【表紙2】 65歳超雇用推進助成金のご案内 高年齢者の雇用の安定に資する措置を講じる事業主の方に、国の予算の範囲において、以下の助成金を支給しています。 65歳超継続雇用促進コース  就業規則等により65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止または希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施したこと、当該就業規則の改定等に専門家等に就業規則の改正を委託し経費を支出したことなど一定の要件に当てはまる事業主に、対象被保険者数および定年等を引き上げる年数に応じて、以下の額を支給します。 実施した制度 65歳への定年引上げ 66歳以上への定年引上げ 定年の廃止 66〜69歳の継続雇用への引上げ 70歳以上の継続雇用への引上げ 引上げた年齢 5歳未満 5歳 5歳未満 5歳以上 4歳未満 4歳 5歳未満 5歳以上 対象被保険者数 1〜2人 10万円 15万円 15万円 20万円 20万円 5万円 10万円 10万円 15万円 3〜9人 25万円 100万円 30万円 120万円 120万円 15万円 60万円 20万円 80万円 10人以上 30万円 150万円 35万円 160万円 160万円 20万円 80万円 25万円 100万円 ※ 1事業主(企業単位)1回かぎりとします。 ※ 定年引上げと継続雇用制度の導入をあわせて実施した場合の支給額はいずれか高い額のみとなります。 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  認定された雇用管理整備計画に基づき高年齢者雇用管理整備措置を実施した場合の、当該措置の実施に必要な専門家への委託費等および当該措置の実施にともない必要となる機器、システムおよびソフトウエア等の導入に要した経費を支給対象経費(注)とし、支給対象経費に60%(中小企業事業主以外は45%)を乗じた額を支給します。  なお、生産性要件を満たす事業主の場合は、支給対象経費の75%(中小企業事業主以外は60%)を乗じた額となります。 高年齢者雇用管理整備措置の種類 イ 高年齢者に係る賃金・人事処遇制度の導入・改善 ロ 労働時間制度の導入・改善 ハ 在宅勤務制度の導入・改善 ニ 研修制度の導入・改善 ホ 専門職制度の導入・改善 ヘ 健康管理制度の導入 ト その他の雇用管理制度の導入・改善 支給対象経費 ◎高年齢者の雇用管理制度の導入等(労働協約または就業規則の作成・変更)に必要な専門家等に対する委託費、コンサルタントとの相談に要した経費 ◎上記の経費のほか、左欄の措置の実施にともない必要となる機器、システムおよびソフトウエア等の導入に要した経費 (計画実施期間内の6カ月分を上限とする賃借料またはリース料を含む) (注)その経費が50万円を超える場合は50万円。なお、企業単位で1回にかぎり、経費の額にかかわらず、当該措置の実施に50万円の費用を要したものとみなします。 高年齢者無期雇用転換コース  認定された無期雇用転換計画に基づき50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換させた事業主に対して、対象労働者1人につき48万円(中小企業事業主以外は38万円)を支給します。  なお、生産性要件を満たす場合は対象労働者1人につき60万円(中小企業事業主以外は48万円)となります。  また、対象労働者は1支給年度(4月〜翌年3月まで)1適用事業所あたり10人までとなります。 ※ 助成金の受給のためには、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)第8条および第9条第1項の規定と異なる定めをしていないことなど、一定の要件を満たす必要があります。 詳細な要件につきましては各助成金の「支給申請の手引き」をご確認くださいますようお願いします。 ■お問合せや申請は、都道府県支部高齢・障害者業務課(東京、大阪は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします(65頁参照)。  そのほかに必要な条件、要件等もございますので、詳しくはホームページ(http://www.jeed.or.jp/)をご覧ください。 【P1-4】 Leaders Talk リーダーズトーク No.65 産・学・官+市民の連携で取り組む超高齢社会対応の次世代型街づくり 東京大学 高齢社会総合研究機構 機構長・未来ビジョン研究センター 教授 飯島勝矢さん いいじま・かつや 1990(平成2)年、東京慈恵会医科大学卒業。医学博士。専門は老年医学、老年学。特に健康長寿実現に向けた超高齢社会の街づくり、地域包括ケアシステム構築、フレイル予防研究など。厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に関する有識者会議」構成員、内閣府「一億総活躍国民会議」民間議員なども務める。  主要国のなかでも特に高齢化が進み、「高齢化最先進国」といわれる日本。今後どのように超高齢社会に対応していくのか、世界が注目しています。  今回は、多分野の研究者が集まって領域横断的な研究を行い、日本におけるジェロントロジー(老年学)研究の先頭を走る東京大学高齢社会総合研究機構(IOG)の機構長・教授を務める飯島勝矢さんに、最近の研究成果などについてお話をうかがいました。 専門分野を横断して集まった研究者が課題解決に向けて総合的な研究を行う ―東京大学高齢社会総合研究機構(以下、IOG)はジェロントロジー(老年学)の研究をふまえ、超高齢社会対応の街づくりなどで多くの成果を生み出しています。組織と活動の内容について教えてください。 飯島 IOGは、2009(平成21)年4月に東京大学総長室総括委員会のもとに設置された研究組織です。私は医学部からきましたが、医学、工学、農学、人文社会系、それにIT系など、幅広い学部の研究者たちが集まり、次世代型の超高齢社会対応の街づくり全般について研究しています。街づくりといっても都市工学的なハード面だけではなく、住み慣れた街に住み続けるための在宅医療や介護との連携など、ソフト面を含めて課題の解決につながる研究全般を行っています。高齢者から集めたデータを単に統計解析し、論文を書くだけで地域が変わるわけではありません。街づくりにおいては、行政をはじめ医師会や歯科医師会などの医療専門職や産業界など、幅広いステークホルダー※1のコミットメント※2も欠かせません。いわゆる産・学・官と市民が連携した課題解決型の実証研究、通称「アクションリサーチ」が私たちの大きな役割です。  私たちは、この10年間に四つの柱を立てて取り組んできました。一つ目は生涯現役を含めた高齢者就労のモデル化、二つ目は健康増進、三つ目は心身が弱っていく人たちの生活支援、四つ目は安心してケアを受けながら住み続けるための地域包括ケア。加えて、四本柱を支えるための情報システムの活用も重要です。スマートフォンによるメールのやりとりだけではなく、例えば、情報システムを使った生活支援もその一つです。タブレット端末を自宅に置いてもらい、普段はカレンダーとして使っていても、電球を取り替えたいときや、足腰が弱って買い物に出かけられずに困っているときに端末に悩みをつぶやくと、解決のための案内をしてもらえる。私たちは「生活のコンシェルジュ」と呼んでいますが、顔見知りのコンシェルジュが定期的に「お変わりありませんか」と声をかけるような、困りごとがあれば悩みを聞いてもらえる仕組みです。以前は熱意のある市民が個別に訪問して声がけをしていましたが、いまは新型コロナウイルスの影響もありますので、情報システムの活用が重要になってきています。 ―二つ目の柱の健康増進では、長年「フレイル予防」に注力されています。フレイル予防の重要性について教えてください。 飯島 フレイルとは英語の「FRAILTY」が語源です。日本語で「虚弱」を意味し、心身の活力が低下した状態をさす言葉として、2014年に日本老年医学会が命名しました。フレイルには三つの特徴があります。第一に、フレイルは健康と要介護の中間の不安定な時期にあたり、多くの人が健康な状態からフレイルの段階を経て要介護状態におちいります。第二に、フレイルは多面性を持ちます。具体的には足腰が弱くなる「身体的フレイル」、認知機能にかげりが出る「心理的・認知的フレイル」、地域活動への参加など人と人のつながりが薄くなる「社会的フレイル」など、多面的な要素の負の連鎖によって自立度が落ちていきます。第三は可逆性、リバーシビリティです。加齢とともにフレイルになっても、自分次第でまだ回復できる余地があるということです。  IOGが2012年に千葉県柏(かしわ)市で無作為抽出した高齢者約2千人を対象にした調査では、毎日活き活きと健康的な生活を送るためには「しっかり噛んで、しっかり食べること」、「運動すること」、「社会参加すること」の三つをバランスよく実践することが大切で、これが、フレイル予防につながることがわかっています。しかし、食事・栄養をとり、体を動かし、人と交流するという三大原則は、昔からいわれてきたようなだれもが知っている話です。あらためていわれても自分事≠ニして腹落ちしません。私は「良質な脅し」という言葉を使っていますが、大事なことは最新の科学的知見に基づいたデータによって気づかせることです。例えば、「高齢期に2週間、寝たきりに近い生活を続けると7年分の筋肉をいっぺんに失います」というとみなさん驚かれます。そうすると、運動をしなければいけないと納得してもらえるのです。 食・運動・社会参加の三位一体を意識させフレイル予防を継続 ―フレイル予防の取組みを全国で展開しているそうですね。 飯島 高齢市民主体のフレイル予防を軸とした健康長寿街づくりをモデル化しています。食・運動・社会参加について、フレイルにつながる22項目のわかりやすいフレイルチェックを開発し、高齢市民主体で実践しています。各地域の元気なシニアがフレイルサポーター※3の養成研修を受講し、市民同士で自主的にチェックします。さらに養成する役割をになう現役の理学療法士や保健師などの医療専門職をフレイルトレーナーとして組織化しています。すでに全国66の自治体で導入され、今年度中に約20の自治体が新規に導入する予定です。もちろん従来からの介護予防事業もありますが、大きく違うのは医療専門職などによる指導だけではなく、高齢者同士でチェックすることで、自分事≠ニしてとらえる流れをつくるということです。もう一つは一過性のイベントではなく、栄養・運動・社会参加の三位一体を意識させることで継続性を持たせることです。そうすることによって、介護予防に新しい風を吹き込もうというのがフレイル予防です。運動は嫌いでも、カラオケや囲碁、将棋は大好きだという高齢者もいます。例えば、複数の友人と定期的にカラオケ店で思いきり歌い、ファミリーレストランでハンバーグ定食を食べながらワイワイとおしゃべりするだけで活動量は増えます。私たちの研究では、こうした非運動性の身体活動量が多くなることがフレイル予防につながることがほぼ証明されつつあります。 ―三位一体のフレイル予防は働くこととも共通する要素があるように思います。高齢者就労のモデル化にも取り組んでいますね。 飯島 働くことが直接的に影響を与えるのは社会参加と非運動性の身体活動量です。すべての人が運動をできるわけではありませんし、通勤で自転車に乗ったり、歩いたり、力仕事をすることで身体活動量は高くなりますが、大事なことは継続することです。そのためには仕方なくやるのではなく、やりがいや生きがいを感じられることが重要です。時間が経つのも忘れるぐらいに打ち込める仕事がある人は、継続性が高いでしょう。私たちが実践している高齢者就労のキーワードは、「ジョブマッチング」と「ワークシェアリングシステム」です。タブレット端末にやりたい仕事と働ける日時を入力し、例えば4人の高齢者が1週間の業務をシェアして働く仕組みです。体力を考慮して週3日で働きたい人もいますし、余暇を楽しむ自由な時間も必要です。この仕組みは、千葉県柏市での取組みをベースに複数の自治体ですでに始まっています。 高齢者がつちかってきた豊富な経験や技術は創造性を発揮できる仕事に活かすべき ―高齢者に働いてもらううえで配慮すべきポイントは何でしょうか。 飯島 定年後もいままで勤めた会社で継続して働くこともあるかもしれませんが、定年を機に自宅に近い地域の会社などで働き始める人もいるかもしれません。やはり高齢者に働いてもらう以上は労働環境を改善してほしいと思います。例えば、都心のオフィスで長年働いていた人が、持病を抱えながら地域の工場に週3〜4日勤めるとしても、蒸し風呂のような労働環境だと脳梗塞を起こしやすくなります。また、生鮮食料品を扱う職場などで床が濡れていると、若い人と違って転倒しやすく、骨折することがよくあります。企業には、なるべくリスクが少なくなるように、労働環境には配慮してほしいですね。 ―来春から70歳までの就業機会の確保が努力義務として各企業に課せられます。企業が高齢者を活用していくうえでのアドバイスをお願いします。 飯島 私は安倍内閣時に設置された「一億総活躍国民会議」のメンバーとして、全世代型雇用の観点からは、高齢者だけではなく若者の雇用も重要視していますが、こと高齢者に関していえば、これまでつちかってきた能力を持っています。これは20〜30代の若者では乗り越えられない部分です。企業には、書類にハンコを押すといった定型的な仕事だけではなく、高齢者がつちかってきた豊富な経験や技術をベースに、創造性を発揮できるような仕事をできれば与えてほしい。知識や人脈を活かせるような仕事もきっとあるはずです。いまの高齢者は身体機能や認知機能、情報を取得するリテラシーを含め、昔に比べて10歳ほどは若返っています。60代半ば以降も活き活きと働いてもらうために、高齢者がつちかってきた能力をどのように活かすのかは、企業の工夫次第だと思います。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/福田栄夫) ※1 ステークホルダー……企業・行政・NPOなどの利害と行動に、直接・間接的な利害関係を有する者 ※2 コミットメント……単なる口約束ではなく、責任をもってかかわること ※3 フレイルサポーター……研修を受けてフレイルチェックなどの地域の健康づくりのにない手として活躍するボランティア 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 2020 October ●表紙のオブジェ イラストレーター 柳田ワタル(やなぎだ・わたる) 1947年 大阪府堺市生まれ。1970年 多摩美術大学卒業。アニメーション制作会社勤務ののち、1974年よりフリーのイラストレーターとなる。1977年よりオブジェ、立体クラフトなどの制作を開始。90年代からは写真撮影も始める。 特集 6 高齢者が働く職場の創意工夫が集結! 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテストT 厚生労働大臣表彰受賞企業事例から 7 審査委員長からのメッセージ 法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 教授 藤村博之 8 最優秀賞 株式会社 大津屋(福井県福井市) 12 優秀賞 グロリア 株式会社(千葉県南房総市) 医療法人 成雅会 泰平病院(福岡県糟屋郡) 20 特別賞 株式会社 新潟アパタイト(新潟県上越市) 株式会社 清水製作所(山梨県北杜市) 英興 株式会社(京都府京都市) 32 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテスト 入賞企業一覧 1 リーダーズトーク No.65 東京大学 高齢社会総合研究機構 機構長・未来ビジョン研究センター 教授 飯島勝矢さん 産・学・官+市民の連携で取り組む超高齢社会対応の次世代型街づくり 34 マンガで見る高齢者雇用 短期連載 《最終回》 「再雇用の元上司が部下になった。どう接していいのかわからない!」 40 江戸から東京へ 第95回 私は胡蝶 蓮月尼 作家 童門冬二 42 高齢者の職場探訪 北から、南から 第100回 福島県 株式会社藤建技術設計センター 46 高齢社員の賃金戦略 第4回 今野浩一郎 50 知っておきたい労働法Q&A《第29回》 公益通報者保護法の改正、テレワーク導入時の留意点 家永勲 54 いまさら聞けない人事用語辞典 第5回 「賃金カーブ」 吉岡利之 56 日本史にみる長寿食 vol.324 免疫力を高める「赤まんま」 永山久夫 57 お知らせ 地域ワークショップのご案内 58 BOOKS 59 ニュース ファイル 60 次号予告・編集後記 61 職場でできるストレッチ体操 短期連載 《第3回》 身体のお悩みナンバーワン「腰痛」 山ア由紀也 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第40回]同じ組合せはどれ? 篠原菊紀 ※連載「高齢者に聞く 生涯現役で働くとは」、「技を支える」は休載します 【P6】 特集 高齢者が働く職場の創意工夫が集結! 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテストT 厚生労働大臣表彰受賞企業事例から 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、厚生労働省との共催で、「高年齢者雇用開発コンテスト」を毎年開催しています。 本コンテストは、高齢者の活躍をうながすための人事制度の改定や、安全・安心に働ける職場環境の整備など、生涯現役社会の実現に向け、高齢者が活き活き働ける職場づくりに取り組む企業を表彰するものです。 令和2年度は、厚生労働大臣表彰6編、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞5編をはじめとする28編の受賞が決まりました。 本誌では、10月号と11月号の2回に分けて、コンテストの表彰事例を特集します。 今号では、厚生労働大臣表彰受賞企業事例をご紹介します。 【P7】 審査委員長からのメッセージ 経験豊かな高齢者の積極的活用で働きやすい環境を整備しだれもが生涯現役を目ざせる職場創出の取組みを評価 法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 教授 藤村博之  令和2年度高年齢者雇用開発コンテストの審査が終了しました。審査委員を代表し、応募いただいたすべての企業・団体関係者のみなさまに厚く御礼申し上げます。今回は全国から98編の応募を受け、厳正な審査の結果、厚生労働大臣表彰は最優秀賞1編、優秀賞2編、特別賞3編、高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰は22編が入賞を果たしました。  最優秀賞を受賞した株式会社大津屋(福井県)は、「地産地消」の店内調理・イートインなどを活かした地域密着のコンビニ事業を展開。経験豊かな中高年層を積極的に活用し、柔軟な就労形態、AIを活用した最新機器の導入で、高齢社員の体力的な負荷を軽減しているほか、高齢社員の知識や経験が商品開発にも活かされるなど、多彩な取組みが高く評価されました。  優秀賞のグロリア株式会社(千葉県)は、シャツ・ユニフォーム分野で国内有数のシェアを誇り、安定した事業で地域の雇用に大きく貢献。高齢社員を主要な戦力ととらえて定年制を廃止し、作業負担軽減のための設備投資や作業器具開発の推進などが評価のポイントとなりました。  医療法人成雅(せいが)会泰平(たいへい)病院(福岡県)は、職員の定着に注力して制度や環境を整備。経験豊かな高齢職員が能力を発揮できる職場づくりの取組みに着手し、定年年齢や再雇用上限年齢を引き上げました。現役職員と定年後の職員を同じ基準で評価する賃金制度も大きな特徴です。  特別賞を受賞した株式会社新潟アパタイト(新潟県)は、各人の作業スキルを「見える化」し、処遇に反映させることで公平性の高い賃金制度を構築しています。また、個々の事情に合わせた柔軟な働き方を実現、長く働き続けたいというすべての社員の意欲の高揚につながっています。  株式会社清水製作所(山梨県)は、経験豊かな高齢社員によるマンツーマン指導で、若手社員への技能継承に取り組むほか、短時間・短日勤務など柔軟な働き方を実現し、人材育成をになう高齢社員が安心して長く働ける職場環境の創出に全社一丸で取り組んでいます。  英興(えいこう)株式会社(京都府)は、後進への技能継承のため、熟練高齢社員の作業手順を標準化して工程表を作成したほか、作業の映像化、若手とのペア就労などに取り組んでいます。また、保健師による健康指導や休暇制度の充実など高齢社員が長く働ける制度が整っています。  高年齢者雇用安定法が改正され、これからは70歳までの雇用・就業にいかに取り組んでいくかが課題となります。今回の審査では、制度上は70歳までの雇用としながらも、70歳を超えて働ける会社も多く、まさに高齢者が戦力として活躍していることがうかがえる結果となりました。これまで多くの日本企業は、60歳定年、65歳まで継続雇用というように、年齢で働き方を区切ってきたわけですが、これにより、高齢者が持つ技術や経験などが有効活用されず失われてきたという一面もあります。受賞企業の取組みを参考に、年齢でひとくくりにせず、一人ひとりのニーズに合わせた対応で、高齢者の活躍の場が広まっていくことを期待しています。 