【表紙2】 65歳超雇用推進助成金のご案内 高年齢者の雇用の安定に資する措置を講じる事業主の方に、国の予算の範囲において、以下の助成金を支給しています。 65歳超継続雇用促進コース  就業規則等により65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止または希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施したこと、当該就業規則の改定等に専門家等に就業規則の改正を委託し経費を支出したことなど一定の要件に当てはまる事業主に、対象被保険者数および定年等を引き上げる年数に応じて、以下の額を支給します。 実施した制度 65歳への定年引上げ 66歳以上への定年引上げ 定年の廃止 66〜69歳の継続雇用への引上げ 70歳以上の継続雇用への引上げ 引上げた年齢 5歳未満 5歳 5歳未満 5歳以上 4歳未満 4歳 5歳未満 5歳以上 対象被保険者数 1〜2人 10万円 15万円 15万円 20万円 20万円 5万円 10万円 10万円 15万円 3〜9人 25万円 100万円 30万円 120万円 120万円 15万円 60万円 20万円 80万円 10人以上 30万円 150万円 35万円 160万円 160万円 20万円 80万円 25万円 100万円 ※ 1事業主(企業単位)1回かぎりとします。 ※ 定年引上げと継続雇用制度の導入をあわせて実施した場合の支給額はいずれか高い額のみとなります。 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  認定された雇用管理整備計画に基づき高年齢者雇用管理整備措置を実施した場合の、当該措置の実施に必要な専門家への委託費等および当該措置の実施にともない必要となる機器、システムおよびソフトウエア等の導入に要した経費を支給対象経費(注)とし、支給対象経費に60%(中小企業事業主以外は45%)を乗じた額を支給します。  なお、生産性要件を満たす事業主の場合は、支給対象経費の75%(中小企業事業主以外は60%)を乗じた額となります。 高年齢者雇用管理整備措置の種類 イ 高年齢者に係る賃金・人事処遇制度の導入・改善 ロ 労働時間制度の導入・改善 ハ 在宅勤務制度の導入・改善 ニ 研修制度の導入・改善 ホ 専門職制度の導入・改善 ヘ 健康管理制度の導入 ト その他の雇用管理制度の導入・改善 支給対象経費 ◎高年齢者の雇用管理制度の導入等(労働協約または就業規則の作成・変更)に必要な専門家等に対する委託費、コンサルタントとの相談に要した経費 ◎上記の経費のほか、左欄の措置の実施にともない必要となる機器、システムおよびソフトウエア等の導入に要した経費 (計画実施期間内の6カ月分を上限とする賃借料またはリース料を含む) (注)その経費が50万円を超える場合は50万円。なお、企業単位で1回にかぎり、経費の額にかかわらず、当該措置の実施に50万円の費用を要したものとみなします。 高年齢者無期雇用転換コース  認定された無期雇用転換計画に基づき50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換させた事業主に対して、対象労働者1人につき48万円(中小企業事業主以外は38万円)を支給します。  なお、生産性要件を満たす場合は対象労働者1人につき60万円(中小企業事業主以外は48万円)となります。  また、対象労働者は1支給年度(4月〜翌年3月まで)1適用事業所あたり10人までとなります。 ※ 助成金の受給のためには、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)第8条および第9条第1項の規定と異なる定めをしていないことなど、一定の要件を満たす必要があります。 詳細な要件につきましては各助成金の「支給申請の手引き」をご確認くださいますようお願いします。 ■お問合せや申請は、都道府県支部高齢・障害者業務課(東京、大阪は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします(65頁参照)。  そのほかに必要な条件、要件等もございますので、詳しくはホームページ(http://www.jeed.or.jp/)をご覧ください。 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.63 定年後、70歳まで再雇用しシニア社員の経験を組織力の向上につなげる 株式会社りそなホールディングス 執行役 人材サービス部担当 新屋和代さん しんや・かずよ 1964(昭和39)年生まれ。1987年、りそな銀行の前身である旧埼玉銀行に入行。埼玉りそな銀行コンプライアンス統括部長、同与野(よの)支店長、同人材サービス部長などを経て、2018(平成30)年4月、りそなホールディングス執行役兼りそな銀行常務執行役員兼埼玉りそな銀行執行役員に就任。大手行では初の女性常務執行役員となる。  りそなホールディングスは、2019(令和元)年10月より、定年後再雇用年齢の上限を65歳から70歳に引き上げました。シニア人材の就労機会を確保するだけでなく、勤務形態の拡充や管理職への登用も可能とするなど、やりがいを持って働ける環境整備に尽力しています。  そこで、制度導入の背景や今後の展望などについて、同社執行役・人材サービス部担当の新屋和代さんにお話をうかがいました。 評価制度の運用でメリハリのある処遇を実現 今後は65歳までの選択定年制を導入予定 ―2019年10月から定年後再雇用年齢の上限を5歳延長し、70歳に引き上げられました。制度導入に至った背景について教えてください。 新屋 再雇用年齢引上げの検討に本格的に着手したのは2018(平成30)年ころからです。ちょうどそのころ、政府内でも70歳雇用の努力義務化の検討の動きが出ていましたし、年齢を重ねても働くという意識が社会全体で高まりつつありました。  当社グループでは社員意識調査を毎年実施していますが、働くことに対する価値観を問う項目のなかで「65歳を過ぎても働きたいですか」との問いに「働きたい」と答える人の割合も増えており、社員にとって働き続けられる職場があることの重要性が高まってきていると感じていました。  そうした事情をふまえつつ、組織全体の年齢別人員構成や人件費などの問題を含めて、再雇用年齢の上限を70歳まで引き上げることの可否や導入のタイミングについてさまざまな議論をしました。  結論としては、社員のモチベーションに資するということと、この問題は高齢化が進むなか、今後必ずどこかの段階で真剣に考えなければいけない問題であり、そうであるならば、シニア社員の経験やノウハウを活かし、組織力の向上につなげていくことに早くからトライしたほうがよいのではないかと考え、定年後再雇用年齢の上限を70歳にすることにしたのです。これはパートタイマーの社員(以下、「パートナー社員」)を含む、全社員を対象にしています。 ―また、2021年4月からは、現在の60歳定年制から、65歳を上限に社員が自ら選べる選択定年制を導入するそうですね。これも同じ理由からでしょうか。 新屋 2021年4月から新たな人事制度の導入を予定しています。新制度の基本的な考え方として、「年齢にとらわれない評価・処遇と適材適所の登用・配置」を掲げており、具体的な施策の一つとして、選択定年制の導入を予定しているものです。  すでに65歳まで定年延長している企業もありますが、当社の新制度は60歳から65歳までの間で定年の時期を社員が選択できます。全員が必ずしも65歳までということではなく、60歳から65歳までの間で選べるようにしたことが当社の特徴と考えています。制度の詳細については労働組合と協議中であり、今後具体的な制度設計を進めていきます。 ―再雇用した社員の評価・処遇制度についても教えてください。 新屋 60歳以上の賃金体系は、再雇用なので60歳以前とは別体系になりますが、人事評価の基本的枠組みは60歳までの社員と共通です。人事評価制度は、当社が社員に求める価値観・行動基準に即した行動をとれているかを見る「行動評価」と、半期ごとに目標設定を行い、達成度合いを見る「成果評価」があり、その結果を給与や賞与に反映しています。60歳以降も同じ仕組みでしっかりと評価し、評価の結果によって基本給の加算部分を増減させる仕組みにしています。  また、再雇用であっても、意欲が高くスキルも高い人は、それまでと同等の役割をになってもらい、処遇も職責に見合ったものとしています。 シニア社員にはこれまでの経験を活かしモチベーション高く活き活きと働いてほしい ―定年延長後の働き方と処遇はどうなりますか。 新屋 再雇用した社員には、経験やノウハウを活かしてもらいたいという考えから、再雇用前と同様の仕事を担当してもらうケースが多くなっています。定年延長を選択した場合も考え方は同様ですが、より大きな役割・職責をになうことでさらに力を発揮してもらいたいと考えています。  なお、当社の人事制度は職務等級制度であり、年齢を重ねても年功的な処遇はありません。定年延長を選択した場合の60歳以降の処遇についても同様であり、になう役割や職責に見合った水準としていく予定です。 ―70歳まで働けるといっても、人によっては健康問題や家庭の事情などがあり、フルタイム勤務がむずかしい場合もあります。 新屋 おっしゃるように、人によっては働く割合を少し軽くしたいという希望も当然あると思います。そのための働き方の選択肢として、さまざまなパターンを用意しています。フルタイム以外に、例えば月10日勤務、半日勤務などのパターンもあり、本人の希望で選んでもらう仕組みです。家族の介護のためにデイサービスの送迎などをしており、半日しか働けないケースもあるかと思いますので、事情に応じて選んでもらっています。 ―70歳まで元気に活躍してもらうために、特に取り組んでいる施策はありますか。 新屋 シニア社員にはこれまでの経験を活かし後に続く世代のお手本となるように、モチベーション高く活き活きと働いてほしいという期待があります。そのための施策の一つとして、60歳以降も引き続き活躍してもらうためのセミナーを実施しています。  60歳を迎える直前に行うセミナーでは、会社が期待する役割を説明し、実際に活躍しているシニアの事例などを紹介します。また、これに先立って45歳や50歳の節目年齢のセミナーでは、これまでつちかったスキルの棚卸しをしてもらい、今後のキャリアについて考えてもらう機会を設けています。  いまの時代は自分自身のキャリアについてきちんと考えることが非常に重要になっています。新入社員向けのキャリアセミナーも実施していますが、45歳まで間が空いています。じつはこの「間の世代」にもキャリアについて考えてもらうことが必要だと思っていますので、今後検討していくつもりです。  多くの選択肢のなかで自分のキャリアをどうデザインしていくのか、若手、ミドル、シニアの全世代にわたってキャリアサポートの機会を設け、充実させていきたいと考えています。 若手やシニアという年齢にとらわれず、社員一人ひとりの可能性を引き出していく ―高齢者雇用にかぎらず、2013年に「ダイバーシティ経営企業100選」(経済産業省)に選定されるなど、多様な人材の活用に注力されていますね。 新屋 女性の活躍に関する取組みは、当社が経営危機に直面した2003年以降の経営改革が大きな後押しとなりました。当初は「女性が管理職に就くなんて」という風潮がありましたが、いまではごく普通のことになりました。  政府が2020年に女性管理職比率30%を目ざす「2030」を掲げていましたが、当社では、部下を持つ管理職に占める割合が30%に達しました。これも改革を始めてすぐに成果に結びついたわけではなく、目ざす姿に向けてぶれずに続けていくことで、徐々に組織に根づいていったものです。  ダイバーシティといっても男女や年齢などの属性の違いだけではなく、価値観や考え方の多様性といった面もあります。そうした考え方の違いを含めた内面のダイバーシティ≠許容していく風土も、いまのように変化の激しい時代には必要ではないでしょうか。  さまざまな個性を持つ人を評価する仕組みづくりとあわせて、考え方の違いを尊重する組織風土の醸成を推進していく必要があると思っています。 ―法改正により、2021年4月からは、70歳までの就業機会の確保が努力義務となります。先行企業としてアドバイスをお願いします。 新屋 スタートしてまだ1年なので具体的な成果が見えているわけではありませんし、会社によい効果をもたらしているとまでは申し上げられません。  ただ、70歳まで再雇用年齢を延ばしたことで「この会社は70歳までがんばれるんだ」と、社員のモチベーションや信頼感は確実に上がったのではないかと思います。社員にとってよいことは会社にとってもよい効果をもたらすものと信じています。  人手不足が進行するなかで、若手やシニアという年齢にとらわれず、社員一人ひとりの可能性を引き出していく人事運営を行うことが、われわれに課せられた大事な課題です。  一人ひとりの力をかけ合わせて企業価値を高めていくことを目ざし、今後の運用も含めて、新しい仕組みを考えていきたいと思っています。 〔株式会社りそなホールディングス〕  傘下にりそな銀行、埼玉りそな銀行、関西みらいフィナンシャルグループなどを有する本邦最大の信託併営商業銀行グループ。首都圏と関西圏を中心とする全国に店舗網を展開し、中小企業・個人分野に厚い顧客基盤を有する日本の5大銀行グループの一角。2020年度より新たな中期経営計画がスタート。  女性活躍推進、シニア人材の活躍推進、障がい者の活躍推進、LGBT(性的マイノリティ)の理解と支援の取組みなど、さまざまな施策を推進しており、「健康経営優良法人」認定(2018・2020年)などを取得している。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 2020 August ●表紙のオブジェ イラストレーター 柳田ワタル(やなぎだ・わたる) 1947年 大阪府堺市生まれ。1970年 多摩美術大学卒業。アニメーション制作会社勤務ののち、1974年よりフリーのイラストレーターとなる。1977年よりオブジェ、立体クラフトなどの制作を開始。90年代からは写真撮影も始める。 特集 6 新任人事担当者のための高齢者雇用入門 7 序論 「教えて先生、高齢者雇用って何から始めたらいいの?」 千葉経済大学 経済学部 経営学科 准教授 藤波美帆 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 及川つかさ 12 解説 1 仕事に身の入らない高齢社員がいるんです! 2 必要なスキルを身につけてくれません! 3 再雇用した元部長に困っています! 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 4 高齢社員が持病の悪化で休みがちに! 福岡教育大学 教育学部 准教授 樋口善之 5 高齢者雇用を支援する助成金制度  65歳超雇用推進助成金について 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 高齢者助成部 高齢者雇用促進のためのその他の助成金 編集部 1 リーダーズトーク No.63 株式会社りそなホールディングス 執行役 人材サービス部担当 新屋和代さん 定年後、70歳まで再雇用しシニア社員の経験を組織力の向上につなげる 31 日本史にみる長寿食 vol.322 オクラのネバネバうまし 永山久夫 32 マンガで見る高齢者雇用 短期連載 《第4回》「高齢社員にがんばってもらいたいが、体調や健康も心配」 38 江戸から東京へ 第93回 密集地域に“汁鍋”のすすめ 水戸黄門 作家 童門冬二 40 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第75回 株式会社 平 本店 かすが町市場 パート従業員 多田辰男さん(80歳) 42 高齢者の職場探訪 北から、南から 第98回 秋田県 株式会社英明工務店 46 高齢社員の賃金戦略 第2回 今野浩一郎 50 知っておきたい労働法Q&A《第27回》 健康情報の取扱い、特別休暇の付与 家永勲 54 いまさら聞けない人事用語辞典 第3回 「退職金」 吉岡利之 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 職場でできるストレッチ体操 短期連載 《第1回》「加齢による筋力の低下を防ごう」 山ア由紀也 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第38回]時計問題 篠原菊紀 ※連載「技を支える」は休載します 【P6】 特集 新任人事担当者のための高齢者雇用入門  高年齢者雇用安定法の改正により、企業には来春から従業員の70歳までの就業を見すえた対応が求められることになりました。  高齢者が70歳まで活き活きと働ける環境を整えるためには、60代後半の働き方について考えていくことはもちろんのこと、これまで以上に60代前半の人事管理制度を整えていくことが必要となるでしょう。  そこで今回は、「新任人事担当者のための高齢者雇用入門」と題し、多くの企業でよく見られる高齢者雇用の課題を解説していきます。60代前半の人事管理から、70歳就業を見据えた対応まで、新任人事担当者のみなさんにも基礎から学べる内容となっています。  年齢に関係なく、高齢社員が活き活きと働ける人事制度づくりの第一歩に、ぜひご活用ください。 【P7-11】 序論 「教えて先生、高齢者雇用って何から始めたらいいの?」 千葉経済大学 経済学部 経営学科 准教授 藤波(ふじなみ)美帆(みほ) 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 及川つかさ  この春に人事部に異動してきた、新任人事担当者のまなび はじめさんは、高齢者の雇用対策を担当することになりました。異動してきたばかりで、ただでさえ覚えることが多いのに、来年からは70歳までの就業機会の確保(高年齢者就業確保措置)が努力義務になるので、その準備も進めなければなりません。何から手をつければいいのかわからないはじめさんは、高齢者雇用に詳しい藤波美帆先生に相談をすることにしました。 まなび はじめ(以下、はじめ) 藤波先生、お久しぶりです。 藤波先生(以下、藤波) 久しぶり、はじめさん。広報のお仕事をされているんだっけ? はじめ 4月から人事部に異動したんです。でも、わからないことだらけで……。 藤波 今日は、そのことでいらしたのかしら。 はじめ そうなんです。 藤波 人事部では、何を担当しているの? はじめ 高齢者の雇用対策です。来年、70歳までの就業・雇用機会の確保が、企業の努力義務になるんですよね。だから、70歳までの雇用に耐えられる人事制度を整えないといけないんです。 藤波 あまり時間がないのね。 はじめ 何から手をつけたらよいか、わからなくて。 藤波 むずかしいわね。ちなみに、はじめさんの会社の定年は何歳なの? はじめ 60歳です。65歳までの雇用機会を設けています。 藤波 そもそも、はじめさんの会社では60代前半層の人材活用は、上手くいっているの? はじめ 上手くいっていません。意欲が低い高齢社員が多くて、現場の不満も大きいです。 藤波 まずは、そこから始めないといけないわね。今後はもっと、60歳以降の社員が増えるから、60代前半層をきちんと活用する仕組みをつくって、企業の競争力を高めるという発想に変えましょう。 はじめ 65歳以降の雇用は、これを足場に進めるということですね。 藤波 その通り、はじめさん。60代前半層の社員を活用する仕組みづくりのために何をすればいいのか、一緒に考えてみましょうね。 はじめ よろしくお願いします。 高齢者雇用対策を俯瞰(ふかん)しよう 藤波 はじめさんが“高齢者雇用”に取り組むにあたって何から着手したらよいのか、対策の内容を整理しましょう。優先順位をつけるには、全体像を知らないとね。 はじめ はーい。 藤波 企業の高齢者雇用対策には、おもに「健康管理・安全管理」と「人事管理」の二つがあるの。どちらも大事な対策なのよ。 はじめ 「健康管理・安全管理」分野の対策とは、“床の段差をなくす”とか“重いものを運ばなくていいように機械を導入する”、“社員の運動習慣をつくる”というようなことですね。 藤波 そうね。基本的な戦略は、「高齢者が本来持っている能力を活かす」ことにあるの。 はじめ んん? 藤波 高齢者は第一線で活躍できる能力を持っているでしょう。それでも、現場で高齢者が能力を発揮できないのは、高齢者に能力があっても視力や体力の低下といった問題が原因となることが多いのよ。 はじめ 能力の発揮を妨げる制約をなくせば、活躍してもらえるのですね。 藤波 「健康管理・安全管理」分野では、医学・工学的な知見を活かして、身体的機能の低下を補う方法や身体的負担を軽減する方法(機械の導入、工程改善など)、健康を維持・向上する方法などを開発し、実践してきたのよ。高齢者雇用対策は、この分野からスタートしたといってもいいくらい。だから、非常に多くの知見があるの。 はじめ そうなんですね。 藤波 「健康管理・安全管理」の対策をとると、現役世代も働きやすくなるから、社員全員にメリットがあるの。高齢者雇用が上手な企業は、現役社員にアピールして、現役社員も巻き込んだ全社的な活動に高めてきたのよ。 はじめ 多くの賛同者を得る、上手な進め方ですね。 藤波 この分野の対策は何をしたらよいのか、解説4(24頁〜)に詳しく書かれているから、読んでみてくださいね。 はじめ はい。高齢者雇用対策が「健康管理・安全管理」分野からスタートしたのは、対象となる高齢者が生産労働者など、工場などの現場で働く人たちに多かったからですか? 藤波 そう、その通りね。 はじめ 「人事管理」分野の対策は、「健康管理・安全管理」と比べて、十分ではなかったのですか? 藤波 そうなのよ。 昔は、高齢者の人数が少なかったから、労働条件は個別に決めることができたの。でも、だんだん対象者が増えて、個別対応はむずかしくなってしまったわ。 はじめ 今後も高齢者は増えるから、どこかで仕組みをつくる必要があるんですね。 藤波 はじめさんの会社では、ホワイトカラー層の高齢者はどんな雰囲気で働いているのかしら? はじめ 定年後に労働条件が下がったといって、不満を持つ人が多いんです。 藤波 それをなんとかしないとね。