4) 6 腰痛災害事例  次頁の通り、高齢者の腰痛災害はさまざまな業種で発生しています。重い物を持ち上げたとき、人を抱え上げたとき、中腰、前かがみ、ひねりなどの無理な姿勢をとったときなどで腰痛になっています。 腰痛災害事例 製造業 事例1 荷物が入った箱を持ち上げようと、前のめりぎみに箱を持ち上げたところ、腰を痛めた。 事例2 パレットに積まれた25kgの袋を移動させるため、パレットの一番奥にあった1袋を引っ張ったとき、腰に痛みが走った。 病院・社会福祉施設 事例3 患者のおむつ交換で、患者の身体を自分の方に寄せたときに腰を痛めた。 事例4 浴室で、職員2人で利用者を湯船から上げようと、1人は利用者の前方に立ち足を持ち、被災者は後方から身体を抱え上げようとしたが、その際、腰を痛めた。 運送業 事例5 トラック荷台で作業中、中腰で物を取ろうとしたとき、腰を痛めた。 事例6 トラックの後方扉を開けたところ荷物が落下し、それを取ろうと身体を曲げたとき、腰を痛めた。 小売業 事例7 バナナ20kgをカゴ車から下ろす作業を45分ほど行った後、カット野菜を箱から出し、中腰で腰をひねりながら並べていたところ、腰から左臀(さでん)部、左ひざを痛めた。 事例8 レジ作業中に扇風機を倒してしまい、起こそうと不自然な体勢をとり腰をひねった。 7 腰痛の発生要因  厚生労働省「職場における腰痛予防指針」によると、以下のように腰痛の発生要因には、さまざまなものがあります。 @動作要因 (a)重量物の取扱い ・重量物の持上げ、運搬などで、腰に強度の負荷を受ける (b)人力による抱上げ作業 ・介護・看護作業など、人力による人の抱上げ作業で腰に大きな負荷を受ける (c)長時間の静的作業姿勢(拘束姿勢) ・立位、椅座位など、静的な作業姿勢を長時間とる (d)不自然な姿勢 ・前屈(おじぎ姿勢)、ひねり、後屈ねん転(うっちゃり姿勢)など、無理な姿勢をしばしばとる(A環境要因により無理な姿勢を強いられることもある) (e)急激または不用意な動作 ・急に物を持ち上げるなど、急激または不用意な動作をする(予期せぬ負荷が腰にかかれば腰筋などの収縮が遅れ、それにより身体が大きく動揺し腰椎に負担がかかる) A環境要因 (a)振動 ・車両系建設機械などの操作・運転時の振動(著しく粗大な振動) ・車両運転などによる長時間振動 (b)気温、湿度 ・寒冷な作業環境(血管収縮が生じ筋肉が緊張することにより、十分な血流が保たれず筋収縮および反射が高まる) ・多湿な作業環境(湿度が高く発汗が妨げられると疲労しやすく、心理的負担が大きくなる) (c)床面の状態 ・滑りやすい床面、段差など(床面、階段でスリップ、または転倒すると、瞬間的に腰に過大な負荷がかかる) (d)職場の明るさ ・暗い場所での作業(足元の安全確認が不十分な状況では転倒などのリスクが高まる) (e)作業空間・設備の配置 ・狭く乱雑な作業空間、作業台等の不適切な配置(作業空間が狭く、配置が不適切で整っていないと無理な姿勢につながる) (f)勤務条件等 ・小休止や仮眠が取りにくい、長時間労働、施設・設備が上手く使えない、一人勤務が多い、教育・訓練が十分に受けられない(強い精神的な緊張度を強いられ、C心理・社会的要因が生じる) B個人的要因 (a)年齢差・性差 ・年齢差(高齢者の筋力低下)や性差(一般的に、女性は男性よりも筋肉量が少なく体重も軽く、作業負担が大きい) (b)体格 ・体格と作業台の高さが合っていないなど (c)身体能力差 ・握力、腹筋力、バランス感覚等の違い (d)既往症、基礎疾患の有無 ・椎間板ヘルニアなど、腰痛の既往症、血管性疾患、婦人科疾患、泌尿器系疾患などの基礎疾患 C心理・社会的要因 ・仕事への満足感や働きがいが得にくい、上司や同僚からの支援不足、職場での対人トラブルなどにより、また、労働者の能力と適性に応じた職務内容となっておらず、過度な長時間労働、過重な疲労、心理的負荷、責任等が生じ、このことで腰痛になる  このように、腰痛には作業内容や職場環境など、さまざな要因があります。次号では、事業者に求められる各種腰痛対策について解説します。 ※ 前回までの内容は、当機構ホームページでご覧になれます。 エルダー 高齢社員のための安全職場づくり 検索 図表1 疾病分類別 業務上疾病者数 負傷に起因する疾病(災害性腰痛等)※うち災害性腰痛5016人 5937人 物理的因子による疾病(熱中症等) 1437人 作業態様に起因する疾病(重激業務による運動器疾患等) 457人 化学物質による疾病(がんを除く) 263人 脳血管疾患・心臓疾患等 48人 強い心理的負荷をともなう業務による精神障害 76人 その他 466人 出典:厚生労働省「業務上疾病発生状況等調査(平成30年)」 図表2 業種別 腰痛発生状況 保健衛生業 1537人(30%) 商業・金融・広告業 870人(17%) 製造業 745人(15%) 運輸交通業 738人(15%) 接客・娯楽業 252人(5%) 建設業 172人(3%) その他 729人(14%) 出典:厚生労働省「業務上疾病発生状況等調査(平成30年)」 図表3 保健衛生業における腰痛災害発生状況の推移 保健衛生業 うち社会福祉施設 出典:厚生労働省「業務上疾病発生状況等調査(平成30 年)」 図表4 腰が痛いと訴える人数 ※熊本県は除いたもの ※下記の人数には、入院者は含まない 出典:厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査」 第9回 腰痛災害の防止A 1 腰痛予防対策  前号では、腰痛災害の実態や原因などについて解説しました。