【P8-11】 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテスト 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 食文化の伝承による地域貢献を目ざし年齢にかかわりなく活躍できる職場を創出 株式会社 大津屋(福井県福井市) 企業プロフィール 株式会社 大津屋 (福井県福井市) ◎創業 1963(昭和38)年 ◎業種 コンビニエンスストア ◎社員数 300人 60歳以上 71人 (内訳)60〜64歳 27人(9.0%) 65〜69歳 25人(8.3%) 70歳以上 19人(6.3%) ◎定年・継続雇用制度 定年は70歳で、就業規則により73歳まで継続雇用。その後、運用により上限なし。現在の最高年齢者は76歳 T 本事例のポイント  株式会社大津屋の歴史は古く、1573(天正(てんしょう)元)年に創業した酒造業が前身にあたる。1963(昭和38)年に株式会社大津屋を設立、酒造業を営んでいたが、1981年8月に「コンビニエンスストア」を開店した。その後、県外大手資本のコンビニエンスストアの進出に対抗し、地元の食材を活用して昔懐かしい味を再現する「店内調理」などで他店との差別化を図りながら、業容を拡大してきた。人材を企業の「宝」として位置づけ、高齢者の特性を最大限に活かせる職場づくりに取り組んでいる。 《POINT》 (1)コンビニエンスストア事業の展開を契機に、店舗運営の省力化・標準化および人事管理制度の拡充に取り組み、安心して働ける職場環境の整備を長年にわたり推進してきた。 (2)2019(令和元)年6月に70歳定年制を導入、従来は運用で行っていた継続雇用制度についても73歳までの雇用を明文化した。 (3)パソコンやPOSシステム※1を他社に先駆けて導入、作業の標準化と効率化を図ってきた。最近では自動釣銭機、AIを活用した総菜自動会計システムを導入し、レジ作業の精神的負担を軽減している。 (4)高齢社員が積極的に新商品開発に参画することで、モチベーション向上につながっている。 U 企業の沿革・事業内容  同社は1963年の設立以来、酒造業を営んできたが、1981年にコンビニエンスストア事業に着手、1986年には福井県初の24時間営業を開始した。翌年には、POS・EOS※2を導入し店舗を拡大。この間、調理事業部を立ち上げ、独自の調理・加工作業により大手コンビニチェーンにはない「地産地消」の故郷の味を提供しているほか、いち早く店内にイートインコーナーを設置するなど、県下のコンビニ業界の先駆けとして歩んできた。  2008(平成20)年、北陸自動車道で「北きた鯖江(さばえ)パーキング下り店」を開店、2016年には福井市指定管理者となり、福井駅前観光物産館を運営するなど、コンビニ業界の枠にとどまらずに業容を拡大し、現在は福井県内で12店舗を運営。食文化の伝承による地域貢献を目ざしている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  現在、社員の高齢化が進んでおり、60歳以上の社員が増加傾向にある。300人の社員のうち、60歳以上は71人(男性18人、女性53人)で、全社員の23・7%を占める。70歳以上は19人(男性5人、女性14人)で、最高年齢者は76歳である。  同社では、1986年の24時間営業の開始を契機に、店舗運営の省力化・標準化と人事管理制度の拡充の取組みをスタート。従来、店舗スタッフは若手中心であったが、経験豊かな中高年層の積極的活用に切り替えた。なかでも高齢社員が長年つちかってきた経験や知識は「地産地消」の「故郷の味」の再現に発揮された。また、高齢社員の仕事に対する真摯な姿勢は若手社員を鼓舞し、よりよい職場環境の実現につながっている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ●定年制度と継続雇用制度の改定  以前は65歳定年、運用による73歳までの継続雇用制度を実施していたが、少子高齢化が進むなか、採用難で人手不足の状況も重なり、年齢にかかわりなく働ける環境整備に迫られていた。こうした状況のもと、2019年6月に70歳定年制を導入、従来運用で行っていた73歳までの継続雇用制度を就業規則に明文化した。  一方、就業規則には規定されていないが、73歳を超えても半年ごとに行う面談で合意が得られた場合、運用により年齢の上限なく継続雇用の契約更新を続けている。継続雇用制度は、ライフスタイルに合わせた短時間勤務コース(再雇用制度)と、現役社員と同じフルタイム勤務コース(勤務延長制度)の二つのコースがあり、継続雇用に切り替わることによる賃金水準の減額などの待遇面の変更はない(※短時間勤務コースの場合は、勤務時間に比例)。 ●賃金制度・評価制度の見直し  コンビニ事業開始当初から全社員に対して、コンピテンシー評価※3を活用した人事評価を実施している。それまでは、年功による評価・処遇を行っていたが、人事管理制度の拡充を進めるなかでコンピテンシー評価を導入し、賃金制度も見直した。人事評価は年2回行われ、職場責任者による一次評価、社長による最終評価が行われる。求められる人物像を明確にしたコンピテンシー評価は自分の強みや弱みが把握できると社員から好意的に受け止められている。 ●多様な就労形態の構築  24時間営業開始を契機に夜間専門スタッフとして「ナイター社員」の採用を開始したほか、原則4時間勤務の「ハーフ社員」、自分の就労できる時間を登録し同僚の急な欠勤時などにも対応する「ほっとスタッフ」など、それぞれのニーズやライフスタイルに合わせた多様な就労形態を整備した。  本人に就業意欲があり、身体的・能力的に支障がなければ年齢の上限なく働ける環境と処遇が整備されたことで社員のモチベーションが向上し、さらにライフスタイルに合わせた働き方を選択できるようになったことから、定着が促進された。 (2)高齢社員を戦力化するための工夫 ●全社員と面談を実施  6カ月ごとに全社員に面談を実施、コンピテンシー評価をもとに本人の希望や要望を確認するとともに、役割および知識の習得度を話し合っている。面談によって役割や責任が明確になり、会社から必要な人材だと認められているという感情が醸成され、モチベーション向上につながっている。 ●ペア就労  若手社員への作業方法や接客マナーなどの指導役を高齢社員が担当、人生経験をふまえた優しい指導が功を奏し、若年層の定着を促進している。人生経験豊かな高齢社員の指導は業務の伝承にとどまらず、若手社員の社会人としての資質向上にも役立っている。 ●最新機器導入による作業の平準化  1980年代に登場したパソコン、POSシステムを他社に先駆けて導入したほか、近年ではAIを活用した総菜自動会計システムなどの最新機器や自動釣銭機を導入、作業の平準化を図っている。  以前は会計係が多種の食品単価を覚える必要があったが、AIを活用した総菜自動会計システムの導入により、会計処理の負担が取り除かれた。また、一定の経験が必要であったレジ作業についても、自動釣銭機を導入したことで精神的負担が軽減された。機器の操作が苦手な高齢社員に対しては時間をかけて操作方法の研修を実施。その結果、すべての社員がパソコンでの受注・発注管理およびPOSを使いこなし、高齢社員の活躍の場の拡大につながった。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業環境の改善  地産地消を重視していることから多くの総菜を自社で製造しているが、大量に製造するため大型の調理設備を使用している。そのため、体力と注意力が必要な調理業務は高齢社員にとって負担が大きく、以前は体力の衰えから退職する者も少なくなかった。貴重な人材の流出を抑えるため、最新設備を積極的に導入し、調理作業の平準化、機械化を進めている。  その一つが煮炊き・攪拌(かくはん)機の導入である。大鍋を並べて煮炊き・攪拌する作業は体力を要したが、設備の導入で大幅に負担が軽減された。また、真空包装設備の導入により、それまで商品一つひとつを包装していた過程が改善され、高齢社員を細かい作業から解放することができた。さらに、冷却装置と蒸気殺菌設備を導入したことで、大量の水や氷を使用する冷却作業の軽減が図られた。  調理設備の導入により、高齢社員にとって負荷の大きかった作業が大きく改善され、体力や集中力が衰えても就労が可能になった。高齢社員のなかからは「生涯現役を目ざせる」との声が上がっている。 A福利厚生の充実  多店舗展開の弊害である社員間の交流不足を補うため、各種イベント、旅行などの行事を実施し、社内のコミュニケーションの活性化に努めている。福利厚生は社員だけでなくパートタイマーやアルバイト社員も対象としている。  また、高齢社員は働くうえで年金、介護、税金などの不安が多いことから、いつでも会社に相談できる体制を整えている。  こうした取組みの結果、高齢社員が体力や集中力が衰えても長く働ける環境が整備されるとともに、福利厚生の充実により世代を超えた交流が促進され、仕事への活力につながっている。 (4)そのほかの取組み  大手のコンビニエンスストアとの差別化を図るために、地元で生産された野菜を使い、故郷の味、おふくろの味を再現させた商品開発に力を入れている。  この故郷の味、おふくろの味の再現に大きな役割を果たしているのが高齢社員からの助言だ。高齢社員が長年親しんできた福井の懐かしい味を再現し、「地産地消」を目ざしてきた。この姿勢が県民に受け入れられ、現在の多店舗展開に結びついている。 (5)高齢社員の声  最高年齢者のAさん(76歳・女性)は、パートタイマーとして調理加工部門に長年在籍し、重要な役割をになっている。味つけなどを伝承する役割をになっており、指導を受けた若手社員が伝統の味を受け継いでいる。  Bさん(73歳・男性)はレジや品出しなどの店舗の運営業務を担当している。「最新機器導入による作業の標準化と時間をかけたトレーニングによって、機器の操作に対する不安がなくなりました」と話す。 (6)今後の課題  高齢者の活用について「一層積極的に行いたい」という考えから、将来は定年制度の廃止を目ざしている。  また今後は、高齢化社会に対応するため、食材やお弁当の宅配事業の展開も視野に入れている。単なる宅配ではなく、高齢者の持病に適した食材の提供を考えており、その実現には高齢社員の協力が必須である。さらには、お客さまにもっと喜んでもらえるよう、福井のおいしいものを発掘し提供し続けることで食文化の発展に力を注いでいきたいという。全社をあげての新たな挑戦が続く。 ※1 POSシステム……「Point of Sale(販売時点情報管理)」を用いたシステムのこと。商品を販売・支払いする際に、バーコードから読みとったその商品の情報(商品名、販売時間など)を記録し、売上げや在庫を管理するためのシステム ※2 EOS……「Electronic Ordering System(電子発注システム)」のこと。ネットワークを利用して発注情報を伝達するシステム ※3 コンピテンシー評価……職務や役割を遂行するうえで良好な成果を上げるための行動特性(コンピテンシー)を含め、それをもとに評価すること 写真のキャプション 店内の様子。面積の半分を総菜やイートインコーナーが占める AIを活用した総菜自動会計システム。自動的に商品を識別し、モニターをタッチすることでレジに精算額が反映される レジや品出しを担当している高齢社員 【P12-15】 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテスト 厚生労働大臣表彰 優秀賞 作業環境、作業スキル、人間関係の向上を掲げ生涯現役の職場づくりを実現 グロリア 株式会社(千葉県南房総市) 企業プロフィール グロリア 株式会社 (千葉県南房総市) ◎創業 1960(昭和35)年 ◎業種 諸官公庁および民間特需のユニフォーム ◎社員数 97人 60歳以上 28人 (内訳)60〜64歳 11人(11.3%) 65〜69歳 10人(10.3%) 70歳以上 7人(7.2%) ◎定年・継続雇用制度 定年なし。現在の最高年齢者は78歳 T 本事例のポイント  グロリア株式会社は、1960(昭和35)年に南房総市で創業。主な事業内容は官公庁・民間ユニフォームの製造・販売で、同分野では国内有数のシェアを誇る。地域貢献の一環として2018(平成30)年に廃校となった小学校跡地に新工場を新築、安定した事業展開を行い、地域の雇用にも大きく貢献している。  世の中の雇用環境が悪化するなか、有能な高齢社員を戦力化し、長く働き続けられる職場環境づくりに全社をあげて取り組んできた。経営者自らがその先頭に立ち「本人が辞めたいというまで働ける会社」を目ざして、2016年に定年制の廃止にふみ切った。雇用制度の整備は生涯現役を目ざす高齢社員のモチベーションアップにつながっている。 《POINT》 (1)従来は、定年60歳、希望者全員65歳までの継続雇用制度を導入していたが、高齢社員が主力となっている現状に鑑(かんが)み、定年を70歳に引き上げた。さらに、2016年11月、高齢社員の加齢による衰えが見られない状況をふまえ、定年制を廃止した。 (2)作業工程の細分化と作業器具の開発による作業負担の軽減を実現した。作業の効率化を図るため、工場の新設や自動縫製機械の設置などの設備投資、工程の細分化とマニュアル化による人材育成の効率化、作業負担軽減のための作業器具の開発などを推進してきた。 (3)生涯現役の実現のために、「作業環境」、「作業スキル」、「コミュニケーション能力」の三つの向上を目ざして、全社一丸となりさまざまな取組みを進めてきた。 (4)社員の健康管理に注力しており、産業医の訪問時に、全社員が年2〜3回、15分程度の問診を受けられるなど、健康管理体制を整備した。 U 企業の沿革・事業内容  1960年に森利(もりとし)シャツ工業株式会社として南房総市で産声を上げ、ユニフォームの製造・販売を開始した。1999年には現在の社名に名称変更。主な事業内容は、諸官公庁および民間特注のシャツ・ユニフォームの製造・販売である。創業当初は一般アパレルをターゲットとしていたが、商品の移り変わりが激しいことから、経営戦略として、1960年代後半に諸官公庁のユニフォーム製造に特化、国内有数のシェアを誇る。大量生産できない製品の製造のために2016年に子会社ジィ・エル・エフを設立、現在は簡易な防護服なども製造している。  官公庁のユニフォーム製造はデザインの大幅な変更がないため、作業内容に大きな変化はなく、作業に習熟した高齢社員が腕を発揮できる。高齢社員が主力となっていることから、生涯現役を促進するため、2016年に定年制の廃止を就業規則に明記した。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  97人の社員のうち、60歳以上は28人(男性4人、女性24人)で、全社員の28・9%を占める。70歳以上は7人(男性2人、女性5人)で、高齢社員が会社の主要な戦力となっている。組織は機能別に品質保証、製造、営業、総務の4部で構成。そのなかの製造部は工程別に裁断、縫製、仕上げ受渡しの三つの課に分かれ、さらに四つの班で構成される。78歳の最高年齢社員は工場長を補佐し、班長を取りまとめる重要な役割をになっている。また、高齢社員とともに戦力となっているのが既婚女性であることから、働き方改革を積極的に進めて社員の残業時間を抑えてきた。同時に積極的に社員を採用し、地域の雇用にも貢献している。  官公庁系のシャツ・ユニフォーム製造は1回の受注量が多いため、品質の高さはもちろん、生産能力が問われる。設備投資(工場新設、自動縫製ミシンの導入など)や作業改善(作業負荷の軽減を図る器具の開発など)、人材育成(マニュアル化、多能工化)を積極的に進めることで作業効率を高め、厳しい競争を勝ち抜いてきた経緯がある。加えて、製造に必要な金型を多種保有しているため、製造ラインの即時立上げが可能な体制が整っており、豊富なノウハウがあることを強みとして、業容を拡大してきた。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ●定年制度の撤廃  以前は定年60 歳、希望者全員65歳までの継続雇用制度を導入していたが、高齢社員が主戦力となっている現状に鑑み、定年年齢を70歳に引き上げた。さらには、2016年11月に定年制を廃止した。その背景には「本人が健康で、働く気があるかぎり働いてもらう」という人材活用方針があった。以前は、定年年齢が近づくと、いつまで働けるのか不安そうな高齢社員もいたが、定年を廃止することによりこの不安が払拭された。 ●賃金制度  社員区分には正社員とパート社員があるが、定年廃止を機に実態としての社員区分はなくなり、短時間で働く社員を便宜上パート社員としている。基本給の決定基準は賃金規定上「年齢、経験、技能、職務遂行能力、協調性等」により定めるとしているが、実際には社員間の差はない。賃金水準は離職を防止するために必要な額とし、中途採用者は前職の給与に準じて決められ、営業職のなかには、社長よりも高い給与が支給されている社員もいる。賞与は年2回支給され、退職金制度も整備されている。 (2)高齢社員を戦力化するための工夫 ●高齢社員による技術・技能伝承  2018年の工場の新設にともない、敷地内に人材育成を目的とする研修センターが設置され、経験の浅い社員に高齢社員が初歩的な技術指導を行う場として活用されている。また、研修センター内には子会社が入っており、中国の合弁会社からの研修生が多く在籍し、高齢社員が彼らの指導も担当している。研修センターは高齢社員の知識と技術を伝承する場として大きな役割を果たすと同時に、社外の人でも自由にミシンを利用できるよう一般に開放しており、地域住民とのコミュニケーションの場となっている。 ●技術・技能のマニュアル化  諸官公庁のユニフォーム製作においては、品質管理が非常に重要である。品質のばらつきや見落としがないように、高齢社員が中心となって作業マニュアルを作成した。マニュアルによって作業内容が明文化されたことで、時間のロスがなくなり作業の効率化が図られた。また、常に点検しながら作業が行えるようになったことが品質の安定化につながっている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業環境の改善  高齢社員が約3割を占めることを考慮して、体力が必要な作業を機械の導入・作業器具の開発によって代替・軽減するようにしている。作業改善のアイデアは全員で出し合っているが、だれでも自由に自分の意見がいえる雰囲気があるため、現場の要望を収集する会議体はなく、要望がある社員は社長に直接意見を伝える形が定着している。 ●作業工程の細分化  工場の工程は布の裁断、縫製、検品、包装などの仕上げに分かれているが、縫製作業の品質を安定させるため、作業工程の細分化を進めている。作業の細分化により、当該作業に特化した縫製機械を導入するとともに機械の利便性を高める作業器具の開発を進めてきたことで、作業の効率化、高い品質の維持、身体的負担の軽減、人材育成の効率化が実現した。 ●作業用機械・器具の開発  社内に保全係を置き、細分化した工程ごとに特化した器具を開発する役割をになってもらっている。身体的負担を軽減し、作業効率を高める工夫は以下の通りである。 (a)縫製の初期段階で大きい布を取り扱う際、布を動かしながら縫製する作業は身体的な負担をともなうことから、ミシンの動きに連動して布を自動で動かす機械を製作した。 (b)シャツに名札を縫いつける際、通常の工業ミシンであれば名札の4辺を縫うために、1辺ごとにシャツを回転させなければならない。手元の細かい作業が多く、高齢社員にとって負担であったため、布の適正な場所に名札を配置し、ボタンを押すだけで4辺を縫うことができる器具を開発した。 (c)袋状の製品を裏返す作業が、高齢社員にとって手間がかかり負担であったため、簡単に裏返せる金属棒を製作し、作業台に設置した。 (d)ポケットなど縫い目を裏返す製品は折り目がきれいにつかない場合があるため、きれいに折り目がつく金属棒を製作した。 (e)足でスイッチを踏むだけで、自動で縫製作業が進むミシンを開発。これにより手元で別の作業をしながら、ミシンを稼働できるようにした。 (f)ミシンに布を設置し、(e)のスイッチを踏むことで縫製が自動的に行われるが、この作業が終わった段階でミシンから布を取り外す器具を製作した。この器具はミシンに取りつけられており、(e)と組み合わせて稼働させる。 ●LED照明の導入  高齢社員の視力低下をカバーするため、LED照明を導入し縫製工場全体の照度を上げた。また、ミシンに照明を設置し手元の照度を上げることで目の疲労を和らげている。 ●選べる椅子と製品移動の台車の設置  工場内では、長時間座り作業の高齢社員が多く、健康状態にも差があるため、作業用の椅子を体調に合わせて複数の種類から選べるようにしている。また、品質チェックを終えた製品を手作業で移動させることは重労働であることから、製品を移動させる台車の開発を専門業者に依頼、工場内に設置した。 ●動線の短縮  工場では工程ごとに細かく作業が分けられているため、作業中に製品の運搬を行う場合もある。縫製工場での作業スペースは直線的な配置が一般的であるが、あえて直線的に配置せず、運搬時の移動距離が短くなる工夫をしている。 A安全衛生と健康管理  社員の通用口から工場をつなぐ渡り廊下部分にスロープを設置し、段差をなくすことで転倒防止を図っている。  健康管理としては産業医が全社員の健康状態を確認し、アドバイスを行っている。また、1人あたり年間2〜3回・各15分間程度の面談機会が持てるように設定しており、必要に応じて相談ができる体制を整えている。 B福利厚生  有給休暇取得率はほぼ100%である。工場はシフト制のため、事前に有給休暇の申請を受け勤務体制の調整を行うが、社員の事情を考慮し当日の申請であっても柔軟に対応している。