【表紙2】 高齢者雇用に取り組む事業主のみなさまへ 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 地域ワークショップのご案内  当機構では各道府県支部が中心となり、生涯現役社会の実現に向けた「地域ワークショップ」を開催します。事業主や企業の人事担当者などの方々に、高年齢者に戦力となってもらい、いきいきと働いていただくための情報を提供します。各地域の実情をふまえた具体的で実践的な内容ですので、ぜひご参加ください。 概要 日時/場所 高年齢者雇用支援月間の10月を中心に各地域で開催 カリキュラム (以下の項目などを組み合わせ、2〜3時間で実施します) ●高齢者雇用対策関連法【70歳までの就業機会の確保など】 ●専門家による講演【高年齢者雇用に係る現状や各種施策など】 ●事例発表【先進的に取り組む企業の事例紹介】 など 参加費 無料(事前の申込みが必要となります) 開催スケジュール 下記の表をご参照ください(令和2年8月20日現在確定分) ■開催スケジュール 都道府県 開催日 場所 北海道 10月23日(金) 北海道職業能力開発促進センター 青森 10月22日(木) 青森職業能力開発促進センター 岩手 10月20日(火) いわて県民情報交流センター 宮城 11月13日(金) 宮城職業能力開発促進センター 秋田 10月22日(木) 秋田テルサ 山形 10月20日(火) 山形国際交流プラザ 福島 10月22日(木) 福島職業能力開発促進センター 茨城 10月16日(金) ホテルレイクビュー水戸 栃木 10月22日(木) とちぎ福祉プラザ多目的ホール 群馬 10月22日(木) 群馬職業能力開発促進センター 埼玉 10月26日(月) 埼玉教育会館 千葉 10月14日(水) 千葉職業能力開発促進センター 神奈川 11月6日(金) 関東職業能力開発促進センター 富山 10月27日(火) 富山県民共生センターサンフォルテ 石川 10月1日(木) 石川県地場産業振興センター 福井 10月27日(火) 福井県中小企業産業大学校 山梨 10月28日(水) 山梨職業能力開発促進センター 長野 10月20日(火) ホクト文化ホール 小ホール 岐阜 10月19日(月) じゅうろくプラザ 静岡 10月28日(水) 静岡職業能力開発促進センター 三重 10月26日 (月) 四日市ユマニテクプラザ 滋賀 9月18日(金) 草津市立市民交流プラザ 都道府県 開催日 場所 京都 10月5日(月) 京都労働局6F 会議室 兵庫 10月22日(木) 神戸市教育会館 大ホール 奈良 10月26日(月) ホテル・リガーレ春日野 和歌山 10月16日(金) 県民交流プラザ 和歌山ビッグ愛 鳥取 10月30日(金) 鳥取職業能力開発促進センター 島根 10月21日(水) 島根職業能力開発促進センター 岡山 10月21日(水) ピュアリティまきび 広島 10月9日(金) 広島職業能力開発促進センター 山口 10月29日(木) 山口職業能力開発促進センター 徳島 10月29日(木) 徳島県JA会館 香川 10月21日(水) サンポートホール高松 10月22日(木) 四国職業能力開発大学校 愛媛 10月8日(木) 愛媛職業能力開発促進センター 高知 10月22日(木) 高知職業能力開発促進センター 佐賀 10月23日(金) 佐賀市文化会館イベントホール 長崎 10月14日(水) 長崎県庁 大会議室 熊本 10月26日(月) くまもと県民交流館バレア 大分 11月2日(月) トキハ会館 宮崎 10月21日(水) 宮崎市民文化ホール 鹿児島 10月28日(水) 鹿児島サンロイヤルホテル 沖縄 10月21日(水) 那覇第2地方合同庁舎 各地域のワークショップの内容は、各道府県支部高齢・障害者業務課(65頁参照)までお問合せください。 ※上記日程は予定であり、新型コロナウイルス感染症の拡大等にともない、開催日時などに変更が生じる場合があります。変更のある道府県は、決定次第ホームページでお知らせします。 jeed 生涯現役ワークショップ 検索 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.64 高齢者が長く働ける環境の整備が持続可能な社会づくりの基本条件 独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働政策研究所 所長 濱口桂一郎さん はまぐち・けいいちろう 1958(昭和33)年大阪府生まれ。東京大学法学部卒業後、1983年労働省入省。欧州連合日本政府代表部一等書記官、東京大学大学院客員教授、政策研究大学院大学教授などを経て、2017(平成29)年より現職。専門は労働法政策。『新しい労働社会―雇用システムの再構築へ』、『働く女子の運命』ほか著書多数。  改正高年齢者雇用安定法の成立により、2021(令和3)年4月から、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となります。自社での雇用以外にも多様な選択肢が示された今回の改正により、シニア人材の就労機会が大きく広がることが予想されます。そこで、労働問題について幅広く論じている、独立行政法人労働政策研究・研修機構労働政策研究所所長の濱口桂一郎さんに、高齢者雇用の今後の展望についてお話をうかがいました。 「人生100年時代」という超高齢社会高齢者が長く働ける環境整備は社会的要請 ―先の通常国会で高年齢者雇用安定法が改正され、企業の努力義務として、70歳までの就業確保措置を講じることが定められました。どのような点に注目していますか。 濱口 改正前の高年齢者雇用安定法で、65歳までの雇用確保措置が登場した背景には、公的年金の支給開始年齢引上げという問題が前提にありました。老後生活の所得保障という観点から、年金の支給開始年齢と退職年齢には密接な関係があります。この間に空白期間があってはならない。それ以前の60歳への定年延長も、厚生年金支給開始年齢の引上げを追いかける形で始まったものです。その年金の支給開始が65歳に引き上げられることを受けて、65歳までの雇用確保が政策課題となったわけです。  しかし今回の法改正では、年金支給開始年齢の引上げが予定されていないなかで、退職年齢をさらに引き上げ、70歳まで働き続ける社会の実現を目ざす政策が打ち出されました。「人生100年時代」といわれる超高齢社会にあっては、増加する高齢者が、支えられる側ではなく、できるだけ長く社会を支える側にとどまるような環境を整える必要があります。つまり、70歳までの就業確保という政策は、かつてのように年金政策を前提として登場したものではなく、雇用政策、就業政策主導で行われたという点が大きな特徴です。 ―そうした背景が、雇用だけではない多様な選択肢を設けたことにつながっているのですね。 濱口 65歳までは、定年延長や継続雇用制度、または定年制の廃止といった措置によって、原則として自社で雇用し続ける形での雇用確保措置が求められてきました。しかし、65歳を超えて70歳まで働くとなると、事業主に対し、一律にその年齢まで、高齢者を雇い続けるのを求めるだけでは実現がむずかしい。そこで事業主に対し、高齢者を雇用し続けること以外にも、高齢者の社会活動への参加を支援するような取組みをうながす措置として、多様な選択肢を示したわけです。  すなわち、65歳までの継続雇用制度では、自社での継続雇用だけでなく、子会社・関連会社などによる継続雇用が含まれていましたが、70歳までの継続雇用では、それに加えてほかの企業による継続雇用も含まれることになりました。いわば転籍によって高齢者の継続雇用を確保しようということです。これは、高齢者を送り出す企業と受け入れる企業との間で、当該労働者を70歳まで雇用し続けるという契約を締結する形になるのだと思います。  ここまでは「雇用」という形態による就業確保措置ですが、さらに雇用によらない就業確保措置が掲げられています。それは、一つには個人請負型就業で、高齢者が退職した後も70歳までは会社が仕事を出し続ける、つまり会社が高齢者と継続的に業務委託契約を締結する制度です。もう一つは、有償ボランティアがあります。法律では社会貢献事業という言葉を用いていますが、高齢者を雇用していた企業が自ら、またはその企業の委託や資金提供を受けて行う社会貢献事業団体で、70歳まで金銭を受け取って活動する制度の導入も含まれています。 ―70歳までの就業確保措置は広がるでしょうか。 濱口 65歳までの雇用確保措置は、導入当初は努力義務でしたが、その後、義務規定に格上げされました。年金支給開始年齢の引上げが行われるなかで、企業も努力規定が義務規定に変わることは見越していましたから、義務化される前の時期から、65歳までの雇用確保措置の導入は進みました。  今回の70歳までの就業確保措置も、いまのところ努力義務として規定されています。しかし、年金支給開始年齢引上げという切迫した条件がないので、この措置が企業にどれだけ広がるかはわかりませんし、努力義務が義務規定になる時期も不明です。ただ、高齢化が進むなかで、できるだけ長く働く環境を整備することは社会的な要請ですから、企業も早めに手を打つことが望ましいと思います。 生涯現役で働ける社会をつくるうえでジョブ型′ル用がどこかで必要になる ―高齢労働者は今後ますます増えていきますが、高齢者を活かすためにどのような雇用システムを構築していくべきでしょうか。例えば、65歳までの雇用確保措置は広く行われていますが、60歳を過ぎたとたんに待遇が変わるなど、雇用は継続されていても、キャリアが活かされていない例も少なくありません。 濱口 これまでの雇用確保措置では、ほとんどの企業が60歳定年制を維持したまま、60歳から65歳までを正社員とは別の身分で再雇用するというやり方をとっています。60歳までの正社員を対象とした終身雇用や年功賃金などの雇用慣行を、そのまま65歳まで延長するわけにはいかないからという、企業の現実的な選択です。  しかし、60歳になったからといって、だれもが突然、能力を低下させるわけではありません。60歳に達する前の段階から、能力・仕事・賃金の間の不整合が生じているのです。  よく年功賃金が批判の的になりますが、年功だけで賃金を決めている会社はほとんどないでしょう。多くの会社は職務遂行能力を評価して、それを賃金に反映させることを行ってきました。その結果、年齢が高まり、会社での勤続年数が長い人ほど能力が高いと評価されるので、賃金が年功的になってきたと説明されています。しかし実際には、これまで不況時にリストラが行われると、そのたびに中高年が標的とされてきました。本来、中高年は能力が高いと評価されてきた人たちですから、その人たちを真っ先に追い出すのは理にかなっていません。  つまり問題は、これまで企業が評価してきた職務遂行能力なるものが、本当に企業にとって、それだけ高い賃金を支払う価値のあるものだったのか、ということです。日本の企業が評価してきた正社員の能力とは、職務についての能力ではなく、会社の都合でどんな色にも染まることのできる能力だったのではないでしょうか。 ―つまり、雇用システムをジョブ型=ヲに変えていくべきだということですか。 濱口 そうですね。ただ、雇用システムは社会全体のシステムの一部分です。雇用の部分だけを取り出して、そこをジョブ型に変えようとしても、うまくいきません。例えば、日本の学校教育は、職業能力を身につけることとは無関係に行われていますが、そこを変えずに、雇用システムだけをジョブ型に変えたら、スキルのない大量の若者が就職できずにこぼれ落ちていくだけです。  日本の新卒採用という方式は、スキルを持たない若者を、職務を限定せずに採用し、社内で育成しながら、どんな仕事にも就けるような社員に育てていくという人材育成システムの入口です。特定の職務と切り離して能力を評価し、それによって処遇を決める雇用システムは、ここを起点としています。このように、雇用システムはほかのシステムと複雑にかかわり合いながら、長い時間をかけて形成されてきたものであることに注意する必要があります。  そのため、すべてをただちにジョブ型に変えるのは現実的ではありません。しかし60歳の手前のどこか、40代か50代からはジョブ型になるような制度に変えていくことが、70歳まで、あるいは生涯現役で働ける会社や社会をつくるうえで必要だと思います。 高齢者が長く働ける仕組みを整え社会を支える活動に参加してもらう ―これからは65歳、70歳、あるいはそれ以上の年齢まで働くのがあたり前の時代になります。高齢者の働き方についての展望をお聞かせください。 濱口 人口の高齢化が進展するなかで、持続可能な社会をつくるには、年をとっても長く働ける仕組みを整えるしかありません。働く高齢者を増やすことは、社会の支え手を増やすことです。これは、年金など社会保障制度を持ちこたえさせるという、いわば経済的な支えをたしかなものにするという意味があるのはもちろんですが、経済だけではなく、社会的な支えに高齢者が参加することの重要性にも目を向ける必要があるでしょう。例えば、今回の就業確保措置の一つである有償ボランティアは、高齢者の生活を経済的に支える選択肢として示されていますが、社会を支える活動という観点から見れば、無償であっても大きな意味のあることです。  そして、60代、70代まで働き続けるためには、会社のなかでひたすら昇進・昇給を追い求める働き方ではなく、途中からでも巡航速度で長く働くレールに乗り換えるような意識を持つことも必要ではないでしょうか。 (聞き手・文/労働ジャーナリスト鍋田周一 撮影/中岡泰博) ※ ジョブ型…… 職務内容を明確に定義し「仕事」に「人」をあてはめる雇用の形。欧米を中心に多くの国で採用されており、職務、労働時間、勤務地が原則限定される 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 2020 September ●表紙のオブジェ イラストレーター 柳田ワタル(やなぎだ・わたる) 1947年 大阪府堺市生まれ。1970年 多摩美術大学卒業。アニメーション制作会社勤務ののち、1974年よりフリーのイラストレーターとなる。1977年よりオブジェ、立体クラフトなどの制作を開始。90年代からは写真撮影も始める。 特集 6 高齢社員のワーク・ライフ・バランス 7 総論 人生100年時代のワーク・ライフ・バランス ―社員の生活改革を含めた本当の働き方改革を 中央大学大学院 戦略経営研究科 教授 佐藤博樹 11 解説@ 定年後の就業に関する柔軟な勤務制度構築のポイント 弁護士 末啓一郎 15 解説A テレワークの始め方 社会保険労務士法人NSR テレワーク推進室CWO 社会保険労務士 武田かおり 19 解説B Q&Aで学ぶ柔軟な勤務制度における労務管理のポイント 山社会保険労務士事務所 所長 山英哲 23 解説C 充実した“シニアライフ”のつくり方 株式会社オフィス・リベルタス 代表取締役 大江英樹 1 リーダーズトーク No.64 独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働政策研究所 所長 濱口桂一郎さん 高齢者が長く働ける環境の整備が持続可能な社会づくりの基本条件 27 日本史にみる長寿食 vol.323 縄文人も食べていたサトイモ 永山久夫 28 マンガで見る高齢者雇用 短期連載 《第5回》「仕事の変化に、高齢社員が抵抗感」 34 江戸から東京へ 第94回 隠居でなければの仕事 秋月種政 作家 童門冬二 36 高齢者の職場探訪 北から、南から 第99回 山形県 株式会社山形包徳 40 高齢社員の賃金戦略 第3回 今野浩一郎 44 知っておきたい労働法Q&A《第28回》 休職から復職時の留意事項、社内貸付制度 家永勲 48 いまさら聞けない人事用語辞典 第4回 「キャリア」 吉岡利之 52 TOPIC 独立行政法人労働政策研究・研修機構が「人生100年時代のキャリア形成と雇用管理の課題に関する調査」を公表 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 職場でできるストレッチ体操 短期連載 《第2回》「身体機能の維持・向上」 山ア由紀也 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第39回] 仲間はずれを探せ 篠原菊紀 ※連載「高齢者に聞く 生涯現役で働くとは」、「技を支える」は休載します 【P6】 特集 高齢社員のワーク・ライフ・バランス  年齢が上がるにつれ、自身の体調や家族の介護などの問題により、フルタイムでの勤務がむずかしくなる一方で、自分の知識や経験を活かし、仕事のほかにも、空いた時間を活用して地域や社会に貢献できる活動に取り組む高齢者は少なくありません。  つまり高齢者は、個々の事情や志向が異なり、働き方のニーズが多様化していくため、現役世代以上に「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」の重要性が大きくなるといえるでしょう。  そこで今回は、「高齢社員のワーク・ライフ・バランス」をテーマに、高齢者が働きやすい勤務制度や、仕事と同時に“ライフ”を充実させるための方策について考えてみたいと思います。 【P7-10】 総論 人生100年時代のワーク・ライフ・バランス ―社員の生活改革を含めた本当の働き方改革を 中央大学大学院 戦略経営研究科 教授 佐藤博樹(ひろき) 日本の高齢者の特徴  「高齢社員のワーク・ライフ・バランス」というと、みなさんは、何歳くらいまでを想定されるでしょうか。企業の観点からいうと、現状では65歳まで、今後は70歳までという会社が大半だと思います。しかし、高齢者の人生はその後も続きます。「人生100年時代」におけるワーク・ライフ・バランスには、どのような課題があるのでしょうか。  日本の高齢者は就業意欲が高いといわれています。実際、いつまで働きたいかをたずねると、60歳の人も、65歳の人も、70歳の人も、多くの人が「働き続けられるまで働きたい」と話します。もちろん、仕事ができる状況にあれば働きたいと考えるのは悪いことではありません。ただし、気をつけないといけない点が二つあります。  一つは、高齢になっても働き続けたいと思っているのは、日本人全般ではなく男性に多いこと。もう一つは、就業だけに限定せず、就業以外の社会活動を含む広義の社会参加という観点で高齢者を見ると、日本も欧米も変わらないということです。  欧米では、仕事をリタイアしても、何らかの社会活動に参加している人が多いのですが、日本の高齢男性は、就業率が高い一方で、仕事以外では社会とのつながりがなく、仕事を辞めると社会とのつながりもなくなってしまいます。  日本の男性が「働き続けたい」というのは、一つは本当に仕事をしたい人もいますが、働くこと以外に選択肢がないからそういっている人が多い現実もあります。日本でも女性の場合には、家庭や地域でさまざまな役割をになっていたり、一緒に旅行に行く友人がいたりしますが、男性にはそれがないのです(図表)。  これからは、仕事以外にも選択肢があるなかで、仕事をするのもよいし、仕事以外の社会活動をするのもよい、という形にしていくことが求められます。なぜかというと、私たちの研究では、仕事をしている人よりも、仕事以外の社会活動をしている人のほうが、生活の満足度が高いのです。高齢者の生活満足度を高めるためには、働ける機会を増やすことも大事ですが、それしか選ぶ道がないというのではなく、仕事以外にも社会とのつながりを持てる機会をつくるべきです。 ワーク・ライフ・バランスの本当の目的とは  65歳になってから仕事以外のことをやろうとしてもむずかしいので、高齢期に到達する前から、社会とのつながりを広げておく必要があります。  そのために欠かせないのが、まさにワーク・ライフ・バランスです。30代、40代といった若い時期から、仕事以外にやりたいことをつくっていくことが重要です。働き方改革に取り組む企業が増えており、健康を害する過度な残業などの削減は不可欠ですが、働き方改革はそれが主たる目的ではありません。大事な点は二つあり、一つは多様な人材が活躍できるようにすること。「65歳を過ぎても働きたいが、週3日しか働けない」という高齢者が補助的な仕事に回されるのではなく、その人の能力を活かせる仕事を提供できるような働き方改革を実現することです。そのためには、何らかの事情を抱えた人だけでなく、すべての社員の働き方を変える必要があります。  もう一つは、仕事以外に使える時間を創出するための働き方改革です。これまで、30〜40代の男性社員は、結婚して子どもがいても、週60時間以上働く人が2割近くいました。それでは、仕事以外にやりたいことを見つけることはできません。自分のために使える時間を増やし、「早く帰って家族とご飯を食べる」や、「これまですべてОJTで学んできたが、ビジネススクールで理論を学ぶ」といったことをできるようにすることが大事です。  そのためのポイントは、メリハリのある働き方を可能にすることです。残業時間を月40時間から20時間に半減したというような話をよく聞きますが、毎日2時間残業していたのを1時間に減らしても、生活は変わりません。1時間の残業では、ビジネススクールに間に合わないので、生活を変える観点からいうと、あまり意味のある働き方改革とはいえません。毎日定時に帰れなくても、残業ゼロの日が週に2日できると、平日にビジネススクールに通えたり、家で子どもたちと食事をしたり、ボランティア活動やサークル活動にも参加できます。30〜40代からそうした活動を行っていれば、50〜60代になるにつれて徐々にそのウエートを高め、65歳を過ぎたらそちらをメインにしていくということができます。 社員の「生活改革」への支援  しかし、先ほど指摘したように、日本人男性たいことがわからない」という人が少なくありません。もう一つの問題はここです。  ただ、そこで会社が「ご家族と一緒にご飯を食べなさい」とか、「自己啓発のために勉強しなさい」というのはおせっかいというものです。会社を出たら社員の時間なので、本来、会社がいうべきことではありません。働き方改革は会社が行うべきことですが、社員の生活改革―仕事以外の生活も大事にして生活全体を豊かにすることは、社員が自分で考えなければならないのです。  では、会社は何をすればよいのでしょうか。 1 活動メニューの情報を提供  一つは、自己啓発やボランティア活動など、いろいろな活動メニューを用意して提示することです。「これをやれ」と命じるのではなく、「こんなものもありますよ」と情報提供するわけです。社員同士の勉強会の場を用意して学び合えるようにしたり、サークル活動を支援するのもよいでしょう。 2 「変化対応力」の重要性を周知  もう一つ大事なのは、「会社にとって望ましい人はどういう人か」というメッセージを変えることです。これまではやはり、仕事第一の人が会社にとって望ましい人でした。これからは、仕事はもちろんがんばってもらう必要がありますが、それはいまの仕事だけではありません。環境変化が激しく、予測がむずかしい時代ですので、現在担当している仕事に必要な知識やスキルを身につけるだけでなく、将来の不測の変化に対応できる柔軟性、「変化対応力」が求められます。  例えば、今回の新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの人が急遽、在宅勤務となりました。また、コロナの影響でビジネスモデルが大きく変わった業種もあります。そういう新しい環境にすぐ適用しようと努力する人がいる一方で、これまでのやり方から抜けられない人がいます。