今回は、厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」を基に、腰痛予防対策について解説します。 @重量物取扱い作業の腰痛予防対策 (a)自動化、省力化の推進 ・自動車組立て工程におけるベルトコンベア、機械組立て工程におけるバランサーなどの導入 ・トラックでは、リフターなどの昇降装置、自動搬送装置の設置(長時間運転直後の重量物取扱いは腰痛リスクあり) ・ローラーコンベア、台車などの補助器具の使用 (b)人力による重量物の取扱い ・取扱い重量の制限(本指針の内容ではないが、20s制限とする大手ゼネコンの建設現場がある)や標準化 ・取り扱う荷物に取っ手などをつけ持ちやすくする(荷物の重心の位置が持つ人に近づくように) ・取り扱う荷物の重量の明示 (c)作業姿勢、動作 ・身体を対象物に近づけ重心の低い姿勢をとる。無理な姿勢を回避しやすい。 ・荷物を持ち上げる場合、片足を少し前に出し、膝を曲げてしゃがむように抱え(図表1ー1)、この姿勢から膝を伸ばすようにして脚・膝の力で持ち上げる。 ・両膝を伸ばしたまま上体を下方に曲げる前屈姿勢は取らない(図表1−2)。 ・荷物を持ち上げたり、運んだりする場合は、荷物をできるだけ身体に近づける(図表1−3)。 ・荷物と身体が離れた姿勢をとらない(図表1−4)。 ・重量物を持ったまま身体をひねって後ろを向く動作は、腰への負担が極めて大きい。身体をひねる作業をなくす。 A立ち作業の腰痛予防対策 (a)作業機器および作業台の配置 ・作業台が低いと前屈姿勢(おじぎ姿勢)となり椎間板内圧を著しく高め腰痛につながるため、作業台を高くする。または、椅子などを用意し腰掛け姿勢がとれるようにする。逆に、作業台が高い場合は足台を使用する。 (b)椅子の配置 ・椅子などを使用し、座って作業できるようにすると、筋疲労の軽減が図れる。 (c)片足置き台の使用 ・片足置き台に両足を交互にのせて姿勢に変化をつけるようにすると、腰への負担が軽減される。 (d)小休止・休息 ・小休止・休息を取り、下肢の屈伸運動を行う。下肢の血液循環改善に有効である。 B座り作業の腰痛対策 (a)椅子の改善 ・椅子に座って腰の角度を90°に固定すると、重心が前方に移るため、腰背筋の活動性が高まり腰痛予防になる。腰痛防止の観点から望ましい椅子は次の通り。 →背もたれは後方に傾斜し、腰パッドを備えていること。腰パッドの位置は頂点が第3腰椎と第4腰椎(下から順に第5、第4、第3、第2、第1腰椎)の間が望ましい。 →座面が大腿部を圧迫しすぎない。 →体格に合わせて、座面高、背もたれ角度、肘掛けの高さ・位置、座面の角度などを調節できるもの。 →作業中の動作に応じて移動可能なキャスターつきで、座面や背もたれの材質は熱交換のよいものが望ましい。 (b)机・作業台の改善 ・適切な座姿勢を確保するため、机・作業台上の機器・用具を適切に配備する。 (c)作業姿勢など ・長時間座っていると、背部筋の疲労により前傾姿勢になり、また、腹筋の弛緩、大腿部圧迫がでてくる。改善には、足の位置を変えたり、背もたれを倒し、後傾姿勢を取ったり、立ち上がって膝を伸ばしたり、クッションなどの腰当てを椅子と腰の間に挿入したりする(図表2)。 (d)座作業 ・直接、床に座る座作業は、強度の前傾姿勢となり、腰の筋収縮が強まり、椎間板内圧が著しく高まる。このため座作業は避ける。むずかしい場合は、作業時間に余裕をもたせ、小休止・休息を長めに回数を多く取る。 C靴、服装など ・転倒を防ぐため、靴は、大きすぎず、足にフィットし、滑りにくいものを使用する。 ・腰椎などへの衝撃を少なくするため、靴底は薄すぎたり、硬すぎたりしない。 ・作業服は、適切な姿勢や動作を妨げることのないよう伸縮性があるものを使用する。 D作業環境管理 (a)振動対策 ・車両系建設機械、トラックなどの振動対策は、座席の座面・背もたれの改善、振動を減衰させる座席への改造、小休止や休息をはさむこと。 (b)寒冷対策 ・暖房設備により適切な温度環境を維持する。 (c)床面対策 ・職場の床面はできるだけ凹凸・段差がなく、滑りにくくする。 (d)照度の確保 ・作業場所、通路、階段などでは、足元が確認できるよう照明を用意する。 (e)十分な作業空間 ・作業空間を十分に確保する。 ・作業場の4S(整理・整頓・清掃・清潔)を行う。 E腰痛予防体操(ストレッチ) (a)ストレッチ効果 ・腰痛予防体操は、ストレッチ主体が望ましく、実施時期は、疲労の蓄積度合いに応じて適宜実施する。 ・ストレッチにより、腰を中心に腹筋、背筋、臀筋などの筋肉の柔軟性を確保し、疲労回復を図る。 ・筋肉を伸ばした状態で静止する「静的なストレッチ」が、筋肉への負担が少なく、筋疲労回復、柔軟性、リラクゼーションが高められる。 ・静的ストレッチのポイントは、図表3の通り。 (b)ストレッチ例  中央労働災害防止協会「運送業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ」から、事務所でできるストレッチ例を紹介します(図表4)。 2 おわりに  今回は、高齢者の腰痛災害を取り上げ、その実態、発生原因、対策などを紹介してきました。