花見やクリスマスなどのイベント行事には全社員が参加、社員間のコミュニケーションを深める格好の場となっている。 (4)高齢社員の声  最高年齢者のAさん(78歳・女性)は、いまもフルタイム勤務をこなし工場長を補佐している。製造におけるすべての技術に習熟しており仲間からの信頼も厚い。  かつて注文服の仕立屋だったBさん(72歳・男性)は、その技術を活かし、製品の仕上げプレスを担当する。片道1時間20分かけての通勤をものともせず、15年の勤続を誇る。 (5)今後の課題  有能な高齢社員が長く働き続けられる職場環境の整備を経営課題に掲げ、チームワークで一つずつ課題を達成してきた。作業環境の改善については、ほぼやり尽くしたととらえているが、今後新たな高性能の機械が市場に出てくることも予測され、積極的な導入を視野に入れている。高齢社員が活き活き働ける職場として地域の評価も高まり、人材も集まりつつあるなか、地元からの雇用を通じてさらなる地域貢献を目ざす姿勢に熱い注目が集まる。 写真のキャプション 会社外観 (c)業務効率改善のために開発した、袋状の製品を裏返す金属棒を設置した作業台 (e)業務効率改善のため開発した、自動縫製ミシン 【P16-19】 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテスト 厚生労働大臣表彰 優秀賞 100歳まで働ける職場環境づくりを推進し地域に寄り添う医療・介護サービスを実現 医療法人 成雅会 泰平病院(福岡県糟屋(かすや)郡) 企業プロフィール 医療法人 成雅会 泰平病院 (福岡県糟屋(かすや)郡) ◎創業 1976(昭和51)年 ◎業種 医療・介護 ◎職員数 271人 60歳以上 83人 (内訳) 60〜64歳 24人9%) 65〜69歳 32人(11.8%) 70歳以上 27人(10.0%) ◎定年・継続雇用制度 定年は65歳で、希望者全員70歳まで継続雇用。現在の最高年齢者は86歳 T 本事例のポイント  医療法人成雅会泰平病院の歴史は、1976(昭和51)年5月の「泰平老人病院」開業に始まる。その後、介護老人保健施設の開設を皮切りに、介護事業を展開。1999(平成11)年8月に医療法人成雅会泰平病院を設立した。  介護事業が拡大していくなかで、人材確保が喫緊の課題となり、職員の定着に注力して制度や環境を整備した。同時に、経験豊かな高齢職員が能力を発揮して長く活躍できる職場づくりの取組みに着手した。  「誠心、誠愛、誠優、誠笑」を経営理念に掲げ、地域に貢献できる医療・介護サービスの提供を目ざしている。 《POINT》 (1)業容拡大により医療と介護のための人材確保が急務となるなか、ベテランの高齢職員が長く活躍できる職場環境の整備に着手、定年年齢や再雇用上限年齢を引き上げた。 (2)全職員を対象に「職場生活等に関するアンケート」を実施、職場の課題の把握に努め、結果を参考に、賃金制度や人事評価制度などの諸制度を見直した。 (3)能力開発のための研修制度を設けたほか、職場でのコミュニケーション向上を図り、懇親会やレクリエーションなどさまざまな取組みを行っている。 (4)安全衛生の取組みとして、休憩室を設置するなど作業環境の改善を図った。また、勤務時間や休暇制度の見直し、検診費用の補助なども推進している。 U 法人の沿革・事業内容  同法人は、1976年の「泰平老人病院」の開業以来、医療を通じて地域貢献を目ざしてきた。1993年8月に介護老人保健施設を開設したことを皮切りに、従来の病院経営に加えて介護サービス事業に着手。1999年8月には医療法人成雅会泰平病院を設立した。2001年に認知症対応型共同生活介護「グループホーム陽(ひ)だまりの丘」、2004年に介護付有料老人ホーム「よかよかの郷(さ)と」、2014年に小規模多機能ホーム「ぬくもりの里」、2018年には介護医療院※を開設し、介護業の業容を拡大してきた。質の高いサービスを提供することで地域医療の中核的な役割をにない、地域住民からは、利用しやすい施設として知られる存在となっている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  地域貢献を目ざし、医療業に加えて介護業にも業容を拡大するなか、人材の確保に苦慮してきた。人材の充足率を高めるため、離職を防ぐ取組みと同時に、ベテランの高齢職員が長く働ける制度を充実させる取組みを進めることにした。  職場における課題を把握するために、2015年8月には「職場生活等に関するアンケート」を全職員に実施、結果を参考に賃金制度や人事評価制度の見直しを図った。また、退職者に「退職事由アンケート」を実施するなど、勤務継続のための阻害要因を把握し、今後に活かすことにした。さらに、新たな賃金制度や人事評価については透明性や公平性を高め、だれもが納得できるものにするため、協議を重ねながら改定を進め、2018年8月に労使で合意した。  現在、271人の職員のうち、60歳以上は83人(男性18人、女性65人)で、全社員の30・6%を占める。70歳以上は27人(男性7人、女性20人)となっており、健康で意欲と能力があれば、長く活躍できる環境が整備されている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ●定年制と継続雇用制度の改定  これまで「60歳定年」、「基準該当者65歳まで継続雇用」としていたが、2019年4月から「65歳定年」、「希望者全員70歳まで継続雇用」に改定した。また、70歳以降は、運用により、労使で合意した者は年齢に制限なく雇用継続するとし、実質的に本人から退職の申し出がないかぎり雇用を継続している。制度改定にともなう経過措置として、2019年時点で55歳以上の職員を対象に、本人が希望する場合は60歳で退職金を支給することとした。 ●賃金制度の見直し(ハイブリッド等級制度の導入)  給与は基本給と各種手当(役職・通勤・夜勤手当など)で構成される。役職定年はなく、昇給停止年齢もない。年俸制でない者には賞与と退職金も支給される。現役職員と定年後の職員で、賃金や評価方法に差のない運用がなされている。職種は正看護師、准看護師、介護福祉士、介護職、薬剤師、PT(理学療法士)、OT(作業療法士)、ST(言語聴覚士)など約10職種に分かれており、賃金テーブルも複数に分かれている。賃金制度などの見直しにより、等級の格付けが職種ごとに何パターンかあったところを、すべて、職種ごとに7等級に統一した。人事評価によっていずれかの等級に格付けされ、それぞれの職種の賃金テーブルによって賃金額が決められている。  一方、これまで年功的であった賃金制度については年功的な部分も残しつつ、能力と役割に応じたハイブリッド等級制度を導入することにした。賃金の構成要素は「基本給+能力給」から「基本給」に一本化したことで賃金の額と人事評価の関係がわかりやすくなった。どのレベルに到達すれば昇格できるのかが明確になり、職員のモチベーション向上につながった。 ●人事評価制度の見直し  従来、勤続年数と人事考課の結果により職種ごとに昇格を決めていたが、育成に主眼を置くため評価制度の見直しを図った。複数の評価シートにより自己評価と上司評価を行い、本人と上司の間でフィードバック面接をすることで次のステップへのぼる足がかりとする人事評価制度に改定した。人事評価は年2回実施し、夏季と冬季の賞与に反映される。すべての職員が、評価や処遇に納得できる透明性の高い人事評価制度となっており、モチベーションを高く持って働ける職場環境が構築されている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み ●高齢職員の技術・技能継承  高齢職員がつちかった知識や経験を若手に引き継ぐため、テキストやプリント資料を作成して研修を実施している。また、医療・介護サービス業においては、接遇やマナーは重要なスキルであるため、OJTを通じて重点的に教育を実施している。 ●アンケートの活用  職場の諸課題を把握するための「職場生活等に関するアンケート」や、退職者に対する「退職事由アンケート」、職場内のコミュニケーション向上のための「福利厚生/懇親会の実施内容アンケート」などを実施し、その結果を活かした改善に取り組んでいる。例えば、「退職事由アンケート」の結果などを参考に介護離職を減らすため、あるいは趣味の時間確保や体力の回復などの観点から「ハーフタイム勤務制度」を導入している。また、「福利厚生/懇親会の実施内容アンケート」の結果を参考に、職場懇談会(レクリエーション)の費用を支給することとした。 ●新職場の創設・職務の開発  2019年度より外国人技能実習生を採用し、ベテランの高齢職員が指導を担当している。また、繁忙などの理由によっては病院で勤務している高齢職員を介護施設の勤務に異動させることもあり、これまでに約20人程度が異動になった実績がある(うち高齢職員は10人程度)。なお、この異動により賃金が下がることはない。 ●教育訓練、キャリア形成支援  自己啓発研修や業務にかかわる研修、あるいはグループ研修など職員が自主的に研修などの受講を希望する場合、受講料や授業料などの支援を行っている。例えばグループで研修を実施する場合、講師の謝金や会場費、資料代など10万円を上限に補助している。また、先進事例の視察や必要と認める移動にかかる交通費は5万円を上限に支援している。  自己申告すればすべての職員が制度を利用できることから、この制度を活用して准看護師から正看護師を目ざす職員や、リハビリ関係の資格取得を目ざす職員もおり、自己研鑽のために切磋琢磨(せっさたくま)し合う雰囲気が生まれている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み  職員の高齢化にともなったきめ細やかな安全衛生対策の必要性に鑑み、以下のような取組みを推進している。 ●介護ロボットの導入  施設利用者や患者の移乗作業は、介護職員1〜2名で行っているが負担の大きい作業であることから、2016年に介護支援用ロボット「HAL」を2台導入した。これにより移乗作業の負荷が減り、職員の腰痛予防の対策にもなった。この導入により職員にゆとりが生まれ、ケアの質も向上し、利用者や家族の満足度向上にもつながっている。 ●照明のLED化、段差の解消など  毎年一定額の予算を確保して、院内の照明をLEDに切り替えている。また、院内の段差の解消にも取り組み、安全性の向上を目ざしている。利用者の安全はもちろん、職員の労働環境の向上にも効果があり、高齢職員が働きやすい職場づくりが進められている。 ●メンタルヘルス対策  職員の心身の健康が質の高い医療サービスの提供につながると考え、定期健康診断のほか、ストレスチェックの実施など心身両面の健康維持に注力している。高齢職員の健康については特に配慮し、朝礼や申し送りのときにリーダーが健康状態の確認を行い、高齢職員が自分の体調を自己申告しやすい雰囲気をつくるようにしている。 ●インフルエンザの予防接種の無償化  全職員に対して、インフルエンザの予防接種を無償で実施している。あわせて予防投与も行い、職員の健康管理に役立てている。 ●ワーク・ライフ・バランスの推進  高齢職員の体調管理の一環として労働時間と休日についての見直しを図った。2019年より勤務時間を7・5時間から8時間に変更する一方、年間休日を108日から12日増加し120日とした。さらに年次有給休暇の時間単位取得制度を導入するなど、ワーク・ライフ・バランスの推進を図っている。 (4)高齢職員の声  Aさん(66歳・女性)は、看護師として週40時間勤務するなかで、豊富な経験を活かして若手の指導もしており、周囲からの信頼も厚い。「柔軟な勤務制度のなかで自分の時間が大切にできる」とのこと。  Bさん(67歳・女性)は介護福祉士の資格を持ち、どんな状況にも対応できる順応力に優れている。改善提案も積極的に出す姿勢は職員のよき手本となっている。 (5)今後の課題  働く人の満足が、利用者の満足と信頼につながると考え、「100歳まで働ける環境づくり」を一層進めていきたいという同法人。具体的な取組みとして、定年の廃止とともに、職員のプライベートライフに対応できるようなフレキシブルな勤務体制の構築を視野に入れている。地域医療に貢献するためにも、質の高いサービスの提供が求められていることを職員がしっかり受け止め、一丸となってさらなる高みを目ざしていく。 ※ 介護医療院……長期的療養が必要な要介護者を対象とする、医療機能を生活施設としての機能をあわせ持つ施設 写真のキャプション 病院外観 職員の負担を軽減するために導入された介護ロボット(HAL) 各職場で高齢職員が豊富な経験を活かして活躍している 【P20-23】 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテスト 厚生労働大臣表彰 特別賞 高齢者が活躍できるサポート体制を確立し能力を活かして働ける職場づくりを推進 株式会社 新潟アパタイト(新潟県上越市) 企業プロフィール 株式会社 新潟アパタイト (新潟県上越市) ◎創業 1988(昭和63)年 ◎業種 精密ばね製品組立・検査・梱包等 ◎社員数 93人 60歳以上 19人 (内訳)60〜64歳 13人(14.0%) 65〜69歳 3人(3.2%) 70歳以上 3人(3.2%) ◎定年・継続雇用制度 定年は70歳で、運用により一定条件のもと年齢の上限なく再雇用。現在の最高年齢者は75歳 T 本事例のポイント  株式会社新潟アパタイトは、1988(昭和63)年創業の電子部品組立て請負業「YOU電機」を前身とする。その後1995(平成7)年に創業した有限会社新潟アパタイトが2000年にYOU電機を合併、2014年には株式会社に組織変更し、電子部品製造と技術者派遣を柱に業容を拡大してきた。  「人が会社にとって何よりの財産」、「能力を生かして働ける職場づくりをめざす」を経営方針に掲げ、多能化や業務負担の軽減などに着手して高齢社員が活躍できるためのサポート体制を確立した。 《POINT》 (1)継続雇用を希望する高齢社員が長く働けるように取組みを進めるなかで、実態に合わせて就業規則を見直し、2014年7月、70歳定年制を導入した。同時に短時間勤務にも柔軟に対応できるよう勤務時間制度の弾力化を就業規則に規定した。 (2)社員の大半を占める女性社員は地域の賃金や時間給の水準に敏感であるが、作業ごとの習熟度を4段階評価で「見える化」し、段階に応じて手当を決定することで不公平感が生じない賃金制度とした。 (3)社員と管理職を交えて業務運営を考える委員会を設置した。社員代表は年齢層も考慮して全社員のなかから2カ月交代で選出される。委員会で出された要望は経営者が状況把握のために自ら体験するなど全社をあげて改善に取り組んだ。 U 企業の沿革・事業内容  1988年10月、創業者の自宅敷地内の一角で、株式会社新潟アパタイトの前身「YOU電機」を創業。パート社員を含めわずか6人でのスタートであった。創業以来電子部品製造を主たる業務とし、地域の企業の受注に誠実に応えていくなかで信用力を高め、やがて県内に立地する大手企業の受注も獲得するようになり、2014年に株式会社に組織変更した。リーマンショックなど厳しい局面を乗り越えながら、いまでは新潟県と埼玉県に拠点を持つグループ企業に成長を遂げた。  具体的な業務としては、自動車やカメラ、医療機器に組み込まれる部品の外観検査、部品の選別・梱包作業、コイルバネのセッティング作業などがある。現在、グループ全体で約130人を擁ようするが、新潟アパタイト自体の社員数は93人で、その8割以上を女性が占めている。地域では女性が活躍する企業としても知られており、雇用を生み出すことで地域貢献を果たしている。  なお、同社では創業当初から障害者雇用にも熱心に取り組んでおり、就労継続支援A型事業所「With You」(2015年開所)と、就労継続支援B型事業所「Be With You」(2019年開所)も含め、各所で精神障害者、知的障害者、 発達障害者が働いている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  女性社員が全社員の8割以上を占めており、女性が主戦力となっている。93人の社員のうち、60歳以上は19人(男性6人、女性13人)で、全社員の20・4%を占める。70歳以上は3人(男性2人、女性1人)となっているほか、50代以上が4割を占めるなど、社員の高齢化は着実に進んでいる。現在の業務は長年の熟練技能を持った中高年者に依存していることから、高齢社員の体力や視力の低下などに応じた職場改善を進めてきた。  細かい作業の多い同社では高齢になっても従来の作業レベルを維持できるように治具(じぐ)を工夫し、自動化も検討中である。また、配置転換によって継続雇用の道も開いており、日常のコミュニケーションによって個人の意向や転換可能な職域の把握が行われている。仕事を続けることに困難を感じる社員が出ても、経営者が率先して方策を考えており、社員には「居心地のよい会社」となっている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ●定年制度の改定  2014年7月、就業規則で定年70歳を規定した。その背景には、設立当初から働いてきた社員や、会社が苦境に直面したときもがんばってくれた社員に報(むく)いたいという経営者の思いがあった。導入にあたっては、年齢が高くなっても生産性を落とさずにできる作業があるかどうかを検討するなかで、これまで行ってきた検査治具の開発や作業工程の工夫により対応可能と考え70歳定年制移行にふみ切った。 ●賃金制度の見直し  社員の多くは女性で、部長、工場長、チーフリーダーといった職場の要に多く登用されている。定年延長にともなう制度改正では、女性社員の納得性を高める取組みが賃金制度に反映された。日給月給制の同社の賃金水準は最低賃金と地場の水準を考慮して決定している。また、各人の作業スキルを「見える化」して処遇に反映させており、教育訓練にも活かしている。  各作業のスキルアップレベルは、@経験があるが1人ではできない、A通常の作業ができる、B高難度の作業ができる、CBに加えてほかの社員に教えることができる、という4段階で評価しており、各人が各作業についてレベル判定され、最高レベルに到達すれば指導者となる。この判定は定年時まで継続し、少額ではあるが賃金にも反映される。社員の作業スキルは一覧表として掲示され、だれがどのレベルにあるか一目瞭然であるとともに、自分が目ざすべきレベルも明らかとなる。この作業スキル認定はだれもが納得できるものであり不公平感が生じないため、結果として処遇の差も公平感が保たれるとして、社員からは前向きに受け入れられている。 ●多様な就労形態の構築  70歳定年移行時に、高齢社員の勤務時間制度の弾力化を図る旨を就業規則に規定、各人の生活形態や体力の低下などに合わせて柔軟な勤務時間が取れるようになった。短時間勤務者は1日7時間以内で柔軟に対応、短日数勤務者についても常勤者の日数の4分の3以内で対応する。このようにして、高齢社員が長く働き続けようとする意識を喚起した。 (2)高齢社員を戦力化するための工夫  体力などの問題により「いまの仕事が続けられない」と申し出る社員がいれば、本人と相談してほかに適している仕事を検討している。職場環境や勤務状況について、意見や希望を自由にいえる環境を創出するために毎日のミーティングを実施しており、各部署から仕事についての要望が出たときは、意見をていねいに擦り合わせて解決方法を模索している。  例えば、「検品業務に就いているが、視力の低下により作業遂行がむずかしくなった」と高齢社員が訴えてきた際には、人手不足で業務に支障が出ていた搬入作業に、当該高齢社員の了解を得たうえで配置転換を行った。その高齢社員は新しい職場で活き活きと働いている。  また、前職で経理を担当していたことのある高齢社員の場合は、その経験を活かし午前中は伝票処理などの業務を受け持ち、その後、工場での検査や梱包作業に従事するなど、負担過多にならないための配置を行っている。  そのほか、同社のユニークな取組みとして、社員と管理職が一緒に業務運営を考える委員会を構成していることがあげられる。社員代表は全社員のなかから2カ月交代で3名選出され、メンバーは年齢層も考慮し、若手と高齢者も同じテーブルで話し合う。年齢に関係なく忌憚(きたん)のないさまざまな意見が出されることから、経営者が気づかないアイデアや建設的な提案も増え、会社への貢献意識の向上といった成果もみられる。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業環境の改善  多くの業務が小さな、または極小部品を扱う仕事であり、視力低下は大きな影響が生じる。また、細かな部品を手際よく作業台に載せて加工や検査をするには、治具の工夫や改善が必要となる。作業者からの要望があれば、経営者が自ら体験しながら改善策を考えることもあるという。その結果、細かい部品をセットしての検査業務の見直しをはじめ、さまざまな業務改善が図られている。  例えば、以前は顕微鏡を使って品質検査をしていたが、拡大画像を用いて品質が判断可能な装置を導入するなど、高齢社員の負担軽減のための機械化・自動化を進めている。日々の小さな工夫の積み重ねが高齢社員の負荷を減らすと考えている。  なお、新型コロナウイルス感染予防対策として、それぞれの作業台に囲いをつけ、安心して作業できるようにしている。 A健康管理など  健康に対する意識を高めようと、健康診断による診断結果に対するヒアリングを実施している。また、安全衛生の取組みとして冬場の工場内の温度や湿度の管理、マスクの着用、消毒などを徹底している。 