高齢者が多くなったいま、意欲が低い高齢者が増えると、問題は会社全体に波及してしまうわよ。 はじめ 雰囲気がよくないのは、嫌ですね。 藤波 持続的に経営活動を行うには、人件費もある程度抑えて、若い人たちへの世代交代も考えないといけないわよ。 はじめ この制約のなかで、高齢者の労働意欲の課題を考えないといけないんですね。 藤波 人事管理分野の問題は、比較的新しい課題なの。2006(平成18)年以降に顕著になってきたのよ。 はじめ 2004年に改正された高年齢者雇用安定法が施行された時期ですね。 藤波 60歳以降の雇用確保が企業の努力義務になって、60歳以降も働くホワイトカラー層が増えたの。団塊世代が定年を迎えた当時は、高齢者の労働意欲を高めることよりも、雇用機会の確保で精一杯だったのよ。 はじめ 「福祉的雇用」と呼ばれている活用方法ですね。 藤波 そうね。特に、ホワイトカラーは定年を機に仕事上の責任が大きく変わる場合が多かったの。管理職は役職を離れるから、仕事内容も大きく変わってしまうし、賃金水準も大きく下がってしまう。仕事も変わり、賃金も下がるから、労働意欲は相当低下していたのよ。 はじめ 工場で働く人たちは、どうだったのでしょうか。 藤波 定年を経ても、体力があれば、大きな変化はなかったわ。定年前後の労働条件の変化はホワイトカラーの方が大きいから、抱える課題も多かったわけね。さらに、ホワイトカラーの人数も増えているから、問題は一層、深刻だったの。 はじめ いろいろな会社で、私の会社と同じ課題が出ているんですね。 60代前半層の人事管理は進化する 藤波 労働意欲が低い人が増えると、企業も困ってしまうわね。 はじめ 労働意欲が下がれば、企業の生産性も下がります。 藤波 だから、最初は「福祉的雇用」をしていた企業も、人件費と世代交代の制約があるなかで、高齢者の戦力化に舵(かじ)を切るようになってきたの。 はじめ 定年を延長するんですか? 藤波 そうではないわ。定年前後で人事管理を変えるという「一国二制度型」※は維持して、高齢者の戦力化を図るのよ。それも一歩ずつね。 はじめ 高齢者の人事管理を、現役時と「まったく異なる」状態から「近い」状態に変えるのですね。具体的に、どのような段階をふむのでしょうか。 藤波 高齢者の期待レベルによって、いくつかの段階にわけられるの。細かくするとわかりにくいから、概要を掴(つか)むために三つにしましょうね。 はじめ ざっくりでお願いします! 藤波 第一段階は「福祉的雇用」、第二段階は「弱い活用」、第三段階は「強い活用」としましょう。図をご覧になって。縦軸は期待レベルを示しているの。現役時代と比べて、高齢者の期待レベルはどの程度なのかを示しているわ。箱になっているのは、高齢者の社員間で幅があるからよ。右に進むほど、活用レベルが上がると思ってね。 はじめ 一番左が、福祉的雇用ですね。2006年当時の活用といったところでしょうか。 藤波 そうね。高齢者の人事管理は、現役時と比べて「まったく異なる」状態よ。 はじめ 期待役割は大きく変わり、賃金水準も大幅に下がるんですよね。 藤波 第一段階は、戦略なき活用で、高齢者を戦力として活用する考えはまったくない状況なの。 はじめ 第二段階は「弱い活用」ですね。 藤波 仕事内容はあまり変えないけれど、仕事上の責任を下げて活用する段階ね。圧倒的多数が、いま、この段階にいるわ。 はじめ きちんと高齢者の活用を意識するところが、「福祉的雇用」との違いですね。 藤波 第二段階は、期待役割の変化を前提に、人事施策を整えることが、人事の課題になるの。 はじめ 何をすれば、期待役割の変化にうまく適応してもらえるのでしょうか。 藤波 雇用管理と報酬管理の二つの分野で、考えてみましょう。 はじめ はい。 藤波 雇用管理分野で重要な対策は、「期待する役割を伝えて、希望を知り、労使で調整する仕組み」を整えることよ。 はじめ 盛りだくさんです。具体的に、何をすればよいのですか? 藤波 二つあるわ。一つ目は、会社が高齢者に期待する役割を伝えて、高齢者が希望する仕事を把握し、話し合いを通じて調整することね。雇用契約を見直すとき、または目標管理と同時にするとよいのではないかしら。 はじめ 会社側の期待を一方的に伝えるだけじゃなくて、社員の情報を得ることも大事なんですね。 藤波 でも、これだけでは、不十分なの。 はじめ むむ。 藤波 変化にスムーズに適応するには、事前の準備が必要になるの。定年を迎えて、明日から違う役割でがんばってくださいといっても、気持ちの切り替えはむずかしいよね。 はじめ 急に変わるのは、だれでもむずかしいです。 藤波 そうでしょう。なので、定年後の準備のために、定年前にキャリアの振り返りによる自己理解と今後のキャリアプランを考えるキャリア研修を行うことが重要になるのよ。解説2(16頁〜)でも触れているから、読んでみてくださいね。 はじめ 後で確認します。 藤波 二つ目は、管理職への支援ね。これも重要な人事の役割なのよ。 はじめ 管理職への支援ですか? 藤波 高齢者の期待役割が変わるから、どのように活用したらよいのか困ってしまう管理職もいるの。 はじめ たしかに、管理職は戸惑いますよね。 藤波 この間まで先輩として働いていた人が部下になるでしょう。精神的にもたいへんよね。 はじめ 経験が浅い管理職もいますし。 藤波 だからこそ、“高齢者をサポートしている管理職”をサポートしてあげることも大事なのよ。人事部内に専任の支援部隊をつくり、定期的に面談することも重要になるのよ。そのほかの方法もあわせて解説3(20頁〜)で紹介されているから、そちらを読んでみてくださいね。 はじめ はーい! では、報酬管理はどうしたらよいのですか。 藤波 働きに見合った報酬制度を整えることが、最優先ね。 はじめ 「福祉的雇用」では、賃金はまったく考慮していなかったからですね。 藤波 「福祉的雇用」のときは、全員一律の賃金にして、大幅に水準を引き下げる方法が、多く見られたの。それだと、労働意欲は低くなってしまうわよね。 はじめ たしかに。個々のがんばりを評価してほしいし、高齢者だから、賃金を低く抑えてもよいという理屈はありません。 藤波 がんばりを賃金に反映することで、会社からの評価を実感できるわよね。 はじめ 多くの企業では、どのように反映させているんですか。 藤波 基本給は、定年到達前の等級制度・職位といった「過去の貢献」を基準に決める場合が多いわ。定年後のがんばりは、賞与や職務手当に反映させる企業が多いわね。 はじめ 基本給は、「過去の貢献」を基準に設定するので、高齢者もまあまあがんばってくれるということですね。 藤波 そう。重要なのは、「まあまあ」ということね。現在の仕事と基本給が分離しているから、期待レベルが変わっても変わらなくても、労働意欲は「まあまあ」担保できるというわけ。 はじめ さらに進むと、第三段階の「強い活用」となりますね。 藤波 定年はあっても、現役時代の期待レベルとほぼ変わらない段階になったわね。 はじめ 定年を節目に、さらにがんばってもらうんですね。 藤波 そうね。定年後の現役並みの活躍を前提とした人事施策を整えることが、人事の課題となるわ。 はじめ 「弱い活用」では、期待役割の変化に適応する一つの施策として「キャリア研修」を紹介していましたが、重要性はなくなるのでしょうか。 藤波 期待役割も大きく変化しなくなるから、研修内容は変わる可能性があるわね。 はじめ 役割が変わらないなら専門能力の向上の方が、重要そうです。 藤波 戦力化の期間が長くなると、現役時代に獲得した能力をさらに高め、活躍の範囲を広げることが企業にとっても高齢者にとっても重要になるからね。 はじめ そうなると、キャリア研修はどうなるのでしょうか。 藤波 若いうちから「社員が伸ばしたいスキル」と「会社が伸ばしてほしいスキル」を調整し、両者で能力開発の対象を決めることが大切になると思うわ。 はじめ キャリア研修は、そのような場になるということですね。 藤波 推測の域は出ないけど、おそらくはそうなるんじゃないかしら。 はじめ 報酬管理は、どうなるのでしょうか。 藤波 基本給の決め方も変わるでしょうね。基本給は、現在の仕事を反映した「いま基準」になるでしょう。統計分析に基づいた推論に過ぎないのだけど。でも、このような会社は、徐々に増えているのよ。 はじめ 「過去基準」よりも「いま基準」がよい理由は何でしょうか。 藤波 いまの貢献を基本給に反映するから、期待水準が高く設定されていれば、いまのがんばりが報酬により反映されるでしょう。すると、労働意欲が高く維持できる可能性が高まるのよ。 はじめ 賃金水準も高くなるということですね。 藤波 そうなるわね。 はじめ 現役時代と近い活用であれば、管理職も高齢者に遠慮する必要はなくなりますね! 藤波 そうなると、人事による現場の支援も相対的に少なくなるわ。これまで、高齢者の戦力化について説明をしてきたけれど、何となくわかったかしら? はじめ はい。やることはたくさんあるけれど、順を追って取り組みたいと思います。 藤波 何よりも、高齢者の支援に手間暇をかけることが重要よ。そうすれば、高齢者の働く意欲は高まり、さらに一層、活躍してくれると思うわ。解説1(12頁〜)とあわせて考えてみてね。 はじめ がんばります。 65歳以降の課題とは はじめ 先生、気が早い質問になるかと思うんですが……。 藤波 何かしら? はじめ いま教えてもらったステップをふんで、60代前半層も現役時代と同等の活用ができるようになったとして、です。 藤波 次は70歳まで働ける環境の整備ね。 はじめ 今日のお話をうかがうと、65歳以降も、似たような手順をふめばよいかなと思ったんです。65歳以降は現役時代とは程遠いので、まずは「弱い活用」を前提とした人事施策の整備から始めればよいのでしょうか。 藤波 そうね。60代前半層の活用でていねいに対応すれば、65歳以降の活用も同じ方法で考えればよいと思うわ。だから、はじめさんのいう通り、まったく初めて出会う課題は少ないんじゃないかしら。 はじめ やっぱり。 藤波 だけどね、違うところが、二つあるのよ。 はじめ なんでしょう。 藤波 まず、「65歳以降は」というより、年齢が上がれば上がるほど、高齢者の個人差は大きくなるわね。社員本人の健康面の個人差が大きくなるから、「健康管理・安全管理」分野の対策がより重要になるでしょう。それに、働く側のニーズも多様化するので、多様な働き方が可能な人事施策の準備が必要になるんじゃないかしら。 はじめ 働く期間が長くなると、避けては通れない課題です。 藤波 2020年改正法(2021年4月施行)は、いままでと少し内容が違うのよね。 はじめ 業務委託契約などの就業支援もあるんですよね。 藤波 そう。今回は、盛りだくさんになってしまったから、ここで説明するのは控えるけれど、いままでにない対応も増えるでしょう。 はじめ 何をしてよいのかわかりません。 藤波 そうでしょう。だから、きっとそういった面では新しい課題もいろいろ出てくると思うの。 はじめ 頭が痛くなりそう……。 藤波 新しい課題に直面する前に、少しでもいまある課題を片づけておくことが大切よ。そして、制度をつくったら、くり返し見直すことも大事ね。 はじめ はーい。先生のおかげで問題の整理がつきました。早速、会社に戻って60代前半層の人事制度の整備から取り組んでみます。 藤波 また、いらしてね。 はじめ はい! ありがとうございました。 ※ 一国二制度型……同じ会社のなかに、現役社員用の人事管理と、高齢社員用の人事管理が共存する状態のこと。詳しくは47頁「高齢社員の賃金戦略」を参照 図 高齢者の活用段階と人事施策 期待レベル 高 低 活用レベル 弱 強 現役時代の期待レベル 期待役割の伝達キャリア研修(意識転換)管理職への支援働きに見合った報酬 キャリア研修(能力向上)キャリアの調整仕事基準の基本給 <福祉的雇用> 戦略なき活用の状態仕事上の責任は大きく変えるが、ほとんど対策はない <弱い活用> 仕事上の責任を軽減する方針&変化への適応を支援する人事施策を拡充 <強い活用> 仕事上の責任は変えない方針&第一線での活躍を支援する人事施策を拡充 写真のキャプション 藤波美帆先生 【P12-15】 解説 1 仕事に身の入らない高齢社員がいるんです! 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 羽鳥ひよこ 25歳。この春に総務部人事課に異動してきた新任人事担当者 鼠見太郎 60歳。総務部に勤務する高齢社員 牛久大輔 32歳。総務部に勤務する羽鳥の先輩社員 トラブルの要因  マンガに出てくるJEEDシステム株式会社(情報通信業)では、 60歳定年・希望者全員65歳まで再雇用する制度を導入しています。しかし、総務部で働く再雇用社員の鼠見(ねずみ)さんは、仕事に対するやる気もなく、毎日社内をフラフラしています。その態度に、人事課に異動してきたばかりの羽鳥さんも呆あきれているようです。 問題の原因は全員一律の処遇の再雇用  継続雇用した高齢社員(60歳以上の社員)の人事管理で、企業が悩みを抱える問題の一つに、「高齢社員のモチベーションの低下」があげられています。現役社員(59歳以下の社員)時代は一生懸命仕事に取り組んでいたので、継続雇用後の活躍も期待していたのに、その期待が外れてしまい、人事担当者は頭を抱えてしまう。こうした悩みを耳にします。そこで、まず企業が期待していた高齢社員のモチベーションが低下してしまった原因を考えてみたいと思います。ここでポイントとなるのは、現役社員と高齢社員の人事管理の仕組みの違いです。  図表1は、一般的な企業の高齢社員(再雇用)の人事管理の仕組みを「役割の明確化」、「人事評価」、「処遇(賃金)」の三つの視点から整理したものです。  現役社員は企業によって中核的な業務をになうため、役割は明確化され、仕事の成果に応じて処遇が決められています。人事評価を実施して、その結果を昇給や賞与などに反映するので、月例賃金と賞与は個別的になります。しかしながら、高齢社員の人事管理は現役社員を支援・補佐する位置づけですので、役割は現役社員ほど明確になっておらず人事評価は行われていません。それは処遇の面からも確認でき、高齢社員の処遇(月例賃金と賞与)は全員一律です。すなわち、高齢社員は退職時の役職や社内資格にかかわらず、全員同一金額で再雇用されているのです。現役社員は仕事の成果が処遇に反映されるので、モチベーションが高いのに対して、高齢社員は退職時の役職や社内資格にかかわらず全員同一金額であるのに加え、仕事の成果が処遇に反映されることもないので、モチベーションは低くなってしまいます。 高齢社員活用の基本方針を考える  高齢社員のモチベーション低下の問題を解決するには、どのような取組みが必要でしょうか。ここでは「人事管理の公平性(社員の仕事の成果を「適切」に評価し、処遇に反映する基本的な考え)」の観点から考えてみたいと思います。  まず企業における高齢社員の位置づけから確認していきたいと思います。社員に占める高齢者の割合が高まりつつあるなか、事業活動を展開するうえで、長年の職業人生を通して蓄積してきたスキルや経験などを持つ高齢社員は、多くの企業にとって重要な戦力であり、不可欠な存在になっています。少子高齢化のなかで、今後とも高齢社員の戦力化を進めていくことになるでしょう。  こうした高齢社員の人事管理の仕組みを考える際にさらに注意する点として、政府の高齢者雇用政策があげられます。多くの企業で採られている正社員の定年制度や継続雇用制度等(以下、「人事管理の基本設計」)は「60歳定年、65歳まで再雇用」ですが、これは高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)に基づいて整備されています。この高齢法は2020(令和2)年3月に改正され、企業に対して70歳までの就業機会を確保するための措置を制度化する努力義務が設けられました(2021年4月1日施行)。そこで、改正された高齢法(以下、「新高齢法」)と改正前の高齢法(以下、「旧高齢法」)との比較で確認してみましょう(図表2)。  第一は企業に対する法律の拘束力です。旧高齢法は65歳までの高年齢者雇用確保措置を「義務」としていたのに対し、新高齢法は70歳までの高年齢者就業機会確保措置を「努力義務」としている点です。第二は、雇用確保(就業機会確保)の措置を制度化する選択肢の違いです。旧高齢法は「定年引上げ」、「継続雇用制度の導入(子会社・関連会社等を含む)」、「定年廃止」であったのに対し、新高齢法はこれらに加えて「継続雇用制度の導入(他の事業主を含む)」、「高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入」、「高年齢者が希望するときは、『70歳まで継続的に事業主が自ら実施する社会貢献事業』、あるいは『事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業』に従事できる制度の導入」といった措置の選択肢が増えています。  新高齢法における70歳までの就業機会確保は努力義務となっているので、現行の65歳までの高齢社員の人事管理の仕組みでも当面は問題ありませんが、長期的な視点で考えた場合、社員が長く働くことができる環境を整備することは、単に高齢社員だけではなく、いずれ高齢社員になる現役社員のモチベーションにもよい影響を与えることができます。そこで以下では、70歳までの高齢社員の人事管理の仕組みをどう整備するかについて考えていきたいと思います。  まずは、高齢社員活用の基本方針のタイプを確認することから始めます。先ほど述べたように、今後とも企業にとって高齢社員は大切な戦力です。しかし、高齢社員活用の基本方針を「戦力化」としても、そのタイプによって人事管理の仕組みづくりが異なります。戦力化のタイプには現役社員と同じように高齢社員を活用する「現役社員同等型」と、現役社員をサポートする「現役社員支援型」の二つに大別されます。どちらのタイプを採るかは企業経営における高齢社員の位置づけ(存在)をはじめとして、仕事特性、企業特性、産業特性など企業が置かれる経営環境によって異なります。 70歳まで雇用する人事管理の基本設計を考える  こうした基本方針のもとで形成される、70歳まで雇用する人事管理の基本設計を考えてみると、現役社員同等型のタイプを採る場合は、「70歳までの定年引上げ」と「定年廃止」です。現役社員と同じ役割をになうことを期待しますので、高齢社員には現役社員と同じ人事管理の仕組みを適用することが、人事管理の公平性の観点から求められます。しかし、ここで注意しなければならないのが、現在の現役社員の人事管理は「60歳定年」を前提に設計されているということです。そのため、多くの企業は賃金や仕事、役職などの課題から、定年年齢をそのまま「60歳」から「70歳(あるいは定年廃止)」に変更することは組織運営の観点からむずかしいと考え、70歳定年(あるいは定年廃止)を前提にした人事管理の仕組みの構築が求められます。  一方、現役社員支援型の場合には多様な措置のなかからどの措置にするかを決めなければなりません。その際に65歳定年引上げを65歳超の就業機会確保とセットで行うか否かを決める必要があります。旧高齢法の経過措置移行期間が2025年3月31日で終了し、その後は65歳までの雇用確保が義務化されますので、いずれ65歳定年引上げの議論が始まることになるでしょう。マンガの会社のように、「60歳定年、65歳まで再雇用」に加えて、「65歳超の就業機会確保措置」を設けたとしても、その後に65歳定年引上げを検討しなければなりません。来年4月から施行される新高齢法を機に「65歳定年引上げ」と「65歳超の就業機会確保措置」を「セット方式」で行うか、それともはじめに「65歳超の就業機会確保措置」を新設して、その後に「65歳定年引上げ」を行う「二段階方式」で行うかを決めることが求められます。どちらの方式を採るかは高齢社員活用の基本方針と同じように、企業経営における高齢社員の位置づけや、企業が置かれる経営環境によって異なります。なお、セット方式における65歳定年引上げについては、70歳定年引上げと同じ対応が求められます。 「65歳超の就業機会確保措置」の人事管理の仕組みを考える  最後に「65歳超の就業機会確保措置」の人事管理の仕組みですが、新高齢法では70歳までの就業機会確保措置には従来の継続雇用制度以外にも、他の企業(子会社・関連会社以外)への再就職、個人とのフリーランス契約への資金提供、個人の起業支援、社会貢献活動への資金提供といった多様なタイプがありますので、そのなかから企業が置かれている経営環境をふまえてタイプを決めることが求められます。  従来の継続雇用制度を採る場合には、高齢社員のモチベーションを高めるためにも、人事管理の公平性の観点から現役社員と同じように期待する役割を明確にし、そして仕事の成果を適切に評価し、処遇に反映することが求められます。それに対して、新高齢法で示された新たな措置を採る場合には、上記の対応とは異なる対応が求められます。高齢社員は自社内(子会社・関連会社を含む)で働くことを前提にしていましたが、新たな措置の場合には社外で活躍することになるからです。高齢社員は雇用されうる知識・スキルなどを身につけておくことが必要になり、そのための支援体制の整備・拡充が企業に求められます。また自社内ではなく社外で活躍してもらうことを重視する場合には、キャリア形成のあり方にも影響を与えることになり、場合によっては人事管理の仕組み自体の見直しが必要になることが考えられます。  こうした役割の明確化と適正な評価や処遇の整備の事例として医療法人Aの取組みを紹介します。 医療法人Aの事例:定年・継続雇用年齢を引き上げ、人事制度もそのまま  医療法人Aは、人材確保とベテラン職員のノウハウの継承を目的に、定年年齢を60歳から65歳に、継続雇用制度の上限年齢を65歳から70歳に引き上げました。基本給は定年時の賃金水準が維持され、昇給は行われません(医師を除く)。賞与は現役社員と同じで、人事評価は現役社員と同じ賞与査定のみを行っています。 