ぎっくり腰などは、突然、襲いかかってくるようなイメージがありますが、そうではなく、職場には腰痛が発生する原因が潜んでいるのです。事業者は、高齢者が腰痛にならないような作業環境を整えてその芽を摘み、それとともに職場で腰痛予防体操を推進しましょう。一方、労働者もその腰痛予防体操に積極的に参加することが求められます。 ※ 前回までの内容は、当機構ホームページでご覧になれます。 エルダー 高齢社員のための安全職場づくり 検索 図表1-1 好ましい姿勢 図表1-2 好ましくない姿勢 図表1-3 好ましい姿勢 図表1-4 好ましくない姿勢 出典:厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」(別紙「作業態様別の対策について」) 図表2 座り作業の腰痛対策 図表3 静的ストレッチのポイント 1 息を止めずにゆっくりと吐きながら伸ばしていく 2 反動・はずみはつけない 3 伸ばす筋肉を意識する 4 張りを感じるが痛みのない程度まで伸ばす 5 20秒から30秒伸ばし続ける 6 筋肉を戻すときはゆっくりとじわじわ戻っていることを意識する 7 一度のストレッチで1〜3回ほど伸ばす ※厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」より抜粋 図表4 腰痛防止のストレッチ いずれも、20〜30秒姿勢を維持し、左右それぞれ1〜3回伸ばします @事務機材を利用した大腿前面(太ももの前側)のストレッチ A椅子を利用した大腿前面(太ももの前側)、臀部(お尻)のストレッチ B事務機材を利用した下腿後面(ふくらはぎ)のストレッチ C事務機材を利用した上半身のストレッチ 出典:中央労働災害防止協会『運送業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ』 第10回 切創(せっそう)災害の防止 1 はじめに  働く高齢者に多い労働災害として、今回は切創災害を取り上げます。  切創災害は、機械、電動工具、カッターナイフ、包丁などの手工具を使用するときや、金属製品を手で取り扱っているとき、誤って手指などを切るものです。さまざまな業種で発生しています。本稿では、切創災害の実態、特徴などを紹介し、どうすれば切創災害を防ぐことができるかを解説します。 2 60代以上と30代の切創災害データの比較  高齢者の特徴をみるため、60代以上と30代の労働災害を比較します。まず、休業4日以上死傷災害年千人率(労働者1000人あたり同死傷者数)を比べ、次に、切創災害の発生状況を比べてみましょう。 @年千人率  2015(平成27)〜2019(令和元)年の60代以上と30代の休業4日以上死傷災害年千人率を比べると、60代以上は30代より2倍ほど高くなっています(図表1)。かなり大きな差です。  この60代以上と30代の差は、心身機能の低下が主たる原因と考えられますが、そのほかにも、60代は定年退職後、別の会社に再就職するケースがあるように、働く場所が異なることも労働災害の原因にあげられることに留意が必要です。 A切創災害  厚生労働省ホームページ「職場のあんぜんサイト」に掲載されている休業4日以上死傷災害データ(2015・2016年分、全数のおよそ4分の1抽出データとされる)を用いて、全産業を対象に、60代以上と30代の切創災害(災害分類における事故の型では、切れ・こすれ災害に区分)を比べてみます。  図表2の通り、2016年の休業4日以上死傷者数をみると、切創災害のなかでも、動力機械によるものが60代以上は30代と比べ、1.18倍と高く、特に、木材加工用機械が1.34倍、金属加工用機械が1.38倍と高くなっています。  木材加工用機械には、丸ノコ盤(携行型の電動丸ノコを含む)、カンナ盤、帯ノコ盤、チェーンソーなどがありますが、このうち、電動丸ノコ、チェーンソーの災害が多発しています。一方、金属加工用機械には、旋盤、ボール盤、研削盤(グラインダーを含む)などがあげられますが、特に、グラインダーの労働災害が数多く見受けられます。電動丸ノコ、チェーンソー、グラインダーの災害が多いのは、電動工具の反発により被災しやすいことがあげられます。  そのほか、一般動力機械(食品加工用機械等)、手工具、金属材料については、死傷者数は30代の方が多くなっています。  切創災害事例には図表3(42頁)のようなものがあります。 3 切創災害と心身機能の関係  切創災害と心身機能の関係をみると、握力の低下により電動工具、手工具、切断する材料などを握る力が弱くなり、これにより切創しやすくなります。特に、電動工具が反発した場合、反発を抑えられず、また、とっさにうまく動けず、反発した電動工具が襲ってきても身を守ることがむずかしくなります。  そのほかにも、視力の低下により、工具の刃先や切断する材料などがよく見えないこと、切断作業、研磨作業などは、身体をかがめる姿勢を長時間とり続けることもあり、柔軟性が低下している高齢者には無理な姿勢であり、被災につながりやすいといえます。 4 切創災害防止対策  それぞれの切創災害について防止対策をみていきます。 @電動丸ノコ  電動丸ノコ作業の切創災害防止対策の基本はノコ刃に手を近づけないことです。切断する材料が小さく、手が近づいてしまう場合は、電動丸ノコを使用してはいけません。  