B福利厚生の充実  同社を構成する社員の年齢層が広いこともあり、コミュニケーションを図るため年に数回、懇談会や食事会を開催している。社員の大半を占める女性社員が企画しており、工夫を凝らした企画は好評である。レストランでの開催もあれば、ケータリングを利用して社内で実施するなど自由な発想で行っている。リラックスした雰囲気のなか、さまざまな要望が出されるので改善のための貴重な情報を得ようと必ずトップも出席している。  毎朝のミーティングをはじめ常日ごろから社内で社員が要望を伝えやすい環境が整っており、しかもトップと直接話す機会も容易に得られること、そして実際にトップが自身で体験したうえで結論を出すという流れができていることが、さまざまな福利厚生の充実につながっている。 (4)高齢社員の声  Aさん(66歳・女性)は、正規社員としてフルタイムで検査・梱包・加工を担当しているが、身体がよく動き機転も利く。仕事の内容を厭(いと)わず、与えられた仕事は何でもこなす働きぶりは若手社員のよき手本となっている。  Bさん(70歳・女性)は、パート社員で1日5時間30分勤務。朝は伝票処理などの事務作業に従事し、その後は現場の作業に入る。パワフルな行動力が、ほかの社員の刺激になっている。 (5)今後の課題  同社は「高齢社員が能力を活かして働ける職場の実現」を合言葉に邁進(まいしん)してきた。70歳定年や多様な勤務時間制度の導入に加え、業務遂行に必要な検査治具の開発や雇用継続のための新規業務の開拓を実施している。今後も社員全員でコミュニケーションを図り、自由に意見をいえる社内環境を維持していくとともに、高齢者・障害者が分け隔てなく働ける職場の実現に向け、社員一丸となっての取組みが続く。 写真のキャプション 会社外観 検品作業をする高齢社員 製品運搬作業をする高齢社員 【P24-27】 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテスト 厚生労働大臣表彰 特別賞 高齢者が活き活き働ける職場環境を整備し人材育成と技術の継承を推進 株式会社 清水製作所(山梨県北杜(ほくと)市) 企業プロフィール 株式会社 清水製作所 (山梨県北杜(ほくと)市) ◎創業 1973(昭和48)年 ◎業種 プラスチック製造業 ◎社員数 43人 60歳以上 13人 (内訳) 60〜64歳 6人(14.0%) 65〜69歳 2人(4.7%) 70歳以上 5人(11.6%) ◎定年・継続雇用制度 定年なし。現在の最高年齢者は80歳 T 本事例のポイント  株式会社清水製作所は、1973(昭和48)年にプラスチックの異型押出成形(いけいおしだしせいけい)会社として創業。1983年の株式会社への組織変更を機に、土木・建築資材の製造を開始した。2009(平成21)年には山梨県経営革新企業に認定され、自社製品「木目調発泡ポリスチレン板」の生産・販売をスタート。同社の再生原料を用いたプラスチック加工の技術はマニュアル化が困難であることから、経験豊かな高齢社員による若手社員への指導が行われている。人材育成をになうベテラン社員が、安心して長く働ける職場環境の創出に全社一丸となって取り組んできた。 《POINT》 (1)以前は定年後、運用により継続雇用する制度を取っていたが、本人が「働きたい」と希望するかぎり長く働いてもらいたいという方針のもと、2013年に定年制を廃止した。 (2)高齢社員の職場環境を整備し、短時間勤務や短日数勤務など、働き方に関する相談があれば随時、柔軟に対応している。 (3)異型押出成形技術のノウハウを高齢社員が若手社員に継承している。加工機械装置の操作には経験や勘が必要不可欠なため、高齢社員が若手社員とマンツーマンで、実際の操作を傍(かたわら)で指導しながら伝授している。 U 企業の沿革・事業内容  1973年に異型押出成形会社としてスタートした清水製作所。創業以来、リサイクル原料を用いた建築資材(面木・目地棒)などのプラスチック加工製品を製造しており、溶かした原料をスクリューで金型から押し出し成形する異型押出成形という技術を用いている。見ためが木材風のエクステリア用フェンスデッキや、土木・建築資材が主力製品となっており、耐久性に優れることから非常に人気が高い。また、プラスチックの異型押出成形による技術を持っている企業は少なく、木目調の模様を出す技術が高く評価されている。注文が増加傾向にあるなか、慢性的な人手不足もあり技術の継承が大きな課題となっているが、高齢社員が新入社員をマンツーマンで指導するなど人材育成に力を入れている。生産部門のほか、研究開発部門を展開しており、山梨県が地域の産業振興に貢献する企業を表彰する「令和元年度やまなし産業大賞」の大賞を受賞するなど、地域での注目度も高い。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  現在、43人の社員のうち、60歳以上は13人(男性9人、女性4人)で、全社員の30・2%を占める。70歳以上は5人(男性3人、女性2人)で、最高年齢者は80歳である。2009年に木目調再生発泡ポリスチレン板材製品の製造を始めてから業績が伸長するとともに慢性的な人材不足が続いていた。加えて、社員の高齢化も予測されたため、長く働いている社員がつちかったスキルや就業意欲を有効に活用するため、2013年に定年制を廃止した。採用により人材を確保することも重要だが、いま働いている人材に長く働いてもらうことを重視している。  一方、過去に近隣企業の閉鎖や縮小があった際には、中高年者の安定した生活環境を提供するため中途採用を積極的に行い、中高年者の生活基盤の拡充を目ざし、人材育成教育についても積極的に行ってきた。勤務制度については、一人ひとりの事情や体力に合わせて、個別に対応することにしている。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ●定年制度の廃止  以前は60歳定年制を導入していたが、段階的な定年延長や継続雇用制度の導入ではなく、2013年に定年廃止にふみ切った。もともと運用により定年後も希望者全員を再雇用していたことから社員から大きな反響はなかったが、人材募集時に「定年なし」と記載することで、年齢を問わず応募が多くなったなど、人材確保の面で好影響が生じている。 ●賃金・評価制度  社員は、全員正社員として処遇しているが、本人の希望によりパート社員となる場合もある。全社員43人のうち4人がパート社員で、いずれも育児や地域の役員を務める関係で、急な休暇が必要になることがあるという理由などから、本人がパートタイムで働くことを希望した。月給制と日給・時給制の違いはあるが、諸手当や賞与、社会保険、退職金制度などについて正社員とパート社員の間に差はない。  パート社員については、年に一度の面談や日々のやり取りのなかで、総務担当者が本人の希望を聞き、正社員を希望すれば変更も可能とするなど、柔軟に対応している。  役職が少ないこともあるが、役職定年はない。給与は、総務担当者の査定により決定されているが、職務内容に基づくとともに、年齢に関係なく、全社員を対象にベースアップを毎年実施している。  また、個人の成果については、年2回の賞与に反映している。なお、技能・技術的に優れる高齢社員が賃金面では若手より高額になるが、若手社員には今後の成長への期待を込め、現場管理職のヒアリングをもとに算定している。退職金については、中退共(中小企業退職金共済事業本部)に加入しているが、退職時には中退共からの退職金に加え、会社からも一定額を支払っている。 ●多様な勤務体系  工場はコスト面の関係から24時間操業しているが、夜勤は若手社員がローテーションを組んで担当しており、高齢社員は体力面などの理由で日勤のみである。体調不良や持病のある高齢社員には特に小まめに気を配り、業務に無理が生じていないかを常に確認している。また、社員から勤務日や勤務時間について相談があれば個別に対応している。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み  異型押出成形という技術を持つ会社はきわめて少なく、経験者が入社することは稀(まれ)である。そのため技術の継承に力を注いでいる。工場に設置された21台の機械はそれぞれ用途や仕様が異なるため、入社すると各機械の操作・工程を一通り経験することが必須となる。製造の工程としては、原料に染料で色をつけ、機械のホッパーにセットすると後は機械が成形・加工を行うが、人の手が必要なのは原料のセットと機械への数値の入力である。数値の入力はその日の気温、湿度、時間帯などによっても左右されるため、作業の基本となる手順書はあるものの、細かい調整は高齢社員の経験と勘に頼っており、ノウハウは主にOJTで伝承される。  新人が入社すると、高齢社員などのベテラン社員が指導役となり、約1カ月間、マンツーマン方式で基本的な製造技術のノウハウを伝授する。その後、新人には高齢社員がつきっきりで21台の機械それぞれについて数値の入力のコツなどを教える。機械の種類や難易度はさまざまであり、また製品によっては追加の加工が必要なものもあるため、覚えることは多い。高齢社員と若手社員では価値観や考え方に違いがあることから、当初はうまくコミュニケーションがとれなかったが、粘り強く柔軟に指導するなかで人材は着実に育成されている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業環境、安全衛生の改善 ●LED照明の導入、転倒防止、重量物対策など  高齢化による視力の低下を補うため、工場および事務所の照明をLED照明に切り替え、通路の照明の数を増やすとともに、工場での作業時に手元を照らすLED照明を設置した。作業現場がLED化されたことにより、作業場内の移動の安全性が高まるとともに作業効率も向上した。  また、転倒防止については、工場内で取り扱う製品が大きいこともあり、もともと床の段差や凸凹の少ない設計となっていることに加え、防滑(ぼうかつ)対策として、床を適度な摩擦係数を持つコンクリート仕様にした。さらに、取り扱う製品は数量がまとまると重量物となることから、製品移動時の負担軽減対策として、検査梱包場所への移動時にはすべてカーゴ(車輪つきの荷受け台車)を使用している。カーゴは基本的に男性社員が移動させることになっているが、カーゴのキャスター部分を直径の大きいものに変更し、前後左右の可動により力を要さずに移動できるよう改善した。これにより女性の高齢社員でも移動できるようになっている。  そのほか、腰に負担がかからないよう、作業によっては椅子を設置して座った状態で作業できるようにするなど、高齢社員の体力面に配慮しているほか、日常の業務で発生した「ヒヤリ・ハット」については、その都度声かけなどを行い問題を共有したうえで改善を図っている。高齢社員のなかには別の会社を定年退職し、同社に入社した者もいることから、前職の溶接の技能を活かし、積み上げた製品が倒れないよう仕切りを自作するなど、社員一人ひとりが積極的に安全衛生に努めている。 A健康管理 ●人間ドック、インフルエンザ予防接種の無償化  人間ドックは45歳以上の社員、インフルエンザの予防接種は全社員を対象としており、費用の全額を支給している。いずれも受診日や場所などを各々の都合に合わせて受診できるため、社員にたいへん好評である。 (4)その他の取組み  年次有給休暇については、休日や半日休暇の取得など事前に申請書の提出がなくても、口頭での申請と事後提出でも承認されるよう整備した。高齢社員の場合、居住地域の役員などを引き受けざるを得ないことがあり、急な呼び出しなどもあるため、事前申請提出でなくても休みを承認できるシステムは歓迎されている。  定年制度の廃止以降は、高齢層の応募が急増したため、ハローワークや北杜市を通じて積極的に中途採用を行っている。現在最高年齢の社員も、それまで勤めていた会社を定年退職後に中途入社し、80歳のいまも第一線で活躍している。エクステリア事業部の73歳の高齢社員の場合は、建築会社を定年後に技術者として入社した。特殊な技術である異型押出成形の経験は皆無であったが、それまでの経験をもとにノウハウを学んでもらえるよう、指導・育成を行っている。  一方、新卒採用も行っているがなかなか定着しないのが悩みの種となっている。北杜市がUIJターン事業に力を入れており、市の斡旋で30代の男性を採用した。現在、戦力となっており、若い力に大いに期待している。 (5)高齢社員の声  Aさん(63歳・男性)は、幅広い知識と行動力と人的ネットワークを駆使し、公的な補助金申請を行いながら新製品の研究開発にたずさわり売上拡大に貢献している。人材育成や業務改善なども担当し、なくてはならない人材となっている。  Bさん(76歳・男性)は、入社以来一貫して切断・面取り作業に従事してきた。「慣れている作業でありストレスもなく、作業移動量も少ないので長く働けている」と語る。 (6)今後の課題  同社では、社員の高齢化が進むなか、主戦力である高齢社員が長く働き続けられる職場環境の整備を進めてきた。今後も高齢社員の労働負荷を軽減するため、本人の申し出があった場合は配置転換するなど柔軟に対応していく。また、いまでこそ該当者はいないが、介護離職者が出ることなどを視野に置いて、介護・育児などに対する規程を設けているため、今後は社員の利用を積極的に呼びかけていく考えだ。マンツーマン方式でつちかったチームワークを力に、技術を継承していくための奮闘が続く。 写真のキャプション 会社外観 重量物の運搬作業の負担を軽減するためにキャスターを大型化したカーゴ(右) 【P28-31】 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテスト 厚生労働大臣表彰 特別賞 高齢者の技術・技能継承の仕組みを確立しだれもが力を発揮できる職場風土を創出 英興 株式会社(京都府京都市) 企業プロフィール 英興 株式会社 (京都府京都市) ◎創業 1947(昭和22)年 ◎業種 石英ガラス製品加工販売等 ◎社員数 94人 60歳以上 16人 (内訳)60〜64歳 9人(9.6%) 65〜69歳 2人(2.1%) 70歳以上 5人(5.3%) ◎定年・継続雇用制度 定年は65歳。希望者全員70歳まで継続雇用、その後は健康状態と意欲により1年更新。現在の最高年齢者は76歳 T 本事例のポイント  1947(昭和22)年に設立された英興株式会社は、創業以来、石英(せきえい)ガラスや工業用ガラス材料の加工・販売、工業用セラミックの加工・販売を中心に業容を拡大してきた。同素材を扱う会社は全国的に珍しく、国内でも比較的少ないといわれている。石英ガラスの加工には特殊な能力が求められることから、熟練の高齢社員が会社の屋台骨を支えている。また、若手社員への技術指導もになう高齢社員が、長く働ける職場環境の整備は必須であり、さまざまな取組みを展開している。 《POINT》 (1)60歳でも元気に能力を維持できている社員が多いことや、業種的に長く技術を蓄積した職人が必要であることから、定年を65歳に引き上げた。また、希望者全員を70歳まで継続雇用し、運用により70歳を超えても雇用の継続を実現した。 (2)長く蓄積した技術を効果的に活用するため、熟練の高齢社員の持つ「自分のやり方」の手順を標準化・統一化することで、作業のスピードアップを実現した。 (3)熟練の高齢社員が若手社員とペアを組み、技能を伝承している。高齢社員間で若手社員を育成する競争意識が芽ばえるなか、指導意欲が向上するなど相乗効果が生まれている。 U 企業の沿革・事業内容  同社は、1947年9月に石英ガラスの販売を主な業務として創業、その後、加工を手がけるようになり、現在は石英ガラスおよび工業用ガラス材料の加工・販売、工業用セラミックの加工・販売、酸・アルカリ溶液洗浄槽および付帯設備の製造・販売、各種電気炉の製造・販売を行っている。事業所は、本社・京都営業部のほか、宇治田原(うじたわら)工場、主な取引先の所在地である横浜、金沢、名古屋、大阪、福山、久留米に営業所を展開し事業を拡大してきた。営業所の社員は原則的に現地採用となる。石英ガラスの加工をになう企業は、全国的に見ても数が少ないことから、安定的な経営ができていることが強みとなっている。 V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  社員94人のうち、60 歳以上は16人(すべて男性)で、全社員の17・0%を占める。70歳以上は5人となっている。比較的若年層の採用が容易なこともあり、技能伝承のために余裕を持って人員を採用し、技能の伝承に取り組む時間を確保している。  以前は新卒採用を行っていたが、定着率が低いことから、現在は人員体制を維持するために他社でつちかった技術・技能を有する者の中途採用を積極的に行っている。94人の社員のうち90名ほどが中途採用者で、他社で定年を迎えた人も採用するが、必ずしも専門能力や技術を必須としているわけではなく、意欲が見られれば採用し、仕事に慣れていってもらうという方針で進めている。  石英ガラスは半導体業界からの需要が大きく、半導体業界の技術進歩のスピードの激しさから、年々求められる製品の作成難度は高くなっている。加工については機械化がむずかしいものがあり、熟練度の高い経験が重視されることから、事業を継続するうえで、高齢社員の蓄積された技術の活用と、後進への技能の伝承が必要であり、高齢社員が長く働き続けることができるよう、職場環境の整備を推進してきた。 W 改善の内容 (1)制度に関する改善 ●定年制等  2018(平成30)年に定年を65歳に引き上げた。さらに70歳まで継続雇用制度を延長している。また、70歳を超えても働き続けてほしいとの思いから、加工の際に重要である目と手の機能が衰えないかぎり、70歳を超えても雇用を継続することとした。  本人の希望を尊重し、60歳で一度定年退職し嘱託社員となったものの、その後定年年齢が引き上げられたことから正社員となったケースもある。一方、定年後は嘱託社員として働くことを選択する社員もいる。 ●処遇(賃金、退職金など)  正社員と嘱託社員の賃金は同じであるが、嘱託社員は1年契約の雇用であり、役職からは外れる。賃金は年功(年齢給)要素のある基本給と職能給を組み合わせて決定する。定年までは昇給があり、定年後は正社員、嘱託社員ともに昇給はないが、働きぶりによる賞与でカバーしている。賞与については経営層が個々の働きぶりを見て算定しているが、額の大きな差は生じていない。  手当では扶養手当が手厚くあり、役職者には役職手当があるが、定年後は役職が外れ役職手当の対象外となる。退職手当については、民間保険会社の企業型確定拠出年金制度を活用しており、定年時に受け取れるようにしている。また、定年後もあらためて積立てを行っており、少額ではあるが雇用終了に合わせて受け取れるようにしている。処遇や勤務形態などについては、個々の社員の状況を見ながら弾力的な対応を行っている。 ●評価制度  明確で公平な評価制度として、営業部門であれば担当者の売上額、加工技術者であれば製造額などの基準を定めることなども検討したが、景気状況や製品ごとに製造条件などが異なることから、不公平な状況が生まれることが懸念され、基準などを定めることがむずかしいため現在の評価制度に落ち着いた。日ごろの働きぶりなどを社内でヒアリングし、社長決定のもと、賞与に反映する仕組みをとっている。その場合「絶対評価」ではなく、「相対評価」で決定している。 (2)高齢社員を戦力化するための工夫  高齢社員がつちかってきた技術を後進へ伝承するため、以下の四つの取組みを行っている。 ・第一に、加工の手順が熟練の高齢社員ほど自分のやり方に固執して教え方が統一されていなかったため、5年前から手順を標準化・統一化した。一つの製品について、切断、マシニング加工、レーザー加工、旋盤加工などの各種加工、歯車の発注と取りつけ作業など多くの作業、手配、工程があり、それらをどのような順番・タイミングで行うかで要する時間が大きく異なる。熟練の高齢社員がそれぞれ持っていた自分のやり方を精査し、統一化することで、最適な工程を共有することができるようになった。 ・第二に、加工作業を映像化し、技能伝承の補助ツールとして活用している。例えば、バーナーの火の色、バーナーをどの位置からどの角度で入れるのかを撮影し、音声をつけた動画を作成している。映像化はさまざまな作業に展開していく予定である。 ・第三に、熟練の高齢社員が若手社員とペアを組み、円滑に指導できる体制を整備した。ペアは技術を引き継いでほしい人を選んで組んでもらうが、相性も考慮して定期的に見直しや、ペアの変更をしている。職人というと、「盗んで覚えろ」というイメージが強いが、自分の技術を正しく伝えたいという思いから、ていねいな指導方法が展開されている。 ・第四に、熟練の高齢社員には、加工従事者のスキルの習得度を評価させている。例えば、ペアを組む若手社員について、作業工程を細分化し作業ごとの習得確認や評価を行う。この結果は給与などには反映されないが、若手社員の育成が競争意識を生むことで高齢社員の指導意欲が高まり、モチベーションの向上につながっている。若手社員にとっても新しい作業をこなすことで実際の業務の習熟につながるため、大きなやりがいとなり、相乗効果が生まれている。  「工程表」と「映像化」により、技術・技能のベースになる部分の共通化を行い、ペアを組んだ高齢社員から作業工程の勘所を伝えることで、技能伝承が確実に行われる環境が整っている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み @作業環境改善  高齢社員も参加し、全社で5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・躾(しつけ))を実施している。