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2020)『65歳超雇用推進事例集2020』を一部修正 図表1 現役社員と高齢社員(再雇用)の人事管理の違い 現役社員 高齢社員 役割の明確化 ○ △ 人事管理の個別施策 人事評価 実施 なし 処遇(賃金) 月例賃金 個別的 全員一律 昇給 実施 なし 賞与 個別的 全員一律 社員のモチベーション 高 低 ※筆者作成 図表2 旧高齢法と新高齢法の高年齢者雇用・就業確保措置の比較 制度 内容 旧 65歳までの高年齢者雇用確保措置〔義務〕 @65歳までの定年引上げ A希望者全員を対象とする、65歳までの継続雇用制度の導入  (子会社・関連会社等を含む) B定年廃止 新 70歳までの高年齢者就業確保措置〔努力義務〕 @70歳までの定年引上げ A70歳までの継続雇用制度の導入  (子会社・関連会社等に加えて、他の事業主を含む) B定年廃止 C高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 D高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に  a.事業主が自ら実施する社会貢献事業  b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業に従事できる制度の導入 ※努力義務について雇用以外の措置(C及びD)による場合には、労働者の過半数を代表する者等の同意を得た上で導入されるものとする 出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000626609.pdf)をもとに作成 【P16-19】 解説 2 必要なスキルを身につけてくれません! 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 卯川飛雄 45歳。複数の高齢社員が勤務するコールセンター事業部の課長 寅谷福子 60歳。定年・再雇用にともないコールセンターに配属された高齢社員 トラブルの要因  マンガに出てくるJEEDシステム株式会社で、定年まで営業事務の仕事を担当していた寅谷(とらたに)さんは、昨年定年退職し再雇用されました。再雇用後に配属されたのはコールセンター。ところが寅谷さん、コールセンターでの新しい仕事を覚える気がないようです。 失敗の原因は高齢社員の活用方針に連動した支援体制の整備・拡充不足  会社に勤める人にとって、定年は40年近く歩んできたキャリアにおける、大きな節目となります。年金支給開始年齢引上げ前までは定年を機に職業人生を終えて、自分の趣味や家族の介護など個人の生活を過ごす人が多く見られていましたが、その引上げの施行やライフスタイルの多様化などにより、定年後も継続雇用で働く高齢社員が一般的になりました。  高齢社員にとって継続雇用後の仕事は定年前の仕事を続けることが理想的です。それまでつちかってきた知識や経験、技能を活かせるので安心して、その力を発揮できるからです。しかし、人材活用方針などの組織運営の関係上、高齢社員全員の継続雇用後も定年前と同じ仕事にすること(例えば、定年後も引き続き管理職を継続すること)はむずかしく、(個人によって内容や程度に差はありますが)条件が変わるのが現状です。そのため、現役時と継続雇用後の仕事内容とのギャップに不安を引き起こし、新しい役割に適応できず、仕事への意欲やモチベーションなどを失ってしまう高齢社員が出てしまうことが考えられます。  マンガに登場する高齢社員は再雇用後、定年前とは異なる職場(コールセンター)に配属され、異なる仕事(問合せ業務)に従事するようになったため、新しい環境に適応できず、現役社員時代のように仕事への意欲やモチベーションを持つことができなくなってしまっているのではないでしょうか。ここでポイントとなるのは、高齢社員活用の基本方針に連動したキャリア支援体制の整備・拡充不足です。  高齢社員の活用方針とキャリア支援体制の変遷の概要を整理した図表1を見てください。昭和期は現在と比べ全社員に占める高齢社員の比率が低く、定年後も引き続き仕事を続けることを希望する高齢社員が少ない状況にありました。政府の高齢者雇用政策に協力するため、企業は活用方針としてこれまで長年にわたり会社に貢献してきた高齢社員を継続雇用する福祉的雇用(戦力として仕事の成果を出して経営業績に貢献することは重要視せずに雇用する考え)が採られていました。対象者がかぎられていたため、高齢社員が従事する職務開発は限定的でキャリア教育や仕事に必要な能力開発は積極的に行われていませんでした。  平成期に入ると高齢者雇用を取り巻く環境は大きく変わりました。高年齢者雇用安定法の改正による65歳までの雇用確保措置の義務化と少子高齢化の進展による高齢社員の増加は、福祉的雇用を採る企業に基本方針の見直しを迫り、人手不足に悩まされている産業・企業を中心に戦力化への転換が図られました。加齢にともなう身体機能の低下などに配慮しつつ、高齢社員がこれまでつちかってきた経験・スキルなどを活かせる職務開発を行う一方、高齢社員に戦力として働いてもらうための必要なキャリア教育と能力開発が進められました。  マンガに登場する会社の情報通信業界は人手不足に悩まされているものの、ほかの産業に比べて比較的若い産業であるため高齢社員が少なく、彼らを活用するためのキャリア支援体制が十分に整備されていないことがトラブル発生につながったと思われます。  それでは、現在、高齢社員の戦力化を考えている企業は、先行して戦力化に取り組んでいる企業を目標に自社のキャリア支援体制を見直せばよいのでしょうか。令和期に入った現在、それだけでは不十分な状況になりました。なぜなら、今年、高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの高齢社員の就業機会を確保することが、企業の努力義務として課せられたからです(2021年4月1日施行)。現時点では「努力義務」とはいえ、少子高齢化の進展は高齢社員の比率をさらに高めることを意味しますし、平成期の政府の高齢者雇用政策の変遷をふり返ると、いずれは「義務化」になることが予想されます。また、大手企業を中心に役職定年が増えつつあるなか、50代で管理職を離れ、専門職、専任職、あるいは一般社員などの非管理職(以下、「一般社員等」)として定年まで働き、その後、継続雇用に切り替わり70歳まで働いてもらうことを念頭におくと、10 年以上一般社員等としてのキャリアを歩むことになるので、能力開発を行い、業務スキルを磨き続けておくことが求められます。 キャリア・プランの見直し〜「のぼるキャリア」から「くだりのあるキャリア」へ〜  これまでの社員のキャリア・プランは中核的な役割をになう管理職を目ざすことを目標にした「のぼるキャリア」でした。しかし、先に紹介したように、大企業を中心に普及しつつある役職定年制によって、管理職は定年前に役職を離れ、一般社員等としてのキャリアを歩むことになります。さらに、今後は年金支給開始年齢の段階的引上げの経過措置終了にともなう65歳定年の動きが始まることが予想されますので、役職定年制の普及はさらに広がることが考えられます。こうした動きはキャリア・プランの見直しを意味し、管理職として定年を迎える「のぼるキャリア」から定年前に管理職を離れ一般社員等のキャリアを歩む「くだりのあるキャリア」への転換を意味します。  また、定年後の継続雇用のキャリアについても改めて検討することが必要になります。  平成期の65歳までの雇用確保措置のもとでは、定年を迎えた60歳から継続雇用上限年齢の65歳までの5年間の高齢社員を活用する際、これまでつちかってきた経験・スキルなどを活かせる仕事を担当してもらうことが互いにとって最適な方法と考えられていました。ただし、企業側の組織運営上の観点から高齢社員全員の継続雇用後の仕事を定年前と同じ仕事にすることはむずかしく、マンガに登場するようにまったく異なる仕事に配属された高齢社員もみられます。  令和期では、役職定年と70歳までの就業機会確保を念頭にした場合、10年以上一般社員等として戦力として活躍してもらうことになりますので、これまでつちかってきた経験・スキルなどを活かせる仕事を担当してもらう方法を継続するのは人材活用施策の観点からむずかしくなります。そのため、隣接あるいは関連する領域の仕事(職域)に広げたり、さらにビジネス環境の変化に対応した新しい技術の習得や業務スキルなどを磨いたりすることが求められるといえるでしょう。 70歳まで戦力として活躍してもらうためのキャリア支援体制の見直し (1)キャリア教育の実施・拡充  こうしたキャリア・プランの見直しは、「のぼるキャリア」を前提に整備されているキャリア支援体制、特にキャリア教育、教育訓練体系の見直しが必要になります。まずキャリア教育については、これまでの「のぼるキャリア」では管理職を目ざすことが社員の間で共有されていたので、キャリア教育を行う必要性が低く、行うとしても定年後のキャリアや生活設計などを考えることを目的としたライフプラン研修が中心でした。  しかし「くだりのあるキャリア」のもとでは、これまでの福祉的雇用における仕事への取組み意識からの転換を図ること、そして戦力として活躍してもらうための能力の棚卸しが必要になります(もちろん、解説1で紹介したように、評価・処遇の見直しをセットで取り組むことが必要になります)。また、こうしたキャリア教育をいつから行うかという、キャリア教育の実施時期の問題もあります。役職定年の定年年齢は一般に50代半ばから始まりますし、キャリア形成のあり方が大きく変わりますので、50代になってから始めるのではなく、会社の第一線で活躍している40代から定期的にキャリア教育を実施することが必要になります。 (2)教育訓練体系  次に教育訓練体系についてですが、これまで管理職向けの業務にかかわるおもな研修は、管理職として必要なマネジメント能力やリーダーシップなどの習得・向上を目的とした研修でした。しかし、「くだりのあるキャリア」に対応したキャリア教育での能力の棚卸しとライン業務に必要な能力の更新、すなわち定年前に管理職を離れ一般社員等として従事するライン業務に必要な知識や能力などを、現役社員時代から磨いておくことが必要になりますので、管理職、高齢社員も必要に応じて受講できる教育訓練体系に見直すことが求められます。  また業務スキルの習得・向上に関する自己啓発支援についても、受講対象者を若手や中堅社員などに限定している場合にはそれをなくして、管理職や高齢社員も参加できるようにすることも求められます。  こうしたキャリア支援の事例としてB社の取組みを紹介します。この事例の特徴は外部機関が開発した診断ツールを用いて定年以降も活き活き働くための能力診断を社員に実施している点です。 B社の事例:定年以降も活き活き働くための能力診断を実施  電子部品製造業のB社は、入社時から社員にキャリアを考えてもらう機会を定期的に実施しています。特に50歳到達者を対象とした「キャリア研修」では、定年以降も活き活き働き続けるために高齢社員に共通して求められる能力の理解と習得をねらいとして、中央職業能力開発協会(JAVADA)が開発した能力診断ツールなどを用いて、60歳以降に期待される役割の明確化とそれにともなって必要となる意識の切り替えに重点を置いた内容の研修を実施しています。 B社におけるキャリア開発に関する研修の概要 対象者 25歳 入社10年目(32歳) 年度内に50歳を迎える社員全員 56歳到達者 58歳到達者 ねらい キャリア開発の理解 キャリアの自覚促進と、方向性の明確化 定年以降も活き活き働き続けるため、シニアに共通して求められる能力の理解と習得 マネー、健康、生きがいの理解 定年後の再雇用への準備 内容 キャリア開発と内的キャリア、3年後のキャリアプラン構築 キャリア アンカー、10年後のキャリアビジョン構築、行動計画作成等 雇用延長時に求められる役割とキャリア・シフトチェンジの必要性理解。キャリア・シフトチェンジに必要なプラットフォーム能力の理解等 定年後の生活設計、健康管理、生きがいづくり 再雇用制度の確認、マネープラン 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『エルダー』2018年2月号を一部修正 図表1 高齢社員の活用方針とキャリア支援体制の変遷 昭和期 平成期 令和期 社員に占める高齢社員比率 低 高 さらに高 高齢社員の活用方針 福祉的雇用 戦力化移行期 戦力化 キャリア支援体制 職務開発 △ ○ ◎ キャリア教育等 △ △ ◎ ※筆者作成 【P20-23】 解説 3 再雇用した元部長に困っています! 高千穂大学 経営学部 教授 田口 和雄 相馬牧子 52歳。1年前に営業部の部長に就任。部下からの信頼も厚い 長尾辰巳 61歳。定年と同時に営業部長を退いた高齢社員 トラブルの要因  マンガに出てくるJEEDシステム株式会社営業部の長尾さんは、1年前まで営業部長を務めていましたが、60歳の定年を機に役職を外れ、そのまま営業部で働いています。しかし、再雇用になったいまも気分は営業部長。現在の営業部長である相馬さんをさしおいて指示を出すなど、立場をわきまえない振舞いが目立ち、若手社員の不満も溜まってきているようです。 失敗の原因は職場の社員構成の変化に対する会社の現役管理職への支援不足  マンガに登場するように、現役管理職の上司と元管理職の高齢社員が同じ職場で働いている状況は近年、増えつつあります。その背景には、解説1と解説2で紹介している役職定年制の普及と定年後の継続雇用などで働く高齢社員の増加があります。  こうした状況が増える以前の職場における総合職の社員構成(以下、「職場の社員構成」)は、管理職が「勤続年数の長い年上の社員」で、部下は「勤続年数の短い年下の社員」が一般的でした(図表1)。そして、管理職は定年になると職業人生を終えて自分の趣味や家族の介護などのセカンドキャリアを歩む人が多かったので、定年後も継続雇用などで働く高齢社員は現在と比べて少数でした。このような状況のもとでは、上司・部下の関係(勤続年数の長い年上/勤続年数の短い年下)ははっきりしており、また管理職研修においてもこうした職場を前提にしたマネジメントの方法やリーダーシップなどの研修が行われ、管理職はマネジメントスキルを習得していました。  しかし、マンガに登場する職場の社員構成のように、職場には現役管理職より年上の高齢社員が、ほかの現役社員と一緒にデスクを並べて働くことがいまでは日常の光景となってきました。現役管理職は、元上司あるいは先輩社員である高齢社員への気兼ねから、現役社員の部下に対してと同様に仕事の指示を出したり、管理職時代の意識が抜けない高齢社員の行動を直すよう指導したりすることを躊躇(ためら)ってしまいます。こうした状況に対して、会社は職場の社員構成の変化に対応して管理職研修などの能力開発を見直すなど、現役管理職を支援しなければならないのですが、それらが適切に行われておらず、現役管理職にそのしわ寄せがきています。こうした状況が続くと職場が混乱・疲弊してしまい、人間関係がギクシャクしてしまいます。 「年下上司・年上部下」は多様化が進む職場の社員構成の一つの事象  この職場の日常的な光景の変化は、単に年下上司と年上部下だけではありません。さらに複雑です。その概要を整理した図表2を見てください。職場の社員構成を「性差」、「国籍」、「採用経路」、「管理職からみた部下の年齢」、「勤務形態」の各視点から見ると、これまでは、ほとんど日本人の職場で同性が多く、採用は新卒者中心、部下は管理職より年下、勤務形態はフルタイム勤務といった同質性の高い構成でした。こうしたなかで、年上上司・年下部下に代表される同質性の高い社員構成をもとにした職場マネジメントや管理職研修などの能力開発が行われていました。  しかし、少子高齢化の進展をはじめ、女性の社会進出と働き方の多様化、経済活動のグローバル化など、企業を取り巻く経営環境は大きく変わりました。その結果、職場は同性中心から同性・異性混合へ、日本人社員に外国人社員が加わる構成へ、新卒者中心の採用経路に中途採用者が加わる構成へ、管理職は年下部下に加え年上部下もマネジメントするようになる、フルタイム勤務に短時間勤務が加わる勤務形態の多様化が進む、といった変化が起こりました。  つまり、社員構成はこれまでの同質性の高い構成から多様性のある構成へと変わりつつあります。今回のテーマである「年下上司・年上部下」問題は、こうした職場の社員構成の多様化の一つの事象なのです。 職場の社員構成の多様化に対する現役管理職支援を考える (1)現役管理職の年下上司だけではなく、職場の社員全員にまで影響  このように職場の社員構成が多様化しつつあるにもかかわらず、職場マネジメントや管理職研修などの能力開発は、これまでの同質性の高い社員構成を前提にしたままでした。現役管理職は管理職研修で身につけた従来のマネジメントスキルをもとに職場マネジメントを行っているため、今回の悩みの種である自分より知識や経験、スキルを持つ年上部下への適切な指示の出し方、指導の仕方がわからず困惑しているのではないでしょうか。  また、年上部下の高齢社員にも悩みや戸惑いがあります。高齢社員も現役管理職と同じ境遇でしたので、仕事の指示や指導を受けるのは年上の管理職や先輩社員からしかなく、年下の管理職から受ける経験はありませんでした。定年や役職定年によって管理職を離れ、一般社員等になったことを頭では理解しても、その心構えと意識の切り替えが十分にできずに管理職の意識が残ってしまい、仕事や職責の変化、新しい役割などにうまく適応できないのです。そのため、マンガに登場する元管理職の高齢社員のように、職場の一般社員と同じ目線に立てずに管理職として振る舞ってしまい、年下の現役管理職や職場の年下同僚を困らせているのではないでしょうか。  さらに、高齢社員と机を並べる職場の現役社員も同じ状況です。これまで上司だったり、先輩社員だったりした高齢社員が同僚として机を並べて仕事をするようになったので、どのように接したり、どうコミュニケーションを取ったりしたらいいかわからず戸惑ってしまいます。このように職場の社員構成の変化によって現役管理職だけではなく、職場の社員全員が困惑しています。 (2)現役管理職の能力開発  こうした課題に対してどのように取り組んでいけばよいでしょうか。先に紹介したように、職場の社員構成の変化に対応して職場マネジメントや管理職などの能力開発を見直すことが求められます。職場マネジメントは、多様な社員が働くことを前提としたものにして、能力開発については、現役管理職の年下上司、年上部下の高齢社員、職場の現役社員のそれぞれに対する支援が必要です。高齢社員に対するおもな支援はキャリア教育などであり、詳しくは解説2を参照してください。  現役管理職の能力開発については、部下への仕事の指示の出し方や指導の仕方があげられます。管理職は、組織上の地位(管理職)とそれに付与されている権限と責任に基づいて、部下に仕事の指示を出したり、指導をしたりしています。一般に、年下部下にとって年上上司は、組織上の地位(管理職)の関係に加えて、社会的地位(年齢)が上位(年上)であり、勤続年数などの職業人生の経験値が自分よりも高い存在です。  そのため、管理職という組織上の地位という(上位からの)目線が含まれる仕事の指示・指導には違和感を抱きませんが、年上部下の高齢社員にとっては、社会的地位や職業人生の経験値が逆転するため、管理職という組織上の地位という(上位)目線が含まれる仕事の指示・指導には戸惑いや、時に反発が生まれてしまいます。また、年下管理職は、これまで年下部下にしか仕事の指示・指導を出した経験しかないため、年上部下への仕事の指示の出し方や指導の仕方に悩んでしまうのです。  そのため、管理職研修における年上部下への仕事の指示の出し方や指導の仕方を身につける研修が必要になります。また、高齢社員と同僚になる現役社員に対しても、現役管理職と同じように高齢社員への接し方、コミュニケーションの取り方などの能力開発を行うことが必要になります。  こうした現役管理職支援の事例としてC社の取組みを紹介します。この事例の特徴は当機構が実施している企業における中高年齢従業員・職場の活性化を支援する「就業意識向上研修」を活用して中間管理職の管理職研修を実施している点です。 C社の事例:中間管理職の意識改革を目的とした管理職研修を実施  ガラスメーカーのC社は、30代後半から40代を中心とする中間管理職(現場では組長・職長、事務系では課長代理クラス)を対象とした管理職研修を、当機構の「就業意識向上研修(生涯現役職場管理者研修)」を活用して実施しました。研修では、管理職としての基本的なマネジメント方法などのほかに、高齢社員を戦力として活用するための管理スキルの習得が行われました。例えば、「年上部下との接し方」は、高齢社員との関係づくりの仕方、チェックリストを使った高齢社員とのコミュニケーションの取り方などの実践的な内容を取り入れています。 就業意識向上研修の全体像 職場管理者研修 生涯現役職場管理者研修(基礎編) 生涯現役マネジメント研修(展開編) 中高年齢従業員研修 生涯現役ライフプラン研修(基礎編) 生涯現役エキスパート研修(展開編) 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2019)『エルダー』2019年7月号をもとに作成 図表1 職場の「上司・部下」の関係の変化 上司(管理職) 部下 これまで 年上(勤続年数:長い) 年下(勤続年数:短い) 現在 年下(元部下) 年上(元上司) ※筆者作成 図表2 職場の社員構成の変化 これまで 現在 性差 同性中心 同性・異性混合 国籍 日本人 日本人+外国人 採用経路 新卒者中心 新卒・中途併用 管理職からみた部下の年齢 年下 年下・年上 勤務形態 フルタイム勤務 フルタイム勤務+短時間勤務 社員構成の特徴 高い同質性 多様化 ※筆者作成 【P24-27】 解説 4 高齢社員が持病の悪化で休みがちに! 福岡教育大学 教育学部 准教授 樋口善之 糸巻羊子 63歳。総務部に勤務する高齢社員。持病の腰痛がある 猿田紋子 62歳。総務部に勤務する高齢社員。持病の関節痛がある 戌井一 64歳。総務部に勤務する高齢社員。最近元気がないが… トラブルの要因  マンガのJEEDシステム株式会社総務部では、複数の高齢社員が働いています。デスクワークとはいえ、なかには腰痛や関節痛などを抱えながら仕事をしている人もおり、業務に支障が出るほどの疾患を抱えている人も。メンタル不調に陥る高齢社員もおり、羽鳥さんをはじめとした若手社員に負担が集中してしまうこともあるようです。 はじめに  健康や体力についての不安や主訴は、年齢が上がるにつれて顕在化する場合があります。2016(平成28)年の国民生活基礎調査の報告によると、病気やけがなどの自覚症状のある者(有訴者)の割合は、千人あたり、20代では209・2人であるのに対し、50代では308・8人、60代では352・8人と、年齢とともに増加する傾向が見られます(図表1)。