変化対応力を構成するのは、@社会経済環境やビジネスの変化に関心を持つ「知的好奇心」、A常に学び続ける「学習習慣」、B年齢にかかわらず新しいことに挑戦する「チャレンジ力」の三つです。これらを備えた変化対応力が、これからの時代を生き抜く糧になります。  では、どうすればそれらの能力が身につくかというと、私たちの研究では、仕事だけをしていてはダメなのです。例えば、家にはほとんど寝に帰るだけという課長の男性。その人は課長という役割しかしておらず、課長に求められる価値観だけで動いています。それに対して、家庭では夫や父親の役割をにない、マンションの管理組合の理事長をし、ビジネススクールにも通っているという人は、自分のなかにいろいろな役割、いろいろな価値観が併存することになります。すると、時間やエネルギーなどの自分の資源を役割間で調整しないといけませんし、それぞれの役割の価値観が対立することもあります。例えば、ビジネススクールに行くと、そこでは受講生は部下とは異なり忖度(そんたく)してくれることはなく、同じ受講生というフラットな立場でコミュニケーションを取らないといけません。また、マンションの管理組合では合意形成を重視することが大事ですが、会社では、合意形成ができないときでも管理職が最終的には決断することが必要です。また、1日のうちで役割が変わったり、異なる価値観が自分のなかに入ることはたいへんですが、それが変化対応力を高めることにつながります。 両立支援に対する誤解  ここで少し視点を変えて、高齢期に起こりがちな課題として、仕事と介護、仕事と治療との両立の問題に触れておきましょう。 1 介護との両立支援  40代も半ばを過ぎると、家族の介護の課題に直面する人が増えてきます。70歳まで会社で働くことが一般的になると、介護の課題を抱える社員の比率が高くなっていくことが予想されます。また、未婚化・晩婚化により、未婚で親2人、あるいは子どものいない叔父・叔母の介護まで考えなければならない社員も増えてくるかもしれません。  ここで大事なのは、「仕事と介護の両立支援」と「仕事と子育ての両立支援」は違うということです。子育て支援の場合は、簡単にいうと、男性も含めて、子育てができるように支援します。一方、介護支援の場合は、やや極端な表現ですが、介護しないで済むように支援するのです。  介護というのは、育児と違っていつまで続くか見通しが立ちません。そこで自分が前面に出て介護をしてしまうと、仕事と両立できなくなる可能性があります。ではどうするかというと、要介護者に関して介護保険の要介護認定を受けて、介護保険制度のサービスを利用するための準備を早めにすることです。要介護認定のあとには、在宅介護のためにケアマネジャーを探し、自分が直接介護しなくてよい体制を整えます。その準備のために必要があれば、介護休業を取得します。  こうしたやり方をするためには、長い休業もセーフティネットとしてあったほうがよいですが、それ以上に、休みたいときに休めるような働き方改革が有効です。  あわせて、適切な情報提供をすることも心がけてください。多くの企業では、介護のための両立支援は子育てとの両立支援と違うということを人事担当者も理解していません。だから職場の管理職も、「うちは半年間介護休業が取れるから、それを使って親御さんの介護をしてきなさい」などと間違ったアドバイスをしてしまいがちです。社員のだれがいつ介護の問題に直面するかわかりませんので、一定年齢で社員の全員に情報提供することをおすすめします。 2 治療との両立支援  治療との両立も、子育てや介護との両立とは異なる点があります。一つは、事情を抱えているのが本人であること、もう一つは、がんなどの場合、ある程度快復した後も、長期にわたって治療が続くことです。多くの企業では病気休暇は整備されていますが、抗がん剤治療などで定期的に休む必要がありますので、介護の場合と同様、必要なときに休めるような働き方改革が重要です。  また、キャリアプランの見直しが必要になることもあります。3〜4年と治療が続くので、「管理職を目ざそうと思っていたがむずかしい」とか、「海外勤務は無理」といったケースが考えられます。そこで落ち込むのではなく、自らの状態にあったキャリアチェンジができるように、社員をサポートしてあげてください。 おわりに  これまで企業では、「ワーク・ライフ・バランス」を育児や介護などの事情を抱えた人が辞めずに済むための支援策というように、狭くとらえてきました。しかし、今回説明したように、すべての人が仕事に取り組みながら、仕事以外のやりたいこともできるのが、本当の意味でのワーク・ライフ・バランスです。  「働き方改革」についても、残業削減ととらえている企業が少なくありません。これは、社員の側も同じです。過度な残業を減らすだけでなく、社員の生活改革まで含めた働き方改革ができれば、「ビジネススクールに行きたいから、働き方を変えよう」、「家族と食事ができるように、仕事のやり方を見直そう」というように、社員が自ら働き方改革に取り組む好循環も生まれるでしょう。  社員の退職後を含めた生活満足度を高めていくために、ぜひ、「本当のワーク・ライフ・バランス」、「本当の働き方改革」に取り組んでください。 図表 高齢者の就業国際比較 性別 就業者※1 社会活動参加者※2 その他 合計 男 国 日本 度数 265 12 226 503 割合(%) 52.7% 2.4% 44.9% 100.0% アメリカ 度数 198 80 204 482 割合(%) 41.1% 16.6% 42.3% 100.0% ドイツ 度数 116 68 248 432 割合(%) 26.9% 15.7% 57.4% 100.0% スウェーデン 度数 180 111 173 464 割合(%) 38.8% 23.9% 37.3% 100.0% 合計 度数 759 271 851 1881 割合(%) 40.4% 14.4% 45.2% 100.0% 女 国 日本 度数 231 21 348 600 割合(%) 38.5% 3.5% 58.0% 100.0% アメリカ 度数 197 85 230 512 割合(%) 38.5% 16.6% 44.9% 100.0% ドイツ 度数 113 105 338 556 割合(%) 20.3% 18.9% 60.8% 100.0% スウェーデン 度数 186 103 247 536 割合(%) 34.7% 19.2% 46.1% 100.0% 合計 度数 727 314 1163 2204 割合(%) 33.0% 14.2% 52.8% 100.0% 合計 国 日本 度数496 33 574 1103 割合(%) 45.0% 3.0% 52.0% 100.0% アメリカ 度数 395 165 434 994 割合(%) 39.7% 16.6% 43.7% 100.0% ドイツ 度数 229 173 586 988 割合(%) 23.2% 17.5% 59.3% 100.0% スウェーデン 度数 366 214 420 1000 割合(%) 36.6% 21.4% 42.0% 100.0% 合計 度数 1486 585 2014 4085 割合(%) 36.4% 14.3% 49.3% 100.0% ※1 就業者:仕事をしたい ※2 社会活動参加者:仕事以外にしたいことがある 出典:佐藤博樹「就業及び社会活動への参加と総合生活満足度」、『平成27年度 第8回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果』(内閣府) 【P11-14】 解説 1 定年後の就業に関する柔軟な勤務制度構築のポイント 弁護士 末(すえ)啓一郎 高年齢者雇用安定法の改正  2020(令和2)年1月20日に召集された第201回国会において、雇用保険法等の一部を改正する法律案が成立し、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下、「高齢法」)に、65歳までの高年齢者雇用確保措置を義務付ける第9条に加えて、70歳までの高年齢者の就業確保措置を定めた第10条の2の規定が新設され、2021年4月1日から施行されることとなりました。この新設された義務は努力義務であり、かつ労働組合等との同意があれば、「雇用」確保措置ではなく「就業」確保措置でも足りるとするもので、事業主に対する義務としては比較的緩やかなものですが、現実にどのような行政上の運用がなされるのかについては注視しておく必要があります。また今後、高齢者雇用や就業確保措置については、さらに義務づけが強化されることも予想されるところです。  加えて事業主としては、このような改正法令および行政の動向だけでなく、人生100年時代といわれる長寿社会と少子高齢化社会における労働力不足の問題について対応を迫られていることを忘れてはなりません。そして、これらの問題を考えるには、事業主の側からの視点だけでなく、就業者の側からの視点も必要です。 定年後の雇用・就業確保措置〜就業者からの視点〜  就業者の視点で考えてみれば、まず人生100年時代においては、収入の確保により生活を安定させる必要に迫られることがあげられます。しかしそれだけではなく、定年後の長い人生をどのように充実させるかも重要な課題です。高齢法の改正により、雇用確保措置義務に代えることができる創業支援等措置が定められたのはこのような視点によるものと考えられます。  しかしながら、就業者の視点でさらに考えてみれば、問題はさらに複雑です。高齢者を取り巻く環境は新規学卒者のそれと比較すれば明らかな通り、きわめて多様性に富むものです。それまでの長い職業生活を通じ、蓄積してきた資産の状況、配偶者の就業状況、子どもの有無や人数、その就業状況などにより、収入を得るための継続的就業の必要性は大きく異なることが予想されます。また、健康状態についても、自分の問題だけではなく、親や配偶者の介護の必要性の有無、程度なども関係するため、可能な就業形態も大きく異なることが予想されます。  したがって、企業が高齢者の雇用確保や就業確保の義務を果たすための制度を構築するうえでは、これらをひとくくりにして、どのような制度を構築するべきかといった単純な議論をすることはできません。 定年後の雇用・就業確保措置〜事業主からの視点〜  翻(ひるがえ)って事業主の視点で考えてみれば、高齢者に対する処遇の問題は、法律上の義務の観点からだけではなく、高齢者に対する処遇が現役世代の安心感やモチベーション、在職継続意思などにおよぼす影響を無視することはできません(もちろん人事制度設計者自身が、就業者として自らの将来を考える必要があるという現実も無視できないでしょう)。さらに事業を進めるうえでは、人手確保の観点からだけではなく、経験者の技能確保の観点からも、高齢者に対する雇用確保措置を考える必要があります。このような観点からは、前述の就業者の視点と事業主の視点とで、求められる方向性は、一致しているように見えます。  しかし、事業主の視点としては、人材の新陳代謝を図り、能力のある若手に活躍の場を与える必要性や、技術革新にともなう就業者の能力の陳腐化の問題に対する対処も考える必要があります。さらに、終身雇用制や年功賃金の影響が残る人事制度において、継続雇用における待遇決定を、人件費コストを引き下げる方策の一つとする必要性に迫られる場合があります。このような必要性は、生活の安定のために継続雇用を希望する就業者の望むところとは逆のものとなり得ます。  したがって、事業主としては、継続雇用における労働条件を定めるうえで、高齢者の多様性をふまえ、かつ前述の就業者としての視点にも配慮しながら、労働力確保の必要性とコストの削減の必要性とのバランスをどのように取るのかの検討を行う必要があるといえます。 柔軟な就業体制・制度構築の必要性  また、継続雇用制度の構築においては、人件費コストの問題である待遇の問題と並行して、どのような内容の業務を担当してもらうのか、またその勤務形態をどのように定めるのかについても検討する必要が生じます。そして業務の内容や勤務形態については、業務上の必要性からの観点および就業者の意欲と体力や家庭環境などへの配慮をふまえて決められることになるものと考えられます。  このように業務内容や勤務形態を決めるうえでは、本人や家族の健康問題の制約などもあるので、業務上の必要性だけではなく、その勤務形態について時間や場所の柔軟性についての配慮も必要となります。そして、業務内容および勤務形態と、これに対する待遇の問題とは密接に関連するものなので、現実に雇用確保措置としての継続雇用制度を考えるうえでは、以上の各問題を一括して検討しなければならないことになります。  以下では、それらの検討のなかの一つのファクターである、柔軟な就業体制の構築について、現行法における65歳までの雇用確保の義務を果たすうえで留意すべき事項を取り上げて検討します。 柔軟な就業体制について  柔軟な就業体制というときには、おもに就業の場所と時間の柔軟性が問題とされます。時間と場所の柔軟性といわれて思い浮かぶのはテレワークです。しかし、雇用関係においてテレワークを行う場合は、就業の場所についての柔軟性があるとはいえますが、雇用者である以上当然に、労働時間法制の規律のもとにありますので、勤務時間についての柔軟性があるとはいえません。勤務時間の柔軟性を高めるためには、通常勤務の場合と同様に、フレックスタイム制や裁量労働制、事業場外みなし労働などの制度を利用することが必要となります。  これに対して、テレワークでも請負・業務委託のような形で行う場合は、就業の場所だけでなく時間についても自由になるのが原則です。しかしながら、請負・業務委託であっても、例外的に時間に関する指定を受けることもありますので、必ずしも契約の形態だけではっきり区別がされるわけでもありません。  このあたりについては、契約形態による境界が不明確なところでもありますので、簡単な図表をつくってみました。  この図表のポイントとなるところは、そもそも雇用契約関係と請負・業務委託契約関係との境界は、契約の名称などにより明確な線引きができるものではなく、現実に、(指揮命令や評価・賃金決定システムなど)どのような就業管理が行われるかなどの、事実問題により決まるということです。そこで、この図のなかにテレワークやフレックスタイム制、裁量労働制度などが、時間や場所にどのような柔軟性をもたらすのかという関係を、概念的に示してみました。これらの関係からうかがえることは、テレワークやフレックスタイム制、裁量労働制などは、雇用契約の枠組みのなかでの柔軟化措置ではありますが、それらを拡大していけば、その実態として雇用契約関係が請負・業務委託契約関係に近づいていくということです。  しかし、雇用の場合と異なり、請負・業務委託では、契約関係の継続性における安定性に欠けるという問題があります。このような観点から、高齢法においては、雇用確保措置と、就業確保措置や創業支援等措置とを別に規定し、雇用確保の義務履行の方策として、当然に代替できるものとはしていないと考えられます。 請負・業務委託制度の活用  一方、もともと雇用と請負・業務委託との関係は明確な線引きができるものではなく、実態により境界が曖昧となり得るものですので、当事者がどのような意図で契約をしているかは別として、就業の柔軟性をどんどんと高めていくことは、事実上、雇用関係を離れ、請負・業務委託の関係に近づいていくということになるわけです。そこで、逆説的にはなりますが、就業の場所や時間の柔軟性を高めることを目的として、雇用ではなく、請負・業務委託の選択を就業者が自発的に行うことも、あながち不合理であるとはいえないと考えられます。  もちろん、就業者の選択をうながすためには、安定性についての問題をクリアする必要があります。それには二つの方向性があると考えられます。  一つは、請負・業務委託関係とはいいながら、一定期間の契約関係の存続を契約上保障することです。これについては、契約条項の工夫が必要とされるところですが、例えば、「65歳までの契約の継続を保証する」と端的に決めてしまうということも考えられますし、「契約を打ち切ることができる場合は、労働契約法第16条に定める要件を満たす場合とする」などとの規定とすることも考えられます。これらの内容については、できれば専門家の助言も得ながら、当事者間でも十分な理解に基づいた合意をすることが必要となります。  他方では、そのような安定性については保証しない代わりに、それ以外の契約の内容や条件などを、雇用の場合よりも優遇されたものとして、その選択をうながすことも考えられます。この優遇措置が十分に合理的であれば、契約関係の安定性の程度が低いにしても、就業者において、就業条件の柔軟性とあわせ、このような就業形態を望むということはあり得るでしょう。  定年後の再雇用の問題ではありませんが、株式会社タニタ(東京都板橋区)において、正社員のフリーランス化の制度を導入していることが報じられています。前述の通り、高齢者の状況は多様化していますので、人により、請負・業務委託とすることへのハードルは、このような正社員の場合よりさらに低いものであることが予想されます。  そして就業者がこのような条件に満足できるならば、請負・業務委託の自発的選択は、高齢法上の雇用確保措置との関係でも問題のない制度であると考えられます。 雇用確保措置の内容との関係  現行法上の雇用確保義務を果たすために、請負・業務委託制度を利用するには、法律上の義務の限界がどの辺にあるのかということについて、理解をしておく必要があります。  この関係で見ておくべき判決の一つはトヨタ自動車事件(名古屋高裁平成28年9月28日判決)であり、定年前の業務内容と異なった業務内容を示すことは可能であるものの、継続雇用の実質を欠くような、大幅な変更は認められないとするものです。他方で長澤運輸事件(最高裁平成30年6月1日判決)では、定年後の有期雇用労働者と無期契約労働者の労働条件の相違の許容範囲を考えるうえで、定年後再雇用であることをその他の事情として考慮できるとしています。また、山梨県民信用組合事件(最高裁平成28年2月19日判決)では、重要な労働条件の変更については、「不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」ことが必要であるとされています。 柔軟な勤務制度構築について  以上をふまえ、定年後の就業形態を考えるうえでは、フレックスタイム制やテレワークだけではなく、請負・業務委託までを含め、検討が可能であり、またその待遇などに関しても、どのような提案であれば継続雇用の実質が維持できているのか、就業者が納得のうえでその条件に合意しているのかなどについての慎重な考慮が必要とされます。そしてこのような措置は、業務の内容や事業の状況によっても変わり得るところですので、多面的多角的な検討および規則の整備などの具体的制度構築にあたっては、必要に応じて、法律専門家の適切な助言を得ることなども考えるべきでしょう。  ちなみに、この具体的な適用に関しては、事業規模が小さなところでは、就業者一人ひとりの個別状況に応じて協議・決定するとの対応も可能であろうと考えられますが、大規模事業所の場合については(適用については個別の配慮が必要であるにしても)、制度運用上および公平性の観点から、選択できる制度を事前に構築しておくことが必要となろうと考えられます。 図表 就業の場所・時間の柔軟性 雇用 請負・業務委託 低い 就業場所の柔軟性 高い テレワーク 低い 就業時間の柔軟性 高い 裁量労働制・事業場外みなし時間制度 フレックスタイム制度 短時間勤務制度 変形労働時間制度 出典:筆者作成 【P15-18】 解説 2 テレワークの始め方 社会保険労務士法人NSR テレワーク推進室CWO 社会保険労務士 武田かおり 高齢者とテレワーク  少子高齢化が進むなか、労働者不足や年金制度への不安解消のため、高齢者の就労が期待されています。また、高齢者自身も「人生100年時代」といわれる現代社会のなかで、やりがいを持って生きていくため、生涯働き続けたいと願う人が増えています。しかし、体力的な不安や配偶者などの介護問題を抱えることも多いことから、通勤時間や移動時間による時間と疲労を削減し、時間の有効活用ができる「テレワーク」が非常に有効だと考えられています。  テレワークは、「情報通信技術(ICT)を活用した、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」と定義されおり、就業形態としては雇用型テレワークと自営型テレワークに分類されます。雇用契約により労働者として働く雇用型テレワークにおいては、働く場所によって、在宅勤務、モバイル勤務、サテライトオフィス勤務に分類されています。  2020(令和2)年4月7日に発令されたコロナ禍における緊急事態宣言においては、日本全国に外出自粛が呼びかけられ、各企業においては在宅勤務の推進が強化されました。  50歳以上のシニア人材に特化した人材派遣と人材紹介を提供する株式会社シニアジョブ(東京都新宿区)が2020年3月27日〜4月5日に行った調査※1によると、同社が紹介・派遣しているシニア人材が勤務する企業で、「在宅勤務・テレワークの実施」をコロナ対策に取り入れている企業は、10・7%と1割程度という結果でした。これは調査対象の回答企業の業界が、自動車整備や医療・介護、保育、建設・不動産など、テレワークがむずかしいと考えられている業界が多いこともあるようですが、特段高齢者に向けた対策としてはテレワークを行っていない企業がまだまだ多い状況がうかがえます。  一方、ウイングアーク1st株式会社(東京都港区)が2020年5月7日〜15日に行った調査※2では、製造業の4社に1社は工場までテレワークを実施していたと答えており、その対象者の一例として、感染によるリスクの高い「妊婦や高齢の嘱託社員」があげられています。  内閣府が5月25日〜6月5日に行った調査※3では、緊急事態宣言の発令下において、全国で34・6%、東京23区では55・5%もの人がテレワークを経験したとされています。しかし、予期せぬ事態での緊急避難的なテレワークであったため、通常勤務と比較すると効率性や生産性に関しては47・7%の人が減少したと答えています。しかし、このような緊急事態のなかでも、平常時から一部でもテレワークを行っている企業は、大きな支障なく業務を遂行することができました。また効率や生産性が下がったと感じている企業も、テレワークが実施できなければ、多くの方が感染の危険にさらされ、自宅待機や休業を余儀なくされていたことでしょう。今後のBCP※4対策としても、労働力確保のための高齢者の就業促進のためにも、平常時からスムーズに活用できる本格的なテレワークの制度を構築することが求められています。 テレワークの効果  テレワーク導入により、企業・就業者・社会の3者にとってさまざまな効果が期待できます。  高齢者の働き方としては、定年を迎え体力的に自信のないシニア世代や、障害があり毎日の通勤が困難な人でも、在宅での業務が可能となれば、働く機会が増大します。テレワークを導入することで企業は労働力を確保できるうえに、働き方や雇用形態によってはコスト削減にもつながります。高齢者は、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら、仕事を継続することで収入を確保でき、企業も高齢者も互いにWin−Winの関係を築くことができます(図表1)  一般社団法人日本テレワーク協会主催「テレワーク推進賞」において、2004(平成17)年度に第5回「会長賞」、2015年度に第16回「優秀賞」を受賞したNTTコム チェオ株式会社(本社・東京都港区)は、人口減社会における労働力確保などの解決に貢献できる事業モデルとして、早い時期から高齢者雇用に取り組んできました。  