工場内では、石英ガラスを持って移動するため足元が見えづらく転倒するおそれもあることから、使用したガス管の収納など床の整理を徹底して転倒防止を図った。また、加工の工程では酸水素ガスを燃焼させる必要があることから、職場が暑くなる傾向にある。そこで全社に空調設備を完備するとともに、電動ファンつきの作業服を提供し体調管理に役立てている。 A健康管理など  年2回の健康診断を実施している。また、保健師の指導で高齢者特有の持病(高血圧症・高脂血症)の管理制度を導入した。これにより高齢社員の体調のリズムが安定し、生産性の向上につながった。  そのほか、有給休暇の取得奨励や、定期的に面接を行い職務上・生活面の問題点の聴取などを実施している。  さらに、看護や介護に関する休暇の充実を図り、ワーク・ライフ・バランスの実現を目ざしている。個々の要望を聞き取るなかで、法定日数を超えて休暇を与える事例もある。 (4)そのほかの取組み  石英ガラスを顧客のニーズに即した形状に加工することが求められるが、製品の作成難度は年々高くなっている。さらに、顧客ごとに求められる製品の形状や質は大きく異なることから、同じものを大量生産するのではなく、顧客に合わせて一つずつ製品の作成を行っている。これらのことから事業を継続するうえで、高齢社員の蓄積された技術の活用と後進への技能の伝承は必須である。加工技術者を支えていくためにも営業担当社員との交流機会を増やし、顧客の希望を直接熟練加工者に伝え、新しい加工方法の開発に努めている。各営業所は、顧客企業が多い地域に開設しており、工場の技術者であっても営業所の営業職と顧客訪問を行い、顧客のニーズ把握に努めている。 (5)高齢社員の声  Aさん(63歳・男性)は、正社員として機械設計の業務をこなしている。「快適な事務所で多種多様な加工ニーズを具現化していく過程を楽しんでいる。CADの機能が次々と向上しているため、できるだけ早くマスターし、さらに上のステップを目ざしたい」と意欲的である。  石英ガラス加工の技術者Bさん(71歳・男性)は、技術の指導に熱心で周囲からの信頼も厚い。「約50年つちかった加工技術を若い社員が懸命に覚えようとする姿がうれしく、目と手が動くかぎり、少しでも長く教えていきたい。日々若い社員に囲まれていると年を忘れる」と語る。 (6)今後の課題  ハローワークへの求人や産業雇用安定センターの人材紹介で幅広い知識や経験を有する高齢者を積極的に採用することで専門職を増やしていき、より高度な製品開発につなげていきたいと考えている同社。業種が全国的に珍しく、技術者が育ちづらいため、会社の規模は現状を維持しながらも、加工技術者の労働負荷を軽減するために、ロボットや加工補助機械の開発も視野に入れている。  現在、高齢社員の多くは技術部門に所属しているが、今後は管理部門や営業部門にも活躍の場を拡大していく方針だ。そのためにも健康で長く働き続けられる職場づくりに力を注ぎ、高齢社員の蓄積された知識や技能の活用と継承という高い目標に向かって果敢に挑んでいく。 写真のキャプション 会社外観 若手社員とペアを組み技術指導を行う高齢社員 高い技術を持つ高齢社員が会社の屋台骨を支えている 【P32-33】 令和2年度 高年齢者雇用開発コンテスト 入賞企業一覧 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 福井県 株式会社 大津屋 優秀賞 千葉県 グロリア 株式会社 福岡県 医療法人 成雅会 泰平病院 特別賞 新潟県 株式会社 新潟アパタイト 山梨県 株式会社 清水製作所 京都府 英興 株式会社 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 千葉県 伸和ピアノ 株式会社 東京都 社会福祉法人 合掌苑 和歌山県 溝端紙工印刷 株式会社 鳥取県 株式会社 ルネックス 愛媛県 社会福祉法人 愛心会 特別賞 岩手県 社会福祉法人 みちのく大寿会 埼玉県 日本環境マネジメント 株式会社 千葉県 株式会社 ナリタヤ 新潟県 社会福祉法人 越後上越福祉会 石川県 医療法人 積仁会 特別賞 石川県 中村留(とめ)精密工業 株式会社 長野県 株式会社 ダイワコーポレーション 長野県 有限会社 わが家 岐阜県 セントラル建設 株式会社 静岡県 株式会社 共同 静岡県 社会福祉法人 七恵会 愛知県 株式会社 フロイデ 奈良県 有限会社 近藤豆腐店 山口県 株式会社 萩城観光ホテル 佐賀県 社会福祉法人 佐賀西部コロニー 長崎県 株式会社 東洋トラスト特機 熊本県 株式会社 万葉福祉会 【P34-38】 短期連載 マンガで見る高齢者雇用 〈先月号のあらすじ〉 70歳まで意欲を持って働き続けられる企業を目ざして、制度や職場環境の改革に取り組み始めた株式会社エルダー。65歳超雇用推進プランナー(※)・是石の支援を受けながら、人事課が中心となり社内プロジェクトチームを設置したが……。 最終回 「再雇用の元上司が部下になった。どう接していいのかわからない!」 ※ 65歳超雇用推進プランナー……高齢者雇用に関する専門知識や経験などをもつ専門家。当機構からの委嘱により、事業主に対し高齢者雇用にかかわる具体的な制度改善提案や相談・助言などを行っている ★ この物語に登場する企業・人物は架空のものです。 ※ 生涯現役エキスパート研修……企業を支援するために当機構で実施している「就業意識向上研修(有料)」の一つで、40代半ば〜50代のうちから定年後のキャリアプランを考える機会をつくるための中高年齢従業員向けの研修。 第1回〜第5回はホームページでご覧になれます。 エルダー 2020年 マンガ 検索 【P39】 解説 マンガで見る高齢者雇用 最終回 「再雇用の元上司が部下になった。どう接していいのかわからない!」 高齢社員を部下に持つ管理職への支援  役職定年や再雇用により、かつて上司だった高齢社員が部下として職場に配置されるケースが増えてきています。職責と役割の変化については高齢社員自身に理解してもらう必要がありますが、かつての上司を部下に迎える年下管理職の立場からすると、遠慮から「なんだかやりにくい」、「私の指示を聞いてくれるだろうか」といった不安や戸惑いが生まれることも少なくないでしょう。高齢社員を戦力として活用し、事業の強化につなげるためにも、高齢社員をマネジメントする立場にある現役管理職への支援が重要となります。 高齢社員をマネジメントするポイント  マンガでもご紹介しているように、年上の高齢社員をマネジメントするポイントは、@個々人の特性(強み)を見極める、A目標・課題を具体的に示す、B加齢による身体機能の低下などを補うサポートをする、C話をしっかり聴く、D期待を伝える、となります。また、部下とはいえ高齢社員は、人生経験はもちろん、社歴も管理職より長いケースが多いので、人生の先輩として、敬意を払ってコミュニケーションを取ることも重要です。 高齢社員を部下に持つ管理職のための「生涯現役職場管理者研修」  高齢社員の能力を活かし、戦力として活躍してもらうためにも、高齢社員を部下に持つ現役管理職は、高齢社員に対し適切なマネジメントを行うことが大切です。  当機構では、高齢社員が配属されている職場の管理・監督者を対象とした「就業意識向上研修〈生涯現役職場管理者研修〉」を実施しています。管理・監督者に求められる役割や意識、高齢社員をマネジメントするための実践的なノウハウを学べる研修です。ぜひご活用ください。 就業意識向上研修 検索 【P40-41】 江戸から東京へ [第95回] 私は胡蝶 蓮月尼(れんげつに) 作家 童門冬二 飛び出した弟子  慶応4(1868)年は、9月8日に改元されて「明治」となった。その2カ月前に「江戸」は「東京」と地名変更されていた。  しかし、蓮月尼は相変わらず幕末と同じような生き方をしていた。自分で土をこね、窯(かま)でそれを焼き、その前に自作の歌を彫り込むという作業である。そして、これを焼き物の市場に持って行って売った。その代金が、蓮月尼の生活費になった。一時期は、弟子入りをした富岡鉄斎(てっさい)が、土をこねたり窯で焼いたり、あるいは市場への持ち運びの労役を分担してくれた。しかしかれは、血の気の多い青年で国事に奔走(ほんそう)し、蓮月尼の脇に居ることにいたたまれなさを感じて、飛び出して行った。蓮月尼は、改元の日も、  (肩に羽の生えた鉄斎さんは、いまどこにいるのやら)  と、一人笑った。ところが、その鉄斎が戻って来た。  「お師匠さま、ずいぶん探しましたよ」  と、多少文句をいった。というのは、蓮月尼は屋越しの蓮月≠フあだ名通り、引越しばかりするからである。ここに落ち着くまでに、すでに岡崎、大仏、北白川、また岡崎、聖護院(しょうごいん)と転々とし、ようやく西加茂の神光院(じんこういん)の一間を借りたばかりだった。鉄斎が来たとき、ちょうど蓮月尼は一月初(しょ)っ端(ぱな)の鳥羽・伏見の戦い≠フ話を聞いたばかりだったので、戦った両軍の戦死者の弔(とむらい)の気持ちを含め、 「聞くままに 袖こそぬるれ道のべに さらす屍(かばね)は誰が子なるらん」  という歌を詠み、それをつくって市場に出すきびしょ(急須(きゅうす))に彫りつけたばかりだった。かつて取った杵柄(きねづか)で、窯から頃合いを見て焼いた物を取り出した鉄斎は、その歌をきびしょの表面で読んだ。  「あの戦(いくさ)のこともご存知でしたか」  そういう鉄斎に、蓮月尼は黙って頷いた。蓮月尼にとって、合戦は、「傍(そば)にいてほしい人を失う争い」であって、嫌いだ。だから、鉄斎が興奮して、新政府の味方をし、自分もその軍に加わろうと逸(はや)るのを、何度止めたかわからない。そのとき蓮月尼は訊いた。  「鉄斎さん、あなたにはいないんですか」  「何がですか」  「あなたに、どこにも行かずにここに居てくださいというお方です。そして、あなたもその人の傍から離れたくないというお人です」  「いませんねえ、そんな人は。いれば、こんな暮らしはしていないでしょう」  むくれた口調で鉄斎はそういった。しかし、蓮月尼はすでに知っていた。鉄斎には居てほしい人≠ェ存在するのだ。照れくさいので、そういう答え方をする。 帰ってきた弟子  それが気まずかったらしく、鉄斎はフイとどこかへ行ってしまった。しかし、また舞い戻って来た。  蓮月尼はこの年(明治元年)に、77歳になる。そして鉄斎も31歳になった。蓮月尼とは親子ほど年が違う。だから蓮月尼は鉄斎を、わが子のように可愛がってきた。が、暴れん坊で手におえない。  (何か、きちんとした生業(なりわい)に就いてくれればいいのに)といつも思う。  蓮月尼は、伊勢伊賀の藤堂家の名のある人の娘として生まれた。ただ母が京都三本木の花街の女性だったので、藩では認められず養女に出された。成人して、二度夫に死なれた。生んだ子も何人か失っている。しかし、彼女を養女にした知恩(ちおん)院の寺侍だった養父ができた人物で、いろいろな芸を仕込んでくれた。書・歌・陶芸・武術・舞・碁などおよそ芸と呼ばれるものはほとんど仕込まれた。そのなかで、独立した蓮月尼は、  「土を焼いて、生涯を送ろう」  と心を定め、三十三歳(二度目の夫と死別の日)以後は、一切縁談の話を受けつけなかった。自分の身を蝶に例え、次の歌を詠んだ。  「たちよらん かげもなつ野の草むらに 露をもとめて飛ぶこてふ哉」  自分の身を胡蝶に例えたのである。そして、孤独でも胡蝶のように生きていこう、生き抜こうと心を定め、未だにそれを守っている。  「今日を生きますか?」  と鉄斎が訊いた。市場へ焼いたばかりの陶器を売りに行くか、という意味だ。蓮月尼は頷いた。  「そうしないと、明日から困りますから」  「またまた、お師匠さまは冗談がきついです」  鉄斎は笑う。  市場への道を辿(たど)りながら、鉄斎がいった。  「お師匠さま、あのときはきちんとお話できませんでしたが、実はいます」  「何が?」  「わたしが居てほしいと思う人です。また向こうも私に居てほしいと思っております」  「そうだったの、それはよかった。安心しました」  蓮月尼はニコニコしながら、老顔に美しい笑みを浮かべて大きく頷いた。心が軽くなった。飛び出して行った鉄斎の身を案じて、ずっと思い悩んでいたからである。眠れない夜もあった。  「合戦は、居てほしいと思う同志を必ず引き離します。わたしには耐えられない。ですから、わたしは戦が嫌いです」  そう告げた言葉は、決して間違っていなかったと思っている。だからこそ、鉄斎も戦争に参加することなく、こうして舞い戻って来たのだ。 【P42-45】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第100回 福島県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構の65歳超雇用推進プランナー(以下「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 積極的な高齢者雇用と地域貢献で地元の業界を牽引 企業プロフィール 株式会社藤建(ふじけん)技術設計センター(福島県東白川郡) ▲創業 1978(昭和53)年 ▲業種  測量調査、土木・地質・調査設計管理、森林経営に関する調査管理、補償コンサルタントなど ▲社員数 37人 (60歳以上男女内訳) 男性(9人)、女性(1人) (年齢内訳) 60〜64歳 4人(10.8%) 65〜69歳 4人(10.8%) 70歳以上 2人(5.4%) ▲定年・継続雇用制度 定年年齢60歳。2020年度中に65歳に改定予定。平均年齢は45歳。最高年齢者は技術職の74歳  福島県は東北地方の玄関口、最南端に位置し、東京から約200q圏内と比較的往来しやすい距離にあります。全国で3番目に広大な県土を有し、県内は山脈と高地・山地によって「会津」、「中通り」、「浜通り」の3地域に分けられ、それぞれ地形・気候・交通・歴史などが異なります。  福島県の経済・産業は2011(平成23)年3月に発生した東日本大震災および福島第一原子力発電所事故の影響を大きく受けており、復興に向けた取組みがいまなお続いています。  当機構の福島支部高齢・障害者業務課の島津麻衣子課長は「現在、国家プロジェクトとして『福島イノベーション・コースト構想』が進められています。これは東日本大震災および原子力災害によって失われた浜通り地域の生活や産業を回復させるために、新たな産業基盤の構築を目ざすプロジェクトです。重点分野として廃炉、ロボット・ドローン、エネルギー・環境・リサイクル、農林水産業、医療関連、航空宇宙があげられており、各プロジェクトの具体化を進めています」と話します。  一方、福島県は全国新酒鑑評会における金賞受賞数7年連続日本一を更新し続けている日本酒王国でもあります。「7年連続の日本一は、震災直後の風評被害を払拭するために県内の酒蔵が一致団結し、品質を向上させてきた成果です。このようにさまざまな分野で復興に取り組み、さらに持続的成長に向けて挑戦している姿を県外のみなさんに見ていただければと思っています」(島津課長)。  同支部では企業診断システムのなかで、とりわけ「雇用力評価ツール」を活用しています。企業の現状を把握することができ、アドバイザー・プランナーが結果をもとにわかりやすくていねいな相談・助言を行っています。  今回は、同支部で活躍するプランナー・小針(こばり)俊郎(としろう)さんの案内で「株式会社藤建技術設計センター」をご紹介します。 国有地測量に強み、風力発電施設の許認可申請も  株式会社藤建技術設計センターは、1978(昭和53)年に創業した測量調査・建設コンサルタントの会社です。主に公共工事にともなう道路・河川・橋梁(きょうりょう)・森林などの測量から設計・開発許認可申請まで一貫したサービスを提供しており、特に国有林野関連の業務には長年の経験と実績があります。  また、「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン」に関連した風力発電施設の建設計画提案から、許認可取得申請といった一連の業務も請け負っています。  社員を「人財」として考える同社では、事業理念として「先進の技術の創造に努め、お客さまが満足する成果を提供し、社員の幸せを実現する企業創りを目ざします」と掲げています。この理念のもと、多様な人財が活躍できる職場環境の整備を進め、働く意欲や能力のある人財を年齢に関係なく雇用してきました。同社で働く高齢社員は先見性と経験によるヒューマンスキルを「強み」として活躍しています。 2020年度内に定年を65歳に  現在の定年制度は、定年60歳、希望者全員65歳まで継続雇用という、創業当時に制定したものです。しかし実際は、定年後も希望者全員を年齢上限なく継続雇用しており、実際の働きぶりに応じて給与を支払っていることから、定年前とほぼ変わらない水準が維持されています。このような状況に鑑(かんが)み、2020(令和2)年度内には定年年齢を60歳から65歳に引き上げ、継続雇用制度についても改めて整備する予定とのこと。給与や退職金の見直しについても進めています。  近藤松一(しょういち)社長は、高齢社員について次のように話します。  「実際のところ65歳の社員は、現役バリバリです。当社の仕事は知識と経験がものをいう技術の仕事ですから、熟練の経験者は会社にとって大切な財産です。今後も大事にしていきたいですね」  2019年7月に初めて同社を訪問した小針プランナーは、社内が明るい雰囲気であることを感じました。  「理念にもあるように、社員をとても大切にする会社です。すでに65歳以降の継続雇用を積極的に行っており、定年後の賃金も定年前とほとんど変わらないという待遇であったので、次のテーマは『高齢者の戦力化』と考え、高齢者のモチベーションアップにつながる施策に力点を置いた提案を行いました。  近藤社長は、今後、高齢者が増えてきたらどうするかという観点で、将来のあり方について検討されており、一般的に行われている給与を一律に下げることはせず、働きぶりと評価に応じた賃金制度をつくっていきたいということでした。そこで、65歳定年制と65歳超の継続雇用制度の規定化をすすめ、同時に、高齢者の仕事ぶりを反映した人事評価制度の構築を提案しました」  ヒアリングからスタートした小針プランナーの助言と提案は、現在進められている改訂作業の一助となったそうです。  また、同社は以前から、女性が活躍できる職場づくりに積極的に取り組んでいるほか、道路や河川の清掃活動といった社会貢献活動なども行っており、地域を牽引(けんいん)する企業とのこと。業績がよいこともこうした活動が関係しているのではないかと、小針プランナーは見解を述べていました。  今回は、藤建技術設計センターで技術者として働く方々に話を聞きました。 豊富な知見で周りをサポート  栗原順一さん(69歳)は、技術部技術第2課で、測量業務、調査業務などを行っています。正社員として週5日、フルタイムで勤務中です。東日本大震災の影響で、以前勤務していた製材会社が倒産し、知人のつながりから61歳のときに同社に入社しました。栗原さんは、当時の心境を茶目っ気たっぷりにふり返ります。  「測量は初めてでしたが、思ったより上達が早かったですよ。ただ体力面ではきつく、正直なところ、長くは続かないかもしれないと思いましたね」  測量は直線で測るため迂回することができず、川があれば渡り、手入れされていない樹木がおい茂る山も真っすぐに進まなくてはなりません。測量作業前に伐採や草刈りの作業が必要になるので、チェーンソー・刈払機(かりはらいき)取扱作業者の講習も受けているそうです。  たいへんな作業ですが、これまで訪れたことのない県内外の見知らぬ土地で仕事ができることも魅力なのだとか。  「裏方として、現場の社員が業務を楽しく、スムーズに遂行できるようにサポートすることがやりがいになっています。楽しく仕事をしていれば、きつい仕事も楽らくに思えてくるものです」  栗原さんは兼業農家なので、米の収穫時期には4〜5日間ほど有給休暇をとって稲刈りに集中しているそう。これからはさらに健康に留意して、生涯現役を目ざしたいと語りました。  栗原さんと測量の現場作業でコンビを組むことがある深谷(ふかや)岳史(たけし)さん(40歳)は、栗原さんについて次のように話します。  「栗原さんは明るくだれとでも気さくに話ができる人柄で、男女や年齢を問わず親しまれ、みんなから頼られています。現場作業では若手よりも元気ですね。知識が豊富なので、現場で不安定な斜面を登る際に、より安全なルートを素早く把握して提示してくれたり、現地の測量の際に、効率的に作業を進めるためのアドバイスをしてくれます。急傾斜地で作業する際は、安全のためのロープの張り方などを教えてくれ、助けてもらっています。当社になくてはならない存在です」  生田目(なまため)善男(よしお)さん(65歳)は、開発部開発課に所属。県内外で進められている風力発電の風車施設計画の書類作成業務を担当。正社員として、週5日、フルタイムで勤務しています。建設会社に長年勤めた経験があり、東日本大震災の災害復旧作業にたずさわったことをきっかけに藤建技術設計センターに入社しました。入社以降、福島県が行う除染事業に出向していましたが、2019年に本社に戻り、現在の部署に配属されました。  「仕事の内容がガラリと変わり、とにかく職場に慣れることが肝要だと思っています。風力発電という特殊な業務ですので、風車の専門的な事柄について覚えることがたくさんありますね」  慣れない仕事に取り組むうちに、パソコンの操作はむずかしいながらも、一つひとつできるようになるのが楽しいと感じているそうです。  「日々の作業を通してスキルを少しずつでも伸ばしていくことを続けていきたいですね」(生田目さん)。  同じ職場で働く小室(こむろ)尚隆(なおたか)さん(27歳)は、生田目さんの仕事ぶりについて、次のように話します。  