マンガのなかで腰痛や関節痛に悩む人が登場していましたが、実際の調査においても、腰痛や肩こり、関節痛は男女ともに上位5症状に含まれています。  では、どのような取組みが必要となるのでしょうか。  まず目の前の対策として、身体的な主訴がある場合には、その主訴が作業や作業環境によって増悪することを防ぐことが必要になってきます。「腰が痛いにもかかわらず、重たいものを持ち上げなければならない」、「膝が痛いにもかかわらず、立ち座り作業をくり返さなければならない」といったことは、生産性の面からも、本人の労働意欲や生活機能面においても多大な損失につながります。  次に、より大きな視点で問題を考えてみると、運動―老化サイクル≠フモデルがヒントになります(図表2)。年齢が増加することにより、運動が不足し、そのことが身体能力を低下させ、さらに社会的、心理的な老化につながり、身体活動がさらに低下し……と続くこのモデルから考えると、生活のなかで運動を取り入れ、身体活動量を維持することの重要性が示唆されます。  また、身体能力が低下することにより、そのことが社会的・心理的な老化につながる点も注目すべきです。社会的な老化が進むことにより、とのつながりや集団での生産活動への意欲が低下し、抑うつ傾向になることを避けなければなりません。職場において心身両面に対する適度な負荷は、ある意味、健康な生活を送るための必要条件であり、労働生活が60歳から65歳へ、さらに70歳へと延伸することが期待される現在の日本にとって、高齢期の労働生活の価値を再評価し、健康と労働の調和を目ざしていくことが、何よりも重要な取組みになります。 具体的な健康対策とは  では、具体的にどのような取組みが必要になるのかを考えてみたいと思います。 ■筋骨格系主訴に対して  筋骨格系主訴の場合、痛みの原因に対するアプローチと職場環境の改善に対するアプローチが考えられます。痛みの原因が変形性関節症のような整形外科的要因に起因する場合は医療機関の受診がすすめられ、適切な治療により症状をコントロールすることが肝要です。内科的疾患の可能性もあることから、自己判断によらず、専門的な診断を受けることが第一だと思います。その際には、後述の両立支援≠ノついても参考にしてください。  職場環境の改善については、局所的な負荷を減らすため、作業中の姿勢や作業に用いる治具(じぐ)・工具などの重さや形状、作業手順などを見直し、作業者の特性に合わせる取組みを行いましょう。その際には、安全面への配慮も含め、中央労働災害防止協会の『エイジアクション100』※1のようなチェックリストを用いることをおすすめします。 ■慢性疾患に対して  慢性疾患の場合、服薬や日常の体調管理(体温や血圧などの測定を含む)が重要になります。病状や仕事への影響について、主治医と職場の産業保健スタッフとの連携関係が構築されることが理想的です。そのためには、いわゆる両立支援(治療と職業生活の両立)≠ノ対する理解を職場で深めていくことから始められてはいかがでしょうか。  厚生労働省『治療と職業生活の両立等の支援に関する検討会報告書』によると、両立支援とは「病気を抱えながらも、働く意欲・能力のある労働者が、仕事を理由として治療機会を逃すことなく、また治療の必要性を理由として職業生活の継続を妨げられることなく、適切な治療を受けながら、生き生きと就労を続けられること」とされており、当該研究班より、両立支援を進めるためのガイドブック(産業医・産業保健スタッフ向け※2、主治医向け※3、企業経営者・人事担当者向け※4)も公開されています。 ■メンタルヘルスに対して  中高齢期におけるメンタルヘルスについての統計情報として、2017年の『患者調査』のデータのうち、「気分[感情]障害(躁うつ病を含む)」および「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害」の患者数を年齢階級別にみますと、「45〜54歳」で高値を示した後、減少傾向がみられます(図表3)。また、性差の影響もあり、男性よりも女性の方がメンタルヘルスに関連する疾患の患者数は多い傾向があります(図表4)。産業保健分野に特化した報告においては、中高年労働者のストレスやメンタルヘルスの特徴として、「役割や地位の変化による悩み」があり、「相談相手が見つけにくい」ことがあげられています※5。  また、マンガのなかに登場したような「食欲や睡眠」にかかわる生活要因の影響から元気さが失われることも想定されます。このことについては、老齢医学の領域においてモデル化されており(図表5)、加齢による生体恒常性(体内の状態を一定に保つ仕組み、ホメオスタシスとも呼ばれる)の低下に、活動性の低下や疾患、服薬などが加わり、不眠症につながることが示されています。加齢にともなって睡眠時間が短くなったり、若いときに比べて眠りが浅くなったりすること自体は病気ではありませんが、日常生活に影響をおよぼすレベルでの不眠症は避けなければなりません。  これらのことから職場での対策を考えていきますと、冒頭でお示しした運動―老化サイクル≠ェヒントになると思います。職場での身体活動やコミュニケーションは、加齢にともなう心身機能の変化に対して、予防的に働くことが期待されます。通勤や仕事上での適度な身体活動は、生活リズムの安定に寄与し、睡眠の質や食欲の向上につながると思われます。その際には、「職場内外での相談相手」の有無に気を配り、「性差」についても考慮する必要があるでしょう。 ※1 中央労働災害防止協会『エイジアクション100』https://www.jisha.or.jp/research/ageaction100/index.html ※2 順天堂大学医学部衛生学講座「産業医・産業保健スタッフのための主治医・医療機関との連携ガイド」http://plaza.umin.ac.jp/~j-eisei/renkei/guide%20A.pdf ※3 順天堂大学医学部衛生学講座「主治医・プライマリケア医のための産業医・患者の職場との連携ガイド」http://plaza.umin.ac.jp/~j-eisei/renkei/guide%20B.pdf ※4 順天堂大学医学部衛生学講座「企業経営者・人事労務担当者のための主治医・医療機関との連携ガイド」http://plaza.umin.ac.jp/~j-eisei/renkei/guide%20C.pdf ※5 亀田高志「中高年労働者のメンタルヘルスにおける現状と課題」『エルダー』2018年1月号 図表1 病気やケガなどの自覚症状のある者の割合(千人あたり) 60代 352.8 20代 209.2 50代 308.8 出典:厚生労働省「国民生活基礎調査(2016年)」のデータからグラフ化 図表2 運動―老化サイクル 身体的劣化 年齢の増加 運動不足 身体能力の低下 社会的、心理的な老化 身体活動のさらなる低下 出典:『加齢と運動の生理学』(朝倉書店)p.11より 図表3 「精神および行動の障害」患者数・年齢階級別(単位:千人) 気分〔感情〕障害(躁うつ病を含む) 神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害 15歳未満 15〜24歳 25〜34歳 35〜44歳 45〜54歳 55〜64歳 65〜74歳 75歳以上 出典:厚生労働省『患者調査(2017年)』のデータからグラフ化 図表4 男女別・年齢階級別の「気分障害」患者数(単位:千人) 男性・気分〔感情〕障害(躁うつ病を含む) 女性・気分〔感情〕障害(躁うつ病を含む) 45〜54歳 55〜64歳 65〜74歳 75歳以上 出典:厚生労働省『患者調査(2017年)』のデータからグラフ化 図表5 加齢と不眠症の関連性 加齢による恒常性維持機構、生体リズム機構の機能低下 活動性・社会性低下、感覚機器感受性低下による光同調因子、社会同調因子の減弱 ●身体疾患(糖尿病、高血圧、慢性肺疾患、脳血管性障害) ●薬剤性(降圧薬、抗潰瘍薬、気管支拡張剤、ステロイド剤、アルコールなど) ●精神疾患(うつ病、認知症など) ●心理・社会的ストレス 不眠症 睡眠覚醒リズム障害 【P28-30】 解説 5 高齢者雇用を支援する助成金制度 65歳超雇用推進助成金について 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 高齢者助成部 「65歳超雇用推進助成金」とは?  この助成金は、次の三つのコースで成り立っている制度です。  @65歳超継続雇用促進コース  A高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  B高年齢者無期雇用転換コース  いずれのコースも共通して、以下の要件を満たすことが必要です。 ・雇用保険の適用事業所の事業主であること ・「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の第8条、第9条第1項の規定と異なる定めをしていないこと  以下で@〜Bのコースの特徴を、ご説明します。 「65歳超継続雇用促進コース」とは?  この助成金は就業規則等による、「65歳以上への定年引上げ」、「定年の定めの廃止」、「希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入」を行う事業主に対して助成し、「生涯現役社会」の構築に向けて、高齢者の就労機会の確保および雇用の安定を図ることを目的としています。 (1)主な支給要件 ・就業規則等で定めている定年年齢等を、旧定年年齢(就業規則等で定められていた定年年齢のうち、平成28年10月19日以降、最も高い年齢)を上回る年齢に引き上げていること ・定年の引上げなどの実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること ・改正後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ていること ・1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること ・高年齢者雇用推進者の選任および高年齢者雇用管理に関する措置を一つ以上実施している事業主であること (2)支給額  実施内容により、図表の額を支給します。 「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」とは?  この助成金は、高年齢者の雇用の推進を図るための措置(高年齢者雇用管理の整備措置※1)を実施した事業主に対して助成し、高年齢者の雇用の機会の増大を図ることを目的としています。 (1)高年齢者雇用管理整備措置の内容  @高年齢者の能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しまたは導入  A法定の健康診断以上の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (2)支給額  支給対象経費※2の60%《75%》、ただし、中小企業事業主以外は45%《60%》となります。 〔《 》内は生産性要件を満たす場合〕 「高年齢者無期雇用転換コース」とは?  この助成金は、高齢者が意欲と能力があるかぎり年齢にかかわりなく活き活きと働ける社会を構築していくために、50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換させた事業主に対して助成し、高齢者の雇用の安定を図ることを目的としています。 (1)申請する前に  「高年齢者無期雇用転換コース」への申請を考えている場合は、次の@、Aの要件を満たす必要があります。  @有期契約労働者を無期雇用労働者に転換する制度※3を労働協約、就業規則、その他これに準じるものに規定していること  A高年齢者雇用推進者の選任および高年齢者雇用管理に関する措置を一つ以上実施している事業主であること  これらの要件を満たしたうえで、無期雇用転換計画書の提出が必要となります。 (2)支給額 ・対象労働者1人につき48万円(中小企業事業主以外は38万円) ・生産性要件を満たす場合には対象労働者1人につき60万円(中小企業事業主以外は48万円) 「生産性」、「生産性要件」とは?  今後、労働力人口の減少が見込まれるなかで経済成長を図っていくためには、個々の労働者が生み出す付加価値(生産性)を高めていくことが不可欠である、との考えから、生産性を向上させた企業に対して助成額または助成率を割増して助成金が支給されることになりました。「生産性」は次の計算式によって計算します。 生産性=(営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課)÷雇用保険被保険者数  (ただし、企業会計基準を用いることができない事業所については、個別にお問い合わせください)  また、生産性要件とは次の@、Aの要件を満たしていることをさします。  @助成金の支給申請を行う年度の直近の会計年度における「生産性」がその3年度前に比べて6%以上伸びていること  A生産性の算定対象となる事業所において、生産性の伸び率を算定する期間に事業主都合による離職者を発生させていないこと 助成金の詳細について  「65歳超雇用推進助成金」の詳細は、当機構ホームページをご確認ください(JEED 検索→「高齢者雇用の支援」→「助成金」)。  また、各助成金に関するお問合せや申請は都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課、連絡先は65頁参照)までお願いします。 高齢者雇用促進のためのその他の助成金 編集部  当機構の「65歳超雇用推進助成金」のほかにも、高齢者を雇用した場合の助成金として、「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース・生涯現役コース)」、40歳以上の中高齢者等が起業する場合に、事業運営に必要な従業員(中高齢者)の雇入れを行う際の採用・募集等の費用の一部を助成する「中途採用等支援助成金(生涯現役起業支援コース)」があります。いずれもハローワークや都道府県労働局が窓口となります。 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)  高齢者や障害者などの就職困難者をハローワークなどの紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に支給されます。この助成金の対象となる高齢者は60歳以上65歳未満の方です。  高齢者を雇い入れた場合の助成対象期間は1年間で、支給対象期(6カ月間)ごとに支給されます。支給額は「短時間労働者以外」(1週間の所定労働時間が30時間以上)と「短時間労働者」(1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の者)で異なり、中小企業が短時間労働者以外を雇用する場合、60万円を2期にわけ30万円ずつ(中小企業以外は50万円を2期にわけ25万円ずつ)支給されます。  中小企業が短時間労働者を雇用する場合は、40万円を2期にわけ20万円ずつ(中小企業以外は30万円を2期にわけて15万円ずつ)支給されます。 特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)  65歳以上の離職者をハローワークなどの紹介により、1年以上継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に支給されます。助成対象期間は1年間で、支給対象期(6カ月間)ごとに支給されます。短時間労働者以外を中小企業が雇用する場合、70万円を2期にわけ35万円ずつ(中小企業以外は、60万円を2期にわけて30万円ずつ)支給されます。  中小企業が短時間労働者を雇用する場合は、50万円を2期にわけて25万円ずつ(中小企業以外は40万円を2期にわけて20万円ずつ)支給されます。 中途採用等支援助成金(生涯現役起業支援コース)  この助成金は、中高年齢者等(40歳以上)の方の起業を支援するもので、従業員の雇入れに関する「雇用創出措置助成分」と、生産性を向上させた場合に別途支給される「生産性向上助成分」があります。 ◆雇用創出措置助成分  40歳以上の方が、「雇用創出に係る計画書」を提出し、事業運営のために労働者を新たに雇い入れた場合、その募集・採用や教育訓練の実施(「雇用創出措置」)に要した費用の一部を助成します。  助成額は、計画書の計画期間内に要した雇用創出措置に係る費用に助成率をかけた額です。助成率・支給上限額は起業者の起業年齢によって異なります※4。 ◆生産性向上助成分  「雇用創出措置に係る計画書」を提出した日の属する会計年度とその3年度経過後の会計年度の生産性を比較して、その伸び率が6%以上である場合に「雇用創出措置助成分」の助成額の4分の1の額を別途支給します ※1 55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要です ※2 措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサルタントとの相談に要した経費のほか、当該措置の実施にともない必要となる機器などの導入に要した経費を支給対象経費とします。経費の額に関わらず、初回の申請に限り50万円の費用を要したものとみなします。2回目以降の申請は50万円を上限とする経費を支給対象経費とします ※3 実施期間が明示され、かつ有期契約労働者として平成25年4月1日以降に締結された契約に係る期間が通算5年以内の者を無期雇用労働者に転換するものに限ります ※4 60歳以上の場合、助成率は3分の2(支給上限額200万円)、40〜59歳の場合、助成率は2分の1(支給上限額150万円) 図表 「65歳超継続雇用促進コース」支給額 (単位:万円) 65歳への定年引上げ 66歳以上への定年引上げ 定年の廃止 66〜69歳の継続雇用への引上げ 70歳以上の継続雇用への引上げ @ 5歳未満 5歳 5歳未満 5歳以上 4歳未満 4歳 5歳未満 5歳以上 A 1〜2人 10 15 15 20 20 5 10 10 15 3〜9人 25 100 30 120 120 15 60 20 80 10人以上 30 150 35 160 160 20 80 25 100 ★1事業主あたり(企業単位)1回かぎりとします ★定年引上げと継続雇用制度の導入をあわせて実施した場合でも支給額はいずれか高い額のみとなります ⇒@引上げた年齢 ⇒A対象被保険者数  (対象被保険者は、当該事業主に1年以上継続して雇用されている者であって、期間の定めのない労働契約を締結する労働者または定年後に継続雇用制度もしくは会社選別継続雇用制度により引き続き雇用されている者に限ります) 【P31】 日本史にみる長寿食 FOOD 322 オクラのネバネバうまし 食文化史研究家● 永山久夫 クレオパトラの肉スープ  オクラは、生の状態でも食感が納豆にそっくり。刻んで、カツオ節をまぶし、醤油をかけてかき混ぜて、ご飯にかけて食べると、ネバネバ、ツルツルとのどごしがよく、実にうまくて3杯は軽い。空腹のときだったら、もっと食べられます。  オクラの原産地はアフリカ北東部で、古代文明の栄えたエジプトでは、紀元前からつくられていたそうです。  世界の三大美女のひとりであるクレオパトラも、美容食としてオクラでとろみをつけた肉スープを、愛飲していたと伝えられています。  骨付きの鳥肉をじっくりと煮込んでコラーゲンをとり出し、そこへオクラを入れることで、ネバネバ・トロトロ成分のムチンやビタミンCを加え、肌の若さと美しい容貌を維持するために、役立たせていたのではないでしょうか。  クレオパトラと関係があるからなのでしょうか、「レディー・フィンガー(貴婦人の指)」という、小粋なネーミングもあります。  オクラは、味や機能性のユニークさから、ヨーロッパやアメリカなどで広く普及していき、明治の初めのころに、アメリカから日本に渡来しています。そのときの英語名である「OKRA」がそのまま日本名となりました。 スタミナ強化にも役立つ黄身おとし  独特のネバネバはムチンやペクチンなどの成分で、水溶性の食物繊維であり、腸内の善玉菌を増やして、免疫力を強化する作用があります。食後の血糖値の上昇を抑えて、お通じを整える働きがあることもわかっています。  整腸作用に加えて、スタミナ強化作用もあり、夏バテによる体力回復にも役立ってきました。暑い夏に増えやすい活性酸素の害を防ぐ抗酸化効果の高いカロテンやビタミンE、ビタミンCが多く、暑さを乗り切るためにも注目の食材です。  みじん切りにしたオクラを卵の黄身に混ぜ、もみ海苔をふりかけて、醤油で味をつけワサビを添えると、「黄身おとし」という絶品料理になります。  また、オクラと山イモをすりおろして混ぜると、緑色の美しいとろろ料理に。これもワサビともみ海苔をかけ、醤油で味を整え、ご飯にかけると、立派な「長寿どんぶり」のでき上がりです。 【P32-36】 短期連載 マンガで見る高齢者雇用 第4回 「高齢社員にがんばってもらいたいが、体調や健康も心配」 〈先月号のあらすじ〉 「希望者全員70歳までの雇用」を目ざすことになった株式会社エルダー。65歳超雇用推進プランナー・是石の訪問を受けて、現状の把握から始めると、高齢社員のモチベーションの問題が浮上した。是石のヒアリングは続く。 ※ 65歳超雇用推進プランナー……高齢者雇用に関する専門知識や経験などをもつ専門家。当機構からの委嘱により、事業主に対し高齢者雇用にかかわる具体的な制度改善提案や相談・助言などを行っている ★ この物語に登場する企業・人物は架空のものです。 ※1 例:「週3〜4日勤務」、「半日単位の勤務」などにする。 ※2 例:「週1日は在宅勤務、週2日は出勤」など。 第1回〜第3回はホームページでご覧になれます。 エルダー 2020年 マンガ 検索 つづく 【P37】 解説 マンガで見る高齢者雇用 第4回 「高齢社員にがんばってもらいたいが、体調や健康も心配」 多様な勤務形態の導入で高齢社員の健康を守る  加齢により身体機能が低下する高齢者の場合、職場の危険要因を分析し改善を図るなど、職場の安全対策の取組みは欠かせません。一方で、高齢社員の場合は、本人の体調の問題や、家族の介護などにより、フルタイム勤務がむずかしくなるケースもあります。