2017年度第18回「会長賞」に加え、2018年にテレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)「優秀賞」を受賞した味の素株式会社(本社・東京都中央区)では、多様な人材の活躍を推進するなかで、テレワークの対象として定年退職後のシニア社員の利用を推奨しています。この結果、2016年度比で定年退職後のシニア社員利用者は2・4倍(20人から48人)となり、テレワークの総実施回数は1・2倍となりました。  2015年度に第16回「優秀賞」、2018年度に第19回「奨励賞」を受賞した株式会社タツミコーポレーション(東京都中央区)では、出産・育児・介護・定年などの理由で退職したOB・OGに在宅スタッフとして業務委託し、経験を要する「水回り部門」の見積り作成業務を独自のシステムを利用して行ってもらうことで、人材不足の課題を解消しています。  2012年度に第13回「優秀賞」を受賞し、2018年に総務省テレワーク先駆者百選総務大臣賞に選ばれた向洋(こうよう)電気土木株式会社(神奈川県横浜市)では、経験の浅い現場作業員がWebカメラを携帯し、70歳の高齢社員をはじめとするベテラン社員がWebカメラからの現場の映像を元に、遠隔地から作業指示をしています。作業現場は夏は暑く冬は寒く、さまざまな障害物があるなど体力の消耗が激しい場所です。このような遠隔でのコミュニケーションを確立させることで、高齢社員が現場に行かなくても、その長年の技術伝承が実現可能となります。  テレワークを利用することで、高齢社員は雇用と自分のやりがいの確保ができ、企業は次世代育成のための能力開発を、貴重な知識と経験を持つ高齢者に任せることができるのです。 テレワークの始め方 ■テレワーク導入のポイント 1 推進体制とルール策定  社内の各部署が推進の意義を理解し、「いつかは全社員が活用できる制度を目ざす」という目標を掲げて推進します。経営企画部門、人事総務部門、情報システム部門が中心となり、対象部門の代表者なども加えた推進チームを結成するなど全社横断的な体制づくりが有効です(図表2)。 2 テレワーク中のコミュニケーション  周りに人がいない環境で業務ができることはテレワークのメリットですが、在宅勤務中の報連相(報告・連絡・相談)や、テレワーカーが孤独感に陥らないためにも、一定のコミュニケーション量を保持することが重要です。メールや電話だと、相手の状態がわからず声をかけにくいので、気軽に声かけができるチャットツールが便利です。また、仮想オフィスツールの利用や、Web会議ツールを常時接続し、オフィスで働くメンバー全体の様子をカメラで配信することで、離れていても一緒に働いている空気感を共有することができます。その際、オフィス側のカメラ、マイク、スピーカーはすべてONに、在宅勤務側はスピーカーのみONにしておき、声をかけられたらマイクとカメラをつけて対応するというルールにしておくと便利です。 3 テレワークの対象者  テレワーク(特に在宅勤務)の対象者は、希望者全員を対象とする場合でも、自宅の就業環境(セキュリティ、通信環境、家族環境など)については、申請書などにより確認することが望まれます。  対象者を限定する場合は、勤続年数(勤続1年以上など)、個人的理由(育児・介護・遠距離通勤・傷病など)、部門・業種(営業部門、管理部門など)、雇用形態(正社員、契約社員、パート社員など)など、客観的理由を示すとよいでしょう。 4 テレワークの頻度  テレワーク(特に在宅勤務)の実施頻度は、導入の段階や導入目的によって異なります。コロナ禍以前、政府は、週に1日でもいいのでテレワークを導入する企業とテレワーカーの増加を目標としていました。しかし、コロナ禍により多くの人がテレワークを経験した現在は、より高い頻度でのテレワークが求められるでしょう。頻度が低いテレワークでも、セキュリティや勤怠管理は必須となりますが、実施頻度が多くなるほど、費用負担、教育訓練、評価など、労務管理における検討項目は増加します。 5 テレワーク中の業務  テレワーク導入にあたって対象業務を選定する際には、まず業務の棚卸しが必要です。@業務にかかる時間、A使用する書類、B使用するシステムやツール、Cセキュリティ、業務上の情報漏洩リスク、D関係者とのコミュニケーションを確認して、いますぐ実施できる業務とできない業務を整理します。いますぐ実施できない業務であっても、ツールの導入やルールを新たに策定することによってテレワークができる業務の幅を広げていきましょう。 6 テレワークにおける時間管理  テレワーク中であっても、オフィスと同様に始業終業時間の確認・記録が必要です。「職場のタイムカードを打刻できない」など物理的な問題については、電子メール、電話、チャットなどによる方法で代用できます。また、パソコンのログ記録、クラウドの勤怠管理ツールを利用してどこからでも打刻ができるツールを利用すると個別に報告する手間が省け、記録を共有しやすく便利です。業務に専念しているかどうかが心配で導入にふみ切れない場合は、顔認証やパソコンの画面をランダムにキャプチャできるツールなど、在席確認ができるツールを試してみるのもよいでしょう。 7 就業規則とテレワーク勤務規定  テレワーク導入にあたり場所が変わるだけで、労働時間や賃金を変更しない場合、就業規則の変更は不要です。しかし、切り分けのむずかしい水道光熱費などを労働者に負担させる場合や労働時間、手当の変更をする場合は、就業規則を変更する必要があります。労働時間を変更する場合も、テレワーク導入トライアル中だからといって労働基準法を免除・猶予する特例はありません。例えば、テレワーク導入を機に「フレックスタイム制」を導入しようとする場合など、緊急テレワークやトライアル中であっても就業規則を変更して届出が必要となります。  また、テレワーク勤務規定を作成した場合も、すべての規定は就業規則の一部となりますので、労働者の意見を聞いて、所轄労働基準監督署への届出、周知が必要となります。 8 本格導入に際して  トライアルの検証により作成した就業規則(テレワーク勤務規定)やルールの周知を行うとともに、導入のための教育・研修を行います。特に高齢社員の場合、ITリテラシーが低いとテレワークに馴染まず、制度を批判的にとらえる例も多いので、必要に応じてパソコンの知識・操作のスキルアップ研修などを強化し継続的に実施します。  導入に際しては、最初から完璧なルールをつくろうとするのではなく、相談窓口・会議・アンケートなどにより課題を抽出し、試行錯誤をくり返しながら、自社に合った制度を育てていくことが重要です。 おわりに  テレワークの普及は、高齢社員の働きやすさやワーク・ライフ・バランスを叶(かな)えるだけではなく、高齢社員の能力を活かし、さらなる活躍の場を広げるチャンスでもあります。  テレワーク導入をきっかけとして、働き方の多様性を実現し、新しい時代を生き抜く企業戦略につなげていただければと願う次第です。 ※1 株式会社シニアジョブ「シニア人材を雇用する企業に対する新型コロナウイルス感染防止対策の状況調査」https://corp.senior-job.co.jp/news/2020/04/07/100000 ※2 ウイングアーク1st 株式会社「新型コロナウイルス対策としてのテレワークの実態調査」https://www.wingarc.com/public/202005/news1270.html ※3 内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査」https://www5.cao.go.jp/keizai2/manzoku/pdf/shiryo2.pdf ※4 BCP……事業継続計画(Business Continuity Plan)。自然災害や感染症などの有事の際に、事業を中断させない、あるいは中断しても可能なかぎり短い期間で復旧させるための手順等をマニュアル化した計画のこと 図表1 テレワークのさまざまな効果 ■テレワークとは 「情報通信技術(ICT)を活用した、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」 ※テレワーク:「tele=離れたところで」と「work=働く」をあわせた造語 社会 社会への効果 ・労働力の確保 (高齢者・女性の活用) ・雇用の創出 ・地方・地域の活性化 ・環境負荷の低減 ・交通混雑の回避 企業 企業へのメリット ・事業継続性確保(BCP) ・意思決定の迅速化 ・業務効率の向上 ・離職防止(育児、介護) ・障がい者雇用促進 ・オフィスコスト、交通費削減 就業者 就業者へのメリット ・ワーク・ライフ・バランス向上 ・育児、介護と仕事の両立 ・業務効率の向上 ・移動削減による時間創出 ・障がい者の就業 ・病気の治療との両立 企業、社会、就業者の3者にとってプラスの効果 C NSR All Rights Reserved 図表2 テレワーク本格導入までの全体像 目的 調査 導入計画策定 風土醸成 トライアル 導入 業務分析 @導入目的・方針・推進体制の確認(現状分析) 業務棚卸 A導入(改善)計画の策定/プレトライアル実施 Bルールの検討 F利用者、管理職、同僚、全社員への周知・教育 Gトライアル Hトライアル結果分析(アンケート等) Iトライアルの検証・評価 ☆本格導入準備 IT環境整備 ICT環境確認 CICT環境の構築とセキュリティの検討 社内制度・ルール構築 制度確認 D制度・規定の検討 Jルール・制度の改善見直し 教育 トップの意思確認 アンケート E管理職ワークショップによる意見交換や全社員からアイデア募集 セミナー座談会等 【P19-22】 解説 3 Q&Aで学ぶ柔軟な勤務制度における労務管理のポイント 山社会保険労務士事務所 所長 山英哲(えいてつ) Q1 時短勤務者、短日勤務者に社会保険は適用されるか  当社は定年後の希望者に対して、健康な者を嘱託社員として再雇用をしています。雇用形態は、時短勤務または短日勤務となります。雇用形態を変更しても社会保険は適用されますか。 A 定年後の再雇用時における社会保険適用の有無は、所定労働時間数と雇用期間に応じて決定されます。なお健康保険・厚生年金保険の場合、従業員数によって被保険者の適用要件は異なります。 押さえておきたい、再雇用時の適用要件  健康保険・厚生年金保険、雇用保険における被保険者の適用要件は、時短勤務者、短日勤務者としての再雇用締結時の所定労働時間数と雇用期間に応じて判断します。 【時短勤務者または短日勤務者の健康保険・厚生年金保険の適用要件】(図表)  1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が通常の労働者(正社員)の4分の3以上である者は、引き続き健康保険・厚生年金保険ともに被保険者の適用となります。  また4分の3未満であっても、次の五つの条件を満たす場合には、被保険者の適用となります。@週の所定労働時間が20時間以上であること、A月額賃金が8・8万円以上であること、B勤務期間が1年以上見込まれること、C学生ではないこと、D従業員数501人以上の企業に使用されていること(500人以下の企業でも労使合意があれば適用対象となります)。ただし、従業員数については、年金制度改正法※により2022年10月に101人以上、さらに2024年10月には51人以上の企業にまで拡大されることが決定しました。 【時短勤務者または短日勤務者の雇用保険の適用要件】  時短勤務者、短日勤務者でも、次の二つの適用基準のいずれにも該当する場合は、変わらず雇用保険被保険者の適用となります。  @1週間の所定労働時間が20時間以上であること、A31日以上引き続き雇用されることが見込まれること。 Q2 時短勤務者の各種手当は、減額できるか  病気や介護などの理由でフルタイム勤務から時短勤務への変更を希望する正社員がいます。労働条件を時短勤務に変更すると同時に、いま支給をしている各種手当を減額することは可能ですか。 A 雇用形態を時短勤務に変更したという理由だけでは、各種手当を減額することはできません。これはパートタイム・有期雇用労働法(以下、「パートタイム労働法」)に抵触するか否か、労使で協議を重ねる必要があります。加えて「同一労働同一賃金ガイドライン(指針)」にしたがって、手当ごとに不合理か否かを判断することが不可欠です。 時短勤務者が対象となる労働法令とは  時短勤務者は、パートタイム労働法の対象となります。時短勤務者は「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」と定義されています。これは、雇用形態における名称にかかわるものではありません。例えば、「嘱託社員」、「パートタイマー」、「アルバイト」など、呼び方は異なっても、条件にあてはまる労働者であれば、同法の対象となります。 なぜ、時短勤務者の各種手当は、容易に減額できないのか  2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)から施行された、パートタイム労働法の第8条では、次のような内容が明示されています。  「事業主が、雇用するパートタイム労働者の待遇と通常の労働者の待遇を相違させる場合は、その待遇の相違は、職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲(人材活用の仕組みや運用など)、その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない」  端的にいえば、時短勤務者であっても「個々の待遇(各種手当)ごとに、当該待遇の性質および目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき」、と読み取れます。  さらに、同法第9条では、「事業主は、職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲(人材活用の仕組みや運用など)が通常の労働者と同一のパートタイム労働者については、パートタイム労働者であることを理由として、その待遇について、差別的取扱いをしてはならない」と明示しています。  具体的には、次の二つの要件を満たす場合、時短勤務者であることを理由に、すべての待遇について、差別的に取り扱うことを禁止することが明確化されています。 @職務の内容が同じ A職務の内容・配置の変更の範囲(人材活用の仕組みや運用など)が同じ  このようにパートタイム・有期雇用労働法の第8条、第9条をふまえれば、時短勤務者の各種手当は、容易に減額はできません。 ガイドラインがもたらす、手当額の影響  「同一労働同一賃金のガイドライン」によると待遇差が存在する場合、各種手当が不合理か否かの考え方は、次のように示されています。 @役職手当等:労働者の役職の内容に対して支給するものは、正社員と同一の役職に就く時短勤務者には、同一の手当を支給しなければなりません。また、役職の内容に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた手当を支給しなければなりません。 A通勤手当等:時短勤務者にも、正社員と同一の支給をしなければなりません。 B家族手当・住宅手当:ガイドラインには示されていません。しかし均衡・均等待遇の対象となっています。労使で事情に応じての協議が必要です。 C賞与:会社の業績などに対する労働者の貢献に応じての支給は、正社員と同一の貢献である時短勤務者には、貢献に応じた部分につき、同一の支給をしなければなりません。貢献に一定の違いがある場合、その相違に応じた支給をしなければなりません。 D時間外労働割増賃金等:正社員と同一の時間外労働、深夜労働、休日労働を行った時短勤務者には、同一の割増率などで支給をしなければなりません。 Q3 パート社員、契約社員、派遣社員にテレワーク(在宅勤務)は適用可能か  当社では、時短勤務者、短日勤務者のパート社員、契約社員、派遣社員に対してテレワーク勤務を検討しています。運用する前に、確認すべき事項があれば教えてください。 A テレワークの対象者を選定するうえで、法律上の制限を受けることはありません。したがって、パート社員、契約社員、派遣社員のテレワークは原則可能です。しかし派遣社員のテレワーク勤務は、派遣元事業主と派遣先との間で協議を重ねての合意が必要です。 パート社員、契約社員のテレワーク  テレワークの対象者としてパート社員、契約社員を含めることは可能です。雇用時に締結した労働契約書の就業場所に在宅勤務場所である「自宅」がない場合は、労働条件を変更するため、改めて労働契約を締結する必要があります。  一方、パート社員、契約社員に適用される就業規則で、「通常勤務」と「テレワーク勤務」の労働時間などの労働条件が同じである場合は、就業規則の変更は必要ありません。しかし、テレワーク勤務にかぎって生じる、通信費用および光熱費の負担割合、パソコンや周辺機器の貸与などの明示がない場合は、就業規則の変更が必要となります。 派遣社員のテレワーク対応は「就業場所」の変更から  すでに就業している派遣社員が、初めてテレワークを実施するには「就業場所」などの労働者派遣契約の一部を変更することが必要です。変更例は、次の通りです。 【変更例】 ●令和2年4月1日付け労働者派遣契約と同内容で、○○株式会社は、□□株式会社に対し、労働者派遣を行うものとする。ただし、就業の場所は、□□株式会社の△△事業所(テレワークを実施する場合には派遣労働者の自宅)とする。  この契約変更は、緊急事案の場合には、事前に書面契約変更を要するものではありません。とはいえ、派遣元事業主と派遣先との間で十分な協議を重ねての合意が必要となります。 派遣元事業主および派遣先による派遣社員の自宅巡回は、必要なのか  派遣元事業主および派遣先の「講ずべき措置に関する指針」で、定期的に派遣元事業主および派遣先は、派遣労働者の就業場所を巡回することとされています。その理由は、派遣労働者の就業の状況が労働者派遣契約に反していないことを確認するためです。  この指針に対して厚生労働省は、電話やメールで就業状況を確認できれば派遣労働者の自宅まで巡回する必要はない、との見解を2020(令和2)年4月10日にホームページで公表しています。 Q4 テレワーク(在宅勤務)の勤怠管理・労働時間管理はどうすればよいか  当社はテレワーク導入を決定しました。勤怠管理、労働時間管理をどうすればよいか、具体的な運用方法を教えてください。 A 事業場外みなし労働時間制は、慎重な対応が求められます。かつて、テレワーク導入に向けての勤怠管理・労働時間管理は、社員側からの業務報告などによる労働時間の実態把握が主流でした。ところが、次第に、勤怠管理機能、在席管理機能等のツール(ソフトウェア・サービスなど)が注目され、次々と優れた機能が生み出されています。 事業場外みなし労働時間制で、考えることは、一つだけ  事業場外みなし労働時間制とは、「事業場外勤務で労働時間の算定が困難な場合、一定の労働時間を働いたものとみなす」制度です。運用している会社は少なくないでしょう。導入に向け考えることは、一つだけです。それはテレワークが「使用者の具体的な指揮監督がおよばず、労働時間を算定することが困難」と判断されるかどうかです。適用には高いハードルがみえます。次の二つの要件を満たすことが可能か否かを、労使で検討します。 @情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。 A随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと。  つまりテレワークの場合、大半のケースで事業場外みなし労働時間制を適用することは困難となります。 テレワークで、業務報告書の作成・提出を見直す三つの理由  導入当初、多くの企業はテレワーク勤務者が定期的に作成する業務報告書などで、「始業・終業の時刻」、「業務内容の報告」などを記載しての提出を義務化していました。しかしながら、この業務報告書の作成・提出見直しをする企業が顕著です。その理由は、次の3点です。 @通常、業務報告書は社内業務では作成していない A厳格な管理体制を整備すると、テレワークを利用しにくい状況につながる B安価で利便性のあるツールが充実している 活用したい、勤怠状況、労働時間管理における二つのツール  現在では業務報告書の作成に代わり、次のような二つのツールの利用で、勤怠管理、労働時間管理が実施されている傾向にあります。 @勤怠管理ツール:社員が働いた時間、働いた場所を把握し、そのデータの管理が可能。 A在席管理ツール:テレワーク勤務中の社員が、就業場所で在席か否かなどをリアルタイムで表示することが可能。 ※「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」(2020年5月成立) 【P23-26】 解説 4 充実したWシニアライフWのつくり方 株式会社オフィス・リベルタス 代表取締役 大江英樹 「人生100年時代」は単なるキャッチコピーではない  数年前から「人生100年時代」という言葉が使われるようになりました。ただ、多くの人はこの言葉は単に長寿化社会を象徴する言葉に過ぎず、実際に自分が100歳まで生きるということはあまり意識していないようです。たしかに現実の平均寿命は男性で81・4歳、女性は87・5歳(厚生労働省「令和元年簡易生命表」より)であり、まだまだ100歳までは遠いように思えますが、これはあくまでも現在での平均寿命です。過去30年間の平均寿命の伸びを計算すると、1年あたり0・19歳ずつ延びてきています。したがって現在50歳の人がいまの平均寿命に達するころには男性の平均寿命は87・4歳、女性であれば94・6歳という計算になります。また一方で、「寿命中位数」というデータがあります。これは同じ年に生まれた人が50%生存している年齢という意味です。これで予測してみると、いまの50歳の人たちが現在の平均寿命まで生存すると仮定した31〜37年後の50%生存年齢は、男性が90・4歳、女性が97・4歳となります。したがって、人生100年というのは決して大げさな数字ではないのです。  このように考えていくと、60歳で定年を迎えた後の人生は「老後」でも「余生」でもなく、人生の第二ステージに入ったと考えるべきでしょう。そもそも「人生100年時代」という言葉がはやり出したきっかけは、ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏のベストセラー『ライフシフト』(東洋経済新報社)からです。同書では、これから長寿社会に入ることにより、人生において何度かシフトチェンジをすべきだと主張しています。したがって60歳以後を単に「老後」と考えるのではなく、仕事や生活においてはそれまでと異なるフェーズに入ると考えるべきなのです。実際、私は60歳までサラリーマンをやっていましたが、退職した後、会社に残ることはせず、自分で新しい道を歩き始めて今日に至っています。そんな私自身の経験をふまえて、60歳以降のシフトチェンジの仕方、充実した“シニアライフ”をつくるために大切なことについてお話ししたいと思います。 キーワードは「自由」  私は60歳からの働き方と生き方のキーワードは「自由」だと思います。ここでいう「自由」には二つの意味があります。一つは「自分のやりたいことをやる」という意味、そしてもう一つは「何ものにもとらわれない」という意味です。このうち、「自分のやりたいことをやる」というのは簡単にイメージできると思います。現代では働く人の約9割がサラリーマン※ですが、サラリーマンというのは「会社に自分の自由を売り渡す代わりに身分の安定を得る」という職業といってよいでしょう。