電動丸ノコ作業の労働災害の原因は、@丸ノコが突然予期せぬ方向に動く・暴れる、A材料が跳ね上がる、B回転刃に誤って手を触れる、おおむねこの三つがあげられます。  このため、図表4の通り、作業の基本にしたがい、正しく作業を行うことが求められます。 Aグラインダー  グラインダーによる切創災害では、@鋸歯(きょし)に変える、A飛散防止ガイドを外すなどのルール違反が見受けられます。グラインダーは超高速で回転しますので、鋸歯に変えるのは危険極まりないことです。このようなルール違反は絶対に禁止です(図表5)。握力が低下している高齢者は、図表6のような両手で持つことができるグラインダーの使用が望まれます。 Bチェーンソー  チェーンソー作業では、チェーンソーの突然の反発を抑えることはむずかしいことから、2019年に労働安全衛生規則が改正され、下肢切創防止用保護衣(チャップス等)の着用が義務づけられました(図表7)。 Cカッターナイフ  手工具ではカッターナイフによる切創災害が目立ちます。カッターナイフを頻繁に使用している工場や商業施設で労働災害が多発しています。休業4日以上災害も多く、決して侮ってはいけません。カッターナイフ作業の基本は図表8の通りです。  大量の段ボールの開封など、カッター定規の使用がむずかしい場合は、耐切創軍手を着用します。 D包丁  包丁による切創災害を防止するには、衛生用手袋の下に切創防止用手袋をはめ、二重の手袋を着用します。さらに、冷凍魚・鮭鱒の身卸しなど、強い力が必要な作業では、切創防止用手袋の上に金属製メッシュ手袋(図表9)を重ねて着用し、保護性能を高めます。 Eプルトップ缶開け  プルトップ缶のふたを開けるときに切創災害が多発しており、防止対策として缶開け専用のプルトップオープナー(図表10)を用います。 Fハサミ  通常のハサミでビニール袋を開封するとき、指をはさんだり、先端で指を刺したりなどの切創災害が多発しています。防止対策には、刃先を短く先端を丸めたハサミを使用します。 5 おわりに  切創災害防止の基本は、機械、電動工具、手工具などの正しい使用です。握力の低下、とっさにうまく動けないなど、心身機能が低下している高齢者は、率先してそれらを正しく使い、労働災害の防止に努め、若者の手本となることが求められます。 ※ 前回までの内容は、当機構ホームページでご覧になれます。 エルダー 高齢社員のための安全職場づくり 検索 図表1 休業4日以上死傷災害年千人率の30代・60代以上の比較 30代 60代以上 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 出典:中央労働災害防止協会『安全の指標』 (平成28年度版〜令和2年度版) 図表2 30代と60代以上の休業4日以上死傷者数(切創災害、2016年) 事故の型 起因物 30代 60代 年代比較 A B B/A 切創災害(切れ・こすれ) 動力機械 177 209 118% 木材加工用機械 71 95 134% 金属加工用機械 32 44 138% 一般動力機械 73 69 95% その他 1 1 100% 手工具 112 84 75% 金属材料 25 12 48% その他 65 74 114% 合計 379 379 100% 出典:厚生労働省ホームページ「職場のあんぜんサイト」労働災害(死傷)データベース 図表3 切創災害事例 切創災害事例 木材加工用機械 事例1 倉庫内で、電動丸ノコを使用して、配管用塩ビパイプを切断中、塩ビパイプを押さえていた左手の親指つけ根がノコギリに触れ切創した。 事例2 電動丸ノコを使用して端材を切っていたが、端材が小さかったのでノコ刃に手があたり負傷した。 事例3 チェーンソーを使って、丸太を杭に加工切断中、チェーンソーが跳ねて左足大腿部を切った。 金属加工用機械 事例4 工場において、グラインダーで単管を切断中、グラインダーが跳ね返り、左手首に刃があたり負傷した。 事例5 左手で部材を押さえて、グラインダーで、部材の面取り作業中、誤って面取り部を通り過ごし、部材以外のところに砥石が接触し、その反動でグラインダーが跳ね返され、左手の親指つけ根を深く裂傷した。 一般動力機械 事例6 食パンをスライスしているとき、誤って右手人差し指を切創した。 事例7 寿司のカット機械を掃除するため、機械を分解中、誤って手を切った。 手工具 事例8 配送作業のためカッターでダンボールを開封中、誤って手をすべらせ左手の手のひらを切ってしまった。 事例9 包丁で人参を切っている時、手元を滑らせ左親指つけ根あたりを包丁で切傷した。 金属材料 事例10 店舗前でバイクのオイル交換中、オイル缶で右手親指を切り、傷口から菌が入り重症化した。 事例11 産廃処理場で、サッシを動かそうと右手でつかんだ際、陰にあった鋭利な鉄クズに気づかずに右手小指甲側を切った。 ※筆者作成 図表4 電動丸ノコ作業の基本 1 作業台を使い、材料を固定させる 2 軍手は、巻き込まれやすいため、はめない (専用のゴム手袋を着用する) 3 安全カバーは外さない (くさびで固定しない) 4 作業中以外は、電源を切り安定した場所に置く ※筆者作成 図表5 グラインダー作業の主たる違反行為 ルール違反1 鋸歯に変える ※グラインダーは電動ノコに比べ、回転数が格段に速く、非常に危険。 ルール違反2 飛散防止ガイドを外す 出典:住宅生産団体連合会、労働安全衛生総合研究所「ヒューマンエラー防止対策ガイドブック」 図表6 両手で持つグラインダー 図表7 チャップスの着用例 図表8 カッターナイフ作業の基本 1 鋭い刃先を保つ 力の入れ過ぎを防止する。