「生田目さんは決められた仕事や頼まれたことにきちんと対応されています。専門性の高い内容を学ばなくてはならずたいへんだと思いますが、新しい技術にもチャレンジし、自分から積極的に質問をされ、その前向きな姿勢を尊敬しています。私よりずっとたくさんの経験がある方なので、いろいろと教わっていきたいです」  社員を「人財」として大切にする藤建技術設計センターでは、事故予防と社員の健康維持のために、職場環境の整備にも注力しています。2020年4月に落成した増築部分の社屋は、三階建てですがエレベーターがあり、階段には手すりをつけて高齢社員に配慮しました。  健康維持の取組みとしては、スマートフォンのアプリケーション「ふくしま健民アプリ」を活用し、日々の歩行活動を社員に推奨しています。福島県が実施している「『元気で働く職場』応援事業※」にも参加することが決まっているそうです。  最後に、近藤社長は、「山崩れなど森林災害の誘発原因になっている放置された森林の整備(森林事業)に力を入れ、整備によって産出される間伐材(かんばつざい)を活用したバイオマス促進事業も展開していきたいですね」と、今後の新たな目標について話してくれました。 (取材・西村玲) ※ 「『元気で働く職場』応援事業」……県内各方部で県保健福祉事務所が核となり、市町村、職域保健などと連携しながら、モデル事業を選定し、事業所における健康づくりを支援する事業 小針俊郎 プランナー(70歳) アドバイザー・プランナー歴:5年 [小針プランナーから] 「中小企業診断士、社会保険労務士、行政書士、第一種衛生管理者の資格を活かし、助言・提案を行っています。訪問企業によっては『役所からの訪問』というイメージでとらえ、構えてしまうこともあると思います。緊張をほぐし、安心していただくために、はじめの一言に気を遣い、笑顔での対応を心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆福島支部高齢・障害者業務課の島津課長は、「小針プランナーは、訪問先の企業の雰囲気を敏感に感じ取ることができる方です。多種多様な企業の、それぞれの社風や実状に合わせたアプローチで、企業の抱えている課題について分析し、的確な相談・助言に取り組んでいます」と話します。 ◆福島支部は、JR福島駅西口から北に徒歩8分のところにあるポリテクセンター福島のなかにあります。全国に所在する当機構の施設において、支部直轄組織、ポリテクセンター福島、福島障害者職業センターの3施設が同一敷地内に集約されている唯一の施設です。 ◆8人の65歳超雇用推進プランナーおよび高年齢者雇用アドバイザーが在籍し、県内の事業所訪問を通じて高齢者雇用に関する相談・援助業務を行っています。2019年度は587社にアプローチし、そのうち116社に制度改善を提案しました。 ◆相談・助言を無料で実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●福島支部高齢・障害者業務課 住所:福島県福島市三河北町7-14 ポリテクセンター福島内 電話:024(526)1510 写真のキャプション 福島県東白川郡 今春に完成したばかりの3階建て社屋はバリアフリー設備を完備 近藤松一社長 測量・調査業務を中心に活躍している栗原順一さん 新しい仕事にも前向きにチャレンジしている生田目善男さん 【P46-49】 高齢社員の賃金戦略 学習院大学名誉教授 学習院さくらアカデミー長 今野(いまの)浩一郎  高齢者雇用を推進するうえで重要な課題となるのが高齢社員の賃金制度です。豊富な知識や経験を持つ高齢社員に戦力として活躍してもらうためには、高齢社員の能力や貢献を適切に評価・処遇し、高いモチベーションを持って働いてもらうことが不可欠となります。本連載では、高齢社員戦力化のための賃金戦略について、今野浩一郎氏が解説します。 第4回 日本型賃金の現状と行方 1 はじめに〜賃金の決め方を変える二つの力〜  前回は「賃金決定の基礎理論」について説明したので、これからは、その道具をもって「あるべき賃金」を検討します。まずは定年前の正社員の賃金についてです。連載で問題にしている高齢社員の多くが正社員から非正社員に転換するものの、定年をはさんで雇用を継続している社員であるため、定年後の賃金は定年前とどのように関連づけて決定するかが問われるからです。  正社員の賃金は徐々にですが確実に変化してきました。そのため正社員の賃金は、現状とともに変化の方向も把握し、高齢社員の「あるべき賃金」はこの現状と変化の方向の両者を念頭にいれて考える必要があります。  ではなぜ、賃金は変わりつつあるのか。これまで説明したように社員の仕事の内容や働き方は、会社の「こう働いてほしい」という社員に対するニーズ(つまり労働サービスの需要構造)と、「こう働きたい」という社員のニーズ(労働サービスの供給構造)をふまえて決まります。さらに社員に対する需要構造は会社の経営の考え方や戦略に、供給構造は社員の生活やキャリアに対する考え方に規定されます。例えば、いまある商品やサービスを顧客に間違いなく届けることを重視する経営をとるのであれば、会社は社員には決まった手順に沿って間違いなく働くことを求めることになりますし、仕事と生活の両立を図ることを重視するのであれば、社員は生活の事情に合わせて柔軟に働くことを求めます。  賃金はこうして決まった仕事の内容や働き方に合わせて決定されるので、賃金の決め方は労働サービスの需要構造あるいは供給構造が変わると変化することになります。つまり、この二つが賃金の決め方を変える力なのです。 2 現状の賃金の決め方を確認する  わが国の企業の賃金の決め方は、勤続年数を積むにしたがって賃金が増える年功賃金であるといわれてきましたが、それでは賃金の決め方を正確に表したことになりません。それは、賃金を成果と関係なく勤続年数にリンクして決めたのでは、企業は経営を維持することがむずかしいからです。わが国の企業が長期にわたって年功賃金をとり、そのもとで経営を維持できた背景には次のことがあります。  社員は勤続を積むほどに、多くの訓練と仕事を経験し能力を高めるので、より大きな成果をあげることが可能になります。その向上した能力に合わせて賃金を決めるのが年功賃金なので、賃金は成果とリンクして決まることになります。このことがあるので、いま多くの企業は、社員の能力に合わせて賃金を決める、年功賃金の一タイプである職能給をとっているのです。  さらに、向上した能力は将来にわたって発揮され成果に結びつく、つまり能力が向上した時点とそれが成果に現れる時点がずれるので、年功賃金のもとでは、時点、時点でみると賃金と成果は一致しないことになります。それをモデル的に示すと図表1になります。そこでは賃金は年齢とともにS字型に上昇する、社員の貢献度(つまり成果)は年齢とともに上昇するが年齢が高くなると停滞する、ということが想定されています。  まず若手社員の時代は訓練期にあたるため賃金が成果を上まわります。両者の差にあたる「A」は会社が、教育のために負担する費用にあたります。次の中堅社員になると、訓練期に獲得した能力を発揮して成果は向上しますが、賃金はそれより低い水準に設定されます。そのため成果は「B」の部分だけ賃金を上まわることになります。さらにシニア社員になると、賃金は上り続けますが成果は停滞するので、賃金は成果より「C」だけ多く払われます。  ここで重要なことが二つあります。第一は、賃金が成果を上まわる(いわば、社員が会社から借りた)「A」+「C」と、成果が賃金を上まわる(社員が会社に貸した)「B」が等しくなるように賃金が設定されていることです。ですから図表1では、「B=A+C」を会社と社員の間の貸し借りが等しくなる「長期決済条件」と呼んでいます。さらに以上のことは、賃金が入社から定年までの長い期間のなかで成果にリンクして決定されることを示しています。これが年功賃金の最も重要な点です。  第二は、図表1をみて分かるように、定年時の賃金が成果を上まわる、つまり定年時には成果を上まわる賃金が支払われていることです。このことは、定年後の高齢社員の賃金は、少なくとも、この上まわる部分だけ削減する必要があることを示しています。高齢社員の賃金を考える際に考慮すべき重要な点です。 3 賃金の決め方を変える二つの力 ■会社が求めること  こうした年功賃金は、前述した二つの力によって変化しつつあります。まずは会社が社員に求めること、つまり労働サービスの需要構造の変化です。会社はこれまでにも増して変化が速く、不確実性の大きい市場環境の下にあります。そのため、これまでと同じように社員を教育し、能力の向上を図っても、能力が将来にわたって成果に結びつくことがむずかしくなり、能力に対して払われる賃金と成果の間に乖離(かいり)が発生するようになります。  このことは人材投資の観点からみると、次のようになります。成果の出る前に能力に対して賃金を払うことは一種の人材投資です。人材投資は設備投資や研究開発投資と同じように、市場環境の不確実性が大きくなると、成果に結びつかない可能性が大きくなります。その結果、能力に対して払った賃金(つまり人材投資)と成果の間に乖離が起こるということになります。  このことは、管理職レベルの職能資格に格づけされ、高い給与をもらっているにもかかわらず、管理職レベルの仕事に就くことができない多くの中高年社員が登場している、という現象に典型的に現れています。企業はこれに対応するため、能力より成果に直結する仕事の重要度を重視して賃金を決める傾向を強めます。管理職レベルの社員を中心にして、能力重視の職能資格制度と職能給に代わって仕事重視の役割等級制度と役割給をとる企業が増えているのはそのためです。これが人事管理や賃金の決め方の成果主義化です。 ■社員が求めること  社員の「こう働きたい」という労働サービスの供給構造の変化も賃金の決め方を変える大きな力になっています。これまでの人事管理は、正社員は会社の指示にしたがって働く場所、働く時間、仕事内容を柔軟に変えることのできる社員(これを「無制約社員」と呼ぶことにします)であることを前提につくられてきました。しかし、家事・育児、介護などの生活上の都合と両立を図りながら働くこと、つまり働く場所などに制約のある、多様な働き方を希望する社員(これを「制約社員」と呼ぶことにします)が増えています。  しかし、正社員は無制約社員であることを前提とする従来型の人事管理では、育児・介護に苦労する社員が仕事との両立に苦労していることから分かるように、制約社員の有効活用を図ることはできません。そうなると企業は多様な働き方に対応できる賃金の決め方をとることが必要になり、転勤のある総合職に対して転勤のない一般職の賃金をどうするのか、正社員に対してパート社員の賃金をどうするのかなどについていろいろな工夫をしてきました。  そうした工夫のなかの成功例をみると、共通することがあります。それは、年功や能力ではなく仕事の重要度を重視する賃金の決め方をとっていることです。そうなると多様な働き方を求める制約社員を有効に活用するには、正社員の賃金の決め方を能力重視から仕事重視に変えることが必要になります。 4 「これからの賃金」のモデル  最後に、これからの賃金の決め方がどうなるかを具体的に考えてみます。まずは、考える際にふまえるべき二つのポイントがあります。  第一のポイントは、これまで説明してきたように、会社の求めることからみても、社員の求めることからみても、賃金の決め方は年功賃金から仕事重視の成果主義型の賃金に転換しなければならない、ということです。  第二のポイントは、図表1で若手社員を訓練期としたように、わが国の企業が、職業経験のない若手社員を一人前の職業人に育てるという人事管理をとっていることです。これは日本型の人事管理の最も重要な部分であり、これからも維持されるべきと考えられます。そうなると、この訓練期はどのような仕事につき、どの程度成果を上げたのかより、能力をどの程度向上できたのかが重要になるので、賃金は能力に基づいて決めることが合理的になります。  このようにみてくると、賃金を仕事重視で決めることと、訓練期には能力重視で決めることを組み合わせた賃金の決め方を設計する必要があります。具体的には、若手社員には訓練期であることから職能給などの能力重視の賃金、それ以降は役割給などの仕事重視の賃金とするというのが賃金の決め方のこれからの方向になり、それをモデル的に示すと図表2になります。  その際には、能力重視の賃金から仕事重視の賃金にいっきに移行するという方法もありますし、段階的に移行するという方法もありますが、シニア社員にあたる管理職あるいは管理職相当の社員には仕事重視の賃金を適用することが求められます。そのため図表2に示すように、シニア社員の賃金は成果と一致するように決める必要があります。管理職などに年俸制や役割給を適用する企業が増えていますが、それは、ここで示した変化の方向に沿った対応といえます。  ここで図表1と図表2を比べてください。どちらの場合も若手社員は訓練期ととらえているので、企業が教育のために負担する「A」に違いはありません。しかし図表2では図表1にある「C」がなく「A=B」が長期決済条件になるので、「B」は図表1より小さくなります。このことは成果主義型の賃金は、年功賃金に比べて中堅社員の段階では上昇が急になり、シニア社員になると停滞するという特徴をもちます。  これまで説明した変化の方向は、高齢社員の賃金を考えるにあたって注意すべき重要なことを示しています。管理職などのシニア社員の段階では賃金は成果に見合って決定されるので、定年時の賃金が図表1の年功賃金と異なり成果を上まわる水準に設定されるということはありません。ですから現役社員の賃金が年功賃金であるのか、成果主義型の賃金であるのかによって、定年後の高齢社員の賃金の決め方は異なることになります。このことは高齢社員の賃金を具体的に設計する際に重要なので、忘れないようにしてください。 図表1 年功賃金のモデル図 (賃金/貢献度) 長期決済条件 B=A+C 貢献度(成果) 賃金 入社 若手社員 中堅社員 シニア社員 定年 A B C 図表2 成果主義型賃金のモデル図 長期決済条件 A=B 貢献度(成果) 賃金 入社 若手社員 中堅社員 シニア社員 定年 A B 【P50-53】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第29回 公益通報者保護法の改正、テレワーク導入時の留意点 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 Q1 公益通報者保護法の改正について知りたい  公益通報者保護法が改正されたようですが、改正された点はどんなところでしょうか。何か準備しておかなければならないことはありますか。 A  公益通報者として保護される対象について、労働者、派遣労働者や一定の範囲の業務受託者に加えて、役員や退職者の一部などが加わります。  また、300人を超える企業については、公益通報窓口の設置などの体制整備が義務化されたため、公益通報窓口の設置などを準備しておく必要があります。なお、300人以下の企業においても、努力義務とされています。 1 公益通報者保護法について  改正公益通報者保護法が、2020(令和2)年6月12日に公布されました。施行時期は、そこから2年を超えない範囲で、政令で定める日とされていますので、公布から2年以内には、改正法が施行される予定です。  公益通報者保護法は、企業の内部にいる者が企業の不祥事や不正などを把握した場合などに、当該不正などの是正を進めていくためにそのための窓口へ通報しやすくすることで、通報者の保護を図り、各種法令の遵守をうながすことが目的とされています。  とはいえ、あらゆる通報を保護してしまうと、法令などの遵守とは離れた形で苦情や不満の受け皿となってしまい、企業としても適切に取り扱うべき通報以外の対応に追われることになってしまいます。  そのため、公益通報の対象となる通報対象事実は、法律や政令で特定されています。また、通報者は、労働者や派遣労働者、請負契約などに基づき役務提供している事業者が掲げられていたほか、今回の改正で役員や退職して1年以内の労働者も通報者に加えられています。  通報先は、自社(いわゆる内部通報窓口)以外に、あらかじめ定めた者(いわゆる外部通報窓口)のほか、一定の事由がある場合には、規制権限を有する行政機関や被害拡大防止に必要と認められるもの(報道機関など)があげられています。今回の改正においては、行政機関や報道機関などへの通報に必要な事由が緩和されました。  通報者の保護については、通報者に対する解雇や契約解除の無効、不利益取扱い(降格、減給、退職金の不支給など)が禁止されています。新たに改正で通報者に加えられた役員については、解任された場合の損害賠償請求権を確保するという方法で保護を図っています。  通報者保護の実効性を図る観点から、行政機関からの勧告や命令に加えて、違反者に対する公表措置が明文化されたほか、通報者の特定に関する守秘義務を強化して罰則による規制も加えられました。 2 通報対象事実について  ありとあらゆる通報について、公益通報として扱う必要があるわけではありません。公益通報の通報対象事実は特定されています(法第2条第3項)。  主な通報対象事実は、個人の生命、身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保にかかわる規制として、罰則が定められた法令を根拠としています。  刑法(傷害罪や横領罪など)は当然ながら、金融商品取引法(インサイダー取引など)、個人情報保護法(個人情報の漏えいなど)が定められているほか、労働基準法や各業法による規制なども幅広く定められています。  自社が行政から規制される根拠法がある場合には広く含まれると考えておく必要がありますが、犯罪行為であり罰則が定められているものに特定されている点には、留意する必要があります。 3 通報先の選択について  通報対象事実に関する通報先については、大きく分けると以下の3種です。 @自社(内部通報窓口)または自社が指定したもの(外部通報窓口) A規制権限を有する行政機関 B拡大防止に必要と認められるもの(報道機関など)  通報先については、@〜B記載の通りとなりますが、今回の改正で、A、Bに対する通報の要件が緩和されました。  まず、Aについては、通報者の氏名、住所、通報対象事実の内容とその発生した、またはまさに生じようとしていると思料する理由、適切な措置が取られるべきと思料する理由を明記した書面または電磁的方法※により明記して提出することで、保護されることになりました。  次に、Bについても、公益通報者を特定させるものであることを知りながら、正当な理由がなく、役務提供先が情報を漏らすと信ずるに足りる相当な理由がある場合に、報道機関などへ通報できることとなりました。公益通報者は、匿名であっても保護されなければならず、また、公益通報者が特定されないように配慮することが必要とされますが、それが守られないという懸念を抱いている場合には、完全な第三者である報道機関などへの通報が可能となっています。 4 内部通報者を特定させる情報に対する守秘義務  これまでは、法律上の義務としてではなく、プライバシーおよび不利益取扱いの防止の観点から、「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」において、通報者の特定に資する情報の管理に対する配慮が求められていましたが、法律上の義務とまではされていませんでした。  今回の改正では、この点が、法律上の義務として位置づけられ(法第12条)、さらに違反者に対しては罰則まで定められています(法第21条)。この点は、前述の特定が維持されない場合の報道機関などに対する公益通報の要件とも共通しますが、通報者の匿名性の維持、特定させないことなどが、通報者による制度利用の障害排除につながることが意識されているものと考えられます。 5 必要な体制の整備について  改正公益通報者保護法においては、常時使用する労働者が300人を超える事業主においては、以下の2点を遵守することが法律上の義務となりました。 @公益通報に対応する業務に従事する者を定めること。 A公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を取ること。  常時使用する労働者が300人以下の事業主においては、これらの事項について努力義務にとどめられていますが、従事者の指定および窓口の設置を行っていないとしても、内部通報があった場合には公益通報として取扱い、適切に対応する必要があることには相違ありません。また、報道機関などに対する公益通報の要件が緩和されたこととの関係でいえば、体制の整備がなされていないことは、匿名性の確保に関して、通報者の特定に資する情報が守られないと考える理由の一つにはなりえるとも考えられます。  そのため、今回の公益通報者保護法の改正が、300人以下の事業主にとって無関係なわけではありません。自社内にて公益通報に対応できる準備は整えておくか、外部の窓口を指定しておくことが望ましいでしょう。 ※ 電磁的方法……パソコンなどの電子計算機で処理可能なデジタルデータのこと Q2 テレワーク導入時の留意点について教えてほしい  テレワークを導入しようと考えていますが、どこから手をつけたらよいのかわかりません。どういった手順で進めていけばよいのでしょうか。 A  テレワーク導入にあたっては、就業規則の整備が基本ですが、そのほか一斉休憩除外のための労使協定も必要になることが多いでしょう。  就業規則に、就業場所の変更、就業時間の変更がある場合を含め、テレワークにかかる費用負担に関する点などを定めて準備を進めましょう。 