私自身、サラリーマンを定年までやってきましたからこの感覚はよくわかります。私の場合は定年後に起業しましたので、だれからも指示されたり強制されたりすることなく、自分のやりたいことができることがいかに素晴らしいことかを実感しました。もちろん働くか働かないかも自由ですから、多くの人が定年後に憧れるのは「好きなことができる」という自由でしょう。  もう一つの意味、「何ものにもとらわれない」というのはどういうことでしょう。これは別ないい方をすれば「呪縛(じゅばく)から逃れる」ということです。サラリーマンであれば会社のなかの人間関係や取引先とのしがらみなど、なかなか逃れられない呪縛がたくさんあります。それらは会社を離れれば逃れることはできますが、多くの人がなかなか逃れられないと思っている大きな呪縛があります。それが何かというと、「お金」です。  一般的に老後の三大不安といわれているのが「健康」、「お金」、「孤独」ですが、だれにとっても等しく重要なのが健康であることはいうまでもありません。ところが多くの人は真っ先に「お金」の心配をします。昨年、「2000万円問題」が話題になったことからもわかるように、多くの人が老後のお金ということについて大きな不安を持っています。しかしながら、だれもが不安に思うほどお金は深刻な問題というわけではありません。まず図表1をご覧ください。これは総務省が5年に一度実施している「全国消費実態調査」の2014年版のデータから作成しました。このなかで世帯区分別の貯蓄額が出ています。注目すべきなのは「高齢者夫婦世帯」でこの層が持っている貯蓄額は平均2158万円で、ほかの層に比べて際立って多いのです。  したがって「2000万円問題」は、“老後に2000万円足りない”などという話ではまったくありません。むしろ逆です。毎月5万5000円の赤字だから累計で2000万円足りないということではなく、2000万円以上も貯蓄を持っているから、そういう支出で生活をしているということに過ぎないのです。したがって、冷静に考えて、ここからの自分の将来の収支を見つめ直せば、それほど深刻ではないことがわかると思います。 「貯蓄」よりも「減蓄」  私は60歳からの生き方で大切なことは「貯蓄」ではなく、「減蓄」だと思っています。減蓄というのは、「蓄えを減らす」と書きますから、どんどんお金を使って貯蓄を減らしましょうという意味にとらえがちですが、決してそういうことではありません。もちろんそういう意味も少はありますが、より大切なのは、「いままで自分が身につけてきたもの、蓄えてきたものを人生の後半で少しずつ処分していこう」ということです。この「減蓄」という言葉は「リンボウ先生」としてよく知られている作家・国文学者である林(はやし)望(のぞむ)氏の著書のなかに出てきた言葉です。  さらにいえば、処分するというのは“捨てる”ということよりもむしろ、自分の手を離れて、世の中に広く公開し、共有してもらう、そしてそれを後進に引き継ぐという意味合いが強いように思います。つまり、いつまでも自分のものとして手元に置いておくのではなく、広く世の中の役に立ってもらえるよう、若い世代にも引き継いでもらうということです。前述の林氏の場合、職業柄膨大な書物や貴重な資料を持っているわけですが、それらのなかにはとても価値の高いものもあります。彼の主張はそれらをいつまでも自分の手元に囲い込んでおくのではなく、若い世代の研究者などで有効に活用してくれる人にはどんどん譲っていけばいいということです。それが「減蓄」なのです。 財産はモノだけではない  私はお金とか物といった形あるものだけではなく、経験やノウハウといった目に見えない知見も減蓄する対象のなかに含まれると思っています。つまり、それまでに自分がつちかった仕事上での経験やノウハウをどんどん若い人たちに移転していけばよいのです。ところが、なかには自分の持っているノウハウや知見を大事に抱え込んで部下や後輩に渡さないという人もいます。これは人に教えないことで業務をブラックボックス化し、自分の存在感をアピールしようとするからだと思います。でもこれは実に馬鹿げた話です。  かつて80年代のバブル期にゴッホやルノアールの絵を買った某大企業のオーナー経営者が「自分が死んだら、これらの絵を棺桶に入れて一緒に焼いてくれ」と発言して物議を醸したことがありました。自分が持っている「知見」を減蓄によって後進に譲らないというのはまさにこれと同じことなのです。サラリーマンにはいずれ定年がやってくるわけですから、それを迎える前に、経験やノウハウを引き継がないのであれば、まさに棺桶に名画を入れるのと同じことになってしまいます。それに、そういうノウハウはいまの会社で仕事をしていてこそ役に立つものですから、いくら大事に抱え込んでいても会社を辞めたらそんなものは何の役にも立ちません。でもそれを後輩に伝えることで、それは永遠に残ることになります。  企業もむしろこうした知見やノウハウの移転ということにもっと関心を持つべきではないでしょうか。いまでは60歳以降も定年延長や再雇用で多くの企業では65歳まで働くことができるようになっています。しかしながら、実際に再雇用で働いている人たちに取材をしてみると、仕事に対する権限と責任が曖昧になってしまっているケースも多く、そんな場合には、なかなか前向きに仕事ができていないという状況のようです。会社はもう少し積極的に高齢社員が自分の持っているノウハウの後輩への移転=「減蓄」ができるよう、そのための業務体制の構築や支援をしてもよいのではないでしょうか。 「貯金」よりも「貯人」  お金にとらわれない、さらには自分の持っている無形資産にもこだわらないというお話をしてきましたが、もう一つ、私が60歳以降に心がけるべきだと思い、いまでもずっと実行していることがあります。それは「貯金」よりも「貯人」に勤いそしむべし、ということです。この意味は「お金を貯めることよりも人とのつながりを大切にしなさい」ということです。「いや、やっぱりお金を貯めることの方が大事ではないか」と思う人もいるでしょうが、実は定年時にそれほどお金を持っていなくても、生活していけないというわけではありません。事実、私は自分が定年になったときに貯金は150万円しかありませんでした。  今回は紙幅の関係で、年金については詳しく触れることはできませんが、自営業ではなく、普通にサラリーマンをやって定年まで迎えた人であれば、公的年金でも生活していくことは可能です。図表2をご覧いただくとおわかりのように、高齢者世帯で公的年金だけで生活している割合は半数以上います。もちろん、公的年金だけでは生活できないという人も約半数ですから、定年後に働く人の割合は増えています。また、高年齢者雇用安定法の改正による「70歳までの就業確保措置の努力義務化」や、年金改革法で在職老齢年金も見直されましたので、今後も60歳以降働く人はさらに増えることで一定の収入は確保されるでしょう。  したがって、60歳以降の仕事や生活で大切なことは、“お金を貯める”ことを第一に考えるのではなく“人とのつながり”を第一に考えるべきだというのが私の考えです。なぜなら前述した老後の三つの不安のうち、私自身の経験からいえば最も深刻なのは実は「孤独」だからです。これは現役時代にはなかなかわからないことなのですが、実際に会社を辞めると「孤独」は容赦なく襲いかかってきます。会社のなかにおける地位を失った人にはだれも声をかけてくれることはありません。場合によっては家族からですら疎うとんじられることもあります。実際に私自身の例でいえば、38年間勤めた会社の元同僚や上司、部下といった人たちでいまも交流があるのはせいぜい3〜4人です。ところが定年以降に知り合って付き合い始めた人たちの数は多く、数百人はいます。これらの人たちは単にSNSなどでつながっているだけではなく、そのほとんどはセミナーや食事会、趣味の集まりなどでリアルにつながっている人たちばかりです。  さらにいえば、人とのつながりが多くあるということは、単に遊びや趣味の世界で仲間がいるだけではなく、仕事をする場合でも大いに役に立ちます。私も起業した初めのころは、いただいた仕事の多くが、紹介を通じたものでした。会社の看板がなくなって仕事をするわけですから、人同士の信用というのはこのうえなく大切なものなのです。このように「貯人」はあらゆる面において定年後の人生を支えてくれるものだといっていいでしょう。  定年後の充実したライフをつくるために最も大切なことは、「自由」であり続けることです。そのためには自分ファーストではなく、「減蓄」によって自分の持っている知恵を人に分け与える、そしてそんな気持ちや行動でもって「貯人」に励むことが重要なキーになるのではないでしょうか。 ※総務省「労働力調査(基本集計)2019(令和元)年平均(速報)」https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index1.pdf 図表1 世帯区分別の貯蓄額(2014年) 世帯区分 貯蓄額 夫婦共働き世帯 1,088万円 単身者世帯 837万円 高齢者夫婦世帯 (夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの世帯) 2,158万円 母子世帯 310万円 出典:総務省「平成26年全国消費実態調査」より株式会社オフィス・リベルタスが作成。なお、同調査は5年ごとに実施 図表2 公的年金を受給している高齢者世帯 公的年金を受給している高齢者世帯 総所得に占める公的年金の割合が100%の世帯 51% 80〜100%未満 11% 60〜80%未満 13% 40〜60%未満 12% 20〜40%未満 9% 20%未満 4% 出典:厚生労働省「平成30年国民生活基礎調査の概況」より株式会社オフィス・リベルタスが作成 【P27】 日本史にみる長寿食 FOOD 323 縄文人も食べていたサトイモ 食文化史研究家●永山久夫 「ウモ」から「イモ」へ  サトイモは、野山に自生する「山のイモ」に対して、人家の近くで栽培される「里のイモ」という意味があります。  サトイモはサトイモ科の植物で、東南アジアが原産地。原産地では、サトイモを「ウビ」と呼びますが、日本に渡来して「ウモ」となり、「イモ」になったようです。日本には、稲よりも早く、ざっと5千年ほど前、縄文時代の中期に渡来したとみられています。稲と違って、水分の多いイモ類は、土中で分解されてしまうために、遺跡からの発見は困難だそうです。  稲作が渡来して、米飯が普及する前は、サトイモはカロリー源として主食に近い重要な存在でした。  また、サトイモは歴史が古いこともあり、日本人の生活の節目節目に登場します。旧暦の8月15日の中秋の名月は、「いも名月」と呼ばれ、三方(さんぼう)にゆでたサトイモを山盛りにして、お供えするのがならわし。家族みんなで満月を見上げながら、サトイモを食べて、子孫繁栄をお祈りします。 サトイモは長寿効果高し  「イモの煮ころがし」といったら、おふくろの味として、現在でも居酒屋などでは不動の人気。  皮をむいたサトイモをだし汁、醤油、砂糖でコトコト弱火で煮含めるのがコツ。「笑顔を絶やさずに、感謝の心持ちで煮なさい」と母親が子どもに伝えてきた家庭の味です。  古くからの料理にイモ田楽があります。ゆでたサトイモを串に刺し、ユズ味噌、サンショウ味噌、ショウガ味噌などを塗って、香ばしく焼いたもの。朝夕、涼風が吹くころになると、無性に口にしたくなります。  サトイモ独特のぬめりの成分はムチンやガラクタンなどで、糖質とタンパク質が結合したものが中心となった成分。ムチンが主として腸内の善玉菌を増やし、ガラクタンは腸内環境をよくする働きをし、結果として、ウイルスや病気などに対する免疫力を高めてくれます。食物繊維も豊富ですから、便通の改善にもつながります。若返り効果があるというビタミンEが含まれているのも、うれしいですね。 【P28-32】 短期連載 マンガで見る高齢者雇用 第5回「仕事の変化に、高齢社員が抵抗感」 〈先月号までのあらすじ〉 「希望者全員70歳までの雇用」を目ざすことになった株式会社エルダー。 新たな仕組みの整備に向けて、高齢者雇用に精通した65歳超雇用推進プランナー(※)・是石の支援を受けている。 ※65歳超雇用推進プランナー……高齢者雇用に関する専門知識や経験などをもつ専門家。当機構からの委嘱により、事業主に対し高齢者雇用にかかわる具体的な制度改善提案や相談・助言などを行っている ★この物語に登場する企業・人物は架空のものです。 第1回〜第4回はホームページでご覧になれます。 エルダー 2020年 マンガ 検索 ※就業意識向上研修……定年後のキャリア形成について、社員自身の考えや構想を引き出したうえ、モチベーションを高め、それらを会社側に示すことで両者の調整を図る機会を提供するもの。研修にかかる経費の1/2 を当機構が負担する研修プラン。中高年齢従業員研修の「生涯現役エキスパート研修」は、40代半ば〜50代のうちから定年後のキャリアプランを考えてもらうための研修となっている。 つづく 【P33】 解説 マンガで見る高齢者雇用 第5回 「仕事の変化に、高齢社員が抵抗感」 40代半ばからのキャリア研修で60歳以降の活躍を支える  70歳までの就業機会の確保が努力義務化されたいま、職場においては、高齢者が持つ豊富な知 識や経験を活かして活躍してもらう一方で、変化が激しい現代のビジネスシーンに対応していくために、高齢者に新たな知識や技術を身につけてもらうことも必要になるでしょう。高齢者のなかには、変化に抵抗感を覚える人も少なくありません。高齢になってからも変化に対応できる人材になってもらうために、40代半ばごろから、キャリア研修などを通して準備を始めておくことが重要です。 法改正で高齢者の就業期間が延長  2019(令和元)年の「労働力調査」によると、60 歳以上の就業者数は約1435万人で、就業者全体の20.8%を占めています。また、高年齢者雇用安定法の改正より、2021年4月からは70歳までの就業機会の確保が努力義務となり、企業には、70歳まで働ける新たな仕組みを整え、高齢者がより長く活躍できる環境づくりが求められることになります。 60歳以降も活躍できる準備のための「就業意識向上研修」  高齢社員により長く活躍してもらうためには、60歳以降も働きやすい職場環境を整えることはもちろんのこと、高齢者自身も、変化に対応し、新たな知識や技術を学び続ける必要があります。そのためには、定年前からのキャリア研修などを通して、中高年社員のキャリア形成を会社がサポートしていくことが重要です。  当機構では、40代半ば〜50代の社員を対象に、定年後のキャリアプランを考えてもらうための「就業意識向上研修〈生涯現役エキスパート研修〉」を実施しています。各企業の事情や課題に応じたカリキュラムの設定が可能ですので、ぜひご活用ください。 就業意識向上研修 検索 【P34-35】 江戸から東京へ [第94回] 隠居でなければの仕事 秋月(あきづき)種政(たねまさ) 作家 童門冬二 日向国(ひゅうがのくに)は名君ぞろい  夏目漱石は口の悪い作家で、『坊ちゃん』のなかでも阿波(あわ)(徳島県)人と日向(宮崎県)人に触れている。よくは書いていない。特に日向については、教師の転勤先として猿の支配する国≠フような扱いをしている。  日向はその国名の通り太陽に向かう明るい地域だったが、江戸時代はそれぞれ名君を出し合う小さな藩が並んでいた。延岡(のべおか)・高鍋・飫肥(おび)藩などの各藩は、全部とはいわないが、歴代の藩主が善政を競った。  特に高鍋の秋月家では 「民を豊かにすることが藩も豊かにすることである」  という藩是(方針)を樹(た)て、歴代の藩主が工夫努力した。産業振興も目覚ましく、七代の種茂(たねしげ)のときの主要産業は、年貢の米を除くと、和紙・ロウソク・炭、そして牧畜だった。成果は上がり秋月家は天下の3富裕大名≠フ一人にあげられた。種茂の実弟がなせば成る≠ナ有名な上杉鷹山(ようざん)だ。子どものときからの賢才ぶりが評価されて養子に入ったのだ。鷹山の手腕のなかにはかなり兄と秋月家の伝統が影響している、と思う。  歴代のなかにはユニークな発想をする者もいた。四代目の秋月種政はその典型だ。かれは1689(元禄2)年に藩主になり、1710(宝永7)年、53歳で隠居した。  「まだお若こうございますのに」  重役がとめた。が、種政は  「年齢は若かろうと、21年藩主を勤めた」  「お疲れでございますな」  「疲れたがそんなことはいっていられない。やり残したことが沢山(たくさん)ある。現職ではやりにくい。が、隠居ならやれる」  「しかしご隠居後の大名は、江戸に住むのが幕府の定法(じょうほう)でございますが」  「そこを何とかしてこい。高鍋に住めるようにしろ。そのくらいのことは江戸家老ならできるだろう」  普段温和な種政が最後になって駄々をコネた。しかし重役は種政を尊敬していたので懸命に努力して要路に働きかけ、許可をもらった。 早期隠居の理由  高鍋で隠居を認められた種政は、城を出て上江(うわえ)のお茶屋≠ニ呼ばれている別荘に住んだ。高鍋藩の藩士たちが秘密の会議を行ってきた建物だ。そのことを重役が話すと種政は  「会議は城で行え。公務に秘密はない。襖(ふすま)も取り払って、城中に話が聞こえるようにしろ」  重役は胸のなかで  (現職時代はご自分だって茶屋で秘密会議をなさっていた癖に)  と思ったが、そんなことを口に出せば  「だから隠居したのだ」  といわれるに決まっている。そして重役も種政の考えに賛成だった。種政は茶屋を農民や町人たちとの、茶飲み話の集会所にした。話に出た要望や不平不満は公正に後を継いだ息子の種弘に話した。しかし種政は自分なりの原則を持っていた。  「タダはよくない。ためにならない。金も与えるのはよくない。貸してやれ」  と口癖のようにいった。そのためか  「茶屋のご隠居が金貸しを始めた」  といううわさが流れた。ビックリした種弘が真偽をたしかめに行った。種政は平然と  「ああ、やっているよ。だが、ただ金を貸しているのではない。その借金が聖賢(せいけん)※の教えにかなっているのかどうかを、キチンとたしかめてから貸しているのだ」  「借金が聖賢の教えにかなうとは?」  「貸す側の怒≠竍譲≠フ気持ちをゆるがすかどうかだ。金を必要とする理由が、だ」  「どのような理由なら、父上の怒と譲のお気持ちをゆるがせますか」  「自分のぜいたくのためでなく、困っている他人のためであること。それは仁であり義でもあるからだ。そういう人間は必ず約束を守って借りた金は返す。即(すなわ)ち信だ」  「利子はお取りにならない、と聞きましたが」  「ああ、取らない。しかし敢(あ)えて置いていく奴もいる」  「そのときは?」  「もらっておく。人の行為を無にするのは義に反する」  「なるほど」  種弘は知っていた。種政の温かい扱いに、それを受けた藩民は種政に礼をいう。そのたびに種政はこう応ずる。  「すべて御当代(現藩主)のおかげだ。わしがこんな暮らしができるのも、御当代の政(まつりごと)が行き届いているからだ。親孝行な息子を持ってわしは本当に幸せだ。そう思うだろう? ハッハッハ」  種弘はこのことを聞いてフッと思った。  (父は金を貸すために隠居したのではなく、息子をホメるために現職から退いたのではないか)  と。  日向の陽光はいつも温かかった。 ※聖賢……知識・人格にすぐれた人物 【P36-39】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第99回 山形県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 健康と事故防止の意識を高めて75歳までの雇用を明文化 企業プロフィール 株式会社山形包徳(やまがたほうとく) (山形県山形市) ▲創業 2011(平成23)年 ▲業種 建築物環境衛生総合管理業・警備業・障害者福祉サービス ▲従業員数 133人(うち正規従業員数40人) (60歳以上男女内訳) 男性(18人)、女性(53人) (年齢内訳) 60〜64歳 12人(9.0%) 65〜69歳 34人(25.6%) 70歳以上 25人(18.8%) ▲定年・継続雇用制度 定年70歳。健康状態、就業意欲を確認し、引き続き75歳まで継続雇用  山形県は、東北地方の南西部に位置し、蔵王(ざおう)、鳥海(ちょうかい)、西吾妻(にしあづま)や出羽(でわ)三山(羽黒山(はぐろさん)、月山(がっさん)、湯殿山(ゆどのさん))などの名峰や、南から連なる米沢、山形、新庄の各盆地、一級河川最上川など豊かな自然に恵まれています。さくらんぼ、西洋なし、メロンなどの果物や、枝豆、米、牛肉の産地として知られており、「全国と比較して、農業、製造業などの割合が高くなっています」と当機構の山形支部高齢・障害者業務課の井上健彦(たけひこ)課長は話し、山形県の製造業について次のように紹介します。  「電子部品・デバイス・電子回路が盛んです。もともとは1960年代後半以降、工業団地の整備などに取り組んできたことによるもので、食料品や金属、電気機械、電子部品・デバイスなどの基盤技術の産業が進展し、近年の高度情報社会の到来を先取りするかたちで、高付加価値化に向けた飽くなき努力を続けた結果、素材・部品加工技術を中心として技術力が高く、かつ裾野の広い産業集積として成長を遂げています」  2019(令和元)年「高年齢者の雇用状況」(山形労働局)によると、65歳までの雇用確保措置のある山形県内の企業は99・9%であるのに対し、66歳以上で働ける制度がある企業は29・8%にとどまっています。こうした状況下、同課には65歳を超えた継続雇用制度などに関する相談や、高齢者を雇用するための具体的な業務内容などについての相談が多く寄せられています。同課では、65歳以上への定年年齢の引上げなどの提案をはじめ、高年齢者雇用安定法の改正による70歳までの就業機会の確保について、企業が考えるうえで直面する高齢者の賃金や処遇、評価制度の導入、管理者のマネジメントなどを支援するための研修の案内などにも注力しています。  今回は、山形支部で活躍する65歳超雇用推進プランナー・佐藤由香里さんの案内で、「株式会社山形包徳」の高齢者雇用の取組みを紹介します。 障害者の就労支援にも力を入れる  株式会社山形包徳は、ビル管理業を営む株式会社包徳(本社:宮城県仙台市)の山形営業所として、1990(平成2)年に開設したことが起点となっています。2004年に同山形支店となり、2011年1月、同支店の事業を引き継いで分離・独立しました。山形市に拠点を置き、ビル管理業を中心に警備業、福祉事業を展開しています。  全従業員の8割近くが就いているビル管理業では、建物内外ならびに施設設備全般の保守管理業務を手がけ、地元密着型のサービスとたしかな技術を提供して、お客さまとの信頼関係を構築しています。福祉事業では障害者の就労支援に力を入れ、市街地のビル内に水耕栽培の「街なか野菜工場『フレッシュ ファクトリー』」を開設。雇用契約を結んだ障害者が毎日野菜を生産し、出荷しています。生産しているのは、レタス類、ベビーリーフなどの葉野菜です。また、地域の小学校や特別支援学校などの課外研修や食育指導の一環として工場見学を受け入れるなど、地域貢献にも積極的に取り組んでいます。 定年70歳、75歳まで働ける制度を整備  佐藤プランナーは2017年7月、プランナー活動で初めて同社を訪問し、同社が当時、定年65歳、会社基準該当者を70歳まで継続雇用する制度を整えていたことを知りました。  「当時から条件によっては、70歳を超えての雇用もされていました。