刃先が丸くなったのを見つけたら、すぐに新しい刃と交換する。 2 厚みのある専用のカッター定規を使用する 定規が薄いと刃が乗り上げやすくなる。 3 正しい姿勢で切断する 切断する姿勢が悪いと、刃に余計な力がかかり危険である。カッターナイフの真正面から背筋を伸ばした姿勢で作業する。 4 刃の進行方向に手を置いてはいけない 特に親指が危険である。切断するものを安定させるため、親指を刃の進行方向に置きがちだが、それはとても危険である。 図表9 金属製メッシュ手袋 図表10 プルトップオープナー 第11回 墜落・転落災害の防止 ―高齢の熟練作業者の安全確保― 1 はじめに  働く高齢者に多い労働災害として、これまで、転倒、熱中症、腰痛、切創を取り上げてきましたが、その最後として、今回は墜落・転落災害を取り上げます。墜落・転落災害は死亡災害に直結しやすいものです。  また、今回は、高齢の熟練作業者を取り上げます。熟練作業者は、現場になくてはならない存在ですが、熟練作業者であっても被災します。そのなかには、熟練作業者ならではの労働災害があります。本稿では、高齢の熟練作業者の墜落・転落災害の実態を紹介し、どうすれば墜落・転落災害を防ぐことができるかを解説します。 2 高齢の熟練作業者の安全上の課題 (1)熟練とは  「熟練」とは、経験と技能の蓄積により生み出された高度で複合的な作業能力のことをいいます。単一的な作業能力であれば、若者でも習得可能ですが、高度で複合的な能力は、例えば、それは現場で起こるさまざまな問題を臨機応変に解決する力であり、経験が足りない若者に習得できるものではありません。  今後、作業方法の高度化、ICT(情報通信技術)の活用などが進展しても、作業全体を俯瞰(ふかん)的にとらえる必要がでてきた場合や突発的にトラブルが発生した場合など、熟練作業者に頼るところは大きいでしょう。 (2)熟練作業者の安全上の課題  現場の安全確保には、熟練作業者の活躍が不可欠です。ただしその一方で、熟練作業者ならではの労働災害があることを忘れてはいけません。  それは、現場の作業を熟知しているがゆえに、また、上に立つ者の責任感の強さゆえに、現場の進捗などに支障がでると「早く支障を取り除かなければ」、「解決策がわかっている自分がやる」という気持ちが大きくなり、不安全行動止む無しとなることがあります。しかし、若いころと比べさまざまな心身機能は衰えており、それが原因で被災してしまいます。 (3)中堅と熟練作業者の比較  熟練作業者ならではの労働災害を明らかにするため、ここでは、一定の実務経験を有し、作業を主体的に進めることができる中堅作業者と熟練作業者の労働災害を比較し、両者の違いをみてみます。  厚生労働省ホームページ「職場のあんぜんサイト」に掲載されている休業4日以上死傷災害データ(2015〈平成27〉・2016年分、全数のおよそ4分の1抽出データとされる)を用いて、全産業を対象に、30代と50代の墜落・転落災害を比べてみます。  30代と50代を比べる理由は、60代であれば定年・再就職のように働く場所が異なることも労働災害の原因として考慮する必要がありますが、50代であれば、心身機能の低下を主たる原因にとらえてよいのではないかと考えられるからです。  墜落・転落災害と心身機能の関係をみると、バランス感覚が低下すると墜落・転落災害は発生しやすくなります。ただ、墜落・転落しても、とっさにうまく動けるなら、例えば、バランスを崩して墜落しそうになっても、とっさに何かにつかまることができれば被災を免れますが、それができないと被災につながります。また、視力の低下も開口部など気づきの遅れにつながり、筋力や柔軟性の低下もバランスを崩すなどの原因につながります。  図表1の通り、30代と50代の休業4日以上死傷者数を2015年、2016年の2年合計で比べると、墜落・転落災害は、全体では50代が1.73倍と多く、これを起因物別にみると、トラックが2.11倍、はしご等が1.88倍、建築物・構築物は1.76倍と全体を上回ります。このうちトラック、はしご等は、トラック荷台、はしご、脚立等からの墜落・転落であり、建築物・構築物は、トラック荷受けバース、荷物返却台、コンテナーホームなど、荷さばき場所からの墜落・転落が数多く見受けられます。  これらの多くは法的に墜落防護措置を必要としない高さ2mに満たない低所からの墜落です。そこでは、作業者は墜落しないための正しい作業方法が求められます。トラック荷台であれば、あおり※1に乗らない、荷台昇降時は昇降ステップを用いる、昇降ステップがない場合は決して飛び降りない。はしごであれば、はしごは必ず固定する、はしご脚部には滑り止めを施しはしごは昇降のみでその上で作業しない、はしご昇降時は常に3点支持=i両手両足4点のうち常に3点をはしごに接触させる)を保つなどがあげられます。脚立の場合、その正しい使い方は、天板に乗らない、身を乗り出して作業しない、手に物を持って昇降しない、脚立を背にして降りない、反動をともなう作業は跨またがず片側の踏みさん※2に乗るなどがあげられます。  このような正しい作業方法の順守により墜落災害を防止しますが、実際には、正しい作業方法が守られず、トラック荷台では積み荷で埋まった荷台上で足の置き場がなく、あおりの上に乗ったり、荷台から飛び降りたり、はしごは、固定せず壁に立てかけただけで上に昇って作業したり、脚立は、踏みさん上では届かないと天板に乗って作業したりしてしまいます。  