そこでカギとなるのが、短日勤務、短時間勤務など、個人の事情に合わせて働ける「多様な勤務形態」です。また、高齢社員に長く活躍してもらう意味でも、健康診断の有効活用や簡単な体操の実施などで、高齢社員自身の体力・健康意識の向上を図ることも効果的です。 多様な勤務形態の導入  高齢社員自身の病気の治療や家族の介護など、さまざまな事情により、高齢になるとフルタイム勤務がむずかしくなるケースがあります。この場合、フルタイム勤務の制度しかないと、治療や介護のために遅刻や早退、欠勤などが増えてしまい、ほかの社員への負担が増える可能性があるほか、職場に居心地の悪さを覚え、退職を選択するケースも出てくるかもしれません。  そこで必要なのが「多様な勤務形態」の導入です。短日勤務や短時間勤務、在宅勤務などが選択できる制度を設けることで、体力的な負担を軽減することができます。  また、多様な勤務形態を活用している高齢社員を、同じ業務に配置することで、突発的な欠勤などがあっても、業務への支障を最小限にとどめることが可能です。 従業員の健康意識を向上させるさまざまな施策  70歳までの就業機会の確保を見すえると、高齢社員自身の健康意識を高めることが必要でしょう。例えば、自由に利用できる血圧測定器を社内に設置する、朝礼時に簡単な体操を実施するなどにより、高齢者自身の健康に対する意識や体力を向上させることができます。  そのほか、社員の健康対策にはさまざまな事例がありますので、当機構ホームページもぜひご活用ください。 JEED 健康管理改善事例 検索 【P38-39】 江戸から東京へ [第93回] 密集地域に“汁鍋”のすすめ 水戸黄門 作家 童門冬二 美談だった光秀の汁鍋  今回の新型コロナウイルス感染防止のためのステイホーム(お家(うち)引きこもり)・外出自粛≠続けているうちに、水戸黄門の汁鍋奨励≠思い出した。  黄門というのは古代中国の唐という国の、「中納言(ちゅうなごん)(権も含まれる)」の位の別称だ。水戸黄門は水戸徳川二代目の藩主だが、領国の常陸(ひたち)(茨城県)は、源頼朝に重用された源氏系の佐竹氏の治政が長く、拠点のあった太田地域の住民は特にかれを慕っていた。  勢いその佐竹氏を逐(お)って新しく領主になった徳川氏には、悪感情を抱いた。二代目の光圀(みつくに)はそれをやわらげ、ほぐそうと懸命だった。いままで紹介した生母の墓や隠居所(西山荘)の設置など※のほか、今回の汁鍋奨励≠烽サの一つだ。  汁鍋≠ニいうのは、人々の密集地域で週あるいは月単位で「当番」を決める。当番は出汁を効かせた汁だけ用意して待つ。近隣の人々は鍋に入れる魚・野菜・獣(猪など)肉などの食材を持って参加する(鍋に入れる)。そして、時事放談(ただしツバを飛ばす大声は出さない)に耽(ふ)ける。  光圀はこれを各地域に拡げ、民心の和を策さくした。反徳川感情を親徳川感情に変えようとしたのだ。コストの余りかからない住民の意識改革″である。成果のほどはわからない。  ただ私の知るところでは、この汁鍋懇談会≠ヘ水戸黄門のオリジナルではない。歴史を齧(かじ)った人ならばその人物と常識化している、有名な人物の催しとして名高い。その人物というのは、主人の織田信長殺し≠ニしていまだに名を高めている明智光秀だ。  「光秀はなぜ信長を殺したのか?」  というのは、いまだに解明されない歴史ミステリーの一つだ。光秀の汁鍋には美談が付着している。妻との愛情物語だ。 一癖ある黄門さまの汁鍋  美濃国(岐阜県)で、浪(牢)人生活を続ける光秀は、6人の仲間と汁鍋講≠つくった。月に一度当番≠フ家に集(たか)る。このときの当番は汁だけでなく具(食材)も用意する義務を負う。  光秀が当番になったとき、具を用意する金がなかった。その日が近づくにつれ光秀は悩んだ。ところが妻が、  「心配しないでください。私が用意しましょう」  と胸を叩いた。妻は美しい髪の持ち主だった。それをバッサリ切って売り、汁に入れる食材を買いととのえたのである。戦国の美談≠ニして伝えられている。逆臣≠ニか、主殺し≠ニか悪名を高めた光秀はこのエピソードによってかなりマイナス点を減らしている。  が、ここで書くのはそんなことではない。  「汁鍋で名を高めたのは明智光秀だ」  ということを光圀が知っていたのかどうか、ということだ。もちろんそんなことは現在(いま)ならどうでもいいことだが、光圀の時代は「徳川家康」がすべての価値基準になる。  それも、  「家康を高く評価するか(家康のタヌキ性を是認し、プラス点にするか)どうか」  というふみ絵(徳川政治への正直な感想)%Iテストだ。訊く側は家康讃美者かシンパだろうから、否定的反応を示せば後の扱いはいわれなくてもわかる。  「大日本史」を編んだ光圀は、  「石田三成は忠臣だ」  と、家康の最大の敵をほめる公正な歴史観の持ち主≠セといわれるから、どう応ずるかわからない。ただ、  「明智光秀は徳川家康にとって、どういう立ち位置にいるのか(プラスかマイナスか)」  ということがあまり論じられていないので、光圀がどう考えていたのか不明だが、汁鍋≠フ件が黄門さまのエピソードとしては、プラスの話として伝えられていないなかには、  「密集社会で開かれる前に黄門さまが亡くなってしまった」  などという声が残っているそうだ。  そうなると私の下衆(げす)の勘繰り感覚≠ェピンと立ち上がる。  (黄門さまの汁鍋のすすめには、やはり民の声への探り、ひいては世論誘導の下心があったのだろうか)  と。  閉ざされた密集社会≠ヘ、やはり長く続くと閉ざされた発想≠生む。未知数を残しながらも「全面解除」にふみ切った政府の英断は大歓迎だ。 ※ 本誌2019年12月号掲載 【P40-41】 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第75回  多田辰男さん(80歳)は、うどん製造の経験を活かして、飲食業界ひとすじに歩いてきた。元気に働ける喜びを力に、80歳になるいまも現場に立ち続ける。どんなときも前向きな多田さんが生涯現役を目ざす心意気を語る。 株式会社 平(たいら)本店 かすが町市場 パート従業員 多田(ただ)辰男(たつお)さん 我慢と辛抱を重ねて  私は香川県大川(おおかわ)郡(現さぬき市)に生まれました。農家の5人兄弟で、私は4番目です。中学校を卒業すると、兵庫県西脇(にしわき)市でうどん製造をしていた遠縁にあたる親方のもとへ修業に出ました。親方はさぬき出身で、手打ちうどんの経験も豊富でした。西脇市は播州織(ばんしゅうおり)の産地として有名ですが、縁あってうどん製造の道を選んだことが、その後長く働き続けることにつながりました。  2年間は丁稚奉公(でっちぼうこう)のような毎日が続きました。朝4時に起床すると、まずうどんづくりを手伝い、その後自転車で町の食堂などにうどんを卸(おろ)すのが私のおもな仕事でした。中学を出たばかりの少年でしたから、朝早く起きることが一番つらかったです。また、支給された仕事着は自分で洗濯しなければならず、北風が吹くなか、冷たい井戸水で手洗いしていると、親のありがたみが身に沁(し)みてきました。何度も郷里に帰りたくなりましたが、旅費のあてもなく、とにかく辛抱の日々でした。  初めて給金をもらったときは本当にうれしくて、ずっとほしかった洋服ダンスを月賦(げっぷ)で買いました。このタンスは61歳になるまで私の手元にありました。同世代の人なら似た経験があるかと思いますが、我慢と辛抱を重ねたことが私の原点になっています。  丁稚奉公制度は戦後すぐに廃止されたが、業界によっては根強く残っていたとのこと。我慢と辛抱の連続であったが、うどんづくりを一から教わったことには感謝している。 二人三脚で新たな出発  18歳でバイクの免許を、21歳でオート三輪の免許も取得。うどんづくりの意欲も高まり、やりがいのある毎日でした。しかし22歳のとき、学校給食に卸していたうどんが原因で赤痢※が発生、親方が隔離されるという大事件が起きました。新聞やラジオでも報道され、小さな町を揺るがしましたが、幸い2週間ほどで親方は復帰しました。しかし、失った信用を取り戻すのには苦労しました。  15歳で親方のもとで見習いを始めてから10年という歳月が流れるなかで、将来について真剣に考えるようになりました。そろそろ所帯を持ちたいと思っていたころ、友人の紹介で現在の妻と知り合いました。親方も喜んでくれて、結納から新婚旅行までの一切の費用を出してくれました。いわばこれが「のれん分け」でした。  結婚後もしばらくは親方のもとで夫婦一緒に働きましたが、30歳のとき新天地を求めて神戸市三宮(さんのみや)の天ぷらの店に移ることにしました。当時、三宮で和裁の仕事をしていた姉の紹介でしたが、そのころは珍しかった「お座敷天ぷら」の店として名を馳(は)せており、寿司や会席料理の店舗も展開していました。私は生そばの専門店に配属され、そばづくりや天ぷらを一から勉強しました。一回りも年下の若者に怒鳴られながら仕事を覚えたものです。天ぷらは揚げる温度が命。閉店後に、残った油で何度も何度も揚げる練習をしたことを懐かしく思い出します。 夢を叶(かな)えるために  天ぷらをきれいに揚げられるようになると、どんどん仕事が楽しくなってきました。不思議なもので、自信が生まれると、それまでずっと夢に見てきたことが叶うような気がしてきたのです。そして、三人の子どもに恵まれたこともあり、自分の店を持ちたいという気持ちがどんどん強くなりました。店を立ち上げた友人に話を聞いたり、高松市内で工務店を営む義兄に相談したりと、着々と夢に向かって準備を進め、36歳で念願の店を高松市に持つことができました。資金は親や銀行から借りての出発でしたが、手打ちうどんをはじめ、生そばや天ぷらなど、それまでに身につけた技をフルに活かしての食事処は大いに繁盛し、4年で完済することができました。料理学校に通っていた妻は、巻きずしやいなりずしをつくって協力してくれました。高松の繁華街に近く、バーやスナックで飲んだ後に顔を出してくれる常連さんも増えました。店は深夜1時までの営業で、経営が軌道に乗るまで睡眠時間は2、3時間の日が半年以上続きました。多忙な両親に代わって、小学生の長女が弟と妹の面倒を見てくれましたが、参観日などの学校行事にも参加できず、子どもたちにはとても寂しい思いをさせてしまいました。  多くの人に支えられ、開店から25年を迎えた年、長年の無理がたたったのか体調を崩し、断腸の思いで店を閉じることにしました。最後の日は大みそかでしたが、常連さんが花束を持って駆けつけてくれました。61歳のときのことです。  1年ほど体を休めた後、派遣社員として病院で配膳の仕事に就く。うどん業界に戻りたいと願うが、現実は厳しかった。それでも我慢と辛抱の人、多田さんはあきらめなかった。 元気に働けることに感謝して  ハローワークに通う日々のなかで、株式会社平本店が経営する、さぬきうどんの店「セルフうどんキリン」が職人を募集していることを知り、面接に出かけました。まずは1週間ほど仕事ぶりを見ましょうということになり、3日目に女将(おかみ)さんから「よかったら働いてみますか」と声をかけてもらいました。平本店は市内に8店舗を展開しており、どのお店もうどんはもちろん、豊富なメニューが大好評です。私はうどんの裁断をはじめ、さまざまな場面でこれまでの経験を活かす機会を得ました。67歳から8年間「セルフうどんキリン」で働き、その後系列店の「かすが町市場」に移り、現在に至っています。  昨年の暮れに転倒してひざを痛め、全治6週間と診断されました。ついに年貢の納めどきかと思いましたが、女将さんが「早く治して復帰してください」とお見舞いにきてくれました。その言葉を励みにリハビリに努め、診断より1週間早く現場に戻ることができました。加齢とともに転倒事故が増えるとのこと。今後は一層気を引き締めて、けがをしないように心がけていきたいと思います。  会社が必要としてくれるかぎり、長く働きたい私の健康管理法は、朝一番にうがいをした後、コップ1杯の水を飲むことです。また、出勤1時間前には入念にストレッチを行い、仕事が終わる夕方には30分しっかり歩くようにしています。趣味は観葉植物づくりで、マンションのベランダで楽しんでいます。  「うどん県」といわれる香川県で、うどん業界を歩き続けてきたことは私の誇りです。我慢と辛抱は、そのときはどんなにつらくても、いつか必ず花が咲くことを若い人に伝えたい。お客さまの笑顔を力に、明日も店に向かいます。 ※ 赤痢……下痢や発熱、血便、腹痛などをともなう大腸感染症 【P42-45】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第98回 秋田県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 「社員の幸せがいい仕事につながる」高齢者も若者も元気に活躍する職場へ 企業プロフィール 株式会社英明(えいめい)工務店(秋田県秋田市) ▲創業 1949(昭和24)年 ▲業種  総合建設業(土木工事・舗装工事・建築工事・下水道管更生工事・造園工事・道路河川の維持管理業務・介護リフォーム) ▲従業員数 40人 (60歳以上男女内訳) 男性(16人)、女性(1人) (年齢内訳) 60〜64歳 7人(17.5%) 65〜69歳 4人(10.0%) 70歳以上 6人(15.0%) ▲定年・継続雇用制度 定年66歳。会社が特に必要と認める場合、年齢制限なく継続雇用する 65歳以上の人口割合が37・1%  日本で最も深く神秘的な美しさと評される田沢湖や、青森県南西部から秋田県北西部にまたがる世界自然遺産白神山地(しらかみさんち)など、数々の人気観光地がある秋田県。竿燈(かんとう)まつりや花輪(はなわ)ばやし、なまはげ、かまくらなどの伝統行事や秋田犬も有名です。古くは農業、林業、鉱業を中心に栄え、現在も全国に誇る有数の米どころです。  一方、高齢化率が高いことでも知られ、2019(令和元)年7月1日現在の秋田県の高齢化率(総人口に占める満65歳以上の割合)は37・1%となっています。  当機構の秋田支部高齢・障害者業務課の結城(ゆうき)聡(さとし)課長は、「少子化も進んでいるうえ、就職などで県外へと離れていく人も多く、人口減少が著しい県でもあります。そのため、高齢者の雇用はほとんどの業種で必須となっており、事業継続のためには何らかの取組みをせざるを得なくなっています。そういった事情もあり、高齢者の活用に対する事業所の理解が深く、事業所の総務担当の方からは賃金体系や人事などについて具体的な助言を求められます」と、県内の高齢者雇用を取り巻く環境などを話します。  こうしたなか秋田支部では、職業安定機関をはじめ、高齢者雇用に取り組む業界団体などと協調し、情報交換などを通じて、協同による講演活動を行うことにも注力しています。  今回は、同支部で活躍する65歳超雇用推進プランナー・渡辺(わたなべ)博人(ひろと)さんの案内で、「株式会社英明 工務店」の高齢者雇用の取組みを紹介します。 「企業は人なり」を実践  株式会社英明工務店は、加藤(かとう)憲成(けんせい)代表取締役社長の父が1949(昭和24)年に秋田市内に創業し、同県を流れる一級河川雄物(おもの)川の河川管理をはじめ、公共の土木や舗装、建築工事を中心に手がけて発展。「生活を豊かに、ゆとりの生活を」という言葉を目標に掲げて、「信用第一、正確無比な工事とたゆまない技術の向上」をモットーに、自然と調和した環境空間づくりに努めています。  経営の面では「企業は人なり」、「社員の幸せがいい仕事につながり、会社を発展させる」という考え方にもとづいて、公共工事の減少などにより経営的に厳しい時期においても雇用を維持してきました。長年にわたり、高校生のインターンシップを受け入れており、2019(平成31)年4月には2人の新卒者の採用に結びついています。  また、高齢者や障害者の方々に「やさしい取組み」を行う「秋田市エイジフレンドリーパートナー」に登録し、同社の敷地内に「ルーミングハウス」(高齢者向け下宿)を建設。快適な住環境を提供したり、町内会と連携して高齢者宅の除雪や維持修繕の支援を行うなど、高齢者の生活を支えるさまざまな取組みを行っています。 いつまでも働いてもらえる職場へ  加藤社長は「社員が働きやすい職場環境を整えることが私の仕事」と語り、その一環として技術力を高めるための研修に力を入れており、高齢者雇用については次のように話します。  「高齢者には高い技術力・資格があり、豊かな経験は労働災害防止にも貢献しています。働くことが生きがいにつながりますので、働けるうちはいつまでも働いてもらいたい。高齢社員には若手へ技術を伝える役割を期待しており、すでに若手社員から、高齢社員が懇切丁寧に教えてくれることに対して感謝の声があります」  同社は2005年に定年60歳・希望者全員65歳まで継続雇用する制度を導入し、2017年には定年を66歳に延長。同時に、定年後は会社が必要と求めれば年齢制限なしで継続雇用する制度に改めました。渡辺プランナーはこの間に同社の高齢者雇用の相談・助言を行い、企画立案サービス※により、公的給付金を活用した継続雇用者の賃金設定などをサポートしました。  「もともと長年働いている社員を大事にする社風があり、65歳を超えて働いている方がいらしたので、66歳への定年延長は実情に合わせてすすめたものです。同時に、改めて課題を抽出し、解決を図る糸口を探るために、企業診断システムの活用を提案しました」(渡辺プランナー)  企業診断システムは、高齢社員の活用に向けて取り組むべき課題と方向性を整理するために開発された当機構のシステム。同社では同システムの診断結果をふまえて、渡辺プランナーから提案された就業意識向上研修(管理者研修)の実施を受け入れ、2019年に同研修を行いました。  「高齢社員が増えていることに加え、新規学卒者の入社もあり、現場の管理者の役割が特に重要になっていると考え、管理者向け研修をすすめました」(渡辺プランナー)  研修は4時間にわたり、管理者としての現在の自分を知ることから始めて、管理者と組織の役割、コミュニケーション、部下の育成、高齢者の特性、法令などをわかりやすく伝え、最後は受講者一人ひとりが管理者としての今後の決意を表明するという内容でした。同研修は、加藤社長にとっても手応えのある研修だったようです。  「技術習得の研修は行いますが、こうした研修は初めて。たいへん勉強になり、受講者も刺激を受けたようです。渡辺プランナーには、社員が長く働いてもらうための取組みについて、今後もアドバイスをお願いしたい」(加藤社長)  今回は、同社工事部に所属するお2人とそれぞれの上司の方にお話を聞きました。 説得力のある行動が手本に  柴田(しばた)傳三郎(でんざぶろう)さん(73歳)は、他社を定年退職後、67歳のときに入社し、河川維持管理業務の世話役として、週5日フルタイムで勤務しています。若いときは大型トラックの運転手として10年ほど運送会社に勤め、その後は大学の専門職員として課外活動の助手作業を行っていました。  現在のおもな仕事は、社内の安全衛生管理と、河川維持管理ための除草作業の世話役として、効率よく作業が進められるように管理すること。  「事故防止と、現場周辺の第三者への安全確保を常に心がけて取り組んでいます。前職では個人や少人数での仕事が多かったのですが、いまは仲間が多く交流があることや、除草作業の完了時にきれいな堤防を見たときの爽快感がやりがいになっています。これからも事故やけがの防止に努め、人間関係を大切にして、元気なうちはこの仕事を続けていきたいと思っています。会社にいると、若い人も含めていろいろな年代の人と話ができる。それも楽しいんです」(柴田さん)  工事部長の佐々木(ささき)司(つかさ)さんは、柴田さんの仕事ぶりについて次のように話します。  「柴田さんは陣頭指揮をとって、作業員の安全を確保しながら日々作業に従事しています。長年の多様な経験と多方面からの視点により、行動に説得力がありますし、几帳面な性格で作業所や資材倉庫などが常に整理されていることも手本になります。柴田さんをはじめとする高齢社員のみなさんには、豊富な経験と知識、その技量をいかんなく発揮し、元気なかぎり働いてもらいたいですね」  吉田(よしだ)進(すすむ)さん(64歳)は、建設資材を扱う専門商社で定年・再雇用を経て退職後、63歳のときに入社。前職の経験と1級土木施工管理技士の資格を活かして、現在は担当工事の施工管理と、工事安全書類の作成支援と安全巡視、ISO関連書類の作成など、土木工事を行ううえで必要な書類の作成支援や安全の確保を担当し、フルタイムで週5日勤務しています。  「入社してまだ1年ですので、勉強することばかりで、職務上の実務能力をあげること、できる実務を増やすことに励んでいます。初めて経験する工事が多いので、新しい発見があり、勉強になることに魅力を感じています。今後も健康管理に気をつけて、元気に仕事に取り組めるよう努めたい。年齢に関係なく、一つひとつ勉強しながら、自分の能力を高めていきたいですね。いまはそのことがやりがいになっています」(吉田さん)  専務取締役の伊藤(いとう)隆一(りゅういち)さんは、吉田さんの仕事に対する前向きな姿勢を高く評価しています。  「吉田さんは長年の経験による説得力を持った仕事をされ、年下の社員に対しても礼儀正しく対応しています。スキルを存分に発揮し、お客さまへの対応がとても上手で頼りになります。また、向上心を持って取り組んでいるところが、素晴らしいと思います」(伊藤専務取締役) 新型コロナウイルスへの対応を活かしたい  新型コロナウイルス対策として、同社では感染予防を第一に考え、現場作業を2班にわけて、交互に就労する体制をとりました。緊急対応ではあったものの、渡辺プランナーは今後の高齢者雇用を考えるうえでのヒントになると話します。  「高齢者の働き方や、仕事と治療の両立などの柔軟な働き方を考えるうえでも、たいへん参考になる取組みだと思います」(渡辺プランナー)  最後に、加藤社長に今後の展望についてうかがいました。  「年々進化している新しい建設機械を導入するとともに、社員の健康管理、安全衛生管理、労災事故防止、働きやすい職場環境づくりにさらに注力したいですね。秋田県は少子高齢化と人口減少に歯止めがかかりません。人口減少のおもな要因は若者の県外流出にありますが、当社には若い社員が入社しました。高齢社員の力を活かして大事に育てて、高齢者も若者も元気に活き活きと働くことができる職場にしていきたいです」 (取材・増山美智子) ※ 企画立案サービス……高齢者雇用などに取り組む事業主などに対して、65歳超雇用推進プランナーらによる相談・助言の過程で発見された個別課題について必要な条件整備(人事管理制度の整備、賃金・退職金制度の整備、職場改善・職域開発など)のための具体的な改善案を作成し、提供するもの。