高齢になると、ご本人の健康状態に加え、ご家族の介護をするようになるなど突然の環境変化に直面する可能性が高くなりますので配慮が求められますが、同社では、70歳以上は短いスパンでご本人との面談機会をつくるといった取組みをされていることなどをお聞きし、山形支部開催のワークショップで好事例として紹介させてもらいました」(佐藤プランナー)  その後、同社では高齢者雇用をさらに推進し、2018年5月、定年を70歳に引き上げ、健康状態や就業意欲を確認したうえで75歳まで継続雇用することを就業規則に定めました。同社の菅井薫専務取締役は、そのねらいと成果について次のように話します。  「当社は『地域社会貢献企業を目指す』を企業理念に掲げています。そこに、『地域の高齢者の力をお借りしたい、知識や経験を当社で活かしていただきたい』との思いから、就業を希望されている元気な方を採用しています。定年を70歳にしたのは、長く安心して働いてもらいたいと考えてのことですが、健康や安全面を考慮し、75歳までの基準を設けました。  また、60歳以上の方や長年勤務した会社を定年退職された方も採用しています。就業姿勢がよく、経験や知識も豊富で、人生の先輩として学ぶことが多いので、社員のよき手本となっています」  今回は、そうした社員のなかから70代のお2人に話を聞きました。 長く働き続けてほしい存在  竹田富雄(とみお)さん(74歳)は、建設機械を扱う会社に技術職として定年まで勤めた後、ホテルでの警備を経て、70歳のときに山形包徳に入社しました。同社のビル管理事業部に所属して、現在は温泉とプールのある地域健康増進施設で仕事をしています。担当しているのは、受付業務と、バックヤードで温泉・プールを稼働する機械の運転操作や温泉の温度管理などです。  竹田さんはご自身の年齢をふまえて、現在は働くことを通して健康維持と人とのコミュニケーションを図ることを重視しており、勤務は週2〜3日、1日5時間を基本としています。  「これまでの仕事経験が活かせていますし、機械に触れることが好きなので意欲的に取り組んでいます。受付業務ではお客さまと会話する機会もあり、楽しいんです。仕事は2人で担当しているので、無理なくできています。なるべく長く続けられるよう、健康のために、食事に気をつけ、体を動かすようにしています」(竹田さん)  菅井専務は、竹田さんの働きぶりについて次のように話します。  「竹田さんは技術職を長く経験され、機械の扱いに詳しいうえ、気さくな人柄で受付業務にもはつらつとして取り組んでいます。健康で働けるかぎり、当社に力を貸してもらいたいです」  常松(つねまつ)久子(ひさこ)さん(75歳)は、66歳のときに入社して、勤続9年。当初からビル管理事業部に所属し、ホテルでの清掃業務に就いています。長年、山形市内のホテルのロビーや化粧室などの共用部を清掃する業務のリーダー的存在として勤務してきました。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて業務が変更となり、取材時(7月)はほかのホテルで週2日、1日7時間程度の勤務となっていました。  「和気あいあいとした雰囲気のなか、毎日元気に働かせていただいてきました。いまは就業先が変わり、勤務日数が減っていますが、ホテルにお越しになるお客さまに気持ちよくご利用いただけるよう、そのことを第一に考えて仕事をしています」(常松さん)  階段清掃では気がつくと1階から12階まで昇っていて、勤務のある日は1日1万歩も歩いているそう。仕事が元気の素になっているようです。  菅井専務は、「まとめ役としても活躍してくれていますし、安心して仕事を任せられる存在」と常松さんを評価し、今後にも期待を寄せています。 「超えない・飛ばない・焦らない」  高齢者雇用に取り組むなかで、同社が特に配慮していることは、大きく次の3点です。 @高齢者の年齢に合わせて定期的な面談を行い、健康状態や就業意欲、身体の衰えなどを把握しながら継続雇用の可否を決定する。 A労働災害防止のため、2019年12月より高齢社員の2m以上の高所作業(天井や窓拭き作業など)の実施を禁止とした。 B身体的衰えはあるものの就業意欲のある高齢社員については、就業日数、就業時間の軽減化や配置転換を行っている。  定年70歳、75歳までの継続雇用を制度化したことにより、高齢社員の健康・安全確保が特に重要になっていると菅井専務は話します。  「高齢者にはとりわけ勤勉な人が多く、がんばりすぎが事故やケガにつながってしまうことがあります。事故の防止に向けて、予防啓発活動や巡回指導などを継続していますが、自身の身体能力の低下を認識することなく、無理な作業をするケースも見受けられることから、今後も継続した指導が必要と考えています」  ビル管理業の就業現場では、高さ2m以上の作業の実施を禁止としているほか、「急がば回れ」の姿勢を徹底しているそうです。  「電気コードを超えようとして転倒したり、ちょっとした段差を飛んだり、焦ったりするとケガをしがちです。最近は、『超えない・飛ばない・焦らない』の三つをみんなに覚えてもらうように努めています」(菅井専務) 努力次第で給与アップのシステムへ  同社では現在、従来の職能給を基準とした給与体系の見直しを図り、来年度から職務給を中心にした新たな体系とするための整備を進めています。全社員に適用する予定で、60歳以降であっても、ビル管理に関する資格を取得するなど、本人の努力次第で年齢にかかわりなく給料アップが可能となる給与体系の構築を目ざしています。  「この改革と同時に、前述した労働災害の防止、社員の健康対策がより重要になると考え、これらについても新たな基準づくりを検討したいと思っています。佐藤プランナーからまた、アドバイスをいただければありがたいです」(菅井専務)  佐藤プランナーは、「同社のきめ細かな配慮のある高齢者雇用の取組みを高く評価するとともに、今後も支援を続けていきたい」と語りました。 (取材・増山美智子) 佐藤由香里 プランナー(47歳) アドバイザー・プランナー歴:4年 [佐藤プランナーから] 「事業所訪問では、一方的な情報伝達・提案にならないよう、訪問先事業所に合った有益な情報を提供できるように心がけています。そのためには、情報収集に努め、話しやすい雰囲気づくりをしたうえで傾聴し、先進事例の紹介や説明の際にも、訪問先事業所で実際にその情報を活用するイメージを持てるようにお話しするようにしています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆山形支部高齢・障害者業務課の井上課長は、佐藤プランナーを次のように紹介します。「社会保険労務士としての知識・経験はもちろん、大手化粧品会社での勤務経験に基づく視点から、事業主の方々からニーズや本音を聞き出し、的確できめ細かな助言・提案をすることに長(た)けています。また、山形県の女性・高齢者就業促進支援セミナーの講師を務めるなど、当機構にかぎらず、多方面から信頼を寄せられています」 ◆当課はJR漆山(うるしやま)駅より徒歩約15分の「山形職業能力開発促進センター」内に設けられています。自然豊かな立地ながら、国道13号に隣接し、多種多様な事業所・施設が所在しています。 ◆当課には7人のプランナー・アドバイザーが在籍し、県内の事業所訪問を通じて高齢者雇用に関する相談・援助業務を行っています。2019年度は454件の事業所を訪問し、65歳以上への定年年齢の引上げ、あるいは65歳を超えた継続雇用延長の提案を114件実施しています。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●山形支部高齢・障害者業務課 住所:山形県山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 電話:023(674)9567 写真のキャプション 山形県山形市★ 本社は、山形城跡・霞城(かじょう)公園そばに立地 菅井薫専務取締役 健康増進施設のバックヤードで温泉の温度管理を行う竹田富雄さん お客さまのことを第一に考えて、ホテル共用部の清掃に励む常松久子さん 【P40-43】 高齢社員の賃金戦略 学習院大学名誉教授 学習院さくらアカデミー長 今野(いまの)浩一郎  高齢者雇用を推進するうえで重要な課題となるのが高齢社員の賃金制度です。豊富な知識や経験を持つ高齢社員に戦力として活躍してもらうためには、高齢社員の能力や貢献を適切に評価・処遇し、高いモチベーションを持って働いてもらうことが不可欠となります。本連載では、高齢社員戦力化のための賃金戦略について、今野浩一郎氏が解説します。 第3回 賃金決定の基礎理論 1 はじめに〜なぜ基礎理論が必要か〜  前回は、「賃金の前に活用戦略を明確にすることが必要」の視点に立って、活用戦略を検討するにあたって注意すべきことを説明しました。そこで、これからは賃金をどう設計するかを考えることにします。  今回はその第一歩として、賃金を設計する際に準拠すべき「賃金決定の基礎理論」について説明したいと思います。基礎理論というとむずかしく聞こえますが、賃金を合理的に設計するにあたって採るべき考え方や手順のことです。高齢社員の活用戦略は企業によってさまざまなので、それに対応する「あるべき賃金」の具体的な形態もさまざまです。しかし基礎理論はそれを超えてどの企業でも活用できます。例えば以下のような場合に頼りになります。  高齢社員の賃金は基礎理論からすると応用問題の一つです。ですので、基礎理論を学習しておけば、高齢社員の賃金をどう設計すべきかを体系的に理解することができますし、経営状況が変わり「あるべき賃金」が変わっても対応できるようになります。それに対して、基礎理論を学習することなく賃金を設計すると、設計された賃金が合理的であるのか、合理的でないとすると何に問題があるのかを見極めることがむずかしくなります。  さらに、基礎理論を学習すると、「なぜ、その賃金なのか」を高齢社員に説明する力がつきます。連載の第1回※でも説明したように、正社員と非正社員の不合理な待遇差の是正を求めるパートタイム・有期雇用労働法が施行され、企業はこれまで以上に「なぜ、その賃金なのか」を社員に説明することが求められます。その理論武装のためにも、基礎理論を理解しておくことは大切です 2 賃金決定の第一の原則〜「同じ価値には同じ賃金」の内部公平性原則〜  まず会社は賃金をどう決めているかを、改めて考えてみます。社員は賃金を生計費にみあって決めてほしいと思うかもしれませんが、会社はそうはいきません。社長になったつもりで、ある社員に多くの賃金を、ほかの社員に少ない賃金を払うのはなぜかを考えてみてください。  会社の経営を考えると、経営にとって価値の大きい社員には多くの賃金を、価値の小さい社員には少ない賃金を払うことが合理的な賃金の決め方になるはずです。つまり、賃金は、社員の会社にとっての価値の金銭的表現なのです。そのため同じ価値の社員には同じ賃金を払うという「同一(価値)労働同一賃金」が原則になり、それは人事管理では「内部公平性原則」と呼ばれます。いま「同一(価値)労働同一賃金」が問題になっていますが、人事管理からすると「何をいまさら」という感じがします。  そうなると次に、社員の会社にとっての価値はどう決まるかが問題になります。それは社員の会社に対する貢献の大きさ(貢献度)で決まります。問題はそこから先で、貢献度をどう測るかです。  次の2人の営業スタッフについて考えてみてください。Aさんは顧客との長期的な信頼関係を築くことはできていませんが、今期は大きな売上げをあげています。それに対してBさんは、今期の売上げはたいしたことありませんが、長期的な視点に立って顧客との信頼関係を築くことには成果をあげています。あなたが社長であれば、どちらの社員を会社にとって価値の大きい社員としますか。短期の貢献度からみるとAさんが、長期の貢献度からみるとBさんが価値の大きい社員ということになります。つまり貢献度には短期の貢献度と長期の貢献度があり、どちらの貢献度をとるかによって社員の価値つまり賃金の決め方が異なることになります。  しかも、どちらが正解ということはなく、どちらを選択するかは経営の考え方に依存します。例えば、社長であるあなたが、社員にいまの成果をあげることを期待するのであれば短期の貢献度によって、長期的な成果を期待するのであれば長期の貢献度によって社員の価値を決めることになります。  このことは「内部公平性原則」(つまり「同一(価値)労働同一賃金」)という原則は一つでも、貢献度を測る方法が多様であるため、この原則に沿って決まる賃金には唯一最善はなく、賃金の合理的な決め方には多様な方法があることを示しています。賃金に対するこうした見方はたいへん重要です。これを「賃金決定方法の多様性の視点」と呼ぶことにします。 3 価値と貢献度と賃金決定方法の多様性  貢献度を測る方法は多様であるといいましたが、多様であるというだけでは賃金を設計できません。先に説明した短期の貢献か長期の貢献かはあくまでも例示なので、なぜ方法が多様になり、多様な方法にはどんな方法があるのかを体系的に理解する必要があります。そのために用意したのが次頁の図表です。これは仕事のプロセスと貢献度(つまり社員の価値)との関係を整理したものです。  社員が能力を持ち、会社の指示に従ってその能力を仕事に投入し、仕事を遂行し、成果をあげる。これが図表に示した仕事のプロセスです。このなかの「成果」は会社に対する貢献そのものなので、「成果の大きさ」が社員の価値を決める基準になります。また、「成果」は仕事のプロセスを経てすでに実現した貢献(つまり実現した価値)であるので、図表では、「成果の大きさ」で表す価値を「結果価値」と呼んでいます。  社員の価値を表すのは、それだけではありません。会社にとって重要な仕事に就く社員ほど、また、能力の高い社員ほど、将来、大きな成果をあげることが期待できるので、「仕事の重要度」も「能力レベル」も価値を決める基準になります。さらに、会社にとってみると、業務ニーズに合わせて働ける(つまり、能力を仕事に投入できる)社員は生活などの事情から働けない社員に比べて価値の大きい社員になるので、「労働給付能力レベル」も価値を決める基準になります。  ここで注意してほしいことがあります。「仕事の重要度」、「能力レベル」、「労働給付能力レベル」は成果そのものを表しているのではなく、それらが大きいほど大きな成果を将来期待できるという観点から価値の大きさをみています。ですから、図表ではそれらを「期待価値」と呼んでいます。  このようにみてくると「価値を決める基準」のどれを選択するかによって賃金の決め方が異なることになりますし、どの基準に基づく賃金であっても、社員の価値に基づく賃金であるということから、「内部公平性原則」(つまり「同一(価値)労働同一賃金の原則」)に基づく合理的な賃金ということになります。そうなると、企業はどの選択をすべきかが問題になります。ここで登場してくるのが、社員に何を期待するのかにかかわる活用戦略です。社長であるあなたが、将来にわたって能力や「会社のために」意識を高めていく社員を大切にしたいと思うのであれば「能力」を重視すればいいですし、いま経営に貢献している社員を大切にしたいと思うのであれば「仕事」や「成果」を重視するという選択を採ることになります。これが「賃金決定方法の多様性の視点」の背景にあることです。  では具体的には、どのような賃金が考えられるのか。それを考えるときに重要なことがもう一つあります。どの国でも同じなのですが、賃金は安定的な賃金要素と、短期的な成果に対応して決まる、変動の大きい賃金要素から構成されます。前者は一般的に基本給と呼ばれています。後者は業績給などと呼ばれ、日本であれば賞与、アメリカであればインセンティブ給にあたります。  以上のことと図表との関係をみると、賞与やインセンティブ給は「成果の大きさ」に対応する賃金になります。さらに基本給については、「仕事の重要度」の基準をとれば、アメリカで主流を占める職務給になります。また、わが国で広まりつつある役割給もこのタイプにあたります。さらに、わが国で主流を占めてきた職能給は「能力レベル」に対応する賃金ですし、いわゆる年功給も勤続や年齢とともに高まる能力に対応して決まる賃金ととらえると、このタイプに該当します。最後の「労働給付能力レベル」に対応する賃金は、業務ニーズに合わせて機動的に働くことができる社員に多く払うという趣旨の賃金なので、会社の指示に従って転勤する社員に払う全国社員手当などがこれにあたります。 4 賃金決定の第二の原則〜人材確保に関わる外部競争性原則〜  このようにして賃金の決め方が決まっても、実は賃金は決まりません。例えば「仕事の重要度」を基準とする職務給を採ったとすると、まず「仕事の重要度」を測るために職務評価を行います。その結果、仕事Aの重要度が10点、仕事Bが5点であるとすると、仕事Aに就く社員の賃金は仕事Bに就く社員より高くします。これが職務給の決め方です。しかし、これでは賃金額からみた社員の序列は決まりますが、各仕事、社員にいくらの賃金額を払うかが決まりません。  つまり内部公平性原則は賃金からみた社員序列を決める原則であり、その序列にいくらの金額をつけるかには別の原則が必要になります。それが、賃金額は人材を確保できる水準とするという「外部競争性原則」です。先の例でいえば、仕事Aを10円、仕事Bを7円にすると市場相場に比べて低すぎて人材が採れないので、市場相場をみて仕事Aを20円、仕事Bを15円にするということになります。  このようにみてくると内部公平性原則は、同じ価値の社員の賃金は同じにすることによって社内における社員間のバランス(つまり内部均衡)をとる原則、外部競争性原則は市場相場とのバランス(外部均衡)をとる原則ということになりますが、それぞれの原則からみた賃金額が同じにならないということが普通に起こります。全国展開する、職務給をとる会社を考えてみてください。職務給なので、同じ仕事に就く社員は、社内では同じ価値の社員になるので同じ賃金になるはずです。まさに「同一労働同一賃金」です。  ここで、その仕事に就く地方事業所の社員Aと東京事業所の社員Bを想定してください。社員Aはその地方で、社員Bは東京で採用されます。このときには、たとえ仕事が同じであっても、同じ賃金というわけにはいきません。それは地方の労働市場と東京の労働市場では相場が異なるので、人材を確保するには異なる賃金額にせざるを得ないからです。つまり、賃金額を決めるにあたっては、どの労働市場から人材を確保するかが重要になるので、内部均衡とともに市場との外部均衡もみて総合的に考えることが必要になります。これを「市場均衡の視点」と呼ぶことにします。  これまで内部公平性原則に関わる「賃金決定方法の多様性の視点」と、外部競争性原則に関わる「市場均衡の視点」を持つことが必要であると説明してきました。それらは合理的な賃金決定方法を設計する際に注意すべきあたり前のことなのですが、往々にして忘れられがちです。例えば「同一労働同一賃金」の議論を聞いて、同じ仕事は同じ賃金とすべきであり、それが唯一最善の決め方であると考えていませんか。もし、そのように考えているとすれば、もう一度、「賃金決定方法の多様性の視点」と「市場均衡の視点」の意味を考えてください。  今回は賃金を合理的に設計する際の原則と視点、さらには賃金決定方法の多様性について説明しました。会社にとって高齢社員はどのように活用する社員であるのか、つまり活用の面からみるとどのようなタイプの社員であるのかを明確にしたうえで、それに合う賃金決定方法を原則と視点をふまえて多様な賃金決定方法のなかから選択する。これが「あるべき賃金」を決める手順になるので、高齢社員の場合にも、社員タイプ特性と賃金決定方法の関係を考えることが必要になります。 ※2020年7月号に掲載 JEED エルダー 2020年7月号 検索 図表 仕事のプロセスからみた価値の基準 仕事のプロセス 能力 能力の仕事への投入 仕事の遂行 成果 価値を決める基準 能力レベル 労働給付能力レベル 仕事の重要度 成果の大きさ 期待価値 結果価値 ※筆者作成 【P44-47】 知っておきたい 労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第28回 休職から復職時の留意事項、社内貸付制度 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永勲 Q1 休職していた従業員の復職時の留意事項について知りたい  メンタルヘルス不調を起因に休職している従業員が、復職を希望しています。復職を判断するにあたって、どういった手続きが必要でしょうか。また、復職させるにあたって、どのように対応していく必要があるのでしょうか。 A  復職判断にあたっては、労働者から復職可能である旨の情報提供として診断書などの提出を求めておきましょう。  診断書をふまえて、元の職務に復職させることができるか、困難である場合はほかの業務を用意できるかなどの復職判断を下す必要があります。  復職前に「試し出勤」を実施したり、復職後には短時間勤務から慣らしたりしていくことで、復職に向けた配慮が求められます。 1 メンタルヘルス不調に起因する休職について  近年、休職制度の利用にあたっては、メンタルヘルス不調に起因するものが増えてきています。  メンタルヘルス不調に起因する休職の特徴としては、休職開始時の就労不能の判断が困難であること、休職期間が長期化しやすい傾向にあること、復職時の判断が休職開始の判断と同様に困難であることなどがあげられます。  また、復職の際に、どのような配慮をもって復職させるべきであるのかということも課題となります。  休職制度は、法律上の根拠に基づくものではなく、就業規則または労働契約に基づき制度化されるものであるため、自社の就業規則などに基づき解釈することが必要ですが、過去の裁判例などをふまえて、留意事項を整理しておきたいと思います。 2 休職時の判断について  休職判断にあたっては、就業規則などに定めた休職事由に該当する必要があります。おおむね、連続欠勤が1カ月ないし6カ月程度継続する場合には、休職を命じることができるとされていることが多いと思われます。  一方、メンタルヘルス不調による欠勤は、連続欠勤とはならず、断続的な出勤不良(欠勤のみではなく、遅刻、早退が増加する)が継続することが多いと思われます。そのため、就業規則などには、連続欠勤だけを休職事由とするのではなく、断続的な欠勤も休職事由としておくことが重要です。  断続的な欠勤を休職事由に定めていない場合には、「通常の業務に堪たえないとき」などの抽象的な要件に該当するか否かを判断する必要が生じることが多いのですが、この場合には、専門家である医師の診断書の提出を求めて、当該診断書に記載された療養期間などをふまえて、休職期間を設定することが必要となります。 3 復職時の判断について  復職時の判断については、就業規則などには、傷病が「治癒」されたときや、「従前の業務を通常に行える程度に回復すること」が求められていることが一般的です。  復職の判断にあたっては、これらの言葉をいかに解釈するかが、裁判例では争点となっていますが、この際に使用者にどの程度の配慮が求められているのでしょうか。  メンタルヘルス不調とは異なる事例ですが、慢性腎不全を原因とする休職からの復帰が問題となった事案において、運転手に職種を特定されて採用されていたものの、ほかに現実に配置可能な部署ないし担当できる業務が存在し、会社の経営上もその業務を担当させることにそれほど問題がないときは、通常程度に業務ができないとはいえないものと判断しており、従前の職務と同じ業務ができない場合には、配置転換や軽易業務への従事などの配慮が求められています(大阪高裁平成14年6月19日判決)。  