このような不安全行動は、年齢を問わず同じように行われているはずです。ただ、高齢になればよりバランスを崩しやすく、とっさにうまく動けず、墜落して被災しやすくなります。荷さばき場所からの墜落・転落も、同様の理由で高齢者の被災が多くなると考えられます。  一方、高さが2mを超える高所作業であれば、墜落防護措置がない場所では墜落制止用器具を使用しなければなりませんが、それを使用しない不安全行動により墜落することが数多く見受けられます。老朽化した屋根の踏み抜きなどは突然墜落しますが、それはバランス感覚やとっさの動きがほとんど関係しないため、トラック荷台、はしご、脚立ほど、高齢者の被災が目立たないといえるのではないでしょうか(図表1の屋根からの墜落・転落災害2年合計は30代の方が多い)。 3 高齢者の墜落・転落災害事例  60歳以上の墜落・転落災害事例を紹介します。多くは、いずれも高さ2mに満たない低所からの墜落・転落事例(図表2)です。 4 おわりに(課題解決に向けて)  高齢の熟練作業者は今後も現場の安全確保の要であり続けることはいうまでもありません。ただ、豊富な経験が危険軽視につながり、現場が思ったように進まない場合など、上に立つ者の責任感の強さも相まって、急いで解決しようと不安全行動をともなう解決策が選ばれてしまうおそれがあります。しかし、加齢にともなう心身機能の低下により、とっさにうまく動けないなど被災しやすいため、若いころよりもより慎重な行動が求められます。ただ、安全教育により行動変容を求めても、長年にわたり現場でつちかった経験が教育効果を小さくしてしまいます。  今後は、熟練作業者の一層の活躍をうながすため、教育効果の高い安全教育を実践することが重要です。それには、厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)」(2020〈令和2〉年3月)に示された高年齢者向けの安全衛生教育が参考になります(図表3)。  一方で、熟練作業者の労働災害防止には、心身機能の低下を補うハード対策も重要です。例えば、脚立は天板だけでなく踏みさんに乗っても不安定です。足幅より狭い踏みさんの上に乗ると、足から踏みさんにかかる力の方向と、それに対し踏みさんから出る反力の方向がずれ、それは身体が揺れることを意味します。作業者が安全を確保するうえで、最も大事なものの一つに足元(足場、作業床)がしっかりしていることがあげられますが、脚立上は不安定で、身体を揺らしながら作業が行われています。このため、できれば脚立の使用を控え、踏みさん幅が広く、身体を支える上枠がついた天板に乗ってもよい踏み台(図)のような、より安定した姿勢が保てる用具の使用が望まれます。 ※ 前回までの内容は、当機構ホームページでご覧になれます エルダー 高齢社員のための安全職場づくり 検索 ※1 あおり……荷台の枠の部分 ※2 踏みさん……はしご・脚立などの足を掛けて踏むところ ※3 バース……倉庫や物流センターなどで、トラックの荷物を積み降ろしする場所のこと 図表1 30代と50代の休業4日以上死傷者数(墜落・転落災害、2015年、2016年) 事故の型 起因物 2015年 2016年 2年合計 30代 50代 30代 50代 30代 50代 年代比較 A B C D E=A+C F=B+D F/E 墜落・転落 トラック 152 325 152 316 304 641 211% はしご等 134 256 156 290 290 546 188% 足場 42 42 32 35 74 77 104% 階段・桟橋 120 193 132 213 252 406 161% 開口部 12 20 12 19 24 39 163% 屋根、はり、もや、けた、合掌 49 41 36 39 85 80 94% 作業床、歩み板 20 33 21 35 41 68 166% 通路 6 20 16 17 22 37 168% 建築物・構築物 42 62 37 77 79 139 176% その他 142 244 141 242 283 486 172% 合計 719 1236 735 1283 1454 2519 173% 出典:厚生労働省ホームページ「職場のあんぜんサイト」労働災害(死傷)データベース 図表2 高齢者の墜落・転落災害事例 トラック荷台からの墜落 事例1 駐車場に停めていた軽トラックの荷台に横から上がろうとしたとき、足を滑らせて地面に落下し負傷した(65歳) 事例2 荷降ろしが終わり、荷台を掃除するため、荷台にかぶせていたシートをたたもうとしているときに足を踏み外し、トラック側面より地面に落ち、左手をついた際に骨折した(69歳) はしごからの墜落 事例3 構内で在庫確認のため、保管棚の上にアルミのハシゴを掛け、昇ろうと足を掛けた際、足を滑らせ2m位の高さから土間へ墜落した(67歳) 事例4 庭木の剪定中、はしごから足を滑らせ7m下に墜落して負傷した(68歳) 脚立からの墜落 事例5 脚立の天板に乗り、車の天井を洗車していたところ、足が滑り高さ約1mから地面に落下し、頭と腰と腕を地面に打ちつけた(68歳) 事例6 倉庫内で、脚立の2段目あたりに足を乗せ作業中、足を滑らせて転落し、頭を打った(69歳) トラック荷受けバース※3からの墜落 事例7 入荷バースにて、簡易ローラーを使って、荷下ろし後のパレットを構内に押し込む作業中、左足を強く踏んばった際に、足を滑らせバースから転落し手を負傷した(61歳) 事例8 冷凍倉庫の接車バース上からパイロン移動のために飛び降りた際、左足がリフト止めに引っかかり体勢を崩して墜落した。