1 テレワークと就業場所の指定について  テレワークの実施にあたっては、テレワークに関する規程が定められるなど、テレワーク導入時の業務内容について、労使間のルールを定めた状態で開始することが通常です。  例えば、厚生労働省が公表している『テレワークで始める働き方改革 テレワークの導入・運用ガイドブック』(以下、「ガイドブック」)には、テレワークを導入する場合には、就業規則にテレワーク勤務に関して規定しておくことが必要であると記載されています。  テレワーク実施にあたって、就業規則に定めておくべき事項として、ガイドブックでは、テレワークを命じることに関する規定、テレワーク用の労働時間を設ける場合の規定、通信費などの負担に関する規定を定める必要があるとされています。  これらについては、テレワークの実施は就業場所の変更を意味するため、これを命じるためには、例えば「就業場所を事務所のみとする」といった、就業場所の限定がないこと(ある場合には合意で解除または変更すること)、変更を命じる根拠となる規定を定めておく必要があります。  また、労働基準法第89条においては、就業規則の絶対的または相対的必要記載事項が定められており、始業および終業の時刻や休憩時間、作業用品などの負担に関する事項などがこれらに該当します。そのため、これらのルールを定める場合には、テレワークに関する規程を定め就業規則として周知・届出が必要となります。 2 テレワークと情報管理について  テレワークは、就業場所の変更をともなう一方で、ルールを定めておかないと制約なく業務ができる体制になってしまうことも意味しており、企業にとっては情報がさまざまな場所で管理され、拡散されるおそれが出てきます。  ガイドブックにおいても、情報管理のためのICT環境の構築などが案内されており、企業にとっての情報管理の重要性は意識されています。こちらでは、技術的な側面からのセキュリティに対する助言が記載されています。  技術的な側面も重要ですが、人為的な側面として、就業場所の限定をいかなる基準で設定していくかという点も重要です。例えば、自宅以外の場所として、近隣のカフェなどで勤務する場合には、Web会議における内容が周囲に漏えいするおそれがあり、企業の情報管理に関する課題が現れてきます。こういった側面は技術的な情報管理の側面で解決できるものではなく、就業場所をいかに限定するかという点と関連してきます。  典型的には、在宅勤務(自宅のみでテレワークを許可する)、サテライトオフィス勤務(企業が用意した施設での勤務を許可する)、モバイルワーク(いかなる場所でもテレワークを許可する)といった3種に分類されています。情報管理の側面からすると、在宅またはサテライトオフィス勤務の方が情報管理は容易といえるでしょう。モバイルワークで行う場合には、外部で利用できるソフトウェアの制限や必要以上の情報に接することができないようにアクセス制限を行うなど、技術的な管理も併用しながらも、漏えいや紛失などを防止するためのルールづくりも重要となってきます。 3 労働時間(労務提供)の管理について  在宅勤務を始めたけれども十分な労務提供を行わないおそれがある(心配である)など、これまでのように会社に集まって仕事をしているときとは異なる懸念があります。  労働時間の把握は正確に行う必要がありますので、その方法も準備する必要があります。通常の勤務と比較すると、中抜けが生じやすくなり、業務効率が下がって残業が増える(逆に、効率が上がって残業が減少する場合もあります)など、実際に実施してみるとさまざまな変化も見えてくるかと思います。労働基準法に基づき休憩時間についても一斉付与が原則ですが、集合しているわけではないため一斉休憩は現実的ではなく、労使協定を締結して適用を除外しておく方が適切でしょう。  また、テレワーク中の労務提供が十分に行われるか否かという点は、これまでの労働環境からの大きな変化であることから、労使間の信頼関係のみでは解決できない側面もあり、如何なる方法であれば、相互に納得できる制度として構築できるのかという点は重要な観点です。  常時監視するためのシステムを導入することがよいのか、業務効率が上がるようなシステムを導入したり、時間以外に業務の成果を見える化することで相互の不満が生じないような就業状況をつくるなど、自社に合った方法を導入することが重要でしょう。  労働時間の管理については、過重労働が生じないようにすることが目的であると割り切って、労務提供の成果などについては、日々の業務について日報を提出させて、翌日に行う業務の整理も前日(またはそれよりも前)に行っておくように習慣づけることで、業務の効率化と成果の把握を実現できるようにしていく方法も一案です。  長期的にテレワークを実施する場合には、人事考課の際に定性的な評価がむずかしくなるおそれもあるため、そういった評価に必要な情報を集めるためにも、離れているからこそWebでの会議などを通じて、コミュニケーションが欠落しないように配慮するよう意識することも重要でしょう。 【P54-55】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第5回 「賃金カーブ」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者ならおさえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  第5回目は「賃金カーブ」です。賃金カーブは、日ごろ聞きなれない用語かもしれません。図表を見るとわかりやすいですが、横軸が年齢、縦軸が給与の水準を示したものです。年齢や勤続年数に応じた給与の上昇傾向といえます。 賃金カーブの基本は右肩上がり  年齢や勤続年数を重ねると、給与は上昇していくものというのが一般的なイメージですが、それが本当かと疑問に思ったことはないでしょうか。あたり前のことのようですが、実はこの問いは、筆者がまだ駆け出しコンサルタントのころに、お客さまから受けたものです。それまで給与は年を重ねると上がるもの≠ニ思い込んでいたため、答えに窮きゅうした覚えがあります。  実は年齢や勤続年数によって賃金カーブが上昇するのは、一部の属性といわれています。図表を見ていただくと一目瞭然ですが、男性は50代半ばまで上昇しますが、女性の上昇傾向は明確ではありません。誌面の都合上、いろいろなグラフを載せることはできませんが、例えば、いわゆる正社員は上昇傾向ですが正社員以外は横ばい、金融・保険業は大きく上昇傾向ですが、サービス業関連は緩やかな上昇になっています。関心のある方は「令和元年賃金構造基本統計調査の概況」(厚生労働省)を見ていただくと、複数の切り口で賃金カーブのグラフが掲載されており、傾向が把握できると思います。給与が上昇するというのは男性・正社員・一部の企業にはいえることですが、他の属性では必ずしもそうではないということが分かります。  人事の世界では、一般的にイメージされていることと実態が必ずしも一致しないことがありますが、その一例といえます。一方でイメージ通りなのは、男性のグラフで比較するとわかりますが、20年以上前と比較して、全般的に賃金カーブは低い水準にあります。これは、バブル経済崩壊以降に男性の雇用形態が正社員以外に分散したことや、次に述べる昇給やベースアップを抑制してきたことが影響しています。 給与はなぜ上がるのか  傾向を把握したところで、賃金の上がる方法について説明します。大きな要素は「昇給」、「ベースアップ(ベア)」、「最低賃金の改定」の三つです。「昇給」は、能力レベルの向上や年間の勤続に報いて給与が一定額(率)増える仕組みをさします。年に1回行われることが多いため「定期昇給」と呼ばれることもあります。昇給のある会社では一般的には給与の最大額と最小額を定めた「給与テーブル」があり、その範囲内で給与を上げていくことになります。  次の「ベースアップ」は、給与テーブル自体を底上げする行為です。テーブル自体が引き上げられるので、適用される社員も全員、同額(率)上がるのが基本です。日本経済団体連合会(経団連)が公表している「昇給・ベースアップ実施状況調査結果」(2019年)を見ると、2013(平成25)年まではベースアップはほぼ実施されていませんが、2014年以降は調査企業の半数程度がベースアップを実施しています。ベースアップの本来の目的である物価上昇への対応が、長引くデフレ経済により不要になっていましたが、2014年以降は成長戦略の一環として政府主導で推進されたことに起因しています。  最後に「最低賃金の改定」です。最低賃金は1時間あたりの給与(時給)の最低額を示したものであり、毎年10月に改定されるのが通例となっています。基本は都道府県別に定められ、一部産業別に定められています。2019(令和元)年10月の改定では、全国加重平均では874円から901円へと約3%のアップでした。2018年10月の改定も同様の傾向であり、先述の経団連調査によると昇給・ベースアップなどを合わせた給与の引き上げが2%程度であるのに対し、毎年比較的高い推移での見直しが図られています。しかし、本稿を執筆している8月時点では、2020年の改定は新型コロナウイルスによる景気悪化の状況を受けて、現状程度にとどまることが想定されています。 高齢者雇用と賃金カーブ  最後に高齢者雇用と賃金カーブの関係について見ていき、本稿を締めくくりたいと思います。図表を見ていくと、50代半ばをピークにカーブが引き下がっています。これは後進に道を譲ることを目的に役職を外れ、その分の給与が減額される「役職定年」や、昇給停止の制度が50代に設けられていることなどが要因となっています。  また、図表のグラフからは読み取れませんが、60歳でカーブが落ち込み、それ以降は横ばいになっています。60歳以降の雇用は約8割の会社が1年更新の再雇用制度を採用しており、雇用の継続性がない前提で、昇給制度を設けていないことに起因しています。モチベーションの観点や、ほかの年齢層との公平性の観点から、これらの施策をあらためるべきとの意見がある一方で、今後のさらなる雇用延長を見据えると、人件費全体の検討が必要です。  そのため、カーブの上昇を緩やかにする分、高齢者雇用における水準落ち込みも緩やかにするカーブ全体の見直しに取り組んでいる会社も増えてきています。 ☆  ☆  今回は「賃金カーブ」について解説しました。次回は、高齢者雇用においても必要性が高まっている「人事評価」について取り上げる予定です。 図表 性別、年齢階級による賃金カーブ 各調査年の男女計「20〜24歳」の平均所定内給与額=100 男性1976年 男性2019年 女性2019年 女性1976年 女性1995年 男性1995年 注1:1976年、1995年、2019年の各調査年での男女計の「20〜24歳」の平均所定内賃金額を100としたときの各年齢階級の平均所定内給与額をあらわしている 注2:19歳以下と60歳以上では調査年により年齢階級区分が異なるため、労働者数ウェイトを用いて区分を統合した値を推計した 出典:労働政策研究・研修機構(資料出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0405.html 【P56】 日本史にみる長寿食 FOOD 324 免疫力を高める「赤まんま」 食文化史研究家● 永山久夫 新月と満月には赤まんま  小豆(あずき)は、赤い色に特徴がある豆で、縄文時代の遺跡から出土するほど古くから食用に用いられてきました。『古事記』や『日本書紀』にも、悪霊除けの聖なる豆として登場します。  神社の鳥居が朱色にしてあるのも、災いが入り込むのを防ぎ、けがれのない聖域を維持するためといわれています。  小豆の赤い色は、日本人にとって、神聖な色であると同時に、流行病(はやりやまい)などに負けない疫病除けの力のこもった守護色でした。  ついこの間まで、日本各地の農村地帯には、毎月一日と十五日には「赤まんま」と呼ぶ小豆ごはんを炊き、神さまにお供えしてから家族そろって食べる習慣がありました。  農作業などで働きづくめの疲れた体を元気にし、同時にインフルエンザなどにかからないように免疫力を高めるために大切な行事だったのです。  一日と十五日というと、旧暦では新月と満月にあたります。月の満ち欠けを目安に小豆ごはんを食べることによって、体内のメンテナンスをする日本人の知恵といってよいでしょう。 現代人に必要な小豆の栄養成分  小豆には、疲労回復に役立つビタミンB1がたっぷり。脳のエネルギー源は主として、ごはんなどに多い炭水化物ですが、そのスムーズな代謝に欠かせないのがビタミンB1。情報化時代の勝者になるために欠かせないのが記憶力と発想力。「赤まんま」の時代がきたのです。  このビタミンが不足すると、イライラしたり無気力になったりするだけではなく、記憶力の低下につながりかねません。小豆には強い抗酸化作用があり、老化の進行やがんなど病気の原因となる活性酸素を消去する力が強いことで知られています。  若返り成分として注目のビタミンE、お肌の若々しさを保つナイアシン、認知症予防が期待される葉酸と、ビタミンB1以外にも、長寿成分がたっぷり。  食物繊維も多く、小豆100g中に約18gもあり、腸内の善玉菌を増やして体全体の免疫力を高めるうえでもとても役に立ちます。「赤まんま」は、超高齢化時代の「理想のごはん」と呼んでもよいでしょう。 【P57】 10月は「高年齢者雇用支援月間」 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 地域ワークショップのご案内  当機構では各道府県支部が中心となり、生涯現役社会の実現に向けた「地域ワークショップ」を開催します。事業主や企業の人事担当者などの方々に、高年齢者に戦力となってもらい、いきいきと働いていただくための情報を提供します。各地域の実情をふまえた具体的で実践的な内容ですので、ぜひご参加ください。 概要 日時/場所 高年齢者雇用支援月間の10月を中心に各地域で開催 カリキュラム (以下の項目などを組み合わせ、2〜3時間で実施します) ●高年齢者雇用対策関連法【70歳までの就業機会の確保など】 ●専門家による講演【高年齢者雇用に係る現状や各種施策など】 ●事例発表【先進的に取り組む企業の事例紹介】  など 参加費 無料(事前の申込みが必要となります) 開催スケジュール 下記の表をご参照ください ■開催スケジュール 都道府県 開催日 場所 北海道 10月23日(金) 北海道職業能力開発促進センター 青森 10月22日(木) 青森職業能力開発促進センター 岩手 10月20日(火) いわて県民情報交流センター 宮城 11月13日(金) 宮城職業能力開発促進センター 秋田 10月22日(木) 秋田テルサ 山形 10月20日(火) 山形国際交流プラザ 福島 10月22日(木) 福島職業能力開発促進センター 茨城 10月16日(金) ホテルレイクビュー水戸 栃木 10月22日(木) とちぎ福祉プラザ多目的ホール 群馬 10月22日(木) 群馬職業能力開発促進センター 埼玉 10月26日(月) 埼玉教育会館 千葉 10月14日(水) 千葉職業能力開発促進センター 神奈川 11月6日(金) 関東職業能力開発促進センター 富山 10月27日(火) 富山県民共生センターサンフォルテ 石川 10月1日(木) 石川県地場産業振興センター 福井 10月27日(火) 福井県中小企業産業大学校 山梨 10月28日(水) 山梨職業能力開発促進センター 長野 10月20日(火) ホクト文化ホール 小ホール 岐阜 10月19日(月) じゅうろくプラザ 静岡 10月28日(水) 静岡職業能力開発促進センター 三重 10月26日(月) 四日市ユマニテクプラザ 滋賀 9月18日(金) 草津市立市民交流プラザ 都道府県 開催日 場所 京都 10月5日(月) 京都労働局6F 会議室 兵庫 10月22日(木) 神戸市教育会館 大ホール 奈良 10月26日(月) ホテル・リガーレ春日野 和歌山 10月16日(金) 県民交流プラザ 和歌山ビッグ愛 鳥取 10月30日(金) 鳥取職業能力開発促進センター 島根 10月21日(水) 島根職業能力開発促進センター 岡山 10月21日(水) ピュアリティまきび 広島 10月9日(金) 広島職業能力開発促進センター 山口 10月29日(木) 山口職業能力開発促進センター 徳島 10月29日(木) 徳島県JA会館 香川 10月21日(水) サンポートホール高松 10月22日(木) 四国職業能力開発大学校 愛媛 10月8日(木) 愛媛職業能力開発促進センター 高知 10月22日(木) 高知職業能力開発促進センター 佐賀 10月23日(金) 佐賀市文化会館イベントホール 長崎 10月14日(水) 長崎県庁 大会議室 熊本 10月26日(月) くまもと県民交流館パレア 大分 11月2日(月) トキハ会館 宮崎 10月21日(水) 宮崎市民文化ホール 鹿児島 10月28日(水) 鹿児島サンロイヤルホテル 沖縄 10月21日(水) 那覇第2地方合同庁舎 各地域のワークショップの内容は、各道府県支部高齢・障害者業務課(65頁参照)までお問合せください。 ※上記日程は予定であり、新型コロナウイルス感染症の拡大等にともない、開催日時などに変更が生じる場合があります。変更のある道府県は、決定次第ホームページでお知らせします。 jeed 生涯現役ワークショップ 検索 【P58】 BOOKS 産業医と弁護士が、適切な対処法と豊富な事例を紹介 ケースでわかる 実践型 職場のメンタルヘルス対応マニュアル 森本英樹、向井蘭(らん) 著/ 中央経済社/ 2900円+税  職場のメンタルヘルスに関しては、パワハラ防止対策の法制化にともない、今年5月に精神障害の労災認定基準が見直されたことが記憶に新しい。実際、企業の人事労務担当者にとってメンタルヘルス対策は複雑で、片手間に対処することができない課題になっている。  本書は、メンタルヘルス対策に精通した産業医の森本氏と、一貫して使用者側から労働問題に取り組んできた弁護士の向井氏によって、「理想論のメンタルヘルス対応だけを語るのではなく、悩ましい状況に対してどう考えるのか、現実的な折り合いをどうつけるのか」という視点からまとめられている。  一読すると、メンタルヘルス対策の現状や復職支援の実際を紹介するばかりでなく、例えば退職勧奨にまで踏み込んでいるところが本書の特長であることがわかる。事例紹介の章では、29もの事例に対して、弁護士の視点、産業医の視点から適切なアドバイスが示されており、人事労務担当者以外の関係者にとっても、参考になるだろう。実際に課題を抱えている企業の担当者はもとより、万一の場合に備えて、必要な知識を得ておきたい人事労務担当者にもおすすめの好著だ。 生涯現役で働くことができる健康を手に入れたい人のための入門書 筋力強化の教科書 石井直方(なおかた)、柏口(かしわぐち)新二(しんじ)、西(たかにし)文利(ふみとし) 著/ 東京大学出版会/ 2200円+税  テレビの健康番組やタレントを起用したテレビCMなどによって、筋トレ(筋力トレーニング)が注目を集めている。筋トレによって健康の保持増進が実現することが周知された一方で、筋トレの基本が軽視されてしまったり、「これだけやればよい」といった極端な手法がもてはやされてしまったりするなど、筋トレの実践方法は、ある意味、玉石混交(ぎょくせきこんこう)の状態に陥っているように思われる。  本書はこうした状況に一石を投じるために企画された。ともに筋トレを高度なレベルで実践している、運動生理学の研究者(石井氏)、筋トレを医療に生かしてきた整形外科医(柏口氏)、プロ野球のトレーニングアドバイザー(西氏)が、それぞれの経験と知識を駆使して、筋トレの基本の重要性と有用性を紹介している。筋トレの基礎理論をていねいに解説するとともに、筋トレの実践方法、食事や栄養との関係、休養の効果などにも触れているところが本書の特長といえるだろう。巻末の「種目別解説」はトレーニングジムでの実践に役立つ。  ネット上で飛び交っている俗説に惑わされることなく、生涯現役で働くことができる健康を手に入れたい人に役立つだろう。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「本体価格」(消費税を含まない価格)を表示します 【P59】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「過労死等の労災補償状況」を公表  厚生労働省は、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患、仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害の労災補償状況についてまとめた、2019(令和元)年度「過労死等の労災補償状況」を公表した。  それによると、脳・心臓疾患の労災請求件数は936件で、前年度(877件)と比べ59件(6・7%)増加した。また、業務上認定されたのは216件(当該年度内に業務上認定された件数で、当該年度以前に請求があったものを含む。以下同じ)で、前年度(238件)と比べ22件(9・2%)減少した。請求件数は5年連続の増加、業務上認定件数は3年連続の減少となった。年齢別にみると、請求件数は「50〜59歳」333件、「60歳以上」294件、「40〜49歳」248件の順で多く、業務上認定とされた件数は「50〜59歳」91件、「40〜49歳」67件、「60歳以上」42件の順に多い。  次に、精神障害についてみると、労災請求件数は2060件で、前年度(1820件)と比べ240件(13・2%)増加した。また、業務上認定されたのは509件で、前年度(465件)と比べ44件(9・5%)増加した。請求件数は7年連続の増加、業務上認定件数は2年ぶりの増加となった。