かかる費用は、当機構と事業主がそれぞれ2分の1ずつ負担する 渡辺博人 プランナー(63歳) アドバイザー・プランナー歴:16年 [渡辺プランナーから] 「訪問先企業と信頼関係を築くことを心がけています。高齢者活用の必要性を説明し、企業が抱えている労務管理上の問題が高齢者を活用することで解決できないか、高齢者が遠慮がちにならず、やる気を持って働くことができる取組み、仕組みづくりを担当者とともに考察するようにしています。働きがいが生きがいとなって健康寿命を延ばします。企業にとっても高齢者が保有する質の高い労働力は貴重です」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆秋田支部高齢・障害者業務課の結城課長は、渡辺プランナーについて、「若いころから高齢者の活用と労務管理に取り組むなど、高齢者雇用に造詣(ぞうけい)が深く、講師や講演も快く引き受けてくれる、ここ一番で頼りになるプランナーです。就業意識向上研修などのツールを積極的に活用し、結果の分析に長た け、担当した事業所へ熱心に助言を行う姿は、後輩プランナーの見本となっています。人間味あふれる、穏やかで心安い方でもあります」と話します。 ◆当課は奥羽本線追分(おいわけ)駅から徒歩20分ほど。高校野球の「カナノー」で一躍有名になった秋田県立金足農業高校、秋田県立大学が近くにあり、朝夕は学生の姿が目立つ地域でもあります。 ◆当課には6人のプランナーが在籍し、県内の事業所訪問を通じて高齢者雇用に関する相談・援助業務を行っています。2019年度は360件を訪問し、そのうち80 件に制度改善を提案しました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●秋田支部高齢・障害者業務課 住所:秋田県潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター(ポリテクセンター秋田)内 電話:018(872)1801 写真のキャプション 秋田県秋田市 本社社屋 加藤憲成代表取締役社長 仲間とコミュニケーションを取りながら除草作業をする柴田傳三郎さん(左) これまでの経験を活かし、現場を支援する業務を担当する吉田進さん(右) 【P46-49】 高齢社員の賃金戦略 学習院大学名誉教授 学習院さくらアカデミー長 今野(いまの)浩一郎  高齢者雇用を推進するうえで重要な課題となるのが高齢社員の賃金制度です。豊富な知識や経験を持つ高齢社員に戦力として活躍してもらうためには、高齢社員の能力や貢献を適切に評価・処遇し、高いモチベーションを持って働いてもらうことが不可欠となります。本連載では、高齢社員戦力化のための賃金戦略について、今野浩一郎氏が解説します。 第2回 高齢社員の活用戦略は「需要サイド型」に 1 はじめに 〜賃金の前に「活用の明確化」を〜  前回の連載では、高齢社員の賃金を考えるにあたっては、以下の三つの視点を持つことが重要であることを強調しました。第一は、「あるべき賃金」は会社の人材活用の考え方(以下、「活用戦略」)に沿って決める、第二は、「あるべき賃金」は「賃金の基本」をふまえて設計するという視点です。これら二つはどの社員にも適用される原則ともいえる視点なので、高齢社員でも考慮される必要があります。  第三は、高齢社員の賃金は会社全体の賃金の一部である、つまり高齢社員の「あるべき賃金」は高齢社員のみを見るのでなく、社員全体を見て考えるという視点です。特に企業はいま、女性社員や非正社員などが増えるなかで、「社員の多様化」に対応する賃金の構築が求められています。高齢社員の「あるべき賃金」はそれとの関連のなかで検討される必要があります。  連載はこれら三つの視点に沿って進めますが、今回取り上げるのは第一の視点です。この視点が重視していることは、賃金は活用戦略に合わせて決めるべきということなので、高齢社員の「あるべき賃金」の検討は賃金からではなく活用戦略から始めることが必要です。さらに、これは、育成や活用の仕方の違いによって社員を複数のタイプに区分し、異なるタイプの社員には異なる人事管理(もちろん、このなかには賃金も含まれます)を適用するという人事管理の基本原則に沿った考え方です。  以上の点に関連していま最も問題になっているのは、前回の連載でも取りあげた正社員と非正社員の賃金です。正社員は管理職などの幹部社員になることを期待して、長期的な観点から育成し基幹的業務で活用する社員。非正社員は特定の定型業務を継続的に担当する社員。正社員と非正社員の活用戦略をこのように設定すると、両者にはそれに合った異なるタイプの賃金が適用される必要があります。例えば、正社員の場合には、長期的に幹部社員に向かって能力を高めることが大切なので能力に合わせて賃金を決める、非正社員の場合には、担当する業務が明確なので仕事内容に合わせて賃金を決めるというのが適切かもしれません。 2 「福祉的雇用」型人事管理の限界 ■現状の雇用は「福祉的雇用」  高齢社員の活用戦略を考えるには、まずは活用の現状を理解しておく必要があります。それは、現状の何に問題があり、その問題を解決して、あるべき方向に向かうには何をすべきかを考える必要があるからです。  高齢社員の人事管理の基本骨格は高年齢者雇用安定法が求める「希望者全員を65歳まで雇用する」に規定されます。具体的には、「定年制を廃止するのか」、「定年年齢を65歳超に引き上げるのか」、「定年年齢を65歳以下に設定し、その後は継続雇用で対応するのか」の選択になり、どれを選択するかによって人事管理の基本骨格が決まります。多くの企業は「60歳定年後に再雇用し、65歳まで有期契約社員(つまり非正社員)として雇用する」(「60歳定年+再雇用」)という継続雇用の方法を採り、そのもとで、定年前の正社員(以下、「現役社員」)と定年後の高齢社員に異なる人事管理を適用しています。このため、同じ企業のなかに現役社員用の人事管理と高齢社員用の人事管理が共存するので、現状の人事管理は「一国二制度型」と呼べる人事管理になります。  現役社員と高齢社員は社員タイプが異なるので、前述の「異なるタイプの社員には異なる人事管理を適用する」の基本原則に立てば、「一国二制度型」を採ることには合理性があるといえますが、問題はその内容です。多くの企業が採ってきた「一国二制度型」の平均的な人事管理像は次のようになります。 @現役社員時代と同種の業務に従事するが、職責や期待成果は低下する A転勤、残業がないなど、働く場所、働く時間、仕事内容から見て働き方は制約化する B評価はなく、賃金は定年直前の一律減の水準になり、働きぶりが反映されない  職責が低下する、評価がない、働きぶりが賃金に反映されないなどからわかるように、この人事管理像は、企業が高齢社員に対して「成果を期待しない」活用戦略を採ってきたことを示しています。ですから賃金は、この活用戦略に合わせて働きぶりを反映しない賃金として設計されているのです。  経営に対する貢献(つまり成果を上げること)を期待して社員を雇用するのが雇用です。このことからすると、高齢社員の「成果を期待しない」雇用は雇用とはいえず、「希望者全員を65歳まで雇用する」という法的要請に対応するためにやむを得ず雇用する、「福祉的雇用」と呼ぶにふさわしい雇用です。 ■活用戦略は「戦力化する覚悟」から  企業がこうした「福祉的雇用」型の人事管理を採れば、高齢社員はそれに合わせて働くことになり、とうてい労働意欲の高い高齢社員を期待することはできません。この状況はかなり改善されつつありますが、まだまだ企業の取組みは十分ではありません。それは高齢社員が大きな社員集団化しているという状況に対応できていないからです。大きな社員集団化した高齢社員が「福祉的雇用」のもとで労働意欲の低い社員として登場したら、企業の人材力は大きく劣化し、経営に深刻な影響を及ぼします。  つまり高齢社員の戦力化は、企業にとっては避けて通れない経営課題なのです。これが、高齢社員の「あるべき賃金」を検討する際に想定しなければならない活用戦略のポイントになります。考えてみれば社員を戦力化するということは当たり前のことです。しかし、高齢社員の場合には、戦力化に本気で取り組む覚悟を持つことが活用戦略の重要な出発点なのです。「福祉的雇用」型は「成果を期待しない」活用戦略に合わせてつくられた人事管理であると説明しました。そのため高齢社員を戦力化する活用戦略を採るのであれば、企業は「福祉的雇用」型の人事管理から脱却することが必要になり、賃金の決め方も変わることになります。  改めて強調します。高齢社員を戦力化するには、賃金の前に、高齢社員をどう活用するかを明確にする必要があります。多くの企業、多くの専門家が高齢社員の賃金には問題があると考え、賃金の改革案を検討していますが、現行の賃金には問題がないのかもしれません。それは「福祉的雇用」型の活用戦略には適合しているからです。ですから、活用戦略から始めるという視点は忘れないでください。 3 高齢社員活用の方向 ■活用戦略を考える視点  それでは、高齢社員の活用についてどう考えるべきでしょうか。どのような業務につけるのかなどの具体的な活用内容は、会社の事業内容や人事管理の考え方によって異なりますが、活用を検討する際に必ず準拠してほしいことがあります。  多くの企業が採る「60歳定年+再雇用」を前提にすると、「再雇用とは定年を契機とした労働契約の再締結である」ということが、活用戦略を考える出発点になります。労働契約を新たに締結するという点からみると、高齢社員を再雇用するということは、企業にとって社内から高齢社員を中途採用することに等しいのです。ただし、一般の中途採用であれば企業は採用しない裁量を持ちますが、高齢社員の再雇用の場合には、希望者を必ず採用しなければならないので、企業には採用しない裁量はありません。  このように、再雇用を一種の中途採用であるととらえると、業務ニーズを満たす人材を高齢社員から確保し配置するという対応が基本になります。業務ニーズ(つまり人材に対する需要)に確保・配置を合わせることを重視するので、これを「需要サイド型」の活用戦略と呼ぶことにします。  それに対して高齢社員に合わせて仕事を探して、あるいは仕事をつくって配置するという、いまでも多くの企業が採る対応もあります。会社が自分に合った仕事を用意してくれると考えている高齢社員が多くいますが、それも同じことです。この対応は高齢社員の希望(つまり労働サービスを供給する人材側のニーズ)に合わせて人材の確保・配置を決めることを重視するので「供給サイド型」と呼べる活用戦略になります。  しかし、一般の中途採用では企業が応募者に合わせて仕事をつくることはありません。このことからわかるように、「供給サイド型」は望ましい活用戦略とはいえません。しかも「供給サイド型」を採ると、業務上必要でないのに雇用するという傾向が強まり、「福祉的雇用」の状況に陥りがちになります。  したがって再雇用であっても、現実にはなかなかむずかしいとは思いますが、できるかぎり「需要サイド型」の活用戦略を採ることが求められます。つまり、会社は社内の人材ニーズを洗い出し、「高齢社員に何を期待するのか」、「高齢社員の何の能力を活用したいのか」を明確にし、それに合った人材を高齢社員から探すことが必要です。もちろん高齢社員には「会社に自分の何を売るのか」、つまり「会社にどのような能力をもって、どのように貢献するのか」を考えてもらう必要があります。この会社と高齢社員のニーズを擦り合わせて配置を決める。これをどの程度上手にできるかが、企業が高齢社員を戦力として活用する、高齢社員が高い労働意欲をもって活躍する鍵になります。 ■活用方法の基本  次に以上の視点に立つと、どのような活用方法が望ましいのかを考えてみます。これまで蓄積してきた経験と能力を活かすために、現役時代と同じ分野の仕事に配置する現職継続型の活用方法を採る。企業にとっても高齢社員にとっても最も効果的な方法です。しかも高齢社員が少数の場合には他分野の仕事に配置する方法を基本とすることも考えられますが、高齢社員が多くなるほどそれはむずかしく、現職継続型が基本にならざるを得ません。  そうなると、職場責任者が人事部門の支援を得ながら個別に対応するということになります。そのときに職場責任者は、@「職場では、どのような問題に対応するために、どのような人材が必要なのか」の人材ニーズを精査する、A高齢社員の働くニーズ、つまり仕事と働き方の希望を把握する、B職場の人材ニーズと高齢社員の働くニーズを擦すり合わせる、という手順を採って配置を決めることが必要です。また両者のニーズが一致しない場合が多いので、擦り合わせの際には、高齢社員には人材ニーズに合わせて働くニーズを調整してもらうことが必要になります。そのためには、どのような業務なのか、その背景には何があるのか、なぜ働くニーズを調整してもらう必要があるのかなどについて、職場責任者は高齢社員にていねいに説明し、話し合うことが必要です。  さらに高齢社員は自分の経験、スキルを理解したうえで、職場の業務ニーズにどう貢献するかを考え、提示することが必要です。企業には高齢社員がこの行動を採れるように支援することが求められ、それを検討するにあたっては、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が日本電子デバイス産業協会に委託して開発した、@会社・職場による業務上の課題のリストアップ、A高齢社員による課題の選択、B当該課題にどう取り組むかの検討と提案、Cそれを通しての「使えるスキル」の自己認識の4段階からなる『シニア期の「使えるスキル」発見法』の研修プログラムの考え方が参考になります(同協会「電子デバイス産業における高齢者雇用推進ガイドライン」2019年を参照※)。  高齢社員の活用を決めるにあたっては、以上の職場責任者による個別対応が基本になりますが、制度的に対応する企業もあります。その典型的な方法は高齢社員版の社内公募制度です。すべての高齢社員の配置を社内公募で決めている企業もありますし、基本は上記の個別対応ですが、それを補完する方法として社内公募を活用する企業もあります。さらに、ほかの職場、ほかの企業の仕事に挑戦する場合などに、事前に仕事の内容を知ってもらうためにインターン制度を導入している企業もあります。  今回は「賃金の前に、どう活用するかを明確にする」の原則にしたがって、活用戦略を検討する際のポイントについて説明しました。高齢社員の賃金を見直したいと考えている読者は、高齢社員の雇用の現状を点検したうえで、まずは、これらのポイントに沿って活用戦略を検討してみてください。賃金はそれからです。 ※ https://www.jeed.or.jp/elderly/research/enterprise/devicer1.html JEED 電子デバイス ガイドライン 検索 【P50-53】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第27回 健康情報の取扱い、特別休暇の付与 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永勲 Q1 コロナウイルスなどの感染症に対する健康情報の取扱いについて知りたい  新型コロナウイルス感染症の蔓延を受けて、同様の感染症が生じた際に、感染の疑いが生じたり、感染者が出た際の対応をあらかじめ検討しておきたいと考えています。  他社でコロナウイルス感染者が生じた場合に、ホームページなどに発症者が出た旨を公表したり、ビルの管理事務所から情報提供を受けたりしたことがありますが、自社に生じた場合にはどのように対応すべきでしょうか。 A  感染症の疑いや発症については、要配慮個人情報(またはこれに準じる健康情報)として、慎重に取り扱う必要があります。  必ずしも本人の同意がなければ、社内共有や第三者への情報提供ができないわけではありませんが、できるかぎり同意を取得するよう留意すべきです。 1 個人情報保護法について  個人情報保護法は、個人情報の定義として、生存する個人に関する情報であって、@特定の個人を識別できるもの、または、A個人識別符号が含まれるものとしています(同法第2条1項)。  さらに、特に配慮が必要な「要配慮個人情報」の一種として、本人の病歴があげられています(同条3項)。また、個人情報保護法施行令においては、病歴のみではなく、健康診断の結果や当該結果に基づく医師などによる指導、診療もしくは調剤が行われたことなどにも広げられています(同法施行令第2条2号、3号)。  要配慮個人情報については、原則として、本人の同意なく、取得することができないものとされています(同法第17条2項)。通常の個人情報においては、利用目的を通知または公表しておく必要があるとされていることに加えて、特定の個人からの同意が必要とされている点で、特徴的です。  また、取得の場面のみならず、個人情報の第三者提供を行う場面においては、要配慮個人情報ではない個人情報であっても、本人の同意なく、第三者へ提供をすることができないとされています(同法第23条)。  したがって、原則に従う場合には、新型コロナウイルスに感染したという情報を特定の個人と結びつけた場合、取得することや第三者提供を行う際には、同意が必要ということになります。 2 個人情報の取扱いにおける例外について  要配慮個人情報の取得や個人情報の第三者提供において、同意が得られない場合であっても、取得または第三者提供ができる例外が定められています(同法第23条1項)。  主な例外事由は、@人の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき、A公衆衛生の向上のために特に必要な場合で本人の同意を得ることが困難であるとき、があります。  したがって、これらの場合には、例外的に、本人の同意が獲得できない場合であっても、取得または第三者提供が可能となります。 3 感染症の発症者またはその疑いについて  感染症の発症が確定している場合には、明確に病歴に該当し、要配慮個人情報となります。  また、感染疑いの場合には、病歴そのものではありませんが、厚生労働省が公表する「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」(以下、「健康情報指針」)においては、「健康情報」として、「健康診断の結果、病歴、その他健康に関するもの」と定めており、確定的な病歴診断にかぎらず、広く健康に関するものを含む定義としています。感染症の疑いが本人に対して不当な差別や偏見を生じさせるおそれがあることをふまえると、プライバシー性の高い「健康情報」として、要配慮個人情報と同程度に扱うことが適当と考えられます。  要配慮個人情報であっても取得においては、感染力の強さをふまえて判断する必要がありますが、新型コロナウイルスのように感染力が強い場合には、「@人の生命・身体の保護のために必要」といえるでしょう。また、健康情報指針においては、感染したり、蔓延したりする可能性が低い感染症に関する情報は、特別な必要がある場合を除き、取得すべきではないとされていますが、反対解釈をすれば、感染力が強い場合には、取得が許容されることがあると解釈することができます。  感染症の発症またはその疑いに関する情報を取得する際には、原則として同意を得ることが必要ですが、感染力の強さなどからすると、同意を得ることが困難である場合には、個人情報保護法の例外事由に該当するものとして、取得することが可能と考えられます。  ただし、これらの例外事由に該当するためには、「本人の同意を得ることが困難」であることが前提であるため、まずは、本人の同意を得る努力を尽くすべきであり、隔離措置などにより本人との連絡が取れない状況にあることを記録に残しておくことは必要でしょう。 4 社内公表について  社内公表に関しては、個人情報保護委員会が「新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止を目的とした個人データの取扱いについて」と題する文書を公表しています。  社員に感染者や濃厚接触者が出た場合に社内公表することの可否について、第三者提供に該当しないため、本人の同意が不要であるとしています。この背景には、会社が従業員に対して適法に取得した個人情報を提供すること自体は、会社による自己利用にすぎず、第三者提供には含まれないという解釈があります。  しかしながら、社内への公表が個人情報保護法の規制対象外であるとしても、感染者またはその疑いなどの情報に対するプライバシー性も加味して、公表内容については慎重に吟味する必要があります。個人情報保護法を遵守したからといって、プライバシー侵害(不法行為)に該当しないとはかぎらないからです。したがって、この場合においても、本人の同意を取得することを目ざして、説明を尽くすべきです。  公表時の情報公開の範囲について、基本的には、当該個人が特定できる形での公表は避けるべきでしょう。特定可能な範囲で伝達することが許容されるのは、感染防止に関する業務を担当している責任者(人事総務部門など)や濃厚接触者となっており、検査の必要が生じる一部の従業員に限定すべきでしょう。 5 第三者提供について  ホームページでの公表やビル管理者への情報提供(第三者提供)に関しても、要配慮個人情報または健康情報を取得する場合と同様に、本人の同意を得ることが困難な場合には、@人の生命・身体の保護、または、A公衆衛生の向上のためのいずれかに該当すると考えられるため、第三者提供することも可能と考えられます。  取得の場合と同様、同意を得ることが困難であることを記録しておくほか、提供する際の情報提供の範囲については、社内公表時以上に、詳細な情報は不要な場合が多いと考えられるため、感染症拡大防止に必要な範囲を吟味して提供範囲を検討し、必要最低限の範囲にするべきでしょう。 Q2 年次有給休暇以外に、有給の特別休暇を付与する際の留意事項について知りたい  就業規則に定めがないのですが、感染症蔓延を回避するために、有給の特別休暇を付与し、法定の有給休暇が減少しないように配慮しようと考えています。  就業規則に定めることなく、このような対応をすることは適法でしょうか。付与した休暇は無効になるのでしょうか。 A  休暇については、就業規則の絶対的必要記載事項であるため、定めておかなければ罰則の適用を受けるおそれもあり、適法とはいえません。  