右足をひねりながら着地し右足首を骨折した(62歳) 図表3 エイジフレンドリーガイドラインに示された高年齢労働者向け安全衛生教育のポイント(一部抜粋) ・十分な時間をかけ、写真や図、映像等を活用する。 ・心身機能の低下が労働災害につながることを自覚させる。 ・自らの心身機能の低下を客観的に認識させる。 ・わずかな段差等、周りの環境に常に注意を払わせるようにする。 出典:厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン」 図 上枠つき幅広天板の踏み台 作業をする場所にあわせて適切な高さのものを使用する。 上枠つき 幅広天板 最終回 企業の取組み事例と今後に向けて 1 はじめに  これまで1年にわたり、この連載を続けてきました。  最終回の今回は、エイジフレンドリーな職場づくりに向けた大手企業の取組み事例を紹介するとともに、これまでの連載内容をふまえ、今後、高齢者が快適に働くために、事業者がすべきことを総括します。 2 企業の取組み事例  企業における高齢者の安全確保の取組み事例として、JFEスチール株式会社西日本製鉄所、トヨタ自動車株式会社の取組みを紹介します※1。これらの事例は高齢者だけではなく、若い世代も対象としています。 ■事例1 JFEスチール株式会社西日本製鉄所  JFEスチールでは、社の安全衛生方針「安全は全てに優先する」の「安全」と「体力」を結合し、高齢になっても安全で健康に働くために必要な体力を「安全体力 R」とネーミングし、「安全体力 R」をチェックするための測定ツールを開発しています。  「安全体力 R」を把握するためのテスト(図表1)は、転倒、腰痛、危険回避、ハンドリングミスの4つのリスクを8つのテストでチェックします。テストの結果は5段階で評価し、評価4・5は「安全域」、評価3は「維持域」、評価2は「要注意域」、評価1は「危険域」と設定し、評価1・2になった「安全体力 R」の低い者には自覚をうながし、改善意欲を高めさせています。2014(平成26)年、40歳以上の健診対象者(1703人)に転倒の有無についてアンケート調査をしたところ、転倒経験者(159人)は非経験者より、転倒リスクのテスト3項目の割合が高い結果となり、このテストの有効性が認められました。また、「安全体力 R」を一定の水準に維持するため、毎日実施する2つの職場体操を作成しています。 職場体操1:筋骨格系疾患対策 「アクティブ体操」PART1】  腰痛などの筋骨格系疾患対策用の体操(10種目約5分)です。種目は、作業中に負担がかかりやすい部位を対象に構成されています※2。 【職場体操2:転倒予防対策 「アクティブ体操」PART2】  高年齢者に多い、転倒しやすい姿勢「背中が丸く骨盤が後傾し、股関節が開かず足首が固い」の改善を目的とした運動(10種目約5分)で構成されています※3。  これらの取組みの効果として、筋骨格系疾患による休業日数が減少し、転倒災害発生件数も減少傾向にあるとしています。 ■事例2 トヨタ自動車株式会社  トヨタ自動車では、高齢になっても活き活きと元気に働くには、体力の維持・向上、心身の健康の増進が大切とし、そのためには、若年・壮年期からの意識変革が重要ととらえています。具体的な取組みとして、従業員の体力の維持・向上のための「いきいき健康プログラム」、休業につながる心身の疾患を予防する「健康チャレンジ8」などを推進しています※4。 @いきいき健康プログラム  36歳以上の全従業員を対象に、4年に1度のペースで以下の取組みを実施しています。 a 体力の見える化(体力測定)  以下の全9種目(2020年10月よりGHを除く7種目に変更)の体力測定を実施しています。 @上腕柔軟性、A肩柔軟性、B座位体前屈、C握力、D足把持(そくはじ)力、E2ステップ距離測定(バランス力)、F反復立ち上がり(筋持久力)、G座位ステッピング(敏捷(びんしょう)性)、Hミネソタ(手先の器用さ) b 運動指導  社内の運動トレーナーが、トレーニング方法、身体のメンテナンス方法などについて、実技を交え指導します(1回30分〜1時間、数人〜30人)。特に、加齢による腰痛、肩こりに効果的なストレッチ方法を指導しています。また、従業員に歩数、運動時間などが記録できる活動量計を貸し出し、活動量計の結果に基づき、運動トレーナーがアドバイスを行っています。 A健康チャレンジ8  8つの生活習慣「1・適正体重、2・朝食、3・飲酒、4・間食、5・喫煙、6・運動、7・睡眠、8・ストレス」を対象に、健康的な習慣の実践数を増やす取組みを行っています。全社的に実践数の目標を設定し、職場単位の活動を推進しています。実践数の結果は、個人および職場にフィードバックし、個人、組織の取組み意識向上につなげています。  また、「健康スマホアプリ」により、歩数などの活動量の見える化、各自の健康チャレンジ宣言を入力することなどにより、取組み意識を高めて行動変容をうながしています。社内食堂のメニューも、栄養バランスを図り、カロリー表示とともに、カロリー低食(599kcal以下)、野菜たっぷり、減塩メニューなど、各種ヘルシーメニューを提供しています。