一方、職種などの限定がない労働者の復職判断にあたって、妄想性障害という傷病の特性を考慮したうえで、配置転換、在宅勤務などによっても就労させることが困難であったことをふまえて、配置転換などの実施がなかった場合においても、休職期間満了に基づく退職を有効と判断しています(東京高裁平成28年2月25日判決)。  したがって、復職時の判断にあたっては、原則として、元の職務のみではなく、配置転換、軽易作業への転換などを検討したうえで、復職の可否を判断する必要があり、例外的に、傷病の程度などから、配置転換などの実施に支障があり実施が困難である場合には、休職期間満了による退職が有効となると整理することができます。  なお、復職にあたっては、労働者の治療や回復に関する情報は、労働者の個人情報でありその支配下にあることから、労働者が復職可能であることを使用者に示す必要があると考えられています(前記東京高裁平成28年2月25日判決)。しかしながら、労働者に対して、休職期間の満了時に退職扱いとなることや必要な診断書の提出をうながすことなどは、労働者との紛争回避の観点からは重要と考えられますので、診断書等の提出がない状態を放置することなく、働きかけは行っておくべきでしょう。 4 復職後の配慮について  復職後の職場復帰に関する基本的な考え方や具体的な方策については、厚生労働省から、「改訂 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」が公表されており、参考になります。  正式な職場復帰前に行う、「試し出勤」制度についても触れられており、@模擬出勤(生活リズムを勤務時間と合わせるため、自宅で過ごす)、A通勤訓練(自宅から職場付近まで移動したうえで、一定時間過ごして帰宅する)、B試し出勤(職場に試験的に出勤してみる)の三つに分類しています。Bが最も復帰に近づけた状況といえるでしょう。  これらの「試し出勤」制度は、原則として、労務提供を受けるものではなく、賃金を発生させるものではありません。とはいえ、労働時間として判断されるか否かは、使用者の指揮命令下にあるか否かによって判断されるため、使用者としては、「試し出勤」の実施中に、賃金を発生させないためには、指揮命令に基づく労務の提供を受けることがないようにしておく必要があります。裁判例のなかでも、たとえ無給である旨の合意があり、試し出勤中の軽作業であっても、使用者の指揮に基づき作業成果を享受している場合には、最低賃金相当額の賃金が発生すると判断されています(名古屋高裁平成30年6月26日判決)。  そのほか、「試し出勤」の間は、労務に従事しているわけではないことから、通勤災害および業務災害の適用がないことなどはあらかじめ労使間で共有しておくことが適切でしょう。  正式な復職後においては、配慮が不要となるわけではなく、就業上の配慮が必要になると考えられています。これは、使用者が負っている安全配慮義務を構成するものと考える必要があります。  例としては、短時間勤務、軽作業や定型業務への従事、残業・深夜業務の禁止、出張制限、交代勤務制限、危険作業などの制限、フレックスタイム制の制限または適用、転勤についての配慮などがあげられています。  これらのなかでいつでも使える配慮は、短時間勤務でしょう。メンタルヘルス不調からの復帰の際には、リズムを取り戻すことと、仕事をすることに徐々に慣れていくことが必要です。ただし、あまりにも短時間にしすぎると、受領できる賃金が低くなりすぎるため、短ければよいともかぎりません。  例えば、初週は4時間、次週は6時間、その後8時間勤務に戻すことを計画し、その間の様子を見ながら計画通りに進めていけるか見守るほか、1カ月経過時点において産業医の面談を設定したうえで、復帰後の労働者の状況を把握しながら、復職後の配慮を尽くしていくことが適切でしょう。 Q2 従業員の生活維持のため、従業員への貸付を行うことはできるのか  コロナ禍の影響もあり、賞与の支給を停止することを考えています。しかしながら、住宅ローンの返済など特別の事情がある従業員に対しては、賞与相当額の貸付を行うことを検討しています。  会社から、従業員に対して貸付を行うことは許されるのでしょうか。返済を受ける方法は賃金からの控除を実施しても問題ないでしょうか。 A  労働基準法が規制する違約金および賠償予定の禁止、前借金相殺の禁止に該当しないように制度設計をする必要があります。  貸付金の返済について、不履行に対する制裁を与えるなど身体拘束や足止めにならないようにする必要があるほか、賃金からの控除については、労使協定の締結と労働者の自由な意思による同意が必要となります。 1 社内貸付制度と労働基準法の規制の関係  コロナ禍の影響もあって、賞与の支給停止または支給額を抑制する企業もありますが、一方で労働者の生計を維持する必要もあることから、対応に苦慮された企業も多いようです。  企業のなかには、賞与支給に代えて、社内貸付制度を新たに設けることで、生活の維持に寄与することを目ざした企業もあります。  労働者の生計維持のために、企業からの貸付を行うという目的自体は、労働者の利益のための配慮であることから、禁止すべきものとまでは思われませんが、労働基準法の規制を無視することもできません。 2 社内貸付制度と違約金・賠償予定の禁止  まず、労働基準法第16条は、損害賠償の予定を禁止して、労働者の保護を図っています。典型例としては、欠勤や遅刻ごとに一定額の金額を支払わせることなどですが、その趣旨は、金銭賠償を負担させることで身体拘束を図ることなどを防止することにあります。  一見すると、貸付とは無関係の規定にも見えますが、例えば、一度支給した賃金を、契約違反などがあったときに返還を求める約束も規制対象に含まれると考えられており、貸付も実質的にこれと同様の意味を持つ場合には、規制対象に入る可能性があります。  貸付金であるか、違約金の設定であるかについては、制度の実態に即して判断されることになり、業務との関連性が強く労働者の利益が小さい場合などは、本来使用者が負担すべき費用として違約金の設定と判断されやすく、業務との関連性が薄く労働者の利益が大きい場合には、貸付金として許容されやすい傾向にあります。  そのため、社内貸付制度を設計するにあたっては、まずは、労働者の利益としての位置づけを守るために、労働者の自主的な判断で貸付が申込み可能であることや使途について限定することなく労働者が受ける利益の程度を大きくしておき、業務との関連性を薄くしておくことが重要といえます。 3 社内貸付制度と前借金相殺の禁止  労働基準法は、賠償予定の禁止のみではなく、前借金と賃金を相殺することも禁止しています(同法第17条)。この条文では、前借金つまり会社からの貸付そのものを禁止するのではなく、賃金との相殺が禁止されています。その趣旨は、前借金を発生させたうえで、賃金を相殺して、手取額を低額にすることで、身体拘束や不当な足止めが生じることを防止することに主眼があります。  また、労働基準法第24条は、賃金の全額払いの原則を定めており、この規定の趣旨には、相殺禁止も含まれていると考えられています。その趣旨については、労働者の生活経済を脅かすことのないようにその保護を図るものと解釈されています。  相殺禁止に関して、判例は、「労働者がその自由な意思に基づき右相殺に同意した場合においては、右同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、右同意を得てした相殺は右規定に違反するものとはいえない」と判断しており、労働者の同意があれば、相殺が可能と判断しています(最高裁平成2年11月26日判決)。ただし、当該労働者の同意について、「労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ慎重に行われなければならないことはいうまでもないところ」とも注記しており、使用者からの押しつけがあってはいけません。  また、労働基準法第24条は、賃金からの控除の前提として、労働者の過半数代表者との労使協定の締結を求めています。  したがって、賃金から貸付金を控除して、返済に充てる場合には、規制の趣旨にしたがって、控除額が労働者の生計を脅かすほどのものとはならない範囲にとどめたうえで、賃金からの控除に関する労使協定の締結を行い、該当する労働者との間で自由な意思による同意を得て行う必要があります。 4 留意事項のまとめ  これらの労働基準法に基づく規制をふまえると、制度設計にあたっては、@労働者からの申込みを受けて行うものとすること、A使途については制限することなく生活資金として貸付を行うこと、B契約違反などに基づく一括返済の規定はできるかぎり設けず、設ける場合であっても退職を心理的に制限するような条件としないこと、C賃金からの控除を行う場合には、控除額は生活を脅かさない程度に抑制し、労使協定の締結と本人の同意を整えること、などに配慮しておくことが必要となるでしょう。 【P48-51】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第4回「キャリア」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者ならおさえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回で連載4回目となります。第2回「定年」、第3回「退職金」と、60歳以降に大きくかかわるものを取り上げてきましたが、今回は少し視野を広げて職業人生や働き方全般にかかわる「キャリア」と、関連する用語について解説していきます。 「キャリア」の定義はむずかしい  「キャリア」という用語は、さまざまな場面で目にする機会が多い用語です。ただしあらためて定義を問われると、なかなか明確には答えにくい用語の一つだと思います。インターネットなどを見てもさまざまな定義が出てきます。  少し古い資料ですが、2002(平成14)年に厚生労働省が発表した「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書というものがあります。ここではキャリアを一般に「経歴」、「経験」、「発展」さらには、「関連した職務の連鎖」などと表現し、「時間的持続性ないし継続性を持った概念」と定義しています。少々回りくどい表現になっていますが、端的には「職務や関連する活動による経験」といえるでしょう。  ポイントは報告書の定義にあるように時間的な継続性が含まれる点です。このため、理想的なキャリアの積み方を企画する「キャリアデザイン」や、職務経験などを通して個人の能力開発をうながしていく「キャリア形成」は、中長期的な時間軸が必要な要素となってきます。個人が歩んできた職業やスキル習得も含めた経験が、将来の生き方に影響を与えることは実際にあります。  例えば、筆者の話で恐縮ですが、大学卒業直後に入社したのは出版社で、8年経ってからまったく経験したことのない人事関連のコンサルティング会社に入社しました。ここで直接的には職業経験は一度途切れていますが、日常的に文章を書くことが多いコンサルタント業務をするうえで、出版社時代の文章の書き方や、校正の経験が非常に役立っています。ずいぶん関係ないところで影響するものだと自分でも思いますが、キャリアの中長期的な時間軸からすると不思議なことではないのかもしれません。 キャリアへの関心の高まり  以前から働く人にとってキャリアは関心事の一つでしたが、近年「人生100年時代」を背景として、キャリアについての関心がさらに高まっていると感じます。かつては若年層がいかによい会社に入るか、希望の仕事をするかといった文脈で語られることが多かったのですが、近年は定年や寿命の延びに関連して、職業人生を含めた人生全体を、いかに充実したものにするかという広いとらえ方になってきています。  例えば、会社の選び方も「就社から就職へ」といわれることがあります。この場合の「就社」は、終身雇用を前提に安定性や将来性のある会社に入社することに関心がもたれていますが、「就職」は就いた職務により、経験やスキルを積み、それを活かして自身が望む仕事や生き方ができるのであれば、転職や独立も選択肢に含まれるという考え方です。  「平成31年度新入社員『働くことの意識』調査結果」(図表1)によると、特徴的なのは会社の選択理由として「能力・個性を生かせる」、「仕事が面白い」が半数超の回答で、「会社の将来性」という回答は長期にわたって減少傾向を示しているうえに、もっとも低い回答になっています。各社の採用ホームページなどを見ても、会社の素晴らしさよりも、どのような経験を積めるか、自身を活かせるかという点で訴求しています。  これは高齢者雇用でも同様です。経済産業省が作成した「『人生100年時代』の企業の在り方」(2017年)という資料で、よくまとめられています。要旨は、従来のキャリアは終身雇用を前提に会社がつくるものでしたが、これからは社員が自律的にキャリアをつくり、独立や転職などの社外転身も視野に入れるというものです。本資料でも指摘されていることですが、社内のほかのだれかに代替が利きやすい仕事をしているかぎり、高齢者雇用では定型作業や雑用などの「低付加価値労働」のにない手として位置づけられます。  一方、社外も見据えたキャリア形成をしていくのであれば、社外でも通用するスキルや専門性を習得していかなければならず、それを武器とすれば社内で継続的に働く場合でも、60歳以前と同じような働き方をし続けることができることになります。  本連載第2回にも記載した通り、法改正による70歳までの就業機会確保の努力義務(2021年4月施行)で、定年廃止・定年延長・再雇用に加えて、「他企業への再就職支援」、「継続的な業務委託」、「社会活動への従事」が追加されました。これは選択肢が広がる一方で、特に他企業への再就職や業務委託は同一会社での継続雇用よりもより難易度が高く、キャリアに対する意識を変えて自身の得意領域を明確にしていかないと、現実的にはむずかしい領域となります。 会社としてのキャリア開発支援が重要  ただし、誤解のないようにしておきたいのは、キャリア形成を本人任せにするという意味ではありません。会社として支援することは引き続き重要です。従来は会社が最適な視点で社員へ職務を付与し、60歳や65歳で雇用関係が終了すれば後は関係ないというスタンスが一般的でしたが、今後は長い就業期間や雇用関係の終了後も見据えて、どのようなスキルや能力を習得して働くことが会社にとっても本人にとってもよいのかを、ともに考えていくようなスタンスに変えていく必要があります。会社が施策を打って習得を支援する場合は「キャリア開発支援」と呼びます。  キャリア開発支援にはいくつもの方法があります。一般的な施策として、まずは「ジョブローテーション」があげられます。社員に複数の職務を経験させるものです。これは日本企業の人材活用の特徴として、かなり昔から行われています。  近年はいくつもの職務を経験させることは専門的なスキル習得の妨げになるとして否定される向きもありますが、本人の適性を見極め、また仕事や視野の広がりを持たせるためにも重要な施策です。自身が向いていると感じていることと、実際にできることには少なからず乖離(かいり)があります。これは実際に経験してみないとわからないことです。また、長年同一職務しか行っていない場合、どうしても視野が狭くなります。製造系の会社で本社の管理部門の社員を工場に一定期間配属させることがありますが、この目的は現場目線の獲得にあります。ジョブローテーションが無駄なもの≠ニして感じられる場合は、無計画に行っているか、ローテーションの意図を本人に伝えていないことなどが理由として想定されます。  次にあげられる施策には「フィードバック」があります。業務に関する取組みや行動について、よかった点や改善点を明らかにして、本人に伝えることです。人事評価の結果について上司が部下に伝えるのが、多くの会社にあるフィードバックの機会です。  フィードバックの目的は、本人の行動改善や動機づけをすることで成長をうながすことにあります。しかし、一方的に伝えるだけでは成長につながらない、お説教のようになりかえって逆効果という声もあります。そこで、近年では上司・部下間で本人のキャリアや成長について定期的に話し合う「1on1(ワンオンワン)」という取組みを行っている会社もあります。  キャリア開発において話合いは重要で、先ほどの工場への異動の例をとってみても、異動の意義が本人にしっかり伝わっていれば、工場勤務は視野を広げるために重要な経験になりますし、意図が伝わらず本人の意にも沿っていない場合は、本人にとっては無駄な期間になってしまいます。  会社が考える適性配置やジョブローテーションと、本人の希望がかみ合わないことは多々ありますが、その溝を埋めていくのは対話による意識のすり合わせであるといえます。  施策の最後としてあげられるのは「キャリアパス」の設定です。キャリアパスとは社内で社員が目ざすことのできる役職や職務などを明らかにして、そこに向けてどのような経験やスキルが必要か過程を示すものです。  わかりやすいのが、人事制度で「マネジメント職(管理職)」と「専門職」の二つを目ざせるとして「複線型のコース制度」を用いている会社です。  この場合は管理職になり課長・部長と職位を上げていくほかに、自身の職務の専門性を磨けば、部課長と同等の処遇で働くことができることを示しています。そこに至るまでに「等級」という複数段階のステップがあり、等級ごとにどのような能力を身につけ役割を果たせばよいかなど定義が定められ、それをクリアしないと上のステップに上がれない仕組みになっています(図表2)。特にマネジメント職には適性があり、プレーヤーとしては優秀だが課長として組織運営や部下サポートをやらせたら向いていなかったというのはよくあるケースです。このため、課長に就任させる前に小規模組織の運営やプロジェクトリーダーを経験させて、適性を見極めるという取組みをしている会社もあります。 セカンドキャリアを意識する  人生100年時代を見据えたキャリアを考えた場合、会社のキャリア支援策をただ受け止めるだけではなく、加えて「セカンドキャリア」を意識して自身の武器となるスキルや能力を高めていくことを、本人が主体的に行うことが必要です。  セカンドキャリアとは、第二の職業人生≠ニ説明されることが多いですが、より長い期間で考えると生き方をどうするか≠ニいう、より広い視野に立つものになります。かつてはセカンドキャリアといった場合、55歳あたりから考えるものとしてとらえられていましたが、近年では遅くとも40代から意識するものという認識が広まっています。書店でよく見かける○歳から考えるキャリア≠ニいった書籍も、対象年齢が早まってきています。  人生が長くなったのに、セカンドキャリアを考えるのが早まっているのは一見矛盾しているようですが、考える内容が大きく異なっています。55歳あたりから考えるセカンドキャリアは、退職までの働き方や退職後の過ごし方、資金計画などがおもな内容でした。一方で近年の内容は、いかに長く活躍するか、充実した人生を生きるかに主眼が置かれています。  先に述べたように、同じ会社で働き続ける、違う会社で活躍する、起業して働けるかぎり働く、働くだけでなく地域や社会に貢献するなど、さまざまな選択肢が視野に入ります。退職後、喪失感によりやる気をなくす、やることがなくなるなどの声もありますが、あらかじめ自身にとって最適なセカンドキャリアを考え、準備ができていれば、退職いかんにかかわらず充実した人生を送ることができるのではないでしょうか。  そのため、「セカンドキャリア研修」を実施して意識づけをしたり、他社での豊富なキャリアを持つ就業意欲のある方を積極的に採用し、活躍の場を提供するなど、会社としての役割も高まっています。 ☆  ☆  今回は「キャリア」について解説しました。次回は、雇用延長とも密接に関連する「賃金カーブ」について取り上げる予定です。 図表1 会社の選択理由(主な項目の経年変化) 会社の将来性 技術が覚えられる 仕事が面白い 能力・個性が生かせる 出典:「平成31年度新入社員『働くことの意識』調査結果」(公益財団法人日本生産性本部) 図表2 ジョブローテーションとキャリアパス <等級> 5級 4級 3級 2級 1級 職種 営業 事務 製造 総合職/専門職分岐 キャリア選択期間 (職種内異動が主) ジョブローテーション期間 (職種間異動を含めさまざまな仕事を経験) 【P52-55】 TOPIC 独立行政法人労働政策研究・研修機構が「人生100年時代のキャリア形成と雇用管理の課題に関する調査」を公表  独立行政法人労働政策研究・研修機構は、人生100年時代における企業の雇用管理の動向や今後に向けた課題把握を目的に、従業員規模30人以上の企業を対象に「人生100年時代のキャリア形成と雇用管理の課題に関する調査」※を実施、その結果を公表しました。本稿ではその一部をご紹介します。 (編集部) 調査結果の概要 1.企業が予測する「人生100年時代」のイメージ (1)人生100年時代の予測(図表1)  「人生100年時代」といわれ、人々の長寿化が進んでいるところであるが、このようなもとで人々の働き方や従業員と会社の関係は、今後どのように変化していくと予測しているか、企業にたずねたところ、従業員の勤続年数の長期化(73・0%)、介護負担など働き方への配慮(62・3%)などが多かった。企業規模別にみると、これらに加え、300人以上の大企業では、転職の増加(42・5%)、兼業・副業の増加(40・5%)、30〜299人規模の中小企業では、短時間就業希望の増加(38・0%)などが多くなっている。なお、キャリア設計への関心の高まりは大企業で32・2%、中小企業で20・3%と、差が大きかった。 (2)人生100年時代に求められる能力(図表2)  人生100年時代の予測をもとに、企業が「これまで重視してきた能力」と「人生100年時代で求められる能力」を比較してみると、これまで重視してきた能力では、経験をもとに着実に仕事を行う能力(67・3%)、チームの一員として自らの役割を果たす能力(64・6%)などの割合が高かったのに対し、人生100年時代に求められる能力としては、自ら考え、行動することのできる能力(55・3%)、柔軟な発想で新しい考えを生み出すことのできる能力(53・5%)などの割合が高まっている。特に、柔軟な発想で新しい考えを生み出すことのできる能力は、これまで重視してきた能力では20・8%であり、32・7%ポイント上昇している。 (一部省略) 2.日本企業の雇用管理と長期勤続化の課題 (1)依然として高い長期雇用への志向性(図表3)  採用、配置、昇進管理などについて、異なる二つの考え方を示し、どちらに近いかをたずねることによって企業の考え方を調べてみると、全員長期雇用か一部精鋭化か、幹部は内部登用か外部登用か、能力開発は会社主体か個人主体かなどにおいて、全員長期雇用、内部登用、会社主体が強くなっている。一方、採用は新卒重視か中途重視かでは、300人以上の大企業では新卒重視、30〜299人の中小企業では中途重視の志向性がみられる。なお、昇進については抜擢重視、教育投資については短期回収の考えの方が強くなっている。 (2)従業員の活用やキャリア形成で重視する事項(図表4)  従業員の活用やキャリア形成にあたって、重視している事項を調べてみると、働きやすい職場の実現(70・3%ポイント)でポイントが高く、自主的なキャリア形成支援(29・2%ポイント)、生涯を通じた職業能力開発(27・7%ポイント)などが、それに次いでいる。一方、300人以上の大企業についてみると、労働組合等とのコミュニケーション(38・2%ポイント)のポイントが高い。 (3)正社員の意欲・能力・キャリア形成の現状と課題(図表5)  企業に対し、自社の正社員で意欲を持って働いているようにみえる割合をたずねてみると、男性正社員でも女性正社員でも、年齢が上がるにつれ低下する傾向がある。