ただし、労働者にとって有利な権利の付与であれば、当該休暇を無効と扱う必要はないと考えられます。 1 特別休暇とは  労働条件については、労働条件通知書、労働契約書のほか就業規則などによって、定められることになります。  いわゆる休暇とは、労働義務がある日について、当該労働義務を免除することを意味しており、連続して一定期間におよぶものは休業と呼ばれたりしています。ちなみに、休日とは、労働義務がない日を意味します。  労働基準法に定められた休暇として代表的なものに年次有給休暇がありますが、そのほか産前産後休暇、育児・介護休業、子の看護休暇など各種労働関連法によるさまざまな法定休暇(休業)制度があります。  一方、法律上の最低限の休暇しか付与してはいけないわけではないため、会社は、労働契約に定めるか、就業規則に定める方法で、法定外の休暇を定めることが可能です。会社によっては、慶弔休暇、罹災休暇、リフレッシュ休暇、病気休暇やバースデー休暇、アニバーサリー休暇などを用意している企業もあります。 2 就業規則の必要的記載事項  労働基準法第89条1号には、休暇に関する事項は、就業規則に定めなければならないと規定されています。少なくとも年次有給休暇は法律上付与しなければならない以上、この規定は絶対的必要記載事項と考えられています。  同条の規定を遵守するためには、法律上必要な休暇さえ定めればよいというわけではなく、会社が任意の休暇制度を定める場合にも、必ず就業規則に定めることが必要となります。  違反した場合には、是正指導を求められることが通常ですが、労働基準法第120条には、同法第89条違反に対して30万円以下の罰金に処すると定められており、就業規則に定めのない状況で特別休暇を定めた場合には、適法であるとはいえません。  したがって、法定外の特別休暇を定めるためには、就業規則の変更の手続きをとる必要があり、労働者の過半数代表者からの意見聴取、従業員に対する説明会を行うなどの方法による就業規則の変更内容を周知すること、労働基準監督署への届出という一連の手続きが必要となります。  なお、法定外の特別休暇の付与が、労働者の賃金の減額をともなわないなど、特段不利益を与える内容ではないような、有給の特別休暇の付与であれば、就業規則の「不利益」変更とはいえないため、変更の合理性までは求められないと考えられます。 3 コロナ禍(か)における未規定の特別休暇の効力  新型コロナウイルス感染症の影響下における見解ですが、厚生労働省は、小学校休業等対応助成金に関する見解として、特別休暇の付与に関して、就業規則や社内規定の整備を行うことが望ましいが、就業規則などに規定されていない場合であっても、要件に該当する有給の休暇を付与した場合であれば、対象となる旨を示しています。  当然ながら、就業規則などの整備を行うことが望ましいとはされているものの、厚生労働省の見解の背景には、実際に付与された特別休暇の効力自体を否定しないという趣旨を含むものと考えられます。したがって、就業規則に定められていない有給の特別休暇であっても、使用者が労働者に対して付与した場合には、法的には有効なものと扱うことは可能と考えられます。  ただし、厚生労働省の見解においても、休暇制度を設けた場合には、遅滞なく就業規則を変更し、所轄の労働基準監督署に届け出ていただく必要がある、とされています。積極的に罰則を適用する意思があるとは思われないものの、あくまでも暫定的な措置であることを前提に、就業規則などの変更手続きは事後的にでも速やかに実施しておくことが望ましいと考えられます。 4 平常時の取扱いについて  厚生労働省の見解は新型コロナウイルスの影響を考慮した緊急時の対応として示されたものと評価すべきであり、新型コロナウイルス感染症の影響下にないなど緊急時ではない状況下においては、罰則の可能性を拭い去れません。  そのような状況下、使用者が労働者への配慮を尽くすことを希望する場合には、労働義務の免除である休暇の付与以外の方法で対応することも検討する必要があります。  新型コロナウイルス感染症に関しては、特別休暇の付与に対して、助成金の付与が用意されたため、特別休暇によって対応することに意味がありました。ただし、このような特別な助成金のことを考慮外とするのであれば、使用者が、労働者に対して、労務の提供を拒絶する(要するに自宅待機を命じる)場合には、使用者の責に帰すべき事由があるものとして、少なくとも6割の休業手当の支払いが必要となりますが、あくまでも6割は最低基準として定められた内容といえますので、この際に10割の賃金を支給することも違法ではありません。  したがって、罰則の適用を避けながら、満額の支給を確保する方法としては、自宅待機命令による方法も考えられます。 【P54-55】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第3回 「退職金」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者ならおさえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  第3回目に取り上げるのは「退職金」です。昨年、金融庁金融審議会のワーキング・グループの報告書(「高齢社会における資産形成・管理」)をめぐって、老後2千万円*竭閧ニして話題になりました。また老後の生活資金の問題について書かれている書籍もたくさんあり、平均寿命の延びに合わせて、退職後の資金についての関心が高まっていることは間違いなさそうです。 退職金の種類はさまざま  退職金とは、退職した社員に支給されるものであることは読んで字の通りなのですが、種類は多岐にわたります。細かい制度区分を説明すると複雑になるので、基本的なところをおさえておきたいと思います。 @支給方法  「退職一時金」と「退職年金」の二つの方法があります。一時金の方は一括で支給されるもの、年金は分割で支給されるものです。一般的には高額の退職金を退職時に一気に受け取るイメージで語られており、統計上も一時金で支給している会社が7割程度で、年金のみで支給している会社はわずかです。ただし、一時金と年金を併用している会社も一定程度あります(図表)。一括支給だけだと、生活費ではなく臨時収入として早期に使い果たしてしまうこともあり、併用の方が社員の生活設計に配慮した支給方法といえます。 A積立・運用方法  企業はその年に発生する退職金を毎年調達するわけではありません。一定のルールに従って積み立て、運用して退職金支給の準備をします。代表的なものとしては「確定給付」と「確定拠出(企業型)」があります。確定給付とは、あらかじめ将来の給付額を決定し、その給付額をまかなうために必要な掛金を企業が準備し、運用するものです。運用がうまくいかずに給付額が準備できなくなると、企業が補填する必要があります。一方、企業が準備するのは掛金のみなのが、確定拠出(企業型)です。こちらは、企業が準備した拠出額を社員個人が運用するため、給付額は個人の運用次第ということになります。確定給付とは異なり、運用がうまくいかなかった分を企業が補填する必要がないため、企業の負担は軽くなります。社員にとっても個人別の口座で運用するので、定年前に退職しても個人型の確定拠出年金(iDeCo(イデコ))や転職先の企業が確定拠出(企業型)の制度を有している場合、その資金を移管して運用し続けられるメリットもあります。なお、確定拠出(企業型)は2001(平成13)年に開始された制度で歴史は浅いですが、2018年時点での東京都の導入状況を見てみると、45・1%と、確定給付型44・5%に対して拮きっ抗こうしています(東京都「中小企業の賃金・退職金事情」2018年)。 B算定方法  退職金算定方法の基本形は、勤続期間連動です。勤続期間が長い=積立期間が長いため、長く勤務したほうが退職金の額が大きくなるのが一般的です。そのため、算定方法としては退職時基本給に勤続年数や勤続年数ごとに設定された係数を乗じて計算する方法がかつては主流でした。しかし、基本給をベースアップした際に連動して退職金も上がってしまうなどの予期せぬ副作用≠烽り、基本給ではなく別の算定基礎額を使う「別テーブル方式」や、等級や役職によって毎年のポイントが決定し、その集計によって支給額が決定する「ポイント式」を用いたりするケースも増えています。 退職金支給の意義は三つ  さて、この退職金ですが、法律で支給が定められたものではありません。統計上、3割程度の会社が制度を有しておらず、企業規模が小さくなるほど導入率は低くなります(図表)。退職金の平均額は統計上、企業規模や学歴によって異なるのですが、例えば2018年の就労条件総合調査(厚生労働省)によると、35年以上勤務の一人あたり給付額は大学・大学院卒で、企業規模計で2173万円、100〜299人規模でも1785万円という金額にのぼります。この金額は、企業側にすると人件費上ではかなりの負担になるのは間違いないのですが、制度があること自体が当然で、なぜ退職金を支給するのかを考える機会は少ないと思われます。  退職金支給の意義ですが、「生活保障」、「功労報奨」、「賃金後払い」の三つがあるといわれています。生活保障については、家族手当などと同様に社員の生活を会社が支えるという考えが根底にあります。功労報奨とは、勤続期間全体を会社への貢献とみなし、その還元を長期インセンティブとして退職時に行うというものです。賃金後払いについては、実務的には本来毎年支払うべき給与から一定額を拠出して、退職金用に積み立てていくという設計上の事情が背景にあります。このようにみると、日本の雇用の特徴といわれる「終身雇用」、「長期勤続」を前提とした制度であるといえます。そのため、ベンチャー企業などでは長期勤続を前提とせず、退職金制度を設けずに、掛金分を前払いとして、給与に乗せているケースもあります。  しかし、社員側が退職金を含めてトータルで報酬全般をとらえることはありません。若年層にしてみると、退職(特に定年退職)は遠い先の話であり、退職金の水準よりも単年度の年収が高い方が魅力的に映ります。一方、40歳を超えるあたりから、老後の生活設計を含めて退職金の額が初めて気になるくらいのものであり、退職金の意義が十分に伝わっていないことも否定できません。人生100年時代を見すえると、生涯報酬や老後の働き方とセットで退職金の在り方や支払い方も議論し、社員に伝達する必要があるのではないかと筆者は考えています。 ☆  ☆  次回は働き方全般にかかわる「キャリア」について解説する予定です。 図表 退職金の支給の方法 (単位:社、%) 集計企業数 制度あり 退職一時金のみ 退職一時金と退職年金の併用 退職年金のみ 制度なし 無記入 調査産業計 1,060 (100.0) 756 (71.3) 〈100.0〉 574 〈75.9〉 156 〈20.6〉 26 〈3.4〉 256 (24.2) 48 (4.5) 10〜49人 618 (100.0) 398 (64.4) 〈100.0〉 332 〈83.4〉 56 〈14.1〉 10 〈2.5〉 195 (31.6) 25 (4.0) 50〜99人 279 (100.0) 221 (79.2) 〈100.0〉 157 〈71.0〉 56 〈25.3〉 8 〈3.6〉 43 (15.4) 15 (5.4) 100〜299人 163 (100.0) 137 (84.0) 〈100.0〉 85 〈62.0〉 44 〈32.1〉 8 〈5.8〉 18 (11.0) 8 (4.9) 出典:東京都「中小企業の賃金・退職金事情」(2018年) 【P56-57】 BOOKS 70歳雇用時代に求められる、真に必要なキャリアの築き方 ビジトレ 今日から始めるミドルシニアのキャリア開発 田中研之輔(けんのすけ)、浅井公一(こういち)、宮内(みやうち)正臣(まさおみ) 著/ 金子書房/ 1900円+税  高年齢者雇用安定法が改正され、70歳就業時代が幕を開けた。働く人にとって、自らの責任でキャリア開発に取り組む時代が訪れたといえるだろう。本書は、このような考え方のもと、大学の研究者(田中氏)、企業の人材開発担当者(浅井氏)、そして、ミドルシニア社員向け研修の講師(宮内氏)がタッグを組み、70歳雇用時代に求められるキャリアの築き方をまとめたもの。「ビジトレ」とは、「ビジネス×トレーニング」のことで、「社会環境の変化に適合していくために、ビジネスシーンで必要とされるスキル・センス・マインドなどを改善していくためのキャリア開発の手法」を意味する。  本書全体は、「自らキャリアを開発する自主トレセクション」、「社内研修」、「キャリア面談」、「ミドルシニア社員の活性化施策」、「キャリア開発に関する理論の整理」の五つの章から構成されている。本誌の連載「高齢社員の磨き方」(2019〈令和元〉年10月号)で紹介したことがある、NTTコミュニケーションズ株式会社の取組み※1が詳しく取り上げられているので、本誌の読者にも大いに参考になるだろう。社員のキャリア開発に悩みを抱える、人事労務担当者が手にしても新たな発見がある好著と思われる。 具体的なケースを検討し、トラブルのない雇用管理を実現 実務の技法 シリーズ7 労働法務のチェックポイント 市川充(みつる)、加戸(かと)茂樹(しげき) 編著/亀田康次(こうじ)、軽部(かるべ)龍太郎(りょうたろう)、高仲(たかなか)幸雄(ゆきお)、町田悠生子(ゆきこ)著/ 弘文堂(こうぶんどう)/ 2800円+税  「働き方改革」の進展にともない、労使双方にとって、労働法の存在意義が高まっているように感じられる。実際、労働法分野の法令改正は頻繁に行われており、トラブルの起きない雇用管理を実現するには、法令の正しい理解が欠かせないだろう。本書は、経験の浅い弁護士向けの企画ではあるが、企業の人事労務担当者にも、この点でたいへん役に立つと思われる。  本書では、使用者側から寄せられた労働法に関する相談や事件を取り上げ、具体的なケースを設定したうえで適切な対処方法を検討している。弁護士向けとはいえ、各ケースの具体的な説明は対話形式を採用、実際に関係者に確認すべき事項をまとめたチェックリストや各ケースの解決につながる模範解答(アンサー)を掲載するなど、法律の専門家ではない人でも、容易に理解することができる。  取り上げている項目も、「労働契約」、「募集・採用」、「労働時間・休憩・休日・休暇」、「賃金」、「配転・出向・転籍」、「解雇」など、人事労務担当者が直面する場面をほぼ網羅。労務トラブルのない雇用管理の実現を目ざしている人事労務担当者にとって、実務に役立つ、心強い参考書といえるだろう。 現代社会で幸せな高齢期を過ごすために 70代からの「女の輝き」「男の品格」 坂東(ばんどう)眞理子、佐々木常夫 著/ 宝島社/ 1300円+税  2018(平成30)年の日本人の平均寿命は女性が87・32歳、男性が81・25歳で、ともに過去最高を更新した。1960(昭和35)年と比べると、女性は17・13歳、男性は15・93歳も伸びている。  いわゆる高齢期と呼ばれる期間が長くなり、その生き方が多様に変わろうとしている。本書は『女性の品格』の著者・坂東眞理子氏と、大ベストセラー『働く君に贈る25の言葉』の佐々木常夫氏の対談や両氏の軽妙な文章により、70代からの品格ある生き方とは何かを考えた一冊。さまざまな経験を重ねてきた同世代の二人が、みずみずしい感性で、現代社会で高齢期を幸せに生きるためのヒントを語り合っている。  取り上げている話題は、家族、病気、お金、仕事、孤独など広く、深い。働くことについては、「まず心がけたいのは若い人たちに対して尊敬の念を持つこと」と坂東氏。佐々木氏は映画『マイ・インターン』を例に挙げて、「謙虚になり、相手をリスペクトすること」の大切さを話す。また、「70代になってできなくなること」、「70代だからこそ、できること」を自らの体験から披露するなど、70代の「いま」がわかる一冊になっている。 現場が直面するリアルな悩みを取り上げ、解決策を提示 条文だけでは分からない 労働安全衛生の実務Q&A 中山絹代(きぬよ) 著/ 第一法規/ 2800円+税  働き方改革にともない、あらためて働く人の健康管理が注目されるようになった。その法的な根拠となる労働安全衛生法令は、法律に加えて、政令、省令、告示、指針、ガイドラインなどから構成されており、「複雑でわかりにくい」と感じる安全衛生担当者も多い。加えて、法令の解釈が厚生労働省の行政通達によって示されるケースも多いので、法令集が手元にあれば、現場での運用時の課題がすべて解決するわけではないところが、担当者の悩みのタネだろう。  本書はそうした担当者のリアルな悩みに応えるために企画されたもの。主として事業場の安全衛生担当者から寄せられた疑問から法令上の解釈を誤りやすい事例を厳選し、根拠条文や行政通達を示したうえで、解決策をわかりやすく示している。労働安全衛生法の構成に沿った九つの章には、合わせて100近くのQ&Aを収録し、解説は何をどうすればよいのかが、わかりやすくまとめられている。新たな安全衛生対策の立案、そして対策の見直しの際にも役立ち、必要に応じて行政通達の原文にあたることで、さらに理解を深めることも可能だ。  元労働基準監督署長という経歴を持つ著者ならではの、知識と経験が活かされた好著である。 「人重視」、「幸せ重視」の経営を実践する7社のドキュメント 日本でいちばん大切にしたい会社7 坂本(さかもと)光司(こうじ) 著/ あさ出版/ 1400円+税  2008年から刊行している、シリーズの7冊目。累計部数70万部を超える人気を誇る。  著者の坂本氏は、本誌2016年11月号「リーダーズトーク」に登場していただき、「人を大切にする企業の業績は安定的に高い」という研究結果や、「企業は高齢者を大切にしなければならない」という持論について話していただいた※2。長年にわたり中小企業を研究してきた著者は、企業経営の最大の使命と責任を、@社員とその家族、A取引先とその家族、B顧客、C地域住民、D株主・支援機関の5者の幸せの追求と実現であると提起。それを実践している会社を全国から選び、経営者を詳細に取材して紹介しているのが本シリーズである。本書には、絶対に社員をリストラしない大家族的経営を続けるものづくりの会社や、ボランティア活動に力を入れ全国から慕われている建設会社など、数々の苦難を乗り超えながら人を大切にする経営を実践する7社の事例が収められている。  新型コロナウイルスの影響を受けて、先行きに不安を抱く企業が増えている。そんなときだからこそ、人を大切にする経営のあり方や進め方、企業人としての生き方を見つめ直してみたい。本書はそうした心に光を照らしてくれる。 ※1 この記事はデジタルブックでお読みいただけます。 エルダー 2019年10月号 高齢社員の磨き方 検索 ※2 当機構発行の障害者雇用啓発誌「働く広場」2020年8月号の「この人を訪ねて」にも登場いただいています ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「本体価格」(消費税を含まない価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「勤務間インターバル制度」導入・運用マニュアルを作成  厚生労働省は、企業を対象とした「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル(全業種版・IT業種版)」を作成した。  「勤務間インターバル制度」は、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を確保する仕組み。働く人の生活時間や睡眠時間を確保するうえで重要な制度であり、労働時間等設定改善法においてその導入が事業主の努力義務とされている。導入企業の割合を2020(令和2)年までに10%以上とすることを目標としているが、2019年1月時点では3・7%(厚生労働省「平成31年就労条件総合調査」より)となっている。  マニュアルは、勤務間インターバル制度を導入している企業の実例を盛り込み、制度の導入・運用に向けた取組みの全体像、導入・運用する際の手順などをまとめている。  厚生労働省ではマニュアルの周知などを通じて、企業における勤務間インターバル制度の導入促進に努めていくこととしている。本マニュアルは左記のURLからダウンロードが可能。  全業種版  https://work-holiday.mhlw.go.jp/interval/pdf/00.pdf  IT業種版  https://work-holiday.mhlw.go.jp/interval/pdf/01.pdf 総務省 人口推計(2019年10月現在)  総務省は、2019(令和元)年10月1日現在の人口推計を公表した。それによると、総人口は1億2616万7000人。前年(1億2644万3000人)と比べ27万6000人(0・22%)減少で、減少は9年連続。  総人口に占める年齢別人口の割合をみると、15歳未満は12・1%、15〜64歳は59・5%、65歳以上は28・4%、75歳以上は14・7%。前年に比べると、15歳未満と15〜64歳がそれぞれ0・1ポイント、0・2ポイント低下し、65歳以上と75歳以上がそれぞれ0・3ポイント、0・5ポイント上昇している。  総人口に占める年齢別人口割合の推移をみると、15歳未満は、1975年(24・3%)以降一貫して低下を続け、2019年(12・1%)は過去最低。15〜64歳人口は、1982年(67・5%)以降上昇していたが、1992年(69・8%)にピークとなり、その後は低下を続け、2019年(59・5%)は過去最低となっている。一方、65歳以上人口は、1950年(4・9%)以降一貫して上昇が続いており、2019年には28・4%と過去最高となっている。75歳以上も1950年(1・3%)以降上昇を続け、2019年は前年に比べ0・5ポイント上昇し、14・7%と過去最高となっている。  人口増減率を都道府県別にみると、増加は7都県で、東京都が0・71%と最も高く、次いで沖縄県0・39%、埼玉県0・27%、神奈川県0・24%、愛知県0・21%、滋賀県0・11%、千葉県0・08%の順となっている。 調査・研究 中央労働委員会 令和元年賃金事情等総合調査(確報)  中央労働委員会は、「令和元年賃金事情等総合調査(確報)」の結果をまとめた。調査は、医療施設以外は資本金5億円以上かつ労働者1000人以上、医療施設は病床数400床以上で、企業計380社(独自に選定)を対象としている。  