そのほか、禁煙化への取組みでは、各自の禁煙宣言、ニコチンパッチなどで支援する禁煙チャレンジ活動を実施しています。  これらの取組みの結果、2020年末の全従業員の平均実践数は6.27(最大8)となり、目標値6.30に近づいています(2020年頭6.09)。 3 身体機能計測装置の活用  大手企業の取組み事例では、2社とも体力測定が行われていますが、体力テストを実施するには、実施場所を確保したり、一度に従業員を集めたりしなければならず、実施がむずかしい企業もでてきます。体力測定に替わるものとして、身体機能を簡単に計測する装置があげられます。  例えば、2020年度の厚生労働省の高年齢労働者安全衛生対策実証等事業を受けた、マイクロストーン株式会社の「THE WALKING R」は、背中と腰にモーションセンサーを身につけ10m歩行するだけで、歩き方、身体の使い方の特徴が評価できる歩行健診システムです。  足音を聞くだけでだれが来たかがわかるように、歩き方には人それぞれ個性(クセ)がありますが、強すぎるクセは転倒や腰痛・膝痛といった関節疾患につながります。  この「THE WALKING R」は、歩行の専門家である理学療法士の知見から歩き方を数値化し、その特徴から歩き方や身体の使い方を整えるための改善プログラムを提示しています。  また、歩き方がほかの転倒者とどの程度似ているかをAI分析し、転倒スコアや注意すべき転倒の種類(ふらつき、つまずき、すべり)を表示します。  高年齢労働者安全衛生対策実証等事業では、50歳以上の労働者(92人)を対象に歩行計測を行い、提示された改善プログラムに2カ月間取り組むことで、歩行時のふらつきや左右差が改善し、転倒に関連する体力指標にも改善が認められています(図表2)。 4 エイジフレンドリーな職場づくりのために  本連載では、エイジフレンドリーな職場づくりをテーマに掲げ、これまで、高齢者の労働災害発生率の高さなどエイジフレンドリーな職場づくりが必要な理由、国における高齢者の労働安全衛生行政施策として、2020年3月に厚生労働省が発表した「エイジフレンドリーガイドライン」の概要、高齢者に頻発している労働災害として、転倒、腰痛、切創、墜落・転落等災害の事例と、その発生原因と労働災害防止対策を示し、そして最終回の今回は、大手企業の取組み事例などを紹介してきました。  大手企業の取組み事例では、体力維持、健康づくり、職場体操などを紹介しましたが、エイジフレンドリーガイドラインが示す新たな視点高齢者一人ひとりの健康や体力の状況に応じた対策≠ノ精力的に取り組んでいる企業は、残念ながらまだ多くありません。この点は、人生100年時代に向けた今後の大きな課題です。  高齢者には、加齢により心身機能が大きく低下し、それにより被災しやすくなることを自覚してもらわなければなりません。例えば、つまずいても手をつけず、そのまま、顔、肩、腕から転倒するなど、とっさにうまく動けずに骨折などの重傷になります。高齢者に自覚をうながす取組みは職場の安全管理責任者の務めです。  また、身体機能が低下する高齢者にはパワーアシストスーツが推奨されます。作業による過度な負担は、疲労回復力が低下している高齢者には大きな課題です。また、疲労による注意力、集中力、判断力の低下はヒューマンエラー災害につながります。現在、防衛省においても、災害救助などでの自衛隊員の負担軽減を図るため、専用のパワーアシストスーツ(高機動パワードスーツ)の開発を進めるなど、働く人の負担軽減策は重要な課題となっています。  人生100年時代を迎え、高齢者がいつまでも活き活きと元気で健康に働くためには、職場環境改善、作業内容の見直し、職場体操、体力チェックなどを積極的に進める必要があります。それは、わが国の深刻な人手不足問題の解消につながるとともに、高齢者が活き活きと働く姿が社会にあふれることは、わが国に大きな活力をもたらすでしょう。 ※1 中央労働災害防止協会「高年齢労働者が安全・健康に働ける職場づくり エイジフレンドリーガイドライン活用の方法」より ※2 動画URL:https://www.youtube.com/watch?v=KPxt7vyQ6Zo ※3 動画URL:https://www.youtube.com/watch?v=LEr6r1Mxgu8 ※4 ここでご紹介している取組みはコロナ禍以前に実施していたものです ★ 前回までの内容は、当機構ホームページでご覧になれます エルダー 高齢社員のための安全職場づくり 検索 図表1 「安全体力 R」機能テスト 転倒リスクテスト(3項目) 片脚立ち上がり 体重を支える脚の筋力 5m平均台歩行 バランスを崩さず歩く能力 2 ステップテスト つまずかずに歩行する能力 腰痛リスクテスト 腰椎・股関節柔軟性 腹筋筋力 危険回避能力テスト 全身反応時間 ハンドリングテスト 手の操作範囲 把持(はじ)筋力 本誌2018年9月号より。JFEスチール西日本製鉄所の取組み 図表2 マイクロストーン社「THE WALKING R」 (転倒リスク歩行健診システム)の診断画面 資料提供:マイクロストーン株式会社 写真のキャプション 本誌2019年4月号より。トヨタ自動車「いきいき健康プログラム」のイメージ 歩行健診システム「THE WALKING R」を使用した計測の様子 写真提供:マイクロストーン株式会社 パワーアシストスーツを着用して働く高齢者の例