なお、精神障害にかかわる労災請求事案の場合、精神障害の結果、自殺(未遂を含む)に至った事案があるが、2019年度は2060件中202件(うち業務上認定88件)となっている。 総務省 テレワークのセキュリティに関する専門的な相談窓口を開設  総務省は、テレワークのセキュリティに関する相談に専門家が対応する「テレワークのセキュリティ あんしん無料相談窓口」を開設した。同省では以前から、「テレワークマネージャー相談事業」により、テレワークに関する幅広い相談を受けつけており、さらにテレワークのセキュリティに関する相談対応体制を強化した。  相談対象は、企業・団体・地方公共団体などで、相談はテレワーク導入前でも導入後でも可能。テレワークのセキュリティに関する不安、具体的なセキュリティ対策方法、ルールづくりや自社の実施状況の適切性などについて、セキュリティの専門家がアドバイスや情報提供を行い、安心安全なテレワーク実施を支援する。  相談対応方法は、相談者の希望をふまえ、Webオンライン会議、メール、電話などで実施。相談費用は無料(インターネットの通信費・電話料金は相談者負担となる)。  相談は、左記のWebフォームより申込みをする。申込み後、本事業の事務局(株式会社ラック)から連絡があり、相談日を調整する。 ◆テレワークのセキュリティ あんしん無料相談窓口  https://www.lac.co.jp/telework/security.html ◆テレワークマネージャー相談事業  テレワーク導入一般に関する幅広い相談については、左記で受け付けている。  https://teleworkmanager.go.jp/ 調査・研究 日本生産性本部 新型コロナウイルスが働く人の意識におよぼす影響の継続調査  公益財団法人日本生産性本部は、新型コロナウイルス感染症が組織で働く人の意識におよぼす影響の継続調査(第2回「働く人の意識調査」)結果を取りまとめ、公表した。  調査は、5月に公表した第1回(調査期間:5月11〜13日)に続く2回目で、緊急事態宣言が解除され、新型コロナウイルス感染防止対策と経済活動の両立を模索する約1か月半を経た7月6日〜7日、20歳以上の日本の雇用者1100人を対象にインターネットを通じて行われた。  調査結果のなかから、働き方の変化についてみると、テレワークの実施率は5月調査の31・5%から20・2%へと減少。直近1週間の出勤日(営業日ベース)は、5月調査では「2日以下」が69・4%を占めていたが、今回調査では「3日以上」が51・4%となり逆転している。  在宅勤務への満足度は、70・3%が「満足」(「満足している」22・3%、「どちらかと言えば満足している」48・0%)で、5月調査の57・0%(「満足している」18・8%、「どちらかと言えば満足している」38・2%)より向上している。  テレワークを行ううえでの労務管理上の課題については、「仕事の成果が適切に評価されるか不安」27・9%、「オフィスで勤務する者との評価の公平性」27・9%、「業務報告がわずらわしい」27・5%、「仕事振り(プロセス)が適切に評価されるかどうか不安」19・4%、などが示された。 【P60】 次号予告 11月号 特集 高齢者が働く職場の創意工夫が集結! 高年齢者雇用開発コンテストU 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 受賞企業事例から リーダーズトーク 山ア京子さん(アテナHROD代表、日本人材マネジメント協会理事) 〈高齢・障害・求職者雇用支援機構〉 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったQRコードのリンク先がhttps://www.jeed.or.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 編集アドバイザー(五十音順) 猪熊律子……読売新聞編集委員 今野浩一郎……学習院大学名誉教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所コーポレート本部人財部門 金沢春康……サトーホールディングス株式会社人財開発部 人事企画グループ人事企画担当部長 菊谷寛之……株式会社プライムコンサルタント代表 阪本節郎……人生100年時代未来ビジョン研究所所長 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長・労働政策部長 藤村博之……法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授 真下陽子……株式会社人事マネジメント代表取締役 山ア京子……アテナHROD代表、日本人材マネジメント協会理事 お知らせ 本誌を購入するには−− 定期購読のほか、1冊からのご購入も受けつけています。 ◆お電話、FAXでのお申込み 株式会社労働調査会までご連絡ください。 電話03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 ◆インターネットでのお申込み @定期購読を希望される方 雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」でご購入いただけます。 富士山マガジンサービス 検索 A1冊からのご購入を希望される方Amazon.co.jpでご購入いただけます。 編集後記 ●9月18日(金)、厚生労働省と当機構が主催する「令和2年度高年齢者雇用開発コンテスト」の受賞企業が発表されました。本誌では、10・11月号の2回に分けて、受賞企業の取組みをご紹介します。  今号は、厚生労働大臣表彰を受賞した6社の取組みを掲載しています。最優秀賞を受賞した株式会社大津屋をはじめ、受賞企業の取組みは、定年延長や定年廃止といった雇用年齢延長のための制度改善にとどまらず、会社や仕事を取り巻く環境、創業から築いてきた風土などをふまえた、その会社ならではの取組みで、高齢者が活き活き働ける環境が整っていることはもちろん、会社の業績向上や現役世代の成長にもつながっています。  2021年4月からは、70 歳までの就業機会確保が努力義務となります。読者のみなさまにおかれましても、受賞企業の取組みを参考に、会社に合った方法で、高齢者の雇用推進に取り組んでいただければ幸いです。 ●10月は高年齢者雇用支援月間です。「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」が、10月14日(水)の新潟会場を皮切りに12月まで全国5カ所で開催されるほか、9月から11月にかけて「地域ワークショップ」が全国43カ所で開催されます。高年齢者雇用安定法の改正に関する情報をはじめ、専門家による講演、高齢者雇用に取り組む地域企業の事例発表などを行います。みなさまの参加をお待ちしております。 ●高齢者雇用の進め方をテーマにお届けしてきた「マンガで見る高齢者雇用」は今回で最終回となります。みなさまの感想のほか、今後マンガで取り扱ってほしいテーマなどのご意見をお待ちしております。 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験などを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 月刊エルダー10月号 No.491 ●発行日−−令和2年10月1日(第42巻 第9号 通巻491号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 奥村英輝 編集人−−企画部次長 早坂博志 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6216(企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.or.jp/ メールアドレス elder@jeed.or.jp ●発売元 労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 ISBN978-4-86319-784-8 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 【P61】 〈短期連載〉 職場でできるストレッチ体操  みなさんは日ごろから運動をしていますか? 加齢による身体機能の低下はさまざまな影響をもたらし、場合によっては日常生活や仕事に影響が出てくることも考えられます。そこで本企画では、職場で気軽に、短時間でできるストレッチやトレーニングを紹介します。ぜひ職場のみなさんでチャレンジしてください。 柔道整復師/ 八王子整骨院 院長 山ア由紀也(ゆきや) 第3回 身体のお悩みナンバーワン「腰痛」 国民病ともいえる腰痛  2016(平成28)年に行われた「国民生活基礎調査」(厚生労働省)では、身体の不調に関する回答を分析したところ、多くの人が腰痛に悩まされていることがわかりました。その傾向は年齢が上がるにつれ高くなる特徴があります。今回は、こうした国民病ともいえる「腰痛」を改善するための、知識や方法をご紹介したいと思います。 腰痛の原因とは  腰痛には「ぎっくり腰」のような急性腰痛もあれば、長患(ながわずら)いの慢性腰痛もあり、その原因は多岐に渡ります。しかもその多くが「非特異的腰痛」といわれています。「非特異的」と聞くと少しむずかしく感じますが、症状があるのに、レントゲンやMRIなどの画像検査の結果が一致しないものを、非特異的と呼びます。  では、この非特異的腰痛を訴える人には、どんな傾向が見られるのでしょうか。これを分析した結果、「筋肉や関節の使い過ぎ」、または「誤った使い方」、「生活習慣のなかで癖になってしまっている動き」、「同じ動作のくり返し」、「長時間同じ姿勢が続く」、「不良姿勢」など、いわゆる「筋骨格系・姿勢動作」に問題があることがわかってきました。  また脳科学や心理学の研究結果から、思考や心理的な要素が腰痛を引き起こすことも報告されています。「まだ痛いんじゃないか」という痛みに対する不安感から、痛みを自分の頭で増幅させてしまう場合や、「ある動きが痛ければすべてが痛い」と決めつけてしまう認知バイアス(歪み)によって、痛みを自分からつくり出してしまっている場合もあるようです。  ただし、なかには命にかかわるような病気が原因となる腰痛もあります。自己判断せずに、医療機関を受診することが大切です。 「非特異的腰痛」を改善するためには  これまでは、腰痛に対しては安静を第一に考える治療が推奨されてきました。しかし非特異的腰痛に対する考えやその背景から臨床研究が進み、安静にすることがかえって改善を遅らせることがわかってきました。そのため近年の腰痛治療は運動療法を主体とし、できるかぎり体を動かす方向へとシフトしています。認知バイアスに対しては、カウンセリングや認知行動療法も積極的に行われています。  われわれ自身が腰痛と向き合うためにも、そうした医療機関の取組みに習い、「少しずつ身体の仕組みや運動の知識を増やし、筋力不足や柔軟性を改善する運動習慣をつける」ことが大切です。正しい知識を身につけ、継続的に運動することで、腰痛は自身でもケアし予防することができます。 LET‘S TRY! 次頁からストレッチを紹介! 簡単!姿勢チェック 自分で簡単にできる姿勢チェックです。背中や骨盤の大まかな状態が把握できます。 これにより、自分の状態にあったストレッチを行うことで、腰痛のより効果的な改善が期待されます。 @図のようにかかと、お尻、背中、頭を壁にぴったりとつけて立ちます A自身の手を腰と壁の隙間に入れてみます 頭 背中 腰 お尻 かかと ×手のひらが入らない ○手のひらが1枚分入る ×拳がすっぽり入ってしまう 拳(こぶし)がすっぽり入ってしまう人  反(そ)り腰の傾向が強い状態です。大腿(だいたい)前面つまりモモの前の筋肉が硬くなってしまっている人に多く見られます。ここには大腿四頭筋(だいたいしとうきん)と呼ばれる大きな筋肉がついています。この筋肉はひざを伸ばす、股関節を曲げるために働きますが、柔軟性が失われると骨盤を前傾させる原因の一つになります。骨盤の前傾は背骨が反り腰になり、反り腰の状態が続くと、骨盤や背骨の関節に負担がかかるため、長く立っているときに腰が痛くなる傾向があります。 手のひらが入らない人  腰椎(ようつい)の前弯(ぜんわん)が少ない状態です。大腿後面の筋肉はハムストリングスと呼ばれています。ハムストリングスが硬くなってしまうと、骨盤が後傾してしまう原因の一つになってしまいます。また、この筋肉が固まってしまうと前屈動作での抵抗が増え、その分腰への負担が増えていきます。増えた負担によって腰の筋肉のストレスが増えてしまうため、これが腰痛につながってしまうのです。またハムストリングスの硬さはひざへの負担も増やしてしまうため、膝痛との関連も深い場所になります。そのほか、座った姿勢から立ち上がるとき、または歩いているときに腰が痛くなる傾向があります。  いかがでしたか? 体に負担の少ない姿勢をキープされている方は「手のひらが1枚分入る」状態です。ところが「拳がすっぽり入ってしまう」または「手のひらが入らない」といった状態の方は、筋肉や関節への負担が多く、このことが腰痛の原因となっていると考えられます。ご自分がどのタイプに近いのか、わかりましたか? 反り腰解消のストレッチ (大腿四頭筋のストレッチ) 大腿四頭筋の柔軟性を上げ、反り腰を解消させるためのストレッチです。 @窓枠や柱など片手で体を支え、片足で立ちます A背筋を伸ばし、浮いている方のひざを曲げ、空いている手で足首を持ちます Bひざを曲げた足のかかとを、ゆっくりとお尻に近づけていき、 大腿前面を伸ばします Cその状態で、呼吸を深く保ちながら30秒キープします Dこの動作を左右交互3回ずつ行います ポイント  曲げているひざが立っているひざよりも前に出ないようにしましょう。大腿前面が伸びている感覚を確かめながら行ってください。伸ばしたときの気持ちよい感覚が大切です。体が硬い人は足首を支えやすいよう、初めはタオルを足首に巻いてタオルの端をつかんで行ってください。 大腿後面のストレッチ ハムストリングスの柔軟性を上げ、腰の前弯を取り戻すストレッチです。 @伸ばしたい方の足を前に出し、つま先を上げてかかとを地面につけます A両手はひざに軽く置きます Bお尻を後ろに突き出し、背中を伸ばしたまま前屈します C視線はつま先に落とします D楽に呼吸をしながらそのままの姿勢を30秒キープします E左右交互に3回繰り返します ※痛みや違和感を感じたら中止してください。持病のある方は主治医と相談のうえ行ってください。 ポイント  大腿の後面が伸びている感覚を確かめながら行ってください。伸ばしたときの気持ちよい感覚が大切です。 参考資料 ◆「平成30年国民生活基礎調査(平成28年)の結果から グラフで見る世帯の状況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21-h28_rev2.pdf  ◆公益財団法人日本医療機能評価機構「腰痛診療ガイドライン2012」http://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0021/G0000533/0001 ◆Noninvasive Treatments for Acute, Subacute, and Chronic Low Back Pain: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28192789 ◆Tarzan Webサイト「コーヒーブレイクは『伸ばす』に最適!」 https://tarzanweb.jp/post-176113 ◆Body Motion Lab「リラックスできるポジションでストレッチをしよう!もも前の筋肉(大腿四頭筋)のストレッチの方法まとめ」 https://nobiru-karada.com/stretch-quadriceps-position ◆荒木秀明『非特異的腰痛の運動療法』(医学書院) ◆ケンダルほか『筋:機能 とテスト 姿勢と痛み』(西村書店) ◆NHK Webサイト「腰痛の危険度セルフチェック。原因や症状、対処法・治療の注意点」 https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_510.html 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  短期的な画像の記憶には、右の前頭前野と頭頂連合野がかかわります。また細かな違いの把握には、「中側頭回」という耳の後ろあたりの脳がかかわります。「できるだけ早く」というあせりでこれらは余計に活性化します。 第40回 目標15秒 同じ組合せはどれ? 「いろいろな人」が2人1組で並んでいます。 同じ組合せ(並び順も)の2人を見つけてください。 目標(制限)時間が短いですが、がんばってください。 @ A B C D E F G H I J K ワーキングメモリを使って集中力アップ  新型コロナウイルスの感染予防対策として普及したテレワーク。新しかったり不慣れだったりする環境でも、これまでと変わらず質のよい仕事や家事を続けていくためには、より高い集中力が必要となってきます。  集中力は、脳の前頭前野の働きと密接にかかわっています。ここは脳をメモ帳のように使う力である「ワーキングメモリ」を司つかさどる部位でもあります。  今回の脳トレ問題は、前回(仲間はずれを探す問題)とは逆に、たくさんのイラストが並んでいるなかから同じものを探し出すといった問題です。ワーキングメモリを使いながら、「細かいところまで注視する力、集中の持続力」を鍛えるのに向いています。  また、短い制限時間を意識することは大切ですが、もし時間内に答えられなくても大丈夫です。答えを探して考えている間、脳は活性化しており、むしろよいトレーニングになっています。あきらめずに、わかるまで探し続けてください。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。公立諏訪東京理科大学医療介護健康工学部門長。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRS を使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK 出版)など著書多数。 【問題の答え】 CとH 【65】 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2020年10月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒261-0001 千葉市美浜区幸町1-1-3 ハローワーク千葉5階 043-204-2901 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒780-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 定価(本体458円+税) 10月は「高年齢者雇用支援月間」です 〜生涯現役社会の実現に向けた〜 シンポジウムのご案内  毎年ご好評をいただいている「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」を本年度も開催します。  本年度は、高齢社員の戦力化を図るための「評価・報酬体系」、「職場環境改善」などをテーマとして10月〜12月にかけて全国5都市の会場で開催します。  高齢者が活躍できる環境整備の必要性や今後の高齢者雇用について、みなさまとともに考える機会にしたいと思います。 日時/場所 10月〜12月 全国5都市 (新潟・愛知・大阪・福岡・東京) カリキュラム(予定) ●高年齢者雇用安定法改正について ●学識経験者による講演 ●事例発表  など 参加費 無料(事前の申込みが必要となります) 開催スケジュール 下記をご参照ください 新潟 日時 令和2年10月14日(水) 13:30〜15:30 場所 朱鷺メッセ(新潟コンベンションセンター)4階 国際会議室 愛知 日時 令和2年10月22日(木) 13:30〜15:20 場所 名古屋市公会堂4階ホール ※愛知開催の名称は「高年齢者雇用推進セミナー」です 大阪 日時 令和2年11月12日(木) 13:00〜14:45 場所 ホテルエルセラーン大阪 エルセラーンホール 福岡 日時 令和2年11月19日(木) 13:00〜14:30 場所 JR九州ホール 東京 日時 令和2年12月17日(木) 13:00〜14:40 場所 日経ホール 申込方法につきましては、当機構ホームページで随時お知らせしますので、ご確認ください。 jeed シンポジウム 検索 お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用推進・研究部 研究開発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 https://www.jeed.or.jp/ 主催●独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 後援●厚生労働省 ※新型コロナウイルス感染症の拡大にともない、開催日時などに変更が生じる場合があります。当機構ホームページで随時お知らせしますので、ご確認ください。 2020 10 令和2年10月1日発行(毎月1回1日発行) 第42巻第9号通巻491号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 〈発売元〉労働調査会