調査結果から隔年で実施している「退職金、年金及び定年制事情調査」(回答企業数は230社)をみると、定年制を採用している企業数は179社。定年を「60歳」としている企業が164社(定年制のある179社の91・6%)となっている。  継続雇用制度を採用している企業は176社(定年制のある179社の98・3%)で、このすべての企業で再雇用制度を採用している。勤務延長制度の採用は3社(176社の1・7%)となっている。  再雇用制度を採用している企業について再雇用時と定年退職時の労働条件を比べてみると、所定労働時間が「定年退職時と同じ」企業は136社(集計174社の78・2%)、定年退職時の「80%以上100%未満」が8社(同4・6%)。基本給の時間単価は「50%以上80%未満」が92社(同174社の52・9%)、「50%未満」が48社(同27・6%)などとなっている。  再雇用労働者の労働条件と定年年齢到達前の常用労働者の労働条件を比べると、再雇用労働者は定期昇給なしとする企業は144社(集計172社の83・7%)となっている。 全国中小企業団体中央会 年5日年次有給休暇への対応  全国中小企業団体中央会と都道府県中小企業団体中央会が公表した『令和元年度中小企業労働事情実態調査』の調査結果から、働き方改革関連法(改正労働基準法)により2019年4月1日から施行された年5日の年次有給休暇の付与義務について調査した結果を見ると、付与義務について「知っている」と答えた事業所が86・4%、「知らなかった」が13・6%となっている。  年5日の年次有給休暇の付与義務への対応について、実施している(または今後実施する)方策を複数回答で聞いたところ、「計画的付与制度(計画年休)を活用する」と答えた事業所が28・2%で最も多く、次いで「使用者からの時季指定を行う」が27・6%、「取得計画表を作成する」が25・9%、「具体的な方策を検討中」が25・4%。  業種別にみると、製造業では多くの業種で「計画的付与制度(計画年休)を活用する」がほかの方策より多く、建設業では「使用者からの時季指定を行う」がやや多く、「就業規則を見直す」と回答した事業所は運輸業で比較的多くなっている。  経営状況別にみると、経営状況が「良い」と回答した事業所では、「取得計画表を作成する」(30・8%)、「計画的付与制度(計画年休)を活用する」(30・4%)の割合が高く、「使用者からの時季指定を行う」、「具体的な方策を検討中」と回答した割合は経営状況による違いがみられず、「特に考えていない」と回答した割合は、経営状況が「良い」事業所では9・8%、「悪い」事業所では16・6%と経営状況が「悪い」ほど割合が高くなっている。 発行物 JILPT 『人生100年時代の企業人と社会貢献活動に関する調査』を刊行  独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)は、『調査シリーズ bP97 人生100年時代の企業人と社会貢献活動に関する調査』を刊行した。  65歳以降も社会において活躍し続けたいと願う高齢者が増えているが、高齢になってから地域や社会のために働きたいと思っても、活躍する場を見つけることはむずかしい。これまでのJILPTの研究からも、実際に高齢期にNPOなどで活躍している人の多くは定年退職前の40〜50代から活動を開始していることがわかっている。そこでJILPTでは、大企業5社に勤める正社員およびウェブモニター調査により、企業で働く人の社会貢献活動とセカンドキャリアに関する意識調査を実施。どういった業種や職種、技能、働き方をする人が、どのような社会貢献やキャリアに対する意識を持つのか、企業や社会は社会貢献活動推進のためにどのようなシステムを構築していけばよいのかを分析し、本報告書を刊行した。  今後の社会生活やキャリアを考えるうえで、企業の人事担当者、CSR担当者、政策担当者をはじめ、NPOや社会貢献活動にたずさわる人々の参考資料として活用されることが期待される。  本報告書は左記のURLからダウンロードが可能で、購入する際の価格は2500円(税別)。  https://www.jil.go.jp/institute/research/2020/documents/0197.pdf 東京都 『東京50(フィフティ・アップ)BOOK』作成 ―これからのライフプランを考える冊子―  東京都は、50歳〜64歳の世代を「これからの未来」を考える時期にさしかかっている「50(フィフティ・アップ)世代」と名づけ、自分らしいシニアライフプランを考えるうえで役に立つ冊子として、『東京50(フィフティ・アップ)BOOK』を作成した。いくつになっても安心して暮らし、活き活きと活躍するためには、現役世代のうちから自身の高齢期のライフプランに関心を持ち、考えることが重要として活用を呼びかけている。  副題に「50代・60代のみなさまへ 〜これからの夢とライフを考える本〜」とある通り、本冊子は高齢期に向けた仕事や趣味、社会貢献活動などのプランを考えるうえで参考になるヒントとして、将来のライフプランを形にするために今からできること(仕事編、学び編、趣味編、社会貢献編)、未来のために知っておきたいこと、健康長寿のために世代ごとに意識したいポイント、身の回りの不安を解消するサービスなどの紹介、介護やもしもの時に備えるためのQ&A、そのほか参考になる情報源やサービスなどを掲載。巻末には付録として、「ライフ・プランニングノート」がついている。  本冊子は左記のURLからダウンロードが可能。専用ウェブサイトで個別配送(無償)の予約を受けつける(都内に住所を有する都民の方対象)ほか、都内の民間店舗・公共施設等でも配布を開始する予定となっている。  https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/tokyo50upbook/index.html 【P60】 次号予告 9月号 特集 高齢社員のワーク・ライフ・バランス リーダーズトーク 濱口桂一郎さん (独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働政策研究所長) 〈高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQR コードのリンク先がhttp://www.jeed.or.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには−− 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jpでご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢春康……サトーホールディングス株式会社人財開発部 人事企画グループ人事企画担当部長 菊谷寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長・労働政策部長 藤村博之……法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 真下陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア京子……アテナHROD代表 編集後記 ●前号でもお伝えした通り、今期の通常国会にて、高年齢者雇用安定法が改正され、2021(令和3)年4月1日より、企業は70歳までの就業機会確保(高年齢者就業確保措置)を図ることが努力義務となりました。これからの高齢者雇用は、さらに長期化する就業期間にいかに対応していくかを見すえた対応が求められることになります。  そこで今回は、「高齢者雇用入門」と題し、高齢者雇用でありがちな課題をテーマに、新任人事担当者のみなさんにもわかりやすい内容で解説しています。  「序論 教えて先生、高齢者雇用って何から始めたらいいの?」では、これからの高齢者雇用の取り組み方について、藤波美帆先生と新任人事担当者のまなび はじめ≠ウんとの会話形式で解説。この序論で浮かび上がった四つの課題について、職場の「高齢者雇用あるある」のマンガにあてはめながら、田口和雄先生、樋口善之先生に解説していただきました。高齢者を戦力として活用していくため、そして70歳までの就業を実現するため、ぜひ参考にしていただければ幸いです。 ●連載企画「技を支える」は、取材・撮影時の三密を回避できない可能性があることから、しばらくの間休載とさせていただきます。この間、山ア由紀也先生の「職場でできるストレッチ体操」を掲載します。職場で手軽にできるストレッチやトレーニングを紹介していきますので、こちらもぜひお楽しみにしてください。 ●10月は高年齢者雇用支援月間です。「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」、「地域ワークショップ」などを、全国各地で開催する予定です。開催日時などの詳細は、当機構ホームページで随時掲載していく予定です。みなさまの参加をお待ちしております。 月刊エルダー8月号 No.489 ●発行日−令和2年8月1日(第42巻 第7号 通巻489号) ●発 行−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−企画部長 片淵仁文 編集人−企画部次長 早坂博志 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216(企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.or.jp/ メールアドレス elder@jeed.or.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL03(3915)6401 FAX03(3918)8618 ISBN978-4-86319-782-4 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験などを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 短期連載 職場でできるストレッチ体操  みなさんは日ごろから運動をしていますか? 加齢による身体機能の低下はさまざまな影響をもたらし、場合によっては日常生活や仕事に影響が出てくることも考えられます。そこで本企画では、職場で気軽に、短時間でできるストレッチやトレーニングを紹介します。ぜひ職場のみなさんでチャレンジしてください。 柔道整復師/ 八王子整骨院 院長 山ア由紀也(ゆきや) 第1回 加齢による筋力の低下を防ごう ご存じですか? 体を形づくるものの内訳  個人差もありますが体重60sの方は、おおよそ筋肉が70〜80%(約45s)を占めていると考えられます。内臓や皮膚、血管などは、筋肉の割合が多いためこのなかに含めています。また、血液は体重の約7%(約5l)ありますが、その多くが筋肉や内臓にあるため、これも筋肉の一部として計算しています。そのほかでは、脂肪が約20%(約13s)、骨が約3%(約2s)とされます(ちなみに脳は脂肪の割合が高く、体重の2%程度〔約1・5s〕)。このように改めて数値化して見ると、筋肉が体のなかでいかに多くの割合を占めるか、またさまざまな組織として体の働きを維持するための、多様性、重要性を持っているかがおわかりいただけると思います。 だれにでも起こる筋力・運動能力の低下  筋肉には、運動するために関節を動かすモーターとしての働きがあります。このほかにも自律神経を介して内臓や血管、血糖値、免疫などを調整する働き、さらには精神状態をコントロールする働きがあります。こうした多様で重要な働きをになう筋肉ですが、年齢を重ねていくにしたがって、もしくは使わなくなってしまうことで、筋肉の線維が減少し痩せてきてしまいます。これは全身の筋肉に起こりますが、特に足の筋肉は早期から症状が現われ、50代で目立つようになってきます。  筋力低下が起こると運動機能が低下します。こうなると転倒によるけがのリスクが増加し、けがをすれば、さらなる運動機能の低下が生じ、日常生活動作が不自由になり、寝たきりのリスクが一気に高くなってしまいます。  また、筋力低下はこのような運動機能の障害に加え、認知症、成人病や生活習慣病、感染症などの病気を引き起こす原因の一つになっていることが、多くの研究からわかってきています(次頁で紹介する片足立ちテストは、糖尿病や脳梗塞のリスクと深くかかっていることがわかっています)。 筋肉は裏切らない! だから運動が必要  体は常に古い細胞を壊し、これと置き換えるための新しい細胞をつくり出しています。そう、体は「生まれ変わっている」のです! なかでも筋肉は47日程度で生まれ変わることがわかっています。いくつになっても筋肉は鍛えられるのです。しかし、加齢にともない、そのスピードは遅くなっていきます。だからこそ年齢が上がれば上がるほど、積極的なトレーニングとそのための時間が欠かせないのです。  まずは現状把握から始めていきたいと思います。運動不足を感じている方も体力に自信がある方も、肉体と意識のギャップを自覚するためにも、いまの状態を把握することは大切です。 LET‘S TRY! 次頁からストレッチを紹介! 閉眼片足立ちテスト (足裏の感覚とひざから下の筋力チェック) ※70歳以上の方は開眼したまま行います @平らで、転倒しても安全な場所を選びます A手を楽にして、足を床から5センチ程度軽く浮かせます B閉眼の場合はそのまま目を閉じてカウントします C上げている足が床に着いたり、軸足がずれてしまったら終了 注意!  初めての方はすぐに体を支えられる場所を選び、一度試してから時間を計ってください。めまいやふらつきがある方は主治医に相談のうえ行ってください。 5cm程度上げる 閉眼片足立ちテスト基準値(70歳以上は開眼片足立ち) 年齢 20代 30代 40代 50代 60代 70代 80代以上 タイム 70秒 55秒 40秒 30秒 20秒 20秒 10秒 片足立ち上がりテスト (太ももの筋力チェック) ※70歳以上の方は両足で行います @平らで、転倒しても安全な場所を選びます Aあらかじめ用意した椅子や台に腰を掛けます B手は胸の前で組むか体の前に伸ばします C片足でバランスを保ちながらゆっくり立ち上がります D立ち上がったら、そのまま3秒停止します 注意!  初めての方は、すぐに手をつける場所を選び、通常の高さのイスから行ってください。 片足立ち上がりテスト基準値 (70歳以上は両足) 年齢 20代 30代 40代 50代 60代 70代 80代以上 椅子や台の高さ 20cm 30cm 40cm 40cm 40cm 10cm 20cm かかとの高いくつの場合は、くつを脱いで行ってください 片足立ちトレーニング  62頁で紹介した「閉眼片足立ちテスト」を、目を閉じないで行うトレーニングです。地味ですが足の筋肉のトレーニングにも、バランス感覚を養ううえでも効果抜群です。 @椅子の背もたれや壁など、体を支えられる場所を探し片足で立ちます A背筋を伸ばし、目を開けたまま少し遠くへ視線を向けます B足裏に意識を集中し、1分間その姿勢を保持します C続いて反対の足も同じように行います Dこれを2回行います ポイント  1分間の片足立ちは、53分間のウォーキングと同じぐらいの運動効果が期待できます。初めはできる秒数でかまいません。少しずつ時間を伸ばせるようにがんばりましょう。 5cm程度上げる 太もものトレーニング  太ももの筋肉を鍛えるトレーニングです。ときどき前頁の「片足立ち上がりテスト」をしてみると、少しずつ記録が伸びて、筋力が向上していくことがわかるはずです。毎日少しずつ続けましょう。 @図のように椅子に浅く腰をかけ、足を交差させます A後ろにある足は膝を伸ばすように、前にある足はさらにひざを曲げ、スネとふくらはぎで押しあうように、前後から力を入れます B5秒間、力を入れたらリラックスします Cこれを片側10回ずつ交互にくり返します ポイント  力を入れている筋肉が、固くなっているか、手でさわって確認しながら行ってください。力を入れるときに呼吸を止めないようにしましょう。 ※痛みや違和感を感じたら中止してください。持病のある方は主治医と相談のうえ行ってください。 参考資料 ◆荒井秀典「筋肉量と健康・寿命の関係とは 筋肉の動きや役割について」https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_186.html◆谷本芳美ほか「日本人筋肉量の加齢による特徴」https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/47/1/47_1_52/_pdf◆健康美容ラボ「足腰の科学研究室」https://kenbi-labo.lion.co.jp/locomo/contents_lo_b.htm ◆ドクターサーチみやぎ「余裕を持って生活するために必要な『持久力と筋力』を測定してみよう」https://miyagi.doctor-search.tv/columndetail/MIYAGI-HCCOLUMN-0000018 ◆Haruki Mommaほか「Physical Fitness Tests and Type 2 Diabetes Among Japanese: A Longitudinal Study From the Niigata Wellness Study」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jea/advpub/0/advpub_JE20170280/_article/-char/ja◆望月泰博『頭を良くしたければ体を鍛えなさい』中央公論新社(2020年) 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  「10時10分を示す時計を書きなさい」という問題は、認知症のスクリーニングテストでは定番の一つです。高齢者の免許更新時認知機能テストにも組み込まれています。今回はそのむずかしいバージョン。心してチャレンジしてください。 第38回 時計問題 次の時計は何時何分でしょうか? 目標 3分 @ 時分 A 時分 B 時分 脳を刺激し、リフレッシュ!  社会情勢、働き方改革、新しい生活様式の提唱によって、私たちの生活形態は変わりつつあります。テレワークやオンライン授業などの環境に慣れないうちは、何かとストレスを受け、思考もネガティブになりがちです。そのようなときは、脳に刺激を与えて気持ちを切り替えていくことが大切です。  今回の問題では、いつも見ている時計が反転されていたり、向きが変わっていたりします。これを読み解くには、頭のなかで元の形をイメージして考えることが必要であり、このときに空間認知にかかわる脳部位が活性化します。  また、好きな言葉や数字などを反転して(鏡文字で)書いてみることも効果的です。イメージするだけでなく、実際に手を動かすことで運動を司る脳領域も刺激され、さらに脳活動は高まります。  楽しく脳を刺激し、フル回転させて、気持ちや生活を前向きに転換していきましょう。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【問題の答え】 @7(19)時17分 A5(17)時25分 B10(22)時33分 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2020年8月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒780-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価(本体458円+税) 10月は「高年齢者雇用支援月間」です 高齢者雇用に取り組む事業主や人事担当者のみなさまへ秋のイベントをご案内します 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 シンポジウム  毎年ご好評をいただいている「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」を本年度も開催します。  本年度は、高齢社員の戦力化を図るための「評価・報酬体系」、「職場環境改善」等をテーマとして開催する予定です。高齢者が活躍できる環境整備の必要性や今後の高齢者雇用について、みなさまとともに考える機会にしたいと思いますので、ぜひご参加ください。 概要 日時/場所 10月〜12月 全国5都市 カリキュラム(予定) ●高年齢者雇用安定法改正について ●学識経験者による講演 ●事例発表 など 参加費 無料(事前の申込みが必要となります) ※詳細・申込方法につきましては、決定次第、当機構HPに掲載する予定です。 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 地域ワークショップ  当機構では各道府県支部が中心となり、生涯現役社会の実現に向けた「地域ワークショップ」を開催します。事業主や企業の人事担当者などの方々に、高年齢者に戦力となってもらい、いきいきと働いていただくための情報を提供します。各地域の実情をふまえた具体的で実践的な内容ですので、ぜひご参加ください。 概要 日時/場所 高年齢者雇用支援月間の10月を中心に各地域で開催 カリキュラム (以下の項目などを組み合わせ、2〜3時間で実施します) ●高齢者雇用対策関連法【70歳までの就業機会の確保など】 ●専門家による講演【高年齢者雇用に係る現状や各種施策など】 ●事例発表【先進的に取り組む企業の事例紹介】 など 参加費 無料(事前の申込みが必要となります) ※各地域のワークショップの内容は、各道府県支部高齢・障害者業務課(65頁参照)までお問合せください。 ※高年齢者雇用開発フォーラムについて、本年度は、表彰企業のみを対象として開催いたします。ご了承ください。 ※新型コロナウイルス感染症の拡大にともない、開催日時などに変更が生じる場合があります。当機構ホームページで随時お知らせしますので、ご確認ください。 2020 8 令和2年8月1日発行(毎月1回1日発行) 第42巻第7号通巻489号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会