特に、男性正社員では、40歳台以降、急速に低下している。一方、管理職に昇進した場合についてみると、30歳台や40歳台で意欲を持って働く人の割合が高まり、40歳台以降の低下も緩やかなものとなっている。また、40歳台以降は、男性管理職に比べ女性管理職の方が、意欲を持って働く人の割合が高くなっている。  次に、十分能力発揮できているようにみえる割合をみると、男性でも女性でも管理職に昇進した場合は40歳台まで割合が高まっている。また、40歳台以降は男性管理職に比べ女性管理職の方が割合は高くなっている。一方、非管理職層の男性正社員については、40歳台以降、能力を発揮できている人の割合が低下しており、その低下テンポは女性正社員より大きい。なお、能力が発揮できている人の割合は、総じて意欲を持って働いている人の割合より高い。  最後に積極的にキャリア形成に取り組んでいるようにみえる割合をみると、男性では30歳台にピークがあり、その後、年齢とともに低下している。女性管理職では40歳台にピークがあり、その後の水準も相対的に高い。  これらより、昇進しなかった男性正社員の意欲、能力、キャリア形成などについて、特に40歳台以降層で課題があることが指摘できる。 (一部省略) 3.キャリア形成のための諸制度とその動向 (一部省略) (4)キャリア形成のための人事制度の効果(図表6)  制度が導入されている企業において、若年層(39歳まで)、中壮年層(40〜59歳)、高年齢層(60歳以上)の年齢階層別に制度としての効果を試算してみると、総じて、どの制度も若年層ほど効果が現れているようにみえる。また、若年層では特に、メンター制度の導入効果が高い。  一方、高年齢層は総じて制度導入の効果は小さいが、調査した制度の中では、社会貢献参加の効果が相対的に大きくなっている。 (以下省略) ※公表資料全体は下記URLよりご確認ください。https://www.jil.go.jp/press/documents/20200529.pdf 図表1 「人生100年時代」で企業が予測していること 勤続年数の長期化 30〜299人規模 72.9% 300人以上規模 74.7% 規模計 73.0% 介護負担など働き方への配慮 30〜299人規模 61.5% 300人以上規模 70.4% 規模計 62.3% 短時間就業希望の増加 30〜299人規模 38.0% 300人以上規模 33.4% 規模計 37.6% 転職の増加 30〜299人規模 36.8% 300人以上規模 42.5% 規模計 37.3% 兼業・副業の増加 30〜299人規模 36.8% 300人以上規模 40.5% 規模計 37.1% キャリア設計への関心の高まり 30〜299人規模 20.3% 300人以上規模 32.2% 規模計 21.4% 社会貢献活動への関心の高まり 30〜299人規模 7.9% 300人以上規模 10.7% 規模計 8.1% 就学意欲の高まり 30〜299人規模 6.5% 300人以上規模 8.2% 規模計 6.7% 注1 企業に対する調査で複数回答。 2 表章事項は簡略化しており、調査では、従業員の勤続年数が長くなる/介護を担う従業員が増え働き方への配慮がより求められる/労働時間の短い仕事への就業希望が強まる/従業員の転職が多くなる/兼業・副業など他の企業で働く従業員が増える/職業能力開発など従業員の自らのキャリア設計への関心が高まる/ボランティアなど社会貢献活動への参加に関心が強まる/従業員の就学意欲が強まる、とされている。 図表2 これまで重視してきた能力と人生100年時代に求められる能力 経験をもとに着実に仕事を行う能力 これまで重視してきた能力 67.3% 人生100年時代で求められる能力 46.3% チームの一員として自らの役割を果たす能力 これまで重視してきた能力 64.6% 人生100年時代で求められる能力 43.8% 自ら考え、行動することのできる能力 これまで重視してきた能力 54.4% 人生100年時代で求められる能力 55.3% 特定の分野における専門的・技術的な能力 これまで重視してきた能力 38.9% 人生100年時代で求められる能力 47.1% 困難に立ち向かうことのできる精神的な能力 これまで重視してきた能力 30.3% 人生100年時代で求められる能力 28.4% 柔軟な発想で新しい考えを生み出すことのできる能力 これまで重視してきた能力 20.8% 人生100年時代で求められる能力 53.5% 注 企業に対する調査で複数回答。 図表3 採用・配置・昇進管理に関する企業の考え方 前者の考えに近い 後者の考えに近い 全員長期雇用か一部精鋭化か 30〜299人規模 1.2ポイント 300人以上規模 1.3ポイント 規模計 1.2ポイント 幹部は内部登用か外部登用か 30〜299人規模 0.8ポイント 300人以上規模 0.7ポイント 規模計 0.8ポイント 能力開発は会社主体か個人主体か 30〜299人規模 0.4ポイント 300人以上規模 0.6ポイント 規模計 0.4ポイント 異動は会社主導か個人主導か 30〜299人規模 0.2ポイント 300人以上規模 0.6ポイント 規模計 0.3ポイント 職務は総合性重視か専門性重視か 30〜299人規模 -0.1ポイント 300人以上規模 0.0ポイント 規模計 -0.1ポイント 採用は新卒重視か中途重視か 30〜299人規模 -0.4ポイント 300人以上規模 0.6ポイント 規模計 -0.3ポイント 昇進は勤続重視か抜擢重視か 30〜299人規模 -0.5ポイント 300人以上規模 -0.3ポイント 規模計 -0.5ポイント 教育投資は長期回収か短期回収か 30〜299人規模 -0.5ポイント 300人以上規模 -0.3ポイント 規模計 -0.5ポイント 注1 企業に対する調査で、二つの対になる考え方(前者と後者)を示し、前者に近い、どちらかというと前者に近い、どちらかというと後者に近い、後者に近い、のいずれかの回答をえた。集計にあたっては、前者に近いに2ポイント、どちらかというと前者に近いに1ポイント、どちらかというと後者に近いに▲1ポイント、後者に近いに▲2ポイントを与え加重平均値をとった。 2 表章事項は簡略化しており、調査における前者と後者の表現は、正社員全員の長期雇用 に努める・正社員の一部を精鋭として残す/高い職位には生え抜き社員を登用する・高い職位には外部人材を登用する/従業員の能力開発の責任は企業側にある・従業員の能力開発の責任は従業員個人にある/異動は会社主導で行う・異動には従業員の意見・希望をできるだけ反映させる/職務にとらわれず広く仕事を経験させる・特定の職務内で仕事を経験させる/新卒採用に力を入れている・中途採用に力を入れている/勤続年数を重んじて昇進させる・勤続年数に関係なく抜擢する/従業員への教育投資の回収は10年以上かけて行う・従業員への教育投資の回収は10年未満で行う、とされている。 図表4 従業員の活用やキャリア形成にあたって企業が重視する事項 D.I.(当てはまる(%)−当てはまらない(%)) 重視する事項として当てはまる 重視する事項として当てはまらない 働きやすい職場の実現 30〜299人規模 69.3% 300人以上規模 79.6% 規模計 70.3% 自主的なキャリア形成支援 30〜299人規模 28.8% 300人以上規模 33.8% 規模計 29.2% 生涯を通じた職業能力開発 30〜299人規模 26.8% 300人以上規模 36.9% 規模計 27.7% 高齢者の能力発揮 30〜299人規模 19.1% 300人以上規模 16.2% 規模計 18.8% 労働組合等とのコミュニケーション 30〜299人規模 16.2% 300人以上規模 38.2% 規模計 18.3% 非正社員の戦力化 30〜299人規模 -0.9% 300人以上規模 12.8% 規模計 0.4% 社会貢献活動の経験 30〜299人規模 -11.7% 300人以上規模 -0.6% 規模計 -10.7% 学び直しへの支援 30〜299人規模 -15.8% 300人以上規模 -22.4% 規模計 -16.5% 兼業・副業の経験 30〜299人規模 -70.8% 300人以上規模 -70.8% 規模計 -70.8% 注1 企業に対する調査で、調査で示された事項を重視する考えに、当てはまる、やや当てはまる、あまり当てはまらない、当てはまらない、をたずねている。前2者を当てはまる、後2者を当てはまらないとして、それぞれの構成比の差(当てはまる(%)−当てはまらない(%))をD.I.として示した。 2 表章事項は簡略化しており、調査では、働き方改革などによる働きやすい職場の実現を重視している/従業員の自主的なキャリア形成への支援を重視している/従業員の生涯を通じた職業能力開発を重視している/高齢者の能力発揮を重視している/従業員組織(組合・社員会など)とのコミュニケーションを重視している/正社員以外の従業員の戦力化を重視している/ボランティアや社会貢献活動は従業員のパフォーマンスやキャリア形成にプラスの効果がある/従業員の学び直しへの支援を重視している/兼業・副業は従業員のパフォーマンスやキャリア形成にプラスの効果がある、とされている。 図表5 正社員の意欲・能力・キャリア形成の現状 意欲をもって働いている人の割合 女性管理職 女性正社員(非管理職) 男性管理職 男性正社員(非管理職) 十分能力発揮できている人の割合 女性管理職 女性正社員(非管理職) 男性管理職 男性正社員(非管理職) 積極的にキャリア形成に取り組んでいる人の割合 女性管理職 女性正社員(非管理職) 男性管理職 男性正社員(非管理職) 注1 企業に対する調査で、企業からみて「いきいきと意欲をもって仕事に取り組んでいるように見える正社員の割合」「自身の能力を十分に発揮して仕事に取り組んでいる正社員の割合」「自身の能力向上やキャリア形成に積極的に取り組んでいる正社員の割合」をたずねた。数値の試算にあたっては、8割以上の回答を90%、5〜7割を60%、3〜4割を35%、2割以下を10%とみなして計算した。 2 60歳台の値は65歳以上を除いている。 図表6 キャリア形成のための人事制度とその効果 自己啓発支援 39歳まで 0.9ポイント 40〜59歳 0.6ポイント 60歳以上 0.1ポイント 自己申告制度 39歳まで 0.9ポイント 40〜59歳 0.5ポイント 60歳以上 0.0ポイント 目標管理制度 39歳まで 0.8ポイント 40〜59歳 0.6ポイント 60歳以上 0.2ポイント キャリア研修 39歳まで 0.9ポイント 40〜59歳 0.6ポイント 60歳以上 0.2ポイント キャリア面談 39歳まで 0.8ポイント 40〜59歳 0.6ポイント 60歳以上 0.2ポイント メンター制度 39歳まで 0.0ポイント 40〜59歳 0.5ポイント 60歳以上 0.2ポイント 復職支援 39歳まで 0.6ポイント 40〜59歳 0.5ポイント 60歳以上 0.1ポイント 兼業・副業 39歳まで 0.1ポイント 40〜59歳 0.1ポイント 60歳以上 0.0ポイント 社会貢献参加 39歳まで 0.5ポイント 40〜59歳 0.5ポイント 60歳以上 0.3ポイント 社内公募制度 39歳まで 0.5ポイント 40〜59歳 0.3ポイント 60歳以上 0.0ポイント キャリアカウンセリング 39歳まで 0.3ポイント 40〜59歳 0.2ポイント 60歳以上 -0.1ポイント 注1 企業に対する調査で、制度の効果は大変効果があるに2ポイント、やや効果があるに1ポイント、あまり効果がないに▲1ポイント、ほとんど効果がないに▲2ポイントを与え加重平均値をとった。 2 調査対象としたキャリア形成のための人事制度は11で表章は簡略化しており、調査では、自己啓発支援(資格取得やリカレント教育)への補助・勤務時間面での配慮/自己申告制度(従業員の今後の仕事・キャリアへの意向を把握する制度)/目標管理制度(従業員が自律的に設定した目標に基づく評価制度)/Off-JTで行うキャリア研修(従業員のキャリア形成を支援する制度で外注・委託も含む)/人事部門担当者によるキャリアに関する従業員との個別面談/メンター制度(キャリア形成に関し先輩社員が相談役となって後輩社員を支援する制度)/一旦離職した従業員の復職支援・制度/兼業・副業の容認/従業員のボランティア・社会貢献活動への参加の推進/社内公募制度・社内FA(フリーエージェント)制度 /キャリアコンサルタントの資格を持つ者によるカウンセリング、とされている。 【P56-57】 基本的な機能から最新情報まで漏れなく学べる、本格的な入門テキスト マネジメント・テキスト 人事管理入門 第3版 今野(いまの)浩一郎、 佐藤博樹(ひろき) 著/ 日経BP日本経済新聞 出版本部/ 3000円+税  「人事管理の仕組みを知らなくても、企業で働くうえで困ることはない」という考え方もあるだろう。しかし、高齢者雇用の進展とともに終身雇用制がほころびを見せ始め、同一の企業で定年まで働き続けることがあたり前ではなくなった現在、自分のキャリアを自分で考えたい人にとって、人事管理の機能や仕組みを知ることは不可欠といえるのではないだろうか。本書は、そうした目的のためにも役立つ、本格的な入門テキストだと思われる。  本書の初版が刊行されたのは2002年。「あまり理論的なことに偏(かたよ)らずに、(企業における)人事管理の実際とその背景を知ってもらう」ことを目的に、人事管理の基本的な機能と仕組みが体系的に網羅されたテキストとして好評を博してきた。今回の改訂では、統計データなどを最新の情報に改めるとともに、「いまの状況」を正確に伝えるために、「同一労働同一賃金」、「ダイバーシティ・マネジメント」、「ジョブ型雇用」など、人事管理上で問題となっているテーマの解説が「トピックス編」として追加されている。著者の2人は、高齢者の雇用管理にも詳しく、本誌でも執筆いただいている(今号では7〜10頁、40〜43頁に掲載)。 70歳雇用時代に不可欠な人事労務管理の処方箋(しょほうせん)を提示 ミドル・シニアの脱年功(だつねんこう)マネジメント 40〜50代「年上部下」の躍進行動支援の勘かん所どころ パーソル総合研究所 編/ 労務行政/ 2300円+税  日本的経営の象徴として知られている「年功マネジメント」。かつては日本企業の強みとされていたが、65歳までの雇用確保が義務化され、さらに70歳雇用時代の幕開けが迫るなかで、その限界を指摘する声が大きくなっている。とりわけ難問とされているのが、年功マネジメントの範疇(はんちゅう)に収まらない「年上部下」と「年下上司」の関係性がもたらす問題だろう。  高齢者雇用の進展とともにあたり前となった「年上部下・年下上司」が、多くの企業で組織の停滞を招いている状況をふまえ、本書では70歳雇用時代に求められる人事労務管理の処方箋として、「年上部下」を戦力化するための「脱年功マネジメント」を提唱している。  さまざまな調査研究で実績をあげてきた編者ならではの知見をもとに、「年上部下」となったミドル・シニア社員と、その「年下上司」に向けて、現場での苦労やトラブルを解決するために必要なマネジメントのポイントをわかりやすく提示している。とくに、第4章「役職定年制の功罪と運用の留意点」や第5章「環境変化に伴い様変わりする職場」は、ミドル・シニア社員の戦力化に本気で取り組んでいる担当者におすすめの内容である。 改正法の内容から対応のポイント、トラブル解決の具体策までわかりやすく解説 パワハラ防止ガイドブック 判断基準、人事管理、相談対応がわかる 橘(たちばな)大樹(ひろき)、吉田(よしだ)寿(ひさし)、野原(のはら)蓉子(ようこ) 著/ 経団連出版/ 1400円+税  職場におけるパワーハラスメントを防止する、いわゆる「パワハラ防止法」(労働施策総合推進法)が、2020(令和2)年6月1日に施行された。法改正にともない、厚生労働省は「パワーハラスメント防止のための指針」も公表し、パワハラ防止措置を講じることを企業に義務づけた(中小企業では2022年4月1日から)。  本書は、著者である弁護士、人事コンサルタント、カウンセラーの3者が、パワハラ指針の概要や企業のとるべき対応策、過去の裁判例、人事管理のポイント、相談対応とトラブル防止の具体策などをわかりやすく解説した一冊。  例えば第1章では、パワハラ防止法が示したパワハラ3要素の意味と具体例や、パワハラ行為に該当する例・しない例などを説明。第2章では、パワハラを誘発させないマネジメントをテーマに、パワハラ対策に効果的な取組みやリーダーの条件、コーチングなどについて説いている。第3章では、訴えを受けたときの初動対応や、相談者・行為者とされた人へのヒアリングのポイントなどにも触れている。  パワハラ防止法への対応を進めている企業の経営者や人事担当者らにとって、必読のガイドブックといえるだろう。 多様性を包含(ほうがん)し、組織の成長に活かすには? ダイバーシティ&インクルージョン経営 これからの経営戦略と働き方 荒金(あらかね)雅子(まさこ) 著/ 日本規格協会/ 1500円+税  本書から引用すると、ダイバーシティ経営とは、「人の多様性を受け入れ、活かすことで、組織の成長や活性化、企業価値の向上を図ること」。インクルージョンは日本語で「包括」、「包含」を意味し、著者は「多様性からイノベーションや新しい価値を生み出すための重要なカギとなるもの」と説いている。  ダイバーシティ経営は、女性や外国人、障害者、高齢者など組織のなかのマイノリティに焦点をあて、働きやすさなどを求めてきた印象が強いが、最近はこうした属性だけでなく、ライフスタイルやキャリア志向、働き方などさまざまな多様性への取組みが進んでいるという。また、日本でのダイバーシティ経営は大企業から中小企業へと広がっているが、なかには「効果が見えない」、「かえって対立を生んでいる」といった問題を抱える企業もあるという。  本書は、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)経営の基本や推進する意味、ダイバーシティ経営推進企業が抱える問題点と解決の方策、SDGsとD&I経営などを解説。コロナ禍で多様な働き方がより注目されるなか、D&Iを学びたい人や、組織の成長につなげたいと考える人たちにおすすめの書である。 人生の熟練者に学ぶ、晴れやかな挑み方 一生勝負 マスターズ・オブ・ライフ 橋秀実(ひでみね) 著/ 文藝春秋/ 1500円+税  本書は、「スポーツがあまり好きではない」という著者が、人生の熟練者(マスターズ)である現役アスリートを取材して、それぞれの競技とのかかわりや練習方法、勝負への姿勢、競技生活を続けられている背景などを綴っている。  登場するのは、71歳の体操と馬術の選手から89歳の棒高跳びの選手まで、24競技の24組。  棒高跳び選手の鳥とり谷や 宗むね弘ひろさんは65歳からマスターズ大会に出場し、70代になってから記録を伸ばした。体力に合わせて跳び方を変えているそうだ。インタビュー時は、大腸がんの手術や腰痛を乗り越えて毎朝練習に励んでいると話している。競泳選手の西岡政恵さん(86歳)は、「去年と同じなら記録は伸びているといっていい」と自身の記録を語る。ほかの選手も、「昨日と今日はそんなに変わらない。その変わらなさを継続すればいいんです」、「現役に戻ることで、体力をつけようと思った」など熟練者ならではの挑み方や胸の内を明かしている。  それらは気迫に満ちたという感じではなく、いずれも晴れやかで、「俺もやってみようかな、とつられることがしばしばあった」と著者。高齢期の生き方や、職場の年長者の気持ちを想像するうえでも参考になる一冊だ。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「本体価格」(消費税を含まない価格)を表示します 【P58-59】 ニュース ファイル NEWS FIL 行政・関係団体 厚生労働省 労働災害発生状況(確定値)を公表厚生労働省  厚生労働省がまとめた2019(平成31年1月〜令和元年12月)の労働災害発生状況によると、昨年1年間の労働災害による死亡者数は845人となっており、前年(909人)と比べ64人(7・0%)減少し2年連続で過去最少となった。  死亡者数を業種別にみると、最も多いのは建設業の269人(全体の31・8%)、次いで、第三次産業240人(同28・4%)、製造業141人(同16・7%)、陸上貨物運送事業101人(同12・0%)の順となっている。事故の型別にみると、最も多いのは「墜落・転落」の216人で前年に比べ40人(15・6%)減、次いで、「交通事故(道路)」が157人で同18人(10・3%)減、「はさまれ・巻き込まれ」が104人で同9人(8・0%)減の順となっている。  次に、死傷災害(死亡災害及び休業4日以上の災害)についてみると、死傷者数は12万5611人となっており、前年(12万7329人)と比べ1718人(1・3%)の減少となった。業種別にみると、最も多いのは第三次産業の6万208人(全体の47・9%)、次いで、製造業2万6873人(同21・4%)、陸上貨物運送事業1万5382人(同12・2%)、建設業1万5183人(同12・1%)の順となっている。  年齢別では、全死傷者数のうち60歳以上の占める割合が年々増加して26・8%となり、前年(26・1%)と比べ0・7%増となっている。 厚生労働省 「過重労働解消キャンペーン」の実施結果  厚生労働省は、2019(令和元)年11月に実施した「過重労働解消キャンペーン」における重点監督の実施結果をまとめた。  それによると、監督を行った事業場のうち、75・3%に労働基準関係法令違反が認められた。今回の重点監督は、長時間の過重労働による過労死などに関する労災請求のあった事業場や若者の「使い捨て」が疑われる事業場などを含め、労働基準関係法令の違反が疑われる事業場を対象に行った。  監督を行った8904事業場のうち、6707事業場(75・3%)に労働基準関係法令違反が認められた。  おもな違反内容をみると、違法な時間外労働があったものが3602事業場(全体の40・5%)、賃金不払残業があったものが654事業場(同7・3%)、過重労働による健康障害防止措置が未実施のものが1832事業場(同20・6%)となっている。  おもな業種の違反率をみると、製造業78・8%、建設業80・2%、運輸交通業78・8%、商業73・6%、接客娯楽業80・7%となっている。  一方、事業場規模別の監督指導実施事業場数をみると、最も多かったのは「10〜29人」の3675事業場(全体の41・3%)、次いで、「1〜9人」の2610事業場(同29・3%)、「30〜49人」の1191事業場(同13・4%)、「50〜99人」の678事業場(同7・6%)、「100〜299人」の520事業場(同5・8%)、「300人以上」の230事業場(同2・6%)となっている。 厚生労働省 「労使コミュニケーション調査」の概況  厚生労働省は、2019(令和元)年「労使コミュニケーション調査」の結果を取りまとめた。この調査は5年ごとに行われており、前回は2014(平成26)年。対象は常用労働者30人以上を雇用する民営事業所およびその常用労働者で、今回は2019年6月30日現在について調査しており、2999事業所と3288人が有効回答を寄せた。  調査結果の労使関係の維持について事業所の認識をみると、「安定的に維持されている」29・7%(前回調査33・0%)、「おおむね安定的に維持されている」52・2%(同54・0%)、「どちらともいえない」12・1%(同9・7%)、「やや不安定である」2・4%(同1・2%)などとなっている。一方、事業所での労使コミュニケーションがどの程度良好であるかについて労働者の認識をみると、「良い」60・5%(前回調査55・3%)、「どちらともいえない」28・6%(同33・3%)、「悪い」9・6%(同11・3%)となっており、良好度指数(『良い』―『悪い』)でみると、50・9ポイント(同44・0ポイント)となっている。  労使コミュニケーションを重視する内容(複数回答)をみると、事業所では「日常業務改善」75・3%(前回調査75・3%)が最も多く、次いで「作業環境改善」72・9%(同68 ・5%)、「職場の人間関係」69・5%(同65・1%)などとなっており、労働者では「職場の人間関係」66・2%(同62・4%)が最も多く、次いで「日常業務改善」57・7%(同53・1%)、「賃金、労働時間等労働条件」53・0%(同47・9%)などとなっている。 厚生労働省 「能力開発基本調査」結果を公表  厚生労働省は、2019(令和元)年度「能力開発基本調査」の結果をまとめた。  この調査は、企業が実施した教育訓練、キャリア形成支援などについて、常用労働者30人以上の企業、事業所、またそこで働く労働者を対象に毎年行っている。  調査結果をみると、教育訓練の実施状況は、OFF-JTを実施した事業所割合は、正社員では75・1%(前回調査75・7%)、正社員以外では39・5%(同40・4%)となっている。計画的なOJTを実施した事業所の割合は、正社員では64・5%(前回62・9%)、正社員以外では29・0%(同28・3%)となっている。  教育訓練に支出した費用の労働者1人当たりの平均額(費用を支出している企業の平均額)をみると、OFF-JTは1万9000円(前回1万4000円)、自己啓発支援は3000円(同3000円)となっている。  また、技能継承の取組みを行っている事業所割合は84・6%と高く、産業別にみると、「建設業」(96・3%)、「製造業」(91・9%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(91・6%)、「学術研究、専門・技術サービス業」(91・5%)では9割を超えている。取組み内容の内訳をみると、「退職者の中から必要な者を選抜して雇用延長、嘱託による再雇用を行い、指導者として活用している」(64・2%)が最も多く、「中途採用を増やしている」(51・1%)、「新規学卒者の採用を増やしている」(30・9%)と続いている。 発行物 JILPT 高齢者の雇用に関する二つの調査結果のまとめを刊行  独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)は、『JILPT調査シリーズbP98 高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)』と『JILPT調査シリーズbP9960代の雇用・生活調査』を刊行した。  『JILPT調査シリーズbP98 高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)』は、企業の高年齢者の雇用状況や雇用管理、今後の意向に関する実態を把握するため、常用労働者50人以上を雇用している企業2万社を対象として、2019年5月1日時点の「高年齢者の雇用に関する調査」を行い、この調査結果の概要をまとめたもの。2015年にもこの調査とほぼ同様の質問紙を用いて調査を実施しており、全体の分布や傾向について4年間の変化も把握されている。  調査結果の一部をみると、60代前半層(60歳以上64歳以下)の継続雇用者の雇用形態は、「嘱託・契約社員」が57・9%で最多。「正社員」は41・6%だが、4年前の調査時(34・2%)より増加している。また、46・0%の企業は、65歳〜69歳の高年齢者を対象とした雇用確保措置を実施または予定している。特に、運輸業(57・7%)、医療・福祉(55・8%)、建設業(53・7%)の割合が高い。60代後半の雇用確保措置を実施する場合に必要となる取組みについては、37・0%の企業が「継続雇用者の処遇改定」を、32・8%が「高年齢者の健康確保措置」をあげている。  『JILPT調査シリーズbP9960代の雇用・生活調査』は、高年齢者雇用確保措置の実施状況や高齢者の就業・生活に関する実態を把握するため、60歳〜69歳の5000人を対象として、2019年6月1日時点について「60代の雇用・生活調査」を行い、この調査結果の概要をまとめたもの。調査項目の一部は、2014年に実施した「60代の雇用・生活調査」を引き継いでいる。  調査結果の一部をみると、調査時点で仕事をしていた高齢者が59・0%で、2014年の同様の調査より4ポイント上昇。仕事をしている理由(複数回答)は、「経済上の理由」が76・4%(前回比5ポイント上昇)、「いきがい、社会参加のため」が33・4%(同2ポイント程度上昇)、「健康上の理由」が20・6%(同3ポイント程度低下)など。また、60歳〜64歳で働いている人を対象に65歳以降の働く予定をたずねると、「採用してくれる職場があるなら、ぜひ働きたい」が30・5%(同17ポイント上昇)、「すでに働くことが(ほぼ)決まっている」が25・6%(同10ポイント程度上昇)で、これらを合わせると50%を超えている。  これらの調査報告書は、今後の高齢者雇用を考えるうえで、企業経営者や人事担当者、労働者、政策担当者をはじめ、高齢者雇用・就業問題に直面し、解決策を検討している人々に参考資料として活用されることも期待されている。  左記のURLからダウンロードが可能。購入する際の価格は『bP98』は1300円、『bP99』は1200円(ともに税別)。 https://www.jil.go.jp/publication/reports/research.html 【P60】 次号予告 10月号 特集 高齢者が働く職場の創意工夫が集結! 高年齢者雇用開発コンテストT 厚生労働大臣表彰受賞企業事例から リーダーズトーク 飯島勝矢さん(東京大学高齢社会総合研究機構 機構長) 〈高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQR コードのリンク先がhttps://www.jeed.or.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 お知らせ 本誌を購入するには−− 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み  株式会社労働調査会までご連絡ください。  電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方  雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方  Amazon.co.jp でご購入いただけます。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢春康……サトーホールディングス株式会社人財開発部 人事企画グループ人事企画担当部長 菊谷寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長・労働政策部長 藤村博之……法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 真下陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア京子……アテナHROD代表、日本人材マネジメント協会理事 編集後記 ●読者のみなさまは「ワーク・ライフ・バランス」と聞いて、どんなことを思い浮かべるでしょうか。日本では「仕事と生活の調和」と訳され、残業を減らし、仕事とプライベートを両立させるための取組みとして、官民をあげてさまざまな取組みが行われています。フレックスタイム制度やテレワークの推進、育児休暇、介護休暇など、みなさまの会社でもワーク・ライフ・バランスに関するさまざまな取組みを行っているのではないでしょうか。  一方で、「高齢社員の<潤[ク・ライフ・バランス」となると、現役世代を対象としたワーク・ライフ・バランスとは、少し意味合いが異なります。家族の介護や本人の健康問題など、高齢者が抱える問題は現役世代以上に多様化していくほか、働くペースを落として社会貢献・地域貢献活動をする高齢者もいるなど、働き方に対するニーズも多様化していきます。  そこで今回の特集は、「高齢社員のワーク・ライフ・バランス」をテーマに、さまざまな視点から有識者の方に解説をしていただきました。現役時代からの生活改革の重要性など、働き方改革のあるべき姿について解説していただいた佐藤博樹先生の総論をはじめ、高齢者のワーク・ライフ・バランスを推進するための制度設計のポイントや、シニアライフを充実させるためのポイントなどについて取り上げています。来春より70歳までの就業機会の確保が努力義務となります。これを機に、高齢社員のワーク・ライフ・バランスについて考えてみてはいかがでしょうか。 ●10月は高年齢者雇用支援月間です。全国各地で「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」、「地域ワークショップ」などを開催します。みなさまの参加をお待ちしています。 月刊エルダー9月号 No.490 ●発行日−−令和2年9月1日(第42巻 第8号 通巻490号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 奥村英輝 編集人−−企画部次長 早坂博志 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2  TEL 043(213)6216(企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.or.jp/ メールアドレス elder@jeed.or.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-783-1 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験などを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 〈短期連載〉職場でできるストレッチ体操  みなさんは日ごろから運動をしていますか? 加齢による身体機能の低下はさまざまな影響をもたらし、場合によっては日常生活や仕事に影響が出てくることも考えられます。そこで本企画では、職場で気軽に、短時間でできるストレッチやトレーニングを紹介します。ぜひ職場のみなさんでチャレンジしてください。 柔道整復師/ 八王子整骨院 院長 山ア 由紀也(ゆきや) 第2回 身体機能の維持・向上 持久力、柔軟性、筋力を向上させるには  前回は「加齢による筋力低下」がテーマでした。健康を守り、病気を予防するためのポイントとしては、@体の状態を理解すること、A筋力を維持するために運動を積極的に行うこと、を中心にお伝えしました。2回目となる今回は、健康の維持や向上を目的とした運動をもう少し掘り下げ、その種類と方法、ポイントなどについてご紹介します。  体力にはさまざまな要素がありますが、健康の維持や向上のためには「持久力・柔軟性・筋力」の三つの力が欠かせません。これらを高めるためには、それぞれに適した運動をバランスよく取り入れることが大切です。 ●持久力の向上には、有酸素運動であるウォーキングや水泳、自転車など、10分以上続ける運動が必要になります。 ●柔軟性の向上には、ストレッチングが大切です。ストレッチングとは筋肉を伸ばし関節の動きを広げる運動です。体の柔軟性をあげ、急な伸長ストレスから体を守りケガを防ぐ効果と、体をリラックスさせる効果があります。 ●筋力の向上には、抵抗運動いわゆる筋力トレーニングが欠かせません。抵抗をかけながら筋肉を収縮させることで、筋肉の細胞を太く強くします。筋力の向上は正しい動きを誘導し、体を重力や外力から守る効果があります。  柔軟性と筋力は一見相反する要素ですが、強くしなやかな筋肉はケガを防ぎ、血流をスムーズにするため、肩こりや腰痛を予防改善します。また、ストレッチと抵抗運動を行う際に、呼吸を積極的に意識して行うことで、持久力を養う有酸素運動と同じ効果が期待できます。そのほか、これらを高めることで、瞬発力やバランス力、免疫力などほかの体力も向上することが報告されています。 継続は力なり  健康運動を行ううえで大切なのは、何よりも「ケガをしないで続けること」です。少しずつ、できれば毎日続けることで、効果が高まります。ここではそのポイントを簡単にまとめましたので、ご紹介します。 ■ケガをしないで運動を続けるポイント  @運動中は呼吸を意識し、痛みや違和感が出ない運動を心がけましょう  A準備体操、整理体操を行いましょう  Bゆっくりとした正しい動きで行いましょう(鏡を見ながら)  C食事は穀類、肉、魚、野菜、果物、乳製品をバランスよく食べましょう  D水分は口の中を潤すように、こまめに取りましょう。経口補水液を活用しましょう  くれぐれも「やり過ぎや無茶・無理」は厳禁です。初めは「少し物足りない程度」から始めてください。運動に体が慣れてきたら、少しずつ負荷や回数を増やしていきますが(3週間ごとに変更)、速い動きはケガのリスクを高めてしまうので、動きは「ゆっくり」が基本です。 LET‘S TRY! 次頁からストレッチを紹介! 2ステップテスト  はじめに「柔軟性と筋力」のテストを行います。下記の要領で現在の状態を確認してみましょう。 身長 最大2歩幅 @両足をそろえて、まっすぐに立ちます Aできるかぎり大股で2歩進み、両足をそろえて止まります Bスタート位置のつま先からゴールのつま先(両足がそろっていない場合は後ろ側のつま先)までの距離を測ります B下記の計算式に当てはめて計算してみましょう 2歩の歩幅(cm)÷身長(cm)=2歩幅 2ステップ基準値 年齢 20代 30代 40代 50代 60代 70代以上 2歩幅 1.65 1.6 1.55 1.55 1.5 1.4  いかがでしたか? 結果がよかった方は、いまよりもさらに「しなやかで強い」体を目ざしましょう。平均よりも低かった方も心配無用です。しっかりと動くことで必ず効果が出ます。大切なのはあきらめないことです。  これをふまえて、今回は体幹の安定性、下肢の柔軟性と筋力をあげるための運動、臀部の柔軟性を高める運動をご紹介します。1カ月後に再度、2ステップテストで評価してみてください。きちんと運動すれば必ず効果があらわれます。 お尻のストレッチ @椅子に腰を掛け、背筋を伸ばします Aあぐらを組む要領で、片方の足をひざの上に乗せます B背筋を伸ばしながらゆっくり前に体を曲げていきます C痛くなく、伸びきったところで体を止めます Dその状態で、呼吸を深く保ちながら30秒キープします E左右交互に2回ずつ行います  ストレッチには筋肉を伸長させる効果のほかに、自律神経を整える効果もあります。特にお尻、骨盤周りには、副交感神経という体の緊張をほぐしリラックスをうながす神経が集まっています。体と対話をするように、筋肉が伸びていることを意識しながら行います。ゆっくりと呼吸をし、脱力しながら行うことが大切です。痛みが強く出るほど伸ばすのは逆効果で、かえって筋肉が緊張してしまいます。“痛気持ちいい”ぐらいの感覚で行ってください。日ごろ緊張を強いられている方、寝つきが悪い方、冷え性、腰痛や肩こりなどにも効果的です。 オーバーヘッド・バックランジ (筋肉を総動員させて体幹と下半身を鍛える運動) @両手を真っすぐに上げ、足は肩幅ぐらいに広げ左右の足先をそろえて立ちます A片足を大きく後ろへ下げます B重心をお尻の下に落とすように、前のひざを90°までゆっくり曲げます Cゆっくり元の姿勢に戻ります D@〜Cを左右交互に5回くり返します  オーバーヘッド・バックランジは手を万歳しながら、しゃがみこむ運動です。見た目は楽そうですが、実際にやってみるとかなり辛いと思います。ゆっくり動く運動はスロートレーニングといわれ、関節への負担は少ないですが、筋肉トレーニングとしての効果が高い運動になります。ゆっくりとしゃがみ込みと立ち上がりをくり返すことで、お尻や太ももに刺激が入ります。また手を上げることで背中の筋肉や肩の筋肉、お腹周りの体幹筋などを総動員させるため、筋力、柔軟性、バランスを総合的に鍛える運動になります。呼吸を意識しながら行ってください。 ポイント  足先が真っすぐ前を向くように足を下げてください。背中や太もも、お尻の筋肉に力を入れてゆっくり体を上下させましょう。手が下がらないように、背中が丸くならないように注意します。後ろ足のかかとは浮かし、ひざが床に着かないギリギリのところまで重心を落とします。 ※痛みや違和感を感じたら中止してください。持病のある方は主治医と相談のうえ行ってください。 参考資料 ◆今村貴幸ほか「自重を用いた在宅レジスタンストレーニングが慢性期心疾患患者の運動耐容能に及ぼす効果」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/60/2/60_2_177/_pdf ◆まえだ循環器内科Webサイト「糖尿病の運動療法」(林理恵氏講演より)http://www.m-junkanki.com/lectures/0410reg/0411-reg1.html ◆青木純一郎「ウォームアップ、クールダウンの意義」https://doi.org/10.20693/jspeconf.44A.0_79 ◆日本健康運動研究所「健康運動の知識と実践」http://www.jhei.net/exer/basics/ba01.html ◆日本整形外科学会公式ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト「ロコモONLINE」https://locomo-joa.jp ◆フィットモ!「バックランジのやり方! フロントランジとの効果の違いとは?」https://oliva.style/1910/ ◆GDO「お尻&太もものストレッチ」https://lesson.golfdigest.co.jp/lesson/stretch/article/70317/1/ ◆msnライフスタイル「オーバーヘッド・ダンベルランジ」https://www.msn.com/ja-jp/health/exercise/strength/オーバーヘッド・ダンベルランジ/ss-BBtSQMq 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  注意力には、対象だけをしっかり見る選択的注意と、全体を俯瞰(ふかん)する分散的注意があります。今日の問題ではこの両方を使います。しかもその注意力の持続がポイント。あきらめずにチャレンジしてください。 第39回 仲間はずれを探せ それぞれのマスの中に一つだけ違う漢字が紛れています。 さてその漢字はなんでしょう。見つけたら〇をつけてください。 目標4分 @ 戌戌戌戌戌戌戌 戌戌戌戌戌戌戌 戌戌戌戌戌戌戌 戌戌戌戌戌戌戌 戌戌戌戌戌戌戌 戌戌戌戉戌戌戌 戌戌戌戌戌戌戌 A 矢矢矢矢矢矢矢 矢矢矢矢矢矢矢 矢矢矢矢矢矢矢 矢矢矢矢矢矢矢 矢矢矢失矢矢矢 矢矢矢矢矢矢矢 矢矢矢矢矢矢矢 B 冑冑冑冑冑冑冑 冑冑冑冑冑冑冑 冑冑冑冑冑冑冑 冑冑冑冑冑冑冑 冑冑冑冑冑冑冑 胃冑冑冑冑冑冑 冑冑冑冑冑冑冑 C 微微微微微微微 微微微微微微微 微微徴微微微微 微微微微微微微 微微微微微微微 微微微微微微微 微微微微微微微 視野を広げてみましょう  今回のような脳トレ問題では、集中して違う漢字を見つけようとすればするほど、一つずつ目で追いかけてしまいがちになり、結果的に視野がかなり狭くなってしまいます。寄りの視点にこだわり過ぎると、答えはなかなか見つからないものです。  そのようなときは意識的に視点を変えて、視野を広くとって見ることがコツです。ほかとは違う漢字が自然と浮かび上がってくるでしょう。全体を俯瞰的に見ることができるようになると、一度にたくさんの情報をとらえられるようになり、情報処理力や理解力の向上につながります。  また、もし自力で答えを見つけられなくても、答え合わせをして「あっ!」とわかった瞬間にも脳は活性化されます。視野を広げるトレーニングとしても、仕事や家事や勉強などの合間の息抜きとしてもちょうどいい脳トレです。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK出版)など著書多数。 【P65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2020年9月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒780-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価(本体458円+税) 10月は「高年齢者雇用支援月間」です 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 シンポジウムのご案内  毎年ご好評をいただいている「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」を本年度も開催します。  本年度は、高齢社員の戦力化を図るための「評価・報酬体系」、「職場環境改善」などをテーマとして10月〜12月にかけて全国5都市の会場で開催します。  高齢者が活躍できる環境整備の必要性や今後の高齢者雇用について、みなさまとともに考える機会にしたいと思います。 日時/場所 10月〜12月 全国5都市 (新潟・愛知・大阪・福岡・東京) カリキュラム (予定) ●高年齢者雇用安定法改正について ●学識経験者による講演 ●事例発表  など 参加費 無料(事前の申込みが必要となります) 開催スケジュール 下記をご参照ください 新潟 日時 令和2年10月14日(水) 13:30〜15:30 場所 朱鷺メッセ(新潟コンベンションセンター)4階 国際会議室 愛知 日時 令和2年10月22日(木) 13:30〜15:20 場所 名古屋市公会堂4階ホール ※愛知開催の名称は「高年齢者雇用推進セミナー」です 大阪 日時 令和2年11月12日(木) 午後 場所 ホテルエルセラーン大阪 福岡 日時 令和2年11月19日(木) 午後 場所 JR九州ホール 東京 日時 令和2年12月17日(木) 午後 場所 日経ホール 申込方法につきましては、当機構ホームページで随時お知らせしますので、ご確認ください。 JEED シンポジウム 検索 お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 研究開発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 https://www.jeed.or.jp/ 主催●独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 後援●厚生労働省 ※新型コロナウイルス感染症の拡大にともない、開催日時などに変更が生じる場合があります。当機構ホームページで随時お知らせしますので、ご確認ください。 2020 9 令和2年9月1日発行(毎月1回1日発行) 第42巻第8号通巻490号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会